伊織「カプチーノ」 (10)

・アイマスss
・書き溜めあり
・地の文あり
・短め
・ss初心者

です
ご了承ください

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「…遅かったじゃない」

前を向いていられなくて、ひたすら膝に置いた自分の手を眺める。

言いたかった言葉は、したかった約束は、もう全て台無しにされた気持ちだった。

ごめんごめん、打ち合わせがさ…なんていいながらプロデューサーは向かいの席に座る。

寒さのせいか、それとも…なんにせよ、その顔は赤みを帯びていた。

さっきまでの不安はなくなったのに、せっかくの機会がだめになったような気がして心がぐちゃぐちゃしている。

「早く…何か、注文しなさいよ」

自分でもわかる。声は震えていた。
冷えきったコーヒーに口をつけると熱かったときと変わらず苦くて飲めなかった。

萎んだ気持ちは戻らない。

「急かしすぎないでくれよ、せっかく伊織のめでたい日なんだし…」

異変に気づいたかのようにそいつは顔をこっちに向ける。

「あ…」

どれぐらいのあいだだろうか。
目があった、そいつを見ているとここにいられる気がしなくなって。

隠そうとしていた何かが零れそうだった。

カラン、と言う音が聴こえたと思うと私は店の外へ逃げ出していて

結局どこに向かっているのか自分でもわからなくって息もすぐ上がってしまう。

…大した距離も走れず疲れて止まる。


立ち止まったら堰を切ったように涙がこぼれ出した

どこまでも、どこまでも子供な自分が許せなくって…

泣くのぐらい、せめてのちっぽけなプライドで我慢したかったのに
それすら我慢できない。

これじゃあ昨日から何も変われてないじゃない…

自分を責める言葉は的確で辛辣だ。

そんな私にアイツが追い付くのも当然なわけで。

ざっ、ざっ、と不意に後ろから走ってくる音がした。

足音はまっすぐ私を目指していた。

悔しいけど…この心の片隅の期待は本心なんだろう。

どれだけ頑張っても本気でアイツを嫌いになれないのも子供だから?


呼び止められると思って振り返ろうとしたその時、暖かさに包まれた。

何が起こったか理解できず固まってしまう。

こ、こんな気障な事できるヤツだったの…?


体に回るその腕はオトナな男の腕で、その「こんな気障な事」はオトナな行動で、壁を感じて…
悔しい。
もっと戸惑ったりするかと思っていたのに。

少し体勢を直そうとするとぎゅっ、とする力は強くなる。

「いたい」

あっ、という声と共に腕は外れた。

抱き締められた、その感触は一瞬では消えない。

「ごめんな、本当」

さっきと違って真っ直ぐな声で真っ直ぐな瞳だった。

うぅ、こんなの怒れなくなるじゃない…


「…手」

「えっ?」

「カフェ、戻るから…迷わないようにエスコートしなさいよね」

まだ、約束は交わせなかった、それでも。

りょーかい。

優しく答える、その顔が一瞬だけ驚いていたのはしっかり見てたんだから。

まだまだだけど、私だっていつかきっと。

終わり



読んでくださった方
もしいらっしゃったのならありがとうございます
続きはもっといいssにするよう努めます

今日と同じように人混みをすり抜けられるかしら

>>7

カバーよかったですよね!

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