女「先輩のお世話をしないと」 (180)

日曜日。

予定はなにもない。

課題はまだちょっとのこっているけれど、大した量じゃない。

そんなわけで先輩の下宿にいくことにした。

たぶん、そろそろやばいはずだ。

先輩の下宿は大学からほど近い。

私の家からは自転車でいける。

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暑さに辟易しながら、ようよう辿り着く。

わりと新し目のアパートの、南東角部屋4階が先輩の部屋。

良いところに住んでいる。

エレベータをのぼって、扉の前で汗をおさえて一息。

チャイムを鳴らす。

もう一度鳴らす。

何度チャイムを鳴らしても返事はない。

案の定だ。どうせまだ寝ているのだろう。

それか、居留守をつかっているか、そもそもインターホンに出るのが面倒くさいのか。

どっちにしてもかわりのないことだ。

しかたないから合鍵をつかう。

戸をたたく。

先輩、わたしです。入りますね。

一応声をかけてから、扉をあける。

むわっと何かが腐ったようなにおいと、甘酸っぱい臭い。

女の匂い。

どうしようもない生活臭。

あーあ、やっぱり。

予想通りの惨状だ。

靴をぬいで、混沌とした室内にはいる。

キッチンを抜けて、扉をあけるともう居間だ。

目の前には地獄絵図。

写真をみせたとして、大学の誰も、これがあの先輩の部屋だとは思わないだろう。

部屋の至る所にカップ麺の容器や、弁当ガラ、空き缶、その他もろもろ。

他にも脱ぎちらかされた衣類。

もちろん、洗濯などしているはずもない。

うわっ、なんだこれ。

炊飯器の上に、パンツがのってるよ。

一週間でよくもまあここまで散らかせたものだ。

部屋の一番奥にあるベッドの中で丸くなっているのが、諸悪の根源。

我らが愛すべき先輩。

もうお昼だというのに、すやすやと惰眠をむさぼっている。

まったく、だらしのない先輩だ。

大学の皆がこんな姿をみたら、なんと思うだろうか。

実際、この先輩は外での先輩とはまるでちがう。

美人で、やさしく、気配りのできる大人の女性。

集まりがあれば、いつも中心でニコニコわらってる。人をあつめるカリスマ。

それでいて頭脳明晰、成績優秀。

実際、何人かの教授から院を勧められているらしい。

先輩を慕うひとは大勢いるし、告白してくる男も数知れず。

百人斬りなんて噂が立つのも無理がない。

実家も裕福だし、友達がふざけてだしたミスコンでも黙って突っ立っていただけで、あっさりミスをとってしまう。

絵に描いたような完璧超人。

わたしも、最初はそんな印象だった。

それがが崩れたのは春のこと。

入学してすぐだった。

不覚にもわたしはサークルの飲み会でひどく酔いつぶれてしまった。

お酒を飲むのは始めてだったのだ。

わたしのせいじゃない。お酒が美味しいのがいけない。

それを介抱してくれたのがやっぱり先輩。

まったくもって頭が上がらない。

道端で倒れて動けなかったわたしをタクシーにのせて、この先輩の下宿にとめてくれたのだ。

目が覚めたときのひどい頭痛と、この部屋の惨状は正直思い出したくない。

わたしを気遣いながら水を差し出してくれた先輩には悪いが、とても人の居られる環境じゃなかった。

無理やり起きて、ガンガンする頭で掃除したのが先輩のお世話のはじまりだ。

ようやくひと通り片付けて話を聞くと、憧れの先輩は生活スキルが皆無だった。

料理は生煮え黒っ焦げ、洗濯やらない畳めない。

掃除ももう才能がないとしかいえない悲惨さ。

入学当初に一式揃えた家電は使われないままに、ほこりをかぶっていた。

休日には風呂にはいるのも面倒で、ずっと布団に倒れたきり。

なんでも、人の目がないと、まったくやる気がでないのだという。

どうしようもない面倒くさがりなのだ。

まったく、これを知った時にはずいぶん驚いた。

それならば一人暮らしをするなと言いたい。

生き物が繁殖できる部屋は間違っている。

虫愛ずる姫も真っ青だ。

よくもまあ今まで生きてきたものだと、大いに呆れた。

それから、その時のお礼と言っては、週に1回先輩の家に寄るようになった。

お礼というか、もはや義務感だった。

この人は誰か世話してあげるべきだ。

否、世話をしてあげる必要がある。

そう思ったのだ。

だからこうして掃除と料理と、先輩を風呂に入れたり、世話をやいている。

あのままだったら、そのうち先輩にカビが生えていたに違いない。

とりあえずカーテンと窓をあけて、空気を入れ替える。

ほら、先輩。外はこんなにいい天気なんですよ。

実際、外は明るかった。

夏は盛りを過ぎ、風は涼しさを帯びて、暑気を吹いていた。

臭いのこもった部屋に涼風が通った。

ところが先輩、声をかけてもううんと呻いて陽の光から逃げるように、毛布の中に顔をうずめてしまう。

まったくだらしのない。

あたりに散らかったゴミを、全部ゴミ袋に詰めるとすこしスッキリする。

次は洗濯物を集めて、洗濯機にほうりこむ。

せっかく乾燥機能もついている上等なモノなのに使われるのは週に一度。

まったくもってもったいない。

洗濯物がかわくのを待つ間に、先輩をベッドからどかして、布団を干してしまう。

と、抵抗された。

枕に顔をうずめていやいやしている。

まったく、普段はあんなに大人びているのに。

この状態の先輩をかまっていたらキリがない。

カーペットの上に転がして、布団をかかえてベランダへ。

うしろから文句が聞こえたけれど、知らんぷり。

先輩は外出のない休日はずっとスウェットを着ている。

三年生になって金曜が全休になった先輩は、毎週三連休。

つまり、三日間はいっさいの着替えをしないということだ。

最近はこの夏日だというのに、信じられない。

不快でしかたないだろうに。

それさえもめんどくささでなんとかするのが、省エネモードの先輩のおそろしいところだ。

このだらしなさときたら、あきれるしかない。

先輩から寝巻き代わりのスウェットを引っぺがすと、それも洗濯機に放り込む。

当然汗くさいが決して不快な匂いではない。

フェロモン系の、ずっと嗅いでいたくなる、先輩の匂い。

だが、こんなので外に出られてはたまらない。

その下からはスタイルの良い体が出てくる。

やれやれ、神様は不公平だ。

先輩を風呂に連れ込み、ついでにわたしも入る。

一人暮らしにしてはそこそこ広いこの浴室は、二人だとすこし窮屈。

裸に剥いて、シャワーで流して、お風呂に放り込む。

ここに及んでも先輩はだらけている。

為されるがままにだらけている。

スポンジを泡立てて、全身くまなく磨き立てる。

しろくて、すべすべで、肌理こまか。

ときどき、その大きな胸をさわってみたり。これは役得。

うらやましい……

わたしが僻み次いでにそういうと、先輩もわたしをちやほやしてくれる。

でも、先輩の前では、かわいらしいなんて褒め言葉にもならない。

先輩はきれいで、かっこよくて、かわいいんだから。

身体を洗い終えたら湯船につけて、今度はその艶やかな髪を丁寧に洗ってゆく。

シャンプーを泡立てて、もみほぐすように洗うと先輩はじつに気持ちよさそうな顔をする。

そんな先輩をみると、わたし、しあわせ。

win-winの関係だ。

シャンプーを洗い流してこんどはリンス。

薄く伸ばして、毛先から。

ちょっと時間をおいて、これも流す。

あとは一緒に湯船にはいって、窮屈だけど、イチャイチャする。

お風呂からあがって、先輩の髪にドライヤーをかける。

先輩の髪は長いから時間がかかるけど、それだけながいこと先輩に触っていられる。

指通りのいい髪は触っているだけでたのしい。

先輩は鼻歌でなにかうたっている。

なんだっけ?

なんかのCMの曲。

ちょっと調子はずれだけど、そこもまたかわいい。

こんな感じでわたしと先輩の生活は成り立っている。

もう半年くらい毎週末

押しかけ同然に文句を無視して強制清掃していた春が懐かしい。

最初はとまどっていた先輩も、そのうちにすっかり慣れてわたしに世話をやかれるままに。

だんだんと甘えるようになってきた。

そんな先輩がかわいらしくて、ついついもっと面倒をみてしまう。

その結果がこれだ。

なんだろう……

わたしが面倒をみる前よりだらしなくなった気もする。

うーん、こまったものだ。

わたしがいなくなって先輩、生きていけるんだろうか。

わたしにおんぶだっこの依存した生活スタイル。

「先輩、卒業したら一人になりますけど大丈夫ですか?」

ちょっと聞いてみると、

「あなたが居なかったら、いきていけない」

真顔で言われた。

「私が卒業したら、一緒に住も?」

先輩、ちゃんと自立してください。

「無理よ」

べ、と小さく舌をだして笑う。

かわいい。

ほんとうに、この人はしかたのない。

そこも、いい。

とりあえずここまで

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