美希「デスノート」 2冊目 (976)

前スレ

美希「デスノート」
美希「デスノート」 - SSまとめ速報
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以下、前スレ>>961からの続きとなります。

【765プロ事務所/執務室】


 ガチャッ

P「社長。春香と美希、連れて来ました」

社長「おお、すまんね」

春香「わ、ホントに皆いる」

亜美「もー! 遅いよー! はるるんにミキミキー!」

真美「真美達チョー待ちぼうけだよー」

美希「ねぇ、一体何なの?」

真「それがボク達もまだ聞いてないんだ」

雪歩「これから社長さんから発表されるみたいだよ」

美希「ふぅん」

春香「何だろう?」

美希「さあ……」

P「よし。じゃあ二人も来たことだし、全員注目! ……それでは社長。お願いします」

社長「うむ。えーではまず……天海春香君」

春香「! は、はい」

社長「おめでとう! アイドルアワード、受賞決定だ!」

春香「えっ!」

美希「!」

伊織「あ……アイドルアワード!」

真「春香が!?」

雪歩「すごいよ春香ちゃん!」

亜美真美「はるる~ん!」ギュッ

春香「わっ」

やよい「あの、アイドルアワードって?」

響「えっと……全アイドルが対象で、ファンの投票によって選ばれる……とにかくスゴイ賞だぞ!」

やよい「そうなんだぁ。すごいです! 春香さん!」

春香「私が……アイドルアワード……」

律子「最終候補には皆も入ってたのよ」

伊織「じゃあどうして春香なの?」

P「やっぱり舞台での評価じゃないか」

律子「『春の嵐』は話題になりましたしね」

貴音「あれは素晴らしいみゅーじかるでした」

雪歩「私もすごく感動したから……」

あずさ「私も泣いちゃったわ~」

伊織「まあ、それは異論無いけど……」

亜美「おやおや~。なんだか不満気ですなぁ、いおりん~」

真美「やっぱり『なんで私じゃないのよ!』とか思ってるのカナ~?」

伊織「べ、別にそうは思ってないけど……でも、悔しい気持ちを持つのは当然でしょ。私達は仲間だけど、ライバル同士でもあるんだから」

春香「伊織……」

伊織「まあでも、それはそれとして……春香」

春香「! う、うん」

伊織「アイドルアワード、受賞おめでとう!」

春香「!」

伊織「でも、負けないからねっ!」

春香「……うん! ありがとう! 伊織」

社長「改めておめでとう。天海君」

小鳥「うぅ……おめでとう……春香ちゃん」グスッ

春香「社長さん。小鳥さん。ありがとうございます」

千早「春香」

春香「千早ちゃん」

千早「おめでとう。本当にすごいわ。ずっと頑張ってきたものね」

春香「ううん。千早ちゃんの……皆のおかげだよ。どうもありがとう!」

美希「春香」

春香「美希」

美希「……おめでとう」

春香「……ありがとう」

美希「あはっ」

春香「ふふふっ」

千早「?」

社長「ウォッホン。えーでは続いて……星井美希君」

美希「! はいなの」

社長「おめでとう! ハリウッドデビュー決定だ!」

美希「えっ?」

伊織「は……ハリウッド!?」

真「って、あのハリウッド……ですよね?」

P「ああ。とある超有名映画監督から直々にオファーが入ってな。ヒロインに起用したいとのことだ」

雪歩「す、すごいよ美希ちゃん……! は、ハリウッドだなんて……」

響「春香のアイドルアワードも驚いたけど……美希は美希でまたスゴイことになってるな……」

美希「ミキが……ハリウッド……」

春香「美希」

美希「! 春香」

春香「……とりあえず、ちょっと歯ぁ食いしばろっか」ニコッ

美希「なんで!?」

春香「いやだっていきなりハリウッドデビューとか普通に腹立つし……」

美希「そこはもうちょっとオブラートに包んでほしいの!」

春香「あはは。なーんて、冗談はさておき……おめでとう! 美希!」

美希「春香」

春香「私も、美希に負けないように頑張る!」

美希「……うん! ありがとうなの! 春香」

社長「うむ。互いに切磋琢磨し、高めあう……これこそが、私が理想とするアイドル像そのものだ。他のアイドル諸君も、天海君と星井君に負けないよう、これからも精進していってくれたまえ」

伊織「よーし! 負けてられないわ! 次は私が世界に羽ばたいてやるんだから!」

亜美「いよっ、出ました! いおりんの負けず嫌い!」

伊織「う、うるさいわね。別にいいでしょ! 負けず嫌いでも!」

真美「うんうん。それでこそ我らがいおりん! ってカンジだよねー!」

伊織「何で『我らが』なのよ……」

響「でも美希って英語できるのか?」

美希「んーん。中学英語ですら怪しいよ?」

真「最近高校受験終わったばかりとは思えない台詞だね……」

やよい「あ、じゃあ美希さんもライト先生に教えてもらったらいいんじゃないかなーって! きっとすごく丁寧に教えてもらえますよ!」

春香「!」

美希「あ、ああー……例のイケメン東大生の」

やよい「はい! ね、春香さん?」

春香「! そ、そうだね。うん、良いと思うよ。あはは……」

美希「ま、まあ、ちょっと考えとくの。あはは……」

やよい「?」

響「美希ってば、受験終わったばっかなのにまた勉強なんて嫌だって思ってるんだろー?」

美希「え? あ、あー……うん。まあね」

亜美「ミキミキは相変わらずのマイペースだねぇ」

真美「ま、それがミキミキの良い所だけどね」

千早「美希。何なら私が教えてあげましょうか?」

美希「ち、千早さん。……とりあえず、その気持ちだけありがたく受け取っておくの」

 アハハ…

P「――よし。では皆、春香と美希に続いていけるよう、これからもより一層、力を合わせて頑張っていこう!」

アイドル一同「はい!」

【同日夜・765プロ事務所からの帰路】


(他のアイドル達と別れ、二人で帰っている春香と美希)

春香「はあ……なんかまだ夢みたいだよ」

美希「…………」

春香「まさか私がアイドルアワードに選ばれて……美希は美希でハリウッドデビューなんて」

美希「…………」

春香「このままいけば私達、本当のトップアイドルに……って、美希?」

美希「え?」

春香「もう。何ボーっとしてるの?」

美希「え、あ。いや……」

春香「分かった。まだ実感湧かないんでしょ?」

美希「…………」

春香「まあ分かるよ。なんせハリウッドだもんね」

美希「…………」

春香「あーいいなぁ。私も行きたいなーハリウッド!」

美希「……春香」

春香「? 何? 美希」

美希「いいんだよね……これで」

春香「え?」

美希「ミキは、デスノートを使って沢山の人を殺してきた……いや、今も殺している」

春香「美希」

美希「でもそれは、皆が平和に暮らせる世界をつくるため……皆が幸せに生きていける世界をつくるため」

春香「…………」

美希「その『皆』の中には……ミキも入っていて、いいんだよね。ミキも幸せになって……いいんだよね?」

春香「……何言ってるの? 美希」

美希「えっ」

春香「そんなの、当たり前じゃん」

美希「……春香……」

『みんな』の幸せを望む者が幸せになれないなんて間違ってる!

でも他の人を殺しておいて自分は幸せになろうなんて許さない

春香「美希にだって当然、他の皆と同じように……幸せになる権利がある。きっと今回のハリウッドデビューは、いつも犯罪者裁きを頑張っている美希に神様が与えてくれたご褒美なんだよ」

美希「……ご褒美……」

春香「それに、ずっと前から言ってることだけど……私には私の使命がある。765プロの皆と一緒に、トップアイドルになるっていう使命がね」

美希「! …………」

春香「そしてその『皆』の中には、当然美希も入っている。だから美希のハリウッドデビューは、私がこの使命を果たすことにもつながっているんだよ」

美希「……うん」

春香「美希も、他の皆も、そしてもちろん、私自身も……それぞれがより大きな舞台で活躍できるようになって……いつか765プロのアイドル全員が、誰からも認められるトップアイドルになる」

春香「それが私にとっての使命であり、幸せでもある」

美希「…………」

春香「ねぇ、美希」

美希「! 何? 春香」

春香「美希の目指す『皆が幸せに生きていける世界』の『皆』の中には……私も入ってるんだよね?」

美希「それは……うん。もちろんなの」

春香「なら、何も気にすることは無いじゃない。美希のハリウッドデビューは、美希自身の幸せにも、そして私の幸せにもつながっている。つまりそれは、美希の目指す『皆が幸せに生きていける世界』の実現にもつながっているということ」

美希「……うん。そうだね。……これで、いいんだよね」

春香「これでいい。これでいいんだよ。美希」

美希「春香」

春香「もしそれでもまだ不安があるのなら、私は何回でも……いや、何百回、何千回でも美希に言ってあげる。『これでいいんだよ』って」

美希「……春香……」

春香「『765プロの皆と一緒にトップアイドルになる』という私の使命」

春香「『皆が幸せに生きていける世界をつくる』という美希の理想」

春香「そのどちらも、もう実現間近のところまできている」

春香「だからこのまま、最後まで……力を合わせて、一緒に頑張っていこう! 美希」

美希「……はいなの! 春香」

>>16
だが他の人を不幸にするだけの極悪人だったらどうか?
難しい議論だな、春香の殺人のほうは擁護は難しいが

春香「でも、こうやって考えていくと……実は全部つながっていたのかも、って思えるんだよね」

美希「? どういうこと? 春香」

春香「うん。遡れば……元々私は、去年のファーストライブの日に死ぬはずだった」

美希「……うん」

春香「でもそこを、ジェラスに……私のファンに救ってもらった」

春香「もしジェラスが私のファンになってくれていなかったら……死神界から、私を見つけてくれていなかったら……今ここにいる私はいない」

美希「…………」

春香「でもそのジェラスは、私の寿命を延ばしたために死んでしまった」

春香「すると今度はレムが、ジェラスの遺したデスノートを私に渡してくれた」

レム「…………」

春香「その結果、私は、当時、961プロとそれに追随する複数のアイドル事務所により行われていた“765プロ潰し”計画……その主要人物のほとんどを殺害することができ、その所為もあってか、私達に対する妨害工作はほぼ無くなった」

春香「もし私がノートを持つことが無ければ、今でも黒井社長達による私達への妨害は続いていただろうし……何より、黒井社長が送り込んだスパイだった、前のプロデューサーさんを美希が殺すこともなかった」

美希「! …………」

春香「だから、もし私がノートを持つことが無ければ……私と美希が『春の嵐』に出演することも、私がアイドルアワードを受賞することも、そして美希がハリウッドデビューすることも……全部無かったと思うんだ」

リューク「……だが、ミキは俺の落としたノートを使って前のプロデューサーを殺している。ならどのみち、ハルカがノートを持つかどうかに関係無く、ミキはそいつを殺していたことになるんじゃないのか?」

春香「……とぼけないでよ。リューク」

リューク「えっ」

春香「私がノートを持つことが無ければ、リュークが美希にノートを渡すこともなかった……そうでしょ?」

リューク「! ……お前、気付いていたのか?」

春香「そりゃあね。だってこんな身近にデスノートの所有者が二人もいるなんて、普通に考えてそんな偶然ありえないし……リュークの性格を考えたら、元から仲間同士だった私達に各々ノートを持たせる形にして、互いにどう動くのかを見て楽しもうとしたとしても全然不思議じゃないしね」

リューク「ククッ。まさかそこまで読まれていたとはな。大したもんだ」

春香「……でも動機はどうあれ、感謝はしてるんだよ? リューク」

リューク「? 感謝?」

春香「うん。だってリュークが美希にノートを渡してくれたおかげで、美希が前のプロデューサーさんを殺してくれたわけだし」

美希「! …………」

春香「まあ仮に美希があのタイミングで殺していなくても、そのうち私が殺していただろうとは思うけど……でも、やっぱりあのタイミングで殺してくれたのはベストなタイミングだったと思う」

美希「……春香……」

春香「あのタイミングで美希が前のプロデューサーさんを殺してくれたからこそ、そのすぐ後に、私が黒井社長を脅迫して今のプロデューサーさんを961プロから移籍させ、彼が元々持っていた業界のネットワークのおかげもあって私達がより多くのお仕事をもらえるようになり、それが結果的には『春の嵐』、私のアイドルアワード受賞、美希のハリウッドデビューにもつながっていったわけだからね」

春香「だから私は、最初から全部がつながっていたように思えるんだ。ジェラスが私を見つけてくれた時から、今日までの事全部が……。ねぇ? レムもそう思うでしょ?」

レム「ああ……そうだな。それはきっと、ハルカに夢と希望を託して死んでいったジェラスの願いでもあっただろうからね」

リューク「レム。お前、死神のくせに随分ロマンチックな事言うんだな」

レム「…………」

リューク「まあ、俺は面白いものが観られれば何でもいい。さっきハルカも言っていたが、たとえばミキとハルカが仲違いをして、互いに殺し合うようになったりすれば最高なんだがな」

美希「! …………」

春香「……悪いけど、その期待には応えられないよ。リューク」

リューク「ほう」

春香「確かにデスノートの力はすごいけど……それ以上に強い力を持つものが、私達765プロにはあるからね」

リューク「へぇ。一体何なんだ? それは」

春香「私達765プロをつないでいる“絆”だよ。これだけは、デスノートだろうと何だろうと、絶対に引き裂くことはできない。……ね? 美希」

美希「……うん。春香の言うとおりなの」

リューク「“絆”ねぇ……。俺達死神には到底理解できない概念だな。なあ? レム」

レム「いや、私はそうでもないがね」

リューク「あれっ」

レム「私はジェラスと一緒に、ハルカを……いや、ハルカだけでなく、ハルカと共にアイドル活動に励むミキや、他の765プロのアイドル達の姿もずっと見てきたからね」

美希「! ……レム……」

レム「そうやって、頑張る彼女達を見てきたからこそ、ハルカの言う“絆”という不思議な力を持つものも、現実に存在するのだろうと思えるよ」

リューク「……いっそのこと、お前が765プロのプロデューサーになった方がいいんじゃないか? レム」

レム「…………」

春香「あはは。レムがプロデューサーか。うん、それいいかも!」

美希「確かに。少なくともリュークがなるよりは千倍良いって思うな」

リューク「千倍ってお前」

春香「じゃあ、また明日ね。美希。これからも気を緩めずに頑張っていこう! お互いの目標に向かって!」

美希「はいなの! 春香。それじゃあまた明日」

(春香と別れた美希)

リューク「……ククッ。それにしても、流石は天才アイドルだな」

美希「え?」

リューク「日々、犯罪者裁きに精を出していながら、本業では早くもハリウッドデビュー……案外お前の方が、ハルカより先にトップアイドルになったりしてな」

美希「……どっちが先とかは無いの。ミキがトップアイドルになるときは、春香や、他の皆と一緒なんだから」

リューク「あくまでも『皆と一緒に』ってわけか。まあいい。そのスタイルをいつまで貫き通せるか、見届けさせてもらうぜ。ククッ」

美希「…………」

美希(皆と一緒に……トップアイドルに……)

美希(そして皆が平和に、幸せに暮らせる世界……)

美希(春香の言うとおり、どっちももうすぐそこまできている)

美希(今のまま……このままいけば……)

美希(大丈夫。うん……大丈夫なの)

美希(きっと……)

美希「…………」

一旦ここまでなの

>>19
ごく個人的な意見だけどほとんどの場合誰かが[ピーーー]ば誰かが悲しむ。それが例えリンチや輪姦を一緒に楽しんでいたクズでも

『誰かを[ピーーー]=誰かの幸せを奪う』って事の責任みたいなものを背負う覚悟もつもりも無い人に幸せになる権利も資格もない
正直『私はみんなの為に虐殺したんだから幸せになってもいいよね』とか言う奴は幸せになってほしくない

人を殺していいのは殺される覚悟がある者だけとは言わないけど殺したなら殺される覚悟をしないと許せない
奪ったモノ全てを背負うならまだ許せる



月にせよミキにせよ『キラ』は讃えるけどね

殺される覚悟なんてデスノート使った時点でついてないとキラなんて出来ないだろ
捕まって罪を問われることになったらほぼ死刑確定だし、無罪放免でも暗殺されてもおかしくない

>>28
多分火口はそんな覚悟してないw

なんで伏せ字にしてんの?

>>31
ただのsaga忘れだよorz

【翌日・春香の自室】


(勉強休憩中の月と春香)

月「アイドルアワード?」

春香「はい。正式な発表はまだなんですけど……昨日、事務所に連絡があったみたいで」

月「すごいじゃないか。確か……全アイドルが対象で、ファン投票によって選ばれる賞だよね?」

春香「そうです。ライトさん、よく知ってますね」

月「ああ。この手の話は粧裕のやつがうるさいからね。確か、去年は流河旱樹が受賞したんだっけ?」

春香「ええ」

月「そうか……でもそうすると、春香ちゃんはもうトップアイドルになったってこと?」

春香「い、いえ! そんな、私なんてまだまだです」

月「そうなの?」

春香「はい。トップアイドルっていうのは、なんていうか、もっとこう、誰からもその実力を認められる存在っていうか……」

月「なるほど。まだまだ鍛錬が必要ってわけだ」

春香「はい!」

月「でもそれはそれとして、勉強の方も鍛錬しないとね。じゃあそろそろ再開しようか」

春香「はぁ~い」

月(今日は、前みたいに父の仕事の事について聞いてくる素振りは無いな)

春香(ライトさんと前に事務所に来た刑事さんが親子ってことは分かったけど……お父さんの事は前に結構聞いちゃったから、今日は少し様子を見よう。あんまり聞き過ぎてもかえって怪しまれるだけだしね)

月(僕の方からも『父が何の事件を担当しているかまでは分からない』と言ってあるから、これ以上は聞きようがないともいえるが……しかし)

春香(でも、ライトさんのお父さんがLと一緒にキラ事件の捜査をしているのは間違いない)

月(もし本当に天海春香と星井美希の二人がキラの能力を持っているとすれば……少なくとも、天海春香は星井美希から『“L”が警察と共にキラ事件の捜査をしている』という情報を連携されている可能性が高い。もちろん、星井係長がその情報を自分の娘である星井美希に話したことがある、という前提での話にはなるが)

春香(そしてもし警察志望のライトさんが、お父さんからある程度キラ事件の捜査状況を聞いているとした場合……)

月(そして警察官である僕の父は……僕の年齢から逆算すれば、現在それなりの地位と役職に就いていると推測することは可能だろう)

春香(ライトさんが『お父さんがLと一緒にキラ事件の捜査をしている』という事実を知っている可能性は十分にある)

月(そう考えれば、『父が捜査本部で直接Lと顔を合わせている』ということまでは分からなくとも、『父がLについての何らかの情報を持っている』という可能性に辿り着くことは十分ありえる。そうであるとすれば……)

春香(その場合、ライトさんは私に嘘をついていることになるけど、Lが美希をキラとして疑っていたことからすれば、美希と同じ事務所に所属している私に対し、それくらい警戒していたとしても不自然ではない。ならば今、下手に動くことはかえって命取りになりかねない。しかしやはり、そうであるとしても……今……)

月(天海春香が僕に提案してくる事は――)

春香(私がライトさんに言うべき事は――)

月(僕の父と接触できる機会を求める事)

春香(ライトさんのお父さんに会わせてもらう事)

月(だがもし実際に天海春香が父と顔を合わせるようなことになれば、当然、天海春香には父が以前事務所に来た刑事……すなわち、“L”と共にキラ事件の捜査をしている刑事だということが分かってしまう。さらには父が偽名を用いていたことも)

春香(なぜなら、たとえそれが危険を伴う行為だとしても……もしそれが実現すれば、私は当然の疑問を口にできるから。『あれ? 以前事務所に来られた時、違う名前を名乗っていましたよね?』と)

月(そのような事態は当然避けなければならない。もしそれがばれるようなことがあれば、偽名を使ってまでキラ事件の捜査をしていた父……さらにはその息子である僕さえも殺される危険が生じる)

春香(警察官が一般市民に対して偽名を使って行った聞き取り調査……単に『キラ事件捜査の為』などというだけでは十分な説明とはいえない。偽名を使ったことの理由・背景……そこまで含めて十分に説明してもらう必要がある)

月(しかし黒井社長に対する脅迫の内容から考えると、キラは“L”の正体を知ること……すなわち“L”を殺すことにかなりこだわっているものと考えられる。そうであるとすれば、キラとしても、“L”の正体を知る前に、安易に“L”につながる者を殺すとは思えない。……よって天海春香がキラなら、父がキラ事件の捜査をしているということを知ったとしても、すぐに父や僕を殺すのではなく、むしろ“L”と共にキラ事件の捜査をしている父を通じて……)

春香(その説明内容から、私は現在のキラ事件の捜査状況をある程度知ることができる。そしてそこから、現在その捜査指揮を執っている者……すなわち)

月・春香(“L”に至る手がかりを掴む!)

月(キラなら必ず)

春香(それを目指す)

月「どうかな? 解けた?」

春香「えっと……こうですか?」

月「そう。正解だ」

春香「えへへ。やったぁ!」

月(だが現状、今の天海春香の立場から、いきなり一家庭教師に過ぎない僕の父親に会わせてほしい、などと申し出るのは不自然)

春香(そのためには、まずは私が『ライトさんのお父さんに会わせてほしい』と言っても不自然じゃない程度の状況を作り出す必要がある。そして、そのためには……)

月(それを自然にする為に最もとりやすい手段としては……)

春香(ライトさんに対する好意・好感……それを自然に抱いていくようにみせること)

月(まずは僕に対する積極的な好意を示していくこと)

春香(粧裕ちゃんと私は既に友達になっている。その状況なら、『いつも家庭教師をして頂いてお世話になっているので、ライトさんのご両親にもご挨拶させて下さい』などと申し出たとしても、そこまでおかしくはないはず)

月(そして粧裕とはもう友人関係になっていることから……後は僕の父……だけでは不自然なので、母も含め……家庭教師の礼も兼ねて両親に挨拶したい、とでも言い出す気だろう)

春香(今すぐにとはいかないけど、そう遠い日ともいっていられない)

月(しかしそれならそれで、そのような申し出をしてくるようなら、天海春香に対するキラとしての嫌疑は一層強まる。それにそうやって向こうから距離を縮めてくるようであれば、それを逆手に取って暴いてやるまでだ)
  
春香(なるべく早く、でも決して焦らずに……。絶対に、逆に暴かれるようなことがあってはならない)

月(キラの能力を)

春香(キラの正体が)

月「……じゃあ、次はこの問題を解いてみて」

春香「はい!」

【一週間後・アイドルワード授賞式会場】


(記者達のフラッシュが瞬く中、春香はトロフィーを胸に抱き、壇上の中央に立っている)

司会『それでは天海さん。受賞のコメントを一言お願いします』

春香『ファンの皆と、事務所の皆のお陰です。本当に……ありがとうございました!』ペコリ

司会『ありがとうございます。天海春香さんでした』

 パチパチパチパチ……

春香「…………」

春香(アイドルアワード……私が、この手で……!)

春香(もう目の前まできている。私が使命を果たす、その瞬間が)

春香(見ててね。ジェラス)

春香(あなたのくれた命、決して無駄にはしないから)

春香(あなたの望んだ、夢見てくれた理想のアイドルに―――絶対になってみせるから)

春香(美希と、765プロの皆と一緒に……必ず)

春香「…………」

【一時間後・765プロ事務所】


P「いやあ、それにしても、皆よく遅刻せずに集まれたな」

春香「えへへ……自分達で時間調整するの、慣れてきちゃいました」

真「うちの事務所は未だに、プロデューサー二人体制ですからね」

P「ああ、皆には助けられてるよ。美希と千早は、もう準備を進めてるのか?」

千早「はい」

美希「バッチリなの」

響「なになに? もしかしてハリウッド行きの話?」

やよい「千早さんはニューヨークにレコーディングですよね?」

千早「ええ」

真美「いいなあ。真美もハリセンフォードと握手したいよぅ」

亜美「りっちゃーん。亜美たちもニューヨークでセレブなモーニングを食べたいよ~」

律子「それ、全然仕事とは関係無いじゃない……」

P「そうだ。春香の方はどうだった? アイドルアワードの授賞式。ついさっきだっただろ?」

春香「はい。つつがなく終えてきました!」

P「そうか。それならよかった」

亜美「とか言いつつもはるるんのことだから、つい壇上で転んじゃったりとか~?」

真美「うんうん。それでこそのはるるんだよねー」

春香「残念でした。つまづくことすらなく、しっかりきっちりやり遂げてきましたよ」

亜美「ちぇっ。なーんだ。つまんないのー」

真美「でも確かにはるるん、最近めっきり転ばなくなったよね」

貴音「重心を固定させる術を体得したのでしょうか」

春香「貴音さん。私を何者だと思ってるんですか」

美希「…………」

 ガチャッ

社長「皆、集まったようだね」

P「社長」

社長「えー、諸君。今更言うことでもないが、星井君のハリウッド映画への抜擢、如月君の海外レコーディングをはじめ、アイドル諸君には日々目覚ましい活躍を見せてもらっている。そこでだ。皆には、そろそろ次のステップに進んでもらっても良い頃だと思ってね」

アイドル一同「次のステップ?」

社長「うむ。では頼むよ、君」

P「はい」

アイドル一同「…………?」

P「――皆、アリーナだ! アリーナライブが決定したんだ!」

アイドル一同「アリーナ!?」

春香・美希「! …………」

P「ああ。今から四か月後、8月の開催だ。最高に暑い季節に、最高に熱いライブをするんだ!」

亜美「うわー! やっぱり夏ライブだったんだー! 亜美の予想大当たりっしょー!」

真美「でもまさかアリーナとはね~。真美達も遂にここまできたってカンジだね」

律子「それに今回のアリーナは、765プロにとって過去最大のライブになるわ。皆にとっても、次につながる大切なライブになるわよ」

響「そう言われると……なんか緊張するな」

貴音「真、気を引き締めて臨まねばなりませんね」

P「そこでだ。今回のライブは合宿を組みたいと思っているのと、さらに新しい試みが二つあるんだ」

貴音「試み……ですか?」

P「ああ。まず一つ目に、今回はバックダンサーを取り入れたステージにしてみたいと思っている」

真「ダンサー……すごい! 広いステージでも、派手に見えますよね!」

P「ああ。スクールに通っているアイドル候補生に頼むことになると思うが、皆はアイドルの先輩として、支えてあげてほしい」

あずさ「あらあら、にぎやかになるわね」

やよい「えへへ……先輩って、なんかかっこいいかも!」

雪歩「うぅ、ちょっと緊張しちゃうなぁ……」

P「それから二つ目だ。今回初めて、皆の中にリーダーを立てようと思う。リーダーを中心に、まとまっていってほしい」

伊織「リーダー?」

真美「そういえば、今までいなかったよね?」

響「ねえ、誰がリーダーになるの?」

(互いに見つめ合い、頷き合うプロデューサーと律子)

P「色々と考えたんだが……」

アイドル一同「…………」

P「この人にやってもらうことにした。入ってくれ!」

ガチャッ

カンニング竹山「どーも、竹山です」

P「リーダーは……春香。お前に任せたいと思うんだ」

春香「……え、えぇ!? わ、私がリーダーですか?」

P「どうだ? この半年間、俺なりに皆を見てきた結果なんだけど」

春香「えっ、と……」

(他のアイドル達を見回す春香。春香に向けて微笑む他のアイドル達)

春香「……はい! 天海春香、リーダー頑張ります!」

アイドル一同「おおー!」

 パチパチパチパチ……

真「よろしく、リーダー」

千早「頑張って。春香」

春香「うん! ありがとう。真、千早ちゃん」

美希「春香」

春香「美希」

美希「おめでとう。これからもよろしくね、リーダー」

春香「うん。ありがとう。美希」

美希「……あはっ」

春香「……ふふっ」

真・千早「?」

P「よし、皆。新しい試みで不安もあるだろうけど、全員で力を合わせて成功させよう! 最高のステージを俺に見せてくれ!」

アイドル一同「はい!」

伊織「っていうか、なんであんたのためなのよ?」

亜美「そうだそうだー!」

P「あ、あはは……えっと……」

春香「…………」

春香(アリーナで、ライブ……)

春香(そして私が、リーダー……)

春香「…………」

【765プロ事務所の屋上】


(二人で屋上のベンチに腰掛けている春香と美希)

春香「アリーナでライブができるってだけでも夢みたいなのに……まさか私がリーダーに選ばれるなんて」

美希「春香」

春香「生きてて良かった」

美希「……その台詞、春香が実感込めて言うとすごく重いの」

春香「まあこの前も言ったけど、私本来なら一年前に死んでたからね」

美希「だから重いの! あえてまた言わなくても分かってるの!」

春香「はぁ……なんか私、アイドルアワードのあたりから幸運が続き過ぎてて、ちょっと怖いくらいだね」

美希「……でも、ミキ的には『当然』って思うな」

春香「美希」

美希「春香は他の誰よりも、アイドルとして頑張ってきたと思うから……だから全部幸運なんかじゃなく、当然の事だって思うの。アイドルアワードの受賞も、アリーナライブのリーダーに選ばれたのも」

春香「……美希……」

美希「うん」

春香「……でもそれ、ハリウッドデビューが決まってる美希に言われても嫌味にしか聞こえないんだけど」

美希「えっ」

春香「なーんちゃって。ウソだよ、ウソ。ありがとうね。美希」

美希「……もー。春香ってば、驚かさないでなの」

春香「あはは。ごめんごめん。でもこれで後は……」

美希「? 何? 春香」

春香「……いや、とにかく今は目の前のお仕事に集中しよう」

美希「……Lの事?」

春香「……うん。正直言って、やっぱり気にはなるけど……でも今のところ、特にその手がかりも掴めそうにないしね。暫くはこのまま様子見かな」

美希「そうだね。例の『救世主キラ伝説』の掲示板にも、今のところそれらしい書き込みは無いし」

春香「うん。それに私の目標はあくまでも美希や他の皆と一緒にトップアイドルになることだからね。それが果たされるのであれば、そこまでLにこだわる必要も無いかなって」

美希「…………」

春香「? どうしたの? 美希」

美希「ううん。なんでもないの」

春香「そう? ならいいけど」

美希「…………」

美希(春香……口ではそう言ってるけど、本心ではまだきっと、Lの事を……)

春香「…………」

春香(気付かれたかな? 美希ってば、妙に勘が鋭いとこあるからなぁ……)

春香(まあでも、仮に美希に気付かれたとしても、私がやることは何も変わらない)

春香(たとえ今は何も仕掛けて来ていないとしても、そう遠くないうちに、Lは必ずまた私達の前に立ちはだかる)

春香(一時的とはいえ、美希の部屋にあそこまでの数の監視カメラを付けたほどの者が、そんなに簡単に、キラを捕まえることを諦めるはずがないからだ)

春香(だから私は……必ずLを殺さなければならない)

春香(それが美希の為であり……いずれトップアイドルとなる私達の、765プロ全員の為になるのだから)

春香(もうここまできたんだ。絶対に負けるわけにはいかない)

春香(そのためにも、まずは夜神月……そして彼からその父親である夜神総一郎、そしてLへと……必ず辿り着いてみせる)

春香「……さて、そろそろ戻ろっか。もうお昼休憩終わりだし」

美希「……うん。そうだね」

美希(春香……今、何を考えているの?)

春香(美希……もう少しだよ。もう少しで……私達の理想とする世界がつくれる!)

一旦ここまでなの

【二週間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「…………」

L(夜神月のコミュニケーション能力を活かしての接触が期待できそうな、星井美希と天海春香以外の765プロダクション所属アイドル……)

L(現時点での最有力候補は……やはり既に夜神月が家庭教師として接点を持っている高槻やよいか)

L(彼女も含め、星井美希と天海春香以外の765プロダクション所属アイドルについては、まだ765プロダクション側に顔の割れていない相沢と松田とで手分けして尾行捜査をしてもらっているが……)

L(やはり皆、今を時めく人気のアイドル……一般人が簡単に接触できそうな隙は見付けられない)

L(だが同時に、捜査としての進展もあった)

L(夜神月が直接接触している高槻やよいを含め……現時点で、星井美希と天海春香以外に特に怪しい動きのあったアイドルはいない)

L(南空ナオミからの報告にあった萩原雪歩の一人焼肉も、どうやら彼女にとっては日常の一コマのようだし……)

L(また765プロダクション全体が、組織的に犯行を行っているという可能性もあったことから、夜神局長と模木に、765プロダクションという組織全体に何か不審な点が無いか、という観点からの調査もしてもらっているが……)

L(こちらの方も現状、特に不審な点は無い。確かに黒井氏が言っていたとおり、961プロダクションおよびそれに追従していた他のアイドル事務所が765プロダクションを陥れようとしていた事実はあったようだが、この件についての765プロダクション側は完全に被害者……形式的には765プロダクション側に非や落ち度があったこともあったようだが、それらも実際は全て765プロダクションの前任のプロデューサー……黒井氏が送り込んだスパイであった者によるもの。つまり結局は全て961プロダクション側の自作自演であり、765プロダクション側には何ら帰責性は無かった)

L(結論として、組織体としての765プロダクションはクリーンと言っていい。また社長の高木順二朗氏をはじめ、その他所属従業員にも特に不審な点は無い)

L(キラ……いや、天海春香によって961プロダクションから移籍させられたと思われる現プロデューサーも、現時点では、プロデューサーとしての仕事以外に不自然な行動はみられない)

L(とすると、やはりこの事件……組織体としての765プロダクションとは無関係に、天海春香・星井美希の両名が順次、何らかのきっかけで殺しの能力を得て、今は二人で連携を取りながら行っているものとみるのが自然)

L(そうであるとすれば、765プロダクション内においても、この二人以外の者はこの事実を知らないものと考えられる)

L(また星井係長の録音捜査からも、今のところ特に星井美希との会話から有益な情報は得られていない)

L(もっとも、星井係長から星井美希には『キラ事件の担当からは外れた』と伝えてあるとのことなので、星井美希からも星井係長に対しては探りを入れようがない状況であるとはいえるが)

L(だとすれば、現状ではやはり、高槻やよい……彼女しかいないか)

L(夜神月が今後、家庭教師を通じて彼女とより懇意になることで、そこから星井美希または天海春香の情報を得る……)

L(幸いにも、現在、高槻やよいは夜神月をまるで兄のように慕っており、二人の関係性は極めて良好)

L(ただそうは言っても、同じ事務所の他のアイドル仲間との関係性に比べれば、まだまだ表面的なものに留まっているとはいわざるをえない)

L(なら今はもう少し、二人の信頼関係が熟すのを待つべきか……)

L「…………」

月「どうした? 竜崎。少し疲れているように見えるが」

L「月くん。そうですね……確かに捜査自体は着実に進展しているものの、現状、少し行き詰まってきたようにも感じています。疲れて見えるのはそのせいかと」

月「まあ、予想はしていたがやはりそう簡単にはキラの尻尾は掴めないな。根気よくやるしかない」

L「そうですね。……そういえば先週に続き、今週も天海春香の家庭教師はお休みですか」

月「ああ。アリーナライブのリーダーになった関係で、スケジュールが色々動いたらしい」

L「なるほど。まあ仕方無いですね」

総一郎「……竜崎」

L「はい。何でしょう。夜神さん」

総一郎「たまには竜崎も休みを取ってはどうだ? 我々はある程度交代で休んでいるが、竜崎はずっとこの捜査本部に篭りきり……それでは疲れが溜まるのも当然だ」

L「ありがとうございます。でも今は事件の事を考えているときが一番落ち着きますので」

松田「すごいっすね、竜崎は……世間はゴールデンウィークで浮かれてるっていうのに」

L「別に松田さんも外で浮かれて頂いて構いませんよ? 今日は星井さんと相沢さんも休まれていることですし」

松田「えっ。そ、そうですか? それじゃあお言葉に甘えて……」

L「もっとも、模木さんは今朝からずっと、黙々と765プロダクションの各アイドルの尾行データを集約してくれていますけどね」

模木「…………」カタカタカタカタ

松田「はい。僕も手伝います。そもそもそれ、僕が尾行した分のデータも含まれてますしね……」

月「……さて。すみませんが、僕は今日はこのへんで失礼します」

松田「おっ。月くん、もしかしてデート?」

月「違いますよ。これから大学の学祭を回る予定なんです。友人達とその待ち合わせをしていて」

総一郎「そうか。東大の学祭は5月と11月に二回やると言っていたな」

月「そう。それで今日はその一回目の方ってわけ。そういうわけで申し訳無いけど、後はよろしく頼むよ。父さん」

総一郎「何、お前はまだ大学生になったばかりの身なんだ。何も遠慮することなく、存分に楽しんできなさい」

月「ああ。そうさせてもらうよ」

L「……大学の学祭、ですか」

月「竜崎」

L「楽しそうですね。羨ましいです」

月「なんなら、竜崎も行くか?」

L「えっ」

月「ほら」スッ

(学祭のパンフレットをLに渡す月)

L「…………」パラパラ

月「といっても、『顔を見るだけで人を殺せる』能力を持ったキラがどこに居るか分からないんだ。流石に無理か」

L「……そうですね。残念ですが…… ! 」

月「?」

L「……月くん」

月「? 何だ? 竜崎」

L「私も……行きたいです」

月「え?」

L「連れて行ってもらえませんか? ……学祭」

【一時間後・東応大学キャンパス】


(賑わうキャンパス内を二人で歩いているLと月。Lは、東応大学の入学式の日に着けていたのと同じ、ひょっとこのような面を着けている)

L「気を遣わせてしまってすみません。月くん。せっかくご友人達と回る予定だったところを、別行動にさせてしまって」

月「いや、それは別にいいが……。(流石に、友人達をこんな変な面を着けた奴と一緒に歩かせるわけにはいかないからな……)」

L「? 何か言いましたか?」

月「いや、なんでもないよ。それより竜崎。なんでわざわざ、またそんな面を着けてまで学祭に来る気になったんだ?」

L「……どうしても、会っておきたい人物がいまして」

月「? 会っておきたい人物? 一体誰だ?」

L「……彼女です」スッ

月「え?」

(人だかりの向こう側、屋外のステージ上でライブをしている女性アイドルを指差すL)

月「……? アイドルのライブイベントか? どれどれ……」パラパラ

(学祭のパンフレットを捲る月)

月「……弥海砂? ……知らないな」

L「まだデビューして半年と少しくらいですからね。月くんが知らないのも無理は無いと思います」

月「……彼女に会いに来たってことは……あのアイドルのファンなのか? 竜崎は」

L「いえ、そういうわけではありません。キラ事件の捜査で星井美希を調べていたら、彼女に辿り着いたんです」

月「えっ」

L「覚えていますか? 月くんを初めて捜査本部にお連れした日に、私が『星井美希と接点のある、他の事務所所属のアイドルに接触してもらおうと考えて月くんをこの捜査本部にお呼びした』と言ったこと……」

月「ああ……そういえば言っていたな。じゃあそれがこのアイドル……弥海砂ってことか?」

L「はい。星井美希の身辺を洗っていたら行き着きました。二人は昨年、○×ピザのCMでコラボ出演して以来親交があり、今ではプライベートでもよく遊ぶ仲だそうです」

月「よくそんなことまで分かったな」

L「はい。ワタリが調べた情報なので確かです。しかし、こんな所に来る予定があったとは知りませんでした。……最近は、765プロダクションの方ばかり調べていて、弥海砂の方はほとんどチェックしていませんでしたので」

月「僕が既に天海春香と接点を持っていた以上……今、僕が両者に対して同時に接触するのはやめておいた方がいいだろう、という話になったからか」

L「はい。ですが、こんな所に来ていたとなれば話は別です。この状況なら、上手くやれば極自然な形で弥海砂との接点が作れる……東応大学の学祭に来ていたのは弥海砂の方なのですから、この大学の学生である月くんとこの場で偶然知り合いになったとしても、何らおかしくありません」

月「それはまあ、そうかもしれないが……では、僕が彼女……弥海砂に近付き、そこから星井美希を探っていくということか? 竜崎が元々考えていた計画を実行するとしたら」

L「はい。月くんの卓越したコミュニケーション能力なら十分可能だと思います」

月「……竜崎。家庭教師の件以外に、僕に危害が及びかねないような捜査は頼まないって言っていなかったか? 捜査本部では」

L「それはそれ、これはこれです。月くんだって、キラを捕まえたいという気持ちは私と同じのはずです」

月「答えになってないぞ、竜崎……。まあ僕は別に構わないが、父への説明と説得は後でちゃんとしておいてくれよ」

L「はい。勿論です。夜神さんも誠意を込めて説明すればきっと分かってくれると思います」

月「じゃあそれは任せるが……しかし実際問題、仮に上手く接触できたとしても、そこからキラの情報を掴むというところまでいけるか? 単に星井美希と交流があるというだけのアイドルだろ?」

L「もちろん、ただのアイドル友達というだけなら難しいでしょう。……ですが、私が弥海砂に着目したのは、単に星井美希と交流関係があるからというだけではありません」

月「? というと?」

L「実は……彼女は今から一年半ほど前に、両親を強盗に殺されています」

月「!」

L「そしてその犯人は……それから約一年後に、キラによって裁かれています」

月「! ……そうだったのか……」

L「はい。これは彼女のファンサイトに書かれていた内容ですが……ワタリに裏を取らせた情報なので確かです」

月「なるほど……つまり弥海砂にとっては……キラは両親の仇を討ってくれた恩人、というわけか」

L「はい。ゆえに、彼女は完全にキラ肯定派……いえ、もはやキラ信者といってもいいくらいのレベルです。今でもブログやSNSではキラ肯定をほのめかす発言をしばしば行っていますし、『キラに会いたい』など内容が過激過ぎて削除されたものすらあります。おそらく事務所側からストップがかかったんでしょうね」

月「そんなことまで調べていたのか」

L「はい。キラに付け入るのであれば、キラ信者は最適ですから」

月「なるほど。ちなみに、弥海砂は星井美希とプライベートでも親交があるとのことだが……現時点で、キラ肯定派であることを打ち明けているのか?」

L「残念ながらそこまでは分かりません。ですが、元々親交のあった弥海砂がキラ肯定派であることを打ち明ければ……星井美希がキラだった場合、何らかの形でキラのヒントを掴める可能性は高いと思います。むしろ場合によっては、キラの支持者として犯罪者裁きの手伝いを要請されるという可能性も」

月「まあそこまでいけば出来過ぎなくらいだが……しかしその前提として、まずは僕が弥海砂に接触しないといけないんだろう?」

L「はい。ですが間違っても、キラを追っているということを気付かれてはなりません。キラ信者である弥海砂にそんなことを気付かれたら最後、ネット上に顔と名前をアップされてキラに殺されてしまうかもしれませんので」

月「……お前、そんな危険な事をよく平気で人にさせようとするな」

L「もちろん、月くんならそんな事態にはならないと確信しているからです」

月「まあいいが……しかしそうすると、当然の事ながら、こちらがキラを追っていることは隠し……いやむしろ、いっそキラ肯定派であるかのように振る舞う……」

L「はい。その方が、弥海砂も早い段階で心を許す可能性が高くなると思います」

月「そしてある程度、弥海砂との距離が縮まった段階で、『キラはアイドルの星井美希かもしれない』と伝える……」

L「はい。『キラに会いたい』とまで言っていた弥海砂なら、その手の話には確実に興味を持つ。そしてそれが自分の親しい友人となれば、本当にキラかどうかを必ず確かめたいと思うはずです」

月「そうなれば、弥海砂を通じて、星井美希からキラに関する情報を得られるかもしれない……ということか」

L「はい」

月「……だが問題は、この状況からどう弥海砂との接点を作るか……」

L「なんとかなりませんか? 月くん」

月「なんとかって言われてもな……同じ大学の学生ならまだしも、単に学祭のイベントに呼ばれただけのアイドルとなると……」

L「たとえば、あの司会らしき女性を介して……などはどうでしょうか」

(海砂がライブをしているステージの脇で、マイクを持って立っている女性を指差すL)

月「司会?」

L「はい。彼女はおそらくこの大学の学生ではないかと思うのですが……月くんと、面識があったりしませんか?」

月「ああ……彼女は確か……高田清美、といったかな」

L「! ご友人ですか?」

月「いや……ミス東大の呼び声高い新入生だ。現に、秋の方の学祭で開催される『ミス東大コンテスト』に出場するよう、実行委員会から早くも声を掛けられていると聞いた。自分で言うのも何だが、全科目満点で首席入学した僕と並んで注目の新入生だ」

L「そうでしたか。では、彼女との面識は……」

月「残念ながら、直接は無いな。まあ向こうも、そういう事情でおそらく僕の存在は知っているとは思うが」

L「ではなんとかなりそうですね。同じ大学の注目の新入生同士……一方が他方に声を掛けても全く不自然ではありません」

月「まあ高田清美はそれでもいいが……そこから弥海砂につながるかはなんともいえないな。今のところ、弥海砂は学祭のイベントに呼ばれただけのアイドルで、高田清美はそのイベントの司会というだけだろう」

L「イベントの後に打ち上げに行ったりしないでしょうか? 関係者同士で」

月「それはあるかもしれないが……普通に考えて、ゲストに呼ばれたアイドルまでは参加しないんじゃないか?」

L「そういうものですか……あ、歌が終わりましたね」

月「…………」

海砂『はーい。というわけでミサの新曲、『もっとキラキラにして♪』を聴いて頂きました~! どうもありがとうございまーす!』

 ワァアアアア……

清美『弥さん、ありがとうございました。ではここで、会場の皆様にも参加して頂けるコーナーに移らせて頂きたいと思います』

海砂『…………』ジー

清美『? あ、弥さん?』

海砂『ずっと思ってたけど……あなた、すごい美人ね。ミス東大候補ってカンジ?』

清美『は、はぁ!? わ、私はミス○○だとかうわついた物は嫌いです』

海砂『えー? でもなんかまんざらでもなさそうだけどー?』

 ドッ アハハハハハ……

清美『も、もう! 進行もあるんだから、あんまり台本に無いことを言わないで下さい!』

海砂『はぁ~い』

清美『ええと、では会場の皆様の中から、何人かステージの方へ…… ! 』

清美(……あれは……)

海砂『? どうしたの?』

清美『…………』

L「……あの司会の女性……高田清美……でしたか。何か、我々の方を見てませんか?」

月「? そうか?」

清美『…………』

清美(間違い無い。あれは……今年度の入試を全科目満点で合格したという……主席入学者の夜神月!)

清美(……ちょうどいいわ。彼とは一度話をしてみたいと思っていたし……それに私と並んで注目の新入生。ステージの盛り上げ役としても最適でしょう)

清美『おや? あそこにおられるのは……今年度の首席入学者、夜神月くんではないでしょうか?』

観客一同「!?」ザワッ

L「!」

月「なっ……」

海砂『首席入学者?』

清美『……どうやら、そのようですね! では、今年度の東応大学の入学試験を全科目満点で突破された天才・夜神月くん! ここで巡り合わせたのも何かの縁です。どうぞステージの方へ!』

 ワァアアアア……

月「! …………」

L「月くん。絶好のチャンスです」

月「竜崎」

L「場も盛り上がっていますし、是非ステージに上がって、弥海砂と接点を」

月「……分かったよ」

清美『えっと、そのお隣の……ユニークなお面を着けておられる方はお友達でしょうか?』

L「え?」

清美『ではせっかくですので、お友達の方もご一緒にステージへどうぞ!』

 ワァアアアア……

L「…………」

月「……どうせだ。お前も来い、竜崎。その面を着けていれば大丈夫だろ」

L「……はぁ。仕方ありませんね」

(ステージに上がった月とL。二人は両隣を清美と海砂に挟まれる形で立っている)

清美『……というわけで、今年度の東応大学の首席入学者、夜神月くんと、そのお友達の……』スッ

(マイクをLに向ける清美)

L『……竜崎です』

清美『はい、竜崎さんですね。ところで竜崎さんは、どうしてそんなお面を着けていらしてるんですか?』

L『えー……これはですね……』

月「…………」

海砂「…………」チラッ

海砂(この首席入学者の人……すごくカッコイイ……ぶっちゃけタイプかも)

海砂(ってことは、もしかして……友達のお面の人も、素顔はすごくイケメンだったりするのかな?)

海砂(だったらちょっと見てみたいかも……)

海砂(……よし。それにどうせなら、場も盛り上がった方が良いしね)

月「…………」

月(それにしても妙な事になったな……)

月(まあでも、確かにこの状況ならこのアイドル……弥海砂と接点を持つのも容易に……ん?)

海砂「…………」コソコソ

(音を立てずにLの背後に忍び寄る海砂)

月(……何を……?)

清美『魔除け……ですか?』

L『はい。それと他には……』

海砂(……よし。全く気付かれてない。今だ!)

月「! ま、待て……」

海砂「えーい!」バッ

L「!」

(背後から海砂に面を外されたL)

清美「あっ」

L「…………!」

月「なっ……!」

海砂『もう、せっかくのステージなのに、こんなの着けてちゃ盛り下がっちゃうでしょー』

 アハハハハ……

清美『あ、弥さん! お客さんに対して勝手にそんな……』

海砂『ん~? でもあなた、結構個性的で素敵なお顔じゃない。お面なんて着けてない方が全然いけてるじゃん』

L「…………」

清美『ひ、人の話を聞きなさい!』

 アハハハハ……

海砂(あー、こういうタイプだったかぁ。ミサ的にはあんまりタイプじゃないかな? まあ嫌いじゃないけど……)

L「…………」

月「りゅ、竜崎……」

L「……まあ、学祭のプログラムは事前に全てチェック済みです。今日のイベントに765プロダクションのアイドルは誰も呼ばれていませ……」

「海砂ちゃーん!」

海砂『あっ、美希ちゃん!』

L「!」

月「えっ」

美希「ちょっと遅れちゃったけど、来たの!」ブンブン

(ステージ近くの観客席から手を振っている美希)

海砂『来てくれたんだー! ありがとー!』

L「……星井、美希……」

月「な、何でここに……?」

「……あれ? ライトさん?」

月「えっ」

春香「……なんで、ライトさんがステージに?」

月「! …………」

粧裕「ホントだ。何やってるの? お兄ちゃん」

やよい「あーっ! ライト先生だー!」

(美希の横に春香、粧裕、やよいの三人が並んで立っている)

月「……な……」

L「……あま、み……はるか?」

月「! 竜崎」

春香「…………」

美希「えっ? もしかして……あのステージにいる人が『夜神月』って人なの? 春香」

春香「…………」

美希「春香?」

春香「…………」

春香(ライトさんの横にいる人の、名前……)

春香(…… L Lawliet ……?)

春香「…………」

一旦ここまでなの

【一週間前・美希の自室】


美希「さて、今日の分の裁きも終わったし、そろそろ寝ようかな」

リューク「しかし大変だな。ハリウッド行きの準備もしながら、犯罪者裁きもこれまで通りにこなさないといけないってのは」

美希「まあね。でも今のところは全然大丈夫なの。ハリウッドも実際に行くのはアリーナライブが終わってからだし、まだ大分余裕あるからね」

リューク「なるほど。ちなみに、アメリカに行ってる間はアメリカの犯罪者を中心に裁くのか?」

美希「……そんなあからさまな事したら、ミキがキラだって言ってるようなものなの」

リューク「それもそうか」

美希「当面の間はこれまで通り、日本の犯罪者を中心に裁いていって、他の国の犯罪者も、世界的に報道されるような凶悪なのは裁くようにするの」

リューク「ふむ」

美希「まあでも将来的には……他の国の犯罪者も、偏り無く裁けるようにするのが理想かな。日本だけが平和になっても、本当の意味で『平和な世界』とはいえないしね」

リューク「じゃあミキは世界全体を平和にしたいんだな」

美希「そうだよ。だからミキは最初からずっと、そう願ってデスノートを使ってるの」

美希「世界中の人が皆、平和に幸せに暮らせたら、それが一番良いに決まってるの」

リューク「なるほどな。(……言ってることは立派だが、やってることは人殺し……。やっぱり人間って面白!)」

美希「? 何か言った? リューク」

リューク「いや、別に」

美希「むー。……あっ。電話だ。……海砂ちゃん?」ピッ

美希「ミキなの」

海砂『ミサだよー。美希ちゃんまだ起きてた?』

美希「うん。ちょうど寝ようとしてたとこだったの」

海砂『あ、ごめん。じゃあ明日にした方がいいかな?』

美希「ううん。大丈夫なの。何? 海砂ちゃん」

海砂『うん。実は来週の日曜日、東大の学祭でライブイベントをするんだけど……もしよかったら観に来てくれない?』

美希「行くの!」

海砂『即答ありがとう。流石美希ちゃん』

美希「海砂ちゃんのライブって観たことなかったから、すごく楽しみなの」

海砂『ミサも美希ちゃんに観に来てもらえると思うとやる気が出るよ。あ、じゃあよかったら765プロの他の友達も誘っておいでよ。ミサも仲良くなりたいし』

美希「わかったの! じゃあ皆に声掛けてみるね」

海砂『あ、でも流石に765プロのアイドルが何人も集まったら大騒ぎになっちゃうかもしれないから……美希ちゃん以外に一人か二人くらいの方が良いかな?」

美希「わかったの。じゃあそんな感じにするの」

海砂『ごめんね。誘っておきながら注文多くて』

美希「ううん。誘ってくれてありがとうなの。本当に楽しみなの」

海砂『そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあ詳しい場所や時間はメールで送るね』

美希「らじゃーなの」

海砂『じゃあそういうことでよろしくね。おやすみ』

美希「おやすみなさいなの」ピッ

美希「……そっか。海砂ちゃんライブやるんだ。しかも東大で……ん? 東大?」

リューク「それって確か、『夜神月』ってやつが通ってる大学じゃないのか? 今、ハルカの家庭教師をしてるっていう」

美希「……うん。そうだね」

リューク「どうするんだ? ミキ。じゃあやっぱり、ハルカを誘うのか?」

美希「…………」

美希(……春香……か)

美希(でも確かに、良い機会かもしれない)

美希(最近、春香の考えてる事がよく分からないときがあるし……)

美希(少し開放的な場所で、二人でゆっくり話ができれば……)

美希「そうだね。春香を誘ってみるの」

リューク「おっ」

美希「…………」ピッ

春香『――もしもし。美希?』

美希「ミキなの。まだ起きてた? 春香」

春香『うん。何か用事?』

美希「えっとね。前に話してた、弥海砂ちゃんって覚えてる? ミキと○×ピザのCMでコラボ出演したことのある……」

春香『あー、確か……ヨシダプロの人だっけ?』

美希「そうそう」

春香『その人がどうかしたの?』

美希「うん。実は今連絡があって、来週の日曜、東大の学祭でライブイベントやるんだって」

春香『! 東大で』

美希「うん。で、よかったら観に来ない? って誘われたから、ミキは行くつもりなんだけど……もし予定が合えば春香も一緒にどうかなって思って」

春香『あー……そういうことね』

美希「あっ。もしかして、もう予定入ってた?」

春香『いや、そういうわけじゃないんだけど……』

美希「?」

春香『ほら、東大ってことは……ライトさんも来てるかもしれないでしょ?』

美希「? それがなんかまずいの?」

春香『いやほら、アリーナライブのリーダーになった関係でスケジュールが色々動いたから、今週と来週、家庭教師お休みにしてもらったって言ったでしょ?』

美希「ああ、うん。そういえば言ってたね」

春香『なのに、普通に学祭に遊びに来てたらなんか感じ悪いっていうか……好感度下がらないかな? 『お前、家庭教師休みにしといて……』みたいな』

美希「うーん……ミキ、その人のこと直接知らないから分かんないけど……フツーに考えて、それくらい別に大丈夫なんじゃない? 別にウソついて休みにしてもらったわけでもないし」

春香『まあそうかもしれないけど……でも私、ライトさんにほのかな恋心を抱きつつある少女を演じているところだからなあ……。あんまりそのイメージを崩すような行動は……』

美希「じゃあ行かないの?」

春香『……いや、正直行きたい。他のアイドルのライブってそんなに観る機会無いから、純粋に勉強したい……アリーナライブも控えていることだしね』

美希「じゃあどうするの?」

春香『……分かった。行くよ。まあ東大って言っても広いから、そうそう会うことも無いだろうしね。それにライトさんがアイドルのライブイベントに足を止めるとも思えないし』

美希「じゃあ行くってことでいいんだね」

春香『うん』

美希「わかったの。詳しい時間や場所はまたメールするね」

春香『はーい』

美希「じゃあそういうことで。また明日ね、春香。おやすみなさいなの」

春香『うん。誘ってくれてありがとうね、美希。じゃあおやすみ』

美希「はいなの。それじゃあね」ピッ

美希「…………」

美希(……電話やメールでは、デスノートやキラについての話はしないようにしているとはいえ……)

美希(……なんか、すごくいつも通りの春香だったな……)

美希(ミキの考え過ぎだったのかな?)

美希「…………」

リューク「なあ、ミキ」

美希「? 何? リューク」

リューク「学祭って、リンゴ飴売ってるかな」

美希「……売ってたとしても買わないの」

リューク「…………」

【現在・東応大学キャンパス内/屋外ステージ前の観客席】


美希「…………」

美希(今日はまだ、二人で落ち着いて話はできていない)

美希(大学に着いて割とすぐに、たまたまこの学祭に遊びに来ていたやよいと粧裕ちゃん……例の『夜神月』って人の妹さん……とばったり会って)

美希(そのまま四人で話し込んじゃって……海砂ちゃんのライブイベントの開始時間過ぎちゃって)

美希(慌てて走ってここまで来たけど……)

美希「…………」

春香「…………」

美希「……ねえ、春香ってば」

春香「え? ああ、うん。何? 美希」

美希「いや、何じゃなくて。あれが春香の家庭教師の『夜神月』って人なの? って」

春香「あ、ああ……うん。そうそう。ライトさんがこんな所にいるなんて思わなくて、つい……ね。あ、あはは……」

美希「…………」

美希(……めちゃくちゃ怪しい……)

美希「ねえ、春香」

春香「な、何? 美希」

美希「……何かあったの?」

(小声で春香に尋ねる美希)

春香「! …………」

美希「…………」

春香「……流石美希。鋭いね」

美希「もう。これくらいミキにはお見通しなの」

春香「あはは……参ったな。……でも今はちょっとまずいから、また後で話すよ。二人きりの時に」

美希「……ん。分かったの」

やよい「何話してるんですか? 春香さん、美希さん」

春香「ん? ああ……あれがライトさんだよ、って。美希に」

やよい「あっ、そうか。美希さんはライト先生と会ったことないですもんね」

美希「うん。噂通り、すごいイケメンの先生だね。でも何でステージの上にいるの?」

やよい「さあ……? 粧裕ちゃん、何か知ってる?」

粧裕「いや、全然……。ホント何やってんだろ? お兄ちゃん……」

清美『……ええと、弥さん?』

海砂『ん? 何?』

清美『今、『美希ちゃん』って言ってましたけど……それってもしかして、あの765プロの?』

海砂『うん、そうだよ。765プロの星井美希ちゃん。実はミサと美希ちゃんは大の仲良しなの。だから今日は個人的に『観に来てくれない?』って声掛けてたんだー』

観客一同「!?」ザワッ

「えっ。じゃああそこにいるのってミキミキ……?」

「つーかその横の子、よく見たらはるるんっぽくないか?」

「やよいちゃんらしき子もいるぞ……」

 ザワ…… ザワ……

美希「あ、やばい。ばれたかな」

春香「いやばれたも何も、今普通に『765プロの星井美希ちゃん』って言われたからね」

やよい「うーん、大丈夫でしょうか?」

粧裕「な、なんか周りの人が皆、私達の方を見ているような……」

(ステージの上に立たされたままの月とL)

月「りゅ、竜崎……」

L「そうですよね……アイドルとしては呼ばれていなくても、普通に友達としてなら呼ばれている可能性はありますよね……。残念ながら、生まれてこの方友達というものができたことのない私には、その発想が全く思いつきませんでした」

月「…………」

L「いえ、違いますね。一点訂正します」

月「? 何だ?」

L「今言った、『私に友達ができたことがない』という点です。……月くんは私の初めての友達ですから」

月「……ありがとう。僕にとっても竜崎は気が合う友達だよ」

L「どうも」

月「だから二人で考えよう。この状況をどう乗り切るか……いや、むしろ逆に……」

L「はい。この状況を……」

月・L「どう利用するか」

海砂「何二人でこそこそ喋ってるのー?」ヒョコッ

月「! …………」

L「……弥さん。とりあえず」

海砂「はい。何でしょう」

L「殴っていいですか」

海砂「何で!?」

L「人の面を勝手に取るのは重罪ですから」

海砂「い、いやいや! そりゃ確かに勝手に取ったのは悪かったと思うけど!」

L「一回は一回です。さあ歯を食いしばって下さい」グッ

海砂「一回は一回って! ちょっと目がマジなんですけど!? っていうかその拳下ろして! 怖い!」

月「……もうそのへんでやめとけ。竜崎」ポン

L「月くん」

月「お前の冗談は冗談に聞こえないんだよ。見ろよ、本気で怖がってるじゃないか」

海砂「じょ、冗談……?」

L「はい。もちろん冗談です。まさか弥さんは、私が本気で女性に手を上げるように思いますか? そんな人間に見えますか?」

海砂「思います。見えます」

L「月くん。やっぱりこの人殴っていいですか?」

海砂「ひっ」ビクッ

月「……だからやめとけって。それに……」チラッ

L「?」

月「……それどころじゃないみたいだぞ。観客席の方は」

清美『み、皆さん! 落ち着いて下さい!』

観客A「ねぇミキミキ、この後空いてる? もしよかったら俺と……」

観客B「いや美希ちゃん、ここはこの僕と!」

観客C「いやいや俺と!」

美希「ちょ、ちょっと……もう! 押さないでほしいの!」

観客D「やよいちゃんもあのアイドルの子……え~っと、ミカちゃん? と仲良いの?」

やよい「え? み……ミカちゃん?」

観客E「春香さん! 踏んで下さい!」

春香「ふ、踏みません! どさくさに紛れて何言ってるんですか! もう!」

観客E「ありがとうございます!」

観客F「君もアイドル? 可愛いね~」

粧裕「へっ? わ、私はそんなんじゃ……」

 ワイワイ…… ガヤガヤ……

L「……今を時めく765プロダクションのアイドルが三人も集まれば、まあ普通に考えてこうなりますよね」

月「ああ。それにさりげなく、粧裕までアイドル扱いされてるしな……」

海砂「むぅ……このステージの主役である私を差し置いて……っていうかミカって誰よ! ミカって!」

L「……司会の方」

清美『えっ。あ、はい』

L「すみませんが、ちょっとマイクを貸してもらえませんか?」

清美『? は、はあ……』スッ

(清美からマイクを受け取ったL)

月「? 竜崎? 一体何を……」

L『えー……ではここで、追加でステージに上がって頂く方のお名前を発表したいと思います』

清美「えっ」

月「!」

海砂「へっ?」

L『弥さんからご招待されていたという星井美希さん、そしてそのお友達の天海春香さん、高槻やよいさん、夜神粧裕さん。どうぞ皆さんまとめてステージの方へ』

美希「!」

春香「えっ」

やよい「私達がステージに……ですか?」

粧裕「な、何で私まで!?」

清美「ちょ、ちょっと、何を勝手に……」

L「このまま観客席が混乱したままですと、イベントの進行に支障をきたします。ならいっそ全員まとめてステージに上げてしまった方がよろしいかと」

月「! ……竜崎……」

清美「で、でもこの後のコーナーは、そんなに大勢の人数で行う想定では……」

L「それくらいアドリブでなんとかして下さい。東大生の知能をもってすれば造作も無いはずです」

清美「そ、そんな簡単に……大体これは弥さんのライブイベントであって……」

海砂「いいんじゃない? 別に」

清美「! 弥さん」

海砂「私も美希ちゃんや、他の765プロの人達と共演してみたいし。……てゆーか、私の事そっちのけで観客席で盛り上がられてる方が腹立つしね」

清美「腹立つって……」

海砂「というわけで……コホン」

海砂『はい! では今呼ばれた四名の方、速やかにステージの方へどーぞー!』

 ワァアアアア……

美希「! 海砂ちゃん」

やよい「えっと……どうしましょう?」

春香「まあ確かに、このままだともみくちゃにされちゃいそうだし……それならいっそ行った方がいいかもね」

美希「よーし、じゃあ皆で行くの! 海砂ちゃんの待つステージへ!」 

粧裕「えっ? これってやっぱり私も行く流れなの!?」

(ステージに上がった美希、春香、やよい、粧裕)


海砂『ごめんねー美希ちゃん。せっかくお客さんとして来てもらってたのに』

美希『ううん。大丈夫なの。ミキ的にはこっちの方が面白そうだし。あはっ』

清美『星井さんは、弥さんとはいつ頃お友達になられたんですか?』

美希『んっとねー。○×ピザのCMでコラボ出演した時だから、去年の――……』

粧裕「うぅ……何で私まで……」

月「粧裕」

粧裕「お兄ちゃん」

月「何で、お前までここに……。それにやよいちゃんと春香ちゃ……天海さんも」

やよい「ライト先生! 私、びっくりしました。まさかこんな所でお会いできるなんて」

春香「あはは……ちょっとご無沙汰してます……」

月「ああ……皆で一緒に来てたのか?」

粧裕「ううん。私とやよいちゃんは元々学校の子達と遊んでたんだけど、東大で学祭があるってお兄ちゃんから聞いてたのを思い出して……それで折角だから皆で行ってみようってなったんだ」

月「じゃあ天海さんと……あと星井さんとは、偶然会ったのか?」

粧裕「うん。色々回ってるうちにアイドルのライブイベントがあるって知って、私とやよいちゃんはこれ観に行こうってなって。でも他の皆は別のイベント観たいって言うから、一旦別行動にして……」

月「粧裕は知ってたのか? この弥海砂ってアイドルのこと」

粧裕「ううん。知らなかったけど……アイドル好きとしてはチェックしとかなきゃって思って。それにやよいちゃんも、他のアイドルのライブを観る機会はあんまり無いから是非観たいって言って。で、私とやよいちゃんがこのステージに向かっている途中で、同じようにこのステージに向かっていた春香さんとミキミキ……美希さんとばったり会ったってわけ」

月「そうだったのか」

粧裕「私、まさかミキミキ……美希さんに会えるなんて思ってなかったから、すごく興奮しちゃって。それで色々話し込んでる間に、肝心のライブイベントの時間過ぎちゃってたの。だからさっき急いで来たんだ」

月「……そういえばお前、僕が家庭教師を始める前に天海さんとやよいちゃんと四人で会った時もすごく興奮してたな」

粧裕「うん。だって私、春香さんに会ったのはあの時が初めてだったんだもん」

海砂『なになに? もしかしてその子、あなたの妹さんなの?』ヒョコッ

月「……ええ、まあ」

海砂『へーっ。そうなんだ~可愛いね! 私、弥海砂。ミサミサって呼んでね』ニコッ

粧裕「は、はい。(か、カワイイ……)」

春香「あ、あの……ライトさん」コソッ

月「……春香ちゃん。それにしても驚いたよ。まさかこんな所で会うなんて」

春香「私の方も驚きました。まさかライトさんがこんな所でステージに立っているなんて」

月「はは……本当にね」

春香「ええと……ちなみに、怒ってます?」

月「? 怒る? なんで?」

春香「いや、その……私の都合で二週も家庭教師お休みにしてもらったのに、こんな所で遊んでて……」

月「ああ……でもそれはやむを得ないスケジュール変更だろ? そんなことで怒る理由は何も無いよ。それにアイドルであれ受験生であれ、息抜きの時間は必要だからね」

春香「……ライトさん。よかったぁ。私、てっきり怒られちゃうのかと……あっ。ところで……」

月「? 何?」

春香「その……そちらの方、なんですけど……」

(月の隣にいるLの方に目をやる春香)

月「! …………」

L「…………」

春香「……ライトさんの大学のお友達……ですか?」

月「ああ……えっと……」チラッ

L「……私は……」

清美『えー、なんだか非常に賑やかになって参りましたが、これから、今ステージに上がって頂いたこちらの皆さんと弥さんとで、いくつかのゲームをしてもらおうと思います』

春香「あっ」

L「…………」

清美『本当はもっと少ない人数で行う想定だったのですが……まあ、なんとかなるでしょう』

 アハハハハハ……

清美『では、改めて……といっても、半分くらいの方は既に説明不要かもしれませんが……まあ折角ですので、会場から参加して頂いた皆さんに、順次自己紹介をして頂こうと思います』

清美『それでは、こちらの方から順番にお願いします。はい、夜神くん』スッ

(マイクを月に渡す清美)

月「…………」

月『……東応大学一年、夜神月です。よろしくお願いします』

 パチパチパチパチ……

L『……竜崎ルエ。オンラインゲーム内で夜神くんと知り合ったネトゲ廃人の27歳無職童貞です』

 ドッ アハハハハハ……

月「…………」

粧裕「無職……何?」

やよい「さあ……?」

美希「…………」

美希(……変な人……)

春香「…………」

春香(……“りゅうざき るえ”……?)

春香(でも見えてる名前は“ L Lawliet”だから……“りゅうざき るえ”は偽名……ってことだよね?)

春香(それに、いかにもデタラメっぽいプロフィール……)

春香(まあこんな所で本名や素性を晒すのは抵抗あるって人も珍しくはないだろうけど……)

春香(…………)

春香「…………」

美希「春香」

春香「え?」

美希「次。春香の番なの」

L「…………」

(春香に向けてマイクを差し出しているL)

春香「あ、ああ……す、すみません」サッ

L「いえ」

春香『え、ええと……コホン』

春香『……765プロダクション所属アイドル・天海春香です! トップアイドル目指して頑張ってます! どうぞよろしくお願いします!』ペコリ

 ワァアアアア…… パチパチパチパチ……

美希『ミキだよ。よろしくね。……はい、やよい』スッ

海砂『美希ちゃんマイク回すの早っ!』

美希『だって今日はお仕事じゃないし……ミキはあくまで自然体でいくの。あふぅ』

海砂『でもなんか普段の美希ちゃんとあんまり変わらない気もするけど……』

美希『そう?』
 
 アハハハハ……

やよい『うっうー! 高槻やよいでーっす! 会場の皆さん、はいたーっち! いぇい!』

 ウォオオオオオオ!!!!

粧裕『ひっ。す、すごい歓声……え、えっと。夜神粧裕、です……。アイドルでもなんでもなくて、えっと、お兄ちゃ……じゃなくて、そっちにいる、夜神月の妹です……』

 アハハハハハ…… パチパチパチパチ……

清美『はい。皆様どうもありがとうございました。それでは早速、最初のゲームですが――……』

【三十分後・東応大学キャンパス内/屋外ステージ上】


清美『――はい。ではこれにて、本日の弥海砂さんのライブイベントは全て終了となります。会場にお越し頂いた皆様、そして私達と一緒にこのステージを盛り上げて頂いた飛び入りの参加者の皆様、本当にありがとうございました』

 パチパチパチパチ……

海砂『皆ー! これからも弥海砂をよろしくねー! もしどこかで見かけたらミサミサって呼んでねー!』

 ワァアアアア…… 

海砂「……ふぅ。皆、今日は本当にありがとね! すごく楽しかったよ」

美希「あはっ。それならよかったの」

春香「いきなりステージに呼ばれた時はどうなることかと思ったけど……」

やよい「意外となんとかなりましたね! ね? 粧裕ちゃん」

粧裕「あ、あはは……まあ、私はもういいかな……」

やよい「あっ! 大変!」

粧裕「? どうしたの? やよいちゃん」

やよい「粧裕ちゃん、他の皆との待ち合わせの時間、もうとっくに過ぎちゃってる!」

粧裕「ぎゃっ! ホントだ! メールもすごく溜まってる」 

やよい「えっと、じゃあ私達、このへんで失礼しますね! 美希さん春香さん、また明日! ライト先生もまた次の授業、よろしくお願いします!」ペコリ

美希「うん。また明日なの。やよい」

春香「バイバイ、やよい」

粧裕「じゃあもう行くね。お兄ちゃん」

月「ああ。二人とも気を付けて」

(ステージを降り、駆け足で去って行くやよいと粧裕)

海砂「……さて、と」

清美「お疲れ様でした。弥さん。色々台本と変えてしまってごめんなさい」

海砂「ううん。こっちの方が盛り上がったし、すごく良かったと思う! まさか765プロの皆が飛び入り参加してくれるなんて夢にも思わなかったし」

清美「そう言ってもらえて良かったです」

海砂「これも全部、あなたの機転の利いた司会のおかげね。本当にありがとう!」

清美「いえいえ、そんな……恐縮です」

海砂「…………」

清美「…………」

海砂「…………」チラッ

海砂(それにしても、あの夜神月って人……やっぱりすごくカッコイイ……。なんとかしてお近付きになれないかな……)

清美「…………」チラッ

清美(夜神くん……前々から一度話してみたいとは思っていたけど、今回折角こうして接点ができたのだし、連絡先でも……)

月「?」

L「…………」

春香「じゃあ美希。私達も帰ろっか」

美希「ん。そーだね」

春香(……早く美希に話しておきたいこともあるしね)

美希(そういえばステージに上がる前に春香が言ってたこと、まだ聞いてないの。早く聞かないと……)

L「あの」

春香・美希「!」

海砂・清美「?」

L「……せっかく一つのステージで共演した仲ですし、もし良かったらこの後軽くお茶でもいかがですか? 皆さん」

月「! 竜崎」

海砂「えっ」

清美「! …………」

L「もちろん皆さんお忙しいでしょうし、無理にとは言いませんが……」

海砂「ミサは良いよ。皆のお陰ですごく良いイベントになったから、そのお礼も兼ねて」

清美「わ、私も……やぶさかではありませんが」

L「ありがとうございます。天海さんと星井さんはいかがですか?」

春香「……私は……」

美希「どうする? 春香」

春香「……大丈夫です。行きます」

美希「じゃあ、ミキも行くの」

L「ありがとうございます。月くんも大丈夫ですよね?」

月「……ああ」

L「では皆さん、そういうわけでよろしくお願いします」













【三十分後・東応大学近くの喫茶店】


月「…………」

L「…………」

海砂「…………」

清美「…………」

春香「…………」

美希「…………」

月(……竜崎……)

L(…………)

海砂(これは願っても無いチャンス……! なんとしてでも彼……夜神月くんとお近付きに……!)

清美(夜神くんとはいくつか同じ授業も取っているし、今ここでどうこうということも無いけれど……でも連絡先くらいなら……)

春香(……竜崎ルエ…… L Lawliet ……)

美希(お腹すいたの)

一旦ここまでなの

(歓談をしている月、L、海砂、清美、春香、美希)

月「へぇ。高田さんはアナウンサー志望なんだ」

清美「ええ。それで今回の弥さんのイベントでも、学祭の実行委員の方にお願いして司会をやらせてもらったの。早いうちに、マイクを持って人前で話すことに慣れておいた方が良いと思って」

海砂「そうだったんだ。じゃあマイクで喋ったのも今回のイベントが初めてだったの?」

清美「ええ。だから本当に緊張しました」

月「それにしては見事な司会ぶりだったね。いきなりステージに呼ばれたときは焦ったけど」

清美「あれは……ごめんなさい。有名人の夜神くんの姿が見えたものだから、つい」

春香「? ライトさんって大学内では有名人なんですか?」

清美「それはもう。入試を全科目満点で合格した首席入学者ですもの。今やうちの大学では知らない人の方が珍しいわ」

春香「全科目満点って……東大の入試で!? まあ全国模試一位って聞いてたからそこまで驚きはしないですけど……いややっぱり驚きますけど!」

月「流石に盛り過ぎだよ、高田さん……。それに高田さんだってミス東大の呼び声高い注目の新入生じゃないか」

清美「わ、私はミス○○だとかうわついた物は嫌いです」

海砂「そのネタもう二回目よ。清美ちゃん」

清美「ね、ネタとかじゃないですから! っていうか清美ちゃんって……」

海砂「だってその方が呼びやすいし。あ、ミサのこともミサって呼んでいーよ?」

清美「……では、これからは海砂さんとお呼びしますね」

海砂「うーん。まあいいけど、なんかカタいなー」

清美「だってあなたの方が年上ですし」

海砂「まあ、アナウンサー志望ならそれくらいの方がいいのかもね。なんかNHNとか似合いそう」

清美「そう言っていただけると嬉しいですね。私も第一志望はNHNなので」

海砂「へーっ。今の時点でもう第一志望の放送局まで決めてるんだ。流石東大生、意識高いわ」

清美「べ、別にそんな大層なことでは……。あ、そういえば」チラッ

月「?」

清美「……夜神くんは、将来はどうするつもりなの? やっぱり官僚志望? それとも法曹関係かしら?」

月「ああ、官僚は官僚だが、警察庁に入りたいと思っているよ」

海砂「へーっ。ライトくんは警察志望なんだ。でもなんで警察?」

月「父が現職の刑事なんです。幼い頃から刑事として働く父の背中を見て育ってきたので、その影響で」

海砂「あー、そういうことね。あ、ライトくんも私のことはミサって呼んでくれていいよ」

月「……では僕も、高田さんにならって海砂さんと」

海砂「むー、だからカタいってばー。まあ東大生らしいけど」

春香「でもすごいですね。アナウンサー志望に警察志望……お二人とも、私と一つしか違わないのに、ちゃんと将来の事を考えていて……」

月「何言ってるんだよ。春香ちゃんはもう既にプロのアイドルとして第一線で頑張ってるじゃないか」

春香「ライトさん」

月「それにアイドル活動だけじゃなく、ちゃんと学生の本分としての勉学にも勤しんでいる。これはなかなか出来ないことだと思うよ」

春香「そ、そう言われると照れちゃいますけど……でも、勉強の方は完全にライトさん頼りだし……」

海砂「? ライトさん頼りって? っていうか、二人は前からの知り合いなの? なんか話し方とかそんな感じするけど」

春香「あっ、そっか。まだ言ってませんでしたね。実は私、今年の4月からライトさんに家庭教師してもらってるんです。あとさっきまで一緒にステージにいた、やよいも」

海砂「えっ!」

清美「!」

L「……………」

美希「……………」

海砂「そうだったんだ。どうりで……」

春香「はい。実はそうだったんです。説明してなくてすみません」

清美「でも、なんでまた夜神くんに? お二人は、もっと前からのお知り合いだったということですか?」

春香「あ、そうじゃなくて……。実は、やよいと、これまたさっきまでステージにいた、ライトさんの妹の粧裕ちゃんが同じ中学の友達同士だったんです。で、私はやよいから、学校の友達ですごく頭の良いお兄さんがいる子がいるって聞いていて……」

海砂「あー。だからさっき全国模試一位とか言ってたんだ」

春香「はい」

清美「では、今日あなた達があのイベントの場で出会ったのは偶然だったんですか?」

春香「そうですね。実は先週から、私の都合で家庭教師をお休みにしてもらっていて……ライトさんとも連絡を取っていなかったので」

月「ああ。だから今日、春香ちゃんに会って本当に驚いたよ」

春香「私もです。まさかライトさんがステージに立っているだなんて思いもしませんでした」

月「はは。それは僕自身も思いもしなかったけどね」

清美「……その節は本当にごめんなさい」

月「あっ。ごめん高田さん。そういう意味じゃなくて……」

海砂「でもホント、こんな偶然ってあるもんなんだね。ミサも、美希ちゃんに『765プロの友達を誘って来て』とは言ったけど、特に誰を、とかは指定しなかったのに」

美希「……うん。ミキ的にはたまたま春香を誘っただけだったんだけど、まさかこんなことになるなんて思わなかったの」

春香「でも今にして思えば、誘ってくれた美希には感謝だよ」

美希「春香」

春香「だってそのおかげで……こうやって海砂さんや高田さんとお話ができて、仲良くなることができたんだし」

海砂「えへへ。そう言ってもらえると嬉しいな。ミサも、春香ちゃんと話せて……ううん、友達になれてよかった!」

春香「海砂さん」

清美「私も同じ気持ちです。将来アナウンサーとして働くことを望んでいる私にとって、既にプロとして芸能界で働かれている天海さんや星井さんとお話できたことは大変貴重な経験となりました」

春香「高田さん。ありがとうございます。そう言って頂けると光栄です」

美希「うんうん。ミキも友達が増えて嬉しいの」

海砂「ちょっとー清美ちゃん。私はー?」

清美「まあ一応、海砂さんも」

海砂「一応て!」

美希「あはっ。海砂ちゃんのツッコミ面白いの」

月「…………」

L「…………」

春香「あっ。ご、ごめんなさい。なんか私達ばっかで盛り上がっちゃってて……」

月「え、ああ……いいんだよ、春香ちゃん。気にしないで」

L「…………」

海砂「そういえば……あなた。竜崎さんだっけ?」

L「! ……はい」

海砂「元はといえば、あなたが『お茶でもいかがですか』ってミサ達を誘ったのに……いざお店に入ったらちっとも喋らないのね」

L「…………」

海砂「ステージの時は結構饒舌だった気もするけど……もしかして、実は内気なタイプだったりするの? なんか座り方も妙に独特だし」

L「…………」

月「あ、ああ……多分彼は緊張しているんですよ」

海砂「? 緊張?」

L「…………」

月「ええ。無理も無いでしょう? 現役のアイドル三人に、ミス東大候補の女子大生……こんな華やかなメンバーに囲まれて、緊張しない方がおかしいですから」

清美「や、夜神くん。だから私はミス○○だとか――……」

L「……はい。そうです」

一同「!」

L「私は今、非常に緊張しています。なぜなら――……」

一同「…………?」

L「――自分がずっとファンだったアイドルが、今目の前にいるのですから」

月「!」

海砂・清美・春香・美希「!?」

月「…………」

月(竜崎……ずっと黙っているから何か考えているんだろうとは思っていたが……これは……)

海砂「ずっとファンだったアイドル? 誰なの? それ……」

L「…………」ジッ

(無言のまま、春香の顔を見つめるL)

春香「え?」

L「―――あなたです。天海春香さん」

春香「……え?」

L「私は……ずっと前からあなたの……アイドル・天海春香の大ファンです」

春香「!」

月「! …………」

月「…………」

月(やはりそうきたか……)

月(昨年の765プロのファーストライブの日に天海春香のファンだった男が心臓麻痺で死んだ件、そして黒井氏に対する『“L”の顔写真だけでも入手してほしい』という脅迫の内容から……天海春香は、『顔を見ただけで人を殺せる能力』を持つキラである可能性が高い)

月(その天海春香に竜崎が顔を見られてしまったことで、どう対策すべきかとずっと考えていたが……)

月(竜崎の考えもおそらく……いやほぼ間違い無く、僕と同じだ)

月(天海春香は、偏執的と言ってもいいほどに、765プロに対して強い愛着を持っている。そしてそれは演技でも何でもない……それこそがたった一つの彼女の行動原理であり、嘘偽りの無い本心)

月(そうであるからこそ、彼女は765プロの利害に直結する形でキラの殺しの能力を行使し、また黒井氏を脅迫している……)

月(そんな彼女に対し、竜崎が“L”であることを悟られず、それどころか、キラを追っているということさえ気付かれないようにするための唯一にして最大の防御策……)

月(それは――……天海春香の持っているであろう『アイドルとしての良心』に訴えかけること)

月(『アイドルとしての良心』……それが何であるかはいうまでもない。アイドルとして、ファンの存在を何よりも尊重し、ファンの為にただひたすら尽くすという献身の心だ)

月(天海春香がキラであり、その能力を行使して何人もの人を殺めてきたとしても、その一点だけは彼女の中で唯一折れ曲がることのない絶対の信念、正義)

月(そうでなければ、彼女が今キラとしてここまでリスクの高い行動を取り続けている理由が無い)

月(だからこそ、そこを攻めれば……こちらに対する害意を最大限に取り除くことができるうえに、逆に相手の懐に一気に飛び込むことのできる可能性すら生じる。まさに一石二鳥の策)

月(しかし逆に、少しでもボロを出せば、嘘を見抜かれれば……即座に殺されてしまう危険が生じる諸刃の剣でもある)

月(ここが正念場だな……。竜崎にとってはもちろん、僕にとっても)

月(竜崎の嘘がばれれば、その友人として接点がある僕も当然疑われることになるだろう)

月(もちろん、竜崎の嘘がばれても彼が“L”であると看破されるわけではない……竜崎は捜査本部以外ではどこにも“L”として自分の顔は晒していないのだから当然だ)

月(だがそれでも、つく必要のない嘘をついていたと分かれば確実に怪しまれる。そして天海春香は765プロに害をなす者、あるいはなそうとしている者は容赦無く殺している……それがたとえ犯罪者でなくとも)

月(つまりそれは、僕や竜崎が765プロに害をなす者、あるいはなそうとしている者と見做されれば即座に殺される可能性があるということ)

月(加えて、現職の警察官である僕の父は『“L”の情報を持っている可能性がある者』と思われていてもおかしくはない。だとすれば、その息子で警察志望である僕も、父からその情報を得ていると推測される可能性は十分にある)

月(“L”の情報を持っている可能性がある僕と、その友人と名乗り素性を偽っていた謎の男・竜崎……もしここまで条件が揃ってしまった時、天海春香がどのような行動に出るか……)

月(まず考えられるのは、今も黒井氏に対してしているように、“L”の情報を明かすようにキラとして僕達二人を脅す……そしてその情報が得られなければ当然に、また得られたとしても用済みとなればやはり殺す……といったところか)

月(現状、黒井氏はまだ殺されてはいないようだが……だからといって、僕達も同様に殺されないなどという保証はどこにも無い。むしろ、これくらいの最悪のケースは当然想定しておかなければならないだろう)

月(またもう一人のキラ……星井美希も、自分の事務所の前任のプロデューサーとクラスメイトの男子……いずれも犯罪者でない者を二人も殺している)

月(星井美希は天海春香ほど765プロそのものには固執していないと考えられるが……それでもどんな行動に出るかは読めない)

月(いや、そもそも現時点ではこの二人は連携してキラとしての活動を行っている可能性が高い……だとすれば、二人の行動を切り分けて予測することにあまり実益は無い)

月(もはや、この二人のいずれかに少しでも怪しまれたら僕も竜崎も殺される……そこまで考えて動かなければ駄目だ)

月(そのためにも、竜崎……)

月(今からお前がするであろう、この二人に対する最初の説明が全ての鍵を握る)

月(打ち合わせなどはしていないが、これからお前が言うであろうこと、また彼女らに思わせようとしているであろうことは大体予測がつく)

月(あとは竜崎を信じ、この二人に怪しまれないよう、極力自然な演技をすること……)

月(大丈夫だ……僕ならできる。いや、やってやる!)

月「…………」

春香「え、えっと……」

L「天海さん」

春香「は、はい」

L「あなたがいなければ、きっと今頃私は、この世界に生きてはいなかったでしょう。そういう意味で、あなたは私に生きる喜びを教えてくれた、この世で最も尊ぶべき存在……」

春香「え? そ、それってどういう……」

L「……少し長い話になりますが、いいですか?」

春香「は、はい」

L「……他の皆さんもよろしいでしょうか?」

(無言で頷く月、海砂、清美、美希)

L「ありがとうございます。では……」

L「……私は、幼い頃に両親と死別しました。交通事故です。以来私は、ずっと祖父の下で育てられてきました」

海砂「! …………」

L「ただ、見ての通り、私は決して印象の良い見た目の人間ではありません。目はぎょろっとしていますし隈も深い……はっきりいって『キモイ』と揶揄されるタイプの外見の人間です」

春香「そ、そんなことは……」

L「いえ。いいんです。客観的な事実ですから」

春香「…………」

L「それゆえ、私は幼少期からずっといじめに遭ってきました。幼稚園でも小学校でも……常に『キモイ』『死ね』『ゴミクズ』などと罵られ続けていました。また殴られたり蹴られたり、持ち物を壊されたり隠されたりといったこともしょっちゅうでした。小学校の六年間で上履きを便器の中に放り込まれた回数は優に100を超えるでしょう」

美希「! …………」

L「それでも小学校まではなんとか耐えていましたが……中学に上がるともう無理でした。言葉の暴力も身体への暴力も益々エスカレートしていき……はっきりいって殺されかけたことすら何度もありました」

海砂「ひどい……」

美希「…………」

L「やがて心身ともに限界を感じた私は、中学二年の途中くらいから学校に行かなくなり……自分の部屋に閉じこもるようになったのです。ただ幸いにも、祖父は私にはとても優しかったので、学校に行かなくなった私を咎めたりはしませんでした」

L「祖父は私の唯一の理解者だったのです」

L「しかし私が中学を卒業するくらいの年齢になったとき、祖父が急死しました。祖父は元々持病もあり身体は決して良くなかったのですが……それはあまりに突然の別れでした」

L「私は絶望しました。私の唯一の理解者であった祖父の死は、私がこの世界で誰ともつながらなくなったということと同義だったのです」

海砂「…………」

L「ただ不幸中の幸いといいますか……祖父は、自分がいつ死んでもおかしくないと分かっていたのでしょう。私が一人になっても困らないよう、多額の預金を遺してくれていました」

L「そのおかげで、私は生活に困ることはなかったのですが……朝起きてから夜寝るまでずっと家の中に引きこもり、誰とも一言も会話をしない日々……。祖父の死後、当然の事ながら、元々低かった私の会話能力、コミュニケーション能力は一層低下していきました」

L「また家に居る間はずっと自分の椅子の上で体育座りをしていたため、それ以外の座り方だと情緒に不安をきたすようにもなってしまいました。だから今もその座り方をしているという次第です」

清美「…………。(それでこんな奇妙な座り方をしていたのね……)」

L「それでも、全く外に出ないというわけにはいきません。人間である以上、生活必需品を購入するための外出は避けられないからです。しかし、祖父が死んでから一週間ほどが経ったある日……いざ外に出ようと思い、家のドアを開けようとすると……身体が、全く動かなくなったんです」

L「思えば、学校に通うのをやめてから、私は一歩も家から外に出ていませんでした。必要な買い物は全て祖父がしてくれていたからです」

L「そのため、いつの間にか私は、一人では外に出ることのできない身体になってしまっていたのです。また外に出たとき、かつて私をいじめていた者達がいたら……そんなことまで脳裏をよぎり、尚の事、動こうにも動けなくなってしまったんです」

美希「…………」

L「しかしそのとき、私はふと、祖父の遺品を整理していた時に、昔縁日で祖父に買ってもらったとある物を見つけたことを思い出しました」

清美「? とある物?」

L「はい。それが……これです」スッ

(ひょっとこのような面を皆に示すL)

海砂「! それって……」

春香「?」

美希「ひょっとこの……お面?」

L「ああ……天海さんと星井さんは知らなかったですね。私は今日、途中までこの面を着けていたんです」

春香「えっ」

美希「そうだったの?」

L「はい。……学祭のステージに上がった直後に、弥さんによって外されてしまいましたが」

海砂「う」

月「…………」

清美「そのお面が……昔、おじいさまから買ってもらった物……ということですか?」

L「はい。おぼろげな記憶ですが……まだ小さかった私は、縁日の出店で見かけたこの面を何故だか無性に気に入り、祖父にねだって買ってもらいました」

L「今思えば、何故こんな物を……とも思いますが、とにかく私は、祖父から買ってもらったこの面をしばらく大切にしていました」

L「しかし、子どもというものは得てして飽きっぽいもの……いつの間にか私はこの面の存在を忘れ、その後ずっと思い出すことも無く、日々を過ごしていました」

L「そんな中、祖父が死に……その遺品の中からこれを見つけたんです。幼い私がとっくに飽きて見向きもしなくなった物でも、祖父はちゃんと大事に取っておいてくれていたんですね」

L「私は昔から感情の起伏が乏しく、自分の欲しい物を口に出すこともほとんど無かった……。おそらく、祖父に何かをねだって買ってもらったのもこの面くらいだったと思います」

L「だからきっと、祖父も嬉しかったんでしょうね。私からこの面を買ってほしいとねだられたことが……。そんな想いがあったからこそ、祖父はずっとこの面を取っておいてくれたのだと思います」

L「恥ずかしい話、私は祖父が死んで初めてその想いに気付きました。しかしそのとき、ふと思ったんです。『この面を着ければ、また祖父が自分を守ってくれるのではないか』と……」

L「そして私は、祖父に買ってもらったこの面を着けて外出することにしたのです」

海砂「そうだったんだ……」

清美「じゃあ……今日のステージ上で、私が面を着けている理由を尋ねたとき、『魔除け』と答えていらしたのは……」

L「はい。祖父が私を守ってくれている……そんな想いからの回答です」

清美「そうだったんですね……」

L「はい。そして結果的に、面を着けることで私はなんとか外出することはできるようになりました。もっとも、それはそれで、道行く人から奇異の視線を向けられはしましたが……しかしそれでも、素顔を晒して歩くことを考えれば、私の精神状態は遥かに安定していました」

月「…………」

L「しかし外出はできるようになっても、私の中の根本的な問題が解決したわけではありませんでした。他人と一切接すること無く、ただずっと一人で家に引きこもるだけの日々……祖父の遺した財産を食いつぶすだけの無意味な人生」

L「私は何のために生きているのか? 何のために生まれてきたのか? そんなことを考え続けたまま、気が付けば十年以上の歳月が流れていました」

L「そんなある日、私はふと『もう死のう』と思い立ちました」

春香「! …………」

L「もうこれ以上生きていても、自分の人生には何の変化も無いし楽しみも無い。生きる意味も喜びも見い出せない。そう悟った時、『こんな無意味な現世には早く別れを告げて、祖父の待つあの世へ行こう』……自然とそう思ったのです」

清美「…………」

L「その頃の私は、朝起きて無感動に食事をし、暇潰しでオンラインゲームをプレイし、眠くなったらそのまま寝る……ただそれだけの日々を繰り返していました」

L「誰が見たって、とても有益とは思えない人生。そのことは誰よりも私自身が一番よく分かっていました」

月「…………」

L「そしてその日……今からちょうど一年前くらいのある日です。私は『もう死のう』と思い、自分の死に方を考えながら、いつものように面を着けて街に出ました」

L「私の中でもう死ぬこと自体は決まっていて、後はどう死ぬかを決めるだけ……飛び降り、首吊り、電車への飛び込み……様々な方法を考えました」

海砂「…………」

L「そんな時でした。まあ一番簡単な飛び降りにでもするか……そう思った時、私はあなたに出会ったんです。……天海春香さん」

春香「……え?」

L「……商店街のCDショップの前で、事務員らしき女性と、手売りでCD『太陽のジェラシー』の路上販売をしていたあなたに」

春香「! ……それって……」

美希「小鳥が律子の代わりにヘルプで入った時? 確か何回かあったよね。そういうの」

春香「うん……まだ私がデビューして間もない頃……本当に駆け出しの時……」

L「はい。後から調べて分かりましたが、その頃の天海さんはデビューしてからまだ数ヶ月しか経っていない新人アイドル……文字通りの駆け出しアイドルそのものでした」

L「しかし……私はその時、電撃にも似た衝撃を感じたのです」

春香「えっ?」

L「天海さんの弾けるような笑顔、『天海春香をよろしくお願いします』という元気に満ち溢れた張りのある声……その全てが私の世界の光となりました」

春香「! …………」

L「私はつい数秒前まで自分が死に方を考えていたことも忘れ、ただじっと天海さんを見ていたんです」

春香「そうだったんですか……全然気付かなかったです」

L「無理もありません。天海さんは本当に一生懸命CDを販売されていましたし、私も少し離れた物陰から見ていたに過ぎませんので」

L「とにかく、私は天海さんに見蕩れていました。こんなに魅力的な人がこの世にいたなんて俄かには信じられなかった」

春香「…………」

L「そして出来ることなら、私はその場でCDを買いたかった。天海さんの前に立って、直接面と向かって『頑張って下さい』と言いたかったんです」

L「でも……そのときの私にはそれができなかった。そもそもこんな面を着けたままでは天海さんも警戒するでしょうし、かといって面を外す勇気も無かったからです」

L「またもし天海さんに自分の素顔を晒して『キモイ』とでも言われたら……いや言われなくとも、そう思われたらと思うと……どうしても行動には移せなかったんです」

春香「……そんな……」

L「そうして私は、結局天海さんのCDを買うことも面を外すこともできず……そのままその場を立ち去りました」

L「しかしその時から、私の頭から天海さんの姿が離れることはありませんでした。その日、天海さんと出会った後、ほとんど無意識のうちに帰宅していた私は、自分が死のうとしていたことなど完全に忘れていました」

L「そしてそのことを思い出したのは、それから何週間も経ってからのことです。その時には、もう私の中で『死にたい』などという気持ちは完全に消え去っていました」

春香「! …………」

L「ですので……少し大げさな言い方になりますが、あなたは私にとって命の恩人……今日もこうして私が生きていられるのは、あなたのおかげなんです。天海さん」

春香「そ、そんな……」

L「急にこんな話をされても困惑されると思います。当然の事です。しかしあの日、あなたに出会わなければ私は確実に死んでいた……それは紛れもない事実なんです」

春香「…………」

L「話は戻りますが……天海さんの姿を見かけた日の翌日、私は再度、天海さんが路上販売をしていたCDショップを訪れ、念願の『太陽のジェラシー』を購入しました」

L「そして家に帰り、早速その歌声に身を委ね……私はまたも激しい衝撃を感じました」

L「天海さんの透き通るような歌声……それを聴いているだけで、私はあたかも、自分が本当に夏の白浜に立っているかのような錯覚に陥りました。音楽でここまで心を、いや魂を揺さぶられたのは生まれて初めての事でした」

春香「! …………」

L「そこから私は、のめり込むように天海さんのファンになりました。グッズもCDも、天海さんのものは全て買いました」

L「しかし毎日、天海さんの歌声を聴き、写真や映像を観ているうち……またもう一度、本物の天海さんの姿を見たい、との想いが湧きあがってきました」

L「ですが、私がそう思うようになった頃には、天海さんは既に人気アイドルとなっていました。昨年の夏……ちょうど765プロのファーストライブが終わった頃です」

春香「…………」

L「もうこの頃の天海さんは、地元の商店街でのイベントなどは行っていませんでしたので……生の天海さんの姿を見るには、ライブに足を運ぶくらいしかありませんでした」

L「もちろんライブにも興味はありました。生の天海さんの姿を見ながら、生の天海さんの歌声を聴く……それはまさに至高のひと時と言えるでしょう」

L「ですが、やはり私にはその勇気が無かった。引きこもりの自分があんなに多くの人が集まるところに行くということがまず想像できなかったですし、また仮に行けたとしても、面を着けたままライブに参加していいのかどうかも分からなかったからです」

L「しかしそれでも私は、CDで天海さんの歌声を聴き、ライブのBDや写真集で天海さんの姿を見ているだけで十分幸せでした」

春香「…………」

L「そんな日々の中……私は暇潰しにプレイしていたオンラインゲーム内で、とある人と出会いました」

清美「……とある人、って……」

L「はい。今日のステージでの自己紹介でも言いましたが……月くんです」

月「! …………」

L「私は元々、暇潰しにプレイしていただけだったので、碌にシナリオも進めず、ただフィールドをぶらぶらと歩いていただけだったんですが……」

海砂「あれ? でもあなた確か……その自己紹介の時、自分の事ネトゲ廃人って言ってなかった?」

L「あれは嘘です。流石にあんな公衆の面前で『四六時中天海春香さんの事ばかり考えている者です』と正直に言うわけにはいかなかったので」

海砂「な、なるほど……」

春香「…………」

L「ともあれ、そんな私が奇異に映ったのか、あるいは自分と同じような雰囲気を感じ取ったのか……ゲーム内のチャット機能を使って、月くんが私に話し掛けてきました」

L「これまで、ゲーム内でも私に話し掛けてくる人など一人もいなかったので、最初は私も警戒していたのですが……月くんとチャットで会話をするうち、彼には何の悪意も害意も無いということはすぐに分かりました」

L「そして話を聞けば、月くんも受験勉強の合間に暇潰しでログインしている程度だったらしく……自分と同じように、ほぼ初期状態の装備のままフィールドをウロウロしている私を見て、なんとなく親近感を覚えて話し掛けてみたそうです。……そうでしたよね? 月くん」

月「……ああ。そうだったな。懐かしいな」

L「そうしてお互いの事を色々と話すうちに……私は今まさに自分が夢中になっているアイドル……天海春香さんの事を月くんに話しました」

春香「!」

L「さっきも言いましたが、当時の天海さんはかなり売れ始めていたアイドルでしたので、当時高校生だった月くんなら名前くらいは聞いたことがあるかもしれない……そう思って話してみたのですが……驚きました」

L「月くんは天海さんを知っているどころか、彼女と同じ事務所のアイドル……高槻やよいさんが、自分の妹の粧裕さんと同じクラスで友達だというのです」

春香「! …………」

L「そして月くんは、私が天海さんのファンだということを知ると、高槻さん経由で会わせてもらえないか、粧裕さんに頼んでみようかと言ってくれたのです」

L「私の心は激しく揺れました。何といっても天海さんは、私がもう一度会いたいとずっと切望していたアイドル。その夢が今叶うのかもしれない、と思うと……」

春香「…………」

L「……しかし結局、やはり私には勇気が無く……お断りしました。いくらなんでも面を着けたまま会うのは失礼だと思いましたし、かといって面を外して会う勇気もまだ持てなかったからです」

L「しかし折角の申し出に気の無い返事をしたにもかかわらず、月くんは変わらず私と会話を続けてくれ……」

L「私が『もう十年以上も人とまともに話していない』『面を着けないと外出ができない』ということを正直に打ち明けるや、月くんは『なら一度僕と会おう』と言ってくれたのです」

L「『このままずっと今の生活を続けていては、いつか精神に異常をきたすかもしれない。少しずつでも克服していった方が良い』……と」

L「自分も受験勉強で大変なはずなのに、こんな申し出をしてくれるなんて……と、私は感動にむせび泣きました」

L「そして私は思いました。ここまで言ってくれている月くんの厚意を無駄にはできない、と。そして月くんが『面を着けたままでも良い』『口頭での会話が難しければその場でメールで話してもいい』とまで言ってくれたので……私は意を決して月くんに会うことにしました」

L「これが昨年の秋頃の話です」

月「…………」

L「そのすぐ後に、私は事前に言っていたとおり、面を着けて月くんと会いましたが……驚くほど自然に、自分の口で会話をすることができました。もちろん、十年以上もまともに人と会話をしていなかったので、最初は今のようには話せず、相当ぎこちなかったのですが……」

L「それでも、出会って一時間も経つ頃には、私は大分自然体で会話をすることができるようになっており……私は『彼なら自分を拒絶することは無い』と確信し、月くんの前で面を取りました」

L「案の定、月くんは私の素顔を見ても顔色一つ変えることなく、それどころかむしろ、それまでより好意的にさえ接してくれました」

L「以来、私と月くんはしばしば会う仲となり……私も月くんの前では面を外して会話をするのが普通になりました。もちろんそのときは、通行人など、月くん以外の人からも素顔を見られる形にはなるのですが……不思議なことにほとんど気にはなりませんでした」

L「おそらくこれは、月くんという、自分の存在の全てを認め、受け容れてくれる人が傍にいたからだと思います」

月「…………」

L「ただそうは言っても、人が多い状況……たとえば今日の学祭の場などでは、やはり面を着けていないと不安な気持ちに襲われるんです」

L「だから今日も、最初は面を着けた状態で学祭に来ていたんです」

海砂「そうだったんだ……ごめんね。そうとは知らず、私……」

L「いえ。気にしないで下さい。結果的に、そのおかげで私はこうして天海さんとも面を着けずに話ができるようになったのですから」

春香「…………」

L「こうして月くんと会い、話をするようになったことで、私は他人との会話にも慣れ、今ではある程度普通の会話ができるようになりました。ただ、まだ内面の感情を表情に表すのは苦手ではありますが……」

月「…………」

L「そんな中、今年の1月頃……月くんから、天海さんの家庭教師をしてくれないかと妹さん経由で頼まれ、そして引き受けたという話を聞きました」

春香「!」

L「この話を聞いた私は、率直に『羨ましい』と思いました……が、しかしそれよりも、月くんを介して、間接的に自分が天海さんとつながれたような気がして嬉しかったんです」

春香「…………」

L「また月くんは気を利かせて、『これで自分は天海さんと直接の知り合いになるだろうから、会える勇気が出たらいつでも声を掛けてくれ』とも言ってくれました。私は本当に嬉しかったです。もちろんまだ天海さんに会う勇気は持てませんでしたが……いつか私が、面を外して天海さんとも堂々と会えるような心境になった時には、改めて月くんに頼んでみよう……そう思いました」

月「…………」

L「そして、今から一週間ほど前……月くんは、自分の大学の学祭でアイドルのライブイベントがあるから一緒に行かないか、と私を誘ってくれました。ここでライブというものに慣れれば、いつかは765プロのライブにも行けるようになるかもしれないから、と……」

L「私もまた、どこかで今の自分を変えなければならないとはずっと思っていましたので、意を決してこれに行ってみることにしました。そして今日、実際に学祭のライブイベントに行き……まだ人が多い中で素顔を晒す勇気は無かったので、面を着けてはいたものの……月くんがずっと一緒に居てくれたため、私の精神状態は非常に安定していました」

L「そんな中……成り行きで、私は月くんと共にイベントのステージに上がるよう、司会を務めていた高田さんから呼び掛けられました」

清美「! …………」
  
L「大変驚きましたが、面も着けているし、また月くんも一緒なので大丈夫だろうと思い、私は承諾しました」

L「すると……ステージに上がった直後、私は弥さんによっていきなり面を外されました」

海砂「う」

L「私は予想もしていなかった事態に頭の中が真っ白になりかけましたが……直後、面を取られたことなど一瞬で頭の中から消え去るような出来事が起こりました」

L「天海さんが……夢にまで見た、あの天海春香さんが私の眼前に現れたのです」

春香「! …………」

L「その瞬間、私の脳裏には……一年前、CDを手売りしていた時の天海さんの姿が思い起こされ……その時の天海さんの姿と今の天海さんの姿とがぴったりと重なり合いました」

L「ただしばらくの間は、私は放心のあまり、茫然とその場に立ち尽くすことしかできませんでしたが……」

L「しかしその後、ようやく現状を認識した私は、今私がすべきこと、取るべき行動を考え……今ここで勇気を出さなかったら、自分は一生天海さんと話すことなどできないだろう。またこれまでの自分を変えることもできないだろう……そう考え、高田さんからマイクをお借りし、天海さんを含めた四名の方をステージに呼んだのです」

清美「そうだったんですか……」

L「はい。そしてその後のゲームも、天海さんがすぐ近くにいると思うと緊張で死にそうになりましたがなんとかやり終え……イベント終了後、このまま天海さんとお別れしたくないという想いから、皆さんをお茶にお誘いしたという次第です」

春香「…………」

美希「…………」

清美「…………」

海砂「…………」

月「…………」

L「…………」

海砂「……いいなあ。春香ちゃんは」

春香「えっ?」

海砂「だってさ、ここまでファンの人に想ってもらえるなんて……アイドル冥利に尽きるってもんじゃん。ミサもこれくらい、ファンの人から熱烈に想ってもらえるようになりたいよ」

春香「あ、ああ……そ、そうですね……」

美希「心配しなくても、海砂ちゃんならすぐにそうなれるって思うな」

海砂「うーん、ハリウッドデビューまで決まってるスーパーアイドルの美希ちゃんに言われてもイマイチ説得力無いなあ……」

美希「あはっ」

L「……天海さん」

春香「えっ。あっ、はい」

L「すみません。一方的に思いの丈をぶちまけてしまって……やはり気持ち悪かったですよね……」

春香「い、いえ! そんなことは全くありません! な、なんていうか、その、すごく驚いてしまって……」

L「? そうなんですか?」

春香「は、はい。まさか竜崎……さんが、そこまで私の事を想ってくれているファンの方だったなんて思わなくて……あとライトさんからも、特にそういう方がお友達にいるって話も聞いたことがなかったですし……」

月「……ああ。さっき竜崎自身も言っていたが、実際に会う勇気はまだ持てていないと聞いていたからね。竜崎がその勇気を持てるようになる時までは、春香ちゃんにも彼の存在は伝えるべきではないと思っていたんだ」

春香「……そうだったんですね」

月「ああ」

L「月くん。お気遣い頂きありがとうございます」

月「構わないよ。竜崎」

春香「……えっと、竜崎……さん」

L「はい」

春香「私の事をすごく想っていて下さったこと……本当に嬉しく思います。私がデビューして間も無い頃から、ずっと応援して下さっていたあなたのためにも……私、これからも精一杯、トップアイドル目指して頑張ります!」

L「……天海さん。そう言って頂けると、私も今日まで生きていて良かったと心から思えます。あの日自ら命を絶たなくて、本当に良かったと……」

春香「竜崎さん」

L「あなたに出会えて、私は自殺をせずに済んだ……それどころか、今もあなたを応援することで、私は日々の生きがいを感じることができている。……天海さん。さっきも言いましたが……比喩でも何でもなく、私にとってあなたは命の恩人です」

春香「そ、そんな……私、そこまで大したこと……」

L「いえ。これが私の嘘偽りの無い本心です」

春香「…………」

L「あと、せっかくこうしてお会いできたことでもありますので……もしよかったら、今後は『春香さん』と下の名前で呼ばせて頂いてもよろしいでしょうか」

春香「……ええ、それはもちろん。あ、じゃあ私も『ルエさん』と下の名前でお呼びした方が?」

L「あ、いえ……私は『竜崎』の方が慣れていますので、すみませんがこちらでお願いします」

春香「分かりました。では竜崎さん、で」

L「はい。改めてよろしくお願いします。春香さん」

海砂「ところで……竜崎さんの下の名前、“ルエ”って随分変わった名前だね」

L「はい。といっても、これは本名ではありません。オンラインゲームで使っていたアカウント名です」

春香「!」

海砂「えっ。そうなんだ。じゃあ本名は何て言うの?」

L「本名は……すみません。本名で呼ばれると、学校でいじめられていた頃の事を思い出してしまうので……」

春香「! …………」

海砂「あっ。そ、そうなんだ……ごめんなさい」

L「いえ。そういう理由で、月くんにも私の本名は教えていません」

月「! …………」

春香「そうなんですか? ライトさん」

月「……ああ。元々ゲーム内で会った時から『竜崎』と呼んでいたから、その方が違和感無く呼べるしね。それに本名が何であれ、竜崎は竜崎だ。僕はそれでいいと考える」

春香「…………」

美希「まあアイドルでも芸名使ってる子は結構いるしね。ミキ達は本名そのままだけど」

清美「そうなんですね。いわゆるタレントとか芸人の方はともかく、アイドルの方は皆本名だと思っていました」

美希「ほら、本名だとファンの人が通ってた学校の名簿を調べたりして、家に来ちゃったりすることもあるから」

清美「ああ、なるほど」

春香「…………」

春香(竜崎“ルエ”……“エル”……“L”……)

春香(そして彼の本名は“L Lawliet”……)

春香(また彼はライトさんと友達関係にあり……そのライトさんのお父さん……夜神総一郎は、Lと共にキラ事件の捜査をしている刑事……)

春香(これらが全て偶然とは……)

春香(いや、でも……もし彼……竜崎さんがLなら……美希をキラではないかと疑い、その部屋に64個ものカメラと盗聴器までをも仕掛けた人物ということになるけど……)

春香(そんなLが、キラとしてそこまでの疑いを掛けていた……いや、今も掛けている可能性が十分にある美希の前で……“ルエ”なんてあからさまに怪しい偽名を使うだろうか?)

春香(それに、そもそも本名の一部が“L”なんだから、それをもじったアカウント名をゲーム内で使っていても別に不自然ではないし……)

春香(また名前が“L”というだけなら他にいくらでも……たとえばLの身代わりとしてTV出演させられていたリンド・L・テイラー……彼の本名は、死神の目で確認したけど同じ名前だった。そういう意味では、彼も“L”だったといえるわけだし……)

春香(だとすると、とてもこの人がLとは……)

春香(それにいくらLでも、美希ならともかく、キラとしてそこまで疑っていないはずの私の情報をあそこまで正確に把握しているとはとても思えない)

春香(そう考えると、やはりこの人の話は本当で、この人は純粋な私のファン……そうみる方が自然……)

春香(それに、この人がした話……どこかで聞いたことがあるような……)

春香(まだ私がデビューして間も無い頃から、ずっと私の事を想ってくれていたファン……それもただ一方的に見守るだけで、自分の存在は私に気付かれなくてもいいと……)

春香(! そうか……この人……)

春香(……ジェラスに……似てるんだ)

春香(私に対する想い、ファンとしての姿勢、考え方、その全てが……ジェラスにそっくりなんだ)

春香(もちろん私は、レムからジェラスの話を聞いただけで、本物のジェラスとは会ったことも見たことも無いけど……)

春香(ジェラスは結局、私の前に姿を現すことはなく、私の命を助け……私の寿命を延ばして死んでしまった)

春香(そしてこの人……竜崎さんは、自殺を考えていたときに、私と出会ったから死なずに済んだと言っている)

春香(この話が本当なら……驕った考えかもしれないけど、ジェラスが私の命を救ってくれたように、私もこの人の命を救ったといえるのかもしれない)

春香(そして……神様が、結局ジェラスとは出会うことのできなかった私のために、気を利かせて……私とこの竜崎さんを出会わせてくれたのかもしれない)

春香(なんて、ちょっと都合良く考え過ぎかもしれないけど……)

春香「…………」

美希「…………」

清美「…………」

海砂「…………」

月「…………」

春香(うん。今は信じてみよう。竜崎さんのこと)

春香(確かに、本名の件は少し気になるけど……でも、ファンを信じないアイドルなんてアイドルじゃないもんね)

春香(それに……こんな風にファンの人と面と向かって話をしたのって、すごく久しぶりのような気がする)

春香(それこそ、CDを小鳥さんや律子さんと一緒に手売りしていた頃は、一人一人のファンの人とももっと向き合っていたけど……)

春香(昨年のファーストライブの後くらいから、お仕事の数が一気に増えて……特に最近では、『春の嵐』の成功に始まり、アイドルアワードの受賞、アリーナライブのリーダーに選ばれたりと……色々な事が立て続けに起こり過ぎて、正直、そのへんの意識が少し疎かになっていたかもしれない)

春香(アイドルは、ファンあってこそのアイドルなのに……。そういう初心を思い出させてくれたって意味でも、竜崎さんには感謝しないとね)

美希(この人……竜崎さん……今でこそ、春香に出会えて生きがいを感じることができているみたいだけど……)

美希(でも元はといえば、この人は学校でひどいいじめを受けたせいでずっと苦しんでいたんだよね)

美希(どうして世の中には、こんなに腐った人間が多いんだろう……)

美希(犯罪者を裁くだけじゃ足りないのかな……? なら、もっと裁きの範囲を広げて……いや、でも流石にそれはまだ早いか……)

清美(人は見かけによら……いや、この場合よるのかもだけど……色んな背景があるものね)

清美(アナウンサーに求められるのは公平・中立な視点……そのために必要なのは、社会に存在する多様な価値観や考え方、また社会に生きる人達それぞれが置かれている立場や境遇を十分に理解しておく事……)

清美(私も、将来の為にもっと社会勉強をしておかないといけないわね)

海砂(この人、淡々と語ってたけど……両親と死別してるんだよね。ミサと同じに……)

海砂(お面、無理やり取っちゃったの本当に悪いことしたな……後でもう一回、ちゃんと謝っておこう)

月(こいつ俳優にでもなった方がいいんじゃないか)

一旦ここまでなの

(三十分後・喫茶店前の路上)

L「今日は本当に楽しかったです。こうして折角お知り合いになれたことですし、よかったらまたこのメンバーで集まりませんか?」

海砂「うん。もちろん!」

清美「私も是非お願いしたいです」

春香「私も、また呼んでもらえたら嬉しいです」

美希「ミキもまた皆と会いたいの」

月「良かったな、竜崎。ずっと前からファンだった春香ちゃんに会えたばかりか、こんなに友達が増えて」

L「はい。今日は人生最高の一日です」

春香「そんな大げさな」

L「大げさでもなんでもありません。春香さん。これは私の本心ですから」

春香「そ、そうですか……」

海砂「あの……竜崎さん」

L「何でしょう? 弥さん」

海砂「その……本当にごめんね。ステージの時、いきなりお面取っちゃって……」

L「それならもう大丈夫です。多分私はもう、月くんと出会い、面を外して話すようになったことで……外で素顔を晒すことに対する、自分の中の恐怖心はほとんどなくなっていたんだと思います。現に今もこうして、皆さんとは面を着けずにお話しすることができているわけですし」

海砂「竜崎さん」

L「なので、もう気にしないで下さい。弥さん。それに今となっては、弥さんが面を取ってくれたおかげで、私はこうして皆さんと知り合うことができた……そのことに感謝したい気持ちの方が大きいですから」

海砂「……分かった。じゃあ、改めてこれからもよろしくね。竜崎さん」

L「はい。よろしくお願いします。弥さん」

海砂「ミサでいいよ。もう友達だしね」

L「分かりました。ではよろしくお願いします。ミサさん」

清美「あ、あの……」

月「? どうしたの? 高田さん」

清美「えっと、その……多分、私以外の皆さんは、それぞれ、元々知り合いだったりすると思うんですが……」

月「?」

清美「あ、ですからその……たとえば夜神くんは天海さんと、海砂さんは星井さんと……それぞれ知り合いだったわけでしょう?」

月「ああ、そうだね」

海砂「知り合いっていうか、友達だけどね。ミサと美希ちゃんは」

美希「なの!」

清美「そしていうまでもなく、夜神くんと竜崎さんは友達同士、天海さんと星井さんは同じ事務所の仲間同士……」

月「? 高田さん?」

清美「つ、つまり……元々知り合い、または友達同士、仲間同士だった皆さんは……当然の事ながら、既にお互いの連絡先を知っていますよね?」

月「ああ、それはもちろん……?」 

清美「え、えっとですね。だから、その……」

月「……! そういうことか」

清美「…………」

月「じゃあ、僕と連絡先を交換しよう。高田さん。そうすれば僕から春香ちゃん、春香ちゃんから星井さん、星井さんから海砂さんへとつながる」

清美「! ……夜神くん。ありがとう」

L「あの、私が入ってないんですが……」

月「竜崎。心配しなくても、後でちゃんと皆の連絡先を送ってやるよ」

L「ありがとうございます。月くん」

(互いに連絡先を交換した六人)

海砂「よし、じゃあこれで私達全員つながったね。……って、なんかこれってサークル? みたいだね」

春香「確かに。でもそうなるとサークル名を考えないといけませんね」

美希「春香が意外とノリノリなの」

春香「だってなんか面白そうじゃん。こういうの」

美希「まあね。ちなみに春香はどんな名前が良いの?」

春香「えっ。う、うーん……そうだね……何が良いかな……」

海砂「はいはいはーい!」

美希「海砂ちゃん。はいどうぞなの」

海砂「えっとねー。『竜崎と愉快な仲間達』とか、どう?」

一同「…………」

L「ミサさん。いくらなんでもそのセンスは無しです」

海砂「えぇ!? 折角あなたを立てた名前にしたのにその言い草!?」

L「それについては感謝しますがサークル名の決定は別の話です」

海砂「むぅ……」

月「まあ名前なんて何でもいいじゃないか。それよりこうして連絡先も交換できたわけだし、また皆で集まろう」

L「はい。それ自体は大賛成です」

海砂「なんか微妙に納得いかないけど……まあ、うん。今日は皆に出会えたことに感謝するよ」

清美「ええ。今日は本当に素晴らしい一日でした。また是非近いうちに」

春香「私も楽しかったです。色々な驚きもありましたし……」

美希「ミキもお友達がたくさん増えて嬉しいの。これからもよろしくなの。あふぅ」

月(竜崎の迫真の演技の甲斐あって、とりあえず最悪の事態は免れたか……? だがまだ油断はできないな。この後すぐに捜査本部に戻って、早急に今後の対策を立てなければ……)

L(正直、天海春香と星井美希に私の顔を見られた時はどうなることかと思ったが……私がここまで詳細に自分の素性を捏造した以上、現職の刑事を父に持つ夜神月との接点を考慮したとしても……流石に現時点で私がL、またはLの関係者と推測することはできないだろう。今はそれよりも、二人との直接の接点を作れたことを良しとすべき。そして後は一刻も早く、捜査本部に戻って今後の対策を検討すること……)

海砂(ふふふ……これでライトくんの連絡先ゲット! いきなり二人で会うのはハードル高いかもだけど、またこのメンバーで同じように集まるのなら全然不自然じゃない。このチャンスを逃す手は無いわね……!)

清美(まさか夜神くんが直接私の連絡先を聞いてくるなんて……もしかして、夜神くんって私の事……? いや、流石にそれは無いか……あれはあくまでもこの中で唯一誰とも連絡先を交換していなかった私に対する配慮……でも結果的に、夜神くんと連絡先を交換することができたわ……!)

春香(竜崎さんはLじゃない……いや、Lであるはずがない。それを確かめるためにも……)

美希(今日は色々と考えさせられたの……ん? 何か忘れてるような……)

美希「あっ」

春香「? どうしたの? 美希」

美希「あ、ああ……うん。何でもないの」

春香「?」

月「―――じゃあ皆さん。今日はこのへんで。また近いうちにお会いしましょう」

(月、L、海砂、清美と別れた後、並んで家路を歩いている美希と春香)

美希「ねぇ、春香」

春香「うん」

美希「さっき思い出したんだけど……あれ、何だったの?」

春香「え?」

美希「ほら。ステージに上がる前に、『後で二人きりになった時に話す』って言ってた……」

春香「……ああ。あれね」

美希「うん」

春香「えっとね。実は……」

(死神の目で見たLの名前を美希に教える春香)

美希「…… L Lawliet ……?」

春香「そう。それがあの人……竜崎さんの本名なの」

美希「そ、それって……」

春香「……まあ、美希の言いたい事は分かるよ。端的に言って、竜崎さんがLなんじゃないかってことでしょ? 私達がずっとその正体を知ろうとしていた……」

美希「まあ……うん。安直だとは思うけど、でもあの夜神月って人とのつながりも考えると……」

春香「うん。最初は私もそうかもと思ったんだけどね。でも……」

美希「でも?」

春香「色々考えたんだけど……私にはどうしても、彼……竜崎さんがLだとは思えないの」

美希「春香」

春香「……聞いてもらってもいい? 私の考え」

美希「うん」

春香「まずこれまでの前提として……今、私達765プロのメンバーの中で、Lから一番キラとしての疑いが掛けられているのは……やっぱり美希だと思う」

美希「……前のプロデューサーの件と、クラスメイトの男子の件があるからだね」

春香「そう。短期間で二人も、美希と関わりのあった人が心臓麻痺で死んでいる……しかもこの二人の死は、時期的にキラ事件が始まった時期とも近接している。Lが美希をキラではないかと疑う理由としては十分過ぎる……」

美希「…………」

春香「ただ、Lが美希の部屋に監視カメラを設置していた間、新たに報道された犯罪者が、美希がその情報を得ないうちに裁かれた……このことによって、Lは少なくとも美希一人だけをキラ容疑者として疑うことはできなくなったはず。だけど、それだけで美希に対する疑いを完全にゼロにしたとは思えない」

春香「つまり次に考えられるのは、美希はキラの能力を持っている可能性があるが、その能力を持つ者は美希以外にも存在していて……」

美希「その人がミキと協力して裁きをしている……という可能性」

春香「うん。そこまでは予想できてもおかしくない。でもそこで行き詰る」

美希「…………」

春香「もし仮に、前のプロデューサーさんの件から、私を含めた765プロ関係者全員が疑われているとしても、動機は私達全員に同程度にある……だからどうやっても、そこから先へ絞り込むことはできない。ましてや、私一人だけが特に強く疑われたりするはずもない」

美希「…………」

春香「例のアイドル事務所関係者の件は、全て心臓麻痺以外で殺しているから、そもそもキラと同じ能力によるものだとは気付かれていないだろうし……また万一これが怪しまれて、その背景にあった事情まで調べられていたとしても……被害者が全員“765プロ潰し”計画の主要人物である以上、彼らを殺そうとする動機が765プロ関係者の全員に等しくあるのは変わらない。だからこの点からも、やはり私だけが特に強く疑われる理由は無い」

春香「さらに言えば、一介の所属アイドルに過ぎない私なんかより、たとえば社長さんとかの方が……765プロを守ろうとする動機は強いだろうと考えられるしね」

美希「……そうだね」

春香「またアイドル事務所関係者の件を別にすれば、私達765プロのメンバーが疑われる理由は、①キラの能力を持っている可能性がある美希と接点がある②キラ事件の開始に近接した時期に、身近に心臓麻痺で死んだ者が一人いる、ということだけ……この条件なら、たとえば、『クラスメイトの一人が心臓麻痺で死んだ』という当時の美希のクラスメイトの人達なんかも、私達765プロのメンバーと全く同じ条件になる。とすれば、『美希と協力して裁きをしている可能性のある者』の範囲はもっと広汎に及んでいてもおかしくない」

美希「…………」

春香「だから尚の事……Lが私だけを特定して疑っているとは考えられない。現に、美希の部屋には付けられていた監視カメラも、私の部屋には付けられてないしね」

美希「? 確かめたの? どうやって?」

春香「簡単だよ。定期的に、自分の部屋に入った時に、何も言わずにレムに目配せして合図を送るの」

美希「合図?」

春香「そう。何でもいいんだけど、私の場合は、右目を二回ウィンクした時は『カメラを探して』、四回ウィンクした時は『カメラを探して、もしあった場合はそのまま壊して』、っていう風に決めてるよ」

美希「へー。そんなことしてたんだ」

春香「うん。美希の部屋にカメラが付けられたって聞いてから……大体、週に一回くらいはやってもらってるかな。このやり方なら、もし本当にカメラがあったとしても問題無く対処できるからね」

美希「死神はカメラに映らないもんね」

春香「そう。それに死神は自分の意思で自由に人間界の物体に干渉できるから、壊そうと思えばすぐに壊せる」

美希「あー。確かにリュークも普通にリンゴ食べてるもんね」

リューク「まあな。……しかし、そこまで人間に尽くす死神がいるとは驚きだな。レム、お前ちょっとハルカに入れ込み過ぎなんじゃないのか?」

レム「……別に、私がしたいからそうしているだけだ。元々、私がハルカにノートを与えたのはジェラスの遺志を汲んだからであって、そのジェラスがファンだったハルカを守るのは私の意地のようなものだ」

リューク「その価値観が俺にはさっぱり理解できないがな……まあ別に好きにすればいいとは思うが」

春香「……で、今言ったように、実際に私の部屋にカメラを付けられたりはしていないということからも……やっぱり、私が765プロの他の皆や当時の美希のクラスメイトの人達よりも強く、ましてや美希と同程度にまで……Lからキラとして疑われているとは思えないんだ」

美希「…………」

春香「そうであるとすれば、『美希と協力して裁きをしている可能性のある者』として疑いが掛けられているのは、私を含めた765プロ関係者全員と、当時の美希のクラスメイト全員……全部合わせれば50人以上にはなるはず。そして疑いの度合が全員同程度である以上、この人数の中で、Lが私に関する情報だけをあそこまで詳細に調べているとはとても思えない」

春香「たとえば、私がデビューして間も無い頃に商店街のCDショップの前でCDの手売りをしていたこととか……ね」

美希「だから……それを知っている竜崎……さんは、ただの熱烈な春香のファンで……Lじゃないってこと?」

春香「うん。まあ、Lが個人的に私のファンだった……っていう可能性も考慮するなら、まだ一応、彼がLだという可能性も残るけどね」

美希「…………」

春香「ご、ごめん。冗談にしてはつまらなかったね……」

美希「ううん。そうじゃないの」

春香「え?」

美希「ただ……」

春香「?」

美希「いや……そうだね。確かに本名が“ L Lawliet”っていうのは気になるけど……でもそれだけで彼がLだって決めつけるのは無理があるよね」

春香「でしょ? それに、普通に考えて本名の一部の“L”をそのまま通名にするとはちょっと思えないし……もし本当に彼がLなら、竜崎“ルエ”なんてあからさまな偽名を使うとも思えない。……キラとして一番疑っているはずの、美希の前で」

美希「? “ルエ”……あっ、“エル”ってことか。単純過ぎて逆に気付かなかったの」

春香「うん。私も先に“ L Lawliet”っていう本名の方を見てなかったら気付かなかったかも」

美希「まあ確かに……彼がもし本当にLなら、わざわざミキにこんなヒントを与えるような偽名は使わないような気がするの」

春香「うん。それにそもそも本名の一部が“L”なんだから、ゲーム内でのアカウント名が“ルエ”でも別におかしくないしね」

美希「そうだね」

春香「あとは、さっき美希も言っていたように、お父さんがLと一緒にキラ事件の捜査をしている、ライトさんとのつながりだけど……」

美希「うん」

春香「でもそれも、彼がLであるとする確たる証拠になるわけじゃない。……ライトさんとつながっているからといって、ライトさんのお父さんとも当然につながっているということにはならないわけだし」

美希「それはまあ……その通りなの」

春香「そう。だから彼はLじゃない……いや、Lであるはずがない……」

美希「…………」

春香「それに……今はLよりもアリーナですよ! アリーナ!」

美希「? 春香?」

春香「だってさ、アリーナライブまでもうあと三か月しかないんだよ? 正直言って、もうここまできたら、Lなんて放っておいても私達はトップアイドルになれそうだし……もうそれでいいんじゃないかなって」

美希「春香」

春香「私の目標は、あくまでも765プロの皆と一緒にトップアイドルになることであって……Lの正体を突き止めることじゃないからね」

美希「……わかったの。春香」

春香「美希」

美希「ミキ的にも、リーダーの春香にはライブに集中してもらわないと困っちゃうしね」

春香「あはは。そうでしょ? それにアリーナライブは、私達の今後にとっても大事なライブになるだろうしね。……律子さんの受け売りだけど」

美希「そうだね。あと『眠り姫』の撮影もいよいよ大詰めだしね」

春香「うん。きっとこれからもっともっと忙しくなるよ、私達は。Lの相手なんてしてる場合じゃないって」

美希「わかったの。じゃあミキも、裁きはこれまで通りに続けるけど、Lの事はもうあんまり考えないようにするの」

春香「うん。それでいいと思うよ。……で、私は当面の間はお仕事の方に集中かな。……あっ」

美希「? 春香?」

春香「……受験勉強もやらなきゃいけないの、忘れてた……はぁ」

美希「あはっ。春香ったら一気にテンション下がってるの」

春香「だってぇ……。はぁ、まあ愚痴っても仕方ないか。頑張るしかないよね。お仕事も、受験勉強も」

美希「うん。頑張ろうなの。春香」

春香「そうだね。じゃあ美希。また明日ね」

美希「はいなの。また明日。春香」

(美希と別れた春香)

春香「…………」

レム「いいのか? ハルカ」

春香「? 何が?」

レム「Lの事だよ。本当にこのまま無視を決め込むのか?」

春香「……まさか」

レム「! ……じゃあお前、本当はあの竜崎って男を……?」

春香「ううん。彼の事は本当に疑ってないよ。そういう意味では、さっき美希に話したのは私の本心。あそこまで私の事を事細かに知っているような人が……Lであるはずがない」

レム「…………」

春香「確かに、彼の本名の事や、ライトさんとのつながりのことが多少引っかかるのは事実だけど……でも、それも大した問題じゃない」

レム「? どういうことだ?」

春香「竜崎さんはLじゃなくても……本物のLは今も必ずどこかにいる」

レム「…………」

春香「つまり本物のLの正体を突き止めさえずれば……竜崎さんがLではないということが証明される。それで何の問題も無い。そうでしょ? レム」

レム「まあ……それはそうだな」

春香「それにさっきも言ったけど、Lは今も、美希をキラだと疑っているに違いない。Lは美希の部屋に64個もの監視カメラを取り付けたほどの者……今度こそ、どんな手段を取ってくるか分からない」

春香「だから……美希の為にも、私は早く本物のLを見つけ出さなければならない」

レム「…………」

春香「そして本物のLを見つけることができた暁には……必ず、殺す」

レム「!」

春香「そうすれば、美希に対する危険は完全に除去できる。美希を守ることができる」

春香「もう美希にあんな怖い思いはさせない……絶対に」

レム「……なら、少なくともミキには、お前がそう思っているということは言っておいてやった方が良いんじゃないか?」

春香「ううん。それは言えないよ」

レム「? 何故だ?」

春香「美希は優しい子だから……私がまだLの正体に拘っていると知れば、きっと心配する。私がまた何か危険な事をするんじゃないかって」

レム「…………」

春香「でも私はこれ以上、美希に余計な心配は掛けたくないの。美希には、余計な事は考えず、自分の理想とする世界をつくることに専念してほしいから」

レム「ミキの理想とする世界……犯罪者のいない、心優しい人間だけの世界……ってやつか」

春香「うん」

レム「……まるで夢物語だな」

春香「そう。まるで夢……。でも美希は、本気でそれができると信じ、その信念の下……今もデスノートを使い続けている。なら私にできることは、その美希の夢、理想が叶うよう……できる限り協力してあげること」

春香「だからそれを邪魔しようとする者がいるのなら……私が美希に代わってでも、その者を排除してあげないといけない」

レム「……それが、お前がLを消したいと思う本当の理由なのか? ハルカ」

春香「うん。もちろん、それが『765プロの皆と一緒にトップアイドルになる』っていう私の使命ともつながっているから、っていう理由もあるけどね。美希のいない765プロなんて考えられないし」

レム「……分かった。お前がそうしたいと思うなら、そうすればいい。私は私で、これまで通り、お前の応援を続けるだけだ。ハルカ」

春香「レム」

レム「あの竜崎という男が言っていたのと同じように……私も、ハルカのファンだからね」

春香「……ありがとう。レム」

春香「…………」

春香(そう。私のやることは何も変わらない)

春香(今後、夜神月に対する好意を装い、自然な形でより距離を縮めてゆき――……)

春香(ゆくゆくは、彼の父親である夜神総一郎を通じて……必ずLの正体を掴んでみせる)

春香(―――美希を、守るために)

【同日夜・美希の自室】


美希「……ねぇ。リュークはどう思う?」

リューク「ん? 何がだ?」

美希「……あの竜崎って人が、Lなのかどうか」

リューク「さあ? そんなの俺が知るわけないだろ」

美希「そんな身もフタも無い言い方しないでほしいの」

リューク「じゃあお前はどう思うんだ? ミキ。ハルカと同じように、お前もあの竜崎って奴の言うことを信じてるのか?」

美希「……正直言うと、春香ほどには信じられないの」

リューク「ほう」

美希「確かに春香の言うことは、一応筋は通ってると思うけど……お父さんがLと一緒にキラ事件の捜査をしているっていう、あの夜神月って人の友達で……それで本名が“ L Lawliet”だなんて……正直、偶然にしてはできすぎって思うな」

リューク「それはまあ……そうだな」

美希「それに偽名の方の“竜崎ルエ”だって……確かに、春香の言うように『本物のLなら、キラとして疑っているミキの前でこんな偽名を使うはずがない』とはいえると思うけど……でも逆に、『だからこそこの偽名にした』ともいえると思うの」

リューク「なるほどな。そう読まれることを承知で、あえてその裏をかいたっていう可能性か」

美希「うん。で、そうやって考えていったら、結局どっちとも取れるわけで……裏の裏のそのまた裏、とか読んでいったらキリがないの。それならむしろ、こうやってミキを混乱させることが狙いで名乗った名前……って考えた方がすっきりするくらいなの」

リューク「まあLなら、それくらいしてきてもおかしくないかもな。……以前、この部屋に異常な数のカメラを付けてきたことからしても、常識では考えられないようなことをしてくる奴だしな」

美希「でしょ?」

リューク「……だが、そう考えるとやっぱり変だな」

美希「えっ?」

リューク「ミキでさえここまで疑ってるっていうのに……なんでハルカは、あんなに安易に竜崎って奴の言うことを信じたんだ?」

美希「……ミキでさえって言うのはひどいって思うな」

リューク「いや、だって今までも……ハルカはお前よりずっと用心深く行動していただろう? アイドル関係者殺しの時もわざわざ心臓麻痺以外で殺していたし……黒井って奴に脅迫する時も、絶対に自分に足がつかないように相当工夫していた」

美希「…………」

リューク「それに今日話していた、自分の部屋にカメラが付けられていないかの確認の仕方にしたってそうだ。ハルカはとにかく、少しでも自分が怪しまれることがないように、常に細心の注意を払って行動していたはずだ」

美希「それはまあ……うん。その通りなの」

リューク「そこまで用心深かったハルカが、あの竜崎って奴の事は全然疑おうとしない……誰だっておかしいと思うだろ」

美希「それは……」

リューク「それは?」

美希「……春香が、誰よりもアイドルだからだよ」

リューク「? どういうことだ? ミキ」

美希「春香は誰よりもアイドルだから……いつだって、何よりもファンの事を大切に思ってるの」

美希「アイドルは、ファンあってこそのアイドルだから」

リューク「つまり、あいつが自分のファンだって言ったから……だから無条件に信じるってことか?」

美希「うん」

リューク「いや、でも流石にそれはおかしいだろ。そのファンってこと自体が嘘かもしれないんだから」

美希「……そうだね。だから多分、これは春香の願望でもあるんだって思うの」

リューク「願望?」

美希「そう。『竜崎さんがLであるはずがない』って、春香は言ってたけど……多分より正確に言うと、『竜崎さんがLであってほしくない』だと思うの」

リューク「『Lであってほしくない』……?」

美希「うん。『ここまで自分の事を知ってくれている人が、実はLだったなんて思いたくない。信じたくない』『今日、彼から聞いた話が全部嘘だったなんて思いたくない』……どこまではっきりと意識してるかは分からないけど、多分こういうことなんじゃないかな。……春香の気持ち的には」

リューク「……なるほど。まあこれも、俺には到底理解しがたい感情だが……。しかし本当によく分かるんだな。ハルカの事」

美希「当然なの。春香は仲間で……何よりも、ミキの大切な友達なんだから」

リューク「ククッ。そうか、そうか」

美希「…………」

美希(でも……もし彼……竜崎……さんが、Lなら……)

美希(春香の言うとおり、何で春香の情報をそこまで詳しく知っていたのか? っていうのは確かに疑問なの)

美希(まさかLが元々春香の大ファンだったとも思えないし……)

美希(いや、でも……)

美希(春香の言うように、『Lが春香だけを765プロの他の皆やミキの当時のクラスメイトよりも特に強く疑っているはずがない』……そういう前提で考えれば、確かに『Lが春香の情報だけを詳しく知っているはずがない』っていえるのかもしれないけど……)

美希(……もし、そのそもそもの前提が間違っていたとしたら?)

美希(春香だけを、765プロの他の皆やミキの当時のクラスメイトよりも、特に強く疑うだけの理由があるとしたら……?)

美希(もしそうだとしたら、Lが、春香についてだけ……極端に細かい情報まで調べたりしていてもおかしくはない……。それこそ、デビューして間も無い頃に、商店街のCDショップの前でCDの手売りをしていたこと、みたいな……)

美希(でも……それだけの理由って、何かあるのかな? 春香だけが特に強く疑われるような、理由……)

美希(たとえば、そう……他の人には無くて、春香にだけあるような……何か特別な事情)

美希(……そんなの、一つしかない)

美希(デスノートを持っている事)

美希(でもそれがばれているはずはない……というか、それがばれていたらとっくに捕まっているはずだし……)

美希(でも何かあるとしたらそれしか……)

美希(逆に、春香が他の皆と同じ条件だったのはデスノートを拾う前まで……拾ってからは……)

美希(……ん?)

美希(デスノートを……拾った……?)

美希(春香がデスノートを拾ったのは……去年のファーストライブの日……逆上したファンの人に殺されそうになって……)

美希(それを見ていたジェラスって死神が……そのファンの人を……)

美希「――――!」

美希「リューク!」

リューク「うおっ。何だ? いきなり」

美希「春香を……春香を助けて死んだ、ジェラスって死神のことなんだけど……」

リューク「ああ。そいつがどうかしたのか?」

美希「そのジェラスって……春香を助けたとき、どうやって相手の人を殺したのかな?」

リューク「? どうって、そりゃデスノートに名前を書いて……」

美希「じゃなくて! 死因!」

リューク「死因?」

美希「うん。やっぱり心臓麻痺? それとも別の……」

リューク「ああ……そりゃ、普通に考えて心臓麻痺だろ。レムから聞いた話だと、ハルカはそいつに殺される寸前だったってことだから……そんな状況で下手に死因なんて書いたら、そこから少なくとも6分40秒は待つはめになる。その間にハルカが殺されたら元も子も無いからな」

美希「……うん。やっぱりそうだよね」

リューク「? それがどうかしたのか?」

美希「……レムから聞いた話によると、その人は春香のすぐ後を追う形で、春香の家の最寄駅で降りた」

美希「その直後、春香に声を掛け……プロポーズをしたけどあえなく断られた。そして逆上して春香を殺そうとしたところで……ジェラスに名前を書かれ、心臓麻痺で死んだ」

リューク「ああ。確かにそう言っていたな」

美希「……リューク。そもそも何で、Lはミキをキラだと疑ってるんだと思う?」

リューク「? そりゃお前……今日自分でも言ってたように、事務所の前のプロデューサーとミキのクラスメイトの奴が心臓麻痺で死んだからだろ」

美希「そう。『心臓麻痺』。その死因で死んだ人が身近に二人もいたから……ミキはLに疑われたの」

美希「そして……例の春香のファンの人も、『春香の家の近くで』心臓麻痺で死んでいる……」

リューク「…………」

美希「もしLが、ミキの部屋に監視カメラを仕掛けた結果、『ミキの他にもキラの能力を持つ者がいるかもしれない』と思ったのなら……」

美希「そしてそれが、ミキと協力ができるような、ミキの身近にいる誰かだと思ったのなら……」

美希「とりあえず、ミキの身近な人の周りで、『心臓麻痺』で死んだ人がいなかったかどうか……過去に遡って調べていくんじゃないかな」

リューク「! ……そういうことか」

美希「そういうことなの。例の春香のファンの人が、『春香の家の近くで』ジェラスによって『心臓麻痺』で殺されたのは、キラ事件の開始から三か月前くらいのこと……すぐに見つかってもおかしくない」

美希「その人が春香のファンだったことは調べればすぐに分かるだろうし、また当日も春香のすぐ後を追っていたのなら、駅の防犯カメラなんかには春香とほとんど同時に映っているはず……だとすれば、『この人は死ぬ直前に春香と接触していた可能性が高い』……こう推理するのが一番自然……」

美希「そしてその推理を前提にすれば、『死ぬ直前に春香と接触していた可能性が高い人』が『心臓麻痺』で死んだことになるから……」

リューク「ハルカの周囲で心臓麻痺で死亡した人間がいたということになり……ハルカが、ミキと協力して裁きをしている可能性のある者として、他の奴らより特に強く疑われるだけの理由があることになる……ってわけか」

美希「うん。……まあ実際にはこのファンの人はジェラスが殺したわけだから、春香にとっては完全に濡れ衣なんだけど……」

リューク「なるほどな。しかしそう考えると、ハルカもミキと同じくらいのレベルでLから疑われている可能性があるってことになるな」

美希「うん。そしてもしそうなら、Lが春香についての情報を特に詳しく調べていてもおかしくない」

美希「……たとえば、デビューして間も無い頃に商店街のCDショップの前でCDの手売りをしていたこと……とかね」

リューク「ククッ。じゃあやっぱりそこまでの情報を持っていた……あの竜崎がLってことか?」

美希「流石にまだそこまでの断定はできないけど……」

リューク「で、早くハルカに教えてやらないのか? ミキ。Lがハルカをミキと同じくらいのレベルで疑っている可能性がある、って。そしてそのLはやっぱりあの竜崎って男かもしれない、って」

美希「……うん。春香には言わないでおくの」

リューク「? 何でだ?」

美希「さっきも言ったけど、春香はアイドルとして……竜崎……さんが、自分のファンであってほしいと願ってる。Lなんかであってほしくないって願ってるの」

リューク「…………」

美希「でも多分、春香もきっと、心のどこかでは……『でも、もしかしたら』って思ってるの」

美希「そんな中で、ミキが今のようなことを話したら、その『もしかしたら』の部分がもっと大きくなる。そしたら春香はきっと、それを否定できるだけの理由を早く見つけようとする」

美希「そして春香にとって、『本物のLが別にいる』ことさえ分かれば、それはイコール竜崎……さんが、Lでないことの証明につながる」

美希「だからそうなった場合、きっと春香は、Lの正体につながる可能性のある、あの夜神月って人に必要以上に近付いて……少しでも早く、Lの正体を突き止めようとすると思うの。今だって、Lの正体を探るために、夜神月に恋心を抱きつつあるような演技をしてるって言ってたし」

リューク「ああ、そういえば言ってたな。まあ『あくまでもそういうチャンスがあったら』という程度の言い方ではあったが」

美希「今は本当にそうだとしても……もしミキが今の話を伝えたら、春香は絶対、もっと強硬な手段に出る。それはつまり、それだけ春香が危険な目に遭う可能性が高くなるってこと……。だから、ミキの方から、今の話を春香に伝えるようなことはしない……いや、したくないの」

リューク「……なるほどな」

美希「でも、あの竜崎が本当にLなら……そして春香の情報を徹底的に調べ上げるほどにまで、もう春香の事を疑っているんだとしたら……今、ミキが春香に何も言わなかったとしても……いずれ、春香が本当に危険な状況に追い込まれてしまう可能性が高い」

リューク「…………」

美希「――そんなの、絶対に嫌なの」

リューク「!」

リューク(ミキの目の色が……変わった)

美希「思えば、ミキは今まで……ずっと春香に助けられてきたの」

リューク「…………」

美希「事務所に二人組の刑事さん……そのうちの一人は夜神月のお父さんだったけど……が来て、クラスメイトのAが心臓麻痺で死んだことを言わざるを得なくなって」

美希「それで、身近な人間が二人も心臓麻痺で死んだのがミキだけになって……もうキラ容疑者はミキだけに絞られるって思って……」

美希「もうどうしようもないくらい精神的に追い詰められてた時に……春香がミキを救ってくれた」

美希「それまでのこと、全部教えてくれて……ミキを守ってくれたの」

美希「それからずっと……ミキは春香に甘えっぱなしだった」

美希「黒井社長への脅迫とかも、全部春香に任せきりで……Lの正体を探ることについて、ミキはこれまで積極的に何かをしようとはしてこなかったの」

リューク「…………」

美希「でも、もうこのままじゃダメなんだって思うの」

美希「春香がミキと同じくらいLから疑われている可能性がある以上……そしてLがあの竜崎である可能性がある以上……」

美希「ミキが春香を守ってあげないとけないの」

リューク「……じゃあ殺すのか? あの竜崎を」

美希「殺さないよ」

リューク「あれっ」

美希「今は……ね」

リューク「? 今は?」

美希「いくら怪しいって言っても……まだあの竜崎がLって決まったわけじゃないから」

リューク「なるほどな。じゃあもし本当に奴がLだと確定したら、その時は……」

美希「それでも……まだ今の段階で殺すつもりはないの。たとえあの竜崎がLでも、彼は犯罪者ってわけじゃないからね」

リューク「…………。(女子中学生の部屋を盗撮するのは犯罪のような気がするが)」

美希「何か言った? リューク」

リューク「いや、なんでも」

美希「? ……でも……」

リューク「でも?」

美希「もし彼が、本気で春香を疑い、捕まえようとしたなら、その時は……」

リューク「! …………」

美希「まあでも、それは彼がLかどうかを確かめてからの話なの」

リューク「……なるほどな。ククッ」

美希「…………」

リューク「…………」

リューク(これまでLに対してはずっと受け身のスタンスだったミキが、遂に自らの意思で動き出した)

リューク(思えば、俺がデスノートを765プロのどのアイドルに渡すべきかで迷っていたとき……決め手になったのは、ミキが天才アイドルと呼ばれている所以たる性質そのものだった)

リューク(普段はあまりやる気が無くマイペースだが……一度何かのきっかけでスイッチが入ると、常識では考えられないほどの集中力や人並み外れたパフォーマンスを発揮する)

リューク(俺はミキのこの性質に着目し、デスノートを使わせる人間として選んだわけだが……どうやら、俺の目に狂いは無かったらしい)

リューク(今まさに、仲間であり親友でもあるハルカの危機が、ミキにとってのスイッチとなった)

リューク(ミキが今演じている映画の役になぞらえて言うなら……さしずめ『眠り姫の覚醒』ってところか)

リューク(面白くなってきたぜ。……ククッ)

美希「…………」

美希(もう、ミキがやるしかない)

美希(たとえどんな手を使ってでも、あの竜崎がLなのかどうか……この目で確かめてみせる)

美希(―――春香を、守るために)













【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「! …………」

月「? どうした? 竜崎」

L「月くん。これはいわゆる『モテ期』というやつでしょうか?」

月「? いきなり何を言ってるんだ?」

L「……今を時めくアイドルから、デートに誘われました」

月「! まさか、天海春香か!?」

L「いえ」

月「! じゃあ……」

L「はい。―――ミキミキこと、星井美希からです」

一旦ここまでなの


(次の更新は三週間後くらいになる予定です)

【一週間後・都内某スイーツ店】


(店内の一角のテーブルで向かい合って座っているLと美希。Lは特大のチョコパフェを、美希はいちごババロアを食べている)

美希「竜崎……さんって、意外と甘いもの好きなんだね」ムシャムシャ

L「ええ、まあ。意外ですか?」パクッ

美希「うん。ぱっと見、全然そういうイメージ無かったから。……あ、でもそういえば、前の喫茶店の時もコーヒーに砂糖たくさん入れてたね」

L「……よく見ていますね」

美希「まあね。で、竜崎……さんは……」

L「……“さん”付けが苦手のようでしたら、“竜崎”と呼び捨てにして頂いて構いませんよ? どのみち本当の名前じゃありませんし」

美希「そう? じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらうの。で、竜崎は……」

L「はい」

美希「ミキのコト、どう思ってるの?」

L「えっ」

美希「だって前の時、春香のことはすごく熱く語ってたのに、春香と同じ事務所でアイドルやってるミキのことは完全スルーだったの。正直ちょっとひどいって思うな」

L「……はあ」

美希「あ。別に春香のファンってことに怒ってるわけじゃないんだよ? ただミキのことはどう思ってるのかなって、それがちょっと聞きたかったの」

L「それが今回、星井さんが私をデートに誘った理由ですか?」

美希「そうだよ。あ、ミキのことはミキでいいよ」

L「分かりました。では美希さんとお呼びします」

美希「別に呼び捨てでいいけど」

L「私はこちらの方が呼びやすいですので」

美希「わかったの。で、どう思ってるの? ミキのこと。あ、もちろんアイドルとしてって意味でね」

L「それは……今後のアイドル活動の参考にしたいとか、そういった理由からですか?」

美希「そうだね。ミキのファンの人はミキのことを認めてくれて、応援してくれているけど……他のアイドルのファンの人からミキがどう見られてるのかって、今まであんまり意識したこと無かったし、そもそもそういう人と知り合う機会も無かったから。一度、そういう人の声も聞いてみたいって思ったの」

L「なるほど。そういうことでしたらいくらでもお話ししますが」

美希「ホント? じゃあキタンの無い意見を聞かせてほしいの」

L「分かりました。では……」

L「…………」

L(星井美希……こいつはいまいち何を考えているのか読みづらい)

L(そもそも何故いきなり私と一対一で会おうなどと言い出したのか)

L(まさかこの前のやりとりだけで、私が“L”であると勘付いたはずもないだろうが……)

L(…………)

【一週間前(東応大学の学祭があった日)・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(喫茶店での美希、春香、海砂、清美との会合を終え、捜査本部に戻ってきたLと月)

 ガチャッ

L「ただいま戻りました」

月「戻りました」

総一郎「ああ、お疲れ。竜崎……って、ライトも一緒なのか? お前、今日はそのまま家に帰るはずじゃ……?」

月「……ああ。ちょっと事情が変わってね。父さん、模木さん、松田さん。今から少しいいですか?」

総一郎「? 何だ?」

模木「……?」

松田「何かあったのかい? 月くん」

月「ええ。実は――……」

L「…………」

(海砂のライブイベント以降の出来事を三人に説明する月)

総一郎「……天海春香と星井美希の二人と接触……」

L「はい。完全に想定外でしたが」

松田「うわあ、いいなあ。はるるんにミキミキにやよいちゃん……一気に765プロのアイドル三人と知り合いになった上に、ミサミサとまで」

L「……松田さんは弥海砂を知っているんですか?」

松田「ええ、もちろん。まだデビューして間も無い子ですが、僕の中ではイチオシのアイドルですよ。ヨシダプロでは一番の成長株ですね」

L「なるほど。ですが松田さん。今日はツッコミ役の相沢さんが不在なので無用なボケは控えて下さい」

松田「はい……」

月「ともあれ、竜崎の迫真の演技によって最悪の状況は回避することができたが……まだ油断できない状況であることに変わりは無い。だから今後の対策を練るため、急遽ここに戻って来たんだ」

総一郎「なるほど……。しかしまさか、そんなことになっていたとは……」

松田「それにしても、よくそこまで咄嗟に話を作れましたね。竜崎」

L「はい。ここ最近、765プロダクション所属アイドルの情報……特にキラ容疑者の最有力候補である天海春香と星井美希の二名については、デビューして間も無い頃の活動も含め、関係するあらゆる情報を徹底的に洗っていたのが役立ちました」

松田「でも竜崎……竜崎“ルエ”っていう、あえて“L”を匂わせる名前をミキミキやはるるんの前で名乗ったのは何故です?」

L「嘘をつくときの常套手段です。全てを嘘で固めてしまうより、ある程度真実性を織り交ぜた方が怪しまれないし説得力も増す……またおそらく天海春香は、自分がそこまで“L”に疑われているとは思っていないと考えられますが、星井美希は十中八九それに気付いている」

松田「? ミキミキが? そんな話ありましたっけ?」

総一郎「私と模木がキラ事件の捜査として765プロの事務所に聞き取り調査に行った際に、クラスメイトの件を話さざるを得なくなったからだな。それで自分がキラ容疑者として最も疑われるようになったと……」

L「はい。またその前提として、星井美希が父親である星井係長から『警察は“L”と一緒にキラ事件の捜査をしている』という情報を聞いていたとしたら……あの時事務所に来た『朝日四十郎』と『模地幹市』という二名の刑事は“L”と一緒にキラ事件の捜査をしており、“L”の指示で事務所に来た……そう考えるのが自然です」

L「とすれば、自分が二名の刑事に話したクラスメイトの件はすぐに“L”にも伝わり……その結果、“L”は自分をキラではないかと疑うようになる……星井美希の立場に立って考えれば、当然このように推測するでしょう」

L「…………」

L(さらに、これに加えて監視カメラの件……星井美希が何らかの方法によりカメラの設置に気付き……いや、気付いていなくとも、その可能性を疑い、夜神局長らの聞き取り調査があった日からしばらくの間は、裁きを天海春香に代行させていたという可能性……)

L(このことも、星井美希が今述べた推測をしていた可能性を補強しうるものといえる……。といっても、カメラ設置の事実については、この場でそれを知っているのは私と夜神局長だけ……。今ここで皆に説明するわけにはいかないが……)

L(ただ、今後捜査を進めていく上でも夜神月にだけは伝えておく必要がある……後で適当なタイミングで伝えるとしよう)チラッ

月「? どうした? 竜崎」

L「いえ、なんでもありません。ともあれ、“L”が自分をキラではないかと疑っている……そのような状況で、“L”が“ルエ”などというあからさまな偽名を用いて、キラとして疑っている自分の前に姿を現すはずがない……」

L「星井美希がキラならおそらくそう考える。……そういう理由もあって、私は二人に対して“竜崎ルエ”と名乗ったんです」

松田「なるほど……」

ちょっと中断するの。あふぅ。

L「仮に、もう少し違う条件……たとえば『キラが殺しを行うには顔と名前の両方が必要』という当初の前提のままなら、そもそもの接触方法として、キラ容疑者である星井美希と天海春香の両名に対し、正面から堂々と『私がLです』と名乗り出て、その反応を観察する……という方法もあったんですけどね。流石に『キラは顔だけで殺せる可能性がある』ということまで推測できている現段階において、それをするのはリスクとして高過ぎるため、実行に移すことはできませんでした」

月「だが現実には、偶然の連続とはいえ、結果として竜崎の顔を星井美希と天海春香の二人に見られてしまった。そして星井美希はどうか分からないが、少なくとも天海春香は、これまでの捜査の結果から『顔を見ただけで人を殺せる能力』を持っている可能性が高い」

L「はい。それはつまり、私がいつ殺されてもおかしくない状況になったということを意味します」

一同「…………」

L「しかし『顔を知られている』というだけなら、夜神さんと模木さんは『“L”と共にキラ事件の捜査をしている刑事』である『朝日四十郎』および『模地幹市』として、既に顔を知られているわけですから……星井美希・天海春香からすれば、むしろこちらの方を先に標的とする可能性が高いとも考えられます」

総一郎・模木「…………」

L「また月くんも『父親が現職の警察官』であることは既に知られていますし、月くんの年齢から逆算すれば、その父親は警察庁でもそれなりの地位と役職に就いている人間であろうことは十分想像できます。さらに月くん自身の優秀さをも勘案すれば、その推定は一層強く働くでしょう」

松田「確かに……月くんのスペックからすれば、そのお父さんも相当すごい人なんだろうなって誰でも思うでしょうしね」

月「…………」

L「そして星井美希および天海春香が『警察は“L”と一緒にキラ事件の捜査をしている』という情報を得ているとの前提に立てば、今述べた推定から、『夜神月の父親が“L”に関する情報を持っている可能性がある』と推測してもおかしくはないですし……さらにその息子で警察志望である月くんにも、父親からその情報が伝えられている可能性がある……そこまで読んでいる可能性も十分考えられます」

月「そうだな。僕も“L”につながりうる者……そう思っているからこそ、天海春香も僕に対して好意的に振る舞っている。そう考えるべきだろう」

総一郎「……では、今ここに居る者の中では……」

松田「最悪の場合でも、僕だけは殺されずにすみそうっすね」

一同「…………」

L「松田さん。今日は無用なボケは控えて下さいと言ったはずです」

松田「はい……」

総一郎「となると現状、既に顔を知られている者の中で……一番殺される危険性が低いのは竜崎では? 設定上、ただのライトの友人というだけだからな」

松田「そうですね。捏造した話にも不自然な点は無いですし……何より、実際にあったはるるんのアイドル活動の話を入れたのは大きいっすよ。それも、本当のファンじゃないと知りえないような、デビューして間も無い頃の話ですからね」

総一郎「うむ。それで一気に話の信憑性が増したといえるな」

松田「それに元引きこもりっていう設定も、竜崎の外見なら不自然じゃないですしね」

L「…………」

松田「あ、でも竜崎。なんでミキミキじゃなくてはるるんのファンってことにしたんすか? 単なる好みとか?」

L「単純に、彼女の方がアイドルらしいからです」

松田「アイドルらしい?」

L「はい。星井美希がそうでないとは言いませんが……天海春香のアイドルに懸ける情熱、想いはある種独特……半ば狂気じみてさえいます」

松田「まあ……自分の事務所を守るために他の事務所の関係者を殺しちゃうくらいですもんね。いや、もちろんまだ100%そうって決まったわけじゃないっすけど……」

L「はい。そしてそれは、彼女のアイデンティティがアイドルという存在そのものと強く結びついていることを意味します。そしてそうであるならば、自分のファン……とりわけデビュー当初からの熱烈なファンなどは、彼女にとって最も尊重すべき存在となるはず……」

総一郎「だから、竜崎がそのようなファンを演じている限りは殺されない……ということか?」

L「はい。より厳密に言うと『殺す対象になりえない』でしょうか。もちろん絶対の保証などはありませんが……正直言って、私の顔を二人に見られてしまったあの状況から事態を好転させるには、これしか手がありませんでした。事前に何の打ち合わせもしていなかったので、月くんを驚かせてしまったかもしれませんが……」

月「いや、僕もあの場面ではそれ以外の手は無いと思っていたところだよ。竜崎」

月「それに、殺されるリスクが完全にゼロになったわけではないが、少なくともこれで、天海春香のみならず星井美希とも、直接接触して探りを入れられるようになった。また結果的に、竜崎が接点を持ちたがっていた弥海砂とのつながりもできた」

L「そうですね。二人に対する接触自体は我々も直接できるようになりましたが……現時点で唯一、星井美希と天海春香の二人がキラであることの物的証拠となる可能性のある『黒いノート』……いざ実際にこれを押さえるという段になれば、やはり弥海砂に協力を要請することは必要不可欠です」

月「ああ。キラ信者とまでいえるレベルのキラ肯定派であり、かつ星井美希の友人でもある……そんな彼女の協力を取り付けない手は無い。といっても、『黒いノート』を押さえるための具体的な方法については別途考えないといけないが」

L「はい。まさかキラ信者の彼女に『キラを捕まえたいから協力してくれ』などとは口が裂けても言えませんので……捜査であることを伝えず、悟られず、なおかつ星井美希と天海春香の両名からも絶対に怪しまれることなく、目的の『黒いノート』を押さえる……そんな方法を考えなければなりません」

松田「あ、あるんすかね? そんな方法……」

L「正直、現時点ではまだ何も思いついていません。が、今はとにかく弥海砂を協力者とすることです。ノートの具体的な押さえ方はそれから考えましょう」

月「そうだな。まずは弥海砂の協力を得られるような状況を作らなければ始まらない」

L「ということでよろしくお願いします。月くん。当初の計画通り、弥海砂と親密な関係になって下さい」

月「……竜崎。お前も既に彼女と接点があるんだから、別に当初の計画にこだわらず、お前が自分で彼女と親密になってもいいんじゃないか?」

L「いえ。女性を味方につけるのであれば私よりも月くんの方が圧倒的に適任です。それについては皆さん異論無いはずです」

松田「それはまあ……そうっすね」

月「…………」

総一郎「いや、待て。竜崎。ライトをこの捜査本部に加える条件として『天海春香の家庭教師の件以外にライトに危害が及びかねないような捜査は頼まない』としていたはずだ」

L「あ、はい」

総一郎「弥海砂はキラでなくとも、キラ信者……そうであれば、万が一、ライトがキラ事件の捜査をしていることに気付かれたら、どんな行動に出られるか分からない」

L「そうですね。既に月くんにもお話しした内容ですが……たとえば、ネットに月くんの顔写真を『キラを捕まえようとする者』としてアップし、キラに裁いてもらおうとするとか……十分ありえますね」

総一郎「! …………」

L「また、アイドル事務所関係者を殺した方のキラ……つまり天海春香は、犯罪者でなくとも、自分の邪魔になる者は殺すとみてまず間違いありません」

L「自分の事務所を陥れようとしていた他の事務所の関係者を軒並み殺しているくらいですから、自分を捕まえようとする者にも容赦はしないでしょう」

総一郎「…………」

L「ただ現状、警察官として顔を知られている夜神さんと模木さんが殺されていないのは、単にまだ星井美希・天海春香の二人がそこまでの脅威を警察および“L”に感じていないから、というのもあるでしょうが……一番大きな理由は、今殺してしまうと足がつくことは避けられない、と考えているからでしょう」
  
L「夜神さん達が警察官として顔を出して聞き取り調査を行ったのは、765プロダクションの関係者と星井美希の当時のクラスメイトだけですから」

L「しかしネットに『キラを捕まえようとする者』として顔が晒された者であれば話は別です。その時点で晒された者の顔は万人に周知の情報となるわけですから、殺したところでそこから足はつきません。キラ……こちらは今犯罪者裁きをしている方、つまり星井美希ですが……彼女がこれまで行ってきた犯罪者裁きと同じです」

L「つまり月くんにはそれだけのリスクを負ってもらうことになります。ただもちろん私は、月くんならそのリスクが現実化するような事態にはなりえないと確信していますし、またそうであるからこそ、『弥海砂との接触』という重要な役割を月くんに担ってもらいたいと考えているわけです」

総一郎「いやだが竜崎……それだけでは何の保証にも……」

月「父さん」

総一郎「ライト」

月「今のこの状況……竜崎までキラ側に顔を知られてしまった以上、捜査を長期間に及ぼすのは危険だ」

総一郎「…………」

月「確かに竜崎の言うように、今は足がつくことを恐れ、父さんや模木さんを殺していないのだとしても……現実的に、自分達のすぐそばにまで捜査の手が迫っているということを知れば、たとえそれによってより疑いが強まることになるとしても……自分達を追う者は躊躇せずに殺すだろう」

月「キラにとっては、捕まればその瞬間に自分の死が確定するからだ」

総一郎「うむ……」

月「そうであれば、キラ……星井美希と天海春香が、自分達のすぐそばにまで捜査の手が迫っているということに気付かないうちに……勝負をつける必要がある」

月「そのためには、キラ信者とまでいえるレベルのキラ肯定派であり、さらに星井美希と友人でもある弥海砂の協力を得ることは必要不可欠……すなわち、彼女と一定の信頼関係を築くことが急務」

月「そして僕がその役割を担うことで捜査が進展し、キラ逮捕につながるのなら……僕は全力でその役目を果たしたい」

総一郎「ライト……」

月「頼む。父さん。キラ事件の早期解決……その為には、危険を承知でも僕が動くしかないんだ」

総一郎「……分かった」

月「父さん」

総一郎「ただし、捜査の状況は常に皆に伝えるようにしろ。絶対に、お前一人の判断だけで行動するな」

月「ああ。もちろんだよ。父さん」

L「ご理解いただきありがとうございます。夜神さん」

松田「いいなあ、月くん。はるるんとやよいちゃんの家庭教師に加えて、ミサミサとも親密になる役目だなんて……」

L「松田さん」

松田「はい。すみません」

L「では今後、月くんには家庭教師として天海春香への接触を続けることと並行して、弥海砂とも一定の信頼関係を築いてもらいたいと思います」

L「そして月くんと弥海砂との信頼関係が熟したと判断できれば、弥を協力者とし、星井美希と天海春香のいずれかが所持しているであろう『黒いノート』の現物を押さえる……現時点ではまだそのノートがキラとしての活動に関係するものであるという確証はありませんが、他に物的証拠となりそうなものが無い以上、まずはそこからあたります」

L「その他、今後の捜査の振り分けの詳細は明日、星井さんと相沢さんも来られた時に伝えることにします」

L「特に星井さんとは、私と月くんが星井美希の直接の知り合いとなった以上、綿密に打ち合わせをしておく必要があります。……ワタリ」

ワタリ『はい。何でしょう。竜崎』

L「今日、星井係長が着けている超小型マイクが拾った星井美希との会話の中で、何か不審なものは無かったか? 特に、星井美希が東応大学の学祭から帰宅した後、現在までの間でだ」

ワタリ『今のところ、特に不審な会話はされていません。星井美希から星井さんに対し、『学祭が楽しかった』程度の事は話していましたが』

L「分かった。だが今後、二人の会話にはより一層の注意を払って耳を傾けるようにしてくれ。星井美希が『自分の父親は以前キラ事件の捜査をしていた』という認識を持っている以上、いつ彼女が、“竜崎”と名乗る男に心当たりは無いか、などと星井係長に尋ねないとも限らない」

ワタリ『分かりました』

松田「いや、でも竜崎……現時点で、ミキミキがそのようなことを係長に尋ねる理由は無いのでは? さっき局長も言っていましたが、竜崎は設定上、月くんの友人というだけ……流石にこの段階では『竜崎=“L”』という認識は持ちようがないでしょう」

L「今はそうかもしれませんが……もし星井美希が何かのきっかけで私の正体を疑い始めた場合、警察官を父に持つ月くんとのつながりを考えると、『竜崎は“L”かもしれない』という推測はできなくとも、『竜崎はキラ事件の捜査に関係している者かもしれない』と考える可能性はゼロではありませんから」

松田「ああ、なるほど……」

L「まあでも、もし星井美希がそのような探りを星井さんに入れるようなことがあれば、もうその時点でキラ確定ですけどね……彼女がキラでないのなら、私の正体を確かめるような質問を『以前キラ事件の捜査をしていた』星井さんにする理由は無いですから」

月「確かにな。つまりその場合、星井美希に対する99%以上の疑いが――……」

L「はい。100%になります」

総一郎「…………」

L「……と言いたいところですが、まあ物的証拠が何も無い状況である以上、100%とまでは言い切れませんね。せいぜい99.9%といったところでしょうか」

L「このように、星井さんに対する星井美希からの接触には十分に注意を払っておく必要がありますが……それ以外の場面においても、今後はいつどこでどんな状況に陥っても適切な対処ができるように準備をしておかなければなりません」

L「もし私の正体が二人に疑われるようなことになれば、それは月くんへの不信にもつながりかねませんし……さらに、月くんの父親が警察官であることが知られている以上、既に警察官として顔を知られている夜神さんや模木さんもどうなるか分かりません。最悪の場合、少しでも不審な点がある者、キラ事件の捜査に関係している可能性がある者は全員殺されてしまう可能性すらあります」
 
L「そのような事態を避けるためにも、まずは私の嘘を完全な真実として擬制しておく必要があります。……なのでこれから、私は徹底的に“竜崎ルエ”のキャラクターを作り込みます。あらゆる状況を想定し、どんな方向から突かれても矛盾が出ないようにする」

総一郎「そうだな。今後も定期的に二人と顔を合わせることになるのであれば、対策は早めに打っておくに越したことはない」

L「はい。それでは、今日のところはこのへんで解散としましょう。少し早いですが、明日からまた忙しくなると思いますので、今日は皆さん家に帰って英気を養って下さい」

総一郎「分かった。だがあまり無理はするなよ、竜崎」

L「はい。お気遣いいただきありがとうございます。夜神さん」

松田「あー、僕もアイドルと親密になりたかったなー」

模木「明日からも全員で力を合わせて頑張りましょう」

松田「……模木さんの優しいスルーが心にしみるなあ……」

L「月くん」

月「? なんだ? 竜崎」

L「すみませんが、月くんも少し残って“竜崎ルエ”のキャラクター設定の構想を手伝っていただけませんか? 今後、二人と直接接触していくことになるであろう我々の間で認識の齟齬が出るとまずいですので」

月「ああ、分かった。じゃあ一緒に考えよう」

L「ありがとうございます。ではまず、“竜崎ルエ”の生い立ちからですが――……」

【現在・都内某スイーツ店】


(アイドルとしての美希の魅力について語り続けているL)

L「……他には、そうですね。美希さんは歌唱力も目を見張るものがあります。『歌姫』と称されている如月千早さんに勝るとも劣らない力強く伸びのある歌声……」

L「それでいて、『ふるふるフューチャー』などの可愛らしい楽曲についても、曲にマッチした甘めの歌声で見事に歌い上げている……アイドルとしての天性の才能を感じます」

美希「ふむふむ」

L「……とまあ、大体こんなところでしょうか」

美希「ふ~ん。竜崎って、春香のファンなのにミキのことも結構よく知ってるんだね」

L「別に、美希さんだけというわけではないですよ? 765プロの他のアイドルの方についても同程度には知っているつもりです。他ならぬ、春香さんの同僚にあたる方達ですので」

美希「なるほどね」

L「…………」

美希「ねぇ、竜崎。この後まだ時間ある?」

L「? はい。ありますが、何か?」

美希「もしよかったら、ミキのおうちに来ない?」

L「! ……いや、流石にそれは……まずいです」

美希「? なんで?」

L「いくらなんでも、今を時めく売れっ子アイドルの美希さんの家になんて……いえ、そもそもそれ以前に、家に二人きりというのは……」

美希「ああ、それなら大丈夫なの」

L「?」

美希「今日はおうちに、パパがいるから」

L「! …………」

一旦ここまでなの

【三十分後・美希の自宅】


(Lを連れて帰宅した美希)

 ガチャッ

美希「ただいまなのー」

L「お邪魔します」

美希「さあ、上がってなの」

L「ありがとうございます。……ちなみに今、家におられるのはお父上だけなんですか?」

美希「うん。ママは高校の同窓会だし、お姉ちゃんは友達に会いに行ってるの」

L「そうですか」

星井父「――ああ、お帰り、美希。って……え?」

L「……どうも」

星井父「えっと……美希? こちらさんは……?」

美希「ああ、うん。竜崎っていうの。ミキの友達」

星井父「友……達……?」

美希「うん」

星井父「えっと、美希の友達……といっても……高校生? じゃないです……よね?」

L「あ、はい」

星井父「一体どういう友達……って、まさか」

美希「?」

星井父「……まさか、美希の彼氏ってんじゃ……」

美希「違うよ?」

L「はい。違います」

星井父「じゃ、じゃあ……一体どういう関係のお友達なんだ? 美希……」

美希「まあそのへんはおいおい話すとして……とりあえず中入ろ。はい竜崎、スリッパ」サッ

L「どうも」

星井父「…………」

(リビングに入る三人)

美希「立ち話も何だし、座ってなの」

L「ありがとうございます」

(テーブルの前の椅子に座るL)

星井父「……で、二人は一体どこで知り合いに……?」

美希「…………」

(Lの正面の椅子に星井父、Lの隣の椅子に美希がそれぞれ座る)

L「……私と美希さんは、先週の日曜日、東応大学の学祭で知り合いました」

美希「そうなの」

星井父「学祭で? ……まさか、うちの娘をナンパしたんじゃ……」

美希「違うの」

L「違います」

星井父「…………」

美希「学祭のイベントでミキの友達の海砂ちゃんって子のライブステージがあって、たまたまそこに竜崎が来てたの。それで知り合ったんだ」

星井父「何? じゃあ竜崎……さんも、アイドルなんですか?」

美希「違うの」

L「違います」

星井父「…………」

美希「えっとね、竜崎は友達の東大生の人と一緒に学祭に来てて。で、その友達の人が東大生の中ではちょっとした有名人だったから、そのライブイベントの司会の人からステージに上がるように呼ばれたらしいの」

星井父「ほう」

美希「で、そのとき一緒にいた竜崎もついでにステージに呼ばれて、そのすぐ後にライブ会場に着いたミキも春香達と一緒にステージに呼ばれちゃって……そこで知り合ったってワケ」

星井父「……なるほど。ということは、君も東大生なのか?」

美希「違うよ?」

L「はい。違います」

星井父「…………」

美希「それでライブが終わった後、ステージに上がった皆と、海砂ちゃんと、あとその司会の高田さんって人も一緒にお茶したの」

星井父「じゃあそこで本格的に友達になったってことか?」

美希「そうなの」

L「はい。決して怪しい関係ではありません」

星井父「まあ経緯は分かったが……しかし今日は二人で会っていたのか?」

美希「そうだよ」

星井父「それは……デートってことじゃ……?」

美希「そうだね」

星井父「いや、そうだねってお前……」

L「…………」

美希「っていっても、別にミキと竜崎の間にどうこうなんてないの。そもそも竜崎が好きなのはミキじゃなくて春香だし」

星井父「春香? ……って、天海春香さんか? 美希と同じ事務所の……」

L「はい。その天海春香さんです。といっても、今美希さんが言った『好き』というのは、いわゆる恋愛感情という類のものとは少し違います。私はあくまで、アイドルとしての春香さんのファンですので」

美希「そうなの。それも、春香がデビューしたての頃からの大ファンなの」

L「はい。大ファンです」

星井父「じゃ、じゃあその天海春香さんの大ファンの君が、何故今日はうちの娘と二人で……?」

L「それは……」

美希「ミキが竜崎を誘ったの。『今度の日曜、二人でゆっくりお話ししない?』って」

星井父「じゃ、じゃあ美希……まさかお前の方がこの竜崎……さんを?」

美希「ううん。それも違うの。ミキはただ、春香の大ファンの竜崎が、ミキのことをどう思ってるのか聞いてみたかっただけなの。もちろん、アイドルとしてのミキのことを、って意味でね」

星井父「他のアイドルのファンの人から、自分がどう見られているのか知りたかった……ってことか?」

美希「うん。今までそういう人の意見って聞いたこと無かったし、ちょうどいい機会かなって」

星井父「なるほど……そういうことか」

美希「そうなの。だからやましいことなんて何も無いの」

L「はい。断じて何もありません。どうかご安心下さい。お父さん」

星井父「……分かった。信じるよ。しかし、今日会ったばかりの娘の友人から『お父さん』と呼ばれるのはちょっと……」

L「いけませんか? ではパパさんと」

星井父「……いや、お父さんでいい」

美希「あ、そうだ。まだ言ってなかったけどね」

L「? 何ですか?」

美希「ミキのパパはね、刑事さんなの」

L「! ……そうだったんですか」

星井父「ええ、まあ」

美希「あっ。そういえば、あの人……夜神月さんのお父さんも、刑事って言ってたよね?」

L・星井父「!」

美希「ねぇパパ、夜神さんっていう刑事さん、知ってる?」

星井父「あ、ああ……刑事局長の夜神さんか? もちろん知っているが……」

美希「刑事局長って、確かすっごく偉い人だよね?」

星井父「ああ。警察庁の中で、長官と次長の次に偉い人だ」

美希「へー、やっぱりすごい人のお父さんはすごいんだね」

星井父「美希。お前、もしかして夜神さんの息子さんと知り合いなのか?」

美希「うん。さっき話した、学祭に来てた竜崎の友達の東大生っていうのが、その人なの。名前は夜神月。東大の入試をトップで通過した超天才で、しかも今は春香の家庭教師をしてるんだよ」

星井父「……そうだったのか。なんともまあ、世間は狭いというかなんというか」

美希「ねぇパパ、ちなみにその夜神月さんのお父さんって、すごくイケメンだったりする?」

星井父「え?」

L「…………」

美希「あのね、その夜神月さんって、頭良いだけじゃなくて、そのままアイドルできちゃいそうなくらいのイケメンなの。だからそのお父さんもやっぱりイケメンなのかなって思って。ね、どう?」

星井父「ああ、そういうことか。まあ確かにイケメン……というか男前な感じかな。ダンディというか、精悍な顔つきというか……」

美希「そうなんだ。じゃあやっぱりある程度遺伝してるのかもね」

星井父「……というか、美希」

美希「? 何? パパ」

星井父「お前まさか、もしかしてその夜神さんの息子さんに気があるんじゃ……」

美希「ううん。ミキ、カッコ良すぎるヒトって苦手なの。なんか浮気とかされそーだし」

星井父「そ、そうか。うん。それならいいんだ。それなら……」

美希「もー、パパったらちょっと心配しすぎって思うな」

星井父「いや、そりゃ普通心配するだろ……まだ高校生になったばかりの娘が、そんな次から次へと男の知り合いばかり増やしてたら……」

美希「別にそんなに増やしてないよ? せいぜい竜崎とその夜神月さんくらいだし。しかもミキ、夜神月さんとはまだほとんど話してないしね」

星井父「そうなのか? まあそれならいいが……」

L「…………」

L(星井美希……一体何を考えている……?)

【一週間前(東応大学の学祭があった日)・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(総一郎、模木、松田の帰宅後、二人だけで捜査本部に残っているLと月)

月「星井美希の自宅に監視カメラと盗聴器を設置……か。よくあの父がそんな捜査を許したな」

L「はい。もちろん最初は難色を示されましたが……」

月「まあ相手が相手だ。ある程度は仕方が無いだろう。これが冤罪なら大問題だが……」

L「はい。ですが星井美希はキラです。99%間違いありません。またカメラ等は仕掛けていませんが天海春香も同様です」

月「ああ、それは僕も同意見だ。だがその残り1%を埋めない限りは……」

L「はい。だからこそその1%を埋めるための努力を今しているというわけです」

月「そうだな。ちなみにその監視カメラ設置の件は、僕達以外では父とワタリしか知らないということでいいんだな?」

L「はい。くれぐれも他の方には他言無用でお願いします。特に星井さんにはご内密に」

月「そうだな。下手をすると竜崎が星井さんに殺されかねない」

L「ええ。私も命は惜しいですので」

月「だがそれよりも、今はキラに殺されないための方策を練らないとな。……で、これからどうする? もう“竜崎ルエ”の設定はほぼ完成したが……」

L「はい。とりあえずはこの設定を完璧に頭に入れておき……星井美希、天海春香のいずれから探りを入れられた場合にも問題無く対応できるように準備しておきましょう」

月「そうだな。さっき竜崎も言っていたが、やはり僕達の間で認識の齟齬が出てしまうことが一番まずい……もしそれが出てしまい二人に怪しまれるようなことになれば、最悪僕達二人まとめて、などということも……」

L「! …………」

月「? どうした? 竜崎」

L「月くん。これはいわゆる『モテ期』というやつでしょうか?」

月「? いきなり何を言ってるんだ?」

L「……今を時めくアイドルから、デートに誘われました」

月「! まさか、天海春香か!?」

L「いえ」

月「! じゃあ……」

L「はい。―――ミキミキこと、星井美希からです」

月「星井美希だと? 一体何故……」

L「分かりません。とりあえずこれだけが送られてきました」スッ

(月に携帯の画面を見せるL)

月「どれどれ……」


--------------------------------------------------
From:星井美希
To:竜崎ルエ

件名:ミキなの。


ミキなの。

今日あんまりお話しできなかったから、
今度の日曜、二人でゆっくりお話ししない?

お返事お待ちしておりますなの。


みき

--------------------------------------------------

月「…………」

L「まさかとは思いますが、今日のやりとりだけで……私が“L”だと勘付いたのでしょうか?」

月「いや、いくらなんでもそれは無いだろう。“L”どころか、そもそもキラ事件の捜査に関係している、またはしていた者であるとすら疑われる理由は無いはず……」

L「そうですよね。では単に私個人に興味を持ったということでしょうか?」

月「確かにそういう可能性もあるな……一応……」

L「…………」

月「だがいずれにせよ、これはチャンスといえばチャンス……。今日のメンバーでの再度の会合を待つまでもなく、星井美希に直に探りを入れられる……」

L「そうですね。向こうから誘ってきているわけですから、これに応じても何ら不自然ではないですし……逆に断る方が怪しまれかねません」

月「ああ。何といっても向こうは売れっ子アイドルだからな……デートの誘いを受けて断る男なんてまずいない。それに“竜崎ルエ”は天海春香の大ファンだが、765プロの他のアイドルに対しても当然愛着・愛情はある……」

L「はい。さっきそういう設定にしたばかりですからね」

月「ならば、“竜崎ルエ”としての答えは……」

L「はい。一択です」

月・L「……行くしかない!」

【その翌日・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「……というのが、昨日までの捜査状況です」

相沢「そんなことになっていたのか……」

星井父「…………」

総一郎「まさか昨夜のうちに星井美希から竜崎にアプローチがあったとは……」

松田「でも月くんならともかく竜崎って……。ミキミキの好みのタイプっていったい……?」

L「…………」

松田「あっ。す、すみません竜崎」

L「……いえ」

星井父「…………」

模木「……係長……」

星井父「え? あ、ああ……何だ? 模木」

模木「いえ、その……大丈夫ですか? 顔色がかなり優れないようですが……」

星井父「あ、ああ……大丈夫だ」

L「星井さん」

星井父「……竜崎。すまない。まだちょっと頭の整理が追いついていない……」

L「心中お察しします……が、もうここまで来てしまった以上、いよいよ覚悟を決めて頂くべき時が来たのかもしれません」

星井父「…………」

L「現時点では、美希さん……いえ、星井美希がどういう意図を持って私を誘い出したのかは不明ですが……彼女がキラであるとすれば、私の素性について何らかの不信感を抱き、それを確かめるためにアプローチをしてきたとみるのが最も自然です」

星井父「…………」

L「警察官を父に持つ月くんとのつながりを怪しんだのか……あるいは、私のした身の上話のどこかに引っ掛かりを感じたのか……」

L「そこのところはまだ分かりません。流石にまだ『キラ事件の捜査に関係している、またはしていた可能性がある』というレベルで疑われているということは無いと思いますが……」

L「しかしそうはいっても、こうして現実に向こうからアプローチが仕掛けられてきている以上……これには応じるほかありません」

総一郎「……そうだな。星井美希の意図が何であれ、ここで竜崎が会うのを拒むのはむしろ不自然であるし……逆に、彼女に直接探りを入れるにはこの上ない絶好の機会ともいえる」

L「はい。私もそう考えています。ですのでとりあえず、私は一週間後の接触の際に、星井美希の様子をできるだけ精緻に観察します」

L「私を誘い出した真の理由、背景、思惑……彼女を直接観察することで、それらを可能な限り見極めたい」

星井父「…………」

L「そしてそのためには……星井さん」

星井父「……何だ? 竜崎」

L「この捜査にはあなたの協力が必要不可欠です」

星井父「! …………」

L「先ほど私は、流石にまだ『キラ事件の捜査に関係している、またはしていた可能性がある』というレベルで疑われているということは無いと思う、と述べましたが……それも100%そうだとまで断言できるものではありません。断言できるだけの論拠が無いからです」

L「なのでもし今、万が一……星井美希が、何らかのきっかけにより『竜崎はキラ事件の捜査に関係している、またはしていた者かもしれない』などと考えているとすれば……そしてその場合に彼女がとりうる、それを確かめるための最も確実なやり方は……」

星井父「…………」

L「私と星井さんを、不意打ち的に対面させること」

星井父「! …………」

L「星井美希の認識では『星井さんはキラ事件の捜査をしていた』ということになっているわけですから……私と星井さんとを対面させ、双方の反応を観察することで、私と星井さんが既知の関係かどうか……すなわち、私がキラ事件の捜査に関係している、またはしていた者かどうかを見極めようとするのが最も簡単です」

星井父「……確かに……」

L「ですので星井さん。今度の日曜は捜査は結構ですのでご自宅に居て下さい」

星井父「! …………」

L「そしてそのことは星井美希には言わずに……もし今日以降、彼女から『今度の日曜は家に居るか』と聞かれたら『居る』と答えて下さい」

星井父「……分かった」

L「そして言うまでもありませんが、今後もこれまで同様、この捜査本部以外の場所では常に超小型マイクを身に着けておくようにして下さい」

星井父「……ああ。今まで同様、しっかり身に着けておく」

L「よろしくお願いします。では、星井美希の家庭内での言動については、これまで通り星井さんのマイクを通じて常に把握することとして……その他の捜査の振り分けについて、今からご説明します」

L「まず月くんですが……昨日もお伝えしたとおり、引き続き家庭教師を通じての天海春香への接触と、弥海砂との信頼関係の構築をお願いします。……と言いたいところですが……天海春香はいいとしても、弥海砂の方はちょっと様子を見てからの方がいいかもしれませんね」

月「そうだな。星井美希がいきなり竜崎にアプローチを仕掛けてきたということは……先ほど竜崎自身も言っていたが、竜崎の素性について何らかの疑念を抱いている可能性が高い。そのような状況で僕が弥海砂に接触を図れば、弥からその友人である星井美希にもそのことが伝わり、僕の正体についても同様に不信を抱かれてしまう可能性がある……」

L「はい。まあ弥海砂もアイドルですし、月くんが出会ってすぐに口説きに掛かったとしてもそこまで不自然ではないかもしれませんが……急いては事を仕損じるとも言いますし、一旦今は天海春香との接触のみに専念して下さい」

月「分かった」

L「またこれまでの765プロダクション関係者全員に対する捜査結果からも、キラ容疑者としてはもう星井美希と天海春香の二人のみに絞り込んでよさそうですので……まだ二人に顔が割れていない相沢さんと松田さんは、今後は手分けしてこの二人の尾行捜査をお願いします。ただし絶対に気付かれることがないように」

相沢「ああ。分かった」

松田「任せて下さい」

L「特に、彼女らが二人だけで行動している時は、例の『黒いノート』の授受が無いかにつき、注意して観察しておいて下さい。また授受が無くとも、二人の外出時の携行品……特にノート大の物が入るサイズの鞄を所持しているかどうかの確認もお願いします」

L「ただしもし仮に『黒いノート』らしき物を視認しても、絶対にその場で取り押さえたりなどはしないこと」

L「これまで何度も言っていることですが、キラの能力、殺し方がまだ何も判明していない以上……こちらがキラを追っているということに気付かれた瞬間、現時点で顔を知られている者は即皆殺しにされてしまう危険性がある……最早それくらいに考えて行動しなければなりません」

L「だからこそ、これも以前から言っていることですが……絶対に二人には我々が追っているということに気付かれることなく、キラとしての証拠を押さえる……それしかありません」

相沢「うむ……」

松田「ぼ、僕達も竜崎みたいに面を着けて尾行しますか? なんて……ははは」

相沢「…………」

松田「はい。すみません」

L「そして……星井さん」

星井父「……ああ」

L「先ほど私は『覚悟を決めて頂くべき時が来たのかもしれません』と言いましたが……もうここまで来た以上、今後は星井さんにも私情を排して捜査に当たって頂かなければなりません。私と月くんが星井美希の直接の知り合いとなった以上、彼女の一挙手一投足を詳細に観察してもらう必要がある……」

星井父「ああ、分かっている。要は、美希が竜崎や月くんのことで俺に探りを入れてくることが無いかどうか……ということだろう?」

L「はい。もちろん星井美希と星井さんとの会話はこれまで同様、全てリアルタイムで録取させて頂きますが……実際の会話の際の彼女の表情、挙動などはその場に居る星井さんにしか分かりません。また父親の目から見て、彼女の普段の様子や態度に違和感が無いかどうか、といった点についても細心の注意を払って観察して頂きたい」

L「さらに今後、星井さんには星井美希を観察する機会をなるべく多く持ってもらいたいですので、これからは原則として土日のいずれかは終日自宅に居るようにして下さい。既にご家族には『キラ事件の捜査は外れた』と説明してあるとのことですから、辻褄は合わせやすいはずです」

星井父「……ああ、分かった。出来る限り注意深く、それでいて不自然にならないよう、娘の動向を観察する」

L「はい。よろしくお願いいたします。そして夜神さんと模木さんは、星井美希と天海春香の尾行データの集約および二人の行動パターンの解析をお願いします。これは最終的に『黒いノート』の現物をいつ、どこで、どうやって押さえるかの策を練るための下準備です。ただ作業量が多くて大変だと思いますので、適宜ワタリにも手伝わせます」

総一郎「分かった。ではとりあえず私は星井美希についてのデータを集約しよう。模木は天海春香の方を頼む」

模木「はい」

L「そしてこれは昨日、月くんも言っていたことですが……キラ側に我々捜査員の大多数の顔を知られてしまっている今の状況を鑑みると、このまま捜査を長期に及ぼすのは決して得策ではありません。短期決戦、早期解決を目指し……皆で一丸となって引き続き頑張っていきましょう」

一同「はい!」

【その五日後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「星井さん。念のための確認ですが……今のところ、美希さんから明日の在宅の有無については特に聞かれていませんね?」

星井父「ああ。家での美希との会話はマイクを通して聴いてもらっているとおりだ。もっとも、今までも俺の休みなんて特に気にして聞いてくることも無かったから、別に不自然でもないが……」

L「そうですね……」

L(これはやはり、まだ現時点では私の事を『キラ事件の捜査に関係している、またはしていた可能性がある者』というレベルでは疑っていない……ということか?)

L(いや、だがあえて聞かなくとも、どうせ明日……当日になれば、星井係長が家に居るかどうかは星井美希には分かる……)

L(ならば不必要に疑われるのを避けるため、最初から事前の確認はしないつもりだった、とも……)

L「……星井さん」

星井父「何だ? 竜崎」

L「現時点での美希さんの思惑は分かりませんが……一応、明日は私が美希さんに星井さんのご自宅に連れて行かれる可能性もあるものと思っておいて下さい」

星井父「ああ。分かっている。そして実際にその状況になった場合の対応は打ち合わせの通りでいいんだな?」

L「はい。星井さんはあくまでも『娘がいきなり見ず知らずの男を家に連れて来た時の父親』……その役を演じることのみに徹して下さい」

星井父「それなら大丈夫だ。この五日間、嫌というほどシミュレーションしてきたからな」

L「ありがとうございます。そして美希さんがしてくる可能性のある質問、振ってくる可能性のある話題についても、全て事前に打ち合わせた通りのご対応をお願いします」

星井父「ああ。任せてくれ」

L「また、明日は私も例の超小型マイクを身に着けた状態で美希さんと会うようにします。私と美希さんとの会話の音声はリアルタイムでこの本部および別の場所にあるワタリのPCに転送されるようにしておきますので、もし美希さんから『今から家に行こう』などと提案された場合には、すぐに本部に居る皆さんまたはワタリから星井さんにその旨連絡してもらうようにします」

星井父「……分かった」

L「では、そういうことでよろしくお願いいたします」

【その翌日(現在)・美希の自宅】


(歓談している美希、L、星井父の三人)

L「……お父さんが心配されるお気持ちは分かります。ただでさえ売れっ子アイドルの娘さんですからね。学校でもさぞ人気者でしょうし」

星井父「美希が高校に入ってからはまだ特にそういった類の話は聞いていないが……そうなのか? 美希」

美希「ううん。別にそんなことないの。高校でミキに告白してきた男の子の数もまだ30人くらいだしね」

星井父「さ、30人!? 聞いてないぞ、美希……。というかお前、高校入ってまだ一ヶ月とちょっとくらいじゃないか」

美希「うん。だってミキが男の子からよく告白されるのは昔からのことだし、別に今更言うことでも無いかなって」

星井父「いやいや、そりゃ中学までの男子なんて文字通りただのガキでしかないが、高校に入るや否や急に色気づく奴とかが出て来たりしてだな……」

美希「そうなの?」

星井父「そうなの。……一応聞くけど美希、まさかOKしたりなんかしてないよな?」

美希「当たり前なの。そもそもアイドルは恋愛禁止なの」

星井父「そ、そうだよな。良かった……。い、いや、もちろん俺は美希を信じていたが……ははは」

L「…………」

L(ここまでの星井係長の対応は全て事前にしていた打ち合わせの通り……何の違和感も不自然さも無い)

L(しかし、星井美希……私と星井係長をわざわざ対面させたのだから、もっと踏み込んだ質問をして、揺さぶりを掛けて来るものとばかり思っていたが……)

L(今のところ、星井美希から振った話題で、キラ事件に関係しそうなものは夜神局長の事のみ……)

L(しかしそれも、最近知り合った夜神月の父親が自分の父親と同じ職業だったから、という極自然な理由によるもの……こちらとしても当然予期していた内容……そしてそれ以外はいずれも他愛も無い内容の雑談ばかり……)

L(もしや、私と星井係長の最初の対面時の反応がまさに初対面時のそれだったから、それだけでもうこれ以上私を疑う必要は無いと判断したのか?)

L(それとも……直接的な会話からではなく、私の挙動や表情、仕草などから何かを探り取ろうとしているのか?)

L(確かに星井美希は『天才アイドル』と称されているとおり、努力型というよりは天才型……理屈よりも本能や感覚にもとづいて行動しているのかもしれない)

L(そしてもし、彼女のそのような特性がアイドルとしての活動にとどまらず、あらゆる分野においても通用しうるものであるとすれば……)

L(この星井美希……天海春香以上に危険な存在かもしれない)

L(だとすれば……やはり一刻も早く、この星井美希または天海春香から、キラとしての直接的な証拠を押さえなければ……)

L(今日の星井美希は少し大きめのハンドバッグを携帯していた……そしてそれは今も自分の膝上に置いている……ノート一冊程度なら十分入る大きさ……)

L(入っているのか? このバッグの中に……『黒いノート』が……)

L(しかしここで下手な動きを見せれば、その時点で私はもちろん……父親である星井係長すらも殺されてしまいかねない)

L(やはりこれから必要となるのは、星井美希または天海春香本人に気付かれることなく、彼女らの所持品を直接探ることのできる状況を作り出すこと……)

L(その為には……)

L「…………」

星井父「…………」

星井父(正直、本部に居る局長から『もうすぐ美希が竜崎を連れて家に来る』と連絡を受けた時は覚悟を決めたつもりでいたが……)

星井父(今のところ、美希は特にキラ事件や“L”の正体を探るような質問は何もしてきていない……また俺や竜崎に対する態度にも何ら不自然な点は無い)

星井父(美希は元々、好奇心旺盛な性格……単純に『天海春香のファン』と名乗った竜崎に興味が湧き、会おうと持ち掛け、特に深い考えも無いまま家に呼んだだけとも……)

星井父(確かに、これが家に二人きりとなるような状況なら問題だが……今朝の時点で、俺は美希に『今日は休みなのでずっと家に居る』とは言っていた……だからこそ、美希も安心して竜崎を家に連れて来たという可能性も……)

星井父(……いや、分かっている。こんなのは全部、俺の願望でしかないということは……)

星井父(しかしやはり俺には、どうしても……この娘が……美希がキラとは……)

星井父「…………」

美希「…………」

 ガチャッ

菜緒「ただいま~」

L・美希・星井父「!」

菜緒「……って、あれ? お客さん?」

星井父「あ、ああ……。えっと、美希の友達の……」

L「……竜崎です」ペコリ

菜緒「……ど、どうも……。あ、美希の姉の菜緒です」ペコリ

L「どうも」

星井父「菜緒……お前、今日は遅くなるって言ってなかったか?」

菜緒「あ、ああ……うん。友達と会う予定だったんだけど、その子、急にバイトのシフトが変更になったらしくて流れちゃったの」

星井父「そうか」

菜緒「……うん……」ジッ

L「…………」

(Lを凝視する菜緒)

美希「…………」

L「……では、あまり家族団欒のお時間の邪魔をするのも悪いですので……私はこのへんで」

菜緒「えっ、ああ、そんな。お気遣い無く……」

L「いえ。いずれにせよ、そろそろお暇しようかと思っていたところですので」

美希「あっ。じゃあミキ駅まで送って行くの」

L「いえ。大丈夫ですよ。道は覚えていますし……それに美希さんがご自宅の近くを見知らぬ男と二人でうろついていたとか……変な噂になってもいけませんので」

美希「そう? ミキは別に気にしないけど……まあ、竜崎がそう言うならそうするの」

L「それでは、私はこれにて失礼いたします」

星井父「ああ。碌にもてなしもできずにすまなかったね」

L「いえ。こちらこそ、急に押しかけてしまってすみませんでした」

美希「あ、じゃあせめて玄関まで送って行くね。竜崎」

L「ありがとうございます。美希さん」

美希「…………」

【同日夜・美希の自室】


美希「…………」

リューク「で、どうなんだ? ミキ」

美希「……どうって?」

リューク「あの竜崎って奴の事だ。やっぱりあいつがLなのか?」

美希「…………」

リューク「って言っても、今日のやりとりだけじゃ分かるわけないか……ミキの父親とも初対面っぽかったしな」

美希「……確かに今日のやりとりだけじゃ、竜崎がLかどうかは分からなかったの」

リューク「まあ、そりゃそうだよな」

美希「でも」

リューク「ん?」

美希「竜崎がLかどうかまでは分からなかったけど……一コだけ、分かったことがあるの」

リューク「? 何だ? それは」

美希「……竜崎はL本人か、またはLとつながりがある人なの」

リューク「! ……本当か? ってことは、やっぱり竜崎とお前の父親には面識があったってことか?」

美希「うん。ま、100%とまでは断言できないけどね」

リューク「じゃあ何%くらいなんだ?」

美希「……99%ってトコかな」

リューク「ほぼ確信してるってことじゃないか」

美希「まあね」

リューク「でもミキ……一体どこでそう判断したんだ? 俺もずっと見ていたが、竜崎がお前の父親と面識があるようには見えなかったぞ」

美希「…………」
     
リューク「そもそもの作戦としては、竜崎とお前の父親を対面させて、二人の反応から面識があるかどうかを見ようとしてたわけだろ?」

美希「まあ作戦っていっても、本当は今日はただの様子見だけにして、竜崎をパパと会わせるのはもう少し先にするつもりだったんだけどね。でも今朝になって、パパが今日一日ずっと家に居るって分かったから、急遽予定を変更して会わせることにしたの」

リューク「だがその結果がアレだ。今日の二人の会話には全く不自然な点は無かった……一体どこで、あの二人に面識があるって判断したんだ?」

美希「確かにリュークの言うとおり、竜崎とパパの『会話』には何も不自然なところは無かったの。ミキがいきなり、あんな一見して怪しげな風貌の男の人を家に連れて来たら、パパならまず間違い無くああいう反応になる……」

リューク「そうだろ? じゃあなんで……」

美希「……リュークは、竜崎と会うのは……いや、竜崎を『見る』のは今日が二回目だったし、何とも思わなくても無理は無いの。それに今日だけでも、家に来る前にスイーツ屋さんで既に『見て』たしね」

リューク「? 何の話だ?」

美希「……ミキはね、リューク。最初から、竜崎とパパの会話の内容なんかで、二人に面識があるかどうかを判断するつもりは無かったの」

リューク「?」

美希「会話の内容なんて、その気になれば事前にいくらでも打ち合わせられる……もし元々竜崎とパパの間に面識があって、かつそのことをミキに対して隠そうとしていたのなら、まず間違い無くそうするはずなの」

リューク「まあ、確かにそれはそうかもしれないが……」

美希「だからミキが見ていたのは、そんなうわべの部分なんかじゃなく、もっと別の部分なの」

リューク「だから一体何なんだ? それは。いい加減もったいぶらずに教えてくれよ。ミキ」

美希「もう、リュークったらせっかちなの。せっかちな男はモテないんだよ? あはっ」

リューク「…………」

美希「なんて、冗談はさておき……ミキが見ようとしていたのは、たった一つだけなの。それは……」

リューク「……それは?」

美希「――竜崎の椅子の座り方に対する、パパの反応」

リューク「竜崎の椅子の座り方? ……あっ。……そういうことか」

美希「そういうことなの。竜崎の椅子の座り方はすごく独特……椅子の上に体育座りのような姿勢で座る。ミキは今まで十五年以上生きてきたけど……子どもならともかく、大人で椅子にあんな座り方をする人は見たことが無かったの」

美希「だから先週、喫茶店で竜崎があの座り方で椅子に座ったのを見たときはすごく驚いたの」

美希「声にこそ出さなかったけど、思わずじぃっと見つめちゃったの」

リューク「……なるほどな。つまりそれが……」

美希「そう。パパが本当に竜崎と初対面だったとしたら……それが本来あるべきはずの反応なの」

美希「でもパパは、竜崎のあの座り方に対して何の反応もしていなかった。まるで『竜崎はああいう座り方をする』ということをあらかじめ知っていたかのように」

リューク「! …………」

美希「さらにこれはミキにとってはラッキーだったんだけど……後でお姉ちゃんが帰って来て、竜崎の姿を見た最初の一瞬こそ、その怪しげな風貌に少し驚いていたようだったけど……その直後は、明らかに竜崎自体よりもその座り方の方に注目してたの。喫茶店の時のミキと同じように、すごくじぃっと見てたから」

美希「でも、それが普通の反応のはずなの……本当の初対面ならね」

リューク「つまり、ミキ……お前はそれを確かめるために、竜崎と父親を対面させたってことか?」

美希「そういうことなの。ミキが確かめようとしていたのは、『初対面なら無いはずの反応があるかどうか』ではなく、その逆……『初対面ならあるはずの反応が無いかどうか』だったの」

美希「そしてパパは、竜崎があの座り方をしても何の反応もしなかった。それはつまり、パパと竜崎は今日が初対面なんじゃなくて、もっと前からの知り合いだった……ってことを意味するの」

リューク「ククッ。なるほど。まさかそんなところで判断していたとは……大したもんだな。ミキ」

美希「そしてさらに……パパと竜崎が知り合ったのは、ほぼ間違い無く……キラ事件の関係でなの」

リューク「……ん? いや、待てよ。ミキ。……流石にそれは飛躍じゃないか?」

美希「…………」

リューク「いくらお前の父親がキラ事件の捜査をしていたといっても……当然、キラ事件以外の事件……いや、それどころか警察とは全く無関係な場面で知り合っていた可能性だってあるだろ」

美希「ううん。それは無いの」

リューク「何でそう言い切れるんだ?」

美希「だって、もしキラ事件に関係無い場面で知り合っていたのなら……そのことをミキに対して隠す理由が無いの」

リューク「! ……そういうことか」

美希「そういうことなの。キラ事件に関係する場面で知り合っていたからこそ、パパと竜崎は、今、キラとして疑っているミキの前で……そのつながりを隠そうとしたの」

リューク「…………」

美希「だからきっと二人は、ミキが竜崎を家に連れて行き、パパと対面させる可能性があるということまで想定して……実際にそういう状況になった場合の会話の内容については、事前にすごく綿密に打ち合わせをしていたと思うの。でも竜崎の『椅子の座り方』に対するパパの反応をどうするか……っていうところまでは気が回らなかった」

美希「それは、竜崎のあの独特な座り方が……竜崎自身にとってはもちろん、パパにとっても既に『当たり前の事』になってしまっていたから」

リューク「なるほどな。しかしそうなると、お前の父親がキラ事件の捜査をしていた以上は……」

美希「うん。竜崎はほぼ間違い無く……キラ事件の捜査に関係していた人か、または今もしている人のどっちか、ってことになるの」

美希「パパが『キラ事件の捜査をしていた』……いや、これはもう『キラ事件の捜査をしている』でもいいのかもしれないけど……まあもう今更そんなことはどっちでもいいの」

美希「要は、リュークが今言ったとおり、少なくともパパが以前『キラ事件の捜査をしていた』のは間違い無いわけだから……そのパパと『キラ事件に関係する場面で知り合っていた』以上、それは『キラ事件の捜査に関係する場面』以外にはありえない」

美希「だから竜崎は、キラ事件の捜査に関係していた人か、または今もしている人のどっちかなの」

リューク「なるほどな。……だが、ミキ。まだそれだけじゃ、最初にお前が言った『L本人か、またはLとつながりがある人間』とまではいえないんじゃないか?」

美希「…………」

リューク「それこそお前の父親や、夜神月の父親みたいに……まあこいつらが、実際にLとどの程度までつながっているのかはわからないが……竜崎はあくまでも普通の日本の警察官でしかなく、L本人でもなければ、特にLとつながっているわけでもない、っていう可能性も十分にあると思うが」

美希「それはもっとカンタンなの」

リューク「?」

美希「あのね、リューク。日本の警察官になれるのは、日本の国籍を持っている人だけなの。“ L Lawliet”なんて名前……どう考えても日本の国籍の人じゃないよね」

リューク「! ……なるほど」

美希「ただもちろんそれでも、たとえばアメリカのFBIとか、どこか外国の警察官って可能性はあるけどね。でもその場合でも、カンカツ? か何かの問題があって、簡単に日本では事件の捜査ができないの」

リューク「へぇ。随分詳しいんだな。ミキ」

美希「だってミキのパパは現役の刑事さんなんだよ? これくらい知ってて当然って思うな」

リューク「そういうもんなのか」

美希「そういうもんなの。……って言いたいところけど、まあ本当の事を言うと、パパは昔からこういう話をするのが大好きで、ミキもお姉ちゃんも子どもの頃からよく聞かされてたの」

リューク「そういや、キラ事件の捜査の事とかLの事とかも、結構ペラペラお前ら家族に喋ってたもんな。お前の父親」

美希「そうなの。おかげでミキは特に興味も無い警察関係のお話を小さい頃からたくさん聞かされて……まあでもそれがこんな形で役に立つんだから分からないものだけどね」

リューク「確かにな。でもだからといって、それだけで『竜崎はL本人か、またはLとつながりがある人間』ってことになるのか?」

美希「もちろん、ちゃんとした手続きさえ踏めば、外国の警察官でも日本で事件の捜査はできると思うよ。でもね、リューク。ちょっとこれ観て」

リューク「ん?」

(PCを操作し、動画を再生する美希)

リューク「これは……ああ、懐かしいな。まだミキが犯罪者裁きを始めてすぐの頃にTVで流れてたやつか」

美希「そう。リンド・L・テイラー……通称“L”の全世界同時生中継。……まあ実際は、地域ごとに時間をずらして放送してたみたいだけどね」

リューク「? そうだったのか?」

美希「うん。後でネットの書き込みとかを見て分かったんだけどね。多分、最初の放送の時にミキがこの人を殺さなかったから、色んな地域で順番に流していったんじゃないかな」

リューク「……ああ、なるほど。それで生放送中にこいつが死ねば、そのとき放送を流していた地域にキラがいる……ってことになってたわけか」

美希「多分そういうことなの。まあその時はそんなこと全然分からなかったけどね。今思えばその場でこの人の挑発に乗らなくてよかったの」

リューク「ククッ。本当にな」

リューク「で、この生中継の映像がどうかしたのか? ミキ」

美希「ああ、うん。ちょっとここ聴いてみて」

リューク「?」

(動画の再生ポイントを特定の場面に合わせる美希)

PC『……私は全世界の警察を動かせる唯一の人間、リンド・L・テイラー。通称“L”です』

リューク「全世界の警察……」

美希「そ。Lは『全世界の警察を動かせる人間』……だとしたら、もし竜崎がどこかの外国の警察官だったとしても、『全世界の警察を動かせる人間』であるLによって、キラ事件の捜査の為に日本の捜査本部に呼ばれ、ミキのパパや夜神月のお父さんと一緒にキラ事件の捜査をしていた……または、今もしている……って考えたら、しっくりこない?」

リューク「確かに」

美希「それにもちろん、竜崎……“L Lawliet”がL本人なら、当然のように日本でキラ事件の捜査ができるだろうしね。『全世界の警察を動かせる人間』が、日本の警察の中にあるキラ事件の捜査本部に入れないわけがないから」

リューク「なるほど。……いやだが、そもそもLが本当に『全世界の警察を動かせる人間』かどうかは分からないんじゃないか?」

美希「まあね。でもこの生中継自体、『警察はほとんど関わってなくてLが独断でやった』ってパパは言ってたし……それくらいのことができる人なら、本当に『全世界の警察を動かせる人間』でもおかしくはないんじゃないかなって」

リューク「ああ……まあそれもそうか」

美希「それにもちろん、竜崎が警察の人じゃなくても、Lが自分の身代わり……っていうか、影武者みたいにするつもりでどこからか呼んできた人、っていう可能性もあるしね」

リューク「このリンド・L・テイラーって奴みたいにってことか? 実際、こいつはLの身代わりだったわけだろ?」

美希「うん。まさにそういうことなの」

リューク「なるほど。確かにそれはあるかもな。……でも結局、このリンド・L・テイラーって奴は何者だったんだ? それこそどこかの国の警察官か何かだったのか?」

美希「さあ……パパもそこまでは話してくれなかったし、それは分からないの。まあでも今となっては、もうそんなことはどうでもいいの。大切なのは、竜崎はリンド・L・テイラーみたく、Lの身代わり……もとい、影武者の可能性があるってこと」

リューク「ふむ」

美希「さらに言うと、竜崎も、リンド・L・テイラーと同じで、本名に“L”って入ってるからね。そういう意味でも影武者っぽいの」

リューク「確かにな。……そして竜崎がLの影武者の場合でも、当然、『Lとつながりがある人間』ということにはなるってわけか」

美希「うん。だから竜崎は、『L本人か、またはLとつながりがある人』なの」

リューク「……ククッ。なるほどな」

リューク「で、どうするんだ? ミキ」

美希「……どうする、って?」

リューク「殺さないのか? 竜崎を」

美希「…………」

リューク「奴がL本人にせよLの影武者にせよ、もうここまで確信があるのなら、早めに殺しておいた方がいいような気がするが」

美希「……うん。まだ殺さないの」

リューク「……『まだ』?」

美希「うん。だって今、ミキと個人的に会ったばかり……それも、ミキが竜崎とパパを対面させたばかりっていう、このタイミングで竜崎が死んだら……彼がLの影武者だった場合は当然、本物のLに……また彼が本物のLだった場合でも、今、キラ事件の捜査をしている他の人達……つまりパパや、夜神月のお父さんとかに……間違い無く疑われるの。ミキが竜崎を殺したって」

リューク「まあそれはそうか。……いや、なら事故死か何かで殺したらどうだ? L側はまだ心臓麻痺以外でも人を殺せるってことは知らないだろ」

美希「確かにそれはあるけど……でも、去年のファーストライブの日に春香のファンの人が死んだ件が調べられてるとしたら……そのほとんどすぐ後に発生した、アイドル事務所の関係者の人達が事故死や自殺で死んだ件も、Lに怪しまれてる可能性があるの」

美希「あの時死んだ人達の中に765プロの関係者はいないし、また同じ時期にミキ達765プロのアイドルの人気が急上昇していたことからすると……Lがファンの人が死んだ件で春香を疑っているとした場合……このアイドル事務所関係者の件についても、春香が何か関係しているんじゃないか、って疑っていてもおかしくないの」

美希「もしそうなら……L側が『キラは心臓麻痺以外でも人を殺せる可能性がある』ということに気付いていてもおかしくない……」

美希「そうだとすれば、今、竜崎を事故死や自殺で殺したとしても同じこと……結局、ミキが疑われることには変わりないの」

美希「だから竜崎を殺すとしたら、そうやって疑われるのを覚悟の上でも、そうしないといけないとき……つまり」

美希「春香が捕まりそうになったとき」

リューク「! …………」

美希「もしそういう状況になったら、もう四の五の言ってられないの」

美希「春香を守るためなら、竜崎がL本人であれ、Lの影武者であれ……殺すしかない」

美希「それが春香を守ることのできる、唯一の方法なら」

リューク「…………」

美希「? どうしたの? リューク」

リューク「いや……今思えば、初めてだと思ってな」

美希「何が?」

リューク「ミキが、『皆が笑って過ごすことのできる世界をつくる』と言って犯罪者裁きを始めてから……犯罪者以外の人間に対して、殺意を明確に示したのは」

美希「! …………」

リューク「ミキは今までずっと、『犯罪者じゃないから』っていう理由で、Lを殺そうとはしていなかったからな」

美希「……もちろん、ミキだって殺さずに済むならそれが一番良いと思ってるの」

美希「でも、もし竜崎が春香を捕まえようとするなら……それは春香を殺そうとするのと同じ事なの」

美希「キラとして捕まれば当然死刑……もしそうならなくても、一生牢屋の中なのは間違い無いの」

美希「だからもし、春香がそんな目に遭いそうになったら……ミキは、他の何を犠牲にしてでも春香を守るの」

美希「たとえ自分の信念を、理想を、夢を……全部諦めることになったとしても」

リューク「! …………」

美希「だって、春香はミキの―――大切な友達だから」

リューク「…………」

美希「だからその時は……迷わずデスノートに竜崎の名前を書くの」

美希「たとえその結果、ミキがLに、または警察に……パパに、捕まることになるとしても」

美希「――そしてミキが、死刑になるとしても」

リューク「……つまり、自分の命より仲間の命の方が大切ってわけか? ククッ」

美希「うん。そんなの当たり前なの。それの何がおかしいの? リューク」

リューク「いや、別に……」

リューク(正しいことを言っているようで、実のところはただのエゴ……自分の都合で生かす命と殺す命を選別しているだけ)

リューク(それでもこいつは……ミキは、自分のしようとしていることの正当性を微塵も疑おうとしていない)

リューク(まるでそれが絶対の正義であるかのように確信し切っている)

リューク(……ククッ。やっぱり、人間って面白!)

リューク(覚醒した『眠り姫』がこれからどう動いていくのか……最後まで見届けさせてもらうとするぜ)

美希「…………」

美希(大丈夫だよ。春香)

美希(Lだろうと竜崎だろうと……春香を捕まえようとする人は、ミキが全部殺してあげるから)

美希(だから何も考えず、春香はトップアイドル目指して頑張ってね)

美希(ミキ、本当に応援してるの)

美希(……あ、でももしミキが捕まって死刑になっちゃったら……そのときは、ミキが出るはずだったハリウッドの映画、春香に代わりに出てほしいな)

美希(約束なの。あはっ)

一旦ここまでなの

【二週間後・東応大学講義室】


(講義前の休憩時間)

月「…………」

月(竜崎と星井美希が一対一で会ってから二週間……)

月(今のところ、あれから特に大きな動きは無い)

月(星井係長も自宅で竜崎と顔を合わせることになったものの、事前の打ち合わせ通りに対応でき、特に問題は無かったようだし……)

月(これはもう、星井美希の竜崎に対する疑念は晴れたものとみていい、ということか……?)

月(いや、だがまだ二週間……あまり高い頻度で接触すると怪しまれると考え、暫く様子を見ているだけとも……)

月(だが星井美希としても、早く“L”との決着をつけたいとは思っているはず)

月(だとすれば竜崎のみならず、その友人ということになっている僕に対しても……何らかのアプローチを仕掛けてくる可能性は十分にある。いつどんな形で接触されてもいいように、警戒は常に怠らないようにしておかなければ……)

月(そしてまた僕の方も、天海春香の家庭教師は続けているが……特に決定的な何かを掴めているわけではない)

月(もっとも、まだ星井美希が竜崎を疑っている可能性がある以上……僕としても、天海春香に不用意に探りを入れることはできない)

月(もし竜崎のみならず、僕の素性・正体についても天海春香、または星井美希から疑念を抱かれるような事態になれば……最悪、僕も竜崎もいつ殺されてもおかしくないからだ)

月(そのような事態になることだけは絶対に避けなければならない……たとえ僅かでも疑念を生じさせることの無いよう、慎重に行動しなければ……)

月(一方、星井美希とは対照的に……天海春香の方は、今のところ特に僕に探りを入れてくるような気配は無い)

月(一応、僕に好意があるかのような素振りを見せてきてはいるが……それも、あくまでほのめかす程度にとどめている)

月(また相沢さんと松田さんの尾行捜査によると、星井美希および天海春香は、いずれも外出時の行動には不審な点は無い)

月(事務所から二人で一緒に帰ることも珍しくはないが、その際も特に怪しい動きは無く普通に帰っている)

月(そしてもちろん、その際に『黒いノート』を授受している様子なども無い)

月(ただ星井美希については、外出時は常に少し大きめのバッグ――ノート大の物なら十分入る大きさのもの――を所持しているとのこと)

月(しかし、これも不自然なほどの大きさのものなどではないし……これだけで何かが決まるというものでもない)

月(やはりこのまま膠着状態が続くようなら……僕が個人的に弥海砂に接触し、信頼を取り付け……こちら側の協力者として引き込むしか……)

月(もっとも、星井美希の友人である弥海砂に対して積極的に接触するのは、天海春香に対してそれをするのと同様のリスクがある……)

月(竜崎からも『一旦は天海春香との接触のみに専念するように』と言われているところではあるし……)

月(だがこのまま何もしないでいるというのも……)

月「…………」

「あの……夜神くん?」

月「? ……ああ、高田さん。この講義、取ってたんだ」

清美「ええ、まあ。……隣、いいかしら?」

月「ああ、もちろん」

清美「ありがとう。ではお言葉に甘えて……失礼します」スッ

月「…………」

清美(……や、やった……やったわ!)

清美(夜神くんと初めて会話してから早三週間……彼と同じ講義に出る度、話し掛けようとするも結局話し掛ける勇気が出ないまま講義が終わってしまうことの繰り返しだったけど……でも今、遂に……!)

月(……そうだ。このまま何もしなくても今より安全になるわけでは決してない……ならばやはりここは一か八か、弥海砂に接触を図るべき……)

清美(でも今の反応からするに、夜神くんの方は、私も同じ講義を取っていたことに気付いていなかったようね……。私は一回目の講義の時から気付いていたのに……)

月(確かにリスクはあるが……しかしこちらから攻めなければ勝てないのも事実……)

清美(まあ、いいでしょう。一度こうして隣同士の席で講義を受ければ、次回以降も同様に隣り合わせても不自然ではないし……それに他の講義でも……)

月(……やるしかないな。弥海砂に接触し味方に引き入れ、なおかつ星井美希にはそのことを決して気付かれないようにする……)

清美(大丈夫……私ならできる。いえ、やってやる!)

月(大丈夫だ……僕ならできる。いや、やってやる!)

(隣同士の席で講義を受けている月と清美)

教授「――したがって、近代民法の祖であるボアソナードが……」

清美「…………」カリカリ

月「…………」カリカリ

清美(さて、どうしようかしら。この講義の後は……)

清美(もし夜神くんが四限入れてないようなら、少しお話でも……)

月(しかし接触といっても、仮にも弥海砂はアイドル……いきなり一対一で会うというのも難しいかもしれない)

清美(でも何の話をすれば……やはり定番だけど趣味の話とかかしら?)

月(ならばとりあえずはまた前のメンバーで集まるように持ち掛けた方が良いか……。元々『またこのメンバーで集まろう』という話にはなっていたことでもあるし……)

清美(あっ。……趣味といえば、夜神くんはオンラインゲームであの人……竜崎さんと知り合ったと言っていたわね。でも私はやったことがないし、あまり話を膨らませられないかも……)

月(それにあのメンバーで集まれば、星井美希と天海春香の両名を同時に観察できるというメリットもある……また星井美希の竜崎に対する態度を観ることで、彼女がどの程度竜崎の素性を怪しんでいるのかも推し量ることができるかもしれない)

清美(でも夜神くんも『受験勉強の合間に暇潰しでやっていた』という程度だったそうだし……そこまでのめり込んでいる趣味というわけでもないのでしょう。きっと)

月(よし。念のため竜崎にも相談した上で……特に問題無ければ今日中にも集合の連絡を入れよう)

清美(まあいいわ。本人に聞いてみるのが一番ね。それに話題としても一般的だし何ら不自然さは無いわ)

教授「――では、今日はここまで」

月「…………」ガタッ

月(幸い、今日の講義はこれで終わりだ。このまま本部へ……)

清美「あ、あの、夜神くん」

月「? どうしたの? 高田さん」

月(ああ、高田清美……そういえば隣にいたんだったな。というか、この女も例のメンバーに入ってるんだったな……すっかり忘れていたが)

清美「え、えっと……その」

月「?」

清美(な、何まごついてるのよ私。同じ大学の学生同士、講義後に少しお話しするくらい何もおかしくはないじゃない)

月「高田さん?」

清美(いけない。これ以上言い淀んでいたら怪しまれる……言え、言うのよ! 清美!)

清美「……ちょ、ちょっと、その……お話でもしていきませんか?」

月「え?」

清美「あ、ああ、その……もしこの後、四限の講義が無ければ、だけど……」

月「今日の講義はもうこれで終わりだけど」

清美「! ……じゃあよかったら、その、少し……お話を……」

月「……ああ。構わないよ」

清美「あ……ありがとう。夜神くん」

清美(よ、よかった……ちゃんと言えたわ)

月「…………」

月(早く本部に行きたいのはやまやまだが……この女も例のメンバーに入っている以上、あまり無下に扱うわけにも……今は余計な軋轢を増やしている暇はないしな)

【東応大学キャンパス内・中庭】


(中庭にある二人掛けのベンチに腰掛けている月と清美)

月「……でも、こうして大学内で普通に話すのは初めてだね」

清美「ええ、そうね。この前はちょっと特殊な状況だったし……」

月「ああ。正直言って意外だったよ」

清美「意外?」

月「うん。高田さんのことは知っていたけど、なんとなくああいう場に出るようなタイプじゃないように思っていたから」

清美「そ、そうかしら?」

月「でも、将来の志望を聞いて納得したよ。高田さん自身も言っていたけど、アナウンサー志望なら確かにああいう経験は大事だもんね」

清美「ええ。就職活動でもアピールできますし」

月「ははは。結構打算的なんだね」

清美「それほどでも。……なんてね」

清美(よかった。夜神くんの話が上手いおかげでもあると思うけど、結構自然に盛り上がっているような気がするわ)

月(早く本部に行きたいな……後十分くらい適当に会話して切り上げるとするか)

清美「あっ。そういえば……夜神くんは何か趣味とかってあるの?」

月「趣味? うーん、難しいな。中学まではテニスをやっていたけど」

清美「そうなの?」

月「ああ。こう見えても全国大会で優勝したこともあるよ」

清美「! ぜ、全国大会で優勝!? すごい……夜神くんって文武両道だったのね」

月「それほどでもないよ」

月(しまった。予想以上に食いつかれてしまった……少し早いが、もうこのへんで切り上げた方が良いな)

月「……っと。ごめん、高田さん。そろそろ……この後ちょっと用事があって」

清美「えっ。ああ……そうだったのね。ごめんなさい」

清美(夜神くん、用事があったのね。せっかく良い感じに盛り上がっていたのに……残念だけど仕方ないわね)

月「じゃあ、また」

清美「ええ。また……」

清美(……いえ、だめよ。折角こうして二人きりで話せたんだから、少なくとも、次に会う約束くらいは取り付けておかないと……)

清美「あ……ま、待って。夜神くん」

月「え?」クルッ

清美「え、えっと……」

月「……?」

清美「…………」

月「…………」

清美(な、何押し黙ってるのよ、私。早く次に会う約束を……)

清美(でも約束って言っても……何て言えばいいのかしら?)

清美(『またお話ししませんか?』……いえ、駄目ね。内容が抽象的だし目的が不明確だわ)

清美(もっと具体的かつ明確に約束内容を示さないと……)

清美(でもどう言えば……そもそも私、今まで一度も男の人にこんなこと言ったことないし……)

清美(『また今度会いませんか?』……だめね、これでもまだ会う目的が曖昧なままだわ)

清美(もっと端的に、かつこちらの意図が正確に伝わるように……)

清美(そもそも私は夜神くんとどうしたいのか……どうなりたいのか……)

清美(……そうよ。それを考えれば答えは簡単)

清美(私は夜神くんと……もっとずっと一緒に居たい)

清美(なぜなら、私は夜神くんのことが――……)

月「? 高田さん?」

清美「…………」

清美(そうよ。なら端的に、ストレートに言えばいいのよ)

清美(『今度、私とデートしてくれませんか?』……って)

清美(少し直球過ぎるような気もするけど……でもこれなら趣旨も意図も確実に伝わる)

清美(よし。そうと決まれば後は実行あるのみ)

清美(……言え。言うのよ。……清美!)

清美「あ、あの……夜神くん」

月「うん。どうしたの? 高田さん」

清美「好きです。私と付き合って下さい」

月「えっ」

清美「えっ」

ちょっと中断するの

月「…………」

清美「…………」

清美(い、今、私……普通に告白した!?)

月「……えっ、と……」

清美「…………」

清美(ど、どうしよう……単にデートのお誘いをするだけのつもりだったのに……思わず本心が口を……)

清美(いえ、でも……これが私の嘘偽らざる本心なら……今ここで夜神くんの答えを聞こうが、一週間後、一か月後……あるいは一年後に聞こうが同じ事)

清美(ならば今、この機に……聞くべき!)

月「ごめん。高田さん」

清美「…………え?」

月「気持ちは嬉しいけど……僕達、こうしてちゃんと話すのもまだ今日で二回目で、お互いの事もよく知らないし……」

月「だから今はとりあえず……友達から、ってことでもいいかな?」

清美「……は、はい……」

月「ありがとう」

清美「…………」

清美(ふ、振られた……こんなにあっさり……何の溜めも無く……)

清美(い、いえ。でもある意味、当然といえば当然の結果……夜神くんの言うとおり、私達がまだお互いの事をほとんど知らないのは事実なんだし……)

清美(そうよ。それならまだ……チャンスはあるわ)

清美(まずは友達から入り、親交を深め……お互いの事がよく分かるようになってから、その時にもう一度……)

清美(そうよ清美。落ち込むのはまだ早いわ。むしろこれまで『一度話しただけの知り合い』程度の関係だったのが『友達』になれたのだから……まずはその事を喜ぶべき)

清美(そして告白自体は断りつつも、『とりあえず友達から』と言ってくれた夜神くんに……ちゃんとお礼を言うべきだわ)

清美「……夜神くん。確かにあなたの言うとおり、私達はまだお互いの事をよく知らないわ。だからまずはお友達になってくれてありがとう」ニコッ

月「え? い、いや……そんなお礼を言われるほどの事じゃ……」

清美(そうよ。勝負はまだ始まったばかり……頑張らなくちゃ!)

月(……どうでもいいから早く本部に行きたいんだが)

清美「え、えっと、夜神くん。じゃあ折角なのでもう少し、夜神くんのことを聞かせてほしいのだけど……って、ごめんなさい。用事があるんだったわね」

月「……いや、いいよ。もう少しくらいなら」

清美「! 本当?」

月「ああ」

清美(やったわ。ここで話が盛り上がればまだ十分可能性が……)

月(面倒だがやむを得ない……またあのメンバーで集まるとなるとこの女とも顔を合わせることになる。キラ事件以外の部分でまで不必要に気を遣う関係を作りたくはない)

清美「えっと、ああ、そうだわ。中学の時とはいえ全国大会優勝なんて……すごく上手なのね。テニス」

月「ははは。昔の話だよ。高田さんは何かスポーツの経験は?」

清美「私はこれといって特に……」

月「そうなんだ。でもアナウンサー志望なら、多少はスポーツにも興味を持っておいた方が良いかもね。スポーツニュースの担当になったりするかもしれないし」

清美「そうね。今よりもっと勉強する分野を広げるようにしないといけないとは思っているのだけど、なかなか実践できていなくて……」

月「今より……ってことは、もう既にアナウンサーになるための勉強を始めてるの?」

清美「ええ。といっても、まだそんなに大したことはしてなくて……。せいぜい、世間で注目されているニュースを自分なりに研究したりとか……それくらいだけど」

月「へぇ。それでも十分すごいよ。ちなみに、たとえば最近ではどんなニュースを研究してるの?」

清美「最近では、もっぱらキラ事件関連ね」

月「! ……まあ、そうだよね。……現在、最大の社会問題でありながら、未だに犯人も見つからず、それどころか犯行方法すらも解明されていない、世界規模の大量殺人事件……」

清美「ええ。いくら研究しても謎だらけだわ」

月「…………」

清美「? どうかしたの? 夜神くん」

月「……高田さん」

清美「? はい」

月「……世間的には、もう『キラ』という呼称が定着して久しいけど……そもそも『キラ』なんて本当にいるのかな?」

清美「え?」

月「だって『心臓麻痺で人を殺す』なんて……どう考えても馬鹿げているじゃないか。非科学的だし、その殺人方法が直接証明されたわけでもない」

清美「確かに……もう結構前になるけど、キラ事件が起こった当初……TVでキラを挑発した人がいたけど、その人も殺されなかったものね」

月「ああ、あれか。リンド・L・テイラー……通称“L”だっけ」

清美「ええ。よく覚えているわね。夜神くん」

月「これでも一応警察志望だからね。大きな事件の動きは常に追うようにしているんだ」

清美「流石ね。でもさっきの言い方からすると、夜神くんは『キラ』はいないものと思っているの?」

月「いるかいないかと聞かれたら『分からない』としか答えようがないが……でもやっぱり、俄かには信じがたいからね。『直接手を下すことなく、心臓麻痺で人を殺せる』なんて」

清美「……じゃあ、『犯罪者が心臓麻痺で死んでいる』という報道自体が実は嘘で、本当は政府が秘密裏に犯罪者を抹殺している……とか?」

月「ほう。でもそれなら、あえて『犯罪者が心臓麻痺で死んでいる』という嘘の情報を流す必要までは無いんじゃ?」

清美「確かにそうね。……では、こう考えることはできないかしら? 政府は、将来的な犯罪抑止まで視野に入れた上で、『罪を犯せば何者かによって裁かれる』という意識を国民に根付かせるべく、『犯罪者が心臓麻痺で死んでいる』という嘘の情報を流している……」

月「なるほど。それなら現在報道されている情報についても合理的に説明ができる。流石は高田さん。目の付け所が違うね」

清美「そ、そんな……これくらい、誰でも思いつくようなことだわ」

月「しかし世間では、『キラ』なる者が存在しているということが、まるで自明の事実であるかのように謳われている……今ではそのことを前提に、『キラ賛成派か、キラ反対派か』なんて議論がTVでもネットでも毎日されているような状態だ」

月「無論、そのような議論の報道自体、政府による世論操作という可能性もあるが……そんなことまで疑っていったらキリが無いので、ここでは一旦そのような可能性は捨象して考える」

清美「そうね……。そういえば、夜神くんはお父上が警察におられるということだったけど……何かそういう話は聞いていないの? たとえば、表向きは警察もキラを追っている形を取っているが、実際はそんな捜査は何もしていない……何故なら『キラ』が実在しないことは初めから分かっているから……とか」

月「さあ……それはちょっと分からないな。父は昔から、そういった捜査情報のような類のものは僕達家族にも絶対に話さないからね。自分がどんな事件を担当しているのかといったことも含めて」

清美「まあそれはそうよね。今のご時世、どこから情報が漏洩するか分からないものね」

月「ああ。……話は戻るけど、世間ではもう『キラ』という犯罪者裁きをしている者がこの世界のどこかに存在している……もうそのことが当然の前提のように語られていて、今ではそのこと自体に異論を差し挟む者はほとんどいない」

月「まだその実在性も証明されておらず、殺人の方法も解明されていないのに、だ。それに『直接手を下すことなく、心臓麻痺で人を殺せる』なんて非科学的な能力を持っている者がこの地球上のどこかに存在している……などと考えるよりは、さっき高田さんが言っていたような、政府の陰謀論などの方がまだよっぽどか現実的だし信じやすい……」

月「なのに何故、世間ではそのような考えよりも、『キラ』が実在していることを前提とする考え方の方が主流なのか……なんて、ちょっと気になってね。もしよかったらこの点について、キラ事件関連のニュースを研究している高田さんの考えを聞かせてもらえないかな?」

清美「……そうね。あくまでも私個人の考えだけど……」

月「ああ」

清美「それはきっと……世の人々の『願望』なんじゃないかしら」

月「……『願望』?」

清美「ええ。多分、この世界に生きているほとんどの人が、凄惨な事件や理不尽な犯行を伝えるニュースを耳にした際……一度や二度はこう思ったことがあると思うの。……『こんな奴、死んでしまえばいいのに』って……」

月「…………」

清美「かくいう私もその一人……幸いにも、まだ自分や自分の周りの人がそういう事件に巻き込まれたりしたことは無いけど……弱者をいたぶるような犯罪や、何の罪も無い人が犠牲になるような事件の報道を見る度に思うの」

清美「『なんでこんなにひどいことをした人が、まだ平然と生きているんだろう』……って」

月「…………」

清美「もちろん、中には本当に死刑になる極悪人もいる……でも全員が全員そうなるわけじゃない……」

清美「おかしいと思わない? なんで平気で人を傷つけたり、殺したりした人が……まだ生きていることを許されているのか……」

清美「だから多分、今までそういう思いを抱えて生きてきた人たちにとって、『キラ』は……まさに自分が思っていたことを実現してくれている……いわば、救世主のような存在」

清美「だから世の人々は『キラ』に存在していてほしいと、そう願っている……つまりそれが……」

清美「『キラ』の存在を自明の事実たらしめている……世の人々の『願望』」

清美「――私は、そのように考えているわ」

月「! …………」

月(この口ぶり……感情の入り方……間違い無い)

月(この女……キラ崇拝者だ。それもかなりの……)

月(キラに付け入るにはキラ信者は最適……そしてこの女……高田清美はもう既に星井美希・天海春香の双方と接点を持っている)

月(ならばさっきの告白……受けておいた方が良かったか? いや、だがこの女の持つ星井美希・天海春香との接点はまだ小さい)

月(あの学祭の日の翌日から、相沢さんと松田さんが手分けして星井美希・天海春香を対象とした尾行捜査を行っているが……今のところ、この二人のいずれかが高田と接触した形跡は無い)

月(だとすると、高田と星井美希・天海春香との接点は僕や竜崎と同程度……いやむしろ、僕と天海春香、または竜崎と星井美希の方が接点としては強いだろう)

月(それに今、この女と本格的に交際を始めると……僕の行動が大幅に制限されてしまう可能性がある。今後、僕が弥海砂にも積極的に接触していかなければならないことを考えるとそれはデメリットでしかない)

月(ただそうは言っても、キラ信者という特性はいずれ利用できるかもしれない……本命はあくまで弥海砂だとしても、この女もいざという時のための予備として……動かせる駒は多いに越したことは無い)

月(つまり今必要なのは、この女の好意を保持したまま、いざという時には利用できるように一定の信頼関係を築いておくこと……大丈夫だ。それくらい、僕にとっては造作も無い)

月(正直、女性の好意や好感といった感情を利用することに抵抗が無いわけではないが……今の現状……僕や竜崎、そして父さんすらもいつキラに殺されるか分からないという状況を考えると……最早手段を選んでいる余裕は無い)

月(あとはこの女との信頼関係を維持したまま、弥海砂にも早めに接触を……ん?)

月(……メール……? 誰からだ?)ピッ

月「! ……これは……」

清美「? どうしたの? 夜神くん」

月「ああ。メール……海砂さんからだ。高田さんにも来てるよ」

清美「! 本当だわ。どれどれ……」


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From:弥海砂
To:星井美希、天海春香、高田清美、夜神月、竜崎ルエ

件名:第2回『竜崎と愉快な仲間達』開催のお知らせ


ミサだよー!

皆、元気にしてた?

前に皆と会ってからもうすぐ一ヶ月になるし、
またそろそろ皆で集まらない??

で、何をするかというと……これ↓

765プロダクションオールスターズ出演映画『眠り姫』鑑賞会!!

実はミサのマネージャー(ヨッシーっていうの)が、
美希ちゃんや春香ちゃんの事務所のプロデューサーさんと昔からの知り合いらしいんだけど…
なんと今回、そのよしみで↑の映画のチケットをただでもらえたんだって!^^

ちょうど6人分あるから、皆で観に行こー!
美希ちゃんや春香ちゃんの晴れ姿を皆で拝むのだ☆

じゃあそんな感じで、皆の都合とかまた教えてねー!
よろしく♪


ミサミサ@映画はまだ出演オファー無し。。。

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月「…………」

月(いいぞ、弥海砂……これで僕の方から集合を持ち掛けるまでもなく、自然な形で接触することが可能になった)

清美「『眠り姫』……って、確か今、観客動員数がすごいって話題の映画よね?」

月「ああ。このままのペースでいけば、今年度最高動員数となるのはほぼ間違い無いだろうって言われてる」

清美「そんなすごい映画に出演しているような人達と、当の映画を一緒に観に行くなんて……なんだかすごく不思議な感じね」

月「本当にね。まあでもタダ券があるようだし、行かない手は無いね」

清美「ええ、そうね。海砂さんにはよく御礼を言っておかなくちゃ」

月「そうだね……ん?」

清美「? どうしたの?」

月「……ごめん。何でもないよ」

清美「? そう?」

月「…………」

(自然な仕草で携帯の画面を確認する月)


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From:弥海砂
To:夜神月

件名:ライトくんへ


えへへ

さっきは一応皆にお誘いしたけど、
ミサが今一番会ってお話ししたいって思ってるのは実はライトくんなんだよ
これっていったいどういう意味なんだろうね?笑


……なーんて、続きは会ってからのお楽しみねっ!


ミサミサ@アイドルは恋愛禁止?そんなの関係ねぇ!笑

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月「…………」

清美「夜神くん? あ、そういえば用事って……」

月「……ああ、そうだった。流石にそろそろ行かないと……ごめんね。高田さん」

清美「いえ、こちらこそ引き留めてしまってごめんなさい」

月「それとさっきは、貴重なご意見ありがとう。とても勉強になったよ」

清美「いえ、そんな……あれは前置きしたように、あくまで私個人の考えでしかないから……」

月「いや、流石はキラ事件関連のニュースを研究している高田さん……とても説得力のある意見で、大変参考になったよ。……ああ、それと……」

清美「? 何?」

月「もしよかったら、今後もまた、高田さんの隣で講義を受けさせてもらってもいいかな?」

清美「えっ?」

月「もちろん、お邪魔でなければ……だけど」

清美「! そ、そんな……お邪魔なんて、そんなことあるわけ……こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

月「ありがとう。ではこれからも、お互いの目標に向かって頑張っていこう。じゃあまた明日」

清美「は、はい! また明日」

(清美と別れ、東応大学を後にする月)

月「…………」

月(この僕個人宛のメール……間違い無い。弥海砂は既に僕に好意を持っている)

月(これならもうすぐにでも……それも僕の方からアプローチをするのではなく、弥海砂からということであれば……)

月(仮にこのことが星井美希に伝わっても何ら問題は無い。弥の方から僕にアプローチをしてきている以上、この状況で僕の方が弥に探りを入れようとしているなどと疑えるはずもない)

月(そして高田清美……いきなり告白してきたのは多少面食らったが……あの女と今後も大学で定期的に接触できるのは都合が良い)

月(かなりプライドの高そうな女ではあるものの……自分が認めた相手には従順に尽くすタイプとみえる。そうであれば、ああして僕の方から今後も接点を持ち続ける意思を示した以上、告白を断られたこと自体はさほど気にはしていないだろう)

月(弥海砂、そして高田清美……最終的には、キラ信者という特性を持つこの二人のうちのいずれか、または双方を意のままに動かし、キラ……星井美希と天海春香から、キラとしての直接的な証拠を得る……!)

月(僕や竜崎、父を含め……捜査本部の大多数の者がいつキラに殺されてもおかしくない状況にある以上、後はもう時間との戦い……)

月(大丈夫だ……僕ならできる)

月(キラに殺される前に、キラを捕まえてみせる)

月(……必ず!)

(ミキ出なかったけど)一旦ここまでなの

【一週間後・春香の自室】


(勉強休憩中の月と春香)

月「合宿?」

春香「はい。ライブに向けての全体練習に特化した合宿で、バックダンサーをやってくれるアイドル候補生の人達ともダンスを合わせる予定なんです」

月「へぇ。いつ行くの?」

春香「再来週の水曜から四泊五日で行く予定です」

月「じゃあ学校も休んで行くんだね」

春香「はい。……で、またまたで申し訳ないんですけど、その週は家庭教師をお休みにして頂けないかと……その週は他の日もお仕事で埋まっちゃってまして……」

月「ああ、それはもちろん。仕事優先でいこう」

春香「なんかすみません……こんなのばっかりで」

月「いやいや、気にしないで。4月から家庭教師を始めてもう二か月になるけど、春香ちゃんの学力は着実に上がってるしね」

春香「! 本当ですか?」

月「ああ。この調子なら、当初の志望より大分上のランクの大学にも手が届くと思うよ」

春香「やったぁ。よーっし。じゃあ今から一層頑張っちゃいますよ!」

月「その意気だ。今日は午後からのお楽しみもあるし、集中してあと一時間頑張ろう」

春香「はい!」

月(合宿、か……そこまで尾行……は流石に危険か。場所にもよるだろうが……)

月(まあ今はいいか。とりあえずは今日この後――……)

月「…………」

春香(はぁ……今日も進展は無いなあ。やっぱり警戒されてるのか、隙が無いなぁ)

春香(まあでも仕方無いか。私もキラ容疑者の一人に入ってるのは間違い無いだろうし……多分お父さん……夜神総一郎からそう聞いてるんだろうな)

春香(だからこそ、私としてはそこからLの正体を探りたいんだけど……)

春香(今のところ、ライトさんから何か情報を得るのは難しそうだし……ちょっと違う方法を考えた方が良いかな……)

春香「…………」

【同日午後・都内某映画館前】


美希「あれ? 竜崎」

L「こんにちは。美希さん」

美希「もう来てたの? 随分早くない?」

L「いえ。つい一時間前に着いたところです」

美希「ミキ的には十分早過ぎって思うな」

L「なんといっても春香さんの晴れ姿を拝める機会ですからね。精神統一の為に必要な準備時間です」

美希「……一応ミキも出てるんだけどね。それもけっこーなメインどころで」

L「もちろん知っています」

美希「なら許すの」

L「ありがとうございます」

美希「あっ、そうそう。あれからね、パパが竜崎のことすごく気に入っちゃって」

L「えっ」

美希「是非ミキのお婿さんに来てほしい、って」

L「!?」

美希「なんてね。ウソなの。あはっ」

L「…………」

L(しまった。二人の間でそんな会話がされているはずが無いことは分かっていたのに……不意打ち過ぎて少し動揺してしまった)

L(しかし今の揺さぶり……まさか父親との会話を聴かれていることを見抜いた上で……? いや、いくらなんでもそれは無いか)

L(これもやはり『天才アイドル』ゆえの天性の嗅覚というところか……)

L(本当に読めないな……星井美希)

L(だがここはとりあえず“竜崎ルエ”として相応しい反応をしておかなくては……)

L「……良かったです」

美希「え? なんで?」

L「私は春香さんのファンですから。申し訳ありませんが美希さんと結婚することはできません」

美希「今ミキ生まれて初めてフラれたっぽいの」

海砂「やっほおー」

清美「こんにちは」

美希「海砂ちゃん。高田さん。こんにちはなの」

L「こんにちは」

美希「二人は一緒に来たの?」

海砂「うん。駅の改札出たとこで会ってね。清美ちゃん女王様オーラあったからすぐ分かったわー」

清美「じょ、女王ってなんですか! 失礼な……」

海砂「えー。褒めたつもりだったのに。で、ライトくんと春香ちゃんはまだかな?」

美希「うん。午前中が春香の家庭教師だから、その後一緒に来るって」

海砂「! つまり同伴……!」

L「発想がやらしいですね。ミサさん」

海砂「な、何よ! あなたこそヤキモチやいてるんじゃないの? 春香ちゃん、ライトくんに取られちゃってさ」

L「いえ。二人はただの家庭教師と生徒の関係ですし、私の無二の親友である月くんとアイドルである春香さんとの間に間違いなど起こるはずもありませんので」

海砂「あ、ああ……そう……」

美希「…………」

清美「でも二人で一緒にいるとマスコミとかメディアに嗅ぎ付けられたりしないのかしら? アナウンサー志望の私が言うのも何ですけど……」

美希「それは多分大丈夫なの。変装してたら結構ばれないし」

海砂「確かに……私達は見慣れてるからすぐ美希ちゃんって分かるけど、知らない人から見たら案外分からないかもね。今日みたいに帽子と眼鏡姿だと」

美希「あはっ。伊達眼鏡だけどね、これ」クイッ

清美「そういえば、海砂さんは変装しなくて大丈夫なんですか?」

海砂「えっ? ミサ? ミサはほら、まあなんていうかその場その場でアイドルオーラ消したりできるし?」

L「ミサさんはまだ春香さんや美希さんほどには売れていないのでそこまでする必要が無いということです」

海砂「はっきり言わないでよ!」

清美「あ、その……ごめんなさい」

海砂「清美ちゃんも謝らなくていいから! かえって傷付くから!」

春香「こんにちはー」

月「もう皆来てたんだ」

海砂「もー! ライトくん遅いよー!」

月「すみません。思ったより時間が掛かってしまって」

L「家庭教師が長引いたんですか?」

月「いや、予定通りに終えたつもりだったんだが……電車の乗り換えの度に少しずつ遅れていったのかも」

美希「春香の家は遠いから仕方無いの」

清美「そうなんですか?」

美希「うん。都内まで電車でだいたい二時間くらい」

海砂「二時間!?」

清美「それはまた大変ですね……」

春香「いやまあ、慣れたらそうでもないですよ? 朝早い時間だと電車も混んでなくて座れますし……」

美希「ミキならよゆーで寝過ごしちゃうの」

春香「美希は立ってても普通に寝そうだもんね」

美希「春香はミキのことバカにし過ぎって思うな」

海砂「はーい。じゃあ全員揃ったことだしチケット配るよー」

美希「あはっ。なんか海砂ちゃん、遠足の時の学校の先生みたいなの」

春香「でも今更だけど……これ、私達がもらってもいいのかなあ? 元はプロデューサーさんが海砂さんのマネージャーさんにあげた物らしいけど……」

美希「まあいいんじゃない? そこはあんまり深く考えなくても」

海砂「そうそう。どうせ誰かが観に行くんだしさ。気にしない気にしない」

春香「うーん……分かりました。海砂さんにそう言って頂けるのなら」

清美「それにしても楽しみです。今一番話題の映画を、まさかそれに出演している方達と一緒に鑑賞できるなんて」

春香「い、いえ、そんな……今日は私も一観客のつもりで来ていますので……」

美希「そうそう。ミキも春香も、今日はただのお客さんなの」

海砂「でも二人とも、映画館で観るのは今日が初めて、ってわけではないんでしょ?」

春香「あ、はい。事務所の皆とはもちろん、両親や、学校の友達とかとも観に行きましたし……なんやかんやで五回くらいは観てますね」

海砂「へー、やっぱりそれくらいは観てるんだ。美希ちゃんも?」

美希「んーと。ミキも学校の友達とも観たりしたから……今日で三回目かな」

清美「やっぱりそれなりに観てるんですね。ごめんなさい、私は今日が初めてで……」

春香「いやいや、高田さん。それが普通ですから」

海砂「まあまだ公開して二週間くらいだしね。ミサも今日が初鑑賞だし……ヨッシーからもらったこのチケットで皆と観に行くつもりだったからだけど」

美希「竜崎は? 春香の大ファンなんだし、もう四、五回くらいは観てるとか?」

L「私は今日で十七回目です」

美希「!?」

春香「じゅ……え?」

海砂「想像の斜め上をいくわね……てかそれ一日一回以上観てる計算になるじゃん……」

L「はい。ちなみに舞台挨拶があった回にも四回行っています。そのうち春香さんとは二回、美希さんとは一回お会いしています」

春香「そうだったんですか……全然気付いてなかったです」

L「無理もありません。いずれも大きな映画館でしたし、私は後ろの方の席でしたから」

美希「ていうか、それなら前もって言っておいてくれたらミキ達も探せたのに」

L「それも考えましたが、私はあくまで春香さんと、あと一応美希さんの一ファンとして映画館に赴いていましたので……お二人との個人的なつながりを使うのはファン道に反するような気がしてやめました」

美希「……一応って……」

清美「じゃあ夜神くんも竜崎さんと一緒に観に行ったの?」

月「ああ、最初の一回目だけね。竜崎はまだ人の多い場所は苦手だろうと思ったから、念の為についていったんだ。そしてもちろん僕自身、春香ちゃんと星井さんの晴れ姿を早く見ておきたいという気持ちもあったしね」

清美「そうだったのね」

月「でも不安は杞憂に終わり……結果的に、前の学祭の時に、ステージの上で海砂さんに面を取られ、大勢の人達の前で素顔を晒したのが荒療治になったんだろうね。もう竜崎は人の多い映画館でも、面を着けなくても至って普通に過ごせるようになっていたよ。だからその後は特に付き添いはしていない」

海砂「なるほどね。……で、竜崎さんはそこからさらに十五回も観に行ったと……」

L「はい。おかげでほぼ全てのシーンの台詞を暗唱できるまでになりました」

春香「な、なんか……ありがとうとしか言えないのがもどかしいですけど、ありがとうございます」

L「私には勿体無いお言葉です。春香さん。むしろお礼を言わなければならないのは私の方です。こんなにも素晴らしく感動的な映画を――……」

海砂「はいはい、ここにはまだ観てない人もいるんだから、そういう内容に踏み込んだやりとりは観終わった後で! ね?」

L「それもそうですね。すみません」

春香「あはは……」

美希「…………」

海砂「よーし。じゃあ、早速中に入りましょっ!」

【映画館/シアター内】


(映画『眠り姫』を鑑賞している六人)

(劇中)美希『みんな消えちゃえばいいって思うなっ!!』ドォオオオオン

(劇中)千早『あれが、アイドルの力だというの!?』

海砂(美希ちゃんの演技、すごっ……こりゃハリウッドに呼ばれるのも納得だわ)

清美(すごい迫力……演出の効果もあるんでしょうけど、このゆるい感じの子がこんな演技をするのね)チラッ

美希「…………」

(劇中)美希『待ってたよ、春香……』

(劇中)春香『帰ろう? 美希。ここは私たちの居ていい所じゃない』

海砂(いよいよクライマックスかな)

清美(天海さんの演技も光っているわね)チラッ

春香「…………」

(劇中)伊織『一体、アイドルって何なのよ……』

リューク「なあ、レム。俺もミキの撮影の時からずっとこの映画観てるけど、未だによく分からないんだよな。結局この映画でいう『アイドル』って何なんだ?」

レム「人が真剣に観てる時に急に話し掛けて来るなよ……。順にストーリーを追っていれば普通に分かるだろう」

リューク「それが分からないから聞いてるんだろ。ていうかお前も飽きるほどこの映画観てるはずなのによく今更真剣に観れるな」

レム「……ハルカのアイドル活動を見届けるのは私にとっては使命のようなものだからな」

美希(普通にアイドル映画談義する死神ってシュール過ぎるの)

春香(聞こえてないふりしないといけないせいもあってか、なんか妙に気恥ずかしい……)

(劇中)美希『この力……! お前もアイドルの器を持っているというの!?』

(劇中)亜美真美『だめ! 新たな眠り姫が生まれてしまう!』

海砂(亜美真美ちゃんもかわいいなー)

清美(765プロの子達って皆普通に演技もできるのね……すごいわ)

(劇中)春香『千早ちゃんなら、大丈夫』

(劇中)千早『春香。私、アイドルになるわ!』

(劇中)千早『私、あなたのこと忘れない……!』

リューク「なあ、レム。コレって、ハルカとチハヤが合体したってことでいいんだよな?」

レム「厳密に言うと少し違う。ハルカのアイドルとしての存在がチハヤの内に取り込まれたんだ。ほら見ろ、チハヤの目の色が片方だけハルカのイメージカラーである赤色に変わっているだろ」

リューク「あっ。ホントだ。お前よくこんなの気付けるな」

レム「つまりこれはハルカのアイドルとしての力をチハヤが取り込み、新たなアイドルとしてデビューしたということを意味しており……」

美希(もうレムは映画評論家にでもなればいいって思うな)

春香(むしろ何でレムは死神やってるんだろう)

月「…………」

月(弥海砂はもうすぐにでもこちら側に引き込めるとして……後はタイミングとシチュエーション)

L「…………」

L(二人とも、やはり大人数で集まっている時にはボロを出さないな……。しかし相沢と松田の尾行捜査にも限界がある)

月(いずれにせよ)

L(早く決着をつけなければ……)

月・L「…………」

【映画『眠り姫』上映終了後・映画館近くの喫茶店】


海砂「あーっ! すごい良かった~。ミサ、絶対あと三回は観る!」

清美「私も……一回観ただけだとよく分からなかった所が結構あったから、もう一回は観たいですね」

海砂「あっ。じゃあ清美ちゃん、私と一緒に行く?」

清美「…………前向きに検討させて頂きます」

海砂「何その間!?」

清美「でも本当に素晴らしい映画でした。天海さん、星井さん」

春香「ありがとうございます。高田さん。そう言って頂けると嬉しいです」

美希「ありがとうございますなの」

海砂「同時上映の『ハム蔵のだいぼうけん』も面白かったしね。あとこれ、『光る! おにぎりエンブレム』! もすごくかわいーし」

美希「でしょ? ミキもお気に入りなの」

海砂「あっ。でもこれ、竜崎さんはもう十七個目……?」

L「はい。全部ちゃんと家に飾っています」

海砂「そ、そうなんだ……」

清美「でも何でおにぎりなのかしら?」

美希「ミキがおにぎり好きだからなの」

清美「えっ。そんな理由で?」

美希「そうなの」

春香「普通に考えたら主人公の千早ちゃんなんですけどね……でも千早ちゃんってこれといって分かりやすい好物が無いから」

海砂「なるほどね。でもそれなら準主人公的なポジションの春香ちゃんでも良さそうだけど」

春香「私も特にそういう好物って無いので……作るのは好きなんですけどね。お菓子とか」

月「ああ。春香ちゃんのお菓子は絶品だからね」

海砂「えっ! ライトくん食べたことあるの?」

清美「! …………」

月「ええ。家庭教師の時、勉強の合間の休憩中に頂いてます」

海砂「あ、ああ……そういうことね」

清美(手作りのお菓子……! そうか、そんな手もあるのね……!)

L「……春香さんの手作りのお菓子を頂いているなんて羨ましいです。月くん」

海砂「あ、そこは普通に羨ましがるんだ」

L「私は春香さんの手作りのお菓子が食べられるなら死んでもいいとさえ思っていますから」

春香「竜崎さんにそれ言われると重いんですけど!? ていうか、お菓子くらいなら今度作って持って来ますよ」

L「! 本当ですか」

春香「はい。でも死んだらだめですからね?」

L「はい。大丈夫です。春香さんの手作りのお菓子が食べられるなら絶対に死にません」

月「お前、さっきと言ってることが……いや、まあいいが……」

美希「…………」

海砂「どうかしたの? 美希ちゃん」

美希「ううん。なんでもないの」

海砂「そう? じゃあ春香ちゃんがお菓子作って来てくれるんなら、次は皆でピクニックにでも行こうか! あ、それか遊園地とかの方がいいかな?」

月「どちらもいいですね。是非行きましょう」

海砂(そしてその時までにミサはライトくんと……!)

清美(手作りお菓子……ピクニック……遊園地……夜神くんと……)

春香「あ、でも私と美希はライブに向けての合宿があるから……その後くらいの時期でもいいですか?」

海砂「もちろん! ていうか合宿なんてあるんだ。すごいね。どこ行くの?」

春香「福井です」

美希「民宿に泊まって、練習はすぐ隣にある市民会館でやるの」

海砂「いいな~楽しそう!」

清美「全体の総仕上げのような形でやるんですか?」

春香「そうですね。あと、バックダンサーの人達ともダンスを合わせる予定なんです」

海砂「そっか。今回のライブはバックダンサーも入れるって言ってたもんね。いいなあ、ミサもバックダンサーでいいから呼んでくれないかなあ」

L「……この前の学祭のライブを観る限り、ミサさんはダンスの方はそんなに得意そうには見えませんでしたが」

海砂「地味に傷付く!」

月「まあ海砂さんのダンスはさておき、話を『眠り姫』に戻そうか。折角今回こうして皆で一緒に鑑賞できたわけだし、各自の好きなシーンを順番に挙げていくっていうのはどうかな?」

海砂「ライトくんもひどい!?」

L「そうですね。では早速ミサさんからお願いします」

海砂「……ぐすん、いいもん。ちゃんと言うもん。えっと、ミサの好きなシーンはね……うん。やっぱり、『眠り姫』だった美希ちゃんが目覚めた後のバトルシーンで――……」

【三十分後・喫茶店前の路上】


月「では今日はこのへんで。海砂さん、また次のセッティングもお願いします」

海砂「はーい! まっかせといってー! 『竜崎と愉快な仲間達』の代表幹事・弥海砂にお任せあれ!」

L「……結局、サークル名はそれになったんですね」

美希「ミキ的にはまあ何でもいいんじゃないかなって思うな」

L「美希さんももう少し関心を持って下さい」

美希「ミキは細かい事にはこだわらないタイプなの」

春香「まあこれはこれで、慣れてきたらしっくりくるような気もするけどね」

海砂「でしょ? 流石春香ちゃん。違いの分かる女だわ」

L「皆さんがそれでいいなら私も別に構いませんが」

海砂「おっと。もうそろそろ事務所戻んないと……この後CM撮影なのに、またヨッシーに怒られちゃう」

美希「海砂ちゃんお仕事頑張ってなの」

海砂「ありがとう美希ちゃん。またお茶しよーね」

美希「はいなの!」

L「では私達も行きましょうか。月くん」

月「ああ。そうだな」

清美「じゃあ夜神くん。また明日、講義で」

月「うん。よろしく。高田さん」

清美「あ、それと……天海さん」

春香「? はい。何でしょう。高田さん」

清美「あ、えっと……その……」

春香「?」

清美「あ、後で、その……メールを送らせて頂いてもいいですか?」

春香「? メール……ですか?」

清美「ええ」

春香「はい。それはもちろん」

清美「! 良かった。それではよろしくお願いしますね」ペコリ

春香「? え、ええ。……えっと、じゃあ途中まで一緒に帰ろっか。美希」

美希「うん」

清美(やったわ。これで……)

海砂(よーし。早速今日の夜にでもライトくんに……)

清美・海砂(……ふふふ……)

月「…………」

(L、月、海砂、清美と別れた後、並んで家路を歩いている美希と春香)

春香「それにしてもすごいよね。竜崎さん」

美希「……え?」

春香「だって十七回だよ? 事務所宛てのファンレターでも『十回観ました』って書いてきてくれた人はいたけど」

美希「……あー」

春香「それに皆が『あのシーンが良かった』って言うと、すぐに『それは誰々がこの台詞を喋っていたシーンですね』って言って、台本通りの台詞喋っちゃうし」

美希「…………」

春香「多分竜崎さんって、普通の人より記憶力が良いんだろうね」

美希「…………」

春香「普通、いくら十七回観たっていっても、あそこまで完璧には覚えられないもの。私達だって何十回も台本読んでるけど、流石に他の人の台詞をあそこまで正確には覚えてないしね」

美希「…………」

春香「美希? どうかしたの?」

美希「……春香」

春香「? 何? 美希」

美希「…………」

美希(違うの。春香)

美希(竜崎が台詞を完璧に覚えるくらいにまでミキ達の映画を観ているのは……ミキと春香をキラとして疑っていて、その捜査をしているから)

美希(ミキと春香に探りを入れるために、“竜崎ルエ”というキャラクターを演じているからなの)

美希(だからね、春香)

美希(竜崎は――……)


――春香のファンなんかじゃ、ないの。


美希「……なんでもないの」

春香「? 変な美希。まあ、なんでもないならいいけど……」

美希「…………」

春香「じゃあ今日はこのへんで。合宿も近いし、頑張ろうね! 美希」

美希「うん。頑張ろうね。春香。じゃあまた明日」

美希「…………」

美希(あの学祭の日以来、Lの事についてはほとんど話していない)

美希(春香はもう竜崎の事をほとんど疑っていない……しかもそれは今日の件で一層強まったような気がする)

美希(こんな春香に『やっぱり竜崎はLかもしれない』なんて言ったら……)

美希(それを否定するために……否定するための根拠を探すために……どんな無茶な行動に出るか分からない)

美希(だからこのことは春香には言えない)

美希(ミキが……ミキが一人で、なんとかするしか……)

美希「…………」

一旦ここまでなの

(春香と別れた後、家路を歩いている美希)

美希「……ところで、リューク」

リューク「ん? 何だ? ミキ」

美希「……今日は、どう?」

リューク「……ああ。昨日までと同じ……だな」チラッ

リューク「……かなり距離を取ってはいるが、相変わらずつけてるな」

美希「……同じ人?」

リューク「多分な。……とはいっても、これも昨日までと同じ、帽子を目深にかぶった上にサングラスとマスクのフル装備……これなら正直言って、似たような背格好の奴なら入れ替わっていても分からない」

リューク「それにここまでされちまうと、流石に俺の死神の目にも名前も寿命も映らない。……もっとも、仮に名前が見えたところで、俺はそれをミキに教えることはできないわけだが……」

美希「…………」

リューク「……それにしても……」

美希「? 何? リューク」

リューク「いや……こうしてミキがつけられていることに気付いてからもう一か月近くになるが……正直言って、いい加減ウンザリだと思ってな。そいつに俺は見えていないが、いつも見られてる気分だからな」

美希「……ワガママ言わないの。顔さえ見えてれば、春香の死神の目で名前を見てもらうこともできなくはないけど……顔が見えない以上はそれもできない。今のままじゃ、どうやったって殺せないの」

リューク「……ククッ」

美希「? 何?」

リューク「いや……最近のミキは、犯罪者以外に対しても普通に『殺す』って言うようになったなあ、って思ってな」

美希「…………」

美希(ただそうは言っても、実際のところは……顔が見えていようが見えていまいが、今の状態でミキをつけている人を殺すわけにはいかない)

美希(もし今そんなことをしたら、『ミキがキラです』って言うようなものなの)

美希(だからどちらにしても、今のミキには何もできない。ただ普通に、何も知らないふりをしたまま行動するしかない)

美希(ただでも、気になるのは……ミキをつけている人が『顔を隠している』ということ)

美希(前に事務所に聞き取り調査に来た刑事……夜神月の父親の、夜神総一郎。……そしてもう一人の大柄な体格の刑事……春香が死神の目で見た名前によると『模木完造』っていうらしいけど……)

美希(この二人は偽名を使ってはいたものの、普通に顔を晒して、ミキ達の前に『キラ事件の捜査をしている刑事』として姿を現した)

美希(これは『キラが人を殺すには顔と名前が必要』と考えていたから……つまり『顔を見られても名前が偽名なら殺されない』と考えていたからとみるのが自然)

美希(しかし今、ミキをつけている人は顔を隠している……)

美希「…………」

美希(春香が殺したアイドル事務所の関係者の中には、芸名で活動していて、本名がすぐには分からない人もいた)

美希(それに去年のファーストライブの日に死んだ春香のファンの人も……普通に考えて、春香がその時に名前を知ることができた可能性が高いとはいえないはず……)

美希(だからもしLが、この人達も『キラの能力によって殺された可能性がある』と考えていたとしたら……この人達は『本名が分からなかった可能性があるにもかかわらず、キラの能力によって殺された人達』ということになる……)

美希(だとしたら……Lが『キラは顔だけでも人を殺せる』ということに気付いている可能性は十分にある)

美希(そう考えれば、今ミキをつけている人が顔を隠していることや……キラ事件の捜査をしているであろう竜崎が、最初は面を着けた状態で東大の学祭に来ていたらしい、ってこととも辻褄が合うの)

美希「…………」

リューク「でもミキにこれだけずっと尾行がついてるってことは……普通に考えて、ハルカにもついてるよな?」

美希「そうだね。ミキの推理が間違ってなければ、春香もミキと同じくらいにはLから疑われてるはずだから」

リューク「じゃあやっぱり、ハルカにも『尾行がついている可能性がある』って教えてやった方がいいんじゃないか?」

美希「ううん、それはいいの。春香がミキと同じくらいの頃から尾行されてるとしたら、もう一か月近くになるわけだし……だとしたら、春香自身は気付けなくても、レムは絶対気付いてると思うの。それでレムの性格なら、気付いた時点ですぐに春香に伝えてると思うの」

美希「リュークでさえ『見られているような気がして気持ち悪い』って気が付いたくらいなんだし……レムはリュークとは違って、純粋に春香の事を心配してるからね」

リューク「……でさえ、ってお前……。それに前にも言ったが、俺はミキの敵でも味方でもないからな」

美希「だから……それならあえて、ミキの方から春香に伝える必要は無いし……それにミキがそんなことを伝えたら、春香はきっと『ミキも尾行に気付いていて、不安になっている』って思って、またミキの事を心配しちゃうの」

美希「もうこれ以上、春香に心配は掛けられないからね」

リューク「じゃあ逆に、ハルカがミキに尾行の事を伝えてこないのも同じ理由か? 『ミキにも尾行がついているかもしれない』なんて言おうものなら、またミキが不安になるから、っていう……」

美希「多分ね。実に春香らしいの」

リューク「……なるほどな」

美希「それにミキ的には……尾行よりも心配なことがあるの」

リューク「? 何だ? それは」

美希「尾行はミキも……そしてきっと春香も……既にそれに気付いている以上は、どうやってもボロは出さないの」

リューク「まあそうだろうな。外でデスノートを使ったり、つけてる奴を殺したりしない限りはまず大丈夫だろう」

美希「うん。だからそれは大した問題じゃなくて……ミキが気になってるのは……夜神月の事なの」

リューク「? 夜神月? 竜崎じゃなくてか?」

美希「うん。竜崎はキラ事件の捜査をしている……まあ正確には『していた』かもしれないけど……でも今日の映画の件からしても、あそこまで“竜崎ルエ”というキャラクターを完璧に演じようとしているところからすると……今も『している』とみてほぼ間違いないと思うの。……彼がL本人かどうかは別にしてもね」

美希「そして夜神月は……その竜崎と『完璧なまでに』会話を合わせている。つまり普通に考えて―――竜崎と夜神月は、グルなの」

リューク「……いや待てよ、ミキ。竜崎が身分を偽って夜神月に接触したっていう可能性もあるんじゃないか? お前やハルカに対してそうしたみたいに。つまり夜神月は何も知らないってことも……」

美希「ううん。それは無いの」

リューク「? 何でだ?」

美希「竜崎がキラ事件の捜査をしているのなら……同じくキラ事件の捜査をしている、夜神月の父親の夜神総一郎とも既に顔見知りだった可能性が高いの」

美希「キラ事件の捜査本部に居たミキのパパと竜崎が顔見知りだったのと同じようにね」

リューク「ああ、確かに」

美希「だとしたら、普通に考えて……既にキラ事件の捜査の関係で知っている人の息子に、わざわざ『キラ事件の捜査をしている』ということを伏せて接触したりすると思う?」

リューク「…………」

美希「もちろん、リュークがさっき言ったように、竜崎からみれば、『既にキラ事件の捜査の関係で知っている人の子ども』っていう、ほとんど夜神月と同じ関係にあたるミキに対してはそうしたわけだけど……でもそれは、ミキをキラとして疑っていたから」

美希「だから竜崎が夜神月もキラとして疑っているなら、ミキに対してしたのと同じように、身分を偽って接触してもおかしくないのかもしれないけど……現状、特に夜神月が疑われる理由は無いはずなの。まあ実際、彼はキラじゃないんだから当たり前なんだけど」

リューク「……じゃあ、何で竜崎は夜神月に接触したんだ? わざわざややこしい嘘の片棒を担がせてまで」

美希「あはっ。リュークったら、もうほとんど自分で答えを言っちゃってるの」

リューク「?」

美希「『わざわざややこしい嘘の片棒を担がせてまで』、竜崎が『既にキラ事件の捜査で知っている』夜神総一郎の息子に接触する理由……そんなの、一つしか考えられないの」

美希「――それはつまり、『夜神月にもキラ事件の捜査に協力してもらう』って事なの」

リューク「! …………」

美希「元々、東大を首席で合格するくらい頭の良い人だし……その上、将来は警察志望。それに何と言っても、既にキラ事件の捜査本部に入っている刑事局長の息子さんなワケだから、素性も確かだしね」

美希「ここまで条件が揃えば、竜崎じゃなくても目を付けるのがフツーなんじゃないかなって思うな」

リューク「……じゃあ夜神月も竜崎と同じく、既にキラ事件の捜査本部に居て……ミキやハルカをキラとして疑っているってわけか」

美希「うん。おそらくね」

リューク「……待てよ。じゃあ夜神月がしているハルカの家庭教師はどうなるんだ? あれもキラ事件の捜査の一環ってことか?」

美希「ううん。あれはやよいと粧裕ちゃん経由で春香の方から頼んだはずだから、偶然の一致だとは思うけど……でも夜神月からしたら、その偶然を利用して春香に探りを入れようとしているのはまず間違い無いと思うの」

美希「だからミキ的には、尾行よりもこっちの方が心配なの。……まあそうは言っても、竜崎の件を言えない以上、夜神月の事も春香には言えないんだけどね」

リューク「……なるほどな。でもそうすると、現状で分かっている範囲では……竜崎、夜神総一郎、夜神月、そしてお前の父親……が、キラ事件の捜査をしている連中、ってことになるのか」

美希「うん。まあパパは今もそうなのか分かんないけどね。あと、夜神総一郎と一緒に事務所に来た模木って人もその中に入るの」

リューク「ああ、そうか。そしてこの中にLがいるのか、または全然別の奴がLなのか……ってことか」

美希「流石にパパがLってことは無いだろうけど……でも、夜神月がLっていう可能性は意外とあるかもね。今リュークに言われて気付いたけど……彼の方が竜崎よりも先に捜査本部に居たっていう可能性も、それはそれで十分にあるの」

リューク「……ククッ。まあ誰がLであろうと、今言った奴らはもう全員顔も名前も分かってるんだ。いっそ皆殺しにしちまったらどうだ? 今ミキをつけている奴だって、既にミキに顔を知られているからこそ隠しているのかもしれないだろ?」

美希「……そうだね」

リューク「えっ」

美希「……なんてね。もしそんなことして、今言った人達の他に、ミキが顔も名前も知らない人が捜査本部に居たら一発アウトなの。だからそんな危険な事するわけないの」

リューク「…………」

美希「? どうしたの? リューク」

リューク「……いや……」

リューク(てっきり『何があっても自分の父親は殺せない』とでも言い出すのかと思ったが……いや、以前のミキなら確実にそう言っていただろうが……)

リューク(今はそこまで現実的な問題として考えていないだけだとしても……しかしいずれ、そう遠くない未来に……)

リューク(父親の命と仲間の命……そのどちらかを選ばざるを得なくなった時……)

リューク(こいつは一体、どういう選択をするのか)

リューク(映画はもう見飽きたが……現実の方の『眠り姫』はまだまだ見応えがありそうだぜ。……ククッ)

(美希と別れた後、家路を歩いている春香)

春香「……どう? レム。今日もいる?」

レム「ああ。いるね。いつもと同じ、帽子にマスク、サングラス……明らかに不審者って出で立ちの男がハルカをつけている。相変わらず、距離はかなり取っているがね」

春香「……そっか。まあ私もキラ容疑者の一人ではあるからね。仕方ないっちゃ仕方ないね」

春香(でも美希は別にしても、それ以外のキラ容疑者って765プロの関係者全員と……後は美希の去年のクラスメイトの人達……だよね)

春香(それだけの人数を相手に毎日尾行を……ってなると、キラ事件の捜査本部って実は相当大所帯なのかな……?)

春香(まあいずれにしても……特に不審な動きをしない限り、私は『その他大勢』に埋もれたままだろうし……そこまで気にすることでもないけど)

レム「なあ、ハルカ」

春香「? 何? レム」

レム「ハルカがLに疑われる理由があるとすれば、前のプロデューサーの件だけ……そんなハルカにまで尾行がついているってことは、当然、ハルカ以上にキラとしての疑いを掛けられているであろうミキにも……」

春香「うん。ついてるだろうね」

レム「……いいのか? そのこと、ミキに教えてやらなくて……」

春香「いいよ。前の監視カメラの設置から四か月以上が経って、美希もようやく普通に日々を過ごせるようになってきてるのに……ここでまた『美希にも尾行がついていると思うから気を付けて』なんて言ったら……また美希を不安にさせちゃうからね」

レム「そうか。それならいいが……いや、待てよ。ミキ自身が気付いていなくても、リュークの方が先に気付いていて、既にミキに伝えているという可能性はあるか……?」

春香「ううん。それは無いよ」

レム「? 何でだ?」

春香「もしそうなっていたら、美希は不安を覚えて必ず私にそのことを伝えに来ているはずだからね」

春香「それが無いということはリュークも気付いていないか……または気付いていても美希にはそれを教えていないってこと」

春香「リュークは前々から『自分は美希の敵でも味方でもない』って言ってたからね。後者の可能性も十分あると思う」

レム「なるほど」

春香「それに美希だって、尾行に気付いていないとしても、外で不用意にノートを出したりなんかするはずが無いしね。結局のところ、こっちが普通に行動している限りはキラとしての証拠なんて掴まれるわけないんだから……わざわざ不安を煽る必要は無いよ」

春香「もうこれ以上、美希を不安にさせたくはないからね」

レム「……分かった。お前がそこまで考えているのなら、私はもう何も言わないよ。ハルカ」

春香「うん。ありがとう。レム」

春香「ん? ……メールだ」

春香「高田さんから? ああ、そういえば『後でメール送ります』とかって言ってたっけ。何々……『今度、お菓子作りを教えてもらえませんか』……?」

レム「そういえば今日話題になっていたな。ハルカの作る菓子のこと」

春香「…………」

春香(高田さん……ライトさんと同じ大学の人……)

春香(そういえばライトさん、今日の別れ際……高田さんに『また明日、講義で』って言ってたな。あの二人、実は結構仲良いのかもしれない)

春香(だとしたら、高田さんからライトさんに探りを入れてもらうよう、それとなく仕向けてみる……?)

春香(ただそうは言っても、私の最終目的はLの正体を掴むこと……そしてその足がかりはライトさんじゃなくてそのお父さんなわけだから、大分遠回りにはなるけど……)

春香(でも正直なところ、今の家庭教師の時間だけじゃ、なかなか私からライトさんに今以上には踏み込めそうにないし……)

春香(……うん。今はLにつながる可能性があるルートは少しでも多く確保しておくべき)

春香(それにLの件は別にしても、アナウンサー志望の高田さんと今のうちに親交を深めておくことは……私自身にとってはもちろん、765プロ全体にとってもプラスになるだろうしね)

春香「……よし。そうと決まれば……『もちろんいいですよ』……っと。送信! えへへっ」

レム「楽しそうだな。ハルカ」

春香「……まあね。もちろん、美希の為にも……『早くLの正体を掴みたい』とは思ってるけど……」

レム「…………」

春香「そのことを別にしても……最近、すごく充実してるんだよね。『眠り姫』が大ヒットなのはもちろん嬉しいし、アリーナライブに向けての合宿ももうすぐだし……」

春香「もうここまで来たら、私達765プロが名実共にトップアイドルになれる日も、そう遠くないんじゃないかなって……そういう実感もあって」

レム「……そうか」

春香「後は……そうだね。やっぱり竜崎さんに出会えたことが大きいかな」

春香「あそこまで真摯に、アイドルとしての私をずっと見てくれていたファンの人がいたんだって思うと……今までアイドルやってきて、本当に良かったなって」

レム「…………」

春香「もちろん、今までにもファンの人と触れ合うイベントは沢山やってきたし、ライブでもいつもすごく盛り上げてもらっているけど……」

春香「やっぱり、ああいう『生の声』っていうか……直に伝わる想いって、素直に嬉しいんだ」

春香「まあ竜崎さんの場合、直球過ぎてちょっと気恥ずかしいけどね」

春香「でも彼のおかげで、私は『アイドルの原点』っていうのを思い出せたような気がするんだ。だからそれもあって……私は今、すごく楽しいの」

レム「……そうか。良かったな。ハルカ」

春香「うん。だから見ててね? レム」

春香「私はこのままアリーナライブまで一気に駆け抜けて……必ずトップアイドルになってみせるから。765プロの皆と一緒に!」

レム「……ああ。頑張れ。ハルカ」

春香「うん!」

春香(見ててね。ジェラス。もうすぐそこまで来てるから)

春香(私が私の使命を果たし……そしてあなたの夢を叶える、その瞬間が!)

【同日夜・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(他の捜査員の帰宅後、二人だけで捜査本部に残っているLと月)

L「弥海砂から……ですか?」

月「ああ。おそらく今日中か……遅くとも二、三日中には向こうから連絡が来ると思う」

L「すごい自信ですね」

月「こう見えても僕は結構モテるんだよ。竜崎」

L「…………」

月「で、一応確認だが……もしそうなった場合は当初の予定通りに動いて問題無いな?」

L「……そうですね。月くんからならともかく、弥の方からということであれば……その結果、月くんと弥が親密になり、その事実が星井美希に伝わったとしても……月くんが疑われることはまずないと思いますので」

月「分かった。ではそこは問題無いものとして……後は具体的に弥海砂に動いてもらうシチュエーションだが……」

L「それは大丈夫です。私の中ではもうほぼ構想は固まっています」

月「! そうなのか?」

L「はい。相沢さんと松田さんが尾行捜査を頑張ってくれており、またその捜査結果の分析を夜神さん達が詳細に行ってくれているおかげです。ただ……弥海砂に動いてもらう前に、最後の確認を行いたいと思っています」

L「それをいつ、どこで、どうやってするかについて、ずっと考えていたのですが……今日ちょうど、絶好の情報を入手しました」

月「? 今日?」

L「はい。再来週の水曜から四泊五日で行くという……765プロダクションの合宿です」

月「! …………」

L「そしてその合宿地は福井……となると、普通に考えて移動は飛行機……ですよね?」

月「? まああれだけ売れている事務所だし、そうだろうとは思うが……?」

L「では一応、次の家庭教師の時にでも、天海春香にさりげなく確認しておいてもらえませんか」

月「ああ、それは別に構わないが……。しかし何故…… ! 」

L「…………」

月「……なるほど。それで『最後の確認』ってわけか」

L「はい」

月「……分かった。聞いておくよ」

L「ありがとうございます。それが私の思い通りなら……合宿後、すぐにでも計画を実行に移したいと考えています」

月「ああ。そのつもりで心構えをしておくよ」

L「それから、高田清美の方ですが……少し前に月くんからお聞きしていた話を前提にすると……弥海砂と同様、彼女についても……こちらの思い通りに動いてもらえる、と考えていていいんでしょうか?」

月「ああ、それは大丈夫だ。高田も既に僕に好意を持っているし、何よりキラ崇拝者でもある……条件としては十分過ぎる。もっとも、高田と星井美希・天海春香との接点は今のところ例の会合くらいしかないから、あくまでメインは弥海砂とし……高田はそのサブ、という位置付けにはせざるを得ないだろうとは思うが」

L「分かりました。それで十分です。私の構想でも、サブがいた方がより安全に計画を実行できるだろう、という程度ですので」

月「よし。ならそれでいこう。……ん? メールか……」

月「! …………」

L「? どうしましたか? 月くん」

月「……竜崎。どうやら、僕の方が先に『思い通り』になったようだ」

L「! と、いうことは……?」

月「ああ。―――弥海砂から、デートのお誘いだ」

一旦ここまでなの


(次の更新は年明けになる予定です)

【一週間後・都内某駅/改札口前】


海砂「あっ。ライトくん!」

月「海砂さん。どうも」

海砂「ごめんね、急に誘っちゃって」

月「いえ」

海砂「……むー」

月「? どうしたんですか?」

海砂「やっぱりカタいよ! その話し方!」

月「そう言われても……僕の方が年下ですし」

海砂「年下って言っても一コしか違わないじゃん! ね、今日だけ……ううん、これから二人だけのときは『ミサ』って呼んで! あと、丁寧口調もナシで!」

月「え、でも……」

海砂「いいじゃん別に。その方が話しやすいし。ね? いいでしょ?」

月「……分かったよ。ミサ」

海砂「!」

月「でも君だってアイドルなんだ。こんな風に男と親しげに話しているところを誰かに見られでもしたら……」

海砂「いいのいいの! どうせまだミサそんなに売れてないし」

月「……自分で言うか? それ」

海砂「いいのいいの。ちゃんとそのうち売れるようになるから! 前に美希ちゃんからも『海砂ちゃんならすぐ売れるようになる』って言ってもらったし!」

月「まあ、それならいいが……」

海砂「ねっ。それより早くいこっ! ミサ、前から行ってみたいお店があったの」

月「ああ、いいよ」

海砂「あ、それから……」

月「? 何?」

海砂「ミサも、二人だけのときは『ライト』って呼んでもいい?」

月「……どうぞ、ご自由に」

海砂「むー。なんかどうでもよさげー」

月「別にそんなことはないけど」

海砂「フンだ。いいもん。じゃあ勝手に呼んじゃうもーん。ほらいこっ。ライト!」ガシッ

月「わっ。急に引っ張るなよ」

海砂「えへへー」

月「…………」

月(想定以上だな……これなら思ったよりも早く……)

海砂「? どうしたの? ライト」

月「いや、なんでもないよ。早く行こう」

海砂「うんっ!」

【同日夜・都内の公園】


海砂「は~、遊んだ~っ」

月「はは、お疲れさま。はい。ジュース」

海砂「あっ。ありがとう! ちょっと待ってね。お金……」

月「いいよ、これくらい」

海砂「……えへへ。ごめんね、ありがとう。いただきます」

月「こちらこそ、今日はありがとう。ショッピングに水族館にカラオケ……なんかあべこべな取り合わせだったけど楽しかったよ」

海砂「えへへ……ごめんね。ミサが行きたいとこばっか連れ回しちゃって」

月「いや、おかげですごく楽しかったよ。是非また行こう」

海砂「! ほ、ホント?」

月「ああ」

海砂「そ、それって……『また二人で』ってコト……だよね?」

月「うん。もちろん」

海砂「…………」

月「? ミサ?」

海砂(また二人で会ってもいいってコトは……それって、つまり……)

海砂(……よし。こういうのはタイミングが勝負! 本当はもう後一、二回デートしてからって思ってたけど……)

海砂(ダメ。もう抑えられない。この気持ち……)

海砂「……ライト」

月「?」

海砂「……もし、ライトがよかったら、なんだけど……」

月「…………」

海砂「彼女にしてください」

月「! …………」

海砂「…………」

月「……ああ。いいよ」

海砂「! ホント?」

月「うん。僕も今日一日、君と過ごしてすごく楽しかったしね。こちらこそよろしくお願いします」

海砂「……ライト!」ギュッ

(月に抱きつく海砂)

月「わっ。おい」

海砂「えへへ……嬉しい! ありがとう。ライト……」

月「ったく……もしこんな所、誰かに見られでもしたら……って、『まだ売れてないからいい』って言ってたな……自分で」

海砂「えへへ、そういうこと! でもホント、まだ売れてなくてよかったぁ……もしミサが美希ちゃんや春香ちゃん達くらい売れちゃってたら、外でこんなこと絶対できないし……」

月「…………」

海砂「だからミサが、それくらい売れるようになるまでは、こうやって外でも思いっきりライトとイチャイチャしたいな~。なんちゃって。えへへ……」

月「…………」

海砂「? ライト?」

月「ミサ。ちょっと聞いてくれ」

海砂「? 何?」

月「僕も君とこうしていたいのはやまやまなんだが……実は少し事情があって……次にこういう風に君と会えるのは少し先になりそうなんだ」

海砂「え? 少しって……どれくらい?」

月「今からだと……そうだな。二週間後くらいかな」

海砂「えーっ! 付き合ったばかりなのに二週間も会えないの? しかも事情って何? はっ。まさか……」

海砂「……今既に付き合ってる彼女がいるから、その彼女と縁を切るための時間が要るとか……?」

月「違うよ」

海砂「じゃあ何? 事情って……」

月「それも二週間後にはちゃんと全部話すから」

海砂「むぅ……わかった……」

月「それと次に会う時まで、僕と付き合っていることは絶対に誰にも言わないでくれ。絶対にだ」

海砂「え? な……なんで?」

月「なんでもだ。これについても、理由は次に会った時にちゃんと話すから。……頼む」

海砂「……わかった。なんでかわかんないけど、ライトがそこまで言うなら……そうする」

月「ごめんね。あともし、どうしても僕に会いたくなった時は電話してくれ。会えるようになるかは分からないが、努力はするから」

海砂「……うん」

月「だから間違っても、いきなり僕の大学に来たりするのだけはやめてくれ。いくらまだそこまで売れていないとはいっても、前の学祭のライブの影響で、少なくとも東応大学内ではミサの知名度はかなり上がっている。突然来て騒ぎになるとまずいし、君の事務所にも迷惑が掛かる」

海砂「うん。わかった。ありがとう。ライト。そんなことまで心配してくれて……」

月「いや、いいよ。これくらい、彼氏として当然の事さ」

月(……これで突然大学に来たりすることはないだろう。今、ミサと二人でいる所を高田に見られたりしたら面倒な事になるからな……)

月「よし。じゃあ今日はこのへんで……」

海砂「え!? 何? まだ七時じゃない。恋人の時間はこれからでしょ?」

海砂「二週間も会えないっていうなら、せめて今日くらいは……二人でゴハン食べに行ったりとかして、その後がいよいよ本番って感じで……」

月「…………」

月(正直、あまりこういう手は使いたくなかったが……仕方ない)

月「ミサ」

海砂「ん? …………ッ!?」

(海砂にキスする月)

月「…………」スッ

海砂「ライト……」

月「いいな。今日は帰るんだ」

海砂「はい……」

月「さっきも言ったが、どうしても僕に会いたくなった時は必ず事前に連絡するように。いいね」

海砂「はい……」

月「じゃあ帰ろう。駅まで送って行くよ」

海砂「はい……ありがとう……ライト」

月「…………」

月(これでもうミサはいつでも動かせる……。後は高田……だが、こっちは『確認』ができてからだな。今下手に動き過ぎるのは危ない)

月(大丈夫だ。全て予定通りに……事は進んでいる)

【一時間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「! 月くん。お疲れ様です」

月「ああ。お疲れ様。他の皆は?」

L「私以外の方は皆帰宅されました」

月「そうか。なら都合が良い」

L「! ということは……」

月「ああ。今日、弥海砂と付き合うことになった」

L「! ……ということは……随分早かったんですね」

月「ああ、向こうから告白してきたからな」

L「いえ、そういう意味ではなく……せっかく恋人同士になったのに、随分早く解散されたんですね、と」

月「……彼女と付き合うことにしたのは、あくまでもキラ事件の捜査の為だ。その為に必要なことであればするが、必要でないことはしない」

月「今必要なのは、ミサをこちらの思い通りに動かせるようにしておくこと……そのためには僕に心底惚れさせておけば十分だ。過度に好意を示して期待をさせるのは彼女を傷付けるだけだし、何より人道に反する」

L「流石月くん。お父さん譲りの正義感ですね」

月「……それよりも竜崎。具体的にミサに動いてもらう方法についてだが……この前、『もうほぼ構想は固まっている』と言っていたな」

L「? はい」

月「それでその後、僕なりに……『おそらく竜崎はこう考えているのではないか』というレベルまで考えてみたんだが……今、それを聞いてもらってもいいか?」

L「ええ。もちろんです。ではまず月くんの考えをお聞きし、その後で答え合わせをしましょう」

月「ありがとう。では、僕の考えとしては――……」

月「――……というのが、僕の考えだ」

L「…………」

月「どうかな? 当たらずといえども遠からず、といったところだろうとは思うが……」

L「……月くん」

月「ああ」

L「素晴らしいです」

月「! ……ということは」

L「はい。答え合わせをするまでもありません。私の構想と完全に一致……百点満点です」

月「そうか。なら良かった。では後はこれを明日、父や他の皆にも説明して了承を得る……という流れだな」

L「そうですね。具体的に動き出すのは765プロダクションの合宿後になるでしょうが……その為の準備や根回しの段取りについては、もうすぐにでも始めておいた方が良いでしょう」

月「ああ」

L「……それにしても」

月「ん?」

L「まだほとんど具体的な話をしていなかったにもかかわらず、私と完全に同じ発想をしていたなんて……」

L「これなら、もし私が死んでも……月くんがLの名を継いでいけるかもしれません」

月「何も縁起でもないことを。まずは明日、今話した内容について父達の了承を得……その後、必要となる準備を進めつつ、765プロの合宿の際に『確認』……そして『計画』の実行。……ここからが勝負だろ」

L「……はい。そうですね。頑張りましょう」

(ミキ出なかったけど)一旦ここまでなの

【翌日・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「……というのが、今後の捜査方針になります。何か質問のある方はいますか?」

総一郎「竜崎」

L「はい。どうぞ。夜神さん」

総一郎「確かに以前、ここで、危険を承知でライトが弥海砂に接近するということを了承したが……しかし、この案はあまりに……」

月「父さん」

L「夜神さんのお気持ちはよく分かります。しかし、最終的に弥海砂に動いてもらうためにはこれ以上の案は無いと思います」

総一郎「うむ……それは理解できるが……」

月「父さん。この程度は想定されたリスクの範囲内とみるべきだ。それに今の状況のまま大人しくしていても、僕達が殺される危険性が減るわけではない」

総一郎「……しかし、百歩譲って弥の方はまだ良いとしても、もう一人……お前の同級生の、高田清美……という女性に対しても、同様の作戦を取るというのは……」

月「それも大丈夫だ。高田もミサ同様、僕の言うことなら絶対に信じる」

総一郎「…………」

松田「さ、流石月くん。すごい自信っすね……」

相沢「まあいずれの女性も、出会ってからほとんど間も無いうちに月くんに告白してきたということだ……二人とも相当月くんに惚れ込んでいるというのはまず間違い無いだろう」

L「はい。そういう意味では、現在、弥海砂と高田清美の二人は我々にとって最も信用できる存在といえます。この二人は何があっても月くんを裏切ることは無いでしょう」

総一郎「…………」

月「頼む。父さん。僕達捜査本部のメンバーが誰一人欠けることなくキラ事件を終結させるためだ」

総一郎「……分かった。今まで何度こういうやりとりをしてきたか分からんが……もうここまできてしまっていることでもある。やむを得んだろう」

月「父さん」

L「夜神さん。ありがとうございます」

L「……ただ、これはあくまでも765プロダクションの合宿の際に『確認』がこちらの思惑通りにできた場合の話ですので……まずはこちらの準備から進めましょう」

松田「えっと……とりあえず、765プロの皆が飛行機で福井まで行く、っていうのは間違い無いんですよね?」

L「はい。一昨日の家庭教師の際に、月くんが天海春香に確認してくれたとおりです。もちろん、当日は念の為に……これまで同様、相沢さんと松田さんには星井美希と天海春香の両名を尾行してもらいますが」

相沢「だがそれも空港の……765プロ一行が飛行機に搭乗するまでで良いんだな?」

L「はい。これも月くんが天海春香から聞き出してくれた情報ですが……765プロダクションの合宿地はかなり僻地のようですので、そんな所まで尾行を続けたら流石に気付かれる可能性が高いと思います」

L「また、そもそもこの合宿の際の我々の目的は『確認』ですので、空港までの尾行で十分です」

L「そして765プロダクション一行が飛行機に搭乗した後、速やかに警察から空港に連絡を入れてもらいます。その手筈は夜神さんに一任させて頂きたいと思いますが、よろしいでしょうか」

総一郎「ああ。大丈夫だ。空港には事前に話を通しておき、当日は速やかに対応してもらえるようにしておく」 

L「ありがとうございます。そして『確認』の結果、我々の思惑通りなら……すぐに次の対応に入ります」

L「対象期間は765プロダクション一行が合宿に行っている間……来週の水曜から日曜までの五日間。そして星井美希および天海春香に怪しまれることのないよう、対象とする犯罪者の数は一日一人程度……合計四、五人くらいでいいでしょう」

L「これも各報道機関には事前に話を通しておき、対象期間中に滞りなく対応してもらうようにしておく必要があります。この準備については星井さんと模木さんでお願いします」

星井父「……ああ」

模木「分かりました」

L「そしてまた合宿最終日にも、初日と同様の『確認』を行いますので……その際は、相沢さんと松田さんには福井の空港に先回りしてもらうことになります」

相沢「ああ。分かった」

松田「任せて下さい」

L「そして二回目の『確認』の結果も我々の思惑通りであれば、いよいよ『計画』を実行に移します」

L「まずはその第一段階として、月くんから弥海砂と高田清美の両名に対し、先ほど説明した作戦を遂行してもらいます。勿論、私もサポートします。月くん、よろしくお願いします」

月「ああ。任せてくれ」

L「その後も、特に大きな支障が無い限りは予定通りに『計画』を進めていきます」

L「ただ、これはあくまで現状から立案したものに過ぎませんので……状況が動き次第、随時変更していくことは当然あり得ます。その際は、都度速やかに連絡します」

L「そして……星井さん」

星井父「ああ」

L「星井美希……美希さんが、アイドル活動で長期の合宿に行くのはこれが初めてですね?」

星井父「そうだな。仕事のロケでも、一週間近く家を空けることは今まで無かった」

L「では、あくまでも娘を気遣う父親として……毎日、夜にメールを送って下さい。またその送信時刻は日によって適当にばらけさせてください」

星井父「? 別にいいが……何のためにだ?」

L「……これまで裁かれた犯罪者は、ほとんど例外無く、報道された日の夜10時までには裁かれています。そして美希さんも、ほぼ毎日、夜10時までには就寝している……そうでしたよね?」

星井父「! ああ……少なくとも、美希が夜10時以降にリビングなどをうろついていることはほとんどない。流石にいつ寝ているかまでの確認はしていないが……」

L「ただ合宿となると、普段と違う生活リズムとなり、就寝時刻がずれる可能性は十分にあります。普段より早くなるかもしれないし、遅くなるかもしれない」

L「そしてもし合宿中の美希さんの就寝時刻がずれた場合に、それと裁きの時刻との間に矛盾が生じなければ……」

星井父「! ……そういうことか」

L「はい。もちろん、メールが返ってこなかったからといって寝ているとは限りませんし、また返ってきたとしても起きていたとは限りません。寝ているところをそのメールで起こされた、ということもあるでしょうから。これはあくまでも念の為です」

星井父「……分かった。ただ前者はともかく、後者の可能性は無いな。美希は一度寝入ったら余程のことが無い限り朝まで起きることは無い」

L「そうですか」

L(もっとも、『キラは死の時間をも操ることができる』という可能性がある以上、これだけで何かが決まるというものでもないが……)

L(しかしこれまでずっと固定されていた裁きの時間帯が、たまたまこの『765プロダクションの合宿期間中』というタイミングに限ってズレたりするようなことがあれば……それは十分、星井美希に対する嫌疑をより強める事情といえるだろう)

L「では、皆さん。これまでの捜査を引き続き行うのと並行して……まずは来週の水曜日、765プロダクションの合宿の初日……この日までに各自、必要な準備を進めておいて下さい」

L「これは、遂に我々がキラの活動に関する物的証拠を押さえることとなるかもしれない、その捜査の端緒です。くれぐれも慎重に、かつ確実に遂行しましょう」

一同「はい!」

星井父「…………」

【三日後・都内某カフェ】


海砂「ごめんね美希ちゃん。急に呼び出しちゃって」

美希「ううん全然。ミキも久しぶりに海砂ちゃんとお茶できて嬉しいの」

海砂「最近は『竜ユカ』でしか会ってなかったもんね」

美希「う、うん。そうだね。(『竜ユカ』……『竜崎と愉快な仲間達』の略か……流石海砂ちゃん。すごいセンスなの)」

海砂「でね。今日呼び出したのは、もちろん久々に美希ちゃんと二人きりで話したいなっていうのもあったんだけど……」

美希「?」

海砂「実はね、ミサ……美希ちゃんにお礼が言いたかったの」

美希「お礼? ミキ、海砂ちゃんに何かしたっけ?」

海砂「うん。具体的にはまだ言えないんだけど……実は最近、すごくいいことがあってね」

美希「ふーん?」

海砂「それに、そのことだけじゃなくて、それ以外にも……ここ一年くらいの間に、私の周りでいろんな出来事があったんだ」

海砂「そしてそのどれもが、私にとっては、人生のターニングポイント? っていうか……とにかく、すごく大切な、意味のあることばかりで」

美希「…………」

海砂「それもこれも……振り返れば、全部美希ちゃんのお陰だなって思って」

美希「? どういうことなの?」

海砂「……実は、ミサが最初に憧れたアイドルは、美希ちゃんだったんだ」

美希「え?」

海砂「一年前の、765プロファーストライブの日……あの会場に、私もいたんだよ」

美希「!」











【同時刻・春香の自宅】


 ピンポーン

春香「はーい」

 ガチャッ

清美「こんにちは。天海さん」

春香「こんにちは! 高田さん」

短いけど一旦ここまでなの

【都内某カフェ】


海砂「少し長い話になるけど……いい?」

美希「うん」

海砂「これはまだ美希ちゃんには話してなかったことなんだけど……あ、でももしかしたらもう知ってるかもね。ネットとかでは普通に出てる情報だし」

美希「…………」

海砂「今から一年半前の冬……私の両親は強盗に殺されたの」

美希「! …………」

海砂「その顔……やっぱり知ってた?」

美希「あー……うん。海砂ちゃんのファンの人のサイトに書いてあったから……」

海砂「そっか。うん。別にいいよ。あえて隠すような事でもないしね」

美希「…………」

海砂「その当時、私は高校三年生で……一応、地元の短大に進むつもりでいたんだけど……たった一日で、全てが狂った」

海砂「まるで心の中が空っぽになったみたいに、何も考えられなくなった。学校にも行かなくなって、ずっと家でふさぎ込んでいた」

海砂「当然、受験なんてできる精神状態じゃなかったから……結局、高校を卒業した後も、進学も就職もしないまま、ずっと家に閉じこもっていたの」

美希「…………」

海砂「そのうえ、両親を殺した犯人の裁判は長引き、冤罪の見方まで出始めた」

海砂「正直言って、もういっそ死んでしまいたいとさえ思ったわ」

美希「! …………」

海砂「そんな中、私の両親が殺された年の翌年……つまり、去年の夏」

海砂「中学からの友達で、家に引きこもったままの私をずっと気にかけてくれていた友達が……私をあるイベントに誘ってくれたの」

美希「あるイベント?」

海砂「うん。それが……美希ちゃん達が出演していた、765プロのファーストライブだったの」

美希「!」

海砂「その友達、元々すごく多趣味でね。ホラーとかオカルトとかも好きだったんだけど、アイドルにも興味があったみたいで。あ、もちろん応援する側でだけどね」

海砂「当時、私は関西にいて……ただでさえ家から出る気になれなかったのに、ましてや関東のイベントなんて……って思ってたんだけど、その友達があんまりしつこく誘ってくるもんだから、結局最後はその熱意に負けて……はるばる関東まで足を運んだの」

美希「そうだったんだ」

海砂「その友達としては、あえて地元から連れ出すことで、私の気持ちを少しでも切り替えさせようとしてくれてたみたいだけどね」

美希「そうなんだ。良い友達だね」

海砂「うん。今でもしょっちゅう電話してるよ」

海砂「でも私自身は元々、アイドルに特に興味も無かったし、さっきも言ったけど、何よりその頃の心境としてはもう自殺寸前くらいにまで落ち込んでいたから……正直言って、会場にまでは来たものの、ライブに参加することについては全然前向きな気持ちじゃなかったんだ」

海砂「それに当時はまだ、美希ちゃん達765プロのことも何も知らなかったしね」

海砂「そんな中、肝心のライブが始まったんだけど……」

美希「…………」

海砂「自分でも不思議だったよ。最初は本当にどうでもいい、って感じで冷めた目で見ていたのに……セトリが進むうちに、いつの間にか、美希ちゃん達765プロの皆を真剣に応援するようになってる自分がいたの」

美希「海砂ちゃん」

海砂「それで気が付いたら、友達が持って来てたサイリウムを借りて、見よう見まねで振ったりしてて……」

海砂「そのとき、実感したの。『ああ。私は今、楽しいんだ』って」

海砂「それまで私は、自分の事を世界一不幸な人間だと思っていたけど……そんな自分でも、まだこんな風に何かを『楽しむ』ことができるんだって思うと……それが素直に嬉しかった」

美希「……海砂ちゃん……」

海砂「そしてそんな中……私はさらなる衝撃に襲われた」

美希「さらなる衝撃?」

海砂「うん。セトリの後半……美希ちゃんの連続ソロ曲」

美希「! それって」

海砂「そう。『Day of the future』と『マリオネットの心』という……あのダンサブルな2曲の連続ソロ」

美希「ああ……懐かしいの」

海砂「もうね。私……このときの美希ちゃんのパフォーマンスがあまりに衝撃的過ぎて……正直、これより後の曲についてはほとんど覚えてないの。遅れてきた竜宮小町の水瀬伊織ちゃん達には悪いんだけど……」

海砂「それでね。ライブが終わった後……まだ夢見心地のまま、私は何も疑わずにこう思ったの。『自分も美希ちゃんみたいなアイドルになりたい』って」

美希「……そうだったんだ」

海砂「そして私は、もう一度生きてみようと思った。もちろん、殺されてしまった私の両親はもう二度と戻ってはこないけど……それでも、せっかく今、自分が持っているこの命を捨てるなんて、絶対にするべきじゃない……いや、したくないって思った」

海砂「私より五つも年下の美希ちゃんが、こんなに一生懸命頑張ってキラキラしてるのに……このまま何もしないで死ぬなんて嫌だって、そう思ったの」

海砂「だから美希ちゃんは……私が最初に憧れたアイドルなんだよ」

美希「……海砂ちゃん……」

リューク「キラだけにキラキラってか。ククッ」

美希(黙ってろなの死神)

海砂「それでその後、関西に戻った私は、すぐに髪を金色に染めたの。なんでかわかる?」

美希「もしかして……ミキの影響、ってこと?」

海砂「そ! まずは形からって思ってね」

美希「そうだったの」

海砂「それからは、とにかく目に付いたアイドル事務所に片っ端から応募して……美希ちゃん達のライブを観に行ってから、一か月後くらいだったかな? 私は今の事務所……ヨシダプロに採用されたの」

海砂「あ、もちろん765プロにも出したんだけどね。あえなく書類で落とされちゃって」

美希「あー……うちは人手少ないからね。そう簡単にはアイドルの数を増やせないの」

美希(それにその頃はまだ前のプロデューサーがいたはずだから、とてもじゃないけどそれどころじゃなかっただろうし……)

海砂「それで、私も正式にアイドルとして活動することになったから、事務所のある関東に引っ越してきて……それが去年の10月頃かな」

海砂「正直、その頃はまだ自分でも信じられなかったよ。ほんの少し前まで、人生に絶望して死ぬことすら考えていた私が、まさかこんな風になるだなんて」

海砂「それも全部……あの日、あのとき、あのライブで美希ちゃんと出会えたからこそ」

海砂「だから美希ちゃんは、私が最初に憧れたアイドルであると同時に……私に生きる希望を与えてくれた恩人でもあるんだよ」

美希「海砂ちゃん……」

海砂「なんて……まるで竜崎さんが春香ちゃんに言ってた話みたいだけど」

美希「…………」

海砂「ね、覚えてる? 初めて会ったときのこと」

美希「えっと……○×ピザのCMの件で、ミキがプロデューサーと一緒に海砂ちゃんの事務所に行ったとき?」

海砂「そう。今からもう半年くらい前になるかな?」

美希「うん。それはもちろん覚えてるの」

海砂「あの日、私……最初に美希ちゃんに会ったとき、めちゃくちゃ興奮してたでしょ?」

美希「うん。なんかすごかったの」

海砂「あのときはまさに、ずっと憧れていたアイドルが、今自分の目の前に! ……って感じだったからね。私としては」

海砂「もう色んな想いが込み上げて来て……正直、抑えられなかったの」

美希「そうだったんだ」

海砂「あと……これはそのときより少し前……去年の11月の事なんだけどね」

美希「うん」

海砂「実は……私の両親を殺した強盗が、キラに裁かれたの」

美希「!」

海砂「さっきも言ったけど、裁判では冤罪の見方まで出始めていたところだったから……正直言って、もう、天にも昇る心地だった」

美希「…………」

海砂「やっぱり、罰されるべき人には、ちゃんと罰が下るんだなって」

海砂「神様はちゃんと見てるんだなって……そう思った」

美希「…………」

海砂「でね。私は、このことも……美希ちゃんのお陰だなって思ってるんだ」

美希「!」

リューク「ウホッ」

美希「え、い、いや……流石にそれはキラがやったことで、ミキは全然関係無いって思うんだけど……」

海砂「うん。それはもちろんそうなんだけど……でももしライブで美希ちゃんに出会ってなかったら、私……そう遠くないうちに自殺してたと思うし。もしそうなってたら、キラの裁きを見届けることもなかっただろうなって思うから」

美希「あ、あー……そういうことね」

リューク「ククッ。なるほどな」

海砂「だから、それも含めて……美希ちゃんにはすごく感謝してるんだ」

美希「…………」

海砂「それで、最初の話に戻るんだけど……最近、またすっごくいいことがあってね」

海砂「これもやっぱり、私がこうして生きていたからこそ起こったことだと思うの。だから、美希ちゃん」

海砂「あの日、あのライブで私に生きる希望を与えてくれて、本当に……」

海砂「ありがとう」

美希「……海砂ちゃん……」

海砂「そしてこれからも、よろしくね」

海砂「ミサの憧れのアイドルの先輩として……そしてもちろん、友達として!」

美希「……うん! もちろんなの!」

(海砂と別れた後、家路を歩いている美希)

リューク「ククッ。まさかミサにとっての憧れのアイドルがミキだったとはな」

美希「…………」

リューク「それにやっぱりキラに対しても恩を感じているみたいだし……なあ、ミキ」

美希「何? リューク」

リューク「前にも言ったが……ミサになら、自分がキラだって教えてやってもいいんじゃないか?」

美希「…………」

リューク「きっとミサならお前がキラだと知っても受け入れてくれる……どころか、むしろ喜ぶと思うぞ」

リューク「自分の憧れのアイドルと、両親の仇を討ってくれた恩人が同一人物だったなんて分かったら……」

美希「…………」

リューク「そうしたら、『自分にも裁きを手伝わせてくれ』くらいのことは言い出してもおかしくないし……ハルカとももう知り合いになってるから、そういう意味でも都合が良い」

美希「……リューク」

リューク「おう」

美希「前にも言ったけど……海砂ちゃんはミキのアイドル仲間で友達。それ以外の何者でもないの」

リューク「……ちぇっ。最近ハルカが大人しいから、そろそろまた新しいキラの仲間が増えたら面白いと思ったんだがな」

美希「言っとくけど、別にミキはリュークを楽しませるために裁きをやってるわけじゃないの」

美希「ミキが裁きをしているのは、皆が笑って過ごせる、楽しく生きていける世界をつくるため」

美希「ミキの目的は、ただそれだけなんだから」

リューク「……はいはい。それはもう耳にタコができるほど聞いたぜ」

美希「あっ」

リューク「ん?」

美希「春香といえば……確か今日……」

【同日(美希が海砂とカフェで会っていた頃)・春香の自宅】


春香「これで、後はオーブンで焼いたらお手製クッキーの出来上がりです!」

清美「ありがとうございます。天海さん。急な申し出だったのに、快くお家に呼んでいただいたばかりか、クッキーの作り方も一から教えていただいて」

春香「いえいえ、そんな。私も楽しかったですし。それにこうやって高田さんと仲良くなれて良かったです」

清美「そう言ってもらえると嬉しいです。天海さん」

春香「えへへ……でも正直なところ、結構疲れませんでした?」

清美「そうですね……確かに、思ったより重労働に感じました。お菓子作りって大変なんですね」

春香「あはは。やっぱりそうですよね。でもしんどい思いをした分、出来上がったお菓子を頬張る瞬間は至福のひとときですよ」

清美「確かに。手間を掛けた分だけ、味わい深いクッキーになりそうです」

春香「そうなんですよ! 市販のとはまた違った良さがあるんです。ところで高田さん……あっ」

清美「?」

春香「えっと、今更なんですけど……『清美さん』って呼んでもいいですか?」

清美「えっ?」

春香「あっ、その……その方が今よりもっと仲良くなれそうかなって……だめでしょうか?」

清美「いえ、駄目なんてことあるわけないです。是非そう呼んで下さい」

春香「よかった! あっ、じゃあ私のことも『春香』って呼んで下さい!」

清美「そうですか? えっと、じゃあ……春香……ちゃん? でいいですか?」

春香「はい! あっ、それと丁寧口調じゃなくていいですよ。私の方が年下ですし……」

清美「そうですか? じゃあ……こほん。改めてよろしくね。春香ちゃん」

春香「はい! よろしくお願いします! 清美さん!」

清美「ふふっ。あ、それとさっき、何か言いかけてなかった?」

春香「あ、はい。えっと……」

清美「?」

春香「その、清美さん。誰かにお菓子手作りしてあげるんですか? って」

清美「ええ、夜神くんに」

春香「えっ」

清美「あっ」

春香「…………」

清美「…………」

春香「清美さ」

清美「今のは無し」

春香「…………」

清美「…………」

春香「えっと」

清美「……まあ、いいわ」

春香「清美さん」

清美「別に隠すようなことでもないし」

春香「……好きなんですね。ライトさんの事」

清美「そうね。こんな気持ちは生まれて初めてだわ」

春香「…………」

清美「春香ちゃん?」

春香「ああ、いえ……そっか、そうだったんですね」

清美「隠すことでもないとは言ったけど……一応、他言無用で頼むわね。特に、海砂さんとかに知られたら面倒くさいことになりそうだし」

春香「あはは。大丈夫です。誰にも言いませんよ」

清美「ありがとう」

春香(清美さんがライトさんの事を……多少予想外ではあったけど、まあ同じ大学だし、この前の集まりのときも少し仲良さそうに見えたし……別におかしくはないよね。清美さんは相当な美人だけど、ライトさんのルックスならお似合いだし……)

春香(とすれば、これを上手く利用できないものか……清美さんを通じて、ライトさんに何らかの探りを入れてもらう……)

春香(まずは美希に相談……って、駄目だ。美希には、私がまだLの正体を探ろうとしてるってこと言ってないし……)

春香(……あ、そういえば美希に『今日清美さんと会う』ってことは言っちゃったけど……まあそれくらいなら大丈夫だよね)

春香(まさかそれだけで『私が清美さんを通じてライトさんに探りを入れようとしている』なんて思うわけないし)

清美「? どうかした?」

春香「ああ、いえ。なんでも。あ、じゃあクッキー焼き上がる前に片付けしちゃいますねっ!」

清美「私も手伝うわ」

春香「ありがとうございます。清美さん」

清美(これで夜神くんに手作りのクッキーを……ふふっ)

春香(うーん……正直、今すぐにはちょっと上手い方法が思いつかないな)

春香(まあいいか。とりあえず今日のところは清美さんとのパイプを作れたことを良しとしておこう)

春香(それになんといっても、来週はアリーナライブに向けての合宿ですよ! 合宿!)

春香(Lの正体を探ることも大事だけど……アイドル天海春香としては、今はこっちの方を優先しないとね)

春香(『目指す夢は、トップアイドル!』)

春香(……なーんてね。ふふっ)

一旦ここまでなの


次回からはうれしはずかし合宿編ですよ! 合宿編!

【五日後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(765プロダクション合宿・一日目)

L「…………」

L(相沢と松田からの報告によれば、星井美希・天海春香の二人はいずれも朝7時には事務所に到着。その後、他のアイドル達と一緒に事務所の車で空港まで移動)

L(現在は飛行機の搭乗手続中……)

月「そろそろか? 竜崎」

L「そうですね。先ほど相沢さんから『765プロダクション一行が保安検査場に向かった』という連絡がありましたので……もうすぐかと」

総一郎「…………」

星井父「…………」

模木「…………」

L「! 相沢さんからです」ピッ

一同「!」

L「はい。……今ですか? 分かりました。はい。……はい」

L「……ありがとうございました。一応、二人の乗った飛行機が飛び立つまでは見届けて下さい。お疲れ様でした」ピッ

月「竜崎」

L「はい。つい先ほど、765プロダクション一行が保安検査場の手荷物検査を通過したそうです。全員が通過するまでの所要時間は10時10分からの約15分間」

L「そのうち、星井美希はA検査場を10時12分に、天海春香はB検査場を10時18分にそれぞれ通過したとのことです」

一同「!」

L「では夜神さん。早速お願いします」

総一郎「ああ、分かっている。すぐに空港に連絡を入れる」ピッ

総一郎「もしもし。警察庁の朝日です。先日お伝えしていた件ですが、10時00分以降、現在までに手荷物検査を通過した全乗客の――……」

星井父「…………」

(十数分後)

総一郎「竜崎。早速送られてきたぞ」

L「! 早く見てみましょう」

月「でも、どの画像が二人のものか特定できるのか? 竜崎」

L「それは大丈夫です。画像にはそれぞれの通過時刻が記載されていますので、候補となる画像は可能な限り絞り込めますし……相沢さんおよび松田さんからは本日尾行中に撮影してもらった星井美希と天海春香の写真も送ってもらっていますので、これと照合すればほぼ特定できます」

月「なるほど」

L「では候補となる画像と二人の写真をまとめて画面に出します」

(捜査本部内のPCに複数枚の画像と写真が映し出される)

月「星井美希のものとおぼしき画像の候補は5枚……天海春香の方は4枚か」

L「はい。そしてこのうち、二人の写真と見比べてそれらしきものは……」

月「外見上、違和感が無いのは……星井美希は左から二枚目、天海春香は一番右か?」

L「そうですね。形状からして、これらの画像は写真と見比べても違和感がありません。まず間違い無いでしょう」

総一郎「! とすると……この、星井美希の方の画像に映っている……“これ”は……」

L「……はい。何かに覆われているようで一見分かりにくいですが……おそらくそうでしょうね」

星井父「! …………」

月「そして天海春香の方にはそれらしきものは映っていない」

総一郎「うむ。とするとやはり星井美希か……」

L「もちろん、最終的に確定させるのは合宿の最終日にもう一度この『確認』を行った際となりますが……一旦はこちらの思惑通りとして、次の対応に移りましょう。模木さん」

模木「はい。報道機関への指示ですね」

L「はい。手筈通りによろしくお願いします。そして夜神さんは先ほどのものと同内容の指示を今後二時間おきに空港の方へお願いします」

総一郎「ああ。あくまでも犯罪の一般予防の見地からの乗客の所持品確認……ということにしているからな」

月「定期的に確認要請を出しておけば、特定の個人に的を絞った捜査とはまず思われない……ましてやこれがキラ捜査などと疑われるはずも無い」

L「今やどこから情報が漏洩するか分からない世の中ですからね。これくらいは当然です」

総一郎「そうだな。用心はしておくに越したことは無い」

月「これで後は合宿最終日も同様の結果なら……いよいよだな。竜崎」

L「はい。その際は速やかに『計画』を実行に移しますので、月くんにはすぐに動いてもらうことになります。今のうちから心の準備をしておいて下さい」

月「大丈夫だ。それならもう嫌というほどしてきた」

L「それは心強いですね。そして……」

星井父「…………」

L「……星井さんは合宿期間中、毎晩、娘さんにメールを送るのを忘れずにお願いします。送る時間と文面は私が指定します」

星井父「……ああ。分かっている」

星井父「…………」

星井父(……美希……)

【三時間後・765プロダクション合宿所(福井県内某民宿)前】


(プロデューサーの運転する車から降りるアイドル達)

春香「ん~。潮の香り~!」

千早「海が目の前なのね」

響「ねぇねぇ、後で浜辺まで降りてみようよ!」

真「響! 後ろに山もあるよ、山!」

律子「ほら、あんた達。遊びに来たんじゃないのよ?」

響・真「はーい」

春香「私達も行こっか」

千早「ええ」

雪歩「美希ちゃん、ねえ着いたよ? 美希ちゃ……?」

美希「……うん。わかってるの」

雪歩「み、美希ちゃんが起きてる!?」

美希「何なのそのリアクション」

雪歩「だ、だって移動中の車の中で寝てない美希ちゃんなんて……。私、悪い夢でも見てるのかなぁ……?」

美希「雪歩は何気に失礼って思うな」

伊織「……まるっきり陸の孤島じゃない。携帯の電波は届くみたいだけど……」

やよい「見て見て、伊織ちゃん! なんだか学校みたいでワクワクするね!」

伊織「やよい。もう、あんなにはしゃいじゃって」

P「風光明媚で運動場も完備。楽しい合宿になりそうじゃないか」

伊織「まあね」

春香「…………」

千早「? どうしたの? 春香」

春香「ううん。別に何も。ただ……やっとここまで来たんだな、って」

千早「ええ、そうね。空港から結構遠かったものね」

春香「ち、違うよぉ! この合宿そのもののことを言ってるの!」

千早「わかってるわ。今のは冗談よ。ふふっ」

春香「なっ……! も、もー! 千早ちゃんのバカ!」

千早「ふふっ。ごめんなさい。春香」

美希「…………」

雪歩「どうしたの美希ちゃん? やっぱり眠いの? ねぇ眠いんだよね? そうなんだよね?」

美希「雪歩はどれだけ睡魔にミキを襲わせたいの」

(民宿の玄関口)

女将「遠い所ようこそ」

アイドル一同「お世話になります!」

主人「何もないとこやさけえ、びっくりしたでしょう」

P「いえ、そんな……」

伊織「とても素敵なところですね~」

美希「……でこちゃん、さっきは『陸の孤島』とか言ってなかった?」ボソッ

伊織「何か言った? 美希?」ニコッ

美希「なんでもないのー」

春香「あはは……」




(アイドル一同の宿泊部屋)

響「なんか前の旅行を思い出すな~」

真「亜美と真美がまだ着いてないから、なんか静かだよね」

伊織「いいことじゃない。それにあの二人にはあずさを無事に連れて来るっていう使命があるしね」

雪歩「四条さんも遅れて来るんだよね?」

響「夕方には着くって言ってたぞ」

真「ボクと雪歩も一度途中抜けするし……この合宿組むだけでも、プロデューサーと律子は大変だったろうね」

やよい「さすがですよね」

律子「皆ー、ちょっと下に降りてきてー」

春香「? 何だろう?」

美希「あ、春香。今は階段でこけなくていいからね」

春香「こけないよ!? 何その私がこけるタイミングを常に伺っているかのような言い草!?」

千早「えっ、違ったの?」

春香「千早ちゃんも今日はやけに攻めてくるね!?」

(民宿内・ロビー)

(アイドル達の前に、緊張した面持ちの七人の少女が立っている)

七人の少女「…………」

P「ええっと……そ、そんなに緊張しなくていいからな? はは……」

律子「皆、本業は同じスクールに通うアイドル見習いだけど、今回は特別にダンサーとして協力してくれることになったの。はい、自己紹介」

美奈子「佐竹美奈子です」

奈緒「横山奈緒です」

百合子「な、七尾百合子です」

志保「北沢志保です」

星梨花「箱崎星梨花です」

杏奈「望月杏奈……です」

可奈「や、矢吹可奈です!」

ダンサー一同「よろしくお願いします!」

 パチパチパチパチ……

アイドル一同「よろしくお願いします!」

可奈「…………」ジーッ

(春香をじっと見つめる可奈)

春香「ん?」

可奈「!」

春香「ふふっ。よろしくね」

可奈「は、はい。が、頑張ります!」

美希「…………」

千早「美希?」

美希「えっ。ああ……うん。なんだか面白くなりそうだね」

千早「もしかしてまだ眠いの?」

美希「千早さんまでどれだけミキを眠くさせたいの」

P「よし。じゃあ顔合わせも済んだことだし、この後は早速レッスンの時間だ。皆、二十分後に隣にある市民会館に集合。いいな?」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

(市民会館内・練習場)

(合宿用に作られた練習着に着替えたアイドル・ダンサー達)

P「お、早速着てきたな」

雪歩「プロデューサー。ふふっ、なんだか気が引き締まります」

やよい「皆でお揃いって、いいですよね!」

P「そう言ってもらえると、作った甲斐があるよ」

伊織「なかなか気が利いてるじゃない」

P「ま、レッスン自体は律子に任せきりだから、これくらいはな」

奈緒「私達も貰ってしもて、よかったんかな?」

美奈子「うん……」

P「よし。まだ全員揃ってはいないけど、皆で作った貴重な時間だ。有意義に使おう!」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

律子「合宿中はビシバシいくから、覚悟しなさいね」

響「望むところだぞ」

伊織「あんたのしごきには慣れてるわよ」

律子「春香」

春香「え?」

律子「リーダーとして、一言お願い」

春香「は、はい」

真「よっ、頼んだよ。リーダー!」

雪歩「春香ちゃん。頑張って」

春香「じゃあ僭越ながら……」スッ

伊織「あれ、こけなかったわね」

春香「だから人をこける芸持ってる人みたいに言わないで! ていうか最近はもうほとんどこけてないでしょ!」

伊織「まあそれはそうなんだけど、つい、ね。にひひっ」

春香「もう。えっと……こほん」

春香「……まずこうして、みんなで協力して合宿を実現できたことが嬉しいです」

春香「今回のアリーナでのライブは、過去に経験したことが無い、大きな規模のライブだよ。私達にとって大きなステップアップになると思うし、大切な思い出にもなると思う」

春香「何より、応援してくれる多くのファンの人達のためにも、力を合わせて最高のライブにしよう!」

アイドル一同「おー!」

響「よーし、やるぞー!」

真「気合入るね!」

春香「皆ー! いつもの、いくよー!」

(素早く円の形になるアイドル達)

伊織「ほら、あんた達も!」

ダンサー一同「は、はい!」

春香「じゃ、いくよー? 765プロー!」

アイドル一同「ファイトー!」

ダンサー一同「ファ、ファイトー……」

美希「…………」

春香「ん? どうかした? 美希」

美希「……ううん。別に、何も」

春香「もしかして、まだねむ」

美希「だからそれはもういいの!」

 アハハ……

春香(いよいよ……いよいよなんだ!)

春香(私達765プロは……皆で一緒に、トップアイドルになるんだ!)

美希「…………」

美希(今の春香は……)

美希(なんだか、とっても眩しいの)

一旦ここまでですよ! ここまで!

(同日夜・アイドル一同の宿泊部屋)

(テレビを観ながらくつろいでいるアイドル達)

真「ふぅ。ミーティングも終わって、ようやく一段落って感じだね」

貴音「真、疲れましたね」

響「いや、貴音は夕食前に来たとこなんだからそんなに疲れてないだろ……」

亜美「亜美達は結構本気で疲れたけどねー」

真美「あずさお姉ちゃんのせいで鳥取まで行っちゃったしー」

あずさ「ごめんね亜美ちゃん、真美ちゃん。今度アメちゃん買ってあげるから許してね」

亜美「あ、アメちゃんて……もういいよ、お饅頭奢ってもらったし」

真美「うんうん。『てぬぐいまんじゅう』チョー美味しかったよね!」

あずさ「そう? それならよかったわ」

(適当にTVのチャンネルを回す亜美)

亜美「さて、なんか面白い番組やってないかな~っと……あ、またキラ特番やってる」

真美「毎日毎日よくやるねぇ」

真「でも結構長くなるよね。キラ事件が始まってからさ」

雪歩「確か、前のプロデューサーが亡くなった頃からだったから……もう七か月くらい?」

真「うん。もうそれくらいにはなるね。でもこれってまだ犯人どころか、どうやって心臓麻痺で人を殺しているのかさえも解明されてないんだよね」

響「あとそういえば、うちの事務所に刑事さん達が来たこともあったよね」

亜美「あー、あったあった。結局あの一回だけだったけどね」

真美「あれってさ、やっぱり真美達もキラ容疑者に入ってたってことだったのかな?」

伊織「まさか。たまたまキラ事件と同じ時期に前のプロデューサーが心臓麻痺で亡くなったから、念の為に話を聞きに来たってだけでしょ。あの刑事達もそう言ってたじゃない」

やよい「でも、私はやっぱりちょっと怖かったかなーって。あの刑事さん達、ドラマで刑事役やってる役者さん達とは全然雰囲気違ったもん」

春香「そりゃまあ本職の刑事さんだからね……」

亜美「でもさー、正直な所、亜美はキラってそこまで悪いヤツって思えないんだよね」

真美「うんうん。本当にどうしようもなく悪い人しか殺してないもんね。キラは」

雪歩「で、でもどんな理由であれ人殺しは駄目だよぅ」

亜美「でもさー、もし亜美のパパやママや……真美が」

真美「!」

亜美「何の理由も無く殺されたりしたら……亜美だったら、その犯人を殺してやりたいって思うと思うし、もし亜美にそれができる力があったら絶対にその力を使うと思う」

真美「亜美……」

真「そりゃまあ、そういう場合は別かもしれないけどさ。でも流石に犯罪者を片っ端から殺していくっていうのは……」

あずさ「でも、その犯罪者に殺された人のご家族や大切な人たちなんかは、今亜美ちゃんが言ったような思いをきっと持ってるわよね」

真「それは……そうかもしれないですけど」

あずさ「そういう人達の中には、キラの『裁き』で救われた思いをした人だって、きっといるんじゃないかしら」

あずさ「……もちろん、だからといって人を殺すのが良いことだとは思えないけど」

貴音「あずさの言うとおりです。如何な理由があれど、人を殺した上での幸せなどありえません。憎しみが憎しみを紡ぎ、負の連鎖をもたらすだけです」

伊織「そりゃ良いか悪いかでいえば、悪いに決まってるわよ。でも時と場合によっては、悪いと分かっていてもやるしかないこともあるって話でしょ」

真美「おや? いおりんがキラ肯定派とは意外だね」

伊織「別に肯定はしてないわよ。ただ、まったく理解できないわけではないってこと」

真美「なるほどね。ミキミキはどう?」

美希「死ぬほどどうでもいいの。あふぅ」

真美「うん。安定のミキミキだね。やよいっちは?」

やよい「え? わ、私? 私は……うーん、やっぱりどんな理由があっても、人を殺すのは良くないって思うけど……」

真美「やっぱりやよいっちはキラ否定派かぁ。まあなんとなくそんな気はしてたけど。千早お姉ちゃんは?」

千早「肯定か否定か、と聞かれると……少なくとも肯定はできないわね。ただ、全てを否定するつもりもないけれど」

亜美「じゃあ正義か悪か、でいうと?」

千早「正義か悪かの二元論を述べることに意味は無いわ。キラを肯定し、認めている人からすればキラは正義。キラを否定し、認めまいとしている人からすればキラは悪。ただそれだけのことよ」

亜美「ほへー……」

真美「流石千早お姉ちゃん……何言ってるのかイマイチよく分かんないけど」

響「千早が言ってるのは、所詮正義か悪かなんて相対的な概念に過ぎないから、一義的には決められないってことさー」

亜美「ひびきんがなんか生意気なこと言ってる」

真美「ひびきんのくせに生意気」

響「何この扱いの差!?」

千早「ただ少なくとも……私なら、仮に自分がキラと同じ能力を持っていたとしても、よっぽどのこと……それこそ、さっき亜美が言っていたような状況にでもならない限りは……怖くて使えないと思うわ」

亜美「うん。それは亜美も同意見だよ」

真美「じゃあ逆に、そういう状況までいかなくても、キラキラの能力を使いそうな人は……」

春香「キラキラの能力って、そんなゴムゴムの能力みたいに」

真美「あ」

春香「えっ」

真美「はるるん」

春香「え? え?」

真美「……は、絶対使わないだろうね」

亜美「うんうん。はるるんが誰かを殺すなんて……ひびきんのエイプリルフールのウソに誰かが引っかかるくらいありえないっしょ」

響「!?」

春香「何そのたとえ!? いやまあ確かに響ちゃんのウソに引っかかる人がいるとは一ミリたりとも思えないけど……」

響「!?」

亜美「つまり絶対無いってことだよ」

春香「そ、そっか。あはは……」

響「も、もー! 二人ともひどいぞ! ていうかそもそも、この中にキラの能力を使いそうな人なんていないでしょ!」

雪歩「そ、そうだよぉ」

亜美「あっ」

雪歩「えっ」

亜美「ゆきぴょん……」

雪歩「えっ、な、何?」

亜美「ゆきぴょんって結構ヤンデレ? っぽい雰囲気あるし……」

雪歩「え、えぇっ!?」

亜美「なーんて。冗談だよー」

雪歩「も、もうっ! 亜美ちゃんのバカ!」

真「あ、ニュース速報だ」

(TV画面上部にニュース速報のテロップが流れる)

伊織「……何々、『本日21時15分頃、複数の犯罪者が心臓麻痺により死亡。警察はキラによる殺人とみて捜査を進めている。死亡した犯罪者は以下の五名……』」

亜美「キラ特番の放映中にキラの裁きのニュース速報って……」

真美「うーん、まさにキラキラな時代ですなあ」

春香「いや、キラキラな時代って……」

美希「………… !?」ガバッ

春香「美希? どうしたの? 急に起き上がって」

美希「いや……なんでもないの」

春香「?」

亜美「もー。何寝ぼけてんのさミキミキ! おりゃあ!」

(枕を美希に投げつける亜美)

美希「わぷっ」

亜美「あはは!」

美希「もー! やったの!」

亜美「ぎゃっ!」

真美「救援するぜい! 亜美!」

春香「ぷわっ! な、なんで私!?」

真美「近かったから!」

春香「理不尽!? もう怒りましたよ!」

真美「やるかーっ!」

あずさ「あらあら、じゃあ私も~」

真「ならボクも!」

響「自分もやるぞ!」

やよい「うっうー! 私もいきます~」

雪歩「ひぃい……」

伊織「もう、皆して何子どもみたいなこと……きゃうっ!」

美希「いえーい! でこちゃんにクリーンヒットなの!」

伊織「で、でこちゃんいうなーっ!」

 ギャー ギャー

 ガララッ

律子「あんた達! いい加減に――」

 ボフッ

アイドル一同「あ……」

律子「……いい度胸ね?」

アイドル一同「ひぃっ……」

律子「覚悟なさい! とりゃー!」

 ワー ワー ドタバタ……




(一階・ダンサー一同の宿泊部屋)

百合子「なんだか賑やかですね」

美奈子「夜でも元気なんて、すごいなぁ」

可奈「…………」

可奈(明日は、春香ちゃんともっとお話できたらいいな……)

(三十分後・民宿前の浜辺)

(二人きりで浜辺に佇んでいる美希と春香)

春香「う~っ。もう6月の下旬とはいえ、やっぱり夜はまだ寒いね。すぐそばに海があるからかもだけど……」

美希「…………」

春香「で? 美希。話って何? わざわざこんな所まで連れ出したってことは……キラ関係の話だろうとは思うけど」

美希「……うん。さっき、TVでニュース速報流れてたでしょ? キラの裁きの」

春香「ああ、うん。それがどうかしたの?」

美希「実は……今日ミキが裁いたはずなのに、その時に報道されなかった犯罪者がいたの」

春香「えっ。本当に?」

美希「うん。今日はミーティングの後に六人の犯罪者の名前を書いたんだけど……その中で一人だけ、報道されなかった」

春香「そうなの? 確かにさっきのニュース速報では『死亡した犯罪者は以下の五名』って出てたけど……」

美希「うん。テロップだったからミキの見間違いだったかも、って思って、後でスマホでも確認したんだけど……やっぱりその人だけ報道されてないの。どのニュースサイトを見ても」

春香「……でも、美希は確かに裁いたんだよね? その報道されてない人も」

美希「うん。ほら、これ。今日の分の犯罪者の名前を書いた切れ端」スッ

春香「あ、切れ端に書いてたんだ」

美希「流石に皆がいる部屋でノートは出せないからね。今は鞄ごとここに持って来てるけど」

春香「なるほどね。……うん。確かに六人分、名前書いてあるね」

美希「でしょ? あ、でもひょっとして……名前が間違って報道されたのかも? 前にも一回、そういうことあったし……春香、ちょっと死神の目で名前見てくれない? 今、スマホでその人の顔写真が載ってるニュースのページ出すの」

春香「うん。いいよ」

美希「……あった。この人なの」スッ

春香「! 美希」

美希「どう?」

春香「この人、もう死んでる」

美希「えっ」

春香「もう死んでる人は名前も寿命も見えないの。この人はどっちも見えない」

美希「そうなの? ってことは……」

春香「報道された名前は合っていて、だから美希が切れ端に名前を書いたのも当然有効で、それによって確かにこの人は死んだ……なのに、なぜかその事実が報道されていない……ってことになるね」

美希「一体なんで……?」

春香「さあ……。犯した罪の重さも、他の五人と比べて特に重いわけでもなければ軽いわけでもない……これまでのキラの裁きの基準から逸脱した犯罪者でもない……」

美希「…………」

春香「正直、ちょっと分からないけど……まあたまたま、警察に発見されるのが遅れてるだけなのかもしれないし……明日になったら、普通に報道されてるかもよ?」

美希「うーん……まあ、ね」

春香「さ、今日はもう遅いし、早く部屋に戻って寝よう? 明日も朝からレッスンだしさ」

美希「……うん。そうだね。……ん?」

春香「? どうしたの? 美希」

美希「……ううん。なんでもないの。すぐに行くから、春香は先に部屋に戻ってて」

春香「分かった。じゃあまた後でね」

美希「うん」

美希「…………」

美希(パパからメール……? こんな時間に……?)ピッ

美希(『合宿の調子はどうですか? あまり無理をし過ぎないように、健康第一で頑張って下さい』)

美希「…………」

美希(一見、ミキのことを心配しているだけの普通のメールに見えるけど……)

美希(今の時間は22時40分……普段のミキならもうとっくに寝ているはずの時間……)

美希(パパなら当然、ミキがもう寝ているだろうってことは分かるはず)

美希(それなのに、あえてこんな時間にメールを送ってきた……? 特に急ぐような内容でもないのに……)

美希(……なんか、引っかかるの)

美希(! もしかして……)

美希(このメールを送ったのは、パパの意思じゃない……?)

美希(もし誰かがパパに命令して、ミキ宛てにメールを送らせたんだとしたら……)

美希(……そんなの、キラ事件の捜査本部の人間以外には考えられない)

美希(リュークが言うには、ミキが福井に着いてからは尾行はついていない。東京の空港まではついていたらしいけど……)

美希(だからその代わりにパパからメールを送らせて、それに対する返信のタイミングからミキの行動を把握しようとしている……?)

美希(いや、でも……メールの返信だけで行動を把握するっていうのは少し無理がある気がするの)

美希(だったら、もっと別の……ミキがキラとして疑われている前提なら……)

美希(キラ……裁き……)

美希(! そうか。ミキは今まで、基本的にずっと裁きの時間は変えずにここまできた)

美希(でももしこの合宿期間中だけ裁きの時間が変わり、それに連動するようにミキの生活リズムも変わったとしたら……)

美希(ミキの容疑は一層深まる……ってことなの)

美希(でもお生憎様なの。合宿中も裁きの時間は変えてない。だからミキが普段より遅い時間まで起きていても何の関係も無いの)

美希(そうと決まれば……)

美希(……『パパ、メールありがとう。ミキは元気なの。今日は初日だったからばたばたしちゃって寝るの遅くなっちゃったの。でも流石にもう寝るね。おやすみなさいなの』……っと)ピッ

美希(これでいいの。合宿期間中も普段と全く生活リズムが変わらないっていうよりは、むしろこれくらいの方が自然だと思うし……)

美希(何より裁きの時間が変わらない限り、そこから美希への疑いを強めることは絶対にできないの)

美希(捜査本部ではまだキラの殺しの方法が分かっていないから、『合宿中は普段と同じようには裁けないはず』って思われてるのかもしれないけど……実際は切れ端に名前を書くだけなんだから、ほんの数秒の隙さえあればいつでも殺せるの)

美希(こんな狡い手段でキラの尻尾を掴もうなんて笑止千万なの。おへそでお茶を沸かしちゃうの)

美希(……でも)

美希(実際のところ、捜査本部の中でパパにこんな命令を出せる人がいるとしたら……やっぱりL? それとも刑事局長の夜神総一郎?)

美希(あるいは竜崎? 夜神月?)

美希(…………)

美希(まあ、いいの。誰の意思であっても同じこと……ここからミキがボロを出すことは無い)

美希(それにとりあえず、これではっきりしたことがあるの)

美希(パパは今もまだ、キラ事件の捜査本部にいる……か、いないとしても、捜査本部に対して捜査協力をしている立場にある)

美希(キラを……いや、ミキを捕まえようとしている……捜査本部に対して)

美希「…………」

美希(そしてさっきの報道……普通に考えて、あれもキラ事件の捜査本部が仕組んだ報道操作である可能性が高いの)

美希(ただ、死亡したことが報道されなかった犯罪者はまだ一人だけ……だとしたら春香の言うように、単に情報が遅れてるだけの可能性もあるの。最終的な判断をするのはもう少し様子を見てから……)

美希(でも、もしこれが本当にキラ事件の捜査本部が仕組んだ報道操作だとしたら……?)

美希(一体、何のために……?)

美希「…………」

一旦ここまでですよ! ここまで!

【翌日・市民会館内練習場】


(765プロダクション合宿・二日目)

(アイドル・ダンサー一同のダンスレッスン中)

律子「1、2、3、4、5、6、7、8! ほら、動きなまってるわよ! まだまだそんなもんじゃないでしょ!」

アイドル・ダンサー一同「…………!」

律子「もっとキレ良く! しなやかに! ……」

律子「……よし。じゃあこのへんで少し休憩にしましょう。水分補給はしっかりね」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

雪歩「はぁ、はぁ……律子さんのコーチ、久しぶりだね」

伊織「まだまだこんなもんじゃないわよ」

響「へへっ。自分だってまだまだいけるぞ!」

律子「……ふむ……」

真「あと、ここなんだけどさ……」

千早「そのステップ、私もまだちょっと遅れてるかも……」

やよい「私もついもたついちゃいますー」

春香「難しいよねぇ」

律子「…………」チラッ

美希「…………」

美希(昨日一人だけ報道されなかった、例の犯罪者……)

美希(今朝になっても……やっぱり報道されていなかった)

美希(こんなことは今まで一度も無かった)

美希(やっぱりこれはもう……意図的に報道が操作されているとしか思えない)

美希(だとしたら、それをしているのはやはり……)

美希(……L……)

律子「美希。ちょっといい?」

美希「! な、何? 律子……さん」

律子「今のパート、踊ってみてくれる?」

美希「うん。いいよ」

美希(な、なんだ……びっくりしたの)

律子「はい皆、ちょっと注目。じゃあ美希、お願い」

美希「うん」

(自分でリズムを取りながらダンスの1パートを踊りきる美希)

美希「……どう?」

春香「すごい! 美希!」

雪歩「かっこいい!」

伊織「ま、まあまあね……ふんっ」

律子「皆。最低でも、今の美希のレベルに追いついてもらうわよ」

伊織「よし! やるわよ!」

春香「うん!」

(美希のダンスを遠巻きに観ていたダンサー一同)

百合子「す……凄かったね」

杏奈「うん……」

可奈「…………」

あずさ「はい。皆、水分補給はこまめにね」

百合子「あ、はい! ありがとうございます!」

やよい「はい、どうぞ!」

杏奈「あ……ありがとうございます……」

あずさ「はい」

可奈「あ……はい。ありがとうございます」

可奈「…………」

(あずさから受け取ったドリンクには口を付けずに、じっと体育座りをしたままの可奈)

春香「……可奈ちゃん? どうしたの? なんか元気無いみたいだけど……」

可奈「えっ! そ、そんなことないです! 元気です!」

春香「そう? ならいいんだけど」

可奈「あ、あはは……」

可奈「…………」

可奈(どうしよう)

可奈(今のままじゃ、私……)

可奈(とても、春香ちゃんのバックダンサーなんて……)




(同日夜・民宿内食堂)

律子「それじゃあ、真と雪歩を送っていきます」

P「ああ、頼む」

真「行ってきます!」

雪歩「明日のお昼には戻ってきます」

P「行ってらっしゃい。二人とも気を付けてな」

真・雪歩「はい!」

(律子、真、雪歩を見送った後、食事中の残りのメンバーの方に向き直るプロデューサー)

P「……皆。そのまま聞いてくれ。いよいよレッスンも佳境だが、明日は練習風景の取材が入る。だが特に意識せず、練習に集中してほしい」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

可奈「…………」

春香(可奈ちゃん、やっぱり元気無いような……)

美希「…………」

美希(今日の裁きの対象となる犯罪者は全部で五人)

美希(名前を書く時間は昨日と同じくらい……21時を少し過ぎた頃にするの)

美希(それでもし、今日も……昨日みたいに、死んだことが報道されない犯罪者がいたら……)

美希(…………)

【翌日・市民会館内練習場】


(765プロダクション合宿・三日目)

取材スタッフ「これ、こちらでいいですか?」

P「あ、それはこっちでお願いします」

取材スタッフ「では次、我那覇さんよろしいでしょうか」

P「分かりました。響、次頼む」

響「分かったぞ!」

取材スタッフ「では、この位置でお願いします」

響「はい! よろしくお願いします!」

P「…………」

善澤「やあ。やってるねえ」

P「! 善澤さん。はるばるありがとうございます」

善澤「何、こちらから申し入れさせてもらった取材だからね。それにしても……」チラッ

(インタビューを受けているアイドル達を見る善澤)

美希「……ハリウッド? もちろん楽しみなの。でも、今はライブのことで頭がいっぱいってカンジかな」

千早「ええ。まるで自分の中から、音楽が溢れ出てくるような感じで……。ですから、今は早く舞台に立ちたいと……」

やよい「はい! もっといーっぱいレッスンして、ファンの皆に思いっきり楽しんでもらえるようなライブにしたいです!」

善澤「――なんだか、すっかり頼もしくなったね」

P「ええ、まあ」

善澤「……ああ、でも君がここに来た頃にはもう既にこんな感じだったかな?」

P「そうですね……でもやっぱり、俺がこの事務所に来た半年前と比べて……一層輝きが増しているような気がします」

善澤「はは、そうかい」

真「ただいま、戻りました! ……あれ?」

雪歩「な、なんか人がたくさん……?」

P「お、真と雪歩、戻ってきたな。ちょっとすみません」

善澤「ああ」

P「お帰り。真、雪歩」

真・雪歩「プロデューサー」

P「いきなりで悪いが、二人ともすぐに取材の準備をしてくれ」

真「あ、はい」

雪歩「分かりましたぁ」

善澤「…………」チラッ

(インタビューを受けている春香を見る善澤)

春香「――絶対楽しいライブになると思います! 期待していて下さい!」

取材スタッフ「はい。天海さん、どうもありがとうございました」

春香「ありがとうございました!」ペコリ

善澤「春香ちゃん。僕からも一ついいかい?」

春香「善澤さん。はい。是非よろしくお願いします」ペコリ

善澤「今回のアリーナライブのリーダーに抜擢された理由……自分ではどうしてだと思う?」

春香「理由……ですか? そうですね……」

善澤「…………」

春香「私が、765プロの皆のことが大好きだから……ですかね?」

善澤「あっはっは。春香ちゃんは時々面白いねぇ。うん。でも、そういうところが必要なこともあるよ」

春香「そ、そうですか? え、えへへ……」

美希「…………」

美希(……春香……)

(取材終了後・ダンサーチームだけのレッスン中(アイドル一同は別室で休憩中))

律子「1、2、3、4、5、6、7、8! 1、2、3、4……、はーい、ちょっとストップ! 全体を意識して! もう一回!」

ダンサー一同「は……はい!」

律子「1、2、3、4、5、6、7、8! 1、2、3、4、5、6、7、8! ……よし、じゃあ一旦休憩!」

ダンサー一同「はい!」

可奈「はぁっ……はぁっ……!」

奈緒「可奈、大丈夫か? ちょっと遅れてんで」

可奈「ご、ごめんなさい……」

志保「……ついてこれないようなら、早めに言った方がいいんじゃない。後で言われても迷惑になるし」

可奈「!」

奈緒「志保! 何でそんな言い方……!」

志保「今ならまだ、他の人と交代することもできると思っただけです。本番直前になって『やっぱり駄目でした』じゃシャレにならないでしょう?」

奈緒「そ、それは……」

可奈「……いいんです」

奈緒「! 可奈」

可奈「今の時点で、私が皆についていけていないのは……事実ですから」

奈緒「せ、せやかて……」

志保「今のうちによく考えておくことね。この合宿が終われば、本番のライブまでもう後一か月と少ししかないんだから」

可奈「…………」

(レッスン終了後・市民会館の裏手)

(お菓子の袋を抱えて、一人佇んでいる可奈)

可奈「……プチシューを、食べても食べても、踊れないー……踊れないー……」

可奈「……はぁ……」

(水場で顔を洗った後、裏手に回ってきた春香)

春香「? 可奈ちゃん?」

可奈「! は、春香ちゃ……天海先輩!」

春香「こんな所で何してるの? おやつ休憩?」

可奈「は、はい! あ、あの、よかったら……たくさんどうぞ!」ガサッ

(プチシューの入った袋を差し出す可奈)

春香「あはは、ありがとう。じゃあ一つ貰うね」スッ

可奈「…………」

春香「……ねぇ、可奈ちゃん」

可奈「は、はい」

春香「やっぱり何かあった? 昨日から元気無いみたいだけど」

可奈「…………」

春香「私でよければ……話くらい聞くよ?」

可奈「……ありがとうございます。実は、私……まだちゃんと踊れてないんです」

可奈「せっかく先輩と一緒の舞台に立てるのに、焦るばっかりで……」

春香「…………」

可奈「…………」

春香「……可奈ちゃん」

可奈「はい」

春香「大丈夫だよ」

可奈「天海先輩」

春香「私も、そうだったもん。すぐにできるようになる人も中にはいるけど、上達の早さは人それぞれだから。何事も一歩ずつ、だよ」

可奈「一歩ずつ……」

春香「うん。アイドルになりたいって思った憧れを忘れなければ、いつか絶対出来るようになるって思うんだ」

可奈「憧れ……ですか?」

春香「うん。だから、焦らずいこ?」

可奈「……でも……」

春香「可奈ちゃん?」

可奈「この合宿が終わったら、本番のライブまでもう後一か月と少ししかないですし……」

可奈「私、さっきも他の子から『ついてこれないようなら早めに言った方がいいんじゃないか』って言われちゃって……『後で言われても迷惑になるから』って……」

春香「! …………」

可奈「でも実際その通りだから、私、反論できなくて……」

春香「……可奈ちゃん……」

可奈「私一人のせいで先輩方に迷惑掛けちゃうくらいなら……その子の言うとおり、もういっそのこと……」

春香「可奈ちゃん!」

可奈「! は、はい」

春香「……ちょっと、ここで待ってて」

可奈「えっ?」

春香「いいから待ってて! 絶対だよ!」ダッ

可奈「は、春香ちゃ……天海先輩!? 一体どこへ……」

可奈「……行っちゃった」

可奈「…………」




(同時刻・市民会館入口)

(一人で入口前の階段に座り込んでいる美希)

美希「…………」

美希(昨日の夜、ミキが裁いた犯罪者は五人)

美希(その中の一人が、また)

美希(――間違い無く裁いたのに――死んだことが、報道されなかった)

美希「…………」

美希(一昨日に続いて、これで二日連続……)

美希(昨日も春香に死神の目で確認してもらったから、裁き自体ができていることは間違い無い)

美希(とするとやっぱり、これはLの仕組んだ報道操作……もうそう考えるしかないの)

美希(思えばLがリンド・L・テイラーを使って行った挑発もTVを使ってのものだったし、手段としてはよく似ているの)

美希(それに前にも、名前を間違えた犯罪者の報道や、二人の犯罪者の顔写真を取り違えた報道があった)

美希(もしあれらも、Lの仕組んだ報道操作だったとしたら……)

美希(前者の報道ではキラの殺しの条件として名前が必要なこと、後者の報道では同じく顔が必要なことが分かる)

美希(つまりどっちも、『キラの殺しの条件を特定するためにLが仕組んだ報道操作』だったと考えれば辻褄が合うの)

美希(でも今回のは……どういう目的で?)

美希(『犯罪者が死んだことを報道しない』……そうすることに何の意味があるの?)

美希(当然だけど、Lは春香の目のことは知らない……つまりミキが『犯罪者が本当に死んだかどうかを確認する方法』を持っていることは当然知らないし、また知りようが無いの)

美希(だとしたら、『殺したはずの犯罪者が死んでいない』と思ったミキに、その犯罪者に対してもう一度殺しの行為をさせ……それを観察することで、キラの殺しの方法を特定しようとしている?)

美希(……いや、でもそれならミキが今も毎日行っている裁きを観察するのと何も変わらない。わざわざ同じ犯罪者に対して二回も殺しの行為をさせる意味は無いの)

美希(それにそもそも、ミキが福井に着いてからは尾行もついていないわけだから、観察しようにも……)

美希「…………」

美希(そういえば、パパからのメールは昨日も来た……一昨日に来た時間は22時40分だったけど、昨日は21時10分……微妙に時間を変えて送り、返信があるかどうかを確認することでミキの生活リズムを見定めようとしている……これは多分間違い無い)

美希(そうだとしたら、これは裁きの時間をこれまでと変えないことで十分対応可能……)

美希「…………」

美希(あとは裁いた犯罪者の一部が報道されていない理由……これだけが……)

美希(このことは春香にも伝えてあるけど、今の春香はもうほとんどアリーナライブのことしか頭にない……『Lの仕組んだ報道操作かもしれない』なんて、思いついてすらいないの)

美希(まあ春香は暴走しがちなとこあるから、正直今はその方が良いけど)

美希(でも春香が何も気付かず、自分から動かなかったとしても……)

美希(既にこうしてLがミキ達に対して色々と仕掛けて来ている以上……早めに手を打たないとまずいの)

美希(他の誰でもない――春香を、守るために)

美希「…………」

美希(だとしたら……現時点で一番効果的な手段は……)

美希(そんなの、考えるまでもないの)

美希(キラ事件の捜査本部のメンバーを―――全て殺してしまうこと)

美希(それを実現するために一番確実な方法は……今現在、顔と名前が分かっている全ての捜査員の名前をノートに書き……その死の状況を『キラ事件の捜査本部に所属する者及びその関係者の全員の顔と名前を『キラを捕まえようとする反逆者達』としてインターネット上のサイトに掲載した後、○日後に心臓麻痺で死亡』とでも設定する……)

美希(インターネット上に捜査員全員の顔と名前が掲載された後は、そこで初めて顔と名前が明らかになった捜査員……つまりミキや春香がそれまで知らなかった捜査員についても、最初に操った捜査員達と同じ行動を取らせてから心臓麻痺で死ぬようにノートに書く)

美希(こうすれば捜査本部にいる全ての捜査員が、自分も含めた全ての捜査員の顔と名前をインターネット上に掲載した後、心臓麻痺で死亡することになる)

美希(インターネット上に捜査本部全員の顔と名前が掲載された後であればその情報は万人の知るところとなるから、その後にその全員が心臓麻痺で死亡したとしても、それは単に『反逆者達がキラによって裁かれた』ということにしかならず、ミキや春香だけが特別疑われるようなことにはならない)

美希(また全ての捜査員が同じ行動を取ってから死ぬことになるから、後で警察が調べたところで特定の捜査員の行動だけを疑うこともできない)

美希(仮に『捜査員全員がキラによって操られ、全く同じ行動を取ってから死亡した』と推理することはできても、それぞれの捜査員がインターネット上に全ての捜査員の顔と名前を掲載する日時、さらにはそれぞれの捜査員の死亡する日時までをもランダムに設定しておけば……最初にキラによって操られたのが誰だったのか、すなわち最初からキラに顔と名前を知られていたのが誰だったのかも分からなくなるから、そこから足がつくこともなくなる)

美希(つまりこうすることで……ミキや春香がキラとして特定されることもなく、捜査本部のメンバーを全て葬ることができるの)

美希(……でも、それはあくまで『捜査本部のメンバー全員が互いの顔と名前を知っていること』が前提になる)

美希(もし外から捜査本部を指揮している者で……いや、あるいは捜査本部内の者であっても……)

美希(『捜査本部内の誰にも顔と名前を知られていない者』が一人でもいたら……その者だけは生き残ってしまう)

美希(そしてもしそんな人物がいるとしたら……その人物がLである可能性が極めて高いの)

美希(パパも、キラ事件が始まってすぐの頃だけど、『本物のLは俺達警察の人間もまだ会ったことがない』って言ってたし……)

美希(もちろん、その後にLがパパ達の前に姿を現している可能性はあるし……既にミキが把握している捜査本部のメンバーの中の誰かがLである可能性だってあるけど……)

美希「…………」

美希(でももし仮にそうだとした場合……その中で一番Lである可能性が高いのは……)

美希(やっぱり竜崎……“ L Lawliet”……)

美希(でもリンド・L・テイラーの例もあるし……名前が“L”ってだけではまだ……)

美希(確かに、竜崎は既にパパの前に姿を現しているけど……でも姿を現しているからこそ、むしろ逆にLではない可能性の方が高いとも……)

美希(…………)

美希(……パパ……か)

美希(Lのことは別にしても、もしミキがこの作戦を実行したとしたら――……パパも)

美希(…………)

春香「……美希!」

美希「! 春香? どうしたの。そんなに走って」

春香「あのね、美希。ちょっとダンスを……」

美希「ダンス?」

春香「うん。ダンス……教えてくれない?」

美希「え? 春香に?」

春香「あ、じゃなくて……その、ダンサーの中で一人、ちょっとまだ皆についていけてない子がいて」

美希「…………」

春香「ほら、美希、昨日律子さんにダンス褒められてたし……実際、すごく上手かったし」

春香「だから、ね? ちょっとだけ、コツとか教えてあげてくれないかなって……」

美希「…………」

春香「ダメ、かな……?」

美希「…………」

美希(こんなときに、ダンサーの子の心配って……)

美希(……いや、違う)

美希(『こんなとき』じゃない)

美希(春香にとって……ミキが守ろうとしている春香にとって……一番大切なときが……『今』なんだ)

美希(春香はいつだって、誰よりもアイドルで)

美希(ずっとずっと前から、トップアイドル目指して頑張ってて)

美希(そして何より、765プロの皆のことが―――大好きで)

美希(……そうだよ。ミキが守りたかったのは……)

美希(765プロの皆のことが大好きで、765プロの皆と一緒にトップアイドルになることを心の底から願っている――……)

美希(そんな、春香なんだ)

美希(だから春香にとっては、バックダンサーの子達も、一緒にステージを作り上げていく大事な仲間で)

美希(きっと――ミキ達765プロの仲間と同じくらい――大切な存在なんだ)

美希「……まったく、もう」

春香「み、美希?」

美希「後輩にダンス一つ教えてあげられないなんて、本当に困ったリーダーなの」

春香「えぇっ! ち、違うよぉ! そりゃ私だって教えられないわけじゃないけど、でも、どうせなら私より上手い美希に教えてもらった方が……」

美希「はいはい。もうわかったからとっとと行くの。きょーそーなの!」ダッ

春香「あっ! 美希ずるい! フライングですよ! フライング!」ダッ

美希「あははっ」

春香「もーっ! 待ってよー! 美希ーっ!」

美希(でもね、春香)

美希(ミキも、そんな春香のことが大好きなんだよ)

美希(恥ずかしいから、口に出しては言わないけどね)

(市民会館の裏手)

春香「可奈ちゃーん。ダンスの先生、連れて来たよ!」

可奈「! 美希ちゃ……じゃない、星井先輩!?」

美希「ああ、えーっと……マナちゃんだっけ?」

可奈「か、可奈です! 矢吹可奈……」

美希「ああ、可奈ちゃんね。ごめんねなの」

可奈「いっ、いえ!」

春香「よし。じゃあ早速やろっか!」

美希「…………」

可奈「…………」

春香「ん?」チラッ

美希「えっ! もうミキのターンなの!?」

春香「そりゃそうだよ! そのために来てもらったんだから!」

美希「む、無茶ぶりにもほどがあるって思うな……まあいいや。えっと、可奈ちゃんはダンスが苦手なんだって?」

可奈「は、はい。先輩方からはもちろん、他のダンサーの子達からも遅れていて……」

美希「…………」

可奈「正直、このままどんどん置いていかれちゃうくらいなら、もう今のうちに他の人に代わってもらった方がいいんじゃないかな、とか……思ったりしてて……」

春香「可奈ちゃん……」

可奈「…………」

美希「可奈ちゃん。いや、可奈」

可奈「は、はい!」

美希「可奈はどうしたいの?」

可奈「……えっ?」

美希「ミキ達のバックダンサーやりたいの? それともやりたくないの?」

可奈「そ、それは……」

美希「…………」

春香「…………」

可奈「……やりたい、です、けど……」

美希「じゃあ、いいじゃん」

可奈「えっ」

美希「ミキ的には、どうしたいか、だけでいいって思うな」

可奈「……星井先輩……」

春香「美希の言うとおりだよ。可奈ちゃん」

可奈「天海先輩」

春香「大切なのは……どうしたいか、だけでいいんだよ」

美希「それ今ミキが言ったの」

春香「み、美希!」

可奈「…………」

春香「か、可奈ちゃん? えっと、あの……」

可奈「……ぷっ」

春香「!」

可奈「くくっ……くふふふっ」

美希「可奈」

可奈「あはははっ。そっか……そうですよね!」

可奈「私はやっぱり……天海先輩や星井先輩のバックダンサー……やりたいです!」

可奈「だから、だからそのために……一生懸命練習する」

可奈「それでもし、他の人と同じくらい練習しても足りなければ……他の人よりいっぱい練習すればいい。ただ、それだけのことだったんですね」

春香「可奈ちゃん……」

可奈「ただそれだけのことだったのに……私、何を悩んでたんだろう。バカみたい」

可奈「天海先輩! 星井先輩! さっきは弱音を吐いてすみませんでした!」

可奈「矢吹可奈、もう泣き言は言いません! だから……ダンスレッスン、どうかよろしくお願いします!」ペコリ

春香「可奈ちゃん……! うん! 一緒に頑張ろう!」

美希「…………」

春香「……美希?」チラッ

美希「あ、そこはやっぱりそうなんだ。まあいいけど……」

美希「じゃあ、可奈。まずは一通り踊ってみて?」

可奈「はい! よろしくお願いします!」

(一時間後)

美希「……うん。大体こんな感じかな? だいぶ良くなったと思うよ」

可奈「はぁっ……はぁっ……ほ、本当ですか?」

美希「うん。まあまだ色々粗いけど、最初の頃よりはすごくマシになったの」

可奈「あ、ありがとうございま……」フラッ

春香「っと!」ガシッ

可奈「す、すみません。天海先輩」

春香「あはは。いいって。じゃあ今日はもう終わりにしよっか」

可奈「はい。星井先輩、天海先輩。今日は本当に、本当に……ありがとうございました!」ペコリ

美希「別にいいの。これくらい」

春香「そうそう。一緒にステージを作り上げていく仲間同士……お互いに助け合うのは当たり前だよ」

美希「春香はもっぱら応援しかしてなかったけどね」

春香「う、うぐっ。で、でも応援だって大切……でしょう?」

可奈「はい! 天海先輩の応援、とても励みになりました!」

春香「ほらぁ!」

美希「可奈は良い子なの」

春香「わ、わた春香さんの応援……」

美希「はいはい。応援ありがとうなの。春香」

春香「えへへ」

可奈「では、私はお先に失礼しますね。お疲れ様でした!」ペコリ

春香「うん。お疲れ様!」

美希「お疲れなのー」

春香「…………」

美希「…………」

春香「……なんか、意外だったよ」

美希「え?」

春香「いや、頼んだ私が言うのもなんだけど……美希があんな風に誰かに教える所って、今まであんまり見たこと無かったからさ」

美希「あー……まあ、ね」

春香「? 美希?」

美希「多分、うつっちゃったの」

春香「うつったって……何が?」

美希「春香の……キラキラ病」

春香「キラキラ……? 何言ってんの? キラは美希でしょ?」

美希「そういう意味じゃないの」

春香「?」

美希「まあいいの。ミキ達も早く戻ろう? もうお腹ペコペコなの」

春香「そうだね。私もお腹空いちゃって……」

春香「…………」

美希「? どうしたの? 春香」

春香「いや……もし以前の私なら、って思って。あ、さっきの可奈ちゃんのことなんだけどね」

美希「うん」

春香「もし以前の私なら……多分、言葉で励ますだけで……その場で具体的な行動にまでは移さなかったんじゃないかな、って」

春香「でも今日の私は、『今、この瞬間に動かなきゃ』って思った……いや、思えたんだ」

春香「『今自分ができる、最大限のことをしよう』って、そう思えた」

美希「春香」

春香「やっぱりこれも……竜崎さんのおかげかな」

美希「……竜崎の? なんで?」

春香「私、竜崎さんと出会ってから……思い出せたような気がするんだ。『一人一人のファンと向き合う』っていう……アイドルとしての初心を」

美希「…………」

春香「可奈ちゃんはアイドル候補生だから、ちょっと違うかもしれないけど……でも多分、『アイドル』という存在そのものに憧れを持ってるっていう意味では……ファンの人達とそう変わらないんじゃないかなって」

春香「だからそんな可奈ちゃんを見てたら、無性に何かしてあげたくなって……気が付いたら、美希を探して走ってたんだ」

美希「……春香……」

春香「それで思ったよ。やっぱり私……アイドルやってて良かったなぁ、って」

美希「! …………」

春香「アイドルやってたから、美希や他の皆と出会えたし、竜崎さんみたいな熱烈なファンの人とも出会えた」

春香「そして可奈ちゃんみたいに、未来のアイドルを目指して頑張ってる子にも出会えた」

春香「だから私はきっと……幸せなんだ」

美希「春香」

春香「……美希」

美希「何? 春香」

春香「アリーナライブ、絶対成功させようね」

美希「! ……うん。もちろんなの」

春香「そしていつか、765プロの皆と一緒に――……」

美希・春香「トップアイドルになろう」

美希「…………」

春香「…………」

美希「あはっ」

春香「ふふっ」

一旦ここまでですよ! ここまで!

【翌日・市民会館内練習場】


(765プロダクション合宿・四日目)

律子「はーい、ストップストップ。……よし! だいぶ合ってきたわね。この合宿の成果が遺憾なく発揮されてるわ」

律子「じゃあ最後は765プロメンバーだけで合わせましょうか。ダンサーの皆はもう上がって……」

可奈「ま……待って下さい!」

律子「? 矢吹さん?」

可奈「もう一回……もう一回だけ、私達も込みで合わせてもらえませんか?」

志保「!」

律子「え、でも……」

可奈「お願いします! この合宿で出来ること……全部、やっておきたいんです!」

春香「可奈ちゃん」

美希「いいんじゃない? 律子……さん」

律子「美希」

美希「ミキ達ならまだゼンゼン余裕あるし。ね、皆?」

真「もっちろん!」

伊織「望むところじゃない」

響「もう一回どころか、もう十回でもいいぞ!」

可奈「皆さん……ありがとうございます!」ペコリ

奈緒「か、可奈? 一体どうしたん?」

可奈「私……決めたんです」

奈緒「? 何を?」

可奈「もう絶対に諦めたりなんかしない、って!」

奈緒「可奈……」

可奈「だから……皆も、もう一回だけ一緒に踊ってくれませんか?」

奈緒「……ま、どういう心境の変化があったんかは知らんけど……そういうことならしゃーないな」

美奈子「うん。私達も頑張るしかないよね!」

星梨花「はい! 皆で頑張りましょう!」

百合子「わ、私だって負けません!」

杏奈「杏奈も……頑張る……」

志保「…………」

奈緒「志保」

志保「一応、言っておくけど」

可奈「…………」

志保「今、無理して倒れたりするのだけはやめてよね。そんなことになったら本当に迷惑だから」

可奈「! …………」

志保「……本番のライブまで、もうあと一か月と少ししかないんだから……ね」

可奈「! 志保ちゃん。それって……」

志保「ほら。早く準備しなさいよ。もう一回合わせてもらうんでしょう?」

可奈「……うん!」

律子「よし。じゃあ全員、さっきの位置に戻って。……いくわよ!」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

(同日夜・民宿の外の庭では合宿打ち上げのバーベキューが催されており、アイドル・ダンサー一同が思い思いに歓談している)

(そんな喧騒から少し離れ、民宿の廊下で二人きりで向かい合っている春香と可奈)

春香「話って何? 可奈ちゃん」

可奈「あ、はい。えっと……」

春香「?」

可奈「実は……私がアイドルになろうと思ったきっかけは、春香ちゃ……じゃない! 天海先輩なんです!」

春香「え……えぇ!?」

可奈「だから、私にとっての憧れは……天海先輩なんです!」

春香「じゃ……じゃあ昨日、私、自分のことを……」

可奈「そ、それで、あの……一つお願いが……」

春香「な、何かな!?」

(小さなパンダのぬいぐるみを差し出す可奈)

可奈「こ、これにサインしてください!」




(一時間後・民宿前の浜辺)

(二人きりで浜辺に佇んでいる美希と春香)

春香「……ってことがあってさ」

美希「へぇ。まさか可奈の憧れのアイドルが春香だったなんて、びっくりなの」

春香「私もびっくりしたよ。昨日までそんなこと、全然言ってなかったから……」

美希「…………」

春香「? どうしたの? 美希」

美希「いや……今では春香が憧れられる立場になったんだなぁ、って思って」

春香「そ、そうだね。そう言われると、なんだか不思議な感じだね」

美希「…………」

春香「……ねぇ、美希」

美希「ん?」

春香「昨日も言ったけど……アリーナライブ、絶対に成功させようね」

美希「春香」

春香「私達765プロだけじゃない。ダンサーの皆はもちろん、最高のステージを作るために必死で頑張ってくれているスタッフの人達……」

春香「そして私達をずっと見守ってくれている、たくさんのファンの人達の為にも……絶対に」

美希「……もう、そんなに何回も言われなくてもわかってるって。リーダー」

春香「えへへ。ごめんごめん」

美希「心配しなくても――……」

春香「? 何か言った? 美希」

美希「ううん。なんでもないの」

美希「…………」

美希(今度のアリーナライブには……これまでの春香の願い、想い……その全てが詰まっている)

美希(だからこのライブだけは、何があっても絶対に成功させてみせるの)

美希(たとえ――……何を犠牲にしたとしても)

美希(…………)

【翌日・民宿内食堂】


(765プロダクション合宿・五日目)

(朝食後、プロデューサーの話を聞いているアイドル・ダンサー一同)

P「……では、四泊五日にわたったこの合宿もこれにて終了だ。今日は家に帰ったらゆっくり身体を休めて――……」

春香「あ、あの! プロデューサーさん」

P「ん? どうした。春香」

春香「えっと、実は一つ提案がありまして……」

P「提案?」

春香「はい。今、言ってもいいですか?」

P「ああ。もちろん」

春香「あの、難しいかもしれないんですけど……ダンサーの皆を、これからライブが終わるまでの間……うちで預からせてもらうことってできないでしょうか?」

P「うちって……765プロで、ってことか?」

春香「はい。ライブまでもうあと一か月と少ししかないですし……限られた残りの時間、できる限り皆で時間を合わせてレッスンした方がいいと思うんです」

律子「あ、あのね春香。そういうことをするには、まず社長とスクールに話を通してからじゃないと……」

P「春香」

春香「は、はい」

P「そのことなら、今俺の方から説明しようと思ってたところだ」

春香「……え?」

律子「ぷ、プロデューサー?」

P「ああ、すまん。律子にもまだ言ってなかったな」

P「実は……俺なりに、この合宿中の皆の様子を見ていて……今春香が言ったように、もっとダンサー組と合わせる時間が必要だと感じたんだ」

P「それにどのみち、ダンサー組も自主練だけじゃ限界があるだろうしな」

P「だからライブまでの間、ダンサー組には……空いている時間は原則としてうちで使っているレッスンスタジオに通ってもらう」

P「そしてうちの皆も、空いている時間はなるべくそっちに行って、少しでも多くの時間……ダンサー組と合わせる練習をしてほしい」

律子「……プロデューサー。もしやその件、もう社長やスクールの方にも……?」

P「ああ。昨日のうちに話を通しておいて、了解済みだよ」

律子「……言ってくれたら手伝いましたのに」

P「何、律子はずっとレッスン頑張ってくれていたからな。この程度の事務仕事まで任せきりにしてしまったら、俺がこの事務所に来た意味が無いだろ」

律子「プロデューサー」

P「……ともかく、そういうわけだ。これからライブまでの間は大人数になって皆も大変だと思うが、時間を合わせてレッスンしていこう」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

春香「プロデューサーさん……ありがとうございます!」

真「人知れずそんな動きをしていたなんて……流石は敏腕プロデューサーですね」

貴音「つくづく、優秀なお方です」

P「別にこれくらいどうってことないさ。お前達、皆の頑張りに比べたらな」

P「とにかく、そういうことだ。皆、明日からもよろしく頼むぞ!」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

美希「…………」

(一時間後・民宿前)

女将「じゃあ皆、頑張ってね」

主人「応援してるよ」

アイドル・ダンサー一同「はい! ありがとうございました!」

律子「私達は一足先に飛行機で帰るから、ここでお別れね」

ダンサー一同「ありがとうございました!」

P「さっきも言ったが、今後もできる限り練習は合わせてやっていきたいと思う。ハードなスケジュールになるかもしれないが、よろしくな」

ダンサー一同「はい!」

春香「可奈ちゃん」

可奈「! はい」

春香「良いライブにしようね」

可奈「は……はい! 天海先輩!」

美希「次に会う時、可奈のダンスがどれだけ上達してるか楽しみなの」

可奈「つ、次に会う時って……もしかして明日とかじゃないですか!?」

美希「あはっ。もちろん冗談なの」

可奈「もう! ひどいですよ! 星井先輩!」

美希「……ライブ、頑張ろうね。可奈」

可奈「はいっ!」

奈緒「ダンスはともかく……可奈はもうちょっとおやつ控えた方がええんとちゃうか? なんや、合宿前よりこのあたりの肉付きが少し……」ツンツン

可奈「ひゃあっ! じ、自覚してるから言わないでください! ちゃんと控えますから!」

志保「……ライブまでに衣装が入らなくなってしまう可能性を考えたら、今のうちに可奈の代役を探しておいた方がいいかもしれませんね?」

可奈「ひ、ひどいよ! 志保ちゃんまで!」

 アハハハ……

美希「…………」

美希(この合宿期間中……結局、パパからのメールは少しずつ時間をずらす形で毎晩来た)

美希(その目的はミキが考えたとおりでほぼ間違い無いはず)

美希(またLの報道操作により、死亡した事実が報道されなかった犯罪者は……この合宿期間中、毎日一人ずついた。つまり昨日までで四人)

美希(パパのメールの方はともかく……この報道操作の方は未だに目的が分からない)

美希「…………」

美希(それでも……ミキは前に進むしかない)

美希(――皆が、笑って過ごせる世界をつくるために)

美希(だからもう、後戻りはできないの)

美希(たとえこの先に……何が待ち受けていようとも)

美希(…………)

【三時間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


総一郎「――竜崎。福井の空港から、頼んでいた画像が届いた」

L「!」

総一郎「空港の保安検査場で――765プロ一行が通過した時間帯に実施された手荷物検査の際に撮影された――X線写真だ」

L「分かりました。では早速、行きの時と同様の手順で確認しましょう」

総一郎「うむ」

月「さっき相沢さんと松田さんから連絡のあった、星井美希と天海春香の保安検査場の通過時刻……それに該当しうるものは……」

総一郎「星井美希のものとおぼしき画像の候補は6枚……天海春香の方は3枚だな」

月「これと、相沢さん達が今日空港で撮影した二人の写真……ここに写っている、それぞれが持っている鞄の形状とX線写真とを照合すると……」

L「星井美希の鞄は一番右、天海春香のは左から二番目でしょうね」

総一郎「ああ。いずれも行きの空港で撮影されたX線写真のうち、我々が二人のものと特定した写真に写っていた物と全く同じ形状だ。まず間違い無いだろう」

L「はい。とすれば、やはり……ありますね」

L「星井美希の物とおぼしき、鞄の中に」

月「ああ。これも、行きの時のX線写真に写っていた物と全く同じ形状だ」

総一郎「ビニール様の袋の中に入れられ……さらにカバーのようなものに覆われているが……」

L「はい。もう断定していいでしょう」

L「――ノートです」

L「そしてこれはほぼ間違い無く……あの日、南空ナオミが目撃した……『黒いノート』でしょう」

星井父「…………」

L「もちろん、X線写真では色までは写りませんし、ノートの表紙や中身に何が書かれているのかまでは分かりません」

L「しかし普通に考えて、もしこれが『ただのノート』なら裸の状態で鞄に入れるか……せいぜいカバーを掛けるまででしょう」

L「カバーを掛けた上でビニール様の袋に入れ、その状態で鞄に入れている……これはもう、鞄の開閉の際等に第三者に偶然ノートそれ自体を見られてしまうことを防ぐための措置としか思えません」

L「ここまでの措置をしている以上、このノートは『ただのノート』……すなわち、アイドルとしての活動を記録したノートや、勉強関係のノートなどではないことは明らかです」

L「そのような類のものであれば、ここまで厳重に外装を施す理由が無いですから」

総一郎「うむ……」

L「とすれば、これに該当しそうな『ノート』は……星井美希が天海春香から受け取っていたとされる例の『黒いノート』……もうこれしかありません」

月「また相沢さんと松田さんの尾行捜査の結果から、星井美希は外出時は常にノート大の物が入る大きさの鞄を携帯していることも分かっている」

月「現に僕や竜崎と例の会合で会っている時も、彼女はその程度の大きさの鞄を所持していた」

L「さらに付け加えるなら、私と二人で会ったときもそうでしたし……その後私を自宅に招き、星井さんを含めてリビングで歓談している間も、終始鞄を膝の上に抱えていました」

L「……そうでしたよね? 星井さん」

星井父「……ああ」

模木「係長……」

星井父「…………」

L「以上の間接事実から、星井美希は『黒いノート』を今回の合宿中のみならず、外出時は常に携行しているものと推測できます」

総一郎「……うむ。合宿中だけ持ち出していた、というのは逆に不自然だしな」

L「その通りです。普段の外出時は自宅かどこかに隠しているのなら、あえて合宿中だけ持ってくる理由がありません」

月「一方、天海春香に対する尾行捜査の結果によると、彼女の外出時には必ずしも星井美希のような傾向はみられず、手ぶらで外出することもある。この前の会合の際も、彼女が所持していたのはポーチだけだった」

月「そして今回の合宿においても……行き帰りの手荷物検査時のいずれについても、天海春香の鞄の中身を写したX線写真にノートらしき物は写っていない」

L「はい。つまり『黒いノート』を持っている……いえ、持ち歩いているのは星井美希だけ、と言ってよさそうです」

総一郎「うむ。とすると……後はこの『黒いノート』が何であるか、だな。わざわざ合宿地にまで持ち込むほどだ。常に目の届く範囲に置いておかなければならないほどに重要な物、ということではあるのだろうが……」

L「そうですね。ただ前に推理したとおり、キラ容疑者の二人が、事務所の他の者に見つからないような場所で授受していた物である以上……『キラとしての活動に関係する何らかの物』であることはまず間違い無いと思われますが……」

星井父「…………」

L「……まあいずれにせよ、これで『確認』は予定通り終了しましたので……この続きは相沢さんと松田さんが福井から戻って来てからとしましょう。といっても、もう後数時間もしないうちに着くでしょうから、それまでは各自休憩ということでお願いします」

総一郎「分かった」

星井父「…………」

模木(係長……)

月(ノート……キラの活動……殺しの能力……)

(二人だけで捜査本部内に残っているLと月(総一郎、星井父、模木の三人は別室で休憩中))

L「…………」

L(相沢と松田が尾行捜査を始めてから一か月半ほどになるが……この間、星井美希と天海春香が外でノートを授受していたことは一度も無い)

L(つまり星井美希は『黒いノート』を天海春香に渡すために持ち歩いているわけではない……?)

L(とするとこのノート……連絡用の媒体ではないということか?)

L(仮にこれが、キラの活動に関する何らかの情報を伝えるためのものだとしたら……少なくとも、この一か月半の間で一度くらいは両者の間で授受されていてもおかしくないはず)

L(あるいは尾行の及ばない範囲……たとえば事務所の中などで授受されていたとしても……一度星井美希から渡されれば、少なくともその後しばらくは天海春香が持つ期間があってもいいはずだが……これまでの尾行捜査の結果からはそのような様子もみられない)

L(それに前にも出た話だが……そもそも連絡用の道具ならもっと小さいメモ用紙等でも足りるはず。あえてかさばるノートを選ぶ理由が無い)

L(だとすれば……やはり『ノート』という媒体自体に意味があり、他の媒体では替えがきかない……?)

L(いや、というより……『連絡用の道具ではないが、常に持ち歩かなければならない物』……だとすれば)

L(『媒体』ですらなく……『ノート』それ自体が何らかの意味を持つ物……ということか?)

L(外出時に家に置いておくことができず、常に持ち歩き、自分の目の届く範囲に置いておかなければならない物……つまり、もし他人に見つかったら致命的なもの……)

L(星井美希がキラだとして……他人に見つかった場合に最も致命的なものは……)

L(一つしかない)

L(キラの殺しの――直接的な証拠)

L(つまり……『ノート』それ自体が犯罪者裁きに必要であり……キラの殺しの能力に直接関係している道具……ということか?)

L(しかし、ノートで一体何をする?)

L(ノート……通常の用途ならそこに何かを書く……だが……)

L(ノートに何かを書いて人を殺している……とでも言うのか?)

L(いや、キラの能力は『直接手を下さずに人を殺せる』というおよそ非科学的な能力……これまで『頭の中で念じるだけでも殺せる』という可能性すらも想定していたことを思えば、そこまで突拍子も無い話でもないといえるか……)

L(だが書くとしても何を……?)

L(それを書くことで人を殺せるのだとしたら……いや、むしろ逆に『それを書かなければ殺せない』のだとすれば……)

L(ノートに書く必要のある『それ』こそが……まさに『キラの殺しの条件』そのもの……ということになる)

L(以前、報道機関に指示して、名前を間違えた犯罪者の報道と、二人の犯罪者の顔写真を取り違えた報道をさせた時……名前を誤って報道された者、顔を取り違えて報道された者達はいずれもすぐには殺されず……後日、正しい名前と顔で報道された直後に殺された)

L(このことから、少なくともその時点では、キラ……星井美希が殺しの能力を使うには『顔と名前』の両方が必要だったと考えられる)

L(つまり、この当時のキラの殺しの条件は―――『顔と名前』)

L(もし仮に、そのうちのいずれかをノートに書くとしたら……)

L(普通に考えて……『名前』……)

L(! ……名前を書くと、書かれた人間が死ぬ……?)

L(…………)

L(だが名前だけでは殺す対象として特定できない……同姓同名の者などいくらでもいる)

L(だとすれば……ここで考えるべきは、もう一つのキラの殺しの条件である『顔』……)

L(『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』……これにこの『顔』という条件を付加するとすれば……)

L(……『顔を知っている人間の名前を書くことで、その人間を殺せるノート』……か)

L(このように考えれば、殺す対象としては特定できる……同時に、これまでのキラの裁きを合理的に説明することができる)

L(また星井美希が常にノートを持ち歩いている理由も理解できる。殺しの道具そのもの……家の中など、誰がいつ手に取るか分からない場所に無防備に置いておけるわけがない)

L(……だが……)

L(南空ナオミが目撃したのは、天海春香が星井美希にノートを渡していた場面だったとのこと)

L(ノートで人を殺せるとしても、それを使って犯罪者裁きをしていたのは星井美希のはずだが……何故それを天海春香から受け取る形に……?)

L(! 待てよ……南空ナオミが二人の間でのノートの授受を目撃したのは、星井美希の自宅から監視カメラを撤去してから二日後だった)

L(ノートを使って犯罪者を裁いていたのは星井美希だったとしても……もし彼女が何らかの方法でカメラの設置に気付き……監視期間中だけ天海春香にノートを貸し、裁きを代行させていたのだとしたら……?)

L(説明がつく……! 監視中に星井美希が全く報道を見ていない犯罪者が心臓麻痺で死んだこと……そして)

L(またも何らかの方法でカメラの撤去に気付いた星井美希が、そのことを天海春香に伝え、ノートを返してもらった……)

L(そしてその場面を、南空ナオミが目撃した……!)

L(そう考えれば、二人の間でのノートの授受が目撃されたのがその一度だけだったことも……そしてその後はずっと星井美希がノートを持ち歩いているということも……全て合理的に説明できる)

L(ただ、どうやって星井美希がカメラの設置や撤去に気付いたのか……そこだけは分からないが……)

L(まあ星井美希は天才的な嗅覚を持つアイドル……何らかの勘……いわば第六感のようなものが常人より強く働いたのかもしれない)

L(…………)

L(ともあれ、『星井美希はノートを使って犯罪者裁きを行っていた』……このことを前提に考えるなら……)

L(星井美希が765プロダクションの前のプロデューサーを殺した時点では、天海春香とはまだ連携していなかったはず)

L(前にこの本部でも話したが……そうでなければ、天海春香が殺したと思われるアイドル事務所関係者と前のプロデューサーとの死因の違いが説明できないからだ)

L(だとすれば……『天海春香と連携することなく、星井美希は独断で前のプロデューサーを殺した』……つまり)

L(星井美希は、天海春香とは無関係に独自にノートを入手したということになる)

L(しかし一方で、天海春香は星井美希による犯罪者裁きが始まるより前に、既に複数のアイドル事務所関係者を殺していた)

L(よって、これらのことからすると……二人はそれぞれ、相互に無関係に別々のノートを入手し、所持している……ということが帰結される)

L(ならば星井美希が監視期間中、裁きを代行させるためにノートを天海春香に貸す理由は無い……? 天海春香も自分のノートを使って裁きができたはず……)

L(いや、『星井美希が監視カメラの設置に気付いていた』という前提なら……単純に、ノートを物理的に観られることを恐れ、念の為に天海春香に預けた……としても不自然ではない)

L(およそ女子中学生が好んで使うとは思えない『黒いノート』……むしろそれくらいの対策は当然に思いつくだろう)

L(また現在、星井美希がノートにカバーを掛け、さらにビニール様の袋に入れているのもそれと同じとみれば……一連の行動として矛盾は無い)

L(つまり、監視期間中はノート自体を絶対に観られないようにするために天海春香に預け……監視が終わり、天海春香からノートを返してもらってからも、自室に監視カメラまで設置されたという経緯を踏まえて警戒度を上げ、何らかの偶然で他人に見られることを防ぐためにカバーと袋という措置を施した……)

L(…………)

L(いや……だがまだ疑問が残る)

L(少なくとも、名前を間違えた犯罪者の報道と、二人の犯罪者の顔写真を取り違えた報道をさせた時点では……星井美希が殺しの条件として『顔と名前』の両方を必要としていたことは間違い無い)

L(だが一方で、これまでの捜査結果から、『天海春香は顔だけでも殺せる』……このこともまた間違い無い)

L(しかし殺しの道具が『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』であるとすれば、『名前が分からなくても殺せる』というのは明らかに矛盾する……?)

L(いや、そうじゃない。『顔さえ分かれば殺せる』ということと『名前が分からなくても殺せる』ということはイコールではない。だとすれば……)

L(…………)

L(考えるんだ……もはや科学的か非科学的かではなく、論理的か非論理的かで考えなければならない)

L(『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』と『顔さえ分かれば殺せる能力』……この二つを論理的に整合させるなら……)

L(! もしも……顔が分かれば、名前も分かる……としたら……?)

L(つまり……)

L(天海春香が持っている能力は……『顔を見れば名前が分かる能力』)

L(そして星井美希は……少なくとも、件の誤った報道の時点まではこの能力を持っていなかった)

L(このような仮定に立てば……キラの裁き、その方法、そして天海春香が持っていると思われる能力についても、全て論理的に説明できる)

L(もっともこれは、既に天海春香に顔を知られている以上、私の本名も天海春香に……いや、天海春香と星井美希の両名に知られているということを意味するが……)

L(だが、私はこれまでも『天海春香は顔だけでも殺せる』という前提の下で推理をしてきた。その推理の内容が具体化したからといって、現状における殺されるリスクが増えたわけではない)

L(むしろもうここまできたら、必要なのはこの推理に確証を与えるための行動……すなわち『計画』を速やかに実行することだけ……)

L「…………」

月「竜崎」

L「はい。何でしょう。月くん」

月「今の状況から……僕なりに仮説を立ててみたんだが、少し聞いてもらってもいいか?」

L「ええ。もちろんです」

月「この『黒いノート』は……『顔を知っている人間の名前を書くことで、その人間を殺せるノート』なのかもしれない」

L「! …………」

月「もっとも天海春香は『顔だけでも殺せる』ようだが……それも『顔を見れば名前が分かる能力』を持っていると考えれば矛盾は無い」

L「…………」

月「言うまでもなく、どちらも極めて非科学的な内容の推理だが――……しかしそもそも、『直接手を下すことなく人を殺せる』なんてこと自体が十分非科学的――」

L「――月くん」

月「何だ? 竜崎」

L「やはり私が死んだら、継いでもらえませんか」

月「え?」

L「Lの名を」

一旦ここまでなの

名前を書かせる見たいな直接的なのは駄目だったような

制限されるのは「あり得ない行動」というよりも「やろうと思っても出来ない行動」に近い感じだから>>520は可能じゃね?

二代目キラ

やよい「え....私...ですか?」

月「…………」

L「…………」

月「竜崎」

L「はい」

月「僕達はどちらも死なない。そして必ずキラを捕まえる」

月「それが僕の答えだ」

L「……月くんらしいですね」




(三時間後・相沢と松田が戻り、捜査員全員が揃った捜査本部)

(『黒いノート』およびキラの能力に関する推理を他のメンバーに話すLと月)

L「……というのが、現時点での私と月くんの推理です」

月「およそ非科学的な推理ではありますが……しかしその点さえ措けば、キラの裁きや殺しの能力を最も合理的かつ論理的に説明することができる推理だと思います」

総一郎「……名前を書いたら、書かれた人間が死ぬノート……」

相沢「そして『顔を見れば名前が分かる能力』……か」

松田「確かに非科学的ではありますけど……でも月くんの言うように、キラの裁きや殺しの能力については……」

総一郎「……うむ。極めて合理的、かつ論理的に説明できている」

月「ですが、これはあくまでもまだ『推理』でしかありません。この『推理』に『確証』を与えるには……」

相沢「ノートの現物を押さえて……検証するしかないってことか」

月「はい」

星井父「…………」

松田「で、でも……ノートの検証っていっても、具体的にはどうやるんですか?」

L「『ノートに名前を書かれた人間が死ぬかどうか』の検証ですから……当然、誰かの名前を書いてみるしかないでしょうね。一番分かりやすいのは……死刑の決まっている者の名前をノートに書き込むこととし、もし名前を書き込んでもその者が死ななければ死刑を免除する、という司法取引を交わさせる……などでしょうか」

総一郎「りゅ……竜崎! いくらなんでもそんなやり方は……」

L「……まあ、とりあえずは自白が優先です。もしノートにこれまでに裁いてきた犯罪者の名前が書かれていればまず言い逃れはできないでしょうし……書かれていないか、あるいは書かれていても認めないようであれば、こちらの推理内容を一通り聞かせた上で自白を促す……」

L「ただ、いずれにしてもノートの現物を押さえてからの話です。検証の方法はまたその後で考えましょう」

総一郎「う、うむ……」

月(上手くはぐらかしたな)

相沢「竜崎。ちょっといいか?」

L「はい。何でしょう。相沢さん」

相沢「765プロの合宿期間中……係長が星井美希に送ったメールの件だが」

L「はい」

星井父「…………」

相沢「係長が送ったメールに対する星井美希の返信のタイミングから察するに……合宿中ということもあって、生活リズムは多少変動していたようだが……それでも毎日23時までには就寝していたと推測される」

L「そうですね。23時以前に送ったメールはその日のうちに返信がありましたが、23時以降のメールについては翌朝に返信が来ていました」

L「もちろん、起きていてもすぐには返信しなかったという可能性もありますから、あくまでも推測の域を出ませんが」

相沢「ああ。だが、合宿期間中のキラの裁きはそれ以前と同様……いずれの日も22時以前だった。よって星井美希の生活リズムの変動とキラの裁きの間に相関性は無い……」

L「はい。ですが、それは彼女がキラであるとする推理を強める根拠にはならないというだけで、弱める根拠にもなりません」

相沢「ああ、それは分かっている。俺が気になっているのは『合宿期間中も裁きの時間は変わらなかった』という点だ」

L「……と、言いますと?」

相沢「竜崎や月くんの推理を前提にすると……星井美希は合宿期間中も『黒いノート』に犯罪者の名前を書いていたということになる。そしてその時間は毎日22時以前……おそらくはまだ他のアイドル達も起きているであろう時間帯にだ」

L「……つまり、『他のアイドルに見つかるかもしれないのに、あえてそんなリスクを冒すか?』ということですか」

相沢「そうだ。どうせなら他のアイドルが寝静まってから……あるいは明け方など、安全な時間帯はいくらでもあったはずだ」

相沢「それにもかかわらず、あえてリスクを冒してまでそれまでと同じ時間帯に裁きを行ったというのは……正直、可能性として高いとはいえないのでは?」

L「そうですね……。まず考えられるのは、単純に他のアイドルを信頼していた……つまり万が一、ノートに犯罪者の名前を書いているところを見られたとしても……後でいくらでも誤魔化すことができ、また他のアイドルも自分の言うことを疑うはずが無いという確信があった……といったところでしょうか」

松田「な、なんか随分楽観的ですね……」

L「……それだけの強固な信頼関係が、765プロダクションのアイドル同士の間にはある……その点については私も否定しません」

松田「竜崎……はるるんのファンの振りをしているうちに、なんだか本当にファンになってません?」

相沢「松田」

松田「はい。すみません」

L「……あともう一つ考えられるとしたら……『あえて裁きの時間帯を変えなかった』という可能性です」

相沢「あえて……?」

L「はい。前にも言いましたが……おそらく星井美希は自分が“L”に疑われているということに気付いています」

L「だとしたら……自分が合宿に行っている間だけ裁きの時間帯が普段と違っていたら、自分に対する嫌疑がより強くなる……そこまで考えた上で、リスクを覚悟で従前と同じ時間帯において裁きを行った……」

L「私としては、むしろこの可能性の方が高いのではないかと思っています」

相沢「なるほど……」

月「もしそうなら……合宿期間中に星井さんが送ったメールについても怪しまれている可能性はあるな。一応、今は星井さんはキラ事件の捜査本部から外れているということになっているが……それでも、以前捜査本部にいたということは知られているわけだから」

L「そうですね。その可能性は十分にあると思います」

星井父「…………」

総一郎「それなら……例の犯罪者裁きの報道操作についても、一日一人とはいえ、特定の犯罪者のみ裁きの結果が報道されていないという事実に気付き、いや、それのみならず……それが“L”によるものだということまで勘付いていてもおかしくはないな」

L「はい。これも星井美希および天海春香から怪しまれることのないように一日一人としましたが……もし、星井美希が星井さんからのメールを怪しむ程度にまで警戒心を強めていたとしたら……そこまで推測されている可能性は十分にあります」

松田「そ、そんな……じゃあこっちの思惑は全部筒抜けってことですか?」

L「いえ。それは大丈夫です」

松田「えっ」

L「まず、星井さんに送ってもらったメールですが……もしかしたら星井美希には、その目的……つまり『キラの裁きの時間帯と合宿中の星井美希の生活リズムとの相関性を調べる』ということには気付かれたかもしれません」

松田「! じゃあ……」

L「……ですが、それは今後、星井さんが星井美希に警戒されることにより、自ら探りを入れることが難しくなるという程度で、さしたる問題ではありません。元々、星井さんに行ってもらっていたのは家庭内における星井美希の動向の観察が主であり、彼女に対し積極的に探りを入れてもらっていたわけではありませんので」

星井父「…………」

総一郎「そもそも娘の心配をして父親がメールを送ることくらい、何らおかしなことではないからな」

月「父さんがいきなり粧裕にメールを送ったら確実に怪しまれるとは思うけどね」

総一郎「…………」

L「また、犯罪者裁きの報道操作の方も……仮に怪しまれたところで、その目的には絶対に気付けません」

L「むしろ、これらの方に星井美希の注意を向けさせることができたのだとすれば、それだけ本丸の作戦――行き帰りの空港におけるノートの『確認』――からは目を逸らさせることができたのではないかと思います」

月「確かに……行きも帰りも、手荷物検査には普通に鞄を通していたからな。僕達が既に『黒いノート』の存在を検知しており、それを持ち運んでいることの証拠を押さえようとしていたことなど……まず気付いてはいないだろう」

総一郎「うむ。仮にそのことに気付いていれば、無防備にノートの入った鞄を検査に通すはずがないからな」

L「そうですね。そしてそれはすなわち、我々が『黒いノート』の存在を検知するに至った最初の契機――『黒いノート』の授受の場面を南空ナオミが目撃していたこと――にも、やはり気付いてはいないだろうということを意味します」

相沢「しかし……今にして思えば、随分上手くいったもんだな。南空ナオミの尾行捜査は」

L「そうですね。考えられる要因はいくつかありますが……そもそも、私が南空に尾行を頼んだのは、時期的にはキラ事件が始まってから二か月半ほどが経った頃でした」

L「キラ事件の開始時は、まだ星井美希と天海春香の二人は連携していなかったはずですから……おそらく、私が南空に尾行を頼んだ時は、二人が連携し始めてすぐの頃だったのではないかと思われます。ゆえにまだ色々と隙があり、外でもノートにカバーを掛けずに受け渡しをしていたのではないでしょうか」

L(もっとも実際は、監視カメラが撤去された直後で警戒心が緩んでいた、という理由が大きかったのだろうが……)

L「この点、我々としては外の公園よりも事務所内で渡された方がまずかったわけですが……二人は事務所内の他の人間に見られるリスクの方を回避したかったのだと思われます」

L「また南空の尾行捜査自体、彼女が私用で来日していたところを、私が無理を言って夜神さんの補佐として捜査協力してもらっていたに過ぎません。ゆえに尾行期間自体、数日間しか無かったですし……合間合間の時間を使っての捜査でしたから、尾行そのものに多くの時間は割けていなかったはずです」

L「それに加えて、当時は萩原雪歩をも含めた三人分の尾行を南空一人でしてもらっていました。必然、星井美希および天海春香に対する尾行の時間はそれだけ短くなっていたはずですから……これらの点も考慮すると、南空の尾行が二人に気付かれていた可能性は相当程度低かったものと考えられます」

松田「なるほど……って、じゃあ今、僕と相沢さんはもう一か月半以上、一日のうちのかなりの時間をミキミキとはるるんの尾行にあててるんですが……それも、マスクにサングラスっていうめちゃくちゃ怪しい恰好で……」

L「はい」
  
松田「(はいって……)これって、尾行自体がもう既に二人に気付かれている可能性もあるってことですか?」

相沢「だからマスクとサングラスなんだろ。顔さえ見られなければ殺されない」

松田「ああ、なるほど……って、いやいや!」

相沢「しかし……殺しの道具がノートであり、キラ事件開始の当初……いや、より正確に言えば765プロの前のプロデューサーが死んだ時点では、星井美希と天海春香はまだ連携していなかった。そうだとすると、この二人はそれぞれ別個にノートを所持していた……いや、今もしている……ということになるのか?」

L「はい。そうですね」

相沢「そうだとすると……何故、天海春香は星井美希にノートを渡したんだ? 各々が一冊ずつ持っているのなら、一方が他方に貸したりする必要は無さそうだが……」

総一郎「! …………」

総一郎(そうか。監視カメラの件を知っているのは私と竜崎……と、竜崎が伝えたライトのみ。そのことを知らない相沢達に説明するには……)

L「そこはあまり気にしなくてもいいんじゃないでしょうか」

相沢「えっ」

L「二人が連携してまだ間も無い頃だとすると、互いが持っているノートの効力が同じかどうかなどを確かめる必要はあったでしょうし……また天海春香が持っていると思われる『顔を見れば名前が分かる能力』を手に入れるためには、天海春香の持つノートを一時的に所持しなければならないとか……何かそういう事情があったのかもしれません」

相沢「……なるほど。だから天海春香が星井美希に自分のノートを渡した、ということか」

L「はい。そしてその場面を南空によって目撃された……」

相沢「ふむ」

L「ですが、いずれにせよ推測の域を出ませんし……今この点を議論しても終局的な結論には至らないでしょう」

L「むしろこの二人のいずれかが『黒いノート』を外に出したのはこの一回だけだった……この事実自体が、このノートがキラの活動に関する単なる連絡用の道具などではないということの証左です」

L「もしこれが単なる連絡用の道具であれば、もっと頻繁に互いに交換なり授受なりを繰り返しているはずですから」

相沢「確かに……」

月(上手く誤魔化したな)

L「また先ほどもご説明しましたが、この『黒いノート』がただの連絡用の道具ではないと推理できる根拠としては、星井美希がほとんど常にこれを自分の目の届く範囲に置いている、ということも挙げられます」

L「もっとも、だからといって24時間常にこれを身に着けているというわけではないでしょうし、またそんなことは物理的に不可能です」

相沢「それはまあ……そうだろうな」

松田「お風呂とかもありますもんね」

星井父「……………」

相沢「松田」

松田「す、すみません」

L「ただ、極力そのような状況が生じないように相当工夫を凝らしていることは事実です」

総一郎「というと?」

L「まず、外を歩いている時は常に鞄に入れて持ち運んでいるものとみて間違い無さそうですので……注意すべきは彼女がどこかに滞在している時です」

L「星井美希の滞在時間が最も長い場所は当然自宅ですが……星井さん」

星井父「! ……何だ?」

L「念の為に確認しますが……ご自宅の中で『黒いノート』らしき物を見かけたことはありませんね?」

星井父「ああ。前に言った通りだ。一度も無い」

L「そして……このことで特に美希さんの部屋の中を確認したりしたことも無い。そうですね?」

星井父「そうだ。俺がそれをしても意味が無いと、以前竜崎にも言われたからな」

L「そうでしたね。もっとも、ノート一冊くらいならいくらでも隠し場所はありそうですし……多少調べた程度ではすぐに見つかるとも思えません」

松田「しかしそうなら、外出時も持ち運ばずに、ずっと家の中に置いていてもいいのでは?」

星井父「まあ何かの偶然で……という可能性はあるからな。たとえば美希の姉の菜緒なんかは、物の貸し借りなどでちょくちょく美希の部屋に入っていてもおかしくない」

松田「なるほど」

L「そんなところでしょうね。逆に言えば、この『黒いノート』はその程度の可能性すらも無視できないほどに重要なものである、ということです」

星井父「…………」

L「次に星井美希がよく滞在しているのは765プロダクションの事務所ですが……こちらには個人別の鍵付きロッカーがありますので、事務所にいる間は普通にこれを使用し……この中に鞄ごとノートを入れているものとみてまず間違い無いと思われます」

月「個人別の鍵付きロッカー? そんな話、僕も天海春香から聞いたことが無かったが……よく分かったな」

L「事務所が休みの日にワタリに侵入して調べてもらいました。もちろん監視カメラ等に痕跡は何一つ残していません」

総一郎「いつの間に……」

L「また現在星井美希が通っている高校ですが……こちらでは、アイドルであり私物が盗まれたりするおそれがあるということを理由に……彼女は特別に鍵付きのロッカーを学校から借りている。そうですね? 星井さん」

星井父「! 確かにそうだが……話したか?」

L「これもワタリに調べてもらいました」

星井父「…………」

L「よって、学校にいる間はここにノートを入れているものとみてまず間違い無いでしょう。体育の時間など、どうしても物理的にノートから離れざるを得ない状況はあるはずですので」

月「なるほど。理由も説得的だし、それなら特に周囲から怪しまれることも無いだろうな」

L「はい。そして最後に、今回の765プロダクションの合宿所となった福井の民宿ですが……これについても、ワタリに事前に調べてもらいました」

松田「ワタリ凄いっすね……」

総一郎「うむ。普段はあまり姿を見かけないと思っていたが、裏でそんなに動いていたとは……」

L「具体的にどの民宿に泊まるのか、ということまでは私や月くんも知りませんでしたが、例の会合時に聞いた『隣に市民会館がある福井の民宿』という条件にあてはまるものは一つしかなく……特定は容易でした」

L「そしてワタリの調査の結果、この民宿は特にセキュリティが高いわけでもない、ごく普通の民宿だったことが分かりました」

L「765プロダクションのアイドル一行が宿泊していたのは一階または二階の大部屋と思われますが……そのいずれの部屋においても、中にあるのは共用の金庫だけです」

L「その中にはせいぜい財布や携帯電話を入れるのが関の山……いくら袋に入れた状態だとしても、そんな所にノートを入れていたとは思えません。他のアイドルに不審に思われるだけです」

L「また大きなホテルのフロントならまだしも……一介の民宿の主人にノートだけをわざわざ預けるとも思えません。そんな場面を他のアイドルに見られでもしたらやはり不審に思われますし、そもそも主人からも怪しまれるでしょう」

L「以上より、星井美希は……今回の合宿期間中、『黒いノート』については基本的に部屋の中に普通に置いていたのだろうと思われます」

L「我々がX線写真で確認したとおりの状態――すなわち、ノートにカバーを掛けてビニール様の袋に入れ、それを鞄の中に入れた状態で――です」

L「もちろん、流石に鞄のファスナーくらいは常に閉めるようにしていたのだろうと思いますし、それなりに長い時間、部屋を空けることがあれば鞄ごと外に持って行ったりもしていたのでしょうが……短い時間であれば、ノートを置いたまま部屋の外に出ていた、ということもおそらく何度もあったであろうと思われます」

L「鞄にせよ袋にせよ、常に何かしらを携帯した状態で行動していれば、それはそれでやはり怪しまれるでしょうから」

相沢「いや、だが……いくらなんでも無防備過ぎないか? 誰でもノートに触れる状態であったにもかかわらず、部屋の中にそれを置いたまま外出していたというのは……それこそ、今まで竜崎が説明してきた普段の注意深い行動と矛盾するようにも思えるが」

L「はい。確かに無防備です。……ですが、これは彼女の普段の行動と矛盾するわけではありません」

相沢「? どういうことだ?」

L「おそらく、星井美希には確信があったのでしょう」

相沢「確信?」

L「はい。『仮にノートを入れたままの鞄を部屋に放置したとしても、それが他のアイドル仲間に探られたりすることは絶対に無い』という確信が」

相沢「! …………」

L「もちろん、キラ事件の共犯である天海春香がその場にいたから、という理由もあるでしょうが……自分が部屋にいないときに天海春香が常にいるという保証はありません」

L「それにもかかわらず、星井美希がこの極めて無防備な状態を是としていたのは――……」

L「『信頼』があったからです」

総一郎「信頼……」

L「はい。765プロダクションのアイドル同士を強く結び付けている『信頼』……それがあったからこそ、星井美希は、およそ他の場面では考えられないくらいに無防備な状況であっても、それを受け入れ……ノートを置いたまま部屋を離れることができたのだと考えられます」

L「なので、もし仮に……我々が765プロダクションのアイドルの中の一人を事前に懐柔できていたとしたら、その者を使って……極めて容易にノートの現物を押さえることができたでしょうね」

星井父「…………」

L「また自宅でも、一時的であれば……たとえば風呂やトイレの時、一階に降りている時などは……おそらくノートは自分の部屋に置いたままでしょう。いくらなんでも家の中でも常に持ち歩いているとは思えませんし、それなら星井さんが一度も『黒いノート』を見ていないのはおかしい」

L「これもやはり、765プロダクションのアイドル同様……星井美希が自分の家族の事を『信頼』しているからだと思われます」

星井父「…………」

L「つまり星井美希は『信頼できる者』しかいないような場所であれば、ノートを置いたままにして一時的にその場を離れるなど……ある程度の危険は受容して行動しているものと考えられます」

L「なので私達はその『信頼』を利用し、そこにつけ込みます」

L「星井美希が『この状況でノートを奪われることは無い』と確信できるような状況を作出し、そこでノートを押さえます」

L「その為に必要なのは……『信頼できる者』を星井美希の傍に置き、その『信頼できる者』の手によってノートを押さえさせること……これしかありません」

L「その具体的な『計画』は以前皆さんにご説明したとおりです。もうこの後すぐにでも『計画』の第一段階の実行に移ります。……月くん」

月「ああ、分かっている。今日中に連絡を入れ……都合がつくようなら、明日にも実行する」

L「ありがとうございます。そして『実行』の際、月くんには例の超小型マイクを身に着けてもらいますので……夜神さんと模木さんはここで月くんの発言を聴き……適切なタイミングで報道機関に連絡し、指示を出してください」

総一郎「ああ、報道機関には既に話を通してある。大体『30分後』くらいにテロップを流すよう、指示を出す予定だ」

L「よろしくお願いします。そして相沢さんと松田さんは……ノートの『確認』が済んだ以上、もう当面の間の尾行は不要ですが……もし星井美希または天海春香が尾行に気付いていた場合、『合宿が終わった途端に尾行が無くなった』と思われてしまうとまずいのと、いずれにしても『計画』の最終段階では必ずまた尾行が必要になりますので……尾行自体はこれまで通りのペースで続けて下さい」

相沢「分かった」

松田「またマスクとサングラスか……はぁ」

L「そして、星井さんは……」

星井父「…………」

L「これまで通り、この捜査本部に居る時以外は常に超小型マイクを身に着けていて下さい。またこれまで同様、美希さんに積極的に探りを入れて頂く必要はありません」

L「先ほどもお話ししたように、合宿期間中の星井さんのメールが不審に思われていないとも限らないためです。今、下手に動くと藪蛇となるリスクがあります」

L「なのでむしろ、合宿中のメールが不自然に思われないように……これからは娘を思いやる父親として、今まで以上に愛情を持って美希さんに接して下さい」

星井父「! …………」

L「『合宿中は心配するようなメールを送っていたのに、合宿から帰って来た途端に素っ気ない態度になった』……これではあまりに怪しい……その態度のギャップから、合宿期間中のメールの真の意図に気付かれないとも限りません」

星井父「……ああ。分かった」

月「…………」

月(そういうことか……竜崎)

月(合宿期間中、星井さんから星井美希にメールを送らせた目的は『キラの裁きの時間帯と合宿中の星井美希の生活リズムとの相関性を調べること』にあった。そのこと自体は間違い無い)

月(だがこの目的が達せられると否とにかかわらず……竜崎にはもう一つの意図があった)

月(それは……星井さんに『星井美希が合宿期間中のメールを怪しんでいる可能性がある』と伝え……その対応策として、星井さんに今まで以上に父親としての愛情を持って星井美希に接するように指示すること)

月(まさに今、竜崎が星井さんに指示した内容がそれだ)

月(だがこの指示の真の意図は……『父親の愛情』を盾に、星井美希に自身の父親である星井さんを殺すことを躊躇させるということにある)

月(現状、星井美希に捜査本部のメンバーとして顔が割れているのは父さんと模木さんの二人だけ。だが星井美希がメールの件を訝しみ、星井さんが今もキラ事件の捜査に関与している可能性がある、と考えたとすれば……)

月(星井美希が自分の知る限りのキラ事件の捜査に関与している人物を殺そうと考えた場合……父さんや模木さんだけを殺し、自分の父親である星井さんだけは殺さない……などということはできない)

月(もしそんなことをすれば、自分がキラだと自白しているようなものだからだ)

月(つまり、星井美希がキラ事件の捜査に関与している人間を皆殺しにするなら……自身の父親もその対象に含めざるを得ない)

月(だがキラといえども人の子……ましてやまだ15歳の少女。赤の他人ならいざ知らず……自分の父親を殺すことに抵抗を覚えても不思議ではない)

月(その結果、星井美希が父親を殺せなければ、必然的に捜査本部の他のメンバーも殺せなくなる。竜崎が利用しようとしているのはまさにその点だ)

月(父親と娘が互いを想い合う気持ち――つまり、家族としての情愛――これを最大限に利用した策)

月(まったく、これではどっちが悪だか分かりゃしない)

月(だが、まあ――……)

L「それでは皆さん。あと一息です。頑張りましょう」

一同「はい!」

月(それは、僕も同じか)

月「…………」

【翌日・都内某駅前】


【アリーナライブまで、あと37日】


(手持ち無沙汰気味に、誰かが来るのを待っている様子の海砂と清美)

(二人の間に会話は無く、二人ともどこか落ち着かない様子で並んで立っている)

海砂「…………」

清美「…………」

月「やあ。二人とも。待たせてごめん」

海砂「! ライト」

清美「夜神くん」

月「詳しいことは後で話す。とりあえず着いてきて」

海砂「……うん」

清美「…………」




(二十分後・駅近くのホテルの一室)

(部屋に入った月、海砂、清美)

月「…………」

海砂「…………」

清美「…………」

月「……さて」

海砂・清美「!」

月「ミサ」

海砂「! は、はい」

月「そして……高田さん」

清美「……はい」

月「昨日、二人にはそれぞれ、電話で伝えたが……今ここで、改めて言っておく」

海砂「…………」

清美「…………」

月「僕は―――キラだ」

一旦ここまでなの

【一日前・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「では早速お願いします。月くん」

月「ああ」ピッ

月「…………」

海砂『ライト?』

月「ミサ。今ちょっと話せるか?」

海砂『うん、いいよ! 今日は随分早いんだね』

月「まあね」

海砂『あっ! もしかして、もうミサの声が聞きたくて聞きたくて仕方無かったってカンジ?』

月「まあね」

海砂『もー。だったらもっといっぱい電話してきてくれてもいいのにー』

月「まあね」

相沢「……月くん、さっきから『まあね』しか言ってないが……」

松田「ミサミサと付き合うことになってから、毎日必ず電話してるそうっすけど……大体いつもこんな感じらしいっすよ」

相沢「……弥はいいのか? それで……」

松田「いいんじゃないっすか? イケメン大正義ってことで」

相沢「そういうもんなのか」

松田「そういうもんっすよ……はぁ」

海砂『……っていうか、ライト……』

月「ん? どうした? ミサ」

海砂『ミサ達が付き合ってから明日で二週間になるけど……まだ、会えないの……?』

月「ああ。今日はその事で電話したんだ」

海砂『! じゃあ……もう会えるようになったってこと?』

月「ああ」

海砂『! やったぁ! ねぇねぇ、じゃあいつ会えるの? もしかして今日?』

月「今日は無理だが……ミサの都合さえつくようなら、明日にでも会いたいと思ってる。どうかな?」

海砂『うん、もちろんオッケーだよ! ホントは今すぐにでも会いたいところだけど……でもきっと、ライトにも事情があるんだよね?』

月「ああ……すまない」

海砂『ううん。ミサ、平気だよ。二週間も我慢してたんだから、あと一日くらい何てことないって』

月「ありがとう。……ところで、ミサ」

海砂『? 何? ライト』

月「少し大事な話がある。驚かないで聞いてくれ」

海砂『えっ。ら、ライト……まさかもうプロポーズ? それはいくらなんでも気が早過ぎるような気がするけど……ううん。でも、ライトが望むならミサはいつでも……』

月「……そうじゃない。ミサ。今まで黙っていたが……僕は君の秘密を知っている」

海砂『え?』

月「君のご両親の事。そして……君がキラを崇拝している事をだ」

海砂『!』

海砂『……そっか。知ってたんだ』

月「ああ」

海砂『……まあ、秘密ってほどでもないけどね。両親の事なら普通にネットに出てるし……キラの事も、ミサ、たまにブログとかに書いてるし』

海砂『流石に大っぴらに書いちゃうとヨッシーに怒られるから、さりげなくだけどね』

月「…………」

海砂『でもライト、何で今になってその事を……?』

月「…………」

海砂『もしかして、ミサが今まで黙ってたから怒ってるの?』

月「違うよ」

海砂『じゃあ、ミサがキラを崇拝してることを良く思ってないとか……? ライトのお父さんは刑事さんだし、ライトの将来の夢も同じ……』

月「違うよ」

海砂『じゃあ』

月「それは僕がキラだからだ」

海砂『!?』

月「…………」

海砂『ら、ライト。今、何て……?』

月「僕がキラ。そう言ったんだ」

海砂『…………』

月「信じられないか? まあ無理も無い」

海砂『あ、いや……信じられないっていうか、その、ちょっとびっくりしたっていうか……』

月「…………」

海砂『えっと、冗談……じゃないんだよね?』

月「もちろん」

海砂『…………』

月「まあ、すぐに言われても信じられないのは仕方が無い。詳しい事は明日改めて伝えるよ。……高田さんと一緒に」

海砂『? 清美ちゃん? 何で?』

月「彼女もまたキラ崇拝者だからだ」

海砂『!』

海砂『清美ちゃんも、キラを……』

月「そうだ。そして今、僕がやろうとしている事にはキラの考えに同調してくれる仲間が必要なんだ」

海砂『! じゃあそれがミサと……清美ちゃんってこと?』

月「そうだ」

海砂『……じゃあ、ライトがその、ミサと……』

月「でも」

海砂『!』

月「君への気持ちは嘘じゃない」

海砂『! ……ライト……』

月「高田さんにも協力は依頼するが、それはあくまでもキラの仲間としてだけで、特別な感情は無い」

海砂『…………』

月「だがミサ。君は違う」

海砂『! …………』

月「君にもキラの仲間として協力してもらいたいのは事実だが……それ以上に、僕のパートナーとして……ずっと傍に居てほしい」

海砂『ライト……』

月「この気持ちは本当だ。僕がキラだということは今すぐに信じてくれなくてもいい。でも、この気持ちだけは……どうか信じてほしい」

海砂『……分かった』

月「ミサ」

海砂『正直、まだだいぶ混乱してるけど……でも、ライトがミサのことをすごく大切に想ってくれてるってこと……それだけは信じるよ』

月「ありがとう。ミサ。ただ僕との関係についてはまだ誰にも言わないでくれ。便宜上、高田さんには僕の方から伝えるが」

海砂『うん。分かったよ』

月「じゃあミサ。また明日。待ち合わせの時間と場所は後でメールする」

海砂『ありがとう。……ねぇ、ライト』

月「ん?」

海砂『たとえライトが何者でも、何をしようとしていても……ミサはライトのこと、ずっと大好きだからね』

月「……ああ。僕もだよ。ミサ」

月「…………」ピッ

月「……ふぅ」

L「お疲れ様です。月くん。では続けてお願いします」

月「……ああ。分かってるよ」ピッ

松田(竜崎、容赦無いな……)

清美『夜神くん?』

月「高田さん。急にごめんね。今ちょっといい?」

清美『え、ええ……いいけど。どうしたの?』

月「実は君に……確かめておきたいことがあって」

清美『? 何?』

月「高田さん。君は……キラを崇拝しているね?」

清美『! …………』

月「…………」

清美『……流石ね。夜神くん。この前、少しキラについて話しただけで……分かってしまったのね』

月「ということは、やはり……」

清美『ええ、そうよ。あなたの言うとおり……私はキラを崇拝しています』

月「……そうか」

清美『でも、どうしてわざわざそんなことを?』

月「…………」

清美『夜神くんは警察志望……そんな夜神くんからすればキラは悪。ゆえにキラに賛同している私の考えを正そうと?』

月「違う。そうじゃない」

清美『じゃあ』

月「いいかい。清美……僕がキラなんだ」

清美『!? 夜神くんが……キラ?』

月「そう。僕がキラ……ただそれだけの事だ」

清美『…………』

月「信じられないか?」

清美『い、いえ……ただ少し、驚いたというか……その、唐突だったから……理解が追いついていなくて』

月「そうだな。無理も無い。ただ口で言っただけで信じろというのも酷な話だ」

清美『…………』

月「だから清美。明日僕と会ってくれないか?」

清美『! あ……明日?』

月「ああ。明日直接会って……全てを君に話したい」

清美『……分かったわ』

月「ありがとう。それともう一つ、言っておくことがある」

清美『? 何?』

月「明日会うのは二人きりじゃない。弥海砂も一緒だ」

清美『えっ。み、海砂さん? ……何で?』

月「……僕は今、弥海砂と付き合う形を取っている」

清美『!? そ、それはどういう……?』

月「彼女もまたキラ崇拝者だからだ」

清美『! 海砂さんも……?』

月「そうだ。詳しい情報はネットにも出ているが……彼女は両親を強盗に殺されており、その強盗をキラが裁いたことからキラを崇拝している」

清美『……そうだったの……』

月「ああ。そして今、僕がやろうとしている事にはキラの考えに同調してくれる仲間が必要なんだ」

清美『それが私と……海砂さんということ?』

月「そうだ。僕が弥と付き合う形を取ったのはまさにそのためだ」

清美『! …………』

月「今から二週間ほど前、彼女は僕に告白をしてきた。正直言って、僕は彼女に特別な感情などは全く無かった。だが自分の目的を果たすためには、彼女の好意を無下にするわけにはいかなかったんだ」

清美『……じゃあ、夜神くんはその『やろうとしている事』のために海砂さんと付き合う形を取っているだけ……ということ?』

月「そうだ。そして……」

月「僕が本当に想っているのは君だ。清美」

清美『! …………』

月「今から一か月ほど前……君が僕に告白してくれたときは本当に嬉しかった」

月「だが僕は自分の目的のために弥に接触し、彼女と信頼関係を築いておく必要があった。だから君の告白を受けるわけにはいかなかったんだ」

清美『…………』

月「この気持ちは本当だ。僕がキラだということは今すぐに信じてくれなくてもいい。でも、この気持ちだけは……どうか信じてほしい」

清美『……分かったわ』

月「清美」

清美『正直、まだ完全には頭の整理ができていないけど……今話してくれた夜神くんの気持ち……これだけは信じるわ』

月「ありがとう。清美。だが今話したことは絶対に弥には秘密にしてくれ。また便宜上、これからは弥も含めて三人で会う時は弥のことを下の名前で、君のことはこれまで通り名字で呼ぶが許してほしい」

清美『分かったわ。海砂さんの前では、私とあなたはあくまでただの友人関係ということね』

月「その通りだ。流石は清美。理解が早くて助かるよ。ではまた明日。待ち合わせの時間と場所は後でメールする」

清美『あっ』

月「ん?」

清美『……夜神くん。私は全部あなたの言うことに従うわ。でもこれだけは約束してくれる?』

月「何だい? 清美」

清美『夜神くんの目的が全うされて、もう海砂さんと付き合う形を取る必要が無くなったときは……その……』

月「ああ。分かっている。そのときはちゃんと弥との関係にけじめをつけて……今度は僕の方から君に想いを伝えるよ」

清美『! 夜神くん……』

月「それでいいか? 清美」

清美『……はい』

清美『楽しみに待っています。その日が来るのを』

月「……ああ。僕もだよ。清美」

月「…………」ピッ

月「……ふぅ」

L「お疲れ様です。月くん」

月「ああ。ありがとう。竜崎」

松田「なんていうか……流石は月くんって感じっすね……。現役のアイドルとミス東大候補の二人を同時に相手取るなんて……」

相沢「二人に言ってる台詞ほとんど同じだったけどな……」

松田「いいんすよ、言ってる内容なんて何でも。結局はイケメン大正義なんすから」

相沢「お前それ、言ってて虚しくならないか?」

松田「……なります」

相沢「……すまん」

総一郎「しかし今更だが……やはりライトがキラを名乗るというのは……」

L「夜神さん。お気持ちは分かりますが、少なくともキラ崇拝者である二人に対して『キラを追う者』を名乗るよりは遥かに安全な策かと」

総一郎「それはまあ……そうだが」

L「それに何より、弥海砂と高田清美はどちらも月くんの虜……この二人が星井美希・天海春香の両名に月くんを売ることはまずありえません」

総一郎「そうだな……そもそも、私も事前に承諾していた策だ。もうこれ以上とやかくは言うまい」

L「ありがとうございます。では月くん。明日、よろしくお願いします」

月「……竜崎」

L「? はい。何でしょう」

月「……仮にキラを捕まえられても、僕がミサか高田に殺されるような気がするんだが」

L「月くんなら大丈夫です」

月「何を根拠に……まったく、そのときはお前も一緒に頭を下げてくれよ。場合によっては土下座でもだ」

L「もちろんです。地獄の果てまでお付き合いすることを約束します」

月「……それ結局死んでるだろ」

【現在・都内某駅近くのホテルの一室】


月「僕は―――キラだ」

月「いや、正確には……『キラだった者』……か」

海砂「……『だった』?」

月「ああ」

清美「どういうことなの? それは……」

月「簡単な事だ。僕はかつてキラとして活動し、犯罪者裁きをしていたが……今はそれをしていない」

月「なぜなら……今の僕は、キラとしての能力の大半を別の者に奪われてしまっているからだ」

海砂「!」

清美「能力を……奪われている?」

月「そうだ。では、もう少し詳細に説明しよう」

月「僕がキラの能力を得たのは……昨年の11月の半ば頃だった」

月「『直接手を下さずに心臓麻痺で人を殺せる』という超常的な力を得た僕は、その力を使って世にはびこる犯罪者達を一斉に裁き始めた」

海砂「…………」

清美「…………」

月「だが……今年の2月頃」

月「僕の能力が何者かによって奪われた」

海砂「!」

清美「…………」

月「より正確に言うと、僕が奪われたのは『能力の大部分』であり……キラとしての力を全く使えなくなってしまった、というわけではなかった」

月「だがそれまでと比べ、僕のキラとしての殺傷能力は大幅に制限されることになってしまった。そのため、以前のように……この世にはびこる凶悪犯を軒並み粛清する、などといったことはできなくなってしまったんだ」

月「僕は焦った。僕の理想とする、真面目で心の優しい人間だけの世界をつくること――すなわち、新世界の創世――が、道半ばにして頓挫してしまうのではないかと」

海砂「ライト……」

月「そして僕は考えた。自分に残された僅かな力をどう使っていくべきか……少なくとも、これまでと同じペースで犯罪者を裁き続けていくことなどはもうできない」

月「結局、当面の間の暫定措置として……既に起訴されており、僕が手を下さずとも裁判で有罪判決を受ける可能性が高い者などは見逃すことにした」

月「自分の手で犯罪者を裁けないことに対する悔しさはあったが、自身の置かれた状況を鑑みると仕方無かった」

月「……しかし」

清美「? しかし?」

月「そうやって、裁きの範囲に制約を掛けるようにした直後……『僕が裁いていない犯罪者』が心臓麻痺で死んだ」

海砂「!」

清美「それって……」

月「そう。そこで僕は気付いたんだ。『僕から能力を奪い、僕に代わって犯罪者裁きを行っている者がいる』ということに」

月「つまりその者が……今のキラだ」

海砂・清美「! …………」

月「二人とも……もう大体の事は飲み込めたか? 今日、君達にこんな話をしたのは……僕が今のキラから力を取り戻し、そしてもう一度、僕の手で犯罪者裁きを再開する……これを実現するための協力を頼みたいからだ」

海砂「! ……今のキラから力を取り戻す……」

清美「そして夜神くんが、犯罪者裁きを再開する……つまり……」

海砂「ライトがキラに……戻る」

月「そうだ」

海砂「で、でもそれ……もう誰か分かってるの? その……ライトからキラの力を奪った人……って」

月「ああ」

海砂「! だ……誰なの? それ……」

月「その話より先に……しておくべきことがある」

海砂「え?」

月「僕がキラであることの……いや、キラであったことの証明だ」

海砂・清美「!」

月「正直言って、二人とも……まだ半信半疑といったところだろう? 僕がキラの能力を持っている、ということについては」

海砂「そ、そんなこと……ミサはライトの事、信じてるし……」

清美「……私もよ。夜神くん」

月「ありがとう。ただ理性と感情は別だからね。君達が信じたいと思ってくれる気持ちは嬉しいが、やはり言葉だけでは完全に信じ切るのは難しいだろう」

月「だから、今からそれを証明する」

海砂「い、今から?」

月「そうだ。……高田さん」

清美「えっ。は、はい」

月「君は以前、言っていたね。将来アナウンサーになるための勉強の一環として、キラ事件についてのニュースを研究していると」

清美「え、ええ……そんなに大したことはできていないけど……」

月「では、そんな君の目から見て……最近のキラの裁きに何か不審な点は無かったか? どんな些細な事でもいい」

清美「最近? 最近……あっ」

海砂「? 何?」

清美「ここ数日の話だけど……本来ならキラが裁いているはずの凶悪犯が数名……何故か未だに裁かれていないわ」

月「! …………」

海砂「え? そうなの?」

清美「ええ。先週の水曜日から一昨日までの四日間で報道された犯罪者のうち……一日あたり一人ずつ、計四人の犯罪者が未だに裁かれていない」

清美「これまでキラは、遅くとも犯罪者の報道がされてから24時間以内には裁いていたわ。それがこの四人については、いずれも最初の報道時から既に24時間以上が経過している……これまでのキラの裁きの傾向を考えると明らかに不自然」

月「…………」

月「……正解だ。流石は高田さん」

清美「夜神くん」

月「ちなみに、以前にも同じようなことは無かった?」

清美「以前……ええ。そういえば以前にもあったわ。確か、名前を間違われて報道された犯罪者と、顔写真を取り違えられて報道された二人の犯罪者……この三人については、最初の報道の後には裁かれず、数日後、正しい名前と顔写真での訂正の報道がされた後に三人とも裁かれていたわ」

月「その通り。これも正解だ」

海砂「へー、そんなことあったんだ……全然知らなかった」

月「今、高田さんが説明してくれた間違った報道の件は、まだ僕がキラとして裁きをしていた頃の話だが……最初の報道の時に裁けなかったのは、殺すための条件が足りていなかったからだ」

清美「殺すための条件……誤っていた報道の内容を考えると……『名前』と『顔』?」

月「そうだ。キラの裁きにはその二つの条件が必要となる。だからそれらが間違って報道されていた犯罪者については、僕はすぐに裁くことができなかった」

海砂「へー」

清美「ということは……今回、まだ裁かれていない四人の犯罪者についても同じ……? つまり、名前や顔が間違って報道されている……?」

月「いや、この四人についてはそうではない。全員、顔も名前も報道された通りで合っている。特殊なルートで照会を掛けたから間違い無い」

海砂「特殊なルートって?」

月「それについては後で話すよ」

海砂「もー、ライトったらさっきからそればっかじゃん」

月「そう言うなよ、ミサ。物事の説明には順序ってものがあるんだ。……で、この四人の犯罪者については名前も顔も合っているのに、何故裁かれていないのか、ということだが……その理由は極めて単純なものだ」

清美「単純?」

月「そう。一言で言えば……単なる裁き漏れ」

海砂「えっ」

清美「裁き……漏れ?」

月「ああ。これも後でまとめて説明するが……先週の水曜日から一昨日までの四日間、キラは通常通りに裁きをできる状況にはなかったものと推定される。ゆえに本来裁くべき犯罪者を見逃してしまった」

海砂「見逃してしまった、って……」

清美「…………」

月「ともあれ、結果的にこの四人の犯罪者は今も生きている。これを利用して……僕は今から君達に証明する」

月「僕がキラの力を持っている、ということを」

海砂・清美「!」

月「さっきも言ったが……能力の大部分を奪われてしまったとはいえ、それでも力が完全に失われたわけではない」

月「四人程度なら造作も無い」

海砂「じゃ……じゃあライト、その、今から……」

清美「…………」

月「では、悪いが二人とも向こうを向き、そのまま目を閉じてくれ」

月「僕がいいと言うまで絶対に振り返らないように」

海砂「わ、分かった……」スッ

清美「…………」スッ

(月に背を向け、目を閉じる海砂と清美)

月「よし。では少しの間、そのままで」

海砂「…………」

清美「…………」

月「…………」

月(そろそろいいか)

月「いいよ。二人ともこっちを向いて」

海砂・清美「!」クルッ

月「――今、僕が例の四人の犯罪者を殺した」

海砂・清美「! …………」

月「おそらく一時間もしないうちに、ニュース速報のテロップが流れるだろう」ピッ

(部屋にあるTVをつける月)

月「悪いが、このままもう少しだけ待っていてくれ」

海砂「…………」

清美「…………」

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


月『――今、僕が例の四人の犯罪者を殺した』

月『おそらく一時間もしないうちに、ニュース速報のテロップが流れるだろう』

総一郎「模木。今の時間は」

模木「17時31分です」

総一郎「分かった」ピッ

総一郎「……もしもし。警察庁の朝日です。ええ。以前お伝えしていた件で……」

総一郎「そうです。四人まとめて……はい。死亡時刻は本日17時30分頃とし、速報のテロップは18時頃にお願いします」

総一郎「はい。ご協力感謝します。それでは」ピッ

総一郎(後は……)

総一郎「…………」ピッ

総一郎「朝日だ。捜査ご苦労。星井美希の動きはどうだ?」

松田『松井です。お疲れ様です。今日は仕事はオフだったようで、学校からまっすぐに帰宅しました。今は在宅です』

総一郎「分かった。今から30分後に例の報道を流すから、一応18時半……いや、19時頃までは張っておいてくれ。それまでに目立った動きが無ければ今日はそのまま直帰していい」

松田『分かりました。後、さっき相原さんから連絡がありまして、はるる……天海春香は、今日はロケでずっと新宿のスタジオにいるそうです』

総一郎「分かった。ではいつものように帰宅までは見届けるように伝えておいてくれ」

松田『分かりました』

総一郎「よろしく頼む。では」ピッ

模木「局長。1番から6番のモニターを各テレビ局の画面に切り替えました。月くん達がいる部屋の監視カメラの映像は7番のサブモニターに」

総一郎「分かった。さて……」

星井父「…………」

【三十分後・都内某駅近くのホテルの一室】


(無言でTVの画面を見つめ続けている月、海砂、清美)

月「…………」

海砂「…………」

清美「…………」

月「あっ」

海砂・清美「!」

(TV画面上部にニュース速報のテロップが流れる)

海砂「! ……『本日17時30分頃、複数の犯罪者が心臓麻痺により死亡』……」

清美「……『死亡した犯罪者は以下の四名』…… ! これ、さっき私達が話していた……」

海砂「ってことは、これ、今、ライトが……?」

月「もちろん、これで100%の証明になるというわけではないが……でもある程度は、信じてもらえたんじゃないかな」

海砂「……うん。信じる……信じるよ。ライトがキラなんだって」

清美「私も信じます。夜神くんが……キラなのだと」

月「ありがとう。二人とも。ただ正確には『キラだった』だけどね」

海砂「ううん。ライトはキラ……いや、キラはライトだよ」

月「えっ?」

海砂「だって、ミサの両親を殺した強盗を裁いてくれたのはライトでしょ? あれ、去年の11月だったから」

月「ああ。それは……そうだが」

海砂「だから、ミサにとってのキラは……ライトしかいないんだよ。初めからずっと……ね」

月「……ありがとう。ミサ」

清美「私も……」

月「高田さん」

清美「どんな事情があったにせよ、四人もの凶悪犯を裁き損ねるようなキラはキラとは呼べません。私の信じるキラはあなた一人よ。夜神くん」

月「……ああ。ありがとう。――ミサ。高田さん」

海砂「? 何? ライト」

清美「夜神くん?」

月「僕は今ここで、君達に約束しよう」

月「僕は必ず、今キラの力を行使している者から力を取り返し……再び自らの手で犯罪者を裁いていく。そして悪人のいない、心の優しい人間だけの世界をつくる」

月「それが僕の……キラの目指す理想の世界の創世」

海砂「ライト」

清美「夜神くん」

月「そして僕は……新世界の神となる」

【同時刻・美希の自室】


(所在無げにTVを見ている美希)

美希「…………」

リューク「ククッ。随分退屈そうにしてるな。ミキ」

美希「別に退屈なんてしてないの」

リューク「そうか?」

美希「考えることは山ほどあるの。リンゴ食べて寝るだけの死神風情と一緒にしないでほしいって思うな」

リューク「…………」

美希(今、ミキがすべきことは……)

美希(アリーナライブを絶対に成功させる事と……そして)

美希(Lから春香を守る事)

美希(……そのためには……)

(TV画面上部にニュース速報のテロップが流れる)

美希「? ニュース速報?」

美希「……『本日17時30分頃、複数の犯罪者が心臓麻痺により死亡』……!?」

美希「何で……? だってミキ、今日の分の裁きはまだ……」パラパラ

美希「! まさか春香が……? いや、でも春香がミキに何も言わずに勝手に裁きをするはずは……」

美希「……『死亡した犯罪者は以下の四名』…… ! これって……」

リューク「あれ? これ……合宿中にミキが裁いたのに報道されなかった、って奴らじゃないか?」

美希「…………」

リューク「何で今更になって報道されてるんだ? 警察が情報を隠してたってことか?」

美希「違う……」

リューク「え?」

美希「確かに今更になって報道されたのも気になるけど……一番注目しないといけないのはそこじゃないの」

美希「『本日17時30分頃』……今、テロップには確かにそう出ていた」

リューク「? それがどうかしたのか?」

美希「単に報道が遅れてされたってだけなら、まだ何か事情があったのかもしれないって思えるけど……」

美希「『犯罪者が死んだ日時』まで実際と違う日時にされてるのは……流石に意味が分からないの」

リューク「ああ、そういうことか」

美希「あの四人の犯罪者は、確実に合宿期間中にミキが裁いている……全員、裁いた翌日に春香に死神の目で死んでいる事を確認してもらったから間違い無いの」

美希「ということは……『実際は数日前に裁かれていた犯罪者を、今日裁かれたことにした』……そういう情報操作が――おそらくはLによって――されたってことなの」

リューク「でも、そんな面倒な事して……一体誰が得するんだ?」

美希「それが分かったら苦労しないの。黙ってて死神」

リューク「…………」

美希(分からない……分からないけど……)

美希(なんだか、とても嫌な予感がするの)

美希「…………」

【同時刻・都内某駅近くのホテルの一室】


海砂「ライトが、新世界の神に」

清美「夜神くんが」

月「そうだ。そして君達には……そのための協力をしてほしい」

月「……頼めるか?」

海砂「当たり前だよ。さっきも言ったけど、ミサにとってのキラはライトしかいないもん。ミサに出来ることなら何でもするよ」

月「ミサ」

海砂「それに何より、ミサは……誰よりもライトの事を愛してるからね」

月「ありがとう。ミサ。……高田さんは?」

清美「そうね。私は海砂さんとは違って、あくまでもお友達として、ですけど……夜神くんのことは尊敬していますし、私がキラの……夜神くんの考えに同調していることも事実です」

清美「だから私にとっても、キラである夜神くんの力になれるのならこの上なく嬉しいことだわ。喜んで協力させて頂きます」

月「ありがとう。高田さん」

清美(これでいいのよね。夜神くん。そして全てが終わった後には、海砂さんではなく、私と……)

月(そうだ。高田。それでいい……これならミサも疑わないだろう)

海砂(ライトが新世界の神になったら、ミサは女神になるのかな? 女神系アイドル……うん! なんかこれ売れそう!)

月「……では、二人とも僕をキラと信じ、協力してくれるということになったので……ここでもう一人、僕の協力者をこの場に呼びたいと思う」

海砂「えっ。もう一人?」

清美「他にも協力者がいたの?」

月「ああ。少し待っていてくれ」ピッ

月「……僕だ。ああ。二人とも協力してくれることになった。すぐに来てくれ」ピッ

月「別室に待機させていたから、すぐに来る」

海砂「…………」

清美「…………」

 ガチャッ

月「来たか」

海砂「! えっ」

清美「あなたは……」

L「どうも」

海砂「竜崎さん……? 何で? え? ってことは、まさか……」

清美「彼が……?」

月「そう。竜崎ルエ……彼は僕の最初の協力者であり……」

月「君達と同じく、キラ崇拝者だ」

海砂・清美「! …………」

L「…………」

一旦ここまでなの

海砂「竜崎さんも、ライトの協力者で……」

清美「キラの崇拝者……ですって?」

L「はい」

海砂「全然知らなかった……てっきりただの春香ちゃんの大ファンの人だとばかり」

L「それは嘘です」

海砂「えっ」

清美「嘘?」

L「はい。私が今まで天海春香のファンだと言っていたのは嘘です」

海砂・清美「! …………」

L「それだけではありません。私の両親が交通事故で死んだということも、学校でいじめられていたということも、祖父の形見の面の話も、ずっと家にひきこもっていたということも、面を着けないと外出することもままならなかったということも、自殺しようと思っていたところを天海春香に救われたという感動的なエピソードも、そして月くんとオンラインゲーム上で出会ったということも……全て嘘です」

海砂「え……ええぇ!?」

清美「そ、それじゃあ……全部作り話だったってことですか? あの日……学祭の日に、私達に話したことは……」

L「はい。そうです」

海砂・清美「! …………」

月「二人とも……今まで騙していてすまなかった」

海砂「ライト」

清美「夜神くん」

月「…………」

海砂「……ライトは知ってたんだよね? 竜崎さんの話が……全部嘘だってこと」

月「ああ。勿論知っていた。知った上で……ずっと話を合わせていた」

海砂「…………」

清美「どうしてそんなことを……?」

月「簡単な事だ。竜崎は誰よりも早く僕に……キラに辿り着いた人間だったからだ」

海砂「キラに……辿り着いた?」

清美「どういうこと?」

月「その通りの意味さ。あれは……僕が今のキラに能力を奪われる一か月ほど前だった。竜崎はある日突然僕の前に現れ……こう言ったんだ」

月「『キラはあなたですね』と」

海砂・清美「!」

L「…………」

月「流石に焦ったよ。報道された犯罪者しか殺していないはずなのに、何故僕がキラだと特定できたのか……」

月「だが竜崎の話を聞いて納得した……いや、せざるを得なかった」

月「実は僕は……キラの能力を得てすぐの頃に、能力を試す意味も込めて……近所のコンビニの前で若い女性に絡んでいた、バイクに乗った不良風の男をキラの能力を使って殺していたんだ」

海砂・清美「!」

月「そしてその結果を目の当たりにした僕は……自分の能力に確証を得て犯罪者裁きを始めた」

月「僕はすぐに世間から『キラ』と呼称されるようになった。君達も知っての通りだ」

月「しかしその一方で、竜崎は『キラ』による犯罪者裁きが始まる直前の『心臓麻痺による犯罪者以外の死亡者』を独自に調べていた」

月「『キラが犯罪者裁きを始める前に手近な人間で能力を試していた可能性』を疑っていたからだ」

月「結果、僕が殺したバイクの男まで竜崎は辿り着いた。そしてその時の目撃証言を洗い出して僕を特定した」

海砂「! すごっ」

清美「そんなことが……」

月「後は簡単だ。竜崎は僕の家に忍び込み、僕の部屋に監視カメラを仕掛け……僕が犯罪者裁きをする瞬間を証拠として押さえた上で、僕に声を掛けてきた」

海砂「ちょ、ちょっと……人の家に勝手に忍び込んだ上に監視カメラって……完全に犯罪じゃん」

L「そうですね」

海砂(そうですねって……)

月「そこまで話を聞き、さらに自分が裁きをしている瞬間の映像まで見せられ……僕はもう言い逃れができなくなった」

月「もうこの男を殺すしかない。そう思った」

清美「…………」

月「だが次の竜崎の言葉は、僕の予想だにしないものだった」

海砂「? 何て言ったの?」

月「『私はあなたを崇拝しています。どうかあなたの協力をさせて下さい』と」

清美「! じゃあ、それで……」

月「ああ。少し迷ったが……僕は竜崎の言葉を信用することにした」

月「何せ、竜崎は僕が犯罪者裁きを始めてからたった二か月ほどで僕をキラだと特定したほどの人物……味方につけても損は無いだろうと思ったし、そもそも僕を欺く気なら、わざわざ殺される危険を冒してまで僕の前に顔を出す必要は無かったからだ」

月「それこそ、匿名で僕宛てに監視カメラの映像を送れば……それで脅迫でも何でも自由にできたはずだからね」

海砂「確かに……」

海砂「じゃあ結局何者なの? 竜崎さんって」

L「探偵です」

海砂「探偵?」

L「はい」

海砂「……って終わり!?」

L「探偵ですから探偵ですとしか言いようがありません」

海砂「いや、でももうちょっとなんかさー……」

月「まあ一口に探偵と言っても、竜崎の場合は普通の探偵というのとは少し違う。裏の世界のプロ、とでも言うのか……とにかく様々な業界に広く通じていて、僕も想像もつかないほどたくさんのネットワークを持っている」

海砂「へー、そうだったんだ。確かに普通の人っぽくないもんね。竜崎さんって」

L「…………」

月「それに二か月でキラの正体を突き止めたくらいだから腕も確かだしね」

清美「では、その裏の世界のプロの竜崎さんが何故キラである夜神くんの協力を?」

清美「それこそさっき夜神くんが言っていたように、夜神くんがキラである証拠を使えばいくらでも自分の得になることに使えそうな気がしますけど。ましてや色んな業界に顔が利くのなら尚の事」

L「それは月くんが言ったとおりの理由です」

海砂「キラを崇拝していたから……ってこと?」

L「はい。元々、私はずっと裏の世界で生きていました。人の闇も汚い部分も、数え切れないほど見てきました」

L「そんな人間の醜悪さに嫌気が差していた頃……世の中にはびこる凶悪な犯罪者を片っ端から裁いていく『キラ』が現れました」

L「私は思いました。これが正義だと。これが正義の行いなのだと」

L「腐り切った世の中を、もう一度正しい方向へ、あるべき姿へと導いていく事。それは私が心のどこかで憧れながらも追い切れなかった夢、希望でもありました」

L「私の心は決まりました。自分の持てるすべてを使って、必ずや『キラ』を見つけ出し……」

L「そして『キラ』にこの命を捧げようと」

海砂「…………」

清美「…………」

月「――そういう経緯で、竜崎は僕の協力者として動いてくれることになった」

月「具体的には、探偵としてのネットワークを使って、世に報道されていない……『裏の世界』に棲む悪人達の情報を僕に渡してくれた」

月「ちなみにさっき言った『特殊なルートを使って行った、犯罪者の名前と顔が合っているかどうかの照会』というのも、竜崎のネットワークを使って行ったものだ」

海砂「ああ、なるほどね」

月「こうして僕は、従前よりもさらに裁きの範囲を広げることができるようになった……が、そう思ったのも束の間」

月「竜崎と出会ってから一か月ほどが経過した頃……僕はキラとしての能力の大半を何者かによって奪われた」

海砂「そこでそうつながるってわけね。で、誰なの? その何者かって」

月「ミサ。僕がさっき話したことを覚えているか?」

海砂「え?」

月「先週の水曜日から一昨日までの四日間、キラは通常通りに裁きをできる状況にはなかったものと推定され……ゆえに、本来裁くべき犯罪者を見逃してしまった、という話だ」

海砂「あ、ああ……それは覚えてるけど……」

月「何か思い当たることは無いか? 先週の水曜日から一昨日までの間にあった出来事について」

海砂「え? 先週の水曜から……土曜だよね。何かあったっけ? ちょうど、美希ちゃん達が合宿で福井に行ってた頃だと思うけど……」

月「…………」

海砂「え?」

清美「まさか……?」

月「普段と違う土地での合宿生活……生活リズムも大きく変わっていたとしても不思議ではない」

月「たとえば……『いつもは漏らさず裁いている犯罪者を、つい漏らしてしまった』としても……さほどおかしくはない」

海砂「! じゃあ」

月「そう。僕と竜崎が『僕からキラの能力を奪った者』――つまり『今のキラ』として特定している人物――は、765プロダクション所属のアイドル」

海砂・清美「!」

月「そして今現在、僕と竜崎が直接接触して探りを入れている人物だ」

清美「! それって……」

月「そう。―――星井美希および天海春香の二名だ」

海砂「!」

清美「嘘……」

月「この二人はいずれもキラの能力を持っており、今は互いに連携してキラの裁きを行っている」

月「つまり僕達が君達二人に頼みたいことは……この二人からキラの能力を取り返すことに対する協力だ」

海砂・清美「! …………」

海砂「な……何でこの二人がキラって分かったの?」

L「詳しい方法は明かせませんが……私が月くんをキラだと特定したときと大体同じようなやり方です」

清美「ということは……天海さん達も、夜神くんのように能力を試すために犯罪者以外の人間を殺した……ということですか?」

L「ご想像にお任せします」

海砂・清美「…………」

月「とにかく、二人をキラとして特定した竜崎の推理は僕を納得させるに足るものだったし……何より竜崎自身、僕をキラとして特定して突き止めていたわけだから信用しない理由は無かった」

清美「じゃあ今、夜神くんと竜崎さんは……キラとして特定した上であの二人と接触し、直に探りを入れている状況……ということ?」

月「そうだ」

海砂「あ、じゃあ……」

月「何だ? ミサ」

海砂「確か、ライトって……私達と知り合うより前に、春香ちゃんの家庭教師を始めてたんだよね? それももしかして……」

月「いや、それは完全に偶然だよ。あれはあくまでも粧裕経由で頼まれた話だったし、その時はまだキラの能力を奪ったのが誰かは分かっていなかったからね」

海砂「そうなんだ」

清美「じゃああの日……学祭の日に、海砂さんのステージに夜神くんと竜崎さんが来ていたのは? そこで結果的に夜神くん達は私達や天海さん達と知り合ったわけだけど……それも偶然だったの?」

月「あの場で星井美希・天海春香と出会ったのは偶然だ。もちろん高田さんもね。……だが、僕達がミサのステージに来ていたこと自体は偶然ではない」

海砂「えっ。じゃあもしかして……ライトって元々私のファンだったの?」

月「違う」

海砂「そんなバッサリ」

月「僕と竜崎がミサのステージを観に来ていたのは……星井美希と親しい友人であるミサと接触するためだ」

海砂「!」

清美「海砂さんと……?」

月「そうだ。僕達は星井美希と天海春香が現在キラの能力を保有していることの証拠をずっと探していた。そして遂に……その手がかりとなりうる物を一つだけ見つけた」

月「さらにその後、僕達は、二人のうち星井美希だけが『それ』をほとんど常に肌身離さず持ち歩いているということまで突き止めることができた」

月「つまり『それ』を押さえることで、星井美希と天海春香がキラであることの証拠を掴む……それが僕達の策」

月「だが見ず知らずの他人が肌身離さず持ち歩いている物を押さえるというのは容易な事ではない。ましてや相手は現キラだ。下手な動きを見せれば即殺される」

月「そこで……ミサ。僕達は君に協力を頼むことを思いついた」

海砂「! …………」

月「君と星井美希との間に交友関係があることについては既に竜崎が調べていた。そして星井美希と親しい友人である君なら、彼女が常に持ち歩いている『それ』を押さえることも容易だろうと考えたんだ」

月「それがあの日、僕と竜崎が君のステージを観ていた理由だ」

海砂「…………」

清美「で、でもそれ……海砂さんが殺されてしまう危険があるんじゃ……」

月「ああ。そうだ。いくら星井美希と親しい友人のミサといえど、絶対に殺されないという保証までは無い」

清美「!」

海砂「…………」

月「でもそれは……あくまで星井美希をキラとして捕まえようとするのであれば、の話だ」

清美「え?」

月「僕はさっき『二人からキラの能力を取り返す』と言った。その目的は、僕の手でもう一度犯罪者裁きを行えるようにするため……ただそれだけだ」

月「つまり僕は二人をキラとして捕まえようとか、警察に突き出そうなどとは微塵も考えていない」

月「そもそも形はどうあれ、今、あの二人がしていることはかつて僕がしていたことの模倣だ。よって彼女達もまた、僕……キラの理念や価値観に共感して行動しているものと考えられる」

月「君達と同じようにね」

海砂・清美「…………」

月「だから僕は……あの二人が今キラの力を行使していることの確証を得た後は、彼女達に接触して能力を僕に戻すよう働きかけ……それが叶った暁には、彼女達も僕の協力者として迎え入れようと思っている」

清美「! ということは……星井さんと天海さんも私達の仲間に……?」

月「ああ。そういうことになる」

海砂「…………」

月「だがそれはあくまでも能力を全部僕に戻させてからの話だ。二人に接触するにしても、彼女達が能力を持っている状況下ではこちらの正体は絶対に明かせない」

月「もし彼女達が『自分達こそが真のキラだ』と考え、能力を『前のキラ』に戻す意思など微塵も持っていなければ……自分達の障害になると判断した場合、たとえそれが『前のキラ』であっても躊躇無く排除するものと考えられるからだ」

清美「じゃああくまでも夜神くんに完全に能力が戻るまでは……星井さん達の前ではこれまで通り、私達はキラの事など何も関係していないように振る舞うということね」

月「そうだ。それまでは絶対に、能力を取り返そうとしているのが僕達であるということを知られてはならない。二人に接触し能力を戻すよう働き掛ける際も、絶対に発信元が特定されないような手段を使って連絡を取る」

清美「できるの? そんなことが」

L「はい。できます」

清美「そ、それならいいですけど……」

海砂「…………」

月「ミサ」

海砂「ライト」

月「……どうだ? やっぱり怖いか?」

海砂「……ううん」

海砂「ミサ、やるよ。言ったでしょ。ミサはキラ……ライトの為なら何でもするって」

月「ミサ」

海砂「それに美希ちゃんは、ミサにとっても大事な友達だから……もしこれで美希ちゃんがキラの仲間になってくれるんなら、ますますミサが協力しない理由は無いよ」

月「……ミサ。ありがとう」

月「君が絶対に危険な目に遭うことが無いよう……僕達も全力でサポートするよ」

海砂「えへへ……ありがとう。ライト。心配してもらえてうれしい」

清美(海砂さん、本当に嬉しそう……。流石にちょっと罪悪感を覚えるわね……)

海砂「ところで、ライト」

月「何だ? ミサ」

海砂「その……美希ちゃんがいつも持ち歩いている物っていうのは一体何なの? キラが裁きをするのに必要な道具ってこと?」

月「ああ、そういえばまだ説明していなかったな。星井美希と天海春香の二人が連絡用に使っているノートだよ」

海砂「ノート? 連絡用の?」

月「ああ。そこには二人がキラとして裁きを行ってきたことに関する秘密の連絡内容が記されている。これまでの調査の結果から考えて間違いない」

海砂「じゃあ、そのノートさえ押さえてしまえば……それがそのまま二人がキラであることの証拠になるってこと?」

月「そうだ」

清美「そしてそれを押さえた上で、二人にキラとして特定していることを匿名で伝え、『前のキラ』に能力を戻すよう要求する……ということね」

月「そういうことだ。もし抵抗するようなら、『キラの正体をその証拠とともに世間に公表する』とでも言って脅せばいい」

海砂「なるほど……」

月「ということなので、要は二人がキラであることの証拠さえ押さえてしまえば後はどうとでもなるということだ」

月「能力を全部僕に返させ、こちらが殺される危険をゼロにした上で―――僕達も正体を明かし、二人を正式にキラの仲間として迎え入れればいい」

海砂「でも……具体的にどうやって美希ちゃんからそのノートを押さえるの? 美希ちゃんの家に侵入するの?」

月「ミサにそんな危ない橋を渡らせるわけないだろ。心配しなくてももっと安全な策を考えてある」

海砂「ライト……」

清美「ではどうするの?」

L「ミサさん。直近で星井美希と共演する仕事はありますか?」

海砂「? 美希ちゃんと? 今の所は別に無いけど」

L「じゃあ作りましょう」

海砂「えっ」

L「ミサさんの所属事務所に手を回し、星井美希と共演する仕事の場を作ってもらいます」

海砂「うちの事務所に手を回すって……そんなことできるの?」

L「できます。こう見えても私は芸能界にも顔が利くので」

海砂「マジで?」

L「マジです」

月「さっき言っただろ? 竜崎は様々な業界に広く通じている、って」

海砂「でもうちは良くても、美希ちゃんの事務所の方がオーケーするかどうかわかんないわよ。あっちは今や、うちなんかとは比べものにならないくらいの超人気アイドル事務所だし……」

L「それも大丈夫です」

海砂「マジで?」

L「マジです。ミサさんは何も心配せず、担当マネージャーから新しい仕事の話を聞くのを待っていて下さい」

海砂「まあそれなら任せるけど……じゃあミサは、そのお仕事のときに美希ちゃんの持っているノートを押さえればいいってことね?」

L「そういうことです。よろしくお願いします。作戦の詳細はまたおってご説明します」

海砂「分かった」

清美「夜神くん。私は特に何もしなくていいのかしら?」

月「いや、高田さんには……ミサが星井美希からノートを押さえるときに天海春香を見張っておいてほしい」

清美「天海さんを?」

月「ああ。天海春香もまたキラの力を持っている。ミサの動きに気付いた星井美希が咄嗟に天海春香に連絡を入れないとも限らない……動きを押さえておけるなら押さえておくに越したことは無い。やってくれるかい?」

清美「ええ、それは勿論。でも単に見張っておくだけでいいの?」

月「無論、可能であれば直接相対してほしいところではあるが……高田さんはまだそこまで天海春香と親しい間柄じゃないだろう? いきなり呼び出したりしてかえって怪しまれるのも良くないしね」

清美「それなら大丈夫よ。夜神くん。ついこの前、天海さんの家でお菓子作りを教えてもらったところだから」

月「えっ。そうなのか?」

清美「ええ」

海砂「えー何それ楽しそう! 私も呼んでくれたらよかったのに」

清美「では次は是非海砂さんもご一緒に」

海砂「やった」

月「でも、何でまたお菓子作りを?」

清美「特に深い理由は無いけど……前々から、趣味でも何でも、色んな分野に挑戦することで自分自身の幅を広げたいと思っていたの」

月「なるほど。流石は高田さん。向上心があるね」

清美(本当は夜神くんにお菓子を手作りしてあげたかったからだけど)

L「では、高田さんは既に天海春香とある程度親しくなっているということですか?」

清美「そうですね。お互いに下の名前で呼び合うほどには」

L「そうですか。ではこれで天海春香の動きも問題無く押さえられそうですね。どうかよろしくお願いします」

清美「分かりました」

海砂「でもこれで上手くいったら、美希ちゃんと春香ちゃんも晴れてミサ達キラ一味への仲間入りを果たすのね。まあ二人とも元々『竜ユカ』のメンバーだからあんまり新鮮さは無いけど……」

清美(キラ一味って……)

月「ああ、そのことなんだが……ミサ」

海砂「何? ライト」

月「そろそろまた会合の招集を頼んでもいいか?」

海砂「会合って……『竜ユカ』の?」

月「ああ。前に『765プロの合宿後にまた集まろう』という話になっていたからね。二人から不審に思われないためにも集まっておいた方が良い」

海砂「オッケー。じゃあ行き先はどうする? 確か、次はピクニックか遊園地か……って話だったと思うけど」

月「そうだな……あくまでカムフラージュのようなものだから、なんでもいいともいえるが……」

L「遊園地で良いんじゃないでしょうか」

月「竜崎?」

L「遊園地だと乗り物などで二人一組になったりしやすいですので……常に全員でまとまって行動するより、星井美希・天海春香の様子を観察しやすくなります」

月「なるほど……確かに」

L「まあ観察したからといって、その場でどうこうするということは無いですが……ただ、情報は少しでも多くあった方が良いですので」

月「それもそうだな。じゃあ具体的にどこの遊園地にするかは僕と竜崎の方で考えよう。決まったらミサに連絡するよ」

海砂「分かった。じゃあミサはそのライトからの連絡を受けて全員宛てにメールすればいいのね」

月「ああ、頼む。……では二人とも、僕達から指示があるまでは今までと変わりなく生活してくれ。星井美希・天海春香とも普通に連絡を取ってもらって構わない」
 
月「特にミサは……まあ今更心配は無いだろうが、星井美希と今まで通り良好な友人関係を維持しておいてくれ」

海砂「うん。それは大丈夫。ミサと美希ちゃん、本当に仲良しだからね」

月「そうか。助かるよ。ミサ」

海砂「えへへ……」

清美「でもあの二人もキラの理念に共感していたなんて……今まで全然気付かなかったわ」

海砂「あー、それはミサも思った」

L「まあ考えてみれば別に不思議でも何でもないですけどね……今やネット上じゃキラ支持派の方が圧倒的に多いですし」

海砂「でも共感や支持だけならともかく、あの二人が実際にキラとして裁きをやってたなんてね。本当に驚いちゃった。……あ、ていうか今更なんだけど……ライト」

月「? 何だ? ミサ」

海砂「結局の所……キラの能力ってどんななの?」

月「!」

海砂「しかも美希ちゃん達はそれをどうやってライトから奪ったの? それも全部じゃなくて一部だけ残してって……一体どうやって?」

月「……それは……」

海砂「なーんて、ね」

月「? ミサ?」

海砂「秘密なんでしょ? そのへんのことは」

月「……ああ。悪いが、いくら君達にでも教えられない」

海砂「だよねー。さっきライト、例の四人の犯罪者を裁く時、ミサ達に見えないようにしてたし」

清美「まあ仕方無いでしょうね。むしろ秘密を知る人間の数は必要最低限にしておいた方が良いと思います。どこから秘密が漏れるか分かりませんから」

海砂「一応言っておくけど、ミサはもしキラの秘密を知っても絶対に誰にも言わないよ。たとえ死んでも」

清美「それは私も同じ気持ちですけど……でも自白剤とかもあるでしょう?」

海砂「あー……確かに」

L「ポリグラフ……いわゆる嘘発見器などもありますしね。高田さんの仰るとおり、万が一の時に備えてリスクを極小化しておくための措置です」

月「そういうことだ。すまないが、どうか分かってほしい」

海砂「うん。大丈夫だよ。ミサは何があっても……ライトの事、信じてるから」

清美「私もです」

月「二人とも、ありがとう」

L「あの、一応私もいるんですが……」

海砂「うん。竜崎さんの事も信じてるよ。一応」

清美「私もです。一応」

L「……どうも」

海砂「あ、でも……竜崎さんが実は春香ちゃんのファンじゃなかった、っていうのは地味にショックだったなー。ミサ、あの話結構感動してたのに」

清美「確かに。私も同感です」

L「それはすみませんでした」

海砂「……っていうかさ、別にわざわざ『春香ちゃんのファン』なんて言う必要無かったんじゃないの? 竜崎さんの見た目的にも、単に引きこもりってことさえ言っておけば、実はキラの正体を探っている探偵だった、なんてまず疑われないと思うんだけど」

清美(見た目的にもって……)

L「……念の為です。もし何らかのきっかけにより私の素性を疑われかねないような状況が生じても、とりあえずファンだということにしておけば最悪殺されることはないだろうと考えました」

海砂「あー……まあアイドルにとってファンは一番大事にしないといけない存在だもんね」

L「はい。そういうことです」

海砂「あ、じゃあ美希ちゃんじゃなくて春香ちゃんのファンってことにしたのは何で? 単なる好み?」

L「いえ。単に天海春香が既に月くんと接点を持っていたため、信憑性のある話を捏造し易かったからです」

海砂「あー……なるほど」

清美「でもあの日、夜神くんと竜崎さんが天海さん達に出会ったのが偶然だったということは……あの竜崎さんの一連の身の上話は、全てあの場で……即興で作ったものだったということですか?」

L「はい。完全に即興……アドリブです。さっき月くんも言っていましたが、あの日はあくまでもミサさんへの接触が目的でしたので……まさか星井美希・天海春香の二人と一気に直接接触することになろうとは思いもしていませんでした」

海砂「それであのアドリブかあ。すごいよね。……あっ。でもさ、あの時の話が全部嘘なら、何でお面着けてたの?」

L「あれも念の為です。キラの殺しの条件は『顔』と『名前』ですから。いくら『名前』を知られない限りは殺されないといっても、キラがどこにいるか分からない以上、隠せるのであれば『顔』も隠しておいた方がいいだろうと思いました」

海砂「へー、随分慎重なのね」

L「ただ、とある事故の所為でキラ容疑者の前で素顔を晒す羽目になりましたので……その後はもう着けていませんが」

海砂「……その節は本当に申し訳ありませんでした」

L「いえ。そのことはもういいです。むしろ結果的に星井美希・天海春香の両名により近付くことができましたし……どのみち『名前』が知られない限りは殺されませんので」

海砂「あ、じゃあやっぱり『竜崎ルエ』は偽名なのね」

L「はい。あの日私がした話の中で、その名前が偽名だったということだけは本当です」

清美(ややこしい……)

L「そもそも殺される殺されない以前に……現状、私があの二人から何か疑われているということも無いでしょうから、特に心配はしていません」

海砂「それもそうね。さっきも言ったけど、ぶっちゃけた話、あなたはただの引きこもりにしか見えないし」

L「…………」

海砂「あっ」

月「? どうした? ミサ」

海砂「もしライトにキラの力が戻って、美希ちゃんと春香ちゃんも正式にキラの仲間としてメンバーに加わったら……」

清美「加わったら?」

海砂「このサークルの名前も変えないといけないわね! 『竜崎と愉快な仲間達』から『キラと愉快な仲間達』に!」

月・L・清美「…………」

海砂「あ、あれ? もしかして『キラキラの会』とかの方が良かった?」

月「いや、別に何でもいいが……」

L「とりあえずミサさんのセンスは相変わらず壊滅的であるということを再認識しました」

清美「同感です」

海砂「皆ひどい!」

月「まあ二人を仲間に入れるためにも、まずは彼女達がキラであることの証拠を押さえる事が先決だ」

海砂「うん。ノートね。ミサがんばる」

清美「そして私は天海さんの動きを見張っておく……」

月「そうだ。二人とも、大変かもしれないがよろしく頼む。そして今後、くれぐれも彼女達に勘付かれたりすることのないよう、慎重に行動してくれ」

海砂「大丈夫だよ。ライト。ミサ、こう見えて女優路線も狙ってるから」

清美「私はあまり演技には自信が無いけど……やれるだけのことはやってみるわ」

月「ああ。出来る範囲で構わない。そして出来ない部分はお互いに補い合っていこう」

L「チームワーク第一、ということですね」

月「そうだ。では今日はこのへんで。キラの理想の新世界……その実現の為に、皆で力を合わせて頑張ろう」

海砂・清美「はい!」

【翌日・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


【アリーナライブまで、あと36日】


L「皆さんにもご覧になって頂いていたとおりですが、昨日、無事に弥海砂および高田清美の協力を取り付けることに成功しました」

L「これをもって、『計画』は第二段階……星井美希の持つノートを弥に押さえさせるためのシチュエーション作りに入ります」

松田「あの……竜崎。ちょっといいですか?」

L「はい。何ですか? 松田さん」

松田「ミサミサも高田清美も、二人とも月くんに惚れているのみならずキラの崇拝者でもある……こんな二人にあんな報道操作までして月くんがキラって信じさせたんですから、協力を得られたのはある意味当然だと思いますけど……でもこれ、作戦としては結構危ないっすよね?」

L「そうですか?」

松田「え、だってミサミサに殺人の道具とおぼしきノートを押さえさせるわけじゃないっすか。直前になって『やっぱり怖い』って言い出したりとか……十分ありえる事だと思いますけど」

L「それは大丈夫です。そういう事態を防ぐために『ノートは連絡用の道具です』と説明したわけですから」

松田「あ、そういえばそうでしたね……。いや、でもやっぱりいざっていう段になると……」

L「もちろん100%の保証まではできないですが、それでも私は、シチュエーションさえ用意できれば弥がノートを押さえることはほぼ問題無く可能だろうと考えています」

L「理由として、まず第一に彼女は心底月くんに惚れています。つまり月くんの力になれることなら何だってする」

月「…………」

L「第二に、彼女は知っての通りのキラ崇拝者でもあります。今回はあくまでも『自分が崇拝していたキラである月くんにキラの能力を取り戻させるため』という目的の下での行動ですから、彼女がそれを躊躇する理由はありません」

L「逆に『キラである星井美希と天海春香を捕まえるため』という本来の目的を明かしていたら、いくら月くんの頼みといえど、松田さんの言うように、実行直前になって躊躇してしまっていた可能性はあったでしょうね。あの二人……特に星井美希は、弥にとって相当親しい友人ですから」

総一郎「しかしだからこそ、その親密な関係を利用して、星井美希に自然とノートから離れるほどの隙を作らせることができる……か」

L「その通りです。夜神さん。以前にも言いましたが……星井美希はほとんど常に肌身離さずノートを持ち歩いているほどの警戒心を持っているにもかかわらず……自身の家族や同じ事務所の仲間など、真に信頼している者達に対しては堂々と隙を見せています」

星井父「…………」

L「この点、星井美希と弥との間には、765プロダクションのアイドル同士の間におけるほどの強固な信頼関係まではまだ無いと考えられますが……それでも十分、互いに信頼し合っている友人同士と言っていい関係だと思います。またこれは私と月くんが例の会合の際に自らの目で確かめたことでもあります」

月「そうだな。その点については僕も異論は無い。よく二人で会っているようだしね」

L「はい。なので後は、自然と星井美希がノートを置いて場を離れることができるようなシチュエーションを作ることです。そしてそこを弥に押さえさせる」

相沢「だが……竜崎」

L「はい。何でしょう? 相沢さん」

相沢「我々の……というより、竜崎と月くんの推理通りなら……天海春香もまた、星井美希とは別に『黒いノート』を所持している……ということになるんだよな?」

L「そうですね」

相沢「そして星井美希とは違って、天海春香には常にノートを持ち歩いているような気配は無い。だとすれば、ノートは基本的に家に置きっぱなしにしてあるはず……押さえるなら、こちらの方が簡単なのでは?」

L「確かにその手もあります。ただその場合はこちらで隠し場所を捜さないといけないですし……必ずしも家にあるとも限りません」

相沢「? 家じゃないとすればどこに?」

L「それは分かりません。ただ、犯罪者裁き自体はノートが一冊あれば足りるでしょうから……極端な話、実際に裁きに使っているのは星井美希のノートのみで、天海春香のノートはどこかの山にでも埋めている可能性すらあります。もしそうならそちらのノートを押さえるのは極めて困難です」

総一郎「確かに。他に何らかの物的証拠があるなら、逮捕した上でノートの隠し場所を自白させるという手もあるところだが……」

L「はい。流石に何の物的証拠も無い現段階での逮捕は不可能です。また一か八かで家宅捜索を強行するという手もありますが、発見に手間取り勘付かれた場合、星井美希に連携され、即座にここにいるメンバーの何名かが殺されてしまう危険があります」

相沢「もし殺されるとすれば、現時点でキラ事件の捜査に関与している事が知られている者……つまり局長と模木……か。後は……」

星井父「俺もだろうな。例のメールの件が疑われているとすれば、だが」

模木「係長……」

L「まあそうですね。そういう理由からも、そこにあるかどうかも分からない天海春香のノートを押さえるよりは、確実にそこにあると分かっている星井美希のノートを押さえる方が簡単ですし、何より安全です」

相沢「ふむ……確かに状況さえ作り出せればその方が確実か……」

総一郎「また同じタイミングで高田清美に天海春香を見張らせておくから、仮に星井美希から連携がなされても天海春香がすぐに何らかの行動を起こすことはできない。その場でノートを所持されでもしていたら話は別だが、天海春香ならその心配も少ない。そのような点からも、今の作戦の方が安全性としては高いといえるな」

松田「ただ、作戦自体の安全性は保証されても、月くんの安全性は全く保証されてないっすけどね……真面目な話、月くん、キラ事件が終わったらしばらくの間は外国に高飛びでもしといた方がいいんじゃないっすか? じゃなきゃ、キラは捕まえられてもミサミサか高田清美に殺されちゃいますよ……」

L「その点については心配無用です。キラ事件が解決した翌日から、月くんには半年間の海外留学に行ってもらいますので」

松田「えっ。そんな手筈になっていたんですか。流石竜崎」

月「いや、僕も知らなかったが……そうなのか? 竜崎」

L「はい。月くんは将来の日本警察を背負って立つ人物……そう簡単に死なれては困りますので。もちろん、必要であれば私もお供します」

月「いや、それは別にいいが……ありがとう。竜崎。そういうことなら、心置きなく行かせてもらうよ」

L「はい。ただもちろん、生きてキラ事件を解決することが大前提ですけどね」

月「ああ。分かっている」

総一郎「後はいつ、この作戦を実行に移すか……か」

L「そうですね。ただ率直に言って、もうあまり時間は無いと思っています」

L「現状、星井美希と天海春香がどの程度“L”の存在に近付いているのかは分かりません。ですが、やはり星井美希が私と星井さんを対面させた件から考えると、少なくとも星井美希は私の……“竜崎ルエ”の素性をある程度は疑っている可能性があると考えるのが自然です」

相沢「疑っているというのは……竜崎がキラ事件の捜査に関与しているのではないか、というレベルでの話か?」

L「はい。そうです」

一同「!」

L「理由としては……以前にも言いましたが、天海春香はともかく、少なくとも星井美希は、自分が“L”に疑われているということに気付いていると考えられるからです」

L「つまりもし星井美希が、何らかのきっかけにより私の素性を疑い始めたのだとすれば……“L”にキラではないかと疑われている自分――その身近にいる怪しい人間――であるところの私を、『“L”または“L”の関係者』……すなわち『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』ではないかと疑うのは自然な思考の流れです」

一同「…………」

L「また同時に、私の素性が疑われることは、必然的に、月くんに対する疑念にもつながります」

L「月くんは、『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』である私と常に話を合わせていたということになりますから……私と同様に『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』ではないかとの疑いを掛けられることになると考えられます」

L「さらに、もし天海春香がこちらの推理通り、『顔を見れば名前が分かる能力』を持っていたと仮定した場合、彼女は事務所に聞き取り調査に来た夜神さんの顔を見ているため……夜神さんの本名を知っているということになります」

L「このことから、天海春香と星井美希の二人は、『あの時事務所に来た刑事は夜神月の父親だった』ということには既に気付いているということになります。『夜神』という珍しい名字の刑事がそう何人もいるとは通常考えにくいですから」

総一郎「うむ……」

L「この事実は、月くんが将来警察志望であるということもあわせて考えると、月くんが『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』ではないかという疑惑をさらに強めることとなる事情といえます」

L「なので現状、私と月くんはキラ事件の捜査関係者ではないかと……いえ、むしろ、私達のいずれかが“L”なのではないかとすら……疑われていたとしてもおかしくはありません」

月「もしそうなら、僕と竜崎が殺される候補の筆頭として一気に躍り出ることになるな」

L「そうですね。あまり名誉な事ではありませんが」

月「はは。まったくだ」

松田「いや、月くん。笑ってる場合じゃ……」

L「…………」

L(それにもし、天海春香の持つ能力が私の推理通りなら……私の本名も二人に知られているということになる)

L(それも情報として加味すれば……現状、“L”である可能性を最も強く疑われているのは私だろう)

L(にもかかわらず、まだ私が殺されていないのは……今殺すことで足がつくことを恐れているのか……)

L(あるいは……星井美希と天海春香との間では、まだ“L”の正体についての最終的な意見の一致はみられていない……?)

L(ありうる一つの可能性として、現在、私は二人の前では天海春香のファン――それも熱狂的な――を演じている)

L(星井美希が私を“L”ではないかと疑っているとしても……天海春香がまだ私の嘘を何ら疑わずに信じており、その点で二人の考えが相違している、とすれば……)

L(いや、だが仮にそうだとしても、その状態がいつまで続くかなど分からない……結局、少しでも早く決着をつけなければならないということに変わりはない)

L「…………」

相沢「竜崎? どうかしたか?」

L「ああ、いえ……何でもありません。後は……先ほどご自身でも言われていましたが、合宿中のメールの件が疑われているとすれば……星井さんも、『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』として疑われていてもおかしくないでしょうね」

星井父「…………」

松田「じゃあ結局、安全そうなのは僕と相沢さんだけってことですか」

相沢「俺達だって分からんさ。いくら尾行時にはマスクとサングラスを着けているとはいえ、絶対の保証ってもんでもないからな」

松田「それはまあ……そうっすね」

L「……以上のような状況ですので、あまり長く時間を掛けるのは危険です」

L「少しでも早くキラとしての証拠を挙げ、キラを捕まえる事……それが、私達が全員揃って生き残ることのできる唯一の策です」

松田「で……そのためにミキミキとミサミサが共演できる仕事の場を作るってことですね」

L「そういうことです。裏で我々が動いていることには絶対に気付かれないように作ります」

総一郎「しかし今回もまた我々が警察として動き、弥の所属事務所と765プロのそれぞれに捜査協力を要請するのだとすれば……前の空港の時のように、『犯罪の一般予防』という理由で通すのは難しいだろうな。絶対に極秘とすることを条件として、ある程度の事情は話さねば……」

相沢「そうですね。特定の個人の所持品を捜索するための協力を求めるわけですから……」

松田「でもミサミサの事務所……ヨシダプロはそれで良くても、765プロにそれをするのは危なくないっすか? 完全に身内なわけですし……情報が事前に本人達に伝わってしまう可能性も十分……」

相沢「確かに……いや、待てよ。ならヨシダプロにだけ事情を明かし、765プロにはヨシダプロから、あくまでも普通に仕事の話として持ち掛けてもらえばいいんじゃないか? それならあえて765プロ側に事情を伝える必要も無いだろう」

松田「でもその場合、ミサミサも言ってましたけど……765プロ側が仕事を受けないかもしれないじゃないすか。今や、ヨシダプロと765プロとじゃ所属アイドルの人気も売れ方も比べものになりませんし、ましてや765プロはアリーナライブも近い時期ですからね。ここでいきなり新規の仕事って言っても受けてくれるかどうかは……」

相沢「なるほど……それは確かにそうか……」

総一郎「そのあたりは一体どう考えているんだ? 竜崎」

L「……そういえば、まだ皆さんにはこのあたりの具体的な方法については説明していませんでしたね。月くんとは話していたのですが」

総一郎「ということは、もう何か具体的な策があるのか?」

L「はい。まず今回は皆さんに警察として動いてもらおうとは思っていません」

相沢「? じゃあ誰が動くんだ?」

L「私が直接“L”として動きます」

総一郎「! 竜崎が直接?」

L「はい。ただそれでも、今松田さんが仰ったように、ヨシダプロダクション側はともかく……765プロダクション側に事情を伝えるのは極めて危険です。星井美希達本人に伝えられてしまえばそれで終わりですから」

L「しかし、かといって事情を誰にも伝えなければ……これも松田さんの仰ったとおり、今度は765プロダクション側に普通に仕事を断られてしまう可能性があります」

L「さらにいえば、仮に仕事自体は受けてもらえたとしても、765プロダクション側の誰にも事情を伝えていなければ、いざという時の対処が困難となる場合がありえます。たとえば弥が星井美希の所持品を捜索している間は、当然、星井美希本人はその場から遠ざけておかなければなりませんが、それを確実に担保できる状況が作れなければリスクとして高過ぎます」

相沢「じゃあ……一体どうするんだ? その前提だと、どうやっても何らかのリスクが残るように思えるが……」

L「いえ。大丈夫です」

L「要は、765プロダクション側に事情を伝えても、そのことが星井美希や天海春香に伝わらなければいいわけです」

L「ただそうは言っても、765プロダクションは極めて強固な絆に支えられている組織体です。それはアイドル同士みならず、社長その他従業員についても基本的には同じです。もしこの中の誰か一人にでも『星井美希と天海春香がキラとして疑われており、その捜査を目的とした仕事が入った』という情報が伝われば、その内容は即、星井美希および天海春香本人に伝わる可能性があるといえます」

松田「それじゃあ、結局無理ってことじゃないっすか。要は誰に伝えてもミキミキやはるるんに伝わっちゃうっていう……」

月「いや……一人だけ『例外』がいる」

松田「? 『例外』?」

L「はい。今私は『アイドル同士みならず、社長その他従業員についても基本的には同じ』と言いましたが……文字通りそれは『基本的には』です」

L「月くんの言うとおり、ただ一人だけ……『例外』にあたる人物がいます」

相沢「? 一体誰なんだ? それは……」

L「それは……極めて強固な絆に支えられている765プロダクション……その組織体の中にいて唯一、『こちら側』に引き込むことのできる可能性のある者」

L「もちろん、その者も765プロダクションの絆の一つを構成しているであろうことは間違いありませんが……説得の仕方次第では十分『こちら側』に引き込めます」

総一郎「! ……そうか。『彼』か」

L「はい。キラ事件の開始当初から登場していながら、これまでその出自・属性ゆえにほとんど我々が着目することのなかった―――『彼』です」


















【二日後・961プロダクション本社ビル前】


【アリーナライブまで、あと34日】


P「それにしても、随分久しぶりだな」

P「―――ここに来るのも」

一旦ここまでなの

【961プロダクション本社ビル内】


P「しかしあんま変わってないな……」

P「まあ俺が移籍してからまだ一年も経ってないし、そんなもんかもな」

961社員「……あれ? ○○さん?」

P「ん? おお。久しぶり」

961社員「な、何でこんなとこに……? あっ。もしかしてまたうちに戻って……?」

P「違う違う。一昨日、急に黒井社長に呼ばれたんだよ。何の用かは知らんけど」

961社員「えっ! それってもしかして……『もう一度私の下で働いてくれないか』的なやつっすか?」

P「いや、それは無いよ。俺の765への移籍自体、黒井社長が決めたんだから」

961社員「あー、それって確か、765プロのプロデューサーが急死しちゃったから○○さんを急遽移籍させることにしたっていう……」

P「そうそう。高木社長は黒井社長の昔馴染みだったからな。困ってるのを放っておけなかったんだろう」

961社員「でも……それって本当にそういう理由だったんすかね?」

P「? どういう意味だ?」

961社員「だって黒井社長、ずっと765プロの事目の敵にしてたじゃないすか。それなのに急に助けるって……なんか違和感ありますけど」

P「そりゃまあ昔は色々あったんだろうよ。でもやっぱりいざっていう時には見捨てられなかったって事だろ」

961社員「そういうもんなんすかねぇ」

P「あとアイドル業界全体を活性化させるため、っていう理由もあったんだろ。実際、俺が社長から直に言われた理由はそっちだったし」

961社員「あー、ありましたね。アイドル事務所の関係者ばかりが事故や自殺で次々と死んでいった怪事件」

P「そうそう。轡儀さんも亡くなったしな」

961社員「あの時の黒井社長の落ち込みっぷりったらなかったっすよね」

P「独立する前からずっと一緒に働いてたらしいからなぁ。うち……いや、961プロでも事実上の右腕だったし」

961社員「でも轡儀さんが亡くなった後も業績には影響出さなかったあたり流石っすよね。黒井社長」

P「ああ。961プロって一見社長のワンマンに見えるし、外でもよくそういう風に言ってるけど……実際は轡儀さんのサポート無くして今の地位は無かっただろうからなあ」

P「だから轡儀さんが亡くなった後も業績を維持してたのは……黒井社長がそれこそ死に物狂いで頑張ったからなんだろうな。多分」

961社員「多分って……○○さん、その頃まだうちにいましたよね?」

P「ああ。でもほら、俺はジュピターの活動報告の時くらいしか社長と話す機会無かったからさ」

961社員「そうなんすか。……あ、そういえば知ってます? ○○さんの後任のプロデューサー、××さんになったんすよ」

P「へー、あいつに。そうなのか。知らなかった」

961社員「あれ? もしかして○○さん、ジュピターのメンバーとはあんまり連絡とか取ってない感じすか?」

P「ああ。俺が移籍して以来、仕事でもかぶってないしな」

961社員「そうなんすか。なんか意外だなあ」

P「? そうか?」

961社員「ええ。だって○○さんとジュピターの三人って、すごく強い絆で結ばれてるように見えてましたから」

P「あー……まあ、な」

961社員「? なんかワケありな感じっすか?」

P「いや、別に何も無いよ。ただ中途半端な所でプロデュースやめちまったのと、急な話で碌に挨拶もできないまま別れちまったから……正直、後ろめたい気持ちはあるかな」

961社員「あー、なるほど。じゃあ折角ですし、会っていったらどうです? 今日は三人とも社内にいると思いますよ」

P「そうだな……まあ時間があればそうするよ」

961社員「今、結構忙しい感じすか?」

P「まあな。今日の黒井社長の件も『できるだけ早く来てほしい』って言うからスケジュール無理矢理割いて来たようなもんだし」

961社員「ははは。それはお疲れ様です」

961社員「ところで、○○さんが移籍してもう半年以上になりますけど……実際どんな感じなんすか? 765プロって」

P「あー……まあ色んな意味で961とは全然違う感じかなあ。事務所の規模にしても社風にしても」

961社員「へー、やっぱそうなんすか」

P「ああ。あと社長の性格も全然違う」

961社員「はは。でも765プロのアイドルの躍進ぶりって半端無いっすよね。今やジュピターに勝るとも劣らない人気ぶり……」

961社員「それってやっぱり○○さんの功績っすよね?」

P「……別に俺は何もしてないさ。俺が入った時点であいつらはもうかなりの人気アイドルになってたからな」

961社員「いやいや、そんなことないっすよ。そりゃ元々の人気もあったでしょうけど、○○さんが入ってから、一層その勢いに拍車が掛かったっていうか……たとえばほら、765プロのアイドル二名が主役と準主役を務めた舞台『春の嵐』の大ヒットとか。あれって確か全国公演もやってましたよね?」

P「ああ。ちなみに夏からの追加公演も決まったよ。今日ちょうどここに来る前、そのインタビュー記事の取材があったから出演する二人に付き添ってきたところだ」

961社員「えぇ! またやるんすか? すごいなあ……」

P「まあでも今度は東京公演だけだけどな。8月頭にあるアリーナライブが終わった後、秋には美希……星井美希がハリウッドに行っちまうから、その間だけだ」

961社員「そうそう、それらもっすよ! アリーナライブにハリウッドって……本当、すごいっすよ○○さん」

P「いや、だからそれも別に俺の力じゃ……」

961社員「あとその『春の嵐』主演の天海春香のアイドルアワード受賞なんてのもありましたし……“歌姫”如月千早の二度にわたる海外レコーディングなんかも」

961社員「その他のアイドルもテレビや舞台に引っ張りだこ……今や街を歩いていて765のアイドルの顔を見ない日は無いっすからね」

961社員「それもこれも、やっぱり全部○○さんの功績っすよ! いやあ、本当にすごいなあ」

P「いや、だから」

961社員「っと! いっけね、もう会議の時間だ。じゃあ○○さん、また今度ゆっくり聞かせて下さいね。○○さんの武勇伝! それじゃ」ダッ

P「あ、おい……」

P「……言うだけ言って行っちまいやがった。まったく……」

P「まあいいか。さっさと社長の所に……」

 ドンッ

P「わっ」

「っと」

P「すみません」ペコリ

冬馬「ああ、こちらこそ……ん?」

P「?」

冬馬「あ……あんた!」

P「! 冬馬」

冬馬「…………」

P「…………」

翔太「わぁ、びっくりした。○○ちゃん。なんでこんなとこにいんの?」

北斗「これはこれは……御無沙汰してます」

P「翔太。北斗。……何、ちょっと野暮用でな」

冬馬「…………」

翔太「? 冬馬君?」

北斗「おい、冬馬。久しぶりにお会いしたんだ。挨拶くらい……」

冬馬「――――!」

(突然、プロデューサーの頬を殴りつける冬馬)

P「ッ!」

翔太「ちょっ!」

北斗「冬馬!?」

P「……って……」

冬馬「…………」

翔太「何してんのさ冬馬君!」

北斗「お前!」

P「……いいよ。翔太。北斗」

翔太「! ○○ちゃん」

北斗「しかし……」

冬馬「…………」

P「いいんだ。これくらい……俺がお前らにした仕打ちを思えば当然の事だ」

P「お前らのプロデュース、まだ途中だったのに……いきなり辞めちまって悪かった」ペコリ

翔太「いや、でもそれは○○ちゃんのせいじゃ……」

北斗「そうですよ。黒井社長の指示でしょう?」

冬馬「…………」

P「だが最終的に決めたのは俺の意思だ。だから責任は全部俺にある」

翔太「○○ちゃん」

北斗「おい。冬馬。何か……」

冬馬「…………」

P「冬馬」

冬馬「……どんな理由があれ、あんたがいきなり俺達をほっぽり出したことには変わりねぇ」

冬馬「たとえそれが仕方の無い事だったとしても……俺は……」

P「…………」

冬馬「ああもう、くそっ! もっと色々言ってやりたいことがあったはずなのに……忘れちまった」

翔太「あんだけ思いっ切り殴っといてまだ文句があるの? 冬馬君」

北斗「いや……多分文句じゃないだろうな」

翔太「え?」

北斗「冬馬。本当はお前だって分かってるんだろ?」

冬馬「…………」

北斗「今、自分がこの人に……何を言う、いや、伝えるべきなのかを」

冬馬「…………ああ」

P「冬馬」

冬馬「……言っとくが、殴ったことについては謝らねぇぞ。あれはけじめみてぇなもんだからな」

P「ああ。分かってるよ」

冬馬「だから、それとは別に……まあその、なんだ」

P「…………」

冬馬「俺達の事、プロデュースしてくれて……ありがとな」

P「……冬馬……」

冬馬「……あーもう! 二度と言わねぇからな! こんなこと!」

翔太「なんだ、お礼を言いそびれたまま765プロに移籍されちゃったから怒ってたの?」

北斗「別に外国に行ったわけでもないし、会おうと思えばいつでも会えたのにな」

冬馬「うるせぇ!」

P「……冬馬」

冬馬「あぁ? 何だよ」

P「……それに北斗。翔太も」

北斗「はい」

翔太「うん」

P「俺の方こそ……ありがとう。お前らのプロデュースをさせてくれて」

P「長い間ではなかったけど、楽しかったよ」

冬馬「……ふん」

北斗「こちらこそ、未熟な俺達を高みに届かせて頂いたこと……感謝しています」

翔太「うん。やっぱり○○ちゃんがいないと今の僕達は無かったからね。どうもありがと!」

P「ああ。俺もお前ら三人のプロデューサーでいられて……本当に良かった」

北斗「さて、では過去のわだかまりも解けたところで……○○さん。今日は一体、何の用でこちらへ?」

P「ああ。黒井社長に呼ばれたんだ。一昨日、急に電話が掛かってきてな」

冬馬「……おっさんが? 何だって今更……」

P「さあな。『用件は会ってから話す。とにかく少しでも早く来てほしい』って言うから、スケジュールの隙間を縫って来たよ」

翔太「ふぅん。一体何なんだろうね? まさかもう一度961プロに戻って来いとか、そういう話?」

P「さっきも聞かれたが……それは無いと思うがな」

冬馬「ふん。今更戻って来たって入れてやんねーよ」

北斗「お前は小学生か」

P「まあ何の用かは分からんが、黒井社長ともここを辞めて以来会ってなかったからな。昔話に花を咲かすにはちょうど良い機会だと思って来たよ」

冬馬「……別に言うほど昔じゃねーだろ」

北斗「まあ確かに、あなたがここを出られてからまだ一年も経ってないですしね」

P「でもお前らは……あれから一年も経っていないとは思えないほど成長したよな。この前出した最新のアルバム、流河旱樹を抑えてチャート1位だったし」

翔太「あっ。知ってくれてるんだ」

P「当たり前だろ。俺達765プロにとって、お前らは超えるべき存在……いわばライバルだからな」

冬馬「“俺達765プロ”……か」

P「冬馬」

冬馬「…………」

P「……そういや、俺の後任のプロデューサー、××になったんだってな。さっき聞いたよ」

冬馬「……ああ」

P「ちゃんと上手くやれてるか? 困らせたりしてないだろうな? あいつああ見えて結構繊細なところあるから……」

冬馬「ああもう! うるせーな! 別に何の問題もねぇよ」

P「そうか? ならいいんだが……」

翔太「まー冬馬君、時々愚痴ってるけどねー。『チッ……こんな時、あいつだったらもっと上手くやんのによ……!』とか」

冬馬「ば、バカ翔太! お前何言ってやがる! しかも何で妙に似てんだ!」

北斗「まあでも、概ね上手くやってますよ。これといって大きな不満もありませんしね」

P「……ああ。そうなんだろうな。今のお前らを見てるとそれがよく分かるよ」

冬馬「まるでもう自分には関係ねーっていう口ぶりだな」

P「!」

北斗「おい、冬馬」

冬馬「まあ無理もねぇか。何せ“俺達765プロ”なんて言葉が自然と口を衝いて出てくるくらいだもんな」

北斗「冬馬!」

翔太「もうやめなって。せっかく良い感じになってたのに」

P「…………」

冬馬「……じゃあ、見せてもらおうじゃねーか」

P「えっ」

冬馬「あんたら765プロの……実力ってやつをよ」

P「!」

冬馬「今度……アリーナでライブするんだろ?」

P「ああ」

冬馬「あんたらが俺達に差を見せつけてやるっていうなら……挑戦状、受けて立ってやるよ」

P「! ……冬馬」

冬馬「ふん」

P「分かった。今度持ってくるよ」

P「……ライブのチケット」

翔太「お、通じた」

北斗「流石……と言うべきか。当然、と言うべきか」

P「いいんだろ? それで」

冬馬「……おう。ライブ、成功させろよ」

P「ああ。任せとけ。……っと、じゃあそろそろ行くわ。またな」

北斗「ええ。また是非近いうちに」

翔太「バイバイ、○○ちゃん」

冬馬「…………」

北斗「冬馬。それにしてもお前……本当にツンデレだな」

冬馬「は、はぁ!? 何で俺が! 気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇ!」

翔太「あはは。でも良かったー」

冬馬「? 何がだよ。翔太」

翔太「だって○○ちゃんが移籍してから、冬馬君、ずっと無理してるように見えたから……これでようやく、吹っ切れたんじゃないかなって」

冬馬「なっ……。お、俺は別に無理なんか……!」

北斗「はいはいツンデレツンデレ」

冬馬「だから違うっつってんだろ!」

【961プロダクション本社ビル内/社長室】


 コンコン

P「……黒井社長。○○ですが」

黒井「入りたまえ」

 ギィッ

P「失礼します」

黒井「……久しぶりだな」

P「ええ。俺がここを出た時以来……ですね」

黒井「ああ。実に久しい。またその節は苦労を掛けたな」

P「いえ。社長にもお考えがあっての事だったんでしょうし……俺は何とも思っていませんよ」

黒井「そうか」

P「はい」

黒井「ところで……その頬はどうした? 少し腫れているように見えるが」

P「ああ……実はついさっき、昔飼ってた……ちょっとやんちゃな子犬に噛み付かれちゃいまして」

黒井「ほう。それはまた災難だったな」

P「ええ、まあ。ははは……」

黒井「……で、上手く和解できたのかね? そのやんちゃな犬コロやらとは」

P「ええ。それはなんとか」

黒井「そうか。それは何よりだ」

P「はい」

黒井「……で、本題の方だがな」

P「ええ。どういった御用向きでしょう」

黒井「まず先に詫びておこう。この度は急に呼び付けてすまなかった」

P「いえ」

黒井「そしてこれから私が話す事は……絶対に誰にも話さないでほしい」

P「? はい」

黒井「では早速だが……君は“エラルド=コイル”という人物を知っているかね?」

P「エラルド=コイル……? 海外の俳優か何かですか? 生憎、存じませんが」

黒井「そうか。では……」

P「…………」

黒井「“L”なる人物を知っているか?」

P「……L……?」

黒井「ああ」

P「……どこかで聞いたことがあるような気もしますが……すみません。少し記憶が……」

黒井「そうか。ならばいい。両者いずれも、表社会に名が知られているような者ではないからな。君が知らないのも無理は無い」

P「あの、社長。話が読めないのですが……」

黒井「ああ。そうだな。これ以上勿体ぶるのはやめておこう」

黒井「実は今……私の前にあるこのPCは外部の者と接続された状態になっている」

P「!」

黒井「黙っていてすまない。今からの話は主にその者からしてもらう」スッ

P「…………?」

(机上のPCのディスプレイをプロデューサーの方へ向ける黒井社長)

(そのディスプレイには『L』の文字が映し出されている)

P「……L……?」

PC『――はい。Lです』

P「!」

一旦ここまでなの

【二日前・961プロダクション本社ビル内/社長室】


黒井「…………」

黒井(キラから『“L”の写真を961プロのホームページに載せろ』と指示を受けてからもう四か月……)

黒井(あの時以降、キラから“L”の写真を載せるように指示されたページには、コイルの助言に従い、今日に至るまでずっと『只今更新中です。今しばらくお待ちください』という文章を掲載したままだが……あれ以来キラは私に対し、追加の指示はおろか何の連絡もしてきていない)

黒井(また一方コイルからも、“L”の正体に関する連絡は特に無い)

黒井(もっとも実際のところ、私にとっては『“L”の正体』などどうでもいい事……ゆえにもしキラが『黒井崇男からは“L”の情報を得られない』と判断し私に見切りをつけたのだとしても、それ自体は何の問題も無いが……)

黒井(……しかし……)

黒井(それならそれで、なぜキラはまだ私を殺さずにおいている……?)

黒井(キラは765プロの関係者……それはこれまでの私に対する脅迫内容から考えてまず間違い無いし、何よりも動機がある)

黒井(つまりそれは――……私が他のアイドル事務所をも巻き込んで行っていた“765プロ潰し”……これに対する“復讐”)

黒井(その首謀者が私であったことは少し調べればすぐに分かる事だろうし、また私としてもあえてこの事を隠そうとはしていなかった)

黒井(わが社が経営を支配している投資会社を通じて、765プロにスパイとして送り込んでいた前のプロデューサーの件にしても……いずれは気付かれるであろうことを承知の上でそうしていた)

黒井(もし仮にそこまで気付かれたとしても……当時はまだ弱小貧乏事務所でしかなかった奴らにとって、私が件の投資会社を通じて行っていた出資に頼らざるを得ない状況であったことに変わりはない。つまり奴らにとって、私に抗する選択肢など最初から無く……ただ私の圧倒的な力の前に屈服するしかないのだと……そう思っていたからだ)

黒井(それがまさか……こんな形で“復讐”を受けることになろうとはな)

黒井(……それにしても……)

黒井(果たして“キラ”は誰なのか……高木なのか、他の従業員なのか、または所属アイドルの中の誰かなのか)

黒井(あるいは……765プロ全体で一丸となって、私を追い詰めようとしているのか)

黒井(―――まあいい。いずれにせよ、“キラ”が765プロの中にいる誰かであることは間違い無い)

黒井(そしてその者……または組織体としての765プロが……私の右腕であった轡儀や、“765プロ潰し”に加担していた他のアイドル事務所の関係者達を軒並み殺し……さらには、私が765プロにスパイとして送り込んでいた前のプロデューサーまでをも殺した事)

黒井(加えて、わが社に関する違法・犯罪行為をネタに私を脅迫し、ジュピターの担当プロデューサーだった○○を765プロに移籍させるよう命じた事)

黒井(そして今まさに、私に対し『“L”の正体を明かせ』と命じてきている事……)

黒井(これらも全て間違い無い)

黒井「…………」

黒井(だが私としてもキラにいつ殺されるか分からない以上……この事は誰にも言うことはできない)

黒井(唯一、キラと同様の手法で私を脅迫してきたコイルに対してだけは、全てを話さざるを得なかったが……)

黒井(しかしコイルもなぜ、私を脅迫してまで……また、あれだけ拘っていた報酬の増額を諦めてまで……私が“L”捜しの依頼をしてきた本当の理由、背景……さらには真の依頼人がいるとすればそれは誰なのか、などという事まで知ろうとしたのか……)

黒井(いや、だがコイルにしてみれば仕事を請ける前に依頼人をはっきりさせるのは当たり前の事……)

黒井(とすれば当然、形式上の依頼人が私であることなどはすぐに突き止める。それができない様では探偵として無価値だし、ましてやコイルは人捜しで名高い)

黒井(そして形式上の依頼人が私だと分かれば次は私という人間を調べる。これも当然の事だ)

黒井(形式上の依頼人が株式会社961プロダクションの代表取締役社長……ただコイルはここで留まらなかった)

黒井(おそらくコイルは、エージェントを介さずに直接私に連絡を取った時点で――……私がキラと何らかの繋がりがある者、という事までは分かっていたのだろう)

黒井(だが私がキラと仲間として繋がっている者なのか、それとも単にキラに脅されているだけの者なのかまでは分からなかった)

黒井(だからコイルは、わが社に関する違法・犯罪行為をネタに私を脅迫し、私を嘘のつけない状況――犯罪者として報道されれば、キラの裁きの対象となり殺されてしまうかもしれない状況――に追い込んだ上で、私自身にその真相を語らせた)

黒井(そして私がキラと仲間として繋がっている者ではなく、あくまでもキラに脅されているだけの者だったと確認できたので……依頼を受けることにしたのだ)

黒井(もし私がキラと仲間として繋がっている者なら、私の依頼を受けることはキラから直接依頼を受けることと同じ……最終的に“L”の正体を掴めなければ、コイル自身も殺されてしまう危険が生じる)

黒井(ただそうは言っても、私がキラと仲間として繋がっていた場合なら、どのみち依頼を断った時点で殺されてしまう可能性が高かったともいえる……とすればこの場合でも、結局は私の依頼を受けざるをえなかっただろうともいえるか)

黒井「…………」

黒井(しかし……“L”……か)

黒井(名前も居場所も顔すら誰も知らないが……“エラルド=コイル”、“ドヌーヴ”と並び称される“世界の三大探偵”の一人であり……)

黒井(世界の迷宮入りの事件を解いてきたこの世界の影のトップ、最後の切り札……)

黒井(私は裏の世界にもよく通じていたから……前々からその存在は知っていた)

黒井(ゆえに、キラ事件の開始当初に“リンド・L・テイラー”と名乗る男が行った公開生中継……)

黒井(あれを見た時、私はすぐにピンと来た。『こいつは“L”の替え玉だ』と)

黒井(これまで誰も顔も名前も知らなかった“L”が、あんな風に全世界に自分の素顔を晒す筈がない)

黒井(つまりあれは、ああしてキラを挑発することで自分の身代わりの者を殺させ……それによってキラの存在を証明し、さらには殺しの手段をも特定しようとした“L”の策)

黒井(“L”を名乗る者が公の場に姿を晒したのはあの一回だけだったが……私のように元々“L”の存在を知っていた者にとってはそれだけで分かった)

黒井(もう既にあの時点から、“L”はキラを捕まえるための行動を起こしていたということが)

黒井(そしてまたキラも……そのことに気付いた)

黒井(だからこそ私をして――自分を捕まえようとしている――“L”の正体を明かさせようとした)

黒井(その役に私を選んだのは……単純に私に対する“復讐”という動機もあるのだろうが……おそらくはキラ自身が『自分の力では“L”の正体を掴むことはできない』と判断したからだろう)

黒井(だからこそ、金も権力も人脈も……自分より豊富に持っているであろう私を使うことを思いついた)

黒井(しかしそう考えると……キラは高木ではないということか? ……金や権力はともかく、あいつにもそれなりの人脈はあるはず……)

黒井(またあいつなら、あらゆる業界に広く通じている善澤とのつながりもある。わざわざ正体を知られるリスクを冒してまで私に頼るくらいなら、まずは善澤を使って“L”の正体を探ろうとする方が自然に思える)

黒井(それにキラ自身は別の者だとしても、765プロ全体が組織体として“キラ”としての活動を行っているのならば……やはり当然、高木の持つパイプを使うことはできるはず)

黒井(にもかかわらず……キラはあくまでも私をして“L”の正体を明かさせようとしている)

黒井(……とすれば、キラは高木以外の者であり……)

黒井(かつ、765プロが組織体として“キラ”としての活動を行っているわけでもない……ということか?)

黒井(もっとも、仮にそうだとしても……それ以上には絞り込みようがないが)

黒井「…………」

黒井(……まあいい)

黒井(キラが誰であろうと私には関係無い)

黒井(なぜなら、キラがこれまでに裁いてきた犯罪者の報道のされ方をみるに……キラの殺しに必要な条件は『顔』と『名前』)

黒井(この点、961プロダクションの代表取締役である私は、当然の事ながら『顔』も『名前』も広く一般に知られている)

黒井(つまりキラが765プロの誰であれ……私はいつ殺されてもおかしくない状況にあるといえるからだ)

黒井(ならば今、私にできることはただ一つ)

黒井(警察であれ“L”であれ、早くキラを捕まえてくれるようにと祈ること。……それだけだ)

黒井「…………」

黒井「…………」

 ピピピピッ

黒井「! 通知不可能」

黒井「……コイルか」ピッ

黒井「はい」

『株式会社961プロダクション代表取締役社長・黒井崇男さんですね』

黒井「? ああ……そうだが。お宅は?」

黒井(人工音声のようだが……コイルが使っていたものとは違う……?)

『私はLです』

黒井「!? え……Lだと?」

『はい。私はLです』

黒井「…………」

黒井(ば……馬鹿な。いくらなんでもこんなタイミングで……)

『あなたはキラに脅されて、探偵エラルド=コイルに私の正体を明かすよう依頼をしていますね』

黒井「! …………」

『ですが、あなたは絶対に私の正体を知ることはできません』

黒井「…………」

黒井(な、なんだこいつ……まさか本当に……)

『なぜなら、私はエラルド=コイルの動向を完全に把握しているからです』

黒井「!」

『探偵が最も用心する相手はマフィアでも殺し屋でもありません。自分の正体を探ろうとする同業者です』

『ゆえに私は、コイルやドヌーヴといった自分の同業者やその周囲の動きについては常に完璧に把握するようにしています』

『よって私は、あなたがコイルに依頼した内容、その際に話したことなど全て仔細に把握しています』

『したがって、あなたがこのままコイルからの報告を待っていても私の正体は永久に掴めません』

黒井「…………」

黒井(こんな話……素直に信じていいものかどうか……そもそもこいつ本当に“L”なのか?)

黒井(いや、今そんなことを考えていても真相が分かるわけではない……。とにかく現状、こいつは私がコイルに依頼している内容を全て把握しているとまで言ってきている……無視はできない……)

黒井(ならば今、私がこいつに聞くべきことは……)

黒井「……目的は何だ?」

『ご理解が早くて助かります』

『あなたはもう知っていると思いますが……私はキラを追っています』

黒井「…………」

『そして私はついに、キラをある個人に特定することができました』

黒井「! 何だと」

『ですがこの先、実際にキラを捕まえるには私一人の力では少し難しい』

『そこで黒井さん。どうかあなたの力を貸して頂きたい』

黒井「! …………」

『あなたの協力があれば、必ずやキラを捕まえることが出来ます』

黒井「…………」

『そしてまた……今現在キラに脅迫されているあなたにとっても、この話は渡りに船のはず』

黒井「! …………」

『キラも今は沈黙しているかもしれませんが、あなたがいつまで経っても“L”の……つまり私の正体を掴めなければ、いつか必ずあなたを殺すでしょう』

黒井「…………」

『しかし今、あなたが私に協力して頂ければキラを捕まえることが出来る。つまりあなたの命は助かる』

黒井「…………」

黒井(確かに、今の話が本当なら……この者が“L”かどうかは別にしても……キラにいつ殺されてもおかしくない状況にある私にとってはまさに渡りに船)

黒井(だが、もし私がこの自称“L”についたことがキラに分かったら……その時点で殺される)

黒井(しかし一方で、このまま何もしなければ、私はずっと『いつキラに殺されるか分からない』という不安に苛まれながら生きていくことになる……)

黒井(それならばいっそ……)

黒井「……分かった」

『! 黒井さん』

黒井「あなたが本当に“L”なのかどうか……それはこの際どうでもいい」

黒井「あなたが本当にキラを捕まえてくれるのなら、私がその申し出を断る理由は無い」

黒井「私にできることがあるのなら、協力させてもらう」

『ありがとうございます』

『では早速……一つ頼みたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?』

黒井「ああ。何だ?」

『半年ほど前まであなたの会社に在籍していた○○という者を、今日以降、できるだけ早くあなたの会社に呼んで下さい』

黒井「! ○○……だと?」

『はい。お願いできますか?』

黒井「可能ではあると思うが……何故だ?」

『理由は彼が来た時にお話しします』

黒井「……分かった。ではすぐに連絡しよう」

『ありがとうございます。なお、彼を呼ぶ場所は他の者が絶対に入って来れない所……そうですね。できればあなたの部屋……社長室にして下さい』

黒井「分かった」

『では彼が来る日程が決まったら、これから伝える番号に電話して下さい。番号は――』

黒井「――了解した。ではこれからすぐに連絡する」

『はい。よろしくお願いします。それでは』プツッ

黒井「…………」

黒井(ここで○○……か)

黒井(自称“L”の発言によれば、奴は私がコイルに話した内容を全て把握しているとのこと)

黒井(とすれば当然、○○がうちから765プロへ移籍した……いや“させられた”経緯についても知っているということになるが……)

黒井(しかしその上で○○をここに呼べ、というのは……?)

黒井「…………」

黒井(……まあいい)

黒井(奴の意図がどうあれ、今は言われたとおりにするだけだ)

黒井「…………」ピッ

黒井「……ああ、私だ。久しぶりだな」

黒井「いや、何。少し急用ができてな」

黒井「ああ……そうだ。本当に急ですまんが、今日以降、できるだけ早く来てもらえないか? ……ああ。うちの会社にだ」

黒井「……ああ。用件は会ってから話す。とにかく少しでも早く来てほしい」

黒井「……そうか。すまんな。では明後日の14時に」

黒井「ああ。よろしく頼む」ピッ

黒井「…………」

黒井(さて、どうなるか……)

【現在・961プロダクション本社ビル内/社長室】


(『L』の文字が映し出されているPCのディスプレイを凝視しているプロデューサー)

P「…………」

PC『この度は御足労頂き、誠にありがとうございました』

PC『今回、あなたをここに呼んでもらうよう黒井社長に頼んだのは私です』

P「…………」

PC『では早速、あなたをお呼びした理由のご説明からさせて頂こうと思いますが――……』

P「……ああ、そうか」

PC『? どうかされましたか?』

P「いや、今……思い出した」

P「キラ事件の開始直後、TVの生中継で“L”と名乗る男が現れ、“キラ”に対して挑発を行ったということがあった……あれがあんたなのか?」

PC『はい。ある意味そうです』

P「? ……ある意味?」

PC『はい。あの時TVに映っていた男は私ではありませんが、あの男が演じていた“L”は私ですので』

P「……演じていた?」

PC『はい』

P「……なるほど。つまり身代わりってわけか」

黒井「!」

P「あんたが“L”本人であり、あの男はその身代わり。そしてあの男は確か、TVで『“キラ”を必ず捕まえる』などと発言していた」

P「つまり“L”と名乗るあんたが何者なのかは分からんが……とにかくあんたはキラを捕まえようとしている何者かであり……」

P「キラを捕まえるという目的のため、TVを通じてキラを挑発して自分の身代わりを殺させ……」

P「キラの実在性と殺人の手段を証明しようとした……ってとこだろう」

PC『……ご明察です』

黒井「フン。相変わらず聡い男だ」

P「いやいや……ここまでヒント出されたら誰だって分かりますって」

P「で? そのキラを捕まえようとしている“L”とやらが俺に何の用なんだ?」

P「一応断っておくが、俺はキラじゃないぜ」

PC『はい。それは勿論分かっています』

PC『今回私があなたをお呼びした理由、そしてこれから先、あなたにお願いしたいこと……全てご説明させて頂きます』

P「…………」

PC『ではまず、前提の確認からですが……○○さん』

P「ああ」

PC『あなたの事は、ある程度事前に調べさせて頂きました』

P「…………」

PC『あなたは現在の職場である765プロダクションに来る前は、この会社……961プロダクションに勤めておられましたが……』

PC『961プロダクションの前にも……あなたはまた別の事務所でプロデューサーとして働いていた』

P「!」

黒井「…………」

PC『あなたは新卒で入ったその事務所でめきめきと頭角を現し、入社数年にして先輩社員達をごぼう抜きにするほどの卓越した成績を収めた』

PC『しかし妬み嫉みは人の常……あなたの躍進を妬んだ先輩社員達から、あなたは自身が全く関与していなかったプロジェクトの失敗の責任を強引になすり付けられた』

P「…………」

PC『その後も社内であなたを陥れようとする動きは続き……あなたは自分に落ち度の無い失敗ばかりをいくつも押し付けられた』

PC『最終的には、当時の社長までもがあなたを陥れようとする者達によって言いくるめられてしまい……あなたは、種々の失敗の責任を取って退職するよう勧告された』

PC『そしてあなたは、自主退職という形で事務所を去らざるを得なくなった』

P「…………」

PC『そうして職を失い、路頭に迷いかけていたあなたを救ったのが……黒井社長だった』

黒井・P「!」

PC『黒井社長は、かつて仕事で提携した際にあなたの働きぶりを目にしており、その能力を高く評価していた。隙あらばヘッドハンティングを持ち掛けようと思うほどに』

黒井「…………」

PC『そんな黒井社長にとって、いかなる事情があれど、あなたが前の事務所を離れたのは僥倖というほかなかった。黒井社長は、すぐにあなたを自分の事務所に来るように誘った』

PC『961プロダクションは、業界ナンバーワンといっても過言ではない地位にあるアイドル事務所……断る理由などあるはずもない』

PC『そしてあなたは961プロダクションに入社し、その後すぐに、当時結成されたばかりだった男性アイドルユニット『ジュピター』の担当プロデューサーに任じられた』

PC『その後の『ジュピター』の躍進ぶりについては……あえて今ここで語る必要は無いでしょう』

PC『―――とりあえずここまでで、何か事実相違等はありませんか?』

黒井・P「…………」

P「……黒井社長。今の……話してたんですか? この“L”に」

黒井「いや、話していない。この“L”には勿論、エラルド=コイルにもだ。私も今聞いて驚いている」

P「そうでしたか。……ん? エラルド=コイル? そういえばさっきもそんな名前……一体誰なんですか? それ」

黒井「ああ。それはだな……」

PC『……すみません。そのあたりは後でちゃんと私の方から説明しますので、今はここまでの事実確認をお願いします』

黒井「ああ、それなら私の方は特に認識相違は無い」

P「同じく」

PC『ありがとうございます。では次に、○○さんに二つほど質問をさせて頂きます」

P「質問?」

PC『はい。……○○さん。あなたは黒井社長に恩義を感じていますか?』

P「!」

黒井「…………」

P「……愚問だな」

PC『…………』

P「さっきあんたが言ったとおり……黒井社長が、あの時路頭に迷いかけていた俺を拾ってくれた」

P「今の俺があるのは黒井社長のおかげだ。恩義を感じていないわけがないだろう」

黒井「…………」

PC『ありがとうございます。では次の質問ですが……○○さん。たとえば、黒井社長に命の危険が迫っているとした場合……』

黒井「!」

P「?」

PC『もし自分がその助けになれるとしたら、あなたは迷わず協力することが出来ますか?』

P「……答えるまでもない。さっきも言ったが、俺にとって黒井社長は恩人だ。その黒井社長に命の危険が迫っている状況において、俺が協力しない理由なんてあるわけがないだろう」

P「たとえ他の全てを犠牲にすることになったとしても……俺は絶対に黒井社長を助ける。絶対にだ」

黒井「……お前……」

PC『ありがとうございます。その言葉が聞けて良かったです』

P「…………」

PC『では次に、今の質問の意図をお話ししたいと思います』

PC『二つ目の質問で、私は“たとえば”と前置きしましたが……実はこれはたとえ話でも何でもありません』

PC『現実に、今、黒井社長は命の危険に晒されています』

P「! 何だと?」

黒井「…………」

PC『では、前置きが長くなりましたが―――これから、あなた方二人に全てをお話しします』

PC『これまで私がしてきたこと。そして今、私がしようとしていること』

PC『その―――全てを』

黒井・P「…………」

(PCから流れる“L”と名乗る人工音声は、『自分がこれまでキラを追ってきた捜査の結果』として次の内容を二人に伝えた)

(現在、“L”がキラとして特定しているのは、765プロダクション所属アイドルの星井美希と天海春香の二名であること)

(そのように判断するに至った理由として、キラ事件の開始と同時期に、星井美希が765プロダクションの前のプロデューサーおよび昨年の自身のクラスメイト一名を殺害している可能性が高いこと)

(また昨年発生した『アイドル事務所関係者連続死亡事案』もキラと同じ能力を持つ者による犯行であると考えられ、それが天海春香によるものであった可能性が高いこと)

(さらにキラ事件の開始直後、天海春香はどこからか入手した情報により961プロダクションに関する違法・犯罪行為をネタに黒井社長を脅迫し、当時961プロダクションにプロデューサーとして在籍していた○○を765プロダクションに移籍させるように命じたこと)

(そして、当初はこのように別々に活動していたと思われる星井美希と天海春香の二名だが、今は互いに連携してキラとしての活動を行っていると考えられること)

(またキラの裁きとは別に、星井美希および天海春香の二人は黒井社長を脅迫する形で『“L”の正体を明かせ』とも命じており、そのため黒井社長は、人捜しで名高い“エラルド=コイル”という探偵に“L”の正体を明かすよう依頼をしていること)

(他方、“L”はキラを追う一方で、黒井社長が依頼した内容も含め、自分の同業者にあたる“エラルド=コイル”の動向は全て把握していること)

(そして“L”は、現在、星井美希および天海春香がキラであることの証拠を押さえるための作戦を遂行中であり、黒井社長とプロデューサーにはその協力を頼みたいということ)

PC『―――これが今、私があなた方に伝えられる全てです』

黒井「…………」

P「…………」

PC『今すぐに全てを信じ、また受け入れるのは難しいだろうと思います』

PC『しかし信じて頂きたい。信じた上で……私に協力して頂きたい』

PC『これが今日、あなた方にこの場に参集して頂いた目的です』

P「…………」

黒井「……私はこれまでの脅迫の内容から、キラが765プロの中にいるのであろうことは分かっていた。しかしまさか、もうここまで特定していたとは……」

P「美希と……春香が……キラ?」

黒井「…………」

P「は、ははっ……これは、流石に……ちょっときついな」

黒井「…………」

P「……一応聞きますが、黒井社長……これ、ドッキリとかじゃないですよね?」

黒井「……気持ちは分かるが、流石の私もそこまで悪趣味ではない」

P「は、はは……そう、ですよね……ははっ、そっか……」

黒井「…………」

P「そういえば今年の初め頃……二人組の刑事が、キラ事件の捜査でうちの事務所に来たことがあったっけ」

P「その後は特に何も無かったから、そんな事……今日まですっかり忘れていたけど」

P「それがまさか……俺達の知らないところで、こんな事になっていたなんて」

黒井「…………」

PC『……胸中には様々な思いが去来していることと思います。しかし、もうあまり時間が無いのも事実です』

PC『今、黒井社長がキラに殺されていないのは、黒井社長がキラにとって唯一の“L”……つまり私の正体を掴むための足掛かりとなっているからです』

PC『しかし、キラが最初に黒井社長に『“L”の正体を明かせ』と命じてからもう既に五か月ほどが経過し……未だに“L”の正体は掴めていない状況……』

PC『またそもそも、この先どれだけ時間が経とうが、コイルが私の正体を掴むような状況自体生じえません。よってキラが“L”の正体は掴むことは永久にできません』

PC『つまりはっきり言って、今後、いつキラが痺れを切らして黒井社長を殺害するか分からないという状況です』

PC『いくら脅迫によって口止めしているとはいえ、『765プロダクションの中にキラがいる』ということには確実に気付いている黒井社長をずっと生かしておくことはキラにとってもリスクですから』

PC『かといって、私も自分の命は惜しいですので……大変申し訳ありませんが、黒井社長の代わりに私の命を差し出すという事も出来ません』

黒井「…………」

P「身代わり、という手は使えないのか? 既にあんたは一度、TVを通じてそれをやったはずだ」

黒井「!」

PC『……あれはあなたが仰ったとおり、あくまでもキラの実在性と殺しの能力を証明するために取った手段です。もう既にキラの実在性と『直接手を下さずに人を殺せる』というキラの能力がほぼ確証されている現在の状況下においてなおそれをするのは、もはやただキラに生贄を差し出すだけの行為でしかありません』

PC『たとえ誰かの命を救うためであったとしても、そのために他の誰かの命を犠牲にしてもいいということには決してなりません。そのように生かすべき人間と死んでもいい人間とを選別するのであれば、それは神を気取って犯罪者を裁いているキラと同じ行いです』

P「…………」

PC『また仮にその手段を取ったところで、何らかのきっかけによりそれが身代わりであったこと……つまり“L”本人でなかったことに気付かれれば、どのみち黒井社長はキラに殺されてしまうでしょう』

PC『よってその点からもリスクとして高過ぎますので、いずれにしてもその案は採用できません』

P「じゃあそうなると……王道だが、黒井社長が殺される前にキラを……つまり、美希と春香を……捕まえるしかないってことか」

PC『はい。そういうことになります』

P「…………」

PC『……どうされますか? ○○さん』

P「…………」

PC『言うまでもない事ですが……現状、既に自身の命が危険に晒されている黒井社長はともかく、あなたの場合はそうではない……むしろ私に協力することで自分がキラに殺される危険が生じるだけともいえます』

P「…………」

PC『それに加えて、私が現在キラとして特定しているのは二名ともあなたの担当アイドルなのですから……協力を躊躇されるのも無理からぬことだと思います』

P「…………」

PC『ですので……やはり協力できない、ということであれば仕方ありません。黒井社長には申し訳無いですが、その場合は他の協力者をあたって……』

P「……いや、待ってくれ」

黒井「!」

PC『…………』

P「やるよ。“L”。協力……させてくれ」

黒井「! ……お前……」

P「黒井社長。さっき言ったとおりです。いかなる事情があれど、あなたに命の危険が迫っている状況において、俺があなたを助けるための協力をしない理由はありません」

P「たとえ他の全てを犠牲にすることになったとしても……俺は絶対にあなたを助けます」

P「……そう。たとえ自分の担当アイドルがキラとして捕まることになったとしても……ね」

黒井「! …………」

PC『……よろしいんですね?』

P「ああ。全て今言ったとおりだ。二言は無い」

PC『ありがとうございます。○○さん。それでは早速――……』

黒井「……すまん。少しだけ待ってくれ。“L”」

PC『? はい』

P「黒井社長?」

黒井「……考え直せ」

P「!」

黒井「さっき“L”も言っていたが、私はともかく……お前がこの件に協力したところで得られる利益は何も無い。むしろ自分の命が危険になるだけだ」

P「…………」

黒井「移籍の経緯はどうあれ……今、お前は765プロで十分に成功を収めている。ならばわざわざ、あえて今の自分を危険に晒す必要など――……」

P「黒井社長」

黒井「…………」

P「俺の身を案じてそう言ってくれていることは、本当にありがたく思います」

黒井「…………」

P「でも、俺の気持ちは変わりません」

黒井「! お前……」

P「……あなたは、俺が961プロにいる間……“765プロ潰し”の件も含め、961プロが裏で行っていた様々な悪事には俺を一切加担させようとしなかった。むしろそういった961プロの闇の部分から、意図的に俺を遠ざけていた……そうですよね?」

黒井「! 気付いていたのか」

P「ジュピターの活動報告をしに社長室を訪れた際、偶然にも、あなたと轡儀さんの会話を立ち聞きしてしまったことがありまして」

黒井「……そうだったのか」

P「あなたは……もし961プロに関する違法・犯罪行為が公になり、自分や轡儀さんが社内外から責任を問われる事態になったとしても、俺にだけは絶対に責任が及ばないようにしてくれていた」

黒井「…………」

P「あなたと轡儀さんは961のツートップ……二人が会社を追われるような事態になれば、社内の勢力図は大きく変わる」

P「また社内には、中途入社したばかりでいきなり新ユニットの担当プロデューサーを任された俺を疎んじるような向きも少なからずあった」

P「だからあなたは、もし自分と轡儀さんが急にいなくなったとしても……残った俺が誰からも何一つ言いがかりをつけられたりすることがないように……俺を961プロの“裏の顔”には一切関与させなかった」

黒井「…………」

P「あなたは、前の事務所で俺が退職に追い込まれた経緯を知っていたから……もう絶対に、俺を同じ状況には置かせまいと……考えうる限りの最善の措置を取ってくれていた」

P「全て俺のために」

黒井「…………」

P「そんなあなたが、俺のためにそこまでしてくれていたあなたが……今、命の危険に晒されているのに……」

P「それを黙って見ているなんてありえない」

P「それが、俺の答えです」

黒井「…………」

黒井「……いいんだな。本当に」

P「はい。それに……」

黒井「? それに?」

P「俺は765プロに対する私怨はありません。高木社長にしても、あなたとはかつて色々あったのかもしれませんが……俺から見れば人格者ですし、何の不満もありません」

P「それに何より……俺はうちのアイドル達が好きです。大好きです」

黒井「…………」

P「皆素直で、真面目で、良い子で……どこに出しても恥ずかしくない、自慢のアイドル達なんです」

P「だから俺は胸を張って言えます。今の俺は765プロのプロデューサーとして……うちのアイドル達を愛していると」

黒井「……そうか」

P「はい。だからこそ……本当に美希と春香にキラとしての疑いが掛かっているのなら……その検証に協力するのも、あいつらのプロデューサーである俺の役目だと思うんです」

黒井「…………」

P「プロデューサーとして、あいつらを愛しているからこそ……もしあいつらがキラでないのなら、俺はその疑いを晴らしてやりたい。だから俺にできることがあるなら、どんなことであっても協力したい。今はそう思っています」

P「もし“L”の推理が間違っていたことが分かれば、それはすなわち、美希と春香の潔白を証明することになるはずですから」

PC『…………』

P「しかし一方で、考えたくはありませんが……もし本当にあいつらがキラで、“L”が推理したとおりの罪を犯してきた、あるいは今も犯しているのなら……罪は罪として、それに見合う罰を受けさせなければならない。俺はそうも思うんです」

P「……轡儀さんの件もありますしね」

黒井「……確かにそうだな。死んでいった轡儀の為にも……我々には、真相の解明に協力する義務がある」

P「はい」

PC『……そうですね。かくいう私も、まだ100%の確証までは持っていません。だからこそ、それを確かめるためにこうしてお二人に協力を依頼しているわけですし……』

PC『また今○○さんが仰ったように、私の推理が間違っていて、星井美希および天海春香はキラではなかったのなら……それもまたこの検証によって明らかになります』

P「……ああ。なら俺はそれでいい。あいつらがキラではない可能性が1%でもあるのなら、俺はそれを信じたい」

P「だからそのためにも、あんたに協力させてくれ。……L」

PC『はい。ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします』

黒井「……○○」

P「? はい」

黒井「……恩に着る」ペコリ

P「や、やめて下さいよ。黒井社長。これくらい当然の事です。俺があなたにしてもらったことを思えば……」

黒井「……すまん」

PC『―――それではこれより、お二人に協力して頂く具体的な内容についてご説明します』

黒井「そういえばさっき、『星井美希と天海春香の二人がキラであることの証拠を押さえる』などと言っていたな」

P「つまりもう具体的な証拠のアテがあるってことか?」

PC『はい。その証拠とは……私がキラの殺しの能力そのものと考えているものです』

黒井「! キラの殺しの能力そのもの……だと?」

P「そんなものが……? 一体何なんだ? それは……」

PC『はい。それは―――『黒いノート』です』

一旦ここまでなの

P「『黒いノート』……?」

黒井「それが『キラの殺しの能力そのもの』とは……一体どういう意味だ?」

PC『はい。今から全てご説明します。『黒いノート』に関する私の推理を――……』

(“L”は、PCのディスプレイ越しに『黒いノート』に関する次の推理を二人に伝えた)

(これまでの捜査結果から、“L”がキラの殺しの能力の正体として推理しているのは、星井美希と天海春香が各々一冊ずつ所持していると考えられる『黒いノート』であること)

(その『黒いノート』とは『顔を知っている人間の名前を書くことでその人間を殺せるノート』であると考えられること。特に星井美希は常にこれを持ち歩いているものと考えられるため、まずは彼女の持つ『黒いノート』を押さえることが当面の目標となること)

(他方、天海春香は『顔を見れば名前が分かる能力』を持っているものと考えられるため、キラを追う者は『顔を知られたら殺される』可能性があること)

PC『―――以上が、現在私が推理しているキラの殺しの能力の正体です』

黒井「名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート……だと……」

P「常識では考え難いですが……でも確かに、今キラが行っている『裁き』については合理的に説明ができますね……」

黒井「うむ……。それに私も、これまでの犯罪者裁きの傾向から、キラの殺しには『顔』と『名前』の二つが必要なのだろうと考えていたが……何故キラは私に対し『“L”の顔写真だけでも入手してほしい』と言っていたのか、それがずっと気になっていた。だがそれも、天海春香が『顔を見れば名前が分かる能力』を持っていたのだと考えれば納得がいく」

P「それに……キラの能力の正体が『ノート』という物体そのものなのだとすると、今キラが“L”の正体を探ろうとしていることとも辻褄が合いますしね」

黒井「? どういうことだ?」

P「簡単な事ですよ。もしキラが何らの物的証拠を残すことなく――たとえば頭の中で念じるだけでなど――人を殺せるのなら、たとえ自分を追う者がいたとしてもその者を殺す必要は全く無い。いくら調べられても足がつくはずがないからです」

黒井「! …………」

P「だがキラは自分の正体を知られるリスクを冒してまで……黒井社長をして、自分を捕まえようとしている“L”の正体を明かさせ、殺そうとしている。それは捜査の手が迫ればキラだという証拠を見つけられ捕まるからということに他なりません」

P「逆に証拠が無いのならいくら捜査されても困らず、“L”を殺す必要も無いはず……だから証拠は必ずあるって事です」

黒井「……なるほどな」

黒井(こいつ、今聞いただけの説明でもうここまでの思考を……)

PC『そうですね。○○さんの仰る通りです』

PC『キラが“L”の……すなわち私の正体を探り、殺そうとしているということこそ……キラが能力を行使する際には必ず何らかの物的証拠が残る、ということの証左です』

P「……しかし、空港の所持品検査時のX線写真か……まさかあの合宿の時に、裏でそんな捜査がされていたとはな」

PC『はい。この事件の捜査は警察の力も借りていますから』

P「……ってことは、前にうちの事務所に聞き取りをしに来た二人組の刑事……あれもあんたの差し金か?」

PC『はい。あれもキラ事件の捜査の一環として私が指示して行かせたものです』

P「なるほどな。もうここまでくると……といっても、今日これまでに聞いた話からもうほとんど疑ってはいなかったが……やはりあんたが本物の“L”ってことで間違い無さそうだ」

黒井「そうだな。私も信じよう。この画面の向こうにいる……あなたこそが“L”なのだと」

PC『はい。最初に申し上げました通り―――私はLです』

P「……で、L」

L『はい』

P「本題の、美希が持ち歩いている『黒いノート』を押さえるって話だが……具体的にはどうするんだ?」

P「一応先に言っておくが、いくら担当プロデューサーとはいえ……俺が押さえるのは多分無理だぜ」

P「うちの事務所ではアイドル達に個人別の鍵付きロッカーを貸している。勿論、事務所にはそのマスターキーもあるが……美希に限らず、アイドルがこのロッカーを使っているのはそのアイドル自身が事務所にいる間だけだ。外出中は当然、鞄を持って行っているからな」

P「だから、俺が美希のロッカーを探っているところを美希本人に見つかりでもしたらもうそれで終わりだし……そもそも美希本人でなくても、男の俺がアイドル専用のロッカースペースをうろうろしているところをアイドルの誰かに見られでもしたら確実に不審に思われる」

P「まあ同性の律子や音無さんに探ってもらうってのなら、まだ誤魔化しようもあるのかもしれないが……」

L『いえ。あなた以外の765プロの人間は駄目です』

P「! …………」

L『あなたにそれが無いという意味ではありませんが……アイドルと従業員の垣根を越えて、765プロ全体を強く結び付けている“絆”……そして互いの間にある強固な信頼関係から考えて、『星井美希と天海春香がキラかもしれない』などという推理自体、受け入れてもらえるとは思えません』

L『ゆえにそれを前提として行う捜査に協力してもらうことなどまず不可能です』

P「……確かにな。俺もショックではあったが……少なくとも今は『美希と春香がキラかもしれない』というLの推理自体は受け入れることができているつもりだ。そしてその上で、自分が取るべき最善の行動を選択できていると思う」

L『はい。私もそう思いますし、またあなたならそうしてくれるだろうと思っていました』

L『だからこそ私はあなたに全てを打ち明け、捜査協力をお願いすることにしたわけですから』

P「……ありがとう。L。確かにあんたの言う通り、俺以外の765プロのメンバーの場合はそうはいかないだろうと思う。そもそも皆、事務所のアイドルの人気が出始めてから移籍してきた俺とは違い、もうずっと以前からの付き合いだ。共に過ごした時間の長さが俺とは全然違うし、文字通り苦楽を共にしてきた仲でもある。それこそ美希や春香本人の自白でも無い限りは……二人がキラなどという考え自体、絶対に生まれないだろう」

L『そうですね。またもし仮にそれがあったとしても、『二人は真のキラに洗脳され操られている』などと考え、最後まで二人をキラとして疑うことはないものと思われます』

P「そうだろうな。……というか、さっきから気になっていたが……L」

L『? はい』

P「……あんた、妙にうちの事務所の事情に詳しいんだな」

L『捜査に必要な情報だと思ったので調べたまでです』

P「……なるほど。流石“世界の三大探偵”と言われるだけの事はあるな」

L『どうも』

黒井「しかし、○○も含め……765プロ関係者は使えないとなると……一体誰をして、星井美希の持つ『黒いノート』とやらを押さえさせる気だ?」

L『はい。それは――……○○さんが以前に会った事がある人物です』

P「!」

L『また黒井社長にとっては、その人物の所属事務所にかなり馴染みがあるはずです』

黒井「? 誰だ?」

L『―――ヨシダプロダクション所属アイドル・弥海砂です』

黒井・P「!」

P「弥海砂……だと?」

L『はい。ずばり彼女を使って……星井美希が所持している『黒いノート』を押さえさせます』

P「! …………」

黒井「お前は知っているのか? その弥海砂とかいうアイドルを」

P「あ……ええ、はい。俺が961プロに居た頃、ヨシダプロの女性マネージャー……吉井氏といいますが、よく彼女と互いに仕事先を紹介しあったりしていたんです」

黒井「ほう」

P「そのツテを使って、俺が765プロに移籍してすぐの頃……今からもう半年以上も前になりますが……元々はヨシダプロの所属アイドルに来ていたCM撮影の仕事を、美希……星井美希も一緒に出演させてもらえないか、と吉井氏に頼んで企業側に推してもらい、無事共演を果たしたということがあったんです」

P「その時に、美希と共演したヨシダプロの所属アイドルというのが……弥海砂なんです」

黒井「なるほどな。とすると、お前と……星井美希も、その際にその弥海砂というアイドルと知り合っていたということか」

P「はい。ただ俺は、そのCM撮影以降は弥海砂との接点は特に無いですけどね。吉井氏とは今も定期的に連絡を取りあっていて、先月も映画『眠り姫』のチケットを何枚か渡したりしましたが」

P「ちなみに美希の方は、CM共演を機に弥海砂と仲良くなり、今ではプライベートでもちょくちょく会う仲だそうです」

黒井「そうだったか。しかしヨシダプロダクション……か。まさかこんなところでその名を聞くことになるとはな……」

P「あっ。そうか……黒井社長は確か、ヨシダプロの前の社長と……」

黒井「ああ。私はヨシダプロの前社長と懇意にしていた。だからこそ……彼も轡儀同様、キラによる“復讐”の対象となったわけだが……」

P「……“765プロ潰し”……ですか」

黒井「そうだ。もっともそれ以前から、彼とはよく共謀して弱小事務所を抑圧していた。裏で手を回して芸能企画のスポンサーから外したりな」

P「…………」

黒井「だが今にして思えば、それもキラの逆鱗に触れたのだろう。私宛てに来た最初の脅迫文書にも、確か……『自分の息のかかった事務所にも、これまでのように弱者をいたぶるような真似はさせず、自由で公平な競争をさせるように』などと書かれていた」

P「……黒井社長は、今のヨシダプロの社長とも親しいんですか?」

黒井「ああ。彼は前社長の時代には副社長を務めていたからよく知っているし……彼の方も、私と前社長が裏で共謀して行っていた数々の所業についてはよく知っている」

P「…………」

黒井「だが、件のアイドル事務所関係者連続死亡事案……いや、もうLに倣って『アイドル事務所関係者連続殺人事件』と呼んでおこうか。この事件によって、轡儀やヨシダプロの前社長を含めたアイドル事務所の関係者が三か月で八人も殺害された……そしてそのいずれもが“765プロ潰し”計画の主要人物だった」

黒井「世間的には、『複数のアイドル事務所関係者が短期間に相次いで死亡した不可解な出来事』といった程度の扱われ方だったが……“765プロ潰し”計画に関与していた者達だけは……私も含め、誰もがこう思った。『これは我々が765プロを陥れようとしたがために起きた“天罰”なのだ』と」

P「…………」

黒井「ゆえに、その後は私も765プロに対する妨害工作は行わないようにし、また他の事務所にもそのような指示を出すのはやめた。結果、“765プロ潰し”計画は事実上の終焉を迎えた」

黒井「しかし、キラの“復讐”はそれでは終わらなかった。その後、私がスパイとして送り込んでいた765プロの前のプロデューサーも殺され……また私もキラから直接脅迫を受けることとなった」

P「……で、その脅迫の結果、765プロへ移籍させられたのがこの俺……というわけですね」

黒井「そうだ。そしてその当時のヨシダプロの副社長……つまり今の社長は、そのような経緯も全て知っている。……私がキラに脅迫されてお前を移籍させたこと、そして今もキラから脅迫を受けているということ以外はな」

P「…………」

L『……そういう意味においても、弥海砂は、星井美希が所持している『黒いノート』を押さえさせるにはうってつけです』

黒井「? どういうことだ?」

L『ある程度ヨシダプロ側に事情が伝わっていた方が、黒井社長から話を通して頂きやすいということです』

黒井「ということは……私がヨシダプロの社長に頼めばいい、ということか? 『“L”が行っているキラ事件の捜査の協力をしてほしい。ついては弥海砂にキラ容疑者の持つ『黒いノート』を押さえさせてほしい』と」

L『いえ。黒井社長からヨシダプロの社長に話をして頂きたいのはその通りですが、流石に全ての事情をヨシダプロ側に打ち明けるわけにはいきません』

L『今黒井社長が仰ったように、ヨシダプロの現社長は“765プロ潰し”計画の事を知っていたわけですから……おそらく今でも、自社の前社長も含め、“765プロ潰し”計画の主要人物達は次々と“天罰”により死んでいったと思っているはずです。とすれば、そんな人に『あれは“天罰”ではなくキラによる犯行だった。だからキラを捕まえることに協力してほしい』などと言ったところで、協力を得られるはずがありません。“天罰”だろうがキラだろうが、みすみす自分が殺される危険を負うはずがないからです』

黒井「……確かにな。ではどのように伝えれば?」

L『はい。それではこの計画の全体像を含めて、今からご説明させて頂きますが……』

L『まずそれに先立って、最初にあなた方にお伝えしておくことがあります』

黒井・P「?」

L『実は……私はもう弥海砂に直接接触しており、今は計画の概要を伝達した上でその承諾を得ているという状況です』

黒井「! 何?」

P「直接接触……だと?」

L『はい。あくまでもまだ概要ですが……『近日中に星井美希と共演する仕事の場を作るので、そこでノートを押さえてほしい』と伝えてあります』

黒井「星井美希と共演する仕事の場……? そこで押さえさせるだと?」

L『はい。考えうる中で最も成功率の高い作戦です』

L『これを実現するために……黒井社長には、キラ事件の捜査であることは伏せて、あくまでも『普通の仕事の紹介』という体でヨシダプロの社長に話をして頂きたい』

黒井「!」

P「……そうか。かつてヨシダプロの前社長と親交があり、また現社長の事もよく知っている黒井社長からの仕事の紹介なら何の不自然さも無い」

L『そういうことです。そしてその後、ヨシダプロから765プロへ、あくまでも『普通の仕事』として話を持ち掛けてもらいます。『うちの弥とお宅の星井美希を仕事で共演させてもらえないか』と』

黒井「なるほど……」

P「そこで予め美希の担当プロデューサーである俺にも話を通しておけば、765プロとしてもスムーズに応対できるってわけか」

L『その通りです』

P「……なるほど。確かに事務所間のやりとりはそれで何の問題も無いだろう……だが、L」

L『? はい』

P「何で弥海砂なんだ?」

L『…………』

P「あんたはさっき、『弥海砂はうってつけ』と言った。しかし黒井社長が……961プロが仕事を紹介しても不自然ではないアイドル事務所なら他にいくらでもある……何でヨシダプロの弥海砂を選んだんだ?」

L『……元々、ヨシダプロということ自体に大きな意味はありませんでした。私が先に着目したのはあくまでも弥海砂個人であり、結果、その所属事務所がたまたま黒井社長とつながりのある事務所だったので、今回の作戦を思いついたという次第です』

P「弥海砂個人に着目した……? それは一体どういうことだ?」

L『……私が弥海砂を選んだ理由は、大きく分けて二つあります』

L『まず一つ目は、『星井美希との間に親交があること』です』

P「!」

L『先ほど○○さんも仰っていましたが……弥海砂は星井美希とCM撮影で共演して以来、彼女とはプライベートでも親交のある仲です』

L『この関係を利用します』

P「! …………」

黒井「関係を利用……とは、どういうことだ?」

P「……そういうことか」

黒井「! 分かるのか?」

P「ええ。おそらくですが……美希が常に持ち歩いているような私物……もしそれを押さえる隙があるとしたら、美希と相当親密な関係にある者でなければまず不可能……」

P「ゆえに、その役に一番うってつけなのは……一緒に暮らしている家族か、または同じ事務所のアイドル仲間などとなるが……さっきも言ったように、そんな者達に『美希がキラかもしれない』などと言ったところで受け入れられるはずもない」

黒井「うむ」

P「とすれば、次に考えるのは……そこまでの親密さは無くとも、美希がそれなりに信頼している者であり、ノートを押さえることのできる隙が生まれそうな者……」

P「そこでLが目を付けたのが……所属事務所こそ違うが、美希の親しい友人である“弥海砂”……ということなんでしょう」

黒井「! ……なるほどな」

L『ご理解が早くて助かります。○○さんの仰る通りです』

P「だが弥海砂にしたって、美希の親しい友人であることには変わりない……『美希がキラかもしれない』などという話をそう簡単に受け入れるとは思えないし、また仮に受け入れたとしても、『美希をキラとして捕まえる』ことに積極的に協力するとはとても思えない……だが、L」

L『…………』

P「あんたはさっき、『弥海砂からはもうこの計画の承諾を得ている』と言った。……一体どう説明したんだ? 弥海砂に」

L『はい。それは、私が弥海砂を選んだ理由の二つ目と大きく関係します』

P「…………」

L『実は彼女は……キラの崇拝者です』

黒井・P「!」

L「彼女は今から一年半ほど前に両親を強盗に殺されており……その強盗をキラが裁いたことからキラを崇拝しています」

P「! ……そうだったのか」

黒井「キラ崇拝者のアイドル……か」

P「いや、しかしそれなら……尚の事、『美希をキラとして捕まえる』などということには協力しないんじゃないか? キラ崇拝者がキラを捕まえようとするはずがない」

L『はい。ですので私も、キラの崇拝者を装って弥海砂に接触しました』

P「!」

黒井「キラの崇拝者を装った……だと?」

L『はい。私と共に捜査をしている別の者をキラと見せかけ、信じさせ……その上で、『今、星井美希と天海春香はこの者からキラの能力を奪い、キラとして犯罪者裁きを行っている』『ゆえにこの者が二人から能力を取り戻すことの協力を頼みたい』『それが無事に終わったら星井美希と天海春香も我々の、つまりキラの仲間に加える』……こう言って協力を求めました』

黒井「! …………」

P「……なるほど。『二人をキラとして捕まえるため』ではなく、あくまでも『元のキラに能力を戻させるため』という体にして協力を取り付けたのか」

L『はい』

黒井「……いや、だが待てよ。そうだとしても、『今は星井美希と天海春香の二人がキラとして裁きを行っている』と説明している以上、『今のキラから能力を取り戻す』という目的は、キラ崇拝者である弥の思想に適うといえるのか?」

P「多分ですが……弥が崇拝しているキラ――すなわち、弥の両親を殺した強盗を裁いたキラ――は、『今のキラ』ではなく、Lが仕立て上げた『前のキラ』だったということにしたんでしょう」

黒井「!」

P「つまりそうすることで、Lは『前のキラ』に弥の崇拝心を取り付けた」

L『…………』

P「それでも弥の心情としては、当然の事ながら、友人である美希をキラとして捕まえるとか、あるいは警察に突き出したりすることに対しては抵抗があるはず……だからLは『前のキラに能力を戻すことができれば、美希もキラの仲間に加える』と予め伝えておくことで、弥が安心してこの計画に協力することができるように取り計らった……」

P「そんなところじゃないのか? L」

L『……はい。その通りです』

P「だが……『黒いノート』についてはどう説明したんだ? いくらアイドルといっても、その点を除けば普通の女子高生に過ぎない美希と春香が『前のキラ』からこれを奪ったとする説明はかなり無理があるように思えるが……」

P「また弥にしても、自分の手で殺人の道具そのものを押さえるというのは……美希がどうこう以前に、純粋な恐怖心から躊躇してもおかしくないと思うが」

L『それは大丈夫です。弥には『キラの能力とは何か、それがどう二人に奪われたのか』などの説明はぼかしてありますので。また『黒いノート』についても『キラとしての活動に関する連絡用の道具』としか説明していません』

L『これは万一の情報漏洩を防ぐためでもありますが……最大の目的は、今○○さんも仰ったように、いざノートを押さえる段になって躊躇されてしまうのを防ぐためです』

P「なるほど。つまり弥は『黒いノート』については『連絡用の道具』という認識しか持っていない……」

L『はい。目的はあくまでもノートを物理的に押さえさせることですので、それで何の問題もありません』

P「確かにな」

黒井「……で、そのために『弥海砂と星井美希が共演する仕事の場』というシチュエーションを用意する……ということか」

L『はい。そうです』

P「そして……さっきのおさらいになるが……黒井社長がその仕事をヨシダプロに紹介し、その紹介を受けたヨシダプロが、うち……つまり765プロに、『弥と美希の共演の話』を持ち掛けてくる……」

L『はい。弥は星井美希と一度CM撮影で共演していますし、前の時は765プロ側から共演の申入れをしているわけですから、今度はヨシダプロの方から同じ申入れをしても何らおかしくはないでしょう』

L『また建前上、ヨシダプロとしても、まだアイドルとしての知名度が高くはない弥をより効果的に売り出すために、今人気絶頂にある765プロのアイドルと共演させてその集客力を利用しようとする考えは商業戦略として極めて自然です。不審に思われる要素は微塵もありません』

P「確かに」

黒井「では、L。私は具体的にどのような仕事をヨシダプロに紹介すればいいんだ?」

L『そうですね。私としては……金庫のある控室やロッカールームなど、星井美希が安心して荷物を置き、その場を離れることができるようなスペースさえ確保できるのであれば、仕事の内容自体は何でもいいと思っています』

L『もちろん不審に思われないように、アイドルの仕事として相応しいものである必要はありますが』

黒井「なるほど。では期間としてはどの程度を考えている?」

L『そうですね。『黒いノート』を押さえることができ、かつそれが『星井美希と天海春香がキラとして殺しを行ってきたことの証拠』だと断定できれば、すぐにでも二人の逮捕に踏み切る予定ですが……たまたまその日に限ってノートを持って来ていなかった、という事態になる可能性も否定はできませんので……予備日を含め、少なくとも二日間は欲しいですね」

黒井「分かった。なら確か……ちょうどわが社の女性アイドルにオファーのあった、10~20代の女性向けのファッション誌の撮影の仕事があったはずだ。元々付き合いのある出版社からのオファーなので、回そうと思えばすぐにでもヨシダプロに回せる」

L『なるほど。撮影場所は屋内ですか?』

黒井「ああ。スタジオでの撮影と聞いている」

L『分かりました。それなら当然、衣装に着替えるための部屋もあるでしょうし、またその中にはロッカーか何かもあるはずです。それでいきましょう』

黒井「分かった。ではその仕事をヨシダプロに紹介する事とし……具体的な撮影期間については、スケジュール調整の際に出版社と765プロ、ヨシダプロの間で調整すれば良いだろう」

P「そうですね。ただヨシダプロ側には事情を説明できないので、出版社にはうちの方から調整の打診をすることになるでしょうが……幸いにも、今うちはアリーナライブを控えているのでその手の打診はしやすい。美希の方にも特に怪しまれることは無いでしょう」

L『ありがとうございます。ではそれでお願いいたします』

P「……だが、L。『ノートを押さえる』というのは……具体的には、弥がノートに接触できた場合、そのままノートを持ち去らせるということか? もしそうなら、そのことが美希に気付かれた場合、弥が殺される危険があるのでは……」

黒井「? 殺しの道具そのものであるノートを持ち去る以上、仮にそのことに気付かれたとしても、もはや弥が星井美希に殺される危険は無いのではないか?」

P「……いえ。Lの推理を前提にすれば、美希だけではなく春香も同じノートを所持しているということになる。つまり美希の方のノートを持ち去っても……美希から春香に連絡されれば、春香の方のノートで殺されてしまう危険がある」

黒井「! そういうことか」

L『はい。そこは○○さんの仰る通りです。なので現段階の想定では、予定通り弥がノートに接触できたとしても、そのままその場から持ち去らせることはしません。弥にしてもらうのはその場でノートの外観、中身を全て写真に撮り、そのデータを私に送る事までです。またもちろんその部屋には予め監視カメラと盗聴器を付けておき、不測の事態が発生した場合にも備えます』

黒井「だがそれでも、弥がノートを手に取っているところを星井美希に見られたらアウトだな」

L『はい。ですから――……』

P「その間、美希の行動を見張っておき、その場に近付けないようにするのが俺の役目ってわけか」

L『……その通りです。○○さんは、何があっても星井美希をその場に近付けないようにしてください』

L『そして弥がノートを撮影し、元あった場所に戻した後は……星井美希から不審に思われないように気を付けながら、弥だけ先に現場から帰らせます』

L『他方、私の方では弥から送られてきたノートの写真のデータの検証を即時に行い……それが『星井美希と天海春香がキラとして殺しを行ってきた証拠である』と断定できた時点で、現場に警察を向かわせ―――星井美希を逮捕します』

P「! …………」

L『同時に、星井美希との共謀容疑で天海春香も逮捕します』

P「…………」

L『ですので○○さん。あなたは弥が帰った後も星井美希とともに現場に残って頂き……警察が着くまでの間、星井美希が外に出ないように見張っておいて頂きたい』

L『それがあなたに頼みたい最も重要な任務です』

P「……分かった」

L『もっとも、今もそうですが……当日も警察には星井美希の尾行をしてもらい、そのまま撮影スタジオの近くで待機しておいてもらうつもりですので……ノートが証拠だと断定できた時点で、ほとんど間を置かずに逮捕できるだろうとは思いますが』

P「なるほど。……というか、今もう既に警察に美希を尾行させているのか。ということは春香もか?」

L『はい。もう二か月近くになりますが……警察には、星井美希と天海春香の二名を尾行してもらっています』

P「……ということは当日、美希と同時に春香にも尾行を……」

L『はい。天海春香も星井美希と同時に逮捕しますから当然です。なお天海春香は一旦は星井美希との共謀容疑での逮捕となりますから、彼女が持つ方のノート……物的証拠の確保は後回しでもいいでしょう』

P「だが俺が直接見張ることのできる美希とは違い、春香の方は、いくら警察が尾行しているとはいえ……常にすぐ逮捕できる状況にあるとは限らないんじゃないか?」

L『大丈夫です。当日は弥とは別の協力者に天海春香と直接対面の上、彼女の動きを牽制してもらうよう頼んでいます』

P「! 別の協力者だと?」

黒井「ということは、その者も……」

L『はい。弥同様、キラ崇拝者です。名前は高田清美。東応大学の一年生で、天海春香とも既に友人になっています』

黒井・P「!」

L『天海春香は今年の4月から東大生の男子に家庭教師をしてもらっているようですので、どうやらそのつながりで知り合ったようですね』

P「ああ、そういえばそんな話を聞いたことがあったな。確か春香と……あとやよいが、東大の首席入学者に家庭教師をしてもらっていると……なるほど、そういうつながりか」

L『はい。また言うまでもありませんが、高田清美の存在をあなたが知っているのは不自然ですので、くれぐれも天海春香の前では……』

P「分かってる。当然言わないさ。しかしその高田清美とかいう人物も、あんた……Lが直接接触して協力を取り付けたのか?」

L『はい。そうです。高田清美もキラ崇拝者なので、弥と同じ理由を用いて協力を取り付けています』

P「なるほど。つまり『美希または春香と親交があり、かつキラの崇拝者』という条件で協力者のあたりをつけ……それに適合したのが弥海砂と高田清美だったという事か」

L『その通りです』

L『では、まずは黒井社長。先ほどの仕事の件をヨシダプロの社長にお伝え頂けますか』

黒井「ああ。すぐに連絡しよう。……しかし……」

L『? どうかされましたか?』

黒井「いや、その……Lのやり方に異論を差し挟むつもりは毛頭無いのだが……たかだか、女子高生の持つノート一冊を押さえるのに随分大がかりだと思ってな」

黒井「もう既に警察も自由に動かせるような状況にあるのであれば……それこそ、任意での所持品検査などでも事足りそうに思えるが」

L『確かにそれができれば一番簡単ですが……任意は文字通り『任意』でしかないので拒否されたらそれまでですし……』

L『また仮に捜査令状を取り、意思制圧の上強制的に検査を行うとしても……『ノートが殺人の道具である』というのは、あくまでも現状における推理として、最も可能性が高いというものでしかありません」

L『つまり、実はノートはキラの殺しとは無関係で、本当は全く別の能力――それこそ、念じるだけでその場にいる人間を皆殺しにできるような能力――を持っている可能性だってあるわけです。『キラの殺しには顔と名前が必要』という推理も、あくまでも、これまでの捜査から得られた状況証拠を積み重ねた結果に過ぎません』

L『ゆえに……もし仮にそうだとすると、無理な捜査を強行することで捜査員の何人かが犠牲となってしまう可能性が高い。殺しの方法が完全に特定できていない状況で強硬策に踏み切るのは危険というわけです』

黒井「……なるほどな」

L『ただそうは言っても、先ほど○○さんが仰っていたように、キラが“L”を殺そうとしていることからすれば、キラの殺人に関しては何の証拠も残らない、という事はまず無いだろうとは思いますが』

P「……………」

L『まあいずれにせよ、まずは『黒いノート』が殺人の道具である事の確証を得ることです』

L『それさえ得られれば、後は強行突破で構いません。ノートに名前を書かれない限りは殺されないわけですから……ノートを所持していない事を確かめた上で、堂々と逮捕に踏み切ればいい』

黒井「うむ」

L『そして、黒井社長にヨシダプロの社長に連絡を取って頂いた後は、先ほども言ったように、ヨシダプロから765プロに仕事の話を持ち掛けてもらう流れになりますが……その際には961プロ、いや……黒井社長の名前は765プロ側には伝わらないようにさせた方がいいでしょうね』

黒井「? どういうことだ?」

L『……黒井社長はキラに脅され、当時961プロに居たプロデューサー……つまり○○さんを765プロに移籍させたいとの話を高木社長に持ち掛けた際、その前提として“765プロ潰し”の件を謝罪しており、高木社長もこれを受け入れた……そうでしたね?』

黒井「ああ」

L『とすれば、建前上……“765プロ潰し”の件は黒井社長の謝罪という形で幕を引いている。その前提であれば、黒井社長がさらに贖罪の気持ちから仕事の斡旋をしたということが765プロ側に伝わっても、高木社長やその他従業員・所属アイドル達から何か疑われる、ということは基本的にはないでしょうが……』

P「……美希と春香については話が別、ということか」

黒井「!」

L『そういうことです。何と言っても、彼女らは今も黒井社長を脅迫している張本人……もし仮に彼女らが、高木社長経由で黒井社長が“765プロ潰し”の件について謝罪したことを聞いたとしても……当然、それは本意からのものではなく、あくまでも自分達が脅迫した結果に過ぎないと考えるでしょう』

黒井「…………」

L『加えて、彼女達にしても、これまでの脅迫の内容から、黒井社長が『キラは765プロの中にいる』と考えるであろうことは当然想定しています。そのような状況において、自分達が指示したわけでもないのに、黒井社長が『キラが内部にいる』と分かっているはずの765プロに対して何らかの働き掛けを行った、と知れば……間違いなく訝しみます』

L『たとえそれが、表向きはただの仕事の斡旋であったとしても』

黒井「…………」

L『もちろんそれだけで、即、黒井社長の背後に“L”である私がいること……また黒井社長の協力を通じて私がやろうとしていることに気付けるとは思えませんが……念の為です』

黒井「分かった。ではヨシダプロにはどう説明する? いっそもう一つ別の会社を挟み、そこからヨシダプロに紹介させるという形にしてもいいが……」

L『いえ。情報漏洩防止の観点からも、あまり関与する者の範囲が増えるのは好ましくありませんので……ヨシダプロの社長には黒井社長から直接話をして下さい。その際は『“765プロ潰し”の件については既に高木社長に謝罪をしており、その詫びの一環で仕事を斡旋することにした。765プロの現プロデューサーは自分の元部下でもあるのでもう先に話を通している』という形で説明して頂いて構いません』

L『その上で、自分からの紹介である事を765プロ側には伝えないよう、口止めを頼む理由としては……『既に一度謝罪している以上、さらに仕事の斡旋までするとなると、かえって高木社長が気を遣って仕事を断るかもしれない。でも自分としてはどうしても贖罪を尽くしておきたい』とでも言ってもらえればいいです。黒井社長は高木社長と旧知の仲でありその人となりもよく分かっているはずですから……そのような理由付けも不自然ではありません』

黒井「分かった。だがそうなると、ヨシダプロの他の従業員には別の説明を考えた方がいいな。“765プロ潰し”の件は社長以外の者は知らないはずだ」

L『では……そうですね。他の従業員には、単に『昔のツテで仕事を紹介してもらった』とだけ伝えてもらうよう、社長に言っておいて頂けますか? それで特に従業員から追及されるようなことも無いでしょう』

黒井「分かった」

L『それを受けての話ですが……○○さん』

P「ああ」

L『実際にヨシダプロが765プロに話を持ち掛ける際には、おそらく吉井氏から○○さんに連絡があると思われますが……今述べた理由から、吉井氏は何も事情を知らないことになりますので、あなたも、あくまでも普通に仕事の話を聞くという体で応対してください』

P「分かった」

L『また撮影当日はもちろん、事前の打ち合わせにおいても、あなたは吉井氏のみならず弥とも顔を合わせることになるでしょうが……私から指示のある場合を除いて、この件に関して弥に何か話したりはしないでください。弥にはあなたが事情を知っているということは伝えておきますが、そのことを星井美希に勘付かれたらまずいですので』

P「ああ。俺が弥と顔を合わせる時は必然的に美希もその場にいるだろうからな」

L『はい。ではそれでよろしくお願いします』

P「じゃあ一旦、俺は吉井氏から来るであろう、件の仕事の連絡を待っておくだけでいいのか? 他にも何か備えておくべきことがあればやっておくが……」

L『そうですね……では一つだけ、質問をさせて頂いてもいいですか?』

P「質問? 別にいいが……何だ?」

L『○○さん。あなたは星井美希と天海春香のどちらとより親しいですか?』

P「? ……別にどちらと、という事もないが……。二人に限らず、アイドルに対しては全員平等に接しているつもりだ」

L『なるほど。では少し聞き方を変えます。二人のうち、あなたをより慕っている……またはあなたにより懐いていると思われるのはどちらですか?』

P「それなら……春香かな。強いて言えば、だが」

L『どのあたりからそう思われますか?』

P「……美希に限らず、他のアイドルと比較しても、相対的に声を掛けてくる回数が多いのと……あとよくお菓子を作って来てくれたりもするからな。クッキーとか」

L『なるほど。まあ元々、天海春香は仕事で一度面識があっただけのあなたの能力を高く評価し、黒井社長を脅迫してまで765プロに移籍させたくらいです。あなたに対する好感度は最初から相当程度高かったはずですので……それくらいの振る舞いは特に不自然ではないですね』

P「…………」

L『では……○○さん』

P「何だ?」

L『天海春香を、今以上にもっと……あなたを慕わせるようにできますか?』

P「? どういう意味だ?」

L『たとえば、あなたに恋愛感情を持つくらいに』

P「! …………」

黒井「…………」

L『…………』

P「……春香を俺に惚れさせて、少しでも“L”に対する意識を削がせる……ってことか?」

黒井「!」

L『……あなたは本当に頭の回転が速い方ですね。その通りです』

P「確かに、あんたの話が真実なら、春香は……いや、今は美希もそうだということになるのかもしれないが……“L”の正体を探り、殺すことに相当拘っているということになる……ならば自衛手段として講じることのできる策は全て講じておきたい、というのは十分理解できる。しかし……」

L『しかし?』

P「それは今の春香には無理な相談だ。あいつがキラかどうかにかかわらず……今の春香の頭の中はアリーナライブの事でいっぱいのはず……とても恋愛の事なんて考えている暇は無いだろう。相手が俺であろうとなかろうと関係無くな」

L『…………』

P「そしてそれは、L……あんたの言う、『春香がキラである』とする推理とも矛盾はしないはずだ」

L『……そうですね。私の推理では、彼女は765プロの利害に直結する形でキラの力を行使している。つまりその根底にあるのはアイドルとしての成功を望む極めて強い想い……ならば眼前のアリーナライブに注力するのは至極当然の事です』

P「そういうことだ。そしてそれは、春香の中で“L”に対する意識が相当程度薄らいでいるであろうことを推測させる。現にもう四か月もの間、黒井社長に対して何の指示も出していないという事実もそれを裏付けているといえる」

L『…………』

P「ならば今、俺が下手に動く必要は無い……どころか、むしろ俺が動くことで、かえって俺の行動自体に不信感を抱かれる可能性もあるんじゃないか?」

L『……確かにそうですね。現状を鑑みると、あなたから天海春香に対しては必要以上に接触しない方が良さそうですね』

P「ああ。その方が良い」

L『……では、星井美希はどうですか? これまでに私が行ってきた捜査の結果からして、彼女のアイドルに対する思い入れは天海春香ほどには強くないものと考えられます。そういう意味では、むしろ星井美希の方が“L”に対する意識を削がせる必要性は高いともいえます』

L『また先ほどの話を前提にすると、星井美希は、天海春香ほどにはあなたに懐いていないのかもしれませんが……ただそうは言っても、全くの無関心というわけでもないのでしょう?』

P「まあ、そうだな。普通に慕ってくれてはいると思うが……やはり春香ほどの距離感ではないかな」

P「……ただ……」

L『? ただ?』

P「もしかしたらそれは……さっきあんたから聞いた、俺の前のプロデューサー……黒井社長がスパイとして765プロに送り込んでいた男による、セクハラ行為が原因なのかもしれない」

L『…………』

黒井「確かに。それにLの推理通りなら、星井美希はそれが理由で前のプロデューサーを殺していることになるしな」

P「そういうことです。その男からのセクハラ被害に継続的に遭っていた結果、男性恐怖症……とまではいかなくとも、年上の男性に対し、無意識のうちに距離を取るようになっていたとしても不思議ではない。ただまあ春香のような例もあるから、一概にどうとも言えないが……」

L『……確かにその可能性はありますね。ちなみに今更ながらの確認ですが……黒井社長」

黒井「? 何だ?」

L『765プロの前のプロデューサーが行っていたというアイドル達へのセクハラ行為は、あなたの指示だったのですか?』

黒井「いや、それは私の指示ではない。『765プロを内部から崩壊させろ』とは指示していたが、具体的な方法は奴に一任していたし、逐一具体的な報告もさせていなかったからな」

黒井「勿論、奴なりに考えた結果、『765プロを内部から崩壊させる』方法としてそれを実践していたという可能性も一応はあると思うが……それよりはむしろ、単にその機に乗じて自分の欲求を満たしていただけの可能性の方が高いと思う」

L『なるほど。……それと、私が少し気になっていたのは、彼……765プロの前のプロデューサーは、天海春香によってアイドル事務所関係者が軒並み殺害された後――つまり“765プロ潰し”計画が事実上終焉した後――も、アイドル達へのセクハラ行為や事務所内での適当な仕事ぶりは変わらなかったらしい、という点です』

L『なおこの事は、件の765プロ関係者に対して行った聞き取り調査によって裏付けられています』

P「…………」

L『黒井社長。あなたは“765プロ潰し”計画の終焉後、前のプロデューサーに対し……765プロ内での振る舞いを改めるように指示しなかったのですか?』

黒井「いや、それは当然指示していた。『今後、これ以上“天罰”による犠牲者を出さないためにも、当分の間、765プロ内で派手に動く事は控えるように』とな」

黒井「……しかし結果的に、奴の行動を制御することはできていなかったようだ。これはただの言い訳にしかならないが……当時は私としても、“765プロ潰し”計画の首謀者である以上……いつかは自分にも“天罰”が起こるのだろうと思っていたため、奴の行動をそこまで注視する余裕も無かった」

L『なるほど。ご事情は理解しました』

L『確かに、星井美希が前のプロデューサーを殺害したのは、彼から受けていたセクハラ行為がその直接的な理由であろうということを考慮すると……星井美希に対しても、○○さんが無理に距離を縮めようとはしない方が良いでしょうね』

P「ああ。俺もその方が良いと思う」

L『……では今後、○○さんは、星井美希・天海春香のいずれに対しても、特にこれまでと変わりなく接して頂き……件の弥との共演の仕事についても、その他の仕事と同じように進めてください。くれぐれも、星井美希から何か不審に思われたりすることがないように』

P「ああ。分かっている」

L『そして仕事の進捗状況については、都度私に報告するようにしてください。私の連絡先は既に黒井社長に伝えていますので』

P「分かった」

L『では早速……黒井社長はヨシダプロの社長への連絡をお願いします。話の伝え方は先ほどご説明した通りに』

黒井「ああ。任せてくれ」

L『それでは今日はこの辺で。また何かあれば連絡を――……』

P「……ちょっと待ってくれ。L」

L『? はい。何でしょう』

P「これはキラ事件の捜査には直接関係の無い事だが……一つだけ、ずっと気になっていた事があるんだ。今、それを確認させてもらってもいいか?」

L『? はい。どうぞ』

P「あんた……Lと、探偵“エラルド=コイル”……同一人物だろ?」

黒井「!」

P「そしておそらくは……“ドヌーヴ”も」

L『…………』

L『……何故、そう思うのですか?』

P「いや、何故も何も……黒井社長はあんたにキラを捕まえてほしい一心でそこまで気が回らなかったのかもしれないが……客観的に考えて、そうとしか思えないだろ」

黒井「…………」

P「黒井社長が“エラルド=コイル”に話したことをあんたが全部知っている……あんたは『自分の同業者やその周囲の動きについては常に完璧に把握するようにしている』ということをその理由として挙げていたが、“エラルド=コイル”だって“世界の三大探偵”の一人なんだろ? そうやすやすと自分の情報……それも『依頼者との会話の内容』なんていう、探偵としては最も秘密性を守らないといけないような情報が、外部……それも同業者に全部ダダ漏れになっているような状況を許すか? “ドヌーヴ”についても同じだ」

L『…………』

P「もし本当にそんな状況を許しているのなら、コイルやドヌーヴは探偵としてあまりに無能過ぎるし……情報の無いドヌーヴの方は何とも言えないが……少なくともコイルは、黒井社長がエージェントを二人も介して依頼をしていたにもかかわらず、黒井社長が依頼人であったことをすぐに突き止め、さらには依頼があってから僅か二日で961プロに関する違法・犯罪行為を17件も洗い出している」

黒井「…………」

P「これほどの芸当ができる探偵“エラルド=コイル”が、自分と依頼者とのやり取りを同業者に筒抜けにさせるようなミスを犯す……いや、犯し続けているとは到底思えない」

P「それよりはむしろ、Lもコイルもドヌーヴも、皆、顔も名前も分からない者同士……ならば単純に、同じ人物が名義を使い分けているだけだと考えた方がこの状況を合理的に説明できるし……」

P「またこうしておけば、このうちの一人の正体を探ろうとした者が他の二者のいずれかにその旨の依頼をする、ということも必然的に起こりうる……つまり自分の正体を探ろうとしている者がすぐに分かる」

P「黒井社長がLの正体を探ろうとしてコイルに依頼をし、そのことがすぐにLに伝わっているのがまさにそれだ」

黒井「! …………」

P「これが、俺があんた……Lが、コイルやドヌーヴと同一人物だと考える根拠だ。……どうかな?」

L『……面白い考えだとは思いますが、私はコイルではありませんし、ましてやドヌーヴでもありません』

L『私がこの二人の動向を把握できている理由は既にご説明した通りです』

P「まあ……あんたの立場ならそう言うしかないよな。今ここで黒井社長の信用を失うわけにはいかない」

L『…………』

黒井「…………」

P「でも安心してくれ。L。今のは本当に、俺が個人的に気になっていたから聞いてみただけで……別に俺にとってはどっちだっていいんだ。あんたがコイルであろうとドヌーヴであろうと……あんたが“L”であることに変わりはないからな」

L『…………』

P「それに当然、俺はあんたの立案した作戦に協力する方針も変える気は無い。だからもし不愉快なことを言ったのなら謝るよ。L。だが……」

L『? ……何ですか?』

P「美希と春香はキラではない」

L『…………』

P「やっぱり今でも俺はそう信じているし、またそのことを証明したいと思っている」

P「だから俺はあんたを信じて、協力する」

L『……ありがとうございます。私もあなたの事を信じています。でなければ、先ほども同じようなことを言いましたが……これまでの捜査状況と推理を全て打ち明けたりはしません』

P「そうだな。ここまで全て話してくれたことが信頼の証だ。互いに信じ合い、助け合うことで、互いの目的を果たそう」

L『そうですね。……私は星井美希と天海春香がキラであることを証明するために』

P「そうだ。そして俺は、美希と春香がキラではないことを証明するために」

L『はい』

P「……目的は真逆だが、俺達の利害は一致している」

L『そうですね。いずれにせよ、この作戦を遂行することでしか、いずれの証明も果たせない……』

P「ああ。だからこそ俺達は互いに裏切れないし、また裏切る意味も必要も無い」

L『はい。それは私も完全に同意見です』

P「だから改めて……これからもよろしく頼む。L」

L『はい。こちらこそよろしくお願いします』

黒井「…………」

L『黒井社長も、改めてよろしくお願いします』

黒井「……ああ。そうだな。よろしく頼む」

L『――それでは、今日はこの辺で。また何かあればいつでも連絡してください』

P「ああ。とりあえず、例の仕事の話が俺の所まで来た段階でまた連絡するよ」

L『分かりました。お待ちしております。では』ブツッ

(Lとの接続が切れ、PCのディスプレイは真っ黒になった)

黒井「…………」

P「黒井社長」

黒井「ん? あ、ああ……何だ?」

P「これから忙しくなりそうですが、一緒に頑張っていきましょう」

黒井「ああ。そうだな」

P「それから、改めて言わせて頂きますが……」

黒井「? 何だ?」

P「あなたは絶対に死なせません」

黒井「! …………」

P「ついさっき、Lにも同じ事を言いましたが……俺は美希と春香がキラではないと信じています」

P「美希と春香がキラではないことを証明したうえで、さらに出来ることがあればLに協力し……本当のキラを捕まえることに貢献することで、あなたを助けたいと思っています」

P「だから一緒に……頑張りましょう」

黒井「……ああ。そうだな。共に頑張ろう」

P「はい。では、今日はこの辺で失礼させて頂きます。また何か動きがあれば連絡させて頂きますので」

黒井「ああ。ではすまんがよろしく頼む」

(社長室からプロデューサーが去り、黒井社長だけが残った)

黒井「…………」

黒井(相変わらずだったな。あの男の独特の勘の鋭さ……“野性”とでもいうのか……)

黒井(まさにあれこそが、私があの男を拾い上げた理由に他ならない)

黒井(そして、L……)

黒井(この際、Lがコイルと同一人物かどうかはどうでもいい。○○も言っていたように、あの画面の先にいた者が“L”であることは間違い無い)

黒井(これなら、星井美希と天海春香がキラであろうと、なかろうと……)

黒井(そう遠くないうちに、本当にキラを……)

黒井「…………」

【同時間帯・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(画面越しに黒井社長およびプロデューサーと通信しているL)

(Lの周囲では月達捜査本部のメンバーがその様子を見守っている)

P『――あんた……Lと、探偵“エラルド=コイル”……同一人物だろ?』

一同「!」

P『そしておそらくは……“ドヌーヴ”も』

L「……何故、そう思うのですか?」

P『いや、何故も何も……黒井社長はあんたにキラを捕まえてほしい一心でそこまで気が回らなかったのかもしれないが……客観的に考えて、そうとしか思えないだろ』

P『黒井社長が“エラルド=コイル”に話したことをあんたが全部知っている……あんたは『自分の同業者やその周囲の動きについては常に完璧に把握するようにしている』ということをその理由として挙げていたが、“エラルド=コイル”だって“世界の三大探偵”の一人なんだろ? そうやすやすと自分の情報……それも『依頼者との会話の内容』なんていう、探偵としては最も秘密性を守らないといけないような情報が、外部……それも同業者に全部ダダ漏れになっているような状況を許すか? “ドヌーヴ”についても同じだ』

L「…………」カチッ

(手元のマイクのスイッチをオフにするL)

総一郎「な、なんだ? この男……」

松田「さっきから思ってましたけど、なんか妙に鋭いっていうか……」

相沢「なんというか、竜崎の思考を先読みしているような感じがするな」

月「…………」

L「あまりこういう表現を使いたくはないですが……」

L「率直に言って、私や月くんに似たにおいを感じます」

月「! …………」

松田「そ、それって竜崎や月くん並の天才的な頭脳の持ち主……ってことですか?」

相沢「いや、まあ流石にそこまでではないにせよ……それに近い存在……ってところじゃないか」

総一郎「しかし、私と模木が765プロの事務所で対面し、聞き取りを行った際にはそこまで特別な印象は持たなかったが……。どう思う? 模木」

模木「そうですね……確かにあの時は特に印象に残るような応答はありませんでしたが……ただそもそもあの時は、聞き取りの内容自体が765プロの前のプロデューサーの事が中心で、彼が知っていた情報がほとんど無かったため、それはある意味当然かと……」

総一郎「うむ。確かに……」

L「まあ、私も何か明確な根拠があって言っているわけではありません。ただ……今日の彼の一連の言動、そして今の発言からはそのように感じました」

月「…………」

L「月くんはどう思いますか?」

月「そうだな……自分に似ているかどうか、というところについてはなんともいえないが……少なくとも、常人離れした思考速度を持っているのは間違い無いだろう。彼にとってはほとんどの情報が今日聞いたばかりのもののはずなのに、この短時間で、ここまで思考を組み立てられているのは尋常ではない。それも竜崎と会話しながらだ。……もっとも、元々プロデューサーとしては優秀な能力を持っていたという話だったから、そこまで驚くことでもないのかもしれないが……」

L「そうですね。確かにそう考えれば、そこまで意外な事でもないのかもしれません」

相沢「それに、それならそれで……こちらとしても願ったり叶ったりだしな。こちらの協力者として動いてもらう以上、能力が高いに越したことはない」

松田「そう言われてみれば……そうっすね。彼が優秀であることは僕達にとってはむしろかなりの好都合……」

総一郎「うむ。あと、天海春香がジュピターと共演した番組の撮影現場で機材のトラブルがあった際、彼の的確な対応と現場スタッフへの助言により、ほとんどタイムロス無く収録を終えられた……などという話もあったな」

L「はい。おそらくはその件が、天海春香が彼を自分の事務所に移籍させることを決めた直接的な理由だと思われますし……またこれから我々が実行しようとしている『計画』においても、現場での的確な判断能力が何よりも求められる……そういう意味でも彼は適任です」

総一郎「うむ」

L「それにやはり彼は、自分の恩人である黒井氏を助けたいと思う一方で、自分の担当アイドルである星井美希と天海春香の容疑を晴らしたいとも思っています」

L「だからこそ、彼は“L”には協力せざるを得ない……いや、むしろ積極的に協力したいと思うはず」

L「またそうであるからこそ、我々としても彼を信用し、これまでの捜査状況についてもそのほとんど全てを包み隠さずに伝えることにしたわけですから」

月「ああ。それにこうして僕達と利害が一致している以上、最後の最後で裏をかくという事も無いだろう」

L「そうですね。もし彼が本当にそうする気なら、今ここでわざわざ“L”に警戒心を生じさせるような言動をする意味は無い。むしろ馬鹿を演じてやり過ごす方が得策でしょうし、彼ならそれができるだけの才覚があるように見えます」

月「そうだな。それにそもそも、そのような僅かな可能性まで逐一潰し込んでいては一向に先へは進めない。キラの逮捕など夢のまた夢だ」

L「その通りです。もうここまで来た以上、多少のリスクは覚悟の上で先へ進んで行くしかありません」

P『――黒井社長がLの正体を探ろうとしてコイルに依頼をし、そのことがすぐにLに伝わっているのがまさにそれだ』

P『これが、俺があんた……Lが、コイルやドヌーヴと同一人物だと考える根拠だ。……どうかな?』

L「…………」カチッ

(手元のマイクのスイッチをオンにするL)

L「……面白い考えだとは思いますが、私はコイルではありませんし、ましてやドヌーヴでもありません」

L「私がこの二人の動向を把握できている理由は既にご説明した通りです」

P『まあ……あんたの立場ならそう言うしかないよな。今ここで黒井社長の信用を失うわけにはいかない』

L「…………」

(数分後・黒井社長およびプロデューサーとの通信を終え、二人との接続を切断したL)

L「……とりあえずここまでは思惑通り、といったところですね」

月「そうだな。これで『計画』の第二段階も無事終了……残すは遂に……」

L「はい。『計画』の第三段階としての『黒いノート』の検証。そして最終段階としての……」

月「星井美希および天海春香の逮捕……か」

L「はい。もうゴールはすぐそこです」

星井父「…………」

総一郎「しかし、竜崎。あのプロデューサーの過去……よくあそこまで詳細に調べられたな」

L「あの程度の情報、ワタリにかかればものの数時間で収集可能です。ワタリはあらゆる業界に詳しく、顔も少し利きますので」

松田「流石ワタリ……」

相沢「ある意味、竜崎以上に素性が知れない人物だな……」

L「――さて、皆さん。この『計画』が滞りなく進行し、『黒いノート』がこちらの推理通りに殺人の道具だったというところまで断定できれば、もう王手です」

L「その後速やかに、星井美希の所持する『黒いノート』を証拠として押収した上で、星井美希と天海春香の両名を逮捕……これで詰みです」

L「後は取調べにより自白を促し、並行して天海春香が所持している方のノートも押収する……こんなところでしょう」

L「ただ、いくら詰みまでの手順が見えていたとしても、一足飛びに王将を詰ませることはできません。着実に一手ずつ、駒を進めていきましょう」

月「では、まずはプロデューサーからの連絡を待ち……それがあり次第、『計画』の残りのスケジュールの詳細を決定し、速やかに実行……だな」

L「はい。頑張りましょう。そして必ず……勝ちましょう」

松田「勝つって……そんなゲームか何かみたいに」

L「ゲームですよ? ですが、これは命を懸けたデスゲーム……」

一同「…………」

L「キラが私達を殺すのが先か、私達がキラを死刑台に送るのが先か……これは最初からそういう戦いだったはずです」

松田「それはまあ……そうっすね」

相沢「ゲームというのは些か不謹慎だが……言ってることはその通りだな」

総一郎「うむ……」

星井父「…………」

総一郎「だが、竜崎。勝ち負けでいうなら……キラ容疑者の二人に顔を知られてしまったという事があなたにとってキラに負けた事にはなっていないか?」

L「そうです。二人に顔を知られてしまった事も、そして名前を知られてしまったかもしれないという事も……負けです」

総一郎「…………」

L「しかし……最後は勝ちます」

月「竜崎」

L「私も命を懸けた勝負は初めてです。ここに集った命懸けの人間で見せてやりましょうよ」

L「正義は必ず勝つという事を」

一旦ここまでなの

【二時間前・都内某所】


(プロデューサー付き添いの下、『春の嵐』追加公演決定のインタビュー記事の取材を受けている美希と春香)

記者「――では、最後にファンの方に向けたメッセージをお一人ずつお願いします。まずは天海さんから」

春香「はい。季節はもう夏ですが、まだまだ『春の嵐』は吹き荒れます! 精一杯頑張りますので、劇場まで足を運んで頂けたら嬉しいです!」

記者「ありがとうございました。では、星井さんお願いします」

美希「はいなの。えっと、ミキも春香も、前の公演の時よりもっとも~っとパワーアップしてるから、ぜぇ~ったい、観に来ないと後悔しちゃうって思うな! だから、絶対ゼッタイ、皆で観に来てほしいの! よろしくね。あはっ」

記者「はい。ありがとうございました。それでは、インタビューは以上で終了です。どうもありがとうございました」

P・美希・春香「ありがとうございました(なの)!」

記者「では、ゲラが出来た段階で一度お送りいたしますのでご確認のほど、よろしくお願いします」

P「はい。よろしくお願いします」





(記者と別れ、建物の外に出たプロデューサー、美希、春香)


P「じゃあ俺は14時に人と会う約束があるから、一旦ここで別れよう」

美希「もしかしてデート? プロデューサー」

P「んなわけあるか。昔世話になった人と会うだけだ。それよりお前ら、もしこの後少し時間があるようなら――……」

春香「『レッスンスタジオでダンサー組とダンス合わせてやってくれないか』……ですよね?」

P「あれ? 俺言ってたっけか?」

春香「いえ。ただ14時から二時間、きっちり私と美希のスケジュール空けてもらってましたから、多分そういうことなんだろうなって」

美希「しかもこれまた都合の良いことに、ここからレッスンスタジオまでは歩いて行ける距離なの」

P「……あー」

春香「今のインタビューがあったレンタル会議室……出版社さんの方じゃなくて、プロデューサーさんの方で予約してくれてたんですよね? おそらくは、私達の移動の負担を少しでも減らすために……」

P「……ああ、そうだよ。ったく、そこまで見抜かれちゃってたらかっこつかないなあ。こういうのは相手に気付かれないようにさりげなくやっておくのが俺のポリシーなのに……」

美希「随分地味なポリシーなの」

P「地味ってお前……」

春香「プロデューサーさん! ドンマイですよ! ドンマイ!」

P「……ありがとう。春香の笑顔が眩しくて辛い」

春香「でも、こうやってお仕事の合間にダンサーの子達と合わせられるようにスケジュールを調整してもらえると、本当に助かります!」

美希「ミキ達だけじゃ、なかなかここまで上手く調整できないしね。流石は敏腕プロデューサーなの」

P「何、お前達とダンサー組との合同レッスン自体、元々は俺が言い出して始めたことだからな。これくらいは当然さ」

春香「プロデューサーさん……」

P「……って、やべ。もう行かなきゃ。じゃ、また後で事務所でな。春香。美希。レッスン頑張れよ」ダッ

春香「はい! 天海春香、精一杯頑張ります!」

美希「ミキもがんばるのー。あふぅ」

(去って行くプロデューサーの背中を見送る美希と春香)

春香「……うーん。やっぱりプロデューサーさんは流石だなぁ。こういう気遣いが出来る人って良いよね」

美希「あれ? もしかして春香、プロデューサーに気があったりするの?」

春香「いや、別にそういうんじゃないけど。ただプロデューサーさんは765プロに必要不可欠な人材だったなあって改めて思ってさ」

美希「ああ……それはまあ、そうだね。前のプロデューサーが酷過ぎたっていうのもあるけど……」

春香「まあね。でもやっぱり、黒井社長を脅迫してプロデューサーさんをうちに移籍させたのは正解でしたよ! 正解!」

美希「そんな溢れんばかりの笑顔で言われても反応に困るの」

春香「そういえば、美希」

美希「何なの」

春香「黒井社長で思い出したんだけど……彼、もうそろそろ殺そうと思うんだけど、どうかな?」

美希「えっ」

春香「だって『Lの正体を明かせ』って最初に命じてから、もう五か月も経ってるんだよ? 『Lの顔写真を載せろ』って指定したページも、毎日チェックしてるけど、『只今更新中です。今しばらくお待ちく