【艦これ】三日月「甘えられない理由」 (26)


Q.何スレ?
A.艦これの三日月スレ

【諸注意など】
・地の文あり(ちょこちょこ横幅長くてレイアウト苦しいかも)
・ほぼ三日月&提督オンリー


まえがき
菊月は恋愛感情に気づいた時には戦友の距離で固まってて踏み込めなくって。
三日月ちゃんはビジネスライクな態度の裏でホントはドキドキして隠れて赤面。
望月はそんな二人に協力したり探り入れたりしつつ天邪鬼な態度を貫き続けるけど偶に我慢しきれない。
そんなイメージの方が居たら貴方は同志です。

お目汚しご容赦よ~


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 シャワーのような大雨が振る冬の夜。闇深い海から港へ向けて、荒れた波が打ち付ける。
 海に相対するいっそ黒いほど鬱蒼と茂る山々も、もう輪郭すら定かではない。
 そんなある遠征艦隊司令部では、暖かな執務室の窓辺で外を見つめる一人の駆逐艦娘の姿があった。

三日月(すごい雨。司令官は大丈夫でしょうか)

三日月(慌てていたみたいだけど、書類忘れとかそれに……)

三日月(……送迎車の事故とか)

三日月「…………」

三日月(考えるとそわそわしちゃう。なに考えてるのかしらわたしったら)

三日月(ホットココアでも淹れて落ち着きましょうか)

三日月(砂糖を入れないでうんと苦くすれば眠気覚ましにもなりますし)

 三日月は窓辺を離れた。
 応接室と繋がっているこの部屋には客に茶を出すための電気ケトルがあるからそれでお湯を沸かせるのだ。
 数分もしないうちにカチリと音がして湯が沸いたら、ココア粉をたっぷり落としたマグへ中身を注ぐ。
 コポポポ、と湯気が立ち上るのと控えめなノックの訪れは同時だった。

三日月「はい。司令官はまだお帰りになられていませんよ」

 仕事を終えたケトルとマグを手に持ったまま、振り返った三日月はしっかりと声を張って返事を返した。
 廊下に満ちる冷気を執務室に入れまいと気を使ったのか扉が半分ほど開くと、縁から顔を覗かせたのは菊月だった。

菊月「三日月……まだ寝ないのか?」

三日月「菊月。 ええ」

菊月「だが、もうここに居て一時間は経つ」

三日月「だからこそです。お疲れでしょうし、一人くらいお迎えした方が喜ばれますから」

 三日月は気にしないで、と笑った。

菊月(……司令官を労わりたい、か)

三日月「先に寝ちゃってください」

菊月「……うん。おやすみ」

三日月「おやすみなさい。ああそうね、寝巻着とお風呂道具もお出ししておきましょうか」

 ケトルを置いて意識を切り替えた三日月は立てた指先を口元に寄せて思案する。
 優しい音で扉が閉じる間際、菊月の浮かべた呆れた風な表情に気付くことはなかった。


 相も変わらず大雨の叩きつける音が反響する無人の建物。
 すっかりと風呂道具と寝間着の手配に意識を持って行かれた三日月はまたしばらく提督の私室と執務室とを行き来した。
 用意を終えると、執務机に置いた苦い純ココアの存在はすっかりと意識の外だ。
 今あるのは大好きな人の帰りが待ち遠しいという感情ばかりで、自然とここ数時間の定位置である窓辺に立つ。

三日月(今日に出た事務書類は妖精さんと回したから、後は幾つか判を待つ物が残っているだけ)

三日月(私室も暖房をつけてお布団を敷き終えましたし)

三日月(個人浴室のお湯もとっくに張り終えています)

三日月「これで準備もみんなおしまい。ええと今は何時でしたっけ」

三日月(11時23分。確かここを出たのが早朝の四時ごろですから……)

三日月「移動と会議ばかりで相当お疲れでしょうね。お出迎えして差し上げたいですが……ぁ」

三日月「ふあ……ぁふ」

三日月(でも、わたしも限界。さすがに12時を過ぎたら寝ないと)

三日月(司令官に余計なお説教をさせるわけにいかないし)

 涙の浮いた瞳でじっと窓の向こうに連なる山を見つめる。

三日月(あの山道を抜ける車があれば十中八九、それが送迎車のはず。見逃さないようにちゃんと窓の外を――)

三日月「――――!」

三日月(光が動いてる! 雨で煙っていて良く見えないけど、確かに車!)

三日月「傘、っとタオル。あと懐炉も持って行きましょう。玄関でお待ちしないと!」

 それまでの静止が嘘のように三日月は慌ただしく部屋を飛び出した。
 ぬるくなり始めたマグカップを置いて、駆け足の音が閉じられた執務室を遠ざかる。


 艦隊司令部棟エントランス 車寄せの屋根下。
 そこは屋内と比べ物にならない騒音と冷気の支配する場所。

三日月「滝みたいな雨ですね。台風の筈はないのに」

三日月「……くしゅん!」

三日月「あ、そういえばいつもの服のままでした」

三日月(いえ、眠気覚ましになりますしこの格好で構いませんが)

三日月「………………」

三日月(柱の陰に隠れないと地面に弾けた雨霧が煽られてきて痛いくらいに寒い……)

三日月「………………」

 やがてうるさいくらいの騒音に紛れて、三日月の耳に水を跳ね上げる音とエンジンの排気が聞こえた。

三日月(――! 司令官の車、お迎えに)

 足元の傘を拾って柱の陰を出た。迎えに伺おうとすると果たしてエンジン音は近づき。

三日月「ぁ……」

 通り過ぎる一瞬だけ車寄せの内側を排気音で満たしながら、数秒ともなくトラックが走り去った。

三日月(こんな深夜にトラック……)

三日月(そういえば今日決裁した書類にそんなのがあった気も)

三日月(工廠の方へ向かいましたし、対応は夜勤の妖精さんがするでしょうね。わたしは……)

三日月(……あと30分でマルマルマルマル)

三日月「このまま待ちましょうか。頑張ってくださっている司令官に比べたらこれくらい」

 息を新たにして笑う。
 きっと姉妹が見ていたら無理をし過ぎだと見抜かれる空元気の笑みだと、三日月は自分でも解っていた。
 早く会いたかった。


 雨が降る。弱まるどころか強まっているんじゃないかと思わせるほどに。
 大粒の滴がびちゃびちゃと落ちて、漆黒に濡れたアスファルトとエントランスの大理石の上を霧が滑っていく。

三日月「っぅ……!」

三日月(やっぱり冬の雨は堪えるなぁ。吐く息も白いし頬も冷えちゃって、それに)

三日月(脚が一番に辛い……。袖が長いから腕はいいけど、スカートだと太腿まで寒気が昇ってきて)

三日月(艤装が着いていれば波をかぶっても寒くなんてならないのに)

三日月(こんなの司令官に気づかれたら怒られちゃうし申し訳なく思われちゃう)

 唯一、ポケットの中で懐炉を握る掌だけが格別に温かかった。
 それは暖を取るというより、提督に心配をかけないためという意味合いが強い。
 特に利き手の左手はタオルもポケットに詰めているから、一分前にここへ駆け込んできたと言っても信じられるだろう。

三日月「それはそうと時間は……あと十分」

三日月(やっぱりもう少し長く待ったほうが)

 唇の震えに気づく。呼気が途切れがちだった。

三日月(いえ、体調を崩したりなんてしたら本末転倒です。司令官にも呆れられちゃう)

三日月(十二時を回ったら諦めると決めたんです。その通りにしましょう)

三日月「っ、くちゅん! うぅ、寒い」

 そこで三日月は先ほどより落ち着いた排気音が近づいていることに気づいた。
 柱から顔を覗かせれば、眩しい二条のライトとチカチカ点灯するウィンカーが見えて三日月は内心とても喜んだ。

三日月(きた……! 黒塗りの送迎車!)


 駆けよって扉の前に着くのと、後部座席の扉が開くのは同時だった。

三日月(雨が横から吹きつけてくる。傘を開いて盾にしないと)

三日月「お疲れ様です、司令官」

提督「三日月? まだ起きていたのか。明日が出撃日で無いとはいえ」

三日月「いえ、お昼寝してしまったのでそれほど眠くはありません」

三日月「時間を持て余していたのでお風呂と寝室の用意を整えていたのですが」

三日月「先ほど車のライトが見えてお迎えに上がりました」

三日月「それよりも、ここは冷えます。お手をどうぞ」

提督「ああ、ありがとう。運転士さん、貴方もここまでありがとう」

 挨拶を終え、自動でドアが閉まった。
 送迎車が走り去ると二人はエントランスホールへ入り執務室へ歩き出す。

提督「手が暖かいな」

 未だに繋いだままだった掌を提督が確かめるように握り返すと三日月は心の中でふんわり笑った。

三日月「ついさっきまでお部屋に居ましたから。司令官は冷えていますね」

提督「この季節にこの雨と来て、こうして濡れてしまってはな」

三日月「ああ、確かに髪の毛がだいぶ。 そうでした、タオルをどうぞ」

提督「用意が良いね。 あと車の空調が壊れていたのもあるかな。運転手もだいぶ辛そうだったよ」

提督「手がかじかんでうまくハンドルが切れないなどと溢された時にはとても不安だったし、ははは」

三日月「もうっ、冗談ではすみませんよ!」


 執務室。

三日月「中へどうぞ」

提督「おお、暖かい。ありがとう三日月」

 言って提督が湿った礼服を脱いでいくと三日月は当然のように手を伸ばして上着やネクタイを受け取っていく。

三日月「はい。それでですね、至急、判が必要な書類が三枚あります」

提督「さっそくとりかかろうじゃないか」

 三日月が礼服のしわを丁寧に伸ばす他所、促されるまま白いYシャツ姿の提督は机へと向かった。

提督「これか。 んん? ほとんど記入済みだな。楽でいいけど」

三日月「妖精さんに手伝ってもらいました」

 気付かれない程度に背伸びしてクリーニング行きラックに掛けていく。

三日月「早朝になれば速達するそうなので、わたしが寮へ戻るついでに投函しておきます」

 上着を掛け終えると飼い主に駆け寄る犬のように提督の隣へ。
 そして書類の中身を確認している提督の真面目な横顔を見つめ、密かにシャッターを切る。脳裏に焼き付けるのだ。

提督「ふむ。いずれも不備なし。スタンプぽん、ぽん、ぽんっと。よし、頼んだ」

三日月「お任せください、司令官」

提督「さて、後は寝るだけだが……風呂道具も寝間着着も出てるね。用意が良い」

三日月「頑張りました」 微笑む。

提督「さすがにこういう気配りでは敵わないなぁ。ん? このマグは?」

三日月「ホットココアです。 ね……」

提督「……ん? 今何か言いかけなかった?」

三日月(眠気覚ましなんて言ったら嘘ついたって解っちゃうのにわたしのバカ!)

三日月「いえ、少し呼吸が喉に絡まりまして。わたしのものです。飲み忘れてしまってました」

提督「そう?」


提督「んー。じゃあね、せっかく用意してもらってなんだけどお風呂はやめておこう」

提督「疲れが抜けるのは確かだけど、眠りこけて溺れたなんて起きそうだ」

 わたしがお風呂の傍でお声かけしましょうか。なんて提案を三日月は呑み込んだ。

提督「……このココアもらっていい? 甘い飲み物なら疲れが取れる」

三日月「えっ」

提督「うん? 見たところ口をつけていないようだけど」

三日月(――――! あんなに思い切り苦くしたもの、絶対に眠気覚まし用だって解っちゃう!)

提督「三日月?」

三日月「……お、お昼寝の前に作ったものですので、お腹を壊しちゃうかもしれなくて、ええと」

提督「飲み忘れって言ってたねえ。でももったいないし。夏でもないから大丈夫じゃないかな」

三日月「いえそれにカフェインをとったら眠れなくなっちゃうと思うし暖かい方が司令官にもいいでしょうし」

提督「ああ、確かにそれもそうだね。 分かった。少し惜しいけど諦めるよ」

三日月「……よろしければ、ホットミルクを新しく淹れますが」

提督「頼めるなら。 もう私室へ向かうからそっちへ持ってきてくれるか。手間がないよう紙コップが良い」

三日月「では少しお待ちください」

……
…………
………………


 提督の私室前。

三日月(捨てる前に一口だけ飲んだけど、やっぱりすごく苦かったです。ほっぺの裏にまだ残ってる感じがする)

 ノック三回。

三日月「司令官、三日月です」

 帰ってくるの雨音だけ。
 しばらく待ってもう三回ノックするが返事は変わらない。

三日月「司令官? すみません、失礼します」

提督「くー……かー……」

三日月(お布団の上に正座したまま寝てる)

 胸を撫で下ろす。
 ありえないことだが何かあったかもしれないと心配したのだ。今思えば何があるというのか。

提督「ひゅー……すー……」

三日月(倒れた拍子に頭でもぶつけたら大変。寝かせてあげないと)

 私室のテーブルに一度ホットミルク入りの紙コップを置いて、正座している提督に腕を回す。

三日月「慎重に、優しく。う、重い」

三日月「ふぅ、後は掛布団を掛けて差し上げればいいでしょう」

三日月「っ、ふわぁ……ぁぅ」

三日月(わたしも眠気が……)

三日月(部屋も暖かいし、今すぐ寝ちゃいたいくらい)


 あくびを噛むとどっと眠気が押し寄せる。提督の前で気を張る必要がなくなったせいもあるだろう。

提督「すー……くー……」

 見下ろす慕情の原因は実に心揺さぶる姿をしていた。
 三日月は知っている。無事を喜ぶ泣き笑いも、からかわれた時の慌てた姿も、作戦中のかっこいい横顔も。
 でもこんな無防備な顔はそう拝めるものじゃない。
 一番最近は、執務中に寝てしまったその膝から見上げた時だろうか。それももうだいぶ昔のことだ。

三日月「くすっ」

 添い寝してしまえ。それくらいお前なら許される。
 そんな声に揺さぶられる心を微笑みで封殺して三日月は眠る男に毛布を掛けた。
 なぜ甘えてみないのか? なんて答えは決まっている。

三日月「どうぞ司令官。ゆっくりと休んでくださいね」

提督「すひー……すひゅー……」

三日月「でも、その……久しぶりに」

 頬が紅潮していくのが三日月にも感じられた。

三日月「ご褒美、いただきます」

 恐る恐る、頬へ口元を寄せて。 静かに口付けた。

三日月「~~~~~っっ」

 すぐ三日月は顔を上げた。唇に手を当てようとして、拭ってしまうことに気づいたから添えるだけ。
 案の定か提督が身じろぎして起きてしまいそうに思えると、真っ赤なんだか真っ青なんだか判らない顔で立ち上がる。

三日月「し、失礼します」

 そこからは早回しのフィルムのように。
 深々と謝るみたいに頭を下げて、素早く、しかし律儀にホットミルクを回収。ささっと明かりを消して部屋を辞す。
 退室の時だけはバクバクと高鳴る胸に手を当てながら音を立てないよう慎重に扉を閉めたけど。
 やっぱり三日月は逃げるように走り去った。

提督「んむ……むにゃ……」

 提督は、何も知らずに眠っている。


 駆逐寮 復刻二十三駆逐隊 共同部屋。
 そっと部屋に入る。中は暗く、薄い菊月の寝息が逆に静謐さを際立たせていたから三日月も富みに慎重になる。

三日月「ただいま戻りました」

三日月(と言っても、二人とももうとっくに寝ているわけですが)

菊月「くー……すー……」

望月「……………………」

 赤みの引かない頬のまま三つ並んだ布団の一つに寄って服の状態をぺたぺた確認。結論。

三日月(さすがにこのままじゃ眠れませんね)

三日月「雨に濡れたせいで靴下も服もぐしょぐしょ。よく司令官に気付かれなかったものです」

三日月(黒地の布なのと、懐炉で温めた手と、気遣う余裕がなかったおかげかしら)

 仕方なしに三日月は暗闇の中、服を脱いでいく。
 襟からバッジのようにつけた髪留めをとり、黒セーラーからもぞもぞと抜け出す。
 次にスカートをホック、ファスナーの順に外して、ブラジャーとショーツを脱いだ。最後は靴下を取っておしまい。

三日月「パジャマは……いっか」

 暖房がついていても雨に湿った肌がどんどんと揮発して体の熱が奪われていく。
 がパジャマを取り出すにはこの暗闇は少し物音を立てすぎる。三日月は諦めて掛け布団を捲った。

望月「身体濡れてんなら裸のまま寝るなっつーの。ばか」

三日月「ひゃっ……!?」


三日月「おっ、起きてたの? 望月」

望月「昼寝したから今日は眠りが浅いだけ」

 暗闇一色な部屋の中、声だけが帰ってくる。

望月「いいからパジャマ出しちゃえば? 菊月だって起きても怒ったりしねーって」

三日月「あ、うん」

 箪笥の方へ抜き足して中を覗きこむ。
 案の定よく見えないから、記憶を頼りに布地を持ち上げ至近距離で目を凝らして確認。
 運がいいのか記憶力が良かったのか、最初に手に取ったそれが三日月のパジャマだったようだ。

望月「進展あった?」

 着込んでいく後ろから不意打ち。三日月はついさっきの自分を思い出すだけでかあっと赤くなった。
 あ……とか、う……と返事を返せない様子に納得した風な茶化した笑い声が返る。

望月「よかったじゃん。 そのちょーしそのちょーし」

望月「後は仕事中ももっと甘えられたら完璧だな」

三日月「そ、それはちょっと」

望月「なんで?」

三日月「だって」

 パジャマを着込んだ三日月が布団に入る。目が慣れてきたおかげもあって隣同士に目があった。
 全部分かって聞いている意地の悪い瞳から逃れるため、すぐに顔をそらす。

三日月「は」

三日月「恥ずかしい……/////」

 これだからしょーがないな。という風情の溜息が返った。


望月「ま、明日も頑張れば?」

望月「おやすみ」

三日月「おやすみなさい……」

 夜も遅くて、話はここで打ち切りのようだった。
 望月が背を向けると三日月も天井へ仰向けて、身体をゆったり布団に預ける。

三日月(あ……お布団……やわらかい……)

 土砂降りの雨の音もこうなると心地よいもので、直ぐに眠気がやってくる。

三日月(司令官……。司令官……)

三日月(素直に甘えられなくて、ごめんなさい)

三日月(だって、傍に居るだけでドキドキして声を聴くと温かくなって)

三日月(恥ずかしくてたまらないんです)

三日月(今だって貴方のことを考えていると落ち着かなくって、こんなに夜更かししていなかったらホントは眠れません)

三日月(司令官……)

三日月(わたしが素直になれる日まで)


三日月(待っていてくださいますか……?)



 ようやく勢いを落としていく雨の音に合わせて三日月の意識はまどろみに落ちていった。

 三人の寝息が静かに木霊する部屋。


 冷えた身体の慰めにぎゅっと布団を抱きしめる三日月の薬指で、白いリングが穏やかに佇んでいた。


終わり。
三日月ちゃんかわいい。

楽しんでくれた人が一人でも居れば幸いよー ノシ

過去ログ化までになんか書けたのでおまけ投下



三日月「司令官。司令官」

提督「ん……む……」

 優しく揺すり起こされて、提督の意識は浮かび上がった。
 もうその時点でどんな夢を見ていたかは雲散霧消して、ただ心地よい余韻が胸の裡を満たしていた。
 夢の残り香に浸って居たがるのは誰だって理解できる欲求だから。身じろぎして布団を引っ張ってしまう。

三日月「朝です。起きてください。 もうこれ以上はダメですよ」

提督「朝……」

三日月「はい。そろそろ9時過ぎになります」

提督「ん……――――9時!?」

 言葉の意味を理解して、提督はそれまでの怠けた自分を罵って跳ね上がった。
 定時は6時から、どんなに遅れても7時前なのだ。
 驚きすぎてあれほど拭い難くへばり付いていた眠気がもう提督の身体のどこにもない。

三日月「おはようございます、司令官」

提督「おはようじゃない! 館内放送掛けないと!」

三日月「ああ待ってください! 朝礼でしたらわたしの方で済ませておきました!」

 走り出す勢いで激情気味に布団を立とうとする提督の肩を、慌てて三日月が留めた。
 中途半端に浮いた身体が、上半身を立てたまま引き戻される。

三日月「だから慌てなくても大丈夫です。座っていてください」

提督「……そうなの?」

 宥められて提督の方はきょとんとした。

三日月「はい。驚かせてしまってすみません」

提督「そうか。……そうか」

 胸を撫で下ろす。


提督「でもやっぱり起こしてくれてよかったのに」

三日月「つい昨晩、疲れて正座で寝ていた人が言えた事じゃありませんよ?」

提督「う……」

 記憶を辿れば昨夜はホットミルクを頼んで部屋まで運んでくれと伝えた覚えがある。
 しかし一日中碌に休まず会議と折衝。揚句帰り際は雨に降られ、歯を鳴らして震えてたところに暖房の効いた私室だ。
 寝間着に着替えて、既に敷かれていた布団の上で正座して待っていたら、数分しないうちにうつらうつらし始めて。そしてぷつりと意識が切れた。
 提督は恥ずかしいやら申し訳ないやらだ。

三日月「待機だけだったわたしたちと違って、司令官は昨日20時間も働き詰めであちこち回っていたんです」

三日月「今日くらいほんの2時間寝坊したって何とでも出来るんですから、ちゃんと休んでください」

提督「はい」

 まっすぐ自分を見つめて叱ってくる少女に言い訳するだけの気力は湧かなかった。
 提督が素直に降参してうなだれる。三日月は「まったくもう」と呆れた様子で吐息を漏らし。

三日月「どうぞ」

 すっ、と傍らに控え置いていたマグカップを捧げ持って出した。

提督「ホットミルク?」

三日月「温かくて落ち着きますよ」

提督「ああ、そうだね。いただこう」

 手に持てば猫舌でも火傷しないちょうどよい温度だとすぐわかる。
 しかし啜ってみればちゃんと温かく、特有のまろやかな甘みと相まって朝の肌寒さを見事に和らげてくれる。
 ほっと一息。

三日月「先ほど連絡しましたから、そろそろお食事も運ばれてくるでしょう」

 その様子を一瞥して、三日月が静かに立ち上がる。
 意外なくらい様になる、着物姿の大和撫子みたいな所作だった。

三日月「わたしは先に執務室で準備を整えておきます」


 きりりと引き締めた表情で見下ろしてから、踵を返して扉へ向かう。
 瞬間、思わず声を上げた。

提督「三日月」

 もうちょっとゆっくりしていかないか、と続けるより機敏に三日月が振り返る。

三日月「はい。なんでしょう」

 戸惑ったのは提督の方だ。なんでしょうと問われると仕事上の意見を仰がれているようにしか聞こえない。
 というより実際そのようだった。三日月はいつも通り、お仕事たくさん頑張ります、という態度に声。きりっとした表情。
 方や提督はもうしばらく一緒に話して居たいだけで。
 やっぱり自分と三日月の関係は同盟者で、戦友で、"提督と艦娘"が大前提なのだと思い知らされる。

提督「……今日は昼までに物資移送を終える手筈になっていたね」

 即興で用事をでっちあげる。
 この睦月型艦隊司令部が所属する鎮守府は、役目に華々しい前線任務を掲げていない。
 仕事内容は同地の正面海域を保全・哨戒。行き来する艦船の護衛を行い。稀に前線へ直接物資を届けること。
 つまり提督麾下、物資は上層部の指示に従って他の鎮守府へ輸送されるのだ。

提督「悪いんだが高速修復材の搬出について注意しに行ってくれないか?」

提督「この間"荷物"が倉庫に入りきらなくてドックに置いただろう? ウチのバケツまで間違えて持って行かれたら困る」

三日月「分かりました。担当者に確認してきます」

提督「ああ。以上だ」

三日月「失礼します」

 三日月はぺこりと腰を折って丁寧に部屋を辞した。
 そのやる気に満ちた横顔が、軍人としての提督の心を奮い立たせる。同時に私人として気力を削ぐ。

提督(ほんとは抱きしめて甘やかしたいんだけど、やったら失望されそう……)

提督(慕われてはいる。 うん。贅沢抜かすな俺)

 片想いというのは、辛いのだ。

終わり。

三日月ちゃんは提督から見るとこれくらい素っ気ない印象。
でもホントは起こす前に顔を近づけて覗きこんだり、その時寝言で自分の名前を呼ばれて起きたのかと大慌てしたり
正真正銘 寝言だと気付いてどんな夢を見ているのか想像して真っ赤になったりしてました。
そんなことがあったけど提督の前で恋愛感情晒すとか恥ずかしいからきりっとした態度で起こしたらさっさと出て行っちゃう。
かっこいい顔してお仕事こなしてるけど内心はわんこ気分でやる気マシマシ。
かわいい

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