時雨の旅――the Peaceful World―― (46)

プロローグ「ケッコンカッコカリの鎮守府・b」
―Marriage is the Tomb of Life・b―



瑞鶴「お願いだから!ケッコンカッコカリを取り消してよ!!」


黒髪ツインテの艦娘が、目に大粒の涙を浮かべながら、白い軍服に身を包んだ男と銀髪が美しい長身の艦娘に向けて叫びました。

銀髪の艦娘の左薬指ではケッコン指輪が日の光を受けて眩しく輝いています。


提督「それは軍規違反だ」


白い軍服の男が平然と言い放ちます。



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提督「燃費・弾薬の消費量軽減、最大レベルの解放は我が鎮守府の悲願だ」

提督「翔鶴にとっても艦娘冥利に尽きるというものだろう」


一瞬言葉に詰まった黒髪ツインテですが、顔を真っ赤にして反論します。


瑞鶴「翔鶴姉は提督さんのことを本気で愛してるんだよ?!」

瑞鶴「それなのにケッコンカッコカリですって?!」

瑞鶴「冗談じゃないわ!!」

翔鶴「もういいのよ、瑞鶴」


今にも白い軍服の男に掴みかからんばかりの黒髪ツインテに、銀髪の艦娘が優しく話しかけます。

翔鶴「提督、ケッコンカッコカリ・・・私もとても嬉しく思います」

翔鶴「今は亡き一航戦、二航戦の先輩方に、少しでも近づけるように頑張ります!」


もはや何も言えなくなった黒髪ツインテには目もくれず、白い軍服の男が銀髪の艦娘に作戦開始の合図を告げました。


翔鶴「五航戦、翔鶴、出撃します!」

「紳士の鎮守府」
―Yes Lolita No Touch―



突風の吹きつける広い海原を、一隻の駆逐艦(注・白露型4番艦。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。

駆逐艦は白色の帆に、黒く塗られた12.7cm連装砲を持つ。

やや薄みがかった金色のくせっ毛は、頭の左右に2本出ている。

駆逐艦の操舵主はおさげの艦娘だった。

その容姿は十代前半の少年のようにも見える。

頭には航空戦艦の飛行甲板についている飾りの髪留め。

それが獣耳のようなくせっ毛の下で輝いていた。

時雨「この先の鎮守府はね、夕立」

時雨「師匠が訪れた中でもかなり紳士的な場所の一つなんだよ」


夕立と呼ばれた駆逐艦が、風音に負けないよう声をあげる。


夕立「それじゃあ装備はいらないっぽい?」

時雨「うん。とても平和で提督も人間の鑑と呼ばれてるらしいよ」

夕立「時雨、あの人が鎮守府の門番っぽい!」

時雨「門番もさぞかし紳士的な人なんだろうね」
 
曙「何?ようこそ、クソ鎮守府へ」

夕立「っぽい?」


時雨「師匠の話とはだいぶ違うようだね」

夕立「きっと『紳士』の意味がここでは違うっぽい」

時雨「そんなことはないと思うよ」
 
雷「あ!旅人さんだわ!」

響「旅人さんがくるなんて珍しいね」ジーッ

電「あの・・・よかったら旅のお話聞かせて欲しいのです」

暁「レ、レディは旅人が来た位では騒がないんだからねっ」ソワソワ


時雨「こんにちは。僕は時雨」

時雨「こっちは相棒の夕立」

夕立「よろしくっぽい~」

雷「へえー、色んな鎮守府に滞在して周ってるのね」

暁「なんだかカッコイイわ!」キラキラ

響「それで、この鎮守府は旅人さんから見てどうかな」

夕立「うぅ~んっ、かわいい艦娘がいっぱいっぽ~い!」

時雨「確かに、さっきからおっぱい(注・胸部装甲値C以上。空を飛ばないものだけを指す)見かけないね」

響「簡単な話さ。ここの司令官は」

電「ろりこんさんなのです」ペターン

時雨「はい?」ペターン

夕立「っぽい?」ポイーン

キノ新刊記念SS
地の文ありあり
明日からゆっくり更新していきます

あくる日のこと。

提督直々の挨拶に招かれた時雨と夕立は、鎮守府最上階にある執務室にいた。

広さこそ執務室そのものだが、一目で特注と分かる家具や銘酒が所狭しと並べられている。

それだけに、子供が書き殴ったかのような『!すでのな』の鮮やかな五文字は明らかに異彩を放っていた。

提督は、そんな掛け軸を誇らしげに見つめながら、


提督「ようこそ我が鎮守府へ」


威風堂々といった調子で時雨と夕立に声をかける。


時雨「ボクは白露型駆逐艦、時雨です。こちらは相棒で名前は夕立」


時雨は丁寧に返し、


夕立「よろしくね!提督さん!」

時雨「・・・・・・」


ぽかっ


夕立「ぽいっ!?」


夕立は時雨に叩かれた。

提督は若い2人の旅人の話をいたく気に入り、何度も質問を重ねた。

そしてお昼には海域で獲りまくっているという海の幸まで振舞ってくれた。

時雨「ここの秋刀魚はとてもおいしいね」

提督「うむ。できることなら旅人さん達に分けてあげたいが――」

夕立「長波は足柄速吸!!」

提督「は?」

時雨「えーっと・・・生ものは足が早い?」

夕立「そうそれ!・・・っぽ~い」

時雨「・・・・・・」

夕立「・・・提督さん!あの掛け軸、かわいいっぽい~」

提督「・・・!」

提督「そうだろうそうだろう――」


大きく縦に頭を振った提督は、これは娘同然に育ててきた駆逐艦達からの贈り物なのだと言うと、そこまでの経緯を満足そうに語り始める。

軍で下働きをする水兵だったこと。

大型建造のたびに解体されていく駆逐艦をかわいそうに思ったこと。

ある駆逐艦を連れて脱走したこと。

旅の途中、廃棄され無人の鎮守府に辿り着いたこと。

海上で迷った駆逐艦をここで保護し続けていること。

九九・漢数字・跳び箱など高度な軍事教練を課していること。

みんなで一丸となり、今日までの発展を遂げたこと。

それらの感謝の気持ちを込めて掛け軸が贈られたこと。

時雨「なるほど・・・、貴重なお話ありがとうございます」


時雨が納得し


夕立「まさに『紳士』っぽい!」


夕立が続ける。


提督「ただ――」


提督は声をひそめながら、夕立を見つめる。

提督「実は私は大艦巨乳主義でね」

時雨「はいい?」

夕立「ぽい?」

提督「娘同然に育てた駆逐艦に手を出すなんて言語道断!」

提督「夜戦に飢えた日々だったが――、今夜は久々に満足できそうだ」

提督「さあ!君の鉄底海胸で私の単装砲を――」ボロン

時雨と夕立が鎮守府を去った後も、提督はまだ床で寝ていました。

執務室では自慢の掛け軸が燃やされ、代わりに新しい特注家具が一つ増えました。

時折ぴくぴくと動く提督を見下すかのように――、

壁には、狂犬が暴れたような禍々しい血文字で、こう書かれていました。


「夢悪のンモロソ」

シグPチックな地の文が難しかった
ので、今度エピローグ書いて終わろうかな

エピローグ「ケッコンカッコカリの鎮守府・a」
―Marriage is the Tomb of Life・a―



不知火「3日間の滞在ですね」

白手袋に青の髪留めという姿の門番が毅然とした口調で言う。

不知火「時雨さんは現在――」

りーんごーんりーんごーん

全ての艦娘のあこがれであり、幸せを象徴する音が鳴り響くことが意味するそれは――

不知火「あら。ケッコンカッコカリ式の日でしたか」

門番がぽつりとつぶやく。

時雨「ケッコン・・・カッコカリ?」

時雨が首をかしげ

夕立「夕立、うらやましいっぽ~い!」

夕立が楽しそうに言いますが、

不知火「は?」

門番に戦艦のような眼光を向けられてしまいました。

時雨「その・・・、ケッコンカッコカリってなんなのさ?」

時雨が門番に尋ねた。

そんなこともしらぬいのですか――、とでも言いたげな表情を浮かべて門番が答えます。

不知火「特殊兵装ですね」

夕立「っぽい?」

夕立が不思議そうに首をかしげました。

不知火「指輪を装備することで、艦娘の力を限界まで引き出せます――、」

不知火「――が、当然貰った艦娘は昼夜問わず激戦の海域へ出撃させられます」

不知火「私の知る限り、生き残っている艦娘はいませんね」

時雨「・・・・・・」

時雨が絶句し

時雨「君も・・・装備しているのかい?」

おそるおそる聞き返します。

不知火「いえ!」

門番はなぜか目線を逸らしつつながら答えますが

不知火「貰いたいのはやまやまですが仕事に追われレベルが――」

夕立「じゃあ門番から、第一艦隊に転職するっぽい!」

うっ!とうめいた後、急用を思い出したのか、

不知火「それではよい滞在を」

ひきつった笑顔で去って行きました。

鎮守府に入った時雨と夕立を出迎えたのは、

時雨「夕立!あれ!」

大きな白い教会。そして、

夕立「新郎新婦さんっぽい~」

寄り添って歩く提督と艦娘の姿でした。

夕立「時雨~。あの二人は幸せっぽい?」

時雨「さあ――」

時雨「そうかもしれないしそうでないかもしれないね」


このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月17日 (土) 20:03:46   ID: gWXxTD-6

キノの旅懐かしい

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