響・貴音「さみしがりなあなたに」 (18)



いつもひとりで月を見る貴音が気になって、合宿の時についていったことがある。

月を見る目はまっすぐで、真剣で
何か考え事をしてるように思えて、自分は海沿いから少し離れて散策をした

潮風を阻む木は背が高くて、風で大きくしなってちょっぴり怖い


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ふいに、遠くから自分を呼ぶ声がして振り向くと
さっきまで月を見ていた貴音がこっちまで来ていた
息が荒くて声が揺れてるから、きっと走って来たんだろう
抱きしめられたときの貴音の体が熱くて驚いたけど、貴音は何も言わなかった


合宿が終わったあとも、自分は暇があれば貴音と月を見るようにしていた

ひとつ変わったのは、あの一件の後から貴音が自分の手を握るようになったこと
自分、あずささんみたいに迷子にはならないと思うんだけどなぁ



もし迷子になって帰ってこないようなことがあったら…
事務所の皆はどんな顔をするんだろう

「ね、貴音」

「自分がもしいなくなっちゃったらどうする?」



「……たかね?」

「たかね、痛いぞ」

涼しかった顔が一気に崩れて、手を握る力が強くなった

…同じ話をしたら、皆もこんな顔するのかな



一言謝ってから、貴音は少し考えて話始めた

合宿のとき、自分が離れていったことに気づいた貴音は長い間自分を見つけられなかったと言った
月の光が自分のいた場所まで照らさなくて、周りも暗かったから見つけるまで時間がかかったらしい


一呼吸おいて、貴音はゆっくりと告げる


自分を探してる時間が永遠のように長く感じられてとても恐ろしい思いをした

貴女の黒髪はとても綺麗ですが、闇にとけて見えなくなってしまうから
次に見失ったら本当に消えてしまうのではないかと思うと、不安で仕方ないのです、と



一言一句間違えず覚えてるつもりだけど、なんだか恥ずかしくて覚えてないところもあるかも

貴音がすごく真剣で緊張しちゃったんだよね

でも、このときに貴音がさみしんぼだってわかってから
二人で話す時間がもっと楽しくなったんだ


あ、そういえば今日は満月だっけ
また貴音が心配しちゃわないように、ちゃんと手にぎってあげなきゃね!







頭がくすぐったい。
何故か、というと長くなるのですが
簡単に原因を言うなら、響が私の後ろ髪に指を通して、直接私の頭を触っているから



彼女は、稀にこのようなことをします

する時は決まってホテル泊まりの夜、ベッドに入ってなかなか寝付けないとき

765プロにはまだまだお金が足りず、泊まりがけのロケの時は安めのホテルで二人ペアがお決まりのようなものなので、響と同じになることもまあ多いのですが

その度に、この不思議な行為は繰り返されるのです



私の指を一本一本確かめるように握ったり
髪を撫でたり
袖口の飾りで遊んでみたり、することは様々


その時の表情はいたって真剣で、何を考えているのかはまったく読みとれません



一度、あまりにも気になって途中で止めさせたことがあります

私の言葉を聞くと、眉を下げてごめんと謝り
その後機会があってもパッタリと触らなくなったのです



壁を向いて、体を丸めて眠る響になぜだか申し訳ない気持ちでいっぱいになり
とうとう耐えきれず声をかけました



するとまた浮かない表情で彼女はいいんだと謝るばかり

どうしようかと考えていたその時
目にはいったのは抱えられていた枕


もしかしたら、響は家族と離れて寂しいのではないか


それならホテル泊まりの時に起きることにも合点がいく




「響」

名前を呼びながら腕を掴むと、ささやかな抵抗
気にせず抱き寄せると落ち着いたように力が抜け、瞼が眠そうに下がっていきます


「響、これからも私を触って構いません。
それで貴女が安眠できるなら、私にとってもそれは喜ばしいことです」






それから、注意前よりは押さえ目に、響はまた私を触るようになりました

他の人とペアで泊まるときもこのようなことをするのかと聞くと、私だけだと言います

これが彼女から私への一つの信頼の表現であると思うと
多少のくすぐったさは全て幸せに変換されてしまいます


次にペアを組む日はいつになるのでしょうか
さみしがりな彼女が私を頼る日を心の片隅で期待する自分がいることに
この時はまだ気づいていなかったのです。






深夜テンションおーしまい
起きたら依頼だします

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