【アニマス×デレアニ】「夢の頂上決戦!765プロvs346プロvs961プロ」 (235)


このSSはアニマスとデレアニのクロスssです。
が、多少の設定改変やオリジナル設定があります。
少しわかりづらいですが、下の図に詳しくまとめてみました。
「よく分からない」という方は、とりあえず「アニマスとデレアニが同時期の出来事だったら」くらいに思ってください。
拙い作品ですが、楽しめたら幸いです。

ttp://i.imgur.com/eXmy3ls.jpg

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445097631



プロローグ・346プロ


 大成功を収めたシンデレラの舞踏会から数か月。
 346プロは、以前よりも活性化しており、所属するアイドル達には様々な仕事が舞い込み、社内には笑顔が溢れている。
 そんな中、シンデレラプロジェクトのP(以下346P)は、美城常務――もとい、美城専務の部屋に呼び出されていた。




専務「『今までのやり方では、真のトップアイドルは生まれない』」




専務「これは以前、私がアメリカにいた時、とあるアイドルから言われた言葉だ」

346P「……」

専務「そのアイドルの名は玲音(レオン)。……日本人なら誰でも知っているアイドルだ」

346P「……日本でトップを取った後、競う相手を求めて世界へ活動拠点を移したという、」

346P「あの、 ”オーバーランク” 『玲音』ですね」

専務「そうだ。まさしく生ける伝説である彼女の発した言葉だ。私も反論する術がなかった」

専務「彼女の語り口には、あまりにも説得力が有りすぎたのだ」

専務「……そんな彼女の次のセリフがこれだ。『近い将来、アタシが日本のアイドルを壊しに行く』」

346P「……どういう、意味でしょうか」

専務「恐らく、彼女は日本に戻ってきて、今のアイドル界を変える気なのだろう」

専務「そしてそれは、成功する。彼女がそう決意したのならば」

346P「……」

専務「……いつか、島村卯月が活動不能に陥った際に話した、例え話を覚えているか」



346P「はい。アイドルは星のようなものだ、と」

専務「あぁ。『星は、雲に隠れればその輝きを失う』」

346P「『しかし、そこに星がある限り、いつか輝くことはできます』」

専務「お前はそう反論したな。……では、こんな場合はどうだ?」


専務「『夜空を昼間のように変えてしまう、太陽のような圧倒的な存在が隣にあれば』」

専務「『星は、その輝きに飲み込まれてしまうだろう』」


346P「……っ!」

専務「私は……それが、怖いのだ」

専務「……その時が来る前に、太陽に対抗できる"輝き"がなければ……」

専務「星達は、その存在すらかき消されてしまう」

346P「……」

専務「……」

346P「……出来ます。輝けます」

専務「……フッ。今日の反論はいやに単純じゃないか」

346P「根拠はありませんが……出来ると、信じています」

専務「ふん。まるで子供だな」

専務「とにかく……心しておけ。いつ、その時が来てもいいように」

346P「……分かりました」


 いつもと違う様子の専務を見た346Pは、どこか嫌な、予感のようなものを感じていた。
 きっと、専務の言う”玲音”の登場はそう遠くないだろう。
 一抹の不安を抱えたまま、346Pは専務の部屋から出て行った。


 プロローグ・346プロ 終


――――――――――


プロローグ・765プロ


 事情により数名が不在だが、隆盛を極める765プロ事務所。
 アリーナライブから半年経った今、物語は動き出そうとしていた。



律子「みんな!千早と美希、今週末には帰ってくるそうよ!」

亜美真美「「えっ!!」」

真美「千早お姉ちゃんとミキミキが!?」

亜美「日本に帰って!?」

亜美真美「くるぅ~~~↑」グイグイ

伊織「もう、なんなのよそれは。元々、このくらいの時期に戻ってくる予定だったじゃない」

あずさ「あら~、千早ちゃんと美希ちゃん、一緒に帰ってこれるんですね」

律子「えぇ。千早のレコーディング自体はもう先週には終わってたみたいなんですけど…」

真「美希一人じゃ不安だからって、千早と合わせたんですね」

律子「そういうこと。まぁ、これもあの人のスケジューリングだけどね」

貴音「……プロデューサーは、まだあちらでの研修は終わっていないのでしょうか」

やよい「そうです!プロデューサーも、そろそろ帰ってくる頃かなーって!」

律子「……そうねぇ、あの人はまだあと何か月か、かかるそうよ」

真美「そっか……兄ちゃん、大変だねぃ……」

亜美「うあうあー!兄ちゃん成分が足りないYO!」

雪歩「定期的に、お茶の葉を送ったりしてますけど…うぅ……やっぱり不安ですぅ……」

律子「騒がないの!……プロデューサーも頑張ってるんだから、私たちは私たちで頑張りましょう」


真「うん、律子の言うとおりだよ。帰ってきた時に、驚かせてやろうよ」

伊織「にひひっ、アンタもたまには良いこと言うじゃない」

真「たまに、は余計だよ!」

亜美「じゃあ、まずは……」

真美「先に帰ってくる千早お姉ちゃんとミキミキを驚かせなくちゃあ……」

亜美「『帰国を歓迎する』『二人を驚かせる』」

真美「両方やらなくっちゃあならないってのが」

亜美「亜美たちの辛いとこだねぃ!!」

真美「覚悟はいいか?」

亜美真美小鳥「オレはできてる」


真美「はっ!今……何か……」

亜美「スタンド使いの攻撃を受けているYOッ」

伊織「はいはい、そういう小芝居はいいから。でも、何かサプライズをするってのはいいわね」

雪歩「落とし穴なら任せてください!」

真「自力で上がってこれる程度にね」

亜美「じゃあ亜美たちは落とし穴に入れるものさがすー」

真美「んっふっふ~、面白くなってきたぜい!」


――

――――

――――――

――――――――――

 それから数日後。
 美希と千早の帰ってくる正確な時間や日付が分からず、いまかいまかとやきもきさせられているアイドルたち。
 サプライズパーティーの準備だけはバッチリ終わらせて、後は二人を待つのみ。
 今日もいつものように仕事を終わらせたアイドルが、雪歩のお茶目当てで事務所に集まって談笑している。



響「それにしても、美希と千早がアメリカに行って、もう半年かー。結構長かったぞ」

春香「うん。……アリーナライブからこの半年、色々あったよね」

響「自分とやよい・真美とのユニットデビュー……」

春香「特番だった『生っすかR』を、また『生っすかサンデー』として毎週放送できるようになったり」

響「真なんか、この前主演女優賞もらったんだよね!」

真「へへ……まさか、あんな乙女チックな役で映画に出れるなんて……」

春香「わたしたち、どんどん成長していってる。美希たちだけじゃない」

響「でも、やっぱりあの二人がいないと寂しいぞ……」

真「まぁまぁ、もうすぐ帰ってくるってわかったんだし」


律子「みんな!こっちに来て!」


 突然声を張り上げる律子。
 その声色には驚愕と動揺の色が濃い。
 どうしたのだろうか、とテレビの前に集まってみると……











『如月千早・星井美希 961プロへ電撃移籍』
『帰国直後の両名 緊急会見』






 黒井社長の両隣に座るのは見慣れた顔。
 カメラのフラッシュを向けられても、二人は平然としており――――



「えっ……」




 ガシャン。




 誰かが湯呑を割った音が、事務所内に響いた。







 プロローグ・765プロ 終



――――――――――


その一『決裂』


「い……」


響「いったいどういうこと!?」

 目の前で起きていることがあまりに想定外すぎて、呆然とする一同。
 その沈黙を破ったのは混乱から覚めない響だった。

響「み、美希と千早は週末には帰ってくるって……え?え?」

律子「そ、そうだわ!」

春香「……」

律子「亜美!真美!アナタたちの仕業でしょ!」

亜美真美「「え?」」

律子「な、あ、……ドッキリ……じゃない……?」

亜美「違うYO!」

真美「真美たちもボーゼンジサツになってたじゃんか!」

真「……"呆然自失"ね…」

春香「わたしもドッキリかと思いましたけど……このニュース番組は本物……」

律子「なら……小鳥さん、961プロに事実確認を!」

小鳥「はい!電話なら、さっきから掛けてるんですけれど……繋がりません!」

律子「な、なんてことなの……!」

真「……とりあえず、この会見を見ましょう」

真「それを見て、どういうことなのか……把握しましょう」

春香「わたしもそれに賛成!」

響「う~……」

――――――――――


『今回の移籍の理由をお聞かせいただけますか?』


千早『……これが、私に……私達に必要なことだからです』


『それは、どういうことですか?』


美希『詳しくは言えないの。でも、』

美希『ミキと千早さんは961プロでやらなきゃいけないことがあるの』


『では、移籍のきっかけは?黒井社長から声をかけられたのですか?』


千早『それは――』

 記者の質問に、千早が答えようとする瞬間、後ろの画面の横から一人の女性が現れた。
 彼女は千早の前に並ぶたくさんのスタンドつきマイクのうち、颯爽と一つを手に取ると、


??『アメリカでアタシが説得した』

『あ、あなたは――』


 会場のカメラが一斉にそちらへ寄る。
 焚かれるフラッシュが一層強くなる。
 あまりに堂々とした風貌は、誰もが知る、伝説のアイドル――
 

『『玲音!!』』

『アメリカから帰国されたのですか!?』
『これからは日本でご活動なさるのですか!?』
『これは引き抜きという形なのですか!?』
『どうやって二人を説得したのですか!?』




 
 記者が殺到する。
 玲音はそれをなだめるように、柔らかく返す。


玲音『それは、これから分かるよ』


 息を飲む記者群。
 テレビの前に並ぶアイドル達も、自然と一言も発せずにいた。
 画面越しですら、彼女たちを圧倒させるオーラが、玲音には有った。
 彼女はカメラに強い目線を送ると、まるでこちら側に語りかけるように、語り出す。


玲音『とにかく……日本のみんな、長いことタイクツさせたね』


玲音『たった今から、アタシ達で、”アイドル界”を変えていく』


『そ、それはいったい――』


 真ん中で椅子に座り、黙っていた黒井社長がにやり、と笑う。
 その小さな笑みは、我慢の限界だといわんばかりに、次第に大きくなってゆく。

黒井『クク…ククク、ハァーーーハッハッハッハ!!!』

黒井『つまり、この3名は、これから961プロで活動する、ということだ!』

 ざわつく記者。

黒井『では、これにて会見を終了させていただこう』

 黒井社長が席を立ったと同時に暗転。
 カメラはニュース番組のメインスタジオに戻り、絶句したキャスターと驚愕を隠しきれない様子のコメンテーターが映される。
 『大変なことが起こってしまいました!』
 『飛ぶ鳥を落とす勢いの765プロの精鋭2名が、あの玲音と!』

 プツン。

律子「……」

 律子は、これ以上見てられない、とテレビの電源を落とす。
 恐らくこの番組を見ていてもこれ以上の情報は得られそうになかった。


――――――――――


律子「……何らかの事情で961プロに移籍したみたいね」

春香「でも、あの表情……」

真「うん。あれはたぶん……脅されたり、無理やりって感じではなかった」

真美「そ、そうだ!兄ちゃんに電話かけようよ!」

亜美「そーだそーだ!アメリカなら兄ちゃんだYO!」

小鳥「ええと、今は夜7時すぎだから……」

律子「時差なんか気にしてられません、寝てても起きてもらいましょう」


 国際電話をかける小鳥。
 一同はそれを息を飲むようにして見守る。

 prrrr……
 prrrr……がちゃり

小鳥「あ、プロデューサーさんですか?音無です」

小鳥「あの……千早ちゃんと美希ちゃんが961プロに移籍したと、ニュースで……」

小鳥「えぇ……えぇ!?」

小鳥「……はい、分かりました。みんなに伝えますね」

小鳥「はい、はい。では、お元気で」

 がちゃり。

真「プロデューサーは何て言ってました!?」

小鳥「えぇと……」

小鳥「『俺も知っています。とにかく、近いうちに961プロから音楽番組の誘いが来るはずなので、その仕事を受けてください』」

小鳥「とのことです」


春香「プ……プロデューサーさんは知ってたんだ……」

律子「……とにかく、あの人の言う通りにしましょう」

響「でも、なんか怪しいぞ……さっきから美希や千早のケータイに電話やメールしても繋がらないし…」

亜美「番組に出ろって……なんか罠っぽいYO……」

真美「これから先、どうなっちゃうの……?」

 真美が不安を漏らしたのと同時に、雪歩が給湯室から出てくる。
 どうやら誰かの割った湯呑を片付けていて、記者会見のテレビはほとんど見ていないようだった。
 けれど、その表情に不安の色は無かった。

雪歩「きっと大丈夫です」

真「……雪歩、どういうこと?」

雪歩「えっと、うまく説明できないんだけど……」

雪歩「千早ちゃんと美希ちゃんの声がね……なんだか、そう思わせてくれたの」

律子「……」

春香「うん、きっと、なんとかなるよ!」

響「春香……うん!」

真「そうだね。ボクたち、こうやって部屋で考え事するのは似合わないよ!」

律子「……とにかく、番組のオファーは受ける方向で考えておくわね」

亜美「オッケイ!」

真美「アイアイサー!」


真「それにしても、伊織とやよい遅いなぁ」

響「確か、もう一時間前には番組の撮影終わってるはずだぞ」

真「うん。なんだかゴタゴタしてるから、不安だなぁ」

春香「そういえば、あずささんと貴音さんのドラマ撮影も夕方には終わってるよね」

亜美「いつもだったら、今頃はお姫ちんが事務所でカップラーメン啜ってるハズ!」

真美「あずさお姉ちゃんと一緒に迷子になってるカモ!」

春香「う~ん……貴音さんまで迷子になるかなぁー?」

響「あはは。とりあえず、事務所に来るようライン送っとくね」


 事務所のムードが平常に戻りつつある中、律子が一人、不安げな表情を崩せずにいた。


律子「玲音……ねぇ」


 そのビッグネームに対して、あまりにも皆の反応が薄いので、律子はひとつ、ためいきをついた。


律子「どうやら、うちの子たちは”あの”玲音を知らないようね……」






 その一『決裂』 終

とりあえず、ここまで。
初めてのSSなので、分からないことがたくさんありますが、なんとかデレアニの熱が冷めない内に完結させたいと思います。
一応プロットだけは最後まで出来てます。

真夜中ですが、続きが書けたので投下します。

――――――――――


 その二『準備』



「入りたまえ」

346P「失礼します」

 いつものように専務の部屋に呼び出されたプロデューサー。
 呼ばれた理由はどことなく予想がついている。先週話したばかりの非現実的な話が、すぐさま現実になってしまったのだ。
 それにしても――


346P「この部屋、少し暗いですね」

専務「節電だ」

346P「……そうですか」

専務「そうだ。世間話はこのくらいでいいか?本題に入ろう」

 彼女はこほんと咳を鳴らすと、眉間にしわを寄せ、声色を低くして喋り始めた。


専務「ここ1,2年で急成長を果たしたアイドル事務所である765プロだが、この数日で一気にメディア露出が減っている」

専務「中でもラジオや生放送でのテレビ番組などでの出演本数が明らかに減ってしまっている。それは君も知っているだろう」

346P「はい。海外から帰国した星井美希・如月千早の両名の移籍が発端と思われます」

専務「そうだ……961プロの手によって、765プロのみならず、アイドル界が混乱状態にあるのは間違い無い」

専務「……これを見たまえ」

 プリントアウトされた一枚の紙を手渡す専務。
 それは346プロに宛てられた、とある番組へのオファーを示している紙だ。

346P「……っ!これは……!」




 番組のタイトルと内容が書かれている資料。
 重要なのはその最下部。
 制作協力に、961プロダクションの文字。


 専務はこくりと頷いて答える。

専務「あぁ。これはどうやら……"挑戦状"のようだ」

346P「……これを私に見せた理由を、お聞かせ願えますか」

 専務は目を伏せて逡巡した後、何か決意したかのような面持ちで346Pを見、口を開いた。

専務「恐らく……この挑戦状を叩きつけてきたのは"玲音"だ」

専務「そして残念ながら、彼女に対抗できるアイドルはまだ我が346プロには存在しない」

専務「ならば…どうする?」

346P「……個の力では、敵わない。となると……プロジェクト単位での参加……ですか」

専務「そうだ。私は君の物分りの良い所が気に入っている」

専務「だがあいにくプロジェクト・クローネは全国ツアーを控えているのでな」




専務「この一件は、君に託したい」





――――――――――



 悩む余地は無かった。というより、この出演の依頼によって、シンデレラプロジェクトを認められたような、報われたような気持ちになっていた。
 専務からの依頼を了承し、仕事内容の引き継ぎを終わらせ、部屋を出る。
「それに……彼女の笑顔ならば――」
 扉の閉まる直前、専務の小さな呟きが聞こえたが、それを気にせず自分の部署へ戻る。
 ……これは、大変な仕事を引き受けてしまったかもしれない。

みりあ「あ、プロデューサー!そんなはや足でどうしたの?」

346P「あ…赤城さん!それに城ヶ崎さん!」

 いつの間にか歩くスピードが速くなっていたようだ。

莉嘉「うん!で、どうしたのPくん!なんだか嬉しそうだけど…♪」

346P「はい。実は、シンデレラプロジェクトメンバーでの音楽特番へのテレビ出演のオファーが来ていまして…」

みりあ莉嘉「「えぇ~!すごーい!」」

346P「はい。ですがこれは、あの961プロからの」

莉嘉「さっそくみんなに知らせなくちゃ!『特大情報アリ☆事務所に集まれ→!』、と」

346P「あの…」

みりあ「うわぁー!音楽番組!テレビ!」

莉嘉「うん!しかも特番だから何時間もあるヤツだよ!」

346P「話を聞いてください…」


――――――――――

 数時間後。
 事務所に集まったシンデレラプロジェクトのメンバー。
プロデューサーは資料作成の為、少し遅れて来るそうだ。


未央「いやぁー、なんかこのメンバー全員揃うのって久しぶりかも!」

卯月「はい♪みんなそれぞれやりたいお仕事が出来るようになったら、なかなか会えなくなっちゃいましたね」

凛「でも、不思議と寂しくはないんだよね」

きらり「そうだにぃ☆みぃーんな!繋がってるにぃ☆」

みりあ「うん♪お仕事はべつべつでも、おはなしはしてるよね♪」

智絵里「お、お仕事の合間に、みんなで報告しあうの、楽しかった……です」

かな子「私はなぜかお菓子の食レポが増えちゃって、お菓子アイドルになっちゃいそうだよ~」

莉嘉「あはは☆アタシはお姉ちゃんとのお仕事で、どーんと!セクシーになっちゃったしぃ☆」

みく「ほんと、最近のPチャンの持ってくるお仕事、全部楽しいにゃあ!」

李衣菜「確かに最近の私、ちょっとロックすぎかも……」

蘭子「『瞳』を持つ者の覚醒の時は来たれり!」

アーニャ「но……ミナミに、ミズギのお仕事が増えたのは、プロデューサーに問いたださなくてはナリマセン」

美波「あ、あはは…とにかく、みんな元気そうで何よりね」

 と、いかにもなセリフで美波が締めようとした所で――



未央「ちょっと待ったァみなみん!」

みく「杏チャンがいないにゃあ!」


 そう。
 お約束である。



 しかし、杏も一年前から成長していないわけではない。


杏「杏ならここだよー……」


智絵里「え……?」

かな子「智絵里ちゃんのお尻の下から声が…?」

きらり「そこだにぃ☆」

 モゾモゾ……ときらりの手によってソファの下から引き出される杏。
 一応、自分を探す声への返事はするようになったらしい。これは大きな一歩である。

莉嘉「すごーい!いも虫みたーい!」

卯月「そ、その例えはあんまり……」

みりあ「杏ちゃんはどんな隙間にも入れるんだね♪」

李衣菜「みりあちゃんの満点の笑顔がまぶしい……」

凛「杏のことだから、またサボってるのかと思ったよ」

みく「そんなことないにゃ!杏ちゃんだって、もうプロにゃ!」

きらり「杏ちゃんも、最近はお仕事、ちゃ~んと頑張ってるにぃ☆」

杏「褒めてもらって悪いけど……杏はお仕事の連続でもう眠いよ…」

蘭子「し、終焉を紡ぐ七つ目の物語は、神速の魔術を以て、我が魂は天空の光へ導かれた……!」

 突如として興奮した面持ちで喋る蘭子。
 何かを杏に伝えたい様子だ。

杏「終焉……?あー、ニヨニヨ生放送でやらされたFF7スピードクリアかー。杏としては、フツーにやってるだけなんだけどなぁー」

未央「えっと、ゲームやってる所をネットで配信してるんだっけ?」

杏「そーだよー。プロデューサーに休みくれーって言ったら『では、双葉さんが休日にやることを、仕事にしてしまいましょう』って」

みく「なにそれ有能すぎにゃあ……?」


杏「うーん。確かに家で遊ぶだけで仕事ができるのはいいんだけどさー。逆に考えてもみなよ。なんか、休みと仕事の境界線があいまいになっちゃってさー」

李衣菜「あー、そういうのあるかもね。例えば私だとロックが」

みく「李衣菜チャンのそれは仕事でしょ」

李衣菜「……ワタシ みく キライ」

みく「ぶふぅっ!最近覚えたテキトー外人ロック歌手モノマネはやめるにゃあ!」

杏「……んで、家にプロデューサーがいる時間が増えたんだよね。もう、プライベートもへったくれも」

未央「え!?」

智絵里「プロデューサーさんが家に……!?」

凛「ふーん…」

かな子「あっ」

みく「この構え……!」

未央「知っているのかみく電!」

みく「両肘を相手に見せつけ、『それ以上喋るとこのヒジ鉄が飛ぶぞ』というオーラを纏う」

みく「『第三回総選挙覇者の構え』……別名『シブリンの蒼い雨』にゃ!」
(SR [シンデレラガール]渋谷凛)

李衣菜「な、なんだってー!」

凛「ちょ、ちょっと…勝手に変な技名にしないでよ」

杏「……(それは自分で技名をつけたいということかな…)」
みく「……(ていうか技って認めるにゃあ…?)」
未央「……(少なくとも闘気は見えた)」
卯月「……(たまにプロデューサーさんがおうちに来るのは黙っていましょう……)」
蘭子「……(最近は打ち合わせを私の部屋でやってるのは黙ってなきゃ……)」
かな子「……(……)」モグモグ
智絵里「……(わたし、この前、プロデューサーさんにチョ……こんなの言えないよ…///)」


凛「なんでみんな黙るのさ」



みりあ「凛ちゃんってプロデューサーが絡むといつもこうだよね」

一同(言ったッ!さすがみりあちゃん!そこにシビれるあこがれるゥ!)

凛「だ、だって……」

みりあ「あっ、そっか!プロデューサーのことが好きなんだ♪」

凛「な……べ、別に」

 顔を真っ赤にする凛。
 と同時に、自分が話のタネになっているとは思ってもいないプロデューサーが、扉を開ける。
 後ろから着いてくるようにちひろの姿。


346P「すみません、お待たせしました。もう、皆さん揃っているようですね」

346P「もうお話は聞いているかと思いますが、プロジェクト全体での音楽特番の――」

346P「……?どうか、されましたか?」

 プロデューサー登場の、あまりのタイミングの良さに笑いをこらえる者が数名。
 鈍感プロデューサーといえど、さすがに空気がおかしいことに気付いたようだ。
 ちひろは各人の顔色を見て何かを察したのか、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。

未央「う、ううん!どうぞ続けて続けて!」

 プロデューサーはどこか納得のいかない表情でうなじに手をやる。
 が、未央の対応を見るに大きな問題では無いと推測し、本題に入る。

346P「……はい。では、まず資料を――」

ちひろ「はい♪」


――――――


――――――――――


「く……」


「「「961プロ!?」」」


346P「はい。そうです」

346P「この特番はただの音楽番組ではありません」

李衣菜「961プロって言ったら、最近ニュースになった……」

凛「……あの、玲音が関係してるってこと?」

 場の空気が一瞬にして凍る。
 報道されたニュースの規模の大きさから『どの程度のランクのアイドルか』は簡単に想像できる。玲音の存在を詳しく知らない者も元々知っている者も、等しくその表情は険しい。

346P「……はい、その可能性は高いです。ニュース等で皆さんも知っての通り、玲音は『アイドル界を変える』と宣言しました。これはその一環と考えて間違いないでしょう」

莉嘉「でもでも、この紙には普通にライブやって普通にトークするだけーって書いてあるよ!?」

アーニャ「ダー。私にもフツウの番組に、見えます」

 配布された番組の資料を詳しく見直すアイドル達。
 大雑把な進行しか書いていないが、そこにあるのは普遍的な音楽番組と同じ。
 だが、問題は進行にあるのではなく、出演するキャストが別格すぎる所にある。

346P「シンデレラプロジェクトも、数曲ほど全国ネットにのせてテレビで披露出来る形にはなりますが……」

346P「恐らくは彼女のステージも披露されるので、比較される形になってしまいます」

杏「……じゃあ杏達は……ただの引き立て役って事?」

346P「いいえ。そうとは言っていません」

346P「雰囲気に飲まれず、自分たちのステージに集中しましょう。そうすれば、ただの”引き立て役”にはなりません」

未央「そうだよ!逆に玲音を私達の引き立て役にしちゃおうよ!」


みく「そうにゃ!アイドル戦国時代到来にゃ!下剋上にゃ~!」

きらり「うっきゃ~☆きらり達、もっとも~っと有名になっちゃうにぃ☆」

 皆がネガティブになりすぎないように、数名が多少無理に明るくふるまった所で――


みりあ「でも、765プロの、引き抜きされたひとも出るんだよね?」


 場が再び凍る。
 如月千早。星井美希。
 この二人は半年前まで日本で活躍していたので、シンデレラプロジェクトでももちろん皆知っている。別の事務所ではあるが、同世代のアイドルとしては憧れの存在だ。
 この場で最も現実主義のアイドルが、口を開く。


杏「……これ、ムリだよ。もともと、玲音一人対私達全員でも、分からないのにさ」


きらり「そ、そんなこと……ないにぃ…」

 きらりは言葉では否定したが、その声色は周りの者に肯定の意を伝えた。

一同「……」


346P「それでも…」

 プロデューサーが沈黙を破る。


346P「私は、信じています。あなた達の笑顔を」

 
 それは、解けない魔法のあいことば。
 シンデレラプロジェクトのメンバーは、目に光を取り戻し、顔を見合わせる。


美波「……そうね……やれるだけやってみましょう、みんな!」

未央「……うん!笑顔だって、立派な武器だよ!」

卯月「笑顔なら、誰にも負けません!」

凛「あはは、頼もしいよ」



みく「んじゃ、いつものアレ、やっとくにゃ?」

莉嘉「アレって?」

李衣菜「あぁ、アレね、うん、アレかー。まいったな」

蘭子「聖なる旋律を響かせようぞ!」

みりあ「あー!やろーやろー!」

かな子「これをやると、気持ちが引き締まるよね」

きらり「そうだにぃ☆杏ちゃんも、一緒にがんばろうにぃ☆」

杏「気乗りしないけど……プロデューサーの持ってきた仕事だし。ま、仕方ないか」

智絵里「自信、ないけど……でも…一生懸命、やります」

アーニャ「ダー♪そのキモチ、大事デス♪」

凛「さぁ、私達の新しい冒険の始まりだよ!」

卯月「はい!笑顔で、頑張ります!」

未央「じゃあ、頼むよ!みなみんリーダー!」


 全員自然と立ち上がり、真ん中へ向かって円陣を作っていく。
 それは全員の気持ちが一つになっていくのを現しているようで、プロデューサーとちひろは外側からその光景を見て、にっこりと微笑んだ。
 

美波「えぇ!……シンデレラプロジェクトー!」



「「「「 ファイトー! オォー!! 」」」」



 自分たちだから、シンデレラプロジェクトだから、出来ること。
 それを再確認しつつ、アイドル達は決意を固めた。



――――――――――



 いつものスタジオでレッスンする765プロメンバー。
 ライブ前でも無いというのに、その様子は普段のレッスンよりも格段にハードだ。
 律子から休憩を言い渡され、アイドル達は息も切れ切れに座り込む。


響「あ~!あのダンサブルな曲を続けて3曲は、さすがの自分も疲れたぞー…」

やよい「お水とってきますー……」 フラフラ

雪歩「でも、みんなでこうしてレッスンするのも久しぶりかも……」


 定期ライブ前でもなければ、こうやってほぼ全員が集まることも、翌日の仕事に響きそうなほどハードにレッスンすることもない。
 だが、今の765プロアイドル達のスケジュール帳には、そんなレッスンをしても問題が無いほどに、空白があった。


亜美「ねぇねぇりっちゃ~ん……どうして亜美達のお仕事減っちゃったの?」

律子「違うわよ、あえて減らしたのよ」

真美「え?なんで?」

伊織「アンタ達ほんっと人の話聞かないわね。律子が言ってたじゃない。『961プロとの音楽番組に備えるために、レッスンを増やす』って」

響「あぁ、レッスン増やしてわざと仕事を減らしてたのか!自分、てっきりお仕事回ってこなくなっちゃったのかと思ったぞー」

律子「響、あなたも分かってなかったのね…」

亜美「でもでも、そのせいで……あれ!」


 亜美が指差したのはスタジオの隅に置かれた”わるぐちばっかりの本”。
 律子が現状把握のために買ったものだが、表紙や中身には、今回の移籍の件や765プロのテレビの露出が減ったことに関して様々な憶測で固めた、悪質なゴシップがまるで事実のように書き並べられている。
 

律子「『765プロ、崩壊か!?』『活動休止まで秒読み段階』……ね」

律子「ほんと、好き放題書いてくれちゃって、まぁ……」


真「でも、悔しいなー。別に、そのまま同じ量の仕事だって、やればできたのに!」

伊織「はぁー。ほんと、アンタもバカね。いい?今はあの番組に全力で備えるのよ」

真「うん、分かってる。言ってみただけだよ、あとバカって言うな!」


 いつもの雰囲気に見えるが、一人だけ空気が違うアイドルがいる。
 スタジオの端には、休憩時間になってもステップや振付の練習をやめない春香。
 あずさは、目に見えてオーバーワークな彼女に声をかける。

あずさ「……ねぇ、春香ちゃん。ちょっと休んだ方がいいんじゃないかしら~…」

春香「はい、でも、あと少しだけ…」

律子「春香」

 年長組二人からの忠告で、春香はやっとステップを止めた。
 その表情は、曇っている。

春香「……はい。でも、こうしてないと不安なんです」

あずさ「はい。タオル」

春香「ありがとうございます、あずささん」

あずさ「いつもと事情が違うから、気持ちは分かるけど……気合が入りすぎるのも駄目よ?」

春香「分かりました」

 気持ちの整理はまだつかないが、ともかくその場に座り込む春香。
 あずさから貰ったタオルで汗を拭いていると、背後から、貴音が耳元で囁く。


貴音「春香……レッスンが終わったら、”あの場所”へ行きましょう」

春香「貴音さん……」

貴音「そこで、満たされない感情の高ぶりを、共に静めましょう」

 にやり……と銀髪の女王は口角を上げる。
 その声は、どこまでも艶めかしく、堕落へと誘う様だった。
 春香はゆっくりと貴音の方へ振り返り、答える。




春香「……えっと、例のラーメン屋さんなら、ちょっと……」

貴音「」

春香「あと、ミステリアスにご飯誘うのやめてください!」

貴音「面妖な…」

 貴音はがっくりと肩を落とす。
 だが、その表情を見る限り、本気で落胆しているわけではなさそうだ。
 貴音流の”じょーく”だったのかもしれない。


響「め、面妖なのは貴音だぞ!あのラーメン屋に誰も一緒に来てくれなくなったからって、えっちな感じの誘い方をするのはやめるさー!」

貴音「しかし、先日、響にこれをやったら成功いたしましたが」

響「あぁああれは、違うぞ!べ、別にき期待してたわけじゃ」

貴音「期待?」

響「うぎゃー!」

雪歩「……」 ドキドキ

真(雪歩もひっかかりそうだなー……)

春香「そもそも、なんでこんな誘い方を!?」

貴音「小鳥嬢から教わりました」

響「ぴよ子恨むぞ!」

春香「あはは…」


 いつもの楽しげな空気に戻る765プロ。
 すでに961プロからのオファーにも答え、いつも以上のレッスンで、挑戦状への備えは抜かりなし。
 一方、961プロの様子は……



―――

――――――


――――――――――




 ごろん!

 床に大の字で寝転ぶアイドルがひとり。


??「はぁ……はぁ…きっつ~……はぁ」

千早「さぁ、立って。まだレッスンは終わりじゃないわ」



 それを見て、にこっと笑うアイドルがひとり。

??「アイドルって、こんなに激しく踊るんだね……♪」

美希「短期間で詰め込むのはタイヘンだけど、ミキもガンバって教えるから、ガンバるの」



 静かに水を飲むアイドルがひとり。

??「……ふぅ……こういうの、慣れてるから」

玲音「あぁ。アタシはそんなキミだから選んだんだ」



玲音「アタシ達の見つけた原石が、どこまで輝くか楽しみだよ―――『Mars』 !」



ttp://i.imgur.com/dwdvmgO.jpg




 その二『準備』 終

今回はここまでです。
最後に出てきたユニットの子達は、アニマスにもデレアニにも出てこない子です。
正体が分からない方はオリジナルキャラととらえて問題ないです。
あと、モバマスはそんなにやっていないので、キャラをありえない崩し方にしてしまっていたらすみません。

一応画像修正版っす・・・なんか変な枠線が入ってましたんで・・・
ttp://i.imgur.com/MlC1tKS.jpg

続きできました
最後の校閲が終わり次第、投下します

――――――――――


 その三『邂逅』


「……声、聴きたいなぁ……」

 ラジオ番組の収録を終え、休憩スペースのベンチに一人腰掛ける春香。
 手に持った携帯電話の画面を見る。
 『如月 千早』
 何度掛けても、やはり繋がらない。


「どうしてなんだろう……」

 春香は、テレビで見たあの会見を思い出す。
 それは既に数週間前の記憶だが、今も鮮明に思い出せる。 


―――――


『今回の移籍の理由をお聞かせいただけますか?』

『……これが、私に……私達に必要なことだからです』

『ミキと千早さんは961プロでやらなきゃいけないことがあるの』


―――――




 きっと、あの”玲音”というアイドルが関係しているだろうというのは簡単に予想がつく。
 一体、アメリカで何があったというのだろうか。
 それは、765プロではできないことなのだろうか。
 まさか、こんな形で離れ離れになるなんて――



 ぽろ……




 


「あ、春香ちゃん」
「っ!……雪歩、真」
 同じ建物内のスタジオで同じくラジオ収録を終えた雪歩と真に鉢合わせる。

「お疲れさま、春香!……あれ?泣いて」
「う、ううん。ちょっと眠くて、あくびしちゃって」
「……そうなんだ……うん、私も、レッスン続きで疲れちゃったかも」
「そうだね……。大変だけど、頑張ろう!この後のレッスン、春香も行くんだよね?」
「うん」
「じゃあ、一緒にいこうよ。ちょうどボク達も終わった所だし」
「いいよ、……っ」
 と、立ち上がって歩き出そうとした春香の手を、雪歩が握る。


「千早ちゃんと美希ちゃんを、信じよう」
「……うん」
 雪歩の強いまなざしに勇気をもらう春香。 
 真は、何も言わずにふたりを見守っていた。


「ありがと、雪歩」
「ううん。明日、頑張ろうね」



 それは、961プロの番組収録前夜の出来事であった。



――――――――――



 収録日当日。
 指定された局に集まる346プロのアイドル達。
 自分達の楽屋に向かう途中、765プロの面々が彼女らの楽屋へ入っていくのを目撃する。


未央「あ、あれ、765プロじゃない!?」

みく「うそ!……ほ、ほんとにゃあ!」

かな子「あ、あれが765プロ……」

蘭子「二つの蝶を纏う者よ…!」

きらり「うきゃー☆なんか、芸能人って感じだにぃ☆」

李衣菜「いちおう、私達も芸能人なんだけど…」

346P「どうやら、765プロの方々も番組に出演されるようですね」

凛「……出演者って、普通は事前に知らされるものだけど、今回は何も分からなかったんだよね」

346P「はい。ですが、765プロの方々が出演されるのは――」

李衣菜「想定の範囲内、ですよね」

杏「ま、私達が呼ばれて765プロが呼ばれない理由も無さそうだしね」

李衣菜「プロデューサー、私、765プロについてはかなり勉強してきたんですよ!」

346P「……そうですか」

李衣菜「はい!頼っていいですよ!」

アーニャ「ダー♪頼もしいデス♪」

みく(昨日、うちでライブBD一本見ただけってのはツッコまないでおいてあげるにゃあ…)

 前の方を歩いているアイドルが、346プロ用の控え室を見つける。

智絵里「あ、ここ、わたし達の楽屋みたいです」

卯月「プロデューサーさーん、こっちですよー」


 


 遅れて楽屋へ入るプロデューサーと残りのアイドル達。

蘭子「いざ、約束の地へ!」

みりあ「わー!ひろーい!」

莉嘉「あ!お菓子もあるよ☆」

かな子「わぁ、本当だ~!」 モグモグ

智絵里(は、はやい…)

未央「ひぇー、ほんとに広いね~」

美波「なんだか、50人は入れそうよ」

杏「お、タタミにざぶとん……いいね」

智絵里「こっちに、お茶のセットもあるみたいだよ」

きらり「テレビもあるにぃ☆」

346P「では、時間までここで待機しておいてください」

美波「プロデューサーさんはどこへ?」

346P「私は番組の細かな打ち合わせを行ってきます」

莉嘉「いってらっしゃーい☆」

みりあ「プロデューサー、がんばってね!」

346P「はい。では……」

 楽屋を出て打ち合わせの場所へ向かうプロデューサー。
 このまま、楽しげな雰囲気のまま収録を迎えることが出来れば良いが。
 ……961プロダクションには、黒い噂がたくさんある。



――――

――――――

 楽屋に残されたアイドル達。

凛「収録開始までは結構時間があるね」

未央「今のうちに、765プロさんに挨拶いっとく?」

卯月「それ、いいかもしれません!」

莉嘉「そうと決まれば、れっつゴーゴー☆」

美波「向こうが先輩アイドルだから、皆、ちゃんとしないと……」


 と、美波が楽屋の扉を開けて外に出ると、通路を歩いていた一人の女性と目が逢った。

??「……」

美波「あ、あなたは」

みく「どうしたにゃ?――って」


 後ろから顔をのぞかせるみく。
 一瞬で表情が驚愕に変わる。


みく「れ、玲音、さん!……にゃ!」

一同「玲音!?」


 そこには、太陽のような橙色のウェーブを後頭部で束ねた、すらりとした長身の女性が立っていた。その様相はある種、日常からはかけ離れた美しさを演出しており、恐ろしい程に”オーラ”がある。
 まさに、伝説の『オーバーランク』、その人である。


玲音「やぁ!キミ達は……346プロ、だね」

未央「は、はい!今日はよろしくお願いします!」

一同「よろしくお願いします!」

玲音「あぁよろしく。……ところで――」


 メンバーに一通り目を通して、困り眉をする玲音。

 



玲音「――今日出演するのは、まさか……キミ達なのかい?」


美波「はい」

玲音「……まいったな。てっきり、高垣楓たちが来ると思ってたんだけど」

智絵里「え……」

玲音「アタシの記憶する346プロは、彼女抜きではどうも……いまいちパッとしない印象でね」

凛「……」

玲音「まぁでも、代わりにキミ達が来たってのなら――」

凛「”代わり”じゃない」

卯月「り、凛ちゃん!」

凛「私たちは、”私たち”としてここへやってきた」

玲音「……ふむ。我が強そうな子だ。嫌いじゃない」

玲音「それだけ、パフォーマンスに自信があるというワケだ」

凛「それもだけど……一番は”これ”かな」

 凛は”卯月”を玲音との間に、盾のようにして立たせる。
 『気をつけ』の状態で泣きそうになっている様子は、なんとも可愛らしい。


玲音「……?この子がどうかしたのかい?」

卯月「ひゃあ……」 ガクガク

凛「ほら卯月。私たちの魅力は?」

卯月「え、えがお……です」

 涙目で、不器用ながらも口角を上げて笑う。

玲音「……」

卯月「ひ、ひぃ……」 ブルブル
 



 ぐに。
 玲音が卯月のほっぺたをつねる。


卯月「いひぁ」 

玲音「……」


玲音「アーッハッハッハ!これが、キミ達の魅力か!面白い!」


 玲音は大笑いしたかと思うと、踵を返して通路を歩き出した。

玲音「あとは、ステージでアタシをがっかりさせないでよ。じゃあね」


 玲音の姿が見えなくなるまで、アイドル達は一歩たりともその場を動けなかった。

一同「はぁ~、怖かった…」

みく「凛チャン、卯月チャンよく言い返したにゃあ…」

卯月「こ、こわか……凛ちゃん!なんであんなことをー!」

凛「いや、手っ取り早く私たちを知ってもらうには、あれが一番早いかなと思って」

未央「いやー、さすがしぶりん。発想が斜め上ですなー」

李衣菜「でも、玲音ってあんな……」

みりあ「か、かっこよかった……」

莉嘉「カリスマって感じ!?」

蘭子「異次元より降臨し橙色(トウショク)の魔王……」

アーニャ「トップアイドルの、オーラ、ありましたネ」

智絵里「ああいう大人の人、憧れちゃう、かも」

かな子「そうだねぇ」 モグ

 



きらり「杏ちゃんは、どうだった?」

杏「ん~……なんかあの人、ケバくない?」


 どっ。
 杏がひと笑い取って雰囲気が落ち着いた所で、美波が口を開く。

美波「……そういえば、みんなはちゃんと把握してるかしら」

美波「なぜ、先輩である楓さんや川島さん達じゃなく、私たちが選ばれたのか」

未央「はい!」

 元気よく手をあげる未央。

美波「はい、未央ちゃん」

未央「美嘉ねぇ達はあくまでソロの集まりだけど、私たちはチームだから!」

美波「その通り。プロデューサーも言っていたけれど、今回は団結力が要なの」

美波「大丈夫だと思うけど、ケンカなんかしないように、気をつけてね」

一同「はーい!」

 と、元気よく返事をした所で、玲音の消えて行った方の通路からプロデューサーが現れる。

 
346P「打ち合わせが終わりました」

凛「……どうだった?」

346P「以前貰っていた資料と、ほとんど内容は変わりません。しかし……」

未央「しかし?」


346P「……シンデレラプロジェクトを、3つに分けなければなりません」


――――――



――――――――――


「収録スタジオが3つもあるの!?」


 伊織の甲高い声が765プロの楽屋に響く。


律子「えぇ、そうみたい。同時に収録するそうだから、人数の都合でメンバーも3分割しなきゃいけないみたいよ」

律子「MCがそれぞれ美希、千早、玲音……という風に分かれているみたいだけど」

亜美「つまり、ミキミキステージ!千早お姉ちゃんステージ!レオレオステージ!」

真美「戦力を3分割!……なんかゲームみたいだねぃ」

律子「えぇ。表現はアレだけど……その通りよ」

真(レオレオにはツッコまないんだ……)

春香「じゃあ、私……」

律子「あ。春香は、玲音から直でご指名みたいよ」

春香「ふぇえ!な、なんで!?」

律子「よくは分からないけど、玲音はあなたに注目してるみたい」

律子「他は特に指定はなかったわ。誰の収録スタジオに行きたいか、希望ある?」



 すっ、と手が二つあがる。


伊織「……なら、美希の所には私が行くわ」


貴音「では、千早の所にお願いします」


律子「……分かったわ。他に、希望のある人は――」

―――


―――――

――――――――


律子「……ふぅ」


 テーブルの上には一枚の紙。
 それぞれのスタジオに誰が向かうか、その組み合わせの議論が終わったようだ。


『美希――伊織 亜美 あずさ』


伊織「やっぱり、こういう勝負時には竜宮になっちゃうわね」

亜美「んっふっふ~、ミキミキMCをイジリ倒すぞー!」

あずさ「なんだか、不思議な感じね~♪」

伊織「あんたら、少しは緊張感ってものを持ちなさいよ……」



『千早――響 やよい 真美 貴音』


響「自分たちのユニットと、貴音の組み合わせだぞ」

貴音「響たちはユニットになりますが、わたくしはソロでステージに立つことになりますね」

やよい「はいっ!貴音さん、おうえんしてますね!」

真美「やよいっち~……真美たちも出番、あるんだよ~?」

やよい「はわっ!そうでした!」

響(やよい可愛いぞ…)

 



『玲音――春香 真 雪歩』


春香「うぅ~、なんで、玲音って人が私なんかに……」

真「どこかで会ったことあるの?」

春香「そんなのないよ~」

雪歩「春香ちゃんの評判、アメリカまで届いてたのかも」

春香「そんなこと……ないですよね?律子さん」

律子「さぁ……無いとは、言い切れないわ。メディアの拡散は私もすべて把握しているわけじゃないから」

律子「それに玲音も、元々日本で活動していたし……アメリカに行った後も日本のアイドル事情をチェックしてたんじゃないかしら」

真「それで、日本で目立ってた春香がターゲットに?」

亜美「おうおうー、うちのおらんあいだにいきがってんなやー」

真美「ちょづいてんじゃねーぞーはるるんよぉー」

春香「その言い方やめてよー!」

雪歩「でも、好都合だよ、春香ちゃん」

春香「え?」

真「あぁ、そうだね」

 雪歩と真は顔を合わせ、うなづきあう。


雪歩真「「玲音(さん)から、アメリカで何があったか直接聞き出せる」」


――――――


――――――――――


346P「では、これでいきましょう」


346P「第一スタジオ、キャンディーアイランドとアスタリスクの皆さん」


「はい!」「はい!」「ふぁー…」「にゃあ!」「ロックンロール!」


346P「第二スタジオ、デコレーションとローゼンバークエンゲルの皆さん」


「はーい☆」「にょわー☆」「はーい♪」「ハイ……」


346P「最後に、第三スタジオ、ニュージェネレーションズとラブライカの皆さん」


「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」「ダー!」

未央(なんかうちらだけフツウだ……)


346P「この流れですと全体曲を披露することはできませんが――」

346P「あくまで、それぞれが連帯感を持って望みましょう」

一同「はいっ!」



――――――――――


第一スタジオ・美希
伊織 亜美 あずさ
杏 智絵里 かな子 みく 李衣菜


第二スタジオ・千早
響 やよい 真美 貴音
莉嘉 きらり みりあ 蘭子


第三スタジオ・玲音
春香 真 雪歩
未央 卯月 凛 美波 アーニャ


――――――――――



 その三『邂逅』 終

ここまで。
明らかに誰が喋っているか分かるシーンでは、
その時の雰囲気で唐突に台本形式をやめる場合があります
読みづらいかと思いますが他にうまいやり方が分からないのでゆるしてください

すみません、訂正です
>>53
凛「収録開始までは結構時間があるね」

凛「プロデューサー、なかなか戻ってこないね」

校閲が終わったら投下します。

イメージ画像
ttp://i.imgur.com/6tjVogD.png



 その四『意志 前編』


「本番5秒前でーす!……4、3、」


 番組ディレクターの声がスタジオに響く。
 ここは、第一スタジオ。
 音楽番組やバラエティ番組によくあるような、一般からの観客は入っておらず、スタジオに見えるのは961プロのアイドルただ一人。
 ディレクターの無言のカウントが残りの2秒を数え、キューが出される。


美希「テレビの前のみんな~、こんばんはなのー」

美希「今夜は、961プロダクションによる、特別番組をお送りするの!」

美希「タイトルコールいくよ~……『961プロnight!』」

美希「名前の通り、黒ーい夜にしちゃうの」

美希「この番組は3部編成になってて、それぞれにMCとゲストが登場するから、楽しみにしててね♪」

美希「じゃあ早速、ここ第一スタジオに来てくれるゲストを紹介するの!」

美希「まずは765プロから~竜宮小町!」

 カメラに向かって手をひらひらさせながら入場するあずさ。
 亜美はてへペロ、伊織は営業スマイル。

美希「続いて、346プロからCANDY ISLANDとアスタリスク~!」

 3人でお辞儀をするキャンディーアイランドと、2人で独特のポーズを作るアスタリスク。
 少し駆け足でスタジオに入り、ひな壇に座る。

美希「以上なの!」

美希「えーっと、デコちゃんたちはともかく、346プロの子たちははじめましてなの!」

CI*「は、はじめまし」

伊織「すとーっぷ!!」


伊織「”ともかく”って何よ! っていうかデコちゃんって言うな!」

美希「むぅ」

伊織「むぅ。じゃないわよ! 勝手に移籍しといて!」

美希「あーっ、それNGワードなの」

亜美「え?」

美希「”移籍”とか、そーいう”暗~い”感じの話は全部カットされちゃうんだって」

伊織「なっ!」

亜美「さすが961プロだねぃ……黒すぎるYO!」

あずさ「あらあら~。でも、美希ちゃんひさしぶりね~♪」

美希「あずさ、お久しぶりなの! ……だから、別に事務所が違っても仲良くやった方がいいって思うな」

亜美「うーん、なんかフクザツだよ~」

杏みく(見てるこっちの方がフクザツだよ(にゃあ)……)

伊織「……分かったわよ。ま、プロらしく番組を進行しようじゃないの」

美希「うんうん、デコちゃんはハナシがわかってるの♪」

伊織「だからデコちゃんって言うな! ……編集点作りなさいよ」

美希「はいなの♪」


 美希はカメラマンと番組ディレクターに目配せした後、口を開く。

美希「『えーっと、デコちゃんたちはともかく、346プロの子たちははじめましてなの!』」

CI*「はい! はじめまし」

伊織「『すとーっぷ!!』」

みく「えっ」


伊織「『”ともかく”って何よ! っていうかデコちゃんって言うな!』」

智絵里(あ、ここの流れやるんだ……)

美希「『むぅ』」

伊織「『むぅ、じゃないわよ!』 ちゃんと私たちも紹介しなさいよ!」

美希「もー、デコちゃんもさみしがりやなの♪」

伊織「むきーーっ!」

かな子(プロだ……!)
李衣菜(めっちゃテレビ慣れしてる……!)
みく(台本があるみたいだにゃあ……!)

亜美「んっふっふ~、ミキミキもいおりんも、いきなり飛ばし過ぎっしょ→」

 二人がテンプレ通りのケンカをしている間に、ひな壇でトークが弾む。

あずさ「あ、そういえば……私たち”はじめまして”ね♪」

智絵里「は、はい」

かな子「キャンディーアイランドです! よろしくお願いします!」

あずさ「はい、こちらこそ~♪ 竜宮小町です~」

みく「こっちはアスタリスクですにゃあ!」

李衣菜「よろしくお願いします!」

あずさ「えぇ、よろしくね♪」

美希「あーっ! あずさ、美希のお仕事とっちゃだめなのー!」



――――

――――――


美希「トークも弾んだところで、曲に移るの!」

伊織「はぁ、はぁ、もうアンタたち、私にツッコませないでよね……」

みく「いやぁ……あのツッコミはみくも見習いたいところにゃあ……」

亜美「『なんでアンタ収録中にお菓子食べてんのよ!』はキレッキレだったよ~いおりん」

かな子「うっ……」

智絵里「あ、あずささんの運命の人の話は私も共感しちゃった……」

あずさ「あら~」

美希「……曲にいくの! 順番は、えーと」

 と、ここでカンペを見る。

美希「CANDY ISLAND、アスタリスク、竜宮小町、ミキの順番なの!」

美希「じゃあまずはキャンディーアイランドの3人、準備よろしくね~」

――――

――――――


≪千早 響 やよい 真美 貴音 莉嘉 きらり みりあ 蘭子≫


 一方、第二スタジオ。
 第一スタジオと同じようにトークは無事終了し、ライブパートへ移行しようとしていた。
 初顔合わせが多い中での千早の司会だったが、雰囲気はなかなか良好だったようである。


千早「トークパートはここまでです」

みりあ「なんか、おもってたより千早さん、やわらかいひとだね♪」

千早「そ、そうかしら……ありがとう」

きらり「と~っても、楽しかったにぃ☆」

蘭子「終焉なれど、光と共にあれ!」

千早「……えぇ、とても楽しい時間でした。では、曲に移りましょう」

千早「順番は……私が最初みたいです。早速、用意しますね」


 先ほどまでトークしていた場所であるひな壇と司会の席の目の前にはライブ用のステージが設置されており、千早は一人、そのステージ上へと歩いて向かう。
 既にマイクはスタンドにセット済み。
 スタンバイが完了すれば何時でも始められる状態にある。


 千早は、ステージ上のセンターへ辿り着くと――


 ――向かい側に座る”響・やよい・真美・貴音”の姿を見ながら――


 マイクを、そっと握る。


千早(……みんな、ごめんなさい。今は、この歌を……)


 刹那、変わる千早の目の色。



『――――”細氷”』




真美(し、新曲……!?)

響(聞いたことない曲名だぞ……!)


 曲名をマイクにのせると、急激に下がった千早の声色の温度が周りの人間に伝わり、場の雰囲気が一変する。
 そして始まるイントロ。
 壮大さを感じさせる重厚なストリングスと共に、悲しくメロディが響く。
 千早というアイドル、人間。感情の吐露。音の波。
 ――それを正面から受け止めるアイドル達。


みりあ「――なんだか、千早さん……辛そう」

莉嘉「すごい……アイドルって、ここまで……」


 千早の歌に飲まれ、感情豊かな莉嘉がぽろぽろと涙をこぼす。
 その様子を横目に見た貴音は、眉間にしわを寄せながら口を開いた。


貴音「……しかし、千早のこの歌。――おそらく、未完成でしょう」

きらり「こ、これで……未完成、にぃ?」

貴音「えぇ」

響「き、聴いてるだけで、気持ちがすべて持っていかれそうになるほどなのに……!?」

貴音「……」


 貴音は、緩慢な動作で頷いた。
 その横で何かを感じ取った蘭子が、千早の歌に飲まれそうになりながら、声を漏らす。


蘭子「魂の共鳴は全ての者を魅了し、底無し沼へ誘う……」

貴音「その通り……これではまるで、”ハーメルンの笛吹”です」



 『ハーメルンの笛吹』。
 それは、笛の音を聴く者すべてを連れ去ってしまうおとぎ話。
 まさに、それは今、千早の歌っている『細氷』そのものであった。


真美「……千早お姉ちゃん、もう別次元だよ~……」

やよい「千早さん……」


――――

――――――


千早『ありがとうございました』


 冷たい表情のまま、千早は頭を下げる。
 直後に収録現場の番組スタッフ達による賞賛の拍手。中には泣いている者もいる。
 彼らとは対照的に呆然とするアイドル達を目にしながら、千早はゆっくりとステージから降り、彼女達の元へと近寄る。
 その途中。

 感情を抑えきれなくなったやよいが、涙を浮かべながら、千早の元へ駆け寄る。


やよい「う~……」

やよい「千早さん、お願いですから……765プロに帰ってきてください……!」

 
 このような話題は”NG”であると、最初に説明はされた。
 しかし、今のやよいにそんな事情は関係無い。
 千早という存在が遠いものになってしまっている現状――その現実が、『細氷』という歌によって彼女の心に深く刺さってしまったのだ。


 やよいの言葉を受け止めた千早。
 だが、千早の表情は尚も冷たいままに――彼女を突き放す。

 



千早「高槻さん。残念だけれど……そのお願いは聞けないわ」


千早「今の私が聴けるのは、『全力の歌』……ただそれだけ」


千早「さぁ、聴かせて……」


 その声色は、場のアイドル達を凍りつかせた。
 存在感が――あまりにも現実離れしている。
 皆の目に移る千早の姿は、一体どんな姿であっただろうか。


貴音(……あの歌は……千早自身をも……)


千早「次は、デコレーション――貴女達の番よ」


 今の彼女は、独りの、961プロのアイドルであった。


 ……番組の収録は続く。


――――

――――――



≪美希 伊織 あずさ 亜美 杏 智絵里 かな子 みく 李衣菜≫

 第一スタジオ。
 収録は順調に進み、美希の出番の直前となっていた。


美希「みんな、なかなかいい感じだったの!」

美希「アスタリスクの曲もノリノリでカッコよかったし、キャンディーアイランドも頑張ってるって思うな」

346アイドル「ありがとうございます!」

美希「もちろん竜宮小町も、ミキが今までに見たことないくらい、すごかったの!」

伊織「はいはい、ありがとね」

美希「最後、ミキの番だね。いってくるの」


 ステージに上がろうとする美希を見ながら、伊織はある事を思い出していた。


 それは、美希と千早の移籍会見の日の出来事――



――――――――――


「ふー、これで今日の仕事は終わりかしら」
「うん、そうだよ伊織ちゃん」

 ロケが終了し、一息つく伊織とやよい。
 偶然にもロケ地から事務所は近くだったので、スタッフへの挨拶を済ませた後はそのまま歩いて戻ろうとしていた。
 その矢先、伊織の携帯に着信が入る。
 画面に表示される着信相手の名前は――
 
 ――――『星井 美希』。

 


「はい」
『もしもし……デコちゃん?』
「だぁれがデコちゃんよ!」
『ミキなの』
「言われなくても分かるわよ! ……電話してきたってことは日本にはもう着いたみたいね。今、どこ? 空港?」
『あのね……ミキ、961プロにいっちゃうね』
「……はあ?」
『移籍するの』
「冗談もたいがいに――」
『冗談じゃないよ』
「……どういうことか、説明しなさいよ」

『なら……○○ビルの前で、待ち合わせなの。あまり時間がないから、早く来てね』
「ちょっ」

 プツ。
 電話の切れた携帯をすぐさまカバンにしまい、伊織は急いで移動手段を探す。


「伊織ちゃん、どうしたの!」
「タクシーを探すわよ!」
「……わかった!」

――
――――

「はーっ、はーっ」
「……はやかったね」

 ビルの前で佇む美希。
 2人にとっては半年ぶりに見る顔だが、少し、悲しげな表情をしている。

「み、美希さん……」

 事態を把握しないままについてきたやよい。
 しかし、これまでの伊織の必死な様子と待ち合わせた先の美希の砂を噛むような顔を見て、”おかえりなさい”を言う空気ではないと自ずから察した。


「やよい、ちょっと席を外してて欲しいの。伊織と、二人にさせて欲しいな」
「……わかりました。じじょうはわかりませんけど、遠くでまってます」

 やよいが声の届かない距離まで遠ざかったのを確認すると、美希は伊織の目を正面から見据えた。伊織は美希の然とした態度に若干ひるみながらも、説明を要求する。


「で、なんなのよ」

「……デコちゃんは、ミキのこと、何だと思ってる? どんな関係?」

「そりゃあ……事務所の仲間?」

「うん。ジムショの仲間。それでいいってミキも思う」

「……」

 伊織は何も返せない。
 美希の考えていることが、まったく分からないのだ。


「でもね。ミキたちは……それだけじゃ、ないよね?」


 美希は眉をハの字にさせ、懇願するような表情で言い放つ。



「ねぇ、デコちゃん。ミキね、ホンキでぶつかりたいの……」


「……もしデコちゃんが、ミキの事をまだライバルだと思ってくれているなら――」


「ライバルとして、ステージに立ちたいの!」



 それを正面から受け止めた伊織は、正直な所、困惑していた。
 『これが、961プロへ移籍する理由』?
 伊織のイメージする美希は、あんなことは到底言いそうには無い。
 しかし、現実として、目の前にいる美希は――本気の目をしている。
 

「……いい度胸じゃない」

 そう言い返すのが精一杯だった。
 美希の瞳から感じる強い意志が、そうさせていた。
 伊織は電話を受けた時からこの場所へ来るまでの間、『引き止めよう』とか『ふざけた理由ならぶん殴ってやる』とかそういうことばかり考えていた。
 しかし、その理由を聞いてしまった今。
 ――美希を引き止めることが出来なくなっていた。


「……あんた、春香がライバルなんじゃなかったの?」

「春香はハニーのいないトコで争っても仕方ないの。そもそも、”アイドル”として争うなら……伊織しかいないって思うな」

「言ってくれるじゃないの……!」

「じゃあ、今からカイケンだから……ばいばい」


 美希は、待ち合わせの目印であった背後のビルの中へ入っていく。
 それが、”仲間”だった最後の記憶。
 美希がいなくなったのに気づいたやよいが駆け付けるまで、伊織はその場から動くことは無かった。


――――――――――


 
『――――”Nostalgia”』


 
 その声で、伊織は現実に引き戻された。
 美希のステージが、始まる。
 
――
――――

 力強いサウンド。強い意志を感じるリリック。見ただけで高難度と分かるダンス。

 『これが、星井美希だ』

 そう言わんばかりに、彼女の歌とダンスは見る者すべてを惹きつける。

 今まで披露されたアイドルたちとは――まさしく、”格”が違った。


李衣菜「うっ……わ、ぁ…」

みく「これが……トップアイドルクラスの実力……にゃあ!?」

かな子「すごい……」



智絵里「言葉に、できません……」

杏「……気合が違いすぎるよ」

亜美「これ新曲だよね……こんなすごいの、ミキミキ、いつの間に」

あずさ「私も、聴いたこと、ないわね~……」


伊織(これが……今の、あんた……なのね)


 それは”仲間だった”765プロメンバーである竜宮小町すら驚かせる程のパフォーマンス。


 自分たちとは、”文字通り””ランクが違う”――


 ”一つ上の領域”に美希がいるということを、目と耳で思い知らされた。



   『あの時から心に芽生えた 誰にも負けない思いを』



――――――――――――――――――――

  「Nostalgia」  【名詞】【不可算名詞】

1 過去を懐かしむ心,懐旧の念,ノスタルジア.

2 故郷[故国]を思う心,郷愁,ホームシック.

            (研究社 新英和中辞典)

――――――――――――――――――――





 その四『意志 前編』 終


 

ここまで。

校閲が終わったら次投下します。


それから、どうしても自分のイメージを伝えたかったので、ssの一部を動画にしました。
>>71-73 の細氷のシーン
>>76-79 の伊織の回想からNostalgiaのシーンです。

――――――――――


 その五『意志 後編』


≪玲音 春香 真 雪歩 未央 卯月 凛 美波 アーニャ≫


 時を同じくして、第三スタジオ。
 この事態を引き起こしたと言われるオーバーランクアイドルのまとめる現場は、一体どのようになっているのだろうか。


「すっ……」


春香「……ごく楽しかったです!!」

玲音「あはは、それは良かった。アタシ、あまりバラエティは得意じゃないから、うまくトークが出来るか心配だったんだ」

雪歩「そ、そんな、玲音さん、とっても話しやすかったですぅ」

真「『アクセルレーション』カッコよかったです!」

玲音「菊地、キミのダンスも凄かったよ。あれならもっと高い場所を目指せそうだ」

卯月「……どうしてこんなに凄い人を知らなかったんでしょう?」

玲音「アタシが日本にいたのは何年も前だからね」

未央「うーん、我々もまだまだベンキョウブソクですなぁ」

アーニャ「なんだか、恐い感じかと思ってマシタ」

美波「私も映像でしか拝見したことが無かったので……」

玲音「ま、今日はキミたちの事が色々知れて、アタシも楽しかったよ」

凛「……」

 玲音は凛に耳打ちするように声をかける。

玲音「……パフォーマンスも、想像以上に良いものだったしね♪」


凛「言ったでしょ」

 満更でもない渋谷凛。

 最初は不穏な空気を纏っていた765プロと346プロの面々だったが、玲音のくだけた人格に懐柔され、賑やかな雰囲気のままトークパート・ライブパートと収録を終えることが出来ていた。
 『秘密を暴く』と息巻いていた真や雪歩も、もはやそれを忘れているようだ。

玲音「そうだ。番組の最後に告知があるよ」

 玲音がそう言ってスタッフに合図をすると、後ろのモニターに、黒い影が映る。
 それは、765プロのメンバーにとっては見慣れた人物であった。


春香真雪歩「黒井社長!」


――――


黒井『ウィ。テレビの前の皆様、御機嫌よう。961プロダクション社長の黒井だ』


黒井『今日は、特別な告知があるぞ』


黒井『1ヵ月後の8月○日、961プロと765プロ、そして346プロを含めた大型フェスの開催が決定した!』


黒井『このフェスでは観客による投票を行い、勝者を決める。その為のフェスだ』


 ザワつくアイドルたち。この第三スタジオで見守っていたプロデューサー二人も、同じく驚いた顔をしている。
 『そんな話、聞いていない』という顔だ。
 騒ぐ外野をよそに、黒井の告知は続く。


黒井『そして、そのフェスに見合わせ、我が961プロから新ユニットを発表させてもらう!』

黒井『その名も、”Mars”!』



 モニターが暗転し次に映し出したのは、ステージに並ぶ3つの影。


 左方、ミステリアス。
 すらりと伸びた手足にステージ映えのする長い髪。怪しげな雰囲気を纏う、余裕のあるノーブルな顔つき。

 右方、キュート。
 身長などの風体から察される低めの年齢。それとは裏腹に、凛々しい表情から発される並々ならぬ威圧感・存在感。

 中央、パンク。
 顔に半分かかった赤髪は、退廃的な印象。そして何より見た目に分かりやすい、肩から下げているレスポールタイプの黄色いギター。まさにロック・スタイル。



 この映像は第三スタジオのみではなく他のスタジオのモニターでも流れており、このユニットについて様々な反応が見られる。

――第一スタジオ――

伊織「何よ新ユニットって!」
かな子「ま、マーズ……?」
亜美「な~んか、昔のジュピターとも違う感じだねぃ」
李衣菜「すごいロックな子がいる!」
智絵里「な、夏樹さんみたい……かっこいい、です……」
みく「右の小さな子、あのオーラは一体なんだにゃ……?」


――第二スタジオ――

みりあ「あのひと、すごくスタイルいいね♪」
響「まだ何も言えないけど、すごく”雰囲気”があるぞ」
貴音「……底知れぬ”なにか”を感じます」
きらり「うっきゃー☆ あの小さい子、かわいいにぃ☆」


――第三スタジオ――

春香「あの子、どこかで見覚えが……」
美波「す、周防桃子じゃないかしら!?」
雪歩「え……えぇ!」
未央「周防桃子って……あの!?」
真「えぇ、2年くらい前まで時代劇や映画にひっぱりだこだった、あの周防桃子!?」
春香「なんで961プロに……しかも、アイドル!?」

――――――――――


 カメラの向こう側、どこかのスタジオ。
 ステージ上の3人のイヤーモニターに声が届く。


『3流アイドル共を黙らせろ、Mars』


??(いくぜ……)


 スゥ、と息を吸い込み――



『……オーバーマスター』



 最初の一音は、まるで稲妻が落ちた様だった。
 ハードなギターリフを易々と弾きこなすセンターボーカル。
 その両翼を埋める二人の常人離れした歌唱力とダンスの表現力。
 それは、モニターの向こうで見ているアイドルに、「彼女たちは只者ではない」と知らしめた。




――
――――
――――――


??「……ふぅ。今披露したのは、知ってのとおり……あたしらの曲じゃない」

??「765プロさんから曲をお借りしただけ、だよね♪」

??「1ヵ月後の本番は、オリジナルでいくから……期待してなさい!」


――――――――――


黒井『Marsのお披露目も終わった所で最後の告知だ』


黒井『来月のフェスに先駆け、二週間後の○日にエキシビションマッチを開催する』


黒井『エキシビションマッチとは、いわばフェスの予行演習』


黒井『各プロダクションから1ユニットづつ出す形式で、実際に観客も入れる。どのように勝敗を決するのか、そのテストの意味も兼ねているつもりだ』


黒井『なお、エキシビションの入場料は無料とするので、テレビをご覧の皆様も奮ってご参加願いたい』


黒井『では、アディオス!』


 黒井社長の映像が暗転すると同時に、番組ディレクターから収録終了の合図。
 ここまでに取れた分の尺で編集する、と言っている。


――――
――――――



「なによあれは!!」


 収録を見守っていた律子が吼えた。


律子「ディレクター! 黒井社長はどこよ!」

番組D「い、いえ、自分も場所までは……」

346P「……」

律子「346プロの! あなたもプロデューサーなら、この状況を――」

346P「秋月プロデューサー。落ち着いてください」

律子「あんな告知、放送できるもんですか! こっちの……」

346P「これは、むしろチャンスなのではありませんか?」

律子「チャン……ス?」

346P「はい。玲音というビッグネーム。今回はそれに挑む形になるでしょう」

346P「もし仮に、フェスで負けてしまったとしても、こちらとして痛手はそれほどありません」

346P「なぜなら、相手が格上だからです。それはそれで一つの納得の形になります」

346P「ならば、これは良いアピールの場に成り得るのではないでしょうか」

律子「そういう見方もできるけれど……ちょっと、ウチの社長に連絡してみます」

 高木社長に電話を掛ける。

律子「あ、高木社長、すみません。実は……」

―――――
――――
――

律子「はい、では……」 ピッ

律子「……ウチの社長もゴーサイン出しちゃった……」

346P「……」


――――――――――

 直後のスタジオ内。
 フロアーではスタッフが撤収作業をしている中、アイドルたちは情報の整理のつかないまま、その場に立ち尽くしていた。
 玲音はその様子を見てくすくすと笑うと、春香に向かって口を開いた。

玲音「……というわけで、これから、アタシ達は敵同士だ」

春香「え?」

玲音「さっき黒井社長が言っていただろう? 『勝敗を決める』と」

真「一ヶ月後の……」

雪歩「……フェス、ですか?」

玲音「あぁ、そうさ。アタシの一番やりたかったことだよ」

春香「勝敗を決めるフェス……」

玲音「……天海。先に言っておくがね」

玲音「アタシはキミと闘いたくて、日本へ戻ってきたようなものなんだよ」

春香「な……なんで私なんですか!?」

玲音「……少し話が長くなるよ」


――


「まず前提として、765プロダクションがアイドルとして成功した理由から語ろう」


「結論から言うと――それは、”数”だ」


「765プロダクション。キミたちが台頭するまでこの世界では――」


「”アイドル”とはソロかデュオ。せいぜいがトリオまでだった」


「そこに、2年前の夏の、嵐のようなライブ」


「あの時は9人だったけれど――あれほどの多人数でステージに立つアイドルは、今までいなかった」


「そして”プロダクション全体で歌う曲”はアイドルファンたちの間で高く評価され、”765プロ”という名は瞬く間に広がり――」


「その成功を後追うようにして346プロも同年冬に全体曲を導入。翌年春には多人数プロジェクトの発足」


「まさに、キミたちが――キミたちのプロデューサーが、アイドルの世界観を変えてしまったんだよ」


「そんなプロダクションの中心人物であるキミ――天海 春香に、アタシが興味を持たないはずがない」


「別に、やり方が何だと文句を付けるつもりはないよ。ただ――」


「その輝きが”ホンモノ”なのか、それを確かめたいだけさ」


――
 


春香「……」

真「……美希と千早を961プロに移籍させたのは、あなたなんですよね」

玲音「まぁ、そうなるね」

真「一体何を吹き込んだって言うんですか」

玲音「……アタシは、ただ提案しただけさ」

雪歩「提案……?」

玲音「ま、それはご想像にお任せするとしよう♪」


 そう言い放ち、背中を向けてその場を離れようとする玲音。

真「待ってください! それじゃ、納得できません!」

春香「……どうして、そんな風にはぐらかすんですか」


 春香の言葉に何かが引っかかったのか、玲音はその歩みを止める。

玲音「どうして、だって……? おかしなことを訊くものだね」


 クク、と笑いながらゆっくりと振り返る玲音。
 その笑みには、純粋な笑いではなく――嘲笑としての意味合いが多分に含まれていた。
 春香の方へ完全に向き直ると、彼女はすっと笑うのをやめ、冷酷な表情で宣戦布告をした。



玲音「――――アタシたちが、”敵同士”だからだよ」


玲音「まだ分かってないみたいだから言っておくよ」


玲音「アタシは、765プロを――潰す」


雪歩「ひっ」


玲音「……くらいの覚悟で挑んでる」

玲音「アタシも――星井も、如月も……ね」

玲音「キミたちも、覚悟を決めなよ。――アタシたちと、本気で闘う、覚悟をね」


――――――――――


 収録を終えて控え室に戻った346プロ。
 バラバラだったスタジオの者同士で、感想を言い合っている。


未央「いや、あれはほんと、オーバーランクって感じだったよ」

李衣菜「第一スタジオもすごかったよ~。ハリウッド帰りの美希ちゃん、すごく気合が入ってて」

杏「でもなんか、765と元765の板挟みって感じで……ぶっちゃけ、やりづらかったよ」

かな子「そ、そういえば第二スタジオの方は、どうだったのかな……?」

きらり「え、え~っとぉ……」

莉嘉「……歌のコーナーがはじまってから、千早さんが怖かったよ~!」

みりあ「なんか、ちがうひとみたいだったよね……」

みく「うわー、さすが歌姫にゃ。歌にかけてはおふざけ無しにゃ?」

きらり「ん~、と、そういう感じっていうか……ね、蘭子ちゃん?」

蘭子「ぴっ! ……私もワカンナイ……」

莉嘉「もー! Pくん、なんでこっちにいなかったの!」

346P「す、すみません……」

凛「一番激戦区になりそうだったウチが、まさか一番の当たりだったなんてね」

美波「そうね。収録のほとんどが楽しく終えられたわ」


 ぽんぽん。
 不安そうな表情のアナスタシアが、プロデューサーの背中を叩く。

アーニャ「トコロデ……エキシビションには、誰が出ますか?」

346P「……まだ、考案中です」


 エキシビションマッチ。それは、いわゆる練習試合のようなものだが、やはり出るとなるとプレッシャーのかかるもの。
 プロデューサーとしても、誰を選ぶか慎重にならざるを得ない。


「……私、出たいです」


 卯月が、手を挙げていた。


――――――――――


 765プロ控え室。
 今回の収録に向けて気合を入れてきたその反動か、全体的に疲れの色が濃く、ぐったりしている者も数名いる。


響「……」

真美「今日はちかれた……」

やよい「……けなきゃ」

やよい「千早さんを、助けなきゃ!」

亜美「きゅ、急にどーしたのさ、やよいっち!」

春香「収録が終わってからずっと静かだったけど……」

響「実は……」

――
――――

真「千早の様子がおかしかった?」

真美「そーなんだよまこちん。なんか、急に何かにとりつかれたみたいに!」

雪歩「どういうことだろう……」

貴音「あれは……あの”歌”に、秘密がありそうです」

やよい「……」


 急に立ち上がり、控え室の扉を開けるやよい。


あずさ「やよいちゃん、どこへいくのかしら~?」

やよい「……千早さんのところです……っ! わたし、ひっぱたいてでも、千早さんをとりかえしてきます! いってきます!」

春香「あ! や、やよい!」


 言い捨てるようにして、やよいは走っていった。
 真が扉の外まで追うも、すでに姿は見つからず。

真「……いっちゃったよ……たぶん、961プロの控え室には近づけないだろうなぁ……」

雪歩「収録前に美希ちゃんと千早ちゃんに会いに行こうとしたら、門前払いされちゃったもんね」


 開けっ放しの扉を閉めて、律子が口を開く。

律子「……ところで、エキシビションに出るのは、竜宮小町でよかったかしら」

伊織「ま、一番場数を踏んでる私たちが出るのは当然かしら」

律子「えぇ、その通り」

律子「フェスに関して、346プロのプロデューサーは『負けても問題ない』って言ったけど……」

律子「私には、そうは思えないのよね……」

響「今まで、961プロには散々だったしなー」

真「……玲音が言ってたことも、気になるしね」

春香「”本気で闘う”って……なんだろう」

雪歩「……」

律子「じゃあ……伊織、亜美、あずささん。気を抜かずに、お願いします」

亜美「んっふっふ~。やるときゃやるんだZE☆」

あずさ「あら~、なんだか、シリアスな感じね~」

伊織「……」

真美「ん? なんか、いおりん顔色悪いよ?」

伊織「な、なんでもないわよ!」

律子「とにかく、これからの目標が決まったわね」

律子「美希・千早・玲音の誰が出てきても勝つつもりで、これからビシバシレッスンするわよ!」

律子「あのMarsってのも気になるわ。みんなで、1ヵ月後のフェスに備えましょう!」


亜美「鬼軍曹……」

真美「りたーんず……」


 ……そして、たんこぶがふたつ。

――――――――――



 961プロ控え室。
 収録を終えても、”細氷によるトランス状態”から戻らない千早を美希が揺さぶっていた。


「千早さん、しっかりしてなの!」

「あ、あぁ……ごめん、なさい、私……また」

「……ハニーは言ったの。『これは賭けだ』って」

「え、えぇ……私の”あの歌”は未完成……歌えば、私自身が、壊れてしまう」

「だからって、こんな方法……」

「い、いいえ……これも、”信頼”、でしょう? ……ふぅ」

 過呼吸気味だった息を何とか整える千早。


「『自分を支えるものと全力でぶつかることで、何かが見えるかもしれない』……」

「……まったく、ハニーってば……めちゃくちゃなの」

「美希。あなただって……」

「……うん。ミキが”今のミキ”になれたのは、ハニーのおかげだけど……大事なのはそれだけじゃないの」

「『”キラキラしたい”って思った最初の気持ちを、確かめる』……」

「……ちゃんと、分かってるじゃない」


 美希の頭を撫でる。


「もーっ! 子供あつかいしないで欲しいの! ……♪」

 撫でる手をそのままに、千早は眉間にしわを寄せる。
 

「今、私達は”力加減を知らない子供”の様に、”全力で”765プロと対立してる」

「でも……もし、このまま黒井社長の思惑通りに進めば、そのせいで765プロは……」


 潰されるかもしれない。
 千早はその言葉の代わりに、美希の頭に置いた手を少しだけ震わせる。
 その手を取って、にこ、と笑う美希。その表情からは不安を微塵も感じさせない。


「あはっ。……ま、その時はその時なの。765プロみんなで、テント生活からはじめるの」

「……ふふ、それもそうね」



 その二人の微笑みこそが、なにより”信頼”の証だった。




 その五『意志 後編』 終

ここまでです。

最後の校閲が終わり次第、投下します。
プロットでは、今回から後半戦になります。


イメージ画像
ttp://i.imgur.com/DJ9gpqE.jpg
ttp://i.imgur.com/e0Z0qw7.jpg

――――――――――


 その六『喧騒』




「うっ……嘘でしょう……!?」



「完全に街一つが機能停止してるってこと!?」




 律子の運転する車内で伊織が携帯電話片手に絶叫する。
 亜美は窓を全開にして、上半身を乗り出す。
 見えるのは車・車・車。首都高速が完全に車で埋め尽くされている。


「こ、これ……ヤバすぎっしょ~」

「あら~、隣の車内の人、何か、楽しそうな格好ね~。”Re-On”って書いてあるTシャツ着てるわ~」

「それって……玲音の、ファン!?」

「これは不味いわね……」


――
――――
――――――

 時をさかのぼること2週間前。

 無事収録を終えた961プロ制作の音楽番組は、黒井社長の告知をそのままにテレビ放送されていた。
 その放送ではテロップでフェスやエキシビションマッチの情報が公開され、同時に765プロにも正式な形での詳細のメールが届く。
 が、その中には疑問符が付く箇所が数点。
 律子は事務所のデスクでお茶を啜りながら、961プロから来たメールを読み返す。


律子「いくら何でも、おかしいですよね。小鳥さん、どう思います?」

小鳥「エキシビションマッチの会場の、キャパシティの事ですか? 私は明らかに少ないと思いますよ」


律子「そうですよねぇ……」

 入場料無料。抽選等は無し。オールスタンディング。
 場所は、都内のとあるライブハウス。そのキャパシティは、1000にも満たない。
 1ヶ月後のフェスの方はそれなりの抽選等を踏んで、ちゃんとキャパ数万の場所を確保している様だが……。

小鳥「うーん。抽選もチケットも無いから、そのメールを字面通りに読み取ると誰でも自由に出入り出来ちゃうみたいですけど……」


吉澤「不気味だね」

 偶然か否か、高木社長と共にお茶を飲んでいた吉澤記者が一言。
 その向かいにはお茶請けのせんべいをかじっている高木社長の姿。

吉澤「”オーバーランク”玲音の人気は、日本での活動から数年経った今なお凄まじい」

吉澤「先日の放送を受けて、既に2週間後の会場と1ヵ月後の会場周辺のホテルは満席状態らしいよ」

吉澤「……いや、周辺どころではないな。都内どころか、隣接県内のホテルまで、その数日は満杯だそうだ」

高木「ハッハッハ。まるで、オリンピックか何かをやるようだね」

律子「笑いごとじゃないですよ!」

律子「……吉澤さん。玲音のアクティブなファン人数って、どれくらい居るんですか?」

吉澤「今の正確な数字は分からないが……昔、日本で野外ライブをやった時は、単独公演にも関わらず10万人の動員数を記録している」

律子「10万人!?」

吉澤「さらに付け足すなら、そのチケット倍率はなんと……5倍はあったそうだ」

律子「え……?」

小鳥「あ、それ私行きましたよ!」

小鳥「でも、運よくチケットが取れたのはよかったんですけど、会場の周りを囲むようにチケット難民の人が……」


小鳥「結果、渋滞が凄すぎて……帰るだけで半日以上かかった記憶があります」

高木「うぅむ。黒井の奴、最近はおとなしくなったと思っていたが……何かをたくらんでいそうだ」

律子「……そもそも! 高木社長、美希たちが移籍して騒動になっている間、連絡が一切取れないなんて、酷過ぎますよ!」

高木「ハッハッハ!」

律子「笑ってごまかさないでくださいよ! 旅行に行くのは知ってましたけど、携帯も持たずに行くなんて!」

高木「ま、それもキミ達を信頼しての……」

律子「騙されませんからね!」

高木「これは参った、参った」

吉澤「まぁまぁ、秋月プロデューサー」


――
――――

 エキシビション当日の朝7時の事務所。
 ライブの準備機材を車に積み、後は出発するだけの状態の竜宮小町と、機材積み込みの手伝いに来ていた春香。


伊織「……」

あずさ「伊織ちゃん。顔、怖いわよ~?」 ツンツン

伊織「あ、あずさ! おでこつんつんするのやめなさいよ!」

亜美「ふわぁ……いおりんもあずさお姉ちゃんも朝っぱらから元気だねぃ……亜美はまだオネムだYO……」

律子「朝が早いのは仕方がないでしょ。もし渋滞なんかに巻き込まれて遅刻してみなさいよ」

亜美「うん、でも……いくらなんでも……早すぎる、YO……ぅと、ぅと」

律子「てい」

亜美「んぎゃ」

 


律子「散々説明したでしょーが。今回は何が起きるか分からないから、早めに楽屋入りするって」

亜美「そうだけどさ~……今から行ってもまだ3時間前だよ?」

あずさ「なら、こうしましょう」

あずさ「『早めに着いて、時間が余ったら、スイーツを食べに行く』……なんて、どうかしら♪」

春香「それ、良いと思います♪」

伊織「はぁー。あずさも変わらないわねぇ……」

律子「あら、良い提案じゃない。私は賛成よ」

亜美「今日行くトコの近く、何か良いお店あったっけー?」

律子「はいはい。それは、向かう途中で探しなさい」

亜美「はーい」

あずさ「じゃあ、出発しましょう」

律子「あ、そうだ。春香、準備、手伝ってくれてありがとうね」

春香「はい♪ でもたまたま、事務所にいただけですから大丈夫です!」

亜美(こんな朝早くにたまたま居るわけ……)

伊織「春香たちも、後から見に来るんでしょう?」

春香「うん。時間まで、事務所でお菓子でも作っとこうかなー、と思って」

亜美(……そうきたかー)

春香「おいしいお菓子、差し入れしますから、期待して待っててくださいね♪」

あずさ「あら~、それは楽しみだわ~」


――
――――



 竜宮小町が出発してから一時間後の午前8時。
 パソコンで作業をしていた(はずの)小鳥が、唐突に驚いた様子で沈黙を破る。

小鳥「……春香ちゃん! ちょっと、テレビ着けてみて!」

春香「え、は、はい!」

 テレビを点けると、あわただしい雰囲気のニュース番組が目に飛び込む。
 ヘリに搭載されたハイビジョンカメラによる航空撮影。
 それは空中から街を映したものだが、その様子は普段とはまったく違う。
 空を飛行する際のバタバタというローターの回転音に負けないように、実況リポーターが精一杯声を張り上げる。


『ご覧ください! 凄い人だかりです!』

『どうやら、集まっている人々は都内のとあるイベントが目的のようです!』

『……道路まで埋め尽くされているように見えます!』

『情報が入りました。現在、都内新宿区の交通網はそのほとんどが運転を見合わせているようです』

『また、代々木・新宿・新大久保の三駅は既に身動きが取れない程の密集度になっており、ホームは一時利用停止状態とされている模様です』

『続いて、道路の渋滞ですが――』


小鳥「さっき、ツイッターを覗いてたら……”新宿が凄いことになってる”ってあったけど……」

春香「これすごいですね……って、新宿? それって確か……」

小鳥「……きっと、今日のエキシビションのせいだわ……」

春香「え、えぇ!? 玲音さんの人気って、ここまでのものなんですか!?」

小鳥「い、いいえ、ここまでは……とにかく、律子さんたちに連絡しないと!」


――
――――


 そして、冒頭へ戻る。


――――――――――


伊織「……つまり、玲音の人気に」

亜美「ミキミキ、千早お姉ちゃんの人気」

あずさ「ついでに私達と、346プロさんの人気」

律子「全部が混ざって、こうなっちゃったわけね……」

 ハンズフリー・スピーカーフォン状態の携帯から、小鳥の声が響く。


小鳥『それだけじゃありません! ネットの情報によると、どうやら番組終了時点から今日に至るまで、961プロは尋常じゃあり得ないほどの量の広告を出してたそうで……』


「「「うあぁ……」」」


 既に30分は動いていない車内で、ぐったりとうなだれる4人。
 律子は握っていた車のハンドルを離し、メガネをとって目頭を押さえる。

あずさ「言われてみれば、確かにテレビのCMでよくやってたわね~」

律子「……私の見立てが甘かったか~……」

伊織「そんなことないわ! まだ時間はあるし、何なら車を乗り捨てて、」


小鳥『伊織ちゃん、そうともいかないのよ』


伊織「は?」


小鳥『今日の会場の半径1kmはもう、人が密集しすぎて、徒歩や車での通行が不可能らしくて……』


亜美「は?」


小鳥『恐らく、現段階で……私たちが会場入りできる方法は……ありません』


あずさ「は?」

律子(あずささんから凄い声が出た……)


伊織「ばっ……」


「馬っ鹿じゃないのーーー!!!」


車が密集した高架の上に、伊織の甲高い声がこだました。


――――――――――



 竜宮小町が高速道路上で足止めを食らっている頃。
 961プロの面々は既に会場の楽屋で待機しており、その別室のVIPルームでは、混乱を招いた元凶である黒井社長がひとり高笑いをしていた。


黒井「ククク、これで奴らが辿り着けなければ、高木の所の評判はガタ落ちだ!」

黒井「張り込みさせていた諜報員から聞くところによると、朝の7時には竜宮小町が奴らのオフィスから出発しているという話ではないか!」

黒井「そして、奴ら3流アイドル共はまだ到着していない」

黒井「ということは、どこかで渋滞にでも巻き込まれたか!」

黒井「もしくは、人波にさらわれたか、そのどちらかだ!」

黒井「普通にエキシビションをやってフェスをやっても、うちの精鋭ちゃん達なら易々勝利するとは思うが」

黒井「今回は、高木を確実に潰す!」

黒井「ククク……ハーッハッハッハッハ!!」


――――――


 黒井社長がもう一つ高笑いをしている時、961プロアイドルたちは自身の楽屋の備え付けのテレビでニュースを見ていた。
 報道に気分を害したのか、千早が眉をひそめながら咎める。

千早「ねぇ、玲音。この騒動はあなたの提案なのかしら」

玲音「違うよ。……いかにも、黒井社長の考えそうな事だろう?」

美希「たしかに、なの」

玲音「だけど本物のアイドルなら、このくらいの障害、なんとかしてもらわなくちゃ困る」

美希「……酷いやり方なの。自分で呼んでおいて、来させないなんて」

千早「……」

玲音「アタシは、良い”舞台装置”だと思うけど?」

千早「玲音……あなたって、本当に変わってるわ」

玲音「それはキミたちには言われたくないな」


美希「ま、それはそれとして。今日は、ミキが出ていーよね?」

玲音「ん? アタシが出ようかと思っていたけれど……」

美希「なんだか、竜宮小町が来る予感がするの」

玲音「……ふぅん」

千早「……」

美希「ダメ?」

玲音「まぁいいさ。星井がそう言うのなら」

美希「ありがとうなの!」


――
――――


 場面変わってライブハウスのロビー。そこにはMarsのメンバーが。
 今日は出演予定の無い3人も、「人のライブを見るのも勉強になるから」と玲音たちと一緒にこの会場へ来ていた。
 が、ロビーからガラス越しにチラリと見える外の異様な光景に驚いている様子だ。


ジュリア「なんだよあれ……! 人集まりすぎだろ!」

 彼女の名はジュリア。本名は不明。
 Marsのセンターボーカルを務めており、ギターの演奏が得意。パンクロック一筋に生きてきたがひょんなことからアイドルを始めることになった、赤髪が特徴の16歳。


麗花「わ、すごい! もしここがショッピングモールなら、あの人たちはゾンビさんだね♪」

 彼女は北上 麗花(きたがみ れいか)。
 Marsの左ポジション。海外モデルのようなスタイルと、歌唱時のロングトーンの美しさが特徴。何を言い出すか分からない、びっくり箱のような性格の20歳。


桃子「この程度の集客、なんてことないよ。桃子、そういうの慣れてるから」

 彼女は周防 桃子(すおう ももこ)。
 Marsの右ポジション。元子役。キュートな外見とは裏腹に、芸歴は長くプロ意識が高い。他人になめられるのが大嫌いで、何事も自分で済まそうとするプライドの高い性格。11歳。



http://i.imgur.com/NDl7q5y.jpg


桃子「ていうか、麗花さんが何を言ってるのか分からないよ……」

ジュリア「レイの言うことはいつも謎だからなー」

麗花「えーっ、ぴったりだと思ったのになぁ」

桃子「そんな感じだから、1人だけ台本だったんだよ?」

ジュリア「あぁ、この前の番組収録のやつか」

ジュリア「あたしたちはアドリブだったけど、レイには……黒井社長、カンペ持って必死だったなぁ」

桃子「何度リハーサルしても、麗花さんが変なこと言うから」


麗花「あのカンペ、私だけだったんだ……――これが、”思いやり”……」


ジュリア「ちげーよ!」

麗花「せっかくダブルクォートまでつけたのに……」

ジュリア「何の話だよ! ダブルクォートって何だよ!」

桃子「”これ”?」

麗花「”それそれ”~♪」

ジュリア「あーもう、モモまで! 変な遊びするんじゃねー!」

桃子「……知ってたから、ちょっと乗っかっただけだよ」

麗花「そんな、桃子ちゃん、信じてたのに……あ、あっちからいい匂いが……」

ジュリア「に、匂い?」

桃子「匂いなんてしないけど……って、どこいくの?」

麗花「うぅ~ん」スタスタ

 ガチャ

「あっ美希ちゃん!」
「麗花、なに……ってそれミキのオニギリなの!」
「食べちゃだめ、かな」 モグ
「駄目なの! って言ってるそばから食べてるし!」
「のどに詰まらせたら悪いから……」 トクトクトク
「千早ちゃん、ありがとう♪」
「千早さんもお茶の差し入れとかしてんじゃねーなの!!」


 ワー、ギャー


ジュリア「……なぁモモ。ツッコミ役、代わろうぜ……」
桃子「イヤ」


――――――――――



 一方、346プロ事務所内。
 プロデューサーと共に出発の準備をしていたニュージェネレーションズだが、会場付近の混乱を報道するニュースを見て、慌てふためいていた。


未央「プ、プロデューサー! 大変だよ!」

卯月「あ、あわ、あ、あんなに人が……」

346P「……」

凛「プロデューサー、どうするの? テレビの映像を見る限り……」

346P「車で近づけたとしても……これでは会場入りは困難ですね」

卯月「一体どうしてこんなことに……」

346P「ある程度、予測はついていました。テレビCM等での広告で、ファンの方々を煽るように集客していましたから」

未央「でも、あんな状況じゃ、もうエキシビション取りやめじゃない?」

凛「……まさか……961プロの、不戦勝狙い?」

卯月「不戦勝?」

凛「『大盛況のエキシビションでは961プロ一強だった』」

凛「……みたいな記事でも書くつもりなんじゃない? 写真付きで」

未央「……それで、本番のフェスへの出鼻を挫く、ってこと!?」

未央「く~~! 961プロってそんな極悪だったのかーっ!」

346P「……それらは、憶測にしか過ぎません。しかし……今までの黒井社長の動向を考えると、あながち”外れ”でもなさそうです」

卯月「でも、どうしましょう!?」

未央「プロデューサー……!」

凛「……このまま、引き下がる、しかないの……?」


346P「いいえ。この状況は”想定の範囲内”です」


 おもむろに携帯を取り出し、誰かに電話をかけるプロデューサー。

346P「……千川さん、準備の方はいかがでしょうか」

ちひろ『準備、オッケーです♪』

「「「準備?」」」

346P「屋上へ、向かいましょう」


――
――――


 バルバルバルバル……

 まず、目に飛び込んできたのは回転するローターブレード。
 その暖機運転によってあおられた強風が、ニュージェネレーションズ3人の顔を叩く。


「「「……」」」


「「「ヘリコプター!!」」」


ちひろ「えぇ♪ ミシロ・パンプキン号です♪」

未央(名前ださっ!)

卯月(かぼちゃ色でかっこいいです)

凛(私が名付けるなら……”天駆けるアンデシン・オレンジ”……かな)

346P「地上からの会場入りは非常に難しいとのことなので、空から会場入りします」

凛「で、でも……あんな街中で、どうやって……」

ちひろ「目標ビル上空にホバリングして、1人がロープを持って屋上へ降下。後は、そのロープを頼りにラペリングです♪」

未央「今さらっと言ったけど、それ素人じゃ無理だよ!」


346P「大丈夫です。プロの方の御協力がいただけましたので」


346P「……では、よろしくお願いします。輿水さん」

幸子「こ、こんにちは……」

未央「さっちー!」

 ヘリの中からひょっこりと顔を出す幸子。


幸子「あ、あなたたちのプロデューサーさんがどうしてもって頼むから仕方なく、このカワイイボクが! 皆さんを先導してあげます!」

346P「助かります。私は会場へ付いてゆけませんので……」

凛「なんで? プロデューサーは、ヘリに乗らないの?」

卯月「このミシロ・パンプキン号って、まだ何人か乗れそうですけど……」

346P「はい。定員は操縦者含め8人なのですが……」

346P「765プロの事務所に寄って、彼女たちの助けになってあげて欲しいのです」

346P「ライバルプロダクションとはいえ、恐らく、765プロも困っていることでしょう」

346P「なので、ニュージェネレーションズと765プロのユニットで6名」

346P「操縦者と輿水さんで計8名になってしまうのです」

未央「なるほど……」


凛(幸子の代わりにプロデューサーっていう組み合わせをしれっと除外したね)

卯月(もしかして、高所恐怖症なんでしょうか?)


ちひろ「一応、私の方から765プロさんに連絡はしておきました。事情は伝わっている筈です」

未央「じゃあもう、後は出発するだけなんだね」

346P「……輿水さん。今回のミッションの成功は、貴女に懸かっています」

幸子「任せてください! このカワイイボクに!」

346P「はい。輿水さんは、可愛いです」


幸子「そうでしょうそうでしょう! もっと言ってもいいんですよ?」

346P「はい。輿水さんは、可愛いです」

幸子「フフーン! なんだかノってきましたね! セイッ!」

346P「はい。こ」

凛「何回も言わなくていいから」


――
――――


未央「じゃあ、出発しよっか」

卯月「プロデューサーさん、ちひろさん、行ってきます!」

346P「はい」

ちひろ「成功を祈っています」

凛「うん……さぁ、行こうか、空へ!」

未央(しぶりんテンション上がってるなー)

幸子「じゃあ、運転手さん、よろしくお願いします」

専務「あぁ。何かにしっかりつかまっていなさい」


「「「「……」」」」


「「「「美城専務!?」」」」


 バタバタバタバタ……
 ヘリが浮上してゆくのを眺めるプロデューサーとちひろ。


346P「……」

ちひろ「心配ですか? ……彼女たちなら、大丈夫ですよ。きっと」

346P「……はい」


――――――――――



未央「あぁ、我らが346プロが、あんなに小さく……」


 高度になるにつれ小さくなるプロダクションを、窓から眺める未央。
 共に眺める卯月が、ほぅ、とため息をつく。

幸子「ていうか、なんで操縦席に美城専務がいるんですか!?」

専務「何か問題でも? 免許なら持っているぞ」

幸子「そういうコトじゃなくてですね……」

凛「プロジェクトクローネの方は大丈夫なの? 全国ツアーの準備で忙しいって……」

専務「あぁ。……アナスタシアと、渋谷凛。お前たちが961プロを相手にしながら、クローネのレッスンにも欠かさず顔を出しているのを見て、私も何か出来ることはないかと、思ったのでな」

凛「……珍しく、殊勝だね」

専務「いや、言葉を間違えた。『お前達の失敗のせいで我が346プロダクションの評価を下げたくはないからな』」

未央「……ぷぷ」

専務「今笑った奴は誰だ」 クルリ

幸子「わぁ、操縦桿を離さないでくださいよ!」


――
――――


未央「……それにしても、まさかしまむーから『出たい』って言うなんて……」

凛「うん。驚いた」

卯月「……でも、私、あんなの……許せません」


 番組収録直後の玲音と春香達のやりとりを思い出す卯月。
 冷酷な瞳で嘲笑う玲音と、決死の表情をする真。生気の無い春香。怯える雪歩。
 誰もが目を背けたくなるような光景。
 それを端から見ていた卯月は、『こんないがみ合い、アイドル同士がしちゃいけない』と思ったのだ。


未央「しまむーが怒るなんて、珍しいよね」

卯月「い、いえ、私、怒ってなんか……怒ってるのかな……」

卯月「私は、ただ……」

凛「笑顔、だよね」


卯月「はい。私は……みんなに、笑顔でいてほしいだけなんです」


専務「……」

卯月「なんて、えへへ……私、変ですかね」

幸子「……ボクは、立派だと思いますよ」

卯月「幸子ちゃん」

幸子「誰かを笑顔にするのって、とてもパワーの要ることですから」

幸子「簡単なことじゃありません……」

未央「さっちー……」

幸子「……まぁ、ボクはカワイイので、それも簡単に出来ちゃうんですけどね!」

凛「……はいはい」

幸子「なっ! なんでそんな反応するんですか!」

卯月「あ、あはは……」

幸子「う、卯月さんまで! プロデューサーさんはあんなにボクを気持ち良くさせてくれるのに!」

凛「は?」

幸子「え、あ、いや、プロデューサーさんはボクの話に乗ってくれるから、話してて気持ちが良いんですよ」

幸子「もしかしたら、相性が良いのかもしれませんね!」


凛「ふーーーん」

 ゴゴゴゴ


未央「この構え……見覚えがあるよ……ッ!」

卯月「えぇ……『シブリンの蒼い雨』、ですね……?」

幸子「え、何ですかそれ? っていうか、闘気がすごいですよ! いがみ合い! ノー、いがみ合い!」

凛「これはただの”じゃれ合い”だよ……」

幸子「ひっ」



「……」

 アイドルたちのかしましい様子を背中に感じながら、美城専務は微笑んだ。
 彼のプロデュースは間違ってはいなかった。今なら、そう思える。
 冬の舞踏会以前の”笑顔の魔法”は、一見、まやかしの様にも思えた。
 だが、あれはまやかしではなく――
 よく目を凝らさなければ見えない、萌芽したばかりの”小さな芽”であったのだ。
 その芽は今や大きく成長し、葉を付け茎を伸ばし、”一つの答え”を実らせようとしている。


 ――彼女の笑顔は、何の為なのか、誰の為であるか――
 

「……そろそろ765プロ事務所に着く。準備をしなさい」

「「「はい!」」」

 チラリと背後の座席を覗くと、満面の笑顔。
 ……彼のプロデュースは間違ってはいなかった。今なら、そう思える。


 その六『喧騒』 終

ここまで。

校閲が終わったら投下します


イメージ画像
http://i.imgur.com/ZAq1sPs.jpg

――――――――――


 その七『衝動』


小鳥「えぇ、分かったわ……ありがとう、ちひろちゃん!」


春香「誰からの電話だったんですか?」

 竜宮小町が足止めを食らってから2時間。
 騒ぎを聞いて事務所へ駆け付けた、竜宮以外の765メンバー。
 しかし全員で知恵を絞っても対応策は見つからず、半ば諦めムードであったが、小鳥のとあるツテにより吉報が入ったようだ。


小鳥「346プロでアシスタントをやってる子からだったんだけど……なんと、ヘリで迎えに来てくれるらしいわ!」

真「ヘリ!?」

真美「うあうあ~! なんか話のスケールがいつになく”トウダイ”だよ~!」

貴音「真美。それを言うなら、”壮大”です」

真美「えへ」

雪歩「そっか、空からかぁ……思い付きもしなかったな……」

響「……っていうか、ヘリで迎えに来るって……すごい事務所だぞ……」

やよい「うっうー! とにかく、これで伊織ちゃんたちがかいじょうにいけますー!」

小鳥「話では、『竜宮小町が今いるであろう高架上とその周辺には着陸場所がない』とのことらしいから、まずは律子さんたちを呼び戻しましょう」

小鳥「渋滞中ではあるけど、車を乗り捨てて下道でこちらへ戻ってくる分にはすぐのはずよ」

真「なるほど……」 フム

春香(あ、この顔、理解したフリだ……)


 皆へ説明するなり、律子の携帯へ電話を掛ける小鳥。

 prrrr...
 prrrr….プッ


律子『はい』

小鳥「律子さん! 実は、346プロの協力でヘリでの会場入りができるようになったんですけど、今からこちらへ戻ってこれますか?」

律子『……すみません、実は、亜美が……』

小鳥「……亜美ちゃんが……どうしたんですか?」


 律子は時間が惜しいと言うように、早口で状況を説明した。
 高架上で密接した大量の車の熱によって、車のエアコンが壊れたこと。
 真夏ということで危険を察知した律子は車から脱出をしたが、時すでに遅く窓から頻繁に顔を出していた亜美が日射病にかかってしまったこと。
 そして今、意識が混濁している状態の亜美を近くの病院へ診せに行っていること。


律子『……ですので、今回、竜宮小町は出演を見送ることにしました』

小鳥「そんな……」


 亜美が熱射病になってしまったのは誰が悪いということでもない。
 律子の状況判断も遅くは無かった。伊織もあまり長時間顔を出すなと注意していた。
 あずさも持ってきた水をほとんど自分では飲まず、亜美と伊織に飲ませていた。
 亜美も、渋滞が解消しているかどうかを定期的に確認していただけだ。
 ……あえて悪者を指すとするなら、やはり、あの男しかいない。

小鳥「だったら、どうしましょう……」

律子『……伊織からの伝言です』

律子『”誰が出てもいいけど、全力でやんなさい”』

律子『……以上です』

小鳥「はい、伝えます」

律子『お願いします。こっちは落ち着いたら、また連絡します』

小鳥「……はい。では」


 ツー、ツー、という電話の切れた音。
 会話の内容は全員には伝わってはいないが、察した貴音が口を開く。

貴音「あまり状況は芳しくない様ですね」


小鳥「えぇ……竜宮小町は出演が出来なくなったの」

小鳥「だから、伊織ちゃんがこう言っていたそうよ」

小鳥「”誰が出てもいいけど、全力でやんなさい”って」

真「伊織……」

やよい「……」

春香「……」

真美「……じゃあ今日、誰が出るの?」

 真美が先陣を切って重要な話題に手を付ける。
 その問いに、同じユニットを組んでいる響が答えた。


響「自分、出たいぞ」


 響の”出たい”という意思表明に、ほんの少し、反応を示した者が一名。
 誰もそれに気付くことなく、響は続ける。


響「……自分、この前の番組で思ったんだ」

響「961プロのやりかたに対抗する方法は、やっぱり、土俵の上で勝つことなんじゃないかって」

響「きっと、美希や千早を取り返すなら、勝つしかない……」

響「自分、なんだって、勝負ごとは得意さー。だから、自分たちのユニットで……って、やよい?」

 そこまで言って初めて、響はやよいの青ざめた顔と尋常ではない震えに気が付いた。


やよい「え、えっと……わ、わたしも、響さんと同じことを、おもいました……」

やよい「このまえ、しゅうろくが終わったあとに、千早さんに会おうとしましたけど、黒い服の人たちにじゃまされて、何もできなくて……」

やよい「だから、やっぱりアイドルは、アイドルとして、たたかわなきゃって」

やよい「……そうです、わたしだって、千早さんや美希さんをとりかえしたいんです、でも……」


 ひじを抱え込み、なんとか震えを抑えようとするやよい。
 だが、震えは止まらないどころか、言葉を紡ぐたびに増えていく。


やよい「へ、ヘリコプター……に、乗らなくちゃ、いけないんですよね……?」


真「うん、そうだよ……って、ああ!」


 やよいは高所恐怖症なのだ。

やよい「むりなんです……わたし、"そうぞう"しただけで……こんな」 ガクガク

真美「やよいっち……」

響「……じゃあ、自分たちは、出ない」

やよい「え?」

響「やよいが怖い思いをするの、たぶん美希も千早も望んでないぞ、きっと」

やよい「ご、ごめんなさい」

響「謝ることじゃないさー」

真美「うんうん。それに、765プロにはまだ他にも優秀なアイドルがいるのだよ、やよいっち君!」


――
――――


貴音「では……春香、雪歩、真。お願いしてもよいですか?」

真「分かりました」


 春香・雪歩・真・貴音で話し合った結果、番組収録での組み合わせでいこうという事になった。
 というのも、貴音は全体で見ればソロでの活動が長く、765のプロデューサーもその方が良いと、以前からあまり多くのユニットを経験させていなかったのだ。
 ソロで玲音たちと対峙するよりは、ユニットの方が良いであろうとの議論の結果により、上で貴音が言った組み合わせに落ち着いた。


小鳥「ちょうどいいタイミングで、ヘリが来たみたいよ!」

春香「……ちなみに、どこに着陸するんですか……?」

真「まさか、うちの屋上……!?」

小鳥「それは流石に無理だと思うわ……近くの空き地ですって」


雪歩「そもそも、ヘリコプターって指定された場所以外に離着陸するのって……」

小鳥「……ほら、346プロって大きい芸能事務所だから……事務所パワーっていうか……」

真美「……お姫ちん。いまだよ」


貴音「面妖な」


――――――――――


 バルバルバルバル……


真美「うわぁ……本当に来たYO……」

雪歩「オレンジ色の機体に、緑の翼が回ってますぅ……」

やよい「かぼちゃみたいですー!」

響「街中ですごい音だけど、これ大丈夫なのか?」

春香「あ、扉が開いたよ」

 無事着陸したヘリのドアが開くと、飛び出すように幸子が登場。


幸子「765プロの皆さん、はじめまして!」

幸子「今日は、このカワイイボクがみなさんを先導してあげますから、大船に乗ったつもりでどうぞ!」


雪歩「ふふ、分かりましたぁ」

真(うわぁ……346プロも濃いのがいるなぁ……)

春香「じゃあお邪魔しま……あ、ニュージェネの3人!」

卯月「春香さん! お疲れ様です!」

未央「お疲れ様です、二度目まして!」

春香「二度目まして♪ あはは、未央ちゃんって面白いね♪」

未央「いやぁそこまででも」

幸子「じゃあ皆さん、ボクが出発の合図をしますので、ボクがカワイク『しゅっぱつ~』と言ったら」


凛「あぁ、この子はマスコットみたいなものだから、適度に無視して大丈夫だよ」

真「そうなんだ、なんか納得だよ」

幸子「なんか凛さんボクの扱いヒドくないですか!?」

雪歩(この子可愛いなぁ……)

幸子「んもう、じゃあいいですよ。美城専務、離陸準備は完了していますから、お願いします」

専務「……あまり時間はない、急いで行くぞ」

専務(輿水幸子……いつかちゃんとプロデューサーを付けてやらねば……)


――
――――


 バタバタバタ……

 地上から見送る765メンバーたち。


やよい「うわぁ、もうあんなにちっちゃくなっちゃいましたー」

響「結構速いぞ」

真美「……なんか、やたらと偉そうなおばさんが運転してたね……」

小鳥「……あの人、うちで言う社長クラスの人で……あとおばさんって言っちゃダメよ」

真美「うん……そっか……お姫ちん、いまだよ」


貴音「面妖な」


――――――――――



 亜美は意識を取り戻すと、そこは真っ白な病室だった。
 まだ頭はズキズキと痛むがベッドから体を起こし周りを見渡すと、すぐ側には伊織の姿。
 立ち上がろうと体を動かすと、伊織がそれを制止する。
 腕には、点滴の針が刺さっていた。
 伊織は亜美が倒れてからの出来事を粛々と説明する。

「……そっか、はるるん達が代わりに行ってくれてるんだ……」

 亜美は一瞬安心したような顔を見せた。
 が、直後に自分の言葉で何かに気付いたようにハッとなり、悲しそうな表情で伊織に謝った。


「いおりんごめんね……」

「いいのよ。馬鹿ね、あんな茶番ライブより、仲間の身体の方が心配に決まってるじゃない」

 伊織の返答を受けても、亜美の表情は晴れない。
 亜美はとても言いづらそうに、もごもごしながら、小さな声で返す。


「……でも、ミキミキと、何かあったんでしょ……?」

「な、」

 心底意外そうな顔をしつつ、『なんであんたが知ってるの』という言葉をなんとか引っ込める伊織。


「あ、やっぱり……いおりんはホント、隠し事がへたっぴだYO……」

「……いいのよ。何度も言わせないで」

「でも……」

「本番。そこで、見せつけてやりましょう」

「んっふっふ~……それでこそ、いおりんだね」

「だから、ゆっくりお休みなさい」

「うん。ちょっと、体力カイフク……だ、YO……ぐぅ」

 



 亜美が眠りについた辺りで、病室のスライド扉が静かに開く。
 あずさと律子だ。
 洋菓子でも入っていそうな紙の箱を手に持っている。


「亜美、ちょっと顔色が良くなってるわね」

「……さっき目が覚めて、今また眠った所よ……」

「そうだったの。タイミングが悪かったかしら~」

「あずさ……こんな時にスイーツなんて……」

「ふふ。でも約束してたじゃない。『時間が余ったら、スイーツを食べる』って」

「そりゃそうだけど」

「まぁまぁ、どの道、他にやることもないんだから」

「律子はなんかヤケにあずさに甘いわね」

「……あずささん、伊織はお菓子いらないそうですよ」

「あら~、じゃあ、このオレンジショートは私が……」

「いるわよ! もう!」



「……いおり~ん、病室でそんな大声だしたらだめっしょ~……」

 いつの間にか目を覚ましていた亜美。

「あ、あんた……」

「おいしそーな匂いでおきちゃった……」

「亜美ちゃん、食欲は?」

「んっふっふ~……スイーツならいくらでも入るYO」

「じゃあ、みんなでいただきますをしましょう♪」

 律子は、この光景に自身も参加しながら、やはり竜宮は良いユニットだと再認識した。

―――――――――


 バルバルバル……
 
 都内新宿上空に、オレンジ色のヘリが出現。
 ライブ会場である5階建てビルの上空に滞空したかと思えば、1つ小さな人影がバンジーの要領で身投げ。
 さらに、最初に降りた人影に付いていたロープを頼りに、続々降下。
 6人ほど降下すると、ヘリは少女付きのロープを空中に垂らしたままどこかへ消え去っていった。

 ――以上、会場に入れなかった玲音ファンによる目撃情報。


――――――――――


凛「屋上のドア……よし、開いた!」

真「潜入成功!」

春香「って言いたくなるけど、これ、そういうのじゃないよ!?」

雪歩「意外と、真ちゃんと凛ちゃんの息はピッタリですぅ……」

未央「いやぁ、どこか通じるものがあるんでしょうなぁ……」

卯月「あぁ……変身願望ですね……」

凛「……急がないと時間がないよ!」

真「もう開場の時間、過ぎてる! 開演まで残り20分もない!」

春香「えっと、目的のライブハウスは……」

未央「地下1階だよ、はるはる先輩!」

春香「はりゅっ!?」

卯月「こっちのエレベーターで行きましょう!」

雪歩(私もあだ名つけられるのかな……) ドキドキ


――――――――――



 地下1階ライブハウス。
 別室のモニターと時計を見ながら、大声で笑う黒井社長。

黒井「ハーーーッハッハッハッハ!!!」

黒井「やはり高木の所のアイドルは現れなかったか!」

 ドアのノックが4回。スタッフは黒井の許可を得ると、部屋に飛び込んだ。


スタッフ「お、屋上から他プロクションアイドルが侵入してきました!」

黒井「……」

黒井「なんだとォ!?」


――――――


 ステージ裏で待機する961アイドルたち。
 既に美希はステージ衣装でスタンバイを終えて集中している。


ジュリア「なぁ、チハ。なんで他のプロダクションのアイドルは来てないんだ?」

千早「……さぁ、ね」

ジュリア「ふぅん……よく分からないけど、ワケありってことか」

美希「……――来るの」

桃子「え?」

麗花「急に、どうしたの美希ちゃん」

玲音「……くす」

 玲音が口の端を上げてニヤリと笑う。 
 それはさながら、獲物を見つけた獅子のような笑みだった。

玲音「まだキミたちにはわからないだろうね。この感覚は」

桃子「玲音さん、ちょっと言ってる意味が……」

玲音「今に分かるさ。5、4……」




「 遅れてすみませんっ!! 」


美希「……っ!」



 舞台裏で動くスタッフに一番に挨拶する春香。遅れて他アイドルも到着し挨拶。
 既にヘリの中でステージ衣装に着替えていたので、いつでも歌える準備は出来ている。
 あとはマイクを持つだけだ。

 なんとか間に合った安堵感で765・346アイドル達が胸を撫で下ろしている中、星井美希はひとつため息をついた。


玲音「あー……”当て”が外れたね」

美希「……今日は、玲音が出ていーよ」

玲音「星井がそれでいいのなら、ステージはありがたくいただくよ」

美希「うん」


春香「待って!」

 ステージから背中を向けた美希を、逃さないと言う様に春香が声を掛ける。
 美希はまたひとつため息をつき、春香の方へ振り向く。


美希「……久しぶりなの」

春香「やっと会えたね、美希。千早ちゃん」


千早「……」

美希「……」

 二人は、出来れば会いたくなかった、という思いであった。
 この闘いは”本気”でなければ意味がない。
 そして、”本気”で居続ける為には、その関係性をはっきりと言葉にしなければならない。


春香「ねぇ、二人とも。どうして、移籍したの?」

春香「答えて。……私、納得したいの」



 春香の問いに、美希はもうひとつため息。
 『失望した』とでも言わんばかりの大きなため息だ。


美希「……答える義務、ないって思うな」

千早「……」

春香「そんな、961プロに行ったとはいえ、友達でしょ!?」


 ため息。
 と同時に、美希は春香へ背中を向ける。


美希「とにかく……ミキ、伊織達が出ないのなら、出るのやめるの」

春香「待って、美希! 話を……!」

美希「ほんと、しつこいの。玲音、後はよろしくなの」

春香「ねぇ、美希!」


「……あふぅ」


美希はやれやれ、といった表情で振り向く。


美希「今の春香……ぜんっぜん、”キラキラ”してないって思うな」



春香「え……」

美希「じゃあね。2週間後のフェス本番、楽しみにしてるの」


 控え室へ戻る美希を、呆然としたまま見送る春香。
 だが、はっとしてもう一人の”元”765アイドルの方へ向き直る。


春香「そ、そうだ、千早ちゃ」

千早「……春香」

千早「美希の言っていたことが分からないというのなら、私は少しだけ、あなたに幻滅するわ」

春香「な、……」

千早「……」


千早「『今の私達は、”敵同士”なの。分かったら、話しかけないで』」


春香「……!」

千早「これ以上、言う事は無いわ。私はここでステージを見たいだけ」


 美希と千早のオーラに圧倒されて何も言えなかった他のアイドルたちであったが、唯一、卯月が重たい空気に反発した。


卯月「……おかしいです」

卯月「どうして……アイドル同士なのに、敵なんて、おかしいですよ」

千早「……それは、貴女が”その世界”を知らないだけでは?」


 千早が冷静に反論する。
 だが、卯月は怖気ずに千早や玲音の目を見る。

卯月「……そうかもしれません。……なら、それはそれでいいです」

卯月「もう、これは勝負です」

玲音「……?」


卯月「皆さんが、敵同士だと競い合うライブをするのなら――」


卯月「私たちは、全員を笑顔にするライブをやります!!」

卯月「それが、私の、私たちの闘いです!」


凛「卯月……」
未央「しまむー……」

 きっと、この二人も同じ心模様であったことだろう。
 その言葉を受けて、オーバーランクが笑い出す。


玲音「くくく……あっはは!! つくづく、キミたちは面白いことを言うね」

玲音「アタシは、誰かと本気で闘えるのなら、理由はなんだっていいんだ」

玲音「"敵"も増えたことだし、今日は、ギアを二つほどあげようかな」


 瞬間、玲音のプレッシャーが一段と増した。
 それは炎とも光とも取れそうなオーラの一種であるが、そこにいたアイドルたちは、千早を除き皆一様に耐えていた。
 そして、時間だとスタッフに告げられ、ステージに上がろうとする玲音。
 ステージそばの階段を上る直前、未だ固まっているアイドルたちへと振り返る。


玲音「あぁそうだ、フェスでの勝敗の付け方を説明しておこう」

玲音「互いに楽曲を披露して、最後に観客にコールをさせるんだ」

玲音「最もアンコールが見たいと思った陣営の名前を、ね」

玲音「その声を機械で数値化して、最も大きかった陣営の勝ち。アンコールに答えて1曲ライブをやる権利が得られるわけだ」


玲音「要するに、『最後にステージに立っていた者が勝ち』……分かりやすいだろう?」


真「……!」

凛「そういうの、嫌いじゃないよ」

玲音「じゃあ、アタシから行かせてもらうから。後の順番は好きにしたらいい」

 そしてステージへ続く階段を駆け上がる玲音。
 

――――――――――


『みんな、来てくれてありがとう!』
『今日はすごく短い時間だけど、最高に盛り上がろう!』


 玲音がステージに上がると、それだけで観客席のボルテージはMAXに。
 所狭しと詰められた観客は、あおる玲音の声に反応して、是が非でも盛り上がる。
 一瞬にしてウルトラ・オレンジの光の海に様変わりする客席を見て、玲音はにっと笑い、腕を振り上げる。

 
 ギターのディストーション・カッティングから入る重低音の効いたリフ。
 徐々にテンションを上げていくスネアのロール――


≪アクセルレーション≫
  玲音    961プロ


「この前と、全然違う……っ!」

 まず気付いたのは真。  
 アクセルレーションという曲のイントロは十秒にも満たず、その間ダンス・振り付けといったものはあまり付いていない。
 ……だが、真が最初に脅威を感じたのは、玲音がリズムを取る、その微かな足踏み。
 他の者が気付いたのは、歌に入ってからであった。


「確かに、この前の番組の時とは違います……」
「これだけ圧倒的だったんだ……!」

 前回との比較で驚くアイドルたちとは対照的に、純粋にレベルの高さに驚くMarsの3人。

「すげぇ、レオ、すげぇよ!」
「玲音ちゃん、気合ばっちぐー! って感じだね♪」
「……これが、本物……」

 玲音の歌とダンスは、まさに”戦闘用”とでも言うべき完成度の高さ。
 それは、燦然と輝く伝説の奏宴であった。


――
――――



玲音「はぁ、……さ、次はどっちだい?」


 ステージから帰ってきた玲音が、765・346アイドル達に問う。

春香「……」

卯月「私達がいきますっ!」

未央「あ、うん!」

 卯月は凛と未央の手を引いてステージへと駆け上がる。
 

『こんにちはーーーっ! ニュージェネレーションズでーーす!!!』

――
――――


真「春香! 今の内に、早く気持ちを切り替えて!」

雪歩「……春香ちゃん、ごめん!」

 春香の頬をはたく雪歩。
 その一撃で春香は正気を取り戻した。

春香「……私こそ、ごめん! 今はステージに集中しなきゃ、だよね……!」


――
――――
――――――


『それでは、アンコールが見たいと思ったプロダクションの名前をコールしてください』


「「「9ーー6ーーー1!」」」
「「「9ーー6ーーー1!」」」
「「「9ーー6ーーー1!」」」


――――――――――



 ……結果から言うと、今回のエキシビションは、961プロの圧勝で幕を閉じた。
 346プロ・765プロらは共に、ほぼ最高のパフォーマンスをしていたと言えるだろう。
 だが、集まった観客は圧倒的に玲音ファンが多かった。
 更に付け加えるなら……実は、会場にいた客の3分の1は黒井が用意した”サクラ”であったのだ。
 その事実に気付いたのは、恐らく玲音と、ライブハウス慣れしていたジュリアくらいで――ほとんどのアイドル達が違和感の正体には気付けずに、ただ無常の敗北感を味わっていた。


春香「負け、ちゃった」

雪歩「なんだか、すごく、やりづらかったですぅ……」

真「うん……」

卯月「まだ、2週間後の本番がありますから……」

未央「そうだよ、だから……皆、元気出して」

凛「……」


 ステージ裏で落胆しているアイドル達に近づく玲音。
 そしてやや大げさに、語りかける。


「――いい子を見つけたよ」

「キミたちの中で、まだメラメラと闘志を燃やし続けている者がいるね」
 

 それを聞くアイドルたちのほとんどは、何を言っているのか理解ができていない。
 ただ一人を除いて。


「この前、収録でキミ達のライブを見た時から思っていたんだけど、今日ので確信に変わった」


 玲音はその一人に向かって手を差し出す。
 手を差し出された側は目を逸らす。


「キミ、”こっち”側のアイドルだ」

「自分の中にある歌を、感情を、全て出しきってみたいと」

「全力で走ってみたいと思っているね――」
 


「――”渋谷凛”……”こっち”においでよ」


 凛は、目を瞑り、必死に首を振って否定をした。
 しかし、玲音と対峙して、胸の内に残った鼓動・衝動が、凛を混乱させていた。
 『もっと歌いたい』
 『もっと踊りたい』
 『もっと競い合いたい』
 『もっと』『もっと』


「違う、私は……!」


 必死で捻り出したその声は、自分でも驚くほどに、震えていた。

 
 


 その七『衝動』 終

今回はここまで。

校閲したら投下します。

イメージ画像
http://i.imgur.com/lSxwfpZ.jpg
http://i.imgur.com/O5uxiu2.jpg
http://i.imgur.com/cWL04xA.jpg

――――――――――


 その八『記憶』


「キミ、”こっち”側のアイドルだ」
「自分の中にある感情を、歌を、全て出しきってみたいと」
「全力で走ってみたいと思っているね――」


「――”渋谷凛”……"こっち"においでよ」
「違う、私は……!」


 唐突な勧誘に、震えた声で返す凛。
 先ほどまで猛獣のようなオーラを全開にしていた相手が、急にその気配を静めて近づいてきたのだ。
 それには肝の据わっている方である凛も、言葉を濁した。


凛「そもそも、こっち側とか、意味、わからないし」

玲音「嘘をつくのはよくないな」

玲音「 ”フェス” ”闘う” ”本気”……これらの言葉を聞いて、何か昂るものはないかい?」


 凛は再び目を瞑り、首を横に振る。
 それを見た玲音は困り眉をする。


玲音「キミも強情だねぇ……」
黒井「ハァーッハハハ! 今日は気分がいいぞ!」


 玲音の背後から、笑い声と共に突然現れた黒井社長。
 前哨戦の結果が961プロの快勝だったので、とても気分を良くしているようだ。


黒井「ウィ、3流アイドル諸君。今の気持ちはどうだ?」


「「「……」」」


黒井「そうかそうか。その調子で2週間後のフェスも十分頑張りたまえよ!」

黒井「まぁ、またしても我が961プロの圧勝で終わりそうだがな! ハァーッハッハッハ!!」


黒井「……と、そうだ。今日はひとつ、提案をしに来たのだよ」

黒井「今度のフェスでは、完全に決着を付ける為に――」


黒井「――”それぞれのプロダクションから、何かを賭ける”というのはどうだね?」


黒井「我が961プロからは、美希ちゃんと千早ちゃんを賭けよう」


「「「!?」」」


春香「……分かりました」


 春香の目に光が宿る。
 だがそれは希望に満ちた光ではない。
 炎のように揺らめく、黒く煤けた光。


春香「765プロからは、”私”……”天海春香”を賭けます」

真「春香……」


 雪歩と真には、春香を止める理由はなかった。
 誰が賭けの対象になろうが、負ければ”同じ”であるからだ。
 勝たなければ――全員が765に戻って来なければ――意味は無い。


黒井「おいおい、5流アイドル。こっちは二人だぞ?」

玲音「まぁ、いいじゃないか。あの二人は元々アタシが説得して来たんだし。それより――」


 玲音はニュージェネレーションズの方へ振り向く。
 視線の先の三人はその猛禽類のような視線に、戦慄した。


玲音「ちょうどいい話だね。346プロ、キミ達からは”渋谷凛”を賭けてもらおう」

凛「え……」

玲音「もちろん、星井や如月が346プロにいらないってなら、この勝負――フェスから降りたっていい」


玲音「負けて渋谷を失う事もないだろう」

 黒井社長も頷く。
 元々、番組収録の時点から346プロを巻き込もうと提案したのは玲音であった。
 なので、黒井も346プロにはそこまでの執着はないのであろう。
 『今回の賭けで”手駒”が増えれば儲けもの』程度にしか見ていないのは明らかだ。


未央「プ、プロデューサーに相談します!」


 未央が手をあげての発言。
 その元気の良さはある種、この雰囲気にはまったくそぐわないものであった。
 だが、その空気の読めなさは”未央らしさ”という形でメンバーに伝わり、緊張を緩和させた。


卯月「はい。未央ちゃんの言う通りです。私たちの判断で決められることではありません」

凛「……」

黒井「ウィ。ならば、返事は3日後まで」

黒井「それまでに何らかの方法で参加表明をしなければ、フェスには不参加とみなすぞ」

黒井「もちろん、これまで多額の金で宣伝もしてある」

黒井「参加しなければ、君たちのファンも悲しがるだろうなぁ~」

 煽る黒井社長。

凛「分かった。3日後まで、だね」


 凛が返事をすると同時に、背後で誰かのスマートフォンが大きな着信音を鳴らした。
 心当たりがあったのか、卯月が机の上に置いてあったそれを手に取る。
 彼女のものだったらしい。


卯月「……撤収、です」

 それは、上空に美城専務の操るヘリが到着していることを意味する着信であった。
 
 346・765のメンバーは荷物をまとめ、スタッフへ挨拶を済ませる。
 地階から登るエレベーターへ乗る直前、玲音は春香へ声を飛ばす。
 



玲音「天海!」

春香「……」

玲音「2週間後は、最高のステージにしようじゃないか!」

春香「……私、負けませんよ」


 春香の瞳に灯った炎は、その大きさを増していた。
 

玲音「良い表情だ」

 玲音が笑う。
 と同時に、真が叫ぶ。


真「黒井社長! 美希と千早の件、絶対ですからね!」

黒井「ウィ。私は、約束事は守る男だ」


 黒井社長の返事を聞いた後、ドアが閉まる。
 屋上へ着くまで、無言のエレベーター内。


 既に、”闘い”の火ぶたは切って落とされていた。


――――――――――

――――――――
――――――


「……アイドルって、こんなもんなのかね~……」

 街ひとつ巻き込んだ騒動の翌日。
 レッスンの為に961プロ・本社ビルへ来たジュリアが、ガラス越しの空に向かって語りかける。
 その独り言のような小さな声を聞くのは、ソファに座るMarsのメンバー。


桃子「どういうこと?」

ジュリア「いやさ、昨日のエキシビション。なんか、変じゃなかったか?」

麗花「うーん、玲音ちゃん、いつもよりぐわーって」

桃子「麗花さんはちょっと黙ってて」

麗花「あぁん」


 桃子が麗花を手で制する。


桃子「……美希さんや、千早さんたちの態度のこと?」

ジュリア「それもある。あたしが言いたいのは……観客、半分くらいはニセモノだったろ」

桃子「サクラってこと?」

ジュリア「そ。……まぁ、あたしが勝手に思ってるだけだけどさ」

桃子「桃子には、普通に玲音さんのファンに見えたけど」

ジュリア「う~ん……なんか、雰囲気が違ったんだよなぁ……」

桃子「もし、その話が本当なら……」


 腕を組み、考え込むジュリア。
 事情は分からずとも、ニコニコしている麗花。
 黒井や玲音に騙されているとは、思いたくない桃子。


「な~やんでもしーかたない♪」


 麗花が口ずさんだのは、どこかで聞き覚えのあるメロディ。

 
麗花「まだちょっと早いけど、レッスン、行こう♪」

ジュリア「はぁ~。その、のんきペースで来られると弱いぜ……」

桃子「麗花さん、レッスン好きだよね」


麗花「ううん。『ここにいちゃだめだ!』って気分になると、ついレッスンしたくなっちゃうの♪」


桃子「どういうこと……?」

ジュリア「はぁ~。ほんと、ワケわかんねーなぁ、レイは」

麗花「え~、私だけ~?」


――

――――――


 時は遡り、2か月前。美希と千早が961プロへ移籍した直後。

 961プロのビルの施設を一通り案内された美希と千早。
 まさに、その待遇は超一流のVIPそのもの。
 ちょうどいい時間だったので、豪華な夕食を取りながら、玲音を含め3人は話し合う。


「パーティーをやるには、ちょっと物足りないね。どうせならもっと賑やかにしよう。
 各自一人づつ、アイドルをスカウトしてくる、なんてどうだい?」


「それ、面白そーなの!」

「ちょ、ちょっと。私、スカウトなんて……出来る自信がないのだけれど」

「大丈夫。ちょっと歩けば原石だらけさ」

「その、原石を見抜くのにも才能が必要かと……」


「『素質あるアイドルはひかれ合う』という言葉を知ってるかい?
 アイドルとは魅力ある存在。魅力とは、すなわち重力。
 周りをひきつける力のある人間は、自然とひかれ合うものさ!」


「そういうものかしら……」

「ちょっとハナシがリカイできないの」


「ま、直感を信じなよ!
 スカウトして来た子は、1か月後の番組に出演させるからね」

――――


「路上で歌っているのを見て、スカウトしました」
「公園で会ったの」
「この子は天性のアイドルだよ」


「あたしはジュリア」
「北上麗花です♪」
「……周防桃子」


「おぉ! すごい才能を秘めている子ばかりではないか!」


―――― 
――――――――


「きっとこの3人には、この歌が似合うって思うな」

 美希は一枚のCDと、数枚の楽譜をテーブルに広げた。
 Marsの三人は、それぞれを手に取る。


「……思い入れのある曲なの」

「ふうん。765プロの楽曲か」

「そうね。映画にも使ったかしら?……くっ」

「……この歌はね、何度か765のライブでも歌ったんだけど、なにか少し違和感があったの」

「でもね……なぜか、”今の”この3人にピッタリなの」


「”オーバーマスター”」


「良い曲だな! ギターでアレンジしたら、もっとカッコよくなりそうだ!」

「うわぁ、なんかこの歌詞、恥ずかしい♪ ふふっ」

「桃子、こういう曲、好きかも」


――――――――


 時は進み、番組収録を終えてその放送の翌日。
 レッスンスタジオに篭もる桃子と玲音。


「そういえば、放送された番組見たけど……玲音さんって、演技、ヘタだね」

「なんのことだい?」

「……ほら、とぼけたい、って顔してる」


「ふふ。じゃあ、アタシからのお願いだ。”とぼけさせてくれ”」


 玲音からの予想外の返答に、少し面食らう桃子。
 別に玲音を困らせたかったわけではないので、すぐに容認する。


「……いいよ。元々、桃子には関係無い話だし」

「そもそも、周防。キミこそ、ここに来てから嘘ばかりじゃあないか」

「そんなことないよ」

「今のでプラス1、だ」

「……」


「だけど、それで良い。だから選んだ。キミには嘘を貫き通す力がある」

「……いつか、嘘をつかなくて良いように、なれたらいいね」


 そう言った玲音は、優しい目をしながら、桃子の頭を撫でた。
 桃子はほとんど経験したことの無い行動に戸惑ったが、『子供扱いされている』ことに気付き、すぐに「やめて」と怒った。
 だがその怒り方も玲音からすると可愛いもので、思わず笑ってしまうほどだった。


「おや、子供扱いには慣れていないのかな?」

「慣れて……あぁいや、じゃなくて、もう! 子供扱いしないで!」


――――――――

――――――
――――


(……桃子だって、何も知らないわけじゃない)


 そして現在。

 レッスンを終えた桃子は、961プロに入ってからこれまでの、様々なことを思い出していた。
 昨日の黒井社長の言動は、やはり、どちらかと言えば悪だ。
 だがそれは、玲音にスカウトされ、プロダクションの名前を聞いた時から覚悟していたこと。

 けれど、この感情はなんだろう。

 玲音のあけっぴろげな人格に甘えていたのだろうか。
 なぜか961プロに居た如月千早と星井美希。
 彼女達も独特の人柄で、アイドルの様々な事を教えてくれたが――自分は仲良くなったつもりだったのだろうか。

 もし、ジュリアの言う通り、昨日の会場に”サクラ”がいたとすれば、それはとても卑劣な行為。
 あれだけのメンバーを揃えて置いて、そこまでやる意味はあったのか。
 まさか、玲音がそれを指示したとは思えない。思いたくない。
 けれど、100%否定できる材料もまた、ないのだ。

 今はまだ、何も求められていない。
 けれど、いつか、このまま活動していたらMarsにもそういう”役割”を求められる日が来るかもしれない。
 もしくは、自分の知らない部分でそういうことをされて、自分が悪役のようになってしまうかもしれない。
 

(あぁ……アイドルも、やっぱり”芸能界”なんだね……)


 認めたくなかったわけではない。
 玲音のような”本物”がいるのも理解はできる。
 けれど、その”本物”ですら、裏ではそれを利用し、ほくそ笑む人物がいるのも事実。
 アニメや漫画で見たような、『誰もが憧れるアイドルの世界』はきっと、この世には存在しないのだ。


(……悪役だって、こなしてみせる)


 『誰かに相談して、解決できる問題ではない』
 ……無意識にそう考えてしまっている桃子は、強がりだった。

 

――
――――


 昼。

 キャンディーアイランドの雑誌のグラビア撮影の帰り。
 プロデューサーは、フェスの参加について皆に聞いて回ることにした。


346P「フェスについて、どう思われますか」

智絵里「私は……参加しない方が、いいと思います」

かな子「う~ん、私も……かなぁ。どうしても、あの人たちより盛り上がるイメージが……」

杏「……」

346P「双葉さんは、如何ですか」

杏「……他に、選択肢はないかなーって考えてるけど……ごめん、無いや」

346P「いえ……すみません。ありがとうございました」


――
――――


 昼過ぎ。

 Rosenburg Engelこと、神崎蘭子の出演するテレビドラマのロケの合間。


346P「どう思われますか」

蘭子「えっと……私は……」

346P「……遠慮せずに、仰って下さい」


蘭子「……私は……我が魂は、我が友の、赴くままに」


346P「……!」

蘭子「如何なる終末を迎えようと、……あなたを、信じてます」

346P「……分かりました。ありがとうございます」

すみません、ミスです。>>146はなしでお願いします

――――――――――


 時を同じくして、346プロ事務所。エキシビション翌日の朝。
 ニュージェネレーションズ3人から報告を受けるプロデューサー。
  

凛「ごめん、プロデューサー。負けた」

346P「はい」

未央「うーむ、なんだかタンパクだなぁ」

卯月「あはは……むしろ、プロデューサーさんが落ち込んでるところ、見てみたかったかもです」

346P「いえ、私は……」

未央「『想定の範囲内です』とでも言うつもりか~このこの!」


 プロデューサーにヘッドロックをかます未央。
 本気でやっているわけは無いので、もちろん痛みはない。
 しかし、”痛み”はないが、その対極に位置するものがPの顔に当たっている。

凛「未央……」

 渋谷凛の絶対零度。
 未央はすぐさまプロデューサーから離れる。

未央「あい……」

卯月「ふふ、未央ちゃん、速いです」

凛「プ、プロデューサーも困ってたでしょ」

未央「……あはっ」

 一瞬でいつも通りの空気になったが、まだ報告は終わっていない。
 どうしても伝えなければならない事柄がひとつ。卯月が切り出す。


卯月「……プロデューサーさん。実は、今度のフェスは負けられないんです」


 卯月の真剣な表情を受けて、若干緩んでいた顔を引き締めるプロデューサー。


346P「……それは、どういうことでしょうか」

卯月「はい、それはですね……」

――
――――


346P「つまり、今度のフェスで敗北すると、渋谷さんは移籍しなければならない、と」

凛「……うん」


 凛は目を伏せて頷く。
 卯月や未央も、どことなく暗い表情である。
 

「……」


 プロデューサーは悔いていた。
 思えば、番組収録時点で、秋月プロデューサーはその予兆を感じ取っていたのだ。
 だが、自分はそれを――


『玲音というビッグネーム。今回はそれに挑む形になるでしょう』
『もし仮に、フェスで負けてしまったとしても、こちらとして痛手はそれほどありません』
『なぜなら、相手が格上だからです。それはそれで一つの納得の形になります』
『ならば、これは良いアピールの場に成り得るのではないでしょうか』


 ……考えが甘すぎた!


 秋月プロデューサーのあの反応は――『あんな告知、放送できるもんですか!』――正しかったのだ。
 961プロダクションの黒井社長と直接対峙したことのある側の意見の方が正しかったはずだ。
 なのに、自分の対応は、あまりにも普通すぎた!
 
 既に広告は961プロの膨大な資金によって、大々的に出してある。
 この状況から撤退するのは、あまりにも悪手だ。
 観客が数万人という、この大舞台。
 それを直前での降板は、プロダクション全体のイメージの低下に繋がるだろう。
 だが――


 すがる様な目でこちらを見てくる3人の姿。


 この子たちに、『玲音や765プロたちに打ち勝て』と言うのは、あまりにも”酷”過ぎる。
 しかし、『渋谷凛を失う』のは、イメージ低下と同等か、それ以上の痛手。


未央「……プロデューサー?」


346P「少し、考えさせてください……」


眉間に手を当て、部屋の外へ出て行くプロデューサー。


卯月「……落ち込んでる姿、見れちゃいましたね……」

凛「プロデューサー……」

 

――
――――


 昼。

 キャンディーアイランドの雑誌のグラビア撮影の帰り。
 プロデューサーは、フェスの参加について皆に聞いて回ることにした。


346P「フェスについて、どう思われますか」

智絵里「私は……参加しない方が、いいと思います」

かな子「う~ん、私も……かなぁ。どうしても、あの人たちより盛り上がるイメージが……」

杏「……」

346P「双葉さんは、如何ですか」

杏「……他に、選択肢はないかなーって考えてるけど……ごめん、無いや」

346P「いえ……すみません。ありがとうございました」


――
――――


 昼過ぎ。

 Rosenburg Engelこと、神崎蘭子の出演するテレビドラマのロケの合間。


346P「どう思われますか」

蘭子「えっと……私は……」

346P「……遠慮せずに、仰って下さい」


蘭子「……私は……我が魂は、我が友の、赴くままに」


346P「……!」

蘭子「如何なる終末を迎えようと、……あなたを、信じてます」

346P「……分かりました。ありがとうございます」

――
――――

 夕方。
 とときら学園収録前の凸レーション。


莉嘉「うーん、アタシ、分かんない!」

みりあ「そうだね、私も……何が正解なのか、わかんない」

きらり「きらりは……」

346P「?」

きらり「みんなが、このままやっていけたらいいな、って思うにぃ……」

きらり「だから……」

莉嘉「どーん☆」

みりあ「ばーん♪」


 背中からきらりに覆いかぶさる莉嘉とみりあ。


きらり「うわ、莉嘉ちゃんみりあちゃん、どうしちゃったにぃ?」

莉嘉「どんな状況でも!」

みりあ「笑ってなきゃ、ダメだよ♪」


きらり「……うんっ」

きらり「にゃっほーい☆ きらりーん……大雪山☆おろしぃーーー☆☆」


莉嘉「うわーーっ」

みりあ「あはははっ」


 きらりの回転する力によって吹き飛ばされる11歳と12歳。
 プロデューサーはそれを受け止める。

346P「お、っと……お二人とも、軽いですね」

莉嘉「あー面白かったー!」

みりあ「もういっかーい!」

――
――――


 夕暮れ時。

 店頭でのミニライブイベントを終えたアスタリスク。


みく「みくは、出ないって選択肢はないと思うにゃあ」

李衣菜「そうかな……」

みく「だって、こんなチャンス、きっともう無いにゃ!」

李衣菜「でも、負けちゃったら……」

みく「そんなの、後からどうとでもなるにゃ! 765プロみたいに、取り戻す闘いをするだけにゃ!」

李衣菜「……どんどん勝てなくなるよね、それ……」

みく「うぐっ……とにかく、気合にゃ、Pチャン!」

346P「はぁ……」

李衣菜「私は……逃げた方が、いいと思います」

李衣菜「いや、違うな……闘っちゃ、ダメなんだと思います」

346P「……」

李衣菜「だって、アイドルって……うーん、なんていうか……」

李衣菜「そういうのじゃ、ないと思うんです」

みく「ハッキリしないにゃ~……」

346P「つまり、お二人の意見は」


みく「参加!」
李衣菜「不参加、です」


346P「はい。貴重な意見、ありがとうございました」

――
――――


 夜。

 ラジオ収録を終え、車で帰る途中のラブライカ。


美波「フェス……ですか」

アーニャ「トテモ、むずかしい、ですね」

346P「はい」

美波「……玲音さんたちに勝つのは、きっとすごく難しいと思います」

美波「でも、挑戦することは……冒険、なのかしら」

アーニャ「それは……ムボウ、かもしれません」

346P「そう、ですね」

美波「たぶん、私達の今後を考えるなら……参加しない方がいいと思います」

アーニャ「ダー。私も、そう思います」

美波「でも、やっぱり……」


 目をつぶり、ぶんぶんと顔を横に振る美波。
 考えが煮詰まっているようだ。


美波「ごめんなさい、プロデューサーさん」

美波「せっかく、私たちの意見を聞いてくださっているのに、私、何も……」

346P「いえ。私が無理にお願いしたのですから」

 美波が謝った直後。
 アーニャは運転席と助手席のヘッドレストに手を掛け、後部座席からプロデューサーの視界に入る所へのっそりと顔を出す。
 

アーニャ「クスターチェ……ところで、プロデューサーは、どう思っていますか?」


346P「……」

346P「私は……」


――
――――


 深夜。

 仕事を終え、メールで約束を取り付けたバーへと向かう。
 申し合わせていた時刻の5分前に、彼女は現れた。


「お前の方から私を呼び出すとは、珍しいこともあるものだ」

 美城専務である。


「実は――」

――


「ふむ……そうか。遂に961プロが仕掛けてきた、という訳か」

「……今や、渋谷凛はお前のシンデレラプロジェクトにも、我がプロジェクトクローネにも欠かせない存在だ」

「もし、負けて約束通り手放すことになれば、346プロのアイドル事業部は大きな痛手を負うことになる」

「……それこそ、抜けた穴を埋める再編成の為に、両プロジェクトは一時的な凍結も視野に入るだろう」


「では、今回は……」


 プロデューサーの弱気な言を遮り、カクテルグラスをぐい、と呷る美城専務。
 そして彼女はバーテンダーに次の一杯を注文する。
 プロデューサーは、専務の次の言葉を待った。


「……逃げるという選択肢は無い」


「仮に今回、勝負から逃げる事が出来たとしても、今後日本で活動していく上で玲音との衝突は避けられまい」

「なら、どうすれば」


 まさに八方ふさがり。
 進退窮まる状況とは、このことであろう。
 専務は新しい一杯を貰い、口に付ける。鮮やかな紫色が美しい。 



「.……これで負けるようならば、我がプロダクションもそれまでだったということだ」


 専務はやや自暴気味に言い放った。
 ……アイドル事業部の今後が決まってしまうような舞台。
 プロデューサーにとって、専務のその言葉は余りにも重すぎた。

「しかし、アイドル達は……」


 プロデューサーは困惑する。
 アイドル達からは、やはり、否定的な意見か多々あった。
 参加して、勝てるとは――恐らく、誰も思っていなかった。


 是認の言葉を受けてなお苦悩するプロデューサーの様子を見て、美城専務は駄目押しと言わんばかりに言葉を重ねる。
 


「私は、シンデレラに城を用意する事ができる」

「そしてお前は、自分に何が出来るのか――」

「”あの冬の日”、私に言った事は、もう忘れてしまったのか?」


 それは、冬の舞踏会でプロデューサー自身が言い放った言葉。


――――――


『一番大切なのは、彼女たちが笑顔であるかどうか』

『それが、私のプロデュースです』


――――――


「……っ! 失礼します!」


そうだ。自分に出来る事は――


シンデレラに、前に進む為の、靴を用意する事だ。



 プロデューサーは、すぐさま自分が飲んだであろう金額以上の紙幣をテーブルに置き、その場を走って去ってゆく。

 彼女は『やれやれ、忙しい事だ』と心の中で笑った。
 そして、半ばやけくそ気味に、彼の飲み損ねたウイスキー・ショットを一口に飲み干す。


 くいっ……タン!


「……っはぁ。もう少し、付き合ってくれてもいいとは、思わないかね?」

「はぁ……」


 急に問いかけられたバーテンダーの困惑する顔。
 そして背後から聞こえる声。


「あ、美城専務」


 店の入り口から顔を覗かせたのは346プロの歌姫、高垣楓。
 既に彼女は赤ら顔。今夜は2件目といった装い。


「おひとりですか」

「……あぁ、そうだが」

「じゃあ……”ツバメ”みたいに隣に”座ろー”っと」

「……」

「ふふっ……あら、ウケませんでしたか」

「……いや、大爆笑だ」

「あは、専務も話が分かりますね。じゃあ……お疲れ様です♪」

「……お疲れ」



  カチンッ♪



 その八『記憶』 終

今回はここまで。

拙文ながら、せめてミスだけはしないようにと思っていたのですが・・・すみません
そしておそらく、あと2回で終われそうです。
いつも読んでくださっている方への感謝は、最後まで書き終り、投稿した時に精一杯したいと思います。

校閲が完了次第、投下します


イメージ画像
http://i.imgur.com/VYTp9FQ.jpg
http://i.imgur.com/lNjIbPr.jpg
http://i.imgur.com/iCh2RLI.jpg
http://i.imgur.com/aaoJuCA.jpg
http://i.imgur.com/Soj34NV.jpg
http://i.imgur.com/lEkcfW9.jpg

――――――――――


 その九『笑顔』


 翌朝。

 シンデレラプロジェクトの部署のある階へ、エレベーターで昇るプロデューサー。
 『フェスへ参加にするか否かを伝える』。
 その旨の集合メールを昨晩送っており、部屋には既にメンバー全員が揃っていると思われる。


 エレベーターが到着し、部署への扉が見えた。
 その部屋へと繋がる最後の扉の前に、1人の少女。


 美しい黒髪。
 やや着崩した夏服。
 この年齢にしては珍しい、大人びたアクセサリー。


 渋谷凛だ。

 
 いつもと違うのは――その表情。
 少し、泣きそうな目をしている。
プロデューサーを前にすると、凛はおずおずと口を開く。


「あの……さ。結論を出す前に、聞いてほしいことがあって……」


 その声は、震えていた。


「……この前のエキシビションで、卯月が玲音たちに言ったんだよ」


「『敵として闘わない、皆を笑顔にさせる為にフェスをする』って」


「それはすごく立派なことだと思うし、私もそうしようと思った」

「プロデューサーの言う、”笑顔”って、こういうことだったんだ、って」


「でも……」

 右手にスカートを握りしめる凛。
 切羽詰まった表情。


「でも、私……終わった後、『もっと競い合いたい』って感情が湧いてきて……!」

「なんだか自分でも信じられないほど昂って……」

「それで、玲音に目を付けられて……!」


 ”あの”記憶・感覚を忘れるように、激しく首を振る凛。
 だが、溢れる想いと言葉は止まらない。


「”卯月の笑顔は人の心を動かす”」

「”未央の笑顔はみんなを明るくさせる”」


「前に、プロデューサーは言ったよね。私の良い所は”笑顔”だって……」


「でも、私……笑えてるのかな……?」


 声のトーンが一層落ちる。
 

「……私、笑顔って、何なのか、分からなくなっちゃって……」


「……ふさわしく、ないのかも」


「プロデューサーの理想の”笑顔”にも」

「卯月や、未央、皆の……隣にいることにも」


「……気付いたんだ。きっと、私は……間違ってた」

「ここに、いるべきじゃなかったのかもって……」



 零れ落ちる、一粒の涙。

「こ……こんな私なんか、もう、」
 

 『961プロに』という言葉を待たずに、プロデューサーが否定を差し込む。


「いいえ」

「えっ?」


「あなたの笑顔の魅力は、皆知っています」


 言葉と共に、凛の両肩を持つプロデューサー。
 凛は驚いてプロデューサーの顔を見る。
 ずっと下を向いていた凛であったが、その行為によって、自然と顔が上に。


「普段の会話の中の、さりげない笑みが魅力です」

「ライブ前、緊張している共演者に優しく声をかける時の微笑みは純粋に美しいと思います」
「歌を歌った直後の、仲間と目を合わせ、にっ、と笑う笑顔には何度も見惚れました」
「トーク中、他の方が失敗した時の苦笑いは見る人にも伝播してしまうでしょう」
「今こうやって、誰かに褒められている時の、嬉しさを隠しきれな」

「あのっ! もういいから……!」


 顔を真っ赤にしてプロデューサーを止める凛。
 プロデューサーは、あくまで真剣な顔つきと純粋な目。
 その全て、心の底から思っている事が凛にダイレクトに伝わっていた。

「アンタが、私をよく見てくれてたのは、わ、分かった……その……ありがと」

「でも、やっぱりフェスになると、私……怖いんだ」

 

「……その感情の昂りは、アイドルとしての本能です」


「それは、アイドルとして活動していく上で、誰もがいつか体験するものです」

「強く感じたというのは、どこか、玲音と波長が合ったのでしょう」

「アイドルとしての資質が、あのオーバーランクと近かったのかもしれません」

「……つまり、私の見る目が良かった、ということですね」


「そ、そうなんだ……」

「はい。ですから私は、あなたを絶対に手放しません」

「え?」

「961プロへの移籍は、させません」




 凛の肩に片手を置いたまま、後ろの扉を開ける。
 そこは、シンデレラプロジェクトの部屋。
 既に凛以外のメンバー全員が揃っており、皆こちらを見ている。


「……みなさん。シンデレラプロジェクトは、フェスへ参加します」


 その言葉に対する反応は各々で違ったが、一様に驚きの成分は多少なりともあった。
 ”フェス不参加派”であった李衣菜が、口を出す。


「……もし、負けたら……凛ちゃんの事は、どうするんですか……?」

「心配する事はありません」


 プロデューサーは続ける。

「約束します」

「もし、何があろうと、何処へゆこうと」
「……渋谷さんは、絶対に、私が取り返します」


「他の皆さんも、同じです」
「このシンデレラプロジェクトのメンバーは、最後の瞬間まで、私がプロデュースします」


「あなた達は、私の、最高のアイドルです」


「なので……――いつもの、”笑顔で”、いきましょう」
「よろしくお願いします」


 プロデューサーが頭を下げる。
 こうなれば、担当された側のアイドルとして、反応することは一つに決まっている。


「「「はいっ!!」」」


「……私、アンタがプロデューサーでよかった……」



 プロデューサーの隣で、ぽろぽろと涙をこぼす凛。

 
「し~ぶりんっ」

「未央ぉ……」

「ほーら、泣かない泣かない」

「そうですよ凛ちゃん」

「こんなにロックで素敵なプロデューサーに、恵まれたからには!」

「みくたち、きっと!」

「さいっっこうで♪」

「さいっっきょーの☆」

「きらきらの、笑顔ができるにぃ☆」

「みんなを幸せにする……まるで、四葉のクローバーみたいな」

「甘~いお菓子みたいな」

「世の全てを極光へと導く様の」

「ウルイープカ……笑顔を」

「みんなに、届けましょう!」


「うん、うん……」

 
 何度も頷く凛。
 その表情は、涙でぐしゃぐしゃではあるが――もう、立派な”笑顔”。


「ね、プロデューサー……アンタから貰った、私の、私たちの笑顔……」

「……みんなに、おすそわけ、ですね!」

「ってことでプロデューサー! 残り2週間だけど、なんとかやってみる!」


「はい」

 自然と、皆が笑顔になってゆく。
 それこそが、彼の理想のアイドル――シンデレラ・プロジェクト。


「……杏は、プロデューサーから『最後まで面倒みる』って言質取ったからね」

「そりゃもう笑顔しかないよ」 ニヤァ…

「……はい」

――――――――――


 346プロが黒井へフェスの参加表明を出した頃――
 
 土曜日の午後。
 Marsのレッスンは午前中に終わり、ジュリアは街で散歩をしながら暇を持て余していた。
 ……あのエキシビションから、気持ちがどこかモヤモヤとして上の空。
 鬱々とした胸の内の原因は既に分かっている。

 『アイドルって、こんなもんなのか』

 という、漠然とした悩み。
 思っていたほど悪くは無い。
 だが、確実に何かが”違う”のだ。
 

ジュリア「はぁ~、久々に路上でやりてーなぁ……でも、やるなって言われてるしな……」

 ジュリアは一応、既にテレビ出演をしている。
 なので黒井社長から”Marsのイメージを守る”為に、外で勝手な行動はするなと言われているのだ。
 

ジュリア「……ま、バレなきゃいーか」

 と、持ち前のロック精神でストリートライブの準備を始めたジュリアの背後に、とある”双子”の姿。


亜美「あ~っ! Marsのセンター!」
真美「うあうあ~、プレイボートでもバリバリだYO!」

 『面白いモノみつけた』と言わんばかりに畳み掛ける亜美真美。
 ちなみに正しくは”プライベート”。
 

ジュリア「お、765プロの。……え~と、亜美真美、だっけ」
 
 うろ覚えといった様子のジュリア。

亜美「亜美たちほどの有名人を、『だっけ』だとぉう!?」

ジュリア「ごめんな。あたしって、テレビとかあんま見ないんだ」

真美「ふぅ~ん」

亜美「つまんないの~」


 ぶーたれる双子を見て、悪そうな表情でニヤリとするジュリア。


ジュリア「……じゃあ、テレビより面白いもの、見せてやろっか」



 自慢のエレキ・ギターとミニアンプの準備は完了。
 マイクは無し。生声で勝負。


「――本気のあたしに、惚れんなよ?」


 ジュリアは思う存分ギターを弾き、歌を歌う。
 双子は、とたんに目を輝かせて、その歌声に聴きいった。


――
――――

 ストリートライブは数曲で終了。
 そこにはほんの十数人の人だかり。
 だが、そのひとりひとりは、名も知らぬ歌に惹かれて集まった客ばかり。
 亜美真美が観客に混じっていることには、誰も気づいていないようだった。
 
「……みんな、わざわざ足止めて聴いてくれてありがとう!」
「たまにここでやってるから、また見に来てくれよな!」


――――
――


 数分後。
 観客のいなくなった路上で三人は佇む。


亜美「なんか、凄かった!」

真美「カッコよかったよ~!」

ジュリア「はは、ありがとな」

ジュリア「……あたし、今はアイドルだけど、もともとはこういうパンクな音楽が好きなんだ」


亜美真美「「パンク?」」


ジュリア「おいおい、パンクも知らないのか?」

亜美「ぐむむ……ぷぅちゃんのクセになまいきだYO!」




ジュリア「ぷ、”ぷぅちゃん”?」

真美「うん」

亜美真美「「パンクだから、”ぷぅちゃん”」」

ジュリア「変なあだ名つけんじゃねー! あたしはジュリアだ!」


亜美「だって、名前知らなかったんだもーん!」

真美「ジコショーカイしなかったぷぅちゃんが悪い!」

ジュリア「それもそうか……って、なるか!」

ジュリア「確かにあたしも自己紹介してなかったけどさぁ!」


真美「……んん?」
亜美「うむむ?」

 唐突に、あごに拳を当て、『考えてるっぽい』ポーズを取る亜美。
 同時に人差し指をこめかみに当て、『考えてるっぽい』ポーズを取る真美。


真美「でも、よくよく考えると、アレが”ジコショーカイ”かね? 亜美隊員」
亜美「んっふっふ~、そうかもしんないね、真美隊員」


亜美真美「「なら、亜美(真美)たちも、”ジコショーカイ”、するべきだね!」」


「へーーーい!!!」
「そこの道ゆく兄ちゃーーーん、姉ちゃーーーん!!」


ジュリア「きゅ、急にどうしたんだよ、おい!」


「「今から、765プロの双海亜美・双海真美による」」

「「スペシャルミニコンサート、はっじめるよ~ん!!」」


 一瞬でざわつく街中。注目度、200%。

 
ジュリア「お、おいこのバカ双子! お前らがこんなとこでやっちゃあ……!」

亜美「んっふっふ~、これが亜美たちの”ジコショーカイ”だよ~」

真美「真美たちのライブ、じっくり堪能するがよいぞ~!」


「わ、ほんとに亜美真美だ!」
「きゃー! テレビで見るよりカワイイー!!」
「アミマミちゃんいつも見てるよー!」

 続々と増える観客たち。
 どこにそんなに居たのかと思うほどに、わらわらと集まってきた。

ジュリア「うぎゃーーっ! すごい騒ぎだーーーっ!」


亜美真美「「んじゃあ一曲目ィ! ” スタ→トスタ→ ” !」」


――――――

――――――――


「それにしても、急にどうしたのさ伊織」

「いつもは誘っても断るのに、珍しいぞ」

「はぁ、はぁ……こんな時くらい、いいじゃない」


 亜美真美がストリートで喝采を浴びている頃。
 真・響・伊織の三人はランニングに励んでいた。
 響の言及している通り、伊織は普段、レッスン前のこのランニングには参加しない。
 だが、彼女にも思う所があるのだろう。
 

伊織「はぁ……やれることは、全部、やっておきたいのよ」

真「その気持ちはすごくよく分かるけど……」

響「伊織、そろそろ限界じゃない?」


伊織「……うるっさいわね!! っていうか、もうそろそろ終わりにしなさいよ!!」

伊織「もうフルマラソン1回分くらいは走ったんじゃないの!?」


 なんとか二人についていっている状態の、汗だくの伊織が叫ぶ。
 真と響は『やれやれ』と、両の手のひらを上に向けてひらひらさせながら返す。

響「そんなに走ってないぞ? せいぜい、30キロくらいじゃないか?」

真「ぷぷ、フルマラソンって40キロくらいでしょ? 伊織バカだなぁ、全然違うじゃん」

伊織「バカなのはあんたらよ、この体力バカども!」

真「……よーし。響、ペースあげようか」

響「了解だぞー」

 
 ぐいーーん、とペースを上げる二人。
 伊織も最初は背中を追ったが、すぐに無理だと判断し、足を止めた。
 その数秒後には、真と響の姿はもう見えなくなっていた。

 息を整え、周りを見渡すと、そこは知らない街。
 レッスンまであと2時間はある。いざとなったらタクシーで帰ればいい。
 伊織はとりあえず、そばにあったベンチで一休みすることに。


伊織「あ~、ほんと、バカにはついてけないわ……」

 自販機でドリンクを買い、一息ついていると、どこからかのんきそうな声が聞こえてきた。


「あ~ん、どっちにしようかな。チーズもおいしそうだし、生キャラメルも捨てがたい~」


 どうやら近くに何かの屋台があるらしい。
 伊織はあまりに突飛な単語が気になり、声の主の方を見る。
 困り顔の店主に絡む後ろ姿は、長い二つの髪の束。


「よし決めた! こっちの抹茶明太ください♪」


 この絶妙に澄んだ声。
 どこかで聞き覚えがある。
 伊織は必死に思い出そうと、記憶を探っていると、その人物がこちらへやってきた。


「あ、伊織ちゃんだ~♪」


 ……その顔を正面から見て、ピンときた。 
 こいつは――


伊織「『Mars』!」


麗花「あ、知ってたんだ~。私、北上麗花って言います♪ アイドル同士、仲良くしようね♪」

伊織「北上、麗花……」

麗花「はーい!」

 名前を反復され、嬉しそうに手を上げ返事をする麗花。
 だが、そんな麗花を前に伊織は困惑していた。


伊織「あんた……あの時と全然ちがうじゃないのよ!!」

 伊織の記憶には、特番収録の『オーバーマスター』を歌っている麗花。
 あの麗花は、貴音に負けない程に”雰囲気”があり、見た目や歌っている時の表情で言うならミステリアスそのものであったのだ。
 伊織の驚愕の叫びをいなしつつ、ベンチの隣に座る麗花。


麗花「あの時……? うーん、なんだろう」

伊織「番組の時よ! まるで別人じゃない!」

麗花「うーん? ……あっ、そうだ。これ食べる?」


 麗花は突如として、手に持ったたい焼きを伊織の顔の前に差し出す。
 できたてでほかほかと湯気が立っていておいしそうだ。
 おいしそうではあるが……


伊織「私、今疲れててそういう気分じゃないのよ。っていうか、あんた、敵でしょ?」

麗花「まぁまぁ、そう言わずに」

伊織「むぐ」


 むりやり伊織の口にたいやきを詰め込む麗花。
 口内にえもいわれぬ味が広がる。


伊織「ふぁ、ふぁんふぁのよこふぇは~~!!」(な、何なのよこれは~!)

麗花「えーっと……抹茶明太?」

伊織「ふぃむ! ふぃむ!」(水! 水!)

麗花「はい♪」


 伊織は自分のドリンクを持っていたはずだが、つい、麗花から手渡されたコップに口をつける。
 彼女の自前の水筒から差し出された”それ”は――


 ぶふーーっ!


 モザイク状の緑と赤と黒が地面へ散布される。


伊織「なんでおしるこなのよ!!!」


麗花「えーっ、おしるこ、登山家のマストアイテムなのに……」

伊織「知らないわよ! っていうか、今8月よ!? バカじゃないの!?」

麗花「こんなにおいしいのに……ずび、あちち、ずび」

伊織「飲んでる場合かーーーっ!!」


 その見事なまでのボケ&ツッコミは、ランニングコースの帰路を帰ってきた真と響に発見されるまで続いていたそうな。


――――――

――――――――


(今日は家に誰もいないから、晩ご飯食べて帰らなきゃ……)


 伊織が抹茶明太おしるこを盛大にぷっぱなした頃から数時間。
 Marsの周防桃子は、夜の帳が完全に落ちた街の中を歩いていた。

 彼女はいつも、時間ぎりぎりまで961プロでレッスンをおこなって帰宅する。
 そのほとんどに付き合っている玲音は特には何も言わないが、察していたことだろう。
 周防桃子が家に帰りたがらない理由――彼女の家庭環境を。
 
 週末の外食。
 幸せそうな家族が街を歩いているのを横目に見ながら、桃子は出来るだけ静かに食事が出来る場所を探していた。
 
(ホットケーキがある、喫茶店がいいな……)

 目線をきょろきょろさせながら歩いていると前方不注意が祟り、人にぶつかってしまった。
 尻もちをつく桃子。

「きゃっ。……ご、ごめんなさい」
「ううん、こちらこそ」
 
 そう言って伸ばされた手。
 その手を握ると同時に、相手と目が逢った。


雪歩「……周防、桃子ちゃん!?」
桃子「萩原、雪歩さん……と、高槻やよいさん」
やよい「あっ、961プロのアイドルさんですー!」


 何はともあれ、雪歩の手を借りて身体を引き起こす桃子。
 雪歩の隣に立っていたやよいが注意をする。


やよい「こら。ちゃんと前を見て歩かないと、あぶないでしょ?」

桃子「……ごめんなさい」

雪歩「えっと……どうしてこんな時間に、1人で?」

 やよいと雪歩は765プロのレッスンから帰宅の途中であったが、時計の針はもう9時半を回っていた。
 子供が独り歩きをするには、少し遅すぎる時間。


桃子「あなたたちには関係ないでしょ」



やよい「でも、心配だよ。おうちまで送っていってあげる」

桃子「だから……あぁもう、桃子はご飯食べて帰らなきゃいけないのに」

やよい「ごはん?」

桃子「あっ」
 

やよい「じゃあ、うちにおいでよ!」


――――――

「――でね、まだ小っちゃいの」
「……普通に話してるけど……桃子、あなたたちより芸歴、上なんだけど」
「あうう」
「はわっ! ほんとうですか!?」
「まぁ、でも、アイドルって芸歴で決まる世界じゃないから、普通にしてていいよ」
「本当? 桃子ちゃん、って呼んでてもいいの、かな」
「……いいよ」

――――――


 急遽やよいの家に厄介になった桃子。
 たまたま一緒にいた雪歩も夕食を共にすることに。
 家に着いたのはもう10時過ぎ。子供たちは寝ている様である。

 やよいの料理が出てくるまでの間、雪歩のお茶で喉を潤す。
 暖かいお茶を飲んだ桃子が、ぽつりともらした。


桃子「あ、おいしい……」


 思わず口から出た言葉に、桃子は自分でも驚く。
 それを逃さず聞いた雪歩が、にっこりと微笑んだ。


雪歩「でしょ? えへへ……うれしいなぁ」

桃子「別に雪歩さんのことを褒めたわけじゃないよ。ただ、お茶が」

雪歩「うん。でも、自分のことみたいに、嬉しいの」

桃子「……へんなの」


 雪歩の嬉しがっている様を見て桃子が訝しげにしていると、やよいが大皿を持って現れた。
 ふわりと香るウスターと、うっすらケチャップの匂い。
 どん、と食卓に置かれ、てきぱきと用意されていく取り皿とご飯と箸。

 

やよい「はいっ、もやし炒め!」

やよい「じゃあ、冷めないうちに! いただきまーす!」

桃子「いただきます。……これ、おいしくない」

やよい「はわっ! もしかして何かまちがえ……」

桃子「あははっ。嘘だよ、おいしいよ。あまりにもやよいさんが自信満々だったから」

やよい「もー! 桃子ったら!」


 ぷんすかと怒るやよいだが、騙した側である桃子の方はどこかきょとんとしている。
 呼ばれたイントネーションを不思議がっている様だった。
  

桃子「いま……”桃子”、って」

やよい「えへへ~。だって、わたしの方が、お姉さんだもん!」

桃子「そっか……うん、そうだよね」


 やよいの屈託の無い笑顔。
 それを見た桃子は、ほわりと、なにか暖かいものを感じた。

 小さな彼女の胸の奥にある、巨大な氷。
 ――それは、長い芸能生活と家庭生活の摩擦によって生まれた、固く大きな殻のような氷。
 その氷塊が、ほんの少しではあるが――じわりと溶けた。


雪歩「そういえば桃子ちゃん、ホットケーキ好きなの?」

桃子「……そうだけど、なんで……」


 『知ってるの?』という疑問符を頭の上に浮かべる桃子。
 それも当然。そんなことは一言も言っていないからだ。


雪歩「さっきスーパーに寄った時。桃子ちゃん、そのコーナーをじっと見てたから」

桃子「えっ、そんなこと……」


 思い返せば……あるかもしれない。
 空腹だったのを勘定に入れても、桃子は『気が抜けていた』と思った。
 今日初めて会ったばかりなのだが、なぜかもう何年も一緒に居た友人や家族のような感覚。
 それも、雪歩とやよいの人徳の為せる技なのだろう。


やよい「ホットケーキなら、うちにホットプレートがあるから、今度やりましょー!」

桃子「ふふん、桃子、ホットケーキ焼くの上手なんだよ」

やよい「わたしもじょうずだよ! プロデューサーに、『やよいはホットプレートの魔術師だな』ってよく言われてたんだから!」

 『”まじゅつし”、ってなんなのかわかりませんけど』と付け加えるやよい。
 

桃子「じゃあ、勝負だよ、やよいさん!」

やよい「うん、また今度ね!」

雪歩「私はその時に、甘いものに合うお茶をもってくるね」


 『また今度』という約束。
 きっと、雪歩の淹れる暖かいお茶や、やよいのホットプレートの熱で。
 桃子の心を覆う氷はまたいくらか溶けることだろう。
 ”嘘”――”演技”――で塗り固められた彼女の人生が、動き出そうとしていた。


――――――

――――――――


 やよいの家から桃子と雪歩がタクシーで帰って行った頃。

 真夜中の島村家。
 卯月は既に寝る準備をしてベッドに入っていたが、なんとなく眠れずにいた。
 悩みなど、何もない。
 けれど、この前の、プロデューサーの”まるで王子様からのプロポーズのような”声明。
 あれを聞いてからというもの、どこか意識がふわふわと現実離れしている。


――

『このシンデレラプロジェクトのメンバーは、最後の瞬間まで、私がプロデュースします』

『あなた達は、私の最高のアイドルです』

――


 思い出すだけで、心が温かくなる。
 きっと、理想のプロデューサーとアイドルの組み合わせとは、自分たちのことを言うのだろうと彼女は思った。
 
 フェスへの具体的な作戦は、まだ何も無い。
 けれど、『なんとかなる』という、ある種の楽観的な思考で居てしまっている。
 しかし彼女は確信していた。

 笑顔の力を。


 ……きっと、自分は舞い上がってしまっているのだろう。
 卯月は、気持ちを落ち着ける為に少し散歩をすることにした。

 8月の夜は熱帯夜とまではいかず、夜風が肌に気持ちが良い。
 つい風に誘われ、近くの公園まで歩いてきてしまった。
 なんとなく中へ入ろうと近づくと、ざっ、ざっ、という砂を蹴る音が聞こえる。
 先客がいるようだ。


「……っ、っ……っ」


 月明りに照らされたのは、ダンス・ステップの練習をしている――天海春香。
 人物を視認した卯月は驚く。
 『なぜこんな時間に?』『なぜこんな場所で?』
 疑問は尽きない。



「春香さん……?」

 声を掛けられ、びくりとして動きを止める春香。
 
「……」


 返事は無い。が、こちらをじっと見ている。
 その表情は幽鬼の様であり、どこかおぞましさすら感じる。
 その瞳には、燃え盛る炎のような執念が、渦巻いていた。


「卯月ちゃん、か……邪魔しないでね」


 春香はそれだけを言うと、また、振り付けの練習へ。
 様子がおかしい――どころの話ではない。
 まるで別人のような対応。


「あの、どうして、こんな所に?」

「……765のみんなに見つかったら、オーバーワークだって、止められるから」


 目線は寄越さず、ステップはそのままに答える春香。
 その態度は、まるで『話しかけるな』と言わんばかりのぞんざいさ。


「せっかく、誰も来なさそうな所で、練習してたのに、な……っと」


 ちょうど一曲分の振りが終わったのだろう。
 キメをして、足を止めて息を整える春香。
 『もう終わったのかな』、と安心して卯月が近づくと、春香はキッと睨んだ。


「……あのさ、私。邪魔しないでって、言ったよね」

「え……でも、あの。もう遅いですし、やめたほうが……」 

「……」


 春香は卯月を無視して、次のステップを始めた。
 表情はなおも険しい。



「……」


 ……この状況は、良くない。
 卯月はどう声を掛けようかと考えあぐねていると、雨が降ってきた。
 最初はぽつりぽつりと。
 次第に雨足が強くなっていき――


「雨が……」

「……」

 一気に本降りに。
 それでも、ステップをやめない春香。
 雨に濡れてもおかまいなしだ。
 

「……春香さん! 風邪、引いちゃいますよ!」

 卯月は叫ぶも、春香にその声は届かない。

「……」

「春香さん!」 

 腕を掴み、せめて木の陰に移動させようとする卯月。
 すぐさまそれを振り払う春香。


「……邪魔しないで!!」


 春香は声を張り上げ、明確に怒りを現した。
 が、その声の大きさに怖気づいた卯月を見ると、春香は少しだけ冷静さを取り戻す。


「……あなただって、私の敵なんだよ? ……卯月ちゃん」

「そんな……敵だなんて……」

「……」


 ザァアアアアア。



 雨がより一層激しくなる。
 二人は真夜中の土砂降りの中、立ち尽くす。
 春香は、雨音に消えそうなほど小さな声で、心情を語りだした。


「勝敗が付くことが、こんなにも悔しいものだったなんて、知らなかった」


 ギリ、と拳を強く握る。
 その表情は怒っている様にも、泣きそうな様にも、どちらにも見える。


「千早ちゃんも、美希も……私たちの765プロには、絶対に必要なの……」


「……」



「私が勝たないと……元の765プロが無くなっちゃう」


 頬に流れるのは、雨粒か、涙か。
 もう、近くで見ている卯月にも、春香本人にも、分からない。



 悲哀の独白は続く。



「でも、勝てない……っ!!」


 春香はエキシビションマッチで見た、玲音のダンス・歌を思い出す。
 あのカリスマが引き起こす現象は全て、想像の遥か上をいっていた。
 玲音の持っている何もかもが、自身の上をいっていたのだ。
 

「あんなに練習したダンスだって……」


 忘れたい記憶を消そうとするように、目を強く瞑り、頭を振る。
 しかし、それは消えることはない。
 あの、目の前にそびえ立つ巨大な壁は、春香の脳内にこびりついている。


「……私の、大切な……"歌"だって……何一つ、及ばないんだよ」


「悔しい、悔しいよ……」


 きっと、彼女は体力の限界を迎えていたのだろう。
 途端に力尽きるようにひざを折り、倒れかける。
 雨で水を吸っている地面に倒れるのはいけないと判断した卯月は、とっさに春香の身体を正面から支える。




「春香さん……辛かったですね……」

「独りで思いを抱えて……」


 抱きとめた卯月は、雨でひっついた春香の前髪を横に分ける。
 ふと、目と目が逢った。


 ――春香の瞳の炎は、雨に濡れてなお、燃え続けていた。


「私に……っ、構わないで!」

「きゃあっ!」

 ”敵なんだ”と、思い出したように、卯月を突き飛ばす。
 卯月は背中側、春香は前面から地面に倒れこみ、それぞれが泥まみれになる。


 ザアアアアッ!!
 どんどん激しくなる雨風。
 流石の卯月も、もう平静ではいられなかった。



「春香さんっ! なんでそんなに意地を張るんですか!!」


 泥だらけのまま上半身を起こし、なりふり構わず卯月は叫んだ。
 春香はそれを聞きつつ、前のめりに倒れこんだ状態から肘を突き、なんとか顔をあげる。
 卯月の叫びに呼応して、慟哭しながら春香は返す。



「絶対に゛、失゛いだぐないの!! 千早ぢゃんも!! 美希も゛!!!!」



 それを受けて、卯月もまた、叫ぶ。



「だからって、こんなことしても、勝てるわけないじゃないですか!!」


「練習するにしても、他にもっと方法が!!」


「ない、無いんだよぅ!! もう、時間が!!」


「それに!! 春香さんにだって!! 玲音さんに負けないところが――」


「そんなの分からないよ!! だって、今の私の側には、プロデューサーさんすら、いないんだもん!!」


「う……うぇぇええええ!!!」



 大きく泣き声をあげる春香。


 
 春香の号泣に合わせてか、大荒れだった雨雲が引いてゆく。
 どうやらゲリラ的な雨だったようだ。
 
 卯月はひざ立ちでゆっくりと春香に近づき、上半身を抱き起こす。
 ひっくひっくと嗚咽を漏らす春香。
 卯月は左手で春香の肩を固定し、泥だらけになった彼女の顔を、服の袖で拭う。

 
「……春香さん、以前テレビで見た時はあんなにキラキラしてたのに、今は全然キラキラしてません」


 ビク、と反応する春香。
 彼女の脳内では、きっと、美希に言われた言葉がフラッシュバックしていることだろう。
 そんな春香の様子を、慈愛の目で見つめる卯月。
 

「きっと、忘れちゃったんですね」


「春香さんが、玲音さんに勝ってるところ、私は知ってますよ」


 その声色は、どこまでも優しい。
 おずおずと、春香は卯月の顔を見る。



「それは……」


 卯月は自分の胸に右手を当て、強く握りしめた。そして俯き、じっとその手を見つめる。
 ――掴んだものは、もう離さない。
 自分の中にあるもの、それをそのまま出すことを恐れない。
 それが、彼女にとっての”アイドル”であり、選んだ道。
 


「アイドルだったら、女の子だったら、誰にだって出来るものなんです」



 どこかで、いつか、自分が言い放った言葉。
 しかし込められた意味は、あの時とは真逆。


 卯月は顔をあげて、春香の目を正面から射抜く。
 そして―― 



「笑顔、です!」



 ――綺麗な、花を咲かせた。




「笑顔……」



 春香は、その満開の笑顔を見ると、全てを思い出す。


 忘れかけていた団結。絆。


 自分の目指していたアイドルは手を取り合うもの。競いあうものではないということ。
 それは、目の前のアイドルの立っている場所が例え反対側や違う場所だったとしても。
 春香の目指した”アイドル”ならば、”敵”には成り得ない。

 
 

「そっか……なんでこんなに大切なこと、忘れちゃってたんだろう」


「……みんなを笑顔にすること」 



 春香は、目尻に涙を浮かべたまま、にっこりと笑う。
 


「ありがと、卯月ちゃん」

「えへへ」


 子供のように、笑いあう二人。

 空の雨雲は完全に消え失せ、彼女達の頭上を彩るのは、満天の星。
 きらきらと輝く、幾つもの星たちを眺めながら、春香は呟く。
 

「でも、おかげさまで……なんとかなりそう、かも」

「……?」


「いいこと、思いついちゃった♪」



――

――――


 島村家玄関。


「えっと……ただいま~……」

「あら卯月、こんな時間にどこ行って……えぇ! なにその格好!」


 出迎えた卯月ママが驚愕。泥んこの17歳の娘。
 卯月の背中から春香がひょっこり顔を出す。同じく泥んこ17歳。


「あはは……オジャマシマス……」

「まぁ! そっちの子もすごい泥だらけ! ……お友達?」


「「……」」

 

 大声で言い合って、泣き叫んで、泥まみれになって。
 こんなケンカ、生まれて初めて。

 互いが互いに心の中でそう思った。


 春香と卯月は、目を合わせ、頷きあう。



  「 はい! 」 「 うん! 」





 その九『笑顔』 終


――――――――――

ここまで。

次で最後になります。
アニメシリーズに則って、ライブ回で物語を締めたいと思います。では。

校閲後、23時ごろから投下します。
最後なので、けっこう長いです。


イメージ画像
http://i.imgur.com/r77UlIZ.jpg



 ざわ、ざわ……。


 そこは、数万人のアイドルファンで埋め尽くされていた。


 東京都民なら――日本人なら――日本を知るものなら――


 全ての者が知っているであろう、あのドーム。


 本日、そこでとあるイベントが開催されるという。


 集ったファンは口々に語る。


「今日は、伝説が見れる」

「日本のアイドル界が変わるかもしれない」


 961プロダクション主催『SUPER IDOL FESTIVAL』。
 


――――――――――


「夢の頂上決戦!765プロvs346プロvs961プロ」

 その十『 絆 』


――――――――――




――――――――


 今日はフェス本番。開演1時間前。
 前回の騒動の反省からか、前日から既に会場入りを果たしていた765メンバー。
 手伝いとして来ている音無小鳥は765プロ・プロデューサーからの伝言を預かっていた。


「プロデューサーさんからの伝言です」


『765プロが大変なことになっているのに、日本へ戻って来れなくて本当にすまない。
 でも、みんなならなんとかできる。俺はそう思っているんだ。
 応援してるからな! 頑張れ!』


「……だそうです」


 一同は微妙に緊張した面持ちだったが、プロデューサーの言伝を聞くと肩の力を抜いて全員で大きなため息。
 亜美真美が愚痴をこぼす。


亜美「……っていうか、兄ちゃん、亜美たちを放置しすぎっしょ~……」

真美「そーそー! これはもう、帰って来たら全員で悪戯コースまっしぐらですな!」

春香「……だね♪」


 どっ。
 予想外の所からの同意に、巻き起こる笑い。


真「あー、もう! プロデューサーのいない芸能生活ももう慣れっこだけど」

貴音「やはり、あの方が居りませんと、いけませんね」

響「自分、激辛サーターアンダキーを用意するぞ!」

伊織「にひひっ♪ いいじゃないの! アイツにたらふく食べさせましょう!」

やよい「じゃあわたし、ぜんりょくで、『いたいーっ』ってなっちゃうくらい肩たたきしますー!」

あずさ「あら~、それは悪戯なのかしら~」

亜美「兄ちゃんがッ! 泣くまで!」

真美「肩を叩くのを、やめないッ!」

律子「はいはーい。あんたら、その辺にしときなさーい」

「「「はーい」」」

雪歩(……そういえば、2か月前に美希ちゃんたちへサプライズ用に掘った落とし穴、そのままだっけ……)


 負ければ美希と千早は取り戻せず、春香まで961プロへ移籍しなければならない状況。
 いわば――765プロ離散の危機。
 そんな中であったが、笑いは絶えなかった。
 


――――――――――



 同じ頃の346プロ・控え室。
 既に開場時間を迎えており、ドームの中はアイドルファンで埋め尽くされている。
 

卯月「あわ、あ、あんなに人が……」

 控え室に設置されているモニターからは、常に会場の様子が映し出されていた。
 それを見た卯月は卒倒しかけ、凛が支える。
 すぐそばには同じモニター画面を覗きこんでいるシンデレラプロジェクトメンバーの苦笑い。

凛「卯月。アイドルになってもう結構経つのに、まだそんなこと……」

卯月「でも……ほら、見てください! 私たちがこんな広い場所で、何万人もの人に見られるなんて……」

未央「何の巡り会わせか知らないけど、ほんと、すごいよね」

かな子「こういうのって、ゲームであるよね。ほら、あの……ジャンプするやつの、ワープ」

智絵里「ジャンプ……ワープ?」

杏「あー……マリオかー……」

杏蘭子「「ワープは邪道」」

李衣菜「あれ、蘭子ちゃんもゲーム分かるんだ」

みく「蘭子チャン、ネットでの人気が凄まじいにゃ。だから、たまーに、杏チャンの生放送に出てるみたいにゃ」

アーニャ「ゲーム……テトリスは、得意です」

美波「まぁ、どんな形であれ、出演できるのは嬉しいことよ。ですよね、プロデューサーさん」

346P「はい」

莉嘉「プロデューサー! ドーム、探検してきていい!?」

みりあ「こんなとこ、もう来れないかもしれないよ!?」

346P「駄目です。今から迷子になってしまったら、取り返しがつきません」

きらり「……」

莉嘉「え~、Pくんのけち」

ちひろ「でも、オフの日に改めて見学という形なら、」

きらり「ほ、ほんとだにぃ!?」

ちひろ「え、あ……はい。多分、大丈夫ですよ」

みりあ「きらりちゃんも探検したかったんだね♪」


 こちらも765同様、笑顔に溢れている。
 卯月の緊張も、皆の笑顔でほぐれたようだ。
 

――――――――――



 一方961プロ控え室。
 雑談は無く、アイドル達はステージへ向けて無言で集中していた。
 が、スタッフの持ってきた各プロダクションのセットリストを見て、玲音は驚く。

 その紙には、今朝それぞれが提出したセットリストが記載されている。
 346プロ・765プロの楽曲名がずらり。


――――――

・346プロダクションセットリスト
1.STAR!!
2.Memories
3.-LEGNE- 仇なす剣 光の旋律
4.Happy×2 Days
5.LET'S GO HAPPY!!
   休憩
6.お願い!シンデレラ
7.ØωØver!!
8.できたてEvo! Revo! Generation!
9.Shine!! 
10.GOIN'!!!
11.M@GIC☆

――――――

玲音「346プロの方は、至って平凡なセットリストだ。しかし……」

――――――

・765プロダクションセットリスト
1.SMOKY THRILL
2.乙女よ大志を抱け!!
3.キラメキラリ
4.Little Match Girl
5.魔法をかけて
   休憩
6.shiny smile
7.edeN
8.ビジョナリー
9.Vault That Borderline!
10.my song
11.START!! 

――――――


玲音「765プロは……全体曲を、やらないのか!?」
 

美希「……そういえば確かに、リハーサルで全体曲はやってなかったの」

千早「あくまで、個々の力で対抗するということかしら」

玲音「アタシも甘く見られたものだね……!」

美希「でも、このセットリスト……いや、なんでもないの」


――――――――――



 765プロにも、各々のセットリストが届く。
 やはり皆が気になるのは、961プロ。

 今回のフェスは1プロダクション辺り、11曲。前半戦5曲。後半戦6曲。
 アピールする順番は、前半戦が961・346・765の順。休憩挟んで後半戦が346・765・961の順。
 1曲づつ交互に披露するため、どんな流れになるかは誰にも分からない。

 スタッフから受け取った、961プロのセットリストを注視する一同。


――――――

・961プロダクションセットリスト
1.アクセルレーション
2.KisS
3.眠り姫
4.マリオネットの心
5.DEAD or ALIVE
   休憩
6.HEART AND SOUL
7.流星群
8.Marionetteは眠らない
9.Nostalgia
10.細氷
11.アルティメットアイズ

――――――


響「うわ、これ、美希も千早もガチだぞ」

伊織「”ここ一番”って所で歌う曲しかないわね……」

律子「……他は、初披露の曲がいくつかあるみたいね」

真「曲名だけじゃ、どこで誰が出てくるか分からないから不気味だなぁ」

春香「……♪」

貴音「春香。何か、楽しそうですね」

春香「はい♪ ライブがはじまるんだーって思うと、ワクワクしちゃって」

あずさ「あらあら~、一時期は、すごい気負ってたのに……変わったわね~」

亜美「ホントだよー。はるるん、2週間前は死にそうな顔してたのにー」

真美「ある時からケロリ、お悩み解消~! ってカンジで」

やよい「たしか346プロさんとれんらくを取りはじめたのも、そのころからでしたー」

亜美「うづりんとは特に仲がいーよね」

真美「これは……ナニかありましたな?」

春香「あ、あはは……そんな大したことじゃ……」

雪歩(……何があったんだろう……) ドキドキ

雪歩(346プロかぁ……幸子ちゃん、可愛かったなぁ……) ドキドキ

真(雪歩が変な笑みを浮かべてる……)


 ……開演の時間は、刻一刻と迫っていた。

――――――――――



 開演10分前。

 会場に流れるフェスのルール説明。
 応援・声援への諸注意。
 それらを済ませ、開演を心待ちにするファンたち。

 だが明らかに、様子がおかしい。

 大舞台を前にして不思議なことに、彼らの殆どは口を閉ざしての沈黙。
 その巨大なドームは、ただ、数万人の息遣いで満たされていた。


 シー……ン…


 その静寂は異様な光景であった。

 皆が一様に待っている。
 伝説の幕が上がるのを、何も語らずに待ちわびている。


 そんな会場の空気が伝播し、舞台裏でスタンバイするアイドル達の顔色が変わる。
 ピリピリと、緊張が走る。様々な念が渦巻く。
 

 トップ・バッターは、961プロ・玲音。


 移籍――特番――新宿騒動――今回のフェス。
 その全ての元凶が、場に待機するアイドル達へ向かって、口を開いた。


玲音「さぁ、今日は待ちに待ったフェス本番だ」


玲音「2ヵ月前、アタシは宣言した。『アイドル界を変える』と」


玲音「今日、これが、その第一歩目だ」


「「「……」」」


玲音「アタシ達はこれから加速していく。キミ達の誰にも止められないだろう」





春香「……じゃあ、止めません」


 アイドル達の中から、一歩歩み出て、春香は言う。

春香「私の目指すアイドル。玲音さんの目指すアイドル」

春香「どっちも、それぞれで。良いと思います」

玲音「……」

春香「だから、きっと。今日、決着がついても、私の”アイドル”は、変わらないと思います」

 今度は卯月が一歩。春香の隣へ。

卯月「……春香さんだけじゃないです。ここにいる、みんな、みんな」

卯月「今さら”生き方”を変えるなんてできっこない、”ガンコさん”の集まりなんです」

卯月「でも――」

 卯月は、春香へ視線を移す。
 春香は頷く。

春香「……でも、せっかくだから、今日は」

 今度は逆。卯月が頷く。


春香卯月「「――”全力”で、ぶつかりましょう!」」


卯月「……それが笑顔への近道だって、気付きました」

 そっと、隣に立つ春香の手を握る卯月。


 春香と卯月。そして、玲音。
 その思惑が、交錯する中、彼女は息を漏らすように笑った。

玲音「……ふふ、どうやらひと皮、むけたみたいだね」

玲音「この前までみたいな”甘ちゃん”じゃあ無くなった」

玲音「全力でやれる……こんなに嬉しいこと、ないよ」


 そう言い捨て、玲音は小さく笑いながらステージ下へ待機をしに向かう。
 春香は背中を向けた彼女を呼び止める。


春香「玲音さん!」

玲音「ん?」

 振り返る玲音。


春香「今日は、”最高のステージ”、作りましょう!」


 その言葉を聞くと、玲音はにやりとしてステージへと歩き出した。


――――――――――

1.『アクセルレーション』 玲音


 奈落からステージへとゆっくりと押しあがってゆく玲音。
 照らし出すスポットライト。
 
 無音と暗闇の中での急な登場に、数万の観客のテンションは一気に最高潮へ。
 

「「「「ワァアアアア!!!」」」」
「「「「玲音ーーーー!!!」」」」


 玲音はマイクを口に近づけ、


『しぃーーーーっ』


 数秒遅れで静まり返る客席。


『……良い子達だ』


『今日は、様々なアイドル達が、全力でパフォーマンスをする』


『そう。これは勝敗を決める為のフェスだ』


『だけど――』


『あえて、何も考えずに楽しんで欲しい』


『そうすれば、最後の瞬間。キミ達は自然と、勝者の名前をコールしていることだろう』


『……――さぁ、”SUPER IDOL FESTIVAL”の、始まりだ!!』


「「「「ワァァアアアアアア!!!!」」」」


『”アクセルレーション”!!』


 数万人の歓声と唸る轟音の中、玲音のステージが始まる。



――――――――――

2.『STAR!!』 シンデレラプロジェクト ⇒ 3.『SMOKY THRILL』 竜宮小町


 玲音のアクセルレーションに続き、シンデレラプロジェクトは速攻をかける。

 14人全員での『STAR!!』。
 玲音の盛り上がりにも負けず劣らず。
 

 だが”事件”は、楽曲終了と同時に起こる。


未央『ちょーーっと待ったぁーーー! 照明さん、そのままそのまま!』


 次のアイドルとの転換の為に暗転しようとした照明に”待った”をかける声。
 再び照らされるシンデレラプロジェクト。

 本来、今回のフェスにはMCが予定されていなかった。
 だが、彼女達は、無理やりにそれをねじこんだ。


卯月『こんにちはー! 私たち、』


『『『346プロ所属の、シンデレラプロジェクトでーす!』』』


未央『いやー始まりましたね、SUPER IDOL FESTIVAL。略してスパフェス』

凛『1番手、961プロの玲音からもう凄い盛り上がりで』

卯月『私たちも負けないように、精一杯! 頑張りますので』


『『応援、よろしくお願いしますっ!!』』


 ワァァアアア!!!

 礼をし終えると同時にステージから急いで捌け始める14人。

未央『次のステージも、もっともっと盛り上がっていこうね!』

卯月『765プロ・竜宮小町で、『SMOKY THRILL』!』


 卯月の紹介と同時に暗転し、竜宮小町の歌が始まる。
 奈落からせりあがる伊織・亜美・あずさ。動き出すパープルのライト。
 
――――

 VIPルームで鑑賞していた黒井社長が吼える。

黒井「これはどういうことだ!」

スタッフ「わたくし共も、何が何だか……」

黒井「ええい、もし次、ヤツらが喋り出そうものなら、すぐに照明を――」

スタッフ「ですが、一度出来た流れを崩すと、こちら側の不備を疑われますが……」

黒井「……あいつらめ~~!!!」

――――

伊織『はーーい、765プロ・竜宮小町でしたー!』

あずさ『みなさーん、まだまだ、盛り上がれますよねー♪』
 
「「「はーーーーい!!!」」」

亜美『んっふっふ~、じゃんじゃかいくよ~!』

伊織『次は……961プロで、『KisS』!』

――――――――――

ジュリア「な、なんだこの流れ! MC無しじゃなかったのかよ!」

桃子「落ち着いて、ジュリアさん! 早くステージに上がらないと!」

スタッフ「すみません、迫り出し、始めても……」

麗花「なんか、うずうずしてきたね♪」

桃子「……スタッフさん、”迫り出し”お願い!」

 
 直後に始まるイントロ。
 奈落からゆっくりと迫り出されるMars。
 一瞬しどろもどろになった三人だったが、ステージ上に立てば表情は変わる。


4.『KisS』 Mars
  

『『『READY?』』』


――――

 ステージ裏。

玲音「……急なことをやってくれたね」

卯月「はい」

春香「アイドルにとって、MCも実力のうち。私たちは、そう思うんです」

玲音「……ふぅん……」

玲音「フェスでのMCは”闘い”の邪魔になるかと思って入れていなかったけれど……」

玲音「ま、いいだろう」

――――

 Marsのパフォーマンス終了直後。
 三人は曲が終了し暗転すればステージから捌けることに”台本では”なっていたが、なかなか照明が消えない。
 『あの流れで進行する』と照明側が思ってしまったのだ。
 無言でスポットライトに照らされたのは時間にして2,3秒であったが――ステージ慣れしていない者にとって、混乱するには十分な時間だった。

桃子(あの流れに乗ったら……良くないかも。暗転してないけど、もう捌けた方が)
ジュリア(……これ、アタシたちもMCやれってことか!? でも……)


麗花『は~い! どうも~! 皆さん初めまして~、Marsです♪』


桃子(や……)

ジュリア(やっちまったーー!)


 歌唱中とのギャップにざわつく観客。
 

ジュリア『あぁ、もう、とにかく、聴いてくれてありがとな!』


 取り繕おうとして”いつもの”MCをしてしまうジュリア。ざわつき倍率・更にドン。
 観客からして見れば、『こいつ急にフランクになったな』と言った所であろうか。 

 ざわ、ざわ……

ジュリア(やべ、キャラ間違えた!)

桃子(もう、ぐちゃぐちゃ……)

 最早、流れは引き戻せないと諦める桃子。
 二人の手を引き壇上を去りながら桃子が繋げる。
 それもやはり台本に無い言葉であったが、桃子は堂々としていた。

桃子『次、346プロ。……『Memories』』

――――――――――

5.『Memories』 LOVE LAIKA ⇒ 6.『乙女よ大志を抱け!!』 春香 真 雪歩

7.『眠り姫』 千早 ⇒ 8.『-LEGNE- 仇なす剣 光の旋律』 Rosenburg Engel

9.『キラメキラリ』 やよい 響 真美 ⇒ 10.『マリオネットの心』 美希

11.『Happy×2 Days』 CANDY ISLAND ⇒ 12.『Little Match Girl』 貴音 雪歩


 Marsの混乱もあってか、765・346の狙った流れは順調に進んでいった。
 ……かに思えたが、やはりあの二人は違った。

 如月千早と星井美希。

 彼女達は”和”の空気に流されず、自らのパフォーマンスのみによって、独特の世界観を作り上げ――

 ――あくまで、”敵”としての立場を貫き続けた。
 それは、”彼女らの目標達成”の為には必要なことであった。
 
 『眠り姫』、『マリオネットの心』。

 そのどちらも、765時代から歌っている曲。
 だが、彼女たちはそれを961プロ・アイドルとして見事にチューンナップを施し歌い上げる。
 
 鬼気迫るような歌。
 気合から来る完成度の高さ。
 終わった直後の一際大きい歓声。


 しかし――舞台裏でそれを見ていたアイドル達は、全員が見抜く。


『――本調子じゃ、ない!?』


 言葉に現せるものではない。
 事実、ドームで彼女達を眺める数万人の観客はその異変に気付かなかったであろう。
 だが確実に、舞台裏ではどよめきが起こっていた。
 それは同じ演者・同じ舞台に立つ者だけが分かり合える感覚。

 もちろん、本調子ではなかったが、十二分に魅せるパフォーマンスではあった。
 けれど、”確実に100パーセントではない”。

 敵対している相手が弱っているなら、それは本来嬉しい事であるが。

 皆が皆、そう振り切れるだけの冷徹さは持ち合わせていなかった。


(千早ちゃん……)

(美希……)


  舞台裏での不穏な空気をよそに、ステージは進行してゆく。

――――――――――

13.『DEAD or ALIVE』 玲音 美希 千早
 

 会場に集った数万人のアイドルファンにとって、これが本日一番の衝撃であったことだろう。


 前のステージが終了し、会場が暗転。
 そして舞台中央へ伸びる、一本の光の柱(スポット・ライト)。


 まず、照らされる玲音。


 直後、光の柱がもう2本、玲音の両隣に立ち上がる。

 
 そこには、マイクを携えた美希と千早の姿。


 そのサプライズ的演出に、高揚しないアイドルファンはいない。

 皆が皆『まさか』とは思っていた。
 ファン達は2か月前の移籍報道から、ずっと頭に描き続けていた。

 オーバーランク。ハリウッド級アイドル。世界レベルの歌姫。

 まさか――この3人が、ユニットを組むなんて!


 会場に轟く盛況に被せる様に、曲のイントロが始まる。
 

 『”DEAD or ALIVE”』


――――


真「まさか、こんな……」

響「歌も踊りも、一見バラバラ……でも、やっぱり、凄いぞ」


 玲音・美希・千早。
 トリオでのユニットではあるが、おそらく。
 この3人それぞれは、協力しようという意識はまったくないのだろう。
 それぞれの目指す歌も、込める思いもまったくのちぐはぐ。
 だが――やはりトップクラスの3人。
 絶妙なバランスで歌声が絡み合い、一つの和音となって、見事にユニゾンしている。

 その歌唱力とパフォーマンス力は、まさに、”暴力”。
 観客たちは、殴られたような衝撃と共にコールをあげる。
 

真「向いている方向は全く違うし、ユニットとしてもむりやりくっつけたって感じだけど……」

響「これは……単純に、”レベルが高すぎる”としか言い様がないぞ……」


――――――――――

14.『LET’S GO HAPPY!!』 凸レーション ⇒ 15.『魔法をかけて』 竜宮小町 with…


 そして本日2つ目のサプライズ。


きらり『次は~、ちょーっと、びっくりしちゃうかも。竜宮小町で、『魔法をかけて』!』


 前半戦のラストを飾るのは、竜宮小町。
 ……のはずだが、4人分の影。


 イントロが始まる。照明が緑色に染まる。


 会場に集った内の半数は、一瞬で理解したことだろう。
 即座に取り出され振られる緑色のサイリウムの波。

 そう。
 765プロ・ファンにとって、秋月律子の存在とは、いまや――


 ――目撃すること自体が名誉(ステイタス)になっていた。


 いつか、律子の立ったステージ。
 それを目撃した者達は口々に言う。

「りっちゃんのステージ最高だった」

 765プロもこの1年でアリーナライブを成功させ、大きくファン数を伸ばし続けた。
 その中で、この噂話は語り継がれるうちに尾ひれがついていき、最終的には。

「765プロはすごいアイドルを隠しているらしい」

 という噂にまで発展。
 もちろんディープなファンは竜宮のプロデューサーになっていることは知っていたが、ライトな層には都市伝説的存在として扱われていた。


――――
――――――――

 それは2週間前のセットリストを決める際の話し合い。

律子「なんで私も入ってるのよ!」

 当然の如く、律子は反発したが……

春香「今回は、みんながやりたい曲で勝負するって、決めたじゃないですか」

伊織「『こうなったらどんな手を使ってでも勝つわよ!』って言ったのは律子の方でしょ?」

律子「それはそうだけど……でも、ドームって……」

響「お客さんはたぶん、五万人くらいかな。でもなんくるないさー」

亜美「お願いだよーりっちゃ~ん」

律子「私、ファンの間で変な噂になってるから出来るだけメディア露出は控えてたんだけど……」

律子「仕方ないわねぇ~……」

――――――――
――――

律子『みんな、ありがとーーー!! 後半戦もガンガン盛り上がっていきましょう!』


 ワァアアアアア!!

 昔から765を知っている者は当然。
 比較的新しい765ファンも、他のプロダクションのファンも、等しく、大盛り上がり。
 前半戦は華やかに終了を迎えた。

――――――――――

 全33曲目中15曲を終えてのハーフタイム。15分程の休憩時間。


346P「皆さん、よく頑張っています」

智絵里「……正直、ついていくので精一杯、です」

かな子「でも、こうやって、私たちも一生懸命やることが大事なんだよね」

卯月「はい、そうです♪」

杏「……でも、あの3人が組むとは思わなかったよ。もしかしたら後半にも、まだ何かあるかも」

莉嘉「千早さんの、あの曲もまだ残ってるよ……?」

未央「だ~から大丈夫だって! 笑顔笑顔!」

みりあ「うん、がんばる!」

きらり「その調子だにぃ☆」


346P「……ところで千川さん、準備の方はいかがでしょうか」

ちひろ「……それなりの額のお金は……」

――

響「律子、久々のステージ、よかったぞー!」

貴音「会場が緑に染まるのは真、美しかったですね」

律子「わ、響に貴音。まだ前半が終わっただけよ。はしゃがないの」

亜美「いやぁ、ソーゾーいじょーの反響でしたなぁ」

真美「りっちゃんが踊ってるとこ見たら運気があがる~なんて噂もあったよね→」

やよい「はわっ! それって、神さまみたいかも!」

律子「やめてってば~」

あずさ「……それにしても、美希ちゃんと千早ちゃん、どうしたのかしら……」

春香「……」

真「あの調子のままだと、ボク達の目標達成が楽にはなりますけど……やっぱり、気になりますよね」

伊織「……」

雪歩「……」

 ふと、雪歩が春香と伊織の背中をぽんと叩く。
 それは、音が鳴るか鳴らないかくらいのもの。
 
雪歩「春香ちゃん、伊織ちゃん。行くなら……今しかないよ」

 けれど確かに、雪歩は二人の背中を押した。
 その反動で1歩前のめった春香と伊織。


春香「……うん」

伊織「……ありがと、雪歩」


 二人は、その場を走って去って行った。

――――――

 春香はある人物を探して走り回る。
 ……見つけた。


「千早ちゃん」

 その呼びかけに、千早は背を向けたまま返す。

「……話しかけないで。今の私達は、」
「ううん」

 首を振る。

「なんだかもう、どうでもよくなっちゃった」
「……?」

 突拍子もない春香の言葉に、少々の驚きと共に振り返る千早。
 振り向いた先には、ゆっくりとこちらへ歩み寄る春香の姿。


「理由は分からないけど……千早ちゃんが全力で歌おうとしてる。――なら」


「私は、全力で受け止めてあげる」
「……」


「気付いたの……もう、何でもないんだよ。千早ちゃん」

「”距離”や、”立ち位置”じゃない。”私達の関係”……」


「 ”友達” ”仲間” ”親友” ”家族” ……”敵” 」


「……私達は、そのどれでもない」

「だって、ふたりが積み重ねてきた年月を表す言葉なんて、どこにもないんだから」


「ただの、 ”天海 春香” と ”如月 千早” 」

 
 二人の間には、数mの距離。
 まっすぐにぶつかり合う視線。


「きっと、今の千早ちゃんを受け止められるのは、私しかいない」

「だから……千早ちゃん」

 微笑みながら、両手を広げる。



「全力で――かかっておいで♡」
「……っ!」


 春香らしくもない、相手を挑発する言葉。
 だがそれは紛れも無く、春香から千早へと向けられた言葉。

 その言葉を聞いた瞬間に千早が感じたのは、ふわりと、浮上した感覚。
 きっと元が優しい彼女は、無意識のうちにリミッターをかけていたのだろう。
 かつての同僚に、仲間に、全力が出せるわけがないと。
 だが――
 

「なら、遠慮なく……そうさせてもらうわ」


 千早は口角を上げ、にっと笑う。


「どっちが勝っても、恨みっこなしよ」
「うん」

――――――

 伊織は961プロ控え室を訪ねる。
 ……誰もいない。
 
 さて、どうするか――といった所で、美希が登場。

 美希は控え室で休もうと思っていたのだろう、少し気を緩めていた。
 が、”敵”の存在を確認するとすぐに引き締める。
 そのあからさまな様子を見て、伊織は一瞬息を吐くように笑い、キッと睨みつけた。


「……美希。あんた、何手加減してんのよ」


 出会いがしらに、浴びせる一言。美希は動揺する。

「デコちゃん。……ミキ、手加減なんてしてないよ」

「見てれば分かるのよ。あんたが全力じゃないことくらい」

「……」


 伊織は、美希の心に迷いがあるのを見抜いていた。
 美希はその言葉を正面から受け止めきれず、下を向く。


「ねぇ……そんなにもろいものだったかしら、765プロは」

「あんたや千早がちょっと暴れたくらいじゃ、私たちには、全然。”へ”でもないわ」


「……嘘。伊織、やせ我慢なの」

「そんなことないわよ。全然、全然」

「……」

 
 煮え切らない様子の美希を見た伊織は、どんどんと激昂していく。

「ていうか千早も千早だけど、あんたもあんたよ。……勝手に移籍しといて、ライバルだなんだって」

「そこまでやるなら、私の口から『参りました』の一言くらい言わせてみなさいよ!」


「私はね、”中途半端”が一番嫌いなの!!」


 ふーっ、ふーっ、と息を荒げる伊織。
 美希は顔を下に向けたまま、伊織に問う。
 

「……もしこれで、961プロが勝っても、うらまない?」
「えぇ」
「……デコちゃんのせいにしていい?」
「いくらでも」
「……」


「あはっ」

――――――――――


 数分後、961プロ・控え室で鉢合わせる美希と千早。


「あら、美希」
「……なんか、千早さん、フンイキ変わったの」
「そうかしら」
「うん。ニヤニヤしてて、ぶっちゃけ、ちょっとブキミなの。何かあった?」
「そう、ね」
「……あはっ」
「美希。あなたこそ、何かあったんじゃない?」
「んー……なんていうか、ホンキでやる覚悟が、やっと定まったってカンジなの」
「同じね」
「うん。同じ、なの」



――
――――

 休憩終了直前。
 セットリストを確認する961プロアイドル達。


玲音「後半、まずは……『HEART AND SOUL』。次もアタシたちのユニットか」

玲音「やっぱりチームプレイなんて、アタシたちの性に合わないなぁ」

美希「今度は違うの」

千早「えぇ。私たちは、サポートに回るわ」

玲音「急に何を……いや……わだかまりが、解けたみたいだね」

玲音「あまりに自然だったから気付かなかったけれど……ま、そういうものか」

美希「だから、センターの玲音にミキたちが――」

玲音「いや。次の曲は……星井。キミがセンターでいこう」

美希「え?」

玲音「そっちの方が、きっとこの曲に合ってる」

千早「そうね。言われてみれば、確かに……歌詞とメロディは、美希向きだわ」

玲音「あぁ。ユニットとは本来、そういうもの。アタシは、”スパイス”になろう」

美希「……じゃあミキはごはんで、千早さんは味付けのりなの!」

千早「あ、味付けのり・・・それ、何か他の意味がないでしょうね」


美希「一回限り! チーム・スパイシーおにぎりズの結成なの!」


玲音「ははっ。世界レベルのアイドル三人をつかまえて、それか。良いネーミングセンスだね」

美希「よく言われるの」

千早「玲音は褒めてないわよ? というか、のりって……くっ」


玲音「……二人とも、良いライバルを持てて、羨ましいよ」

「「え?」」

玲音「いいや、なんでもない」


玲音「――さぁ、流れを取り戻すよ!」

――――――――――

16.『お願いシンデレラ』 シンデレラプロジェクト ⇒ 17.『shiny smile』 真美 響 やよい


 後半戦一発目は、シンデレラプロジェクト全員による『お願いシンデレラ』。

 この楽曲は346プロダクションでも一、二を争うほど有名な曲。
 休憩直後で少し落ち着いた空気を再加熱するには、まさに最適な一曲。

 流れに乗るようにして765プロの『shiny smile』。
 そのポップ・ナンバーはユニットのテーマである”元気”をふりまき、観客を沸かせた。


 そして次は961プロの後半戦最初のターン。


18.『HEART AND SOUL』 美希 玲音 千早

  
 ……今までの流れを、完全に、かっさらっていった。

 
 先程披露したユニットとメンバーは同じだが、今度は明らかにその完成度が違う。
 あれを”暴力”と比喩するならば、今度は”引力”。
 見ている者全てを惹きつける、ブラックホールのような”引力”。
 
 それを裏で見ていた律子が焦る。

――
玲音と千早が、美希のサポートに回ってる・・・?
これは――これが、彼女達の、本気!?
と言うよりは――――勝つ為に、なりふり構わず全力を尽くしてきた!?
――

律子「まずいわ……」

真「完全に……空気が変わったね」

――

 これまでに流れていた、三つ巴でありながらどことなく”和”の空気。
 それが、961プロに傾いた。
 

19.『ØωØver!!』 * ⇒ 20.『edeN』 真 雪歩 貴音 律子

 
 なんとか挽回しようと、観客を煽り一体となる形で対抗するアスタリスク。
 
 シリアスなラブソング・『edeN』で961プロに真っ向から対面する765プロ。


 どちらも大きく盛り上がったが――やはり、何かあと一打が欲しい。
 この2曲は本来、決定打になる得るポテンシャルを持つ楽曲。
 しかし、あのトリオユニットの直後では、その風向きを変えることは出来なかった。

 ……そんな中、961プロはもう一つの爆弾を投下する。




21.『流星群』 ジュリア


 ジャカジャーー……ン


 ドームに鳴り響いたのは、エレキ・ギターの音。
 突然鼓膜を震わせたディストーションサウンドに、観客はざわめく。
 アイドルのライブでは余りに聞きなれない、”生きた”楽器の音。

――
……まさか、こんな場所で歌えるなんて、思わなかった。
正直なところ、あたしにはふさわしくない、大舞台だ。
でも、チハ……あんたから貰ったチャンスだ。全力で応えるよ。
――

『……”流星群”』


 隠し玉であったジュリアのソロステージは無事成功。
 その演奏は熱狂を呼び、961プロの追い風をさらに強くさせた。


22.『できたてEvo! Revo! Generation!』 ニュージェネレーションズ

23.『ビジョナリー』 やよい 亜美 真美 響 伊織 ⇒ 24.『Marionetteは眠らない』 Mars

25.『Shine!!』 シンデレラプロジェクト ⇒ 26.『Vault That Borderline!』 あずさ 真 春香 貴音 律子


 346と765のアイドル達は、961プロの優勢をひっくり返そうと、もがく。
 途中Marsの曲が入ったが、今が好機と言わんばかりに矢継ぎ早にアップテンポな曲を連続させる。


 961プロの残弾は、あと3発。
 ……開演前に見たセットリストを思い出す。
 美希の”あの曲”も、千早の”あの曲”も、あちらにはまだ残っている!
 

 『Vault That Borderline!』が終わった時点で、おそらく全体としてはイーブン。
 
 ……ここからが、”正念場”。



27.『Nostalgia』 美希


 満を持しての登場。
 この曲の凄さは、既に2週間前に知れ渡っている。
 今さら驚くような曲ではない。
 
 しかし――


 ステージに立ち上がり、スポットライトが彼女を照らし、ゆっくりと右手をあげ――


 にこ、と笑った。


 ただそれだけの動作に、会場の数万人が沸き立った。
 ただそれだけの動作で、”星井美希”は世界を魅了した。

 
 それが、今の彼女の全力。
 そんな全力の彼女が全てを注いだ一曲。


 『 ”Nostalgia” 』

 

 ……会場を包む空気の色が、完全に変わった。



――
――――


28.『GOIN'!!!』 シンデレラプロジェクト ⇒ 29.『my song』 伊織


 全力の美希に負けじと、全員の絆で食い下がるシンデレラプロジェクト。

 全ての思い出を力に変え、美希に匹敵するほどの歌を披露する伊織。


 だが、それでもなお、あと半歩。
 僅かに届かない。

 961プロはさらに畳み掛ける。



30.『細氷』 千早


――――
――

それは、アメリカでの半年間の記憶。

『……私、優に”さよなら”を言えてなかった』
『だから、この曲のコンセプトは、”過去に向き合って未来を見ること”なんです』
――
『はぁ、はぁ、駄目です、わ、私、この歌、歌えません……うううっ』
――
『……私の人生って、なんだったんだろう、って』
――
『「これまで千早が苦しんできたのと同じ時間だけ、千早をプロデュースする」……?』
『ふふっ、プロデューサーらしい約束です。……でも、ありがとうございます』
『少しだけ、救われました。……今のこの気持ちなら……”細氷”、歌えるかもしれません』
――
――――
『 ”友達” ”仲間” ”親友” ”家族” ……”敵”』
『私達は、そのどれでもない』
『ただの、 ”天海 春香” と ”如月 千早” 』
――――――


(悲しみに明け暮れていた私の過去。今はもう、大丈夫)

(プロデューサーから貰った”約束”)

(春香から貰った、今の”私”)

(これだけあれば、歩いてゆける……)

(……『今』という『未来へ』!)


『細氷』


 細氷――ダイヤモンドダストとは、晴れた空にのみ発生する気象。
 それは、日光できらきらと輝いて、見る者の心を感動に導く。


 千早が歌い上げた直後、ドームは涙と感動の拍手に包まれた。
 その瞬間の彼女の表情は、とても晴れ晴れとしたものであった。


31.『M@GIC』 シンデレラプロジェクト ⇒ 32.『START!!』 春香

 
 細氷の感動が尾を引く中、346プロ・最後の楽曲が披露される。

 アイドル達も千早の世界観に飲まれそうになったが。
 彼女たちは最後の一瞬まで、笑顔で押し切った。

 手ごたえは、十分。


 それに続くようにして、765プロのラストを飾るのは春香。
 『START!!』。
 春香の”今”の全てを凝縮した一曲。

 
 春香も他の皆同様、全てを出し切り、今まで受けた事が無いほどの量の歓声を浴び――


春香『ありがとうございましたっ! 765プロでした!!』

春香『そして楽しかったスパフェスも! 次で、最後です!!』

春香『961プロで……『アルティメットアイズ』!』

――――


 VIPルームでライブを鑑賞していた黒井社長が、歓喜を叫ぶ。


「ウィイイ!! 美希ちゃんのNostalgia!!
 そして千早ちゃんの細氷!!
 かつてないほどに観客が湧いている!
 後は、玲音ちゃんでシメだ! これでもう我が961プロの勝ちは確実!
 高木に引導を渡せる!! おーい! 祝杯の準備を始めろ!!!」


――――


(……今日は楽しかったよ)


(天海春香。それに、島村卯月。他の皆。認めよう。キミ達は、”本物”のアイドルだ)


(キミ達が”馴れ合いだけ”の存在じゃないのは、よく分かった)


(でも今日は、勝敗を争う場)


(――――この曲で、決着だよ!)


33.『アルティメットアイズ』 玲音



 玲音が”ここ一番”という時に歌う曲。
 それが、『アルティメットアイズ』。
 あの『アクセルレーション』が彼女なりの自己紹介(ローギア)だとすれば。


 この曲こそが――――彼女のトップ・ギア。



――――

 自分達の出番が終わったので控え室に戻った玲音以外の961アイドル達。
 彼女達は備え付けのモニター越しにステージの様子を伺っていた。


美希「玲音のステージが終わったら、最後はアンコールなの」

千早「どのプロダクションを呼ぶ声が大きいかで判断するのね」

美希「そこで、勝敗が決定するの」

千早「……この流れだと……」

美希「ミキたちの、勝ち……なのかな?」


 先ほどの『Nostalgia』と『細氷』での客席の盛り上がりが、本日一番であったことは間違いない。
 ましてや、トリを飾るのは、玲音。
 彼女たちは自らの行為による結果――”勝ち”を確信していた。


千早「……どんな結末でも、私達は……先へ進むだけ」


ジュリア「……」

麗花「……」

桃子「……」

――――


 玲音のラスト・ステージが行われている最中。


 舞台裏。


 既に出番を終えたはずの765プロと346プロは、とある準備をしていた。



346P「千川さん、そちらは如何でしたか」

ちひろ「サウンドエンジニアチーム、バッチリ掌握しました♪」

346P「……はい。音無さん、そちらは」

小鳥「はい! 照明チームは、律子さんのファンが居たみたいで……」

小鳥「話をしたら一発オーケーでした!」

346P「なるほど。私の担当したモニター演出チームの方々も、誠心誠意をもってお願いした結果」

346P「なんとか協力をいただけました」



凛「……なんとかなりそうだね」

未央「しかし、はるはる先輩も考えましたなぁ!」

春香「……うん!」

春香「私……卯月ちゃんに教えてもらったの」

卯月「……」


春香「みんなの笑顔さえ、絆さえあれば。どんなに苦しい状況でも、”アイドル”になれる」


春香「だから私はもう、自分ひとりの力で、ここにいるなんて思わない」


春香「だって、私は……私達は、アイドルだから!」


 玲音の曲が終盤に差し掛かり。
 準備はオッケーだと、親指を立てる346プロ・プロデューサー。
 凛は頷く。真がそれを見て、皆に知らせる。

真「準備、オッケーみたいだよ!」

亜美「おっ! じゃあいつもの、やっちゃいますか~!」

響「ほら、346プロの子達も、一緒に組むぞ!」


 そして出来上がる二大プロダクションアイドルによる大きな円陣。



未央「わたし達全員の!」

卯月「笑顔と!」

凛「絆で!」

春香「いくよ! これが私達の集大成!」



「1111(ワン・フォー・オール)~~~」

 

全員「「「「ファイトー、オー!!!!」」」」

――――――――――
――――――――




765 + 346 = 



ワン・フォー・オールスターズ
 1111 ALLSTARS 『カーテンコール』



――――――――
――――――――――



「うおっ、まだ玲音がはけてないのに他のとこが出てきたぞ!」
「なんだなんだ!?」
「スクリーン見てみろ!『全アイドルの共演』って出てるぞ!」
「マジかよ! うわ、めっちゃテンションあがってきた!」


 ワァァァァアア!!!

 湧きあがる歓声と同時に、続々とステージに上がるアイドルたち。
 その先頭を突っ切る春香は、ステージ中央に向かって走りながら、マイクに大きな声をのせる。


『玲音さーーん!! 一緒に、踊りましょう!』
『なっ、天海!?』


『美希ー! 千早ちゃーん!!』


―――――
「ぶふーっ!」
「きゃっ!……っぷ、くくく…!」

 控え室のモニターでステージを眺めていたが突飛に名前を呼ばれ、驚いて飲んでいた水を吹き出す美希。
 千早はそれを見て笑いながら背中をさする。
 けほけほ、と咳をし終えた美希は顔を上げ、もう一度モニターに映るアイドルを見る。
 そのアイドルは、今まで見た中でもトップクラスに――キラキラしていた。

「……あはっ、春香はやっぱり春香なの!…千早さん!」
「えぇ、準備は出来ているわ! 行きましょう!」
―――――


『Marsの3人もおいでよー!!』


―――――
「……美希さんと千早さん、行っちゃった……」
「なんだか楽しそうだね♪ 桃子ちゃん、ジュリアちゃん、私達もいこう♪」
「それじゃ勝負が……まったく、黒井社長に怒られても知らないんだから」
「とかなんとか言っちゃって。モモ、準備万端じゃねーか♪」
「そ、それは……ジュリアさんだって!」
「ん~……なんか、あたしは最初っから、こうなるような気がしてたんだよなー」
「……え? なんで?」
「だってさ、アイドルって――」


「笑顔で、キラキラしてるもんだろ?」


「ジュリアさ……って、麗花さん、手を引っ張らないで!」
「さぁさぁ、ごーごー♪」
「待てよレイ、モモ! あたしもいくぜーーっ!!」
「あーもう! 桃子、こういうの慣れてないのに!」
―――――


 ステージの中央。
 こちらに駆けてくる春香たちを見ながら、玲音は呟く。


「……これが、キミ達の作る"最高のステージ"、なんだね」
 

 そして、手に持ったマイクを握り直す。
 

『ふふっ、面白いじゃあないか! アタシも混ぜてくれ!』


 765と346、そして961プロまで巻き込む共演。
 そこには、確かに、きらきらとしたアイドル達の輝きがあった。
 その輝きに名前を付けるとするならば……



 それこそが――――THE iDOLM@STER。

――――――
――――――――
――――――――――


『それでは、アンコールが見たいと思ったプロダクションの名前をコールしてください』


「「「ぜーんーぶ! ぜーんーぶ!」」」
「「「ぜーんーぶ! ぜーんーぶ!」」」
「「「ぜーんーぶ! ぜーんーぶ!」」」


――――


「あはっ、もう、勝ちも負けも、なんにもないの!」
「さぁ、みんな! たくさんのファンが待っているよ!」
「うわ、玲音さん待ってくださ、ぅわあっとと!」
 どんがらがっしゃーん!
「くすくす……ほら、春香。立って」
「じゃあ、私、先に行ってますねーーーっ!!」
「ニュージェネレーションズ、いっちばんのりーーっ!!」
「みんなーーーっ、いくよーーーー!!!」

「にょーわーーーっ!!」
「きらりちゃんに担がれたーーーっ☆」
「あははははっ♪」
「離せきらり! 杏はまだ体力がっ!」
「はわっ! きらりさん、すごいですーっ!」
「亜美も乗るーっ」
「真美もーっ」
「あらあら~、皆、楽しそうね~。私も乗っちゃおうかしら♪」

「アンコールも猫チャンパワーでキュートにいくにゃーーっ!」
「きゃっぴぴぴぴーん! ボクも、乙女チックにキュートにいくナリよーーっ!」
「うわぁ……真さんロックだなぁ……」
「自分たちも、負けてられないぞ、ハム蔵!」
「アンタもなに対抗意識燃やしてんのよ! 動物アイドル枠!?」

「私たちも遅れずに、行きましょう!」
「ダー♪」
「我が魂の赴くままに!」
「えぇ、共に高め合いましょう」
「アーニャちゃんと蘭子ちゃんと貴音さん……すごい組み合わせ、です……」
「ふわぁ……美しすぎますぅ……」
「智絵里ちゃん、雪歩さん……私たちも、一緒にいきましょう♪」

「こ、こういう時ってどうしたらいいんだ!?」
「何も考えなくていいよ、アンコールなんだから!」
「さっすが桃子ちゃん♪ いえーーい!」

「本当に……素晴らしい、ステージ……です」
「わっ! 346プロの! 貴方、そんな顔してメチャクチャ泣いてるじゃないの!」
「それよりほら、律子さんも。みんなが呼んでますよ、早く行かないと♪」
「うぅ……プロジェクト凍結……なんとかまぬがれて、本当に、よかったぁ……」


――――――
――――――――

――――――――――


 ライブ終了直後。
 成功に湧いているアイドル達の元へ、一人の男が現れた。


黒井「ええい! こんなモノ、茶番だ茶番!」

黒井「今回のライブは特別に無かった事にしてやる! 再戦だ!」

黒井「行くぞ、玲音ちゃん! それと千早ちゃんに美希ちゃん! Marsも! さっさと帰るぞ!」

 そう言って背中を向ける黒づくめの男。
 その横から、先ほどまで同じステージに立っていた、あのアイドルが顔を出す。


玲音「やぁ、天海!」

春香「れ、玲音さん……!」

玲音「いやぁ、まったく。君たちのチカラ、思い知ったよ。完敗だ」

春香「そんな、わたしはただ……」


 その先は言わせない、というように玲音は春香の口に指を当てる。
 玲音の顔は、今まで春香が見てきた玲音のそれとは違い、晴れやかなものだった。


玲音「でも悪役ってのも疲れるものだね」

玲音「こんなことになるんだったら、もっと舞台の仕事も経験しておくべきだったよ」

玲音「この一ヶ月丸々、悪役を演じるのは流石に骨が折れた」

春香「あ、あれ、全部演技だったんですか!?」

玲音「あぁ! そうでもしないと、キミ達と本気で"闘えない"からね」

玲音「しかし……『最高のステージを作りましょう』、か……」

玲音「天海。キミはアタシと対極の存在のようで、根本は"同じ"なんだね」

春香「え?」

玲音「ん~~……天海も、"最高のアイドル"ってことさ!」

春香「そ、それって……」

玲音「おっと失礼。これ以上黒井社長を待たせると、また癇癪を起こしそうだ」

玲音「じゃあね、天海。今度は一対一で……アタシと踊ろう!」

春香「は、はい!」

 
 『素質あるアイドルはひかれ合う』という持論を有する玲音。
 春香とはきっとまたどこかで会うと予感しているのだろう。
 早々と約束を交わし、玲音はあっさりと去ってゆく。
 と同時に、春香の後ろから聞き慣れた声。



「お疲れ様、春香」

「ち、千早ちゃん!」

「色々迷惑をかけたわね、ごめんなさい」

「ううん。でも……今回のことで分かったよ。
 たとえ事務所は別だったとしても、キョリが離れていても。
 わたしたちの関係は、変わらないんだって。
 だから……もう大丈夫。これからだって、」


「春香。……私と美希は、この後すぐ765プロに戻るわよ?」


「え?」

「最初からそういう話だったの」

「ど、どういうこと!?」

「そういうこと。詳しくは、帰ってから説明するわ」




「春香。」


「なあに、千早ちゃん」


「ずいぶんと遅くなってしまったけれど……"ただいま"」


「え、へへ……遅刻するなんて千早ちゃんらしくないね」





「……"おかえり"」




 その十『 絆 』 終

――――――――――



エピローグ・765プロ


・千早と美希が765プロにかえってきた


 大盛況に終わったフェスの翌日、765プロ事務所には千早と美希の姿が。
 ”事情”は既に説明済み。

「あふぅ。やっぱりここが一番落ち着くの」
「美希ちゃん、帰ってきて早々、ソファーで寝るんだね……お茶、どうぞ」
「ありがとうなの。ずずーーっ、うん! やっぱりコレなの!」
「……ありがとう萩原さん。
 こうしてお茶を啜っていると、なんだか帰ってきた実感が湧くわね」
「えへへ…そう言ってもらえると、嬉しいなぁ」
「ちーはやちゃん! お菓子もあるよ! はい、ドーナツ!」


「「……」」 (-_-) (-_-)


「えっ、なにその表情」
「ううん、何でもないわ。いただくわね」
「……ドーナツは食べ飽きたの…」ボソリ
「えっ」
「……アメリカで滞在していた時、宿泊施設のモーニングがなぜか週7でドーナツだったの……」
「何それ!?」
「じゃあこれも……」サーターアンダギー


「「……」」 (-_-) (-_-)


「うぎゃあ~! なんでそんな顔するんだー!」
「響、残念だったね…」
「食は文化……と言いますからね」
「えっと、アメリカではそれが普通なのかな……?」
「そんなことないわよ! 私もよく旅行で行くけれど、もっと色々あるわ!」
「そうなの……なんか、泊まってた所がヘンだったみたいなの」
「……日系だったから安心できると思っていたのだけれど……ええと、名前は、Norik」


 バタン!
 扉が荒々しく開かれる。



「高木の事務所はここか! ウチのアイドルを返せ!」

 事務所にズカズカと入ってくる黒ずくめの男。


「「「黒井社長!?」」」


「はわっ! なんだかこわいですー……」
「あれ? 黒井社長、怒ってるみたいなの」
「もしかして千早ちゃんたち、黙って抜け出してきたんじゃ……」
「元々、口約束でしか契約していなかったし。法律上、特に問題はないわ」
「……千早、あなたアメリカで色々学んできたのね……」

「えぇい! 何をくっちゃべっている!」

 こちらに駆け寄ってくる黒井社長。

「あ! 黒井社長、そこは……」
「ん!? なんだアァァァ――――」

 床が破れ、穴に落ちていく黒井社長。


「ボクたちが作った美希と千早へのサプライズ用の落とし穴……って、もう遅いか」

「ァ――――……」


「どんだけ深く掘ったのよ」
「せいぜい数十mですぅ」
「……殺す気なの」
「底にはちゃんとクッションをしいてたから大丈夫だよ」
「……本当に大丈夫なのかしら」
「たるき亭のド真ん中貫通しちゃってるけど……」
「それもサプライズですぅ」
「誰への!?」
「真美達は、えっちい感じになると楽しいかなーと思って」
「ピヨちゃんの引き出しにあったぬるぬるした液体を大量に入れておいたYO!」
「それ、自力で上がれなくなるやつだよね」
「……完全に殺す気なの」

「―――! ――――!」
「何か叫んでるみたいだよ」
「しょうがないの。玲音を呼んで、引き取ってもらうの」 ポパピプペ
「……怒る気も失せたわ……早く帰ってきてちょうだい、プロデューサー……」




 無事救出された黒井社長であったが、765プロへの恨みは増したそうな。
 また、穴から出てきた黒井ははだけていて絶妙にエロかったので小鳥が興奮したとかどうとか。
 ……なお、千早・美希の765プロへの再移籍の会見は、翌日すぐに行われた。




――――――――――



エピローグ・346プロ


・今回の成功を祝して、CPのみんなで打ち上げパーティー


 テーブルにずらりと並ぶ豪華な料理を、立食形式で手に取り談笑するアイドル達。
 パーティーの一角には、プロジェクト・クローネ全国ツアーの準備をすべて終えた専務の姿が。

「今回の一件で、我が346プロへの評価も高まっている」

 Pをちらりと一瞥し、キミの部署のおかげだ、と素直に褒める専務。
 少量ではあるが――アルコールが入っているせいか、彼女は普段よりも饒舌に感じる。

「これから仕事の量もさらに増えるだろうが、アイドル達の体調管理は怠るな」
「それは、重々承知です。ですが専務、貴女も体調に気を付けて下さい。クマが出来ています」

 ふん、と鼻で笑って、
「ここ数日まともに寝る時間が取れなかったからな。だが、私もまだ若い。数時間も寝れば回復する」
「……」
「あ、もしかしてお前も私の年齢を上に見ているクチか? よし、耳を貸せ」
 プロデューサーの耳を口元まで引っ張る。
「私の年齢はな……」


 ごにょごにょ。


「な……っ!! せ、千川さんと」
「おっと、他の者に聞こえてしまう。大声は出すんじゃない」
 Pの口に手を当てる美城専務。混乱するPを余所に、専務は高らかに笑う。
「アッハッハッハッハ! お前の驚く顔が見たかったよ! アッハハハハハハ!!」


 その様子を遠巻きから見ている者が数名。
「ねぇ、なんか美城専務とプロデューサー、良い感じじゃない?」
「……ふーん」
「前はあんなにいがみあってたのにさ。
 ホラ、プロデューサーが専務の顔をホールドしてまじまじと見てる」
「ふーーーーん」
「専務の顔真っ赤だよ! なにやってんのさプロデューサー!」



「よし、いってくる。本当のシンデレラは誰なのか、知らしめる必要があるね」


「あ、ちょ、しぶりん!」

 空のグラスをテーブルに叩きつけると、凛はすたすたと歩きだす。



「みくもいくにゃあ」
「あの、わたし……も」
「ガンバリマス……ガンバリマス……」
「うっきゃ??↑!! はぴはぴするにぃ☆」
「なんかよく分かんないけど、Pくんにアターック!」
「みりあもやーる! みりあもやーる!」
「オイシイから大丈夫だよ」
「ダー、ナニか楽しそうデス♪ ミナミもいきまショウ!」
「あ、アーニャちゃん! えぇい、もう! 美波、イきます!」
「血の盟約を、今こそ交わす時ぞ!」
「えっ、ちょ、みんな??! ……私もロックにいくよ!」

「みんないっちゃった……なんか楽しそうだから、わたしもいこうっと!」



 わーわー、がやがや。



 ……


 ………


 …………


「ふぃー、プロデューサーも大変だねぇ。あんなに倍率高いと…」
ぐいっ
「!?」
「ほーら、杏ちゃんも行くにぃ☆」
「や…やめろぉーーーーっ!!」

 ……………



 346プロの物語は、これからも続いてゆく。






「秘技・シブリンの蒼い雨!」
「上司にヒジ鉄はまずいにゃあ!」




――――――――――



エピローグ・玲音と凛


・公園のベンチにて。


「まずは、謝らせてほしい。渋谷、キミを試すようなことをして悪かった」
「……演技だった、っていうのは噂で聞いた」
「ふぅん。なら、話は早いね」

 玲音はベンチに腰を掛け、目配せをして凛にも座るよう促す。
 だが、凛は首を横に振り、あくまで玲音の正面に立つ。
 玲音は肩をすくめると、ゆっくり口を開いた。

「……渋谷。もしかすると、君はアタシの可能性の一つだったのかもしれない」
「どういうこと?」
「君は昔のアタシにそっくりだ。前だけを見て、走る。それだけを考えて生きてきた」
「……」
「ただ一つ違ったのは……仲間の存在、かな」
「仲間……」
「あぁ。アタシには無かったものだ」

 遠い目をしながら、彼女は手に持った缶コーヒーを一口飲む。

「だけど、そんな頼れる仲間にも、限界ってものがある。
 いつか、ユニットの誰かが着いてこれなくなるかもしれない」
「限界なんて、ないよ」
「どうしてそう言い切れるんだい? そんな魔法みたいなこと……」
「魔法はあるよ。永遠に解けない魔法」
「……」
「プロデューサーがかけてくれたんだ。それも、とびっきりのやつを」
「……ふふ」
「何?」
「子供が見る、夢物語みたいだ」


「うん。夢物語。悪い?」


「ぷっ」

 玲音は我慢が出来ずに吹き出す。

「アーッハッハハハ!! お、お腹がいたい! いぃーひひひ!!」
「わ、笑わないでよ!」
「いやぁ……フヒ……笑って悪かった! でも、渋谷らしくていいね」

ふぅ、と一息ついて缶コーヒーを一口。

「しかし魔法……ねぇ。ま、そういうのもアリか」
「……」 ムスッ
「とにかく! アタシはまだまだ踊り足りないんだ。
 今度は、キミ達の舞踏会にお邪魔させてもらおうかな」
「え?」
「実は、旧友から招待状を頂いていてね」


 玲音がチラリと見せたのは、346プロのロゴ入りの封筒。
 冬の舞踏会への招待状のようだ。


「楽しそうなパーティーになりそうだ。……もちろん、キミ達も参加するんだろう?」


 ニヤリと笑う玲音。


 ……アイドルたちの”闘い”は、まだまだ終わりそうに無い。



――――――――――



エピローグ・美希と伊織


・ある日の夕方、二人きりの事務所にて。


「……ねぇ、あんた」
「なぁに? デコちゃん」
「デコちゃん言うな」
「むぅ」
「……”あれ”、演技だったって本当?」
「そーだよ?」
「……そっか」
「んー。でも、ちょっぴりホンキだったかな」
「え……」
「だって、デコちゃんはミキが『あんな風にキラキラしたい』って思った最初のヒトなの。
 ……ずっと憧れだったって思うな」
「あんた、私のことそんな風に……」
「うん。だから昔、伊織が初めてライバルって言ってくれた時はうれしかったなー……」
「……なら、勝敗がつけられらなくて、残念だったわね」
「それはそうでもないの」
「んがっ」
「だって、デコちゃんがホンキになったら、ミキなんて"こてんぱん"なの」
「は?」
「アイドルとして、デコちゃんが本当にすごいのはミキがよーく知ってるの」
「何が言いたいのかしら?」


ここで美希が一呼吸。


「――えっとね。ミキ、ずっと伊織のファンなの。やっぱり”敵”としてライブ、なんてとてもできないの」
「……あんた、そんなキャラだったかしら」
「半年も会えなかったんだよ? ホンネも出ちゃうの」
「……」
「それに半年ぶりの、このキラキラ輝くおでこ! まさにデコちゃんなの!」 スッパーン!
「あいた! なにすんのよ!」
「デコチューもしちゃうの! ちゅちゅちゅー」 チュッチュッ
「うぎゃー! やめなさいよ!」

 どたばた。

「わー! デコちゃん怒ったの! これもなつかしーの!」
「こらー!」

 ひととおりおっかけまわして、息を切らすふたり。
 美希は満足げな表情で「はふぅ」とソファーに雪崩れ込むが、それを見ている伊織は呆れた表情。
 けれどその顔には、どこか引っかかるようなニュアンスが混じる。


(……負けないんだから)


 伊織がまだ”あの領域”に達せていないことは、彼女自身がよく分かっている。
 だが、いつか。成長した彼女は今度は自分から挑戦状を叩きつけるだろう。
 なぜなら、彼女達は決して馴れ合いだけの関係ではないからだ。
 ……”ライバル”も、きっとそれを待っている。




――――――――――



エピローグ・765プロの未来


・アメリカから帰国したP、開口一番「劇場を作るぞ」


 今回の事件はアメリカにいたメンバーでの賭け事が発端だった。


 アメリカで劇場について学んでいたPの前に玲音が現れ、
「キミの育てた765プロ・天海春香と勝負をしてみたい」と言い出した。


 そしてそれに勝てば、765劇場の設立に全力でサポートしてくれる、と。


 メンバーを本気にさせる為、美希と千早が玲音側に付くことが条件だったが、
2人は「事務所の皆を信じてるの!」と快諾。


 Pは(ついでに)未完成の細氷とNostalgiaの完成への糸口になると読み、
「この2曲で765プロと勝負するように」と、美希と千早に言った。


 結果、賭けに勝ったので劇場設立の資金の大半は玲音、ひいては961プロが出してくれるそうだ。
「なんちゃらウェルカンパニーってとこから、昔の悪いお金も出てきたみたいだよ」
 流石は玲音。961プロを完全に掌握している。



「しかし、千早も美希も、大きなおみやげを持って帰ってきてくれたよ」

「おみやげ?」

「入ってきてくれ」


「「「あ~~~~っ!!!」」」

 事務所の扉が開き、見覚えのある姿が3名。


「夏のフェスが終わってから俺が帰ってくるまでの間、スクールに通ってもらっていた」
「だけどこうして、ウチのアイドルとして正式に加入してもらうことになったんだ」


「「「961プロのアイドル!!!」」」


「アタシはジュリア。チハの歌につられて、こっちに来ちまった」
「はーい、北上麗花です♪ よろしくね♪」
「周防桃子。アイドルとしてはまだまだだけど、芸歴ならみんなよりも長いんだからね」


 三者三様の自己紹介に、様々な反応。

 アイドル達の歓声を聞きながら、Pは続ける。

「劇場をやるにあたって、所属するアイドルを増やそうとは思ってたんだよ。
 だけど、強力な仲間がもう出来ていたみたいで助かった」

「ついでに、他にスクールに居た子たちや、素質の有りそうな子たちにも声をかけておいた」

「アリーナライブでバックダンサーをやった子たちにも、もちろん声をかけたぞ」

 わぁ、と一層盛り上がるアイドル一同。


「さぁ、これから忙しくなるぞ!」






――――――――――





 コンコン、と765プロの事務所の扉がノックされる。
 磨りガラスに映るのは、人ひとり分の影。




「すみません、アイドルを募集していると聞いて来たのですが……」




 扉を開けると、長い黒髪を持つ少女が、そこに立っていた。




 ――――Future of 765pro is right there.



 765プロの新たな物語の幕は、もう上がっている。




 ……Next to 765 MILLION THE@TER...

おわり

>>212のシーンと、シメのシーンを動画にしました
4分程度の動画です。どうか見てやってください

それからフェス全体のセトリを画像にしてみました
ttp://i.imgur.com/kHn88I5.jpg
このセトリ考えてる時が一番たのしかったです
3日くらい悩んだ末の答えでした


 あとがき


きっとスレタイで察された方もいると思いますが・・・
このssは、まさに『僕の考えた劇マス2』なんです。


一部の2次創作的な描写以外はすべて、
『自分は今劇場版アニメの脚本を書いている!』という気持ちでキーボードを叩きました。
自分が見たい要素やシーンやオマージュを、ぜんぶぜんぶ、この10万字弱に詰め込んだつもりです。


「次の劇場版は春香と卯月が団結する話が見たい」


という思いがまず最初にあって、
「あ、765と346が協力したらもう敵いねぇな。961プロ設定の玲音ならちょうどいいか」
「じゃあ玲音のついでに美希と千早をなんとかして961デビューさせたら面白そう」
「玲音美希千早……この3人、絶対ユニット組まねぇわ。でもソロだけだと寂しいな」
「2の没キャラ組とかいいかも。ついでにバネPが劇場作りたがってたことにしとこう」
「ノスタルと細氷、アニマス世界ならこうなるな。キャラ支えるのがPだけじゃなくなってるし」
「やべぇよやべぇよ……これどうやって勝つんだよ……春香卯月ガンバレ」
と、どんどん妄想が積み重なり、
デレアニ1期が終わるころにはssのプロットという形に。


ssを書いている最中は、自分に文才さえあれば
もっと読みやすく、より多くを伝えられただろうなぁと何度も思いました。
正直、いま読み返しても書き直したくなる部分が多々あります。特に前半。


でも今は、ここまで・最後まで読んでくれた方へ感謝の気持ちでいっぱいです。

本当に、ありがとうございました。


特に感想や乙等のレスをくれた方々には慕情の念すら感じています。
死ぬほどありがたかった。


長文失礼しました。
追加で、エピローグに入りきれなかったおまけを3つほど投下して本当に終了とします。

――――――――――


おまけ・その1


・Pと春香

プロデューサーさんが帰ってきた次の日の朝。
事務所でたまたま”時の人”と 二人っきりになりました。

「もう、大変だったんですよ!」
「あ、あはは……だけどな、お前達を信じてたから出来た事なんだぞ?」

そう言いながら、私の頭を撫でるプロデューサーさん。
 あ、これは駄目だ。泣いてしまう。

「う、うぅ~ご、ごどもあづがいしないでくだざい~」
「はは。涙でべちょべちょじゃないか」
「だっで、だっで…」
「とにかく……お疲れ様、春香」

 ずび、ちーん。と手渡されたティッシュで鼻をかみ、むりやり、笑顔を作る。
「はい……でも、本当に、大変だったんですから…」
「ご、ごめんな」

 そうだ。あれだけめちゃくちゃな賭け事をやったプロデューサーさんだ。
 ちょっとイジワルしちゃえ。
「……もう、許しませんから。ふん。お仕事もいきません」
「ほ、ほんとか?……機嫌直してくれよ」
「でも、一瞬で機嫌がなおっちゃう、いい方法があります」
「いい方法って、なんだ?」
「それはですね……えへへ」


 目を閉じて、唇を突きだす。


 プロデューサーさんが目の前で慌てている様子が頭に浮かぶ。
 えへ、こんなことしたら、困るだろうなぁ。
 と、思っていたら、唇に生暖かい感触が。


 まさか、本当にキスされるなんて――


 驚きながら、目を見開くと



 目の前に


 おにぎり


「そーいえばこれ、春香にアメリカからのおみやげなの。召し上がれ、なの♪」

 嘘だ! これロ●ソンのおにぎりだ!
 というかなんで美希が!
 プロデューサーさん向こうで笑いをこらえてる!
 美希! 口におにぎり押し付けないで!

「んむぃき! ふぁんでほほに!」
「誰かさんがハニーを誘惑してたから、かけつけた次第なの」
「んぐむ……もう!」
「それよりハニー! ミキもナデナデしてなの! 数ヶ月ぶりのハニー分摂取なの!」
「なっ! それを言ったら私なんて! ……1年ぶりですよ、1年ぶり!」


 苦笑いするプロデューサーさんにせまる私と美希。

 こんなにも平和な時間が、また来るなんて。

 こうしていると、何もかもが懐かしくて、あったかくて。

 嬉しくて、なんだか涙があふれ出てきちゃって。

 隣を見ると、美希も同じような顔をしていて。

 二人して、涙を隠すように。

思いっきりプロデューサーさんに抱きついてしまうのでした。






「……お兄ちゃんたち。そんな所、パパラッチされたら大変だよ」


 そして、扉を開いた状態の桃子ちゃんが冷ややかな目で、こちらを見ていたのでした。
 ……ヴぁい!

――――――――――


おまけ・その2


・あずたかあみまみ

「え? お姫ちんとあずさお姉ちゃん、最初から全部知ってたの!?」
「えぇ」
「そうなの~。千早ちゃんから、帰国してすぐに相談を受けて……」
「じゃ、じゃあなんで、黙ってたのさ~……?」
「それが千早達の望みだったからです」
「『最後には帰ってきますから。それまで、皆のフォローをお願いします』って、言われたのよね~」
「言われてみれば、お姫ちんもあずさお姉ちゃんも、最初からなんか余裕たっぷりだったYO……」
「でもいつも通りすぎて、何も気づかなかったYO……」
「それからわたくしには、『新曲を聴いてほしい』と」
「あぁ! だからお姫ちん、番組シューロクの時、千早お姉ちゃんのとこに立候補したんだね」
「えぇ。結局、何の手助けにもなれませんでしたが……」
「あら~」


――――


・ちはみきいおまこ

「あれ、961プロが勝ってたらどうなってたのさ」
「一応、私達は元々戻ってくるつもりではあったけど……」
「たぶん、もっとややこしいことになってたの」
「はぁー。あんたたちも、あいつも、バカよね~」
「否定はしないわ」
「否定はしないの」
「……否定しないってよ」
「はぁ~……そもそも、あんたら二人だけ新曲貰ってたなんて、ズルくない?」
「……日本を出るときに、社長が渡してくれたの」
「そう。そして、アメリカで半年間プロデューサーと色々試したけれど……結局、完成できずに終わってしまったわ」
「だから、あの移籍は曲を完成させるためでもあったの」
「へぇ、そうだったんだ。もしかしたら、新曲、ボクたちの分もあったりして」
「それ、ビンゴなの」
「「え?」」
「たぶん、歌詞はついていないと思うから……まずは作詞から、かしら」

――――――――――


おまけ・その3


・3人のその後


『そういえば、ジュリアはどうしてアイドルになったんだ?』

 えーっと……あたしがチハからスカウトされたって話は知ってるよな?
 ……実はあたし、チハがアイドルだったなんて知らなかったんだ。
 いや、”如月千早”って存在は知ってたよ? 
 でもさ、普通に、歌手でアーティストだと思ってたんだよ。
 だって、レコード店で流れてるチハの代表曲、聴いてみろよ。
 『蒼い鳥』『目が逢う瞬間』『arcadia』『眠り姫』、ついでに『細氷』。
 ……アイドルって一体何なんだろうな。
 まぁ、だから、『あなた、うちの事務所に来ない?』なんて声をかけられた時は内心『きた!』と思ったよ。
 ついにあたしも歌手デビューか、って。それでついていってみたら……ね。
 んー、要するに……"手違いでアイドルになった"ってことだよ。
 それに961の頃はまだ良かったけど、765に入ってからは苦労の連続さ。
 え? 今はどうかって? ……あー、えーと……アイドルも、結構、楽しい……かも。
 は、恥ずかしいこと言わせんなよ、バカP!


――――


『聞いてもムダかもしれないが……麗花はどうしてアイドルになったんだ?』

 あ、プロデューサーさん! 今日もナイス普通ですね!
 ……え? 質問? アイドルになった理由、ですか……。
 うーん。どうしてだろう?
 毎日がワクワクで、楽しかったらいいなーって思ってたら、美希ちゃんに声をかけられたんですよね。
 たしか、公園で子供たち相手に歌のお姉さんごっこしてた時だったかな?
 「今日はおっきな子がいるな~」
 と思ってよく見たら、アイドルさんだったから、びっくりしちゃいました♪
 あ! でも私、元々水瀬伊織ちゃんの大ファンで!
 う~ん、たまりませんよね、あのおでこ。
 ……――だから、ずっと、憧れだったんです。アイドル。
 え? 『いい話っぽくしようとするな』?
 そんなー。……そうだ! オデコのテーマソングもありますよ! 一緒に歌います?
 ……『もういい』? ……あ、お仕事ですね! わーい♪ 


――――


『聞いてもいいか? ……桃子はどうしてアイドルになったんだ?』

 はぁー。
 お兄ちゃん、色々立場が分かってるみたいなのはいいけど……桃子の顔色伺いすぎ。
 桃子のプロデューサーでいたいなら、もっと堂々としててよね。
 ……だから、謝らないでってば。
 もういいよ。えっと、桃子がアイドルになった理由、だよね。
 …………。
 やっぱりやーめた。……真面目な顔しちゃって。ばか。
 お兄ちゃんがもっと偉くなったら教えてあげる。それまでナイショだよ。
 それより、こんな雑談なんかしてないで次の仕事……あ、あれ?
 桃子の踏み台、どこ?
 ……あ、あった? ……ありがと。お兄ちゃんこういう時は早いんだね。
 もう。お兄ちゃんと喋ってると腰が低すぎて、踏み台のこと忘れちゃう。
 ……桃子に目線の高さ合わせてくれるのは、嬉しいけど……。
 な、なんでもない! さぁお仕事だよ! お兄ちゃんシャキっとして!

ほんとうにおしまい

ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS野郎   2015年11月29日 (日) 19:01:44   ID: 0ZbqITMK

がんばってください

2 :  SS野郎   2015年11月29日 (日) 19:04:12   ID: 0ZbqITMK

(_ _)

3 :  ss野郎   2015年11月29日 (日) 19:07:12   ID: 0ZbqITMK

いろんな人に期待

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom