アルスラーン「士気を鍛えようと思う」(19)

ダリューン「殿下? 士気とは……いわゆる気持ち、というか」

ダリューン「兵の士気、というものですか?」

アルスラーン「そうだ、ダリューン」

ナルサス「それを鍛える……とは?」

アルスラーン「私は最近……いとこ殿の事でいろいろ悩んだりして」

アルスラーン「みなに迷惑をかけた」

ダリューン「殿下、その様にお考えなさるのは……」

アルスラーン「いいのだ、ダリューン」

アルスラーン「これというのも私が豆腐メンタルであったからに他ならない」

アルスラーン「欠点は欠点として認め、改善しなくては、な」

ナルサス(……殿下はどこで豆腐メンタルなどという言葉を覚えたのだ?)


ナルサス「それで、おっしゃりたい事は分かったのですが」

ナルサス「それを鍛える、とは?」

アルスラーン「うむ」

アルスラーン「私の考えた方法としては、お互いの欠点などを言い合って」

アルスラーン「敵にそれを言われる前に耐性を付けておけば」

アルスラーン「戦場でも冷静に行動できるのでは……と思ったのだ」

ダリューン「なるほど……そういうお考えでしたか」

ダリューン「このダリューン、感服いたしました」

ナルサス「しかし殿下。 その方法には致命的な欠点がございます」

ダリューン「おい、ナルサス」

アルスラーン「良いのだ、ダリューン。 ナルサス、言ってくれ」


ナルサス「まず」

ナルサス「たがいの欠点を……という事ですが」

ナルサス「それではただの悪口の言い合いになってしまうのではないでしょうか?」

アルスラーン「……ふむ」

ナルサス「また、それによっていらぬ軋轢を生む結果にも繋がりかねませぬ」

ナルサス「私としては、いささか賛同できませんね」

アルスラーン「そうか……良い考えだと思ったのだが」

アルスラーン「私はまだまだだな」

ダリューン「い、いえ! 私は殿下のお気持ちを嬉しく思います」

アルスラーン「ありがとう、ダリューン」

ナルサス「……ですが」

ダリューン「む?」


ナルサス「殿下のご意見にも頷(うなづ)ける部分がございます」

アルスラーン「そ、そうか!」

アルスラーン「嬉しいぞ、ナルサス」

ナルサス「ですので、たがいの欠点ではなく」

ナルサス「敵軍が考えるであろう、士気を下げる言葉」

ナルサス「これを我々で予測し、言ってみるのはどうでしょうか?」

ダリューン「ふむ……それならば、自軍で余計な軋轢も起きそうにないな」

アルスラーン「さすがだな、ナルサス」

アルスラーン「それでは試しに我々だけでやってみるか」

ナルサス「御意」

ダリューン「御意」

アルスラーン「ふむ。 ルシタニアが言いそうな士気を下げる言葉か……」


アルスラーン「黒衣の騎士などと呼ばれて、いい気になるな!」

ダリューン「で、殿下!?」

ナルサス「おい、ダリューン。 これはルシタニアが言いそうな士気を下げる言葉だ」

ナルサス「殿下の本意ではない」

アルスラーン「す、すまない、ダリューン……」

ダリューン「い、いえ、殿下。 つい……」

ナルサス「ふむ……」

ナルサス「パルスの負け犬ども! ここでも負けに来たか!」

ダリューン「おお……確かにルシタニアが言いそうだな」

アルスラーン「アトロパテネでの敗戦を経験した者には堪えそうだ……」

アルスラーン「さすがナルサス」


ナルサス「いえ。 この程度……」

ダリューン「…………」

ダリューン「もう一度霧に巻かれて負けるがよい!」

アルスラーン「ふむ……それも言いそうだ」

ナルサス「アトロパテネ関連は、予測しやすいですな」

ナルサス「ひねりは無いが」

ダリューン「……こういうのに慣れていなくてな」

アルスラーン「…………」

アルスラーン「なんだ、黒衣の騎士か。 双刀将軍ではないのか!」

ダリューン「ぐはっ!?」

アルスラーン「す、すまない、ダリューン!」

ダリューン「……殿下、このダリューンに不満があるのなら、はっきりとおっしゃってください」

アルスラーン「そ、そんなものはない!」


ナルサス「落ち着け、ダリューン」

ナルサス「あくまでルシタニアが言いそうな言葉なのだ」

ナルサス「お前の名前や二つ名が知れ渡っているだけに」

ナルサス「殿下のおっしゃる事も十分にあり得る」

ダリューン「……それはもっともなのだがな」

アルスラーン「本当にすまない、ダリューン……これからは慎もう」

ダリューン「いえ……」

ナルサス「…………」

ナルサス「なよなよした軍師の策など恐れるに当たらず!」

ダリューン「ほう……」

アルスラーン(そうか……自分について語れば良いのだ)

アルスラーン(さすがナルサス。 それとなく私に教えてくれたのだな)


ダリューン「ヘボ画家軍師など、気持ち悪いぞ!」

ナルサス「ぐはっ!?」

アルスラーン「ダ、ダリューン!」

ダリューン「は?」

アルスラーン「す、少し言い過ぎではないか?」

ダリューン「あ、いえ。 これは以前ヒルメ……銀仮面の男に言われてましたので」

ダリューン「ルシタニアの連中も使うかも、と、思ったのですが……」

ナルサス「そ、そそそ、そうだ、な……」 プルプルプル…

アルスラーン(……ナルサスにとって大ダメージの様だな)

ダリューン「すまない、ナルサス」

ナルサス「いや……気にするな」

ナルサス「お前の性格は熟知している」


アルスラーン「……ふむ」

アルスラーン「パルスでは、王太子が女装する伝統でもあるのか!」

ダリューン「で、殿下!?」

ナルサス(ご自分でも多少ご自覚があられるのだな……)

ダリューン「その様に御身自らを蔑むような事をおっしゃるのは……」

アルスラーン「うむ……自分で言ってて悲しくなってきた」

ダリューン「だ、大丈夫でございます、殿下!」

ダリューン「殿下は、このダリューンが逞しいと思っておりまする」

ダリューン「それではいけませんか?」

アルスラーン「ダリューン……ありがとう」

ナルサス(……はたから聞いたら色々と問題のある やりとりに聞こえてしまうのですが)


ダリューン「……ふと思ったのだが、ナルサス」

ナルサス「む?」

ダリューン「こういった言葉に耐性を持つのも重要だが」

ダリューン「逆にルシタニアの士気を落とさせる言葉を考えてみるのはどうだろう?」

アルスラーン「!」

ナルサス「……なるほど」

ナルサス「口撃は最大の防御、という事か」

ナルサス「一理ある」

ダリューン「字が違うが、言いたい事はまさにそれだ」

アルスラーン「ふむ……」

アルスラーン「ナルサス、敵軍を怒らせる事ができれば色々とできるか?」

ナルサス「冷静さを失った軍など烏合の衆にも劣ります、殿下」

アルスラーン「そうか。 ならば……」



―――――――――――


平原


     ドドドドドドド…

ヒルメス「ふん……アンドラゴラスの小倅めが」

ヒルメス「随分と大仰になったものよ」

サーム「ヒルメス殿下。 油断は大敵にございます」

サーム「ましてや、あちらには かの軍師ナルサスが付いておりまする故」

サーム「警戒するに越したことはありませぬ」

ヒルメス「わかっておる、サーム」


ザンデ「!」

ザンデ「殿下! 見えましたぞ!」

ザンデ「あやつら、声高に叫びながら前進してきておりまする!」

ヒルメス「うむ。 ……布陣を見る限り、様子見、というところか」

ヒルメス「…………」

ヒルメス「む?」

     ヒルメスー! 妾ノ子ー! 不浄ノ子ー!

サーム「」

ザンデ「」

ヒルメス「…………」

     ソノ銀仮面、ニアッテネーゾ!

     カッコイイトデモ思ッテンノカー!

ヒルメス「…………」


サーム「で、殿下!」

サーム「あの様な安い挑発に乗ってはなりませぬ!」

ザンデ「そ、そうですとも!」

ザンデ「ナルサスめ! この様な下劣な策を用いるとは!」

ヒルメス「……わかっておる、サーム、ザンデ」

ヒルメス「この程度の戯言で自分を見失うほど愚かでh」

     ドンダケ恨ンデルンダヨー!

     巨人二ナッテモ 妖怪二ナッテモ ウラミゴトー!

サーム「」

ザンデ「」

ヒルメス「なっ……!?」


     オマエノエンギ ドレモオナジナンダヨー!

     何聞イテモ オマエッテマルワカリー!

ヒルメス「言わせておけばッ!!」

サーム「で、殿下!」

サーム「ど、どうか! どうかご自重を!」

ヒルメス「中の人ネタは反則だろうが!?」

ヒルメス「この様な事が許せるか!」

サーム「お怒りはごもっともですが! どうかご自重を!」

     ヤーイヤーイ バーカ バーカ

ヒルメス「うがあああああああああああああああッ!!」

サーム・ザンデ(アカン)



この戦いの後、ルシタニア軍にも同様の煽りを与え、利用し

あっさり王都エクバターナを奪還した。

アルスラーンは、このエピソードから『煽り王』の異名をとり

近隣諸国からも恐れられたという……






終わり!

しょうもないオチですまぬ。
これ、アルスラーン戦記のウェブラジオのネタを参考に思いつきました。
梶裕貴さん大好きっす!
ラジオ・ヤシャスィーン面白いっすよ~(ステマ)

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom