【艦これ】吹雪「鎮守府ぐらし!」 (135)


どうも、吹雪です。

ここに、私たちの鎮守府を襲った悲劇について、書き記そうと思います。

と言っても、生存者が少ないので不明な点が多いのですが。

それでもきっと、何かの役に立つと思いますので。

二度と同じことを繰り返さないためにも。





※タイトルは釣り。「がっこうぐらし!」とは関係ねえっす
※鬱・気狂い・バッド、デッドエンド


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443787888


ここは至って普通の鎮守府でした。

開放された海域を次々に攻略していき、戦力を増強。

季節ごとの大規模作戦では総力を挙げての大立ち回り。

日々の鍛錬を怠らず、開発や改修などの研究も発展させ、

時に厳しく、時に優しく、

私たち艦娘が海で闘うための"家"だったんです。


私たちは、艦種も違う、製造年も製造場所も違う、

性格も趣味も年齢も、なにもかもが違う個性あふれる艦娘たちですが、

一つ屋根の下、仲良く暮らしていました。

もちろん、海に出た時はみんなマジメです。

いつ艦隊が攻撃されるかわからない状況下、

敵のせん滅を第一に考え、

戦果を挙げることに執念を燃やします。

司令官の指揮の元に。


それは、何の前触れもなく訪れました。

平凡に平凡を掛けあわせたような、日常の1ページ。

前兆は、司令官が姿を消したことでした。


長門「見つかったか?」

大和「お車も停まったままでしたし、そんなに遠くへは行っていないと思うのですが」

赤城「偵察機も飛ばしていますが、いくつかは未帰還で……」

長門「未帰還? 熟練度最大値の二式艦偵がか?」


司令官のいない今、主力艦娘たちが中心となって捜索に当たっていました。

既に鎮守府内は総勢200名近い艦娘たちによって徹底的に調査してましたが、

結局、司令官の姿は見つかりませんでした。


洋上捜索隊がなんの成果も得られず帰還した頃、異変は起こりました。

気が付くとそこには、"壁"があったのです。

空から降ってきたでもなく、地面から生えてきたわけでもなく、

そこに元からあったかのように、"壁"が天高くそびえていました。

天高く。宇宙まで届くほど高く。


叢雲「なんなのよ……これ……」

吹雪「わ、わかんないよ……」


その"壁"は、私たちの鎮守府を中心にして全方向に存在していました。

それはまるで、捕虜を逃すまいとする収容所のように。


みんなが鎮守府の屋外へ出て"壁"を目視で確認していた時、

頭を上げてその高さに驚嘆していた時、

空から"文字"が降ってきました。


『本日よりブラウザゲーム《艦隊これくしょん -艦これ-》はサービスの大幅リニューアルを開始します』


その文字を読めない人は居なかったと思いますが、

誰もがその意味を理解できなかったと思います。


長門「ゲーム……だと……? いったい、どういうことだ……?」


そうして私たちの鎮守府ぐらしが始まったのです。


陸地と接している壁の根元を調査するため、長門さん指揮のもと先遣隊が編成されました。

旗艦(部隊長)由良さん、随伴は私、叢雲ちゃん、漣ちゃん、電ちゃん、五月雨ちゃんで編成されました。

陸上遠征任務は初めてでしたが、要領は同じです。


長門『――何かあったらすぐ連絡するように。敵の罠の可能性が高い』ザザッ

由良「了解です」

長門『――この無線がいつ妨害されるともわからん。その時の現場指揮は由良に任せる』ザザッ

由良「わかりました」


長門さんが、決して錬度が高すぎない、かといって低すぎない水雷戦隊を編成したのには、

今後のことを見据えた理由があったんだと思います。


鎮守府の裏にあった小高い丘を抜けると、そこには一面の畑が広がっていました。


漣「陸路を艤装と荷物背負って遠征とか、微妙にテンション下がるわ……」

由良「頑張って、漣ちゃん」

漣「おーっ、トマトはっけーん! いっただきー」

吹雪「だ、だめだよ漣ちゃん! ヒトの物を勝手に食べちゃ!」

叢雲「ヒトの物ってあんた、この畑の所有者が生きてると思うの?」

吹雪「そ、それは……」


そこはかつてのどかな農村が広がっていたはずなのですが、

まるで人の気配が無かったのです。


由良「ここは、まるで廃村ね……」


人が居なくなってしまった村の売店で私たちは休憩することにしました。

商品棚のいくつかにはカラスかたぬきにでも荒らされたような跡が残っていました。


叢雲「しばらく食料に困らなさそうなのは助かるわ」

電「か、勝手に食べちゃっていいのでしょうか……」

叢雲「いいのよ。仮に所有者が帰ってきたら緊急事態だったって説明して、損害賠償は全部赤レンガ持ちってことで」

五月雨「そういうことなら……ちょっと休んでもいいよね?」

由良「はぁ、水偵が飛ばせれば楽なんだけど、赤城さんみたいに未帰還になったら困るしなぁ」


ひたすら北に歩いて、私たちはついに壁の根元に到着しました。


五月雨「見上げると圧倒されますね……」

由良「取りあえず、一発撃ってみた方がいいよね?」

吹雪「そうですね。わざわざ艤装をつけてきましたし」

由良「それじゃ、火力全開で……てーぇ!」


由良さん自慢の主砲から弾が壁めがけて飛んでいきました。

ですが……当たった音も衝撃も無く、壁は全くの無傷だったのです。


叢雲「な、なんで……!?」

由良「そんな、砲撃が、消えた?」


それはまるで、壁に接触した瞬間、弾が消滅したような現象でした。


由良「何がどうなってるの……」


不思議に思った由良さんは手首の艤装を外し、弾が当たったはずの場所に手を伸ばします。

これが悲劇の始まりでした。


由良「……えっ、なに? 痛っ……い、痛いったら! きゃぁ!?」

電「ど、どうしたのです?」

漣「由良さん、右手が!!」


……由良さんの右手は、消滅していました。

"消滅"はゆっくりと腕を侵食していきました。


由良「な、なにこれ……!? いや、いやぁぁぁぁあああ!!!」

吹雪「漣ちゃん! 包帯を!」

漣「わ、わかった!」

五月雨「こちら先遣隊! 長門さん、大変です!」

長門『――どうした! なにがあった!』ザザッ

由良「痛いっ!! 腕が、焼ける……!!」


ふがいない随伴艦が慌てている間にも"消滅"は広がり、既に肘あたりまでが消滅していました。


長門『――すぐ医療班を送る。それまで耐えろ!』

吹雪「このままじゃ、由良さんが消えちゃう……!?」

由良「ひぃぃっ!! だ、誰か!! 誰か助けてぇ!!」

叢雲「……っ!!」

吹雪「む、叢雲ちゃん!? 何を……」

叢雲「腕を、切り落とすしかないでしょ!?」

吹雪「えっ!?」


叢雲ちゃんは艤装の剣を構えます。


由良「お願いっ!! いやっ、やめてっ!! 助けてっ!!」

叢雲「由良さん……私のことを恨んでもいい。でも、他に方法があると思えないッ!!」


ぐさっと。

切断された部分は消滅し、消滅の浸食は止まりました。


由良「あ……あ……」

叢雲「漣ッ!! 止血!!」

漣「う、うん!!」


長門「……敵の卑劣な攻撃を想定できなかった。すべて私の責任だ」


鎮守府に帰投した先遣隊は由良さんを救護室へ運んだ後、司令室にて状況の報告をしました。


長門「そうなると壁を上から超えるか、あるいは下からか……いや、洋上および海底調査の報告を待ってからか……」


長門さんは既に次の一手を考えているようでした。

私たちからの報告のおかげで、海へ出かけたチームは壁との接触を免れたみたいです。


長門「お前たちはよくやった。次の作戦に備えて英気を養うように。以上」

吹雪「はっ」


翌日、早速対壁調査隊が結成されました。


翔鶴「噴式艦載機でもアレを超えることは難しいかと……」

長門「難しいではない! やるしかないのだ!」

伊168「やっぱり、海底も全部壁だったわ。一応、潜水艦たちで穴を掘ってるけど」

長門「陸上掘削部隊の進捗は」

大淀「現在深さ100m幅200m以上を掘り返していますが、未だ途切れる様子がないとのことです」

陸奥「電話線も電波もダメね。まるで外部と連絡が取れない」

長門「これが敵の新兵器だとすると、非常に厄介だぞ……」

長門「我々は閉じ込められてしまったというのか……!!」


しかし、陸海空、どれも芳しい成果は得られず、鎮守府内に緊張が走ります。

これからどうなってしまうのだろうと。

あの文字に書かれていた、"ゲーム"とは何なのかと。

流言飛語まで飛び交い、司令官の居ない鎮守府はあっけなくバラバラになってしまいました。


その日のうちに調査隊から上がってきたデータが公表されました。

壁の正体は不明。大和さん自慢の巨砲でも傷一つ付けることができないとのこと。

どんな物体であろうとも壁に衝突すると消滅してしまいます。

穴掘り部隊以外は壁への接近を禁じられました。

壁の高さは計算上約15km。いわゆる対流圏界面までそびえているとのこと。

壁の深さは現在調査中で、海底、陸上側と同時に掘削が進んでいます。

壁の半径は約10km、一周約60kmに渡って綺麗な円状に設置されているとのこと。

海側にも一切の切れ目はありませんでした。


長門「みんな、緊急招集への応答、感謝する」


壁が出現してから三日後、長門さんが全員を訓練場へと集合させました。


長門「此度の異変について、皆それぞれに聞き及んでいると思う」

長門「状況がつかめず、混乱している者も多いと聞いた」

長門「しかし、目下我々の目標は以下の二点に絞られる」

長門「一つ、あの壁の突破」

長門「一つ、提督の発見」

長門「今後、この鎮守府では以上の二点のみを目標とし生活してほしい」

長門「なお、今後の作戦指揮は長門が執り行う。意見の有る者は速やかに挙手するように」

陸奥「はぁい」

長門「……今はふざけている場合ではないのだが」


陸奥「長門が作戦指揮をするのは今までもあったから別にいいんだけど」

陸奥「鎮守府での生活を仕切る人がいないといけないと思うのよね」

陸奥「みんな、誰がいいと思う?」


そう言えば、考えたこともありませんでした。

私たちは今までずっと提督の作ったルーティンに従って生活をしてきたので、

新しい生活のルールを作る必要性があると、この時初めて気づかされたのです。


雪風「雪風は間宮さんがいいです!」

陸奥「あら、それはどうして?」

雪風「間宮さんなら、ご褒美としてアイスをもらえるのではないかと!」

間宮「材料も限界があるからねぇ……」


武蔵「やはりここは帝国の秘密兵器、大和だろう」

長門「大和には対壁調査に出陣してもらわねばならん」

瑞鶴「加賀さんだけは絶対反対です」

加賀「五航戦の子たちには任せられません」

那珂「那珂ちゃんなら、みんなを元気にしてあげられるよー☆」


吹雪「なんだか選挙公約みたいになってきちゃったね」

叢雲「それこそあんたが立候補しなさいよ。特型駆逐艦のネームシップでしょうが」

吹雪「い、いやいや……」


結局、議論をする時間がもったいないということで、

生活指揮は言い出しっぺの陸奥さんに決まりました。

こうして新しい秩序の元、新生活が始まりました。

と言っても、以前と変わったところはそんなに多くありません。

起床、食事、訓練、入浴、就寝……基本的なところは今まで通りの生活です。

ただ、演習や出撃が無くなったのは大きな違いでした。

資材もそれなりに蓄えがあるとは言え、壁外から入手することはできないので、

実弾の対壁調査目的以外での使用は原則禁止となりました。

食料や水は、遠征隊を結成しては廃村となった村々から輸送したり、

畑の野菜を収穫したり、新しい種を植えたり、

また、井戸を見つけてはドラム缶に水を汲んで鎮守府へと持ち帰りました。

と言っても、二百人近くが長期間生活するには節約をしなければなりません。

一航戦の先輩方は『おかわり禁止令』に唇を噛みしめていましたが、

秋月さん辺りはむしろ慣れているような感じでした。


それは、壁内生活七日目にして起こりました。


川内「やーせーん!! やーせーんーがーしーたーい!!」

神通「すいません、うちの姉が……」

加賀「いい加減頭に来ました。毎晩毎晩、ただでさえ極限状態の鎮守府で隊の和を乱すとは」

川内「やーせーんーがーしーたーいーのー!!」

陸奥「あらあら、どうしましょう」

那智「独房にぶち込んだ方がいいのではないか」


平時なら冗談のようなやりとりですが、実際私たちは演習も含め一週間も会敵していないのです。

生活のペースが乱されればストレスが溜まるのも仕方ありません。

そもそも私たちは『艦娘』です。兵器なのです。

言ってしまえば、敵と戦うことは本能に近いところがあるのです。


ビス「このままでは規律が緩んでしまうわ。私、ビスマルクが直々に手合いとなりましょう」

川内「ホント!? 夜戦してくれるの!?」

ビス「二度とその減らず口が聞けなくなるまで、徹底的にね」ギロッ

プリ「ビスマルク姉さま、何も自分も戦いたくてうずうずしてるからって、軽巡相手にそんな……」

川内「うるさいなー、まとめて相手にしてあげよっか? ドイツ艦」

プリ「ハラタ・ツー!」

ビス「陸奥。実弾使用の許可を申請する」

陸奥「もう……あんまり無茶はしないでね」


今思えば、どうしてこんな簡単なことに気付けなかったのだろうと後悔しています。

ですが、私たちは艦娘。人間じゃありません。

結局、司令官が人間であることの重要さを思い知らされる結果となりました。


長良「がんばれ川内ーっ! 負けるなーっ!」

最上「いっけぇー!」

足柄「勝利へゴーよ!」

阿賀野「どっちもがんばってー!」

青葉「さぁ会場のテンションは最高潮です! 世紀の夜戦王対決、勝つのはどっちだーっ!?」


いつの間にか鎮守府正面海域はお祭り騒ぎとなっていました。

この異常事態に抑圧され続けた自分を開放して、

久しぶりに私たちの日常である"戦闘"が味わえるのです。

普段はおとなしい艦娘たちも宿舎から顔を覗かせていました。


川内「やっせん、やっせん♪」

ビス「全く、とんだ見世物になってしまったようね。一瞬でケリをつけてあげるわ」

川内「えー、もったいないからじっくりやろうよー」

ビス「その口を閉じてもらえるかしらっ!!」

ドォーン!!

青葉「おーっと先手を打ったのはビスマルクだーっ! 正面へと叩き込んだーっ!」

川内「直線的な攻撃しかできないの?」

青葉「川内、交わして魚雷の波状攻撃だーっ! 回避できるか!?」

ビス「こんなものっ」

ドォーン!!

青葉「う、受け止めたーっ! その耐久性にモノを言わせて魚雷を受け止めました!」


ビス「そこッ!」

川内「いぃッ!?」

ドォーン!!

青葉「予測射撃! この暗闇の中で前後左右に動く川内を確実に捕えたー!」

ビス「甘く見ないで!」

川内「ふぁぁぁあぁ!」

青葉「右舷に直撃ーっ! 一発大破です! さすがビスマルクの高火力!」

プリ「姉さま~!! 素敵です~!!」

川内「いやー、参ったなー。久しぶり過ぎてなまってたかも」

青葉「この勝負、戦艦ビスマルクのしょうり……ちょ、ちょっと!?」

叢雲「な、なにしてんのよあいつ!」

吹雪「ビスマルクさん!?」


ビスマルク「…………」ガチャ

川内「ちょ、ちょっと。悪かったよ、喧嘩吹っかけて。謝るから、その主砲、どけてよ」

ビスマルク「……イイノヨ、モットホメテモ」

川内「っ!?」ゾワッ

ビスマルク「"Feuer!"」

ドォーン!!


『一切ノ私闘ヲ禁ズ。違反者ハ独房ニテ隔離   臨時指揮官 長門』


悲劇の一夜があけて、掲示板に追加の命令が貼り出されました。

昨日の件ですが、ビスマルクさんはお咎め無し。

当人たちが極限状態であったこと、そして鎮守府の規律が甘かった事実を考慮して、

陸奥さんが責任を取ることになりました。一週間の謹慎です。

一方ビスマルクさんはこの時、いつも通りプリンツさんと食堂でお食事をとられていました。

川内さんは……軽巡の皆さんの手によって手厚く葬られたと聞いています。


吹雪「まさか、あんなことになるなんて……」

五月雨「仕方ないよ……私たち、いつも深海棲艦を轟沈させてたんだもん」

漣「ご主人様が居ないだけでこうも歯止めが効かないなんてね……」


どのテーブルも暗い雰囲気での食事となっていました。


ビス「……ごちそうさま」

プリ「あ、姉さま! 私が食器を片付けてきます」

ビス「い、いいわよ。自分でやるから……」

ローマ「おっと」ドンッ

ビス「くっ!」

ドンガラガッシャーン

ビス「…………」

ローマ「どこに目がついてるのかしら、ドイツ艦」

プリ「ちょ、ちょっと何するんですか!」

ローマ「これだから仲間を殺すしか能が無いドイツ艦は」

プリ「このっ!」

ビス「待て、プリンツ・オイゲン。規律を守れ」

プリ「ぐっ……」


摩耶「おい、さっきからうるせーぞ。ドイツ艦は静かに飯も食えねえのか」

ビス「……ごめんなさい。すぐ片付けるわ」

鳥海「ちょっと摩耶! ちょっかい出すと今度はあなたが標的に……あ、いえ、なんでもないです……」

ビス「……すまない」

神通「誰に謝ってるんですか。許してもらえると思ってるんですか」

ビス「っ!!」

那珂「ヒィッ! こ、怖い顔しないでー! スマイルスマイルー……」

ビス「……失礼する」


私たち駆逐艦には、どうすることもできませんでした。

レーベさんもマックスさんもだいぶ参っていたようです。


Z1「……ごちそうさま」

Z3「…………」


ドイツ艦は怖い、というよくわからないイメージが鎮守府を支配していて、

二人に話しかける駆逐艦はいつの間にか居なくなっていました。


叢雲「はい、由良さん。あーん」

由良「なんだか恥ずかしいな。ありがとう」

叢雲「……左手を使うのに慣れるまでだからね。ほら、あーん!」

由良「あーん。うん、おいしい」

叢雲「別に、喜ばれても嬉しくないわよ」

由良「うふふ、そうね」


叢雲ちゃんは由良さんに付きっ切りになっていました。

自責の念があったのでしょう。

以下に記す三行は後で叢雲ちゃんに聞いた話ですが、


叢雲「私はね、不謹慎だけど、由良さんの手伝いが出来ることで自分の存在意義を見出せたんだと思う」

叢雲「だからわりと平常心を保っていられた」

叢雲「司令官が居ない今、誰かのために行動するっていうのは、すごい大切だと思うの」


なるほど、と納得してしまいました。

いつものつんけんした態度じゃなくなってたのには、そんな理由があったんだなぁと。

私も、誰かのために行動できてたのかな……。


鬼怒「ほら、由良! もうごちそうさましよう! 叢雲ちゃん、後は鬼怒たちが面倒見るから!」

阿武隈「……駆逐艦、うざい」ボソッ

叢雲「あっ……」

由良「もう、二人して叢雲ちゃんをいじめないの。じゃあ、またね」

叢雲「は、はい」

阿武隈「……阿武隈だってわかってるよ。叢雲ちゃんが由良を助けてくれたんだって」

叢雲「…………」

阿武隈「でもね、あんたが由良をあんなにしちゃったのも事実だから」

叢雲「……はい」

阿武隈「あんまり阿武隈たちの周りをうろうろしないで欲しいの。心が苦しくなるから」

叢雲「……はい」


川内さんが亡くなった翌日。

鎮守府の雰囲気を一掃しようと思ったのか、長門さんが大胆な作戦を立案しました。


長門「――このようにして、あの壁を空から超えるのだ」

長門「もちろん、空母および航空隊には全力以上の力を発揮してもらわねばならない」

長門「故に何が起こるかわからない。手の空いている者は緊急時のサポートに回れ」


鎮守府内はにわかに色めき立ちました。

とてもじゃありませんが、長門さんの作戦は常軌を逸したものでした。

しかし、私たちの多くはこの作戦に希望を見出していたんです。

これならいける、と。

私たちならやれる、と。


速吸さんまでも含めた、艦載機を飛ばす能力のある艦娘たちが丘の上の平原に集められました。

救護班、消火班、補給班と、サポート隊も準備万端です。

作戦は簡単に言うと、多段ロケット作戦、という感じです。

まず、私たちの鎮守府で最も錬度の高い軽空母である龍驤さんが艦娘櫓の頂点に。

櫓側には、軽空母の皆さんがスタンバイします。

そして、その軽空母櫓を他の航空母艦、航空巡洋艦さんたちの力で空へと飛ばします。

行けるところまで飛んだ櫓は、全力で龍驤さんを上空へ飛ばし、

最後に龍驤さんが二式艦偵を飛ばす、という作戦です。


長門「確かに上空へ行けば揚力が減り、通常の艦載機であれば物理的に飛行不可能となるだろう」

長門「だが、私たちは艦娘だ! 通常兵器では推し量れない能力を発揮することができる!」

長門「今こそ! 我らが鎮守府の総力を結集し、敵の卑劣なる攻撃を乗り越える時だ!」


長門さんに促されるようにして、集合した艦娘たちがそれぞれに鬨の声を上げました。


龍驤「みんなー! 準備はえーなー!?」

隼鷹「へへっ、隼鷹様に任せとけってんだ!」

日向「やはり航空戦艦の時代か……」


昨日とはうってかわって、皆さんが輝いているように見えました。

やっぱり私たちはこうした作戦行動が好きなんだなぁと実感します。



長門「第一弾航空隊、発艦、始め!!」

赤城「南雲機動部隊、出撃します!」

天城「第六○一航空隊、発艦始め!」

飛龍「友永隊、頼んだわよ!」

大鳳「流星、烈風、本当の力を見せてあげて!」


とんでもない数の艦載機が空へと放たれます。

そして艦載機のパラシュートに結び付けられた軽空母櫓が引っ張り上げられます。

どうやら飛鷹さんや隼鷹さんの能力? でバランスを取っているようです。


<上空>

隼鷹「ひゅー! 自分たちが飛ぶなんて、たまんねぇな!」

祥鳳「冗談言ってないで、精神統一してください!」


<地上>

利根「すまん、ここまでのようじゃ!」

長門「わかった! 主砲、発射!」

ドーン!!


<地空>

ドーン!!

龍鳳「長門さんからの合図です! 切り離し行きます!」

飛鷹「頼んだわよ、龍驤!」

龍驤「任しときー! やったるでー!」


<地上>

大淀「切り離し成功! 第二段階突入! 航空隊、順次帰還します!」

伊勢「艦娘の無事を第一に! 落下してくる軽空母隊を捉えて!」

筑摩「すでに富士山より高くまで飛んでますね……」

長門「頼んだぞ、龍驤……!!」


<上空>

龍驤「みんなの艦載機に乗ってるっちゅうんは、不思議なもんやなぁ……」

龍驤「うう、さぶっ。厚着できひんのはわかっとるけど、えらいなぁ」

龍驤「こっからは地上との連絡も取れへんし、ちょっとしたミスが命取りやわ」

龍驤「……酸素、薄なってきたなぁ。ちょっちピンチすぎや……」

龍驤「……瑞鳳の艦載機が止まりよった。ここまで、やな」

龍驤「……女龍驤! 艦娘の華、咲かして見せたるわ!」

龍驤「さぁ仕切るで! 偵察隊、発進!」


<地上>

大淀「切り離し成功! 第三段階突入! 航空隊、順次帰還します!

伊勢「軽空母隊の被害状況は軽微、全員生還!」

筑摩「地上10km突破! あと5kmです!」

長門「行けるか、龍驤……!」

筑摩「ああっ、そんな!!」

長門「ど、どうした筑摩!」

筑摩「偵察機、消滅! 見えない壁によって消滅しました!」

長門「そん……な……」

伊勢「龍驤の着地準備急げ!」

筑摩「だ、だめです! 高高度にて意識を喪失した模様!」

伊勢「なんだって!?」

長門「……緊急着地だ! 残った艦載機による空中での捕縛、その後減速!」

長門「マット持ってこい! 救護班も周囲に待機!」

吹雪「は、はい!」

伊勢「だめだ、意識を失った艦娘と艦載機を結び付けることができない!」

長門「な、なんだと!?」


ドォォォン……



長門「きゅ、救護班! 何をしている! 早く龍驤の手当てを!」

金剛「お、落ち着くデース。どう考えたって、これは……」

長門「どうした!? どうして龍驤を助けない!? 貴様ら、私に刃向うというのか!!」

武蔵「落ち着け長門!! 現実を見ろ!!」

長門「わ、私は悪くない……私は……」


土煙がおさまり、その全貌を現した時、

その場に居た私たちは、ただ絶望するしかありませんでした。

そこにあったのは、まるで、潰れたトマト。

落下地点に土をかぶせて、龍驤さんのお墓が建てられることになりました。

こんな時、人間の提督さんが居てくれたら、

もっと人間らしいやり方ができたんじゃないかと思います。

ごめんss速報vipのルールよくわかってないんだけど、
このスレhtml化して別日にもう一度上げるべき?
それともこのまま投下してもいいの?

>>57
荒らしに関しては運営に報告してそのまま無視するのが一番

>>64
はーい


翌日。

長門さんは自ら臨時指揮官の座を降りることになりました。

自分の立案した無謀な作戦に龍驤さんを巻き込んでしまったのだと言って、

精神的に参ってしまったようです。

代わりに武蔵さんがその座につくことになりました。

鎮守府の雰囲気は昨日活気を取り戻していたせいもあってか、

誰もが口数を少なくして、

どうしようもない絶望と不安とに押しつぶされていました。


そんな中、事件は起きました。


プリ「い、いやぁぁぁあああっ!!!」


第一発見者はプリンツさん。その悲鳴が宿舎に響き渡りました。


武蔵「どうした!?……なぁっ!?」


場所はビスマルクさんの個室。

そこには、全身を十字に斬られた、ビスマルクさんの遺体があったそうです。


武蔵「一体誰がこんな真似を……!」


武蔵さんはこの一件を内密に処理しようとしましたが、何分噂好きの艦娘たちばかりの鎮守府です。

二番目の殺人事件が起きた、という話が瞬く間に広がりました。

"二番目と来たら次は"……誰もが何者かに殺されてしまう恐怖におびえていました。

疑心暗鬼というやつです。


鬼怒「叢雲!! もう頭に来た!! 二度と由良に近づかないでよね!!」

叢雲「……チッ」

阿武隈「なによ。なにか文句あるの?」

叢雲「……ないです」

由良「……ごめんね、叢雲ちゃん」

鬼怒「人の腕を平気で切り落とすようなやつと一緒に居たくないの!! わかる!?」

叢雲「……平気な……わけが……」

阿武隈「なにかいった?」

叢雲「……いえ、別に」


武蔵さんはどうやら捜査チームを結成していたようです。

私も一応アリバイを聞かれましたが、駆逐艦はそもそも体格差から考えてシロ、という話でした。

そうして誰もが犯人におびえる夜を過ごした次の日、意外にもあっさりと犯人は逮捕されました。


あきつ丸「じ、自分は正義のためにやったのであります! 悪いのはすべてビスマルク殿なのであります!」


詳しい状況はさすがに教えてもらえませんでしたが、あきつ丸さんがポン刀でビスマルクさんを斬殺したそうです。

犯人が逮捕されて、みんなは安心しました。

それになんだか納得してしまったのです。

陸軍なら暗殺くらいやりかねない、と。

殺人犯が海軍の者じゃなくて良かった、と。


武蔵「最後に言い残すことはあるか」

日向「…………」

伊勢「…………」

あきつ丸「その錆びついた刀をどけるのであります」


その日のうちに訓練場には処刑台が用意されました。

あきつ丸さんには両手首と首を拘束する枷が嵌められ、

伊勢さんと日向さんが左右から刀を振り下ろす準備、

そしてあきつ丸さんの顔の真下には、落ちた首を入れるためのバケツが置かれていました。

処刑人が二人なのは、どちらが切ったかわからないようにするための処置でしょう。


みんなは、自分たちの容赦がなくなっていることにすら気づいていないようでした。

誰もが、これで安心して眠れるのだと。

そう、信じていました。

いえ、信じ込もうと努力をしていたのです。


あきつ丸「そもそも! 二百人近く居る艦娘が何か月もこの閉鎖空間で生活できるわけがないのであります!」

あきつ丸「であれば! 口減らしをしなければならないのは当然の帰結であります!」

あきつ丸「まず最初に処断しなければならないのは、隊の空気を乱した悪人であります!」

あきつ丸「裏切者、仲間殺しのドイツ艦であります! 同盟国の恥さらしであります!」

あきつ丸「自分は、自分の正義を貫いたのであります!」

あきつ丸「ここに居る全員が、自分を処刑したことをいつか後悔するはずであります!」

あきつ丸「あきつ丸の判断は正しかったのだと! 間違っていなかったのだと!」

あきつ丸「そう気付いた時にはもう遅いのであります!」

あきつ丸「いずれあっちの世界へやってくるみんなを、自分は死んで恨み続けるのであります!」


最後の方は半狂乱になっていて……自分でも何を言っているのかわかってない状態だったと思います。


武蔵「やれ」

伊勢「……っ!!」

日向「…………」

あきつ丸「あは、あははは!! 思い知るがいいのでありま」


すぱっと。

そしてぼとっと。

あきつ丸さんの首は、そのままバケツに落ちました。

たぶん、たぶんですが、普通ならこんな状況は異常です。

こんな光景、顔をそむけるのが普通でしょう。

ですが、私はハッキリと聞いたのです。

どこからか、よしっ、とつぶやく声がするのを。


不思議とその日の鎮守府は落ち着いていました。

夕食も、お風呂も、みんながそれなりに会話を楽しんでいました。

遠く消え去ってしまった日常の一片を垣間見たような気がしました。

そして、私を始め多くの艦娘がぐっすりと眠れたのです。

その原因は達成感でしょう。

悪は去ったのだと。そういう実感を得ることができました。

もちろん、冷静に考えてみれば何一つ解決していません。

それに、あきつ丸さんが言っていた食料問題もあります。

本当は、私たちには行動指針もなにもなく、

仮初の安穏を手に入れただけなのです。


翌日、天龍さんが食堂で言い放ちました。


天龍「なぁ、みんな。ちょっと聞いてほしいんだが」

武蔵「私語は慎め」

天龍「すぐ終わるからさ、いいだろ?」


私はこの時、昨日聞いた『よしっ』という声の主が天龍さんだったことに気付きました。


天龍「昨日のあきつ丸が言ってたことはもっともだ。今俺たちが食ってる飯でさえ、そのうち奪い合わなきゃならなくなるかもしれねぇ」


その言葉に、その場に居た全員が凍り付きました。

いずれ、今当たり前のように食べているご飯が食べられなくなる事実。

そして、ご飯を食べるためには仲間を殺さなければならない事実。

冷静になってみればそんな事実はありませんし、いくらでも事前の対策が打てるはずのものです。

ですが、二度の殺人と一度の処刑を目の当たりにした私たちには、もはや冷静に判断する能力がありませんでした。


天龍「それにだ。俺たち艦娘は兵器だ。日常的に戦うようプログラムされてる」


それはここに居た誰もが気付き始めていたことでした。

まだ二週間も経っていないはずでしたが、もう何年も戦闘を行っていない気がしていたのです。

この私でさえ。

戦いたくて仕方ない。沈めたくてうずうずしている。

だけど、川内さんの一件が私たちにブレーキをかけていたのです。

ですが、昨日私たちは公開処刑を目撃してしまった。

久しぶりの、命を奪う感覚だったのです。


天龍「飯は食いてえ。人は殺してえ。だったら話は簡単だ」

天龍「俺たちでさぁ、戦争を始めればいいんだよ。最後の一人が残るまで」

武蔵「何をバカな……」


本当に、何をバカなと思うような話でした。

そのはずだったのですが……。


龍田「天龍ちゃんがそう言うなら、私は賛成だわ~」

天龍「そうこなくっちゃ!」


龍田さんがサクラだったのかはわかりませんが、しかしこれがみんなの理性のダムを崩壊させたのです。


夕張「あ、私もちょっと試したい装備があるかも……」

天龍「おうおう、どんどんぶっぱなしてくれ!」

舞風「舞風も踊りたくて仕方なかったんだよねーっ!」

武蔵「貴様らッ!! 静かにしろッ!!」


武蔵さんの一喝もむなしく。


伊19「イクの魚雷がうずうずしてるの!」

長波「寄せ集め軍団、最高!」

鈴谷「さぁさぁエンジン温まってまいりましたぁ!」


話は加速度的に盛り上がって行ってしまいました。


大和「まぁまぁ、轟沈を出さなければいいだけじゃない?」

武蔵「そうは言っても、深海棲艦が攻めてきた時に実弾がありませんでは話にならん」

イタリア「でも、深海棲艦が攻めてこれるならこちらも物資の調達が可能になってるのでは?」

武蔵「……また、ビスマルクのような悲劇を生み出さんとも限らん」

大淀「ですが、どこかでガス抜きしなければ、またあきつ丸さんのような者が現れるかと」

比叡「そもそも、この状況を打開する策でもあるんですか?」

武蔵「そ、それはだな……」


気が付くと食堂の一角が臨時の作戦司令部になっていました。

武蔵さんも、長門さんも、大変な立場だったんだなぁと思い知らされます。


武蔵「わ、わかった。多数決で決めよう」

武蔵「模擬戦闘の解禁について、その是非を全員に問いたい」


結果は開票するまでもありませんでした。

むしろ反対票を入れたのは初雪ちゃんや望月ちゃん、そして川内型の神通さんと那珂ちゃんくらいで、

それ以外のほとんどは賛成票を投じたようです。

司令部が議論を重ねた結果、鎮守府を東軍、西軍の二軍に分けて、

毎日模擬戦闘を実施することになりました。

但し、川内さんを轟沈させたビスマルクさんに対しての不当な扱いがあったことを考慮して、

『万ガ一敵軍ヲ轟沈セシメタ場合、実行者ハ如何ナル不当ナ扱イヲモ受ケナイ』

というルールが決められました。

言ってしまえば、沈んだ方が悪い、沈めた方は悪くない、というルールです。

このルールが仇となりました。

結局、私たちの鎮守府は一日も経たずして殺し合い生活へと突入してしまったのです。


如月「如月のこと……忘れないでね……」

睦月「如月ちゃん!! 嫌だ、沈まないで!!」

木曽「……すまない。沈めるつもりはなかった」

睦月「よくも……よくも如月ちゃんをッ!!」

ドォォォン

木曽「ッ!?」

高雄「ぼーっとしてないで!」

木曽「あ、あぁ。助かった」

高雄「……大丈夫よ、誰もあなたを責めたりしないわ」

木曽「頭の中ではわかってるつもりだが……くそっ」

矢矧「よくやったわ! これで夜戦に突入しても安心ね!」

高雄「今日は木曽がMVPかもね」

木曽「…………」


悪法が施行されてから一週間。

と言っても、それが悪法だと気付くことになるのはもっともっと先の話ですが。


天龍「よっしゃぁ! 多摩の首を取ったぜ!」

球磨「全く、姉として恥ずかしい限りだクマ」

五十鈴「今日のMVPは天龍ね。五十鈴も負けてられないわ!」

天龍「たりめーだろ! 俺が一番強いんだからよ!」


そこには文字通り多摩さんの首……切断された頭部を右手に掲げて酒をあおる天龍さんの姿がありました。

最初はビスマルクさん同様事故のようなものでした。本能に身を任せ艦娘を轟沈させてしまうという事故。

如月ちゃん、睦月ちゃんが轟沈してしまったあたりから、みんなはおかしくなりました。

沈めた者を責めてはいけない、というルールが、沈めた者をMVPとする、という話にいつの間にかすり替わっていたのです。

そこにはもう、人間らしさの欠片もありませんでした。

独房から復帰した陸奥さんが戻っても、もうこの流れを止めることはできなかったのです。


東軍西軍ともに、毎晩『誰を沈めた』の自慢話で宴が開かれました。

あっちで妙高さんが初風ちゃんの首を切り落としたと思ったら、

こっちで電ちゃんが深雪ちゃんの首を切断していて、

そんな話を酒の肴にしてみんなで夜遅くまで楽しく騒ぐんです。

私たちは、イキイキとした鎮守府を取り戻したんです。

敵を沈める喜びを取り戻したんです。

たとえそれが、今まで仲間だった者だったとしても。

それを葬る喜びは、何物にも代えがたかったのです。

狂気。

もちろん、私はこうやって文章化しているくらいですから、この状況が狂気であることに気付いてはいました。

私以外の何人かも。

ですが、集団心理というのは恐ろしいもので、狂気であるとわかっていても、

それに異を唱えればそっちが正常と言う名の異常になってしまうのです。


吹雪「あの、電ちゃん……」

電「い、電は悪くないのです! 電の体当たりを避けなかった深雪ちゃんがいけないのです!」

吹雪「……悔しいけど、電ちゃんを責めるつもりはないよ」

吹雪「そうじゃなくて……あなたは気付いてる?」

電「な、なにをですか?」

吹雪「その、この状況が異常だってこと」

電「……やっぱり、そうです、よね。司令官さんが居なくなってから、みんなおかしくなっちゃったのです」

電「なるべくなら、戦いたくはないのです……」

吹雪「よ、よかった。ううん、気付いてくれてればたぶん、大丈夫だと思う」

吹雪「みんな、雰囲気に飲まれてるだけだから。きっとそのうち目を覚ますと思うよ」

電「で、でも、電には、そんなことを冷静に話す……」

電「吹雪ちゃんも狂ってるように思うのです……」

吹雪「う、うん……」


そう。

この狂気の中で正常で居ようとすること。

自分が正常であろうと努力すること。

それ自体がすでに狂気だったのです。

そう言った、狂気の中の狂気にやられた艦娘も何人か居ました。

北上さんの遺体を抱きながら眠る大井さん。

山城さんと共に壁に消えていった扶桑さん。

千歳さんの亡骸を傀儡のように操る千代田さん。

集団生活から逃げ出すことはここでは不可能です。

まともになろうとするならば、狂気の中の狂気を受け入れるしかなかったのです。


鬼怒「阿武隈ァァ! 食らえェェ!」

阿武隈「よっと! 鬼怒の攻撃なんて、当たるわけないんだから!」

阿武隈「由良をやったくらいでいい気にならないでよね!」

ドォォォン

阿武隈「ねっ! これで鬼怒に勝ったわ!」

阿武隈「えっと、艦首はどこかな……」

叢雲「……許さない」

阿武隈「ひぇ、な、なに……」

ドォォォン

叢雲「……邪魔よ、沈みなさい」


二百人近く居た鎮守府の艦娘たちは、今や東軍西軍ともに六人、合わせて十二人にまで減っていました。

東軍には、飛龍さん、古鷹さん、電ちゃん、雷ちゃん、明石さん、五月雨ちゃん。

西軍には、葛城さん、大淀さん、私、叢雲ちゃん、漣ちゃん、巻雲ちゃん。

最後に残った十二人。

そこには戦闘狂と称されるようにまでになっていた天龍さんの姿も、

陸奥さん、武蔵さん、大和さんのような大戦艦の姿も、

間宮さん、伊良湖さんの姿もありませんでした。


古鷹「うぅ……加古……加古ぉぉぉ……」

葛城「これで最後の戦闘にしよう。全滅するまで戦うことに意味は無いよ」

飛龍「……私はもう、大破してるから、頭数に入れないで」

明石「ごめんなさい、飛龍さん……私の力で直せなくて」

吹雪「どうしても、やらなきゃいけないんですか」

大淀「わからない。もうわからないけど、でも、やらなきゃいけない気がするの」


司令官が消えてから三か月。

私たちが戦う理由などとうに無くなっていたんです。

戦うことこそが私たちの生きる理由になっていたんです。

最後の戦闘は、あまり見栄えのするものではなかったので簡単に書きますね。

まず、飛龍さんが巻雲ちゃんに雷撃で沈められます。

その後、巻雲ちゃんは正気を取り戻したせいで海の彼方へ消えていきました。

多分、壁にあたって消滅したんだと思います。

戦意喪失していた古鷹さんと、電ちゃんを庇った雷ちゃんが葛城さんの手によって轟沈、

艦載機を全て使い果たした葛城さんは、五月雨ちゃんたちの雷撃で轟沈。

ここで日が暮れました。夜戦に突入する燃料を誰も持っていませんでした。

残ったのは、私、叢雲ちゃん、五月雨ちゃん、電ちゃん、漣ちゃん、大淀さん、明石さんの七人でした。

これが昨日の出来事でした。ここで一旦報告を終了します。

明日からは日記形式になりますね。


・・・


電「あの……今日は駆逐艦の電たち五人で一緒に寝ませんか」

漣「いいねー、漣は賛成」

五月雨「そうだね。最後の戦闘を生き延びた同士として」

叢雲「そんな堅苦しいのじゃなくていいわよ。とにかくもう、疲れたわ……」

吹雪「ようやく安心して眠れるね……」


誰を沈めた、誰の首を取ったという話が日常的に繰り広げられた鎮守府は、

今日をもって終了となるんです。

私はこの四人の命を奪う必要なんてなくて、

こうやってお互いの体温を感じながら安心して眠ることができます。

それは、極上の幸福でした。


叢雲「ねぇ、吹雪。起きて」

吹雪「んぅ……どうしたの、叢雲ちゃん」

叢雲「空を、ううん、アレを見て」

吹雪「なぁに……なに、アレ……」


『本日よりブラウザゲーム《艦隊これくしょん -艦これ-》のサービスを再開します』


吹雪「私、寝ぼけてるのかなぁ……」

叢雲「い、いや、私にも見えてるわよ! あれって、いつか見たアレと同じやつじゃない?」

吹雪「いつかって、いつだっけ……」

叢雲「えっと……あれ、いつだったかしら」

吹雪「むにゃむにゃ……」

叢雲「あれ、"文字"が消えてる……なんなのよ、一体……」



――――――――
――――
――



吹雪「……んー?」

吹雪「んんんー?」

叢雲「あんたさっきからなにやってんの? って、なにそれ」

吹雪「いや、私の字で日記みたいなのが書かれてるんだけど……」

叢雲「ちょっと読ませて……うわ、なにこれ。創作にしても胸糞悪いわね」

吹雪「こんなの書いた記憶、無いんだけど」

叢雲「気味が悪いわね。焼却処分しちゃいなさいよ」

吹雪「うん、そうする」

五月雨「二人とも、なにやってるの? もうそろそろ提督を出迎えないと」

漣「ご主人様、どんな人かな~」

電「皆さん、早く行くのです!」

叢雲「はいはい。さ、行くわよ吹雪」

吹雪「う、うん!」




吹雪「はじめまして、吹雪です。よろしくお願いいたします!」









御城プロジェクト再開まだかよ(怒)
城娘とか装備とかリセットされるって話なんで、艦これだったらどんな感じかなと思って

なんかごめん
次から気を付ける

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月03日 (土) 00:21:55   ID: Jl7qNJDb

バトルロワイアルっぽい話だった

2 :  SS好きの774さん   2015年10月03日 (土) 13:14:34   ID: GDzzqzHw

初期艦はこうやって決まっていたのか(汗)

3 :  SS好きの774さん   2015年10月30日 (金) 20:54:21   ID: 8riFTAXD

面白かった

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