【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―2― (992)

アクア「……ごめんなさい。私の所為で」

カムイ「何を言ってるんですか、アクアさんの所為なわけないですから。でもよかったです、私以外に疑いが掛らなくて」

アクア「みんな、あなたのことを心配しているわ。マークスもガロン王に話をしているみたい」

カムイ「ふふっ、マークス兄さんらしいです。でも、私のことで無理はしないでもらいたいんですけど」

アクア「……はぁ、カムイ。あなたは自分の立場をよく理解するべきよ」

カムイ「はは、怒られてしまいました」

アクア「そんなに落ち着いているのを見ていると、心配していたのが馬鹿らしくなってしまうわ」

カムイ「ごめんなさい。でも、こういうときは気丈に振舞うものなんでしょう?」

アクア「元はと言えば私の所為よ、あなたに相談すれば済んだことなのかもしれないのに、それを」

カムイ「アクアさんは私にクリムゾンさんがあやしいって言いたくなかったんですよね?」

アクア「……ええ、交流しているあなたに、そんなことを言うのは嫌だったの。だから、気付かない場所でって思ったのに、裏目に出てしまったわ」

カムイ「ははっ、それでレオンさんに掛け合ったんですね」

アクア「どうして知っているの?」

カムイ「直接私の元にクリムゾンさんの件を話しに来てくれました。あとその前日、ゼロさんが注意するようにと託を。ふふっ、その話に出てくれた情報源、私を心配してくれていたのって、アクアさんだったんですね」

アクア「はぁ、レオンはあなたのことをとても心配していたから。当然かもしれないわ」

カムイ「はい……。でも今日、アクアさんが来てくれてよかったです」

アクア「?」

カムイ「いえ、そのこんな風に話していて何なんですけど、少しだけ不安になっているんです」

アクア「……ふふっ」

カムイ「わ、笑わないでくださいよ」

アクア「いいえ、ごめんなさい。あんなに気丈に振舞うものだなんて言ってたのに。おかしくて」

カムイ「はい……。その、アクアさん」

アクア「どうしたのかしら?」

カムイ「ちょっと手を握ってもらえませんか? その、心細いんです……」

アクア「……ふふっ、いいわよ。私にできることなら何でもしてあげたいから」ギュッ

カムイ「はい……ありがとうございます。アクアさんの手、とても温かくて柔らかいです…」

アクア「んっ、くすぐったいわ」

カムイ(……どうしてでしょうか、こんなにも心が不安で揺れてしまうのは。まるで……ミコトさんが死んでしまった時に戻ってしまったみたいです)

カムイ「……」ギュッ

アクア「カムイ?」

カムイ「すみません、今は。今の間はこのままでいさせてください」

アクア「ええ、わかったわ、甘えん坊さん」ナデナデ

「……ありがとうございます。アクアさん……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443780147

 このスレは、『カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?』の続きとなっています。

 前スレ:カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?
 カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438528779/)

 個人妄想前回の暗夜ルートになっています。
 オリジナルで生きていたキャラクターが死んでしまったり、死んでしまったキャラクターが生き残ったりという状況が起きます。
 ご了承のほどお願いします。

 主人公のタイプは
 体   【02】大きい
 髪型  【05】ロング・セクシーの中間
 髪飾り 【04】ブラックリボン
 髪色  【21】黒
 顔   【04】優しい
 顔の特徴【04】横キズ
 口調  【私~です】

 長所短所には個人趣味の物を入れ込んでいます。 

 長所  心想い【心を好きになる(誰とでも結婚できる)】
 短所  盲目 【目が見えない(ただそれだけ)】
 

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターC+
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリスB   
(一緒に眠ったことがあります)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC
(今度はカムイの弱点を探ってみせると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC→C+
(イベントは起きていません)
ゼロC+
(イベントは起きていません)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(イベントは起きていません)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)

○仲間たちの支援現在状況●

●異性間支援の状況

・アクア×ゼロC

・ジョーカー×フローラB

・ラズワルド×リリスB

・ゼロ×リリスC

・ラズワルド×ルーナC

・ラズワルド×エリーゼC

・レオン×サクラB

・レオン×カザハナC

・オーディン×ニュクスC

・サイラス×エルフィC

・モズメ×ハロルドC

●同性間支援の状況(男)

・ジョーカー×ハロルドC

・レオン×ツバキB

・ギュンター×サイラスC

●同性間支援の状況(女)

・フェリシア×ルーナA

・フェリシア×エルフィC

・フローラ×エルフィC

・ピエリ×リリスC

・ピエリ×カミラC

・エルフィ×モズメC

 今日はスレ立てだけです。本篇は後日から始めたいと思います。

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城『地下牢』―

サイラス「……嘘じゃなかったんだな、捕まったっていうのは」

カムイ「その声はサイラスさん? はは、すみません。心配を掛けてしまいましたか?」

サイラス「当り前だ! それにお前はシュヴァリエと結託して、王都で反乱を企てていたと……」

カムイ「ふふっ、どんどん尾がついて行きます。そのうち、私はすでに反乱を起こしていたが、王都守備隊が事前に制圧していたという話がつくかもしれませんね。私に付いていたといことで、皆さんに白い目が向けられないといいんですが」

サイラス「構うものか。カムイ、待っていてくれ。俺たちはお前の無実を必ず……」

カムイ「それはだめです」

サイラス「なぜだ、カムイ」

カムイ「サイラスさん、あなたは一介の騎士なんですよ。マクベスさんが私を嵌めたことに間違いはありません」

サイラス「だからこそ、俺は!」

カムイ「そう言う風に、私の無実を訴えるのをあの人は待っているんですよ。マークス兄さんやカミラ姉さん、エリーゼさんにレオンさんがそれを言うに問題はありませんが、サイラスさんのように背景を持たない人は、すぐに反逆者の烙印を押されることになるでしょう」

サイラス「そ、それは……」

カムイ「そんなことで、私はサイラスさんや他のみんなを失いたくはありません。ですから、静かに待っていてもらえませんか?」

サイラス「……わかった。お前がそう言うなら、俺は何も言わない」

カムイ「ありがとうございます。あと他の方たちにも出来る限り落ち着いて行動するように呼び掛けてほしいんです。ハロルドさん辺りは、大きな声で叫んでそうな気がしますから」

サイラス「ははっ、確かにな。わかった、みんなにも伝えておくよ」

カムイ「はい、よろしくおねがいしますね」

サイラス「………」

カムイ「サイラスさん、どうしました?」

サイラス「いや、その。あまり不安そうじゃないと思って、いきなり捕まってここに入れられたっていうのに、なんだかすごく落ち着いているから」

カムイ「そうでもなかったんですよ? 最初は不安でしたから、でもアクアさんに慰めてもらいました」

サイラス「そ、そうか……はぁ」

カムイ「?」

サイラス「いや、その……」

カムイ「なにか、悩みごとでもあるんですか?」

サイラス「あ、あるというか。現在問題で起きているというか」

カムイ「歯切れが悪いですね。サイラスさん、私とあなたの仲なんですから、気にせず話してください」

サイラス「……その、すごく女々しいことなんだ」

カムイ「女々しいことですか?」

サイラス「俺はカムイと再会するまで、あの頃と同じで泣き虫な人を想像してたんだ。それで……俺のことを頼ってくれるというか」

カムイ「………」

サイラス「その――すまない、おかしなことを言ってるのはわかってるんだ。でも――」

カムイ「ふふっ、それは昔みたいにもっと頼って欲しい、そう言うことですか?」

サイラス「……そういうことだ。すまない、こんなこと口に出すことじゃないとは思っていたんだけど」

カムイ「いいですよ。でも、そうですか。サイラスさんはそんなことを考えていたんですね」

サイラス「親友の力になりたいと思うのは当たり前のことだからな」

カムイ「ふふっ、サイラスさんはいい人ですね」

サイラス「いい人じゃないさ。ただ、親友に頼られたいっていう願望をもってる、そんな男だよ」

カムイ「そうかもしれませんけど、その思い確かに受け取りました。困ったことがあったら、頼らせてもらいます」

サイラス「……いや、そう言う意味じゃないんだけどな」ボソッ

カムイ「? サイラスさん?」

サイラス「なんでもない。それじゃ、俺は皆に伝えてくるから、カムイ必ず戻って来るんだぞ」

カムイ「はい、外で再会できるのを楽しみにしてますね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~
エリーゼ「カムイおねえちゃん、大丈夫? 痛いことされたりしてない?」

カミラ「変なことした兵士がいたら言ってちょうだい、三枚に下してあげるから」

カムイ「ははっ、到着早々に物騒な話は駄目ですよ、カミラ姉さん。特に何も悪いことはされていませんから、まぁ、所持品は取り上げられてしまいましたけど、命が助かったのは不幸中の幸いです」

レオン「はぁ、本当に姉さんは肝が座ってるね。だから心配の必要なんてないって言ったじゃないか」

マークス「……ふっ、そう言うのは急いで着てきた法衣を見直してから言うんだな、レオン」

レオン「!? こ、これは……ああ、もうっ!」

カムイ「ふふっ、皆さん変わりませんね。なんだか安心しました」

マークス「そう言うカムイ、お前もな。元気そうで何よりだ」

カムイ「はい、マークス兄さん。あの、アクアさんのことですけど」

カミラ「大丈夫よ、私たちは誰もアクアがマクベスにこのことを漏らしたなんて思っていないわ。あの子はカムイのこと、とても大切に思っているもの。私はそんなアクアが今回のことを仕掛けたなんて思わないわ」

エリーゼ「うん、あたしも。アクアおねえちゃんも可哀そうだよ、こんな風に疑われる立場にされるなんて」

レオン「……僕の責任でもあるからね。アクアにもカムイ姉さんにも迷惑を掛けてしまったから、ごめん」

マークス「マクベス達の動きには気づいていた。それを悠長に放っておいた私の責任だ、レオンが気に病むことではない。それにアクアはマクベスに巻き込まれたのこと、それを責めるつもりなどない」

カムイ「皆さん、ありがとうございます。アクアさんのことを信じてくれて」

エリーゼ「当然のことだよ。だって、おねえちゃんだもん!」

カミラ「そうね、私にとっては可愛い妹だもの」

レオン「うん、でも今はその話よりも大事なことがあるから、アクアのことはひとまずここまでにしておこう」

マークス「そうだな。カムイ」

カムイ「私の処遇について……ですね。私がクリムゾンさんと出会って、帰国した直後に起きた反乱、今では話に尾がついて、王都で反乱を企てようとしていたということになっているらしいですね」

マークス「ああ、根拠も何もない話だが、お前の台頭を面白く思っていない者たちはマクベスの話に賛同している状態だ。正直、芳しくない」

カムイ「そうですか……」

レオン「多くが父上に長く仕えてきた人たちばかりだから、影響力が強い。僕たちも色々と根回しはしてるけど、もうほとんどの者に息が掛ってる状態だ」

エリーゼ「そ、そんなのないよ。カムイおねえちゃんは悪いことなんてしてないのに」

カミラ「ふふっ、エリーゼ。そうすぐに声をあげるものじゃないわ」

エリーゼ「カミラおねえちゃん、どうしてそんなに冷静なの、このままじゃカムイおねえちゃんが、殺されちゃうかもしれないのに」

カミラ「ええ、そうね。でも、レオンとマークス兄様を見てると、まだ慌てるような場面じゃないと思えるのよね」

マークス「ふっ、カミラには隠し通せるものではないな」

レオン「そうみたいだね、兄さん」

エリーゼ「ど、どういうこと?」

マークス「確かにマクベスの意見に賛成する者は多いが、その多くがカムイの反逆の罪に踊らされている。不服ではあることだが、今はその幻想に多くの物が揺れ動かされているのも確かだ」

レオン「カムイ姉さんが暗夜に戻ってから最初に取り掛かった任務、フリージアの反乱平定だったよね?」

カムイ「そうですね」

レオン「その無血平定の話は反乱活動を始めようとしていた部族にも届いて、多くの部族村がその刃を納めた形になってる。実感できないかもしれないけど、姉さんの行動は多くの部族に認められてる。つまり、その姉さんが反逆を企てていたということがわかって、今起きているシュヴァリエ公国の反乱に躍動する形で動けば……」

カムイ「そんなおとぎ話みたいなことありえるんですか?」

レオン「だから言ったでしょ? これは幻想だって、そんなこと起こり得るはずもないよ。でも、保身の塊みたいな人たちは、その見えない脅威に怯えてる。マクベスもこんなことになるなんて思ってもいなかっただろうけど。現実問題、姉さんを処刑することによって地方部族が一斉決起したとしたら、シュヴァリエ公国にいる白夜軍は、すぐにでも祖国に連絡して無限渓谷から攻めてくるだろうからね。そう簡単に姉さんの処罰を決められない」

マークス「その間に、私は父上に掛け合っておく。どんな形であろうとも、私はお前をこの場所から出してみせよう。だから心配ゼスに待っていてくれ」

カムイ「そうですね、今は待つことしかできませんから。でも、あまり無茶はしないでください」

~~~~~~~~~~~~~~~
―クラーケンシュタイン城『作戦会議室』―

貴族「――であるからして、確かにマクベス軍師の考えは認めますが」

貴族「――地方部族とのパイプをもつかもしれない、カムイ様を処刑することで――」

貴族「私の領土は地方部族に囲まれている。もしも処刑を執り行い、反乱が起きたらどうやって守ってくれるのだ?」

マクベス「……貴族とあろう方々が、何を迷っているのかと思えば、そんなものは幻想です。カムイ王女が与える影響力など、微々たるもの。それに、まさか地方を納めるあなた方が、部族の反乱を抑えられないと?」

貴族「そ、そういうわけではない。白夜との戦いを考えれば、こんなところで大きな火種となることをする必要もない、そう言っているだけだ」

貴族「別にカムイ王女を殺すことに反対しているわけではない。今はシュヴァリエの反乱を抑えることの方が先であろう? 軍師マクベスともあろう方が、優先順位を間違えることなどないと思いますがな」

マクベス「そうですか。皆さんの考えはわかりました、一度休憩としましょう」

貴族「マクベス軍師、私たちの考えは変わりませんので、何度話し合おうとも結果は変わりませんぞ」

マクベス「………」

マクベス「くっ、どうしてこうも最後にうまくいかないのか。こんなところでも私の邪魔をするというのですね、カムイ王女」

マクベス「あの者たちもあの者たちだすね。そんなことが起こり得るわけないと、なぜ気付かないのでしょう。どちらにせよ、カムイ王女を処刑することは敵いませんな」

マクベス「………」

マクベス「……そうです。なぜ、気付かなかったのでしょうか。これほどにいい考えはありません。すぐにガロン王様に御話いたしましょう」

ガンズ「マクベス様」

マクベス「ん、ガンズですか。前回のシュヴァリエでの働きで、一軍を率いることになったそうですな」

ガンズ「へへっ、殺すだけで階級が上がるんだからな、これくらい同然のことよ」

マクベス「ふっ、そうですか。ガンズ、こんどのシュヴァリエ公国の反乱平定の件は聞いているでしょうな?」

ガンズ「ああ、シュヴァリエの奴らをぶっ殺せばいいんだろ? 簡単な作業じゃねえか」

マクベス「ええ、確かあなたの部下であるゲパルト兄弟も参加されるらしいですが、一つ妙案が浮かびました」

ガンズ「へっ、人を殺せるならなんでも構わねえよ。マクベス様よぉ」

マクベス「ええ、大丈夫です。どちらにせよ、多くの人を殺すことができますよ。そして、これはカムイ王女にとってはチャンスとなり得る話、ガロン王様もきっと聞いてくれるはずですからね。さて、カムイ王女、あなたは一体どういう行動をするのでしょうな?」

 今日はここまでになります。しばらくはこんな暗い感じで話が進むと思いますので、よろしくおねがいします。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―クラーケンシュタイン城『王の間』―

マークス「父上、マクベスの話は信憑性に欠けている箇所があります。カムイが反乱の手引きをしたという証拠もねつ造されたものと考えるべきです」

ガロン「しかし、現にシュヴァリエ公国で反乱は起きた。カムイの客人がシュヴァリエの人間であったことは知っている。それを踏まえ、マクベスはカムイの捕縛を行ったとしている」

マークス「……ですが父上、シュヴァリエの反乱にカムイが加担していたという証拠はありません。それに、カムイが王都での反乱を企てていたという話。それが本当ならば、カムイの賛同者が既にことを起こしているはず」

ガロン「闇に隠れ、気を伺っているとも考えられる。マークス、カムイに掛った疑いは暗夜の規律にも影響を与えることになる、すべてを不問とし、終わりにするというのはあまりにも軽率なことだとは思わぬか?」

マークス「そ、それは……」

 コンコン 

ガロン「誰だ?」

マクベス「ガロン王様、マクベスです。本日はカムイ王女の件でお話に上がりました」

ガロン「ふん、入れ」

 ガチャン バタン

マークス「マクベス……一体何の用だ?」

マクベス「おや、マークス王子。どうやらカムイ王女の件でガロン王様にお話のようですね。どうやら私と同じようだ」

マークス「………」

ガロン「して、何用だマクベスよ?」

マクベス「ええ、ガロン王様。今回のカムイ王女の捕縛の件で、一つ謝らねばならないことが」

マークス「……なに?」

マクベス「マークス王子、申し訳ありません。シュヴァリエの反乱と同時にカムイ王女が王都で反乱を起こす。そう信じた上でこのマクベス、行動に出ざるを得なかったのです。ガロン王様のこと、そして暗夜王国で暮らす民のことを思えば、この私の考え抜いた末の判断、理解していただけると思います」

マークス「……よくもそのような詭弁を」

マクベス「詭弁ではありません。現にこうしてガロン王様に陳謝に訪れているのですから、マークス王子、私はカムイ王女にも謝罪したいと思っているのです。ですから、ここにカムイ王女をお呼びいただけないでしょうか?」

マークス「……」

マークス(何を考えている……。呼んでよいことなどあるわけがないことくらい理解できるぞ、マクベス)

ガロン「マクベスよ。お前は自身の行いに非があった、そう言うのだな」

マクベス「はい、ガロン王様。緊急事態であったとはいえ、カムイ王女を捕らえ拘束したことは事実です。カムイ王女に謝罪の一言を、ガロン王様、この王の間で行うことをお許しいただけますか?」

ガロン「……いいだろう」

マクベス「ガロン王様、御許しありがとうございます」

ガロン「マークス。カムイをここに連れてくるがいい」

マークス「父上……わかりました」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「マクベスさんが、私に謝罪を?」

マークス「正直、あの男がそんなことを心からするはずもない。何か狙いがあるのだろう……」

レオン「そうだね。これほど、信用できない謝罪を受けることになるなんて、姉さんに同情するよ」

カミラ「本当ね。謝るくらいなら、もともとこんなことをするはずないもの……」

エリーゼ「カムイおねえちゃん、大丈夫だよね?」

カムイ「はい、まずはマクベスさんの謝罪を受けてみましょう。話はそれからというものです」

マークス「父上、マークスです」

ガロン「うむ、入るがよい」

カムイ「お父様、このような格好で御前に立つことを、お許しください」

ガロン「ふっ、話はすでに聞いているだろう。此度、お前をシュヴァリエとともに反乱を企てる反逆者として捕らえたマクベスが陳謝したい、そう言っている」

マクベス「……これはこれは、少しばかり汚れてしまったようですなカムイ王女」

レオン(これが、謝罪をする人間の態度か? 反省の気配なんてどこにもないじゃないか)

カミラ(私のカムイに汚れてしまったなんて、その口を糸で結んでしまいたくなるわ)

カムイ「ええ、おかげさまで。それで、私に謝罪をしたいという話でしたが?」

マクベス「はい、このマクベス、国を思うあまり、暗夜王国で事が起きていないというのにカムイ王女を捕縛したこと、誠に申し訳なく思っております」

カムイ「……」

マクベス「しかし、これも暗夜の平穏を願うが故の行為、どうかお許しください。暗夜国内で反乱がおきていない以上、その点に関して言えば私の行為は間違っていたこと、これは認めなくてはいけません」

レオン「なら、一度くらい頭を下げたらどうなんだい? 姉さんを疑っておきながら、言葉だけを並べるだけ、頭を下げないで陳謝とは笑わせるよ」

マクベス「ええ、そうですね」

マクベス「ですが、陳謝をするには、まだまだ早いというものです。カムイ王女」

カミラ「……マクベス、どういうつもりかしら? お父様の前で、こんな茶番を演じてただで済むと思っているのかしら?」

マクベス「いえいえ、私は陳謝したいことがあったとは言いました。それはこの王都で何も起こっていないということに対してのものです。シュヴァリエで反乱が起きたのは事実、そうでしょう?」

カミラ「……それは」

ガロン「ふっ、マクベスよ。お前の考え理解した」

マクベス「ガロン王様」

ガロン「カムイよ」

カムイ「はい、なんでしょうか、お父様」

ガロン「マクベスが言っていること、お前は理解しているだろう」

カムイ「陳謝の完了は、私の疑いが晴れた時、そう言うわけですね?」

マクベス「流石はカムイ王女、とても聡明でいらっしゃる」

マークス(何が陳謝したいだ、マクベス……)

ガロン「カムイよ、お前のことを未だ信用していない多くの者たちがいる。言葉での申し開きに意味など無いことをお前は理解しているだろう」

カムイ「……結果を示せ、ということですか?」

ガロン「そうだ、言葉ではない。お前が反逆者でないということを、お前自身の働きによって示さぬ限り、いずれは処刑されることになるだろう」

カムイ「……マクベスさん。私に何を望むというのですか?」

マクベス「ふん、簡単なことです。カムイ王女、私はあなたがシュヴァリエと繋がっているという情報をもとにあなたを捕縛したのですから、あなたがシュヴァリエと繋がっていないという証拠を見せていただければよいのですよ」

エリーゼ「そ、それって……」

マクベス「エリーゼ王女でもお分かりになることですから、カムイ王女もわかっていると思いますが?」

カムイ「……私に、反乱を抑えろというのですか?」

ガロン「その通りだ。シュヴァリエ公国の反乱を鎮圧しろ。これほど簡単に身の潔白を証明できる方法はないとは思わぬか?」

カムイ「私が反乱分子だとするなら、そんな場所に送り込む理由がわかりませんよ。お父様」

ガロン「ふっ、確かにお前がもしも本当に反逆者だとするならば、そんな場所にお前を送るわしは無能な王となるだろう。だが、ただ行かせるつもりなはない」

カムイ「……?」

ガロン「カムイよ、これはお前に与える機会だ。そして同時にわしはここにいる息子、娘たちに問いたいことがある」

レオン「父上?」

エリーゼ「お父様?」

ガロン「カムイがシュヴァリエの鎮圧に失敗したとき、もしくはお前が寝返り反逆が真実であるとされたとき、死ぬ覚悟があるかということをな」

カムイ「……私の任務完了まで誰かに人質になれと、おっしゃるのですか?」

ガロン「うむ、お前に従える一介の兵士なら、安い命と投げ出すだろう。だが、ここにいる息子や娘は違う。それぞれに役割があり、暗夜王国にとって重要な人物であり、お前にとっては共に過ごしてきた兄妹だ。お前の身が潔白であることを証明するには、対等な存在と言えるだろう」

カムイ「……なぜ、このようなこと」

ガロン「ふっ、我が子を信じている、それだけのことだ……。だが、お前が暗夜を我を裏切ったとき、その時は容赦なく、人質となった者は死ぬことになるだろう。なに、お前が反逆者でないと証明されれば、何の問題もない」

カムイ「………」

マークス「父上」

ガロン「なんだ、マークス?」

マークス「その人質、私がなりましょう」

レオン「ちょっと兄さん。抜け駆けはよくないよ」

カミラ「そうよ。カムイにお姉ちゃんらしいところを見せられる絶好の機会じゃない。私も譲りたくないわ」

エリーゼ「あたしもなる! カムイおねえちゃんの役に立ちたいから、それにカムイおねえちゃんのこと信じてるもん」

カムイ「皆さん……」

マクベス「ふっ、生憎ですが。マークス王子以外に人質になってもらう必要などありません」

エリーゼ「な、なんで!?」

マクベス「マークス王子以外の方々は人質にはなりえないと考えています」

カムイ「……皆さんのことも反逆者だと疑っているのですか?」

マクベス「おやおや、私は何も言っていませんよ。それではまるで、そうであるかのように聞こえてきますな」

カムイ「……」

マクベス「まったく、王族すべてを巻き込もうとしているのは、あながち間違いではないのかもしれませんな。王族が疑われては、国の威厳にもかかわりますのでね」

ガロン「マクベスは、お前にこそ人質の価値があると言っている。マークスよ、お前はカムイのためにその命、掛ける覚悟はあるか? カムイが反逆者でないと信じ、ここで待つことができるか?」

マークス「はい、父上。その思いと先ほどの言葉に嘘偽りはありません。私はカムイの帰りを待ちましょう」

カムイ「マークス兄さん」

マークス「心配するな。それに久々に兄らしいことができる、少しは私のことを頼って欲しい」

ガロン「ふっ、マークス。お前の誓い、確かにわしは聞きとめた。よかろう、お前をカムイの任務が終わるまでの間の人質とする。その身柄、確保させてもらおう」

マークス「はい、父上。……カムイよ、お前にこれを授ける。すべての任を果たしたとき、これを私に返しにきてほしい」

カムイ「……これは、ジークフリート。これは兄さんの暗夜王子としての証です。今、反逆者と疑われている私が持っていいものでは……」

マークス「今の私は暗夜第一王子マークスではない。妹を信じるただの兄だ、お前が無事に帰ってきてくれたとき、私はもう一度、暗夜王国の王子に戻る」

カムイ「マークス兄さん」

マークス「これを預けることはその証と思ってほしい。お前を信じているという、その証としてな」

マクベス「……衛兵。マークス王子を」

衛兵「はっ。マークス王子、失礼いたします」

マークス「ふっ、このように腕輪をつけられるのも一興というものだ」ガチャ

カムイ「マークス兄さん、必ずジークフリートをお返しに上がりますね」

マークス「ああ、しばらく待たせてもらおう。カミラ、エリーゼ。カムイのこと、よろしく頼んだぞ」

カミラ「ええ、任せてマークス兄様、きっと守ってみせるわ」

エリーゼ「うん、あたしも頑張るからね!」

レオン「本当、かっこよく決めちゃって。そういうところずるいよ兄さん」

マークス「ふっ。少しくらいは格好良く決めさせてもらいたいのでな。レオン、お前はお前のできることをしろ」

レオン「わかってるよ。いろいろとやるべきことはあるみたいだからね」

マークス「そうか、ならもう何も心配することはない。待たせた、では案内をよろしく頼む」

衛兵「はっ」

 カツンカツンカツン ガチャ バタン

ガロン「では、カムイ。お前がすべきことを伝えよう」

カムイ「はい――お父様」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―暗夜王国・地下牢―

暗夜兵「よし、言われた通りに揃えられたか?」

暗夜兵「ええ、これで全部ですね。しかし、反逆者として連れてこられて、牢を出たと思ったら、今度はシュヴァリエ鎮圧とは、王女様はとても多忙だねぇ」

暗夜兵「別にどうでもいい話だがな。俺たちは言われたとおりに見張って、牢を出た奴の品を言われたとおりにそろえておくのが仕事だ」

暗夜兵「違いねえ。それにしてもおかしな剣だぜ。刀ってやつは見たことがあるが変わったものを振り回してるよな」

暗夜兵「そうだな、しかし、あんな格好で歩き回ってて、男の視線をってやつを感じないのかね? 俺なんて、食事を出すときすげぇみちまったよ」

暗夜兵「いいなお前、俺の時は真夜中だからよ。いつもぐっすり眠ってるし、王族が入る特殊牢には入る機会もないんだぜ?」

暗夜兵「へっへん、運だよ運。おれは運がいい方なんだよっと。さてと、それじゃ俺はこれをマクベス軍師に渡してくるから、しばらくの間、頼んだぞ」

暗夜兵「へいへい……それにしても、カムイ王女が捕らえられた時に持ってたものの中に変なのあったなぁ」

「少し黒くなった石なんて、一体何に使うんだろうねぇ?」

第十一章 前篇 おわり

第十一章→×

第十二章→○

 今日はここまでになります。マクベスがいっぱい動き過ぎてる気がしてきた。
 カム子ダークブラッドの敵撃破後の決めポーズのハイレグはとてもイイものだなっておもう

 この先のことを安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです

◇◆◇◆◇
 マカラスまでの道中、カムイと話をすることになるキャラクター

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター 
 フェリシア
 フローラ
 リリス
 ラズワルド
 ピエリ
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 モズメ
 リンカ

 一人目は>>30 二人目は>>31でお願いします。

おつ
ギュンター

ゼロで、よろしく。

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・マカラス街道―

カムイ「………」

ガロン『カムイよ。お前の身の潔白の証明は反乱の鎮圧で証明される。だが、お前だけでそれを成し遂げるのは至難の業、そこでだ、お前に正規兵の指揮権を与える。これはマクベスよりの提案だ』

マクベス『ええ、無論監視の意味も兼ねていることは言わずもわかることでしょう。どちらにせよ、反乱の波は広がりつつあります故、迅速な指揮でシュヴァリエの鎮圧をよろしく頼みます。なに、私もあとから現地に向かいます故、よい結果を期待していますよ』

カムイ「鎮圧……ですか」

リリス「カムイ様、大丈夫ですか?」

カムイ「え、ええ。すみません、考えごとをしていたみたいで」

リリス「まだまだ、マカラスまで時間が掛るみたいですから、すこし気分転換に歩かれてはどうでしょうか?」

カムイ「……そうですね。リリスさん、目印になる紐をいただけませんか?」

リリス「はい、こちらを私が握ってますのでゆっくり歩いてください。それに行軍は思ったよりもゆっくりですから、大丈夫だと思いますから」

カムイ「はい、お手数を掛けます」

リリス「いいえ。あの日は御役に立てず申し訳ありません、私はまたカムイ様を守れませんでしたから」

カムイ「いいんですよ。無理をしてリリスさんに何かあったりしたら、そっちの方がおおごとです。では、あとはよろしくお願いしますね」シュタッ

リリス「はい、わかりました」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ギュンター「む、カムイ様。どうなされました、リリスと一緒だったはずですが?」

カムイ「ギュンターさん。いえ、気分転換に歩いてきたらどうかとリリスさんに言われまして、知っている気配を感じたので、ギュンターさんでしたか」

ギュンター「なるほどそういうことでしたか。昨日の件、申し訳ありません。マクベス達の強硬を阻止できず、カムイ様に不自由を強いる結果となってしまった、カムイ様に長く仕えておきながら……」

カムイ「いいえ、ギュンターさんの所為ではありませんよ。それにギュンターさんたちが私のために何かをして、その結果捕まってしまわなくて良かったです」

ギュンター「カムイ様、すでに私はこのような老体。命令さえあればこの命、喜んで差し出す所存ですぞ」

カムイ「ギュンターさんが死んでしまっては、あの小説の続きを読んでくださる人がいなくなってしまうじゃないですか?」

ギュンター「うっ、あれを読み聞かせることのほうが、私としては辛いものがあります」

カムイ「ふふ、たしか今は庭園で王子と姫が愛を語り合う場面でしたね。でも愛を語り合うとは一体どういうものなのでしょうか?」

ギュンター「そ、そうでしたかな?」

カムイ「『陶器のように滑らかな曲線』とは、一体どこの部位を指しているんでしょう? あの話に出てくる王子は姫のことをまるで芸術品の用に例えますから、少し難しいんです」

ギュンター「カムイ様」

カムイ「あと姫の『卑しい泉にあなたが口付をするたびに、私の愛があふれてきます』という発言の意味も私にはわかりません」

ギュンター「……」

カムイ「そもそも、二人はすでに結ばれているというのに、なぜ人の目に付きそうな庭園で愛を語るのでしょうか?」

ギュンター「……そこを理解できないようでは、やはりカムイ様にはまだ早い話と言えますな」

カムイ「そうなんですか? このような成り立ちですから、本を読むことは出来なかったので、やはり私にはあの本は早かったのでしょうか?」

ギュンター「ふむ。カムイ様には確かに早いかも本でしょう」

カムイ「そうなんですか。なら、なおさらギュンターさんに読み聞かせてもらわないといけませんね」

ギュンター「…理由をお聞かせください」

カムイ「だって、ギュンターさんなら私にわかりやすく教えてくれるはずですから。ギュンターさんの教え方はわかりやすので、だから理解のできない駄目な私にいろいろ教えてくださいね?」

ギュンター「……善処しましょう。では、私は隊列に戻りますので……」

カムイ「はい」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゼロ「行軍中に変な話をするもんじゃないぜ。カムイ様、獣みたいに飢えた狼にパクッと食べられちまうぜ?」

カムイ「ゼロさん。変な話とは一体なんですか?」

ゼロ「……俺に焦らしプレイをさせておいて理解してないっていうんじゃないだろうな?」

カムイ「そうですね。私は手で直接触れる事ばかりなので、物体の名前が出てくると物体として想像してしまうので」

ゼロ「ほぅ、そりゃ面白いねぇ。あんな風に顔をペタペタと触って、言葉で責めてくるもんだから、そういう世界のことは知っているとばかり思ってたんだがねぇ」

カムイ「ははっ、なんだかんだで箱入りなんですよ。知らないことはたくさんありますから……」

ゼロ「……気に入らないねぇ。そうやって開き直るところとか、特にねぇ」

カムイ「それくらいしか出来ないんですよ。それに、そう言ったほうがゼロさんは私に興味を持ってくれると思いまして」

ゼロ「……そうかい。まったく、人をおちょくるのは一級品だねぇ。本来なら俺がカムイ様にちょっかい出して、困惑させる側だと思ったんだが」

カムイ「いいじゃないですか。あの日、顔を触ってからあまり話す機会もなかったんですし、それにゼロさんとしてはこんな振舞いのほうが気楽で良いでしょう?」

ゼロ「へっ、言ってくれるねぇ。それじゃ、今度話す時は、こっちがあんたに興味を持たせる番ってわけだ。やられっぱなしは面白くないんでね」

カムイ「はい、そう言ってもらえると私としては嬉しいです」

ゼロ「ああ、それじゃ俺も隊列に戻させてもらうぜ。カムイ様も飢えた狼に食べられる前に、さっさと元の場所に戻って置いた方が身のためだぜ」

カムイ「はい……」

ゼロ「……それじゃな」

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・賭博の町マカラス『宿舎』―

エリーゼ「カムイおねえちゃん……」

カミラ「そう、マクベスが正規兵の話をしているのに、全く気に掛けなかった本当の理由は、すでに手回しが済んでいたからだったのね」

アクア「流石に予想できなかったわね。てっきりあとからマクベスと一緒に来ると思っていたから。いや、そもそも参加するかもわからなかった事だもの」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガンズ『待っておりましたカムイ王女』

カムイ『その声は……ガンズさん?どうしてこの場所に?』

ガンズ『おや、すでに話は聞いていると思いましたが。私も反乱鎮圧のためにシュヴァリエへと向かうことになっているのです』

カムイ『初耳ですね』

ガンズ『では、覚えておいてください。今回の戦い、私もお力添えしますゆえ、どうか大舟に乗った気持ちでいてください』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エリーゼ「大船なんて言ってたよね」

カミラ「どう見ても泥船よね……緩やかな川も渡れそうにないわ」

アクア「そうね、その考えに異論はないわ。でも、これは監視をしているというマクベス側からの脅しでしょうね」

カムイ「そうでしょうね。下手なことをすれば……。ふふ、仕方ありませんね。私は今反逆者として扱われているのですから」

エリーゼ「ねぇ、カムイおねえちゃん」

カムイ「なんですか、エリーゼさん」

エリーゼ「あのね……。カムイおねえちゃんはその、シュヴァリエの騎士さんのこと、どう思ってるのかなって……」

カムイ「……どうとは?」

カミラ「カムイ。それは私も聞きたいことよ」

アクア「カミラ?」

カミラ「どちらにしても、カムイが疑われる原因となったことだもの。それくらい、カムイはその騎士と共に過ごしたのでしょう?」

カムイ「そうですね。確かに少しの間ですが、一緒に過ごしました。私を訪ねてくれた人です、おもてなしはできる限りしたかったので」

カミラ「そう、でも、その客人が記憶した直後に反乱が起きたわ。でも、お姉ちゃんはそんなことを気にしてるんじゃないわ」

カムイ「?」

カミラ「カムイ、あなたにとってその客人はどういう人になったのかしら?」

カムイ「どういう意味ですか?」

カミラ「ふふっ、カムイ。本当なら、あの騎士を売ってしまえば丸く収まることなんてわかっていたはずでしょう?」

アクア「カミラ、その言い方は」

カムイ「……そうですね。これほどの大事にはならなかったでしょうから」

カミラ「そんなことわかってるはずなのに、どうしてしなかったの?」

カムイ「………」

カムイ「……約束をしたからです。その約束を違えるわけにはいきませんから」

カミラ「……それだけ?」

カムイ「それだけですよ」

カミラ「それじゃ、納得出来ないわ」

カムイ「そうですか……」

カミラ「カムイ、わかっているのに誤魔化しているの? それとも……」

カムイ「カミラ姉さん。今日はもうこんな時間ですから、そろそろお部屋に戻って休んでください」

カミラ「……そうね。こんな時間だもの、お肌に悪いわよね」

エリーゼ「カムイおねえちゃん……」

カムイ「エリーゼさんも、早く休んだ方がいいですよ。明日からは城壁を攻めなくてはいけませんから、長く休めるのは今日くらいなものです」

エリーゼ「うん、わかった……」

アクア「……カムイ」

カムイ「……アクアさんもです。私は大丈夫ですから、ゆっくり休んでください」

カミラ「ええ、それじゃおやすみなさい、カムイ」

カムイ「ええ、おやすみなさい」

 ガチャ バタン

カミラ「……はぁ」

エリーゼ「カミラおねえちゃん……」

カミラ「大丈夫よ」

アクア「カミラ、さっきの質問はどういうことかしら? まさか、カムイを疑っているの」

カミラ「いいえ、疑ってはいないわ。カムイは大切な妹だもの」

アクア「じゃあ、どうして」

カミラ「心配なの。今のカムイを見ているとね」

エリーゼ「うん、あたしも、よくわからないけど、心配だよ」

アクア「カミラ、カムイの何が心配だというの?」

カミラ「……カムイは自分の考えだけで、ここまでうまくやってきたわ。フリージアの反乱鎮圧、黒竜砦、港町ディアでの戦い、そしてマカラス奪還戦。だから心配なの」

アクア「カムイが浮足立ってる、そう言いたいの?」

カミラ「いいえ、違うわ……。私もうまく言葉にできないことで困ってるの。成功し続けて浮足立って失敗することは誰にだってあることよ。でも、カムイに対して思ってる心配はそう言うものじゃないの……」

アクア「……?」

カミラ「私たちが付いているの、カムイをむざむざ反逆者に仕立て上げるつもりはないわ。全力でサポートして、あの子の無実を証明して、マークスお兄様の元に帰る。これは変わらないことよ」

アクア「じゃあ、一体なにが心配だというの?」

カミラ「……カムイは失敗することを想定して動いてるわ。でも、それは自分自身が起こす失敗に対してのものばかりだから、私はそれが心配なのよ」

アクア「カミラ……」

カミラ「ごめんなさい、やっぱり長旅で疲れているのかもしれないわ。カムイにこんな風に突っかかるなんて、いつもの私じゃないもの。エリーゼ、一緒にお風呂に入りましょう?」

エリーゼ「うん……」

アクア「エリーゼも、カムイのことが心配なのよね?」

エリーゼ「……カムイおねえちゃん、あたしとカミラお姉ちゃんの質問にちゃんと答えてくれなかった。でもね、それはあたしたちのことを考えて答えなかっただけだと思うの……。だから、心配になるの。カムイおねえちゃん、自分が犠牲になればって思ってるんじゃないかって……」

アクア「……そう」

カミラ「アクアも、心配なんでしょう?」

アクア「それはそうよ。今回の件は私に――」

カミラ「そうあなたが言った時もカムイは、アクアの所為じゃないって言ったんじゃないかしら?」

アクア「!」

カミラ「図星みたいね」

アクア「確かにそう言われたわ……。でも、あれは」

カミラ「カムイの優しさって考えれば、簡単かもしれないけど。私は違うんじゃないかって思えるてきたの。だから心配なのよ」

アクア「?」

カミラ「あの子の優しさは、後々に花開く結果が待っているものばかりよ。それが、もしも花開かないものになってしまった時、カムイがどうなってしまうのかと考えると……ね」

アクア「カムイ………」

カミラ「考え過ぎなだけかもしれないけど。そうならないように私はあの子を全力で守りたいけど、叶わない時がいつか来るはずだから」

アクア「……」

エリーゼ「カムイおねえちゃん……。一人で悩み詰めないといいんだけど……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「クリムゾンさん、大丈夫です。ちゃんと、あなたと剣を取りあえるように全力を尽くしますから……」

「だから待っていてください……」

◆◆◆◆◆◆
―賭博の町・マカラス『下級宿舎』―

シャーロッテ「はぁ、休みの間に一度城壁が落ちて、また休みの間に城壁が落ちるって、どんだけ手抜きなんだよ」

ブノワ「だが、運が良かった。あの場にいたら、とてもじゃないが生き残れなかっただろうからな」

シャーロッテ「それはそうだけどよ。色目使ってた指揮官は無能ってことで階級下げられてるし、せっかくの苦労が水の泡じゃねえか」

ブノワ「ふっ、大変だな」

シャーロッテ「大変だな、じゃねえよ。大損だよ! それに、今はシュヴァリエと白夜の連中が乗っ取ってる所為で、食い扶持も厳しい状態だし、反乱するなら反乱するって事前に通達しろって話よ!」

ブノワ「律儀な奴らならそうするだろうさ。どちらにせよ、こうしてマカラスに身を置いて時間も経った」

シャーロッテ「何々、なんかいい話でもあるわけ?」

ブノワ「いい話、というわけではない。戦わなければならないからな、俺はできれば戦いなどしたくないが、生きるためには仕方がない」

シャーロッテ「そうね。実家への仕送りとか、目を付けた相手に送る弁当の材料とか、化粧費用とか考えたら、このままってわけにはいかないわよね」

ブノワ「ふっ、お金の使い道が色々とあって大変だな、シャ―ロッテは」

シャーロッテ「ええ、それで、その御金を稼ぐ仕事の話ってなによ?」

ブノワ「夕方頃、シュヴァリエの反乱鎮圧のための部隊がマカラスに入ったらしい」

シャーロッテ「ああ聞いた聞いた。でも、高級士官クラスはいないんでしょう?」

ブノワ「そこまではわからない」

シャ―ロッテ「使えないわね」

ブノワ「そういうな」

シャーロッテ「で、それがお金になるのはなんでよ? もしかしてしばらくここに滞在するわけ、ならすぐに物色に行かないと!」

ブノワ「いや、明日には城壁攻略を始めるらしい」

シャーロッテ「……物色もできねえじゃねえか!」

ブノワ「ああ、物色をする暇はないだろうな」

シャーロッテ「はぁ、なによ。期待させるだけさせといてこんなオチ? さすがにそれはどうかと思うんだけど」

ブノワ「いや、シュヴァリエ公国の反乱鎮圧に加勢してくれる兵を募集しているらしい。報酬は歩合だそうだが、参加するだけでも一か月分の給料に相当するものを出すと言っている」

シャーロッテ「それ、本当でしょうね」

ブノワ「緊急の募集のようだからな。まだ多くの物は気付いていないだろう、定員も二人ほど――」

シャーロッテ「おっし、ブノワさっさと行くわよ。こんなうまい話、そうそうないし、もしかしたらとってもいい男に巡り合えるかもしれないじゃない?」

ブノワ「ふっ、そうやって顔をコロコロと変えるのを見ていると、ほんとうにたくましい奴だと思うよ」

シャーロッテ「たくましいって失礼ね。こんなにか弱い女子を見てたくましいなんて」

ブノワ「そうだな、だが早くしないと募集が締め切られてしまうかもしれないぞ」

シャーロッテ「それは困るっつーの!それじゃシャ―ロッテ、出動!」

ブノワ「……あまり、誰も倒さずに済むといいんだがな……」

◇◇◇◇◇◇
―国境の城壁内部―

???「首尾は?」

???「ああ、偵察はすでに終えた。予想通り、マカラスに討伐兵が集まっているようだ」

???「そうか」

???「カゲロウ、どうした?」

カゲロウ「いや、カムイ様がもしかしたらいるのではないか、そう思ってしまってな。サイゾウはどう思う?」

サイゾウ「……奴は白夜を裏切ったのだ。前に現れるというならば、斬り倒すだけのことだ」

カゲロウ「……そうだったな」

サイゾウ「……だが、リョウマ様はそれを良しとしないだろう。命令を受ければ、その通りに俺は行動するまでだ」

カゲロウ「ふっ、なんだかんだ言ってはカムイ様のことを邪険にできないのだな」

サイゾウ「勘違いするな。命令を受けたならの話、何もなければ……」

カゲロウ「ああ、私もそのつもりだ。だから安心しろサイゾウ……それともなにか、まだ私の胸を好きにしていたカムイ様を許せないのか?」

サイゾウ「…そ、そんなことは」

スズカゼ「おやおや、そんなことがあったのですか。カムイ様の話でこのような雰囲気を見るのは久方ぶりですね」

カゲロウ「!? スズカゼ、いつからそこに」

スズカゼ「先ほどですよ。ここはあまり居心地がいい場所ではありませんので、どこか気を休められる場所をと思っていたら、柔らかい話し声が聞こえたので」

サイゾウ「……やはりスズカゼも感じているか」

スズカゼ「いえ、戦いというものを経験したことのある方なら、この空気は敏感に感じ取れることでしょう。ここに溢れているのは戦場とはまた異なるものですので」

カゲロウ「そうだな。ここは同盟の中だというのに、誰しもが誰かを狙っている、そのように感じる。殺意の眼差しが張り巡らされているようだ」

サイゾウ「……とてもではないが同盟という空気ではない。できれば後続の到着を待つより前に白夜へと戻るべきだった」

カゲロウ「ふっ、リョウマ様がここに残ると仰られたのだ。それに従わずして、臣下が務まるわけがないだろう?」

スズカゼ「そうですね。私は兄さんとカゲロウさんに恩義がありますゆえ、お二人に付いて行く所存です」

カゲロウ「スズカゼ、カムイ様はあの町にいると思うか?」

スズカゼ「……勘を信じるなら、いると思いますが。カゲロウさんはもっと単純にいるかどうかわかると思いますよ?」

カゲロウ「?」

スズカゼ「リョウマ様がこの地に残ったこと、クリムゾンさんのこともありますが。たぶん、感じているのでしょう。カムイ様がここに訪れるという、その確信のようなものを」

カゲロウ「……そうだな。リョウマ様は確信をもってここにおられる。なら、カムイ様がここに来ることも必然か」

サイゾウ「……スズカゼ。お前はカムイ王女に会ったとして、どうする?」

スズカゼ「顔を見たいというだけでは駄目ですかね?」

カゲロウ「ふっ、そうか。なら、私も同じだ。どうあろうと、私とカムイ様が過ごした時間は変わらない。だからかもしれないが、私はもう一度あの方にお会いしたいと思っている」

サイゾウ「はぁ、二人して疲れがたまっているだけじゃないのか?」

スズカゼ「いいじゃないですか、それに。最後の顔合わせになってしまうかもしれないですからね」

―城壁『屋外』―

リョウマ「………」

クリムゾン『リョウマ、ありがとう。私のために頑張ってくれて』

リョウマ「……俺は無力な男だ」

クリムゾン『もう、動いちゃったものは止められないからさ。リョウマは早く白夜に帰った方がいいよ。こんな戦いに参加なんてする必要ないんだからさ』

リョウマ「……俺は何もできない男だ」

クリムゾン『そうそう、カムイといっぱい話したよ。なんかいっぱい触られた、でさ、すっごく可愛く笑うんだよ。本当にさ、そんなカムイと一緒に戦えたら素敵だなって、素直に思ったよ』

リョウマ「……理想しか語れない男だ」

クリムゾン『でも、もうその夢も……消えて無くなっちゃった。リョウマ、もうここには何も残ってないんだ』

リョウマ「……そんな俺ができることは、これくらいだ」

クリムゾン『もう何もないけど、私はここでカムイを待つよ。約束したからさ、その答えを持ってあいつは来てくれるはずだから』

リョウマ「カムイ……力づくでも、お前をこの旗の下に従わせる。それくらいしか、俺にできることはもうない」

クリムゾン『だからさ、リョウマ。もう、こんな国のために頑張らないで』

リョウマ「俺は、俺自身の正義のために…………」

「誰も従ってくれない、正義のために、剣を抜くしか道がないんだ」

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターC+→B
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリスB   
(一緒に眠ったことがあります)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC
(今度はカムイの弱点を探ってみせると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロC+→B
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)

 今日はここまでです。
 やっぱり、リョウマとクリムゾンの支援がないのはおかしいと思う。

 次から戦闘に入ります。

 次の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇

 カムイが一緒に行動することになるチーム。
 
 チーム城塞「ジョーカー、フローラ、ギュンター」
 チーム努力派「フェリシア、ルーナ、モズメ、ハロルド」
 チーム血みどろ「リリス、ピエリ、カミラ」
 チーム暗殺「ゼロ、ベルカ、ニュクス」
 チーム前城壁勤務「シャ―ロッテ、ブノワ」
 チーム御転婆「エリーゼ、エルフィ、ラズワルド」
 チーム遊撃「オーディン、リンカ、アクア、サイラス」

 今回も多数決で決めたいと思いますので>>47から>>53までで一番投票のあったチームにしたいと思います。

◇◆◇◆◇

チーム遊撃

チーム努力派

有効ならチーム前城壁勤務で

―暗夜王国・国境線付近―

カムイ「……どうでしたか?」

暗夜兵「はっ、敵はすでに迎撃態勢を整えていると思われます。激しい戦闘が予想されるでしょう」

カムイ「わかりました……ガンズさんの部隊は弓の有効射程にぎりぎり届かない地点で待機してください。敵は上手にいますから、目測を誤らないように注意してください」

ガンズ「わかりました。それでは、次の指示があるまで待機いたします」

カムイ「さて、どうやって攻略したものでしょうか? 真正面からぶつかったところで、そうそうにうまくいくとは思えませんが……」

 スミマセーン チョットトオリマスネー

 ツレガスマナイ、ミチヲアケテクレルカ?

カムイ「? 何やら騒がしいですね……」

シャーロッテ「ふぅ、やっとたどり着けましたぁ。あなたが指揮官さんですかぁ?」

カムイ「一応はそうなります。えっと、あなたは?」

シャーロッテ「すみません、ご紹介もせずにお声を掛けてしまって、私はシャーロッテ。こっちの大きいのが」

ブノワ「ブノワだ」

カムイ「シャ―ロッテさんにブノワさんですか? よろしくおねがいします。ところで、私を探していた理由というのは?」

シャーロッテ「はい、私たち実は城壁防衛の任についていたんです。だから、内部構造についてよく知ってるんです」

カムイ「しかし、シュヴァリエ公国の方たちも城壁防衛に回されていたらしいですから……内部構造は把握しているのでは?」

ブノワ「ああ、確かにそうかもしれないが。俺達しか知らない、情報もある」

カムイ「どういった情報でしょうか?」

シャーロッテ「実はですね、城壁のある個所が脆くなってるんですよぉ。報告は上げてたんですけど、もしも修繕する前に城壁が落ちてたら」

カムイ「なるほど……そこを破壊すれば内部に入ることができるというわけですね。場所の方、案内していただけますか?」

シャーロッテ「はい、喜んで案内しますよ。あ、すみません、お名前を教えてもらってもいいですか?」

カムイ「すみません、名乗っていただいたのに私が返していなかったみたいで、私はカムイと言います」

シャーロッテ「カムイさんですね。……どこかで聞いたことがある名前」

暗夜兵「カムイ王女、すでに準備は整いました」

シャーロッテ「お、おう、王女、カムイ王女って……。これは最高の転機ってやつじゃないの!?」

ブノワ「そうか……良かったな」

カムイ「シャ―ロッテさん、ブノワさん。危険なことに変わりはありませんが、その個所へ私たちを連れて行ってくれますか?」

シャーロッテ「もちろん、カムイ様のために頑張っちゃいますから」

ブノワ「ああ、攻撃は俺が受け止める。任せてくれ」

カムイ「はい、頼りにしています。それではいきますよ、城壁に向けて進軍します!」

 >>54までを有効にして、行動チームは前城壁チームになりました。

 続きはいつもくらいに

◆◆◆◆◆◆
―城壁内部―

カムイ「本当に入り込めましたね。とはいってもすでに感づかれているでしょうね」

シャーロッテ「仕方無いですよぉ、大きな音もしましたから」

カムイ「はい、でもどうしてあの部分だけ脆くなっていたんですか?」

ブノワ「知り合いが手を滑らせて、壁を思いっきり叩いてしまったからだ」

カムイ「……すごい方なんですね」

ブノワ「ああ、だが頼りになる……」チラッ

カムイ「?」

シャーロッテ「はぁ、手がしびれちゃうわ」

カムイ「なるほど、そういうことですか。なら安心ですね」

シャーロッテ「? な、なんですか、そんなに見つめられると照れちゃいますよぉ」

カムイ「すみません。あと、シャーロッテさん、一つ提案なんですが」

シャーロッテ「はい、なんでしょうか。私にできることなら何でもしちゃいますよ」

カムイ「はい、こんなことを言うのは何なんですが……、そのように振舞っていただかなくても大丈夫ですよ?」

シャーロッテ「……え?」

ブノワ「……カムイ様には、通じていない?」

シャーロッテ「振舞ってるなんて、これが私の素ですよ?」

カムイ「……」

シャーロッテ「え、えっとぉ……」

ブノワ「シャ―ロッテ。カムイ様には、どうやら筒抜けのようだ」

シャーロッテ「ちっ、なによそれ、ここまで一生懸命繕ってきたってのに。これが私の素よ、文句あるかしら?」

カムイ「いいえ、むしろこっちの方が私は好きですよ。それに繕っているような暇は、あまりないみたいですから」

白夜兵「くっ、すでに内部に侵入を許しただと!? 全員武器を抜け!」

シュヴァリエ兵「中に入ったのが運の尽きだ。絶対に生かして帰さん!」

シャーロッテ「ああ、そういうことね。か弱い女子を演じてブノワにまかせようって思ってたのに……」

ブノワ「そう軽口を叩いている暇はないようだ…」

カムイ「そうですね。とりあえず、まずはやるべきことをやりましょう。シャ―ロッテさん、一番近くの城門の位置はわかりますか?」

シャーロッテ「当り前でしょ、ここにずっと勤めてたのよ。ブノワだって知ってるわ」

ブノワ「ああ、先導は任せてくれ…」

カムイ「ええ、頼りにしています。皆さん、各個に敵を撃破、外で戦っている暗夜軍のために城門を開放します!」



ブノワ「うおおおっ!」ドガッ

シュヴァリエ兵「ぐぉっ、だがこれしきで!」

シャ―ロッテ「盾が外れればこっちのもんよ!」ドゴッ

シュヴァリエ兵「ぐああああああ」ドサッ

カムイ「……さすがに頼りにしてるだけありますね。息がぴったりです」

ブノワ「シャ―ロッテ、下がれ…」

シャーロッテ「わかってるっての。カムイ様はできる限り私たちの後ろで待機で」

カムイ「それは……」

シャーロッテ「ここは、私とブノワの職場なの、一番理解してるからまかせろって言ってんのよ」

ブノワ「そういうことだ。ここを抜ければ、少し開けた場所に出る。そこに出ないと、大きく動きもできない」

シャーロッテ「そういうこと、だから今は私たちに任せておけっていってんの!」

カムイ「……はい、ありがとうございます」

シャーロッテ「えいっ!」ドゴン

白夜兵「ひえっ!」

 ガシャン

ブノワ「よし、通路を抜けた。この下に降りれれば……」

 ヒュンヒュンッ

ブノワ「!」キキンッ

???「そこです!」

 ヒュン

カムイ「でやぁ! 大丈夫ですかブノワさん」

ブノワ「…すまない。正面に気を取られていた」

カムイ「いいえ。他の皆さんも大丈夫ですか?」

リンカ「ああ、なんとかな。しかし、ここからどうするんだ?」

ブノワ「下が城門のあるフロアになっている。だが、封鎖は完了しているはず、それに屋上で攻撃を続けている敵兵が多くいる」

カムイ「二手に分かれましょう。半数は屋上の敵兵の一掃を、残りは私たちと一緒に城門の解放に向かいます」

???「そうはいきません!」

 シュッ シュッ

 キン

カムイ「簡単に進ませては貰えませんか」

???「そうですね。進ませるわけには参りません」

カムイ「……その声、まさかスズカゼさん?」

スズカゼ「覚えていただけているとは光栄です。カムイ様」

リンカ「スズカゼ、お前も暗夜王国に来ていたのか」

スズカゼ「リンカさん、無事だったようですね。先に送られた白夜の民のほとんどは死んでしまったと聞いていましたので」

リンカ「ああ、カムイに助けられたからな。だから、今はカムイのために戦う」

スズカゼ「そのようですね」

カムイ「スズカゼさん」

スズカゼ「できればこのような場でお会いしたくはなかったのですが、仕方ありませんね」

カムイ「ええ、出来ればお会いしたくありませんでした」

スズカゼ「そうですね、ですが今は好都合というものです。その身柄、拘束させていただきます」

カムイ「拘束? 命を奪うのではないのですか?」

スズカゼ「今、私が受けている任務の中に、カムイ様の拘束も含まれていますので。他の皆さんの安全は保障できません」

カムイ「殺されないというのは魅力的な話ですが、捕まるわけにはいきません。私はシュヴァリエに行かなくてはいけない理由がありますから」

スズカゼ「あなたならそういうと思っていました。ですから、私も力づくであなたを止めさせていただきます」

 ザッザッザッ

白夜忍「……」

カゲロウ「スズカゼ。入りこんだ者たちは……。なるほど、そういうことだったか」

カムイ「カゲロウさん?」

カゲロウ「私のことを覚えてくれているのか、義理堅い御方だ。もう敵同士になったというのにな」

カムイ「あなたがここに来ているということは……」

カゲロウ「ああ、カムイ様の思っている通りだろう。ここにリョウマ様はいる」

カムイ「……そうですか」

カゲロウ「ああ、そしてあなたの拘束が私達に課せられた使命。リョウマ様はまだカムイ様が戻ってくることを期待している、だから……」

カムイ「……リョウマさんには悪いですが、その期待に添えることはできません、カゲロウさん」

カゲロウ「そうか……」

サイゾウ「言っただろう、元々言葉で解決できるような相手では無いと」

カゲロウ「少し期待していたのかもしれない。カムイ様が耳を貸してくれるかもしれない、そんなことを…な」

サイゾウ「そうだな。だが、その意思がないとわかった以上、こちらは主の命令通りに事に当たるだけだ」

カムイ「シャ―ロッテさん、ブノワさん!」

ブノワ「…まかせろ」

 ザンッ

エルフィ「加勢するわ」

 ザンッ

ブノワ「…すまん」

エルフィ「気にしないで、カムイ様。今のうちに、シャーロッテ、奥の階段へ誘導して」

シャーロッテ「ええ、ブノワ。早く追いかけて来なさいよ」

ブノワ「わかっている」

カゲロウ「私はカムイ様を追跡する。サイゾウは他の者たちを釘づけに。後追わせないようにしてくれ」

サイゾウ「まかせろ、爆炎手裏剣!」

ブノワ「ぐっ……」

リリス「ブノワさん! これで」

ピエリ「我慢できないの! カミラ様、一緒に切り込むの!」

カミラ「ええ、ルーナ援護をよろしくね」

ルーナ「任せなさい。さぁフェリシアやるわよ、あたしたちの絆、見せつけてやるんだから!」

フェリシア「は、はい! ルーナさんとなら、なんだってできちゃう気がしますから!」

ルーナ「嬉しいこと言ってくれるじゃない、それじゃいくわよ!」

カムイ「シャ―ロッテさん!」

シャーロッテ「わーってるよ! 邪魔よ!」

白夜忍「ぐっ、これしき」

カムイ「てやぁ!」

 ドサッ

カムイ「まだ下ではないんですね」

シャ―ロッテ「ええ、まだまだ」

スズカゼ「いかせません!」

カムイ「ぐっ!」

シャーロッテ「カムイ様! って、邪魔すんじゃねえ!」

カムイ「スズカゼさん」

スズカゼ「すみませんが、このまま押し切らせてもらいます」

カムイ「ぐっ……」

サイラス「カムイから離れろ!」ザンッ

スズカゼ「くっ、やはりただの兵士たちとは違うみたいですね」

サイラス「カムイに指一本触れさせないぞ」

カムイ「サイラスさん!」

スズカゼ「ですが、私も行かせるわけにはいきません!」

オーディン「そうはいかないぜ。出でよダークネスサンダー!」

スズカゼ「そのような攻撃では……!」

リンカ「でやぁ!」ブンッ

スズカゼ「リンカさん。力をあげましたね」

リンカ「ああ、カムイ、ここはあたしたちが何としても抑える。だから、早くいけ!」

カムイ「皆さん、ありがとうございます!」

白夜忍「スズカゼ様、加勢いたします」

スズカゼ「すみません、私だけでは手に負えない相手のようです」

カゲロウ「スズカゼ」

スズカゼ「すみません、カゲロウさん。カムイ様を下に向かわせてしまいました」

カゲロウ「わかった、ここを任せられるのか?」

スズカゼ「はい、向こうも下に降りる気は更々ないようですので」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
カムイ「ここが一番下の広場ですか?」

シャーロッテ「そうだけど、誰もいない?」

ブノワ「すまない、遅れたようだ」

シャーロッテ「遅いわよ、ブノワ。敵がいないんじゃ、役になんて立てないわよ」

ブノワ「…そうかもしれないが、そのほうがいい」

カムイ「いえ、そうでもないようです」チャキ

カゲロウ「……カムイ様。逃がすわけにはいかぬ」

カムイ「カゲロウさん……」

カゲロウ「あなたには帰って来てもらなければならない。白夜のためにも、あなたのためにも、そしてリョウマ様のためにもだ」

カムイ「……それはできないと何度言ったらわかるんですか」

カゲロウ「私は、カムイ様と剣を交えたくはない。そう考えている、だからこそ、こうして訴えている」

カムイ「……その言葉は私にはとどきません。だから、私を従わせるには、力でどうにかしてください」

シャーロッテ「カムイ様……」

カムイ「シャ―ロッテさんとブノワさんは城門の解放に向かってください。私は、ここでこの方を足止めします」

ブノワ「ここは俺たちが……」

カムイ「いいえ、ここの施設のことはあなたたちが一番わかっているのでしょう? なら、早く開錠できる方が作業をすべきです。私がいては足手まといになります。なにせ、白夜軍の目的は、どうやら私のようなので」

ブノワ「わかった。すぐに戻る、それまで持たせてくれ」

シャーロッテ「……わかったわよ。やられないでよね!」

 タタタタタッ ガシャンガシャンガシャン

カムイ「……カゲロウさん」

カゲロウ「……容赦はせぬ」

カムイ「ええ、わかっています……」




カゲロウ「いざっ!参らん!」

カムイ「すごいですね。見きれなかったら、あぶなかったです」

カゲロウ「避けられてしまったな。これで決めたかったのだが」

カムイ「カゲロウさんの力、まだまだ見せてください!」

カゲロウ「本当に信じられぬ。目が見えていないというのにその動き、忍者であるならば教授を受けたいほどに」

カムイ「そうですか」

カゲロウ「だが、それは敵いそうにない」

カムイ「どうしてですか? 私を拘束すれば」

カゲロウ「拘束したところで、あなたは私達に心を開いてはくれない、そうだろう?」

カムイ「……」

カゲロウ「その無言は肯定と受け取っておこう……やぁっ!」

カムイ「すみません、カゲロウさん」

カゲロウ「何を謝る必要がある。カムイ様はカムイ様の道を進んだ、ただそれだけのこと」

カムイ「ええ、だから、カゲロウさん。ここで負けるわけにはいかないんですよ!」

 ブンッ キィン

カゲロウ「くっ、しまっ……」

カムイ「はあああああああぁぁぁぁぁ!」ザンッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
シャーロッテ「ブノワ、早くしなさいよ。カムイ様の加勢に戻らないといけないんだから!」

ブノワ「…以外に固くてな。もう少し時間が掛りそうだ」

シャーロッテ「……でも、本当に誰もいないなんて、一体どうなってるのよ」

 ザッ ザッ

ブノワ「?」

シャーロッテ「……って思ったとたんにこれとか、ブノワは開錠を続けて。私が何とかしとくから」

ブノワ「…わかった」

シャーロッテ「相手になるわよ」

???「………暗夜の兵士か」

シャーロッテ「ええ、そうだけど。城門を守る場所に誰もいないなんて、ちょっと手抜き過ぎじゃない?」

???「ああ、俺だけいれば十分だと思っている。ただそれだけのことだ」

シャーロッテ「……ちっ」

???「しかし、来たのがカムイではないのは予想外だ。いや、あいつのことだ、敵を引きつけているのかもしれないな」

シャーロッテ「カムイ様を知ってる?あんた誰だよ」

 ザンッ

リョウマ「白夜王国第一王子リョウマだ」

シャーロッテ「ツイテないわね、ブノワ。まだなの?」

ブノワ「最後の開錠が出来そうにない、特殊なものがつかわれているようだ」

リョウマ「そこのカギはここにある」

シャーロッテ「ご丁寧にどうも! たくっ、最悪よ。ブノワ、さっさとあいつ倒して、開錠終わらせるわよ」

ブノワ「ああ、悪いが、その鍵を渡してもらうぞ」

リョウマ「ああ、俺を倒せたならば、好きにするといい、もっとも」

「倒せるならな」

 今日はここまでになります。
 安価の方、説明不足の点があり、困惑させてしまったようで申し訳ありませんでした。

 少し、テンポが悪くなりがちで、申し訳ない。

 次で戦闘を終える予定です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ブノワ「シャーロッテ、下がるんだ!」

シャーロッテ「ちっ、わかってるわよ」

リョウマ「どうした、鍵を奪うのではなかったか!」

ブノワ「……辛いな」

シャーロッテ「ええ、しかも余裕な顔して、あの場から一歩も動かないし、追撃もしてこないし、すっげえムカつく」

ブノワ「苛立たせてこちらから仕掛けさせるつもりだろう。しかし、待っていては友軍の犠牲が増える…」

リョウマ「……」

シャーロッテ「ほんと貧乏くじだけど、ブノワ行くわよ」

ブノワ「ああ、守りは任せろ」

シャーロッテ「おりゃあああああああ!」

リョウマ「そこだ!」

シャーロッテ「ブノワ!」

ブノワ「ぬんっ!」

 ガキィン

リョウマ「! やるな」

シャーロッテ「よそ見してる暇なんてねえ!」

リョウマ「浅い!」

 ドガッ

シャーロッテ「きゃぁっ!」

ブノワ「シャーロッテ!くっ、これで!」

リョウマ「……甘いな」

 ドガン ザシュッ

ブノワ「ぐおぁ……」ドサッ

シャーロッテ「ブノワ! ……もうゆるさねぇ!」

 タタタタタッ シュタッ

シャーロッテ「おりゃあああ!」

リョウマ「……終わりだ」

 ブンッ

 キィン

カムイ「さ、させません……。シャ―ロッテさん!」

シャーロッテ「言われなくても!」

 ドゴォン

リョウマ「ふっ、命拾いしたようだな。そして、ようやく来てくれたようだな、カムイ」

カムイ「リョウマさん……」

リョウマ「……その風貌、まさに暗夜の王女と言ったところだが、それももう意味を無くすことになる」

カムイ「捕まるつもりなんてありませんよ」

リョウマ「お前ならそういうだろうと思っていた。だからこそ、俺は力づくでお前を捕まえる。それだけのことだ!」

 ダッ

カムイ「!」

 キン

カムイ「リョウマさん、兵を引いてください。こんなところで戦うことに意味などありません」

リョウマ「ふっ、それを決めるのは俺だ。それにしても、お前がそんなことを言うとは思わなかったぞ」

カムイ「そ、それはどういう意味ですか」

リョウマ「あの日、暗夜を選び俺たちの元から去っていったお前なら、こんなことを俺に言うはずもない。ただ何も言わずに剣を交えていただろう」

カムイ「くっ、そ、そんなことは」

リョウマ「どうした、俺を倒さなければ、この城は絶対に落ちんぞ!」ドガッ

カムイ「っ! これで」

リョウマ「判断も甘いっ、あまり冷静とは言えないな。お前に暗夜は辛い場所でしかない、だからお前は俺を倒せない!」

カムイ「や、やってみなければ……」

リョウマ「たしかにそうだが。今のお前では、俺には勝てん! はあああああああ!」

カムイ「ぐっ」

リョウマ「戻ってこい、カムイ。お前が戻るべき場所は暗夜ではない、俺たちが過ごす白夜だ」

カムイ「そ、そんなことはありません! 私は、自分の意思で暗夜に付いたんです。それを、それを否定されるわけにはいかないんです!」

リョウマ「ならば、その迷いを抱いた剣はなんだ! 俺を殺そうとも思っていない、その剣でお前は一体何を得ようとしている!」

カムイ「私は迷ってなんていません!」

リョウマ「……カムイ。俺は俺の正義を貫くことしかできない、そんな男だ。だからこそ、お前を欲している。お前が白夜の旗の下に来ること、それだけが今俺が戦う理由だ!」

カムイ「……くっ」

リョウマ「その弱い意志で、俺と戦ったこと。それがお前が負ける理由だ!」

シャーロッテ「ゴタゴタうるせえんだよ!」
 
 ブンッ

リョウマ「!」

カムイ「シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「カムイ様、あんなやつのご託に付き合ってる暇なんてないの、わかるでしょ?」

ブノワ「シャーロッテの言う通りだ。カムイ様、俺たちが援護する。隙を突いてくれ」

リョウマ「そこをどけ!」

シャーロッテ「どくかっつーの! やっと王族関係者と知り合いになれたんだから、こんなビックチャンス逃せないし」

ブノワ「俺は仲間を守るために戦場にいる、お前が誰かは問題じゃない、仲間が危険に陥っているのなら、それを助けるのが俺の役目だ」

リョウマ「……そうか。良い部下たちだな、カムイ」

カムイ「……」

リョウマ「だからこそ、お前のその迷った剣が気に要らないな。お前は何を目指して戦っている? 何のためにここへ来た! 答えろ!」

カムイ「わ、私は……」

カムイ(どうして、こんなに心が揺れてしまうのですか……。私は、考えて選択しているはずなのに、どうしてこうも……)

シャーロッテ「へっ、くどい男は女に嫌われるってのがわからないの?」

リョウマ「あいにく、お前のような女に好かれるつもりはないのでな」

シャーロッテ「そうね、あんたと敵同士じゃなかったら、私のお弁当食べさせてあげたかったんだけど、それは無理そうです~」

ブノワ「相変わらずの変貌ぶりだな」

シャーロッテ「ええ、冥土の土産に見せてあげようって思いまして、満足しただろ」

リョウマ「ああ、嫌というほどにな。さぁ、カムイ、お前の答えを俺に見せろ!」

カムイ「私、私は、シュヴァリエに行って約束を果たすために、ここに来ています」

リョウマ「約束……か」

カムイ「だから、ここでリョウマさんに負けるわけにはいかないんです!」

 ダッ

リョウマ「ならばその片鱗、少しでも見せてみろカムイ!」

 ダッ

シャーロッテ「ブノワ、カバー!」

ブノワ「ああ!」

 カキィン

シャーロッテ「こっちだおらぁ!」

リョウマ「ふんっ」

ブノワ「そこだ!」

 サッ

リョウマ「ふっ、やるな」

シャーロッテ「ちっ」

ブノワ「ならば、馬鹿正直にいく うおおおおおっ!」

 ガシャンガシャンガシャン ドゴォ

リョウマ「盾を攻撃の手段に!?」

シャーロッテ「カムイ様、今よ!」

カムイ「ええ、リョウマさん、覚悟!」

 ブンッ 

リョウマ「……」

カムイ「………」

リョウマ「斬れぬのだな……」

カムイ「……」フル……フルフル

リョウマ「やはり、お前は弱くなったようだ」

カムイ「………わ、わた、私は……」

リョウマ「だが、お前の意思、その片鱗は確かに俺に届いた。もう、お前に白夜へと戻れと告げることもないだろう」

ブノワ「カムイ様!」

シャーロッテ「ちっ、踏み込みが足りなかったか」

リョウマ「いや、お前たち二人の連携は素晴らしいものだった。俺がここで死ななかったのは、カムイの心の問題だ」

カムイ「リョ、リョウマさん」

リョウマ「……サイゾウ」

サイゾウ「ここに」

リョウマ「兵を退くぞ。遅かれ早かれこの城壁は暗夜の物量の前に沈む、あとは後続に任せる」

サイゾウ「カムイ様を拘束しないのですか?」

リョウマ「……ああ、同じ旗を仰げないこともあるが、このように弱い心で、今の白夜に帰ったとしても、守ることはできないからな」

サイゾウ「……御意」シュッ

リョウマ「その城門の鍵だ。受け取れ」

シャーロッテ「おっとと、どういうことよ。あんた、反乱軍の仲間じゃないわけ?」

リョウマ「最初はそうだった。そして、俺の正義はカムイの弱さの前に崩れてしまった。それだけのことだ」

カムイ「……私は」

リョウマ「カムイ。お前が弱くなった理由はわからない。だが、覚えて置いた方がいい、ここに来るまでのお前の強さは、紛いものだったということな」

 タタタタタタタタタタッ

カムイ「……だったら今までの私は」

「一体なんだったというんですか………」

 今日はここまでです。七重の塔のリョウマバージョンみたいな面をイメージした感じです

 シャーロッテがリョウマを落とす支援……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「……どうにか、城壁の制圧は終わりましたね……」

アクア「カムイ……」

カムイ「アクアさん、そちらは大丈夫でしたか?」

アクア「ええ、突然敵が引き始めたから何事かと思ったけど、何とかしてくれたのね」

カムイ「……」

アクア「カムイ?」

カムイ「私は、私は弱くなってしまったのでしょうか?」

アクア「どうしたというの?」

カムイ「私の剣には迷いがあると、リョウマさんに指摘されました」

アクア「! ここを守っていたのはリョウマだったの」

カムイ「はい……、私はとても弱くなったと、今までの強さはただの紛いものだと言われてしまいました」

アクア「カムイ、気にしてはいけないわ」

カムイ「ですが! 私はリョウマさんを斬ることができなかった。おかしいんです、サクラさんの時も、ヒノカさんの時も、そしてタクミさんの目の前で剣を振り上げた時も、私の心は全く動じていなかったのに……。今は、手が震えて仕方がないんです」

カムイ「リョウマさんの体に、剣が達する瞬間に私は引いてしまった……。シュヴァリエに行ってやるべきことがあるなんて、大きな声で宣言しておきながら、私は……」

アクア「カムイ。それでも、今はシュヴァリエに向かうことになるわ。残酷なことを言うかもしれないけど、これからあなたは正規兵を指揮して反乱を鎮圧しないといけない。ここで立ち止まることはできないわ」

カムイ「はい……その通りですよね。ははっ、ごめんなさい。なんだか、アクアさんに話して少し楽になれたみたいです」

アクア「そう、それなら良かったわ。でも、カムイ、そうやって一人で考え込むのはよくないわ」

カムイ「………」

アクア「カミラもエリーゼも、いいえ、みんなあなたの力になりたいと思っているわ。一人で考えないで、私達に――」

ゲパルトP(パラディン)「カムイ様、こちらにおられましたか」

カムイ「あなたは……?」

ゲパルトP「ガンズ様に仕えさせて頂いております。ゲパルトといいます。捕らえた捕虜より、面白い情報が入手できましたので、その報告に」

カムイ「? 面白い情報ですか」

ゲパルトP「はい、向こうで我が弟から聞いていただければ」

カムイ「わかりました……」

アクア「カムイ……」

カムイ「大丈夫です、きっと、きっと大丈夫ですから」

 カッ カッ カッ

アクア「……カムイ」」

~~~~~~~~~~~~~~~~~
ゲパルトS(ソーサラー)「カムイ様、私が聞きだした情報によると、シュヴァリエ公国に繋がる隠し通路があるそうです」

カムイ「隠し通路、ですか?」

ゲパルトS「はい。入口は城壁近くの森にあるらしくて、シュヴァリエ公国内部にまで伸びてるらしいです」

カムイ「……同時に攻撃するのが得策ですよね」

ガンズ「さすがに、自分たちの作った隠し通路を使ってくるなんてことは思いもしないだろうな。国境線でシュヴァリエの気を引く陽動に、本陣を叩く本隊、これが一番でしょう」

カムイ「そうですね。私としてはできる限り早く、シュヴァリエにたどり着きたいですから。この隠し通路を使わないわけにはいきませんし、この反乱を早く鎮圧しないと」

カムイ(どんなことになっても鎮圧を完遂しないことには、マークス兄さんの命の保証がありませんからね)

カムイ「ガンズさん、腕に自信のある方を集めてくれますか?」

ガンズ「ああ、任せてください、カムイ様。ゲパルト兄弟、お前たちも来るだろ?」

ゲパルトS「いっぱい燃やせるなら、喜んで行くよ、ねぇ兄さん?」

ゲパルトP「ええ、暗夜に立て付くお蘆花どもを一人でも多く殺さなくてはいけませんからね」

ガンズ「がーっはっは、いい返事だ。それでは、カムイ様。俺はこれから部隊を仕上げますゆえ、失礼させていただきます」

カムイ「ええ、よろしくお願いします。残りは私達ですから、よろしくお願いしますね」

ガンズ「へっ、殺しまくって階級をあげるいい機会だ。活用させてもらいます、カムイ様」

◇◇◇◇◇◇
―シュヴァリエ公国『中心街』―
???「わらわもまさか異国の地に来ることになるとは思わなかったのう」

???「あら、すでにこうなることを占っているのではないのですか?」

???「わらわのまじないは人のためにすることがほとんどじゃからな。わらわ自身を占ったことなどほとんどないのじゃ」

???「そう、では今日だけは占ってみませんこと?」

???「ふむ、今日はやけに突っかかるのじゃな、ユウギリ」

ユウギリ「ふふっ、お酒が進んでいるからかもしれませんわ。ふふ、このところは月が見えない夜ばかりでしたもの、だからお酒を持って会いに来てくれたのでしょう? オロチ」

オロチ「はぁ、ユウギリには何もかもお見通しなのじゃな。というか、この戦いが始まってからは、そなたとばかり過しておったのう」

ユウギリ「ええ、本来私たちは城で待つだけの者、主君はに先立たれ、誰に属することもできずに、ただただ変わっていく白夜を眺めていただけですもの」

オロチ「……悔やみきれんのう。知っていながら、それを伝えることができなかったというのは、わらわの人生最大の汚点じゃし、同時にこの先死ぬまで拭えない罪の烙印なのじゃろうな。って、酒の席で湿っぽい話になってしまったのう」

ユウギリ「いいえ、今の私たちの現状を理解するには必要なことですから、それにオロチの悩みが聞けて私はとてもうれしいですわ」

オロチ「はぁ、ユウギリはあまり悩みなど無さそうじゃからのう……」

ユウギリ「そういうわけではありませんわ。私にも気がかりなことはありますから」

オロチ「ほぉ、そなたの気になることとはなんじゃ。酒の肴になりそうな話じゃといいのう。もしかして、あれか白夜に意中の男でもおったのか?」

ユウギリ「そんなものではありませんよ。白夜にいる両親のことです」

オロチ「そうかそうか。うぷぷ、ユウギリも人の子と言うわけじゃな」

ユウギリ「叉木から生まれたわけじゃないんですわ」

オロチ「それもそうじゃな……。はぁ、これがただの海外旅行であったらどれほど楽しかったことか」

ユウギリ「ええ、願わないわけではありませんもの。こうして違う場所の違う空気に触れて、旅にと持ってきた故郷の品で舌鼓を打つなんて、すごい贅沢ですもの」

オロチ「……ユウギリ」

ユウギリ「なんですの?」

オロチ「もう酒が切れそうじゃ」

ユウギリ「あらあら、結構な勢いでのんでいたんですね。もうお楽しみの時間は終わりになってしまうなんて」

オロチ「ああ、そうじゃ。この酒がなくなった時がわらわも切り替わらねばならんからのう」

ユウギリ「……そうですね。最後のいっぱい、いただけるかしら?」

オロチ「おお、これで最後じゃからな」

 トクトクトクッ

ユウギリ「……必ずお守りしましょう」

オロチ「もちろんじゃ。命に代えてでも、今度は守り通すと決めたのじゃからな。うぷぷ、今わらわたちの未来を占えば、必ず悪いものが見れるはずじゃぞ」

ユウギリ「そうですわね。でも、今の間くらいは、吉の日が出てほしいですわ」

オロチ「……ユウギリ、共に全力を尽すとするかのう」

ユウギリ「ええ、この杯はその約束ごとですわ」

 カンッ

 グビグビグビグビ……

オロチ「では、そろそろ準備に戻るかのう」

ユウギリ「ええ、そうですわね」

「暗夜の奴らを呪い殺すための準備をのう……」


 第十二章 おわり

 

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリスB
(一緒に眠ったことがあります)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC
(今度はカムイの弱点を探ってみせると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワ →C
(イベントは起きていません)
シャーロッテ →C
(イベントは起きていません)

 今日は短めですがここまでです。

 こんな状況ならリョウマは白夜を優先するとおもったのでこんな流れになりました。

 なんかエロ書きたくなってきた、メモ帳に籠ろう……

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・国境城壁『内部』―

カムイ「……」

リリス「カムイ様、大丈夫ですか?」

カムイ「……」

リリス「カムイ様!」

カムイ「! り、リリスさん、いつからそちらに?」

リリス「先ほどからいたんですけど……」

カムイ「そ、そうですか。すみません、考えに耽っていたみたいで。それでどうかしましたか?」

リリス「陽動としてシュヴァリエに正面から攻撃を仕掛ける方々が出発しましたので、そのご報告に来たんです」

カムイ「では、そろそろ私たちも出なくてはいけませんね。シュヴァリエに続いているという隠し通路の場所は?」

リリス「はい、場所はもう見つかってます」

カムイ「これで、シュヴァリエに向かうことができますね。前線で陽動を引き受けてくれる方々のためにも、早く向かわないといけませんね」

リリス「はい」

カムイ「早く、反乱早期に終結させて、マークス兄さんを安心させてあげないといけませんから」

リリス「………」

カムイ「リリスさん?」

リリス「カムイ様……ここで待っていてくださってもいいんですよ?」

カムイ「な、何を言っているんですか!?」

リリス「シュヴァリエ公国の反乱鎮圧が完了すればいいんです。カムイ様が現場に行かなくても問題ないことなんですから」

カムイ「リリスさん、それはできません。私には果たすべき約束があるんです。リリスさんはその約束を知っているでしょう?」

リリス「知っています、だからこそ言えるんです。カムイ様が行っても行かなくても、何も変わらないって、そう思うんです」

カムイ「……リリスさん、どうしてそんなことを言うんですか。なんで、なんでそんな……」

リリス「カムイ様、クリムゾンさんと約束、それを思い出してください。クリムゾンさんはカムイ様を確かに待ってるかもしれません。でも、カムイ様の今やろうとしていることを、待っているわけじゃないんです」

カムイ「何が言いたいんですか……」

リリス「カムイ様は、クリムゾンさんを助けようとしているんですよね?」

カムイ「ええ、リリスさんには教えますが、そのつもりです。どんな詭弁を使ってでも、私はクリムゾンさんもマークス兄さんも救いたいんです。そのために私はシュヴァリエに向かわないといけないんです。クリムゾンさんと会って、話をしなくてはいけないから」

リリス「……カムイ様、本当に忘れてしまったんですか?」

カムイ「リリスさん、なんで私を迷わせるようなことを言うんですか?」

リリス「わ、私は……カムイ様を思って――」

カムイ「リリスさん、報告は以上ですか? もう、話すことがなければ、準備に取り掛かってください」

リリス「カムイ様!」

カムイ「私はシュヴァリエ公国に向かいます。私にしかできないことがあそこにはあるんです」

リリス「……今カムイ様のしたいことは夢物語じゃないですか!」

カムイ「もう、話すことはありません」

リリス「…………カムイ様」

カムイ「………」

リリス「……失礼、しました……」

 ガチャ バタン

リリス「………」

ピエリ「あっ、リリスなの! カムイ様に報告してきたの?」

リリス「ピエリさん……」

ピエリ「どうしたの。なんで、そんなに辛そうなの?」

リリス「なんでもないんです。本当に、なんでも……。ふふっ、ほら、いつもの私じゃないですか」

ピエリ「何があったの? ピエリ、リリスが悲しそうなところ見たくないの」

リリス「……本当に何もなんでもないんです。なんでも……なんで……も、ないんです……」

ピエリ「嘘なの、ピエリの眼は誤魔化せないのよ」

リリス「……」

ピエリ「カムイ様に何か言われたの? なら、ピエリがえいっ!てするの!」

リリス「……」

ピエリ「リリスは笑ってるのが似合ってるの! だから、リリスを泣かせるのはカムイ様でも許さないの!」

リリス「あはは、ピエリさんとっても怖い顔してます」

ピエリ「当り前なの! でも、よかったの。今のリリス、笑顔になってるの」

リリス「……ピエリさんにはいっぱいいろんなものもらってますね。こんな風に励ましてもらっちゃいました」

ピエリ「気にしないの。それにピエリが買ってあげたリボンちゃんと付けてくれてるからうれしいの!」

リリス「ふふっ、ピエリさんの馬に乗ってると血が付いちゃうか不安だから、こうやってカチーフに包んでるです。カムイ様も似合ってるって言ってくれたんです」

ピエリ「なら、大丈夫なの。カムイ様、今は気が立ってるだけなの。ピエリも気が立ったら、使用人をいっぱいえいっ、てしちゃうからわかるの!」

リリス「か、カムイ様はそんなことしないと思います。………多分ですけど」

ピエリ「やっと調子出てきたの。リボンがずれちゃってるの! 後ろ向くの」

リリス「は、はい……」

ピエリ「リリス、カムイ様のこと心配なの?」

リリス「はい、とっても心配です」

ピエリ「なら、ピエリが一緒にカムイ様を守ってあげるの。リリス、ピエリと一緒に行動するから問題ないのよ」

リリス「そうですね。言葉で聞いてくれないなら、実力行使しかないですよね」

ピエリ「だから、リリスも盾もって、剣も持つの!」

リリス「ふふっ、それはピエリさんにお渡しします。だって、ピエリさんは私もカムイ様も守ってくれるんですよね?」

ピエリ「そうだったの!」

ピエリ「でも、ピエリ、リリスと一緒に血みどろになりたいの。いっぱい奇麗になりたいのよ」

リリス「もうなってるじゃないですか。いつもベトベトになってますし、服とカチーフはいつも新調してるんですよ」

ピエリ「そうなの。ピエリも服はよく新調するの!」

リリス「もう、だからリボンは血塗れにならないように工夫してるんですよ。だって、ピエリさんからのプレゼントなんですから」

ピエリ「……リリス、大好きなの!」

リリス「わわっ、ピエリさん。恥ずかしいですよ」

ピエリ「恥ずかしくなんてないの! ピエリ、リリスのこと大好きだから、恥ずかしくないのよ」

リリス「も、もう……」

ピエリ「それじゃ、準備に戻るの。いっぱい準備して、カムイ様を守れるようにするの!」

リリス「その、ピエリさん」

ピエリ「どうしたの?」

リリス「あ、ありがとうございます///」

ピエリ「照れてる顔も可愛いの」

 タタタタタタタッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガンズ「ゲパルト兄弟。わかってるだろうな」

ゲパルトP「ええ。どちらにせよですが、そういう風に動けばよろしいんですね」

ゲパルトS「よかったー。兄さんと一緒に行動できるんだから……ガンズ様も色々と大変そうです」

ガンズ「へっ、何言ってんだよ。反乱兵だと思えば殺していい、そういう命令なんだからよ」

ガンズ「つまり言えばだ。もしもおかしなことをしたら、それは反乱兵ってわけだ。もっとも――」

「カムイ王女をシュヴァリエが殺してくれるなら、それに越したことはねえんだがな」

 短いですが、今日はここまでです。
 
 エロもどきは、時々、この場所に投下するかもしれません。



カムイ「あ、アクアっ んぁっ」

アクア「んっ、ぷちゅ、はむっ……ふふっ。カムイのここ、とっても堅くなってるわ」

カムイ「だ、だめだ、アクア。そんな、そんなに舌で舐めたら……くぅっ」

アクア「何がダメなのかしら、こんなにギンギンにして、口付するたびに喜んでるこれを見せつけてるのに」

カムイ「こ、これは、これは違う、違うんだ」

アクア「そう? だったらここでおしまいにするけど、いいのかしら?」

カムイ「そ、それは……」

アクア「ふふっ、じゃあちゃんとおねだりしなきゃ。カムイ、私にどうしてほしいのかしら?」

カムイ「あっ、アクアの、アクアの口で、ぼ、僕のをい、いじめて……くああっ」

アクア「んっ、じゅぽっ。ひょふひふぇましゅた。じゅるるるるっ」

カムイ「ん、先端がピリピリして……アクア、だめだ。も、もうでるっ」

アクア「だめよ、まだ出させてあげない」ガシッ

カムイ「!?」

アクア「ふふ、根元をこうやって拘束するとね。出したくても出せなくなるの、だから、はふっ、れろっ、ん、ちゅぱっ、んはぁ、舐められても出せないでしょ」

カムイ「ぐうぅっ、アクアやめて、あたま、あたまがばかになるから! 出したいのに、いっぱい、アクアの顔、僕まみれにしたいのに…」

アクア「ふふ、もうパンパンじゃない。指で触るだけで震えてるのがわかるもの。でもまだ我慢してね」シュッシュ

カムイ「はうううううん!!!!!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エリーゼ「アクアおねえちゃん、カムイおにいちゃんがすごくげっそりしてたんだけど、なにかあったのかな?」

アクア「さぁ、見当つかないわ」ツヤツヤ




 続かない一レスみたいなものなんで、こんな感じになると思います。

 

◇◇◇◇◇◇
―シュヴァリエ公国『中心街』―

オロチ「さて、首尾はどうかのう」

シュヴァリエ兵「オロチ様。暗夜軍は現在国境線に展開している部隊と戦闘を開始したそうです」

オロチ「暗夜はまだ破っておらぬのじゃろ?」

シュヴァリエ兵「はい、どうしてお分かりに」

オロチ「勘じゃ。ただ、それだけとも思えぬ。確実にあやつら、何か企んでおるじゃろう?」

クリムゾン「何をたくらんでるって言うんだい? オロチ」

オロチ「なんじゃクリムゾン。思い当たる節くらいあると思うじゃがのう?」

クリムゾン「……隠し通路のことかい?」

オロチ「シュヴァリエの中心地まで伸びておる隠し通路の存在を、暗夜の連中が見過ごすわけないじゃろう。どうせ、誰かしら捕虜になって、尋問の果てに場所はばれておると考えるのが普通じゃ、国境で戦っているのはその目くらまし、そう考えるのが妥当じゃのう」

シュヴァリエ兵「では、地下通路を封鎖いたしますか?」

オロチ「うぷぷ、それはしない方がいいのう。こちらに向かってくる本隊を叩けば、またこちらが攻撃の時に仕えるじゃろ? それにまんまと裏をかいたと笑っておる暗夜の者たちを罠に嵌めるのも一興じゃ」

シュヴァリエ兵「確かにそうですね」

クリムゾン「……本隊ね」

オロチ「……そうじゃ、そなたはこのことを伝令本部に伝えてくるのじゃ」

シュヴァリエ兵「はっ、わかりました」

 タタタタタタッ

オロチ「さて、クリムゾン。そなたとは一度話をしたいと思っておったのじゃ」

クリムゾン「……そうかい? 別に私はそんなつもりはないんだけどさ」

オロチ「そう牙を剥くような言葉遣いは感心しないのう。これでもそなたより年上なのじゃから、少しはいたわりを持ってほしいものじゃ」

クリムゾン「…それもそうだね。悪かったよ」

オロチ「ふむ、こちらも少し意地悪な言い方じゃった」

クリムゾン「良いってことよ。それで、話ってなんだい?」

オロチ「そなたは、長くリョウマ様と一緒にいたと聞いた」

クリムゾン「さぁ、どうだったかな?」

オロチ「茶化すでない。いや、茶化さないでほしいのじゃ」

クリムゾン「……何が聞きたいんだい?」

オロチ「そう怖い顔をするでない。リョウマ様から何か言われてはいないかと思うてな」

クリムゾン「……それを聞いて、あんたにどんな得があるって言うんだい?」

オロチ「得など何もない。ただ、聞いておきたいことがあるというだけのこと……いや、わらわは話を聞けたということじゃから得をするといえなくもないのう」

クリムゾン「ははっ、なんだそれ」

オロチ「……わらわたちがここに来たのは、今ここで指揮をしている御方を生きて白夜に帰すためじゃ。リョウマ様から直々に頼まれてのう。本来ならリョウマ様自身がお守りするところじゃが、白夜の状況を緩和見るにそれは難しいというものじゃ」

クリムゾン「……白夜はそんなに悪いことになってるのかい?」

オロチ「……認めたくないことじゃが、こんな風にシュヴァリエの反乱に手を貸す暇などない程じゃ。無限渓谷での小競り合いは日に日にこちらの消耗ばかり増えておる。わらわも呪術の部隊を任されていたから、嫌と言うほどにでも悪い話は耳に入ってくるものじゃ」

クリムゾン「……じゃあ、どうしてシュヴァリエの反乱に協力なんて」

オロチ「………協力か、困ったのう。そこをそなたが勘違いして居るとは思わなかった」

クリムゾン「ちがうのかい?」

オロチ「人は大義なんかより、もっと単純なもので動くものじゃ。ここに来るまでのわらわが裏切り者を選定する役目に付いていたようにのう」

クリムゾン「……あんたが、あの民間人たちをここに送ってきたのか」

オロチ「そうじゃ。王城に仕えていたこともあって、多くの民の情報をわらわは見ることができたのでな……。選別していったのじゃ、つながりが強いものほど、離れ離れにしたりとな。わらわが主を失ったという悲しみや憎しみを、暗夜に手を差し伸べた連中にも味あわせてやろうと思うてのう」

クリムゾン「……」

オロチ「今思えば、わらわは鬼じゃった。心を持たない暗夜のノスフェラトゥと何も変わらん。おかしいものじゃ、心がないから残虐なことをできるノスフェラトゥなんかより、心をもった人間のほうがいつでも非常な存在になれるとはのう……おっと、すまぬのう、このような話をしたかったのではなかったな」

クリムゾン「協力の話だよ」

オロチ「そうじゃった。この協力関係の話、いわば本質の話じゃ」

クリムゾン「本質って、一体何のことだよ」

オロチ「うぷぷ、食い付きがいいのう」

クリムゾン「もう、始まったことは戻せない、だから聞くよ。もう、私の知ってるシュヴァリエは帰ってこない、それはわかってるから」

オロチ「そう言ってもらえると嬉しいものじゃ。と、その前に質問じゃが、この反乱はいつ始まったとそなたは考えてる?」

クリムゾン「私が暗夜王国に行って、戻って来てからすぐに……」

オロチ「やはりそこも読み間違えていたようじゃな。クリムゾン、すでに反乱は始まっておったのじゃ。あの日、このシュヴァリエに裏切り者という名目で送られてきた白夜の民が来た時から」

クリムゾン「そんな、あの時はまだ反乱なんて」

オロチ「そなた、あの行為が暗夜王国に対して行われた謀反でないと、本気で言っているか?」

クリムゾン「そ、それは……でも、私は皆に指示を出せる立場にいた……だから」

オロチ「お主のことは聞いておる。親のこともシュヴァリエの騎士だということは聞いておる。だからこそおかしいとは思わぬか、たかが二十年ばかり生きてきたその身、王族でもなんでもないその身に、多くの人々が従うこの状況がじゃよ」

クリムゾン「その言い方、まるで私には何もないって言ってるみたいに聞こえるよ」

オロチ「みたいではない、言っておるのじゃ。クリムゾン、そなたにシュヴァリエの人々をどうにかする力などありはせんのじゃとな」

クリムゾン「だ、だけど、みんな私に、私の言葉に一度、踏みとどまって……」

オロチ「それは踏みとどまるじゃろう。演じることで、そなたがしばらくの間、シュヴァリエを離れてくれるならのう。それに、元から言うことを聞くつもりがないとすれば辻褄が合う。結局、そなたのことを反乱の象徴と考えている者など、この国の人間には居はしないのじゃ」

クリムゾン「……証拠は。証拠はあるのかい?」

オロチ「直接的な証拠などないが、クリムゾン、そなたはリョウマ様に後を任せて暗夜王国の王都に向かったのじゃな。しかも一人と聞いた」

クリムゾン「そ、それがどうしたっていうんだい? あの時、まだシュヴァリエは混乱状態だった。だから一人で行くことくらい……」

オロチ「クリムゾン。わらわがそなたを慕っていたのなら、リョウマ様がわらわとユウギリを手配したように誰かをそなたに付かせるじゃろう。そなたが象徴となり得るのなら、それを敵国に堂々と、しかも一人で送るなど危険極まりない行為じゃからな」

クリムゾン「そ、それは……」

オロチ「クリムゾン。リョウマ様がそなたに話をよくしておったのは、そなたに自分の境遇に似たものを感じ取ったからじゃ。だから、そなたの力になろうとした」

クリムゾン「境遇?」

オロチ「そうじゃ、そなたにシュヴァリエの者たちを従わせる力がないのと同じように、リョウマ様が持つ影響力はほとんどなくなっておるのじゃ」

クリムゾン「なんで、王子なんだろ? しかも、第一王子。みんな従ってくれるはずじゃないのかい。それに、このシュヴァリエへの協力を決めたのだって――」



リョウマ『お前の意見はお前がいる間だけ機能する』




クリムゾン「……」

オロチ「思い当たる節があるようじゃのう」

クリムゾン「……そういうことだったんだね」

オロチ「最初に言ったように、わらわも暗夜への恨みが募った結果として、多くの民をこの地に送り見殺しにした。わらわは最初、強硬派の側にいた人間じゃからな。だからリョウマ様の決定には心が飛んだぞ。暗夜に関係する奴らを地獄に落とせる、そう思ったのじゃ」

クリムゾン「……」

オロチ「でも今ならわかること。たぶん、リョウマ様はわらわたち強硬派のことを信じておったのじゃ、一時の気の迷いで多くの者たちを見殺しにすることに意味があるわけがない。強硬派が目を覚ます可能性に賭けたんじゃ」

クリムゾン「……」

オロチ「リョウマ様にとって、この選択がどれほどの苦行か、わらわのような一介の呪い師には理解できん。じゃが軍を動かす腹心でもあるユキムラ様が幽閉され、軍というものが言うことを聞かない暴れ馬になることは何としても避けなくてはならんことじゃったからな。じゃが、リョウマ様はこちらに来てから一度も白夜に戻らなかった。信じておったからのう、わらわたち強硬派の目が覚めると、そして目が覚めた強硬派ともう一度徒党を組んで暗夜に立ち向かう。そうなればよかったのじゃ」

クリムゾン「……どういうことだい?」

オロチ「今、実質力を持っているのは王族ではない、暗夜の侵略と、裏切ったカムイ王女を出汁に使って王族も動かすような強硬派じゃ。謀反の本質が王族の失墜と考えるなら、白夜は見事にその模範となる形じゃな」

クリムゾン「……なんだよ、それ。みんな、白夜の兵はリョウマの考えに賛同して、ここに、シュヴァリエに来てくれたんじゃなかったのかい? 暗夜を、暗夜を倒して、多くの人たちを圧政から救うって、だから……」

オロチ「……強硬派は意見が通ったこと、リョウマ様が不在なこと、そしてカムイ王女が王族の柵になってること、すべて理解していた。そして、此度のシュヴァリエの件、白夜はシュヴァリエの顔を立てると言って派兵を少なくしておるが、実際回せる兵などそうはいないというのが現実、本来なら足踏みが揃うのを待つべきところじゃ。しかも、無限渓谷との同時攻撃も考えていない。おかしいものじゃ、同盟国を助けるためなら、陽動の一つでも買って出る間柄であるべきなのにのう。たとえ、多く消耗していたとしても、それが暗夜打倒に繋がるというのであるならばじゃ」

クリムゾン「……」

オロチ「クリムゾン。悪いことは言わぬ、今すぐにでもこの戦場を離れるべきじゃ。このような戦いに参加することをリョウマ様は望んでおらんじゃろう」

クリムゾン「……」

オロチ「幸い、お主はカムイ王女と面識があるらしいからのう。それにカムイ王女の気は知らぬが、暗夜王国は反乱に参加したものを許しはせぬ。戦場で暗夜兵に顔を覚えられたら、どこに逃げようとも見つかれば殺されることじゃろう。だからそなたはほとぼりが冷めるまで――」

クリムゾン「ははっ、参ったね。こんな風に心配されるなんて思ってなかったよ。それもリョウマの指示?」

オロチ「いや、これはわらわの独断じゃ。リョウマ様の書簡にそなたのことがよく書かれておったからのう。話してみて、まっすぐなところが気に入った、だからこうして提案をしておる」

クリムゾン「そう、あんた、いいやつだね」

オロチ「茶化すでない。わらわは――」

クリムゾン「心配してくれてありがとう。でもさ、こんな形になったけど、ここは私の祖国シュヴァリエだ。そしてここまでのことを見てきた人間だよ、けじめはつけないといけない」

オロチ「………」

クリムゾン「それに、カムイは私に約束の答えを持ってきてくれると信じてる。だから、私はここで待つよ。リョウマにもそう言ったんだから」

オロチ「……その時、何か言われたんじゃな?」

クリムゾン「ああ。ははっ、そういうとこは律儀だよねリョウマはさ。最後に、深々と頭下げてたよ」



クリムゾン「『俺の責任だ、俺を怨んでくれて構わない』ってさ。その時は何のことかわからなかったけど、オロチの話を聞いて理解できたよ。馬鹿だよね、そんな状況で責任だなんだって、わかるわけもないのに。リョウマは民を信じただけなのにさ」

オロチ「クリムゾン、リョウマ様を――」

クリムゾン「責めるつもりはないよ。反乱は私たちの目標だったんだから、力を貸してもらったことに変わりない。だから大丈夫、私はどんなことがあってもリョウマを恨んだりしないさ。だって、私はリョウマのことイイ男だって思ってるんだからさ」

オロチ「むむっ、なんじゃなんじゃ。やはり、年頃もあってリョウマ様のことが気になってしもうたか?」

クリムゾン「……そうだね。ははっ、そうだったのかもしれない」

オロチ「……ならなおさら」

クリムゾン「だからこそだよ。私はリョウマにした約束通りにカムイを待つよ。約束守れるイイ女だって、リョウマに思われていたいからね」

オロチ「……馬鹿じゃのう、そなたは。じゃが、一世一代の告白を代わりに聞くことになるとは、思いもしなかった」

クリムゾン「良いってことよ。だって、あんた死ぬ気なんだろ? だったら、この話がリョウマに届くことなんてないよ。私とあんたとの間の秘密の話さ」

オロチ「……なるほどのう。それは愉快なことじゃな。……もっと違う形で、そなたとは出会いたかったものじゃ。そうすれば、わらわの幼馴染も紹介してやりたいくらいじゃ。とても独特な絵を描く奴じゃから、見ものじゃぞ?」

クリムゾン「へぇ、そうなのかい。だったら私の武器の下絵でも描いてもらいたいね」

オロチ「うぷぷ、それは見ものよのう。さぞかし愉快な下絵になること間違いなしじゃ」

クリムゾン「白夜とシュヴァリエの協力関係なんてこと、あんたの話を聞いて、結局全部泡みたいに消えちゃった。というか、こういう風に話をして私を戦場から遠ざけようとか、そんなこと考えたりしたのかい?」

オロチ「さぁ、どうじゃろうな……。では、わららは本部に戻る。もう、わらわはそなたを引きとめることはないからのう」

クリムゾン「ああ、わかってる。ありがと」

オロチ「ふむ、ではのう」

 バサッ……

クリムゾン「この中で抗っていたなんて、リョウマは強いね。結局、私はそれに気付けなかったなんてさ……ごめんよ、リョウマ」

 一度ここまでです。続きは夜くらいに。

 ちょっと、ガチエロはあれっぽいようなので少し自重しますね。

 本篇ですが、独自解釈が多く含まれていくと思いますので、ご了承のほどよろしくお願いします。

◆◆◆◆◆◆
―シュヴァリエの隠し通路―

カムイ「私の傍にいても意味なんてありませんよ。リリスさん」

リリス「だめです。私決めたんです、今回の戦いが終わるまでカムイ様の傍を離れないって決めたんですから」

カムイ「……リリスさん、あなたは戦闘ができないじゃないですか」

ピエリ「だからピエリが一緒にいるのよ。カムイ様もリリスもピエリが守るって決めたの、だからカムイ様は大船に乗った気持ちでいるの!」

リリス「怪我をしたらすぐに言ってくださいね。いっぱい準備してきましたから」

ピエリ「ピエリも少し持ってるの。あと盾も持ったから、これでエルフィくらい耐えられるの!」

カムイ「……」

リリス「カムイ様……。今度は守られる側になるんです。どこに行っても必ず追いついて守っちゃいますから、覚悟してください」

カムイ「…………勝手にしてください」

リリス「はい、勝手にさせてもらいますね」

ピエリ「やったの。了承得られたの。いっぱい殺して、カムイ様もリリスも守ってあげるのよ」

リリス「はい! ピエリさんのこと信じてますね」


カミラ「ふふ、ピエリもリリスも張り切ってるわね」

アクア「そうね……ある意味で士気が上がってるのがわかるわ、でも……」

カミラ「ねぇ、アクア。あなたはあんなカムイを見たことはある?」

アクア「いいえ、その質問はむしろカミラにしたかったことよ。あんなふうに不機嫌丸出しで言葉を返す所なんて」

カミラ「……白夜の王子が言っていたことは、本当なのかもしれないわ」

アクア「それって、カムイが弱くなったっていう話よね」

カミラ「ええ、最初は白夜王子の剣技、純粋な力量差故の言葉かと思ったけど、やっぱり違うと思うわ」

アクア「私も、最初同じことを考えていたわ。でも、今のカムイはとても見ていられないくらいに、どこか不安定よ」

カミラ「まるで別人と言えばいいわね。前のカムイなら、リリスにあんな言葉で返したりしないもの」

アクア「……カムイの心は揺れているのかもしれないわね」

カミラ「でも、おかしいじゃない。今までのカムイを見て来たから、ここにきて心が揺れるのがわからないの。あの日、港町で白夜の王女を目の前にした時、あの子は顔色一つ変えてなかったカムイが、ここに来て何に対して動揺しているのか……」

アクア「カムイは昔からあんな感じだったの?」

カミラ「そうね……初めて会った時は、まだあんな感じじゃなかったわ、目が見えないこともあったから。でもそれを克服するように技術を磨いて、強い心が出来ていつも落ち着いている。そんな子だったから」

アクア「そう……」

カミラ「出来れば不安を取り除いてあげたいわ。でも、一体何を話せばいいのかわからないの、正直歯痒いわ」

アクア「……カムイは約束を果たすために、シュヴァリエに向かうって言っていたから、その約束が関係しているのかしら?」

カミラ「……それは間違いないでしょう。でも、その約束だけが問題じゃないのだけは、感じ取れるの」

アクア「?」

カミラ「……だからわからなくなるのよ。一体何がカムイを苦しめているのか、それがまったく見当がつかない、すべてが問題だっていう結論には至れるけど……、それを言ったら元も子もないわ」

アクア「それもそうね。………カミラ」

カミラ「どうしたの?」

アクア「カムイが捕まった時、カムイは不安だって零したの。その時は気にしてなかったけど、今考えると不自然な気がして」

カミラ「……もう、その時からカムイの中で何か変化があったのかもしれないわ、アクアは何か思い当たる節はないのかしら?」

アクア「残念だけど、まったく見当がつかなの。正直、私の知っているカムイの印象と今の印象が違い過ぎてるのは確かよ。でも、だからと言って今いるカムイが偽物だなんてことはあり得ないわ。たぶん、私たちが知らなかった一面が出てきているだけ、それだけのはずだから。私たちはそれを受け止めてあげるべきなんじゃないかしら」

カミラ「……そう。アクアはカムイが落ち着くまで待ってあげる。そういうことね」

アクア「ええ、原因がわからない以上は、時間に任せるしかない、そうとしか言えないから」

カミラ「そうね。残念だけど、今私がカムイにしてあげられることなんて、無いに等しいもの。見守ってあげるくらいしかできないわ」

アクア「カミラ……」

カミラ「でも、アクア。もしも原因がわかったら、すぐに手を差し伸べるんでしょう?」

アクア「ふふ、当然よ」

カミラ「即答されちゃったわ。ありがとう、ますますアクアと仲良くなりたくなってきちゃったわ。闘いが終わったら、また一緒にお風呂に入りましょう? 今度はカムイも一緒にね」

アクア「……その……いっしょに入ってる時に触らないって誓ってくれるなら」

カミラ「ふふ、楽しみね、アクア?」

アクア「……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガンズ「おっと、ここが出口か。カムイ様、ここが出口のようです」

カムイ「はい。先導役ありがとうございます、ガンズさん。皆さん、ここはすでに敵地ですので、気を引き締めていきましょう。そしてこの中心街を制圧して、反乱を終わらせるのです」

ガンズ「へっ、てっとり早く行かせてもらうぜ、カムイ様。野郎ども、俺に続け!」

 ウオオオォ!!!!

 ギィィィィ

カムイ「……それでは行きましょう」

リリス「はい! カムイ様」

ピエリ「なの、早くいっぱい殺して血みどろに変身するの。あと二人のこと守るの!」

カムイ「…………」

カムイ(大丈夫、私は大丈夫……。クリムゾンさんを助けて、反乱を鎮圧して、マークス兄さんを助けて、みんなが無事であればそれでいいんです)

アクア「カムイ、大丈夫?」

カムイ「アクアさん、大丈夫です。行きましょう」

アクア「……ええ」

カムイ「では、皆さん。進軍を始めましょう」

◇◇◇◇◇◇
―シュヴァリエ公国『中心街』―

シュヴァリエ兵「敵、暗夜軍。隠し通路から現れたようです。中心地と進軍を開始した模様です」

ユウギリ「そうですの。わかりましたわ、皆さんはそれぞれの持ち場におつきになってください」

シュヴァリエ兵「はっ。それとご報告が、話に上がっておりました容貌の人物を確認しました」

ユウギリ「そうですか。ふふ、いい知らせですわ」

シュヴァリエ兵「では、私はこれで。暗夜軍め、皆殺しにしてやる」

ユウギリ「あの人を殺すのは駄目ですわ。生け捕りにしませんと」

シュヴァリエ兵「そうでしたね。気をつけます」

ユウギリ「……気をつけます、ですか。確かにその通りですわ」

 チャキ バサバサッ

ユウギリ「戦争をしているのですから敵がいるならそれを射るまで、ふふっ、ずっと城にいたものだから、あまり聴けませんでしたもの」

ユウギリ「さて、暗夜の人々は一体どんな声を上げてくれるのか、楽しみで仕方がありませんわ」

ユウギリ「でも、その前にあの方にご報告しませんと。そのためにここまできたんですから、報告しないと後が怖いですわ」

 バサバサバサッ

ユウギリ「……おまえ、私を背に乗せてよくこれまで飛んでくださいましたわ」

 クルルー

ユウギリ「今日が私の最後の仕事になると思いますわ。でも、大丈夫、お前はまだまだ空を飛べるんですもの」

「だから、私の終わりまでは言うとおりに羽ばたいてくれること、それが私の願いですわ」


 十三章 前篇 おわり

 今日はここまでです。人気投票になんでリリスやマクベスがいないんですかねぇ(訴訟)
 
 次回から戦闘に入ります。

 この先の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇

 ニュクスと一緒に戦うキャラクター

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター 
 フェリシア
 フローラ
 ラズワルド
 ゼロ
 オーディン
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 モズメ
 リンカ

 >>122>>123

◇◆◇◆◇

 カミラと一緒に戦うキャラクター

 >>124>>125

◇◆◇◆◇

 キャラクターが被った場合は次のレスのキャラクターが選ばれる形になります。

カムイがまずい状態に・・・

安価はオーディンで

乙でしたー
マクベスリリスは投票で人気が決めるキャラじゃなくて最初からみんなのアイドルだから…(震え声)
安価ならオーディン

安価被った申し訳ない
再安価OKならラズワルドでお願いします

アクアで

ニュクスと一緒に戦うキャラクター
 オーディン、ラズワルド

カミラと一緒に戦うキャラクター
 アクア、リンカ

 この組み合わせで行こうと思います。

 ちょっと、考えがまとまらなくて本篇は明日以降でおねがいします。


◇◆◇◆◇

カムイ「ふふ、レオンさんの息子さんと聞いていましたから、どんな人かと思ってましたけど、とっても可愛い声をあげるんですね」ピトッ

フォレオ「んっ、か、カムイさん。ど、どこをお触りになってるんですか……」

カムイ「どこって、顔ですよ。私の目が見えないことくらい、レオンさんから聞いていると思っていたんですが」

フォレオ「そ、それは知ってますけど……ひっ」

カムイ「なら、わかってますよね。私はフォレオさんのお顔が知りたいんです。だから……」シュッ

フォレオ「ひゃうっ」ゾクッ

カムイ「ふふ、御凸より少し上の部分が気持ちいいんですね。触れるとフォレオさんの髪と体が喜んでる気がします」

フォレオ「そ、そんなことありません。ありまっ、ひぅん! やっ、やめっ、そこ、あんまり触られたこと、ないんです」

カムイ「ふふっ、レオンさんは照れ屋さんですから、こうやって頭を撫でてあげることなんて中々してくれないでしょうからね。でも、時々撫でてくれたんじゃないですか?」

フォレオ「はい、小さい頃に秘境に会いに来てくれたときに撫でてくれましたから、とっても嬉しかったです」

カムイ「そうなんですか、ふふ、でも……」サワサワ

フォレオ「っ! か、カムイさん、そ、そこはぁ、駄目、駄目、ですよぅ……」

カムイ「こんなところ、触られたことあまりないんじゃないですか?」

フォレオ「や、やめてくださっ、んんっ!!」

カムイ「唇を噛みしめて我慢しても駄目ですよ。フォレオさんの息、とっても熱くなって、私の手に噴きかかって、とってもいやらしいです」

フォレオ「か、カムイさん。そ、そこ、そこにそれ以上、手を……ああっ!」

カムイ「左鼻筋から唇に掛けてが一番弱いことを知ってるのは、たぶん私だけですね。ふふっ、こんなに体をしならせて、すごく辛そう」

フォレオ「はぁ、はぁ、頭が、頭が何だかぼーっとして、んんっ、はぅんっ」

カムイ「ぼーっとしてますか、大丈夫ですよ。もう、そろそろフォレオさんのお顔、ちゃんと理解できますから……。唇はどんな形をしてるんですか?」ピチュ

フォレオ「んんっ」

フォレオ(カムイさんの指が、僕の唇に触れて……)

カムイ「柔らかいですね……フォレオさんの可愛らしい声にとっても御似合いで、とっても可愛いですよ」

フォレオ「こ、こんなことで可愛いって言われても……」

カムイ「仕方無いじゃないですか。だって、こんなに体をくねらせて、熱い息を漏らして、頬を熱くしてるのを想像したら、自然と可愛いって言葉が漏れちゃうんですから」

フォレオ「か、カムイさん……」

カムイ「あと少しだけ、フォレオさんのこと、私に教えてくれますか?」

フォレオ「は、はい……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

フォレオ「そんなことがあったんです、お父様……」

レオン「そう、いつもどおりみたいだね、姉さんは」

フォレオ「!?」


◇◆◇◆◇ 

 番外はこんな感じに落ち着きそうです。

◆◆◆◆◆◆
―シュヴァリエ公国『中心地』―

カムイ「おかしいですね、全く敵の襲撃がないなんて」

カミラ「というよりも、町が静かすぎるわ。住人が一人も見当たらないなんて、異常な光景よ」

アクア「……そうね。私たちが進む足音くらいしか聞こえないなんて」

カムイ「まったく気配が感じられません。この先はどういう構造になっているんですか?」

エリーゼ「んっとね。大きな広場になってるみたいだよ」

カムイ「……先の広場には数名で入りましょう。大勢で入り込んで一網打尽にされるのは避けたいですから」

カミラ「そう、なら私も付いて行くわ。カムイだけじゃ心配だもの」

エリーゼ「あたしも一緒に行くー。アクアおねえちゃんも一緒に行こっ?」

アクア「ええ、いいかしらカムイ?」

カムイ「……ええ、どうぞ」

ピエリ「カムイ様、ピエリよりも後ろにいるの。しっかり守ってあげるから、期待してて欲しいの」

リリス「そういうわけですから、私とピエリさんより前に出ないでくださいね、カムイ様」

カムイ「……わかりました。他の皆さんはここで待機、武器はすぐにでも使えるようにしてください」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カミラ「……広場にも人影はない……みたいね」

エリーゼ「うん、でも静かすぎて、なんだか怖いよ」

アクア「ええ、でも、微かに感じるわね」

カムイ「誰かに見られているのは確かですね」

ピエリ「……何もいなくてつまらないの」

リリス「何もいない方が嬉しいんですけど」

???「おいでなすったようじゃ」

 カラカラカラカラ シュビィン!

ピエリ「カムイ様、危ないの」キィン!

カムイ「!」

ピエリ「危なかったの。カムイ様、気をつけるのよ。でも、とっても弱い攻撃だったの……」

???「うぷぷ、やはり気絶させる程度の攻撃では、傷など与えられないということじゃな」

 ザッザッザッ

カミラ「あら、堂々と姿を現すものなのね」

???「そうじゃのう。ある種、礼儀みたいなものじゃ」

アクア「だったら、先に攻撃をしないことの方が重要じゃないかしら?」

オロチ「うぷぷ、暗夜に付いたアクア王女に言われたくはないものじゃが、確かにその通りじゃのう」

アクア「! あなた、オロチ……」

オロチ「久しいのう、アクア王女。こうして会うのは何時ぶりか?」

アクア「どうして、あなたがここに」

オロチ「何を言っておる、そなたとわらわたちは敵同士じゃ。それでも十分な理由とは思うがのう?」

???「そうですわ、オロチの言う通りでしてよ」

 バサッバサッバサッ シュタッ

アクア「金鵄武者のあなたも来ているなんて……」

ユウギリ「御久し振りでございます、アクア王女。うふふ、予定の人物が二人も目の前にいるというのは幸先いいですわ」

オロチ「そうじゃのう。探す手間が省けたというものじゃ」

カミラ「あら、おとなしく妹たちを渡すとでも思っているのかしら」

カムイ「……」サッ

オロチ「ふっ、カムイ王女、今合図を送れば、隠れておる者たちの矢が降り注ぐぞ。うぷぷ、流石に多くの量じゃ、一人くらいは死んでしまうじゃろうが……。やりたければやるがよい」

オロチ(実際は数名の脅しじゃが、さて、どう出るかのう?)

カムイ「くっ……」スゥ

ユウギリ「理解力の高い王女で助かりますわ。罠とわかっていてこの広場に入ってくるのは、少し愚かではありますけど」

エリーゼ「ううっ、どうしよう……」

アクア「エリーゼ、今は動かない方が身のためよ。どうやら、向こうは私たちをすぐにでも殺そうと思っているわけではないみたい」

オロチ「飲み込みが早くてよいのう。さて、唐突な話じゃが、カムイ王女にアクア王女、今からこちらの旗を仰ごうとは思わぬか?」

アクア「……何を言い出すかと思えば、まさかそんなことを話すために、私たちを足止めしたって言うの?」

オロチ「うぷぷ、酔狂と思われて構わないこと、別にお主たちの返答に期待などしておらん、これもいわば流儀みたいなもの。じゃが、今こちらに付くというのであれば、すぐに反転して前線を攻撃に参戦してもらうことになる。無論、暗夜を倒すためにじゃ」

カムイ「……それは、できません。この反乱を鎮圧しなければならない理由があるんです。残念ですけど、そちらの旗を仰ぐなど――」

オロチ「そうか、残念じゃ。そなたの知り合いもこちらにおるというのに、聞く耳すら持たぬとはのう」

カムイ「っ……なんのことですか」

オロチ「うぷぷ、何を動揺しておるのじゃ? わらわたちを倒しに来たにしては覚悟が足りぬように見える」

カミラ「あらあら、それ以上カムイを虐めるなら、容赦しないわよ」

ピエリ「カムイ様に牙をむくなら許しはしないのよ」

ユウギリ「せっかちはよくないですわ。それに、私たちの主がそろそろ到着しますもの」

アクア「主?」

オロチ「わらわたちが仕えていた元の主は、あの日に殺されてしまったからのう。こうして、また誰かに仕えるのは久々なことじゃ。その方の指示でそなたたちに、こうして提案しておるわけじゃ」

ユウギリ「ええ、新しい主はお二人が帰られるのを待っておられますから。大丈夫、白夜でも必ずお守りしてくれるはずですわ」

アクア「……信じられないわね。ここまでのことをしておきながら、その目的が私とカムイを連れ戻すことだなんて……」

オロチ「出来れば、先ほどの一撃でアクア王女からカムイ王女に倒れてもらって、片方を盾に交渉をしたかったのじゃが、中々うまくはいかぬものじゃ」

カムイ「……わたしは、戻れません。私はここに――」




???「クリムゾンと話をするために来た。そうだろう、カムイ?」

カムイ「えっ?」

???「オロチから話は聞いてる。ふふっ、カムイらしいと思うよ」

アクア「……そう、あなたなのね。ここの指揮をしている人っていうのは」

???「ああ。だからこそお前は必ず来てくれると信じていた。それにアクアも一緒に来てくれたのはとても嬉しい、サクラも一緒にいてくれたらもっと良かったんだが。ふふっ、リョウマ兄様には悪いが、私がカムイとアクアを白夜に連れて帰る。そして、このままの勢いで暗夜を倒して、一緒に暮らそう。これからずっと、一緒に……な」

カミラ「泥棒猫も、ここまで来ると、清々しくていいわね。そうでしょ、ヒノカ王女?」

ヒノカ「……貴様のような目狐に名を覚えられたくはない。今日こそ、カムイを返してもらう。私はそのためにここにいるんだからな」



 バサバサバサバサ シュタッ

ヒノカ「カムイ。また会えたな」

カムイ「ヒノカさん……。あなたがこれを引き起こしたんですか」

ヒノカ「私はこの反乱に便乗しただけさ。カムイ、お前を暗夜の呪縛から解き放って白夜に連れて帰る、それ以外のことなど正直どうでもいいんだからな」

ピエリ「カムイ様に近――」

リリス「ピエリさん、動いちゃ駄目です!」

オロチ「命拾いしたのう……なにせ、今度は加減をするつもりなどないんじゃ、引き裂かれたくば、おとなしくしておくのだ」

カムイ「ヒノカさん、私のことは忘れてくださいと、言ったはずです」

ヒノカ「カムイ。無理なことを言わないでくれ、それに私のことは姉さんと呼んでくれていいんだぞ」

ダキッ

ヒノカ「ああっ、カムイ。久し振りだ、お前をこうして抱きしめるのは。あの日、再びお前を失ってから二度と手に入らないと思っていた。あの日のまま、お前が変わっていなくてとても嬉しいよ」

カミラ「カムイ!」

アクア「カミラ、動いては駄目!」

カミラ「っ!」

ユウギリ「動いたら、命はないですよ。ヒノカ様からはアクア王女とカムイ王女以外の命はどうでもよいと言われておりますわ」

エリーゼ「カ、カミラおねえちゃん」

カミラ「私の後ろにいなさい。大丈夫、心配しないでいいわ」

カムイ「ヒノカさん、やめてください。私は……」

ヒノカ「カムイ。何を悩んでいるんだ?」

カムイ「何も悩んでいません」

ヒノカ「嘘だ。お前は悩んでいるはずだ、辛かっただろう。でも大丈夫だ、もう悩まなくていい」

カムイ「わ、わたしは……」

ヒノカ「リョウマ兄様の言葉を借りるわけではないが、お前が悩む必要はもうないんだ。私がお前の悩みをすべて解決する。さぁ、言ってくれ、今のお前の悩みを。大丈夫だ、悩みを吐露することは恥ずかしいことじゃない。私にだって悩みがあるようにな」

カムイ「ひ、ヒノカさん。私は、何も……」

ヒノカ「大丈夫だ。小さい悩みでもいい、私はお前の小さい悩みにだって真剣に取り組む、だって、血の繋がった姉妹なんだから」チラッ

カミラ「むっ……最悪な気分ね」

ヒノカ「なぁ、カムイ。もうおまえはここまで頑張ってきた。でも、それもここで終わりにしよう。あとは、ゆっくり休んで待っていてくれればいい、今まで姉のようにふるまえなかった私に、姉としてお前に尽くす時間を……」

カムイ「ううっ、や、めて……」

ヒノカ「カムイ?」





カムイ「やめてください!」ドンッ




ヒノカ「カムイ……なぜ?」

カムイ「止めてください……」

ヒノカ「カムイ、怖がらなくてもいい。私ならお前の悩みを、すべて聞いてあげられる。怖いものからも守ってやれる」

カムイ「私が決めるんです。私が……」

ヒノカ「そんなに辛そうに言っているのに大丈夫なことがあるか。さぁ、カムイ私の手を取ってくれればそれでいい。さぁ」

カムイ「……ヒノカさん」

ヒノカ「さぁ、カム――」

 モウイイ、チャバンハオワリダ! ハナテ!

 ヒュンヒュンヒュン!

カミラ「!? カムイ、逃げなさい!」

ユウギリ「動きましたわね」

 ヒュンッ キィン

アクア「カミラ、大丈夫?」

カミラ「ええ、ありがとう。先に手を出されたら黙ってられないわね!」ブンッ

ユウギリ「やりますわね」


ヒノカ「! シュヴァリエの兵たちが攻撃を!? 違うんだカムイ、これは」

カムイ「私はそちらに戻れません! はぁ、はぁ……皆さん、来てください!」スッ

 タタタタタタタッ チャキ ジャキッ

ヒノカ「くっ、カムイだけでも、私は!」

ピエリ「行かせないのよ!」ザンッ

 キィン

ヒノカ「そこを通せ!」ブンッ

 ガキィン

カミラ「あら、ごめんなさい。ここは通行止めよ。部外者は絶対に入れてあげないわ」

ヒノカ「どうして、私の邪魔をする!」

カミラ「愚問ね。カムイは私の家族だから、これ以上の理由が必要かしら?」

ヒノカ「黙れ!」

アクア「カミラ、あぶない!」

 キィン

ヒノカ「あ、アクア。なぜ、その女をかばう!?」

アクア「ごめんなさい。でも、私は今の白夜に戻るつもりなんてない。これはその答えと思ってもらって構わないわ」

ヒノカ「カムイもお前も、暗夜に騙されているだけだ! いつか、いつかお前たちは――!」

アクア「ヒノカ……、あなたが私にくれた優しさもすべて覚えているわ。だから、今のあなたと一緒に私は過ごせない」

ヒノカ「……私は、お前たちを、お前たちと白夜でもう一度……」

アクア「ヒノカ、私は――」

カミラ「アクア、そこまでにしなさい……」

ヒノカ「カムイやサクラだけでなく、アクアまで……。なぜ奪うんだ、暗夜は私からすべてを奪い去ろうというのか!」

カミラ「すべてを奪うつもりなんてないわ。ただ、カムイもアクアも渡せない、それだけのことよ。そして、私は運が良かったって思えるわ」

ヒノカ「なら、お前を殺して、力づくで取り戻すだけだ!」ブンブンブン チャキ

シュヴァリエ兵「構わん、暗夜のものを皆殺しにしろ。正義はこちらにある!」

 ウオオオオォ! ドタドタドタドタ 

アクア「いっぱい入ってきたわ。エリーゼは後方のみんなと合流して」

エリーゼ「う、うん!」

アクア(ヒノカ……)

 アソコダ! 

 キリキリキリキリ バシュッ 

アクア「! しまっ――」

リンカ「アクア!」

 キィン

リンカ「ははっ、どうにか間に合ったみたいだ。……あんたはヒノカ王女だね」

ヒノカ「お前は炎の部族の……、白夜の民でありながらお前も暗夜に付くというのか」

リンカ「正確には言えば違う。あたしはカムイに付いて行くだけだ。こうしてこう宣言するのは二回目になるな。だから、あたしはもう迷うつもりない」

カミラ「リンカ、アクアを援護して頂戴。私は、この泥棒猫をお仕置きして白夜へ帰ってもらわないといけないから」

リンカ「ああ、任せろ。アクア、あたしの後ろに付いてくれ。カミラ、できる限り援護はする」

カミラ「そう、期待してるわ」

アクア「皮肉なものね、リンカ」

リンカ「何がだ?」

アクア「同じ旗の元にいたはずの私たちが、こうして白夜と争うことになるなんて」

リンカ「……今さらそれを言っても始まらない。負い目があるのならヒノカと一緒に白夜に帰るか?」

アクア「……いいえ。もうあの白夜へは戻れない。リンカもそうでしょう?」

リンカ「ああ、そのとおりだ! せいっ!」ザシュッ

シュヴァリエ兵「ぐぶっ」ドサッ

カミラ「ふふっ、リンカも中々やるのね。さて、どう来るのかしらヒノカ王女?」

ヒノカ「どうもなにもない」

「ここで落ちるのはお前だ、カミラ王女」

残りは夜にでも

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 カラカラカラカラ シュオンッ!

暗夜兵「くっ、くそ。近づけない!」

オロチ「うぷぷ、どうしたかのう。まだまだ、こちらの攻撃は終わらぬのに、これでは拍子抜けじゃ」

 カラカラカラカラ シュッ!

暗夜兵「ぐぎゃあ」ブチッ

オロチ「おっと、そちらから来るようじゃのう」

 カラカラカラカラ シュンッ!

暗夜兵「こちらから、近づければ――!? ひぎぃっ!」ビチャ

ユウギリ「ふふっ、いい声をあげますのね」

オロチ「あまり良いものではないのう。これが好きとは、やはりユウギリは変わりものじゃ」

ユウギリ「ええ。でも、仕方無いですわ。好きなものは好きなんですもの」

 パシュパシュ ドスッ

暗夜兵「ぐぎゃああああ、目が、あ、熱い、痛え!」

 バサバサバサッ

ユウギリ「ふふっ、良い声、ゾクゾクしますわ」

 クルクルクルクル ザシュ

暗夜兵「――っが――ふっ――はっ」プシャアアアアアア ドサッ

オロチ「ふむ、しかし、なんじゃろう、この敵の広がり方は。何か企んでおるようじゃ」

ユウギリ「そうですわね。でも、これは殺しやすくていいものですわ」ザシュッ

オロチ「ユウギリ、逃げたカムイ王女を探してきてはくれぬか? ヒノカ王女は動けそうにない、空を飛べるそなたのほうが見つけ安いはずじゃ」

ユウギリ「ええ、敵を摘まみながら、探してきますわ」

 バサバサバサバサッ

ラズワルド「金鶴がどこか違う場所に行くみたいだ。残ってるのは呪術師とアーマーナイトが三人の計四人か。でも、あの怖い人がどこかへ行ってくれて助かったよ」

ニュクス「そうね、できれば相手にしたくはなかったから、助かったわ」

オーディン「しっかし、変な感じに収まっちまった。ほとんどの部隊が散り散りじゃ、この反乱を抑えきれないぞ」

ラズワルド「ガンズの部隊がおかしな動きをしてたからね。何か企んでいるのかもしれないよ、あのゲパルト兄弟もその指示に従ってたみたいだし」

オーディン「一体何を企んでるかは知らないが、正直嫌な予感しかしないぞ」

ニュクス「そうね。でも、今は目の前のことに対処する時間よ」

ラズワルド「それもそうだね。それで、どうしようか?」

ニュクス「まずは、あのでかいの三人片付けるわ。そのあとにあの呪術師に攻撃を掛ける」

オーディン「そうかい。しかし、うまくいくのか?」

ニュクス「ふふっ、漆黒のオーディンって言われてるあなたが、こんなことで根を上げるのかしら?」

オーディン「まさか、今のは仮の姿だ。漆黒のオーディン、秘めたる力、アウェイキング・ヴンダーを駆使すれば、不可能なことなど何もない」

ニュクス「そう、頼りにしているわ。ラズワルド、どう?」

ラズワルド「対装甲のアーマーキラーを持ってきたのは正解だったね。どうにかして見せるよ」

オーディン「さすがは蒼穹のラズワルド、抜け目のない準備だ」

ニュクス「そう、それじゃラズワルド、ひとつ頼まれてくれないかしら?」

ラズワルド「いいけど、何をするんだい?」

ニュクス「それはね―――」

オロチ「ふむ、ここにはもういなさそうじゃのう?」

シュヴァリエ兵「オロチ様。次の場所へ向かいましょう」

オロチ「そうじゃのう……いや、まだいるようじゃ。その壁の向こうじゃな? これでどうじゃ!」

 カラカラカラカラカラ シュッ!

 ドガン!

ラズワルド「うえ、ばれてないこれ?」

オーディン「勘が鋭いようだが、呪術師以外はどうやらそうでもないみたいだ」

ニュクス「なら、よろしくね、ラズワルド」

ラズワルド「ああっ、行くよ! いっせーのっせ!」ブンッ

オロチ「何か飛び出した――!?」サッ

ニュクス「身軽なのが生きたわね。一番遠いやつを。これで!」

 ボウッ ボウッ ボウッ

シュヴァリエ兵「ぐえああああああああ。鎧、よろいの隙間からああああ、ひぎゃああああ、あづいああ」ドタッ プスプスプスッ

シュヴァリエ兵「!? くそっ、どこだ!」

オーディン「ここだっ!」

 シュオンッ ビリビリビリ

シュヴァリエ兵「ごあ、ああああがあああああ」ドサッ

ニュクス「んっ、流石にうまくは着地できな――」

シュヴァリエ兵「殺してやる!死ねええええ!」

 ザッ

ラズワルド「悪く思わないでね。せいっ!」

 ガギン ギギギギッ ガゴンッ ズシャ

シュヴァリエ兵「……」ポタポタタタッ ガシャンッ

オロチ「ふむ、護衛がやられてしまったのう。わらわも入れて四人いるからと油断した結果じゃな」

ニュクス「そうね……。さて、三体一よ?」

オロチ「うぷぷ、数は重要ではない。もう仕掛けは打っておるからのう」

ラズワルド「……負け惜しみかな? 降伏とかしてくれると嬉しいんだけど」

オロチ「うぷぷ、わらわはここで死ぬ気じゃからな。降参などした日には、この先ずっと思い出し笑いを続けることになる。それは御免じゃ」

オーディン「なんで、そんなに死にたがる? 意味がわからないな」

オロチ「意味など知る必要がないことじゃ。今から地に伏して死ぬものに、そんな託はちとサービスのしすぎというもの、そうじゃろう?」

ニュクス「そう。確かにそうかもしれないわね」バサッ

オロチ「うぷぷ、そなたは物わかりが良くて助かるのじゃ。むろん、勤めを果たすまで死ぬつもりはないがのう!」

 カラカラカラカラ シュッ
 カラカラカラカラ シュパッ
 カラカラカラカラ ドドドド

ラズワルド「三つ同時に展開した!?」

オーディン「なに、この、かっこいい出し方。俺もこれすっげえやりたいんですけど!」

ニュクス「仕掛けってこのことね」

オロチ「ついでにもう一つじゃ!」

 カラカラカラカラ ザンッ

オーディン「ラズワルド、ニュクス下がれ! 俺の漆黒の衣ですべて受け止めてみ――、うっ、ぐぼっ、ぐはぁ、ごはぁ!」ドサッ

オロチ「……うぷぷ、とても愉快じゃのう」

ニュクス「……何してるのよ。あなた」

オーディン「くはははははは! どうだ、俺の漆黒の衣の力を――いっつつ!」

ラズワルド「こんなところで、格好つけてないで、さっさと立ち上がってよ。次がもう来るよ」

ニュクス「すべて受け止めるなんて正気の沙汰じゃないわ、愚かね」

オーディン「ええっ? 体張ったのにこの仕打ち? ちょっとひどくないか?」

オロチ「くくっ、なんじゃそなたたち、とても息があっておるのう。凸凹しとる癖に、こうも見ていて笑えるものはないものじゃ」

ニュクス「一緒にされるなんて心外だけど。そうやって言葉でからかって術を仕掛ける時間稼ぎはやめた方がいいわよ」

オロチ「……よく見ておるのじゃな。普通、こんな暗い中では気づかないはずじゃ」

ニュクス「ええ、でも手から落ちる時、あなたの札はよく光に反射しているから見えないわけじゃないわ」

オロチ「……やはり即興の準備では駄目か。指摘までされるとは思わなかったぞ」

ニュクス「それに、あなたは展開が少し遅いみたいだから……。もともと人を殺すために呪術を習っていたというわけではなさそうだもの」

オロチ「人のことを詮索するのは感心せん」

ニュクス「そうね、心まで踏み入って悪かったわ」

オロチ「……いや、そうだったかもしれんな。それがこうして、こんなことに身を費やすことになるとは、本当にわからぬものじゃ!」

 シュシュシュシュ カラカラカラカラカラ

ラズワルド「次くるよ!」

オロチ「今回は追加はせん、次で三人まとめて仕留めじゃ」ハラ ハラ

オーディン「ここで引いたら、あいつは他の連中の場所に向かうはずだ。どうにかして止めるぞ」

ニュクス「ええ、そうね。だから、ラズワルド、オーディン。少し力を貸してほしいわ」

ラズワルド「別に構わないよ。で、どうするのさ」

ニュクス「少し、無茶するつもりよ」

オーディン「……いいだろう。力を貸す、だが奴を倒せるんだよな?」

ニュクス「勝算がなければやらないわ。そういうものでしょう?」

オーディン「それもそうだ。で、俺は何をすればいい。この俺にだけできる、栄光ある使命を期待する」

ニュクス「ええ、さっき見せてもらったから言わせてもらうわ」

「オーディン、盾になりなさい」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「はぁはぁ、皆と散り散りになってしまいました。くっ、敵に圧されて……」

ピエリ「カムイ様、後ろに下がってるの」
 
 パシュ キィン

ピエリ「いたっ」

リリス「ピエリさん、えいっ!」シュオン

ピエリ「ありがとなの。えいっ!」ザシュッ

 ポタポタポタポタ ドサッ

ユウギリ「ふふっ、見つけました。みなさん、王女以外殺して構いません、行きますわよ」

 バサバサバサバサッ

ピエリ「……竜騎兵がいっぱいなのよ」

リリス「ぴ、ピエリさん……」

カムイ「くっ、こんな状態で狙われては」

 バサバサバサバサ

シュヴァリエ兵「くらえ!」ブンッ 

ピエリ「んぐっ! 怒ったの!」シュ ザシュ

 ドサッ

シュヴァリエ兵「その騎兵を殺せば、王女だけだ! たたみかけろ!」

カムイ「てやあ!」ザシュッ

シュヴァリエ兵「ぐっ、くそおお」ドサッ

ユウギリ「ふふっ、斬りかかってくるのですね。なら、その足の一本でも奪わせてもらいますわ」クルクルクル ジャキ

 ザッ

カムイ「!」キィン

ユウギリ「! 甘かったみたいですわ。でも、これなら!」グルン バシンッ

カムイ「ぐああっ!」

ピエリ「カムイ様! カムイ様から離れるの!」ブンッ
 
 サッ

ユウギリ「惜しかったですね。やはり、遊撃手を倒してからに限りますわ。これで、どうです?」パシュ

 キィン

ピエリ「んっ! まだまだ、負けられないの! リリスもカムイ様も守って、守ってみせるの!」

リリス「カムイ様。これで、大丈夫です」

カムイ「はぁ……はぁ、リリスさん」

ピエリ「ううっ、このままじゃ押し込まれちゃうの」

カムイ「だから言ったんです、私の近くにいても……」

リリス「カムイ様、後悔なんてしません。だから、そんなことを言わないでください」

ピエリ「……カムイ様にそんなこと言わせないの。今から全員八つ裂きにしてやるの」

リリス「カムイ様はここにいてください! ピエリさん、存分に暴れちゃってください!」

ピエリ「うん、いくの!」

ユウギリ「そう、では私たちも行きますわよ!」

カムイ「くっ、私も加勢しないと――」

???「でやぁ!」

カムイ「!?」

???「そこだっ!」ガシッ

カムイ「!」

カムイ(この敵、私に突進して……まさか)

???「悪いけど、一緒に下に落ちてもらうよ!」

 ガタンッ ゴロゴロゴロゴゴロ

ピエリ「!? カムイ様が下に落ちちゃったの!」

リリス「えっ、そんな!」

ピエリ「すぐに、助けに―――」

ユウギリ「よそ見している暇はありませんわ」ブンッ

ピエリ「くっ、しつこいの! ピエリはカムイ様の場所に行きたいの、邪魔しないでなの」

ユウギリ「それは無理な相談、それに今の状況は好都合ですわ、これであとはあなた方を殺して、下に降りるだけでいいはず。手加減のしようがなくなりましたわ」

ピエリ「……怒ったの、全員、地面に平伏してあげる。そしてすぐにカムイ様を追いかけるの。リリス、しっかりつかまってるのよ」

リリス「…………」

ピエリ「リリス?」

リリス「……ピエリさん、ごめんなさい」シュタッ

ピエリ「リリス、あぶないの!」

シュヴァリエ兵「逃げだした奴がいるな。あいつを先に殺してやる」バサバサ

リリス「はぁはぁ、ここから階段を下りて行けば!」

シュヴァリエ兵「背中ががら空きだぁ!」

リリス「!」

 ズビシャ!

ピエリ「……背中ががら空きなの」

シュヴァリエ兵「ぐぼっ、ば、ばかなぁ……」ドサッ

ピエリ「リリス。ここはピエリが抑えるの。だから早くカムイ様も元に行ってあげるの。ピエリもすぐに追いかけるから、先に行って合流してて欲しいのよ」

リリス「ぴ、ピエリさん」

ピエリ「早くするの! もう乗せてる時間無いの!」

リリス「う、うん。ありがとう!」

 タタタタタタタッ

ユウギリ「ふふっ、健気ですわ。でも、一人でこの人数を相手にできるかしら」

ピエリ「できるかじゃないの、するの! あんたたちみんな殺して、すぐにリリスとカムイ様に追いつくの」

ユウギリ「あなた、面白い方ですわね。でもさっきの子に追いつけたとしても、カムイ王女に追いつけるかはわかりませんわ」

「着く頃には、残念なことに死体になっているかもしれませんから」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ドサッ ドサッ
 
カムイ「ううっ」

???「くっ、いたたっ。少し無理し過ぎたか」

カムイ「! くっ、リリスさん、ピエリさんとはぐれてしまいました……。命知らずな攻撃ですね、それともこうして私と二人切りになるのが目的だというんですか?」

???「そうだね。まぁ、そうしたかったからこんな無茶をしたんだ。大目に見てほしいね、カムイ」

カムイ「!」

???「あはは、何驚いてんのさ。ここはシュヴァリエの中なんだ、私と顔合わせになることくらい予想してたでしょ?」

カムイ「え、ええ。そうですね。その声を忘れることなんてありませんから、お会いできて嬉しいです……クリムゾンさん」

クリムゾン「ああ、久し振りだね、カムイ」

カムイ「……あの、クリムゾンさん。その、この反乱は……」

クリムゾン「ごめんね。あんな大口叩いておきながら、結局反乱を止めることなんてできなかったよ」

カムイ「クリムゾンさんの所為ではありません」

クリムゾン「やさしいねカムイはさ。でも、私にはなんの力もなかったってことを突きつけられる結果だったよ。カムイの期待には応えられなかった」

カムイ「でも、クリムゾンさんは反乱をどうにか抑えてくれようとしたんですよね? なら、それでいいじゃないですか」

クリムゾン「止められなきゃ意味なんてないよ。そしてここに来てくれたってことは、私に答えを示してくれるってことでいいんだよね?」

カムイ「……そうですね」

クリムゾン「まぁ、カムイの答えなんて決まってる、そうなんだよな?」

カムイ「ええ」

クリムゾン「それじゃ―――」





カムイ「安心してください。私がクリムゾンさんと剣を取りあえるようにいろいろしてみせますから。この反乱を静かに終わらせて、一緒に剣を取り合っていきましょう」

クリムゾン「……えっ?」

カムイ「クリムゾンさんは、私の命令でシュヴァリエ公国の反乱を防ぐために向かって、それに巻き込まれたということにします。こうすれば、クリムゾンさんを助けられます。お父様はあなたの首を差し出せとは言っていませんから」

クリムゾン「………ねぇ、それ本気で言ってるのかい?」

カムイ「本気です。私はあなたに生きていてもらいたいんです。だから――」

クリムゾン「そう、そうかい。そうかよ……」ジャキッ

カムイ「? クリムゾンさん?」

クリムゾン「てやっ!」ブンッ

カムイ「い、いきなり何をするんですか!?」

クリムゾン「……カムイ。私はそんな答えなんて求めてない。求めてないんだよ」

カムイ「な、なんでですか。私は――」

クリムゾン「反乱が起きたから手を取り合う時になった……そんなこと言うつもりなら、やめてほしいところだね。私を幻滅させないでくれない? 虫唾が走るよ」

カムイ「わ、私はクリムゾンさんを助けるためにここに来たんです」

クリムゾン「……なんだよその姿。どうしたっていうんだいカムイ。あの日のお前は一体なんだって言うんだ。今のお前は一体何だ?」

カムイ「わ、私は、何も変わって、変わっていません」

クリムゾン「カムイは反乱を抑えて私を救うなんて出来ると思っているわけかい?」

カムイ「私、私はそのために!」

クリムゾン「なら、それは叶わないよ。残念だけどね」

カムイ「どうしてですか!」

クリムゾン「私がシュヴァリエの人間だからだ。祖国の戦いを見て、それに参加してきた私が、今さらになってシュヴァリエを裏切ってカムイに付くことはないよ」

カムイ「あなたは、この反乱に正義なんてないって」

クリムゾン「ああ、そうだね。この先には正義なんて見出せないよ。でも、正義がなくても私は祖国のために剣を取る。そして、散るつもりだよ」

カムイ「そ、そんな。なら、私、私は……私はどうすればいいというんですか?」

クリムゾン「……もう、私の進むべき道は決まってるんだよ。カムイ」

カムイ「決まっていません! 私はあなたを救って――」

クリムゾン「もう話は終わりだよ。カムイ……あんたの答え聞かせてもらった。私が望んだものじゃなかったのはとても残念だけど、もう関係ないからね」

カムイ「やめてください、クリムゾンさんと戦うために、来たんじゃないんです。お願いです、武器を、武器を置いてください……」

クリムゾン「それはできない相談だね」

カムイ「!」

クリムゾン「カムイ、私はあんたを殺すつもりだよ。今の私はシュヴァリエのために剣を握ってる、もう動きだしたものは止まらない。私は最後まで愚かなシュヴァリエの象徴であると、決めたんだ」

カムイ「……クリムゾンさん」

クリムゾン「さぁ、剣を取りなよ、一体一だ」

カムイ「……ぐっ」フルフルフル

クリムゾン「……そう、それでいい。それじゃ、始めよう」

「私の望んだ答えを、お前に提示してもらえるまでさ……」

今日はここまでです。

愛溢れるヒノカさんに捕らえられたらどうなるのかわからない

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

オロチ「うぷぷ、仲間に盾になれとは。面白いことをいうものじゃ」

ニュクス「こっちは真剣そのものよ」

オロチ「真剣とな。その男の顔が引きつっておるは気の所為か?」

オーディン「そんなことはない。俺は与えられた使命に魂を躍動させていたところだ」

ラズワルド「足を震えさせながら言うことじゃないよね」

オーディン「……ふっ、これは武者震いだ」

ニュクス「ほら、本人もそう言ってるから、大丈夫よ」

オロチ「なるほど、ではその魂の躍動とやら、見せてもらおうかのう!」

 カラカラカラカラ 
 カラカラカラカラ 

ニュクス「オーディン!」

オーディン「ああっ、受け止めるだけが盾じゃないってことを教えてやる」ダッ

オロチ「ま、待つのじゃ! 動くなど聞いておらんぞ!」

オーディン「動かないわけないだろ、そのくらいわかるもんだ」

ニュクス「ラズワルド。言われたとおりにできるかしら?」

ラズワルド「任せてよ。でもさ、その本当にいいのかい?」

ニュクス「私が提案したのよ。でも、変なところを触ったら、後で覚悟しておいて」

オロチ「何を言っておるか知らぬが。なら、これで、一気に決めさせてもらおうかのう!」

 カラカラカラカラ シュオン
  カラカラカラカラ シュオン
   カラカラカラカラ 

ニュクス「来たわ」

オーディン「数は……さっきのを入れて五つ。ラズワルド、俺の背後にぴったりと付いてくるんだぞ」

ラズワルド「わかってるよ。それじゃ、ニュクス抱えるよ」

ニュクス「ええ」

オロチ「何をするかと思えば、抱っことは面白いことをするのじゃな。それでわらわの仕掛けを抜けるか?」

ニュクス「ええ、そのつもりよ。オーディン」

オーディン「ああ、行くぜ!」

 タタタタタッ バシン

オロチ「うぷぷ、自分から向かってくるとは愚かなものじゃ」

オーディン「その隙、もらった。リザイア!」

 シュオォォン

オロチ「!? ぐっ、これは……」

オーディン「よし、このまま二回目!」

 バシンッ

 シュオォォン!

オロチ「ぐあっ。くっ、ぬかったようじゃ。しかし、次からは当たらんぞ」

オーディン「構わない。もう、準備は整ったようだ」

オロチ「?」

ラズワルド「行くよニュクス」

ニュクス「ええ、放り投げて頂戴。できれば高くね」

ラズワルド「それじゃ、いくよ!」グッ

ニュクス「ふっ!」シュタッ

オロチ「なるほど、そなたが本命か。じゃが、当てられる物かのう?」

ニュクス「言ってくれるわね。それじゃ、狙わせてもらうわ」

 ボウ ボウッ ボウッ 

オロチ「どこを狙っておるのじゃ。そんな攻撃で、わらわの仕掛けをどうにかできるなどと――」

ニュクス「今よ、ラズワルド」

ラズワルド「ああ!」

オロチ(魔術で出した炎にまぎれて、正面からじゃと!?)

ラズワルド「これで、終わりだよ!」ドゴンッ

オロチ「ぐあああっ」ドタンッ……ドタッ

ラズワルド「よし、僕たちの勝ち、だね」

オーディン「まったく、少しは手加減してくれよー。一人に向かってあの量はさすがにないって」

ニュクス「ふぅ、どうにかなったわね」スタッ

オロチ「ぐっ……てっきり、そなたが決めに来るとばかり思っておったが。うまく裏を掛れたということかのう、っ……」フラフラ

ニュクス「いえ、本来なら逃げるべきところよ。あなた、面と向かって戦えるほど、器用には見えないから……人数差を考えれば撤退するところよ」

オロチ「うぷぷ、なに、どうにかなると思っただけ、しかし結果はこの様じゃ。辛いのう、最後の最後、この命を使う場所に至れぬというのは」

ニュクス「……」

ラズワルド「命は使うものじゃないよ」

オロチ「……」

オーディン「ラズワルドの言う通りだ。命ってのは使うとか使えないとか、決めつける存在じゃないはずだ」

オロチ「まさか、敵にそんなことを言われるとは思ってもいなかったのう。まったく、どうして最後の最後でこうも愉快なことが続くんじゃろうな」

ニュクス「……あなたは、命を使ったのね」

オロチ「……そこまで話すつもりはないのでのう」

ニュクス「そう……私もあなたのような歳で手を出していたのなら、命を使う道を選んだのかもしれないわ」

オロチ「なんじゃその言い方。まるでわらわよりも歳が上だと言っているように聞こえるが?」

ニュクス「そう、言っているつもりよ」

オロチ「……うぷぷ、面白い話じゃ。その話を鵜呑みにすると、どうやらそなたは違う道を選んだということじゃな」

ニュクス「ええ」

オロチ「なら、わらわが選んだ道をどう思うかのう?」

ニュクス「……何も言わないわ。あなたが選んだ道だもの。私たちが何を言ったって、選んだあなたの気持ちが変わらなければ、私たちにはどうすることもできないことよ」

オロチ「……」

ニュクス「命を使いたいんでしょう?」

オロチ「……そうじゃのう」

ニュクス「なら、その仕える場所に行けばいいわ」

オロチ「自由になった瞬間、そなたたちに牙をむくかも知れんぞ?」

ニュクス「その時は、容赦なく殺してあげる。でも、あなたから何かしてこない限り、私たちは手を出さない。約束するわ」

ラズワルド「……認めたくないけど、ニュクスの言う通りだよ。僕とあなたは今出会ったばかり、その考えを変えられるなんて思ってないよ」

オーディン「たしかに、そうだろうな。俺たちの言葉がお前に届くことはない、それくらい理解してるつもりだ」

オロチ「まったく、そなたたちは何とも愉快な者たちじゃ」

ニュクス「愉快っていうのは心外よ。早く行きなさい、間違っても私たちの前にまた立ちふさがらないで頂戴ね」

オロチ「そうじゃのう。また出会ってしまったら、この流れを一からやり直し、それはつまらないものじゃ。どちらにせよ、わらわの命を使う場所へ至れるのはそなたたちのおかげじゃ。ありがとう」

 タタタタタッ

ラズワルド「これでよかったのかな?」

ニュクス「答えなんてないわ。彼女が選んだ道だもの」

オーディン「……それじゃ、俺たちも次の場所に向かおう」

ニュクス「ええ、そうね。もう、出会うこともないんだから――」

今日は短いですがここまででです。

短編ははさむ場所を考えていこうと思います。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ピエリ「てやぁ!」ズシャ

 ギャアアア! ドサッ

ピエリ「はぁ、はぁ……。まだまだやるの」

ユウギリ「ふふっ、まさかここまでやれるなんて思っていもいませんでしたわ」

ピエリ「ピエリ、通さないって決めたの。絶対にあなたたちをカムイ様とリリスの許になんて行かせない、ピエリが戦う場所で出来ることなんてこれくらいだから」

ユウギリ「そうですか。なら、その出来ることが出来なくなったとしたら、あなたはどんな断末魔をあげるんでしょうね?」

ピエリ「……そんなのあげないの。むしろ、そっちがいっぱいあげる方なのよ」

ユウギリ「たしかに、現状見る限りではそう言われても仕方ありませんわ。もうあまり兵が残っておりませんもの、ここまでやられるとは思ってもいませんでしたから、あなたの力を甘く見ていた報いですわね」

ピエリ「……」

ユウギリ「でも、あと一押しすれば、あなたを殺すには足りるでしょうから、そろそろ止めと行きますわ」チャキ

ピエリ(……馬を落とされたら終わり、でも馬は疲れてる。でもやらなきゃだめなの。そうじゃなきゃ、リリスもカムイ様の後も追いかけられなくなっちゃうのよ)

シュヴァリエ兵「ユウギリ様、援護をお願いします」

ユウギリ「ええ、あちらはどうやら疲れているようですから、矢を添えるだけですみますもの。それでは、行かせていただきますわ!」パシュッ

ピエリ「甘いの!」ダッ

ユウギリ「まだ動きまわりますのね。だからこそ、足を止めてしまった時の鳴き声が楽しみで仕方ありませんわ」

ピエリ「鳴かせてみせればいいの!」ヒュンッ

 サッ

シュヴァリエ兵「ハッ! 動きが鈍いぞ、暗夜の犬が!」

ピエリ(駄目なの。やっぱり、動きがぎこちないの)

ユウギリ「ふふっ、どこまで避けられるのか、見せてもらいますわ」パシュ
 
 パシュ
 
 パシュ

 パシュ

ピエリ「いたっ! ううっ、痛いの……」

シュヴァリエ兵「よし、今だ! くらええええ!」ザッ

ピエリ「させな――」スッ

ユウギリ「させませんわ」パシュッ

 ズシュ

ピエリ「っ!!!!」

 カランッ

ピエリ(! 武器が落ちちゃったの……。だめ、態勢が――」

 ドサッ

ピエリ「っ!」

シュヴァリエ兵「ははっ、武器がなければ何もできない女が。これでおわりだ!」

ピエリ(……駄目なの。今起きあがっても間に合わない。ピエリ、ここで死んじゃうの……)

ピエリ「リリス、ごめんなの………」


 タタタタタタタッ

シュヴァリエ兵「しねええ―――」

???「はああああああっ、おらぁ!」

 ドゴンッ

シュヴァリエ兵「―え、ぐぎゃっ」ドサッ

ピエリ「……ふぇ?」

???「てめぇ、武器をもってない女に手を出すとはいい度胸ねえ」

ピエリ「……あれ、ピエリ死んじゃったんじゃないの?」

ユウギリ「ええ、今、死ねますわ」パシュ

???「させんぞ……」キィン

ユウギリ「!?」

???「ちょっと、あんた大丈夫?」

ピエリ「ピエリ、大丈夫なの?」

???「なんで疑問形なのよ。それにしても、拳で殴ったのは久しぶりだから結構痛いわ。肌に傷がついたらどうしてくれるのよ」

???「ふっ、無茶をする……」

???「いいでしょ。それに眼の前で仲間、しかも武器も持ってない女が殺されるのなんて、見てていいもんじゃないし。ブノワだって、かなり急いでたじゃない。早く動けないくせに」

ブノワ「それもそうだな……、お互い無茶ばかりする」

シャーロッテ「さてと、武器が無いからって女を舐めてる奴から掛ってきなさい。今日の私は気が立ってるから、そんじゃそこらの拳とは一味も二味も違うのをお見舞いしてあげるわ」

ピエリ「えっと、何が起きたの。ピエリ、わからないの!」

ブノワ「混乱しているところ悪いが、これはお前の武器か?」

ピエリ「そうなの、あとあの馬もそうなのよ。二人とも誰なの?」

シャーロッテ「シャーロッテよ。っていうか城壁で一緒に闘ってたでしょうが!」

ピエリ「? そうだったの? ピエリ、全然気付かなかったの」

シャーロッテ「なによそれ、急いできた私たち馬鹿みたいじゃん」

ピエリ「死んだら会える鬼がピエリのことを迎えに来たのかと思ったの。金髪だって聞いてたから二人も来てくれるのかなって思ったの」

ブノワ「お、鬼か……」

シャーロッテ「けっ、こんな可愛い見た目の鬼がいるかっての」

ピエリ「確かにそうなの。でもなんで、ピエリを助けたの?」

シャーロッテ「あんた、カムイ様に付いてたでしょ?」

ピエリ「ピエリ、カムイ様を守るの」

シャーロッテ「それが理由よ。運よく巡り合えた最高の機会を、こんなちっぽけな反乱で失うなんてまっぴらなんだから」

ピエリ「? どういうことなの?」

ブノワ「一緒に戦おう。そういうことだ」

シャーロッテ「そういうこと」

ピエリ「なら手伝ってほしいの!」

シャーロッテ「そう言ってるでしょ。ブノワ、壁任せたわ」

ブノワ「元からそのつもりだ……」

ユウギリ「……」

シュヴァリエ兵「けっ、たかが三人でどうにかできると――」

ピエリ「えいっ!」ポイッ グサッ

 ドサッ

ピエリ「一人減ったの」

シャーロッテ「容赦ないわね。あんたが死んだとしても、迎えの鬼が裸足で逃げ出しそうね」

ユウギリ「現れて早々、一人を殴り倒したあなたが言うんですから間違いないですわ」

シャーロッテ「余計なお世話よ!」

ユウギリ「増えてしまっては、これ以上押し切れるとは思えませんね」

シャーロッテ「で、どうすんだよ。やるのかやらないのか、さっさと決めなよ」

ブノワ「……」

ピエリ「……」

ユウギリ「……そうですわね」

シュヴァリエ兵「ユウギリ様、問題ありません。はやくこいつらを始末して――」

ユウギリ「いいえ。このまま戦っても意味はないでしょう。どうやら、私たちでは一人に声を上げさせるので手いっぱいですわ」

シャーロッテ「……逃げる気かよ」

ユウギリ「癪ですが仕方ありません。それに、あなた方と相打ちになるもの悪くありませんけど、それは私に課せられた使命ではありませんから」

シャーロッテ「ごたごた抜かしてないで、行くならさっさと行けよ」

ユウギリ「そうさせていただきますわ。皆さん、引きますわよ。カムイ王女のことは彼女に任せましょう」

シュヴァリエ兵「しかし……」

ユウギリ「あなた方の指揮を任されているのは私ですわ。そこを勘違いしてもらっては困りますわ」

 バサバサバサバサ

ピエリ「……逃げたの?」

シャーロッテ「みたいよ」

ブノワ「ふぅ、戦わずに済んでよかった……」

シャーロッテ「まったく、なら最初から攻撃してくるなっての。それで、あんたピエリだっけ?」

ピエリ「そうなの。えっと、シャーロッテ?」

シャーロッテ「そうよ。それで、カムイ様はどこに行るわけ?」

ピエリ「そうなの! カムイ様、あそこから落ちて行っちゃったの」

ブノワ「ここから落ちたって言うのか……。助かるだろうか?」

シャーロッテ「ブノワ、シャレにならないこと言うんじゃないよ」

ピエリ「か、カムイ様、死んじゃったの? そんな、ピエリ、ピエリ、ふえええええええんん!!!!」

シャーロッテ「うわ、いきなり泣き出さないでよ」

ピエリ「えっぐ、でも、カムイ様、死んじゃったって」

ブノワ「すまない。死んだと決まったわけではない、今から確認に向かおう」

シャーロッテ「そういうこと。ピエリ、できれば馬乗せてもらえない? ちょっと、疲れちゃったの、いいでしょう?」

ピエリ「駄目、ここはリリス専用なの」

シャーロッテ「ええ……」

ブノワ「仕方無い、俺たちは走って追いかけることにしよう」

ピエリ「早くリリスも見つけて、カムイ様と合流するの。一人は危険がいっぱいなの」

シャーロッテ「リリスっていうのは一人で行動してるわけ。でも、腕っ節はあるんでしょ?」

ピエリ「ぜんぜん無いの。ロッドを使えるくらいなの」

ブノワ「それはとても不味いんじゃないのか?」

シャーロッテ「早く探さないとやばいわよ、それ」

ピエリ「そうなの。だから早く探しに行くの!」

シャーロッテ「なら、さっさと行くわよ。って、そのリリスっての、無茶するわね」

ピエリ「カムイ様のことを守るって言ってたの。リリス、カムイ様のこと大好きなの」

ブノワ「そうか……」

シャーロッテ「はぁ、だからって一人で飛び出すなんて無計画過ぎね。私なら媚打って男を何人か連れてくるのに」

ピエリ「そうなの? いっぱいいると的に思えちゃうから、要らないの」

シャーロッテ「……的って、あんたね」

ピエリ「こんなこと話してる場合じゃないの。早くリリスとカムイ様に追いつかないといけないの」

シャーロッテ「ちょっと、置いてくんじゃないわよ!」

ブノワ「くっ、あまり早く走れない……」

シャーロッテ「根性見せなさいよ、ブノワ!」

ピエリ「二人ともおいて行っちゃうの!」

ピエリ(リリス、今追いつくの、そして一緒にカムイ様を守るの!)

~~~~~~~~~~~~~~~~~

リリス「はぁはぁ! たしかあの真下はこのあたりのはず――」

シュヴァリエ兵「いたか?」

リリス「!?」サッ

シュヴァリエ兵「いや、ここら辺にはいないみたいだ。所定位置にいつまで経っても現れないから来てみたが……」

シュヴァリエ兵「やはり、奴はシュヴァリエを売ったに違いない。そうだ、今頃憎き暗夜の王女とどこかに隠れているのかもしれないぞ」

シュヴァリエ兵「けっ、一人だけ生き残ろうって魂胆か? あれで、自分に皆が動かせているなんて思っていたなんて飛んだ勘違いのアバズレだな」

リリス(暗夜の王女……カムイ様のことですよね。でも、もう一人と言うのは……)

シュヴァリエ兵「まあ、いい、見つけ次第一緒に殺してしまえばいい。暗夜の王女も、あのクリムゾンっていう小娘もな。けっ、暗夜王国に行くなんて言わなければ、殺されることもなかっただろうに」

シュヴァリエ兵「ははっ、結局この反乱が終わったら暗夜に情報を漏らしたとか、そんなこと言って処刑するつもりだったんだ。刑が早くなっただけの話だろ?」

シュヴァリエ兵「違いない。なにせ反乱が確実になった瞬間に手のひらを反してきたんだ、まったく逞しい生き様だね。俺にはとてもまねできない」

シュヴァリエ兵「まったくだ。よし、ここら一帯は迷路みたいに入り組んでるが、一直線で逃げ場がない場所が多い。見つけ次第、どちらも殺してしまえ」

シュヴァリエ兵「わかってるさ」

 タタタタタタッ

リリス「……カムイ様、まだ生きているんですね。それがわかっただけでも良かったです」

リリス「でも早く見つけないといけません。あの人たちは、見つけた瞬間に攻撃をしてくるような人たちのようですから」

リリス「大丈夫、私には星竜の加護があります……」

リリス「だから、カムイ様。どうか無事でいてください」

リリス「私がたどり着くまで、生きていてください」

リリス「必ず私が、あなたを守ってみせますから」

 タタタタタッ

 今日はここまでです。この頃、話があまり纏まらなくて遅筆で申し訳ない。
 
 資料館でイベントシーンを見返せる機能が切実に欲しい……

 

 


資料館の支援会話は埋まってる?

~~~~~~~~~~~~~~~~~

クリムゾン「どうしたんだい、カムイ。受けてばっかじゃ、私は倒せないよ?」

カムイ「私は、あなたと戦いたく――」

クリムゾン「いつまでそう言うつもりか知らないけど。なら、私に殺されるしか道はないよ、それでもいいわけ?」

カムイ「クリムゾンさんも、私に殺されてもいいって言うんですか?」

クリムゾン「今のあんたに言われてもまったくそんな気持ちにはならないよ。負けるつもりはないし、あんたの望みに応える気もさらさらないからね」

カムイ「どうしてですか、あなたに私は生きていてほしいと思っているのに」

クリムゾン「……それが本当のあんたなのかい?」

カムイ「な、なにがですか……」

クリムゾン「私と話をした時のこと、覚えてるかい?」

カムイ「当然です。だから私はここに来たんです、あなたと剣を取るために、取れる未来を得るために。あなたを失わないために」

クリムゾン「……ははっ。面と向かって言われるとなんだか恥ずかしいセリフだね」

カムイ「なら」

クリムゾン「どうして、私と話をした時の面影と今のお前はこんなに違っているんだい? 私には、カムイがおかしくなったようにしか見えない。あんたはあの時言ってくれた、時が来たらって。そして今、反乱が起きたら剣を交える側になるって」

カムイ「そ、それは……」

クリムゾン「私はね。迷いもなくそう言い切れるあんたを信じた。信じたからこそ、私はシュヴァリエを……この反乱を止めるために戻ったんだ。遠回りしたところに、カムイの言葉があったから、こうしてこの反乱に加担した」

カムイ「……」

クリムゾン「でも、今のカムイからはなにも感じない。私と、リョウマが信じたカムイは、たぶん今のあんたとは別人なんだろうね……」

カムイ「私は私です! 私はあなたを助けることが出来る、出来ると思ったから――」

クリムゾン「出来ないって言ってるのがわからないのかい!」ドゴッ

カムイ「きゃあああっ」ズサーッ

クリムゾン「私はあんたの操り人形じゃないんだ。私が選んだ道を否定するのは構わないけど、カムイの求める道に無理やり引き込まないでよ」

カムイ「操り人形だなんて……思って――」

クリムゾン「あの時のあんたが言ったら信じたよ。あのとき、カムイは私が言うべき台詞を先に潰してきたんだからさ。この反乱がもしも始まったら、敵同士だって私は言おうとしていたのを、先に剣を交えるって言葉で消した。私が反乱を止められなかった時に、それを止めてくれるって、あの時のあんたは言ってくれた気がした」

カムイ「うっ、くぅっ……」

クリムゾン「それがどうしたら私を助けるってことに繋がるんだい? そして、こうやって一騎打ちを望んでいるのに、戦う気もない素振りを見せて、何がしたいのかわけがわからないよ」

カムイ「クリムゾンさん……」

クリムゾン「ここに来ないでほしかった……」

カムイ「えっ……」

クリムゾン「こんな、こんな惨めな思いをするくらいなら……」

カムイ「クリムゾンさん?」

クリムゾン「カムイが来なかったことを悔やみながら、死んで行く方が、私には幸せだったのかもしれない。こんな、こんなカムイを見て、それを殺すことになるくらいなら……」

クリムゾン「本当に、どうしてあの時のあんたは今みたいに振舞ってくれなかったんだ。なんで、すべてに分別が付くみたいな顔をしてられたんだ。今のカムイにそんな顔できるわけないのに、なんで、なんで……そんな迷ってる子供みたいに、私に助けを求めてくるんだ!」ブンッ

カムイ「クリムゾンさん、私は、私はどうすればよかったんですか……」

クリムゾン「その答えを私が持ってるわけないんだよ! わかってよ、ここであんたを待つことを選んだ私が、どういう人間なのかってこと、あんたならわかってくれるはず。私の願いに応えてくれるって……そう思って、こんな場所で待ち続けてたのに」

カムイ「わかるわけ、わかるわけありません! 私は、私自身のことさえわからなくなっているのに、わかるわけないじゃないですか!」

クリムゾン「そんななのに、なんで来ちゃったんだよ。ここに来て優しさも何も要らないって、わかってるはずなのに。なんで私に希望を与えようとするんだい? 私は希望なんて捨ててここにいるんだよ」

カムイ「な、何を言っているんですか?」

クリムゾン「この反乱が成功しようが失敗しようと私には先がないんだ。文字通りの意味でね」

カムイ「なっ……何を言っているんですか?」

クリムゾン「傑作だよね。シンボル? 象徴? お笑いだよ。もう私は厄介箱なんだ、シュヴァリエのために戦える最後の機会は、私の最後の日。だから、もう先を私は求めない、希望を持たないって決めたんだ」

カムイ「ど、どうして。あなたはシュヴァリエを思って、私に会いに来たというのに――」

クリムゾン「その理由は話さないよ。話しても何の意味もないからね。だから、私はあんたが来たことに心が躍った。二人きりでこうして、あんたに殺されることを夢見てた。私が唯一、望めるものがあるとするなら、カムイに殺してもらうことくらいだからさ」

カムイ「それを……私に望むって言うんですか!」

クリムゾン「ああ、そのつもりだよ。ここまで誘導できたのは、あんたが受けてばっかりだったからかもしれないからね」

カムイ「!」

クリムゾン「袋小路だよ。背中には壁、正面には私。もう、逃がすつもりはないからさ。生きて帰りたかったら、私を殺す以外に道はないよ」

カムイ「……」フルフルフルフル

クリムゾン「ははっ、震える姿はなんだか可愛いね。できれば、あの時、泊めてもらってた時に見せてもらいたかったかな」

カムイ「……クリムゾンさん。わ、私は――」

クリムゾン「それじゃ、暗夜王国王女、カムイ。覚悟しな!」ダッ

カムイ(クリムゾンさんが向かってきます。気配が、これは斧槍ですよね?)

カムイ(ああ……こんなに、あなたに生きていてもらいたいのに。届かないんですか?)

カムイ(私を殺しても、結局クリムゾンさんは生きられないと言っていました。そんなことあるのでしょうか?)

カムイ(いいえ、多分そうなんでしょう……。結局、私が何をしてもクリムゾンさんは助からない……)

 ドクンッ

カムイ(だめっ、頭が痛い……)

 ドクンッ

カムイ(この痛みをなくすにはどうすればいいんでしょうか?)

 ドクンッ

カムイ(こんなに悩んで、頭が痛いのに。どうにもできないなら、どうすればいいんでしょうか?)

 ドクンッ

カムイ(クリムゾンさん……そうか)

 ドクンッ

カムイ(終わらせてしまえば……)

 ドクンドクンッ

カムイ(クリムゾンさんを心配に思ってるこの心を……)





 ザシュッ





(終わらせてしまえばいいんだ……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヒノカ「はああっ!」

カミラ「せいっ!」

 キィン

ヒノカ「く、これでどうだっ!」

カミラ「! 前より強くなったわね……」

ヒノカ「当たり前だ。お前たち暗夜からカムイを取り戻すためなら、私はどこまでも強くなれる」

カミラ「……そう。でもカムイは帰ることを望んでなんていないわ。さっきそう言われたでしょう?」

ヒノカ「ちがう! お前たちが、お前たちが誑かしているだけだ。カムイがいるべき場所はこんな暗い世界じゃない、もっと明るくて優しい世界であるはずだ」

カミラ「白夜がその明るく優しい世界だって、あなたは言うの?」

ヒノカ「明るく優しい世界だった……。もう変わってしまったがな」

 ブンッ

カミラ「ならあなたの言っていることは、矛盾しているわ。白夜がそうでないと今言ってしまったじゃない」

ヒノカ「ふふっ、だからカムイと一緒に、もう一度白夜を温かい世界に戻すんだ。私はカムイと一緒ならそれができると信じてる。そのためには、悩みの種は全部摘まないといけない」

カミラ「……カムイがそれを望んでいると?」

ヒノカ「……貴様こそ、カムイが望んでいることを理解しているのか?」

カミラ「カムイが、望んでいること?」

ヒノカ「カムイは悩んでいた。私の問いかけに、一度は突き放した私の言葉に動じてしまうほどに。長い間一緒に過ごしていながら、悩みを理解できない貴様が、あの子を本当に理解していると言えるのか?」

カミラ「それは……」

ヒノカ「お前達にカムイの幸せを願う権利はある。それを願うことを誰も否定できないし止められない、私にも止められない。願う気持ちは貴様も私も同じほど持っているはずだからな」

カミラ「だったら、カムイが選んだ選択を尊重するはずよ。なんで、ここまで――」

ヒノカ「貴様にカムイを幸せにする力がない、それだけのことだ!」

カミラ「!!!!」

ヒノカ「暗夜はあの子にとって悩みの種になるだけの場所だ。そこにいるというのに、貴様は何をしてきた? 一緒にいるだけで、あの子の悩みに向き合ってきたのか?」

カミラ「っ!」

ヒノカ「一緒にいることで満たされているのはカムイじゃない。貴様だけが満たされ、カムイは満たされない」

カミラ「そんなことないわ!」

ヒノカ「なら、カムイの悩みをどうして汲み取れない! 貴様は、私が、私たちが得るべきだった多くの時間をカムイとともに過ごしてきたのに。どうして、どうしてそれが汲み取れないんだ!」

カミラ「残念だけどヒノカ王女の言うとおり、私はあの子が悩みを汲み取れない。でも、だから私はカムイを信じて待つ、そう決めたの」

ヒノカ「……その優しさを抱けるカミラ王女が羨ましい。私にはそう思い、待ってやる余裕さえ無い」

カミラ「どうして、どうして待ってあげられないの」

ヒノカ「……私はカムイを大切に思っている。思っているのに、私にはカムイがどんな人間なのかということをまるで知らない。知らないんだ」

カミラ「……」

ヒノカ「わかるか? 久々に会った妹から、他人のように振舞われる気持ちを。妹の言葉を素直に受け止められない辛さを。こうして、共に育ってきたことを見せつけられる苦痛を!」

カミラ「ヒノカ王女……」

ヒノカ「共に育っていくことが、ありふれた幸せがたまらなく大切だと気付いた時、もうカムイは白夜にいなかった。笑って泣いて、時に怒って、そういう積み重ねが、絆を育むことだとわかった時には、もうカムイには暗夜の兄妹がいたんだ」

カミラ「それは……」

ヒノカ「私たちは奪われてしまった。もうその時間は帰ってこない、だからあの日、白夜で再びカムイを抱きしめた時、流れた時間のすべてを取り返せるそう思った。時間は掛っても、再び笑いあえる日が来ると……」

ヒノカ「その思いさえ、お前たちの時間と言う壁の前に握り潰されてしまった。今になって私たちが再び家族としてカムイと歩んでいくのに、もう時間を掛けていくことはできない。お前たちがカムイと過ごしてきた時間、強い絆を断ち切るために、私は暗夜とその悩みの種をすべて取り除く。そう決めたんだ」

カミラ「……だとしても、カムイをあなたに渡すつもりはないわ。私にとってはかけがえのない妹だもの。たとえ血が繋がっていなかったとしても……私はカムイのお姉ちゃんだから」


今日はここまでで。思った以上に、重くなってしまった……

FEifって思った以上に平民と貴族で身分差を感じない作品だなーと思った(FFTやりながら)

>>186さん

支援はすべて埋まっているわけではないんですよね

ヒノカ「それも今日までのことだ。最初に摘まれる悩みの種は貴様だ、カミラ王女!」ブンッ

カミラ「くっ」

ヒノカ「そこだ!」バシッ

カミラ「っ! やってくれるわね。でも、まだまだよ」ブンッ

ヒノカ「! まだ足りないというのか?」

カミラ「足りる足りないで考えないで。あなたが私に言ったことは事実かもしれないわ。でも、それを真正面に受けて放棄するくらいなら、私は元からカムイの姉さんになろうなんて思いもしないわ」

ヒノカ「なら、その立場を私たちに帰すのが道理だ!」

カミラ「ええ、カムイがそれを望んだら返してあげる。でも、私はカムイの願いを知らないわ。だからあなたにやられてあげるつもりなんてないのよ!」

 ヒュンヒュンヒュン バッ!

 ザシュン!

 ヒヒーン! ドサッ

ヒノカ「そ、そんな……。私は強くなって……カムイを」ドサッ

暗夜兵「よし、今だ! 白夜の王女を殺せ!」

 ウオオオオ

ユウギリ「それはさせませんことよ」パシュパシュ

 グエェ ドサッ

ヒノカ「ぐっ……」

カミラ「まだやるつもりかしら?」

ユウギリ「……そうですわね」

アクア「カミラ!」

リンカ「さすがにこれ以上の戦いは無意味だ」

ユウギリ「いいえ、戦うつもりなどありませんわ。残念ですけど、もうこの場所にいても意味はないでしょうから」

カミラ「そう、ならさっさと連れて帰りなさい。その泥棒猫をね」

ユウギリ「ええ、そうさせてもらいますわ……。それより早くしないと大切な妹さんが危ないですわよ?」

カミラ「!? カムイに何をしたの」

ユウギリ「いいえ、私は何もしておりませんわ。ただシュヴァリエ兵の方たちがカムイ王女を捕縛するとは思えませんもの」

アクア「ヒノカがここの指揮を任されているんじゃないの?」

ユウギリ「形式的なものですから、すべての人間がヒノカ様の命令に従うわけではありませんから。それに、もうこの中心街は終わりでしょう。皆さんも早く川を渡ったほうが身のためですわ」

リンカ「何を言っているんだ?」

ユウギリ「私なりの最後のおせっかいと思っていただいて結構です。確かにここからじゃ見えないようですから、すぐに開けた場所から見てみるといいですわ」

 バサバサバサバサッ

ヒノカ「ううっ、私は、まだ……」

ユウギリ「いいえ、天馬を失った以上、もう何もできることはありませんわ」

ヒノカ「カムイが、待っているんだ……。だから……だから……」

ユウギリ「すみません、その命令に従うことはできませんわ。私の使命はあなたを無事に白夜へお返しすることですもの、命令違反とおっしゃるのでしたら、白夜で私を罰してください」

ヒノカ「……ううっ」

カミラ「……」

ユウギリ「それでは失礼いたしますわ」

 バサバサバサバサバサッ

リンカ「行ったようだな」

カミラ「早く、カムイを見つけましょう」

アクア「待ってユウギリの言っていたことが気になるわ。早く川を渡れといっていたけど」

リンカ「開けた場所に出れば、その理由がわかるって言っていたな。一体どういうことだ?」

カミラ「ここら一帯は大きな建物が多いみたいだから……」

アクア「とりあえずこの広場を抜けましょう、すぐに視界が開けるわ」

リンカ「ああ、そうだな。それにしてもシュヴァリエ兵をあまり見ないのはなんでだ。先ほどまでは多くいたというのに」

カミラ「確かにそうね。途中から横槍が全くなくなったから」

アクア「どうやら、それがユウギリの言っていたことと関係している気がするわ」

リンカ「よし、開けた場所に出るぞ」


アクア「! これは―――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガンズ「がーっはっはっは。片っ端から火をつけてやれ!」

シュヴァリエ兵「くっ、火を放ったというのか!」

ゲパルトP「本当にのこのことやってきましたね。そんなに死にたいんでしょうか?」

ゲパルトS「やっと人が来たよ、家ばっか燃やしてもつまらないからさ。やっぱり人間じゃないとね」

シュヴァリエ兵「貴様らあああああ!」

ガンズ「へっ、威勢がいいが、弱いんだよ!」ザシュッ

 グギャアアアアアアア

ゲパルトS「それっっと。ははっ、燃えてる燃えてる。いっぱい燃えてるよ兄さん!」

ゲパルトP「そうですね。まぁ、少々骨の無い相手と言うが癪ですが」

ガンズ「へっ、反乱の鎮圧が俺様がガロン王から受けた任務だからな。シュヴァリエの中心街がどうなろうと知ったこっちゃねえからな」

ゲパルトP「間もなく、川へと続く出入り口に兵が待機するころでしょう」

ガンズ「そうだな。それじゃ俺たちは追いかけるようにシュヴァリエの反乱軍の見つけて殺していく。へっ、町が燃えてるのに気が付いて殺されに来るのか、逃げた先の川手前で殺されるのか、どっちにしろ最高だ」

ゲパルトS「でも、火をつけること教えてない方たちもいますよね。あのカムイ王女の部隊とか知らないよね?」

ゲパルトP「そうですね。ガンズ様、その点はどうなさるつもりですか?」

ガンズ「何言ってんだ。この反乱で死んだのは全部反乱軍、暗夜の人間に死者なんて出てねえ。そうだろう」

ゲパルトP「なるほど、では気にする必要もありません。死んでしまったら反乱軍、生き残れば暗夜軍、ただそれだけですから」

ゲパルトS「そういうことなら別に問題ないね。兄さん、何人殺せるか競おうよ」

ゲパルトP「わかりました。弟の頼みですからね、ガンズ様。私たち兄弟は巡回殲滅に入ります」

ガンズ「ああ、好きにしな。俺も見かけ次第、ほかの奴らと一緒に殺しまわって川を目指すからよ。手柄を立てるチャンスは生かさねえといけねえ」

ゲパルトP「わかりました。では」

 パカラパカラパカラッ

ガンズ「へっ、さてと」

シュヴァリエ兵「ひっ、ひぃ!」

ガンズ「おっと、いきなり出てきやがったな」

シュヴァリエ兵「こ、降参。降参だ! も、もう俺は暗夜には逆らわない、逆らわないから!」

ガンズ「そうか、なら安心しな」

シュヴァリエ兵「そ、それじゃ」

 ブンッ ズシャ

シュヴァリエ兵「ぎゃああああああ!」ドサッ

ガンズ「ありがたく殺らせてもらうからよぉ、暴力最高だぜ」

ガンズ「簡単に行使できる、時間も掛らねえ。何よりも、気持ちがいいもんだからな。やめられる気がしねえ」

ガンズ「がーっはっはっはっは!」

◆◆◆◆◆◆

クリムゾン「……なんだ、ちゃんとできるじゃんか」ポタッポタタタタッ

カムイ「く、クリムゾンさん」フルフルフル

クリムゾン「はは、震えてるね。こんなことに巻き込んでおいてなんだけどさ……ごふっ」

カムイ「しゃべらないでください。なんで、私、こんな風に……」

クリムゾン「ははっ、もういいいよ。あのさ、カムイ」

カムイ「……な、なんですか」

クリムゾン「ちょっと、倒れてもいいかな」ドサッ ジワッ

クリムゾン「はぁ、もう曇ってたんだね……それもそっか。こんな酷い日に空が満点の星空なわけないか……」

カムイ「今、助けますから」

クリムゾン「もう、助ける必要なんてないって何度言わせるんだい」

カムイ「そんなだって」

クリムゾン「カムイ、私は感謝してるんだよ。結果的に私を殺してくれたことに。もうさっきまで、私はあんたを殺すことになる未来しか想像できなかったからさ。多分、本当なら立場は逆だったはずだからね」

カムイ「私は、逃げてしまっただけです。あなたを救うことを諦めて――」

クリムゾン「それは違うよ」

カムイ「……何が違うんですか。私は―――」

クリムゾン「あんたは結果的に私を救ってくれてるよ」

カムイ「どこがですか、わけがわかりません」

クリムゾン「私は背負えない人間なんだ。カムイと違って、私は背負って生きていくことができない」

カムイ「なにを言ってるんですか」

クリムゾン「白夜の民間人の死も、シュヴァリエのために戦ってきたことも、そしてカムイあんたを殺して生き続けることも、たぶん私にはできないことなんだ」

カムイ「私を殺しても、結局殺されてしまうからですか?」

クリムゾン「ははは、そんなんじゃないよ……。白夜の民間人を守らなかったことでさえ、私には重みだった。だからカムイに会いに行ったくらいに、私は心の中でその重みに耐えられなかった。そんな私がシュヴァリエを裏切って生きることも、カムイ、あんたを殺して生きることもできない。いずれ、私の心は擦り減って私じゃなくなる、そんな気がしてたんだ」

カムイ「私なんかより、クリムゾンさんは強い人じゃないですか」

クリムゾン「はは、目が節穴だね。私には、どれを選ぶかなんてできなかった。流されて、結局カムイの約束に、あの言葉に甘えて待っていただけの弱い女だよ。だからこうなってよかったって、ホッとしてるくらいだよ……」

カムイ「ホッとしないでくださいよ……私は全然安心できてなんていません」

クリムゾン「ははは、そう言えば私の耳朶かじる約束は果たせそうにないや。あの時、かじってもらってればよかったかな……」

カムイ「こんな時に何を言ってるんですか……」

クリムゾン「いいじゃないか、湿っぽいのはなんかあれだからさ……」

カムイ「……」

クリムゾン「はは……コフッ」

カムイ「クリムゾンさん?」

クリムゾン「―――」

カムイ「……どうして、こうなってしまうんですか。私にできることなんて、なかったって言うんですか……」

カムイ「……わかりませんよ。クリムゾンさん、私はどうすればよかったんでしょうか?」

カムイ「……応えてくれるわけないですよね……。みなさんと合流しないと……」
 
 タッ タッ タッ

カムイ「どこに行けば、いいんでしょうか……」

カムイ(構造は一直線……、途中に横に入る道があるみたいですね……。まずはあそこに―――)





 ヒュンッ!ザシュッ

カムイ「ぐあっ!」ドサッ

シュヴァリエ兵「見つけたぞ、暗夜の王女だ! よし、足を射ぬいた。そう簡単には動けないはずだ。おっと、下手に動いたらすぐに殺しちまうぞ?」

カムイ「ぐっ……くうぅぅ」

シュヴァリエ兵「へっ、最後の最後で大物を見つけられた俺たちはラッキーだな」

シュヴァリエ兵「さて、どうするよ? すぐに殺しちまうか?」

シュヴァリエ兵「いやいや、近づかなくてもいい、それより弓の的になってもらおうぜ。手元が狂って、なかなかとどめがさせないかもしれないけどな」

シュヴァリエ兵「それはいい考えだ。それじゃ、早速俺から……それ」パシュッ

 ザシュッ

カムイ「っ!!!!!」

シュヴァリエ兵「よっし、足を打ち抜いた。しかし声を我慢して、つまらねえなぁ。もっと痛そうに鳴くとかしないのかよ、サービス悪いな」

カムイ(……私もここで死ぬんですね。でも、別にいいですよね。シュヴァリエの反乱鎮圧は他の皆さんに任せても。私が死んでも、反乱鎮圧が完了すれば、マークス兄さんは助かるはずですから、やっぱり私は背負える人間じゃないんです。クリムゾンさんも目が節穴ですね)

シュヴァリエ兵「次は俺だ!」パシュ

 ザシュ

カムイ「………っ!」

シュヴァリエ兵「つまらねえ。興醒めだ、さっさと殺して違う場所に向かうぞ」

シュヴァリエ兵「そうですね。おっと、後続も追い付いたみたいだし、ここで蜂の巣にしてやろうぜ」

 チャキ チャキ チャキ チャキ

カムイ(……これで終わりですね……。はは、皆さんごめんなさい。私は何もできない、ダメな人間でした)

シュヴァリエ「射て!」

 シュン シュン シュン シュン

 サッ

???「させません!」スッ

 キキキキィン

カムイ「?」

シュヴァリエ兵「な、何が起きた!?」

???「カムイ様、ご無事ですか!」

カムイ「え、リリスさん?」

リリス「はい、間に合いましたね。星竜モローよ、私に力を」ブォン

シュヴァリエ兵「構わん、打ち続けろ!」

リリス「……そんなものですか。興醒めです」

リリス(あと三回までならどうにか受けきれそうです。それまでに誰かが来てくれれば……持ちます!)

カムイ「リ、リリスさん!」

リリス「大丈夫です、安心してください、カムイ様。私が守り切ってみせますから!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ザシュ

ピエリ「この街入り組んでてわかりづらいの!」

シャーロッテ「そうね。シュヴァリエの兵も所々にいるみたいだから、ここらへんにいるとは思うけど、手掛かりがないまま走り続けても意味はないわ」

ピエリ「……? なんか青い光が見えるの」

ブノワ「本当だな……」

ピエリ「リリスの色、あそこに行くの!」

シャーロッテ「って、いきなり動きだすなっての。ブノワ、行くわよ」

ブノワ「ああ、今日は走ってばかりだ」

シャーロッテ「まったくね」

今日はここまでで。展開がグダってしまって申し訳ないです。

 明日明々後日は、更新できないかもしれません

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ヒュン ヒュン ヒュン

 キキキィン

リリス「そんなものですか?」

シュヴァリエ兵「くそっ、見えない壁でも張ってるみたいだ。矢が通らねえ、どうなってる!?」

シュヴァリエ兵「へっ、なら通るまで続けるだけだ。まだまだ矢はたらふくあるんだ、どうやら動けねえみたいだからな。休まず!」

カムイ「り、リリスさん。私のことは放っておいて逃げてください」

リリス「それはできません、ここまで来た意味がなくなっちゃいますから、足の怪我は深いんですか?」ブォン

カムイ「……ええ、這いずりまわるくらいしか……ううっ」ズキッ

リリス「そうですか、では誰か来るまでは私に任せてください。私にできるのはこれくらいですから」

カムイ「なんで、私はリリスさんに冷たくしたのに、どうして……」

リリス「守るって約束したじゃないですか、今日の私は頑固なんですよ、カムイ様」

シュヴァリエ兵「ちっ、斬りかかるのは癪だな。近づいたらどうなるか分かったもんじゃない」

リリス「ふふっ、近づいたら、もしかしたら通り抜けられるかもしれませんよ?」

シュヴァリエ兵「へっ、飛び道具があるのに近づくかよ。見たところ、ロッドナイト見てえだが、わけのわからない術を使うような奴に、近づく気なんてないんでね」

リリス「とんだ、腰抜けですね」

シュヴァリエ兵「小娘が……、後悔させてやる」

リリス「カムイ様を殺しても、この戦況は覆りません。諦めて逃げたらどうですか?」

シュヴァリエ兵「はっ、もうどうだっていいんだよ。負けが決まってるなら、そこにいる王女の一人でも殺さねえと気が晴れねえ。だからツいてるよ、お前と王女を殺せば、気晴れは二倍になるんだからな」

リリス「……そんなことで、あなたたちの気が晴れるわけないですよね」

シュヴァリエ兵「なに?」

リリス「一人殺したら、また一人、もう一人、そういう風にしか、ならないでしょう?」

シュヴァリエ兵「さあ、どうだろうな」

リリス「まぁ、そもそもカムイ様にこれ以上、傷をつけさせるわけにはいきません」

シュヴァリエ兵「はっ、ならお前の奇妙な技が、どこまで耐えられるか見せてもらおうじゃねえか、次、射て!」

 ヒュン ヒュン ヒュン

 キキィン

リリス「っ!」

リリス(……力がすこし弱まってきちゃいました。あと二回くらいしか、耐えられないかもしれません)

カムイ「り、リリスさん!」

リリス「すみません、あと少しだけ待っててください。必ず、ピエリさんが来てくれるはずです。一緒にカムイ様を守るって約束したんですから。必ず持たせてみせますから」

カムイ「……私は守られてばかりですね」

リリス「……はい。今回は守られてばかりですよね。だって、私にも守られちゃってるんですから。あの無限渓谷で私に守られてくださいって言った時と全く逆です」

カムイ「……ははっ、本当にそうですね……」

シュヴァリエ兵「何話してやがる! 余裕ってことか、ええっ?」

リリス「うるさいです。少し黙っててください……」

カムイ「リリスさん?」

リリス「大丈夫です、あと二回、二回はカムイ様に攻撃を当てさせたりしませんから。それに感じるんです、ピエリさんが急いで私たちの場所を目指してる、そんな気配がするんです。だから、安心してください、カムイ様……」

 ドクンッ

カムイ(……り、リリスさん? なんで、そんなに落ち着いた声なんですか……)

リリス「はああああああっ!」ブォン

シュヴァリエ兵「次、射て!」

 ヒュンヒュンヒュン!

 キキキィン………パキィン

 ザクッ

リリス「っ! ぐっ……」

カムイ「リリスさん、大丈夫ですか! リリスさん!」

リリス「だ、大丈夫です。少し、掠っただけですから……」

シュヴァリエ兵「ああっ? なんだ、思ったよりも柔じゃねえか。どうした? 今の話じゃ、あと一回やれるんだろ? さっさと出したらどうだ」

リリス「……はぁ……はぁ」

カムイ「リリスさん、今、行きますから」

リリス「そこを動かないでください!」

カムイ「な、どうして……」

リリス「お願いです、カムイ様。そこを動かないでください……」

リリス(あと一回……)

シュヴァリエ兵「おら、出してみろよ。あと一回受けきるんだろ? 気分がいいからな、お前の最後の力、見せてみろよ? まぁ、今の見る限りじゃ、全然受けきれそうもないけどな」

シュヴァリエ兵「あははははっ、そうだな」

リリス「はぁ……はぁ……んっ」

カムイ「も、もう、いいんです。私は誰かを失ってまで、この命を繋げたくなんてありません。だから、リリスさん。はやく逃げ――」

リリス「……カムイ様。私はカムイ様に仕えて来ました。この命は、カムイ様をお守りするそのためだけに繋いできたんです……ここで、それを投げ出すことはできません」

 ドクンッ

カムイ「リ、リリスさん、何を言って――」

リリス「……」

 アノアオイバショ、アソコニイルハズナノ!

リリス(ピエリさんの声が……聞こえます。ふふっ、ちゃんと見てくれたんですね。私の力、青い光を……あと、一回受け切れれば……)

 バッ

リリス「……」

シュヴァリエ兵「おいおい、両手広げて、何の真似だよ?」

リリス「これが私の最後の力です……」

シュヴァリエ兵「は?」

リリス「……」

シュヴァリエ兵「ははっ、こりゃ傑作だ。変な術を駆使するから何をするかと思えば……お前自身が最後の盾、そう言ってるのか。くっくっく、一発当たったくらいで倒れそうな、ひ弱な盾だな、こりゃ。そんなんで守りきれると思ってんのか?」

リリス「そうですね……。でも、これならあと一回は確実に受け切れます。貫通できるような、威力はないみたいですから」

カムイ「り、リリスさん。何を言っているんですか……そんな、嘘ですよね。何か方法があるんですよね……リリスさん!」

リリス「………」

カムイ「お願いです!殺すなら、殺すなら私を、私を殺してください。代わりにリリスさんを、リリスさんを助けてください。私はどうなっても構いませんから……リリスさんを助けてください」

シュヴァリエ兵「ははっ、こりゃいい。王女様からとてつもなく魅力的な提案だ」

シュヴァリエ兵「でも、そんな話は聞かねえ、そこで無力さを噛みしめてろ。その小娘が死んでく様を見ながらな。そのあとで、お願いされたとおり好きにさせてもらうさ」

リリス「……なら、さっさと撃てばいいじゃないですか」

シュヴァリエ兵「おらよっ」パシュッ

 ザシュッ

リリス「ううっ……」

シュヴァリエ兵「おらおら、少し肩が下がってるぞ、それで最後まで立ってられるのか? ああっ!?」パシュッ

 ザシュッ

リリス「ぐあっ……」

シュヴァリエ兵「へっ、弱いくせに虚勢を張りやがって、そのまま地面に這いつくばってれば、殺さないでいてやるよ。そちらの王女もそれを望んでいるみたいだからなぁ」

リリス「はぁはぁ、……そんなものお断りです……」フラフラ

カムイ「やめてください、リリスさん、立ちあがらないでください。このままじゃ、あなたの命が!」

リリス「私には……私にはこれしかないんです。死んでしまうはずだった私が、命を永らえた私が、胸を張って生きていける理由なんて、これくらいしかなかったんです」

リリス「カムイ様を守り通すことが、私の使命です。この体が、どんなに傷つけられても――」

リリス「大好きな友達との約束を違えることになったとしても――」

リリス「カムイ様がそれを望まれなくても――」

リリス「私はカムイ様を守るためにここまで生きてきたんですから、それを否定されるわけにはいかないんです!」

リリス「だから死んでも、カムイ様に指一本触れさせるわけにはいかないんです!」バッ

シュヴァリエ兵「そうか。飛んだ忠誠心だ。怖れいったよ……」











シュヴァリエ兵「ご要望通り殺してやる。全員構えろ」

 チャキ チャキ チャキ チャキ チャキ

シュヴァリエ兵「さて、すべてが打ち終わるまで、立ってられるかな?」

リリス「……立っててみせます」

カムイ「リリスさん、すぐに、すぐに退いてください! 今なら、まだ避けられます! だから――!!!!」

リリス「カムイ様……。大丈夫ですよ」

カムイ「何が大丈夫なんですか! ふざけないでください! ほかに、ほかに方法があるはずです! だから、だから!」

リリス「私が選んだんです。だから、カムイ様……私に守られてください、主君を守るのも臣下の仕事ですから」

カムイ「リリスさん! ぐっ、逃げて、逃げてください。お願いします、シュヴァリエに来た事は謝ります。胸だって突然触ったりしません、ちゃんとリリスさんの話を聞きます。聞きますから、逃げてください。私のために、命を捨てないで……」

リリス「…………」

カムイ「命令です! リリスさん、今すぐ路地に、路地に逃げてください! 主君の命令に従――」

リリス「カムイ様……」





「ごめんなさい……」

カムイ「やめて……」

カムイ「やめて、お願いです、やめて……やめて……」

カムイ「やめてええええええ!」





シュヴァリエ兵「放てっ!」





 ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

 ザシュ ザシュシュ ザシュ ザシュ ザシュ ザシュ ザシュッ
 
 ポタポタタタタタッ
 
 カツッカツッ

 カツッ

 ………

 ……

 …
 
 ドサッ



カムイ「り、リリス……さん? ああ、ああああああ……」

シュヴァリエ兵「へっ、結局倒れちまったな」

カムイ「いや、いやあ」

「いやああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

今日はここまで

リリスは透魔編で竜とロッドナイトみたいに使えたらなぁ、と時々思う。

シュヴァリエ兵「傑作だぜ。無力を痛感して叫び声あげてやがる。さてと、さっさと近づいて、好きにさせてもらおうぜ。ご要望は叶えてやらねえといけないからな」

シュヴァリエ兵「そうだな。よく見たら別嬪だしな、これを好きにしていいとか、最後にすげえご褒美だぜ。死ぬ前だ、どんなことしたって構わねえよな?」

シュヴァリエ兵「ああっ、しかし、こいつ――」

リリス「」

シュヴァリエ兵「けっ、主君なんて見捨てて逃げればいいのによ。飛んだ馬鹿だよな、こいつ」

シュヴァリエ兵「ほんとほんと、そもそも、自分が死んだあとどうなるかくらいわかるだろうに、結局は少しだけ時間が延びただけの話だってのにな?」

シュヴァリエ兵「まったくだ。それじゃ、さっさと楽しませて――」



ガシッ




シュヴァリエ兵「?」

リリス「……い、いか……せま…せん……」ズルッ ズルッ

シュヴァリエ兵「邪魔だ」ガッ

リリス「あうっ……ハァ……ハァ…んっ」

ガシッ

リリス「……ハァ……ハァ」

シュヴァリエ兵「まったく、往生際の悪い死に底ないだ」

 チャキ

シュヴァリエ兵「女々しいんだ。さっさとくたばれ、この――」

 ブンッ

 ザシュッ

シュヴァリエ兵「は? なんで、俺が攻撃されて――」ドサッ

シュヴァリエ兵「!? なにが――」

???「死んじゃえっ!」ブンッ

シュヴァリエ兵「ぐべっ……」ドタッ

ピエリ「死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえなの!」ザシュ ザシュ

シュヴァリエ兵「新手か! 弓を準備――ぐえあっ」ドサッ

シャーロッテ「甘いんだよ。ブノワ、ピエリとその子の射線を塞いで! ピエリ、この盾借りるわね」

シュヴァリエ兵「まだ負傷した仲間が」

シュヴァリエ兵「構わん、放て!」

 パシュ パシュ パシュ

 グエエア

ブノワ「うおおおおおっ」ガシン!

 キキキィン

シャーロッテ「おらああああああっ。間に合えっての!」ガシンッ

 キキィン

シャーロッテ「間一髪、カムイ様、だいじょ――」

カムイ「……ああ、ああああ」フルフル

シャーロッテ「……間に合ったはいいけど……これは駄目かもしれないわね……」

カムイ「………」フルフルフル

 キキィン

ブノワ「ピエリ、俺が受け切っている間に。その子を……」

ピエリ「リリス!」スタッ

リリス「あ……ピ……エリさ……ん。よか……った、間に合った……んですね……ゴフッ」ビチャ

ピエリ「しゃべっちゃだめなの! 大丈夫、ピエリが来たから……助かるの。きっと助かるの」

リリス「はは……カ……ムイ……カム…イ様…は……」

ピエリ「シャーロッテが近くにいてくれてる。だからもう大丈夫なの」

リリス「よかった……」

 ポタポタッ

ピエリ「早く、血を止めるの。大丈夫なの、リリスもすぐ元気になれるの……」
 
 ギュッ

 ポタタタ……

ブノワ「……ピエリ」

ピエリ「血が、血が止まらないの、やり方……間違えてないのに、血が止まってくれないの」

 ギュッ

 ポタタタタタタタ

ピエリ「駄目なの、血は血でもリリスの血なんて見たくないの。止まって、止まって、止まるの!」

リリス「……ピ……エリさ……ん。もう……だ、だいじょ……ぶ……です……から」

ピエリ「大丈夫なわけないの。そうなの、杖、杖で治せるはずなの……」チャキッ

 ブンッ ブンッ ブンッ

 ………

ピエリ「お願い、お願いなの……」

 ブンッ ブンッ ブンッ

 ………

ピエリ「……掛って、掛るの。早く掛って、なんで、言うこと聞いてくれないの!」

 ブンッ ブンッ ブンッ

 ………

ピエリ「リリスが、リリスが死んじゃうのに、なんでピエリの言うこと聞いてくれないの!」

 ブンッ

 ……

 カランカランッ

ピエリ「だめ……だめなの。剣と盾じゃだめなの……、リリスのこと助けられないの。ピエリ、何もできない」ポタッ ポタッ

ピエリ「ピエリの力じゃ、リリスを助けることなんてできないの……」

リリス「ごめ……なさ……い。ピエリさ……んとの、やくそく、守れそうに…ありません……」

ピエリ「ピエリが、ピエリがいけないの。ピエリがもっと早くリリスを見つけられたら。こんなことになんてならなかったの」

リリス「いいんです。ちゃんと……来てくれたじゃ、ないですか……」

ピエリ「死んじゃだめ、まだピエリ、リリスと一緒にいっぱい過してないの。可愛いお洋服一緒に選びに行ったりしてないの……リボンに似合うお洋服、見つけに行くの」

リリス「えへへ……ピエリさんからもらっ……た。リボン、まだきれい……なんで…すよ」ギュッ

 ベチャ

リリス「あれ……カチーフでちゃんと……包んでた…のに、汚れちゃって……る」

ピエリ「また、新しいの買ってあげるの。だから、諦めちゃだめなの……」

リリス「ピエリさん……無茶…言わな……いでくださ…い」

ピエリ「無茶でもするの! 死んじゃだめなの、死んだら絶交なのよ! ピエリ、リリスの友達やめちゃうの! そんなの嫌なの」ギュッ

リリス「ふふっ……ピエリさん、それ矛盾してます……」

ピエリ「わからないの……」

リリス「ごめんな……さい。わたしにとっ……て、一番大切なの……、カムイ様だから……」

ピエリ「今はカムイ様が一番でいい、ピエリは二番目でもいいの! だから、ここで終わりにしちゃ駄目なの……いつか、カムイ様を抜かして、ピエリがリリスの中の一番になる、なってみせるの。だから――」

リリス「ピエリさ……ん。恨まないで」

ピエリ「何を、何をなの? ピエリ、リリスのこと恨んだりなんてしない、するわけないの」

リリス「私が、ここで、死んでしまったことは……私が……決めたことだから…」

ピエリ「……そうなの、リリスをこんなにした奴、みんな殺してやるの! しないと気が済まないのよ」チャキ

リリス「だめ…です…」ギュッ

ピエリ「……だめ? なんで駄目なの? リリスの仇、打っちゃいけないの? なんで、止めるの!」

リリス「ピエ……リさんには。そんな理由で……戦ってほしく……ないから。ピエリさんには……恨みで戦ってほしくないんです。私のことで……ピエリさんがピエリさんで無くなってほしくないんです……」スッ ペチャ

ピエリ「リリス……」ポタ

リリス「ピエリさん、泣いて……るんですか」

ピエリ「当り前なの……ヒッグ」

リリス「ふふ、拭ってあげますね……」スッ ピトッ ペチャ

ピエリ「リリスの手、温かいの……」

リリス「ピエリさん……大好きで、大切な最初の友達です……」ポタポタッ 

ピエリ「うん、友達なの……だから、ここで終わりにしちゃ駄目なの」

リリス「そう……ですよね。ピエリさん……お願い、いいですか?」

ピエリ「リリスのお願いなら、聞いてあげちゃうの……。治ったらいっぱい楽しいことする約束なの?」

リリス「えへへ、後ろから抱き締めて……くれませんか。前は……難しそうだから……」

ピエリ「うん」ダキッ ギュウッ

ピエリ「これでいいの?」

リリス「……はぃ……ピエリさんの鼓動が聞こえます。とっても、大きい音……」

ピエリ「うん……」

リリス「こういうのも、悪くない……かもしれませんね……」ポタ

ピエリ「今度、こうやって一緒にお月さま見るの。リリス、指切りするの……」スッ

リリス「えへへ……、楽しみで……す……ピエ……リさ――」

 トサッ

ピエリ「リリス? まだ、指切り終わってないの……」ユサユサ

リリス「―――」ポタタタタッ

ピエリ「冗談はやめるの……」ユサユサ

リリス「」

ピエリ「……ううううっ」ギュウウウッ

「………」スッ

「リリス、ごめんなの。やっぱり、約束は守れないのよ」チャキッ

 ダッ

ブノワ「ピエリ! 前に出るのは――」

ピエリ「うるさいの! 一人残らず殺してやるの……。ピエリ、死ぬまで、殺し続けるの。あんたたち全員、ミンチにしてやるの。血だけじゃ足りないの……中身も全部引きずり出して、生まれてきたこと、後悔させてやるの」

ブノワ「頭に血が上っているのか。シャーロッテ、俺も一緒に前線に出る。カムイ様を連れて後退するんだ……」

シャーロッテ「そんなこと言っても、カムイ様の負傷じゃ、そんな簡単にここは抜けられないっての! それに、全く動いてくれないんだよ」

ブノワ「ぐっ、万事休すか……」

ピエリ「万事も、何もないの。一人でも多く肉片にしてやるだけなの。いっぱい、いっぱい切り刻んで、料理してあげるから」

シュヴァリエ兵「はっ、なら掛ってきやがれ。この矢の中を、これるもんならな!」

ピエリ「……死んじゃえ、死んじゃえ、みんな死んじゃえ。リリスを殺した奴、みんな死んじゃえばいいの!」

 ダッ

シュヴァリエ兵「はっ、あの馬鹿な小娘と一緒にしてやる!」

ピエリ「やああああああああああっ!」

ブノワ「くっ、これでは間に合わない……!」

 ピエリ! クソッ……エッ、カムイサ……ウワアッ!

 シュオオオオオオオン

 ダッ

 パシュパシュパシュ

 ドサッ

 キキィン

ピエリ「!! な、なんなの……、前に何かいるの?」

???「コオオオオオオ……」ヒタッ ヒタッ

シュヴァリエ兵「……なんだ、ありゃ?」

竜「………コォォォォ」バサッ バサッ

シュヴァリエ兵「けっ、何かは知らねえが。殺しちまえば――」

竜「グオオオオオオオオオオアアアアア!」ダッ

 ブンッ 

 ブチィッ ドベチャ。グチャリ

シュヴァリエ兵「へっ?」

竜「グオオオオオオオッ」ブンッ

 グチャ ベキッ

シュヴァリエ兵「な、なんだ。なんなんだ。いきなり何なんだよ!」

竜「グオオオオオオオオオオオオオオッ」ガシッ

シュヴァリエ兵「ぐへあ……」

 グッ ボギャッ…… ビチャビチャ ボトボト グチャリッ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カミラ「見て、あそこ……」

リンカ「あれは、なんの光だ?」

アクア「竜化の光に似ていえるわね。もしかしてあそこにカムイが?」

カミラ「どちらにせよ、目印になるのはあれくらいよ。あそこにカムイがいると信じていくしかないわ。リンカ、乗りなさい。さすがに並走じゃ時間がかかる距離よ」

リンカ「ああ、すまないがそうさせてもらうさ。しかし、おかしなものだ。こうして暗夜の王女の竜に乗ることになるなんて思ってもいなかった」

カミラ「仲間じゃない。気にすることじゃないわ。アクアも、しっかり掴まっておきなさい。最高速で飛ばすわ」

アクア「ええ……。」

アクア(でも、あの光……。あれは通常の竜化とは違う。あれは暴走の時に似ているけど、それはあり得ないはず。だって、カムイの竜、獣としての衝動は白夜で竜石に収めた。だから、暴走することはないわ。ちゃんと肌身離さず携帯していれば―――)

アクア「! 迂闊だったわ、そんなことを見落としていたなんて……」

カミラ「アクア、どうしたというの?」

アクア「カミラ、急いでカムイを見つけましょう。取り返しのつかないことになるかもしれない」

カミラ「そのつもりよ。でも、その様子じゃ、なにか良くないことに気づいたみたいね」

アクア「ええ、でも説明をしている時間がいわ。早くしないと――」

「カムイが獣に成り果ててしまうかもしれない」

今日はここまで

ピエリとリリス、書いてるうちに一番みたい組み合わせになってた……。
リリス支援DLCください(懇願)

◆◆◆◆◆◆

カミラ「ここらへんだと思ったのだけど……」

リンカ「ん? ……おい、あれ!」

 カミラサマー、ココナノ!

カミラ「……あれは、ピエリのようね。あと、城壁の時に加勢してくれた二人かしら?」

リンカ「あと、誰か倒れているみたいだ」

アクア「……とりあえず、降りてみましょう」

 バサバサバサッ

カミラ「……そう、リリスが」

ピエリ「……ピエリ、守れなかったの……」

カミラ「ピエリ……悲しい気持はわかるわ。でも、すぐに準備をして頂戴、もうしばらくしたらここも火にのまれてしまうわ」

シャーロッテ「えっとぉ、どういうことですかぁ?」

リンカ「ああ、町に火を放った奴がいるらしい。まぁ、誰かは簡単に予想できるが、それを指摘しても意味はないだろうからな」

ブノワ「そうだったのか。まったく気付かなかった」

カミラ「ピエリ、貴女はできる限りでいいから見かけた暗夜兵に声を掛けて、川を渡って頂戴。ちゃんとリリスも連れて行ってあげるのよ」

ピエリ「……うん、わかったの。ピエリ、リリスのことこんなにした人殺したかったの、でも、カムイ様が全部殺しちゃったの……」

アクア「カムイが?」

ブノワ「ああ、突然のことで何が起きたのか、俺にはわからなかったが、先ほどまでそこにいたシュヴァリエ兵を倒して、どこかへ向かってしまった」

シャーロッテ「いきなり、変身して飛び出して行っちゃったんですぅ、びっくりして頭を打っちゃいました。でもすごいんですね、竜になれちゃうなんて」

アクア「ねえ、シャーロッテ。その時、カムイは石のようなものを持っていたかしら?」

シャーロッテ「石ですかぁ? 手には何も持ってなかったと思いますよぉ。剣も置いて行っちゃったみたいですから、でもここに石みたいなものは落ちてないみたいですね」

アクア「そう……。わかったわ」

カミラ「……石って、竜石のことかしら?」

アクア「ええ。正直希望を込めて確認したけど、逆に確信を深めることになったと言っていいわ。カムイが悩み始めた理由も、おのずとわかるはずだから」

カミラ「……そう。でもここには竜石は落ちていないみたいね」

アクア「ええ、まだカムイが持っていてくれたなら。施しようがあるわ。だから、まずはカムイを見つけ出さないといけない」

カミラ「……落ち着いたら話してもらえるかしら?」

アクア「ええ、必ず」

カミラ「約束よ……。三人は言われたとおりにお願いね、私たちはカムイを見つけてから川を渡るから、先に行きなさい」

ピエリ「わかったの……カミラ様」

カミラ「ええ、気をつけていきなさい」

 タタタタタタッ

アクア「カムイを早く見つけ出さないと」

カミラ「そうね。でも、すぐに見つかるとは思うわ」

アクア「そうかもしれないわね………」

リンカ「まるで食い散らかしたような跡だが、これを辿って行けばカムイに会えるはず」

アクア「ええ、あまり良い道標ではないけど、急いでる今はありがたいわ」

カミラ「そうね。さっ、二人とも乗って頂戴……。といっても、私とリンカにどうにかできることとはちょっと思えないわね」

リンカ「そうだな。アクア、お前ならどうにかできる、そう信じていいんだな?」

アクア「……ええ。どうにかしてみせるわ。ただ、すごく危険かもしれないけど、カムイを失うわけにはいかないから」

カミラ「そうね……。だからアクア、必要なタイミングで指示を出して頂戴」

アクア「カミラ……」

リンカ「あたしにも頼むぞ。見ているだけなんてのは癪だ」

カミラ「ふふっ、そういうことだからお願いね」

アクア「わかったわ」

カミラ「それじゃ、行くわよ!」

 バサバサバサ

アクア(まだ、カムイは殺すべき相手を選んでるはず。だからシュヴァリエ兵だけを殺して、それを追いかけていった)

アクア(だからこそ、ピエリたちは生きていられた。リリスを殺した人たち、いやシュヴァリエ軍そのものが、今の標的になっているはず)

アクア(その標的を倒す衝動が、違う衝動に変わってしまう前に、カムイを取り戻さないと……)

今日はここまでで

風邪を引いてしまったようで、更新が少し滞るかもしれません……

◆◆◆◆◆◆

シュヴァリエ兵「た、たずげ……」

竜「…」

 グッ

 グググググッ グチャ

シュヴァリエ兵「」

竜「……アアアッ」

竜「」キョロ……キョロ

竜「グオオオオオオオオッ!」

 ドゴンッ

竜「……フーッ、フーッ」

アクア「カムイ」

竜「フーッ」ザッ

アクア「大丈夫、私よ。アクアよ」

竜「グオオオオオンッ!」ザッザザッ

アクア「もう戦う相手もあなたに危害を加える者もいないわ。私とあなただけ、だから安心して頂戴」

竜「……フーッ」

カミラ「……アクアの指示があるまでは動かないって約束したけど……」

リンカ「ああ、今にも飛びかかりそうで、見ていて胃に負担が掛るぞ、これは……」

カミラ「本当にね……。でも不思議なものね、こうやって肩を並べることになるなんて」

リンカ「ふっ、それもそうだな。炎の部族の一人だったのが今はこんな場所にいる。おかしなことだ」

カミラ「ふふっ、頼りにしているわリンカ。カムイを信じたあなたの力をね」

リンカ「ああ、あたしは向こう側に回ることにする。正直、丸く収まるとは到底思えないからな」

カミラ「ええ、お願いね」

 タタタタタッ

アクア(……カミラとリンカは所定の位置に付いたみたいね。それじゃ、始めないと)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ(……)

アクア『カムイ、もう大丈夫。だから落ち着いて頂戴、私のことはわかるでしょう?』

カムイ(アクアさんですよね。声でわかりますよ、そのくらい)コクリッ

アクア「そう、よかった。大丈夫よ、時期にシュヴァリエの反乱も終わりを迎える。カムイが戦う必要はもうないわ」

カムイ(戦う必要がない? おかしいですね、敵を倒さないと、みんな死んでしまうのに……リリスさんみたいに)キョロキョロ

アクア「もう敵を探す必要はないの。さぁ、カムイ。もう終わりにしましょう。大丈夫、前と同じことだから、一緒に落ち着きましょう?」

カムイ(リリスさんは、私を守るために矢を受けて死んでしまったのに……今でも思い出せるんですよ? 私を庇ったリリスさんに矢が……)



 ザザーッ


カムイ(あれ……?)


 ザーッザザ ザザーッ


カムイ(おかしいですね。どうして私は、リリスさんが矢を受けるまでの姿をこんなに回想できるんでしょうか? 私は目が見えていないはずなのに……)

カムイ(あれ、リリスさんの輪郭がぼやけていく……シュヴァリエ兵の輪郭も……あれは暗夜の兵装?)

???『カムイに、指一本触れさせはせん!』

カムイ(……あれ? この人は誰、リリスさんじゃない、私の前で手を広げているこの人、男の人?)

???『くーっはっはっは。お前の体一つで何ができるというのだ? 白夜王スメラギよ』

カムイ(暗夜の兵とお父様……? そして、この人が白夜王スメラギ?)

スメラギ『だが守り通すことはできる!』

カムイ(この背中を向けている人がスメラギさん? でも、なんで私を守るように両手を広げているんですか?)

ガロン『守り通すか。面白い、どこまで守り切れるか見せてもらうとしよう』スッ

スメラギ『……カムイよ。父を……浅はかな私を許してくれ』

カムイ(……父?)

ガロン『……』

カムイ(だめ、だめです。そこに立っていたら……やめてください、私のために死ぬ必要なんてないんです。お父様、合図を出さないでください。お父様……!)

ガロン『放て……』

カムイ(やめて……)

 ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

スメラギ『ぐおっ、うおおおおっ……ぐっ、ぐはっ』ガクッ

ガロン『このような罠に掛ったか、甘いな、白夜王スメラギよ……』

スメラギ『はぁ……はぁ、ぐっあ……』

ガロン『ぬんっ!』ブンッ

 ザシュッ 

 ドサッ

カムイ(……お父…様)

(スメラギお父様……)

カムイ(なんで忘れていたんでしょうか……。お父様のこと、そして、お父様を殺した人のことを)

ガロン『お前……』

カムイ(ガロン王)

ガロン『お前は殺さぬ、生かしてやろう。我が子としてな……』

カムイ(私のお父様を殺して、私を娘として育てた人。そして……)

ガロン『だが、その瞳は気にいらん。お前に光など、この先必要ないのだからな』チャキッ

 ザシュ……

カムイ(私から光を奪った人……)

カムイ(何もかも私から奪っていったのは暗夜だった……あははっ、傑作じゃないですか……。そんな場所に戻って戦いをしてきたなんて……)

カムイ(でも、もうその必要もありませんよね。だって――」

カムイ(暗夜は私の敵なんですから。敵なら、殺さないといけません……それに殺してしマエば)

―モウ、ナヤマサレズニスムンデスカラ―

やっと風邪治ってきた。残りはいつもの時間くらいに

ピエリリスで番外やりたいな……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~
竜「グオオオオオオオオオオオッ!」ブンッ

アクア「!」サッ

 ドゴォン!

アクア「カムイ!」

竜「ウオオオオオッ!」

カミラ「アクア!」ダキッ

 ズザザーッ

アクア「! か、カミラ……」

カミラ「危なかったわ。これは冗談が過ぎるわよ、カムイ」

竜「ウウウウウウウウッ、グオォン!」
 
 コツン

竜「!」

リンカ「こっちだよ、カムイ!」

アクア「リンカ! 威嚇したら、あなたが狙われてしまうわ。今のカムイは正気じゃないわ!」

リンカ「わかってるさ。だからこそ、アクア。あんたを失うわけにはいかないんだ。あたしたちじゃ、カムイの暴走を止められないからね」

竜「グウウウウッ」

リンカ「ふっ、小突かれたのが悔しかったのか? なら追いかけて来い!」ダッ

竜「グオオオオオオン!」

カミラ「リンカの言葉は逞しいけど。正直、早くしないといけないわね」

アクア「ええ、このままじゃ誰かれ構わず攻撃してしまうようになってしまうわ」

カミラ「まだ止められるかしら?」

アクア「わからない。もしかしたら、私の歌は、もうカムイに届かないかも――」

 ギュッ

アクア「カミラ?」

カミラ「大丈夫。アクアの歌声、きっとカムイに届くはずよ。あんなにきれいな歌声だもの、響かないはずがないわ」

アクア「そ、そうかしら?」

カミラ「照れてるのね、そういうところ可愛いわ。でも、信じないと届くものも届かない、でしょ?」

アクア「ええ、そうね。ごめんなさい、少し弱気になっていたみたい。何とかしてみせるわ」

カミラ「それじゃ、追いかけるわよ」


リンカ「はぁはぁ……。ふんっ!」ガシャンッ

リンカ「まさか、建物の窓から窓に飛び込んで移動することになるなんて思ってもいなかったぞ。これで撒ければ――」

 グオオオオンッ ドゴォン!

リンカ「ちっ、入ってもお構い無しか! うまくいかないが、面白い久々に体が熱くなってきたぞ」

 ガシャンッ

竜「グオオオオンッ!」

リンカ「もう追いつかれたか、なら」ズザザザザッ

リンカ「うおおおおっ!」ブンッ
 
 ヒュンヒュンヒュン カキィン!

竜「グオオオオオオっ」ブンッ

リンカ「そこだ!」ダッ

 ドゴン!

リンカ「どこを見てるんだい、こっちだよ!」

竜「!!!!!」ザッ

 バサバサバサッ

カミラ「いた、あそこよ。結構距離は離れてるみたいね」

アクア「ええ、なんとかできるかもしれないわ。リンカ、聞こえる?」

リンカ「アクア、カミラ! もしかして、あたしは追いつかれてしまっていたのか?」

カミラ「まだ追い付かれる程じゃないわ。すごいじゃない、こんなに逃げきれるなんて」

リンカ「お世辞はいい、アクアこれからどうするんだ?」

アクア「ええ、危険かもしれないけど、ある場所に誘導してほしいの」

リンカ「わかった、それでどこに誘導するんだ?」

アクア「この先の路地を右に曲がった先に、小さい広場があるわ。そこに誘導して頂戴。こっちは手筈を整えておくから。あと、できればだけど、カムイより先に広場に来て頂戴」

リンカ「広場だな、わかった!」ダッ

カミラ「ええ、おねがいね」

バサバサバサッ

竜「フーッ フーッ」キョロキョロ

リンカ「それっ!」ポイッ

コツン

竜「!」

リンカ「よし!」ダッ

竜「グオオオオオオオオオッ!」

リンカ「よし、どうにかは広場に入ったぞ」

カミラ「お疲れ様、まだ路地から顔を出してないみたいね、上出来よ」

リンカ「ああ、鬼気迫る追いかけっこだったがな。それで、ここからどうするんだ?」

アクア「二人とも路地入口で待機して頂戴。私が中央に立っておびき寄せるわ」

リンカ「危険すぎると思うが、いったいどんな策がある? まさか正面から受け止めるつもりじゃないだろうな?」

カミラ「そのためのこれよ」

リンカ「これは縄? いや、いくらなんでも下手すぎやしないか? ちぎれなくても、動きを止められるようには思えないぞ」

カミラ「これは掛けるだけでいいのよ。さすがに持ったままにしたら私たち、二人とも腕を持っていかれてしまうし、ちゃんとした準備はすませてあるわ」

リンカ「下準備、気になるが、もう確認してる暇もないみたいだ……」

竜「」キョロキョロ

アクア「二人とも、身を隠して。合図は私に任せて頂戴」

竜「!」ザッ

アクア「カムイ、私はここよ」

竜「」ダッ

アクア「……」


竜「グオオオオオオッ!」


アクア「今よ!」

リンカ「そらっ!」

カミラ「それっ!」

 グッ ギギギギィ ブンッ

竜「!!!!!」

 ドゴォン!

竜「グギャアアアアアアア!!!!」

 ゴロンゴロン

リンカ「縄に折れた大木が結び付けてあったのか!?」

カミラ「流石に痛そうね……あとでカムイのお腹、擦ってあげないといけないわ」

リンカ「これ、アクアが考え付いたのか?」

カミラ「ええ、もっと可愛らしい作戦かと思ってたから、真顔で大木を指差して縄で結ぶよう指示してきたからね。ちょっと……」

リンカ「見かけによらず物理的な作戦を考える。腕相撲したら負けるかもしれないな」

カミラ「まさか……」

竜「グギャア! グオオオオッ!」ドサッ

アクア「カムイ、今助けてあげるから」

アクア「~♪」

竜「グオッ。グオオオオオオオオオッ!」ジタバタ

リンカ「大木が二本も当たったんだ。それに前足と後ろ脚に縄が絡まってる、解く前に――」

アクア「~♪」

竜「!!!!」ブンッブンッ

カミラ「!? 尻尾が……! アクア!!」

アクア「!?」

 バチィン

アクア「きゃあっ!」ドサッ

カミラ「アクア! だめ、やめるのよカムイ!」

竜「!」ブンッ

アクア「あっ……」

アクア(カムイの尻尾……だめ、とてもじゃないけど避けられない。……ごめんなさい。私……あなたを救えないみたい)

竜「グオオオオオオオオオオッ!」

カミラ「アクア!」

「必殺…アウェイキング・ヴァンダー!」シュオンッ

 バチィン!





竜「グギャアアア!」ドサッ

アクア「えっ?」

???「穏やかじゃないわね。でも、どうにか間に合ったみたいで良かったわ」

???「何がどうなってんだ? 意味がわからないぞ?」

???「どちらにせよ、今のはいい仕事だったよ、オーディン。アクア様を守れたんだからね」

オーディン「ああ、流石に仲間が仲間に殺されてるところなんて、見たくもないからな。そうだろラズワルド」

ラズワルド「うん、そうだね。ニュクス、次が来るみたい」

ニュクス「わかっているわ。カムイ、少し大人しくしてて頂戴!」ブォン

 ジリリリッ

竜「!!!!!!」ググッ

アクア「ニュクス!? それにラズワルドとオーディンも、どうしてここに……」

ラズワルド「話はあとだよ……まずはカムイ様をどうにかしないと」

オーディン「ああっ、俺たちは抑えることしかできないからな。アクア様に後は任せますよ」

ニュクス「ええ、あなたにしかできないことを早くして頂戴。このままじゃ、抑えつけるだけじゃ間に合わなくなるかもしれないわ」

アクア「みんな、ありがとう」

竜「グオオオオオオオオオオッ!」

アクア(私の歌よ、カムイに届いて!)

アクア「スゥ―――」

◆◆◆◆◆◆

『闇へと』

カムイ(ダレ、ダレノコエ? うグっ、アタまが……割レる。心が染マッテ……)

『進み行く』

カムイ(ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ)

『虚ろな白亜の王座』

カムイ(やめて、お願い……やめて。やめてください。私から奪わないで……)

『己を』

カムイ(溶けてしまう。クリムゾンさんを心配に思っていたこの心も……)

『すべてを欺いて』

カムイ(リリスさんが死んでしまったという悲しみも……)

『紡ぐ理』

カムイ(暗夜軍を殺そうと思っていたこの憎悪も……)

『黒曜 鈍く 崩れ落ちて』

カムイ(全部空っぽになっていく。全部持っていかれてしまう。悩んでいたことも、結果を探ることも、人に対する個人的な感情さえも)

『光去り行く 黄昏』

カムイ(……クリムゾンさんもリリスさんも死んでしまった。思い出しているのに、もう悲しむことができない)

『独り思う』

カムイ(ああ、そうか。私の心は、前までこんなに穏やかで波も立たない――)

―とても殺風景なものだったんですね―



 第十三章 中編おわり

今日はここまで

アクアさんに任せれば縄と大木で、竜をワンパンできるはず
次か、その次あたりで十三章は終わる感じです。

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・賭博の町マカラス『宿舎』―

カムイ「……んっ」

カムイ「ここは……」

カムイ(……確か私は……シュヴァリエ公国の反乱鎮圧を任されて――そこで……)


カムイ(そうでした……リリスさんとクリムゾンさんを失ったんでしたね……)

ガチャ
 
アクア「カムイ?」

カムイ「アクアさん?」

アクア「目が覚めたようね。心配したの、よかったわ」

カムイ「アクアさん……私はどれくらい眠っていたんですか?」

アクア「丸二日ほどね。シュヴァリエの反乱はもう沈静化しているわ」

カムイ「そうですか……。私は暴走してしまったんですね」

アクア「カムイ、覚えているの?」

カムイ「うすぼんやりとは。その……リリスさんは……」

アクア「……残念だけど」

カムイ「そうですか……はは、私はこんなに冷徹な人間なんですね。あのときはあんなに叫んでいたのに、今はその事実をありのままに受け入れてるなんて。私の心は一体どうなっているんでしょうか」

アクア「カムイ、そのことだけど。私はあなたに伝えないといけないことがあるの」

カムイ「?」

アクア「まずはこれを返すわね。あなたにとってはお守りのようなものだから」

カムイ「これは……竜石ですか?」

アクア「ええ、暴走したときも、私の助言通り肌身離さず持っていてくれたから、どうにかあなたを取り戻せたの」

カムイ「あの歌はアクアさんのものだったんですね……。ははっ、リリスさんの助言に従わないで勝手に事を進めて、その結果失って、その果てに衝動に振り回されて暴走、今はケロッとそのことを受け入れている。調子のいい人間ですね、私は……」

アクア「いいえ、違うわ。あのとき、カムイは年相応に悩んでいた。いや、悩むことができるようになった、ただそれだけなのよ」

カムイ「なんですかそれ、なら今までの私はなんですか? サクラさんの首に剣を振り下ろしたときや、港町でのヒノカさんへの対応、タクミさんへの攻撃、全部で私は揺れ動かなかったんですよ? そもそも、こんな弱い私があの白夜平原で選択をできるわけないじゃないですか」

アクア「だから、あなたに伝えて謝りたいの……。私はあなたから人間らしい部分を間接的に奪ってしまっていたんだから……」

カムイ「どういうことですか?」

アクア「そうね、まずは質問をさせて頂戴。カムイは、その竜石が何色になっていると思う?」

カムイ「見たことはありませんから。でも、灰色とかそういう色をしているんじゃないですか?」

アクア「……」

アクア「今、あなたの竜石は少しずつ、でも確実に黒く染まりつつあるわ」

カムイ「……それは、元々黒く染まっていなかったということですよね」

アクア「ええ。私も竜石に衝動を抑える行為自体、初めてだった。だからかもしれない、獣の衝動を突然起きる破壊衝動だけだと勘違いしていた」

カムイ「……説明してもらってもいいですか、アクアさん」

アクア「最初あなたに出会った時、私はあなたのことを何にも動じない、それでいて決定できる人と思っていたわ。ミコトが殺されてしまった時、衝動によってあなたがあなたでなくなってしまうこと、それがとてつもなく恐ろしいことに思えたし。純粋にあなたに死んでほしくなかったから、私はあなたの衝動を石に収めた」

カムイ「……」

アクア「竜石の作用で、あなたは最初の印象のように振舞っていたわ。だから、これで大丈夫って思えたの」

アクア「でも、あの日、マクベスに反逆者として捕らえられた日から、あなたはおかしくなった。私に不安だって零していたから、今思えばそこで確認をしておくべきだったのかもしれない。いえ、そこに至るまでに気づいておけばよかったのかもしれないわ」

カムイ「何にですか?」

アクア「獣の衝動というのがどういうものなのかということを」

カムイ「獣の衝動、それは本能的なものではないんですか?」

アクア「ええ、そうね。リリスが殺されてしまった時、あなたの心の中に渦巻いていたのは殺意だけだったと思うわ。そういったものが積もることで、破壊衝動に昇華していき、結果として獣に成り果てる」

カムイ「……」

アクア「でも、それだけじゃないってことが、少しだけわかったのよ。今のあなたを見ていると、それがわかるから」

カムイ「? どういうことですか」

アクア「カムイ、今あなたは何も感じていないのよね」

カムイ「ええ、そうですよ。事実を変えることはできませんから。私がいくら嘆いても、リリスさんやクリムゾンさんの命が帰ってくることはありません……。それにお父様のことも」

アクア「お父様?」

カムイ「思い出したんです。私の本当のお父様がスメラギさんであること、そして私から光を奪ったのがお父様だということも……」

 ガチャ

カムイ「?」

カミラ「……カムイ」

アクア「カミラ……」

カミラ「それは本当のことなの?」

カムイ「……思い出したことです。でも、それが本当のことであるという保証はありません……。だから、もう嘆くこともないんです」

カミラ「どうして、そんなに冷静でいられるの……」

カムイ「なぜって言われましても……本当に何も感じないんですよ。悲しいとか、悔しいとか、そういうのが全く感じられないんです」

カミラ「……カムイ」

カムイ「カミラ姉さん?」

カミラ「これが、これが、あなたの真実だっていうの? お父様が、あなたの目を奪った人だなんて。だって、私たちに出会う前の訓練で目を失ったって」

カムイ「そうですね。でももうアベコベでわからないんです。だけど、それでお父様を怨むようなことはありませんよ」

カミラ「カムイ。お願いよ、そんななんでもないなんて顔をしないで頂戴。少しでもいいから……、辛い顔をして頂戴……」

カムイ「……難しいです」

カミラ「こんなのあんまりじゃない……。まるで、なにも感じていないみたいに。こんなことって……」

カムイ「……やっぱり、私はおかしいんですよ。これじゃ死んでるみたいですね」

カミラ「そんなことないわ。カムイだって、ちゃんと生きているじゃない」

アクア「カミラの言う通りよ。カムイ、あなたにだって心はあるわ……」

カムイ「証拠なんてないじゃないですか」

アクア「……ちゃんとあなたの心は育っていたのよ。だって、育っていなかったら――あなたは反逆者となった瞬間に、命を絶っていたでしょうから」

カムイ「……それは、私が自分の命を愛く思うようになったということですか? そうかもしれませんね、こうやって生き残って、感慨も何も……」

アクア「違うわ」

カムイ「アクアさん?」

アクア「あなたはもともと、自分の命を大切になんて思っていない人だった。だから、簡単に自分を犠牲にできた、いろいろなことに刃向えた」

カムイ「それは……」

アクア「思い当たる節がないわけじゃないでしょ? あなたは、誰かのためなら自分を犠牲にできる人、本当はやさしい人だから。こうやって、人の死を悲しめない自分がわからないんでしょう?」

カムイ「アクアさんにはお見通しなんですね……」

アクア「ええ、あなたをそうしてしまったのは私だから」

カムイ「?」

アクア「獣の衝動は、私が思うに負の感情なのよ。悲しさや辛さ、恨みといった心を蝕むもの。単純に悪意と言っていいかもしれない」

カムイ「悪意ですか?」

アクア「ええ、そういった感情、獣の衝動をこの竜石がすべて受け止めていたの。それが一度離れた時があったのよ」

カミラ「カムイが反逆者として捕らえた時……」

アクア「ええ、その時、カムイと竜石は一度、引き離されたわ。そして、不安という獣の衝動が体の中で渦巻くことになって、繋がりのなくなった衝動は体を渦巻き続けて、カムイを揺らしていた。そして繋がりが完全に修復されていなかった……私がそれに気づいていれば」

カムイ「……」

アクア「ごめんなさい、私はあなたを竜石に縛り付けてしまった。それで安心してしまった。私がリリスを殺してしまったようなものよ、だから――」

カムイ「アクアさんは、私を助けるために、竜石をつなぎ合わせてくれたんですよね?」

アクア「ええ、あなたを失いたくなかったから、でも、知らなかったでは済まされないことを――」

カムイ「アクアさん……」ダキッ

アクア「!」

カムイ「ありがとうございます。私にそのことを告げてくれて……」

アクア「カムイ、なんでそんなことを言うの…」

カムイ「だって、アクアさんもこのことを私に告げるのは辛かったはずですから……」

アクア「やめて、そんな優しい声を掛けてもらう立場に私はいないわ。むしろ、恨まれるようなことをしたのよ?」

カムイ「ふふっ、そんな感情は竜石に送っちゃいます。ただ、私のことを心配してくれたアクアさんがいるって言うことでいいじゃないですか」

アクア「カムイ……」

カムイ「今回のことでわかりましたから。私はみんながいないと何もできない人だってことが。溺れていたんですよ。なににも揺れない自分自身に。それを知らないで歩み続けていたら、いつかもっと違う場所で大きな出来事を起こしてしまっていたでしょうから。それに、リリスさんが死んでしまったのは私が原因なんです。決して、アクアさんの所為なんかじゃありません」

アクア「……でも」

カムイ「でもも、何もありません。アクアさんは私の命を救ってくれたんです。そして、ちゃんと告げてくれた。だからそれだけで十分なんですよ。皆さんにもいろいろと心配を掛けてしまいましたから……」

カミラ「いいのよ。でもカムイ、これからは私たちのことをいっぱい頼って欲しいわ」

カムイ「カミラ姉さん、こんな私ですけど、これからも妹として接していただけますか?」

カミラ「……もちろんよ。カムイは大切な家族なんだから、遠慮しないで頂戴」

カムイ「ありがとうございます。あの、ほかの皆さんには私からお話しますので、大丈夫だと伝えていただけますか?」

カミラ「わかったわ」

アクア「カミラ、それは私が――」

カミラ「そんなに熱く抱擁しあってるのに、水を差すわけにもいかないわ。今はアクアに譲ってあげる」

アクア「譲るって……」

カミラ「そういうわけだから、カムイのことよろしくね」

ガチャ バタン

アクア「……え、えっと////」

カムイ「アクアさん、どうしました?」

アクア「いえ、その、改めて言われると、こうやって抱き合っているのって、なんだか恥ずかしいと思って……」

カムイ「はは、そうですか」

アクア「……その余裕の表情、気に食わないわ」

カムイ「そうしたのはアクアさんですよ?」

アクア「痛いところを突いてく――」

カムイ「アクアさん」

 トスッ

アクア「え、カムイ?」

 ダキッ

カムイ「少しの間、こうしていてもらえませんか……」

アクア「……」

カムイ「不安はないんです。でも、ないから……少し怖いんです。前も思ったことがあって――」

 サラッ

アクア「本当に甘えん坊なのね。カムイは」

カムイ「はい、本当は甘えん坊なんです。今日だけは――この血塗れた手であなたを抱きしめさせてください」ギュッ

アクア「ええ、私でよければ、傍にいてあげるわ……。だって、カムイの信頼できる人になりたいもの」ギュッ

カムイ「ありがとうございます……」

アクア「でも、カミラに羨ましがられるかもしれないわ」

カムイ「そうですね。ふふっ、アクアさん困った顔してます?」

アクア「わかっているのに言うのね……」

カムイ「ごめんなさい。……アクアさん、とても温かいです……ね……」

アクア「カムイ?」

カムイ「――スゥ スゥ」

アクア「……カムイ、港町ディアでした話、覚えているかしら?」

アクア「私はあなたと一緒に血に染まると約束したの。その先に光があるって思えたから。だから、私はあなたを支えるわ」

「あなたの求める答えが見つかるまで……」

◇◇◇◇◇◇
―暗夜王国・シュヴァリエ公国より南東方角の海岸―

 バサバサバサッ

アサマ「……ようやく来たようですね」

セツナ「そう。これでやっと帰れる……はやく、畳のお布団で寝たい」

アサマ「ええ。しかし、影が一つだけというのは……」

セツナ「あれは……金鵄みたいだね」

アサマ「天馬ではないのですか、ではヒノカ様は……」

セツナ「大丈夫、ヒノカ様が乗ってるみたい……」

 タッ

 クエエェ

アサマ「ヒノカ様?」

ヒノカ「ううっ……」

セツナ「怪我してるみたい、結構新しい」

アサマ「そのようですね、幸い軽傷のようですから、それっ」カララン

ヒノカ「……くっ……ううっ」

セツナ「うなされてる、船で横にしてくる」

アサマ「ええ、お願いします。しかし、ユウギリさんとオロチさんが護衛してくるという話でしたが……御二人の姿は……」

セツナ「これ、ユウギリの金鵄だよね。あとこの弓、ユウギリのもの。長刀は……ヒノカ様のみたい」

アサマ「……何があったかはヒノカ様から聞くことにして、もう離れることにしましょう。このような場所にいては、ヒノカ様の心身によくありません。それに、あまり良い話ではないでしょうから。まずは安全圏まで離れるとしましょう。追手もいるかもしれませんから」

セツナ「そうね……。ヒノカ様、失礼します」

アサマ「さぁ、あなたも、船にお乗りください。まだ、白夜にはたどり着いていません。ヒノカ様を白夜まで届けることが、あなたの任務なのでしょう?」

 クエエッ バサバサバサッ

セツナ「もう出られるよ」

アサマ「……」

セツナ「アサマ?」

アサマ「ああ、はい、そのようですね」

セツナ「どうかしたの?」

アサマ「いえ、シュヴァリエという国は、とても運のない国だと思ってしまいましてね」

セツナ「運のない国?」

アサマ「そうですよ。結局のところ、暗夜と白夜の戦争にただ巻き込まれただけの国ですからね。翻弄された揚句に得たものが何もないとは、全く意味のない戦いでしたでしょうに」

セツナ「……いつまで続くのかな、この戦い」

アサマ「さぁ、それを決めるのは私たちではありませんよ。私たちは兵士、上が戦うならそれに従うだけですから」

セツナ「私はできれば寝ていたい」

アサマ「それには私も賛成ですよ。ですが、結局のところ」

「巻き込まれていくしかないのでしょう……」


第十三章 おわり

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリスB→消滅
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC
(今度はカムイの弱点を探ってみせると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC
(イベントは起きていません)
シャーロッテC
(イベントは起きていません)

今日はここまで

 リリスの支援はキャラクター共通も含めて消滅という形になります。リリス、すまない。 

 最初、竜石を使いすぎたら何かあるんじゃないかと思ってプレイしてたが、そんなことはなかった。

 竜石の設定は個人的妄想です。

 竜石の捉えかたでルートそれぞれの主人公の選ぶ道が決まったらよかったなぁという個人欲望です。
 
 白夜は竜石と共に皆と戦い
 暗夜は竜石を使って自身を偽ってでも戦う
 透魔は竜石による獣の衝動抑制から脱却して己の意思で戦うみたいな

 そんな感じです。

 ここから少しの間、休息時間に入ります。

 久しぶりに安価を取りたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター 
 フェリシア
 フローラ
 ラズワルド
 ピエリ
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ

 支援イベントのキャラクターを決めたいと思います。

 一組目は>>277>>278

 二組目は>>279>>280

(すでにイベントが発生しているキャラクターで起きた場合はイベントが進行します)

◇◆◇◆◇
進行する異性間支援の状況

1アクア×ゼロ C
2ジョーカー×フローラ B
3ラズワルド×ルーナ C
4ラズワルド×エリーゼ C
5オーディン×ニュクス C
6サイラス×エルフィ C
7モズメ×ハロルド C

 この中から一つ>>281
(話をしている組み合わせと被った場合は、そのかぶったものの一つ下の数字になります)
 
◇◆◇◆◇
進行する同性間支援

1ジョーカー×ハロルド C
2フェリシア×ルーナ A  
3フェリシア×エルフィ C
4フローラ×エルフィ C
5ピエリ×カミラ C
6エルフィ×モズメ C
7アクア×リンカ C

 この中から一つ>>282

(話をしている組み合わせと被った場合は、そのかぶったものの一つ下の数字になります)

乙でしたー
ちょっとマイキャッスルでリリス愛でてくるわ
安価ならブノワ

フローラ

アヴドゥル死亡
イギー死亡
みたいな虚しさやなあ

ベルカで

乙 リリスの後日談が「○章にて離脱」になってしまう
エリーゼ

2番のジョーカー×フローラ

7アクア×リンカ

◇◆◇◆◇◆

ブノワ「……そうか、それはよかったな」

フローラ「……」

ブノワ「ああ、ではな……んっ?」

フローラ「…………」

ブノワ「どうかしたか、フローラ?」

フローラ「すみません、その熊の前で立ち尽くしているので、何をしているのかと思って、襲われているというわけでもなさそうでしたから」

ブノワ「……話をしていた」

フローラ「熊と……ですか?」

ブノワ「ああ、今日取れた魚の話だった。とてもおいしかったと言っていた」

フローラ「どこから疑問を投げ掛ければよいのかわかりませんけど、特に問題はないようですね」

ブノワ「ああ。それより、俺を心配してくれたのか?」

フローラ「ええ」

ブノワ「そうか、ありがとう」

フローラ「気にしないでください。それに私のように心が氷のような人間に、心配されても迷惑でしょう?」

ブノワ「いや、あまり心配されるような人相ではないからな。こうやって口に出して言ってもらえると、うれしいものだ」

フローラ「たしかに、普通の人が見たら熊の方が因縁を付けられているようにも見えますからね」

ブノワ「………」

フローラ「ふふっ、冗談です」

【ブノワとフローラの支援がCになりました】

◇◆◇◆◇◆

ベルカ「……」

エリーゼ「あ、ベルカ!」

ベルカ「……エリーゼ様」

エリーゼ「何してるの?」

ベルカ「何も、ただ待機していただけよ」

エリーゼ「そうなんだ。ねぇねぇ、今ケーキ買ってきたんだ、一緒に食べよっ!」

ベルカ「遠慮しておくわ……」

エリーゼ「ええー、ためしに食べさせてもらったけどとってもおいしかったんだよ! ベルカもきっと気に入るはずだよ!」

ベルカ「………」

エリーゼ「ベルカ、あたしと一緒にケーキ食べるの嫌なの?」

ベルカ「!?」

エリーゼ「ううっ……」

ベルカ「……そんな顔されても困るわ」

エリーゼ「……一口だけでもいいから、一緒に食べようよ」

ベルカ「………」

エリーゼ「こんなにおいしいのに……」

ベルカ「エリーゼ様、今はお腹が空いてない。それだけのことよ」

エリーゼ「え、そうだったの。ごめんね、じゃあ、今度は一緒に食べてくれるよね?」

ベルカ「…お腹が空いてたら」

エリーゼ「うん、じゃあ、今度はちゃんとお腹を空かせてね!」

ベルカ「ええ……」

【エリーゼとベルカの支援がCになりました】

◇◆◇◆◇◆
(前スレ888~889の続きになります)

リンカ「……まさか、こういうことになるなんてな」

アクア「……」

リンカ「いやいや、ちょっと待ってくれ。確かにそうだが……」

アクア「ふふっ」

リンカ「アクア。わ、笑うんじゃない!」

アクア「いいえ、ごめんなさい」

リンカ「くっ、だがこれは極端じゃないか。今までの自分を忘れて別人になりきるか、自分を貫くかなんて」

アクア「そうね、単純に見たらそういう選択しかないように見えるかもしれないわね」

リンカ「そういう選択しかないじゃないか。これじゃ……」

アクア「ねぇ、リンカ切り返すなんてこと、普通は行わないことなのよ。生きている以上、人は一つの道しか進めないから。リンカ、あなたは、炎の部族から離れるという選択を取ったのよね?」

リンカ「ああ、そうだ。それしか、部族に向けられる敵意の目を抑える方法がないと考えたから」

アクア「そうね。だから、その時点でリンカ自身、部族との折り合いを付けられてるはずよ」

リンカ「どういうことだ?」

アクア「あなたは切り替え出来るようになりたいと言っていたけど、本心ではそんなことを望んでいない、そう思えるからよ」

リンカ「あたしは、切り替えられるようになることを望んでない?」

アクア「ええ、正直なところ、この問いかけはね、あなたが悩んでいる理由を探るためのようなものなのよ」

リンカ「悩んでいる理由?」

アクア「ええ、そして向いてないこともね」

リンカ「……」

アクア「リンカ……」

リンカ「いや、アクア。お前に言われなくても、大体分かった気がする、だからいい」

アクア「そう?」

リンカ「ああ、たぶん、あたしはまだ迷っている。ただそれだけのことさ、ありがとうアクア。ちょっと、考えてみるよ、答えが浮かんだらまた話をきいてくれるか?」

アクア「……もちろんよ」

【アクアとリンカの支援がBになりました】

◇◆◇◆◇◆
(前スレ928~929の続きになります)

ジョーカー「っ! 俺としたことが……」

フローラ「ジョーカー?」

ジョーカー「フローラか、いやなんでもない」

フローラ「なんでもないわけないでしょう。それとも、私のこと信頼してないのかしら?」

ジョーカー「……それもそうだな。まぁ、見て笑ってくれてもいいぞ」

フローラ「……指を切ったのね。いつかの私みたいね」

ジョーカー「そう言われるだろうから、見せたくなかったんだが。まぁ、小さな怪我だ、大した問題はない」

フローラ「そういうわけにもいかないわ。指先の傷を人が見て快く思わないこともあるって言っていたのは誰だったかしら?」

ジョーカー「……嫌なくらい覚えてるんだなお前は」

フローラ「ええ、だって信頼してるから。ジョーカーの言葉も、ジョーカーの人柄もね」

ジョーカー「なんだそれ、聞いてるこっちが恥ずかしくなる言葉だな」

フローラ「そ、そうね。なんでこんなこと言ってるのかしら?」

ジョーカー「なら、俺も信頼してるフローラに任せて、ちょっと休むとするか。幸い傷は浅いからな、少しすれば治る」

フローラ「そうね、でもちゃんと拭いておいたほうがいいわよ。これを使って」スッ

ジョーカー「?」

フローラ「このタイミングで返せればよかったんだけど、今は私のハンカチしかなかったから」

ジョーカー「そうだな。前のをここで返してもらえれば、これを返すっていう面倒も省けたんだが」

フローラ「そういう口が叩けるなら大丈夫そうね。そのハンカチは別に捨てても――」

ジョーカー「いや、こういうのは借りたままにするのもあれだからな、洗って返す」

フローラ「私には返さなくてもいいっていったのにね」

ジョーカー「なら、そうだな。お互いの信頼の証とでもして、返さないっていうことにでもするか?」

フローラ「なにそれ、面白いことを言うのね」

ジョーカー「嫌なら別にいいぜ。奇麗にして返してやるよ」

フローラ「ふふっ、せっかくジョーカーに恩を着せられて、しかも信頼を得られるんだもの。私は構わないわ」

ジョーカー「ならこれで決まりだな。それじゃ、今日のことは色々と任せたぞ、フローラ」

フローラ「ええ、わかったわ、ジョーカー」

【ジョーカーとフローラの支援がAになりました】

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・賭博の町マカラス・移送馬車倉庫―

ピエリ「……」

 ガチャ

ピエリ「誰なの?」

カムイ「ピエリさん、私です」

ピエリ「カムイ様?」

カムイ「はい、こちらにリリスさんがいると聞いたので……」

ピエリ「こっちなの」

 カッ カッ

ピエリ「……もう、施しはおわちゃってるの。だから、蓋は開けられないの」

カムイ「はい……」

ピエリ「………」

カムイ「ピエリさんは、私を怨んでいないのですか?」

ピエリ「……カムイ様も、ピエリのこと恨んでないの?」

カムイ「なんで、私がピエリさんのことを怨むんですか。私に、そんな資格なんてありませんよ」

ピエリ「あるの、だって、ピエリ、リリスのこと守ってあげられなかったの……。あれだけ守るって、いっぱいいっぱい言ったのに、結局守れなかったの」

カムイ「ピエリさん……」

ピエリ「リリス言ってたの、カムイ様が一番大切だって。それは当然なの、だから思うの、ピエリがもっと早くあそこに行けたら、リリスは生きていられたんじゃないかって。もしも、カムイ様が下に落ちなければ、リリスは生きてかもしれないって、そう思っちゃうの」

カムイ「……」

ピエリ「でも、リリスはそんなこと望んでないの。ピエリ、リリスに言われたから」

カムイ「何をですか?」

ピエリ「恨まないでって、リリスがピエリに言ってくれたの。今ね、リリスの言ってくれたこと、少しだけわかる気がするの。ピエリ、リリスの言葉がなかったら、たぶんカムイ様をえいっってしちゃってたと思うから」

カムイ「……」

ピエリ「リリスね、ピエリにピエリのままでいてほしいって言ってくれたの。戦うのに恨みとか、そういうのを持ってほしくないって言ってくれたの。だからピエリは大丈夫なの」

カムイ「ピエリさん……」

ピエリ「カムイ様、もう、ピエリいっぱい泣いちゃったから平気なの。もう、恨みなんてないの。だって、残ってたらリリスとの約束破っちゃうことになっちゃうの」

カムイ「ピエリさん……」

ピエリ「リリスの思いはピエリの思いなの。だからカムイ様、ピエリはカムイ様を守るためにいっぱい戦うの。敵は殺すの、これは変わらないの、だって戦わないとカムイ様のこと守れないの」

カムイ「……ピエリさんは、こんな私について来てくれるんですか? リリスさんが死んでしまった原因でもある私に」

ピエリ「カムイ様の所為じゃないの。ピエリ難しいことはわからないけど、でも悪いのはカムイ様の所為じゃないって思うの」

カムイ「どうしてですか?」

ピエリ「うー、わからないの。でも、そう感じるの。だから、ピエリはカムイ様を守るために戦い続けるの、リリスの分もきっと守ってあげるの」

カムイ「ありがとうございます」

ピエリ「えへへ。だからカムイ様にも早く元気になってもらいたいの。そうしないと、リリスに怒られちゃうの」

カムイ「そうですね……」

カムイ(リリスさん、あなたに助けられたこの命が、一体どういった道を得ていくのか、それはまだわかりません)

カムイ(でも、私はもう一度考えてみようと思います。私がするべきことを……)

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン『王の間』―

ガロン「そうか、シュヴァリエの反乱鎮圧は終わりを迎えたか」

マクベス「そのようです。話によると、ガンズの部隊、そしてカムイ王女が多くの反乱軍の命を奪ったと聞いております」

ガロン「そうか……。ふむ、暴走し、そこで朽ちると思っていたが……まだまだ、壊れぬということだな」

マクベス「? ガロン王様?」

ガロン「くーっはっはっはっはっは!」

マクベス「!? い、いかがされました」

ガロン「マクベス、ガンズたちの昇進はお前に一任する。そしてカムイのことについてだが、マクベスよ、お前の中にある疑念、それはもう晴れたと見ていいのだな?」

マクベス「そうですな」

マクベス(カムイ王女が率先して反乱軍の命を奪った事実は、多くの部族に知れ渡っています。もう、部族もカムイ王女に夢を見ることもないでしょう)

マクベス「ええ、此度の件、私の疑惑はすでに晴らされております。その点、謝罪せねばなりませんね」

ガロン「ならば、奴には我が暗夜の血を受け継ぐものとしての称号を与えねばならんな」

マクベス「称号ですか?」

ガロン「ああ、カムイも我が一族に本当の意味で組み込まれることとなるだろう。ささやかな催しを行ってやろう、我が子の晴れ舞台を祝ってやらねばな」

ガロン「マクベス。カムイが戻り次第、我が元へ来るように伝えよ」

マクベス「承知いたしましたガロン王様、では、私はこれにて」

ガロン「うむ……」


ガロン「くっくっく、お前の心はどのように曇っていくのだろうな。どこまで知った、どこまで恨んだ、どこまで耐えた」

ガロン「まだまだ、お前には肥えてもらわねばならない。そうでなくては意味がない」

ガロン「お前が黒く育つことこそが」

「我の最大の願いなのだからな……」

今日はここまで

キャラ同士の支援、やっぱり難しい。

ジョーカー×フローラがS支援にリーチ掛ってます。
S支援については、パラレル的解釈になるかもしれません。

とりあえず、ピエリリスの百合書く



次の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◇◆◇◆◇
 レオン邸でレオンと会話をしている人物

 サクラ
 カザハナ
 ツバキ

 >>292

◇◆◇◆◇
 カムイが顔を触る人物
 
 シャーロッテ
 ブノワ

 >>293

サクラ

ブノワ

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

レオン「……結局、何もわからずじまいだなんて……」

レオン(……伝令はもう来てる、姉さんがシュヴァリエの反乱を平定したことも……、リリスが死んだということも……)

レオン「くそ……」

レオン(姉さんを嵌めたのがマクベスなら、それを手引きした奴がいるはずなのに、その痕跡も何も見つけられない。僕は姉さんと一緒に戦うことも、兄さんのように身代わりになることもできなかったのに、なにも得られていない。ここで、ただ無様にもがいてただけだ……」

レオン「結局、僕にできることなんて……」

 コンコンッ

レオン「誰だい、今は――」

サクラ『れ、レオンさん。私です……』

レオン「サクラ王女……どうしたんだい? まだお風呂には早い時間だと思うけど?」

サクラ『いえ、お風呂じゃないんです。そ、その、夕食の時から、その考え込んでるみたいでしたから……』

レオン「……なんでもないよ。なんでもない」

サクラ『嘘です、レオンさん、とても辛そうじゃないですか……』

レオン「本当に何でもないよ」

サクラ『レオンさん』

レオン「放っておいてくれないか!」

サクラ『っ!』

レオン「……ごめん。でもお願いだ、部屋には入ってこないでくれないか、今は人と会って話せる顔じゃないんだ」

サクラ『……わかりました』スッ ピタッ

レオン「なに、僕が部屋に入れるまでいるっていうのかい?」

サクラ『違います。面と向かって話ができないのでしたら、その、扉越しじゃだめでしょうか?』

レオン「……」

サクラ『あ、あの。その……、私、レオンさんに前こうやって話しかけられた時に、とても勇気づけられたんです、だから』

レオン「……」

サクラ『……』

サクラ(やっぱり、私なんかじゃ、誰かを支えることなんてできないのでしょうか……)

サクラ「……」

 カッ ガタンッ

サクラ「!」

レオン「……」

サクラ「あ、あの」

レオン「サクラ王女は、あれからツバキとカザハナに甘えてるのかい?」

サクラ「……はい。いろいろと甘えさせてもらってます。レオンさんに言われるまで、そんなこと思いつかなかったかもしれませんから」

レオン「……」

サクラ「だから、その、そうするべきだって言ってくれたレオンさんが辛そうにしているのを見るのは嫌なんです」

レオン「どうしてだい?」

サクラ「だって、レオンさんが私たちをここまで守ってくれたから、カザハナさんもツバキさんも、レオンさんにとても感謝してるんです」

レオン「仕方ないことだよ。だって、サクラ王女たちは僕の捕虜なんだから」

サクラ「それでもいいんです。私はレオンさんを信じてるんですから、だから信じているレオンさんが辛そうにしているのを黙って見ているわけにはいかないんです」

レオン「そう、やっぱりサクラ王女はどこか頑固だね」

サクラ「が、頑固でしょうか?」

レオン「ああ、普通。自分たちを捕らえたような奴に、そんな感情を抱くことなんてありえないことだからね。僕がサクラ王女の立場だったら――」

サクラ「ふふっ、レオンさんは同じように捕虜になっても、そういうことをしない人だって思えます」

レオン「どうして、そう思うんだい?」

サクラ「……だって、レオンさん。カムイ姉様と同じで、とても優しい人ですから」

レオン「……やさしい」

サクラ「……あ、あの、その、カムイ姉様と同じくらい優しいっていう意味で……その、比べてるわけじゃないんです」

レオン「わかってる。サクラ王女が、そういう風に考えてる人じゃないってことくらい、もうわかってるからね」

サクラ「レオンさん、なんだか声に元気が出てきた気がします」

レオン「そうかもね。はぁ、他国の王女に支えられてるなんて、王子失格だよ僕は」

サクラ「え、支えてなんて」

レオン「いや、ありがとう。その、心配してくれて……」

サクラ「えっ?」

レオン「僕はあまり心配される立場にいなかったから、そう言ってもらえること自体珍しくてね……」

サクラ「そうなんですか?」

レオン「うん、と言うよりも、心配されることを子供の頃は恐れてたのかもしれない……」

サクラ「恐れていた、ですか?」

レオン「ああ、心配されるっていうことは弱みを見せることになる。弱みは付け込まれる隙で、そう言う隙を突いてくるような奴らはどこにでもいる」

サクラ「……大丈夫です、今は大丈夫ですから」

レオン「?」

サクラ「だって、ここには私しかいないんです。だから、少しだけ弱いところを見せても大丈夫なはずですから」

レオン「なに、少しだけ感謝されたからって、良い気になってるみたいだね」

サクラ「は、はわわわわ。ご、ごめんなさい、その、調子にのっちゃったみたいです……」

レオン「ははっ」

サクラ「わ、笑わなくても……」

レオン「そうだね。でもこのありがとうっていう気持ちは僕の本心だよ。サクラ王女、少しだけあなたに甘えさせてもらったよ」

サクラ「あ、甘えてたんですか?」

レオン「? サクラ王女の思う甘えるっていうのはどういうものなんだい?」

サクラ「……そ、それは////」

レオン「サクラ王女?」

サクラ「も、もう大丈夫そうですね。わ、私はこれで失礼しますから……」

レオン「わかったよ。二人も僕のこと、気にかけてくれたのかな?」

サクラ『はい、カザハナさんもツバキさんも、心配してましたから』

レオン「なら、二人にも伝えてくれないかな。心配を掛けてすまないってさ」

サクラ『はい、伝えておきますね。レオンさん、無理はしないでください』

レオン「わかってるよ。ありがとう」

サクラ『いいえ、気にしないでください。それでは……』

レオン「……」

レオン(姉さんに疑いが掛るようにマクベスに情報を流した奴がどういう風に、話を耳にしたのかはわからないけど。こうやって悩み続けること自体、その奴の術中にはまってることになるのかもしれないな)

レオン「目的は、なんだろう?」

レオン(姉さんを貶めるため? それとも殺すため? どちらにせよ、まだそいつの姿が見えない以上は、気をつけていくしかない……)

レオン「だけど、誰に聞いても不審な人物を見てないっていうのは……」

「少しおかしな話だ」

◆◆◆◆◆◆
―港町ディア・宿舎―

ブノワ「……」

ブノワ「ここがカムイ様の部屋か……」

 コンコンッ

ブノワ「カムイ様、ブノワだ……」

カムイ「はい、どうぞ、お入りください」

 ガチャッ バタンッ

ブノワ「カムイ様、何か用か?」

カムイ「はい、まずはお礼を言いたかったのです」

ブノワ「お礼、一体何のだ?」

カムイ「はい、ありがとうございます。国境のこともそうですが、シュヴァリエでの戦い、そして私の部隊に入ることを志願していただけたこと、そのすべてです」

ブノワ「…ふっ、同僚がついて行くと言ったのでな。あいつはそれなりに長い」

カムイ「そうだったのですか」

ブノワ「だが、俺がもっと早くピエリと合流していれば、あのリリスという仲間は……」

カムイ「そう言ってくれるんですね、ブノワさんは」

ブノワ「人が死ぬのはできる限り見たくはない。だが、俺は戦うことを仕事にしている。なら、仲間が死ぬことを抑えることはできるはずだからな」

カムイ「ブノワさんはとても優しい方なんですね。気配だけ察すると、とても大きな人なのに」

ブノワ「……本当なのか?」

カムイ「何がですか?」

ブノワ「カムイ様は目が見えないと、聞いたのでな……」

カムイ「はい、だからブノワさんのお顔を確認したくて、お呼びしたんです」

ブノワ「か、顔を触るのか?」

カムイ「はい、大丈夫ですよ。みんなとても気持ちがいいって言ってくれるんです」

ブノワ「……」

ブノワ(指を解している。なんだあれは……とても嫌な予感がする……)

ブノワ「カムイ様、俺の顔を触っても面白くなどない……」

カムイ「いいえ、私はブノワさんのお顔を知りたいんです。私のことを知ってくれている人のことを、私は知りたいんです」

ブノワ「カムイ様……そういうことなら、仕方無い……」

カムイ「ブノワさん……ありがとうございます」スッ ピトッ

ブノワ「っ!」

カムイ「ふふっ、とっても固いんですね。これは、傷ですか?」

ブノワ「あ、ああ……」

カムイ「そうなんですか。失礼しますね」

ブノワ「くっ、うぅ……」

カムイ(瞼と眼尻、口元に顎鬚のあたり……ですね。ここは……)

ブノワ「ははっ、くすぐったいな……」

カムイ「そうでしたか。すみません、ちょっと触る場所を間違えているみたいです……」

カムイ(どうやら、目から下にはなさそうですね……)

カムイ「……」

ブノワ「カムイ様? もう、終わりに――」

カムイ(あとはここですけど……)スッ

ブノワ「っ!」

カムイ「……」スッ

ブノワ「くぉおっ!!!!」

カムイ「……」ニヤッ

ブノワ「か、カムイ様……」

カムイ「どうしたんですか、ブノワさん。くすぐったいんですか?」スッスッ

ブノワ「うううっ、な、なんだこれは……」

カムイ「ただ触ってるだけですよ、どうしたんですか、そんなに戸惑ったように振舞って……まるで、気持ちがいいって言ってるみたいですよ」

ブノワ「そ、そんなことは……っ!」

カムイ「大きく口を開けて、どうしたんですか?ふふっ、ブノワさん、盛り上がった髪の毛の淵を触られるのが、そんなにいいんですか?」

ブノワ「い、いや。よくヒヨコみたいだと……ぐっ、いわれたことのある頭だから……。こう、触ってもらうのは……んぐっ!」

カムイ「そうなんですか、ヒヨコみたいなんですね。私が、ブノワさんのヒヨコを優しく撫でてあげてるんですね……」

ブノワ「!!!!」

ブノワ(その表現は、なんだか危ない気がしてならない……」

カムイ「どうですか……ヒヨコ、とても気持ち良いですか?」

ブノワ「ぐっ、き、きもちが、いい……」

カムイ「そうですか、なら」

ブノワ「?」

カムイ「後ろから失礼しますね」

ブノワ「か、カムイ様……一体何を!?」

カムイ「ふふっ、後ろから触ると、ヒヨコさんの形が取ってもよくわかります……ふふっ、ブノワさんのヒヨコ、もっともっと気持ち良くしてあげます」サスサスッ

ブノワ「!!!!っ!!!!!」

カムイ「ふふっ、ヒヨコの形ってこうなんですね……。触ったことがないので、ブノワさんのはとても参考になります」

ブノワ「いや、似て、いるだけだ。実際のヒヨ、コでは、はぐうっ!」

カムイ「ふふっ、育ってきましたよ。ブノワさんのヒヨコ……。ふふっ、頭がとっても熱くなってますよ。私の手、ブノワさんのヒヨコの形覚えちゃいました」

ブノワ「か、カムイ様……。こ、これいじょうは、頭がクラクラして……」

カムイ「そうですね。これいじょうすると、ブノワさんが持ちそうにありませんから」パッ

ブノワ「ぐっ、はぁはぁ……くっ、一体なんだったんだ……」

カムイ「ふふっ、とっても楽しい時間でしたよ。ブノワさん……」

ブノワ「た、楽しかったのか?」

カムイ「はい、私の楽しみの一つですから」

ブノワ「そうか……。まぁ、気持ちが良かったのは事実だ」

カムイ「はい、また今度、ヒヨコ触らせてくださいね?」

ブノワ「……善処させてもらう」

カムイ「はい、楽しみにしてますね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ブノワ「では、失礼します。カムイ様……」

カムイ「ええ、明日も朝早いですからお休みください」

ブノワ「はい、では……」

 タッ タッ タッ

カムイ「さて、私も眠ることにしますしょう……」

カムイ「……」チラッ

カムイ「……」

 バタン


 ………


 ササッ

シャーロッテ「ふぅ、ブノワが私のことを何か話すんじゃないかって思って聞き耳立ててたけど」

シャーロッテ「これが王族的挨拶って言うやつなのかよ。ブノワのヒヨコって……表現もそうだけど、これただのセクハラじゃねえか」

シャーロッテ「見つからないうちに、さっさと自室に帰って、今後は呼び出しがあっても行かないようにしないいけないわね」

シャーロッテ「じゃないと、何されるかわかったもんじゃ―――」

 ガチャ キィィィィ

シャーロッテ「?」

 グイッ

シャーロッテ「!?」サッ

 バタン

シャーロッテ「な、何が起きて――」

カムイ「シャーロッテさん。わざわざ来てくれたんですね?」ニコッ

シャーロッテ「あ、あらやだ。たまたま偶然ですよぉ。私、ブノワさんとお話があるので、これで失礼しますわ」

カムイ「ブノワさんはとても疲れてるみたいですから」

シャーロッテ「それはあんたがブノワに変なことしたからでしょうが!」

カムイ「ふふっ、やっぱり聞いてたんですね。いけませんよ、聞き耳を立てるなんて……」スッ

シャーロッテ「……ちょ、なにす――」

カムイ「大丈夫です……。シャーロッテさんがどんな顔をしている方なのか」

「知りたいだけですから」

今日はここまで

シャーロッテさんははたして逃げられるのか(逃げられない)
そしてレオンとサクラが思いのほか、絆を深めつつある。

透魔竜ハイドラはオスなのに子を産めたってことは、つまりふた○り
つまり、その子供であるリリスも……

 パシッ

シャーロッテ「……」

カムイ「?」

シャーロッテ「あんたさ、もう大丈夫なの?」

カムイ「何がですか?」

シャーロッテ「何がじゃねえよ……」

カムイ「……シュヴァリエでのこと……ですか?」

シャーロッテ「正直、心配したんですよ?」

カムイ「?」

シャーロッテ「私が駆け付けた時、どんな状態だったかわかります? ずっと俯いて、嗚咽しかあげてなかったんです。もう、私の声も周りの声も聞こえてないみたいに」

カムイ「……」

シャーロッテ「正直、ここで生き残っても精神的に立ち直れるかわからないって思ってたんですから……」

カムイ「あの……シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「……」

カムイ「もしかして、私のことを心配してくれていたんですか?」

シャーロッテ「……そうよ。悪い?」

カムイ「いえ、その……」

シャーロッテ「だから、数日で元気になったあなたを見てたら、もしかして無理してるんじゃないかって……まぁ、今日はブノワの奴がなにか変なこと言うんじゃないかって探ってただけですけど……」

カムイ「ふふっ……シャーロッテさんって、口調の割にとっても心づかいのできる方なんですね」

シャーロッテ「心遣いしないと男が寄ってこないから、あいつら女に理想求めすぎなんだよ」

カムイ「そうなんですか?」

シャーロッテ「そうよ。カムイ様には一回で見抜かれちゃったけど、これでも猫かぶるのは得意で何人も骨抜きにしてるんです、えへっ」

カムイ「ふふっ、シャ―ロッテさん。猫なんてかぶらなくても、とても素敵な方だと思いますけど?」

シャーロッテ「はぁ、そう言ってくれるのはありがたいけどね。でも、そう、大丈夫なんだ」

カムイ「はい……、私は二人も失ってしまいましたから」

シャーロッテ「二人? あのリリスって子だけじゃないんですか?」

カムイ「はい……、失ってしまいましたから。その方とした約束を奇麗に果たすことができなかったんです」

シャーロッテ「果たせたならいいじゃない」スッ

 ピトッ

カムイ「シャーロッテさん?」

シャーロッテ「ほら、触りたいんでしょ? なら始めてよ。カムイ様がもう大丈夫って言うなら、もう逃げるつもりもないから」

カムイ「……いいんですか?」

シャーロッテ「何遠慮してんのよ。最初は触る気満々だったくせに」

カムイ「だって、手を伸ばしたら、それをはねのけられたんですよ?」

シャーロッテ「今、あんたの手を持って、私の頬に当ててあげたんだから、触ってもいいサインだって気づきなさいよ」

カムイ「……シャーロッテさん」

シャーロッテ「あっ、でも。ブノワみたいに触るのは駄目だから」

カムイ「………」

シャーロッテ「あれ? カムイ様、その返事は」

カムイ「ごめんなさい」

 ピトッ シュッ

シャーロッテ「んっ!」

シャーロッテ「か、カムイ様。いきなりそんな、首筋に……ひゃっ、つぅぅ……」

カムイ「仕方ないじゃないですか。こんなに心配してくれて、いつもは男らしい口調のシャーロッテさんが、どんな声をあげるのか気になって仕方無いんですから……」

シャーロッテ「ちょ、私の顔を理解するためじゃな――あぅ、ふにゅん」

カムイ「もちろん、それもありますから。でも、こんなにわかりやすく、声を上げてくれるなんて思ってなかったんですよ?」

シャーロッテ「ひゃっ、か、カムイ様……。そ、そこ、だ、だめ、っ、ぇ……」

カムイ(……首筋が弱いのはわかりましたけど……ここだけじゃない気がしますね)

カムイ「お顔に触りますね」

シャーロッテ「は、はいぃ……んぅ」

カムイ(顎、唇、眼尻、眉……耳、鼻、シャ―ロッテさん、とっても可愛い方なんですね)

シャーロッテ(はぁ~、首筋危なかったわ。でも、これで流石に首筋に手を伸ばすことはないはず、このまま顔を触らせて脱出すれば……)

カムイ(あと、残っている場所は……ここでしょうか?)チョン

シャーロッテ「はひゅっ……!!!」

カムイ「……ふふっ、今の感じ、初めてですか?」

シャーロッテ(な、なに今の……)

カムイ「御凸がいいんですね……ふふっ」チョン

シャーロッテ「いやんっ」

カムイ「ふふっ、シャ―ロッテさん、髪の毛ちょっと上げさせてもらいますね」サラッ

シャーロッテ「ん、少しひんやりする……」

カムイ「はい。柔らかいですよ、ふふっ、でも全体が感じやすいって言うわけではないんですね」

シャーロッテ(私、何やって……これ以上探られたくないって考えたら、拒否すればいいのに……)

カムイ「さっき触ったのはここらへんでしたね」ピトッ ツゥー

シャーロッテ「んっ」ピクッ

カムイ「ふふっ、ここと、ここと……ここですね? ふふっ、御凸に三カ所も、気持ち良くなれる場所があるなんて……」ピトッ ピトッ ススッ

シャーロッテ「か、カムイ様。ううっ、背中、ムズムズして……やっ……」

カムイ「こんなに御凸に弱点があるのに、シャ―ロッテさんが御凸にキスをされたらどうなっちゃうんでしょうか?」

シャーロッテ「か、カムイ様……?」

カムイ「どうしたんですか? シャ―ロッテさん、大丈夫ですよ、許可もなくそんなことしたりしませんから」

シャーロッテ「え、えっとその……」

カムイ「まだ足りないんですよね、大丈夫ですよ。まだ触ってあげますから、首と一緒に……」ツンツン サワッ

シャーロッテ「くひんっ! はぁ、んっ! ひゃっ、だめ、二か所、同時なんて、聞いてな、っっぅ!」

カムイ「可愛いですよ、シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「ひゃ、ゆ、指で御凸の弱い場所、的確に突いちゃ………んんっ!」

カムイ「シャ―ロッテさん、今とっても赤い顔をしてるんですよね……」

シャ―ロッテ「は、恥ずかしくて、し、死にそうだよ……」

カムイ「はい、これ以上触ってしまうと。明日の朝に支障が出てしまうかもしれませんから、ここまでですね」パッ

シャーロッテ「ううっ、ここまで弄ぶのかよ。割に合わないわ」

カムイ「そうですか?」

シャーロッテ「そうよ。ここまで恥ずかしい声上げさせられるなんて思ってなかったんだから……」

カムイ「そうですね……。あの、シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「なに。私、今すごく機嫌が――」

カムイ「とっても可愛かったですよ」

シャーロッテ「……そ、そう/////」

カムイ「あと、ありがとうございます」

シャ―ロッテ「?」

カムイ「私のことを心配してくれて」

シャーロッテ「……別に気にしないでいいから。それにカムイ様は重要なパイプ、そうそう縁を切るつもりなんてないんだから、覚悟しておいてほしいわ」

カムイ「そうですか、ではこれからもよろしくお願いしますね?」

シャーロッテ「ええ……、カムイ様」

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城『王の間』―

カムイ「帰ってきましたね……ここまで」

エリーゼ「うん、カムイおねえちゃん。本当に大丈夫?」

カムイ「ええ、ありがとうございます。でも、報告は済ませないといけませんから、それにマクベスさんから、すぐにお父様に会いに行くように言われたこともありますし……」

カミラ「……カムイ」

カムイ「大丈夫です。言ったじゃないですか、恨むことはないって」

カミラ「でも……」

カムイ「私を信じてください」

エリーゼ「んっ、二人で何話してるの?」

カミラ「そうね、エリーゼにはまだわからない話よ」

エリーゼ「えー、ずるい。あたしも混ぜてほしいな」

カムイ「はい、いずれその時が来たら……御話しますよ」

エリーゼ「?」

カムイ「それに、早くこれを兄さんにお返ししないといけませんから。ずっと私が預かっていても意味がありません」

アクア「ジークフリートね。マクベスはマークスも王の間で待っていると言っていたわね」

カムイ「らしいですね。そろそろ、入りましょう」

カムイ「………」ドンドン

カムイ「お父様、カムイ、ただいま任務を終え、戻りました」

ガロン『戻ったか、カムイよ。では入るがいい』

 カッ カッ カッ

カムイ「……」

レオン「姉さん!」

マークス「カムイ、無事だったのだな」

カムイ「レオンさん、それにマークス兄さん。はい、色々とありましたが……。皆さんのおかげでどうにか生きて帰ってくることができました」

レオン「どうにかは余計だよ。姉さんなら問題なく帰ってこれたはずだからね……でも」

マークス「話は聞いている。リリスが戦死したと……」

カムイ「はい……。それは私の落ち度です、リリスさんが死んだのは私の未熟さゆえですから……。兄さん、こちらをお返しいたします」

マークス「……カムイ、すまない。考えてみれば、お前を戦場に送ったのは私だったのかもしれない」

カムイ「兄さん、あの時はあれしかなかったんです。だから、そのようなことを言わないでください。足りなかったのは私の覚悟なんですから」

マークス「……強くなったのだな」

カムイ「……いいえ、たぶんそれは……」

マークス「?」

カムイ「いいえ、なんでもありません。積もる話もありますけど、まずはお父様に報告をしないと」

レオン「それもそうだね。こっちだよ姉さん」

 カッ カッ カッ

ガロン「………」

カムイ「お父様」

ガロン「ふむ、いい顔になったなカムイ。暗夜の血を継ぐ王族としての貫録が、出てきたというところかもしれないな」

カムイ「いいえ、私にはまだまだそのような箔などありません。仲間を失う未熟者ですから」

ガロン「そうか、シュヴァリエ反乱鎮圧、御苦労であった。お前の戦果、わしの耳にも入っている。一人で多くの反乱分子を駆逐したそうではないか」

カムイ「はい……お父様。先によろしいですか?」

ガロン「なんだ?」

カムイ「この任務を終えた以上、マークス兄さんは解放されたと考えてよいのですか?」

ガロン「ああ、お前はわしの命令通り、その任務を終えた。誓は守られた以上、わしも息子を処刑せずに終わること、喜ばしく思っている」

カムイ「ありがとうございます、お父様」

ガロン「さて、カムイよ。先ほど、述べたようにお前には暗夜の王族として生きることを許す時がやってきたようだ」

カムイ「暗夜の王族……ですか?」

ガロン「ああっ、マクベスもお前に対する疑惑がなくなったと告げた。もう、お前に対して反逆者の烙印を押すものはいないだろう。そして、お前が竜となれることも、多くの者が知る事実となった。わけは話す必要もないだろう?」

カムイ「………はい」

レオン(シュヴァリエの反乱軍を蹂躙した竜が姉さんであることは、多くの人々に知れ渡ってる。マクベスは部族が姉さんに向けていた印象が反転したことを理解してる。だから疑惑を取り払ったということか)

ガロン「すでに反乱や、部族の動きも停滞を迎えつつある。白夜を攻め滅ぼす準備を始める時が来たのだ」

レオン「父上! それはまだ――」

ガロン「……レオン。これ以上、脅威となり得るものなど何一つあり得ん、すでに内部を蝕む反乱の芽は潰えた今、もう待つことはない。それとも、レオン。お前にはまだ、暗夜を転覆せしめる何かが存在するとにらんでいるというのか?」

レオン「……それは」

レオン(姉さんを嵌めた誰かがいる。でも、それを父上が気にするはずもない……)

レオン「いいえ、父上の言う通りです。もうしわけありません」

ガロン「ふっ、まあよい。今の我は機嫌がよいのでな……。カムイよ、お前はこの状況まで、暗夜を導いた、いわば先導者だ」

カムイ「そんな、私はなにも……」

ガロン「お前が望まなくとも、そうなっただけのことだ。ならば、お前は先導者にならねばならない。それが、お前の使命となるだろう」

カムイ「? それは一体……」

ガロン「その自覚がなくとも、お前はにはそうなってもらうことになるというだけのことだ」

マークス「父上?」

ガロン「白夜との争い、それが目まぐるしく動いたのはカムイによってだ。マークスよ、そうは思わぬか?」

マークス「……確かにそうですが」

ガロン「カムイよ。お前には正式な場で、多くの人間に暗夜の王族であるということを示さなくてはならん」

カムイ「……」

カムイ(私に、暗夜を象徴する存在。いや、ちがいますね、クリムゾンさんと同じようにマスコットになれと言っているんですね)

ガロン「白夜を滅ぼした先の戦い、レオンの言う通りだ。闘いは終わらない、わしはそう考えている。お前が多くの者に与える影響は膨大だが、多くはお前のことを殺戮を好む、狂った戦闘家と勘違いしているようだ。これは暗夜王族の威厳を示す行為でもある」

エリーゼ「……カムイおねえちゃん。そんな風に思われてるんだ、なんだか嫌だな……」

カミラ「……エリーゼはやさしいのね」

カミラ(……これが威厳を示す行為なわけないわ。ただ、カムイっていう強い力の象徴を、持っていることを示そうとしている行為……お父様は何を考えているの?)

マークス(父上、そのようなことをしては、カムイに対する印象はますます悪くなるだけではないか……。なぜ、そのような立場にカムイを置こうとするのですか!)

マークス「父――」

カムイ「お父様……」

マークス「!」

ガロン「カムイよ。どうかしたのか?」

カムイ「お心遣い、感謝いたします。私のためを思ってそこまでしてくださるのですね」

ガロン「ああっ、我が子のために尽くすのも悪くはないからな」

カムイ「お父様。私はお父様の提案、受けさせてもらおうと思います」

カミラ「カムイ、まって」

ガロン「カミラ、今はカムイが話をしている。口出しをするな」

カミラ「……はい、お父様」

カムイ「お父様が私にそうあって欲しいと望まれているのですから、それを無碍にすることはできません。それに、こうしてお父様に認めてもらうために、シュヴァリエの反乱を鎮圧し、ここにもどってきたのですから。これは報酬と考えてもいいくらいです」

ガロン「くっくっく。面白い例えをする。カムイよ……、お前の暗夜の血の流れ、しかと感じられた」

ガロン「ダークブラッドと呼ぶにふさわしい、そのあり方をな」

カムイ「お父様。ありがとうございます」

ガロン「日時は後に伝えよう。カムイよ、しばしの休息に入るがよい、長旅の疲れを癒し、時に備えるのだ」

カムイ「はい、お父様……」

カムイ(ダークブラッドですか……)

(あながち、間違っていないのかもしれませんね)

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

カザハナ「……また着替えてるし、私何してんだか」ヒラヒラ

レオン『似合ってるよ』

カザハナ「くっ、まさかこんなことになるなんて。いやいや、違うし、そういうのじゃないはず」

 あのー

カザハナ「ひっ!」

サクラ「はわわわわ」

カザハナ「サ、サクラ?脅かさないでよ」

サクラ「カザハナさん。また着てるんですか? レオンさんが出掛けてる間だけって言っても、ちょっと着てる時間多くないですか?」

カザハナ「そ、そうかな。そんなことないと思うよ?」

サクラ「いいえ、その、この頃よく着てますけど、どうしたんですか。たしかに似合ってるとは思いますけど……」

カザハナ「……」

カザハナ(サクラに言われても、やっぱりドキドキしない)

サクラ「カザハナさん?」

カザハナ「あ、うん。なにかな、サクラ?」

サクラ「いえ、やっぱりほどほどにした方がいいですよ? レオンさんだって、全部許してるわけじゃないんですから」

カザハナ「わかってる」

サクラ「はい、レオンさんのおかげで私たちどうにかなってるんですから……。でも、心配してくれてることに、ありがとうって言ってました。私たち、レオンさんの支えになれてるみたいですから」

カザハナ「……サクラ」

サクラ「はい、どうかしましたか?」

カザハナ「……なんでもないよ。ごめんね、もう私部屋に戻るね。確かに、こんなに自由にしすぎるのもよくないよね」

サクラ「え、えっと、カザハナさん?」

カザハナ「それじゃ……」

ガチャ バタン

カザハナ「……」

カザハナ(おかしいところなんてないよね……)

カザハナ「でも、今日はカムイ様が帰って来たからその話し合いだって言ったから帰ってこれるわけないもんね」

 ポフッ

カザハナ「……本当に、どうしちゃったんだろ。私……」

カザハナ「これじゃ、まるで………」

カザハナ「やめとこ、それはないはず。だって、私がここにいるのは捕虜としてだから……」

レオン『似合ってるよ』

カザハナ「………」ドキドキ

カザハナ「あー、あーーーー! もうなんなのよ。意味わかんない」

「本当に、いみわかんない……」


―休息時間 1 おわり―

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC
(今度はカムイの弱点を探ってみせると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC→C+
(イベントは起きていません)
シャーロッテC→C+
(イベントは起きていません)

○仲間たちの支援現在状況●

●異性間支援の状況

・アクア×ゼロC

・ジョーカー×フローラA

・ラズワルド×リリス(消滅)

・ゼロ×リリス(消滅)

・ラズワルド×ルーナC

・ラズワルド×エリーゼC

・レオン×サクラB

・レオン×カザハナC

・オーディン×ニュクスC

・サイラス×エルフィC

・モズメ×ハロルドC

・ブノワ×フローラC

●同性間支援の状況(男)

・ジョーカー×ハロルドC

・レオン×ツバキB

・ギュンター×サイラスC

●同性間支援の状況(女)

・リンカ×アクアB

・フェリシア×ルーナA

・フェリシア×エルフィC

・フローラ×エルフィC

・ピエリ×リリス(消滅)

・ピエリ×カミラC

・エルフィ×モズメC

・ベルカ×エリーゼC

今日はここまで

 番外、地の文多くても大丈夫かな?

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・北の城塞―

カムイ「舞踏会……ですか?」

ギュンター「はい、そこでカムイ様の儀も執り行うそうです。多くの貴族の方々が参加することでしょうな」

カムイ「そうですか……。お父様は私のことを多くの方に見せびらかしたいようですね」

ギュンター「カムイ様……」

カムイ「いいえ、気にしないでください。そうですか、それにしても舞踏会なんて……私は生まれて初めて体験するものかもしれませんね。どう振舞うのが良いのでしょうか?」

ギュンター「ふむ、そうですな。ワルツの一つでも踊れるようにしておくべきなのでしょう」

カムイ「踊りですか、空間把握とはまた違う技術が必要になりそうですね。情報ありがとうございますギュンターさん……」

ギュンター「いえ……カムイ様。本当によろしいのですか?」

カムイ「なにがでしょうか?」

ギュンター「ガロン王様があなたを表舞台にあげるという意味、わかっておいででしょう?」

カムイ「ギュンターさん。心配してくれてありがとうございます、でも、これに私は乗ることに決めたんですから……」

ギュンター「そうですか。では、もう何も言うことはありません。ですが、この老体、カムイ様に最後までついて行く所存でありますゆえ、何かありましたらご申しつけください」

カムイ「はい、ありがとうございます」

ギュンター「それと、マークス様が御越しになるそうです」

カムイ「マークス兄さんですか……。ふふっ、もしかしたら怒られてしまうかもしれませんね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―貴賓室―

カムイ「お待たせしました。兄さん」

マークス「カムイ……」

カムイ「ピエリさんとラズワルドさんは、今日はお連れしていないのですか?」

マークス「ああ、個人的なことにまで臣下を巻き込むわけにもいかないからな。それにピエリはリリスと仲が良かったと聞いている。まだ心の整理をつける時間もいるだろう」

カムイ「はい、私に誓ってくれましたから。リリスさんの分も守ってみせると。マークス兄さんを守るのがピエリさんの仕事なんですけどね」

マークス「……カムイ、なぜ父上の提案を受け入れたんだ」

カムイ「……いけなかったでしょうか?」

マークス「お前は、自分の立場を理解していない。シュヴァリエの反乱鎮圧まで、お前のことを慕った多くの者たちがいた」

カムイ「部族の方たちですね……。でも、実際、私が反乱運動を防いだのは、フェリシアさんにフローラさんの故郷であるフリージアだけなんですよ?」

マークス「そうだ。だが無血で反乱を終え、有効的な関係を築いてきたお前の行動に、多くの部族が剣を納めた。それは事実だ」

カムイ「レオンさんも言っていました。私のおかげで多くの部族が反乱の刃を納めたと」

マークス「ああ、お前の無血での反乱平定は、多くの者たちに新しい光を与えた。父上にはできない方法で、お前は成し遂げられたんだ」

マークス「シュヴァリエ公国でのことは、耳にしている。お前が竜となり、多くのシュヴァリエ兵を殺したと」

カムイ「ええ、それは事実ですよ。うすぼんやりとですけど、ちゃんと覚えていますから」

マークス「だが、それをわざわざ表に出す必要はない。噂は広がっている、広がっているが、まだそれを疑っている者たちもいる」

カムイ「それは……私が大量に人を殺していないという意味でですか?」

マークス「そうだ。お前のことを信じている者たちがいる。ここでお前が父上から暗夜の王族としての箔をもらうことは、その信じている者たちを裏切ることになりかねない。暗夜は今多くの問題が一時的に終息している。いるが、白夜との戦争が終わった時にまた新しい問題が起こる。父上の武力での統治には意味があると信じている。だが同時に、お前の持つ平和的な行動にも意味があったはずだ」

カムイ「……」

マークス「だからこそ、お前に殺戮者としての印象を植え付けさせたくはない。お前をシュヴァリエ反乱鎮圧の首謀者として、表舞台にあげたくはないんだ」

カムイ「マークス兄さん、はっきり言ってくださいよ。そんな部族の方とか、そういう理由なんてものはいらないんですよ?」

マークス「……」

カムイ「……ふふっ、眉間に皺が寄ってる気がします。兄さんはいつも難しい顔をされてますけど、今は一段と強そうです」

マークス「……そうだな。難しい話はなしだ。これはお前の兄、マークスとしての頼みだと思ってほしい。カムイ、私はお前にそのような血塗れの称号を背負ってほしくはない」

カムイ「どうしてですか? 人を殺して得る称号に奇麗なものなんてありませんよ」

マークス「……できれば、お前には戦いに身を投じてほしくはない。私たち兄妹、誰もがそう思っているが、そうはいかないということも皆理解している」

カムイ「兄さん。ふふっ、いつもは真面目なのに、そんなことを言うんですね」

マークス「この前のことも、お前は流されるままに受け入れているのかと思った。竜石の話、カミラから聞かされた……記憶のこともな」

カムイ「……そうですか。カミラ姉さん、話してしまったんですね」

マークス「すまない、私が無理を言って聞き出したようなものだ。カミラを責めないでやってほしい」

カムイ「いいえ、責めるつもりなんてありませんよ。これで家族で知らないのはエリーゼさんとレオンさんだけになりましたね」

マークス「……本当に父上を怨んでいないのか?」

カムイ「ええ、怨みを募らせるには、時間がたち過ぎていることですから……」

マークス「……カムイ」

カムイ「マークス兄さんはこの戦争が終わった時、私が人々から恐れられる存在になっていることを恐れているんですね?」

マークス「ああ。この戦争、負けるわけにはいかない。だが、戦争の結果が勝利で終わったとき、カムイと言う名前がどのような意味をもつものになるのか。それが暗く恐ろしいものであってはならないと思っている。闘いが終わり、世が平和になった時、お前は一人の人間、いや一人の女として幸せな日々を過ごすことを許されなくてはいけないはずだ」

カムイ「ふふっ、一人の女としてですか。兄さんに言われると、なんだかむずかゆくなる言葉です」

マークス「そうかもしれないな」

カムイ「ええ、まるでプロポーズされているみたいですよ」

マークス「茶化すところではないぞ」

カムイ「はい……。この戦争が終わった時ですか……お父様はどうして戦争を続けるんでしょうね?」

マークス「……多くの国を取り込み始めたのは、シェンメイ王妃が亡くなられた頃からだったかもしれない」

カムイ「シェンメイ王妃……?」

マークス「ああ、父上にとっては最後の妻といえるだろう。カムイは知らないかもしれないが、シェンメイ王妃はアクアの母上だ」

カムイ「そうなんですか……それは知りませんでした」

マークス「ああ、だが、シェンメイが現れたことで、多くの問題が起きたのも確かだ。それゆえにアクアは暗夜王国に良い思い出など持っていないだろう」

カムイ「……マークス兄さん。そのことは無理に話さなくても大丈夫ですよ。アクアさんもそれを望んでいるとは思えませんから……」

マークス「そうだな」

カムイ「話は戻りますけど。マークス兄さん、私は将来のことよりも今できることをしたいんです」

マークス「今できること?」

カムイ「はい。本当の私なんてものは私がいくら叫んでも理解されるものではありませんから。いくら私が人を殺したくなかったと叫んでも、現に多くの人を殺したのは事実です」

マークス「……」

カムイ「その場にいた方や、マークス兄さんのように私を知っている方なら、何か理由を考えてくれるでしょう。でも、私の名前や、行ったことを風の噂に聞いた程度の人たちは、そんなもの気にも止めませんし、良いことなんて悪いことにすぐ上書きされてしまいますから」

マークス「そのようなことは」

カムイ「それに、私がシュヴァリエで多くの命を奪ったことを今隠し通せても、それを隠し通すのは正直辛いのです」

マークス「……」

カムイ「偽りの情報で欺き続けるよりは、真実を知ってでも私を信じてくれる方のほうを私は取ります。今、こうやって私に話をしにきてくれた兄さんのように、私のことを考えてくれる人たちと、私は絆を繋いでいきたいんです」

マークス「……カムイ、それがお前の答えというわけだな」

カムイ「はい、兄さんのお心遣い、とてもうれしいです。でも、逃げるわけにはいきませんから、私のことを信じてくれた人のためにも」

マークス「……水を差していたのは私と言うことか」

カムイ「いいえ、心配してくれてありがとうございます」

マークス「ふっ、気にするな。それより、舞踏会の話は聞いていると思うが」

カムイ「はい、ギュンターさんから聞いています。踊りをするなんて生まれて初めてのことですから……」

マークス「それもあるが、父上はあの白夜の者たちも出席させようとしているらしい」

カムイ「……サクラさん達をですか?」

マークス「ああ、その意図だけがわからないでいる。此度のことは、力を示すことにあったが。今回の舞踏会に白夜の捕虜たちを参加させるその意味がな」

カムイ「……私が殺戮をしたということをサクラさん達に示すためでしょうか?」

マークス「そのようなことをしたところで意味などないだろう。サクラ王女は、カムイのことを慕っているようだ。カムイを信じる心に曇りなどないだろう」

カムイ「それはサクラさん達が決めることですから……。でもそうですね、わざわざこんなことをする意味が私にはわかりません」

マークス「そうか、一応お前の耳には挟んでおくべきことだと思ってな。カムイよ、付き人として何人かを舞踏会に同行させるようにしておくといい」

カムイ「はい、ありがとうございます……。マークス兄さん、その舞踏会に出席する方は私が選んでもよろしいんでしょうか?」

マークス「ああ、父上からはその制限は入っていない。お前が好きに決めるといい」

カムイ「わかりました」

◆◆◆◆◆◆
―マイキャッスル―

 シュオオオオンッ

カムイ「……私にはまだ、ここを使うことが許されているんですね。リリスさん……」

カムイ(何時の間にそうしてくれたんでしょうか……。私が、また歩み始めることをあなたは信じてくれたんですね)

カムイ「皆さん……お待たせしました」

ジョーカー「カムイ様、ここは?」

ギュンター「いきなり何が起きたかと思いましたぞ」

フェリシア「なんだか不思議な空間ですね。なんだか体がぽかぽかしますぅ」

フローラ「ええ。でも何が起きたのか説明していただけませんか?」

カムイ「はい、ここはですね―――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ジョーカー「そうでしたか、リリスがここに連れてきてくれたのですね」

フェリシア「リリスさん、ぐすっ。でも、リリスさんがいないのにどうしてここにこれたんでしょうか?」

カムイ「どうやら私に、ここへ来る力を託してくれたみたいなんです。だから、これを利用しないわけにはいきませんから」

フローラ「利用するとはどういうことですか、カムイ様」

ギュンター「あなた様がここに私たちを呼んだということは、外の世界で聞かれたくないことがあるから、ということですな」

カムイ「ええ、舞踏会の話は聞いていますね? 今回の舞踏会、地方部族の方や貴族の方、そして今暗夜に捕らわれている白夜の王族の方々も参加する大きなものとなっています」

フェリシア「ええっ、白夜の王女様も参加するんですか」

フローラ「おかしな話ですね。捕虜を参加させるというのは」

カムイ「はい、ですから。最悪の場合、その場で暗殺、もしくは処刑と言う流れもあるのかもしれません」

ジョーカー「わざわざ大勢の前で見せしめにするということですか?」

ギュンター「考えられないわけではないですな。何が起きるかなどわかりませんので」

カムイ「まぁ、正直、暗殺の可能性はありますが。公開処刑というのはあり得ないと思います。私という殺戮の代名詞がいる場所で、そこまでの宣伝は過剰と言えますから。だから、サクラさんたちのことはそれほど気にする事ではないんです。それに、そんなことは場内警備の方たちが許さないでしょうから」

フローラ「? では、私たちをここに呼んだ理由と言うのはなんですか、カムイ様」

カムイ「はい、その前に皆さんに聞きたいことがあるんです」

フェリシア「カムイ様?」

カムイ「皆さんは、私を幼いころから支えてくれた家族のような方たちです。私はみなさんを信頼しています」

ジョーカー「もったいないお言葉、この身に余る光栄です」

カムイ「……信頼している皆さんだからこそ、ここに来ていただきました」

ギュンター「……」

カムイ「皆さん、これからどんなことがあろうとも、終わりまで私について来てくれますか?」

フローラ「えっと、カムイ様?」

フェリシア「そ、その、いきなり何を聞いてるんですか?」

ジョーカー「そうだな。フェリシアの言う通りですよ、カムイ様」

ギュンター「ふっ、カムイ様。私たちはあなたに仕える臣下。その質問をすること自体、何の意味もないことです」

カムイ「皆さん……」

フローラ「カムイ様は、一度刃を向けた私たちをもう一度迎え入れてくれました。本当ならここに立っている資格なんてないはずの私達に」

フェリシア「そうですよ。私たちはカムイ様に仕えられることが嬉しいんです。だから、そんなこと聞かなくても大丈夫なんですよ」

ジョーカー「ご命令があれば、それに従う。それが臣下と言うものですから」

ギュンター「他の者に多く言葉を言われてしまいましたが、カムイ様」

カムイ「はい、ギュンターさん」

ギュンター「私は言ったはずですぞ。この老体、最後まで共について行くと」

カムイ「そうでしたね。失礼なのは私の方でした。もうしわけありません、皆さんの意思を疑うような問いかけを」

フェリシア「はわわわっ、顔をあげてください。むしろ、気遣ってもらえた気がして、とっても嬉しいです」

フローラ「ふふっ、カムイ様のそういう所、とてもよいと思います。ですから、御顔をあげてください」

カムイ「はい、ありがとうございます……では、本題に入りましょう」

「みなさんにしか頼めない、とても重要なことがあります」

今日はここまで

 暗夜王国って舞踏会とか結構行ってるイメージがあるけど、ワルツとか踊るのかな。
 アクアさん、踊りまくってるけど、ワルツも踊れるのかな?

 
 

 番外編ですが

・異界のふたなリリスがピエリを手に入れる話
・ヒノカがカムイを奪還していたらな話

 のどっちかになると思います。
 エロは地の文入れるから緩和されるはず……多分

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

レオン「………」

コンコンッ

ツバキ『レオン王子ー?』

レオン「ああ、ツバキか。サクラ王女とカザハナはいるのかい?」

サクラ『は、はい』

カザハナ『来てるわよ』

レオン「そうか、入ってきてくれるかな」

 ガチャ

ツバキ「レオン王子のお部屋にお邪魔するのは結構久しぶりかな。この頃なんだか考え込んでたみたいだったかのもあるけど」

レオン「すまない。気を使わせちゃったみたいだね」

サクラ「いいんです」

カザハナ「そうだよ。それで、なにか用事があったからあたしたちを呼んだんじゃないの?」

レオン「ああ、正直僕も意図がつかめなくて困ってることだから、直接話しておこうと思ってね」

ツバキ「なんか俺達に密接に関係がありそうなこと、みたいだね?」

サクラ「まずは話してみてください。私たちに関係がある話なんですよね?」

カザハナ「そうそう、これでもあたしたちレオン王子のこと信用してるんだから……」

レオン「それもそうだね。なら、本題に入らせてもらうよ。姉さんの戦績を父上が認めてくださってね。今度、舞踏会の催しと同時に姉さんの王族表明が行われることになった」

ツバキ「うーん、それと僕たちに何の関係があるのかな?」

レオン「姉さんのことは大きく関係ないよ。問題は舞踏会のほうでね。父上はサクラ王女たちにもその舞踏会に出席するように言ってきている」

サクラ「私たちを……ですか?」

レオン「そう。正直、サクラ王女たちにとって暗夜は敵で、舞踏会に出席する暗夜の人間から見れば、あなたたちは敵でしかない。だから、正直な話をすると、父上の命令通りにあなたたちを舞踏会に参加させるのはできれば避けたい」

ツバキ「でも、そうはいかない。そうだね?」

カザハナ「どういうこと?」

ツバキ「難しく考えることじゃないかな。ガロン王の息子であるレオン王子が、命令に背いて俺たちを出席させなかったら、周りはどう思うか考えればいいだけだからね」

カザハナ「……それは」

ツバキ「当然、俺たちに対する目も悪くなるけど、レオン王子に対する印象はよくないものになるかもしれない。ただでさえ、レオン王子は俺達に良くしてくれてるんだから、それも重なったらレオン王子の立場としてはとってもまずいことになるはずだよ」

レオン「……できれば。とぼけてほしかったところなんだけど、僕としては出席するように頼むつもりで呼んだわけじゃないよ。サクラ王女にツバキ、カザハナも参加をしたくないというならそれでいい。無理に参加しても、いいことはないだろうからね」

カザハナ「……レオン王子はどっちがいいわけ?」

レオン「? どっちっていうのはどういう意味かな?」

カザハナ「簡単な話、あたしたちがいたほうがいいのか、いない方がいいのかってこと」

レオン「目の届く範囲にいてくれた方が安心できるのは確かだよ。カザハナは僕がいない間に屋敷の中を歩き回ってるらしいからね」

カザハナ「あ、いや、その……」

サクラ「ふふっ、一番我が物顔で歩いてる気がします。それにこの頃は―――」

カザハナ「あーっ、サクラ、それは言わないで。お願い、ね。今度、おやつに出たケーキ半分あげるから」

レオン「まぁ、自由に歩いて良いって言ったのは僕だからね。でも、確かに舞踏会の間、僕は城を離れられないからね……」

サクラ「そ、そのレオンさん」

レオン「なんだい、サクラ王女?」

サクラ「あの私、少し興味があります。その、暗夜の文化について知りたいんです。そうすれば、もしも戦争が終わった時に、人と人とをつなぐ何かの役に立つんじゃないかって」

レオン「……こんな状態でも、そういう風に考えるんだね」

サクラ「ここに私がいるのに意味があるなら、ここで背を向けるのは間違ってるって思うんです。暗夜も白夜も住んでる人は生きてます。私は白夜のこととはそれなりにわかってるつもりです。だから暗夜のことも同じように理解したいって思うんです」

レオン「……本当にサクラ王女は強い人だね」

サクラ「そ、そんなことないです」

カザハナ「でしょ、サクラはとっても強いんだから。幼馴染のあたしが言うんだから間違いないよ」

レオン「そうだね、カザハナみたいなのと長く付き合ってきたんだから、間違いないね」

カザハナ「なんでそこで茶化すのよ。意味わかんない!」

レオン「ごめんごめん。それで二人はどうする?」

ツバキ「主君一人を向かわせるなんて、臣下の恥だよねー」

カザハナ「答えは決まってるよ。あたしたちも一緒に舞踏会に参加するよ」

レオン「そう。舞踏会からここに帰ってくるまでは僕が必ず守り通すから安心して」

カザハナ「……ふーん。それじゃ守ってもらおうかなー」

レオン「ああ、任せてほしい」

カザハナ「……ま、真面目に返さないでよ。調子狂うから……」

レオン「で、ここからは舞踏会に関してのことなんだけど。一つ聞いてもいいかな?」

サクラ「はい、なんでしょう?」

レオン「三人とも社交ダンスの経験とかはあるのかい?」

カザハナ「あれでしょ、真中で太鼓を叩く人がいて、それに合わせてこう手を――」ヒョイヒョイ

ツバキ「ははっ、カザハナうまいねー。……でも多分だえど、それのことじゃないと思うよ」

カザハナ「どうしてそう思うのよ?」

ツバキ「レオン皇子の顔を見てみればわかると思うよ」

レオン「」

カザハナ「……//// ま、これも文化の違いだから……しかたないでしょ!」

レオン「なんでいきなり怒鳴るんだい。意味がわからないよ」

カザハナ「う、うるさい。ううっ、なんだかこれすっごく恥ずかしい。穴があったら入りたい……」

サクラ「でも、上手でしたよカザハナさん」

ツバキ「あー、サクラ様。今、褒めるところじゃないと思います」

レオン「…………。これはこれで問題だ」

サクラ「あ、あの。舞踏会って何時からなんでしょうか? その、私も舞踊の作法は抑えているんですけど……」

レオン「そうだね。もう準備は始まってるから、早ければ五日後かな」

カザハナ「こんな何もできないあたしたちに、どうやって舞踏会に参加しろって言うわけ!?」

レオン「……。話の順番、間違えたみたいだ。反省しないと……」

ツバキ「……レオン王子はできるんだよね?」

レオン「まぁ、王族の作法みたいなものだから。嫌でもステップを踏まないといけないことだってある。教える側に回ることもあるし、あえて、下手にして教えてもらうように手を打ってくる奴もいるからね」

ツバキ「なるほど、つまり、俺達にレオンさんが指導すればいいんですよ」

レオン「……僕が?」

サクラ「で、でもレオンさん。忙しくないんですか? ご迷惑になるかもしれないのに……」

レオン「いや、今は舞踏会に関する準備だけしかないから。書類に目を通すくらいのことだし、それに参加してくれるのなら、サクラ王女たちにも楽しんでもらいたいのは本望だからね」

カザハナ「……ちゃんと踊れるようにしてくれるんだよね?」

レオン「それは僕だけが努力することじゃないよ。いくら教え方が良くても、教わる側にやる気がなかったら上達するわけもないから……」

カザハナ「そ、それはそうだけど。……はぁ、あたし出来る気がしないんだけど」

レオン「まぁ、まずは見てみたほうがいいかもしれないね。ツバキ、ちょっといいかい?」

ツバキ「ん、いいよー。何をすればいいのかな?」

レオン「少しだけステップをね。ツバキは物覚えが良さそうだから」

ツバキ「レオン王子にそう思ってもらえるのは光栄だなー。で、どんな感じにやればいいのかな?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~

サクラ「……」

カザハナ「……」

レオン「そう、その感じ。やっぱりツバキは覚えが早いんだね」

ツバキ「レオンさんの教え方がうまいんですよ。ここでターン。決まったかなー」

レオン「うん。いい感じだよ、ほとんど形は出来上がったんじゃないかな」

ツバキ「もっと難しいかと思ってましたから。ちょっと拍子抜けですー」

レオン「言ってくれるね。……それじゃ、少しだけ密着する奴にしてみようか」

サクラ「……あ、あのカザハナさん」

カザハナ「な、なんですか。サクラ様」

サクラ「いえ、その、なんか、二人とも色っぽいっていうか、その……」

カザハナ「……言わないでくださいよ。できる限り、意識しないようにしてたんですから」

ツバキ「レオン王子って、見た眼よりは筋肉あるんですね。魔術ばかりだから、てっきりあまりついてないのかと思ってました―」

レオン「乗馬も剣技も一通りこなすからね。人並についてないと役には立たないから。ツバキはどちらかと言うとあまり筋肉はないんだね」

カザハナ「……ちょ、ちょっと二人とも。密着して踊りながら何の話をしてるのよ」

レオン「ん、ツバキには色々とアドバイスをもらっているから……な?」

ツバキ「そうですねー。あの時のレオン王子、見てて弱そうでしたからねー」

レオン「あれはあまり見られたくなかったんだけど」

サクラ(あれ、あれってなんですか?)

カザハナ「ツバキからアドバイスって、一体何のアドバイス?)

◆◆◆◆◆◆
―北の城塞・カムイの部屋―

カムイ「出来る限りの準備はできましたから、あとは舞踏会の日を待つくらいでしょうか」

 コンコン

カムイ「はい?」

 ガチャ

アクア「私よ、カムイ」

カムイ「アクアさん。どうしたんですか、こんな夜分に」

アクア「ちょっとね、舞踏会のことで聞いておきたいことがあったのよ」

カムイ「……なんですか?」

アクア「ねぇ、カムイ。あなたって誰かと踊れるの?」

カムイ「ふふっ、アクアさん。何を聞いてくるのかと思ったら」

アクア「そうね、無用な心配だったかしら?」

カムイ「そうですよ。今まで踊ったことなんて一度もないので、むしろ忘れていました」

アクア「……カムイ。さすがに今度の舞踏会の主役はあなたなのよ?」

カムイ「はい、そうなんですよね。舞踏会の主役にはなりたくないのですが」

アクア「それは無理でしょうね。武勲をあげたあなたと一曲踊りたいと思う人は大勢いると思うは。もちろん、良い意味でも悪い意味でもね」

カムイ「そうでしょうね。でも、私によって来るのは悪い意味ばかりでしょうね」

アクア「カムイ」

カムイ「でもそれでいいんです。今はそうあるべきなんですから。暴れて多くを殺した私に、良い意味が寄ってくることなどあってはいけないんですから」

今日はここまで

 果たしてレオンはサクラ隊に社交ダンスを教え切ることができるのか……

 
 

アクア「それでも参加するのね、あなたは」

カムイ「はい、といってもアクアさんも参加するんですから、特に気にすることでもないですよ」

アクア「私とあなたじゃ背負うことになる物がちがうわ。あなたはこれから多くの物を背負う場所に行こうとしてるけど、私はただ……」

カムイ「それでいいんですよ。私が背負うべき咎は、多ければ多いほどいいことなんですから」

アクア「あなたはそんなものを背負うために生まれてきたわけじゃない。本当なら、あなたは白夜で育って生きるはずだった」

カムイ「でも、今生きている私がいるのはここです。それはどんなに瞼を閉じても否定できるものではありませんから、ならするべきことを私はするだけです」

アクア「それが今言っていた終わっている準備と言うこと?」

カムイ「はい、考える道を選んだ私のすべき義務ですから。この舞踏会が終わってから少しして、大きな選択を迫られる気がするんです。それは何かをしていても、何もしていなくても私の前に訪れる。そんな気がして、なら有益になることをしておくべきだと私は思うんです」

アクア「……そう、あなたはまだ希望を捨ててないのね。でも、本当のあなたはそれを望んでいるの?」

カムイ「……さぁ、それはわかりませんよ。竜石がアクアさんの推測通り、私の負の感情を代わりに吸い取ってくれているというのなら。それを調べるすべはもうありません。なら、今の私にできるのは、あるがままに事を進める、それだけです」

アクア「そう、あなたがそういうのなら、私はそれについて行くだけよ。あなたの視線の先に出来る光景を目にするためにね」

カムイ「そうですね。いつか必ずお見せしますよ」

アクア「でも、準備ができたという割には少しだけ、浮かない顔をしているけど」

カムイ「そうでしょうか」

アクア「ええ、さっきまで奇麗に決めていたけど、今のあなた眉間に皺が寄ってるわ。マークスみたいに」

カムイ「困りましたね。マークス兄さんほどに眉間が大変なことになっているなんて」

アクア「カムイ、なんだかんだでマークスに対して、失礼だと思うわ」

カムイ「まぁ、眉間の皺が中々戻らないのは、どんなに頑張っても私では解決できそうにない問題が一つだけあるからなんですよ」

アクア「……それ、本当?」

カムイ「どうして、疑問形なんですか? 私にだって解決できないことの一つや二つあってもいいと思いますが」

アクア「それもそうね。でも、今のあなたが悩むなんて相当なことのようね」

カムイ「はい、今まで生きてきてこれほどまでに困難な壁は初めてです」

アクア「それほどなんて、私にできることがあれば手伝うけど」

カムイ「本当ですか?」

アクア「ええ、あなたの役に立ちたいもの」

カムイ「では、早速なんですが」スッ

アクア「え? 突然手を出して、どうかしたの?」

カムイ「一曲、踊っていただけませんか?」

アクア「………よろこんで……と言いたいところなだけど、すでに間違っているわ」

カムイ「え、そうなんですか。マークス兄さんからは社交的に挨拶をするようにと言われたんですけど」

アクア「マークスの言葉は間違ってないけど。カムイの応対は申し込む側よ」

カムイ「?」

アクア「いい、次の舞踏会、あなたは進まずとも多くの人と一曲踊ることになるわ。どちらかと言えば……」

 スタッ スッ

アクア「カムイ王女、私と一曲、いかがでしょうか?」

カムイ「……」

アクア「……//// ねぇ、カムイ」

カムイ「あっ、はい」

アクア「その、私の手を取るとか、せめて返事くらいしてくれないかしら。その、二人きりと言っても、こうやって無言でなにもアクションがないと正直恥ずかしくて仕方ないわ」

カムイ「そういうことですか。では、はい喜んでアクア王女」

アクア「……ええ。それじゃ―――」

 グッ

アクア「……カムイ」

カムイ「はい」

アクア「……一歩目から私の足を踏むっていうのは、狙ってやってるのかしら?」

カムイ「いいえ、なんていうか気配を避けようとしてるんですが……。なんか動いている的を止めたい衝動に駆られてしまうんですよね」

アクア「……竜石、ちゃんと機能してる?」

カムイ「大丈夫でしょう。今、アクアさんに申し訳ないっていう気持ちが浮かびませんから」

 ギュウウッ

カムイ「イタタタッ!」

アクア「ごめんなさい、急に右足が重くなってしまったの」

カムイ「ううっ、全体重乗せてませんでしたか、今の」

アクア「女性に体重のことをいうのはマナー違反よ」

カムイ「それもそうですね」

アクア「でも、おかしいわね。あんなに空間把握ができてるのに、こういったダンスが苦手だなんて」

カムイ「やったことがないんですから……少しは察してくれてもいいと思いますけど」

アクア「察していても、舞踏会まではあまり時間がないの。咎の中にダンスがとても下手くそな王女っていう項目が入ることになるわよ?」

カムイ「それは個人的に嫌ですね」

アクア「愛嬌はあると思うけど。カムイにはそういうものがあまりないから、あとは人の顔を執拗に触る変な王女という肩書があるくらいかしら?」

カムイ「それは仕方ありませんよ。私が唯一相手の顔を知る方法なんですから」

アクア「だからって、相手が変な声をあげちゃうまで触ることはないと思うけど」

カムイ「皆さん感じやすいんですよ。私はいつも通りに触っているだけなんですけど」

アクア「……口元緩んでるけど」

カムイ「気の所為です。それで、続けてくれないんですか?」

アクア「そうね、私から誘ったんだから。踊り切らないといけないわね。それじゃ、ゆっくりと始めるわよ」

アクア「ねぇ、カムイ」

カムイ「なんですか、アクアさん?」

アクア「こんな風に踊るのは初めてなのよね」

カムイ「はい。だから楽しくもあります。それにアクアさんの手がとても温かくて、なんだか気持ちがいいです。わたしが温かく感じているということは、アクアさんの握ってる私の手はとても冷たいんですか?」

アクア「そうね。あまり温かくはないわ……でも、手が冷たいのは心が温かい証拠だというわよ」

カムイ「なら、アクアさんの心はとても冷たいことになってしまいますけど」

アクア「間違っていないわ。私はとても冷たくて酷い人間のはずだから」

カムイ「そんなことはないと思いますよ」

アクア「助言かしら?」

カムイ「はい、アクアさんが私に助言してくれたように、私も助言だけします。少しでも、そう思ってくれるようにって」

アクア「そう。次で、ターンするわよ」

カムイ「はい、えーっと、こ、うわっ」コテンッ

アクア「……ターン、練習しないといけないわね」

カムイ「はぁ、なかなか難しいですね」

アクア「私の足を踏まないでよく出来たわね。あなたの口ぶりじゃ、懲りずに踏むと思ってたけど」

カムイ「また踏んだらアクアさん、踏み返しますよね?」

アクア「ええ」

カムイ「なんだか、爽やかな返答ですね」

アクア「気のせいよ。カムイ、舞踏会に連れて行く人は決まっているのかしら?」

カムイ「それもまだなんですよ……。どうしましょうか……」

アクア「早く決めておいた方がいいわ。あなた自身、踊れるようにならないといけないのだから」

カムイ「そうですね。連れて行く人たちは、できる限り早く決めておきますから、安心してください」

アクア「ええ、マークスの皺が寄らないようにしてあげないといけないから」

カムイ「それもそうですね……」

アクア「カムイ?」

カムイ「なんでもなりません」

アクア「そう、それじゃもう一度やりましょうか。何回もやってコツをつかまないといけないから」

カムイ「それもそうですね。それじゃ、えっと……」

アクア「私から声を掛けるから、あなたは……」

カムイ「そうでしたね。……それじゃ、おねがいします」

アクア「ええ、んんっ……カムイ王女、私と一曲どうでしょうか?」

カムイ「はい」

「よろしくおねがいします。アクア王女」

 休息時間 2 おわり

 今日はここまで

 アクアはさわやかな顔で、足を踏み返すタイプだと思っている。
 ツバキとヒナタの支援はいい感じにエポれるよ

 番外編、次あたりから始めます。
 今、話の流れがシリアス抜けしてるので、エロ番外のふたなリリスをやりたいと思います。
 番外編のレスは開始時◇◇◇◆◆◆と結構な改行を差し込みます。あと、地の文が結構入ると思います


 
 この先の流れを安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

 舞踏会に参加することになるキャラクターを決めたいと思います。

※すでに舞踏会に参加することが決まっているキャラクター(この方々は選べません)

 カムイ
 アクア
 フェリシア
 フローラ
 ジョーカー
 ギュンター
 マークス
 カミラ
 レオン
 エリーゼ
 サクラ
 カザハナ
 ツバキ
 
◇◆◇◆◇
 
 ラズワルド
 ピエリ
 ゼロ
 オーディン
 ベルカ
 ルーナ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ

 この中から四名になります。

 一人目は>>371
 二人目は>>372
 三人目は>>373
 四人目は>>374

 で、お願いします。
 キャラクターが被った場合は、次に選ばれたキャラクターという感じになりますのでよろしくお願いします。

ラズワルド

シャーロッテ

乙 アクアは無表情女
モズメ

その分デレた時はスゴいんだよね
ハロルド

 舞踏会に参加するキャラクターは

 ラズワルド
 シャーロッテ
 モズメ
 ハロルドになりました。

 今日は本篇はお休みで、番外編を一つやります。

◇◇◇◆◆◆












 リリスが竜と人間の姿、二つの力を自在に操れるようになっても、彼女は未だに星海の神殿で過ごしていた。
 多くの者たちはマイキャッスルという異界で時間を過ごし、現へと戻っていく中、リリスだけはそこにいることが主な仕事なのか、あまり現に出ることがなかった。それは自身の姿というものを考えて、現に迷惑を掛けないための彼女なりの優しさだと多くの者たちが勝手にそう考えていた。
 実際違った。
 リリスはフタナリであった。人間の姿の時はそうではないのだが、竜となった時は、もう一つの性の象徴がひょっこりと姿を現す。
 竜のあれはどんな形をしているのか、諸説あるが……リリスのは人間とあまり変わらなかった。そしてそれを見せないために、あんな大きな竜石を抱えていた。
 それは優しさだった。特に親友に対する優しさだった。お風呂でじゃれ合っている相手が、実は両性具有だということを知ったら悲しむ、そう考えた故に竜石を抱えて戦う道を彼女は選んだ。
 でも、ある日、竜の状態で大きな怪我を負った、いつも一緒にいる友人であるピエリがどうにか駆けつけて一命を取り留めたのだが。

 その時、ピエリは見ていたのだ。

 竜石によって隠されていた、リリスの秘密を……。
 
 それからだ。不思議な鳴き声が木霊するようになったのは……。












「きゅっ、きゅぅ……」

 真夜中のマイキャッスル、リリスの神殿で小さな鳴き声が響く。
 いつも抱えているはずの竜石は地面に転がり、股を開く形で拘束されている竜状態のリリス。
 そんな彼女のお腹を優しく撫でる影があった。

「リリスのお腹、スベスベしてて気持ちがいいの」
<ピ、ピエリさん。やめてくださ……い。こんな格好……は、恥ずかしい>
「リリス、今日もいっぱい戦ったの。ピエリ、リリスの事褒めたいだけなの」

 そう笑顔で語るピエリの手の動きはどこか怪しいものだった。お腹を撫で首を撫でるがどこか艶めかしい動きをしている。
 最初、傷完治の祝いと言う名目で、彼女はリリスの元を訪れた。今日は料理の食材を準備してやってきている。神殿の横にある食堂で作る予定を立てているのだが。それは建前のようなもので、本当はリリスにあることをしたいだけなのである。
 それが問題であることをリリスは口酸っぱくいっているのだが、それに従うピエリではなかった。

「リリス、いつまでも尾鰭で隠してちゃダメなの。じゃないとイイ子イイ子できないの」
<し、しなくてもいいです。いいですから>
「そんなこと言っても正直な場所は正直なの。尾鰭、下から盛り上がってるの」

 その指摘はリリスの顔を真っ赤にするには十分なものだった。
 仕方ないことかもしれない、介抱された次の日にピエリが彼女にしたこと、その衝撃はリリスの脳に深く刻み込まれている。こうやって抱えられるだけでも、それが始まりの合図と理解している彼女の体は自然と暖かさを増していくばかりである。
 リリスの白い竜の肌に仄かに入る朱色は、ピエリにとって事を始めてもいい合図でもあった。前に伸ばした手を動かして、力強く抑えているように見える尾鰭の先端に触れる。
 触れた瞬間にリリスの口から可愛らしい鳴き声が漏れると、ずれた隙間から主張する一物があるのを確認できる。












「やっぱり、大きくなってるの」
<せ、生理現象です。それだけ、それだけですから……>
「生理現象なの? なら、すぐに楽にしてあげちゃうの」

 亀頭に覆いかぶさる手の感触にリリスの背中が静かに震える。
 ピエリにとってリリスのそれは面白いおもちゃのようなものだった。
 触れ方次第でリリスにあらゆる快感を与えるおもちゃ。
 だから、そこに罪悪感のようなものはなく、覆った手のひらで優しく先端を撫で回していく。

<んんっ、ああっ。ぴ、ピエリさん……>
「少しヌチュヌチュしてきたの。リリス、我慢できない悪い子なの」
<ぴ、ピエリさんが触ってくるのがいけな――んんっ、はふんっ>
「だって、ピエリ触りたいから触ってるの。リリス、こうされてる時、とっても気持ちよさそうな顔してるの。だから、もっともっと気持ちよくしてあげたくなるの」

 湿り気を含んだ音が神殿の中に木霊し始めると、リリスのか細い鳴き声も同じリズムを刻むように漏れ始める。
 ピエリの手に香り始める先走りの臭いは濃厚なものだが、それを気にすることない。
 撫でていた手は先ほどよりも肥大し、そそり立つものの側面に触れ、やがて静かに掴み扱きあげるようになる。
 空気と先走りが擦れる音は神殿内部で反響する。
 いつも清閑なイメージを持ってるが故に、染め上げるように響く下品な音によって、瞬く間に背徳感を増幅させる役割を担うことになる。

「いつもカムイ様と話をしてるこの場所で、ピエリにこんなことされちゃってるのに。リリス、ここ、こんなに大きくしてる。こんな姿、カムイ様が見たらなんていうのか気になるの」

 その言葉に自然と神殿の入り口を見てしまう。友達だと自分の口から告げた相手に、こうやって好きにされている姿。
 足を広げられて、主張している一物を扱かれて顔を赤くしているあられもない姿。
 それを、もしも見られてしまったらと思うと、心が大きく揺れた。










<んっ、んくっ、ピエリさんっ、はうううっん>
「やっぱり、リリスは変態さんなの。ピエリにこんなことされて喜ぶ、変態さんなの。んっ、リリスのピエリの手の中でピクピクし始めてる。カムイ様に見られたところ考えて、こんなになっちゃってるの?」
<ち、ちが、ちがいま――ふああああっ>
「リリスはやっぱり変態さんなの。ピエリ、そんなリリスも大好きなのよ。リリスはピエリの大切な友達だから、変態さんでも気にしないの」
<な、なら、こんなことや、やめっ、はふっ、おねがい、です、か――ああっ、だめっ、そんな勢いよく扱いちゃ、んんああっ!>

 リリスの懇願に対しての返答は言葉ではなかった。
 一気に扱きあげられた衝撃で白い粘液が少しばかり飛び出し、先走りよりも濃いそれはリリスの尾鰭に降り注ぐ。
 量は多くないが、粘り気を含んだそれは尾鰭を静かに伝い、やがて冷たい石床へと達し、入口で勢いを失ったのはピエリの指に絡みついた。

「少し出たの。もっといっぱい出す準備、整ったみたいなの」
<ふああっ、らめっ、らめです、ひへりしゃん……ほれひひょう>

 頭の呂律が回らないまま、飛び出した少量の子種をぼんやりと眺める。
 先に出た僅かな子種は老廃物のようなもので、この後に本当の流れがやってくる。それがどういうことかを、リリスはよく理解していた。
 もちろんピエリもだ。大きくなったそれの形と熱を確かめるように、指を器用に動かせば、それに合わせてリリスの鰭がサワサワと波のように揺れる。
 一度だけ手を放し、手にへばり付いた子種を確かめるように、手の中でこねくり回すと、それをリリスに見せつけるように掲げた。
 ピエリの手を汚した己の欲情の証を見せつけられているというのに、むしろ興奮が増していくことに酷い羞恥心を覚える。














「見て見て、リリスの精子でピエリの手ベトベトになっちゃったの。本当、リリスのネバネバしてて、すごいの」

 親指と人差し指を離れさせると掛かる卑猥な橋、ねっとりとした熱を帯びた粘液が静かに糸を引いて床へと落ちていく。それを見送って、再びピエリの手が膨張したオスを掴み、触れ始めた時よりも太くなったそれの形に驚きと、どこかうれしさを含んだ声を上げる。

「リリスのすごく太くなってる。ピエリの指でこんなになって、うれしいの」
<ぴ、ぴえり、さん。もう、もうわたひ……>
「うん、リリス。いっぱい出していいの、ピエリの手、もっといっぱい汚してもいいの。いっぱい、いーっぱい気持ちよくなってほしいの」

 ピエリは嬉しそうにしている。それは純粋に友人が気持ちよくなってくれているということに対してなのかもしれなかった。
 手に握られたリリスのそれは、はち切れんばかりに腫れ、指が上下に動く度に痙攣し、先走りの潤滑油でピエリの手を染め上げていく。
 子種の臭いで満たされた手、生臭い香りに支配された神殿の中、二人以外に誰もいない星海の一角の宴は、そろそろ終わりを迎えようとしている。

<はひっ、んっ、ピエリさんっ、ピエリさんっ>
「いい、いいの。出して、リリスのこと気持ちよくできた証拠で、ピエリの手ベトベトにしちゃっていいの!」

 扱きあげる反響に交じり合うリリスの鳴き声には色がついていた。淡紅に彩られたその嗚咽に、ピエリの手は速度を上げる。
 鼻にまで香ってくるリリスのオスの香り、それがリリスの達する時が近づいていることを静かに告げていた。

<んあっ、もう、だめっ。ああう、ピエリさんの前で、出しちゃう、竜の子種、いっぱい、いっぱい出ちゃいます!>
「全部見ててあげるの。リリスのおち○ちんからビュビューッって、子種がいっぱい出るところ、全部、全部見ててあげるの。だから、我慢なんしてしてないで、さっさと出しちゃうの!」
<ピ、ピエリさっ。んあっ、んっ、ああっ>

 視界が明滅する。ピエリの愛撫でリリスの快感は終わりへと向かいつつある。押し寄せる快感はリリスのコントロールできる範疇を越えて、気を抜くだけで吐き出してしまうほどにまで膨れ上がっていた。
















「あっ、返事してるの。リリスのおちん○ん。ピエリの手に返事してるの」
<だめっ、もう、我慢なんて、……はぁはぁ、やっ、やらっ、みはいへ、みはいへくだはい……>

 だらしなく口から漏れた舌は力を失い、瞳はすでに蕩け切って、解れた理性の糸はもう保持することもできないほどに弱弱しく漂い、ピエリの囁きが止めだった。

「リリス、ピエリにハシタナイ姿、いっぱい見せてほしいの。ピエリだけが知ってる、リリスの秘密、見せつけてほしいの」

 その言葉と同時にピエリの手が思いっきり引き下がる。急激な締め付けと、張った前面を鈴口から根元にかけて走ったところまでだった。

「きゅううううん!!!!!」

 リリスの大きな鳴き声と共に、白い粘液が堰を切ったように溢れる。
 ピエリの手を、自身の一物を、体を、尾鰭を、神殿の床を、すべてを汚れ犯すように臭いもまた濃いものとなって神殿の中を漂う。
 自身から飛び出ていく精子、射精の快感に舌をだらしなく垂れさせながら、押し寄せる快感の波にリリスはただ揉まれいく。

<ああっ、でてりゅ、ピエリさんの前で、足開いて恥ずかしいのにぃ、とってもひもひひいよくへ、えへ……えへへへ。わたし、ともだちにしごかれて、いっぱい出しちゃってるぅ>
「リリス、いっぱい出てきたの……でも、全部じゃないの。もっともっと出さないと、体に悪いの。手伝ってあげるのよ」

 再び扱くことを始めたピエリの手は子種で真っ白に染まり、その握った個所から感じる何かが這い出る感覚は、確かにリリスが気持ちよかったことを現す証拠を送り出している躍動そのものであった。
 性が放たれ、体を反ったままにリリスの視線はピエリへと注がれている。
 吐き出される子種と、掴んだ一物の胎動を楽しそうに眺める姿はとても可愛らしいものであるが、未だに続く射精の所為もあって、頭はろくに回らなかった。
 部屋を満たす隠微な香り、石床を染め上げる白い子種、抱きかかえられながらも射精を続けるリリス。
 でも、ピエリの目に映るのは苦しさから解放されて、快感に酔いしれるリリスの姿だけだった。










「リリス、今日は長いの。結構貯めてたの? ならいっぱいいっぱい出して、すっきりするの」
<ふえっ、だめ、はしたない、のに。もう、とまっへ、とまっへよぉ>
「えへへ、もっと扱いてあげるの。がんばるの、そしたらもっと気持ち良くなれるの、リリス」
<だめっ、うにゅっ、しぼっちゃ、いやぁ……>
「手に感じるの。ピエリの気持ちいい証拠、また新しいのが上がってきてるの」

 導かれるままに幾度かの射精を終えた頃、ピエリの手に握られたリリスのそれに少しだけ柔らかさが含まれるようになった。
 そうなって、リリスの頭も少しだけ回るようになると、視線には扱き続けた故に厭らしく光沢を放っているピエリの手があった。

<はぁはぁ、んっ、はぁ。ピエリさん、手、私の子種で、ベトベトです……>
「気にしないでいいの。いっぱい出して気持ち良くなれたの?」
<んっ、ピエリさん。聞かないでください……>
「ふふっ、ピエリ、リリスに気持ち良くなってもらえてうれしいの、最後の残り、絞り出してあげるの」

 指で根元を抑えて静かに上へと押し上げていく、勢いを失って停滞していた残りの子種が、静かに鈴口から滴りピエリの手にへばり付いて、すべてが終わりを迎える。
 ピエリから解放されたリリスがよろよろと浮かびながら、竜石を抱える。
 少しだけ感じる股の感触に快感を覚えながら、汚してしまった床を見つつ、ため息を漏らして、静かに人間の姿へと戻った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










「リリス、怒らないでほしいの」
「ううっ、なんでこう一週間に一回、ピエリさんにいいようにされないといけないんですか。ううっ、自分の子種、すごく臭い……、お風呂の準備しといてよかった…」

 ピエリに背中を向けながらリリスは自分の体を洗う。
 人間の姿に戻ればオスとしての生殖器は姿を消し、一人の女の子にリリスは戻る。
 ピエリは先ほど、リリスの一物を扱いた手の臭いを嗅いでいるが、その顔は嫌悪溢れるものであった。

「ううっ、リリスの扱いた手、すっごく生臭いの」
「なら、あんなことしないでください。その、気持ちいいけど恥ずかしいんです。それに、私の子種の臭いひどいのわかってますよね」
「でも、リリスが辛そうなの見てられないの。それに、リリスの可愛い鳴き声も聞けるから一石二鳥なの」
「もう知りません!」

 体から染みついた臭いを落としてすぐにリリスは湯船にその身を預ける。
 今日の星海も豊かな星空を覗かせている。
 それを見ていると間際の夢のように過ぎた先ほどの時間を、少しだけ手繰り寄せるように思い出し、リリスは顔を赤くする。
 先ほどまでの行為を思い出したこともあるが、その相手と一緒にお風呂に入っていることが、なんとも気恥しい、そう考えていた直後に後ろから誰かに抱き付かれた。ピエリしかいなかった。

「り、リリス。嫌わないでなの。今度はもっと気持ちよくしてあげるの、だから、うえええええん!!」
「ひゃっ、ピエリさん。後ろから抱き着かないで、んっ、胸触っちゃだめです、んあっ」
「ピエリ、リリスが許してくれるまで胸から手離さないの」
「許します、許しますから。んっ、さっきの後なんですから、少しは考えてくださっ、ひゃっ、そんな、摘んじゃっ」
「ありがとなの。お礼に、いっぱい触って大きくしてあげるの」
「もうっ………やっぱり知りません!」

 一気に距離を取って中心まで進んだところで、動きを止める。視線をあげた先、吹き抜けの天井に輝く丸い月があった。














「リリス、もうふざけないの、だから機嫌直してなの………。んっ、すごい、すごいの、とってもおっきなお月様なの」
「……そうですね」

 空に浮かぶ月の姿に心奪われる姿に、ピエリは儚さのようなものを感じた。
 どこかに行ってしまうような、そんな不安を覚えてしまった瞬間、その手は静かにリリスを後ろから捕まえ、抱き寄せる。

「……リーリス!」
「え、ピエリさん。わぷっ……」

 突然抱き寄せられて、二人同時に湯の中に沈む。ピエリが下でリリスが上。後ろから抱きかかえられた姿勢で見あげる月はとてもきれいで美しく、それを一緒に眺めていられることにピエリは喜びを含んだ笑みを浮かべる。

「こうやってお月様を見るのも悪くないの。リリスはピエリの体にすっぽり収まって、抱き心地とってもいいの!」
「そうですね。こういうことなら、私大歓迎なんですけどね」

 そう語るリリスから未だに漂う儚い印象に、蓋をするようにピエリは言葉を並べる。
 
「リリス、今度リボン買ってあげる、ピエリのお気に入りなの。リリスにも似合うはずなの。ピエリとリリスの仲良しの証にもなるの」

 そう言っているピエリの手は少しだけ震えていて、その理由をリリスは察した。
 自身が死にかけた時の事を思い出して、その時にピエリがした顔を思い出したら自然と手が動いた。

「大丈夫ですよ、ピエリさん」
「リリス?」

 優しく手を重ねる。静かに重ねた手、ピエリの震えを包み込むように。

「ピエリさんに助けてもらったのに、そんな簡単に死ぬわけありませんよ。ピエリさんにはまだ御返しもできてませんから」
「……お返しなんていらないの」
「?」
「ピエリ、リリスが生きていてくれればいいの。それ以外何も要らないの」

 静かに重なった手は静かに離れて、リリスを抱きしめるものに変わる。密着した二人の体、でもそこに先ほどのようなものはなかった。

「リリスの体温かいの。あのとき、とっても冷たかったの……怖かったの」
「……ピエリさん。ごめんなさい、心配かけちゃったみたいで」
「いいの、リリスが生きていてくれるなら、ピエリそれだけでうれしいの。だから……」












 その言葉は何かを求めているような言葉だった。
 何でもいいから、死なないということを示せるものがほしいと、ピエリが言っているのがわかって、リリスは考えるように視線をあげる。
 目の前には、二人を見下ろす月の姿があった。

「ピエリさん、指切りしませんか?」
「指切りするの?」
「はい。またこうやってお月さまを一緒に見るっていう約束をしましょう。一度、出撃する度に,ここで私とピエリさん、二人だけの秘密の約束をするんです」

 抱きしめている手に重ねるようにリリスの小指が触れる。触れるだけの小指、それにピエリの小指が絡まる。

「リリス、大好きなの。きっと戦いが終わるまで守ってあげるの……」
「はい、私もピエリさんのこと大好きですよ。だから……次もここでお月様を一緒に見ましょう。こうやってピエリさんに後ろから抱き締められながら」
「うん、わかったの。それじゃ、約束始めるの」
「はい」

 結びあった小指は弱弱しくも確かな意思を持ちながら、二人の約束が始まる。二人の声が反響していく。

―ゆびきりげんまん―

―嘘ついたらどうなるの?―

―そうですね……。私が嘘をついたときは―

―はーい。ピエリ、リリスの事もっと気持ちよくしてあげちゃうの―

―そうですね。じゃあ嘘ついた時だけ、私の事好きにしていいですよ?―

―やったの! ……あれ、それじゃこれからは触ったいけないの?―

―はい、そういうことになりますね。さてと、ピエリさんの了承を得られたということで―

―だ、だめなの。時々、リリスの事気持ちよくしてあげたいの―

―指切った。ふふっ―

―切ってないの! そう、嘘ついたら……うえええええん。いいの思いつかないの!―

 二人の楽しそうな会話は静かに夜の空に溶けていく。
 どこかでは叶わなかった指切りの約束を果たすように。



 これは違う世界の話。




 二人が約束をすることのできた世界の話。




 If(もしも)の一つ……

 

 


 リリス×ピエリ番外 おわり

今日はここまでで。

 番外は一気に投降し終えるのがほとんどになると思います。

 リリスとピエリは、こんな感じの健全な生涯友人な関係を続けてほしいと思った。

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

レオン「……どうして、こうなるんだい、姉さん」

カムイ「いえ、風の噂でレオンさんがサクラさん達に社交ダンスを教えているという話を聞いて、私も教えていただこうと思って」

サクラ「カムイ姉様も、その、踊れないんですか? とてもそうは見えませんけど」

カムイ「はい、何分初めてのことですから。サクラさん達と同じ、初心者ですね」

レオン「姉さんが初心者なのも、うまく踊れないことも分かったよ。その、頼りにしてくれるのはうれしいから」

カザハナ「レオン王子って、カムイ様には優しいよね」

ツバキ「そうだねー」

レオン「……それはもういいんだ。それより問題なのは……」

シャーロッテ「うふっ、お邪魔させてもらってますね。レオン様」

ハロルド「ここに来るのは二度目になるが。今回は道中事故も無くこれてよかったよ、はっはっは」

モズメ「ハロルドさん、少し静かにしたほうがええで。余所の家なんやし」

ラズワルド「舞踏会か、可愛い女の子といっぱい踊れるのが楽しみで仕方無いね。早く舞踏会の日にならないかな」

レオン「なんで、連れがいるのかな姉さん?」

カムイ「はい、私が選んだ舞踏会の参加者ですよ。踊りの経験はラズワルドさんくらいらしいので……」

レオン「だったら、ラズワルドに教えてもらうべきじゃないか。わざわざ僕が教える必要はないと思うんだけど」

カムイ「いえ、ある意味、サクラさん達と顔合わせをしておきたかったんです」

サクラ「か、顔合わせですか?」

カムイ「はい、サクラさん。私が勝手に進めてしまった今回の舞踏会の件ですけど、参加することにしてくれたんですね」

サクラ「は、はい。私にできることをしたいって、そう思って、ご迷惑だったでしょうか?」

カムイ「いいえ、そんなことはありません。サクラさんは一度決めたら引き下がらない頑固なところ、ありますから」

サクラ「そ、そんなこと……ううっ、そうかもしれません」

カザハナ「でも、あたしたちとそっちが連れて行くのと顔合わせすることに意味なんてあるのかな?」

カムイ「少しでも知り合いは多い方がいいです。レオンさんのことですから、その点の手まわしはすでにされているでしょうけど、会場で常に傍にいられるというわけでもありませんから」

ツバキ「確かにそうだねー。レオン王子も多くの人たちから一曲、申し込まれる立場にいると思うから」

レオン「わざわざ、そのことを察して?」

カムイ「少しはお姉ちゃんらしいこと、できたでしょうか?」

レオン「……はぁ、そういうことなら別に構わないけど。でも僕一人で残りのみんなに踊りを教えるのは、無理があるよ」

カムイ「そこは気合いでどうにかしてもらうしかないですね。大丈夫、レオンさんなら何とかできますから」

レオン「無理だよ……僕に、こんな人数どうにかできるわけない」

カムイ「レオンさん……」

ラズワルド「どうしたんだろう。レオン様がこんな風に弱腰な発言をするなんて……」

シャーロッテ「大丈夫ですよぉ、レオン様ならきっと教え切れますから。私にも――」

レオン「……あの……さ。君たちは僕の足を踏まないと約束できるかい?」

ハロルド「? 足を踏むというのはいったい……」

サクラ「あっ」チラッ

ツバキ「……あー」チラッ

カザハナ「……な、なによ。は、初めてやったんだから、大目に見てよ」

レオン「初めてのことだって? あんなに的確に親指を踏みつけて、わざと狙ってるんじゃないのかい?」

カザハナ「あ、あたしだって好きでやってるんじゃないよ。……悪いとは思ってるけど、うまくいかないんだから仕方ないじゃん」

サクラ「ふ、二人とも落ち着いてください」

ツバキ「そうだよー。いきなり俺ができたみたいに出来るわけじゃないんだから、無理に動く必要なんてないんだよカザハナ」

カザハナ「そ、それはそうだけど。なんでこんなにうまくいかないのかな」

カムイ「………思った以上に溶け込んでますね」

モズメ「ほんまやね。国同士が喧嘩しとるなんて悪い夢みたいや」

シャーロッテ「……」

シャーロッテ(社交ダンスはほとんど踊れるんだよなぁ。王城兵になる前にいろいろと仕込んでおいたし、レオン様に教えてもらってあわよくばとか思ったけど、ここはできる女を演出して点数稼ぎが良さそう。それに、人に教えることができて、気配りができるところを見せて、レオン様からの印象アップ……これしかないわ!)

シャーロッテ「あのぅ、レオン様」

レオン「ん、シャーロッテだよね。何かな?」

シャーロッテ「よろしければ、私がサクラ様たちに教えて差し上げますよぉ」

レオン「えっ、だってシャーロッテ、君はさっき……」

シャーロッテ「あれは、私にも――お手伝いできることがありましたら、手伝わせてくださいって、言おうとしたんですよぉ。私、これでも社交ダンスは一通りこなせるんですぅ」

レオン「え、そうだったのかい?」

シャーロッテ「はい、女性の嗜みですからぁ」

シャーロッテ(よっし、これでレオン様と一緒に教える側に回って、みんなにてきぱき教えられれば、さらに好感度アップが狙える。頑張るのよ、シャーロッテ!)

カザハナ「じょ、女性の嗜み……」ペタペタ

サクラ「カザハナさん? そんなに胸を触ってどうしたんですか」

カザハナ「な、なんでもないですよ、サクラ様」

レオン「そうか、となると。僕にラズワルド、そしてシャーロッテの三人が教えられるってわけだね。よかったよ」

カムイ「ああ、そうでしたねラズワルドさんがいましたね」

ラズワルド「えっ、カムイ様、僕のこと忘れてたんですか。ひ、ひどい」

カムイ「冗談ですよ。あともうひとつなんですが、舞踏会前日までここに滞在してもよろしいですか?」

レオン「いきなり飛躍するね。でもサクラ王女達も知り合いが増えたほうがいいとは思う。それに、後々それを指摘されても舞踏会で会ったとすれば問題ないだろうしね」

カムイ「そういうわけです。ご迷惑を掛けるかもしれませんが、少しの間よろしくお願いしますね」

レオン「はぁ、調子がいいんだから。それで踊りの練習についてだけど……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シャーロッテ「………」

サクラ「そ、その、よろしくお願いします。シャ―ロッテさん」

カザハナ「……よろしく」

モズメ「シャーロッテさん、よろしくたのむわ」

シャーロッテ「……なんで?」

サクラ「?」

シャーロッテ「なんで女子と男子で別れることになってんだよ、おいっ!」

カザハナ「えっ!?」

モズメ「シャーロッテさん、落ち着いて」

シャーロッテ「あらやだっ、ごめんなさい。持病の発作が起きちゃったみたいですぅ」

サクラ「え、そうなんですか。シャ―ロッテさん、ちょっと失礼しますね」ペタッ

シャーロッテ「えっ?」

サクラ「熱はないみたいですね。あの、教えてもらおうって矢先なんですけど、無理はされなくてもいいですよ」

シャーロッテ「……大丈夫ですよぉ。ふふっ、サクラ王女はやさしい人なんですねぇ。私、これでも暗夜の兵士なんですよ?」

サクラ「今の私には関係ないことです。それにもう、私とシャ―ロッテさんはお知合いなんです、その、何かあったら私とても悲しいから」

シャーロッテ「……」

サクラ「あ、あの」

シャーロッテ「ありがとうございますぅ。舞踏会でちゃんと踊れるように、私がきちんとお教えしますから」

サクラ「はい。えっと、その、よろしくお願いしますね。シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「さんは付けなくても大丈夫ですよ。それじゃ……サクラ王女、一緒に一度踊ってみましょう?」

サクラ「は、はい。その、おねがいします」

シャーロッテ「カザハナさんと、モズメさんは、ちょっと見ててくださいね」

 ♪~ ♪~

カザハナ「……サクラもやっぱりうまい。……あたしだって、うまく出来ると思ったのに……」

モズメ「あ、あの……」

カザハナ「んっ?」

モズメ「こうやって話するんは初めてやな。ちょっと、横ええかな?」

カザハナ「うん、いいよ。どうぞ」

モズメ「あんがと……」

カザハナ「……突然で悪いんだけど、あなたはさ。意味がないかもしれないことがあったとしたら、どういう風に考える?」

モズメ「……意味のないこと?」

カザハナ「うん……あたし、刀は誰にも負けるつもりないよ。実際の強さとかそういうのは置いてね、情熱っていうのかな。そういうのだったら誰にも負けたくない。サクラ様を守るために、あたしの刀はあるから」

モズメ「……」

カザハナ「だからさ、突然、違うことを出来るようになれって言われたら、同じように頑張るようにはしてる。今回の舞踏会の社交ダンスだって、早く出来るようになりたいって思ってる。思ってるのにさ、レオン王子の足はいっぱい踏みつけちゃうし、ツバキはすぐに慣れちゃうし、サクラも見たところ全然問題ないからさ……。あたしが出来るようになって、意味があるのかなって」

モズメ「せやな。意味が無いことがないわけじゃないのはわかるわ。あたいも村にいたとき、意味のないこと良くやっとたから」

カザハナ「……」

モズメ「でも、カザハナさんが言うてることは、意味のないことやないで。だって、カザハナさん、意味があるのかなってあたいに聞いてるから」

カザハナ「それは、だってみんな出来てるのに。あたしだけできないのは悔しいし。それに……レオン王子に下手くそだって言われたのが一番腹が立つから」

モズメ「ふふっ。なら意味あるで。正直、あたいが一番これを習っても意味のない人間だから。あたいは貴族なんて興味ないし、この戦いが終わって暮らすなら、前みたいに村でのんびりとした暮らしがしたいって思ってる。こんな社交ダンスなんて覚えても、畑は耕せへんから」

カザハナ「社交ダンスをしながら、畑を耕せばいいんじゃない?」

モズメ「カザハナさん、それはあかんわ。せっかく耕した場所、また踏んで固めてまうやん」

カザハナ「そ、それもそうか」

モズメ「でも、あたいがカムイ様に選ばれてここに来たのは、こうやってカザハナさんやみんなとお話しするためやって考えら、意味のないことじゃないって思えるんよ」

カザハナ「……そ、そういう風に考えるんだ。なんだか恥ずかしくなってきた」

モズメ「そ、そうやね。でも、カザハナさんもカザハナさんで目標があるんやから、この練習には意味がある。あたいはそう思うで」

カザハナ「…がんばれば、あいつの足を一回も踏まずに踊り切れるようになるのかな?」

モズメ「なら、カザハナさんとあたいで勝負せえへん?」

カザハナ「勝負?」

モズメ「せや、先にどっちが踊れるようになれるか」

カザハナ「あたし、もう練習してるんだけど」

モズメ「別に構わへんよ。だって、カザハナさん、全然踊れてないって言ってるから、ハンデにもならんやろ?」

カザハナ「ううっ、結構ズバッと言うのね。あなた」

モズメ「そうや。あたい負けるつもりなんてあらへんよ」

カザハナ「……そういうつもりなら受けて立つわ。えっと、モズメさん」

モズメ「さん付けせんでええよ。その、さんで呼ばれると背中がくすぐったいんよ」

カザハナ「そう、それじゃモズメ。勝負ね、どちらが先に一曲踊り切れるか」

モズメ「ふふっ、カザハナさん。その意気や、って言ってもあたいうまく踊れるかわからへんのに、こんな勝負仕掛けて大丈夫やろか?」

カザハナ「ふふんっ、もう勝負は始まってるから。あたし、結構ツバキとレオン王子が踊ってるの見てたから、資格的な経験値は多いよ」

モズメ「思ったよりも、結構ハンデあるみたいやな」


シャーロッテ「うん、少し不安な場所もありますけど、これならすぐに踊れるようになりますよぉ」

サクラ「は、はい。そのシャ―ロッテさん、教えるのすごく上手なんですね」

シャーロッテ「それほどでもないですぅ。それじゃ、次は……」

カザハナ「それじゃ、モズメ。まずは形覚えてきたら。流れがわからなかったら、勝負も何もないんだから」

モズメ「せ、せやな。え、えっとあたいでええかな?」

シャーロッテ「モズメね。それじゃ、私の手を取ってくださいね。軽く曲に合わせつつ、私と一緒に動いてくださいね」

モズメ「よ、よろしくお願いします」

 ♪~ ♪~

カザハナ(そうだよ。意味がないなんてこと、言っていいわけないよね……)

カザハナ(あたしにだってできるはずなんだから……)






 クルクルクルクル シュタッ!

シャーロッテ「飲み込み早過ぎじゃない?」

モズメ「なんやか、社交ダンスって面白くて楽しいもんやな」

カザハナ「」

サクラ「カザハナさん?」

カザハナ「」

 今日はここまで

 モズメさんは数回の練習でコツをつかめる気がしてならない。
 サクラとシャーロッテって、仲良くなれそうな気がするんだよね
 ピエリリスは親友編もあるよ(ピエリリスだけで三個番外書いていた事実)けど、しばらく後です。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 クルクルクルクルクル シュタ

ラズワルド「ツバキはすごいね。本当にこの前始めたばかりとは思えないくらい踊れてるよ」

ツバキ「そんなことないよー。まだ、ターンも慣れたくらいだし。ラズワルドのほうが華麗に回れてると思うよー」

ハロルド「ううむ、私のはどちらもうまいようにしか見えないんだが。それにしても、ラズワルドくんにこのような特技があったとはね」

ラズワルド「これでも踊りは得意だからね。見られるのは、その慣れてないけど……」

ハロルド「ふむ、マークス様の臣下は腕は立つが、よく女性にばかり声を掛ける軽い男だと聞いていたのでな。少し見直したよ、ラズワルドくん」

ラズワルド「こういうことで見直されても困るんだけど」

ハロルド「で、早速だが私にもレクチャーしてくれないか。君たちのように私も一曲踊れるようになりたいのでね」

ラズワルド「もちろん。それじゃ、ツバキは少し休んでいてくれないかな」

ツバキ「いいよー。それじゃ交代っていうことでー」

ハロルド「うむ、私が踊りの流れを理解するまで、楽にしてくれたまえ」

ツバキ「そうさせてもらうよー。ラズワルドは休まなくていいのかい?」

ラズワルド「大丈夫だよ。それに、教えられるのは僕だけだからね」

ハロルド「よし、ではよろしく頼むぞ。ラズワルドくん」

ラズワルド「うん、それじゃまずは。手をこうやって」

ハロルド「うむ、こうだね」

ラズワルド「そうそう、その感じで。それじゃ、足動かすよ」

ハロルド「う、うむ。うわっ……」

ラズワルド「えっ、ちょっ……」

ドサッ

ハロルド「す、すまない。足が絡まってしまったようだ」

ラズワルド「いや、こういうこともあるよ。踊りを始めたばかりじゃしかたないからさ」

ツバキ「大丈夫かい?」

ハロルド「ああ、なに。今度こそはうまくいくはずだ」

ラズワルド「その自信がどこから来るのかわからないけど」

ハロルド「よし、続きを始めようではないか、ラズワルドくん」

ラズワルド「そうだね。……それじゃ。あっ、靴ひもがほどけて……」

ガシッ

ハロルド「大丈夫かね、ラズワルドくん」

ラズワルド「ああ、ありがとう。靴ひもが切れてるのに気付かなくて、僕の失態だね」

ハロルド「うーむ、やはり私の不運がラズワルドくんに悪い影響を与えている気がする」

ツバキ「そうなんだー。たいへんだねハロルドは」ササッ

ラズワルド「いや、ハロルドの所為じゃないよ。転んだばかりなのに、身の周りを確認しなかったから」

ハロルド「いやいや、これは私の責任でもある。うむ、やはり皆に迷惑を掛けるわけにもいかないから、私は一人で鍛錬に励むことにするよ」

ラズワルド「えっ?」

ハロルド「ラズワルドくんやツバキくんにも迷惑が掛ってしまうからね。なに、心配しないでくれたまえ。舞踏会の会場で恥をかくのは私一人だけだ」

ラズワルド「……ハロルドはそれでいいのかい?」

ハロルド「……よくはないさ。だが、ラズワルドくんの靴ひもが切れたのは、間違いなく悪いことの前触れに違いない。仲間に不幸を与えてしまうような道を選ぶわけにはいかない」

ラズワルド「……困ったな。ハロルドに断られたら、僕は不幸になっちゃうんだけど」

ハロルド「むっ、少し意味がわからないのだが」

ラズワルド「僕はハロルドに踊りを覚えてもらいたいって思ってるんだ。なのに、それを断られるってことは、僕にはその力がないって言われてるようなものじゃないか」

ハロルド「ううっ、だが、私の所為で色々と苦労が増えるかもしれない」

ラズワルド「もともと、初めての人に教えるんだだから、苦労があるのなんて当たり前だよ。それに今度は靴ひもの心配はいらないよ。ほら、ちゃんと結んである」

ハロルド「……ラズワルドくん」

ラズワルド「大丈夫。ハロルドもちゃんとしたステップを刻めるくらい、教えてあげるからさ」

ハロルド「私の気遣いは、君の優しさを曇らせるようなものだったようだ。本当に申し訳ない」

ラズワルド「気にすることなんてないよ。それじゃ、もう一度最初から始めてみようか」

ハロルド「ああ、どんときてくれたまえ!」

ラズワルド「そうそう、その感じだよ」

ハロルド「うむ、この感じか」

ラズワルド「ああ、これならもう少しで通常の動きにも慣れてくるはずだよ」

ツバキ「ハロルドは体つきがいいほうだよねー。ここから見ても力強そうにみえるからさー」

ハロルド「正義の味方だからね。日夜、訓練に勤しんでいるよ。まぁ、エルフィくんには残念ながら劣るが」

ラズワルド「ははっ、でもハロルドは十分強いはずだよ」

ハロルド「そう言ってもらえると、とてもうれしいものだね。ところで、ツバキくん」

ツバキ「なんですかー」

ハロルド「なぜ、そんな部屋の隅にいるのかね?」

ツバキ「気にしないでだいじょうぶですよ。俺が好きで、ここにいるんですからー」

ハロルド「しかし、これではなんだか仲間外れにしているようではないか。ラズワルドくん、ツバキくんの場所まで踊りながら移動してみよう」

ラズワルド「いきなりだけど、大丈夫かな?」

ハロルド「大丈夫だ。ラズワルドくんがいる以上、大きな問題は起こらないはずだ」

ラズワルド「……そうだね。それじゃ、ツバキのいる場所まで――あっ、っと」

 ドタッ

ハロルド「すまない、ラズワルドくん」

ラズワルド「ううっ、ハロルド。できれば、早く退いてくれないかな。ちょっと重いから」

ハロルド「す、すまない」

ラズワルド「わわっ、ちょっと、そこ変な場所に手当たってるから!」

ハロルド「ああ、すまない」

ツバキ「……どうしよう、すごく不安になってきた」

今日はここまで

 男子は男子、女子は女子で練習しないとね。

 
 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「姉さん、嘘付いたんだね」

カムイ「なんのことですか?」

レオン「とぼけないでしょ、全然踊れるじゃないか」

カムイ「ええ、そうですね。でもターンはまだまだ苦手ですし、それに私に進んで教えるって言い出したのはレオンさんのほうじゃないですか」

レオン「それは……そうだったね、ごめん」

カムイ「謝らないでください。明日からはサクラさん達に合流させてもらいますから、レオンさんもツバキさんたちに合流することになるでしょうし」

レオン「そうだろうね。で、今日だけ嘘を吐いた理由って何かな」

カムイ「はい、その、クリムゾンさんの件についてです。皆さんの前で聞くわけにもいきませんでしたから」

レオン「……御免姉さん。僕は力になれなかった。色々と調べられることは調べたけど、何の痕跡も得られなかった。ごめん」

カムイ「そうですか……。レオンさん、気になったことなどはありませんか?」

レオン「気になったこと?」

カムイ「ええ、この話を最初レオンさんに持ってきたのはアクアさんだったんですよね?」

レオン「そうなるね。エリーゼと一緒に来てくれたときに話してくれたから……」

カムイ「マクベスさんと関わりのある臣下がレオンさんを尋ねに来たことはありますか?」

レオン「……その点は多くの人に確認を取ったけど、マクベスと関わりのある臣下が、クリムゾンの滞在期間中に来たことはないって言っていた。だからあやしい人物はいなかったってことになる」

カムイ「あやしい人物がいないとなると……あまり考えたくはありませんが」

レオン「姉さんは内通者がいるって考えているのかい?」

カムイ「悪魔でも可能性ですよ。だけど、そう考えるとアクアさんに白羽の矢が立ってしまいます」

レオン「まさかだと思うけど、アクアが姉さんを嵌めたって、本気で思っているわけじゃないよね?」

カムイ「ええ、そもそも、私の失脚を狙うメリットがアクアさんにあるとは思えませんし、私を亡き者にしたいと考えているなら、シュヴァリエで私が暴走したとき、助けるという選択を取ることもなかったでしょう。放っておけば、私は多くを殺して最後に味方に殺される運命にあったでしょうから」

レオン「……そう。じゃあ、誰が内通者だって思ってるんだい?」

カムイ「そうですね。この話を聞いたことのある人物、全員をあげれば私、アクアさん、レオンさん、サクラさん、カザハナさん、ツバキさんのいずれかになりますけど……」

レオン「ちょっと待ってよ姉さん。サクラ王女たちはこの屋敷から外に出たことはない、それにマクベスの臣下たちがここを訪れた形跡がないって言ったじゃないか」

カムイ「はい、だからサクラさん達が内通者という可能性は、捨ててもいいんです。で、そうなると私とレオンさんとアクアさんの三人だけがになってくるわけなんですけど……。正直、内通者などいないという状態になってしまいます」

レオン「あまり言いたくはないけど、僕に白羽の矢は立たないのかい?」

カムイ「そうですね。その可能性が一番濃厚でもありますから、アクアさんの話を聞いてマクベスさんに密告した。マクベスさんもレオンさんから来た話ですから無碍にすることはないでしょうし」

レオン「……じゃあ、なんで外すんだい。今一番裏切り者とも呼べる立場に僕はいるらしいのに」

カムイ「そうですね。確たる証拠はありませんが。あの日、私が捕らえられた日にマクベスさんはアクアさんが内通者だと言っていました。でも、もしもレオンさんが内通者だとわかっているのであれば、たぶんあんな通路じゃなくて、みんなの待っている部屋で私を捕らえたと思うんですよね」

レオン「……」

カムイ「そして、私にレオンさんが協力してくれたことを告げてくるはずですよ。それができなかったのは、たぶんアクアさんが内通者であるという情報しか知らなかったからなんじゃないかって思うんです」

レオン「それじゃ、まるでマクベスも内通者の正体を知らないみたいな言い方じゃないか」

カムイ「そこが不気味なところです。マクベスさんが私に対する疑念を持っていることを知っていて、かつクリムゾンさんが私に会いに来たこと、それを不審に思ってアクアさんがレオンさんに相談をしたことを知っている人物と言うことになりますから、そう考えるとやっぱり私たち三人の誰かとしか考えられないんです」

レオン「でも、それは」

カムイ「はい、私はレオンさんもアクアさんのことも信じていますから。それはないと思いたいです」

レオン「姉さんの自作自演っていう可能性は?」

カムイ「それができるんだったら、シュヴァリエでの暴走も私は自分の意思で行ったことになりますね。いや、確かに私は私の意思で人を殺したんですから、変わらないことかもしれません」

レオン「……ごめん、肝心な時に僕は何の役にもたてなかった……」

カムイ「いいえ、レオンさんはサクラさん達を守ってくれてるじゃないですか。私にとってはとても助かっています」

レオン「……姉さん。その、マクベスに情報を漏らした誰かは、また何かしてくるはずだよ」

カムイ「ええ、どういうものかはわかりませんがいずれはそうなるかもしれません。でも目的がわかりませんね」

レオン「……そうなんだ。僕たちを仲違いさせたかったような節は見られるけど、正直それをして何の得があるのか、それがわからない」

カムイ「そうですね。アクアさんが私を売ったという話でしたから、でも、それは杞憂に終わりましたし。となると、やはり私の失脚というのが一番の狙いだったんでしょうか?」

レオン「僕はそうだと考えるよ。というか、それくらいしか思い浮かばない」

カムイ「そうですね……。やはり面白くないものなんでしょうか?」

レオン「そういう人たちにとってはとても面白くないことだと思うよ」

今日はここまで

 レオンとカムイは踊りながら会話していると考えると、結構シュールな場面だなって思った

レオン「どちらにせよ。姉さんも気をつけるんだよ」

カムイ「それはレオンさんも同じことですから。それに、今はレオンさんの方が危険な状態かもしれませんから」

レオン「わかってる。もう、国の内側で起きてる問題は終息する……。サクラ王女たちがこの先どうなるか、正直予想ができない」

カムイ「予想できない方がいいこともありますよ」

レオン「不確定なことを背負ってこの先を進めって、姉さんは言うのかい?」

カムイ「今まで、私は先を予想してそのように進んできましたけど。自分の思ったとおりに物事が進むように願うのは、筋が違うんですよ」

レオン「なら、何も考えず漠然と待ってるのが得策だって、姉さんは言うのかい」

カムイ「……まさか、それなら流されていた方が百倍幸せですよ。言われるまま、支持されるまま、そうあればいいんですから。でも、それに抗うことを決めたから、私はここにいるんですよ?」

レオン「……姉さんはどうあろうとしているんだい」

カムイ「ふふっ、決まっています」

カムイ「変わりませんよ。考え続けることをやめるつもりはありません。でも、考えた先はもう違います」

レオン「考えた先?」

カムイ「私は、それを必ず引き寄せてみせます。予想して流れを読むより、私にできる全てを尽くしてでも」

カムイ「だから、レオンさん。サクラさん達のことよろしくお願いします。私にできることは、私で何とかして見せますから」

レオン「……そう、わかったよ。姉さんのお願いだし、断ることもないからね」

カムイ「ええ……。ここでターンでしたね?」

 クルクルクル コテッ

レオン「……考えてるわりには、すぐに転ぶんだね」

カムイ「おかしいですね。こんなはずじゃなかったんですけど……。もっときれいに決まるとばかり……」

レオン「理想と現実の壁くらい考えてよ。さっきの言葉が突然薄っぺらく感じられちゃうじゃないか」

カムイ「ふふっ、弟の前では少し賢いお姉さんを演じたくなるんですよ。実際は駄目なお姉さんですね、これでは示しが付きません」

レオン「……駄目な姉さんでもいいと思うけど」

カムイ「? レオンさん」

レオン「いや、なんでもないよ。それじゃ、もう少し練習する?」

カムイ「はい、よろしくお願いします」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「で、一通り見てもらったみたいだけど、どうだった?」

ラズワルド「そうですね、ハロルドは初めてだけど、この調子なら本番までには形になるはずだよ」

ハロルド「ラズワルドくんのマンツーマンレッスンで、私も今日だけでステップを軽く刻めるようになったよ」

ツバキ「そうだねー」

ハロルド「そのツバキくん。なぜ私から距離を取ろうとするんだね」

ツバキ「いや、ハロルドのことが嫌いってわけじゃないんだ。ただ、近くにいると碌なことがなさそうだなーって」

ハロルド「ぐっ」

ラズワルド「大丈夫だよ。今度の練習はツバキに見てもらう予定だからさ」

ツバキ「……え、何言ってるのかなー?」

ラズワルド「ツバキはほとんど出来てるみたいだからね。僕が第三者視点でみて、少しおろそかになってる部分を指摘するべきだと思ったらさ。一緒にハロルドと踊れば、ハロルドも上達して一石二鳥だよ!」

ハロルド「流石ラズワルドくんだ。というわけでツバキくん、明日の練習ではよろしく頼むよ」

ツバキ「」

レオン「それで、女性陣のほうはシャ―ロッテが見てくれてたんだよね。サクラ王女とカザハナがどれくらいできるかはそれなりにわかってるけど、モズメは今日が初めてだったんでしょ?」

シャーロッテ「見た中だとモズメさんが一番上達が早かったですよぉ。ターンも全部できちゃうくらいになりましたから」

レオン「へぇ、すごいじゃないか」

モズメ「いややわ、シャーロッテさんの教え方がうまかったおかげやから……」

シャーロッテ「謙遜し無くても大丈夫、筋がいいんですよぉ。正直、数日で教える側に回れるかもしれませんよぉ」

モズメ「そ、そういうわれると照れてまうわ……」

カザハナ「……」

モズメ「あ、あの、カザハナさん」

カザハナ「なによ?」

モズメ「ごめんなさい、約束した直後なのに……」

カザハナ「いいのよ。どうせ、どうせあたしなんて……盆踊りしてるほうが似合ってる一般兵だから。みんなが華麗に社交ダンスをしてる横で、私だけ盆踊りしてればいいだけだから……」

サクラ「だ、大丈夫ですよ。まだ時間はありますから」

レオン「そういえば、サクラ王女はどんな感じだい?」

シャーロッテ「あ、サクラ様は順調ですよぉ。ふふっ、白夜で舞踊というのを嗜んでいただけあって、モズメさんほどじゃないですけど、飲み込みが良かったです」

サクラ「ほ、ほんとうですか。あ、ありがとうございます。……あ、その、カザハナさん」

カザハナ「……サクラ、よかったね。うん、やっぱり、サクラも才能あるんだから、うん、うん……うん」

レオン(カザハナもあんな恨めしそうな笑みを浮かべるんだな)

シャーロッテ「その、カザハナさんだけ、壊滅的ですぅ」

レオン「……そうか。姉さんはターンだけ重点的にやれば良さそうだから、女性陣に加わってもらう形にしようと思うけど。いいかな?」

カムイ「はい、ふふっ、レオンさんとのダンス。楽しかったですよ」

レオン「……まぁ、僕も楽しかったよ///」

サクラ「ふふっ、レオンさん。本当にカムイ姉様のこと大好きなんですね」

レオン「サクラ王女!? 何言ってるんだい、わけがわからないよ///」

サクラ「顔真っ赤です。いつものレオンさんじゃないみたいです」

レオン「ううっ」

カザハナ「……私と踊ってるときは怒り心頭な癖に……」

シャーロッテ「……」

レオン「それじゃ、明日からは男性、女性で別れて練習を――」

シャーロッテ「あのぉ、レオン様。すこしいいですかぁ?」

レオン「なんだい、シャーロッテ?」

シャーロッテ「流石に私で四人を見るのは、少し辛いなぁって」

レオン「そうかい? それじゃ……」

シャーロッテ「そこでなんですけど」ガシッ

カザハナ「えっ? ちょ、腕引っ張――」

シャーロッテ「カザハナさんのダンスレッスンをレオン様に頼めないかって思って」

カザハナ「ちょ、いきなり何を言って、あ、あなた」

シャーロッテ「シャーロッテって呼んでください」

カザハナ「シャーロッテ。一体どういうつもりよ」

シャーロッテ「どういうって、踏まれる私の身になれよ」

カザハナ「うっ、そ、それは……」

レオン「……シャーロッテ。もしかして、君も」

シャーロッテ「はい。すごいですよね、的確に足を踏んでくるんです」

レオン「痛かったかい?」

シャーロッテ「はい、すっげー痛かったですぅ」

カザハナ「……悪かったわね」

シャーロッテ「でも、動きはすごくいいんですよ。少しずれてるだけだから、そこさえ直したら、ぎゅぎゅんって伸びるって思うんです」

カザハナ「そ、そうなの?」

シャーロッテ「でも、私も足を踏まれつづけるのは辛いですぅ。教えられる方はラズワルドさんもいますけど……」

ラズワルド「僕は大歓―――」

シャーロッテ「いきなり初対面の男性と踊るのは抵抗がありますから、ここはずっと過ごしてきたレオン様が一番いいかなって」

レオン「……はぁ、そうだね。確かに女性の足が青痣だらけになるような事態は避けた方がいいね」

シャーロッテ「心配してくれてありがとうございますぅ」

カザハナ「ちょ、ちょっと。何話を勝手に進めてるのよ、あたしは……」

レオン「……嫌なら別に構わないよ。だけど、サクラ王女たちはやれることをやってる」

カザハナ「それは、そうだけど……」

レオン「それにシャーロッテが見抜いてくれたカザハナの特色があるんだ、僕には見えてなかったことだからね、それを踏まえて僕もカザハナが上達できるようにサポートはする。あとは、カザハナ次第だよ」

カザハナ「……足、結構踏むよ」

レオン「痛いだろうね」

カザハナ「転ぶかもしれないよ」

レオン「鳩尾に肘が来ないことを祈ってるよ」

カザハナ「ターンであんたの腕、グルってしちゃうかもしれないよ?」

レオン「どこまで、僕に心配要素を告げれば気が済むのかな?」

カザハナ「だって……、あたし壊滅的だから……」

レオン「……君はサクラ王女を一番大切に思っている臣下なんだよね?」

カザハナ「それは、そうだよ!」

レオン「なら、できない現実から逃げてないで。立ち向かうべきところだよ、ツバキはもともと天才肌で、サクラ王女は舞踊の鍛錬がある。スタート地点が違うのは当り前のことだよ」

カザハナ「……だったら」

レオン「諦めるのかい? はぁ、だらしないね」

カザハナ「なっ、言ってくれるじゃない! いいわ、あんたの足が青痣で真っ青になるまで踏みまくってやるんだから」

レオン「そうかい、なら、僕はその足をひょいひょい避けるだけだよ。さすがに二度目はもらわないからね」

カザハナ「今に見てなさいよ。あんたが見とれるくらい、きれいに踊り切ってやるんだから」

レオン「そうかい、楽しみにしてるよ」

サクラ「カザハナさん、うまく乗せられちゃってます。でもやる気が出たみたいで良かったです」

シャーロッテ「カザハナさんみたいなのは、張り合ってる相手と一緒にした方が、ぐんぐん成長すると思ったんですよぉ」

サクラ「シャーロッテさん、すごいです。これで、カザハナさんも徐々にうまくなっていきますね」

シャーロッテ「はい、そうですね」

シャーロッテ(でも、レオン様の足が真っ青になるのは避けられそうにないんですよねぇ)

今日はここまで

 社交ダンスを極めるSRPGになりつつある。


◇◆◇◆◇

 次回の番外『ヒノカにカムイが奪還されてしまっていたら』でのカムイの性別を決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

 1.男
 2.女

 >>435までに多かった方の性別にしたいと思います。

1

◇◇◇◇◇◇
―白夜王国・イズモ公国―

リョウマ「すまない。ここは戦闘を禁じている中立国であるというのに、俺の無理な願いを聞き入れてくれて」

イザナ「いやいやリョウマ王子、気にしないで大丈夫だよ~。イズモ公国は争い御法度なだけで、来る人々は迎え入れるの方針だからね~。今はリョウマ王子もボクの大切なお客さんだよ」

リョウマ「そう言ってもらえると助かる。白夜王国の王子として礼を言わせてくれ、ありがとう」

イザナ「大丈夫大丈夫~。こんなところでも気を張ってると、もっと大事なところで線が切れちゃうから、今はゆっくり休んで療養しないとね~。これで倒れたら、一緒のお客人も安心しておやすみできないからね~」

リョウマ「……それもそうだな」

イザナ「そうそう、無理はしないのが一番。それにこれから先、選ばないといけないことが山済みなはずだよ」

リョウマ「……ふっ、それは占いによって導き出した助言か?」

イザナ「当たらずとも遠からじってところだよ。助言と言ってもリョウマ王子はすでにそこも踏まえているから、仲間の言葉に従ってここまでやってきたんだから。本来ならしたくなかった行動をとって、そうだよね?」

リョウマ「……俺に残された道があるとすれば、信じ貫くことだけだ。それを貫けと言ってくれた者がいた。それに甘えて俺は……カゲロウとスズカゼを見捨てて白夜に戻ってきた。ただそれだけのことだ」

イザナ「……」

リョウマ「俺にできることは決まっている。そのために戻ってきたのだからな。少ししたら、俺は白夜王国に戻る」

イザナ「なら、今はゆっくりと休まないといけない」

リョウマ「わかっている……。一つ、聞いてもらいたいことがある」

イザナ「なにかな?」

リョウマ「これはイズモ公国公王へ白夜王国の王子としての願いだ。無碍にするのも、どうするのかもすべて任せる」

イザナ「とりあえず、言ってもらいたいかな。ボクへのそのお願いっていうのを」

リョウマ「ああ、そのことだが―――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

サイゾウ「………」

???「おやおや、何時も主君に付き添っているであろうあなたのような方が、ここで一人佇んでいるというのは珍しいこともあるものですね」

サイゾウ「……今、リョウマ様はイザナ公王とお話をされている。ただそれだけのこと、話せることならばリョウマ様が話してくれるだろう。俺が耳にしなくてもよい話なら、口を開かれることはない、ただそれだけのことだ」

???「なるほど、五代目サイゾウと呼ばれる方ではあります。好奇心はなんとやらということがありますが、やはり主従には厳格なのですね」

サイゾウ「サイゾウの名は伊達や酔狂ではないということだ、アサマ」

アサマ「そのようですね。しかし、お互いどうにか生きて白夜の地を踏むことができましたが、ここも大変陰湿な場所へと様変わりしてしまったものです。人というのはどうしてこうも、波に支配されてしまうのでしょうか?」

サイゾウ「そうかもしれないな。すでにリョウマ様が守ろうとしていた白夜は、その本質を大きく変えてしまっているのも確かだ」

アサマ「ほう。先ほどリョウマ王子への忠誠心を口にした臣下の言葉とは、思えませんが」

サイゾウ「確かにそうかもしれん。だが、お前も白夜は変わったとこぼしたばかりだろう?」

アサマ「そうですね。今はこのイズモ公国に身を置いていますから、嫌でもわかってしまうものですよ。いやはや、ここから見れば白夜に漂う暗夜に対する憎悪というのは、一種の疫病に他なりません。修行を始めたばかりの私、いやそうですね、子供でもその異様さに泣きだすほどでしょう」

サイゾウ「そこまでのものか。ふっ、神を信じぬ僧に言われてしまっては、説得力もケタ違いだな」

アサマ「まぁ、そう思わざるを得ません。それを認めることも、神の思し召しでしょう」

サイゾウ「ふん、……それで、ヒノカ王女の容体はどうだ?」

アサマ「傷は大したものではありませんよ、すぐにふさがる程度の傷です。しかし、心の傷はもう短時間で治せるものではないでしょう」

サイゾウ「……オロチとユウギリは、予定地に現れなかったそうだな」

アサマ「ええ、ヒノカ様はそのことを口に出してはくれませんが、お二人は戦死なされたと考えていいでしょう。そして、もう白夜へ戻ってきてしまった以上、助けに帰るという選択肢はないのですから」

サイゾウ「そうだな……」

アサマ「それを認めたくないからこそ、ヒノカ様は口を閉ざしているのかもしれませんが、すでに、それも含めて疫病に蝕まれているのかもしれません。この私が暗夜を怨んでしまっているように」

サイゾウ「ほう、ならばお前も疫病にその身を蝕まれているということにならないか?」

アサマ「認めたくはありませんが間違いないでしょう。私が仕えてきたヒノカ様は、もう疫病の虜となってしまっていますから……。それに私も魘されているのでしょう。私が仕えてきたヒノカ様は……そうですね、優しさの一方通行のような方でしたが、今ではその面影もありません。まるで別人と言ってもかごんではありません。そして、それを見て闇に私も触れて戻れなくなっているのやもしれません」

サイゾウ「俺もいずれ、その疫病に侵され、狂い落ちて行くのかもしれない。本当なら、俺は今すぐにでも二人を探しに行きたいと思っているが、それをどうにか留めている」

アサマ「話は聞いています。フウマ公国に洋上で襲撃されたと……」

サイゾウ「……カゲロウとスズカゼがフウマの船上に乗り移り、時間を稼ぎ俺とリョウマ様は難を逃れた。二人がどうなったかはわからない」

アサマ「そうですか……。フウマ公国をタコ殴りにしていなかったことが、裏目に出てしまったようですね。フウマはこれから白夜に攻め込んでくるのかもしれません」

サイゾウ「強硬派の連中にとっては、フウマ公国のことなど算段にも入っていなかっただけのことだ。リョウマ様は後続で白夜に戻るお前たちのことを考えて、近海を航行するルートを取った」

アサマ「……」

サイゾウ「嫌な話、見事に網を張っていたフウマの船舶と出くわして戦闘状態に入った。結果的にこれが最良の判断だったかどうかは、俺にはわからない」

アサマ「結果論で言えば、私たちは優雅に帰ってこれたということはありますが、そうですね。それをしていなくてもそうだったかもしれませんね」

サイゾウ「ふっ、そう言うと思ってはいた。だが、あの戦いの場でカゲロウもスズカゼも臣下としての任を果たした、リョウマ様の命を守ることとを優先したように、俺は二人の意思を継ぎ白夜王国までリョウマ様をお連れする。そうでなくては、二人に顔向けできない。疫病に身を窶すのはそれが終わってからでも遅くはない。

アサマ「終えてからは、身を窶すということですか?」

サイゾウ「それが成すべきことをした先にある俺の決断、ただそれだけのことだ」

アサマ「……」

サイゾウ「俺は戻ることにする、そろそろリョウマ様も話を終えたころだろうからな。また護衛を再開する」

アサマ「そうですか。貴重なお時間を取らせてしまいましたね」

サイゾウ「気にする必要もないことだ。もしかしたら、白夜に付いた後には、話すことが二度とないかもしれんからな」

アサマ「………それもそうですね」

サイゾウ「そういうことだ。ではな」サッ

アサマ「……はぁ、まさか、開戦当初からこんなことになるとは思いもしませんでした」

アサマ「怨み等というものとは無縁な人生だと思ってきましたが……。やはり、私もなんだかんだで人の子なのでしょう。私も今では神を信仰する存在ではなくなってしまったようですから」

アサマ「これは罰を天に任せるべきものではなありません。私自身で、御仏の元に送って差し上げないと気がすみません」

アサマ「なに……ヒノカ様を変えてしまった代償は高くつきますから。野蛮人の皆さんには覚悟してほしいものです」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

セツナ「……」

ヒノカ「うぅ、ううっ」

セツナ「ヒノカ様?」

ヒノカ「やめろっ、やめてくれ…………」

セツナ「……ヒノカ様。大丈夫ですか? ……すごい熱、新しい布、持ってきますから、待っててください……」

 タタタタタッ

ヒノカ「はぁ……はぁ……オロチ……ユウギリ……」

ヒノカ「……ううううっ」

 タタタタタッ

セツナ「……大丈夫ですよ、ヒノカ様」

ヒノカ「……はぁ、はぁ……んっ」ギュッ

セツナ「……ヒノカ様」

ヒノカ「……ぐっ、うううっ」

セツナ「……ヒノカ様、私はいつもそばにいますよ……」

ヒノカ「……はぁはぁ、ん……」

セツナ「……ヒノカ様」

ヒノカ「うううっ、うううううあああっ」

セツナ「ヒノカ様を苦しめる、悪い夢を射てたらいいな」

セツナ「全部、矢を当てて存在を消してあげられるのに。それに全部消せたら」

「前のヒノカ様に戻ってくれるはず、だよね?」

 今日はここまで

 カゲロウさんはいつも捕まってるけど、捕まってる間は何されてるかわからんなぁ

 番外は男になりましたよ、ヒノカさん。

◇◆◇◆◇◆
―暗夜王国・南東湿地帯―
(シュヴァリエ公国反乱鎮圧直後)

???「来たようじゃな」

バサバサバサッ

???「ええ、どうやらあなたも、ここまでは来れたようですね。すでに市街で死んでしまっていると思っていましたから、再会できてうれしいですわ、オロチ」

オロチ「勝手に殺すでないぞ、ユウギリ。それで……ヒノカ様は?」

ユウギリ「こちらにおりますわ。正直、危ないところでしたから」

オロチ「すまぬ。じゃが、ユウギリならば何とかしてくれると思っておったからのう。わらわは敵に機会を与えられてしまったからのう、戦いを続けるわけにもいかなかったのじゃ」

ユウギリ「そうですか。どちらにせよ、海岸までの道は調べ終えているんですよね?」

オロチ「ああ、ぬかりないぞ。……じゃが、その様子では、ヒノカ様の天馬は」

ユウギリ「……残念ですけど、帰ってくることはありませんわ」

オロチ「そうか……」

ヒノカ「……ユウギリ、オロチ」

ユウギリ「ヒノカ様、気が付かれましたか?」

オロチ「まだ休んでおるのじゃ、もう戦いは――」

ヒノカ「私は……足りなかったのだろうか……」

ヒノカ「カムイへの思いも、純粋な力も、すべて足りなかったのだろうか……」

オロチ「結果だけでいえばそうなるじゃろう。残念じゃが、シュヴァリエは、いいや誤魔化すのは良くないことじゃのう」

ヒノカ「……」

オロチ「ヒノカ様、わらわたちは負けたのじゃ。それは認めなければならぬことじゃ。カムイ様の奪還に失敗し、反乱の後押しも芽生えぬじゃろう」

ヒノカ「ではどうすればよかったんだ……、ここまで来たことが無意味に終わらなかった、そんな可能性があるべきじゃないか……」

オロチ「それを言ったところで、何かが変わるわけではないことくらい、ヒノカ様もわかっておられるはずじゃ」

ヒノカ「だが!」

ユウギリ「ヒノカ様」

ヒノカ「もっと違う、違う形があったはずなんだ。私から、私から家族としての時間を奪った暗夜にカムイがいない、そんな形があったはずなのに。なんで私はそれを得ることができないんだ……」

ユウギリ「……それを言ったところで、今の状況が変わるのですか?」

ヒノカ「……もう私の愛馬は帰ってこない。薙刀の腕も暗夜の王女を倒すには至らなかった。そして、カムイは私の言葉に応えてはくれなかった。これ以上、何が変わるっていうんだ!」

ユウギリ「そうですわね。そう言って動かないままでいるのでしたら、変わらないままですわ」

オロチ「そうじゃな。ユウギリの言葉に乗っかることになるが、ヒノカ様がそのように駄々を捏ねているようでは、暗夜王女にその薙刀が達することもないじゃろう。その間にも、向こうはさらに力をつけて行くじゃろうからのう」

ヒノカ「……」

オロチ「はぁ、わらわの言葉にも無反応とはのう、悔しくないというのか」

ヒノカ「悔しいに決まっている!」

オロチ「……」

ヒノカ「悔しい、悔しいに決まっているだろう……」

オロチ「ぷくくっ」

ヒノカ「?」

オロチ「すまぬ、まさか、こんな簡単に悔しいとこぼすとは、ヒノカ様の刃はまだまだ折れてないと見える」

ユウギリ「ええ、そうですわね。もしもとは思ってましたけど、これなら大丈夫そうですわ」

ヒノカ「お、お前たち!負けた私をからかっているんだろう?」

オロチ「まあ、どう捉えるのかはヒノカ様しだいじゃからのう。どちらにせよ、まだまだ弓折れ矢尽きというわけではないということじゃな」

ヒノカ「? 何を言って――」

ユウギリ「そうですわね、ヒノカ様。天馬武者として歩んできたあなたにこんなことを聞くのはなんなのですが。金鵄に興味は御有りでしょうか?」

ヒノカ「金鵄にか? 興味がないわけではないが……なぜ、そのようなことを聞く」

ユウギリ「わかっているのに聞くのは感心しませんわ」

ヒノカ「……だが、私には金鵄の選び方はもとより、どう駆ればよいのかもわからないんだぞ?」

オロチ「それを教えるためにユウギリがおるのじゃ。わらわもヒノカ様を支えさせてもらおうかのう」

ユウギリ「あら、オロチ。この戦いが終わった時には死んでいる予定ではなかったのかしら?」

オロチ「そうじゃのう、その予定じゃったがすこし繰越じゃな。金鵄に乗って背中から落ちるヒノカ様を眺めるのは中々に面白そうじゃ」

ヒノカ「お、お前たち……私の力になってくれるのか?」

ユウギリ「ええ、この任務を終えた次はヒノカ様の金鵄の教官になりますわ。すぐにでも、戦えるほどに鍛えて差し上げますから、覚悟してくださいませ」

ヒノカ「しかし、私にできるだろうか? これほどまでに弱い私が」

オロチ「何度もいうようで悪いのじゃが、動かなければその弱いヒノカ様のままじゃ。なに、合わないと言ってくれれば、すぐにでもわらわと同じ呪い師を目指そうではないか。遠距離から暗夜の王女を呪うのも一興じゃぞ」

ヒノカ「……すまないな、二人とも」

オロチ「気にすることではないぞ。さて、まずは白夜へと戻ろうぞ。なに、ヒノカ様なら金鵄たちもすぐに気に入ってくれるはずじゃ。そうじゃろ、ユウギリよ」

ユウギリ「ええ、そうですわね」

オロチ「湿地帯を抜けた先の海岸線ほどに、アサマとセツナが船で待っておるはずじゃ………なに、シュヴァリエの反乱がまだ完全に終わっているわけではないからのう、追っ手はあっても待ち伏せなどはさすがに……」

 ピチャン

 ピチャン

 シュオン

 シュオン

 シュオンッ

???「……」チャキッ

???「……」カチャッ

???「……」チャキッ





オロチ「……嫌な予感というのは、どうしてこうも当たるのじゃろうな?」

今日はここまで
 
 敵飛行系ユニットが持ってる翼盾がとてつもなくほしい

ユウギリ「姿が見えませんわね。でも、たしかに、気配はありますわ」

ヒノカ「! この者たちは、まさか……」

オロチ「ミコト様を襲撃したという姿の見えぬ敵というやつじゃな。やはり、あれは暗夜の攻撃であったということで間違いないようじゃのう」

ユウギリ「……今後の予定が決まった直後にこれでは、先が思いやられますわ」

オロチ「なに、任務は船につくまでじゃからな。最後の仕事納め、張り切らせてもらおうとするかのう」

???「……」ダッ

オロチ「ユウギリ、わらわが奴らを引き付けよう」

ヒノカ「オロチ、何を言っている! 先ほどの約束をもう忘れたというのか!?」

オロチ「大丈夫じゃ死ぬつもりなどありはせん。安心してくだされ、ヒノカ様」

ユウギリ「あまり心配されなくても大丈夫です、ヒノカ様。さて、オロチ、任せましたわ」

オロチ「うむ、それでは行くとするかのう!」

 カラカラカラカラ

???「!!!!!!!」ダッ

オロチ「……ユウギリ! 右端のを

ユウギリ「ええ、姿が見えなくとも気配だけ分かれば十分ですわ!」

 パシュッ
 シュオンッ

 グサッ

???「……」ドサッ

ユウギリ「ヒノカ様、しっかり掴まってくださいませ」

ヒノカ「ぐっ、オロチ!」

オロチ「大丈夫じゃ、ほれほれ、わらわはここじゃぞ!」

 カラカラカラカラ シュオン!

???「!」サッ

オロチ「ふっ、さすがにバレバレの攻撃なら避けるじゃろうが、そこが穴じゃ! ユウギリ、そこを抜けよ!」

ユウギリ「さすがですわ。はい、抜けたところで反転して、やあっ!」パシュ!

 ザシュッ

???「……ドサッ」

オロチ「背中がら空きじゃのう。こんなことでわらわはたちを殺せると思うでないぞ」

ユウギリ「……そういうことですわ」パシュッ

???「!」サッ

 ピチャン ピチャン

???「……」カチャ

???「……」ジャキッ

オロチ「また新手じゃと。一体どこから現れたのじゃ!」

ユウギリ「オロチ。追手が迫っていますわ」

オロチ「わかっておる。一度わらわが牽制する、あいての陣形を崩したら、一気に距離を突き放すように動けるか、ユウギリ」

ユウギリ「一撃離脱は得意分野、先制させてもらいますわ」パシュッ

 ザシュ

???「………」ドタンッ

オロチ「簡単に当たるとはのう。しかし、人数が多いが、真中のものを避けさせられれば、それでよい!」

 カラカラカラカラッ

オロチ「そらっ!」

 シュオン

???「………」スッ

オロチ(よし、動くつもりじゃな。それでよい、これほど真正面から撃ち込んでおるのじゃ、ど素人でも避けられるくらいまっすぐにのう。少しでも時間が稼げれば、ユウギリの到着に間に合うはずじゃ)

ユウギリ「オロチ、手を!」

ヒノカ「早く取るんだ!」

オロチ「ヒノカ様、安心するのじゃ。すぐに―――」

 ダッ
 ブチィ
 



 ザシュッ

オロチ「――な、なんじゃ」フラッ ドタッ

ユウギリ「オロチ……くっ」パシュ

 トスッ

???「……」ドサッ

オロチ「まさか、避けずに喰らって攻撃してくるとは。甘く見過ぎていたようじゃ」

ヒノカ「オロチ! ユウギリはやく!」

ユウギリ「わかっていますわ! オロチ、今向かいますわ」

オロチ「ぐっ、深く刺さっておるか、ぐっ……?」

オロチ(なんじゃ、水面が揺れておる?)

 ピチャン
 ピチャン

オロチ「!!!! ユウギリ、来るでない!」

ユウギリ「何を言って、もうすこしで」

オロチ「もう遅いのじゃ」

 シュオン
 シュオン

???「………」

???「………」

ユウギリ「! オロチに手を出さないでいただけますか、あなたたち!」パシュ

???「……」ザシュッ ドサ

 ピチャン

 シュオン

???「………」

ユウギリ「!?」

ヒノカ「なんだ、なんなんだあいつらは、オロチ! 待っていろ、今助けに――」

オロチ「ヒノカ様、すまぬが吉凶通りに物事が進むようじゃ。ユウギリ、ヒノカ様を抑えて合流地点を目指せ!もう、わらわは助からん」

ユウギリ「しかし……」

オロチ「わらわたちの目的を思い出すのじゃ。わらわたちがすべきことは一つ……だけ、それだけじゃろう?」

ユウギリ「………」

オロチ「さっさと行くのじゃ!」

ユウギリ「……ヒノカ様」

ヒノカ「ああ、早くオロチを助け――」

ユウギリ「申し訳ありません!」

 バサバサバサッ

ヒノカ「ユウギリ! なぜ、オロチから離れる。見えない奴らが、オロチに迫っているんだぞ!」

ユウギリ「わかっています」

ヒノカ「ユウギリ。頼む、引き返してくれ、引き返せ!」

ユウギリ「……行きます」

 バサバサッ

ヒノカ「オロチ!」

オロチ「はぁ……んぐっ、うぷぷ、泣きそうな声が聞こえるのう。まさか、こんな風に名を呼ばれることになるとは思わなかったから、いい土産が手に入ったというものじゃ」

ヒノカ「だめだ、諦めないでくれ、私の鍛錬をみると約束したばかりだというのに、諦めるなど、許すものか! 死ぬなど、ここで死ぬなど、そんなことあっていいわけがないんだ!」

オロチ「ヒノカ様………すまない」

???「………」チャキ

???「……」スッ

オロチ「やはり、吉凶通り、わらわの命は……」




 ザシュッ ザシュッ ザシュシュ

 グチャ



 ポタポタッ
 

 ………

ヒノカ「ああ、あああ……」

ヒノカ「お、オロチ……。だめだ、ユウギリ! 戻れ! 今なら、今ならまだ助かるはずなんだ! だからっ!」

ユウギリ「なりません!」

ヒノカ「まだ、オロチは助かるかもしれないんだぞ、みすみすそれを見逃すというのか! 共に母様に仕えてきた仲間なんだろう! まだ、まだ生きて――」

ユウギリ「私の任務は、あなたを白夜に帰すことです。同僚を、オロチを生きて帰すことではありませんわ。ここで、死んでしまったらオロチが命を掛けた意味が消えてなくなってします。このまま、湿地帯を抜け切りますわ」

ヒノカ「私が、私が弱いから、私が弱いから、なにもうまくいかないというのか」

ユウギリ「ヒノカ様の所為ではありません。ここは耐えてください、必ず仇を打てる時が来ますわ」

ヒノカ「ユウギリ……うわああああ」

ユウギリ(オロチ、くっ、敵を甘く見過ぎていたということですわね。それに、あの執拗な姿勢、まだまだ私たちを逃がすつもりは毛頭ないように感じられますわ)

 ピチャン
 ピチャン

???「……」

???「……」

ユウギリ「!? 待ち伏せだなんて、どんな先読みをすればそう動けるのか、知りたいものですわ」

ヒノカ「ユウギリ……」

ユウギリ「心配なさらないでください。必ず合流地点にお連れいたしますわ」

ユウギリ(と言っても、私とヒノカ様が乗っている以上、機動力で負けてしまいますわ。どういうわけかはわかりませんが、縦横無尽に彼らはどこにでも行けるようですから……)

ユウギリ「でも、あの先を越えられれば、湿地帯の節目ですわね……」スッ

ヒノカ「ユウギリ?」

ユウギリ「……。まだ、お前は飛べるのよね?」

 クエエッ

ユウギリ「ええ、まだ一緒にいられるかと思っていましたけど。あなたにすべてを託すほかないようですわ。今まで本当にありがとう」

 バサバサバサッ

ヒノカ「ユウギリ、金鵄に何を言っていたんだ……」

ユウギリ「……」

ヒノカ「やめてくれ、そんな決断をしないでくれ、私は、私に金鵄の駆り方を教えてくれるのではなかったのか? ここにきて、お前まで約束を反故にすると」

ユウギリ「ヒノカ様、この子も私が下りれば動きが幾分早くなります、合流地点はすでに教えてありますから、迷うことなくそこへと連れて行ってくれますわ」

ヒノカ「ユウギリ、私は……」

ユウギリ「弓は置いて行きますわ。後輩にささやかな贈り物になると嬉しいです」

ヒノカ「話を勝手に進めないでくれ、ユウギリ、まだ考え直してくれ。敵は前にしかいないんだ。何とかすれば」

ユウギリ「ヒノカ様、もう追手も迫っているのです。この中で、機動力が劣っている金鵄では、弓に対応できませんわ」

ヒノカ「認めない、認めないぞ」

ユウギリ「……ヒノカ様」

ヒノカ「私は、お前たちを失うために……シュヴァリエに来たんじゃないんだ。カムイを取り戻して、お前たちと一緒に白夜に帰るために、ここまできたんだ。お前まで失ったら私は……」

ユウギリ「……優しいのですねヒノカ様は」ギュッ

ヒノカ「……」

ユウギリ「ミコト様もそう、私のことを心配してくれたことがありますわ。そしてその心配を私は返すことが来ませんでした。あの日、私の見ていないところで、ミコト様は逝ってしまわれたのですから」

ヒノカ「ユウギリ……」

ユウギリ「ですから、こうしてまた誰かに仕え、そして守るために命を掛けることができるのは、私にとってこれほどにうれしいことはないのですわ」

ヒノカ「やめてくれ、おねがいだから、おねがいだから」

ユウギリ「命を掛けて闘う時があるとするなら、今しかありません。ヒノカ様なら大丈夫、私がいなくてもきっと立派な金鵄武者になれますわ」

ヒノカ「ユウギリ、行かないでくれ。私を、私からこれ以上、奪われていくものを見せないでくれ」

ユウギリ「……」

ヒノカ「ユウギリ……」

ユウギリ「ヒノカ様、わずかな間ですが仕えられたこと、光栄でしたわ。……御元気で」パッ

ヒノカ「……ユウギリ!!!!」

 スタッ

???「……」チャキッ

ユウギリ「ごめんあそばせ」ザシュ ブチィ

???「……」ドサッ

ユウギリ「やあああああっ!!!!」

ヒノカ「あんな、数の気配を相手にできるわけなんてない! おい」

 ガシッ

ヒノカ「金鵄よ、言うことを聞いてくれ、頼む、お前の、お前の主がこのままでは死んでしまう。死んでしまうんだ。今すぐ、今すぐにでいい、ユウギリの傍に―――」

ユウギリ「ふふっ、ヒノカ様。その子は私の命令に忠実なんです。だからあなたの命令には耳も貸しませんわ。そして、これが最後の命令ですもの……。いつも以上に張り切ってくれるはずですわ」

???「……」ブンッ

ユウギリ「そんなものですか!?」キンッ

 ザシュッ ドガッ 

???「!!!!」ドサッ

ユウギリ「……近接ばかり、いえ、どこかに弓兵が……!」

???「……」キリキリ

ユウギリ(弓の引く音!?)

???「……」パシュ

ヒノカ「ぐっ!」

ユウギリ「ヒノカ様! あなたたちの相手は、ここにいる私ですわ!」ブンッ

 ヒュンヒュンヒュン ザシュッ ドサッ

 パシュシュ
 
ユウギリ「ぐっ、まだまだ!」ザシュ

???「……」ダッ ブンッ ザシュッ

ユウギリ「はぁはぁ、そうですわ。逃げてる相手よりも、私と戦った方が楽しいはずですもの。さぁ、どんどん掛って来なさい」

???「……」チャキッ

???「…」ジャキッ

ユウギリ「……」

ユウギリ「ふふっ、まったく声をあげたほうに向かってくるなんて、単純な方たちですわね。でも、これで包囲に穴が空きましたわ」

 バサバサバサバサッ

ヒノカ「ぐっ、ゆ、ユウギリ。はやく、こっちに……」

ユウギリ「……ヒノカ様」

ヒノカ「ユウギリ」

ユウギリ「無事に、白夜にお逃げくださいませ。私の役目はここまでですから」

???「……」ダッ

???「……」ダッ

 ザシュッ ポタタタタッ



ユウギリ「……殺しても殺しても、断末魔の一つも、あげないなんて、興醒め……ですわ……」ドサッ


 ザシュツ ドスッ 

 
ヒノカ「あ、あああ」

ヒノカ「ユウギリ……オロチ」

ヒノカ「私は、わたしは……」










ヒノカ「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

◇◇◇◇◇◇
―白夜王国・イズモ公国―

ヒノカ「はっ!」

ヒノカ「はぁ……はぁ……ぐっ、うううっ」

ヒノカ(ううっ、私は、私は……なんでこんなに非力なんだ……

 スーッ

セツナ「! ヒノカ様、目が覚めたんですね」

ヒノカ「……セツナ……」

セツナ「はい。大丈夫ですか、お水、どうぞ」

ヒノカ「んっ、んっ、………あり、がとう」

セツナ「いいえ……。あのヒノカ様、まだ横になられていた方がいいです。リョウマ様からも、ヒノカ様にはできる限り休むようにいうように言われたので」

ヒノカ「……セツナは。なんでこんな私に仕えてくれるんだ?」

セツナ「……ヒノカ様?」

ヒノカ「私は弱くて脆い、そんな人間なのに、どうして私に仕えてくれるんだ?」

セツナ「…どちらかというと、私がヒノカ様に助けてもらってるから。仕えてるって言えるのかな」

ヒノカ「……私に仕えていても、命を無駄にしてしまう。ユウギリもオロチも死んでしまった……」

セツナ「それは、ヒノカ様の所為じゃ無いと思います」

ヒノカ「……私を守るために二人は死んだ……。死んでしまったんだ。これが私の所為じゃないとどうして言えるんだ?」

セツナ「悪いのはこんな争いが始まったことだから、みんなそれに巻き込まれてるだけ」

ヒノカ「……」

セツナ「そんなこと、アサマが言ってた」

ヒノカ「……セツナ」

セツナ「はい、ヒノカさ――」

ヒノカ「……」ギュッ

セツナ「あ、あのヒノカ様?」

ヒノカ「少しの間だけでいい、いいから、このまま、抱きしめさせてくれ……」

セツナ「……」

セツナ(ヒノカ様、震えてる)

セツナ「はい、わかりました。でも、このままじゃ寒いです、布団、入りましょう。あったかい方が、気持ちいいから」

ヒノカ「……ありがとう、セツナ」

セツナ「……褒められた、うれしい」



ヒノカ(どうして、どうして私はこんなに失い続けないといけないんだろう)

ヒノカ(母様も、サクラも、アクアも、白夜の平和だった頃も、ユウギリ、オロチ、……カムイもみんな私の元から消えていく)

ヒノカ「……」

セツナ「スゥ……スゥ」

ヒノカ(いつか―――)

(セツナやアサマさえも、私は失ってしまうというのか)


休息時間 3 おわり

今日はここまで

 下剋上を持っているモブユニットを探して、暗夜ルナティックに潜る日々。
 新しいDLCこないかなぁ


 この先の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター 
 フェリシア
 フローラ
 ラズワルド
 ピエリ
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ

 支援イベントのキャラクターを決めたいと思います。

 >>470>>471

(すでにイベントが発生しているキャラクターで起きた場合はイベントが進行します)

◇◆◇◆◇
進行する異性間支援の状況

1アクア×ゼロ C
2ジョーカー×フローラ A
3ラズワルド×ルーナ C
4ラズワルド×エリーゼ C
5オーディン×ニュクス C
6サイラス×エルフィ C
7モズメ×ハロルド C
8ブノワ×フローラ C

 この中から一つ>>472
(話をしている組み合わせと被った場合は、そのかぶったものの一つ下の数字になります)
 
◇◆◇◆◇
進行する同性間支援

1ジョーカー×ハロルド C
2フェリシア×ルーナ A  
3フェリシア×エルフィ C
4フローラ×エルフィ C
5ピエリ×カミラ C
6エルフィ×モズメ C
7アクア×リンカ B
8ベルカ×エリーゼ C

 この中から一つ>>473

(話をしている組み合わせと被った場合は、そのかぶったものの一つ下の数字になります)

乙でしたー
ヒノカ姉さん白夜主人公してるな
安価ならシャーロッテ

乙 カミラ
王族の中で一人あまり活躍していない空気がいる

アクア

3

◇◆◇◆◇◆

カミラ「ねぇ、シャーロッテ。ちょっといいかしら?」

シャーロッテ「えへへ、カミラ様が私に声を掛けてくださるなんて、どうかしたんですか?」

カミラ「ええ、ちょっとね。この頃、あなたが駐屯地の団長とよく話してるって聞いたから、仲がいいのかしら?」

シャーロッテ「駐屯の……はい、とっても仲良しなんですよ。今日もお弁当を渡してあげたんですぅ」

カミラ「………ねぇ、シャーロッテ。あまり言いたくはないことだけど、その団長はやめておきなさい」

シャーロッテ「もしかして、カミラ様の好みの方なんですか?」

カミラ「ふふっ、天地がひっくりかえってもそれはないから安心して頂戴」

シャーロッテ「ならなんでですか?」

カミラ「……あまり良くない噂を聞いているわ。シャーロッテは知らないかもしれないけど」

シャーロッテ「良くない噂ですかぁ?」

カミラ「ええ、いろいろな女性に手を出してるって、酷い目にあわされた子もいるって聞いているから、ちょっとあなたの耳にも入れておくべきだと思ったのよ」

シャーロッテ「そうなんですか。でも、噂なんですよね?」

カミラ「そうね、悪い噂かもしれないけど……」

シャーロッテ「そうですか。ふふっ、いい男には悪い噂の一つや二つあるものですよぉ。特にお金持ちは」ペロッ

カミラ「えっと、シャーロッテ?」

シャーロッテ「なんでもないですぅ。あっ、そろそろ訓練の時間ですから、失礼しますね、カミラ様」

カミラ「あ、シャーロッテ」

カミラ「……大丈夫かしら? 心配ね」


【カミラとシャーロッテの支援がCになりました】

◇◆◇◆◇◆

ルーナ「……」

ラズワルド「やぁ、ルーナ」

ルーナ「ラズワルド……」

ラズワルド「……どうしたんだい。なんだか気落ちしてるみたいだけど」

ルーナ「ちょっとね……」

ラズワルド「まだ、不安に思ってたりするのかい?」

ルーナ「そう簡単に楽観的になれるもんじゃないわ。たしかにカムイ様について行くことを迷ったりしてないけど……」

ラズワルド「じゃあ、どうして不安なんだい?」

ルーナ「私たち、役に立ててるのかなって、思うの」

ラズワルド「……」

ルーナ「私たちが知っていること、口に出せないことはわかってる。だからカムイ様のためにできる限りのことをしてあげたいって思うのは確かよ。でも、それが結果的にカムイ様の役になっているかは、わからないから」

ラズワルド「ルーナ……」

ルーナ「カムイ様は否定はしないと思う。私たちが役に立ってるって言ってくれるはずだから……。でも、本当なら私たち、戦いを回避するために動くべき立場にいるのに、言われたとおりに戦ってるだけだから……」

ラズワルド「……ルーナはカムイ様の役に立ててないって思ってるってことかな?」

ルーナ「そ、そういうわけじゃないわ。カムイ様の命令には従うし、それが今できることだから」

ラズワルド「だったらそれでいいんじゃないかな。今、僕たちにできることはカムイ様の命令に従うことだけなんだから」

ルーナ「……そうね。ごめん、また弱気になってたみたい」

ラズワルド「いいよ、それに前約束したからね。気が滅入ったりしたら、力になるって。一緒に戦いを続けてきた仲間なんだから、困ったことがあったら力になるのは当たり前だよ」

ルーナ「ラズワルド……」

ラズワルド「それに、元気な時のルーナのほうが、やっぱり可愛いからね。うん、久しぶりにこれからお茶でもどうかな?」

ルーナ「……そういうところ直しなさいよ。まるで成長しないわね、あんた」

ラズワルド「えぇ……」



【ラズワルドとルーナの支援がBになりました】

◇◆◇◆◇◆

ピエリ「カミラ様!」

カミラ「あら、ピエリ。今日はどうしたのかしら?」

ピエリ「ピエリ、カミラ様にまたあれしてもらいたいの。だから来たのよ」

カミラ「あれ?」

ピエリ「あれなの、あーんっていうあれ、またしてもらいたいの」

カミラ「あらあら、嬉しいこと言ってくれるわね。ふふっ、少し待ってて頂戴。おいしい紅茶、準備してあげるわ」

ピエリ「うれしいの! カミラ様、ピエリにいっぱい用意してくれるから大好きなの」

カミラ「ふふっ、可愛いこと言ってくれるのね。サービスでお菓子も付けちゃうわ」

ピエリ「にひひっ、ピエリうれしいの!」

カミラ「でも、あーんしてもらいたいなんて、本当に子供みたいなことをいうのね」

ピエリ「なら、カミラ様はピエリのお母さんなの! お母さんは子供に甘いの!」

カミラ「お母さんね……ピエリのお母様は、私みたいな人だったのかしら?」

ピエリ「うーん、多分そうなの」

カミラ「多分?」

ピエリ「それよりも、お母さん、お菓子ほしいの。あーんしてほしいの!」

カミラ「……ピエリ、あーん」

ピエリ「あむっ、おいしいの! ピエリ、とっても嬉しいのよ」

カミラ「?」

ピエリ「こんな風にいっぱい甘えられらて嬉しいの。カミラ様は、ピエリのお母さんなの!」

カミラ「そう……まだいるかしら?」

ピエリ「うん、いっぱいいっぱいあーんしてほしいのよ」

カミラ「……そう、それじゃ、あーん」

ピエリ「あーん、んーっ、おいしいの!」

カミラ「……ピエリ」

カミラ「この甘え方は、駄目よ」





【カミラとピエリの支援がBになりました】

今日は支援だけになります。本篇は明日で

 昔やってた樹帝戦記を久々にやって難しさにビビった。


 この先の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇
 サクラが話し掛けるキャラクター

 カムイ
 カザハナ
 ツバキ
 レオン
 シャーロッテ
 モズメ
 ハロルド
 ラズワルド

 >>480

◇◆◇◆◇
 社交ダンスの練習をするチーム

1女性ダンスチーム
2男性ダンスチーム
3レオン×カザハナチーム

>>481>>485
 同点の場合は>>486の決選投票で決まる形になります。

 

乙でした

安価ならシャーロッテでお願いします

3

1

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

サクラ「……んんっ……ふぁ~。んー」

サクラ「朝、ですね。ううっ、ダンスの練習で、ちょっと体が重たいですけど……? あれ、シャーロッテさん、どちらへ?」

シャーロッテ「サクラ様。もう起きてるんですか、まだ眠っていても大丈夫な時間ですよぉ」

サクラ「それはシャーロッテさんも同じですよ。こんな朝早くからどうしたんですか?」

シャーロッテ「ちょっと、お湯浴びに行くところなんです」

サクラ「お湯浴びですか?」

シャーロッテ「メイドさんに聞いたら使ってもいいって言われたから、ちょっと楽しみなんです。まぁ、ちょっと疲れが溜まっちゃうから、今日だけにしようと思いますけど」

サクラ「そうなんですか。いいですね、私もしたことないからちょっとうらやましいです」

シャーロッテ「……よかったら、一緒にどうです?」

サクラ「え、でも、シャ―ロッテさんが聞いて許可をもらったんですから」

シャーロッテ「いいのいいの、今さら一人増えたところでレオン様が気にすることはないと思いますし……。それと、昨日サクラ様がお風呂に入るって言った時に、レオン様が浴室ギリギリまでついて来たことも気になってましたからぁ」

サクラ「あ、あれはですね……その」

シャーロッテ「心も体も裸にして話し合いましょう、サクラ様」

サクラ「……しゃ、シャーロッテさん。少し怖いです」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 チャポーン

サクラ「その、レオンさんは私たちの入浴の監視をされてるだけなんです」

シャーロッテ「え、なんなんですかそれ? レオン様ってそういうのぞき見趣味があったんですか?」

サクラ「そ、そういうわけじゃないんです」

シャーロッテ「いやいや、今の説明だけじゃ。『捕虜にした敵国の王女とその臣下の入浴を監視するむっつり王子』っていう印象しかないんだけど」

サクラ「ち、違います。レオンさんはそういうことをする人じゃないです。それに監視って言っても扉越しにですし」

シャーロッテ「ちょっと待てよ、それじゃ『扉越しに敵国王女の入浴中効果音に聞き耳を立てる変態』ってことに……。サクラ様の入浴音声で妄想してるむっつり王子じゃん」

サクラ「そ、それもないと思います。……思います」

シャーロッテ「自分で考えて不安になってるっていうことは、少し思い当たる節があるわけ?」

シャーロッテ(マジかよ。点数稼ぎしようと思ったけど、レオン様にこんな趣味があったなんて……いや、カムイ様を考えればある意味納得できるわね)

サクラ「そ、そんなのありません! あっ、ごめんなさい、その大きな声を出しちゃって」

シャーロッテ「ムキになっちゃう位なんて、レオン様のこと慕ってるんですねぇ」

サクラ「……レオンさんのおかげで、私たちはここまで生きてこれたんですから。私、泣き虫で怖がりで、白夜がしてることを知った時、とっても辛かったんです。でも、レオンさん、私の子と慰めてくれて……」

シャーロッテ「慰められたって……」

サクラ「……そ、そういう意味じゃないですよ!」

シャーロッテ「あれー、サクラ様。何顔を赤くしてるんですか、言葉で慰められたってことくらい、わかってますよ」

サクラ「ううっ、シャーロッテさん。なんか、全然昨日と印象違います」

シャーロッテ「……そうかも。あー、サクラ様はなんかからかい我意があるって言うか。ふふっ、どういう意味で考えちゃったんですかぁ?」

サクラ「……ううっ、今のはなんでもないんです、なんでもないんです////」

シャーロッテ「顔真っ赤にして、何この可愛い生物は」

サクラ「か、可愛くなんて、そんなことないです……」

シャーロッテ「でも、レオン様がそんな趣味じゃないとして、どうしてお風呂を監視することになったわけ?」

サクラ「それは、カザハナさんが私のことを考えて、毎日お風呂に入れるように交渉しに行ったんです。

シャーロッテ「へぇ、あの子ねぇ。足踏まれてすっげー痛かったけど」

サクラ「ご、ごめんなさい」

シャーロッテ「なんでサクラ様が謝るのかわからないんだけど。それで?」

サクラ「最初はレオンさんも私たちのことを捕虜として扱うつもりでしたから……」

シャーロッテ(カザハナがだったら入浴中を監視すればいいじゃない!的なこと言ったってことかな?)

サクラ「そこで、レオンさんが監視するならっていう条件を」

シャーロッテ「カザハナがレオン様に付きつけたってことよね」

サクラ「いいえ、レオンさんが提案してきたってカザハナさんが言ってました」

シャーロッテ「結局、レオン様が原因じゃん。え、レオン様ってそういう人なわけ?」

サクラ「カザハナさんの言葉に挑発されたんじゃないかってツバキさんが言ってました」

シャーロッテ「あー、レオン様も案外子供っぽいところがあるってことね。でも、結局、レオン様は浴室扉前で待機することになってたわけでしょ? 不安にならなかったの?」

サクラ「……不安でした。でも、レオン様、私の不安全部理解してくれて、いつもお風呂に入ってるとき話をしてくれるんです。だからとっても安心できるんですよ」

シャーロッテ「そう、なんだか想像してたのと違うわね」

サクラ「想像してたのですか?」

シャーロッテ「というよりも、昨日のこともそうだけど、サクラ様はどうして私もそうだけど、暗夜の人たちに、すぐ心を開けるのかって、すごく不思議なんです」

サクラ「……私にできることの中で、今できることは信じることだけですから。でも、信じるの意味も少し変えないといけないって思ってるんです」

シャーロッテ「信じる意味ですか?」

サクラ「はい、暗夜の人も白夜の人も、同じ人間なんです。私は暗夜の人とか白夜の人とかじゃなくて、私が信じようって思った人のことを信じたいって思うんです」

シャーロッテ「すごいお人好しね。私が、ここでサクラ様を殺しちゃう可能性だって――」

サクラ「……その時はすごく悲しいです。でも、シャーロッテさんはそんなことしないって信じられますから、昨日ダンスを教えてくれた時、とっても優しく教えてくれましたし」

シャーロッテ「そ、それは。私が素になった時に気を使ってくれたし、サクラ様がちゃんと踊れるようになればレオン様からの印象も上がるかなって」

サクラ「……素直に言うんですね」

シャーロッテ「……幻滅した?」

サクラ「幻滅はしませんけど……、大変だなって思いました」

シャーロッテ「大変よ。男が望む女性像っていう奴を追い求めるとね。まぁ、正直言えば、それを地で行ってるのはサクラ様なんだけどね」

サクラ「わ、私ですか。そ、そんなことないですよ。私……」

シャーロッテ「その仕草とか、自然にできるんだから、その気になればいっぱい男からモテるはずよ」

サクラ「え、シャーロッテさん」

シャーロッテ「決めた。サクラ様、今度の舞踏会で、いっぱい男の目を惹きつけましょう。私とサクラ様なら、楽勝ですから」

サクラ「そ、そんな恥ずかしいこと……」

シャーロッテ「そういうわけですから。舞踏会の日まで、一緒に頑張りましょうね」

サクラ「え、えっと、………はい」

◆◆◆◆◆◆

カムイ「衣装ですか?」

シャーロッテ「今までは、慣れた服で踊ってきましたけど。舞踏会ではそれぞれドレスを着ないといけませんから。ヒラヒラしてて、動き方もちょっと変わっちゃうと思うので」

モズメ「このままの恰好ででたらあかんの?」

シャーロッテ「さすがに社交場だからね。私だっていつもの服で行くわけにはいかないし、今回はカムイ様の王族としてのお披露目式も兼ねてるんだから、私たちはその主催に呼ばれてるってことも考えないといけないの」

モズメ「ドレスなんて着たことあらんよ」

サクラ「わ、私もです」

シャーロッテ「だから、今のうちに選んで慣れておかないとだめなんですよ」

カムイ「私はこのままの恰好になると思うので、大丈夫ですね。皆さんがどんな衣装に身を包んでいるのか、気になりますけど」

シャーロッテ「そうやって、手をワッシワッシ動かすのやめてくれませんか?」

カムイ「仕方ないじゃないですか。触って確認するくらいしか方法がないんですから。あっ、今回は全身を触らわせてもらいますね」

モズメ「カムイ様、にっこり笑顔やん」

サクラ「姉様でも、さすがにそれは駄目です」

シャーロッテ「そうそう。それじゃ、衣装はここにあるからまず、適当に選んでみて。ちなみに私はもう選んであるから」

サクラ「……」

モズメ「……」

シャーロッテ「どうですかぁ?」ボン!

カムイ「といわれまして、私にはわかりませんから。そうですね、少し触ってもいいですか?」ボン!

シャーロッテ「駄目です」ボン!

サクラ「……」ポスポス

モズメ「……」ポスポス

シャーロッテ「……二人とも奇麗に着飾れてるけど……胸元が寒々しいわね」

サクラ「ううっ、気にしていないと言ったら嘘になってしまいます。どうして、暗夜のドレスはこう胸元が……」

モズメ「悲惨や。これ着たら貧相さに拍車が掛るだけやのに」

サクラ「姉様とシャ―ロッテさんは。ふくよかだから、問題なさそうですね……」

シャーロッテ「まぁ、磨いて来たからね」

サクラ「磨けば大きくなるものなのでしょうか? だって……こんなに大きさに違いがあるなんて」

シャーロッテ「そうねぇ。揉むと大きくなるって聞いたことあるけど」

カムイ「そうなんですか。サクラさん、ドレスの確認をしてもいいですか?」

サクラ「駄目ですよ」ニコッ

モズメ「あたいもや」

カムイ「アッハイ」

シャーロッテ「でも、ドレスはちゃんと選べてるみたいだから。サクラ様にはこれを、モズメには……これでいいかしら?」

サクラ「これは花の飾りですか?」

モズメ「頭につけるんか?」

シャーロッテ「ちがうちがう、それ胸元に取りつけて見て」

サクラ「あっ……」

モズメ「なんか、きらびやかになった気がするんやけど」

シャーロッテ「足りない部分はこうやって補うの。ふふっ、二人とも可愛くなってるわ」

サクラ「えへへ、回るとドレスがふわってなります」

モズメ「んっ、でもやっぱりダンスを組み込みながら回るとなると、すこし勝手が違ってくるみたいやけど、なんやろ、あたいじゃないみたいや」

シャーロッテ「ふふっ、女の子は誰だって奇麗なドレスを着れば、お姫様になれるってだけのことだから。ふふっ、サクラ様は思った以上にはしゃいでるみたいね」

サクラ「あうっ、え、えっと……」

シャ―ロッテ「いつもと違う恰好をするのって楽しいでしょ?」

サクラ「は、はい。ありがとうございます、シャーロッテさん」

シャーロッテ「……どういたしまして。それじゃ、一度着たことだし、ちゃちゃっと練習してみましょう」

カムイ「はい、そうですね。それじゃ、サクラさん。一曲お願いできますか?」

サクラ「カムイ姉様……はい、おねがいします」

シャーロッテ「それじゃ、モズメは私とね」

モズメ「……」

シャーロッテ「モズメ?」

モズメ「やっぱりあたいじゃ釣り合わんよ。ドレスは奇麗やし、花も付けてもらえたけど、あたいの顔じゃドレスとかにあわへんよ。そばかすだってあるんや」

シャーロッテ「……まずは少し踊るわよ、モズメ」

モズメ「………」

モズメ「……」

シャーロッテ「やっぱりステップの刻み方とか完璧、もう教えること無くなっちゃったかもしれないわ」

モズメ「うまく踊れても、あたいみたいな子と一緒に踊ってくれる人なんておるんやろうか?」

シャーロッテ「どうしてそう思うわけ?」

モズメ「サクラ様もカムイ様もシャーロッテさんも、美人で可愛いのに、あたいはそこらへんにいるのと変わらへん。もしかしたらそれより下って言っても間違ってないんや。そんなあたいがみんなと一緒に踊ったら、迷惑になるんやないかって」

シャーロッテ「はぁ、何言ってんの。モズメは可愛いから自信持ちなさいよ」

モズメ「お世辞はええよ」

シャーロッテ「そうやって、自分のこと下に見たら、誰も見てくれなくなっちゃうわよ」

モズメ「あたい、戦争が始まる前まで畑耕してただけ、ど田舎の娘なんよ」

シャーロッテ「……」

モズメ「こんな風にきらびやかなドレス着て、ダンスの練習してること自体、本来ありえへんことやったから。田舎娘は田舎娘らしく……」

シャーロッテ「はぁ、モズメ。私も平民の出でね、あんたがいうところの田舎娘と大して変わらないの」

モズメ「え、そうなん?」

シャーロッテ「そう。色々頑張ってきて私はここにいる、あんたの言い分にそうですかって言ったら、あたしがここにいることが場違いってことになっちゃうじゃないの」

モズメ「そ、そんなつもりで言ったんじゃないんよ。あたいにはもったないないって――」

シャーロッテ「そんなことないって言ってんだろ! まったく、あ、ここでターン!」

モズメ「!」クルクルクル シュタッ!

シャーロッテ「ほら、ドレス着た直後なのに、もう華麗に回れる。この時点で、昔の私より全然うまく出来てるわ」

モズメ「それは、シャーロッテさんが教えてくれたからで」

シャーロッテ「だったら、私がモズメのこと評価してるんだから、ちゃんと胸張って頂戴。そうじゃないと、私の教えてきた時間が無駄になるから」

モズメ「……シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「はいはい、踊ってる間はそんな顔駄目だから。ちゃんと、相手の顔を見てメロメロにしてあげるつもりで接しないと」

モズメ「そ、そんなことあたいできへんよ!」

シャーロッテ「冗談冗談」

モズメ「ふふっ、騙すなんてひどいわー」

シャーロッテ「ようやく笑ったわね。モズメは笑うととっても可愛いんだから、そこ忘れちゃ駄目よ。男を落とす一本目の武器だから」

モズメ「でも、このそばかすとかは、消せへんから」

シャーロッテ「そこは私に任せて。このあと、お化粧について教えてあげるから」

モズメ「お化粧か、初めてやから、おて柔らかにお願いや」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

サクラ「やっぱり、少し動きづらいですね。ちょっと、ステップがうまくいきません」

カムイ「そんなことないですよ。ふふっ、こうやってサクラさんとダンスをするなんて、世の中おかしなことになるものですね」

サクラ「そうですね……、でも、今こうやって一緒に踊ってることは、おかしなことじゃないんです」

カムイ「サクラさん?」

サクラ「戦争なんて起きてなくて、暗夜と白夜の交流が活発だったら、私たちはこうやっていたかもしれないんですから」

カムイ「……そうですね。となると、レオンさんが白夜の伝統舞踊の練習を皆さんから教わっているなんていう光景もあったのかもしれませんね」

サクラ「ふふっ、でもレオンさんなら簡単に覚えてしまう気がします」

カムイ「そうですね。いや、もしかしたら手こずるかもしれません。その時は私とサクラさんで支えてあげましょう」

サクラ「はい、もしもそんな日が来てくれたら……来てくれたら……」

カムイ「シャーロッテさん。サクラさんと一緒に、少しだけ外で休んできます」

シャーロッテ「わかりましたぁ」

カムイ「サクラさん」

 ガチャ バタン

サクラ「……」

カムイ「……失礼しますね、サクラさん」

 ダキッ

サクラ「……そんな日なんてのぞんじゃいけないのに」グスンッ

カムイ「サクラさん」

サクラ「わかってます。でも、ここはとっても優しい場所だから……ふと、そんなことを思ってしまうんです」

カムイ「……」

サクラ「姉様」

カムイ「なんですか、サクラさん」

サクラ「姉様は何を目指して戦っているんですか?」 

カムイ「正直、それが今はわかりません。何を目的に戦えばいいのか、それを決めるにはまだ私には情報が足りないんです」

サクラ「レオンさんから聞きました……姉様の大切な従者の方が死んでしまったって」

カムイ「ええ、私のミスで死んでしまいました」

サクラ「私、とても怖いんです。いつか、レオンさんから姉様が死んでしまったって、聞かされる日が来てしまうんじゃないかって。レオンさんに私たちを託してくれた姉様が……」

カムイ「サクラさん……」

サクラ「姉様、この戦いに正義はあるんですか。白夜にも暗夜にも正義はあるんですか……」

カムイ「……そう言われると、どちらにも正義なんてものはもしかしたらないものなのかもしれませんね。先に白夜を襲撃した暗夜と、民や他の国を犠牲にして戦いを続ける白夜。どちらもやっていることは、正義と語るには、いささか血なまぐさすぎる気もします」

サクラ「なら、なんで争いは終わらないんですか。正義がないのに、なんで……」

カムイ「しかたないですよ。それが戦争で」

「私たちが今いる、現実なんですから」

今日はここまで

 シャーロッテは全般的にか弱い女の子の味方なイメージ

 そろそろ番外挟むかも

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

ガロン王「マクベスよ。準備はどうだ?」

マクベス「はい、式典の準備のほうは整っております。ですが、地方部族の長たちへも出席を促すとは」

ガロン王「我が子の晴れ舞台を、多くの者に見てもらいたいだけのことだ。くっくっく」

マクベス「……なるほど。ところで、私をお呼びした本当の理由をお聞かせください」

ガロン王「そうであったな。マクベス、貴様に式典会場の護衛、その準備と当日の指揮を任せる」

マクベス「私にですか?」

ガロン王「不満か?」

マクベス「い、いえ。そんなことはありませんガロン王様からご命令とあらば」

ガロン王「そうか、お前が式典会場の護衛を全うすることで、カムイやその仲間たちがお前を見る目も変わるだろう」

マクベス「……ガロン王様の心遣い、ありがたく思います……」

ガロン王「ならば、すぐに準備に取り掛かるがよい。式典までの時間は短い故な」

マクベス「承知いたしました。それでは、ガロン王様。失礼いたします」

ガロン王「うむ」

 ガチャ バタン

マクベス「……ガロン王様、カムイ王女たちに私がどう思われているかくらい理解していると思いますが……」

マクベス「……会場の護衛程度で彼らが私を見る目を変えるとはとても思えない……いや、私が会場を護衛するという時点で疑心の目を向けられかねないのですが……。

マクベス「しかし、ガロン王様から直々に命令を頂いたのですから、最善を尽くす必要がありますね…。しかし、事前に話もせずに、物事を進めるというのは……」

マクベス「……仕方ありませんね。できれば話などしたくはありませんが、これもガロン王様のためです……」

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

レオン「……なんのようかな? 連絡もなしに来てもらっても、正直困るんだけど」

マクベス「すみません、レオン王子。私も事前に連絡できればと思っていたのですが、急に色々とことが決まりましてね。時間の関係もあって、すぐに至らなければいけなくなりましてね」

レオン「僕に用事なら手短にお願いできるかい。正直忙しい身なんでね」

マクベス「いいえいいえ、レオン王子の時間はとらせません。ご安心を」

マクベス(足を時々擦ってますが、膝でも打ったのでしょうか)

レオン「僕に用事じゃないのかい。なら、誰に……」

マクベス「カムイ王女です」

レオン「姉さんに」

マクベス「ええ、先ほど北の城塞まで足を運びましたが、カムイ王女は昨日からレオン王子の屋敷に泊まられていると聞いたので、こちらに伺っただけの話です」

レオン「そんなことを言って、何か探りを入れているつもりじゃないだろうね?」

マクベス「なんですか、私は何も言っていませんよ。それとも、何か思い当たる節でもあるというのですかな、レオン王子」

レオン「それはないよ。すぐに疑うマクベスの態度はどうなんだい? 僕たち王族に対する接し方とは思えないよ?」

マクベス「これは失礼いたしました、レオン王子。では、カムイ王女を呼んでは頂けませんか?」

レオン「………わかった。そこで待て」

マクベス「はい、お待ちいたしますね」

マクベス「………」

マクベス「………ふむ」

メイド「マクベス様、どうぞ、紅茶です。ゆっくりお待ちください」

マクベス「これは、これは、ありがとうございます」ズズッ

マクベス(さて、カムイ王女とどうやって話をするべきでしょうか。まぁ、あまり良い話し合いになるわけはありませんので、手短に終わらせるべきでしょうが……)



マクベス「……遅いですな」


マクベス「……ふむ」




マクベス「……もう結構経っている気がしますが……」

マクベス「遅い、遅すぎますね……レオン王子は自宅でカムイ王女を見つけられないというのですか?」



???「やはり、ターンが難しいですね。もう少しうまく決められるといいんですけど」

マクベス「ん? この声は……」

カムイ「ふぅ、練習も一段落しましたから……?」

マクベス「……長いことを待たされましたが、ようやく来られたようですね」

カムイ「……マクベスさん」

マクベス(さすがに、警戒されますか。まあ仕方ありません、これも予想の範疇ですので)

カムイ「レオンさんに用事ですか? すぐに呼んできますけど」

マクベス「あなたに用事があってきたんですよ!」

カムイ「えっ、私にですか。すみませんが、何も話を聞いていないのですが」

マクベス「……レオン王子から、私が話をしたいと聞いてやってきたのではないのですか?」

カムイ「今初めて聞きましたよ。さっきレオンさんにあった時は、練習頑張ってねと応援されたくらいですね」

マクベス「そ、そうですか……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
カムイ「ふふっ、なるほど。レオンさんがそんな意地悪をしたんですね」

マクベス「笑いごとではありませんよ。まったく、こちらの苦労も考えていただきたいものですな」

カムイ「でも仕方ありませんよ。マクベスさんもそれは重々承知でこちらにいらしたんでしょう。というよりも、城塞ではもっと白い目で見られたんじゃないですか?」

マクベス「……それは別に良いことでしょう」

カムイ「見られたんですね。ふふっ、フローラさんやジョーカーさんに睨まれるなんて、罪な人ですね」

マクベス「……ともかく、そんなことはどうでもよいことです。私としては、こんな不毛な時間はすぐに終わりにしたいところですので」

カムイ「そうですか。それで、御用というのは一体なんでしょうか?」

マクベス「それですが――」



カムイ「式典会場の護衛ですか……」

マクベス「ええ、ガロン王様の期待に添えるためにも、主役であるカムイ王女には話を通しておこうと思いましてね。当日、私だとわかってあなたの機嫌が悪くなるなどあってはなりませんから」

カムイ「ふふっ、そんな風に気遣ってくれるんですか」

マクベス「別に他意はありません。私自身、ガロン王様の要望にお応えするために全力を尽くしたいと思っているだけの話ですのでね」

カムイ「……そうですか……。でも、マクベスさんが会場の護衛をするという話を聞いて、私のテンションは結構下がってますね」

マクベス「………」

カムイ「はぁ、式典に出るのやめてしまいましょうか」

マクベス「それはなりませんよ、カムイ王女」

カムイ「どうしてですか?」

マクベス「ガロン王様は多くの方にカムイ王女の晴れ姿を見ていただきたいと思っておられます。その意思を汲むのが娘であるあなたの役目ですから」

カムイ「……偽りの娘だったとしても?」

マクベス「?」

カムイ「いえ、なんでもありません。でも、そうですね。私はマクベスさんの事を信用しているわけではないんですから、少し身構えてしまうでしょうね。ダンスもぎこちなくなってしまいますね」

マクベス「なら、どうすればよいのですかな? ガロン王様からの命令を反故にするつもりは、毛頭ないので、カムイ王女次第と言わざるを得ません」

カムイ「そうですね。でしたら、一つ提案があるんですが……」ズイッ

マクベス「? カムイ王女、なぜ私の横にくるのですかな?」

カムイ「あの日の続きをしてもいいですか? 私、まだまだマクベスさんのこと、よく知らないんです」

マクベス「な、なにをするつもりですか。ぐっ、カムイ王女」

カムイ「決まってるじゃないですか……」

カムイ「その仮面の下、ぜーんぶ触らせてくれればいいんですよ。ふふっ、あの時は跳ね除けられちゃいましたけど、今回は逃がしませんから」

マクベス「な、そんなことで、あなたは私を信用するというのですか?」

カムイ「ええ、そうですよ。安いものじゃないですか、私に顔を触らせるだけで、今回のことに協力するって言ってるんですから……」

マクベス「……約束、してくれるのでしょうな?」

カムイ「はい。ですから、失礼しますね」ピトッ

マクベス「ぐっ……」

カムイ「ふふっ、やっぱりスベスベしてるんですねマクベスさんは、前は片方の顔しか触れませんでしたけど。今回は仮面の下まで触っていいんですよね」

マクベス「そ、そういうやくそく、ですから。は、早く済ませていただけ――はうっ!」

カムイ「ふふっ、眼尻、やっぱり弱いんですね。みんなの前で思わず息をもらしちゃったときと同じじゃないですか」

マクベス「か、カムイ王女、そ、そこばかり触るのは……あっ、ぐうっ!」

カムイ「そうですか、でも、もしかしたら、こっちにも違う弱点、あるかもしれませんね」カチッ

マクベス「ぐっ、仮面を人に外されるなど、何年ぶりかもわかりませんな」

カムイ「そうなんですか、なら。私がその久しぶりの人ということになるんですね。それはそれで、なんだか嬉しい気持ちになりますね。それじゃ、ふふっ、まず左目の眼尻、触っちゃいますね」

マクベス「!!!!!」

カムイ「ふふっ、やっぱりこっちも敏感じゃないですか。両方の眼尻で感じちゃうなんて、マクベスさんも中々に持ってるんですね」

マクベス「カムイ王女、も、もうこれだけでいいでしょう?」

カムイ「……だめです。まだ、私、まだマクベスさんのこと信用してませんから。もっともっと、触っちゃいますよ」

マクベス「はううっ! んぐっ」

カムイ「……ところで、マクベスさんはお父様のために戦っているんですか? それとも暗夜王国のために戦っているんですか?」

マクベス「な、なんですか、その質問は……」

カムイ「答えてください。マクベスさんが戦うのはどちらのためなんですか?」

マクベス「……私はガロン王様のために戦っています。ガロン王様が暗夜王国を大国へと導いてきた御方ですからね」

カムイ「……そうですか。お父様のこと慕っているのですね」

マクベス「もちろん。ガロン王様の行く先には必ず、暗夜王国の発展が約束されていると言っても過言ではありませんから。私はガロン王様のために力となりつづけるでしょう」

カムイ「そうですか。ありがとうございますね、マクベスさん」

マクベス「?」

カムイ「もう大丈夫ですよ。これだけで十分ですから」

マクベス「カムイ王女?」

カムイ「式典の件、ちゃんと確認いたしました。私も式典の成功に全力を尽くさせていただきますね」

マクベス「そうですか。なにやら、もっと触られると思いましたが。では、今回の件、よろしく頼みましたよ」

カムイ「はい、もう帰られるんですか?」

マクベス「ええ、ここに長いしても、得るものはもうありませんので。それでは……失礼いたします」

 ガチャ バタン

カムイ「……」

今日はここまで

 そろそろ、休息時間終わりになります。
 少しヤーナムで狩人になってくる。

 これからの展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター 
 フェリシア
 フローラ
 ラズワルド
 ピエリ
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ

 支援イベントのキャラクターを決めたいと思います。

 >>507>>508

(すでにイベントが発生しているキャラクターで起きた場合はイベントが進行します)

◇◆◇◆◇
進行する異性間支援の状況

1アクア×ゼロ C
2ジョーカー×フローラ A
3ラズワルド×ルーナ B
4ラズワルド×エリーゼ C
5オーディン×ニュクス C
6サイラス×エルフィ C
7モズメ×ハロルド C
8ブノワ×フローラ C

 この中から一つ>>509

(話をしている組み合わせと被った場合は、そのかぶったものの一つ下の数字になります)
 
◇◆◇◆◇
進行する同性間支援

1ジョーカー×ハロルド C
2フェリシア×ルーナ A  
3フェリシア×エルフィ C
4フローラ×エルフィ C
5ピエリ×カミラ B
6エルフィ×モズメ C
7アクア×リンカ B
8ベルカ×エリーゼ C
9シャーロッテ×カミラ C

 この中から一つ>>510

(話をしている組み合わせと被った場合は、そのかぶったものの一つ下の数字になります)

エリーゼ

ハロルド

8

5

◇◆◇◆◇◆
―暗夜王国・王都ウィンダン・エリーゼ邸―

エリーゼ「ふんふーん♪」

ハロルド「おや、エリーゼ様」

エリーゼ「あっ、ハロルド!」

ハロルド「鼻歌交じりに楽しいそうですが、なにやら良いことがあったのですかな?」

エリーゼ「えへへ、今日ね、一つお買い物しちゃったんだー!」

ハロルド「お買い物ですか、荷物を持つ必要がありましたら、このハロルドがお手伝いしましょう。エリーゼ様に多くの荷物を持たせるわけにはいきませんから!」

エリーゼ「ありがとうハロルド。でも、今回は業者の人にここまで運んで来てもらう予定だから大丈夫だよ」

ハロルド「運んでもらうとは、そんなに大きいものですか」

エリーゼ「うん。出来るのに時間もかかるけど、とっても素敵なものなんだ。いつも買ってるものとちがって、お金がいっぱい掛っちゃったけど……」

ハロルド「エリーゼ様は個人的なお買い物はあまりされないのですから、今回のことは多めに見てもらえるはず。むしろ、エリーゼ様自身がほしいと思ってお買い上げになった物のほうが少ないのですから」

エリーゼ「そ、そうかな。みんなから、ぶるじょわだーとか、けつぜいがーとかそんなことを言われないかな…」

ハロルド「大丈夫です。それにそんな風に考える人々を私が説得して見せましょう。ですから、ご安心ください」

エリーゼ「えへへ、ハロルド。ありがとう!」

ハロルド「ちなみに何を買われたのですか?」

エリーぜ「えっとね……。ううん、今は教えてあげなーい」

ハロルド「おや、そうきましたか」

エリーゼ「うん。準備ができたら教えてあげる。ハロルドのこと、びっくりさせてあげるんだから!」

ハロルド「なるほど、その時がとても楽しみです。では、準備ができたら教えてください、エリーゼ様」

エリーゼ「わかったよ、ハロルド!」

【エリーゼとハロルドの支援がCになりました】

◇◆◇◆◇◆
―暗夜王国・北の城塞―

ブノワ「……」

フローラ「あれ、ブノワさん?」

ブノワ「フローラ」

フローラ「どうされましたか? カムイ様なら唯今城塞にはおられませんが」

ブノワ「大丈夫だ、カムイ様に用があったわけではない。その…フローラに用があって来た」

フローラ「わ、私にですか?」

ブノワ「ああ……」

フローラ「……」

ブノワ「……」

フローラ「あ、あの。用というのは」

ブノワ「……先日の件だ」

フローラ「先日、ああ、熊のことですね……。もしかして根に持っておられるのですか?」

ブノワ「い、いや…そうではない。確かに俺はよく見た眼で怖がられることが多い、だからフローラが言ったことは…間違いではないからな」

フローラ「そうですか。では、先日の件とは一体なんでしょうか? そのこと以外でブノワさんが私を訪ねてくる理由を考えられません」

ブノワ「なぜ、そう思うんだ?」

フローラ「……少し言葉が過ぎましたから。私は従者として人に仕える身でありますけど、私個人は人に仕えるなんていうのがとても似合わない、そんな人間なんですよ」

ブノワ「……俺は…そうは思わない」

フローラ「えっ?」

ブノワ「フローラは俺を心配してくれた。熊と対峙している大男、しかもこんな人相だ。普通なら…誰も声など掛けてはくれない」

ブノワ「だが、フローラは声を掛けてくれた。熊に襲われているのではないかと心配してくれた、俺はそれが純粋にうれしかった」

フローラ「……そんな風に言われると、なんだか照れてしまいます。でも、それを伝えにわざわざここまで?」

ブノワ「ああ、迷惑だったか?」

フローラ「ふふっ、迷惑じゃありませんよ……。むしろ、私がお礼を言うべき側です。ありがとうございます、ブノワさん」

ブノワ「……礼を言うのはこちらだ……心配してくれて、ありがとう」

フローラ「ふふっ、これじゃいつまで経ってもお礼の言い合いが終わりませんね」

ブノワ「そうだな……その、また遊びに来てもいいか?」

フローラ「はい、いつでも遊びに来てください。今度はおいしい紅茶をお淹れしますね」

ブノワ「ああ……」

【ブノワとフローラの支援がBになりました】

◇◆◇◆◇◆
―暗夜王国・王都ウィンダム・カミラ邸―

ピエリ「カミラ様、急にピエリのこと呼んでどうしたの?」

カミラ「ええ、ちょっとね」

ピエリ「そうなの、いっぱいお菓子持ってきたから、今日もお母さんみたいにあーんしてもらいたいの」

カミラ「ええ、構わないわ。でも、私のことをお母さんって呼ぶのはもうやめにしましょう?」

ピエリ「……カミラ様、もしかしてピエリのこと嫌いになったの?」

カミラ「………」

ピエリ「ひどいの、ピエリ、まだカミラ様のことお母さんて呼びたいの。呼びたいのに、うううっ、びええええええええん。ピエリ、カミラ様に嫌われちゃったの……」

カミラ「嫌いになんてならないわ。むしろ好きよ、ピエリのこと」

ピエリ「ならどうしてなの? なんでピエリ、カミラ様のことお母さんって呼んじゃいけないの?」

カミラ「それはそうよ。ピエリにとってのお母様は一人だけ、あなたを産んでくれた人はこの世に一人しかいないの。それを私に置き換えるのはとてもよくないことだから」

ピエリ「カミラ様……」

カミラ「ピエリが私のことをお母さんのようだって言ってくれたのは嬉しいわ。けど、ピエリにだってお母様との思い出がちゃんとあるはずよ。それを私は奪いたくないの」

ピエリ「カミラ様……」

カミラ「ピエリは大切な仲間よ。甘えられることは嫌いじゃないわ。でも、こういう甘え方はピエリに取ってもよくないこと、だから私をお母さんと呼ぶのはもうおしまいにしましょう」

ピエリ「……」

カミラ「……」

ピエリ「わかったの……」

カミラ「ピエリ……ごめんなさい」

ピエリ「……カミラ様はお母さんじゃないの、それだけは今わかったの。カミラ様には無理言ってた気がするの、ピエリのほうこそ、ごめんなのよ」

カミラ「……いいえ、本当に謝らないといけないのは私の方よ。どうやら、あなたの心の傷に触れてしまったみたいだから」

ピエリ「カミラ様の所為じゃないの……。ピエリ、いつかお母さんのこと思い出せるの?」

カミラ「ええ、でも今はその時じゃないから、胸の中にお母様のことはしまっておきなさい」

ピエリ「どうしてなの?」

カミラ「いつか、あなたにお母様のことを思い出させるきっかけをくれる人がいるはずよ。その人があなたの辛い思い出も楽しい思い出も受け止めてくれるはずだから」

ピエリ「カミラ様はその人になってくれないの?」

カミラ「……ええ、ごめんなさい。私ができることは、はい、あーん」

ピエリ「……あーん」

カミラ「その人が現れるまで、ピエリと一緒に待ってあげることだから」

ピエリ「カミラ様……わかったの。ピエリ、その時が来るまでずっと待ってるのよ」

カミラ「そう……ピエリは強いのね」

ピエリ「ピエリ強いの、強いのが自慢なのよ! それじゃ、一緒に待ってくれるカミラ様にピエリがあーんで食べさせてあげるの! あーん、なのよ!」

カミラ「あーん。ふふっ、おいしいわ」

ピエリ「ピエリ、カミラ様のこと大好きなの」

カミラ「ありがとう、ピエリ」

【カミラとピエリの支援がAになりました】

本篇はいつもの時間くらいに

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・王都ウィンダム・レオン邸―

レオン「姉さん。なんでマクベスと話なんかしたんだい。何の意味もないことくらい……」

カムイ「たしかにマクベスさんを信用しているかと言われれば、信用していませんよ。一度、貶められた身ですからね」

レオン「なら、尚更どうして……」

カムイ「今回は状況が違います。今回の式典は私を中心に行われますし、マクベスさんからすればお父様から直々の指名ですから、約束通り全うしてくれるでしょう」

レオン「やけにマクベスの肩を持つんだね……」

カムイ「肩を持っているわけではありませんよ。ただ、マクベスさんがお父様を慕っている以上……、今回の件で何かしらの邪魔をするとは考えにくいですから」

レオン「……なんで、そう考えられるのか不思議でしょうがないよ。信用してないって言っているのに」

カムイ「今回の件に限った話です。まぁ、マクベスさんとしては私が大きな脅威となりえない、そう考えているのでしょう。シュヴァリエの一件で私に対する部族の方たちの評価も右肩下がりです」

レオン「それを引き起こしたのがマクベスなのに、どうして」

カムイ「……そうですね。私が取るべきこと、それを選ぶためでしょうか……」

レオン「選ぶため?」

カムイ「私が戦う理由、この力を使う理由、それを私は探しています。今に至ってそんなことを言うなどと虫がよすぎる気もしますが、前に言いましたよね? これからは選び引き寄せると」

レオン「うん、姉さんはそう言ってたね」

カムイ「そのつもりですが、まだその引き寄せる方向が決まっていないんです。恥ずかしい話ですけど」

レオン「……その決まっていないことと、マクベスと話をすることになんの関係があるんだい?」

カムイ「……戦う理由というのを聞いてみたかったんです」

レオン「戦う理由?」

カムイ「はい、サクラさんから聞かれたんです。何を目指して戦っているのかと。それに私は答えを出せませんでした」

レオン「……」

カムイ「多くのことを聞かれました。暗夜と白夜に正義はあるのかと、無いなら戦争を続ける必要があるのかと」

レオン「サクラ王女らしいことを聞いて来たね」

カムイ「それに私は思ったとおりに答えました。でも、争いが続く理由そのものの意味、その答えを出せませんでした」

レオン「……」

カムイ「だから、マクベスさんに聞いてみたんです。何のために戦っているのかと、正確には選んでもらったと言ったほうがいいですね。お父様のために戦っているのか? それとも暗夜王国のために戦っているのか?と」

カムイ「マクベスさんはお父様のために戦っていると答えてくれました。マクベスさんからすればお父様のために戦うことは、暗夜王国のためとなっているのかもしれません。どちらにせよ、マクベスさんはマクベスさんの戦う理由を教えてくれました」

レオン「父上のためにマクベスは戦っている。でもそれがわかってどうなるっていうんだい?」

カムイ「マクベスさんが私を陥れようとしたのは、私がお父様に不利益を与える存在であると考えたからです。そこにはマクベスさんが信じる正義がある。私はそう思いました」

レオン「そんなものが正義だなんて、姉さんはそんなことを言うのかい、あいつはただ自分の地位を維持するために、姉さんを嵌めただけに決まってる」

カムイ「そうかもしれません。リリスさんを失うことになったマクベスさんの所業を、正義と呼ぶには血なまぐさいものがあります」

レオン「だったら!」

カムイ「でも、まだなにも掲げることのできない私に比べれば、マクベスさんはその正義のために人を、物事を、そして自身の感情さえ犠牲にできる方です。だから、わざわざ私に会いに来て、私の願いを聞き入れた。私なんかよりも自分の正義を貫ける、そういう人なんでしょう」

レオン「……ごめん、姉さん。少し一人にさせてくれないかな……」

カムイ「レオンさん」

レオン「お願いだ……」

カムイ「……はい、わかりました。今日はもう遅いですから、部屋に戻らせていただきますね。明日もダンスの練習頑張りましょう」

レオン「……」

 ガチャ バタン

レオン「……私情に流された僕は、マクベス以下だっていうのかい。姉さん……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「……」

ツバキ「あれ、カムイ様じゃないですかー」

カムイ「その声はツバキさんですか?」

ツバキ「そうですよー。どうしたんですか、なんだか顔色が優れないようですけど」

カムイ「いいえ、なんでもありませんよ。ツバキさんもどうしたんですか、こんな時間に」

ツバキ「珍しく寝付けなくて、それで邸内を少しふらふらしてたんですよー。今日は特に月が奇麗ですから、お団子とかあったら食べたくなりますねー」

カムイ「そうなんですか。月というのはどういう形をしているんでしょうか、もうかなり前のことで覚えていませんけど、丸いんですよね?」

ツバキ「丸だけじゃないですよー。半円だったり、ちょっと功を描くだったり、いろいろと形が変わりますから」

カムイ「月は一つだけなのにですか?」

ツバキ「そうですよー。月はその物体の名前ですけど、見方によって名前を変えるんですよ」

カムイ「ふふっ、そうなんですか。いろいろな形があるんですね」

ツバキ「そうですねー。ところで、なにか考え事でもしてたんじゃないんですかー。よかったら話、聞きますよー」

カムイ「いいんですか?」

ツバキ「いいですよー」

カムイ「……その、ツバキさんは、何のために戦っていましたか?」

ツバキ「面白い質問ですねー。んー、俺はサクラ王女を守るために戦ってましたよー。俺が守るべきはサクラ様ただ一人ですから、何時だって死ぬ覚悟は出来てます。でも、サクラ様よりも後に死ぬのだけは嫌ですねー。この体の命が尽きる寸前まで、主君を守るために俺はいるんです。だから、捕らえられて、カムイ様がサクラ様を最初に切ろうとした時は、怒りに狂うところでしたよー」

カムイ「……あの時は、申し訳なかったです。ごめんなさい」

ツバキ「いいんですよー。結果的に、俺たちはここで生きながらえてますから、でも、カムイ様のさっきの質問には異を唱えたいかなー」

カムイ「?」

ツバキ「戦っていましたか?じゃなくて、戦うにしてください。サクラ様の臣下じゃなくなってしまうこともあるかもしれないけど、その時までは俺はずっとサクラ様のために戦い続けるんですから。今、盗賊が襲って来て、そいつらがサクラ様の命を狙っていたとしたら、命がけで戦ってサクラ様を守ります」

カムイ「……そうですね。確かに質問の言葉は間違いでした」

ツバキ「いいんですよー。でも、残念です。こんなに奇麗な月は久々なのに、カムイ様はそれが見えないなんて」

カムイ「……見ることができないのは残念ですが、ツバキさんが教えてくれたから今は月が出ているってわかります」

ツバキ「そうですかー。そうだ、よろしければ隣座ります?」

カムイ「いいんですか?」

ツバキ「……はい。それに、一人で月見っていうのも、なんだか寂しいものですから」

カムイ「では、お言葉に甘えさせてもらいますね……」

ツバキ「本当にここにいると戦争なんてものを忘れそうになりますよー」

カムイ「サクラさんも言っていました。ここはとても優しい場所だと」

ツバキ「ええ、だからもしもなんてことを考えちゃったりもします。戦争なんて嘘なんじゃないかって、思わないわけじゃないんです」

カムイ「……」

ツバキ「でも、いずれ俺たちもそこに戻ってくことになるんです。いずれ巻き込まれちゃうことくらい理解してるんですよー。だけど、俺には巻き込まれても戦い続ける理由がありますから、迷うことはありませんよー」

カムイ「……ふふっ、サクラさんですね」

ツバキ「さっき言ったことだから、すぐにわかっちゃいますよねー。闘う理由なんて人それぞれ、まるで月みたいだなって思うんですよ…」

カムイ「月みたい……ですか?」

ツバキ「ほら、月は呼び方は同じだけど、いろいろと形を変えて、その度に呼び方も変わる。でも、どんなに変わってもそれは月だから」

カムイ「面白い例えですね。私も色々な形の月を見てみたいものですけど」

ツバキ「……そうだね。カムイ様、手を出してもらえるかなー」

カムイ「? どうぞ」

ツバキ「失礼するよー。えっと、これが……満月」

カムイ「んっ、くすぐったいです。ツバキさん」

ツバキ「ごめんごめん、でも、手のひらに書いて教えるのが一番かなって思って。これが……弦月って言って――」

カムイ「んっ、んくゅ」

ツバキ「!」

カムイ「ど、どうしました?」

ツバキ「いえ、なんでもないですよー。とりあえず、こんな感じで色々名前がありますねー」

カムイ「ふふっ、いろいろな形と呼び方があるんですね」

カムイ「…………」

ツバキ「カムイ様?」

カムイ「いいえ、なんでもありませんよ。ツバキさん、私はこれで失礼いたします。あと少しで、ターンが奇麗に決められそうなんです」

ツバキ「そうなんですか、がんばってくださいねー」

カムイ「はい、それでは……」

カムイ(月を正義に例えるなら、つまりはそういうことなんでしょう……)

カムイ「……でも、私が見つけることになる月というのは、一体どんな形をしているんでしょうか?」

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・フリージア―

スズメ「クーリア様」

クーリア「スズメさんですか、どうかしましたか?」

スズメ「暗夜王国からこのような物が届いています。式典への招待状のようで、クーリア様宛てのようです」

クーリア「珍しいこともあるものですね。一体何の式典かはわかりませんが……多分、カムイ殿絡みのものでしょう」

スズメ「……カムイ王女の噂は本当のことでしょうか?」

クーリア「……そうですね、その噂で多くの部族は今回の件で彼女を見限るかもしれません」

スズメ「クーリア様はどうなされるんですか?」

クーリア「……確かにシュヴァリエの焼き払いと多くの死者の話は耳に届いています。そして、それを率いていたのがカムイ殿であること」

スズメ「……」

クーリア「これだけ聞けば、もうカムイ殿を信じ歩むことは難しいものでしょう。期待していた分だけ失望は山のように増えます、噂だけを鵜呑みにしてきた人々の興味は薄れていくことでしょう」

スズメ「……そうですね」

クーリア「ですが、噂がたとえ真実であったとしても、私たちはカムイ殿を信じることに疑いも迷いもありませんよ」

スズメ「クーリア様」

クーリア「大事な娘たちが暗夜に捕らわれているからではありません。カムイ殿は私達に自治を認める約束を取り付けてくれました。その時に私はカムイ殿を信じると決めています」

スズメ「……はい、私と共にここにやってきた白夜の人々も、クーリア様の決定について行くつもりです。白夜の人たちのことは任せてください」

クーリア「ありがとうございます、スズメさん。招待状は確かに受け取りました。明日にはウィンダムに向けて出発することにしましょう」

スズメ「はい、では私は少しばかり準備に取り掛かりますので、失礼いたします」

クーリア「カムイ殿が目指す先に何があるのかはわかりません。もしかしたら真っ暗な闇かもしれませんし、光り輝くものかもしれません。ですが、それは今は全くわからないものです。噂だけを信じる人には、それは真っ暗な闇だけの可能性になってしまうでしょう」

「でも、そんな闇の可能性を含めても、私たちはカムイ殿との絆を信じることを選びましょう。カムイ殿の行動と言葉を信じて」


休息時間 4 おわり

今日はここまで

 文章ログが
 リリス
<おいしくて幸せです、カムイ様…!>

アサマ
 ま、いくら成長しても、死ぬまでの栄光ですが。

 となっていた件について。

 ベルカが獣のしっぽをあげると喜ぶことを知り、リリスが守備が上がったとき「体が硬くなった気がします」ということも知った。
 

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・王都ウィンダム・レオン邸―

レオン「……」

カザハナ「よっと、うっ、これで……」

レオン「……」

カザハナ「あっ」ムギュ

レオン「……」

カザハナ「ご、ごめん……また踏んじゃって……、レオン王子?」

レオン「…んっ、どうかしたのかい。カザハナ」

カザハナ「いや、その今足踏んじゃったから。ごめん」

レオン「あっ、うん。そうなんだ……」

カザハナ「? どうしたの、昨日までとなんか雰囲気違うよ?」

レオン「……そんなことないよ」

カザハナ「嘘ね」

レオン「……嘘って」

カザハナ「だって、昨日まで足踏んだら文句言ってたのに、今日に限ってだんまりなんてさ」

レオン「それは……」

カザハナ「とは言っても練習に集中してるってわけじゃないみたいだし。あたしが足踏んじゃったのに気付かない位なのに?」

レオン「……」

カザハナ「ねぇ」

レオン「その、心配してくれてるってことかな?」

カザハナ「そ、そうじゃないから、あんたが調子悪いと練習できないから、ただそれだけだから……」

レオン「それもそうだね……ごめん、少しだけ休んでいいかな。カザハナに踏まれたって思い始めたら、足が急に痛くなってきたからね」

カザハナ「休む理由をあたしが足を踏んだことにするのはずるいよ」

レオン「……それもそうだね、ごめん」

カザハナ「わかればいいの。それで、何考えてたの?」

レオン「はぁ、カザハナにも気づかれるなんて、思ってもいなかったから」

カザハナ「何よ、心配しちゃ悪かった?」

レオン「心配してないんじゃなかったのかい?」

カザハナ「うっ……そのさ、あたしじゃ、力になれないかなって」

レオン「?」

カザハナ「そのさ、あんたにはサクラ様のこと守ってもらってるし、こうやってダンスの手解きしてもらってるから。その、恩を返したいっていうか……その、役に立ちたいっていうか」

レオン「……」

カザハナ「な、何よその顔」

レオン「いや、まさかそんなことを言われるとは思っていなかったから……カザハナの方こそ、熱でもあるんじゃ」

カザハナ「熱なんてないから! なによ、人が心配してるのに、それとも、あたしじゃ力になれないってこと?」

レオン「……いや、そんなことはないよ。実際は考えてるっていうより、悩んでるって言ったほうがいいかもしれない。どうすればいいか、わからなくて」

カザハナ「うん、だったらあたしに話してよ。その……サクラみたいに答えなんて出せないかもしれないけど、ほら、悩みは口に出せばすっきりするって言うし、それにあたしが聞いて何か不利になることでもないでしょ?」

レオン「ははっ、なんていうかカザハナらしい言葉だね……他言しないでくれるかな?」

カザハナ「うん、約束する。だからさ、早く言ってよ。聞くだけならあたしにだってできるんだから」

レオン「……たしかにそうだね」

カザハナ「なんか、若干馬鹿にされた気がするんだけど」

レオン「さぁ、どうだろうね?」

カザハナ「ふーん。まぁいいけど、それで悩み事っていうのはなに?」

レオン「実は――」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


カザハナ「戦う理由?」

レオン「戦う理由があるからマクベスは非道なことができると、姉さんは言っていた」

カザハナ「どうして、あんたがそれを気にするのよ。人は人で、それに戦う理由があるからってそれが非道なことを行う理由になるわけないじゃない」

レオン「……姉さんだって、非道な行動を容認してるわけじゃないよ。でも、マクベスにはその戦う理由があって、だから嫌なことも行える」

カザハナ「まさかだと思うけど、マクベスが無理して非道なことをしてるって思ってたり?」

レオン「それはないね。この場合の嫌なことって言うのは……、嫌な奴と話をするみたいなそういうことだよ。僕がマクベスと話をしたくないようにね」

カザハナ「前蹴られたことがあるから、それには同意かな、できればあたしも話したくないし」

レオン「マクベスは姉さんを嵌めたばかりで、それを考えたら姉さんの配下はマクベスに対して疑心の眼差しを向ける、普通なら近寄らない。でも、マクベスはここにやってきた。嫌なことなのにね」

カザハナ「ねぇ、レオン王子」

レオン「ん、何かな?」

カザハナ「まさかと思うけど、マクベスがカムイ様に話をしに来たけど、話したくないからそれを無視するようなことをしたとか?」

レオン「……ははっ」

カザハナ「まさかそんなこと――」

レオン「まぁ、その通りなんだけど」

カザハナ「」

レオン「その、憐れみを込めた眼で見るのやめてくれないかな」

カザハナ「……どうしてそんなことしたのよ。あんたに話があってマクベスは来たわけじゃないんでしょ?」

レオン「マクベスが何かするんじゃないかと思って、その姉さんのことを心配してそうした」

カザハナ「でも、結果的にカムイ様はマクベスと話をしたんでしょ?」

レオン「ああ。そして姉さんは嫌なことも受け入れられるマクベスの方が自分よりも優れている、そんなことを言ってた」

カザハナ「……優れているって」

レオン「だからかな。僕はマクベスよりも劣っているんじゃないかって思ってしまうんだ」

カザハナ「……」

レオン「僕はマクベスが気に入らない。シュヴァリエの一件でそれはもう揺るがない、姉さんを危険に晒したこともそうだし、何を考えているかわからない。そんな奴でも、私情に流されないで目的のために動いてる。僕は私情に流されて、マクベスを邪険に扱った。明らかに劣ってるじゃないか……」

カザハナ「……んかない」ギュッ

レオン「カザハナ?」

カザハナ「劣ってないって言ってんの!」

レオン「!!」

カザハナ「あんたがマクベスより劣ってるわけないよ。こうやって私たちのこと守り通せてるし、グラビティマスターなんてヘンテコな二つ名も持ってるし、あたしにダンス教えてくれてるし」

レオン「その二つ名はやめてくれないか」

カザハナ「いいじゃない」

レオン「よくないよ!」

カザハナ「なんで?」

レオン「そんな二つ名……恥ずかしいからに決まってるからだ」

カザハナ「だったら今回のことも同じように否定しちゃおうよ」

レオン「えっ?」

カザハナ「カムイ様の言葉で、自分の価値観決めちゃってるのに気づいてないの? 本当にカムイ様のこと大好きなんだね、レオン王子は」

レオン「そ、そんなこと……」

カザハナ「でも、何でもかんでもカムイ様の発言を基準に取るのは間違ってるってあたしは思う」

レオン「……」

カザハナ「それにあたしはレオン王子は優しい人だって思ってる。それにちゃんとしてるし、なによりそのかっこいいし」

レオン「……」

カザハナ「だから、その、あの、つまり、人からなんて言われてもレオン王子の価値はレオン王子自身にしか決められないってことを言いたくて……その」

レオン「それじゃ、カザハナの今の意見はどうなるんだい?」

カザハナ「い、今の……その、勢いで言っただけで、その……あー、今の忘れて!忘れないさいよ!////」

レオン「……ははっ、顔真っ赤で否定してるところを見ると、よっぽど恥ずかしかったみたいだね」

カザハナ「しょ、しょうがないでしょ。その、いろいろと変なこと言っちゃったんだから……優しいとか、カッコいいとか……。かっこいいはこの際置いておくけど、優しいって言うのは本当にそう思ってるから」

レオン「?」

カザハナ「だって、まだ私にダンス、ちゃんと教えてくれてるから。本当なら怒って帰ってるかもしれないのに」

レオン「出来ないことに立ち向かうって君は決めた。僕はそれを支える事にしたんだ。今回は、逆に支えられちゃったけどね」

カザハナ「…ははっ、そうかもね。今だけ立場が逆になってるもん」

レオン「だけど、カザハナの言う通りだよ。僕の価値は僕にしか決められない、こんな当たり前のことをずっと忘れていたなんてね」

カザハナ「ま、まあ、その、そういうわけだから。あー、なんかとっても暑いから、ちょっと外で風に当たってくるから、大丈夫すぐ戻ってくるから、追いかけてこないでよ!」

レオン「……ああ、わかったけど、すぐに戻るんだよ。練習を再開しないと、そうじゃないといつまでも立場がこのままだ」

カザハナ「うん、わかってるよ……。でもよかった」

レオン「?」

カザハナ「うん。レオン王子、昨日みたいな顔に戻ってる、やっぱりあんたはそうじゃないと、あたしも調子狂っちゃうから」

レオン「……なら、カザハナのおかげだね。ありがとう」

カザハナ「気にしないでいいよ。あたしは少し助言しただけなんだからさ」

 ガチャ バタン

カザハナ「……あたしってば、恥ずかしいなぁ、もう////」

今日はここまで

 キャラクター人気投票の結果発表まだかなー
 ピエリちゃん、何位かな

 この先の展開を安価で決めたいと思います、参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇
カムイが話し掛ける人物
  
 ラズワルド
 ハロルド
 ツバキ
 レオン
 サクラ
 モズメ
 シャーロッテ
 カザハナ

 この中から一人>>533


◇◆◇◆◇
進行する異性間支援の状況

1アクア×ゼロ C
2ラズワルド×ルーナ B
3ラズワルド×エリーゼ C
4オーディン×ニュクス C
5サイラス×エルフィ C
6モズメ×ハロルド C
7ブノワ×フローラ B
8エリーゼ×ハロルド C
9ジョーカー×フローラ A

 この中から一つ>>534

◇◆◇◆◇
進行する同性間支援

1ジョーカー×ハロルド C  
2フェリシア×エルフィ C
3フローラ×エルフィ C
4エルフィ×モズメ C
5アクア×リンカ B
6ベルカ×エリーゼ C
7シャーロッテ×カミラ C

 この中から一つ>>535

◇◆◇◆◇
進行するA支援組
(本篇と同じ時間軸で会話をするキャラクターを決める場所で、基本的にA支援以上に達したコンビだけが選べるようになっています。S支援になるものではありません)

1ジョーカー×フローラ
2フェリシア×ルーナ
3ピエリ×カミラ

 この中から一つ>>536

シャーロッテ

8

2

1

ごめんなさい、今日は疲れてしまって、更新は明日でお願いします。

ピエリ20位だったの。

◇◆◇◆◇
―暗夜王国・王都ウィンダム・エリーゼ邸―

エリーゼ「ど、どうしよう……」

ハロルド「むっ、エリーゼ様? どうしました?」

エリーゼ「あっ、ハロルド。ううん、なんでもないの」

ハロルド「いえ、そんな悲しそうな顔で何もないといわれましても、ハロルド力になれることがありましたら、なんなりとお申し付けください!」

エリーゼ「でも……それじゃ、ハロルドとの約束、破っちゃうことになるから」

ハロルド「? どういうことでしょうか」

エリーゼ「……そのね、この前のお買いもの、実は絵画を一つ頼んだの」

ハロルド「絵画ですか。良いですな、一体どんな絵か楽しみです」

エリーゼ「うん、ありがとう。でも、このままじゃ飾れないって気づいちゃったの」

ハロルド「というと?」

エリーゼ「ここに飾りたかったんだけど、額縁の大きさが上回ってるから……」

ハロルド「なるほど、しかし、なぜここに? ここは私とエルフィくんがエリーゼ様に呼ばれた際にお使いになる各自の部屋の近くですが」

エリーゼ「うん、二人に見てもらいたいって思ってる絵だったんだ。きっと気に入ってくれるって思ったから、でも……このままじゃ飾れないから」

ハロルド「エリーゼ様。私たちのことを思って……。ですが、ここに置くのは難しそうです」

エリーゼ「うん」

ハロルド「ならば、エリーゼ様、一緒における場所をお探しします。このお屋敷にはまだまだ絵画を置けそうな場所はあります」

エリーゼ「で、でも、もともと二人に見てもらいたくて」

ハロルド「はい、そのお気持ち確かに受け止めました。ですが、飾れないことでエリーゼ様のお顔が悲しみに沈むことがあってはなりませんからね」

エリーゼ「ハロルド……ありがとー」

ハロルド「それでは、絵画を飾れる場所を探しに行きましょう」

エリーゼ「うん!」


【エリーゼとハロルドの支援がBになりました】

◇◆◇◆◇
―暗夜王国・北の城塞―

エルフィ「フェリシア、前の戦闘でわたしを庇って前に出たのはなぜ?」

フェリシア「な、何のことですか?」

エルフィ「恍けてほしくないわ。あの時の攻撃、フェリシアが前に出てはじく必要なんてなかった、わたしなら問題なく受け切れた攻撃だったもの……」

フェリシア「そ、それは……」

エルフィ「フェリシア、わたしはそんなに頼りないかしら?」

フェリシア「そ、そんなことないです! エルフィさんはとっても強くて優しくて、どんな攻撃が来ても受け止めてくれるって思いますから」

エルフィ「それじゃ、どうして……」

フェリシア「私、まだエルフィさんに恩返しできてない気がするんです」

エルフィ「……それはあの時のことを言ってるの?」

フェリシア「……だって、一歩間違えたらエルフィさんの命を……」

エルフィ「ふふっ、フェリシアは引き摺りすぎよ。わたしはもうあの時のことをもう気にしてはいないわ」

フェリシア「でも……」

エルフィ「あの日、約束したでしょ?あなたが仲間になってくれるなら、わたしはあなたを守る盾になるって、わたしはその言葉の通りにフェリシアを守りたいわ。だからこの前は冷っとしたから…」

フェリシア「エルフィさん……」

エルフィ「フェリシアがもしも、あの攻撃で死んでしまっていたらわたしはとても辛い気持ちになってしまうから…」

フェリシア「でも、それじゃ、いつかエルフィさんが死んじゃいます……。わたしとか仲間とかじゃなくて、もっと自分のこと大切にしてもらいたいんです」

エルフィ「……」

フェリシア「あの時の攻撃が耐えられないものでも、エルフィさんは受け止めに行ってたはずだから……私だってエルフィさんが死んじゃったら……辛くて泣いちゃいます」

エルフィ「……フェリシア」

フェリシア「……ごめんなさい、失礼します」



【エルフィとフェリシアの支援がBになりました】

 本篇はいつもくらいに

◆◆◆◆◆◆
―レオン邸・女子レッスンルーム―

カムイ「ふぅ、これで一段落したところでしょうか?」

シャーロッテ「そうですね。思ったよりもカムイ様、ターン上達しませんでしたから、ようやく及第点ってところです」

カムイ「はぁ、モズメさんが羨ましいです。気配だけでもわかるくらい完璧じゃないですか」

シャーロッテ「飲み込み早いからもう教えること何も無くなっちゃいましたからねぇ。正直、もう教える側に回っても問題ないくらいになってますよ、あれ」

カムイ「そうですか、ところでサクラさんはどんな感じですか?」

シャーロッテ「サクラ様も問題なしです。ふふっ、結果的に言えば最後に形が出来上がったのはカムイ様になりますね」

カムイ「私が最下位ですか。ちょっと納得できませんね」

シャーロッテ「あれ、仕方ありませんって言うと思ってました」

カムイ「姉と慕ってくれるサクラさんに、それなりにお姉ちゃんらしい場所を見せたかったんですけど……」

シャーロッテ「そういえば、この前、サクラ様とダンスの練習してましたよね?」

カムイ「ええ、そうですが」

シャーロッテ「カムイ様、サクラ様に何したんですか?」

カムイ「なにって……」

シャーロッテ「とぼけてんじゃねえよ。あの時、戻ってきたサクラ様、涙我慢してたんだよ」

カムイ「……」

シャーロッテ「一体何言ったんだよ……」

カムイ「……サクラさんの問いかけに、私としての答えを出せなかったのが原因だと思います」

シャーロッテ「問いかけ?」

カムイ「その内容は伏せさせてください。でも、私はそれに対する明確な答えを持っていなかった。だから、今の現状について思ったことを伝えるくらいしかできなかったんです」

シャーロッテ「カムイ様」

カムイ「ははっ、滑稽ですよね。お姉ちゃんらしい場所を見せたいなんて言っておきながら、結局はサクラさんを支える答えを用意できないんですから……」

シャーロッテ「はぁ……答えを用意することがサクラ様のためになるわけじゃないんですけど」

カムイ「え、だって――」

シャーロッテ「わかってねえな、おい。カムイ様って、身体つきはそれなりにいいですけど、なんて言うか考えが固すぎる気がします。こういう時は、もっとシンプルでいいんですから」

カムイ「シンプルって?」

シャーロッテ「そうですね、こういうのでもいいんですよ」

カムイ「……ひゃっ。しゃ、シャ―ロッテさん!? 何いきなり抱きついて――」

シャーロッテ「サクラ様はこれだけしてもらえればよかったはずですよ」

カムイ「……そ、そうなんですか?」

シャーロッテ「言葉もあればいいですけど、その時カムイ様は何を言えばいいかわからなかったんですよね?」

カムイ「恥ずかしい話ですけど……その通りです」

シャーロッテ「なら、難しいことは考えないでいいんですよぉ。ただ、こうやって抱きしめて、大丈夫って言ってあげるだけでいいんですから」

カムイ「私はサクラさんに不安を与えていただけなんでしょうか?」

シャーロッテ「そう考えない、失敗は誰にだってありますから。転んで立ち上がるを繰り返して、上手な転び方を覚えるんですよぉ」

カムイ「転び方ですか?」

シャーロッテ「はい、私だって男で結構失敗してます……。でも、そういうの含めて今の私がいるんですよぉ」

カムイ「その媚びたしゃべり方も、転んだ練習の成果なんですか?」

シャーロッテ「ああもう! なんで茶々いれるんだよ。少しは素直に受け取れって言ってんの! まったく、少し隙を見つけると突いてくるその性格、良くないわよ」

カムイ「……それもそうですね。ごめんなさい」

シャーロッテ「……それに、カムイ様も女の子なんですから、こうやって抱きしめてもらいたいですよね?」

カムイ「どうでしょうか、私はどちらかと言うと抱きしめる側の立場が多かったような気もします」

シャーロッテ「まぁ、他人の顔触って喜んでるの見てると、そんな感じがしますけど」

カムイ「うっ……その、御凸、触ってもいいですか?」

シャーロッテ「ふふっ、図星だからって人の弱点突くのは駄目ですよぉ? とにかく、カムイ様は女心を知るべきですよぉ」

カムイ「その、私が女泣かせみたいに聞こえる発言止めてくれませんか?」

シャーロッテ「仕方ないですよぉ、現にサクラ様を泣かせる寸前にしてるんですから。それに女の子は笑ってるのが一番可愛いんですよぉ、男たちがそう望むような笑顔は、とっても可愛いんですよぉ」

カムイ「男が望むようなですか?」

シャーロッテ「そうですよぉ。もちろん、カムイ様も笑顔が一番可愛いんですからぁ」

カムイ「……そ、そんなこと///」

シャーロッテ「あれれ、顔赤くしてますけど、どうしたんですかぁ?」

カムイ「抱きしめられてるから熱いだけです、あー熱いですね」

シャーロッテ「そうなんですか、それじゃ抱きしめるのやめますね」ニヤッ

カムイ「!!!! あ、あの!」

シャーロッテ「なんですかぁ? 熱いから離れるだけですよ?」

カムイ「……このままで。熱が引くまで、このままでお願いできますか?」

シャーロッテ「……はい、いいですよぉ」ニヤッ

シャーロッテ(ふふん、前回顔を触られたときはやられっぱなしだったけど、今回は私のペースに持ってきたわ。さてと、どれくらい顔を真っ赤にするかしら?)

カムイ「……シャーロッテさん」

シャーロッテ「なんですかぁ?」

カムイ「とってもあったかいです……」

シャーロッテ「ふふっ、そうで――」

カムイ「はい、手で触りたいくらいに」

 ピトッ

シャーロッテ「……え?」

 ガチャ

モズメ「もどったでー、練習再開……せんと」

サクラ「すみません、今戻りました。あれ、モズメさん、どうしたんですか、何かあ――」

カムイ「ふふっ、シャーロッテさん、とってもあったかいですよ。とくにここら辺が一番あったかくて心地良いです」

シャーロッテ「ちょ、待ちなさいよ。そこは胸……、くひぃん!」

カムイ「どうしたんですか。熱が引くまで抱きしめてくれるって言ったじゃないですか……。約束守ってくださいよ。ほら、笑顔な私も付けますから」

シャーロッテ「へ、変なことするなら話は別――あっ、んっ、そんな手で触っちゃ……はふっ、いや、こんな、こんなはずじゃ……」

 バタン

モズメ「……」

サクラ「……」

 シャーロッテサン、ヤッパリトッテモヤワラカイデスネ
 ヤメ、カムイサ、ヒゥウッ、モウ、ユルシ―――

モズメ「壁越しでも聞こえるもんやな/// シャーロッテさん、カムイ様に何か言ったんかな?」

サクラ「……もしかしたら、私のことで姉様に何か言ってくれたのかもしれません」

モズメ「ん?」

サクラ「この前、姉様と話して戻ってきた時、すぐにシャーロッテさん話しかけてくれましたから。なんで泣きそうな顔してるのかって心配されました」

モズメ「そうなんか。シャ―ロッテさん、あたいのこともいっぱい褒めてくれて、ほんまええ人やなって」

サクラ「はい、その、やっぱり助けに入ったほうがいいんじゃないでしょうか?」

モズメ「せやな、ここは二人力あわせて、カムイ様からシャーロッテさんを―――」

 フフッ、ドウシタンデスカ、シャーロッテサンノカラダ、ワタシヨリアツクナッテマスヨ
 ナイ、ナイカラ、ワタシ、ソンナシュミ! フニュウウウウウ!!!!!

モズメ「……助けたいとこやけど、あたいたちには刺激強すぎる気がすんねん////」

サクラ「はい……シャーロッテさん、許してください/////」

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸・外―

~舞踏会当日~

カムイ「お疲れ様です。フローラさん、ジョーカーさん」

フローラ「カムイ様、ダンスの練習の結果はどうでしたか?」

カムイ「はい、どうにか今日の舞踏会までには間に合ったというところです。シャーロッテさんによく教えてもらえましたから」

ジョーカー「カムイ様のダンス、とても楽しみにしております。といっても、私は給仕としてお近くにいる以外にできることもないんですが」

カムイ「いいえ、皆さんには色々なことを頼んでいますから。ところでアクアさんたちは?」

ジョーカー「はい、先に舞踏会の会場へと向かわれておりますので、ご安心ください。またギュンターとフェリシアも、すでに会場に入っておりますので心配要りません」

カムイ「そうですか、わかりました」

フローラ「カムイ様、私たちはこちらでお待ちしておりますので。皆さんの準備が出来次第、声をおかけください」

カムイ「はい、わかりました。少しの間ですが、待っていてください」

 タタタタタタタタッ

フローラ「……父さんも出席するらしいわ。ガロン王は部族の方々にも招待状を出しているようだから」

ジョーカー「表向きは娘の晴れ舞台と言ったところだが、実際は権力の誇示、カムイ様をこういうことに使われるのは胸糞悪いな」

フローラ「そうね。同時にカムイ様へに対する部族の方たちの目を潰そうと考えているのかもしれない」

ジョーカー「そうか……。お前の親父はどっち側だと思う?」

フローラ「……前だったなら、間違いなく向こう側の方だったと思うわ。私が一度カムイ様を裏切ったように、父さんも切り捨てたでしょうね」

ジョーカー「それは前の話だ、重要なのは今どうなのかってことだ」

フローラ「そうね。父さんがどう考えているかはさすがにわからない、だって私は父さんじゃないもの」

ジョーカー「頼りない言葉だな。そこは自信を持って言ってもらいたいところなんだが」

フローラ「ジョーカーのことを信用しているから、こうやって思ったことを言えるのよ。希望的観測で物を言えるほど、今はいい状態じゃないから」

ジョーカー「それもそうか」

フローラ「でも、そうね希望的に言っていいなら、父さんはカムイ様のこと信じているはずよ」

ジョーカー「なら、それでいい。またお前たちが敵に回るような事態は、ごめんだからな」

フローラ「……安心してそれはないわ」

ジョーカー「ほう、自信満々だな」

フローラ「あの日、星海に私たちをカムイ様が招待してくれた時に、私とフェリシアは覚悟を決めた。だから、父さんも私たちと同じ道を進んでくれるって信じられる」

ジョーカー「……カムイ様が俺たちを信用してくれたからこそ、こうして頼まれたんだ。しかし、お前に見抜けるのか?」

フローラ「父さんが来るなら、私はその近くで調べるつもりよ。部族には部族同士だからこそ、わかることがあるもの」

ジョーカー「なるほどな、それなら俺はカムイ様の傍で目を光らせるってことになる。ふっ、これはカムイ様から信頼されてる俺だけに許された特権だな」

フローラ「あら、そんなこと言ったらフェリシアも一緒にいるって話になってるから、フェリシアにもその特権があることになるわね」

ジョーカー「うっ、まあいいさ。何よりも重要なことは、俺たちの情報がおのずとカムイ様の今後に直結するってことだけだからな」

フローラ「ええ、私たちは多分、それと一緒にカムイ様に付いて行くことになる。だから、一度確認してくれた。付いて来てくれるかどうか」

ジョーカー「カムイ様らしいが、正直俺は傷ついたぜ。まさか、ここまで仕えてきたのに確認されるなんてな。まだまだ、奉仕の精神が足りなかったってことだろうな」

フローラ「ジョーカーで足りないなら、私とフェリシアじゃ、足もとにも及ばないわね」

ジョーカー「当り前だ」

フローラ「でも、聞かれたのは仕方ないことよ。だって、今から私たちが調べることは、極端に言えば切り捨ての選別に他ならない行為だから」

ジョーカー「……俺たちは主の仕事が円滑に進むように言われたことをきっちり調べるだけだ、そしてそのあとは一度カムイ様に任せるしかない。どんな決断、結果になっても俺はカムイ様に付き従い続ける、ただそれだけのことだ」

フローラ「……ええ、私も同じ考えよ。だから安心して、ジョーカー」

ジョーカー「なら、それでいいさ」

 少し休憩

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ラズワルド「うん、この格好なら多くの女の子とお話しできる気がする」

ハロルド「ふむ、中々にかっこいいぞ、ラズワルドくん。だが、あまり多くの女性に声を掛けると主君であるマークス様に迷惑が掛るかもしれないこと、忘れてはいけないよ」

ラズワルド「……やっぱりマークス様も舞踏会に来てるんだよね。でもさ、今日はカムイ様のための場所だから、多めに見てくれるかもしれない」

ハロルド「むしろ、カムイ様の式典だからこそ、マークス様も十分に気を使うと思うのだがね」

ラズワルド「……ちょ、ちょっとだけだからさ、これだけ、これだけだから」

ツバキ「それって典型的に駄目な人の言葉だよねー。でも、よかったよー、ハロルドもうまくダンスができるようになって」

ラズワルド「うわっ、ツバキ、すごく似合ってるじゃないか……」

ツバキ「でしょ、着こなしも完璧にしないと駄目だからねー。一緒に一曲踊ってくれる人に失礼のないように気を配らないと」

ハロルド「うむ、その通りだな。私も良い感じに着こなせたので満足しているぞ!」

 ビリッ

ハロルド「……」

ツバキ「……ビリッ?」

ラズワルド「ハロルド?」

ハロルド「……なぜこういうタイミングに限って、布が破けるのか」

ツバキ「あー、これで何着目だっけ?」

ラズワルド「今日だけでも二十着は破いてる気がするよ。しかも、特に無理をしてるってわけじゃないのに破れるから、見ててとても不思議な気持ちになるよ」

ハロルド「ここで今日の不運をすべて帳消しにできるとよいのだが……。さすがに舞踏会の最中に破けてしまったら、カムイ様もそうだが、主君であるエリーゼ様に恥をかかせてしまう……」

ツバキ「でも、すごい不運だよねー。暗夜一の不運の持ち主って言うのは伊達じゃないね、近くにいたら俺たちの服も破れかねないよー」

ハロルド「ぐっ……、酷いことを言われているが、なまじそうなるかもしれない分、何も言い返せない」

ラズワルド「不運なのは仕方ないことと割り切るしかないかな。でも、大丈夫、これ以上悪いことなんて起こらないよ、ハロルドも一生懸命練習を頑張ってきたんだから」

ハロルド「ラズワルドくん」

ラズワルド「………多分ね」

ハロルド「……」

 コンコン

シャーロッテ『すみません皆さん、私たちのほうの準備が整いましたぁ』

ハロルド「その声はシャーロッテくん……。さすがに迎えを待たせている以上、仕方無い。すぐに着替えていくとしよう、大丈夫だ、実際破いてしまった服の数は十九着ほど、これ以上はないはずだ」

ラズワルド「数えてたんだね、ハロルド」

ツバキ「うん、本当にそうだといいねー」

ハロルド「よし、破けたのは上着だけのようだ。これでよし」

 ガチャ

ハロルド「すまない、待たせてしまったようでもうしわけな――」

シャーロッテ「ふふっ、女の人を待たせるなんで駄目ですよぉ。でも、皆さんとっても似合ってますよ」キラキラ

モズメ「うわぁ、みんなかっこええな」キラキラ

サクラ「皆さん、すごく似合ってます!」キラキラ

カムイ「ふふっ、ハロルドさん達、皆さんから太鼓判を押されましたね、私も見れないのがとても残念です」

ハロルド「シャ、シャーロッテくん。キミは、その……胸元が強調されたものを選ぶようだね///」

シャーロッテ「はい、これヒラヒラしてる場所とか可愛くて、えへっ。ハロルドさんもとっても似合ってますぅ」

モズメ(仮面付けるの速いわ。さっきまで話してたシャーロッテさんと、違い過ぎてびっくりしてまう)

ラズワルド「モズメも可愛いね。あと、薄く化粧してるのかな? いつも以上に可愛いよ」

モズメ「おおきに。でもシャーロッテさんに化粧教えてもろうて、ようやく少し出来るようになったんよ/// ラズワルドさんも、いつもよりかっこええよ」

ツバキ「サクラ様、すっごく似合ってますよー」

サクラ「ツバキさん、ありがとうございます。ふふっ、ツバキさんもとても素敵ですよ」

ハロルド「おや、カムイ様はドレスを着ないのですか?」

カムイ「はい、私には式典用にドレスがあるそうなので、それを舞踏会の会場で渡していただけるそうです」

ハロルド「なるほど、どうにか間に合ったようだ、あとはお互い全力で臨むまで……むっ? カザハナくんの姿が見えないが……」

カムイ「ああ、それなんですが。少しトラブルがあって……」

ラズワルド「トラブル? いったい何があったんだい、まさか怪我をしたとか?」

サクラ「いや、誰かが怪我をしたってわけじゃないんです。レオンさんも足は痛いけど問題ないって、朝仰ってましたから」

ツバキ「それは怪我してるって言うんじゃないかなー。まぁ、レオン王子が大丈夫って言ってるから大丈夫なんだろうけど、それじゃどんな問題が?」

シャーロッテ「その、実は―――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「……僕としたことが、なんてミスをしたんだろう」

レオン(姉さんのこととかにうつつを抜かしてて、まさかドレスの試着もさせてあげてなかったなんて)

レオン「はぁ、今日ぶつけ本番で踊るのと、これじゃ何も変わらないじゃないか……」

 コンコン

カザハナ『ね、ねえ……レオン王子』

レオン「カザハナ? どうだい、その…ドレスの方は……」

カザハナ『え、えっと。メイドさんに手伝ってもらえて、どうにか選べたけど……』

レオン「そうか、それじゃ見せてくれないかな?」

カザハナ『う、うん……』

 ガチャ

レオン「……」

カザハナ「ど、どうかな? その胸の花はあたしが選んだんだけど……えへへ」

レオン「あっ、うん……その、えっと」

カザハナ「や、やっぱり突然選んだのじゃ、似合ってないよね。あたし、そういうのって自信ないからさ……」

レオン「そんなことないよ、とても似合ってるよ」

カザハナ「それってやっぱり、お世辞なのかな?」

レオン「お世辞にするんだったら、そうだね。『まるで荒野に咲く一輪の華麗な花みたいだ』とか、そんな風に言ってあげるよ」

カザハナ「あはは、たしかにその言葉だとお世辞って感じする。でも、よかった。こういうの着るの初めてだから、全然似合ってないの選んじゃったと思ってたから」

レオン「……ごめん」

カザハナ「何、いきなり謝ったりしてさ。もしかしてさっきの言葉、やっぱりお世辞だったってこと?」

レオン「ちがうよ、本当ならもっと選べるドレスがあったからもしれない、それにドレスでのダンスなんてまだ練習もしてない、なのにこんな形になってしまったから…」

カザハナ「そうだね。このまま、ぶつけ本番で誰かと踊るのってかなり難しい気がする。でも、仕方無いよ、ほら、あたし上達するの遅かったから……」

レオン「……いや、僕の教え方が良くなかったんだ。それに、姉さんのことでいろいろと考えてたこともあるし、本当にごめん」

カザハナ「なら、お互いに悪いところがあったってことで両成敗ってことにしよ。それで解決、この話はおしまい、ね?」

レオン「カザハナ……」

カザハナ「それよりも、会場についたらあたしのこと、ちゃんと支えてよ。さすがに練習もなしにいきなり踊るのなんて無理な話だからさ」

レオン「……両成敗で終わりじゃなかったのかな?」

カザハナ「それとこれとは話が別よ。だって、まだ完璧に仕上がってないんだから……あたしが完璧にできるまで見る約束だったでしょ?」

レオン「……仕方ないね。なら、僕の足にももう少し犠牲になってもらう必要があるってことかな。結構、これでも痛いのを我慢してるんだけどさ」

カザハナ「ここでそういうこと言うのやめてよ。まぁ、絶対踏んじゃうと思うけど」

レオン「まったく、悪びれないんだね」

カザハナ「それはあんたもでしょ?」

レオン「……」

カザハナ「……」

レオン「あははっ」

カザハナ「うふふっ」

レオン「まぁ、精々転ばないように気をつけるんだね。さすがに転びそうなのは支えられそうにないからさ」

カザハナ「はいはい、わかってるわよ。足踏ん付けて踏ん張ってやるんだから」

レオン「それじゃ、いこうか」

カザハナ「うん。見てなさいよ、絶対成功させてやるんだから………」

レオン「ああ、楽しみにしてるよ」

カザハナ「えへへ…………あれ?」

カザハナ(なんかおかしい?)

レオン「どうしたんだい、カザハナ」

カザハナ「えっとさ、その、似合ってる?」

レオン「似合ってるよ」

カザハナ「……」

レオン「お世辞じゃないって言ったよね?」

カザハナ「いや、わかってるよ。その……ありがとう」

レオン「それじゃ、みんなを待たせてるから行こうか」

カザハナ「うん……」

カザハナ(やっぱり勘違いだったってことかな? 似合ってるって言われても全然ドキドキしないし……)

カザハナ「そうだよね……、そんなわけないよね……」

レオン『似合ってるよ』
 
 ドクンッ!

カザハナ「!?」

カザハナ(ど、どうして思い出すとドキドキするのよ……)

カザハナ「なにこれ、意味わかんない……」ボソッ

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城前―

 ガチャ

ジョーカー「カムイ様、クラーケンシュタイン城に到着いたしました」

カムイ「はい、ありがとうございます。……少し冷えますね」

ジョーカー「はい。すでに皆様の受け付けは、フローラが済ませに向かいましたので、どうぞ私について来てください」

カムイ「はい、わかりました」

ジョーカー「カムイ様。フリージアのクーリア様も来賓として招かれているそうです」

カムイ「そうですか、わかりました。これでフローラさんも作業がしやすくなりますね」

ジョーカー「はい……王族周りはギュンターが担当しています」

カムイ「そうですか。ギュンターさん一人で大丈夫でしょうか?」

ジョーカー「私たちもそこを気にしましたが。長く仕えている私にしか見えないものもあると言っておりましたので、一任することにしました」

カムイ「ギュンターさんらしいですね。わかりました、あとはフェリシアさんだけですが……」

フェリシア「あっ、カムイ様! お待ちしておりましたー!」

ジョーカー「噂をすれば影ですね」

カムイ「そのようです。すみません、フェリシアさん。先に会場へ向かってもらって」

フェリシア「いいえ、私にできることなんてこれくらいですから。アクア様や他の方はもう入られてますよ、カムイ様」

カムイ「わかりました。それじゃ、ジョーカーさん、フェリシアさん。私の付添、よろしくお願いしますね」

ジョーカー「おまかせを」

フェリシア「はい、まかせてください」

カムイ「はい……」

カムイ(さぁ、行きましょうか)

(これからの指針を決める第一歩になる、この舞踏会に……)


休息 5 おわり

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+→B
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+→C
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテC+→B
(返り討ちにあっています)

今日はここまで

 次の休息時間(舞踏会)で休息時間終了になります。
 シャーロッテの体力なら、あと三回は耐えられるはず!
 25周年の本、発売日に手に入らなかったのはショックだった……

 ヒノカが奪還した男カムイとの距離を無理やり縮める番外(エロ)は、休息時間終了の時に張り付けたいと思いますので、もう少しお待ちください。

 この先の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇
 カムイが会話することになる王族

 マークス
 カミラ
 エリーゼ
 レオン

 >>563

◇◆◇◆◇
 カムイが会話することになる暗夜軍部

 マクベス
 ゾーラ
 ガンツ

>>564

◇◆◇◆◇
 カムイがダンスを踊ることになる相手

 マークス
 カミラ
 エリーゼ
 レオン
 ハロルド
 ラズワルド
 ツバキ
 シャーロッテ
 カザハナ
 サクラ
 モズメ
 アクア
 マクベス
 ガンツ
 ゾーラ
 
>>565>>566

 こんな形でお願いいたします。

カミラ

マクベス

連取りして良いかわからないけど人がいないようなので

ラズワルド

サクラ

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

アクア「カムイ、遅かったわね」

カムイ「アクアさん。すみません、少し遅れてしまったようですね」

アクア「そうね……、でもよかったわ。土壇場で嫌になったのかと思ったから」

カムイ「さすがにそんなことはしませんよ。私のために色々な方が準備をしてくれて、この場に来てくださっているんですから」

アクア「ええ、部族、貴族、軍部の関係者。多くの人が来ているのは確かよ。ガロン王はやっぱり、あなたの力を多くの人たちに示したいみたいね」

カムイ「それが、お父様が目指すことの第一歩なのかもしれません。例の一件で、私がしたことを利用しない手はないでしょう」

アクア「……それが原因で多くの人から敵意の眼差しを向けられるかもしれない事態になるかもしれないのよ?

カムイ「望むところですよ。それにそうでなければ、お父様の話に乗った意味がありません。私は自分で道を選ぶために、ここにいるんですから」

アクア「……カムイ」

カムイ「ささっ、アクアさんも今日は舞踏会を楽しみましょう。いっぱいおいしいものも出るそうですから」

アクア「ねぇ、カム――」

 スッ

???「それっ!」

アクア「ひゃんっ!」

???「ふふっ、やっぱり柔らかいわね、アクアは」

アクア「その声……カミラ?」

カミラ「ふふっ、会場で一番にカムイに声を掛けようと思ってたのに、アクアに先を越されちゃって、お姉ちゃん悲しいわ」

カムイ「カミラ姉さん、お久しぶりです」

カミラ「ええ、レオンのお屋敷で舞踏会の準備だったんでしょう? お疲れ様、それで結果はどうかしら?」

カムイ「シャーロッテさんに及第点と言われるくらいにはなりました。少しターンがうまく決まらなくて、ちょっとまだ不安です」

カミラ「ふふっ、カムイにも苦手なことがあるのね。お姉ちゃんならもっと親身になって教えてあげるのに」

カムイ「今度、舞踏会がある時はお願いしますね」

カミラ「ええ、……」

カムイ「カミラ姉さん?」

カミラ「本当はお父様がカムイを認めてくれたと喜ぶべきなのに、手放しに喜べないわ」

カムイ「……」

カミラ「だって、今日カムイは多くの知らない男たちと踊るのよ。拒否権が無いカムイは誘われるままに踊らないといけない、そう考えるとね……」

アクア「え、そっち?」

カミラ「他に何か心配することがあるかしら?」

アクア「カムイが権力の誇示としてつかわれるから喜べないってことかと思ったのだけど」

カミラ「……それは確かにあるわ」

アクア「なら、どうして?」

カミラ「だって、カムイはこの道を選んだんだもの。なら、それを支えてあげるのが、お姉ちゃんの役目だから」

カムイ「カミラ姉さん……」

カミラ「ふふっ、カムイが選んだことに疑問を投げかけることは簡単よ。だけど、時には信じてあげないといけないから、私はカムイの道を信じることにしたの」

カムイ「ありがとうございます」

カミラ「ふふっ。でも、疲れたりしたらお姉ちゃんのことをちゃんと頼ってちょうだい、私はカムイのお姉ちゃんなんだから」

カムイ「はい……。もしも、その時が来たらいっぱい甘えさせてくださいね」

カミラ「ええ、甘えてもらえるのはお姉ちゃんの特権だからね」

アクア「なら、私もお姉ちゃんになれるわね」

カミラ「えっ?」

アクア「……あ」

カムイ「確かに、アクアさんには多く甘えてしまいましたから。アクアさんもある意味、お姉ちゃんと言えなくもないですね」

アクア「……ごめんなさい。な、なんのことなのか、さっぱりわからないわ」

カミラ「ふふっ、アクア、舞踏会が終わったら私のお屋敷で話をしましょう? そうね、お風呂に入りながらなんてどうかしら?」

アクア「その、うれしい誘いだけど。私は歌と踊りの練習があるか――」

カミラ「ふふっ、私はアクアのお姉ちゃんでもあるから、いっぱいいっぱい甘えさせてあげるわ。カムイの分もいっぱい甘えさせてあげる」

カムイ「カミラさんとアクアさん、とっても仲良しですね」

カミラ「ええ、だってアクアも大切な妹だもの、ねぇ?」

アクア「そ、そうね……」

カミラ「ふふっ、それじゃカムイ。中でまた会いましょう」

カムイ「はい」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

マクベス「ふむ、持ち物の調査もこれほど厳重にしておけば大丈夫でしょうが」

カムイ「マクベスさん」

マクベス「これはこれは、カムイ王女。どうかなされましたかな?」

カムイ「いえ、会場の護衛の件もありましたので、ご挨拶に伺ったまでです」

マクベス「そうですか、ありがたく受け止めさせていただきますよ。しかし、これでようやく私も軍師としての采配をふるう機会を得るというものでしょう」

カムイ「……白夜侵攻ですね」

マクベス「流石にこれくらいは察することができるようですな。今や、白夜は風前の灯火と言っても過言ではないでしょう、カムイ王女の活躍で暗夜内の不穏分子は、一掃されたも同然ですからな」

カムイ「心置きなく、白夜侵攻の作戦を練ることができる……そういうわけですね」

マクベス「そうなりますな。しかし、最初は部族の者たちが多く参加すると聞いて、何かしてくるかと心配しましたが、どうやら杞憂に終わったようです」

カムイ「シュヴァリエの反乱と、他の部族の方々はなにも関係ないはずですよ?」

マクベス「ふん、シュヴァリエの反乱に乗じて事を起こそうと考えていた者たちもいなかったとは言い切れませんからな。それに、彼らには信じる何かがあったようですが、それも今や掻き消えたということでしょう。当然といえば、当然のことですが」

カムイ「当然ですか?」

マクベス「ええ、ガロン王様が導く先にこそ、暗夜の発展と栄光があり得るのですから、それを見誤るような者たちが見た幻想は掻き消えて当然の物。炎の先に揺らめくだけの蜃気楼だけしか見えない者たちには、ガロン王様の見据える先の世界が見えていないのでしょう。嘆かわしいことですな」

カムイ「……お父様の見据える先ですか」

マクベス「長きにわたる暗夜と白夜の戦争も、ようやく終わりが見え始めたました。故に、その先にある新しい戦いをガロン王様は見据えておられることでしょう。そして、カムイ王女もガロン王様に認めてもらうのですから、同じように先を見据えられるようにならないといけませんな」

カムイ「……そうですね。確かにその通りですね」

マクベス「……おや、やけに素直ですな」

カムイ「いいえ、マクベスさんの言っている先を見据えられるようにならなければいけないということは、間違いなくその通りでしょうから」

マクベス「ふん、カムイ王女がガロン王様のように見据えられるには、まだまだ多くの時間がかかるでしょうな」

カムイ「そうですね。未熟な身ですが、頑張らせてもらいますよ」

マクベス「……長話はここまでです、早く中へお入りください」

カムイ「?」

マクベス「もう、舞踏会が始まります。私はまだ警護の任がありますのでね」

カムイ「そうですか、では失礼しますね」

マクベス「はい、それでは」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ジョーカー「カムイ様、こちらです」

フェリシア「ガロン王様の挨拶が終わったみたいです」

カムイ「すみません、ちょっとお話をしすぎてしまったようですね。お父様の元にすぐ――」

ジョーカー「いえ、カムイ様の王族としての儀は表向きには伏せられておりますので、まだカムイ様の出番ではないと思われます。時間になれば使いが来ることでしょう」

カムイ「そうですか、少し冷や冷やしましたが。それでは、それまでの間は私たちも中に入りましょうか」

フェリシア「はいっ」

 ♪~ ♪~

カムイ「多くの気配がありますね。私はえっと、待っている立場であればいいのでしょうか?」

ジョーカー「そうですね。誘われない限りは、特に動く必要もないでしょう」

カムイ「そうですか」

カムイ「……」

カムイ「……」

カムイ「待っていますけど、誘われませんね。魅力不足ということでしょうか?」

ジョーカー「カムイ様の魅力は素晴らしいものですよ。ですが多くはカムイ様の名前だけを知り、顔を知らない者たちばかりなのでしょう。仕方ありません」

カムイ「これでは、練習の成果をジョーカーさんにお見せできませんね」

???「なら、僕と一曲どうですか? カムイ様」

カムイ「?」

ラズワルド「どうも、カムイ様。少しの間姿が見えなかったんで心配しましたよ」

カムイ「ラズワルドさん……。どうです、舞踏会で可愛い女の子を見つけられましたか?」

ラズワルド「それなら、今目の前にいますよ」

カムイ「…ふふっ、面白いことを言いますね、ラズワルドさんは」

ラズワルド「いいえ、カムイ様はとても可愛いですよ。どうです、僕と一曲踊ってみませんか?」

カムイ「ふふっ、何人の方に、こんな感じで声を掛けたんですか?」

ラズワルド「……その……四人です。全部袖にされちゃって、舞踏会の席だから踊ってくれるって思ったんですけど、おかしいですよね」

カムイ「ふふっ、ここで私がラズワルドさんの手を取っちゃったら、連敗記録にストップが掛ってしまいますね。どうしましょうか?」

ラズワルド「ううっ、だ、だめですか?」

カムイ「ふふっ、冗談ですよ」スッ

ラズワルド「!」

カムイ「今日、初めて踊ることになったのはラズワルドさんですね」

ラズワルド「えへへっ、そう言われると、なんだか嬉しくなります、カムイ様」

カムイ「それじゃ、よろしくお願いしますね」タッ

ラズワルド「はい、喜んで。では、こちらに」

カムイ「はい」

ラズワルド「ターンだけが苦手なんですよね?」

カムイ「はい。ラズワルドさんのステップとっても軽やかですね」

ラズワルド「踊るのには自信があるんで、でも、まさか最初がカムイ様になるなんて思わなかった」

カムイ「ふふっ、でも奇麗に踊れているなら、私と踊り終わったあとに声をいっぱいかけてもらえるかもしれませんよ?」

ラズワルド「確かにそうかも。なら、カムイ様、奇麗に踊り切っちゃいましょう」

カムイ「ふふっ、あ、そろそろターンですね」

ラズワルド「うん、それじゃここで、それっ!」

クルクルクル カッ

カムイ「あっ……」

ラズワルド「カムイ様!?」

 ガシッ

ラズワルド「!」

カムイ「すみません、やっぱりまだまだみたいですね」

ラズワルド「いや、その、だ、大丈夫ですか?」

カムイ「はい、ふふっ、ラズワルドさんの心臓の音、とっても大きくなってますね……」

ラズワルド「そ、それはその密着してるからであって」

カムイ「それもそうですね。ふふっ、こうして触ってみると、ラズワルドさんもやっぱり男性なんですね」

ラズワルド「か、カムイ様。その言葉はなんだかとても危ない気がするのでやめてください」

カムイ「そうですか。ふふっ、からかってしまってごめんなさい」

ラズワルド「からかうのはやめてくださいよ。こんなのマークス様に見られたらどうなるかわからないんですから……」

カムイ「はい、ごめんなさい。ラズワルドさんは、こんなことをする私のこと、ちゃんと支えてくれるんですね」

ラズワルド「……約束したよね、カムイ様よりも先には死なない、だから君を守るって」

カムイ「…ラズワルドさんの使命が果たされる日が来るといいですね」

ラズワルド「僕はカムイ様を守りつづける限り、その機会が必ず来るって信じてるから。使命もカムイ様も、一緒に守ってみせるから」

カムイ「ありがとうございます、ラズワルドさん」

ラズワルド「だからさ。今は心配せずに舞踏会を楽しんじゃおう。あっ、でもちょうど一曲終わるみたいだね……」

カムイ「そうみたいです。ふふっ、最後のターン以外はできたでしょうか?」

ラズワルド「はい、とっても上手にできてましたよ。ターンの失敗も注意すればなくなりますから、自信を持ってください」

カムイ「ありがとうございます……あの」

ラズワルド「なんですか?」

カムイ「ラズワルドさんも、お誘い頑張ってくださいね」

 タタタタタッ

ラズワルド「カムイ様……」

ラズワルド「最後の最後で厳しいことを言わないでほしいなぁ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

サクラ「……はむっ、うん、甘くておいしいです。」

カムイ「……」

サクラ「あっ、こっちのケーキもおいしそうです。うーん、でもこれ以上食べちゃうとやっぱり、体重とか……でも、今しか食べられないかもしれませんし……」

カムイ「えっと、サクラさん?」

サクラ「ひゃいっ……か、カムイ姉様////」

カムイ「はい、てっきり舞踏会の中心で踊ってると思っていたんですけど……あの、何をされているんですか?」

サクラ「そ、その。ちょっと……ですね」

カムイ「とっても甘い香りがしますね、ここはデザートが並べられてる場所みたいですけど」

サクラ「そ、その、甘いものが食べたくて//////」

フェリシア「サクラ様、甘いものが大好きなんですね。先ほどからペロリ、ペロリッって、ケーキを食べちゃってますから」

サクラ「み、見てたんですか……」

カムイ「ははっ、意外と食いしん坊なんですね、サクラさんは」

サクラ「ううっ、恥ずかしいです。そ、そうです、姉様、今から一曲踊りましょう?」

カムイ「え、サクラさ――」

サクラ「新しく曲が始まるみたいですから、は、早く行きましょう!」

 タタタタタタッ

カムイ「意外と強引ですね、サクラさんは」

サクラ「ふふっ、そうかもしれません。レオンさんにもよく言われましたから」

カムイ「そうですか」

サクラ「姉様……」

カムイ「どうしました、大丈夫ですよ、サクラさんがケーキをいっぱい食べてたこと、レオンさんやカザハナさんには……」

サクラ「そ、そういうことじゃないんです! その、この前シャーロッテさんに何か言われたんじゃないかって思って……」

カムイ「はい、サクラさんを悲しませるんじゃないって、怒られました」

サクラ「ごめんなさい、私、姉様を困らせるようなことを……」

カムイ「サクラさんが気にすることじゃありませんよ」

サクラ「でも……」

カムイ「ちょっと失礼しますね」

サクラ「えっ、ね、姉様いきなりどうしたんですか!?」

カムイ「すみません、ちょっとステップを間違えちゃったんです」ギュッ

サクラ「あっ……」

カムイ「………」

サクラ「………姉様」

カムイ「これくらいしか、今はできませんから」

サクラ「いいえ、ありがとうございます。姉様、もうステップ合わせられしょうですか?」

カムイ「はい、もちろんですよ」

サクラ「えへへ。私、姉様と一緒に踊れてとっても幸せです」

カムイ「そう言ってもらえて、とてもうれしいですよ。サクラさん」

サクラ「はい、私もです」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「……」

ジョーカー「カムイ様……」

カムイ「はい、わかっています。時間のようですね」

 ザッザッザッ

衛兵「カムイ王女ですね」

カムイ「はい」

衛兵「ガロン王様があなたをお呼びです。同行していただけますか?」

カムイ「はい、ジョーカーさんはこちらでお待ちください。フェリシアさんは私と一緒に」

フェリシア「はい、わかりました」

ジョーカー「お気をつけていってらっしゃいませ。フェリシア、カムイ様のことは任せたぞ」

フェリシア「はい、しっかり着付けをさせてもらいますね」

カムイ「はい、よろしくお願いしますね。フェリシアさん」

衛兵「では、私の後について来てください、カムイ王女」

カムイ「はい……」

「わかりました」

今日はここまで
 
 25周年本を読んでリリスの抱えているあれがリリスの星界だと知ったのだった……
 

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・舞踏会会場―

マークス「ああ、その件は次回の議会で提出させてもらうことになっている。しかし、多くが実現するには時間掛るだろう、そして貴君らにも辛い時を過ごさせることになるかもしれない」

貴族「マークス王子、わたしたちもそれは覚悟の上でございます。マークス王子の取り計らいに農村部の方々も感謝しておられますから。それに与えられるだけでは人は疲弊し進めなくなるものです。マークス王子の行いは、必ずや多くの力となりましょう」

マークス「そう言ってもらえると私としても嬉しく思うぞ」

貴族「いいえ、それでは私は失礼いたします」

マークス「ああ……」

ギュンター「マークス様」

マークス「ん、ギュンターか。お前の執事姿を見るのは久々だな」

ギュンター「そうですかな。いや、そうでありましょうな。城塞にいる間はカムイ様に仕える騎士として過ごしてまいりましたので。ところで、今の御方は農村部の地域査察を行っている貴族の伯爵でしたな」

マークス「ああ、この頃になってノスフェラトゥによる被害が増え始めていることもあって、前から相談を受けていた。次の議会で地方の問題とともに提出することになっている。民が疲弊しては王国の繁栄はあり得んからな」

ギュンター「なるほど、ガロン王様も民に新たな豊饒な地を与えるために、白夜との戦争を続けてきましたからな。それが今叶おうとしているということでしょう」

マークス「……暗夜王国は土地に恵まれてはいない。白夜の地を手に入れることは暗夜王国に存在する、不満を解決しさらなる繁栄を連れてくるものだ。だが、父上はそれをこの頃口にしてはくれない」

ギュンター「……といいますと」

マークス「父上は、この頃侵略を成功させることを口にしているばかりだ。たしかに侵略の成功が一つの終わりであることは確かだ、父上に考えがある以上、私はそれを信じたい。だが、この頃の父上の口からは自国の民に対して行うべき政策は出ていない」

ギュンター「……」

マークス「そして、今回の件でカムイを表舞台に出すのは、権力の誇示でしかない。しかもこれではカムイが受けることになる視線の意味は……」

ギュンター「ガロン王様もこれからの白夜侵攻に向けて、国民の意思を一つにしようと考えているのでしょう。シュヴァリエの反乱鎮圧で、カムイ様のお名前は風の噂で多く広がっております、反乱を企てる者たちへの楔としてはこれほどに効果のある事はないでしょう」

マークス「楔……カムイが楔か……」

ギュンター「マークス様?」

マークス「いや、なんでもない。そういえばカムイを見ないが……」

ギュンター「お時間になったということでしょう」

マークス「……」

エリーゼ「あっ、マークスおにいちゃん!」

ハロルド「エリーゼ様、そのように走っては危ないですよ! これはマークス様、それにギュンターくん」

マークス「ふっ、エリーゼのお守か。世話を掛けるな、ハロルド」

ハロルド「いえ、エリーゼ様をお守りすることは当然のことです」

エリーゼ「えへへ、ハロルドってば過保護なんだよー。あたしだって、もう立派なれでぃなのに」

マークス「ふっ、自分でレディと言っているようでは、まだまだ背伸びをしたいお年頃ということだ」

エリーゼ「むーっ、マークスおにいちゃんまでそんなこと言うんだ! ふーん!」

ハロルド「エリーゼ様、こちらにおいしいケーキがありましたよ。これを食べて元気を出してください」

エリーゼ「え、いいの、わーい。ありがとうハロルド! うん、おいしー! これどこの棚にあるものかな?」

マークス「あの棚だな。ふっ、食べてる姿はさらに子供と言ったところか」

エリーゼ「うー、おにちゃんの意地悪」

マークス「ふっ、すまなかった」

エリーゼ「もう、じゃあ意地悪した罰で、あたしたちと一緒にケーキ食べよっ!」

ハロルド「それはいいですな。マークス様、ここのケーキはとてもおいしいですから一緒に食べに向かいましょう」

マークス「そうしたいのは山々なんだが……」

ギュンター「それがよろしいでしょう。多くの方とお話しされて、マークス様も少しお休みが必要でしょうからな」

マークス「ぐっ、見ていたのか、ギュンター」

ギュンター「そう思っただけですが、その通りでしたか?」

エリーゼ「仕事ばっかりしてると体壊しちゃうよ。大人は自分の体調管理もしっかりできて一人前だって、マークスお兄ちゃん言ってたよね」

マークス「ふっ、そう言われてしまってはお手本を見せないといけないようだな。よし、それでは向かうとするか」

エリーゼ「わーい!」

ハロルド「エリーゼ様、よかったですね」

ギュンター「では、私は戻らせていただきますゆえ、失礼いたします。マークス様」

マークス「ああ」

ギュンター「はい、それでは……」

エリーゼ「早く行こう、マークスお兄ちゃん!」

マークス「はしゃぐのもいいが、そんなに引っ張るものじゃないぞ」

ハロルド「そう言っている割には、マークス様もとても楽しそうですよ」

マークス「……エリーゼに心配を掛けるわけにはいかない。エリーゼの優しさは、カムイも持っていない純粋でまっすぐなものだ。いずれ、戦いが終わったときエリーゼの優しさが実を結ぶ時が来ると信じている」

ハロルド「マークス様……」

マークス「ハロルド」

ハロルド「はい」

マークス「これからもエリーゼのことを守ってやってほしい。これは暗夜王子としてではなく、エリーゼの兄であるマークスとしての願いだ」

ハロルド「……もちろんです。この正義の味方ハロルドにお任せください!」

マークス「ふっ、頼もしい返事だ」

エリーゼ「もう、二人とも! はやくしないとおいしいケーキ無くなっちゃうよ!」

ハロルド「エリーゼ様、棚の前で飛んではあぶないですよ!」

マークス「これでは大人の女性になるのはまだまだ先になるだろうな」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「はぁ、本当に思いっきり踏んでくれたね」

カザハナ「し、仕方ないじゃない……。その足滑っちゃったんだから」

ツバキ「ははっ、離れて見てたけど、レオン王子、足に穴とかあいちゃってるんじゃないかな?」

レオン「いや、今回は特注の靴を用意したから問題なかったよ」

カザハナ「特注の靴?」

レオン「ここ、叩いてごらん?」

カザハナ「……えいっ!」

 キンッ

カザハナ「なにこれ、レオン王子の凄く堅いんだけど……」

レオン「ああ、つま先から付け根に掛けて鉄板を入れておいた、これなら本気で踵落としでもされない限りは大丈夫だよ」

カザハナ「なにそれ、あたしどれだけ信用ないの」

ツバキ「仕方無いかなー。それにレオン王子のような立場の人が、舞踏会の場で苦痛な表情を浮かべるわけにもいかないし」

レオン「そういうことだよ。でも、カザハナを他の人と踊らせるのは無理そうだ。これじゃ、何人かを医務室送りにしかねないからね」

カザハナ「ううっ、悔しいけど全く反論できない」

ツバキ「もう五回は踊ってるけど、全部致命的に足を踏ん付けてるよねー。これはこれですごい才能だよー。うんうん、僕にはとてもじゃないけどできないなー」

カザハナ「他人事だと思ってるでしょ!」

ツバキ「実際他人事だからねー」

レオン「ツバキからしたら、そうだろうね。確かにドレスを着てダンスの練習ができなかったことは僕のミスだけど、その被害を真っ向から受け止める強度はないからさ」

ツバキ「カザハナのステップって早いからねー。レオン王子も流石に見切れなかったってことかな」

レオン「残念だけど、そうなるね。それを活かせれば、カザハナも戦闘面が強くなる気がしなくもないけどさ」

カザハナ「私だって、嫌でやってるんじゃないから。わかってるでしょ、ねぇ!」

レオン「はぁ……」

ツバキ「はぁ……」

カミラ「ふふっ、とても楽しそうね。レオン」

レオン「カミラ姉さん!」

カザハナ「え!?」

カミラ「ふふっ、二人とはこうして話すのは初めましてかしらね」

ツバキ「カミラ王女ですね、知ってますよー。俺はツバキって言います」

カザハナ「か、カザハナです。初めまして、カミラ王女様」

カミラ「ふふっ、カザハナは可愛いわね、なんだかとっても初心な反応で、様は付けなくても大丈夫よ。それと、あなたツバキだったわね」

ツバキ「はい、そうですよー」

カミラ「軽い感じで結構良いわ。みんな私と初めて話すときは堅苦しい人が多いから、ツバキみたいなのは新鮮に感じるもの」

ツバキ「そうですかー? こんなしゃべり方だから、どちらかというと無礼だ―とか言われることがほとんどなんですけどねー」

カミラ「ふふっ、ここは暗夜王国、白夜王国じゃないから、その口調でも問題ないわ。もしかしたら命が縮まるかもしれないけどね」

ツバキ「それは困るかなー」

カミラ「冗談よ。レオンがいっぱいお世話になってるって聞いたから、どんな人たちか興味があって、姿は見てても話したことなんてなかったから」

レオン「カザハナはいつもに比べたらしっかりしようとしてるみたいだけどね」

カザハナ「あたしだって、その初めての人にあいさつする時くらいは、ちゃんとするし」

レオン「そう? 初めて知ったよ」

カザハナ「なんですって!」

カミラ「ふふっ、愉快な子ね」

カザハナ「あ、あううっ////」

レオン「まぁ、こんな感じだよ」

カミラ「そう、やっぱりレオンが少し丸くなったように感じるのは、この子たちのおかげのようね」

レオン「ま、丸くなったって、僕が!?」

カミラ「そうでしょ、前まではカムイのことばかり気にしてたのに。今じゃ、こうやって違う人と時間を過ごしてるんだもの」

レオン「そ、それは……」

カミラ「前までのレオンなら、ずっとカムイの傍に寄り添ってたかもしれないわ。多分、シュヴァリエの件も、あなた達を置いて行っちゃう位だと思うから」

カザハナ「……言いたくなかったけど、やっぱりレオン王子ってシスコンですよねぇ」

レオン「家族のこと心配するのが悪いことだって言うのかい!?」

カザハナ「いや、そうは言ってないけど。なんていうか、この前しょぼくれてた理由も考えると……」

レオン「おい、それを言ったらさすがに怒るよ!」

カミラ「そうよカザハナ。妹のことを心配しちゃいけないってそれはひどいわ。私だってカムイのこと、とても心配しているもの」

レオン「カミラ姉さん……」

ツバキ「うーん、でもなんかカミラ王女が言う心配と、レオン王子が言う心配って意味が違う気がするなー」

カザハナ「うん、なんだかカミラ王女のほうが清く聞こえるなぁ。レオン王子の場合は、こう、ドロッとしてるっていうか」

レオン「……ぐうううううっ、お、お前たち、言いたい放題に言ってくれるね……」

ツバキ「あははっ、レオン王子、とっても怖い顔してるよー。うん、正直本当に怖い顔になってる」

カザハナ「じょ、冗談、冗談だから、……その、ごめん」

カミラ「ふふっ、こんな感情むき出しで怒って、本当に可愛くなったわねレオン」

レオン「可愛いとか、冗談はやめてほしいんだけど」

カミラ「冗談なんかじゃないわ、前に比べて表情がとっても豊かになってるから。とっても可愛いわよ」

レオン「……あーもう/////」

カザハナ「あっ、顔赤くしてる」

レオン「してないから!」

ツバキ「嘘ですねー。俺にはわかりますよー」

レオン「くそっ、おまえたち、現在進行形で捕虜なんだぞ」

カザハナ「そうだったね。すっかり忘れてたかも」

ツバキ「たしかにねー。でも、一番捕虜だってこと忘れてたの、レオン王子だったりしてー」

カミラ「こんな風に弄られてたら、そう思われても仕方ないわね、レオン」

レオン「ぐっ、言い返せない」

カミラ「ふふっ、ところで、ツバキ」

ツバキ「はい、なんですかー」

カミラ「よかったら一曲踊りましょう。私、ダンスの相手を探してるところなの」

ツバキ「え、俺とですか」

カミラ「あら、嫌だったかしら? それとも、私じゃ魅力が不足してるかしら」ボヨン

ツバキ「そんなことありませんよー。カミラ王女はとっても魅力的ですからー」

カミラ「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるのね」

ツバキ「本心ですよー」

カミラ「ふふっ、心のこもってない返事ね。でもいいわ、それじゃ踊りに行きましょう?」

ツバキ「というわけで、レオン王子。カミラ王女と一曲踊ってきますね」

カザハナ「うん、わかった」

レオン「ああ、行ってら――」

カミラ「何を言ってるのよ。レオンもカザハナと一緒に踊るのよ?」

カザハナ「え、えっとカミラ王女、私そのドレスで踊るの全然できなくて、レオン王子にも教えてもらったんですけど……」

カミラ「そうなの。ねぇレオン、女の子に恥を掻かせたままで終わらせるつもりなのかしら?」

レオン「僕のこと、いじってきた姉さんが言っていい言葉じゃないよね、それ」

カミラ「ふふっ、もう忘れちゃったわ。でも、カザハナだって奇麗に踊り切ってみたいはずよ」

カザハナ「……」

カミラ「ふふっ、先に行ってるわね」

レオン「そうなのか?」

カザハナ「……そりゃそうだよ。こんなに奇麗なドレス、この先着る機会なんてそうないと思うし、ちゃんと踊り切ってあんたを見返してやりたいし」

レオン「……たしかに僕はまだ、カザハナが奇麗に踊り切ってる姿、見てないね」

カザハナ「べ、別にいいのよ。その、無理して踊らなくても」

レオン「いや、僕としてはカザハナが奇麗に踊り切る姿を見てみたいからね。それに、今回はこの靴があるから問題ないし」

カザハナ「……そ、それじゃ、踊ってあげなくもないけど」

レオン「そう、なら、行こうか。もうカミラ姉さんとツバキは入ってるみたいだからさ」

カザハナ「うん!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ラズワルド「はぁ、まったく引っかからなかった。どうしてだろう、これ以上ないってくらい声を掛けてるのに。全部袖にされて、戻ったらピエリに笑われるよ」

アクア「笑われるだけで済むといいわね」

ラズワルド「あ、アクア様」

アクア「こんばんは、ラズワルド。ところで、舞踏会が終わらないようにできないかしら?」

ラズワルド「突然の提案ですね。どうしたんですか?」

アクア「……舞踏会が終わったら、カミラに連行されてしまうのよ」

ラズワルド「一体何をしたんですか?」

アクア「若気の至りというやつよ。その、少し張り合ってみたい気持になった、そう多分嫉妬ね」

ラズワルド「カミラ様に嫉妬ですか……」

アクア「……どこを見ながら言っているのかしら?」

ラズワルド「いや、違いますよ。そういう意味じゃありませんから、その、無言で足を踏まないでください」

アクア「ふふっ、なんのことかしら」グリグリ

ラズワルド「ご、ごめん、ごめんって、ごめんなさい!」

アクア「どうしたの、ラズワルド。踊る相手がいないのに、こんなところでステップを刻むなんて、たのしそうね」

ラズワルド「アクア様、もう許して……」

サクラ「あっ、アクア姉様!」

シャーロッテ「アクア様ぁ、それにラズワルドさんも一緒なんですねぇ」

アクア「サクラ、ふふっ、とても奇麗ね、似合っているわ」

サクラ「えへへ、そうですか?」

アクア「ええ、でも、驚いたわね」

サクラ「?」

アクア「サクラのことだからレオンやカザハナたちと一緒にいるかと思っていたから」

サクラ「今日は、シャ―ロッテさんと一緒に回るって前から決めてたんです」

シャーロッテ「はぁい。ふふっ、サクラ様、多くの人を釘づけにして止まないんですよ」

モズメ「シャーロッテさん、ちょっと待ってーな」

アクア「あら、モズメも一緒なのね」

ラズワルド「うんうん、やっぱりみんなとっても可愛いね、これから僕と一曲どうかな?」

モズメ「ラズワルドさん。そればっか言ってるから、ダンスの相手が決まらないんじゃないんかな?」

ラズワルド「そ、そんなこと、あるわけないと思うんだけど」

アクア「ねぇ、ラズワルド。あなた、声を掛けてすぐに近くの女性に声を掛けてるなんてこと――」

ラズワルド「破れたら即アタックだけど?」

モズメ「軽いわー。ラズワルドさん、とっても軽いわー」

シャーロッテ「軽過ぎて達成感とか皆無だぞ、おい」

サクラ「ちょっと、それは軽すぎる気がします」

アクア「小枝もびっくりの軽さね」

ラズワルド「えぇ……」

シャーロッテ「ふふっ、それにしてもサクラ様、いっぱい殿方から声を掛けてもらえましたね。やっぱり、私の予想通りじゃないですか」

サクラ「そ、そんなこと、私待ってるばかりでしたから」

シャーロッテ「わかってねえな。待ってて寄ってきてくれるなんて最高じゃん?」

サクラ「で、でも。私、口べただから。シャーロッテさんが近くいてくれなかったら、右往左往してただけだと思います」

シャーロッテ「ふふっ私はサクラ様を利用させてもらってるだけですよ。自分で歩き回るより、効率いいんですから」

サクラ「そ、そうなんですか? でも、シャーロッテさん、あんまりお誘いに乗らないじゃないですか。どうして……」

シャーロッテ「そりゃそうよ。サクラ様に何かあったら、私の首が飛んじゃうし、それにモズメのことも見てあげないといけないから。ふふっ、でもちゃんと男たちとは話をして好感度をいっぱいあげてるから大丈夫。良いの見つけたらマークして玉の輿狙うんだから」

モズメ「大変やな、シャ―ロッテさん。でも、ありがとう、あたいのことも見てくれて」

シャーロッテ「ふふっ、大変だけどね。たしかにモテたいって言うのはあるけど、今日は二人のことちゃんと見てあげるって約束したからさ///」

モズメ「シャーロッテさん、少し顔赤いで」

サクラ「はい、そうですね」

シャーロッテ「ちょ、そういうところばっかり見ないでよ」

サクラ「ふふっ」

モズメ「えへへ」

シャーロッテ「ふふっ、やっぱり、二人とも笑ってるのが一番可愛いわよ」

アクア「見なさい、ラズワルド。あれがモテるってことよ」

ラズワルド「おかしいな。僕と言ってることが似てる気がするのに……」

アクア「シャーロッテとあなたじゃ質が違うのよ。言葉の大安売りのあなたと、行動して相手を引っ張るシャーロッテじゃね」

ラズワルド「でも、女の子が可愛いって言ってるのは同じじゃないかな」

アクア「だから、あなたはそれをポンポンポンポン出し過ぎてるのが問題だってことに気づいてないのかしら?」

ラズワルド「当たって砕けろが信条なんですけど……」

アクア「少しは創意工夫した方がいいわ。じゃないと、本当の意味で軽い男になってしまうわよ?」

ラズワルド「アクア様、なんでそんな楽しそうに言うんですか」

アクア「ふふっ、そうかしら?」

ラズワルド「……やっぱり、嫉妬の理由って」

アクア「違うと言ってるでしょう?」グリグリ

ラズワルド「ご、ごめんなさっ、い……」

◆◆◆◆◆◆

クーリア「……」

フローラ「父さん」

クーリア「フローラ、元気そうでなによりですね」

フローラ「はい、父さんも元気そうでなによりです」

クーリア「フェリシアはカムイ殿と一緒のようですね」

フローラ「はい」

クーリア「……お前が私を尋ねに来たのは、そういう意味だろう?」

フローラ「そうなります。父さんは、カムイ様のことをどうお考えなんですか」

クーリア「……フローラはカムイ殿のことを信じているのだな。その目と態度は、父に向けるものではありませんからね」

フローラ「今はこのような態度を取ることを許してください、父さん」

クーリア「お前の態度の理由、そしてお前たちが信じる道も、すべて理解しているつもりだ」

フローラ「……」

クーリア「一つだけ聞きたいことがあります」

フローラ「なんでしょうか」

クーリア「フローラ、フェリシア、お前たちは無理やり強制されて、カムイ殿の下で働いているのですか」

フローラ「いいえ、それは違いますよ、父さん」

クリーア「一度、カムイ殿を裏切った身なのにですか?」

フローラ「そうですね。確かに私とフェリシアは一度、カムイ様を裏切りました。そして、それを許していただきました」

クーリア「それを清算するために、仕え続けるということですか?」

フローラ「違います。私はカムイ様だから付いて行くことを決めたんです。決して罪を清算するためじゃありません」

クーリア「……そうですか」

フローラ「……」

クーリア「安心しましたよ、フローラ」

フローラ「えっ……」

クーリア「もしも、ここで裏切りの清算のためと言われてしまったらと、心配していたところでした。ちゃんと選ぶべき道を選んでくれたこと、父として嬉しく思いますよ」

フローラ「と、父さん」

クリーア「安心しなさい。私はカムイ殿を信じています。それを伝えるために、私はこの場に来たと言っても過言ではありませんよ」

フローラ「……ありがとう父さん」

クーリア「?」

フローラ「私たちのこと、信じてくれて」

クーリア「娘のことを信じない親など、この世にはいませんよ。フローラもフェリシアも私の大切な娘なんですから」

フローラ「……父さん////」

クーリア「ふっ、照れた顔を見るのは久しぶりですね。では後は任せますよ。その柱の陰に隠れている方」

フローラ「えっ?」

???「ちっ、気付いてるなら、気付いてるって言ってくれてもいいだろうが」

フローラ「……ふふっ」

クーリア「ふっ、信頼されていないというよりは、少し心配だったということでしょうが。いい同僚にも恵まれているようで、うれしいですよ」

フローラ「確かにそうみたいです」

クーリア「フローラ、フェリシアにも伝えてください。私もお前たちと同じ道を信じ、付いて行くと」

フローラ「ええ、わかったわ。父さん」

フローラ「……」

フローラ「そこにいるの、ジョーカーよね?」

ジョーカー「はぁ、お前の親父にはばれてたみたいだな。隠れていたのを指摘される、これほど恥ずかしいことはないな」

フローラ「ふふっ、心配してくれたのね」

ジョーカー「まぁな。実の親父に聞かなくちゃいけないってこともあるが、何よりお前が流されたりでもしたら、カムイ様の面倒が増える。結果的に俺の面倒も増えるからな」

フローラ「ふふっ、ありがとうジョーカー」

ジョーカー「カムイ様もちゃんと送り出して、時間があったってだけの話だ。気にするな」

フローラ「そう、でもありがとう」

ジョーカー「それより、そろそろ時間になる。正直気乗りはしないがカムイ様の晴れ舞台だ。ちゃんと見ないと損をする」

フローラ「そうね。どんな形であれ、カムイ様の晴れ舞台だもの。見ないのは臣下として失礼にあたるわ」

ジョーカー「それ以前に、見なかったら生まれてきたことを後悔することになる」

フローラ「ジョーカーはカムイ様のことになると大げさよね。それじゃ、行きましょうか」

「私たちが仕える、カムイ様の晴れ姿を見にね」

今日はここまで
 
 次かその次で休息時間終わります。
 
 リリスのペガサスなる記述を見つけて、なんでそうしなかったんだよぉってなった。

 そしてニンジャマスター、スズカゼなる記述……

◆◆◆◆◆◆

フェリシア「カムイ様、準備整いました~」

カムイ「ありがとうございます。すみません、本当なら私一人で準備できればいいことなんですが。こういった初めての服だと頼らざるを得ません」

フェリシア「カムイ様のお役にたてる数少ないことですから、私とっても嬉しいです。こうやってカムイ様のお洋服を着替えさせるのだけは、よくできますから」

カムイ「そうですね。最初に私の着付けを手伝ってくれたのは、フェリシアさんでしたから。ふふっ、最初の頃から考えるとすごく上達しましたよね」

フェリシア「カムイ様、会ったと出会ったころは、毎日毎日同じ服しか着てませんでしたから」

カムイ「ギュンターさんが一度だけ着付けをしてくれたことがありましたから、それにあの頃は目が見えないこともあって、服に興味なんてなかったんですよ」

フェリシア「そうですね。幽閉されてても王女様だって聞いてたから、しっかりしないとって思ってたのに、全然そんな感じしませんでしたから」

カムイ「フェリシアさんやフローラさんのこともあまり気にかけてなかったかもしれません。まだあの頃の私は、目が見えないことをマイナスにしか思っていませんでしたから」

フェリシア「そうですね。それに、私が近づいたとき、すごく怯えてましたから」

カムイ「……ははっ、それにフローラさんとは距離を置かれていた気もしましたから。二人が私の元にやってきた理由を考えたら、私のことを警戒するのは当然だと思います」

フェリシア「多分、姉さんは最初からわかってたんです。私たちがウィンダムに行くことになった理由も、全部……だから、最初言われたんですよ、子供でも気を付けたほうがいいって」

カムイ「ははっ、フローラさんらしいですね。でも、ならどうしてフェリシアさんは私に手を差し伸べてくれたんですか?」

フェリシア「?」

カムイ「フローラさんのことを尊敬しているフェリシアさんが、その言葉に従わないのは、なんだかおかしいと思いますよ」

フェリシア「だってカムイ様、あの時、震えながら手をいっぱい振ってたんです。ギュンターさんもジョーカーさんも、あの日はいなかったから、最初は来ないでって拒絶されてるのかなって思ったんです。でも、違う気がして」

カムイ「……」

フェリシア「本当は寂しくて、怖いって、言ってる気がしたんです」

カムイ「……」

フェリシア「だから、こうやって手を握って、大丈夫ですよ~って。私、それくらいしかできることがなかったから、でも、その時カムイ様、とっても嬉しそうな顔してくれたから、傍で支えてあげたいって思ったんですよ」

カムイ「フェリシアさん」

フェリシア「えへへ、その改めて言うと、なんだか恥ずかしくなっちゃいます」

カムイ「その直後に私の着付けをして、見事に絡まり合う結果でしたけどね」

フェリシア「はうう~、な、なんで失敗をあげるんですかぁ!」

カムイ「ふふっ、ごめんなさい。でも、そのおかげでフェリシアさんにはなかなか仕事を任せられないって思えましたから」

フェリシア「ひ、ひどいです」

カムイ「でも、私の着付けだけは、ちゃんとできるんですよね」

フェリシア「……だって、絡まっちゃったとき、カムイ様言ってくれたじゃないですか」

カムイ「?」

フェリシア「今度はちゃんと着せてね、って……」

カムイ「……そんなこと、覚えているんですね」

フェリシア「私が初めてカムイ様と交わした約束ですから。ごめんなさい、カムイ様、私にそんなこと言う資格なんて本当はないってわかってるのに」

カムイ「フリージアの一件はもう終わったことです。それにフェリシアさんは私に付いて来てくれると、星海で誓ってくれたじゃないですか。それは嘘ではないんでしょう?」

フェリシア「カムイ様……」

カムイ「そんな顔しないでください。フェリシアさんには、もっと柔らかくて微笑んでてほしいんですから」ペタ

フェリシア「んっ、カムイ様。唇、触らないでくださいよぉ」

カムイ「……フェリシアさんの顔がいつもみたいになるまで触るのはやめませんよ」

フェリシア「んんっ、カムイ、様……」

カムイ「どうしたんですか、フェリシアさ――」

フェリシア「もっと触ってもらっていいですよ?」

カムイ「……」

フェリシア「カムイ様、手が少し震えてます……」

カムイ「そんなことはありませんよ……」

フェリシア「ふふっ、嘘は駄目ですよ。カムイ様の指、なんだかとってもぎこちないですよ。前はすぐに私の口に指を入れてきたじゃないですか?」

カムイ「こ、これから式典ですから、さすがに入れるわけはいかないだけ……ですよ」

フェリシア「ふふっ、カムイ様」ギュッ

カムイ「!?」

フェリシア「大丈夫ですよ~」ギュウウウッ

カムイ「……情けないです。この頃は皆さんの前で弱い姿を曝け出してばかりで、呆れられてしまいますね、これでは」

フェリシア「そんなことないですよ。どちらかというと、前までカムイ様は頑張り過ぎてただけです。これからは私たちのこと頼ってほしいんです。皆さんも、きっとそう思ってるはずですから」

カムイ「フェリシアさん……はい、そうさせてもらいますね」

フェリシア「ではでは、カムイ様、そろそろお時間ですよ」

カムイ「そうですね。ふふっ、唇のお触りは、また今度にしましょう。今度はいっぱい中まで触ってあげますから」

フェリシア「ふええっ、あ、あれまたやるんですか。その、口の中くすぐったくなって、その……、ちょっとだけなら」

カムイ「ふふっ、正直で嬉しいですよ。それじゃ、行ってきますね」

フェリシア「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ、カムイ様……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エリーゼ「あっ、サクラ!」

サクラ「エリーゼさん」

エリーゼ「サクラも来てたんだね。ふふ、どう、あたしのドレス!」

サクラ「はい、とっても可愛いです」

エリーゼ「ううっ、大人の女性っていうイメージなんだけどなぁ」

サクラ「あうっ、そのごめんなさい」

エリーゼ「あはは、ごめんね。サクラのドレスも、とっても可愛いよー」

サクラ「あ、ありがとうございます……」

マークス「サクラ王女」

サクラ「マークス王子…ですよね。そ、その初めまして」

マークス「うむ、初めましてサクラ王女」

サクラ「はい」

マークス「……すまなかった」

サクラ「えっ?」

マークス「本来なら、このような場にサクラ王女を招くことは失礼極まる行為だというのに」

サクラ「そ、そんなこと……ありませんから、その、えっと」

エリーゼ「マークスおにいちゃん、サクラが困ってるから!」

マークス「うっ、すまない」

サクラ「……わ、私の方も、その、ごめんなさい」

ハロルド「ははっ、二人共謝ってばかりじゃないか。そうだサクラくん、これでも食べて元気を出したまえ」

サクラ「あっ、それ一番おいしいケーキじゃないですか」

ハロルド「むっ、そうなのか。最後の一切れをと思っていたが、ははっ、私に対しての不運がどうやらサクラくんの幸運に変わったようだ」

サクラ「そ、そんな、私のことは気にしないで召し上がってください。その、私……」

ハロルド「そうか、ではエリーゼ様にお渡ししましょう」

エリーゼ「うん、ありがとうハロルド。それじゃ、サクラ、半分ずつ食べよっ!」

サクラ「えっ、だってそれはエリーゼさんがもらって……」

エリーゼ「そう、だからあたしの好きにするの、サクラと一緒に食べられたら、とってもおいしくなるはずだから!」

サクラ「エリーゼさん……」

 トントン

サクラ「あっ、シャーロッテさん」

シャーロッテ「ちゃんと見てるから、安心して食べて来なさいよ。同じ年頃の女の子同士で話し合って、リラックスしてきなさい」

サクラ「……はい! ありがとうございます」

エリーゼ「うわぁ、カミラおねえちゃんと同じくらいおっきい……」

シャーロッテ「初めましてぇ、私はシャーロッテっていいますぅ」

エリーゼ「シャーロッテね、あたしエリーゼ!」

シャーロッテ「知ってますよぉ。サクラ様のこと、お願いしますね?」

エリーゼ「うん、サクラ、あそこで座りながら食べよ?」

サクラ「はい! シャーロッテさん少し行ってきますね」

 タタタタタッ

マークス「エリーゼやレオン以外にサクラ王女と打ち解けている者がいるとはな」

シャーロッテ「初めまして、マークス様ですね」

マークス「ああ、シャーロッテと言ったか。この前まで国境線の防壁に勤めていたらしいな。シュヴァリエの反乱の件でカムイを手伝ってくれたと聞いている。窮地に駆け付けてくれたとな」

シャーロッテ「当然のことをしただけですからぁ。あっ、マークス様、お飲物がなくなってますぅ、入れて差し上げますね」

マークス「ああ、ありがとう」

シャーロッテ「ふふっ、こうしてマークス様にお会いできて私、とてもうれしいです」

マークス「そうか」

シャーロッテ「はい、……でも駄目ですよぉ。サクラ様、ここに来るまで色々と抱えてることがあったんですからぁ」

マークス「そうだったのか……。すまないことをした、私の発言はサクラ王女に不安を与えてしまっただけのようだ」

シャーロッテ「でも、マークス様はサクラ王女のこと心配されてそう口にされたんですから、そんなに自分を責めないでください、でも、そんな風に人を心配できる男性って素敵だって思います、きゃは」

マークス「……あ、ああ」

シャーロッテ「ふふっ、とっても素敵ですぅ、マークス様」

マークス「……なぜ、体を摺り寄せてくる?」

シャーロッテ「気の所為ですよぉ」

マークス「……」

マークス(なんだこの感じは……先ほどと比べて、なんとも癇に障る言動だ)

シャーロッテ(おかしいわね、大抵の男ならこれで鼻の下伸ばすのに。カムイ様の変態的な行いを考えたら、これくらいでいいと思ったんだけど)

アクア「見なさい、ラズワルド。あれがあなたが失敗しているのと似たことをしているシャーロッテの姿よ」

ラズワルド「ううっ、なんだろう。同じって言われると、少し胃が痛くなってくる。シャーロッテ気づいてないのかな、マークス様の顔、なんだかすごく険しくなってることに」

アクア「そうね。途中まで良かったのに下手褒めしたからかもしれないわね。マークスはそういうことに厳しい性格だから」

ラズワルド「これ以上放っておいたらシャーロッテが危ない気がするから、ちょっと間に入ってくるよ」

アクア「そう、気をつけて行ってらっしゃい……」

ラズワルド「ありがと。マークス様、ちょっといいですかー」

アクア「……はぁ」ポスッ

アクア「……」

アクア「カムイは大丈夫かしら……」

 ソロソロ、シキテンモオワリトイッタトコロデショウナ
 イヤハヤ、ビャクヤトノタタカイノサナカデアリナガラ、コノヨウナモヨウシ、ヤハリガロンオウサマノジシンハソウトウナモノデス
 マッタクデスナ。コノママ、ビャクヤヲセメホロボシテ、オオクノトチヲテニイレレバ、オオクノトミヲウミダセルデショウナ。

アクア(……誰も、これからの白夜との戦いが辛いものになるなんて思っていない……)

アクア(白夜の攻勢を幾つも打ち破ってきたことが、危機感を拭ってるのかもしれないけど。もう勝敗は決しているというのに、奪うことしか考えていないなんて)

アクア「……これ以上戦いを続ける意味なんてないのに」

 スッ

???「あまり感心しない独り言ですな、アクア様」

アクア「ギュンター、脅かさないで頂戴」

ギュンター「失礼いたしました。しかし、今の発言、このような場所で零すものではありませんぞ」

アクア「……そうね。ごめんなさい……」

ギュンター「いえ、ここに集まっている貴族の方々の耳にはあまり触れるべき言葉ではないでしょうからな。貴族、部族双方を招いているとは言っても、双方が手を取って踊るのは身内の者たちだけですからな」

アクア「よく見ているのね……」

ギュンター「お配りする飲み物もそれに合わせて選んでおりますからな。アクア様には、これを」

アクア「……良い香りね」

ギュンター「お酒は初めてですかな?」

アクア「ううん、ただ、白夜にはこういった色のお酒は少なかったわ……」

ギュンター「あまり強いものではありませんので」

アクア「ごめんなさい。心配を掛けてしまったようね」

ギュンター「いえいえ、アクア様もこの舞踏会に参加されている大切なカムイ様のお客様、同時に私にとっては一緒に戦ってきた仲間ですからな」

アクア「ふふっ、ありがとう」

ギュンター「いいえ、アクア様とカムイ様はどことなく似ていると、ふと思うことがあります」

アクア「私、カムイみたいに誰かの顔を興味本位で触ったりはしないわ。それに、私はカムイほど自分を犠牲にしてるわけじゃないわ……。流されているだけよ」

ギュンター「……では、話に聞きました、白夜王国でカムイ様が暴走した時に助けたことや、シュヴァリエでの一件も流されただけとおっしゃりますかな?」

アクア「それは違うわ……」

ギュンター「流されているなら、私の問いかけにそうですな、わからないと答えていたことでしょう」

アクア「ギュンター」

ギュンター「ですから、ご安心ください。アクア様は強くそこにいることを選ぶことのできる御方です」

アクア「……ありがとう」

ギュンター「ふっ、ようやく笑ってくれましたな。カムイ様を笑顔にするのに四苦八苦した昔の頃がとても懐かしく感じるものです」

アクア「今は、とても困らせられているようね。恋愛小説を読んでとカムイに頼まれているのでしょう」

ギュンター「……噂というのは色々なところに広がっているものですな」

アクア「ギュンターのその渋い声が奏でる恋愛小説、少し興味があるわ。私にも今度、何か本を読んで聞かせてくれないかしら?」

ギュンター「私が本を指定してもよいのであれば」

アクア「それじゃだめよ。私が読んでほしい本を音読してもらいたいわ」

ギュンター「……顔を触るのは似ていませんが、そういうところはとてもそっくりですな」

アクア「う……そ、そんなことないと思うわ/////」

ギュンター「はっはっは」

アクア「……ギュンター、そんなに笑わないでほしいわ」

ギュンター「それもそうですな。ですが、アクア様も今は城塞に住まう御方ですゆえ、もう家族のようなものでしょう」

アクア「家族ね……」

 ガロンオウサマダ!

アクア「!」

ギュンター「どうやらお時間のようです。私は仕事に戻らせていただきます故、失礼いたします、アクア様」

アクア「ええ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガロン「ふっ、皆の者。宴を楽しんでいるようだな。今宵、集まってくれたお前達に、わしの大切な娘を紹介したい」

 ムスメ?
 エリーゼオウジョや、カミラオウジョノコトダロウカ?

ガロン「昨今の白夜の侵攻、そしてシュヴァリエ公国の反乱、多くの問題があった。白夜との大きな衝突が起きたあの日、白夜平原の勝利を手にしてから長きの時間、暗夜の混乱があった」

ガロン「それをすべて抑えたのを我であると零す者がおるようだが、それは誤りであることを伝えておこう。命令を下したのは確かに我である、だが、我の命令に従い、十分な結果をもたらした当事者こそ、皆に知られるべき真の愛国者であると」

ガロン「カムイ、こちらへ来るのだ」

カムイ「はい、お父様……」

 ダレダ?
 ワタシハハジメテミルガ

ガロン「多くの者は名前だけを知っているだろう。部族の者たちも、貴族の者たちもな。だが、その姿までを知る者は少ないことだ。暗夜の混乱収拾に貢献し、こうして皆が集まり至福に浸る時を引き寄せた、本当の貢献者を紹介させてもらうとしよう」

ガロン「我が子、カムイだ!」

カムイ「……」

ガロン「多くの問題を解決し、白夜侵攻への準備を進めることができる用になったのはカムイの功績があってこそだ。今まで、皆に姿を隠してきたのは、カムイに暗夜の王族としての力がなかったからでもある」

ガロン「だが、時は満ちた。今、ここにカムイを我ら暗夜の王族に正式に迎え入れることとしたい。皆の者、この決定を歓迎してくれるだろうか?」

 パチ
 パチパチパチ
 パチパチパチパチパチパチパチ

ガロン「くくくっ、はーっはっは」

ガロン「歓迎しよう、我が子よ」

カムイ「お父様、ありがとうございます」

ガロン「なに、皆もお前を歓迎すると言っているからこそだ。さぁ、跪くがよ」

カムイ「はい……」スタッ

 デモ、アレガカムイオウジョダトスルナラ、アノウワサハホントウナノカ?
 シッ、ベツニイイコトダ、リュウハサスガニウワサダロウ

ガロン「ふっ、カムイよ。お前のことをまだ疑っている者たちがいるようだ。これではこの飾りをお前に与えたところで、意味はないと思わないか?」

カムイ「はい、そのようですね……」

ガロン「噂が噂でないことを奴らに知らしめるのだ」

カムイ(やはり、そうなるのでしょうね……)

カムイ「わかりました、お父様……」

カムイ(……これが私の、新しい一歩というのも、滑稽な話ですね)

カムイ「……皆さん、驚かれるかもしれませんが。どうか、見届けてください」

 ナニヲイッテイルンダ?

 ギュッ

カムイ(……行きましょうか。新しい道を選ぶために)

 シュオオオオオオオオン!!!!

カムイ・竜「グオオオオオオンッ!!!!」

 ウワアアアアア!!!!リュウ、リュウニナッタゾ!
 ナ、ナニカマジュツテキナモノジャナイノカ!?
 シュヴァリエデオオクノイノチヲウバッタッテイウノハ、ヤハリホントウノコトナノカ!?

ガロン「皆の者、見ての通りカムイの力は本物だ。そして、カムイの力は共に白夜を滅ぼすための刃である。この姿を見てもまだ、カムイの力を信じぬ者がいるのなら別であるがな」

 ………

ガロン「どうやら、異論はないようだ。カムイよ、姿を戻すがよい」

カムイ『はい、お父様……』

 シュオオオンッ

カムイ「……」

ガロン「カムイよ、もう一度我の前に跪くがよい」

 スタッ

ガロン「カムイ、お前に流れる血……、暗夜の血統、暗夜の王族としての誇り、それらを持ち合わせていることを示す証を」

ガロン「我が王族に名を連ねるもの、ダークブラッドの称号を与えよう」

 カチャン

ガロン「これでお前も、晴れて我が一族に加わることになる」

カムイ「ありがとうございます、お父様」

ガロン「うむ、カムイ、暗夜の血を継ぐものよ。これからのお前の働き、期待しているぞ」

カムイ「はい……ご期待に添えられるよう、頑張らせていただきますね」

ガロン「くっくっく、では残りわずかな時間を楽しむがよい……そう、今宵の宴をな」

カムイ「……はい」

カムイ(白夜を滅ぼすための刃……ですか)

カムイ「できれば、そうならないようになりたいものですね……」

◆◆◆◆◆◆
―ノートルディア公国・港―

暗夜兵A「どうだ? 何かあったおかしなことでもあったかい?」

暗夜兵B「いや、何もない。穏やかって言ってもいいくらいだよ」

暗夜兵A「しかし、もう白夜軍の攻撃なんてあるとは思えないけどな」

暗夜兵B「確かに、ノートルディアに滞在してる兵も数少なくなってきたからな。それに、今さらノートルディアを白夜が落としたところで、ここが戦略的な重要地点になるとは思えないっていうのが、軍部の考えなんじゃないのか?」

暗夜兵A「無限渓谷で散発的起きてた小競り合いも終わりを向けつつあるって話だからな。こりゃ、いよいよ本格的に白夜侵攻が始まるってことだろ」

暗夜兵B「さぁどうだろうな。ただ、可能性は高いんじゃないか。ささっ、もう交代の時間だ、たく、夜は寒いから嫌なんだけどな」

暗夜兵A「助かるぜ。もう寒くてたまらねえからな。寒さに震えて倒れたりするなよ?」

暗夜兵B「へっ、そんな軟じゃ――」

 ヒュン

 ザシュッ

暗夜兵B「あぐっ、ぐあっ」ドサッ

暗夜兵A「? どうし――んぐっ! ん―ぐあああ!!!!!」

 ザシュッ

 ……ポタポタポタ

暗夜兵A「……ウアアア……」ドサッ

???「ふっ、さすがに今さら白夜が攻めてくるとは思っていなかったようだ。守備兵もあまりいないようで楽に制圧できそうだ」

忍「アジロギ様。表をうろついていた警備の兵を一掃しました」

アジロギ「そうか、さて、ここからが忙しくなる。住民を叩き起し、ここに連れてこい」

忍「はっ!」

アジロギ「ふっ、命令とはいえこれほどの蛮行を行わせるとは、上も性質が悪い」

???「ならば、このようなこと、行わなければよいことです」

アジロギ「上の命令は絶対でな。それに、お前には表に立って見ていてもらねばならないのだ。多くの生き残りが、この蛮行を行った相手を知る証としてな」

???「くっ」

アジロギ「お前が来なければ、あいつもお前も死んでいたのだ。仲間思いのお前の行動が、あのくノ一を救ったと考えればいい。とてつもないほどに仲間思いの忍だ。おそれ行ったよ」

???「私は何も聞いてはいません。私に何をさせる気ですか?」

アジロギ「安心しろ。お前の最初の仕事は、少しばかりの住人が死ぬところを仏頂面で眺めていることだ」

???「反吐が出る仕事ですね。今までこなしてきた仕事の中で、最低の部類に入るのは間違いないでしょう」

アジロギ「そういうな、俺たちも無抵抗な者たちを殺すのは……。ふっ、どうでもいいことだな。そのあとは、お前には要人の暗殺を手伝ってもらう」

???「要人の暗殺……ですか」

アジロギ「ああ、目標は二人。一人は、この騒ぎを解決に来るという王女。そしてもう一人は七重の塔に身を置いているという人物……」

「虹の賢者を殺してもらうだけだ」



休息時間 おわり

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC→C+
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC→C+
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB→B+
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラB→B+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキDC
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテB
(返り討ちにあっています)

今日はここまで
 
 アジロギはモブの上忍です。
 次回はヒノカ×カム男のエロ番外になります。

◇◇◇◆◆◆









 私の元にカムイが帰ってきたというのに、心が満たされることはなかった。
 むしろ心の中にある不安は大きく膨れ上がったと言ってもいい。頑なに白夜に戻ることを拒否した弟を、こうして暗夜から解放したのに、カムイは私のことを姉と呼んではくれなかった。
 ヒノカさんと他人行儀に私を呼んでくるのがたまらなく悔しくて仕方がなかった。カムイの中には暗夜の悪い虫がいる、それが誰かを考えて真っ先に浮かんだのは目狐のことだ。
 目狐、暗夜の王女、あいつは長い間、カムイを唆してきたんだろう。カムイにとってそれが不変の価値観として染みついているから私はカムイから姉と呼ばれないのだ。呼ばれないから私の心はどんどん荒んでいく。
 カムイの口からヒノカ姉さんと呼ばれたいと願っても、それを口にしてくれることはない。わかりきっていることだというのに、それが私とカムイの心の距離を隔てる壁にしか思えなかった。
 私がここまで歩んできた努力は、尻すぼみに入っていた。カムイが戻ってきて再び白夜に光を灯すことができると思っていた。でも、その前に私の努力が清算されたっていいじゃないか。そう、考えるようになってから、沸々と湧き上がる感情が生まれていた。
 その感情が最初何か分からなかった。わからないから見て見ぬふりをしてきた、してきたが、それはある日、私に理解できるものとして現れた。
 いつものように牢に入れられたカムイに話をしに行く。私はどうにかして繕った平静の表情であいさつをして、その時カムイが言ういつもの言葉、「ヒノカさん」という言葉。それを不快に思わなくなっていた。
 最初戸惑った、しかし、その戸惑いはすぐに消えた。消えたのは多分、私の中の常識だったのかもしれない。いや、多分私がここまで積み重ねた努力という報われないものを堰き止めていた、何かが崩れ去った瞬間だったのかもしれない。
 しばらくの日々、私は色々な思いを孕んで過ごしてきた。流されて、留まろうとして、でも考えるよりも動くことのほうが早く、私は幾度の夜を濡らした。
 そして、幾度かの夜に濡れたとき、私は……やはり待つことのできない歪んだ人間なのだということを、受け入れることにした。

◇◇◇◆◆◆











「ヒノカさん、どうして僕を牢から出すんですか?」

 後ろから付いてくるカムイが、私にそう尋ねる。ヒノカさんという他人行儀な言葉も、今では気にすることもない。むしろ、それは私にとって今は幸福に近かった。
 名前を呼んでくれるということだけでも、長い期間叶わなかったことだったのだと考えれば、姉と呼ばれないことに諦めがついたのだから。

「なに、いつも牢ばかりにいては体に毒だからな。リョウマ兄様にも許可は頂いている、大丈夫、今から向かうのは私の部屋だ。私とお前以外誰もいない」
「ヒノカさんの部屋? 僕のような捕虜が入っていい場所じゃないはずですよ」
「いや、私はお前のことを捕虜だなんて思っていない。白夜に連れ戻すことを目的としてきた私が、カムイのことを罪人のように扱うことはない。だから安心してくれ」

 暗夜で目を失ったカムイの手を静かに握る。実際、こんなことをしなくても、カムイならこのような廊下で躓くこともないだろうが、私はあえて手を取った。
 カムイの手から伝わる温かさ、眼の前にいるものが本物だと確認する度に心が温かくなっていくのがわかる。私の努力が報われた形の一つはこれだった。

「優しいんですね、ヒノカさんは」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。さぁ、ここが私の部屋だ」

 静かに戸をあける。中は奇麗に片付けておいたから、あるのは数少ない机や寝具だけの、なんとも殺風景な場所。カムイも中に入って気配で確認したのか「女性の部屋というよりは、なんだか男性の部屋って感じですね」と零す。
 あの日、私は武人として歩み始めたのだからその認識で間違いはなかった。この部屋はあの日から、ずっとこのような殺風景な場所だった。
 女性としてのイロハなんてものは、とうの昔に捨て去っているのだから。

◇◇◇◆◆◆














「カムイ、そこに座っていてくれ。今、お茶を淹れよう」
「はい。えっと、ここでいいですか?」
「ああ、そこでいい。待っていてくれ」

 すでに準備されている湯呑を二つ手に取って、そこにお茶を淹れ、しずかにカムイの前に差し出し、先に私が一口飲むと「そんなことしなくても」とカムイは零す。
 私なりにお前に信用されたいんだと零して、ごめんとカムイは静かに湯呑を傾けた。喉の胎動する音が静かな部屋の中に響く、まだ昼間だというのにここの周りはとても静かだった。それを不審に思ったようにカムイは零す。

「今日はあまり人の声は聞こえないんですね」
「ああ、カムイが安心できるように取り計らった。お前のことをよく思っていない者たちがいることは認めないといけないことだからな」
「……そんなことをしなくてもいいですよ。僕は暗夜の人間です。不審に思うのは、当然の事ですから」

 その言葉は私の心の罅を強くする。

「ヒノカさん?」

 暗夜の人間、他人行儀な呼び方が私の心に疼く歪んだ人間性を肥大化させていく。
 報われないならどうするべきか、ということを考えて、自分を納得させるために言葉遊びをした。

「カムイ、やはり私のことを姉と呼んではくれないのか?」

 最後の最後で口にする。私の……最初の努力の終着点。カムイにそれを告げたとき、確かに心臓が大きく鼓動した。答えを待っている間も、私の心臓は強く高鳴りを続ける。
 続けて、続けて、心の内が切なく締め付けられるような思いだ。こうして告げて、待つというのはいくら鍛錬を重ねてもままならない行為なのだと、ここに至って知った。だけど、次はもっと楽になるだろう。
 私の言葉にカムイは、申し訳なさそうに眉を動かした。
 動かして、でも確かな意思を持って告げる。

◇◇◇◆◆◆















「すみません、ヒノカさん」
 
 他人行儀な呼び方も付けて、カムイは私の望みを否定した。

「そうか……」
「呼べるならそう呼びたいです。でも、僕は白夜の皆さんと家族になれる立場にはいません。だから、そう呼ぶことはできないんです」

 口にすら出さないのは、カムイの考える線引きなんだろう。私の中の肥大した歪んだ人間性が急速に萎縮していくのがわかる。
 終わったのだと、今さらになって理解した。

「だから、ヒノカさん。僕のことなんて忘れてください」

 優しい音色で私に語りかける。
 カムイの口から忘れてくださいと。それに私は頷きを返すしか道がない。

「……カムイがそう望むなら、家族としてのお前を私は忘れよう……」 
「それがいいです。僕に気を使っても、ヒノカさんが困るだけですから……」

 そうしてカムイが視線を下に落としたのを見たときだった。私の手は静かに机の下へと延びて、それを掴みあげる。
 その動きにカムイが気付いたのは私がそれを懐に引き寄せて、口を開いた瞬間であったのだから、今のカムイにできることは何もなかった。
 アサマから拝借しておいた禍事罪穢の祈祷棒が静かに揺れると、カムイの表情が一気に疲れを帯びたものに変わる。
 カムイの答えは、私にすべての準備を整えさせただけにすぎなかった。

「ひ、ヒノカさ、ん。な、なにを……したんですか……」
「カムイ、私は嬉しいよ。気を使わなくていいと言ってくれて」

 カムイに歩み寄って、静かにその肩を押す。まったく力を入れなくてもカムイは仰向けに倒れ、その表情は珍しく動揺しているようだった。

◇◇◇◆◆◆












「ヒノカさん……」
「ふふっ、本当にどうして最初からこうしなかったんだろう。カムイのためと理由を並べて努力してきたことが報われないなら、もう今の状況にすがってしまう方が楽だって言うのに。でも、カムイのおかげで、もう悩まなくて良いってわかった」

 萎縮した歪んだ人間性は爆発的に広がることはなく、ただただ私の体に浸透していく、先に打って捨てることにしていた努力の清算のおかげで、私の心と体に思考が着実に染み込んでいく。
 静かに手を伸ばしてカムイの顔に触れる。幼い印象でありながら、その両目に走った痛々しい傷痕、光を失った弟の顔……いや、カムイの顔と言ったほうが私にはよかった。もう、家族であるカムイなどこの世には存在しないのだから。

「ん、ひ、ヒノカさっ……んっ」
「私とお前は家族じゃないんだ。なら、もうおまえを私の物にしても何の問題もない。そうだろ?」
「な、なにをいっ――んぐっ」

 言葉を待たずに口を塞ぐと、カムイの体が一瞬だけ動きを止める。それに付け込むように、私は奪うことを始める。

「んっ、はぁ、カムイ、んっ、んふっ、んあっ」
「あっ、んんっ、ヒノ、カさ、んあっ、こ、こんなこと……」

 震えるカムイの唇をなぞって、舌をねじ込めば逃れるように動く意思がそこにあるのがわかる。それを捕まえるとカムイの体がピクリッと跳ねて、それに合わせて私は両手で彼の頭を引き寄せる。
 唾液も何もかも、私の口で作ったものをカムイに流し込むように、口回りから聞こえる卑猥な音がカムイと接合していることを教えてくれる。唇だけの繋がりでも、私は濡れていた。

「んっ、はぁ! ヒノカさん……」
「ふふっ、カムイの口、とっても気持ち良かったよ。でも、全然足りないんだ。お前をもっと私に……」

◇◇◇◆◆◆














 私の言葉にカムイの表情がわかるほどに恐れを含んでいくのがわかる。体を動かして逃れようとしているところで、両手を縄で拘束する。
 竜石は牢に置いてある、今は竜にはなれない。カムイを守るものはどこにも存在しなかった。

「や、やめてください、ヒノカさん。こんな、こんなこと、許されるわけが――」
「どうして許されないんだ?」
「そ、それは、僕とヒノカさんは、本当は家族なのに……」

 カムイにとって唯一の武器と言える発言だったのかもしれない。振り絞ったように出たその言葉、でもそれを受け入れる私はもういない。
 
「それを否定したのはお前だ。だからもう関係ない、ここにいるのはお前が欲しくてたまらない、ただの女なんだからな。ふふっ聞こえるか、お前とキスして…んっ、んあっ、私のここは、もうっ、こんなになってるんだ」

 カムイに跨りながら、自分の服へと手を入れて、女を弄る。布越しに聞こえる卑猥な音、カムイも気配で私が何をしているのか理解したのか、顔を赤くする。耳も塞げない、逃げられないカムイに私は己の発情を見せつけている。それを自覚する度に、心の底が興奮で震えていく。

「あはっ、んっ、ぃい、あっ、このところ、お前のことを思って耽っていた。簡単なことだったんだ、我慢せずに、お前を私の物にしてしまえば、よかったんだって、気付いたんだ。カムイ、あっ、キス、キスしただけで―――――っんんあああぁあああ!!!!」

 湿り気を越えた何かが手に絡みつく、はしたない姿を見られて私はとても興奮していた。私の淫らな姿をカムイに見られているというだけで、私の女は疼いて仕方無い。

◇◇◇◆◆◆












「ひ、ヒノカさん……」

 静かに耳に聞こえてきた生唾を飲み込む音、お尻に感じる感触があった。

「ふふっ、目が見えないのに私の声で興奮したのか? ここ、もう盛り上がってるじゃないか」
「そ、そこは……くぅう」

 面倒な鎧をさっさと外して、布をずらせば窮屈そうにしていたカムイのナニが勢いよく反り返って現れる。まだ、湿り気はないが、雄の匂いはすでにあった。なにより、私の声と音で大きくなったと思うと嬉しくさえ思う。

「硬くて熱くなって……、カムイのこれ、もう雄の匂いを振りまいてる。私にしてもらいたいって、言ってるみたいだ」
「ちがう、ちがうんです! さわら、触らないでくださ――あっあああ」
「ふふっ、声は否定的でも体は正直だ。私も最初、お前のことを思って耽入り始めた時は、逆らったりした」
「んあっ、そこに、触れなっ、ううっ、ぐあぁっ」
「でも、想像を始めると止まらなくなるんだ。お前の物が入ることや中に出されることを想像すると、やめられないんだ。お前を近くに感じられて、同時に気持ち良くなれるんだ。カムイもすぐに気持ち良くしてやるからな」

 カムイの言葉を待たずにモノを扱き始める。手に感じる熱と時折脈打つ感触はとても良かった。
 最初はなにも音沙汰がなかったそれも、少しして粘着質な音が混じり始め、さっきよりも濃厚な雄の匂いが漂い始める。カムイの息に熱が帯び始めると、体全体もせがむ様に熱を帯びていく。
 指先で晒された亀頭に触れれば、カムイの口から嗚咽が漏れる。粘り気とヌチュヌチュとした感触が増して、その卑猥な音がカムイ自身にも届いたようで、顔の赤みは増していた。

◇◇◇◆◆◆













「ううぅ、ヒノカっ、さん」
「卑猥な音だな。それに匂いもすごくなってきて、私の手、そんなに気持ちいいか?」
「そ、そんな、こと……、うくっ、ああっ」
「ふふっ、口は否定しているのに、こっちはもっとエッチな音を出して、気持ち良くないか。ふふっ、ならもっとすごいことをしても問題ないな。ふぅー」
「んぐぅっ!」

 息を吹きかけると大きくそれが跳ねて、静かにぬめりが増した気がした。私にどうしてほしいのかをこれだけは示してくれる。

「焦らなくても、大丈夫だ。ふふっ、こっちは口よりも素直でいい。私と同じで、とても素直だ」
「ヒ、ヒノカさん、な、何を、する気です、ぐっ、か……」
「決まっている、こうするんだ。んちゅっ」

 小さな破裂音と唇の感じる苦みと震え、逃れるように反り返るそれを抑えつける。
 そのまま、大きく開いた口でそれを咥えこむと、口の中に雄の香りが充満して、それを貪るように喉を胎動させた。

「あああっ、ひ、ヒノカさん、そんな、そんなこと、だめですっ!くあぁああっ、ううっ」
「んじゅるるっ、んっ、はぁ、ふふっ、もしかしてこんなことをされたのは初めてだったか? あんなにかわいいメイドたちがいるというのに、こういうことをさせたりしなかったのか?」
「あ、当たり前です。そ、そんな、汚いところ、口にさせるなんてっ……」
「そうか、なら私が初めてカムイのちんぽを口に入れた女ということになるんだな。ふふっ、ちんぽって言われるとぴくりと反応するなんて、卑猥な男だな、お前は、ふふっ、でも、それでいいんだ。もっと気持ち良くしてやるからな、んちゅるっ」

 再び口に含むカムイのそれは本当に始めてのようで、手で扱いたときとは比べ物にならないほどに小刻みに震える。舌先で先端を舐めあげると、静かに腰が浮くのがわかって、先走り始めた男汁の味に喉が鳴った。
 残った手で自身を慰めながら、これをここに入れることを想像するたびに指に絡む愛液が増し、それに合わせて頭を激しく動かして喉の奥へとモノを誘うと、カムイの顔に焦りが生まれ始めていることに気づく、それはカムイの張っている越えちゃいけないラインの一つを崩すものが近づいているのだと、私は察する。

◇◇◇◆◆◆















「だめ、だ、ヒノカさん!で、出る、出てしまうから! 僕のそれを咥えるのやめ、てっ、ください、おねがいだから!」
「んじゅるっ、んっ、ぷはぁ、いいぞ、出してくれて。もう姉としての私は死んでいるんだ、この卑しく、んじゅるっ、ん、ちんぽを咥えこむ、淫乱な口に、んはぁ、カムイの子種を、ん、射精してくれ……、じゅるるっ」
「だめだ、ヒノカさん、おねがいです、お願いだから、僕に、僕にヒノカさんを汚させないで、うあっ、もう、持ちこたえられなぃ……」

 苦しそうにカムイは我慢しているようだった。体はどこまでも正直に、私の口に出したいと腰まで動かしているのに、その心は抗おうと必死になっている。なら、最初から私のことを姉と呼んでくれればよかった、そうあれば私は、価値観を変えることもなかった。
 これは私なりのカムイへの復讐なのかもしれない、そう考えた時にはカムイの一つ目の支えを壊してやるというそんな思いがあった。

「はむいっ、ん、ぐぽっぐぽっ、んじゅるぅううっ、あむっ、んんっ」
「あっ、ううっ、ヒノカさ、ごめっ、んなさい……、もう……我慢、できなっ――ああっ!」

 びゅるっ、びゅるるるるっ、びゅーっ。私の口の中で音がする。熱い血潮のように吹き出した子種が、口の中になだれ込んでくる。

「んぶっ、んんっ! ん、ごくっ、ごくっ、んんっ、はむっ、れろっ、んッはぁ……」

 口の中で粘つくカムイの匂いをすべて飲み込んで、私はカムイを見下ろした。守ろうとしたもの、越えてはいけないものを崩されたその様は、見ていて心がくすぐられる。

「あああっ、ヒノカ、さんの、口に……、僕は、なんてことを……」
 
 嗚咽に似た後悔の言葉を漏らす。だが、どんなに後悔を口にしようとも起きてしまったことは変わらない、それを知らしめるために私は口を開く。

◇◇◇◆◆◆













「ふふっ、あんなに嫌だと言っておきながら、私の口にたくさん出してしまうなんて。カムイの子種、とても臭くて濃いんだな」
「言わないでください。ううっ、こんな、こんなことって……」

 心はまだ折れていないのはわかったけど、それも多分長く持たないのは見てわかった。罪悪感に駆られるカムイの心に相反して、先ほど吐き出したモノはすでに硬さを取り戻し、先に付いた残りカスを私に舐めてほしいとせがんでいる。
 こびりついたそれを掃除するように口に含めば、カムイはその舐められて喜んでいるそれを、信じたくないというように見えない瞳で見つめている。

「そ、そんな……どうして、もう、こんなこと、したくない、したくないはずなのに……」
「ふふっ、体は正直だからな。カムイがどんなに心でしたくないと言っても……んじゅるるっ。お前のちんぽは、まだまだ気持ち良くなりたそうにしてるじゃないか」

 硬さを取り戻したナニを優しく撫でると、カムイの眉がヒクリと動く。その度にカムイに焦燥に似た影が差していく。私は、その影を引きずりだすように、その硬いものをカムイに知らしめるために、手で撫でまわした。大きさも、痙攣する動作もすべて、カムイに教え込む様に。

「ふふっ、とっても元気だな」
「こ、これは、違う、違うんだ!」
「違わないさ。でも、大丈夫、私がもっともっと気持ち良くしてやるからな」

 静かに自身の服の留め具を外して、下着を脱ぐ。すでに用をなさないそれは少しばかりの重さを持って畳に落ち、わずかながらの湿り気を含んだ音を奏でた。

「カムイの勃起したちんぽ、まるで目があるみたいだ。私の下腹部を見て、興奮してるじゃないか、こんなにピクピクさせて……」
「ぐっ、くあっ、やめてください……」
「ふふっ、可愛くて素直なお前を、私が咥えてやるからな」

◇◇◇◆◆◆














 跨る、すでに濡れそぼった私の場所にカムイのそれが触れるだけで響く音。カムイの顔に走る緊張に似たものは、私の中の加虐性を増長させていく。
 亀頭を少し咥えこみ、そこで留まる。我慢できるかどうか分からないほどの快感が、股関節から背筋に掛けて伸びていくのを感じながら、カムイの胸に手を添えて体重を支える。

「んっ、ぅん、はぁ、ふふっ、どうだカムイ。姉のお○んこに咥えられた感想は……」
「んぐっ、や、やめてっ、くだ……さい。こ、これ以上のことは……んああっ」
「ふふっ。少し動く度に、お前の、先端だけで脈打ってるじゃないか。挿入れたいんだろう?」
「そ、そんなこと、あぐっ、ヒノカさっ……」

 口で言っていいながら、その腰は少しだけ浮き始めている。心と体が離反しようとしてるのがわかって、少しだけ腰を落とす。亀頭が膣壁を開きあげるのを感じる。だけど、困ったことに私の方が我慢の限界だった。
 カムイが動くまで待ちたいと思っていたが、それはうまくいかない。私は、今すぐにでもカムイを感じたかった。

「はぁ、んっ、カムイ。もう我慢できないんだ」
「だ、駄目です、ヒノカさん、正気に、正気に戻って、お願い、ですからぁ!」

 懇願した声が聞こえた。最後に張り上げたカムイの意思、最後の灯。その温かみを私は手で少しばかり蔽うように考える。
 まだ、カムイは私のことを気にしてくれている。その優しさで灯されたその明りを見ながら、私の口元はつり上がっている。
 ああ、優しい明かりだ。
 とても、温かくて、とても奇麗で、最初からこれを私にくれたらよかったのに。
 親指と人差し指だけを残して、私はそのぬくもりから姿を消す。残った親指と人差し指は静かにその炎に近づいた。
 カムイの最後の優しさと最後の望み。





 それを






 私は






 摘まみ消した。

◇◇◇◆◆◆













「あああああああっ、んっあああ、はぁ、あああっ、挿入、ってる! 挿入ってるよぉ、カムイの、カムイのちんぽが、私の中にぃい。あはっ、んあああっ」

 下腹部に感じる確かな挿入の感覚、耳に聞こえる誰かが息をのむ音。それらすべてが、私の中の快感を高めていく。

「ぐあああっ、ヒノカさん……」
「ああっ、お前の奥まで入っちゃったぞ、ははっ、はははははっ!」
「うあっあぁ……、そんな、ど、どうして、止まってくれな、んぐっ、いんですかぁ、ひぐっ!」
「ははっ、なんで家族でもない、お前の命令を聞かないといけないんだ。私はカムイ、お前が、ほしいんだ。んぁ、いい、いいの。カムイのちんぽが私の初めてだなんて。こうやって、肉体的に繋がれて、とても、うれしいんだ……。んっ、いっ、痛くても、いい、カムイも動いてくれ、お前を私に感じさせてくれ、ひゃっ、んあああっ」

 初めての痛みなんて言うものは、もう正直関係なかった。カムイの男に私の初めての血を沁み込ませる様に、激しく腰を叩きつける。あふれ出る血の混じった愛液よりも、私自身の視界に見える玉のような汗ばかりに目が向いて行く、落ちた汗がカムイの体に掛るたびに、彼の顔が酷く歪み変わっていくことに溜まらない興奮を覚えていた。

「ヒノカさ……」
「カムイぃ、んあっ、んちゅ。はぁ、んっ」

 唇を無理やり奪い、手をカムイの首へと回す。愛し合うように、どろどろと溶け落ちていくように、カムイの頭の中にある最後の壁を突き崩して、ただの男に仕立て上げるために、体と体が触れるたびに響く艶めかしい破裂音は変則的なリズムのままに、カムイの体を責め立てていく。
 何か言いたそうにもがくカムイに、発言権を与えるように唇を離せば、悲痛な表情のカムイが私を静かに見上げていた。

「ひ、ヒノカさ、ん。だめっだ、もう、抑えられない……」
「んっ、いいんだ、抑えなくて、いいんだぞっ、私の中に、カムイの子種を吐き出してくれぇ、さっき口に出した時みたいに、私の女をお前で、全部汚して穢してくれぇ」
「い、嫌だ。出したくない、出したくないんだ、お願いだ。ヒノカさんっ、抜いて、抜いてくれ!」
「ああ、わかってる、私のおまんこで、いっぱいいっぱいカムイの子種を抜いてやるからなっ、ははっ、初めて中に出す相手が私だなんてっ、あっ、んくっ、いいっ、カムイのが、私の中でもうこれ以上ないってくらいっ、大きくなって……あはっ、んっ」

 カムイの言葉を曲げて、それを受け入れたように腰の動きを加速していく。唇を噛みしめながら逃れようとしているカムイの顔がとても愛おしい。
終わりが近づいている、それが私にとっては始まりで、カムイにとっての終わりだということは理解している。
 体中に感じるカムイの体温、直に伝わる心臓の鼓動、中に入った男が脈打つ度に、カムイの目からは溜まった涙が零れ出していた。
 とてもきれいで、おいしそうなそれを舌で舐めとる度に、きゅんと男を離したくない女が疼き、抱きしめる度に男が怯える。

◇◇◇◆◆◆















「も、もうっ……む、無理だっ…ヒノカさん」
「ははっ、いいんだ。お前の所為じゃない、私が一方的にしているだけの行為なんだっ、だから、私の中に……はぁ、んくっ、腰だって、もう、私と一緒に動いてるじゃないか……」
「こ、これは、ちがう、ちがうんだっ」

 悲しみに顔をゆがませるカムイは逃げ道を探しているようだった。だったら、私が逃げ道を準備してあげればいい。
 カムイの中にある否定する心を、崩すように私は言葉を綴る。

「ふふっ、出したって誰もお前を責めはしない、お前だけしかお前を責めない。そんな責任は私に押し付けてしまえばいい。実の姉に、無理やり犯されているだけなんだからな……。んあっ、また大きくなったぁ。ふふっ姉に犯されてるって、再認識して興奮してるなんて、変態じゃないか、カムイは」
「……あぐっ、ああっ、ヒノカ姉さん……」
 
 その言葉をカムイが口にした時。その顔は一瞬だけ我に返ったようになって、そして、すぐに砕け落ちた。
 憑き物が落ちたように、焦燥も後悔も、何もかもが消えてなくなったように……

「もう、我慢、できそうに、ありません……」

 カムイの中にあった否定を私はどうやら一回で崩せたらしい。認識したくなかったことを私が口にしたことで、カムイの中の常識と理性が崩れたのがすぐにわかる。私が自分で時間をかけて、私を壊した時に似ている。それが堪らなくうれしく感じた。

「ふふっ、やっと姉と呼んでくれて、私はうれしいよ。ほら、ご褒美にいっぱい、出させてやるからな、私の中に。いっぱい、いっぱい出してくれ」
「ヒノカ、姉さん、気持ち、いいです。あっ、で、出るっ。ヒノカ姉さんの中に――!!」

 愛おしい弟、私と同じように狂い落ちていく弟、なら私も今だけ姉に戻れる気がした。暗夜の王女がいる席を消し去って、白濁に汚れた猥らな姉として……

「ああっ、いいぞ。出してくれ、私の中に。姉に、カムイの弟ちんぽから子種を吐き出してくれぇ!」
「姉さん、くっ、うあああああっ!!!!!」

 カムイの体が一瞬だけ跳ねて私を激しく貫いて、子宮に達したそれから熱いものが溢れだす。私の望んだ、カムイとの繋がり、歪んだ繋がりを示すもので私は満たされていく。

◇◇◇◆◆◆














「んああああああっ。入って、きたぁ、私のお○んこに、カムイの、カムイの子種が、ああっ、イく、カムイに、弟に中出しされながら、いくうううううっ!!!!!!」
「ああっ、姉さん。うあっ、僕のすごく締め付けて、だめ、出してる最中なのに、腰が止まら、ない……」
「あんっ、子宮、奥まで、んああっ、カムイのお○んぽがぁ、あはっ、出しながら、いっぱい、いっぱい動いてぇ、中に、いっぱい入り込んでくるぅ」

 体の奥の行き止まりを叩く受精の鼓動の中にある、カムイの男としての欲望は私の脳の中を蕩けさせていく。
 私の顔は今どうなっているのかわからない、カムイが盲目じゃなかったら、私の顔を見て何と言ってくれるのだろうか?
 カムイの顔は蕩け始めていた。腰は止まることを知らず、私を持ち上げるくらいに小刻みに動き続ける。もう、拘束する必要もなくなった。

「カムイ、もっと、もっと、私の体に触れてほしい。その両手で、お前の好きにして、淫らで下品で下劣な私に変えてくれぇ」

 拘束していた縄を解く、それはカムイに自由意思を与えるということに他ならない。
 もしも、カムイがまだ心の中に理性を持っているなら、ここで逃げ出すはずだろう。でも、不器用に腰を動かして、私と己に快感を供給し続けているカムイにとって、自由になった手の使い道など選ぶ必要性もなかった。

「ヒノカ姉さん!」
「んあっ、んんっ、胸、ひゃっ、だめっ、そんな先ばかり……」
「んっ、ヒノカ姉さんのここ、僕が触れるともっと硬くなってるじゃないですか、僕に犯されて、感じてるなんて、本当に変態ですね」

 カムイの中にあった理性や道徳はもう崩壊していた。私のことを姉さんと呼ばないようにしてきたその心も、今はそう呼ぶことによって得られる背徳感に身を窶すばかりになっている。

◇◇◇◆◆◆













「カムイに、触られてっ、んっ、ああっ、だめだっ、触られただけで、奥が疼いてしまう。ああっ、カムイ、止めてくれぇ」
「触るたびに、僕の締め付けてきますよ。ヒノカ姉さんの中、僕のを捕まえて離してくれないのに、止めてなんてできませんよ。それに、さっきまで、僕の言うこと聞いてくれなかったのに、聞くわけないじゃないですか」

 思ったことを我慢することなく、カムイは告げていく。腰を動かし、私の中を蹂躙しながら、胸を暴力的にほぐし続ける。私の願いを受け止める気配はどこにもなかった。 

「そ、それは、はううううっ、だめ、胸弄られて、いくっ、うああああっ」
「くぅ、そんなに締め付けたら……ああっ、また出しちゃいますよ、ヒノカ姉さん。受け止めてくださいっ!!!!!」
「ふにあああああっ、あああっ、膨らんでる、膨らんで、んぎいいいぃいい。ああっ、中に、カムイのが、ああっ、溢れて、っあうっ、まだ、出てる、出てるのに、んあぁあっ、出したまま、うごか、ひんっ、いやぁあっ」

 接合部から漏れだす白濁とした子種と愛液、カムイの陰毛にそれが触れて糸を引く光景が脳裏に焼き付いて行く。

「ヒノカ姉さん、もっと、もっと気持ちよくさせてもらいますから。ヒノカ姉さんがいけないんですよ、あんなに、あんなに拒んだのに、僕を、離してくれないから……」

 カムイの心が変貌しているのがわかる。主導権の変化で心は私を支配したいという欲求に変わっているようだった。
 計画通りと言ってもいい、私とカムイの体に刻まれた関係をカムイは一生背負っていくことになる。我慢することなく壊れ果てたカムイは責任転嫁に私の名前を出してくる。そうだ、すべて私が望んだことなのだから。

「姉さん、机に手をついてください。後ろから、いっぱい犯してあげますから……」
「んあっ、カムイ……抜きたくない。このまま、繋がったままでぇ、んあっ、カムイ、あふんっ」

 淫らに求める私を見るカムイの顔に、色づいているのは優しさではないことを理解しながら、私は望みを口にする。

「……さっさとしてくださいよ。僕の好きにさせてくれる。そういってくれましたよね、ヒノカ姉さん?」

◇◇◇◆◆◆













 ちゅぽんという音と共にカムイのそれが私の中から抜けるのがわかると、すぐに私は机に手を乗せてカムイの方へ尻を上げる。抜いた瞬間から逆流を始めた白濁が、入り口から溢れ零れる感触、自分の胸から股下にかけてまでに広がる光景、わずかに差し込んだ光に照らされたぐちゃぐちゃに濡れた本性が、雄の到来を待ちわびていた。

「んっ、カムイ、早く、はやくぅ」
「ふふっ、気配でわかりますよ。そんなにお尻を上げて、恥ずかしくないんですか。僕の本当の姉さんなのに」
「んあっ、指、でぇ、中、掻きまわしちゃ……あうっ、ひゃあああああっ」

 カムイの指が入り口を掻きまわす度に私は軽くイき続ける。
 湧水のように溢れ続ける愛液の香りは、自分でもわかるくらいに厭らしく、そしてそれに交じって漂ってくるカムイの香りは私の脳を溶かして止まない。カムイに子種を強請るように、私のお尻が静かに浮いていく、また繋がりたいと思うたびに、カムイの指を咥えこむように腰が動く。

「ふふっ、ヒノカ姉さん、どれだけ変態なんですか、僕の指を咥えるために腰を動かすなんて……」
「あああっ、変態でいい、いいからっ早く、早く入れてくれぇ」
「がっつかないでくださいよ。弟のちんぽ挿入れられて興奮してるようなヒノカ姉さんには、お仕置きしないといけませんからね?」
「ひゃうっ、ああっ、そんな、入り口だけなんて、んあっ……も、もっと深く、ふかく、挿入れてくれぇ」

 カムイのそれが入り口に触れる。触るように、あるいは臭いをこびり付けるように。
 目が見えないカムイはイメージした私の体のその場所を執拗に苛めていると考えて、興奮が止まらなかった。カムイの頭の中には、今はしたなく涎を垂らしながら男の物をせがむ私だけがいるのだろう。姉でもなく白夜第一王女でもない、ただの淫乱なメスとしてのヒノカだけが住んでいるんだと。

◇◇◇◆◆◆














「ふふっ、ならお願いしてください。どうしてほしいんですか、さっきまで僕にさんざん言ってきたんですから、簡単ですよね。僕のナニでどうしてほしいのか、教えてください」

 声に加虐性が混じり始める。壊れていながらもカムイは自身を取り戻しつつあるようだった。それは、カムイとしての人間でいうところの攻撃的な物、いうなれば獣としての本能かもしれなかった。圧倒的な優位に立って私の性を暴く姿は、まさにそういうものなのかもしれない。

「カムイっ、んあっ、挿入れてくれぇ」
「何をですか?」
「カムイの、カムイのちんぽを」
「どこにですか?」

 声に色が混じり始めた。それは私に対するわずかな時間で芽生えた、私に対する恨みを返せることに対する喜びなのかもしれないが、どうでもよかった。

「わ、私の淫らな雌の穴に」
「私じゃないですよね、ヒノカ姉さん?」

 ヒノカ姉さんと、もう気にすることなく呼んでくれる。もう、カムイの中に暗夜の悪い虫はいなくなった。でも、それすらどうでも良かった。
 さぁ、私も本当の意味で壊れよう。もう、打算で物事を考えなくても、カムイは私を求め続けるはずだ。
 満足するまで、私を汚し続けてくれる。
 永遠に切れないくらい。
 だから一緒に堕ちよう。
 深くて暗くて、もうどこにも逃げ場のない。
 そんな漆黒の地獄の底に、カムイと一緒に堕ちていこう。

「こ、こんな姉の、こんな姉の卑しいお○んこに、弟ちんぽを突っ込んで、ビュービュ―種付けしてくださ――」
「そうですか、ならすぐにそうしてあげますね!」
「はひっん!あああっ、きたっ、カムイの、弟ちんぽ、あはっ、お尻に、体打ち付けられながら、奥に達してっ、はっ、んあ、んひぃ!」
「はぁはぁ、んっ、本当にド淫乱ですねヒノカ姉さんは。実の弟に、こんな風にされて、しかも中出しされることを望んでるなんて。ふふっ、もっと、獣みたいによがってくださいよ」
「うあああああっ、あふっ、ふあああっ、いい、いいんだっ、カムイの、弟のちんぽが私の中で擦れてぇ、ああっ、中からお汁、お汁がいっぱい、んあっ、はうううっ!!!!!」
「勝手に行かないでくださいよ。少しは僕を楽しませてくださいよ」
「だめぇ、気持ちいいからぁ、んぎぃいい」

◇◇◇◆◆◆
















 揺れる、揺れる、体も心も揺れていく。幸福感は確かにある、噛みしめるほどの幸福感はある。
 でも、それがどんな形をしてるかまではもうわからない。

「んくっ、しょうがない姉さんですね、もっと気持ちよくなれるように手伝ってあげますから」
「んあっ、あっあっあっ、んっ、あっ、うぅん。あっ」
「はぁはぁ、ヒノカ姉さんの中、気持ちいい。ふふっ、揺れてる胸もいっぱいいっぱい苛めてあげますから」

 後ろ手に手を掴まれ、残った手で胸を弄られる。形が変わるほどの大きさはないけど、それゆえに快感が染み渡っていく。バランスを崩した私の顔は、机にへばり付いて、体全体を揺らされる。机からギシギシと音が響く度に、触られていない胸が擦れて心地よかった、

「あっ、あっ、んんっ、かむ、い。もっと、もっとおぉ、私の子宮にぃ、カムイの、カムイの子種、びゅーびゅー出してぇ」
「ヒノカ姉さん、ううっ、また出しますから。奥に、いっぱい、いっぱい」
「んぐぅあああああ、奥、奥に、ああっ、子宮の入り口、壊れちゃ、壊れちゃうはらぁ……んあっ、あっ、ふっ、んっ、んおぉ」
「はぁ、ヒノカ姉さん。んっ、んあっ」
「んっ、ちゅっ、んはぁ、ひゃむひ、もっろ、もっろぉ」

 激しく責められ、唇も奪われて、カムイのされるがままに、女の喜びを感じさせられる。カムイの男としての喜びが私を逃がして離さないように……

「んっ、姉さん。僕でいっぱい汚して、穢してあげますから!」
「ああっ、うれしいっ、んあああっ、カムイ、カムイに汚されて、穢されて、私はとても、とても……」
「ははっ、これから毎日、毎日僕のお世話してくださいね。それが僕のお願いですから。いいですよね、ヒノカ姉さん?」
「ひぐぅ、はい、明日から毎日、カムイの性欲処理をする精液便所の姉になるからぁ、早く、出してぇ」

 カムイに尻を叩かれながら、私は明日からの自分の立場を想像する。
 これから私の部屋の周辺には誰も近寄らせはしない。そこで、カムイのしたいように私を使わせてあげればいい。
 廊下で、日の当たる中庭で、望むならカムイに犯されているところを誰かに見せつけたっていい。カムイの所有物として私を誇示してもらいたい。
 淫らに暗夜に寝返った男のちんぽで善がり狂う王女だと罵られることになっても、カムイが近くにいてくれるなら、他は何もいらなかった。

◇◇◇◆◆◆













「ははっ、明日からが楽しみです。こんなに気持ちいいことをしながら、ヒノカ姉さんを苛められるなんて。ははっ、あはははははっ」
「んっ、んっ、んああああっ、ああぁぁあああっ、もうもうらめぇ、あへへへっ」
「ダメですよ」
「んぐあっ、はぁはぁ、んんあっ」
「僕がイクよりも先に疲れ果てるなんて許さないよ、ヒノカ姉さん」

 意識が混濁していく。カムイはあと幾度となく私の中に注ぎ込んでくれるのか、それに期待することもなくなる。だって、今が一番幸せだから、今カムイが私だけを見ていてくれることに望むものなどありはしない。

「あっ、来ますよ。ふふっ、今度は奥までねじ込んで、姉さんの子宮壊してあげます!」
「んあっ、んおっ、カムイ、これからは、ずっとぉ、ずっと私を使ってくれぇ」
「言われなくても、わかってますよ。使ってあげます、頭の中緩々になって、ただの雌になり果てるまで、ずっと、ずっと使い続けてあげます。だってヒノカ姉さんは僕専用の精液便所だって、さっき言ったじゃないですか。約束は守らせても、もらいますから。んっ、ヒノカ姉さん、出しますよっ、その子宮に僕の子種、暗夜に裏切った男の子種、いっぱい吐き出してあげますから!」
「あひぃいいいいい、カムイ、んはああああああああっ!!!!!!!」
「ヒノカ姉さん!!!!!!!」

 締め付けが一気に増す。好きな男の子種を離さないようにするように、私の膣が胎動し、奥まで達したちんぽからあふれ出る粘液が、私の内を溶かしていく。
 頭の理性が裂ける、奥から溢れだすイキ汁が混ざり合う度に、入り込んだ異物が脈打ち、体からこぼれた汗が机に見て分かるほどのシミを作り上げていく。
 引っ張られた手だけが今の私を支える存在だった。体中の力が抜けて汗まみれの机に身を落とす。
 口から漏れる嗚咽を耳で聞きながら、支えることを拒否したカムイの手が、私の尻を鷲掴み、出し終わった直後だというのに、また動き始める。
 もう、言葉を考えることはできなくなっていた私は、口から漏れてくる快感に歪んだ恍惚な声を静かに聞き流す。

「まだまだ、終わりませんよ。僕が満足するまで、ずっと、ずっと、今日は続けますから……いいよね、ヒノカ姉さん」
「……いいよぉ、かむいののぞむとおりにぃ、わたしゅを、ぐしゅぐしゅにしゅてぇ」

 まだ今日はたっぷりとある。そう考えた時には、私の意識は白濁に溺れ、沈降していった。

◇◇◇◆◆◆















 私はその封筒を開けた。
 開けて、私の心は不幸のどん底に陥ったと言ってもいい。興味が無いわけでもなかった、自分の恋というものに。
 今日の行為はその恋を捨てることになるのだから見ても構わないだろうと、そんなことを思って開いた。
 母上が私に助言と手渡してくれたその紙、恋に悩んだときに開くと良いという御呪い。
 弟との繋がりを確保するために体を重ねた私に、今さら恋の道などあるわけがない。でも、母上が残してくれた言葉には興味があった。
 だから開いた。
 新しく始まる私とカムイの関係には不必要な重しだと、切り捨てるために。

「なんで、なんでそうなるんだ……」

 書かれていたことを見て、私の頭は多分止まってしまったのかもしれない。
 一度手に入れたはずの弟。使う側とつかわれる側、歪んだ親愛、いろいろな例えで関係を表そうと考えていた矢先に、それが無意味なことだと突きつけられる。
 先ほどまで情事に耽っていた汚れた体から力が完全に抜け落ちて、膝からペタリと座り込んでしまう。
 自然と涙があふれてきた。カムイと姉弟になるために切り捨ててきた物や、カムイを壊してしまったこと、そしてある種の恋に似た心を切り捨てたことも、すべてが的外れだったと告げられた。

「あはっ、あははははははははは」

 笑い声しか出なかった。
 カムイが静かに寝息を立てている横で、私は大きく笑う。
 結局、私が立っていた場所はあの暗夜の王女とまるで変わらなかった。実の家族という幻想を追いかけて、結局私は狂ってしまっただけだったようだ。
 残ったのはカムイの性欲処理を一任すると言った浅ましく、淫乱なメスブタが一匹。
 そして、私は記された真実を受け入れることがもうできないらしい。
 本当の姉弟としての繋がりという努力の報いを望み、結果として狂い歪んだ姉弟の形を手にした私は、その紙をくしゃくしゃにして蝋燭の炎に触れさせる。
 わずかな時間で燃え移った炎は、瞬く間に封筒をを焼き尽くしていく。
 小皿の上で燃え盛る真実が消え去るのを静かに見守った。
 






 これは違う世界の話




 ヒノカが狂い悶えた先に、歪んだ絆を手に入れた話




 If(もしも)の一つ
 



 カムイ×ヒノカ番外 おわり

今日はここまで


 地の文混ぜたからか、結構長かった気がする。

 次の番外はピエリリスの予定。

 本篇の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇
 カムイが話し掛ける人物

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター 
 フェリシア
 フローラ
 ラズワルド
 ピエリ
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ

 一人目>>501

 二人目>>502


 すみません、ひどい安価ミスをしました。

◇◆◇◆◇
 カムイが話し掛ける人物

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター 
 フェリシア
 フローラ
 ラズワルド
 ピエリ
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ

 一人目>>651

 二人目>>652

 これでお願いいたします。

 ごめんなさい、またミスしました。

◇◆◇◆◇
 カムイが話し掛ける人物

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター 
 フェリシア
 フローラ
 ラズワルド
 ピエリ
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ

 一人目>>653

 二人目>>654

 これでお願いいたします……

乙 ラズワルド

乙、なんだこのボリュームww
ルーナ

◇◆◇◆◇◆

 ピチャン

アクア「カ、カミラ、ちょっと、これは……」

カミラ「あら、どうしたのかしら。甘えられるのはいいけど、こうやって甘えるのは、いやかしら?」

アクア「そ、そうじゃないわ。でも、んんっ、ああっ」

カミラ「ふふっ、どうしたの、ただお風呂に入ってるだけなのに……。アクアはお風呂に入ってる時、いつもこんな声を上げてるのかしら?」

アクア「ち、ちがうわ。か、カミラの手が、んんゅ」

カミラ「私の所為にするなんていけない子ね。ただ、こうやって、洗いっこしてるだけなのに……」

アクア「そ、そこは、だ、だめっ」

カミラ「だめじゃないわ。ここはとってもデリケートなところだもの。優しく洗ってあげるのは当然じゃない」

アクア「あっ、んっ、か、カミラぁ。ゆ、ゆるして、おねがいよ」

カミラ「何の話かわからないわ」

アクア「か、カムイのお姉ちゃん、って、背伸びして、んっ、ごめんなさっ」

カミラ「ふふっ、カムイのこと、どうやって抱きしめてあげたのかしら。こんな風?」

アクア「んあっ、だめ、カミラ」

カミラ「ふふっ、カムイはどんな感じでアクアに甘えたのかしら?」

アクア「んーーー!!! っ! はぁっ……。か、カミラぁ」

カミラ「ふふっ、羨ましいわ。でも、アクアのおかげでカムイが立ち直れたんだもの」

アクア「わ、わたっ、ひうっ、しは、なにもぉ、んんっ、ああっ、指、触れて……ひぁっ」

カミラ「だから、今日はいっぱいお姉ちゃんにアクアが甘えていい日なのよ」

アクア「か、カミラ」

カミラ「ふふっ、体中、きれいにして――」




 ドタドタドタ ガチャ!




ルーナ「カミラ様! 大変で……すぅ?」

アクア「あっ、あふっ、る、ルーナ、た、たすけ、たすけてぇ」

カミラ「どうしたの、ルーナ?」

ルーナ「………えっと、カミラ様こそ、何してるわけ?」

カミラ「ふふふ、姉妹同士のスキンシップみたいなものよ。ルーナも久しぶりにどうかしら?」

ルーナ「……カミラ様、今はそれどころじゃないの」

カミラ「アクアの体を弄ることより大事なことって何かしら?」

アクア(弄られちゃった……)

ルーナ「あたしはベルカにドラゴンの準備をさせてるから、早く上がってきてください。」

 バタン

アクア「はぁはぁ……と、とりあえず、ルーナの言う通りにしましょう。なにか起きているみたい」

カミラ「そうね。この続きはまた今度、ふふふ、次はもっと甘えさせてあげるわ」

アクア「もう、遠慮したいわ」

カミラ「あら、お姉ちゃん悲しいわ」

アクア「笑顔で零しながら言われてもね……それにしても、どうしたのかしら?」

カミラ「ベルカにドラゴンの準備をさせるっていうことは、どこかに向かう必要がありそうね」モミモミ

アクア「……」

カミラ「昨日式典があったばかりで何か起きたとは思いたくないけど」サワサワ

アクア「ねぇ、カミラ」

カミラ「なにかしら?」

アクア「胸、いつまで触っているつもりかしら?」

カミラ「いつまでも触ってていいかしら?」

アクア「行き過ぎたスキンシップはダメよ」

カミラ「ふふっ、残念。だけど、何か困ったことがあったら甘えて頂戴。お姉ちゃんがいっぱい甘えさせてあげるから」

アクア「……できればお茶会という形でお願い」

カミラ「ふふふっ、前向きに考えさせてもらうわね。ただ、お呼びが掛った事を考えると、軽い用事では無さそうね」

アクア「……ええ」

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城『謁見の間』―
(ルーナが浴室に突入する二時間前)


ガロン「ふむ……」




ガロン「なるほど」




ガロン「そうか、やはり―――」

 ドンドンドンッ

ガロン「―――誰だ?」

マクベス「が、ガロン王様、マクベスです。至急の要件に上がりました」

ガロン「マクベスか、入るがよい」

マクベス「失礼いたします。突然の訪問、誠に申し訳ありません」

ガロン「どうした、何を慌てている」

マクベス「はい。本日、港町ディアより伝令が届きました」

ガロン「ほう、何があった?」

マクベス「はい、ノートルディア公国が白夜軍に制圧されたとの情報が……」

ガロン「……ふっ、あの者たちか……やってくれる」

マクベス「如何なさいますか? 暗夜海域から同盟にあるフウマ公国を経由し、白夜へと侵攻する先行プラン成功のため、解放は必要かと」

ガロン「ふむ………」

マクベス「ガロン王様」

ガロン「舞踏会の件、多くの者がカムイのことを認識したが、その実力、ここでもう一度見せつけてやるのも悪くはない。そうは思わぬか、マクベスよ」

マクベス「ガロン王様がそう仰るのでしたら、ノートルディア公国の件、カムイ王女に解決していただくことにしましょう」

ガロン「うむ……」

マクベス「そういえば、ノートルディアには賢者がいると聞きますが」

ガロン「……賢者……虹の賢者のことか」

マクベス「……」

ガロン「ふっ、まあよい。好きにさせてやるのも悪くはない」

マクベス「ガロン王様?」

ガロン「マクベスよ。ノートルディア公国の件も含めて話がある。すぐに我が子らに集まるよう伝えよ」

マクベス「承知しました。……ガロン王様」

ガロン「どうした?」

マクベス「いえ、私が部屋に入る前、誰かと話をされていたような気がしまして……」

マクベス(誰かがいたと思いましたが……)

ガロン「ふっ、マクベスよ。少し疲労の色が見えるようだが」

マクベス「いえ、そのようなことは……」

ガロン「まずは礼を言おう、昨日の会場護衛の件、見事であった。そして、お前には白夜侵攻の計画を委ねている。そのような重要な立場であるお前に、この不測の事態への対処を任せるのは忍びない。お前が倒れることとなれば、白夜侵攻に支障が出ることになるであろう」

マクベス「ガロン王様。ありがたき言葉でございます」

ガロン「マクベスよ。此度の件、我に任せておくといい」

マクベス「かしこまりました。では、皆さまをお呼びいたします故、失礼させていただきます」

ガロン「うむ……」




ガロン「話は以上だ。此度の件、お前の好きにするがいい……」

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・北の城砦―

カムイ「それで、わざわざ来てくれたんですか?」

ラズワルド「そういうこと。マークス様はすでに王城にいるみたいだったからね。ルーナから口伝手に聞いて、距離なら僕が一番近かったから、こうしてお迎えに上がったんだけど……。他は誰もいないのかい?」

カムイ「ええ、舞踏会が終わるまでは皆さん、好きに過ごすと言っていましたので。アクアさんはカミラ姉さんに連行されていきましたし、レオンさんの屋敷にまだ身を置いてる人もいると思いますから」

ラズワルド「そういうことだったんですね。てっきり、皆も王城に呼ばれているのかと……」

カムイ「城塞の皆さんにはちょっとやってもらうことがありましたから、例の場所で作業をしてもらっています」

ラズワルド「例の場所……?」

カムイ「はい、リリスさんが残してくれた場所です」

ラズワルド「!」

カムイ「……」

ラズワルド「カムイ様。そこに城塞のみんなを入れたっていうことは……」

カムイ「皆まで言うことはありませんよ」

ラズワルド「……進む道、見つかったっていうことかな?」

カムイ「いいえ、まだ見つかってなんていませんよ。ただ、もう歩み始めた身で、見つけに行かないのは少々怠け者が過ぎますから」

ラズワルド「すごいよね、カムイ様は」

カムイ「どうしたんですか突然」

ラズワルド「いや、昨日の今日なのに」

カムイ「昨日の今日だからですよ。それより、ラズワルドさん、私が最初で最後の相手だったって、みなさんから聞きましたよ?」

ラズワルド「ううっ、恥ずかしいこと言わないでくれないかな。まぁ、事実だけど」

カムイ「それで、どうしてそんな驚いてるんですか?」

ラズワルド「……なんていうか、心の根の切り替えが出来てるみたいだからさ。もう、しばらくの間、あんな風に心を休めなくても良いって言ってるみたいで」

カムイ「……私は竜石でズルをしてますし、この先のことを考えていたら思うこともあるんですよ。あそこで私のことを見てくれた人たちも含めて、何十、何百……もしかしたら」

ラズワルド「何千……かな」

カムイ「……そういうことです。だから、するべきことは考えないといけませんから」

ラズワルド「……できれば、僕はカムイ様の手が血に染まるようなことにならない、そんな道があってもいいはずだって、思うんだ」

カムイ「ラズワルドさん」

ラズワルド「……ごめん。本当はカムイ様が悩むことが無いように、僕たちがすべきことが多くあったはずなのに……」

カムイ「……」

ラズワルド「本当ならリリスが生きている世界もあったはずなんだ。それに近づけるように、僕たちは動くべきだったのに」

カムイ「もう、それは望んでも手に入らない世界ですから、悔やんでも何も始まりませんよ。それに、ラズワルドさんたちは私の指示に従ってくれたんです。だから今の現状はすべて私が引き寄せた結果なんです」

ラズワルド「カムイ様」

カムイ「だから、ラズワルドさんが気負うことはありませんよ。この結果も全部、私が背負っていくことになる罪なんですから」

ラズワルド「……そういうわけにはいかないよ、カムイ様」

カムイ「どうしてですか?」

ラズワルド「カムイ様は……僕たちの願いのため尽力してくれると約束してくれた。本当なら全部を聞かなくちゃいけないのに、僕たちのことを信用してくれたから。だから、そのすべてをカムイ様に背負わせるわけにはいかないんだ。僕たちはカムイ様にとって重しでいたくない。一緒に手を取って戦っていく仲間でいたいんだ」

カムイ「……ふふっ、ラズワルドさんは変なところで真面目なんですね。そんなにまっすぐに仲間だなんて改めて言われると、なんだか恥ずかしくなってしまいます」

ラズワルド「へ、変なところって。これでも真面目に考えてるんだけど。でも、それじゃ駄目かな? 僕たちが背負うのは、お節介なら……」

カムイ「いいえ。そんなことありませんよ……ありがとうございます、ラズワルドさん」

ラズワルド「……そう言ってもらえてうれしい。僕たちも、カムイ様と一緒に背負って行く、たぶんみんな同じはずだから、それを忘れないでね」

カムイ「はい……。それでは王城に向かうことにしましょう。私と一緒に来てくれますか?」

ラズワルド「もちろんだよ。それじゃ、行きましょうか」

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

ラズワルド「やぁ、ルーナ! 今日も可愛いね」

ルーナ「はいはい、何時ものあいさつありがと。とりあえず、マークス様に報告してきなさいよ」

ラズワルド「うん、そうさせてもらうよ。それより、ルーナ、少し顔が赤いみたいだけど、何かあったのかい?」

ルーナ「な、何でもないわ。うん、何でもないわよ、ほら、ちゃっちゃと報告にいってきなさいっ!」

ラズワルド「? それもそうだね。それじゃ、カムイ様、僕は報告に行ってきます」

カムイ「はい、ここまでありがとうございました」

ラズワルド「うん。それじゃ、ルーナ。カムイ様のことよろしくね」

ルーナ「わかってるわ。きっちり、連れて行ってあげるんだから」

ラズワルド「うん、それじゃ」

 タタタタタタタッ

カムイ「では、ルーナさん。よろしくお願いしますね」ギュッ

ルーナ「ひゃっ、い、いきなり手握らないでよ。その、びっくりするから……」

カムイ「ごめんなさい。……何かあったんですか?」

ルーナ「え?」

カムイ「ラズワルドさんが、ルーナさんの顔が少し赤いって言ってましたから」

ルーナ「いや、その……」

カムイ「そういえば、アクアさんがカミラ姉さんに連行されたと思うんですけど、何か知りませんか?」

ルーナ「な、なんでそんなこと聞くわけ!?」

カムイ「え、だって……ルーナさんはカミラ姉さんの臣下ですから、何か知っているかと思ってきいただけなんですけど」

ルーナ「そ、その……アクアといっしょにカミラ様お風呂に入ってて」

カムイ「やっぱり仲がいいんですね」

ルーナ「それで、伝令が来たから、別にお風呂入ってるだけだし、って思って浴室にお邪魔したら」

カムイ「ふむふむ」

ルーナ「アクア様、すごく蕩けた顔でカミラ様に撫でまわされてて」

カムイ「……ルーナさん、それは問題じゃないですか」

ルーナ「そ、そうよね」

カムイ「大問題ですよ。アクアさんもカミラ姉さんも……」

ルーナ「そうよ、まったく、一緒にお風呂に入るだけなのに、あんな――」

カムイ「どうして私をそこに呼んでくれないんですか。三姉妹水入らずなお風呂に入りたかったのに。いえ、正確にはエリーゼさん呼ばないといけませんから、四姉妹お風呂ですね。うんうん」

ルーナ「一瞬でも、カムイ様ならわかってくれるって思ったあたしが馬鹿だったわ」

カムイ「わかりますよ。カミラ姉さんといっしょにお風呂に入りたかったんですよね?」

ルーナ「いや、たしかに、その、入りたくないかと言われれば一緒に入ってもいいけど、あたしが言ってるのは、その、カミラ様のスキンシップがちょっと……その……////」

カムイ「……スキンシップって、こんな感じのですよね」ピトッ

ルーナ「ちょっ! な、なにいきなり触って」

カムイ「いいじゃないですか。前はあまり触れませんでしたし。それに、私が触ってるのはルーナさんのお顔ですよ? ふふっ、ルーナさんの中で過激なスキンシップってどういうものなのか気になります。私のも過激なスキンシップに入るんでしたら、ルーナさんに勘違いを正してもらわないといけません」

ルーナ「そ、それは、うん、カムイ様は普通のスキンシップだと思うわ」

カムイ「そうなんですか」

ルーナ「そうそう、カムイ様のスキンシップは全然過激じゃないから、確かめなくても大丈夫」

カムイ「ふふっ、なら、このまま続けても問題ないですよね?」

ルーナ「えっ?」

カムイ「前回触った時は、あまり楽しめませんでしたから……。それに、これは普通なスキンシップなんですよね?」

ルーナ「た、楽しめなかったって……。ばしょ、考え……てっ」

カムイ「ふふっ、私目が見えませんから……」

ルーナ「目が見えないとか言っておきながら、なんで廊下の隅に移動して……んやっ、首筋、ばっか、!!!! どこ触ってんのよ!」

カムイ「すみません。ふふっ、やっぱりルーナさん、肌を触られるのはあまり好みじゃないんですね」

ルーナ「オーディンは情けなかったけど、あたしはそう簡単に落ちたりしないからね。ふふんっ」

カムイ「そうですか……。それじゃ、ここを触らせてもらいますね」

ルーナ「んっ、なに、頭撫でて、子供じゃないんだから……っ!」

カムイ「やっぱり、思った通りですね」

ルーナ「んやっ、……な、なんで。か、髪触られてるだけな、ひうううっ」

カムイ「ふふ、ルーナさん。そんな声あげたら、誰かに気づかれちゃいますよ?」

ルーナ「だ、だったら、やめればいいじゃ――っつぅう」

カムイ「別にいいじゃないですか。これは普通のスキンシップなんですから……、ルーナさんそう言ってくれたじゃないですか」

ルーナ「ううっ、そそれは……」

カムイ「それに、まだ本番じゃないんですから」

ルーナ「ふぇ?」

カムイ「ふふっ、ルーナさんは……ここ」

ルーナ「んくっ、あっ、ひぃ」

カムイ「ツインテールの付け根、やっぱり弱いんですね」

ルーナ「ひゃっ、ひいん、か、カムイ様、そこ、だめ、だめだからぁ。こ、こんなの、こんなのしらない」

カムイ「知らなくて当然ですよ。自分が知らないから弱点なんですから、ふふっ、付け根で感じちゃうなんて、猥らなツインテールですね」

ルーナ「やっ、先、先っぽ触らないでぇ。んふっ、あっ、ううっ、ひやぁ」ガシッ

カムイ「大丈夫ですか、足が震えてますよ?」

ルーナ「先、先ばっかり、やめ、なさっ、んんんっ、はぁ……」

カムイ「私に体を預けてしまうくらいに感じてるんですね。ふふっ、予想以上にここが敏感なんですね」

ルーナ「び、敏感、敏感だからぁ。んあぁああ///」

カムイ「……ふふっ、これ以上はルーナさんが持ちそうもありませんね……。残念ですけど……」パッ

ルーナ「はうっ、んんっ、はぁはぁ。ぐっ、ひどい辱めを受けたわ」

カムイ「すみません、ちょっと調子に乗ってしまいました」

ルーナ「謝るなら、最初からしなければいいじゃない!」

ルーナ(……ううっ、触られたからか、髪が揺れるだけでなんだか体中がムズムズする)

カムイ「それは無理な相談ですね。さてと、早くいかないと怒られてしまいますから、ルーナさん、案内お願いしますね?」

ルーナ「……わかったわよ。それと、手」

カムイ「?」

ルーナ「手握ってあげるから、出してって言ってるの」

カムイ「ふふっ、さっきまで触られてたのにですか」

ルーナ「カムイ様のわがままは今に始まったことじゃないでしょ? それに頼ってくれてるのに力添えしないのは約束を破ることになるわ」

カムイ「……ルーナさん」

ルーナ「な、なによ。感謝なんて――」

カムイ「もっと顔を触らせてくだ――」

ルーナ「そのわがままは却下よ」

カムイ「そ、そうですか」

ルーナ「……なんだか、安心したわ」

カムイ「? なにがですか」

ルーナ「シュヴァリエの件とか色々あったから、その、心配したから。カムイ様が落ち込んでるとみんなのやる気とかも、あるし、その……つまりそういうことよ!」

カムイ「ふふっ。ルーナさん、ありがとうございます」

ルーナ「……うっ、うん、まぁ……その……。あ、あたしに心配させたんだから、その」

カムイ「わかってます。安心してください、もう大丈夫ですから」

ルーナ「……」

カムイ「……」

ルーナ「そう、ならいいわ。それじゃ、さっさと行くわよ。遅れると色々何か言われるかもしれないから」

カムイ「はい」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「カムイ姉さん」

カムイ「すみません、また私が最後のようですね」

マークス「そのようだな。だが仕方あるまい、北の城塞は最も遠い場所にあるからな」

カミラ「ええ、急な呼び出しは困るわね。アクアと仲良くなりたいのに水を差してくるんだもの」

エリーゼ「カミラおねえちゃん、アクアおねえちゃんと一緒にいたんだー。ねぇねぇ、何してたの?」

カミラ「ふふふ、一緒にお風呂に入ってたのよ。エリーゼも今度一緒に入りましょう。きっとアクアも喜んでくれるわ」

エリーゼ「わーい。とっても楽しみだよ」

カミラ「その時は、もちろんカムイも一緒よ?」

カムイ「はい、とても楽しみです」

アクア「……もしもエルフィに知られたら、粉々にされてしまうんじゃないかしら?」

エリーゼ「どうして?」

アクア「どうしてって……。その、いろいろよ」

エリーゼ「なら、エルフィも一緒に入れば問題ないよね。」

カミラ「…………」

エリーゼ「だ、だめかな」

アクア「いいえ。むしろ歓迎したいわ。それに、エルフィも一緒なら心強いから」

カミラ「……ふふふ、仕方ないわね」

エリーゼ「わーい!」

レオン「まったく、一緒にお風呂に入るのが楽しみなんて、本当にガキだね」

エリーゼ「なによぉ、レオンおにいちゃんだって、カムイおねえちゃんやカミラおねえちゃん、それにアクアおねえちゃんとお風呂入りたいって思ってるくせに」

レオン「な、なんでそうなるんだ! 僕の年齢でそんなこと、恥ずかしくて出来るわけないだろ?」

カミラ「あら、レオンも一緒に入りたかったの?」

レオン「ちがうから!」

カムイ「レオンさんもやっぱり甘えたいお年頃なんですね。私は駄目なおねえちゃんですけど、その甘えてもいいんですよ?」

レオン「カムイ姉さんも乗っからないでよ」

アクア「レオン、流石に実の姉弟でも、こんなに年齢が高いと問題になるわ。早く姉離れしないと……ね?」

レオン「アクア、君まで僕のことをシスコンだって思っているのかい!?」

マークス「……」

レオン「兄さんも何か言ってよ!」

エリーゼ「ねぇねぇ、マークスおにいちゃん、しすこんってどういう意味かな?」

マークス「ああ、姉を大切に思っている、そういうことだよ」

マークス(流石に姉や妹のことが好き、と言うわけにはいかないからな)

エリーゼ「そうなんだ。じゃあ、あたしもシスコンだよ。だってカミラおねえちゃんも、カムイおねえちゃんも、アクアおねちゃんも大好きだもん。あたし、シスコンだね!」

カミラ「マークス兄様……」

カムイ「マークス兄さん……」

アクア「マークス」

レオン「兄さん……」

マークス「こ、これは……その、す、すまない」

エリーゼ「なんで、マークスおにいちゃんが謝るの。だって、シスコンってお姉ちゃんたちのこと、大切に思ってるってことだよね! それってすごくいいことだって思うの」

アクア「エルフィに粉々にされるのは、マークスになりそうね」

カミラ「そうね、こればっかりは受け入れるしかないわね、頑張ってね、マークス兄様」

カムイ「エルフィさんはエリーゼさんのことでは容赦ない人ですから、私もガバガ――ふごっ」ガシッ

カミラ「あらあら、何を言おうとしているのかしら?」

レオン「とりあえず兄さん、後は任せたよ」

マークス「お前たち……」

エリーゼ「でも、レオンおにいちゃんがシスコンなら、アクアおねえちゃん、それにカムイおねえちゃんも、シスコンだよね」

アクア「えっ?」

エリーゼ「だって、アクアおねえちゃんもカムイおねえちゃんも、カミラおねえちゃんの事、大切に思ってるんだから、シスコンだよ!」

カムイ「なるほど、それでは、私もエリーゼさんと同じ、シスコン王女なんですね」

エリーゼ「えへへ、シスコン王女だね! アクアおねえちゃんも!」

カムイ「そうですね、アクアさんも王女ですから、私たちと同じシスコン王女です」

アクア「…………マークス」

マークス「もう、弁解の余地もない。すまないが、受け入れてくれ」

アクア「……なら、レオンはシスコン王子っていうことになるわね」

レオン「なんで、また僕を巻き込むんだい?」

アクア「道連れは多い方がいいじゃない? 一緒にシスコンの渦に飲まれましょう?」

レオン「もう、シスコンシスコン言うのやめよう」


 シスコンオウジョ!
 ハァ、マークスニイサマノオシエタシスコンダト、ワタシハシスコンニナレナイワネ。
 タシカニソウナルナ

マクベス「……何をやっているんですか、あなた方は……」

カムイ「あっ、マクベスさん」

マクベス「厳正厳粛な城の中で、なんですか。シスコンシスコンと……そのような趣味があったというのは初耳ですね」

レオン「マクベス」

マクベス「おや、どうされましたか、レオン王子?」

レオン「……いや、なんでもないよ。すまないね、ちょっとうるさかったのは認めよう」

マクベス「まあいいです。謁見の間でガロン王様がお待ちです。皆さまが遅いようなので、私が迎えに上がった次第です」

マークス「そうか。すまなかったな、では行くとしよう」

エリーゼ「うん! でも、なんだろうね。もしかして、またカムイおねえちゃんに何かあるのかな?」

アクア「あまりいいことがあるとは思えないわ」

カミラ「ええ、私もそう考えてる」

レオン「多分、そうだろうね……」

カムイ「どちらにせよ。まずは、お父様からお話を聞いてみましょう」

アクア「カムイ……」

カムイ「何をするべきか分からないままでは、何も始まりませんから」

◆◆◆◆◆◆
―港町ディア―

暗夜兵A「これはひどいな……」

暗夜兵B「ノートルディアに滞在していた兵士もそうだが……なによりも、民間人に対してこれか……」

暗夜兵A「手裏剣の的にしたって話だ……顔色一つ変えずにそれを見てる奴がいたってよ」

暗夜兵B「こんなこと、カムイ王女なら許さないだろうな」

暗夜兵A「ああっ。あの人ならな、そういえば昨日、公に発表があったって話らしいぞ」

暗夜兵B「そうか、これであの方も周知の人物ってことになるのか」

???「おい、そこの」

暗夜兵B「んっ、なんだ。今は民間人は出歩かない方がいい。それにこれは見て気分のいいものでもないぞ」

???「ひどいな……これがノートルディアから見せしめに送られてきた遺体か?」

暗夜兵B「ああ、非戦闘員、民間人だよ。話によればあと十数名は殺されたらしい、その中でも一番むごいのを選んで送ってきたんだよ。これ以上は晒すのは可哀そうだ。エルベ、布を持ってきてくれ」

エルベ「わかった。あんたも、早く家に戻るんだ。ここにも、もしかしたらノートルディアを襲った連中が来るかもしれないからな」

???「俺のこと心配してくれるのか、ありがとよ、兵隊さん」

エルベ「気にするな」

暗夜兵B「んしっと。……刺さったらそう簡単に抜けない形をしてやがる。ひどい武器だな、これは」ポイッ

 カラン……

???「ん……こいつは」

暗夜兵B「ああ、ノートルディアに現れた奴らの武器らしい。白夜の野郎、本当に何考えてやがるんだ」

???「へぇ。白夜がねぇ……」

暗夜兵B「さぁ、それを返してくれ。重要な証拠だ。それに、エルベの言っていたとおりいつ襲撃があるかわからない。早く家に戻るんだ」

???「わかったよ。それじゃ、仕事頑張ってな」





???「……まさか、あの形をここで見ることになるとは思わなかったぜ」
 
「これは、予定を変えねえといけねえようだな」

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC+
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC+→B
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB+
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+→B
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラB+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキDC
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテB
(返り討ちにあっています)

今日はここまで
 

 捕虜のほとんどがエリーゼの説得で仲間になっているんだが……。

 キャッスルでリリスの横にピエリを置いてほっこりしてしまうが、仕方無い。

 モブだけで再構成のステージもどき作ってるんだけど……興味ある人いるかな?





 本篇の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇
 カムイが話し掛ける人物

 アクア
 ジョーカー
 ギュンター 
 フェリシア
 フローラ
 ラズワルド
 ピエリ
 ゼロ
 オーディン
 カミラ
 ベルカ
 ルーナ
 エリーゼ
 ハロルド
 エルフィ
 サイラス
 ニュクス
 ブノワ
 シャーロッテ
 モズメ
 リンカ

 >>677 一人目
 >>678 二人目

 これでお願いします

 

乙 興味ある

カミラ

全然アリです

オードィンで

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

ガロン「先ほど港町ディアより、ノートルディア公国が白夜に攻撃を受け、支配されたという連絡があった」

マークス「それは本当ですか、父上」

ガロン「ああ、ノートルディアから逃れてきた……というよりは、それを知らせるために解放された者たちがいたようだ。話によると、民間人と警備にあたっていた兵に死者が出たと聞いている」

エリーゼ「そ、そんな……」

ガロン「現在も監視を続けているが、奴らがノートルディアから暗夜領に入る気配はないと聞く」

レオン「……今さらになってと思えるけどね。でも橋頭保を作るためにノートルディアを襲撃したのに動かないなんてね」

マークス「援軍の到着を待っているのかもしれないが……。どちらにせよ、このまま野放しにしておくわけにはいかない問題だ」

カムイ「そうですね。今は何もしてこないとしても、いずれは何かしてくるでしょうから……」

ガロン「皆の言うとおり、現在の状況はノートルディアへの攻撃で納まっている。しかし、すでに白夜侵攻への作戦は動き始めている以上、不安となる事象は正すべきことだ」

レオン「海路を使用するとなると、ノートルディアの現状はとてもじゃないけど無視できることじゃないね」

ガロン「海路の使用を考えればノートルディアの奪還は為すべきこととなるだろう。そこでだ、カムイよ」

カムイ「はい」

ガロン「お前にノートルディア公国の解放、その任を与えよう」

カムイ「わかりました。まずは港町ディアへと赴くことにします」

ガロン「うむ、カミラ、エリーゼ。お前たちは引き続き、カムイを支え動くことに努めよ」

カミラ「ええ、わかったわ」

エリーゼ「うん、カムイおねえちゃんのこと頑張って支えるね!」

ガロン「そして、マークスよ」

マークス「はい、父上」

ガロン「港町ディアにて、襲撃に備え準備せよ。カムイの出立と共に、入れ替わりで侵攻される可能性がある以上、ディアの防衛はお前に任せよう」

マークス「わかりました、父上」

ガロン「最後にレオンよ。お前は王都で待機せよ。できれば、兄妹で共にことに当たりたいと願っているだろうが――」

レオン「いいえ、父上。僕が動いたらそれは過剰な采配と言えるでしょう。父上の言うとおりに、王都でみんなの帰りを待つよ」

ガロン「ふっ、待つだけではない」

レオン「え?」

ガロン「レオンよ、お前は白夜の捕虜を生かした時に言っていたな。お前なりに捕虜を使う考えがあると」

レオン「……はい、父上」

ガロン「白夜侵攻の計画は進みつつある。そこにお前が得たカード、それを役立てよ」

レオン「……侵攻作戦の会議に参加、そういうことだよね」

ガロン「うむ、わしからお前たちへの話は以上だ。それぞれが成すべきこと、それを速やかに遂行せよ。特にカムイよ……」

カムイ「はい」

ガロン「ノートルディアの一件、その結果、期待しているぞ」

カムイ「お任せください、お父様」

◆◆◆◆◆◆
―北の城塞・カムイの部屋―

カムイ「ノートルディアに襲撃ですか」

カミラ「白夜も元気ね。シュヴァリエの一件で策もない、そう考えても不思議じゃない状態なのに」

カムイ「そうですね。ところで、カミラ姉さん」

カミラ「ふふふ、何かしら」

カムイ「どうして私を膝の上に載せているんですか?」

カミラ「あらあら、不思議なことを言うのね」

カムイ「いえ、乗せられてる私の方が不思議に思っているんですが」

カミラ「いいじゃない。昨日はあんまりお話しできなかったんだもの」

カムイ「お姉ちゃんとして、ですか?」

カミラ「あら、鋭いわね。鋭いのもいいけど、できればそこは気付かない感じで接してほしかったわ」

カムイ「すみません……。背中、温かいですね」

カミラ「そう?」

カムイ「はい、昔はいっぱいこんな風にしてもらいましたよね。さすがに大きくなってからは、カミラ姉さんも忙しくなって、私からも頼むことはあまりなくなりましたけど」

カミラ「ふふっ、あの頃のカムイは温かいものなら手当たり次第に触ってたものね。まだ、こんなに大きくなかった時に触られたから、びっくりしたけど」

カムイ「そうでしたか?」

カミラ「口元、嘘吐いてるわよ」

カムイ「ふふっ、ばれちゃいましたか」

カミラ「ええ、バレバレよ。でも、そういうところもカムイの可愛いところよ」

カムイ「ありがとうございます。カミラ姉さん」

カミラ「……それで、何を考えていたのかしら?」

カムイ「それもバレてました?」

カミラ「ええ、お父様との話の後から、ずっとね」

カムイ「そこからですか。うまくはぐらかせていたと思ったんですけど」

カミラ「ふふっ、お姉ちゃんの目はごまかせないわ。それで、カムイの悩みごとは何かしら、お姉ちゃんに話して」

カムイ「……そうですね。私だけで考えても仕方がないことですから、すみません意見をくれませんか?」

カミラ「ええ、任せて頂戴。それで、カムイ、何に対しての意見がほしいのかしら?」

カムイ「単純な話です。このノートルディア公国襲撃に、何か感じませんか?」

カミラ「……何か? そうね……」

カムイ「……」

カミラ「私はノートルディア自体が落ちたことに関して言えば、それほど不思議なこととは思ってないわ。現に、守備隊のほとんどは王都に帰還していたもの。そこを狙われたとしたら、落ちること事態はあり得ることだから」

カムイ「そうですか」

カミラ「落ちたことは不思議じゃないけど、それを白夜が……っていうのが少しだけ気に掛ることね」

カムイ「というと?」

カミラ「シュヴァリエの一件を考えたらだけど、そもそもこのノートルディア襲撃は、あの時に同時に起こるべきものじゃない? 本当なら無限渓谷に攻撃を仕掛けてシュヴァリエの手助けだってあり得たのに、それを白夜はしなかった」

カムイ「それが今さらになってノートルディア襲撃に動いたことに、違和感がある。そういうことですね」

カミラ「ええ、レオンが言っていたけど、今さらになってノートルディアを落としたって、戦況が覆ることはそうそうないわ。最初の黒竜砦の占拠と同じで陽動と考えるなら話は別だけど……」

カムイ「お父様の口調からは、ノートルディア以外で何か問題が浮上しているような節はありません。それに、今は暗夜本土の海岸線は多く監視の目がありますから。前回の用にはいかないはずです」

カミラ「……だから、このノートルディア襲撃には、戦況を覆す意図が見えない。これが私の感じることかしらね」

カムイ「カミラ姉さんも、やはりそう考えますか」

カミラ「というよりも、マークス兄様もレオンも感じているはず。特にレオンは意味のない白夜の行動に困惑しているかもしれないわね」

カムイ「そうですね……」

カミラ「……ふふっ、やっぱり心配かしら?」

カムイ「それは、そうですよ。まだ、解決していない問題もありますから」

カミラ「……内通者の件ね」

カムイ「はい……。正直、内通者の狙いが見えないことが一番の問題です」

カミラ「それはカムイを陥れるためじゃないの? シュヴァリエの件がそれを証明しているじゃない」

カムイ「……そうだといいんですが」

カミラ「……心配なら行って来なさい」

カムイ「カミラ姉さん」

カミラ「そうやって抱え込むことはよくないことよ。それに、レオンだって本当はカムイと一緒に行動したいって思っているはずよ」

カムイ「……そうですね。まだ、不安の種は刈り取れていませんから……ですが」

カミラ「?」

カムイ「レオンさんには白夜侵攻の作戦会議に参加するように言われていますから」

カミラ「……そうね。サクラ王女たちのこともあるわ」

カムイ「どちらにせよ、一度レオンさんに会いに行くべきでしょうね。ノートルディアの一件が終わってからのことも考えないといけませんから」

カミラ「ふふふ、そう。それじゃ行ってらっしゃい」

カムイ「はい」

 ガチャ バタン

カムイ「……さて、レオンさんのお屋敷までどうやって向かいましょうか……」

「必殺アウェイキングヴァンダーーーッ! ズガガガガ! バビューン! ふっ、俺に挑むには力不足だったようだな……。よし、次はこんな感じで行こう!」

カムイ「中庭の訓練広場からですね。ちょうどいいタイミングです」

 タタタタタタタッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―暗夜王国・王都ウィンダム大通り―

カムイ「……この大通りを歩いて進むのは久しぶりですね」

オーディン「いや、別に歩かなくてもいいと思うんですが」

カムイ「良いじゃないですか。こうやって歩いてレオンさんのお屋敷に向かうのも」スッ

オーディン「ひええっ。やめてー、触らないでー」

カムイ「なんですか、まだ触ってないじゃないですか」

オーディン「さっき、後ろから現れて触ってきたじゃん! ああいうのやめてくださいよ? セクハラですから、あれ!」

カムイ「そんな、私の淫靡手でオーディンさんに触れるのが、そんな卑猥な行為だって言うんですか?」

オーディン「ああ、卑猥だ。特に、首筋から耳に掛けて触るのは、俺の尊厳にかかわる。選ばれし者である俺の強固な仮面を、その手は――」

カムイ「えいっ」

オーディン「ひゃはあああっ! やめてー、やめてください、おねがいします、なんでもしますから!」

カムイ「ふふっ、オーディンさん駄目じゃないですか。こんなに大声をあげて」

オーディン「カムイ様が触ってくるのが問題で、あー、なんでカムイ様の淫靡手もスパパパって攻略できるって思ったのに。返り討ちにあう始末とか、情けねえよ」

カムイ「ふふっ、なら、淫靡手に対して態勢をあげるのが一番ですよ。そう、毎日私が触ってあげれば、いつかは……」

オーディン「……戻れなくなりそうだから遠慮させてもらう。ふっ、攻撃を受け続けての態勢を越える。この体に宿る力が――」

カムイ「淫靡手タッチ」

オーディン「―――っ!!!!! もうやだ……」

カムイ「ふふっ、ごめんなさい……。でも、オーディンさんが城塞に来てくれてて助かりました」

オーディン「?」

カムイ「いや、カミラ姉さんにレオンさんのお屋敷に行くと言ったのは良いものの、どう行こうか悩んでいたので」

オーディン「ふっ、迷える子羊を送り届けるのも、選ばれし俺の役目だからな」

カムイ「子羊に触られて変な声を上げてるのにですか?」

オーディン「……もう、殺してくれよ。もう、カムイ様の前で繕う度に壊されて、心が折れそうだよ」

カムイ「……ふふっ、オーディンさんは楽しい人ですね」

オーディン「茶化さないでくださいよ。俺結構悲しんでるのに」

カムイ「茶化してなんていませんよ。……普通初対面の女性に淫靡手の使い手なんて、そんなこと言える人そうそういませんから」

オーディン「……もしかして、怒ってますか?」

カムイ「いいえ。むしろ、エロハンド以外の呼ばれ方は初めてだったので、新鮮でしたよ」

オーディン「ほ、本当ですか?」

カムイ「はい、だから元気出してください。私に淫靡手の称号をくれたオーディンさん」

オーディン「……なんだろう、全然嬉しくない。なんでだ、名前を授けてそれを認められたというのに、この敗北感漂う感じは……」

カムイ「そうですか?」

オーディン「よし、決めた。カムイ様、その淫靡手の名前一度俺に返還してください」

カムイ「嫌です」

オーディン「ええっ、そこは素直に返してくださいよぉ」

カムイ「駄目です。だって、オーディンさんに私が触れる前に考えてくれた、繋がりなんですから。私はずっと大切にしたいです」

オーディン「い、淫靡手ですよ? エロハンドより、厭らしい名前なんですよ」

カムイ「構いませんよ。それに、決めた名前を変えるよりは、新しいものを考えた方が、ずっと建設的ですよ」

オーディン「そ、それもそうですね。うん、たしかにそうだ」

カムイ「じゃあ、そうですね。今度一緒になったとき、二人で何かの名前を考えましょうか」

オーディン「えっ……」

カムイ「あっ、オーディンさんが遠慮するなら、話は流しますけど」

オーディン「いえ、その……。そんな時間、本当に作ってくれるんですか?」

カムイ「はい。ですから、今はレオンさんのお屋敷まで、私を連れて行ってくれますか?」

オーディン「……ふっ、任せろ。この漆黒のオーディン、すぐにレオン様の元に連れて行ってみせます」

カムイ「はい……」

オーディン「それじゃ――」

カムイ「あっ、首筋に虫の気配……」ペタッ

オーディン「ひゃひっ!」

カムイ「ふふっ、やっぱり、オーディンさんは楽しい人ですね」

オーディン「……みんな。俺、もうめげそうだよ」

今日はここまで

 次回で前篇終わり予定です。
 弓聖の男が予想以上にイケメンだった。



 再構成ステージが出来たので、試してもらえるとうれしいです。

 キャッスルアドレス
『01117-23456
 92364-44393』

 ステージは黒竜砦モドキです。再構成九章っぽい感じ。

 基本モブ敵はステータスがカンストしています。(いいからドーピングだ!の結果)
 装飾品は付けていますが、こちらに有利が働く建造物は建ててません。
 リリスは配置しています。

 そんな感じになってます。
 

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

シャーロッテ「サクラ様、ちょっと食べ過ぎじゃない」

サクラ「んっ、んっ、ええっと、そ、そんなことないと思いますけど////」

モズメ「んー、あたい、まだ半分も食べてへんのに、サクラ様のケーキ、もう苺の部分くらいしかないから、結構食べるペース速いって思うわ」

サクラ「ううっ////」

カザハナ「ふふっ、ほら、サクラ、口元にクリーム付いてるよ。慌てるといつもこんな感じにしちゃうんだから」

サクラ「か、カザハナさん。み、みんなの前で恥ずかし――んんっ、んーっ」

カザハナ「よし、きれいになったよ、サクラ」

サクラ「もう……恥ずかしいって言ったのに」

シャーロッテ「そういえば、サクラ様とカザハナって仲いいけど、どういう関係なわけ?」

サクラ「えっと、カザハナさんは私の幼馴染なんです」

カザハナ「ふふ、そういうことだから」

シャーロッテ「……なんで、そんな得意げなのよ」

カザハナ「べ、別にそういうんじゃないから、気の所為、気のせいよ、うん」

モズメ「ふふっ、なんやか、好きな人の前で背伸びしたがってるみたいやな」

シャーロッテ「はっはーん、そういうことね」

カザハナ「な、なによ」

シャーロッテ「ふふふ、サクラ様、私のケーキ食べていいわよ」

サクラ「え、でも、これすっごく美味しいですよ……」

シャーロッテ「少し制限しないといけないから、昨日の舞踏会で結構口にしたから、気にしないで」

サクラ「で、でも」

シャーロッテ「それに、話のわずかな時間を見つけてケーキを食べつくしてるじゃない」

モズメ「うわっ、本当や。さっきまであった苺も無くなってる」

サクラ「あううっ。じゃ、じゃあお言葉に甘えて」

カザハナ「むーっ……サクラ! あたしのケーキもあげる」プルプル

シャーロッテ「差し出す手、震えてるわよ」

カザハナ「これは武者震いよ」

モズメ「侍だけに?」

サクラ「カ、カザハナさん!? 大丈夫ですよ、それにカザハナさんが一番ケーキ楽しみにしてたじゃないですか」

カザハナ「あ、あたしも制限しないといけないから、ほら会場でいっぱい食べたからさ」

シャーロッテ「離れて見てたけど、あんた会場の料理に全然手を出してなかったと思うけど?」

カザハナ「―――っ!!!! 今、今制限しないといけないの!」

モズメ「……あー、そういうことなんやな」

シャーロッテ「モズメもわかっちゃった?」

モズメ「うんうん、せやな。あたいもこういう立場になったら、妬いてまうかも」

サクラ「え、えっと? モズメさん? シャーロッテさん?」

カザハナ「な、なんでもないから! それよりサクラ、あたしのケーキ食べて。うん、さ、サクラに食べてもらえるなら、あたしうれしいから」フルフルフルフル

シャーロッテ「やせ我慢して、可愛いわね」

カザハナ「ううっ。サクラぁ、早く貰ってよぉ」

サクラ「は、はい。そ、そのシャーロッテさん」

シャーロッテ「カザハナがどうしてもって言ってるんだから、もらってあげなよ」

サクラ「え、えっと、カザハナさん。その、ありがとうございます」

カザハナ「うん! ……はぁ」

カザハナ(……食べたかったなぁ)

 カチャ

カザハナ「えっ?」

シャーロッテ「ほら、カザハナの分」

カザハナ「な、なによ。あたしは欲しいなんて」

シャーロッテ「私がいらないって言ってんの。だからカザハナにあげる」

カザハナ「……」

シャーロッテ「それとも、敵の情けは受けないって言う方針だったり?」

カザハナ「……ふんっ! でも……あんたが食べないって言うなら、もらってあげなくもないけど」

シャーロッテ「ふふふ、それじゃそういうことにして、さっさと食べなさいよ」

サクラ「カザハナさん、一緒に食べましょう」

カザハナ「サクラ……うん!」

シャーロッテ「ふふふ」

カザハナ「え、えっと、あのさ……」

シャーロッテ「どうかした?」

カザハナ「その、あ、ありがと」

シャーロッテ「まぁ、私もその気持ち分からないわけじゃないから、伊達に女やってないし。それに一番でいたいって思うことは不思議なことじゃないし、自分を磨くのに一番必要な心構えだからね」

カザハナ「……なんか見透かされてるみたいで腹立つけど……、今は許してあげるわ」

モズメ「カザハナさん、多分見透かされとるで」

サクラ「それじゃ、カザハナさん。あーんです」

カザハナ「ちょ、サクラ。何してんの!? ちょっと、恥ずかしいよ」

サクラ「ふふっ、だって本当は食べたかったんですよね? だから、カザハナさんのを、一口お返ししたいなって思って、駄目ですか?」

カザハナ「………さ、サクラがそう言うなら」

サクラ「それじゃ、カザハナさん。あーん」

カザハナ「……あー、あむ。……おいしー! うん、これ本当においしいよ。あ、それじゃ、サクラにもお返しするね。はい、あーん」

サクラ「あーん、んっ、とってもおいしいです」

シャーロッテ「仲いいわね……ところでさ、一つカザハナに聞きたいんだけど」

カザハナ「ん、なによ」




シャーロッテ「カザハナってレオン様のこと好きだったりするわけ?」

サクラ「……」

カザハナ「……」

サクラ「……」

カザハナ「……へ?」

シャーロッテ「へ、じゃねえよ。一緒にダンス練習できるように取り計らってやったてのに」

カザハナ「な、ななな、何言ってんの。意味わかんないから!」

シャーロッテ「……気付いてなかったのかよ。」

カザハナ「あたしが、レオン王子のこと、その好きって、どこをどう見ればそういうことになるのよ!」

シャーロッテ「だって、ねぇ、レオン様の発言が入るたびに、何かしら愚痴零してるし、なんていうか気になって仕方無いって言う感じにしか見えねえよ」

サクラ「そ、そうだったんですか。カザハナさん」

カザハナ「サクラまで、違うから。第一、あいつはあたしには厳しいし、思ったより思い悩むことも多いし、でも面倒見いいし」

モズメ「混乱して、褒めが入っとるな」

シャーロッテ「ふっふっふ、正直気になってたのよ。白夜の王女とその臣下を屋敷に住まわせてる暗夜王国第二王子、そんなのと生活を共にしてるのに色恋沙汰の一つもないわけがあるかってね」

カザハナ「な、ならサクラに白羽の矢が立っても!」

シャーロッテ「サクラ様はいいの。あっても多分、親愛的な方角だから。今、私が欲してんのは恋愛の方角、カザハナからはそんな香りがして仕方無いのよ」

カザハナ「そ、そんなことないから!」

サクラ「あっ、そういえば、アクア姉様がレオンさんに話があってここに来たとき、扉に張り付いて盗み聞きしようと―――」

カザハナ「さ、サクラぁ!?」

シャーロッテ「さてと、状況証拠も揃ったようだし、本格的に尋問開始ね」

カザハナ「………う」

モズメ「う?」

カザハナ「……うえ」

サクラ「うえ?」

カザハナ「うえ、うええええええ!!!!!」ダッ

サクラ「あ、カザハナさん!」

シャーロッテ「甘いわ、モズメ!」

モズメ「もろうたで!」ガシッ

カザハナ「あぐっ、は、放して、放しなさいよぉ!」

モズメ「カザハナさん、ゆるしてな。シャーロッテさんの命令なんや」

カザハナ「従わなくてもいいから! いいからぁ!!!!」

サクラ「カザハナさん、まずは落ちつきましょう。それに悩んでることがあるなら、話してください。私、カザハナさんの力になりたいんです。だって大切な幼馴染なんですから」

カザハナ「サクラ……。いやいやいや、だったらあたしを助けてよ! 今の悩みってそれくらいだから!」

サクラ「えっと、その……ごめんなさい」

カザハナ「サクラーーー!!!!」

シャーロッテ「っていうわけだ。さて、で、いつから意識し始めたの。包み隠さず教えなさいよね」

カザハナ「うっ、ううううううううっ―――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 ナニモナイ、ナニモナイカラァ!
 カザハナサン、ワタシオウエンシマスヨ!
 デモソウナルト、ナンヤカロマンチックナハナシヤナ
 オラ、ハケ、ハケ、ハクンダヨォ!

カムイ「なんだか騒がしい部屋が一つありますね」

レオン「……あの二人は、帰ろうとしないからね。まぁ、二人にとっては気の許せる話し相手になってるみたいだから、居てもらって構わないけど」

カムイ「それも、今日までになります。帰りに、モズメさんとシャーロッテさんに出撃の話をしておきますから」

レオン「うん、お願いするよ。でも、ノートルディアのことは伏せておいてくれないかな。サクラ達に聞かせるべきことじゃないからさ」

カムイ「はい」

 ガチャ バタン

レオン「それで何の話かな?」

カムイ「はい、ノートルディアでの一件が終わってからのことについてです」

レオン「ノートルディアの一件ね……。ところで姉さんは――」

カムイ「この襲撃をどう考えているか、ですか?」

レオン「……最後まで言わせてほしいんだけど」

カムイ「すみません、カミラ姉さんにすでに質問していたことだったので、本当は誰かに意見を求めるべきか悩んでいたことでしたから」

レオン「そう……。それでカミラ姉さんはなんて?」

カムイ「ノートルディアが制圧されたことに関しては不思議なことではないと、ただそれを白夜がという部分に違和感を覚えているみたいです。私もその意見と同じです」

レオン「やっぱりそう考えるよね……。僕も二人と同じだ。仮にこれが陽動だとしても、今の白夜に無限渓谷まで前線を押し戻す力があるとは到底思えない」

カムイ「……やはり、メリットなしですか……」

レオン「だから、僕は姉さんがノートルディアを奪還してくれる前提で侵攻作戦の立案を行うよ」

カムイ「いいんですか、私の指揮でノートルディア奪還が成功するという保証はないんですよ」

レオン「……姉さんはそういうけど、結局成功させるつもりでしょ? 自分で引き寄せる、そういったじゃないか」

カムイ「ふふっ、レオンさんに言われてしまっては仕方ないですね。ご期待に添えられるように頑張りますよ」

レオン「うん、期待してるよ」

カムイ「それで、もう一つの話です。これはまだ解決してないことに関してなんですけど……」

レオン「解決してないこと……」

カムイ「今回のノートルディア襲撃と同じで、その目的が不明瞭な例の件です」

レオン「……内通者の正体と、その目的のことだね。でも、目的は姉さんの失脚だろうって、この前も話したじゃないか」

カムイ「ええ、カミラ姉さんからもそう言われました……」

レオン「……また何かされると思ってるなら、それはしばらく大丈夫だと思うよ」

カムイ「え?」

レオン「舞踏会で、姉さんのことを父上が公に認めてくれたから、もう下手に失脚させることはできなくなったはずだ。なにせ、今姉さんは誰もが認める父上が注目している人物、そんな姉さんに何かすること自体、首を絞めかねない」

カムイ「そ、そういうものですか?」

レオン「そうだよ。それに舞踏会の挨拶後、姉さんにすり寄ってきた奴らの顔、全員媚び諂ってばかりだったからね。あの中には、姉さんが拘留されていたときマクベスと話し合ってた貴族もいた。結局、あいつらが求めてるのは自身が肥えることだけだ」

カムイ「……その貴族の方々が手を引いて、マクベスさんも当面は何もしてこない、そういうことですか」

レオン「姉さんがシュヴァリエの件で終わると考えていたんだろうけど、それは失敗に終わった。姉さんへ何かをする場合、リスクは高くなった。それに内通者も白夜との戦争には勝ちたいはずだからね」

カムイ「……そうですか」

レオン「そういうことだから、内通者が望んだ最初の目的は達成されないままに終わったって考えてもいいはずだよ。その正体がつかめないままなのは、正直癪だけど、そう簡単に新しく事は起こせないはずだ」

カムイ「……ですが、もしも、内通者の狙いが私じゃなかったとしたら」

レオン「それは前も話し合ったことだよ。でも、姉さんを狙う以外の目的なんて、まったく想像できなかったわけだし……」

カムイ「それもそうですね。考えられることは考えているのですが、やっぱりきっちり嵌るような、そんな目的を描けません」

レオン「僕だって同じだよ。最初、このノートルディア襲撃も、その内通者が仕掛けたことなんじゃないかと一瞬疑った」

カムイ「レオンさん、それはちょっと」

レオン「……わかってる。さすがにこれはスケールが大きすぎる話だから、それに今回のことは一人でできるようなことじゃないからね」

カムイ「たしかにそうですね」

レオン「内通者のことはノートルディアの一件が済んでから、もう一度話し合って絞り込むことにしよう。このまま白夜侵攻が始まるとそれこそ厄介だからね。その時になったら、マクベスから例のことを聞きに行くつもりだよ」

カムイ「レオンさん……」

レオン「だから、ノートルディアのことは任せたよ。これが終われば、僕も姉さんたちと一緒に行動できるようになるはずだから」

カムイ「はい、そうですね。では、私はこれで失礼します」

 ガチャ

レオン「……姉さん」

カムイ「どうしました?」

レオン「あの……」

カムイ「?」

レオン「……ううん、なんでもない、ごめん、引きとめたりして……」

カムイ「そうですか、それじゃ、失礼しますね」

レオン「うん」

 バタン

レオン「……はぁ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シャーロッテ「えっと、要約するとメイド服姿を見られて、似合ってるって言われたのが始まりってことね」

カザハナ「だから、なんでそれが始まりになるの。っていうか、好きなのが前提なのはなんでよ!」

モズメ「でも、今でもメイド服着てる時があるんやろ?」

カザハナ「うっ、そ、それは、結構好きな服なだけ、それだけだから」

サクラ「ふふふ、でもそう考えるとアクアさんとレオンさんが何を話してるのか気になりますよね」

カザハナ「サクラまで、だから違うって言ってるでしょ。それに、前言われたとき、全然ドキドキしなかったから」

シャーロッテ「前って何時よ」

カザハナ「舞踏会の日。その、ドレスに着替えて見てもらった時、似合ってるって言ってもらえたのけど、全然ドキドキしなかった」

モズメ「でも、あの時はドレス着て練習してないってこともあったから、気が動転してたんやないの?」

カザハナ「そ、そんなことないと思う。だって、その、言われたこと思い出したら――って、今の無し!」

シャーロッテ「あぁん? なに今さら恥ずかしがってんのよ。さっさと白状しなさい」

カザハナ「ううっ、そ、そんなこと言われても……」

 ガチャ

シャーロッテ「!!! はぁい、どなたですかぁ?」

カムイ「私です」

シャーロッテ「あれ、カムイ様? 今日来てたんですか?」

サクラ「カムイ姉様。来てるんでしたら声を掛けてもらっても」

カムイ「いいえ、なんだかとても楽しそうな声が聞こえてましたので、邪魔をしてはいけないかと」

シャーロッテ「なら完全に邪魔されちゃったわ、いいところだったんだけどね。命拾いしたわね、カザハナ」

カザハナ「な、だから違うって言ってるでしょ!」

モズメ「照れとるな。けど、カムイ様、どうしてここに来たん。レオン様になにかお話なんか?」

カムイ「………それもありますけど、本題は違いますね」

シャーロッテ「……そういうこと」

モズメ「わかったで」

カムイ「すみません。ですが二人がまだ、休んでいたいというのでしたら――」

シャーロッテ「ふふっ、仕事もこなしてこそ、いい女なんですよ」

モズメ「あたいはカムイ様に付いて行くって決めてるんや。ここで悠長に休んでるつもりなんてあらへん、力になれるんなら喜んで行くで」

カムイ「ありがとうございます、二人とも」

サクラ「カムイ姉様」

カムイ「サクラさん」

サクラ「……気を付けて、無事に帰って来てください」

カムイ「はい、必ず」

シャーロッテ「それじゃ、サクラ様。お仕事終わったら、またお話しましょう」

サクラ「はい!」

シャーロッテ「あと、カザハナ」

カザハナ「な、なによ」

シャーロッテ「帰ってきたら、話の続きするわよ」

モズメ「あたいも楽しみにしとるで、カザハナさん」

カザハナ「だから…違うって言ってるのに」

シャーロッテ「ふふふ、でももしかしたら何か進展あるかもしれないし、楽しみにしてるわ」

カザハナ「も、もう……。でも、気をつけてね。怪我とかないようにね」

シャーロッテ「任せろっての」

モズメ「うん、気をつけるわ」

カムイ「では、これで失礼しますね。あ、それとカザハナさん」

カザハナ「?」

カムイ「戻ってきたら、私にもその話聞かせてください、なんだかとても面白そうですから」

カザハナ「カムイ様……」

カムイ「はい」

カザハナ「絶対嫌です」ニコッ

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・港街ディア―

マークス「すまない、できれば私も共にノートルディアへと向かいたいが」

カムイ「いいえ、もしもの可能性がある以上、お父様の采配は間違っていません。ですから、暗夜本土のことはマークス兄さんにお任せします」

マークス「うむ、任せておけ……。カムイよ、ノートルディアには虹の賢者と呼ばれる方がいる」

カムイ「虹の賢者ですか?」

マークス「ああ、厳しい試練を乗り越えた者に力を授けてくれる。私と父上も賢者殿から力を授かった」

カムイ「そうなんですか。ですが、今のノートルディアの状況を考えるに、賢者様の安否が気になります」

マークス「ああ、もしかしたら、この襲撃は賢者殿が狙いであるかもしれない」

カムイ「……ふふっ、マークス兄さんも意地悪ですね。私に、その虹の賢者様にできれば会うことを進めているんですね」

マークス「ああ、お前には賢者殿も力を授けてくれる、私はそう思っている」

カムイ「……わかりました。ノートルディアの奪還と同時に賢者様の安否の確認も行うことにします」

マークス「ああ、私も力を授かった身だ。賢者殿の無事を祈っている。だから、カムイ、よろしく頼む」

カムイ「はい、わかりました」

???「カムイ王女様。出港の準備が整いました」

カムイ「はい。えっと、すみません、あなたは?」

エルベ「今回カムイ様と共にノートルディアに上陸します。エルベといいます」

カムイ「はい、エルベさんですね。では、よろしくお願いいたします」

エルベ「それではこちらへ」

マークス「カムイ、気をつけてな」

カムイ「はい、行ってきます、マークス兄さん」

カムイ(さて、向かいましょう。ノートルディア公国へ……)









???「……さて、本当に奴らかどうか、確かめねえと」

???「もしもそうなら」

「借りを返すだけだ」


第十四章 前篇 おわり

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC+
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドB
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+→B
(二人で何かの名前を考えることになってます))
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB+
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナB
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラB+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキC
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテB
(返り討ちにあっています)

今日はここまで 

 カムイ、スマブラに参戦おめでとう。amiiboもおめでとう、仕入ないと。

 キャッスル訪問ありがとうございました。モブキャッスルは時々変更します。
 
 モブ戦巫女の見下す表情はやはりいいものだ、これでなぜ見下す者が手に入らないのか謎である。
 
 ピエリとリリスの妄想が捗る。

 

 次の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇
 カムイと一緒に行動することになるチーム

・チーム覚醒(ラズワルド、オーディン、ルーナ)
・チーム舞踏会(モズメ、シャーロッテ、ハロルド)
・チーム血みどろ+(カミラ、ピエリ、リンカ)
・チーム歌姫(アクア、ギュンター、ニュクス)
・チーム城塞コンビ+(フローラ、ジョーカー、ブノワ)
・チーム移動盾(エリーゼ、エルフィ、フェリシア)
・チーム移動迎撃(ベルカ、サイラス、ゼロ)

  
 多数決で、先に三回名前が挙がったチームがカムイに同行することになります。

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・ノートルディア公国・港―

民間人「うう、うううっ」

エルベ「救護隊は救助した者の手当を優先、他の者は空の住居に気をつけろ、罠が張られてる危険性がある。十分に気をつけるんだ」

カムイ「……」

カミラ「カムイ」

カムイ「カミラ姉さん」

カミラ「港の調べは終わったけど、どこにも敵はいないそうよ」

カムイ「そうですか、となると、ノートルディアを襲った理由は拠点占拠というわけではないようですね」

ピエリ「島の警備してた暗夜の人、みんな見つけたの」

カムイ「どうなっていましたか」

ピエリ「首だけになって並んでた、体はどこにあるかわからなかったの」

リンカ「こんなことをして何になるって言うんだ!」

カミラ「それはこれをした奴らにしかわからないことよ。どちらにしても、白夜の印象が極度に悪くなるような行為であることは間違いないわね」

カムイ「……白夜なりの報復のつもりかもしれませんが、そうだとしたらつまらない理由ですね……。見た限り、彼らは街を放棄したようですが、ノートルディア公国を脱出したというわけではないでしょう。入れ違いになったという可能性はなさそうですから……」

カミラ「これで脱出したなら、本当に何のための襲撃かわからないわ……。今、この間に無限渓谷の前線が押し返しているのなら、見事な手腕だけどね」

リンカ「だが、ここで死体を晒す意味なんてない。……白夜は地まで落ちた。そう考えるしかないのか?」

ピエリ「シュヴァリエのことで、白夜の評価は地の底に落ちてるから、ピエリには関係ないの」

カムイ「ピエリさん……」

ピエリ「カムイ様、心配しないでなの。ピエリ約束守るの。それにリリスが一緒にいてくれるの。見てなの」シャキン

カミラ「ピエリの使ってる槍ね……。あら、そのリボン…三t年」

ピエリ「……リリスはピエリと一緒に戦ってくの。だからもう大丈夫なのよ」

リンカ「心の中にある、そういうことだな」

ピエリ「リンカの言う通りなの。だからピエリ頑張るの、リンカも守ってみせるのよ」

リンカ「なっ、あたしは自分の身くらい自分で守れる」

ピエリ「遠慮しないの。ピエリが先に走って敵をえいえいしちゃうの!」

カムイ「そうですね、遠慮しないでいいですよ、リンカさん。何が起きるかわかりませんからね」

リンカ「……それもそうだな」

ピエリ「リンカ、物わかりいいの!」

リンカ「だが守られてばかりのつもりはないぞ。あたしも同じように戦わせてもらう、ピエリを守るようにな」

ピエリ「むーっ、負けたくないのよ」

カミラ「ふふっ、仲よくなったわね」

カムイ「ええ、ピエリさん、本当に大丈夫みたいですね……」

 タタタタタッ

エルベ「カムイ様、ご報告が」

カムイ「エルベさんですか。その、なにかわかりましたか」

エルベ「はい、住民から話を聞いたところ、襲撃した一団はノートルディア山へ向かったと」

カムイ「ノートルディア山ですか?」

エルベ「はい、あそこにある山です」

ピエリ「結構大きな山なの、みんなハイキング気分なの?」

カミラ「あらあら、健康志向な襲撃者ね」

リンカ「港町の維持を捨ててまで登る必要があるというのか?」

カムイ「そんなに大きな山なんですか?」

エルベ「あそこに見えるのですが、何を言って……?」

カムイ「あっ、すみません。私は目が見えないもので」

エルベ「!?」

カムイ「そうですね、驚かれるのも無理はないと思います。それに信じてはもらえませんよね、いきなりこんなことを言われても」

エルベ「……そ、それはそうですが。でも、本当なんですか?」

カムイ「はい、ですが今はそのことについて話す時間ではありませんから。それで、彼らが向かったということはノートルディア山には何かあるということですね?」

エルベ「ええ、話によると、頂上には『七重の塔』と呼ばれる塔があるとのことです」

カムイ「七重の塔、ですか?」

カミラ「……カムイ、これは私たちをおびき寄せる罠よ」

カムイ「そうでしょうね。すでに相手は七重の塔の構造を理解しているでしょうから、そこに飛び込まないといけないわけですね」

リンカ「だが、この蛮行を許すわけにはいかない。そうだろ?」

カムイ「ええ。それに、ここを襲った方々の目的も気になります。それに、虹の賢者と呼ばれる方がいるとしたら、たぶんその塔の中でしょう」

カミラ「マークス兄様が教えてくれたのね」

カムイ「はい、力を授けてくれるとか聞きますが、一段が向かったとしたら、賢者様が狙いであったのかもしれません」

カミラ「そう、でも、虹の賢者様も、カムイと顔を合わせたら、すぐに力を授けてくれるはずよ。だって、こんなに可愛いもの」

ピエリ「でも力を授けるってどんな感じかな? こうやって杖でひょひょいって感じなの?」

リンカ「ふん、そんな簡単に力がつくとは思えないがな」

カムイ「力というのは魅力的ですが、必要最低限で十分なものです。大きすぎると暴走したり、魅入られたりしますから」

エルベ「……」

カムイ「では、行動しましょう。エルベさん、私たちは七重の塔を目指し進みます。港町の皆さんの介抱、およびディアへの連絡などの指示を出しておいてください」

エルベ「わかりました。それらが終わり次第、私もあとを追わせていただきます」

カムイ「はい、ですが無理はなさらないようにしてくださいね」

エルベ「わかっています、それでは私はこれで」

カムイ「よろしくお願いしますね」

エルベ「はい」

 タタタタタタッ

カムイ「皆さんを集めてください。ノートルディア山の頂上にある七重の塔へ向かいます」

エルベ「さて……そろそろ、この恰好も潮時――」

アクア「ちょっといいかしら?」

エルベ「はい、なにか――!!??」

アクア「向こうに動けないほど衰弱してる人がいるの、手を貸してくれない?」

エルベ「……あ、あんたは」

アクア「え?」

エルベ「いや、なんでもありません。その方はどちらに」

アクア「こっちよ」

エルベ「わかりました」

アクア「……」

エルベ「……」

アクア「やっぱり、信用できない?」

エルベ「え?」

アクア「私が白夜にいたっていうこと、あなたは知っているんでしょう。その反応、私のことを少なからず知っているようだから」

エルベ「……」

アクア「いいの。この島で行われた蛮行を思えば、私のことを訝しむことは間違ってないことだから。でも、カムイたちには――」

エルベ「そんなこと思ってねえよ」

アクア「えっ?」

エルベ「……あの家か?」

アクア「え、ええ」

エルベ「わかった。後は俺がやっておくから、早くカムイ様に合流したほうがいい。行き先が決まったそうだからな」

アクア「そ、そう……」

エルベ「ん? どうした」

アクア「……いえ、なんでもないわ。その、ありがとう。教えてくれて」

エルベ「別に気にするな。さっ、行きな……」

アクア「ふふっ」

 タタタタタタッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^
―ノートルディア公国・ノートルディア山、登山道―

カムイ「……」

ピエリ「はぁ、はぁ……長いの」

リンカ「こ、このてい、どで、へこたれ、るとはな」

カミラ「リンカ、言葉が途切れ途切れになってるわよ。そんなに疲れてるなら、私の竜に乗せてあげるわ」

リンカ「だ、大丈夫だ。これ、しきの、山、上り切って……みせるっ」

ピエリ「リンカ、顔真っ赤になって、るの。ピエリ、まだまだいけるの」

カミラ「二人とも、背伸びをし合うのは構わないけど……、上り切って戦えるかしら?」

カムイ「どうでしょうか。そもそも、屋内戦になる以上、馬やドラゴンで戦うのは至難の業ですからね」

カミラ「あら、カムイは私が戦えるか心配かしら?」

カムイ「ふふっ、皆さんの腕を信頼しますよ。問題は、相手がどういう手でやってくるかということですね」

カミラ「……そうね」

リンカ「はぁはぁ、はぁはぁ、ながい、長すぎる!」

ピエリ「うええええん、ピエリ、疲れたのおぉお」

カミラ「ふふっ、しょうがないわね。リンカもピエリも乗りなさい、私の竜はそんな柔じゃないから」

リンカ「はぁはぁ、あたしは」

ピエリ「ピエリ、もう疲れちゃったの。甘えさせてもらうのよ。うん、楽ちんなの!」

カミラ「ピエリは素直で可愛いわ。ささっ、リンカも乗りなさい」

リンカ「うっ……、しかし」

カミラ「遠慮しないで頂戴。仲間なんだから」

リンカ「……あ、ありがとう」

ピエリ「あー、リンカ照れてるの!」

リンカ「違う、これは疲れて熱くなっているだけだ!」

カミラ「そういうことにしてあげるわ。ほら、乗りなさい」

リンカ「あ、ああ……やはり不思議な感じだな。こう浮いているというのは」

ピエリ「なんだか楽しいの!」

カミラ「このまま、少し先を見てくるわ。網を張られているか心配だもの」

カムイ「わかりました。何かあったらすぐに戻って来てくださいね」

カミラ「ええ、わかってるわ」

 バサバサバサバサ

カムイ「……」

アクア「カムイ」

カムイ「アクアさん、大丈夫ですか?」

アクア「平気よ。まぁ、平気じゃないのものいるけどね」

カムイ「?」

ニュクス「だ、だから、大丈夫だって言ってるじゃない」

ギュンター「いえ、もう何度も膝に手を付いておられますゆえ。それに、ニュクスも今は城塞に住まう家族ですので」

カムイ「ふふっ、面白い組み合わせですね」

ニュクス「カムイ、私は別に平気だって言ってるのよ」

アクア「さっきまで膝に手を付いていた人の言葉とは思えないわね」

ニュクス「うっ……///」

ギュンター「はっはっは」

ニュクス「……はぁ、でもこうやって馬に乗せられてるのはフェアじゃないわ」

ギュンター「さようですか。では、私が負ぶって進むことにいたしますかな?」

ニュクス「やめて頂戴。見た目はこうだけど、私は結構な歳なのよ」

ギュンター「大人であろうと子供であろうとも、女性でございます。お気になさらず」

ニュクス「わ、煩わしいわね///」

アクア「ふふっ、おじいちゃんに甘える子供みたいね」

ニュクス「それは心外ね。そもそも、気を使ってきてるのはギュンターのほうじゃない。私は甘えてなんていないわ」

ギュンター「はっはっは、確かにそのとおりですな」

ニュクス「ほら、ギュンター。もう疲れてきたんじゃない? あなたもいい歳なんだから」

ギュンター「ご心配なさらず。これでも体力には自信がありますゆえ、ニュクス様はお気になさらず」

ニュクス「……そ、そう」

カムイ「やはりギュンターさんは、おじいちゃんですね」

アクア「ええ、お爺さんオーラがにじみ出てるわ。だからニュクスが年相応に見えるのかもしれないけど」

ニュクス「年相応って、私は大人の女性よ。何度も言わせないで」

ギュンター「ふっ」

ニュクス「な、なに?」

ギュンター「いえ、大人のと付けるのは子供にありがちだと思いましてな」

ニュクス「へぇ、そんなことを言うのね、ギュンター」

ギュンター「おや、どうやら怒らせてしまったようですな。これは機嫌がよくなるまで私が馬をお引きするしかありません」

ニュクス「そうね、そうしてもらえるかしら?」

ギュンター「では、そのようにいたしましょう」

カムイ「ギュンターさん、手慣れてますね」

アクア「ニュクスへの理由提供に隙が見当たらないわ。それに乗せられてるニュクスも、ニュクスだけどね」

ニュクス「何か言ったかしら、アクア?」

アクア「なんでもないわ」

カムイ「それで、なにかありましたか、アクアさん」

アクア「……カムイ、この襲撃が不思議でならないわ。ノートルディアの人々に危害を加えただけで、それ以外の意図が読み取れない」

カムイ「そこは私も思うところです。街も放棄して、早々に七重の塔へと向かったようですから。ノートルディアへの攻撃が目的ではないのかもしれません」

アクア「考えたくないけど、私たちをおびき寄せるためということはないかしら?」

カムイ「私たち?」

アクア「正確には、あなたをノートルディアに呼ぶためといえばいいかしら?」

カムイ「まさか、そんなこと……」

アクア「この襲撃、おかしいタイミングで起きているは、あなたの王族としてのお披露目の直後、しかもその日に起きているわ」

カムイ「それは、そうですが。でも、なぜ私を呼ぶ必要があるんですか?」

アクア「単純な理由なら、やはりあなたを殺すためというのが答えになるわ」

カムイ「……」

レオン『最初、このノートルディア襲撃も、その内通者が仕掛けたことなんじゃないかと一瞬疑った』

アクア「思い当たる節があるの?」

カムイ「……だとするなら、ここで問題が解決してくれるんですけどね。でも、ここまで偶然をつなげられる物でしょうか?」

アクア「そうね、できる奴はいるかもしれないわ」ボソッ

カムイ「アクアさん?」

アクア「なんでもないわ。これが誰かの手のひらの上の出来事だとしても、七重の塔で待っているであろう彼らを、野放しにする理由にはならないわ」

カムイ「ええ、そうですね。まずは、彼らを倒してからでも遅くないでしょうから」

 バサバサバサ

カミラ「カムイ、戻ったわ」

ピエリ「ふー、楽しかったの! 体中に風を感じたのよ」

リンカ「ピエリ、耳元で叫びすぎだ」

カムイ「それで、どうでしたか?」

カミラ「ざっと飛んでみたわ、七重の塔の形が見えるところまではね。道中にこれと言った物は何もなかったところをみると、やっぱり、中で私たちが来るのを待っているとしか思えないわ」

カムイ「そうですか。しかし、待っていても埒が明きません。皆さん、戦闘の準備を整えてください」

ギュンター「そろそろ時間のようですな」

ニュクス「そうみたいね。……その、ありがとう、ここまで乗せてくれて」

ギュンター「いえいえ、お気になさらず。それに面白い時間でもありましたからな」

ニュクス「面白いって、酷い言われようだわ」

ギュンター「ははっ。それではカムイ様、まずは私が先行いたしましょう」

カムイ「はい、わかりました」

◆◆◆◆◆◆
―ノートルディア公国・七重の塔内部―

ギュンター「……どうやら、入ってすぐということはないようですな」

カムイ「そのようですね。皆さん、上がって来てください」

ニュクス「そのようね……。それにしても、面白い構造の建物ね、階段が伸びるように続いているなんて」

アクア「複雑な構造みたいだから、さすがに罠を仕掛けることをあきらめたようね。でも、……外から見る限り、開けた空間が多そうね」

ギュンター「しかし、この様子では、あの二つの階段から先はもてなしの準備を整え終わっているでしょうな」

カムイ「ええ、たぶん、そうで……っ!」

ニュクス「カムイ、どうかしたのかしら?」

ギュンター「! アクア様、ニュクス、私の後ろへ」

ニュクス「えっ、なにもいな――」

 ヒュン

ギュンター「はっ!」キィン グサッ

ニュクス「ギュンター」

ギュンター「浅い傷です、お気になさらず……。しかし、優先的に女性を狙うのは感心しませんな」

 サッ

 ザザッ

忍「……ふっ、気付かなければよかったのだがな。まぁいい、のこのこと死ににやってきた馬鹿ばかり、一人ずつ殺してくれる!」

ニュクス「年寄りを労わりなさいよ。この頃の若いのは、感心しないわね」

忍「ふっ、では労わりの心を持って、まずは老いぼれから殺してやろう!」ヒュンッ

ギュンター「そのような攻撃では……」キィン

 グルグルグル キィン

ギュンター「!?」

忍「おまえだけ、孤立させてやる!」

ギュンター「くっ!」

ニュクス「ギュンター! 行かせないわ、これで!」

 ボウッ ボワッ

忍「その程度か」

ニュクス「くっ、外装に細工をしてるのね。魔法があまり効かない……」

忍「ふっ、いくら歴兵であろうと、敵陣に孤立すればどうなるか、理解できるだろうな? 見殺しにする気分はどうだ?」

カムイ「くっ、皆さん、ただちに攻撃を開始してください。私たちはギュンターさんを救出に向かいます。カミラ姉さんたちは、後続が上がってくるまでの間、敵を受け止めてください!」

カミラ「カムイ! くっ、流石に竜は大きすぎたみたいね」

忍「こんな室内に竜で乗り込んでくるとは、馬鹿もいいとこ――」

ピエリ「竜だけじゃないの、馬もいるのよ! えい」ザシュッ

忍「ぐえっ!」ドサッ

ピエリ「一人目なの! みんな入るまで、ここ死守するのよ!」

忍「ふっ、ならそうして見せろ!」ヒュン

 キィン

忍「!?」

リンカ「ピエリ、気をつけろ!」

ピエリ「リンカ、ありがとなの」

リンカ「礼はいい。それよりも貴様ら、なぜ罪もない人々を殺す!」

忍「ふっ、それが命令だからだ、おかしなことか?」

リンカ「命令だからといって殺すだけでは飽き足らず、あのような行為を、一体あれになんの意味がある!」

忍「あれでいいんだよ。いいじゃねえか、死んだ肉をどうしようと俺たちの勝手だ。しばらくはこういうことができなかったからな、欝憤晴らしには最適だったんだよ。お前も同じようにクビねじ切っておもちゃにしてやる!」

リンカ「貴様ら!」ブンッ ザシュッ

忍「ぐへあっ」ドサッ

リンカ「はぁはぁ、くっ、なんなんだ。なんでこんな、こんな、くそっ!!!!」

カミラ「リンカ、落ち着きなさい。もうすこしで皆が上がりきれる。終わったら直ぐにカムイの元に向かうわよ」

ギュンター「くっ、抜かりましたな」

忍「でやぁ!」ブンッ

ギュンター「! でいっ!」

忍「動きが鈍いな。老いぼれ、そろそろ人生を終わらせるには良い頃合い、そうだろ?」

ギュンター「ふっ、ならその老いぼれをすぐに倒せないお前たちは、相当な腑抜けというわけだな」

忍「言わせておけば! 死ねえええ」ブンッ

ギュンター「ふっ、力ばかりで弱いですな。それに、私だけに気を向けているとは、愚かなことだ」

忍「なにを言っ――!」

カムイ「追い付きましたよ。てやっ!」ザシュッ

忍「ぎゃ……」ドサッ

忍「くっ、追い付かれたか」

カムイ「すみません、ギュンターさん。遅れました」

ギュンター「いえ、ただの腑抜けに負けるつもりはありませんよ。っ……すこしばかり傷を負ってしまいましたな」

ニュクス「なら、これ使いなさい」ポイッ

ギュンター「むっ、傷薬ですか」パシッ

ニュクス「ええ、たまたま手元にあったから、これで直しなさい」

ギュンター「ふっ、こんな傷、唾でも付ければ治るもの、ですがご厚意は頂きましょう」

ニュクス「素直じゃないわね」

アクア「あなたもね、ニュクス」

ギュンター「別に問題はありませんぞ。さて、形勢逆転と言ったところですな」

忍「ふっ、後ろががら空きでよく言う。言ったはずだぞ、一人ずつ殺すとな!」

 ザッ

カムイ「伏兵!? アクアさん!」

アクア「えっ?」

忍「遅い! これでも、喰らえ!」ヒュン

アクア「この程度の、攻撃なら――!! 槍に鎖が絡まって、ぐっ、引っ張られる!?」

ギュンター「アクア様、すぐに武器を手放すのです!」

アクア「わかって、ああっ!」ドサッ

カムイ「アクアさん! 今すぐに向かいま――!」

アジロギ「そうはさせぬぞ、暗夜の王女よ!」

 ザッ ヒュンッ!

カムイ「くっ! こんな時に!」

アジロギ「ふっ、仲間が死んで行く様を、その気配で察しているがいい。大丈夫だ、あとで同じ場所に送ってやる……」

カムイ「そんなこと許しません。くっ、アクアさん、逃げてください!」

アクア「ううっ、でも、まだこの距離なら――」

 ヒュン ザシュ ザシュ

アクア「きゃあっ。ぐっ、足が……」

忍「ふっ、流石にこれで早くは動けねえだろ。最初の一人だ、派手に殺してやるぜ」

アクア「っ!」

忍「死ねええええ!!!!」

カムイ「アクアさん!!!!」

アクア「!!!!!!!」

アクア(だめ、避け切れない……!)

忍「その首、もらったああああああ!!!!!」



 
 

 ヒュン ザシュ

アクア「…………」

 ポタッ


 ポタタタタタッ

忍「あぐぁ、く、い、一体、どこから、投げて………」
 
 ドサッ

アクア「……私、生きてる? 一体何が起きて……」

「入口は階段だけってわけじゃないんでな。こんなところから失礼させてもらうぜ」

 スタッ

アクア「あ、あなた」

エルベ「間に合ってよかったよ」

アクア「……あなた正規の兵じゃないわね。その身のこなし、どうみても忍びこむことが生業の人間の動きよ」

エルベ「……そうだな、間違ってないぜ」

忍「新手か? だが別にどうでもいい、どちらにせよ」

エルベ「フウマの切り返し忍術を駆使して孤立させて殺すから問題ない、そうだろ?」

忍「!?」

アクア「え、フウマ、あなた何を言って?」

忍「貴様、なぜ俺たちのことを……」

エルベ「名前出された瞬間に慌てたりするなんてな。まぁ、それ以前に使ってる手裏剣がフウマのものって言うのも、安直だな。暗夜の人間にはわからないとか思ったのかもしれないが、俺みたいに知ってる奴もいることくらい考えろ。白夜の仕業にしたけりゃ、武器も攻撃手段も、全部白夜琉にするのが基本、まぁ白夜方面にあるんだから、ある意味白夜の仕業って言えるかもしれねえがな」

忍「くっ、お前は何者だ」

エルベ「そうだな。もう、暗夜兵の真似はやめねえと。港町で眠ってる本人に悪いしな」バサッ ザッ

アクア「これは、変装していたのね。港でカムイに話しかけた時から?」

???「それより前からだ。俺のことを心配してくれる兵士がいたんで、少し部屋で休んでもらってんだ」

アクア「……悪いことをするのね。えっと、その名前は?」

???「……アシュラだ」

アクア「アシュラね……助けてくれてありがとう。おかげで助かったわ」

アシュラ「いや、俺は礼を言われるような立場にはいない。だから、気にしないでくれ」

アクア「?」

忍「貴様、俺たちの邪魔をするか!」

アシュラ「正直に言うが、お前たちが何してるかなんて正直興味はねえ。上の命令の通りに動いてるお前たちのしたいことに対してはな」

忍「なら、なぜ邪魔をする……」

アシュラ「仕方ねえだろ……」

「恨みを晴らすべき相手が、こんなにわんさかいるんだからよ」

今日はここまで

 一日遅れだけど、アシュラさん誕生日おめでとう。くるくる回って弓を打つのかっこいいよね。
 どうして、アシュラとアクアの支援がないんだろうか?
 切り返し忍者軍団は最初、マップの移動見てすごいなと思った。でも、プレイヤー側はあまり使わないスキルの一つな気がする。
 個人的に切り返しは、鎖とかで引き寄せてるイメージだった。

◆◆◆◆◆◆
―ノートルディア公国・七重の塔内部―

アジロギ「恨みを晴らすべき相手か、俺はお前に恨まれる理由など見当もつかないがな」

アシュラ「そうだろうな。俺たちのことなんて気にもしねえことだろうよ」

アクア「アシュラ……」

アシュラ「あんたは俺の後ろに隠れてな。次持ってかれたら、流石に守り切れねえ」

アクア「ええ、助かったわ。ありがとう」

アシュラ「気にしないでくれ。こんなことで返しきれるものじゃねえことくらいわかってるからよ」

アクア「?」

アシュラ「ははっ、その話は、おいおいさせてもらうさ。今は、フウマの連中にしか興味が向かねえからな」

アジロギ「ふっ、まさか、ここでフウマの名を聞くことになるとは思わなかったな。簡単にはいかないものだ」

アシュラ「てめえらの事情なんてどうでもいい。てめえらがフウマ公国の人間、それだけで攻撃するには十分な理由だからな」

アジロギ「ふっ、俺達がフウマ公国の仕業にしようと企てている白夜の兵であるという可能性もありえる、そうは思わないか?」

アシュラ「……てめえはよく出来てるみてえだが、ほかの奴らの動揺が駄々漏れじゃ、そんな戯言に耳を傾けるつもりもねえよ。それに、白夜だったとしても別に問題もない」

アジロギ「ほう……ならば」カチャ

アジロギ「その力試してみろ!」ヒュンッ

 クルクルクル ガシンッ

アシュラ「また引き寄せるのか、一辺倒で芸がねえな」

アジロギ「ふっ、華やかさとは無縁要らぬものなのでな。お前たち、準備をしろ」

ザザッ

忍「……」チャキ

アシュラ「たいそうな数隠れてやがったみてえだな。また、同じように孤立させて命を狙うか?」

アジロギ「ふっ、そのつもりはない。お前という予想外のネズミが増えただけで、俺たちの目的は変わらないのでな」

アシュラ「へっ、殺すから関係ない、そういうことか?」

アジロギ「そういうことだ。だが安心しろ、俺たちも一緒に死んでやるからな……」

アシュラ「なに?」

アジロギ「こういうことだ!」ヒュンッ

 ガシンッ ドゴンッ

アクア「通風路を壊した?」

アシュラ「てめえら、何の真似だ」

アジロギ「ふっ、皆の者、火を放て」

忍「御意!」ヒュン

 ガッ ガガッ ガッ!

 ボワッ ボウッ

アクア「まさか、こういうことをしてくるなんて、一緒に死ぬつもり?」

 タタタタタッ

カムイ「アクアさん、大丈夫ですか、怪我は」

アクア「ええ、少しね。でも大丈夫よ、彼が助けてくれたから」

アシュラ「……」

カムイ「そうですか。しかし、まんまと罠に嵌められたようですね。私たちは」

ギュンター「そうなりますな。すでに退路は断たれているようです」

カムイ「はぁ、私を狙っていたというなら、ここまでの準備には感心してしまいますね」

アシュラ「関心してる場合じゃないと思うぜ」

カムイ「エルベさん、いえ、今はアシュラさんでしたか。いろいろと聞きたいことがありますが、今は悠長に話をしているわけにもいかないようですね」

アシュラ「そういうわけだ…。この燃え広がりようじゃ、上に上にと進むしかなさそうだしな」

カムイ「アシュラさん、あなたの素性については今は不問にしますから、ここは一つ力を貸してくれませんか?」

アシュラ「ああ、構わねえさ」

アジロギ「ふっ、手を取りやってくるか。面白い、先で待っているぞ」シュタッ

忍たち「……」シュタッ

カミラ「カムイ、ようやく追い付いたわ……あら、見慣れないのがいるけど、これは敵かしら?」

アシュラ「………」

カムイ「そうですね、今の間は敵ではないと思います。アクアさんを助けてくれましたから。それよりも、私たちが入ってきた入口はどうなっていますか?」

カミラ「ええ、皆が上り切ったところで、敵もいたからすぐに皆離れて、その瞬間ね。このままじゃ、みんな仲良く焼け死ぬことになるわ」

ピエリ「ピエリ、こんなところでこんがりお肉になりたくないの。お肉は食べる方がいいのよ」

リンカ「さすがに炎の部族だと言っても、炎に耐えられるわけじゃないからな」

ピエリ「当り前なの、リンカ意味わからないのよ」

リンカ「冗談に決まっているだろう! 少しは察してくれないか」

ピエリ「うふふ、ピエリわからなかったの。でも、このままじゃ本当に焼け死んじゃうのよ」

カムイ「はい、わかってます。さすがに一つの階段を使って全員移動するには時間が足りる気がしません。二手にわかれて進軍しましょう。敵は死ぬことを前提にこのような策に出ています、注意してください」

ピエリ「それはいいけど、カムイ様はどっちから行くの?」

カムイ「私たちは左の階段から進軍します。先に仕掛けますから、他の皆さんはその後に続いて来てください」

アシュラ「そうか、なら俺は右から行かせてもらうぜ、あいつが消えていったのはそっちの方角だからな」

カムイ「……しかし」

アシュラ「いきなり信じろってのは無理な話だってのはわかってる。だが、あいつだけは俺が殺る。これだけは譲れねえ」

カムイ「わかりました……。ですが、一人で行かせるわけにはいきません。カミラ姉さん」

カミラ「……わかったわ。カムイと離れるのは寂しいけど、ピエリ、リンカ」

リンカ「ああ、早いところ動き出そう。もう入口から始まった火の手が迫ってる」

カムイ「はい、次を上ったらもう下には戻れません。皆さんと合流するのは、最上階かその手前でしょう」

ピエリ「片方だけ途中止まりかもしれないの」

リンカ「ピエリ、身も蓋もないことを言うんじゃない……心配になってきたぞ」

カムイ「その時は、潔く諦めるしかないでしょう」

リンカ「諦めるな! 諦めるなよ、そこで!」

アシュラ「ふっ、変わった王女様だな。生きて上で会えたら色々話すことがある、だから死なないでくれよ」

カムイ「はい、わかっています。アシュラさんも、どうか死なないように」

アシュラ「死ぬのは怖いからな。そのつもりだよ」

タタタタタッ

カムイ「では私たちも上がることにしましょうか」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ピエリ「突貫するの!」

忍「来たか。くらえ!」ヒュンッ

 キィン

リンカ「ピエリ、前に出すぎだ!」

ピエリ「リンカ、ありがと。ピエリみんな八つ裂きにしてやるの! えい!」ズビシャ

 ドサッ

 シュタッ サッ タタタタッ

忍「この間合い、もらっ――」

 スゥ

忍「んっ、これは影!?」バッ

カミラ「いけない子」

 バサバサバサッ

カミラ「室内だからって、下ばかり見てるのはよくないわ。それっ!」ザシュッ ビチャ

 ドサッ

カミラ「……つまらないわね」

忍「その余裕もここまでだ! 死ねえええっ」

アシュラ「ほらよっ!」パシュッ
 
 トンッ

忍「かはっ……、ば、馬鹿な後ろに回られて……いた、だっ……とぉ」

アシュラ「相手にならねえな。こりゃ、この連中が捨て駒にされるのも納得が行く」

カミラ「……ええ、でも結構な量がいるわね。後続も攻撃を受けているみたいだから、本気で足止めして焼死させるつもりみたいね」

アシュラ「ふっ、どうやら王女様を殺すことは、ここにいる全員の命よりも重要なことらしい」

カミラ「……ねぇ、あなたの言っていたこと、本当のことかしら?」

アシュラ「何のことだ?」

カミラ「この一団がフウマ公国の者だという話」

アシュラ「信じたくないか?」

カミラ「ええ、そうよ。フウマ公国が白夜に寝返ったなんて、信じたくないことだから」

アシュラ「寝返ったか。それは無いと思うがな」

カミラ「えっ?」

アシュラ「今、多くを言うつもりはねえが。フウマ公国が今さら白夜に味方するメリットなんてねえ。あいつらは自分の国を大きくすること、それだけが目的だからな」

カミラ「………じゃあ、誰の命令で動いているというの? 私たち、いえ、暗夜王国への裏切りともいえることをしているのよ?」

アシュラ「ここにいる奴らは上の命令で動いてるのは確かだ。あの忍者はそれを重々理解してるだろうが。他の奴らはちがうな、なにせ――」

 キィン
 パシュッ ザシュッ

忍「ぐっ、ああっ、なぜわかっ……」ドサッ

アシュラ「ほとんどの敵からは命を掛けている感じがしないんでな。多分、要人の暗殺成功で生き残れるみたいに話をされてるんだろうが、それを信じることに意味なんてねえのさ。もともと、こいつらは捨て駒なんだからよ。フウマは、ここにいる奴らの命を犠牲にすることも含めて考えて、国を大きく出来る確信があるから、その命令している誰かに従ってるってわけだ」

カミラ「……そう。でも、答えを出すのは後でもいいわね。今は、ここを登り切ることを考えましょう」

アシュラ「そういうことだ」

ピエリ「まだまだ、階段から下りてくるの」

リンカ「一体何人いるんだ……」

アシュラ「なら、倒し続ければいいさ。無限に出てくることなんてありえないんだからよ」パシュッ

カミラ「その通りね。というわけだからリンカ、行くわよ」

リンカ「えっ、カミラ、ぐあっ、も、持ち上げるな!」

ピエリ「リンカ、羨ましいの!」

リンカ「これのどこが羨ましく見える! これでどうするつもりだ」

カミラ「簡単なことよ、私とリンカで一気に肉薄して階段入口を抑えるだけよ。アシュラとピエリは、すぐさま追撃して頂戴」

ピエリ「わかったの。おじさんも一緒に頑張るの、援護してほしいのよ」

アシュラ「へいへい、おじさんなりに頑張らせてもらうさ」

カミラ「それじゃ、行くわよ。それっ!」

 バサッバサッ!

忍「突っ込んでくるか、馬鹿――」トスッ ドサッ

アシュラ「上ばっかりに気を配ってばかりじゃだめだな」

ピエリ「それじゃピエリも行くの!」タッ ダッ

忍「!? この室内でこのような動きを!?」

ピエリ「平伏せなの!」ブンッ ザシュッ

忍「」ゴロゴロゴロ ドサリッ

カミラ「ふふっ、リンカ準備はいいかしら?」

リンカ「ああ、何時でもいいぞ!」

 パッ

忍「よし、まだ階段までは来て――」

リンカ「でやあああっ!」ブンッ

忍「ぐえっ!」ドチャッ

 タタタタッ ダッ
 
忍「その隙、もらっ――」

 バサッ

カミラ「はい、お疲れ様。おやすみなさい」ブンッ ザシュッ

 ドサリッ

ピエリ「階段入口、確保したの!」

リンカ「まだ安全じゃないんだ、気を抜くんじゃないぞ」

ピエリ「リンカも同じなの。それじゃ誰が先に行くの? 絶対この先、敵が待ち構えてるのよ」

アシュラ「決まってる、俺が行くさ」

カミラ「ふふっ、まだ完全にあなたのことを信用したわけじゃないわ。先に上がって階段を塞がれるかもしれないじゃない?」

アシュラ「なら、どうする?」

カミラ「私も一緒に上がるわ。それで問題ないはず、でしょ?」

ピエリ「カミラ様、大丈夫なの? 信用できなかったピエリに言ってほしいの。今すぐにでもおじさんのこと、えいってするのよ」

カミラ「そうね、私と同行できないってアシュラが答えたら、えいしていいわ」

ピエリ「やったの。おじさん、どうするの?」

アシュラ「選択肢なんて一つしかねえようなものじゃねえか。いいぜ、カミラ王女様、一緒に来てくれるか?」

カミラ「ええ、もちろん。リンカ、ピエリ、合図したら上がって来なさい。気をつけながらね」

ピエリ「わかったの」

リンカ「ああ、気をつけるんだぞ」

カミラ「ええ。それじゃ、行きましょう」

アシュラ「ああ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「てやっ!」ザシュッ

ギュンター「でいっ。ふっ、この程度とは情けない」

ニュクス「本当ね。次の階層に上がりましょう。ぐずぐずしてられないわ」

アクア「ええ、下の燃え広がり方からしても、ここも時間の問題よ」

カムイ「はい、私が先行します。ギュンターさん、フォローをおねがいします」

ギュンター「はい、くれぐれもお気をつけて」

 タッ タッ タッ

カムイ「………」

 スッ

カムイ「!」

 ダッ

カムイ(……気配がありますね。正面に一人、二人、ざっと五人ほどでしょうか)

???「……本当に来てしまわれたのですね」

カムイ「……その声は」

???「正直半信半疑ではありました。そんなにうまく偶然が重なることなどありえないと、そう思っていましたので。ですが、本当にこうなってしまうのなんですね」

 ザザザザザッ

忍「……」チャキ

ギュンター「敵は準備ができているようですぞ、カムイ様……」

カムイ「……わかっています。どうやら、話し合いというわけにはいかないようですね、スズカゼさん」

スズカゼ「お久しぶりです、カムイ様。あの国境線での戦い以来ですね」

カムイ「そうですね。今回も私を捕らえるために来たんですか?」

スズカゼ「そうだと嬉しいのですが。そういうわけではありませんよ」チャキッ

カムイ「そうですか……」チャキッ

スズカゼ「いつかした約束の通り、今は敵同士ですので、手加減の必要はありません」

カムイ「はい、そのつもりですよ、スズカゼさん」

スズカゼ「わかりました。……それでは、カムイ様――」

「そのお命、奪わせていただきます」

今日はここまで

 ピエリ、お誕生日おめでとうなの! ピエリリス健全番外するの!

 切り込みを切り返しと書くとんでもないミス。切り込み先生、お許しください。

 今年はこの章が終わるまでになると思います。

◇◇◇◆◆◆











 北の城砦の一部屋に未だ灯が見える。すでに真夜中という時間、日付もとうに過ぎているというのに、その部屋の主は何やら作業に没頭していた。
 被ったカチーフに額に光る赤い装飾、大きくどこか鋭いものも感じる爬虫類のような瞳で手元にある箱を丁寧にラッピングしていく。仕上げは最終段階に入っていた。

「えっと、これをこうして……できました。はぁ、もう真っ暗ですね」

 綺麗に包装を終えた包みを見下ろしながらリリスは安堵の息を漏らす。結びに使ったリボンは今日が誕生日の相手の色と同じものである。

「ふふっ、喜んでもらえたらいいなぁ……。くしゅん、さすがにちょっと寒いですね。もう寝て明日に備えないと」

 最後の灯が静かに消える。明日は友人の誕生日、ここ最近で一番仲が良くなった人の誕生日で、リリスはそれがとても楽しみで仕方がなかったのだった。

「人の誕生日が楽しみになるなんて、今までの私じゃ考えられませんね」

 そんなことを呟いて、リリスは静かに眠る。朝起きたら、まずは何をしようかと頭の隅で考えながら、同時にその子を思い浮かべる。青い二つ結びの髪、そして子供っぽいその子の事。

「ピエリさんの誕生日、とっても楽しみです」

 期待に胸を膨らませ、リリスはスヤスヤと眠り――

◇◇◇◆◆◆










「どうですか?」
「……これはダメですね」

 フローラと主君であるカムイの言葉をぼんやり聞きながら、彼女は気落ちしていた。
 昨日と変わらないリリスの自室の中には、フローラとカムイの他にも二人の姿があった。ジョーカーとフェリシアである。フェリシアが持った水の入ったバケツが静かに置かれる。
 注意を払って置かれたその静かな音でさえ、今のリリスの頭の中を揺らすくらいであった。

「ううっ、カムイ様……私」
「そんな体で動いたらだめですよぉ、リリスさん」
「まったく、昨日まではしゃいでたリリスがいきなり風邪を引くなんてな」
「昨日までいろいろと準備していたから、終わったことで気抜けしたのかもしれないわね」

 三者三様に思ったことを述べる。リリスは風邪を引いた、今朝起きて皆の前に顔を出した時、その真っ赤なトマトのような顔であったこと、そしてどこか覚束ない足取りだったこともあって、子供が見ても分かるくらいに彼女は病人であったのだ。
 そこからは電光石火の如くベッドへと運ばれ、今に至っている。

「ごめんなさい、私、いろいろと皆さんに迷惑を、掛けてしまって」
「気にしないでください。今日のピエリさんの誕生日会ですけど……」
「はい……」

 カムイの口からこぼれた誕生日会という言葉に、リリスの心が萎んでいく。せっかくの準備も一瞬で水泡に帰したことを理解しなくてはいけなくなったからだ。だけど、それは自分だけが背負うものだとリリスは考えている。ジョーカーもフェリシアもフローラも、そしてカムイもピエリの誕生日に向けて何かしら準備をしていたのは知っている。自分の体調管理の至らなさで、みんなの準備を台無しにするのを、リリスは容認できなかった。

「私は、ここで休んでますから、みなさんはピエリさんの誕生日会に行ってきてください」
「何言ってやがる、病人を置いていけるほど……」
「元々、今日はみんな城塞を空けるからと、何人か王城の使用人さんが来てくれる予定でしたから、大丈夫ですよ」
「それはそうだが」
「リリスさん一人だけ残して、私たちだけでピエリさんの誕生日会に行くなんて」

 ジョーカーとフェリシアの言うことはリリスを思ってのことで、その気遣いはとてもうれしいものだった。でも、うれしいからこそ、できれば皆には誕生日会に出席してほしいと思っている。

◇◇◇◆◆◆











「ピエリさん、今日のパーティー楽しみにしてますから、私は大丈夫です。その、後日に改めてピエリさんに誕生日プレゼントを手渡しますから。だから、みなさんは私のことを気にしないで、行ってください」
「リリスさん……」
「カムイ様、ピエリさんにはよろしく伝えておいてください。ふふっ、明日からはいつも通りのお仕事ですから、私、早く治しちゃいます。ゴホッ、ゴホッ。それに皆さんが会場に行っているなら、風邪を移す心配もありません、今日はゆっくり休んでますから」

 リリスは皆に行くようにとの一点張りを続け、最初カムイも残ると告げていたのだが、やがて押し切られる形で、四人は会場に行くことを承諾した。そして、出発を告げる言葉を受けて、扉が閉じられて、リリスは一人になった。

「……」

 誰もいなくなった部屋の中、夜の間に良く見上げる天井が明るい事がこの上なく寂しく感じて、口元まで布団を被る。息が掛かる音と、時折外から聞こえる枯れ木の揺れと、鳥の憂鬱な鳴き声は、部屋の中にある静寂の存在感を押し広げていく。その静寂から視線を逸らすように机に目を向ければ、綺麗にラッピングされた包みが鎮座している。本当ならピエリの屋敷に向けて進んでいたはずであろう包み、一生懸命考えて選んだプレゼントの入った包み。

「……最悪です」

 一番渡すべき日に、それを渡せないことが何とも歯痒く、プレゼントから視線を逸らしたい一心で頭まで布団を被る。真っ暗な世界の中に入ると、妙に落ち着けるのは、何も見えないからでもあった。そこに見慣れた世界があって、誰もいないことを認識するよりかは、暗い世界の方が幾分か気は楽になる。

「………寂しい」

 しかし、口は正直だった。
 その思いをどうにか封じ込めるように、リリスは目を閉じる。熱で混乱する頭はいろいろなことを引きずり出してくる。そして、今日がピエリの誕生日であるからか、思い出すのはピエリの事ばかりだ。

(……私と、ピエリさんが初めて出会ったのは……たしか、ミューズ公国で透魔兵が暴れているのを止めに行った時でしたね……)

 その時、まだ二人は友人ではなかったし、味方でもなかった。ピエリはラズワルドと一緒にカムイを捕らえに来ていた立場で、最初に対峙したとき、ピエリの刃はリリスの命を刈り取るために振るわれていた。二人がマークスから受けていた命令は、カムイを取り戻すことであり、その他の命に関しては何も触れていなかった。ラズワルドはできる限り人命を優先するが、ピエリはその範疇ではなかったから、対峙した際には文字通り殺すつもりで刃を振るっていたのである。

(……ふふっ。みんなにはおかしい話って言われちゃうかもしれません……ね)

 今とは全く異なる昔のことを思い出しながら、リリスの意識は静かに消えていく。そして手繰り寄せるように、初めて出会った時のことを夢に見た。

◇◇◇◆◆◆












「うーっ、痛い、痛いの」

 破壊されつくしたミューズ公国の船着き場、そこから中心へと至る橋の前だった。目に見えない透魔の兵たちは指示を出していたリーダー格が消滅しても、見えない者たちは未だに攻撃を続けている。目に見えない敵の存在を知らないピエリからしてみれば、その気配は察することのできるものではなかった。
 突然の攻撃と負った傷によって、ピエリの混乱は必然的でもあった。馬から落とされ、武器を失い、自身の身を守る方法が何もないということを理解した心は、退化して自衛を行う選択肢を見せるが。それは敵にとって興味を引く行動でしかなかった。
 見えない気配がピエリを再び捉え、手に持った剣を振り下ろそうとするまでにそんな長い時間は必要なく、死という絶対的に逃れられないものを覚悟しながらも、泣き叫ぶのをやめない彼女に、その刃な容赦なく振り下ろされることになった。
 そんな凶刃を受け止め、制したのがリリスであった。
 まだ攻撃手段を持たないリリスにとって、それは命の危険を伴う行為であったが、それを言っていられないほど状況は切羽詰まっていた。
 ピエリがマークスの臣下である、それがここで戦死したとなれば、マークスもカムイを見限る可能性があったこと、そして何よりカムイは皆に暗夜軍にできる限り死者を出さないように取り計らうよう伝えていたからでもあった。
 リリスにとって、すべてはカムイのために行われたことであり、ピエリが助けられたのはほんの些細な偶然であった。その目の前で起きたことを見つめながらも、ピエリは泣き叫ぶことを止めなかった。それは、この時のリリスはピエリにとっては敵であったのだから。

「ふぇええん、痛い、痛いの。うえええええん」

 返り血でいつもきれいになっているピエリにとって自分の血で汚れていくのというのは、あまりにもイレギュラーなことであった。だからかもしれない、攻撃する敵がいなくなっても彼女は泣き止まなかった。

「うえええん、びええええええええん」

 泣き叫ぶ子供、大きな子供、頼れるものがいない現実というものはピエリにとって辛いものだった。このまま、無残に死んでいくのだと、否応にも認めなくてはいけないと思っていた矢先だ。

「大丈夫ですよ。すぐ、治療しますから」

 少し前まで殺そうと思って槍を向けていた相手からそう言われたのだ。優しい手つきで傷口の具合を確認し、杖を振るう。
 集中して作業をしていることもあり、なおかつ先の戦闘で疲れているというのに、リリスはピエリの治療に専念していた。
 それでも、ピエリの不安は払拭しきれないもので、再びその顔には不安の色が滲み始める。

◇◇◇◆◆◆













「ふぇ、ふぇえええん」
「大丈夫、大丈夫ですから……。泣かないでください、ね?」

 子供をあやすようにリリスの手は優しくピエリの頭を撫でる。お気に入りのリボンも含めて、優しく触れた手がピエリの不安を見事に和らげているようだった。

「ひっ、ううっ、ぴ、ピエリ、痛いの嫌いなの」
「大丈夫です。もうそろそろ傷口が塞がりますから、安心してください」

 何度も入念に術を掛けて、治療を終える頃にはピエリの嗚咽は無くなって、むしろ敵である自分にここまで尽くしてくれるリリスに不思議な視線を向けていた。リリスから感じる壁の無い感じが、妙にしっくりとくる。だから、自然と言葉を紡いでしまう。

「ねぇ、なんで、ピエリを助けたの。ピエリ、あなたのこといっぱい攻撃したのよ?」
「カムイ様がそう望まれたからです、それ以外に理由なんてありませんよ。もしも言われなかったら放っておいたと思いますから」

 この頃のリリスからすればピエリもどうでもいい人間の一人と言えた。カムイからの命令、そして生存を最優先しているリリスにとっては、ピエリは命令の中で救わなければならない命であって、そこに個人的に思うことなどなかったのだから。そんな融通の利かない発言だったからなのか、それともピエリと同じように遠慮の要らないその言い方が良かったのか。

「……ピエリ」
「?」
「ピエリはピエリっていうの、あなたはなんていう名前なの、教えてほしいのよ」

 自然と名前を求めていた。考えたわけでもなく、かといって知りたいと思ったわけでもなく、ただ自然とそう言葉が綴られて、それにリリスは訝しい顔をしながら答えて名前を返す。
 リリスという名前、カムイに仕える臣下の名前、ただそれだけの意味だけしかないはずの名前だった。生きながらえた命をカムイのためだけに費やすことを選んだ人生の中で、それ以上の意味が含まれることなどあり得ない、そう思っていたのだから。

「ピエリ、リリスの事気に入ったの。今度会った時も殺さないであげるの!」
「なんですかそれ。私は殺す価値がないって、そういう意味ですか?」
「気に入ったからなの。だからリリスは特別に殺さないのよ」

 無邪気にそう告げるピエリの姿に、当初リリスは混乱していた。混乱して、でもどこかその言葉に心地よさに似たものを覚えていた。特別という言葉は、なんだかとても新鮮なもので、リリスはこういう時にどういう顔をすればいいのかよく理解できていなかった。笑えばいいのか、困った顔をすればいいのか、どういう顔をすればこの問い掛けの答えになるのかが、全くわからずじまい。しまいには色々と顔を作って、それを見ていたピエリに笑われる始末だった。

◇◇◇◆◆◆











「ふふ、リリス、なんだか変な顔してるの。笑ったり渋い顔したり、見てて面白いのー」
「……その、特別ってどういう意味なのか、分からなくて……」
「特別、リリスには難しかったの?」

 ピエリの問い掛けの答えはYESだった。仕事と考えれば人々との繋がりに理由を付けられるリリスであったが、こうやって今現在の接点が命令の延長線上であるピエリとの関係性、これを説明できる言葉が見当たらないのだ。

「はい、私には難しいです。だって、ピエリさんとは今初めて会ったばかりですし、それに味方じゃありませんから」
「そうなの? なら簡単に言うの、ピエリ、リリスと友達になりたいのよ」

 リリスの胸の中に一瞬だけ、暖かい何かが生まれたのは多分この時だった。

「友達……ですか? もしかして、傷を治してもらったからとか――」
「ちがうの。ピエリはリリスの考え方とかとっても気に入ったのよ。だから友達なの」
「まだ出会って一日も経ってないのに」
「ピエリが気に入ったからいいの。リリス、ピエリと友達になりたくないの? そんなのひどいの、ふぇっ、ふぇえええ……」
「いえ、そういうわけじゃなくてですね。……私、よくわからないんです」
「なら、教えてあげるの!」
「わわっ、手をいきなり取らないで……」

 一方的に言葉をピエリは繋げて、無理やり手を引っ張る。
 リリスの体は振り回されるままに、ぶらぶらと揺れるが、その視線は目の前で歯を見せて笑うピエリばかりを捉えて離さなかった。

「一緒にお料理作ったり、好きなことを教えあったり、一緒にお出かけしたりするの。ピエリとリリスで今度お出掛けするの」
「無理ですよ。私たち、敵同士じゃないですか」
「あっ、そうだったの……。リリスだけピエリと一緒に来るの。それなら、今度お出掛けできるの」
「それはできません。カムイ様に付き添うのが私の役目ですから」
「うー、融通利かないの」

 リリスの言葉に唇を尖らせる姿は、どちらかというと思う通りにいかないことに悪態を吐く子供のようだけど、その握りしめられた手から感じる温もりは確かなものだった。
今まで感じたことのない暖かいもの、カムイに握りしめられたものとは違う、形は違うけど大切なものだと思える、そういうものだった。だからかもしれない、握られた手をさらに握り返すように、リリスの手に力が籠る。

「でも、その、もしも、敵同士じゃなくなったら、連れて行ってくれますか?」

 それはリリスにとって初めて口にした言葉だった。
 もしも心に感じる物がなかったのなら、ここで握られた手はすぐに解かれ、こんな約束もなかったことだろう。
 そんなやんわりとした絆の思い出が次第に眩んでくる。

「ふふっ、リリス。少し恥ずかしそうなの」
「そ、そんなことないです」
『リリス……顔赤いの』

 顔に触れる冷たくもひんやりした感触が、彼女の意識から懐かしい光景を静かに消し去って――

◇◇◇◆◆◆













 ぼんやりとした視界が緩やかに回復し始めた頃には、見慣れた天井が広がる。
 寝る前に掛けたはずの布団は定位置に戻っていて、熱さを含んだ頬にひんやりとしたものが触れていた。誰かが直してくれたのだろうかと周囲を見回すと、相手はそれに気づいたようだった。

「……だ、誰ですか……」

 思った以上に水を取っていなかった喉から漏れる声に、頬に触れていた手が止まる。
 徐々に覚醒し始めたリリスの視界には二つに結んだ髪と、灰色に白のストライプのリボンに、どこか無邪気さの混じった見慣れた顔が見えるようになる。ピエリがそこにいた。

「リリス、すごい声してるの。お水飲まないと、干からびて死んじゃうのよ」

 手渡されたコップ一杯の水、眠り続けていたことで体中に感じる汗の感触に軽い嫌悪を抱きつつ、それを飲み干すと。段々意識がまともになってくる。

「はぁ、はぁ。あれ、なんで、ピエリさんがここにいるんですか?」
「ひ、ひどいの。ピエリ、リリスが風邪引いたって聞いたからお見舞いに来たのよ」

 ピエリの手には小さなバスケットが握られていて、顔を覗かせるのは果物や瓶などであり、お見舞いの品一式と言って問題なかった。

「あ、ありがとう。えっと……」
「今渡したら、リリス落っことしちゃいそうなの。だから、机に置いておくの」
「うん、ありがとう。それと、ごめんね」
「ん、なんでリリスが謝るの? ピエリ何も悪いことされてないの」
「だって、今日は……」

 繋げようとしたところで、リリスは思い出したように机に目を向ける。
 そこにはラッピングを終えた包みが今も静かに置いてあって、それをピエリが静かに眺めている。バスケットが静かに置かれると、ピエリはその包みを静かに指差してリリスに問いかける。
 この包みはなんなのかという少し意地悪な質問だ。ピエリ自身それが何か分かっているからか、悪戯めいた顔でリリスを眺めてくる。

「ううっ、わかってるのに聞かないでください」
「何のことかわからないの。だからピエリに教えてほしいのよ」

 綺麗にラッピングされていて、渡す相手を意識してリボンもお気に入りの色にしたのだから。でも、それを言ったら、今日風邪を引いた理由をピエリの所為にするみたいで、リリスはとても言える気がしなかった。つまり、どうすればいいのかわからなかった。
 短い沈黙があった。ピエリもリリスも何も言えないままだった。
苦し紛れにリリスが視線を窓に向けると、すでに赤い光が差し込んでいて、ずっと眠り続けていたんだなと、今考えるべきことではないことを考えてしまう。

「リリス、ピエリに遠慮しないでいいの」
「私、遠慮なんて……」
「大丈夫なの。だからこの包みの事、ピエリに教えてほしいの」

 だから、そうやって差し出された船は、リリスにとってありがたいものだった。
 だけど、未だに思うこともあってか、その声は小さくか細いものだ。

◇◇◇◆◆◆













「……エリ…んへの…………トです……」

 目線を逸らして、口籠った声で伝える。
 大きな声で云えないのは、やっぱり風邪を引いた理由に関連付けされてしまうことがいやだったからだ。ピエリの誕生日に嫌な思いをさせたくないというのがリリスの思うところだった。
 でも、それはピエリにとって不満だった。だから、静かにリリスの横に歩み寄って屈む。ベッドに横たわる視線の高さ、二人の位置が平行になった。

「リリス、聞こえなかったの」
「ううっ、もっと小さい声でいいなら」

 さらに小さな声でならと、リリスは言う。この距離からでも聞こえないかもしれないという声かもしれないが、ピエリには関係なかった。ずいっと頭をリリスの顔の真上に持ってくる。その顔はとても楽しそうで、いろいろと考えていることに意味がないと思えるほどだった。

「そう、なら、囁いてくれればいいの」
「ピエリさん……」
「ふふっ、初めて会った時からずっとリリスわからないことがあると、いろいろな顔するの。でも今はそういう顔してほしくないのよ。だから、気にしないで教えてほしいの」

 見つめてくれるピエリの目は何処までも純粋にまっすぐだった。リリスの頭をよぎる心配事は杞憂だと静かに告げてくれる。だから、リリスもそのピエリの気遣いに身を任せることにした。

「リリス、この包みは何なの?」
「え、えっと。ピエリさんへの……誕生日プレゼント……です」

 もう誤魔化せない距離で告げた言葉。綺麗な包み、一生懸命準備したもの、そういう意味もすべて込めて、それが何なのかをピエリに告げた。

「……ごめんなさい。今日は……ピエリさんの誕生日なのに、心配かけてしまって……」
「ううん、体の具合が悪くなる時は悪くなっちゃうの。だから気にしないのよ」

 そう言って、ピエリは静かにそのラッピングされた箱を手に持ってリリスに手渡した。手に感じる重さ、でもその直後に暖かい温もりが手の中に広がるのがわかる。

「ピエリさん?」
「リリスの手、冷たいの。ピエリが温めてあげるのよ」

◇◇◇◆◆◆














 ベッドに腰を下ろして、ピエリの手がリリスの手を包み込む。窓から差し込む赤い光が、だんだんと弱くなっているのがわかった。

「……リリス。ごめんなの」
「なんで謝るんですか?」
「ピエリ、今は時間があるからここに来てるだけなの。もう少ししたら戻らないといけないのよ」

 ピエリはこれでも名門貴族である、夜から本格的に行われるパーティーを考えると、今ここに来ていることもかなりの無茶だとリリスは理解していた。夕刻の終わりは二人の静かな誕生日会の終わりを告げる者、時間を切り張りできるのなら、少しだけ巻き戻せればいいのにとリリスは心でごねるけど、もとはと言えば自身の体調管理の至らなさであるのだから、文句を言うのはお門違いだった。

「それじゃ……、早く戻らないといけませんね」

 絞り出すように現実を告げる。出会って初めての誕生日は、こんな形で終わってしまうのが、すごく悔しく感じた。

「リリス、すごく悲しそうな顔してるの」
「だって……本当はもっとお話ししたかったんですよ。プレゼントも、もっと違う雰囲気で渡したかったんですから……。最悪です」
「ピエリは最悪じゃないの。だって、こんなにリリスがピエリのこと思ってくれてるってわかったから」

 冷たい手が額に触れて、髪と一緒にリリスを撫でる。

「リリス、イイ子イイ子なの」
「私、全然いい子じゃありませんよ。誕生日の日に風邪引いちゃうような、そんな子なんですから」
「ううん、ピエリとってもうれしいの。夜まで作業してたってカムイ様から聞いたの。無理しすぎなの、どうして無理したのよ」
「その、ピエリさんは初めて、初めて出来た友達だから……」

 言葉に詰まる。胸がドキドキし出すともう止まらない。言葉をつなげようにも、どうすればいいかわからなくて、頭の中が真っ白い靄でいっぱいになっていく。

「そ、その……私が風邪を引いたのはピエリさんの所為だって思われたら、どうしようって。本当なら、こんなこと考えなくてもよかったはずなのに。ごめんなさい」
「ふふっ、嫌われちゃうかもってリリスが思ってくれて、ピエリとっても嬉しいの。だけど、体壊しちゃダメなの、次の誕生日は風邪引いちゃダメなのよ」
「ピエリさん……」

 握られた手の暖かさなのか、それともピエリの言葉が力になったのか。もしかしたら両方かもしれない。リリスの頭で沸々とできていた靄が、その姿を静かに消していく。代わりにあるのは暖かいものだ、初めてピエリに手を握ってもらえた時に感じた、確かな温かみ、それが心の中でふわふわと浮かび上がっていく。

「だから、ピエリ、リリスから受け取りたいの。リリスが準備してくれたプレゼント、受け取りたいのよ」
 先ほど手渡されたラッピングされた箱にリリスの視線が落ちた。
 今の間だけは頭の中はとてもすっきりしている、やることも分かっていた。ここを逃したら今日はもう動けない気がしていたこともあって、リリスの手はそれを両手に携える。

「ぴ、ピエリさん」

 一度間を置く。心臓が静かに鼓動を速めていく、恥ずかしさと嬉しさが混じった心境に、一滴だけ加える勇気はどちらにも力を与えてくれる。言葉と行動で紡いでいく。
 静かに差し出す。ラッピングがされたその箱、一生懸命選んで準備した中身、リリスにとって初めて友達に送るプレゼント。それは確かにリリスからピエリへと手渡された。

「お誕生日おめでとうございます」
「リリス、ありがとうなの、ピエリとっても嬉しいの!」








 ピエリリス誕生日番外 おわり

 今日は番外だけで 
 本篇は明後日で。

 改めて、ピエリ誕生日おめでとう

~~~~~~~~~~~~~~~~~

アシュラ「……攻撃は来ないみてえだな」

カミラ「そうみたいね……襲撃されるとばかり思っていたけど。もしかして人手不足かしら?」

アシュラ「はっ、ならいいが、そういうわけでもないみてえだぜ」

カミラ「……!」

 スタッ

アジロギ「やはり、俺を追ってきたのはお前のほうだったようだな」 

アシュラ「……攻撃せずに待ってくれるのかい。なんだ、気が変わったのか?」

アジロギ「そうだな、気が変わったといえば確かにその通りだ。お前に一つ聞きたいことがある」

アシュラ「……俺は聞かせることなんて何もねえよ」

アジロギ「先ほどお前は言っていた、俺たちのすることに興味はないと」

アシュラ「……」

アジロギ「だが、恨みを晴らす理由はあるらしい。お前は何のために俺達の邪魔をする」

アシュラ「……それか、そうだな、おしえてやっても――」

カミラ「残念だけど、それに答える時間をあげるつもりはないわ。早くあなた達を殺して合流しないといけないから。カムイが待っているの、遅れるわけにはいかないわ」

アジロギ「ふっ、最上階に上がったとしても生き残れるわけもないというのにな。いや、お前だけなら脱出できるだろうが」

カミラ「そういう煽りに乗るつもりはないわよ」

アジロギ「……ならば、その願いを踏みにじるのが、俺の最後の戦いとなりそうだ」

チャキッ

アシュラ「……ようやくその気になったか?」

アジロギ「ふっ、元からそのつもりだ」

忍たち「……」

タタタタタッ

リンカ「カミラ、大丈夫か!」

ピエリ「カミラ様、今追いついたの! いっぱい敵がいるのよ」

アジロギ「奴らの後続が来る前に蹴りをつける。だが、あの男は俺の獲物だ、皆の者、邪魔はするなよ」

アシュラ「……へっ、指名されちまったな」

カミラ「あいつはあなたに任せてあげるわ」

アシュラ「いいのか」チャキッ

カミラ「ええ、わざわざ指名してくれてるのだから、ちゃんと相手してあげるのも礼儀よ?」

アシュラ「……こんな戦いの場で礼儀も何もないけどな、任せとけ」

カミラ「ええ、期待してるわ。ピエリ、そういうわけだから」

ピエリ「よく分からないけど、周りの奴だけやっちゃっていいの? いっぱいえいして問題ないってことでいいの?」

カミラ「ええ、完膚なきまでにやっちゃいましょう。遠慮なんていらないわ、もちろんリンカもね」

リンカ「わかった、ピエリとあたしが先行するから、カミラは縫うように孤立したのを倒してくれ。」

カミラ「ええ、わかってるわ。それじゃ、まとめて殺しちゃいましょう?」

アシュラ「ああ、それじゃ御手並み、拝見させてもらうぜ」

アジロギ「……望むところだ。……アジロギ、参る!」

 ダッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

忍たち「一人残らず殺してしまえ!」タタタッ

ニュクス「煩わしいわね……。といっても、あなた達に魔法はあまり効果が薄いみたいだから、どうするべきかしら」

ギュンター「では、足止め程度に攻撃を加えていただければ、あとはどうにかいたしましょう」

ニュクス「そう、ならそうさせてもらうことにするわ」

ギュンター「おや、どうにかできる、そう言われると思っていましたが」

ニュクス「状況が状況よ、背伸びするつもりはないわ。それに、ここまで乗せてもらった恩が返せていないのは癪だから」

ギュンター「……では、よろしく頼みましたぞ」

忍「なにごちゃごちゃいってやがる!」

ニュクス「悪かったわね。気づいてあげなくて」シュオオン ボワッ

忍「ふっ、この程度で、殺せると――」

ギュンター「ニュクス様の攻撃では、ですな?」

 ズシャ

ギュンター「しかし、私の攻撃では話が違うということですな」

忍「かはっ……」

 ドサッ

ニュクス「さぁ、次は誰の番? 怖気づいたならさっさと帰りなさい、子供は帰って寝る時間よ」

 ザッ ザッ

忍「ならば複数で掛るまでだ。調子に乗るなよ、餓鬼が!」

ニュクス「はぁ、ギュンター私の近くに来て頂戴」

ギュンター「ふむ、何をする気で」

ニュクス「こうするのよ」パッ ドンッ

 ボワワワッ

忍「!? 炎の壁だと」

ギュンター「そこですな」ポイッ ズシャ

忍「ぐへぇ」ドサッ

忍「ならば抜けるまでだ! うおおおおおっ」

 バッ

忍「抜け……ぐっ……体が重い!?」

ニュクス「呪縛補助の範囲に入り込むなんてね。さよなら」ボウッ

忍「ぐぎゃ、ぐぎゃあああああああ」プスプスプス

ニュクス「流石に至近距離なら――」

 バッ

忍「よし、この距離なら! 死ねえええ」

ニュクス「っ!」

 ザザッ キィン

ギュンター「ニュクス様、油断は禁物ですぞ」

ニュクス「ええ、そうみたいね」

 シュタ

忍「この老いぼれがあああ!!!!」ブンッ

ギュンター「ふっ、甘く見てもらっては困る!」

 スッ

ギュンター「はぁっ!」

 ズシャッ ブンッ ゴロゴロゴロ

忍「」

ギュンター「あまり過信されぬように」

ニュクス「ギュンター、ありがとう」

ギュンター「礼はこの窮地を抜けてからにいたしましょう。まだ、戦いは終わっていませんのでな」

ニュクス「はぁ、少しは私の心も汲んでくれないかしら?」

ギュンター「はっはっは、たしかにそうですな。お気になさらず」

ニュクス「ふふっ、わかったわ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^


 キィン

カムイ「はぁっ!」ブンッ

 サッ

スズカゼ「はっ! せや!」ブンッ

カムイ「くっ!」

アクア「カムイに手は出させないわ!」キィン

スズカゼ「……アクア様、お久しぶりです。強くなられましたね」

アクア「ええ、スズカゼ、答えてくれる? この襲撃、本当に白夜が行ったというの?」

スズカゼ「アクア様の質問に答えるつもりはございません」

アクア「なら、力づくでも答えてもらうわ!」ブンッ

 サッ

カムイ「逃がしませんよ、スズカゼさん! でやあああっ!」

 ザシュッ
 
スズカゼ「くっ……やりますね、カムイ様」

カムイ「ええ、皆さんがちゃんと動いてくれますから。スズカゼさんには誰も寄り添っていないように感じますが?」

スズカゼ「……ふっ、気配を読まれている以上誤魔化しようもありません。どうやら、私の方が劣勢のようですから」

アクア「なら、どうして戦い続けるの。もう、勝敗は決しているといってもいいわ。ここで死ぬことに意味なんてない」

スズカゼ「多くの住民が殺されるところを黙って見ていた私に、生き残る価値などありませんよ」

アクア「スズカゼ……」

カムイ「見ていることしかできなかった、ということですか?」

スズカゼ「ええ、このノートルディアで行われた蛮行を見ていることしかできなかった、そんな男です。そんな人間が生きていることなど許されるわけがありません」

カムイ「そうですか」

スズカゼ「それに、カムイ様たちが助かる見込みも薄いでしょう。いずれ、この塔は炎に包まれます。ここに入った者たちを生かして帰さないことも、目的の一つなのですから」

アクア「それを、ここにいる者たちは知っているの?」

スズカゼ「存じ上げていません。ですが、薄々気がついてはいるのでしょう、生きて帰れるはずはないということ、表向きな任務の遂行が、生存に繋がると信じているのですから」

カムイ「……やはり、襲撃部隊の命などどうでもよいということですね。この作戦立案者のことをレオンさんが聞いたら、渋い顔をするでしょうね。部隊の生存を考えない指揮官は無能だとさえ、零すでしょうから」

スズカゼ「あなたに救われた命、このお返しは苦しみのない死という形でお返しいたしましょう。炎に身を窶し死んで行くこともないでしょうから」

カムイ「優しいですね、スズカゼさんは」

アクア「優しさなら、もっと違う形でもいいと思うわ」

スズカゼ「すみません、私はこれでも不器用ですから、今できる最大限の優しさはこれくらいです」

カムイ「ふふっ、そうですか。……でも、そうなるつもりはありませんよ」

スズカゼ「それは、私の刃で死ぬつもりはない、そういうことでしょうか?」

カムイ「ええ、私はここで死ぬつもりなんてありません」

スズカゼ「すでに逃げ道の無い、この塔から出ることができない。それを理解しているのにですか?」

カムイ「スズカゼさんの考えを理解するつもりはありません。残念ですけど、私はわがままなので、自分の考えを貫かせてもらいます。もう、流される結果の最適を選ぶつもりはないんですよ。自分の得たい結果を引き寄せることに決めたんですから」

スズカゼ「カムイ様……」

カムイ「ですから、あなたに殺されるつもりはありませんし、この塔と共に燃え死ぬつもりもありません。まだ、この先を私は歩み続けます。ですから、あなたの優しさを受け取るつもりはありません」

スズカゼ「ふっ……やはりカムイ様は強い御方ですね。そのあり方をとても羨ましく思います」

カムイ「……なら逆に聞きますが、スズカゼさんは流されるままにここへとやってきたんですか?」

スズカゼ「……」

カムイ「ノートルディアでの一件を黙って見ていたことも、私の命を奪うのも、すべて流された故にですか?」

スズカゼ「それは違います、カムイ様」

アクア「……」

スズカゼ「ここにいることは私が選んだこと、後悔はありません、ここであなたに命を奪われることになっても、それはしかるべき結果ですから」

カムイ「スズカゼさん……」

スズカゼ「カムイ様、私はあなたを殺します。この優しさを押し付けさせていただきます。ですが、それをカムイ様が拒むのでしたら、私を殺してください」

カムイ「………」

スズカゼ「……」

カムイ「いいでしょう、スズカゼさん」

アクア「カムイ……」

スズカゼ「カムイ様……ありがとうございます」

カムイ「武器を構えてください。私はあなたをここで殺します」

「白夜に仕える一人の人間、スズカゼとしてのあなたを……」

今日はここまでで

 幻影序盤プレイして、FE要素の立場は第三次αのテムジンさん的な立場だなって思った。

 リリス園っぽいの作った。

 次回で、この章が終わると思います。


 新しくやる番外を決めたいと思います。参加していただけると幸いです。
◇◆◇◆◇

1、透魔ifガロンシェンメイ戦
2、透魔ifスメラギミコト戦
3、ド変態ピエリリス(R18)
4、透魔ifギュンター戦

 先に四回名前があがったものにしたいと思いますので、よろしくおねがいします

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 スタッ

アジロギ「……やはり、ただ俺たちを知っているというわけではなさそうだな。こちらの技を知っているように見える」

アシュラ「それにしちゃ余裕だな。その態度」

 キィン

アジロギ「ふっ、これでもいっぱいいっぱいなんだがな。お前にはすべてが筒抜けのようなのでな」

アシュラ「ああ、てめえらの十八番は、それなりに理解してるからよ」

アジロギ「そうか……。それを見抜くことが出来ないからこそ、俺がこの任務に選ばれたのだろうな」

アシュラ「ちがうな。てめえは選ばれたんじゃねえ」

 スタッ

アシュラ「捨てられただけだ」

アジロギ「……ふっ、違いない。こうして、何一つ任務の本題を果たせることもなく、死んでいく無能の使い道など、釣り餌ぐらいなものだ。唯一できることと言えば、カムイ王女をここにおびき寄せ、焼死させられる可能性を与えることくらいだ」

アシュラ「……恨んでるんじゃねえのか、てめえの雇い主……いや、公王のことをよ」

アジロギ「恨みか、そんなものはない。この任務の先にあるのが公王、祖国の力となれるならば、恨むことない。そのことについてはな」

アシュラ「なら、何に対してならあるっていうんだ?」

アジロギ「俺自身の力量の無さ以外に、恨むことなどありはしない」

アシュラ「……それが答えってことか?」

アジロギ「祖国のために義を尽くすが、俺たち兵の役目、そこに階級の差などありはしない。公王が望まれる発展を得るために、命を捧げることはこの身には有り余る大儀だ」

アシュラ「同情するぜ、どうやら部下にはそんな志は無さそうだからよ。それに、この部屋の生き残りはてめえだけになっちまったみたいだしな」

アジロギ「ふっ、そのようだな。烏合の衆とでは、はなから勝敗など見えていたも同然のことだろう。だからこそ、こういう計画なのだからな」

アシュラ「それで、どうするんだ」

アジロギ「決まっている、命尽きるまでお前たちを一人でも多く殺す。それが公王が俺に与えた命令であり、捧げられる唯一の忠誠なのだからな」

アシュラ「そうかい……。なら、その忠誠、俺が砕き散らしてやるさ」

アジロギ「やれるものなら、な!」

 ブンッ

アジロギ「せやあああああっ!!!!!」

アシュラ「くらいな!」パシュッ

アジロギ「ぐっ、まだ、まだ死ぬことなど、できぬ。お前らの一人も殺さずして!」

アシュラ「殺されるつもりなんてねえ。だが、てめえみたいな奴はもっと違う国に仕えるべきだったかもしれねえな。無抵抗の住民を殺した挙句に、ここで死ぬのが最後の大義なんてのは、同情するぜ」

アジロギ「俺にとっての祖国は一つだけだ。それ以外は偽りだ」

アシュラ「……そうだな。だから、俺の故郷を……祖国を潰したてめえらを、許すわけにはいかねえんだよ」

アジロギ「……ふっ、そういうことか。まさか、亡国の亡霊とこの地で会うことになるとはな」

アシュラ「そういうことだ。感づかれることは言いたくなかったけどよ」

アジロギ「なら、この結果も納得が良く。だが、それを認めて負けなど認めるのは、癪なのでな!」

 ザッ

アシュラ「来いよ、撃ち落としてやる」

アジロギ「そうして見せろ! てやああああっ」ヒュン ヒュヒュン ヒュン

 サッ

アシュラ「……逃げられると思うなよ!」

 ダッ

 パシュッ

 ドスッ

アジロギ「ぐっ、ぐおおっ、ぐっ」ポタッ ポタタッ 

アシュラ「………終わりだな」

アジロギ「そのようだ。ふっ、要人を一人も殺すこともできずに死んで行くとはな」

アシュラ「……」

アジロギ「どうした、笑わないのか? 任務を果たせない、使えぬ男が目の前にいるのだぞ?」

アシュラ「明日は我が身だからな、俺もそうなる日が来るかもわからねえ」

アジロギ「そうか……」

アシュラ「それに言っただろ、お前のやろうとしたことに興味なんてねえ。だから、笑うつもりはねえよ」

アジロギ「く、くはははっ。ならば、せいぜい頑張ることだ、コウ……ガの民……よ」ドサリッ

アシュラ「……言われなくてもそうさせてもらうさ」カチャリ

アジロギ「」

カミラ「終わったみたいね。アシュラ」

ピエリ「すごいの、あの手裏剣の雨、どうやって避けたのよ。ピエリに教えてほしいの」

アシュラ「コツなんてねえよ。それよりそっちは」

ピエリ「いっぱいミンチにしてあげたの。すごく返り血浴びて、ピエリ綺麗になったの」ベトベト

リンカ「ピエリ、かなりの量を浴びてるぞ。一応これで体を拭いておくんだ」

ピエリ「ありがとなの。リンカもなんだかんだで優してくれるから、ピエリうれしいのよ」

カミラ「本当ね。リンカもピエリと仲良くしててうれしいわ」

リンカ「ばっ、これは一緒に戦ったからなだけでお、他意はない。本当だぞ」

アシュラ「お楽しみのところ悪いが、話してる暇はねえみたいだ。もう炎が迫ってきてるみたいだからよ。後続がつっかえないように上り切るとしようぜ」

カミラ「ええ、そうね。それじゃ、みんな早く上がりましょう」

アシュラ「ああ。……」

アジロギ「」

アシュラ「あばよ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

スズカゼ「……これで!」

 キィン

カムイ「そうはいきませんよ、スズカゼさん。今度はこちらからです。せやあああっ」 

スズカゼ「まだ、ぐっ……」

 スタッ

スズカゼ(……先ほどの攻撃の傷が広がり出しているようですね……)

アクア「スズカゼ、もう終わりにしましょう。傷が開いているのでしょう?」

スズカゼ「そうですね。結構、大きくなってきたと思います」

アクア「なら……」

カムイ「アクアさん、余計な真似はやめてください」

アクア「カムイ!? あなた、本気なの」

スズカゼ「……やはりカムイ様ですね。もう迷いは消し去っているということですか」

カムイ「はい、それがスズカゼさん、あなたの望みなんですから」

スズカゼ「ええ、その通りです。ふっ、本来あなたに殺されることを願うことも許されない命でしたから、カムイ様の決断は私にとってうれしいものですよ」

カムイ「それはありがとうございます……では行きますよ。スズカゼさん」シュオオオン

スズカゼ「……カムイ様、お手数をおかけします。ですが、負けるつもりはありませんよ」

カムイ・竜『……ええ、それでいいんです。では、行かせてもらいます』

 バッ ブンッ

 サッ
 
スズカゼ「まだまだです。今度はこちらの番ですよ」

 サッ

スズカゼ(いくら早いと言っても、あの巨体では旋回に時間が掛るでしょう、その隙をつけば。背骨に深く切り込めば、いくら竜であろうとも致命傷は避けられないはず)

カムイ・竜『くっ、早いですね』

スズカゼ「ええ、これが私の持ち味ですので」

 シュンッ

カムイ「……」

カムイ・竜『さすがに、眼で追えそうにありませんね』

カムイ(流石に真正面から捕まえるのは厳しですか。となると、これくらいしか方法が思いつきません、一か八かですが)

スズカゼ(どうやら、私を見失っているようですね。ならば、今がその機会、逃がすわけにはいきません!)

 フッ

スズカゼ「そこです!」

アクア「カムイ、後ろよ!」

スズカゼ「この距離なら流石に避け切れないでしょう、これで終わりです、カムイ様!」

カムイ・竜『そうですね。でも、これで、捕まえられそうです』

 シュオオンッ

スズカゼ「人に戻るというんですか……」

カムイ「……さぁ、スズカゼさん、勝負です」

アクア「カムイ、何をして。この状態で生身に戻ったりしたら」

スズカゼ「一思いに!行かせていただきます!」

カムイ「間に合ってください!」ブンッ

 ザシュッ

 ポタ、ポタタタタ

スズカゼ「……あなたという方は、本当に傷つくことを恐れないのですね。痛いことは苦手と言っていたではないですか」

カムイ「……はい、痛いのは苦手ですし、傷つくのは怖いです。でも、こうでもしないとあなたを拘束できませんからね」

 チャキッ

スズカゼ「ぐっ!」

カムイ「……ふふ、私の勝ちです」

スズカゼ「なぜ止めを刺さないのですか?」

カムイ「ふふ、なんででしょうね?」

スズカゼ「嘘付きですね、カムイ様は」

カムイ「いいえ。そうでもありませんよ、スズカゼさん」

スズカゼ「なぜ、そうなるのですか? 私はこうして、殺されずにいるというのに」

カムイ「言ったでしょう、白夜に仕えるスズカゼさんを殺すと。今を持って、あなたは私の物です。暗夜王国王女の所有物になったんですよ」

スズカゼ「こんな私を手に入れても……あなたにとっては重荷でしかありませんよ」

カムイ「そうかもしれませんね。でも、あなたは私が初めて指名した臣下の一人なんですよ。リンカさんとあなたは私にとって初めて自分で指名した部下なんです。それを手放すつもりはありません」

スズカゼ「……カムイ様」

カムイ「だからここであなたは生まれ変わるんです。白夜の忍ではなく、私に仕える一人の臣下として」

スズカゼ「……それは、命令でしょうか」

カムイ「はい、物に自由など許しませんので。拒否権はありませんよ」

スズカゼ「……」

カムイ「……」

スズカゼ「命を救われ、そしてここでもう一度救われることになるとは思っていませんでした。もう、それを自分のために使うことは出来そうにありません」

カムイ「では、よろしいですね」

スズカゼ「はい。この命、カムイ様のために役立たせていただきます。白夜と刃を交えることになっても」

カムイ「ええ、改めてよろしくお願いしますね。スズカゼさん」

スズカゼ「それよりも、カムイ様、腕の傷を……」

カムイ「まだ、回復できる方がいませんから。今は刺さったままでいいです。それよりも、いつまでも私に密着していたいんですか?」

 サッ

スズカゼ「も、もうしわけありません……ぐっ」

カムイ「傷が広がるとやっかいですから、少し待っていてください」

アクア「カムイ!」

 タタタタタタッ

カムイ「あっ、アクアさん。どうにか丸く納まりま――」

アクア「ふんっ!」ボコッ

カムイ「あうっ、な、何をするんですか、アク――」

 ダキッ ギュウゥッ

カムイ「えっ?」

アクア「……ばかよ、あなたは」

カムイ「えっと、アクアさん?」

アクア「やめて頂戴。そんな風に身を犠牲にして、受け止めるなんてこと、心臓が止まるかと思ったわ」

カムイ「……ご、ごめんなさい」

アクア「謝るなら最初からしないで、あなたに何かあったら、どうすればいいのかわからないわ」

カムイ「心配を掛けてしまったみたいですね。でも、スズカゼさんも私も無事ですから……結果良ければ――」

アクア「だまりなさい」

カムイ「はい……」

ギュンター「おや、アクア様を困らせているようですな。カムイ様」

ニュクス「本当、アクアを困らせることに掛けては、カムイは天才ね」

カムイ「ギュンターさん、ニュクスさん。無事で何よりです、それで敵は?」

ギュンター「後続も間に合いましてな。すべて始末を終えたところです。もうこの階層に敵の姿はありません」

ニュクス「それが良い知らせ、悪い知らせは炎が全く衰える気配がないってことかしら」

カムイ「そうですか。アシュラさんや、カミラ姉さんのことも気になります。上にできる限り行きましょう。そういうわけですから、アクアさん一度離れてくれますか?」

アクア「いやよ」

カムイ「……あのですね。私の血で、アクアさんの服も結構汚れちゃいますから」

アクア「いや」

カムイ「……」

ニュクス「ふふ、やっぱりアクアにとっては特別なのね」

ギュンター「そのようですな。とりあえず応急処置を――」

アクア「私がするわ。あと、スズカゼ」

スズカゼ「はい」

アクア「戻ったら、少しお話しましょう? ね?」

スズカゼ「……覚悟しておきます」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アシュラ「遅かったな……? 一人頭数が増えが、大丈夫かよ?」

カムイ「ご心配なく、この方は仲間ですから。それよりも、ここで終わりですか?」

アシュラ「残念だがそうみたいだぜ。それに、ここは人が出られそうな場所が見当たらねえときた。下にはもう戻れそうもねえ」

スズカゼ「はい、私達が先に来た時もここまでしか階層がなかったので。虹の賢者と呼ばれる方を探しましたが、見当たらずでした」

アシュラ「なるほどな。その虹の賢者を殺すことも、目的の一つだったってことか」

カムイ「そうですか。ふふ、スズカゼさんが私を殺すことに固執したのもわかります。これは確かに袋小路ですね」

アシュラ「でも変な話だ。外から見たときにはもう少し建物があったはずなんだが。どっかに秘密の入り口でもあるのか?」

カムイ「それを探せばいいんですか……」

カミラ「それよりも、カムイ。なんでアクアがカムイに抱きついているのかしら?」

アクア「……」

カミラ「ふふっ、また尋問しないといけないわね」

アクア「……」

カミラ「本当に何が……。カムイ、左腕のそれは何?」

カムイ「あっ、これはですね」

アクア「また、無茶したのよ」

カミラ「そう、それはよろしくないわね。アクアの行為も納得ね。これをやったのは誰かしら? もう死んじゃてるかもしれないけど」

スズカゼ「申し訳ありません、私です」

カミラ「そう、戻ったらお仕置きしてあげるから、楽しみにしてなさい。大丈夫よ、すぐに終わるわ」

スズカゼ「……はい、逃げも隠れもいたしませんので」

 ボワワワワッ

アシュラ「ちっ、もうここまで炎が来やがったか」

カムイ「くっ……万事休すですね、どうすれば……」

 シュオオオン……

カミラ「えっ、階段? さっきまでなかったはずなのに」

???「ほっほっほ、早くこちらへ来るのじゃ。焼け死にたくなければのう」

アクア「いきなりすぎて、あやしいけど……」

アシュラ「へっ、地獄に仏ってのはこのことだ。俺は行くぜ、ここで焼け死ぬのを待つよりかは何倍もましだからな」

 ダッ

カミラ「カムイ、行きましょう」

カムイ「はい、ここで待っていても意味はありませんから、信じて進んでみましょう」

 タタタタタタッ

カムイ「ここは……」

???「よく来た、カムイよ」

カムイ「私の名前を知っている? 一体誰ですか? もしかして敵の残党ですか?」チャキ

???「そう構えるでない……」

アクア「……老人のようね」

???「ほっほっほ、確かにその通りじゃな」

カムイ「えっと、あなたは一体」

???「わしか?」

虹の賢者「わしは虹の賢者と呼ばれておる、ただの後先短い老いぼれじゃよ」

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・王都ウィンダム・レオン邸―
 
~同時刻~

 ピチャン

カザハナ「今日は思ったより早かったんだね」

レオン『……』

カザハナ「ははっ、そうだよね。いろいろと疲れてるよね。ごめん」

レオン『……』

カザハナ(はぁ、やっぱり、この前のことが尾を引いてるってことだよね。それに、こんなに早く帰ってきたってことは、やっぱり門前払いされちゃったってことかな)

 ピチャン

カザハナ(あたしたちを連れて、白夜へ向かうって言う話……。確かに口実は出来てるけど、それが許されるわけないよね)

レオン『……カザハナ』

カザハナ「な、なに?」

レオン『間違いは正されるべき、そう思わないかな?』

カザハナ「それはそうかもしれないけど、でも変なことしなくてもいいよ。だって、レオン王子の意見に賛同してくれた人だって――」

レオン『そうだね、何とかするしかないよね。毒は早く取り除かないといけない。間違ってないよ』

カザハナ「え、何を言って……」

 ガチャン

 キィィイ

レオン「……」

カザハナ「!!!!!!」サッ

レオン「……」

カザハナ「れ、レオン王子? な、何入ってきてんの! 変態、スケベ!」

レオン「……を抜かないと」

カザハナ「えっ?」

レオン「毒を抜かないといけないんだ」

カザハナ「毒、毒ってなんのこと?」

レオン「毒だよ。そう、毒さ、猛毒と言ってもいいね」

カザハナ「もう、意味わかんない。こ、こんなことしないって信じてたのに! もういい、サクラ達に言いふらしてやるんだから、結局レオン王子は、女の浴室に入ってくる変態だって!」

カザハナ(もう、一体何なのよ。ああ、レオン王子に裸まで見られて――もうやだ!)

 タタタタタッ

レオン「ふふっ、ねえ、カザハナ――」

カザハナ「なによ!」









「似合ってるよ。だから、足を止めてくれないかな」










カザハナ「な、何言ってん――」

 ピタッ

カザハナ「…えっ……。あれ」

カザハナ(な、なんで立ち止まってんのよ、あたし、早く、早く部屋に戻って、サクラ達に……)ドクン

 ドクン ドクン ドクン ドクン!

カザハナ「はぁはぁ、んぐっ、あああっ」

カザハナ(いきなり、胸が苦しく……。体が動かない、なにが、なにが起きて……)  

レオン「似合ってるよ」

 ドクン! ドクン! ドクン!

カザハナ「あぐあああああっ!!!!!! んぐああああっ!!!!!!」ドタッ

カザハナ(心臓が、心臓が、破裂、しちゃ……いそう……)

レオン「……とっても苦しそうだね、くくっ」ガシッ

 ググッ
 
カザハナ「んぐっ、はぁはぁ、ぐぅああああっ、れ、レオン王子っっ、痛い、痛いからぁ! やだぁ、やだよぉ」

カザハナ(やだ、やだ、こんなの、いやぁ……。なんで、いきなりこんなことされないといけないのよ)

レオン「ふふっ、カザハナ今の恰好、とても似合ってるよ、だからさ――」







「死んでくれないかな。今ここで……さ」







第十四章 おわり

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB→B+
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC+
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドB
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンB
(二人で何かの名前を考えることになってます))
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB+
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナB
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラB+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキC
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテB
(返り討ちにあっています)

 今年はここまでになります。次は年明けて少し経ってからだと思います。

 次の番外は透魔ifギュンター戦になりました。

 とりあえず、覚醒サントラ難民脱却のチャンスなので先行販売コミケがんばってくる。

 それではよいお年を 

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城『議会室』―
(カムイがノートルディアへと出立した日)

マクベス「まさか、レオン王子とあろう方が、未だにそのような案をあげてくるとは思いもよりませんでしたが……」

レオン「多くの兵を消耗しないようにというのが僕の考えだ。兵の消耗を見過ごすのは軍師としてどうかと思うけどね。捕虜と言えども王族は王族、使えるカードは使うべきだって僕は考えてる」

マクベス「よもや捕虜を使って揺さぶる必要などなくなったことくらいわかっておられると思いますが。それに人質として王族が機能するとは思えません。現に白夜は捕虜のことを省みず、暗夜に攻撃を仕掛けてきたこと、忘れたわけではないでしょうな?」

レオン「……」

貴族A「マクベス様の言う通りですよ。いやはや、王子とあろう御方が暗夜王国の力に疑問を抱いているとは思いたくありませんが……」

レオン「できる限り戦力を失わないようにするのは当たり前のことだ。財が湧水のように出てくると勘違いしている人には、理解できないことかもしれないけどね」

貴族A「それは、誰のことを言っているのですかな、王子」

レオン「どうしたあなたが気にされるのか、思い当たる節でも?」

貴族A「王子!」

マクベス「お静かに、ここは議会の場です。レオン王子も調和を乱すような言葉は慎むようお願いします」

レオン「……」

貴族B「私としてはレオン王子の案も悪くないと思います。白夜を降伏させるには人員と時間は多い、少しでもそれを削減できる面はあります」

マクベス「しかし、ガロン王様の望まれているのは征服であり、降伏ではありません。そこを勘違いされては困ります」

貴族B「そうですか、ですが私はレオン王子の考えに賛成という形を取らせていただきます。農村部の方たちは現状、自らの生きる場所の維持で手いっぱいでありますゆえ、兵の召集を行えば、それだけで弱気衰えていくことになりかねません。レオン王子の案では地方農村部の者たちへの出兵は上がっておりません。未だ農村部ではノスフェラトゥの被害も報告に上がっていますので、そのことを考えれば――」

マクベス「あなたの意見、参考にはさせていただきますよ」

レオン「……それで、どうするつもりなんだい?」

マクベス「今日は案を提出するだけの時間ですよ。今すぐに決められるものではありませんよ。提出されている案は多くありますが、皆さん多くに目を通していただきますように、お願いいたします。それでは、今日の議会はこれで終わりです」

レオン「……」

マクベス「レオン王子も自分以外の案に目を通して置く様にお願いいたしますよ」

レオン「言われなくてもわかっている」

マクベス「では」

 ガチャ バタン

貴族B「中々、うまくはいかないものですね。レオン王子」

レオン「……すまない、兄さんから話を聞いて僕の案に賛成してくれたというのに……」

貴族B「いいえ、お気になさらず。先日のカムイ王女様の式典にて、マークス王子と話をさせていただきましたゆえ、私の方がレオン王子に頼っている身ではありますので」

レオン「僕の案がたまたま貴殿の物に合致しただけだ。それにやはり農村部に住む民は白夜侵攻に賛成ではない、そういうことなんだね」

貴族B「いいえ、地方の農村部に住む人々にとって、白夜と暗夜の戦争など関係のないことですよ、レオン王子」

レオン「えっ?」

貴族B「そうですね、レオン王子がよく耳にするのは反乱をおこす懸念のある部族や、地域の方々でしょう?」

レオン「そうだね。暗夜内部で反乱がおきないように取り計らう必要がある」

貴族B「はい、それは間違っていません。ですが、レオン王子、マークス王子が気にされているのはそういった余力をもった方々ではないのです」

レオン「?」

貴族B「アの方が気にされているのは人手が足りず、自己防衛手段も乏しく、限られた大地で生きることに全力を注がなければ暮らしを維持できない、そういった方々のことです」

レオン「……」

貴族B「たしかに援助を頼めば良いというかもしれませんが、地方農村部の土地に住まう人々が、どういう境遇かは理解していると思います」

レオン「敗戦国の生き残り……だよね」

貴族B「はい、彼らは潜在的にガロン王様を恐れています。援助を頼むことで死ぬことさえもあり得ると思っているほどにです。出来る限り、視察の際に援助を行っていますが、そういった集落の数は前年に比べて増え始めています」

レオン「父上だってそのことは知っているはずだよ。後手後手になっているのは、何か理由があるはずだ、そうだろう?」

貴族B「……理由ですか、それがあるのなら良いのですが」

レオン「?」

貴族B「……レオン王子、今から私の発言ですが、貴族ではなく、あくまで私個人の意見として扱っていただけないでしょうか?」

レオン「それは……」

貴族B「……」

レオン「……わかった、約束するよ」

貴族B「ありがとうございます……」

レオン「それで、君の個人としての意見というのはなんだい?」

貴族B「……今のガロン王様は民のことなど見ていない、私はそう思えてならないのです」

レオン「……それは民を人として、と言うことかな?」

貴族B「いいえ、国を動かす人間にとって民を人としてみることあまり良くないことでしょう。悪魔でも国は民を駒として扱う必要があります。ですがガロン王様は駒も見ていないし人も見ていない。そう思えてならないのです」

レオン「どういう意味かな、それは……」

貴族B「私はマークス王子が生まれるよりも少し前から、暗夜王国に身を置いてきました。だからこそ、感じるものがあるのですよ。今のガロン王様には暗夜王国の地図は広がっていないと」

レオン「……」

貴族B「レオン王子、あなたが白夜の王女とその臣下を助けたいという思いさえも、ガロン王様にとっては興味の対象になっていないと思ったほうがいい。今のガロン王様は作戦をマクベス様にすべて一任している。昔のガロン王様ならしないようなことを、今しているのですから」

レオン「……」

貴族B「私はあなたの計画に賛成しています。交渉の可能性、それで白夜との戦いに終わりを作ることができるのであればと。民があっての国であり、駒を的確に運用できてこそ、王たる資質であると私は考えています。残念ながら、私は今のガロン王様の言葉に命を掛けて従えるかどうか、正直決め兼ねているのです」

レオン「その言葉は反逆の兆候と言ってもいいものだ。僕に向かって父への不信感を口にするなんて」」

貴族B「わかっております。ですが、私はガロン王様の武勲ではなく、決意を曲げない国造に心惹かれ同じ旗を仰いできました。でも今や空を見上げてもその旗は靡いていないのです」

レオン「……」

貴族B「ですから、私はマクベス様ではなく、あなたの計画に賛同しています。あなたの考えるもの、そこにわずかですが見える、共存を模索しているその姿にです」

レオン「……」

貴族B「私から言えることはこれだけです。それでは失礼いたします。また、明日にお会いしましょう」

 タッタッタッ

レオン「……」

◆◆◆◆◆◆
―王都ウィンダム・レオン邸―

レオン(父上の前に暗夜王国の地図が広がっていない……そう言っていた。彼は地方農村部の査察を行っている貴族だ。父上の下で働いて来た時間は長く、暗夜王国の繁栄を目で見てきた分、彼の言葉には信憑性がある……)

レオン(いや、だからなんだ。僕は父上の息子だ。父上が育て上げてきた暗夜王国の王子だ、父上を信じないでどうするんだ……)

レオン「……」

レオン(でも、姉さんの式典はタイミングを考えるにおかしかった。確かに、いろいろと内通者の件も考えれば手を出せない位置にはできたけど、部族の者にはあれは力の誇示にしか見えなかったはずだから。民のことを考えれば、あんな式典をやる必要なんてなかったはずなんだ)

レオン「……だめだ。今は、三人を白夜に引き渡せる形を作らなきゃいけないって言うのに……」

 コンコン

レオン「誰だい?」

カザハナ『レオン王子、あたしだけど』

レオン「カザハナ?」

カザハナ『……ちょっと、入ってもいいかな?』

レオン「別に構わないよ」

 ガチャ バタン

レオン「それで、どうかした?」

カザハナ「……」ジーッ

レオン「どうしたんだい、僕をそんなに見てさ。顔に何か付いてるのかい?」

カザハナ「やっぱり、自覚ないんだね」

レオン「?」

カザハナ「レオン王子が本当に悩んでる時って顔色全然違うからさ。ツバキやサクラにもバレバレなんだから」

レオン「……そう。それで、何の用かな?」

カザハナ「今日の会議って……白夜侵攻の話だったんでしょ」

レオン「それは……」

カザハナ「隠さなくてもいいから、そんな気がしてたからさ」

レオン「……ああ、白夜侵攻に関する作戦の立案があった。僕も考えた案を出させてもらったよ」

カザハナ「そう、でも見たところ、うまくいかなかったぽいね」

レオン「はは、その通りだよ」

カザハナ「やっぱり」

レオン「それで……解決できない僕を見物に来たってこと? 暇だよね、カザハナはさ」

カザハナ「そ、そうじゃないから。また一人で悩んでるのかなって思ってさ……」

レオン「……」

カザハナ「言ったよね、力になるって。ツバキもサクラも、レオン王子の力になれるなら協力するって言ってるし、それに今回のことはあたしたちにも関係あることだから」

レオン「本当に僕は君たちに助けられてばかりだ。支えられて、甘えて、日常に新しい色さえも分けてもらった」

カザハナ「レオン王子……」

レオン「だから思うんだよ……僕ほどの無能はこの世にいない……」

カザハナ「無能って、そんなことないよ!」

レオン「カザハナは優しいよ、本当にさ。でも、今はその優しさがとても辛いんだ」

カザハナ「辛いって……」

レオン「僕がほしかったものを、君たちはすぐに渡してくれる。示してくれる……それがとても辛い、辛いんだよ」

カザハナ「れ、レオン王子」

レオン「………」

カザハナ「あ、あの…さ」

レオン「今回は放っておいてくれないか。僕一人で、何とかしてみせるから」

カザハナ「そ、そんなこと言われても!」

レオン「お願いだ、カザハナ。これ以上、僕自身の無力さを……見ないでくれないか」

カザハナ「……そんなこと、レオン王子は――」

レオン「……」

カザハナ「……ごめん。お節介だったよね……。あ、あたしってそういうのわからないから……」

レオン「……」

カザハナ「でも、あたしたちレオン王子のこと信じてるから……それだけは忘れないで」

レオン「……」

カザハナ「…………」

 ガチャ バタン

レオン「……八つ当たりして、まるで子供じゃないか」

カザハナ『でも、あたしたちレオン王子のこと信じてるから……それだけは忘れないで』

レオン「信じてる……か」

レオン(姉さん、僕に誰かを信じる資格なんてあるのかな? 姉さんにさえ、本当のことを告げられない僕が、誰かを信じるなんて虫が良すぎるよ。僕一人の力でどうにかしてからじゃなきゃ、信じることなんて……)

カザハナ『でも、何でもかんでもカムイ様の発言を基準に取るのは間違ってるってあたしは思う』

レオン(……僕は……自分一人で決められるのか。自分が定めた、目標に向かって歩けるのか。僕は……姉さんの示した基準だけをずっと、ずっと……追いかけてきたって言うのに……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ガチャ バタン

カザハナ「あはは、サクラ……今戻ったよ」

サクラ「カザハナさん……大丈夫ですか」

カザハナ「大丈夫、大丈夫だから……。えへへ、えへ……へ……」

ツバキ「カザハナ、レオン王子に何か言われたんだよね」

カザハナ「……」

サクラ「話してもらえませんか……」

カザハナ「……あたしたちの力なんていらないって……、返されちゃった」

サクラ「カザハナさん」

カザハナ「あたしたちが優しくしてくれることが辛いって、言われちゃって……」

サクラ「……」

ツバキ「カザハナ」

カザハナ「ツバキ、サクラ、どうすればよかったのかな。あたしたちは、やっぱりただの捕虜としているべきだったのかな? あたしが最初、レオン王子にお風呂の件とか話に言った所為でこんなことになっちゃったのかな……」

ツバキ「今さら前のことを掘り返すのはよくないよ」

カザハナ「でも……」

サクラ「ツバキさんの言う通りですよ。それに、そのことがあったから、私たちはレオンさんと仲良くなれたんですよ」

カザハナ「でも、レオン王子、力なんていらないって、あたしたちのこと重荷みたいに言ってたから」

ツバキ「はは、多分だけどレオン王子は素直に甘えられないんだよー。特に一番辛い時はね」

カザハナ「何それ、意固地なだけじゃん」

サクラ「……昔から弱さは見せないようにしてたそうです。レオンさんがまだ幼かった頃は、親族間での争いが多かったって聞きましたから。たぶん、私たちの手を今までとっててくれたのは、まだレオンさんの中で他人だったからかもしれません」

カザハナ「どういうこと?」

サクラ「その恥ずかしいことですし、自惚れてるだけかもしれませんけど、私たちはレオンさんにとって大切な人になってるんじゃないかって、そう思うんです」

カザハナ「あたしたちが?」

ツバキ「うんうん、俺もそう思うよ。それにカザハナのことだから、レオン王子に信じてるって言ってあげたんじゃないかなー?」

カザハナ「う、うん」

ツバキ「なら、信じて待とうよ。俺たちの信じるレオン王子のことさ。俺達が先に折れたら、そこで終っちゃうよ。信じて待つのって難しいことだけどさ、でも無駄にはならないはずだよ」

サクラ「ツバキさんの言う通りです。私もレオンさんを信じて待ち続けますから。その、しばらくは話し辛くなっちゃうかもしれないけど……問題が解決したら、きっとレオンさんから声を掛けてくれます」

カザハナ「サクラ、ツバキ……ありがと」

サクラ「えへへ」

カザハナ「でも……それまでのお風呂、とっても気まずい気がするんだけど」

ツバキ「それは、お互い我慢するしかないかなー」

サクラ「そ、そうですね」

カザハナ「……仕方ないか、えへへ。まぁ、我慢してあげないと」

ツバキ「カザハナは機嫌治るの速いねー」

サクラ「ふふっ、機嫌が戻ってよかったです」

カザハナ「うん」

カザハナ(きっと、大丈夫だよね……)

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

マクベス「ミューズ公国へ、ですか?」

ガロン「ああ、ノートルディアの件はカムイに、そして白夜侵攻の作戦立案はマクベス、お前に一任している。わしは口を出すつもりはない」

マクベス「承知しました。護衛にはガンズとゲパルトたちを付けましょう」

ガロン「うむ、明日にはミューズへと向けてわしは出る……。白夜侵攻の件、多くの案が挙がっているようだな」

マクベス「ええ、無限渓谷からの正攻法を支持する動きが多くあります。この作戦は暗夜の武力の高さを見せつけるには効果的でしょうから、表向きはこの作戦を行うこととなるでしょう」

ガロン「ふむ、では、それよりも先んじて行われる先行作戦は少数で出し合っているようだな?」

マクベス「はい、現在カムイ様が解放に向かっているノートルディアを含んだ南東海域を使っての先行部隊の作戦です。問題は今二つに枝分かれしているということでもありますか」

ガロン「ほう?」

マクベス「レオン王子は未だに王族捕虜を使用した作戦を立案されておられます。これに多くの地方を管轄する貴族の者たちが賛同している形と言えるでしょう。王都駐在の貴族は私の案、イズモ公国までを支配侵略する作戦に関心を持っていると言ったところです」

ガロン「ほう、イズモは中立国であったが、その点を心配するつもりはない。マクベス、お前にすべて一任していることを忘れぬようにな」

マクベス「もちろんでございます。中立的に決めさせていただきますのでご安心を、ガロン王様」

ガロン「そうか、話は以上だ。ミューズ公国に滞在中の合間、王都のことはお前に任せよう」

マクベス「ありがたきお言葉です、ガロン王様。……それでは、私は失礼させていただきます」

ガロン「うむ……」

 ガチャ バタン

ガロン「ふっ、どちらになろうと構わぬというのに律儀な男だ。何を選んでも、運命を変えることはできぬというのにな」

 ガタッ

ガロン「マクベスと同じく、奴も律儀な男だ。幾らあがこうとも変わらぬというのに、愚かなことよ」

ガロン「命令通りに動く良い駒ではあったが、それもここまでだろう」

ガロン「戻りはしないというのに、いろいろと策を巡らしていたが、ふっ、実ることもない努力を続ける道化というのは見ていて愉快なものだ」

ガロン「その行いは新しい火種になるには十分……いや、奴にとっての火種にならずとも別に問題はあるまい。いずれはまた別の火種になる、どちらに転ぼうとも、我にとっては楽しむべき余興に過ぎぬ」

 バッ
 
ガロン「さぁ、愚かな者たちよ、どちらに進むか!?」

ガロン「行きつく果てが同じであろうと、その道筋は幾つも存在している。せいぜい愉快な催しで我を楽しませるがいい、それこそが――」

「お前達が我に示せる、唯一の娯楽であり愉悦なのだからなぁ」

今日はここまでで

 遅いですが、あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくおねがいします。

 コミケの感想は、サイファブースのフェリシアコスの人可愛かった、そしてカクセイサントラヤッター!
 講談社は許さない。
 
 フォレエポで何か書きたいって思った。

 本篇はしばらくは明るい話ではないと思います。

 次の番外編『透魔ifギュンター戦』についての安価を取りたいと思います。
 参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇

 カムイの性別
 
 >>818

◇◆◇◆◇ 
 
 カムイと一緒にギュンター戦に参加するキャラクター


 ジョーカー
 フローラ
 フェリシア
 リリス
 
 この四人は固定になります

・主にサポートに回るキャラクターを四人

 一人目>>819
 二人目>>820
 三人目>>821
 四人目>>822

 キャラクターが被った場合は次の書き込みへという感じになりますで、よろしくお願いします。

女で


おっちょこちょいゾフィー

乙!

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いしますね!

カミラ姉さん!

サイラスでお願いします。

マークスお兄様でお願いします

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

マクベス「では、今日の議会はここまでとします」

レオン「………」

レオン(結局、昨日と変わらずの平行線だ。南東海域からフウマ公国を経由して白夜領への侵攻は同じだ。だけど中立国も侵略の対象とするマクベスの考えと、中立国には手を出さずに中立国のいずれかで交渉をまずしようという僕の考え)

レオン(誰も白夜の攻勢など恐れていない今、やっぱりサクラ王女たちを使っての交渉のメリットは……ないに等しい)

レオン(一体どうすれば……)

マクベス「それにしてもレオン王子、本日もいつもどおりの時間にやってくるとは、少々問題ではありませんかな?」

レオン「なんだいマクベス、来る時間に問題はなかったはずだよ」

マクベス「そうですな。議会には十分すぎるほど間に合っております。しかし、本日はガロン王様がミューズ公国へと向かわれることになっておりましたのに、出国のご挨拶に現れないというのは問題でしょう」

レオン「父上が、ミューズ公国に?」

マクベス「おや、お聞きになっていなかったのですか? 昨日話が上がりましたので、てっきりレオン王子は知っているものかと思いましたが……」

レオン「……初耳だ。父上からそのような話は聞いてない」

マクベス「そうですか。ともかく、ガロン王様はミューズ公国に向かわれました。この私にはその予定を話してくださいましたが、唯一ウィンダムに残っているご家族に言葉もないとは」

レオン「何が言いたいんだい、マクベス」

マクベス「とくになにもありませんよ。しかしご安心を、ガロン王様の留守であろうとも、皆さんの意見をないがしろにしたりは致しません。もっとも、今の状況では私の案に落ち着きつつあるというのが現実ですが」

レオン「……そうだね。滅ぼすことだけを考えれば、マクベスの案は理想形だよ。後々の問題も一緒に解決できる」

マクベス「当然です。ガロン王様の望みは征服、その先に暗夜王国以外の国などある必要もないのです。わかっているとは思いますが」

レオン「……わかっている」

マクベス「ならば、よいのです。では、私はもう戻らせていただきます。まだ、明日の準備が残っておりますので。それでは、レオン王子、またお会いしましょう」

 ガチャ バタン

レオン「……わかってる。わかってるんだよ……父上が望んでいることが白夜の降伏ではなくて、白夜を征服することだってことくらい」

レオン(でも、僕は姉さんにサクラ達のことを頼まれているんだ……。投げだせるわけない)

レオン「姉さん達はもうディアに付いた頃だよね……。姉さんが帰ってくるまでに、どうにかしないといけない……」

レオン(このままだと、今は僕の案を支持している者たちも、いずれマクベスの案に流されることになる……)

レオン「……戻ろう、ここで時間を潰しても何も解決したりしない」

 ガチャ バタン

レオン(でも、一体何をすればいい? カザハナに八つ当たりして、その答えもうやむやにしたままで……)

???「おやおや、まだ残っていたのですか、レオン王子」

レオン「………それは僕のセリフだよ、マクベス。早くに戻って準備をするんじゃなかったのかい?」

マクベス「ええ、資料の忘れ物をしましてね。すぐに戻ろうと思いましたが……」

レオン「なんだい、まだ僕に何か用があるって言うのかい?」

マクベス「ええ、少し思うことがありますゆえ、少々良いですかな?」

レオン「どういう風の吹きまわしだい?」

マクベス「ご心配なくレオン王子。これはむしろ、あなた自身のために、聞いていただきたいことです」

レオン「僕自身のため?」

マクベス「ええ。ここでは場所もなんでしょう、貴賓室を一つ準備させますゆえ、そちらに」

レオン「……いいだろう」

マクベス「ふっ、ではこちらへ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

マクベス「そちらに御掛けなっていただいて結構です」

レオン「それで、僕自身のためになる話、それをしてくれると言っていたけど」

マクベス「はい、話と言うのは白夜の捕虜に関することです。レオン王子がそれほどまでに彼らを利用しようとしているのか、とても不思議でしたので」

レオン「捕虜と言っても一般兵にすぎないと言うのなら問題ないけど、サクラ王女は王族で、残りの二人はその臣下。利用価値はある」

マクベス「王族だからと言って、それが利用価値になるという証明にはなりませんよ。やはり、あなたのお考えは不可思議なものでしかありませんな」

レオン「……」

マクベス「レオン王子、正直に申し上げますが、白夜の捕虜を救うことに意味などありません。前のあなたでしたら、国内の反乱問題が終わりを迎えたと同時に彼らを処刑したことでしょう、別に処刑したことを白夜へ公表する必要などありません。それに手元にいない幻想の人質のほうが、使い勝手がいいのですよ。特にほぼ勝ちが見えているこの戦いでは尚更でしょうな」

レオン「そ、そんなことは……」

マクベス「やはり、レオン王子は弱くなられたようだ。ガロン王様も、ご子息が他国の要人にばかり気を向ける腑抜けになったと思われれば、さぞ悲しむことでしょう」

レオン「父上は僕に捕虜の件を任せてくれている、その発言は父上の裁量を疑問視しているようにも聞こえるけど?」

マクベス「そうでしたな、これは失礼しました。ですが、この頃のあなたはガロン王様の提案に対して、多く意見することが多いように思えます。他人よりも自身の身の振り方をただされた方がよろしいのではありませんかな?」

レオン「僕はただ……」

マクベス「意見しているだけと言いたいようですが、あれは意見と言うよりわがままの類、我慢ならない子供という歳でもないでしょう。王子であるあなたがガロン王様に意見しているというのは、全体の士気にも影響しかねません。だからこそ、ガロン王様は本日の出国の件を、あなたに教えなかったのかもしれませんね」

レオン「何が言いたい?」

マクベス「ガロン王様はあなたが誑かされていると思っておられるということです。故に前のあなたに戻るため、毒を取り除くのが一番良いことと言えるでしょう」

レオン「何を言っている……」

マクベス「御心当たりはあると思いますが、あなたを誑かす毒のことくらいは、そう今でもあなたはそのことばかりを気にしてばかり、とてもではありませんが」

レオン「口を慎め、マクベス!」

マクベス「目くじらを立てないでほしいものですな。私は悪魔でも正論を述べているつもりです。白夜は捕虜に価値がないと最初の攻撃で示しているというのに、そんな者たちに気を向けるなど、時間の無駄ですな」

レオン「時間の無駄、だって言うのか……」

マクベス「暗夜王国……いえ、ガロン王様の目的を成就させることを考えれば捕虜など必要ない、それがわからないわけではないでしょう、レオン王子」

レオン「……」

マクベス「レオン王子、あなた自身から彼らに処刑を告げる必要はありません。このマクベスに、一言申し上げてくださればよいのです」

レオン「……」

マクベス「白夜の捕虜を処刑しろと。そう申していただければ、私が決めたこととして処理させていただきます。今のあなたが変わるには、その背に乗せた無駄な物を落とす必要があります。そう、戦争が始まった直後のレオン王子に戻っていただきたいのです…」

レオン「……」

マクベス「さぁ、レオン王子。ガロン王様、暗夜王国の民……。なにより、あなた自身のために、要らぬ荷は下してしまいましょう。それが最良の判断となるはずですから」
 



 ドクン




レオン「……最良の、判断?」

マクベス「はい、あなた自身のために、その心の枷を取り払いましょう。私がお手伝いいたします、レオン様」




 ドクンドクン




レオン「僕は……」

レオン(やっぱり、僕は……自分一人で決められない……。マクベスの言うとおり、僕はサクラ王女たちと出会って、もっと弱くなったのか……)

マクベス「ふっ……さぁ、レオン様、あなた自身のために、白夜の捕虜を」




 ドクンドクンドクン




レオン「白夜の捕虜を…………」

マクベス「はい、かつてのレオン様に戻られるために、あなた自身のために、あの者たちを殺しましょう」




 ドクンドクンドクンドクン




レオン(殺してしまえば、殺せてしまえば……、僕は……駄目な人間だって……知ってもらえる)

レオン(知ってもらえたら……求めてもいい立場になれるかもしれない……)

レオン(……なら、それでもいいのかもしれない)

マクベス「さぁ、レオン様。あなた自身のために、この私に命令してください。それが、あなた自身のために、なるのですから。さぁ、白夜の捕虜たちを殺せと……」

レオン「白夜の……」

レオン(失敗したら、きっと、きっと姉さんは……そうしてくれるはずだ)

マクベス「さぁ、レオン様……」

 ドクン

レオン(だから、もう、ここであきらめても……いいよね、姉さん)

 ドクンドクン
 
レオン「白夜の捕虜たちを……」

 ドクンドクンドクン

レオン(殺―――)







『あたしたちレオン王子のこと信じてるから……それだけは忘れないで』

 ドクン……ドクン……ドクン

レオン(……)

レオン(…………)

レオン(………………)

マクベス「レオン様、どうされました。ささ、命令を、あなた自身のために、白夜の捕虜を殺してしまうのが一番、ご安心ください、レオン様の手を煩わせたりなど……」

レオン「……」

レオン(……忘れるわけにはいかない)

レオン(サクラ王女もツバキもカザハナも、僕を信じる以外にできることなんてないのに、その僕がそれを投げ出してどうするんだ)

レオン(まだ、僕は彼女たちを引き取った責任を、何一つ果たせてない)

レオン(最初、サクラ王女たちを引き取ったのは姉さんがそれを望んだからで、僕自身の考えじゃない。正直、姉さんのためにそうしただけだった)

レオン(でも、このサクラ王女たちを白夜に帰したいっていう思いは僕自身の考えだ。姉さんに頼まれたんじゃない、僕自身が考えたことだ)

レオン(それを今ここで、捨てるわけにはいかない。ここで、もし投げだしたら、僕は信用することされることを永遠に受け入れられなくなってしまう)

レオン(……それはだめだ。そんな姿を姉さんになんて見せられない……)

レオン「マクベス……」

マクベス「はい、レオ――」

レオン「……途中で投げ出す方が示しが付かない、そうは思わないかな?」

マクベス「! 何をいきなり、白夜の捕虜を殺すのではなかったのですか!?」

レオン「お前の考えはよくわかった……確かにお前の言うとおり僕は弱い」

マクベス「レオ……レオン王子、私は、あなた自身のために、白夜の捕虜を殺すべきだと進言しているのです」

レオン「白夜の捕虜を殺したところで、僕は変わらない。それと勘違いしないでほしいけど、僕は何も変わってない。基から僕は弱いままだ」

マクベス「なにを言って!?」

レオン「僕に関する話は以上だ。それとお前が白夜の捕虜をよく思っていないことはわかった。どうやら、どんなに話し合ってもお前と意見が合うことはない。たしかにそれがわかったのは僕自身のためになったよ、礼を言わせてもらう」

マクベス「……レオン王子、正気なのですか!?」

レオン「僕は正気だよ。だから、諦めるつもりはない」

 ガタンッ

レオン「時間を取らせたね。資料を取りに戻ったところだったんだろ。早く取って戻ったらどうだい?」

マクベス「…………」

レオン「僕は明日の準備をしないといけないから、これで失礼させてもらう……それじゃ」

 ガチャ バタン

マクベス「そうですか」

マクベス「……諦めるつもりはないですか」

マクベス「……」

マクベス「……ひょ」

マクベス「……ひょほ」

マクベス「……ひょーっほほほほ!」

 ガタンッ

マクベス「まさかここまで毒が入り込んでいるとは、諭してどうにか決別していただこうと思いましたが、どうやら無理ということですねえ……」

マクベス「仕方ないですねえ、ここはもう実力行使以外に方法はないでしょう」

マクベス「レオン様の体を蝕む毒、あの白夜の害虫を力づくでも抜いて差し上げなければ。このままではレオン様はどこまでも弱いまま……」

マクベス「これも、レオン様のため。かつての冷酷なレオン様に戻っていただかなければ……」

マクベス「毒は早く取り除かないといけません。大丈夫、準備は整っていますからねえ」

マクベス「毒をさっさと抜いて差し上げましょう――」

「レオン様を誑かす、とても悪い毒を……この私の手で」

今日はここまで
 
透魔ifギュンター戦番外、カムイの性別は女になりました。
 
サブキャラクターですが、ゾフィーも問題ないので
・ゾフィー
・カミラ
・サイラス
・マークス
 になります。ルーナは残念ながら外しということでお願いします。

一つ問題があるとすればサイラスの妻が誰かということだけなんだけど、リリスの色々な可能性の一つにしてもいい……かな?


―暗夜王国・王都ウィンダム『レオン邸』―

レオン「すまないが、今日は長丁場になると思う」

メイド「そうですか。ということは、お帰りは明日になるということでしょうか?」

レオン「最悪そうなうはずだ、できれば今日中に線引きを済ませたいからね」

メイド「……サクラ様たちのことですね」

レオン「ああ、それと少しだけ思うことがあってね、すまないが……」

メイド「わかりました。本日の間はレオン様がお帰りにならない限り、門を閉じておきます、ご安心ください」

レオン「そうしてくれると助かるよ」

メイド「いいえ、お留守を預かるのも私たちの仕事ですので、サクラ様たちのことはお任せくださいませ。それに皆様、レオン様に遠慮してか、この二日間はお風呂に入られていないようですので」

レオン「……それは間違いなく僕の所為だろうね。何とかしないと」

メイド「ふふっ、今日でそれが解決するとよいですね」

レオン「そのつもりだよ。サクラ王女たちのこと、任せるから。それじゃ」

メイド「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ」ペコリッ

 ガチャ バタン

メイド「さて、夜に向けて色々としないと――」

 テトテトテトテト

メイド「?」

サクラ「あっ」

カザハナ「え、えっと」

メイド「サクラ様にカザハナ様?」

ツバキ「一人足りてないよー、僕もいるからさ」

メイド「これはツバキ様も、一体どうされましたか?」

サクラ「え、えっと。そのレオンさんは……」

メイド「ただいま、お出かけになられました。今日は最悪帰ってこられないかもしれないと仰せつかっております」

サクラ「そうですか」

カザハナ「そう……」

ツバキ「ははは、二人ともがっかりしてるね」

メイド「ふふっ、ツバキ様の言う通りです、そんなにがっかりしないでください。今日だけ帰ってこないだけの話ですから」

カザハナ「そんな、がっかりなんてしてないし」

メイド「いいえ、この二日間は一言も口をきいていなかったようですから、カザハナ様の気の落ちようは、目に見えてわかりましたので」

カザハナ「ううっ、仕方無いじゃん。だって、元はと言えばあたしが原因だったわけだし……それにさ」

サクラ「はい、レオンさんのことを信じて待つことが今できる私たちのことじゃないかって思って」

メイド「では、どうしてレオン様をお探しに?」

ツバキ「二人はレオン王子の姿が見たかったみたいだからねー」

メイド「まぁ、そうなんですか」

カザハナ「まだ問題を抱えてるのかなって……」

メイド「問題は抱えていますよ。でも、昨日に比べてみれば、何か吹っ切れているようにも感じられましたから」

サクラ「そ、そうなんですか?」

メイド「ええ、それに皆さんのこと、とても心配していらっしゃいましたから、今日中に色々なことを解決させるつもりのようですので」

カザハナ「そ、そう。なら、別にいんだけどさ」

メイド「……ふふっ、こうしてみると、やはりお互い大切に思い合っているということでしょうか」

サクラ「えっ?」

メイド「レオン様がご家族以外の方を心配されたことなどほとんどありませんから。サクラ様たちは、そういう意味でとても特別な方々と言ってもいいでしょうね」

カザハナ「特別になれてる……ってこと?」

メイド「はい、多分ただの捕虜でしたら、シュヴァリエ公国の反乱鎮圧の件が始まる前に、何かしらの出来事が起きていたかもしれませんし、私もこうやって世間話をすることもなかったでしょう。レオン様にとっての重要な外交的カードである前に、私個人はサクラ様たちを信頼できる方と思っていますから」

サクラ「な、なんだか照れてしまいます……」

メイド「ふふっ、そうやって照れている姿もどこか愛らしいものですね」

カザハナ「でしょ、サクラはとっても愛らしいんから」

ツバキ「うんうん、たしかにねー」

サクラ「あ、愛らしいって……そ、そんなことは」

メイド「やはり愛らしい方です。どこか頑固なところも、その可愛らしさを引き立てていると私は思います」

サクラ「が、頑固なところって……」

ツバキ「はは、サクラ様って印象のままに話しかけると、時折みせる頑固さに驚く人は結構多いからねー」

カザハナ「たしかにそうかも」

メイド「……ところでですが」

サクラ「はい?」

メイド「お風呂に入りたいのであれば、私が監視に付かせていただきますが、いかがでしょうか?」

サクラ「……え、えっと」キョロキョロ

ツバキ「……」コクリ

カザハナ「……」コクリ

サクラ「……あの、折角の申し出ですけど、遠慮させてもらってもいいでしょうか?」

メイド「そうですか」

サクラ「はい」

メイド「サクラ様たちは自身の体を伝う、瑞々しいお湯の滴る音をレオン様だけに聞いてもらいたい、そういうことですね」

ツバキ「その解釈は、さすがに引くかなー」

サクラ「そ、そそそ、そういう意味じゃありません!」

カザハナ「ちょ、どういう解釈してんのよ、あんた!」

メイド「違うのですか? 確かに扉を一つ挟んだ先から聞こえる水音というのは、そそられるものがあるものですのでてっきり……。それにサクラ様やカザハナ様が浴びたお湯、ツバキ様が浴びたお湯……おっと、これはいけませんね。ツバキ様のお湯はなんだかイケない香りがします」

ツバキ「なんで俺だけイケないのかなー?」

サクラ「わ、私やカザハナさんが使ったお湯をどうするんですか。そもそも何に使うんですか!?」

メイド「冗談です。でも、皆さん毎日お風呂に入りたいから、監視付き条件でお風呂を勝ち取りましたのに、どうして?」

サクラ「……私たちがレオンさんと仲良くなれたきっかけだから、それにこれはカザハナさんが繋げてくれたものです、それを破ったりできません」

カザハナ「サクラ」

メイド「ふふっ、お風呂場で始まる繋がりということですね」

カザハナ「???」

サクラ「? お風呂で始まる繋がり……はうっ////」

カザハナ「え、サクラ、どういう意味かわかったの?」

メイド「……サクラ様は、思ったよりもおませさんですね。いえ、見た目の印象に反して耳年増というか」

サクラ「ちがいますちがいますから……ううっ////」

カザハナ「???」

ツバキ「あのー、サクラ様に変な想像させないでもらえないかなー?」

メイド「ふふっ、ごめんなさい。……でも、こうやって話してみて、皆さんがレオン様にとって大切な存在になれたのが、なんだかわかった気がします」

サクラ「えっ? でも、メイドさんたちのほうがレオンさんと過して来た時間は……」

メイド「そうですね、確かに時間は長いです」

メイド「でも、これは仕事で積み上げてきた時間、友人や家族のようなそういう温かみのある物ではありません」

サクラ「温かみですか?」

メイド「はい、サクラ様たちのように近くで話をしたりはしますが、それは職務の範囲です。たしかに信頼関係はありますが、そこにあるのは単純なイエスとノーの関係と言えばいいかもしれません」

カザハナ「イエスとノーの関係?」

メイド「そうです。できるかできないか、それだけのことです、曖昧さというのは職務の世界ではあってはいけないものですから」

ツバキ「曖昧さ?」

メイド「はい、曖昧です。曖昧な答えや曖昧な態度は、主君を困らせるだけのこと、そして私たちに求められるのは曖昧な答えや行動ではなく、出来ることだけでしたから」

メイド「でも、皆さんを見ているとその曖昧さこそが、温かみのようなものなのだと感じるのです」

ツバキ「俺はサクラ様を主君としてみてるけどねー」

メイド「ふふっ、言わせてもらいますが、ツバキさんも曖昧じゃないですか。特にその見た目と反してぶっきらぼうなしゃべり方、俺というのはいささか主君に対しての言葉ではないですよ」

ツバキ「え、えっとー」

メイド「普段は落ち度のない佇まいなのに、どこか近く感じられる口調、それはあるツバキ様の持つ曖昧さ。サクラ様を主君と言いながらも、その心の距離は近い場所にあります。カザハナ様も幼馴染の距離感と従者としての距離に一定の者があるようですし、それをサクラ様はちゃんと理解しています。だから、こんな状態でも皆さんは仲間で争うこともなく、ずっと一緒にいられるんですよ」

カザハナ「な、なんだか照れくさいんだけど」

ツバキ「でもー、俺の口調のこと駄目だって言ってくる人もいるよー」

メイド「ふふっ、それは曖昧ではなくて、その人にはそう見えているということです。ツバキ様の振る舞いに曖昧さを見出し、そこから自分で理解して初めて、その温かみがわかると私は思いますから……ふふっ、この答えもどこか曖昧ですね」

カザハナ「なら、メイドさんも曖昧になってみたらいいんじゃないかな。その、あたしも言っててよくわかんないけど」

メイド「ふふっ、それはできませんよ。でも、そうですね、今日の一件が一段落した時は、すこしだけ曖昧にレオン様にお仕えするのも悪くはありません」

サクラ「曖昧にですか」

メイド「そうですね、レオン様の紅茶に入れる砂糖の量を適量にしておきましたとか、そういった具合です」

カザハナ「あはは、確かにそう言われると、飲みなれてるのか、一般的な適量なのか、少し考えちゃうね」

メイド「そうした相手の曖昧な言動の意味を考えられる間柄、相手の言葉の曖昧さに手を差し伸べられる関係をレオン様は皆様に見出しているはずです。だから、レオン様のことを信じてお待ちください」

サクラ「はい、もちろんそのつもりです」

カザハナ「はは、でも、あたしのことは尾を引きそう……帰ってきたら、話しかけたほうがいいのかな?」

メイド「そうですね、それもいいかもしれません。ただもしも早く帰られた場合は、機嫌が悪いと思いますから、その場合はやめた方がいいかもしれません」

ツバキ「早い場合は、やっぱり話がうまくいかなかったっていうことになるのかな?」

メイド「難しい問題でしょうから、最悪門前払いもあり得るでしょう。それに色々とありますので」

サクラ「いろいろ?」

メイド「はい、では私はこれで、皆さんはいつもどおりにお過ごしください……」

 カッ カッ カッ

カザハナ「色々ってなんだろ?」

ツバキ「俺たちには聞かせたくないことかもしれないけど、今気にしても仕方ないよー」

サクラ「そうですね。カザハナさん、それじゃ戻りましょうか?」

カザハナ「……」

カザハナ(もしも早く帰ってきた時は……ちょっと声、掛けてみたほうがいいのかな?)

サクラ「カザハナさん?」

カザハナ「あっ、うん。今行くよ」

カザハナ(あたしはどっちかと言うと、たぶん曖昧なのは苦手なタイプだし……やっぱり、心配だし、これくらいはいいよね?)

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

レオン「どうなってるんだい? 午後の議会が中止、実施は夜からと言われて待っているのに……始まる気配もない」

貴族B「さぁ、私にもなぜこうなったのか見当がつきませんね。他の貴族もすでに退屈だと言わんばかりのようですが……。あれほど作戦の説明をすると言っていたマクベス様は現れる気配もありませんね」

レオン「……奴が姿を見せていない点も気になる。ちょっと奴を訪ねてくる、お前はここで待機していてくれ」

貴族B「わかりました」

 ガタッ

レオン(マクベスめ、一体何をしている? 昨日の今日で顔を合わせたが、奴に動揺は見えなかったし、むしろ僕が見ていることに不思議そうにしていた)

レオン「昨日、あんな話を持ちかけてきておいて、いい度胸だよね。本当に」

 コンコンコン

マクベス『はい、どちら様で?』

レオン「マクベス、僕だ。返事を待つつもりはない、入らせてもらうよ」

 ガチャ バタン

マクベス「これはこれはレオン王子。一体どうなされましたかな?」

レオン「それはこちらの台詞だマクベス。午後の議会を中断して夜にしたことは別にいい、その夜の議会も始まらないのはどういうことだい?」

マクベス「……そのことですか。いやはや、人が揃っていない以上、始めることが出来ないというのが私の話です。午前の内に話をしましたな、私の推し進めるイズモ公国制圧に関して、この作戦で重要な役割を果たすことになる人物を交えて話をしようと」

レオン「別に構わないよ。しかし、本当に切り替えできるのがすごいね、マクベスは……」

マクベス「?」

レオン「これには僕も感心するよ。確かにお前は僕よりずっと冷酷で、演技がうまいってことだろうね」

マクベス「……」

レオン「昨日、僕が毒に唆されているから捕虜を殺すように迫った時のことを、まるっきり忘れているみたいじゃないか?」

マクベス「……」

レオン(だんまりか……、さすがに面と向かって指摘されれば……当然か)

マクベス「くく」

レオン「?」

マクベス「くくっ、ふはははははっ」

レオン「何がおかしい!?」

マクベス「いえいえ、何を言われるかと思っていましたが、これは呆れかえるというものですよ。何か毒のある物でも召し上がられされましたかな?」

レオン「そんなものを食べた覚えはない」

マクベス「そうでしょうか、それともすでにその身に何かしら毒が蔓延しているのでは?」

レオン「マクベス……」

マクベス「くくくっ。レオン王子、そう慌てる必要もありません。それにそのような毒を付けたままというのはいささか、問題でしょう」

レオン「毒、だって?」

マクベス「ご心配なさらず、私にお任せください。その毒を払って差し上げましょう」

レオン「な、なにを……」

マクベス「ご安心をこれはあなたのためですので」




マクベス「失礼いたしますよ……、レオン王子」

◆◆◆◆◆◆
―王都ウィンダム・レオン邸―

 ポツ ポツポツポツ……

 ザーーーー

メイド「雨が降ってきたようですね……」

メイド(すでに門は閉めました。レオン様がお帰りにならない限りはもう開けることもないでしょうが……)

メイド「今日は眠れそうにもありませんね。他の者たちに交代で休憩を――」

 ドンドンドンッ

メイド「来客? 雨が降り出したばかりですが、今日はお帰り願いましょう。さすがに、レオン様ということはないでしょう。お戻りになられるには早い時刻ですから」

メイド「どちらさまでしょうか?」

???「………」

メイド「すみませんが、本日は出迎えは致しかねます。申し訳ありませんが、日を改めていただいて――」

???「……僕だ」

メイド「!? 失礼いたしました」ガコンッ 

 ガチャ キィィ

レオン「……」

メイド「レオン様、こんなに早くお戻りになられたのですか?」

レオン「……ああ」

メイド「その、どうでしたか?」

レオン「問題なかったよ。すべて解決する」

メイド「そうですか、ならすぐにでもサクラ様たちにお会いください、皆さんお風呂はレオン様じゃないといけないと言っておりましたので、お湯とサクラ様たちの着替えは準備ができていますので」

レオン「そうか」

メイド「では、すぐタオルをお持ちしますね」

レオン「なあ、おまえ」

メイド「はい?」

 ガシッ

メイド「えっ? レオン様?」

レオン「……お疲れ様」

 シュキンッ






 ザシュ





メイド「え……」

 ポタッ

 ポタタタッ

メイド「……あえっ」

 ポタポタポタタタッ

メイド「ぐっああ――」

 パシッ

メイド「むぐっむーっ」

レオン「黙って死ね、王族に仕える使用人だろ」

 ザシュザシュザシュ

メイド「――――っ!!!!! ――――っっっ!!!!!」

 ザシュザシュ

メイド「――こふっ……」

メイド(れ、レオン様……ど、うし……て)

 ポタ、ポタポタポタッ……

 クタリッ

 ブシュッ
 
 ドサッ

 ベチャ

レオン「……次」

 ガチャン

メイド「あっ、レオン様。もどられ――」

 ザシュ 

執事「レオン様、お疲れ様でござ――」

 ザシュッ

メイド「え、レオンさ――」

 ザシュッ

 ドサッ

 ザシュザシュザシュ
 ドサドサドサ

レオン「使用人はこれで全員か。生き残らせても意味はないからこれでいいはず」

 ベッタリ

レオン「この上着は、もう必要ないか。この先は、別に見られても構わないし、繕う必要もないしね」ファサ

 テトテトテトテト

レオン「さて………どこにいるかな、毒たちは?」

 ザーーーーー
 ザーーーーーー

カザハナ「はぁ、雨かー。これじゃ、レオン王子が帰ってきたらびしょ濡れになってそう」

カザハナ「サクラには、少し出てくるって言ったけど……、玄関で待ってても別にいいよね……」

カザハナ(それに早く帰って来てたとしても、悪い知らせって決まってるわけじゃないし……)

 テト テト テト

カザハナ(でも、もしも見かけたらどんな顔すればいいんだろ? 笑うべきかな、それとも)

 テト テト テト

カザハナ(ううっ、な、なにをすればいいのかわかんない。でも、顔を見るくらいなら)

 ドタッ

カザハナ「うわっ、ご、ごめんなさ――」

レオン「……」

カザハナ「って、え、えええええ。れ、レオン王子。ど、どうして、ここに」

レオン「どうしてここにって、ここは僕の屋敷だろ?」

カザハナ「え、えっと、それはそうだけど……」

レオン「カザハナ、お風呂に入ってなかったんだよね。さっさと済ませようか」

カザハナ(あ、声が何だか厳しい気がする……っていうことは、そういうことだよね)

レオン「早く、来ないのかい?」

カザハナ「い、いいの?」

レオン「ああ、さぁ行こうか? お湯の準備は済んでるらしいから」

カザハナ「さ、サクラ達は?」

レオン「あとでいいさ。それに、何か問題でも?」

カザハナ「う、ううん。それじゃ、おねがいできるかな?」

レオン「ああ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―レオン邸・浴室―




レオン「死んでくれないかな。今ここで……さ」




カザハナ「あぐぅ、ううっ」

カザハナ(体が、動かな……なにも……考えられなく――)

レオン「ふふっ、似合ってるよ、だから今すぐ死んで見せてくれよカザハナ。そうだね、その湯船で死んでほしいかな」

 ドクンッ ドクンッ ドクンッ

カザハナ「……は、い」

カザハナ(頭が、クラクラする。心臓が痛い、勝手に体が……)

 ヒタ ヒタ ヒタ

カザハナ(湯船……久しぶりのお風呂だったのに……まだ、入ってない……)

 ペタリ

レオン「さぁ、早くしてよ」

カザハナ「わ……かりま……した」

カザハナ(湯船にあたしが映ってる……。目、どこ見てるんだろ……あっ、どんどん近付いて――)

 ポチャン 
 
 コポコポコポ……


 コポコポコポコポ……

カザハナ「……」

レオン「くくっ」

カザハナ(目の前、何も見えない……なんであたし、お湯に顔突っ込んでるの?)

カザハナ(ああ、そうか、レオン王子に死んでくれって言われたから……)

 コポコポコポ

カザハナ(そうだよね、言われたら従うしかないよね……。だって、似合ってるって言われたら、あたし、体の自由が……)

 ゴポゴポゴポ

カザハナ(……息が詰まる……。空気が…ほしい…苦し……しんじゃう……)

 ゴボボボボ

カザハナ(いやだ、死にたくない、しにたく、しにたくない!)

 バタッ バタバタ バシャンッ

レオン「?」

カザハナ「かはっ! ごほっ、ごほっ はー、はー、ごほっ ごほっ」

カザハナ(なんで、あたし、あんな命令に従って…… 意味、わかんない」

レオン「似合ってるよ、だから死んでよ」

カザハナ(聞けるわけ、ないでしょ……)

カザハナ「ごほっ、ごほっ、はぁはぁ、ぐっ、はぁはぁ」

レオン「……。ふむ、どうやら死に掛けると暗示は消えてしまうようですねえ。毒の分際でどこまでも往生際が悪い……いや、運がいい」

 ヒタヒタヒタ

カザハナ「ごほっ、ごほっ、はぁはぁ……ぐっ」ガシッ

レオン「まあ良いです、喜んでください、あなたが死ぬのを手伝ってあげますから。遠慮しないでください、ここまで色々と言うことを聞いてくれたご褒美ですから、ねえ!」

 ブンッ

 バシャン 

カザハナ「!!!! おぶっ、ぐぶっ、はぁ!」

レオン「暴れるな、この白夜の豚。死ぬ時くらい、潔くしてくださいよ、ねえ?」ググッ

カザハナ「!!!!!!」バシャバシャ

カザハナ(お湯が、喉に、うえっ、はうっ、うううっ、こんな、こんな、こんなことで……)

カザハナ「!!!!」パシッ

カザハナ(ふり、ほどけば……!)

レオン「触らないいただけますかぁ? まったく、今まで従順にしてきたじゃないですか、最後も同じように」パシンッ

カザハナ「っ! っ!!!!!」バシャ……バシャ、バ……シャ

レオン「従順に死んでくださらないと」

カザハナ「んぐっ!!!!!! はぁ!」バシャバシャ バシャ

レオン「ねえ?」ググッ

 ゴポッ ゴポポポッ

カザハナ(力が……はいらない……)

 バシャ……バシャ

カザハナ(サクラ、ツバキ、レオン王子……)

カザハナ(あたし、あたし…………)

 ゴポッ ゴポポポッ

 バシャ……パシャ……

カザハナ(まだ、死にたく……ないよぉ……)

カザハナ(死にたく………)

カザハナ(死に………)

カザハナ(……)

カザハナ()

 ゴポポポポポッ ゴポ………

 ゴホッ……

 クタリッ

 パシャン……

 ………

レオン「……」バシャン

レオン「……ひょ」

レオン「……ひょほ」

レオン「ひょほほほ、ひょーっほほほほほほ!!!!!! やりましたよ、一人殺してやりました。いろいろと役には立ってくれましたが、最後の最後で手を煩わせるとは、使えない女でしたねえ」

レオン「さて、あと二人を殺せば……毒抜きは終わり、早く向かわないといけま――」

 タタタタタタッ

 バタン!

レオン「!……」 

レオン「……」

「これはこれは、どうされましたかレオン様、そのように慌てて?」


 第十五章 前篇 おわり

 今日はここまでになります。
 
 アジロギと戦えるモドキ面を作ってみた、汚い忍者しかいない。

 サイラスとリリス、ゾフィーの関係はしっくりきそうなのを考えてますが、今のところゾフィーは孤児で落ち着きそうです。
 ギュンターifは透魔自体のif(こんな感じでもよかったんじゃないか)で話を構成していく予定ですので、いろいろと流れが違いますが、ご了承をお願いします。

 今日は#FEのイベント抽選結果の日……、技+2つけてるからきっと大丈夫……なはず
 

 

◆◆◆◆◆◆
―ノートルディア公国・七重の塔―

カムイ「あなたが虹の賢者様なのですか?」

虹の賢者「いかにも。よくここまでたどり着いたのう、お前さん方」

カムイ「いえ……、ご無事で何よりです。マークス兄さんもあなたのことを心配されていました」

虹の賢者「ほう、そうか。このような老体に気を向けてくれるとは、なんとも嬉しいことよのう。それにお前さんも面白い風貌をしておるのう」

カムイ「そんな、面白い恰好でしょうか?」

虹の賢者「ふぉふぉふぉ、女子に腕を取られながら、そうも堂々とわしに会いに来る者は珍しいのでな」

カムイ「あっ」

アクア「……」

カムイ「アクアさん、賢者様の前ですから」

アクア「嫌よ」

カムイ「はぁ、無茶をしたことは謝りますから、今は放してくれませんか?」

アクア「……」

カミラ「ふふっ、アクアもカムイの前ではわがままな子になっちゃうわね」

カムイ「アクアさん」

アクア「……わかったわ」パッ

虹の賢者「ほっほっほ、別に手を繋ぎ合っておってもよいのじゃが、手間が省けただけよしとするかのう」

カムイ「手間が省けたとは?」

虹の賢者「こちらの話じゃ。さて、ここでは少々狭いのでな、奥の部屋で話をしよう。付いて来なさい」

カムイ「……はい。わかりました」

虹の賢者「どうやら、これで全員のようじゃのう」

カムイ「はい、一つお聞きしてもよろしいですか?」

虹の賢者「なにかのう?」

カムイ「ここは迫りくる炎に耐えうる場所なのですか? あなたに誘われるままにここまでやってきましたが……」

虹の賢者「残念だが、人には見えないように階段を隠していただけじゃ、いずれここにも火の手は至る。ここを襲った連中の考えるとおり、まさに袋小路だったというわけじゃ」

カムイ「……そうですか」

虹の賢者「なに、そうしょぼくれた顔をするでないぞ」

カムイ「潔く諦めろ、そういうことですか?」

虹の賢者「そういうことではない。今からお前さんにここから仲間を助ける秘術を授けよう」

カミラ「あら、大盤振る舞いね」

虹の賢者「ふぉふぉふぉ、豊満な女子が沢山おるのでな。こんなところで焼き爛れていくというのは、世の男たちの夢を奪うことになりかねんからのう」

カミラ「……」

ピエリ「豊満、豊満ってどういう意味なの? カミラ様」

アシュラ「あっはっは、面白い爺さんだな。これが虹の賢者か、そこらへんのスケベ爺さんと何も変わらねえように思えるが」

スズカゼ「どちらにせよ、今の状況を打破するには、その秘術に賭けるしかないでしょう」

カムイ「……本当にそんなものがあるんですか?」

虹の賢者「賢者を甘く見ては困るのでな。さぁ、カムイよ、わしの傍へ」

カムイ「はい、わかり――」

 ガシッ

カムイ「……?」

アクア「カムイ……」

カムイ「大丈夫ですよ、ここに来て何かもう一波乱ということはないと思います。だから、ここで待っていてください」

アクア「……」

ニュクス「アクア、ここはカムイを賢者を信じましょう?」

アクア「ニュクス」

ギュンター「そうですぞ。どちらにせよ、その秘術とやらがなければ、私たちはここで焼け死ぬ以外に道はありません、今は……」

アクア「……カムイ、ごめんなさい」

 パッ

カムイ「いいえ、心配してくれてありがとうございます。お待たせしました、賢者様」

虹の賢者「うむ、では手を取るといい、カムイよ」

カムイ「はい、これでいいですか?」ガシッ

虹の賢者「うむ、お前さんはここにいる仲間達に信頼されておるようじゃのう」

カムイ「……はい、私と一緒に歩んでくれる。素晴らしい仲間たちです」

虹の賢者「ふぉふぉふぉ、よい答えじゃ。さて、今はちと急がなくてはいかん、じゃから悪いのう」シュオォオオン

 ブォオン

ピエリ「ん、なんか床が光ってるみたいだけど、これってなんなの?」

カミラ「これは……」

ニュクス「!!!!これは魔方陣!?」

ギュンター「カムイ様!」ダッ

 ドン

ギュンター「!? これは結界」

アクア「そんな、カムイ!」

カムイ「皆さん! あなたは一体何をするつもりなんですか!」

虹の賢者「仲間を救う秘術をお前さんに授けるという話じゃが、あれは嘘じゃ」

カムイ「なっ! 騙したというんですか!?」

虹の賢者「出来れば、二人きりで話がしたいのでのう。お前さんの仲間たちは先に送ってやるだけのことじゃ」ブンッ

 ブォオオオン

 シュンッ!!!!

カムイ「!!!!」

カムイ(皆さんの気配が消えた!?)

カムイ「賢者様! いったい何を、何をしたんですか!」

虹の賢者「安心せい、ただある場所に送っただけじゃ」

カムイ「私と話すためにですか!?」

虹の賢者「然様、安心しておくのじゃ、お前さんの仲間はみな無事。お前さんに関係する重要な話をするためじゃ、神刀『夜刀神』に選ばれし人よ」

カムイ「……信じて、よろしいんですね。皆さんが無事だということを」

虹の賢者「もちろんじゃ」

カムイ「………いいでしょう。私に関係する話、聞かせてもらえますか」

虹の賢者「うむ、お前さんが巻き込まれてきた今日ここまでのことを、わしは知っておる。その最中、白夜王国、そしてシュヴァリエ公国でお前さんが暴走したことものう」

カムイ「……ええ。どちらも私が弱かった故の出来事です。白夜王国ではミコトさんを、シュヴァリエ公国ではリリスさん、そしてクリムゾンさんを失いました。そして、その結果暴走して、どちらもアクアさんに助けてもらって今の私がいます」

虹の賢者「そうか。あのお嬢さんは、お前さんがまた獣の衝動に駆られる可能性を恐れているようじゃな」

カムイ「アクアさんは私を竜石に繋ぎとめてしまったことについて、思いつめていたようですから、責任を感じているのかもしれません。だから、ああやって私を大切にしてくれるのかもしれません」

虹の賢者「竜石のことだけではないとは思うが、その答えはお前さんが直に見つけるのが一番じゃろう」

カムイ「?」

虹の賢者「してカムイよ。シュヴァリエ公国との件でお前さんを亡き者にしようとした策略は終わってはおらぬ。そして勘違いは正さねばならん」

カムイ「……そうでしょうね。今は、仕掛け人は静かにしていますが――」

虹の賢者「それこそが勘違いなのじゃ、カムイ」

カムイ「?」

虹の賢者「カムイよ、シュヴァリエ公国を巻き込んだ騒動の目的は、お前さんを排除することではない。そして、このノートルディアの一件もじゃ」

カムイ「…どういうことですか」

虹の賢者「確かにシュヴァリエ公国での一件で、お前さんは狙われていたのは確かじゃ。しかし、それも真の目的のための前段階、本当の目的は他にあった。そして、このノートルディアの件も表向きはお前さんをここに呼び寄せ亡き者にするためのものじゃが、裏で本当の目的が動いておる」

カムイ「……本当の目的」

虹の賢者「カムイよ。お前さんはすべての人間を怨むほどの悪意を知っておるか?」

カムイ「すべての人間を怨むほどの悪意、ですか?」

虹の賢者「生きとし生けるすべての人間を殺したい、苦悩させたい、争わせたい、そう言った悪意。お前さんは一度、すべてを殺したいという悪意に駆られ掛けたことがあるはずじゃ」

カムイ「……」

虹の賢者「今、世界にすべての人間を怨むほどの悪意が伝染しようとしておる。光が入ることさえ許さぬ、そんな膨大な悪意。そして、今一つの悪意が新たな悪意を産むために、光を取り込もうと動き始めておる」

カムイ「悪意を産むためにですか?」

虹の賢者「悪意は新たな悪意を産む、増殖する、とても簡単にのう。悪意とはそれほどに甘美であり、心の隙間へ簡単に浸透していく。そして悪意はさらなる悪意を育てるために吸収されていくものじゃ。このままいけば、大きな悪意が産声を上げることになる。ノートルディアとシュヴァリエの一件は、この悪意を育て新しい悪意を産むために仕向けられたことに過ぎぬのじゃ」

カムイ「……その悪意は何を喰らおうとしているんですか」

虹の賢者「お前さんがよく知る者たちじゃ。そして、その者たちは王都ウィンダムでお前さんの帰りを待っておる」

カムイ「……まさか、レオンさんたちを狙っていると?」

虹の賢者「悪意を抱えた主体者の目的が達せられることはない、しかし主体者はそれがなされると信じ動いておる、それだけで十分じゃからのう」

カムイ「目的が達せられないのにですか?」

虹の賢者「悪意単体の望むものなど関係ないからのう。重要なのは悪意によって悪意の花が芽生え成長し、新たな悪意を創造していく、この連鎖だけ。今日までに芽生え果てていった悪意たちも、すべてが捨て駒でしかない。そして、捨て駒によって新しい悪意が生まれる」

カムイ「……その悪意の大本は一体なんなんですか?」

虹の賢者「言ったじゃろう、すべての人間を怨むほどの悪意じゃと、そしてこれは人を悪意に染め上げるために手を広げ続けている。小さな火種が、やがて大きな火事へと変化してくように仕向けているのじゃよ」

カムイ「……それが私が倒すべき敵なのでしょうか?」

虹の賢者「それを決めるのはカムイ、お前さんじゃよ」

カムイ「私、ですか?」

虹の賢者「そうじゃ。それともお前さんは、わしが白夜の人民こそが敵だと唆せば、それに阿吽の呼吸で頷き、白夜を蹂躙するというのかのう?」

カムイ「……いいえ、そんな命令には従えませんよ。そして、それに流される私についてくるような人はいないはずです」

虹の賢者「そういうことじゃ。カムイよ、お前さんが選んだ道にこそ、あの者たちは付いて行くはずじゃ」

カムイ「私の選んだ道ですか」

虹の賢者「お前さんはすでにその準備を始めておるようじゃ。ところでお前さんは正義を月の形に例えたようじゃのう」

カムイ「……はい、ツバキさんに教えてもらいました。月は形によって名前を変えるものだと、そしてどんなに形が変わっても月は月であり続けると」

虹の賢者「そうか、正義とは見る者たちによって形の変わるもの。それを理解しているお前さんを夜刀神が選んだことは、間違いではないようじゃ」

カムイ「賢者様?」

虹の賢者「カムイよ、お前さんに最後に話しておくべきことがある」

カムイ「なんでしょうか?」

虹の賢者「カムイよ、真の平和のために『炎の紋章』の謎を解き明かす運命を背負いし者よ」

カムイ「炎の紋章……ですか?」

虹の賢者「然様、この悪意という闇夜に支配されつつある世界を照らす一筋の光となる力。しかし、その力に至れる英雄となれるかはお前さん次第じゃ」

カムイ「わかりました」

虹の賢者「わしは今からその扉をあけるための鍵を託そうと思う。そのために、ここまでこの命を繋いできたのじゃからな」

カムイ「命を繋いできたって」

虹の賢者「この鍵を託すこと、そしてお前さんを送り届けることでわしの一生は終わりを迎えることじゃろう」

カムイ「……そんな」

虹の賢者「良いのじゃ、これはわしが唯一行うことのできる罪滅ぼし、いや滅ぼしでもなんでもない。お前さんに辛い責務を押し付けるだけの行為、偽善以外の何物でもない」

カムイ「……」

虹の賢者「またお前さんが拒むのであれば、それでも良い。わしは拒むものにこれを無理やり与えたりせん、拒む者に与えたとてこの力が助けになることはあり得んからのう。大丈夫じゃ、どちらの返事にせよお前さんは必ず送り届けよう」

カムイ「…拒んでも良いですか?」

虹の賢者「然様じゃ、さぁカムイよ。選んでほしい、この老いぼれの荷物と共に戦ってくれるかどうかを……」

カムイ「………賢者様」

虹の賢者「うむ」

カムイ「その力、背負わせてください、これが私の答えです」

虹の賢者「………そうか」

カムイ「ええ、仕えるものはどんなものでも私は引き入れます。だから賢者様、あなたの責務を私に押しつけてください。必ず、その鍵で扉を開いて、先に進んでみせますから」

虹の賢者「そうか……では、カムイよ。夜刀神を掲げてみせよ!」

カムイ「はい」

 チャキン

虹の賢者「では施させてもうおうかのう、この老いぼれの心残りをな」



虹の賢者『我は神刀を鍛えし者』
    『禁忌を犯せし者』
    『伍色を紡ぎし者…』
    『我が名に応えよ』
    『炎の紋章よ』


カムイ「!!!」

虹の賢者「今はまだ変化を感じることはできないじゃろう。じゃがいずれ、お前さんと共に歩む暗夜の勇者が現れる」

カムイ「暗夜の勇者ですか?」

虹の賢者「その時、『夜刀神』は姿を変えることじゃろう。長き夜に一つの終わりを迎える存在。『夜刀神・長夜』へと」

カムイ「それが炎の紋章……というわけではなさそうですね」

虹の賢者「ふぉふぉふぉ、大丈夫じゃ、長夜へとたどり着けた時には、すでにお前さんは至れる場所に達しておるはずじゃ」

カムイ「わかりました」

虹の賢者「うむ」

 ドゴォン

カムイ「! もう時間切れみたいですね」

虹の賢者「ふぉふぉふぉ、炎の紋章への門出にはふさわしいのう。さて、おまえさんを仲間たちと同じ場所へと送ろう。これ以上遅れては、間に合うことも間に合わなくなってしまうかもしれんからな」シュォオオン

カムイ「!」

虹の賢者「さて、その腕の傷も癒しておくとするかのう。このあと、すぐに動かなければならんはずじゃ」

カムイ「賢者様、ありがとうございます」

虹の賢者「ふぉふぉふぉ、礼を言うのはわしじゃ。カムイよ、ありがとう」

カムイ「はい」

虹の賢者「ここから先は、お前さん次第、そのことを忘れるでないぞ」

カムイ「……」コクリッ

虹の賢者「それではな」ブンッ

 シュンッ

虹の賢者「……ごふっ」ポタポタ

虹の賢者「カムイよ、お前の信じる道を……」

虹の賢者「……」

 ドゴォン
 ガシャンッ

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・王都ウィンダム周辺―

 シュンッ

カムイ「ぐっ………」ドサッ

カミラ「カムイ!」タタタタッ

カムイ「カ、カミラ姉さん? ここは――あぶっ」ダキッ

カミラ「心配したのよ、何かされなかった?」

カムイ「いいえ、とくに危ないことはされてませんよ」

カミラ「そう、よかったわ。もしも変なことしてたらノートルディアに戻って、あのおじいさんを殺さないといけなかったから」

カムイ「そ、そうですか。それで、ここはどこなんですか?」

アクア「ウィンダムの近くよ。最初はどうなることかと思ったけど、みんな無事みたい」

ニュクス「これほどの大人数を一気に送り届けるなんて、流石は賢者と呼ばれるだけはあるということね。それで、一体どんな話だったの?」

ピエリ「びっくりしたけど、気づいたらみんな一緒だったの。カムイ様だけいなかったから心配したのよ?」

アシュラ「まったく、一体何がどうなってんのかわからねえが。どうにか死なずに済んだってことだけは確かなんだよな?」

スズカゼ「そういうことになりますね。ですが、どうして転送先にここを選んだのでしょうか?」

カムイ「ここはウィンダムの近くなんですか………」

アクア「ええ、そうよ。それであの賢者はどうしたの?」

カムイ「すみませんがそのことは後でお話します、今はレオンさんの家に向かいますしょう」

アクア「どういうこと?」

 ポタッ ポタッ ポタタタタッ

ピエリ「雨が降ってきちゃった、このままレオン様のお家にお泊まりするっていうことなの?」

カムイ「それで済めばいいんですが、そう言うわけにはいかないでしょう」

アクア「……レオンに危機が迫っているっていうことなの、カムイ?」

カムイ「レオンさんだけじゃありません。サクラさん達にも危険が迫っている可能性があります」

アクア「内通者が動いたって言うこと?」

カムイ「多分ですが、そう考えるのが妥当かもしれません」

カムイ(敵の目的が私ではなくてレオンさんだとするなら、ここで待つことはできません)

カムイ「皆さん、急ぎましょう」

「取り返しのつかないことになる前に……」

 今日はここまでで
  
 虹の賢者って豊満好きな気がする。
 上忍の刀を回転させて去っていくモーション好き。

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

 ザーッ 

レオン「……カザハナ……」

カザハナ「」チャプン……

レオン?「どうされました、レオン様。そんなに顔を真っ青にされて?」

レオン「……どうして」

 ヒタヒタ

レオン?「……なにをしてるんですか? レオン様」

レオン「……」

 バシャン バサーッ

 ギュッ

レオン「冗談はよしてくれないか。……なぁ、カザハナ?」

カザハナ「」

レオン「……いつもみたいに声を出してくれ。頼む、頼むから……」

カザハナ「」

レオン「あ……ううっ、くうっ、ううああ」

レオン「あ、ああああ、うああああ」

レオン?「何をやっているんですか、そんな白夜の豚が死んだくらいで声を上げるなんて、暗夜の――」

レオン「……さ…ぁ」

レオン?「? なんでしょうか、レオンさ――」 

レオン「貴様ああああああ!!!!!!」

 シュォオオン
 
 ドゴォン

レオン「はぁ、はぁ、はぁ」

レオン?「あぶなかったー。どうしましたレオン様、そんなに自分の姿を見るのが嫌なのですか?」

レオン「貴様、何をしたかわかっているのか……」

レオン?「何をしたとはそれは愚問ですねえ。レオン様にとっての毒、その一つを排除しただけ、残りの二つも今から――」

レオン?「いえ……、こちらから向かう必要はなさそうですねえ」

レオン「何を言って――」

レオン?「レオン様のお心遣いに感謝いたします。先の魔法の音に気づいたみたいようで、のこのこ死ににやってきてくれるようです。残りはそこの小娘よりは気が利くものですねえ」

 タタタタタタッ 

 オトガシタノハ、コッチカラダッタハズダケド……

 ミテクダサイツバキサン、ヨクシツノトビラガ!

レオン(この声は……サクラ王女とツバキ)

レオン?「ひょほほほ、少し協力していただきますよ、レオン様」

レオン「協力だと!?」

レオン?「はい、大丈夫、レオン様の手を煩わせたりなどしませんので、そこにいていただけるだけで十分ですから」

レオン「貴様、何をするつもりだ」

レオン?「なに、レオン様が命を掛けて守る意味など無いということを教えて差し上げるだけですよ……」

サクラ「ツバキさん、こっちです! え、こ、これは?」

ツバキ「れ、レオン王子が二人?」

レオン「二人とも……」

レオン?「……」ニヤッ

サクラ「一体何が――え……?」

カザハナ「」

サクラ「カ、カザハナさん……」

ツバキ「カザハナっ!」

レオン「サクラ王女、ツバキ!」

レオン(早く知らせないと、そいつの狙い――)

レオン?(さて、早く済ませましょう。レオン様、見せて差し上げますよ、この者たちがあなた様のことなど、信用していないという、その証明をねえ)

サクラ「カザハナさん!」

 サッ

サクラ「!?」

レオン?「サクラ王女、止まって。騙されちゃいけないよ二人とも、あれは僕の偽物だ……」

サクラ「え、ど、どういうことですか!?」

ツバキ「偽物?」

レオン「何を、言って……」

レオン?「僕の案に賛成的でない者たちの差し金だよ。僕がここにたどり着いたときには……カザハナは……」

サクラ「それじゃ、カザハナさんは……」

レオン?「残念だけど……」

ツバキ「そんな……」

レオン「ち、ちがう……ちが――」

レオン?「僕の責任だ。だからこそ、こんな卑劣なことをしたお前のような下衆を許すつもりはない」

レオン「……騙されないでくれ! お願いだ、カザハナはそいつに、そいつに……」

レオン?「二人ともあいつの言葉に耳を貸す必要はない。こいつの止めは僕が刺す」

サクラ「……でも、まだカザハナさんが」

レオン?「近づくのは危険だし、二人を守るためだ。危険は冒せない」

サクラ「……」

レオン?「だからこそ二人は見ててほしい、カザハナを殺した奴が死んで行く様をね」

ツバキ「………」

レオン「……駄目だ、そいつの、そいつの言うことを聞くな! 二人とも、騙されちゃいけない!」

レオン?「往生際が悪いよ。ここまできたら自殺するくらい出来ないのかな、呆れちゃうね」

レオン「惑わされるな、そいつはお前たちの命を狙ってる! 言うことを聞いちゃいけない!」

レオン?「話はもう終わりだよ。さぁ、二人ともちゃんと見ておくんだ。カザハナを殺した下衆の、哀れな末路をね!」

ツバキ「……」

サクラ「……わかりました」

ツバキ「そうさせてもらうよ」

レオン「……二人とも、信じてくれ…」

サクラ「……」

ツバキ「……」

サクラ「ごめんなさい」

レオン「!!!!」

レオン「……」

レオン「……ははは、そうだよね……」

レオン(……結局、僕は歩み出すのが遅すぎたんだ。そうだ、カザハナを守れなかった僕が信用されるなんてこと、あるわけないじゃないか。この状況を見てそんなこと考えるまでもない、カザハナが死んでることで気が動転してたら、あいつの言っていることのほうを信じるはずだ)

レオン?「それじゃ、いくよ」

レオン(あと十秒も経たない間に、二人も倒れる。僕は結局、後手後手に回ってばかりの無能じゃないか……。これじゃ、僕を信じてくれたカザハナが報われないよ、本当にさ)

レオン「カザハナ」ギュッ

カザハナ「」

レオン「……ごめんよ」

レオン?「……謝るなら、最初からしなければいいんだ。哀れなやつだね」

レオン?(左右の二人にも死んでもらいましょう。結局、こいつらはレオン様を隠れ蓑にしていただけ。結局、レオン様のことなど信じていないんですからねえ。大丈夫、これでレオン様を誑かす毒は消えてなくなる。そうすれば、私の知るレオン様に戻っていただけます)

サクラ「……レオンさん」

レオン(サクラ王女が話し掛けているのは、眼の前にいる奴だ。僕のことじゃない)

レオン(結局、僕に守れるものなんて、何もなかったんだ……。ごめん、姉さん。僕は、やっぱり無力だ)

サクラ「大丈夫ですよ、レオンさん。信じてますから」

レオン?「ありがとう、サクラ王女。それじゃ――」

レオン?(死んでもらいましょうか!)

 ショォォォオオオオン

レオン?(喰ら――)


サクラ「えいっ!」ドンッ


レオン?「なっ」


 ドサッ バシャンッ!





サクラ「……あなたのことなんて信じてません!」

レオン「……え、なにが起こって」

サクラ「ツバキさん!」

ツバキ「はい、サクラ様」タタタタッ

 スッ

ツバキ「レオン王子、立てますか?」

レオン「なんで、だってお前たちは、あいつの言うことを信じたんじゃなかったのか?」

サクラ「信じてなんていません。だって、レオンさんじゃないんですから」

レオン「……どうして、わかったんだ」

サクラ「カザハナさんの傍に寄り添ってくれてたから。私が信じてるレオンさんなら、カザハナさんのことをその場にそのままにしておかないはずだって、そう思ってましたから」

レオン「……でも、カザハナは――」

サクラ「いいえ、まだ諦めるのは――」

 バシャン!

レオン?「がほっ、どうして、こんな白夜の豚に、私の幻影が!?」

ツバキ「うるさいよー」ブンッ

 バキィ

レオン?「がはっ」

 バシャン

レオン「……」

サクラ「早く、行きましょう。レオンさん」

ツバキ「そうだよ、早くしないといけない。カザハナを助けるためにもね」

レオン「だって、もう……」

サクラ「蘇生処置を試してみましょう。まだ、カザハナさんが助かるかもしれません」

レオン「……でも、僕は……」

サクラ「レオンさん!」

 バチン

レオン「あ……」

サクラ「ちゃんとしてください!」

サクラ「レオンさん、おねがいします。カザハナさんを助けるために、力を貸してください」

ツバキ「俺からもお願いするよ。こいつに止めを刺したいけど、今はカザハナを助ける方が先だからさー」

レオン「……僕は、君たちに信じてもらえてるって思ってもいいのかい。こんな無能な僕を、二人は信じてくれるのかい?」

サクラ「もちろんです、レオンさん」

ツバキ「もちろんだよ、レオン王子」

レオン「サクラ王女、ツバキ………」

ツバキ「それに、カザハナも言ってくれたと思うよ。レオン王子のこと信じてるって」

レオン(カザハナ……)

『あたしたちレオン王子のこと信じてるから……それだけは忘れないで』

レオン「僕はカザハナの言葉と、二人の言葉を信じるよ。それが君を助ける力になるはず。だから、僕はもう迷わない……)

レオン「……僕の部屋に向かう、付いて来て」

サクラ「はい。ツバキさん、行きましょう」

ツバキ「了解ー。とりあえず、そこの下衆さん。あとで叩きのめしに来るから、覚悟しておいてよー」

レオン?「ぐっ、レオン様。私は、あなたが元に戻ると……」

レオン「……覚悟しておくんだね」

 タタタタタタタッ

 バタンッ

 
 ガサッ バサバサバサッ 

レオン「ツバキ、そこらに置いてある書物を片っ端にでいい、一カ所に投げ入れてくれ」

ツバキ「もうやってるよー。サクラ様、ここに」

サクラ「はい、えっと、レオンさん、衣装棚から法衣を借りますね」ファサ

レオン「下ろすよ。一、二の三」

 ゴロンッ

カザハナ「」

サクラ「すぐに蘇生処置を始めます。レオンさん、カザハナさんの胸を強く押してくれますか?」

レオン「そ、それはツバキのほうがいいんじゃないか。僕は……」

ツバキ「いやー、レオン王子。俺は扉を抑えつけるので手いっぱいみたいですからー」

レオン「え?」

 ドゴンッ ドゴンッ

レオン?『殺せないじゃないですか。こんなところに隠れて、白夜の豚がレオン様を誑かして、生きているなど煩わしい』

ツバキ「うへぇ、レオン王子には厄介なファンが多いんですねー」

レオン「そうみたいだ」

 ドゴンッ ドゴゴンッ

ツバキ「ははっ、魔法の音がするけど、この扉は頑丈だねー」

レオン「ああ、耐魔法の処置を施してある。でも、長くは――」

ツバキ「なるほどね。なら少しでも長持ちするようにここは俺が抑えてるから、カザハナのこと頼んだよ」

レオン「……わかった」

サクラ「レオンさん、カザハナさんの胸の中心を三十回手で押してください。力強く、骨を折るつもりで構いません」

レオン「い、いいのか?」

サクラ「命が助かるなら、それくらい力が必要です。終わったら手を放してください。私が合図したらまた同じことを繰り返してもらえますか?」

レオン「……わかった」

サクラ「ではレオンさん、始めてください」

レオン「うん」
 
レオン(大丈夫だ、必ず、必ず助かる。助けてみせる)

レオン「終わったよ、サクラ王女」

サクラ「はい」

サクラ(きっと大丈夫です。だから、カザハナさん、戻って来てください……)

サクラ「すぅー……ふぅー。すぅー……ふぅー」

サクラ(肺は膨らんでる……)

サクラ「レオンさん、もう一度です」

レオン「わかった……」

 ドゴォン

ツバキ「もう諦めたらどうかなー?」

レオン?『それはこちらの台詞ですねえ。そこで自害してくれるなら、手を引いていいんですよ?』

ツバキ「そんなのはごめんだねー」

レオン?『なら、早くここを開けてください。レオン様にとってあなた方は毒、わからないことじゃないでしょう?』

ツバキ「俺たちから見たら、あんたの方がよっぽどレオン様にとっては毒だねー」

レオン?『何を根拠に』

ツバキ「レオン王子はね。それほど冷酷な人じゃないよ、人間そんなに簡単に変われない。君が見てるのは、君にとって都合のいいレオン王子であって、レオン王子本人じゃないってことだよ。そんな理想像を押し付けられるレオン王子の身にもなってみたらどうかなー?」

レオン?『捕虜風情がレオン様を侮辱するとは、許せませんよ』

ツバキ「最初から許すつもりもないよねー」

レオン?『ええ、そうですがね』

 ドゴォン

サクラ「ふぅー……。もう、一度です」

レオン「…ああ」

レオン(カザハナ、起きてくれ。まだ、僕は君たちを白夜に返していないんだ)

レオン(一人でも欠けてちゃいけないんだ…。だから、だから――)

サクラ「……レオンさん、もう一度!」

レオン「わかってる!」

レオン「……いつまで寝てるつもりだ」

カザハナ「」

レオン「おまえはまだ、ここで死んでいい人間じゃない」

カザハナ「」

レオン「僕がそう言ってるんだ。だから――」

レオン「早く眼を覚ますんだ、カザハナ!」

 ……



 ……ンッ



 ……ドクンッ……

カザハナ「ごふっ……」

サクラ「!」

レオン「!」

カザハナ「ごほっ、ごほごほごほっ。う……ううっ」

サクラ「……カザハナさん、よかったぁ、よかったよぉ」ギュッ

レオン「カザハナ……」スッ

 ピトッ

カザハナ「……ん…うううっ」

レオン(生きてる……助けられたんだ……)

レオン「良かった、よかった、カザハナ……」ポロポロポロ

サクラ「まだ意識ははっきりしてないけど、もう峠は越えたはずです。心臓もちゃんと動いてますし、息も安定してます」

レオン「うん。……サクラ王女、すまない、怖いを思いをさせてしまって。なんとお礼を言ったらいいのか……」

サクラ「いいえ、私がお礼を言わなくちゃいけません。カザハナさんに謝るのは、今の状況をどうにかしてからにしましょう」

 ドゴ ドゴンッ

ツバキ「サクラ王女の案に賛成かな。こっちはそろそろ限界みたいだからねー」

レオン「……そうだね。もう、迷うつもりはないよ」

 ガチャッ ガサガサッ

レオン「……ツバキ。これを」ポイッ

 チャキン

ツバキ「……俺は捕虜だよ、レオン王子」

レオン「君たちは僕を信じてくれた。そして僕も君たちを信頼してる。僕にとって信頼できる仲間だからこそ、これを託しているんだ」

ツバキ「……はは、なんだか照れちゃうね。そうか、はは、なんだか嬉しいよ、レオン王子」

レオン「僕の命令を聞いてくれるか、ツバキ」

ツバキ「もちろんだよ。レオン王子」

レオン「ありがとう、ツバキ。それとサクラ王女」

サクラ「は、はい」

レオン「カザハナと一緒に、ここに隠れていてくれ」

サクラ「いえ、私も――」

レオン「カザハナの傍にいてくれ。もしも意識が戻った時に一人じゃ心細いはずだから」

サクラ「レオンさん」

レオン「え、えっと。あと、これは僕をサクラ王女たちが信じてくれてる、そう信じているから言わせてくれないかな?」

サクラ「はい?」

レオン「僕に、君たちを守らせてほしい。こんな僕を信じてくれた君たちを、守りたいんだ」

サクラ「な、なんだか照れてしまいます。……わかりました、レオンさん。私たちの命、預けさせてください」

レオン「ありがとう。……ツバキ、合図したら扉を開けてくれ、あいつを後悔させてあげたいからさ」シュオン

 ギギギギギ シュオオオオオオンッ

ツバキ「わかったよー」

レオン?『何をゴチャゴチャ話をしているんですか? まあいいです、もうそろそろ扉も限界、開けたらすぐに殺してあげますからねえ』

ツバキ「はは、それは楽しみだねー」

レオン?『その余裕、どこまで続くか――』

レオン「ツバキ!」

ツバキ「!」
 
 カチャ ガチャン

レオン?「えっ?」

レオン「覚悟はいいね?」シュオオオオオオン

 ドゴォン

レオン?「ひええええっ!」
 
 サッ

レオン?「ふぅ、どうにか避けられました。さすがはレオン様の攻撃ですねえ……。!!」

 バチバチバチバチ 

レオン?「魔力の余波を受けて、幻影魔法が……このままでは!?」

 タタタタタタッ

レオン「逃がさないよ」

ツバキ「サクラ様、鍵を閉めて待っててくださいねー」

サクラ「はい。あの、レオンさん」

レオン「なんだい?」

サクラ「カザハナさんと一緒に待ってますから、必ず迎えに来てくださいね」

レオン「うん、必ず迎えにくるよ」

サクラ「は、はい///」

 バタン ガチャンッ 

レオン「行くよ、ツバキ」

ツバキ「わかったよー。それに、俺もあいつを叩きのめさないと気がすまないからね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 タタタタタッ

???「くっ、幻影が維持できな――」

 ボンッ!

???「し、しまった」

レオン「鬼ごっこは終わりだよ」

???「そのようです、レオン様……」クルッ

レオン「まさか……お前だったとはね……」




レオン「ゾーラ」





ゾーラ「くっ、なんですかこれは、なんで私の思ったとおりに進まないのですか? 白夜の捕虜を全員始末してレオン様はかつての冷酷さを取り戻すはずだったのに!」

レオン「お前が裏で暗躍していたのか」

ツバキ「こんなのに惑わされてたとか、カザハナ知ったら傷つくだろうなぁ」

ゾーラ「死ねばいいんですよ、あんな小娘。うまく利用できましたよ。カムイ王女に罪を着せるための情報もペラペラしゃべってくれました。所詮は夢見がちな小娘、『似合って』という言葉で心に隙間ができるとは思いませんでしたからねえ」

レオン「なんども僕に化けて接触していた、そういうことだね……」

ゾーラ「ええ、察しがいいですねえ。ですが流石にカムイ王女には見抜かれかけましたから、一度だけにしましたが」

レオン「……姉さんにも言語チャームを仕掛けたのか!?」

ゾーラ「カムイ王女は隙のない方でしたから、まさか背を指摘されるとは思いませんでしたからねえ。ですから言語チャームなど仕掛ける暇もありませんでしたが、うまく事は運びましたよ。結果は失敗でしたが」

レオン「昨日、僕にも仕掛けてくれたみたいだね。マクベスに扮して話しかけてきた時に『あなた自身のために』っていう言葉でさ」

ゾーラ「……すでに解除済みというわけですか、流石はレオン様です」

レオン「嫌な話だけど、お前の仕掛けた言語チャームはマクベスが処分してくれた。僕に下級魔法が掛ってることに気が付いてね。そして、昨日お前がさんざん僕に望んでいたことを思い出した」

ゾーラ「ええ、私はレオン様の心の底に眠っている願望を言葉にして差し上げようとしただけのこと。なにせ、何も工夫をこらしていない下級魔法の言語チャームに掛るような状態でしたからねえ」

レオン「そうだね。そこは僕の落ち度だ」

ゾーラ「………ならお分かりでしょう? このゾーラ、すべてはレオン様のためにやったこと。レオン様を悩ませる毒を取り除いて、昔のレオン様に戻っていただきたいという思いを――」

レオン「……てみろ」

ゾーラ「?」

レオン「もう一度同じことを言ってみろ。生まれてきたことを後悔させてやる」

ゾーラ「レオン様……」

レオン「ゾーラ、僕が管理する捕虜に手を出したこと、そして姉さんを罠に嵌めたこと……。これだけでもお前を死罪にするのは容易い、その罪を理解しているのなら、今すぐにでも自害しろ」

ゾーラ「……なぜ、なぜですか? 私は冷酷で威厳のあるレオン様に戻って頂けたらと……」

レオン「……」

ゾーラ「そうですか…。もうかつてのレオン様はいないということですか。ならもう、仕方ありませんねえ」

 パチン

 ……ピチャン

 ………ピチャン

 ガチャ ガチャ 

???「……」チャキッ

???「…」チャキ

レオン「ツバキ」

ツバキ「なにかいるね、すごく気配は感じられる」

ゾーラ「ひょーっほっほっほ!!!! レオン様、あなたの本当の姿はこの私が引き継ぎましょう。お任せください、白夜の捕虜も一緒に送って差し上げますから。私なりの最後の老婆心とでも思ってくださいねえ」

レオン「やれるものならやってみなよ。僕は、お前に負けるつもりなんてさらさらない。もちろん、サクラ王女たちを殺させるつもりもね……」

ゾーラ「さぁ、皆さん切り刻んでしまいなさい!」

???「!!!!」ダッ

ツバキ「レオン王子、指示を。戦う準備は出来てるから」

レオン「ああ、ツバキ、全力で敵を駆逐しろ。手加減は無用だ。思う存分、剣を振え」

ツバキ「了解したよ」

レオン(負けるわけにはいかない。必ず守り通して見せる!)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◆◆◆◆◆◆
―レオン邸『玄関ホール』―

 ガチャン!

カムイ「これは血の匂い……それに、この倒れている気配は……」

シャーロッテ「使用人みたいだけど……酷えことしやがる」

モズメ「ううっ、滅多刺しにされとる……。こんなんひどいわ」

アクア「一体誰がこんなことを……」

シャーロッテ「……どうやら私たちも同じようにしたいみたい」

 タタタタタッ

???「……」チャキ

???「……」カチャコ

カムイ「!? この敵は……」

シャーロッテ「なにこれ、気配はあるけど姿が見えないじゃないの。卑怯極まりないわね」

モズメ「でも、気配駄々漏れやから問題あらへん、森の獣と変わらんよ。それよりシャーロッテさん、早くサクラ王女とカザハナさん助けへんと」

シャーロッテ「わかってるわよ。か弱い女の子を虐めるような奴ら相手に、手加減はしねえ」

カムイ「さぁ、皆さん武器を構えてください。これより、戦闘に入ります――」

「レオンさん達を、助け出しますよ」

今日はここまでで

 ヒノカ番外編はカム子でもスケベになる予定でした。
 カムイに初めての体験を教えるヒノカ姉さん的なの。

 #FEチケットヤッター

 SDカード破損でデータが6つ飛んだ。少しの間、ノスフェラトゥに殴られたリリスみたいになってた気がする。

 そろそろ1000が近いので、この章とギュンターifでこのスレは終わりになると思います。
 
 次の展開を安価で決めたいと思います。参加していただけると幸いです。

◇◆◇◆◇
 次の戦闘における固定チーム
・チームレオン(レオン、ツバキ)
・チーム舞踏女会(シャーロッテ、モズメ)


○カムイが一緒に行動することになるチーム 
・チーム舞踏男会(ハロルド・ラズワルド)
・チーム元祖レオン(オーディン、ゼロ)
・チーム血みどろ+(カミラ、ピエリ、リンカ)
・チーム歌姫(アクア、ギュンター、ニュクス)
・チーム城塞コンビ+(フローラ、ジョーカー、ブノワ)
・チーム移動盾(エリーゼ、エルフィ、フェリシア)
・チーム移動迎撃(ベルカ、ルーナ)
・チーム忍道(アシュラ、スズカゼ)

 今回も多数決で決めたいと思います。最初に3回名前の挙がったチームになりますので、よろしくお願いします。

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

???「!」チャキッ ブンッ

 サッ

シャーロッテ「甘いんだよ。おらぁ!!!」ブンッ
 
 ザシュッ

モズメ「いくで!」パシュッ パシュッ

 トススッ 

???「」ドサッ

 シュォオン

シャーロッテ「ありがと、モズメ」

モズメ「気にせんでええよ。それにしても気味悪いわ、当たった手ごたえはあるのに、その場から消えてまうなんて」

カムイ「敵の詮索は後回しです。今はレオンさん達を見つけ出しましょう」

シャーロッテ「で、どうするの?」

カムイ「ゼロさん、それにオーディンさん。レオンさんがサクラさん達を守るためにどこに陣を取るか予想できますか?」

ゼロ「陣取るねえ、なら一番向いてるとすれば……」

オーディン「……レオン様の自室だな。あそこはこの家の中で一番頑丈にできてる」

カムイ「では、そのレオンさんの自室までの案内をお願いできますか?」

ゼロ「ああ、いいぜ」

オーディン「はい、任せてください」

カムイ「……信頼してるんですね。レオンさんのこと」

ゼロ「レオン様がこんなことで死んじまうとは、そもそも思っちゃいないからな」

オーディン「レオン様が倒れるときは、少なくとも俺とゼロが倒れた後のこと。そう黒き風がそう囁いている」

カムイ「ふふっ、では二人ともお願いします。シャーロッテさんとモズメさんは後続から接近する敵の排除を」

シャーロッテ「わかりましたぁ」

モズメ「わかったで」

オーディン「カムイ様、俺が先行します。ゼロ、援護よろしく」

ゼロ「ああ、お前に見惚れる奴を片っ端からイ抜いてやるさ。そういうわけでカムイ様は俺たちより――」

カムイ「ゼロさん、そういうわけにもいきませんよ。あの、オーディンさん――」ピトッ

オーディン「ひええええっ。いきなり触らないでくださいぃ」

ゼロ「何に怯えてんだ、お前は」

カムイ「そんなに怯えないでくださいよ。これじゃ約束の名前決めの時、困りますよ?」

オーディン「今は名前を決める時じゃないんですから」

カムイ「私とオーディンさんで先頭を進みましょうと……、そういう意味で手に触れたのですが」

オーディン「そ、そういうことですか……あの、すみません、いろいろと……」

カムイ「いえ、こちらも色々と考えられることがあったと思いますから。それで、私と一緒に戦ってくれますか?」

オーディン「ふっ、いいだろう、この漆黒のオーディン、カムイ様と敵陣を駆け抜けさせてもらう」

カムイ「はい、頼りにしてますよ、オーディンさん」

オーディン「ああ」

カムイ「他の皆さんは数名を玄関ホールの守備に、残りの方々は館内の敵を殲滅してください。相手は姿が見えません、不意打ちには十分気をつけるようにお願いします」

ゼロ「それじゃあ、行こうか」

カムイ「ええ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「はぁ!」

ツバキ「それっ!」

 シュオォォン ザシュ

???「」ドサッ 

レオン「くっ、次から次へと切りがない……ツバキ!」シュオォオン

ツバキ「こっちもなんとかできるけど、これじゃ何時になってもあいつに近づけそうにないね」

ゾーラ「ひょーっほほほほ!!!! どうしたのですか? これではいつまでたってもこの私に手が届きませんよぉ? まったく、そんな白夜の人間など放って私を殺しに来ればいいではないですか。前のレオン様ならすぐにそうしたでしょう」

レオン「お前の指図を受けるつもりはないよ。昔から僕は変わっていない、そしてツバキは僕の仲間だ。お前のような下衆なら切り捨ててもいいが、ツバキはそれに該当しない。これが僕の答えだ」

ゾーラ「そうですか、ならその仲間と一緒に殺されるといいでしょう。これで、どうですかねえ!」シュォオオン

???「」ズビシャ ドサッ

 サッ

ツバキ「よっと、自分の仲間も巻き添えとか、無茶なことするねー」

ゾーラ「関係ありませんからねえ。この者たちが死のうと死ななかろうと、レオン様は元に戻られない。つまり、ここで死んでも何の問題もない、そういうことです」

レオン「仲間を過剰に犠牲にする戦いに何の意味がある?」

ゾーラ「過剰? 過剰とは面白いですねえ。望みが達せられなければ、犠牲は無駄というもの。まさか、レオン様とあろう方がそれを理解していないとは」

レオン「そうだね、お前の言っていることは間違っていない。考え行動した以上結果を出さなければいけないことは、戦う以前にすべての物事の決まりでもある」

ゾーラ「そうでしょう、レオン様」

レオン「……だが、ゾーラ。お前の野望はすでに崩れている。僕はお前の思い通りになるつもりはない。なら、その野望を続ける必要はない、仲間を失った果てが僕の死しかないなら、君は作戦の立案者には向いていないよ」

ゾーラ「レオン様の死が、私をレオン様にしてくださいますから問題はありません。なに、あなたのご家族の方々も見破れないほどに完璧なレオン様として、私が後を引き継がせていただきますので、この犠牲は無駄ではありません。それにこの犠牲の中にちゃんとレオン様も入っておられます。あなたの犠牲があってこそ、私はレオン様になり得るのですからねえ」

ツバキ「聞いてるだけで鳥肌になりそうなんだけど……」

レオン「僕はすでに背筋が凍ってるよ。こんな奴と知り合いだったなんて、本当にゾッとするよ。その不安も今日で終わりにさせてもらうからね」

ゾーラ「言ってくれますねえ、いくら魔法に精通していると言えど、このまま続けば私の勝ちでしょう。物量で押しつぶしてあげます。レオン様の最後にしては美しくはありませんが、これも仕方ないこと。レオン様も白夜の豚もグシャグシャになってしまいなさい」

???「」シュォン

レオン「まだ来るみたいだ」

ツバキ「ボヤいてる暇なんてなさそうだよー」

レオン「ああ……」

ツバキ「レオン王子……」

レオン「なんだい、ツバキ」

ツバキ「もしかして、俺に戦うように言ったこと、後悔してるとか」

レオン「そうだね、正直ここまでのことをゾーラがしてくるとは思っていなかった。間違いなく、敵の力を甘く見過ぎていたんだと思う」

ツバキ「ははっ、なら俺も同じだよ」

レオン「そうかい?」

ツバキ「威勢がいいのは負けの証拠、そう思ってるからねー」

レオン「そんなこと言ったら、ツバキはいつも威勢がいいじゃないか」

ツバキ「あー、そうでしたっけ」

レオン「とぼけるのはよくないね。だけど、僕はツバキのそういうところ嫌いじゃないよ。カザハナと同じで遠慮のないところとかね」

ツバキ「そうですか、よかったー。正直、最初は嫌われても別にいいかなーって思ってたから、そう言われるとなんだか照れちゃうね」

レオン「ははっ。ツバキ、僕と一緒に限界まで戦ってくれるかい」

ツバキ「もちろんだよ、レオン王子」

ゾーラ「さぁ、皆さん行ってきなさい!」
 
 タタタタタタッ

ツバキ・レオン「来い!!!!」

シュオォン

 チャキッ

???「!!!!」ブンッ

 ザッ

レオン「え?」

 タッ シュオォォン

「必殺アウェイキング・ヴァンダーーーー!!!!!」

 バチィン!!!!

「まだ終わりじゃありません。せやああああっ!」ダッ

 ザシュン

「最後に俺がイカせてやるよ」パシュン ドスッ

 ドサッ
 
レオン「な、なんで――」

???「」ザッ チャキン!

ツバキ「レオン王子!」

ツバキ(こ、これじゃ、間に合わない!)
 
 タタタタタッ ダッ

「ぶっ飛ばすぞ、おらぁ!」ドゴンッ

???「」フワッ
 
「跳ねたみたいやな。ほな、これでもくらい!」バシュンッ ドスッ

???「」ドサッ

ツバキ「す、すごい」

「ふぅ、どうにか間に合ったみたいですね」

レオン「ど、どうして姉さんここに?」

カムイ「色々ありましたから。とりあえず、ギリギリ間に合ったので及第点というところでしょうか」

シャーロッテ「援護ありがとうございますぅ、モズメさん」

モズメ「おおきに。シャーロッテさんが走り出したから追いかけたけど正解やね。跳ねた気配を打ったんは初めてや」

ゼロ「しかし、気配だけでもわかるもんだ。どこに当たればイけるのか」

オーディン「だけど俺の姿どうだった。これこそ、真打登場って感じに決まったんじゃないか」

カムイ「ええ、すごかったですよ。オーディンさんのおかげで、私も斬り込むことができました」

ゾーラ「な、か、カムイ様、どうしてここに!?」

カムイ「初めて聞く音色ですね。一体どちら様かは知りませんが……。レオンさん達を襲った方々の来る方角にいると言うことは、敵で間違いなさそうですね」

ゾーラ「くっ。どういうことですか、あなた方はノートルディアへ向かったはず。とてもすぐに戻ってこれる距離ではないと言うのに」

カムイ「ええ、本来なら間に合うこともなかったんでしょう。でも、これではっきりしました。どうやらあなたが私とレオンさんが探していた内通者、その正体なんですね」

ゾーラ「私は宮廷魔術師のゾーラ。まだカムイ様とは正式にお顔合わせはしていませんよ」

カムイ「正式には?」

ゾーラ「教えて差し上げたではありませんか、クリムゾンに疑問を抱いている者たちがいると。あなたは予想通りに動いてくれたのでなによりでしたよ」

カムイ「……あれはレオンさんが私に伝えたこ――まさか、あの時私に会いに来たレオンさんが偽物だったと言うことですか」

ゾーラ「ひょーっほほほほ。しかし世界を気配で認識するあなたには、私の背を見抜かれてしまっていたようですから、あれ以降悪戯ができませんでした、本当に鼻の利く方です。不愉快ですねえ」

カムイ「……私も一枚噛まされていたということですね。ですが、これであなたが私たちの敵であると言うことが、証明されましたね」

ゾーラ「証明など必要ないこと。なぜなら、ここに来てしまった以上、皆さんには死んでもらわなければなりませんからねえ。ご心配なく、カムイ様はノートルディアで死んだと言うことにさせていただきます。後世には役に立たない王女の一人として、名を残していただきますよ。あなたの仲間たち共々ねえ」

カムイ「そうですか、私の仲間にはカミラ姉さんやエリーゼさんも含まれているんですよ」

ゾーラ「私の好きにしてよいと、言われていますからねえ。現場のことは現場が決めることですからねえ。カミラ様もエリーゼ様もカムイ様に誑かされた不幸な御方ですねえ」

レオン「ゾーラ!!!」シュォオオオン!

 ヒュン!

ゾーラ「ひょーっほほほ。カムイ様、あなたはシュヴァリエで死ぬべきだったんですから、私が丁重に送ってあげます。ありがたく思っていただきたいですねえ」

カムイ「……たしかに私はシュヴァリエで死ぬべきだったのでしょう。ですがまだ生きてここにいる以上、その送迎を受け入れるわけにはいきません。だから、あなたに殺されるわけには参りませんよ」

ゾーラ「そうですか。なら力づくでそうさせていただきます。さぁ、皆さん、ここにいる者を全員八つ裂きにするのです!」

 タタタタタタッ

 シュォオン
 
???「」チャキ チャキッ

シャーロッテ「奥に逃げたみたいですよぉ?」

ツバキ「ここに来て奥に逃げるかー」

ゼロ「別にいいだろ。それに追い詰めて追い詰めて、追い詰め切った先の恐怖に震える姿を見るのが楽しみになるからな」

オーディン「そうかもしれないが、結構気配の数が多くなってきたな」

モズメ「せやな。森の中で四方を熊に囲まれた時を思い出すわ」


カムイ「レオンさん、カザハナさんとサクラさんは?」

レオン「ああ、僕の部屋に匿ってある。ゾーラが奥に消えた以上、しばらくは安全なはずだよ」

カムイ「そうですか。すみませんがレオンさん、力を貸していただけますか? ゾーラさんから話を聞かなくてはいけませんから」

レオン「……だ」

カムイ「レオンさん?」

レオン「……逆なんだ、姉さん」

カムイ「何がですか?」

レオン「本当は僕が姉さんに頼むべき立場なんだ……」

カムイ「頼むべき立場というのは、一体」

レオン「カムイ姉さん、サクラ王女たちを助けるために、僕に力を貸してくれ」

カムイ「ど、どうしたんですか。レオンさんらしく――」

レオン「ちがう、ちがうんだ。僕は力を貸してあげるなんて、そんなことを言えるような人間じゃないんだ……」

カムイ「……」

レオン「僕は、姉さんたちの前で、ただ強くあろうとしてた。何でもできるって、出来のいい弟だって……そう思われて、悪い気はしてなかった」

カムイ「…レオンさん」

レオン「でも、実際は違う。僕は、姉さんに支えてもらいたかった、姉さんに甘えたくて、弱い僕を知ってもらいたかった。でも、姉さんに弱い自分を見せたら、拒絶されるんじゃないかって怖かった」

カムイ「……」

レオン「姉さんの目がもしも見えていたら、僕は素直になれたんじゃないかって、前まで思ってた。だって、目が見えないこと以外に、姉さんに出来ないことはほとんどなかったから、僕の悩みに気づいてくれるって。僕の悩みに気づいてくれないのは、目が見えないからだって……、そんなことあるわけないんだ。ただ、僕が意固地に弱みを隠し続けてきただけで、それを姉さんの所為にしてただけなんだ」

カムイ「……」

レオン「だから、だから、僕は頼まれる側じゃないんだ。こんな弱い僕は頼む側なんだ。だから、姉さん、僕に力を――」

 ダキッ

カムイ「レオンさん」

レオン「姉……さん」

カムイ「ごめんなさい。私はずっと、あなたを苦しめていたんですね」

レオン「ううっ……」

カムイ「どんなことがあっても、レオンさんなら大丈夫、レオンさんなら心配いらない。私もレオンさんのことを悩みや辛さなどとは無縁な人と、考えてしまっていたのかもしれません。だから、私はあなたの本当の悩みを考えたことがありませんでした。本当に私は、駄目な姉さんですね……」

レオン「謝らないでよ。僕が意固地で素直じゃなかっただけなんだ。そんな意固地な僕に、素直になることを教えてくれた人たちを助けたいんだ」

カムイ「はい、姉さんに任せてください。レオンさんのためにこの力を振います。戦いが終わったら、悩み事も言ってください、私もそうですけど、カミラ姉さんも力になってくれるはずです」

レオン「カミラ姉さんも、力になってくれるのかな」

カムイ「はい、だってレオンさんは私とカミラ姉さんの可愛い弟なんですから」

レオン「……うん、約束だよ」

カムイ「はい」

レオン「……姉さん、僕に力を貸してほしい」

カムイ「ええ、それじゃ行きましょう」チャキンッ

「レオンさんの大切な人たちを助けるために」

今日はここまで

 主人公はカムイ……だったはず。

 少しの間、更新できなくてすみませんでした。次かその次で、この章は終わる予定です。

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

???「」チャキ ダッ

ブンッ キィン!

カムイ「今です!」

オーディン「ふっ、俺の黒き闇の力が――」

レオン「わかったよ、姉さん」シュオンッ

 バチィン ドサッ

???「」シュオォン

 サッ

オーディン「ふっ、そんな攻撃でこの漆黒の――」

ツバキ「横から失礼するよー。それっ」ブンッ

シャーロッテ「援護しますよぉ。えいっ!」ブンッ

 ザシュンッ ドサッ

???「」タタタタタッ ダッ

オーディン「ふっ、斬り込みの勢いはいいが、空中では避けられ――」

モズメ「これでもくらい!」パシュッ

ゼロ「一緒にイかせてもらうぜ」パシュッ

 ザシュシュ! ドサッ

カムイ「これで足止めは片づけられたみたいですね」

レオン「姉さん、ありがとう」

カムイ「いいえ、私は攻撃を受けただけです。皆さんが援護に入ってくれなかったとっくにタコ殴りにされてましたから」

ツバキ「少しびっくりしたよー。いきなり前に出るものだから」

シャーロッテ「本当ですよぉ。無理はしないでくださいね?」

カムイ「私の範囲では大丈夫なことしかしてませんよ」

シャーロッテ「えへへ、カムイ様、ちょっと耳貸してくれますか~?」

カムイ「いいですけど、一体なんですか?」

シャーロッテ「そんなこと言ってると、アクア様に恐ろしい無茶したって零すぞ」

カムイ「あはい、すみません」

モズメ「さすがはシャ―ロッテさんや」

ゼロ「ほぉ、あのカムイ様が言うことを聞くとはねえ」

オーディン「……」

カムイ「あれ、オーディンさん? どうしたんですか、いつもなら『俺の力の暴走の前には~』とか、言うところじゃないですか」

オーディン「……俺、攻撃避けてるだけだったし」

ツバキ「そうだねー」

シャーロッテ「たしかに」

モズメ「せやな」

ゼロ「たしかにな」

レオン「まったく、何をやってるんだお前は」

オーディン「みんな早すぎるんだよ。もっとこうさ、『錆がまた増えちまう、お前の血でな』とか、『視界に入ったが最後、このサジタリウスの餌食になるがいい』みたいな、そんな口上をさ」

ツバキ「……ええっと」

レオン「ツバキ、すまない。オーディンはこういう奴なんだ。でも実際腕は立つ」

ゼロ「ああ、腕は立つぜ。変なことを零してるが実際実害はないから安心しておけ」

オーディン「実害はないって……、まるでぱっと見たら実害があるみたいな言い方だよな、それ」

カムイ「まぁ、オーディンさんに実害があるかどうかは、今は置いておくとしてですね」

オーディン「母さん、やっぱりめげそうだよ」

カムイ「ゾーラさんが逃げた先には何があるんですか?」

レオン「この先には庭園がある。多分奴のことだ、待ち伏せしてるだろうね」

カムイ「出来れば、相手が痺れを切らすまで待ちたいところですが。この気配だけの敵は無限に現れるようですから、罠と承知で進むしかありません」

シャーロッテ「結構危ない作戦ね」

モズメ「せやけど、このまま待っててもジリ貧やし。相手はどこから来るかわからへんから、玄関ホールで待ってる皆もそうやけど――」

ツバキ「なにより、サクラ様とカザハナの安全もあるからね。今はあいつの目的が僕たちを殺すことになってるみたいだから」

レオン「こっちから出向いて、正面から叩こう。回り道をしてる暇はないよ」

カムイ「……。レオンさん、庭園への入口はいくつありますか?」

レオン「庭園へはこの先を二手に分かれた先にそれぞれある形だよ」

カムイ「わかりました。私とゼロさんとオーディンさんは左から向かいますので、レオンさんは残りの方たちと一緒に右からお願いします」

レオン「残りって、何を言ってるんだい姉さん」

カムイ「囮は少ない方がいいです。それにゾーラさんにとっては私たちすべてが敵ですから、すぐに全員を私の方へ差し向けてくるはずです。私達が戦闘を開始して、敵の注意が私達に固まったのを見計らって、レオンさん達は一気に強襲してゾーラさんを仕留めてください。たぶん、この見えない敵もゾーラさんが呼んでいるはずですから」

レオン「……大丈夫なんだよね」

カムイ「はい……でも、そうですね。今、私はレオンさんに力を貸している立場ですから――」

レオン「いや、大丈夫だよ。こっちが囮になって姉さんに裏をかいてもらおうかと思ったけど、手前で何かを仕掛けられたら、何もできなくなる。さすがに、ゾーラもそこまで馬鹿じゃないはずだ。だから、僕は姉さんのその作戦で行くことにする。陽動をお願いできるかな?」

カムイ「はい。任せてください」

レオン「うん。ツバキ、モズメ、シャーロッテ。僕のタイミングに合わせてくれるかい?」

シャーロッテ「はぁい、まかせてくださぁい」

モズメ「まかせてな」

ツバキ「わかったよ」

カムイ「それじゃ、行きましょう」

 タタタタタタッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

オーディン「この先が庭園です、カムイ様」

カムイ「わかりました。オーディンさん、これを。たぶん役に立つはずです」

オーディン「これは……」

カムイ「では……準備はいいですか」チャキンッ

オーディン「リザイア持たせられたって、そういうことだよなぁ」パララララッ

ゼロ「安心しろ、少なからず俺が仕留めてやるさ」カチャッ

カムイ「結構、うるさく行きますよ。陽動しないといけませんから」

オーディン「え、結構うるさくって、どう――」

カムイ「てやぁっ!」ドゴンッ

 ガシャン! ザーーー

オーディン「蹴り開けした、この人蹴り開けしたよ!」

ゼロ「勇ましくていいねえ。股のラインが見えるところとか、特にねぇ」

 シュオォォン

カムイ「!」サッ
 
 バチィン!

ゾーラ「ひょーっほほほ。罠ということもわからないとは、つくづくお馬鹿な人ですねえ。レオン様を誑かした最初の毒も、同様に取り除かないといけないと言うことでしょう」

カムイ「レオンさんを誑かす毒ですか、なんだか卑猥な感じがしますね」

ゼロ「ああ、なんだかゾクゾクするフレーズだ」

オーディン「淫靡な毒も使えるってことか、すごく卑猥だな……」

ゾーラ「そんな減らず口も、すぐに言えない体にしてさしあげますよ」シュオオオオオオオン

 ピチャン ピチャン

???「」

ゾーラ「この雨の中で、気配を探れますか?」

カムイ「……やってみなければわかりませんよ」

???「」ダッ ピチャピチャ ブンッ

 キィン

オーディン「カムイ様に手を出すな。くらえ!」

 シュォオン グチャリ

???「」ダッ

ゼロ「余所見はよくないぜ」パシュッ

 ドスッ

???「」ドサッ

 ピチャン ピチャン ピチャン

???「」チャキッ

ゼロ「続々出てきやがったか」

カムイ「それでは行きましょうか、二人とも」ダッ

オーディン「って、カムイ様、俺が前に出ますから――」

???「」ブンッ

 ザシュッ

オーディン「ぐっ、だが、これも想定内だ。くらえ、リザイア!!!」

 バシュンッ

オーディン「ふぅ、どうにかなったな」

???「」フラッ

カムイ「せやぁ!」ザシュッ

???「」ドサッ

ゼロ「おらおら、たった三人に手こずるとはねぇ。歯ごたえの無い奴らだ」パシュパシュパシュ 

 トスッ トトスッ

 ドサリッ

ゾーラ「……苛立ちますねえ。ここまでコケにしてくるとは、でもこれだけだとは思わないことですよ。まずはあなた達を」シュオオオンッ

???「」ザザザザッ

ゾーラ「血祭りにして差し上げますからねえ」

カムイ「雨に混じってますが、結構な数がこちらにさし向けられたみたいですね。陽動としては上出来でしょう」

オーディン「あとは、耐えるだけ耐えろってことでいいのか」

カムイ「はい、耐え切って生き残りますよ。オーディンさん、ゼロさん」

ゼロ「当然だ。こんなところで死んだら、面白くないからな」

カムイ(あとは任せましたよ、レオンさん)

~~~~~~~~~~~~~~~

モズメ「……始まったみたいや」

レオン「よし、モズメとシャーロッテは後続が来たら対処してくれ、僕とツバキは突き進む」

シャーロッテ「わかりました~。モズメ、準備はいい?」

モズメ「準備はできとるよ。雨の中やけど、こういう中で弓を扱うのも慣れてるから、安心してや」

ツバキ「頼りになるね。これなら俺たちも安心して進めるよ」

シャーロッテ「でも、この雨の中で戦いとか、正直勘弁してほしいわ」

レオン「文句ならゾーラに言ってやるといい。あいつがそもそもの原因なんだからな」

シャーロッテ「それもそうよね。ふふっ、どうしてやろ?」

モズメ「シャーロッテさん、顔怖くなっとるよ」

ツバキ「ははっ、二人ともじゃれ合いはここまでにしてさ。ね、レオン王子」

レオン「ああ……。それじゃ、行くよ」

 ガチャン

 ダッ

 キィン シュオォオン

 ウワアアアア、キズガヒドイコトニナッテキタ。ダレカリザイア、リザイアサセテオクレー

 オーディンサン、マエニデスギデスヨ!

 ユカイソウデナニヨリダナ

シャーロッテ「まだまだ、余裕はありそうね」

モズメ「せやな。でも、次から次へと来られたら、いくらカムイ様達でも……」

レオン「ああ、だからゾーラを止める」

 ピチャン ピチャン

???「」チャキッ

レオン「ツバキ!」

ツバキ「わかったよー。こいつら出てきたばかりじゃ、何もできないみたいだからさ。ご愁傷様」ブンッ
 
 ゴロンゴロン ドサッ

レオン「そうみたいだね。追いかけてくる奴らはいるかい?」

シャーロッテ「少ないけど、こっちの動きに気づいたのが少しだけいるみたいね」

モズメ「まだ対処できるくらいや」パシュッ!

 トスッ ドサッ

レオン「思ったより、気付くのが早いみたいだね」

ツバキ「みたいだねー。でも、ここまで来たらもう突き進むしかないかな」

レオン「ああ、その通りだ。このままゾーラの場所まで押し切る」

???「」サッ

シャーロッテ「レオン様!」ダッ

 ブンッ キィン

???「」バッ ブンッ

 キィン

シャーロッテ「やろぉ、手えだすんじゃねえ!」ブンッ ドゴンッ

???「」ゴロン

シャーロッテ「はぁはぁ、大丈夫でしたかぁ?」

レオン「あ……ああ。大丈夫だ、ありがとう」

シャーロッテ「本当は怖かったんですよぉ。でもレオン様にもしもがあったらって、がんばっちゃいましたぁ」

レオン「へ、へぇ……」

モズメ「レオン様、結構な数が追ってきとるよ」パシュパシュ

レオン「急ぐよ、みんな」

レオン(この先にテラスがある、奴はそこにいるはずだ……)

 タタタタタタッ

ツバキ「っと」キィン

レオン「これで!」シュオォン! ザシュッ

 ドサッ

ゾーラ「! な、なぜここにレオン様が!? あいつらの後方にいたのではないのですか!?」

レオン「生憎、お前の考えることなんて予想済みでね。ここまで接近を許すなんて、やっぱりお前にはそういった才能はない。あるのは、下衆の才能だけだ」

ゾーラ「ぐっ……言ってくれますねえ」

レオン「さぁ、大人しく覚悟するんだね」シュオォン

ゾーラ「ひょほ、ひょーっほほほ! 甘いですよお、レオン様!」シュォオオン

 ザザザザッ

 ザザザザッ

ゾーラ「この数をそんな人数でどうにかできると思っているのですかぁ」

ツバキ「レオン王子、どうするー?」

レオン「シャーロッテ、モズメ。この雑魚たち、任せられるかい?」

シャーロッテ「わかりました~」

モズメ「シャーロッテさんと一緒に片づけたる」

ゾーラ「何を言ってるんですかねえ。この私に近づけるわけなんて、無いに決まってるんですよぉ!」

???「」ダダダダダッ 

シャーロッテ「目触りなんだよぉ!」 ブンッ クルクルクルクル ザシュッ!

モズメ「負けてられへんよ!」パシュッ ザシュ!

レオン「行くよ、ツバキ」

ツバキ「はい、レオン王子」ダッ

 シャキンッ バシュッ!

レオン「塵になれ!」シュォオオン ザシュシュシュッ ビチャァ

ゾーラ「レオン様、この私の魔法で、汚れから解放されてくださいねえ!」ボワワッ ヒュンヒュン

レオン「そんなのは、ごめんだよ」サッ

???「」サッ ダッ!

 ドゴォン ドサッ

シャーロッテ「レオン様には指一本触れさせねえからな。……モズメ、平気?」

 ピタッ

モズメ「はぁはぁ、んっ、すこし辛くなってきたわ」

シャーロッテ「あと少し頑張るだけなんだから、女の根性見せなさいよ」

モズメ「ふふっ、やっぱりシャ―ロッテさんは頼りになるわ。なんやか、あたいのおっ母となんかそっくりなこと言っとる」

シャーロッテ「ありがと。だけど、まだそんな歳じゃないし、これでもか弱い女の子で通してるんだから」

モズメ「もう、レオン様、そう思ってくれてそうにないで?」

シャーロッテ「……ま、まだ、許容範囲のはず……」

モズメ「せやな、本当はもっと、暴れまわってるはずやし」

シャーロッテ「言ってくれるわね、モズメも」

モズメ「ご、ごめん。でも、そんなシャーロッテさんやから、あたい背中を預けられるんや」

シャーロッテ「私もよ。それじゃ残りをちゃちゃっと、こなすわよ」

モズメ「まかせとき、シャーロッテさん」パシュッ 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゾーラ「行けええ!」

???「」ダッ

ツバキ「しつこいね、もう負けを認めたらどうかなー?」

ゾーラ「認めるくらいなら、死んだ方がマシというものですねえ」

レオン「なら、さっさと自害したらどうだい。もうお前の負けだ」

ゾーラ「いいえ、私が望む、レオン様に戻られるのなら、死ぬまで戦いをやめたりしませんよお」

レオン(くそっ、あいつの持っているあの本が、こいつ等を呼び寄せている媒体か。あれさえどうにかできれば)

ゾーラ「さぁさぁ、まだまだ出して差し上げますよ!」シュオォン

???「」

ツバキ「はぁはぁ…、んっ、レオン王子!」

レオン「ああ、どうにかしてゾーラの懐に飛び込まないといけない。でも、一体どうすれば……」

ツバキ「……一か八かだけど、面白い方法がありますよー」

レオン「どういう方法だい」

ツバキ「えっとですね――」

???「」サッ

 キィン シュオォンッ バシュッ ドサッ

レオン「……なるほどね」

ツバキ「もう、みんなも限界かもしれない。だけど、失敗した時は……」

レオン「だけど、その瞬間をゾーラが見逃すかな?」

ツバキ「それをさせないようにするがの、レオン王子の役目ですよ。俺もこんな案を出したくないよ。ぶつけ本番、俺実はすごい苦手だから」

レオン「そうは思えないけど」

ツバキ「ええ、隠してますから。あまり知られたくないことなんで」

レオン「……そう。なんだか、僕たちは少し似てるね」

ツバキ「そうかもしれませんねー。だから、正直上手く行くかわからないことは、あまり試したくないんだけどね」

レオン「大丈夫だ」パシッ

ツバキ「?」

レオン「僕はツバキの剣の腕と動きを評価している、それだけで僕はお前を信じる理由になる」

ツバキ「ははっ、俺はレオン王子が面と向かって言ってくれたってことだけで、信じる理由になるよー」

レオン「意見は一致したね」

ツバキ「そうみたいだね」

レオン「……やるよ」

 ダッ

ゾーラ「むっ?」

 タタタタタッ

レオン「はあっ!」

ツバキ「せい!」

???「」ドサッ

ゾーラ「突撃ですか、レオン様らしくもない手ですねぇ。いやいや、カムイ様などのことを気にして、強硬手段に出たということですか。甘い甘いですねえ、自分だけでも生き残れるようにするなら、他は捨てきらないといけませんからねえ!!!!」パララララッ シュオオオオオオンッ

 ピチャン ピチャン ピチャン

???「」ダッ

ツバキ「レオン王子、前に出ます!」

レオン「任せたよ」

レオン(あとはタイミング次第だ。すべてがうまく、タイミングよくかみ合うことを、それだけを……)

ツバキ「くっ、邪魔だああああ!」ザシュッ

ツバキ(一人目、ここから)

レオン(次の攻撃が来る。ツバキ!)

ツバキ「それじゃ、始めるよ。レオン王子!」ダッ

 キィンッ ギギギギギギッ

ツバキ(思ったより難しいね、この攻撃を受け止め続けるのは、だけど、そうしないといけない。あとは……)

ゾーラ「おやおや、疲れているのですか? 受け止めてしまうとは、どうやら死にたいみたいですねえ」シュオオオオンッ

レオン(今だ!)

 ダッ バシュッ

レオン「捉えたぞ、ゾーラ!」シュオオオオンッ

ゾーラ(……なんですかそれは……。レオン様とあろう方が、そんな避けられない空中で私を捉えたなどと……。確かにその白夜の毒を踏み台にして私を狙うと言うのは、いい案ですが……)

ゾーラ「お笑い草ですねえ、レオン様!!!」シュオオオンッ

ツバキ(レオン王子!)

レオン「……」

レオン(捉えられたみたいだね。流石にツバキと僕とでは、ゾーラの考える脅威判定は、僕になるはず。でも、これで――)

レオン「決まりだ」パッ

 ザシュシュシュ!!!

???「」グチャリッ

ゾーラ「甘いですよお。待機していた者が一人いるのですから、盾にさせていただきました」

レオン「……」

ゾーラ「やはり、あなたは私の知るレオン様ではありません。潔くここで塵になってくださいねえ!!!!」シュオオオオンッ

ゾーラ(これで終わり、レオン様を殺して、私が新しくレオン様として、かつての姿を――)

レオン「やっぱり、僕にだけしか気を配ってない。それがお前の汚点だ、ゾーラ」

ゾーラ「なにを――」

ツバキ「そう、それに感謝しないとね」

ゾーラ「?」

ツバキ「その三人目が邪魔だったんだからさ」ガシッ

ゾーラ「!?」

???「」グググッ

ツバキ「お返しするよ!」ブンッ

???「」

ゾーラ(まさか、この気配だけの奴を投げてきた!? まったく――)

ゾーラ「使えないですねえ!」シュオンッ ボワッ

 グシャ ビチャ!!!!

ゾーラ(し、しまった。もう一度魔法の準備――)

 サッ パララッ

ゾーラ「えっ?」

レオン「……燃えろ」

 ボワワ

ゾーラ「あつっ!!!! あああっ」

 メラメラ シュン パサパサッ

ゾーラ(し、しまった。あの方から頂いた魔術書が……で、ですが、まだ――)

ゾーラ「まだ終わりでは――」バッ

 シュキンッ

レオン「チェックメイトだ、ゾーラ」

 バシュッ ボトリ

ゾーラ「あ、あえ?」
 
 ポタポタポタポタ プシャーーーー

ゾーラ「ひぎゃあああああああああ。腕、私の腕がああああああ」

 ドサッ 

ゾーラ「ひぎいいいああああああ」

レオン「ふぅ……ツバキ」

ツバキ「ははっ、何とかうまくいった。死ぬかと思ったよー」

レオン「本当だよ。……奴らの気配は消えたみたいだね」

ツバキ「そうみたいだ。でも、殺さないの?」

レオン「ああ、こいつにはまだ死んでもらうわけにはいかない。……本当はすぐに殺してやりたいところだけど、聞きたいことがある」

「いろいろとね」

今日はここまで

 次回で、このスレの本篇は終わりです。
 
 残りはギュンターifです

 まさか3スレ目か……

 スマブラでカムイ配信開始したね。淡々とした拍手顔がやはりやばかった。

◆◆◆◆◆◆
―レオン邸・庭園―
 
 ガシッ ガンッ

ゾーラ「ぐぐっ、止めを刺さないとはやはり甘くなられましたねえ、レオン様」

レオン「黙れゾーラ。洗い浚いしゃべってもらおうか」

ゾーラ「ひょほほ、殺したくても殺せないというのは、辛いものですねえ。ですが、何も話すつもりはありませんよ、あなたのような軟弱な王子などに」

レオン「……そうかい。じゃあ」ググググッ

ゾーラ「ぐっ、ぐぐぐっ……」

カムイ「レオンさん、こういった形では何も話してくれそうにありませんよ」

レオン「……本当に止めを刺さなかったのは間違えだったよ。使い物にならないね」パッ

 ドサッ

ゾーラ「ごほ、ごほっ。ひょほほほ、カムイ様も残念でしょうがないでしょうねえ。目の前に、あなたの従者が死ぬ原因ともなった人間がいると言うのに、殺せない。本当に同情しますよぉ」

カムイ「……良かったですね、ゾーラさん。ここにピエリさんがいたら、あなたはとっくに血達磨になってたことでしょうから」

ゾーラ「そうですか、それは感謝しないといけません。ありがとうございます、カムイ様。ひょほほほほほ、愉快痛快ですねえ」

カムイ「……あなたの野望を最後の最後でどうにか折ることはできました。でも、私たちはあなたの策に絡めとられていた、敗北と言っていいですね」

ゾーラ「ええ、ここまでうまく嵌ってしまうとは思いませんでしたよ。最後の最後であなたが邪魔に来なければよかったんですから。ですが、あなたの心にも一筋の傷を与えられたのですから、私としてはとても満足というものです。あなたの従者を、一人殺すことができましたから、もう少し死んでしまえばよかったんですけどねえ。その心が壊れてしまうくらいに」

カムイ「あと一歩でそうなるところでしたよ」

ゾーラ「ひょほほほ、あなたはこの国の王族などにならなければよかったんですよ。そうすれば、私がこのようなことをする必要も、従者が死ぬこともなかった。火を見るよりも明らかな事実ですねえ」

カムイ「なぜ、こんなことをするんですか。誰も得をしない、こんなことを……」

ゾーラ「かつての栄光あるレオン様に戻っていただく、ただそれだけのために行ったまで。これは、あのお方も望まれていたこと。まぁ、シュヴァリエ密告の件は私の独断ですが、本来ならそれが仕上げでしたのでねえ。それにあのお方なら既にこの事は見抜いていたことでしょう、それを黙認したと言うことはわかっていたんですねえ」

レオン「……何をわかっているって言うんだ」

ゾーラ「すでにレオン様が毒に犯され腑抜けになってしまうことを見抜いていたのでしょう。だから、私に任せてくださったのですよ」

カムイ「……任せたとは一体何をですか?」

ゾーラ「ひょほほほ、レオン様の監視ですよ。白夜の捕虜に誑かされていないか、私も最初はこんなこと必要ないと思っていましたが、日にレオン様が白夜の豚どもに蝕まれているのをひしひし感じました。ですから、化けて探らせていただきましたよ。あのカザハナという小娘はすぐ術に掛ってくれました。色々としゃべってくれましたよ。ですからシュヴァリエ反乱の首謀者の一人として、カムイ様を仕立て上げるのはとても簡単でした」

カムイ「……私が正規軍を率いると言う話を聞いてマクベスさんが悩んでいたことも、すべて理解した上でやったと言うことですね」

ゾーラ「ええ、マクベスがあなたに向けているものがどんなものかは、赤子でも理解できますよ。どちらに転んでもマクベスにとっては痛手にならない、あなたへの不信感ばかりが募るものにできました。本当に見ていてこれほど面白いものはありませんでしたよ。もっとも、あなたがシュヴァリエで死ななかったことは、誤算ですがねえ。あなたが死ねば、レオン様も目が覚めるだろうと思ったのですから。しかし、それはどうやら間違えでした。一番の毒はやはり白夜の豚どもだったと言うこと、その点ではカムイ様には嫌がらせをしただけに過ぎないでしょう。ひょほほほ、愉快ですねえ」

カムイ「それがあなたの理由ですか……」

ゾーラ「私にとっては命を掛けるに値する理由ですよ、ここまでやってきた諜報が実を結んだと思った矢先で、邪魔をしてきた雌豚に言われたくないですねえ。まあ、もっとも私の変装を完璧に見破れなかった時点で無能以外の何物でもありませんねえ!」

カムイ「……」

ゾーラ「本当に、死んでしまったあなたの従者は不幸な方ですよ。主がしっかりしていれば、死ぬこともなかったというのに、こんな主の下で命を掛けていては、いずれそちらの皆さんも犬死することになるでしょうねえ。ひょーほほ―――」

カムイ「!!!」ガッ ドゴンッ

ゾーラ「がっ、はうっ!!!」

カムイ「……」

ゾーラ「ひょほほほ、殺しますかぁ?」

カムイ「………」

ゾーラ「さぁ、殺してもいいんですよお? もっとも、話は聞けなく――」

カムイ「…………本当に、その通りですね」

ゾーラ「?」

カムイ「あなたの言うように、リリスさんが死んだのは私の未熟さでしょう。あなたの変装に気付けなかったことよりも、その先でリリスさんの言葉に耳を傾けられなかった。あなたに言われなくても、痛感してるんですよ」

ゾーラ「ひょほほほほ。そんなあなたに付いて行くのですから、臣下はみな馬鹿揃いというわけです。これは傑作ですねえ」

カムイ「ですが、一つだけ言わせてもらいます」グッ

ゾーラ「なんですか、言って――」

 ブンッ ドゴンッ

ゾーラ「げぴっ!」
 
 ドサッ

カムイ「私を信じてくれたリリスさんと、今も私に力を貸してくれる皆さんを侮辱することは絶対に許しません。もう、あなたから聞くことは何もなさそうです」

レオン「姉さん、こいつを生かしておく意味は無い、僕が――」

カムイ「いいえ、私がやります。こんな人をレオンさんが斬る必要はありませんから」

 ザッザッザッ チャキッ

ゾーラ「……こんな人ですか。それを斬るカムイ様は一体何なんでしょうねえ?」

カムイ「さぁ、なんでしょうか。どちらにせよ、その答えをあなたに言う必要はありませんね」


 ヒタッ ヒタッ

ゾーラ「ひょほ、ひょほほほほほほ」

レオン「この土壇場で、怖さに気が狂ったか?」

ゾーラ「壊れた、違いますねえ。壊れるのは皆さんのほうですよお」

レオン「貴様、何をいきなり、言いだす」

ゾーラ「本当に、甘い方ですよ。あなた達は!」

 ザッ ブンッ

 キィン!

カムイ「くっ……一体どこから!?」

 カラカラカラカラカラカラ シュオンッ

カムイ(この音は式神!? どうしてこんなとこ――)

レオン「姉さん!」」

 バチィン

カムイ「きゃああああああっ!!!!」ドサ ドサリッ

レオン「!!! 姉さん、姉さん、しっかり!」

ゾーラ「ひょほほほ、さすがに倒し残りがいるとは思いませんでしたか。やはり無能ですよお、助かりましたよあなた達」

???「」チャキッ

???「」カチャ

レオン「くっ、一体どこにいたっていうんだ」

???「」チャキッ ダッ ブンッ

シャーロッテ「させるかよ!」

 キィン

シャーロッテ「けっ、武器も見えないって意味わかんないんだけど、カムイ様に手を出すんじゃないよ!」ブンッ 

 サッ

???「」クルクルクルクル 

シャーロッテ「決めてくれるじゃねえか」

???「」チャキッ

シャーロッテ(本当にこいつらだけなのか。だとしても、こいつ、さっきの奴らより強い)

???「」カラカラカラカラカラ シュオンッ!

オーディン「ここは俺に任せてもらおうか、この漆黒のオーディンの力、受け止められるか!!」シュォオオオン ボワッ

 ガキィン

???「」クスクスクスクスッ

オーディン「笑うような仕草を取るとか、余裕ってことかよ」

???「」カサリッ

オーディン(……他に気配は感じないが注意しないと)

カムイ「シャーロッテさん、オーディンさん。くっ……」

カムイ(思った以上に魔法をもろに受けてしまいましたか。すでに戦闘は終わったと油断していたということでしょう)

ゾーラ「ひょほほほ、どうやら一人は殺せそうですねえ。最後の最後でよくやってくれました。さぁ、誰か一人を殺してください、おねがいしますよ」

カムイ(なんでこのタイミングでこの二つの気配は現れたんでしょう。ゾーラさんはあの時、すべての気配に指示を出していたはず。従わなかった者たちがいたと言うことですか。媒体はレオンさんが燃やしたから増援を呼んだわけでもないはずですから。くっ、守り切るには人数が足りません)

???「」

???「」

オーディン「カムイ様には指一本触れさせない」

シャーロッテ「来るなら来いよ!」

カムイ(……くっ、どうにか、どうにかしないといけないのに)

ゾーラ「ひょーっほほほほ。その抗おうとする顔、実に滑稽ですよお。でも、それも終わりですよ」

???「」

 カラカラカラカラカラ

???「」チャキッ
 
カムイ「ぐっ、折れるわけには……いきませんよ」

レオン「姉さん、立っちゃ駄目だ」

ゾーラ「さぁさぁ、抗うように死んでくださいねえ。さあ、やってしまいなさーい!」

 フラッ



ゾーラ「?」

???「」

ゾーラ「何を、しているのですか。さっさと、や―――」

 ズシャ

 ポタポタポタタタ……

レオン「えっ……」

ゾーラ「ひょ?」

 ポタタタタタッ 

ゾーラ「な、なぜ、私に、え、これは、ど、どういうっ」

???「」 シュオンッ ズビシャ

ゾーラ「あひっ、私の私の、私の胃が、腸が……。もど、もどし――」

???「」ブンッ パシュッ プシャアアアアア

ゾーラ「ヒュー……そ、そんな、ヒュー わ、私は言われた……りに、それをあなたも望まれたはずなのに……」

???「」ガシッ グチャッ

 グッググッグッ ビチャアアアッ 

ゾーラ「…ロ……様……」ドサリッ バシャンッ

レオン「な、何が起こって」

???「」カラカラカラカラッ シュオンッ シュオンッ

オーディン「って、あぶね! 思い出したように攻撃してくるなよな!」

シャーロッテ「ほんとどうなってのよ。あの下衆、裏切られたってこと!?」

レオン「くっ、姉さん」

カムイ「一体、何が、何が起きたと言うんですか、レオンさん」

レオン「わからない、本当にないが起きたんだ?」

 ………

 ピチャン ピチャン……

シャーロッテ「攻撃はおさまったみたいだけどよお。一体何なんだよ、これ」

カムイ「……て、敵は?」

シャーロッテ「無茶すんじゃねえよ。ほら、肩貸してあげるから」

カムイ「あ、ありがとうございます。シャ―ロッテさん、オーディンさん、敵はどうですか?」

オーディン「気配が全く感じられない。あの短時間で移動したのかもしれないな。ゾーラを殺すのが目的だったと考えれば、もう長居する必要は――」

レオン「……だとしたら、これは不思議なことじゃないか」

カムイ「……レオンさん、どうしたんですか」

レオン「無いんだ」

カムイ「無い?」

レオン「ゾーラの死体だよ」

カムイ「えっ?」

レオン「無いんだ、奴の死体が。確かに致死量の攻撃を受けて死んだはずのあいつの亡骸が、肉の欠片一つもね……」

カムイ「……殺すことも死体を回収することも、含めて彼らの目的だったのかもしれません」

レオン「だとしても――!」

カムイ「そのことは後にしましょう。もう、敵はいなくなってしまいましたから。それに、まずは無事を確認するのが先ですよ」

レオン「それもそうだったね。かなり待たせちゃった気がするけど」

カムイ「ふふっ、今の言葉はよくないですよ。女の子を待たせるのはいけないことですよ」

シャーロッテ「そうですよぉ。っていうか、カザハナとサクラ様はどこにいるのよ?」

レオン「大丈夫だ、安全な場所にいる。だけど万全ってわけじゃない、だからこそツバキたちをそこに向かわせたんだ」

シャーロッテ「そうだったんですかぁ。さすがはレオン様ですね!」

レオン「ああ……結果的にはあまり良い選択じゃなかったかもしれない、あの現れた気配の目的が僕たちの命だったら、誰か失ってたかもしれない」

カムイ「どうにかなったんですから、今は十分じゃないですか」

レオン「……その、姉さん」

カムイ「なんですか、レオ――あつつつ……」

シャーロッテ「結構深いから気をつけてください。でもこれはアクア様に怒られそう」

カムイ「間違いないですね。それで、どうしました、レオンさん?」

レオン「その、ありがとう。僕に力を貸してくれて……」

カムイ「いいえ。当然のことですよ。でも、これからは私のためにレオンさんの力を貸してくれますか?」

レオン「もちろんだよ、姉さん。」

カムイ「ありがとうございます。それじゃ、行きましょうか……」

レオン「うん」

カムイ「………」

カムイ(賢者様が言っていた『すべての人間を怨むほどの悪意』……。ゾーラさんもそれに絡み取られていたのかもしれませんね。そしてこれも新しい悪意を産むものになっていく……)

カムイ「……すべてが悪意を産んだら、最後には何が生まれ出ると言うんでしょうか……」

◇◇◇◇◇◇
―ミューズ公国・アミュージア『宿舎feel』―

???「そうか、噂通りにやってきたということか」

白夜兵「はい……ですが。ここまで流れてきた噂の通りというのは……」

???「元々罠であるのは承知の上だ。それに白夜のことを考えれば、もうこの機会しか残されていないと言っていい」

白夜兵「……リョウマ王子は反対していましたね、俺達の作戦には」

???「……そうだな。あの頑固さは、一族を守るために離反したあいつに少し似ていたから、少し臆したが、折れるつもりは毛頭なかった。あそこで折れたら、あいつに笑われる気がしてならなかった」

白夜兵「クマゲラ様は炎の部族の方でしたか」

クマゲラ「ああ……。俺たち一族は頭が固く、すぐに熱くなる。でも、それしか知らん。知らん以上、そこにある機会に賭けるしかないってことだ。それにリョウマ王子は成功する可能性が低いから反対したわけじゃない」

白夜兵「俺達に死んでほしくないと言っていましたね」

クマゲラ「ははっ、すでに死ぬと思われていると言うのも、何とも言えないがな……。リョウマ王子には作戦の確率ではなく、俺たちの命を守ることの方が重要だったのかもしれん」

白夜兵「……俺達がガロンを倒せば、すべてが元通りになるんでしょうか?」

クマゲラ「それはわからん。わからんが、その可能性に賭けてみたからこそ、俺たちはここにいる。違うか?」

白夜兵「……そうですね。すみません、俺……」

クマゲラ「気にするな。それよりも、ガロンが謁見する日取りを探っておけ。暗夜に感づかれないようにな」

白夜兵「はい、任せてください、では失礼します」

 タタタタタタッ



クマゲラ「んっ、グビグビグビ……ぷはぁ、異国で飲もうと酒の味は変わらん。戦争をしていても変わらないものばかりだ」

クマゲラ「……リョウマ王子から話は聞いているが、できればこんな地であいつと再会したくはない。あいつはすでに暗夜の一員とはいえ、一族の繋がりを捨てて一族を救った結果として、同じ一族の者と戦うことがあっていいはずもない」

クマゲラ「……」

クマゲラ「……だが、嫌でも再会するように火が靡くというのなら、その時は力比べでもするとしようか……」

『結局、クマじいには敵わなかったな』

『一族を抜けるからって、手加減をするつもりはない。それに、お前は手加減されるのは死ぬほど嫌いだろ』

『当り前だ。全力を出すのが礼儀に決まってる、私は全力でやったんだ、だから負けても悔いはない。……まぁ、一回くらいはクマじいに勝ちたかったけどな……。残念だけど仕方無いさ』

クマゲラ「あれが最後の力比べなら、俺の連戦連勝で終わりだが……。もしも、あと一回することがあったら、それが最後の真剣勝負、それはそれで楽しみだ。そうだろ―――」




「リンカよ……」



 第十五章 おわり

○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB+
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC+
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドB
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンB→B+
(二人で何かの名前を考えることになってます))
ゼロB→B+
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB+
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナB
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラB+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキC
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテB
(返り討ちにあっています)
スズカゼC+
(イベントは起きていません)
アシュラC
(イベントは起きていません)

今日はここまで

 クマゲラとリンカちゃんって同じ部族で、リンカちゃんはクマじいって呼んでるんじゃないかとか思った。
 本篇は一度ここで終わりです。ギュンターifでこのスレは終わる感じになりますので、よろしくお願いします。

 ピエリリスバレンタイン小話、書かなきゃ(使命感)

◇◆◇◆◇








・透魔王国if「イントロダクション」


 あの運命の白夜平原。暗夜と白夜、どちらにもつかないことを決めたカムイは自身について来てくれるわずかな者たちと共に旅立った。
 その道中、暗夜からカムイを探しにやってきた城塞の面々と合流する。するも、無限渓谷にてガンズの部隊と交戦、ギュンターは渓谷へと落ちてしまう。 ギュンターの安否がわからないままに孤立状態となったカムイ達の元に、差出人不明の手紙が届く。
 一行はその指定された場所、ミューズ公国周辺へと向かう。そこでアクアと再会し、彼女のペンダントに宿る力の導きにより透魔王国という世界の存在を知る。しかし、到着と共に現れた謎の兵たちと交戦、その多さに圧倒されかけた時、生き残りの透魔の民が現れ、この窮地を脱することに成功する。
 彼らの住まう隠れ砦にたどり着いたカムイ達は、無限渓谷から落ちて行方知れずとなっていたギュンターと再会を果たす。それも束の間、透魔の民の一人、ロンタオからこの透魔王国を長い間見守り、そして狂ってしまったハイドラという竜の話を聞く。
 白夜と暗夜の双方が争うように裏から操っていると聞いたカムイ達は、ハイドラを倒すこと決意。そして仲間を集めるとともに、白夜と暗夜の争いを一つの終わりへと導くために行動を開始した。暗夜と白夜の空が入れ替わる日というタイムリミットまでに、透魔王国に点在する泉を通して各地へと向かい、問題解決と信じ共に闘ってくれる仲間を集めることに翻弄した。
 そして、最後に残ったマクベス軍師率いる好戦派を打倒し、仲間達を連れて透魔王国に戻ったカムイであったが、そこには攻撃を受ける砦の姿があり、変わり果てたロンタオと愉快そうに笑うギュンターの姿があった。
 ギュンターが透魔王の眷属であるという事実に揺れながらも、一度窮地を脱したカムイは、そこで皆との絆を確かめ合い、夜刀神を終夜にまで進化させる。

 そして、ハイドラを倒すために進軍を開始するのだった。

◇◆◇◆◇





 『ギュンターif』


「………仰せの通りにいたしました。透魔王様」

 皺の混じった声が黒い空間に木霊すると、それに対応するように言葉が返る。声はよくやったと労うと同時に命令を下す。
 真っ暗闇の先、姿は見えないが確かにそこに存在する何かの指示は単純明快なものであった。

「奴を器にし、我に差し出せ、呪縛から解き放たれた今、器にすることこそが我の野望を確かなものにする。さすれば、お前の願いも共に成就することだろう。忘れていたお前の願い、今こそ叶える時だ」
「……わかりました」

 静かに頭を下げる彼に対して、複数の影が視線を送る。送るも誰ひとりとして言葉を掛ける者はいない。
 いや、言葉を掛けることをしないのではなく、今は空っぽになっているからこそ、言葉を出すことが出来ないという状態であった。
 命の無い器たちは、透魔王の力によって管理運営されている。その中で自我を持っている彼は、唯一透魔王に意思を持って従った人物ということになる。
 それは確かに、彼の心の中にある確かな言動として、発せられることとなった。

「これより、カムイ一行を殲滅して参ります……」

 その足取りは重くも確かな意思を持つものだった……

◇◆◇◆◇








 
 死体を操る透魔軍の攻撃を退けながら、手薄な場所を攻めて突き進んできたカムイ達は、地下通路を経ての王宮の入口広間へとたどり着いた。王宮の中は手が届いていないようで、埃と蜘蛛の巣が部屋の隅のあちこちに張り巡らされている。それを見た城塞の面々は仕事が出来ていないというように顔をしかめた。
 あのジジイ、人に口酸っぱく掃除について言ってるくせに新しい主の城は汚れてるじゃねえか、そうジョーカーが零せば皆は同意するように頷く。その中にはカムイも含まれていた。

「さすがにこの城を一人で隅々奇麗にするのは酷というものですよ。それに彼らの目的を考えれば、城も将来使わなくなるのでしょうから」

 歩むだけで埃がふわりと動く、そんな広間を進むカムイたちだったが、それはすぐに止まることになった。
 二階へと続く道に影がある。顔をあげればそこにいるのが誰だかすぐにわかった。

「……お待ちしておりましたぞ、カムイ様。いえ、今はカムイと呼ばせていただきましょうか」

 階段を一歩一歩降りてくる、その身には隙はなく、顔に走った傷跡は痛々しさよりも、今は強大な壁のような印象を与える。その壁はカムイと一定の距離を保つように動きを止めた。
 手にした血で黒く染まった槍と朱が彩る鎧、そして邪悪な笑みが張り付いたその顔。記憶の中にある面影とは異なるその人の名を呼ぶ。

「ギュンターさん」

 ギュンターさん、そう呼ばれて彼は楽しそうに唇をさらに吊り上げる。普段の笑みとは違う悪意の微笑は、知る者達から彼が変わってしまったということを突きつける。寡黙で普段は感情をあまり出さない彼が、常に笑っていることさえも、目に見えない歪さを与えてくる。
 自然と各々が己の獲物に手を添え始める。いつ何が起きてもわからないこともそうだが、まるでここに来ることがわかっていたかのように現れたギュンター、そこから考えられるこの状況を察してのことだ。それは、紛れもない事実としてすぐに現れる。
 幾つもの気配が突如としてこの広間に現れ、ギュンターの号令を待つようにただ待ち続けている。

◇◆◇◆◇







「やはり、罠でしたか。すべては私たちを城に入れるための芝居だったと言うことですね」
「罠とわかっていても、お前ならそうすると思っていた。世界を救うというくだらない願いを成し得ようとするお前なら、例え罠だとしても懐に入ることを選ぶと思いましたのでな」
「ええ、と言っても、皆それを承知でついて来てくれました。ここであなたの罠を掻い潜ることができれば、私達が一歩有利になりますからね……」

 夜刀神の輝きはすでに強いものとなっている。ここまで付いて来てくれた双方の兄弟が紡いでくれた輝き、そして仲間たちの輝きはすでに夜刀神を終夜にまで高めている。それは、カムイのために戦うことを決めた皆の心が紡いだ絆の力、その体現の一つでもあった。
 しかし、その輝きを見てもギュンターは動じることもない。むしろ、愉快な催しを見る子供のようだ。違うとすれば、張り付いているのが邪悪に満ち満ちた笑みであることだろう。

「ふっ、そのようなおもちゃでどうにかなるようなものではない、透魔王様の力の前に役に立つものではありませんな」
「それを決めるのはギュンターさんではありません。本人に直接突き刺して、効くか効かないのか確かめさせてもらうつもりです」
「そうですか。しかし残念ですが、透魔王様の前に行くのはお前の死体だけで十分、そう聞かされています。無駄な抵抗はやめてはどうですかな。兵にむざむざ無能なりに考えた命令を出す必要も――」

 黙れこのクソジジイ、その言葉が突如投げられた暗器をギュンターが避けたと同時に放たれる。カムイの後方で少し前まで澄まし顔で待機していた男、ジョーカーは過去稀に見る凶悪な面を携えて暗器を放っていた。
 そこに世話をしてくれた恩師に対する口に出さない尊敬などの面影はなく、ただただその存在を否定したいと言うものだけがあった。

「てめえ、カムイ様が温厚な方だからって言いたい放題言ってくれるじゃねえか」
「ふっ、主の命令もなく噛みつくとは、臣下としては落第点だなジョーカー」
「気安く名前を呼ぶんじゃねえよ。カムイ様を裏切っておきながら、恩師面するんじゃねえ」

◇◆◇◆◇







 立て続けに三本の暗器が空を切る、それぞれカムイの後ろにいる者たちからだ。一つはジョーカーのもの、そして残りは彼の左右から放たれたものだ。それをギュンターは軽々と避け、再び目を向ける。その久しく見ていなかった服装で、誰かはすぐに理解できた。

「ふん、やはり部族は部族か。主の命令を待たずして噛みつくようでは、まだまだ躾が足りなかったように見える」
「私はカムイ様を侮辱した人物と戦場であったのなら、容赦はするなと教えられております」
「カムイ様のことをひどく言うのは許しません。覚悟してくださいギュンターさん」

 カムイを守るようにしてフェリシアとフローラが前に出ると、恩師を前にしてその瞳やか前に揺るぎはない。すでにギュンターを倒すことに迷いがないことを語る。それはカムイの横に寄り添う最後の従者も同じであった。
 手に持った魔法書を開き、いつでも放つ準備を整える。ギュンターはそれに興味深い顔を返した。

「それがお前の答えか」
「カムイ様を守るのが私の使命です。そして何より、ここには同じくらい大切で守りたい人たちがいるんです」

 それがどういうものかをギュンターは知っている。だからこそ、虫唾が走った。

「ほう、では、お前が守りたいものも壊してやろう。壊れていく姿を見ながら涙を流す姿、さぞ愉快なものだろうな」

 その宣言にあるのは殺気と憎悪であったが、それをリリスは真正面から受け止め、静かに本を持つ手に力を込める。

「ふっ、気概はいいが、所詮は烏合の衆、ここで死ぬことから逃れられないというのにな」
「そういうわけにはいきませんよ、ギュンターさん」

 握りしめた夜刀神を構えながらに、カムイはギュンターと目線で対峙する。

「私たちはあなたを倒します。そして、この先で待っているすべての元凶にも負けるつもりはありません。それがここまで戦ってきた私たちが目指す場所なんですから!」

 それは彼女について来た者たちの総意だった。一人一人がその目標を共有している。強き絆が生み出す一体感は、突風にも似た衝撃を感じさせるものだった。
 だからこそ、話は終わりだと誰もが理解する。この先、刃は言葉で止まらない。どちらかが倒れ伏すまで戦いが終わることはない。
 ギュンターの手が静かに上がり始め、その合図は気配達に武器を握る。それに合わせてカムイ達もそれぞれが構えに入った。
 剣を握りしめ、矢を掛け、魔法書めくり、獣人たる者たちは己を獣人たる由縁たる姿へ。ギュンターはその準備が終わるのを待っているようにも見える。それは余裕か、それとも……
 答えを模索する暇だけは与えないと言うように、その手は静かに下ろされた。

◇◆◇◆◇








 敵の装備は統一されたものではない。暗夜の鎧、白夜の甲冑、どれにも属さないゴロツキたちの姿も見てとれ、それはまさにカムイ達と同じ連合軍と言える様相だった。
 しかし、そこに人間的な動きは何もない。死を恐れない相討ちを想定した行動の元、動き続ける透魔兵の攻撃は強烈無比という言葉が似合っている。対人ならば意味を持つフェイントや脅しが全く通用しない。抑えていては一人倒せばまた一人という感覚で現れる増援に対処できなくなる。
 死を受け入れるのではなく、死がそもそも存在しない兵たちである以上、この戦いの終結はギュンターを倒す以外にない。ないと言うのに、カムイ達は最初の場所からさほど動けないでいた。

「ジョーカーさん、ギュンターさんまでの道、確保できそうですか?」

 受け止め敵を薙ぎ払いつつ、カムイは問いかける。帰ってきた返答は難しいであった。
 ギュンターとの距離はそれほど離れていない、距離にして三十メートルかそこらである。しかし、そのギュンターの眼前には未だに彼の呼ぶ増援と、他とは違い特殊な命令を受けているであろう動かぬジェネラルが沈黙を守っている。そしてやっとその先にギュンターがいるのだ。

「クソジジイが、距離を置いて傍観とか腰ぬけにもほどがあるな」

 悪態を吐きながら敵の処理を続ける。ギュンターはその声を聞いたのか、楽しそうな面持ちで彼らの方向をゆったり監視するばかりだった。来れるものなら来てみるがいい、もっとも辿りつけるとは思えないが、そんな余裕と挑発の混じった表情は、まるで宴を楽しむようにすら思える。
 防戦一方となりつつあるカムイ達、しかし留まっていることでわかり始めたこともある。それは増援の出現する大まかな方角で、それらのほとんどは城門の方角から現れていると言うことで、上層階へと続く階段付近から現れている者たちは、ギュンターが召喚しているらしい。その量は決して多くはないし、詠唱することが出来ない状況にすることができれば、増援を断ち切ることができる。

◇◆◇◆◇






 そう考えていたところで、フローラとフェリシアが敵の攻撃を受け切るように間に割って入る。考え事をしていた間に、見逃していた敵を処理した形だ。

「カムイ様、考え事をする時は少しまわりを確認してください」
「すみません、フローラさん。ところで、ここから見えるあの城門、あれはどうやって閉じるものかわかりますか?」

 カムイの質問を踏まえ、フローラは少しばかり離れた視線の先にある城門の形を捉える。その門は鉄扉があり手動開閉式だと言うのがわかるが、その構造には不思議な点があった。それは門の閉めるべき鉄扉が閉じられても、少しばかり奥行きがあるということ。上方に何かしらの仕掛けを施し、それを隠すために作られた石造りの空間があると言うことだった。
 鉄扉を閉じた先の空間に何かがまたあることを表しているようだと考え、フローラはその構造的な形からもう一つの仕掛けを予想して口にした。

「鉄扉は手動ですが、あの外部構造を見る限り、落し格子の類が鉄扉を守るように設置されていると思われます」
「それは、簡単に作動させられますか?」
「……手順通りに作動させるのは難しいかもしれません。ここは管理されなくなって日が長いようですから、こうして城門が通れる状態なのは逆に奇跡的ともいえますね」
「それじゃぁ、どうするんですか、姉さん」

 攻撃を受け止め、すぐさま暗器を持ち替え敵を鮮やかに処理しつつフェリシアが声を上げる。フローラとしては、話の腰を折らないでほしいと内心ため息を漏らしながら、受け止めた攻撃に対して前蹴りと突き刺しという少々野蛮な方法で敵を処理して続きを口にする。それはあまりにも単純なことである、あるが故に今のカムイ達にとっては十分魅力的なことだった。

「というのが私の案になります、カムイ様」
「なるほど~、さすが姉さんですぅ」
「それで行きましょう。今出来る最善策はそれくらいしかありませんから」

◇◆◇◆◇






 その言葉と共に周囲を見回す。すでに仲間たちはそれぞれ近くにいた者たちと共闘し、それぞれが一つの連隊として行動していた。この大きな広間の中、迫りくる刃を受け止めることは一人ではできない、仲間と共にあって初めて均衡に持ち込める。その中でカムイの探す者たちは、すぐに見つかった。
 赤い閃光を放つ剣、低空を維持しながら戦いを続ける竜、そしてそれを弓の驚異から守るように、駆け続ける二つの騎兵の姿。カムイはすぐに声をあげた。

「マークス兄さん! カミラ姉さん!」

 ジークフリートを振いながらも、その声は確かに彼の耳に届く、それは共に同じ場所で戦っている彼女も同じであった。マークスが指示を出す。彼らと共に戦っていた騎兵二人が阿吽の呼吸でカムイまでの道を切り開き、その合間を縫うようにカミラとマークスが通り抜け、その後に続いて騎兵も至った。

「カムイ、何か策があるのか?」
「はい、少しばかり危険ですが、任せたいことがあります。お願いできますか?」
「もちろんよ、カムイのお願いなら何でも聞いてあげる」
「この状況を打破する可能性があるのだろう。大丈夫だ、お前の指示に私も従おう」

 二人がカムイに寄せる信頼の熱さを物語る問答ともいえた。カムイの信じる道、示す道に命を掛けられると言う物の現れであり、それを汲み取ってすぐに彼女は案を出す。

「あの城門の上にあると思われる格子を落としてもらえますか」
「……なるほど、外からの増援を防ぐというわけだな」
「はい、城の主に遠慮することはありません、装置を破壊して二度と開けられないようにしてもらって構いません」
「ふふっ、そうね。これから倒しちゃう人の城に遠慮なんて必要ないもの。わかったわ、任せて頂戴」

◇◆◇◆◇






 カミラとマークスの了承を得たところで、後続の騎兵二人が隣接する。ゾフィーとサイラスだ。その二人して特徴的な髪を揺らしながら、ここまで頑張ってきた愛馬を優しく撫でている。愛馬たちはそれに、まだ戦えると言うように答えるように尻尾を揺らした。

「サイラスさんにゾフィーさん、聞こえていた通りです」
「ああ、わかっている。相変わらず無茶なことを考えるよ、カムイはさ」
「あはは、確かにそうだね。いやー、こんな人の下で働いてるなんて、リリスさんも大変だよね。サイラスさん、なんとか言ってあげないと、男が廃るよ!」
「な、なんでサイラスさんにそんなこと言うんですか、ゾフィーさん!」

 割って入ってきたのはリリス本人であった。その顔は少しだけ朱の色が入っていて、怒っていると言うよりは恥ずかしいと言った感じで、戦場には場違いといえる花があるような感じさえした。
 ゾフィーはそんなリリスを見て、ごめんなさいと悪びれた様子もなく答えながら、サイラスに目線を向けた。

「サイラスさん、奥さんが恥ずかしがってるよ」
「お前が困らせてるんだろう。まったく、調子に乗っていると痛い目を見るぞ」

 そう諭すサイラスの左手薬指には輝きがあり、それはリリスも同じである。二人はすでにそういう仲で、この戦いが終わったらというありがちなテンプレート台詞の交換も済ませていた。その二人の間柄をよく知っていたのは他ならぬゾフィーでもあった。

「えへへ、ごめんなさい。だけど、この戦いが終わらないと二人が結婚式あげられないんだから、あたし頑張るよ」
「ふっ、ゾフィーの言う通りだな。よし、ゾフィーよ。私と一緒に先陣を務めてもらいたい。頼めるか?」
「もちろんっ! あたしとマークス様の力で道を切り開いてみせるからね!」

 自信満々に語るが、ゾフィーはおっちょこちょいである。どれくらいおっちょこちょいかというと、馬小屋から馬を逃がしたり、リリスが植えた花を持ってきてしまったり、敵を攻撃して衣服を剥ぎ取ったり、いろいろな意味でおっちょこちょいだった。
 一度、ゾフィーとリリスの模擬戦闘をサイラスが見たことがあるが、見事にリリスが引ん剥かれて恥ずかしさの余り泣き出すという事態もあり、そのあと無茶苦茶色々あった。
 だが、それを差し引いてもゾフィーの実力は皆からの折り紙つきで、この采配に異を唱える者は誰一人としていなかった。

◇◆◇◆◇







「うふふっ、それじゃサイラス。私たちは仕掛けを二人が破壊してる間の援護に回るけど、ちゃんと付いてこれるかしら?」
「カミラ様、安心してください。それにここで死ぬつもりなんてありませんから」

 そう告げてリリスに目を向ける。リリスといえばモジモジしつつ、赤い顔をそのままに、指をちょんちょんと付けたり放したりしていた。戦闘中であろうとも、未だに意中の人の目線には恥ずかしさを覚える初なところがリリスにはあったのだ。

「リリス、大丈夫だ。必ずゾフィーと一緒に戻ってくる。だから、ここで待っていてくれ」

 愛する者に安心させるように笑みを浮かべる彼を見て、リリスはさらに顔を赤くする。何時ものゆったりとした構えとは違う年相応の乙女らしく、リリスは顔を本に埋めて膝を落とした。
 落して、でも確かにサイラスに聞こえるくらいの声の大きさで、早く迎えに来てくださいね、と甘えるような声を漏らす。周囲に花が咲き乱れるような、ふわっとしたものが広がるようなものを皆が感じた。

「はわわわ~、リリスさんとっても可愛らしいですぅ」

 敵をなぎ倒しながら、フェリシアは率直に。

「本当に可愛いわ。でも、私の婚期はいつになるのかしら」

 敵を刺し殺しながら、フローラは悲観的に。

「リリス、それ以上はやめておいたほうがいいぞ」

 敵の腕を飛ばしながら、ジョーカーは予感的に。

「そうですね、こんな可愛いリリスさんを見続けるためにも、ちゃんと守り切らないといけませんね!」

 敵を突き殺しながら、カムイは使命的に。
 それぞれリリスと過ごしてきた者たちが思い思いに剣を振るう。そのリリスを大切に思ってくれている、それがたまらなくサイラスは嬉しく思う。
 体中に力みなぎるように、その約束を果たすために今すべきことに意識を向け始める。そう、向けるための言葉を添えて。

「ああ、リリスを任せた」

 それが見事に合図となった。先陣を切るマークスとゾフィーの馬が駆け出し始め、リリスは未だに顔を赤に染め上げつつも眼の前に迫りくる敵と向き合い、カミラとサイラスも時を同じくしてマークスとゾフィーを援護するように武器を振っていく。戦いの流れを変えるために、カムイ達の歯車が動き始めた。

◇◆◇◆◇









 城門の落とし格子を作動させる仕掛けがある制御室への入口は城門の近くにぽっかりとあり、そこにマークスとゾフィーが飛び込み、内側に錠を掛ける。中は馬を待機させられるほどの空間であるが、上の機材のある空間からは何者かが下りてくる気配が感じられた。

「ゾフィー、ここからは白兵戦だが。騎馬戦以外の心得はあるか?」
「大丈夫、サイラスさんにみっちりしごかれたから、閉所の戦闘も十分こなせるよ」

 握った槍を片手にそう答える。頼もしい限りだとマークス、すぐさま階段を駆け上がり始める。まずは侵入者に気づいた先兵を倒し、その影から現れたもう一人を、今度はゾフィーが槍で持って叩く。
 華麗な連携を取りつつ上がりながら、マークスはゾフィーに目を向けた。
 ゾフィーはサイラスとリリスの子供ではない。いわゆる戦災孤児にあたる少女である。暗夜領のある村が何者かに襲われていた時、サイラスがそれに気付いて向かった結果として、村の人々が命を掛けて守り通した若人の中にゾフィーはいた。
 当時はまだ今より三歳ほど年下であったゾフィーは当初から、村の人々の仇を討つことを望み、カムイ達の行軍に参加することを望んでいた。その頃のことはマークスも覚えている。覚えているからこそ、今のゾフィーは良い意味で成長したのだと思えた。

「人とは変われるものなのだな」
「えっと、マークス様?」
「いや、初めてお前を見た時、復讐以外のことを知らない、そのような顔をしていたからな。それに取り込まれたお前と、共に戦う日が来るとは思わなかった」
「ひ、ひどい。あたしだって、成長してるのに……」

 怒りながらもちゃんとマークスのサポートに回る限り、彼女の言っていることは本当だと言うことがわかる。そして、こうして彼女から復讐という理由を取り除いたサイラスには一目置ける部分があるのだ。

◇◆◇◆◇








「すまなかった。しかし、よもやサイラスとリリスの件は言われるまで私たちは誰ひとりとして気付かなかったことだった」
「ああー、あたしはてっきりみんな知ってるのかと思ってたんだけど、だって、その……」

 ゾフィーは気まずそうに頬を掻きながら、邪魔というように再び下りてきた敵に蹴りを浴びせて後方へと落し、それにマークスが手早く止めを刺した。
 彼女が気まずそうに告げたことというのは、サイラスとリリスが付き合っているということを単純に知ることになった夜の情事に関することである。夜の情事といえば多くは言わなくてもいい。ゾフィーは度々それを耳にしていたから、ああ、二人はそういう関係なんだなとすぐに察した。
 養子としてサイラスに引き取られた当初は、あまり折り合いが良いと言うわけではなかったが、サイラスもリリスも親身になってゾフィーに接してくれた。現実の世界で一月と少しの出来事だとしても。ゾフィーにとっては三年間の星海生活は、二人との交流がほとんどであった。
 だからかもしれない、少ししてからは悩んだことはサイラスやリリスに聞いてもらった。血は繋がっていなくても、頼りにしてほしいと言うサイラスと、ゾフィーの役に立ちたいというリリス。二人のおかげで、ゾフィーは戦う理由から復讐という感情を取り除くことができた。
 そんな二人が付き合っていて、その頃はまだ互いに指輪も持っていなかったことから、ある日、一度こちらの世界に戻ってきた時だ。
 それで、サイラスさんとリリスさんはいつ式をあげる予定なの?と零したのである。おっちょこちょいなりに考えた気の利いた一言だった。
 途端に集まっていた皆の顔がサイラスを射抜き、リリスはきょとんとして少ししてからその顔を真っ赤に染め上げることになった。

◇◆◇◆◇








「ふっ、あの時のサイラスとリリスの狼狽ぶりもそうだが、告げた後に皆知らなかったの、とお前がきょとんと零したのも面白いものだ」
「だって、いつもサイラスさんとリリスさん、私の様子を見に来てくれてたんだよ。二人一緒に出てるのに、それで気がつかないなんておかしな話だよ」
「いや、星海の管理は主にリリスが行っていた。サイラスがお前のいる星海に行く際に、リリスがその水先案内人を務めている……そう思っていたんだが、よもや、二人が付き合っているとは夢にも思わなかった」

 次第に敵のペースが下がり始めているのを二人は感じ取る。もうそろそろ仕掛けを制御する部屋に達するかもしれないと言えるほどに、天井が迫り始めていた。

「えへへ、でもあたしの発言のおかげで、二人とも指輪の交換できたんだから、結果良ければっていうことで」
「そうかもしれん。この戦いが終わり次第、式をあげると言っている。この戦い、負けるわけにはいかないのでな」

 サイラス、そしてリリスが夫婦として歩み始めてはいるが、それを正式なものとする儀式が控えている。そう考えると、この戦いの負けられない理由が一つ増える。それは重荷ではなく、未来を繋げる強い希望そのものだった。
 だからこそ、話はここで終わるべきだったのだ。

「でも、一つ気になることがあって」
「何がだ?」
「えっと、その、サイラスさんとリリスさんがその、夜、えっと、まぁ、その、あれのことなんだけど」

 マークスは、そのあれをというのを理解した。確かにそういった行為で愛と絆が強まるということもあり得るだろう。愛する者を抱くと言うことはそういうことだ。
 しかし、戦いの最中に自身を育ててくれた義理の親、その二人の情事に何を思うことがあるのか? ゾフィーが一体何を気にしているのか、マークスには点で予想がつかなかった。

◇◆◇◆◇








「どういうことをしているのかわからない、ということか?」
「いや、さすがにあたしだってこの歳だし、えっと、よくわからないけど、何をするかくらいわかってるから」
「では、何を気にしている?」

 マークスは踏み込んだ。正確には踏み込む必要はなかったのに、踏みこんでしまった。
 ここでマークスは流せばよかったのだ。気になるようだが、今は戦闘中だ、その手の話ならば終わった後に他の者に聞くといいだろう、といった言葉を使って終わらせるべきであったのだ。

「その……サイラスさんとリリスさんが疲れ果てて寝てるところを覗いたことがあるんですけど……」

 若いながらの好奇心という奴だが、それがいったいどんな気になることに繋がるのか、それがさっぱりマークスには予想できない。否、予想できないことこそが普通なのだ。
 再び現れた敵をささっと片付け、ゾフィーは仕草を交えて説明を再開する。それはベッドかそれとも布団か、四角い何かを現わしているようだった。

「サイラスさんの隣がすごくこんもりしてて」

 マークスの中にその少しばかりの想像図が浮かび上がる。あの二人が共に寝ていると考えて、ベッドもしくは布団であってもサイズは普通より大きいだろう。しかしこんもりとしていると聞いて、リリスはそれほど大きいわけじゃないとなる。

「……まさか、不倫だと?」
「いやいやいや、サイラスさんまじめな人だからそれはありえないよ。それに、その日はリリスさんとサイラスさんとあたししかいなかったし、それにそのこんもりの正体もわかってるから」
「リリス……だというのか」
「うんそうだよ」

 どうやらリリスのようであった。しかし、こんもりしているという表現から察するに、それはリリスの体格ではないのではないか、でもゾフィーはそれがリリスだったと言う。多分、それがゾフィーの気になっている点というやつだ。

「では、こんもりしているというのは」
「うん、その時もぞもぞってそのこんもりしたのが動いて、顔が出てきたんだけど」

 間を作るように敵が現れ、それをマークスが切り落とす。
 一体何が出てきたのか、雰囲気を乗せたゾフィーは真剣な顔のままに伝える。

「それ、竜状態のリリスさんだったんだ」

◇◆◇◆◇






 竜状態、ああ、竜状態というとあの鰭と尾鰭もあるあの状態か、確かにあの大きさならばこんもりとするのも仕方無い。マークスは納得した。そして同時にゾフィーはなぜリリスが竜の状態で眠っていたのかわからないと言うことなのだろう。そう、この時点でマークスにもわからなかった。
 だが……ここでマークスは思い出す、この話の始まりの位置、つまりこの状況に至る前に二人が何をしていたのかということに関してである。
 夜の営み……疲れ果てた二人……竜状態のリリス。

「うっ……」
「マークス様、大丈夫ですか?」

 思わず立ちくらみが起きた。ゾフィーはその二つから導き出せるものがないようだった。ゾフィーはなんで竜状態になっているのか、人の姿で寝ないのかと首をかしげている。純粋な子だとマークスは素直に思う。
 マークスは先ほどリリスを安心させるためほほ笑んだサイラスを思い出すが、それはすでに邪なものにしか思えなくなっていた。
 サイラス、カムイの親友。そうか、つまり竜属性ということか。意味不明な解釈がマークスの頭を駆け抜ける。そういえば、竜状態のリリスにはあれがあると、ピエリが言っていた気が、まて、つまり、サイラスは……。思い出さなくてもいい情報ばかりが噴火し、恐ろしい結末を引き寄せようというところだった。

「マークス様、仕掛け部屋に着いたみたい!」

 ゾフィーの言葉に今すべきことを思い出す。仕掛け部屋の器具のほとんどは錆付いていて、もうこの状態を維持しているのはある種の奇跡といえる状態になっていた。
 今ここに限って言えば、これがこの状態を維持していたことは幸運であった。もしも綻び落ちていたら、敵はそれを踏まえた作戦で仕掛けて来ていただろうからだ。さすがに、落し格子が落ちるという事態は予想していないはずだ。
 マークスとゾフィーは互いに留め具と思われる場所を確認してそれぞれが左右に展開、武器を構える。力をこめて振り下ろせば、その留め具は容易く壊れることは誰の目にも明らかだった。

「これで落ちるはずだ。準備はいいな、ゾフィー」
「任せて、いっくよ!」

 呼吸を合わせて、武器を振り下ろす。鈍い鉄の音が木霊し、それは次に破壊音を奏で。そして勢いと共に轟く悲鳴のように叫びがあがった。
 重々しい鉄の格子は、まるでギロチンのように下へと落下し、それを確認してマークスはすぐに踵を返す。

「よし、これで大丈夫だろう。すぐにカムイ達の元へ向かうぞ」
「はい……ところで、リリスさんが竜状態だった理由なんだけど……」

 そのゾフィーの無垢な質問に対してマークスは少しだけ思案した。
 思案して真面目な顔のままに、残念だが、私には皆目見当がつかないとお茶を濁し、階段を駆け降りるのだった。

 今日は前半だけでお願いします。後半は今週末くらいに

 #FEのガーネフ強かった。

◇◆◇◆◇







 格子が落ちた音は、カムイ達に聞こえるほど大きく広場を揺らす。土煙りと埃が舞う城門付近の様子は多くの目に入る。それは時折、向かったサイラスを心配するように様子を眺めていたリリスの瞳にも映った。
 カムイ様と彼女が声を上げる。それは防戦一方の流れを変える合図となり、それを皮切りにカムイの両足に入る力の意味合いが変わり始める。踏ん張り耐え続けた足は、今まさに前線を押し上げるための力へと変わりゆく。受け止め続けた刃の重さ、それを押し返すために体重と勢いをつけて剣を突き上げた。
 その変化は周囲の者たちにすぐに伝わる。言葉に出さずとも、仕えてきた彼らにはそれがすぐにでも理解できた。押し返された敵の懐にジョーカーが入り込み倒せば、その合間を縫うようにフェリシアの暗器が後続の兵に傷を与え、動きの鈍くなったところでフローラが止めを刺す、先ほどとは違ってその場に留まることはない。リリスの魔法によって足止めされた兵に、再びカムイ達が攻撃を仕掛けていく。そうして敵の波に割って入る様を見て、ギュンターは感心した声を漏らした。
「なるほど、ここ数ヵ月でそれなりにできるようにはなった、ということか」
 城門を閉じた格子には頭の空っぽな亡者が次々に押し掛けている。いずれ壊れるかもしれないが、それを期待することはできない。あそこに溢れている雑魚にこの者たちを質で越えるほどの実力はない、いずれ殲滅され鉄扉さえも閉められることだろう。ギュンターの予想通り、格子が落ちたことを皮切りに、防戦から移り変わったカムイの陣営は、城門周りの敵を片付け始めていた。
 戦場の時間はとても早い、気が付いたときには鉄扉は閉じられる。これ以上の援軍に思いを馳せることはない。ギュンターの答えは明確であった。
「では、どこまでできるようになったか試させていただきましょう、カムイ」
 次の合図を出す。残っていた石像のように動かずにいたジェネラルが重い腰を上げ、大槍と大盾を構えて横に並ぶと、カムイ達に向けて前進を始めた。

◇◆◇◆◇







「はわわ、強そうなのがいっぱい来ましたよぉ」

 フェリシアの言葉にカムイの視線が上がる。ギュンターまで残り二十メートルほどの位置、動き始めたジェネラルの軍勢が行く手を遮るようにカムイ達を待ち受けている。ぱっと見たところでも、その盾と鎧には多くの術文字が刻まれており、魔法に対する抑止力、魔法カウンターを手にしていることがわかる。リリスは苦々しく笑った。

「私、攻撃面で役に立てそうにありません」
「逆に気張って倒れたりしたらお人好しがうるさいからな、補助に専念してろ」
「ここは私達に任せてほしいですぅ」

 フェリシアとジョーカーの言葉を言われる前からそのつもりであったが、改めて言われるとなんと物悲しいことか。

「とりあえず、そういうことで行きましょう。ジョーカーさん、対重装甲装備は大丈夫ですか?」
「心得ておりますのでご安心ください」

 そう口にしてジョーカーの手に違う武器が握られる。針手裏剣と呼ばれるそれは鎧の隙間を狙うことに特化した武器であり、鎧の中にある無防備な本体に有効な武器であった。
 迫りくるジェネラルの隊列、しかしジョーカーの視線は彼らを映してはいない。その壁の先、わずかながらに見える影ばかりを睨んでいた。
視線の先、ジェネラルに隠れてはいるがわずかながらに見える影、その存在があったのだ。

(ジジイ、主への忠誠がどうとかビシビシ言いやがったくせに、なんでてめえがそっち側にいるんだ?)

 ギュンターの離反は、思いのほかジョーカーの心に影響を与えていた。ジョーカーにとってギュンターというのは技を授けてくれた恩師であり、同時に目標でもあった。
 手を伸ばしてもそう簡単に届かない頂にいる。そのあり方はジョーカーにとってはいずれ越えてみせるものであった。にもかかわらず、ギュンターはその頂から姿を消して、汚泥にその身を窶している。

(カムイ様を裏切るよりも大事なことなんてあるわけねえ。そう俺に教えたのはジジイ、てめえだろうが……)

 武器を持つ手に自然と力がこもる、だが、頭の中は思った以上に静けさを守っていた。ギュンターの教えは何時でも冷静に、主君のために忠実たれというものである。先ほどギュンターに攻撃を加えた時に血の気をすべて使い果たしたのか、今はカムイの命令を静かに待てるほどになっていた。

「カムイ様、ご命令を」
「はい。私たちは敵の注意を誘いますので、隙を見て倒してください。おねがいしましたよ」

 その言葉と共にカムイが駆けだし、次いでフェリシアとフローラも後を追う。近づく三人の陰にジェネラルの鎧が静かに揺れ、大槍が勢いを持って突きだされる。それを受け流し、カムイが懐に向けて剣による一撃を浴びせるが、丸みを帯びた鎧はそのダメージを半減する。いくら夜刀神といえど剣は剣、その本質のままに大した被害をジェネラルは受けぬままに、その大盾が頭上へと掲げられる。
 少しの間を置いて振り下ろされたそれを寸でのところで彼女がかわせば、後続からフローラとフェリシアの暗器が投げ込まれる。大盾を振り下ろした影響もあり、動きが鈍くなったところでジェネラルの顔が静かに上がる。視界を確保するためのわずかながらの覗き穴、そこからみえる三人の姿。再び、攻撃を加えようと足に力を加えたところである。突如視界が黒く染まり、少しの時間を置いて彼は倒れ伏す。ジョーカーの放った攻撃は、そのわずかな覗き穴を的確に捉えていた。

◇◆◇◆◇







 血の匂いを嗅ぐわせることなく大きな音を立てて倒れ伏す鎧、後続のそれらも同じように次々と処理していく。巧みな連係を前にして、考えることのできない木偶集団は哀れにも壁としての役割を果たしているとは言い難い。殲滅だけを念頭に置いた思考は対処する術を知らない、魔法に対する心得を装備出来ても、戦術に対する心得など使い捨ての駒が教わっているわけもないのだから。だからこそ、敵ジェネラルはただ漠々と戦列を崩さず迫り、そしてその壁を越えてやってくる者たちもまた漠々と相手を切り付けることだけが行動理由であった。
 ジェネラルの陰に隠れて近づいていた者たちが、その壁を飛び越し現れる。無茶苦茶な陣形、ただ一人でも殺せればよいという考えの元に一斉に飛び出してきたそれらであったが、考えられる人間からすれば予想の範囲内であった。

「リリスさん」
「はい、行かせてもらいますね」

 ジェネラルとは違い、何かしらの仕掛けのある装備を持っている節はなかった。その数四、リリスの口元がつり上がる。それは彼女の竜としての一部分、獣の本能が顔をのぞかせた瞬間だった。
 魔法書を開くと同時に、幾つもの魔方陣が地面へと広がり、それぞれ敵が浮かぶ地面の下へと滑りこむ様に飛び立ち、その真下で確かに彼らを捉えた。そんなことを彼らは気にしない、だからこそ容赦ない制裁を浴びせることができるのだ。

「皆さんに手を出さないでください!」

 詠唱を終えるとすぐに真下の魔方陣が淡い光を放つ、それは優しくも思える光であったが、やがてそのその頭上から迫りくる彼らへと放たれる火球を放つ光へと変わる。空中という避けられない空間で迫りくる火球に成す術もないまま、その爆発を持って終わりが訪れ、動かなくなった骸が生々しい音を立てて地面へと落下した。
 すでに壁は崩れ去り、カムイたちの目にはあと少しに迫る老兵の強かな面影が見える。刃を交えることに躊躇はないと、カムイの足は力強く駈け出した。
 無限渓谷から落ちて死んだと思われたギュンターと再会したとき、一番に喜びの声をあげていたのはカムイであった。そして、白夜と暗夜、双方の問題に一つの終わりを迎えた時、共に闘って行きたいと約束さえしていた。
 それを信じて戦ってきたカムイにとって、この現実がどういったものなのか想像に難しくない。誰にでもわかることなのだ。
 すでにギュンターへの道は開かれている。今さらそれを止めることはなく、そもそもここで決意が揺らぐような人ならば、透魔の民が最後の砦としていたあの場所で、裏切られたときにその心は折れてしまっていたはずだからだ。
 でもそこで折れることがなかったのは、支えてくれた兄妹たちがいたからであり、その支えられた分、カムイには支えなければいけない人々がいた。
 ギュンターに近づくにつれて、皆の顔に色々な感情が込み上げて来ているのが見て取れた。
 ここにいる五人にとってギュンターという人物の影響はかなりのものである。城塞で過ごした時間、彼らの中でギュンターというのは生活の中でいなくてはならない人であったのだ。
 カムイにとっては育ての父であり、フェリシアとフローラにとってはフリージアという単語を利用して迫ってくる無頼漢から守ってくれた騎士であり、リリスにとってはカムイと一緒にいさせてくれるために城塞にいることを許してくれた恩人であり、ジョーカーにとっては今の自分を構成するすべて教えてくれた師匠であった。
 全員、ギュンターと出会うことがなければ、悲惨な運命を迎えたことを否定できない者たちばかりだった。

◇◆◇◆◇








 だからこそ、その運命という歯車を入れ替えてくれたギュンターを倒すということが、今になって圧し掛かっていた。これが本当に正しいことなのか、ギュンターを倒さずに元凶だけを倒す方法を考えればいいんじゃないか、そういったことばかりが頭の中に浮かび始めていた。
 実際そんな時間はない、表の世界に対して透魔王は攻撃を開始している。どこからでも現れる兵、それに襲われ続けている白夜と暗夜、それを考えればもう、選択肢などありはしないのだ。
 だからこそ、透魔王はギュンターをカムイ達の前に差し向けてきたのだろう。ギュンターを生かすためにあれこれと考えてもいい、戦い苦悩してもいい、結果的にカムイ達が苦しみ、地団駄を踏ませることができればそれでいい。その間に表の世界を滅ぼせるのなら、それで十分に構わないのだ。
 本当に狡猾だ。人の嫌だと思うことを狙って行い、それによって自分に現実的な利益さえ手にする周到さ、だからこそ、その手際の良さは嫌悪称賛したい。

「本当に嫌になります」
「カムイ様、いきなりどうされましたか?」

 ジョーカーの意識が向くと、ほかの皆も同じようにカムイの言葉に耳を傾けはじめる。攻撃は止まない、止めればギュンターとの距離がこれ以上縮むこともないはずなのに。皆の手は戦いを止めることはなかった。
 だから、カムイも同じように攻撃を続けながら言葉を紡ぐ。

「私もできることなら、ギュンターさんと戦いたくはありません。ギュンターさんを倒すことで私達に得なんて一つもないんですから」

 カムイ達が選んだ道はギュンターを倒して先を進む道、どんな苦難があろうともそこを進みゆくことを決めた以上、その選択の責任は選んだ当事者すべてが忘れずに覚えていかなくてはいけないことだ。そして、その始めの出来事がこうして五人に与えられている。

「私はこの先に得るべき結果があると信じています。ギュンターさんとこうして戦うことになった今でも、その目指す場所は変わっていません。たとえ、そこにギュンターさんがいなかったとしても……」

 目指す場所は変わっていない。争いの終わった平和な世、世界を覆う悪意という闇を光がかき消した光景。ギュンターと約束したその世界、それを目指すことをカムイはあきらめない。だからこそ、ここにいる皆に問わなくてはいけなかった。

「そんな、そんな世界を目指す私と一緒に……歩んでくれますか?」

 彼女の言葉は静かに四人に告げられる。誰もが作業の手をやめることはなく、ただ無言の肯定を返す。その無言は肯定として受け取られ、最後のジェネラルが倒れ伏した。

◇◆◇◆◇








 ギュンターは馬に跨り最後となる魔法書の詠唱を始めていた。馬に取り付けられた盾は長き間使ってきたこともあって無数の傷が走っている。そして、その目にあるのは向かってくるだろう殺すべき対象を刈り取るという信念だけであった。

「ふっ、やはり命令だけに忠実な駒では、お前たちを倒すことはできないということだな」

 手にした槍に力を込め、辿り着いた者たちをその視界に捉える。

「……ギュンターさん」

 その言葉と一緒に四つの足音が追い付く。ギュンターと戦うことを選び、カムイと一緒に目指すことを決めた者たちがそこにいた。それらはギュンターを静かに見つめているだけで、言葉はなかった。 

「そうか、決めてきたということか。しかし、その信念が勝つというわけではないぞ」
「ええ、その通りです。ですが、あなたに殺されるつもりはありません、そして殺させるつもりもありません」
「ふっ、そうか」

 言葉とともに最後の詠唱が終わりを迎え、周囲に最後と思われる透魔兵が姿を現し始める。もう、この先詠唱する時間や隙はない。これがギュンターにとって最後の援軍と言えた。
 だが、その顔に悲観や落胆の色はない。手にあるすべてを使ってギュンターは命令に忠実に従う、ハイドラの課した命令はカムイを器にして差し出すことでしかない。ギュンターにとっていえば周りの者などどうでもよかった。

「覚悟しておけよジジイ」
「ジョーカーか、別に貴様の命などどうでもいい。今この場から去るのなら、その命は助けてやるぞ?」
「寝言は寝て言え、カムイ様を守らずに逃げるくらいなら、自殺してやるよ」
「そうか、なら今すぐ自害すればいい。所詮、お前では守り切れんからな」
「てめ――」
「ジョーカーさんだけじゃありませんよぉ! 私だってカムイ様を守ってみせるんですから!」
「フェリシア、話に割り込んでくんじゃねえ!」
「ふええ、ごめんなさいぃ」

 そのやり取りはどこかギュンターにとって懐かしいとさえ思える。このあと誰が二人の間に入るのかも予想できていた。

「二人とも、無駄話はそこまでよ。準備しなさい」
「姉さん、ごめんなさい」
「言われなくてもわかってる」

 フローラが二人を諭す。そして、カムイの横には最後の一人の姿がある。最後に現れた一人、そして真実を知った今でならわかる。本来ならこちら側にいるべき人物。

「カムイ様」
「わかっていますよ、リリスさん。サポートをお願いしますね」
「はい、任せてください」

 そのすべてが城塞での生活風景で、そこに最後現れるのはいつもギュンターの仕事であった。
 だからこそ、カムイ以外の人間の命になど興味はなかった。

「カムイ、その命を亡くし、ハイドラ様への器とさせていただきますぞ」
「そうはさせません。あなたに私を殺させるわけにはいきませんから」

 カムイの構えに合わせて、皆の準備が整う。カムイ達の増援はいずれ至ることだろうが、ギュンターにそんなことは関係なかった。
 使い終えた魔法書を床へと落とし、自身の使い古してきた大槍に力を込めた。

「では、行くぞ!」

 その言葉を合図に両者の足は確かな力を持って床を蹴った。

◇◆◇◆◇









 力強く蹴りあげた敵に止めを刺して、カムイは一気に反転する。迫りくるギュンターに気付いたからだ。
 一人馬を駆っているが、翻弄するのではなくカムイだけに的を絞った攻撃は、出現させた木偶が倒される合間を縫うように加えられていく。波状攻撃の様相を呈していた。
 火花が散る度に照らされるギュンターの表情は真剣そのものであり、先ほどまでの合間憎悪に滲んでいたものとはまったくの別物だった。

「カムイ様から、離れてください!」
「ふっ、そんな魔法で私を倒せるとでも?」
「関係ありません。カムイ様から引き剥がせるのなら!」

 リリスの魔法により進路変更せざるを得ない状況になっても、その馬術は匠であり木偶の頭上を軽々しく飛んでみせると、そのままの勢いをもった大槍をカムイへと振り下ろす。向かってきた木偶を仕留めるために放とうとした剣先であったが、ギュンターの行動変化を読み取って距離を取ることに切り替える。すると先ほどまでいた場所、ちょうど頭があった部分を大槍が通過した。

「……本当によく動きますね。気づかなければ頭が飛んでましたよ」
「老体と甘く見られては困りますな。これでも若い者に負けるつもりはありませんので」

 着地と同時に振り下ろした大槍を引き寄せつつ、もう一歩前に踏み出せば、またしてもギュンターの攻撃範囲にカムイの体がすっぽりと入る。それを踏まえてカムイは敵の一体を掴み上げ、そのままギュンターに向かって蹴り飛ばし、すかさずその陰に隠れて距離を狭めた。
 無論、ギュンターにとって彼らは木偶である。刺し殺すことも容易いが、そうして槍を振るわせようというカムイの算段には気づいている。となればと、手綱に力をこめて馬へ跳ぶように指示を出せば、馬はカムイの頭上を越えるように高く跳躍し、ちょうど真上に差し掛かるあたりで大槍が真下へと振るわれた。
 隠れていた視界の端に映った影から視線をあげたカムイの目の前を横切る槍先は、寸でのところで足を止めたカムイの眼前を掠め、少しだけ毛先を奪い去っていった。

「やはり、現役の頃のようにはいかないようだ」

 そう零すギュンターの顔には余裕がある。一方のカムイにはその余裕がなかった、さすがに一対一でギュンターに勝てるとは思っていなかったが、その差を思った以上に見せつけられる。こちらの選んだ行動に対して、ギュンターは的確に対処してくる。それに加えて老体とは思えない体力も、その強さに花を添えていた。
 床に足が付いたと同時に馬が反転し、そのままの勢いで振り返ったギュンターの一撃がカムイの背中に向かって差し込まれるが、それをカムイは避けて瞬時に振り替えると、ギュンターの槍が先ほどカムイの前にいた木偶を貫いていた。槍先が死体に納まっている今がチャンスだと、手に持った終夜を握りしめて飛びこもうとした瞬間だった。
 力強い風切りの音と共に脇腹に恐ろしい激痛が走る。死ぬとまではいかないまでも、その突然の攻撃に呼吸が一瞬止まり、両足に入れて蹴り込んだ勢いが真横に向けて放出されるように、彼女の体は床へと叩きつけられる。凄まじい衝撃に止まった呼吸の再開に体が務める反面、何が起きたのかを理解するためにギュンターを見やれば、馬が一回りを終えたところであった。

「ふん、まだまだですな」

 その言葉とともに大槍が振られ、槍先に刺さっていた木偶がズルリと床へと落ちる。その古めかしい大槍の槍先より少し下の腹に真新しい傷があった。空振りの直後にギュンターが馬に指示を出してそのまま槍の腹でカムイを吹っ飛ばした証であった。
 遠心力の加わった一撃はカムイのペースを乱すには十分で、この気を逃さないようにと手綱が音を上げる。死の宣告ともいえるその音と共に馬が駆けだそうとした瞬間に、ギュンターの進行方向に向けて幾つもの火球が花を咲かせた、青き衣がカムイの前に現れた。

◇◆◇◆◇







「カムイ様、ご無事ですか!」
「ぐっ、リリスさん。なんとか、死なずには済みましたけど」
「今すぐ治療します、動かないでください!」

 そうしてリリスは魔法書を閉じる。すでに火球は姿を失い、ギュンターの進行を邪魔するものはいなかった。だと言うのに、リリスはギュンターに背を向けて魔法の杖を取り出し詠唱を始める。それは私を殺しても構わないと宣言するも同じだった。

「ほう、それがお前の忠誠か。無駄な死に方を選ぶ必要はない。今すぐにそこをどけ!」

 ギュンターの持つ大槍が再び構えられる。それにカムイは力を入れようとするが、すぐに治療が終わるわけではないので、剣を杖のようにして立つことしかできない。

「リリスさん、そこを退いてください。ギュンターさんが来ます」
「わかってますよ。もうすぐ終わりますから、安心してください」

 それは嘘だとわかった。かなり時間の掛る治療魔法を施しているのだ。多分、治療が終わるのとギュンターがここに達するのはほぼ同時、だと言うのにリリスは動く気配を見せない。

「くっ、リリスさん。このままではあなたが死んでしまいます。私なら、どうにかもう一度受け切れるはずです。だから……」
「いいえ、受け切ってもその次にやられてしまいます。そこでカムイ様がやられてしまったら、私もやられてしまいます。だから、ここはカムイ様を助けることの方が共倒れにならない選択なんです」
「それは困ります! 私はサイラスさんになんて謝ればいいんですか!」
「大丈夫です。サイラスさんは私のしたことを認めてくれます。だって、サイラスさんはカムイ様に仕える私に恋してくれたんですよ」

 顔を赤くしながらそう答える。そこには死が迫っているというのに、慌てている様子はなかった。
 ギュンターの馬が駆け出す音が響き始める。一刻の猶予もないというのに、カムイの体には未だ力が戻らない。治療魔法の完成はあと少しに迫っていた。

「私はこの戦いが終わるまで、カムイ様のために命を掛けるって決めて、サイラスさんはそれを許してくれました。だから、私はあなたに仕える一人の従者として、今も一緒にいられるんです」

「リリスさん……」

 杖に光が灯っていく、優しく温かみを持った光、やがてそれがカムイの体を包みこむ。その瞬間にギュンターの姿は背中にまで達していた。ほぼ同時にリリスの手が動く、カムイを突き飛ばすように手を前に突き出す。それに合わせてカムイが後ろへと転がると共に、重たい音がリリスの体を揺らした。

「っ!!!!!!!」

 脇腹にめり込む大槍の腹、骨の軋む音が内部からリリスの体に響き渡ると、そのまま体が数回跳ねて床へと倒れる。死にはしなかった、死にはしなかったが、カムイ以上にもろにダメージを受けたためにその体にはまったく力が入らない。

「リリスさん!!!」

 叫びと共に両足に力を込めてギュンターへと肉薄する。肉薄して、そのギュンターの表情に違和感を覚えた。
 一瞬だけ、ギュンターは自分のしたことを理解できていなかったように、その槍を見据えていた。わなわなと手が震えているようにも感じられるその仕草は、どこか信じられないという叫びさえも感じられる。ギュンター自身が行ったことに関して、困惑しているという印象であった。

「な、なぜ、ぐっぐおあああああ」

 突然の叫びにカムイの動きが一瞬だけ止まるが、今がその時だと一気に剣をギュンターに向けて繰り出す。繰り出した剣先は物の数秒でギュンターに肉薄するかもしれないという場所まで向かい。甲高い音でによって弾かれた。

「……ふっ、やはりこの程度か」

 その顔は先ほどまでの真剣なギュンターとはどこか異なっているように感じた。先ほどまでの勝負をするために身を捧げていた姿とは、明らかな異質さがある。そしてその言葉は自分に向けられたものではないと、カムイにはどこか理解できてしまった。

「カムイ、貴様には無力さをくれよう。出来損ないの役割としては丁度いい!」

 大槍の持ち方が変わる。突き刺すことに念頭を置いた構えると、リリスへと向けて進み始めた。

◇◆◇◆◇








「リリスさん!」

 意識はまだはっきりしていた。だから治療すれば死ぬことはないということもぼんやりとだけ理解できる。でも、今のリリスにはそれをするほどの余力がなかった。
 遠くに見えるカムイと止めを刺しに向かってくるギュンターであるが、先にたどり着くのはギュンターだということは彼女にも理解できた。

(ここで終わり、ということでしょうか……。いや、そうですよね……)

 諦めたように観念したように、リリスは指をゆっくりと動かす。血は出ていないけど、内出血と骨の破損で体中がぼろぼろになっていることはわかった。動くことで傷が広がることは間違いなかったし、動いたところで逃げ切れるわけでもないと理解していた。 

(サイラスさん、ゾフィーさん……)

 自分には得られないものだと思っていたからこそ、サイラスから受け取った指輪はとてもうれしいものだった。
 最初はサイラスの馬の世話をしたことからだった。それからカムイに関しての話、そして自分が人間でなく竜であることの方が本質であることを話して、それでもサイラスはリリスを親友として迎えてくれた。
 だから、そこから膨れ上がった思いが恋情になって愛情になって行くのに時間は掛らなかった。
 愛し合って、ゾフィーという血の繋がりはなくても、我が子のように接してあげられる子と出会えた。そう考えれば、リリスの人生は素晴らしいものだといえた。

(最後の最後でドジしちゃったのかな、私……。ドジはフェリシアさんの特権なのに……、あっ、今のフェリシアさんに聞かれた怒られちゃいそうですね)

 だからこそ、最後はカムイのために命を掛けられたことが良かった。ぶれることなく、自分を貫きとおせたことが何よりも誇りの思えた。
 同時に、そんな不器用な自分を愛してくれたサイラスに申し訳がなかったのも事実だった。

「えへへ、ごめんなさい。サイラスさん、ゾフィーさん」

 静かに目を閉じる。もう最後の時を待つのに時間はいらないというように。迫りくる馬の駆け足と床の振動は、さながら処刑の秒読みにも感じられた。だからそれを受け入れるようにリリスは目を閉じ――
 振り下ろされる何かの音を聞いた。
 そして、すぐに火花が散るような甲高い音を聞く。
 それは何かが何かを受け止めた音で、静かに目が開かれると、頭上を何かしらの影が通って行ったのが見て取れた。

「俺の妻に手を出さないでもらえるかな」

 そして次に耳に入ってきた言葉に自然と顔が動く。大槍を正面から剣で受け止める後姿、それが何者なのかを理解してリリスの目からは涙がこぼれ始める。謝ったばっかりだというのに、その人がいることがとてもうれしかったから。

「サイ、ラスさん……」
「リリス、間に合ってよかった……」
「えへへ、私、カムイ様、守れたみたいです」
「ああ、待っててくれ。すぐに治療できるようにする。でやああああっ」

 彼の握る剣に力が生まれて、受け止めていた大槍を押し返すとリリスの頭上を通り過ぎた影の正体が空より飛来し、ギュンターの眼前へとその手に持った斧を振り下ろす。ギュンターはそれに合わせて距離を取って、互いに仕切り直しと言わんばかりに睨み合う形と相成った。
 城門の処理を終え、いち早く駆けつけたサイラスとカミラであった。

◇◆◇◆◇







「間一髪、ってところかしら、判断が遅れていたら間に合わなかったわね」
「カミラありがとう、俺の願いを聞いてくれて」
「別に構わないわ。私もカムイのことが心配だったもの、ゾフィーとマークスお兄様には悪いけど、仕方がないわ。さて、私が牽制してる間に早く済ませちゃいなさい」
「ああ、リリス。もう大丈夫だ」

 サイラスの手が優しく抱き寄せると、寄り添うようにリリスはその体を掴む。心の奥からじわっと広がり始める安心感と幸福感がとてもうれしく感じて、戦いの最中だと言うのにまた顔が火照ってきてしまう。少しだけ、体が昂ぶっているのもわかった。

「さ、サイラスさん」
「大丈夫だ、すぐに治せる。だから、今は――」
「ち、違うんです。その……」

 顔を赤くしてもじもじと体を揺らして、その瞳はどこか熱く揺れている。サイラスも戦いの最中でありながら、すこし顔に明かりが灯っていた。

「そ、その、嫌だったらいいんですけど。その――」

 リリスの繋ごうとした言葉の意味をサイラスは理解する。しかし、今は戦い中だ、そう戦い中、戦い中であるが、やはり愛する者からおねだりされたらそれは仕方の無いことだと、誰に弁解するのかもわからない小言を頭に並べた。
 閉じられた目と突きだされた唇、もしかしたら知らない間にリリスはそれをすることによって、傷を回復す手段を確立したのかも知れない。いや、そんなことあるわけないが、多分そうだろうとサイラスは納得した。
 納得した以上、待たせるわけにもいかない。彼の中の騎士の誓が許さない。騎士の誓と呼ぶには、あまりにもふしだらな気がしなくもないが、ここに限って言えば騎士の誓は額縁に突っ込んで飾っておくくらいにした方がいい。サイラスは思った以上に欲望に素直な男だ。

「リ、リリス……」
「サイラス……さん」

 夫婦らしい掛声、甘ったるい空気、二人の世界はとても甘くて入っていけない。リリスを按じて駆け付けたカムイも、どうにかこうにか敵の処理を終えて駆け付けたジョーカー達も、片手に杖を持っているにもかかわらず近づけないままでいた。
 この二人を知っている誰かじゃなければ入れないと、固唾をのんで見守る四人の前で今まさにラブロマンスが最高潮になろうと言う時だった。

「ちょっとちょっと! 二人ともさすがにそういうのは戦い終わった後にしてよ。みんな対応に困ってるから!」

 駆け付けたゾフィーによって、差し押さえられたのだった。

◇◆◇◆◇







「ふふっ、やっぱり面白い子たちね」

 後ろから聞こえる会話に舌鼓を打ちつつ斧を構えて、間髪入れずに一気にギュンターへ攻撃を開始する。上空を取られているということがどういうことなのか、ギュンターは察している。察しているからこそ、攻撃を受け切ることに専念し始める。カミラの攻撃は勢いを衰えさせることなく続いて行くが、それを見据える目にはおどろおどろしい怨念が立ち込めている気概すらあった。

「ギュンター、あなた王族や貴族が死ぬほど嫌いだったのね」
「ああ、お前たちのように自身の悦楽を優先するような者たちには虫唾が走る。理不尽なことを強要することこそが生きる理由だと思っているようなお前達にはな」
「……わからないわ」
「何がだ」
「いいえ、ギュンターあなたが王族や貴族を嫌うことに関してはわからないわけじゃないの」
「自身は汚れていると認めるというのか?」
「ええ、一度は自分可愛さにカムイを殺そうとした私に清らかな血が流れているわけないもの。だから私にはあの子の姉である資格はないのかもしれないわ。でも、カムイは私を許してくれた、だから私はあの子を守るために戦う」
「ほう、調子のいいことだ」
「ええ、本当にね。だけど、幼い頃からカムイと一緒に過ごしてきたあなたから見れば、城塞で一緒に暮らしてきたあの子たちは、あなたの嫌う貴族や王族の類ではないはずよ」

 カミラの言葉にギュンターは何を言い返すでもなく、大きく槍を振って距離を取ると、先ほどまでまったく命令を理解していなかった透魔兵が集まり始めてくる。それは確実にギュンターを守るようにして集まっている。そしてギュンターに対する違和感は現実的な変化となった。

「ふん、やはり人間とはこのような生物ということか。思いの質が低いから、最初の形を忘れそこに従事ようとする。ことごとく志を持たない生物であるということだな」

 ギュンターの発言にしては、それはいささかおかしなものに感じられた。感じられたからこそカミラはその正体におおよその察しがついた。

「……そう、あなたが元凶さんね。人の体を借りてあいさつに来るなんて、マナーがなってないわ」
「このような先の短い老体を使っているのだ。やはりカムイは我が野望の邪魔にしかならぬ存在、いとも簡単に人を紐解いてしまう。お前のような尻軽ならばいざ知らず、心の淵に眠っていた憎悪を思い出したこの老い耄れさえもな」
「ふふっ、カムイを褒めてもらえてるようで悪い気はしないわ。さっさとギュンターの中から出ていったらどうかしら、挨拶ならもう済んだでしょう?」
「むろんそのつもりだ、憎悪だけを残してギュンターの中から去ってやろう、もはやこの老いぼれに利用価値はない、最後くらいはその本能に準じて死なせてやる。はーっはっはっは」

 ギュンターの声帯から出るとは思えない、おぞましい声が放たれ、ギュンターの体を這いまわるようにして紫の炎が靡き始める。それは憎悪という感情を知覚できるようにしたら、そうなるだろうという色であった。

「そうやって、何人もの人間を憎悪に染めてきたというのね」
『染め上げた? 違うな……解放しているだけだ。抑えなければならない苦しみから――』
「冗談も休み休み言ってください」

◇◆◇◆◇







 ハイドラの言葉へと切り込むようにその影はカミラの横に現れる。手に持った終夜と目に宿る折れない意思、それらを携え彼女は元凶の意思と初めて対峙する。倒すべき敵、ハイドラの意思と。

「カムイ……」
「ありがとうございます、カミラ姉さん。リリスさんを助けてくれて」
「気にしないで、それよりも…」
「ええ、これが私たちの倒すべき相手ということです。思ったとおり人の弱みに付け込む下衆ですね」
『ほう、カムイか。ギュンターのことで細々と考えると思っていたが、いかにも人を携える者だ。簡単に犠牲を容認できるその精神、ほとほと感心する』
「感心される筋合いはありません、それにしても失うものもない戦いはとても楽そうですね」
『はっはっは、お前たち人間が教えてくれたことだ。守ることなど無意味だとな、元から興味など示さぬ方がいい、我を利用するだけ利用した人間たちのようにな』

 ギュンターの体を借り君臨する悪意の塊から滲み出るのは人類という種に対する敵意、体が強張るほどの殺意だった。それを受け続けながらもカムイは目線を逸らさない。逸らすわけにはいかないからだ。

「だから、人々の心に眠る悪意に手を差し伸べ、争わせているというのですか」
『有効的に利用してもらっているだけだ。貴様がどちらかを選べば、もっとことは楽に進んだだろうが、それも今となってはどうでもよいことだ。人間塔のはどんなに高貴に装っても、その下にあるおぞましいまでの欲望をごまかせはしない。それに従わせてやっている我はある意味救いを与えているとはいえないか、カムイ』
「人の心を操り、意図的に誘導しているあなたが救いの使者なら、ガンズさんのような無頼漢は救いの神かもしれませんね」
「カムイ、その例えはどうかと思うわ。ガンズが救いの神なら、エリーゼは救いそのものね」

 苦笑しながらカミラは零した。

「それくらい、ハイドラの言っていることは的外れということですよ。でも、エリーゼさんが救いそのものという意見には個人的に賛成ですよ。それ以外のことで賛成するつもりはありませんよ、ハイドラ」
『そうか、では無駄話は終わりだ。さぁ、ギュンターよ。我の力を少しばかり与える……最後の役目を果たすがいい』
「は……い、透魔……王様」

 憎悪の炎が体を包みこむ。もはやその目に光はなく、ただおぼろげにカミラの横に佇むカムイを眺め、その手に大槍と盾を手にする。よもや、ここに残っている敵の数を見てもギュンター側に勝利の目はない。ないことをわかっていても、その手は槍を降ろさないでいた。
 それに相対するようにカムイも剣を取る。そこに躊躇や迷いはなかった。

◇◆◇◆◇







 ギュンター自身、それが終わりのまどろみであることには気づいていた。
 ぼんやりと槍を構える体は、もはや自身の意思ではどうにもならないことにも気づいていた。体に巻きついた憎悪の感情は、確かにギュンターの持っていたもので、ハイドラはそれを目覚めさせたのだから。
 だからこそ、殺してはならない人々が生まれた。そして、それを傷つけた時に動揺したことでギュンターは察していた。すでに復讐に身を窶すことなど出来ないほどに、その身に怒りなど宿っていなかったのだと。
 槍を掲げると周りに集まっていた透魔兵たちが武器を構え始める。それは選ばなかった先にあったかもしれない光景だった。

『ギュンターよ、先の戦い見事であった』

 頭の中に忌々しい光景が浮かぶ。暗夜王国の玉座に座る男に武勲を認められた。それは騎士として暗夜に仕えてきた者たちが憧れる光景である。王国を支配する権力者から活躍を評価してもらえることは騎士の誉れであり、ギュンターもその一人であった。

『ギュンターよ。お前の力、そしてそのあり方にわしと同じものを感じている。そこでだ、お前にも我が一族に加わることを許そう。この血を飲むがいい』

 それは王直々にギュンターを認めるという意思の表れであった。一族に加わること、それを容認するなら血を飲み、竜の血を得よというものだった。
 それをギュンターは拒んだ。拒んだのは、一族になることよりも彼にとって大切な物があったからだ……。それは彼の妻子だった。
 カムイの進撃に合わせて、ギュンターの指示通りに透魔兵の一団が動き始める。それを牽制するように二騎がカムイの前に現れる。

「カムイ様、前衛は私が引きつけます」
「お願いしますね、リリスさん」
「はい、サイラスさん、お願いできますか」

 リリスはサイラスの背中に問い掛ける。共に闘うパートナーとして、同時に夫婦としての二人の形があった。

「ああ、任せてくれ。俺はリリスを乗せて迎撃に回る、ゾフィーも付いてこれるか?」
「もちろん。サイラスさんとリリスさんは乗馬でも楽しむ気分で、戦ってくれても構わないよ~」

 そして寄り添うようにゾフィーが二人に話しかける。まるで家族のように話し合い、そして互いが互いの絆を信じていることに体の憎悪は膨らんでいく。膨らんでいくのに、心にあるのはとてつもないほどに穏やかな気持ちで、静かに思い出せるのはある日にした他愛もない話だった。

『結婚ですか?』
『あまり、この城塞にいる者たちでそのような話は聞かないのでな』

 本当に平和な昼下がりだった。リリスが厩舎の整理を終えて戻ってきた時にポロッとギュンターが零した質問で、それを聞いたリリスは少しだけ考えに耽ると、すぐに苦笑いを零した。

『考えたこともありませんし、結婚するつもりもないですよ。ずっと、カムイ様のために仕事をしていきたいって思ったからここに来たんですから、誰かに恋をするなんてありえないことです』
『そうか、だがいずれお前にも大切な者が出来るかもしれんからな、少しは考えておくといいだろう』
『ギュンターさん、思ったよりもロマンチストなんですね。もっと寡黙な人かと思っていましたけど』

 リリスはそう言いながら、いろいろと考えるように首をかしげ、そしてやはりアンニュイな顔を再び張り付けて溜息を漏らした。

『やっぱり、私が結婚して誰かと一緒に幸せに暮らしている姿は想像できません。私、ロマンスとか全くわかりませんから』
『そうか。だが、私の見立てではお前は花も恥じらうような乙女のように思えなくもない。カムイ様はあれでどちらかと言えば、男と言える部分が強いのでな』
『……ギュンターさんは冗談がうまいんですね』

 そう言って苦笑いしていた彼女であったが、今視線の先にいる彼女は確かに乙女のように顔を赤らめたり、愛する者と共にあり幸せそうに笑みを浮かべていた。。

(ふっ、あんなに結婚など考えてもいなかったお前が、愛する者に囲まれて幸せそうに笑う日がくるとはな……)

 そこで知ったのだ。もう、体と心は離れてしまっているということ、この体が開かれた悪意に取り込まれてしまったという事実を、ギュンターは人知れずに理解した。
 だから、次に見えた光景さえも、彼は受け止めることができてしまう。自宅で愛する妻子が凶刃に倒れている姿、そして切り捨てた正規兵たちの死様。変わることのないギュンターの暗い過去が静かに清算されていく。

◇◆◇◆◇







 ギュンターの馬が駆け出してカムイへと肉薄していく。手に携えた槍は確かな殺意を持っているが、それはカムイを殺す確かな意思を持っていないと自ずと理解できていた。だからこそ、違う光景が浮かびあがってくる。ギュンターは力強く馬で野を駈けていた。
 どこに向かう道なのかを彼は知っている。妻子を殺した正規兵たちの返り血を落とすこともなく、ギュンターは馬を駆る。王城に向かい、鬼の形相で迫るギュンターはガロン王の行方を訪ねて回り、大臣からその行き先を告げられ、彼は急いでそこに向かった。ギュンターにとっての故郷と呼べる村へ。
 迫るギュンターとカムイの距離。そんなカムイの後続から二つの影が後を追う。手に持った暗器の輝きと伝染する氷の冷たさをもろともせずに、彼女たちはカムイに迫りくるギュンターの馬を見据えた。

「フローラさん、フェリシアさん!」
「はい、カムイ様! フェリシア、準備はいい?」
「任せてください、大丈夫ドジなんてしませんから」
「……ふふっ、戦闘技術はあなたのほうが上なんだから、もっと自信を持ちなさい、フェリシア」
「はい、えへへ、姉さんに褒めてもらえました。行きますよ、ギュンターさん!」

 カムイの後方左右に二人が広がり、その手に持つ獲物を構えて一気に前に出ると、スカート下からさらにもう二本の暗器を取り出し一斉に放出する。幾つもの暗器は黒き線となってギュンターの馬めがけて飛翔する。やがてその大半をギュンターは避けることなく馬に命中し、彼の体は静かに放り出された。

(……あの時も、そうだったな)

 落馬した視線の先、記憶の中の故郷はすでに炎に包まれていた。村人の悲鳴も無く、あるのは平積みにされた遺体とそれを見て笑うガロンの姿だけだった。炎に照らされるガロンは愉悦に満ちた表情で、遅れてやってきたギュンターに対しても機嫌の良い声を出していた。
 そして、それがガロンにギュンターが斬り掛った瞬間だった。妻子と故郷を失ったことでギュンターの精神は崩れ、やがて使い古した大槍はガロンを殺すための凶器となるも、その怒りが成就することはなかった。
 落馬した影響からか、それとも憎悪がそれを見せつけるためにギュンターの体を切り刻むのか、顔の傷が開きギュンターの顔を赤く染める。ガロン王に返り討ちに会い、負うことになった傷跡だ。その傷跡から流れ出た血が右目に混じり始め、視界が染まっていくのを見ながらもギュンターは全く違うことを思い出していた。
 断片的に連なる記憶は、今馬を倒した二人の使用人の記憶だった。

『フリージアから参りました。フローラです』
『あ、あの、おな、同じくフリージアから参りました。フェ、フェリシア、です。そ、その、よろしくおねがいしましゅ』
『フェリシア、噛んでるわよ』
『ご、ごめんなさいぃ』
『……お前たち、一つだけ聞いておきたいことがある』
『はい、なんでしょうか?』
『お前達がここに来たのはそう言われたからか、それとも故郷のためか?』

 初めて二人と出会った時の記憶、二人が城塞にやってきた理由はすぐに理解できた。部族の反乱の話がいくつも上がっていた頃、その抑止力として幾人もの部族の令嬢が召集されていたからだ。
 そして、その中で城塞の任に当てられたのが、氷の部族フリージアの双子の娘たちだった。
 フローラもフェリシアも自分がここにいる意味を少なからず知っていた。そして、この先どうなるかわからないということも、ギュンターの質問にどう答えればいいのか、フローラは考えていたことだろう。

『故郷の皆のためです』

 だからだろう、フェリシアがすぐさま出した答えを聞いてフローラの顔は強張っていた。だけど、フェリシアは言葉を止めなかった。

『私、すごいドジで、村の皆を困らせてばっかりで……。だけど、そんな私でも村のためになることできるってそう思ったから、私はここに来たんです。それに姉さんも一緒だから怖くなんてありません」
『フェリシア……。私も故郷のためにここにいます。誤魔化すつもりはありません。これで満足ですか?』

 二人の目はとても強いものだった。それは覚えている。聞くだけ聞いたのだから、言いたいことがあれば言えばいいとそのフローラの目は語っていた。
 だからこそ、ギュンターは二人の面倒をちゃんと見ることに決めた。この二人に己が味わったような悲劇が訪れないようにと願いながら。
『その気持ち、努々忘れぬことだ。では、来なさい。主であるカムイ様がお待ちだ』
『はい』
『よ、よろしくおおお、おねがいしますー!』

(……フェリシア、フローラ。ふっ、あの頃の固い態度が懐かしいものだ)

 視界の朱色を拭うことなく受け身を取り、すぐさま態勢を立て直したギュンターは、迫りくるカムイに向けて盾と大槍を構える。強烈なシールドバッシュで攻め入るも、それをカムイは避け切り、すぐさまギュンターの背後へと回り、その視線を追い掛けたところで視界の端に影が一つ映った。

◇◆◇◆◇







 それは俊敏に背を低くして間合いを詰め、ギュンターの体がカムイへと向き直ったところで一気に姿を現した。

「ジョーカーさん、今です!」

 カムイの一声に反応して、その手に握られた暗器の一閃がギュンターの握る盾の握り手に差し込まれる。瞬時の出来事に対応することのできないギュンターは、その握り手に差し込まれた暗器を外す瞬間を見失う。それはまさに指の骨を粉砕する勢いをもって押し込まれた。
 激痛に体は悲鳴を上げるが、ギュンターはその手際の良さに内心安堵していた。昔は何をやっても覚えが悪く、掃除すらこなせない木偶の坊だったのに、今ではこうして主の命令通りに物事をこなす仕事人になっているだから。

「ジジイ、見直したか?」

 挑発的な笑みを浮かべて血に濡れたギュンターにジョーカーは囁く。うまくできただろうと見せつける姿はまるで子供のようで、どこか褒めろと言っているようにさえ感じられる。
 この顔は今までよく見てきた。幾度となくできただろうと自慢げに笑う、その度に粗を見つけてやったことを思い出せる。ギュンターにとって言えば、ジョーカーは唯一の弟子と言える存在だった。

『そんなこともできんとはな』
『うるせえ、今までできてなかったことがすぐできるわけねえだろうが』
『口の悪さだけは一級品ではあるがな』
『主だけに尽くせって言ったのはジジイてめえだろうが! ちくしょう、今度こそ……』

 その粗探しはもっと長く続くものかと思っていた。もう少しの間、授ける術がまだあったのかもしれなかった。それは水泡のようにギュンターの手から離れていくというのに、そんな夢を見てしまう。

『……ふっ、このままではお前のことを一人前だと認める日は、永遠に来ないかもしれんな』
『けっ、上から目線でその態度はどうなんだ?』
『お前と同じだ。私もカムイ様だけが主、そしてお前は不出来な男だ、遠慮する必要などありはしない。それとも、優しくしてもらいたいのか?』
『ジジイに優しくされるとか、明日は槍でも降るんじゃねえかと心配になるからやめろ』
『たしかにな。想像して見れば、これは気色悪い以外の何物でもないというものだ』
『ああ、カムイ様が俺を慰めてくれる以上、ジジイから受け取るのは厳しさで十分……だが、もしも俺が見事に事を成し得た時は……いや、なんでもねえ』

 そう言って言葉を濁したジョーカーはどこか恥ずかしそうにしていた。今思えば、そういうことを素直に強請るのも槍が降って来そうな出来事かもしれないと、内心でギュンターは笑った。

(ふっ、わかっているジョーカー。主の命令通りに職をこなしている、よく出来たものだ。しかし、だとしても及第点だがな)

 斬り裂け、骨までもが露出した左手はもはや盾を持ち続けることもできない。大きな音が鳴り響く、だが痛みを理解しない憎悪は槍を振るう。それをジョーカーは軽々と避けた。
 最後の役目が切り替わる。勢いのままに振り返った先、眩い炎のような剣を構え待ち構える最後の一人がいた。

◇◆◇◆◇







 視界にノイズが走る。ザラザラとした意識の中に見えるその姿は、懐かしい記憶にある復讐への心が芽生えた頃にまで遡っていた。
 ガロンの隠し子だという娘の世話係という話が舞い込んできた時、すでにギュンターは抜け殻のような人間だった。拘束されていたことよりも、愛する者を守れなかったこと、その不甲斐無さに押しつぶされていた。
 だから、その子の世話係というのを聞いた時は虫唾が走った。虫唾が走り、同時に心に悪い思考が沸き起こる。ガロンという存在に一矢報いることができるかもしれないと。そんなことを考えた。
 その命令にギュンターはすぐに従った。そして出会ったのが……彼女だった。

「ギュンターさん……」
(カムイ様……)

 初めて会った時の彼女は、ガロンにすべてを奪われた時のギュンターと何も変わらなかった。なんでここにいるのか、どうして生きているのか、それすらも理解できないし、考える気にもなれない、まるで抜け殻のようであった。
 ギュンターはガロンのご機嫌取りと並列するように、しばらくの間は言われたとおりにしてきた。自分の不幸はガロンの所為だと口には言わなかったが、誰の命令で動いているかを仄めかすようなことはしていた。鞭で叩くことは日常的で殴ることさえあった。
 それでもカムイは言うことを聞いたりしなかった。痛がりもしなかった。ギュンターに興味を示すこともなかった。そんな日々が続いたある日、ガロンに鞭を渡された時、ガロンに媚を売ることをやめた。
 それがギュンターにとって復讐する心を薄れさせた最初の出来事だったのかもしれない。鞭を無理やり丸めて作ったボール、それを投げ合う日々。カムイは言葉よりもキャッチボールでの意思疎通が好きで、ギュンターもそれに興じていた。

『………』
『………』

 二人の間をボールが静かに行き来する。カムイもギュンターも声に出さずにいるが、それで意思疎通はできていた。
 元気かと投げれば、元気だよとボールが返ってくる。何かしたいことはないかと投げれば、これだけで十分だよと返ってくる。芯がしっかりしている、子供なのにどこか神聖なものをギュンターは感じていた。
 そして気づけば心のうちにあった復讐を望む心は次第に息を潜める。皮肉なことだった、ギュンターの復讐という願いは、利用しようとしていたカムイによって抑え込まれてしまったのだから、でもそれで別に構わなかったのだ。

(本当にカムイ様は不思議な御方だ……)

 愛する者をすべて失ってもなお、生きる理由を見つけるなら復讐だけしかないと考えていたギュンターにとってカムイとの生活はどこか新鮮だった。互いが何も持っていなかったからかもしれない。でもそれだけじゃなく、心を開き始めたころから甘えてくれるカムイに愛しさに似たものさえ感じていた。
 復讐に身を窶すよりも、その生き方はどこか心地良かった。そして、復讐こそが死んだ者たちへの弔いになると……信じていた自分がいたことを今になって知った。

(……結局、それで満たされるのは私だけだ。死んだ者たちが何を望むのかなど、わかるわけもないことだというのにな)

◇◆◇◆◇







 ここで戦う透魔兵たちのほとんどは意思を持たない。ただ操られている死体であるから、願望を口にしたりはしない、死んでいるからだ。
 そして何よりも、カムイをそれに巻き込んでいることの意味を理解できなかった。するなら一人ですればいい、巻き込む必要などない。カムイに出会う前に、もう一度ガロンを殺すために動けばよかったのにそれをしなかったのは……知っていたからだ。妻子がそんなことを望んでいないということを。
 村の者たちはわからない、大切なものに違いはない。だから、確認のしようなどない。だが、妻子だけは別だった。それほどまでに彼らをギュンターは愛していたのだから、疑う余地もないことだったのだ。
 残った力を振り絞って行われる攻撃をカムイはすべていなしていく、力の差は歴然で距離はどんどん詰まって行く。あと数歩でギュンターの懐にカムイが入り込む距離になった。
 そして、そんな暴力を振るう体に抗うことをギュンターはしなかった。それは眼前に至った少女のことを信じているからだ。

『ギュンターさん』
『どうしましたか、カムイ様?』
『え、えっとですね……。その……』
『おやおや、私に言い辛いこととは、一体なんでしょうかな?』
『茶化さないでください。でも、確かに面と向かって言うのはなんだか恥ずかしいですね。ふふふっ』

 紀億の中のカムイが笑う。そして、それに釣られて記憶の中のギュンターも笑った。
 穏やかだった、幸せだった。

『えっと、その、義父さんって、今日は呼んでもいいですか?』
『……』
『な、なんですか、そんな顔しないでください。は、恥ずかしいじゃないですか』
『いえ、申し訳ありません。何分突然のことでしたので……。しかし、どうしてそのようにお呼びになりたいと?』
『だって、ギュンターさんは私にとって義父さんって呼べる唯一の人だから。その嫌ですか』
 
 そう悲しそうに言うカムイに、その時のギュンターはやんわりと断った。

(……嫌なわけありませんよ、カムイ様。ですが申し訳ありません、やはり恥ずかしいのも確かでしたから、その願いを聞き入れることはできませんでしたな)

 復讐のために近づいた少女にギュンターは救われ、そしてその後に今の皆が集う場所が出来あがった。
 すべてを失いマイナスから始まった第二の人生と考えても、ここまで城塞で過ごしてきた日々たちは手から溢れるほどの幸福だった。
 そして、その幸福を投げ出して再び復讐に身を投じたギュンターに、もうこの先を求めるほどの力は残っていない。夢から覚めたのは、復讐者としてのギュンターなのか、それともカムイと出会った後のギュンターだったのか。考えても、意味の無い問いかけだった。

◇◆◇◆◇







 渾身の力を振り絞って槍が突きだされる。踏み込んだカムイのこめかみめがけて突き進んだそれは、彼女の数本の髪の毛を切断するに至り、その腹から一刀両断される。床に叩きつけられた槍は金属音を響かせ、そのまま終夜の剣先が静かに返される。カムイの構えが終わった。

「はああああああああっ!!!!!!」

 入れ替わるように彼女の足が床を蹴る。渾身の力で踏み込んだ体は全体重をぶち当てるようにして突き進む、時間が静かに流れているとわかった。
 鎧の隙間に剣先が静かに入り込む、感じたのは皮膚に走る冷たさと、引き千切れる肉の音、体重に任せた一撃は老体の体を蝕み、やがて体そのものを貫くにまで至る。滴り始めた血は静かに彼女の姿を濡らし、やがて体を舞う憎悪の炎は役目を終えた灯りのように、ふっと姿を消しさった。

「……見事、……でしたぞ」

 自然と言葉が漏れる。弱弱しく手がカムイの体を抱きとめ、自然と残った右手がカムイの髪を撫でた。
 短く押し殺した嗚咽が聞こえ、見てみれば鎧に数滴の雫が落ちている。その雫はギュンターが仕えてきたことに意味があったことを示すものでもあった。

「……敵将を倒して涙を流すとは、カムイ様らしいですな。本当に優しい方だ」
「敵将じゃありません、私はギュンターさんを、殺してしまったんです。主であるのに、臣下を切り捨ててしまったんです……」
「……こんな私をまだ臣下と呼ぶとは、甘いですぞ」
「甘くて構いません。ギュンターさんから見たら、まだ私たちは手間のかかる子供なんですから……」

 そう言ってカムイは静かにギュンターの胸から顔を放す。その顔は確かに涙を流しているが、どうにか堰き止めようと踏ん張っている。まだ嘆くことはできないと知っているから、まだ彼女たちの戦いは終わっていない。泣くのはすべてが終わってからでいいと、その目は力強く語っていた。

「こんな子供の私たちをここまで育ててくれてありがとうございます。ギュンターさん」

 手をしっかり握りしめられる。とても温かかった、温かくて、同時に静かに眠気がやってくる。もう長くないと悟った。
 なら、もう、留まることはできない。子供たちはもう歩み始めているのだから、しっかりと送り出すのが親の使命だとわかっているから。
 気づけば、城塞の面々がカムイと共にいた。誰もがギュンターを見ている。そしてそれらは悲観的なものではなかった。だから、待たせるわけにもいかない、彼らには未来がある。もう、私の未練と復讐という古い場所に縛り付けるわけにはいかない。押し出すくらいの力は残っている。でも、格好をつけるのは、なんだか恥ずかしかった。いつも通りでいいと、ギュンターは顔を静かに上げる。

◇◆◇◆◇







「後のことは任せるぞ、お前たち」



 何時ものように強い言葉を告げる。告げた口は最後の息を吐き、やがて静かに頭が下りて行く。
 眠気は寒いものではなく、むしろどこか温かい。
 やがて力の抜けた手がカムイの握りしめていた手の内から零れた。

◇◆◇◆◇







 
「………」

 動かなくなったギュンターから手を放す。その顔は既に向かうべき上層を睨みつけていた。

「皆さん、行きましょう」

 短い言葉を紡ぎカムイは静かに駆け出す。それに続いて他の者たちも後を追い上層へと向かう。
 残されたのは折れた槍と壊れた盾、そして子供たちを送り出して安らかに眠る老兵だけだった……





 これは違う世界の話




 復讐に翻弄された男の戦いが終わリを迎えた話




 If(もしも)の一つ
 



【透魔王国ギュンターif おわり】

 今日はここまで。
  
 透魔王国ギュンターifでこのスレでの更新は終わりになります。
 番外が結構長かったかもしれない。しかし、3スレ目とか、信じられんな。
 
 三日前に救急車で病院に運ばれて、いろいろあって後編の更新が遅れて申し訳ない。
 尿管結石で、死ぬかと思った。息できないし、みんなも気をつけるんだ!

 少ししたら次スレを立てようと思います。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございまいました。
 

 新しいスレを立てました。

【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―3―
 【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―3― - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1456839703/)

 2スレ目、呼んでくれた方々、コメントをくれた方々、安価に参加してくれた方々ありがとうございました。
 
 また次のスレでもよろしくお願いいたします。

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