咲「大好きなあなたに、沢山の幸せを」 (57)

咲和。短いです

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ふっ…と意識が浮上して重たい瞼を上げる。

薄暗い室内のなか、和は辺りをそっと見回す。

揺らぐ視界と汗ばむ全身にうんざりした。


朝よりは熱が下がっただろうか。

それを確認しようにも、体温計に手を伸ばすのも億劫で。

そのまま再び寝てしまいたくなる。

咲「和ちゃん、起きた?」

一人きりだと思っていた室内に心地良い声が響く。

和「さき、さ…」

咲「喉乾いたでしょ?身体起こせる?」

和「はい…」

背中を支えられて、怠さで重みを増した上半身を何とか起き上がらせる。

咲は近くにあったクッションを和の背中に入れて凭れやすくした。

咲「あぁ、汗も沢山かいてるね。これを飲んだら着替えようか」

風邪がうつるから近づかないで下さいと言っても聞く耳を持たず、

和の世話をする為に咲は一日中家にいた。

お粥を作ったり水枕を交換したり、甲斐甲斐しく和の看病をしていた。


キャップを開けた水を渡され、和はゆっくりと口を付ける。

冷たい水分が身体に浸透していく。

咲「少しは楽になった?」

和「どうでしょう…」

咲「熱測ろうか」

ベッドサイドに手を伸ばし、体温計を取り出すと和の脇に挟む。

ひんやりしたソレに少し身体を捩り、ぼんやりと咲の顔を見つめた。

和のすぐ側に腰を下ろした咲は汗で張り付いた和の前髪を優しく撫で上げ、

その額に自分の額をつけて熱を測る。

咲「…まだ熱いね」

和「近いです、うつっちゃいますよ…」

咲「それで和ちゃんが楽になるなら喜んで」

和「バカなこと言わないで下さい…」

咲が微笑み、優しく和の頭を撫でていると。

ピピッと体温計の音がした。

取り出した体温計には『37.7℃』の表示がある。

咲「昼頃とあまり変わらないね…」

和「でも夜の方が熱って高くなりますし…良くなってる上でこの数値なんじゃないですか?」

咲「…ツライ?」

和「身体はまだ重いし、だるいですね…」

咲「早く着替えて休もう」

少し真剣な顔つきになった咲は、クローゼットを開けて新しい寝間着を取り出す。

一緒にタオルや下着を取り出して「あ、」と和を見る。

咲「身体拭いてから着替えた方がいいね。お湯持って来るから待ってて」

そう言って咲は明るいリビングへ出て行った。


咲が自分の為につきっきりで看病をしてくれている。

そのことだけで元気になれそうだと、和は嬉しくなり顔を緩ませた。

和「咲さんに看病してもらえたんですから…早く治さないと…」

平熱は低いほうなので、37℃後半という今の体温は比較的高い。

食欲はないので、とりあえず水分は取らないと…

と手に持ったままの水をもう一口飲んだ。


咲「和ちゃん、おまたせ」

お湯を張った桶を床において、咲がタオルを浸した。

タオルを絞ると和から水を受け取る。

身体を拭くために汗で張り付いた寝間着を脱ごうとする。

が、力がうまく入らなくて思ったよりもたついていたらしい。

咲はそんな和に気がついて、寝間着の裾を和から奪う。

和「え?」

咲「和ちゃん、ばんざーいして」

和「…咲さん」

咲「ほら。ばんざーい」

和「…はい…」

しぶしぶ両腕をあげると、不快感しかなかった寝間着が剥ぎ取られた。

硬く絞ったタオルで、首筋、腕、背中…と咲は順番に拭きだす。

その暖かさに和は安堵の表情を浮かべて、咲に任せることにした。

咲「気持ちいい?」

和「はい…」

咲「ほんとは何か食べてほしいけど」

和「…それは、」

咲「分かってる。まだ無理そうだね」

上半身を拭き終わると、咲に優しく頭を撫でられた。

はい、と寝間着を渡され、和は覚束ない手つきでボタンをはめていく。

咲「…下もやってあげようか?」

和「!?い、いいですッ」

恥ずかしさで顔を赤くする和に、咲はくすくす笑いながらタオルをまた絞った。

咲「そんなに恥ずかしがらなくても。いつもやってるじゃない。お互いの服を脱がせたり…」

和「さ、咲さん!!それ以上はいいですから!!」

熱とは違う意味で全身を赤く染めて慌てる和に、咲はまたくすりと笑う。

咲「缶詰のみかん買ってきたんだ。取ってくるからその間に着替えてて」

和「え…」

咲「食欲ないのは分かるけど、何か胃に入れないと薬も飲めないし」

和「う…」

咲「…それともやっぱり身体拭いてほしい?残ってる部分ぜんぶ…」

和「み、みかん食べますっ」

咲は和にタオルを手渡し、手の届く範囲に替えの下着を置いてまた部屋を出て行った。

ほっと息をつき、和は着替えを始める。



咲「もう一つ、いける?」

和「はい…」


着替えも身体を拭くのも終えた和はみかんをもぐもぐと咀嚼している。

あーん、とみかんを差し出す咲と、口を開けて待ち構える和。

お皿の半分ほど食べたところで、和は「もう無理です…」とギブアップした。

咲「よく食べました。えらいえらい」

和「…やけに子ども扱いしますね」

咲「だって素直な和ちゃん可愛いんだもん」

和「…もう」

お皿とフォークをトレイに置き、咲はチラ、と時計を見た。

小さく口元に笑みを浮かべると、和の方へと向き合い、そのままその唇を奪った。

和「んんっ…」

ちゅうっと触れるだけのキスを繰り返す。

優しい、甘い感覚に、風邪の辛さが和らいだ気がした。


咲「誕生日おめでとう。和ちゃん」


和「…え?」


薄暗い部屋の中、目を凝らして時計を見つめる。

時計は0時を越えた事を示していて、10月4日になっていたのだ。

咲「おめでとう」

和「…ありがとうございます」


なんでだろう。

今ひどく泣きそうな気分になった。


咲「和ちゃん」

和「はい…」

咲「生まれてきてくれてありがとう。どれだけの言葉を囁いて、どんなに愛を伝えても足りないくらい和ちゃんが好きだよ」

和「っ…」

ぽろぽろと和の瞳から涙が零れる。

嬉しい―――咲からの言葉が、優しさが、愛情が、全部嬉しい―――。


和「私も、私も咲さんが大好きです…っ」


咲は和を優しく抱きしめて、その背中をぽんぽんと叩く。

一度溢れた涙はなかなか止まってくれなくて。

和は愛しさで溢れる感情のまま、咲に抱きついて涙を流し続けた。

抱きしめあったままベッドに横になって和の頭を撫でていると。

すぅすぅと静かな寝息が聞こえ出した。

熱もようやく下がり出したようで、呼吸も大分落ち着いてきている。


咲「早く良くなってね。和ちゃん…」


プレゼントは目が覚めたら渡そう。

そして、めいっぱい好きだと、愛してると伝えよう。




大好きなあなたに、沢山の幸せを―――。



カン!

遅くなりましたが和の誕生日SSでした。
依頼出してきます。

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