安部菜々「IMCG・月」 (46)

あらすじ
このまま月になるのはイヤだなって。



IMCG第13話
前話
綾瀬穂乃香「IMCG・意固地な夢の果て」
綾瀬穂乃香「IMCG・意固地な夢の果て」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1442487794/)

設定はドラマ内のものです。

それでは投下していきます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443434514



IMCG・オペレーションルーム

井村雪菜「櫂さん!応答ください!」

古澤頼子「ドルフィン、転倒しました」

浜川愛結奈「櫂ちゃん、聞こえる!」

頼子「反応が見られません」

雪菜「櫂さん、櫂さん!」

兵藤レナ「気絶したわね……やられた」

梅木音葉「……音でしょう」

頼子「ソナーのデータを出します」

高峯のあ「強いレベルの超音波ね……」

木場真奈美「聞いてしまったか」

池袋晶葉「櫂の脳には過負荷だったか」

音葉「聞こえないほうが……良かったのかもしれません」

雪菜「IMCが接近中ですぅ!」

愛結奈「球体のIMCは転倒したドルフィンに接近!」

柳清良「まずは意識を取り戻さないと」

愛結奈「惠!付近の状況を教えて!」

伊集院惠『了解し―こちらの、』

頼子「強い電波が発生しているようです」

惠『聞こえて、-か』

のあ「音波に電波……厄介ね」

レナ「時間がないわ。フェイズ1移行!」

雪菜「えぇ?」

頼子「接続可能です」

レナ「急いで。無理にでも起こさせるわ」

愛結奈「了解!」

頼子「接続開始」

雪菜「IMCの攻撃傾向はなしですぅ!」

真奈美「あったとしても今のままでは反撃できない」

愛結奈「惠!」

のあ「応答なし……」

晶葉「ドルフィンとIMCは繋がるはずだ!」

愛結奈「頼子」

頼子「接続成功」

レナ「間に合ったわ」

頼子「ドルフィンからの通信不良です」

愛結奈「困ったわね。超音波ソナーは動いてるみたいだけど」

晶葉「櫂に刺激を与えられるほどの設備がない」

レナ「真奈美さん、現場の確認に行って」

真奈美「了解だ」

雪菜「何が見えてるでしょうかぁ……」

清良「混雑した意識の中、彼女はどこにいるでしょうね」

序 了

OPテーマ

METAL DAIVER
歌 愛野渚・吉岡沙紀



ドルフィン

木場真奈美「聞いてるか?」

西島櫂「え?」

木場真奈美
料理上手な頼れるお姉さん。何をやっても様になってて羨ましい。

西島櫂
ドルフィンのパイロットをやってる。前向きな方だと思う。

真奈美「私にわかるのはここまでだ」

井村雪菜「えっとぉ……本当ですか」

井村雪菜
IMCGでオペレーターをやってる。IMCのコアだったことがあって、フェイズ1の一番のスペシャリストだと思う。

真奈美「私が見たことに関しては嘘はついていない」

雪菜「副会長さんは知ってるのでしょうか」

真奈美「おそらくな」

櫂「……」

雪菜「櫂さんはどう思いますかぁ?」

櫂「へっ?」

真奈美「さっきから心ここにあらずだな。どうした?」

櫂「ごめん、少しまとめて貰っていい?」

真奈美「どこまで本当か知らないが、シュリンクに早いうちに関わったメンバーは何かを知ってる可能性が高い」

雪菜「真奈美さんが来る前ですねぇ。だからぁ」

真奈美「具体的には、兵藤レナと財前時子の二人だ」

雪菜「のあさんと晶葉ちゃんもですぅ」

真奈美「他はわからない。どこまで知らされているか」

櫂「……やっぱり、そうなの」

真奈美「ここまで来て否定する要素がない。だからこそ、疑問だ」

雪菜「何のためにこんなことをしてるか」

櫂「だって。それは」

真奈美「なんだ、櫂君」

櫂「え?」

真奈美「何か言おうとしたろう。言ってみたまえ」

櫂「あたし、何か言おうとしてた?」

雪菜「どうしたんですかぁ?」

櫂「……」

雪菜「櫂さん?」

櫂「あたし、誰と話してる?」



月のIMC

櫂「はっ……」

吉岡沙紀「先輩、どうしたっすか?」

吉岡沙紀
あたしの後輩。いつもしっかりしてて、しゃんとしてるのに、年相応な可愛さがあってずるい。

櫂「いたた……やっぱり頭が痛い」

沙紀「先輩、また無理ないっすか」

櫂「ううん、大丈夫」

沙紀「無理はダメっすよ」

櫂「わかってる」

沙紀「ほら、古澤さんも心配してるっす」

古澤頼子「大丈夫ですか?少し座りましょうか」

古澤頼子
IMCGのオペレーター。知的で落ち着いててあたしとは違うタイプ。

櫂「あれ、知り合いだった?」

頼子「吉原は不思議なところですよ。ここはただの遊郭ではありません」

櫂「ここ、博物館なんだ」

沙紀「ほら先輩、座るっすよ」

頼子「美しく華やかです。なぜなら生き抜くため」

沙紀「ビジネスっすね」

櫂「……」

頼子「この日誌に書かれている通り、楽な仕事ではなかったようです」

沙紀「逃げ出したいとか、身請けされたいとか多いっすね」

頼子「こんな状況でも輝こうとしていました」

沙紀「それを、否定はしてもらいたくないっす」

櫂「なんで、吉原展なんだろ」

頼子「なぜ?難しい質問です」

沙紀「知りたいっすか?」

頼子「きっと知ってもいいことはありません」

沙紀「それでも知るっすか?」

櫂「もちろん。だって、あたしは」

頼子「櫂さんは何でしょう」

櫂「あたしは、なにしてたっけ?」



ドルフィン

財前時子「綺麗ね。最後のシュリンクにふさわしいわ」

池袋晶葉「そうだろう!」

財前時子
ゼットテクニカの副会長さん。思ったより若くてびっくりした。たぶん、嫌いだから厳しいわけじゃない。

池袋晶葉
あたしの天才博士。学校も仕事も一生懸命やってる。

晶葉「そう思わないか、櫂」

櫂「うん、ドルフィンは綺麗だよ」

晶葉「そうだろう!格闘戦に特化させた、私の最高傑作だ!」

時子「ドルフィン?」

櫂「ドルフィンはドルフィンだよ」

時子「これはシュリンク6よ。そんな名前はついてないわ」

晶葉「いいじゃないか。パイロットの櫂が言ってるんだ」

時子「それもそうね。初戦が楽しみだわ」

晶葉「ああ、任せておけ!『天才』のものを生かしきってみせるぞ!」

時子「頼むわよ」

櫂「待った、初戦?」

時子「シュリンク6は完成したばかりじゃない」

晶葉「そうだ。櫂はテストをしつつ、その時を待ってるじゃないか」

時子「幸運と言うのはおかしいけれど、あと『15』体のIMCがいるわ」

晶葉「私のためにも活躍してくれ」

櫂「待って」

時子「なによ、さっきから」

櫂「違う」

晶葉「櫂、言いたいことがあるなら言ってみろ」

櫂「あたしはこの場所にいちゃいけない。いるはずない」

時子「そんなこと言うんじゃないわ。貴方はいていいのよ、これからも」

櫂「あたしはIMCになってからここに来たんだよ?真奈美さんに連れられて」

晶葉「運命は歯車のようにかみ合って進む」

時子「西島櫂」

櫂「だから、ここで会話してるのはあたしが知ってることじゃなくて」

時子「シュリンクの意味を知ってるかしら」

櫂「え?」

晶葉「時子、私は戻るぞ」

時子「ええ、お疲れさま。答えなさい」

櫂「由来は精神科医、コアになった女の子を助けるためのロボット」

時子「その通りね。どうせ、聞こえてなんかいないでしょう」

櫂「……」

時子「お願い、証明をしてあげて」

櫂「証明……?」

時子「せめて良いパートナーが見つかるといいわね」

櫂「あたしは、良いパートナーじゃない?」

時子「貴方で良かったわ」

櫂「ねぇ、何が目的なの?」

時子「貴方はシュリンク。それ以上の意味なんて求めないわ」



月のIMC

高峯のあ「紅茶の味はいかがかしら」

高峯のあ
ミステリアスだと思ってたけど、単に知らないだけだった。ネコとかウサギとか好きみたい。コスプレに関しては調査中。

櫂「美味しい」

のあ「でしょう……メイドさん」

安部菜々「お嬢様、どういたしました?」

安部菜々
メイド喫茶、スノームーンのメイドさん。のあさんとは昔からの知り合いだって。

のあ「彼女にケーキを……今日は何があるかしら」

菜々「いまサンプルをお持ちしますねぇ♪」

のあ「ケーキをご馳走するわ……美味しいわよ」

櫂「ありがとう、のあさん」

のあ「いいえ……付き合ってくれたお礼よ」

櫂「メイド喫茶なんて初めて来た。あんなにカワイイメイドさんがいるんだ」

菜々「カワイイだなんて、照れますよぉ♪キャハ☆」

櫂「ウサミン星人のメイドさん、いつも……いつも?」

菜々「ケーキのサンプルをお持ちしましたっ!秋の新作がオススメですよ♪」

のあ「カボチャのケーキを……あなたは」

櫂「えーっと、それじゃあ、ニンジンのケーキにしようかな」

菜々「かしこまりましたっ!」

のあ「ニンジンは好きかしら……?」

櫂「ウサミン星人オススメだったし、あれ?」

のあ「作法など気にせず……楽しめばいいの」

櫂「そうじゃなくて」

菜々「元気がないですねぇ。そういう時は、はい、ウーサミン☆」

のあ「ウーサミン……」

櫂「ウーサミン!じゃなくて」

のあ「そういえば……噂を聞いたのだけれど」

菜々「お嬢様、どうしました?」

のあ「お店を辞めるとか……」

菜々「そんなことないですよぉ☆ウサミンはずーっとみんなのウサミンですっ」

のあ「……結婚」

菜々「なしなし、この話はなし!ばいばーい!」

櫂「うわっ!」



ドルフィン

仙崎恵磨「櫂ちゃん、おっす」

仙崎恵磨
ノリは軽いけど、現実というか真実を持ってくるお姉さん。上着はパンクロックで、スカートはヒラヒラな恰好がいつも気になる。

櫂「よし、わかった」

恵磨「どうしたん?」

櫂「この場面で、恵磨さんが出てくるのは意味がある」

恵磨「何言ってんの?ヘンなの」

櫂「それで、なんの話だっけ?」

恵磨「ロゴの話。IMCって書かれたロゴがあるって言ったじゃん?」

櫂「何かわかったの?」

恵磨「結構一杯出てきたんだ。オモチャとかバインダーなんてのもあった」

櫂「へぇ、ロボットとかお人形とか、置物もあるんだ」

恵磨「今は場所を探してる。そうしたら意味はわかると思う」

櫂「意味?」

恵磨「意味。たぶん、何があったかはそのうち勝手に知れるよ」

櫂「あたしには、それじゃ遅い」

恵磨「アタシは知りたいこと知るだけだから」

櫂「最初からそうだよね」

恵磨「そうそう」

櫂「待って……バインダー?」

恵磨「バインダーがどうかしたの?」

櫂「違う、これはあたしが知ってるわけじゃない」

恵磨「なんで知ってるのかな、いや違うか。どうして記録してるか、かな?」

櫂「そうか、やっぱり」

恵磨「マッチポンプじゃない」

櫂「根源が同じだった」

恵磨「アタシは知らないよ?」

櫂「わかってる。お願い、意味を見つけて」

恵磨「もちろん!」

櫂「あたしは、取り戻さないと」

恵磨「何をさ?」

櫂「自分がどこにいるか」

恵磨「迷った時はどうしたらいいか、教えてあげるよっ」

櫂「うん」

恵磨「いつも帰る場所とか、基準を決める。迷ったら戻ってくる。簡単っしょ」

櫂「ありがと、行ってくる」



月のIMC

菜々「いらっしゃいませー♪」

櫂「あらら、まっすぐ行けなかったか」

菜々「お連れ様がお待ちですよぉ、こちらへどうぞっ」

柳清良「櫂ちゃん、こっちよ」

柳清良
レナさんの秘書。いつもは優しいけど、怒ると怖い。看護師の方が絶対転職だと思う。

櫂「清良さん……」

清良「飲み物はなにがいいかしら」

櫂「えっと、コーヒー?」

菜々「かしこまりました」

櫂「……」

清良「大学生活はどう?」

櫂「楽しいよ」

清良「IMCGはどうかしら?」

櫂「悪い所じゃないよ」

清良「そう言ってくれると助かるわ」

櫂「……」

清良「どうしたの?」

櫂「ごめん。本当の清良さんじゃないし、そうとも思い込めない」

菜々「コーヒーをどうぞ♪」

櫂「ありがと……美味しいと思うけど、これじゃない」

菜々「どうしましたかぁ?」

櫂「あれ?やっぱりあたしはしらな……」

菜々「ま、待ってください!そこはまだですっ!」



ドルフィン

浜川愛結奈「ワタシの大学じゃないけど、なんか懐かしいわね」

浜川愛結奈
スタイルも良くて、凄いカッコいいお姉さん。でも、なんでオペレーターをやってるんだろう。

櫂「これはちょっと前だ」

愛結奈「講堂で何かやってるの?」

櫂「劇団が練習してるよ」

愛結奈「厳しい声が飛んでるわね。中学生くらいの女の子なのに」

櫂「夏休みの間は合宿なんだって」

愛結奈「あら、仲良くなったの?」

櫂「たまたま。一人だけね」

愛結奈「ワタシも演劇でもやってれば良かったかしら」

櫂「えっと、愛結奈さん、そういうの好きだっけ?」

愛結奈「詳しくないわ。大学時代は乗馬くらいね、してたのは」

櫂「がんばってた?」

愛結奈「全然。金持ちばっかりでサークルも面白くなかったわ」

櫂「財前さんと会ったのもそこだよね」

愛結奈「ええ。本当に愛嬌のない後輩だったわ。乗馬に熱心でもないし」

櫂「愛結奈さんは知ってるの?」

愛結奈「なにをかしら?」

櫂「IMCとシュリンクは何を目的にしてるの?」

愛結奈「……」

櫂「答えられるわけないよね。あたしはこの時、そんなこと聞いてないから」

愛結奈「櫂ちゃん」

櫂「うん、わかってる」

愛結奈「もう少しだけ、付き合ってあげて」



ドルフィン

櫂「今度はドックか……もう少し」

梅木音葉「櫂さん……」

梅木音葉
まぶしいほどの才能があっただけの、普通の女の子。早く気づけたらもっと楽しかった。

櫂「音葉ちゃん、ドルフィンを眺めてどうしたの?」

音葉「櫂さんは……わかっていますね」

櫂「何を?」

音葉「あの生体関節に見覚えは……ありませんか」

櫂「……そう」

音葉「あれは……」

櫂「あたしのIMCの残骸から出来てる」

音葉「はい……」

櫂「なんとなくわかってた。それを使える人も多い」

伊集院惠「あら、秘密のお話?」

伊集院惠
いつもきりっとした印象の警察官。将来的にはSPがやりたいとか言ってた。

音葉「そうでは……ありません」

櫂「惠さんはどうしたの?」

惠「少し見回りに来ただけよ」

音葉「ドルフィンを見に……来たのですか」

惠「カッコいいじゃない、ドルフィンって」

櫂「うん、あたしもそう思う」

惠「きっとこの子は後ろめたい思いとかないの。羨ましい」

櫂「……」

惠「断れば良かった」

櫂「惠さん、どうしたかったの?」

惠「きっとね、あまり警察官に向いてなかったの。皆じゃなくて、一人が気になってるから」

櫂「そんなことない」

惠「あなたに言っても仕方がないわね。おやすみなさい」

櫂「おやすみ、惠さん」

音葉「聞こえなくていいことも聞こえることがあります……教えてあげます」

櫂「何を?」

音葉「ドルフィンの音センサーは……もともとコアについてる機能なのですよ」

櫂「なるほど。そもそも相性が良かったんだ」

音葉「これからも……櫂さんの精神と晶葉さんが作った体を繋ぎます」

櫂「ありがとう」

音葉「生まれ落ちし日には……全てのことは終わっていました」

櫂「それは、あたしも一緒」

音葉「意識が混濁しています……この場も偶然です」

櫂「わかってる」

音葉「行ってください……今も苦しんでいる女の子と繋がっています」

櫂「わかった。でも、一つ聞いていい?」

音葉「ええ……」

櫂「なんで、その姿なの?」

音葉「その……好きなのです。声も姿も美しく……特に目が」

櫂「ああ、そういうこと」

音葉「一度くらいは乗って欲しくて……」

櫂「まー、それは仕方ないよね」

音葉「申し訳ありません……」

櫂「最後までよろしく、ドルフィン。行ってくる」



西島櫂の基準点

槙原志保「櫂さん、お帰りなさい」

槙原志保
女子寮の寮母さん。今でもいいお母さんになれると思う。あと、凄くいい匂いがする。

櫂「ただいま」

志保「コーヒーでもいかがですか?」

櫂「うん、やっぱり安心がする」

志保「?」

櫂「今のあたしはここに帰ってこれる」

志保「はい」

櫂「ここを基準に」

志保「目を覚ませますか」

櫂「凄い頭痛がするけど」

志保「大丈夫ですよ」

櫂「あたしは何をしてた?」

志保「ドルフィンに乗って出撃しました」

櫂「そう。あたしはドルフィンのパイロット」

志保「はい」

櫂「だから、今は命令を聞けばいいんだ。ね、レナさん」

兵藤レナ「あら、そんなに従順だったの?」

兵藤レナ
IMCGを何かの目標に向かって動かしてる。信頼してるけど、秘密は話して欲しい。

櫂「え、そんなに問題児だったかな」

レナ「冗談よ」

櫂「命令をして。戻るから」

レナ「ドルフィン、フェイズ1開始!」

櫂「了解!」

10

IMCG・オペレーションルーム

頼子「微弱ですが信号をキャッチしました」

雪菜「櫂さん、意識を取り戻しましたぁ!」

レナ「通信は出来る?」

愛結奈「電波通信は出来ないわね」

大和亜季「お待たせしたでありますっ!」

大和亜季
IMCGに派遣されている警察官。惠を残し、現場から一人で戻ってきた。

レナ「状況は?」

亜季「なぜかIMCも止まっております」

愛結奈「真奈美とはもしかしてすれ違った?」

亜季「真奈美殿は現場にいるのでありますか?」

頼子「良い判断です」

亜季「はぁ」

レナ「まずは問題ないわね」

雪菜「おそらく、フェイズ1は継続中ですよぉ」

愛結奈「外の状況は?」

亜季「通信機器の停止が混乱を引き起こしておりますが、警察が尽力しているであります」

レナ「なら、櫂ちゃんを信じましょう。彼女は信じるに値するでしょう、大和巡査?」

亜季「え、はい。もちろんであります」

11

メイド喫茶スノームーン

櫂「こんにちは」

菜々「ほぇ……は、はい、いらっしゃいませ!えっと、お嬢様!」

櫂「なんでそこで悩むのさ……」

菜々「ごめんなさい、まだ準備中なのでまた後で来てくださいねっ。ウーサミン☆」

櫂「……」

菜々「あれ?失敗しちゃいました?おかしいなぁ、はいっ!ピリリリーン♪閉店ガラガラ!」

櫂「さっきまでならそれで意識飛んでたけど、もうそうはいかないよ」

菜々「あはは……」

櫂「よくわからない世界を見てきた。でも、これはあたし達の記憶に由来するもの」

菜々「えっと、やっぱりいらっしゃいませ♪メイド喫茶、スノームーンへようこそ!」

櫂「あたし、メイドさんのことは知らないんだ。のあさんに話してもらったこともない」

菜々「わかってますっ。ここはナナの世界なので、精一杯ご奉仕します♪」

櫂「ごめん、落ち着かないんだ」

菜々「見てました。楽しそうなところに住んでるんですねぇ」

櫂「あたしも安部さんのことは少し知ってる」

菜々「安部さん呼びはやめてくださいっ!ウサミンって呼んでください!」

櫂「ウサミンは歌って踊れる声優アイドルを目指して、メイドさんの仕事をがんばってる永遠の17歳」

菜々「はいっ!常連さんにも応援されてるんですよ、キャハッ☆」

櫂「結婚の話って何なの?」

12

メイド喫茶のステージ

菜々「なんとなくわかってるんですよね」

櫂「ぼんやり流れ込んできただけだよ」

菜々「ナナ、このステージに初めて立った時のこと、今でも覚えてます」

櫂「嬉しかった?」

菜々「そんなんじゃないですっ!本当にもう大失敗でした!お客さんは二人しかいないのに、緊張して緊張して」

櫂「なんか想像できる」

菜々「でも、夢に向かって最初の一歩を踏み出したんだって。そう思えて」

櫂「……」

菜々「夢に向かって頑張ってきたんですよぉ。アテレコの練習もしたし、歌と踊りだって!」

櫂「でも」

菜々「ナナはデビュー出来てません。ナナには魔法使いが、来ませんでした」

櫂「……そう」

菜々「でも、諦めなければいつかきっと!そう思って、ズルズルと踏ん切りがつかないまま続けてました」

櫂「……」

菜々「お母さんからは実家に戻ってきて花嫁修業でもしたらとか言われるし……はっ!ナナは永遠の17歳だから結婚なんてしませんよ☆」

櫂「本当に?」

菜々「あはは……違います。もう知ってるんですよね?」

櫂「うん」

菜々「えっとですねぇ……その」

櫂「……」

菜々「ナナには魔法使いより先に王子様が来ちゃいました」

13

メイド喫茶のステージ

菜々「ナナはいつものようにメイドさんのお仕事をしてました」

櫂「ここで?」

菜々「はい。ご主人様は色々いますよぉ。あの人もそんなご主人様の一人でした」

櫂「印象に残る人だったんだ」

菜々「いえいえ、そんなんじゃありませんよぉ」

櫂「そうなの?」

菜々「どこにでもいるスーツ姿の人でした。趣味でこの街に来たんじゃなくて、仕事で来て、偶然立ち寄ってくれたような」

櫂「そういうの好きな人だけが来ると思ってた」

菜々「まるで迷い込んでしまったような人もいっぱいいますよぉ」

櫂「その人も?」

菜々「違いました。店長の知り合いでした」

櫂「ふーん」

菜々「紅茶が縁で知り合ったみたいです。ゆっくり紅茶を飲んで帰っていきました」

櫂「……」

菜々「その後も何回か来てくれてお話もしました。ナナの夢もバカにせず聞いてくれました」

櫂「そうなんだ」

菜々「たぶん、この人は誠実なのかな、くらいしか思ってませんでした」

櫂「好きじゃないの?」

菜々「キライなわけないですよ、ナナの大切なご主人様ですから」

櫂「……いいの、それで」

菜々「違いますよぉ。ナナの夢を真面目に聞いてくれる人のお願いをナナは断れませんでした」

櫂「そこで聞いたんだ」

菜々「結婚を前提にしてのお付き合いとか、現実で聞くなんて思いませんでした!まるでドラマみたい」

櫂「でも、それじゃダメだったんでしょ」

菜々「メイド喫茶じゃない落ち着いた喫茶店で、店長と一緒に会ったりしました」

櫂「どうだった?」

菜々「とっても良い人でした。答えなんてきっと簡単です」

櫂「……本当に?」

菜々「綺麗な未来が見えました。その菜々は小さいですけど、安産型だし」

櫂「……」

菜々「メイドさんのお仕事で料理も家事もお手の物!」

櫂「そう……」

菜々「同僚も結婚して幸せそうでした。少し羨ましいと思うこともありました」

櫂「……」

菜々「みんな祝福してくれますよぉ。立派な仕事をしてる人なんです。きっと幸せになれます。可愛いお嫁さんに、その次は奥さんに、お母さんに、おばあちゃんになるんです」

櫂「誰もが望む幸せな人生、だよね」

菜々「でも、思っちゃいました。ナナは」

櫂「菜々さんは……」

菜々「このまま月になるのはイヤだなって」

14

月下の街

菜々「月は綺麗です。ウサギもいますから」

櫂「うん」

菜々「でも、よく見たら表面はボコボコしてるし、それに」

櫂「月は、月」

菜々「はい。月は月です。夜空で一番に輝いてますけど」

櫂「月そのものは光ってない」

菜々「太陽の光を反射して、月は輝きます」

櫂「……」

菜々「誰にでも見えて、誰にでもわかる、誰もが知ってる、幸せの輝きです」

櫂「うん、あたしもそう思うよ」

菜々「ナナだって結婚願望くらいあります。それでいいかな、って思いました」

櫂「諦める時を考えてた?」

菜々「はい。でも、ですねぇ……」

櫂「なにか、あったの?」

菜々「帰りの電車で、たまたま博物館の広告を見たんです」

櫂「花魁がテーマだった」

菜々「はい。このままだと、身請けみたいと思ったんです。そんなこと、ないのに」

櫂「気持ちは、決まってるんでしょ」

菜々「まだ、諦めたくないんです」

櫂「不安はある?」

菜々「魔法使いはいるかわりませんし、ナナのことを気にかけてくれる人を裏切ります」

櫂「決めたなら、不安に負けないで」

菜々「もちろんですっ!」

櫂「星になる覚悟は出来た?」

菜々「はいっ!」

櫂「それじゃ、あたしが現実に引き戻すよっ!」

15

電気街の公園

真奈美「ドルフィンが立ち上がった!」

惠「オペレーションルーム、聞こえてますか」

真奈美「まだ音信不通のようだな。櫂君に連絡できるものはないか」

惠「拡声器を。意識があるなら聞こえるはずです」

真奈美「ありがとう。櫂君!IMCの電波障害で通信機器が使えていない!」

惠「聞こえてますか。ドルフィンが戦闘を再開しました」

真奈美「櫂君、応答してくれ!」

惠「あら、ドルフィンがサインを出したわ」

真奈美「聞こえてるな!フェイズ1完了か!?」

惠「OKマーク。やったわ」

真奈美「よしっ。まずはドルフィンシステム停止だ!自分の目で見ろ」

惠「音波と電磁波以外に飛び道具はないと思うわ。いける」

真奈美「まずは電磁波を止めろ!」

16

IMCG・オペレーションルーム

愛結奈「通信復帰!」

頼子「電波障害から復旧しました」

雪菜「ドルフィンへの通信戻りましたぁ!」

レナ「櫂ちゃんがやったかしら」

頼子「ドルフィンとIMCの接続は解除済み」

愛結奈「フェイズ1、完了してるわ!」

雪菜「ドルフィンからのデータをすぐに集めますぅ!」

頼子「櫂さん、応答してください」

櫂『聞こえてるよっ!』

雪菜「大丈夫ですかぁ!?」

櫂『気絶したみたいだけど、なんとか!』

愛結奈「IMCに破損が見られるわね」

櫂『変な電波を出しそうなところ、壊してみたけど上手く行ったね!』

頼子「そのようです」

櫂『コアの位置、教えて!』

頼子「球体の下部です。今からデータを送ります」

櫂『届いた。一気にやるぞっ!』

雪菜「ドルフィン突進!」

櫂『せーのっ!』

愛結奈「豪快だわ」

頼子「IMCの下部ごとコアを摘出しました」

櫂『真奈美さん、よろしく!』

レナ「オーケー。櫂ちゃん、聞こえる?」

櫂『もちろん!』

レナ「フェイズ1完了。フェイズ2移行」

櫂『……あはっ』

レナ「どうしたの?いつもと違うじゃない」

櫂『やっぱり、なんか安心した』

清良「何の話しかしら?」

櫂『なんでもない!ドルフィン、フェイズ2移行しますっ!』

17

IMCG女子寮・食堂

櫂「ただいま」

志保「櫂さん、お帰りなさい♪」

櫂「ただいま、志保さん」

志保「今日は大変でしたね。ゆっくり休んでください」

櫂「ありがと。あの、いつもありがとう」

志保「いえいえ、どういたしまして!私、皆が頑張ってるのを見るの好きだから、気にしないでくださいね」

晶葉「志保」

志保「晶葉ちゃん、どうしましたか?」

晶葉「コーヒーを貰えないか。眠くて作業が進まない」

櫂「あれ、お仕事中だった?」

晶葉「ドルフィンは大きな傷もなかった。パーツの替えも少ないんだ、非常事態以外は丁寧に使ってくれる櫂がパイロットで良かった」

志保「学校の課題ですか?」

晶葉「そうだ。櫂はないのか?」

櫂「大学生はないよ」

志保「コーヒー淹れますから、櫂さんもいかがですか?」

櫂「ちょうだい」

志保「はい、待っててくださいね」

晶葉「櫂、今日はご苦労だった」

櫂「大丈夫。大学もまだ休みだし」

晶葉「そうか」

櫂「あたし負けないからさ」

晶葉「ああ、頼もしい限りだ」

櫂「晶葉ちゃんも夏休みなのに、帰ったりしないの?」

晶葉「どこに?」

櫂「どこって……」

志保「櫂さん、コーヒーをどうぞっ!」

櫂「あ、ありがと」

志保「晶葉ちゃん、課題をがんばってくださいね」

晶葉「ありがとう。さて、もうひと踏ん張りするとしよう!」

櫂「がんばってね」

志保「あの、櫂さん」

櫂「なに?」

志保「……そのですね」

櫂「言いにくいこと?」

志保「晶葉ちゃんの家はここです。帰るところなんて、ないんですよ」

櫂「あちゃあ……」

志保「大丈夫ですよ。許してくれます」

櫂「なら、いいけど」

志保「それに、櫂さんが来てから晶葉ちゃんは元気ですよ」

櫂「そう?どうしてかな」

志保「パイロットだからだと思います♪」

櫂「確かに、それなら志保さんよりも気に入られるかも」

志保「ええ、きっと」

櫂「そういえば、聞きたいんだけど」

志保「なんでしょう?」

櫂「人生ってさ、全て偶然じゃなくてもいい?」

志保「?」

櫂「えっと、例えばお節介な人が裏から手をまわしてるとか」

志保「私は、いいと思いますよ。色んな人に支えられて、人は暮らしてますから」

櫂「わかった。それじゃ、ここに電話しちゃおう」

志保「名刺ですか?」

櫂「うん。IMCGに来る直前くらいに貰った、スカウトの名刺」

志保「それくらいの、お節介は許してくれますよ」

櫂「志保さんが言うなら、信じるよ」

志保「良いことがあるといいですね」

櫂「後は本人次第だけどね。でも、あたしも誰かと同じ夢を見たっていいと思うんだ」

EDテーマ

アイの証明
歌 西島櫂

18

都内某所

恵磨「もしもし、千夏?」

恵磨「いいじゃん、電話しても」

恵磨「調べて欲しい所があるんだ」

恵磨「そうそう、たぶんIMCG絡み」

恵磨「住所、送るからさ。工場があったらしいんだよね」

恵磨「夜には戻るから、それじゃ、ヨロシク!」

19

IMCG・オペレーションルーム

雪菜「これはぁ……私が見れるところにあったなんてぇ」

亜季「お疲れさまであります。一人でありますか」

雪菜「はい」

亜季「なら、都合がいいであります」

雪菜「亜季さん、これを見てもらえますか」

亜季「IMCのリストでありますか」

雪菜「どなたかが作成したリストですぅ」

亜季「最初から番号が振ってありますな」

雪菜「時系列順じゃないんですぅ」

亜季「月のIMCも既に記入されておりますな。このリストによると」

雪菜「最後は、この個体ですねぇ」

亜季「あの、雪菜殿」

雪菜「……強い個体みたい」

亜季「順番的に櫂殿のIMCと連番のようであります」

雪菜「あっ、ホントですねぇ」

亜季「出現範囲はそう遠くないはずであります」

雪菜「でもぉ、見つけるには広すぎますねぇ」

亜季「やはり、最後もドルフィンに期待するしかないであります」

雪菜「……はい」

亜季「でも、これで終わりでありますな」

雪菜「教えて……くれればいいのに」

亜季「知っても解決する話ではないのかもしれないであります」

雪菜「私は流されるままにしか出来ないんですかぁ……?」

亜季「雪菜殿の気持ちはわかるであります。今は出来る限りのことを」

雪菜「はい」

亜季「だから、次は私達も動き始めるであります」


製作 テレビ〇日

次回予告

こんな世界は壊れてしまえ、少女は思いました。

少女は破壊のイメージを明確に描きました。

そして、暗闇の中で破壊は形になりました。

次回
白菊ほたる「IMCG・暗黒騎士」

オマケ

PaP「ミミミン、ミミミン、ウーサミン☆」

CoP「これは結婚はまだそうですね」

CuP「ええ、仕事してもらった方が幸せですよ」

PaP「お前ら、もう少し先輩を敬え」

CuP「結婚の予定はあるんですか?」

PaP「……ない。ないぞ」

CoP「そこは断定してください。不安になります」

CuP「前例がありますからね」

おしまい

あとがき

ウサミンは苦労話よりも将来の話をされる方が個人的には怖い。

次回は、
白菊ほたる「IMCG・暗黒騎士」
です。

それでは

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月01日 (木) 21:39:07   ID: 273Y4z1l

次が最後かな
いつも楽しみ

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