咲「寄りかかる」恭子「寄り添ってる、やろ?」 (67)


咲「末原さん」恭子「恭子!」の続きです
咲「末原さん」 恭子「恭子!」 - SSまとめ速報
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きっかけは私の何気ない一言だったと思う
いつも来てもらってるから「大阪に遊びに行ってみようかな」だったはず

末原さんにはすこぶる心配された
辿り着けるのか、と。心外だ

道やルートは事前に調べれば大丈夫だ
構内は……まあ……あれだけど


そんなわけで、末原さんの地元に遊びに来ている
久々に一緒に過ごせる、と思ってたんだけど……

恭子「おーい、咲」

咲「あ、末原さん……と」

洋榎「おっす。宮永」

咲「こ、こんにちは」

洋榎「久しぶりやな~うちのこと覚えとるか?」

咲「あ、はい。愛宕さん……」

洋榎「せやせや。愛宕洋榎や」


咲「えと……」

末原さんの顔を覗う

恭子「咲がこっちに遊びに来るから案内する言うたらついてきよってん」

洋榎「恭子だけじゃ頼りないやろ」

咲「はは、そうかもしれませんね」

洋榎「なー」

恭子「なんでや!そんなことない言うとるやん」


洋榎「じゃあ恭子、今日のプランはどうなんや」

恭子「ん……」

洋榎「そこで考え込む時点であかんやろ……」

咲「末原さん……」

恭子「ちょっ!ちゃうねん。プランなんてなくても何とかなるし」

洋榎「ならんわ」


恭子「そんなことないって。ほらうちアドリブきくタイプやし」

洋榎「いや、あんたは事前にぎょうさんカード用意して状況に応じて切っていくタイプやろ」

恭子「う……」

洋榎「そのカード用意せんと丸腰でどうするんや」

確かにそうかも
大抵のことには柔軟に対応するけど
完全に考えの埒外の出来事には動揺しちゃう感じとか


洋榎「でも以外やな~いつの間に仲良くなってん?」

恭子「まぁ色々や」

洋榎「なんや色々って」

恭子「まぁええやろ」

洋榎「何や怪しいなぁ」

恭子「別に普通やって」

洋榎「ふーん」

今日は空が高いなぁ。爽秋ってやつだね


洋榎「……宮永?」

咲「へ!?なんですか?」

洋榎「……宮永はぽやーっとして愛らしいなぁ」

恭子「な!?何言うとるんですか!主将」

洋榎「主将はやめ、部活中やないんやから。あと敬語も」

恭子「ええやん別に」


洋榎「なんか気持ち悪いんや。だいたい主将は百歩譲るにしてもなんで敬語やねん」

恭子「主将やからやろ」

洋榎「その主将がええ言うとるんやからええやろ!」

恭子「うっさいなぁ、もう」

洋榎「……ほう。今日はいつになく反抗的やなー」

恭子「いやいやそんなことないで。すまんすまん」

あ、飛行機雲……雨が降らなきゃいいけど……


洋榎「……まぁええわ。すまんな宮永」

咲「あ、いえ……あの、愛宕さん」

洋榎「洋榎でええよ。絹、妹な、がおるから名前の方が都合いいし、呼ばれ慣れとるし」

咲「はい。じゃあ洋榎さんで」

恭子「ちょっ!?うちだってまだ」

洋榎「なんや?」


恭子「いや、なんでも……ってか何でついてきたんや」

洋榎「そら大阪の魅力が伝わるようにやな……」

恭子「面白がってるだけやろ」

洋榎「まぁな、おもろそうやん」

恭子「まあええけど」

いいんだ……まぁいいけど

洋榎「宮永もええか?」

咲「もちろんです」


どうでもいいけど末原さんもうちって言うんだね
地元だから?洋榎さんだからかな?

洋榎「宮永はどんなとこ行きたい?」

咲「うーん。そうですね……」

洋榎「まぁこんなざっくり言われても分からんか。観光地も良いけどあんまり人多いとこもなぁ」

咲「ちょっと苦手かもです」

洋榎「せやろ。ん~」


恭子「あれ?何でうちが置いてけぼりくらっとるんや」

咲「洋榎さんにお任せします」

洋榎「そか。じゃあテキトーに」

恭子「おーい……咲?」

咲「お願いします」

洋榎「ん」

恭子「あれ~?」


それからどうした


恭子「咲それ買うん?」

咲「ん~……」

恭子「わ、私も買おうかな~」

咲「やっぱりいいかな……」

洋榎「宮永~?こっちもあるで~」

咲「は~い。行きましょう。末原さん」

恭子「あ……」


それからそれから


恭子「もう昼か。何か食べたいもんある?」

咲「そうですね……」

洋榎「名物っぽいもんで無難なんは、お好み焼きとかたこ焼きとか串カツとか」

咲「どれも美味しそうですね」

洋榎「よし、全部いったろ」


咲「ええ!?そんなに食べられないですよ」

洋榎「まぁいけるやろ。うちらもおるし。なぁ?」

恭子「量を間違えんかったら大丈夫やろ」

咲「……そうですかね」

洋榎「いけるいける」

咲「じゃあ、お願いします」

洋榎「おう」

恭子「……」


・・・・・・・・・・・・・・・

洋榎「もうこんな時間か。名残惜しいけどうち帰らなあかんわ」

咲「そうですか……今日は付き合っていただいてありがとうございました」

洋榎「ええんやええんや。うちと宮永の仲やろ」

咲「ふふっ……はい」


洋榎「ほな、また遊ぼな」

咲「はい。また」

洋榎「恭子もな」

恭子「おー」

洋榎「頑張りや」

恭子「……何を!?」


洋榎「あ、宮永、ちょっと」

咲「はい?」

恭子「なに?」

洋榎「うちと宮永のナイショ話や。あっちいっとれ」

恭子「なんやねん……」


洋榎「今日はすまんかったな」

咲「?」

洋榎「朝の時点で帰ってもよかったんやけど、逆に気を遣わせそうでな。もういったれ!ってなもんで」

咲「いやいやそんな事は……」

洋榎「あいつもハッキリ言えばええんやけどな」

咲「多分気付いてないだけだと思いますよ」

洋榎「マジか」


洋榎「言いたいことは早めに言ったほうがええで」

洋榎「うちにもやけど、特に恭子には」

咲「そうですかね……」

洋榎「あいつ頭は良いけどアホやから」

咲「そんなことないでしょう」

洋榎さんの笑顔につられて笑ってしまう


洋榎「……まぁ距離が近い方が言い難いこともあるか」

本心を出す。それで嫌われてしまったら?
怖い。好きな人に自分を否定されることが

咲「分かってはいるんですけど、なかなか」

悟られるのが怖くて軽口をたたく。それで嫌われたら世話ないよね

洋榎「大丈夫やなんて無責任に言えんけど、恭子なら平気やって」

洋榎「それでもなんかあったら相談乗るから。な」

咲「ありがとうございます」


洋榎さんは嵐のように現れ、去って行った

恭子「洋榎となに話しとったん?」

咲「世間話ですよ」

恭子「……ふーん」

納得してないな、これ

咲「……愉快な人ですね」

恭子「騒がしいだけや」


咲「またまた、心にもないこと言っちゃって」

恭子「……いや、二割くらいは本心やな」

咲「はは、洋榎さんが聞いたら怒りますよ」

……なんだか突然静かになってしまった。二人で連れ立って散策する


恭子「……なぁどうしたん?」

咲「何がですか」

恭子「いや……なんか今日変やから」

咲「そんなことないですよ」

恭子「でも……」

咲「ちょっと疲れただけです」

恭子「……ずっと歩き回ってたし、茶店にでも寄ろか」


落ち着いた雰囲気の瀟洒なお店だった
お客くさんも多くはなかったので少し奥まった席に座る

注文してから届くまで何となく無言……なんなんだろうね。この時間は

恭子「……やっぱ怒っとる?うち何かした?」

咲「何でもないです」

恭子「何でもないことないやろ」

咲「そんなことないですって!」


末原さんが困ったような顔でこちらを覗う

恭子「私が悪いんやったら謝るから、な」

咲「何が悪いのかも判らずに謝らないで下さい。貴女のそういうところが……!」

――いけない

咲「すみません。ちょっと……」

恭子「いや……」


恭子「すまん。私はあんまり察しが良くないから言ってくれな分からん」

咲「ちょっと機嫌が悪かったんです。忘れてください」

恭子「そういう訳にはいかんやろ」

末原さんの真っ直ぐな眼が私を見据える

私は目を、そして話を逸らしたくなって手元の紅茶に砂糖を入れかき混ぜる

恭子「咲」

末原さんは逃がしてくれそうにない

恭子「これは有耶無耶にしちゃあかんやろ」


少し深く息を吐き、覚悟を決める

咲「末原さんは悪くないんです」

私が駄々をこねているだけだ

咲「……でも、今日は久々に会えたのに」

なんの説明にもなっていない、情報量の乏しい言葉だった

恭子「……そうか」

それでも末原さんは理解してくれたようだった


ただ大阪に来たかった訳じゃない
末原さんの育った街に、末原さんに会いに、来たかったのだ

最初にそう伝えていればこうはならなかっただろう

つまり私が悪いのだ


今日は楽しかった
けど私の心積もりとは少しばかり違った形だった
それだけのことだ

それなのに末原さんに八つ当たりをしている
なんて子供なんだろう


洋榎さんが嫌だった訳じゃない

私は気に入った場所をいくつかぐるぐる廻るだけの人間だから
ちょっと強引にでも引っ張って、世界を広げてくれる人は有難い

結局私は末原さんに甘えているのだ

末原さんが受け止めてくれるから増長して
普段人に言えないような言葉を投げつけて傷つけて……

……というようなことをまとまらない頭で言った気がする

私の取り留めのない言葉を末原さんは黙って聞いてくれていた

どんな表情だったのかは分からない
私は俯いて目を伏せてしまっていたから

沈黙が落ちる


どれくらい経っただろう。長かった気もするし一瞬だった気もする

――リンっ――

不意に硝子が鳴る
空気が震え、私も顔を上げる

それは末原さんがコーヒーカップの縁を指で弾いた音らしかった
末原さんはというと……微笑んでいた


恭子「考えすぎや。傷ついてないし」

咲「でもへこんでるでしょ」

恭子「そんなもんすぐなおるわ。私は形状記憶やからな」

咲「……初耳です。末原さんには超弾性があったんですね」

なんて、いつもの与太話


恭子「……咲がそこまで言ってくれたから言うけどな」

恭子「私はそんな出来た人間やないで」

恭子「人がいいってのも人の顔色を窺ってるだけ」

恭子「独占欲も強いし嫉妬もするけど咲に嫌われたくなくて余裕のある振りして冗談にしてるだけや」

咲「そんなこと」


恭子「それにな、結構うれしいもんやで」

遮られてしまった

恭子「普段大人しいって言われてる咲が」

恭子「私の前では素……とはちゃうやろけど、他人には見せへん一面を見せてくれるのは」

恭子「ちょっとした優越感やな」

恭子「甘えるのの何があかんの。私は年上やで。甘えられる時はなんぼでも甘えたったらええ」


何故か泣きそうになってしまった。が、何とか堪える
こんなところで末原さんに涙など見られたくない

この期に及んで私は私を取り繕う。大したものでもないくせに

恭子「私も咲に甘えとるしな」

いや、これはまだ私に残っていたちっぽけな矜持だ
感傷的になってはいけない

ここで涙を流すなんて身勝手だ
こんな自分勝手なことはないだろう


咲「ありがとうございます」

優しく包み込んでくれる、貴女のそういうところが……

恭子「ん?」

喉が……声にならなかったみたいだ

少し温くなった紅茶を口に含む……甘っ!


恭子「でもちょっと安心したわ」

咲「え?」

恭子「咲は自分の感情とか想いとかあんまり外にださんやろ?」

恭子「口にだしとっても本心なんかどうか分からんし」

咲「私が嘘吐きみたいに言わないで下さいよ」


恭子「そうやなくて、なんて言うか……」

咲「これでも私にしては口に出してる方ですし」

恭子「そうなんか」

咲「言わなきゃ伝わらないですけど言葉を尽くしても伝わらないことも多い。疲れちゃうんですよね」

恭子「難しいもんやな。理解はできても納得はできんこともあるしな」

咲「その点末原さんは楽です。勝手に深読みして良い方に解釈してくれるから」

恭子「おい。そこは楽せんでくれよ。ちゃんと伝えてくれ」


恭子「あ、行動で示してくれてもええんやで。いつでも」

咲「ヤですよ。恥ずかしい」

恭子「ん?恥ずかしいコトする気やったん?」

咲「なっ!?」

恭子「なぁ、恥ずかしいコトって何なん?」

うぅ不覚……

恭子「そうか!今までのは全部照れ隠しやったんやな!」

まさに都合の良い解釈……

恭子「そんな冷たい目せんでも……」


何気なく周囲を覗う。相変わらず人は少ない

咲「……そういえば末原さん、今日は髪下ろしてるんですね」

恭子「え?ああ、涼しくなってきたし、たまにはな」

咲「長いとなにかと大変なんじゃないですか」

柔らかい髪に手を伸ばして触れてみる

恭子「……まあ、な」

その綺麗な藤紫にそっと唇を落とす

恭子「!?」

そういえば藤の花言葉って……


恭子「ちょっ、な……」

咲「どうしたんですか?」

恭子「それはこっちのセリフや!いきなり何!?」

咲「何って……行動で示せと言ったのは末原さんじゃないですか」

私にはこれが限界だ
大分、かなり、凄く、非常に恥ずかしい
顔に出てはいないだろうか。慣れないことはするものじゃないな


恭子「言ったけども」

と思ったが末原さんの方が狼狽えていた
ああ、自分より酷い状態の人を見ると冷静になるものだと実感できた気がする

恭子「あ~」

よく分からない声をあげテーブルに突っ伏してしまった

咲「こらこら行儀が悪いですよ」

恭子「……」

髪へのそれは思慕の証だったっけ
誰が言い出したんだか分からない怪しい代物だけど


末原さんはおもむろに起き上がると
仕切り直しだとでも言わんばかりに咳ばらいをして

恭子「せや咲、これやるわ」

取り出したものを差し出す

咲「なんですかこれ」

ブレスレット?

恭子「アンクレットや。開けてみ」

アンクレット……って足につけるやつだっけ

恭子「咲はあんまりこういうのつけへんけど、これやったら軽いし邪魔にならんやろ」

あ、本当だ。軽い

恭子「ちょい時期じゃないけど、そんなに目立たんしええやろ」

咲「ありがとうございます」

恭子「あ、つけるときはちゃんと左足につけや」

咲「?……左足って決まってるんですか?」

恭子「せやな。だいたい左足やな」

咲「分かりました覚えておきます」

恭子「左やで右やないからな」

咲「分かりましたから」

なにその拘り……右足につけたら捕まりでもするの?


恭子「咲はグロス……リップとかもせんけどそういうのには興味ないん?」

咲「そうですね。あまり装飾はしないですね」

恭子「装飾て」

咲「だいたいリップなんて乾燥しないように塗るものだから薬用で十分でしょう」

恭子「んー……あんまり酷いときは医薬品のリップでいいし」

恭子「保湿くらいやったら化粧品のでもええんちゃう?」

恭子「口紅やグロスとかは似合う似合わんあるしな」


咲「末原さんは手も綺麗ですよね。お手入れしてるんですか」

恭子「ま、一応な」

咲「乙女の嗜みってやつですか」

恭子「そんなんやないけどほら、手元は見られるからな」

咲「ネイルとか?」

恭子「ネイルはなぁ……アレは結局爪を削ったりするから私はあんまり」

咲「そうなんですか」


恭子「ちゃんとした店でやってもらうんなら良いんやろうけど、そこまですんのもなぁ」

咲「自分でやるのもちょっと怖いですね」

恭子「でも爪を保護するためにやっとる人もおるで。爪割れを防ぐためとか」

恭子「ジェルとかはスポーツ選手とかもやってるって聞くし」

咲「へーそうなんですね」

ジェル……?


恭子「ケアとかファイリングなら自分でも出来るで」

咲「私も清潔にはしてるつもりですけど、そこまで意識してないです」

恭子「私も気付かれん程度にやけどな。あんまりテカってても気持ち悪いやろ」

咲「私には真似できないなぁ」

周りにも自分にも気を遣えるのは尊敬する
私は不精だから


恭子「咲は出来ないってより知らないだけやないの」

咲「確かにあんまり詳しくないですけど、そもそもやろうと思わないですよ」

恭子「一回やってみたらええよ。それで合わんかったらやらなきゃいいんやし」

なるほど。やって初めて分かることもあるしね

でも末原さんに影響されて始めたと思われたらちょっと癪だな


咲「前向きに検討しますね」

恭子「おいおい」

咲「だってなんか難しそうだし」

恭子「簡単やって。時間もそんなにかからんし」

咲「じゃあ今度教えてください」

恭子「善は急げ。今からや!」

咲「えぇ……」

その情熱はどこから来るんだろう


恭子「そろそろ出よか。珈琲一杯で居座るのもなんやし」

咲「そうですね」

すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干す

やっぱり甘い……砂糖入れすぎたかな


秋の日は釣瓶落と

外に出ると日は傾き、空も街も橙色に染まっていた

咲「夕日が綺麗」

明日も晴れ……だといいな

恭子「あかねさすって奴やな」

それは日とか昼の枕詞ですよ。どちらかというと朝日です

咲「……紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我恋ひめやも」

恭子「ん?なに??」

咲「いえ、なんでもないです」


その後一泊して帰ったけど、語るべきことはなかったので割愛……いや省略
……うん。語れるようなことは無かった

後日改めて洋榎さんにはお礼しなきゃね

末原さんにもアンクレットのお返し……なにがいいかな?

なんでもいいか
末原さんへのみやげは私の笑顔で十分だ
なんてね





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