魔王「貴様に一目惚れした」 天使「……え?」 (52)


将軍「全員、整列!!」


ザッ!!!


将軍「今日の任務を説明する!!」

将軍「そこのお前! 今日はこの国の最も重要な一日となる! それはなぜだ! 言ってみろ!!」

騎士「ヤー! 今日は我が神の国の天使様のお披露目の式、及び就任の儀を行う日であります!」

将軍「その通りだ! 今日は我らが神の国に! 神の使いである天使様が我々にお姿を見せられる日である!」

将軍「そして我々の任務はこの大いなる一日、天使様の安全を守ることである!!」

神国兵「ヤー!」

将軍「この数年! 帝国との小競り合いも激化していることから今日天使様が姿を見せる日は帝国にとっては大きな出来事であるとも言える!」

将軍「国内に敵が潜伏している可能性も大いに高く、敵と内通している者がいる可能性も決して否定出来ない!!」

将軍「つまり、今日この日に天使様の命を狙い、襲撃が行われる可能性は高い! そうだな!!」

神国兵「ヤー! その通りであります!」

将軍「この国始まって以来の一日だ! 総員一切の失敗も許されん!! 総員! 配置に着け!」

「「ヤーー!!」」




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「しっかし会場すげー人だなぁおい」


ここは神の国と呼ばれる大陸の端に位置する、人口約30万人ほどの小国だ

特徴として国の共通の宗教があり、聖なる書と呼ばれる神が書いたと言われる書物に基づいて生活をする者が多い
しかしなにか邪教めいた生贄などの特別なことをするわけでもない穏やかな国だ

しかしその穏やかだった日常も最近は脅かされているのが実情
というのも隣の大国である帝国が他の国を侵略しつつあるのだ

もちろんその侵略は神の国も例外ではなく、これまでに数度に渡り宣戦布告なく戦争を仕掛けてきた

しかし山に囲まれる神国は天然の要塞という地の利があり、圧倒的な軍力を誇る帝国をなんとかギリギリのところで退けることに成功していた


しかし民の疲弊は大きく、近頃は活気もなかった
もちろん国外への外出、国外からの進入へも厳重にチェックされているがために貿易も十分に進まなく、経済的にも困窮し飢えているものも少なくはない



そんな疲れきった国の中、一つの光がさしたのは最近のことだ

聖なる書に記されている神の使い、御使いとも呼ばれる天使という天上の存在が我が国に舞い降りたのだ

それはつまり神の書に書かれている存在が実在するということ、さらに言えば神が我が国を見守ってくださっているという事実でもあった

その天使の存在についてはすぐに国中に広まり、今日その天使を国民にお披露目するというので、国中の人が集まりその登場をいまかいまかと待っているのである


「おい、あんまり無駄話をするな。 将軍に見つかりでもしたら殺されるぞ?」

「大丈夫だって、こんだけ人が多いんだ。 わかりゃしねえよ」

「そうかもしれないが、敵はどこから来るか分からんぞ?」

「こんだけ守りが硬いんだぜ? 敵もまさか攻めてくるわけなんかねえって」

「油断は禁物だぞ? 少しはまじめにやれよ」

「へいへい。 全くお前はいつもかてえんだからよぉ」

「お前が不真面目すぎるんだばか!」



「「「静粛に!!!」」」


会場中を音反響魔法により増幅された声が駆け抜ける

それまでざわざわと騒がしかった会場が一瞬にして静まり返る


「お、始まるみたいだな」

「だな。 天使ってどんな人かな」

「まさか神の使いが我々の国に降りてきてくださるとは。 しかもこの国で生活をするというのだぞ? 信じられん」

「俺さー今まで聖なる書とか全く信じてなかったけどさ、もし天使なんてもんが本当にいるなら改心するわ」

「お前、今さらっとヤバいこと言ってたぞ……」

「……ってほら、そんなこんなしてる内に天使様のお披露目っぽいぞ!」


「「「それでは! 新天使様からのお言葉である!! 天使様、こちらへ」」」


呼ばれると台上の扉がギィ…という音を立てて開く

中から現れたのは白銀の長い髪を揺らし、地上のどんな芸術家ですら表せないほどの美貌を持つ美しい女性



すた…… すた…… すた……




「おい! 綺麗な女じゃねえか!」

「ばか! 声がデカい!!」



……バサッ!!!!

突如背中から白い大きな翼が広がる
人が三人ほども包み込めそうな鳥のような翼は見る者の目を奪った



「……おぉ。 白い大きな翼!」

「間違いない、あれは本物の天使様だ!」

「信じられねえ…… 人間の姿なのに背中から翼が生えてやがる……」




「「「みなさん、こんにちは」」」


ニコリと美しい御使いは微笑みを浮かべてから会場中の人々に挨拶をする


ザワザワザワ………


「「「初めまして、私は天使と申します。 以後お見知りおきを」」」




「おい、なんだよあの美人! あれが天使様かよ! やべえだろ超かわいい!」

「馬鹿うるさい! 少しは任務に集中しろ」

「あんな美人次いつ見れるか分かんねえだろ! ん!? むぐっ……」

「……なんだ? どうし……」プシャーーーー



バタッ



帝国兵「……敵兵士の死亡を確認。 ……クリア」

帝国兵「ターゲット、確認。 間違いないあれが天使だ。 ターゲットの座標を魔法転送する」ピピッ

帝国兵「……ラジャー。 配置についた。 いつでもいける」

帝国兵「……了解。 帝国軍全隊、これよりターゲットを確保する」



帝国兵「大型魔物召喚」
帝国兵「大型魔物召喚」
帝国兵「大型魔物召喚」
帝国兵「大型魔物召喚」


帝国兵「……任務フェイズ、スタート」



ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!


会場に響きわたったのは天使の美しい声ではない、おぞましい程の獣の叫び声だった


将軍「なんだ!?」

神国兵「敵襲ぅーーー!!!」

将軍「ちっ! やはり来たか!! 天使様をお守りしろ!!」


「「ヤーー!!」」



帝国兵「……全騎突撃!」

帝国兵「……ラジャー」


グルウウウウオオオオオオオオオ!!!!


騎士「なんだあの化け物は!?」

神国兵「推定! 召喚型の大型魔物!」

将軍「くっ…! 帝国はあんな召喚魔法まで作りだしていたのか! 全員戦闘準備! なんとしてもここで食いとめるんだ!!」


「「ヤーー!!」」



魔物「ギャオオオオオオ!!!!」ブゥン

神国兵「うわあああああ!!」ブシャァァァァ

魔物「ギャルォォォォォォン!!!」ゴォッ!!!

神国兵「炎を吐いたぞ!! うわああああ……」


騎士「くっ! まずい! なんだあの魔物の強さは!」

将軍「押し返せ! 我々が後退すれば! 後ろにいる国民も天使様も危険に晒される! 我々の負けはこの国の崩壊と知れ!!」

騎士「ヤーー!!」





騎士「負けるわけにはいかない!!」ダッ


現れた狼のような大型の魔物の強さは尋常ではなかった
野生に生息する魔物では恐らくかなり上位に位置するほどの強さであった

その強靭な前足から繰り出される攻撃は神国兵を容易く引き裂き、口から吐かれる火炎は鎧すらも溶かした

だがそれでも神国兵は引き下がるわけには行かない
後ろには戦う能力を持たない一般市民が五万といるのだから

死ぬかもしれないという思いを抱きながら騎士は剣を握り直し、息をするのも忘れ魔物に切りかかる


騎士「はぁぁぁぁぁ!!」ザシュッ

魔物「ギャオォォォォォォン!!!」

騎士「まだまだぁー!」ザクッザクッ

魔物「ギャオオオオオオオオオ!!!」ブゥン

騎士「くっ! まずい!!」サッ


ガギィン!!!


油断はなかった
魔物から目は離さずその一挙一動は見逃すまいと気を張っていたが、まさか尻尾すらも攻撃になるとは考えが至っていなかった

鞭のようにしなるその人間の大腿のような太さの尻尾の一撃を騎士は左手に持つ盾でなんとか防ぐことに成功した



騎士「ぐぅ!? なんて一撃だ!! 盾が壊れてしまったぞ!!」ズザザザ……

魔物「ギャォォォォォォォォォォン!!!」

騎士「くっ!」



天使「双方、鎮まりなさい!!」


白い大翼を広げながら天使は声を張る
その体からはキラキラと魔力が溢れ、光の粉となり飛び散った


キラキラキラキラ………


その光る粉が魔物に触れるや否や、魔物は生命活動を停止した



魔物「グ、グルルルルル………」バタッ

バタンッ……バタン……


帝国兵「……なに!?」


天使「これ以上の争いは許しません。 帝国兵よ、手を引きなさい」

騎士「これが天使様の一撃だというのか…!? 魔物をたったの一撃で?」

帝国兵「……どうする?」

帝国兵「……撤退は許されない。 作戦をBへ変更する」

帝国兵「……ラジャー」



天使「……手を引きなさいと言ったはずです。 私は無益に人を殺めたくはありません」


帝国術者「……皆集中しろ」

帝国術者「……あぁ、いくぞ」


「「「魔王、召喚」」」



ぱああああああああああ

バリバリババリバリバリ!!!


会場の真ん中に巨大な魔法陣が形成され、その中からこれでもかという魔力が流れ出る


神国兵「なんだ!? 何が起きている!?」

神国兵「敵の召喚魔法だ!! なにか来るぞ!!」

神国兵「畜生! さっきの魔物でもやべえってのにこれ以上のものがきたら……!」


将軍「この魔力量は異常だ!! この召喚魔法によって生み出される化け物は想像がつかない!! 総員、なんとしても術者を見つけ出し、止めるんだ!!」

「「ヤーー!!」」



帝国術者「ぐっ……!」

帝国術者「……意識を集中させろ! 失敗は許されん!!」

帝国術者「……ここで我々が朽ちようとも召喚を成功させるんだ!」

帝国術者「「はっ!!」」


帝国兵「作戦Bだ! 術者を絶対に守るのだ!」

帝国兵「……ラジャー!」




神国兵「覚悟ぉー!!」シャキン

帝国兵「術者はやらせん! 大型魔物召喚!」パァッ


帝国兵の前に魔法陣が形成され、その中から顔、胴体の順に先ほどの狼のような大型魔物が召喚される



魔物「グルオォォォォォォーーー!!!」

神国兵「なにっ!? またこいつか!」

神国兵「我々に止まることは許されない! 術者の殺害を最優先にいけ!」

神国兵「ヤー!」


帝国兵「やれ!! 魔物! 敵を近づけさせるな!!」

魔物「グルオォォォォォォォォォン!!!」ブンッ

神国兵「ぎゃああああああぁぁぁぁ!!」


魔物の前足の一振りで神国兵が5人ほど纏めて吹き飛ばされる



神国兵「止まるな! 突っ込めー!!」

神国兵「うおおおおおおお!!!」

帝国兵「ちっ! あいつらをこれ以上近づけさせるなぁ!」

魔物「グルオォォォォォォーーー!!!」ゴォッ


狼の口から火炎が吐き出される
鎧ごと肌や肉が焼かれようとも神国兵達の前進は止まらない。 それどころかその火炎に向かって自ら突き進む

目玉が溶け、肌が炭化し筋肉が硬直しやっと活動を停止する

自殺のように思えるその決死の前進は大きな意味があった

大型魔物への最短距離を焼けた神国兵は盾となって道を作ったのだ



騎士「お前たちの死は無駄にはしない!!」ビュォン

魔物「ギャォォォォォォン!!!!」



仲間の屍を踏み越え、炎の中から飛び出した一人の騎士が大型魔物の首へ剣を突き立て、突進の勢いをそのままに体を捻り、肉を切り裂く

剣が折れるかもしれない、そう思ったがそれでもいい。 なぜなら術者は人間、それを殺すには腰にさした短剣一本あれが事が済むのだから





恐らくあの巨大な召喚魔法を唱えているのはあの3人!!

騎士の目に飛び込んできたのは3人で円を組んで詠唱をしている法衣を着た者たち

それめがけて狼の魔物が倒れることも確認せずに、疾風のように駆けた


帝国兵「……敵が突破して来たぞ!!」

帝国兵「なんとしても術者に近づけさせるな!」

騎士「……ちぃ! 止められるものなら止めてみろ!」

帝国兵「勝負!!」

騎士「…………!」チャキッ

将軍「おいお前! そのまま走り抜けろ!!」

騎士「え……?」

将軍「私がここを受け持つ! 貴様はそのまま走れ! そして!!」


将軍が近くの帝国兵の首をあっという間に撥ね、今もっとも帝国の術者に近い者に激励を飛ばす


将軍「必ず! 必ずあの召喚魔法を止めるのだ!!」

騎士「……ヤーー!!」



騎士の先を塞ぐ二人の帝国兵へ将軍は一気に距離を詰め、瞬きの間にその二人に剣を走らせる

道は開けた
先には詠唱で無防備な敵の術者のみ
後ろには単身で私を守ろうと剣を構えている将軍。 これほど心強い存在はない


しかしいくら将軍といえど複数の敵を同時に相手をし続けることができるとは思えない
だがそれでも私よりは遥かに強い

だからこそ将軍は最善を考え自分がその場に残って敵の迎撃を決めた。 たとえそれが確実な死の道だとしても

その将軍の覚悟、魔物の炎の盾となった者たちの命、私達の後ろの国民の命、全てを背負って私は走り、剣を抜き、術者の一人に突き立てた



帝国術者「っ……」

騎士「はぁ……はぁ……」

帝国術者「残念だったな…… 召喚は完成だ」

騎士「なんだと……?」

帝国術者「ふははは!! 出でよ!! 魔王召喚!!」バタッ


剣を突き立てられ血を吐きながら叫んだ術者は息絶えた

しかしそれは遅かった。 遅すぎた。 あと3秒早ければ、そうどこか冷静な騎士の頭に考えが浮かぶがその3秒を縮めることが果たして出来ただろうか


会場真ん中の巨大な魔法陣が眩いばかりの光を放ったかと思えば、魔法使いが得体のしれない液体をグツグツと煮込んでいるのではないかと思わせる、黒色の液体が湧き出してくる

やがて液体の噴出と共に一人の人間が魔法陣から姿を現した

その異様な光景に誰もがただの人間ではないと本能で感じ、ガタガタと震え出すもの、邪悪な魔力に当てられ気絶するものまでいた



「我が名は……魔王。 死を司る災厄にして最悪な存在。 私を呼び出したのは誰か?」


今日は終わります

遅筆で下手な文章ですが頑張っていきたいと思います



将軍「な、なんだこいつは……!」

騎士「あれが召喚された魔物……? まるで人間じゃないか」

天使「なんなの……この禍々しい魔力は…… 信じられない……」


帝国術者「ふははは!! やった! やったぞ!!」

帝国術者「……召喚成功だ。 よくやったぞみんな」

帝国術者「……こいつの死も報われるというものだ」


帝国兵「おぉ……あれが魔王」

帝国兵「……これが最恐といわれる魔王…… 禁断の召喚魔法を完成させていたのか」


ザワザワザワ…………


注目が集まる中、魔王は現在の状況が全く理解できない

私は先まで我が国を治める魔王城にいたはずなのだが……



魔王「……ふむ? ここは一体どこだ?」





天使「……………」


まずいですね……
帝国の者が呼び出したあの魔王と名乗る人物、相当に危険なオーラを纏っています。
それを裏付けるかのようにこれでもかという禍々しい魔力も……

最悪な状況です。 恐らくアレにはここにいる誰も勝てない。 戦う前からでもそう直感させるだけの圧倒的な力

もし唯一対抗できる可能性があるとするならば、聖なる力を持っている私のみでしょうか……?

しかし未熟な私では…… 先の魔物への攻撃で既に魔力も残りが少ない。 戦ってはおそらく、いえほぼ間違いなく勝てないでしょう……


ならば私が取るべき選択はここでアレと戦闘にならないようにすること

出来るでしょうか……
いいえやるしかないのです!!

ええいなんとでもなってください!!



天使「こんにちは偉大な力を持ち、死すらも司る大いなる魔王」


魔王「む?」


恐ろしい力を持つ魔王はゆっくりと私の方に向きます

その顔立ちはどこか幼さの残る青年のような顔付きに、燃え上がるような真紅の瞳。 ボサボサの無造作ヘアーというんでしょうか? 髪は溢れた魔力でふわふわとたなびいていました

ちょっとかっこいい……かも
なんて思ってしまった自分に喝を入れ、真紅の瞳に気圧されないよう、しかし失礼のないように慎重に次の言葉を紡ぎます


天使「私はこの神の国に座する天使と申し……

魔王「天使殿!! いや、天使さん!!」

天使「へ!?」



いきなり空中に膝をつくという高等技術にも驚きましたが、なによりその異常な物言いに思わず素の反応をしてしまいました……
ど、どどどどうしましょう!! こんな態度で魔王の逆鱗に触れることになってしまったら……!

な、なんと言えばいいのか……
ああああもう頭が真っ白になってしまいました!!

言葉が喉から……出てこないんです……
あぁもう私はやっぱりドジなんです……


我の名を呼ぶその美しく柔らかい声のする方を振り向くとそこには……

この世のものとは思えないほどの美しい女性がそこにはいたのだ!


雷に打たれたような衝撃が脳天を、いや全身を駆け抜ける
胸がうるさいほどに高鳴り、血は沸騰したかのように体中が沸き立った

これを……恋と言わずしてなんと言うか…… それ以外の答えは我には分からなかった

恋など一度もしたことがない我であったがこれが恋なのだと直感した

だからこの思いを、届けなければならないと思った。 いやそうするべきなのだと魂が叫んでいたのだ!!



魔王「天使殿! いや、天使さん!!」

天使「へ!?」


おぉ、なんという美しさなんだ……

その驚いた顔、声ですら美しかった
碧色のその瞳で私を見つめてくれている
ただその事実ですら我には喜びであった
もっと見ていたい、もっとその美しい声を聞きたい、許されるならば……この手が触れるほどに近づきたい!!




………一体どれほど見つめていただろうか
一瞬のようであり、永遠のような幸福な時間の中で我は正気を取り戻した

早く次の言葉を紡がねば……天使さんを驚かせたまま何をしているんだ、これでは困らせてしまうだけではないか



魔王「貴様に一目惚れをした!!」



ぐぉぉぉぉ!!!
格好をつけすぎて貴様などという無礼な態度を取ってしまった!!
しかも無駄に低い声を使って……なんか恥ずかしいぃぃぃぃぃ!!



天使「……はい? え、今なんと……?」



うぉぉぉぉぉぉ聞かなかった振りをされてしまったぁぁぁぁぁぁ………
くっ……だが私は諦めるわけには行かぬ! この思いを伝え切るのだ!!
砕けてもこの心に悔いはない!!


魔王「いや、失礼した。 天使さん先の無礼な物言いをどうか許して頂きたい」

天使「は、はぁ……?」




魔王「天使さん。 あなたのその美しさの前にはどんな女も目を伏せ、男は心を奪われるでしょう」

天使「は、はい?」

魔王「……恥ずかしながら我もそのような下賎な男の1人」

天使「え、えと…… そんなこと、ないですよ?」

魔王「なんと…… 我のような者にまで優しいお声をかけてくださるのか」

魔王「天使さん、いえ貴女様は我……あぁいや! 私がすべての忠義を遣わすに相応しい御方…… どうか、私を貴女様の僕として、騎士として御元に置いて頂きたい!!」

天使「は、はぁ!?」

魔王「恋仲になろうなどと無粋なことは申しません! ただ貴女様の側で仕えさせていただきたいのです!!」

天使「ちょ、ちょっと待ってください! そんなの困り……



帝国術者「待つのだ魔王よ!!」

魔王「………はぁ?」

帝国術者「……貴様は我ら帝国軍によって召喚された化け物。 であるならば私たちの命に従うべき存在! 私の命に従え……

魔王「貴様ら…… よくも……よくも………」

帝国術者「……は?」

魔王「よくも天使様のお美しいお言葉の最中に、その汚らしい声を重ねたな……!!」

魔王「万死に値する!! 地獄の底で己の愚行を後悔するがいい!!」



今日は終わります

魔王……ダサくね


………………………………
……………………
…………


コンコン



騎士「……天使様!」

天使「はい、どうぞ~」

騎士「はっ! 失礼致します! 神国騎士団、第一部隊遊撃士! 騎士と申します!」

騎士「本日付けで天使様の近衛隊として……

天使「ふふっ……」

騎士「お側で…… あの、なにか?」チラッ

天使「あ、ごめんなさい! カチコチになるくらい緊張されてたものですから、おかしくて……」

騎士「い、いえ! お見苦しい姿を…… 失礼しました」

天使「そんな固くならないでください、騎士さん。 話は聞いてますから堅苦しいお話はもうお終いにしましょう」

騎士「は、はぁ……?」

天使「ふふ、すごい汗。 はい、これでお拭きになって下さい」スッ

騎士「は……はっ!? 受け取れません天使様のハンカチーフなど!」

天使「えーどうしてですか~! いいんですよ、遠慮なんかしなくて」

騎士「遠慮なんかではなくですね!」


ガヤガヤ…………




結局押し問答の末、騎士が折れハンカチで汗を拭う結果となった
……緊張と、ある意味の恐怖のために余計に汗をかいたのは秘密だ

天使がいるのは城の一室のひとつ
特別豪華絢爛というような部屋ではなく、白を基調にした大人しめな部屋だ。 かなりの広さがあり、キングサイズのベッドがあっても部屋の中で飛び跳ねられるくらいには大きな間取りだ

さらに台所などもあるらしく、我が主人たる天使様自らがお茶を入れると言ってきかず、コポコポと音を立てて紅茶を入れている


生活をするには不自由がない部屋だ
しかし逆を言えばこの部屋に押し込まれても生活が出来てしまうということ

事実上天使様はこの部屋に監禁されていた


先の襲撃があったお披露目会はおよそ一週間前。 それから、いやその前からこの部屋で暮らし続け、そしてこれからも暮らし続けるのだろう


個人的には気の毒だとは思う
しかしそれだけ天使様がこの国では大事にされているという証明であり危険から遠ざけたいという国の意向も分からなくはない





天使「お待たせしました」


銀の盆に乗せられたのは2つの白いカップ
その中には薄紅色の紅茶が注がれており、上品な香りが鼻腔に流れ込む


天使「はい、どうぞ~」


文字通り天使のように微笑む彼女に呆れにも似た不思議な感情が沸き上がる
仮にも一国の象徴ともなる御方がここまで親しげな態度でいいのだろうか?

本来は美徳であるはずのその世話焼きの性格も、時と場合、なにより権力の前では混乱を招いてしまう

この紅茶に口をつけても良い物かと思案していると、天使様が少し心配そうな色を瞳に浮かべ、おずおずと口を開く


天使「もしかして紅茶、お嫌いでしたか?」

騎士「いえ、そんなことは……」

天使「そうですか……? すいませんコーヒーは今魔王に買いに行ってもらっていて」


ここ最近、国の一番の問題となっている者の名を聞き、騎士は思わず顔を顰めた

あれから魔王は周囲の反対には耳を傾けようともせず天使様の側でお仕えしている

正体は帝国の召喚魔法により生み出された化け物。 ただそれだけの理由で最大級の警戒をしない理由はないだろう
もちろん国王を始め、軍のものも天使様の御付など! と、猛反対をしたが天使様が良いと言うのだからこちらもそれ以上深くは言えない

しかしその代わりの条件としてこの私、騎士を始めとした数人が魔王が危険な行動を取らないように監視するために遣わされたのだ。 もちろん天使様の身を守る役目もあるのだが

天使様のお近くの任務と緊張していたがそれもなんだかアホらしくなってしまう
これもまた天使様の御業だろうか




騎士「天使様……あれから魔王は何かおかしなことなどは……?」

天使「天使でいいですよ、様はちょっと嫌です」

騎士「し、しかし……」

天使「……お願い。 ね?」


こうなるともう天使様は引き下がらないということが、ハンカチーフのこともお茶のことからも分かった。 大人しく引き下がるのが吉だろう


騎士「……はい、分かりました天使」

天使「はい♪ えーと魔王ですか?」

騎士「はい、奴めは帝国により生み出された化け物です。 天使に忠誠を誓っているとはいえ信用なりません」

天使「そうですよね~。 でもとてもよくやってくれていますよ?」

騎士「……そうですか」

天使「彼に限って失礼なんてとんでもない! 魔王は以前いた世界の話や色々なことを話してくれます。 毎日がとても楽しいんですよ~♪」

騎士「以前いた世界……?」

天使「ええ。 なんでも彼は元々別の国で生活をしていたそうです…… そしてあの時こちらに召喚されたそうです」

騎士「……そんなことが?」

天使「……あるみたいですね」



ガチャッ!!

突如部屋のドアが勢い良く開け放たれる



魔王「帰ったぞ天使!」

天使「あ、おかえりなさい魔王」

騎士「!?」

魔王「コーヒーだ。 だが何を買えばいいのか分からなくてな、店主におすすめされるがまま全て買ってきた」

天使「まぁ! あはははすごいいっぱい買ってきましたね~」

魔王「うむ。 他にも新しい紅茶が入ったらしくてな、荷物が思っていたより多くなった。 仕方なく途中から浮遊魔法を使って浮かせて持って帰ってきた次第だ」

天使「さすが魔王ですね~! 私もそのように自由自在に魔法を使ってみたいものです」

騎士「って待て!!」

魔王「む?」

天使「んん?」

騎士「貴様、ノックもせずに天使様のお部屋に入られるとはどういうつもりだ!」

騎士「そしてその無礼な口の利き方はなんだ!!」

魔王「…………」ポカーン

魔王「天使、コイツは誰だ」

天使「ほら昨日話したじゃないですか? 軍の方が付いてくださると」

魔王「あぁ、そういえば言っていたな。 買うべきコーヒーのことで頭がいっぱいになってしまったぞ」

騎士「貴様ぁ! その口の利き方を改めろ!」チャキッ

天使「騎士さん!?」

騎士「魔王……お前は天使様のお側で仕えるには相応しくない」ギリッ

魔王「…………」スッ

天使「ダメですよ魔王!?」

魔王「分かっている」

騎士「……命までは取らん。 覚悟しろ魔王」




魔王「何か言ったか?」

騎士「……!?」


気がついたら魔王は目の前に立っており私の剣の刀身を指で掴んでいた

その動きのひとつすら知覚することは出来なかった
慌てて剣を握る手に力を入れても剣先はピクリとも動かず、思わず生唾を飲む

魔王「仕えるべき主の部屋で剣を抜く…… それこそ不敬に値するとは思わないか?」

騎士「……っ!」


目の前の圧倒的な化け物への恐怖
ただそれだけがわたしの心を支配し、言葉がうまく聞き取れない

決して殺気など放っておらずまるで動物に語りかけるようなその口調にすら圧倒される


魔王「私に刃を向けるということは天使の意向に背くということだ。 そのような者に天使の側にいる資格はない」

騎士「…………」パクパク

天使「まぁまぁ、魔王、落ち着いて?」

天使「騎士さん、驚かせてごめんなさい。 私が魔王に言ってノックはしないでいいって言ったんです」

天使「口調も、ずっと一緒にいるのに堅苦しかったら嫌ですしね」

騎士「そ、そうでしたか……」

天使「だから騎士さん、魔王は悪くないんです。 だから許してはいただけませんか?」ペコッ

騎士「そ、そんな! 頭を下げないでください天使!!」

天使「許して、頂けますか?」

騎士「勿論です! ですからそんな簡単に頭を下げないでください!」

天使「ふふ、よかった~」







天使「魔王、あなたにもごめんなさい」

魔王「む?」

天使「私の為を思って止めてくれたのでしょう?」

魔王「当たり前だろう。 私は天使と共にある」

天使「ふふ、あなたのその気持ち、嬉しいわ。 でも騎士さんのことも許してあげて欲しいの。 彼は悪くないと思うわ」

魔王「天使がそういうのなら私は何も言わないぞ」

天使「うん、ありがとう魔王」





天使「あー!!」

騎士「どうなさいました天使!?」

天使「魔王ー! このコーヒーのお豆……」

魔王「む?」

天使「お豆を挽く機械が必要なんですよこれ~」

魔王「? そんなものもないのか?」

天使「そうなんですよ~…… この国ではあらかじめ豆を挽いて粉にしたものを溶かして飲むのが主流になってるんです。 なかなかお豆からコーヒーを入れるのは…」

魔王「そのようなものがあるのか。 私の元いた世界とはかなり違いがあるようだ」

天使「これじゃあ飲めませんね~……」

魔王「ではもう一度、その豆を引いて粉にしたものを買いに行くか」

天使「うーんでもこれ勿体無いですし…… ええい豆引きを買ってしまいましょう!!」

魔王「ふむ? 買いに行くのはいいが私にはそれがどのようなものか分からんぞ? 従者が入れてくれていたから自分でやったことはなくてな」

天使「あ~……そうなんですか…… どうしましょう。 私も詳しくなくて…」

騎士「私もお力はなれそうには……」

魔王「ふん。 使えない奴だ」

騎士「なんだと……?」

天使「まぁまぁ! 落ち着いて、喧嘩はしないでください! ね?」


魔王「ふむ。 面倒だな」ガシッ

天使「……へ?」

魔王「共に行けば良いだろう、天使。 それで探せば良い」

騎士「なっ!? いけません天使!! 勝手に外に出ては!!」

天使「お外……行っていいんでしょうか……?」

魔王「私の力の前には誰も逆らえん。 天使は行きたくないのか?」

天使「……いきたい……行きたいです魔王!」

魔王「よし、ならばいくぞ」

天使「はい!」

騎士「なりません! 天使!」

天使「ごめんなさい騎士さん! 城の者になにか言われたら私のせいにしてくださいね?」



魔王がおもむろに部屋の大きな窓を開け放つ
風が吹き込み、カーテンが大きくはためき、天使の着ているワンピースの裾も同じようにハタハタと暴れる


魔王「飛ぶぞ」

天使「はいっ!」

騎士「天使! 天使ぃぃーーー!!!」



窓から飛び降りた天使と魔王は手を繋いだまま大きな翼を広げる

天使は真っ白な左翼
魔王は真っ黒な右翼を


まるでひとつの生命のように、タイミングを合わせ羽ばたく姿はただただ美しかった

恐らく今日は終わります

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