東亰ザナドゥ 縁ノ綴 (112)

▽郁島 空編 1





――20XX年 6月

放課後:


【杜宮学園】

ーー私には、気になる人がいる。


ソラ「……」


ソラ「……はぁ」


ソラ「これ、どうしようかなぁ……」


その人は、小さい頃からの知り合い。
ひたむきに、ひたすらに私が武道に取り組んでいたころから、とても優しくしてくれた人。


ソラ「うーん……」


「ーーよっ」ポンッ


ソラ「わぁ!?」ビクッ


コウ「おぉっ!?」ビクッ


ソラ「……コウ先輩〜」ジロッ


……あと、1つ大事なこと忘れてた。


コウ「わ、わりぃ。 そんな驚くと思わなくて」


彼は、何故かちょっと抜けてる人だってこと。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1444671449


出会った頃は単純に『良い人だな』っていう、取り留めもない認識だった。
『ソラ坊』なんて、女の子らしくない愛称で呼ばれても、何にも気にしていなかった。
むしろ私と仲良くしてくれてるんだって、喜んでたくらい。
……今思い出すと、自然と顔に血が上ってくるくらい、恥ずかしいけど。


コウ「今、帰りか?」


ソラ「ま、まぁそんなところです!」


ソラ「先輩も今帰りなんですか?」


コウ「あぁ。 今日はバイトがないからリョウタとジュンを誘ってどこかへ行こうと思ったんだが……」


コウ「生憎、先約があるみたいで。 断られちまった」ポリポリ


ソラ「ふふっ。 いつもは先輩が断ってるのに。 今日は逆なんですね」


コウ「わざと断ってるわけじゃないんだがな……。 まぁ、結果的にはそうなるか」


そう。
先輩は、まさしく”多忙”だ。
あるときはアルバイトに勤しみ、あるときは街で人助けをして、あるときはX.R.Cの活動をして。
部活と自主鍛錬くらいしかしてない私よりも、ずっと忙しいはずだ。


コウ「……ところで」


ソラ「……?」


コウ「あのさ、迷惑だったら無視してほしいんだが……。 何かあったのか?」


ソラ「へ……!?」


コウ「いや、困ってるように見えたから」


ソラ「わ、私そんな風に見えました?」アセアセ


コウ「あぁ。 遠くから見てもわかるくらい、思い切りよく肩を落としてたな」


ソラ「あはは……。 そんなに露骨でしたか」


コウ「何かあったのか? 俺でよければ相談に乗るぞ?」


ソラ「あ、え、えーと……」


ソラ「(……)」


こういう所、鋭いんだよなぁ。
自分でも見えてない所とか、見せてない所とかすぐに気付いちゃう。
先輩の前では、隠し事なんてできっこない。


コウ「……ソラ? わ、わりぃ、話辛いことだったりするのか?」


ソラ「え、い、いえ! そんなんじゃないんです!」


私のこと、気にかけてくれてるんだなって思うと、凄い嬉しい。
けど、この優しさが、色んな人のもとに向かっている言を考えると、ちょっと複雑。


……なんか、私『嫌な子』みたい?


コウ「……?」


ソラ「コウ先輩だから言わない、とか。 そういうわけじゃなくてですね、その……」


コウ「……」


ソラ「……」


コウ「…………」


ソラ「…………」


この目だ。
この、強制はしてないけど、諭してくる様な、綺麗な瞳。
私は、これにとても弱いんだ。


ソラ「……あの、実は、ですね――」


【アクロスタワー】

コウ「お、おぉ……。 確かに、これは……」


1時間後、私たちはアクロスタワーの下に設営された、簡易遊園地にいた。
そこには最新の技術で作られた遊具や展示物が所狭しと並び、
平日にも関わらず多くの人で賑わっている。


コウ「しかし、看板ですら夢に出てきそうなレベルで怖いぞ、これ」


ソラ「う、うぅ……。 改めて言わないでくださいよ」


その中でも一際周囲の注目を集めているのが、『お化け屋敷』。
イベントに協賛している北都グループが技術協力をし、
ホログラムやセンサーを使って、『とてつもなく怖い』お化け屋敷を作ったとのこと。


コウ「……やっぱり、やめておくか?」


ソラ「……。 ……いや。 折角チケットもらいましたし……」


ソラ「……い、行きましょう!」


【お化け屋敷】

ソラ「う、うう……。 暗いですね」


コウ「お化け屋敷だしな、明るくちゃ調子でないだろう」


ソラ「は、はは……。 そうですよね……」


クラスの友達が使う筈だったチケット。
どうやら、家族の都合でどうしても行けなくなってしまったみたいだった。

『ソラちゃん、私の代わりにぜひ行って来て! これ今日までだからさ! 感想聞かせてね♪』

善意でくれた物だし、私は何の予定も入ってなかった、断る理由は無かった。

けど、1分後には、受け取ったことを後悔していた。
だって、このチケット……。 『お化け屋敷限定』なんだもん。



コウ「パンフレットに載ってた通りだな」


コウ「凍えるほどではないにしろ、肌寒さを感じる程度の室温になるよう、自動で設定されてるんだっけか」


ソラ「目の前に見える灯りの明度も同じように調節されていて、人が不安になるような状態になってるって言ってましたね」


コウ「自分から名乗り出ておいて非常に情けない話だが、既に雰囲気に呑まれてしまってるからな……」


ソラ「い、いえ!そんなことないです! 来てくれるだけで、ほんと助かりますから!」


コウ「それならいいんだが……。 とりあえず、進むか?」


ソラ「は、はい……」


コウ「足下がどうにもゴツゴツしてるな。 壁の装飾もやたらと凝ってるし」


ソラ「廃屋になった豪邸で探検しているというシチュエーションみたいですね」


コウ「なるほど……。 暗くて床が見えないからわからなかったが、確かに散らばってるのは家具の破片や瓦礫みたいだな」


コウ「(これは子どもの入場制限が掛かって当然だな)」


ソラ「……!」


ソラ「せ、せせせ、せんぱ……!」


コウ「ん? どうした、ソラ。 何かーー」


「ぐわあああああああ!!」


コウ「おわ!?」ダダッ


ソラ「〜〜ッッ!!」ダダッ


コウ「あ、足速っ!」


コウ「はぁ、はぁ……。 な、なんだありゃ、ゾンビか?」


ソラ「わ、わからないです……。 急に曲がり角から出て来て……」


コウ「かなりの距離追いかけて来たし、凝った作りになってるな」


ソラ「そんな所まで作り込まなくていいのに……」


コウ「はは、それは言えてるな」


コウ「それじゃあ、撒いたことだし。 先に進むか?」


ソラ「あっ、はーー」


ソラ「?!」コケッ


コウ「そ、ソラ!? どうかしたか?」


ソラ「あ、あはは……。 ちょっと、腰が抜けちゃったみたいです……」


ソラ「足が震えちゃって……」



コウ「大丈夫か?」


ソラ「わ、私は大丈夫です……。 すいません、迷惑かけちゃって」


コウ「んなこと気にするなっての。 いつでもいいから、ソラのペースでゆっくり進んで行こうぜ」


ソラ「……ありがとうございます」ニコッ


コウ「しかし……」スッ


ソラ「?」


コウ「ソラは、本当にいい子なんだな」ナデナデ


ソラ「え、え!?」カァァ


ソラ「ど、どうしたんですか、急に」アセアセ


コウ「お化け屋敷とか、そういうの苦手なんだろ?」


コウ「それなのに、『友達からもらったから』って言う理由で、行くだなんて」


コウ「律儀だし、しっかりしてると思う」


ソラ「ほ、褒め過ぎですよ……」


コウ「そうか?」


ソラ「うぅ……」


先輩の、こういう所、凄いと思う。
人を否定しない。
良いところばかりを見て、『長所』を気付かせてくれる。


コウ「お、おっと。 すまん」


ソラ「え?」


コウ「もう高校生にもなったし、気軽に頭撫でたりしていい年齢でもないよな」


コウ「デリカシーがなくて申し訳ない」


ソラ「ふふ、そんな風に思ってないですよ! むしろ――」


コウ「……むしろ?」


ソラ「っ」パッ


ソラ「なんでもないです!」カァァ


コウ「そ、そうか?」


ソラ「なんでもないんですーー!」


ーーもっと撫でてほしい。
なんて、言えるはずがないよね。



ソラ「あ、震えが治まってきました」


コウ「おっし。 そろそろ行くか。 この部屋もなんか不気味だしな」


ソラ「はい! お待たせしました」


コウ「……それじゃ、そうだな……」


コウ「ソラ、もし嫌じゃなかったらなんだが」


ソラ「はい?」


ぎゅっ


ソラ「!」


コウ「手を握って進むか?」


ソラ「あ、あう」カァァ


コウ「はぐれることもなくなりそうだし、 何よりも怖さが紛れるだろ?」


ソラ「こ、子ども扱いしてー……」


コウ「嫌だったか?」


ソラ「そんなことないです!」


コウ「! そ、そうか」


SS速報にザナドゥやってる人いますかな……。
各キャラにくっつくエンドが無かったので、自分で書こうという自己満足SSです。
ザナドゥやってる人orやった人はぜひお話し出来ればと思います。

よろしくです。

何年か前にCLANNAD×WORKING!を書いていた人かな

【出口】


スタッフ「ありがとうございましたー!」


コウ「……」ゲッソリ


ソラ「……」ゲッソリ


コウ「……な、なんとか出れたな」


ソラ「……はい。 生きた心地がしません」


コウ「まさか、異界の力を応用した、マジモンの化物が出てくるとはな」


ソラ「そうですね。 一瞬異界化に巻き込まれちゃったんじゃないか、って焦っちゃいました」


コウ「その通りだな……。 まぁ、『時間を忘れて没頭する』という意味じゃ、確かにこのアトラクションは凄かった」


ソラ「……。 ……ふふっ。 確かに、そうですね」



「ねー見て見て!」


「あの子たち、カップルなのかなー?」


「初々しいねー! 憧れるわ〜」


コウ「……あ」ハッ


ソラ「……」カァァ


コウ「ご、ごめん!」パッ


ソラ「……ぁ」


コウ「悪い、外に出たら放そうと思ってたんだが……」


コウ「はは、俺は成長しないな。 何故かそういう所に気が回せない」アセ


ソラ「い、いえ! そんな謝る必要ないですよ!」


コウ「だけど、俺とのことで、根も葉もない噂を立てられるのは嫌だろ?」


コウ「今後はほんとに気をつけないとな。 今のはたまたま学校の奴がいなかったから良かったが……。 無神経な真似をしてすまない」


ソラ「……」


ソラ「……コウ先輩」


コウ「ん?」


ソラ「その……。 私は。 コウ先輩が手を握っていてくれたおかげで、凄く安心できましたよ」


コウ「……え」


ソラ「それに……」


ソラ「……私は別に、コウ先輩とどう見られても、平気ですよ」ニコッ


コウ「!」ドキッ


ソラ「……あ! もうこんな時間! コウ先輩、よければこのままアクロスタワーでご飯でも食べて行きませんか?」


コウ「……。 ……あぁ、そうだな。 俺も丁度、そう思ってた」


ソラ「決まりです! 何を食べますかねー!」


コウ「ソラは昔から肉が好きだっただろ? ハンバーグなんかどうだ?」


ソラ「む、昔の話は忘れてくださいよ〜!」アセアセ


【杜宮商店街 ソラ宅前】


ソラ「今日は本当にありがとうございました! ご飯までご馳走になっちゃって、すいません」ペコリ


コウ「俺の方こそ。 一緒に行かせてくれてありがとな。 久々に有意義な休日って感じだった」


ソラ「それなら良かったです」ニコッ


コウ「……」


ソラ「……」


コウ「……あのさ、ソラ」


ソラ「……はい?」


コウ「今更なんだけど。 ……ソラって、女の子なんだよな」


ソラ「……」


ソラ「……それ、真意によっては怒っちゃう女の子、いますよ」


コウ「わ、わりぃ。 変な意味じゃなくてさ」


ソラ「……」ジトーッ


コウ「うっ……」


コウ「ご、ごほん。 ……今までソラはあくまで、『妹分』で」


コウ「今後もそれは変わらず、それ相応の関係だって思ってたんだよ」


ソラ「……!」


ソラ「……はい」



その通りだ。
どんなに先輩と仲良くったって、それはあくまで『妹分』として、だよね。
小さい頃から、時間をかけて構築されて来た私とコウ先輩の、『関係性』。


ソラ「……」ギュ


初めから分かってたつもりだったけど。
先輩の口から言われると、凄く胸が締め付けられる。
どんなに願っても、私が望む様な気持ちで、先輩はこちらを見てくれないと思うと。

正直、ちょっと、……泣きそう、かも。



コウ「……でも」


コウ「……でもさ、今日は。 そうじゃないんだって思ったよ」


ソラ「!」


コウ「ソラ、さっき『俺との関係を誤解されても構わない』って言ったよな」


ソラ「はい」


コウ「それで、一瞬ドキッとしたんだ。 その気持ちは、何なのかって、さっきから俺なりに考えててさ」


コウ「さっきのは、『嬉しかった』んじゃないかって、気付いたんだ」


ソラ「……ぇ」


コウ「妹分だから、とかじゃなくて。 ソラが女の子として、俺なんかを頼ってくれてるって事実にさ、すごい胸が踊ってた」



コウ「……つまり、何がいいたいかっつーと……」


ソラ「……コウ、先輩? ……それって――」


コウ「……」ボリボリ


コウ「……あーっ! すまん! 自分でも何言ってるか分からなくなって来た!」


ソラ「えぇ!?」


コウ「わりい! 俺、もう帰るわ! ソラ、早めに休んでおけよ!」


ソラ「……え、せんぱ――!」


ソラ「……」


ソラ「……行っちゃった」


ーーコウ「さっきのは、『嬉しかった』んじゃないかって、気付いたんだ」



ソラ「…………」


ソラ「……へへっ」


ソラ「『嬉しかった』かぁ〜……」


ソラ「(私にも、まだ……。 ……『チャンス』あるのかな)」


ソラ「諦めちゃ、……ダメ、だよね」ギュ








ーー郁島 空編 1  終


――20XX年 6月

早朝:


【通学路 交差点】


リオン「ふあーぁ」


眠い。


リオン「(昨日はちょっと、夜更かしし過ぎちゃったかも……)」


ここの所、SPiKAのミニライブが続いてたしなぁ。
ライブがなくても、レッスン、営業、CM撮影。
それに、X.R.Cの活動だってあるし、学校の勉強だってある。

我ながら、ちょーっと無理なスケジュールにし過ぎたかも。


リオン「(まあ、自分が決めたことだし……。 頑張るっきゃないけどね!)」フンスッ


リオン「……」


リオン「……ふぁ〜ぁ」


「……ほんっとにアイドルらしくない、大欠伸だな」


リオン「ふぁ!?」


コウ「おはよう、玖我山」


リオン「……」


リオン「……もおおおおおおおおお!!! 君って人はあああああ!!!!」




 
 
 
 
 
 

ーーーー玖蛾山 璃音編 1

 
 
 
 
 


【通学路 裏道】


リオン「全く! 君って人は、いっつもいっつも会うタイミングがおかしいんだから!」


コウ「大通りの交差点で大欠伸してた奴を見て、『タイミング』が悪いも何も……」


リオン「それは忘れて! 今すぐ忘れて! ちょっと油断しちゃっただーけーでーすー!」


コウ「はは、悪い。 少しからかい過ぎたかもな」


リオン「むー……。 今大人気活動中のアイドルをいじるなんて、贅沢過ぎるぞ!」


コウ「それはそうと……。 最近も忙しいのか?」


リオン「へ? ……んー……。 ちょっと、ね! ほんのちょっと! これぽっちだけ!」


コウ「あんま無理するなよ? 休める時はしっかり休まないと、身体が持たないぞ?」


リオン「……。 ……コウくん、そのアドバイス、なんかおじちゃん臭いかも」


コウ「あのなぁ……」


リオン「あはは! うっそー! 冗談! いじられたお返し!」


コウ「……ったく」


リオン「真面目な話、確かに最近は忙し過ぎてついていけてないかもなー」


コウ「そうなのか?」


リオン「うん。 平日休日関係無しに、SPiKAの活動がある上に、X.R.Cの活動もあるからね」


リオン「どちらも疎かにしたくないしってことで頑張ってると、いつの間にか休むタイミング逃しちゃってさー」


コウ「……」


リオン「……って言って、昨日は忘れてた宿題やってて夜更かししちゃっただけなんだけど……あはは」



コウ「……」


リオン「……あれ? コウ君?」


コウ「……よし。 玖我山」


リオン「?」


コウ「次、丸一日フリーになれる日って、いつだ?」


リオン「えーっと……。 それは確か……明後日だったかな」


コウ「なるほど」


コウ「ちょっと待っててくれ」


リオン「……?」



コウ「ーーはい。 はい。 すんません、この埋め合わせは絶対に別の日にやるんで。 ……はい」


コウ「それじゃ、また。 よろしくッス」プチッ


コウ「わりい、待たせた」タッタ


リオン「う、ううん。 それは別にいいんだけど。 どうしたの?急に……」


コウ「――玖我山」


リオン「は、はい」ドキッ


何故か丁寧語で返してしまった!

何で急に真面目になるの!
ちょっとびっくりする上に変な意味でドキッとするじゃんか!


コウ「あくまで提案だから、『よければ』なんだが」


コウ「次の玖我山の休日……俺にくれないか?」


リオン「……」


リオン「…………はい?」

>>20
え、え、え。 なぜ知ってーー


今日はここまでです。
脳内妄想がはかどるはかどるファルコム作品♪
ぜひ皆さんの理想のシチュ教えて頂ければと思いますー。

全キャラ自分だけの妄想で補完するのは無理があるので……。

読んでくれてありがとうございます!

これには九尾さんもニッコリ
一緒に組手したいソラと一緒にゲームしたいユウキがコウ先輩を取り合うシチュとかどうよ

ところで1があるってことは2もあるってことですかね

>>37
当時見てたからね
途中で落ちちゃって残念だったけど…

ザナドゥもすごくハマったので期待

――2日後 AM 10:00


【駅前広場】


――――リィン!

――――魔法少女アリサ!




リオン「……」


リオン「……」チラッ


リオン「(……ちょっと早く来すぎちゃったかしら)」


リオン「……」


「おーい」


リオン「……!」ピクッ


コウ「わりぃ、待たせちまったか?」


リオン「ううん! 今来たとこ♥」クルッ

コウ「待ち合わせ場所、本当ここでよかったのか? 人通りも多いから、微妙だとと思ったんだが」


リオン「あー、いいのいいの! ここの方が分かりやすいし!」


リオン「それに変装してればそうそうバレるものでもないからっ!」


コウ「それならいいんだが……」


リオン「あんま細かいこと気にしないの!」


コウ「(お前が1番気にするべきことじゃないのか……)」


リオン「……へへっ」


コウ「どうかしたか?」


リオン「いや~っ。 『待たせた!』『今来たとこ!』っな~んて、古いドラマのテンプレみたいなことをさ、私とコウ君がやってるの、なんか面白くって!」


コウ「……。 ……なんか少し恥ずかしくなってきたな」


リオン「なんで~? 私は嬉しかったのに! 何だったら腕でも組んであげようか?」


コウ「お前なぁ……」


リオン「はは、冗談冗談!」


コウ「まったく……」

リオン「ところで、今日はどうしたの?」


コウ「ん?」


リオン「『ん?』じゃないでしょ~?」


リオン「『アイドルの1日をくれ!』だなんて情熱的な言葉、 コウ君の方からくれるなんて」


コウ「そんな言い方してないし、情熱的かどうかはわからないが……。 ……そうだな。  それじゃ、そろそろ行くか?」


リオン「だから、どこにー?」


コウ「……。 俺に着いて来ればわかる」スタスタ


リオン「え、ちょっと待ってよー!」アセアセ


リオン「(もー……。 なんかちょっと強引だなぁ)」


リオン「(……まぁ、悪い気はしないけどね♪)」

【マッサージ店】


コウ「うっす」


店員「いらっしゃ――。 おお、時坂くんか! 待ってたよ!」


コウ「今日は無理言ってスイマセン……」


店員「なーに言ってんの! いつも店閉めの時まで精一杯手伝ってくれる時坂くんの頼みを断るはずがないだろ?」


コウ「はは、ありがとうございます」


リオン「……ちょ、ちょっとコウ君」ツンツン


コウ「ん?」


リオン「だから、『ん?』じゃないっての~!」


リオン「ここってマッサージ店みたいだけど……。 何しに来たの?」


コウ「? マッサージ店はマッサージされるために来るんだろ?」


リオン「えっ!?」カァァ


コウ「な、なんで赤面するんだよ……」


リオン「……っっ! べ、別になんでもないわよっ!」アセアセ


コウ「……? あ、そっちが女性用の入り口みたいだから。 そんじゃ、また後でな」スタスタ


リオン「あ、ちょっと……!」


リオン「もー……」

――1時間後:


リオン「ふぅ~」ツヤツヤ


コウ「お、戻ってきたか」パタン


リオン「うん! 気持ちよすぎた~!」


コウ「それはよかった」


リオン「ここ、マッサージ師さんの腕が凄い良いね!」


リオン「ダンスのレッスンとかで疲れた時とかに、マッサージはたまにしてもらいに行くけど……。 今まで受けたどれよりも良かった気がする♪」


コウ「だろ? この店の技術はここらじゃちょっと有名だからな」


店員「おっ! 時坂くん、持ち上げるのがうまいねぇ! お嬢ちゃんも、そこまで言ってもらえて嬉しいよ! ぜひまた来てね!」


リオン「はい! 今度はメンバーをそろえ――」


コウ「ばっ!」パッ


リオン「んー?!」モゴモゴ


店員「……?」


コウ「あ、こいつ体育会系の部活やってるんで、その部員連れてくるって言いたかったみたいです!」


店員「あぁ、なるほどね! それも大歓迎だよ! でも、大勢で来るときは、ぜひ予約してきてね~」


コウ「はは、だってよ。 それじゃ、俺らはここら辺で! またお願いします!」


リオン「ん~!!」ジタバタ


店員「あぁ、了解。 気を付けてねー!」


店員「……」


店員「……。 ……青春だねぇ」


リオン「……」ブスーッ


コウ「どうした?」


リオン「『どうした?』じゃないわー! 急に口抑えないでよー! びっくりするでしょ!」


コウ「ああいう場で立場がバレるようなこと言うなっての……。 他にも客がいるんだから」


リオン「ほ~? ……なんて言っちゃって、実はスキンシップがとりたいだけだったりして」ニヤニヤ


コウ「……」ジーッ


リオン「そんな睨まないでよ、コーウ君!」ギュッ


コウ「お、おい! 腕を組むなって! さっきから俺の話聞いてるのか?!」アセ


リオン「変装してるからいいじゃーん! こっちの方が体重かけられるから動くの楽なんだもん♪」


コウ「ったく、『だもん♪』じゃねーっての……」


コウ「……」


コウ「(……これ、リョウタに見られたら、殺されるな)」

ランチ:


【フレンチレストラン】


リオン「あー……」スーッ


リオン「んっ!」パクッ


リオン「ん~~っっ」ジタバタ


リオン「おいしい! ほっぺた落ちそう!」モグモグ


コウ「ここの海老料理は絶品だよな」


リオン「うん! エビだけじゃなくて、全部美味しい!」


コウ「それは言えてる」


リオン「よくこんなお店知ってるわね! コウ君って、実はグルメ?」


コウ「はは、そんなんじゃない。 実はここ、俺のアルバイト先なんだ」


リオン「へーっ! そひぇふぁふごいね!」モグモグ


コウ「喋りながら食べるんじゃねーっての……」

昼過ぎ:


【アクロスタワー 物産店内】


リオン「あ、見てみて! コウ君! あのストラップ可愛くない?」


コウ「へー。 モリマルと、魔法少女まじかるアリサのコラボストラップか」


リオン「SPiKAが主題歌歌ったアニメだからっていう贔屓目もあるかもしれないけど……。 結構気に入っちゃった!」


リオン「ちょっと買ってきていい?」


コウ「あ、玖我山、あれ」


リオン「え?」


リオン「……」キョロキョロ


リオン「?」


リオン「なに、コウ君。 何もないけど――」クルッ


コウ「……ほれ」スッ


リオン「うわっ!」ビクッ


リオン「……え?」


リオン「こ、これ? くれるの?」チリン


コウ「今日付き合ってくれてるからな。 ……そんくらい礼はさせてくれ」ポリポリ


リオン「……」


リオン「……」ギュッ


リオン「なーに恰好付けてるのよ、バカ」


コウ「……へ?」


リオン「私ばっかり色々してもらってるばっかりじゃ、面白くなーい!」


コウ「い、いや。 そもそも今日は俺が玖我山を付き合わせてるんだから」


リオン「私は、もらってばっかりは嫌いなの!」


リオン「……そうだ!」


コウ「……?」

夕方:


【観覧車】


コウ「……」チリン


リオン「~♪」チリン


コウ「おいおい、いいのかよ」


リオン「うん! やっぱりシメには観覧車でしょ!」


コウ「いや、そうじゃなくてだな!」


コウ「お揃いのストラップを買って、サイフォンにつけるってことだよ」


リオン「あ、それ? へへっ、いい考えでしょ?」


コウ「これはさすがに、気付く奴は気付くぞ……?」


リオン「いーじゃない! ファンとアイドルが浮いた話だなんて! めったに味わえない名誉だゾ!☆」


コウ「ライブや練習をしているときはファンだが、普段は違うぞ?」


リオン「がくっ。 なにそれ、ひどーい!」


コウ「冗談返しだ」


リオン「ぐっ。 腕を上げたわね、コウ君……」


コウ「……とりあえず、このストラップはもらっておくが」


コウ「今日中に外しておくよ。 万が一誤解されたら不味いだろ?」


リオン「!」


リオン「ま、まずいだなんて――」


コウ「……?」


リオン「――なくは、ない、けどさ……」


リオン「(……)」


リオン「(…………それくらい、いいじゃない)」


コウ「え、何か言ったか?」


リオン「……ううん! コウ君はニブチンのオタンコナスだなーって言ったの!」


コウ「!?」

【帰りのバス 車内】


夜:


リオン「……はぁ~。 ようやく、一息ついたね」


コウ「あぁ。 観覧車に乗ってからはずっと立ちっぱなしだったからな」


コウ「歩きすぎて、今は足が棒みたいに重い」


リオン「えー? コウ君、若いのにそんなんじゃやってけないぞー?」


コウ「うっ……」


リオン「ふっふっふー! 私は普段からレッスンやトレーニングで鍛えてますから! こんくらいへっちゃらよ!」


コウ「(……確かに、ライブの時の動きっぷりはすごいもんな)」


コウ「はいはい。 お見それしました」


リオン「うむ! よろしい!」


コウ「(しっかし、ちょっと長いこと遊び過ぎたな……。 あんまり遅くなっちまうようじゃ、本末転倒なんだが……)」


コウ「(……ただ、楽しんでくれたみたいだし、それは良かったかな)」ポスッ


コウ「……?」チラッ


リオン「……すーっ、……すーっ」zzz...


コウ「……」


コウ「……ぷっ」


コウ「(……どっちが『若い』んだか)」


夜:

【赤レンガ街道 リオン自宅前】


リオン「空、綺麗だねー。 満天の星空!」


コウ「そうだな」


リオン「今日は丸一日快晴で、夜もこんな綺麗で! 絶好のお出かけ日和だったんだね!」


コウ「たしかに、最近雨も多かったからな。 タイミングは良かったのかもしれない」


リオン「……」


リオン「……コウ君」


コウ「?」


リオン「今日はありがとね」


コウ「……何のことだ?」


リオン「ふふっ、いくら私でも気付くよ」


リオン「今日は別に、取り立てて用事があったわけじゃないんでしょ?」


コウ「……」


リオン「私が疲れてるって言ったから、気分転換させてくれようとしたんだよね」


リオン「……ほんっとに、良い1日が送れたよ! ありがとう!」


コウ「……やれやれ、お見通しか」


リオン「マッサージとか、フランス料理とか、ある意味露骨だと思うけど!」アセ


コウ「そ、そうなのか?」


リオン「……もー。 どこまで計算づくで、どこまで天然なのか分からないなぁ」


コウ「はは、すまない」


コウ「だが、X.R.Cの皆も心配してたんだぞ。 最近玖我山の疲れが溜まっちゃってるんじゃないかって」


リオン「! 皆が?」


コウ「あぁ。 部活の奴らだけじゃなくて、シオリたちもな」


コウ「……実は、さっきのマッサージやランチの店も、シオリにオススメを聞いたやつだったんだ」ポリポリ


コウ「情けない話だが、女子の好きな店とか、あまりよくわかってないからな。 助けてもらったんだ」


リオン「……」


リオン「……そっか」


リオン「…………コウ君、皆が言ったから、私と一緒に来てくれたんだ」


コウ「……え?」


リオン「……あのね? 最後に苦言を言うようで、申し訳ないんだけどさ」


リオン「あまり、こういうこと。 いろんな女の子にしちゃダメだよ?」


コウ「……!」


リオン「そうやって、優しいとね。 勘違いしちゃう子も、絶対いると思うの」


リオン「優しいことはコウ君にとって、いいことだよ。 それが、コウ君のいいところでもあると思う」


リオン「……けど。 それが『周囲の子にとって』必ずしもいいことであるとは限らないから」


コウ「……そ、それって、どういう……?」


リオン「……」


リオン「……ううん、なんでもない! ごめんね! 変なこと言って!」


リオン「今日は1日、ありがとね! お礼に3枚までだったらサイン書いてあげるから、欲しくなったらいつでも言ってね!」


コウ「……何だそのよくわからない礼は」


リオン「それじゃ、またね!」


コウ「……おう、また」


コウ「……」



【リオン宅 ベッド】



リオン「……」


リオン「……」ツンツン


ちりんちりんっ


リオン「……」ポテッ


――コウ「今日中に外しておくよ。 万が一誤解されたら不味いだろ?」


コウ「……実は、さっきのマッサージやランチの店も、シオリにオススメを聞いたやつだったんだ」


リオン「……」


リオン「……バカ、コウ君」






 
 
 
 
ーー玖我山 璃音編 1  終


 
 
 
 

>>38
はい。ありますよ!
くっつくまではかきます!


>>40
感動過ぎて震えました。ありがとうございます。
できる限り早く最後まであの物語を最後まで書ききれるよう、尽力します。


今日はここまでです。
読んでくださり本当にありがとうございます。
起伏ない話の連続ですが、暇なときにぜひ見て行ってください。


――PM 18:30

【赤レンガ街道 ブティック≪ノマド≫】


カランカラン…


コウ「ありがとうございましたー」


コウ「……」キョロキョロ


ガチャ


カオル「あら?」


カオル「今ので最後のお客様かしら?」


コウ「そうみたいっすね」


カオル「そう! それじゃ、今日はこの辺で店閉まいとしましょうか!」


コウ「了解っす」


カオル「いやーごめんね? 棚卸作業で時間がかかって、表を任せきっりにしちゃって」


コウ「問題ないですよ。 もう何回もやってることですし」

カオル「まあ! たくましいこと言ってくれるわね!」


カオル「んふ、今日はいつもよりも売り上げ良かったし。 ……お給料にちょっとだけ色を付けておくわね!」


コウ「え、いいんスか?」


カオル「時坂くんにはいつもお世話になってるからね♥ 気持ちよ、気持ち!」


カオル「学生は何かと入用でしょうし、ぜひ交遊費にでもしてちょうだい」


コウ「……」


コウ「うっす。 ありがたくいただきます」ニコッ

 
 
コウ「それじゃ、お疲れ様です。 お先っす」ガチャ



カオル「はーい! 気をつけて帰るのよ!」フリフリ


バタンッ


コウ「……」


コウ「(……別にそこまで使い道なんてないんだけどな)」


コウ「(でもまあ、好意だし。 受け取っておくか)」


コウ「……ん? あれは」


「…………」


コウ「うっす」


アスカ「あら、時坂くん」


コウ「こんな時間に柊と会うなんて、珍しいな」


アスカ「ふふ、そうね。 今バイト終わり?」


コウ「あぁ。 お前は?」


アスカ「うーん、ちょっと気晴らしに散歩にでも出かけようかと思って」


コウ「気晴らしって……。 なんかあったのか?」


アスカ「ううん。 とりたてて何かがあったわけじゃないんだけど」


アスカ「……ほら、あるじゃない? 何となくセンチメンタルになっちゃうとき」


コウ「……ぷっ」


アスカ「……むっ、何でそこで笑うの?」


コウ「わ、わりぃ。 しかし、柊から『センチメンタル』なんて言葉を聞くとは思わなかったからさ」


アスカ「心外ね」プイッ


コウ「悪気はないんだって」アセ


アスカ「……くすっ。 分かってるわよ」




コウ「しかし、こんな時間から散歩ってのは感心しねえな」


アスカ「……こんな時間にバイトしてる貴方からは一番聞きたくない注意なのだけれど」


コウ「ぐっ」


アスカ「大丈夫よ。 そんなに遅くまで一人で歩き回るようなことはしないから」


コウ「……つってもなあ」


コウ「!」


コウ「柊、よかったら、俺もついてっていいか?」


アスカ「え?」


コウ「こうして会ったのも何かの縁だしな。 よかったら軽食くらい奢るよ」

アスカ「……」


アスカ「……それ、時坂くんなりのデートのお誘い?」


コウ「ばっ! そ、そんなんじゃねえっての! 俺はただ――」


アスカ「ふふっ。 仕返しはこれくらいにしておきましょうか」


コウ「(……かなわねえなぁ)」


アスカ「私は構わないけれど……。 今バイト終わりでしょ? 疲れているんじゃない?」


コウ「んなことねえよ。 なんなら、異界に行った後よりもずっと元気だ」


アスカ「……くすっ。 それじゃあ。 疲れを知らない騎士様に、少しだけお伴をお願いしちゃおうかしら」


コウ「!」


コウ「……おう!」

 
 
 
  
 
 

――柊 明日香編 1

 
 
 
 
 
 






【杜宮記念公園】


アスカ「……」


アスカ「いい風ね」


コウ「あぁ。 秋独特の香りがする」


アスカ「……前までなら考えられないわね、こんな気分」


コウ「?」


アスカ「……最近は異界化の反応も少ないから、こんなゆっくりできるのよね」


コウ「そうだな。 あの日、『第二の災厄』を防いでからは、めっきり減ったしな」


アスカ「こんな幸せでいいのか、ってくらい平穏な日々が送れてて」


アスカ「今までのは夢だったのかなって本気で思えてきちゃうのが怖いわ」


コウ「……!」


コウ「(……)」


コウ「……なぁ、あそこでちょっと休憩しないか?」


アスカ「えぇ。 そうしましょうか」

【ベンチ】



アスカ「……」


コウ「すまない、待たせた」


アスカ「ううん、大丈夫よ」


コウ「この時間はやっぱり夕飯時で混んでるみたいだ。 店内にしたら1時間は待つみたいだったし」


アスカ「水面に綺麗な夜景が映るベストスポットだもの。 それは大盛況でしょうね」


コウ「確かに。 あ、そうそう。 これ」スッ


アスカ「……えっと、本当にいいの?」


コウ「さっき言ったろ? 奢るって。 俺の顔を立たせるためにも、頼む」


アスカ「……」


アスカ「……それじゃあ、お言葉に甘えて。 ……ありがとう」スッ


コウ「あぁ」ニコッ

アスカ「あ、美味しい。 サクサクしてて、噛んでて気持ちいい」


コウ「だろ? あそこのサンドウィッチは絶品なんだ。 バイト上がりにたまに寄って帰るんだ」


アスカ「それはちょっと羨ましいかもしれないわね」


コウ「自分へのご褒美ってやつだな」サクッ


コウ「うん、やっぱりうまい」モグッ


アスカ「……あ、そういえば、飲み物はあるかしら」


コウ「あぁ。 セットで注文したからあると思う。 そこの小さい袋開けてみてくれ」


アスカ「オーケー。 ……あら?」ガサッ


コウ「どうした?」


アスカ「……飲み物、1つしか入ってない」


コウ「え? セットを2つ頼んだはずなんだが……。 どれどれ」


コウ「……本当だ」


アスカ「入れ忘れてしまったみたいね」


コウ「あー……。 それじゃちょっと取ってくるから、ちょっと待っててくれ」


アスカ「でも、今から行くとまた時間がかかるんじゃない?」


コウ「……確かに」


コウ「……はぁ。 しょうがねえ。 不運だったってことで、それは柊が飲んでくれ」


コウ「俺が確認しなかったのも悪いからな」


アスカ「……? 一緒に飲めばいいじゃない」


コウ「……一緒にって、それは」


アスカ「私は別に、気にしないけど。 貴方が良ければ」


コウ「……。 ……それじゃあ、お言葉に甘えて」


アスカ「……ふふ、お互い様ってことで」

アスカ「……美味しかった。 時坂くん、ごちそうさま」


コウ「俺が作ったわけじゃないけどな。 気に入ってくれたみたいで良かったぜ」


アスカ「今度、私も自分で買いに行ってみる。 本当においしかったから」


コウ「はは、ぜひそうしてみてくれ」


アスカ「……んーっ」ノビ


アスカ「……はぁ、お腹いっぱい」


コウ「……」


コウ「……なぁ、柊」


アスカ「ん?」

コウ「……あのさ、さっきの話なんだけど」


アスカ「さっきの……?」


コウ「お前が平穏な日々を過ごしてると、今までのは夢だったと思えてくるっ……てやつ」


――アスカ『今までのは夢だったのかなって本気で思えてきちゃうのが怖いわ』


アスカ「……」


アスカ「……えぇ、その話ね」

コウ「あのさ」


コウ「お前の決意とかを差し置いて、言っちゃうんだが」


コウ「――『夢だったこと』にしちゃ、ダメなのか?」


アスカ「!」


コウ「……いや、あのさ。 ネメシスって、これからも再配属とかあるんだろ」


コウ「そうなると、杜宮からも離れることになる」


コウ「俺や、シオリ。 それに、X.R.Cの皆とも」


アスカ「……」


コウ「10年前の『災厄』との因縁を断ち切れた今、お前がこれ以上危険な場所に赴く必要はないんじゃないか?」


コウ「お前が良ければ、本腰入れて『一般人』になるための手伝いはする」


コウ「きっと皆だってそれを応援してくれる。 だから――」




アスカ「――ごめんね、それはできない」


コウ「!」


アスカ「……貴方が私のことを慮ってくれているのは、凄く伝わってる」


アスカ「『私は一人じゃない』って思えて、凄く心強い」


コウ「……なら」


アスカ「……でも。 今、こうしている間に。 世界のどこかで」


アスカ「10年前の私と同じ目に合っている子がどこかにいるかもしれない」


コウ「!」


アスカ「……いいえ、私よりも、もっと酷い惨状に身を置いている子だって、きっといる」


アスカ「私は、私があの時感じた気持ちを、誰にも味わってほしくないの」


アスカ「私自身の因縁に決着は付けれても、その気持ちは変わらない」


アスカ「……だから、私は」

コウ「――わかった」


アスカ「……ぇ」


コウ「……その、悪かった。 お前がそういう気持ちでやってるってのは、なんとなくわかっているつもりだったんだが」


コウ「変な老婆心で、言っちまった。 申し訳ない」


アスカ「……ううん。 気にしないで。 さっきも言ったけど、私のことを心配してくれてるだけでも、凄くありがたいから」


コウ「けどさ」


アスカ「……?」


コウ「……それでも、ちゃんと俺を頼ってくれよ」


アスカ「……時坂くん」


コウ「俺も俺なりの信条をもって、これまでやってきた」


コウ「お前ほど強い決意ではなくても『日常を守る』ってポリシーを、貫いてきたんだ」


コウ「柊。 その日常には、お前がいるんだ。 お前が万が一にでも欠けたら、それは非日常どころか……」


コウ「だから、……お前がどこで何をしていても。 困ったことがあったら、絶対に俺を頼ってくれよ」


コウ「俺との約束だ」

アスカ「……」


アスカ「……本当に騎士様みたいね」クスッ


コウ「……我ながら、臭いセリフを言ったと自負している」カァァ


アスカ「……ううん」


アスカ「とっても素敵だったわ」


コウ「……本気だからな」


アスカ「……えぇ。 約束する」


アスカ「……私はいつまでここに入れるかわからないけれど」


アスカ「これからも、よろしくね。 時坂くん」


コウ「……あぁ」

――PM21:30


【赤レンガ街道】


コウ「結構遅くなっちまったな」


アスカ「そうね」ブルッ


アスカ「ちょっと肌寒くなってきたみたい」


コウ「確かにそうだな……。 ……それじゃあ」


コウ「よっと」スッ


ファサッ


アスカ「え?」


コウ「俺のジャケットだ。 無いよりマシだろ?」


アスカ「そ、それじゃあ時坂くんが」


コウ「俺は大丈夫だよ。 トレーニングも兼ねて、走って帰るから。 最近じいちゃんがまたうるさくなってきたからな……」


アスカ「……ふふっ。 そういうことならご厚意に甘えさせてもらうわ」


アスカ「今日はありがとう、時坂くん。 張り切りすぎて、風邪を引かないようにね?」


コウ「おう。 お前もまっすぐ帰れよ?」


アスカ「もちろん。 自己管理も仕事の内です」


コウ「ははっ、なるほどな。 それじゃ、また」


アスカ「えぇ。 ……また」


アスカ「……」


アスカ「(……本当に、ありがとう)」ギュ


 
 
 
 
――柊 明日香編 1 終

 
 
 
 


ということで今日の分は終わります。
アスカさんはきっと大人ぶってるけど迫られたら弱いんだろうなあとか思ってたりします。

よろしくお願いいたします。

大天使でありコウの本命であるシオリちゃんはまだですか

更新停滞していてすいません…。
深夜までお仕事(笑)が続いてて中々続きが書けず…。
今週末には投降しますのでお待ちください。

>>96
いーや…。コウ君の本命は…ソラちゃんですから^^

まだだ。。。まだ終わらんよ・・・!

書き溜めしたのに投稿する時間がない!!
お待たせしてゴメンナサイ。

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