阿武隈「騒がしいながらも楽しい鎮守府」 (78)

阿武隈「もー! もう深夜0時よ! 提督のバカ!」

提督「まったくもって面目ない。やばいな、最近SN作戦の後始末で処理が追いついてないな。苦労を掛けてすまない」

蒼龍「SN作戦と言えば、結局海風さんと風雲さんは発見できませんでしたね。ううっ、悔しいなあ」

提督「それは次回の大規模作戦の課題だな」

蒼龍「はい。それまでにもっと練度を上げるべく精進しますね」

提督「ああ、頼もしいな。けどみんな、今日はもう休んでいいんだぞ? なにもこんな時間まで付き合う必要はない」

電「大丈夫なのです! 電も最後まで手伝うのです」

提督「ありがとうな。けど、電が一番休まないといけないぞ? 寝ない子は育たないからな」

電「はわわ!? そんなことないのです! ちゃんと育ってるのです!」

蒼龍「そうだけど、もう寝た方がいいのは確かですね」

若葉「提督の言う通りだ。あとはこの若葉に任せておけ」

蒼龍「いやいやいや、若葉ちゃんも早く休もうね」

若葉「若葉は二十四時間寝なくても大丈夫」

阿武隈「それ絶対大丈夫じゃないからね。無理は良くないよ。ねえ提督?」

提督「その通りだ、もう休むべきだよ」

若葉「お言葉ですが、阿武隈さん。事務仕事を続けさせてください……大丈夫、です」

電「口調が変わるほど仕事したいのです!?」

隼鷹「ひゃっはー! 阿武隈いるかーい!?」バン!

蒼龍「うわっ!? 隼鷹さんか。あーびっくりした」

阿武隈「こんな時間に大声出さないでくださいよ、隼鷹さん」

隼鷹「いいじゃんか、まだここのみんな起きているんだし、どっかの夜戦バカも騒いでるから同じ同じ!」

阿武隈「まーた飲んでいるんですか隼鷹さん……ていうか、いつもいつもあの夜戦バカは」

電「川内さん、何度言っても直してくれないのです……」

蒼龍「無理無理、もう川内さんの夜戦バカは治らないですよ。手遅れです」

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提督「で、隼鷹は何しに執務室に?」

隼鷹「そうそう、ちょっとお腹空いて酒のつまみが欲しくてさー! 阿武隈、また夜食作ってよ!」

阿武隈「今すごく忙しいんですけど。というかもう十二時過ぎてるんですけど。今食べたら消化に悪いですよ」

電「もう寝る時間ですよ?」

隼鷹「なんだよ、まだ寝るのには早い早い! いいじゃん、阿武隈のおにぎり美味しいんだしー!」

蒼龍「だめですね。すっかり出来上がってますよこの人」

若葉「眠いぞ……だが悪くない」

電「若葉ちゃん、もう寝るのです。これ以上は体に良くないのです」

阿武隈「隼鷹さん、今あたし達仕事中。とても忙しい。手を離せない。OK?」

隼鷹「ノー。腹減った阿武隈今すぐ夜食作る」

蒼龍「うわ、あっさり切りましたよ」

電「なんで片言なのです……?」

蒼龍「阿武隈さんも疲れてるんでしょ。私もちょっと眠いなあ……」

隼鷹「なーいいだろ? おにぎりがダメなら卵焼きでもいいからさ。卵焼き得意だろ?」

阿武隈「私は料理する暇がないって言っているんです! ていうか抱き着かないでくださいよー! うぇぇ酒臭いぃ!」

隼鷹「なんだよー、そんなんだから卵焼きキャラ瑞鳳に取られちゃうんだぞー! 阿武隈の作った卵焼き、食べるぅ? あ、今似てなかった似てなかった!?」

蒼龍「ごめんなさい、正直気持ち悪かったです」

電「そもそも卵焼きキャラってなんですか?」

若葉「そうか! これが奇跡の作戦、キスカ……だな? ……ぐぅ」

電「大変です、若葉ちゃんがもう夢の世界なのです!」

阿武隈「違います! 若葉ちゃんはもう寝なさい!」

提督「あー隼鷹、そこまでだ」

隼鷹「は? いいじゃんいいじゃんこんな夜中まで仕事してたって効率悪いよ? 切り上げて飲んで食べてぱあーっとしようぜ! ぱあーっと!」

提督「ふむ……たしかにもう切り上げようとは思っていたが」

阿武隈「ちょっと提督!?」

隼鷹「よーし、阿武隈もらったぁ!」

提督「こらこら待て。阿武隈も他のみんなももう疲れているんだ。早く休ませてあげなさい」

隼鷹「え、じゃああたしの夜食はー?」

阿武隈「知りませんよ。もう」

電「仕方ないのです。隼鷹さん、電のプリンあげるのです」

隼鷹「え、いいのかい?」

電「はい。厨房の冷蔵庫に、私の名前が書いておいてあるから食べてもいいですよ」

隼鷹「サンキュー! 電ちゃんは優しいなあ」

蒼龍「本当です。電ちゃんに感謝してくださいね?」

隼鷹「でもいいやー。気持ちだけ頂いておくよ」

電「え? でもお腹空いているんじゃ……」

隼鷹「あたしは、塩気のあるものが、食べたい!」

阿武隈「は?」

電「……え? そこまで力説するんですか?」

若葉「ああ、濃霧には注意が必要だ。ぶつかりやすい。特に初霜、お前は要注意だ……」←完全に夢の中

蒼龍「もしもし、若葉ちゃーん?」

隼鷹「だから阿武隈の手料理を所望する!」

阿武隈「自分で作りなさいよぉ!」

隼鷹「いやあたし阿武隈みたいにうまく作れないし」

阿武隈「知りませんよそんなの!」

隼鷹「あたしはアンタの手料理が食べたいんだよー。あたしのお嫁さんになってくれよぉ」

阿武隈「完全に料理目当てじゃない!? あたしにそっちの気はないですからね! あたしはて――」

蒼龍「はいはい、そこまで」ガシッ

提督「そうだな、さすがに行き過ぎだ」ガシッ

電「阿武隈さんを助けるのです」ガシッ

隼鷹「へ? 提督、蒼龍。それと電ちゃん。三人がかりでこの隼鷹様を掴んでどうしたんだい?」

蒼龍「部屋まで強制連行」

提督「罰として明日から三日間、阿武隈達ここの四人の業務代行。川内も同じく」

電「なのです」

隼鷹「うえ!? そ、そりゃちょっと冗談きつくないかい? 二人で四人の仕事って無茶にも程があるよ!」

提督「冗談じゃないからな。ああ、なにもすべてやれってわけじゃないさ」

蒼龍「隼鷹さんと川内さんのおかげで、明日からしばらくゆっくり訓練できそう。書類仕事だけじゃ体鈍っちゃいますしね。良かったー」

電「若葉ちゃんや蒼龍さん、阿武隈さんにもできれば休みをあげたいのです」

隼鷹「タンマタンマ! あたしだって休みくれよ電ちゃん! ほらこう見えてあたしだって艦載機の整備とかあるし!」

蒼龍「艦載機の整備なら私もありますけど、なにか?」

隼鷹「お、おお。蒼龍、実は結構怒ってる?」

提督「ま、頑張りなさい」

隼鷹「そんなー!?」

提督「阿武隈、今日はもう上がっていいよ。明日……いやもう今日か。遅くてもいいから」

阿武隈「はい。いってらっしゃーい」

若葉「すぅ……すぅ」

阿武隈「若葉ちゃん完全に寝ちゃった……部屋に運んであげないと。よいしょっと」

若葉「むにゃ……阿武隈さん……若葉もキスカ……」

阿武隈「はいはい、置いてかないからね。若葉ちゃんも一緒」

若葉「……ぐぅ」

阿武隈「あーもう疲れた。隼鷹さんも川内ももうちょっと周りの配慮というものを覚えて欲しいわ」

五十鈴「あら阿武隈。お疲れ様」

阿武隈「あ、五十鈴お姉ちゃん。お姉ちゃんもお疲れ」

五十鈴「阿武隈ほどじゃないわよ。遠征に出撃、水雷戦隊の旗艦。阿武隈ってば、本当に最近大変よね」

阿武隈「まあそうかもしれないけど……」

五十鈴「けど?」

阿武隈「こうして頼られているのも悪くないかもって」

五十鈴「あんまり気を張りすぎるんじゃないわよ? 限界来てから気を付けても遅いんだから」

阿武隈「大丈夫。提督や他のみんなも気を遣ってくれてるし。そういう五十鈴お姉ちゃんこそ疲れてない?」

五十鈴「アンタほどじゃないって言ってるじゃないの」

阿武隈「鎮守府近海の対潜警戒任務だって危険だし……気を付けてよね」

五十鈴「阿武隈もね。ほら、もうとっとと寝なさい」

阿武隈「はーい。お休みお姉ちゃん」

五十鈴「お休み……」

五十鈴(まったく人に気を遣えるようになっちゃって。妹の成長が嬉しいやら寂しいやら)

五十鈴「でもお姉ちゃんの心配なんて十年早いわよ。ふふっ」

阿武隈「最近急に涼しくなってきたよね。ベット早く入ろ……あれ、温かい?」

?「……」モゾモゾ

阿武隈「うええええぇ!?」

五十鈴「どうしたの阿武隈!?」

阿武隈「べ、ベットの中に何かいるぅ!?」

響「ぷはっ」ひょこん

響「響だよ。かくれんぼに関してはちょっとした自信があるよ」

阿武隈「……響ちゃん、あたしのベットの中でなにやってるの?」

五十鈴「……全然気づかなかった。なにやってんの響」

響「温めて置きました殿」

五十鈴「秀吉かアンタは」

阿武隈「だれが信長ですか」

響「阿武隈さんは第一水雷戦隊の旗艦だから、殿でもあながち間違ってないと思うな」

五十鈴「とことん間違ってるわ、かすりもしないわね。だから結局なにやってるのよ」

響「……いや別になにもないよ」

五十鈴「だったら早く部屋に帰って寝なさい。良い子はとっくに寝る時間よ」

響「……そうだね」

阿武隈「まって響ちゃん。なにかあったのかな?」

響「も、問題ないんだ。そう、なにも問題ない」

五十鈴「思いっきり問題ありそうなんだけど」

阿武隈「よければ話してみて?」

響「……話せば長くなるんだけど」

阿武隈「うん」

響「今日、私は見たんだ。正体不明の黒い影を」

五十鈴「黒い影?」

響「そう。いつの間にか消えていたと思ってたらまた現れたり。かと思えば、どこからともなく聞こえてくる悲痛な鳴き声」

阿武隈「ちょ、ちょっと響ちゃん」

響「いくら走り回り正体を暴こうとしても暴けない。ふと手に違和感があり見ると、赤く生暖かい液体がべっとりと……」

五十鈴「……ごくり」

響「私だけじゃない。多摩さんや秋雲、長波、他の子も黒い影を見たんだ」

五十鈴「ひ、響、それってまさか……」

響「そのホラー映画を」

阿武隈「って映画ぁ!? びっくりさせないでよもう!」

響「……で、私は念のために阿武隈さんと五十鈴さんの様子を見に来たわけさ。ホラー映画を見た後、本当の恐怖が現実に訪れる。物語の定番だからね」

五十鈴(怖くて一人で寝れない、暁や電に泣きつくのは恥ずかしいからここに来たってことね。ようするに)

阿武隈(響ちゃんも普段は大人びているけど、まだ暁ちゃんとかと同じくらいだもの。ふふっ、こういう子供らしいところがあってもいいよね)

阿武隈「そっか、ありがとうね響ちゃん。じゃあ今夜だけあたしを守ってくれる?」

響「了解。信頼の名は伊達じゃない」

五十鈴「ふふ。響、阿武隈。おやすみ」

阿武隈「はーい。じゃ響ちゃん、寝ようか」

響「イエス、マム」

――その頃。

文月「ふぇぇ、怖いよぉ。睦月ちゃん起きてよぉ」

睦月「睦月をもっともっと褒めるがよいぞ……にゃしぃ」

文月「睦月ちゃん起きないよぉ。菊月ちゃん、菊月ちゃん」

菊月「……うう、なんなのさいったい」

文月「眠れないよぉ。菊月ちゃん」

菊月「……」

文月「菊月ちゃん?」

菊月「……ぐぅ」

文月「ふぇぇ……菊月ちゃんも駄目だよぉ。三日月ちゃんーっ」トコトコ

文月「暗いよぉ。でも隣の部屋だし……」ガチャガチャ

文月「ええぇ!? 鍵が掛かってるよぉ。どうしよ……」

文月「……阿武隈さん、助けてー」トコトコ

文月「はぅ、やっと着いた……長かったよぅ」(注:徒歩一分)

文月「よかった……鍵空いてる」

文月「失礼しまーす」

文月「えっと」トコトコ

文月「……あれ?」

子日「あ」

文月「子日ちゃん、どうしたのー?」

子日「……うわああぁ、怖かったよう文月ちゃん!」

文月「ふわぁ? 子日ちゃんもあたしといっしょで、阿武隈さんにー?」

子日「うんうん! 映画のせいで眠れなくなっちゃったよぉ!」

文月「やっぱりあたしのお仲間さんだねー」

子日「初春ちゃんは起きないし、ほんと酷いよね!」

文月「睦月ちゃんも酷いよぉ……ぐすっ」

響「……どうでもいいけど、みんな寝てるんだ。起きてしまうから、静かにしてくれないかな?」ヒョコ

子日「あれ?」

文月「響ちゃん、どうしてここに?」

響(……しまった)

響「いや、私は阿武隈さんの護衛を――」

文月「そっかあ。響ちゃんも怖かったんだねぇ。文月とお揃い!」

響「……いやそんなことはない」

文月「じゃ、失礼しまーす。えへへ、みんなとおやすみー」

子日「子日もー」

響「四人は狭い……」

阿武隈「うーん……」

文月「あったかーい。えへー」

子日「ほっとするなあ……」

響(四人か。こういうのも悪くない……な)

五十鈴「……起きてみれば。なにこれ」

阿武隈「おねーちゃん、助けてぇ。ベットから出れない……」

文月「ふみぃ……」←阿武隈の右腕ホールド

子日「むにゃむにゃ……」←阿武隈の左腕ホールド

響「すーすー……」←阿武隈の右足ホールド

五十鈴「人気者ねえ。うらやましいわ」

阿武隈「替わる?」

五十鈴「阿武隈を頼ってきたんでしょ? その子達に悪いわよ」

阿武隈「そうなんだけど……」

五十鈴「というわけで、提督には伝えておくからゆっくりしてなさい」

阿武隈「むー」

響「……暁姉さん。雷……電」

阿武隈「……響ちゃん?」

響「う……ん」

阿武隈「……寝言かぁ」

――大丈夫だよ。私は一人でも。

阿武隈「……まあ、いっか」

阿武隈「ほらみんな、そろそろ起きてね」

文月「ふわ~?」

子日「にゃっほいっ! 阿武隈さんおはようございまーす!」

文月「うにゅ、子日ちゃん寝起きから元気さんだねー」

阿武隈「元気なのはいいことだよね、子日ちゃん偉いよ」

子日「そうでしょ! えっへん!」

文月「あ、そろそろ戻らないと――」

菊月「捜したぞ文月!」バンッ!

文月「ふにゃあ!?」

菊月「全く朝から人様の部屋で大騒ぎして……睦月型としての誇りはないのか!」

文月「菊月ちゃん、それはそれ、これはこれだよぉ。だってオバケ怖いんだよぉ」

菊月「まったく深海棲艦は怖がらないどころか『こいつらやっちゃっていい』とか言ってノリノリで倒す癖に。オバケが怖いとか、どういう理屈だ」

文月「だって深海棲艦は倒せるし~。それに菊月ちゃんすぐ寝ちゃってあたし一人ぼっちで起きてたんだよぉ」

阿武隈「まあまあ菊月ちゃん、その辺で、ね?」

菊月「……阿武隈さんは相変わらず甘い。まあいい。お邪魔した。子日も早く部屋に戻れ」

子日「はぁい。じゃあ、まったねー!」

菊月「よし。文月行くぞ」

文月「うん、阿武隈さん。またね~」

阿武隈「はい、また後でね。菊月ちゃん、文月ちゃん」

菊月「礼は言わぬ……」

阿武隈「言わないんだ!? ま、まあいいけど」

文月「菊月ちゃん、そこはちゃんとお礼言おうよぉ」

菊月「ま、間違えただけだ。礼は言おう」

文月「菊月ちゃんそれも変だよぉ。まったく、そーびを取り換えるときに、いつもかっこつけてそんなことばっかり言ってるからだよ? お礼はちゃんと言える暁さんを見習わないと駄目なんだから」

菊月「かっこつけてなどいない」

パタパタ……

阿武隈「……あれ、響ちゃんは?」

ガチャ

響「やあ阿武隈さん。気持ちのいい朝だね」

阿武隈「……響ちゃん、どうしてクローゼットの中にいるの?」

響「……あ、気を使わなくてくれていい……です」

阿武隈「なんでそこで弥生ちゃんの真似なの!?」

響「ぷっぷくぷー」

阿武隈「いや弥生ちゃんがどうこうじゃなくて!」

響「さすがにこれは恥ずかしいな……」

阿武隈「ならどうしてやったの!?」

響「阿武隈さん、僕のことがそんなの気になるの? いいよ、なんでも訊いてよ」

阿武隈「はあ……早く行かないと朝食食べられなくなるよ?」

響「それは困るな。ご飯が食べれらないのは嫌だ。すごーく嫌」

阿武隈「まだ続けるんだ……いいけど別に。ほら、部屋に戻って着替えないと」

響「もう阿武隈さんったら。お姉様達には内緒よ? いい?」

阿武隈「はいはい。途中まで一緒に行こうか」

響「了解。響の本気を見るのです」

阿武隈「そのセリフ響ちゃんが言うとすごくシュール……」

ガチャ

電「阿武隈さんおはようなのです!」

雷「阿武隈さんおはようございまーす! 今日もいい天気ね」

阿武隈「あ、電ちゃん、雷ちゃん。おはよう」

雷「あれ? 響姉さん、おはよう。どうして阿武隈さんの部屋にいたの?」

電「昨日は、暁お姉ちゃんと一緒にいなかったのですか?」

響「あ、ああ」

響(下手な嘘をついてもすぐばれる……電や雷に知られるのは非常に恥ずかしい)

響「そ、そうだ。これは訓練なんだ」

雷「訓練? なんの?」

響「護衛任務のシミュレーションだよ。阿武隈さんの護衛ということで自主訓練してたんだ」

阿武隈(設定に無理ありすぎぃ!?)

雷「そうなの阿武隈さん?」

阿武隈「えっと、まあ、はい」

雷「ふーん?」

阿武隈(そりゃ怪しまれますよねー)

雷「それ楽しそうね! 今度、雷も一緒にやっていい?」

阿武隈(信じたーっ!?)

電(……あ。暁お姉ちゃんが昨日言ってたのです。響お姉ちゃん達がホラー映画を見るって)

電(暁お姉ちゃんはレディーはそういうものを見て喜ばないのよって言って、電の部屋に、私が帰ってきたときもまだいたのです)

電(電もホラーはなるべくなら見たくないな。怖いのは苦手なのです)

雷「それはそうと、早く朝ごはん食べないと間に合わなくなるわよ?」

雷「響お姉ちゃん、待ってるから一緒に朝ごはん食べたいな。いい、かな?」

響「もちろんだ。すぐ支度する」

阿武隈「はぁ~幸せ」

電「今日の朝ごはんもおいしかったのです」

響「もぐもぐ……はむはむ」

雷「響姉さんまだ食べてるの? よっぽどお腹空いてたのね」

暁「まったく響ったら。レディーとして、もっとおしとやかに食べないと駄目よ」

響「すまない姉さん……昨日の夕ご飯を食べ損ねたんだ」

暁「そう言えば昨日どこにいたのよ? まったく心配したんだからね」ぷんすか!

雷「あ、響姉さんは昨日――」

阿武隈(そこまで怖かったんだ……どんな映画だったんだろう)

電「……川内さんと隼鷹さんの姿が食堂のどこにも見あたらないのです」

暁「別の時間に食べたんじゃないの?」

電「神通さんや飛鷹さんはいるんだけど……」

雷「そうね。でも、別にいつも一緒ってわけじゃないんじゃないの?」

電「……うん。阿武隈さん、そろそろお仕事行くのですか?」

阿武隈「そうだね」

雷「電、それじゃあ後でねー!」

暁「しっかり頑張るのよ」

響「до свидания(また会いましょう)」

阿武隈「……ま、これくらいやってもいいかな。電ちゃん、先行ってて」

電「電も手伝うのです」

阿武隈「いいの?」

電「もちろんなのです!」

阿武隈「おはようございます! あ、隼鷹さんちゃんと頑張ってますね」

隼鷹「まあやることはちゃんとやるよ。けど誰のせいかと思ってるんだい? あー、めんどい」

阿武隈「自業自得ですよ」

電「えっと……頑張ってください」

川内「眠い……朝から働かせるとかおーぼーだよ」

神通「お姉ちゃんが悪いんだからね」

阿武隈「川内はもうちょっと周りの迷惑を考えてね」

川内「迷惑? なんで?」

電「夜中に騒ぐことが迷惑だという図式が川内さんの中にないのです。きっと悪気はないと思うのです」

阿武隈「はあ、この子の中では、夜戦はみんな大好きなものになってるんでしょうね。多分」

電「川内さんの中では、夜戦に誘うことが相手にとって嬉しいことだと変換されているのです。司令官がそう言っていたのです……」

神通「阿武隈、いつもお姉ちゃんがごめんね」

阿武隈「神通が気にすることないよ。まったく神通に迷惑かけて。お姉ちゃんとして恥ずかしくないの?」

川内「え? なにが?」

隼鷹「あたしがいうのもなんだが、川内の夜戦バカにはつける薬がないねこりゃ」

電「でも夜戦好きじゃない川内さんというのも想像がつかないですね」

川内「でしょでしょ? やっぱ夜戦はいいよねえ……毎日夜戦だったらいいのに」

神通「身が持ちません」

阿武隈「神通に同意」

隼鷹「空母を夜戦に誘うとかないわー。艦載機飛ばせんよ」

川内「えーなんでよ?」

電「阿武隈さん、あれ渡してもいいですか?」

阿武隈「もちろん。そのために作ってきたんだから!」

電「はい。隼鷹さん、川内さん。どうぞ食べてください」

隼鷹「おおっ!? これは、昨夜言ってたおにぎりと卵焼きかい!?」

阿武隈「まあ一応。どうせ二人とも朝ごはん食べてないかと思いまして」

電「阿武隈さんが作ってくれたのです」

阿武隈「何言ってるの。電ちゃんも一緒に作ったでしょ?」

隼鷹「どうせは余計だが……」

阿武隈「食べたんですか?」

隼鷹「食べてない。酒まだ残ってるし。あー頭痛い」

川内「さっきまで寝てた。まだ眠い。寝ていい?」

神通「……お姉ちゃんってば。阿武隈、電ちゃん。ありがとう」

隼鷹「ありがとうな、二人とも!」

川内「サンキュー、電」

阿武隈「ちょっと川内。なんで電だけなのよ?」

川内「いやー、阿武隈が作るより私が作った方が美味しいし?」

阿武隈「むーっ! だったら食べるな!」

川内「もう私がもらったもーん。残念でした!」

神通「あ、えっと……はあ」

電「もう、お二人ともケンカはダメなのです!」

隼鷹「はは、いーのいーの、あれは単にじゃれあってるだけだから」

阿武隈「違います!」

川内「そんなんじゃないってば!」

隼鷹「ほら、そっくりだ」

阿武隈「あ、あのですねえ」

電「なんだ、そうですよね。川内さんと阿武隈さんはいつも仲良しさんなのです」にこにこ

阿武隈「う」

川内「あう」

阿武隈・川内(悪気がないだけにやりにくい……)

阿武隈「まあいいわ。別に川内からお礼を言われたくてやったわけじゃないし」

川内「あー、その悪かった。ありがとうね阿武隈」

阿武隈「はーい。ついでに夜に騒ぐのも控えてよね。他の人寝れないじゃない」

川内「それは無理」

阿武隈「はあ……」

神通「お姉ちゃんの夜戦好きってどうすれば直るんだろう……」

隼鷹「そうだねぇ、鳥海やビスマルク、北上あたりと1対多数で、限界まで夜戦させてみれば?」

阿武隈「鬼ですか」

電「トラウマになってしまうのです」

隼鷹「はは、だからだよ。そこまでやれば夜戦好きも落ち着くかもね」

川内「その絶望的な状況の夜戦……いいかも」ごくり

神通「なんでしょう。体が火照ってきました」

阿武隈「川内なに期待してるの!? しかも神通まで!?」

ビスマルク「Gut. 私、ビスマルクの出番ね!」バンッ

阿武隈「本当に来ちゃった!?」

暁「暁の出番ね! 見てなさい!」バンッ!

電「お姉ちゃんまで来ちゃったのです!? なんでなのです!?」

暁「一人前のレディとして、呼ばれたからには駆けつけるわ!」

阿武隈「呼んでないんですけどぉ!?」

川内「よーし盛り上がってきたね! 今夜に備えてさっそく昼寝しなくちゃ!」

阿武隈「仕事しろ夜戦バカ!」

暁「さあ電、お姉ちゃんに任せなさい! 夜戦でもお仕事でもなんでもこの暁にお任せよ!」

電「えっと、暁お姉ちゃんにお願いすることは、今はないけど……お姉ちゃんも忙しいよね?」

暁「え、そう? えーと、遠慮することないのよ? んと、阿武隈さんはどう?」

阿武隈「あたし? じゃあ響ちゃん捜してきてくれない?」

暁「え? 阿武隈さん響に用事あるの?」

阿武隈「うん。ちょっと響ちゃんにお礼しようと思って」

電「……あ、そうなのです! 響お姉ちゃんと一緒にいて欲しいな」

阿武隈「というわけで、これでジュースでも飲みながら次の遠征計画に目を通していて。次は白露ちゃんと時雨ちゃん達と行ってもらうから。はいこれ資料ね」

暁「分かったわ。暁がしっかり皆をまとめるわね!」

阿武隈「うん。お願いね。あとでちゃんと理解したか確認するから。ちゃんと覚えてね?」

暁「と、当然よ!」

阿武隈「ふふっ、期待してるね。ちゃんとできたらおはぎ作ってあげるから」

暁「頑張るわ!」キラキラ

阿武隈「うーん、暁ちゃん一人じゃ大変だから、電ちゃんも手伝ってもらっていいかな?」

電「いいのですか?」

阿武隈「うん。提督に確認したら、今日は昨日よりずっと楽みたいだし。だから電ちゃんも暁ちゃんと一緒に居てって」

電「了解なのです」

暁「もう、暁一人でも大丈夫なのに……けど電と一緒なら頼もしいわね」

暁「電、お姉ちゃんにしっかりついてくるのよ」

電「ありがとう、お姉ちゃん」

暁「それじゃあ、失礼するわね!」

電「あ!? お姉ちゃん、廊下は走っちゃダメだよ!」

神通「みんな元気ですね」

隼鷹「あはは、阿武隈ちゃんと先輩してんだなあ」

ビスマルク「そうね。なかなかやるじゃない」

阿武隈「もう、からかわないでくださいよ。川内も余計な手間増やさないでよね」

川内「いや、私が暁とビスマルクを呼んだわけじゃないんだけどさ。けどせっかく夜戦相手が向こうから来てくれたのにー!」

阿武隈「仕事増やすよ?」

川内「まー仕方ないか。ビスマルク達とは今度夜戦するとして……今日は阿武隈と夜戦しよう! 一水戦と三水戦で都合つく子達を連れてきてさ!」

阿武隈「無理」

川内「えーなんでよ! 夜戦しようよー!」

阿武隈「あのねえ……当日に夜戦の演習するんですけどってホイホイ許可取れるわけないでしょ」

川内「むー、まどろっこしいなあ、電ちゃんいいでしょ?」

神通「……? お姉ちゃん、電ちゃんもういないよ?」

隼鷹「もしかしてお前……まだ半分寝てるのか?」

川内「……ん? あれ? あ、書類の記入が思いっきり間違ってるや」

阿武隈「川内ー?」

神通「お姉ちゃん……」

川内「た、タンマタンマ! 仕方ないじゃん朝は本気出ないんだって!」

阿武隈「もーあたしだって怒るんだからね!」

ビスマルク「あなたには、少ししつけが必要ね」

神通「……お灸を据えましょうか」

川内「ちょ、ちょっと三人とも落ち着いて、悪かったって!」

隼鷹「はは。骨は拾ってやるよー」

数時間後……

川内「夜戦。とにかく、夜戦を沢山したいです」

隼鷹「あーやばい酒が切れてきた」

ビスマルク「前から思っていたけど、日本の艦娘はなかなか個性的ね」

阿武隈「あの人達は例外ですから、はい」

ガチャ

電「みなさん、ただいまなのです」

川内「あ、電お帰りー。あれもうこんな時間?」

電「コーヒー淹れてきたので、休憩しませんか?」

隼鷹「くー! 電ちゃん気が利くねえ」

川内「まあ電ちゃんに免じて一休みしたらもうちょっと頑張りますか」

阿武隈「わーい。電ちゃんありがとうね」

神通「ありがたく頂きますね」

電「どういたしまして、なのです」

川内「ねえ阿武隈、さっきも言ったけど今夜夜戦しない? もう私疲れたよー」

電「疲れたから夜戦という発想がすごいのです」

阿武隈「本当にね」

ビスマルク「日本は夜戦にこだわりがあると言うのは本当みたいね」

阿武隈「だからこの子は例外ですから」

川内「ちょっ、子供扱いしないでよ」

神通「お姉ちゃんに関しては、もう仕方ないような気もしますね」

川内「妹にまで!?」

隼鷹「あはは、どっちがお姉ちゃんか分からないね」

川内「やーだやだやだ! 夜戦夜戦ー!」

阿武隈「駄々っ子か」

蒼龍「はっ!?」

赤城「どうしたんですか蒼龍さん?」

蒼龍「今、私の真似をだれかにされたような」

赤城「ふむ……蒼龍さんの艦爆機の扱いは随一ですから、手本とする方もいるのでしょうね」

蒼龍「そうですか? えへへ、嬉しいなぁ」

川内「あーもうそこまで言うなら仕方ないか。じゃあ阿武隈、また今度ね!」

阿武隈「はいはい。まったくしょうがないなあ。どうせやるまでまとわりつかれそうだし」

川内「やだなあ、そんな褒めないでよ」

阿武隈「褒めてないからね」

川内「さーて、艦隊組む子集めないとね」

電「お仕事もしっかりお願いするのです」

川内「はいはい。電せんせーにそこまで言われたらやるしかないよね」

電「別に先生じゃないですよ?」

隼鷹「なに言ってんだい。この鎮守府をそれこそ初期から支えてきた立役者なんだ。もっと胸張りなって!」

川内「そうそう。言うなれば私達の大先輩なんだからさ! どーんと威張っていいんだよ」

電「そ、そんなことないのです。大先輩なんて恥ずかしいのです」

阿武隈「そんなことないよ。電ちゃん、いつもありがとうね」

神通「はい。電ちゃんにはいつもお姉ちゃんがお世話になってます」

川内「神通~。ちょっと締まらないじゃない」

阿武隈「事実じゃないの。日頃の行いでしょ」

川内「むー、阿武隈まで」

ビスマルク「あんまり頑張りすぎないようにね。私達にももっと頼っていいのよ?」

電「はい。ありがとう」

神通「あの、阿武隈。ちょっといいかな? 今度お話したいんだけど」

阿武隈「あ、もちろんOKだよ。調整しておくから、いつもの場所でね」

川内「え、私は?」

神通「もちろんお姉ちゃんもよ」

川内「はーい。まあ私抜きで成り立たないからね」

阿武隈「はいはい」

――その夜。

川内「今日は昼寝できなかったけどそんなこと関係ない! 夜戦の時間だー!」

神通「ちょっとお姉ちゃん!?」

川内「夜が私を呼んでいる! 月が私を呼んでいる! 星が私を呼んでいる!」

川内「そして、夜戦が私を呼んでいる! ではさらばだ!」

神通「あ、こら!」



川内「こちら川内。神通の追跡を振り切った。オーバー」

大鳳「川内さん……? 誰と会話してるのかと思ったら独り言つぶやいているんですけど、なにやっているんでしょう」

瑞鶴「関わっちゃだめよ大鳳。あいつに見つかったら夜戦直行、寝不足間違いなしだわ」

大鳳「そうですね……こっそり離れましょ」

川内「了解。今日の夜戦相手の捜索に移る。まあ探せば適当にいるよねーっと。なんたって夜戦のお誘いなんだから、みんな即オッケーに決まってるって」

川内「ターゲットの部屋に侵入成功。目標補足」

加古「ぐーぐー」

川内「加古さーん! 夜戦しよ夜戦しよ!」

加古「んぁ? 川内? ダメダメ、もうあたしゃ寝る時間だから」

川内「だが寝かさない!」

加古「……は?」

川内「ねえ夜戦しようよ! 夜戦! 楽しいからね!」

加古「他を当たってくれ……意地でも寝てやるからな……ぐぅ」

川内「ふふふ……この川内さんの前で寝れると思わないでよね! 意地でも夜戦に誘ってみせるから!」

加古「すーすー」

川内「夜戦しようよー! ほら夜戦ー!」

ぎゃーぎゃー!
ドタバタ! ブーブー! バンバン!
てーてててってってってってー!
センソウニハカチタイケドイノチハタスケタイッテオカシイデスカ?

川内「はあ、はあ……くっ、なかなか手ごわいね」

加古「ZZZZ……」

川内「だけどこれしきで諦めないよ! 私の夜戦にかける情熱はこの程度じゃないんだから――!」

北上「あーもううるさい! 寝れないじゃんか!」

61cm五連装(酸素)魚雷 シャ!

61cm五連装(酸素)魚雷 シャ!

61cm五連装(酸素)魚雷 シャ!

ドーン!

※映像はイメージです

北上「まったく出撃帰りなんだから安眠妨害してないでって……やりすぎたか」

北上「もしもし、川内生きてるー?」

五十鈴「なに今の音!?」

阿武隈「また夜戦バカなの!?」

神通「お姉ちゃんがどっか行ったままなんです!」

古鷹「今の私達の部屋からでしょうか!? 加古は! 加古は大丈夫!?」

熊野「ああもう! たまには静かに過ごせませんのあの方たちは!」

電「はわわ、とにかく急ぐのです!」



北上「……」汗ダラダラ

北上「ま、こんなこともあるよねー。電ちゃん達に任せよっと」

北上「川内、養生してねー。大丈夫だと思うけどさ。君の夜戦癖がいけないんですよーっと」

加賀「やりました」

北上「ばれました」

阿武隈「ばれました。じゃないでしょ! もともとは川内が悪いんでしょうけど、どう考えてもやり過ぎよ!」

川内「死ぬかと思った」げっそり

古鷹「そ、その割には元気そうですね」

北上「まあ、最初っからそう大事にはなってないと思ったけどね。おもいっきり手加減したし」

北上「いやーけど加賀さんに見つかっちゃったか。まあ仕方ないか」

阿武隈「全然仕方なくないんですけど」

加古「ぐーぐー」

古鷹「もう加古ってば、まだ寝てるし」

電「加古さん風邪引いちゃいますよ」

川内「加古さんの睡魔に、私の夜戦への思いが負けた……だと?」

提督「反省してないようだね」

川内「いや反省してるよ! ほら! 次こそはちゃんと加古さんを夜戦に誘って見せるから!」

五十鈴「それ違う、全然違う」

阿武隈「あーもー! 二人とも反省しなさーい!」

北上「まずいアブッチが切れた!」

川内「いや阿武隈が怒っても怖くないじゃん」

神通「そうですか」

五十鈴「へーえ、そう。じゃあ私達ならどう?」

加賀「さすがに頭に来ました」

川内「あ」

電「あ、あの、あの」

提督「電、ちょっとこっち行こうか」

阿武隈「そうだね、電ちゃん。少し離れてようね」

電「え、でも川内さんが――」

北上「あ、アブッチ、ヘループっ」

阿武隈「北上さん、反省してね?」にこっ

北上「……おおう。これは四面楚歌ってやつ?」

熊野「目が冴えてしまいましたわ。私温かい飲み物淹れてきますわね」

五十鈴「さ、川内。お説教の時間よ」

神通「お姉ちゃん。覚悟してね」

川内「……オテヤワラカニオネガイシマス」

加古「くー」

古鷹「ほら、加古ちゃんと布団かけて」

――数日後。

那珂「みんなー今日は集まってくれてありがとー!」

阿武隈「いえ、別に那珂のために集まったわけじゃないんですけど」

那珂「もー、固いことは言いっこなしだって阿武隈ちゃん!」

阿武隈「まあ那珂については、今更だから別にいいんだけどね」

那珂「阿武隈ちゃん、いつも通り、親しみを込めて那珂ちゃんって呼んで!」

阿武隈「そんな愛称で呼んだことないんですけど?」

那珂「那珂ちゃんの方が親しみがあっていいと思います! じゃあ、能代ちゃん! 那珂ちゃんって呼んで!」

能代「え? あの、その」

阿武隈「ああ、もう那珂ちゃん。これでいいでしょ? あんまり能代ちゃん困らせないの」

那珂「そんなぞんざいな呼び方やめてよー! もっとかわいく、那珂ちゃんって呼んで! せーの、はい!」

阿武隈「ああもう、この子は……」

神通「那珂ちゃん、話が進まないからね」

那珂「いいじゃんいいじゃん、いつも大体こんな感じなんだしー!」

阿武隈「大概、誰のせいかと……まあ今更だしそこまで気にはしてないけどね」

能代「能代はどう反応すればいいのでしょう」

阿武隈「能代ちゃん、そこまで気にしなくていいよ。もっと楽にね」

能代「あ、はい。ありがとうございます、阿武隈さん」

名取「えっと……私に呼び出しがかかるなんて……」

阿武隈「あ、名取お姉ちゃんようこそ! ささっ、来て来て!」

名取「あの……その」

神通「名取さん?」

名取「……では、私はこれで」

阿武隈「まだ何もしてないよ!?」

那珂「そうだよ那珂ちゃんのステージはこれからだよ! ファンのみんながいなくてどうするの!?」

綾波「名取さん、大丈夫です。綾波がついてますから!」

名取「……綾波ちゃんの方が私よりずっとしっかりしてる。やっぱり私はこれで」

那珂「いやいやいや!? 名取ちゃんタンマ! ストップ! 怖くないからこっちにね!」

神通「那珂ちゃんが真面目に……名取さんすごいです」

阿武隈「神通、その思考はどうかと思うよ……」

名取「でも私がいてもお邪魔なんじゃ……川内さんの代理なんて」

阿武隈「もー、名取お姉ちゃん! 私のお姉ちゃんなんでしょ! もっとお姉ちゃんらしく自信持って! 大丈夫だからね!」

名取「あ、阿武隈ちゃん……」

那珂(自信を持てって……阿武隈ちゃんがそれを言う?)

神通(以前はおどおどしてた阿武隈がそれ言うの……?)

名取(阿武隈ちゃんも私のこと言えない気がする……最近はたしかに良くなってきてるけど)

綾波(お茶が美味しいです。はぁ……癒されます。感謝ですね~)

阿武隈「なんか周りの目が生ぬるいんですけど。あたし、なにか変なこと言いました?」

能代「さすが阿武隈さんですね! 能代感激しました!」キラキラ

阿武隈「へ? そ、そう? それほどでも。ふふーん」

神通「……いいなあ」

阿武隈「神通? どうしたの?」

神通「え? な、なんでもないよ?」

阿武隈「……うん?」

参加者

第一水雷戦隊旗艦 阿武隈

第二水雷戦隊旗艦 神通

第三水雷戦隊旗艦 川内――の代理 名取

第四水雷戦隊旗艦 那珂

那珂「だから、那珂ちゃんって呼んでってばー!」

次期第二水雷戦隊旗艦候補 能代

第三水雷戦隊所属 綾波(名取の付き添い)



阿武隈(正規の会議とは別に、私を含めた水雷戦隊のみんなはこうして時々不定期に交流をしています)

阿武隈(駆逐隊のみんなの様子、護衛対象の戦艦や空母の方々の様子とか、いろいろ知れる良い機会になると思ったのが始まりです)

阿武隈(本来は第三水雷戦隊の旗艦である川内も今日来るはずだったんだけど……)

名取「川内さんが、そのすみません……私が代理ですみませんっ」

阿武隈「だからお姉ちゃんが謝る必要ないからね。悪いのは川内なんだから」

名取「でも川内さんの夜戦止められなかったし……私が止めれるはずないけど」

神通「えっと……姉がご迷惑をお掛けしてます」

名取「綾波ちゃんもごめんね、無理言ってついてきてもらって」

綾波「綾波は気にしてませんよ。嬉しいです、皆さんとお話しできて」

名取「うう……綾波ちゃんありがとうー!」

綾波「わわっ、名取さん大げさですよー」

同時刻の執務室のご様子


川内「この書類の量はなにさ!?」

提督「きりきり言わず早く片づけなさい」

蒼龍「文句言ってる暇ありませんからね」

北上「まあ、こんなこともあるよね……早くゆっくりしたーい」

――しばらくして。

能代「で、阿賀野姉ぇってばパジャマのまま廊下に出て『能代ーご飯まだー?』って……本当にもう恥ずかしかったんですから!」

阿武隈「そ、それは……能代もお姉ちゃんに苦労掛けられるんだね。本当に神通とそっくり」

神通「そこで私を話題に出さないで……」

那珂「まったく川内お姉ちゃんってば。いっつも夜戦夜戦って」

阿武隈「那珂も人のこと言えないんじゃないの? いっつもアイドルアイドル言ってるじゃない」

那珂「なに言ってるんですか! 那珂ちゃんは早寝早起き! アイドルに夜更かしは厳禁なんだから! お肌にも健康にも良くないもんね! あと那珂ちゃんって呼んで!」

阿武隈「いや、そういうことじゃなくてね。まーたみんなにアイドル活動強制したりしてないよね?」

那珂「そ、そんなことしてないよ!」

能代「……たしか舞風さんがこの前、那珂さんにダンス習ったからと披露してましたが」

那珂「ぎくぅ!?」

綾波「そういえば綾波も誘っていただいたことがありましたね。アイドルなんてとても向いていませんから、お断りしましたけど」

阿武隈「やっているんじゃない。綾波ちゃんまで誘ってるし」

那珂「強制はしてないし! 舞風ちゃんにはあくまでダンス教えただけだし! 綾波ちゃんには一回声かけただけだし!」

神通「で、その心は?」

那珂「……あわよくばアイドルグループ組めないかなとか思ってました、はい」

阿武隈「まあ本人の希望ならいいけどさ。あまり羽目外さないでよ?」

那珂「大丈夫です! 話分かる阿武隈ちゃん大好き!」

阿武隈「全く、調子良いんだから」

那珂「目指せ那珂ちゃんフォーティエ――」

阿武隈「ちょっとタンマ! それはまずいってば! いろいろと!」

能代「でも那珂さんのところは楽しそうですね。いつもみんな明るくて」

那珂「まーね。やっぱりリーダーがトップアイドルの那珂ちゃんだから、そりゃ、ファンのみんなもやる気出るのは当然?」

阿武隈「こういうのも天性のカリスマって言うのかな……」

神通「……そうね」

能代「って、すみません! 能代の話ばかりして!」

綾波「能代さんは阿賀野お姉さんのことが大好きなんですね」

能代「へ? いや、その」

綾波「私も妹達に随分と助けられてますから。お姉ちゃんとしては嬉しいです。きっと、阿賀野さんも能代さんに感謝してると思います」

能代「そ、そうかな……? それだと良いんですけど。けど、なんだか恥ずかしいですよ」

能代「そうだ。阿武隈さんや神通さんはなにかありますか? お礼に能代でよければお話し聞かせて頂きますよ!」

阿武隈「あ、そうだなあ……うーん」

神通「阿武隈、どうしたの?」

阿武隈「愚痴(ぐち)になっちゃうんだけど。やっぱり駆逐の子達が言うことを聞いてくれないことがあってね」

阿武隈「普段とかは別に良いんだけど。訓練や実戦で指示に従ってくれないって、かなり危険なんだけど、うまくいかなくて。結構配慮してるんだけど……はあ」

能代「うーん。やっぱり旗艦は大変ですね。能代、神通さんや阿武隈さんのように上手くできるか自信ないです」

阿武隈「みんな基本的には良い子だし、悪気があるわけじゃないのは分かるんだ。けど他の、例えば提督とかの言うことは聞くけど、あたしの指示には従わなかったりする子がね」

阿武隈「やっぱあたしには神通みたいな威厳がないしなあ」

神通「え、私?」

阿武隈「逆に神通以上に威厳がある軽巡がどこにいるのよ。そこんところではあたし、今のところ敵わないし。霞ちゃんとか神通にちゃんと従ってるじゃない。あたしなんかもう全然」

神通「そうかな? 霞ちゃん良い子じゃない」

阿武隈「いや、すごくいい子だよ。ただ、あたしはなんていうか、舐められてる?」

能代「いや、そんなことないと思うんですけど」

阿武隈「あと若葉ちゃんとか初霜ちゃんも気がかりなんだ。あの子達すぐ無理するし。心配してもいつも大丈夫って言うし。無理言って休ませたりするんだけど、どうもそれが不満みたいで」

阿武隈「白露ちゃんは、やる気があるのはとっても良いんだけど、なんでも一番になろうとして、すぐ他の子に張り合っちゃうし……なにもかも一番になろうなんて、どうしても無理が出てくるし」

神通「……阿武隈、本当に駆逐の子達のこと良く分かってるね」

阿武隈「ううん。そんなことないと思うけど。神通とか那珂なんてあたし以上に分かってるんじゃない?」

神通「え? それは……」

名取「阿武隈ちゃんが威厳ないって……じゃあ私はマイナス!?」

阿武隈「いやいや!? お姉ちゃん、そんなことないからね!」

綾波「そうです! 綾波は名取さんのことすごいと思ってます!」

名取「ふえ……綾波ちゃんありがとう!」ガシッ!

綾波「はい、大丈夫ですよー」

那珂「綾波ちゃんの方が名取ちゃんよりお姉さんに見えるよね!」

名取「がーん!? ふえぇぇぇん!」

神通「那珂ちゃん、余計なこと言わないの!」

綾波「阿武隈さん、綾波思ったんですけど」

阿武隈「なあに、綾波ちゃん?」

綾波「阿武隈さんは優しくて、お話しをちゃんと聞いてくれる人ですから。だからつい甘えたりわがままを言ってみたくなる子もいると思うんですよ」

綾波「特にお姉ちゃんがいない子とかは、お姉ちゃんの代わりに甘えてみたいのかもしれないですね」

阿武隈「……甘えてみたく? あたしに?」

名取「ふぇ。綾波ちゃんすごい……」

綾波「綾波、一応お姉さんですから」

名取「そっか……でも由良も鬼怒も手のあまりかからない子だったから、ちょっと私にはピンとこないかも」

阿武隈「なるほど……けど、やっぱり威厳はないってことには変わりないってことだよね」ずーん

神通「あ、阿武隈。元気出して、ね?」

那珂「まあ、那珂ちゃんと比べたらそりゃ求心力が劣っちゃうのは仕方ないし? 落ち込んじゃダメだよ阿武隈ちゃん?」

能代「阿武隈さん、那珂さんより年長者ですよね……? なんで那珂さんそんなに偉そうなんでしょう?」ぼそっ

神通「だって那珂ちゃんだし」

能代「なんとなく納得できてしまうのが怖いんですけど」

阿武隈「けど、あたしの問題はまた別だよね。ありがとう! 綾波ちゃん!」

綾波「いえ、綾波は何もしてないですから」

名取「綾波ちゃんがなにもしてない……じゃあ私はいなくてもいい存在!? うわーん!」

阿武隈「もうお姉ちゃんでばーっ!? いちいちネガティブにならないでよ!」

コツコツコツ――

阿武隈「甘えてみたく、かあ……あたしじゃちょっと役者不足な感じもするんだけど」

電「阿武隈さん、お疲れなのです!」

阿武隈「あ、電ちゃんどうしたの? 今日はお休みだよね?」

三日月「こんにちは、阿武隈さん」

秋津洲「阿武隈さん、こんにちはかも! じゃなかった、こんにちは!」

照月「こんにちは!」

阿武隈「こんにちは三日月ちゃん、秋津洲ちゃん、照月ちゃん。なにやってるの?」

秋津洲「二式大艇ちゃんの役割について説明してたの! あたし戦闘は得意じゃないけど、この子の整備なら得意だからね!」

三日月「凄いですねこの子。航続距離と滞空性能、高速性能。それと防御火力。偵察任務に持ってこいです」

秋津洲「えへへそうでしょ! 偵察は二式大艇ちゃんにお任せかも!」

阿武隈「うん。いつもありがとうね。偵察は大切だから秋津洲ちゃんが来てくれて本当に助かってるんだ」

電「明石さんも弟子ができたみたいって喜んでいたのです」

秋津洲「本当!? わーい明石さんと阿武隈さんに褒められちゃった! 嬉しいかも!」

三日月「秋津洲さんが来て工廠(こうしょう)も明るくなりましたね」

秋津洲「えへへ、ありがと! お礼に二式大艇ちゃんと遊んでもいいよ!」

電「かわいいのです」

三日月「わぁ。私も触ってもいいですか?」

秋津洲「もちろんかも!」

照月「いいですね! って長10cm砲ちゃん、怒らないでぇ! 長10cm砲ちゃんもかわいいよ、ね!」

阿武隈「ほらほら、仲間なんだから仲良くしないと駄目だよ。ね」

二式大艇ちゃん(しゅーん)

長10cm砲ちゃん(ごめん)

二式大艇ちゃん(こっちこそ)

阿武隈「いい子だね。よしよし」

阿武隈「照月ちゃん、どう? なにか不自由してない?」

照月「あ、いえ! みんな良い方達で……秋月姉とも会えて良かったです!」

電「それは良かったのです。なにかあれば言ってね?」

照月「はい! 電さんありがとうございます!」

秋津洲「艤装についてなにかあれば秋津洲を頼ってね。明石さんみたいにはできないかもだけど、秋津洲もそれなりに整備はできるから」

照月「はい!」

三日月「ふふ。私もみんなに負けないように、もっと頑張らないとですね」

阿武隈「三日月ちゃん、あまり無理はしないでね?」

三日月「はい。大丈夫ですよ阿武隈さん」

島風(……むー)じー

シュタタタ――

島風「頂きまーす!」

長10cm砲ちゃん(!?)

照月「きゃあ!? 長10cm砲ちゃん!?」

三日月「照月さん!? 大丈夫ですか!?」

阿武隈「こら島風ちゃん! 長10cm砲ちゃんとっちゃダメでしょ!」

電「島風ちゃん! 返してあげて欲しいのです!」

島風「ふふーん。私に追いつければ返してあげる。だれも追いつけないと思うけどね」

タタタタ……

照月「ど、どうしよ~! 長10cm砲ちゃんが誘拐されちゃった! 照月、身代金なんて払えないです!」

阿武隈「照月ちゃん、落ち着いて」

電「阿武隈さんの言う通りなのです。まずは落ち着いてください」

三日月「と、ともかく島風さんを早く追わないと! 見失ったらまずいです!」

電「でも島風ちゃんは速くて追いつくなんて……あ! 秋津洲ちゃん!」

秋津洲「分かってますよ電さん! もう既に二式大艇ちゃんが追跡してるから!」

阿武隈「秋津洲ちゃんすごい! さすがだね」

秋津洲「ふふーん。いくら速くても、空からの追跡からは逃れられないかも。ターゲットは鎮守府の外に出て、近くの林に潜り込んだよ!」

照月「本当!? じゃあ早く助けに行かないと!」

三日月「では行きましょう!」

天津風「あなた達、なんの騒ぎ?」

電「あ、天津風ちゃん。こんにちはなのです」

天津風「こんにちはみんな。ところで島風見なかった?」

阿武隈「見たも何も……」

秋津洲「あの子誘拐したかも!」

天津風「はあ!? どういうことよ!?」

三日月「それだけ聞くと犯罪みたいに聞こえちゃいますよ!?」

天津風「ととと、とにかく説明して阿武隈さん!」

阿武隈「あたし!? ま、まあそうね。つまりは――」

阿武隈「かくかくしかじか」

三日月「まるまるうまうま」

電「なのですなのですすーぱなのです」

秋津洲「かも!」

照月「かもです!」

天津風「なんですって!? まったく、あの子なにやってんのよ……分かった、あたしも協力するわ」

阿武隈「分かったわ! 天津風ちゃん行きましょう!」

電「第一艦隊! 島風ちゃん追跡部隊! 出撃です!」

島風「来るのおっそーい!」丘の上にドン!

三日月「……もしかして来るの待ってました?」

島風「そ、そんな心待ちにしてたわけじゃないんだから!」

阿武隈「……なんでしょう。昔のあたしのセリフを真似されたような」

電「島風ちゃん、誰かと間違えてないですか?」

照月「島風ちゃん、長10cm砲ちゃん返して! 三時のおやつをあげないとあの子すねちゃう!」

秋津洲「島風ちゃんに告ぐ。一、今からでも遅くはないから原隊に帰れ。二、抵抗するものは全部逆賊であるから射殺する。三、お前逹の父母兄弟は国賊となるので皆泣いておるぞ。かも!」

天津風「あんたら真面目にやりなさいよ! 島風、早く戻ってきなさい!」

島風「やーだよ。さっきも言ったけど、私を捕まえたら返してあげるってば」

タタタタッ!

照月「あ、待って! 逃がしませんよ!」

島風「ふふー。やっぱりあなたって遅いのね!」

電「島風ちゃん待つのです!」

島風「電さんおっそーい! それでも本当にこの鎮守府の最古参?」

電「むっ! 聞き捨てならないのです! 私だけじゃなくてみんなの沽券に関わるのです……電の本気を見るのです!」

阿武隈「闇雲に追っても無駄ね! みんな島風ちゃんを囲んで!」

電「了解です!」

三日月「分かりました!」

天津風「逃がさないわ!」

照月「はい! 照月も練度上がってます――大丈夫!」

島風「おうっ!? ちょっと厄介だけど……一人遅いね!」

秋津洲「えっ!? うわわ!?」

阿武隈「秋津洲ちゃん!?」

秋津洲「うー、やられたかもー。島風ちゃん酷いかも!」

島風「せっかくの包囲網も一人遅れたらそこから抜け出せるよ。いくら人数がいても私一人のスピードには勝てないんだって」

島風「島風は誰よりも速いよ。そうでなきゃいけないんだから」

阿武隈「っ!? 島風ちゃん!」

島風「じゃあねーっ!」

三日月「あ!? 早く追わないと!」

電「闇雲に追っても島風ちゃんは捕まらないのです」

照月「で、でも長10cm砲ちゃんが」

阿武隈「大丈夫。いくら島風ちゃんが早くても、この人数で、みんなが協力すれば必ず捕まるから」

天津風「そうは言ってもあの子の速さは普通じゃないわよ。あたしも持久力はともかく、速度は他の陽炎型の子と変わらないんだから」

阿武隈「ううん。速度で勝つ必要はないよ。あたし達は――」

電「練度とチームワークと」

阿武隈「――作戦で勝つんだから」

阿武隈「じゃあみんな? 手筈通りにお願いね」

三日月「分かりました。重要な役割で緊張しますね」

秋津洲「みんな、通信は忘れちゃダメかも!」

天津風「分かってるわ。切り込み役は任せて」

照月「みなさん、よろしくお願いします!」

タッタッタッ……



――特にお姉ちゃんがいない子とかは、お姉ちゃんの代わりに甘えてみたいのかもしれないですね。

――島風は誰よりも速いよ。そうでなきゃいけないんだから。

阿武隈「島風ちゃん、寂しかったのかな」

電「そうだと思うのです。天津風ちゃんや雪風ちゃん、長波ちゃんのような友達は島風ちゃんにもいるけど」

電「電や阿武隈さんと同じように甘えられるお姉ちゃんや、逆に面倒を見てあげる妹が欲しかったんじゃないかなって」

阿武隈「そっか」

電「きっと阿武隈さんの指示に従わなかったり、困らせたりするのは、島風ちゃんなりに、そうやって阿武隈に自分を構って欲しかったのだと思うのです」

阿武隈「電ちゃん。あたしまだまだ未熟だね」

電「……阿武隈さん一人の責任じゃないよ。電も至らない点が沢山あるのです。それに阿武隈さんは一人です。全員はとても目が届かないし、阿武隈さんが参ってしまうのです」

電「けど、阿武隈さんだけじゃないのです。電や長良型のお姉ちゃん達、司令官や他のみんなもいるから。だからもっと頼ってください」

阿武隈「ふふっ、電ちゃん。今の言葉、雷ちゃんみたい」

電「ふぇ? そうですか? お姉ちゃんだから、かな?」

天津風「……良い風ね。さて、あの子は見つかった?」

秋津洲『二式大艇ちゃんを舐めないでよね! 最初から見失ってないかも! 位置は――』

天津風「了解。第16駆逐隊、天津風抜錨よ!」

秋津洲『ここ陸かも。第16駆逐隊って、今この場にいるの天津風さんだけだし』

天津風「うるさいわね! 雰囲気よ!」



三日月「さて……睦月型だからって侮らないでくださいね、島風さん」

照月「大丈夫かな……上手くやれるといいけど」

三日月「私がフォローしますよ。心配しないでください」



阿武隈「電ちゃん。最後まで走れる?」

電「大丈夫なのです。電は一番長く訓練積んでいるのです」

阿武隈「頼もしいね。それじゃ、行こうか」

島風(私は誰よりも速くなるように作られた。けど、他の子との速度差があるから誰とも艦隊を組めなかった)

島風(けど、遅くなんてなれない。だからこそ、私は速くなくっちゃ。そうでないと、私は私の生まれた意味をなくしちゃう)

島風(……最初に参加したあの奇跡の撤退作戦。嬉しかった。やっと島風が必要とされたから)

島風(でも……阿武隈さん、怒らせちゃったよね。今度こそ見捨てられちゃうかな。天津風ちゃんや電さんももう相手してくれないかも)

島風「ねえ、連装砲ちゃん。連装砲ちゃんは一緒にいてくれるかな?」

連装砲ちゃん(ぐっ)

島風「連装砲ちゃんは優しいね……私も連装砲ちゃんや阿武隈さん、電さんみたいになれたらいいのに」

天津風「島風、見つけたわ!」

島風「あ……」ぱあっ

島風「は!?」ぶんぶん!

島風「やっと来たの天津風ちゃん。随分時間かかったね」キリッ

天津風「あなたを捕まえる檻を作っていたのよ。もうあなたはこの中から逃げられない」

島風「ふーん。じゃあ、その檻ごとぶち抜いてあげるね!」ダッ!

天津風「あなたにできるかしら?」ダッ!

タッタッタッタッ――

島風「ほらほら私はこっちだって!」

天津風「くうっ、やっぱり速度じゃ勝てないわね!」

秋津洲『諦めずにどんどん追うかも! 島風ちゃんの位置は常に大艇ちゃんが特定して、秋津洲がみんなに伝えるからね!』

天津風(本当に索敵のありがたさが分かるわね。秋津洲抜きじゃ途方に暮れてたわ)

天津風「位置さえ分かれば……逃がさないからね、島風」



島風(ふふーん。私は索敵だって得意なんだから。電さんと阿武隈さんが先回りしているのは知ってるよ)

電「じゃーん! 島風ちゃん覚悟なのです!」ガサッ!

島風「電さんがそこにいるのはお見通しだって!」

電「はわっ!? ……かかったのです!」

阿武隈「任せて電ちゃん!」

島風「阿武隈さんもバレバレだよ!」

阿武隈「きゃあ!」

島風「じゃーね!」

阿武隈「さて……まあ想定通りっと。電ちゃん、まだ走れる?」

電「まだまだ走れるのです!」

阿武隈「OK。規定のポイントに追い込むよ。天津風ちゃん、引き続きお願いね」

天津風「分かってるわ!」

天津風「待ちなさい島風!」

島風「待てって言われて待つ人はいないってばー!」

島風(私にかろうじてついてこれるのは天津風ちゃんと、電さん、阿武隈さんか)

島風(秋津洲ちゃんは純粋に速力で、照月ちゃんはここに来てまだ日が浅すぎて、私達に付いてこれない。三日月ちゃんが気になるけど……)

電「今度こそ捕まえるのです!」

島風「何度やっても同じだよ!」

電「あ、あとちょっとなのです!」

阿武隈「はいここから先は通行止めですっ!」

島風「じゃあこっちいこーっと!」

天津風「くう、ちょこまかと!」

島風「天津風ちゃんしつこーい!」

天津風(やっぱり。速度はともかく、持久力ならあたしでも島風と勝負できる)

天津風(そのままでは引き離されるけど、そこは電さんと阿武隈さん。鎮守府でも1、2を争う練度と連携を持つ二人が島風を妨害して、ある程度以上は離さない。さすがね)

島風(む、電探に反応あり。照月ちゃんは待ち伏せか……)

秋津洲(そして島風に気づかれないように、照月が待ち伏せしているポイントに誘い込む!)

照月「島風さん覚悟ーっ! です!」ガサッ!

長10cm砲ちゃん(てるづきちゃん!)

島風「おうっ!?」

島風「――なんてねっ!」

照月「ええっ避けられた!?」

長10cm砲ちゃん(なんですとー!?)

天津風(照月が避けられることは想定通り。すかさず電さんと阿武隈さんの二人が島風を捕まえる)

電「隙ありなのです!」

阿武隈「観念しなさい!」

島風「っ!? え、ええーい!」

電「これでもダメなのです!?(やった、予想通りの方向に逃げるように誘導できたのです!)」

天津風(そこで捕まればよし……けど、島風ならその二人すら避ける可能性は充分ある)

島風「ふ、ふふん、おしかっ――!?」

天津風(そこまでも阿武隈さんの予測通り。そして、そこに最後の刺客を用意した!)

三日月「ひ、秘技クレッセントムーンッ!」

秋津洲『という名の、木の上からの飛び掛かりかも!』

島風「えなにそれっ、きゃああ!?」

天津風(相手の罠を見抜き、その上を行ったと思わせた隙に、さらなる罠が牙を向く。戦術としては初歩的)

天津風(けどここにいる全員の特徴を上手く掴んだ良い作戦。そして見落としがちだけど、阿武隈さんと電さんの見事な連携による足止めと誘導。正直見直したわ)

秋津洲『ちなみに三日月ちゃんのクレッセントムーンも避けられたら、この秋津洲が大艇ちゃんアタックで止めを刺したかも!』

天津風「あなたね、止めを刺してどうするのよ」

長10cm砲ちゃん(たすかったー)

照月「長10cm砲ちゃん良かったー!」

電「島風ちゃん。捕まえたのです」

阿武隈「もう、長10cm砲ちゃん持ってっちゃダメじゃない。照月ちゃんに謝って」

島風「……やだ」つーん

連装砲ちゃん(あのね)つんつん

島風「連装砲ちゃん?」

連装砲ちゃん(わるいことしたら、ちゃんとあやまらないとめっ)

島風「……私、悪くないもん」

天津風「いいかげーんにしなさーい、島風」

島風「おうっ!?」

天津風「まったくみんなに迷惑かけて! ごめんさないはどうしたの!」

島風「ひゃまつひゃぜひゃん、ひょっぺひゅねにゃらいで~(天津風ちゃんほっぺつねらないで~)」

阿武隈「天津風ちゃんもみんなも、心配したんだよ」

島風「ひゃたゃしにょひんぴゃいにゃんてしゅるわけにゃいひょ(私の心配なんてするわけないよ)」

天津風「なにバカ言ってんのよ、このばかかぜ」

阿武隈「そんなことないよ」

電「なのです」

島風「……ひゃびゅくみゃひゃんひょ、いにゃぢゅみゃひゃんみょ?(阿武隈さんと、電さんも?)」

三日月「もちろん、私もですよ」

秋津洲(島風ちゃんが天津風ちゃんにほっぺつねられているせいで、締まらないかも)

島風「ふぇ、ぐすっ」

天津風「島風!? ごめん、そんなに痛かった!?」

島風「いい加減離せーっ!」

天津風「きゃっ!? そ、そのごめんね」

照月「うわぁ、ほっぺ真っ赤」

連装砲ちゃん(いたいのいたいのとんでけー)

長10cm砲ちゃん(いたいのとんでけー)

二式大艇ちゃん(とんでけー)

阿武隈「よしよし、痛かったね。大丈夫?」

三日月「私も木の上から飛び掛かりましたからね。怪我はありませんか?」

島風「うん。大丈夫……」

阿武隈「そっか、怪我なくて良かった」

島風「……うん。ありがとう」

阿武隈「島風ちゃん、悪いことしたらちゃんと謝らないと駄目だよ。ほら、照月ちゃんと長10cm砲ちゃんに謝らないと」

島風「……でも」

阿武隈「あたしも一緒に謝ってあげるから、ね」

島風「……うん」

島風「照月ちゃん。長10cm砲ちゃん持って行っちゃってごめんね」

阿武隈「照月ちゃん。迷惑かけてごめんね。島風ちゃんを許してあげてくれないかな?」

照月「島風ちゃん、もう怒ってないから大丈夫だよ」

島風「長10cm砲ちゃん、急に連れて行っちゃってごめんね」

長10cm砲ちゃん(ゆるしたげる)

二式大艇ちゃん(なんとふところひろい)

連装砲ちゃん(まるでおほーつくかいのごとく)

三日月(なぜオホーツク海が例えで出てくるのでしょう……?)

秋津洲「たしかに疑問かも」

三日月「秋津洲さんも気になります?」

秋津洲「懐が広い、懐が深い。どっちが正しい使い方だったっけ?」

三日月「そこですか!?」

天津風「それで島風、なんでこんなことしたのよ」

島風「え? その、えっと。そう! 連装砲ちゃんにお友達を作ってあげようと思って!」

連装砲ちゃん(な、なんだってー!?)

電「……連装砲ちゃんが聞いてないけど、みたいな顔しているのです」

天津風「だったら、さらったりせずに会わせてあげればいいだけの話じゃない」

島風「え、えっと……そうじゃなくて。鬼ごっこ! 鬼ごっこしようと思って! 最近電さんとかお仕事ばっかりだったでしょ! だから」

天津風「だからそれ、電さんとかあたしを誘えばいいだけの話じゃない」

島風「えっと、えっと……」

阿武隈「まあまあ、天津風ちゃん。もういいから。島風ちゃん謝ってくれたんだし」

島風「だって……みんな島風を艦隊に入れてくれないんだもん」

電「……島風ちゃん」

島風「昔もそうだった。私は速いけど、そのせいで他の子と同じように動けないから、艦隊を組ませてもらえなかった」

島風「艦娘に生まれ変わってからも、演習には出してもらえても、出撃や遠征には出してくれない。けど速さを捨てたら、私は生まれた意味を無くしちゃうから……」

島風「いっそ、誰よりも速くなれば、みんなに認めて貰えるかもって」

阿武隈「……そっか」

島風「だから、阿武隈さんや電さん、みんなに見てもらいたかった。島風はこんなに速いんだよって」

島風「けど、ダメだったね……結局速くてもみんなには勝てなかった」

島風「島風、どうしたらいいのかな……ひぐ、どうしたら、みんなといっしょに、ぐすっ、海に出れるの、かな?」

三日月「島風さん……」

秋津洲「予想以上に重かった!? 秋津洲答えられないかも!? あたしにはまだまだ艦生経験が足りてないかも! し、島風ちゃんを励ますには、えっと……」(←小声)

照月(艦生人生……? ああ、人生経験の艦娘版ですね!)

電「島風ちゃん。よく分かったのです」

三日月「ええ。島風さんが悩んでいることはよく分かりました」

阿武隈「島風ちゃん……ごめんね、気づいてあげられなくて」ポン

島風「阿武隈さん……」

阿武隈「大丈夫。訓練次第で、みんなに合わせた艦隊運動はできるようになるんだから」

阿武隈「それができるようになれば、みんなと一緒に海に出れるようになれるよ」

島風「ホント? みんなと一緒に?」

電「うん。大丈夫なのです」

阿武隈「だから、一生懸命に訓練しないとね。できるかな?」

島風「うん! 頑張るから! そしたら阿武隈さんやみんなと一緒に出れるんだよね!?」

阿武隈「もっちろん!」

電「阿武隈さんの言う通りだから。電も保証するのです」

天津風「なに言ってるのよ。当り前じゃない。永久に訓練だけさせる鎮守府がどこにあるのよ」

三日月「一緒に訓練頑張りましょう。隊は違いますけど、いつでも相談や自主練には付き合いますから」

照月「照月も頑張ります! 一緒に頑張りましょう!」

島風「あ……うん! 負けないからね! にひひー!」

秋津洲「特別に秋津洲戦闘航海術を教えてあげてもいいよ!」

阿武隈「そうそう。速さをみんなに合わせることができれば、いざというときに速いことは長所になるんだから」

島風「……そうかな? そうよね」

阿武隈「うん。速いのは島風ちゃんの凄いところだから、自信持ってね」

島風「うん! 速さなら誰にも負けないように頑張ります!」

電「けど。島風ちゃんの場合、速度とかよりも」

阿武隈「もっと根本的な問題があるんだけどね」

三日月「確かにそうですね」

島風「……え?」

天津風「あなた。もしかして分かってないの?」

島風「なにが?」

阿武隈「島風ちゃん。どうしていつもあたしの指示に従ってくれないのかなあ? あたし、そこのところよーく訊きたいな?」

島風「……」目そらし

電「電のちょっとした依頼も良くすっぽかしちゃうのです……困るのです」

三日月「破天荒な航行で、危うく他の方にぶつかりそうになったこともありましたね」

照月「秋月姉のおやつのプリンを勝手に食べていたこともあったよね? そっちはまだ許してないかも……」

島風「……ひゅーひゅー」汗ダラダラ

天津風「下手な口笛でごまかさないの!」

電「しかも全然吹けてないのです!」

阿武隈「速度云々よりも、指示に従ってくれないと危険なの! だから出撃や遠征に連れて行けないんだからね!」

電「そうなのです、島風ちゃんも他のみんなも危なくなるのです」

島風「ご、ごめんなさいー!」ダッ!

秋津洲「あ、逃げた!」

阿武隈「こら、待ちなさーい!」

島風「……っ」ピタッ

電「……あれ?」

照月「止まった? なんで?」

島風「……だって指示には従わないと」

三日月「意外と律儀ですね!?」

阿武隈「なんでも言うことをきけってわけじゃないんですけどぉ……」

天津風「頭が痛いわ……」

長10cm砲ちゃん(なにはともあれ)

二式大艇ちゃん(いっけんりゃくちゃく?)

連装砲ちゃん(よきかなよきかな)

連装砲くん(まったくせわのやけるむすめっこたちだぜ)

三日月「いつの間にか意気投合してます!?」

秋津洲「しかも一人増えてるかも!? 誰!?」

天津風「あら、あたしの連装砲くん。いつの間に?」

照月「えーい!」カアンッ!

秋津洲「やったー! 照月ちゃんが缶蹴ったからリセットかも!」

三日月「ああ!? やられました!」

島風「三日月ちゃんおっそーい!」

阿武隈「ふふーん、ちょっとみんな強すぎるから、あたしも三日月ちゃんと一緒にオニやろうかなっと」

島風「ええっ!? 阿武隈さんずるーい!」

天津風「とにかくバラバラに逃げるわよ!」

阿武隈「ほーら、みんな逃げないとあたしが捕まえちゃうんだから!」

三日月「今度は逃がしませんよ!」

秋津洲「ちょ、ちょっとタンマかもー!」

電「電が囮になるのです! 秋津洲ちゃん早く逃げるのです!」

三日月「むっ、では電さん尋常に勝負です!」

秋津洲「くたくた~。もう走れないかも」

島風「いっぱい走ったー。楽しかったね、連装砲ちゃん」

連装砲くん(ひとちがいやで)

天津風「島風、あたしの連装砲くんになにしてるの?」

島風「おうっ!?」

連装砲ちゃん(しまかぜちゃんこっち)

電「よしよし、いい子なのです」

三日月「か、かわいい……!」

照月「連装砲ちゃん、長10cm砲ちゃんとこれからも仲良くしてあげてねっ」

島風「もー! 連装砲ちゃんへのスキンシップは私を通してってばー!」

秋津洲「島風ちゃん連装砲ちゃんのマネージャさんみたいかも」

阿武隈「あたしには妹離れできないお姉ちゃんに見えるかな」

島風「そう言えば三日月ちゃん。あのクレッセントムーンって何だったの?」

三日月「ひゃい!? あ、あれはそのですね……!」

阿武隈「ああ、あれはあたしが指示したの」

電「あそこで三日月ちゃんが奇襲することは、もしかしたら島風ちゃんなら予測したかもしれないけど」

秋津洲「さすがに、技の名前を叫びながら奇襲することは予測できないでしょ?」

天津風「その驚きが島風の隙をわずかでも大きくするだろうって。普通思いついてもやらせないと思うけど」

阿武隈「まあ、技名までは指定してないんだけどね」

島風「え? それってつまり三日月ちゃんが技名を――」

三日月「わー!? そこまで言わなくても良いじゃないですか阿武隈さんのバカバカバカーっ!」

阿武隈「ふえぇぇぇ!? 三日月ちゃんごめんーっ!」

天津風「はあ……阿武隈さんは凄いんだか、凄くないんだか分からないわね」

電「それが阿武隈さんの凄いところなのです」

天津風「は? 電さん、それどういう意味?」

電「内緒なのです」

秋津洲「ええっ? ずるいかもー!」

照月(イルミネイトムーン――うん。アリ、ですね!)

――夜。

阿武隈(ふぁぁ……今日は走ったなあ。まあ、訓練に比べたらなんてことないかもしれないけど)

神通「阿武隈、こんばんは。疲れてる?」

阿武隈「あ、神通。ううん。大したことないから」

神通「今日は大変だったね」

阿武隈「え……もしかして、神通知ってるの?」

神通「島風ちゃんが元気に天津風ちゃん達とはしゃいでいたからね。詳しくはなにがあったかは知らないけど、阿武隈や電ちゃん達がいろいろやってたのは分かったよ」

阿武隈「あはは。でも良かった、ちょっとは元気になってくれたかな」

神通「阿武隈は面倒見いいよね」

阿武隈「ええ、そうかなあ? 神通の方がよっぽどあたしより面倒見は良いと思うよ」

神通「そんなことないよ。阿武隈の方が、周りのみんなのこと、良く分かってるし、考えてる」

神通「私ね。ちょっと阿武隈がうらやましい」

阿武隈「……どうしたの、神通?」

神通「阿武隈はいろんな人達と仲良いし、駆逐の子達も懐いてて」

阿武隈「いやいや、あたしの指示聞いてくれなかったり、わがまま言って来たりして神通みたいに上手に統率できてない気がするんだけど」

神通「私は、慕われてるっていうような感じじゃないし。たしかに、みんなきちんと指示に従ってくれるけど……どこか、距離を感じるの」

神通「阿武隈の周りは、全然それがないよね。昨夜も響ちゃん達、阿武隈のところに真っ先に頼ってきたでしょ?」

阿武隈「それは同じ一水戦だからじゃないかな?」

神通「私はそんな風に頼られたことないし」

阿武隈「それはその人それぞれで、一概にどうこう言えないってば。例えば、霞ちゃんがホラー映画に怯えて、夜ベットに潜り込んで来たら怖いじゃない」

神通「え、えっと……分からないよ? 実は凄い甘えたがりとか?」

阿武隈「ま、まあ絶対ないとは断言できないけど。想像できないかなあ」

神通「ってそうじゃなくて」

阿武隈「あ、話がずれたね。ごめんごめん」

神通「もう。ともかく、私は阿武隈のように周りに上手く溶け込めないって気がするの。お姉ちゃんや那珂ちゃんとも、なんだかんだでいつも楽しそうだし」

阿武隈「あの夜戦バカの相手は疲れるんですけど。真面目にやればすごいって言うのが、本当にあたし達の立つ瀬がないというかなんというか」

阿武隈「ともかく。神通はみんなから尊敬されてるはずだから。別にそんな心配する必要ないって」

阿武隈「提督も、空母や戦艦、重巡の人達も、第二水雷戦隊の人達も、能代ちゃんや矢矧ちゃんも、みんな神通を頼りにしてるんだからね」

神通「……そうかな?」

阿武隈「少なくても、あたしは神通を頼りにしてるよ。神通は違うと思ってるの?」

神通「まったく思わないわけじゃないけど」

阿武隈「うーん。もしかして、普段厳しくし過ぎかなとか思ってない?」

神通「……ちょっと。えっと、私って元来引っ込み思案だし、自信が持てなくて。昔に比べたら良くはなってると思うけど」

阿武隈「自信が持てないのはあたしも同じだし。神通の方が良くやってるんじゃないかな」

神通「これでも必死なんだよ? 旗艦がそんなんじゃみんなに示しが付かないから、少しでも威厳があるようにって」

阿武隈「あ、あたしもあたしも」

神通「……え?」

阿武隈「そこでその反応は酷いんですけどぉ!?」

神通「で、でも阿武隈に威厳って」

阿武隈「帰っていいかな?」

神通「ご、ごめんなさい!」

阿武隈「あたしだって頑張って威厳出そうとしてるんだからね、もう!」

神通「ごめんね……ふふっ」

阿武隈「なーに笑ってるのよ」

神通「ううん。私がこういうバカなことできるの阿武隈くらいだからつい」

阿武隈「……神通、ちょっと川内に感化されてない?」

神通「……」

阿武隈「……なんでそこまで嫌そうな顔をするの」

神通「私も夜戦バカになるかと思うと、つい」

阿武隈「一応あなたのお姉ちゃんだよね?」

神通「あ、そうだ。阿武隈、私と姉妹変わらない?」

阿武隈「つつしんでお断りします」

神通「そっか、残念。まあ、そこでうなずかれても困るけど」

阿武隈「ってさっきから話ずれてるんですけど」

神通「そうね。阿武隈に威厳がないから悪いのよ?」

阿武隈「帰る」

神通「あ、ごめん、ごめんなさい!」

阿武隈「次やったら本当に帰るからね! まったく。で、威厳を出すようにしてるって。それでみんなに厳しく対応したり」

阿武隈「あと、みんなが深海棲艦との闘いで負けて、不幸な目に遭わないように厳しい訓練を課していたら、一部の子から距離を置かれている……ように神通は感じると」

神通「え? ど、どうして?」

阿武隈「さっきのところまで聞けば大体分かるってば」

神通「そ、そうかな? けど、うん。合ってる……かな」

阿武隈「むう……たしかに難しいなあ。神通は間違ってるなんて断じて言えないし。そもそも一応軍なんだから、神通のやり方はむしろ正しいとは思う」

神通「……でも」

阿武隈「けど、絶対に合ってる、とは少なくてもあたしには断言できないんだよね。というか、合ってる、間違ってるって断言できる人がいるかどうかも疑問だし」

神通「えっと……どういうこと?」

阿武隈「だって、あの子たちは軍艦であり、兵器であり……けど、艦娘であり、人であり。なにより、まだ子供でもある」

阿武隈「昔の訓練はそれこそ、屈強な大人の軍人でさえ、死んだ人や厳しすぎる訓練に参ってしまう人もいた」

阿武隈「……そんな訓練を、まだ幼いあの子達に課すのは、それこそ酷かも、とも思うんだ」

神通「……私も、そう思うことはある」

阿武隈「そしてそんな訓練がかつて日本の強さを支えた一因であり、しかしそれでさえ戦争には勝てなかった」

阿武隈「けど、今の状況は違う。無限に思えるほど湧き出る深海棲艦に立ち向かえるのは艦娘だけ」

阿武隈「だから、あたし達艦娘が戦わなくちゃいけないけど。あたし達艦娘は無謀な進撃でもしない限り、沈むこともない」

阿武隈「それこそ、休みの日には思いっきり缶蹴りして遊んだり、間宮さんで甘いもの食べながら他愛もない話に花を咲かす余裕もある」

阿武隈「……まあ、つまりどういうことかと言うとね。神通がそんなに思いつめることないの。神通がなんとかしないとどうにもならない事態じゃないんだから」

神通「……でも」

阿武隈「それに、提督もいるし、鎮守府の他の仲間だって沢山いるんだから。なんなら艦娘以外の鎮守府の人に時には頼ってもいいんだよ。川内だっていざって時には頼りになる……と思うし」

神通「今、一瞬間がなかった?」

阿武隈「気のせい気のせい。なんなら、あたしだっているし。なにかあったら頼ってよね? あまり頼りにならないかもしれないけど」

神通「たしかに頼りにならないよね」

阿武隈「スリーアウトチェンジ」

神通「ああっ!?」

阿武隈「いいかげんあたしも怒るからね! というか神通、あたしとそれ以外の人と対応違い過ぎない!? なんなのもう!?」

神通「気のせいよ」

阿武隈「はあ……もういいわ。えっと、どこまで話したっけ。ああ、神通がそんなに思いつめる必要はないってとこまでか」

阿武隈「神通が意識的にしっかり見せようとしたり、みんなに厳しくしたりって言うのはさっきも言った通り正しいことだと思うよ」

阿武隈「ただ、必ずしも良いことにはならないかもしれない。反発するだけならまだしも、参っちゃう子もいるかもしれないし。それを軟弱とか断じちゃうのは、悲しいし」

阿武隈「その子だけじゃなくて、鎮守府にとっても良くないことだから」

阿武隈「厳しくするのは、あなたのためって思っていても、その子に伝わらなくちゃ言い訳にもならないし」

阿武隈「それに、ずっと無理してると神通も参っちゃうよ?」

神通「……うん」

阿武隈「いや、あたしも全然できてないけど。優しくするのと、甘やかすのは違うし……ようはさじ加減? ってあたしなに偉そうに言ってるんだろ」

神通「ふふっ。ううん、ありがとう」

阿武隈「いや、全然参考にはなってないけど……そうだね、急に変わるなんて無理だし。勇気を出してちょっとずつみんなに近づいてみればいいんじゃないかな」

神通「阿武隈みたいに?」

阿武隈「ふふーん、阿武隈先輩を見習ってみる?」

神通「やっぱやめておくね」

阿武隈「ひどっ!?」

神通「……ありがとう。阿武隈が友達で良かった」ぼそっ

阿武隈「何か言った?」

神通「え? ううん、なんでもないよ?」

阿武隈「そう? あー、長話してたらお腹空いちゃった。なにか食べない? なんだったらおごるよ?」

神通「いいの……? じゃあ、スペシャルデラックスゴージャスパフェ改flagship食べようかな」

阿武隈「なにそれ!? そんなの鎮守府にあるの!? というかあたしのお金だと思って吹っかけてない!?」

神通「良いじゃない、最近出撃や遠征で儲けているんでしょ? これ、一部の超ド級戦艦や大型空母の方用だって」

阿武隈「……太るよ?」

神通「だ、大丈夫よ!? 太ってないから! それに冗談だって。私そんなの食べれないから」

阿武隈「はいはい、もうさっさと行こう? もうお腹ペコペコ」

――数日後。

浜風「はぐっ、もぐっ、むぐっ」

響「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……もぐ」

磯風「浜風、響。そんなにがっついて食べると喉に詰まるぞ」

浜風「むぐ……大丈夫です」

由良「はいはい、そんなに慌てないの。ちゃんとみんなの分あるんだから」

白露「いっちばーん! ってあれ一番じゃない!?」

時雨「姉さん、あんまり走ると危ないよ」

響「……不死鳥の秘密は咀嚼(そしゃく)のタイミングにもあるんだよ」

暁「意味の分からないこと言ってんじゃないわよ! 響、不死鳥言いたいだけでしょ!?」

雷「はい、お茶。熱いから気をつけてよね」

島風「阿武隈さん、初霜ちゃん達連れてきましたーっ! どう、速いでしょ?」

阿武隈「あ。ありがとう島風ちゃん。偉いね」

島風「にひひー」

若葉「自主訓練してたのだが」

初霜「若葉ちゃん、早朝からずっとしてたでしょ? ちょっと休憩しないと駄目よ」

若葉「若葉は大丈夫」

阿武隈「大丈夫じゃありません。倒れたらなんにもならないでしょ」

若葉「むう……倒れるような鍛え方はしていない」

暁「もう、若葉。意地張らないの。ほら、こっちきなさい。一緒におはぎ食べましょ」

若葉「……分かった」

初霜「ほら、初春ちゃんと子日ちゃんも行きましょ」

初春「うむ」

子日「にゃっほいっ! おいしそう!」

阿武隈「榛名さん、由良お姉ちゃん。電ちゃん、ビスマルクさん。手伝ってくれてありがとね」

榛名「これくらい、榛名は大丈夫です」

由良「たまには阿武隈の手伝いしないとね。お姉ちゃんだもの」

電「一緒にお料理できて楽しかったのです」

ビスマルク「ふふん。私にかかればこの程度、当然よ」

プリンツオイゲン「ビスマルク姉さまおいしいです! 姉さまは料理もできるんですね!」

ビスマルク「当たり前じゃない! いいのよ、もっと褒めても?」

浜風「この透き通るようなあんこの甘みとシャキッとした食感、それでいてしつこくなく優しい甘さ。もち米も柔らかすぎず固すぎず、わずかな塩気が甘みをより引き立てています」

浦風「なにいきなり解説しとるんじゃ浜風は」

谷風「にしても気持ちのいい食べっぷりだねぇ!」

浜風「これは、まさに小豆ともち米か織りなすパーフェクトハーモニー! 浜風、堪能しました!」

プリンツオイゲン「さすがですビスマルク姉さま!」

ビスマルク「ふっ……このビスマルクが榛名や大和を超える日は近いわね」

榛名「ビスマルクさん、榛名はまだまだ負けませんよ?」

磯風「なにを訳の分からないことを。もぐっ……これは!?」

浦風「どした、磯風?」

磯風「なんてことだ! はっ!」

バッ! クルクルクル――シュタ!

電「はわわ!?」

響「美しい跳躍からの空中の二回転前回り、そしてほとんど音のない足の揃った着地。完璧だ」

暁「なに落ち着き払って解説してるのよ響! 磯風、食べてる最中に飛び跳ねるんじゃないわよ!」ぷんすか!

初霜「大丈夫です! おはぎは私が守りました!」

若葉「……冷静なのかボケてるのか分かりづらいぞ、初霜」

磯風「相当な料理の腕前をお持ちとお見受けした! 阿武隈さん! いや、師匠! この磯風を弟子にして頂きたい!」

阿武隈「……はい?」

川内「あー、眠い……」

那珂「むむ……那珂ちゃんでさえ、まだ一人もいない弟子を阿武隈ちゃんが作るなんてぇ。ずるい、ずるいよ!」

川内「那珂、なにバカ言ってるのさ……ふわぁ」

神通(さすがね、阿武隈。私も阿武隈のように、みんなに一歩踏み出してみるの)

神通(勇気を出すのよ、神通)

神通「黒潮ちゃん!」

黒潮「はいぃ? 神通はん、どうしたんや?」

神通「私の弟子になって?」

黒潮「……は?」

那珂「は?」

川内「は?」

神通「……え? どうしたのみんな?」

暁(どうしよう……神通さんさえ変になったら)

雷(川内型が全滅しちゃうわ……!)ぶるぶる

響「神通さん。相談ならいつでも乗るよ」

神通「え? え?」

響「信頼の名は伊達じゃない」キリッ

暁「響、あんこがほっぺたについてるわよ」

――トントントン

阿武隈「提督、入ってもいいかな」

提督「ああ、どうぞ」

ガチャ

阿武隈「やっぱり執務室に居たんですね。たまには休んでくださいよ」

提督「もうじき終わるよ。なにかあったかい?」

阿武隈「電ちゃんや他のみんなでおはぎ作ったの。提督もどうかなって」

提督「わざわざ持ってきてくれたのか。ありがとう、頂くよ」

阿武隈「はい、どうぞ。お茶もありますからね」

提督「……うん。うまい。やはりそれに日本茶は落ち着く」

阿武隈「そうですか? えへへ、良かったです」

提督「阿武隈、ありがとう。後で他のみんなにもお礼を言っておくよ」

阿武隈「はい……それはそうとして、提督。あまり無理はしないでくださいね。提督が倒れでもしたら大変なんだから」

提督「はは。心配いらないさ。自己管理くらいできなくて提督は務まらないよ」

提督「それに、阿武隈達が心おきなく出撃や訓練できるようにするのが私達の仕事だ」

提督「……と言いつつ、この前はすまなかったな。大規模作戦とはいえ後処理を手伝ってもらって」

阿武隈「それは構いませんよ……とか言って、文句も言いましたけど」

提督「じゃあお相子ということか。いや、こちらの借りの方が多いかな」

阿武隈「借り……そんなのありましたっけ?」

提督「いやいや、島風と神通のことさ。ここ数日元気みたいでな。安心したよ」

阿武隈「はい? あたしは特になにもしてませんけど?」

提督「謙遜(けんそん)しなくても……ってその阿武隈のことだから本当になにもしてないって思ってるのか。電から聞いたよ」

阿武隈「え、電ちゃん? なんて?」

提督「『阿武隈さんがお二人を元気づけてくれたのです! 安心しました、やっぱり阿武隈さんは凄いのです!』ってね」

阿武隈「えっ、あの!? て、提督! か、からかわないでくださいよー!」

提督「いや、本心だし、電から聞いた言葉も本当だ。私も気を揉んでいたんだけど、阿武隈のおかげだな」

提督「本当ならこういうことは、私がなんとかしないといけないんだけど……まだまだ力不足だと痛感する」

阿武隈「全然そんなことないです。提督は一人なんですからね。あたし達にもっと頼ってくださいよ。提督、参っちゃいますよ」

提督「ははっ、これは一本取られたな。しかし、阿武隈、変わったね」

阿武隈「変わった? あたしがですか?」

提督「ああ。自信がついたようだし、しっかりして頼りがいが出てきた」

阿武隈「それは、提督のおかげですよ」

提督「……私のかい? いや、私は特になにもしてないぞ?」

阿武隈「そんなことないです。もちろん、他のみんな――電ちゃん、お姉ちゃん達や蒼龍さん、それ以外にも鎮守府のみんな」

阿武隈「いろんな人達のおかげですけど、一番は提督のおかげなんですから」

阿武隈「だから、一度お礼を言いたくて。大事に育ててくれたおかげで、あたし少し自信が持てるようになったんです」

阿武隈「提督。本当にありがとう」

提督「……参ったな。そこまで感謝してもらえるなんて」

阿武隈「むう、本心なんですからね」

提督「いや、それは疑ってないよ。私は……幸せな提督だな。阿武隈からそこまで感謝されるなんて」

阿武隈「そうですよ、だからもっと自信持ってくださいね」

提督「ああ。阿武隈の信頼を裏切るわけにはいかないな」

阿武隈「でも、さっき言った通り無理はしないでくださいね。じゃないとあたし怒りますよ。もちろん電ちゃん達にも叱ってもらいますから」

提督「そいつは怖いな、肝に銘じておくよ」

提督「しかし、無理をするなと言うのは阿武隈もだぞ? 最近いろいろと動き回ってるじゃないか。五十鈴達も心配してたんだからな?」

阿武隈「え、お姉ちゃん達が?」

提督「みんなのことを心配するのもいいが、休めるときはちゃんと休むこと。いいかい?」

阿武隈「うう……はーい」

提督「はは、お互い同じようなこと言ってるな」

阿武隈「ふふっ、そうですね」

提督「ありがとう。おはぎおいしかったよ。せっかくの休日だ、あまり長い間引き留めておくのも阿武隈に悪いだろう」

阿武隈「目の前の誰かさんも、お休みのはずなんですけど?」

提督「……いや、その」

阿武隈「……なんですか、てーとく?」

提督「すまない。これだけ終わらせたら止めるよ」

阿武隈「まったく、しょうがないですね」テクテク

提督「……あの、阿武隈?」

阿武隈「え、えっとなんですか?」

提督「退室していいんだぞ?」

阿武隈「別におかまいなく、はい」

提督「て言うか、なぜ隣に座るんだ? わざわざ椅子を持ってきてまで」

阿武隈「まあまあ。提督は気にしないでください」

提督「すごく気になるんだけど。どうしたんだ?」

阿武隈「か、監視です。提督があたしに内緒で、余計に仕事しないかちゃんと見張りますからね」

提督「サボらないかじゃなくて、仕事しないように見張るとはまた斬新だな……」

阿武隈「提督が悪いんですからね」

提督「しかしちょっと近すぎないか? 年頃の女の子があまり無防備に男に近づくのは良くないぞ」

阿武隈「むう! あたしが構わないって言ったら構いません!」

提督「そ、そういうものなのか?」

阿武隈「そ、そうなんです! ね、てーとく……一緒にいてもいいよね?」

提督「……まあ、構わないよ」

阿武隈「はいっ……えへへ」

阿武隈「終わったら一緒においしいものを食べたいな、てーとく」

提督「はは、それは早く終わらせないといけないな」

――数週間後。

雷「じゃーん! 頑張ったわ!」

電「雷お姉ちゃんとの合作なのです!」

蒼龍「うわぁ。この大漁旗、本当に力作ですね!」

榛名「榛名、感激です! これは頑張らないといけませんね!」

阿武隈「雷ちゃん、電ちゃん、ありがとうね」

雷「阿武隈さん、漁師のみんなと漁船を守ってね! はい、これ。大漁旗を掲げられるよう頑張って!」

阿武隈「うん。任せといて……漁をするのはあたし達じゃないけど」

阿武隈「みんな、いいかな? 今回は民間の漁船を護衛しつつ、漁場を深海棲艦から奪回。秋刀魚(さんま)漁を滞りなく行えるようにするのが目的です」

電「了解なのです!」

若葉「了解」

蒼龍「索敵と制空権確保は私達がしっかりするから、よろしくね!」

大鳳「蒼龍さんと頑張ります。みなさん、よろしくお願いします」

榛名「榛名こそ、よろしくお願いします!」

電「護衛は電達が頑張るのです!」

阿武隈「みんな、進行ルート、漁場、護衛対象、艦隊メンバー、装備。すべて頭に入ってるよね」

電「OKなのです!」

蒼龍「私も大丈夫です。みなさん、行きましょう」

阿武隈「了解です、蒼龍さん」

電「若葉ちゃん、よろしくね」

若葉「こちらこそ、よろしく」

大鳳「さあ、やるわよ!」



阿武隈「第一水雷戦隊、阿武隈。旗艦、先頭、出撃します!」

電「第一艦隊! 第一水雷戦隊、出撃です!」

これで終了です。
読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙です
優しい世界ほんと好き

乙なのです
毎回あなたのSSを見るたびに幸せを感じる

>>74さん
乙ありがとうございます。
私も好きです。

>>75さん
乙ありがとうございます。
まさか前作以前を知っていただいている方がいらっしゃるとは驚きました(汗)

蛇足

神通さんの口調は迷いました。
神通さんは基本敬語ですけど、ここでは阿武隈さんと仲が良いことになってるので、そういう相手でも敬語使うかなと。
最初敬語で書いてたけど、自分の中で違和感あったので砕けさせました。
ちょっと砕けさせ過ぎた気もします。凛々しい神通さん好きな人すみません。

HTML依頼出してきます。

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