いろは「先輩、サッカー観戦しましょう!」八幡「断る」 (56)

某サッカーチームと俺ガイルのコラボSSです。
モノレールに続いて、コラボしてほしい。
誤字、脱字、口調変だったらすみません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443716044

いろは「じゃーん、チケットです」

そういって、右手に持ったチケットを見せびらかす。
俺の言葉は無視ですか、はい。

いろは「生徒会で地域の手伝いしたら貰ったんですよー」

ちょっと偉そうな顔の一色。

八幡「サッカーなら葉山と行けばいいじゃないか」

いろは「大会前なんでー、土日だと葉山先輩部活なんですよー」

土日も学校とかなんなの社畜なの、ブラックなの?
というかお前もサッカー部の一員じゃなかったのか。

いろは「私は特別です!」

なぜなら彼女もまた特別な存在だからです。
あの飴甘すぎて、マックスコーヒーには合わないんだよな。

いろは「で、行くんですか? サッカー観戦。」

八幡「人が多いのは嫌だ。」

いろは「大丈夫です。地元のチーム、下のリーグに落ちて6年目なんでそんなに混みませんよ。」

6年も上がれていないんだ…。混まない理由が、それはそれで悲しい。

いろは「それに蘇我駅なんで近場で苦労しませんよ。舞浜に行った時より全然気楽ですって。日曜日暇ですよね?」

俺にはたまった漫画を読み、夜更けまでゲームをして、小町とおしゃべりするという予定が…。

いろは「ほら、暇ですね! 行きましょう!」

小町、どうやらお前とおしゃべりするのは予定に入らないそうだ…。

八幡「で、本当の目的は?」

いろは「どうやら葉山先輩がサッカー部なのに、サッカー観戦行ったことないらしくて、今度お誘いするための予行練習というかなんというか、頼れる私かっこいいみたい…な?」

八幡「練習相手ってわけか…。でも、俺もサッカー観戦なんてしたことないし、第一俺といっても盛り上がらないぞ。」

いろは「大丈夫ですよー、だいじょ、だいじょうぶ、うん。先輩とだってきっと楽しめる・・・はずです。」

何自信なくなっているんだよ一色。

八幡「どうせ拒否権はないんだろう? しょうがないな…。」

いろは「わーい、先輩大好きです。」

俺も大好きだよ、いろはす。そのあざとい感じ。

いろは「ニヤニヤしないでください、気持ち悪い。特にその眼。」

眼が気持ち悪いのは元々だ。

いろは「じゃあ、日曜日に蘇我駅の改札に15時集合でお願いします!」

八幡「わかった今週日曜な。じゃあな。」

いろは「あっ、待ってください先輩。今度はちゃんと連絡先交換しておきましょう。」

ぐいっと制服の袖を引っ張られる。

いろは「混まないとはいっても、改札前は混雑すると思うので念のためですよ、念のため。」

俺の携帯を取り上げ、自分の携帯と俺の携帯に連絡先を手際よく入力していく。

いろは「はい、私の連絡先登録しておきましたよ。何かあったら連絡ください。」

何も連絡することはないと思うが。

いろは「いいんですって。ではでは先輩、日曜日楽しみにしてますよ。」

そういって手を振り、一色は去っていった。

チケット貰ったからには行かないと悪いな。
仕方なくなんだからね、勿体ないからなんだからね。
…俺は誰に言い訳しているんだ。

サッカー観戦。

わが愛する千葉県には2つのチームがあり、一つは千葉市と市原市を拠点とし、マイホームタウンなわけだが、サッカーとか気にしたことなかったな。
駅でポスターを見ることはあるが、うちの両親ともサッカーに興味ないし、俺もワールドカップ見るぐらいだ。
よく渋谷の交差点を若者が走り回ってるよね、とかそんなイメージ。
帰ったらサッカー観戦について少し調べてみるかと考え、その考えにちょっと日曜を楽しみにしている自分に気づく。
たまには非日常もいいってもんだ。

日曜日になった。

天気は雲一つない晴れ。
そういえば雨でも、天気が悪くてもサッカーはやるのだろうか。
田んぼサッカーなんて画像見たことあるが…。

風が強いのはマジ勘弁な、京葉線止まっちゃうから。
本当にこの路線は風で止まるからな、でも防風柵できたんだっけ。


余計なことばかり考えながら、最寄駅から電車に乗る。

ちらちらと黄色のユニフォームを着た人が電車に乗っている。
この人たちはもちろんスタジアムに向かっているのだろう。


10分もたたないうちにスタジアムのある駅についた。

八幡「うわ、すげーまぶしい。」

駅構内が黄色だらけだった。
壁も床も自販も黄色。
しばらく来ないうちにこんなにチームのホーム駅になっているとは。

改札に向かうとさらにチームカラーが目に入る。
ただの乗換駅から発展してるんだなと時の流れを感じる。

改札を通ると、周りをきょろきょろ見渡す一色を発見した。
近づいていくと、あっ!と一色も気づく。

いろは「先輩~、遅いですよ。15時ちょっと過ぎてますって。」

八幡「悪い、悪い。ちょっと迷っちゃって。」

いろは「最寄駅から一本なのにどこに迷う要素があるっていうんですか…」

いや、観戦にいくかどうかを。

いろは「行くかどうか!? ひどい。でも来てくれて嬉しいです。」

相変わらずあざとい。


前回千葉でラーメンを食った時よりは、季節が温かくなったからか一色の服装も軽装だ。
今日は応援するからか、ヒールのある靴ではなくスニーカーである。

いろは「ではでは、スタジアムに向かいましょうー。ついてきてください」

そういって俺を引っ張っていく。
このたくさんの黄色の群れについていけば、間違いなくついていけると思うが抵抗はしない。

八幡「それにしても人多いな。少ないんじゃなかったのか。」

いろは「そうですね、相手も九州のチームということでそんなにいないと思ったのですが、人多いですね。」

八幡「なんだかんだで地元に愛されてるんだな。」

千葉愛を常にうたう俺も今日ばかりは肩身が狭い。

スタジアムまでは歩いて10分ばかりだ。

いろは「あっちのショッピングセンターは行ったことあるんですが、ちょっと遠いいんですよね。いつも無料のバス乗っちゃってます。」

映画館とかもあるけど、歩くと確かに遠い場所だ。
バスといえば、千葉駅のパルコも無料バスが出てるな。

いろは「でもパルコ潰れちゃうんですよねー、来年らしいですけど。」

八幡「えっ、マジで…。」

八幡ショック。特にショッピングとか好きなわけではないが、行っていた場所がなくなるって切ない。


いろは「先輩、つきましたよ~」

横に丸い大きな建物が見え、多くの人がそこに向かっている。
周りに建物がないからかその存在は一際目立つ。

八幡「ここがフクアリかー。」

いろは「福が有るんですかね?」

八幡「福有だけに?」

いろは「私は福が有りましたよ。」

なんかいいことあったのかな一色。

いろは「えーっと、ホーム自由席…。あっちから入れるみたいですね。」

八幡「お、おう。」

スタジアムの周りには屋台が並び、賑わっている。
特にあの屋台だけやたら並んでるな…。

いろは「あそこすごい並んでますねー。」

八幡「ソーセージ大盛りだと。タッパーを持参するとその分大盛りしてくれるらしいぞ。」

いろは「詳しいですね、調べてくれたんですか?」

八幡「まあ、まあな。」

いろは「えへへ。」

なんだか嬉しそうだなコイツ。こういう笑顔はずるい、喜作さんマジ奇策士。ちぇりお!



八幡「なんか入る前に買ってくか?」

いろは「うーん、そうですね…まずは席取ってからにしましょう。」

八幡「じゃあ、あの入口から入るんだな。」

いろは「はい、行きましょう。」

チケットを取り出し、スタッフに見せる。
そのあとは荷物検査がある。
瓶、缶などはもちろん持っていけず、ペットボトルはオッケーと。
マッカン飲むならペットボトルに入れていけということですね、そこまでして飲みたくはない。

俺はバッグなど持っていないからここを華麗にスルー。
一色の荷物検査を待ち、入場ゲートへの階段を登っていく。

「チケットのご提示をお願いします!」

元気な声のお姉さんにチケットを手渡し、半券を切ってもらい、入場だ。。
入場時に選手のカードをもらったが、誰だかわからない。


八幡「ホーム自由だから、すぐそこのゲートから入れるな。」

いろは「黄色いユニフォームの人ばかりですね。」

八幡「そうだな、ホーム側だからな。でも敵チーム応援している訳じゃないからいいだろう。」

僕はここにいてもいいんだ!いいんだよね、本当?


二人で入口をくぐり、スタジアムの中へ入る。
中に入ると開放感があった。

いろは「緑ですねー」

八幡「ああ、緑だ。」

フィールドが近く、鮮やかな緑色が目に映る。


いろは「一階席は難しそうですね。」

八幡「二階席もあるからそっちにしよう。」

試合1時間ちょっと前だというのに1階席はほぼ満席だ。
彼らは何時間前に来ているのだろうか。

いろは「ちょっとずれちゃいますが、あそこらへんなら座れそうですね。」

2階席も正面はほぼ席が埋まっているが、右か左にずれれば空席が見える。
ゴール裏から少しずれたところで席を確保する。

八幡「二階席からもよく見えるな。」

いろは「はい、上からずばーっと見えますね。」

2階席からでも俯瞰して見えるから、十分すぎる。

いろは「じゃあ、買い物にいきましょうー。何か買ってきますか?」

八幡「うーん、見てみないとわからないからな…。個別で買ってこよう。」

いろは「了解ですー。じゃあ先輩からどうぞ。」

私はここで待ってますねと手をフリフリ。
いいか、俺が帰ってくるまでここを動くんじゃないぞ。

いろは「はいはい、いってらっしゃいー。」


さて何を買おうか。

定番だとソーセージ大盛りだろうが、あの列に並んで一色をずっと一人で待たせるのは悪い。

少し歩くとカレーのいい匂いがする。ナンか…悪くはないが、食べづらそうだ。
でも何とかなるだろう、ナンだけに。そう思い、短めの列に並ぶ。

メニューを見ると何種類かカレーがあって悩む。
今日だけのカレーとかあるんだな。ただいきなり冒険する気にはなれん。

八幡「ポークカレーひとつで。」

無難な感じで選択。
熱々のナンが入った袋を店員から受け取る。
ゲート前の自販でペットボトルの飲み物を買い、席に戻る。


いろは「先輩、カレーにしたんですね。」

八幡「待たせて悪かったな。」

いろは「いえいえ、では行ってきますねー。」

待っているのも暇だし、早速買ってきたナンを食べる。

出来立てで熱くておいしいが、カレー側の容器をどう扱うか問題だな…。
机がないとなかなか食べるのが難しい。
ひっくり返してカレーまみれになったら観戦どころじゃない。
そう思い、細心の注意を払い、食べていく。


俄かに応援が始まりだした。
ゴールキーパーの入場とともに選手を呼ぶコールの声が大きくなる。
試合前に練習するんだなー。


いろは「なんだか盛り上がり始めましたね。」

そういって帰ってきた一色の服はさっきとは変わっていた。

いろは「せっかくなんでユニフォーム買っちゃいました。どう、似合いますか?」

八幡「はいはい、かわいいよ。世界一かわいいよ。」

いろは「なんか嘘くさい言い方ですね…」

そう言いながら、俺の隣に座る一色。
隣に座ると映画館以上に近くて、免疫のない男子高校生は勘違いしちゃう距離だな。
俺は見えない壁をつくってるから安心だ。
とくしゅ攻撃は半減、なお物理攻撃には弱い模様。

八幡「お前は何かご飯買ってきたのか?」

いろは「はい、ケバブ買ってきました。」

ケバブなら手を汚さないし、食べやすそうで観戦の食事では限りなく正解なフードだろう。

いろは「味もおいしいですよ。はい、せんぱーい」

そういって自分が食べた後のところを俺に差し出す。
俺は少しずれたところにかじりつく。

八幡「あぁ、おいしいな。」

ちょっとふくれっ面の一色さん。そういう行動には弱いんだよ、やめてくれ…。


八幡「ほら、選手入ってくるみたいだぞ。」

ゴールキーパー以外の選手が続々とスタジアムに入っていき、声が一際大きくなる。


いろは「何か投げてますね。」

八幡「サインボールか? さすがに2階までは届かないか。」

観客たちはサインボールの行方に一喜一憂し、選手は練習へと移っていく。



いろは「声、すごいですね。」

選手が入ってきてから、1階席、2階席の真ん中の人たちが立ち上がり、大きな声を出し、選手の名前をコールしている。

八幡「試合前から疲れそうだな。」

いろは「サポーターも戦いに来てるんですよー!先輩も見習ってください。」

なんでお前が偉そうなの?
確かに試合が始まる前のテンションを高めたい気持ちはわかる気がする。
奉仕部に試合はないけどな!

スタジアムの声が止んだ。

どうやらこれから選手紹介が始まるようだ。

「九州サポーターの皆さま、ようこそ。心より歓迎いたします。」

相手チームの来場を感謝するアナウンスが聞こえ、ホーム側から拍手が起こる。
俺と一色も合わせて拍手をする。


いろは「相手チームを歓迎するんですねー。もっと相手にはピリピリしていると思ってました。」

八幡「わざわざ来てくれる大切なお客さんだからな。」

九州から日曜日に千葉まで観戦しに来てくれるってどんだけ熱心な人たちなんだよ。
今日飛行機で帰るのか、明日の仕事はどうするんだ?

いろは「ついでに観光とかして行くんですかね?」

八幡「舞浜とかにか。応援したら疲れて行きたくないだろう。」

いろは「あそこは別腹です!」

別腹なんですね…女子のネズミ欲恐るべし。


相手チームの選手紹介が終わり、ホーム側の番だ。

大型ビジョンに映像が流れ、やがて選手紹介が始まる。

選手一人一人にコールが起こり、スタジアムは盛り上がっていく。
俺たちはリズムがわからないから拍手でなんとなく合わせる。

いろは「選手それぞれに応援があるんですね。」

八幡「一見さんお断りだな。」

いろは「でも、次来た時には一緒に参加できそうですよ。」

八幡「そうだな。」

果たして俺に次はあるのだろうか。

選手全員の紹介が終わり、選手たちは一端フィールドから去っていく。


いろは「もう少しでキックオフですね。」

八幡「ああ、何だかドキドキするな。」

選手の入場だ。

多くの人たちが立ち上がり、タオルを上に掲げ、応援歌を歌いだす。
応援歌は大型ビジョンに映っており、最初はリズムが分からない俺と一色だが、何回か繰り返し聞くことで分かり、声を出していく。

八幡「とーもーに」

いろは「あゆもうー」

選手が入場し始め、声はさらに大きくなる。


いろは「先輩もちゃんと歌うんですね。」

八幡「ああ、歌わないと目立っちゃうからな。」

歌っていても指摘されるけどな。先生、比企谷君がちゃんと歌ってくれません!
えっ、ちゃんと俺口開けて歌ってるんだけどな…。
何でああいうのに張り切っちゃう女子っているんだろう。
合唱祭とかいう忌まわしき文化め…。


選手の入場が終わり、記念撮影などはじめ、やがてポジションについていく。

八幡「うちは4-4-2か。」

いろは「何ですか、それ。337拍子みたいな感じですか?」

八幡「…サッカー部のマネジャーなんだろう?」

いろは「てへっ。」

八幡「ほら、試合が始まるぞ。」

主審の笛とともに、試合が始まった。

いろは「ずっと応援してるんですね。」

応援団の人は試合が始まってからずっと応援している。
本当に戦っているんだな、HP消費がやばい。


ボールが上手く通ったとき、相手のボールをカットしたときには声があがり、拍手が起こる。

八幡「ああっ、おしい。」

いろは「あぶない!」

気づけば俺と一色も試合の展開ごとに声を出している。



いろは「けっこう迫力ありますね…。臨場感っていうんですか。」

八幡「そうだな、フィールドが近くて選手の動きが見やすいし、歓声があがると違う。」

テレビで見ていても、惜しいっ!とか声をあげたりするが、実際にスタジアムで観戦しているときの比ではない。

迫力が違うのだ。

そして歓声が重なり、声が一つになるのが気持ちいい。


上手くパスが繋がらなくて、ボールが外に出てしまった。

八幡・いろは「ああー」

ため息が重なる。
お互いの方を向き、なんだか可笑しくなり、笑う。

今日はここまで。明日でさくっと完結予定です。

せめてプレイオフに行き、繰り返したい。

プレーオフでは、国立で涙し、徳島で呆然とし、味スタで絶望を現地で味わいました
今年は内容も結果も厳しいものがありますね…まだ諦めてはいませんが

続きです。

左サイドから選手がドリブルで駆け上がり、左足でクロスをあげる。

が、相手DFが必死に頭でクリアし、仲間には通らない。
クリアしたボールはゴールラインを超えた。


八幡「コーナーキックか。」

いろは「大歓声ですね。」

コーナーから選手が左足を振りぬき、ボールが宙を舞う。
ボールは速く、鋭い。

そこに走りこんできたホームの選手が頭で合わせる。

一瞬の静寂が生まれ、のち歓声が沸き上がる。



「ゴオオーーール!」



アナウンスの声が響き渡り、観客は立ち上がり、喜びを爆発させる。


俺もつい立ち上がる。
同じように立ち上がった一色とハイタッチ。

いろは「やりましたね先輩!」

八幡「ゴール入ったな!」

もう一度リプレイが大型ビジョンに流れ、再び歓声が起こる。

リプレイを見ながら少し冷静になった。
この熱気に酔っている。
さっきまでの行動を恥じ、すっと座り、目線を下に落とす。
ハイタッチした手が赤く、痛い。

試合はホーム側が点を取った勢いからか攻め続ける。
しかしチャンスがありながらも決められない。
やがてボール回しに徹し、チャンスをうかがいながら前半が終わった。


いろは「点入ると盛り上がりますね。」

八幡「そうだな、会場全体がぶわっとなってアドレナリンが出るというか。」

いろは「そうアドレナリンです!アドレナリンがどばーっと出まくりました!」

興奮気味の一色。確かに点が入った時の興奮はらしくなかった。


後半開始まで控えの選手が練習したり、チアが踊ったり、ピッチに散水したり、休憩の間も飽きない工夫がされている。

あの自動散水マシンほしいな、主夫の庭の水まきに役立つこと間違いなし。
自動とか憧れちゃう年頃だよね、あっと驚く主婦の味方。
全自動卵わり…やっぱり必要ないわ。


選手が再度入場してきて、後半が始まる。
後半は攻める方向が自分たちのいるホーム側なので、追加点があればさらに近くで見れる。

八幡「後半も点が見たいな。」

いろは「そうですね。勝利の女神がいるからきっと見れます!」

初観戦なのに勝利の女神とはこれいかに。
うちのサッカー部の戦歴はどうなのか。公立だしな…。


いろは「せっかくだから勝ち試合が見たいですね。初めての観戦が楽しい思い出になったら嬉しいですし。」

縦に首を振り、肯定する。

後半の笛が鳴った。

後半10分が過ぎたころ、自陣のペナルティエリア付近で笛がなった。

「ええー」

「ぶーーーー」
ブーイングが沸き起こる。
うちのディフェンスが相手の選手を倒したとのジャッジで、相手チームにPKキックが与えられた。

いろは「ぶーぶー」

一色も真似してブーイングする、ちゃんと出来ていなくてかわいらしい。

やがてブーイングもゴールキーパーを励ます声援に変わる。


しかし、PKキックは決まった。


ああーと会場からは悲鳴、ため息が聞こえ、相手側からはわーっと歓声が起こる。


いろは「決まっちゃいましたね…。」

八幡「そうだな、ファールがよくわからなかったが。」

いろは「そうですよね、シミュレーションですっシミュレーション!」

そういう言葉は知っているのね、この子。
さすがシミュレーションばかりの演技派。

八幡「まあ審判に文句言ってもしょうがないし、逆転を信じようぜ女神様。」

いろは「先輩にしては前向きですね。」

選手を変えながら攻めるチームだが、なかなかゴールには結びつかない。

それでも声援は止まず、サポーターは応援し続ける。
一色も夢中になり、ボールの行く先を追っている。

だが点は決まらず、時間ばかりが過ぎていく。
心なしか応援の声は元気をなくしていき、一色の顔にも諦めが見え始めた。



アディショナルタイム「4分」と大型ビジョンに表示される。
あと4分か、不味いな。


「初めての観戦が楽しい思い出になったら嬉しいですし。」
そういった一色の言葉を思い出す。

一色の気持ちに応えてやりたいが、俺にできることはここにはない。
敵にもなれないし、嘘をつくことも、そそのかすことも、走ることもできない。
傷つくこともできない。

そもそも一色も本気でそう思ってるかもわからない。
なんとなく言った言葉だ。
これはいつもみたいな依頼ではない。
義務はない。
誰かが望んだわけでもない。

それでも何とかしたいと思った。

だから、

八幡「オーオオーー」

精一杯声を出した。
元気のなくなった応援に合わせてだが、声を出した。
リズム、音程があってるかも怪しい。
声を出し、選手を鼓舞をする。


自分一人が今さら声を出しても何も変わらないだろう。
その行為に意味はない。
俺の声が選手の活力になるなど思わない。
ただの自己満足だ。

でも、舞台に立っていない俺にはそれしか出来ることがない。


突然の声に隣の一色がびくんとし、声の出どころが俺だと知り、目を丸くする。

が、一緒に一色も声を出し始める。

隣の一色の声も大きくなり、なんとなくスタジアム全体の声が大きくなった気がする。


ボールを前に運んでいくが、ゴール前を固める相手を崩せない。
サイドからクロスを上げるが、ことごとく跳ね返される。

けれどもまたサイドから攻める。


またここもクロスを上げるかと思ったが、中に折り返した。

中に選手が待っていた。
ただ遠い、ペナルティーエリアよりもだいぶ外だ。

中にいた選手が右足を振りぬく。




一瞬だった。


ボールが俺たちの目の前のネットに突き刺さる。

割れんばかりの歓声。


気づけば立ち上がっていた。

一色が俺の手を掴み、飛び跳ねる。
すごい、すごいとばかり言って喜んでいる。
俺もああ、そうだなと曖昧な返事をし、繋いていない右手の方を強く握りしめ、ガッツポーズをつくる。


ゴールを決めた選手がサポーターの方に近づき、手をあげる。
俺たちもそれに応え、声をあげる。

点が決まってからは試合時間が長く感じた。

早く終われ、早く終われと願い、その願いが届いたか、主審の笛が鳴った。
歓声があがり、勝った喜びと、応援の疲労感が同時に押し寄せる。

ただこの疲れも心地よい。

いろは「勝ちましたね先輩、やりましたね。最後見ました?超すごかったですよ。あんなシュート見たことないですよ。ずどーん!さすがプロですね。感動です!ねえ見ましたか?」

一色が勝利の興奮からか捲し立てる。

俺は繋ぎっぱなしだった左手に気づき、手を放す。

あっと話し続けていた一色も話すのを止め、もじもじとし、照れくさそうに下を向く。

ヒーローインタビューが流れ、選手がスタジアムをまわり、ゴール裏までたどり着く。

サポーターからは称賛の声と拍手が送られる。
負けるとこれが罵声とブーイングに変わるのだろうか。
勝負の世界は厳しいな…。

点を決めた選手が合図を行い、選手皆で勝利のでんぐり返しを行う。
なぜでんぐり返しなのだろうか…。

いろは「なんででんぐり返しなんですか?」

俺も聞きたい。


さらに選手がサポーターに近づき、勝利のラインダンスを行う。

嬉しそうに肩を組み、踊る選手たちに合わせ、サポーターも一緒に歌う。


「俺たちー」

選手がコールを行い、スタジアムのサポーターが呼応することで、勝利の宴は終わった。

宴が終わったことで、ぞろぞろと観客が帰っていく。

八幡「俺たちもそろそろ行こうか。」

はい!と笑顔で返す一色。


いろは「先輩、サッカー観戦は楽しかったですか?」

八幡「ああ、悪くなかった。疲れたけど。」

いろは「もう誰よりも夢中になってたくせに。先輩がいきなり大きな声を出し始めたからびっくりしましたよ。」

八幡「やめろ、恥ずかしい。」

俺だって、心が叫びたがってることあるんだよ。

八幡「…誘ってくれてありがとうな。楽しめたよ。」

いろは「はい! 私もすごく楽しめました!」

八幡「だたこれ勝ったからいいものの、負けるとお互い気まずくなって、微妙な雰囲気になりそうだな…。」

いろは「そ、そうですね…。確かに。リスクの高いデートですね…。」

敗因を議論したり、選手批判で争ったりしたら目も当てられない。
どんよりした気分で一緒に帰りの電車乗るとか、それなんて罰ゲーム?

さらに彼氏が、彼女がファンで来ちゃったとかいう人だったら1回で嫌になっちゃうね。
やっぱり一人。ぼっちが安定ということですね。

ただ誰かと一緒に勝利の余韻に浸れるのは嬉しい。
ゴールの瞬間の刺激は忘れられない。


八幡「葉山とのデートプランとしては止めとけ。運要素も強すぎる。」

いろは「そういえば予行練習ということでしたね…。」



いろは「わかりました。先輩とだけにしますね。」

今の八幡的にポイントが高い。
まったくなんてあざといんだ、この後輩は…。

八幡「さすがいろはす、あざとかわいい。」

いろは「かわいい?! 可愛いっていいました?」

八幡「はいはい、言いました。それで一色、ちょっと付き合ってくれないか。」

いろは「はっ!なんですかもしかして今わたしのこと口説いてましたか、勝利のテンションでうかれちゃいましたか、一回サッカーに行ったくらいで告白とかずうずうしいにもほどがあるので、もう何回か観戦してからにしてもらっていいですかごめんなさい」

八幡「せっかくなんで俺もユニフォーム買っておこうかな…って。」

いろは「付き合うって、そう・いう・こと! 紛らわしい! も、もう!」

しょうがない先輩ですね、ついてきてくださいと一色が俺をお店に連れていく。

いろは「買ったからにはまたサッカー観戦きましょうね?」

八幡「善処する。」

いろは「本当にはっきりしない先輩ですね。」

そういいながらも笑顔の一色。


たまにはこんな気持ちも悪くない。
そう思うのは「らしくない」。

らしくないけど、そんな自分がいるのも事実だ。

初めて行ったサッカー観戦がこんなに楽しかったなんて間違っている。

おわり!

同じ千葉が舞台なのに、サッカーをテーマにした俺ガイルSSない、
それならば自分で書こうと勢いで初めてSS書きました。(野球もない?

サッカー観戦興味持っていただけたら幸いです。
なお今シーズン追いつかれて、追加点取り勝った試合が岐阜戦の1試合しか記憶にない模様。

野球は今のロッテとか詳しくないんで誰かお願いします…
マックスコーヒーは缶のイメージしかなかったんですみません!
気力あれば、また何か書きたいと思います、では、フクアリで!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月07日 (水) 00:57:33   ID: dq1Bw1z3

初めてみたぞこんなSS笑

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