割とありきたりな話 (17)

お父さんが出ていった。
私のカバンに
「必ず迎えに行く」
の一言だけの手紙を隠して。
母がさっきから叫び続けている。うるさい
部屋に鍵をかけて、閉じこもる。そうしないと何が飛んでくるかわかったものじゃない。
罵声、衝撃、鳴き声、悲鳴、たった一人で出してるとは思えないような音が鳴り響く。
あと30分で「先生」が来る、そうなったらきっと母も落ち着くだろう。
得体のしれない「説教」のおかげで。


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お父さんの手紙をコンビニに破り捨てる、母に見つかった時のことを考えると、持っているのが怖くなった。
さて、どうしよう。
お父さんは迎えに来る、と言った、迎え、本当に来るのかな、手紙を捨てたせいかもしれない、とてつもない不安に襲われた、大丈夫。多分。
母は食事中もぶつぶつと何かを呟いていた。何かはわからない、どうせ「説教」だろう。

お父さんが出て行って1週間たった、日に日に母は凶暴性を増していく。ゾンビみたい。
「先生」が仲間を連れてくることもあった。
怖い
部屋の鍵を閉めて、毛布にくるまる。大丈夫、大丈夫。
仲間が増える、時間も伸びる、なんで男の人ばかりなの?こわいよ

2週間たった、お父さんがいなくなってこんなに大きく変わるなんて。
足音が家に近づく、また増えてる?わからない、怖い
母がとても喜んでいる声が聞こえる、なんでだろう?
嫌な予感がする、大丈夫、だよね?

嫌な予感は、的中した。
なんでしまっているドアを開けようとするの?
やめてよ、ドアが壊れちゃう。
ドアが開く、たくさん人が入ってくる、たくさん?
なに、なにこれ、退魔ってなに?儀式ってなに?
やだ、こわい、やめて、近づかないで、やめて!

気づいたら、終わってた。
意識がなかった、訳ではない、しっかりと鮮明に一部始終、覚えている。
周りを見渡す、母がニコニコ顔でいた、他には誰もいない、「よかったね」なにが?
喉の奥から、部屋から、体から湧き上がる生臭さに耐えられず、トイレで吐く。
水道が止められてるせいで、流せない、シャワーも浴びれない、サイアク。
ダメだ、寝よう、寝たらきっと変わる、そう信じよう。なにさ、うるさいな。

3週間たった、まだかな、お父さん。
儀式とやらはあれっきりだ、けど、ダメだ。
あれっきり家から出てない、学校に行けば助けてくれる人がいるかもしれない。
けど、怖い、お父さん、お父さん、おとうさん

死にたい?死にたくない、やだよ、まだ私は生きていたい。

2回目の儀式だって、もうやだよ、逃げたい。
触らないでよ、やめてってば。
もう、厭なんだってば。

もう、ダメだ。
2回目は、酷かった。
抵抗したからだろうか?それとも最初からそうだったのだろうか。
胃をつぶすようなパンチや、鋭いびんたが飛んできた。
不思議と、痛みは感じなかった。まだ2回目だというのに、もう感覚が狂ったかな。
早くしてよ、お父さん。


死にたい?死にたくない、ホントに?これでもまだ生きていたい?

電気のコードが、カッターが、カミソリが、ホースが、語りかけてくる。
そうだよ、外だけが逃げ道じゃない。
思ったほど、決心は、すぐにはつかない。


考え始めてからは、割と早く決心がついた。
車の音が聞こえる、また来たよ、いいさ、私は逃げる。
家のドアが開け放たれる、首にカミソリを充てる。
部屋のドアが開く、肉と風が切れる音が聞こえた。
あ、
遅いよ、お父さん。

おわり

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