【ゆるゆり】京子「結衣ってさー」 (114)

結京?京結?書きました。
よろしくお願いします。

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「私の事好きすぎるよね」

「好きだよ」

「え、否定しないの」

「なんだよ、否定して欲しかったのか?」

「いや、数回否定が入ってからのガチ照れを予想してた」

はよ

「そうか、じゃあ今は逆に京子がガチ照れルンルン丸になっていると」

「なんだよガチ照れルンルン丸って」

「事細かに説明して欲しいのか?」

「いっいやっ、いいですごめんなさい」

「相変わらず京子は肝心な所でヘタれるなぁ」

「ぐぅ・・・地味に気にしてるのに・・・」

結衣のキラーパスにはびっくりしたけど、ここまではいつもの他愛のないやり取りだと、そう思ってた。

これでこの話にはオチがついた。

だから、次はどうやって結衣を困らせてやろうかな、って、思ってた。

「で、京子はどうなの」

「えっ」

「えっ、じゃないよ。私は素直に答えただろ」

「い、いやー・・・ドウカナー・・・」

「はぐらかすなよ」グイッ

「にゃっ・・・!?」

「ふふ、『にゃっ』だなんて、可愛い声出しちゃって」

「ふぇ、かわっ・・・」

トサ


「や、ちょっと結衣、落ち着いて・・・」

「私は落ち着いてるよ・・・?」

「いや、あの、えっと」

「京子」

「はっ、はひっ!」

「こないだ京子が言った冗談、覚えてるか?」

「わ、私何か言ったっけ・・・」

「子供の頃、私が京子を押し倒して、『天井のシミを数えているうちに終わるから』・・・だっけ?」

「あ、あああ、あれは本当にただの冗談で・・・結衣だって嘘だってすぐ否定して・・・」

「あの後、ずっと考えてたんだ。本当にそうしたら、京子はどう思うのかな、って」

「み、見ての通りだけど・・・」


「本当に、それだけ?」


「え、どういう・・・」

「私が本気で京子の事が好きでこんな事をしてたとしても、同じ?」

「結、衣・・・?」

「今だってこの先に進みたくて、たまらなくて、でも我慢してるとしたら・・・?」

「結衣、怖いよ・・・」

「っ・・・ごめん」スッ

「あ・・・」

「冗談だから・・・忘れてくれ」

「結衣・・・」

「ごめん」


向こうを向いたまま呟いた結衣の表情は見えなかったけど、凄く、苦しそうだった。

「京子、晩御飯何がいい?」

「満漢全席・・・」

「・・・オムライスでいいな」

「はい」

「あぁ、暇ならナモクエのレベル上げしといて」

「お、おう、任せとけ!」



腫れ物を避けるような、取り繕うような、いつもと同じやり取り。

結衣はいつも通り、キッチンで料理を始めた。

ねぇ結衣、そんな風にしないでよ。

どうして何もなかったみたいに出来るの?


きっと私の顔はずっと強張ったまんまなのに。

本気で笑ってないなんて、いつもの結衣ならすぐに見破って、心配してくれるのに。


結衣が今何を考えているのか分からなくて。

いつもと同じように振る舞う結衣が、凄く、怖いよ。

「どうだ、美味いか」

「うん、さすがに私の舌を知り尽くしてるだけある」

「さすがにそこまでは・・・」

「ん・・・じゃあ私の舌が結衣の舌と同じになったんじゃない?」

「ふふ、そうかもな」

結衣のオムライスは、実のところ、味がよく分からなかった。


私は、どう答えればよかったんだろう。

どう答えれば、いつもみたいに、笑えたんだろう。


お風呂に入っている時も、そんな事ばかり考えていた。

間違えてボディーソープで髪を洗おうとしてしまったり、身体に付いた泡を流さずに湯船に入ろうとしてしまったり。


結衣、ボディーソープ、無駄にしてごめん。

「京子、バスタオル置いとくよ」


なんとか諸々を終え、ようやく湯船に浸かってしばらくした時に聞こえた結衣の声。


私が風呂場に来る時、結衣は部屋に居た。

改築されて内装も新築に近いとは言え、何の音も立てずに風呂場の前に立つなんて。


普段なら気にしないで多少の音くらいはたてるのに。

扉の前じゃなくて、少し遠くから私を呼ぶのに。


意図的にやっているとしか思えなくて、私は縮こまる事しか出来なくて。

お風呂から上がると、結衣はラムレーズンをくれた。

ありがと、と短く言うと、結衣は短く返事をしただけで、風呂場に向かった。


いつもなら飛びついて食べ始めるのに、今は好物すらも食べる気にならなかった。


でも、食べたらちょっとは、気分も晴れるかも。

そう思って蓋を開け、アイスクリームと空気を隔てるフィルムを剥がす。


数回、ほんの少しだけ口に運んだ後、コンビニの袋に入れてゴミ袋に捨てた。


ごめんなさい。


結衣が電気を消すぞ、と声を掛けてくるまで、窓を開け、何をするでもなくぼーっとしてた。

いつもなら安心する結衣の布団の匂いも、今は昼間の事を思い出させるものでしかなくて。


私は結衣に背を向け、出来る限り丸くなった。

そうすれば結衣の匂いが可能な限り遮断出来ると思ったから。


だけど、自分の髪や身体から香るシャンプー、ボディーソープの匂いや、パジャマから香る柔軟剤の匂いに至るまで。

私の身体には既に結衣の匂いが染み付いてしまってて。

結果的に、結衣の匂いを更に間近で感じる事になっちゃった。



その夜は、長かった。

私が身体を起こした時、結衣は寝る前と変わらない体勢で、私の方を向いて寝息をかいてた。


(結衣は・・・いつも通り、か・・・)


普段クールな顔をしているだけに、無防備で歳相応な結衣の寝顔は、私だけが知っている結衣がそこに存在しているという事が実感出来るものだったのに。

今はそれを見ても、天井を背にした結衣の、言い表し難い表情しか浮かばない。


「おはよう結衣、お母さんから用事言いつけられたから帰るね」


見え見えの逃げ口上を紙に書き残し、眠い目を擦りながら結衣の家を出た。

殆ど寝てない事で少しの日差しにも負けそうになった。

太陽は季節を勘違いしてるんじゃないかなって思うくらい。


コンビニの窓ガラスに映った自分の顔は、まるで締め切り前日から徹夜で原稿を仕上げた後みたい。

唯一違うのは晴れ晴れとした表情をしていない事くらいか。


そのまま帰るとお母さんがうるさそうだな、と思った私は、コンビニから一番近い、ちなつちゃんの家に向かう事にした。

ピンポーン


「はーい・・・あれ、京子先輩?
 って、凄い顔してますよ、大丈夫ですか!?」

「ごめんね、連絡なしでいきなり来ちゃって・・・」

「そんな事より、上がって下さい。お茶準備しますから」


ちなつちゃん、優しいなぁ。

こんな顔をしてるからかな。


きっと、何があったか、聞かれるんだろうなぁ・・・

何て説明すれば、いいんだろ。

「てっきり、私の部屋を色々と漁ってると思ってました」


そんな事を言いながら、ちなつちゃんが部屋に入ってきた。

そういえば、起きてから何も口に入れてないや。喉、乾いたな。


「んっ・・・んっ・・・ぷぁ・・・
 ちなちゅ~お茶美味しいよ~・・・って、あれ、拒否されない?」

「・・・で、何があったんですか?」

「・・・まいったなぁ、こういう時は鋭いんだから」

「普段の京子先輩を知ってる人なら、誰だって気付きますよ」


・・・流石にこんな酷い顔で、理由も聞かずにただ居させて欲しいなんて、虫が良すぎるよね、やっぱり。

「・・・」

「・・・話しにくい、事なんですね」

「・・・うん」

「結衣先輩の事だからですか?」

「・・・・・・うん」

「いくら私でも、こんな京子先輩に嫉妬したりはしませんよ」


勘違いされているような、されていないような。


ま、どっちでもいっかぁ──

「・・・?」

「あ。やっと起きた」

「・・・あれ」

「話し始めるかと思ったらそのまま倒れ込むみたいに寝ちゃうんですもん。びっくりしたじゃないですか」

「そうなんだ・・・ごめん」


そっか、話し始める前に寝ちゃったのか、私。

「少しは、スッキリしましたか?」

「うん・・・ありがとね、ちなちゅ」

「・・・ちなちゅ言うな」


いつもなら刺を感じるその言葉。

だけど今は、何処か優しい声色で。


結衣の事でカラカラになっていた私の身体に、じわじわって沁み込んでくるみたいに、心地よかった。

「・・・結衣にね。押し倒されたの」

「・・・」


ちなつちゃんの綺麗な膝に置かれた拳に、一瞬力が入ったのが見えた。


ごめんね。

好きな人とのそんな話なんて、聞きたくないよね。

分かってたくせに、ちなつちゃん家に来ちゃって。

気が利かなくて、ごめんね。

「前に、私が言った冗談。
 小さい頃、結衣が私を押し倒したっていう、嘘の話」

「・・・それが、どうかしたんですか?」

「あの場では、『そんな事欠片もなかっただろ』って結衣は言ってたけど・・・」

「え、まさか本当に・・・?」

「う、ううん、それは本当に冗談、本当に嘘だから」

「そう、ですか」

「でもね、結衣はそれを聞いて、本当にそうしたら、私はどうするのかって思ったんだって」

「・・・」

「押さえつけてくる結衣の力は思ったより強くて、凄く思い詰めたような目をしてた。
 私は、どうしたらいいのか分からなくて、いつもと違う結衣が、怖くて・・・」

「・・・」

「結衣に『怖いよ』って、言ったの」

「・・・、・・・」

ちなつちゃんは何かを言おうとしたのか口を僅かに開けたけど、すぐにまた閉じてしまった。

「その後は・・・結衣が『ごめん』って言って、いつもみたいに何食べるか聞かれて・・・」

「いつも通り、だったんですか?」

「・・・会話も、結衣の顔も、いつもと同じなんだけど・・・」

「何て言えばいいのかな、いつもと同じなのが、逆に怖くてさ」


「お風呂に入ってる時も、いつもなら洗面所のドアの音なんて気にしないのに」

「その時は、音も何も立てずに、いつの間にかお風呂のドアの前に居て」


「『バスタオル置いとくよ』って、それだけ言って帰っていった・・・」

「お風呂から上がると、ラムレーズンくれた」

「ほんのちょっとだけ口には入れたけど、やっぱり食べる気にならなくて・・・捨てちゃった」


「布団に入ると、結衣の匂いがした・・・」

「でも結衣の匂いを嗅ぐと、押し倒された時の事、思い出しちゃって・・・」


「寝てる間に、結衣が何かしてくるんじゃないかって、怖くて・・・」

「全然、眠れなかった・・・」

ベッドに寝たまま、壁に視線をやったまま話していた私の頭が、暖かくなった。


これまで凄い力で締め付けられた事しかなかったちなつちゃんの腕と身体が、私を優しく、抱きしめてくれていた。

暖かくて、優しかった。


「・・・それで、朝になって、出てきたんですね」

「・・・うん」


ちなつちゃんは、途中から何も言わないで、じっと聞いててくれた。

少し俯いて考えた後、ちょっとすみません、と言って部屋の外に出て行った。

「京子先輩、お待たせしま・・・あれ、また寝ちゃってたか」

「全然寝てなかったんでしょう?
 それに30分も待たせちゃったんだもの、無理ないわよ」

「そだね。じゃあお姉ちゃん、京子先輩の事よろしくね。行ってきます」

「ええ、行ってらっしゃい」



「・・・ふふ、元気をくれる先輩、か」


ちなつの姉、ともこは、心なしか少し安らいだ京子の顔を見て、微笑んだ。

「もしもし、結衣先輩ですか?
 はい、少し、お話ししたい事があって・・・
 ではこの後、3丁目の公園で・・・はい、失礼します」


初めて見た。京子先輩があんなに弱ってるの。

人形の目を見てるみたいで、ぞぉっ、ってした。


そんな顔されたら、調子狂っちゃうじゃないですか。


「あ~あ、せっかく結衣先輩と二人きりだっていうのに、京子先輩の話かぁ」


悪態を一つつくと、少し気が楽になった。

「ちなつちゃん、お待たせ」

「結衣先輩、こんにちは」


精一杯の作り笑顔。

腹黒いって言われたって、笑顔で居る方が、いい事いっぱいあるんだから。


なにより、これから話す事は。

ヘタすると、私と結衣先輩まで気まずくなっちゃうんだもの。


・・・頑張るのよ、チーナ。

「京子先輩から、聞きました」

「・・・そ、っか」


結衣先輩はそれを聞いて、この後の話が予想出来たみたい。


「とりあえず、座ろうか。ジュース、何がいい?」

「あ・・・じゃあ、ポロナミンC、お願いします」

「わかった」


はぁ。やっぱり結衣先輩、優しくて気も利いて。

さっき京子先輩から聞いたような事、する人には思えないけど。

「それで、結衣先輩は・・・
 京子先輩の事が、好きなんですか」

「・・・うん」

「友達としてじゃなく、恋愛対象として、ですか」

「・・・・・・うん」


「そう、ですか」

「・・・ごめん」

「なんで、謝るんですか」

「・・・」


「今は、京子先輩の話ですから」

「・・・わかった」


私は、京子先輩から聞いた事を、そのまま話した。

「・・・それで、京子先輩から聞いた話は全部、です」

「・・・」

「否定は、して貰えないんですね」

「・・・全部、本当だよ」

「そう、ですか・・・」


出来れば少しでも、否定して欲しかったけど。

結衣先輩は、少し自嘲気味に俯くだけで、それ以上は言ってくれなかった。

「結衣先輩」

「・・・ん」

「京子先輩を、傷つけたかったわけじゃ、ないんですよね」

「・・・もちろん、傷つけたいなんて、思ってなかった」

「じゃあ、どうしてそんな事したんですか」

「・・・」

「京子先輩が怯えてる姿を見て、何も思わなかったんですか」

「・・・」

「結衣先輩は、自分がしたいように出来れば、それでいいんですか」

「そんな・・・そんなわけ、ないだろっ・・・!」

「・・・」

「お人形みたいに白くて、黙ってれば可愛いのに」

「騒々しくて、いつも皆をかき回して」

「自分勝手で、でもあの笑顔を見ると憎めなくて」

「自分からはいけない私の代わりに、いつも先頭をきってくれて」


「冗談でも、私の事を独り占めしようとしたり」

「私にだけは、いっぱい我が儘言って」

「私の弱い所も、受け止めてくれて」


「私に、楽しい気持ちをいっぱいくれる」


「そんな京子が・・・大好きなんだ」


「傷つけたいなんて、思ったこと、ない!」


「でも・・・京子は私の事・・・好きじゃない、のかな・・・」

ギュッ

「・・・ちなつ、ちゃん?」


「やっと、本当の気持ち、言ってくれましたね」

「・・・」


「まったく、二人とも、見ててまどろっこしいです」

「な・・・」

「互いに好きなくせに、互いに不器用で、自分の気持ちも素直に伝えなくて。
 それなのに相手の気持ちが分からないなんて、我が儘言って」

「・・・」

「好きでもない人の家にしょっちゅう入り浸ったり、我が儘言ったり、一緒に寝たりするわけないじゃないですか」

「・・・うん」

「はぁ、まったく、飛んだ痴話喧嘩に巻き込まれたもんです」

「・・・ごめん」

「その代わりにコレだけ、頂いちゃいますね」


チュッ


「え、なっ・・・」

「ほっぺたで、我慢してあげます」

「・・・は、恥ずかしいな・・・///」

「そういう顔は、見せる相手が違うんじゃないですか?」

「・・・そう、だね」

「・・・よかったです」

「・・・?」

「結衣先輩が、本当の事、話してくれたので・・・
 とりあえず結衣先輩の事、嫌いにならずにすみました」

「ちなつちゃん・・・」

「だけど、人の事を傷つけたままにする結衣先輩は・・・嫌いです」

「・・・うん」



「・・・ありがとね、ちなつちゃん」

「いえ、それじゃ、おやすみなさい、結衣先輩」

「うん。おやすみ、ちなつちゃん」



──損な役。

「・・・んが」


あれ、私また寝てたのか・・・

なんか、人に話したらちょっとスッキリしたかも。


・・・お、目の前にもふもふ発見。

ちなつちゃん、ずっと横でついててくれたんだ。


「・・・ありがとね、ちなつちゃん」

「・・・んにゅ・・・あかねちゃん・・・?」

「え・・・」

「あら・・・私まで寝て・・・あ、京子ちゃんも起きてたのね」

「あ、あああ、すいませんちなつちゃんと間違えてつい」

「ふふ、いいのよー。寝不足だったんでしょう?」

「あ、ははは・・・『あかね』さんじゃなくてすいません」

「っ!? ど、どこでそれをっ・・・!?」

「え、いや、寝言で・・・」

「~~~!!///」

人の顔ってこんなに赤くなるもんなのかぁ・・・


「バ、バレてしまっては、仕方ないわね・・・」

「えっ?」

「そうよ、私は赤座さんの事が、好きなの・・・」

「あ、いや、あの」

「あかねちゃんの事を考えると、心が幸せになるの・・・♪」ホワホワ


赤座・・・あかりのねーちゃんか。

あれ、でもあかりのねーちゃんって確か、あかりが・・・



うわ~・・・これは聞かない方がよかったやつだ。

ど、どうしよう。とりあえず何か言わなきゃ。

「えー、あー、女の人が、好きなんですか?」


なんだこの質問。避けるどころか踏み込んでどーする。


「? そうよ?」

「あ、そ、そうなんですね・・・」

「・・・ちなつから、話は聞いたわ。
 京子ちゃんは、結衣ちゃんの事、どう思ってるの?」



『で、京子はどうなの』

結衣にそう聞かれた時の事を思い出して、寝起きで少しぼーっとしていた私の頭は、冷水をぶっかけられたみたいに、覚めてしまった。


普段の私を知らないこの人になら、少しは話しても・・・

いや、むしろ知らないからこそ、話せるかも。

「・・・私、今はこんなですけど。
 小さい頃は内気で、少し擦りむいただけでも泣いちゃうような、泣き虫だったんです」

「幼馴染の結衣とあかり・・・あかねさんの妹さんと、いつも一緒に遊んでました」


「結衣は今と違って、ガキ大将って感じで。
 あかりは今もそうですけど、優しくて、裏表がなくて純粋っていうか」

「結衣がお父さん、あかりがお母さんみたいな、感じでした」

「転んで手の平を擦りむいた時は、土も付いてて汚いのに躊躇わずに舐めてくれて、『こんなの舐めときゃ治る』って言ってくれて」


「公園で知らない子に絡まれた時も、結衣はそんな私を守ってくれました」


「結衣は先頭に立って、その子と戦ってくれて。
 喧嘩した挙句その子が帰っていった後、『ごめんね京子、怖くなかった?』って言って」

「結衣も、あかりも居てくれたから、きっとなんとかしてくれるって思ったから、大丈夫だったよ、怖くなかったよ、って、答えました」

「結衣は、カッコよくて、王子様みたいでした」


「その頃は、結衣ってカッコいいなぁ、って漠然と思ってただけだったんですけど・・・」

「中学に入って、あかりと学校が分かれて、知ってる人が結衣しか居なくなって」


「クラスの子とも話す事はありましたけど、幼馴染だからなのか、結衣と話してるのが一番安心するんですよね」

「私の性格とかも分かっててくれてるから気張らなくていいし、私の悪ふざけに、こう返して欲しいな、って思ったら返してくれて」


「ぶっきらぼうだけど、なんだかんだで優しくて。
 泣き虫だった私を怖がらせないように気遣ってくれるような結衣が、私を怖がらせる事をしてきたのが・・・信じられなかったんです」

「・・・ありがとう、あなたと結衣ちゃんの事、よく分かったわ。
 結衣ちゃんも、京子ちゃんも。お互いの事が、大好きなんだって」


「確かに・・・好きか、嫌いかって言われたら、私は間違いなく、結衣の事が好きです」

「でも、結衣が私に抱いてる好きと、私が結衣に抱いてる好きは、違うんじゃないかなって。
 よく、分からなくて・・・」


「・・・そうね。でも、それはみんな、同じだと思うわ」

「・・・?」

「恋愛感情としての好き。人間としての好き。好きって言っても色々あるわよね。
 相手と過ごしてきた時間や出来事があって、色んな事が複雑に、絡まって」

「自分でも、自分の気持ちが分からなくなったりね」

「そう、ですね・・・」


「自分でも分からないんだもの。
 相手の『好き』をそのまま、理解する事は、とても難しい事だと思うわ」

「・・・はい」

支援支援

「自分が受け取ってる『好き』の何倍、もしかしたら何十倍もの『好き』を、相手は持っていたり、心の中に秘めたりしているのかもしれないわね」


「結衣は、どんな気持ちで、私に・・・」


「それが一番分かってあげられるのは、結衣ちゃんと一番長い時間を過ごしてきた、京子ちゃんなんじゃないかしら」

>>3
>>51
ありがとうございます!

思いがけず核心を突かれて、はっとした。


「京子ちゃんは、結衣ちゃんによく、ご飯を作って貰うんだってね」

「・・・はい。いつ、何を食べても、凄く美味しくて・・・
 私好みの味っていうか。他の人が作っても、あんな味には、ならないと思います」


「うふふ、それって、凄い事じゃない。
 きっと沢山練習して、いつも京子ちゃんの事を沢山考えながら作ってるのね」

「・・・今更ながら、恥ずかしくなってきました・・・」

そっか。そうなんだ。

結衣は私の事、こんなにも想ってくれてたんだ。


一人暮らしで家計のやり繰りだって、大変なのに。


安いものじゃないのに、いつ行ってもラムレーズンが置いてある。

愚痴の一つも言わず、ご飯を作ってくれる。


布団もいつもふかふかにしておいてくれる。

いつも綺麗に掃除してくれてる。

それなのに、結衣の気持ちが分からないって、我が儘言って。

一番近くにいるのに、一番結衣の気持ちから目を逸してたのは、私だ。



私がそんなだから、結衣も私の気持ちが分からなくて、不安だったんだ。



ごめんね、結衣。


ごめん。

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