先代勇者「あの時のツケがやってきたか…」 (54)

よくある話だが、この剣と魔法の世界に魔王が現れた。
そして、これまたよくある話だが、王様は魔王の元に勇者を送ることになったのである。

王「期待しているぞい、現勇者よ」

現勇者「は、はい王様…か、必ずや魔王を討ちとって…」ガチガチ

王「ほっほ、そんなに怖がる必要はない。のう、先代よ」

先代「はい、現勇者は我が指南所いちの剣の使い手です」

王「先代の勇者がこう言っておるのだ、お主は太鼓判を押されたも同然じゃ」

現勇者「は、はい! 先生…俺、先生の顔に泥を塗らないよう頑張ります!」

先代「…あぁ」

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>町の入口前


「頑張れよー現勇者!」「帰ってきたらチューしてあげるーっ」「現勇者、ばんざーい!」

先代「…」

先代(生きて帰ってこい)

彼の名は先代。20数年前に先代魔王と戦い、平和を勝ち取った英雄である。
帰還後は指南所を開き、次世代の戦士を育ててきたが…。

町民A「あっ先代勇者様!」

先代(目立たぬようにしていたが、気付かれてしまったか…)フゥ

町民B「先代勇者様、現勇者に同行しないのですか?」

町民C「貴方から太鼓判を押されたとはいえ…やはり若者に頼るのは不安があります」

先代「俺ももう50近いんだ、若い奴の方が元気がある。それに、家族もいるしな…」

町民A「あぁ、3人のお子さんがいらっしゃるんでしたね」

町民B「お子さん、おいくつでしたっけ?」

先代「上から16、10、8で…」

先代(あぁ人に囲まれるのは疲れる)





町民A「流石、先代勇者様です! それで~…」

先代「…悪いが、そろそろ帰らんと」

町民B「はっ、つい時間を忘れて」

町民C「ではご機嫌よう先代勇者様、またお話を聞かせて下さい!」

先代「あぁ」

先代(色々聞かれて、長引いてしまった…)

生真面目な性格のせいか、話を適当に切り上げることもできなかった。
帰り道を急ぐ。従順な性格の妻は、帰りが多少遅れた所でにこやかに待っていてくれるだろうが、待たせるのは気分が良くない。

急がねば――余裕が無くなっていたせいか、今すれ違った人間にも気を留めなかった。


「大人気ですねェ――英雄様」

先代「――」


背後から声をかけられて、立ち止まる。
振り返り、嫌な予感は的中した。

先代「お前は…!!」

黒「久しぶりィ~…グゲゲゲゲ」


全身真っ黒のその男は、先代と目が合うと不気味に笑った。

>食卓


先代「…」


黒『また来るぜェ♪』


先代(あの後、あいつはすぐ去っていったが…)

長女「こらっ、ちゃんと野菜も食べなさい」

長男「はーい」

先代(あいつ――何故、今になって俺の前に姿を現した?)

次女「お父さん? なんか、ぼーっとしてるよ?」

先代「あ、いや…」

妻「今日はお父さんの生徒さんが旅に出たのよ。心配しているのよね、あなた」

先代「あ、あぁ…そんな所だ」

長男「その人も父さんみたいな英雄になるのかなー!」

長女「無事でいてくれるといいわね、父さん」

先代「そうだな」

先代(現勇者に危険が及ばんといいが…明日、招集をかけよう)

>翌日、茶飲み処


先代は、かつて共に旅した仲間たちを呼び出していた。


自警団長「どうした、何かあったかい」

元賢者。女性ながら男勝りな性格で、現在は自警団の団長を務めている。


社長「ひょっとして、ビジネスの話ですかい」

元盗賊。金に関してはシビアで、現在は全国チェーンの万事屋の経営者。


隠居「勿体ぶらずに話せ。時間が惜しい」

元武闘家。現在は隠居し近所の嫌われ者。バツ2。


先代「話というのは、魔王の件だ」

自警団長「あぁ、新しい魔王が現れたんだってな。お陰でこっちも大忙しだよ」

社長「こっちもっすよ。ま、この機会に稼がせて貰いますよ」

隠居「旅立ったのはお前の所の教え子だそうだな、まだ若造という話だが」

先代「そうなのだが…少し、気がかりがあってな」

自警団長「…気がかりってのは?」

先代「詳しくは言えん」

自警団長「そうかい」

かつての仲間達は追及をしなかった。

先代「お前達に頼みたいことがある」

社長「報酬次第っすよ」

隠居「仕方あるまい、力を貸してやろうではないか」

先代「自警団長。自警団で勇者へのサポートをしつつ、奴の行動を報告してくれないか」

自警団長「あぁ、いいよ」

隠居「最近の若造は、サポートでもしてやらんと頼りないからな」

先代「社長。現魔王の身辺調査を行ってくれるか」

社長「へいへい。盗賊時代の仲間に依頼してみます」

隠居「最近の若造は、自分の足で調べるということを知らんからな」

先代「隠居」

隠居「あぁ何だ、何でも言ってみろ」

先代「お前は何もするな」

隠居「何で呼んだ」

先代「お前だけ呼ばないと、すねるだろう」

社長「同感っす~」ハハハ

自警団長「流石の老害っぷりだ」

隠居「泣くぞ」

先代「では、俺はこれで」



自警団長「…何か隠しているねェ、あいつ」

社長「今更じゃないっすか~?」

隠居「それは、あの時からじゃないか」

>20数年前、魔王城


勇者(先代)『ようやくたどり着いたぞ…! あとは魔王を討ち取るのみ!!』

『そうはいかん』

勇者(先代)『!?』

幹部A『道中はるばるご苦労だったなぁ勇者よ』

幹部B『しかしお前を通すわけにはいかないのでな』

幹部C『我ら〝紅の三幹部”が貴様の相手をしよう』

勇者(先代)『くっ、こんな所で足止めを喰らっている暇はないのに…!』

盗賊(社長)『そいじゃ勇者さん、魔王ん所まで突っ切って下さいや』

勇者(先代)『何っ』

賢者(自警団長)『本当は魔王と戦いたかったが、私らはこいつらで我慢してやるよ』

武闘家(隠居)『さぁかかってこい、三幹部とやら…!』

勇者(先代)『…っ、すまん!』ダッ

自警団長「それから数時間して、奴は1人で戻ってきた。だが…」



勇者(先代)『討ち取ってきたぞ…魔王を』



社長「あん時の先代さんの面、な~んか怪しい匂いがプンプンしましたねェ」

隠居「余程、卑怯な手でも使ったのか、それとも…」

自警団長「…ま、どうでもいいわな。実際、世界は平和になったんだし」

社長「やましいことがあるのかもしれねぇけど、それを隠して英雄でいてくれる方が世界にとっちゃ都合がいい」

自警団長「元仲間つっても、魔王討伐という共通目的を掲げたビジネスの仲だ。いらんことに首を突っ込む道理はないね」

隠居「同意だ。それぞれ上手くやっている今、多少のことは見て見ぬフリするのが良いだろう」

社長(アンタは上手くやってねーだろ)

自警団長「つっても、万が一あいつの手に負えない問題に膨らんだら困るんだけどねェ…」

先代(何か不審に思われただろうか…まぁ「大人の対応」を心得ている連中だ、気にするまい)

先代(それより、あの男が俺の手に負えない問題を起こさないか…)

先代(とにかく自警団長と社長頼りだ。それまでは焦るな…)

先代「ただいま」ガチャ

黒「お帰り~♪」

先代「」

長女「あ、お父さん。こちら、お父さんにお客さん」

長男「おじちゃーん、もっとお話聞かせてくれよ~」

次女「おじさんのお話、とっても面白~い」

黒「おうおう、いいぜェ! じゃあ次は邪神の鼻歌が大陸を滅ぼした話でも…」

先代「おい」グイ

黒「アイタタタ、耳つかまんでくれ~」

先代「…来い!!」ギュウウゥゥゥ

黒「あだだだだ~!!!」

長男「どうしたんだろ、父さん」

長女「親しいご友人かしら?」

>町外れ


先代「お前なあああぁぁ!!!」

黒「グゲゲゲ、怒らないでぇ~」

先代「お前、俺の子供達に何もしていないだろうな…?」

黒「可愛い子供らじゃな~い。ちょっと一緒に遊んだだけだよ、そう目くじらたてんな!」グゲゲ

先代「不穏な動きをするようなら、牢獄に縛り付けてやってもいいんだぞ」

黒「睨むなよォ」

黒い男は口元に笑みを浮かべていたが、目をギラつかせ、強引に先代の肩に手を回した。

黒「知られたくないだろォ…テメーが倒したはずのオレが、実は生きてたってよォ」

先代「……っ!!」

>20数年前、魔王戦


魔王(黒)『グギャッ…こ、この野郎……ッ!』

勇者(先代)『遂に追い詰めたぞ、魔王…!!』

1対1の戦いを制したのは先代だった。
魔王は今、正にその命に終止符を打たれようとしている。

魔王(黒)『グッ…』

勇者(先代)『魔王たる者が、まさかこの後に及んで命乞いなどという見苦しい真似はするまい?』

魔王(黒)『とっとと殺りな…魔王らしい最期で頼むぜ……』

勇者(先代)『…あぁ』チャキ

魔王(黒)『…と言うとでも思ったかァ♪』ニッ

勇者(先代)『!?』

先代が一瞬油断していた隙を付き、魔王は手をかざす。
しまった――そう思った時には遅かった。

魔王(黒)『邪神よ我に力を!! こいつに、ありったけの呪いをおおぉぉ!!』


カッ―――

勇者(先代)『…っ?』

何か攻撃を仕掛けられたと思った。
だが、自分の体にこれといった変化は見られない。

魔王(黒)『グゲゲ…やったぜ……!!』

勇者(先代)『お前…俺に何をした? まぁいい…今度は油断せずにお前を』

魔王(黒)『いいのか? テメーにかけた呪いの効果を知らねーままで…』グゲゲ

勇者(先代)『なら答えろ。俺に何の呪いをかけた』

魔王(黒)『道連れ』

勇者(先代)『っ!?』

魔王(黒)『オレが死ねば、呪いをかけた相手も道連れに殺せる呪いだよ!! オレを殺して英雄様~って呼ばれたかったぁ~? グギャギャギャ、ざ~んね~んで~した! グギャギャギャギャ!』

黒「あん時のテメーの面、思い出しただけで傑作だぜ…」グゲゲ

先代「……」

黒「つってもテメーも甘くはなかった。秘技だか何だか知らねぇが、オレは魔力を封じられて弱体化させられた」

黒「そんな恥ずかしい状態で魔王城に居続けるわけにもいかず、オレは死んだことにしてひっそり生きてきた。惨めだったぜェ~…」

黒「片や、テメーは人間の英雄扱い。『自分が死にたくないから魔王を討てませんでした』なんて、正直に言えなかったんだよなァ?」

先代「…」

黒「まぁ、テメーがどんな嘘ついてるかとかは今更どうでもいいんだよ。ただよ~…」

先代「ただ?」

黒「今の魔王が気に入らねェ。だから封じを解除してくれ」

先代「意味がわからん。そんな馬鹿げた話に乗るとでも?」

黒「ですよね~」

先代「わかったら、とっとと俺の前から…」

黒「そいじゃ、オレはこのまま現魔王の所に乗り込むわ」

先代「……何だと」

黒「現魔王はオレが現役だった頃の、反魔王派の奴でよォ。あの野郎が魔王を名乗ってることが気にくわん」

先代「なら現勇者に任せておけ。あいつが現魔王を倒すだろう」

黒「わかってねぇなァ。オレの手で葬るからこそ燃えるんじゃねぇかよ」

先代「いい歳こいて、子供じみたことを言うのはやめておけ」

黒「ウケる~、先代勇者が先代魔王に説教かよ。本音じゃテメーが死にたくねーだけだろ?」

先代「あぁ、俺が道連れでなければ、お前が死ぬのは構わん。お前も無駄死にはしたくないだろう」

黒「無駄死にか…。だが今のオレは、何一つとして守るものが無ェから、無駄に死ぬのも構わねぇ。テメーと違ってな」グゲゲ

先代「…何としても、お前の封じを解くわけにはいかんな」

黒「もしオレが現魔王を倒したら、テメーにかけた呪いをといてやるよ」

先代「何……っ」

黒「まぁすぐに返事をよこせとは言わねェ。また来るぜ」

先代「………」

>家


先代「………」フゥ


黒『『自分が死にたくないから魔王を討てませんでした』なんて、正直に言えなかったんだよなァ?』


妻「あなた、何かお悩みでしょうか?」

先代「あ。いや……何でもない」

長男「父さーん、皆でお風呂入ろうぜー」

次女「わーい、お風呂お風呂♪ お姉ちゃんも入ろ!」

長女「は、入るわけないでしょ! もうっ!」

先代「あぁ、3人で入ろう」


先代(あの時の俺は…故郷に妻を残していた。だから死にたくなかった)

先代(そして俺は英雄となり、子供が生まれ……嘘を貫き通す以外の道は無くなった)

先代(そのツケがやってきたのか…)

今日はここまで。
長いssにはなりません(´・ω・`)

>翌日


社長「おはよっす先代さん。現魔王の身辺調査ですが、とりあえず簡単なことだけわかりましたぜ」

先代「流石、仕事が早いな。それでどうだ、現魔王は」

社長「先代の魔王に比べりゃ甘ちゃんっすね」

先代「ほう?」

社長「活動範囲も狭いし、ローリスクローリターンなやり方を好んでやがる。臆病者っすわ、これ」

先代「慎重とも言えよう」

社長「どっちにせよ、先代魔王みてぇな大胆不敵な野郎に比べりゃ怖くねぇ相手だと思いますね」

先代「先代の魔王の方が色々と頭が悪かったと思うがな」

社長「あぁ、本人が直接殴り込みに来たり? まぁ確かに頭は悪かったけど、俺は予測できない行動を取る奴のが怖いっすよ。実際、強かったし」

先代「あとは現魔王の純粋な強さだが…」

社長「そこはまだ調査中っす。引き続き調査しておきますわ」

先代「あぁ、頼んだ」

社長「……あ。先代さん、ひとつだけ言っておきたいんすけどね」

先代「何だ」

社長「何企んでるか知らねぇけど、英雄の名を汚すような真似だけはせんで下さいよ」

先代「…あぁ」

>町外れ


黒「おーヨシヨシ」

黒い男は町外れで野良猫達と戯れていた。
そんな彼を訪れる者が1人…。

先代「おい」

黒「お? そっちから来てくれるとは思わなかったなァ」

先代「昨日の返事に来た」

黒「ほう?」

先代「…答えはこうだ」シュッ

黒「――っ!!」

先代は闘気を隠したまま、隠し持っていた短剣を黒い男に突き出す――その突きを、黒い男はギリギリで回避。

黒「オォイ!! オレを殺してお前も死ぬってことかよ!!」

先代「やはりな。いい動きだ」

黒「あ?」

先代「いや。お前は曲りなりにも先代魔王。魔力を封じられたなら、体術の方を鍛えるだろうなと思ってな」

黒「あ~…。つっても全盛期程の力はねーけどな」

先代「だが、それならお前への封じを解く必要はないな」

黒「どういうことだ?」

先代「現魔王を倒しに行くぞ。俺と、お前で」

黒「ハァ?」

先代「お前は自分の手で現魔王を討てれば満足なのだろう? なら、今の力のままで十分だ。俺と組めばいける」

黒「ちょ、待てや…テメーとパーティー組めってのかよ!? ふざけんな、冗談じゃねぇ!!」

先代「なら交渉決裂だ。そのままの姿で魔王の所に乗り込んで、殺されろ」

黒「オイ。本当にいいのかよ。オレが死んだらテメーも死ぬぜ?」

先代「構わん」

黒「あ?」

こいつは昨日言った。『自分にはお前と違い守るべきものがない』と。
確かに自分には守るべきものがある。だがそれは、自分の命ではない。

先代「嘘をついてきたツケは命で払う。だが――英雄の名誉だけは守らねばならんのだ、世界の為にも」

人々が英雄神話を信じているのなら、その信仰を崩すわけにはいかない。
その英雄が国に仕えることにより、国に反抗する者も減り、平和な世界を保ててきたのだから。

黒「ハンッ、自ら望んで国に利用されてやがんのかよ。テメー、ご立派だわ」

先代「で、返事は?」

黒「…わーったよ」

黒い男はかなり不服そうに言った。

黒「現魔王を倒すまでの間だけな。テメーと組んでやるよ」

先代「賢い選択だ」

黒「ケッ」

先代「それで魔王城までのルートだが。自警団長に調べて貰ったが、3つのルートがある」

1つ、長い道のりだが、魔物が少ない安全なルート

2つ、最短距離だが、魔物が多く危険なルート

3つ、距離も危険度も中くらいのルート

先代「勇者は3つ目のルートを通っている」

黒「ケッ、現魔王同様のゆとりだな。1番中途半端なルート選びやがって」

先代「隠居の奴も同じことを言っていたな。自警団長はそれを老害だなどと言っていた」

黒「誰が。で、オレらが進む道は決まってんだろ」

先代「あぁ…お前がへこたれんかだけが気がかりだが」

黒「バーカ。余裕だよ余裕」

先代「そう言うなら、決定だな」

黒「あぁ、危険な最短距離ルート行くぜ!!」

黒「…んどりゃああああぁぁぁぁッッ!!」ベキイイィィッ

巨人A「ゴフッ」

黒「グギャギャギャ、巨人までゆとりかよォ!! 図体でけーだけで手応えもクソもねーぞォ、ぶひゃひゃひゃひゃ!!」

巨人B「馬鹿な!? 我ら魔王軍精鋭、巨人部隊が全く手が出ないだと!?」

先代「精鋭? …捨て駒の間違いじゃないのか?」ズシュッ

巨人B「ガッ…」バタッ

巨人C「ウッ…あいつらヤベェ…!」

先代「残り何匹だ? 5、6…」

黒「ギヒャヒャヒャヒャ、皆殺しだから関係ねぇよォ!! オラアアアァァ、逃がさねぇぞグギャギャギャギャ!!」ダーッ

先代「…体力配分をまるで考えていないな、あの馬鹿め」

黒「フゥーッ、お疲れさんオレ!! カンパーイ」

先代「よくまぁ死体に囲まれながら酒なんて飲めるな」

黒「テメーもどうだ? 死臭嗅ぎながら酔うってのは、案外癖になるぜ」グゲゲゲゲ

先代「結構だ。俺は真っ当でいたいのでな」

黒「かーっ、うめぇーっ!! やっぱ敵をブッ殺した後の酒は格別だよなァ!!」

先代「ところでお前、魔物を殺すのに躊躇はないのか? 魔王とはいえお前も魔物……同属だろう」

黒「グギャギャ、オレに従わねー魔物は死んでもいいんだよ!」

先代(恐ろしい奴)

黒「しっかしよォ、テメーも年取ったから衰えたもんかと思ったけど、そうでもねーじゃん! 何で、あんな若造に魔王討伐を託した?」

先代「未来ある若者に道を譲るのが、年寄りの役目だ」

黒「はァ~ん。それじゃ魔王が現れる度に若者は魔王討伐の責務を押し付けられるわけだ!」グゲゲゲ

先代「押し付けているわけではない。英雄の座を譲ると言っているんだ」

黒「同じことだろ。英雄なんて、国にいいように利用されるだけの駒じゃねぇか」

先代「そういうものだと割り切って受け入れれば、悪いものではないぞ」

黒「ドライなもんだな」

先代「現実はそんなもんだ」

黒「まぁいいけどよ、人間社会に染まる気はねーし。あー、酒うめぇ」

先代(やはりこいつ、実力はあっても魔王の器ではないな)

危険度MAXの最短ルートだったが…


黒「グギャギャギャギャ、皆殺しだあああぁぁ!!」

魔物「うわあああああぁぁぁ!!」


先代と黒い男はそれをものともせず


魔物「グハッ…」パタッ

先代「大分、実践の感覚が戻ってきた」チャキ


チート級の強さで、立ちはだかる魔物達をバッタバッタと倒していった。


黒「あっぶねー、今テメーの剣がかすったぞ!!」ギャーギャー

先代「あそこで右に避けるお前が悪い」フン

魔物(俺ら無視で口喧嘩するのやめて)シクシク

>酒場


黒「カーッ、殺戮の後の酒は格別だなぁ!」

先代「不穏な酒だな」

黒「テメーも飲め飲め。まさか飲めねーってことはねーだろ? 今度こそ付き合わねーなら、今夜は寝かせねーぞォ」グゲゲゲ

先代「…飲めるが、普段は飲まんな。酔っては家族に迷惑をかける」

黒「へぇ。お仲間とも飲まんのか?」

先代「そういう仲じゃない」

黒「お仲間なのに?」

先代「共に魔王討伐の旅をしただけに過ぎん」

黒「ア?? それこそ絆やら何やらが生まれるもんじゃねぇ??」

先代「お前は子供じみたことを言う奴だな。そんな馴れ合いの仲で厳しい旅を乗り越えられるものか」

黒「つまんねー旅だなぁ! せっかくの魔王討伐っていう大イベントなんだ、思い出作ろうぜ!!」

先代「お前は思い出作りで倒されたかったのか」

黒「それとこれとは別ですぅー、魔王は敬って下さぁーい」

先代「やれやれ」

黒「でもよ、大きな目標を持って何かをするってのはワクワクすんな」

先代「そうか?」

黒「あぁ、昔テメーと戦った時もワクワクしたもんだぜ!!」

先代「勝手にわくわくするな」

黒「魔王軍をテメーらに送ってイヤガラセもしたよな~。あれはマジでウケたぜ」グゲゲゲ

先代「あぁ、本当にしつこかった…。思い出すだけでウンザリする」

黒「グゲゲゲゲ、その顔、その顔!! グギャギャギャギャ!!!」

先代「…そう言えば、何でお前は一般人を襲わずに俺達ばかり狙ってきたんだ?」

黒「一般人なんていつでも殺せるもん襲ってもつまんねぇの! いいか、敵が強大だからこそ一点集中でだなぁ~」グチグチ

先代(絡み酒か、面倒な…)

黒「…でだなぁ~、オレはワクワクしてェんだよぉ~」

先代「はいはい」

黒「この旅も…」

先代「ん?」

黒「ワク、ク…させ………グガアアァァ」

先代(勝手に喋って勝手に寝た。全く、仕方のない奴だ)

先代(しかしこれが、俺の宿敵の本音か……)

先代(もう昔のようにいがみ合える程若くないな、互いに)

今日はここまで。
しばらく恋愛要素あるssしか書いていなかったので、今作のような加齢臭のするssも楽しいです。

そして旅立ちから3日後…


黒「着きましたぁ、魔王城ォ~♪」

先代「うむ。新しいだけあって綺麗な城だな」

黒「オッシャ乗り込もうぜ!」

先代「あぁ」



黒「たのもーッ!!」バァン

現魔王「ようこそ、我が魔王城へ」

先代「魔王城の警備が薄いのではないか? 城に足を踏み入れてからここに来るまで、魔物と会わなかったぞ」

現魔王「馬鹿め、お前達をここへ誘い出す為の作戦だ。中年2人組がこちらへ向かっていることは報告済みだったからな」

黒「バカはテメーだ。まんまと侵入者を通しやがって」

現魔王「勇者ならともかく、ただの中年2人など…」

黒「オイ…テメー、オレの顔に見覚えあんだろ。コイツの顔も知らねぇの?」

現魔王「…?」

現魔王「」ハッ

現魔王「…」

現魔王「せ、先代魔王と先代勇者かあぁ! だ、だだ誰が相手だろうとわ我にとっては稚児同然」ブルブル

先代&黒(「やっちまった」って顔してる)

現魔王「魔力を欠片も感じなくて気付かなかったぞ先代魔王よ…何故生きているかは知らんが、貴様、弱体化しただろう?」

黒「まァな。ゆとりのガキ魔王には丁度いいハンデだろ?」グゲゲ

現魔王「ほざけ!!」ゴオオオォォォ

先代(魔力を解放しただけで、この重圧…やはり魔王を名乗るだけのことはあるな)

現魔王「喰らえっ!!」

先代「――っ」

城の床を伝って衝撃波が襲ってくる。
先代と魔王は、これを跳躍し回避。

しかし次の瞬間――

現魔王「ハアァッ!!」

ビュンッ――

先代「っ!?」

黒「うぉわ!?」

城壁が崩れ、魔力をまとい彼らに襲いかかってきた。

黒「…っざけんじゃねええぇぇ!!」バキィ

先代「…っ」カキィン

現魔王「回避できないから打ち返したか…流石だ」

ガラガラ…

先代(崩れた城壁が、元に戻っていく)

黒「城そのものがテメーの武器か。ド派手な技だな、嫌いじゃねぇ」

現魔王「感心している場合ではないぞ」スッ

ガガガガガッ

先代「…っ!!!」

黒「うわぁお!?」

さっきよりも沢山の破片が広間中を縦横無尽に飛び交い、2人に襲いかかった。
四方八方から飛んでくる破片に、回避も防御も間に合わない。

現魔王「ハーッハッハッハ!! 見たか、我の力を!! このまま体中に穴を開けて2人とも死…」

黒「…演出は派手でも、ダメージはチマチマだなオイ」

現魔王「…何?」

黒「もういいわ、飽きた」

先代「そうだな」スッ


ビュオオオォォッ!!


現魔王「なっ――」

先代が剣をおお振りすると、破片が風に飛ばされ――そして、道が開けた。
その道を一瞬で駆け抜けたのは――

黒「このクソガキがああああぁぁ!!」バキィッ

現魔王「ガハァッ!!」

現魔王は思考が追いつかぬまま、黒い男の一擊により吹っ飛ばされた。
先代勇者と先代魔王、2人の中年による、抜群のコンビネーションであった。

黒「オレの技量のおかげだかんな! テメーと息ピッタリとか冗談じゃねーぞ!!」

先代「はいはい」

現魔王(くっ、あの攻撃が効かなかっただと…!?)

黒「さぁ~て、クソ生意気なガキには仕置が必要だよなぁ」グゲゲゲ

現魔王「まずい…おい、援軍!」

側近A「魔王様っ、今参ります!」ダッ

側近B「全員、続けー!!」ドドド

黒「お? 流石臆病なゆとり魔王、援軍を控えさせていたか」グゲゲ

先代「いいだろう、まとめて相手してやる」

黒「何匹だ? じゅういち、じゅうに…」

側近O「続けー!」ドドド

側近P「おー!!」ドドド

黒「おー、数が多いな。これは少し骨がいりそうな…」

側近V「魔王様ー!」ドドド

側近W「おのれ、よくも魔王様を!」ドドド

先代「……」

黒「……」


>10分後


側近α「敵はどこだあぁ!」ギュウゥ

側近β「点呼だ点呼ー!」ギュウゥ

黒「せ、せめぇ…」ギュウゥ

先代「側近持て余してるな…」ギュウゥ

現魔王「敵はその2人だ! 総員、袋叩きにしろ!!」

側近ズ「「「うおおおぉぉぉ」」」

黒「グホッ、ゲフッ、ギョボッ!! テ、テメーら…ゲバアァ!!」

先代(くそ…これだけ多くてはどうにもならん!!)

多勢に無勢。2人のダメージはどんどん蓄積していく。
防御に精一杯で攻撃に転じることもできず、囲まれていては逃走も不可能。

黒「し、死ぬ…」ボロボロ

先代(このままでは…!!)


黒「オイ、コラァ!!」

先代「むっ!?」

黒「このままだと2人ともおっ死ぬぞ、テメー責任取れや!! バーカバーカ!!」

先代「そんなこと言っている場合か! どうしろと言うんだ!」

黒「オレの力の封印を解け!」

先代「!!」

力の封印を解く。
それはつまり、先代魔王の力を蘇らせるということで――

黒「先代魔王の力を解放すりゃ、こんな奴ら一瞬で葬れっからよォ!!」

先代「しかし…っ!!」

黒「このまま死ぬかァ、アァン!?」

先代「……」

>20数年前、魔王城


勇者(先代)『失せろ。どこへでも消えるがいい』

魔王(黒)『オイオイ、マジかよ…。本当にオレを見逃すつもりか?』

勇者(先代)『何度も言わせるな。失せろ』

魔王(黒)『グゲゲ…まさか勇者様ともあろうお方が、自分の命惜しさに魔王を見逃すとはなァ?』

勇者(先代)『何だ? 俺と心中したいのか?』

魔王(黒)『まさか。そいじゃ折角助かった命だ、サイナラ~♪』




先代(現状はあの時のツケだ…。俺は死ぬのか…)


先代の頭に様々な顔が浮かぶ。
長年連れ添った従順な妻、しっかり者の長女、やんちゃな長男、まだ幼くて無邪気な次女――


先代『嘘をついてきたツケは命で払う。だが――英雄の名誉だけは守らねばならんのだ、世界の為にも』


ここに来る前、黒い男にそう言った。
だが本音は――

先代(俺は――死ねない)

先代は決意する。
自分の誤った選択が招いた事態だ。ならば、自分で何とかする。


先代「黒!! 貴様の力を解放する!!」

黒「おおぉ、早くしろ…っ」ボロボロ

先代(まずは現状を打破する。そして……)

先代(打破し、呪いを解かせ…俺がこいつを殺す!!)


そして先代は封印を解除する為、天に手を掲げた――

ズドゴオオオオォォォン

黒「!?」

先代「!?」

現魔王「なっ!?」

突然の大爆発。何人かの側近が吹っ飛ばされた。

先代(あれは――)

勘が働き、先代は上を見上げる。
広間の吹き抜けにある窓枠には――3つの人影があった。


自警団長「何か妙な動きをしてると思ったら、そういうことだったのかい」

社長「ははは、そりゃ必死こいて隠しますわな~」

隠居「バッカモーン!! だからと言って、こんな無謀な行動する奴があるか!!」


先代「お、お前達…」

黒「ゲッ、先代勇者一行じゃねぇかァ!?」

現魔王「また侵入者か…側近よ、あいつらもやれ!!」

側近ズ「「「うおおおおぉぉぉ」」」

無数の側近が上空へ飛んでいく。
しかし3人とも余裕を崩さず、その様子を傍観している。

自警団長「どうすっか、こりゃ」

社長「こうなったら全部片付けて、あとは隠蔽工作っしょ」ハハハ

隠居「全く、何の得にもならん。だから来たくなかったんだ」ブツブツ

自警団長「そう言いなさんな、これも『世界の為』だ」


側近A「無駄口叩いている暇はないぞ!! 喰らえええぇぇ!!」

社長「あ、来ますよー」

自警団長「何とかなるだろ。私ら3人、1対1なら先代に劣るが…」

隠居「複数相手の戦闘なら、先代以上の力を発揮する…!!」ニヤリ

側近ズ「「「うおおおおおぉぉぉぉ」」」

自警団長「それじゃ、いっちょやるかい!」

3人は、窓から飛び降りた。

自警団長「喰らえやあああぁぁぁ!!!」

広間中のあちらこちらで爆発が起こる。
かつて、世界一の魔法の使い手と言われた自警団長による爆発魔法――そして、

社長「お前ら、邪魔!」ポイポイッ

ドゴオオォォン

側近ズ「「「ぐああああぁぁぁ」」」

社長「どうよ~、うちの会社の爆弾の味は」

側近B「くっ、このっ!」ビュッ

社長「おっと」ヒョイッ

元盗賊である社長の動きは現役の頃より衰えておらず、側近達の攻撃を軽やかにかわす。

側近C「ならば、この年寄りからやる!!」ドドド

隠居「年寄り?」ピキッ

自警団長「お。禁句言っちまったな、アイツ」

社長「一旦避難~」

隠居「俺は…」ゴゴゴゴ

側近C(な、何だこの闘気は…っ!?)

隠居「まだ60歳だあああああぁぁぁ!!!!」

バキイイイィィッ

側近C「ガハッ」ドゴッ

側近D「ゲボッ」ドゴッ

側近E「ゲヒャッ」

自警団長「あーあ、将棋倒し」

社長「こんだけ数いりゃね~」

自警団長「オイ大丈夫か、先代」

先代「あぁ助かった。すまんな、面倒かけて」

自警団長「気にすんな。一応「勇者の仲間」として恩恵受けてる身としちゃ、まだアンタに死なれちゃ困るわけよ」

社長「これもビジネス、ビジネス♪」

隠居「お前達っ、休んでないで戦えええぇぇ!!」

社長「隠居さーん、若いんだから頑張ってー」

隠居「ウヌオオオォォォ」



現魔王「…」ソロー…

現魔王(無茶苦茶だ…こんな奴ら相手にできるか…)

黒「オォ~イ、現魔王様ァ~?」

現魔王「!!!!」

黒「よォ~くもやってくれましたねェ?」グゲゲゲゲゲ

現魔王「あ…ああぁ……」

黒「オレは甘くねぇぞクソガキャアアアァァ!!!」

現魔王「うわああああぁぁぁぁぁ!!!」

>3日後


現勇者「つ、遂に来たぞ、魔王城…!」

現勇者(コミュ力が足りなくて仲間が作れなかったが…大丈夫だろうか)

現勇者(だが行くしかない…全ては、世界の為!人類の為!未来の為!)

現勇者「魔王、来たぞォーっ!!」

社長「はいはい、いらっしゃーい♪」

現勇者「えっ、社長さん!?」

社長「ま、そこに座って。ビジネスの話をしよう」

現勇者「あの、何です!? 何で社長さんがここに!?」

社長「まぁまぁ現勇者君。君も成人近いわけだし、大人の話をしよう?」

現勇者「はぁ…」

社長「結論から言うと、魔王は倒しておいた」

現勇者「」

社長「だが、世界情勢を平穏にしておくには英雄を立てて、人々に安心感を与えておかねばならない」

社長「つまりだ。英雄というのは所詮シンボルなんだよ、シンボル。わかる? 実績が無くても、カリスマ性があればそれで良し」

社長「とりあえず、君の実績はこちらで用意しておこう。あ、いや別に偽造するわけじゃないよ。ただ、ちょっとばかし誇張表現が混ざるかもしれんがね」

現勇者「……」

社長「じゃあ復唱しようか。『僕が魔王を倒しました』。ハイッ」

現勇者「僕が…魔王を、倒しました…?」

社長「よし。それが事実だ。わかったね?」

現勇者「………」

現勇者(あぁ…これが社会の仕組みか)


こうして現勇者は、一歩大人になった。

>公園


黒「あーあ」ブスッ

先代「どうした。お望み通り、お前の手で現魔王を葬れたじゃないか」

黒「そうだけどよー」

先代「力が戻らなかったことが不満か?」

黒「ったりめーだろ。力が元に戻ってれば、オレは魔王として再び君臨できたのによー」

先代「なら尚更、封じを解くわけにはいかんな?」フッ

黒「ケッ」

先代「諦めて若者に席を譲れ。中年には中年なりの、人生の楽しみ方ってものがある」

黒「まーなァ。ここ20年の平穏な生活も、そんなには悪くはなかったけどよォ」

先代「ならいいだろう、それで」

黒「…ケッ」

返事はひねくれた呟きで返ってきたが、黒い男の表情は「それも悪くない」と語っていた。
今回ボコボコにされて懲りた為か、力を取り戻すのを諦めた為か、それは本人以外にはわからない。

黒「あ。そーだ」

先代「?」

黒「ほにゃららほにゃらら~。ホレッ」ポン

先代「何だ?」

黒「解いてやったぞ、テメーの呪い」

先代「……本当か?」

黒「約束だかんな。信じねぇならそれでいいけど」

先代「いや」

黒い男は嘘をついていない、目を見ればわかる。
それに――

先代「お前も大分、丸くなったな」

黒「だ、誰が中年太りじゃコラ!!」

先代「毛も薄くなってきたか?」

黒「なってねーよバーカ!! このバーカ!!」

次女「お父さん、おじさ~ん。ちょうちょつかまえた~」

先代「おぉ、綺麗だな」

黒「ハァー…」

先代「何だ」

黒「テメーはいいよなぁ。家族に囲まれて、なかなか幸せな中年ライフ送ってやがる」

先代「お前にはいい相手はいないのか」

黒「うるせー」イジイジ

先代(やれやれ)

次女「大丈夫だよ、おじさん」

黒「あー…?」

先代「?」

次女「私が大きくなったら、おじさんのお嫁さんになってあげる!」

先代「…………」

黒「いやー倫理的にそれは」

先代「貴様ああぁぁぁ!!」

黒「!?」

先代「やはりお前を生かしておいたのは間違いだったか! たたっ斬ってくれる!!」ダッ

黒「待て待て待て、オレはそんなつもりはうわあああぁぁぁ!?」



こうして今回の勇者と魔王の物語は、世の人々に知られることなく終わるのだった。

黒「でも何かテメーといると、また新しい物語が生まれそうな気がするぜ」

先代「もういい!!」


END

ご読了ありがとうございました。
強い中年ってかっこいいと思います。


過去作置き場も宣伝させて頂きます。
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