勇者「僕の日記?」商人「うん、早く出して」 (5)

勇者「読みたいの?」

商人「売りたいの」

勇者「え?」

商人「あなたが冒険に出てからずっと書き続けた日記。みんな読みたがると思うの」

商人「私が考え出した活版印刷でたくさん刷って、全国の本屋で販売するのよ」

勇者「はあ」

商人「利益は折半でいいわ。どう?」

勇者「どうと言われても」

王「ええんちゃう?」

勇者「え、なんで王様がここに!?」

王「どこにおっても儂の自由やろ」

商人「王様もこう言ってるんだし、日記を寄越しなさいよ」

勇者「・・・はあ、仕方ない」

商人「(ふふふ、上手く行った!!)」

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勇者「はい、どうぞ。汚さないでくれよ」

商人「もちろん丁重に扱うわよ」

王「儂は帰るか」

勇者「本当に、どうして王様がこんなところにいるんですか」





商人「これが勇者様の日記よ」

弟子「さ、さすがです姉さん!まさか交渉成立するなんて・・・」

商人「何?私が失敗すると思ってたの?」

弟子「そ、そんなことは!」

商人「ほら、早速作業に取り掛かるわよ」

商人「さっさと版を作っちゃわなきゃ。1週間後には印刷し始めるわよ」

弟子「はい!」

お隣さん「しょ、商人ちゃん!商人ちゃんは居るかい!!」

商人「どうしたの」

お隣さん「う、うちの女房が『生まれる!』って叫びだして・・・俺、どうしたら・・・」

商人「!!」

商人「弟子、悪いけど私が戻ってくるまで可能な限り作業を進めておいて」

弟子「え・・・」

商人「お隣さん、あなたは医者を呼んできて」

商人「私は奥さんの面倒見とくから」

お隣さん「ああ!」



弟子「進めると言われても・・・」




奥さん「うううううっ!!」

奥さん「うう、うううイタイイタイイタイ・・・」

商人「甘えたこと言うなよ奥さん。腹の中の赤ん坊は今、奥さんより辛い思いをしてるんだ」

商人「医者が来るまで辛抱して」



奥さん「辛抱・・・辛抱・・・っ!」

商人「(お医者さん、早く・・・)」

お隣さん「商人ちゃん!連れてきた!!」

商人「!」

医者「おお、よう耐えたねえ奥さん」



医者「こりゃ『逆子』だね」

お隣さん「そ、そんな」

医者「難産になるよ」

商人「・・・」



医者「力んで!」

奥さん「ふう、ふう・・・んっ・・・・!!」



お隣さん「やった!!生まれた!!!」

奥さん「よかった・・・無事に生まれてきて、くれた・・・」



奥さん「商人さん、お願いがあります」

商人「なんだい?」

奥さん「商人さんにこの子の名前を付けていただきたいんです」

商人「え!?わ、私が名づけるの!?」

お隣さん「夫婦で話し合って決めたんです。名づけは商人さんにしてもらおうって」

奥さん「商人さんのおかげでこの子が生まれてくることができたんです。どうか・・・」

商人「・・・分かった」

弟子「出産に2日かかり、名前を決めるのに1日かかり、出産パーティーに4日かかり」

商人「・・・」

弟子「それで今日ようやくご帰宅ですか」

弟子「出産パーティーってなんですか?」

商人「え、えっと。すごく難産だったの」

弟子「はい」

商人「でも奇跡的に奥さんも夜露死苦ちゃんも健康でね」

商人「よほど嬉しかったのか、お隣さんが『近所の人を呼んでパーティーしよう!』って」

弟子「そういえばどんちゃん騒ぎが聞こえてました。僕が一人黙々と仕事をしているときも」

商人「弟子も参加すればよかったのに」

弟子「1週間で印刷し始めるって言ったのは姉さんでしょ。姉さんと違って僕は『忙しかった』んです」

商人「・・・ごめんなさい」

弟子「・・・はあ、仕方ないですね」

商人「え?」

弟子「許します。もういいです」

商人「ありがとう!じゃあ早速印刷しちゃおう!」

弟子「変わり身速いな」

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