師匠「弟子がそろそろワシを超えそうで焦ってます」 (71)


<ローングナーイトダベリングー♪


「はーい、こんばんはー!」

「――っというわけで! 今夜もロングナイトダベリングの時間がやってまいりましたー」

「ラジオパーソナリティのロンロンです! よろしくだべりましょー!」

「早速ですが相談コーナーにおハガキが来ております。読み上げちゃいますよー!」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1440679423


「えー、ラジオネームおししょさん。『こんばんはロンロンさん』。はいはいこんばんはー」

「『わたしはある山で弟子なぞをとっておりますが、最近その弟子がみるみる力をつけてきました』」

「いいことじゃないですかおししょさん!」

「『めでたいことなのですがどうやらその実力、なにやらワシより上のようで』」

「あらら」

「『師匠としては喜ぶべきなのでしょうけれど正直焦ってます。どうしたら師匠としての体面を保てるでしょうか』」


「これはなかなか難しい問題ですねー」

「ロンロンもめっちゃ優秀な後輩がいるので気持ち分かりまくりですよー」

「お互い尊重し合えればいいんですけど気まずくなることも多いですよねー」

「のみならず見下されたなんてなっちゃった日には……おおう」

「よーし、ロンロン、張り切ってこの相談に答えちゃいまーす!」

「っと、その前に一曲どうぞ。凡人ロッカーズで、『いちぬけ人生』!」


……


弟子「セイッ、ハッ、ヤッ!」


 ド! ドド! ドドゥッ!


弟子「とぉぉりゃッ!」


 メキャッ――ドウン!


弟子「フゥー……」

弟子「……師匠! やりましたよ! 山一番の巨木、ついに打ち倒しました!」

師匠「……」

弟子「師匠?」


弟子「師匠。師匠ってば。どうしました?」

師匠「はっ! い、いや何でもないぞ。ただ、なんといえばよいか……感慨深くてな」

弟子「感慨深い?」

師匠「うむ。ワシがお前くらいの年のころにはやはりそれくらいの巨木を打ち倒したものだ」

弟子「師匠もですか!」

師匠「う、うむ」

弟子「いやー、あはは、師匠と同じですかー。なんだかうれしいなあ!」

師匠「は、ははは」


弟子「それで、師匠の時はどんな感じでした? やっぱり達成感ありました?」

師匠「それはもうな! その……すごいもんじゃったて」

弟子「その時の話、詳しく聞かせて下さい!」

師匠「そ、それは……」

弟子「ワクワク」

師匠「まあその、また今度にせんか? ワシはちょっと疲れたよ」

弟子「え? 師匠は見てただけじゃ……」

師匠「バカモン! 師匠は師匠であるだけで疲れるんじゃ!」

弟子「よくわからないけどごめんなさい!」


弟子「では師匠、先に庵の方に戻ってますね」

師匠「うむ、しっかりと体を休めよ」

師匠「……」

師匠「…………」

師匠「っ~~!」

師匠「がはあああッ! っくしょおおお! 先越されたあああ!」

師匠「ワシが先にあの巨木を殺るはずだったのにいいぃぃぁぁああ!」バタバタ!

師匠「なぜだ! 才能か! 天賦の才なのか!」

師匠「確かにあいつは抜きんでてセンスが良かった!」

師匠「馬鹿みたいな吸収力でワシがン十年かかって修得した技をその半分以下で手に入れおった!」

師匠「でーもー少しくらいは待ってくれてもいーじゃーんー! いーいーじゃーんー!」

師匠「あーあ先に成し遂げたかった……幻の巨木刈り……」


弟子「師匠」

師匠「何だ?」キリ!

弟子「いえ、何やら師匠の叫び声が聞こえたので」

師匠「うむ、少し気を練っておった」

弟子「それはごめんなさい、邪魔をしました」

師匠「いや」

弟子「それでは失礼します」

師匠「うむ……いやちょっと待て」

弟子「はい?」


師匠「うーむ……」

弟子「……?」

師匠(こやつめ、ただ立っているだけだというのになんと隙のないことよ……)

師匠(どの方向へも瞬時に攻めることができ、また攻められても確実な一撃を返すことができる……)

師匠(力みすぎもせず、かといって威力に足らざるところなく)

師匠(知力判断力も満ち満ちている……)

師匠(容姿にも恵まれ正直たまらんくらいだし……)

師匠(つまり一言でいえば……そう、ずるい)

師匠(ずっこい。ずっこいぞこやつめ!)ギリリ…!


師匠「うぐぬぬぬ……」

弟子「あの、師匠?」

師匠「ぬっ!? い、いや、なんでもない! なんでもないぞよ!」

弟子「なんですかその口調は。えっと、大丈夫ですか?」

師匠「お前がワシの心配をするなぞ三十年早い! むしろお前の方がだな――」

師匠「はっ!」


「ロンロンのグッドアイディアその一~! 弟子に修業をさせな~い!」


師匠(これだ)

弟子「あの、師匠?」

師匠「弟子よ(低音」

弟子「うわ急なシリアスシフト……はい、なんでしょうか師匠」

師匠「お前がワシに弟子入りしてから十何年だったかな」

弟子「五年です」

師匠「え。マジで?」

弟子「はい」

師匠「…………そうか、五年か。そうだったな」


弟子(今マジでって言った。確かに言った)

師匠「……まあとにかくだ、ワシに弟子入りしてから早五年、お前は休まず鍛錬を続けてきたわけだ」

弟子「それは、はい」

師匠「ならば、お前にいとまを言い渡す!」

弟子「え!?」


師匠(そうじゃ考えてみれば当たり前じゃった)

師匠(修業なくして上達なし! 加えてワシだけ鍛錬しとれば巻き返せる!)

師匠(これでまたワシの天下じゃ!)

師匠(グヘヘ! グヘヘじゃよグヘヘ!)

弟子「あのー師匠?」

師匠「グヘ?」

弟子「いえグヘではなく。いとまって結局何をすればいいんですか?」

師匠「はあ?」


弟子「ぼく、そういうのわからなくて」

師匠「そんなの適当にふもとの町で遊んどればええだろうが」

弟子「でもそれでは技が鈍ってしまいます」

師匠「それが狙いじゃッ!」

弟子「え」

師匠「い、いや、えーとつまりそれが一種の試練じゃ!」

弟子「……試練?」


師匠「体を鍛錬漬けにするのではなくたまには休ませること」

師匠「それから休みを通しても技を鈍らせないようにする、と。そういう試練なんじゃ!」

弟子「……」

師匠(頼むっ! 騙されていてくれぇ!)

弟子「……師匠」

師匠「ひぇいっ!?」

弟子「分かりました、行ってきます」

師匠「ひぇ?」


……


弟子「ではまたいとまの後にー!」

師匠「おーう」

師匠「……」

師匠「行ったな」

師匠「ようしさっそく鍛錬じゃあ!」

熊猫などおらぬつづく


「こんばんはー! ロングナイトダベリングの時間ですー!」

「以前おハガキ投稿いただいたラジオネームおししょさんから、またおハガキ来てますよ!」

「『ロンロンさん、以前はアドバイスありがとうございました』」

「いえいえー」

「『おかげさまで弟子に追い抜かれることは阻止できそうです。本当に助かりました』」

「よかったです! ロンロンもすごくうれしくなっちゃいました!」

「と、いうわけでご機嫌なナンバーいっちゃいますよー!」

「凡人ロッカーズで、『ダウン・トゥ・奈落』」


……


師匠「スゥー……ハァー……」

師匠「……キエィッ!」


 ……ビス!


師匠「お? おおおっ……?」

師匠「やたーい! ようやく巨木に傷が入ったぞーい!」

師匠「あれから一か月、休まず、まあおおむね休まず鍛錬した甲斐があったというものじゃ!」

師匠「これなら一年以内に何とか巨木刈りが達成できそうじゃー!」

弟子「ただいま戻りました」

師匠「帰れ!」

弟子「え」


師匠「む、おおすまぬ、弟子か」

弟子「若干泣きそうになりました」

師匠「休暇はどうじゃった?」

弟子「ええ楽しかったです。……なんでにやついてるんです?」

師匠「ふほほほ別に何でもないぞよ。ぞよぞよ~」

弟子「また変な口調……」

師匠「いやあ心に余裕が生まれるとこうも見える景色が違うんじゃな、と」

弟子「なんだかよくわからないですけど」

師匠「まあよいよい、先に庵に戻っておれ」

弟子「分かりました」

師匠「…………隙ありィ!」

弟子「え?」


 ――ドゴゥ!!


師匠「ワシは常に言っておったはずだ。気を緩めることのないようにと」

弟子「……」

師匠「この荒んだ世にあって油断は命とり。肝に銘じておくんじゃな」

弟子「……あの」

師匠「ううああ痛いいいぃぃぃ……めっちゃ痛いぃぃぃ……」

弟子「大丈夫ですか師匠?」

師匠「大丈夫なわけあるか! すっげ強打したぞここ! お前が油断して全力を出すから! ワシの命が危ないわ!」

弟子「だ、だって師匠がいきなり襲い掛かってくるんですもん! びっくりしちゃって!」

師匠「だからといってだな!」

弟子「で、でもそんなに痛がらなくてもいいじゃないですか。本当は大したことないんでしょ? 達人ですし」

師匠「そ、それは……」


弟子「……達人じゃないんですか?」

師匠「達人に決まっておろう!」

弟子「ですよね! よかったぁー」

師匠(こやつワシの腕を疑っておるのか……?)

師匠(っていうか不意打ちなのにワシ負けたし……)

師匠(やべえ)

弟子「そういえば師匠、最近ふもとの方で道場破りが出るらしいんですが知ってます?」

師匠「……」

弟子「師匠?」


「ロンロンのグッドアイディアその二~! 実家に帰させていただきます!」


師匠「弟子よ」

弟子「はい」

師匠「破門じゃ」

弟子「ふぇ?」


弟子「どおおぉいうことですかあッ!」

師匠「ええいしがみつくな歩きにくい!」

弟子「説明してくださいよ!」

師匠「先ほどの件でようく分かった。お前はワシに学ぶにふさわしくない」

弟子「ぼくはよくわからないですー!」

師匠「未熟者が!」

弟子「便利ワードやめて!」


師匠「ったく若いもんはこれじゃから」

弟子「また便利ワード……お願いですよ師匠、もっと学ばせてください」

師匠「無理じゃ」

弟子「なんでもしますからぁ!」

師匠「なんでも……ほほう」モンモン

弟子「ひっ!?」ビク!

師匠「はっ! いやいや違う違う……」

師匠「そうしたらば課題を一つこなしてもらおうではないか」

弟子「課題?」


……


師匠「課題の内容は簡単じゃ」

師匠「まず前後左右に板をつるす」

師匠「そしてそれらを拳一発で同時に打ち割る、と、こういうことじゃ」

弟子「ええ? そんなのどうやるんです?」

師匠「ワシに聞いてどうする愚か者が! それでは課題にならんではないか!」

弟子「ひいっ」

師匠「では時間制限は日没まで。これができなければ国許に帰ってもらうからな」

弟子「そんな!」

師匠「それではがんばるんじゃよー!」


師匠「ふほほほほ! これぞロンロンさんのグッドアイディアその三、かぐや姫の難題作戦!」

師匠「どうじゃこの合わせ技! これでママの元に帰らざるを得んぞよー!」

師匠「日没後に見に行ってやるのが今から楽しみじゃ!」


……


師匠「……」

弟子「ふぅー、はぁー……」

師匠「……」

弟子「……やりました」

師匠「そうか」


師匠「一応聞こう。どうやったんじゃ?」

弟子「はい、まず目を閉じて意識を一点に集めます」

弟子「そうすると光の点が見えてくるのでその点を打ちぬきましたところ板が全部割れておりました」

師匠「実際にやってみておくれ」

弟子「はい」バキャァ!

師匠「アホかッ!」

弟子「!?」


師匠「そんなよくわからん根性理論であっさり成し遂げられてたまるか!」

師匠「一体これではワシの方が馬鹿みたいではないか!」

弟子「え、あ、あの? 何かまずかった……でしょうか?」

師匠「いいやまずくはない! だがアホかとは思う!」

弟子「馬鹿ではないんですね?」

師匠「加えたいなら加えとけ!」


師匠「ええいちょっとこっちへ来い!」グイ!

弟子「痛っ!」

師匠「そこに立て!」

弟子「は、はい」

師匠「構えろ!」

弟子「はい!」

師匠「今から放つ技を放つ! 真似てみよ!」

弟子「はい!!」

師匠「行くぞ! 陽・射蹴倒!」

弟子「陽・射蹴倒!」

師匠「……」

弟子「……あの、終わりですか?」


師匠「う」

弟子「う?」

師匠「うわああああん!」

弟子「師匠!? ししょーう!」

つづく


……


 ホーゥ、ホーゥ……


師匠「……」

師匠「はあ……あっさり奥義をパクられるとは」

師匠「こっちは習得に十年はかかったというのに、才能ないんかなーワシって……」

師匠「ふふ、いまさらか。ふふふ……」

弟子「……あの。師匠」

師匠「去れ。今はお前の顔など見たくない」

弟子「なぜでしょうか、ぼくは言いつけどおりに」

師匠「うるさい、去れ」

弟子「……」


弟子「あの」

師匠「だからうるさいうるさい! いなくなれバーカ!」

弟子「ば……って、ええとあの、そうじゃなくて最後に少しだけ聞いていただきたくて」

師匠「ふんだ」プイ!

弟子「……。その、さっき師匠に見せていただいた技なんですけど、あれって二つ一組の奥義のうちの一つでしたよね?」

師匠「……」

弟子「昔……っていっても五年以上前ってことはないですけど、よく師匠に聞かせてもらってたから覚えてました」

弟子「その二つ一組の奥義をもって免許皆伝が完了すると」


弟子「ぼくはうれしかった!」

師匠「……?」

弟子「雲の上の存在だった師匠に確かに近づけていたんだと分かって」

師匠「……」

弟子「師匠みたいな強い人になりたい、そう思ってぼくはあなたに弟子入りしたんです」

師匠「……」

弟子「……それだけです。先に戻りますね」

師匠「待て」

弟子「?」


師匠「一週間後、再びここに来い」

弟子「それは、何のために?」

師匠「免許皆伝の儀を行う」

弟子「! まさか」

師匠「そうじゃ。もう一つの奥義を伝授しよう」

弟子「ほ、本当ですか!」

師匠「それまでの時間を有効に使え。手は一切抜かんぞ、いいな」

弟子「はい!」


弟子「さっそく修行に行ってきまーす!」タッタッタ…

師匠(夜なんじゃがなあ……)

師匠「まあワシも頑張らんといかんしそれは一緒じゃな」

師匠「よぉし、いっちょやってみっか!」


……


弟子「フッ! セイ! ハッ!」

弟子「フゥー……」ユラリ

弟子「シッ!」ドゴゥ!


……


師匠「ホッ! ヤッ! ソイヤ!」

師匠「くらえぃ!」ギャン!

師匠「ちぃ……まだ巨木刈りには浅いか」

師匠「……まだまだぁ!」


……


一週間後


 ――メキャア!


師匠「剛拳の終、巨木刈り――」


 ズズン……!


師匠「――了」


師匠「いやったー! 大成功じゃー! 幻の秘儀、会得じゃー!」

師匠「これでもうあの弟子も怖くない! 戦ってもけちょんけちょんじゃ!」

師匠「さっそく行ってぶちのめしてやる!」

師匠「……ん? あれ、違ったか?」

師匠「まあ構わん構わんぶちのめせれば問題ナーシ!」


 メキャメキャメキャ! ズズズズーン!


弟子「剛拳の終、三連! 巨木刈り・束!」

師匠「……」

弟子「あ、師匠!」

師匠「オウ」

弟子「今の見ててくれました? なかなかやるようになったでしょ」

師匠「ソダネ」

弟子「今日の免許皆伝も頑張っちゃいますよ!」

師匠「ア、ハイ」


師匠(うわーマジかよー……全く想像してなかったっつったら嘘になるけどもー……)

弟子「よし!」グッ

師匠(なにやらオーラが尋常じゃないし、あれからどんだけ上達したのって)

弟子「では師匠、いつ始めます?」

師匠「そ、それなんだがな」

弟子「ぼくはいつでもオーケイですよ!」

師匠(やべえ目がすでに今やろうぜって言ってる……)


師匠(ならば……ええいままよ!)

師匠「あ! 何かが飛んでるぞ!」

弟子「え!?」

師匠「隙ありいいぃぃ!」


 ――スカっ


師匠(こやつ、見もせずに!)

師匠「まだまだ!」


 スカっ スカっ スカっ


師匠「な、なんと……」


師匠「わ、ワシの負けじゃ……」

弟子「? 師匠、どうかしたんですか?」

師匠「なっ!? これ以上ワシを愚弄するというのか!?」

弟子「え? いや、よくわからないですけど……あれを見てください」

師匠「?」

大男「……」


師匠「んん……? なんだお前は」

弟子「師匠、こいつ気配を消してます。師匠が教えてくれなければわからなかったと思います」

師匠「わ、ワシのおかげ?」

弟子「さすが師匠」

師匠「……」


大男「よう。この山で修業してる奴らってのは、お前らで合ってるのか?」

師匠「ああうん多分な」

大男「……なにふて腐れてるんだ?」

師匠「別にー」

大男「まあいい……楽しませてくれよ」

師匠「……?」

弟子「危ない!」


 ガッ!


大男「ふん、俺の一撃を受け止めるか」

弟子「ぐっ……」

大男「見たところ実力もお前の方が上のようだし……先にジジイの方を始末するか」

弟子「何を……ぐふ!」

大男「しばらくおとなしくしてろ。後で相手してやる」

弟子(こいつ……ふもとの町で噂になってた道場破り……)

大男「さあて……。ん?」


師匠「貴様……ワシの愛弟子に何と言うことを」

大男「別に大したことはしてねえぜ。それともあれかお前らデキてんのか?」

師匠「だまらっしゃい! ワシらの領域に踏み込んだこと……後悔させてやるぞ」

大男「ふうむ……」

師匠(ふふふ体に力が湧いてくる! これが覚醒という奴か力に目覚めるということか!)

師匠(ありがとう愛弟子よ、お前のことは絶対に忘れんよ!)


師匠「愛弟子の仇ー!」

大男「死んでねえだろ」


 バシンッ!


師匠(入った!)

大男「それで全力か?」

師匠「!? しま――っ」

大男「うらあッ!」

師匠「い、陰・餓王――」


 ズガシュ!


師匠「っ――……」ドサ…

大男「ちっ、殺りそこねたか。まあそのうち死ぬだろ」

大男「ま、さて、次はお前の番――」

弟子「……」ゴゴゴ

大男「……ほう」


弟子「お前、師匠になんてことを」

大男「だから一応生きてるって。医者に見せれば助かるぜ」

大男「まあ――――見せられればだけどな」ニタリ

弟子「……」

大男「そうだ構えろ。あがいてみな」

弟子「フゥゥー……」

大男「くらえ!」

弟子「……っ!」カッ!


師匠(あ、あれは……)

師匠(拳の奥義、裏、返しの極意……)

弟子「おおおおおッ!」

師匠(陰・餓王咆!)

弟子「――っらぁ!」

大男「ぐふぅ!」ドサ…

弟子「はあ、はあ……」

師匠(まさかワシの手を借りずに奥義へと至るとは……)

師匠(まことに……まことに……)

師匠「ずっこい……くそぅ」ガク


……


弟子「師匠!」

師匠「いったぁッ!」

弟子「師匠! よかった目が覚めたんですね!」

師匠「し、死ぬ……痛すぎ……」

弟子「大丈夫、あばらが数本駄目になっただけです」

師匠「それ割と重症……」

弟子「大丈夫ですって、師匠は達人ですもん!」


師匠「……そう言われると大丈夫な気がしてくるから不思議じゃな」

弟子「でしょ?」

師匠「……」

弟子「……」

師匠「だが、そう言ってくれる奴もいなくなってしまうとなると寂しいよ」

弟子「え?」

師匠「ワシがお前に教えられることはもうない。お前がここにいる意味ももうない」

弟子「……」


師匠「ワシは怖かった。ワシという人間を侮られるのが」

師匠「ワシらが受け継いできた武技を侮られるのが」

師匠「そしてお前がワシの元から去っていくのが」

弟子「……」

師匠「だがもう大丈夫じゃ。お前は好きなところへ行くがよい。そしてワシらの技を伝えていってくれ」

弟子「師匠……」

師匠「あ、もちろん医者には連れて行ってくれな」

弟子「師匠!」


師匠「な、なんじゃ抱き付くな!」

弟子「ぼくはまだまだ師匠と一緒にいたいです!」

師匠「し、しかしワシにはもう教えることがじゃな」

弟子「そんなのわかりませんよ。まだあるかもしれないじゃないですか」

師匠「だ、だが」

弟子「それを探すのも鍛錬の一つです! どこへいくのも自由なら、ここに残るのも自由のはずです!」

師匠「う……えぐっ……」

弟子「師匠、泣かないで」

師匠「折れたあばらのあたりが痛い……」

弟子「あ」


……


 ~♪


「はーい、凡人ロッカーズで、『ペイン・ゴーズ・オン』でしたー!」

「続いてはお便りのコーナーです!」

「ラジオネームは、おししょさん。あれれ、お久しぶりですねー!」

「『あれからいろいろありまして、とりあえず落ち着くところに落ち着きました』」

「『弟子との仲もよく毎日気持ちよく鍛錬に励むことができております』」

「なによりですー」

「『それもこれもロンロンさんのおかげと思っております。本当にありがとうございました』」

「いえいえ、お力になれて何よりでした! これからも頑張ってくださいね!」


「っと、あれ? まだ何か書かれてましたねすみません。えーと」

「『追伸、弟子の女の子に手をつけることや歳の差婚についてどう思われますか?』」



「え」


おわり

今さらだけどシンシンってパンダ関連だと思ってた恥ずかしい

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