大淀「本当に…解体なさってもよろしいのですか?」 (66)


提督「…ああ」

大淀「しかし彼女は仮にも功労艦です」

提督「それでもだ」

大淀「…私としては、あまり気乗りしないのですけれど」

提督「それは俺も同じだ」

大淀「でしたら無理に解体などなさらずとも…」

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提督「…だからこそだ」

提督「天龍とは着任して間もなくからの付き合いだが、今回のような事態を見過ごすことは出来ない」

大淀「天龍さんが功を焦って、無断で出撃しようとしたのは誉められたことではありません」

大淀「ですが彼女は確かな戦功をあげました。鎮守府への強襲を目論んでいた戦艦レ級を早期発見し、その撃破に貢献したのです」

大淀「その事実をもって、彼女の独断専行は免責されてもよろしいのでは?」

提督「……」

提督「……」

提督「…いや、やはりダメだ。天龍は解体する」


大淀「…理由を聞いても?」

提督「自己保身だ。それ以上はない」

大淀「確かにそれもあるでしょう。提督…貴方の監督不行届は、大いに問題視されて然りなのですから」

提督「ああそうとも。まったく、彼女も迷惑な真似をしてくれたもの」

大淀「ですが、本当にそれだけですか?」

提督「…それだけだとも」

大淀「……」

提督「……」


提督「……」

大淀「……」

提督「…聞いてどうする?」

大淀「一応でも納得したいのです。私は常に、提督…貴方の味方で居たいと思っていますから」

大淀「それに…提督が周りから上がる非難の声で参りでもしたら、艦隊運営に支障を来してしまいます」

提督「……」


提督「…大淀」

大淀「はい」

提督「君は…艦娘である自分をどう認識している?」

大淀「……」

大淀「…兵器であり、人のようなものであると」

提督「…そうか」

大淀「…何故、そのような事をお尋ねになるのです?」

提督「確かめたかったんだ。大淀…君が自分を、単なる兵器だとしか自覚していないかをな」


大淀「…天龍さんは、兵器としての自分に強い自負を持っていましたね」

提督「ああ…」

大淀「そして、それが彼女の性能不足を大いに補っていました」

提督「…私はそれに危うさを感じていた」

大淀「危うさ?」

提督「兵器としてのアイデンティティを獲得したいと望む天龍は、提督の立場からすれば都合のいい存在だったさ」

提督「…だが私は、彼女に闘争以外の何かを尊んで貰いたかった。そしてそれに依存しない生き方をして欲しかった」


提督「……」

大淀「…つまり今回の件で、それが叶わないとお思いになって彼女を解体なさると?」

提督「…ああ」

大淀「なるほど。とても身勝手な話ですね」

提督「ああ。思い通りにならないからと、駄々をこねて追い出すだけだからね」

大淀「…解体されれば、彼女は戦う力を失ってしまいます」

提督「…うん」

大淀「それは天龍さんにとって、とても…とても残酷な事です」

提督「……」

大淀「…それでもよろしいのですね?」

提督「……」

提督「…いいんだ。無事に生きてさえいれば、きっとなんとでもなる」


提督「……」

天龍「…おい!」

提督「……」

天龍「提督、テメェ…!よくも、よくもこんな!」

提督「……」

天龍「クソがっ!こんな拘束具くらい、オレならすぐに…」

提督「……」

天龍「…くっ!なんで!なんで外れねえんだよ!畜生!」


提督「…無力だな」

天龍「んだとォ!」

提督「手足の自由を奪われたら、ろくに身動きもとれないのだからね」

天龍「ぐ…お前が、こうしたん、だろう、が!」

提督「……」

 ゴトッ

天龍「オ、オレの艤装じゃねえかよそれ!」

提督「…妖精さん」

妖精「…あいよ」

天龍「なっ、おい!テメェら一体それをどうするつもりだ!」

妖精「どうするって…今からバラすんだよ」

天龍「何っ!?」

妖精「アンタはもう艦娘じゃなくなる…だったらもう、コイツは必要ないよな?」


 ...カーン、カーン

天龍「!?」

提督「妖精さん、なるべく早く頼む」

妖精「あいよ」

 ...カーン、カーン、カーン

天龍「や、やめろっ!」

提督「どうして?」

天龍「そいつをバラされちまったら、オレが…オレでなくなっちまう!」

提督「…知ったことじゃない」

 ...カーン

天龍「…やめろよ…お願いだ、やめてくれよ…!」


 グイッ

天龍「ぐっ…」

提督「…やめてくれ、だと?」

天龍「……」

天龍「…や、やめて」

提督「……」

妖精「……」

天龍「…やめて、やめてください…お願いします……」


提督「……」

 バキッ!

天龍「がっ…!」

提督「やめてください、だと?」

天龍「うっ…」

提督「私がそう言ったら、君はそれを聞き入れてくれたのか!?」

天龍「……」

提督「…それについてはお互い様か。私の方こそ、君の希望に応えられなかった事は少なくなかったからね」

提督「……」

提督「だかな…勝手に武力を行使するなんて、いかなる理由があっても見過ごせる訳がないだろう」

中断


提督「だかな…勝手に武力を行使するなんて真似、いかなる理由であっても見過ごせる訳がないだろう」

提督「君が艦としての自分に誇りを持っているのは知っている。だが君はそれ以前に、組織に属する軍人でもあったはずだ」

提督「軍事力を持つ者が規律もなく身勝手に振る舞う…それが力無き者にとってどれだけ恐ろしい事か、君は想像していたのか?」

天龍「う、うるせえ!」

提督「天龍!」

天龍「力のない者だって?それならオレだって、他の軽巡や上位の駆逐に劣る古い艦じゃねーか!」

天龍「ここは気の良い奴が多かったからよ、嫌味なんて言われる事なんかそうそうなかったさ」

天龍「…けどな、どうしても差ってのはついちまう。否応なしにそれを感じちまう度、オレはどんどん惨めになっていった」


提督「……」

天龍「ちゃんと分かってたなんて言えるわけもねえけど…オレのしでかした事は、実際とんでもない話だよ」

天龍「戦う力のある兵士…まして軍艦の力をそのまま使えちまう生き物が、突然どっかに行っちまうなんてあっちゃいけねーからな」

提督「…天龍」

天龍「へへ、柄にもなく湿っぽい事ばかり話しちまった。だけどそれもじき終わる」

提督「……」

妖精「……」

天龍「…どうか一思いにやってくれ」


提督「…天龍」

天龍「んだよ」

提督「殊勝に振舞っているつもりだろうが、殺意を隠せていないぞ?」

天龍「…」

天龍「…ふ、ふふ」

 ブチィ!

提督「!」

妖精「て、提督!」

天龍「全てお見通しってわけかよォ!提督ゥ!」


 シャアッ!

提督「くっ!」

天龍「よくかわしたなあ、オイ」

 ズバッ!

提督「ぐ…」

天龍「だが、そう何度も避けさせはしねーぞ」

提督「…もう止めろ、天龍」

天龍「止めろ、だと?優位に立ってるのはオレなのに、そんな戯れ言が通るとでも?」

提督「通るさ」

天龍「なら、通してみろ!」


 ...バキィ!

提督「…」

天龍「な、なに…」

提督「すまない、龍田」

龍田「…いいのよ~。提督が謝らなくたって」

天龍「龍田、テメェ…!」

龍田「だって…悪いのは上官に逆らって、挙句弑逆しようとした天龍ちゃんなんだから~」

天龍「…龍田ァ!」

龍田「ごめんね、天龍ちゃん」

 ズガァッ!

龍田「…おやすみ」


天龍「……」

提督「…天龍」

龍田「提督…どうか気に病まないで」

提督「しかし…」

龍田「さっき言ったけど悪いのは天龍ちゃん。貴方は何も悪く無いのよ」

提督「…だとしても、天龍をこうさせてしまったのは私の力不足だ。情けない」

龍田「ううん、違う。そんな事ない」

提督「……」

龍田「天龍ちゃんが…この子がもっと強ければ、力や功績に拘らずに生きていけたわ」

龍田「だけどそうはならなかった。天龍ちゃんは、自分が戦場で輝ける事を何よりも望んでいたから…」

龍田「…私はただ、天龍ちゃんと一緒に居られたら良かっただけなのにね」


提督「…」

龍田「…ねえ、提督」

提督「何だね」

龍田「私も、天龍ちゃんと一緒に解体されようと思うの」

提督「……」

龍田「この子が居なくなってからの鎮守府で、私がこの先もずっと戦っていけるとは思えない」

龍田「たとえこの先新しい『天龍』がやって来ても、その子はこの天龍ちゃんとは違う。どう転んでもろくな事にならないわ」

提督「龍田…」

龍田「…ごめんね。私もこの子と同じで、弱い子だから」


提督「…妖精さん」

妖精「お、おう!」

提督「天龍と、それに龍田の解体も頼む」

妖精「…いいのかよ?」

提督「いいんだ」

妖精「天龍は勿論、龍田ちゃんまで解体したら資源輸送に困るぜ?」

妖精「他の軽巡より慣れているのもあるが…2人は駆逐の嬢ちゃん達に、すごく懐かれてんだし……」

提督「…私がどうにかするさ。勿論、鎮守府みんなの力を借りてな」

妖精「…」

提督「だから…龍田の願い、どうか聞き届けてやってくれ」


妖精「龍田ちゃん」

龍田「…手間を増やしちゃって、ごめんね~」

妖精「手間だなんてそんな…んな事より、本当にバラしちまっていいんだな?」

龍田「……」

妖精「…すまねえ。野暮なのは分かってんだが、どうしても訊いときたくてな」

龍田「…ううん、いいの」


...カーン、カーン

天龍「……」

龍田「…天龍ちゃん」

 カーン、カーン、カーン...

龍田「私も一緒についていってあげる」

 .カーン、カーン、カーン、カーン...

龍田「…一人ぼっちは、さみしいでしょう?」








 カーン、カーン、カーン...

 カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン...

 カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン...


 ○

提督「…」

提督「…ん、ううん」

大淀「あら、提督。おはようございます」

提督「ん、おはよう」

大淀「…お加減はいかがですか?その、随分とうなされているようでしたから」

提督「案外気分は悪くない。大丈夫だよ」

大淀「そうですか…でも、どうか無理はなさらないで」

提督「ああ、分かったよ。ありがとう」


大淀「…」

提督「…」

提督「…昔の事を夢で見ていた」

大淀「夢、ですか」

提督「うん。天龍と龍田を解体した日の事だ」

大淀「お2人の事は、本当に残念でしたね」

提督「おいおい…2人ともまだ死んではいないぞ?」

大淀「…」

提督「…大淀?」


大淀「…提督」

提督「うん?」

大淀「私は…解体されてからの彼女達を知りません」

提督「うん」

大淀「どこで何をしているのは勿論、お2人の安否さえも分からない」

提督「…だから?」

大淀「彼女達は今、どこにいるのですか?」

提督「…」

大淀「何故、答えられないのです?」

提督「……」

提督「…君が知る必要はない」


大淀「…そう、ですか」

提督「…」

大淀「私には、打ち明けていただけないと?」

提督「…すまない」

大淀「…」

大淀「…いらない」

大淀「そんな言葉、いらない。私はただ、貴方に打ち明けて欲しいだけなのに」

大淀「私達が艦娘でなくなったら、一体どうなってしまうのかを」

提督「…知らなくていい」

大淀「提督っ!」

提督「それに私も全てを知っている訳じゃないし…憖っかに知れば、徒に憶測してしまうだけだ」

大淀「…」

提督「…」

大淀「…残念です」

提督「…」

大淀「ええ、とても残念。私と貴方の関係が…未だこの程度のものだったなんて……」

提督「……」

大淀「…本当に、哀しい事です」

この先もぐだぐだと続きます
日本語が不自由なのは、その…僕の不勉強としか言えません


  ◆

大淀と提督のやり取りから数日が過ぎた。

あれから2人は一切会話をしていない。それどころか、提督は秘書艦を明石に代えている。

 「…何かあったんです?」

 「ちょっとね」

誰が訊いても、彼はただはぐらかすばかりだった。

そうするうちに、普段の行いからかセクハラのし過ぎでそうなったのだろうという話が広まりだす。

 「ヘーイ提督ゥー!」

 「なんだね」

 「時間と場所は弁えた方がいいと思いマース!それと、私でしたら今はバッチコイですヨー?」

 「…今は遠慮させてもらうよ」

結果提督は針のむしろに座る思いで、今は金剛に守られながら日々を過ごしている。

鎮守府の皆からは、最早ナーバスな提督への警戒心など失われているかのようだった。

それほど大淀が慕われているという事だろう。


>>49

それほど大淀が慕われているという事だろう。→それよりも、大淀を慕う気持ちの方が勝ったということだろう。


提督「…お久しぶりです、閣下」

元帥「うむ」

提督「相変わらずご壮健のようで何より」

元帥「そう言う君は、少しやつれて見えるのだが」

提督「何分気苦労が絶えないものでして…煩わせて申し訳ありません」

元帥「いや、いい。そちらこそあまり気にするな」

提督「…はっ」


元帥「噂は聞いている。どうも筆頭秘書艦と上手くいっていないらしいな」

提督「恥ずかしながら、閣下の仰る通りであります」

元帥「君が盛り過ぎたせいだという話だが」

提督「…」

元帥「…どうなのだね?」

提督「…」

提督「…事実ではありますが、流石にそれが原因という訳ではありません」

元帥「ふむ」


提督「…」

元帥「だとすると…君は昔の事でも思い出して煩っているのかね?」

提督「…はい」

元帥「まあ、今時分は君にとって何かと因縁の多いものだ。無理もない」

提督「…お気遣いいただき恐縮です」

元帥「気にしなくともよい。それより××、艦娘達にはきちんと話しておき給えよ」

提督「…何を?」

元帥「知れた事さ。君の過去についてだよ」


提督「……」

提督「…恐れながら閣下、私にはそうするつもりがありません」

元帥「何故だい?」

提督「部下達の、私に対する心象が一層悪くなるだろうと考えられるからです」

元帥「…そうなのかね?」

提督「はい」

元帥「……」

元帥「……」

元帥「…××、嘘をつくのはいけないよ」


提督「嘘、とは?」

元帥「君の噂について私は、良いものも悪いものも概ね把握している。当然裏付けも取っている」

提督「ならばお分かりでしょう?それらに嘘など何一つ無いという事に」

元帥「ああ。確かにその通りだ」

 ...バンッ!

提督「…」

元帥「…だが、それらの噂は全て君自身が広めさせたものでもある。違うかね?」


提督「…何を根拠にそのような事を」

元帥「以前ここへ視察に来た憲兵…その全員が揃って『まるで誰かに見せつけるように、不埒な真似をしていた』と口にしていたよ」

提督「ははっ、まさか。私は彼らの気配なんて気付きも」

元帥「…少し前、怪我をして帰った憲兵がいたね」

提督「!」

元帥「どうやら彼は行為にちゃちゃを入れようとして、結果痛い目に遭ったそうだ」

提督「……」

元帥「…君は彼らに、自らの醜聞を広める以外の真似はさせたくなかった」

元帥「そう考えると、君がかの憲兵にした仕打ちにも納得がいくのだよ」


提督「…」

提督「…仮にそうだとして、閣下は私をどうなさるつもりなのですか」

元帥「私は何もしない」

提督「……」

元帥「君がどういう理由でそうしているのかと、下衆の勘繰りをしても意味は無いからね」

提督「…ならば何故追求するのです」

元帥「おせっかい」

提督「……」

元帥「…そう睨むな。君の親代わりとして、気を揉んでいるだけの事だ」


提督「…○○元帥」

元帥「君が自らをどうしたいのか…それを最初に決めるのは結局、君自身だろうさ」

提督「…」

元帥「だがね××…君は一人じゃない」

元帥「他者の思惑によって得も損もするし、誰かに対して融通をきかせなければならない事もある」

提督「…つまり?」

元帥「部下達に対しもっと真摯な態度で接しろ、という事だ」


元帥はそう言うなり、懐から一枚の写真を取り出し提督に見せる。

 「こ、これはっ…!」

 「…あっ」

それには或る艦娘のあられもない姿が……!

 「間違えちった、すまん」

元帥が写真を懐に戻すと、提督はひどくうなだれた。

 「そ、そんなに落ち込まないでくれ給え…どうかこれで機嫌を直して欲しい」

新たに提督へと差し出される写真。

 「…!」

提督はそれを、感慨深げな様子でじっと眺めている。

 「…閣下」

 「うむ」

 「ご厚意、ありがたく頂戴いたします」

 「構わんよ。それより君、今すぐ会いに行くのだろう?」

提督は深く頷いた。

 「君の部下には私から話しておく。早く行って、その陰鬱さを払拭し給え」

 「はっ!」

返事をするやいなや、提督はその場を走り去っていった。

…逢いたい者がいるからだ。

天龍と龍田。

今は艦娘ではなくなった2人…当時の記憶は、もう少しも残っていない。

だが提督にとって、そんな事はどうでもよかった。

ちゃんと続けられるようにしたい…
では

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年09月19日 (土) 11:41:10   ID: sXsFK4WE

続きを期待しています!!

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