やよい「タッチ・マイ・ライフ」 (37)

春色の風が吹いています
高校を卒業して、少しだけ大人になった私の頬を優しくなでながら

咲き始めた桜と、18歳になったばかりの私
6年前、まだ小さかった私と、小さかった765プロ

少しだけ思い出してみますね
あの日から始まった、私と、大切なみんなとのお話を

みなさんにも、ちょっとだけ……

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1440435841

「高槻やよいでーっす!私、みんなを笑顔にできるようなアイドルになりたいです!」

今日と同じように春色の風が吹き込む事務所で、私は宣言しました

「お、パワー全開って感じだな」

「はい!元気だけが取りえですから!」

いまは……
あんまり変わってないかもです……

「苦労することも多いだろうけど、一緒にがんばろうな!」

そう言ってくれたあの人
ホントは不安でいっぱいだったってことは、何年も後になってから知りました
だけどそれはお互い様ですよ、プロデューサー?

「高槻さんは、趣味は何かな?」

「えっと…野球観戦とオセロです!」

「野球観戦かぁ。好きなチームは?」

「ロッテです!応援歌とか歌えるようになれたらなーって」

「ロッテかぁ。そうだな。応援歌、歌わせてやりたいな」

応援歌…とまではいかないけど、ロッテの選手がヒットを打ったとき、私の曲を使ってくれるようになったんですよぉ!
初めてスタジアムで聴いたときは、泣きそうになっちゃいました!

「だけど私、ちゃんとやっていけるのかな…ダンスとかしたことないし……」

お父さんとお母さんの力になりたい!
って思いで応募して765プロの候補生になれたんですけど、やっぱり不安でした

だけどそれを聞いたあの人は

「大丈夫!高槻さん以外の候補生もみんな新人だし、俺も新人だから!」

って言いました
自信満々で言うことじゃないですよね……
私じゃなかったら帰ってるかもです

「そういえば高槻さんには妹と弟がたくさんいるんだっけ?」

「あ、はい!妹が1人と弟が3人です!」

かすみ、長介、浩太郎、浩司
それから、あのときはまだ生まれてなかった浩三
いつも私を元気にしてくれる、大切な妹と弟たちです

「賑やかそうで羨ましいよ。俺は一人っ子だったから」

「だけど、一度に泣き出したときとか大変なんですよぉ!」

それから倉庫に隠れたり
ね、高槻長介くん?

その日の夜、おウチでお父さんとお母さんに候補生になれたことを報告しました

「ア、アイドル!?やよいが!?お前が!?」

お父さんてば、ビックリしすぎちゃって口をパクパクさせてました

「うん!私、お仕事してお父さんとお母さんの力になりたい!」

「いや、気持ちは嬉しいけどな…その……」

「なぁに?」

「アイドルっていうのはその…水着なんかにもなるんだろう?」

「そういうお仕事もあると思うけど…スクール水着じゃダメなのかなぁ?」

し、仕方ないんです!
あの頃はスクール水着しか着たことなかったんですから!

「それにな、水着だけじゃなくてだな……」

「他にもあるの?」

「やよいにランドセル背負わせたり幼稚園の服を着させたり赤ちゃん用のおしゃぶりをくわえさせたりして喜ぶヤツも」

「そ、そんな人いないから!考えすぎだよお父さん!」

…考えすぎじゃなかったね、お父さん
そういう人も中にはいたかなーって
いまはさすがに恥ずかしいですけどね、チャイルドスモック

だけど、あずささんはいまでもノリノリで……
あっ、な、なんでもないですっ!

一週間くらいかかりそうなので、念のために酉を付けておきます

候補生になって初めての事務所
お仕事はなかったんですけど、いてもたってもいられなかった私は、外をお掃除してました

「おはよう!」

「あ、春香さん!おはようございます!」

この頃の765プロには、私以外に6人の候補生がいました
あずささん、律子さん、真さん、雪歩さん、千早さん、それに春香さん

私の加入を

「妹ができたみたい!」

って喜んでくれました

兄弟の一番上だった私も、一度に6人もお姉ちゃんができたみたいですっごく嬉しかったです

「春香さん、お仕事ですか?」

「今日は10時からダンスレッスン。まだ1時間あるから、お掃除手伝うよ!」

「いえ、もう終わりますから!」

「えっ?やよい、何時から掃除してるの?」

「6時からですー!」

お、お掃除はちゃんとしなきゃダメなんですよぉ!
散らかってたら運気が逃げて行くんです!
たぶんですけど、きっとそうです!

トリップ難しい奴にした方がいいですよー!

>>12
おお、ありがとうございます!
普段酉なんて付けないから勝手が分からないw

春香さんはとっても優しくて、『近所のおねえさん』って感じでした
10年くらい使ってボロボロになったポシェットを『べろちょろ』にしてくれたのも春香さん
いまでも大事に使ってるんですよ?

「それじゃあ、レッスン行ってくるね!」

「はい!がんばってください!」

まだ初々しかった私たち
TVに出たり、映画に出たり、CDを出したり……
なんてことはずっとずっと先にある「夢」で、それを少しでも『目標』にするためにレッスンを重ねる日々でした

中学生になって最初の夏休み
クーラーの壊れた事務所で、私は大事な大事な大事な人と出会いました

「今日から765プロ候補生となった水瀬伊織君だ。仲良くしてやってくれたまえよ」

社長に紹介されてるときも、他のみんなと挨拶してるときも、ずっとほっぺを膨らませてた伊織ちゃん
何か怒ってるのかな、ってあのときは思ったけど、きっと照れくさかったんだね

「初めまして、高槻やよいです!中学1年生です!よろしくお願いしまーっす!」

両手を後ろに跳ね上げながら、「あの」お辞儀をした私

「…変なお辞儀ね」

「ご、ごめんなさい!クセなんです!」

それから5秒くらい私を見つめてた伊織ちゃん

「…困ったことがあったら私に言いなさいよね」

「へ?」

「な、なんでもないわよ!バカじゃないの!よろしくね!」

これが私と伊織ちゃんの始まり
ずっとずっと続く、終わりのない始まり
最近は私が叱ることも多いんですよ?

「伊織ちゃん、めっ!」

って
そう言われたくてイタズラしてくるんだろうなぁ、っていうのもホントは分かってるんですけどね、えへへ

10月も半ばを迎えて涼しくなった頃、それまでの営業とオーディションの成果もあって、小さなお仕事が貰えるようになっていました
律子さんは『ローラー作戦』って呼んでましたっけ

そんなある日
事務所で真さんといっしょにお弁当を食べていると、プロデューサーが駆け込んできました

「やよい、仕事だぞ!テレビの!」

「テ、テレビですかぁ!?」

ビックリしすぎて、真さんと二人してお箸を落としちゃいました

「ケーブルテレビだけどな!それでもたくさんの視聴者がお前を知ってくれるハズだ!」

その頃の私にとって、テレビは魔法の箱でした
キラキラした夢が詰まった、小さな魔法の箱
私もその中に入ることができる……
それが信じられませんでした

「それでそれで?どんな番組なんですか?」

真さんが身を乗り出しながら聞きました

「ああ、そのケーブルテレビ会社の人気番組でな。タイトルは『寺と少女』だ」

「お寺…ですかぁ?」

「うん。女の子が寺にお参りするだけの、シンプルな企画だ」

「マニアックですね、ずいぶん……」

私も真さんの意見に同意でした……
だけど、断る気なんてぜんぜんありませんでした
あの魔法の箱の中に映る自分の姿を思い描いたら、断ることなんてできないですから!

「私、出たいです!」

その言葉を聞いたあの人は、嬉しそうにうなずいてくれました

「うぅ…やっぱり緊張します……」

撮影当日
世田谷区にある小さなお寺で、全身をオシャレな服に包まれた私はプルプルしていました

予算が無いので普段着で、って言われた私はいつもの服で出演しようとしたんですけど……
だけど伊織ちゃんから

「ダメよ!貸してあげるからコレ着なさい!あとコレも!ついでにこのバッグも持っときなさい!」

って言われちゃって

伊織ちゃん、心配しすぎて

「私も着いていくわ!」

なんて言ってたんですけど、さすがに律子さんから止められてました

そういうわけで、初めてのテレビ出演に加えて着なれない服を着た私は、境内のすみっこでプルプルしてたわけです

「ピンクなぁ…伊織らしいけど、ピンクなぁ……」

伊織ちゃんからレンタルしたカーディガンを観ながら、何度も呟いていたあの人
そう思うなら「ピンクはダメ!」って止めてくれればよかったのに……

「プロデューサー、私、どうしましょう……?」

「うーん…まぁ、なんとかなるか!」

「なるんですかぁ!?」

仕方ないですよね
あの人も新人だったんですから
臨機応変、なんて無理ですよね

…いまでも怪しいですけど……

「プ、プロデューサー、手を出して下さい!」

「手?どうして?」

「がんばるぞ、って気合いを入れるためです!」

なんでそんなふうにしようと思ったかは忘れちゃいましたけど、間違ってなかったですよね、きっと
不思議そうな顔をしながら手のひらを私に向けたあの人

うんと背伸びしながら、その手を叩きました

「ハイ、ターッチ!」

パシィ、っていう音が、不安や緊張を消してくれたような気持ちになりました

「イエイ!」

最初の一回
たぶん百回以上繰り返された大切な『儀式』の、最初の最初
遠くから聞こえてきた電車の音も、ハッキリ覚えています

結果を言うと、『寺と少女』の反響はけっこう良かったです
ケーブルテレビ会社さんにも「あのピンクの女の子は誰?」って問い合わせが30件くらいあったって聞きました

きっと私が500円もお賽銭を入れたからですよね?
最初は10円入れようかと思ってたんですけど『なんだ、これっぽって』って言われちゃいそうだったから、思い切って500円玉を投げ入れました

それから3日間「500円~500円~」ってうなされちゃいましたけど……
だ、だって当時の高槻家にとっては2日分の食費だったんですから!
ご利益はあったんですよ、きっと!

その番組がきっかけになったのかは分かりませんけど、それまで以上に765プロのお仕事は増えました

まだまだ「全国区」なんて言えないけど、300人のライブハウスの前座が500人のライブハウスになったりしました

「なんだ、大して変わらないじゃん」

って思う人もいるかもですけど、あの頃の私たちにとっては大きな変化でした
伊織ちゃんは私と二人だけのときに

「やよいのおかげね、きっと」

って言ってくれたけど、たぶん違います
だってみんな、ホントに一生懸命でしたから
あれはあの頃の765プロ全員の力です
社長や、自分の時間を犠牲にして私たちのことをサポートしてくれた小鳥さんも含めた全員の
そう思えることが、とっても誇らしいです

少しずつ忙しくなる中で、年が明けて3学期を迎えたころ
765プロに3人の新しい仲間が加わりました

1人目は美希さん
初めて見たとき

「こんな可愛い人がいるんだぁ」

って思っちゃいました
それくらいキラキラしてましたから

「ミキは星井美希だよ?てきとーにガンバるからよろしくね!」

…美希さんずるいです!
そんなこと言いながら、最初から歌もダンスも私より上手かったんですから!

「あふぅ……」

いきなりソファーで寝ちゃった美希さん
みんな「大丈夫かなぁ?」って顔してましたけど、いまではちゃんと分かってます

ホントはまっすぐで、負けずぎらいで、がんばり屋さんだって
それに、あの人のことが大好きだってことも、ね?

2人目と3人目は亜美と真美
765プロで初めての、私の妹

「亜美!ゆきぴょんは!」

「さっすが真美!それに決まりだね!」

自己紹介が終わるとすぐ、みんなにあだ名を付けてましたっけ

「やよいっち!」

私を指差しながらそう言ったときの真美の顔、いまでも覚えてます
とっても可愛いくて、とっても生意気な、妹の顔

「よろしくね、やよいっち!」

「…うん!よろしくね、亜美!」

私の身長は2人よりも低いままだけど、お姉さんであることには変わりありません

…2人はそうは思ってないだろうけど……
それでもやっぱり、私の妹たちです!

その年の12月24日
高槻家に初めて、クリスマスケーキが登場しました

直径18センチのホールケーキ
私から家族へのクリスマスプレゼント
みんなで飾りつけをした居間の中に灯る、何本ものローソク

嬉しそうに笑うかすみや長介たちの顔を見ながら、少しだけ涙ぐんじゃいました
ああ、765プロに入ってよかった、って
みんなに会えてよかった、って
アイドルになってよかった、って

まだまだ駆け出しのアイドルだったけど、家族を幸せにすることはできたから
こんどはファンの人たちを幸せにしてあげたいって思えたから

だからいまも、アイドルでいられるんだと思います
私を応援してくれる人たちを、もっともっと笑顔にしたいから!

「そっか。クリスマスケーキか」

お正月前の最後のお仕事
スーパーでの小さなイベントを終えた私に、あの人はお昼ごはんをご馳走してくれました

注文したのはオムライス
ふわふわのタマゴからは、白い湯気が出ていました

「偉いよなぁ。俺が中1のときなんて遊ぶことしか考えてなかったよ」

「それがふつうなんだと思います」

ケチャップをかけすぎちゃったオムライスを口に運びながら、私は続けました

「あの子たちには遊ぶことを考えほしいから。たまには家事も手伝ってほしいかもだけど…私にはできなかったことですから」

私、ずっとおウチのお手伝いをしてましたから
それが嫌だったわけじゃないけど……
子供は遊ぶものですからね、やっぱり

「しっかりしてるなぁ」

そう言って熱いコーヒーに口をつけたあの人
誉められなれてない私は、なんだか照れくさくなっちゃいました

「…ふふ」

「へ?なんですか?なんで笑ってるんですか?」

私の顔を見ながら突然笑い始めました

「私の顔になにか着いてるんですかぁ?」

「ケチャップが」

「えっ?」

一度に頬張りすぎて、口の回りがケチャップまみれになってたみたいです……

「ははは。そういうとこは中学1年生、って感じだな」

「ちゅ、中学1年生ですから!」

よく分からない返答をしながら、そのあと二人で笑いました
なんだか兄妹みたい、って、一人で嬉しくなってました

私が加入してから2回目の春がやってきた765プロに、大きな転機が訪れました
主役は真さん
雑誌の「カッコいい女の子」って企画で、真さんが取り上げられたんです

1ページだけの小さな企画でしたけど、反響はすごかったんですよ?
だって、765プロが入ってたビルの前で、ファンの人たちが出待ちをしてたんですから!
それも全員女の子!

雪歩さんが「ふうん……」って言ってたのがちょっと怖かったですけど……

「真くんには美希がいるんだから、浮気しちゃダメだよ?アハッ」

「なによ!『ラブリーな女の子』って企画ならぜったい私が載ってるわよ!」

「75センチ…くっ……」

タキシード姿の真さんのグラビアとプロフィール、それに紹介文が載ったページを見ながら、みんな嬉しそうに、そして同じくらい悔しそうにしてました
次は自分が、って、私でも思っちゃましたから

そうやってみんなで盛り上がっている中、事務所の電話が鳴りました

「はい765プロダクションでございます。…はい。ええ、菊地真は当社に所属しておりますが。…えっ?アクション映画のオーディション!?ホントに!?イタズラ電話じゃないですよね!?ホ、ホントに!?!?」

仕方ないですよね
いきなりそんなこと言われたら、小鳥さんじゃなくてもテンパっちゃうかなーって

>>30の訂正

私が加入してから3回目の春がやってきた765プロに、大きな転機が訪れました
主役は真さん
雑誌の「カッコいい女の子」って企画で、真さんが取り上げられたんです

1ページだけの小さな企画でしたけど、反響はすごかったんですよ?
だって、765プロが入ってたビルの前で、ファンの人たちが出待ちをしてたんですから!
それも全員女の子!

雪歩さんが「ふうん……」って言ってたのがちょっと怖かったですけど……

次に>>31

「真くんには美希がいるんだから、浮気しちゃダメだよ?アハッ」

「なによ!『ラブリーな女の子』って企画ならぜったい私が載ってるわよ!」

「75センチ…くっ……」

タキシード姿の真さんのグラビアとプロフィール、それに紹介文が載ったページを見ながら、みんな嬉しそうに、そして同じくらい悔しそうにしてました
次は自分が、って、私でも思っちゃましたから

そうやってみんなで盛り上がっている中、事務所の電話が鳴りました

「はい765プロダクションでございます。…はい。ええ、菊地真は当社に所属しておりますが。…えっ?アクション映画のオーディション!?ホントに!?イタズラ電話じゃないですよね!?ホ、ホントに!?!?」

仕方ないですよね
いきなりそんなこと言われたら、小鳥さんじゃなくてもテンパっちゃうかなーって

すいません
大幅にミスってしまったので、一度落とさせてもらいます
本当に申し訳ありません……

気にせず続けて

>>35
いや、大事な中学二年生をほとんどすっ飛ばしてしまったので……
申し訳ないです……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年08月29日 (土) 10:59:13   ID: pkAtvQ89

いいですね!やよいおりの出会った頃とか、なかなか見れないので新鮮です。気楽に頑張ってください!

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