柚「そっとあなたに伝えたいから」 (39)


・喜多見柚ちゃんのSSです

・序盤、地の文 途中で台本形式



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「簡単に見つかるわけないよなぁ……」

誰に話しかけるでもない、適当に放ったひとりごとは、街の喧騒にかき消されていった。

東京。

田舎生まれ、田舎育ちの僕にとって、この街はあまりにも大きくて、魅力的で、疲れる。
何処へ行くにも、人、人、人の波。
電車の中で溺れそうになるという事象はここで生活するまで考えもしないことだった。
スクランブル交差点というものを初めて見たのもこの街で、一斉に人が動く様は言いようのない恐怖に襲われた。

そして今日は聖なる夜。
雪は降っていないけど、道行く人の口から漏れる息は白く、赤や黄色の明かりが灯された道はまさにクリスマスという光景で、僕を遠慮無しに襲ってくる。


しばらくすれば慣れるよ。
同じプロデューサーである先輩は笑いながらそう言ってくれたけど、半年以上経った今でもその感覚は相変わらず僕の中に在り続けていて、慣れる前に心が折れそうだ。

決まるときは決まるし、そうじゃない日は何をやっても駄目。
時には開きなおってみるのも方法のひとつ。
諦めることは悪いわけじゃない。

そうは言ってくれたけど、こうも見つからないと自然と焦りが生まれる。
……ひとりでスカウトに出てから5日目。
まだ昼間とはいえ、何の成果もあげられずにただ体力と時間だけが削られていく。


この時期、みんな何かしらの用事があって外に出ているだろうに、そこへ知らない男がスカウトと言って話しかけてくるんだから……普通に考えて相手をするわけがない。

都会人はこの人混みという海を平気な顔で遊泳している。
僕はというと、まるで泳ぎ方がわからない鯱みたいだ。
人の流れに逆らっているようで、なかなか前に進めないでいる。
手に持った鞄が、自分の肩が、体が、ぶつかっていくたびに、すみません、すみません、と小さく外に出す。
ようやく抜けた先にも、相変わらず人の群れは続き、踏み出す予定の足が前に出せなくなる。

これが田舎者への洗礼か、と今更感じる。
人の熱気は予想上のもので、そこでじっとりとかいた汗が、冬の冷えた空気で氷のような冷酷さに変わる。


夜が来てもこの街は明るいままだけど、候補となり得る人物はぐっと減ってしまうだろう。
だから夕方までが勝負。

まだ経験がないからしょうがない。
そう周りからは言われたけど、いつまでもそれに甘えているわけにはいかないんだ。

「……よしっ」

冷たい空気を肺に入れ、その分だけ大きく息を吐く。
切り替えていこう。
時間は有限。
今日こそは胸を張って事務所に帰るんだ。
気合いを入れ直し、通りすがりの群れの中に混ざって歩く。





目に痛いほどの橙が視界に飛び込んできて、心なしか人の流れが強くなった頃になっても、僕の状況は何も変わっていなかった。

成果なし。

そんな言葉が頭を支配して、手に持った鞄が酷く重くなったように思えた。
携帯には千川さんからの着信があり、折り返しかけると今日はもう帰社しなさいとのこと。
今度は電話越しに放ったすみませんという言葉が、嫌に軽く響いた。

もう少しだけ、あと少しだけここを回って、何もなければ事務所に戻ろう。
かすかな希望を求め、いや、悪足掻きと言うのがいいか。
僕はあてもなく歩みを進めた。


しばらく行くと、歩道の端でしゃがみこんだ人がひとり、視界に入った。
この都会でもやけに目立つ赤いパーカーを頭まですっぽりと被り、何かをじっと見ている。
気になって近づいてみると、その横顔から察するに女の子で、綺麗な顔立ちをしていた。

表情を作ることもなく、本当にどこか一点に視線を飛ばし続けているだけだったのに、僕は不思議と彼女から目を離せなかった。
それはこの聖夜にひとりで道端にしゃがみ込んでいる少女、という好奇な要素があったからかもしれない。

すると視線に気づいたのか、彼女の方からこちらに顔を向けてきた。
正面から見ても彼女への評価は変わることなく、むしろ自分の感性の扉をノックし続けてくる。
フードから覗く切り揃えられた前髪が特徴的で、彼女の拘りかと思うほど、それは丁寧に整えられていた。


「あ、あの」

思わず声をかけたけど、どうしよう、何も考えていない。
こう言ったら次はこうしようと頭の中で描いていたいものはいつの間にか消えて、そこにはぽっかりと空白があるだけだった。

「えっと、今、時間あるかな?」

「……ナンパ?」

「あ、いや、ナンパとかじゃなくて……こういうものなんだけど、って名刺……あれ、どこいった……」

こういう時に限って名刺入れが行方不明。

「ちょ、ちょっとごめん」

人の邪魔にならないように通りの端に移動して、身体中のポケットを探す。
どこに隠れたのか、それとも落としてしまったのか。
次に鞄の中へと移るも、ごちゃごちゃと物が乱雑に入れられている中で、名刺入れは見つからない。

立ち上がり、ポケットに手を突っ込んでこちらをじっと見る彼女。
早く自分を証明するものを出さないと、立ち去られてもおかしくない。
そんな気持ちが余計焦らせる。


「あっ」

手に持っていた手帳と財布が地面に落下すると、そこから名刺入れが飛び出してきた。
どうやら手帳の間に隠れていたようで、無事発見はできたけど、落下の衝撃で勢いよく中身が散らばってしまった。

「ご、ごめん。拾うから……」

何やっているんだろう、僕は。
ひとりで焦って、ひとりで慌てて、バカみたいだ。

「……ぷろでゅーさー? アイドル……部門?」

散乱した中から一枚を拾って、それをまじまじと見る彼女。

「あー、えっと、今スカウトやってて……その、ちょっと話だけでも聞いてもらえないかなと思って」

「スカウト!」

大きな声を出して、先ほどまでの真顔とは一変、星のエフェクトが周りに散らばるような表情でこちらを見てきた。
その顔があまりにも可愛くて、眩しくて、思わず見入ってしまった。

「全然いーよー。アタシもヒマしてたとこだし」

「か、軽いね」

自分で声かけといてなんだけど、あまりにも無警戒で心配になってくる。

「だって、お兄サン、絶対悪い人じゃないでしょ?」

その笑顔でそんなこと言われると、何も反論できなくなる。





「へー、新人サンなんだねー」

近くにあるファミレスに入り、僕は熱いコーヒーを、彼女はオレンジジュースを飲んでいる。

「今日で5日目になるんだけど、全然相手にされなくて……こうやって話を聞いてもらえたのは君が最初だよ」

「じゃあ、初めてがアタシなんだねー」

「その言い方は誤解しか生まないからやめようか……」


名前は喜多見柚。
学生。
実家は埼玉なのに、何故県外にいたのかと聞くと、何か面白いことを探していたらいつの間か東京に出てきてしまい、近くをウロウロしていたとのこと。
無計画というか、その迂闊さにさっき出会ったばかりの僕でも不安になってくる。

日が落ちるのが早い冬にそんなことをして、ご両親は心配しているんじゃないかと聞くと「門限にはちゃんと帰るから大丈夫だよ」と何の答えになっていない返事が飛んできた。
素直そうな娘だし、彼女のことを信頼しているということだろうか。
もしくは、その奔放さに呆れてるか、放任主義か。

「へー、スカウトかー……アタシがアイドルねー……」

「あの、もちろん無理にとは言わないし、帰ってご両親に相談してからでいいからさ……」


「……いいよ。なるよ。なりたいっ!」

「え?」

まさかコーヒーが冷める前に返事が聞けるなんて考えてもいなかった僕はおもわず目を丸くした。

「いや……こっちから話を持ちかけてなんだけど、もっと悩むもんじゃないの?」

「えー、そっかな?」

「未成年なんだしご家族と相談して、とかだと思うけどさ……いや、すぐ返事貰えるのはすごいありがたいんだけどね」

「だって楽しそうじゃん」

あまりもふわふわした理由に椅子からずり落ちそうになる。

「それに、さっきも言ったけど悪い人じゃいから大丈夫カナって」

「そ、そう?」

「悪い人が名刺出すくらいであんなにあたふたしないよー。それにドリンクバーおごってくれたし。あっ、パフェ食べたいなー」

「……どうぞ」

「へへっ、ありがと。じゃあこの一番おっきいやつ頼もっかなぁー」

もうすっかり彼女のペースだ。





「んー、ごちそうさま♪ もうお腹いっぱいカナ~?」

結局パフェを食べる前にハンバーグ定食を頼んだ彼女は、甘いものは別腹と言って、見ているだけで胃もたれしそうなパフェをペロリと胃に収めた。

クリスマスだから家に帰ったら何か料理があるんじゃないかと聞くも、「それは昨日やったから今日はいいカナって」と。
とにかく、お金を下ろしておいてよかった。

「あっ」

ファミレスを後に、駅へ向かう途中、彼女が上を見て声をあげた。
僕もそれに続いて視線の先を追うと、黒に染まった空から白のシャワーが降ってきた。

「降るなんて言ってなかったのに……」

積もるような量ではないけど、綺麗だと感じるには十分だった。


「光り輝く雪のシャワーだねっ」

「詩人だね」

「なんだか祝福されてるみたい」

「祝福?」

「うん。そう思わないカナ?」

「誰を?」

「柚を……ううん、アタシたち」

そう言って彼女は数歩踏み出し、左足を軸にしてその場でくるっと1回転。
全身で雪を浴びる。

「えへへ、どう? アイドルっぽい?」

「あんまりはしゃぐとこけるよ」

「大丈夫だって……わわっ」

「あっ」


「あ、りがと……」

「ど、どういたしまして」

バランスを崩した彼女を反射的に抱えた。
先ほどまで机ひとつを隔てた距離だっただけに、ぐっと近づいたこの状態は、正直、恥ずかしい。

「あ、えっと……もう大丈夫だから」

「え、あぁ、ご、ごめん」

……気まずい。
タイミングがいいのか悪いのか、僕らのいる場所は人通りがなく、あたりは静寂に包まれている。
おまけに頭上からは雪、今日はホワイトクリスマス。
形容しようのない変な空気が2人の間に流れる。

沈黙が続く。

「あの……」

まったく同じタイミングで、呼吸で、僕たちは言葉を放った。
顔に熱が帯びていくのがわかる。
頬に当たった雪が一瞬で溶けていくのを感じる。


柚「見つめ合う2人。その間に言葉なんていらなかった。ゆっくりとお互い歩み寄り、そして……」

モバP(※以下表記P)「ちょっと待って」

柚「あれ? Pサン、いつの間に戻ってきたの?」

P「さっきからずっといたけどさ。いろいろとツッコミたいとこはあるんだけど、とりあえず事実を捻じ曲げるのはよくない」

柚「そうカナ?」

あずき「それで! そのあとどうなったの!? イチャイチャ大作戦!?」

P「桃井も落ち着こうか」


P「まず柚が話してるのに、何で僕の視点で進むのかな」

柚「面白そうだったから!」

P「……それを他人に伝えちゃうと変な誤解が生まれるから」

あずき「き、キスは、キスはしたのっ!?」

P「……こんな風に」

柚「てへ♪」


P「何もしてません。時間も時間だったんで家まで送り届けました」

柚「ちょっと疲れちゃってたから、肩は借りたよ」

あずき「やっぱりイチャイチャ……」

柚「なんかね、Pサンって落ち着くんだよ。よくわかんないんだケド。あっ、だからってあずきチャンに貸さないからね~柚のプロデューサーだから!」

P「僕は柚の所有物かよ。一方的に寄りかかってきただけで、疲れてるのに無理に起こせないでしょうよ」

柚「Pサン優しいから、柚のワガママいっぱい聞いてくれるもんねー♪」

P「そういう言い方は……」

柚「えへへー♪」

あずき「……」


あずき「柚ちゃんのプロデューサーと柚ちゃんって仲良いよね」

柚「うん。仲良いよ!」

P「こら、すぐくっつくのはやめなさいって」

柚「減るもんじゃないからいいでしょー」

P「前にも言ったけど、柚はアイドルなんだからもうちょっと日頃の行動を改めてさ」

柚「ちゃんとしてるよ。Pサン以外に」

P「それが問題なんだって」

柚「事務所だしいいじゃーん。ぶーぶー」

あずき「2人は付き合ってるの?」

柚「え?」

P「えぇ……いきなり何言い出すの……」

あずき「だってだって、仲良しの男女だよ? それに柚ちゃんはすぐプロデューサーに飛びつくし、プロデューサーはやめなさいって言いながら許容しちゃってるし。少なくともあずきには立派な恋人同士だって、そう見えるよ」

P「そ、そんな感じに見えてるんだ……」


柚「んーっとね、Pサンは柚に付き合ってくれてるだけだよ」

P「圧倒的に言葉が足りない」

あずき「やっぱり!」

P「付き合ってないから。恋人同士じゃないから、お願いだから手に持った携帯で連絡しようとしないで」

柚「そうやって全力で否定されるとちょっぴり傷ついちゃうなー」

P「全然そう見えないんだけど」

柚「すっごいショックだよ! 8時間しか寝られないくらいに」

P「健康的でいいと思うよ」

柚「あー! Pサン、アタシのことバカにしてるでしょ~これでもセンサイ、なんだからね! 取扱注意だよ!」

P「そう聞くと爆発物みたい」

柚「確かに柚はダイナマイトでセクシーなボディだもんね~」

P「それを言うなら桃井の方じゃ……」

柚「むむっ。Pサンはあずきチャンみたいなタイプが好みなんだ」

P「えっ、なんでそうなるの」


柚「確かにあずきチャンはオンナノコらしいスタイルだけど……柚だってなかなかのモノだよっ」

P「張り合わなくていいから……魅力は十分理解してるから」

柚「じゃあ、柚の魅力、てるみー?」

P「元気なところ」

柚「他には他には?」

P「えー……天真爛漫なところ」

柚「天津甘栗?」

P「学生、大丈夫か……」


忍「そうやって2人の世界に入っちゃうところとかね」

あずき「柚ちゃんが自分のところに引き寄せちゃうっていうのもあると思うけどね~」

忍「仲が良いのはいいことだけど、アタシたちアイドルなんだからさ。やっぱりそこの線引きっていうのは大事だと思うよ」

柚「忍チャン、いたんだ」

忍「柚ちゃんの話も聞いてたよ」

柚「盗み聞き?」

忍「聞こえたんだって」


柚「ていうか、穂乃香チャン以外揃ってるんだねー。珍しいね」

忍「こういうとき、柚ちゃんが一番最後だからね」

柚「むむむっ。今日はちゃんとPサンに起こしてもらってるから一番だったよ!」

あずき「え……それって……」

P「迎えに行ったらまだベッドの上にいるって親御さんに言われてさ。何故か僕が起こすことになったから仕方なく、本当に仕方なく」

柚「オトメのむぼーびな寝顔を見るなんて、責任とってもらわないとダメだよねー?」

P「責任って?」

柚「……Pサン、たまーにイジワルなこと言う」

P「え?」

忍(あっ、顔が赤くなった)

しのぶ(照れてる柚ちゃん、かわいい♪)


柚「むぅー」ぷくー

P「何で怒ってるの」

柚「おこってまーせーんー」

忍「恥ずかしがってるんだよ」

柚「忍チャンもそんなこと言っちゃう?」

忍「反応が面白いからさ」

柚「柚、知ってるよ! 忍チャンが自分のプロデューサーを部屋にあげたってこと!」

あずき「えっ」

忍「な、なんでそれを!?」


柚「ふっふっふ……アタシの情報網を見くびらないことだねー」

P「先輩、そんなことしてたんだ……」

あずき「えっ、ど、どういうこと!?」

忍「じ、実家からたくさん送られてきたリンゴ食べるのを手伝ってもらっただけ! それだけだから!」

柚「ウサギに切っちゃったりなんかして~?」

忍「だからなんで知ってるのよっ!」

あずき「あずき、聞いてないよ!」

忍「い、言い出すタイミングがなかったんだって!」

あずき「条約違反だよ、それ!」

忍「あずきちゃんだって、ふたりだけの秘密の作戦とか言って抜け駆けしようとしてたじゃない!」

あずき「あ、あれは、流れで、ってそれもうあやまったじゃん!」


柚「条約?」

P「先輩も大変だなぁ……」

ガチャッ

穂乃香「ごめんなさい! 遅れました!」

柚「ヤホー、穂乃香チャン」

P「遅れたって、集合時間まで30分もあるよ」

柚「穂乃香チャンは真面目だからねー。テンション上がりすぎて1時間も前から事務所にいるアタシたちとは大違いだよ、まったく」

穂乃香「あの、忍ちゃんとあずきちゃんはどうしたんですか?」

P「うーん……僕らが口を出せる問題じゃないから、そっとしておいてあげて」

穂乃香「はぁ……」


柚「穂乃香チャン穂乃香チャン。その下げてる大きい紙袋は何カナ?」

穂乃香「これはですね……ふふ……はいっ!」

ぴにゃーん

柚「うわっ、デカいブサイクだっ!」

穂乃香「ぶ、ブサ……」

P「い、いやいや、趣のある顔してるよね。僕は嫌いじゃないなーぴにゃこら太」

穂乃香「で、ですよねっ! 2ヶ月前から予約していて、今日発売だったんです。それで朝一番に取りに行って、事務所に置かせてもらおうって考えて」

P「おい、柚。取り出すときのあの表情、見ただろ。人が好きなものを真正面からブサイクなんていうのはよくない」ヒソヒソ

柚「あの大きさも相まってつい……なんで穂乃香チャン、あいつが好きなんだろ。永遠の謎だよ」ヒソヒソ

穂乃香「ふふ……」ギュー

P「とりあえず話を合わせておきなさい。せっかくみんなで出かけるんだから、雰囲気悪くしてもしょうがない」ヒソヒソ

柚「もう向こうでちょっとした小競り合いが起きてるんだけどねー」ヒソヒソ


柚「い、いいよねーぴにゃ。よく見たらなかなか憎めない顔してるし」

穂乃香「柚ちゃんもぴにゃこら太の良さがわかるんですね!」

柚「えー、あー、うん。まぁね……」

穂乃香「嬉しいですっ。ここのリボンがなんだか忍ちゃんっぽいですよね」

柚「えっ、そ、ソウダネー。似てる似てる」


柚「すっごい胸が痛いっ」ヒソヒソ

P「あの笑顔を奪うことが出来る?」ヒソヒソ

柚「……卑怯だよねー」ヒソヒソ


忍「はぁ……もうラチがあかない……」

あずき「とりあえず……ここは休戦大作戦ということで……」

柚「語呂悪っ」

穂乃香「おふたりは何で盛り上がっていたんですか?」ぴにゃー

忍「うわっ、ブサ」

柚「わーわー! そ、そういえばみんな揃ったねー。ちょっと早いけど行こうカナ? ねっ、Pサン」

P「そ、そうだな! せっかく遊園地に行くんだし、遊ぶ時間は長い方がいいよね。ほら、じゃあ行こうか」

あずき「穂乃香ちゃん、それ持っていくの?」

穂乃香「えっ、あぁ! 置いていきます。抱き心地がよくてつい……」

忍「なんか、出かける前からどっと疲れちゃったな……」


P「ふー……フォロー助かった……」

柚「自分でもびっくりするくらいいいパス出したなーって思ったよ!」

P「綾瀬はおとなしそうだからいいとしても、複数のアイドルの面倒を見る人って本当にすごいなって感じたよ……フリスクは全員女子高生だもんな」

柚「……Pサンもいつかアタシ以外の娘をプロデュースするのかなぁ」

P「さぁ、どうだろう……少なくともしばらくは柚ひとりで手いっぱいだから難しいよ」

柚「そっか」

P「どうかした?」

柚「……ううん、なんでもないよ」

P「?」


柚「Pサンひとりじめー」ニパー

P「だからひっつかない」

柚「ダメって言われたら離れるよ?」

P「……別にそこまでは言わないけど」

柚「へへ♪ 柚はPサンのそーいうところが好きだよ」

P「なんか慣れてきた自分が怖いな……」

柚「みんなのオフ合わせてくれて、アリガトーのぎゅぅー♪」ギュー

P「お礼を言うなら僕じゃなく、全員のオフを調整してくれた先輩にな」

柚「アタシにとってプロデューサーはPサンしかいないんだから、素直に好意を受け取るべきだって♪」

P「はいはい……ほら、行こう。みんな先に行って待ってるよ」

柚「はーい♪」





この街に何人の女の子がいるんだろう。
具体的な数字はわからないけど、美人だったり、可愛かったり、スタイルが良かったり……いろんな子が星の数ほど存在する。
その中から、人混みからアタシを見つけ出してくれた人。
手を取ってくれた人。

「ねぇ、Pサンはなんで柚に声をかけてくれたの?」

知りたかった。
いつも以上に隣で難しい顔をしながら運転している人に。
自分の価値とかそういうのはどうでもよくて、純粋に理由を。

「そう言われても、ふと目にとまったんだよなぁ」

「なんで見つけたのかなぁって」


それを運命なんて書けば、奇蹟的だなんて呼べば、途端にチープになってしまうことは知っている。
でも、アタシはこの聖夜の出会いをそう呼びたくて仕方ないんだ。

「……赤」

「赤?」

「赤いパーカー、着てたから」

「ナニソレ~」

ロマンスのカケラもない答え。
照れ隠しにしても、他に言いようがあったんじゃないカナ?

「もっと何かあったんじゃないのぉー?」

「え、えぇ、なにかあったかな」

Pサンはウソをつくとき顎を触るクセがあるんだよ。
へへ、よく見てるでしょ?
言葉にするのは恥ずかしいよね。
でも言葉にしなくちゃ意味を持たないんだよ。


「じゃあ今日も迷ったら見つけられるね!」

「迷う前提はやめてくれるとありがたいな」

出会ったときとは違うものだけど、この赤いパーカーがあれば何処へだって行ける。
地平線の向こうだって、最果ての街だって。

「へぇー……アタシたちがいる前で公然とイチャつくとは」

「ラブラブ大作戦、だねっ」

「聞いてるこっちが照れます……」

すっかり忘れてた。
みんなが後部座席にいるということを。

「大きい車じゃないから仕方ないけど、真っ先に助手席に乗ったのはちょっと面食らったよね」

「自然すぎて見せつけられちゃったって感じだね~」

「あの、おふたりはどういう関係で……?」

穂乃香チャン、それさっき終わった話だよ。


窓の氷が溶けたあとでも、ずっと隣にいてくれるサンタクロース。
千個貰うよりも、このたったひとつの出会いが最高のプレゼント。
だってこんなに楽しくて面白くて素敵なコト、滅多にないじゃん。
ん? だったらピーターパンの方が合ってるのカナ?
ま、いっか。

だからさ、アタシが、もしトップアイドルになっても、そのあともずぅっと……

「ん……メールか」

「お仕事の連絡?」

「私用の携帯だから、メルマガとかじゃないかな。運転中だし、あとで確認するよ」

「そーした方がいいよ。へへっ♪」

いつか、ちゃんと伝えよう、この気持ちを。
自分の口で、直接アナタに。

「柚、Pサンとの遊園地もキョーミあるなー?」

「……考えとくよ」

「ホントに? やた♪」



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おわり


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