勇者「ごめん…僕、勇者じゃないんだ」巫女「え…?」(47)

― 北大陸 南西街道 ―

… 夜 …

女銃士「…zzz…」スゥ…スゥ…

巫女「女銃士さん、寝ちゃいましたね…幸せそうな寝顔です」フフ…

旅人「全く、野営の時は酒を控えろとあれほど…あの飲みっぷりじゃ、明日はほぼ間違いなく二日酔いだな…」ヤレヤレ…

女銃士「…なんらとぉ~!…誰がひんぬ~だ、こらぁ!…ムニャムニャ…」zzz…

旅人・巫女「「ぷっ…あははは!」」

巫女「一体どんな夢を見てるんでしょうね」フフ…

旅人「どうせ、ロクでもない夢だろ?……けどやっと北大陸に来られたね」

巫女「はい!やっと北大陸ですっ!……あの…勇者様、わた…」

旅人「…なぁ、巫女。僕を勇者って呼ぶの止めてくれないか」

巫女「え…?あ!…そうですよね…勇者様は世を忍ぶ為にわざわざ旅人の格好をしてるんでしたよね…すみません、私ったら…」アセアセ…

旅人「…そういうことじゃ…ないんだ…」

旅人「僕…本当は勇者なんかじゃないんだ…」

巫女「………」

旅人「言い出すタイミングが掴めなかったって言うか…その…今まで黙ってて…ごめん…」

巫女「…知ってました…というよりは、もしかしたらと思っていた程度なんですけどね」

旅人「いつから気付いてたの?…それより気がついていたならどうして僕をずっと勇者って呼んでたんだ?」

巫女「いつから…というか旅をする中で気になることがいくつかあったので…」

旅人「…そうか」

巫女「それと私が…た、旅人さんをそれでも勇者様とお呼びするのは…」モジモジ…

巫女「…私にとっての勇者様は…旅人さんだから…」ゴニョゴニョ…

旅人「…巫女?」キョトン…

巫女「わ…私の勇者様は旅人さんなんですっ///…お、おやすみなさい!」ソソクサ…

旅人「あ…あぁ///…おやすみ…」ポリポリ…

巫女(勇者様は…旅人さんは…誰が見たって本物以上に本物の勇者様ですよ…)

巫女(偽物は…まがい物は私の方です…私は…まだそれをあなたに話す勇気が持てません…)

巫女(…勇者様と旅をして、もう半年になるのに…)

旅人(さて…この辺は魔物もほとんどいないみたいだし…焚き火を消して僕も休もうかな。)ザッ…ザッ…ジュウゥ…プスプス…

女銃士「…。」ムクッ…スッ‐…

… 半年前 …

― 西大陸 大樹の森 ―

巫女「よっと…これくらいあればいいですよね」

巫女「後はこの薬草を村の薬師さんの所に持って行くだけです♪」

巫女「それにしても…ん~っ…今日もいいお天気ですねぇ」ノビー…

…ガサガサ…ザザッ!…スタッ!…

魔狼「…グルルルル…!」ジリジリ…

???「あ!…危ない!…そこの君!…後ろを見ろ!!」ザッ!!

巫女「え?…!?…嘘!?…こんな所にまで魔物が!?」ビクッ!…

???「君!…ここは僕に任せて早くここから離れろ!」

巫女「で…でも!足が震えて…それにあなた、丸腰じゃないですか!!」ガクガク…

巫女(あれ?そういえばこの人…見たこともない様な服着てる…)

魔狼「ウオォーーン!!」

???(…人前でこれを使うのはダメなんだけど…こんな状況じゃ四の五の言ってられないよな…仕方ないか…)

魔狼「ウゥーッ!!」

???「…」スッ…

巫女(…?…この人、こんな時に腕輪なんか触って、何してるのかしら?)

― カッ! ―

腕輪「…スーツ展開完了…」

巫女(…!?…腕輪がしゃべった!?…それに目の前の男の人が…不思議な形の白い鎧に包まれて…!?)

???「さて…と」

魔狼「グルルル…!!」シュバッ!!

…ガッ!!…ギリギリ…

魔狼「…!?」

巫女(…凄い!…こんな大きな狼の魔物の突進を片手で…止めちゃった)

魔狼「グウゥ…!!」ジタバタ!

???「この!…おとなしくしろ!!」カチャ…

巫女(あ…今度は腰の部分から小さな筒みたいなのを…)ジー

腕輪「…高周波ブレード…形成…」ヴゥーン…

巫女「赤い光の…剣!?」

???「くらえッ!!」ヴゥン!

…ザシュウゥ!!…

魔狼「ギャン!?」ジュウゥ!…プスプス…

…ドッシャアァ!…

腕輪「目標の排除を確認…スーツを解除します…」

― カッ! ―

???「ふー…とりあえず何とかなったね…怪我はないかい?」

巫女「は…はい…ありがとうございました。…あの、あなたは?」

???「僕は……そ、そう!…旅人さ」

巫女「旅人…さん?」

まさかコンバットスーツか?

旅人「あぁ…そういえば君は…」

巫女「あ!…申し遅れました!…私は巫女って言います。危ないところを助けて頂いてありがとうございましたっ!!」ペコリ

旅人「どういたしまして…それより…」

巫女「あ、あのっ!…旅人さん!!」ガシ!

旅人「な…なにかな?」

巫女「旅人さんは…本当はただの旅人さんじゃないですよね?」キラキラ…

旅人「どうして…そう思うの?」ギクッ…

巫女「さっきの神秘的な白い鎧…不思議な腕輪…そして…赤い光の剣…そしてその見た事もない異邦の服から察するに、旅人さん、あなたは…」

旅人「ぼ、僕は?」アセアセ…

巫女「伝説の勇者様…ですよね?」キラキラ…

旅人「……は?…勇者??…僕が???」キョトン…

巫女「旅人のフリをしていらっしゃるのは世を忍ぶ為の仮の姿なんですよね!」ウンウン…

巫女「それより助けて頂いたお礼をさせて下さい!…近くに私達の村があるんです!…さぁ!行きましょう♪」グイグイ…

旅人「あ…ちょっと!…引っ張らないで!」ズルズル…

旅人(何か変な事に巻き込まれちゃったな…けどこの世界の情報が何も分からない今は従っておいた方が利口…かな…)ヤレヤレ…

― 西大陸 大樹の森の村 ―

巫女「着きました!ここが私達の村です」

旅人(これは…いつか歴史の授業で習った中世後期の風景にそっくりだ…)

巫女「…?…どうしたんですか?勇者様?」

旅人「あ…あぁ…何でもないよ…とてもいい所だね。自然が溢れてて、何より空気が綺麗だ」スー…ハー…

巫女「ふふ…それだけが取り柄の村ですからね。…それから…」

…ザッザッザッ…

巫女「…ここが私の家です…私は今から森で摘んだ薬草を薬師さんに渡して来るので中に入って少々お待ち下さいっ」ニコ…

旅人「分かった…それじゃあ、上がらせてもらうよ」

…ガチャ…バタン…


…………

………

……

― 大樹の森の村 巫女の家 ―

旅人「おじゃまします…」

旅人(誰もいない…あのコはここに一人で住んでるのかな?)

旅人(…まずはこの世界…この星についての情報が欲しいな…)

旅人(まさか最新鋭の小型宇宙船がワープ中の超空間内でトラブルを起こすなんてなぁ…)

旅人(機体が大破しなかったのはいいけど、こんな未開惑星の近くに飛ばされて不時着するハメになるとはね…)ピッ…ピピ…

腕輪「…ザザ…ザ…ザー…」

旅人「救難信号を送ろうにも…ネットワークの圏外か…まぁ当たり前と言えば当たり前だよね…」

旅人(まぁ…宇宙船のシステム自体は生きてて、森の中でステルスかけておいたから見つけられる心配はないし…)

旅人(自己修復プログラムで自動的に修復はしてくれてるものの…エンジン周りのトラブルだけにどれだけ時間がかかることやら…)ハァ…

旅人(それよりここは…銀河系からどれくらい離れたところなんだろ?)

…ガチャ…バタン…

巫女「お待たせしてすみません!…今戻りました!」

旅人「おかえり…って僕が言うのも何か変だね…君の家なのに」ハハ…

巫女「あはは…それもそうですね。」

あれ?これクロードじゃね?

巫女「はいどうぞ!…紅茶です」スッ…

旅人「ありがとう…」ズズ…

旅人「あの…さ…巫女ちゃん?」

巫女「巫女でいいですよっ!…それよりなんですか?」

旅人「このほ…この世界って…何ていう名前なのかな?」

巫女「え…どうしたんですかいきなり?…この世界の名前はチキュウですけど…?」

旅人「…!?…チキュウ!?…え?…えぇ??」

巫女「勇者…様?」

旅人(チキュウ?…地球?…バカな!?…銀河連邦の加盟星の一つである地球はこんな未開惑星なんかじゃ…)

旅人「…!…そうだ…地図…世界地図を持って来てくれないか?」

巫女「それならそこの本棚の中に…」

…ガタッ!…

旅人(…!…同じ…大陸の形が全部同じだ…!!…どうなってるんだ!?)

巫女「…??」

旅人(まさか…あのワープ時のトラブルで位置座標じゃなくて…時間軸の座標を移動して過去に来てしまったのか…!?)

旅人(けど…僕の宇宙船に時間軸移動【タイムジャンプ】の機能なんてないし…そもそも理論上可能なだけで実際にそんな技術は…)ウーン…

巫女「勇者様…もしかして…紅茶、お口に合いませんでしたか…」オロオロ…

旅人「あ、いや…そんなことないよ…この紅茶、凄くおいしいよ…」ハ…ハハ…

旅人(……)

巫女「そうですか…良かったぁ!」ニパ!

旅人(それに、だ…もしここが過去のチキュウだったとして…さっきのあの“魔物”とやら…)

旅人(あの冗談みたいな生物はどう説明する?…確か中世時代の地球にあんな体の大きな狼はいなかったハズだ…)

旅人(何がどうなってる…?分からない…分からないことだらけだ…)

巫女(勇者様…ひどくお疲れのようですね……。あ!…そうだ!)

巫女「勇者様!今日はこれからどこかへ行く予定はあるんですか?」

旅人「…今の所は特に…」

巫女「じゃあ今日は私の家に泊まっていきませんか?」

旅人「ありがたいけど…流石にそれは…」

巫女「奥の部屋にもう一つベッドもありますし…」チラッ…キラキラ…

旅人「じ…じゃあ…お言葉に甘えさせてもらおうかな…」

巫女「やったぁ!!…じゃあ早速、奥の部屋を掃除してきますね!」

マスリレイ?

キリが悪いけど今日はこのへんまでにしときます。

支援する

おつおつ


巫女さんがレナみたいにウザい女になりませんようにっ…!

― 巫女の家 奥の部屋 ―

巫女「さ~て!勇者様の為に頑張ってお部屋を綺麗にしますよ~」サッ…サッ…

巫女(…お姉ちゃん…今日は勇者様の為にお部屋を使わせてあげて下さいね…)

巫女「お姉ちゃん…私もとうとう…」

巫女(“大樹の巫女”としての使命を担う時が来てしまいました。…けど…)

巫女(…伝説の存在だと思われていた勇者様が現れたんです!…勇者様なら…私を…私達“大樹の巫女”を…救って下さるかもしれません!)

巫女「…勇者様」

…………………

― 夜 ―

旅人「巫女は料理も上手なんだね」カチャカチャ…

巫女「いえ…とんでもないです。それより勇者様…今日はもうお疲れでしょう?…食器の後片付けくらい、私が…」アセアセ…

旅人「気にしないで…泊めてもらうのは僕の方だし、これくらいさせてもらわないとね」キュッ…キュッ…

旅人「これでよしっと…じゃあ今日はそろそろ休ませてもらうよ」ふぁ~

巫女「あ…はい!…おやすみなさい…」

旅人「あぁ…おやすみ」スタスタ…

― ???? ―

化学者「気分はどうかね…101号?検査の為とはいえ、カプセルの中で一日中寝たきりでは感覚が鈍るだろう…体に異常はないか?」

101号「いえ…問題ないですよ」ニコ…

(あぁ…またこの夢か…最近はとんと見なくなってたんだけどな…)

化学者「それならいいんだ。君は遺伝子操作で人類史上の偉大なる“英雄達”長所を全て受け継いだ、ヒトを越えた特別な存在なのだからな…」

化学者「君はこのプロジェクトの初の完成形にして人類の新たな可能性なのだから…無茶をされては困るよ…」

101号「あはは…大げさですって…僕はそんな凄いモノではありませんよ」ハハ…

(…何が新たな可能性だ…ヒトを越えた“特別”な存在だ…)

(…この体も、心も造りモノ…要はただその“英雄達”の長所をつぎはぎにして、くっつけただけじゃないか…)

(…僕は…そんなワケの分からないモノになんかなりたくなかった…)

(…僕は…ただただ普通の一人の人間として…特別な一個人として生きたかった…)

(…僕は…特別な存在になりたい…)

― 深夜 ―

旅人「う…うぅ……ハッ!」ガバッ!

旅人「はぁ…はぁ…。イヤな夢を見てしまったな。お陰で汗がびっしょりだ…喉が…乾いたな…」

…スタスタ…

― 巫女の家 台所 ―

旅人「(ゴクッゴクッ)…ぷはぁ!…冷たくておいしい。…しかし水瓶から水を飲むなんて初めての経験だな」ハハ…
???「……………」

旅人「ん?…入り口の方から誰かの話声が…」ソーッ…

巫女「いえ…気に病まないで下さい、司祭様」

旅人「…巫女?…こんな時間に誰と話して…??」

旅人(盗み聞きなんてあまり誉められた事じゃないけど…気になる…)スッ…

司祭「すまないな巫女…君はまだこんなに若いのに…“魔王”の復活を阻止するためのイケニエにならなければならないなんて…」

旅人(おいおい!…今なんて!?…“魔王”!?…それに“イケニエ”って!?)

巫女「いいんです。それが私の…“大樹の巫女”としての役目ですから…司祭様もご存知でしょう?」

司祭「それは分かっているが…神も残酷なことをなさる…君のお姉さんの次は…君が“魔王”のイケニエにならねばならないなんて…」

巫女「仕方の…ないことです…私は今まで十分すぎるほどに生きさせてもらいましたから…」ニコ…

旅人(巫女が…イケニエ!?…過去に巫女のお姉さんも!?…そうか、だから一人暮らしなのにこの家にはベッドが二つあったのか…)

司祭「せめて巫女…君に神の御加護があらんことを…」

司祭「では、私はこれで…」ザッザッザッ…

巫女「はい…お休みなさい、司祭様…」ペコ…

巫女(“大樹の巫女”…世界の希望たる特別な存在…。)

巫女「私は…特別な存在になんかなりたくなかった…できることなら普通の女の子として生を受けたかった…」ボソ…

旅人(巫女…君は……)グッ…

旅人(何とかして巫女を助けてやれないだろうか…。)

旅人(…!…そうだ!…今の僕は…!!)

101だと?

…関係無いかな

― 翌日 朝 ―

… 巫女の家 リビング …
旅人「おはよう」

巫女「あ!…おはようございます勇者様!…朝御飯の支度ができたので今丁度起こしに行こうかと…」

旅人(巫女…目の下にクマができてる…昨日はあまり寝られなかったんだろうな…)ジー

巫女「どうしたんですか?勇者様…私の顔に何かついてます??」キョトン…

旅人「いや…何ていうか、気のせいかもしれないけど、君がどこか疲れた顔をしてるように見えてさ」

巫女「そ、そんなことないですよ!…それよりさっそく朝御飯にしましょう!」

旅人「あぁ…けどその前に君に話があるんだ。」

巫女「私に…?」

旅人「なぁ…巫女。君は“魔王”の復活を阻止するためにイケニエにならないといけないんだろ?」

巫女「…!?…どうしてそのことを!??」

旅人「何でって…当たり前じゃないか。僕は勇者だからね」

旅人「魔王を倒して…君を助ける為にここに来たんだから!」ニコ!

巫女「ゆ…勇者様ッ!」ガバッ!
巫女「私…わだじ…グス…うわ~ん!!」ギュッ!

巫女「私、辛かったんです!誰も私の気持ちなんて分かろうとしてくれなくて…ヒック…みんな…みんな笑顔で私にこう言うんです!!」プルプル…

巫女「“世界を救ってくれ”って…」

巫女「みんなニコニコしながら私に“世界の為に死んでくれ!”って!!」ポロポロ…

旅人「…」ギュッ…ナデナデ…

巫女「う…うぅ…。勇者様…私…ホントは死にたくない!…もっと…もっと生きていたいんです…!!」

旅人「巫女…もう大丈夫…大丈夫だから…」ナデナデ…

巫女「勇者様…私…今凄く嬉しいです…生まれて初めて…“生きててもいいんだよ”って言ってもらえた気がして……」ボロボロ…

旅人「…」ギュッ…

巫女「グス…ヒック…」ギュ…

― 半時間後 ―

旅人(よほど気が張りつめていたんだろうな…泣き疲れて眠ってしまった…)

巫女「…」スゥ…スゥ…

旅人(勇者に続いて魔王、か。…まるでおとぎ話みたいだけど…)

旅人(…さっきの巫女の様子からして勇者はともかく…魔王とやらは本当に存在するんだろうな…)

旅人(…自分が勇者であると言ってしまった以上…今僕がやるべきことは…)

― 村外れ 古びた礼拝堂 ―

旅人(司祭なんだから多分ここにいるはずだ…)

…ガチャ…ギイィ…バタン…

司祭「おや…見掛けない方ですな…もしやあなたは昨日巫女を助けて下さったという旅人さんですかな?」

旅人(この声…。この人が司祭さんで間違いなさそうだ。)

旅人(今礼拝堂にはこの人と僕だけか…好都合だな)

旅人「え、えぇ…まぁ。…それより司祭さん。あなたにお尋ねしたい事があるんです。…魔王と、“大樹の巫女”について…」

司祭「…!!…どうして…この村の者ではないあなたがその事を…」

旅人「どうしても何も…僕は…勇者だからですよ」

しえーぬ

司祭「それは本当ですか!?…あなたが…いや、しかし…!!」

旅人「ではその証拠をお見せしましょう…」スッ…カチ…

腕輪「…スーツ展開…」

司祭(…!…腕輪から声が!?)

― カッ! ―

司祭「こ…これは!?…まさしく伝承どおりの白き魔法の鎧!!」

旅人「その通りです…これで信じていただけましたか?」

司祭「…………」ウーム…

旅人「魔王を倒す為に…そして世界を平和にするために…今現在の魔王の状況と、魔王に関係することについて…」

旅人「…あなたが知っている事を全て教えて下さい!…お願いします!」ザッ!…ペコ…

旅人(頼むよ司祭さん!…僕は巫女を助けてあげたい!!…その為には魔王と大樹の巫女に関する情報がどうしても必要なんだッ!!)

司祭(今までずっと姿を現さなかった伝説の勇者が…どうして今になって…。彼は本物の勇者なのだろうか?)

司祭(しかし、この若者の真摯な態度…とても嘘をついているとも思えん…)

司祭「…分かりました。あなたに私が知る限りの事をお話ししましょう…」

旅人「…!…ありがとうございます!!」

司祭「まずは魔王についてなのですが…」

魔王とは中央大陸の南に位置する険しい山脈に封印されていて、
その封印を司る結界の力が弱まると世界中で大規模な地震が起こり、各地に甚大な被害が出る為、
大樹の巫女を人柱として結界を修復し、魔王の力を鎮めるそうだ。

尚、伝承には魔王は“災厄の化身”と記されているだけでその容姿に関する記述は一切出てこないらしい。

司祭「次に大樹の巫女についての事です…」

魔王の封印の結界を修復する為の“封印の儀”で必要とされる何らかの“資質”を持つ者の事であり、

その“資質”を持つ者は『魔物達の目から隠す為』という名目の元に、
数年に一度、中央大陸の帝国都市から、
地理的に近くて、尚かつ魔物も少ないここ、西大陸の大樹の村に預けられるという。

余談ではあるが帝国都市かは送られてくる者はそのほとんどが女性であるそうだ。

司祭「それから…これは個人的に気になっている事なんですが…」

伝承によると、かつては魔王が姿を現す度に、魔王を倒すべく、勇者もまた現れたのだという。

そして伝承に中に出てくるのは勇者と魔王と“女神”で、大樹の巫女については何も記されていないのだそうだ。

旅人(なるほど…大体は分かったけど漠然とした部分も多いな…特に魔王の正体とか…司祭さんが最後に言った事とか…)フム…

司祭「旅人さん…いえ、勇者殿。」

旅人「なんですか?」

司祭「明日の正午…中央大陸の帝国都市から巫女に迎えの使者が来ます…近々行われる“封印の儀”の為に…」

旅人「…!!」

司祭「今まで多くの大樹の巫女達を黙って見送ることしかできなかったこの罪深い私があなたにこんな事をお願いするのは筋違いなのかもしれませんが…」

司祭「巫女に同行して魔王を倒し…あの子をそして未来の大樹の巫女達を…救ってやってはいただけませんか?」

旅人「頼まれずとも…僕は最初からそのつもりです」

司祭「…!…勇者殿…!!」

司祭「それでは明日、帝国からの使者に私から勇者殿を同行させるよう言い聞かせます。」

旅人「はい…よろしくお願いします。では失礼します。」スタスタ…

…ガチャ…ギイィー…バタン…

司祭(封印の儀の目前に控え…勇者の再来。これもまた運命なのかもしれませんね…)

… 夕方 …

― 巫女の家 ―

…トントントントントン…グツグツグツ…

巫女「ふわ~ぁ…。…ん~…なにやらいい匂いがしますぅ~」ポケー…トテトテ…

旅人「お…やっと起きて来たね。今夕飯の支度が終わるからそこに座って待ってて」カチャカチャ…

巫女「はい~…ってお夕飯!?…やだっ!私ったらいつの間に寝ちゃって…!?」アセアセ…

旅人「ははは…それより朝から何も食べてなくてお腹空いてるだろ?そろそろ食べようよ」

巫女「あ…はい…いただきます」モグモグ…

旅人「どう?」

巫女「すごく美味しいです!」パァ…

旅人「そっか」ニコ…

巫女「あの…勇者様は…魔王をやっつける為にここに来られたんですよね?」

旅人「……あぁ。」

巫女「いきなりなんですけど…明日、私は大樹の巫女として帝国へ旅立たないといけないんです…それで…」

巫女「勇者様も…私と一緒に来ていただけませんか?」

旅人「もちろん僕も一緒に行くよ…。あ~それから、司祭さんにはもう話をつけてあるから反対される心配もないよ」ニッ

巫女「勇者様!…私…わだじ…」ふぇぇ…

旅人(いけない!…また…!!)アセアセ…

旅人「と、とにかく!これからは一緒に旅をすることになるから改めてよろしくね」

巫女「はい!…ふつつか者ですがよろしくお願いしますっ!」

旅人「ふつつか者って……」ハハ…

巫女「ふぇ?」キョトン…

― 翌日 正午 ―

… 大樹の森の村近辺 海岸 …

旅人(あれが帝国の船か…造りは立派だけど、年代物にしか見えないな…)

帝国騎士「あなたがこの度の“大樹の巫女”である巫女さんですね」

巫女「は…はい」

帝国兵士「どうぞ船に乗ってください。それから…そちらの方は?」

司祭「それは私の方から紹介しましょう…そちらの方は…」

………………………

騎士・兵士「先程は大変失礼しましたッ!…どうぞ船にお乗り下さい!!」

旅人「どうも…」

司祭「勇者殿…後は頼みましたぞ…あなたに神の御加護があらんことを…」

旅人「司祭さん、ありがとうございました…行ってきます」

司祭「いえ…例を言わなければならないのは私の方です…。それでは道中お気を付けて…」

― 5日後 朝 ―

…中央大陸北西 港町…

巫女「やっと船から降りられますねっ!」

旅人「随分と余裕だね」

巫女「勇者様と一緒だからですよ…一人だったらきっとまた泣いてました」

旅人「確かに一人だと心細いよね。」

旅人「それにしても先に船から降りた騎士さん達はどこ行ったんだろ?」キョロキョロ…

巫女「あ!…勇者!…あそこ!」

旅人「ホントだ…あんなところに。…とりあえず行ってみよう」

巫女「はい!」

…スタスタスタ…

旅人「こんな所で何を話し込んでるんです?」

帝国騎士「あぁ…すみませんお二人とも…今私の部下から報告があったのですが…」

帝国兵士「少し面倒な事になりまして…」

巫女「…一体何があったんですか?」

今まで様付けだったのに…
いきなり勇者呼び捨てw

( ^ω^)っ④"

>>34
すまんミスった

訂正
勇者→勇者様

帝国騎士「実は…」

帝国騎士と帝国兵士の話によると…

ここ中央大陸は陸地を南北に真っ二つに分断するように巨大なクレバスが走っており、

大陸の北部と南部を行き来するための大きな鉄橋が幾つか架けられてるそうだ。

だが、帝国騎士の部下の報告によると数日前の大きな地震によって鉄橋は全て崩落してしまったらしい…。
旅人「そんなことが…」

帝国騎士「今から向かう帝国都市はここから少し南東の緩かな山岳地帯を抜ければすぐの場所にあるので問題ないのですが…」

帝国兵士「魔王が封印されている山脈がある南部へは行けなくなってしまいました…」

巫女「……船で…行くことはできないんでしょうか?」

帝国騎士「それは無理です…この中央大陸の南部は周りを岩礁で囲まれている上に海流が複雑でして…船での上陸はとても…」

旅人「そうなんですか…」

帝国騎士「とにかく、まずは報告の為に帝国都市へ向かいましょう!…私が道案内を勤めさせて頂きます」

帝国騎士「帝国兵士!…お前は私の部下と共に南部へ行く方法がないか情報収集に当たってくれ!」

兵士・部下「はッ!」ザッ!

帝国騎士「では我々も参りましょう!」

巫女「はい!」

… 中央大陸 山岳地帯 …

巫女「はぁ…はぁ…。帝国都市まで後どれくらいですか~」

帝国騎士「この目の前の吊り橋を渡ってしばらく歩けばすぐに着きま…」

…ゴゴ…ゴゴゴ…

…グラッ…ガタガタガタ!…

旅人「これは…地震!?」

巫女「きゃっ!!」フラッ…

旅人「巫女!?…僕の手を掴め!!」サッ…ガシッ!

…ミシミシ…ガコッ!…

旅人「…!…足場が!!…うわぁ!!」フワッ…

帝国騎士「巫女さん!…勇者殿ォ!!」

…ヒュウウゥゥゥー……

旅人(この落下速度じゃパワードスーツの展開は間に合わない!)

旅人(…せめて巫女だけでも!!)ガバッ!!

…ヒュウウゥゥー……ダァンッ!…

旅人(ぐぅっ!…足が…痺れる……)ビリビリ…

旅人「巫女…怪我は…ないかい?」プルプル…

巫女「え?…あ、はい!私は大丈夫ですから降ろして下さい!…それより勇者様は…」アセアセ…

旅人「僕なら…ほら、平気だよ」ニ…ニコ…

旅人(体が人一倍頑丈に出来てて良かった…)

巫女「そ、そうですか…良かった…」ホッ…

巫女「私のせいで勇者様が怪我をしたらどうしようかと…」ウル…

旅人「本当に大丈夫だからあんまり気にしないで…」ナデナデ…

旅人「けど、元の道に戻るにはどうすれば…」

帝国騎士「お二人とも~~!!無事ですかぁ~!!」

旅人「僕らなら無事で~~~す!!」ブンブン!

帝国騎士「では今から私が言うことを良く聞いて下さい!!」

帝国騎士「そこから川沿いに進むと大きな洞窟があってそこを抜けると帝国都市近辺の街道に出ます!」

帝国騎士「ですのでそこで落ち合いましましょう!!!」

旅人「わかりましたぁ~~~!!」

帝国騎士「では私は街道へ急ぎますので後程お会いしましょう!!!」

………………………

旅人「じゃあ、僕らも行こっか」

巫女「はい」

… 山岳地帯 洞窟 …

巫女「この洞窟…凄く明るいですねぇ~」ほぇ…

旅人「壁に所々埋まってる鉱物が光を発してるみたいだね…」

巫女「お星様みたいで綺麗ですね~」キラキラ…

旅人「ははは…そうだね……ん?」

旅人(ここの壁の亀裂から風が吹き付けてくる…)スッ…ピタ…

…ガコッ!…ガラガラガラガラ!…
巫女「あ!…壁が崩れて…奥に通路が!!」

旅人「地震で壁が脆くなってってたんだろうね…」

旅人「!!」

旅人(何だ?この通路…壁がキレイに補修されていて…照明まで設置されてる!?)ダダッ…

巫女「あ!勇者様!…待ってぇ~」アワアワ…

… 謎の部屋 …

旅人「なんだ…ここ」

旅人(何かの研究施設か?それもかなり高度な技術水準の…)

…スタスタ…スタスタスタ…ピタ…

旅人「これは!?」

旅人(大きな試験管みたいな装置の中に…人が!?…でもこれって…)

ウサミミの少女「」

旅人「女の子…でも頭にウサギの耳みたいなモノが付いて…?」

巫女「勇者様ぁ~!!」タッタッタッ…

巫女「はぁ…はぁ…。もう!置いてっちゃうなんてヒドイですよぅ!!」ムゥ!

旅人「あ…あぁ…ごめんね」

旅人(向こうの方に棚が…何か資料の様な物は残っていないのかな)スタスタ…ゴソゴソ…

巫女(勇者様…一体何をして?…あ!…ガラスの中に女の子が…)ジー…

旅人(何もない…か…あれ…床に紙切れの束が…)スッ…ジー…

旅人(…braver project…?…試作タイプno,5【ガンナー】…?)ペラ…

旅人(当プロジェクトにおける研究目標は…(ペラ…ペラ…)…駄目だ…ここから先は文字が酷く滲んでて読めない…)ペラ…

旅人(braver…勇敢なる者…か。…勇者…?)フム…

旅人(資料からしてやはり何かの研究施設なのは間違いなさそうだけど…)ウーン…
………………………

巫女「わぁ…お人形さんみたい…」スッ…

巫女「眠ってるんでしょうか…」ジー

旅人「…!…巫女!あんまり近付いて無闇に装置にさわっちゃ…」

巫女「分かってますよ~」

…カチッ…

音声「…スリープモード…解除…」

巫女「え?」

…ウィーン…ガシャン…プシュー!…

旅人「あ……」

ウサミミの少女「ンン…。(パチッ)お前らか?…アタシを起こしやがったのは…」ピコピコ…

巫女「ごめんなさい!ごめんなさい!」ペコペコ…

旅人(耳が動いてる!…飾りじゃないのか…いや、そんなことよりも!!)

旅人「君は一体何者なんだ?…どうしてこんな所に??」

女銃士「アタシは女銃士ってんだ。何でこんな所にって…そりゃアンタ……」

女銃士「あれ?…何でだっけ??」

旅人・巫女「……。」

女銃士「ちょ…ちょっと待って!…今思い出すから!頑張って思い出すから~!!」ウーン…ウーン…

旅人(この子…もしかして記憶喪失なのか?)

女銃士「あ゙ー!ダメだ!!全ッ然思いだせねぇー!!」ウガー…

巫女「あ…あのー…もしよろしければ私達と一緒に来ませんか?」

女銃士「え!?」ピコ…

旅人「そうだね…しばらくすれば何か思い出すかもしれないし…どうかな?」

女銃士「い…いいのか?」ピコピコ!

巫女「はい!」ニコ!

女銃士「あ…ありがと…」

女銃士「そういやアンタらは…」

旅人「あぁそういえばまだ言ってなかったね…僕は旅人。」

巫女「私は巫女って言いますっ!」

旅人「僕達は……」

…………

………

女銃士「そっか~…アンタらも色々事情があるんだな~」ピコピコ…

巫女「えぇ…」

旅人「ところでさぁ、さっきから気になってたんだけど…君の頭についてるその耳ってホンモノ?」ジー…

女銃士「あ~、これか?これは耳じゃなくてレーダーだよ」

旅人(レーダー!??)スッ…サワサワ…

女銃士「ひゃう!…お…おま!…どこ触って…んぁ///」ピコピコ…プルプル…

巫女「…ゆ う し ゃ さ ま?…」ニコ…ゴゴゴ…

旅人「ご…ごめん」ビク!

女銃士はウサミミだったのか…

( ・ω・)っ④"

101号室に反応してしまったんだが意味は無いよな?

支援

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom