幼馴染の魔女と女騎士があんなに (38)

街の一角。

我が家の隣に建つ家には、一人の女の子が住んでいる。

「あ、おはよ! えへへ、今日も気持ちいいねぇ」

少しボサボサの黒い髪を掻きながら朗らかに笑う姿は、魔女と呼ぶにはまるでふさわしくない。

研究者然とはしているものの、せいぜい錬金術師か何かと勘違いする人が多いんじゃないだろうか。

「今日もね、頑張ってたんだぁ。疲れちゃうよ」

「君も来る? ううん、魔力が無くても君は特別。幼馴染だもん」

平屋の多いこの辺りで二階建て。しかもベランダもあるのは珍しい。

ただでさえ目を引くその場所に、若くてそこそこ可愛い女の子が立っている。

「ねぇ、どうかなぁ? 君も手伝ってくれたら助かるんだけどなぁ」

「幼馴染を助けると思って。ねぇ、いいでしょ?」

可愛らしい言葉で誘われても、あいにく俺にはコイツと違って仕事がある。

いつも通り固いパンを投げつければ、いつも通りのユルい感謝の声。

それを背中で受けながら、一路仕事場へと向かうのだった。


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仕事場と言えば聞こえはいいけど、俺みたいな若造にできる仕事なんて要は雑用だ。

特に男でありながら魔物と戦わないのなら、力仕事をするか頭を使うかのどちらかだけ。

「む、食材の搬入か。ご苦労、念のため調べさせてもらうぞ」

返答を待たずに荷物を漁られるのもいつもの事。余分に持ってきた果物をくすねる事も、だ。

「今日も早朝から雑用とイビリを受けてな、さすがに腹が減っていたところだ」

女だてらの騎士などそんなものだがな、と笑う少女は小さな頃と何も変わらない。

ふと、手入れのされた髪を指先でなぞってみる。十年前にはこんなこと、何でも無かったのに。

「ん……懐かしいことをするじゃないか。その気になったか?」

少し細めた目。長い金の髪や声の調子があいまって、どこか悪戯っぽい色が浮かぶ。

「冗談だ。お前はそんな柄でもないだろう、さ、通って良いぞ」

撫でていた手に彼女の手が添えられ、名残惜しさも無さそうに解かれる。

すれ違った瞬間、いつものように甘くて頭が痛くなりそうな匂いが漂ってきたのは、きっとそういうことなのだろう。

いつもの仕事、いつもの食事。終わる時間もいつもと同じ。

夕暮れになれば街も落ち着いて、昼の喧騒は徐々に消えていく。

俺も、多くの中の一人と同じだ。

「おかえり。君、夜ご飯食べた? もしよかったらご一緒どーかなぁ」

淡い光が魔女の家から漏れ、逆光の裏から誘う声がした。

「あは、そんな目で見ないでよ。それとも欲情しちゃったぁ?」

……ふざけているのには間違いないが、じぃんと濡れた目からするに、誘っているのも間違いない。

「ねぇ、来てよ。今日は誰もいないから……ここも、君だけの物にしていいよ……?」

窓から突き出た黒い髪。毛先が豊かな胸の先端を隠しているのが憎らしい。

他には一糸たりとも纏わず、真っ白な肌を惜しげもなく晒している。

指でなぞった場所は窓枠より下で見えなかったけれど、濡れた指先を見れば察するに余りあるというものだ。

「あはぁ……ねぇ、来てくれないかなぁ。君の好きなビーストミートサンドもあるんだから」

ねえ、と懇願するような、あるいはこちらを嘲笑うような。

そんな色をした幼馴染を振り切ってみたはいいものの。

……ビーストミートサンドは、俺の稼ぎからするに勿体なかったかもしれない。

朝になればまた同じ一日が始まる。嫌だとは思わないけれど、それが良いとも限らない。

今日は特に妙な空気だ。街がどことなく、ざわめいている。

同僚の男は何やら知っているようで、興奮した様子で俺へと話しかけてきた。

「なあ、おい、聞いたか? 勇者が来たらしいぞ!」

勇者か。そう呟いた俺をどう思ったのやら。

「最近外に魔物が沢山出ただろ。その討伐に来てくれたみたいなんだ、憧れるよなあ」

適当に頷きを返しても、目を輝かせる浮かれ気味の同僚は気付きやしない。

「いつか俺も剣を買って、魔物を殺して名を上げるんだ……お前はどうだ? 一緒にさ!」

世辞じゃなく、本気で誘っているのだろうけれど、俺には剣は無理だ。

子供の頃に憧れてたし、今でも気まぐれに振ることもある。けどそれは、何かと戦えるレベルじゃない。

それを思い出したらしい。同僚も気まずそうに頭を掻くと、他の奴へと声を掛けていく。

……勇者、か。

魔物を多く殺せる者。男として憧れる気持ちは十分わかるが遥か雲の上の存在だ。倣うことは、まず不可能。

一瞬頭をよぎる思いを振り切って、運ぶべき荷物へと手を伸ばす。立ち上がってしまえば、残ったのは仕事の段取りだけだった。

仕事も色々あるもので、運ぶ物にしても食糧から武器、雑貨類まで様々だ。

今日の荷物はおそらく塩だろう。海から来た大量の甕となればそう思って間違いない。

「塩は、重いけど、さっ! このっ! へへ、城に入れるのは、楽しみだよなあ……!」

余裕が無いなら喋らなければいいものを。ただでさえたった二人で荷車を運んでいて、後ろから押しているというのに。

しかしまあ、剣を使いたい同僚にしてみれば、騎士のいる城は何度入っても楽しい場所なのだろう。

それと……もう一つ、別の目的もあるらしいが。

「なあ、今日は、居るのかよ……! あの子!」

毎度毎度、城に行くたびに聞かれるのだから何を言いたいかはすぐ分かる。

それも無理も無いことかもしれない。金の髪を揺らす見目麗しい少女が騎士装束に身を包み、門前に屹立する。

城門の美少女騎士、俺の耳に入るほど噂になっているんだ。男として見たくなるのも無理はない。

「いいよなあ、あんな美少女がいる騎士団だぜ? 俺も幼馴染になりたかったなあ」

こういう愚痴を受けるのも、いつものことだ。

幼馴染と言っても小さい頃から知ってるだけしかないのだが、そういう話ではないらしい。

「で、どうなんだよ。今日はいるのか?」

知らん。どうして俺が知っていると思うのやら。

「使えないなあ、ったくよお……あーあ、居ないじゃんか」

居ても居なくても、仕事には何の支障も無いだろう。そう伝えてもぶつくさと文句を垂れ流すのだから困ったものだ。

とはいえ、仕事は仕事。同僚も手を休めはせず、城の裏の貯蔵庫へと運んでいく。

裏手といえば、騎士の訓練所も近い。青空に響く声からするに、新人の訓練が行われているらしかった。

「おっ、騎士の訓練だぜ。俺もいつか入りてえなあ」

……現金な奴だ。女に会えなくても騎士の声で満足できるなんて、こんな楽な奴はいない。

「いいじゃんか、俺、来年には試験受けるぜ。下級騎士なら俺でもなれるからな」

やけに自信満々な理由はやはり、荷物運びで鍛えた筋力だろう。チラリと見れば、俺が苦労する大きさの甕を軽々と抱えているのだから。

「へへ……おっ! おいおい、あそこにいるの、騎士団長じゃねーか! いいもん見たなあオイ!」

よくもまあ、重い甕を抱えてよそ見が出来るものだ。

ため息交じりに一瞬目を向けてみれば、なるほど、城壁の上から見下ろしているのは騎士団長に違いない。

「カッコイイよなあ、俺もヒゲ生やそうかなあ」

豊かな髪を後ろに束ねて短いヒゲを生やした姿。獣のような目だが、器は大きく朗らかな男。

同僚が一番目を輝かせるだけあって、いい男には違いない。

……俺にとっては、特に憧れる存在でも無いんだが。同僚の夢を壊す必要もないだろう。

貯蔵庫に甕を積み、戻って運びを繰り返すこと幾数回。

既に陽は頂点から下がりだし、貯蔵庫には夕食の準備をする騎士見習いの出入りも始まっていた。

俺としては相当な時間が経っていることに辟易するが、同僚にとってはまさに至福の時間。このために城に来たと言っても良いだろう。

「よしよしよっし! おい、夕飯誘われたぜ! 騎士団での夕食だ!」

どこにそんな体力があるのやら。それに、夕食と言っても見習い達とであって、正規の騎士とは別だというのに。

「ばっか、騎士団のいるトコで食べるからいいんだよ! それに見習いだって今後は騎士になるんだ。今から仲良くしとかねーと」

やれやれ。嬉しげに笑われてしまうと、こっちまで笑ってしまいそうだ。

騎士見習いに先導されて進む廊下からは、騎士団宿舎が良く見える。ここを通らせることも、見習いの配慮なのだろう。

同僚は騎士好きだし、気持ちのいい奴だ。ああは言ったが同僚は見習いたちに、半ば仲間扱いされているんだから。

「いいよなあ、騎士団宿舎だぜ。俺も騎士になったらあそこに住むんだよなあ」

今、同僚は連れ立って宿舎へ入って行く騎士達を見ているはず。

……それなら、きっとあの光景を見てはいないだろう。

騎士団長と連れ立って歩く、金髪の少女の姿を。

「はー食った食った! 楽しかったなあ、やっぱ現役から聞く話は一番だぜ」

まったくため息が漏れる。仕事は終わったから良いものの、陽はとうに暮れてしまっているというのに。

ここから家までの距離。凄まじく遠くはないが、面倒な事に変わりはない。

もう一度だけ落ちたため息を拾ったのは、思いもよらない方向からだった。

「む、こんな時間にいるとは珍しいな。仕事か?」

カツン、と軽い足音が響く。胡乱げに振り向いた同僚が固まったのが手に取る様に分かって、少し面白い。

「今から家に帰るのかい。しかし、随分時間が掛かりそうだな……ふむ」

細い指を唇に添えて考える、そんな仕草も随分と堂に入っているというか、悔しい事に魅力的だ。

現に、隣の同僚なんぞ顔を真っ赤にして見惚れているじゃないか。

そして、その後の言葉に、一層赤みを増していくのだが。

「私の部屋に泊まるといい。お前の仕事場も、ここからの方が近いだろう」

こっちだ、と俺を見もせずに先導する辺り、身勝手さがうかがい知れる。ため息を吐きつくしたいのだが、そうもいかないらしい。

同僚は捨て置くとして。揺れる金髪が視界から消える前に、俺は彼女を追って歩き出した。

「好きに休んでくれていい。ああ、久しぶりにベッドで一緒に寝るのも悪くないな」

ニヤリ、という擬音が相応しいような笑顔。同僚に見せてやりたいものだ。

「ふ、こうしてふざける相手は少ないんだぞ。それに普段は従順極まりない騎士なんだ。どんな命令にも、な」

含みのある言葉も、今の姿を見れば説得力は十分だ。

訓練で鍛えた体は筋張っているものの、女らしい丸みを帯びている。

「自慢になるが、胸はなかなか大きいだろう? 尻が少し大きいが、まあ、安産型という奴だ」

ふ、ふ、と笑って全裸を晒し、これ見よがしに胸と尻を突き出してきた。

……少しばかり、下腹部の毛が多いらしい。

「ん? む……処理がな、少し滞っている。嫌いか?」

眉を顰めて茂みを撫でる仕草には、気恥ずかしさといった物は欠片も無い。

まあ、全裸になる事自体に戸惑いが無いのだから当然だろう。

「剃ってこようか……いい? 分かった。しかしそうなると困ったな、見ての通り私の部屋は退屈そのものだ」

彼女はそう言うが、部屋にはむしろ、女の子らしさに溢れている。

ぬいぐるみ、可愛らしい雑貨、ちょっとした化粧道具に武具一式。

全裸で腕を組んで立っている女騎士自身が、一番女の子らしくないに違いない。

「すまないな、私は寝間着というものを着ないタチなんだ」

ふふん、と胸を弾ませて、隠すどころか足を広げて仰向けで。おっさん臭い。

しばらくそれぞれの仕事の話などをしてみたが、元々会う機会は多い。他愛もないネタはすぐに潰えてしまう。

そうなれば。

話の流れは自然と、男女の話に向かうものなのかもしれない。

「……お前は欲情する割に、私に手を出そうとしないな。気遣っているのかい?」

誰に、とは言うまい。

けれど、この女騎士は言う。ニヤリと笑って言えるタチだ。

「私の義父を気遣っているのか。騎士団長閣下のモノに手は出せん、そういうことかな」

金の髪を撫で付けて、女騎士は立ち上がる。

相変わらず隠すことは無く、豊かな胸を俺に押し付けるものだから、正直下半身は痛いくらいになっている。

……それでも、それでもだ。

「いいじゃないか。私とお前の事は義父も知っている……きっと、祝福してくれるさ」

スムーズに脚が開かれて俺の上で絡みつく。寄せられた唇の温かさは、驚くほど柔らかくて。

目の前には緩みきった少女の顔。少し涎の垂れた唇が、夢の内容を教えてくれるようだ。

「……おはよう。結局、手は出してくれなかったな」

器用なもので、花の咲くような笑顔のままで不満げな声なんてよく出せる。

「次こそは頼みたいものだな。じゃあ私は行くよ、そろそろ雑用を始める時間だ」

まったく、人の頭の上を跨ぐとは。

最後まで見せつける様に下着なんて付けて、ついには苦笑だけが漏れてしまう。

「む、何を笑っているんだ。大変なんだぞ、言われた事には従わねばならないのだからな。よよよ」

嘆くような言葉も、わざとらしい泣き真似と相まって馬鹿馬鹿しいという他ない。

いくら騎士団が男の集まりと言っても、騎士団長の義娘に無茶をいう奴がいることはないだろう。

「ふむ……確かに、初めの頃に胸を揉まれた時、翌日からその騎士はいなくなっていたな。義父はどうも娘が可愛くて仕方ないらしい」

うむうむ、と頷くと、ひとしきり満足したのか手を振って扉の向こうへ消えていく。

おおかたそんなものだ。どう見てもこの部屋はアイツの趣味じゃない。誰かに用意して貰わなければ出来やしないはず。

脱ぎ散らかされた昨日の下着を一瞥し、わざとらしい少女趣味の部屋を後にするのだった。

今日はこれだけで。今更ですが胸糞感、エロ注意です。
前作もよろしければ。

勇者「魔物とセックスした」
勇者「魔物とセックスした」 - SSまとめ速報
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