通訳「通訳してたら両国の関係がどんどん険悪になっていく」 (39)


長年、緊張状態にあった東国と西国の間で、平和への歩み寄りの第一歩として、
両国の代表二名による会議が行われることになった。

通訳には両国の言語に通じている数少ない人物である、一人の男性が選ばれた。



東大臣「はじめまして」

通訳「はじめて会うな」

西大臣「ええ、そうですね」

通訳「ああ、そうね」

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東大臣「このたびはこのような会議を開くことができ、嬉しく思っています」

通訳「こういう話し合いができて、いい気分だ」

西大臣「私もです」

通訳「俺もだ」


東大臣「さて、さっそくこのたび結ぶ条約の内容について議論したいのですが」

通訳「いきなりだが……えぇ、仲良くなるための落とし前について話そうや」

西大臣「そうですね」

通訳「そうすっか」


東大臣「我が国からは、国境付近に駐屯している貴国の兵士半数の撤退を求めたい」

通訳「俺らの要求は、おたくらの兵士の体を……えぇと、半分にちぎれ」

西大臣「なに!? いきなりなにをいっているんだ、あなたは!」

通訳「んだとコラァ!」


東大臣「なぜ怒るのだ。我が国ももちろん、同じ条件を飲むつもりでいる」

通訳「怒ってんじゃねーよ。ウチの兵士も半分にちぎって、飲み干してやる」

西大臣「飲み干す? 自分の国を滅ぼす気かね、あなたは」

通訳「飲料のための水を干上がらせ、お前の国を滅ぼしてやる!」


東大臣「なにをいってるんだ、君のいってることはわけがわからんよ」

通訳「お前頭おかしいんじゃねえの?」

西大臣「いやいや、そっちこそ!」

通訳「てめぇにゃ負けるわ」


東大臣「……いや、待った。少し落ち着こう。互いに頭に血が昇ってしまっている」

通訳「少し黙れ! お前を頭から落としてやる! ……血の池地獄に!」

西大臣「ひどい言い草だ! ずいぶん毒舌なんだな、あなたは」

通訳「非道なる毒草を、お前の舌に味わわせ……えぇと、毒殺してやる!」


東大臣「なぜあなたはそんな風な言い方しかできないんだ! 私は冷静なのに!」

通訳「俺は冷酷だ! 風の呪文で……う~んと、お前を殺してやる!」

西大臣「殺すだと!? やれるものならやってみろ!」

通訳「えぇ~と……殺される前にやってやる! ……かな」


東大臣「もういい! 会議はここまでだ!」

通訳「オッケー、話し合いは終わりだ!」

西大臣「こんな話し合い、最初からやるべきじゃなかったですな」

通訳「お前なんかと話すのは、生まれる前からイヤだったんだ!」


東大臣「戦争だ! 両国で、決着がつくまで!」

通訳「ケンカしようぜ! タイマンでケリつけようぜ!」

西大臣「ケンカ!? いいだろう……私もケンカには自信がある!」

通訳「了解、俺もケンカには自信あるぜ!」


西大臣「だりゃあ!」バキッ

東大臣「む!? やったなぁ!」ガスッ

西大臣「どりゃあ!」ドカッ

東大臣「むんっ!」ガッ

通訳「だりゃあ! む!? やったなぁ! どりゃあ! むんっ!」


東大臣「うおおおおっ!」

西大臣「うおおおおっ!」

ドカッ! バキッ! ドカッ! バキッ! ドカッ! ガンッ! ベチッ! バシッ!

通訳「うおおおおっ! うおおおおっ!」


東大臣「ふふっ、あなた、やりますな……。私たち、今日から親友ですな!」ニヤッ

西大臣「殴りあったら、なんだかスッキリしましたよ!」ニヤッ

通訳(あれ……私が通訳してないのに、勝手に分かり合ってる)

通訳(なんでだろ?)


こうして、両国は歩み寄りどころか、平和条約を結び、完全なる和解を果たした。
会議で通訳を務めていた男性は、歴史的な役目を果たした英雄として皆から称えられた。

そして、後にインタビューでこう答えた。



通訳「両国の大臣ともにやたら血の気が多く、仲介する身としてはヒヤヒヤしましたが、
   私の通訳が正確だったからこそ、今の平和があるのだと考えています」







                                     おわり

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