くるみ「お、ゆき。先輩といたのか」 (65)


くるみ「ったく、勝手に出歩くなっていつも言ってるだろ。みんな心配してたんだぞ」

ゆき「えへへっ、ごめんごめん」

くるみ「へへっじゃないっての。今日は日曜だってのに教室で何してたんだ?」

ゆき「ん~。特に何も!」

ゆき「ぼんやり黄昏てただけだよ」

くるみ「あんたがぼんやり、ねえ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441115786

くるみ「はぁ」

くるみ「先輩も先輩だぞ」クルッ

くるみ「どうしてゆきを注意してくれなかったんすか」

くるみ「……まあ、先輩はあたしらの中で一人だけ男だし? 気が引けるってのも分かるけど」

くるみ「はあ!? いやいや、嫉妬とかじゃないし! どうしてそうなんの!?」

くるみ「……なあ、ゆきも何とかいってくれよお」


ゆき「あ、ごめんねくるみちゃん。私は次移動教室だからそろそろいかないと」

くるみ「ん? そう、なのか? ……いやいや、だから今日は日曜だって」

ゆき「いひひっ。もう。もうもうもう。くるみちゃんったら素直じゃないなぁ」

くるみ「素直じゃない?」

ゆき「本当は一刻も早く先輩さんと二人っきりになりたいくせにぃ。私なりに気をきかせてみたんだよ!」

くるみ「なっ、なっ、なっ、何を言ってーー」

ゆき「それじゃあごゆっくり~」


ガララ……ピシャッ

ゆき「……」

ゆき「……」

トコトコトコ

トコトコトコ


ゆき「ふぅ」

みき「……ゆき先輩?」

ゆき「!」ビクッ


ゆき「み、みーくん?」

みき「はい、そうですけど」

ゆき「なーんだ、みーくんか。いきなり声がしたからびっくりしちゃったよー」

みき「にしてもあんなに驚きますか? 普通」

ゆき「いやほら、みーくんってなんかこうビシってしてるというか、クールな感じだからさ! つい」

みき「……」

ゆき「あっ! でもでも、だからといって怖いって言いたい訳じゃないの! ほんとに怖いとかちっとも思ってないんだよ! むしろみーくんは頼りがいがあるというか、クールでかっこかわいいというかーー」

みき「……あの、先輩」

みき「くるみ先輩に、会ったんですね?」

ゆき「うん。くるみちゃんとならさっき教室で会ったよ」

みき「じゃあくるみ先輩の先輩も……」

ゆき「そだよ。先輩さんも一緒だった」

みき「そう、ですか」

ゆき「それにしても先輩の先輩って……へへっ。みーくんが呼ぶと何だが面白い呼び方になっちゃうねえ。でも今更名前を聞くのも気まずいしなー」

みき「……」

みき「やっぱり先輩は、凄いです」

ゆき「んん? えっと、それは先輩さんのことを言ってるの? それともくるみちゃん?」

みき「ゆき先輩に決まってるでしょう」

ゆき「わ、私!?」

みき「いや驚かないでくださいよ。むしろゆき先輩以外に誰がいるんですか」

ゆき「え、でもすごいって……ウソ。もしかして褒めてくれたの? あのみーくんが!?」

みき「"あの"ってどういう意味ですか!?」 

ゆき「皮肉じゃないよね?」

みき「皮肉なわけないでしょう! というより私、前にも似たようなこと言いましたよね!?」


ゆき「いひひっ。……みーくん、怖い感じがなくなったね。緊張はぼくれた?」

みき「あっ……」

ゆき「ま、これでもみーくんより一つ年上だからね! 後輩の緊張をほぐすぐらい、なーんてことないよ!」

みき「先輩……」

ゆき「どう? 見直した? 凄い? へへっ、なんならもっと褒めてくれてもーー」

みき「やっぱりさっき、私のこと怖いと思ってたんですね」

ゆき「あっ」


ゆき「ち、違う違う違う! 怖いとか思ってない! 思ってないよ! 全然、これっぽっちも思ってないからね!」

みき「……ふふっ。いいですよそんな必死にならなくても。わたし先輩の言うこと信じてますから」

ゆき「ほ、ほんとに?」

みき「先輩に嘘をつく悪知恵なんかないでしょ?」

ゆき「みーくん大好きっ!」ガバッ

みき「せ、先輩!?」

ゆき「えへへ~」

みき「は、離れてくださいよ」

ゆき「照れるみーくんも可愛いなあ」

みき「て、照れてなんかーー」


みき「ーーっ!」


みき「……」

ゆき「みーくん?」

みき「……ごめんなさい。ほんとに離れて貰っていいですか」

ゆき「ほいっ」

みき「……ちょっと、行ってきます」

ゆき「あ、うん」



トコトコトコ



みき「……」


みき「………………けい?」

みき「どうしたの? こんなところでうずくまって」

みき「怪我? ああ、脚挫いちゃったんだ」

みき「痛い? そうだよね。しばらく歩くのは無理か」

みき「大丈夫。私がついてるから」

みき「ははっ。今更何言ってるの。私たち親友でしょ」

みき「当たり前だよこれぐらい。一々気にしないでいいのに」


みき「先輩」

ゆき「ん、どしたの?」

みき「けいがちょっと怪我しちゃったみたいで」

ゆき「みたいだね。私に何か手伝えることある? りーさん呼んでこようか?」

みき「いえ。そこまで大きな怪我じゃないみたいなので。隣の教室でちょっと休んでれば大丈夫だと思います」

みき「ただ今日の部活には私たち。遅れるかもしれないので、そのことを伝えて貰えると助かります」

ゆき「わかったよ。ちゃんと伝えておく!」

ゆき「でもやっぱり私に何か頼りたいことがあったら遠慮せずに言ってね!」

みき「心配には及びません。その場合はくるみ先輩かゆうり先輩に頼みますから」

ゆき「そ、そんなー。みーくん酷いよー」

みき「冗談ですよ。ちゃんとゆき先輩にも頼りますから安心してください」

ゆき「ほんと? 約束だよ?」

みき「はい」

ゆき「約束だからね! じゃあもう私はいくよ。けーちゃんもお大事に!」

タッタッタッタッタッ

みき「もう落ち着きないなあ。……ふふっ、困った先輩だと思わない、けい?」

ゆき「……はあっ」

タッタッタッタッ

ゆき「っ……ハアハアッ」

タッタッタッタッ

ゆき「ん、ぐ…………くすん」

タッタッタッタッ

ゆき「はあっ、はあっ…………ーーっ!?」グキンッ


ゆき「いだあっ!?!?」

ゆき「…………あはは。私まで挫いちゃった。全力で走り過ぎちゃったかな」



ゆうり「ゆきちゃん! どうしたの!?」

ゆき「りーさん……」




ゆき「いででっ! た、タイムッ! それ、染みるよりーさん!」

ゆうり「だーめ。消毒液を塗らないと後で大変よ」

ゆき「りーさんのいじわるー……いたっ」

ゆうり「もう。廊下で走っちゃいけませんっていつもあれだけ言ってるのに」

ゆき「う~……」

ゆうり「これで擦り傷に関しては問題ないわね」


ゆうり「後は捻挫だけど……。こっちもじっとしてればすぐに治るでしょう」

ゆき「えー。ってことは歩けないのー?」

ゆうり「そうなるわねえ。下手に動く悪化する恐れもあるから……」

ゆき「悪化しちゃうの!? じゃあ我慢するしかないかー」

ゆうり「偉いわね、ゆきちゃん」

ゆき「あ、でもでもー。お手洗いに行く時とかはどすればいいのー?」

ゆうり「その時は私も付きあうわ」

ゆき「り、りーさんが……?」

ゆうり「ええ。そうだけど……何か問題ある?」

ゆき「だ、だって、私恥ずかしいよ。そんな……」

ゆき「りーさんに下のお世話までしてもらうなんて!」

ゆうり「私がするのはトイレまでおんぶで運ぶだけです。そこからはゆきちゃんが自分で、ね?」


ゆき「あ、なーんだ。いひひっ。私ってば早とちりしちゃった」

ゆうり「もう」

ゆうり「でもそうね……。力仕事なら私よりもくるみに任せた方がいいかしら」

ゆき「あ、駄目だよりーさん」

ゆうり「ダメ……?」

ゆき「くるみちゃんは先輩さんと二人っきりでロマンティックな時間を過ごしてるんだから」

ゆき「邪魔したら可哀想だよ!」

ゆうり「先輩さんーー陸上部のOB、でしたっけ?」

ゆき「そう。くるみちゃんの本命彼氏候補だよ!」

ゆき「ちなみに対抗がりーさんで大穴がみーくん!」

ゆうり「あら。私が対抗なの? でもそれだと彼氏候補じゃなくて彼女候補になっちゃうわね」ニコッ

ゆき「あっ、そっか」

ゆうり「…………そうね。とにかくそういうことなら、くるみはそっとして置くことにしましょう」

ゆうり「それならーー」

ゆき「みーくんも駄目。今は手が離せない」

ゆうり「あら。どうして?」

ゆき「けーちゃんが足を挫いちゃったみたいでさ」

ゆき「部活も遅れて来るかもって」

ゆうり「けーちゃん……?」

ゆき「うん。けーちゃん」

ゆうり「えっと、それって……」

ゆき「けーちゃんはけーちゃんだよ」


ゆうり「祠堂圭さん、だったかしら」

ゆき「そうそう。確かそんなお名前」

ゆうり「……そっちにも会っちゃったのね」ボソッ

ゆき「え? 何て言ったの」

ゆうり「何でもないわ。しばらくゆきちゃんを独占し出来るのかーって思っただけよ」ニコッ

ゆき「あ、あれえ? 何でだろう。りーさん、なんか怖いよー」

ゆうり「仕方がないわ。動けない今のゆきちゃんは、まな板の上の鯉なんだもの」

ゆき「こ、鯉? 私料理されちゃうの……?」

ゆうり「さあて。どうでしょうね」ニコっ

ゆき「!」

ゆき「ーーく、くるみちゃーん! みーくん~! 助けてー! りーさんに襲われるーっ!」

ゆうり「え、ちょっと、ゆきちゃん」

ゆき「襲われるぅぅーーっ! りーさんに食べられちゃうぅぅーーっ!!」

ゆうり「めっ」

ゆき「いでっ」

ゆうり「悪ふざけも程々に。騒ぎ過ぎちゃダメよ。日曜日とはいえ、人がいるんだから」

ゆき「うぅ~。ごめんなさーい」

ゆうり「分かってくれればいいの」

ゆき「……」

ゆき(目がちょっと本気っぽかった)


ゆき「でもなー。何だがなー」ぷくーっ

ゆうり「あら。ほっぺが風船みたいになってるわ」

ゆき「だってさ、だってさ。あーんだけ騒いだのに二人とも来てくれないなんて酷いよー」

ゆうり「二人とも忙しいってゆきちゃんが言ってたじゃない。仕方がないわ」

ゆき「それにしたって、ああいう時くらい駆け付けてくれてもいいのにー」

ゆき「くるみちゃんやみーくんは、いつだって先輩さんやけーちゃんとお話出来るんだからさ」

ゆうり「……っ」


ゆうり「……仕方が、ないのよ」

ゆき「え?」

ゆうり「…………それだけ好きだった、ってことなんだから」

ゆき「……」

ゆうり「だから、私にはいいけど。あんまり二人にわがまま言って困らせちゃダメよ?」

ゆき「……うん。ごめんなさい」


ゆき「でもねりーさん」

ゆうり「なあに」

ゆき「一つだけ、間違ってる」

ゆうり「間違い?」

ゆき「好きだった、じゃないよ」

ゆうり「っ……!」

ゆき「くるみちゃんは先輩さんのことが、みーくんはけーちゃんのことが」

ゆき「今も大好きなんだよ。ただそれだけなんだよ」

ゆうり「ゆきちゃん。あなたやっぱりーー」

ゆき「うん」

ゆうり「……そう。ほんとはとっくに気付いてたのね」

ゆうり「"先輩さん"や"けーちゃん" のことなんか始めから、見えてなかったのね」

ゆき「ごめんなさい。騙すつもりはなかったんだ」

ゆうり「謝らないでいいわ。……薄々、そうじゃないかと思っていたから」

ゆき「ええー? うそだ~。私結構上手く見えてる振りしてたつもりだよー」

ゆうり「……だってゆきちゃん、"先輩さん"や"けーちゃん"が部室にいる時はいつも口数少なくなっちゃうでしょう?」

ゆうり「ゆきちゃんが圭さんのことけーちゃんって呼ぶのも今日始めて知ったくらいだし」

ゆき「いひひっ。なーんだ。やっぱりりーさんには敵わないなあ」


ゆうり「……ねえ、ゆきちゃん。もうひとつ聞きたいことがあるの」

ゆき「なになに? ここまで来ちゃったからには何だってゲロっちゃうよ!」

ゆうり「……その、やっぱりめぐねえも、もう、見えないの?」

ゆき「うーん」

ゆうり「……」

ゆき「そうだねえ。ーーいつだったかなあ。最後に会ったのは」

ゆうり「……っ」

ゆき「これでもね感謝してるんだー」

ゆき「めぐねえとお別れ出来たのは、皆のおかげだから」

ゆき「いひひっ。改めて言うと恥ずかしいなぁ」

ゆき「でもーー」

ゆき「くるみちゃんも、みーくんも、りーさんも」

ゆき「皆して私を支えてくれたでしょ」

ゆき「ただですら大変で、一杯一杯な時に、文句一つ言わずにさ」

ゆき「そんなみんなに囲まれてる私を見てたから、なんというか、めぐねえも安心してバイバイしてくれたんじゃないかなぁ」

ゆき「だからね。思うんだー。今度は、今度こそは私がみんなの力になりたーーーー」

ゆうり「ゆきちゃんっ」ギュゥッ

ゆき「り、りーさん?」


ゆうり「無理しないで」

ゆき「無理?」

ゆうり「今だけは、無理しないでいいのよ」

ゆき「な、何を言ってーー」

ゆうり「ほんとは。変わっちゃった二人をみて、悲しかったのよね?」


ゆき「そ、それは」

ゆうり「何もいない場所に向かって延々と語りかけてる二人を見て辛い思いをしたのよね」

ゆき「私は、別に、そんなこと思って……」

ゆうり「隠さなくていいの。私も、本音を言うとそうだから」

ゆうり「変わってしまった二人を見る度にむねが締め付けられる 」ギュゥゥ

ゆき「りーさん……」

ゆうり「ゆきちゃんが今日教室に居たのだって……つまりそういうことなのよね」

ゆき「……」コクン


ゆうり「めぐねえとお別れしたことを隠したのだって私たちに気をつかってくれてたのよね?」

ゆき「…………うん」

ゆうり「いいのよ」

ゆうり「もう、我慢しなくていいの」

ゆき「グスッ……う、ううううっ」

ゆうり「よしよし」




ゆき「うっく……ヒッグ…………へくちゅんっ!」

ゆうり「うふふっ。もう落ち着いた?」

ゆき「う~。すっきりした!」

ゆうり「そう。それなら良かったわ」

ゆき「うん! でもすっきりしたら何だか……えへへ、喉乾いちゃった」

ゆうり「はい、お茶。ペットボトルだけど」

ゆき「流石りーさん。手際がいい」

ゆき「ごくごく……ぷはぁっ! やっぱりりーさんの入れたお茶はおいしいねぇ」

ゆうり「そう言ってくれるのは嬉しいけど。ペットボトルのお茶に誰が入れたとか関係ないじゃない」ニコッ

ゆき「ふふーん。甘いよ。大甘だよりーさん。大事なのはらーさんが近くに居てくれるということなのだ!」

ゆうり「あらそう」ニコニコ

ゆき「あり?」

ゆうり「どうかしたの」

ゆき「何だかいつもよりご機嫌だね? りーさん。何かちょっとこう、怖いくらいに」

ゆうり「怖いとは酷い言い草ねぇ」


ゆうり「でもそうね。機嫌が良いのは確かね」

ゆき「ほうほう。してその心は?」

ゆうり「ほんとは二人に合わせてたこと。めぐねえとお別れしたこと。ゆきちゃんが正直に打ち上けてくれたのが嬉しくて」

ゆき「……えへへっ。前からいつか言わなきゃって思ってたし。いい機会かなって」

ゆうり「それでも、よ」ナデナデ

ゆき「……ん」

ゆうり「これからは、辛い時は遠慮せずに頼っていいのよ」ナデナデ

ゆき「……いいの、かな? 私、また頼っちゃっても、いいのかな?」

ゆうり「当たり前でしょ。私たちは仲間なんだから。助け合わないと」ニコッ

ゆき「……いひひっ。それじゃあ早速お言葉に甘えて」


ゆうり「え、ちょっと。な、何するの?」

ゆき「うりゃー」

ゆうり「んっ、くっ……ふふっ。くすぐったいわ。顔でお腹をグリグリするの反則ーーっ!」

ゆき「うりうりー」

ゆうり「……」

ゆき「このこのー」

ゆうり「…………」

ゆき「?」

ゆうり「…………あらあら」

ゆき「りーさん? どうしたの?」

ゆうり「ゆきちゃん、ちょっとごめんね」

ゆき「うん」



トコトコトコ



ゆうり「もう。何してるの?」

ゆうり「るーちゃん」

ゆうり「そんな所に隠れてないで。こっちにきていいのよ」

ゆうり「ゆきちゃん? 今はちょっと足を挫いてるから……」

ゆうり「ああ、そういうこと。るーちゃんもゆきちゃんが心配なのね」

ゆうり「ふふっ。優しいのね。るーちゃんは」

ゆうり「ううん、何でもないの」

ゆうり「とにかく。そういうことなら一緒にゆきちゃんを看病しましょうか」ニコッ

ゆき「り、りーさん……」

ゆうり「ゆきちゃん。るーちゃんが脚にテーピングしてくれるそうよ」ニコッ

ゆき「う、うん」

ゆうり「ほおら。いつまでもそんな所にいないでこっち来なさい」トコトコ……ギュッ

ぬいぐるみ「……」

ゆき(…………めぐねえ)


ゆうり「はい。これをゆきちゃんの脚に巻いて、固定するの」

ぬいぐるみ「……」

ゆうり「るーちゃん?」

ゆき「る、るーちゃんにはちょっと、難しいんじゃないかな?」

ゆうり「うーん。そんなことはないと思うんだけどな」

ぬいぐるみ「……」

ゆうり「でもいいわ。一緒にやりましょ。手を持っててあげる」ニコッ

ゆき「……」


ゆうり「はい、出来た」

ゆうり「無理に動かそうとしなければすぐに良くなるはずよ」ニコッ

ゆき「うん。ありがと、りーさん」

ゆうり「ふふっ。お礼ならこの子に言ってあげて」

ぬいぐるみ「……」

ゆき「…………ありがとね。るーちゃん」

ぬいぐるみ「……」

ゆうり「良かったわね。るーちゃん。……もう、あんまりはしゃがないの」

ぬいぐるみ「……」

ゆき(……りーさん)

ぬいぐるみ「……」

ゆうり「ん? なあに? どうしたの」

ぬいぐるみ「……」

ゆうり「そう。分かったわ」ニコッ

ゆうり「そういう訳だから。ゆきちゃん。そのお茶、るーちゃんに飲ませて貰っていいかしら」

ゆき「え。る、るーちゃんに……?」チラッ

ぬいぐるみ「……」


ゆき「るーちゃん……喉が渇いてるの?」

ゆうり「ええ。聞こえてたでしょ?」

ゆき「そ、それならさ。私の飲みかけなんかじゃなくて、未開封のをーー」

ゆうり「いいえ」

ゆうり「"それ"を"ゆきちゃんに"飲ませて欲しいみたいなの」

ゆうり「るーちゃんは、そう言ってる」

ぬいぐるみ「……」


ゆき「で、でもーー」

ゆうり「いいから」

ゆうり「早く」

ゆうり「るーちゃん、さっきから喉乾いたって泣いてるじゃない」

ゆうり「早くして」

ゆき「………うん。分かった。…………分かったよ」

ぬいぐるみ「……」

ゆき(めぐねえ。ごめん。……許して)

ゆき「……はい、るーちゃん」

ぬいぐるみ「……」

ビチャビチャビチャビチャ

ゆうり「あら、るーちゃんったらとっても美味しそうに飲むのね」ニコッ

ゆうり「でも、ゆきちゃん。もうちょっと丁寧に飲ませてあげないと。床にちょっとお茶が零れちゃってるわ」

ゆき「…………ごめんなさい」

ゆうり「いいわ。後で拭いておくから」ニコッ

ゆき(……えへへっ)

ゆき(何やってるんだろ、私)

ゆき("こうなること"は分かってたはずなのに……)

ゆき(何だか……すごく、疲れちゃった……)

ゆき「………………眠い」

ゆうり「あら。それなら安心してぐっすり寝むるといいわ。夕飯のときには起こすから」ニコッ

ゆき「…………うん。おやすみなさい」

ゆうり「おやすみ」



くるみ「ほう。今日は夕飯も缶詰かあ」

みき「くるみ先輩は贅沢ですね。私は三日三晩缶詰めでもおいしくいただけます」

ゆうり「本当にゆきちゃんは美味しそうに食べるわねぇ」

みき「食べられるだけありがたいですから」

くるみ「ま、たしかに贅沢言ってらんないご身分だしなぁ……っと」くるっ

くるみ「何すか、先輩?」

くるみ「…………いやいや。あ~んとか普通に出来ませんから。意味わかんないし」

くるみ「べ、別に嫌ってわけじゃ、ないけど。その……」

くるみ「とにかくあ~んはなしっ!」


みき「くるみ先輩、また……」

みき「……うん。分かってる。仕方がないんだよね」

みき「もう、心配しないで大丈夫だってば」

みき「私たちが、頑張らないとね。けい」

ゆうり「……違うわ。違うのよ、るーちゃん」

ゆうり「皆何もないところに話してるんじゃないの」

ゆうり「私たちには見えないだけで、ちゃんとそこに"いる"のよ」

ゆうり「んふふっ。るーちゃんにはちょっと難しい話だったかもしれないわね」ニコッ

ゆき「……」

くるみ「ーーっておいおい。いつもがっついてるゆきが今日はどうした」

ゆき「え?」

みき「……食欲、ないんですか?」

ゆうり「熱でもあるの?」

ゆき「あっ、ううん。そういう訳じゃ、ないんだけどーー」

ゆき「……ねえ皆」

ゆき(最近、学校が好きだ)

ゆき(そう言うと変だって言われそうだけど)

ゆき(辛いことも悲しいこともたくさんあるけど)

ゆき(それでもーー)

ゆき「皆、大好きだからね」ニコッ

くるみ「おいおい、いきなりどうしたんだよ」

みき「……先輩はいつも突拍子もなさすぎます」

ゆき「えへへっ。何かね。何となく今言いたくなったんだ」

ゆうり「ふふっ。私もゆきちゃんのこと、好きよ」

くるみ「ったく。よくそんなこっぱずかしいこと言えんなあ。ま、あたしも気持ちはおんなじだけどさ」

みき「…………今更口に出していうまでもないことですからね」

ゆき「いひひっ」

ゆき(皆が居てくれるから、楽しい)

ゆき(だからーー)クルッ

ゆき「これで、いいんだよね? めぐねえ」

糸冬

くぅ~。これにて完結です
これ以上は続きが思い浮かばなかった
読んでくれた人ありがとう

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom