【咲-Saki-】咲「生きてて良かった…」 (105)


咲「あ、今日は和ちゃんが来てくれたんだ?」

和「えぇ、体調は大丈夫ですか?咲さん」

咲「今日は元気だよ!いつもありがとう!」ニコッ

和「いえ、私も咲さんとお話したいですから。気にしないで下さい」ニコッ

咲「うん…ありがとう」

和「えっと…咲さん、リンゴと梨どちらがいいですか?」

咲「う~ん、梨が良いな!」

和「わかりました、今剥きますね」ショリショリ


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 咲さんは今、病気の治療の為にかれこれ1年ほど入院している

 詳しい病名などは教えてくれないのですが、時折本当に辛そうにしている咲さんを見ると胸が締め付けられる

 私達がインターハイを終え長野に帰ると、その頃から咲さんの体調は悪くなっていたらしい

 そしてある日、部活中に急に倒れた咲さんはすぐに救急車でこの病院に運ばれ即日入院となった

 私はその時とても怖くなった。咲さんはこのまま倒れて二度と起き上がらないのではないか?

 そんな事を考えると涙が溢れて止まらなかった。怖くて悲しくて、耐えられなかった

 その日の内に意識を取り戻した咲さんは私達に「ごめんなさい」と一言申し訳なさそうに呟いた

 それから私達麻雀部が交代で咲さんのお見舞いに来ています

 私達が来るととても喜んで一日中その話しかしない。と咲さんのお父さんも言っていました

 私達も咲さんと居られて楽しいですし、嬉しかった。そして一週間ほど前には咲さんの仮退院が許される事になりました


~一週間前~

咲「本当!?私退院できるの?」

界「あぁ、でも二日間だけだぞ?先生が少し気分転換するのも治療の一環だってな」

咲「ううん、それでも十分だよ!久しぶりに家に帰れるのか~…」

界「そうだ、友達と何処か遊びに行ったらどうだ?皆も喜んでくれるだろう」

咲「いいの!?」

界「ただし条件がある。絶対に無理をしないこと、体調が悪くなったり辛かったりしたら必ず俺に電話をする事。良いな?」

咲「うん、わかった!早速皆に連絡しなきゃ!」ウキウキ

界(普段強がっては居るものの、やっぱり咲はまだ16歳の普通の女の子なんだ…)

界(友達と学校に通って、遊んで、部活をする…どこにでも居る普通の…)

界(今は少しでも…咲に楽しんでいて欲しい)グッ…


~清澄高校麻雀部~

ピピピピピッ

和「咲さん?……え!?咲さんが二日間だけ退院できる事になったみたいですよ!」ガタッ

優希「それは本当かー!?やったじぇ!咲ちゃんと早く会いたいじぇ~!」ウキウキ

久「それで、咲はなんて?」

和「はい、今度の土曜日に一緒に遊べないかと!」

まこ「そりゃあワシらも一緒にって事でえぇんかの~?」ニヤニヤ

和「と、当然です!///咲さんも大勢で居たほうが嬉しいでしょうし…」ゴニョゴニョ

京太郎「じゃあその日は俺が咲の家まで迎えに行きますよ。万が一の為に親父さんの連絡先も聞いておかなきゃ…」

久「そうね、やっぱり男の子と一緒のほうが安心だし。頼むわね?須賀くん」

京太郎「うっす!」


 そして私達は咲さんの体調の事も考え、あまり体に負担の掛からない所を選び

 土曜日に向けて期待に胸を躍らせていた。そして当日…

 
京太郎「おーい!咲、迎えに来たぞー!」

咲「うん、今行くー!」 バタバタ

界「おいおい、そんなに焦るなって!転んだりしたら大変だぞ?」

咲「あ、ごめん…ずっと楽しみにしてたから…」

界「楽しむのは良いが本当に気をつけてくれよ?何か有ってからじゃ遅いんだから」

咲「うんわかった。気をつけるから…」

咲「じゃあお父さん行ってくるね?」

界「あぁ、いってらっしゃい」

 
 ガチャッ 

京太郎「おう!元気してたか?」ニッ

咲「そんな訳無いでしょ?」ニコッ


京太郎「あ、そうだちょっと待っててくれ。親父さんに挨拶してくるわ」

咲「え?う、うん」



京太郎「親父さん…こんちはお久しぶりです」

界「ん?あぁ…須賀君か…大きくなったね」グスッ

京太郎「親父さん…咲はやっぱり…」

界「いや、大丈夫。近頃なんだか涙もろくてね、咲を見るだけで涙腺が緩んでしまうんだよ。もう歳だな…」ハハッ

京太郎「あの、親父さんの連絡先聞いておいても良いですか?もし咲に万一の事が有った時の為に…」

界「須賀君…」

京太郎「もちろん何も無いようにはしますけど…俺達も、絶対に安全とは言えないんで…すいません」

界「いや…ありがとう、そう言って貰えると安心して君達に任せられるよ。じゃあ、咲の事よろしく頼むよ?」ニコッ

京太郎「はい!」ニッ


京太郎「よし、お待たせ。行くか!」

咲「もー遅いよー、お父さんとなんの話してたの?」

京太郎「咲は相変わらずアホ面ですねって話だよ」

咲「もー!京ちゃんの馬鹿!」ムッ

京太郎「ハハハッ、その様子だと本当に元気みたいだな。安心したぜ」

咲「だってずっと今日の事楽しみにしてたんだもん!はやく皆と会いたいよー!」クルクル

京太郎「おい咲!」ガシッ

咲「え…?どうしたの…?」

京太郎「あ…いや、そこの段差に躓くんじゃないかと思ってな…わりぃ…」

咲「う、ううん!ありがとう…」

京太郎(やっちまった…折角咲が元気だってのに…俺が神経質になってどうするんだ…)ハア…

京太郎(でも、親父さんのあのやつれ方…咲は本当に危険な状態なんだ…俺がしっかりしなきゃ…)


優希「お~い!咲ちゃんこっちだじぇ~!」ブンブン

和「咲さん!」ダッ!

咲「優希ちゃん!和ちゃん!」ニコッ

久「顔色は良さそうね?咲」ニコッ

咲「はい!今日は体調も良いし、いっぱい遊べますよ!」フンス!

まこ「アホ、まだ完全に治りきっとらんのじゃけぇ程々にしんしゃい!」

咲「うぅ…はい…」

和「体調が良くなったらいつでも遊べますから、まずは体の事を第一に考えましょう?」ニコッ

咲「うん、そうだね!」ニコッ

京太郎「じゃあまずは映画だな、咲の好きな本が映画化されてるらしいから見に行こうぜ?」

咲「本当!?私あれ見たかったんだ!行こう行こう!」ワッ!

久「こーら、走らないの!」

咲「えへへ…すいません…」


久「それで、咲のお父さんはどうだった?」

京太郎「かなりやつれてて…今日も本当はずっと咲と居たかったんだと思います…」

久「そう…そうよね…」

京太郎「でも俺達に任せてくれたからには、絶対今日は咲に楽しんで帰って欲しいっす」

久「えぇ、もちろん私もそのつもりよ?」ニコッ

久「さぁ、私達が暗い顔してたら咲も心配しちゃうわ?今日くらいは明るく行きましょう?」

京太郎「はい!」



咲「優希ちゃん、今日はタコスは良いの?」

優希「今はダイエット中だじぇ!身だしなみに気を使えなきゃレディー失格だじぇ!」

咲「ははっ、私なんかこんなに痩せちゃって…優希ちゃんがちょっと羨ましいかも…」

優希「なにおー!嫌味か咲ちゃん!」ガーッ!

咲「ごめんごめん!違うよー!」アハハ!

キャッキャッ!


~映画館~

久「じゃあ行きましょうか、優希は静かにしててね?」

優希「なんで名指しだじぇ!?私だって静かにする位できるじぇー!」

和「優希の場合すぐに寝てしまうから確かに静かになるかもしれませんね?」クスッ

京太郎「ハハッ!言えてるな!」

優希「なにおー!!犬の分際で主人を愚弄する気かー!」

京太郎「だからいつお前の犬になったんだよ!」

咲「あははは……」

咲(この感じ久しぶりだな…前までは普通の事だと思ってた日常がこんなに楽しいことだったなんて)

咲(また皆とこうして、笑いながら一緒に居たい…病気なんかに負けたくない…)グッ

和「咲さん?どうしました?」

咲「ううん!なんでもない。行こう?和ちゃん」

和「はい!」


優希「ぐぅ~…」ムニャムニャ

京太郎「優希のやつ…やっぱり寝てやがる…」

まこ「お子様じゃけぇ寝かしといちゃれ」ケラケラ

久「咲も和も真剣になって見てるわね。少しでも楽しんでもらえてたら良いけど…」

まこ「なんも心配せんでもあの様子じゃと相当楽しんどるみたいじゃのぉ…」

咲「」ジーッ

和「」ジーッ


映画終了後

和「うぅ…ひっく…」グスッ

咲「よかった…トムがリチャードに託したバイオリンは無駄じゃなかったんだね…」グスッ

優希「2人はなんで泣いてるんだじぇ…?」

京太郎「お前は知らなくて当然だろ…」


久「じゃあ時間も調度良いしご飯でも食べに行きましょうか?」

まこ「咲はなんか医者から止められとる物とかあるんか?」

咲「えっと…あまり体に負担が掛かるものは食べないようにとは言われてます…」

久「そう、じゃあお蕎麦でも食べに行きましょうか?」

咲「お蕎麦!病院のご飯って麺類が出てこないんで食べたかったんですよ!」

久「じゃあ決まりね、この近くに有るから少し歩くけど大丈夫かしら?」

咲「はい、大丈夫です!」

京太郎「ほら咲、ちゃんと帽子被れよ?」

咲「うん、ありがとう京ちゃん」

優希「あ、咲ちゃん水分はこまめに取っておいたほうがいいじぇ!」スッ

咲「うん…ありがとう…」ゴクゴク

和「咲さん!そっちは段差が多いですからこっちを歩いて下さい!」バッ!

咲「もう!私も子供じゃないんだから大丈夫だってー!」プンプン!

京太郎・優希・和「す、すいません…」シュン…


~蕎麦屋~

優希「じゃあ私は天ぷら蕎麦とかけ蕎麦とカツ丼だじぇ!」

和「ダイエットはどうしたんですか…?」

優希「タコス以外は別腹だじぇ~!」

久「皆決まったかしら?」

咲「はい、大丈夫です」

京太郎「俺も」

まこ「もうちょい待ってくれ……天ぷらにするか山菜にするか…」グヌヌヌ…

久「よし、じゃあ店員さん呼ぶわよ?」

まこ「じゃから待てと!!」


咲「それにしてもこんなお店有ったんですね?最近出来たんですか?」

久「えぇ、半年位前かしら?」

咲「なんだか私の知らないうちにどんどん変わってって、浦島太郎みたいな気分ですね」ハハッ

久「あらそう?でも私達は何も変わってないでしょう?」

咲「そうですね…」

久「どんなに時間が経ったとしても変わらないものは確かに有るわ。咲にとってそれは私達」

久「だから、安心して何年でも入院してくれて良いわよ?」クスッ

咲「それは流石に無理ですよぉ…」ハハッ

まこ「病は気からっちゅうんじゃけぇそんなに暗い顔ばっかしてるとホントに何年も入院しとるかもしれんぞ~?」ニヤニヤ

咲「が、頑張ります!」フンス!

まこ「おぉし、その意気じゃ!」ハッハッハ


久「あ、お蕎麦来たみたいよ?」

優希「待ってましたー!」

京太郎「お前の所だけパーティーしてるみたいになってるぞ…」

優希「王様はこうでなくっちゃな!」フンス!

和「見てるだけでお腹がいっぱいになりそうですね…」

優希「残したら私が食べてあげるじぇ!」

京太郎「まだ食うのかよ!?」

久「それじゃあ揃ったわね?いただきます」

咲「いただきます…」チュルチュル

咲「はぁ…おいしい…」ホッ

久「フフッ、咲は本当に美味しそうに食べるわね」クスッ

咲「お蕎麦美味しいです…」ホッ

まこ「麺が伸びるから早く食べんしゃい…」ズルズル


優希「ふぅ~!食った食った~!」ポンポン

和「こら優希、はしたないですよ?」

咲「私もお腹いっぱいだよぉ…」

久「じゃあ少し休んだら次はお花見に行きましょうか?」

咲「え、この辺ってお花見できる場所有りましたっけ?」

久「私の昔からの秘密の場所よ?」クスッ


~大通り 裏路地~

咲「桜、もうほとんど散っちゃってますね…」

久「そうね、でもかろうじてお花見の体裁は保てたわ」クスッ

まこ「随分質素な花見じゃが、まぁこの人数なら十分かもしれんのう…」


咲「でも桜を見ると部室の近くに咲いてた桜を思い出しますね」

久「そうね、案外あっちの方が綺麗に見れたかしら…?」

咲「いいんです。学校の近くに行っちゃうと、恋しくなっちゃうから…」

和「咲さん…」

咲「でも今日は本当に楽しかったです。私が入院してからも皆は何も変わって無くて…」

咲「変わってたのは……私だけだった…」

京太郎「そんなこと無い!」

咲「京ちゃん…」

京太郎「咲は昔からなんも変わってねーよ!本が好きで、せわしなくて、おっちょこちょいで!」

咲「酷いよ京ちゃん…」ハハッ

京太郎「だから…そん…事……よ!」

咲(あれ?京ちゃん今なんて…?)

和「咲……!!」

咲(あれ?皆そんなに慌てて……って私倒れて…)グラッ

京太郎「咲!!」ガシッ!


咲「あ……京ちゃ……ごめ…」

京太郎「喋るな!今親父さんに連絡するから!」

久「和!救急車!」

和「はい!」

優希「咲ちゃん!大丈夫か!?」グスッ

まこ「京太郎!そこのベンチに寝かせてやりんさい!」

京太郎「大丈夫か咲!?今すぐ病院に連れてってやるからな!!」

咲「私……まだ皆と……」

京太郎「また来よう、元気になったら必ず…!また皆で来ような!!」

咲「うん……約束……」

和「今すぐ来るそうです!須賀君はお父さんに連絡を!」

京太郎「あぁ、わかった!」


~病院~

京太郎「本当に…すいませんでした…」

久「私達が付いていながらこんな事になってしまって…すみませんでした…」グスッ

界「いや、顔を上げてくれ…大事に至らなかったみたいだし…なにより咲も楽しそうだった」

界「咲のやつ、俺の顔を見るなり『楽しかった、皆は悪くない』って言ってきたんだよ」ハハッ

界「こちらこそ、今日は私の我侭に付き合ってくれてありがとう。よければまた見舞いに来てやってくれないか?」

京太郎「親父さん・・・」

久「…はい、こちらこそお願いします」グシグシ

界「今日は皆も疲れてるだろうしもう帰りなさい。また元気になったら連絡させるよ」

久「はい…それじゃあ…」

界「あ、須賀君。この後少し良いかな?」

京太郎「…はい」

「改めて今日はありがとう須賀君」

京太郎「いえ、そんな…」

界「須賀君には咲の事をしっかり話しておかなければと思ってね…」

京太郎「・・・・・」

界「単刀直入に言おう。咲の体は癌に蝕まれてる」

京太郎「癌…ですか…?」

界「胃に悪性の腫瘍が見つかったらしい…」

京太郎「そんな…」

界「君以外は女の子だし、ショックを与えるかもしれないからこれは他の子達には秘密にしておいてくれ」

京太郎「その事を咲は…」

界「あぁ…知ってる」

京太郎「それじゃあ咲はその事を知りながら今日もあんなに…」


界「勘違いしないでくれ、咲は何も無理に明るく振舞ってた訳じゃない。本当に楽しくて、そんなこと気にならなかったんだよ」

界「私は今、咲がやりたい事をさせてあげたいと思ってる。本来なら病気の治療に専念させるべきかもしれないが…」

界「咲だって普通の女の子なんだ…病気さえなければこれからも君達と同じように学校に通って、部活も出来るはずだった…」

界「少しくらい夢を見させてあげたいと思うのは…父親失格だろうか…?」グッ…

京太郎「でも、まだ治る可能性だって…!」

界「咲はこれから抗がん剤治療が始まる。それで治る可能性も有るが患者はかなりの苦痛を受ける治療らしい」

界「もう病気はかなり進行しているみたいだ…」

京太郎「そんな……」クラッ

界「だから君達にはいつも通り咲と接して、少しでも安心させてやって欲しい…私にはそれくらいしかしてやれない…」

京太郎「わかり…ました…」


 その後俺はどうやって家に帰ったかも覚えていない
 
 幼馴染の咲がそんな状況だったなんて今まで俺は知らなかった
 
 またいつもの様に笑いながら過ごす日常が帰ってくるものだと考えていた
 
 癌という病気は俺にとって、不治の病の様な恐ろしい病気という認識だった
 
 俺と同い年の少女がそんな病気と闘っているなんて…思いもしなかった
 
 俺に出来ることは何か有るだろうか?咲の為にしてやれること
 
 ゴメンな咲…それを考えるのは明日からでも良いかな…?
 
 今日は少しだけ…


優希「のどちゃん…咲ちゃんの様子はどうだったじぇ…?」

和「えぇ、あれから随分良くなったみたいで」

優希「そうか、それは良かったじょ…」

久「でもまだ完治はしてない…のよね?」

和「はい…」

京太郎「・・・・・」

優希「京太郎…?なんだか最近元気無いじぇ…?」

京太郎「ん…あぁなんでもない…大丈夫だ…」

優希「そ、そうか…」

優希(咲ちゃんが倒れた日からどうも元気が無いみたいだじぇ…やっぱり京太郎は咲ちゃんの事…)

優希「なぁ京太郎、帰りにどこか寄っていかないか?」

京太郎「ん…あぁそうだな…」

優希「じゃあタコスでも食べに行くじぇ!」


~メキシコ料理屋~

優希「なぁ京太郎……最近元気なくないか?」

京太郎「そんな事ねーよ…俺はいつも通り…」

優希「咲ちゃんの事か?」

京太郎「・・・・・」

優希「何で私には教えてくれないんだ…?一人で抱え込む必要なんか無いと思うじぇ…?」

京太郎「それは……」

優希「どうしても言えない事なのか…」

京太郎「……スマン」

優希「わかったじぇ…」

優希「じゃあ明日の咲ちゃんのお見舞いには私が行くじぇ!!」


京太郎「な、明日は元部長が…」

優希「あの人はどうせ大学生で暇だからいつでも行けるはずだじぇ!」フンス!

京太郎「お前聞かれたら怒られるぞ…」

優希「とにかくお前が話さないんだったら咲ちゃんに直接聞くしかないじぇ!」

京太郎「おい、咲だって聞かれたくないことも…」

優希「じゃあごちそうさまだじぇ~!」タッタッタ

京太郎「あ、おい!」

京太郎「俺が金払うのかよ…」


優希「そういう事で明日は私が代わりに行ってあげるじぇ!」

久『それは構わないけど…どうしたの?急に』

優希「急に咲ちゃんの顔が見たくなったんだじぇ!それじゃあ!」

久『あ、ちょっと優希…』ピッ

優希「・・・・・」ハア

優希(何をやってるんだ私は…)

優希(明日咲ちゃんに会って何を話そうって言うんだ…京太郎に何か話したか?なんて聞くつもりか?)

優希(私はあいつの何でも無いし…あいつはただ咲ちゃんを心配してるだけって事もわかってるのに…)

優希(友達が病気で苦しんでるのに、心配より先に嫉妬が出るなんて…)

優希「最低だじぇ……私……」グッ


~翌日~

優希「咲ちゃ~ん!ご無沙汰だじぇ~!」

咲「あ…優希ちゃん……あれ?今日は部長が来るはずじゃ…?」ゴホッ

優希「あぁ、急に咲ちゃんの顔が見たくなってな!それより…体調が悪いのか?大丈夫か咲ちゃん…?」

咲「あ…ううん大丈夫、いつもの事だから…」ケホッ

優希「でも咲ちゃんとっても辛そうだじぇ…?」

咲「あははっ…それは見た目がやつれてるからだよ…」

優希「なんか私に出来る事とか無いか…?背中さするじぇ…?」

咲「ありがとう…でももう大丈夫。優希ちゃんの顔見たら元気になったみたい」ニコッ

優希「そ、そうか?じゃあ毎日ここに居てあげるじぇ!」パアッ

咲「ダメだよ、優希ちゃん前のテストで点数悪かったんでしょ?」

優希「な!?なんでそれを!!」ギクッ

咲「和ちゃんが言ってたよ?今度赤点だったら部活に出れないって」クスッ

優希「むぅ…のどちゃんめぇ~!帰ったらおっぱいモミモミの刑だじぇ!」


優希「それで染谷部長がな!」

咲「あははは、言いそう!……あ、ゴメン優希ちゃんお薬の時間だ…今日はもう…」

優希「あ…そうか…じゃ、じゃあまた来るじぇ!元気に待ってるんだじぇ!」

咲「うん、ありがとう。またね?」

ガラガラ

優希「・・・・・」

優希(咲ちゃん、今凄く悲しそうな顔してたじぇ…そんなにお薬が嫌いなのか?)

優希(ちゃんと飲めるか陰ながら見守ってあげるじぇ…)スッ


咲「うっ……おぇっ……!?カハッ……」ビクッ!

咲「はぁ……はぁ……うっ!?…ゲホッ!」ハアハア

医者「宮永さんもう少し我慢してね…辛いでしょうけど…」サスサス

咲「はぁ……はぁ……おぇぇぇぇ!!」ビチャビチャ


優希「咲……ちゃ……?」ガラッ


医者「ちょっとあなた!もう面会時間は…!」

優希「先生…咲ちゃんはどうなるんだじぇ!?死なないよな?なぁ!!」ガシッ

優希「お医者さんは治せるんだよな…?絶対…大丈夫だよな…?」

医者「……宮永さんのお友達?」

咲「ハア…ハア……はい…」ニコッ

医者「そう……病気についてお話は?」

咲「」フルフル

医者「……あと10分だけ面会を許可します」

咲「ハア…ありがとう…ございます…」

優希「うっ……ヒッ…咲ちゃん……ヒック」グスッ

咲「優希ちゃん……ケホッ…大丈夫だから……ちょっと聞いて欲しいんだ…」


咲「私ね……今凄く重い病気にかかってるの…」

咲「もしかしたら死んじゃうかもしれない位大きな病気……」

優希「・・・・・」グスッ

咲「でも私頑張るから……また皆で遊ぼうって約束したから……」ニコッ

優希「うん……うん……」ジワッ

咲「まだ誰にも話した事無かったんだけどね…?優希ちゃんが凄く私の事心配してくれて……嬉しかったから」

咲「絶対誰にも言うもんかって思ってたのにね…?言っちゃった…」ハハッ

優希「咲ちゃん……」ブワッ

咲「今の薬は抗がん剤って言って、体に負担が掛かって夜も眠れないくらい辛いんだけど……」

優希「抗がん剤って……じゃあ咲ちゃんの病気って…」

咲「うん、癌なんだ……でもなんだか優希ちゃんが傍に居てくれたら、本当に元気になっちゃった…凄いなぁ」ニコッ

優希「じゃあ…本当にずっと一緒に居てあげるじぇ…ずっと…咲ちゃんが辛くならないように…」グスッ


咲「ダメだよ…優希ちゃんに甘えてたら病気が治らなくなっちゃうよ…」

咲「自分の力で勝たなきゃ…だから優希ちゃんも応援してて…?」

優希「・・・・・」グッ

優希「咲ちゃんが秘密を教えてくれたから私も言うじぇ…」

優希「私……京太郎の事が好きだじぇ!」

咲「優希ちゃん……」

優希「誰にも負けたくないじぇ…咲ちゃんにものどちゃんにも…だから…」

優希「咲ちゃんが帰ってきても、京太郎はあげないじぇ!!」

咲「ふふっ……知ってたよ?」ニコッ

優希「ふぇ?」

咲「気付いてないのは京ちゃんくらいだよ……鈍いから」

優希「そ、そうだったのか……///」


咲「でも私は別にいらないかな…?」

優希「そ、そうなのか…?」

咲「昔はそれこそ、漫画みたいな恋愛に憧れてたけど……今のほうがよっぽど漫画だもん…」ハハッ

咲「私はもう目の前の障害を飛び越えられたら満足。その後の事は…わかんないや」ニコッ

優希「……絶対負けちゃダメだじぇ?」

咲「うん、頑張るよ」

優希「この事は皆には言わないじぇ!私と咲ちゃんの秘密だ!」

咲「うん……ありがとう」

医者「もう、大丈夫かしら?」

咲「はい、ありがとうございます」

優希「お姉さん、さっきはごめんなさい。ありがとうだじぇ!」ペコリ

医者「いいのよ、それじゃあ気を付けて帰るのよ?」クスッ

優希「はいだじぇ!」


 家に帰る途中、私はずっと泣いていた
 
 仲の良かった友達から、初めて教えて貰った秘密は
 
 今まで自分に起きたどんな不幸な出来事よりも、辛くて怖くて…悲しかった
 
 また今度と言って会える日は、もう来ないのかもしれないなんて…思いたくなかった
 
 勇気を振り絞って私に秘密を打ち明けてくれた咲ちゃんに、何かしてあげられることは無いか?

 
 咲ちゃんの喜ぶ顔が見たいから…必死に考えて、考えて考えて 

 今度会いに行く時までの宿題にしよう。この宿題だけは、絶対に忘れる事は無いから…



久「は~い?調子はどう?」ヒョコッ

咲「あ、部長…こんにちは」ニコッ

久「もう、今の部長はまこだってば…」クスッ

咲「すいません…私が居たときはまだ部長が居ましたから…」

久「まぁそうよね…他の皆も未だに『元』部長だもの」

咲「なんだかそれ以外だと呼びづらくて…」ハハッ

久「それにしても、また少しやつれたんじゃないかしら?」

咲「そうですか…?あんまり自覚が無くって…」

久「花の十代がそんなに疲れた顔してちゃダメよ?折角可愛いんだから勿体無いわ…」

咲「ははっ…ありがとうございます…」


久「そうだ、今日は私が髪を梳かしてあげる。そんなボサボサ頭じゃ治るものも治らないわ」

咲「関係有りますかね…それ?」

久「病は気からってやつじゃけぇ~!ってどっかの誰かさんも言ってたからね?」クスッ

咲「ふふっ…じゃあお願いします」スッ

久「咲の髪って綺麗よね…サラサラしてるって言うか、これで絨毯作ったら売れるわよ…」ゴクリ

咲「人の髪を勝手に使って商売しないで下さいよ…」

久「ははっ、ゴメンゴメン。でも結構伸びてきたわね…いつもこの位の長さに切ってるの?」

咲「えぇ、伸ばしても良いかなと思ったんですが…」

咲「皆と居た頃はいつもこの位の長さだったから…」

久「…でも良いじゃない。どんな髪形になっても咲は咲よ?」

咲「そうですか?別人みたいになっちゃうかもしれませんよ?」

久「それもちょっと見てみたいわね」クスッ


久「はい、おしまい。綺麗になったわ」

咲「ありがとうございます。そういえば今日は大学は…」

久「お休みよ。本当よ?咲に言われて最近はちゃんと行ってるんだから!」

咲「当然の事ですよ…また福路さんに怒られますよ?」

久「美穂子は過保護すぎるのよ…」

咲「部長だって私に過保護じゃないですか…」

久「可愛い後輩なんだから当然でしょ?」

咲「そういうものですか…?」

久「また学校に通いだしたらわかるわよ」クスッ

咲「後輩かぁ…私ちゃんと先輩に見えますかね…?」

久「……えぇ」メソラシ

咲「あ、酷いですよ!」


久「あら、もうこんな時間?そろそろお暇するわね。寂しくない?」

咲「はい、もうすぐお父さんも来るので…」

ガラガラッ

界「おや?竹井さん…だったかな?こんにちは」ペコリ

久「あ、どうも…と言ってももう帰る所だったんですけど」ペコリ

界「そうか…いつもありがとうね」ニコッ

久「いいえ、好きでやってますから。それじゃあね?咲」ニコッ

咲「はい、ありがとうございました」ニッ

ガラガラ

久「・・・・・」ピッピ

久「もしもし、まこ?今すぐ会えないかしら…」


~公園~

まこ「なんじゃ、お前さんから呼び出すなんて珍しい…」

久「・・・・・」

まこ「……咲になんかあったんか?」

久「…うっ……ヒック……グスッ……まこぉ……」ポロポロ

まこ「何が有ったか言いんしゃい…」

久「咲が……咲がぁ……ヒック……」

まこ「落ち着かんか!とにかく咲に何があった!?」ガシッ

久「咲が……グスッ……癌かもしれないの……」ポロポロ

まこ「……どういうことじゃ?」


まこ「落ち着いたかの?」

久「えぇ…ごめんなさい…」グスッ

まこ「それで、咲が癌かもしらんってどういうことじゃ…?」

久「今日…私が咲に会いに行って髪を梳いてあげてたの…そしたら…」

久「髪がどんどん抜けていくのよ…あれは多分抗がん剤治療の副作用だと思う…」

まこ「そんな…咲が…」

久「私達で何か出来ることはないかしら…?まこ…」

まこ「……とりあえずその病気の事を調べてみん事にはな」

久「そうね、今から私の家に来れるかしら?」

まこ「あぁ、構わん」


~竹井久 自宅~

久「癌って言ってもかなり種類が有るのね…」

まこ「大体に共通しとる症状は、細胞を殺しながら転移を繰り替えすっちゅう事か…」

久「そうね…出来るだけプリントアウトしておきましょう。」

まこ「プリントって…なんの為にじゃ…?」

久「これを持って咲のお父さんの所に行くわ…」

まこ「お前さん…自分が言っとる事わかっとんのか…?」

久「えぇ…最低よね…自分の娘が患っている病気の事を掘り返されて」

久「怒られるに決まってる…もうお見舞いなんか行けないかもしれない…」

久「それでも何も出来ない自分が悔しいのよ!!」ダンッ!

まこ「……そうじゃの…ワシも悔しいわ…」

まこ「神様が居るんならぶん殴ってやりたい気分じゃ……」


まこ「それで親父さんにこの話をしてどうするっちゅうんじゃ…?」

久「その癌に一番適した、私達で出来る範囲の治療をするのよ」

まこ「そんなもん有る訳なかろう…」

久「わからないわよ?私はいつだって人と違う悪い選択をしてきた…」

久「今回みたいな最低の選択なら…いつもより大きい物が返ってくるかも知れないわよ?」

まこ「あんた…絶対長生き出来んのぅ…」

久「咲より一日でも早く死ねれば本望よ…」クスッ

まこ「ははっ…そりゃあ良いのぅ…」

久「さ、まずは皆にこの事を話しましょう…皆も辛いかもしれないけど」


 逃げたくなかった…自分より小さな少女が頑張っている隣で

 私だけが何もかも忘れて、日常を生きていくなんて耐えられなかった

 さほど付き合いも長くは無いけど、私達は他の誰よりも濃密な時間を過ごしたはずだから

 たかだか部活と言われようとも、私にとってはそれが全てだった

 短い間にあんな素敵な夢を見させてくれた可愛い後輩に、

 今度は私が…夢を見させてあげても良いじゃない…



 ここまでが5月14日までの物語である…

 そして5月15日、事態は大きく変化する…


 体がダルイ…動きたくない…

 気持ち悪い…もう胃の中は空っぽの筈なのに…

 口の中がただれて痛い…もう物も食べられない…

 もう……死にた




咲「………ダメだよ」

咲「死んだら…皆と遊べなくなっちゃう…負けるもんか…絶対に」

咲「今日は和ちゃんが来てくれる日だったよね……なるべく明るく振舞わなきゃ…」

咲「皆に心配させちゃう…私が癌だなんて知ったら…」

咲「だから…なるべく明るく…」

咲「!?」ビクッ

咲「うっ…ぇぇぇ……かっ、はっ……ははっ……もう何も出ない……」ゲホッ

咲「ふふっ……えっ……ひっく……もう……もう嫌だよぉ……」ヒック…グスッ…


咲「もう…本当に死んじゃうのかもしれない…そんなの嫌だな…」グスッ

咲「私が死んだら…月日が経つと皆、私の事なんか忘れちゃうのかな……そんなの嫌だなぁ……」

咲「そうだ、日記を書こう……そうすれば私が死んだ後も……」

咲「ってまだ死ぬって決まったわけじゃないか……」ハハッ

ガラガラ

咲「あ、和ちゃ……」



照「咲……」


咲「おねえ…ちゃん?」


咲「なんでお姉ちゃんがここに…」

照「お父さんから聞いた…咲が倒れたって」

咲「そう…なんだ…ありがとう来てくれて…」ハハッ

照「咲、一緒に東京に行こう。東京ならこんな所より良い病院もいっぱいある!」

咲「え…?いや、大丈夫だよ…ここのお医者さんも良くしてくれてるし…」

照「それじゃダメなの!!」

咲「」ビクッ

照「それじゃあ……ダメなんだよぉ……」グシャッ…

咲「お姉ちゃん…?」


照「長野の環境がとか…生まれ育った環境がとか…そんな治療法じゃ意味が無い所まで来てるの!!」

咲「それ……どういう……」

照「さっき聞いたの…咲の癌はフェイズⅣに入ったって…」

照「ここから回復する確立は20%も無いんだよ…?」

咲「そんな…だって…私ちゃんとお薬も…」

照「抗がん剤なんて患者を苦しめるだけ…完治なんて絶対にしない。細胞を一時的に縮めるだけ…」

咲「そんな…そんな事…」

照「そんな治療をするような病院に居たら咲が辛いだけ…本当に死んじゃうんだよ…?」ジワッ

咲「死ぬ……私……嫌だよ……」ブルッ

照「だから咲……私と一緒に東京に…」





和「今の話……本当ですか…?」

咲「和……ちゃん」


和「咲さんが死ぬかもしれないって……本当ですか?」

照「原村さんだったね…咲がいつもお世話に…」

和「今はそんな話どうでもいいです!どういう事か説明して下さい!!」

咲「和ちゃん…」

照「……まだ話してなかったんだね?」

咲「」コクリ

照「咲は今胃癌って言う癌に侵されてるの」

照「胃癌は十代で発祥する確率はとても低い。高齢になるほど発症率の高くなるものなの」

和「癌……?」

照「だから発見も遅れて、かなり進行してる状態で病院に運ばれた……もう一刻の猶予も無い状況」

和「そんな……」

咲「お姉ちゃん…少し和ちゃんとお話させてくれない?」

照「咲…」

咲「お姉ちゃん……お願い」

照「……わかった」


咲「ゴメンね、和ちゃん…今まで黙ってて」

和「なんでそんな大事なことを…」

咲「皆に心配掛けたくなかったから…」

和「こんな状態になってから聞いたほうがよっぽど心配です!」

咲「そうだね…私もこんなに苦しくなるなんて思ってなかったの…」

咲「そのうち治ってすぐに今まで通りの生活に戻れると思ってた…」

咲「ははっ…馬鹿だよね私…」

和「これから……どうするんですか……?」

咲「うん…多分東京には行かない…」

和「東京に行けば治るかもしれないって…」

咲「うん…」


和「だったら今すぐにでも東京に行くべきです!」

咲「和ちゃん…」

和「私達だって咲さんに元気で居て欲しいんです!死んでしまったら何にもならないんですよ!?」

咲「うん…わかってる…」

和「だったら…!」

咲「でもね、和ちゃん…私怖いの…」

咲「皆と居るときには本当に元気になれるんだ…さっきだってあんなに体調が悪かったのに、今はもう落ち着いてる」

咲「東京に行くよりも、私は皆と居たほうが病気が治る気がするんだ…」

和「そんなオカルト…」

咲「わかってる…それは私の気のせいかもしれない…それでも」

咲「私が死んじゃうとしても…皆の知らない場所でひっそりと…なんて嫌だな」

和「東京に行けば死ぬことも無いじゃないですか…」

咲「そうだったら良いんだけどね…」ハハッ


~病院内待合室~

界「照……来てくれてたんだな…」

照「来てくれてた…?今更親ぶらないでよ…」

照「なんで咲の体調が悪くなった時にすぐ連絡しなかった?なんで癌だとわかった時に大きな病院に移らなかった!!」

界「……咲の希望だったんだ。お姉ちゃんに心配掛けちゃうから…出来るだけ皆の近くに居たいからって…」

照「それでもアンタは親だろ!娘の我侭を聞いて、それで咲が死んでも良いっていうのか!?」

界「親だからだ!!」

照「だったら…!!」

界「俺だって咲を死なせたくない…当たり前じゃないか…!」

界「何度も言って聞かせたさ、ここより大きな病院なら…今ならまだ治るかもしれないって!」

界「それでも咲は、皆が一緒なら頑張れるからって…」

照「……もういい。咲がそう言うならそうさせれば良い」

照「でも、咲にもしもの事があったら…私はあなたを許さないから」

界「……それでも構わない」

照「近いうちにまた来る…」スッ

界(すまない…照…)グッ…


…少し時間を遡り…

~清澄高校麻雀部部室~

久「皆…集まってもらって悪いわね…」

京太郎「いえ、それで何か…?」

優希「もしかして…咲ちゃんの事か…?」

久「えぇ…皆には落ち着いて聞いて欲しいんだけど…」スウッ…

久「咲の病気ね……癌かもしれないの…」

京太郎・優希「……はい」

久「…あまり驚かないのね?」

京太郎「俺は咲の親父さんから聞いて…」

優希「私は咲ちゃんから…」

久「……なんで教えてくれなかったのよ!?」

京太郎・優希「だって秘密って言われたから……」

久「はぁ~…緊張して損したわ…」


久「それで単刀直入に言うと、私達で少しでも咲の手助けを出来ないかって事よ」

京太郎「そうですね…俺も最近そればっかり考えてました…」

優希「私もだじぇ…」

久「そこで、私達でも出来る癌細胞の進行を食い止める方法を見付けたの。それを皆で試してみましょう」

京太郎「それ本当ですか!?」

優希「どうすれば良いんだじぇ!?」

久「今まこに準備してもらってる所よ。もうそろそろかしら…」

ガラガラ

まこ(鼻眼鏡)「お~う、お前ら集まっとるのぅ!」キリッ

京太郎「・・・・・」

優希「・・・・・」

久「……ね?」

まこ(鼻眼鏡)「これは恥ずかしい……///」


京太郎「ふざけてる場合じゃないですよ!俺達は真剣に!」ガーッ!

優希「そうだじぇ!いくら元部長でもこれは酷すぎるじぇ!」ガーッ!

久「ちょっと!落ち着きなさいって!……あ~つまり人を笑わせることが一番効果的らしいの!」

京太郎「笑わせるって…」

久「どうやら笑う事によって癌細胞を攻撃する『ナチュラルキラー細胞』っていう物が活性化するらしいの」

久「その細胞を医療で活性化させるには三日かかるらしいんだけど…」

久「5分間笑うだけでその三日分と同じ量だけ細胞の活性化が望めるらしいわ!」

優希「それじゃあ…咲ちゃんが私達と居るときに元気だったのって…」

久「えぇ、咲の勘違いじゃない。私達も咲の力になれるのよ!」

京太郎「じゃあ…今まで俺達がしてきた事は…」

まこ「まったくの無駄って訳じゃ無かったみたいじゃのぅ?」ニッ

久「さぁ…私達の大事な部員に会いに行きましょう?」ニコッ


…そして今…

~宮永咲 病室~

和「それじゃあ…本当に長野に残るつもりなんですか…?」

咲「うん…私もいよいよ手術ってなったら多分もっと大きな病院に行かなきゃならないと思うから…」

咲「それまでの間だけでも皆と少しでも居たいと思って…我侭だって事はわかってるんだけど」

和「本当に我侭です…そんな事お姉さんも、私だって望んでいませんよ…」

咲「それでも、本当にこれが一生のお願いになっちゃうかもしれないから…」

和「……もう!咲さんは本当に頑固ですね!」

咲「え!?ご…ごめん…」

和「わかりました。咲さんがそこまで言うなら私も何も言いません。ただ……」

和「本当に辛くなったときは、無理をしないでくださいね…?」

咲「うん、ありがとう和ちゃ……」

ガラガラッ!

優希「行けーー!京太郎!」

咲「え!?えっ!?」ビクッ!


京太郎「すまん和!今だけは目を瞑ってくれぇ!」バッ!

和「ちょっと!須賀く…キャッ!?///」

京太郎「あ、よいしょ!あ、よいしょ!」クネン!クネン!

まこ「どうじゃ!京太郎の渾身の腹踊りじゃ!」グッ!

咲「え!?えぇぇぇぇ!?」オドオド…

久「ダメだわ…うろたえてるだけみたいね…」クッ…

医者「ちょっと!また宮永さんのお友達……ってあなた何やってるの!?ここ病院よ!?///」

優希「お姉さん!勘弁してくれぇ!あいつを男にさせてやってくれぇ!」ガシッ!

京太郎「あ、よいしょ!あ、よいしょ!」クネン!クネン!

医者「いいから早く服を着なさい!!///」

咲「ぷっ……あははははは!!」ケラケラ


久「おぉ!」

優希「咲ちゃんが笑ったじぇ!!」

京太郎「っしゃー!」グッ!

咲「あはははははっ!おっかしー!」アハハハ!

和「ちょっと皆さん、いきなり来てどういう事ですか!?」

まこ「あぁ…和は咲に病気の事は聞いたんか…?」

和「それは…はい。先程聞いてしまいました…」

まこ「それなら話は早いのぅ?」

久「実は笑わせる事で癌細胞の進行を防ぐことが出来るってわかってね?善は急げって事で」

和「これじゃあ完全に悪事じゃないですか…」

優希「でも、やっぱり咲ちゃんは悲しむ顔より笑ってる顔の方が似合ってるじぇ!」

咲「あはははは!もー京ちゃんやめてよー!」アハハハ!

医者「もうわかったから静かにしなさいって!!」


医者「まったく!これ以上騒ぐようだったら今後出入り禁止にしますからね!?」

京太郎「な、なんで俺だけ…」ショボン…

久「それでどう?少しは元気になった?」

咲「はい…おかげさまで…」ハアハア…

優希「これからも毎日私達が笑わせに来てあげるから、咲ちゃんは何も心配することは無いじぇ!」

まこ「そーじゃ、何でも一人で抱え込まんで最初っからワシらに言うてくれれば良かったんじゃ!」

咲「ごめんなさい…」シュン

久「む、須賀君!出番よ!」

京太郎「よしきた!」バッ!

医者「だからやめなさいって!」ガシッ!

咲「あはははは!」


久「それじゃあ咲、また明日ね?」フリフリ

優希「辛くなったら京太郎を思い出すといいじぇ!」ブンブン!

和「それじゃあくれぐれも無理をなさらないように…」

咲「うん、ありがとう。また明日」ニコッ

ガラガラ…

咲「すいません…騒がしくしちゃって…」アハハ…

医者「本当に困ったものだわ…でも…」

医者「いいお友達ね?」ニコッ

咲「はいっ!」ニコッ


 5月15日 天気 晴れ 


 今日から闘病日記を付けることにした。

 でもこれは私が死んだ時の為じゃなく、なるべくその日に有った事を忘れないように。

 今日はお姉ちゃんが来たり、皆が病院で大騒ぎをしたり大変な一日だった。

 お姉ちゃんはああ言ってたけど、やっぱり私はここで闘病生活を続けたい。

 皆と一緒ならなんだって乗り越えられるはずだ。

 明日からも皆で来てくれるらしいから楽しみ!

 私も頑張るぞ!!(ブイ!


5月16日

界「いてててて…今日はどうも尻の調子が悪いみたいだな…」サスサス

咲「もうお父さん!皆の前で変な事言わないでよ!」

久「須賀君…少しは手加減してあげなさいよ…?」ハア…

京太郎「俺じゃないっすよ!?」

優希「犬は男でも見境なしなのか!?」

界「まぁまぁ…須賀君も今度からは優しくしてくれよ?」

和「不潔です…」ジロッ

まこ「京太郎はホモ…っと」メモメモ

京太郎「待ってくれ!誤解だって!」

咲「もー!やめてって!」アハハハ!


 5月16日 天気 曇り

 皆はお父さんにも事情を話してくれたみたいで、今日はお父さんも私を笑わせるのに必死だった。

 なんだか楽しかった頃の家にいるみたいだった。

 お姉ちゃんもまた来てくれるって言ってたみたいだから楽しみ。

 闘病の方はもうあの薬を飲まなくて良いらしい。お蔭でいつもより良く眠れる。

 この調子でこれからも頑張って行こう!


5月17日

医者「経過は順調みたいね。まさか本当に体調が良くなるなんてね…」

優希「お姉さんもお医者さんだったらこれ位の事は調べておくべきだったじぇ!」

医者「医者は薬を処方する仕事なの。毎日患者さんを笑わせてたらこっちが病気になっちゃうのよ…」

優希「じゃあその時は京太郎を派遣してやるじぇ!」

医者「心臓に悪いからやめてちょうだい…」

咲「ふふっ…良いの?京ちゃん取られちゃうかもしれないよ?」

優希「な、何を言うじぇ咲ちゃん!///」

医者「あら…お盛んねぇ…」ニヤッ

優希「お姉さんも茶化すんじゃないじぇー!///」ブンブン!

咲「あ、優希ちゃん顔真っ赤~」アハハハ!

優希「んもーー!!///」


 5月17日 天気 曇り

 今日は優希ちゃんとお医者さんがお話に付き合ってくれた。

 後半はほとんど優希ちゃんの恋バナになっていたけど、こういうのも新鮮で楽しい。

 優希ちゃんの焦り方は今思い出しても笑っちゃう!

 闘病生活の方は、まだ少し髪が抜けてくる。

 抗がん剤の副作用がまだ残っているらしいけど、夜は良く眠れる。

 本当に皆のお陰で少しずつ回復している気がする。

 早く退院出来るように頑張るよ!


5月18日

照「咲、元気?」

咲「お姉ちゃん!来てくれたんだ?」ニコッ

照「うん、清澄の人から話聞いたよ。咲を笑わせれば良いんでしょ?」

咲「そうみたい!最近は本当に調子が良くってビックリした!」

照「そう…一応私も海外の実験結果や日本でもそれが効果的だという研究結果が出てるのは知っていた。」

咲「う、うん…」

照「でもそれが今の咲に最善の方法では無いと思ったからその選択肢を除外しただけ。別に咲にいじわるをしたかった訳じゃない」

咲「お、お姉ちゃん…今日は良く喋るね…」

照「……面白くなかった?」

咲「え!?笑う所だったの!?」


 5月18日 天気 雨

 今日は東京からお姉ちゃんが遊びに来てくれた!

 頑張って私を笑わそうとしてくれたけど、お姉ちゃんはやっぱりどこかずれてるみたい…

 その後麻雀部の皆が来て、私が笑ってると凄く悔しそうにしてた。

 リベンジするから待ってて、と言って帰っていったけど大丈夫かな?

 闘病生活の方は今日は特に無し!何も書けないって事は良い事だよね!

 この調子で頑張るぞ!


 5月19日 天気 晴れ

 今日は大ニュース!どうやら私の手術をする日程が決まったらしい!

 最近の経過を見て、手術をするなら今みたいに体力の有る時が良いみたい!

 来週の25日に東京で手術をするんだって!

 皆がくれたチャンスに感謝しかないよ…

 絶対に成功するから見てろよ!未来の私!(ブイ!


5月20日

久「咲!手術の日程決まったんだって!?」

優希「良かったじぇ!これで咲ちゃんも治るんだな!?」

和「でも、成功率はどれ位なんですか…?」

咲「うん…五分五分だって。私の今の状態だと結構高い方だって」

まこ「そうか…じゃが気持ちの強さで何とかなるっちゅうんはワシらが証明してきたことじゃ!」

京太郎「そうだ!じゃあコインの裏表を当ててみようぜ?これで成功したら咲は絶対治る!」

咲「う、うん…やってみる…」ゴクリ…

京太郎「さぁ!裏か表か…」

咲「う……お、お……うぅぅぅぅぅ……表!!

京太郎「・・・・・」ウラ

久「あんたなんて事してくれんのよ!!」ポカポカ!

和「鬼!悪魔!」ポカポカ!

まこ「この外道が!ちょっとは状況考えんかい!!」ポカポカ!

優希「せめて表に変える位やれー!この馬鹿犬ー!」ポカポカ!

京太郎「す、すいませんでしたぁぁぁぁ!!」グワー!

咲「そーだそーだー!!」アハハハ!


 5月20日 天気 晴れ

 今日は京ちゃんのせいで私が1回死にました!(笑) 

 でもこの歳で癌にかかる位だから相当運が悪いのは知ってる!

 それでも、諦めなきゃなんとかなるって信じてる!

 今まで諦めなかったから、手術を受けることが出来るんだから。

 確率なんて関係ない!私は私の出来る事をやっていくぞー!


5月21日

京太郎「おいーっす、来たぞー」

咲「あれ?今日は京ちゃん一人なの?」

京太郎「あぁ…まぁなー…」

咲「どうしたの…元気ないけど?」

京太郎「咲に言われるって事は相当元気ないんだろうなぁ…」

咲「まぁそうだね…それでなんで一人なの…?」

京太郎「あぁ…落ち着いて聞いてくれよ…優希に告白されたんだ…」

咲「え、えぇぇぇぇぇぇ!それでそれで!?返事は!?」ワクワク

京太郎「それが……まだなんだよなぁぁぁぁ……」ハア…

咲「もー!このへたれ!意気地なし!」

京太郎「違うんだって!ちゃんと聞けって!」


京太郎「正直に言おう、俺は告白されてまんざらでもなかった」

咲「随分上から目線だね…」

京太郎「アイツともし付き合って、とか色々シミュレーションした結果。案外楽しかったんだ」

咲「じゃあなんでOK出さないのさ…」

京太郎「まぁここからはあくまでの仮の話だけどさ…もし咲が死ぬとするだろ?」

咲「まぁ昨日1回死んだけどさ…」

京太郎「そうなって俺達が仲良くラブラブってなんか違う気がしてな…?」

京太郎「だから咲が無事に手術成功したら返事するって言っておいた」

咲「えぇぇぇぇぇ!じゃあ私死ねないじゃん!!」

京太郎「いや死ぬなよ……だから頼む!俺と優希の為にも頑張ってくれ!!」

咲「まぁ努力はしてみるよ…」ハア…


 5月21日 天気 晴れ

 今日は大変憤ってます!京ちゃんのへたれ具合と人任せな所に!

 京ちゃんの理論で言うと、私が死んだら京ちゃんは子孫を残すことが出来なくなります!

 私一人の死をきっかけに須賀一族が滅亡するかもしれないのです!

 なんだか自分の身の丈に合わない大きな物まで背負い込んでしまった気がしますが…

 私は単純に優希ちゃんの幸せを願って頑張ります!京ちゃんなんか知りません!

 というわけで今日は以上!(プンプン!


5月22日

照「咲~!来たよ!」フンス!

咲「お姉ちゃん、今日は随分機嫌が良いね…」

照「咲に面白い話をいっぱい持ってきた!聞いて!」ニコッ

咲「うん、じゃあ聞くだけね…」

照「この間大学のサークルで麻雀をやってたんだけどね?柏木さんが牌を取ろうとした時に、大宮さんがね…」ニコニコ

照「ちょっとw見せ牌してるじゃんwマジ中村じゃんwwwうけるwww…って言ってて私もつい笑っちゃったんだけどね?」ニコニコ

咲「……お姉ちゃんの大学の友達を知らないうえに、その場に居ないと面白くない話を嬉々として話す心境ってどんな感じなの…?」プルプル…

照「えっ!?面白くなかった…?じゃあ次は講義の時に教授がよくやる癖モノマネを…」スッ

咲「もうわかったから!お姉ちゃんにそういうの求めてないから!」


 5月22日 天気 曇り

 今日はお姉ちゃんが来てくれた。

 でもお姉ちゃんの感性はやっぱりずれていて、話してくれた話はどれも面白くなかった…

 でも私の為になんとかしてくれようとするお姉ちゃんを見てると心が落ち着く。

 お姉ちゃんは天然さんだけど癒し系なんだなぁ(笑)

 次回はもっと…って言ってたけど遠慮して帰ってもらった。

 病気が治ったらお姉ちゃんの面白さの基準を矯正しようと誓った日だった。


5月23日

久「咲、そろそろ手術の日が近付いてるけど大丈夫?」

咲「はい、自分でもビックリするほど落ち着いてます!」

まこ「流石に咲は勝負所に強いのぉ!」

咲「そうだ京ちゃん、あのコインのやつやってよ!」

京太郎「え…でも…」チラッ

全員「」ジーッ…

咲「いいから、今日はなんだか大丈夫な気がするの」

京太郎「うっ…えぇい!どうとでもなれ!」ピーン!

京太郎「裏かおもt「裏!」

京太郎「へ…?」ウラ

咲「いつまでも考えてるから弱気になって、負けちゃうんだよ。最初から強気で居れば結果は良い方向に変わるかもしれない」

咲「もし変わらなかったとしても、その時にした自分の決断に後悔なんてしない」

咲「だから私は今から、二分の一で成功する方に賭けるよ!」ニコッ


久「へぇ、随分大きく出たわね…」クスッ

まこ「どっかの誰かさんみたいじゃの?」ニヤニヤ

咲「私……明日精密検査で、明後日はもう出発なので。今日で面会は最後なんです」

和「そうなんですか…じゃあ…」

咲「大丈夫、皆との思い出も一緒に連れて行くから!」スッ

優希「日記…だじぇ…?」

咲「うん、先週来てくれた時から書き始めたんだけど。今見ても笑っちゃう事が多くて」クスッ

咲「だから寂しくなったらこれを見て皆の事を思い出すから!皆も心配しないで!」ニコッ

京太郎「咲、頑張れよ?」

和「頑張って下さい!咲さん!」

優希「頑張れよ!咲ちゃん!」

久「頑張ってね?咲」

まこ「頑張りんさい、咲!」

咲「はい!頑張ります!」ニコッ


 5月23日 天気 晴れ

 今日は皆と最後の面会の日だった。

 寂しくないと言えば嘘になるけど…でも私は大丈夫。

 もし明日から寂しくなってもこの日記を読み返せば皆が居るから。

 色んな人達に支えられてやっと立てるような私だけど…

 明後日は自分1人の力で頑張らなきゃ!

 待ってろ東京!!


5月24日

医者「それじゃあこれで検査は終わりね。問題なければ明日は予定通り東京で…」

咲「はい、ありがとうございます」

医者「癌みたいな大掛かりな手術だと、結構ナーバスになる人も多いけど…大丈夫そうで安心したわ」クスッ

咲「色々とお世話になりました。もう戻って来るつもりは無いので!」

医者「そうね、出来ればあんなに騒がしいのは私もゴメンだわ…」ニコッ

咲「ご迷惑おかけしました…」エヘヘ…

医者「さ、それじゃあ病室でゆっくり休んでなさい。明日は体力勝負よ?」

咲「はい!」


界「咲、明日は照も病院に来てくれるそうだ」

咲「そっか…」

界「やっぱり不安か?」

咲「今になってちょっとね…でも大丈夫。泣くほどじゃないよ?」

界「別に泣いても良いんだぞ?ここには父さんしか居ないんだから」

咲「ううん…今泣いちゃうと今日まで頑張ってきた意味が無くなっちゃうから」

界「そうか…強くなったな」

咲「皆のお陰。皆が頑張ってくれたから…」

界「咲もだぞ?」

咲「うん…そうだね」

界「明日も頑張るんだぞ?」

咲「うん…うん…」


 5月24日 天気 雨

 明日は問題なく手術を行えるらしい。

 少し不安なのは天気のせいもあるかもしれない。

 明日は晴れてくれると良いんだけど…

 ここまで一生懸命やったんだから、きっと報われるはず。

 今日はあまり無理をしないでもう寝よう。

 明日が最後の日記だけど、書く事に困らなそうだ。

 お休みなさい。


 5月25日 天気 雨

 今日は東京が雨だった…東京の方にもお祈りしておけば良かった…

 あと数時間で手術が始まる。やっぱり少し怖いな…

 でも皆が待っててくれると思うと、怖さよりもやる気が溢れてくる!

 多分今日の字は震えてると思う…それでもこの日記だけは書かなくちゃ。

 帰って来た時にこの下手くそな字を見て笑ってやる!

 それじゃあこの日記はここまで!

 頑張ってくるからね…!


 エピローグ


久「遅いわよ、皆!」

まこ「何を言ぅとるんじゃ、あんたが早すぎるんじゃけぇ!」

京太郎「そうですよ…部長だけ1人で来といてそれは酷いですよ…」ハア…

久「それに比べてあんた達は仲良しで良いわね…こんな所でも二人一緒?」

優希「まぁな!私と京太郎はラブラブだじぇ!」ダキッ!

久「はいはい、羨ましいったらないわね…」ハア…

和「それじゃあ後は…」

久「えぇ…咲だけね?」


 8月12日 天気 晴れ

 この筆を取るのは一体何十年ぶりだろうか…

 私が病に侵されている時に心の支えとした日記を、今見つけたのは偶然だろうか?

 思い返せば、あれから本当に色々有ったものだ…

 手術が成功した後に見た皆の顔はそれは酷いもので…

 優希ちゃんやお姉ちゃんなんかは顔がぐしゃぐしゃで。

 久さんやまこさんの泣き顔なんて、あの時初めて見たかもしれない。

 和ちゃんも私の為に泣いてくれた、京ちゃんなんかお父さんと抱き合って

 目を閉じればすぐに思い出せるほどに、あの時間は私にとってかけがえのない時間だ。

 そろそろ私も長くはないみたいだ。それでも十分生きただろう。

 もうすぐ皆の所へ行くだろうから、もうしばし待っていて欲しい。

 そしてまた、一緒に楽しい時間を過ごせる事を願って…この筆を置く事としよう。


                             宮永咲


まこ「お?来たみたいじゃの…」

久「久しぶりね咲。まさかあなたが一番最後なんてね?」クスッ

咲「私もビックリです…それにしても部長は早かったですね…」ハハッ

久「美人薄命ってやつよ!」フフン

和「悪運が尽きたんじゃないですか…?」

優希「それだじぇ!」ビシッ!

久「あんた達も言うようになったわね…」ピクピク…

京太郎「それで、全員集まりましたけど…これから何をするんですか?」

久「う~ん…取り敢えず生前の思い出でも振り返る?」

まこ「まぁ死んでからしか出来ん事じゃが……」

咲「私も皆の話聞いてみたいな!」

久「じゃあまずは須賀夫妻から聞いていこうかしら?」

優希「私達の惚気を聞いても良いのか~?」ニヤニヤ

京太郎「喧嘩した話のほうが多いけどな…」ハア…

咲「ふふっ…ねぇ、聞かせてよ?」ニコッ


 人生において立ちふさがる障害の大きさは人それぞれだ

 
 それでも乗り越えた時に見える景色にそれほど差は無いと思う


 歩く歩幅も走る速さも人それぞれだ


 それでも歩いて行く道の幅にそれほど違いは無いと思う


 私の歩いてきた道は一人分の幅ではなく、誰かと歩ける分の幅が用意されていた


 きっと皆そうなんだろう。誰だってそうなんだろう。


 その誰かと歩いてきた道を振り返り、私達の足跡を見た時に私はこう思うんだ


 あぁ…生きてて良かった…と


 カン

咲さんのお誕生日おめでとうございます

乙 感動した

前に雑談スレで死ネタ書いてみようかなとか言ってた人?
手術失敗フラグと成功フラグが交互に積み重なっていって心臓に悪かったぜ 乙

乙だが
誕生日を祝うのならもっと明るい話が良かったな

>>89
ありがとうございます!

>>90
それは違う人ですね。僕も見てましたからあの人には頑張って書いていただきたいです!
心臓に悪いのは申し訳ありません…

>>91
誕生日に明るく祝ってもらうのは他の人に任せました…
主人公なら様々な祝い方が有った方が良いかなと思いまして完全な自己満足でした…
少しでも何か感じることが有れば幸いです

では失礼します

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