姫「私の家庭教師はスパルタ騎士」(46)

<城>

姫「まあっ、私に家庭教師を?」

国王「うむ、お前にもそろそろ必要かと思ってな」

姫「ちなみに、どんな方が来るの?」

国王「騎士だ。それも騎士団で選りすぐりの人物で――」

姫「まぁ、嬉しいっ!」

国王「文武に長けており――」

姫(ああっ、姫と騎士……めくるめくロマンスの予感……)

国王「もしもし? 聞いてる? もしもーし」

姫(ああ……騎士ってどんな方なのかしら?)

姫(きっと、素敵な方にちがいないわ)

姫(お勉強を優しく教えて下さり、時には剣を振るってみせてくれたり)

姫(時には、ダンスのリードなんかもしてくれたりして!)

姫(さらには夜のリードまで……)

姫「きゃっ!」ポッ…

姫「私ったら、なんてはしたない女!」タタタッ

ドンッ!

姫「いたた……」

使用人「申し訳ありません、姫様っ!」

姫「もう、どこを見て歩いてるのよ! あなたには目がついてないの!?」

使用人「いえっ、不注意で……!」

姫「まったく、クビにされたくなきゃ、もっとしっかりしてちょうだい!」

姫「これから、私にはロマンスが始まるのだから……!」 

使用人(ロマンス……?)

数日後――

騎士「はじめまして、姫様」

騎士「本日から家庭教師をさせて頂くことになりました。よろしくお願いします」

姫「こちらこそ」

騎士「ところで、さっそくで恐縮なのですが、敬語で教師はやりにくいのです」

騎士「なので、敬語を使わずに姫様と接したいのですが、かまいませんか?」

姫(まぁっ、この方ったら、いきなり私の夫気取り?)

姫(もう、せっかちなんだから……だけど、これこそロマンスよね!)

姫「もちろん、よろしいですわよ」

騎士「じゃあ、さっそく勉強を始めるぞ。机に向かえ。一時間みっちりやるぞ」

姫「は?」

姫「あの、ロマンスは……?」

騎士「ロマンス? 貴様はなにをいっている」

騎士「さぁ、机に向かえ!」ビシッ

姫「は、はいっ!」

姫「…………」カリカリ

姫「あの、紅茶でも飲みませんこと?」

騎士「私語をするな」

姫「…………」カリカリ

姫「あの、この問題が分からないのだけれど」

騎士「これは、さっき教えた公式を使えばいい」

姫「…………」カリカリ

姫「あの、もうそろそろ一時間経ったのでは?」

騎士「まだ30分も経っていない」

姫「…………」カリカリ

姫「…………」ポイッ

姫「もう! こんなのイヤ! なんで私が勉強しなくちゃならないの!?」

姫「せめて、もっと優しく丁寧に――」

騎士「…………」グリッ

姫「ぎょえぇぇぇぇぇっ!」ビビビッ

姫「な、なにをなさるの!?」

騎士「ツボを突いただけだ」

姫「突いただけって……ものすごい激痛でしたわよ! 私を殺す気!?」

騎士「心配いらん。あのツボは肉体的ダメージは与えず、純粋に痛みだけを与えるツボだ」

姫「だからって――」

騎士「さぁ、もう一度突かれたくなくば、勉強に戻れ」

姫「ううっ……」

……

……

……

騎士「よし、今日のところはこれまで」

騎士「明日からは勉強時間を増やすし、勉強以外のことも教えていく」

騎士「ビシビシいくから、覚悟しておくように」

姫「は、はい……」

次の日――

シェフ「どうぞお召し上がり下さい、姫様、騎士殿」

姫「それでは、お食事にしましょう」

騎士「ああ」

姫「では……」

姫「!?」ギョッ

騎士「どうした?」

姫「――シェフ、なんなのこれは!?」

姫「私がこの貝を嫌いなのは、知っているはずでしょう!?」

姫「なぜ入れたの!?」

シェフ「も、申し訳ありませんっ! うっかりしておりまして……」

姫「うっかりにも程があるわ! マヌケなんだから! だいたいあなたはいつも――」

騎士「姫っ!!!」

姫「!」ビクッ

姫「なんですの、いきなり……?」

騎士「姫……シェフに謝れ」

姫「なぜです!? なぜ、謝らなければなりませんの!?」

騎士「シェフは姫のために、心を込めて料理を作ってくれたのだ」

騎士「なのに、その言い草はなんだ。敬意がなさすぎるとは思わんか」

姫「な、なによ……! 好き嫌いがあってはいけないというの!?」

騎士「そんなことはいっていない。私もピーマン苦手だしな」

姫&シェフ(子供か!)

騎士「シェフを侮辱したことについてのみ、謝れ、といっているのだ」

姫「い、いやよ……! なんで私が……」

騎士「謝れッ!」

シェフ「あの……私は気にしておりませんので……」

姫「…………」

騎士「姫……!」

姫「うっ……」グスッ

姫「シェフ、あなたを侮辱して、ごめんなさい……」

シェフ「い、いえいえっ! こちらこそ、申し訳ありませんでしたっ!」

騎士「それでよし」

騎士「よし……食べるぞ。いただきます」

姫「はい……」

騎士「…………」モグモグ

姫「…………」モグモグ

姫(なんなの!? なんなのよ、これ!? 腹立たしい!)

騎士「食後は勉強の時間だ」

騎士「今日は二時間みっちり行う。トイレ以外で席を立つことは許さん」

姫「二時間も!? そんなの耐えられるわけが――」

騎士「…………」グリッ

姫「ぎょわはぁぁぁぁぁっ!」ビビビッ

姫「わ、分かりましたわ……やればいいんでしょ! やれば!」

……

……

……

姫(やっと終わった……)ゲッソリ

姫「――で、次は何をなさるの?」

騎士「姫たる者、文武両道でなくてはならん」

騎士「次は剣術の修行に入る」

姫「は、はい」

姫(えぇ~……ウソでしょ?)

騎士「この木剣を構えろ」

姫「こ、こう……?」

騎士「…………」グリッ

姫「きゃほぉぉぉぉぉう!」ビビビッ

騎士「お、いい構えになったぞ」

姫「いちいちツボを突くの、やめて下さる!?」

騎士「では、私が攻撃を繰り出すから、その剣で防いでみろ。いくぞ」ヒュオッ

バシッ! ガッ! ガツッ! ガッ! バシッ!

姫「ちょ、ちょ、ちょっ! これ、ガチじゃありませんこと!?」

騎士「ガチなものか。本気ならば、この剣は何度も姫を打っていることだろう」

姫「いや、そういうことじゃなくって……」

騎士「ほら、動きが止まっているぞ! 防げ、防げ!」

姫「ひぃぃぃぃぃっ!」

ガッ! バシッ! カツッ!

姫「うっ、うえぇっ……もう、ダメ……」

騎士「なんだ、この程度でへばるのか。だらしない」

姫「当然ですわ! 私は姫なのよ! 運動なんかしないのよ!」

騎士「ほう、まだまだ余裕そうだな」

姫「はうっ!」ギクッ

騎士「元気があるのならば、続きだ。剣の修行は追い込まれてからが本番だからな」

姫「あがががが……!」

ベッドの中で――

姫「ああ、もう疲れた……。ツボも突かれた……」

姫「これから……毎日のようにこんな生活が続くというの?」

姫「ううう……地獄ですわ……」

姫「ああ……ロマンスが、ロマンスが遠ざかっていく……」

危惧通り、姫の過酷な日々は続いた。

姫「なぜケーキをいっぱい食べちゃダメなの!? ケーキは別腹ですのよ!?」

騎士「好きなものを好きなだけ食べる、たしかにそれは楽しいことだ」

騎士「しかし、好きなものをあえてそこそこ食べる。それもまた楽しいことなのだ」

姫「あうう……まるで意味が分かりませんわ」



姫「あぁ、眠い……」ウト…

騎士「…………」グリッ

姫「はぎゃぁぁぁぁぁっ! 起きましたぁぁぁぁぁっ!」ビビビッ



騎士「さぁ、もっと動け! 動きまくれ!」

バシッ! ガッ! カツッ! バシッ! ガッ!

姫「速い、もっとゆっくりぃ! ゆっくりぃぃぃ!」

騎士「いいぞ! 姫には才能がある!」

姫「こんな才能、いりましぇぇん!」

一方で、騎士の教育(やりかた)に眉をひそめる者も多かった。



「いくらなんでも、ねぇ……」

「あれじゃ姫様がおかわいそうよ……」

「臣下という立場を完全に逸脱してるよな……」

そんなある日――

姫「もういやっ!」

姫「もう無理! もう限界! もう沢東! いい加減にして!」

騎士「ほう、私に逆らうか」グリッ

姫「痛くないっ!」ビビビッ

姫「今日でオシマイよ! お父様に訴えて、あなたなんかクビにしてやる!」タタタッ

騎士「…………」

ドンッ!

姫「いたた……」

使用人「申し訳ありませんっ! 姫様っ! 大丈夫ですか!?」

姫「ええ、平気よ」

姫「そちらこそ、大丈夫? 痛くなかった?」

使用人「え……? は、はいっ! 平気です!」

姫「そう、よかった」ニコッ

使用人「ひ、姫様……」ドキッ

姫(……あれ?)

姫(今、私は使用人の心配をした……。昔なら、きっと怒鳴りつけてたでしょうに……)

姫(なぜ?)

姫(それはもしかして、騎士が“痛み”を教えてくれたから……なの?)

使用人「姫様……」

姫「あら、なぁに?」

使用人「なんといいますか、ここ最近、一段と美しくなられましたね」

使用人「――っと、すみません! いきなりこんなことを申しまして!」

姫「ありがとう。きっと、剣で汗を流しているおかげだわ」

姫「これも騎士のおかげ――」ハッ

姫「…………」ドキン…

姫(分かる……私は今、あの騎士を求めている)

姫(あんなにひどい目にあってきたというのに……なぜかしら?)

姫(なに!? なんなの、この感覚!?)

姫(分かったわ、これこそロマンス! これこそ、真のロマンスなのですわ!)クワッ

姫「騎士!」

騎士「姫!」

姫「やっぱりやめるのやめた!」

騎士「!」

姫「さぁ、今日もロマンスを開始しますわよ! 勉強? それとも剣術?」

騎士「(ロマンス……?)ならば勉強といこう。今日は三時間みっちりだ!」

姫「分かりましたわ!」

そんな生活が半年ほど続いたある日――



兵士「騎士殿……陛下直々に、あなたに逮捕状が出ております」

騎士「そうか……」

騎士「分かった。すぐに出頭しよう」

……

……

……

姫「えっ、今日から家庭教師交代!?」

メイド「ええ、よかったですね。姫様!」

メイド「これでやっと、あのスパルタ騎士から離れられるのですから!」

姫「…………」

新しくやってきた騎士は――

金髪騎士「さ、優雅に勉強を始めよう」キラッ

金髪騎士「10分ほど勉強したら、ティータイムといこうじゃないか」

金髪騎士「ボクがおいしい紅茶を入れてあげるからね、姫」



姫(まさに、私が理想としていた騎士ですわ……)

姫(だけど、なぜかしら……なぜか……物足りない……)

姫「ごめんなさい」

金髪騎士「!」

姫「悪いけど、あなたじゃ……私、物足りないわ」

姫「前の家庭教師の方に、戻して下さるかしら?」

金髪騎士「……残念だけど、それはできないんだ、姫」

姫「なぜ!?」

金髪騎士「彼はね、君にしていた仕打ちが陛下に発覚し、逮捕されてしまったのだよ」

金髪騎士「おそらく今日……護送馬車で監獄へと送られることだろう」

姫「なんですって!?」

<護送車>

兵士「では騎士殿、出発いたします」

騎士「ああ」

騎士(姫様……私は自分のやったことを、なんら後悔してはおりません)

騎士(あなたには厳しい人間が必要でした。そして、みごとあなたは克服されました)

騎士(あとは、あなた次第です……姫様)

騎士(……さようなら)

すると――

「ぐぁぁぁぁっ!」 「あぎゃぁぁぁぁぁっ!」 「いたぁぁぁいっ!」



兵士「な、なんだ!? 護衛が次々と叫び声を上げてやられていく……!」



騎士「?」

兵士「な、なぜあなたが!?」

姫「たああっ!」グリッ

兵士「いでぇぇぇぇぇっ!」ドサッ

姫「騎士! やっと会えましたわね!」チャキッ



騎士「姫様!?」





「こっちにもいるぞ!」 「かかれーっ!」 「こいつ強いぞ!」

金髪騎士「やれやれ……お人好しすぎるね、ボクって」バシッ ドカッ ベシッ

姫「騎士! すぐに馬車から出てきなさい!」

騎士「な、なにをやっているんですか、あなたは!」

姫「決まってるでしょう? 私の家庭教師を取り戻しにきたのよ!」

騎士「こんなことしたら、ただじゃ済みません! さぁ、早くお帰り下さい!」

姫「イヤよ! 一度始めたからには、そうやすやすとはやめません!」

姫「だって……あなたがそう教えてくれたんですもの!」

騎士「……どうやら私はあなたの教育を大失敗したようですね」

姫「そういうことね。ちゃんと責任は取ってもらわないと」ニコッ

<城>

国王(あの騎士め、娘にあのような仕打ちをしていたとは……許せぬ!)

近衛兵「陛下! 護送を担当していた兵から、連絡がありました!」

国王「おお、護送は終わったか?」

近衛兵「いえ、騎士を護送していた馬車が襲撃を受けました!」

国王「えっ!」

近衛兵「ちなみに襲撃者は姫様です!」

国王「えええっ!」

近衛兵「騎士の罪を取り消さねば、姫をやめるとおっしゃっています!」

国王「ええええええええええっ!」

こうして二人は国王公認の仲となった。



騎士「今日の授業はここまで。きちんと復習しておくように」

姫「ねえ……そろそろ、夜のリードをしてくれませんこと?」

騎士「姫、それはまだ早い。今は勉強が優先だ」

姫「あっ、今“まだ”っていいましたわね! “まだ”って!」

騎士「…………」グリッ

姫「ぎゅえぇぇぇぇぇんっ!」ズババッ

姫「今の痛み……! まさか、今まではずっと手加減を……!?」

騎士「当然だろう。だが、これからは手加減は無しだ」

姫(ああっ……ステキ! 私のロマンスは、まさに今から始まるのですわ!)







                                     おわり

以上でおしまいです


奇声をあげたりどさくさ紛れに駄洒落言ったり面白い姫様だなww

乙乙
これが教育か(意味深)

毛沢東ワロタ


金髪騎士が普通にイケメン


姫の叫び声がいちいちおもろい

ハッピーエンド乙!

金髪騎士どんまいw

金髪騎士心もイケメンすぐる

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom