男「オレは体に重大なハンディキャップを抱えている」 (25)


オレは体に重大なハンディキャップを抱えている。



まず、目が見えない。

耳も聞こえない。

鼻も匂いを嗅げない。

舌も味が分からない。

肌もなにも感じない。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1444304305


さらには、手も足もまったく動かない。

ピクリともしない。

腹に力を込めることもできないし、首を左右に動かすことすら不可能だ。


ついでにいうと、脳も全く機能していない。

いわゆる脳死という状態だ。

じゃあ、この文章――モノローグは一体なんなのかって?

まあ、オレの“魂”が考えてることとでも思っておいてくれ。

本当にオレの脳は絶賛停職中だから。しかも、復職する可能性はゼロだ。


このように全身至る所がオール1のまったくどうしようもないオレなのだが、

このままではさすがに面白くない。

よって、オレはこのハンデを克服することにした。



――力技で。


「うおおおおおおおおおおっ!」



オレは根性で、力なく横たわる全身をムリヤリ動かし始めた。

いってみれば、電池が切れて止まってしまったロボットを、

中身をくり抜いて着ぐるみにして、人間が入って動かすような荒技である。


どうにか体は動き始めた。

しかし、相変わらず目は見えないし、耳は聞こえず、匂いも嗅げないし、味も分からない。

肌は熱さも寒さも痛みも風のせせらぎすらも感じない。ちょっとキザだったか。

さて、これらの問題をどう解決するか?


オレは勘でなんとかした。

きっとこういう景色があるんじゃないかな。

きっとこういう音や声が発せられてるんじゃないかな。

きっとこういう匂いがするんじゃないかな。

きっとこんな味じゃないかな。

きっとこんな触り心地なんだろうな。

これで全部なんとかしたのだ。

どうだ、すごいだろう。


さて、ここからはオレが色々なことを見たり聞いたりする場面が出てくるが、

それはもちろん、オレが実際に見えたり聞こえたりしているわけではなく、

全て「きっとこんなものが見えてるんだろう」「こんなことが聞こえてるんだろう」

という勘で頑張ってるだけである。



それではスタート!


テレビ『耳が聞こえないというハンデを乗り越え、作曲をする男性……』



男(耳が聞こえないだと?)

男(ふん、オレに比べれば全然恵まれてるじゃないか!)

男(なにしろ、耳どころか五感全部ブッ壊れてるんだからな!)

男(だが、待てよ?)


男(耳が聞こえないってだけであんなにチヤホヤされるんだ)

男(全身ズタボロのオレがそれを克服したなんて世間に知られたら……)

男(オレはスーパースターになれるんじゃないか!?)

男(ようし、そうと決まれば、さっそくテレビ局に売り込みだ!)


テレビ局――

スタッフ「ダメダメ。話にならない」

男「なぜです!? 絶対ウケますって!」

スタッフ「だってあんた、完全に健常者だもん」

スタッフ「そんな人をハンデ抱えてるなんて紹介したら、かえって苦情きちゃうよ」

男(ちくしょう……! 本当は全然健常じゃないのに……!)


スタッフ「お!」

男「!」

青年「こんにちは」ヒョコヒョコ

スタッフ「お待ちしておりました!」

スタッフ「今回の“足が不自由なのにマラソンにチャレンジ”!」

スタッフ「この企画もきっと大ウケしますよ! ハッハッハ!」

青年「ありがとうございます」ヒョコッ

青年「この前も本を出しましてね、印税がっぽがっぽですよ。アハハハッ」

スタッフ「羨ましいですなぁ」

スタッフ「さ、これから撮影準備に入るんだ! あんたは帰ってくれ!」シッシッ

男「ううう……」


男「おい、あんた!」

青年「はい?」ヒョコッ

男「足が不自由なくらいでいい気になるなよ……」

男「オレの方が……オレの方がずっとすごいハンデを抱えてるんだ……!」

青年「――あ!」

青年「もしかして、あなたって、全身が動かないけど根性と勘で頑張ってる人ですか?」

男「え!?」

男「な、なんで分かったんだ……!? 今まで誰にも気づかれたことなかったのに……」


青年「実はね……ボクも“同類”なんですよ」ヒョコヒョコ

青年「五感は全滅してて勘頼みですし、体も根性だけで動かしてます」

青年「で、あえて足だけは……こんな風にしか動かないように調整したんです」ニヤッ

男「くそぉっ! そんな手があったなんてぇっ!」







おわり

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