都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… (261)

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」とは
 2ちゃんねる - ニュー速VIPで生まれた
 都市伝説と契約して他の都市伝説と戦ってみたりそんな事は気にせず都市伝説とまったりしたりきゃっうふふしたり
 まぁそんな感じで色々やってるSSを書いてみたり妄想してみたりアイディア出してみたりと色々活動しているスレです。
 基本的に世界観は作者それぞれ、何でもあり。
 なお「都市伝説と…」の設定を使って、各作者たちによる【シェアード・ワールド・ノベル】やクロス企画などの活動も行っています。
 舞台の一例としては下記のまとめwikiを参照してください。
まとめwiki
 http://www29.atwiki.jp/legends/
まとめ(途中まで)
 http://nanabatu.web.fc2.com/new_genre/urban_folklore_contractor.html
避難所

http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13199/
■注意
 スレの性質上、スレ進行が滞る事もありますがまったりと待ちましょう。
 本スレとはあまりにもかけ離れた雑談は「避難所」を利用して下さい。
 作品によっては微エロ又は微グロ表現がなされていますので苦手な方はご容赦ください。
■書き手の皆さんへ
 書き手の方は名前欄にタイトル(もしくはコテハン)とトリップ推奨(どちらも非強制)
 物語の続きを投下する場合は最後に投下したレスへアンカー(>>xxx-xxx)をつけると読み易くなります。
 他作品と関わる作品を書く場合には、キャラ使用の許可をスレで呼びかけるといいかもしれません。
 ネタバレが嫌な方は「避難所」の雑談スレを利用する手もあります。どちらにせよ相手方の作品には十分配慮してあげて下さい。
 これから書こうとする人は、設定を気にせず書いちゃって下さい。
※重要事項
 この板では、一部の単語にフィルターがかかっています。  メール欄に半角で『saga』の入力推奨。
「書き込めません」と出た時は一度リロードして本当に書き込めなかったかどうか確かめてから改めて書き込みましょう。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1440331914

◆用語集
【都市伝説】→超常現象から伝説・神話、それにUMAや妖怪のたぐいまで含んでしまう“不思議な存在”の総称。厳密な意味の都市伝説ではありません。スレ設立当初は違ったんだけど忘れた
【契約】→都市伝説に心の力を与える代わりにすげえパワーを手に入れた人たち
【契約者】→都市伝説と契約を交わした人
【組織】→都市伝説を用いて犯罪を犯したり、人を襲う都市伝説をコロコロしちゃう都市伝説集団
【黒服】→組織の構成員のこと、色々な集団に分けられている。元人間も居れば純粋培養の黒服も居る
【No.0】→黒服集団の長、つおい。その気になれば世界を破壊するくらい楽勝な奴らばかり
【心の器】→人間が都市伝説と契約できる範囲。強大な都市伝説と契約したり、多重契約したりすると容量を喰う。器の大きさは人それぞれである。器から少しでも零れると…
【都市伝説に飲まれる】→器の限界を迎えた場合に起こる現象。消滅したり、人間を辞めて都市伝説や黒服になったりする。不老になることもある

 みんなが、しくしくと泣いている
 集まっている誰もが、例外なく彼女の死を悲しんでいた
 14歳。失ってしまうには、あまりにも早過ぎる命
 どれだけ嘆こうとも、彼女は間違いなく、死んでしまったのだ

「どうして………………………自分の足で、屋上から………」
「……………遺書は、見つかっていないって?」
「……父親も、行方がわからないって……」

 ひそひそとしたささやき声が、右から左へと流れていく
 私はただ、呆然と、あまりにも早く死んでしまったその人の遺影を眺めていた

 優しい人だった
 とても優しくて、明るくて…………あぁ、自分もあんな人になりたいなぁ、って、そう思っていた

 彼女が死んだその日も、私はあの人と会っていた
 話を、していたのだ
 近頃、学校中でみんなが噂していたその話に怯えていた私を、あの人は元気づけてくれた

『大丈夫!あんなの、ただの噂だから。あんまり怖がっちゃダメよ?』

 優しく微笑み、あの人は頭を撫でてくれていた

『…………大丈夫。あんな噂、すぐに消えちゃうから』

 …そして、その時
 あの人が、呟いた言葉

『消して、みせるから………………………………必ず』

 強い決意を込めた言葉だった
 その言葉が何を意味していたのかは、わからない


 ただ、彼女が死んでしまった
 その事実だけが、残って


 ふらふらと、私は部屋を出た
 ぐしぐしと目元を拭う
 誰もいない場所へ、行きたかった
 ぐるぐる、ぐるぐると思考がぐるぐる回り回って狂々々廻り廻る
 誰もいないところじゃなければ、この思考を打ちきれないような、そんな気がしていた
 人のいないところへ、ところへ、向かっていって………


「………やっぱり、あいつが犯人だったんだ」


 聞こえてきた声に、足を止めた
 聞き覚えのある声だった
 同じクラスになった事もある、少年の声

「彼女の遺書にも、そう書いてあったか」
「………戦う、つもりだったのですね。あの人は」
「ーーーーーしている訳でもないのに、無茶を……!」

 他にも数人分の声。少年の声の中に二人だけ、少女の声
 どれも、知っている声だった
 先ほどの声と同様、同じクラスになった事もある人の声
 いつも同じグループで固まっていることが多くて、目立つグループの子達
 ……そして、彼女とも仲が良かった、そんなグループ

 その、彼らは
 先ほど、何と言った?

「遺書を最初に見つけたのは、俺達だが…………まぁ、他の奴らも、すぐに気づくだろうな」
「犯人については、「組織」なども目星をつけ始めていたようですからね」
「………まさか。誰かが接触して、咲李に話したんじゃあ」
「かもしれないわね………せっかく、私達が、彼女に話さないようにしていたのに」
「……官女は…………真実を知ってしまったら……動かずには、いられなかっただろうから」
「遺書には、「黒いスーツの女の人」と書いていましたね……「組織」の方なのか、それとも「組織」の方のふりをした、誰かか………」

 彼らが何を話しているのか、私にはわからなかった
 ただ、背筋をつぅ、と、冷たいものが降りていく

「ーーーは、来るな。契約者じゃないんだから、危険だ」
「あのね、それ言ったら、ーーーだって、契約者じゃないし。どちらにせよ、危険よ」
「……危険は、承知だ」

 そして、ふと、気づく
 話し声に混じって、ずっと泣いている声
 一人は、ずっと泣き続けている
 その嗚咽の中で、彼女の名前を口にしているのが、聞こえた


「……遅くても、明日には土川 羽鶴に接触する。ことの真実を聞き出して、場合によっては………」


 がたんっ、と
 その時、私は音を立ててしまった

 ピタリ、と、聞こえてきていた言葉が、止まる

「誰だっ!?」

 慌てて、私は身を隠した
 息を殺し、気配を押し隠す

「誰か、居たか?」
「いや、いない…………だが」
「……誰かに聞かれたんじゃない?」
「だとしたら、まずいな………今夜中に、片を付けた方がいいかもしれない」

 何を話しているのか、私にはわからなかった
 わからなかった、けれど


「大丈夫、ーー、彼女の仇は、俺達でとるから」
「ーーーーーーーーー」

 あぁ、もう何も聞こえない
 心臓の鼓動だけが、やけに大きく聞こえる

 彼らは、何かしようとしていた
 ……いや、はっきり言おう
 彼らは、彼女の死の真相を、知っていた
 知っている上で………原因へと、向かおうとしていた
 でも、それは、その人は


 仇をとる、ということは、何をしようとしている?


 思考がぐるぐる回る
 先ほどまでとは、また別の思考がぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる


 真相の一歩手前、そこまで足を踏み入れて
 しかし、私はどうしようもなく「部外者」だった
 私は、彼らの話している内容を理解しきれなかった
 その時点で私は「部外者」で………それ以上の真実を知ることも、何も出来ない
 なぜか、そう確信できてしまって


 声を漏らさず、私はただ、泣き続けることしか出来なかった




to be … ?

はぁい!
今更、スレタイに「」をつけるの忘れてたことに気づいた俺だよっ!!
いや、マジゴメンorz


とりあえず、ぽいぽいっと放り投げておきますね
誰の視点かは恐らくすぐバレそうだが

誰もいない
投下するなら今のうち

いつの間に新スレでわろた、あんたら展開速いな!

「ん……と、確かここだっけか?」

満月の夜
時代を間違えた様なリーゼントの現役中学生・妹尾 賢志は、
黄昏 裂邪という少年に都市伝説の扱いの指導を受ける為、北区の山奥へと来ていた
全ては、妹を守る為
今後現れるかも知れない、強大な力と戦う為

「…しっかし薄気味悪ぃなぁ…月の光しか目の頼りがねぇぞ?」
「なーんだビビってるの? 年上の癖に」

寧ろ突然人の声がしたことに驚いた賢志は咄嗟に振り向いた
肩までの少し長い髪、自分よりも年下らしい背丈と顔立ち
賢志はその少年に見覚えがあった
裂邪に修行を懇願した際に、彼を“師匠”と呼んでいた少年だ

「あん時のガキ! テメェも来やがったのか!」
「お前だってまだガキだろ! ちょっと年上なだけで!」
「ガキじゃねぇ!! 俺ぁ妹尾 賢志だ!」
「俺だって水無月 清太って名前があるんだ!」
「お前等……夜中なんだから静かにしようぜ、な?」

ようやくの聞き慣れた声
いつからいたのだろう、すぐ傍の木の影に、黒尽くめのその少年は立っていた
彼の右目を覆う長い髪は夜風に揺れ、何時かの戦いで負った大きな傷を晒し、
漂う風格と、混沌とした気配と共に2人に僅かながらにプレッシャーを与えるようだった

「せ、先生!? いつの間に!?」
「ハァ…お前は自分の影に同じ事が聞けるか?」
「師匠は「シャドーマン」の契約者。影から影を自由に動けるんだぜ
 この世に光がある限り、師匠から逃げられる敵なんていないのさ!」

清太の自慢げな解説で納得がいった
彼が満月の夜、暗い山奥を修行場所に選んだこと
そしてもう一つ気が付いた

「あれ? 先生と初めて戦った時に影なんて……」
「その辺りも含めて、まずは座学から始めようか
 何せ、お前は知らない事が多すぎる…シェイド」

ぱちん、と裂邪が指を鳴らすや否や、彼の傍に黒衣の女性が現れた
その女性も、賢志は確かに見覚えがあった

「あ、あの時の……」
「以前はこの馬鹿の遊びに付き合わせてしまって申し訳ない
 「シャドーマン」のシェイドだ」
「余計なことは言わんでいい」

裂邪が指を鳴らして指示をしながら、ポケットから出したスマートフォンを己のベルトに翳すと、
シェイドと名乗る女性の姿は黒いローブの人影へ、
そしてその姿も黒い流動体へと変わり、空中に文字を書く
その文字は

「都市…伝説……」

「そ。“都市伝説”
 俺の「シャドーマン」や「レイヴァテイン」、お前の「賢者の石」、
 それにお前が今まで戦ってきた「組織」の黒服達、
 さらには有名な「トイレの花子さん」や「口裂け女」……
 この世に跋扈する噂や逸話、伝承が具現化したもの…それが“都市伝説”だ」
「…じ、じゃあ、契約ってのは…」
「そもそも都市伝説は、噂が広まる事で人間達の記憶に残る事でその存在が確立される
 故に、その噂に忠実に行動する事で、都市伝説達は自分の噂をより広めようとする
 例えば…「口裂け女」は自分の素顔を見た者を八つ裂きにして殺す」
「はぁ!? そんなことっ…噂を広めるのは人間なんだろ!?
 殺しちまったら元も子もねぇじゃねぇか!」
「お前!師匠に怒鳴っても仕方ないだろ!」
「え、あ、その…」
「ウヒヒヒヒ、まぁその反応が普通だわな
 大抵の都市伝説はそうやって馬鹿正直に噂の内容をこなすのさ
 だがそんな都市伝説の中にも賢い奴がいる
 たった1人の人間に自分を記憶して貰う事で、自分の存在をより強固に保つ
 その代わりに、その人間に自分の力を与える
 それが」
「“契約”、か……」

影が、空中に“契約”の2文字を形作る

「「賢者の石」は物品系だから、余程の物でなければ自分の意思で動いたり、話したりはしない
 俺はその瞬間を見た訳じゃないが…賢志の呼びかけや願いに応えて、契約を結んだんだろう
 そうしてお前は…契約者になった」
「ん? 先生、都市伝説と契約した人間が契約者なんだろ?
 さっき「組織」の黒服が都市伝説だって」
「あぁ、その通り。あれは人間じゃない
 人間が都市伝説になったんだ」
「なっ…」
「誰もが都市伝説と簡単に契約できる訳じゃない
 人間にはそれぞれ“器”…限界があるんだ
 その器から溢れた奴等の半分は、あの黒服みたいに都市伝説と同化してしまう
 人間の姿形のまま、都市伝説になってしまうんだ」
「…もう半分は?」
「消滅。この世から、跡形も無く、な」

ハッとしたような顔をして、賢志は黙ってしまった
言い換えれば、彼はもしかしたら消えていたのかも知れなかった
そうなったら妹の魅衣がひとりぼっちに―――いや、それどころかあの状況では殺されていたかも知れなかった
様々な“If”が、賢志を震え上がらせた

「ま、それを乗り越えてお前は晴れて契約者になったんだ
 「賢者の石」の力も手に入れた……代償として、お前は“日常”を失った」
「……どういうことだ?」
「都市伝説、及びその契約者は互いに引き付け合う性質があってな
 お前もそうだったろ? 契約者の日常は、今まで過ごしてきたような生温かいものじゃない
 常に死と隣合わせだ…己と、身の回りの人間の」
「っ!? そんなの絶対に―――」
「させねぇよ。その為に俺に弟子入りしたんだろ?」
「ふぁ~あ……やっと俺の出番っすか?」
「もうちょっと待て」

裂邪は影を細長い棒状にすると、その先端を賢志に向けた
顔面すれすれに向かって来た為に、賢志は思わずぎょっとする

「賢志、お前は自分の都市伝説について…「賢者の石」について説明できるか?」
「え? えっと……き、金属が作れて、それで、えっと……」
「ウヒヒ、やっぱあんまし分かってないみたいだな」
「す、すんません…」
「いいよ、偶に都市伝説自身が契約直後に教えてくれたりするらしいんだが、そうじゃなかったみたいだな
 最初は必死になって適当にやったら能力が使えたってことも間々ある」

また、影は形を崩して文字を作る
“賢者の石”、“錬金術”、“エリクサー”、“パラケルスス”

「「賢者の石」ってのはその昔、現代科学の基礎となった錬金術において、
 如何なる卑金属をも貴金属に…すなわち鉄などの安い金属を金みたいな高価なものに変える為のアイテムだと言われている
 “石”とついてはいるが、実際に石なのかどうかも分からん、粉末だったかも知れないが、
 パラケルススが製造に成功した、所持していたと言われ、
 「エリクサー」と関連付けて不老不死の薬だの、どんな病気も直す万能薬だのとも言われている」
「…あ」

賢志は思い出した
「賢者の石」と契約した日、「ジーナ・フォイロ」の所為で疲弊していた魅衣が、
抱き上げただけですぐに体調が戻った事を
初めて裂邪と会い、戦った日、自分の怪我を右手で触れて治していた事を

「そ。お前もよく使ってた能力だな
 あと契約で金属以外の物質も金属に変化できるようになってるようだな
 いや、寧ろ“創造”か?
 何にせよ、その能力はかなり強力だな。「賢者の石」の要と言って良い」
「…それでも、あんたには敵わなかった
 もっと、強くなれる筈なんだ…いや、強くなんないと、魅衣を守れねぇ…!!」
「魅衣…?」
「ん、ここまでで第一章終わりだな
 続いて第二章と行きますか」

ぱちん!と再び指を鳴らすと、影は裂邪の背後に玉座を作り出す
彼はそれに座りこむと、怪しく笑いながら頬杖をついて座った

「都市伝説に関する大体の知識は叩きこんだ…ここからは実戦編だ
 だがお前は「賢者の石」について知らない事がまだ多い、それは俺も同じだ
 そこで、」

裂邪は目を見開き、真っ直ぐに賢志の目を見た
その突き刺さるような眼差しは、賢志の心を引き込んだ
風の音、虫の声、月の光、全てが何も感じない程に

「賢志。少しの間、お前は自分の身体をコントロールできなくなる
 しかし安心してくれ。それはお前の手の内を知りたいが為だ
 お前の身体を悪用したりはしない…信じてくれるな?」
「え…あ、あぁ」
「よし、契約成立だ」

その瞬間
裂邪の身体から七色の怪しげな靄が溢れ出し、賢志の身体に入り込んだ
ぎょっとする清太を尻目に、裂邪は眠り、賢志は茫然と立ち尽くす

(な、何が起こって―――――――なっ!?)
「あービックリした? まぁ無理も無いか」

賢志は早くも異変に気付いた
自分の意思で話すことが出来ない上に、自分ではない“何か”が代わりに口を開く
そして、自分の中に二人いるらしい気配

(まさか……先生!?)
「ウヒヒヒヒヒ、言ったろ? 今のお前は自分の身体を自分の意思で動かせない
 主導権は俺が握っている」
「っちょ、嘘だろ、そんなこともできんのか師匠!?」
「さあーて清太、待たせたな! こっからお前の修行だ!
 お前の相手は手の内がさっぱり分からないこの俺、妹尾賢志!」
(いや賢志は俺だぞ!?)
「人間の最も恐れるもの、それは“知らないこと”と“分からないこと”!
 もっと強くなりたければ、自ら恐怖を打ち砕け!!」

混乱する清太に対して尚も怪しい笑みを浮かべる賢志―――もとい裂邪は、
その場にしゃがみ込んで地面に右手を触れた

「まずは…『No.26 フェルム』!」

地面に弧を描くように手を動かすと、紅い光が走り、土が鉄で出来た鎌に変化した
それを手にとり、彼は清太に向けてその鋭い切っ先を振りかぶった

「うわっ!? 『イーヴィル・ブレイカー』!!」

咄嗟に、右手を水晶化させて鎌を止める
鎌は跡形もなく消え去り、清太は後ろに飛び退いた

(き、消えた!?)
「流石に防ぐか…ならこれはどうだ! 『No.80 ヒュドラルギュルム』!」

裂邪の右腕が、銀色の光沢を放つ水に変化する
銀の水は拳を形作り、清太へと向かう

「無駄だぜ師匠! 師匠が敵意を向けてる限り、俺に攻撃は通じない!」

再び水晶の掌を向ける清太
しかし、その寸前で拳は分裂し、三つに分かれて掌を避けた
驚く清太、笑う裂邪
寸でのところで、氷の壁を作り出し、清太は攻撃を逃れた
ぼろぼろと、氷が崩れ落ちる

(今度は…氷?)
「そういや、海水浴の時も使ってたな、その能力……「水晶は永久に溶けない氷」か?」
「くっそ……水晶と同じ硬さの氷なのに簡単に砕かれた…!」
「そりゃそうだ、水銀は常温では液体だが、質量は鉄以上…防御して正解だったな
 それにしても面白い能力だな、これも行けるか? 『No.37 ルビディウム』!」

またも裂邪の右腕が変化する
今度は銀色をした金属のようだが、直後に暗い赤色をした炎に包まれた

「ッ!?」
(ぎゃああああああ俺の腕が!?)
「ルビジウムは空気中で激しく酸化し自然発火する!
 お前が氷なら、俺は炎で勝負だ!」

炎の拳を振り上げ、裂邪は清太に襲い掛かる

「そんな炎、邪気と一緒に跡形もなくぶち殺してやる!
 『アヴァランチ・ブレイカー』!!」

清太は両掌を裂邪に向け、冷気の塊を裂邪の拳にぶつけて相殺を図った
ところが炎は掻き消えるどころか爆発的に勢いを増し、思わず水晶の手で掴みとった

「あっつ!?」
「冷気で火を消す算段だったか? 残念だったな
 空気中で冷えた水蒸気が水へと変わりルビジウムに反応して水素を生み出し、
 水素は炎と激しく反応して爆発を繰り返す……この炎は水では消せん!!」
(と、ところで……)
「ん? どうした賢志?」
(さっきから二人が叫んでるのって何すか?)
「何言ってんだ、必殺技に決まってんだろ!」
(えっと、大事なものなんすか?)
「当たり前だ! 都市伝説の力は契約者の“心”に直結する!
 方法、効能、威力、契約者が想像すれば都市伝説はそれに応えてくれる!
 都市伝説の戦いに必要なのは腕力や脚力じゃない! 想像力だ!!」
(想、像力……)
「師匠! 傍から見たらデカい独り言みたいで不気味だよ!!」

賢志は思い返す
金属バットや剣を作り出し、一方的に殴るだけ
それが自分の戦い方だった
裂邪はどうだ
「賢者の石」の、そして生み出したあらゆる金属の性質を理解し、
それを応用して様々な攻撃を繰り出している
裂邪だけではない
その相手の清太も、自分の能力で攻撃だけでなく、防御も行なっている
一方的に相手を殴るだけの賢志とは、圧倒的に差があった

(これが……都市伝説の戦い方……)

賢志はその時、何を感じただろう
少なくともこの戦闘で、彼は大きく成長したに違いない

†       †       †       †       †       †       †       







「ただいま、っと………流石に寝てるかな」

深夜
裂邪による世にも奇妙な修行を終え、賢志は静かに帰宅した
妹――魅衣を起こさないよう、静かに

「……じゃ、修行第三章、だな」

今日、彼が学んだこと
それは多くを知り、溜めこんだ知識を爆発させること
裂邪が言っていた2つの“恐怖”――“分からない事”と“知らない事”―――は、
己の知識が豊富である程、どんな状況にも対応しやすくなる
そして、知識は発展させれば力に―――“想像力”に繋げられる
即ち攻撃と防御、両面をカバーできるということだ

「…ごめんな、親父…ちょっと荒らすぜ」

賢志が入ったのは、生前に父が使っていた書斎
入室したのは今回が初めてだったが、室内は綺麗に整っていた
本棚には、彼の予想していた通りの題名がずらりと並んでいる
『錬金術の歴史』『パラケルススとは』『元素周期表と化学元素』『化学反応を学ぶ』『賢者の石について』


―――今後の宿題。様々なことを学べ。本、ネット、学校の先生、色んなものから関係ない事まで、全部だ


「やってやるぜ……魅衣を守る為なら、何だって……!!」

書物を取り、賢志の第三の修行が始まった
この修行は彼が睡魔に負けるまで続いたのだった



   ...了

さてと、皆様乙ですよ
どっから読んで無いんだ俺…ぼちぼち遡るとしよう


久々なキャラが出てて「こいつ誰よ」って思うかも知れんが
水無月清太については『邪気殺し』、妹尾賢志については『愛妹みぃ』を一読下さいまし
どっちもwikiに上がって……あ、『愛妹みぃ』1話しかあげてないんだっけ…

今のトレンドは次世代か
裂邪の次世代は何処にスポット当てれば良いんだろう(裂邪の子供10人のリスト見ながら

いっそ現代から100年後!とかやってみるか
その前に書きたい話がうごごごごごうぼぁーギャアアアアアム

もっと激しい戦闘書きたいけど…どの話で書こうかなぁ


>それにしてもれっきゅんが大人びててびっくりよ
あれですよ
真面目に師匠やってるだけで普段はエロガキですy(影に飲まれました

花子さんとかの人&影の人乙です

やっぱり、幼馴染グループは危なっかしいですな
この先、何事もなければいいけど……

裂くんの一番の武器って厨二力じゃないかな?(いや、マジで)
うちのキャラは能力がストレートすぎるので耳が痛い(六本足に至っては能力がおまけですしおすし)

では、チキン野郎投下します

・第四話 口裂け女が弟子!?

 弟子入りさせてください!!
 申し出は突然だった。何しろ、帰り道で突然言われたんだから。それに、頼んできた相手がなんとボクを殺そうとしてきた【口裂け女】。
 開いた口がふさがらない状況だった。
 取り敢えず、彼女から軽く事情を聞いた。それと、契約都市伝説とも会ってくれるように頼んだ。
 彼女はそれを了承。今日の午後八時に、近くの公園で顔合わせすることになった。
 そして、現在。ボクは、トバさんと目的地を目指して歩いていた。

「いいか、絶対に気は抜くなよ!」
「でも、あんまり警戒しすぎるのもどうかな?」

 こうして、トバさんを宥めながら。

「その考えが甘いんだよ! そいつは、仮にもお前を殺そうとしてきた敵だぞ。普通なら罠だ」
「うーん。確かにそうなんだけどさ……」

 ボクは、夕方の彼女を思い出す。
 真摯な瞳と誠実な話しぶりを。

「悪い人には見えなかったんだよね」
「……お前、昨日そいつに襲われたんだろ」
「いや、確かにそうなんだけどさ。それも、悪意を持ってやったというより仕事だったからしたって感じでさ」

 本題に入る前に、昨日の件について謝ってもくれたし。

「とにかく、会ってみてよ。そしたら、印象も変わると思うから」
「……怪しい素振りを見せたら、すぐに噛み付くからな」

 ぶっきらぼうに、トバさんは言い捨てた。

「わかったよ」

 公園まではあと少し。
 入口が、すぐそこにまで迫ってきていた。

「あ、師匠!」

 園内には、すでに【口裂け女】がいた。
 ボク達の姿を見つけると、ストレッチを中断して駆け寄ってくる。

「本当に来てくれたんですね!」
「うん、約束したからね。で、えーと」

 夕方、彼女から名前を聞くのを忘れていた。

「何て呼べばいいかな? 【口裂け女】ってのはあれだし」
「私はそれでも構いません。師匠が困るというのなら、緋色(ひいろ)でお願いします」
「うん、わかったよ。緋色さん」

 砕けた口調で話す。
 敬語は止めてくれと、彼女に頼まれたからだ。

「では、こちらの方が」
「ボクの契約都市伝説の『【人面犬】のトバだ』自分で言うんだ……」

 トバさんは、緋色さんを睨みつけた。

「いいか、俺はあんたを信用していない。何かあったら、遠慮なく噛み千切るからな」
「ちょ、ちょっとトバさん!」

 いくら、何でも失礼だ!
 注意しようとすると、緋色さんが先に口を開いた。

「はい、それで構いません」
「……ふん」

 彼女の大人な対応に感心する。おかげで、不穏な空気が流れずに済んだ。
 トバさんは、眼光を光らせたまま後ろに下がった。

「俺は監視している。後は勝手にしろ」
「うん。それじゃあ、早速始めようか」
「はい!」

 速く走るための特訓を。

「速く走れるようになりたい?」
「はい!」

 夕方、警戒を解いていないボクに【口裂け女】は語った。
 なぜ、弟子入りなんて言い出したかを。

「でも、今でも十分に速いのになんで」

 【口裂け女】は百メートルを六秒で走る、有名な噂だ。
 実際、彼女はとてもつもなく速い。ウサイン・ボルトですら真っ青になるほどに。それなのに、今以上に速くなりたいというのはどういうことだろう?

「……あなたに負けたからです」
「え?」

 予想外の答えに不意をつかれた。

「私は、【口裂け女】として自分の足に自信を持っていました。あなたに出会うまで、標的を逃がしたことがなかったからです」
「あれだけ速かったらそうだろうね……」

 ボクも、能力を使わなかったら捕まっていた。普通の人間なら、絶対に逃げ切れないだろう。
 もしかしたら、車やバイクでも無理かもしれない。

「しかし昨日、私はあなたに敗北しました。圧倒的な大差をつけられて」
「一応、契約者だからね」

 ……逃げるしか能がないけれど。

「その時、私は初めて悔しいと思いました。自分が井の中の蛙だということも知りました。だから、誓ったんです」

 ボクを見据えて、彼女は言い放った。

「自分のプライドにかけて、もっと速くなることを」
「……そうなんだ」

 立派だな、素直にそう思った。
 逃げるためだけに、走り続けたボクとは志が全く違う。彼女の動機は、アスリートに近い。ひどく前向きで、活力に満ちている。

「動機はわかったよ。けど、どうしてボクに弟子入りすることにしたの?」

 ボクが彼女に勝てたのは、能力を使ったからだ。生身なら普通に負ける。
 そんなボクに、何を教えて欲しいというのだろう?
 素朴な疑問に、【口裂け女】さんは即答した。

「あなたが優れた技術を持っていたからです」
「技術? いや、そんな大したものは使ってないよ」

 ボクは陸上部ではないから、ちゃんとした指導を受けたことがない。
 子供の頃、親に速く走るコツを教えてもらったくらいだ。後は、その手の本を参考にしながら独学で鍛えたに過ぎない。
 コーチとしては不十分だ。

「いえ、そんなはずはありません」

 【口裂け女】はすぐに否定した。

「あなたの走力は、人間としては規格外過ぎます。生まれ持った素質だけでは辿り着けない領域です」
「……そーなのかな?」

 いまいち、実感が沸かない。
 ボクはただ、逃げるためだけに走ってきた。ちゃんとタイムを計ったこともない。
 中学生の時、マラソン大会で一位になったりはした。でも、自分が飛び抜けて速いとは思えなかった。こういう学校行事では、手を抜く人がよくいる。彼らが本気を出したら、ボクは一位にはなれない。そう考えたからだ。
 上には上がいる。実際、ボクは姉ちゃんに追いかけっこで勝った覚えがない。

「あ、あのいいでしょうか」
「え? あ、ごめん!」

 ついつい、昔を思い出してしまっていた。慌てて、話を戻す。
 
「まとめると、ボクの技術に目をつけたってこと?」
「はい。私達、【口裂け女】は生まれた瞬間から俊足を持っています。ゆえに、鍛えたことがありませんし、走り方を気をつけたこともないんです」
「つまり、技術や知識が未熟だっていうこと?」
「そうです」

 確かにそうかもしれない。
 今まで自分達より、遅い獲物ばかりを相手にしてきたのなら技術に進歩がなくて当然だ。そんな努力をしなくても狩りはできるのだから。
 ただ、契約者という壁にぶつかった彼女は、それでは満足できなくなった。
 だから、走りに関する技術を持ったボクの所に来た。すごくシンプルな話だ。……昨日の件を抜きにすれば。

「本来、あなたにこんなお願いをするのは筋違いだとわかっています」

 ……ボクは、昨日この人に殺されかけた。
 本来なら、断るのが当然だ。
 でも――。

「他に、頼める人がいなくて……」

 彼女のまっすぐな瞳を見ていたら、そんな気は失せてしまった。
 トバさんに怒られるな、ついつい苦笑する。

「わかった。認めるよ」
「ほ、本当ですか!?」

 容姿と噛み合わない、子供みたいな喜び方を彼女はした。すごく嬉しそうだ。

 ……どうしよう、可愛い。ギャップ萌えという奴だろうか。 
 思わず、彼女を見つめてしまうが気を引き締めなおす。ここから、大事な話をしないといけない。 

「正し、条件が二つ。ボクの契約都市伝説と会って承認を受けること。もう一つは」

 トバさんは言っていた。
 大多数の都市伝説は、伝承や噂に従って行動をすると。
 【注射男】や【口裂け女】が、ボクを襲ってきたほうがいい例だ。どちらも、噂通りの行動をしている。
 なら、ボクがこれから話すことは彼女に受け入れがたいかも知れない。だとしても、これは守ってもらわなきゃ困る。
 一つ呼吸をし、口に出した。

「ボクが師匠である間、人を襲っちゃいけない」
「……わかりました」

 返答はすぐに来た。

「あなたに弟子入りする時点で覚悟はしていました。勿論、受け入れます」
「……自分の本分を犠牲にしてまで速くなりたいの?」
「はい」

 【口裂け女】は目を細めた。

「そう、決めましたから」

 やっぱり、この人はすごい。
 臆病なボクは尊敬しかできなかった。

昔のメモあさってみて知ってしまった
やばい
来年裂邪に長男が生まれる

てことは
去年裂邪が高校を卒業して、今年の裂邪の誕生日にミナワにプロポーズした筈だから…


あ、既にニャル死んでるんか…

「はい。じゃあ、休憩です」
「はい」

 公園に来てから一時間ほど経った頃、ボクは緋色さんに休憩をさせる事にした。 
 といっても、初日なのでハードなメニューはさせていない。ストレッチを入念にした後、軽めにジョギングとダッシュをさせたくらいだ。

「でも、師匠。私、まだまだ大丈夫ですよ」
「あー、うん」

 都市伝説が、超人的な体力を持っていることは聞いている。休憩させたのは疲れを取るためじゃない。

「今日の所は、緋色さんのタイプを知りたかっただけだからね」
「タイプですか?」
「うん。どんな走り方が向いているかのね」

 フォームに正解はない、それがボクの持論だ。
 確かに、走る上で重要なポイントはある。けれど、細かい所は人によって調整しなければならない。でないと、その人の真価は発揮できないと思う。
 緋色さんの場合は尚更だ。元々、俊足な彼女が今以上に速くなろうとするなら、ここは切り離せない。

「一時間見ていて、代々わかったからそれを伝えようと思って」
「わかりました」

 ボクは説明を始めた。
 たどたどしく、つっかえながら。我ながら、下手くそな説明だった。人にものを教える、ということに慣れていないせいだ。
 けれど、緋色さんは熱心に聴いてくれた。適切なタイミングで相槌を打ち、時々質問をしながら。本当に熱心だな、彼女にますます好感を持った。

「はい、取り敢えずはこんな感じかな」

 ボクはそう締めくくり、説明を終わらせた。

「口下手でごめんね。もっと、うまく説明できればいいんだけど」
「いいえ、十分参考になりました」

 お世辞だとしても嬉しい言葉だ。
 束の間の喜びに浸る。

「トバさんはどうだった、ボクの説明」

 足元で伏せている相棒に話を振った。

「下手くそ」
「知ってる。じゃあ――」

 口元に笑みを浮かべた。

  
「緋色さんの態度はどうだった?」 
「……」


 余計なこと言いやがって、トバさんの目が語っている。……ちょっと怖い。

「……」
「……」
「……」

 一分くらい、無言が続いた。トバさんとボクはもちろん、緋色さんも口を開かない。
 失敗しちゃったかな、流石に焦り始める。
 でも――。

「……まあ」

 諦めかけた時、奇跡は起こった。

「悪くねえんじゃねえか」

 トバさんはそっぽを向いた。
 顔を赤くしながら。

 その日からずっと、緋色さんの特訓は続けられた。
 雨の日も風の日も。彼女はめげずに、ボクの指導を熱心に求めた。トバさんも、毎日ボクらに付き合ってくれた。本人曰く、「裏切られた時のため」らしいけれど。
 昼は学校、夜は特訓。奇妙ながら平穏な生活が続いた。
 変わったことといえば、昼食時にクラスメイトの真降君に話しかけられたことくらいだ。彼は、自分のことを都市伝説の【組織】に属していると明かした。帰宅してから、トバさんにその事を話すと「そいつとは深く関わるな」と言われた。何でも、【組織】というのは都市伝説や契約者を管理している機関で、悪い噂が絶えないらしい。

「でも、困ったことがあったら助けてくれるって言ってくれたよ」
「対価を要求されるのがオチだ」

 どうやら、トバさんは【組織】のことが嫌いなよう。過去に何かあったのかもしれない。
 それと、同じくクラスメイトの燐君とちょっとだけ仲良くなれた。調理実習の時に一緒になったのがきっかけだ。
 気さくな彼は、口下手なボクとも普通に話してくれた。とても楽しそうに。……彼が、誰に対してもこんな態度を取ることは知っている。それでも、嬉しかった。
 簡単なお菓子のレシピを教える約束もした、弟さんに作ってあげたいらしい。いいお兄さんだ。我が家だと、料理はボクの当番。姉ちゃんがキッチンに立つことは全くない。
 こうして、燐君と関係を持った訳だけど一つ気になることがあった。彼と話していると、誰かが視線を向けてくることだ。それも嫉妬の視線。
 正直、誰かの正体は薄々感づいている。でも、それに触れるのはタブー。わざわざ、地雷を踏むほどボクも馬鹿じゃない。
 ……本当は、怖い思いをしたくないだけなんだけどね!

「師匠、どうかしました?」
「え? ううん、何でもないよ」

 ここ最近のことを回想していると、緋色さんに声をかけられた。
 今は特訓の合間、休憩時間。夜の公園のベンチに二人で座っている。トバさんは、ボクの足元だ。

「明日の夕飯をどうしようかなって考えてただけだよ」

 適当にごまかした。

「夕食ですか。師匠が作るんですか?」
「うん、親が海外にいるからね。姉ちゃんは料理を全くしないし」
「そうなんですか、大変ですね」
「まあ、料理は嫌いじゃないし」

 無心で手先を動かすのは心地いい。気分転換にもなる。
 それと――。

「姉ちゃんが手料理じゃないと機嫌が悪くなるしね」

 無言で頬をつねったりしてくる。

「どうしてかはわからないけど」

 姉ちゃんの感情を読み取るのは難しい。いつも無表情だからだ。たとえ、何があっても眉一つ動かさない。姉ちゃんと親しくなった人は、初めのうち必ず戸惑う。
 さすがに、家族であるボクらは大体の意思がわかる。といっても、完璧ではない。手料理の件もその一つだ。

「……お前、本気で言ってるのか」

 今まで黙っていたトバさんが、急に口を開いた。

「え? うん」
「……そうか」

 すごい残念な物を見る視線を向けられた。
 ……ボク、何か間違ったこと言ったかな!?
 困惑していると、緋色さんが「失礼ですが」と質問をしてきた。

「師匠のお姉様はどんな方なんですか?」
「う、うーん」

 正直、返答に困る。
 姉ちゃんを形容する言葉は、すぐには思い浮かばない。そのくらい、特異な存在だ。
 腕を組み思案する。

「武人だ」

 先にトバさんが答えてしまった。

「ちょ、ちょっとトバさん!?」
「なんだよ、別に間違っちゃいねえだろ」
「いやいや、いくらなんでも武人はないよ。武人は!」
「俺を見ても、顔色一つ変えない奴にはピッタリな名称だと思うぞ」
「そ、それは……」

 事実を基にされたら反論できない。卑怯だ。

「そんなすごい方なんですか?」
「ああ、やばい。常に尋常じゃない気配を張っているわ、まったく無駄のない肉体をしているわ、神業じみた技を普通に使うわ。もう人間じゃねえよ」
「ボクの家族を人外認定しないでよ!」

 全部、合っているけれど!
 というか、トバさん。普通に緋色さんと話しているじゃないか!

「一番すごいのは、趣味が裁縫だってことだけどな」
「……確かにすごいですね」
「あのねー!」

 いい加減、トバさんに文句を言おうとした。
 その時だった。

「!? 師匠!」
「え? うわ!?」

 緋色さんに突き飛ばされたのは。都市伝説なだけあって力が強い、数メートルは飛ばされた。体が宙に舞う。
 着地時、とっさに対応できず前のめりに倒れてしまった。

「痛っ!?」

 勢いが強すぎて、地面の上を肉体が滑る。
 無様なスライディング。顔と手が摩擦で痛む。

「いたた……。ど、どうしたの?」

 起き上がりながら、ベンチに目を向ける。
 一体、何のつもりで【緋色】さんはこんなことをしたんだろう。こんな乱暴なこと、理由がない限り彼女はしないは――
 
「え!?」

 思考はそこで止まった。
 眼前で繰り広げられる景色によって。
 
「て、てめえ!」
「ふふふ、お久しぶり」

 トバさんが怒声を浴びせる。
 つい、さっきまでここにいなかはったはずの第三者に。そいつは、ベンチの後ろにいた。

「元気にしてた? お犬さん」

 揺れる白衣、顔面を覆う包帯。間違いない、あいつだ。
 僕が初めて出会い、命を狙われた都市伝説。

「僕ちゃん、仕返しに来たよっ!」

 狂気に取り憑かれた科学者、【注射男】は愉快そうに宣言した。
 緋色さんの首に注射を打ちながら。

――続く――

雀のランニング講座は適当。なんかそれっぽい言葉を並べてみました
あと、鳥居の人。真降君の扱いがあれですみません
雀はそんなに悪い印象を持ってないよ

ぎゃあああ更新し忘れてたチキンの人ごめんなさい!!そして乙です!

六本足兼チキンの人乙でしたー
そうか、お姉さまは武人か

そしてすまねぇな、雀君、その地雷も後で君に接触させる予定なんだ………(いくつかの「組織」について解説するネタ固めていきつつ)
ちなみに、あちこち説明させる際、トバさんも傍に居たほうがいいかな?

>>30
自分も似たようなことよくあるんで気にしないでください

>>31
>ちなみに、あちこち説明させる際、トバさんも傍に居たほうがいいかな?
んー、いない方でお願いします
その方が話がスムーズに進みそうなので





 ようこそ
 ようこそ、ようこそ、ようこそ



               Red Cape

 じわじわと、蒸し暑さが続くある日の事
 空井 雀は夕方頃、買い物の為に一人で歩いていた
 商店街への買い物を終えて、帰路についていると

「あ、すずっち。お買い物っす?」

 声をかけられ、振り返る
 そこに居たのは、制服姿の憐

「あれ、荒神君、まだ制服?」
「俺っち、アーチェリー部の練習あったんで、今帰りっす」

 ほら、と、アーチェリー部で使う道具の入ったケースを見せる
 練習で、これくらい遅くなってしまう事もよくあるようだ

「で、その帰りにー、よく行く喫茶店に行って、そこの看板犬のお散歩代理引き受けてきたっす」
「お、お散歩代理?」
「そうっす。いつも、じゃないけど。時々お手伝いしてるんで」
「なるほど………あれ。でも。その犬は」
「途中で、弟と合流したんで、今、弟がリード持って………」

 憐が答えようとしていた、その時
 きゃんきゃん、と子犬の声がした
 へっへっへっ、と、しっぽを千切れんばかりに振った柴の子犬が、てちちちちちちっ、と駆けてくる
 その首輪には「XI」の形をしたチャームが下げられている
 そして、その犬の首輪から伸びたリードを持っているのは

「にぃに?お友達?」

 ぽてぽてっ、とリードを手に歩み寄ってきたのは、「天使」と言う言葉がとてもよく似合う、美少年だった
 ふわふわの金髪に、よく似た色の金の瞳。色素の薄い肌。小柄な体躯は、人形を少し思わせる。浮かべる笑顔は、憐が浮かべるへらっとしたものとは違い、にぱっ、とした感じだ

「うん、そうっすよ、凛」
「凛?……その子が、荒神君の弟さん?」
「そうっすー。かわいい弟っす」

 へら~っ、と笑う憐。若干、でれっとしているようにも見えるかもしれない
 てととっ、と二人に近づいた凛は、ぺとっ、と憐にくっつく
 子犬の方は、雀をじーっ、と見上げて、きゅぅん?と首を傾げる
 ご挨拶、と言われて、凛と言う名前らしいその少年は、にぱ~っ、と雀を見上げて笑った

「はじめまして、ぼく、荒神 凛って言います」
「は、はじめまして。ボクは、空井 雀です」
「すずめ?………すずめおにいちゃん!」

 にぱぱー、と、凛は更に笑みを浮かべた
 きゅん!と、子犬も声を上げる

「すずめおにいちゃん、お買い物の帰り?じゃあ、ぼく達と一緒に帰ろうよ」
「え?えっと………」
「最近ね、ぶっそーな事件が多いから、なるべくみんなで帰ったほうがいい、って先生言ってたよ」

 だから一緒!と凛は主張する
 えっと、と、雀が憐を見ると、憐はへららんっ、といつも通りの笑みを浮かべている

「確かに、この所ちょっと物騒なのは事実っすしー。帰る方向、ってか、ポチの……この子犬を喫茶店に帰すまでのコースまで、ご一緒しないっす?そのお店、住宅街にあるお店っすから、ご一緒できると思うっすー」
「そ、そう?…………そ、それなら」

 そもそも、雀はどちらかと言えば、怖がりだ
 物騒、などと言われると少し怖くなる………それこそ、「都市伝説」と言う存在を知った今なら、なおさらだ
 雀が了承してくれた事で、凛が嬉しそうな声を上げる

 住宅街に入っていくに連れて、だんだんと道行く人の数は減っていく
 確かに、こうして人通りが少ないと、万が一の時、助けを呼ぶにも一苦労だろう

(まぁ、これだけの人数で歩いていれば、不審者とかは出ないよね………)

 雀が、そう考えていた時だった

 きゃんきゃんきゃんっ!!と、ポチと言う名前らしい子犬が吠え声をあげはじめた
 それと同時、三人の頭上を、何かの影が、横切る

「…………え」

 視線を、上へと上げる
 夕焼けが沈んでいく、闇と紅が交じり合った空を………不気味なものが、飛んでいた
 体調はだいたい1,8メートルくらいだろうか
 馬のような、羊のような、鹿のような………そんな面長な顔立ち。真っ赤な目。黒っぽい毛で覆われた胴体。その背中からはコウモリを思わせる翼が生えていて、細長い尾がっyらると揺れる。後ろ足は馬のそれによく似ていた

 悪魔、と
 そんな単語が、脳裏をよぎる
 空を飛ぶ悪魔のようなそれは、くるり、と身を翻して…………

「きゅんっ!」
「え?………っわ!?」

 ポチが、雀に飛びかかった
 子犬タックルを食らって、押し倒されるような形になった雀
 その結果、ひゅんっ、と急襲してきたジャージーデビルの攻撃を、避けることができた

「え、あ……あ、あれは」
「…………凛、すずっちとポチと一緒に、ちょっと離れてて!」

 混乱している雀を庇うように、憐が前に出た
 はーい、と、この場の空気にそぐわぬ凛の声がして、くっ、と雀は手を引かれる

「すずめおにーちゃん、こっちー」
「え、えぇ………ち、ちょっと待って………!?」

 きゃんきゃんきゃんきゃん!!と、ポチが吠えている声が辺りに響き渡る
 急襲してきたその悪魔は再び空へと飛び上がり、旋回していた
 再び、狙いをこの場にいる誰かへと、定めようとしているかのようだ

「な、何あれ………」
「んーとね、確か、「ジャージーデビル」だよ。えっとね、アメリカの方の都市伝説で、「リーズ家の悪魔」とか呼ばれてるんだって」

 緊迫感のない声で、凛が雀にそう告げた
 リーズ家の13番目の子供とも、リーズ家の子供達が拾った正体不明の卵から生まれた存在とも言われている、それ
 本来アメリカに存在しているはずのそれが、当たり前のように学校町の空を飛んでいる
 だらりとあけられたその口が、何か言葉を発しているようなのだが、早口の英語でしかもぼそぼそと話している為、聞き取ることはできない。ただ不気味なうめき声だけが響く

 「都市伝説」
 あれも、確かにそうなのだ
 雀が契約した人面犬のように、弟子になってしまった口裂け女のように
 ……あの、襲ってきた駐車男のように

 空を旋回するジャージーデビルは、明らかに「襲ってきている」
 逃げるなりなんとかしなければ、危ない
 雀一人ならば、逃げる選択肢を選ぶことだろう。人面犬との契約によって強化されたスピードがあれば、逃げきれるはずだ
 ただ、この場には憐と凛と、ポチがいる
 ……「逃げる」選択肢をとった場合、彼らを置き去りにしてしまう

「…大丈夫だよ、すずめおにーちゃん」

 きゅっ、と、凛が雀の手を、少しだけ強く握った
 きゃんきゃんきゃん、とポチが吠え続けている中、やはり、緊迫感を感じさせない声で、にぱーっ、と笑って、告げてくる

「だって、にぃには強いから」

 ……いつの間にか、憐はその手に弓を持っていた
 アーチェリーで使う弓、のように見えたそれは、瞬時に光に包み込まれていった


 狙いを定める
 空を旋回する、それに向けて
 ジャージーデビルの口から漏れだすその言葉を、憐はある程度聞き取れていた

『ーーーーいない、いない、まぁまが、いない』

 あのジャージーデビルの口から漏れだしていたのは、そんな言葉

『まぁま、どこ?ぼくを見つけたまぁまは、どこ?ぼくのまぁまになってくれたまぁまはどこ?』

 それは、母親を恋しがっているような声に思えるかもしれない言葉
 しかし

『まぁま、まぁま、まぁま、まぁま。ねぇねぇどこ?どこ??まぁまの為にご飯持ってくよ。まぁまの大好きなお肉持ってくよ。だからまぁま、見捨てないで』

 その目は、憐達を見るその眼差しは

『まぁま、ニンゲン、大好きだもんね。ぼくが持って行ってあげる。だから早く出てきてね、早く出てきてくれないと、せっかくのお肉が腐っちゃうよ。まぁま、この町のどこに隠れているの?』

 はっきりと、憐達を「食べ物」として見ていた

 ふぅ、と息を吐きだす
 ……せめて、少しでも、苦しみを与えないように
 そんな、憐の思いを載せたように………憐の放った「シェキナーの弓」の矢は、ジャージーデビルの心臓目掛けて、狙い違わず飛んでいった

「ッギ……………!?」

 ジャージーデビルの体が、落下していく
 重力に従うように………否、微妙に抗うように、落ちていく
 そして、最後の抵抗と言わんばかりに、鋭い爪を、振りかぶってきた

「っ!!」
「荒神君!?」

 ぱっ、と、赤が飛ぶ
 爪は憐を掠って、赤い切り傷を作る

 どしゃりっ、と、ジャージーデビルの体は地面に落ちて………それと同時、その肉体はぱぁっ、と光の粒子となって、存在の証すら残さず、消えた

「…………ん、よし。もう大丈夫っすよー」

 へらんっ、としたいつも通りの笑顔を浮かべて、憐は雀と凛へと視線を向けた
 先ほどまで吠え続けていたポチは、もう吠えるのをやめてぱたぱたぱた、としっぽを振っている

「え、い、いや、荒神君の怪我の方が………」
「んー、これくらいは、平気っすよー」

 そう、憐にとってはこの程度の怪我、怪我のうちには入らない
 す、と軽く手をかざし、契約都市伝説の力を開放する
 ぽぅ、と掌から溢れだした白い光は、憐についた傷をあっさりと消していった

「ほらほら、大丈夫すよー。これくらいなら、治せるっすからー」

 へらんっ、と、憐は笑う
 物事を、深刻にしないように、深刻に考えさせないように、大丈夫、と伝えるように

「ほら、にぃに、強いでしょう?にぃには強いから、あれくらいの相手は平気なんだよ」

 えっへん、と言うように、凛は雀にそう告げた
 戸惑っている様子の雀に、憐はさらににまり、と笑ってみせる

「………詳しいお話は、また今度。じっくり、「お話」するっすね」

 自分は、戦っている姿を見せてしまった
 都市伝説を認識しているのだと示してしまった

 ……だから、そろそろ、「お話」するとしよう


 きゅーん、とポチが声を上げる
 静けさを取り戻した住宅街、怪しい影は、もう、いない





    ようこそ
    はじめまして、こんにちは!

    さぁ、非日常の世界へ、ごゆるりと案内いたしましょう!!



               Red Cape

六本足兼チキンの人にそっと切腹焼き土下座
大したことない戦闘だけど、さらっと目撃させました
ついでに、憐の弟とポチと遭遇させてみた試み

 八月某日、学校町某所


「「ざまあwwwwwwwwwwwwww」…………っと」

 暗い部屋の中、カタカタとキーボードを叩く音が響く
 その人物はパソコンを前に、どこかの掲示板で煽りの言葉を書き込んでいた
 いつもの習慣、これ!と決めた掲示板に粘着し続け、その板が荒れに荒れて過疎るまで荒らし続けると言うストレス解消
 自分の行いによって、板がどれだけ荒れようとも、それによって、そこで楽しんでいた者達がどんな想いを抱こうとも、知った事ではない
 どうせ、顔を合わせたことのない、名前も知らない連中ばかりなのだ、引き際を間違えて殴られたり、ましてや殺されたり、なんて心配もない
 ただ自分はげらげらと笑いながら、そこの連中が怒り狂う様子を観察していればいい
 どうせ、この程度の煽りで、こんなリアルと関係ない場所で怒り狂う奴なんて程度が知れた馬鹿ばかりなのだから
 人生の役にも立たないニート連中にきまっているのだから、せいぜい、こちらの役に立って少しは世の中に貢献しろ
 …………本気で、その人物は考えていたようだった

 暗くて狭い部屋
 掃除がいい加減なのか、そこは少々汚れていて

「お、怒ってる怒ってるwwwwwww厨2乙wwwwwwwwwwwSSじゃねーよ、駄文以下のクソだろwwwwwwwチラシの裏にでも書いとけばーかwwwwwwwwwww」

 げらげら笑いながら、いつもの癖で、書き込む内容を口に出して………


 その人は、気づく事が出来なかった
 己の部屋の中に、いつの間にか、手に入れた覚えもない、人間くらいの大きさの人形 が



 ……ずるずると、何かを引きずる音
 血の匂い

「持ってきたぞ」
「!ご飯、ご飯、ごっはーん!!」

 はしゃぐ声
 誰かが引きずってきたそれを、他の誰かが「いただきまぁす」と食べ始めた
 ぐしゃ、べちゃっ、と食事の音が響く
 食われている最中にそれは目を覚ましたのか悲鳴を上げたのだが、ちっとも気にせずがつがつがつ、と食べ始める

「うっわ、いい食べっぷり………そんなに腹減ってたのか」
「そりゃ、目立たないようにしているからな。あいつ用の食事の調達なんてできていなかったし」

 ぱらぱらと雑誌をめくるその男が、肩をすくめた
 仕方あるまい、あれは、「人間」しか食べないのだから

「彼女のように、他の肉も食えるんなら、俺達が食事を調達してやるんだがな」
「………仕方ないだろう。他は、食っても栄養にならんし腹も満ちんのだから」

 もう一人が、食事中のそれに同情するようにそう口を開いた
 人間以外を与えた事もある、しかし、それは人間以外の味をよくわからなかったし、空腹がマシになる事すらなかったのだ
 食わねば死ぬ、ならば、人間を与えるしかあるまい

「しかし……我々は、いつまで、こうして隠れていなければならないんだ?」
「仕方ないだろ。あの方が見つからないのだから」
「どこに隠れていらっしゃるやら……」

 彼らの仲間は、ここにいる以外にもいる
 ただ、全員が、うかつには動けない状態だった
 彼らにとっての「主」が、この学校町に来てすぐに、行方がわからなくなってしまったのだから
 どこにいるのか、自分達「手駒」の誰にもわからず、連絡すらとれず、みな、途方に暮れている状態だ
 焦れて「主」を探し始めた者達は、皆、誰かしらに退治されてしまったようだ
 ……「主」が手駒を増やしている様子はない
 うかつに、犠牲を増やす訳にはいかないのだ

「とにかく、まだしばらく、潜む………あの方が我々に接触してくれるまで、勝手な行動は、するな」
「あいつの飯調達は?」
「……今回のように、密かに。死んでも誰も気にしない者を。失踪しても、すぐには気づかれない者を選んで、与える。そうするしかないだろう」

 ごちそうさまー、とのんきな声
 口の周りをべったりと血で汚しているそれに、一人がやれやれ、と言うように口の周りを拭きに行ってやった


 食われた哀れな人間は、骨と血溜まりを残し、もう他には何も残っていなかった



to be … ?

乙ありです、と言いつつ引き続きも一個そぉいっ!!
「いい加減敵サイドの情報出せよ」って突っ込まれたので書いたけど、御免、情報ほぼ出せてなかった!!

あ、時系列は夏休み前ならいつでも大丈夫ですの
そちらで書きやすい時系列にしてくださいませ

久々に本編投下
今までのお話は前スレのどっかだよー(なげやり)
そのうちwiki編集せねば

 口をきったのはるりの方。
「あんたが『人の消える試着室』の契約者で間違いないわね」
「ええ」
 少女の暗い眼窩が、るりに向けられる。
「誰だか知らないけど、邪魔をしないで欲しいの」
 るりは傲然と胸を張った。
「知らないと言うなら教えてあげるわ。わたしは桐生院るり。『組織』ο(オウ)-NoのNo.3よ」
「るりさん、別に名前を聞かれてる訳じゃないと思うよー」
「ツッコミ無用!」
 きっぱり言い捨て、少女に正対する。
「あんた、自分が何をしてるか解ってる?」
「ええわかるわ。私は赦されないでしょうね。それでも…」
「わかっていれば十分よ」
 るりは手にした「ケーリュケイオン」を少女に向ける。
「あんたの身柄、『組織』が拘束するわ」
「お断りよ」
 言うや否や、少女以外の総てが炎に包まれる!
「これは…!」
「熱っ!」
 急いで蘇芳が吹雪で炎を吹き消す。
 それに気づかずに逃げ出そうとした少女の腕を飛び出したせせりが掴む。
「な…!」
 まさか一瞬で炎を消されるとは思わなかったのだろう。明らかに狼狽えている。
「どうやって、炎を…!?」
 目の見えない少女にはどうやって炎が消えたのかわからないようだ。
「あの炎も都市伝説ね」
 せせりが穏やかに問う。
「なんでこんな事をしたのかしら?」
「ほっといて!」
 腕を掴むせせりを振り払おうとやたらめったらに手を振り回す。
「私は世界が見たいのよ!あなた達に何がわかるって言うの!」
 激高した少女の力で、せせりの全身が炎に包まれる。
「せせりさん!」
「店長さん!」
 一同があわててせせりと少女の元に駆け寄る。
「!」
「おっと、逃がさねーですよ」
 幻が少女の腕をがっちり掴む。
 だが少女は微動だにせず、というよりむしろ呆然として、燃え上がるせせりを見つめている。
「せせりさん…」
 燃えているのは人体ではなく、一体の陶器人形(ビスクドール)だった。
「人形ですって?」
 愕然とする一同の耳―いや、頭の中に、せせりの声が響いてくる。
(ごめんなさいね、驚かせちゃって)
(わたしは契約者なの。『蝶は魂の象徴』) 
(元の体は既に滅んでいるけど、わたしの魂は蝶になって、こうして今も生きている。人形は、いわば魂の器。かりそめの身体なの)
 愕然とした様子を隠せない少女の身体が不意に崩れ落ち、その身体からひとひらの蝶が舞う。

(この蝶は彼女の魂そのもの。これで彼女も人間の視力に惑わされずに、世界を見る事が出来る)
 その時。
 「人の消える試着室」の異空間がかき消されるように失せ、一同と被害者の少女達は「黒いパピヨン」の床に放り出されていた。
「いったー!」
 したたかに尻餅をついたノイが声を上げる。
「ノイちゃん!」
「ノイ・リリス!」
 過保護な大人達が駆け寄るが、ノイは大丈夫と手を振って見せた。
「よかったぁ…」
 感激した柳がノイに抱きつき、ムーンストラックに投げ飛ばされるいつもの光景が帰ってきた。
「新宮さん、おかえり」
「てめーはそれだけですか」
「新宮さんなら、きっと何とかすると思ってた…から」
「何とかしたのはボクじゃねーですよ」
 幻の視線の先には、蝶となったせせりの姿。
(これじゃ不便ね。ちょっと待ってて)
 せせりの蝶はひらひら舞うと、ディスプレイしてあった沢山のビスクドールの中にふいっと消えた。
 せせりの蝶が入った人形は動きだし、ぎしぎしと関節を鳴らせる。
「わ!」
 ノイが驚きの声を上げる。
「なるほど、単なる飾りじゃなくて、実用も兼ねてたですか」
 道理で頼んでも売って貰えなかった訳だ、幻は納得顔だ。
「ちょっと関節がきしむわね。まあスペアの躯だから仕方ないわ」
「良くできてやがるですねー。ボクもこんな綺麗なドールがほしいのですよ」
「もし良ければ制作者に頼んであげるわよ。偏屈だけど、腕は確かだから、気に入られれば素敵なドールを造ってくれるわ」
 その時。
「待ってー!」
 ノイとるりがひらひら舞う少女の蝶を追いかけている。
「お待ちなさい!あんたは都市伝説事件の犯人なのよ!このまま逃がすわけにはいかなくてよ!」
「あらあら」
 くすくすと笑うせせりは、店内の窓を開けた。
 蝶はそのまま、ひらひらと開いた窓から逃げていった…
『あー!』
 ノイとるりの叫びがハモる。
「逃げちゃった…お話したかったのに」
 嘆息するノイとは対照的に、るりはかっかしてせせりに迫る。
「ちょっと!なんて事をするのよ!事件の犯人をわざわざ逃がしてやるなんて!」
 あんたも風評被害を被った被害者でしょうがと迫るるりだが、せせりはどこ吹く風だ。
「まあいいじゃないですか、No.3」
 るりの肩を叩くのは、待機していた新橋蒼。
「この子達を治療して、『レテ川の水』で記憶を操作すれば、全てはなかった事です」

「兄上!」
 るりは兄に鋭い一瞥をくれるが、兄は相変わらずの笑顔で
「『人の消える試着室』は単なる噂だった。それでいいんじゃない?るりさん」
「もう!兄上まで!」
 兄にまで言われては仕方がない。るりは渋々と矛を収めた。そして店内を見回すと、
「それにしてもここはなかなか素敵な服が揃っているわね。仕事以外でまた来るわ」
「どうぞ、お待ちしているわ」
 人形に憑いたせせりは一同に出すお疲れさまのお茶を出す準備を始めた。

 後日、「黒いパピヨン」にて。
『もしもしマスター?新しい躯が届いたわ。エリザベスは元気…?相変わらずそうね、よかったわ。今度うちの常連さんにも造ってあげてくれないかしら…きっと貴方も気に入る娘よ。ええ…』
 せせりが国際電話をかけている傍で、お茶を飲んでいるのはいつもの面々。
「まあ、悪くない葉ね」
 るりも気分は悪くはなさそうだ。事件をどうにか有耶無耶に済ませたことで安心しているのだろう。
「あの書類の山には泣かされたわ、せせり、事件をもみ消す代わりに、お茶の代金奢りでいかが?」
「それくらいなら喜んで。服の方もゆっくり見ていってね」
 すでにノイと幻はお茶を飲み終え、きゃっきゃっと服を見ている。
 あーでもない、こーでもないと服を取っ替え引っ替え鏡の前で合わせている姿は、それなりに微笑ましいもので、服などわからない男連中も、自然に笑みがこぼれてきた。
 と、幻がケースの中のアクセサリーを見に行ったその時、僅かな間だがひとりになったノイが、試着室をのぞき込む。
 誰も居なかったはずの試着室には、少女がひとり。
 いつか見た、姿形も、服装も、何もかもがノイと同じ少女。
 少女は、ノイに問いかける。

「あなた、誰?」
「あ、あたしは、あたしは…ノイ・リリス・マリアツェルだよ!」
「そうね、それじゃね」
 初めて遭った時と同じ、花のような笑顔を見せて去って行った。

(なんだろ…あたし今、自分が誰だかわかんなくなった…)



【眼球と少女たち 完】

 学校町東区中学校連続飛び降り事件
 犠牲者は全部で10名…………そう言う事になっている
 が、最後に飛び降りた「土川 咲李」に関しては、犠牲者と呼ぶべきかどうか、判断に迷うところである
 この事件は、犯人である土川 羽鶴が契約していた都市伝説の力によって、次々と生徒が飛び降り自殺をしていった事件である
 しかし、咲李は、都市伝説の能力を受けて飛び降りたのではない
 自らの意思で屋上へとあがり、飛び降りたのだ
 それでも、土川 咲李の名前がこの事件の資料において「犠牲者」の欄に名前が書き連ねられているのは、彼女もまた、この事件の犠牲者である事は間違いなく、事実であるからだろう
 咲李は、この事件に幕を下ろすために、中学校の屋上から飛び降りた。戦い、全てを終わらせるために飛び降りたのだ
 ………しかし、結果は、失敗
 彼女は、今までの犠牲者達と同様、都市伝説に取り込まれ、その一部になったに過ぎなかった
 失敗、と断じていいかどうかすら、この後の経緯を思うと微妙なところでもある
 彼女が土川 羽鶴の契約都市伝説に取り込まれたからこそ、獄門寺 龍哉を始めとしたあの子供達の一部が怒りを爆発させ、羽鶴を完全敗北させるに至ったのだから……………最も、約2名が暴走したせいで、そちらの方が大変だった、と言う事実はさておき


「………「笑う自殺者」に「富士の樹海の自殺者の幽霊が、人間を引き込んで自殺させる」を組み合わせた、か。本当、物騒な使い方しやがる」

 資料に目を通しながら、慶次はぼそりと、そう呟いた
 土川 羽鶴は二つの都市伝説を組み合わせ、次々と生徒を自殺させていった
 そして、自殺した生徒達は都市伝説に取り込まれ、彼の意のままに操る事ができていたらしい

 正直、かなり胸糞悪い事件であった
 羽鶴は、己の娘が飛び降りてもなお、己の行為を悔やむことすらせずに、犠牲者を増やそうとしていたのだから
 彼は娘が何を思って飛び降りたのかすら、気づけなかったのだ
 咲李は二通、遺書を残していた
 そのうちの一通は間違いなく土川 羽鶴へとあてられた物
 羽鶴は見つけたその遺書を読むことすらせず、ゴミ箱へと捨てていた

 あんな親が、この世の中には存在するのだ
 ……思い出すだけで、ムカムカとする
 あの男が犯人だとわかっていれば、自分が殺しに行ったと言うのに

(………元々、自分の娘なんてどうでも良かったのか。それとも、「狐」の誘惑に乗って、頭がおかしくなっていたせいなのか………)

 …どちらにせよ、胸糞悪い事実に、代わりはない
 ぱたん、と、資料を棚に戻した、その時

「何をしているんだい?」

 と、郁に声をかけられた
 小さく舌打ちして、慶次はそちらに視線を向けた

「昔の事件の資料を見てたんだよ。悪いか?ここの資料は、「組織」関係者は閲覧自由だろう」
「そうだがね………資料室に入るなら、ここを管理しているCNoにきちんと許可をとってからにしてくれ。特に、君はANo所属なんだしね」
「警戒しなくとも、資料ちょろまかしたり、変に手を加えたりはしねぇよ」

 …どうにも、このゴスロリ好きの黒服は苦手だ
 関わり始めたのは三年前の連続飛び降り事件の際からだが、その時抱いた苦手意識という第一印象は、今も変わらずそのまま慶次の中にあった
 話していると、背筋がざわざわしてくる

「じゃ、用済んだし、俺はこれで」
「そうかい………このところ、「狐」や「バビロンの大淫婦」の事で周囲はピリピリしている。怪しまれるような行動は、謹んだほうがいいよ」
「うっせ、わーってるよ」

 郁から逃げるように資料室を後にした
 本当は、もう少し調べたい事があったのだが………仕方ない、またの機会にしよう

(三年前の事件の黒幕は「狐」。そして、それが今、学校町にいるなら…………見つけて、始末してやる)

 自分が手柄を上げれば、風当たりの強い強硬派も、少しは見直されるかもしれない
 ……「三年前」に強硬派が、愛百合が犯したミスの埋め合わせができるかもしれない


 考え込みながら歩き去っていく慶次は、誰かの視線が己に注がれていることに、気づくことはなかった


to be … ?

中途半端だけど情報ぶん投げてみただけの

>>60
乙ありでーす
>こう繋がるのか
こう繋げたかったんだ!長かった!
>せせり女史…一体何歳なんd(
それは言わないお約束ww

花子さんの人乙ですー
ここから強硬派の巻き返し来るか?

皆さん乙です

エリザベスってそういう事だったのか…つまりマスターとは…!
今回も意外と熱い性格のるりさんが見れて個人的に良かったです

慶次君についてなんですが…あーもうこれはやばい感じがしますね
今後巻き込まれて魅了されないかすごく心配です

てか慶次君って幼馴染グループからは厄介者扱いだし
事件の話を相談できるのって担当の黒服以外には居そうにないし
あれ、もしかして慶次君っておともだちが…

最近になって知りましたがかなえちゃんってほんの少しぽっちゃり気味なのか
日常パートの主人公の女の子にはかなえちゃんのぽっちゃりした所を
背後からつまむ悪戯をして欲しいですね。キュンキュンしちゃう
なんならかなえちゃんは慶次くんの背後から腹筋をつまもう!それで汽車ぽっぽごっこしよう!
ほら慶次!女友達ができたぜ!もっと喜ぼうぜ!(無茶振り)
…ここまで書いちゃった後に気付いたけど、日常パートの女の子ってまだ名前不明なのね…

 勉強のため、図書館に来ていた。勉強………そう、そう言う名目で
 ちょっとは勉強もするけれど、真の目的は、それではなくて

「………あった」

 地方版の新聞。「三年前」の事件とやらについて、ネットでも少し調べては見たがあまり情報がなくて
 しかし、地元の新聞なら、少しは何か書かれているんじゃないか、と思ってそれを探しに来たのだ
 そして、私はそれを見つけた

「飛び降り事件…………あ、でも本当は飛び降りてたんじゃなくて、落とされてたんだ……」

 中学校で、連続して生徒が飛び降り自殺した事件
 当初はそう思われていたようだが、実際は学校の教師の一人が、生徒を次々と屋上から突き落としていたらしい
 逮捕当初、犯人の教師は正常な会話を行えるような状態ではなく精神鑑定にかけられ、その後、精神病院に入った………と、されている、らしい
 新聞でも、その辺りやや曖昧に書いているようだった
 「三年前」と言うその年に起きた事件で、彼らが何か、関わっていそうな事件、となるとこれくらいしかなかった
 10人もの犠牲者が出ている事件
 もしかしたら、彼らの知り合いも、犠牲者の中にいたのだろうか

(もうちょっと、情報が欲しいかな………)

 もう少し、前の日付の新聞も見てみよう
 そう考えて、新聞を元の位置に戻した
 えぇと、もうちょっと前の日付の、日付の………

「………あら?」

 ない
 あれ、誰かちょうど、それを読んでいるのだろうか
 きょろきょろとあたりを見回して………コピー機のところに、見覚えのある男性を見つけた
 以前、Lと一緒に居た教会の人だ、と言う男の人
 コピー機で、何やらコピーしている最中のようだった
 思わず、じっと見つめる
 うん、やっぱり、ちょっと冷たい感じの顔立ちだけど、いい男…………と、思っていると。その人が、視線を、こちらに動かして………

「ーーーーーーっ!!」

 思わず、隠れた
 なぜ、隠れてしまったのか、わからない
 ただ、「隠れなければいけない」と、そう感じてしまったのだ

「……ジェルトヴァさん?どうなさったっす?」

 聞こえてきた、声
 ……Lだ。彼も、図書館に来ていたらしい

「…いや、なんでもない………………すまない。待たせてしまったな、レン。こちらの用は、終わった」
「ふふー、待ってないから、大丈夫っす。俺っちも、借りる本探すのに、ちょっと時間かかっちゃってたっすから」

 あぁ、いつも通りのあの笑顔を浮かべているんだろうなぁ、と、隠れていてもなんとなく、わかった
 Lは、いつだって誰に対しても、あのへらんっ、とした笑みを浮かべて、誰にだって優しいから
 Lの言葉に、男の人はそうか、と、少しほっとしたような声をあげたようだった

「…………お前と、お前の母親には。世話をかけさせてばかりだな」
「お気になさらずー、っす。ジェルトヴァさん、学校町に来たのも久しぶりっすし。機械関係弱いのも、普段は使ってないんだから仕方ないっすよ。ちょっとずーつ、慣れていけばいいっす」

 ……?
 あれ、あの男の人、Lの母親とも知り合いなんだ
 もしかして、案外付き合い長い………?

「……私は。お前達への恩をまだ返せていない。何かあったら力になる……だから、何かあったら、言うといい」
「………………ん、ありがとございますー、っす。何かあったら、お願いするかも、っす」

 元々大きな声で話していた訳でもない声が、ゆっくりと遠ざかっていく
 こそこそと、私は隠れていた場所から顔を出す

「…………ぁ」

 「三年前」の、新聞。先ほど、私が探していたそれが、元の位置に戻されていた
 どうやら、あの男の人がコピーしていたのは、これらしい
 手に取り、記事を確認する
 そこに記されていたのは、事件の最後の犠牲者の、名前
 「土川 咲李」
 年齢は、生きていたら私達より二つ年上、と言ったところだろうか
 新聞に掲載されていた生前の写真の彼女は、とても優しい笑顔を浮かべていた

(…………あれ、なんか……)

 その笑顔を見ていて、ふっ、とLの笑顔が浮かんだ
 Lのへらりとした笑顔とそれは違うはずなのに、どこか似ていて

 Lのいつものあの笑顔は、「土川 咲李」の真似をしたものではないのか、と
 なぜか、そんな風に、感じたのだった

to be … ?

世間では夏休みは終わっていますが、夏休み中のシーンをそぉいっ
じわじわとなんか

そして、乙ありですのー

>>63
>ここから強硬派の巻き返し来るか?
巻き返せるといいよね

>>64
>あれ、もしかして慶次君っておともだちが…
いつから奴に友達がいると錯覚していた?

>…ここまで書いちゃった後に気付いたけど、日常パートの女の子ってまだ名前不明なのね…
そう言えば出してなかったね

鳥居の人&花子さんとかの人乙です

ああ、マスターって……
『人の消える試着室』の契約者には幸せになって欲しいな

大丈夫だよ、慶次君! 今はぼっちブームだから! ぼっちの方がもてるから!(白目)
……どうでもいい話なんですが、慶次君の脳内ビジュアルが某イケメンライダーで固定されていたり

学校町の図書館ってなんか良くないものが集まってそう
その内、ネタにしてみようかな

では、チキン野郎投下します
ここまで、書きたいことだけ書いてたらだいぶ粗くなってしまいました(今回は特に)
プロットとかちゃんと組まないとダメだね、うん

・五話 注射男と――

「緋色さん!?」

 彼女がボクを突き飛ばした理由。
 それは、最悪の形で姿を現した。

「ふふふ、【口裂け女】まで手中に収めていたとはね。おかげで、人間君を殺し損ねたよ」

 【注射男】は、動きが止まった緋色さんを押した。ドミノを倒すように、軽く。
 一切の身動きを取れずに、緋色さんは倒れた。

「さあ、本番と行こうか」
「く、くっそが!!」

 激昂したトバさんが、【注射男】に飛びかかる。
 至近距離からの攻撃。しかし、ひらりと躱された。【注射男】が、お返しとばかりに注射器を打とうとする。
 今、トバさんは宙。回避は不可能だ。迫り来る針に対し、トバさんは――

「なっ!?」

 注射器に噛み付いた。
 そのまま、【注射男】の手からもぎ取り着地。

「予想済みなんだよ!」

 注射器を落とし踏み砕いた。

「……やるじゃないか、前より強くなっているよ」
「この体に慣れてきたんでな!」

 再び、トバさんが襲いかかる。

「まっ、注射器はいくらでも作れるんだけどね!」

 【注射男】の手に、壊したはずの武器が戻っていた。もしかして、能力で生み出せるのかもしれない。
 二人は激突、攻防を繰り広げる。非日常の戦いをボクは放心して見ていた。
 ……って、今はそんな場合じゃない!
 慌てて、倒れた緋色さんの元に駆け寄る。
 首に触れると、温かみを感じた。まだ生きている! 少し安心した。

「緋色さん! 緋色さん!」

 肩を揺さぶり、意識の覚醒を促す。
 前に習った、救急処置の受け売りだ。

「緋色さん! 緋色さん!!」
「……し、師匠ですか」
「うん、ボクだよ!」

 良かった、緋色さんが意識を取り戻した。

「私、【注射男】に……」
「うん。でも、大丈夫。今、トバさんが戦っているから」
「それなら私も……!」

 緋色さんは、手をつき立ち上がろうとする。
 けれど、体は起き上がらない。ただ、腕が痙攣するだけ。
 注射のせいだ、麻痺を引き起こす薬でも入れていたんだろう。

「くっ!」

 それでも、緋色さんは立ち上がろうとする。
 諦めずに、必死の形相で。

「緋色さん、無理しないで!」

 ボクは見ていられなくなった。

「緋色さんはボクを助けてくれた。今は、トバさんに任せ『られないと思うよ』……え?」

 顔を上げる。

「君の相棒は」

 【注射男】がボクに顔を向けていた。

「もう動けないから」

 地面に倒れたトバさんを踏みつけながら。

「トバさん!?」

 必死で名前を呼ぶ。けれど、応答はない。

「そ、そんな……」

 頭の中が真っ暗になる。
 ボク達三人の中で、戦えるのはトバさんと緋色さん。その二人が、こうして奴の餌食になってしまった。
 もう打つ手はない。
 膝が震え、顔が引き攣る。もう駄目だ、おしまいだ。残されたボクに出来ることなんて――。

「……!」

 瞬間、悪魔が囁いた。

「お前だけは助かることができる」

 なぜなら、ボクには逃げ足がある。不良、都市伝説さえも撒いた武器が。
 震えが収まり、立ち上がった。

「見捨てろ、そんな得体の知れない奴ら」

 悪魔は囁き続ける。

「ここは自分の身の安全が一番だ」

 二人を見捨てるために、【注射男】が怖いために、この場から速く逃げ出すために。

「背中を向けて走り出せ、面倒事を捨て去れ、ベッドに潜り込め!」

 非日常から背を向けろ、言葉が脳を駆け巡る。
 都市伝説なんて存在しない。ちっぽけな不良しか危険はない。我が家には、姉とボクの二人しか住んでいない。
 この世はハッピーだ、きっと友達もすぐにできる。そうしたら、嫌な妄想なんてすぐに忘れられる。
 さあ、目を瞑って走り出そう。いらない物を捨て――

「られるわけないだろう!!」

 思い出す、二人の都市伝説と過ごした日々を。
 トバさんとお喋りを沢山したことを、姉ちゃんと三人でご飯を食べたことを。
 緋色さんと一緒に街中を走り抜けたことを、ひたむきに頑張り続けてくれたことを。
 乱暴だけど実は優しい【人面犬】、アスリートの心を持つ【口裂け女】。二人と過ごした日々は楽しかった。ボクの宝物になるほどに、一生覚えていると断言できる。
 だから、ボクは正面を向く。ただ真っ直ぐに【注射男】と対峙する。

「へえ、逃げないんだ。関心だね」

 【注射男】の軽口を無視して身構えた。こうなったら、戦うしかない。
 能力を発動、足が凄まじい勢いで熱くなっていく。同時に、恐怖心が少しだけ消えた。能力を使うことによって気分が高揚しているのかもしれない。なぜかはわからないけれど。
 足が限界まで温まったところで、最初の一歩を踏み出した。急激な加速による衝撃を耐えつつ、前へ前へ進んでいく。目標は、もちろん【注射男】だ。

「相変わらず速いねー」

 拳を握り締め、敵へ突き出す。
 素人パンチだ。腰なんて入ってないし、握り方も適当。けれど、ボクにはスピードがある。威力はなくても、当てることくらいは出来るはず、

「でも、無意味だ」

 だった。

「がっ!?」

 脇腹に【注射男】の蹴り。もろにくらい、吹き飛ばされる。

「いくら速くても直線の攻撃なら反応できるよ。残念だったねっ!」

 甘かった。
 這いつくばりながら後悔する。素人考えなんか当てにするんじゃなかった。
 激痛に呻きながら立ち上がろうとする。苦しいけど、ここで諦めるわけにはいかない。二人の命が掛かっている。

「へー、頑張るね。じゃあ、僕ちゃんも本気出しちゃうよっ!」

 本気?
 疑問を解決するように、【注射男】の手の片に注射器が生まれた。中の液体は、禍々しい赤色。前に見た物と色が違う。
 これをボクに打つ気なんだろうか、警戒心が跳ね上がる。けれど、敵は予想外の行動をとった。

「え?」

 針は、【注射男】の首に打ち込まれた。
 押されることで、徐々に減っていく液体。すると、【注射男】の肉体が盛り上がり始めた。
 筋肉がついている!?
 贅肉でないことはすぐにわかった。早朝ジョギング等で見かける、マッチョの人と体つきが一緒だったからだ。最終的に、【注射男】はボディビルダー顔負けの巨漢に変身した。

「すごいでしょ。僕ちゃん、肉体強化もできるんだよっ!」

 言い終わらない内に、【注射男】がボクに突っ込んできた。立ち上がり逃げようとするも、傷んだ体は思うように動かない。
 結果、為すすべもなく胸ぐらを掴まれ持ち上げられた。手足をジタバタさせ、抵抗するも全く効いていない。

「はい、ドーン!!」

 そのまま、投げ飛ばされた。
 浮遊感を味わっている暇もなく、脇に植えられた木に激突。衝撃が体を突き抜け、肺から空気が絞り出された。

「がっ!?」

 草むらに落下した頃には、意識が朦朧としていた。

「いやー、その小さな体でよく頑張ったよ。えらい、えらい」

 敵が近づいてくる。
 ぼんやりとした視界が、なんとか捉えてくれた。

「でも、もう終わりだ。三人揃って仲良く地獄へレッツゴーだよ」

 ボク、死ぬんだな。
 終わりが近づいているのに、心は大波を立てなかった。むしろ、落ち着いている。いつもなら、泣き叫んでもおかしくないのに。人間、死ぬ時は心が穏やかになるのかもしれない。
 ただ、一つだけ強い心残りがあった。二人のことだ。今、ボクが死ねばトバさんも一緒に消える。その後、緋色さんも殺されてしまうだろう。それだけは何としても阻止したい。けれど、体はもう動かない。意識もあやふや。絶望的すぎる。
 ああ、せめて旅立つ前にトバさんと契約解除をしたい。無駄死には、ボク一人だけで十分だ。そして、誰かに二人を助けて欲しい。【注射男】を倒して欲しい。ボクの死体を気にしないで欲しい。誰か、誰か、誰――

「発動条件を満たしました。これより、【催眠術】の発動準備に入ります」

 え?
 突然、機械的な声が聞こえた。それも、脳に直接。まるで、テレパシーだ。

「契約者の許可、自動承認。記憶の開放、自動承認。人格の開放、自動承認」

 意味不明な言葉が、脳に流れ込んでくる。
 これは一体?

「全項目をクリア。【催眠術】発動」

 瞬間、頭の中が真っ白になった。

 オレが目蓋を開けると、目の前に【注射男】がいた。

「ん? おめざめかい。まあ、すぐに眠ることになるけどね」

 構わず、敵は注射を打とうとする。
 隙が多い動作だ、いくらでも反撃が出来る。武器さえあれば。
 それが出来ないなら答えは一つ。

「そっちがな」
「ん!?」

 逃げるだけだ。
 能力を再発動。しゃがんだ体勢で跳び、【注射男】の後ろに移動。武器を求めて走り出す。

「逃げるのは良くないなっ!」

 増強された肉体を用い、敵が追いかけてくる。速い、オレには及ばないが。
 【注射男】を引き離した上で、武器の提供者と接触する。

「緋色、ナイフを貸してくれ」

 しゃがみ、未だ身動きが取れない緋色と目線を合わせる。

「は、はい。でも、師匠。どこかおか『急いでもらっていいか?』は、はい!」

 彼女が戸惑うのは当然だ。今のオレは、彼女が知っているボクじゃない。
 けれど、今は説明する暇がない。
 緋色の手の平に、眩い光が生まれた。ゆらゆらと揺れ頼りない。だが、徐々に形状が変化。鋭利さを増していく。
 最終的には、上物のナイフへと姿を変えた。

「ご武運を!」

 礼も言わずに、ナイフを受け取る。すぐに、後ろを振り向いた。

「速いな、【注射男】」

 白衣の宿敵は、苛立ちを募らせていた。肩を怒らせている。

「嫌味なら死んでから言って欲しいな」
「そうか。じゃあ――」

 歩を進めた。
 もちろん、【注射男】に向かって。

「お前が先に逝ってろ」
「っ!?」

 逆手に握ったナイフを、【注射男】の右腕に滑らせる。
 腕力などいらない、速力さえあれば十分。血を吹き出させながら、余裕で通り過ぎた。

「お、お前!!」 
「直線なら避けられるんじゃなかったのか?」

 オレが軽口を言っている間にも、敵は次の行動を取っていた。
 左手に、青い液体が入った注射器を生み出す。そのまま、自分の右腕に刺した。
 回復薬か、予想通りに【注射男】の出血が止まる。よく見ると、傷口も完全に塞がっていた。

「痺れ薬、パワーアップアイテム、回復薬。何でもありだな。アイテムがないとボスと戦わないタイプか?」
「……なぜだ」
「ん?」

 挑発に乗らず、【注射男】は怒鳴った。

「なぜ、この俺を切り裂けた!!」
「そっちが本性か」

 疑問に答えずおちょくる。わざわざ、正直に答えてやる必要もない。

「うるさい! いいから答えろ!! なぜ、お前は俺を切り裂けた! なぜ――」

 科学者は叫ぶ。

「お前のスピードが上がっている!!」

 理解できない、理解できないと。駄々っ子のように、謎を謎のまま撒き散らす。
 可哀想になってきたので、回答を教えてやることにした。

「なぜかって? そりゃ」

 歩を進める。

「俺が鳥になったからだよ」

 二つの目標を狙いながら。

「今は【雷鳥】だ」
「がっ!?」

 右腕を切り裂きターン、左腕も切り裂く。今度は深く斬れた、地面に二本の腕が落ちる。
 これで、奴が注射器を使うことは不可能。武器を奪いきった。恐れるものは何もない。
 余裕が出来たので、詳しく解説してやることにした。

「雷鳥は、高く飛ばない。その代わりに、森の中を走るように飛ぶ。地上の動物が追いつけない速度で。だから、この技は【雷鳥】」

 地を飛ぶように駆け抜ける、俺が知る最もシンプルな歩法。
 それが【雷鳥】だ。
 
「俺の、俺の腕がー!!」

 受講者は、全く聞いていなかった。血を流しながら、発狂している。

「聞いておけばいいものを」

 言い終わらない内に、【雷鳥】を使った。
 地の反発力を利用し、浮くように駆ける。スピードは折り紙付きだ。最高加速を保つ、それが【雷鳥】のコンセプトなのだから。

 
「冥土の土産になる」 

 さっきと同じ要領で、【注射男】の両足も斬る。せめてもの情けで、切断はしないでおいた。
 【注射男】は絶叫しながら、地面に倒れ伏した。死にたくないとばかりに、体を必死に動かし抵抗。先程まで見せていた余裕は完全に消えている。

「イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ! イタイ!!」

 苦しみを隠さず、オレから距離を取ろうと這う。
 芋虫のように、ゴム屑のように、どこかのチキン野郎のように。

「安心しろ」

 【注射男】の首に、ナイフを突きつけた。

「地獄へは一瞬だ」

 鮮血が夜空に吸い込まれた。

「ん?」
「どうしたの?」
「いやー、雀に仕掛けておいた能力が発動したみたいなんだ」
「ああ、【催眠術】ね」
「そうそう。あれが発動したってことは、雀の身に何かあったんだよ」
「都市伝説に襲われた?」
「かもしれない。まあ、大丈夫だとは思うけれど」
「でしょうね。なんたって、私達の子だから」

 日本人夫婦は、異国の地で息子の話をする。

「ん? まだ生きてるよ、足元の人」
「あ、本当」

 無数の屍を踏みつけながら。

――続く――

トバ「……俺の扱い、酷すぎねえか」

雀「作者に悪意はないから! 戦闘シーンを書くのがダルかっただけだから!!」

削って書いた弊害です、はい
次章くらいからは、トバも活躍するんじゃないかな?(適当)

チキンの人乙です
5話にしてまさかのパワーアップ
これは早い方なのか…学校町ならむしろ早い方か
ん?ご両親?雀は次世代組と同級生だからつまりこれは

>>74
念のため言っておくと両親は未登場キャラですよ
「姉を強キャラ風にしちゃったし両親は契約者にしちゃえ!」というお茶目な発想の元に生まれました

 紅 かなえは、自身の少しぽっちゃりした体型を気にしている節がある
 太っている、と言う訳ではないが、「ぽっちゃり」と言う言葉がよく似あってしまう体型
 確かに、年頃の乙女としては気にしてしまうところだろう
 慶次から見れば、さほど気にする事でもないと思うのだが

「…運動、してるのになぁ」

 少ししょぼんとした声でかなえはそう口にする
 確かに、彼女は薙刀を習っており、その稽古は週5回あるようで、夏休み中は稽古時間を増やしてもいるようだ。かなりの運動量のはずだ
 それなのに、かなえのぽっちゃりめの体型はそのままである
 ………慶次はその理由を、なんとなくではあるが察していた

「とりあえず、かなえ。今、お前が食ってるのは何だ?」
「え?えっと…………金魚鉢パフェです」

 ……ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに
 とりあえず、正面の席に座っているかなえの頬をつっつくと、あぅあぅあぅあぅ、と声を漏らしてきた

「お前のその肉の原因は、どう考えてもカロリーとりすぎだ。平気な顔して食ってんじゃねぇよ、そのあからさまに重たそうなもんを。こないだも、フォーチュン・ピエロでよくばりカレーだかって、トッピング全載せみたいなカレー一人で食いきってたよな」
「え、あ、う、その………」

 おたおたとしているかなえだが、どう考えても、原因はそれだ。食べ過ぎだ
 ちらっ、と、かなえの隣で実体化している岩融…実体化といっても、契約者以外には見えない程度にとどまらせているようだが…を見ると、ふっ、と視線を逸らしてきた
 どうやら、岩融も、自身の契約者のぽっちゃりの原因を察してはいたらしい
 じゃあ止めろ、と言いたいのだが、この岩融は契約者に若干甘い面があった気がする。いや、それでも契約者のことなのだから、止めろ

「間食やめろとは言わないから、ちったぁ量を抑えとけ。カロリー少なめのもん食うようにしろ」
「うぅ…………ど、努力します」

 しょぼーん、としながらも、かなえは金魚鉢パフェの残りを食べていっている
 残すのは勿体無いから仕方ない、が…………本当に大丈夫なのだろうか

「……で。だ。本題は?原因があからさまなぽっちゃりに関する話をする為に俺を呼んだ訳じゃないだろ」
「あぅ、ご、ごめんなさい」

 はむっ、とパフェ中段辺りのプリンを口にしながら。かなえはようやく、本題を切り出してくる

「その………「三年前」の事件の、黒幕。「狐」の、その部下の人達も、学校町に入り込んできてる……って、聞いたのだけど。慶次さんは、どんな人達が入り込んできたのか、知ってますか………?」

 恐る恐る、と言うように、彼女は問うてきた
 …なるほど、そういう事か
 このように聞いてくると言う事は、かなえもその辺りも情報は聞いていない訳か

「いや、俺も聞いていない。まだ調査中なのかもな………っつか、かなえ。お前、「組織」から聞いていないにしろ、他の連中からはその話、聞いていないのか?ほら、あいつら。いつも固まってる、あの連中」

 それこそ、「三年前」の事件の関係者たるあの連中から、かなえは話を聞いていなかったのだろうか
 慶次の言葉に、かなえは、少ししょぼんとした表情を浮かべる
 そんなかなえの代わりに、岩融が答えてきた

『聞いていないな………彼らにとって、「三年前」の事件は他者からは触れられる事すら好まぬ過去だ。こちらから聞く訳にもいかんしなぁ』
「かなえだって、あの………土川 咲李とは知り合いだったんだろ?関係者に数えてもいいと思うんだがね」
「………うぅん。私は。関係者には、数えてもらえないと思う」

 ふるふると、慶次の言葉にかなえは首を左右にふった

「私は………………あの頃は、岩融さんと契約していなかったから。契約者じゃなかったから………あの時には、関係者にはなれなかったのだと思います」
「…そうか。悪ぃ」

 かなえにとっても、あの件は辛い思い出なのだろう
 土川 咲李は、誰に対しても平等に優しかったと言う。かなえも、それなりに関わっていたと言うし、優しかったのだろう
 その人が、自殺した………己の父親の愚行を止めようと、無謀な手段をとって死んでしまった
 当時中学1年生だった彼女にとっては、トラウマに等しい出来事だったのかもしれない

「あ……でも、その。慶次さん。どうして。龍哉君達が、「狐」の部下の事、知ってるって思ったんですか?」
「…あいつら、鬼灯と仲がいいだろ。あの「通り悪魔」と。あいつは、「狐」を追って世界中回ってたらしいからな。その辺の情報を持っている可能性がある。そんな鬼灯と仲がいいなら、聞いているかもしれないだろ」

 ーーー「通り悪魔」
 江戸時代の随筆に見られる妖怪の一種で、ぼうっとしている心に憑依すると言われている。「通り魔」の語源にもなっており、ふとした瞬間に魔が差し、自分では思ってもみない行動を起こしてしまうと言われている
 鬼灯は江戸の時代にそれと契約し、その果てに飲み込まれた男だ。別の存在と多重契約して飲まれた、とも言われているようだが、慶次はそこまでは把握していない
 とにかく、それは「悪魔の囁き」に近い性質を持っており、それと契約して百年を超える時を生きている鬼灯を「組織」としては危険視しているのだ
 獄門寺家の客人である以上、学校町にいる間は手を出せないのが本当に恨めしい

(とは言え、情報を持っているなら、吐いて欲しいところだが………)

 なんとかして、「狐」の情報を鬼灯から聞き出せないか、慶次はそう考える

「鬼灯さん………あ、そっか。龍哉君達、あの人と仲がいいから………うぅん、ごめんなさい。私、鬼灯さんとは、あんまりお話した事、ないから。その、あの人、ちょっとだけ怖くて…」
「気にするな。ありゃ、本来はどっちかってとかかわらない方がいい部類だろ」
『………やれやれ。二人共、その程度にしてやれ。あの男も、昔、色々とあったのだから』

 二人の会話に、岩融がそっと苦笑した
 どうやら、鬼灯の昔の事情を多少は知っているらしい………具体的に何があったのか、話すつもりはないようだが


 とりあえず、この日はそれで、かなえとは別れた
 何かわかったら伝えるように、とは言っておいたし、こちらも何かしら情報を得たら伝えるとも言っておいた
 かなえとは、仕事上組む事が多い。情報は共有しておいたほうがいいだろう

 ………そして、慶次としては
 できれば、かなえには都市伝説との戦いで犠牲にはなってほしくない
 彼女には生きて欲しいし、きちんと幸せな生活を掴んでほしいと、そう感じていた
 それが、どのような感情から生まれた考えなのか、心の底では理解しているが、表面上では理解していない事にしている
 そうでもしないと、仕事に支障がでそうだった

 そうやって考え事をしながら、一人で歩いていると

「…………あれ、今、あんた一人か?」

 声をかけられ、そちらを見れば
 そこにいるのは、「三年前」の事件の関係者の幼馴染グループの一人
 契約者ではない癖に平然と都市伝説の存在も契約者の事も受け入れている変わり者が、そこにいた

「一人じゃ悪いか?花房 直斗」
「悪くないけど、あんた、たいてい担当の黒服と一緒にいるだろ………赤鐘 愛百合だっけ?あのおばさんくさい黒服」
「おばさんくさいって……いや、そうだけど」

 否定はしない
 実際、愛百合は雰囲気とか雰囲気とか雰囲気とか、おばさんくさいし、昔から

「愛百合は、今、忙しいんだよ。「狐」絡みで」
「調査中、ってとこか……その最中に、余計なことしなけりゃいいんだが」

 直斗の言葉に、慶次は少し、むっとした
 お前な、と口を開こうとして。しかし、それよりも先に直斗が言葉を続ける

「「三年前」、赤鐘 愛百合は、致命的なミスをした。咲李さんの性格を知らなかった、ってのがミスの原因だろうな。あぁいうことを聞かされたら、彼女はあぁ言う行動に出る可能性があった。それが、どれだけ無謀だろうがな」
「……………」
「あれは、咲李さんも悪かったと思う。咲李さんは、都市伝説を甘く見ていた。しかも、契約者付きの都市伝説だったんだ。咲李さんのような、契約していない一般人がどうこうできるようなレベルじゃなかったんだよ。たとえ、命をかけようが、な」

 ……少し、意外だった
 あの幼馴染グループは、全員、土川 咲李のことは大体肯定しているとばかり思っていたから
 今、直斗は明らかに、土川 咲李の行動を否定するような………やや、非難するような事を口にしたのだから
 慶次の視線に気づいたのだろう、直斗は笑う

「咲李さん自体は、いい人だったと思っているよ。ただ、完璧な人間だった訳でもない。正直、彼女は都市伝説には関わるべきじゃなかったんだろうが………彼女のお陰で良かった影響もあるからな。俺としては複雑だよ」
「……そうか」

 そうさ、と直斗は肩をすくめてきた
 契約者ではない癖に、まるで契約者側の立場から土川 咲李を見ていたような違和感を感じなくもないが、幼少期から契約者やその関係者と接し続けた結果が、これなのかもしれない
 両親ともに契約者ではなく一般人、そして彼自身も器が小さすぎて契約者にはとうていなれないと言うのに、幼馴染が関係者ばかりであったことが、果たして彼にとって幸運なのか不運なのかは、慶次には判断できなかった

「ま、とりあえず、一人ならちょうどいいや話したい事があるんだ」
「話?………「強行派」の俺にか?」
「「強行派」つっても、20年以上前よかマシなんだろ?人体実験とかに関わってる訳でもないし。これくらいなら話してもいいと思うしな」

 ……死者が出るリスクは減らしたい
 直斗がそう呟いたのを、慶次は聞き逃さなかった

「「狐」の手駒の情報、鬼灯から聞いた分でよけりゃ、教えるぜ」

 ……そして、今、目の前に
 己が求めていた情報がまさに、現れようとしていた




to be … ?
 

ぺたしぺたしと情報的なあれ
雀君への組織関連情報提供ネタはもうちょっとまってね

「すみません、伯父さ………じゃなくて、先生。化学準備室、使わせて頂いて……」
「構わん。五月蝿いのは別にやっておくから、きちんと説明しておいてやれ………この街で学校町で契約者になった以上、何に巻き込まれるかわからんからな」

 はぁい、と返事して、憐は化学準備室の主である荒髪 秀を見送った
 さて、授業の合間の休み時間に話はしておいたから、来てくれるとは思うが……

「来なかったらどうするんだ?」
「んー、まぁ、そん時はそん時ー………と、言いたいところっすけど。改めて時間とるなりなんなりして、お話はしないと駄目っすよね」

 この学校町において、都市伝説契約者となったのならば。いくつかの組織に関する知識は持っていたほうがいいだろう
 何も知らずに言いくるめられて所属する事になった、なんてなったら大変なことになる可能性だってある
 まぁ、最近はたちの悪い集団は、学校町にはあまりいないとはいえ、「狐」が学校町に入り込んでいる最中だ。そちらに接触されたら、と考えると、やはり警戒するにこした事はない

 ……そうしていると、きた
 少し緊張した様子でやってきたその人に、憐はへらんっ、といつも通りの軽い笑みを浮かべてみせた

「いらっしゃいー、っす。すずっち。来てくれて、良かったっすー」

 空井 雀
 さぁ、今から彼に、説明していこうではないか
 この学校町で接触の可能性がある、いくつかの組織に関して



 化学準備室にやってきた雀は、緊張しているようだった
 …それはそうだろう、以前、ジャージーデビルに襲われた件で契約者である事を明かした憐が、「契約者であれば知っておいたほうがいい事を伝えたいから」と、雀をここに呼んだのだが。そこには、憐以外の人もいたからだ
 全員、雀にとってもクラスメイトだ
 獄門寺 龍哉、花房 直斗、日景 遥。全員、よく憐と一緒にいるグループだ

「ほんとは、ゆうっちとかあきっちとかみこっちも居た方良かったかもっすけど、用事があったっぽくて来られなかったみたいで」

 へらっ、と、憐は雀の緊張を和らげようとするように、緊張感のない笑みを浮かべながら言った
 それでも、雀はどこか緊張している様子だ。主に、遥から何か嫉妬に似ているような視線が向けられているせいかもしれないが
 どうぞ、と、龍哉が勧めた椅子に雀は恐る恐る座った

「ん、それじゃあ、お話するっすねー」
「あ、えぇと……その、荒神君。都市伝説……の、話、だよね?」

 雀が、憐以外の三人の顔を順々に見回す
 そうっすよー、と、憐は気楽な様子で答える

「ご安心ください。僕と遥様も、都市伝説契約者ですので」

 やんわりと微笑み、龍哉はそう、雀に告げた
 つ、と、雀の視線が直斗に向く
 憐と龍哉と遥は、都市伝説契約者。では、直斗は?と言う事なのだろう

「俺は契約者ではないけど、都市伝説の事やらは知ってるから安心してくれ…………で、空井は、都市伝説の事、どれくらい知ってるんだ?」

 じ、と直斗が雀を見つめる
 その眼差しは、いつもの軽い調子と全く変わらない

「えぇと………都市伝説、というものが実際は存在していて………それと、人が契約出来る、と。ボクも、トバさん………人面犬と契約した際に、説明してもらいました」

 そう言って、雀は正直に自分の契約都市伝説や、緋色との事まで話した
 そこまで雀が話すとは思っていなかったらしい直斗は、おや、と言う表情になる

「普通、契約者って、自分が契約している都市伝説の事は説明しないもんだとおもってけど」
「え?……そ、そうなの?」
「まぁ、契約都市伝説がバレると、弱点バレる事も多いっすからねー。自分から言う人が、全然いないー、って訳でもねーっすけど」
「どちらにせよ、空井さんが契約都市伝説についてお話なさってくださったのですから、こちらも、お話する必要がありますね」

 しゃん、と龍哉が背筋を正す

「僕は、「大通連」「小通連」。それともう一振り、刀の都市伝説と契約しております。鈴鹿御前が使っていたと言われる鬼に由来した物で、僕が望めば、それらの刀は僕の傍までやってきます」

 龍哉に続き、次は憐が口を開く

「俺っちはー、前に、すずっちにちらっと見せたっすよね。天使と契約してるっす。あれで、傷を癒やしたり、ちょこっとは空飛んだり出来るっすよ」
「……あれ?あの時使っていた、弓は?」
「「シェキナーの弓」の事っすね、あれは、母さんからの借り物っす」

 つまり、憐の場合母親も契約者だ、と言う事だ。間接的だが、それも伝えたことになる
 ……最後に、遥

「憐が話したなら、俺も話す。俺が契約しているのは、「ベオウルフのドラゴン」だ。こうして………」

 すっ、と、遥の目が、爬虫類めいた金の輝きを持った目に変わった。その口元から、うっすらと牙が覗く

「体の一部分を竜化して戦える。まぁ、怪力とかは普段から使えるけどな」

「な、なるほど………」

 変化した遥の目に見られると緊張する、と言うか恐怖に近いものを覚えるらしく、少し引く雀
 それを見たからか、遥はすぅ、と目を元に戻した

「ま、俺達の契約都市伝説については、こんなとこか」
「じゃあ、次は………「組織」とか、その辺についてだな。真降から、「組織」については聞いたんだったか?」
「あ、えぇと、そう言うのがある、って言う事を真降君から聞いて、それ以外はトバさんから聞いた程度で」
「…了解っすー。それじゃあ、「組織」についてから、説明してくっすねー」

 へらりとした笑みを浮かべたまま、憐は説明を開始する

「「組織」はー、確かに、すずっちの言う通り、都市伝説や契約者を管理してる感じではあるっすー。まぁ、どうしても人間に害を与えてしまうって言うか、うっかり猟奇的な殺人事件起こしちゃったりするのもいるから、そう言う被害を防いでく、って意味合いがあるっすねー」
「あとは、都市伝説と契約した奴で犯罪者がいた場合、そう言う奴らとっちめないと駄目だからな。警察だけじゃ、どうしようもないパターンが多いし」

 遥が、憐の説明を補足する
 実際、都市伝説と契約している犯罪者は、通常の警察では手に負えない存在となっている場合が多い。証拠をほぼ残さないタイプであったり、通常では不可能な手段で殺したり、と言う事が多々あったり、逮捕しようにも抵抗されれば契約者ではない人間にはどうにもならない事が多いからだ
 「組織」は、多数の都市伝説や契約者を有する事で、それらの犯罪者に対して対向する手段を持っているのだ

「昔は、悪い噂絶えなかったみたいっすけど、ここ20年でその辺、だいぶ落ち着いてきてるんすよ」
「そうなの?」
「そうっすー。人体実験やってたりしてた悪い人達が居たみたいっすけど、そう言う人達がまとめて「めっ」ってされたそうっすから」

 憐はかなりマイルドな表現をしているが、ようは一斉に粛清された、そういう事である
 某F№のトップに関しては、「そういう事おおっぴらにやったらわかってるよな?わかってるよね?」と言う最終勧告がいったと言う事で、とりあえず、今現在の「組織」内において、そういった非人道的な事に手を出している輩は居ない
 居た、としても、A№上位陣の一人である火山そのものの化身と言っても差し支えない存在が、即効、処罰に向かうだろう。その他にも、S№にはS№0イクトミ直属の、そう言った違反者を処罰する部隊が存在すると言う噂が「組織」内には存在している
 そう安々と………いや、重い決意を持っていたとしても、「組織」においてはそう言った事に手を出せる雰囲気では、もはやないのだ

「とはいえ、今でも「強硬派」とか「過激派」って呼ばれる派閥の人達はちらほらいて、時々問題起こしちゃってはいるっすけどね。そう言う人が存在するのは、「組織」に限らないっすから。全部が危ない人、って訳ではないんで、ご安心を、っすー」
「な、なるほど………えぇと、荒神君達は、「組織」には……」
「俺っち達は、所属してねーっす。ただ、俺っちの父さんは所属してるっすね」
「俺も。お袋が所属してる」

 憐の言葉に続いて答える遥
 遥の母親の場合、むしろ「組織」内でかなり上位の立場にいる存在なのだが、それを遥がどこまで認識しているかは怪しい

「まぁ、俺っちの父さんの場合、別な意味で危険人物な予感がちょっとだけするのはさておきー………「組織」については、これくらいっすかね」
「「組織」について、は?」
「学校町で暗躍しているのは、「組織」だけじゃないからな、他の集団についても、ある程度は知っておいたほうがいいと思うぜ。うっかり勧誘受けた時とか、判断の基準になるだろ」

 知っておいて損はない、と直斗は笑う
 とはいえ、全てをしっかりかっきり説明するとあまりにも時間がかかりすぎてしまう故、いくつかをさらりと説明する程度になってしまうのだが
 次は、と言うように、遥が口を開く

「じゃ、次は俺が「首塚」について説明する。「平将門の首うかの祟り」は、聞いた事があるか?」
「平将門、は日本史で習ったとして………首塚の祟りも、何かで見たか聞いたかした事があるような……」
「よし、んじゃあ、話は早いな。「首塚」のトップはその将門様だ。「首塚の祟り」が実体化した、な」

 遥は、今の「首塚」について説明していく
 かつては、「組織」に敵対する形で結成された集団であるが、今では一応は敵対していない状況である
 今後、再び「組織」が「首塚」に対して敵対行動をとったり、将門の機嫌を損ねるような事をすれば再び「首塚」は「組織」に対して牙を向き、「平将門の祟り」も再開されるだろう

「今の活動は、都市伝説事件とかで親なくした連中の保護が多いかね。前までは「組織」の過激派やら強行派やらの被害でそうなった奴らの面倒見てる事が多かったが………あぁ、もちろん、戦える奴らもいるぞ。俺だって、そうだしな」
「あ、日景君は、「首塚」に所属しているの?」
「もちろん!将門様は、すごい方だからな。つっても、力が強すぎて、ヘタに戦う訳にはいかない状況も結構あるから。そう言う時、俺達みたいなのが戦うのさ」

 にやっ、と笑ってみせる遥
 ……こそり、と、直斗は雀に、さらに補足説明する

「……ま、「首塚」はどっちかってと、平将門のカリスマ性に惹かれて集まったのが多い。今の活動は、学校町における自警団的な面も強いな」

 「首塚」が睨みを効かせている
 それだけでも、都市伝説事件を減らす効果は結構ある。トップである将門の祟りがわりとシャレにならないレベルの威力をもっているせいもあるのだろう

「「首塚」についてはそんなとこっすかねー………じゃ、また俺っちが。今度は「教会」について、説明させていただくっす」

 「教会」
 歴史的に見れば、かなり古くから存在する集団である。そのトップに関しては謎が多いが、現実の教会関係者もかなりの数が関わっていると言われている
 主に悪魔と呼ばれる存在と敵対しており、他にも人を害する存在に対しては敵対している事が多い
 ……もっとも、完全に善良、と言われるとそうと言う訳でもない。いや、「教会」の考え方自体は若干偏屈ながらも決して悪いものではないのだが………「教会」の全てが一枚岩、と言う訳ではない。「教会」の内部で何かしら企む者もいない訳ではないのだ
 20年近く前に、少々大きく大問題が発生して以降、「教会」の威信にかけて自浄に努めていった結果、かなり落ち着きこそしたが、今でも火種はくすぶっていると言う

「あそこは、基本、天使とか、そこら辺に関係した者の契約者じゃないと勧誘はしてこないー、とは思うっすけど、トラブったら面倒な事は事実なんで。学校町にはさほど人員入り込んではいないっすけど、一応、お伝えするっす。「教会」絡みで何かしら巻き込まれたら、相談、乗るっすよ。一応俺っち、所属させていただいてるんで」

 お任せくださいっすー、と憐はへらんっ、と笑ってみせる
 もう、「教会」関係者が学校町で何かやらかす心配は低いのだが、一応、念の為だ

 憐の説明が一段落つき、次は龍哉が口を開く

「では、次は僕が………僕の家、「獄門寺組」について」
「う、うん、獄門寺君の家………………え?「組」?」
「はい。僕の家は、明治のはじめより極道を営ませていただいております。さらに、父の代より、都市伝説関係者の方々にも数名、所属していただいております」

 雀が何か驚いた様子を見せたが、龍哉はさほど気にしていない様子で、説明を開始した

「獄門寺の家の13代目様がやっていた事と同じように、学校町にて悪事を働く都市伝説やその契約者から、町と住人を護るために活動しております。「獄門寺組」に所属してくださっている方は、その考えに同意してくださった方や、悪事を働いてしまった方が反省の意味を込めて、所属して罪を償っております」

 さらに、「獄門寺組」の特徴としては、「首塚」とのつながりが強い、ということだろう
 「首塚」に何かあれば、「獄門寺組」も動く。「獄門寺組」に何かあれば、「首塚」も動く、そんな同盟関係が結ばれているのだ

「空井さんも、学校町の住人ですから。何か、都市伝説の事で困った事がありましたら、力になりますからね」

 遠慮無く申してください、と龍哉はにこにこと笑った
 100%善意の上での言葉なのだが、それを雀がどう受け取ったのかは不明だ

「……それでは。最後に。「レジスタンス」について、お伝えするっす。他にも学校町に入り込んでる集団は色々いるっすけど、俺っち達がきちんと説明できそうなのは、後はこの辺なんで」
「マッドガッサー一味辺りは、優なり晃がいれば説明出来たけど、今日は用事あったみたいだしな」

 ……つまるところ、他にも色々と学校町にはいるのだ、と言っているようなものだが、当人達には雀を怖がらせるつもりはないのだ。一応

「とりあえず、「レジスタンス」についてっすけどー………まぁ、簡単に言うと「抵抗勢力」、ってとこっすねー」
「抵抗勢力………どこに対しての?」
「あちらこちら、っすー……まぁ、時代や場所によって変わってくるっすね。そもそも、「レジスタンス」は、強大な力を持っている都市伝説集団に対抗するかたちでできたところっすから」

 「教会」がその力を、権威を拡大させ、他を迫害していた時期には「教会」に対抗し、「第三帝国」の前進と言っても過言ではない、某国の政権が強まっていた時期にはそこに抵抗し
 その時代その国ごとに、レジスタンスは強大な力を持って他を迫害してくる集団に抵抗室受けている
 今現在は「アメリカ政府の陰謀論」を中心にいくつかの集団相手に闘いながらも、「組織」や「教会」に対する監視の目も弱めてはいない

「まぁ、今は学校町では、派手に敵対行動はとってないっすね、どこもおとなしめっすから………今、「レジスタンス」が一番警戒している、となると。「狐」関連だと思うっすし」
「…「狐」?」
「そう。「狐」さ………なぁ、空井」

 すぅ、と
 直斗の視線が、真正面から雀をとらえた

「「九尾の狐」って、聞いたこと、あるか?」

 それは、遠い昔から、伝承や物語において語り継がられてきた存在

「それが…………「九尾の狐」の中でも、とびっきり悪質なのが、今、学校町に入り込んでいる」

 伝承や物語において語られる能力は多々様々存在するが、そいつは

「そいつは、人の心を魅了する。魅了して魅了して魅了つくして、そいつを都合のいい操り人形にする」

 かの国の王が餌食となったかのように
 傀儡とされたものは、その身を滅ぼしていってしまうだろう

「その「狐」に魅了されたりなんだりで、そいつに従っている連中も、入り込んでしまっている………今んとこは潜んでるみたいだが、気をつけろよ?」

 被害が広がってしまわないように
 見知った相手と敵対する、なんていう最悪の状況を防ぐために
 伝えられるべきことは、伝えておくべきだろう
 見知った相手が、そいつらの餌食にならないように、伝えておくべきだろう

「何かあったら。いつでも俺達は相談に乗るから」


 もう二度と、あの時のような後悔をしないために
 うてるべき策は、全てうっておくにかぎるのだ





to be … ?

チキンの人に切腹焼き土下座
説明はなし遅くなって申し訳ないのとぐだぐだ長いだけできちんとまとまってなくてごめんよぅ

雀君、もっと知りたい事あったら、聞いてくれれば後で返答ネタ書くね

花子さんとかの人乙です&ありがとうございます
レジスタンス、面白そうっすな。今後、花子さんとかの人の話に絡んでくるのかな?

それじゃ、気になった点を
雀「狐って契約者も操れるの?」

花子さんとかの人乙ですー
うん、頭の悪い俺でも何とか理解できた!

>>97
>レジスタンス、面白そうっすな。今後、花子さんとかの人の話に絡んでくるのかな?
ヒント:それぞれの集団の説明は当人、もしくは家族や親類がそこに所属している者が説明した

>それじゃ、気になった点を
いえっさー、では、近日中に返答するネタ書きますねー

>>98
>うん、頭の悪い俺でも何とか理解できた!
説明不足な点がないかどうかって正直ハラハラしているなどと

今だ!!!100get
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄       (´´
     ∧∧   )      (´⌒(´
  ⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
        ̄ ̄  (´⌒(´⌒;;
      ズザーーーーーッ

花子さんの人乙
獄門寺組の説明が本編キャラの口からされたのはこれが初めてか
何も知らない立場から聞かされたら正直どこもやばそうな印象抱くかもな…

自分が雀ならまず「君達が同性愛者だって噂を聞いたんだけど嘘だよね…」とかうっかり聞きそう
雀は性格良さそうだからまずそんな事は聞かんだろうが

あ、うっかりしてましたが、
>ヒント:それぞれの集団の説明は当人、もしくは家族や親類がそこに所属している者が説明した
ですが、最後の「狐」に関する説明だけは別です

>何も知らない立場から聞かされたら正直どこもやばそうな印象抱くかもな…
俺も書いててちょっとそう思った

>自分が雀ならまず「君達が同性愛者だって噂を聞いたんだけど嘘だよね…」とかうっかり聞きそう
聞いても別に問題はないのよ

 一通り、話を聞いた所で
 雀は、一つ気になる事があった
 とにかくそれを確認しようと、尋ねる

「えぇと………その、九尾の狐は。人を魅了して操るん、だよね?それって、契約者相手も………」
「操れる」

 雀の問を予想していたかのように、直斗は即答した

「人間も、契約者も、都市伝説も。だいたい、全部操ってくるな。魅了されたらアウト、と思ったほうがいい」
「流石に、犬やら猫やらは操ってないらしいけどな。魅了が効かないのか、そう言う連中は誘ってないのか、どっちなのかはわからないけどな」
「僕達も、「狐」に関しましては、他の方から聞かせていただいた情報ばかりでして………断言できない情報が多く、申し訳ありません」

 遥と龍哉も、直斗に続いてそう口にする

「今、学校町に入り込んでいるその「狐」は、世界のあちらこちら回って、部下というか配下というか下僕というか、そう言うの集めてたっぽくてー、おかげで、部下が国際色豊からしいっす」
「な、なるほど…………あれ。でも。その「狐」って、どうして、学校町に来ているの?」

 ふと、新しく疑問を感じたようで、そう尋ねてみる雀
 そうすると、直斗は今度は少し考えてから、答える

「………あくまで、予想でしかないけどな。ここを足がかりにするつもりなんじゃないのか?」
「足がかり…?」

 何の、と雀が問うより、早く

「ここで部下っつか手駒になるやつを集めて。後々、もっと大きな事をする為の。九尾の狐が過去にやらかした事………特に、古代中国で。「封神演技」とかで物語られているそれからの予想だけどな」

 あの狐は権力者に取り入る
 己の欲望を叶えるために

 「組織」等の存在がある以上、いかに狐が強かろうとも、一人で悪事を行うには限界が生じるだろう
 だからこそ、手駒がいる
 それも、うんと強い手駒が

 きっと、それを手に入れるために、この学校町は都合がいいのだろう
 何せ、ここには日本でも有数の都市伝説契約者が、数多く存在するのだろうから

「まぁ、最終的には。「狐」は誰頭に討伐されて終わるだろうけどな」

 それでも警戒は必要だけど………と、そう言いながらも
 直斗は。妙に確信めいて、そう断言した

「「狐」は、学校町を舐めているから」


 そう、「狐」にとって一番の誤算はそれなのだろう
 三年前に、ほんの少し学校町を訪れたその時に、気づけなかった事が

 この街に集う契約者達が、一筋縄で行くはずもない
 それに気づかぬ「狐」も、その部下達も
 もはや、火の中へと飛び込んだも、同然なのだ



to be … ?

と、言うわけで、雀君の疑問にそっと答えるネタぶん投げておきますの

 ひたひたと、それは学校町を歩き回っていた
 それが町中を歩いていようとも周囲の人々は気にする様子もない………いや、ある一部の人は、その姿を見たらびくっ、とする事はあるかもしれない
 何せ、それは警察官の姿をしているのだから
 「姿をしている」と言ったのは、彼が姿こそ警察官ではあるが、実際は警察官等ではないからだ
 彼は「偽警官」と呼ばれる都市伝説だ。警察官らしいのは姿形だけであり、その本性は凶悪な殺人鬼である。怪力のような目立った特殊能力はないが、人間そっくりの姿と拳銃は、通常の人間にとっては物理的にも精神的にも脅威となりうる存在だ
 そんな彼がなぜ、町中を歩きまわっているかというと、獲物を探しているのだ
 彼個人としては、物語られている都市伝説にそうように、女性をターゲットにしたいところだが………

(上司の行方がわからねぇしなぁ………うっかり、人間のふりをしている上司ターゲットにしちまったら、俺は死ぬしか無い)

 そう、大変と困った事に、人間ではないはずの彼の上司は、ただいま人間のふりをして人間に紛れ込んでいるらしい
 それだけならまだいいのだ。ただ、問題なのは、一体、今、どんな人間の姿をとっているのか、自分達部下にすら一切合切教えてくれていない、と言う事実である
 これは、困る、非常に困る
 上司の性格上と言うか性質上、高確率で女性の姿をとっているはずである。こちらがターゲットに選んだ女性がうっかり、その上司が化けた姿であったら………死ねる。殺されると言う以前に、そんな事をしでかしたら自分で死を選ぶ
 まぁ、そんな理由があるので、しばらく女性をターゲットに選ぶのはやめておく事にする

(あー、でも、男の肉は硬ぇの多いからな。飯用として持ち帰ったら嫌がられるか……?)

 彼、偽警官には仲間がいた。偽警官ではないが、彼と同じように人間ではないそいつらの中には、人間を主食としている者もいる
 偽警官はターゲットを殺せば後は放置するだけだが、そう言う仲間がいる以上、殺したターゲットはそいつの胃袋行きになる事も多い
 ……女と男だと、女の方が食べていて美味いらしい。偽警官は人間は食べないので、その感覚は全くピンと来ないのだが

(肉付き良さそうなのにするか……?あー、でもデブいたぶってもつまんねぇんだよなぁ。いたぶるなら、やっぱいい女に限るんだが………)

 町中をうろつきながら考えこみ
 結論としては、痩せすぎてない男を適当にターゲットに選ぼう、そういうことにして

(………よし、あいつにするか)

 ターゲットに選んだのは、高校生
 その後を、ゆっくりとついていく
 辺りから、自分達以外の人間の気配がなくなるまで、しかし、疑惑の目を向けられない程度の距離を保って
 家につくまでにチャンスが訪れなかったら、家を訪問する形にすればいい

 ………辺りに、自分達以外の気配がなくなる
 チャンスだ

「すみません、ちょっと、いいですか?」

 その高校生の少年に話しかける
 偽警官の声に、少年は何だろう、と言うように振り返ってきた
 とくに、疑っているような様子はない
 偽警官は、素早く警察手帳(もちろん、偽物)を取り出してみせた

「何だよ?」
「この辺りで、殺人事件がありまして………目撃者を探しているのですが」

 こうやって聞くのは、半ば「偽警官」としての習性である
 さっさと殺してもいいのだが、こればっかりはやめられないから仕方ない
 偽警官の質問に、少年は首を傾げて

「殺人事件?行方不明事件じゃなくて、か?」

 少年のその言葉に、偽警官は内心ギクリ、とした
 彼の仲間が、人肉を食らう仲間の為に人間を調達したのは、確かこの辺りのマンションである
 ……まだ、表面化していないと思っていたのだが、すでに行方不明になった、とされてしまっていたか?
 新聞とニュースをチェックしそびれていたかもしれない。帰ったら、確認しなければ、と偽警官は考える

「殺人事件です。一人暮らしの女性が殺害されまして……このあたりで、怪しい人物は見かけませんでしたか?」
「うーん…………」

 考え込んでいる様子の少年
 思案している様子で、視線を宙に彷徨わせる

 完全に無防備なその状態を、偽警官は見逃さない
 手元に出現させたナイフで、その少年の喉元を切り裂こうとした


 辺りには、誰も居ないはずだった
 周囲の住宅から、こちらに向けられている視線もない
 目撃者等いないはずであり、この行為を咎める者もいないはずだった


「っが…………!?」

 肩に、鋭い痛み
 からんっ、と、握っていたナイフが地面に落ちて、乾いた音をたてた
 ぶぅん、と、何か、虫が飛んでいるような音が耳元で聞こえたような気がした

 攻撃された、偽警官はそう確信した

 どこから、誰が?
 目の前の少年を、見る
 少年は、思案等最初からしていなかったかのように、にこやかに笑って偽警官を………否、偽警官の後方を見ていた
 偽警官が視線を動かすと………そこにあったのは、隙間
 二つの家の塀と塀の間にあった、細い細い隙間。人間が入り込めるはずもないそこを、見ていて

「ほら、言った通り来ただろ?」

 得意げに、少年が言った
 隙間に、誰か、いる…………ぎょろり、と、視線が偽警官を射抜く

「っちぃ……!」

 恐らく、別の都市伝説だろう
 最悪、目の前のこの少年が契約している存在かもしれない
 偽警官は、少年へと手を伸ばした
 人質にしよう、と言う算段だったのだが、残念ながら、それはうまくいかない

 伸ばされた手を、少年は軽く払って

「うぐっ!?」

 偽警官の体が、くるりっ、と一回転した
 ごっ!!と、その体が地面に叩きつけられる
 何か、柔道か合気道の技でもかけられたらしい
 背中を強かに打ってしまい咳き込む偽警官に、何かが近づいてくる

「確かに、来たわねぇ。「組織」のお仕事お手伝いしてくれて、おばちゃん、嬉しいわぁ」

 よいしょ、とややおばさんくさい声と共に、黒いスーツをまとった女が隙間から姿を現した
 その手に引っ張られるようにもう一人、若い男が姿を現す

「よくもまぁ、自分を囮に………っつか、お前、戦えたのか」
「ちょっとした護身術使えるだけだよ」

 男の言葉に、少年はさらりと答えた
 呼吸を整えようとする偽警官の胸元に、男の足が載せられる

「「偽警官」。悪ぃが、連行させてもらうぞ………話してもらわなきゃいけない事が、たくさんあるからな」

 偽警官を見下ろす男の傍を、ぶぅんと、カブトムシが飛んでいた
 先ほど、黒いスーツの女は「組織」と口走っていた
 なるほど、「組織」の連中か………ならば

「………捕まる訳にゃあ、いかねぇな」

 そう、口を割らされるはめにはなってはいけない
 記憶を読まれる訳にも、いかない

 偽警官は、ナイフと並んでもうひとつ、己の武器を手元に出現させようとする
 耐久性においては人間と対して変わらない脆弱なこの身を殺すにはじゅうぶんな武器、拳銃を

 次の瞬間には銃声が鳴るはずだった
 しかし、それよりも早く、カブトムシが偽警官の片手を貫いた

「愛百合っ!」
「はいはい、今やるわね」

 黒いスーツの女が、偽警官の手を掴んで、ひっぱる
 女はもう一方の手に、本を持っていた。薄く開かれた、その本の頁の隙間に………手を引っ張られた偽警官は、ずるり、と吸い込まれてしまって
 そして、そこで偽警官の意識は、途絶えた



「へぇ、そんな事出来たのか」

 愛百合が見せた能力に、感心した声をあげる直斗
 彼女が「隙間女」に飲まれた黒服である事は知っていたが、まさか、自分以外も隙間に引っ張りこむような能力があるとは、今回の件まで知らなかった
 どうやら、本のように小さな隙間に引っ張りこんだ場合は意識を奪う事ができ、そうではない隙間には意識を保った状態で引っ張り込めるらしい
 なるほど、使いようによっては、かなり便利だ

「ある程度ダメージ与えた相手じゃないと、引っ張り込めないけどねぇ」
「なんか、ゲームでそういうの結構よく聞くような」

 こう、ポケットなモンスターのとか、そういうので

 とりあえず、「狐」の配下の一人を生け捕りに出来たのは事実である
 直斗が慶次にもたらした情報で、だ

 鬼灯から聞いた分の「狐」の配下についての情報を、直斗は慶次に話してみせた

 その中で、一番捕獲出来そうなのが、偽警官だったのだ
 情報を前もって渡し、そして、町中で偽警官の姿を見つけると、素早く慶次に連絡したのである。情報を渡すついでに、携帯の番号を直斗が無理矢理慶次から聞き出した成果が出たのだ

(腹立つが、まぁ、確かに役に立ったな………)

 花房 直斗は、都市伝説について知っているし詳しいが、契約者ではない
 はっきり言おう、戦闘の場にいたとしたら、通常は足手まといだ
 しかし、今回の直斗が囮となる作戦は、直斗自身が提案してきたものである
 相手が偽警官程度であれば、護身術でも不意を打てばある程度なんとかなる、という計算もあっての事だろうが、非契約者の癖にかなりの度胸だ

「囮作戦とか、嫌がるもんだと思っていたが」
「俺が囮になるのはいいんだよ。事情を知らないやつを囮にするのは嫌だけどな………まぁ、憐なんかは知ったら反対してきただろうけど。だから、お前らに話持ってきたんだよ。「強行派」は、そう言う作戦平気だろ?」
「ひどい偏見を向けられた気がする」
「気のせいさ」

 慶次から向けられる視線に、直斗はぷい、とそっぽを向いた
 直斗もまた、土川 咲李の件では「強行派」に若干思う所があるので、ある程度の偏見はあるのだろう。他の幼馴染グループのめんつと比べると、まだマシなレベルだが

「んじゃ、俺はこれで」
「えぇ、協力、ありがとうねぇ」

 ころころと笑って、直斗を見送ろうとする愛百合
 直斗は、すたすたとここから離れていって………ふと、足を止めると、くるりと振り返る

「……気をつけろよ。偽警官は楽な相手だったけど。鬼の奴とか厄介なのもいるんだから。油断したら、死にかねないぞ」

 それは、忠告
 それを告げる直斗の表情は、普段の陽気な様子とはどこか違っていた
 愛百合は薄く笑い、それに答える

「言われなくても、大丈夫よ。都市伝説の件は、都市伝説が始末をつける。契約者じゃない子は、しゃしゃり出て来ちゃダメよ?」
「……その考え、咲李の時にも持ってくれてりゃ良かったんだけどな」

 そう言うと、直斗は今度こそ、この場を立ち去っていった
 さて、と、愛百合は偽警官を閉じ込めた本をしまい込む

「さ、慶次君、報告もしないといけないし、帰りますよ」
「おぅ、わかった」
「それと………確かに、今回の情報は有益だったけど。彼のいうこと、鵜呑みにしすぎちゃダメよ?」

 わかってるわよね?と
 愛百合は確認するように、慶次をじっと見つめてきた

「彼は都市伝説に詳しい、って言っても、契約者ではないから。都市伝説の戦力をしっかり図れるかどうかは、ちょっと怪しいんですもの。情報提供元が鬼灯、って言うのも引っかかっちゃうしねぇ
 今回の作戦だって。おばちゃん達が彼の作戦に乗らなかったら、見捨てられて無駄死にだったし。穴のある作戦だったものね」
「………わかってるよ」

 慶次の言葉に、よし、と笑って、愛百合は歩き出す
 その後をついていきながら、慶次はぼんやりと考えた

(…色々と気に食わないが。あいつの情報は正しかった。作戦も、特に問題はなかったし………今回の件で、俺と愛百合が見捨ててこない事も、全部計算づくだったんだろうな)

 見捨てでもしたら、あの幼馴染グループにどういう目に合わされるかわかったものではない
 慶次と愛百合のそんな考えすら見ぬいての作戦だった、慶次はそう考えたのだ
 ……あの直斗と言う少年、油断ならない

(対等に情報やり取りする気でいかないと、むしろこっちが利用されかねないな………それに)

 あの忠告は、本当に相手の戦力を警戒してのものだ
 何せ、相手はあの九尾の狐である
 警戒し過ぎるに越したことはないのかもしれない

 契約していない人間は、総じて自分達契約者よりも下である
 そのように常日頃考えていた慶次だったが、花房 直斗と言う少年に関してだけは、考えを改めてもいいかもしれない
 この日、慶次はそのような結論へと達したのだった




to be … ?

連投気味になってしまって申し訳ない
直斗が慶次に接触して数日後くらいの時間軸じゃないですかね、多分

 ーーーーー痛い
 自分の体から体温が奪われていくのがはっきりとわかる
 当たり前だ、だって、自分から、たくさんの血が流れでていっているのだから

(ちょっとだけ、無茶、しちゃったかな………)

 でも、自分が前にでなければ、きっと、あの子が死んでいたから
 それは、嫌だった
 自分の目の前で人が死ぬのは嫌だ
 自分の知っている人が死ぬのは、嫌だ
 人はいつか死んでしまうものだとわかっているけれど、自分よりも年下の子が死んでしまうなんて………殺されてしまうなんて、嫌だ

 口が耳まで裂けた女の人が振り下ろした鎌が、私の体をどう引き裂いたのかは、わからない
 ただ、恐らく、助からない怪我なんだろうな、と、そう思った

 男の子達は、どうなっただろうか
 うまく、逃げてくれたかな……………

(………あ、れ?)

 ……温かい
 何か、暖かなものが、自分に注がれている
 それと同時に、冷たくなっていっていたはずの自分の体が、また温まっていくのがわかった
 痛みは、ない
 傷が、消えている?
 暖かくて、優しい手が、触れてきている

「…だい、じょうぶ?」

 声が、聞こえる
 ゆっくりと目を開けると、泣き出しそうな顔の男の子が、じっとこちらを見つめていた
 ひらりっ、と
 私の視界の隅を、何かが舞い落ちた

「ストップ!それ以上、火ぃ吐くな!辺りが燃え広がる!!」
「そしたら逃げられるだろ!」
「大丈夫です、僕が仕留めます」
「逃げようたって、逃がさないんだから!」
「連絡はした!?」
「…した………スーパーハカーが、一気に知らせてくれたから。父さん達も来る、と、思う」

 自分の顔を覗き込んでいる男の子が、いつも一緒にいる他の子達の声が、聞こえてくる
 どうやら、みんな逃げていなかったらしい………なんか、変な会話が聞こえた気がするのは、気のせいだろうか

「まだ、痛い……?」

 と、こちらを覗き込んでくる男の子が、小さくしゃっくりあげながら、そう言ってきた
 慌てて、答える

「っだ、大丈夫、どこも痛くな………」

 答えていて、気づく
 男の子の背中から、生えているそれに
 淡く黄色に輝き、小さく羽ばたいているそれは、まるで天使の翼のようで

「ぁ…………っ」

 視線が、その翼に向けられている事に気づいたようで、男の子の顔色がさぁっ、と青くなった
 浮かんでいる表情は、恐怖
 後になって思えば、それは、「拒絶されるかもしれない」と言う恐怖だったのかもしれない

 けれど、あの時、自分はそんな事には気づかないで、ただ


「………………綺麗」


 と、どこかぼんやりとした意識の中、そう、口にした
 そうすると、男の子は一瞬。きょとん、として…………そして、ぽろぽろと涙をこぼして、泣き出してしまった
 男の子が泣いている声に、他の子供達がびっくりした声をだして駆け寄ってきたのを、確認して

 …おそらくは、血を流しすぎたせいだろう
 私は、そのまま気を失った


 それが、あの子達と仲良くなれたきっかけだった
 そしてあの時、私は誓ったのだ
 私は、彼らの「日常」となり、「日常」を支えてあげよう、と


 その誓いは、最期の時まで、変わらぬままだったのだ


to be … ?

ほんとに連投になっちゃってるなぁ
とりあえず、誰かってなってるけど誰なのかバレバレの回想めいた何か

 駅に着くと、もうそこには父の姿があった
 あちらもすぐに息子に気づいたのか、顔を上げてくる

「…来たか。診療所の手伝いはいいのか?」
「向こうも、お袋が今日帰ってくるってのはわかってるし、こっちが連絡するよりも先に、今日は来なくて大丈夫だって言われた。親父こそ、部活の顧問やってるだろ。そっちは大丈夫なのか」
「化学部なら、今の部長はまともだから放置しても問題ない。そうじゃなくとも、昔から自由にやらせていたしな」

 我が父親ながらこれでいいのか、と、荒神 灰人は父親である荒神 秀の言葉に呆れた
 父が教師を務めている高校に通うのは気まずい事この上ない為、別の高校に通っている今現在、父の学校での働きっぷりは実の弟同然の従兄弟や一つ年下の幼馴染達から聞くしかない訳だが、正直不安しかない
 一応、生徒からはそれなりに慕われているし校長からの信頼も厚いとは聞くが、本当に大丈夫なのだろうか

(まぁ、信頼されてるのは、都市伝説契約者としての実力やらその辺も含んでだろうが………)

 都市伝説事件の発生率が、20年前までと比べると格段に減っているとはいえ、元々中央高校は都市伝説事件が学校町内でもひときわ、野生の都市伝説が出現し易いエリアなのだ
 今でも、教師なり生徒なりで都市伝説と契約していて、戦闘能力をある程度保有している者が、学校の敷地内に出現した都市伝説の相手をする事は多いと聞く
 自身が通う高校でもちらほらと都市伝説が出没する事はあるが、正直、中央高校程ではない
 それらに対して対応出来るだけの戦力を中央高校は保有している、とも言えるだろう
 実際、「組織」等も、中央高校関係者をあまり巻き込みたがらない、と言う話を聞いたことはある

(………そもそも。親父が働いてる場所で何かあったら、叔父が黙ってないか)

 未だに「組織」でも最強クラスの一角と呼ばれる父の弟の事をふっと考える
 ……叔父の場合、当人の戦闘能力や契約都市伝説だけではなく、性格とか性格とか性格の面でそう言われている可能性も高いという事実からは、そっと目をそらしながら

「…………」

 と、父の視線が、改札へと向いた
 自然と、灰人もそちらに視線を向ける

 駅の改札を抜けて、母がこちらに近づいてくる様子が、見えた
 少し疲れているようではあるが、出かけていった時と、特に変わった様子はない
 少なくとも目に見える怪我はなかったようで、そこにはほっとした

「おかえり、お袋」
「あぁ、ただいま」

 こちらが手を振ると、母もひらり、と手をふって答えてきた
 母の顔の右半分を隠している長い前髪が、軽く揺れる

「……お帰り、ウル。無事か」
「無事だよ。秀と灰人こそ、何か問題はなかったか?」

 いつも通りの男っぽい口調で母はそう聞いてきた
 特に無い、と答えようとして………いや、あるか、と、すぐに切り替える

「ここんとこ、都市伝説による事件が増えてる」
「中央高校だけで見ても、20年前程ではないものの、増えているな」

 灰人が答えれば、父もまた答える
 そうか、と、母はため息を付いた

「ヨーロッパでも、「狐」が通った後に都市伝説事件が増えててな………「アヴァロン」に侵入しかけた奴がいて、流石に大騒ぎになった」
「それで、帰りが遅れたのか」

 そういう事だ、と、母は溜息をつく
 本当ならば、もう数ヶ月早く、日本に帰ってくるはずだったのだ。ヨーロッパに戻ったのは、あくまでも届け物をするためだけだったはずなのだから
 しかし、母がヨーロッパへと戻っていた間に、白面九尾の狐が出現し、その影響であちらこちらで事件が起きた
 その結果、それなりに強力な力を持っている母が戦力として駆りだされ、足止めを食らってしまったのだ
 ………無事で帰って来てくれたから、いいのだが

「しばらく、面倒な相手は懲り懲りだ………とはいえ、学校町に「狐」が来ている可能性が高い以上、そうも言っていられないんだろうが」
「お袋じゃないと手に負えないような相手が学校町に来ていない事を祈るよ」

 そんな会話をしながら、駅の駐車場へと向かう
 父の車の助手席に乗り込んで、母はようやく本格的に落ち着いたようだった
 車が、ゆっくりと動き出す

「………そうだ。「教会」のジェルトヴァがこっちに来ているらしいが。フェリシテは接触したのか?」
「あぁ、しているようだ。「教会」直轄の教会に毎週通っているんだしな。フェリシテと憐の話からすると、完全に追加の人員として来た形になっているな」
「おかげで、遥が機嫌が悪いらしいぞ」
「遥はそうか………涼は?」
「相手にしていないから、今のところ問題はないな。凛の方は、特にあの男とは関わっていないから、そちらも問題はない」

 車の中で、そんな会話をする
 叔母のフェリシテと従兄弟たる憐は毎週教会に通っているし、憐に至ってはよく手伝いに行っているから、「教会」所属のその男とはよく遭遇する
 そもそも、叔母は「教会」所属であり、ジェルトヴァとは前々から顔見知りなのだ
 だからこそ、母は少し心配しているのだろう。叔母とジェルトヴァは昔、何かあった………と言うより、ジェルトヴァの方から一方的に何かしらあったようだから。叔母は一切気づいてない上に気にしていないが

 そんな、会話をしていた時だった
 どんっ!!と大きな音がして、車が揺れる


 音の原因は、すぐにわかった
 原因が、車のボンネットに、居る

「ひ、ひ、ひ」

 それは、老婆だった
 一人の老婆が、自分達の乗る車のボンネットにしがみつき、けたけたと不気味な笑い声を上げている
 突然の奇怪な状況に、しかし車の運転を誤らずにすんだ父はさすが、と言うべきだろうか
 小さく舌打ちしながらも、ハンドルからは手を離さない

「………ったく。前が見えづらいのは、面倒だな」
「この状況で言うのがそれだってのは流石だよ………灰人、この婆さん、「何」なのかわかるか?」

 母の言葉に、後部座席からやや身を乗り出し、その老婆を観察する
 ボンネットにしがみつき、老婆はけたけた、けたけたと笑い続けており、ボンネットにしがみついているだけで、それ以上、攻撃してくる様子は見えない。と、なると………

「高確率で、「ボンネットババア」!」

 そう、「ボンネットババア」だ
 全国各地、様々なバリエーションが存在する、俗にいう「ババア系都市伝説」のうちの一種類だ
 国道を走っていると、突然、老婆がボンネットに飛び乗ってくる。その時に、運転を誤ると死んでしまう………車を追いかけてくる「ダッシュババア」や「ターボババア」なんかと比べるとどちらがマシなのかわからないが、ドリブルしているボールをぶつけてきて事故を発生させる「ドリブルババア」と比べると、直接攻撃してこないだけマシと言える

「対処法は?」
「そのまま、7km走り続けるのが良いらしいが………」

 ちらり、と父の様子を伺う
 ボンネットにしがみついている「ボンネットババア」が邪魔で、前方の視界が通りにくい
 全く運転出来ない状態ではないが、7kmとなるといけるかどうかわからない

「いけそうか?親父」

 それでも、一応確認をとってみると

「いけなくもないが、面倒だ」

 と、そう返された
 いけなくもない、という辺り、本当、父も都市伝説に慣れているからこう言う時、さほど困らない

「ま、たしかに面倒だな」

 母は、父の言葉にそう言うと………顔の右半分を覆う長い前髪を、軽く掻きあげて
 そして、ボンネットにしがみつく「ボンネットババア」を、見た



「はい…………あぁ。そこら辺に転がしておくから、回収を。念の為、証言を聞き出して………」

 自分にとっても知り合いである、母が所属している組織の者へと電話をかける灰人
 その間に、両親は車のボンネットの状態を確認していた

「…少しへこんだくらいだな。これなら、修理に出す必要もないか」
「流石に、重みでへこんだか……修理費用くらい、だすけど」
「いらん。新車でもないからな」

 よく見ないとわからないレベルのへこみ
 これくらいならば、無視しても問題無いだろう

「連絡入れておいた。適当に転がしとけば、回収するってよ」
「あぁ、わかった………影んとこに置いておくか。一般人が目撃したら、腰を抜かしかねない」

 ずずっ、と重たいそれ………石と化したボンネットババアを、物陰へと隠しておいた
 このリアルすぎる石像は、ちみっこが見たら確実に泣き出しかねないし、人によってはトラウマ間違いなしだ

「……帰って来て早々、能力使わせて悪かったな」
「いいんだよ、相手が弱かったから、すぐに石になったんだし」

 母の長い前髪の向こう側、一瞬、左目とはい路の違う赤目が輝いた
 能力を使って疲労したのか、ふわ、とあくびをしている

「………だっる。帰ったら、寝る。時差の関係もあるから、余計に眠たい」
「おぅ、帰ったら安心して寝ておけ」

 父が軽く母の頭を撫でると、母は少し安心したように父に寄り添った
 ………仲が良いのは悪いことではないし、二人はさほどいちゃつく方でもないから、大目に見ておく


 学校町に在住している「レジスタンス」構成員の中でもトップクラス
 否、「レジスタンス」全体でも、その能力の強力さで知られる、母の敵対者を石化させる能力は、やはりすごいものなのである、と
 灰人はこの日、改めてそう認識したのだった



to be … ?

やべぇ、喋り方のせいで誰が喋ってんだかよくわからん事態に(なぜ男っぽい喋り方にしたし)
ひとまず、灰人の母親を出してみただけ
顔見せしただけに近いんで今後どれだけ関わるかは未定ですが、「レジスタンス」絡みでなんかあれば出やすいかなって状態

 ………おそらく、作り上げた彼は自信たっぷりな事だろう
 人間が、科学の力を持ってできる強度テストは、すべてクリアした事だろう
 しかし、だ

(それでも、無理でしょうね)

 努力を認めない訳ではない。しかし、努力でどうこうできる問題でもないのだ
 彼女、影守 美緒はそのように考えていた
 学校町における警察組織の中ではトップに限りなく近い立場にいる彼女は、本日、学校町の警察組織内で秘密裏に開発が進んでいた、「対都市伝説用装備」の性能テストに立ち会う事になっていた
 学校町は、都市伝説事件が多い。20年程前からだいぶ減ってきたとはいえ、世界の裏でそのような者達が暗躍している事を、知っている者も多少は存在しているのが現実だ
 美緒のように、身内に都市伝説契約者がいるから、という者や、自身が都市伝説契約者であるという者等事情は様々ながら、都市伝説の存在を知らぬ人々を守る、というその目的は変わらない
 そして、都市伝説を知る警察関係者の中で、こんな事を言い出した者が現れた

「都市伝説と契約していない人間でも、都市伝説と対等に渡り合えるだけの装備を手に入れれば、「組織」等の都市伝説組織に都市伝説事件で介入されなくなるのではないか」

 もっと簡単に言えば、「法の番人は自分達警察組織だけで十分な状態にしたい」、そういうことなのだろう
 なにせ、都市伝説事件においては、警察は満足に捜査すらできない場合が多い。痕跡すら残さない者が多かったり、犯人を捕まえようにも返り討ちにあってしまう可能性が高いから仕方ないのだが、それでも、不満を感じている者は多かった。事件を有耶無耶にされてしまう事も多かったから、そのせいもあるのだろう
 それ故に、都市伝説と契約していなくとも、都市伝説と対等に渡り合える装備を求めた
 そんな装備があれば、対都市伝説用の特殊捜査課を作るなどして、警察だけで都市伝説事件を捜査できると、そう考えてのこと

 だが、美緒は考える
 そんな装備、「都市伝説と契約していない人間」に作るのは不可能である、と
 ただの人間の科学力では、ただの人間の身体能力では、都市伝説と対等に渡り合う等難しいのだ
 それができるのは、一部…………ほんの一部の、特殊な人間だけ
 組織だって都市伝説が関連した犯罪捜査ができるだけの人数が、いくら学校町とはいえ集まるはずがない
 それ以外の人間がいくら抗おうとも、都市伝説と対抗するのはあまりにも難しい
 約20年以上にも渡る警察として働き、都市伝説事件を見続けてきた者として、美緒はそう断言できた
 いかに優れた装備品を手に入れようとも、それは変わらない。都市伝説という存在に対して、契約者ではないただの人間は、あまりにも無力なのだ
 だからこそ、美緒は、都市伝説事件は「組織」等の、それに適した集団に一任しているのである
 美緒にとっては、それが彼女なりに部下の位置後を守る方法なのだから

「今回開発しました、対都市伝説用装備は、主に防御力に重点を置いた物です。炎、冷気、電撃。それらの攻撃を完璧に防ぎます。もちろん、光線系に対しても。あぁ、衝撃もある程度吸収しますよ」
「…………そうですか。動きやすさなどは」
「機動性を犠牲にする、などという愚かな仕様にはしませんよ……都市伝説との戦闘というものは、ほんの一瞬が命取りになることも多いようですから」

 あぁ、そのとおりだ
 流石に、それくらいは理解していないと、困る

 ………と、そのような会話をしていた時だった
 扉が、開く。どうやら、彼らが来たようだ
 両方共、男性。片方は黒いロングコートを羽織った40代程度。もう一方は、まだ20代と思われる若者だ
 ロングコートの男性が、ちらり、と美緒を見た。何を言いたいのか、だいたい理解して、美緒は頷く

「……そこにある、機動隊が着るような服。それが、タイ都市伝説用装備、とやらか?」

 若い方の男性が、今回、職員が用意した対都市伝説用装備を見て、そう言った
 そうです、と職員は頷く

「お二人が、「組織」の………?」
「あぁ、そうだ。影守警視正から要請を受けて、対都市伝説用装備の耐久テストを行いに来た。門条 天地と………」
「角田 慶次だ」

 二人が、そう名前を名乗った
 確か、当初は天地が一人で来ると聞いていたのだけれども………慶次まで来たと言うのは、美緒にとっては少々意外だった

(どちらにせよ、やる事は変わりがないのでしょうけれど)

 職員が、天地と慶次に今回開発した装備について説明している様子を、美緒はじっと見つめる
 一通り説明が終わって………早速、耐久テストに入ることになった
 一瞬で終わるであろう、それに

「それじゃあ、テストを開始するから。全員、少し下がってろ」

 天地はそういうと、対都市伝説用装備を身につけさせられたマネキンへと向き直った
 つ、と、慶次が一歩後ろに下がる
 美緒は職員の腕を掴むと、慶次よりもさらに後ろへと下がった

「警視正?あまり後ろに下がると、テストの経過が………」
「よく見えないかもしれませんが、これくらい下がらねば危険です」

 きっぱりと、断言する
 そして、美緒が断言した、直後。天地の周囲が、一瞬、ぐにゃり、と歪んだ
 そうして、すぅ、と、背中から純白の翼を生やした若い女性が、次々と姿を現す

「お呼びですかー?」
「お仕事ですかー?」
「ですとろーい?」
「おもいっきりやっちゃっていいんですかー?」

 きゃぴきゃぴと、ミニスカートを身に着けた若い女性達…………天使に見えるそれらはにぎやかに、天地にそう話しかけた

 あぁ、と天地が頷くと、「はーい!」と天使達は元気に返事をして

 天使達の手元に現れるのは、いくつもの銃火器
 マシンガン、ミサイルランチャー、ロケットランチャー、火炎放射器等々………可愛らしいその容姿に見合わず、そして、通常ならばその細腕では持ちあげられないであろうそれを軽々と持ち上げて
 それらの銃火器が、一斉に火を吹いた
 けたたましい発砲音やら何やらが響き渡り、そして

「ほい、終わった。見ての通りだ」

 対都市伝説用装備を身につけさせられていたマネキンは、跡形もなく粉々になっていた
 職員は呆然とした顔でその結果を見ているが、美緒にとっては予想の範囲内だ

「ど、どうして………い、今使われたような銃火器でも、きちんとテストしたのに………」
「国内でどうやってミサイルランチャーやロケットランチャーのテストをしたのか気になるところだがそれはさておき。俺の「モンスの天使」の攻撃は、見た目通りのものじゃない」

 震えるような職員の言葉に、天地はさらりと答える

「通常の銃火器以上の攻撃力を、俺の「モンスの天使」は持っている。それくらいじゃないと対応出来ない連中も多いからな」

 都市伝説的存在。それらの中には、民話や神話で語られるような存在もまた、含まれる
 天地が契約している「モンスの天使」が持つだけの攻撃力が必要となる機会もまた、存在しているのだ
 そして、これだけの攻撃力を持っているのは、天地の「モンスの天使」だけではない。それ以上の攻撃力を持っている存在もいるのだ
 つまり、天地が契約している「モンスの天使」の攻撃すら耐えられなかったのならば

「今回、開発された装備は。実戦で使用できるだけの物じゃないな」

 きっぱりと、天地はそう断言した
 美緒としても、同じ考えだ
 今回の結果を見るに、それは明らかな事

「あの、テスト用の装備、さっき、「モンスの天使」が破壊した分だけか?」

 天地が、「モンスの天使」を消しながら、職員にそう尋ねた
 職員はこくこくと頷くと、先ほどと同じ装備をまとったマネキンを運んでくる

「よし、それじゃあ、慶次、向こうはお前が」
「はいはい、わかってるよ」

 天地の言葉に、慶次はダルそうに答えた
 ぶぅんっ、と、小さく、虫の羽音がする
 慶次の傍らに、一匹のカブトムシが現れて。直後、カブトムシの姿は消えた………ように、見えた

 どんっ、と、音がした

 機動隊が使うようなシールドと、マネキンが被せられている兜。その2つに、穴が開いていた
 完全に、穴はマネキンの額を貫通している
 人間であったら、即死だ

「「カブトムシと正面衝突」の威力にも、耐え切れないようだな」
「………そうですね。範囲攻撃も、一点集中の攻撃も、どちらにも耐え切れなかったようで」

 がっくりと肩を落とす職員の肩に、慰めるように手をおきながら、美緒は慶次の言葉に答えた
 こうなるだろうな、と、美緒が予想した通りとなった
 ………やはり、まだまだ。人間の技術でもって、都市伝説に抗うのは無理なのだ
 いや、まだまだ、ではない
 これからも、ずっと、無理なのだろう、と
 美緒はそう、あらためて強く感じたのだった



「都市伝説の力に頼らずに、都市伝説の力に耐えうる装備を作るなんて、無理に決まってるのにな」

 耐久テストを終えた帰り道、慶次はそうぽつりと口にした
 そうだな、と天地は頷いてみせる
 今回のような試みを行った者が、過去にいなかった訳ではない
 挑戦し続けた者達はいる、それでも、ダメだった

「人間の兵器では、都市伝説は殺しきれない。弱い都市伝説なら殺せるかもしれないが、限界が存在する。人間の兵器程度で死ぬ都市伝説は、耐久性が人間と同じかそれ以下だからな」
「そんなもん持った連中に、都市伝説事件でしゃしゃり出られても正直邪魔だな」
「俺もそう思う。だから、少し相手にショック与えるレベルでやるんだよ。これで、この手の研究から手ぇ引いてくれりゃいいんだが」

 だが、他の奴が続ける可能性はあるんだよな、と天地はため息を付いている
 毎回、対都市伝説装備用の耐久実験に、天地は参加し、作成された対都市伝説用装備を徹底的に破壊していた
 変に加減等したら、その方が悪い結果を招くことはわかりきっているからだ

「一応、一度、「モンスの天使」の攻撃で壊れなかった事はあったんだがな………」
「あったのか?あんたの攻撃で?ビルやら工場やらまるまるぶっ飛ばせるハッピートリガーのあんたの攻撃に耐えぬいたのか?」
「さり気なく何、口走ってんだてめぇ………あぁ、耐えた。ただし、作成者は異常(アブノーマル)持ちだったが」
「あー………」

 なるほど、と慶次は納得する
 異常、と呼ばれる、都市伝説と契約していなくとも、まるで都市伝説と契約しているかのような特殊な力を持ち得る人間もまた、存在しているという事実がある
 それらの特に厄介なところは、都市伝説と契約することで、さらに力をつけるような者もいる、ということだろう
 かつて、学校町で数々の事件を起こした「ハーメルンの笛吹き」の契約者もまた、異常持ちであったらしい、と言う話を、慶次は聞いたことがあった
 そもそも、異常持ちは精神的に何かしら欠落などを抱えているパターンも多いらしく、慶次としては絶対に関わり合いたくない、と感じていた
 その点に関しては、天地とは気が合うところだ。天地も、異常持ちの人間は苦手としているらしい
 もっとも、天地が異常持ちを苦手としているのは、「都市伝説と人間との垣根を曖昧にするから」とか、自分の親しい相手が異常の影響を受けてしまったことがある、などの理由が強いようだが

「どちらにせよ、それ、意味ないよな。「普通の人間」の力で成し得たことじゃないんだし」
「そう言うことだ。「普通の人間」じゃ、その限界は超えられないんだよ」

 だからこそ、と、天地は続ける

「だからこそ、俺達都市伝説契約者が。「組織」が。今はまだ、都市伝説の存在を完全に公にするには時期尚早である現状、都市伝説と人間との垣根を守っていかなければならない。その結果、悪役扱いされようとも」

 それが、「組織」に所属した上の責務である、と
 天地は、そう考えているのだろう

「慶次。お前も、味方をもうちょっと作っておけよ」
「味方?それなら………」

 自分の担当の黒服である赤鐘 愛百合がいる、と
 慶次が答えるより早く、天地は言葉を続けてきた

「担当黒服以外で、だ。できれば、「組織」関係者以外にも、な」
「なんでだ?」
「担当の黒服以外、味方がいない状況だと、視野が狭まる。「組織」の奴以外に味方がいない場合も、同様だ」

 覚えておけよ、と天地が少し真剣味を帯びた声でそういった、その理由に
 慶次は、この時、気づくことは出来なかった



 あなたは、とても幸せ者だ
 あなたにとって「普通」である事が「普通」ではない事実に気づいていないから


 あなたは、とても幸せ者だ
 あなたにとって「普通」である事が「普通」ではない事実に気づいてしまったから


 どちらも、とても幸せだ
 それが「不幸せ」であると気づいていないのだkら



               Red Cape

こんな真夜中ですが書けたのでぶん投げる
パソコンのリカバリやら俺の腹痛やらで書くの遅くなったうえちょっと間あいたせいもあってぐっだぐだで申し訳ない
ちと詰め込み過ぎたねぇ

 からからと店のシャッターを下ろし、ふぅ、と青年………九十九屋 九十九はふぅ、と息を吐きだした
 学校町に来てすぐに、彼はレンタルスペースを借りて、針金アートの店を出していた
 彼が作った針金アートの展示と販売を行っている店だ。はじめは客が入るか不安だったが、幸いにしてそこそこ客は入ってくれている
 そこそこに、まっとうな手段で現金収入が入ると言うのはありがたい
 正体をさとられぬよう隠れ住まねばならぬ身としては、非合法な収入だけでやっていくには厳しいのだ

(学校町に来る前に、アダム辺りが稼いだ金もだいぶある、が………一応、まっとうに生活している「ふり」も必要だしな)

 難儀な道を進んでいる、とは思う
 せめて、自分達を魅了してやまない主が見つかりさえすれば、少しは楽かもしれない、とも思う
 しかし、主は何を考えているのか、姿を消したまま
 学校町にいる事は、確かなのだ。ただ、その存在を見つけ出すことが自分達はできないでいるし、主からも接触がない

(新たな宿主を見つけた後に、トラブルでも起きたんだろうか………)

 家路につきながら、そんな事を考える
 学校町に来てからだいぶ経つが、ここまで連絡がないのはおかしい
 死んでいる、とは考えない。もしも死んでいるのだとしたら、自分達に何かしらの変化が出ているだろう、と思考的には理解していなくとも、本能的に理解していた
 だが、なんらかのトラブルが発生した可能性は否定出来ない
 自分達の主は、契約ではなく憑依と言う形を取る場合もあるのだが、憑依の際にトラブルが起きれば、自身の正体についての記憶を忘却してしまう可能性があるからだ
 低い可能性であるとはいえ、万が一、そんな事態になっていたら………

(こりゃ、本腰入れて探したほうがいいか……?「バビロンの大淫婦」が学校町に入り込んでるって情報もあるし、そっちと鉢合わせでもしたら………)

 考え事をしながら暗い道を一人歩く九十九屋の後ろから、ひたひたと、近づいてくる足音が一つ
 その気配に九十九屋は気づいていたが、反応は見せようとしない
 警戒も、しない
 さて、どう出るか、と、それをほんの少し楽しみにしていた

 そして、その時はようやくやってくる

「ちょっと、いいかい?」

 声をかけられ、振り返る
 そこにいたのは、全身を包帯で包んだ、男

「何か?」
「ちょっと、時間を知りたいのだけど。教えてくれないだろうか」

 少しよろめくような歩き方で近づきながら、その包帯まみれの男は近づいてきた
 時間ね、と、九十九屋は懐から携帯を取り出し、時間を確認しようとして

 ーーーーっが、と、包帯まみれの男が、九十九屋の携帯を持つ腕を掴んだ
 そして、いつの間にか反対の手に持っていた注射器を、ぶすり、と、九十九屋の腕に刺そうとした
 刺そうとした、のだ

「20時30分ジャスト、だな」

 が、針は、九十九屋の腕に刺さっていない
 彼が着ている服の袖の下に、何か、固い物があって…………それが、注射器の針を拒んでいるのだ
 包帯の下、男が驚愕の表情を浮かべたことがはっきりとわかり、九十九屋はニヤリ、と笑う

「本来、女子供を狙うはずなんだけどな、お前ら「注射男」は…………狙うターゲットが見つからなくて、誰が相手でも良くなったか?それとも、そんななりで都市伝説そのものか、と思ったが…………契約者か?」
「………ッ貴様!」

 注射男が、九十九屋から距離をとった
 生憎、九十九屋には都市伝説の気配を探るような能力はない為、相手が契約者であるのか都市伝説そのものであるのか、そこまではわからない
 ただ、相手の能力が「注射男」である事くらいはわかる。先ほどの注射をそのまま打たれていたら、今頃九十九屋は死んでいた事だろう

「ま、つまり、俺がお前を殺しても、正当防衛、って事だ」

 挑発的に、九十九屋は注射男に対して笑ってみせた
 その笑みに、注射男が、動く

「……どうやら、貴様も契約者らしい、何と契約しているのか知らないが、注射さえ刺してしまえば………っ」

 両手に何本もの注射器を出現させた注射男が構える
 九十九屋としても、肌が露出している部分に注射器を刺されてしまうと、流石にまずい
 だからこそ、先に動いた
 と言っても、体は動かさない。腕一本、指一本、動かす事なく………ただ、軽く意識した。服の下に仕込んでいる、それに。鞄にたくさん入れている、それに

 注射男が、構えた注射器を九十九屋に突き刺そうと駈け出したのと………九十九屋の服の下から、何本もの針金が飛び出したのは、ほぼ同時
 先端を尖らせた鋭い針金は恐ろしいスピードで注射男へと襲いかかり、その全身に突き刺さった
 注射男が悲鳴を上げるよりも先に、ぐるり、と針金が幾重にも口のあたりに絡みつき、言葉を塞ぐ

「さっきの言葉からして、お前は契約者………つまり、人間だな」

 全身を針金で貫かれ、さらにぐるぐる巻きにされて苦悶の声をあげる注射男………の、契約者に歩み寄り、九十九屋はサディスティックさを滲ませる笑みを浮かべた

「それなら、俺の仲間の「食事」になってもらおうか」

 ここで皓夜の「食事」を確保できたのはラッキーだ。きちんと死なない程度に加減した状態で、持ち帰らなければ
 包帯の下の顔が、絶望の色を浮かべたのは明らかで。九十九屋は満足気にただ、笑うのだった

to be … ?

敵サイドの戦闘能力的なのをもうちょいちゃんと出したかったと下手人は証言しており
これで、契約都市伝説は伝わらないだろうけど戦い方は伝わるといいな

投下したみなさん乙ですー
六本足さん頑張って!なんか台詞が死亡フラグっぽいけど頑張って!
そして九十九屋さんの能力は面白いな
澪キラ緑あたりと戦わせたいけど澪が本気だして死神持ち出したら洒落にならないのでおとなしくかなえちゃんを某ドーナツバーに招待する程度にとどめる

>そして九十九屋さんの能力は面白いな
とりあえず、戦闘スタイルは「針金を自在に操って戦う」って感じです
これだけだと、流石に契約都市伝説が何なのかぱっとわかるまい

>澪キラ緑あたりと戦わせたいけど澪が本気だして死神持ち出したら洒落にならないのでおとなしくかなえちゃんを某ドーナツバーに招待する程度にとどめる
戦闘不能にさえしなければ軽くバトってもいいのよ
そして、かなえの体重がまた増えてしまうw

「助けてくれ!」
 黄昏時の学校町。悲鳴を上げるのは中年の男。白い服を着た女―ひきこさんに嫌というほど引きずり回され、息も絶え絶えだった。
 止める人間はいない。時刻が時刻で人の往来がまばらだった事と、いつもなら行動を共にする浅倉澪・マリアツェルと桐生院キラがドーナツバー「マジカルスイート」に友人を連れて行っていたからだった。
「ちっ、もう終わりか。つまらないな」
 黒いサマーセーターの上からやはり黒い革のジャケットを羽織った少年―緑は、既に動かなくなった中年男を見下ろした。
「何をしてるんだ?」
 声を掛けてきた者が居た。
 見た目は若い男。大人と言ってもおかしくない。
 なんだか苛々する。気分が落ち着かない。
「お前もオトナだ、お前も敵だ!」
 男に向かって「ひきこさん」を幾体か放つ。
「生憎だが、通用しないな」
 服の下から幾筋もの針金を放った彼―九十九屋 九十九は余裕で言い放つ。
 ひきこさん達はたちまち針金で全身を貫かれ、光となって消えてゆく。
「なっ…!」
 緑はほんの一瞬だけ、驚きの色を表情に見せたが、怯むことなくひきこさんを続けざまに呼び出す。
「オトナなんか、オトナなんか…みんな[ピーーー]ばいいんだぁ!」
「そいつは聞けない相談だな」
 それに、お前も何時か大人になるんだが、そうしたら死ぬのか?」
「煩い!俺はオトナになんかならない!」
 九十九屋の言葉にも、緑は耳を貸さない。
 新たに呼び出されたひきこさんも針金に貫かれ消え失せると、残った針金が緑を貫かんと迫る。
 緑は盾代わりにひきこさんを呼び出そうとするが、針金の方が早い。
(きょうも皓夜の食事が手にはいるな。子どもというのが後味が悪いが)
 九十九屋がそう考えを巡らせると同時に、緑を貫くはずだった針金は、別のものに絡みついた。

「鎌…?」

 針金は、瀟洒な銀の大鎌に絡みつき、そこで動きが止まっていた。
 鎌を持つのは少女。白いふんわりしたスカートとブラウスに、フリルで飾られた黒いベストを着ている。見たところ12歳程度のようだ。
 都市伝説―にしても異質な「死」の気配を漂わせた少女が九十九屋に問う。
「彼をどうする気ですか」
 九十九屋はやれやれ、と肩をすくめた。
「どうもこうも、仕掛けられたのはこっちの方でね。正当防衛だよ、お嬢さん」

 少女―浅倉澪・マリアツェルは緑に向き直る。
「緑。この人の言ってること、本当?」
 しばし、沈黙が落ち。
「ムカムカしてやった。反省はしてない」
 その言葉を聞いた澪は、針金が絡んだままの大鎌を下ろした。
「…友達が非礼を働いてすみません。私が代わりに謝りますので、この場を納めて頂けませんか?」
「澪…いや、同士浅葱!?」
「友達なのかい」
「一応は」
 澪は苦笑いをして応える。
「そうか。友達は大事にしな」
 そう言って、九十九屋はふたりに背を向けて立ち去っていった。

「友達、か…しかしあの嬢ちゃんの気配、少々変わっていたな」

「赦して貰えたみたいだよ、よかったね、緑」
「俺と…」
「え?」
「俺とお前が友達だと!?ふざけんな!お前は俺の部下で、俺の方が上位メンバーなんだ!それを忘れるな!」
「あたしもキラも、あなたと手を組んだだけで、部下になるなんて言ってないんだけど」
「澪ー!」
「澪ちゃん!」
 声と共に、ふたりの少女が駆け寄ってきた。
 ちょっとぽっちゃりした、愛嬌のある可愛い少女は紅かなえ。パステルカラーの派手可愛い衣装に身を包んだ勝ち気そうな少女は、桐生院キラ。
「急に走っていっちゃうから、どうしたのかと思った」
 何かあった?と心配げに問うかなえに澪はなんでもない、と安心させるように答えた。
「それにしてもあそこのドーナツとシェイク、ホントにおいしかったー!こんなにお持ち帰りにしちゃった」
 幸せそうなかなえと対照的に、キラは不審顔だ。
「緑、なんで顔赤いの?」
「あかっ…!な、なんでもない!いいか同士浅葱!俺とお前はただ手を組んでるだけで、利口ぶったお前なんかいけすかない奴なんだからな!ホントだからな!」
 いきなり怒鳴られた澪はきょとんとしている。
「?どうしたの?急に」
「なんか緑、あやしー?何があったのか言わなきゃ、お持ち帰りのドーナツ、分けてあげないわよ」
「うるさい!」
「この子が緑くん?ずいぶん賑やかな子だねー」

 賑やかに賑やかに、学校町の夕焼けは暮れていった。


 後日。
「ここ?針金アートのお店って」
「そうそう!すごい凝ってるって評判なんだってー!」
 店に訪れた澪とキラは、値段も手頃な小物入れや小さめの作品を物色していた。
「あ」
「あ」
 澪と、九十九屋の視線が合う。
「その節は、どうも…」
 互いに苦笑いを交わしたのだった。



さっそく九十九屋さんと遭遇させてみた。
そのうちかなえちゃんと澪キラのドーナツバーのパートも書くかも

お早い反応ありがとうございます!
そしてこちらも焼き土下座
九十九屋さんはなかなか剣呑なお方だったようで、(子どもだから後味は)云々のあたりは、wikiに上げる際修正させていただきます!
今後柔らかい少年少女の肉を巡ったガチバトルを考えたい所存であります!

 カタカタとキーボードを叩いていた手を休め、ジェルトヴァはぐぅ、と背伸びをした
 今現在、「教会」から正式に学校町に派遣されているのは、ジェルトヴァを含めて四人。うち、常に教会に滞在しているのが三人。その中で、まともにパソコンを扱えるのは二人。そのうち、まともに仕事をするのは一人
 ジェルトヴァは、その一人だった
 いや、教会に常に滞在している三人のうち、パソコンを扱えない一人も仕事ぶりは真面目だ
 が、今の時代、パソコンを扱わない仕事はどうしても効率が悪くなってしまう
 よって、事務作業はほぼ、ジェルトヴァ一人に任せられていた
 もう一人、学校町に派遣されているものの、現地男性と結婚している為、常に教会に滞在している訳ではないフェリシテも手伝ってくれる事はあるが、基本的には一人だ

(カイザー司祭も、せめてもう少し、電子機器の使い方を覚えてくれれば………いや、贅沢は言っていられないか)

 ……そもそも彼は、パソコンを使わない事務作業ならば、常人よりだいぶ早いのだし
 作業を保存していると、窓の外………教会の裏庭の方から、歌声が聞こえてきた

「♪ かこめ かこめ … ♪」

 この声は、憐だ
 あの歌は、確か日本の童謡だっただろうか
 確か、それに関連した都市伝説も存在していたのだったような………

「♪ 負けた餓鬼達を かこめ かこめ 逃げられぬように ♪」

 ………………
 ちょっと待て

「♪ 夜明けの晩に 首を切り落とせ … ♪」
「………レン、ちょっと待て」

 思わず、窓を開いて裏庭にいた憐に声をかける
 どうやら、裏庭で落ち葉の掃除をしていた様子の憐は、突然ジェルトヴァに声をかけられ、きょとん、とする

「ジェルトヴァさん?どうかなさったっす?」
「……今、歌っていた歌だが。この国の童謡……では、なかったのか?」
「?……あぁ。「かごめかごめ」ではないっすよ。昔、それを元にして作られた別のお歌っす。怖い歌として、有名になってたりもしてたんすよー」

 へろんっ、と、箒を手にしたまま、憐は笑った
 そうか、と頷きながらも

「……掃除中に歌を口ずさむのはいい、が、できればもう少し、穏健な歌で頼む。今の歌は、おそらく、子供が聞いたら泣く」
「そうっす?俺っちの弟はよくリクエストしてくるっすけど」

 しまった、そういえば彼はブラコン気味であった
 歳の離れた弟が可愛くて可愛くて仕方ないらしく、その弟の言葉に関してはあまり疑わず納得してしまったりするのだ
 とりあえず、憐の弟であるあの少年は若干、同じ年頃の少年とはずれている面があるから、気をつけたほうがいいと思うのだが

「ジェルトヴァさんは、休憩っす?なら、こっちも掃除もうちょいで一段落っすから、コーヒーでもいれるっすよ」
「………そうか。それなら、頼もうか」

 はーい、と返事をして、憐は掃除を再開した
 ジェルトヴァも、先程までの仕事内容が保存されている事を確認すると、パソコンの電源を落とす
 少し、根を詰め過ぎた気がする。休憩を取らせてもらおう

 与えられている仕事部屋から出る
 キッチンへと向かおうとすると

「…………あの男をまともに制御できるのは…………」
「「組織」も、苦労しているようで………」

 応接間の方から、話し声が聞こえてきた
 どうやら、客が来ていたらしい
 ジェルトヴァの知らない声と、カイザー司祭の声。どうやら「組織」の人間と話しているらしい
 学校町に滞在する「教会」所属の者として、「組織」と「教会」との関係調整が、カイザーの主な仕事となっている
 正直、かなり胃に悪い仕事だろう。それを20年近く続けていると言うのだから、まったくもって頭がさがる。それを考えれば、新たにここに派遣された己が書類事務を請け負うのは当たり前の事なのだろう

(そう考えると………やはり、あの男に、もっとまじめに働いてほしいものなのだが)

 そのように考え、同時に「期待するだけ無駄か」とそう結論づけた
 なにせ、もう一人は………

「……お?書類、一段落ついたのか?」

 ………その問題の人物、否、「悪魔」はちょうど、キッチンにいた
 あぁ、と、その悪魔………メルセデスの言葉に、やや無愛想に答える

「できれば、そちらにももう少し、仕事をしてもらいたかったのだが」
「俺はお前らとは、やるべき仕事の役割が違うからな。適材適所ってやつだ」

 ジェルトヴァの言葉に、メルセデスはさらりと答えてきた
 確かに、メルセデスの言うことも最もではある。あるのだが、それでもジェルトヴァがメルセデスに向ける視線は、冷たくきついものだ

「……私は。何故、お前のような悪魔が今でも「教会」に所属できているのか。理解できない」
「さてな。俺がカイザーと契約しているからじゃないか?そのせいで、カイザーの命令にはあまり逆らえないからな」

 肩をすくめてみせるメルセデス
 この男の正体は、悪魔「クローセル」。真の姿は天使に似ているが、悪魔である事実に変わりはない
 正体を隠して数百年に渡り「教会」に潜伏していたものの、20年ほど前に正体が表沙汰になり、「教会」を追われるどころか、そのまま討伐されるはずだった
 だと言うのに、何があったのか。「セラフィム」の契約者であるカイザーはメルセデスと、ただでさえ飲まれかけであるが故、完全に飲み込まれ消滅の危険すらある多重契約を行いメルセデスを助けてしまったのだ
 その後、どのようなやり取りが「教会」と行われたのか、当時まだ10代の少年であり、「教会」でも立場があまり上ではなかったジェルトヴァ走らない
 ただ、今なおメルセデスが「教会」に所属し続けている、と言う事実だけが存在してた
 ジェルトヴァとしては、その事実が気に食わない
 カイザーにしても、司祭としてや仕事ぶりに関しては尊敬しているが、メルセデスとの多重契約に関しては異を唱えたいくらいだ

「そう睨むなよ、なぁ?」

 ジェルトヴァの心境を見抜いているかのように、メルセデスは楽しげに笑って顔を覗き込んできた
 普段、この教会を訪れる一般信者に見せている人のいい笑顔ではない。彼の本性を表しているかのような、意地の悪い邪悪な笑顔

「せっかく、同じとこに派遣されてる者同士だ。仲良くしようじゃねぇか」
「………悪魔と仲良くするつもり等、ない」

 憐が来るまでここで待っているつもりだったが、やはり、自室に戻ろう
 踵を返そうとしたジェルトヴァの腕を、メルセデスが掴んでくる

「っ、何を…………」
「良い子ぶるなよ。なぁ?元「十三使徒」候補生」

 びくり、と
 メルセデスが口にした言葉に、ジェルトヴァは体を硬直させた
 にやにやと笑いながら、メルセデスは続ける

「俺が、知らないはずないだろ?「十三使徒」にふさわしい人員については、俺が選別していたんだからな」

 ……つぅ、と、汗が流れる
 日頃、考えないようにしていた過去の記憶が、引きずり出される

「忘れるなよ。何か一つでも、歯車がズレていたら。お前は正式に「十三使徒」の一員となっていただろう。そうなっていれば、20年前。お前もまた、この学校町に災いをもたらす存在となっていただろうよ」
「…私は。「十三使徒」には、選ばれなかった」

 …………そうだ、選ばれはしなかった
 だが、結果的にそうなっただけの事
 もしも、「十三使徒」を率いていたエイブラハムが学校町で事を起こすタイミングがズレていたら。「十三使徒」に欠員ができて、自分が新たな「十三使徒」として選ばれていた可能性は、あるのだ
 「十三使徒」がどのような集団であったのか。ジェルトヴァが正しくその知識を得たのは、「十三使徒」が壊滅した後。それまでは、エイブラハムから教えられていたことを、全て鵜呑みにしていたのだから

 己には、元「十三使徒」の者達を断罪する資格も、攻め立てる資格も、ない
 それを、改めて、認識させられる

「お前の欠点を一つ、教えてやる。これと決めた相手の言葉は、何もかも鵜呑みにしてすべて肯定しかせず、盲目的に従う事だ」

 楽しげに、楽しげに、メルセデスは言葉を続ける

「かつては、それはエイブラハムだった。その次は、フェリシテ………憐の母親。異端審問官であるお前が、悪魔である俺に問答無用で攻撃しかけてこないのも、悪魔である俺と契約したカイザーを放置しているのも、フェリシテから大目に見るよう、頼まれたからだろ?」
「……そんな、事は」


『きっと、カイザー司祭様も、何か考えがあってのことだと思うから、大目に見てあげてほしいっす。その絡みで、メルセデス司祭も。あの人も結局は、「教会」のエゴの被害者なんだから』


 あれは、何年前だったか
 異端審問官になってすぐの頃、「教会」の仕事で学校町を訪れた時の事だったか
 その時、ジェルトヴァよりも先に学校町に派遣されていた彼女、フェリシテから告げられた言葉
 「十三使徒」壊滅後、後ろ盾がいなくなったジェルトヴァを何かと支えてくれた彼女の言葉に、ジェルトヴァは従い………今でも、それが続いている

 無自覚のそれを叩きつけられ、ジェルトヴァはたじろぐ

「その弱点、どうにかしとけ。隙をつかれて精神支配系食らった場合、お前みたいなのは抵抗しきれない場合が多いしな」

 笑いながら、メルセデスが離れていく
 ぱたんっ、と、扉が閉まる音がする。メルセデスがキッチンから出たのだろう

 ……悪魔らしい行動、とでも言うべきなのだろうか
 普段、目を背けている事実を一度に一気に叩きつけられ、思考が停止する
 本来の流れであれば、堕天の誘いでもかけてきていたのかもしれない。今のメルセデスはカイザーを堕天させることに執着しているため、こちらにまではその誘いはかけてこなかったようだが

「………ジェルトヴァさん?どうかなさったっす?」

 声をかけられ、びくり、と体を震わせる
 振り返ると、そこにはきょとん、とした表情の憐が立っていて、母親であるフェリシテを真似ているような、軽い調子の口調で心配そうに声をかけてくる

「ぼーっとして。そんなに、おつかれっす?」
「………そう、だな。少し、疲れているらしい」

 ようやく、言葉を発するだけの心の余裕が出た
 流石に、憐の前で情けない姿を晒す訳にはいかない。彼の母親であるフェリシテにまで、知られたく、ない
 ジェルトヴァのそんな心境を知ってか知らずか、憐はんー、と、何やら考えて

「……んじゃあ、コーヒー飲み終わった後にでも、マッサージするっす?」

 へらっ、とした表情で、そう提案してくる憐
 その笑顔が、三年より前まで憐が浮かべていた笑顔とは質が違うことを感じながらも、癒されるような感覚を覚えた

「マッサージ?………ありがたいが。そこまでしてもらうのも、悪い」
「お気になさらずー、っす。俺っち、よく父さんとか伯父さん達にもやってるっすから。慣れてるし、けっこう上手なんすよ?」
「……そうか。なら、頼もうか」

 はぁい、と気の抜けた返事をしつつ、まずはコーヒーを淹れる準備を始めた憐を見ながら、ジェルトヴァは椅子に腰掛けた
 そうして、軽く目を閉じる

(……「もしも」の可能性の話など、しだしたらきりがないが)

 それでも、つきつけられた己にありえたであろう「もしも」の可能性に、ふと油断すれば、その事に関することばかりに思考が消費されてしまいそうで
 ジェルトヴァはしばし、己の思考との戦いを強いられることとなったのだった




to be … ?

冒頭で憐が口遊んでたのはざわざわP様作成のボカロ曲「かこめかこめ」
個人的には海外の方が英語で歌ってるバージョンが雰囲気あってわりと好きです

というのはさておき、フラグのために書いたネタなんですが色々とっちらかっててだめだなぁ
一応、情報提示的なのとフラグめいた何かをぽいぽいしておきます

 彼、アダム・ホワイトが契約している都市伝説の能力は、はっきり言って戦闘向きではない
 同じ主を持つ仲間であるヴィットリオ・パッツィの能力もどちらかといえば戦闘向きではないが、使いようによっては戦闘中にとっさに発動出来なくもない能力である
 それと比べれば、アダムの契約都市伝説による能力は、説明だけを聞けば戦闘にも応用出来そうだが、その実、そこまでの応用力はない
 その能力は「気配を感じさせない事」、まずはそれに尽きる。たとえ、目の前にいたとしても、よくよく注意しなければ気付かれない、そんな能力だ
 気配を感じさせないというその点だけを考えれば、暗殺等に使えそうではある
 しかし、あくまでも「よくよく注意すれば気づかれてしまう」程度の能力でしかないのだ。そして、己が他のものに対して何かしらのリアクションをしたならば、その瞬間に存在を認識されてしまうのだ
 このまま、アダムがその都市伝説と契約し続けて、能力を強めていけば、より気配を感じさせないようにできるのかもしれないが、少なくとも今のアダムには不可能なのである
 戦闘の役に立たない、からと言って、全くの役立たず能力ではないのは幸いと言えようか
 気配を感じさせない彼の能力は、「他人の家に無断で忍び込む」事には適していた
 まぁ、流石に鍵開け能力までは備わった訳ではないので、こちらは自らの努力で身につけたものだが
 その能力を使いこなし、アダムは己の生まれた国で捕まったならば懲役100年をゆうに超えるであろうだけの窃盗の罪を重ねてきている
 そして、今の主の配下となってからは、同じ主を持つ仲間に日本生まれの「鬼」が存在し、かつ、そんな彼女が人間以外は食らっても腹を満たせず栄養にもならない、と言うことで………食事用の「人間」を確保するためにも、使いこなさせてもらっている。と、言うより、今はそれが主流だ

 この日もまた、アダムはその鬼………皓夜の為の食料探しやら、今現在行方がわからなくなっている主を探すため、能力を発動する為の準備をしていた
 己の契約都市伝説は、能力を発揮するためにある程度準備が必要であるから、そこは少し面倒である
 鏡台の前に座り、白粉をはじめとした化粧品を取り出す。そうして、なれた手つきで化粧を始めた
 まずは、顔を真っ白に塗りたくる。能力発動のために、まずはそれが必須だ。次に口と、口の周りを少し大げさに口紅を塗っていて
 ……視線を感じた。まだ能力を発動していない為、きちんと存在は認識されている
 何事か、と思って視線が向けられている先を見ると、じーーーっ、と、皓夜とアナベルが、こちらを見つめてきている

「どうかしたか?」
「あだむがおけしょうしてるところ、みてるー」
「いつもいつも、大変だよねー」

 じーーっ、と、少女(と、呼んでもいいかどうかは正直微妙だが)はアダムに視線を向け続ける
 一応、女性として化粧が気になるのかもしれない、が

「ピエロの化粧なんて、見ていても面白くもないだろうに」

 そう、ピエロ
 今、アダムが行っていた化粧は、ピエロに扮装する為のものだった
 正確にはピエロではなくクラウン、と言う細かい事はさておき、よくサーカスで大げさな化粧をして面白おかしい振る舞いをする、あれだ。独特の化粧故、「ピエロ恐怖症」と言う症状でそれを恐れる者もいる
 アダムの契約都市伝説は「ピエロの人形」。ピエロの扮装をして、金持ちの家に忍び込んでいた浮浪者の話がベースとなる話だ。その話に語られるようなピエロの扮装をしなければ、彼の能力は発揮できないのである

 面白くもないだろう、と言うアダムの言葉に、皓夜とアナベルはぶんぶんと首を左右に振った。アナベルは皓夜の頭の上に乗っかっていた為、皓夜が首をふった拍子に落っこちかけていたが

「こーや、けしょーしたことないから。みててたのしい」
「私も、やった事ないから見てて楽しー!」
「まぁ、皓夜は山ん中にずっといたって言うから縁なかったろうし。アナベルはそもそも人形だから化粧しないだろ」
「むー、アナベルだって、お化粧して綺麗になりたいのに」
「布地に染みこんで大変なことになると思うからやめとけ。化粧品って、布につくと案外落ちにくいんだぞ」

 経験からくるアドバイスだったのだが、アナベルはむぅー、と不満そうだ
 が、何か思いついたのだろうか。ぴょんっ、と皓夜の頭から降りると、アダムに近づいてきた
 そうして、はしっ、とアダムの化粧道具を手に取る

「あ、こら、何を……」
「アナベルが、アダムにお化粧してあげる!」

 ……………
 何だと

「待て、アナベル。お前、ピエロのメイクのやり方なんてわかるのか?」
「ふっふーん。私、アメリカ生まれだもの。前の持ち主がホラー映画大好きだったから、ピエロのお顔がどんなのかくらいわかるのよ!」
「それ、確実にホラー御用達のホラーなピエロだよな!?いや、それでも能力発動するが!」

 あ、これはだめだ
 アナベルはもう、やる気満々、と言った顔である
 どんなタイプのピエロにされるかわからないが、能力が発動する範囲内だったら許すしかなさそうだ

「わかった。きちんと俺の能力が発動できるようにやってくれよ」
「やたっ!ほらほら、皓夜も一緒にやろう!」
「うー………やってみたい、けど。こーや、ぴえろよくわかんないし、あだむのおけしょーどうぐ、こわしそうだから……」

 アナベルの誘いに、皓夜は少し残念そうに言った
 確かに、皓夜は少々、手加減が苦手だ。元の力が強すぎて、手加減したつもりでも手加減にならない事が多い。軽く持ったつもりで物を壊してしまう事がよくある
 それを自覚しているがゆえに、我慢しているのだろう
 そんな皓夜の様子を見て、アダムは少し考え。すっ、とアイシャドウを一つ、手にとった

「ほら、皓夜」
「う?」
「これ、そろそろ買い換えようと思ってた奴だから。お前がうっかり壊しても大丈夫だぞ………壊せ、って言う訳じゃないが」

 アダムの、その言葉に、皓夜はぱぁああああああ、と表情を輝かせた


「やったー、ありがとう、あだむ!それじゃあ、えっと、こーやもやるー!」
「よーし、皓夜。私が教えてあげるから、その通りにやるのよ!」
「おー、わかった!」

 お姉さんぶるアナベルに教えられ、無邪気にアダムに化粧を施す皓夜
 ……出来る限り、今夜は皓夜の食料を見つけ出してやおる
 アダムはそう、決めたのだった

to be … ?

避難所のチラ裏でも言ってたんですが、敵サイドのウィリアムの名前をヴィットリオに変更したんで、それをちらっと出す意味もあって敵サイドのちょっとした小ネタ
まぁ、それならそいつメインにしろよって話なんだけど、こっちが先に思いついたんだから仕方ないね
半分、アダムの能力の説明回に近いけど

>>156
おっと書き忘れ
>書くべきか次世代学校町で、いや書きたい
>書いて絡んであわよくば踏まれたい
おいでーおいでー待ってるよー

>>165
おぉっと、ピエロメイクするのはヴィットリオじゃなくてアダムだぜ

そうか、ヴィットリオを男の娘にすれば帳尻があうn(樽に閉じ込められました)

 冷え込む帰り道、はらはらと落ち葉が風に舞う
 なるほど、11月並の冷え込みである。吐き出す吐息が白く染まる

「…冬に入るまでに、なんとかなるでしょうか」
「さぁな………向こうがなかなか、尻尾を出さないからな」

 はらり、と落ち葉が舞う道を龍哉と直斗は二人で歩いていた
 靴底越しに、枯れた落ち葉の感触が伝わってくる

「鬼灯が調べていた面子は、だいぶ削った………ただ、鬼灯が調べきれなかった相手もいるからな」
「すべてが、学校町に来ている訳でもないのでしょうが。残っている相手も少々厄介ですし、調べきれなかった相手がそれと同程度となると……」

 かさり、かさり
 落ち葉が踏まれる音が、静かな辺りに響く
 夕暮れ時、住宅街にあまり人通りはなく、二人分しか影は伸びない

「ただ、そろそろ、向こうも焦れてきているかと、思われるのですが」
「だな………うまく、動けばいいんだが」

 事情を知らぬ者が聞いても理解できぬであろう会話をしながら、ゆっくりと進む2つの影
 その、影に向かって………別の影が、伸びる
 一見、人間の影に見える、しかし、人間ではない影が

「………足いらんかえ?」

 二人の耳に届いたのは、老婆の声
 「足売りババア」の声だった
 大きな風呂敷包みを背負ったその老婆は、「足いらんかえ?」と言う質問に対し、「いいえ」と答えると足を一本奪い去り、「はい」と答えれば、余分な足を一本付けられる……そのように伝えられている
 「はい」と答えても「いいえ」と答えても悲惨な結末にしかならず、助かるには「私はいらないので、○○のところへ行ってください」と答えると良いとされている
 すなわち、今、二人が答えるべき正しい答えはそれだろう
 しかし

「………いいえ、いりませんよ」
「足は、二本ありゃあじゅうぶんだ」

 そのように答える二人
 足売りババアを、見てすらいない
 二人の言葉に、足売りババアはにやり、と気味の悪い笑みを浮かべた
 その影が、「伸びる」
 足売りババアの下半身は人間のものとは違う、異形のものと化していた
 今まで奪ってきた人間の足だろうか。それが、ムカデのように足売りババアの下半身についているのだ
 足の本数だけ、下半身はにょろりと伸びており、まさしく百足だ
 足売りババアは、二人の足を奪おうとして

 すぱぁんっ、と
 足を切るための鎌を持っていた腕が、落ちた

「ぎ………っ!?」

 ひゅんっ、と、二振りの刀が宙を舞う
 龍哉の扱う「大通連」「小通連」が、くるくると、龍哉の意思に従って動く

「直斗、確か、鬼灯さんの情報で」
「あぁ、足売りババアは、いたな。元契約者で、今はもう飲まれて人間やめてるタイプ」

 くるり、と、ようやく二人は振り返り、足売りババアを見た

「ひとまず、気絶させて。後は「組織」にでも引き渡すか。さほど、重要な情報は持っていなさそうだしな」
「そうですね。何か情報を持っていてくれていたら、その時はその時ですし。「組織」がうまくやってくださるでしょう。以前、こちらで尋問しました「ひきこさん」の契約者よりも、有効な情報を持っていれば、のお話ですが」

 二人の会話に、足売りババアは「まずい」と判断した
 確かに、己の持っている「あのお方」の情報は重要度は低いかもしれない………しかし、「組織」相手となると、些細な情報ですら渡すにはまずい
 ならば、己の命を潰して情報を渡さないのが一番であるのだが、鎌をもっていた腕は落とされてしまった
 もう一方の手を伸ばそうとしたが、大きく上半身を持ち上げていた状態だった為、それよりも早く、落ちていた鎌は直斗が踏みしめ、渡さない構え

 ……逃げるしか、ない
 確か、通りに出れば川があった、そこに飛び込んで…………

「ダメですよ」

 龍哉が、「小通連」を手にして駆ける
 身をよじって逃げようとする足売りババアの背中へと跳び乗り、その背中を駆け上がった
 足売りババアがそれを振り落とすよりも、早く、がっ、とその肩を掴んで

「ぎ、ぁ」

 ごっ、と刀の柄で、後頭部を殴りつけられて
 一度ならば意識を手放さなかっただろう、しかし、数回も殴りつけられれば、元々防御が人間と変わらぬ身、耐え切ることは出来ず、その意識は闇へと落ちて
 ずぅんっ、と、辺りに轟音が鳴り響いた

「…これで、また一つ、駒は潰した。さぁ、「狐」、どう動く?」

 呟く直斗の言葉は、足売りババアにも、ここにはいない「狐」にも、届くことはなかった

to be … ?

少しずつ、少しずつ、でも確実の敵の駒は削っていく
そうしないと、一気に暴れられたら面倒だしね
ようはそういうことです
固有名ついてない敵モブなんてこんなもんよ

少しずつ、少しずつ、でも確実の敵の駒は削っていく
そうしないと、一気に暴れられたら面倒だしね
ようはそういうことです
固有名ついてない敵モブなんてこんなもんよ

あ、重複投稿なってしまってるごめんorz

 自分達の隠れ家へと帰っていく、その途中。ヴィットリオ逹は、自分逹に向けられている視線に、気づいた
 あまり、良い感情がこもっていない。どちらかと言うと、敵意だろうか

「どうするの?」
「………どうすっか」

 あたりを見回す
 この辺りは………まだ、人の目がある
 人目につくところでは、まだ目立つことをする訳にはいかない。と、なれば

「おびき寄せるか」
「ん、オッケー。ファーザー、行こう」

 ミハエルの言葉に、ファーザータイムはこくりと頷いた
 二人は、自分達に敵意を向けている相手に気付かれないように、少しずつ、自然に、人目のない道へと進んでいく

「それでさー、どうするの?殺すのは簡単だけど」
「そうだな………相手次第だな。消して問題なさそうな奴だったら、皓夜の食事用に確保だ」

 皓夜は鬼であるが、それ以上に女性である
 ヴィットリオ的には、空腹で苦しんでいる仲間の女性の為に力になれるなら、出来る限りなってやりたいところだ
 つまり、今、自分達に敵意を向けている相手次第では、美味しいご飯になってもらう必要がある、そういうことになる

「オッケー、えーと、じゃあ、ヴィットが捕まえる?」
「念の為いうが、お前らも協力しろよ」
「え、なんで。ヴィットの能力使えば、一発で捕獲出来るじゃん」
「お前とファーザータイムならな。それ以外は、ある程度、隙ないときついっつの。俺から、相手の意識そらすだけでもいいから」

 そう、ヴィットリオが契約している都市伝説は、ミハエルが契約している「ファーザータイム」のような存在であれば、一瞬で無力化し捕らえる事が出来る
 が、それ以外の存在は、流石にある程度隙を作ってもらわなければ、無理だ
 少なくとも、ヴィットリオを警戒された状態では難しい
 更にいうと、ヴィットリオは戦闘は全くといっていい程に出来ないのだ
 ミハエルとファーザータイムに任せるしかない

「仕方ないなぁ。それじゃあ、ボクとファーザーにおまかせだよ。ね、ファーザー」
「………うむ」

 ファーザータイムが、手にしていた大きな鎌を軽く揺らす
 そして………ミハエルの手元にも、大きな鎌が一振り、姿を現した
 ミハエルとファーザータイムが同時に動く。老人とは思えぬ、子供とは思えぬ動き。大きな鎌を手にしたまま、二人は高く、跳んで

「っく!?」

 ぎぃんっ!と二人の鎌が交差し、ヴィットリオとミハエルの後をつけてきていたその人物を、壁際に追い詰める
 交差する鎌は首元に迫っており、少しでも動けば、首を切り落とされるだろう
 彼らをつけてきていた、その相手は

「………子供?」

 ファーザータイムの呟き通り、それは子供だった
 子供には、ファーザータイムが見えているのだろうか。敵意がこもった目で、ファーザータイムを睨みつけている

「大人め………っ!」

 それは、ファーザータイムへの敵意と言うよりも、「大人全体への敵意」だった
 その子供が、『凍り付いた碧』と呼ばれる集団に属している、「黒」と呼ばれる下位メンバーの一人である

「ねえねぇ、君。ボク逹になんか用ー?それとさー、君って家族とかいるー?」
「…っうるさい!俺には、親なんていない!!」
 
 ……しかし、そんな事実はミハエルも、ファーザータイムも、そして

「そうか、それは好都合だな」

 ヴィットリオも、当然、知らない訳で
 ミハエルとファーザータイムにだけ意識を払っていたその「黒」は、ヴィットリオから意識が完全にそれていて
 ヴィットリオの声に「黒」が反応するよりも早く、「黒」の体が、消えた………否、「閉じ込められた」
 「黒」が立っていた場所に、人一人入りそうな大きさの樽が転がる

「おー、相変わらず、発動しちゃえば一発だね」

 じりじりっ、とその樽から距離を取るミハエル
 過去に、ヴィットリオのこの能力で完封された事があるミハエル的に、若干トラウマらしい

(思えば、九十九屋が俺にミハエルの迎え任せたのは、ミカエルが何かやらかしそうになっても、俺なら完璧に止められるからなのかもなぁ……)

 しみじみと、そんな事を思いながら
 「死神を閉じ込めた樽」の契約者であるヴィットリオは、その樽を持ち帰り、皓夜へのおみやげとするのだった


to be … ?

鳥居の人に焼き土下座
ヴィットリオの能力判明ついでにご飯調達させました
ぐっばい、名も無き「黒」の一人
なお、「死神を閉じ込めた樽」のエピソードは確かイタリアのお話だった、はず

花子さんとかの人乙です!
なぜか、ファザータイムから某おもちゃを連想してしまった
……剣ぶっ指すと中から飛び出たりしないよね(期待)
というかミハエル君、ポニーテールか。もしかして、男の娘?(偏見)

ハロウィンねー、9月下旬にかぼちゃプリン買ったぐらいだ(もはや、ハロウィン関係ない)
学校町の場合、本物が混じってるだろうからタチが悪い

では久々にチキン野郎投下します
……ハロウィンネタ書いときゃよかった

・七話 首なしライダーと競え!

 風だ。
 男は思った。自分の前を走る、オートバイに対して。
 俺は風を相手にしているんだ。心にもう一度言い聞かせ、グリップを更に回す。愛車(オートバイ)はすぐに答えた、普段は出さない速度へ一瞬で移行。危険な領域に突入する。
 だが、これでいい。俺が相手にしているのは自然だ。このくらいしないと勝てない。男は睨みつける、目の前を走る風ことオートバイを。危険な速度で当たり前のように走行する化物を。
 出会いは少し前だった。
 男は、愛車で深夜の峠を走りに来ていた。いつもの事だ。峠を攻め、速さと刺激を求めることは彼にとってのライフワーク。何もおかしいことではない。だが、異変は突然起こった。
 いつものように走っていると、謎のオートバイに抜かれたのだ。見たことのない車種、真っ黒な車体とライダースーツ、骸骨を模した派手なヘルメット。まさしく、全てが謎。そればかりでなく、抜群のドライビングテクニックを持っていた。男が対抗心を燃やすほどに。
 男はすぐに抜き返そうとした。グリップを回し速度を上げる。同時に、相手も速度を上げた。男を引き離さない程度に。
 馬鹿にされている、そう解釈した男はグリップをまた回す。黒づくめのライダーもそれに倣う。以降はこれの繰り返し。イタチごっこが始まった。
 男はかなりのテクニックを持っている。この峠では、一番と言われる程に。しかし、黒づくめのライダーはそれを上回る力を持っていた。その上、男を挑発し煽るような真似もする。
 イタチごっこを繰り返すうちに、男はのめり込んでしまった。絶対にこいつを抜かす、その思いに囚われている。普段の彼なら、途中でこれを止めていただろう。いくら、速さを追い求めているといっても事故を起こしたら元も子もない。
 しかし今夜、自制心は吹き飛んでいた。風としか思えない、黒づくめのライダーと彼が狩る謎のマシーンだけを男は気にしていた。自分が死ぬかも知れないなんてことを一切考えていない。スピードを追求するだけの探求者、今の彼はそうとしかいえない存在へと成り果てていた。
 男は知らない。自分がオートバイを追いかけるのは、自分の意思だけによる行為ではないことを。黒づくめのライダーが、仕組んだ罠であることを。
 彼が風だと表現するそれは、もっと禍々しいものだということを。
 男は無知のまま、ただ速度を上げていく。目まぐるしく変わる景色を気にもせず、風に強く吹かれながら。
 追い抜いてやる。
 小さく呟き、男は最後の階段を登ろうとしていた。絶対に生きては帰れないレッドゾーン、自身が制御できる限界の先へ。興奮している彼は躊躇いもなく突入しようとする。命という概念を忘却の彼方へと追いやりながら。
 瞬間、黒づくめのライダーは体を僅かに震わせた。痙攣かと思える程度に。しかし、高い眼力を持つ者なら気づいただろう。ライダーが笑ったということに。
 悲劇の幕は下ろされた。
 男はグリップを回し、黒づくめのライダーも同じ行為をする。四つのタイヤが、ゴムを激しくすり減らす。
 道の先にガードレール、黒づくめのライダーはここで仕上げをするつもりだ。今の速度を保ったままだと、男が曲がれきれず激突するのは必死。黒づくめのライダーは、無事目的を達成する。
 地獄へと向かう道を男は突き進む、黒の案内人をお供に。自信が愛する峠を墓とする。
 ――はずだった。

「は?」

 つい一刻まで、熱く燃えていた男は覚めてしまっていた。あまりにも急な乱入者が、自分を追い越し謎のオートバイと並んだことで。
 それはオートバイではない。かといって、自動車でもなかった。そもそも、乗り物ですらない。
 生身の人間だった。
 綺麗なフォームで走る小柄な人間は、男を追い越し謎のオートバイと併走。凄まじい勢いで、足を動かしている。あまりにもシュールな光景に、男の開いた口がふさがらなくなった。
 なんなんだ、これは。ギャグか何かか。
 思考は一気に冷める。現実離れしすぎた光景を見てしまった故の症状だ。
 小柄な人間は黒づくめのライダーに手招きをする、俺について来いとばかりに。走る速度を上げながら。
 黒づくめのライダーは応じた、負けじとスピードを上げる。二人は男からどんどん離れていく、しまいには人間では制御不能と言えるほどのスピードでカーブを曲がっていった。
 彼はこれ以上、グリップを回そうとはしなかった。むしろ、スピードを落としていく。今さら、危険だということがわかったからだ。

「……これ、夢か」

 男は結論づけた、走り去っていた二人を現実の外へ押し出しながら。

 男が二人を見失った後、レースは上の段階へと達していた。
 黒づくめのライダーが速度を上げると、ランナーも同じことをする。反対の場合も同様だ。二人は競い合いながら並走していた。
 もちろん、公道なのでオートバイや自動車も走っている。それら全てを二人は追い越していた。スピードを全く落とさずに。
 カーブでも同様だった。猛スピードを維持したまま、二人はコーナーへ突入。ガードレールにぶつかることも、歩道にはみ出る事もなく当たり前のように曲がっていた。
 そんなことを続けている内に変化が起こった。
 今まで、正確無比な運転をしていたライダーが乱れ始めたのだ。ただ前へ前へと進んでいたタイヤが僅かにぶれ、コーナーへ突入するタイミングがずれるようになった。
 明らかにライダーは動揺していた。自身と並行するランナーの存在に対して。自身と同等、又はそれ以上の化物として恐れ始めていた。
 一方、ランナーは平常心を保っている。人外の脚力でアスファルトを踏みしめ、カーブも楽々と曲がっていた。スピードを統べている、そう表現するのが一番適していた。
 このままでは負ける、先に事故死してしまう。ライダーは悟ったのだろう。だからこそ、彼は行動に出ることにした。自己の特色をもっともよく出すために。ハンドルから手を離し、ヘルメットへと手を伸ばす。
 次の瞬間、ランナーは見た。ライダーのヘルメットの下を。そこには、当然顔が――
 なかった。
 本来、頭部が位置する場所には何もない。ただ、向こう側の景色だけが見える。
 ライダーは、ヘルメットを後ろに投げ捨てた。もういらないとばかりに。軽い音を出しながら、ヘルメットは後方へ転がっていった。
 レースが再開される。動揺していたはずのライダーは、元の調子を取り戻した。完璧な運転をし、ペースを握ろうとスピードを上げる。だが、思惑は叶わなかった。ランナーは、ライダーの真の姿を見ても様子が変わらない。上げたペースにも、平然とついて行った。
 ランナーは元から知っていたのだろう、ライダーが異形だということを。オートバイ乗り達を死に追い詰める都市伝説、【首なしライダー】だということも。
 超人と異形、理を超えた二人はまたもコーナーへ近づいていた。もう何度通ったかわからない場所。しかし、今度ばかりは事情が違った。
 ランナーが突然、【首なしライダー】にハンドサインを出したからだ。彼はガードレールいやその向こう、闇が広がる森を指さしていた。一見、意味不明なサイン。だが、【首なしライダー】は体を軽く曲げてみせた。肯定したとばかりに。
 二人は決めあったのだ、次のコーナーを曲がらないことを。代わりに、ガードレールの向こう側をコースにすることを。
 危険な道を敢えて通ることで、決め手に欠けるレースを終わらせるために。お互いを、人外と承知した上での取り決めだ。
 二人は速度を落とさずに、ガードレールへと真っ直ぐ進んでいく。
 後数メートルもないという所で【首なしライダー】の指先が動いた。二度、上げ下げを繰り返す。素早くかつ精密に。すると、目の前のガードレールに異変が起こった。突如、一部分が何かに切り取られたかのように地面へと落ちたのだ。ちょうど、オートバイが通れるくらいの穴が生まれた。ライダーはそこへと向かっていく。
 ランナーは、ガードレールを飛び越えようとしていた。ハードル走の要領で行く気だ。
 くぐり抜けと跳躍。違う方法で、二人は闇へと足を踏み入れた。

 当たり前だが、夜の森に明かりなどない。
 ただ暗闇と自然の住人だけが存在する。人が近寄るにはあまりに不気味な場所。たとえ、人がそこにいようとも動こうとは思わない。朝になり、明るくなってから動こうとする。
 そんな特別な場所を、オートバイとライダーは疾走していた。木や岩などの障害物を避けながら。公道よりかは速度を落としているが、未だに猛スピードを保っている。
 神業じみた光景。だが、何よりもすごいのはテクニックではない。ランナーが、当たり前のように森を走り抜けていることだ。
 【首なしライダー】が、闇をもろともしないのは納得できる。元から首がない状態で走っているので、暗くても問題ないと考えられるからだ。
 だが、ランナーは違う。彼も化物じみてはいるが、【首なしライダー】のような異形ではない。オートバイの明かりしかない中、彼はどうやって地形を把握しているのだろうか。
 謎は謎のまま、レースは続いていく。未だに、二人の距離に大差はない。どちらも障害物に引っかからないので、遅れることも死ぬこともない。エンジンの轟音が森の中で響いていくだけ。
 停滞、気だるけな言葉がぴったりの状況。勝利も敗北もなく、時間だけが流れていく。
 【首なしライダー】は、ついに痺れを切らした。彼は、あくまでレースで敗北と死を与えるつもりだった。それがポリシーだからだ。しかし、今夜の相手は同じく人智を超えたもの。こちらのスピードに平然と付いてくるばかりか、障害物も全て華麗に避けていく。とても事故死させられるような相手ではない。
 決断するまで、時間はあまりかからなかった。
 【首なしライダー】は、感覚で右方のランナーを捉えると準備に取り掛かった。指先に力を込め、能力を発動。何もなかったはずの先端に、細い糸が生える。
 糸は急速に伸び、右方へと向かっていた。ランナーを殺すために。この糸は、【首なしライダー】にとってオートバイにつぐ武器だった。何しろ、縁が深い。
 道路に張られたワイヤーに猛スピードで突っ込み、首をはねてしまったライダーの亡霊。それが【首なしライダー】の正体だと言われているからだ。
 己を殺した凶器で、彼はランナーを狙う。自分と同じように、首をはね落とそうと。
 だが、その願いは叶えられなかった。
 突然、ランナーが失速し始めたのだ。足を怪我したから等ではない。明らかに、意図的なものだ。【首なしライダー】は、疑問を浮かべながら自身もスピードを下げる。
 それが命取りとなった。彼は気づくべきだったのだ。ランナーが失速した理由が、もう走る必要が無くなったからだと。ここへ誘い込むことが目的だったということを。
 速度を下げながらも、【首なしライダー】は糸での攻撃を繰り出した。長さはもう十分、指先を動かすだけで首が消える。そう信じて疑わなかった。
 糸を動かした瞬間、幾数もの銀閃が飛んできるまでは。

「!?」

 銀閃の正体は、投擲されたナイフだった。
 無駄のない軌道を取りながら、刃は糸を切り裂いた。さらに、【首無しライダー】の足さえも貫く。
 驚愕と痛み、降りかかった災難に運転が乱れた。オートバイは、避け切れるはずだった木に激突。圧倒的な衝撃にバイクは潰れ、【首なしライダー】は宙へと投げ出された。勢いを保ったまま地面に落ち、為すすべもなく転がる。接触の痛みを感じる暇もなかった。
 回転は、また木にぶつかることで止まった。
 【首なしライダー】は、すぐさま行動に出るため立ち上がろうとした。しかし、右股に刺さったナイフのせいで叶わない。地面を転がったせいで、より深い箇所にまで刃が侵入。歩くことが不可能となっていた。
 ならば、状況の確認を。
 【首無しライダー】は、感覚を研ぎ澄ました。ナイフを投擲したのが、ランナーでなかったのはわかっている。だとしたら、ここにもう一人敵がいるのは確か。警戒心を極限まで高め索敵を開始する。対象は、ランナーがいる周辺。
 この行為は間違っていない。常に、敵の存在を認識することが戦いでは重要だ。彼にとって、命取りだったのは敵がランナーと投擲者の二人だと思ったこと。伏兵がいる可能性を考えなかったことだ。
 直前、【首なしライダー】は気づいた。自分に向かって何かが向かってくることを。
 目のない彼には、感覚で小動物だと捉えるのがやっとだった。そのまま――

「!!」

 ライダースーツごと、腹を食い破られた。

――続く――

チキンレース?回でした

おまけ 「ハロウィンってなんの日?」

六「かぼちゃ食う日だろ」

カ「それ、冬至です」

あ、目がないのにハンドサインやらがわかったのは気配で感じたってことで
……苦し紛れの訂正です、はい

 何故、契約したのか、と、その子に聞いてみた事があった
 答えは、とてもシンプルで

「そうじゃないと、護れないだろ」

 と、そう即答してきた

「でも、貴方達のお父さん逹だって、契約者なんでしょう?」
「だからだよ。いつまでも親父達が生きてるわけでもないし。年取ってきたら、若い時みたいに戦えるとも限らないしな」

 頼り続けるわけには行かないと、その子はそう言ったのだ
 まだ、小学生なのに
 自分よりも年下のその子は、その時点ですでに親に頼ると言う選択肢を選ばないと言う考えを持っていたのだ

「親父逹が、弱いって訳じゃないんだよ。でも、頼り切るのは危険だからな」
「だから、貴方が戦うの?」
「憐と龍哉が、もう契約してんだ。俺だって契約して、戦うべきだからな」

 そう答えたその子の両目が、一瞬、金に光った

「……………あの時、二人にだけ戦わせちまったからな。あの時のような事には、二度とさせない」

 どうやら、私と出会う数年前、まだ、その子逹がもうちょっと小さかった頃に、その子逹はとても恐ろしい存在に襲われたらしかった
 その時、その子逹の中で契約していたのは二人だけ
 たったその二人で恐ろしい相手と戦うその姿に、その子は契約を決意したのだ
 ……そのタイミングを狙って、その子に契約を持ちかけてきたその存在は、もしかしたら以前から、その子との契約のチャンスを伺っていたのかもしれない

「怖くないの?」
「別に。あいつらが死ぬほうが怖い」

 迷いのない答えに、強いな、と思った
 でも、「怖いな」とも、思った
 だって、この子は戦うことには恐怖がない
 自分の大事な存在を守るために、己の命をかける事を恐怖しない
 ………それは、紙一重なのだ
 強いけれど、同時に、とても危険な事で
 その子が、一歩間違えば死んでしまうかもしれない、いなくなってしまうかもしれない、その事実が怖かった

「安心しろよ、咲季も守ってやっから」

 こちらの表情から、何を感じ取ったのだろうか
 その子は、きっぱりとそう言い切った

「俺達が揃ってりゃ、敵なんていねーからな。どんな相手だって、叩き潰してやるよ」
「あはは、そっか………でも、無理はダメだからね?」

 わかってる、とその子は笑う
 頼もしくて、でも、なんだか不安を感じてしまって


 ……本当は、私も「契約」した方が良かったのかもしれない
 そうすれば、その子逹だけ戦わせるなんて事に、ならずにすんだから
 けれど、私は「契約」は出来なかった
 「器が小さいから無理だ」と、そう断言されてしまったから
 私は、みんなのようにはできなかった



 だから
 私には、この選択肢しかなかったのだ

 ここで飛び降りて、その都市伝説の内部へと取り込まれ…………内側から、その支配権を奪う
 大丈夫、出来る
 あの、黒いスーツを着た女の人が言っていた
 この都市伝説相手ならば、その対抗策でなんとかなるかもしれない、と

 大丈夫、出来る
 出来なきゃいけない

 あの子逹が戦わずにすむように
 私が、私なりのやり方で、戦ってみせるのだ




fin

以前から気になってたフリゲに手を出しちゃったので更新頻度落ちたらごめんね(クズ顔ダブルピース)

ひとまず、彼らにとっての三年前のあれそれとかそういうアレ

 手際よく、野菜が切られていく。調理に関してはヴィットリオの方が手馴れているな、とアダムは改めてそう感じた

「おっさーん、そっちの調味料とってくれ」
「あぁ、わかった」

 ヴィットリオが指差した調味料の瓶を取ると、Grazie、と返事が返ってくる。ついでに鍋も、と言われたから、空の鍋を手渡した

「…何を作っているんだ?」
「おでん」
「おでん」
「前にコンビニで買って食べたのが美味かったから。俺が作るのだから、洋風になるけどな」

 なるほどおでん。通りで、イタリア料理ばかり作るヴィットリオにしては珍しく、大根も切っていると思った
 彼達の中では、ヴィットリオが一番、料理が出来る
 次点が唯、その次が一応はアダムなのだが、彼が作ることができるのは本当に簡単な物だけだ。切る、焼く、煮る、の単純な料理のみ
 それと比べれば、ヴィットリオは料理人並、とは言わないが料理のレパートリーが広いため、大変と助かる。ほぼイタリア料理だが
 …………なお、九十九屋は料理は全く、出来ない。あれは料理ではない、料理と呼べないナニカだった

「…っし、おっさん、後は俺がやっておくよ」
「手伝いはもういらないか?」
「あぁ。だから、お子様二人を頼んだ」

 うん?と思ってキッチンの入口を見る
 ……皓夜とアナベルが、じーーーっ、と、やや退屈そうにこっちを見ていた
 わかった、と頷いて、アダムは二人の元へ向かう

「どうした?……ミハエルと、唯は?」
「みはえるとゆい、いっしょにでかけたぞー。ふぁざーたいむもいっしょー」
「肉食べたいから、北区の山の方に行ってイノシシ獲ってくるって言ってたけど」

 居るのか、イノシシ。いや、いないとは断言出来ないが
 ……大丈夫だろうか。あの二人なら大丈夫だろうか?ミハエルも唯も能力は戦闘向きであるし、もしもの時はファザータイムがいる
 そのように考えつつも、アダムは少し心配だった
 ミハエルはまだ子供だし、唯だってまだハイスクール通い。子供と言っていいだろう。ファザータイムも一緒とはいえ、その二人でイノシシ狩り。大丈夫と思いつつ、それでも心配なのだ

(俺の子供みたいに、なってほしくもないし………)

 ーーーつきりっ、と
 一瞬、思い出してしまった記憶を振り払う
 あの方が行方不明になって以来、どうにも、昔のことを思い出す回数が増えてきた気がする

「う?あだむ、どうしたー?」
「……いや、なんでもない」

 なんでもないよ、と皓夜の頭を撫でようとして………しまった、手が届かない
 皓夜の方が背が高いから、仕方ないと言えば仕方ないのだが
 うー?と皓夜はアダムの様子に首を傾げ、皓夜の頭に乗っていたアナベルがその頭から落ちた。はしっ、と肩に捉まる事で床までは落下しなかった
 しばし、皓夜は考えて………どうやら、何かを察したようで

「こうー?」

 と、ちょっとかがむ、と言うかしゃがんできた
 確かに、これなら頭をなでられるのだが…………男として、微妙に複雑なのは、気のせいか

(まぁ、皓夜は鬼なのだから、人間よりデカイのは当たり前なんだよな……)

 そんな複雑な心境を振り払いながら、皓夜の頭を撫でてやる
 外見はともかく精神は子供同然のせいか、皓夜は頭をなでられると嬉しそうに、嬉しそうに笑って


 その笑顔に、一瞬だけ、子供の姿が、ダブって


(………あぁ、早く、あの方を見つけなければ)

 そうしなければ、「また」自分は耐えられなくなる

(それに、守って、やらないと)

 あの方の「命令」がなくとも、皓夜を死なせないように
 アダムはこっそりと、そう決意したのだった



to be … ?

っそぉい、と敵サイドの(多分)最後の一人の情報ちら見せさせつつ、他にもなんか情報ちらほらちらほら
いい父子の日っぽくしたかったけど、それっぽさはあんまし出なかったねぇ、失敗失敗

 ことり、と二人分の茶がテーブルの上に並べられる

「それでは、どうぞごゆっくりー、っす。カイザー司祭様、俺っち、裏庭のお掃除、続きしてくるっすね」
「はい、ありがとうございます、憐」

 へらんっ、といつも通りの笑みを浮かべて、憐は応接間を後にした
 その後ろ姿を見送りながら、天地は何気なく、応接間を見回す
 飾り気のない質素な応接間の中で、ふと目についたのは、チェスセット。透明な素材で出来たチェスの駒が並んでいる。調度品、というよりは、時折使われている物のようだ

「どうかさないましたか?」

 と、カイザーが、穏やかに微笑みながらそう声をかけてきた
 別に、と、天地は返事を返す

「……こないだ、チェスやって負けたから。今度勝負する時はどうやって勝ってやろうか、って思っただけさ」
「おや、貴方もチェスはお強い方でしょうに」
「だから悔しいんだよ」

 手加減したとかそういうのではなく、純粋に実力で負けたのが悔しいようで、次は必ず勝つ、とぶつぶつと呟く様子に、カイザーは少しだけ微笑ましげな表情を浮かべた
 こういったところは、天地は相変わらず子供っぽいと言うか、やや大人げない
 仕事に関してはきっちりこなしているらしいから問題ないのだろう、とそう判断したしなめはしない。子供じみた面が残っているのも、門条 天地と言う人間の個性だと、そう考えて

「それで。そちらの状況はどうですか?」
「………どうにも。「狐」の駒は順調に削っていっているが、側近クラスとまではいかないな。そっちは?」
「同じような状況ですね。とはいえ、「教会」としては倒すべき本命は「バビロンの大淫婦」ですので、「狐」方面には集中出来ないのが現状ですが」

 中間管理職同士の、非公式の情報交換
 表向き、「組織」と「教会」はおおらかに情報交換を行う訳にもいかないので、どうしてもこういった形になる
 そろそろ柔軟に対応してもいいのかもしれないが、互いが辿ってきた歴史やら内部の派閥の問題やらで、なかなかうまくいかないものだ

「側近クラスの連中の情報も、鬼灯から提供された分もあって集まってきたが、まだ足りない」
「捕縛した相手から情報をあまり絞り出せない、と言う現状は、流石に難儀しますか」
「あぁ。「狐」は情報が漏れるのをよっぽど恐れてるみたいだしな。それに……」

 それに?とカイザーが首をかしげていると、天地は紅茶で喉を少し潤してから、答える

「「狐」の件は、憐が三年前の事件で絡んでいる。そのせいか、あのヤンデレ野郎が「狐」の配下に容赦がねぇ」
「…………………あぁ」

 理解し、カイザーはそっと苦笑した
 天地が言っているのは、荒神 涼……「コーラを飲むと骨が溶ける」の契約者の、彼の事だろう。未だに、「組織」最強候補の一角とも呼ばれると同時、「組織」トップクラスの問題児の一角。結婚し、子供が出来て落ち着いたと思ったら、兄に対するヤンデレにプラスして妻や子供に対する大きな愛情と共に家族の為ならばいくらでも残酷になれると言う、敵に回したら怖い割合が増えたのだ。「組織」としては頭がいたい

「今でも、あの男をまともに制御できるのは大門 大樹くらいだ。あいつには他にも任せたい契約者はいるんだが、あの問題児任せている以上、今以上の負担強いる訳にもいかないからな」
「「組織」も、苦労しているようで」
「そっちはそっちで、あの異端審問官が来ている最中だろ………一応、今回は、前回よりはおとなしいな」
「……………えぇ、まぁ」

 カイザーはそっと、慎ましく視線を逸らした
 今現在、「教会」から派遣されているジェルトヴァが過去に学校町に来た際にやらかした事は、「組織」にも迷惑をかけた
 問題の当人はその件を未だに一切反省しているのだから、余計にたちが悪い

(あぁ、いえ。少しだけは、反省していましたか。憐に迷惑をかけた事で)

 本当にそれだけなのだから、困った者だ
 「自分は正しい」「自分が行っている事は正しい」
 そう信じて、彼が疑っていない。「そう考えるように育てられた」のだから、若干は仕方ないとは言え、「十三使徒」候補生であったのも20年近くも前の話になる。そろそろ、もうちょっとマシになってはほしかった。カイザーもまた関係者である以上、強く言えないのが現状だが

「とにかく。現状は、「狐」の配下を削っていくしかありませんね」
「そうだな。魅了を解除するなり叩きのめすなり。どっちの手段でもいいがそうしていくしかない。「狐」の居場所はわからないが、駒がなくなっていけば奴は焦るはずだ」
「……それくらいしか出来ないのは、歯がゆい事ですけどね」

 せめて、少しでも犠牲を減らす意味込めて、それくらいしか対策が打てない
 学校町に入ってすぐに、忽然と消えてしまった「狐」。その事実に、2人は溜息を漏らした

「………あぁ、そうだ。ついでだ。これも伝えておくか」
「……?何でしょう」
「どうにも、「狐」側に情報が漏れている気がする」

 天地のその言葉に、カイザーは少し、表情を険しくした

「……それは」
「「組織」か、それとも他所からか。「狐」側に、どこかかしらから情報が漏れている可能性が高い」

 しばし、部屋の中を沈黙が支配する
 カイザーは考え込んでいるような表情を浮かべていて、天地はその出方を伺っているようだった

「………確証は?」
「まだ半々ってとこだ。目星はつけている。そうではないと思いたいが、いざと言う時は」

 ーーーーそう言った事もまた、穏健派のC№の中では自分がやるべき仕事だ、と
 天地はそう、自重したように笑ったのだった



to be … ?

日付越えちまったい
さらっと>>158-160と同時間軸のちょっとした会話的なもの
と、ちょっとだけフラグめいた何かみたいな何か

 黒服の戦闘能力は圧倒的だった。
 肩が当たるだけで敵を吹き飛ばし、一突きだけで骸骨を砕いていた。
 骸骨が弱いわけじゃない。
 俺も、【首切れ馬】に襲いかかってきた連中を倒しているからわかる。
 奴等は見た目に反して硬く、筋肉もないのに力が強い。
 おまけに、生物と違って殺すのが面倒。
 バラバラにしないと動きを止めない。
 【侵撃】を使う程じゃないが、確実に消耗させられた。
 今も四本足で苦戦しながら倒した所だ。
 何回も同箇所に蹴りを当て、ヒビを入れることで骸骨をやっと砕いた。
 ぬかるんだ地面も俺を疲れさせる。
 力が入りにくいし、バランスも取りにくい。 
 ちなみに、足は一本温存している。
 五本足はどうも使いにくい。

「ロ、ロク君大丈夫!?」

 呼吸を整えていると、馬上から恋人が声をかけてきた。

「大丈夫だ」
「で、でも!」
「それよりも早く進むぞ。もう近い」

 骨の破片を蹴飛ばしながら、前に進むことを促す。

「今は六本足の言うとおりにしましょう、契約者さん。頑張っているのは彼女もです。好意を無駄にするわけにはいきません」

 カンさんは、諭しながら黒服へと視線を向けていた。
 【首切れ馬】も同様、歩きながら自身の契約主を見つめている。
 黒服は、引き続き激闘を繰り広げていた。
 守りを固めようとする骸骨達を、拳の連打で制圧している。
 既に、かなりの数を倒しているはずなのに疲労が全く見えない。

「そっちもいけたか」 

 鬼に分類されるだけあって、【夜行さん】の膂力は凄まじい。
 だが、彼女自身の体術も玄人並みだった。
 突きでわかる。
 あれは、鍛錬を重ねなければ到達できない領域だ。
 拳を多用していること、フットワークの軽さからしてボクシングを修めているんだろう。
 肉体に合った戦い方だ。
 おかげで、俺達は【狂骨】の近くまで来れていた。

「……この辺りでいいかもしれません」

 カンさんの言葉に、【首切れ馬】が歩みを止めた。

「いけるのか」
「はい、おそらくは。ただ」

 空中に札が展開されていく。
 恋人も、慌ててそれに続いた。
 二人分の能力行使、周囲が札で覆われる。

「【狂骨】が動きを見せないのが不気味です」

 水の壁で札を防いでから、【狂骨】は骸骨達に迎撃を任せていた。
 せいぜい、カンさんが試しに何回か放った札を水で防いだくらいだ。
 確かに、不気味。
 気に止めないのが無理な話だ。
 だからといって、攻撃を中断するわけにもいかない。

「単純に動くのが遅いからじゃないかな? さっき水たまりから上がった時も鈍かったし」
「だと、いいんですが……」

 カンさんが顔を曇らせた。

「大丈夫だ。何かあったら俺と【首切れ馬】がフォローする」
「わ、私も頑張るよ!」

 責め時を逃すわけには行かない。
 多少強引でもここは押し通す。

「……ええ、そうしましょう」
「うん!」

 瞬間、【狂骨】に向かって無数の札が放たれた。

 何事も終わる時はあっけない。
 ヒビだらけとなり、崩れ落ちた【狂骨】を前に道理を再確認していた。

「いやー、なんとかなったね! 水の壁も割とあっさり超えられたし。パンチをしてきた時はどうなるかと思ったけど」
「簡単に避けることが出来たので逆に驚きました。正直、拍子抜けです」
「本当に図体が大きいだけだったね!」

 カンさんと恋人は、リラックスした様子で話している。
 【首切れ馬】は、戦闘が終わると黒服が影へしまいこんだ。
 骸骨達も、【狂骨】が倒れると同時に光となり消えた。
 今は、一部を除き戦闘前と同じ光景が広がるだけ。
 
「いかにも、フラグが立っていたのに」
「……メタいことを言わないでください」

 呑気に雑談する二人。
 一方、黒服は少し離れて佇んでいた。
 背中越しに角が見える。
 【夜行さん】の能力はまだ解いていないようだ。
 用心しているんだろう。
 【狂骨】は倒したが、空間をはまだ元に戻っていない。
 おそらく、時間の問題。
 その内、【狂骨】は粒子となり空間から俺達は解放される。
 かといって、安堵はしきれない。
 黒服が警戒をするのも当然だ。
 俺も四本足を解いていない。

「あれだね、巨大な敵は噛ませだね!」
「漫画だと多いですね、そのパターン」

 二人の会話は続いていた。

「まあ、ラスボスが大きいっていうのも定番だけど」
「雑魚を吸収して巨大化とかですか」
「そうそう。ただでも大きかったのが、もっと膨らんだりね」

 ひどく、どうでもいい話をしていた。
 疲れているので、輪に加わるのは止めておく。
 軽く一息つく。
 すると、力が抜けたのか地べたへ座り込んでしまった。
 尻に冷たさと、泥特有の感触。
 自分で思っているほど消耗していたらしい。 

「しょうがない」

 どうせ、ズボンは破けている。
 明日にも捨てる事になるだろうし、汚してもいいだろう。
 体中に溜まった何かを吐き出すように深呼吸。
 一人、休息を取る。

「私的には、狂骨って言うとあの小説が思い浮かぶよ。魍魎の方が好きだけど」
「面白いですよね、魍魎。シリーズ最高傑作と呼ばれるだけはあります」
「うんうん。もはや毒を持っているよ、あれは。ちなみに、カンさんはあの人の本ならどれが一番好き?」
「そうですね。やはり、『死ねばい――」

 二人の会話を聞きながら背伸び。
 軽く骨が鳴る。 
 【狂骨】が同じことをしたら、どれだけの音が出るんだろうか。
 ふと思い、残骸を眺めた。

「ところでね、カンさん」
「何でしょう」
「一つ、気になることがあるんだ」
「気になること?」
「ほら、【狂骨】は霊だってカンさん言ってたよね」
「ええ」
「だったら」

 恋人は笑顔で口を開いた。

「憑依することもできるのかな?」

 悪寒が走った。

「あれ? カンさん、どうしたの?」

 カンさんも俺と同じ考えに至ったようだ。
 一言も発さずに札を作り、恋人へ貼り付けた。
 もちろん、浄化の札。
 当の本人は、きょとんとした顔をしている。

「もしかして、私の話本気にしたの?」
「……ええ」
「まさか、そんな訳ないよ。念のため、【狂骨】にはたっぷり札を貼ったんだから。ねえ、ロク君」
「ああ」

 【狂骨】は【スレンダーマン】に比べてあっさりと倒せた。
 カンさんとの相性が抜群に悪かったからだ。
 だが、【獣の数字】の契約者がそんなミスを犯すのはおかしい。
 あの性悪が、何の考えもなしに怨霊と巫女をぶつける訳がない。
 だとしたら、答えは見えてくる。
 奴の計画は三段構え、【狂骨】が敗れるのは想定内だとしたら。
 あの巨大な骸骨は、莫大な力を収める器でしかないとしたら。
 札という、相性が最高な武器を持つこちらを油断させるためだとしたら。
 恋人が言ったように、憑依が真の能力だったとしたら合点がいく。
 戦闘が終わった所で、気が緩んだ三人の内の誰かに憑依。
 連戦で消耗した俺と争わせる。 
 いかにも、あいつが好きそうなやり口だ。
 カンさんでも、勝利により生まれた隙を突かれたら危ないだろう。
 巫女とはいえ、絶対の耐性を持つわけじゃない。
 ましてや、相手は莫大な力を持つ【狂骨】。
 憑依にだけ集中したら、どうなるかわかったもんじゃない。
 
「いくらなんでも、心配しすぎだよ」

 恋人とカンさんは白。
 浄化の札に触れても何ともない。
 【狂骨】が莫大な力を持つとしても、札に触れたら拒絶反応くらい起こすだろう。
 だとしたら、可能性は一つ。

「って、ロク君?」

 静かに立ち上がる。
 前列の両足に神経を集中。
 これから放つ一撃だけを考える。

「何してるの!?」

 目標の背後に回り込んだ瞬間、両足で頭部を狙った。
 多脚の利点。
 それは、ドロップキック以外で両足を蹴りに使えること。
 後ろの足でバランスを取れるため、前足は自由自在。
 腕と同じ扱いができる。
 そして、この技は【二槌】。
 両足で挟む込むように【侵撃】を叩き込む技。
 直撃した場合、相手の体内で衝撃がぶつかり合い絶大な被害を与える。
 本来、手で使う技を参考にした。

「当たらなければ意味がないけどな」

 実際、両足は空を切った。
 じっとしていた目標が急に動き、距離をとったからだ。
 跳躍距離が凄まじい、十メートルは軽くある。
 獣の様な身のこなし、一瞬の出来事だった。
 目標は、こちらを警戒するように振り返る。

「え、え!?」

 額には三桁の数字。

「契約者さん、下がってください!」
 
 そして、鋭い角。
 左目は紫に染まり虚ろ。
 ただ、濃い怨みだけを映している。

「嫌なものですね」

 カンさんは、既に浄化の札を展開していた。  
 数え切れない程の数、本気具合が良くわかる。

「頼りがいのある人が敵になるのは!」

 豪勢な弾幕が、【首切れ馬】の黒服を狙って放たれた。
 正面、右方、左方。
 三方を囲い込むように飛行する札の壁。
 俺の横を通り過ぎ、黒服を捉えようとする。
 まさに蛇の口。
 強化系でも逃げるのは困難だろう。
 
「なっ!?」

 ――だが、相手が悪すぎた。
 突如、地面が割れ大量の水が吹き出る。
 黒服に迫っていた紙の蛇は、止まることができずに激突。
 一枚残らず濡れ無効化された。
 その瞬間を狙っていたとばかりに、黒服が水のカーテンを通り抜け走り出す。
 圧倒的な速力、二人の方を睨み駆け抜ける。
 俺は眼中にないらしい。
 相手をするのは後だとばかりに視線を向けてこない。

「通さないけどな」

 左前足による【空撃】。
 限界を訴える足を黙らせ繰り出した。
 空間を歪ませながら、空気の弾丸が疾走。
 黒服へと軌道を取る。
 しかし、彼女に直撃することはなかった。
 答えは単純。
 着弾の寸前、黒服が【空撃】を避けたから。
 右へではない。
 左へではない。
 上へでもない。
 もちろん、下へでもない。
 彼女は、走りながら右斜め前へと避けた。
 【空撃】がかするのを気にもとめずに。
 視線を向けるのは二人ではなく俺。
 優先順位が変わったようだ。
 両拳を握り締めながら一瞬で俺に迫る。
 反射的に右前足で中段の【侵撃】。
 だが、無意味。
 黒服はバックステップで後ろへ。
 紙一重で躱し、右足が弧を描き終わった頃に追撃。
 踏み込み、左ジャブを打ち込んできた。
 鋭い、【夜行さん】の腕力を考えたら一発当たっただけで終わりだ。

「当たったらな」

 左へ移動したので助かった。
 拳が、横を通り過ぎただけなのに脳を揺らす。
 風切り音も凄まじい。
 一方、黒服は戸惑っていた。
 当然だ、彼女には右目がないから視野が狭い。
 あちらからしたら、俺が消えたように見えたろう。
 しかし、黒服が逡巡した時間は僅か。
 すぐ、答えに気づいた。
 俺に蹴りを出させる暇を与えずに、こちらへ方向転換。
 再びジャブを放とうとする。
 しかし、

「そうはさせません!」

 逆襲を仕掛けてきた紙の蛇が許さない。
 黒服が後ろへ跳ぶと同時、彼女がいた場所を通り過ぎた。
 どうやら、四本足でも注意を引くくらいは出来たようだ。
 迫る紙の蛇、黒服は宙。
 今度こそと思ったが、上手くは進まなかった。
 先程以上の勢いで、地面から水が噴出。
 空中を飛んでいた紙の蛇を殺し尽くす。

「終わりじゃないけどね!」

 蛇はもう一匹いた。
 恋人の操る札が左側から現れる。
 噴出地点を躱し、黒服へと牙を剥いた。
 偶然、左側だったせいで黒服は気づいていなかったようだ。

「そこだ!」

 恋人の絶叫、黒服を囲もうとする無数の札。
 全てが王手を示していた。
 
「行けー!!」

 退路を絶たれた黒服いや【狂骨】。
奴は残念そうに目を伏せた。

「え?」

 ――懐から拳銃を取り出しながら。
 にやりと笑みをおまけにして。
 札の存在を気に止めずに、【狂骨】は引き金に手をかけた。
 銃口が向けられているのは、

「そうきたか」
 
 俺だ。

「六本足さん!!」

 狙いから逃れるべく走り出そうとする。
 だが、足は痺れを訴えるばかり。
 動かない。
 よりにもよって今、誤魔化しのきかない限界を迎えていた。

「ロク君!!」

 蛇が黒服を呑み込んだ。
 銃声と弾丸を置き土産にしながら。
 胴体に強い衝撃、地面から足が離れた。

「○○○○○!!」
「△△△!!」

 視界が、人魂だけを捉えている。
 耳はまともな機能を無くし、言葉になっていないノイズだけが聞こえた。
 ああ、死ぬのか。
 理解するのに一瞬もかからなかった。
 自分の体のことは自分がよくわかる。
 弾丸が内蔵を破壊したことを。
 銃創から血が噴き出ていることを。
 まともな体力が残ってないことを。
 俺は宙に舞いながら知った。
 
「△△△!!」

 結局、傍にいるのは無理だったな。
 駆け寄ってくる彼女に、そう言ってみることは叶わなかった。
 
――終わり――

花子さんとかの人乙です
安心と安定のヤンデレ弟、内通者も気になりますな

今回の裏話を
本来は全く違う内容になる予定でした(一度倒された狂骨が強化復活・六本足と黒服が契約等等)
でも、それじゃちょっとなーとなったので今回のあらすじに
……結果、黒服が割を食うことになりました(これ以降、ほとんど出番ないのに)
続きは十二月中にいけるかな

おまけ 
Q 好きなクリスマスソングを教えてください

六「チキンライス」
恋「snow halation」
カ「悪魔のメリークリスマス」

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