魔王「可哀相な勇者。余が救ってやろう」 少女「黙りなさい」 (179)

むかしむかし、遠いむかしのお話。

かつて魔物と人は共に栄え生きていました。

しかし悪い魔王は魔物をけしかけて人間を襲わせ、

人々は恐れ戦きながら暮らすこととなりました。

あらゆる土地で戦いがおこり、多くの人々が悲しみ、亡くなりました。

そんな中、一人の青年が魔王討伐に名乗りをあげました。

一本のまばゆい剣を携えた青年でした。

彼は仲間と一緒に各地をまわりながら、魔物を退治し人々を救いました。

そして遂に魔王の城へと乗り込みました。

彼は仲間を失い、深く傷つきながらも光の剣で魔王を倒しました。

人間に再び平和が戻りました。

青年は誰の賞賛も、褒美も受けることなくひっそりと身を隠してしまいました。

人々は今も彼のことを、尊敬の意をこめてこう呼んでいます。


「伝説の勇者」と。

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    ̄ ̄ ̄二二ニ=-
'''''""" ̄ ̄
           -=ニニニニ=-


                          /⌒ヽ   _,,-''"
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はよ(´・ω・`)

ねえオチまで長い?


「そこのお嬢さん」

「…?」

「お前だよ」

「あっ、…こんにちは、旦那様。…ええと、牧師さんになにか御用時?」

「いや」

「…教会に御用時?」

「いいや」

「…では、ええと?」

「お前に用事があるのだ」

「え、わたし、…ですか?」

「そうだ」

「はい、何でしょう」

「…」

「…?」

「お前、父上と母上は?」

「え?…あ、その。私は、ここの孤児院の…」

「そうか。いないのだな」

「…」

「なあ」

「は、はい」

「生きていて楽しいか?」

「え?…」

「あの…?」

「楽しいか、と聞いている。どうなんだ?」

「えー、と」

「…」

「…」

「分からないです」

「分からない?」

「ええ。その、私は…パパもママもいないし、寂しいなって思うこともあります」

「けど、牧師さんや教会の人たちが良くしてくれます。だから、辛くはないです」

「…」

「楽しいか、は分かりません。けれど、辛くはないです」

「そうか」

「はい」

「…ならば、いいか」

「え?」

「用は済んだ」

「はあ」

「いいか、私に会ったことは他言するなよ」

「え、はい」

「では、また会おう少女よ。余はいつでもお前を見ている」

「…あの?」

バサッ

「…」

結論から先にかけよ

「…?」

「少女ー。どうかしたか?」

「あ、牧師さん」

「誰と喋っていたんだ?何か声が聞こえたが」

「ええと。…知らない男の人です」

「うん?参拝客かな?」

「違うようでした」

「そうか…。はて、何の用事だったのだろうか」

「…」

「どんな人だったかね?」

「…よく分からない人でした。私をいつも見ている、と言っていました」

「は?」

「ん?」

「え、それ俗に言うストーカーじゃないのかね」

「すとーかー?何ですかそれは」

「…とりあえず中に入りなさい。いいか、今日から外に出るときは必ず二人以上で出なさい。それと戸締りをしっかりして怪しい人には話しかけない。ああお前はひどく可愛らしいから心配で」

「牧師さん、あのう」

「あ、すまない。とにかくその男は中々に怪しい。もう接触しないように」

「分かりました…」

「ったく、嘆かわしい。最近のナルシズムに満ちた男なんざ…」

「…」

あとから知ったことだが

あの時私に「生きていて楽しいか?」と、どこか楽しげに聞いてきた男は

「…」


魔王、だったのだ。

=玉座の間

王「…えー、こほん」

王「このたびの魔物討伐、誠にご苦労であった、勇者一行よ」

勇者「いえ、私どもは当然のことをしたまでです」

僧侶「そうですね、勇者」

剣士「…恰好つけるなよ」

少女「…」

王「して、どうだった?洞窟に潜んでいた魔物は」

勇者「なかなかに手ごたえがありました!しかし、この光の剣さえあれば一発です」スラッ

ザワザワ

「見ろ、あれが勇者の…」

「なんと美しい…」

王「そ、そうであったか…」

勇者「はい」

王「しかし最近、どうも魔物が活発化しているように思えてな」

勇者「仰るとおりです。確かに魔物はさらに力を増しているようです」

王「…それもこれも、全てあの新しい魔王のせいだな」ダン

少女「…」ピク

勇者「全く持ってそのとおりです。居場所さえ分かれば今すぐ叩ききるものを」

王「先代の魔王が死んでからもうすでに20年はたったが…」

王「間髪いれずに新しい魔王が即位するとはな。嘆かわしいことだ」

勇者「全くです」

王「しかし、期待しておるぞ勇者よ」

王「お前の力は先代の勇者よりも遥かに素晴らしい。その調子で民を平和に導いてくれ」

勇者「はっ!」

王「…こほん。ところで、褒美と次の依頼の話だが…」

少女「…」

……

「見て、勇者さまよ」

「あぁ~…。なんて美しいお顔立ちなのかしら。素敵だわ」

「あら、隣にいる剣士さまだって負けない美男子よ。それにクールだし」

「私は断然、僧侶さまよ!あの優しさにはくらくらするわ」

「「…それに比べて」」

勇者「…おい、少女!どうした、早くついてこい」

少女「…」ペコ

剣士「なにやってるんだ?」

少女「…すみません。足の怪我が芳しくなくて」

勇者「…」ハァ

勇者「だから道中で薬を塗れって言ったのに。しょうがない奴だなあ」

僧侶「まあまあ。少女さんは人一倍薬品に敏感ですから…」

少女「…ごめんなさい」ペコ


「なんであんなグズ女が、勇者一行にいるのかしら」

「ねえ。地味だし、頭も鈍そうだし、それに戦いにだって使えそうもないわ」

「図々しいったらありゃしない。ああやって美男子に囲まれていい気になってるんだわ」

「ああ、勇者様はどうしてあんな娘を旅に連れるのかしら…」

少女「…」

魔王と勇者の決戦から2年後、平和を取り戻したと思われた世界は再び闇に包まれる。

なんと、「新しい魔王」が魔界を統治しはじめたのだ。

かの高名な魔物博士はこう言う。

「新しい魔王は非常に狡猾で、魔物の指揮に長けている。きっと先代よりも膨大な力を発揮するだろう」…

我々人類は絶望した。

2年前の決戦で手足を失い、英雄は力尽き息絶えた。

たった一本、「勇者一族」でしか扱えない光の剣を残して…。

彼には長年連れ添っていた恋人がいたようだが、子どもは確認できなかった。

つまり勇者の血は途絶えてしまったのだ。

では誰が新しい魔王を倒し、世界に再び光を取り戻してくれるのか?

我々はまた魔物の影に怯えながら、長く苦しい10数年を過ごした…。


しかし先代魔王が滅びてから15年後、新しい英雄が名乗りをあげた。

勇者は封印された剣を抜き、我々にこう言い放ったのだ。

「私こそ先代の英雄が残した最後の希望。彼の息子だ!私が再び魔王を倒し、必ずや世界を平和にしよう!」

その彼の名は、

バッ

少女「…あ」

勇者「なにいつまで読書してんだよ」

少女「…返して」

勇者「ふざけんな。お前まだ仕事残ってるだろ、さっさとやれ」

少女「…」

勇者「なんだ?文句あんのか?」

少女「ないです。やります」

少女「…」ゴシゴシ

剣士「少女」

少女「はい」

剣士「俺のシャツも洗っとけよ。アイロンも明日までにかけておけ」

少女「分かった」

剣士「あんまりうるさくすんなよ。俺らはあっちで話してんだから」

少女「はい」ゴシゴシ

剣士「…」

バタン

少女「…」キュ

少女「ふう」

少女「…」

ワハハ!!

「そう、んでさー、あの王宮にいた侍女がめちゃくちゃ可愛くてさー」

「お前は?…ああー、あの貴族の娘もいいよな!いい体してるしさあ」


少女「…」

少女「チッ」

少女「はぁーあ…」ゴシゴシゴシゴシ

勇者「僧侶、あのジジイからは幾らふんだくれたの?」

僧侶「そうですね。…しめて、10万ゴールド」パチパチ

勇者「はあー?少ねえよ!ケチくせえな弱小国家の王ってのは」

僧侶「遠征費用や武器の費用は持ってくれましたし、妥当でしょう」

勇者「けどよー」

剣士「俺も新しくいい剣が手に入ったから、まあ満足だ」

勇者「ちぇ。お前らはホイホイ武器を変えれるからいいよな。俺なんかずっとこれだぜ」ブン

剣士「おい振り回すな!危ないだろ」

勇者「すまんすまん」ギャハハ

ガチャ

少女「…」トコトコ

勇者「…」

剣士「…」

僧侶「…」

少女「あ、頼まれてたお酒とおつまみ…」

勇者「ノックしろよブス!!」バァン

少女「ごめんなさい」ペコ

少女「けど、ノックしました。4回くらい」

勇者「きこえねーんだよ!馬鹿か」

僧侶「まあまあ。少女、ありがとう。そこに置いててください」

少女「…」カチャ

剣士「俺のシャツは?」

少女「アイロンかけて吊るしてあります」

剣士「あっそ」

少女「…じゃあ、おやすみなさい」

勇者「おい、少女」

少女「はい」

勇者「今よお、王から貰った金をどう分けるかって話してたんだけどさ」

少女「はい」

勇者「…俺と剣士と僧侶で3万、残りの1万は」

少女「はい」

勇者「残りは食料とか日用品とか酒とかに使うからな。お前のぶんはないぞ」

少女「はい」

勇者「ってなわけで、さっさと行け」

少女「はい」

バタン

少女「…」フワーァ

少女「…ねむ」ゴシ

「そんなにあの子に辛く当たらないでください」

「だってよお、戦闘でも守らなきゃいけない足手まといだし、宿代はかかるし…」

「確かにな。愛想もないし」

「そうだよ!せめて可愛く媚びてくりゃあ、少しはいる価値あんだろうけどさー」

「やめなさい。可哀相ですよ」

「そんなことよりさっさと酒飲もうぜ!明日はまた移動だしな!」ギャハハ

少女「…」

少女「…」ハァ

少女(寝るか)ギィ

バタン

少女「…」コツ



「グッドアフタヌーン」

少女「!!!?」ビクッ

黒猫「…」チリン

少女「…」

黒猫「こんばんは少女」

少女「うわっ!!」ビクッ

黒猫「ふんふん。またこんな辛気臭い部屋に泊まっているのだね。野郎どもは最上級の部屋なのに」

少女「…」

黒猫「全くお前のパーティは上っ面だけが良くて中身は腐っているのだな?」

少女「…」

黒猫「あー、。どうした?余だぞ?」チリン

少女「ベッドから退いて。毛がつくわ」

黒猫「それは失敬した。これでいいかな?」

黒猫「そして願わくば、ドアの前に突っ立っていないで余の傍においで。折角会えたのだから」

少女「…」

黒猫「うん?どうした、怖いのかな?」

少女「いいえ」



少女「…魔王。怖くは無いわ。ただびっくりしただけ」

黒猫「…」チリン

少女「どうしていつもいつも勝手に部屋に入るの?」

黒猫「お前はひどく無用心だからなあ。簡単に入れるのだよ」

少女「鍵はちゃんとかけてるわ。嘘つかないで」

黒猫「いいや?余はちゃんと開いた窓から入ってきたぞ?招き入れてくれたんだろう?」

少女「そんな訳ないでしょ。いい加減にして」

黒猫「そう怒るな。どうだ、余の横に座って楽にしなさい」

少女「私の部屋で偉そうにしないでよ」ボフ

黒猫「そう言いつつ座るのだなあ。天邪鬼な女だ」

少女「ここしか座る場所がないのよ!」

黒猫「ふふふ」チリン

少女「…で」

少女「今日は黒い猫なのね。暗くて本当に気づかなかった」

黒猫「街でお前が猫を撫でているのを見たのだ。どうだ?撫でたいか?」ゴロン

黒猫「撫でてもよいぞ?特別だ」ニャンニャン

少女「…」

黒猫「なんと冷たい」

少女「また私の後つけてたのね」

黒猫「何回も言ったはずだ。余はいつでもお前を見ているのだ」

少女「ストレートにキモいからやめて」

黒猫「断る。お前は余がしっかり見張っていないと心配だらけだからな」

少女「ストーカー。いつまで付きまとうのよ」

黒猫「余が飽きるまでだ。つまり永遠にだろうなあ」

少女「…」ハァ

黒猫「疲れておるな?」

少女「あなたに会って倍くらいに疲れたわ」

黒猫「逆だろう?」

少女「もういい。…」

黒猫「少女、久しぶりに会ったのだ。少しは優しくしてはくれないか」

少女「嫌よ帰って」

黒猫「そう言うな。どうだった、今回の討伐遠征は?楽しかったか?」

少女「遠足じゃないのよ!楽しいわけないでしょ」

黒猫「そうだろうなあ。お前は勇者どもに、あれやこれや使い走りさせられていただけだったからな」

少女「…いいのよ。それくらいしかできないし」

黒猫「謙遜はよくない。お前は立派な戦士だ。戦いにも参加できるだろう」

少女「武器も防具も与えられてないもん」

黒猫「経費削減、ここに極まれりだな」

少女「うっさいわね…」

黒猫「洞窟の魔物は手ごわかったか?」

少女「別に」

黒猫「だろうな。特別弱いのを配置しておいた」

少女「配置すんな」

黒猫「勇者の奴、まるで大将のクビを取ったみたいにはしゃいでいたがなあ」クスクス

黒猫「井の中の蛙というやつだな。あんなもの、魔界には履いて捨てるほどいる雑魚なのに」

少女「…勇者は頑張ってたよ。馬鹿にしないで」

黒猫「ほーう」チリ

少女「…」

黒猫「まあいい。ところで次回はどこに行くのだ?」

少女「塔に魔物が。女性を攫ってるの」

黒猫「それはたいへんだ」

少女「あんたの差し金でしょ!ふざけんなよ」

黒猫「いやあ全く身に覚えがない。しかし頑張ってくれたまえよ、次は中々に骨がある魔物だぞ」

少女「…最低」

黒猫「お前が余に甘えてすがったら、弱いものに変えてもいいが」

少女「間に合ってるわ。どうせ倒せるし」

黒猫「そうか。…ふん、可愛くないやつだ」

黒猫「そうそう、塔の中は少し寒いから着込んで行けよ。そんなボロじゃなくて、コートでも出しておけ」

少女「…そんなものない」フイ

黒猫「こんな年若く見目麗しい少女に、お洒落もさせてやらないのか。あの男衆は」

少女「必要ない。もうさっさと帰ってよ」

黒猫「お前のそのストイックさは寧ろ大好きなのだが、最近どうもお前が不憫に思えて」

少女「はあ?」

黒猫「なんであんなムサ苦しい連中と旅をする?」

少女「…」

黒猫「分け前も無い、仲間として扱ってすらもらえないのに」

少女「そんなことない」

黒猫「ああ、哀れな少女よ。お前はただ酒を運び洗濯をする下女としか思われていないのだよ」

少女「いい加減にして」

黒猫「不満だろうな、少女。どうだ、そろそろ余のもとに来る気にはなっ…」

ボフン

黒猫「にゃんと危ない。この体では枕がぶつかっただけでも痛いのだぞ」

少女「もう一発いこうか」

黒猫「落ち着け少女。余はいつもどおりお前に聞いているだけだ」

黒猫「余と一緒に来い。そして新しい世界を共に築こうではないか」

ボフン

黒猫「やめろと言っているのに」

少女「何回も言われてきたけど、答えはいいえよ。絶対変わらない」ブン

黒猫「そうかな?」サッ

少女「変わらないわ。だからもう、そんなこと聞かないでよ」

黒猫「では、今日のところは諦めよう」

少女「いつもそうやって…。白々しいのよ」

黒猫「余としても早くお前に首を縦に振って欲しいのだがなあ」

ボフン

黒猫「命中。見事だ」バタ

少女「よいしょ」ガタ

黒猫「おお、ようやく抱きしめてくれたと思ったらおい待て尻尾はやめろ」ジタバタ

少女「窓から落とすけど、ちゃんと受身とりなさいよね」

バタン

黒猫「少女よ。女性がそんな猟奇的なことをやってはいかん。おい離せ」ジタバタ

少女「さようなら、魔王。もう来ないでね」

黒猫「しょ」

パッ

黒猫「うじょおおおおおおおおおおおおおおおお」

少女「よし」パンパン

バタン

少女「鍵よし、魔よけよし」カチャ

少女「…ふう」ドサ

少女「…明日も早いし、寝るか」ボソ

「ぎゃははははははっ!!」

少女「…」

少女「耳栓…」モゾ

少女「…ったく、早く寝ろよ…。私が起こすハメになるんだから」

面白い

まとめさんへ
  
    ワイは緑で!

「…」スヤスヤ

黒猫「うじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「…ん」

黒猫「あああああああああああああ」ヒュー

「うわぁあああああああ魔王様ぁあああああああああ!?」バッ

ドサッ

黒猫「がふっ…」

「だ、大丈夫でございますか!怪我は!?」

黒猫「大丈夫だ、肺は猫にも二つある」ヒューヒュー

「駄目じゃないですか!!」

黒猫「まあ冗談だ。受け止めご苦労、側近よ」スクッ

側近「はあ。驚かせないでください」

黒猫「いやあ、あのウブな小娘ときたら。どうも余の求愛に対応しきれないようでな」

側近「つまりまた駄目だったと?」

黒猫「またとは何だ?口が過ぎるぞ不細工」

側近「私の顔は今関係ありません。ははあ、また追い出されたのですね」

黒猫「少女は照れ性なのだ」

側近「照れて男性を窓から放り投げる女性ですか…。うーん、魅力てがふっ」ズザァ

黒猫「さて少女に挨拶もしたし帰るか」

側近「は、はひ」ピクピク

側近「どうぞ、お車に」

黒猫「いらん。飛んで帰ろう」

側近「折角レンタルしたのにですか」

黒猫「ニンゲンの車はどうも遅くて欠伸がでる。余は早く帰って書き物をしたいのだ」

側近「ストーカー日記ですね(ボソッ) 承知しました」

黒猫「今何か言ったか?」

側近「承知しました、と」

黒猫「その前だ」

側近「いいえなにもいっておりませんよ」

黒猫「ほう」ドガッ

側近「あぐっ!な、なんで」ヒューヒュー

黒猫「疑わしきは罰するのが余のポリシーだ。さて帰ろうか。お前もその阿呆くさい変身を解け」

側近「はあ、只今」シュン

黒猫「…」クルン

ストッ

魔王「ふむ。やはり猫はいまいちだったな。もう少し潰しの効く体が良い」バサ

側近「そうですねえ」

魔王「やはりこの光り輝く美男子の魔王が一番だ。そう思うだろう?」

側近「…」

魔王「…」ドガッ

側近「なんで!」ヒューヒュー

魔王「愛想笑いが勘に触る。次は殺す」

バサッ バサッ

…トン

「お帰りなさいませ、魔王さま!」

「お疲れさまでございます!」

魔王「うむ。皆の者、留守の番ご苦労。休んでよいぞ」

「「はっ!!」」

側近「どうぞお部屋へ」

魔王「ああ」

バタン

魔王「……」バッ

魔王「……」カリカリカリカリカリカリカリカリ

側近「何かお飲み物でもお持ちしましょうか?」

魔王「いらん話しかけるな。少女と交わした言葉の記憶が飛ぶだろうが」カリカリカリカリカリカリ

側近「左様で。では私めも下がらしていただきます」

魔王「よい。ご苦労だった死ね」カリカリカリカリカリカリカリ

側近「最後の二文字が余計です。おやすみなさいませ、魔王様」

魔王「ああ」カリカリカリカリカリカリカリ

バタン

側近「…はぁ」

側近「全く、いつまであの娘に入れあげているのか…」

=翌日

少女「…」モゾ

少女「ふ、あ」

少女「…」ゴシゴシ

少女(ん。まだ日は昇ってないな)スク


ゴシゴシ

少女(残ってた洗濯物洗って)

パンパン

少女(干して)

カチャカチャ

少女(昨日の呑み残し掃除して)

キュキュ

少女(勇者たちの武器を手入れして、と)

カタ

少女(…よし、ちゃんと時間内にできた)

少女「…」ガチャ

チュンチュン

少女「…良い天気ー」ノビ

少女「…よし」ギュ

つまんないからもう書かなくていいよ
設定もありがちだし

勇者「ん、ぐおー…ごうおー…」

カン、カン

勇者「んぐ。…ぐうーー」ゴロン

カン、カンッ

「はっ! やっ!」

勇者「…」ムニュムニュ

「はぁっ! たっ!!」

カンッ カンッ

勇者「…ん」

勇者「……ぐおーーー…」ゴロン


少女「はぁ、はぁ」

少女「…よし、もう、こんくらいに…しとくか」ドサ

少女「早く勇者たち起こさなきゃ…」ヨロ


コンコン

勇者「うっせーな!!起きてるよ馬鹿!!」

コンコン

剣士「…はいはい。起きればいいんだろ」

コンコン

僧侶「おはようございます。毎日毎日、ありがとうございます」

見てるよ

勇者「いーかお前ら。ようく聞け」ダン

剣士「ああ」

僧侶「はい」

少女「…」

勇者「知っての通り、城下町からそう遠くない村で娘達が誘拐された」

勇者「塔に住み着く魔物が攫ったんだ。今回はそいつの討伐」

剣士「よっ」

勇者「まあ俺の剣がありゃ余裕だろうが、塔の魔物は手ごわいと聞く。気をつけてくれ」

僧侶「承知してますよ」

勇者「ほんで今日はー。ええと、とりあえず村まで行く」

剣士「それだけか?」

勇者「ああ。あそこ温泉あるらしーぜ。楽しみだな」

少女「…」スッ

勇者「ああ?」

少女「あの、村へは半日もかからず行けるよね?」

勇者「だから何だよ」

少女「だったら、泊まらないでそのまま塔へ行ったらいいんじゃないかな、って」

剣士「何で」

少女「…だって、女の人たちがまだ中に」

僧侶「…」

勇者「ああ?んなもん大丈夫だって!どうせ食われるわけじゃねーよ、ヤられるだけだろ?」

勇者「命に別状はねえんだしそんな急ぐことないって。なあ?」

剣士「まあ、な。一泊して英気を養うほうがいいだろ」

少女「…」ギュ

勇者「はい終わり。ったく、話の腰折るなよグズ」

最低な勇者だなwwww

「いってらっしゃい、勇者さまー!」

「頑張ってくるんだよー!」

「必ず倒してねー!」

勇者「ありがとう皆!必ずや村を救ってみせる!」

「すてきー!」

「抱いてー!!」

勇者「ははは、さあ行こう」


=村への森

勇者「ぎゃははは、皆よく毎回毎回送り出してくれるよな」

剣士「期待されてんだろ」ドン

勇者「あったりまえだろ!俺は勇者だぜ」

少女「…」

勇者「おい、でこの道で合ってるんだろうな」

少女「うん。大丈夫だよ」

勇者「荷物ちゃんと持てよ!俺の鞄も引きずるんじゃねーぞ」

剣士「俺のもな。頼むぜおじょうちゃん」

少女「はい」

僧侶「…」

ヒョイ

少女「ん、」

僧侶「持ちますよ」

少女「え、大丈夫だよ」

僧侶「いえ。彼らの荷物はごちゃごちゃして重いので。僕も持ちますよ」ニコ

少女「ありがとう…」

勇者「見てみろ毒キノコだ。ほれっ」

剣士「おい!やめろよ」

勇者「ひゃははははっ」ゲラゲラ

僧侶「あの二人、ずっとあんな調子ですね」ボソ

少女「仲が良いんだよ」

僧侶「…はは、そうですね」

少女「もうそろそろ村に着くって言ってあげてください」

僧侶「二人ともー、もうそろそろ村ですよ」

勇者「おう!やっぱ速かったな。…って、何だお前ら。くっついて歩いて」

少女「…」

僧侶「やだなあ、歩調が一緒だっただけですよ」

剣士「ふうん、そうか?」

僧侶「ええ。早く村へ行きましょう」

勇者「おお、そうだな!」

少女「…あ」

僧侶「全く、彼らは俗っぽい話ばかりするんだから」クス

少女「あはは、…そうだね」クス

勇者「おいお前ら、早く来いよー!」

僧侶「行きましょう」

少女「うんっ」

=塔近くの村

村長「おおようこそおいでなさった。勇者様たち」

勇者「村長、今回の事件にまずお悔やみを申し上げる」

勇者「しかし私が来たからにはもう安心です。必ずや魔物を倒し、娘達を奪い返しましょう」

パチパチ…

勇者「しかしそれには準備と作戦会議が必要だ。どうかこの一日だけ猶予をくれまいか」

村長「それはもう、勿論!村一番の宿を用意しています。どうか英気を養ってください」

勇者「ああ。感謝する」


バタン

勇者「やっぱ田舎宿はシケてんなー。街のが恋しいぜ」

剣士「部屋も狭いな」

僧侶「まあ、野宿よりはましですよ」

勇者「そうだな!温泉もあるしなっ」

剣士「早く行こうぜ」

勇者「おうよ!」

勇者「あ、少女!お前荷解きと部屋の掃除と買出し行っておけよ!俺ら忙しいんだから」

少女「はい」

勇者「ひゃっほーっ!ほら僧侶早く行こうぜっ」

僧侶「…すみません。お願いしますね」

少女「…」コクン

バタン

少女「…温泉か」

少女「いいなあ」ボソ

「いらっしゃいいらっしゃい!」

少女「薬草と包帯ください」

「うん?あんた見ない顔だね、旅人かい?」

少女「あ、えと。…そうです」


「いらっしゃいいらっしゃい!」

少女「すみません、携帯食料ください」

「ん?あんた…どっかで見たような」

少女「…」


行商人「いらっしゃいいらっしゃい、そこのお嬢さん!珍しいものあるよー」

少女「…もういらないの。ごめんね」

行商人「そんなこと言わないで。これなんかどうだい?異国のお守りだよー」

少女「…あ」

行商人「かわいいでしょー?見て行ってよー」

少女「…」ストン

行商人「それはねー、近々幸せが舞い込んでくるお守りだよー」

少女「幸せ、…」

行商人「それに、恋ねー。厳密に言うと、想い人が現れて幸せになるねー」

少女「ふーん」

行商人「ところでお嬢さん、どっかで見た気がするねー。ええと、」

少女「…」

行商人「まあいいや。それ買うねー?」

少女「いらないわ」

行商人「なんでー?お嬢さん幸せほしくないか?」

少女「ええ、間に合ってるわ」

行商人「じゃあ今幸せなのかなー?」

少女「…。…そうね」

行商人「…」

少女「楽しかった!ありがとう」

行商人「待つね、お嬢さん。一回試着だけでもしていきなねー」

少女「だから、いらな…」

グイ

行商人「これペンダント型のお守りねー。この石綺麗でしょー?アクセサリーにもなるねー」

少女「だ、だから」

行商人「ああ、近くで見ると…。今思い出したねー」

少女「え」

行商人「お前は余の友人、薄幸の少女ではないか」ニヤ

少女「!!!!」バッ

行商人「おっと、暴れるな。人が怪しがるぞ」

少女「離してよ!」

行商人「生憎それはできん。こんな好機めったにないのでな。…お前の腕は柔らかいな」

少女「誰かたすけ」

行商人「嘘嘘、冗談だ。とりあえず離してやろう、ほら」

少女「…っ」バッ

行商人「そう警戒するな少女。余はお前が心配でこうして現れたのだぞ」

行商人「しかし村人はひどいな。いくら陰が薄いからといって、お前を勇者一行の紅一点と認識できないなんて」

少女「…うるさい」

行商人「ところでお前、どうしてこんなところで油を売っている?塔はどうした」

少女「明日に行くって、勇者が」

行商人「ほおーう。それはまた随分悠長な」

少女「だって、…。体を休めてからのほうがいいでしょう」

行商人「随分不満そうじゃないか、少女よ」

行商人「お前のことだから、早く魔物の手から女を救いたいと想っているのだろ?」

少女「…まあ、ね」

行商人「男という生き物は女の痛みに鈍いものだ。お前だけだな、被害者の気持ちを理解できるのは」

少女「…」

行商人「まあここで休むのならしかたない。ところで温泉には入ったか?」

少女「ううん」

行商人「そうか、ならば言おう。入るんじゃないぞ。ここの風呂は愚かなことに露天で混浴だ」ズイ

行商人「お前、まさか余の目に触れる前に他人に裸を見せたりはしないだろうな?ん?」

少女「あんたに見せるつもりもないわよ」

行商人「とにかく駄目だ。分かったな」

少女「…どうせ時間ないし」

行商人「ああ、お前は多忙なのだったなあ。失敬した」

少女「…」

行商人「そうだ、そのペンダントはお前にやろう。贈り物だ」

少女「いらない」

行商人「そう言うな。ご褒美だよ、少女。余はちゃんと知っているぞ」

行商人「…前の洞窟での決戦で、何もしていないように見せかけて、結界を張って勇者たちを守っておったな。うむ、MVPだ」

少女「な、」

期待

行商人「あの結界のおかげで魔物もかなり弱体化していたな。優秀優秀」

少女「信じられない、どこから見て…」

行商人「まあ細かいことは気にするな。ほら、受け取るのだ」

少女「い、いらない」

行商人「なんと強情な。余はお前の頑張りを正当に評価しているのだぞ」

少女「なんかヤバいものでしょ。いらない」

行商人「いいからこういう時は黙って受け取るのだ!頑固な娘だな」ポイ

少女「あ、ちょ」

行商人「おっと、そろそろ政務の時間だ。行かねば」

少女「…魔王!」

行商人「うん?」

少女「あ、…えーと」

行商人「何だ。まさか余と一緒に行く気でも」

少女「違う。あの、ありがとう」

行商人「ん?」

少女「お守り、ありがとう。貰ったら一応お礼言わないと」

行商人「…」

少女「ええと、それじゃあ私ももう行く。さようなら」ペコ

行商人「あ、ああ」

行商人「…」

側近「終わりましたか」

行商人「ああ」

側近「そのニヤニヤどうにかなりませんか?」

行商人「ならん。ああ、久々に愛いものを見た」ニマニマ

側近「魔王様、…。いえもういいです」


ワイワイ

村長「えー、とにかく勇者一行には英気を養ってもらうべく…」

村長「…まあ堅苦しい話はなしにして。うちの村自慢の食材と酒を楽しんでください。では、乾杯」

「「かんぱーい!!」」

「ねえねえ勇者様、これ私が作ったの。食べてよー」

勇者「はっはっは、食べるから落ち着きなさい」

「剣士さま、どんどん飲んでくださいねっ」

剣士「ああ」

「僧侶さま!精進料理ですっ!」

僧侶「あ、ありがとう…」

ガヤガヤ

少女「…」

少女(せめて宴会場の中には入れてくれよ…)ポツン

少女「…」

グウウ

少女「はぁ」

…いいか、少女。今日は村で歓迎のパーティがあるけど

俺らは勇者一行代表として参加しなければならない。

けど、お前は別だ。まだ仕事が残ってるだろう?

宴会場には近づくなよ。部屋で残りの仕事をしろ。


少女「…ご飯くらい食べさせてよね」ブツブツ

少女「くそ、どうやったらこんなに部屋を汚せるのよ」

ドンドン!!

少女「!」ビク

「俺だ!開けろ少女っ」

少女「ゆ、勇者?…どうしたの」ガチャ

勇者「何だお前、まだ掃除していたのか」

少女「…」コクン

勇者「ちょっと来い」グイ

少女「あ、え?」

ガヤガヤ

少女(…あれ。宴会場に入れてくれるのかな)

勇者「…おい、何ぼうっとしてる!俺の話を聞いてるか!?」

少女「あ、えと。ごめん」

勇者「村の浮かれポンチどもが勇者の剣を見せろだとよ!サービスで抜いてやるから、力を貸せ」

少女「え?…でも」

勇者「なんだ、俺に逆らうのか!?」

少女「…勇者」

勇者「早くしろ時間がないんだよ!」

少女「光の剣は、魔物を倒すときにしか抜かないって約束だよ」

勇者「しょうがねえだろ見せろって言われたんだし!!」

少女「そういって、玉座の間でも抜こうとしてたでしょ」

勇者「…っ」イライラ

少女「あれは本当に危ないものなんだよ。誰を傷つけるか分からな」

勇者「ああ、もう!!!」ダン

少女「!」ビクッ

勇者「いいから黙って抜け!俺がミスするわけねえだろうが!!」

少女「…」

勇者「言うことが聞けないんなら、この村に置き去りにしてもいいんだぞ!!」

少女「…」ハァ

少女「絶対、気をつけてね。見せたら早く鞘にしまって」

勇者「うっせーな早くやれっ!」

少女「…」スゥ

少女(ごめんね、光の剣)

シャッ

勇者「うお、眩し…。ったく、いつもどおりさっさとやりゃあいいんだよ!退け」ドン

少女「うわ、」ドサ

勇者「お待たせしたな!どうだ、コレが光の剣だー!」

オオオー!

少女「…」ムク

勇者「ああ、あまり寄るなよ!勇者しか扱えないものなんだから」ギィ

バタン

少女「…」パンパン

少女「ふう」ゴシ

少女「……あ、擦りむいてる」


魔王を倒した勇者は、ボロボロの姿で帰ってきました。

左手はなくなり、右足も膝から下はなくなっていました。

その上勇者は魔王の今際の呪いをうけ、瀕死でした。

そんな彼が残したものは、実は光の剣以外にもうひとつあるのです。

当時勇者を支えていた恋人のお腹には、実は


少女「…ってー。沁みる…」ペロ


一人の女の子が宿っていたのです。

=翌日

勇者「では、行ってくる!皆も留守の間、魔物に十分気をつけてな!」

「よろしく頼むぞー!」

「無事に帰ってきてねー!」


勇者「…あー、頭ガンガンする」

剣士「あいつら、馬鹿みたいに酒勧めてきたもんな」

僧侶「明日は決戦ですし、控えていたほうが良かったかもしれませんね」

勇者「はあ?どこの魔物だろうが俺の剣で灰になるわ!」

剣士「大きい声だすな。頭に響く」

少女「…」スタスタ

勇者「ったく、一番の役立たずが元気ときたもんだ」

剣士「全くだな」ニヤニヤ

少女「…」

剣士「…お前、昨日温泉には入ったのか?」

少女「え?ううん」

剣士「どうりで垢じみてると思った。なあ、勇者!」

勇者「本当だ!お前、女としてそれはどうなんだよ!」ゲラゲラ

少女「…(一応川で水浴びはしたんだけどなあ)」ポリ

僧侶「二人とも、やめてください。そちらも十分酒臭いですよ」

勇者「おー。僧侶も飲めばよかったのによお」

僧侶「私は神に仕えるものですので、嗜好品は駄目なのです」

勇者「いいじゃんいいじゃん。勇者一行ってだけで何でも許されるんだからよお」

少女「…」

なるほど……だから少女が光の剣を抜けるのか

=塔

勇者「さて、ついたぜ!ったく、陰気臭いとこだな」

僧侶「気をつけてください。中から魔物の気配がしますよ」

勇者「大丈夫だって、俺に任せてお前らは後ろからついてこい!」ドン

勇者「…お?あれ、開かねえ」ギシギシ

剣士「何かレリーフに書いてあるぞ」

勇者「ああ?…なんだこの文字。見たことねえ」

僧侶「この地域の古代文字ですね。見せてください」

僧侶「ええと…。“扉を開きたくば、邪悪の加護を示せ”ですって」

僧侶「どうやら魔物が塔に後付で細工をしたようですね」

勇者「げー!めんどくっさ!鍵とかならぶっ壊して入るのによお」

剣士「入り口はここしかないようだしな」

勇者「俺の剣で壊せないかなぁ」

少女「…」ジッ

勇者「…チッ。おい、少女。剣を鞘から抜け。こっそりだぞ」

少女「…」スラ

僧侶「うーん、悪の加護…ですか。何でしょう」

勇者「俺がこんな扉ブチ破ってやるよ!ほらどけどけ」ズイ

勇者「おらあ!」ブン

ガキン

勇者「うお!!?」ドサ

剣士「だっせえ」

勇者「ああ!?…クソ、何だよ!跳ね返されたぞっ」

僧侶「恐らく結界でしょう。剣は無事ですか?」

勇者「俺を心配しろよ!ってーな、ケツ打ったし…」

勇者「どうしろってんだよ!ああイライラしてきたっ」ドン

少女(…邪悪の、加護?)

ご褒美だ少女。これをやろう。

少女「…」

チャリ

少女(あ、…石が光ってる)

勇者「おらああああ!セコいことしてねえで開けろや!」ガンガン

少女「…」ソッ

ピキン!

勇者「あ、うおっ!!?」グルン

ドサ

僧侶「あ、開きましたね」

剣士「マジか」

勇者「って、…。あ、俺の力が扉に勝ったってことだな!!」ハハハ

少女「…」

=塔・1F

剣士「寒いな」コツ

勇者「本当だな。防寒着があって助かったぜ」

少女「…」フルッ

少女(さっむ…。ああもう、魔王の言うこと聞いておけばよかった)

勇者「おら松明ともせ!バンバン行くぜ!!」

少女「…」ハァ

僧侶「少女、これを」ファサ

少女「!え、でも」

僧侶「私はもとが厚着なので大丈夫ですよ。あなたの服では冷えるでしょう」

少女「…いいの?」

僧侶「ええ。女性は一番冷えやすいでしょうし」

少女「ありがとう、僧侶」

僧侶「いえいえ」

勇者「おらお前ら、置いてくぞーー!!」

剣士「大きい声出すなって。反響するだろ」

=魔王城

魔王「…」クス

側近「おや、どうやら入ったようですね」

魔王「うむ。さすが少女は優秀だ。察しが良い」

側近「しかし魔王様、自ら勇者一行に手を貸すなど…」

魔王「良い。どうせあの塔にいる魔物も、余の言い付けを破った者だ。死んでも構わん」

側近「シビアな…。ところで、今日は水晶で眺めているだけなのですね?」

魔王「少女の元に行くとどうしても直接的なちょっかいを出したくなるのでな」クイ

「あっるっこー!あっるっこー!」

「勇者、お前まだ酔ってるだろう」

魔王「…ふん。木偶どもが」

側近「魔王様、いかがしますか?」

魔王「ふむ、少しからかってやろうかな。面白そうだし」

側近「ほう」

魔王「多少痛い目にあう方があいつらにとっても経験になるだろうしな」スッ

魔王「耐えてみせろよ、“勇者”よ」ニヤ

=塔・2F

少女「…」ピタ

少女(空気が、変わった?)

勇者「おおおおおおおおおおおお!!」

勇者「お前ら見てみろ!宝箱だぜ」

僧侶「本当だ。魔物は中身を荒らしてないのでしょうか」

勇者「どうでもいいよ!何が入ってるかな、開けてみようぜ」

少女「勇者、やめといたほうがいいよ」

勇者「あ?」ジロ

少女「なんか嫌なかんじがするの、それ…。放っておいた方が」

勇者「…お前そう言って、宝を横取りするつもりか?」

少女「え」

勇者「ったく卑しい女だな。俺にそんな小細工が通用するはずねえだろ」カチャ

少女「あ、やめ」

勇者「おら!」ガチャ

ブワッ!

勇者「うお!?な、なん…」

剣士「勇者っ!」

僧侶「なんです、これっ…」

少女「皆伏せて!魔法だよ!」

勇者「ぎゃあああああああ!」シュン

剣士「あ、」シュン

僧侶「くっ…!」シュン

少女(ああくそ、最悪)シュン

ゆうしゃたちは あくまのたからばこに すいこまれた!

=塔・?F

ドチャッ

勇者「…ってぇええ!」

勇者「…って、どこだよここ!おい、剣士!僧侶ー!」



勇者「くそ、松明もねえし…。暗っ…。誰かいねえのかよ!!」

少女「勇者」

勇者「うおおおおおおおおおおおおおおお!?」ブンッ

少女「きゃっ。…わ、私だよ。落ち着いて」

勇者「ふざっけんな!ビビらせんじゃねえよ馬鹿!!」

少女「ごめん。あの、怪我無い?」

勇者「あるわけねえだろ!触るな」パン

少女「…ごめん。これ、替えの松明だよ」

勇者「チッ…。おい、他の奴らはどこだよ」

少女「分からない。多分、転移魔法で別の階に飛ばされた」

勇者「はあ?じゃあどうすんだよ」

少女「どこかで合流できればいいけど、…。連絡手段もないし」

勇者「ったく、何でよりによって一番使えないお前と一緒に…」

試演

勇者「あの宝箱かよ」

少女「…」コクン

勇者「分かってたならもう少し早く言えよ!わざとか!」

少女「ち、違うよ」

勇者「チッ。まあ、いい。とりあえずあいつらと合流しなきゃな」パン

勇者「言っておくが足手まといならさっさと置いて行くからな」スタスタ

少女「分かった」コツ

コツ コツ

勇者「…」

少女「…」

勇者(…あーあ、陰気臭い。なんでこんな奴と)

少女「勇者」

勇者「あん?」

少女「勇者、強くなったよね」

勇者「んだよいきなり」

少女「孤児院にいたときより、ずっと逞しくなった気がする」

勇者「…。馬鹿にしてんのか?あ?」

少女「違うよ。ただ、素直にそう思っただけ」

勇者「…」

少女「魔王に近づいているの、分かる?」

勇者「…あー?そんなん知らねえよ。俺は預言者じゃねえんだし」

勇者「けど、俺らももう旅を始めて3年ちょっとだしな。まあ、そろそろなんじゃねえの」

少女「…倒せるかな、魔王」

勇者「はあ?当たり前だろ?」

勇者「魔王なんか俺の剣の前では雑魚同然だっつーの。先代勇者みたいにドジはしねえ」

少女「…」

勇者「んだよ、その顔はよ」

少女「お父さんは、ドジしたわけじゃない」

勇者「うっせーな…。お前、よく顔も知らない親父のこと庇えるな?」

少女「お父さんは一生懸命戦ったよ」

勇者「あー、はいはいそうですね。お前のとうちゃんすげー。ちょう尊敬するわ」

少女「…」

勇者「けどな、嫌われものだったお前の親父より俺のほうがよっぽど人気あるぜ?」

少女「嫌われ者なんかじゃ」

勇者「だってそうだろうが!勇者が傷ついて帰ってきてもだーれも助けてくれなかったじゃねえか」

少女「…」

勇者「お前の親父は寡黙で人に媚びることもなかったからなー。人気も薄かったみたいだし」

少女「そんなこと」

勇者「あーあー、ごちゃごちゃうるせえな!」

勇者「…何だ、お前。最近調子のってるな?」

少女「え」

勇者「いいか、俺らは旅に出るとき約束したよな?覚えてるよな?」

少女「…」

勇者「お前は勇者じゃない。おれが勇者だ」

少女「分かってるよ」

勇者「お前の仕事は剣を抜くだけ。俺が全ての戦闘を請け負う」

少女「うん」

勇者「もしかして、…。今更自分が勇者ですって言いだして、美味しい所持って行きたいわけじゃないだろうな?」

少女「そんなことないよ。勇者は、あなたにしか務まらない」

勇者「ふん、分かってるならいいんだよ」

勇者「所詮女のお前に剣が振るえるわけないしな。俺は寧ろ良い事をしてやってるんだぜ?」

少女「そうだね」

勇者「分かってるだろうが、絶対口外するなよ。お前の言うことなんか誰も聞かないだろうけど」

少女「…」

“勇者”は、人々に重大な嘘をついていました。

そう、彼は勇者一族ではありません。


本物の勇者は、隣にいる俯き加減の華奢な女の子だったのです。

……


本物の勇者のおはなしをしましょう。

その少女は、先代勇者が息絶えた後に産まれました。

たった一人の勇者の後継者でした。

勇者の恋人だった母親は、光の剣と少女を守り生きていました。

しかし、彼女が大きく育つ前に母親は何者かに殺害されてしまいます。

母親は幼い娘を知り合いに託し、剣を封印してこの世を去りました。


牧師「今日からここで暮らすんだよ、少女」

少女「はい、牧師さん」


勇者の末裔は、誰にも気づかれることなく小さな教会の孤児院に入りました。

たった一人、勇者の仲間であった牧師だけが彼女の正体を知っていました。

勇者「ったく、階段どこだよ」

少女「地図でもあればいいんだけどね」

コツ

少女「…」ピタ

勇者「んだよ、急に止まるなよ」

少女「勇者、…」

勇者「あ?」

コツン

少女「…後ろだよ!!」

勇者「あ?う、うおっ!」

グワッ

魔物「…グルルル…」

少女「剣を!」

勇者「は、はやくしろっ。抜け!!」

シャッ

勇者「どけ、邪魔だ!」ドン

魔物「ぐうるああああああっ」

勇者「このっ!」ズバッ

魔物「!が、…」ドサ

勇者「はあ、はあ…。くそ、ビビらせやがって…」


少女は自分が勇者であることに感づいていました。

しかし牧師の固い制止により、何もできずにいました。

彼女が14歳のときに牧師は亡くなりました。

少女は、決心しました。

剣を抜こう、と。

当時、孤児院には彼女のほかにもう一人孤児がいました。

端正な顔立ちをして、愛想のいい、剣術に長けた青年でした。

彼はある日、牧師の気の緩んだ末の告白で少女が勇者であることに気づきます。

青年「…あんなやつが?」

青年は少女のことを日ごろから疎ましく思っていました。

可憐で人目を引くのに、どうも引っ込み思案で優しすぎる彼女に虫唾が走っていたのです。

牧師が死んで、彼は思いました。

青年「こんな細い娘に、勇者が務まるわけがない!」

しかし、牧師の通夜のあとに少女が剣に触れると

少女「あ、…」

キラ

確かに剣は、主の手で抜くことができたのです。

青年「…」

青年はプライドの高い男でした。

彼は自分が孤児院出であることに我慢ができなかったし、高い地位に上り詰めたいと考えていました。

青年「おい、少女」

少女「な、なに…?」



だから考えたのです。

=塔・5F

勇者「はぁ、はぁ…」

少女「…やっと、あと一階で最上階だね」

勇者「くそ、全然合流できねーじゃねえか!!」

少女「どこに行ったんだろう…」

勇者「それもこれも全部てめえのせいだ!死ね!!」

少女「…ごめん」

勇者「くそ、くそ…。せめて僧侶がいねえと回復もできねえし」

少女「勇者、階段だよ」

勇者「う、…」

勇者(…お、おいおい結構すげえ力じゃねえの?一人じゃ…)

少女「どうするの」

勇者「あ、あいつらがいねえと駄目だろ。色々と」

剣士「勇者ー!!」

勇者「えっ」

僧侶「やっと会えましたね」

勇者「お、お前らまさか最上階の階段でずっと待ってたのかよ」

僧侶「ええ。いずれ上がってくると思ったので」

勇者「あー良かったぜ!このままこいつと魔物に挑むところだった」

少女「…」

=塔・最上階

悪魔「ぐへへへよく来たな勇者どもよ」

娘「助けてーー!!」

勇者「私が来たからにはもう安心ですよ娘さん!今すぐ助け出してさしあげましょう!」

悪魔「はん、そう上手くいくかなあ?」ブワッ

僧侶「来ますよ!」

少女「…」バッ

少女(…魔力がかなり強い。結界で抑えなきゃ…)フワ

勇者「おらあああああああ!」ブン

剣士「はあっ!」キン

悪魔「ぎゃはははは、何だその程度か!」

ドガッ

勇者「うおっ!」ズザッ

剣士「大丈夫か、…うわっ!?」ドサ

悪魔「ふん、光の剣とやらもたいしたことがないな。それとも使っている者が悪いのかぁ?」

勇者「ぐ、…くそっ」

少女「…」

悪魔「うん?…なんだ、力が抜ける」

勇者「殺す!」ブン

悪魔「あべし」

しえん

悪魔「なんだなんだ、急に力が入らなくなったぞ!お前ら何して」

勇者「うるせえ知るか死ねぁああああああ!」ザシュザシュ

悪魔「ぐ、がっ!」

剣士「隙だらけだぞ」バシュ

悪魔「がああああああああ!!」

僧侶「勇者、強化魔法です!」ブワ

勇者「サンキュ僧侶!おら、とどめだ!!」

悪魔(…あの魔法使いではない!?なら、…まさか)

少女「…」

悪魔(なんだ、あの娘!ずっと脇に突っ立ったままだから誰かと思ったが)

悪魔(あんな力、どこに隠し持っていた!?くそ、あの結界か!)バサッ

僧侶「!勇者、奴が逃げます!」

勇者「どこ行くんだこら!とっとと死ね!」

悪魔(あの娘を倒さねば、死…)

少女「!」

悪魔「うおおおおおおおおおおお!」ブン


ピカッ

悪魔「…」

少女「…」

悪魔「え、…な、なんで、…?」グラ

悪魔「まおう、…さま?」ドサ

悪魔「…」ドロドロ

勇者「おえ、溶けてる!きめええ」

僧侶「一体…。今の魔法は、どこから」

勇者「魔法?ちげえだろ。俺のつけた傷が限界に達したんだろ」

僧侶「しかし、一瞬魔方陣が見えたような…」

剣士「どうでもいいんじゃないか?倒したし」

勇者「ああ、何か爽快感ねえけどな」

少女「…」ペタン

勇者「少女!てめえが邪魔な場所に立ってるからこんなことになんだぞ!!」

少女「ご、ごめ、…ん」

僧侶「怪我はないですか?大丈夫?」スッ

少女「うん。なんとも、ないよ…」

勇者「さーて、ボスは倒したしさっさと娘村に連れて帰ろうぜー」

剣士「ああ」

僧侶「立てますか」

少女「ごめんね…」ヨロ

僧侶「…見えましたか、今の」

少女「え?何が」

僧侶「いえ。…私の気のせい、かもしれません。何でもないです」

少女「…」

魔王「…ふう」

側近「ふうじゃない!!!」

魔王「側近、ワインを持ってこい。喉が渇いた」

側近「ちょっと待ってくださいよ魔王様!今の行動を説明してください!」

魔王「赤がいい」

側近「おい誰か赤ワイン持ってこい!…で、今の何ですか!」

魔王「何って、あの無礼者に鉄槌を下したのだ」

側近「悪魔溶けてますよ!死んでますよ!」

魔王「側近、奴は余の言いつけを忘れて少女に襲い掛かったのだぞ」

側近「だ、だからって…」

魔王「だから?」

魔王「ほーう、お前は目の前で嫁が悪魔の手にかかろうとしていても、助けないのか?」

側近「わ、私の妻が…?」

魔王「あの魚類みたいな顔した細君だよ。匂いも魚臭い」

側近「人の妻に魚みたいとか言わないでください!!」

魔王「どうなのだ、助けないのか」

側近「そ、そりゃあ助けますよ。けど…」

魔王「それと一緒だ。自分の女を助けて一体何が悪いのか」

側近「…少女は魔王様の女ではありませんよ?」

魔王「…」ドゴッ

側近「いだい!!!」

シューベルトだと思った

少女「…」

少女(あれ完全に魔王だよね)

ワイワイ

「勇者様、ありがとうございます!」

「勇者様ーーー!」

少女(助けたのかな。…まあ、助かったけど)

バサッ

少女「!」

鴉「…」ジッ

少女「…」

鴉「カー」

少女「魔王?」

鴉「よく分かったな。とりあえずこっちに来い、二人きりで話がしたい」

少女「でも」

鴉「なあに、お前ごとき抜けたところで誰も気づかんよ。こっちだ」バサ

少女「はぁ…」

鴉「まずは塔の魔物討伐おめでとう。大儀であった」

少女「魔王が祝うのはどうかと思うわ」

鴉「うん?まあいいではないか。ところであのお守りはまだあるか?」

少女「あ、…これ?」チャリ

鴉「返してもらってもいいかな。実は入用でな」

少女「うん」

鴉「役に立ったようだな」

少女「…」

鴉「どうした少女?そんなに余を熱い視線で見つめて」

少女「悪魔を殺したのはあなた?」

鴉「ああ、つまらないことを聞くな少女よ。折角雰囲気があったというのに」バサ

少女「そんなものない。どうなの?」

鴉「…悪魔にはお前に手を出すなとキツく言っていたのだがなあ」

少女「…」

鴉「しかしあいつはお前に牙を剥いた。当然の報いと言えよう」

少女「どうして味方にそんなことするの」

鴉「みかた?ははは、まず根本的に間違っている。奴は味方ではなく、余の手ごまだ」

鴉「そして余の言いつけを無視する駒などゴミでしかない。よって奴はもう余の一派ではなくなったのだよ」

少女「…」

鴉「ああ、余が魔法を放ったとも。加減するつもりなどなかったよ。息の根を止めようと思った」

少女「どうして?」

鴉「分かりきったことを聞くな。お前に害を及ぼそうとしたからだ」

少女「私を助けたわけ?」

鴉「そうだな」

少女「あなたと私は敵なのに?」

鴉「そうだな、対極にいるもの同士だ。お前は善で余は悪。しかしだから何だ?」

鴉「お前は愛というものを一寸も理解してないのだな。…可哀相に」

少女「いい加減にその白々しい嘘をやめて」

鴉「うん?」

少女「私を惑わそうとしているんでしょ?生憎だけど油断なんかしないわよ」

鴉「話が見えんな」

少女「私に気があるように見せかけて、取り入るつもりなんでしょ?」

鴉「なるほど。ハニートラップというわけだな、うむ。賢い娘だ。着眼点が違う」

少女「現にあなたは私達に罠をしかけてきたわ。…殺そうとしたわね?」

鴉「宝箱に吸い込まれたくらいで死ぬかね?」

少女「でも危険にさらした」

鴉「ふふ」

鴉「余も魔王という立場上、少しは勇者どもに抵抗しなければいけないのでな」

少女「そうやってじわじわ力を削ごうとしてるの?」

鴉「思考の泥沼にはまっているようだな、少女よ。いいぞ、考えろ」バサ

鴉「余はもうお前を見守って10年近くになるな。長いような短いような年月だったよ」

鴉「色々なことがあったなあ、少女。余はたまにはお前に力を貸し、たまには少し意地悪をしたな」

少女「…」

鴉「余がお前を翻弄しているように感じるか?」

少女「ええ」

鴉「…」バサバサ

少女「でも分からないわ。こうやって会いにくるたび、私を殺すチャンスはあるのに」

鴉「そうだな。お前を殺すなどわけもないな」

少女「…どうしてそうしないの?」

鴉「…」

鴉「逆に聞くが、お前はどうして余を殺そうとしないのだ」

少女「私にその力がないから」

鴉「ほう。じゃあ、勇者どもに密告でもしたらどうだ。ここに魔王がいます、とな」

鴉「お前は自分が魔王と接触していることをひた隠しにしているな?どうしてだ」

少女「…」

鴉「何かを企んでいるのはそっちではないかな?」

鴉「少女よ、余を信じられないならそれでもいいさ」

鴉「しかし余はお前を信じているぞ。誰よりも真剣にお前を見ているからな」

少女「…」

鴉「いつかお前も気づくだろう。それまで余は気長に待つさ」

少女「無駄よ。私はあなたの思い通りにはならない」

鴉「ほう、そうか」

鴉「それはそれで楽しみだな。お前が悩みもがく姿はなかなかに魅力的だから」

少女「な…」

鴉「そろそろ行かないといけないな」バサ

鴉「側近がうるさいのだ。もう少し話していたいが、致し方ない」

少女「逃げないで!本当のことを言ってよ」

鴉「余は何度も言っているだろうが。お前を恋い慕っているからこんなことをするのだ」

少女「信じないわ、そんなこと。絶対に」

鴉「結構。それはそれで燃えるのだ」

少女「魔王!待ちなさい!」

鴉「御機嫌よう少女。また近いうちに合いに来よう」シュン

少女「…」

少女「…はぁ」

少女(絶対何か企んでるんだ。絶対…)

=玉座の間

王「大儀であった、勇者よ!!」

勇者「ありがたき幸せ」

王「これで私の国も安定に一歩近づいた。嬉しいかぎりだ」

勇者「私は当然のことをしたまでです」

王「いやあ、…お前は本当に優秀な男だ。なあ、姫よ」

姫「…」ポッ

王「勇者、褒美は好きにとらせよう。そして…」

王「近々宮廷で舞踏会があるのだ。本来貴族しか参加できないものだが…」

王「特別に、勇者一行を招待しよう。準備費用も私が全て持つ」

勇者「舞踏会!…なんと光栄な」

王「お前にも休息が必要であるしな。楽しみにしておけ」

勇者「はっ!」

姫(…ああ…。勇者様と舞踏会…)ポー



勇者「よっしゃああああああああああああ貴婦人口説きまくりパーティー!!!」

剣士「漲ってきた」

僧侶「舞踏会ですか…。はは、私の性には合いませんけど、折角招待していただいたんだし…」

勇者「町娘から貴婦人がたにランクアップだ!ラッキィイイイ」

少女「…舞踏会」

勇者「いええええええええええええええええええい」ズンドコズンドコ

いつSS書いてるの?
書きためして徐々に放出してる感じかな?

勇者「おい、衣装どう仕立ててもらうよ?どうせ金はジジイもちだから豪華にいこうぜ」

剣士「いいねえ」

少女「…」

少女(舞踏会、…か)ギュ

勇者「…お」

少女「…」

勇者「おいおい、お前まさか…行きたいのか?」

少女「え、?」

僧侶「勇者一行ですので少女さんも行く権利はありますよ」

勇者「勘弁してくれよ!無理無理無理無理」

少女「…!」

勇者「こんなみすぼらしい女連れていけねえよ!どう着飾ったって駄目だろ」

剣士「まあ、体も貧相だしな」

勇者「俺に恥かかせないでくれよー?お前がいると女性の目もキツいし、邪魔なんだよ」

少女「…」

僧侶「しかし」

勇者「お前ダンスなんかできんの?孤児院出身のくせに?お上品なしぐさと言葉遣いは?なあ?」グイ

少女「い、…たい」

勇者「とにかく駄目なもんは駄目だ。お前は宿屋で仕事。はい終了」ドン

少女「…」ヨロ

勇者「お前ら気合入れていこうぜー!貴婦人だぞ貴婦人」

勇者「夜の終わりには二人きりのワンダーランドできるかもしれないんだぞ!」

剣士「スチャダラパーか」

>>74
お前は早く書くべきものを書きなさい

=舞踏会当日

勇者「んじゃ、しっかり俺の防具手入れしとけよ」

剣士「俺の剣も磨いといてくれ」

僧侶「…」

少女「行ってらっしゃい」

勇者「おうお前らさっさと馬車のれ!ふううー!」

剣士「テンション高いなおい」

僧侶「…少女さん」コソ

少女「はい」

僧侶「すみません、こんなことになってしまって…。申し訳ないです」

少女「いいよ別に。社交界なんてニガテだから」ニコ

僧侶「…」

僧侶「お土産、必ず持ってきます。舞踏会では参加者に記念品も配られるようですし」

少女「気を使わないでいいよ。楽しんできてね」

勇者「おい僧侶、早く早くー」

僧侶「…」ペコ

ガラガラ…

少女「…」

少女「…」

少女「いいなぁあああぁ…」フラリ

少女(舞踏会かあ、舞踏会…。ああ、行きたい)

少女(綺麗なんだろうなぁ。踊らなくていいから、せめて雰囲気だけでも味わいたいのに)

少女「…」チラ

少女「…こんな地味じゃ、無理か」クス

少女(馬鹿らしい。…仕事仕事)


=夕方

少女「やっ、はっ!!」カン

キンッ!

少女「…はぁ、はぁ」

少女「…っ。よし。太刀筋も安定してきた…」

少女「…」ゴシゴシ

少女(今頃、勇者たち踊ってるのかな?…踊りは夜からだっけ?あーあ)

少女「…いや、別に気にならないし」ボソ

少女(久々に一人で休めるんだもん。気兼ねしなくていいや)

少女「…お風呂入ろうかな」

バタン

ザパッ

少女「ふんふーん…」

少女「はぁ。…」チラ

少女(そろそろ踊り、始まってるかなあ)フキフキ

コンコン

少女「うわ」ビク

「すみません、勇者一行の少女さま、いらっしゃいますか?」

少女「あ、い、います。今脱衣所で…」

「伝言が届いておりますので、ドアの下においておきます。ご確認ください」

少女「はーい」

少女「…」

少女(伝言?)ワシャワシャ

ピラ

少女「…あれ?」

少女(舞踏会の、招待状…?勇者に取り上げられたはずなのに)

少女「…それに、手紙」ピラ

「親愛なる少女へ

 かの国の物語にガラスの靴を履いて王子と踊り、見事玉の輿に乗った美女がいたそうだよ。

 この国に王子はいないし、ガラスなどという履きにくい素材で作った靴を贈るつもりもないがな。

 お前がその気なら、宝探しでもしようか。

 クローゼットを開けてみなさい。気に入ってくれるといいんだが。 

 お前の友人、魔王より」


少女「いつにもまして意味不明ね」ボソ

少女(ていうか、舞踏会行かないことも知ってるのね。ストーカーめ。からかってるだろ)イラ

少女「…クローゼット?」

少女「…」

少女(ヤバいものでも入ってるんじゃ)

少女「…っ」バッ

ギィ

少女「…え」

淫魔「…」チョコン

少女「…」

バタン

淫魔「ちょっとちょっとう!なんで閉めるのよう!」

少女「私は何も見て無い。見てないんだ」スタスタ

淫魔「あなたが少女ね!はじめまして、私は魔王軍直属の魔物、淫魔!」

少女「出てくるな出てくるな」ギギギギ

淫魔「なんでよう!!開けなさいよこのオタンコナス」ギギギギ

少女「クローゼット開けたらオカマいたとか洒落にならない怖い殺される」

淫魔「待って殺さないわよ!魔王様の命令であなたを舞踏会に」

少女「結構ですから」ギギギ

淫魔「あだっ!待って待って尻尾がまじでいてえよやめろやガキ」

少女「…」パッ

淫魔「はぁ、はぁ」ドチャ

淫魔「とんだ跳ね返りね…。こんなののどこがいいのかしら、魔王様ったら」

少女「私にもよく分かんないけど」

淫魔「まあいいわ。早速準備をしましょ」パン

少女「…マジで?」

淫魔「マジで」

淫魔「魔王様があなたのピンチを見て、助け舟を出したのよ。ありがたく思いなさい」

少女「別にピンチじゃないし…」

淫魔「はい、着替えて髪型も整えましょうねー。ドレスも魔王様が選んだのよ」

少女「いらない本当結構ですからちょっと」

淫魔「黙れ!!!」

……


=王宮

勇者「それで、年中冬の国に行った時の話ですが…」

姫「そうなんですの…」ウットリ

「剣士さまー!」

「こっちお向きになってー!」

剣士「はっはっは」

僧侶「はいそうなんです。魔王は非常に警戒心が深く、全く自ら姿を現すことがないのです。我々に間接的でも関わってきたことがなく」

学者「ほ、ほう…」

王「ふむ。楽しんでいるようだな」

大臣「そのようで」

少女「無理無理無理、マジで無理だからやっぱ」

淫魔「もういい加減にしなさいよ!終わっちゃうわよ!?」

少女「いいですいいから」

淫魔「私は招待状持って無いから入れないんだってば!一人で行け!」

少女「もうなんか豪華だしキラキラだし怖いんだもん」

淫魔「はよ渡せって」

少女「ぜ、絶対ここにいてよ!すぐ戻ってくるから一緒に帰ろう」

淫魔「行け」ゲシ

少女「横暴…」ヨロ

「お嬢さん、招待状を」

少女「…はい」

「どうぞ中へ」

少女「…」ドキドキ

カツ

少女「…わあ…」

少女(ま、まぶし…)

「ほら見て、勇者様よ」

「まあ、なんて精悍な…」

「国の英雄たちと一緒に踊れるなんて…」

少女(化粧やばいなこの人たち…すげーオトナだ…)キョロキョロ

少女(あ、あれ有名な学者だ。それにあっちには国の政務大臣たちも…うわー…)クラ

少女「…」

勇者「そろそろダンスの時間ですね」

姫「ええ…」ウットリ

少女(あ、…。ゆ、勇者だ。話してるのまさか、姫?)

「ご来場の紳士淑女、只今10時を回りました。舞踏の時間とさせていただきます」

少女「!」パァ

少女(ぶ、舞踏だ!)ワクワク

「では男性のほうから女性にお声かけを」

少女「…あ」

少女(そっか、相手いなきゃ踊れないのか)

少女(いや別に…。踊りたいわけじゃないけど、見てるだけで十分だし…)

少女「…」イソイソ

勇者「姫、どうか私と踊ってくれませんか」

姫「勿論ですわ」

剣士「どうぞお手を」

「まあ。剣士様と踊れるなんて」

学者「あなたはいいのですか?」

僧侶「いえ、私は結構です。見てるほうが好きなので」

ドン

少女「うわ」

学者「あ!すみませんお嬢さん」

少女「だ、大丈夫です」

僧侶「…」

僧侶(あれ?…あの令嬢、どこかで見たような…?)

少女(ひー。隅っこに行かせてくれ…)ヨロヨロ

「おい、見ろよあの子」

「…なんだ、見たこと無い型のドレスを着ているぞ」

「美しいな」

「ああ、どこの令嬢だ?」

「分からん。…」

少女(立ってるだけで疲れる…)ヨロ

「お嬢さん」 「お嬢さん」 「お嬢さん」 「お嬢さん」

少女「は、はいっ!?」ビク

「踊りのお相手は?」

「いらっしゃらないなら俺と」

「僕が先に話しかけたぞ!」

少女「……」ポカーン

「どうか私と!」

「いえいえ、私のほうが上手くエスコートできますよ!!」

少女「あ、あ、…」

少女(な、なんだこれ。なんだこの人たち…)

グイ

少女「!」

「おいで」

少女「え、ちょ」

「いいかげんにしろ!俺が先だと言ってるだろ!」 「いいや私だ!」 「ひっこめハゲ!」 「髪の話はするんじゃねえ!!」

少女「……」

仮面の男「…お前、カオナシみたいになってたぞ」

少女「かお、なし?」

仮面「いやこっちの話だ。どうだ、楽しんでいるか?」

少女「…ええ、お陰さまで。あなたの尽力があったからね、魔王」フン

仮面「おやまさか怒っているのか?良かれと思ってやったのに」

少女「…私には過ぎたことだわ」

仮面「そのドレスも特注なのだぞ?世界一高名な職人を攫ってきて作らせたのだ」

少女「とりあえず家に帰してあげて。…でも、私には似合わないもん。こんな豪華な服」

仮面「ああ、自分をそう卑下するな。断言してもいいが、お前はこのホールで一番美しいぞ」

少女「そ、そんなわけないでしょ!?」

仮面「うん?お前は鈍いな、自分に注がれている視線を分かっていないのか?」

少女「あのねえ」

仮面「まあ良い。自覚しないからこそ溢れる美というのもあるだろう」

少女「で、何でここにいるの」

仮面「私の側近の細君が、ひどく来たがってな。二人を送るついでに覗いてみたのだよ」

仮面「そしたら、なんと。麗しい余が君…少女がいるではないか。これは運命ではなかろうか」

少女「しらっじらしいわね。あの淫魔もあなたが寄越したくせに」

仮面「うむ。奴は魔物の中で一番美的感覚鋭いからな。綺麗にしてもらってるではないか」

少女「…化粧なんてはじめてした」

仮面「余はお前の素顔のほうが好ましい」

少女「黙りなさい」

仮面「今日は一段と厳しいのだな。いらいらしているか?小魚のカナッペでも取ってきてやろうか」

少女「何。からかいに来たの?私が一人でいるのを」

仮面「そんなわけなかろう。戸惑うお前は面白かったが、煽るつもりはない」

少女「なら消えて。私ももう帰る」

仮面「何を言う。これからが本番であるのに」

「音楽、用意」

仮面「おお、音楽がかかったぞ。人間のことはヘドが出るほど嫌いだが、音楽は別だ。美しい」

少女「本当だ」

仮面「紳士淑女が踊り始めたぞ。お前も踊りたいのだろう?」

少女「いい。踊り方知らないし」

仮面「ぶふっ」

少女「!?」

仮面「お、おい見てみろ!あの深海魚みたいな顔した夫人を!あれが側近の妻だぞ」プルプル

少女「え、どこどこ」

仮面「あの緑色のキテレツなドレスを着た夫人だ!…腹が痛いぞ」プルプル

少女「見えない見えない」ピョンピョン

仮面「ひどいものだなあ…。まるで半魚人ではないか。変身も満足にできないとは」

少女「魔王、どれなの?」

仮面「あー…」プルプル

少女「どれー?」

仮面「飽きた。というか慣れたわ。何の話をしていたかな」

少女「緑のドレス、緑のドレス」

仮面「ああ、お前が踊るか踊らないかの話だった。おい、いい加減細君を探すのをやめろ!俗っぽいことをするな」

少女「あなたが先にやり始めたんでしょ!?」

少女「…あ、勇者だ」

勇者「…」クル

姫「…」ウットリ

仮面「うむ、横にいるのはこの国の姫君か。奴の順風な人生が垣間見えるな」

少女「…」

仮面「少女、良いことを考えたぞ」

少女「え?」

仮面「少しあいつらに泡をふかせてやろう。おいで」グイ

少女「え、え?」

仮面「いいか体の力を抜け。余の導くとおりに体を動かせばいいのだからな」

少女「まさか、魔王」

仮面「さあ行こう。一番目立ってやるのだ」グイ

少女「え、嘘。ちょ」

ザワ

「まあ、あの仮面のかたは?」

「…隣にいるご令嬢は誰だ。異国風のドレスを着ている…」

少女「ま、ま、まお…」

仮面「しー」

少女「な、なにしてんのよこんな、真ん中に…」

仮面「大きい声を出すな。見苦しいぞ。黙って手を取れ」

少女「や、…」

仮面「いいか、まず左足をだす」スイ

少女「!」スイ

仮面「うむ、上々だ。余にしっかりついてくるのだぞ」

コツン 

少女「…」

仮面「回すぞ」クル

少女「…!」フワ

仮面「良い調子だ。上手だぞ少女」

学者「…あの二人は何だ?」

僧侶「あの舞踏…。かなり身分の高い貴族がたしなむものです。未だに踊れる者がいるとは」

王「…大臣、あの二人は?」

大臣「さ、さあ」

姫「…」

勇者(な、なんだこいつら!いきなりセンターとりやがって!俺が目立たないだろうが)

少女「めっちゃ見られてる」

仮面「集中しろ、ほら」

少女「う、うわ」クル

少女「…あの、恥ずかしいんだけど」

仮面「そうか?顔は緩んでいるようだが」

少女「…」

少女「ちょっと楽しい」クス

仮面「そうだろう」クス

ジャン!

少女「…」ハァ

「…素晴らしい!」

パチパチパチ…

少女「あ、あ」ドギマギ

仮面「裾をもって一礼するのだ。皆お前を褒めている」

少女「…」ペコ

パチパチパチ…

少女「…」

仮面「楽しかったか?」

少女「うんっ」

仮面「そうか。ほら勇者の顔を見てみろ」

勇者「…」ギリ

仮面「後世に残したいくらい良い顔をしているではないか」

少女「あはは」

仮面「おいで少女。人が群がってくる前におさらばしよう」

少女「うんっ」コツ

=バルコニー

少女「あぁあ…」クタ

仮面「気持ちよかったみたいだな」

少女「かなり。こんなの初めてだった」

仮面「お前は派手とは無縁の女だったからな。ま、たまにはこういうのもいいだろう」

少女「うん…。疲れたけど楽しかった」

仮面「…」

少女「魔王、ありがとう」

仮面「ああ、そうやってお前はいつも余を惑わすのだな。つんでれというやつか」

少女「何言ってるかわかんないけど、とにかくありがとう」

仮面「…もう一つ、お前にサプライズがあるのだ」

少女「え」

仮面「…」クル

側近「…」コクン

淫魔「…」コクン

少女「魔王、何処見てるの」

仮面「うん?さあ、何処だろうなぁ…」ニヤ

少女「…」

仮面「なあ、勇者というものは無能なものだな」

少女「え」

仮面「ああ、偽の勇者もお前もだよ。はは、人は浮かれると警戒心がなくなるらしい」

少女「魔王?」

仮面「気づいていたか?この会場に混じっていた異物たちに」

少女「魔王」

仮面「楽しい夜だったな、少女」

少女「そこを動くな」

仮面「ああ、少女。そんな丸腰で余にどう刃向かおうというのだ?」スル

少女「動くな!!!」

仮面「余からのもう一つの贈り物を受け取るがいい、少女よ」

少女「…っ」バッ

仮面「ガーターに折りたたみの短剣を隠しておいた。お前ならそれで十分身を守れるだろう。では、また」フワ

魔王「…皆のもの、かかれ!!!」


「きゃああああああああああああああああ!!!」

少女「!」バッ

魔王「行け少女よ。余にお前の勇敢さを示してみろ」

少女「くそっ!」ダッ

勇者「な、なんだこいつらは!」

僧侶「勇者!魔物たちが招待客に化けていたのです!」

剣士「なんだと…」

勇者「お前ら、武器は!」

僧侶「門前で衛兵に預けました!…勇者っ!」

「ぐるあぁああああああ!」

勇者「うわ!?」バッ

キン!

少女「…っ」ギリ

剣士「な、…」

少女「はあっ!」ブン

ザシュッ

僧侶「…し、…少女?」

少女「皆急いで武器を取ってきて!僧侶はここで魔法を使って食い止めて!!」

勇者「な、なんでお前がここに」

少女「武器は一階の客間にまとめて置いてある!早くして、もう犠牲者がでてる!!」

剣士「い、行くぞ勇者!」

少女「…っ!」ブン

「ぎゃあああああ!」

僧侶「…驚きました。戦えたのですね」

少女「説明はあとでする。僧侶、王はどこに」

僧侶「今衛兵と避難をしています。招待客もおおかた避難していますが、…」

少女「姫は?勇者と一緒にいたんじゃないの!?」

僧侶「!」

僧侶「いいえ、姿が見えません!」

iPadとか五十音がキーボードに全部書かれている機類とかで
五十音の場所を丸暗記した人なら、>>1みたいなことできるよ

なんか上から目線になってごめん

「逃げろぉおおおおおお!!」

「だれか、助けて!!!」



魔王「ははは」

側近「いやあ、こんな荒っぽい作戦が上手くいくなんて」

淫魔「本当よお。勇者一行が気づかないなんて、とんだオマヌケね」

魔王「…」

側近「魔王様?」

魔王「静かにしろ。…はは、やるではないか」

淫魔「まーた水晶で少女ちゃんのこと見てる」

「最後に見かけたのはどこ!?」

「鏡の間の近くです!…少女!」

「…っ、くそっ!」

ザシュ


魔王「奴め、余が与えたドレスを走りやすいように破っておる」

側近「あーああんなに綺麗だったのに」

魔王「いい。あいつにはあの姿が似合っている。勇ましいことだ」

淫魔「下っ端たちは上手くやっているのかしら?」

側近「そうですよ、魔王様。少女を盗撮してないで早く様子を見に行かなくては」

魔王「ああ、分かってる。…ところでお前の細君はどこだ?池か?」

側近「あとで本気で怒っていいですか」

魔王「駄目に決まっているだろう。殺すぞ」

側近「くそう、くそう…」ワナワナ

少女「はあ、はあ」

「助けてー!」

少女「皆さん!!大階段から逃げてください!外に出て!!」

僧侶「人が多すぎる。姫は?!」

少女「…っ」

少女(待て。…魔物は手当たり次第に人を襲ってるわけじゃない。どこかに向かって…)

少女「!」バッ

僧侶「少女?」

少女「姫の控え室はどこ!?」

僧侶「2階の奥です!しかし、なぜ…」

少女「僧侶、ここにいて避難の誘導をしていて!勇者たちが来たら、急いで姫の控え室に来るよう伝えてね!」ダッ

僧侶「は、はい!」

少女「…っ」ダッ


=衣装部屋

姫「……」ガタガタ

メイド「ひ、姫様大丈夫ですよ。きっとすぐ援軍が来ますわ」

姫「う、うん…」ガタガタ

メイド「どうか静かに息をつめて…」

トントン

メイド「!」ビク

「姫、ここにおられるか!私です、勇者です!無事ですか!?」

メイド「ゆ、勇者さま…」

姫「た、助けてくださいませ!姫はここよ!」

「魔物は私が一掃しました。大丈夫です、安心してください」

姫「メイド、鍵を開けて!」

メイド「はい!」

パリン!

少女「…っ」ドサ

少女「駄目っ!!開けるな!!!!」

メイド「え」

ガチャ

勇者「…」クス

姫「あ、勇者様…」

勇者「姫、こちらへ」

少女「姫、こっちです!そいつに近づいては駄目!!!」

姫「え、え」

勇者「…流石だ少女よ。お前はやはりひどく優秀だ」

魔王「しかし、一歩遅かったな。残念」

姫「え、あ…きゃああああああああああああ!!!」

側近「捕らえました、魔王様!」

魔王「じゃあさっさと帰るぞ。疲れた」

淫魔「じゃあね、バイバイ」

ブワッ

少女「く、…っ!」ダッ

魔王「ではな、少女。これは貰っていくぞ」

少女「魔王おおおおおおおおおおおおお!!」

バタン

メイド「あ、あ…。姫様が、そんな」

少女「はぁ、…くそっ…」ダン

勇者「姫ぇえええええええ!!」

剣士「無事ですか!?」

少女「…」

勇者「お、おい姫は!?」

少女「魔王に…連れ去られた」

剣士「な、…嘘だろ」

少女「…」ギリッ

勇者「お、お前がなんでここにいる!黙って俺を呼んでくればよかっただろうが!!」

剣士「そうだ!お前のせいで姫は…」

少女「…」

勇者「ああ、どうしよう。俺怒られる?ヤバくねえ?」アワアワ

剣士「落ち着け、まだそこらへんにいるかも…」

少女「…」グラ

勇者「おい、やつはどこに行ったんだ!」

少女(行くも、なにも)

少女(…消えたんだしさ)

「おい!?」

少女(…悔しい)

ドサ



お前、名前は?

私?…少女。

そうか、俺は……っていうんだ。よろしくな!

う、うんっ。


…っ、ぐすっ、…牧師さん…

まだ泣いてたのか、少女

だって、牧師さん、が…

心配するなら俺らの将来だろ?もう俺らに後ろ盾はないんだぞ

…っ

なあ、お前。剣を抜けよ

え?

二人で勇者一行として旅すんだよ。なあ、俺らにはそれしかないだろ?



俺がお前を守ってやるよ。だから、剣を抜け。俺についてこい

…い、いいの?

ああ

…ありがとう、……

「なあ、少女よ」

「何が勇者だ?」

「何が正義なんだ?」

「お前が抜いた剣を託した男は、あんなにも増長しきっている」

「お前を裏切った。お前を利用している。お前に酷い扱いをしている」

「奴の頭には立身出世しかないぞ?」

「民を守ろうとか、世界を救おうとか。…純粋な正義では成り立っていないんだ」

「英雄になったらどんな宮殿を建てようか。どんな女をはべらそうか。そればかりだ」

「可哀相にな、少女」

「本当にお前だけだよ。純粋な心配から姫を助けにきたのは」

「誰も、誰もそれを分かっていないんだよ、少女」

「なんとか言ったらどうなんだ、少女」

「何時まで泣いている?なぜ泣いている?」

「悔しいか?なあ、余に負けて悔しいか?」


「それとも、いきなり明確に牙を剥かれて衝撃を受けているのか?」

少女「…」バッ

僧侶「あ、…!」

少女「はぁ、はぁっ…」

僧侶「良かった、少女!このまま起きないかと思いました」

少女「あ、…わ、私」

僧侶「落ち着いて、とりあえず体を横にしてください。…あなたは1日昏睡していたんですよ」

少女「姫が…」

僧侶「分かっています。でもとにかく、冷静になって。あなたのせいじゃないんですから」

少女「…」

僧侶「うなされていましたね。悪夢でも見ていましたか」

少女「…大丈夫。何でもない」

僧侶「疲労からきた昏睡ですから、もう安心ですよ。喉は渇いてませんか?」

少女「水。…ほしい」

僧侶「分かりました。取ってきます」

少女「…」

少女(悔しい。お前に負けて、死ぬほど悔しい)

少女(それに、その通りだ。…あんなに優しくされたあとに、酷いことをされた。裏切られた気分だ)

少女(これが狙いなんだね、…魔王)

バタン!

勇者「少女っ!!」

少女「…ゆ、勇者」

僧侶「勇者、ちょっと…」

勇者「貴様ぁああああああああ!」ガッ

少女「!」

パンッ

勇者「お前のせいで王宮は大混乱だ!姫も誘拐された!全てお前のせいだ!!」

僧侶「やめてください!女性にてを上げるなんて!」

勇者「うるせえ!こいつのせいで俺まで白い目で見られてるんだぞ!?」

僧侶「姫が攫われたのは魔王のせいです!少女に当たってはいけません!」

少女「…っ」

勇者「この、…くそっ!」ダン

僧侶「少女、大丈夫ですか?」

少女「う、ん…」

勇者「お前のせいで…。俺は、俺は…」

少女「勇者、…ごめんなさい」

勇者「ごめんだあ!?謝ってすむかよ!!」ダン

僧侶「いい加減にしてください!!」

僧侶「勇者、王は何と」

勇者「憔悴しきってたよ!王宮もめちゃくちゃだしな」

勇者「俺たちを責めてる感じはなかったが、恨めしそうな目をしてやがった。くそ、ムカつく!」ダン

僧侶「…」

勇者「俺のせいじゃ、俺のせいじゃねえのにっ…」

僧侶「勇者、剣を抜けばいち早く姫のもとに来れたのでは?」

勇者「あ!?…っ」

少女「…」

僧侶「どうして近衛兵のサーベルを持っていたのです?」

勇者「…そ、そんな暇なかったんだよ!」

僧侶「そうですか…」

勇者「んだよ、俺が悪いっていうのかよ!?」

僧侶「いいえ。悪いのは魔王です。しかし、この事件は明らかに我々の注意不足が招いたものです」

勇者「ぐ、…」

僧侶「姫を助けに行くべきではありませんか?」

勇者「け、けどよお。どこにいるかも…」

勇者「あの女によりゃ、魔王が攫っていったんだろ」

僧侶「ああ、そうでした。少女、あなたが魔王を目撃していたのでしたね」

少女「う、うん」

僧侶「どんな風でした」

少女「…」

少女「ゆ、勇者の恰好だった」

勇者「はあ!?」

少女「変身していたの。だから、最初は勇者が助けにって…思ったけど、違って」

僧侶「肉体変化魔法ですか。…そんなものが操れるなんて」

少女「ごめん…」

勇者「チッ。つかえねえな…」

僧侶「しかし、姫を攫ったとあらば必ず目的があるはずです。接触を待ちましょう」

少女「…」

少女(そうだ。何で魔王は姫を攫った?)

僧侶「…接触があったなら、我々が助けにいきましょう」

勇者「ああ。俺がギッタギタにしてやる」

少女(…勝てる、の?)ゾワ

少女(そうだ)

少女(彼が姫に手をかけようとしたとき、私は)

少女(…動けなかったんだ。怖くて。目の前にいる化け物が怖くて)

少女(あの力は、…今まで感じたこと無いほど、強かった)

勇者「…とにかく、俺らは魔王が接触してくるまで待てばいいんだな?」

僧侶「それしかありません」

勇者「クソ…。折角築き上げた信用がパーだ」

僧侶「いえ、魔王を討伐する良いチャンスなのかもしれません」

少女「…」

少女(勝てない。絶対)

少女(私達は、あいつに一太刀だって浴びせられない。…今なら分かる)

悔しいか、少女?

少女「…」ギリッ

魔王「筋肉痛かもしれん」

側近「普段ヒキってるからですよ」

魔王「何を。少女に接触するために毎日2,3時間は外に出てるわ」

側近「偉そうにしないでください!それ以外は玉座でニヤニヤしながら水晶覗いてるだけじゃないですか!」

魔王「うるさい!」バキ

側近「あがぁ!?」

魔王「で、昨日の戦利品はどうしている」

側近「檻に入れてありますが」

魔王「ふむ…」カチャ

姫「…」ガタガタ

魔王「…」

側近「魔王様?」

魔王「ああ、すまん。この女が少女だったらと想像していた」

側近「流石に引きますよ」

魔王「お前の細君を刺身にして食べてやろうか!」ドゴッ

側近「だから妻の悪口はやめろいたい!!」

魔王「まあ、別段こいつが必要というわけでもないがなー」

側近「はあ」

魔王「暴れたり反抗したりしたら、殺してもいいぞ」

側近「まあ、魔物に変身させて誤魔化せばいいですしね」

姫「ひっ、…」

魔王「それにこの女、陰で少女の悪口言っていたしなあ」

側近「そういう個人的なしがらみで動かないでください」

魔王「ま、殺したら少女が怒り狂うだろうしやめておく」

側近「左様で」

魔王「四天王の配置は済んだか?」

側近「はい。勇者一行の辿る道全てに」

魔王「ふむ。まあ少女なら全ての戦いに勝ち、あの無能どもを余のもとへと導いてくれるだろう」

側近「謎なのですが」

魔王「なんだ?」

側近「どうして魔王様は、少女の周りにいるあの連中に何もしないのです?」

追いついた、支援

魔王「勇者どものことか?ああ、今のところは何もしなくていいな」

側近「何故です?特に勇者なんか、少女を苦しめる一番の要因では」

魔王「確かにそうだ。しかし少女のやつはあいつにどうも一番気を寄せているようでな」

側近「まあ、同じ孤児院で育った仲ですしね」

魔王「勿論最終決戦でノコノコ現れよったら、余が自ら頭部を砕いて殺す」

側近「具体的ですね」

魔王「側近よ、余は少女を生かしもしたいし殺しもしたいのだよ?」

側近「はあ」

魔王「奴の苦しむ様子も、成長する様子も、幸せである様子もすべて愛い。全て見たいのだ」

魔王「…だから、余はあいつを手のひらの上で転がすのだ」

魔王「好きな女が自分の選択一つで揺れ動く様は、圧巻だぞ。征服欲が満たされる」

側近「ヤバすぎますね」

魔王「とにかく、余には余の考えがあるのだ。理解したか」

側近「魔王様がなかなかに手遅れということは分かりました。そろそろ政務の時間です」

魔王「分かった。今行く」



魔王「…少女、こんなところで負けるなよ」クス

少女「…」

「ああ、姫…姫よ…」

勇者「おい、どういうことだ」

僧侶「…」

勇者「姫が攫われて3日はたつのに、魔王からは何も接触がないぞ」

剣士「奴は何が目的なんだ、一体」

勇者「くそっ、まさか本当に殺すためだけに…?」

僧侶「分かりません。しかし、…魔王の考えていることは予測できません」

少女「…」

「姫ぇえ…」

勇者「ああやってジジイもベッドで塞ぎこんだままだしよ…」

少女(魔王。…何を考えているの?)

勇者「あーあ、煮つまったにつまった。…俺ちょっと外出てくる」

剣士「俺も」

僧侶「酒はやめてください!ああ、もう…!」

バタン

少女「…」

少女(奴の考えてること、考えてること…)

「…ねえねえ」

少女「ん、何?」

「おねえちゃん、ゆうしゃさまのお仲間?」

少女「そうだよ」

「あのね、おとこのひとが、おねえちゃんにこれ渡せって」

少女「…これ、誰に」

「知らないおとこのひとー。宮殿にいたの」

少女「どんな人だった」

「うーんとね、髪がくろくてながーい。お目めは赤いの。あと、お顔まっしろで、すごくかっこよかった」

少女「…」

少女「ありがとう。良い子だね」ナデ

「えへへ、ばいばい」

少女「…」

「少女へ」

少女「ムカつく…」ギリ

少女(いや、落ち着け。今更手紙よこすってことは、何かあるはず)

少女「…」ペラ

「少女へ。
 
 舞踏会での勇姿はとくと目に焼き付けさせてもらった。はじめてみるお前だったな。

 ところで、姫は元気だぞ。今朝だって側近の妻を見て泣き叫んでいた。

 お前にだけ明かそうと思うが、余はこうした誘拐事件を2,3計画しているのだ。

 各国の国王の子息を攫い、困らせてやろうと思ってな。

 早く来ないと犠牲者が増えていくぞ。

 あ、そういえばお前らは余がどこに住まいを構えているのかも知らなかったのだな(笑)

 どうかな少女、初めて(笑)を使ってみた。ハマっているか?(笑)

 話を戻すが、余は簡単に姿を現す気は無い。速めにお前らが来て返り討ちされるのが可哀相なのでな。

 とりあえず、お前たちは東の海に囲まれた国へ行くのだ。そこにヒントを隠しておいた。

 ではな。

 P.S.

 余も色々と忙しくてお前に会いにいくことができなかった。手紙で失礼するよ。

 また暇が会ったら必ずご機嫌伺いに行く。それまで寂しさをおさえて待っていてくれ

 (笑)

 お前の親友、魔王より」


少女「っあああああああああ」イライライライラ

少女「うっぜええええ!っていうか文末の自己表記が“親友”になってるし!近づいてんじゃねーよ!」

少女「こんなふざけた奴に翻弄されてるのが許せないわ」

少女「…東の国、か」

少女「手がかりはこれしかないのね」

少女「…納得いかないけど、従うしかないわね」



勇者「はあ?東の国?」

少女「…うん」

勇者「魔王がそこに行けって手紙をよこした?で、その手紙は?」

少女「読み終わったら消えたの」

勇者「んなアホな話があるか!頭わいてんのか」

僧侶「待ってください勇者。確か東の国には、魔王に対抗するための道具があったと聞きます」

勇者「え、マジ」

僧侶「…少女の話を信じましょう。行って損は無いはずです」

剣士「まーな」

勇者「…手がかりもこれくらいしかないからな」

王「…では気をつけて行ってくるのだぞ」

勇者「はっ」

王「何でも良い、手がかりをみつけて姫を救ってくれ…」

勇者「必ず成果をあげてみせます」


ゆうしゃたちは うみをわたり ひがしのくにを おとずれた!


=城下町

勇者「すげー、皆色が黒い」

僧侶「日差しの強い国ですからね」

勇者「褐色娘ってのもそそるなぁ…」ジュルリ

剣士「一理ある」

少女「…」ハァ

勇者「おっしゃ、それじゃ手っ取り早く国王に謁見しようぜー」

東国王「ふむ。そちらの姫が魔王の手にかかったと…」

勇者「ええ。是非お力添えを」

東国王「よかろう。わが一族に伝わる勇者の神器を授けよう」

勇者「それは、一体!?」

東国王「神の加護を受けた羅針盤だ」

僧侶「なるほど、邪悪の方向を指し示す羅針盤ですか…!」

東国王「しかし神器は、長らく祭壇に封印されておる。自分たちでとってこい」

勇者「…」



勇者「マジでクソ。クソクソクソクソクソファック」

剣士「このパターン非常に多いよなぁ」

僧侶「皆さん、たかが洞窟の祭壇から神器をとってくるだけですよ!?」

勇者「だりー…。なんかどうでもよくなってきた…」

剣士「たしかにな」

僧侶「とりあえず今日は宿に泊まって、明日祭壇に向かいましょうか」

勇者「さんせーい。つかれたー」

=宿

勇者「うほー、オーシャンビューだー!」

剣士「海国さいこーー!」

僧侶「はあ。…全く」

勇者「おい早速褐色娘口説きにいこうぜ!」

剣士「おー!」

バタバタ

少女「…大丈夫かな?」

僧侶「まあ、こんな感じでも彼はやることはやりますから」

少女「そ、そうだね」

僧侶「少女さんもまだ病み上がりですし、ゆっくり休んではどうですか」

少女「でも、…」

僧侶「荷解きは私がやります。ほら、あそこの海で少し遊んできたらどうです?」

少女「…いいの?」

僧侶「ええ。仲間ですから、困ったときはお互い様です」

少女「…」ペコ


ザバン

少女(…海だ)

少女「…」クスクス

少女(ひさしぶりだな…海で遊ぶの)

少女(まあ、遊んでる場合じゃないんだけどな…)

少女(姫様、大丈夫かな)チャプ

僧侶「少女」

少女「うわ!」ビク

僧侶「隣いいですか?」

少女「う、うん。いいよ」

僧侶「はあ、綺麗な海ですね?」

少女「うん。砂も白くてさらさらしてる」

僧侶「…」

少女「まあ、こんなゆっくりしてる場合じゃないけど」

僧侶「少女さんは偉いですね。誰よりもしっかりしている」

少女「え」

僧侶「まるであなたが勇者みたいだ」

少女「あ、あ、そんな。そんなわけ」

僧侶「…一つ、聞いてもいいですか?」

少女「なに?」

僧侶「何故あなたは勇者と旅をしているんです?」

少女「…」

僧侶「私と剣士は国王の選抜であなたたちの仲間に加わりました。しかし、あなたはもとから勇者といた」

少女「…あ、えっと」

僧侶「あなたは、戦闘員でもないですし…。少し謎で」

少女「…わ、私が我儘言ってついていってるんだ」

僧侶「どうして?」

少女「…」

僧侶「勇者と一緒にいたいからですか?」

少女「…う、うん。兄妹みたいなものだし」

僧侶「…」

僧侶「私にはご主人と召使の関係に見えます」

少女「!」

僧侶「少女、あなたはもっと自分を主張するべきですよ」

僧侶「嫌なことは嫌、とはっきり断るべきです。今まで言えませんでしたが…」

僧侶「あなたを見ているとどうも、不憫で」

少女「別に、そんな」

僧侶「そうそう、あなたは戦闘もできると分かったのですから、戦いに参加してください」

僧侶「もう召使じみたことはやめませんか?仲間なのですから」

少女「…」

僧侶「私はあなたの味方ですよ、少女」

少女「そ、…僧侶」

僧侶「…」

僧侶「あ、あはは。すみません、ちょっと臭かったかな」

少女「…」フルフル

少女「…ありがとう、僧侶」

僧侶「そんな。私は思ったことを言ったまでですよ」

少女「…」

僧侶「ね、笑ってください。一緒に魔王を倒しましょう」

少女「魔王を」

僧侶「ええ」

少女「…うん!」

僧侶「…」ポリポリ

僧侶「え、ええと、その。…飲み物とってきますね!待っていてください」

少女「ありがとう」

ザパン

少女「…ふふ」

少女(魔王、見た?私にだって味方はいるんだから)

魚「あーあ、まったくもってその通りだな少女よ」

少女「きゃあああああああああああああ!?」

魚「そんなに驚くでない。4日ぶりだからといって」チャプ

少女「ま、魔王!今更何の用よ!」

魚「愛しい人には用がなくても会いたい。そんなものだよ」

少女「ふざけないで」

魚「ああ冷たい。あの眼鏡優男にはあんなに優しげに接していたというのに…」

少女「姫はどうしてるの」

魚「そんな色気の無い話はやめにしよう。なあ、お前は僧侶に気があるのか?」

少女「無事なんでしょうね」

魚「大体前から思っていたのだが、あの優男は僧侶のくせに、お前に色欲めいたものを持っているようだ」

少女「聞け」ジャブ

魚「おっと。なあ、どうなのだ。お前はあの笑顔に惚れてしまったのか?」

魚「余とは眉間にシワを寄せて話すくせに…。あんな女々しいののどこがいいのだ」

少女「僧侶を悪く言うと許さないわよ」

魚「…」

魚「少女、私は君の味方だ」キリッ

少女「っ」バシャ

魚「惜しいな。いやー、あの青春物語みたいな歯の浮く台詞はなんだ?鳥はだがたったぞ、魚だけど」

少女「茶化さないでよ。…私にも味方がいるのよ?」

魚「ははは、おめでたい頭だな少女。男というものをわかっていない」

少女「は?」

魚「奴は下心があるからお前に優しくするのだよ?」

少女「何言ってるのよ」

魚「だから、お前の心に優しくして取り入ろうとしているのだ」

少女「はあ?」

魚「女は優しい男に弱いからな。逆境の中、優しくされるとついその男に惚れてしまう」

少女「わ、私が?僧侶に?」

魚「奴はそういう人間の心理をよーく分かってるのだよ。そしてたくみに利用するのだ」

魚「奴はお前を手に入れ、そう。…自分の好きにしたいと思っているのだよ」チャプ

少女「下衆ね」

魚「いいや真理だ。意地悪じゃないぞ、本当に奴はそう思っているのだ」

魚「お前と口付けをし、この時間帯じゃ言えないようなことをしたいとな。煩悩のかたまりだ」

少女「…っ」カァ

魚「おお赤くなった。はっきり言っておくが少女、余は処女厨だぞ」

少女「なっ」

魚「部下からは魔界のユニコーンと呼ばれているくらいだからな。勿論重要なのはお前の初めてだけだが…」

少女「死ね!!」

魚「率直な意見ありがとう。いいか、あんな嘘で塗り固められたような男に気を許すなよ。余の少女」

少女「あんたのなんかじゃない!」

魚「はあ。全く経験がない女はこれだからいかん」

少女「僧侶がそんな俗なこと考えてるわけないじゃない」

魚「男なんて皆汚いものだぞ。いかに多くの女と簡単に(自粛)するかしか考えてないんだからな」

少女「…!!」

魚「まあ余は別だがな。少なくとも多くの女と、という部分は」

少女「さい、ってー…」

魚「まあ、とにかく気をつけてくれたまえよ。お前の周りが敵だらけなのは間違いないからな」

少女「あんたの言うことなんか聞く価値ない。消えて」

魚「…少女」

少女「何よ」

魚「…。すまなかった、実は真剣に言いたいことがあったのだ。真剣に、これだけは…」

少女「…何」

魚「…」スッ

魚「側近の嫁のマネ」

少女「」ブフッ

魚「というわけでさらばだ。笑い上戸なお嬢さん」チャプン

少女「あ、ちょ」



少女「…くそ…」

終わり?

読んでるよ

みてるよ

これは良いSSだ

期待

勇者「褐色娘なんか嫌いだ」

剣士「全くだ、田舎娘のくせに調子のりやがって」

僧侶「帰ってくるなりどうしたんですか…」

勇者「僧侶、海国の女なんてロクなもんがいないぞ」

僧侶「は、はあ」

剣士「少ししつこく迫っただけで酒ぶっかけられたんだよ」

僧侶「はあ…」

少女「…」

少女(僧侶は他の男とは違うように見えるけどなあ)

僧侶「二人をベッドに運びましょう。すっかり酔いつぶれている」

少女「うん」

少女(…優しいし、真面目だし、良い人だよ)

少女(あいつは何で自分を棚に上げて人をディスるんだよ)ヨイショ

僧侶「明日、大丈夫ですかね」

少女「大丈夫だよ」

僧侶「…私達が二人を引っ張っていくべきですね」クス

少女「ん、そうだね」クス

=封印の祭壇

「汝勇ましきものたちよ。 邪悪の根源を示す針を追え」

ゆうしゃたちは ふういんされた らしんばんを てにいれた!

勇者「おおっしゃああああああああ」

僧侶「なんだ、案外簡単でしたね」

勇者「魔物もいなかったし、難所なんて開きにくい扉くらいだったな」

少女(なんだ、…てっきり罠でもしかけてると思ったのに)

剣士「羅針盤、か」

勇者「おう。魔王の位置を示してくれると踏んだ」

僧侶「だと良いのですが」

僧侶「石版の文章を解釈するなら、それが自然ですしね」

クルクル

勇者「…どこだー?」

ピタ

少女「…」

勇者「…」

剣士「…」

僧侶「…」

勇者「お前に当たってる」

少女「え!?」

僧侶「少女さんの方向に魔王がいるということでは?」

勇者「そうか。じゃあお前、ちょっとどけ」

少女「う、うん」

クル

勇者「…」

剣士「少女のほうに向いてるぞ」

少女(あ、これまずいやつだ)

僧侶「気のせいでは?」

クル

少女「…」

勇者「お前、まさか」

少女「そ、そんなわけないでしょ!?皆とずっと一緒にいたじゃない!」

僧侶「壊れているのでしょうか」コンコン

少女(やばいやばいどういうことだ)バクバクバク

少女「…」

少女(いや待てよ、まさかとは思うが)

少女「ね、ねえ皆。ちょっと、あっちの泉で手洗ってきていい?」

勇者「そりゃ祭壇に何年も置かれてちゃイカれるだろー」

剣士「これどうすんだ修理してもらうか」

少女「…」ソロー

少女「…」ダッ


少女「…」ヌギ

少女「…」バッバッ

少女(絶対いる絶対、絶対いる)

ポト

ボタン「…」

少女「…」

ボタン「無機物もいけるのだぞ」

少女「マジで踏み潰すわよ!!!」

わろたw

ボタン「羅針盤獲得おめでとう少女」

少女「い、いつからいたのよ!全然気づかなかった」

ボタン「まあまあ。いやあ、余もこんな展開になるとは思わなかった。すまないな」

少女「あ、あなたのせいで私が微妙に疑われてるのよ!」

ボタン「だからすまないと言っている」

少女「どういうつもりなの。何がしたいのよ本気で」

ボタン「おお、やめろ落とすなよ。割れたら少し厄介だ」

少女「私に付きまとわないでよ!」

ボタン「心配なのだよ、少女。昨日の海で完全に余の恋路を邪魔する輩を見つけてしまったのでな」

少女「…僧侶のこと?」

ボタン「そうだ。いつ僧侶がお前に汚い手で触ると思うと…」

少女「…」

ボタン「落とすなよ!何度も言わせるんじゃないぞ」

少女「まあいいわ。あの羅針盤の精度は完璧だったようだし」

ボタン「そうかな?あの羅針盤は魔王のいる方向さえ示しても、距離までは計れん」

少女「まあ、…確かに」

ボタン「それにお前に余が付きまとっていれば、針はお前にずっと向いたままだ」

少女「…」

ボタン「お前はどんどん疑われてしまうだろうなあ」

少女「羅針盤を使う時は私のそばにいないで」

ボタン「…」

少女「何とか言いなさいよ!!」

ボタン「人にモノを頼む態度ではないぞ、少女。ん?」

少女「…っ」

ボタン「いいのだよ?わざと羅針盤を使うときにだけ現れてやっても」

少女「何かもう、怒りを通り越して悲しみまで感じる」

ボタン「何でだ?余に甘えて頼めばいいではないか」

少女「…」

ボタン「お願いです、魔王様。私の言うことを聞き入れてください。…ほら、言ってみろ。簡単だろう?」

少女「…く、」

ボタン「少女?」

少女「…お願いします。私のお願い、聞いてください」

ボタン「…あはは。良い顔だ少女」

ボタン「しかし余もその願いをタダで聞いてやることはできない。交換条件が欲しい」

少女「はあ!?」

ボタン「当たり前だろうが。そうだな…」

ボタン「お前、次に行く場所も余の言う通りにしろ」

少女「え」

ボタン「実は今度は西の国にいる王子を攫おうと思ってな」

ボタン「どうだ、ゲームをしないか?魔王軍と勇者一行、どちらが早く西にいきつくか勝負だ」

少女「…本気なの」

ボタン「ああ。人質は多いほうがいいしな」

少女「いいわ。やりましょう」

ボタン「次は勝てるといいな、少女。約束どおり羅針盤を使用するときには現れないでいてやる」

少女「…」

ボタン「そうそう、前回の手紙での接触は自分でも無用心だったと反省している」

ボタン「お前が今疑われるのは少々都合が悪い。今日中に勇者に自ら接触しよう」

少女「…勇者に手を出したら、許さないから」

ボタン「…」

ボタン「はあ、少女。何故だ。何故そんなにあの木偶どもを庇うのだ」

ボタン「目の前に確実な思いを注いでくれる相手がいるというのに、お前はすぐわき見をする」

少女「勇者に何もしないで」

ボタン「したいのは山々だが、お前の頼みなら断れん。…不本意だがな」

少女「そう、じゃあさようなら魔王」

ポイ

ボタン「ぶ。少女、乱暴がすぎるぞ。余はマゾヒストではない」

少女「…」スタスタ

ボタン「また会おう」

少女「ええ。今度は私が勝つ」

ボタン「結構だ。勝気なお前は素晴らしく好みだ」

=夜

勇者「…むにゃ」ヨロ

勇者(はぁー…。呑みすぎたな…)

勇者「うぷ。…風にでも当たるか」

ギシ

勇者「…ん」

少女「…」ゴロン

少女「すぅ、…すぅ」

勇者「…」

勇者(こいつ、顔だけ見たら上玉なんだけどな)

勇者(体も悪くないし、手入れすりゃ案外…)

勇者(はん、でも生意気だしな。俺の好みじゃない。ごめんだ)

勇者「…」ガタ

ザパン

勇者「はぁ…」

「…勇者さま?」

勇者「うお!」ビク

褐色娘「…こ、こんばんは」

勇者「き、君は昼間の…」

勇者(俺の誘い断った女じゃねーか!今更何ノコノコ現れてんだ)

褐色「昼間は本当に申し訳ありませんでした。私、どうしてもお詫びしたくて」

勇者「あ?ああ、いやいいんだ」

勇者「ところで君、こんな夜中に一人で何をしているんだ?」

褐色「たまにこうやって海を見にきたくなるんです」

勇者「そうか。…俺も、なんだか眠れなくて波を見たい気分になった」

褐色「では、私と一緒ですね」

勇者「ああ」

褐色「…勇者様。隣に座ってもいいですか?」

勇者「どうぞ」

褐色「よいしょ。…あ、あの。昼間のこと、本当に気にしていませんか?」

勇者「勿論だよ。俺たちもしつこくしてすまなかったな」

褐色「私、…。こんな素敵な片に声をかけてもらったの、初めてで。緊張しちゃって、つい…」

勇者「ふうん、君、初初しいんだね」

褐色「…」カァ

褐色「わ、私はオトナですわ。…だからこうして、勇気を出してあなたに会いにきたのに」

勇者(お?)

褐色「勇者様…」

勇者「…君、名前は…」

褐色「褐色です。…どうか、その…」モジ

勇者(来た…)グッ

褐色「…その、私…」

勇者「褐色」

褐色「は、はいっ」

勇者「何も言わなくていいよ。俺が先に言おう」

褐色「ゆ、勇者さま…」

勇者(すまんな剣士、俺が先に褐色娘との熱い夜をゲッツだ)

勇者「褐色…」ギュ

褐色「…」

ドス

勇者「」

褐色「ヘドがでるわ」ニヤァ

勇者「が、がふっ…!!?」ヨロ

褐色「ああ、なんて陳腐な口説き文句なのだろうな。余の風下にもおけん」ブン

ドスッ

勇者「ぐ、あ…!!?」ゲホッ

褐色「今の会話を記録して10年後のお前に聞かせてやりたいくらいだ、きざな勇者」クスクス

勇者(な、なんだこの女…!?お、俺がたった二発で、動けな)

褐色「さて黙っていろよ。大声を出したら殺す。出さなくても殺してしまうかもしれん。まあ、気をつけろ」ゴロン

勇者「んむぅ…!?」

褐色「拘束魔法だ。うん?初めてか?いかんな、きちんと耐性をつけておけ。余はせこいから、決戦でも空気を読まずに使うぞ」ギリ

勇者(まさかこいつ、…魔物か!?)

褐色「お前に言いたいことがある」

勇者「はぁ、はぁ」

褐色「いいか、2,3質問する。イエスなら瞬き一回、ノーなら瞬きを二回しろ。オーケー?」

勇者「…」パチ

褐色「結構。勇者、お前は勇者か?」

勇者「……!?」

褐色「詳しく言おうか。お前はかの光の戦士の血を引く、正当な英雄の後継者か?」

勇者「…」

褐色「瞬きがないな。どっちなんだ?」

勇者「…」パチ

褐色「…」ブン

バキッ

勇者「ぁ、がっ…!?」ガフッ

褐色「余は人に欺かれるのがこの世で一番嫌いだ。しかも自分より格の低いものにされると、虫唾が走ってしょうがない」

勇者「はぁ、はぁっ」

褐色「代わりに答えてやろう、勇者。お前はただのしょうもない一般人だ」

勇者「…っ」

褐色「人を騙す才能だけは一流のようだな。真の勇者は別にいる。そうだろ?」

勇者「…」

褐色「今のは質問だぞ?」

勇者「…ぐ」

褐色「誰が口を聞いていいといった。男なら呻きくらい堪えろ」ドガッ

勇者「ぎゃ、っ…!?」

褐色「お前の腹は柔らかいなあ?少し力を入れただけで突き破ってしまいそうだぞ」

勇者「げほっ、げほっ…」

褐色「まあ、いい。分かりきったことを質問するのじゃなかったな。次だ」

勇者「…っ」

褐色「お前、誰かを虐げてはいやしないか?」

勇者「…」パチパチ

褐色「ほーう。立派なことださすが勇者さま」ドゴッ

グシャ

勇者「ひ、っ」

褐色「あ、折れたかな。…まあいい。性懲りもなくまた護身に走る貴様が悪い」

勇者「い、だっ…」ビク

褐色「聞け、愚かな勇者よ」グイ

勇者「は、はぁっ、はあっ」

褐色「余はお前のことが世界で一番憎い。あいつに一番近く、一番思いを注がれているからだ」

褐色「あの小さな孤児院でお前とあいつは一緒に育ったな?健気なことに、あいつはお前を兄のように慕った」

褐色「お前はしかし、その思いを利用した」ギリ

勇者「か、…ひゅ、っ…」

褐色「それでもあいつはお前のことを気にかけ、お前の将来が成功するように自分の身を砕いている」

褐色「…」

褐色「お前が憎い。今すぐに殺したい。殺していいか?」

勇者「…っ、ひっ」

褐色「羨ましくてたまらないのだよ、勇者。余はお前になりたいくらい、お前が羨ましい」

勇者「や、め…」

褐色「…」ギリギリ

勇者「たす、け…」

褐色「…」ハァ

ドサ

勇者「ぎゃっ!」

褐色「やーめた」

褐色「いまここで殺すのは勿体無いな?もう少し待ってからが良い」

褐色「そのほうが余もすっきりするだろうな」

勇者「はぁ、はぁ」ズリ

褐色「聞け、勇者よ。必ず余のもとへ来い。あの呆けた男どもも一緒にな」

褐色「余はいつでもお前を待っている。お前の命を手ひどく奪う瞬間を焦がれている」

褐色「それまでお前、死ぬなよ?」

勇者「……っ」コクコク

褐色「…よろしい。聞き分けの良い子だ。はは」

褐色「うん?何で泣いている?震えているぞ、勇者くん」クイ

勇者「あ、あ…」

褐色「ふむ。端正な顔だな。余ほどではないが…あ、そうだ」

ギギギ

勇者「ぐぁっ!?」

褐色「これでよし、と。ではもう飽きたので帰らせてもらう」

褐色「さようなら勇者。お前が余の居城に来る日を楽しみに待っている」

ドサ

=翌日

少女「…」モゾ

「大変だ!」

「早く薬を!」

「ギブス持ってこい!腕が折れてる!」

少女「…ふわ。…なに、」

僧侶「あ、少女!大変ですっ」バタバタ

少女「この騒ぎ、どうしたの」

僧侶「ゆ、勇者が浜辺でなにものかに襲われたのです!」

少女「げ」

僧侶「かわいそうに酷く傷ついて、…衣服も剥がれてさらし者になっていて」

少女(あんの…あんの野郎…)

僧侶「命に別状はないですが…。あの、手当てを手伝ってください!」

少女「分かった」

ガチャ

勇者「…」ビクビク

少女「痙攣してる」

僧侶「心理ストレスからくるものでしょう。かわいそうに、顔に麻袋をかけられています」

僧侶「まずこれを外してあげなくては。…少女、そっちを引っ張って」

少女(まず誰かこの人に毛布かけてやれよ…。丸見えなんだけど)

バサ

少女「え」

僧侶「あ」

少女「…これは」

僧侶「…」

少女「僧侶、これ」

僧侶「魔力での刺青がされています。誰がこんなことを…」

少女「…」

僧侶「誰が、勇者の額に“肉”なんて書いたのです…!?」

少女「やめてちょっと。…ちょっとごめん」プルプル

僧侶「笑ってはいけません!消えなかったらどうすぶふぉ」

少女「僧侶も笑ってるじゃない…」プルプル

僧侶「あまりに古典的で…。っ、ふふ」

勇者「う、うーん」

僧侶「あ、超人が起きますよ」

少女「……」プルプル

勇者「お、俺は一体…」

僧侶「勇者!どこか痛むところは!?」

勇者「くそ、全身!いてえよ…」

僧侶「一体何があったんですか!」

勇者「わかんねえ…。全然、覚えてねえんだよ…」

僧侶「そんな…」

少女「…」

勇者「おい、そこのクソ女!何うずくまってニヤニヤしてんだ!殺すぞ!?」

僧侶「ああ、案外元気ですね。よかった」

勇者「わかんねえんだよ…。浜辺で一休みしてたら急に前が暗くなって」

僧侶「そうですか…」

勇者「俺の顔、どうなってるか見せてくれないか」

僧侶「え?…」

勇者「額が妙に痛い。切れてるんじゃないか?」

僧侶「…鏡です」

勇者「…」

勇者「ぎゃああああああああああああああああああ俺の顔があああああああああああああ」

少女「…」フゥ フゥ

僧侶「笑いを堪えてますね?」

少女「あなたもね」

僧侶「…」

少女「あ、にやってした」

僧侶「していません」

勇者「なんだよこれ!消してくれよ僧侶!」

僧侶「すみません無理です。恐らくたちの悪い呪いですので」

勇者「あああああああああなんでだよおおおおおおおお」ガシャン

僧侶「術者さえ分かればいいのですが…」

勇者「前髪で隠せねえ!ふざけんなああああああああああ」

勇者「しにてえ…。マジでもう…」

少女「…僧侶、麻袋になにかついてるよ」

僧侶「ん?本当ですね」ペラ

僧侶「…!」

少女「…手紙?」

僧侶「…魔物の字です。それに、この紋章は魔王のものです」

勇者「え!?って、ことはこれ」

僧侶「魔王が…勇者に接触してきたのかもしれません」

勇者「…」ゾワ

僧侶「本当に何も覚えてないのですね?」

勇者「あ、ああ!全然!」

少女「何て書いてあるの」

僧侶「…“御機嫌よう諸君。今日は絶好の旅日和となるだろう”」

僧侶「“次は西の乾いた大地へ向かうといい。余の姿が見えるやも知れんぞ”」

僧侶「“P.S.勇者、その刺青も中々似合っておるぞ(笑)”」

僧侶「ですって」

勇者「ふっざけんなあああああああ!!おちょくりやがって!!」

僧侶「まさかこんな態度の魔王だったとは…」

少女「…」

かくして ゆうしゃたちは ひがしのくにを あとにした!

むかうは にしのくに!

勇者「…もう無理だ女口説けない抱けない」ブツブツ

剣士「まあ元気出せ。バンダナでも巻いておけよ」

僧侶「勇者、大丈夫です。きっと消えますから」

少女「…」

少女(魔王)

少女(やっぱり私達をあざ笑ってるのね)

勇者「…」

少女「…勇者、頑張ろう。必ず倒せるよ」

勇者「うる、せえ…」


ておいのゆうしゃと、そのいっこう

はたしてまおうに かてるのか?


少女「…」

少女(次は、反撃してやる)



まおうはしずかに、ほほえんだ

今日はおわり

面白かった!
「今日は」ってことで続き期待してるぞ

乙!

age

おつかれさん

あげ

からあげ

支援

_-_

待ってる

-_-

あけ

支援

あげ

待つ

あげ

しえん

わっふるわっふる

あげ

age

ほしゅ

待つ

にゃんぱすぅ~

あげ

あげ

あげ

はげ

あげ!

あげ

あげ

うんち

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