新約『ほむら「希望はこの世界にあった…」』(165)

本ssはこれを再編成したものになります
生温かい目で見守ってやってください


藍花(うぅっ……ここは……どこ……?)

暗闇の中、わたし、夏見藍花は目を覚ました。

藍花(……瓦礫の…中……?)

何が起きたのかわからず、頭の中の情報を整理する。

藍花(確か、わたしは……お父さんとお母さんと一緒に……デパートに来てて、それで……)

少しずつだが、思い出してきた。
大好きなお父さんとお母さん。
デパートで買い物をして、ファミリーレストランで食事をして。
そして、三人で手を繋いで帰るはずだった。
いきなり。そう、いきなりだ。
デパートの中の照明が落ち、足場が崩れた。
手を繋いでいた両親とも、落下するウチに離ればなれとなった。


藍花(……ああ、そうか……)

よくはわからない。ただ、わかったことがひとつだけ。

藍花(………わたしは、運がよかったんだ……)

崩れゆく建物の中にいて、瓦礫の下敷きにならなかったのだ。
もちろん、わたしの他にも生きている人は何人かはいるだろう。
でも、わたしの両親は……多分、生きてはいない。
なんとなく、直感がそう告げていた。

藍花「……グス……ヒック……」

涙が零れて来る。
不安、傷の痛み、孤独感。色々なものがわたしの心の中を渦巻いていた。

藍花「……助け……誰、か……」

誰にともなく呟く。あるいは、救助隊が来てくれていれば。

藍花「誰か……わた、し……ここに……」

唯一傷の浅そうな右手を、瓦礫の中から持ち上げる。
と、目の前の瓦礫崩れたのか、破片がわたしの顔に当たった。

藍花(っ……)

咄嗟に、右手の動きを止める。
それに呼応して、瓦礫の軋みも止まった。

藍花(……少しでも動いたら、崩れる……?)

持ち上げた右腕を、地面に力無く落とす。
その衝撃によって、瓦礫が再び軋む。

藍花「ひっ……」

しかし、崩れ落ちて来ることはなかった。

藍花(………)

助かった。いや、この状況は助かった、と言えるのだろうか。
身動きは取れず、辺りは一切の光も無い状態。

藍花(助けて……誰か……っ)

心の中で呟く。不安に押し潰されそうだった。
誰でもいい。助けて欲しい。
………光が……欲しい。

藍花「光が欲しい……っ」







qb「それが、キミの願いかい?」
藍花「……ぇ……?」

何者かの声が聞こえ、目を開く。そこには、白い体に深紅の眼をした、まるで人形のような生き物がいた。
辺りは闇に覆われているはずなのに、なぜかその姿だけがくっきりと見えている。

qb「初めまして。僕の名前はキュゥべえ。僕なら、キミをここから出してあげられるよ?」
藍花「ここから、出して……くれるの……?」
qb「正確に言うなら、僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ」

魔法少女……?

qb「状況が状況だから簡潔に説明するけれど、魔法少女になるということは魔女と戦う運命を受け入れるということだ。それでもキミは、それを望むかい?」
藍花「それ、は……」

いきなりそんなことを言われても、思考が追いつかない。

qb「魔法少女になれば、こんな瓦礫の中からなんて簡単に出ることが出来るよ?」
藍花「………」

迷っている暇は、なさそうだった。
もう、心身共に限界だ。一刻も早く、ここから出たかった。

藍花「……なる……わたし、魔法少女になる……だから、助けて……!」

かすれた声で、なんとかそれだけを言いきった。

qb「なら、キミの願いを聞かせてくれ」
藍花「……かり……光が、光が欲しい……っ」
qb「契約、成立だね」

キュゥべえのその言葉を最後に、わたしの意識は闇に落ちた。

―――――
―――



………眩しい。眩しい?

藍花「う……?」

眩しさを堪え、目を開けた。
光……だ。

藍花(わたし……助かった……の……?)

いつの間にか、瓦礫の山の上に倒れ込んでいた。
無意識のうちに自力で這い上がったのだろうか。覚えていない。
ふと、手の中にある感触に気付く。
握りしめた手を開き、その感触の正体を確認する。
そこには、綺麗な純白の宝石があった。

藍花(……これ、は……?)

宝石の次に、空を見上げた。淀んだ雲が、ありえないスピードで流れていく。
風も強い。台風でも起こっているのかと錯覚するほどだった。

救助隊員「おい、生存者がいるぞ!」
藍花「……」

数名の救助隊員がわたしの下へ駆け寄ってくる。

救助隊員「君、大丈夫か?意識はあるか!?」
藍花「………は、はい……あります……」

相変わらずかすれた声で、それだけ答える。
数名の救助隊員が、わたしを担架に乗せて運び出す。

救助隊員「すぐに病院へ連れて行く!もう大丈夫!」
藍花「………」

担架に揺られながら、空を見上げ続ける。
ふと、視界の端に何かが映った。

藍花(………?)

何かが空に浮かんでいるようだった。その『何か』の全てを、視界に捉えた。

??「アハハハハハ……キャハハハ……」

巨大な何かが、笑い声を上げていた。
ドレスを着た人形を、逆さまにしたような姿。
頭は下で、足に当たる部分には巨大な歯車がぐるぐると回っている。

藍花「……ひ……」

短い悲鳴が、口から漏れた。
なんだ、あれは。怖い。本能が、そう告げている。

救助隊員「もう大丈夫!何も恐いものはないからね!」
藍花「………」

救助隊員の賢明な励ましを聞きながら。
わたしは救急車に乗せられ、病院へと運び込まれた。
その間の事は、よく覚えていない。
救急車に乗せられるまでの間、ずっと『巨大な何か』から目を離せずにいた。

~~~

次に意識を取り戻したのは、病院のベッドの上だった。
体の至るところに包帯を巻かれ、右腕には点滴を打たれている。

藍花(わたし……助かったんだ……)

手のなかにある感触に気付き、それを確認する。
瓦礫の上で気がついた時に見た、純白の宝石。

藍花「……これは……?」
??「それはソウルジェム。魔力の源であり、魔法少女の証でもある」

窓際から声が聞こえて来る。そちらを向くと、そこにはあの時に現れた白い獣がいた。
確か、名前はキュゥべえと言ったか。

藍花「わたし……魔法少女になったんだ?」
qb「そうだよ、夏見藍花。そのソウルジェムを使えば、傷なんてあっという間に治るよ」

キュゥべえに言われるまま、ソウルジェムを傷口に近づける。
ソウルジェムは淡い光を放ち、わたしの左腕の傷をゆっくりと癒して行く。

藍花「……すごい。これが魔法少女の力なんだ」

魔法の力。あの時、瓦礫の中から脱出できたのも、この魔法の力でだったのだろうか。

藍花「お父さんとお母さんは……?」
qb「あのデパートから救助されたのは、キミだけのようだね」
藍花「……うぅっ……お父さん、お母さん……」

目から涙がこぼれる。やっぱり、わたしが助かったのは奇跡に近かったんだ。
……いや、わたしだってこうして魔法少女になっていなければ、死んでいたかもしれない。

~~~

ひとしきり涙を流し、落ち着いたころ。
救助隊に助けられた時に見た何かのことを思い出し、キュゥべえに問いをぶつける。

藍花「あれは……一体、なんだったの?」
qb「あれ、とは?」
藍花「救急車に乗せられる時に見たんだけれど……巨大で、笑い声を放つ何か」
qb「ああ、そう言えばキミが運ばれる時にはもう魔法少女だったね。なら、あれを見たのか」
藍花「キュゥべえは……あれが何か、知っているの?」
qb「あれは『ワルプルギスの夜』。史上最悪の魔女だ。キミ達魔法少女には見えるだろうけれど、一般人にはあの姿は見えない。だからあの災厄も、ただの天災としか認識していないだろうね」

ワルプルギスの夜……史上最悪の魔女……。

藍花「それじゃ……あの天災は、そのワルプルギスの夜が起こしたものなの?」
qb「そう。そして、その魔女を倒すのが、キミ達魔法少女の使命だ」
藍花「………っ」

ショックだった。偶然の天災ならまだ諦めはついた。
あれが……何者かの仕業だったなんて。

qb「今回の災厄によって、この街には多くの絶望が蔓延している。他の魔女も、動きが活発になるだろう。キミの出番だよ、夏見藍花」

それからわたしは、キュゥべえに魔法少女のことを教えてもらった。
魔法少女の存在意義。ソウルジェムの扱い方。
そしてキュゥべえのことが見えるのは、魔法少女と、その素質を持った者だけであること……。

藍花「………」

考えを整理したかった。ベッドから降り、点滴を外すと、わたしは病室から出る。

qb「どこへ行くんだい?」
藍花「屋上に……」

屋上で風を感じれば、落ち着いて考えを整理出来るんじゃないかと思った。

屋上の扉を、ゆっくりと開ける。
ギィィィ、と軋む音を上げながら、ドアはゆっくりと開く。

屋上の手すりに寄りかかり、天災によって変わり果てた街を一望する。

藍花「ねぇ、キュゥべえ」
qb「なんだい?」
藍花「わたし、魔女を倒す……倒し続けるよ」

もう二度と、あんな悲劇は起こっちゃダメだ。

qb「うん、そうしてくれ。それが、魔法少女の使命だからね」
藍花「ワルプルギスの夜は、いつ、どこで出現するの?」
qb「僕にもわからないよ。彼女は神出鬼没だからね。大地震や火山の噴火なんて、簡単に予測出来るものじゃないだろう?」
藍花「………」

キュゥべえは表情を変えず、そう言い放つ。

qb「もしかしたら、他の魔法少女が何か知っているかもしれないね」
藍花「他の……?」
qb「近いうち、ここに現れる魔女を狩る為に、他の街から魔法少女が訪れるだろうね。さっき、グリーフシードの話はしただろう?」
藍花「……」

キュゥべえの話を聞きながら、手の中のソウルジェムをもう一度見る。
淡い光を放っていた。

藍花「ねぇ、キュゥべえ……これ……?」
qb「魔女の反応、だね」
藍花「……いいわ。まずは、一体……魔女への復讐ね」

病院の屋上から、勢いよく飛び降りる。
着地の瞬間に、足回りを強化してうまく着地する。

藍花「……こっち、ね」
qb「ソウルジェムがより強い光を放つ場所。そこが、魔女が結界を張っている場所ってわけさ」

藍花「………この辺り……」

ソウルジェムの反応を頼りに歩き、着いた先。
そこは、小学校だった。
わたしの母校。思い入れのある場所だ。
今は避難所になっており、人もたくさんいるだろう。この魔女を放っておくのは危険だ。

藍花「……?」

つま先に何かが当たった。足元を確認すると、そこには小型の懐中電灯が転がっていた。
この災害時だ、誰かが落としたのかもしれない。
その懐中電灯を拾い上げ、ポケットの中にしまう。

より強い反応を示していた場所は、体育館の裏。
なんとなくわかる。ここに、結界を張っているのだろう。
キュゥべえに教わった通り、魔法少女の姿へ変身する。
藍色と紫をベースにした、ワンピース服。

藍花(……これが、わたしの魔法少女の服……)
qb「覚悟は出来ているかい?」
藍花「……うん」

自身の衣装をひとしきり眺めた後、魔女結界に侵入する。

結界内は、まさに現実離れしている、と表現するのがぴったりだった。
数メートルはある巨大な鉛筆や消しゴム、ノートと言った勉強道具が不規則に散乱している。
ひと言で言えば狂気と混乱に満ち溢れていた。

藍花(何よここ……早く倒して、さっさと出よう……)

こんなところに、いつまでもいたくない。
結界内を歩いて行くと、大きな扉があった。
引き戸だ。その扉には窓ガラスがある。その窓ガラスから先の光景が見えるかとも思ったが、マジックミラーなのか何なのかはわからないが、何も見えなかった。
その先に、異様な空気を感じ取る。

藍花(ここが……魔女結界の、中枢なのかな)

意を決して、その引き戸を勢いよく開け放つ。

藍花(………)

教室のような空間……とは言っても、広さは体育館以上。机や椅子も、自分の背よりずっと高い。
まるでわたしが小さくなってしまったような錯覚さえ覚える。

qb「現れた!」
藍花「っ!」

キュゥべえの言葉を聞き、反射的に身を強張らせる。
教壇に当たる場所。そこに、魔女がいた。
体中至るところに目があり、内側から釘がたくさん飛び出したような姿をしている。

藍花(グロテスクな姿……っ!)

先程拾った懐中電灯を取り出し、スイッチを入れる。
と、光が出て来るはずのところから、刀身が浮かんできた。
ライトセーバーとでも表現すればいいのだろうか。
頼もしい武器が出来たと思い、それを片手に魔女に飛びかかる。

藍花「やぁっ!!」

光の剣を、上から真下に振り下ろす。
嫌な感触をわたしの手に残しながら、魔女の腕に当たる部分を切り落とした。

藍花「やった……っ!?」

切り落とした魔女の腕から、大量の鎖がわたし目掛けて飛んでくる。
その鎖は、わたしの体を強打した。その反動で、壁まで吹っ飛ばされる。

藍花「うぐっ……はっ……!」

体中が痛い。うつ伏せ状態のまま、身動きが取れなくなる。

魔女「ケタケタケタ……」

魔女はまるであざ笑うかのように、わたしの姿を見降ろしているようだった。

藍花「………っ!」

うつ伏せ状態のまま、手に力を込める。

藍花「隙アリっ!!」

期を見計らい、うつ伏せ状態から飛び上がる。
そして両手に持った懐中電灯を胸の前に突き出し、光線を繰り出した。

藍花「消し飛んじゃえぇぇっ!!」

光線は、魔女の体を大きく吹き飛ばした。

魔女「ケ……ケタケタケタケタ……」

魔女は笑い声なのか悲鳴なのかわからない声をあげながら、その姿を崩壊させていく。
それと同時に、結界も少しずつ崩れていく。

藍花「……倒した……」

結界が完全に消え、辺りは体育館裏の光景に戻った。

qb「やるじゃないか藍花!」
藍花「……」

魔法少女姿から、病院の服装に戻る。
わたしの足もとには、何かが転がっていた。それを拾い上げる。

qb「それがグリーフシード。魔女退治の、見返りみたいなものさ。キミのソウルジェム、よく見てみるんだ」

キュゥべえに言われ、手の中にあるソウルジェムに視線を移した。
純白だったはずのソウルジェムは、少しだけ濁っていた。

qb「穢れが溜まっているだろう?そこで、そのグリーフシードの出番だ。キミのソウルジェムに、そのグリーフシードを近づけてみるんだ」
藍花「………」

言われるまま、グリーフシードにソウルジェムを近づける。
すると、ソウルジェムはみるみるうちにその純白の輝きを取り戻した。

qb「それにしても、キミの魔法はすごいね」
藍花「どういうこと?」
qb「基本、この手の魔法というものは1からものを作ったり変化させたりすることが多い。だけどキミの場合は元からある光のエネルギーを集め増幅させる力が備わっている。
   1から作る魔法と違って魔力の消耗が少ない。つまり燃費がいいんだ。まぁどの魔法を使うかにもよるけどね」
藍花「魔法少女って……みんな同じ能力じゃないの?」
qb「違うよ。基本となる力は何を願ったかによって大きく異なるんだ。キミの場合は、光が欲しいと言う願いだっただろう?
   それが元になるから、キミは光を操る魔法少女となったんだ」
藍花「……それじゃあ、光の無いところではどうすればいいの?」
qb「確かに光が無ければ、キミの魔法はその真価を発揮する事は出来ないだろう。でも、昨今では夜でも光がないなんてことはまず無いと言っていいだろう。
   それでも心配な場合は、光を発するモノ……さっき拾った懐中電灯のようなモノを常備していればいい」

キュゥべえの言葉を聞き、先程拾った小型の懐中電灯を取り出す。

藍花(……これが……)

それを、大切にポケットにしまう。

藍花「……わたしは、魔女を倒す……」

決意を呟き、学校を後にする。

qb「家に帰るのかい?」
藍花「………帰る場所が無い」
qb「そうなのかい?」
藍花「……」

例え、家が無事であっても。家族がいないのなら、それはわたしの家とは言えない。
ただ虚しくなるだけだ。
変わり果てた道を、当てもなく歩き続けた。

―――――
―――


藍花「ふぅ……」

駅のホームに結界を張っていた魔女を倒し、ひと息つく。
今回も、グリーフシードが手に入った。

qb「頑張るね、藍花。三日で五つもグリーフシードを集めるなんて。まぁ、それだけこの街に絶望が蔓延しているってことでもあるだろうけれど」
藍花「………」

わたしにとって、魔女退治は両親の復讐でもあり、人間を守る大切な役割でもあった。
頑張るのは当然のことだ。

qb「キミは無口だね、藍花。せっかく言葉という意思の伝達には最高のモノがあるのに……勿体ないじゃないか」
藍花「ごめんね、キュゥべえ」
qb「謝られるようなことではないけれどね」
藍花「………」

魔法少女の変身を解き、私服姿へと戻る。

藍花(わたし、無口だったんだ)

心の中で、反省する。

少しの休憩をはさみ、再び魔女探しを開始しようとした時。

??「ちょっと待ちな」

不意に、声をかけられた。

藍花「?」

声のした方へ向き直る。
そこには、赤い髪をポニーテールにした少女が立っていた。
口にはキャンディの棒を加えている。

qb「佐倉杏子!来てたんだね」
杏子「ったく、余計な魔法少女を増やしやがって……」
qb「そうは言っても、これが僕の仕事だからね」
藍花「……キュゥべえが見えるの?」

以前、キュゥべえが言っていた。キュゥべえの姿を見ることが出来るのは魔法少女と、その素質がある者だけ。つまり、この子は……。

杏子「……ふーん」

佐倉杏子と呼ばれた少女は、まじまじとわたしの姿を眺める。

杏子「アンタさぁ、先輩がやって来たんだから挨拶くらいしたら?」
藍花「……あ、ごめんなさい。わたし、夏見藍花と言います」
杏子「っ……」

言われた通り素直に挨拶すると、杏子さんは面食らったような顔をする。

杏子(ンだよ、調子狂うなぁ……バカ正直なタイプかよ。まぁ、いいや)
杏子「面倒だからさくっと用件言っちゃうけどさ。アンタ、この街出てってくんない?」
藍花「……え?」

予想もしていなかったことを言われ、言葉に詰まる。

杏子「もう十分グリーフシード手に入れただろ?あとはあたしに任せるのが筋ってもんさ」
藍花「で、でもここは……わたしの生まれ育った街で……」
杏子「その街をあたしが守ってやろうって言ってんだよ。わっかんねぇかなぁ」
藍花「……そんなに、グリーフシードが欲しいんですか?」
杏子「はぁ?何当たり前の事言っちゃってんの?」

藍花「なら……」

鞄の中にしまってあったあるものを、杏子さんに差し出す。
それは、この三日でわたしが集めたグリーフシードだった。

藍花「わたしがが今日まで、この街で集めた未使用のグリーフシードです。これを差し上げますから手を引いて……わたしに街を守らせてください」
杏子「なっ……」

予想もしていなかったとでも言うかのようにうろたえ、二、三歩後ずさる。

藍花「これでも……ダメ、ですか?」
杏子「っ……ざけてんじゃねぇぞ!魔法少女にとって、ソウルジェムの次に大切なモンじゃねぇか!!」

わたしの胸倉を掴み、睨みながらそう叫ぶ。
それでもわたしは、身じろぎひとつしなかい。

杏子「……くそっ!」

わたしを突き飛ばすかのように胸倉から手を離し、杏子さんはこの場から去っていく。

qb「どうしてあんなに怒ったんだろう?彼女にとってもいい条件だと思ったのだけれど」
藍花「………」

わたしは、手の中のグリーフシードをただ見つめているだけだった。

~佐倉杏子~

杏子(ったく……何なんだ、あいつは。調子狂うなんてもんじゃねぇぞ……)

ホテルへと帰って来たあたしは苛立ちを隠そうともせず、スナック菓子をヤケ食いする。
ふと、窓際にキュゥべえが座っているのに気がついた。

杏子「おい、あいつ一体何なんだよ?」
qb「夏目藍花は五日前、僕と契約したばかりの新米魔法少女さ」
杏子「どういう経緯でお前と契約したんだ?」
qb「以前、この辺りにワルプルギスの夜が現れたのは知っているだろう?彼女とその両親は、ワルプルギスの夜が招いた災厄で破壊されたデパートの中にいたんだ。
   デパートは崩壊し、彼女の両親は死亡。藍花自身は死にはしなかったけれど、瓦礫の中に生き埋めに等しい状態だった」
杏子「……はぁん。で、そこにあんたが付け込んだ、と。そういうわけか」

ヤケ食いを中断し、ソファに寝そべる。

qb「人聞きが悪いけれど、まぁ、そういうことだね。彼女の魔法は燃費がよくてね、ソウルジェムにあまり負担をかけないんだ。だから、穢れも溜まりにくい」
杏子(……なるほどな。それで、グリーフシードをああも容易くあたしに差し出すようなマネを……)

ああやって気軽にグリーフシード……魔法少女にとって二番目に大切な物を差しだすのは気に入らなかったが、その話を聞いて少しだけ納得した。

杏子「サンキュー、もうどっかに行きな」

寝そべって天井を見上げたまま、それだけ言う。
キュゥべえは、いつの間にかいなくなっていた。

杏子(ワルプルギスの夜に両親を……か……)

~佐倉杏子~

杏子(ったく……何なんだ、あいつは。調子狂うなんてもんじゃねぇぞ……)

ホテルへと帰って来たあたしは苛立ちを隠そうともせず、スナック菓子をヤケ食いする。
ふと、窓際にキュゥべえが座っているのに気がついた。

杏子「おい、あいつ一体何なんだよ?」
qb「夏見藍花は五日前、僕と契約したばかりの新米魔法少女さ」
杏子「どういう経緯でお前と契約したんだ?」
qb「以前、この辺りにワルプルギスの夜が現れたのは知っているだろう?彼女とその両親は、ワルプルギスの夜が招いた災厄で破壊されたデパートの中にいたんだ。
   デパートは崩壊し、彼女の両親は死亡。藍花自身は死にはしなかったけれど、瓦礫の中に生き埋めに等しい状態だった」
杏子「……はぁん。で、そこにあんたが付け込んだ、と。そういうわけか」

ヤケ食いを中断し、ソファに寝そべる。

qb「人聞きが悪いけれど、まぁ、そういうことだね。彼女の魔法は燃費がよくてね、ソウルジェムにあまり負担をかけないんだ。だから、穢れも溜まりにくい」
杏子(……なるほどな。それで、グリーフシードをああも容易くあたしに差し出すようなマネを……)

ああやって気軽にグリーフシード……魔法少女にとって二番目に大切な物を差しだすのは気に入らなかったが、その話を聞いて少しだけ納得した。

杏子「サンキュー、もうどっかに行きな」

寝そべって天井を見上げたまま、それだけ言う。
キュゥべえは、いつの間にかいなくなっていた。

杏子(ワルプルギスの夜に両親を……か……)

~夏見藍花~

藍花(……寒い……)

瓦礫の中にあった廃屋で横になりながら、そう思う。
家に帰れば……きっと、暖かい毛布にくるまって寝ることが出来るだろう。
だけど、両親のいない家には帰りたくなかった。

藍花(………)

ふと、ソウルジェムに視線が行く。

藍花(……また、あの人が来るかもしれない)

その気になれば、この廃屋だって豪華な家に出来るかもしれない。
けれど、このグリーフシードは交渉用として、取っておくべきだと思っていた。
魔法を使うということは、それだけでグリーフシードを消耗してしまうことになる。

??「見てらんねぇな」

声がした。聞き覚えがある。
体を起こしあげ、声の主を確認する。
佐倉杏子さん、だった。どら焼きを片手に、その場に立っていた。

杏子「人様を救う魔法少女が、なんで人間以下の生活をしてんだよ?」
藍花「……杏子さん」
杏子「ああもう、あたしのことは杏子でいいよ。さん付けなんて鳥肌が立つ」
藍花「……わたしには、帰る場所がないんです」
杏子「敬語もいらねぇよ。タメ口で話せ、こっちまでかしこまっちまう」

どら焼きを一気に口に含みながら、不機嫌そうな顔を向ける。

杏子「帰るとこがねぇって?んなら、あたしんとこに来るか?」
藍花「杏子ちゃんの……ところに?」
杏子「ちゃんって……はぁ、ついてきな」

それだけ言い残し、廃屋を出て行く。わたしも慌てて、その後を追った。

着いた先は、ホテルだった。その一室にまで連れてこられる。

藍花「あの……お昼のこと、だけど……」
杏子「それはとりあえず後だ。ホレ」

ポイ、と何かを投げてよこしてくる。
反射的に、それを受け取る。

藍花「……これ、は……」

それはどら焼きだった。先程、杏子ちゃんが食べていたものと同じだろうか。
テーブルの上を見ると、お菓子やら惣菜やら、色々なものが置かれていた。

杏子「どうせ、飯もロクに食ってねーんだろ?好きなモン食えよ」
藍花「………」

言われるまま、投げ渡されたどら焼きを口に運ぶ。
甘い。おいしい。どら焼きって、こんなにおいしかったっけ?

藍花「……う……ひっく……」
杏子「お、おいおい、そんなにうまいのか?」
藍花「うん……おいじい……」

久しぶりに、人のぬくもりと言うものを感じたような気がする。
涙を堪えることもせず、ボロボロと涙を流しながらどら焼きを食べ続けた。

藍花「……ねぇ、杏子ちゃん。杏子ちゃんは、なんでこんなに優しくしてくれるの?」
杏子「あん?……あー、まぁ、なんつーか、キュゥべえから聞いたんだよ。あんたの身の上を、な」
藍花「………」
杏子「あたしもな、家族がいないんだ」
藍花「えっ?」

杏子ちゃんは、自分が魔法少女になった経緯や家族を失った経緯を、大ざっぱに語ってくれた。

杏子「………ま、あんたに同情するわけじゃねーけどさ」
藍花「……」
杏子「って、あたしの話なんてどうでもいいんだ。こっからが本題」

杏子ちゃんは食べる手を止め、わたしの方に真剣な眼差しを向けて来る。

杏子「お前はこの街で魔女を倒したい。だけど、特別グリーフシードが欲しいってわけじゃねぇんだな?」
藍花「……うん」

そうだ。わたしは、ただ。わたしが生まれ育ったこの街を、自身の手で守って行きたいだけだ。

杏子「だったら、こういうのはどうだ?あたしがアンタの魔女狩りに力を貸してやる。
    そして、手に入るグリーフシードの分け前は……そうだな、比率3:1ってところで。その代わり、あんたの衣食住はあたしが保障する」
藍花「……!」

杏子ちゃんの提案は、わたしにとっていい事ずくめだった。
これだけの好条件を、断る理由が無い。

藍花「杏子ちゃんがそれでいいって言うんなら、喜んで!」
杏子「交渉、成立だな」

杏子ちゃんが、左手を差し出してくる。

杏子「ま、お近付きの印に、って奴だ」
藍花「うん、よろしく、杏子ちゃん」

差し出してきた左手に、わたしも自分の左手を重ねた。
がっしりと、力強く握手する。


藍花「それじゃ、このグリーフシードは……」
杏子「それまであたしが受け取るわけにいかねぇよ。それはお前が一人で魔女を狩って集めたもんだろ?自分で使え」
藍花「……」
杏子「何を言おうと、あたしはそれを受け取るつもりはねぇよ」

そう言うと、杏子ちゃんはベッドに倒れ込んだ。

杏子「とりあえず、もう寝ろ。明日も朝は早いからな……」
藍花「うん、わかった。おやすみ、杏子ちゃん」

杏子ちゃんに言われるまま、隣のベッドに倒れ込む。
ふかふかのベッド。……なんだか、すごく久しぶりな気がした。
……疲れが溜まっていたのだろうか。横になると、すぐに眠気がやってきた。
その眠気に逆らうことなく、わたしは眠りについた。

~佐倉杏子~

藍花「……すぅ……すぅ……」

藍花が、ベッドの横で寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。
あたし自身は……何故だか、なかなか寝付けなかった。

杏子(コンビを組んで戦うなんて、マミとの事を思い出すな……)

天井を見上げながら、そんな昔のことを思い出す。

杏子(はん……あたしとしたことが、ガラじゃなかったな)

その思考をすぐに遮断し、あたしも寝ようと目を閉じた。

藍花「……お父さん……お母さん……」

藍花の寝言が、あたしの耳に届いて来た。
ちらりと、横で寝入っている藍花を見てみる。
……寝ながら、涙を流していた。

杏子(………はぁ。ったく、面倒な奴だな……)

少しだけ乱れていた布団を、しっかりとかけ直してやる。

杏子(ま、いっか。あたしも……寝る……か……)

~夏見藍花~

翌日。川沿いを歩いていると、使い魔の結界を発見した。

藍花「杏子ちゃん、あれ!使い魔の結界だよね?」
杏子「あん?ああ、そうだな」
藍花「倒さなきゃ……!」

懐からソウルジェムを取り出し、魔法少女姿に変身する。
そして懐中電灯を片手に、その使い魔に攻撃を仕掛けようとしたところで。

杏子「おいおい、だからあいつ使い魔だっての」

杏子ちゃんが、わたしの腕を掴んでその動きを止めていた。

藍花「え?うん、わかってるよ。だから、倒さなきゃ……」
杏子「……まさかアンタ、正義の味方を気取るタイプじゃねぇだろうな?」
藍花「別に気取るわけじゃないけど……わたしは魔女に復讐するの。その魔女になりかねない使い魔だって、わたしの標的だよ」
杏子「だったら、使い魔が魔女になるまで待ってその魔女を倒しゃいい。グリーフシードだって手に入るし、お前は魔女に復讐も出来る。一石二鳥だろ?」

杏子ちゃんのその言動で、頭に血が登るのがわかった。
思わず、杏子ちゃんの胸倉を掴む。

藍花「っ……」
杏子「あたしと一戦交えるつもりかい?上等じゃないのさ」
藍花「違う……ごめん、ついカッとなっちゃって」

掴んだ胸倉を離し、頭を下げる。
そんなわたしを尻目に、杏子ちゃんは自身のソウルジェムを取り出していた。

杏子「いいぜ……あんたの力を見る意味もある。一戦交えようじゃん」
藍花「………」
杏子「覚悟は出来たか?」

やるしか……ないのかな。
懐中電灯を両手で持ち直し、杏子ちゃんの正面に相対する。

杏子「おい、ふざけてんのか?それが武器のつもりかよ?」

杏子ちゃんは嘲笑する。そんな杏子ちゃんを気にすることなく、懐中電灯のスイッチを入れた。
懐中電灯の先から、光の剣が姿を現した。

杏子「! ……へぇ、そいやキュゥべえが言ってたな。光を操る魔法少女だって」
藍花「………」
杏子(……今日は天気がいいな。つまり、藍花の武器がそこらじゅうに満ち満ちてるってことか。まぁ、ハンデにゃちょうどいいかもな)

杏子ちゃんはわたしが出した光の剣を見て、なにやら思考を巡らしているようだった。

一瞬の瞬きの後。
わたしの正面から、杏子ちゃんの姿が消えていた。

藍花「っ!? ど、どこに……」
杏子「敵の姿を見失うたぁ、余裕しゃくしゃくじゃねぇか!」

わたしの頭上から、声がする。杏子ちゃんは、空高く跳躍したようだった。
両手で槍を回転させながら、わたしに向かって一直線に飛びかかってくる。

藍花「くっ!?」

そんな杏子ちゃんの姿を確認すると同時に、光の剣を不器用に横一線に薙いだ。
光の剣は、杏子ちゃんの槍を真っ二つに叩き折った。
……はずだった。

杏子「はんっ!甘いねぇ!」

その槍は多節棍のように展開し、わたしの攻撃を器用にいなしていた。
そして、多節棍の先端。それが、わたしの脇腹を強打する。

藍花「あぐっ……!!」

強烈な痛みが脇腹を襲い、無様に転げまわる。

杏子「なんだ、この程度かよ?期待はずれだなオイ」

杏子ちゃんはわたしから数メートル離れたところでしっかりと着地し、わたしのことを見降ろしているようだった。

藍花「……敵を前に油断するなんて、余裕しゃくしゃくだね、杏子ちゃん?」
杏子「あぁ?」

片手に持った懐中電灯を、太陽のある方向へかざす。

藍花「その位置じゃ、すぐには攻撃出来ないでしょ?」
杏子「何を……っ!?」

杏子ちゃんは、わたしの意図をすぐさま読み取ったようだった、
だが、遅い。

藍花「光の速度を……かわせる?」
杏子「ちぃっ!」

地を蹴り、更にわたしとの距離を取る。
わたしの攻撃には、距離など無意味だ。

藍花「はぁっ!」

太陽に向けてかざしていた懐中電灯を、杏子ちゃんの方へ振り下ろす。
光の散弾が、杏子ちゃんに襲いかかる。

杏子「ぐああぁっ……!」

杏子ちゃんは手に持っていた槍で攻撃をいなしているようだったが、全てを防ぐことは敵わなかった。
散弾のいくつかが、杏子ちゃんの体に命中する。

杏子「……ちっ、やるじゃん」

それだけ呟き、杏子ちゃんも倒れ込む。
そのまましばらく、二人して青空を眺めていた。
どこか、清々しい気分だった。
杏子ちゃんも、多分同じ気分に違いなかった。

杏子「藍花……最後の攻撃、手加減しただろ?」
藍花「当たり前だよ……共闘する相手に、本気で攻撃なんか出来ないよ」
杏子「甘い奴だな、お前……」
藍花「そういう杏子ちゃんだって。しっかりと、急所は外してたよね?」
杏子「はん……甘いのはお互い様ってか?」

お互い様、か。確かに、本気の殺し合いだった場合、これは甘いのかもしれなかった。
でも、今回はこれでいいよね。お互いに本気で殺すつもりはなかったんだし。

藍花「ねぇ、杏子ちゃん……わたしの力、どうかな?」
杏子「ま、悪かねぇけど……まだまだってとこだな。あんたの能力は便利すぎる分、その便利さに頼り切ってる部分がある。応用を広げりゃ、いくらでも強くなれると思うぜ」
藍花「……そっか、ありがと」
杏子「別に褒めてはいねぇぞ?」
藍花「でも、いくらでも強くはなれるんだよね?」
杏子「都合のいい奴だなぁ……」

それだけ言葉を交わしたところで、使い魔のことを思い出した。
が、気配は既になかった。多分、わたしと杏子ちゃんの戦いを察知して逃げだしたんだろう。

藍花「使い魔は……倒さない方がいいの?」
杏子「損得を考えりゃ、そうなるな。ま、ここは藍花の守る街だ。藍花がそうしたいってんなら、あたしはそれに従うよ。元々よそ者はあたしの方だしな」
藍花「……ありがとう」

脇腹の痛みも薄れ、立ち上がれるほどまでに回復する。
杏子ちゃんの方も、怪我は癒えているようだった。

藍花「それじゃ、さっきの使い魔、倒しに行こう?」
杏子「お、おいっ!」

集中して気配を探ると、使い魔の気配を掴むことが出来た。
わたしは杏子ちゃんの手を引き、走りだす。
杏子ちゃんの顔が少し嬉しそうに見えたのは……きっと、見間違いじゃなかったと思う。

先程の使い魔の気配を追って行くと、次第に魔女の気配が漂って来る。

杏子「……はん、たまにゃ使い魔と鬼ごっこもしてみるモンだな!魔女んとこに逃げてくらしいぜ!」
藍花「魔女……っ!」
杏子「おい藍花、魔女に憎しみを持つのは結構だが、それに飲み込まれるようなことだけはすんなよ?
    危なくなったら、あたしが助ける。お前は一人じゃないんだからな?」
藍花「……うん、わかってる」

大丈夫、わたしは自分を見失ったりしない。
使い魔の気配を追って辿りついた先は、路地裏だった。
そこに、魔女が結界を張って待ち構えているようだ。

杏子「後輩は先輩の背中に隠れとけ。んじゃ、行くぞ!」
藍花「うんっ!」

杏子ちゃんが、槍の先端で結界に穴をあける。そこから、魔女結界の中へと侵入した。


結界内部は、まるでガラスの世界のようだった。
最初に倒した魔女結界とは違い、明るい世界。
綺麗な結界のはずなのに、神秘的な雰囲気は微塵も感じない。どこか狂気を感じる内部だ。
その辺りが、やはり魔女の結界なのだろうと納得する。

杏子「油断すんなよ、藍花。どっから使い魔が飛び出してくっかわかんねぇからな」
藍花「うん、わかってるよ」

辺りに気を配りながら、中枢目指して歩いて行く。

途中、何体か出て来た使い魔を蹴散らしながら、中枢に辿りつく。

魔女「――――」

杏子「……鏡の魔女、ってとこか?」
藍花「………」

魔女の体は、その全てが反射鏡になっていた。
わたしと杏子ちゃんの姿も、いびつな形となって映し出されている。

杏子「行くぞ!」

杏子ちゃんが地を蹴り、魔女目掛けて槍を構えながら突進を仕掛ける。
わたしはわたしで、懐中電灯を取り出して光の剣を出現させる。それを両手で握り、魔女の方に向き直る。

杏子「おらぁっ!」

槍を横一線、薙ぎ払う。
魔女の体を構成している鏡が、その槍の攻撃によって割れ……なかった。

杏子「ちっ、硬いな!」
藍花「杏子ちゃん、下がって!」

光の剣を片手に持ち直し、空いた左手に力を込める。
そして、溜めこんだ力を魔女向けて発射する。
光線。光の収束に、わたしの魔力も織り交ぜている為、その破壊力は相当な物のはず。

しかし、その攻撃は。

魔女「――――」

魔女の反射鏡によって、そのままわたしの方に跳ね返ってくる。

藍花「え……?」

その事実を頭で理解するのが遅れた。
そして……わたしが放った攻撃によって、わたし自身が吹き飛ばされていた。

藍花「うぐあああぁぁぁっ……!?」
杏子「藍花っ!?」

数メートル吹き飛ばされ、結界の壁に激突する。

藍花「くはっ……!」

光の剣もいつの間にかその姿を消しており、わたしはその場に片膝をつく。

杏子「大丈夫かっ!?」
藍花「う、うんっ……」

幸い、吹き飛ばされたと頭で理解した瞬間に治癒魔法を使い始めていたから、大事には至らなかった。

杏子「この魔女は……藍花には天敵だな」
藍花「で、でも杏子ちゃん一人で戦わせるのは……」
杏子「いい、大人しく見てろ。見せてやるよ、先輩の実力って奴をな」

杏子ちゃんは不敵な笑いを浮かべ、再度魔女目掛けて突進を仕掛ける。

杏子ちゃんは不敵な笑いを浮かべ、再度魔女目掛けて突進を仕掛ける。

杏子「おら、あたしが相手だっ!!」

槍を引き延ばし、多節棍を展開する。
そして、魔女の体を四方八方から殴打する。

藍花「……すごい」

変則的な動きだ。あの時にも多節棍は展開していたけれど、ここまでの動きではなかった。
やはりあの時は、相当手を抜いていたんだろう。

魔女「――――!―――――!?」

魔女が、杏子ちゃんの動きに翻弄されていた。
そして、どれだけ打撃を与えてもヒビひとつ入らなかった魔女の体に。
お腹に当たる部分だろうか。そこに、少しの亀裂が入った。
それを杏子ちゃんは見逃さなかった。

杏子「おおおおぉぉぉらっ!!」

多節棍を手元に引き寄せ、元の槍の形状に戻す。
そして、それを両手でしっかりと構えたかと思うと、力強い突きを亀裂目掛けて叩きこんでいた。

魔女「―――!!?」

その亀裂が、少しずつ、少しずつ広がって行く。

杏子「こいつでトドメだ!」

最後に距離を置きながら、槍を投擲する。
槍が魔女の体に着弾したかと思うと、魔女の体が爆ぜた。

杏子「……っと。ま、ざっとこんなもんだ」

しっかりと着地し、得意げな笑顔をわたしに向けて来る。
魔女が力尽き、その結界も完全に崩壊する。後に残ったのは、グリーフシードだけだった。

杏子「ほい、グリーフシードゲット、ってな」
藍花「すごい、すごいよ杏子ちゃん!」
杏子「はん、褒めたってこのグリーフシードはわたさねぇぜ?」

心強い。杏子ちゃんと一緒なら、どんな魔女でも倒せるような気がした。

~~~

杏子ちゃんと協力して魔女を狩るようになってから、二十日余りが経過していた。
不思議なことに、わたしはちょっとだけ魔女との戦いが楽しくなり始めていた。
二人ならば、安全に魔女退治が出来る。

昼間。杏子ちゃんと一緒に当てもなく街を歩き回る。
杏子ちゃんの手のひらにはソウルジェムがあった。
魔女の気配は無いようだ。

杏子「魔女の出現率も減ってきてるな。流石に狩りすぎたか?」
藍花「いいことじゃない?」
杏子「ま、この街にとっちゃいい事かもしんねぇけどさ」
藍花「ほら……街に希望が戻ってきてる」

街を行きかう人々は、復旧に力を入れている。
人間は元より、立ち上がる力を持ってるんだ。

藍花「……そういえば、最近キュゥべえを見ないね?」
杏子「あいつのことだ。どっか別の街で契約の押し売りでもしてんだろうよ」


qb「僕を呼んだかい?」
藍花・杏子「!」

キュゥべえが、物陰からその姿を現した。

杏子「……相変わらず、神出鬼没な奴だな」
qb「キミ達が僕を必要とするのなら、僕はいつでも姿を現すよ」
杏子「別に必要となんか……」
藍花「ちょうどよかった。はい、キュゥべえ。限界が近いグリーフシード」

キュゥべえに向けて、数個のグリーフシードを放る。
それを、キュゥべえは身を翻して背の中に収納していた。

杏子「………」
qb「で、必要となんか……なんだい?」
杏子「うるせぇっ!」
藍花「ねぇ、キュゥべえ。ワルプルギスの夜について、詳しく知ってそうな魔法少女って、いるのかな?」
杏子「藍花っ!?」

杏子ちゃんはびっくりしたような声を上げる。

藍花「どうかしたの、杏子ちゃん?」
杏子「んなこと聞いてどうするってんだよ!?」
藍花「決まってる。わたしのお父さん、お母さんを死に追いやったあの魔女だけは……わたしが、この手で……」

握りこぶしを作り、わたしの決意の固さを現す。

杏子「っ……はぁ……」

杏子ちゃんは何かを言いたそうにしていたが、結局は何も言わずため息だけをつく。

藍花「それで、どうなのキュゥべえ?そんな魔法少女、いる?」
qb「ワルプルギスの夜に詳しいかどうかはわからないけれど……見滝原に、イレギュラーの魔法少女がいる。
   もしかしたら、彼女なら何か知っているかもしれないね」
杏子「見滝原ぁ?まさか、マミの事じゃねぇだろうなぁ?」
qb「違うよ。確かに見滝原にはマミもいるけれど、マミとそのイレギュラーの魔法少女……暁美ほむらは、敵対、とまでは言わないけれど、良好な関係であるとは言い難い仲だね。
   まぁ、行ってみればわかるんじゃないかな」
藍花「………見滝原……」

どんなところなんだろう?ちょっとだけ興味をそそられる。
杏子ちゃんも見滝原がどんなところなのか知ってるみたいだし。

~~~

夜。わたしと杏子ちゃんはいつも通り、ホテルの一室でくつろいでいた。
杏子ちゃんはテレビを見ながら、ロッキーを食べている。
わたしはと言うと、地図を広げて見滝原の位置を調べていた。

藍花(……行ってみたい、かな)

この街を離れるのは気が引けるが。人間、興味には勝てないものだ。

藍花「ねぇ、杏子ちゃん。わたし……見滝原に行ってみたい」
杏子「はぁ?なんだよ藍花。アイツの言うことを鵜呑みにすんのか?」
藍花「その……暁美ほむらさん、だっけ?その人に会って、話をするだけ。何も知らないようだったら、すぐに帰ってくるよ」
杏子「……まぁ、藍花が行きたいってんなら止めねぇけどさ。この街の守りはどうすんだ?」
藍花「それは、その……」

言い出しにくかった。
わざわざ杏子ちゃんの方から共闘を申し出てきてくれたのに、わたしが留守の間この街を守って欲しい、だなんて。
完全にわたしのワガママだもんね。

杏子「……はぁ。顔に書いてあんぞ?『杏子ちゃんにこの街を守って欲しいな~』って」
藍花「えっ、嘘っ!?」

あたふたとして、顔を両手で隠す。

杏子「はは、冗談冗談。ま、わかったよ。藍花が留守の間は、あたしがこの街を守ってやる。その代わり、少しでも早く帰ってくるんだぞ?」
藍花「杏子ちゃん……ありがとう!」
杏子「ただし、その間この街で手に入れたグリーフシードはあたしの総取りだかんな?」
藍花「それはもちろん!それじゃ、早速準備をしなくっちゃ!」

早速わたしは、数少ないわたしの荷物をまとめ始める。
あっさりと許可を取れるとは思っていなかったこともあり、わたしは浮かれていた。
そのせいで、杏子ちゃんがあまりいい気じゃなさそうだったのは気付くことが出来なかった。

~~~

次の日。わたしはいいと言ったのだけれど、杏子ちゃんは駅までわたしを見送りに来てくれていた。

杏子「じゃ、また会おうぜ」
藍花「うん、杏子ちゃん。わたし、杏子ちゃんがいなかったらずっと孤独だったと思う。ありがとう、杏子ちゃん」
杏子「おいおい、別れ際にんなこと言うな!まるでもう二度と会えないみたいに聞こえるじゃねぇか!」
藍花「あはは、そんなことないよ。それじゃ、杏子ちゃん……行ってきます」
杏子「おう!」

杏子ちゃんは笑顔でわたしを送り出してくれる。そんな杏子ちゃんの笑顔を背にし、わたしは泣きそうだった。

わたしの街……煌華(こうか)町から見滝原へは、結構な距離がある。
数回の乗り継ぎを経て、わたしは見滝原の地に辿りついた。
駅から出ると、空は茜色に染まっていた。

藍花(……綺麗な街だな)

街がとても穏やかだ。ここを守る魔法少女も、魔女だけでなく使い魔を倒すのにも頑張っているのがよくわかった。

藍花(杏子ちゃんにメール、送っておこう。無事に着いたよ!……っと)

送信ボタンを押したところで、携帯をポケットにしまい込む。

藍花(さて、と……)

行動を開始する。魔法少女と出会うには、やはり魔女や使い魔の結界で待ち伏せするしかないだろう。
でも、そんな都合よく魔女が出現するだろうか。

藍花「……!」

そんなことを考えている間に、わたしのソウルジェムが反応を示していた。
この大きさは、おそらく魔女だ。
ソウルジェムを手のひらに乗っけて、魔女の居場所を探り始める。

街の中、病院の近く。そこに結界を発見した。

藍花(あった……!)

魔法少女の姿へと変身し、結界に侵入する。

結界の中はやはり魔女結界特有の狂気に満ちていた。
辺りには薬品のカプセルやらお菓子を模した物体やらが無造作に転がっていた。
そしてその結界の中を、何かを探すように歩きまわる丸い姿をした魔女の手下。

藍花(……とりあえず、ここの魔女を先に倒しちゃおう)

わたしの目的とする魔法少女がこの場所にいなかったとしても、魔女の気配が消えたとなれば不審に思うはずだ。
そう決めたわたしは、手下を蹴散らしながら結界の中を進んでいく。

??「……誰?」

結界の中を少し進んだところで、話しかけられた。声がした方に顔を向ける。
大きなリボンで体を拘束されている人がいた。長く黒い髪に、頭にはヘアバンドをした少女。

??「……いえ、誰でもいいわ。お願い、わたしを解放して!このままじゃ、マミが………!」

切羽詰まったかのような口調で言われ、少々戸惑う。

藍花「ええと……そのリボンを、切っちゃえばいいのかな?」
??「それでいいわ、早く……!」

言われるまま、彼女を拘束しているリボンの端を光の剣で斬る。
と、その瞬間。彼女の姿は、あっと言う間に消えた。瞬きをする間に、である。

藍花「え、えっ!?」

何が起きたのかわからず戸惑っていると、結界の奥の方から爆発音が響いて来る。
それも、ひとつじゃない。ふたつ、みっつと。
数回の爆発音を繰り返した後、結界が崩れて行く。

藍花「な、何が……?」

結界が完全に崩れ、辺りは先程の街の光景に戻っていた。わたしから数メートル離れたところに、四人の少女、それとキュゥべえがいた。

qb「藍花!見滝原に来たんだね」
藍花「う、うん……」

先程拘束されていた黒髪の少女は、わたしとキュゥべえの会話など意にも解せず、金髪の魔法少女に話しかけていた。

??「命拾いしたわね、巴マミ。この子が結界に来ていなければ、ソウルジェムごと頭を食いちぎられていたところだったわ」
桃色髪の少女「よかった、マミさん……!」
青髪の少女「………」
マミ「……わたしを、助けてくれたの?」
??「……ええ」

わたしの事などそっちのけで、二人は話を進める。
取り残されたわたしは、現状を把握出来ずにいた。

藍花「え、ええっと……とりあえず、名前を教えてもらってもいいですか?」
ほむら「わたしを解放してくれてありがとう。わたしの名前は暁美ほむら。そして、この金髪の魔法少女が巴マミ。青髪の子が美樹さやか。桃色髪の子が鹿目まどかよ」
藍花「丁寧にありがとう。わたしの名前は夏見藍花」
ほむら「夏見さん、ね。早速で悪いのだけれど、わたしの家まで来てくれるかしら?少し、話がしたい」

ほむらさんはそれだけ言うと、歩き始める。その場に残された三人の事も気にはなったが、とりあえずはこの少女の後について行こう。
わたしの後ろでは、マミさんを励ますように、さやかさんとまどかさんが話しかけていた。
キュゥべえは、どうやらわたしとほむらさんについて来るようだった。

ほむらさんの先導で着いた先。人気が少ない住宅街の一角に、彼女の家があった。

ほむら「入って。もてなしの用意はないけれど、ね」

言われるまま、中へと入る。
外観からは想像もつかないほど中は広かった。頭上には巨大な振り子のようなものが動いており、壁には絵画がたくさん飾られている。

ほむらさんは椅子に座り、真剣な顔をしてわたしのことをその鋭い視線で射抜く。

ほむら「あなた……何者?」
藍花「……夏見藍花、です。さっき、名前言いましたよね……?」
ほむら「敬語なんて使わなくていいわ。年なんてあまり変わらないでしょうし。それに、わたしは名前とか年齢を聞いているのではない。
     あなたがどういう内容で契約し、どういった経緯でこの街に来たのかを知りたいの」

ほむらさんはわたしを真っ直ぐ見据えて、そう言い放つ。

藍花「ええっと……」

別段隠すような事でもない。
ほむらさんの真剣な眼差しに少しだけ不安を覚えながらも、ゆっくりとこれまでの経緯を話した。


ほむら「……なるほど。ワルプルギスの夜の情報を求めて……ね」
藍花「う、うん。ね、ねぇキュゥべえ。キュゥべえが言ってたイレギュラーの魔法少女って、ほむらさんのことだよね?」

ほむらさんから視線を逸らし、一定の距離を置いて佇んでいたキュゥべえに話しかける。

qb「うん、そうだよ」

……よかった、すぐに会えて。早々に、この街での目的を達成することは出来そうだ。

藍花「ねぇ、ほむらさん。ワルプルギスの夜について……何か、知っていることがあったら教えて欲しいの」
ほむら「残念だけれど、わたしもあいつの事を詳しく知っているわけではないの」
藍花「………」

予想していたこととはいえ、少しばかり落胆する。これで、振り出しに戻ってしまった。

ほむら「ただ、奴についてひとつだけ、確かな情報がある」
藍花「! 本当!?」
ほむら「ええ。今から約三週間後……この街に、ワルプルギスの夜が襲来するわ」
藍花「……!」

期待していた情報とは違った。
だが、それは何より求めた情報でもあった。

藍花「……本当、に?」
ほむら「確かな情報よ」
藍花「どこで、それを……?」
ほむら「………」

更に一歩踏み込むと、ほむらさんの眼つきが鋭さを増した……ような気がした。
そしてその視線は、わたしじゃなく……キュゥべえに向けられているようだった。

qb「………」
ほむら「ごめんなさい、情報の出所については教えることが出来ないの」
藍花「……そっか、ごめんね」
ほむら「いえ、気にしていないわ。それで、あなたはそれを聞いてどうするのかしら?」
藍花「……決まってる」

そうだ、決まっている。
ワルプルギスの夜がこの街に姿を現すと言うのなら。わたしはそれを迎撃するまでだ。

ほむら「ワルプルギスの夜と、戦うつもりかしら?」
藍花「うん」

はっきりと、そう返事をする。

ほむら「……そう。なら、わたしと共闘することになるわね」
藍花「えっ?」

意外、だった。わたしの認識が正しければ、ワルプルギスの夜と戦おうなんて奇特な考えを持つ魔法少女なんて、いるはずがない。
杏子ちゃんだって……多分、ワルプルギスの夜とは戦いたくないに違いない。

ほむら「わたしからお願いする形になるかもと思っていたけれど、そういうことなら話が早い。わたしに、力を貸してちょうだい?」
藍花「………」

正直なところ、この人の言うことを全て信じてしまっていいのだろうか、と言う疑念が渦巻いていた。

藍花「それに返事する前に……ほむらさんが、ワルプルギスの夜を倒そうとする理由を、教えて欲しい」
ほむら「………」
藍花「それが出来ない、と言うのなら……悪いけど、首を縦に振るのは難しい、です」
ほむら「……………そう。わかったわ。なら話はこれでおしまいね」
藍花「話す気は……ない、と言うこと?」
ほむら「わたしの目的は……誰にも理解されないと思うもの」

ほむらさんはそう言うと、寂しげな顔をする。

藍花「……共闘の話はひとまず置いておいて、他の話を、聞かせてもらってもいい?」
ほむら「わたしが答えられる質問なら、いいわ」
藍花「ほむらさんは……どうして、さっきの人……マミさんと険悪な仲なの?」
ほむら「……彼女、巴マミは新しい魔法少女を誕生させるつもりでいる。でも、これ以上新しい魔法少女は生み出すべきではないの」
藍花「……確かに、魔法少女が多くなればグリーフシードは手に入りづらくなるけど……魔法少女になるならないっていうのは、個々の自由、なんじゃないのかな?」
ほむら「あなたの言うことも一理あるわね。でも、わたしは生み出させるべきではないと思っている」

そこまで言って、再びキュゥべえに視線を向けた。
ほむらさんの意思は、固いようだった。

qb「……やれやれ。どうやら僕は邪魔みたいだね。失礼させてもらうよ、ほむら、藍花」
ほむら「………」

キュゥべえはそれだけ言い残して、この場を去って行った。

藍花「……これ以上、深い話は聞けそうにない、ね」
ほむら「………秘密だらけでごめんなさい。こんな状態で共闘してくれ、だなんてムシがよすぎるわよね」

ほむらさんは自嘲気味にそう言う。
………同じ、だ。わたしや、杏子ちゃんと。魔法少女って、みんな孤独なんだ。

藍花「わかった。ほむらちゃんの秘密は、聞かないことにする」
ほむら「! 今、わたしのこと……」
藍花「うん。共闘、しよう?そして、全てが終わったら。その時は、ほむらちゃんの目的も、聞かせてもらえるよね?」
ほむら「ええ、それはもちろん。わたしの全ては……あいつ、ワルプルギスの夜なのだから」
藍花「それなら、いいよ。わたしも、何も聞かない」
ほむら「……ありがとう、夏見さん」
藍花「あはは、夏見さん、だなんてそんな距離の置いた呼び方しないでよ。今からわたしたち、仲間、だよね?だったら、下の名前で呼んで欲しいかな」
ほむら「わかった……藍花。あなたの助力、ありがたく受けることにするわ」

わたしはほむらちゃんに、右手を差し出す。
ほむらちゃんはそれに応えてくれる。
そうして、わたしとほむらちゃんは堅い握手を交わした。

落ち着いたところで、携帯の着信音が鳴る。
画面を確認すると、杏子ちゃんからだった。

藍花「ちょっとゴメンね」

ひと言断りを入れて、その電話に出る。

杏子『もしもし、藍花か?どうだ、ワルプルギスの夜の手掛かりは手に入ったか?』
藍花「うん……今から約三週間後に、この見滝原に姿を現すみたい」
杏子『はぁっ!?見滝原にぃ!?』
藍花「うん」
杏子『……で、藍花はどうすんだ?』
藍花「もちろん、この場に留まって、ワルプルギスの夜と戦うよ」
杏子『はぁ……やっぱりなぁ』

電話越しではあるが、杏子ちゃんがやれやれと言った風に頭を掻いている姿が容易に想像出来た。

藍花「で、よかったら杏子ちゃんにもこっちに来て欲しいんだけど……」

わたしが杏子ちゃんの名前を口に出すと、ほむらちゃんはハッとしたような反応をする。
気にはなったが、今は杏子ちゃんと電話中だ。

杏子『そう言い出すと思ったよ、ったく……この街の守りはどうするつもりなんだ?』
藍花「え、あ、それは……」

しまった、その事を考えていなかった。
わたしの生まれ育った街を、野放しにするわけにはいかないし、どうしよう……。

杏子『なんてな。悪い、ちっとイジワル言った。実を言うと、この街でまたキュゥべえの野郎が節操も無く新しい魔法少女を生みだしちまってな。この街はそいつに任せりゃいい』
藍花「キュゥべえが……」

わたしがキュゥべえの名前を出すと、今度はほむらちゃんの顔が明らかに険しくなるのが見て取れた。

杏子『正直気は進まねぇけど……行ってやるよ、そっちまで』
藍花「うん、ありがとう杏子ちゃん。待ってるね」

そこで、通話は終了した。間髪いれずに、ほむらちゃんが問いをぶつけて来る。

ほむら「今、杏子って……」
藍花「え、うん。佐倉杏子ちゃん」
ほむら「…………」

ほむらちゃんは不思議そうな顔をしていた。

ほむら「……世界は狭いわね」
藍花「杏子ちゃんの事、知ってるの?」
ほむら「ええ、よく知っているわ。もっとも、彼女はわたしのことは知らないでしょうけれど」
藍花「……?」

ほむらちゃんが何を言わんとしてるのかがわからず、わたしは終始顔に疑問符を浮かべていた。

ほむら「あなた、今夜の寝泊まりの場所は確保出来ているのかしら?」
藍花「………あ」

当面の目的にとらわれ過ぎていたせいで、そこまで考えていなかった。

藍花「な、なんにも決まってないや……」
ほむら「……だろうと思った」

ほむらちゃんは穏やかな笑顔を浮かべていた。

ほむら「あなたさえよければ、泊まって行ってもいいわ」
藍花「本当?」
ほむら「仲間、なのでしょう?わたしたちは。その仲間を、夜の外に放り出すなんてしないわよ」
藍花「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

夜中。わたしとほむらちゃんは、チェスで勝負していた。
最初はルールがわからなかったのを、ほむらちゃんが教えてくれて駒の動かし方などを覚えた。
でも、所詮は素人。最初からルールを知っているほむらちゃんに勝つことなんて、そうそう出来るモノではなかった。

ほむら「ワルプルギスの夜を倒す……最終目標はそれだけれど、それ以外にも協力して欲しいことがあるの」
藍花「何?」
ほむら「美樹さやかを監視して、魔法少女の契約を阻止して欲しいのよ」
藍花「さやかさん……?」

夕方に出会った三人の顔を思い出す。
さやかさんは確か、ショートヘアにヘアピンをつけてた子のことだ。

ほむら「ええ。鹿目まどかはわたしが監視する。……お願い出来るかしら?」
藍花「それは構わないけれど……なら、わたしからも聞いていいかな?」
ほむら「何かしら?」
藍花「………ええと……」

いざとなると、何を聞いたらいいのかがわからなくなった。
マミさんと険悪な仲な理由も、ほむらちゃんの目的も……語ってくれそうにないし。

藍花「あっ、そうだ!マミさんが契約した経緯とかって、教えてもらってもいいかな?」
ほむら「巴マミの?わたしは構わないけれど……本人の意思を無視して、話していいものかしら」
藍花「あ、そうか……」
ほむら「まぁ、あなたも彼女と似たような境遇だし……いいわ、教えてあげる」
藍花「え?」

わたしと、似たような境遇?

ほむら「彼女の願いはね、事故で失われそうになっていた自身の命を繋ぎとめる為の祈り」
藍花「………」

確かに、似ていた。わたしも……あの時キュゥべえと契約していなければ、そのまま死んでいただろうし。

ほむら「あなたが彼女を説得してくれれば……あるいは、彼女もわたしたちに力を貸してくれるかもしれないわね」
藍花「わたしが、マミさんを?」
ほむら「ええ。共感出来る部分、あるでしょう?」
藍花「うん……そうだね」

マミさん……一度、ちゃんと話してみたいな。

ほむら「それじゃ約束通り、美樹さやかの監視をお願いね」
藍花「うん、わかった」
ほむら「ふふ、それと……チェックメイト」
藍花「………あ」

また負けた。容赦ないよ、ほむらちゃん……。

~~~

翌日、わたしはほむらちゃん達が通う学校の近くのビルの上に立っていた。
日中はさやかさんは学校にいる為、監視する必要がなかった。

ほむら『……藍花。聞こえる?』
藍花「!」

突然、頭の中に声が響いた。

ほむら『テレパシーで話しかけているの。魔法少女なのだし、それくらいはあなたも知っているでしょう?』
藍花「てっ、テレパシーっ!?」

想像はしたことがあるけど、これが……!
すごい、なんだか感動だ。

ほむら『……話を続けていいかしら?』
藍花『あ、ごめんほむらちゃん。それで、何?』
ほむら『巴マミは今日、学校に出てきていないらしいのよ。場所を教えてあげるから、ちょっと彼女のマンションに行ってみてくれないかしら?』
藍花『マミさんのマンションに?うん、いいけど……さやかさんの監視は、大丈夫?』
ほむら『それは問題ないわ。放課後になる前に戻ってきてくれればいい』
藍花『うん、わかった。ちょっと、行ってみるね』
ほむら『お願い。場所は―――』

ほむらちゃんに教えてもらった場所を目指して、住宅街を歩いて行く。

マンションの一室の前に立つ。表札には『巴マミ』の文字が書かれていた。
呼び鈴を押す。少しの間を置いて、昨日見た金髪の子……マミさんが姿を現した。

マミ「はい……あら、あなたは……」
藍花「は、はじめまして……じゃ、ないですよね。昨日、一度顔は合わせましたもんね」
マミ「ええ、そうだったわね……夏見さん、だったかしら」
藍花「はい。あなたは巴マミさん、でいいんですよね?」
マミ「………ええ。それで、いったい何の用?」

マミさんは、なんだか元気がないようだった。昨日の……死にかけた?のが、堪えているようだった。

藍花「ええと、特にこれと言って用はないんですけど……ほむらちゃんに頼まれて、様子を見に来たんです」
マミ「暁美さんに……?まぁ、いいわ。玄関で立ち話も何だし、あがって」

マミさんに促され、部屋にあがる。
部屋の中には、キュゥべえがいた。

qb「おや、藍花。マミの家に来るなんて、何かあったのかい?」
藍花「あ、キュゥべえ。うん、ちょっと、ね」

キュゥべえと一言二言言葉を交わして、ソファに腰掛ける。

マミ「……………」
藍花「……………」

会話がなかった。気まずい。
何かないかと思い、口を開く。

藍花「あ、あの、学校……行かなくって、いいんですか?」
マミ「ええ……ちょっと、気分が乗らなくて」
藍花「………」

まぁ、無理もない……のかもしれない。
昨日死にかけたばかりで、普通に学校に出るのは確かに精神力が強くないと出来なさそうだった。

藍花「じ、実はわたし、マミさんにお願いがあって来たんです」
マミ「何、かしら?」
藍花「ワルプルギスの夜……って、知ってますか?」
マミ「!」

その名を聞いたマミさんの顔が、急に引き締まる。
魔法少女の間では、それなりに有名な名なのかもしれない。

マミ「歴史に名を残すほどの、弩級の魔女……ね。それがどうかしたの?」
藍花「ほむらちゃんの話を信じるなら、ですけど……そいつが、三週間後にこの街に襲来するらしいんです」
マミ「わ、ワルプルギスの夜……が……?」
藍花「はい……それで、その戦いにマミさんにも力を貸して欲しいんです」
マミ「……………」
藍花「返事はすぐじゃなくていいです。昨日何があったのかは……ほむらちゃんから、大体は聞いていますから」
マミ「………ええ、ごめんなさい。でも、いい返事が出来るよう努力するわ。今は、もう少し……一人にさせてちょうだい」
藍花「………失礼します」

話は終わった。マミさんは精神的に参っているようだったけど、ここは自分で立ち直るのを待つしかなさそうだ。
ソファから立ち上がり、マミさんのマンションを後にする。

~巴マミ~

ワルプルギスの夜……結界に身を隠さない、大型魔女。
それが、見滝原に……?

qb「マミ、どうするつもりなんだい?」
マミ「………わたしは、この街を守る魔法少女よ。ここにワルプルギスの夜が来るのなら……わたしは、街を守る為に戦わなければ」
qb「果たしてキミ達三人がかりで、勝てるかな?」
マミ「勝てる勝てないは問題じゃ……いえ、確かにそれも問題かもしれないけれど」

わたしは正義の魔法少女。昨日は不覚を取ってやられそうになったけれど……。
あの時の恐怖が、完全に払拭出来たわけではないけれど……。
それでも。

マミ「倒して見せるわ。ワルプルギスの夜を………」
qb「そうかい。まぁ、キミ達魔法少女は魔女と戦う運命を課せられているからね。止めはしないよ」
マミ「そうと決まれば……」

一刻も早く、この腕の震えを、止めなければ。
まだ、わたしの心には、恐怖が残っている。

マミ「っ………」

気分を落ち着ける為に、紅茶の用意をしよう。
紅茶を飲めば、きっと落ち着く……。

~夏見藍花~

マミさんの家を後にしたわたしは、先程のビルの上に戻ってきていた。
何をするでもなく、その場に留まる。
日が傾いて来た。そろそろ、放課後となるはずだ。

ほむら『藍花、聞こえる?ここからは別行動になるわ。昨日の話通り、わたしは鹿目まどかを、あなたは美樹さやかをお願い』
藍花『了解、ほむらちゃん』

目を凝らし、下校していく生徒の中からさやかさんを探す。
……いた。まどかさんと一緒に校門を抜けて……そこで別れた。
それを確認したわたしは、ビルから飛び降りる。
しっかりと着地し、さやかさんの後を追う。

着いた先は、病院だった。さやかさんはその中へ入って行く。
少し間を置いて、わたしも病院の中へ足を踏み入れた。
さやかさんに気取られないように、慎重に尾行する。
個人部屋の病室へ、さやかさんは入って行った。そこの名前を確認する。

『上条恭介』

藍花(………)

その名前を記憶し、病院を後にする。そして、病院内で大体の位置を把握したわたしは、病院の近くのビルの上に移動し、さやかさんが入った病室の窓を探り出す。
……いた。窓際のベッドに、一人の男の子。そのベッドの近くの椅子に、さやかさんは座っていた。

藍花(ふぅん……好きな男の子、なのかな)

さやかさんがお見舞いから帰るまで、その場に留まってその様子を見守っていた。
その途中。

杏子「やぁっと見つけたぜ……何やってんだ、藍花」

不意に、背後から声をかけられた。少しだけ懐かしい声。
後ろを振り向く。そこには赤毛をポニーテールにした女の子が、たい焼きをくわえて立っていた。

藍花「杏子ちゃん!来たんだね!」
杏子「ったく、とんだ長旅だったよ。んで、お前は何をやってんだ?」
藍花「うん……ほむらちゃん……キュゥべえの言ってた、イレギュラーの魔法少女の子のことだけど、その子の頼みで、ある子を監視してたの」
杏子「監視?何の為にだよ」

わたしは杏子ちゃんに、事の顛末を話した。

杏子「なるほどな……ま、確かに普通なら新しい魔法少女が生まれるのは勘弁して欲しいとこだわな」
藍花「………」

ほむらちゃんが何かを隠してたっぽい事は、伏せる。
話がこじれたら大変だ。

結局その日は、さやかさんが契約をするそぶりは見せなかった。

―――――
―――


ほむら「そう……とりあえずはひと安心、ってところかしら」
藍花「うん」

日が落ちた頃。わたしと杏子ちゃんは、ほむらちゃんの家に来ていた。

ほむら「ところで……藍花、そっちの子を紹介してくれないかしら?」
藍花「え、でも……」
ほむら「……」
藍花「っ……」

ほむらちゃんの目が、わたしの事は言わないでくれと訴えていた。

杏子「それもそうだな。藍花、あたしにも紹介してくれ」
藍花「う、うん、わかった。それじゃほむらちゃんから。この子は、佐倉杏子ちゃん。わたしが一人で魔女と戦っている時に、手を差し伸べてくれた人」
杏子「おいおいっ、なんだよその紹介は!?」
藍花「え?何か間違ってたかな?」
杏子「あ、あたしはただ効率よく魔女を狩る為に藍花を利用してただけだ!他意はないからな!」
藍花「ふふ……」

杏子ちゃんは口ではそう言うが、これは本心からの言葉じゃないってことをわたしはわかっている。
わたしは杏子ちゃんの優しさを知ってる。困っている人は放っておけない、そんな性分だ。

藍花「それで、杏子ちゃん。この子は、暁美ほむらちゃん。ワルプルギスの夜を倒す為に、わたしに力を貸してくれるって約束してくれた人だよ」
ほむら「よろしく、佐倉さん」
杏子「おう、よろしくな」

杏子ちゃんとほむらちゃんは、握手をしていた。

杏子「んで?あのワルプルギスの夜と戦うってのは、それなりの理由があんだろ?」
ほむら「………」
藍花「あ、杏子ちゃん、その話は……」
qb「僕も、その理由が知りたいかな」
藍花・杏子・ほむら「!」
qb「やあ、三人とも」

キュゥべえが、唐突に姿を現していた。

ほむら「何の用かしら、キュゥべえ?」

ほむらちゃんが、キュゥべえをギロリと睨みつける。

qb「特に用はないけれどね。ほむらがワルプルギスの夜と戦う理由を知りたい。それじゃダメかな?」
ほむら「あなたには関係ないでしょう?消えてちょうだい」
qb「………」

なんだろう。何故か、ほむらちゃんはキュゥべえに対しての当たりが強いような気がする。

杏子「大人しく姿消しとけ、キュゥべえ。じゃねぇと、こいつに殺されるぞ?」
qb「……やれやれ、仕方ないな」
ほむら「いえ………ちょうどいいわ。見ていなさい、二人とも」

それだけ言うと、ほむらちゃんはキュゥべえに対して銃を向けた。

藍花「ほむらちゃん!?何を……」

止める間もなく、発砲する。
弾丸が、キュゥべえの頭を貫いた。

杏子「お、オイオイほむら!?さすがにやりすぎじゃ……」
ほむら「黙っていなさい」
杏子「っ……」

ほむらちゃんの言葉に従い、わたしと杏子ちゃんは黙る。

qb「困るなぁ、無意味に殺さないでくれよほむら」
藍花「……えっ!?」
杏子「あ、新しいキュゥべえが……!?」

どこからともなく新しいキュゥべえが姿を現した。
そしてほむらちゃんにやられてその場に倒れているキュゥべえを、食べ始めた。

藍花「え、な、何が……?」
ほむら「これを二人に見せたかった。例えキュゥべえを始末しても、すぐに新しい個体が姿を現すわ。
     これで、いざ美樹さやかが契約しそうになった時に、躊躇わずにキュゥべえを殺すことが出来るでしょう?」
杏子「マジかよ……なんなんだこいつホントに……」
藍花「……」

まぁでも、なんとなく納得は出来る。かな。
わたしたちを魔法少女にする力があるくらいだし。

qb「これ以上無駄に殺されるのは勘弁して欲しいところだし、僕は行くとしよう。じゃあね、暁美ほむら、夏見藍花、佐倉杏子」

新しいキュゥべえは、やられたキュゥべえを食べ終えるとこの場を後にした。


ほむら「………わたしの目的はまだ話せないけれど。ひとつ、決心がついたわ」
藍花「?」
ほむら「なぜわたしが鹿目まどか……いえ、まどかとさやかの契約を阻止するのか。その理由」

そうしてほむらちゃんは、ぽつりぽつりと話しだす。
ソウルジェムがわたしたち魔法少女の魂であること。
その魂であるソウルジェムが肉体から一定距離以上離れると、肉体の方は活動を停止すること。
ソウルジェムが穢れを限界まで溜めこむと、それはグリーフシードに変化して魔女を生み出すこと。
ソウルジェムが穢れを溜めこむのは魔力の消費のみならず、魔法少女の絶望によっても溜めこむということ。

藍花「そ、そん、な……」
杏子「………っ」
ほむら「……これで、わたしが魔法少女を生み出させたくない理由が、わかったでしょう?」

それは、想像を絶するモノだった。

藍花「それじゃ……キュゥべえは、わたしたちを騙している、ということ?」
杏子「……はっ、あの飄々とした奴のことだ、騙してるっつっても別段不思議ではねぇな」
ほむら「どう?真実を知って」
藍花「……正直に言って、驚いたよ。でも……わたしは、別に、騙された、って認識は……ない、かな」
杏子「………」

そうだ。瓦礫の下に埋もれていた時。
キュゥべえが現れていなかったら、わたしは死んでいたのかもしれないんだから。

藍花「………うん、大丈夫。わたし、は……平気」
杏子「無理すんな、藍花。手、震えてるぞ?」
藍花「っ……」

杏子ちゃんに言われる前には、気付いていた。
でも……それを押さえるのは、無理だった。

杏子「はぁ……あたしだって少なからずショックを受けてるってのに。お前がそんなんじゃ、あたしが取り乱せねぇじゃねぇか」
藍花「ご、ごめん……」
杏子「いいよ、泣け泣け。泣きゃ少しはすっきりするかもしんねぇぞ?」
藍花「っ……う、うぅっ……」

杏子ちゃんの言葉に甘えて。
わたしは、杏子ちゃんの腕に抱きつき、顔を埋めて声を押し殺しながら涙を流した。
杏子ちゃんとほむらちゃんは、何も言わない。
静まり返ったほむらちゃんの部屋に、わたしの押し殺した泣き声だけが響いていた。

―――――
―――


杏子「……落ち着いたか?」
藍花「うん……ごめん、杏子ちゃん」
杏子「いいよ、気にすんな。少しずつ、受け入れて行きゃいいさ」
ほむら「………。話を、戻していいかしら?」
藍花「お願い」

杏子ちゃんの言うとおり、泣いて少しはすっきりした。
うん、大丈夫だ。わたしは……こんな体になったって、生きていける。

ほむら「なぜわたしがその事を知っているのか。次は、その理由ね」

今度は、ほむらちゃん自身の境遇を話し始めて行く。
ほむらちゃんは、この一ヶ月を何度も何度も繰り返しているようだった。
ある一人の少女との約束を、守る為に。
そしてその繰り返していた時間の中で、その事実を知った、と言う。

ほむら「………美樹さやかは、魔法少女となった後は高確率で絶望し、魔女となってしまう。そうなると、色々と面倒なことになるの。……佐倉さん、あなたならわかるのではなくて?」
杏子「…………………マミの事、か?」
ほむら「ええ。彼女には、この事実を軽々しく教えるわけにはいかない。彼女が落ち着いている時に、ゆっくりと説明しなければ」
杏子「………」

マミさん。あの人は、正に正義の魔法少女の鏡と言える存在みたい。
だからこそ、自分が魔女になる可能性を持っているだなんて、信じたくないに違いない。
わたしだって……魔女になんか、なりたくない。
わたしだけじゃない。ほむらちゃんだって、杏子ちゃんだって。魔女になりたいはずはなかった。

ほむら「そういうこと、よ。だからわたしは、まどかとさやかを契約させるわけにはいかないの」
藍花「まるで……そのまどかさんとさやかさんが、ほむらちゃんの言う約束した少女みたいだね」
ほむら「……………」

否定は、しなかった。でも、肯定もしない。
まだ、それを語るわけにはいかない、ってことなのかな。

ほむら「今後も、さやかの監視をお願い。彼女が契約するとしたら……恐らく、タイミング的にはここ一週間辺り。注意して見ていてちょうだい」
藍花「うん、わかった。わたしと杏子ちゃんに、任せて」
杏子「あたしも一緒かよ!?」
藍花「だって、杏子ちゃんはわたしのパートナー……でしょ?」
杏子「面倒だなぁ……ま、仕方ねぇか。今の真実を抜きにしたって、魔法少女が増えるのはあたしにとっちゃ好ましいことじゃねぇからな」
ほむら「ありがとう、杏子……」
杏子「! ……あぁ」

~~~

ほむらちゃんの家を後にして、わたしと杏子ちゃんは杏子ちゃんの用意していたホテルの一室まで来ていた。
最後。ほむらちゃんは確かに杏子ちゃんの事を下の名前で呼んでいた。
そっか、一ヶ月を繰り返してるって話、だったもんね。
……あれ?でも、そしたらなんでわたしのことは知らなかったんだろう?

杏子「しっかし、ホントにいろんな魔法少女がいるもんだな」
藍花「………」
杏子「……藍花?」
藍花「っ!え、あ、何、杏子ちゃん?」
杏子「どうかしたか?なんか考えこんでたみてぇだけど?」
藍花「う、うん……」

考えていたことを、杏子ちゃんに話す。
杏子ちゃんは、何かを考えながらわたしの話に耳を傾けていた。

杏子「……なるほど、確かに妙だな」
藍花「なんでわたしのことは知らなかったんだろう……?」
杏子「さて、見当もつかねぇな。ま、本人もなんでかはわかってないみてぇだし、深くは考えない方がいいんじゃねぇのか?」
藍花「そう、かな……」
杏子「あーもう、頭使うのは苦手なんだよ、あたしは。もう寝るぞ、ホレ」

杏子ちゃんの方から一方的に話を断ち切り、部屋の電気を消す。
わたしも仕方なしに、ベッドに横になる。

藍花(……でも、杏子ちゃんの言うとおり、かも)

当の本人であるほむらちゃんさえわかってないなら、考えても答えは出そうになかった。
目を閉じて、眠気に身を委ねた。

~~~

それから数日が経過した。
ある日の放課後。
いつもと同じビルの同じ場所に陣取り、さやかさんの監視を続ける。

藍花「………」

ほむらさんの言葉を思い出す。
タイミング的には、この一週間辺りと言っていたはず。
注意深く観察していると、いつの間にかキュゥべえが窓際に姿を現していた。

藍花「っ! まずい!」

今まで座りながら監視していたが、思わずスクッと立ち上がる。

杏子「藍花?キュゥべえの野郎が姿を現したか?」
藍花「うんっ!行かなきゃ……!」

ビルの地を思い切り蹴り抜き、病院の屋上まで跳躍、着地する。
杏子ちゃんもわたしの後に続いて来た。

杏子「病院で契約を決意するってのは、どういうことだ?」
藍花「わからない……けど、多分。お見舞いに来ていた男の人を、救いたい、とかそんな感じじゃないのかな」
杏子「……他人の為の祈り、か」

杏子ちゃんは複雑そうな顔をする。
杏子ちゃんもまた、他人の為の祈りで契約した魔法少女だった。
きっと、色々と思うところがあるのだろう。

二人で屋上で待機していると、さやかさんとキュゥべえが姿を現した。

さやか「! ……あんた、確か……」
藍花「……お久しぶり、でいいんですかね。夏見藍花、です」
杏子「………」

杏子ちゃんは何も言わない。わたしの立ち位置から一歩下がって、様子を見守るつもりのようだった。

qb「何の用だい、藍花?僕は今から、さやかと契約するつもりなのだけれど?」
藍花「させない……キュゥべえ、殺されたくなかったら大人しく姿を消して」
qb「………」

もしもキュゥべえが契約を強行するようなら。
……その時は、容赦しない。
その事をわからせる為、魔法少女の姿に変身する。

qb「…………やれやれ、あと一歩のところで邪魔が入ってしまったか」

契約するのは無理だと悟ったのか、キュゥべえはこの場から去っていく。

さやか「ちょっと、邪魔しないで!あたしは、恭介の為に……!」
藍花「ごめんなさい、さやかさん……でも、あなたを契約させるわけにはいかないの」
杏子「他人の為に祈ったところで、ロクな結果は待ってねぇぜ、美樹さやか」
さやか「でも、こうでもしなきゃ恭介が……!」
藍花「………」

恭介。確か、さやかさんがお見舞いに入って行った病室の入り口に書いてあった名前が、上条恭介という名前だった。

藍花「そんなに、彼が大事なの?」
さやか「………」

さやかさんは、無言で頷く。

藍花「………なら、わたしを彼に会わせてくれない?」
さやか「え………?」
藍花「わたし、一応治癒の魔法が使えるの。もしかしたら、その、恭介さんの体を……治すことが、出来るかもしれない」
さやか「ほ、本当にっ!?」
藍花「断言はできない。でも、試させて欲しい。そして、その結果がどうであっても。あなたは、契約はしないって、約束して欲しい」
さやか「っ……」

さやかさんは悩んでいるようだった。
それはそうだろう。自分が彼の為に祈って魔法少女になれば、彼の体が治る可能性は100%なのだ。
でも、わたしに試させた場合。それは、100%ではない。

さやか「……………願い」
藍花「……」
さやか「お願い、夏見さんっ……恭介を、恭介の腕を治してあげてっ……!」

さやかさんは、泣きそうな顔でわたしの腕を掴んで来る。

藍花「それじゃ……契約しない、って、約束してくれる?」
さやか「……っ、うん」
藍花「わかった。なら、病室まで案内して?」

さやかさんが先頭を歩く。その後を、わたしと杏子ちゃんが続いて行く。

病室に到着する。部屋の入り口には、上条恭介という文字。
その病室のドアを開ける。

恭介「……さやか?」

病室の中には、男の人が一人、座っていた。左手からは血が流れており、辺りにはcdケースが散乱している。

恭介「その子達は……?」
さやか「あたしの、友達……どうしても、恭介に会いたい、って」
恭介「一人にしてくれっ……もう、僕は……!」
さやか「っ……」

藍花「はじめまして、恭介さん。わたし、夏見藍花って言います」
恭介「………」

恭介さんは返事をしない。わたしは返事がないことなど気にせず、恭介さんの腕を掴む。

恭介「な、何を……っ」
藍花「………」

まじまじと見つめる。手の甲は、cdケースを叩き割った時の傷があった。そして、それとは別。
もう傷口は塞がっているが、痛々しい程の傷跡があった。

藍花「さやかさん……この、傷?」
さやか「……うん」
恭介「なんだよ……僕の左腕を笑いに来たのか!?もう、帰ってくれよ!!」
藍花「ごめんなさい、恭介さん……ちょっと、手荒になるけれど」

杏子ちゃんと二人で戦っていた時に練習した魔法のうちのひとつを、行使する。

藍花「………眠りの光……スリーピィライト」

ボソリと、呟く。その呟きと同時に、わたしのソウルジェムは淡い光を放ち始める。

恭介「……あ、れ……なんだ、急に…眠……」

恭介さんは、ゆっくりと眠りの世界に落ちる。

さやか「す、すごい……これが、魔法……」
藍花「さやかさん、あまりこの光は見ない方がいい」
さやか「え?」
藍花「あくまでこの魔法は恭介さんに対して発動しているものだけど……じっと見ていると、あなたまで眠気に襲われる」
さやか「っ……」

さやかさんはわたしの言葉を聞き、顔をそむける。

さやか「そ、それで、恭介の腕、は……?」
藍花「……………………」

言い出しにくい。正直なところ、一人では……無理、かもしれなかった。
思っていた以上に傷が深いのだ。

さやか「ねぇ、夏見さん、なんとか……」
藍花「そうだっ!」
さやか「っ?」

わたしと一緒で、命を繋ぎとめる為の祈りで契約したマミさんがいれば。
マミさんと二人がかりなら……もしかしたら、恭介さんの腕を治すことも出来るかもしれない。

藍花「杏子ちゃん!ほむらちゃんに連絡、取れる?」
杏子「まぁ、一応番号は聞いてるけど……」
藍花「お願い、ほむらちゃんに連絡を入れて!ほむらちゃんなら多分、マミさんとの連絡手段を持ってる!マミさんと話がしたいの!」
さやか「マミさん……?」
杏子「ちょっと待ってろ」

杏子ちゃんは病室から出て行く。その間、わたしは魔法を使ったまま。
……ソウルジェムが少し心配だけど、そんなことを言っている場合じゃない。
10分くらい経ってからだろうか。杏子ちゃんが、病室に戻ってくる。

杏子「マミと連絡取れたぜ、藍花。今から、ここに向かうってさ」
藍花「ありがとう、杏子ちゃんっ……」
杏子「おい、藍花……いくら燃費いいからって、永続使用はちっと危険なんじゃねぇの?」
藍花「でも、一度切らすと効き目が弱まるのは実証済みだし……」
杏子「………」
さやか「ね、ねぇ、それで、どうなの?恭介の腕は……」
藍花「大丈夫、さやかさん。マミさんとわたしの二人がかりなら、きっと……」
さやか「………」

それから待つこと20分。マミさんとほむらちゃん、それにまどかさんの三人が、病室に来てくれた。

まどか「え、あ、あの……?」
マミ「佐倉さん……っ?なぜ見滝原に……」
ほむら「……」
藍花「ごめん、みんな!とりあえず話は後にして欲しいの!マミさん、わたしの側に来てください!」
マミ「え、えぇ……」

マミさんは杏子ちゃんの事を気にしながらも、わたしの側まで来てくれる。

まどか「ねぇ、さやかちゃん?上条くん、一体どうしちゃったの?」
さやか「……夏見さんが、恭介の腕を治してくれる……って……」
まどか「……」

まどかさんとさやかさんが、何かを話している。
それを気にせずに、マミさんに問いかける。

藍花「恭介さんの左腕、見てみてください」
マミ「………ずいぶんと、深い傷跡ね……」
藍花「はい……多分、神経がボロボロにやられてると思うんです。わたし一人じゃ治せる自信が無くって……マミさん、どうですか?」
マミ「……わたしも、一人では自信が無いわね。でも、二人がかりなら……」

マミさんも、わたしと同じことを言ってくれる。
懐からソウルジェムを取り出し、それを恭介さんの左腕に近づける。

マミ「………………」

マミさんのソウルジェムが、まばゆい光を放つ。
わたしはわたしで、魔法の多重使用を試みる。
……大丈夫、だ。多重使用も、杏子ちゃんと共闘する中で、練習した。
もうひとつの光の補助魔法。

藍花「……癒しの光……ヒーリングライトッ……」

ボソリと、呟く。わたしのソウルジェムが放つ光が、更に強くなる。

マミ「神経を……繋ぎ合わせるようイメージすればいいのかしらね?」
藍花「それで、お願いします……っ!」

数人が見守る中、恭介さんの腕の治療は続いた。
それから10分くらい経っただろうか。わたしとマミさんは、行使していた魔法を止める。

マミ「………」
藍花「………」
さやか「ど、どうなった……ん、ですか?」

さやかさんが、心配そうに聞いて来る。

藍花「………やれるだけのことは、やりました」
マミ「ええ……彼の神経を繋ぎ合わせることは、出来ていると思うわ」
さやか「ほ、本当ですかっ!?」
藍花「でも、完全に元に戻った、と言うわけにはいかないかも……」
マミ「後は彼のリハビリ次第、と言ったところかしらね?」
さやか「それでも十分です!ありがっ……とう、ございまっ……す……!」

さやかさんは涙を流しながら、わたしとマミさんに礼を言う。
ふと、窓際に何者かの影があったのに気付く。
………キュゥべえ、だった。キュゥべえは何も言わずに、そこからすぐに姿を消した。

―――――
―――


ほむら「……ありがとう、マミ、藍花。さやかのあの様子なら……もう、契約をすることはないと思うわ」

その日の夜。わたしたちは、再度ほむらちゃんの家に集まっていた。
まどかさんとさやかさんは、彼が目を覚ました時にうまく誤魔化してくれると言い、病院に残った。

マミ「いえ、いいのよ。こんなわたしでも……まだ、人の役に立つことは出来るんだものね」
杏子「……はん、相変わらず甘っちょろいな」
マミ「………」

杏子ちゃんとマミさんの間に、どことなく険悪な雰囲気が漂っている。

藍花「ね、ねぇ杏子ちゃん……?杏子ちゃんって、マミさんとは知り合い……なの?」
杏子「ま、一応はな。マミとは、昔コンビを組んでたのさ」
藍花「コンビ?杏子ちゃんとマミさんが?」
マミ「ええ……もう、過去の話よ」
杏子「………」

杏子ちゃんとマミさんは、にらみ合う。
この二人には……わたしの知らない過去が、あるんだ。

ほむら「本題に入らせてもらっても、構わないかしら?」
マミ「……ええ」
杏子「構わねぇよ」
藍花「お願い、ほむらちゃん」

三者三様の返答を聞き、ほむらちゃんは話し始める。

ほむら「マミも杏子も既に知っているでしょうけれど……今日より約二週間後。この街に、ワルプルギスの夜が訪れる」
マミ「……」
杏子「……」
ほむら「わたしと藍花は、それを迎撃するつもり。出来ればあなたたちにも、助力をお願いしたいのだけれど……どうかしら?」
杏子「あたしはオーケーだ。というか、既にほむらん中ではあたしも戦力に数えられてると思ってたんだが?」
ほむら「ちゃんとした返事は聞けていなかったもの。わたしの勝手でそんなことは出来ない」
藍花「あ、あはは……」

ほむらちゃんの言葉が耳に痛い。
わたしが今ここにいるのって、全部わたしの勝手でなんだよなぁ……。

藍花「ごめんね、杏子ちゃん」
杏子「なんで藍花が謝るんだよ?」
藍花「だって、わたしの勝手で杏子ちゃんを振り回してるような気がするし」
杏子「今更、だな」
藍花「あう……」
杏子「はは、冗談だよ」
藍花「イジワル……」

わたしと杏子ちゃんが話している光景を、複雑そうな顔をしてマミさんが見ていた。

ほむら「それで、巴マミ。あなたはどう?わたしに、力を貸してくれるかしら?」
マミ「………わたしは、この街を守る魔法少女よ。その質問は、愚問だと思わない?」
ほむら「!」
藍花「マミさん……!」
マミ「それに、暁美さんには一度命を助けられた借りもある。わたしなんかでよければ……一緒に、戦いましょう?」

そう言って、マミさんは笑顔を見せる。

藍花「ありがとう、杏子ちゃん、マミさん……」

杏子ちゃんだけでなく、マミさんまで力を貸してくれると約束してくれた。
ベテランの魔法少女が三人。わたしは……新米魔法少女だ。

藍花「これだけの戦力が揃ったなら……ワルプルギスの夜に、勝てるかな?」
ほむら「わからないわ。あいつを前にして、絶対に油断だけはしないでちょうだい。……いいわね?」
杏子「おう、任せときな!」
マミ「よろしくね、暁美さん、夏見さん……それに、佐倉さん」
杏子「!」
マミ「………かつての魔法少女コンビ、再結成というわけではないけれど。一緒に、頑張りましょう?」
杏子「………はん」

杏子ちゃんはぶっきらぼうながら、マミさんの握手に答えていた。
ここに、ワルプルギスの夜討伐同盟が結成された。

―――――
―――


藍花(わたしは新米だ……みんなの足を引っ張っちゃまずい)

内心、わたしは焦っていた。
ワルプルギスの夜……あいつを前にして、怖気づかないとも言いきれない。

藍花(その為に、少しでも力をつけないと……)

夜、ホテルの一室。
杏子ちゃんは既に寝入っている。
そんな杏子ちゃんを起こさないようにしながら、夜の郊外にわたしは足を運んでいた。

藍花(杏子ちゃん、言ってくれた。応用を広げれば、わたしはまだ強くなれるんだ)

魔法少女の姿に変身する。手には、いつもの懐中電灯。
それにスイッチを入れて、光の剣を出現させる。

藍花(……わたしの力。光を操る魔法……)

今までは、補助の方向に応用を広げていた。
眠りの光や、癒しの光。
杏子ちゃんが前面に立って戦うから、わたしは主に補助に回るのが自然な流れとなっていた。
でも、それじゃダメだ。
ワルプルギスの夜相手には、わたしも前面に出なきゃ。
その為に、攻撃系の魔法を練習しよう。
グリーフシードは、大丈夫だ。まだ余裕はある。

藍花(………)

それから数日間、わたしは杏子ちゃんにも内緒で魔法の修練に励んだ。

~~~

わたしは杏子ちゃんと一緒で、学校には通っていない。
その為、昼間から夕方にかけての魔女退治のパトロールはわたしと杏子ちゃんが。
夕方から夜にかけての魔女退治のパトロールはほむらちゃんとマミさんが。
深夜の魔女退治のパトロールは交代で、と言う風に分担していた。

今は使われていない廃駅。そこに、魔女の気配があった。

杏子「行くぜ、藍花」
藍花「うんっ!」
杏子「……藍花も、なかなか様になってきたじゃねぇか?」
藍花「え?そうかな?」

その場でクルッと一回転し、得意げなポーズを取る。

杏子「もういっぱしの魔法少女、って言えると思うぜ」
藍花「あはは、でも杏子ちゃんやマミさん、ほむらちゃんにはまだまだ及ばないよ」
杏子「そりゃ、あたしらはもう数年は魔法少女やってっからな。さて、無駄話はこんくらいにして、行くぜ」

杏子ちゃんの持つ槍の先端が、魔女結界への入り口を開く。

今回の魔女結界の内部は、白と黒の世界だった。
わたしと杏子ちゃんの姿も、影のような姿となっている。

杏子「離れるなよ、藍花」
藍花「うん……」

杏子ちゃんと二人、白黒の世界を歩く。
ここの結界は、今までの魔女結界とは違い、静かだった。
使い魔がいないのだ。

あっさりと、結界中枢に辿りつくことが出来た。
……丘の上。そこに、魔女の姿があった。
何かに祈りを捧げる、女性の姿をしていた。

杏子「………」

杏子ちゃんは、複雑そうな顔をしていた。
あの姿勢に、何か想うところがあるのだろう。

藍花「杏子ちゃん……?」
杏子「あ、あぁ、わりぃ。ちっと、昔を思い出して、な」
藍花「……」

杏子「うしっ、行くぜ藍花!」
藍花「……うん!」

杏子ちゃんが大きく跳躍し、槍を構えて魔女に突進を仕掛ける。
魔女はその攻撃を察したかのように、黒い触手のようなものを無数に出して杏子ちゃんに攻撃を加えていた。
よく見ると、触手のようなモノの先端は獣の頭を模していた。恐らく、あれがあの魔女の使い魔なのだろう。

杏子「甘い甘い!」

杏子ちゃんは自身に伸びて来た使い魔を全て切り払い、尚も魔女向けて降下を続けていた。

杏子「食らえっ!」

射程内に魔女を捉えたところで、槍を大きく前方に突き出す。
そのタイミングに合わせるように、魔女の体から手下が三体、伸びてくる。
杏子ちゃんが一撃を加える代わりに、魔女は杏子ちゃんの両腕と右足を拘束していた。

杏子「ちっ!小賢しいマネを!」
藍花「杏子ちゃん、今助ける!」

わたしは懐から、すっかり自分の手に馴染んだ懐中電灯を取りだす。
スイッチを入れ、光の剣を出現させた。

藍花(今回は、剣じゃなくてもっとリーチのある物に……!)

頭の中でイメージを浮かべる。……そうだ、いいモノがあった。
杏子ちゃんが武器にしている槍。あれは確か、展開させると多節棍になっていた。
あれくらいのリーチがあれば……!

藍花「……ライトフォルムチェンジ……ウィップ!」

光の剣は、その形を変えていく。そして、それは鞭のようにしなやかなモノへと変質していた。

藍花「杏子ちゃんを……離せっ!」

それを大きく横に薙ぎ払う。
光の鞭はどんどんと伸びて行き、杏子ちゃんを拘束していた使い魔を綺麗に切り払った。

杏子「ナイス、藍花!そぉらっ!!」

手足が自由になった杏子ちゃんは、その手に持っていた槍を魔女目掛けて投擲する。
その槍は。魔女の体を貫いていた。

魔女「………!!」
藍花「杏子ちゃん、危ない!!」

攻撃をモロに食らった魔女は、その体から大量の使い魔を出現させていた。

杏子「ちっ、しぶといな!」
藍花「どれだけたくさん出したって、この鞭なら!」

わたしと杏子ちゃんへ向けて伸びて来る使い魔を、光の鞭で薙ぎ払って行く。
頭上に降りあげた光の鞭を、勢いよく振り下ろす。

藍花「くらえええぇぇっ!!」

未だに迫りくる使い魔を切り払いながら、鞭は魔女の頭上へ迫って行く。
そして、魔女の体を真っ二つに引き裂いた。

魔女「……―――」

結界が晴れて行く。

杏子「やるじゃねぇか、藍花。お前の魔法の応用も、だいぶ幅が広がってきたな」

足元に転がっていたグリーフシードを拾いながら、杏子ちゃんがわたしの事を褒めてくれる。

藍花「ありがとう、杏子ちゃん。でも、これだけ扱えるようになるまで苦労したんだよ?」
杏子「そんだけ扱えるようになりゃ十分十分!」

爽やかな笑みを浮かべながら、手に入れたばかりのグリーフシードを使ってソウルジェムを浄化している。

杏子「ほれ、藍花。お前も浄化しとけ」

使い終わったグリーフシードを、わたし向けて投げて来る。
それをしっかりとキャッチし、わたしもソウルジェムを浄化した。

藍花(……………。ワルプルギスの夜が来るまで、あと一週間……)

文字通り、決戦となるだろう。
改めて心を引き締める。

~~~

そして、ほむらちゃんが予告したワルプルギスの夜の出現前日。
わたしたちは、ほむらちゃんの家で最後の作戦会議を開いていた。

ほむら「奴は、川岸の上空に姿を現す。その為、奴を迎え撃つのはこの橋の上が一番適している」

テーブルに広げられた見滝原全域の地図を広げ、橋の部分を指差す。

マミ「暁美さんは、今までにも何度かワルプルギスの夜と相対しているのよね?」
ほむら「ええ」
マミ「なら、奴の弱点とかはわからないのかしら?」
ほむら「……奴に弱点なんてもの、あるとは思えない。各自、持ちうる力を振り絞って、攻め倒すしかないわ」




qb「さて、どうなることやら。本当に勝てるかな?あのワルプルギスの夜に」

わたしたちが作戦会議を開いている中、キュゥべえがその姿を現した。

杏子「……どのツラ下げて出てきやがった?」

杏子ちゃんがキュゥべえ向けて鋭い眼差しをする。
ほむらちゃんも、険しい顔をしていた。
わたしも……多分、穏やかな顔はしてないんだろうな。
その反面、真実を知らないマミさんだけが顔に「?」マークを浮かべていた。

qb「暁美ほむら、キミの話を聞いてようやく合点が行った。鹿目まどかが膨大な素質を備えていた理由がね」
ほむら「………何を言いたいのかしら?」
qb「キミの目的は、鹿目まどかの魔法少女の契約の阻止。
   美樹さやかの契約を阻止したかったのは、さやかが契約することでまどかも契約するのを恐れた為だ」

その他にも、キュゥべえは饒舌に話し続ける。
ほむらちゃんが今まで繰り返してきたせいで、まどかさんが膨大な素質を備えるに至った事を。

qb「お手柄だよ、ほむら。キミがまどかを最高の魔女に育て上げたんだ」
マミ「………え……?」
ほむら「っ………」

さらりと、魔法少女の真実を口にした。

qb「キミ達がワルプルギスの夜を相手に苦戦するのは目に見えている。僕はそれに付け込んで、まどかとの契約を試みることにするよ。それじゃあね」

ひとつの爆弾を残して、キュゥべえはこの場を去って行った。

マミ「……ど、どういうこと、なの……?わ、わたしの聞き間違い、かしら?今、キュゥべえ……鹿目さんが、最高の魔女に……って……」
藍花「え、ええっと……それ、は……」

今の今まで黙っていたのは、失敗だったかもしれない。
わたしと杏子ちゃんが何を言ったらいいのかを考えている横で、ほむらちゃんが口を開いた。

ほむら「……ここまで来たら、もう隠すことはできないわ。藍花、杏子。……覚悟を決めてちょうだい」
杏子「………あぁ」
藍花「……っ」
マミ「あ、あの……?」
ほむら「マミ、落ち着いて聞いて」
マミ「…………」

そしてほむらちゃんは。
わたしと杏子ちゃんに教えてくれた魔法少女の真実を、ゆっくりと説明する。
マミさんはそれを、呆然とした様子で聞いていた。

マミ「………嘘よね、そんな、まさか……」
ほむら「今まで黙っていて……ごめんなさい。こればかりは、謝るしかないわ」
マミ「それ、じゃ……わたしは、何の為に……っ!」

マミさんの目から、涙が零れる。

杏子「おいマミ!こんな程度で挫けてんじゃねーぞっ!?」
マミ「っ……!」

杏子ちゃんが、マミさんを叱咤する。

杏子「確かにあたしたち魔法少女は、魔女になっちまう存在かもしんねぇ!でも、今は!
    まだあたしも、ほむらも、藍花も、そしてマミも!魔法少女だろうがっ!!」
マミ「佐倉、さん……?」
杏子「アンタ、言ってただろうが……あたしたち魔法少女は、希望を振りまく存在だ、って……忘れちまったのかよ……?」
藍花「そ、そうですよマミさん!」

わたしも思わず、口を開いていた。


藍花「わたし、マミさんの魔法少女としての生き様、すごいって思います!」
マミ「夏見さん……」
藍花「……ほむらちゃんから、聞きました。マミさんが魔法少女になった経緯。わたしも、マミさんと一緒なんです。
    ワルプルギスの夜が招いた災厄で、わたしは死にかけていた。そこにキュゥべえが現れて、わたしを魔法少女にしてくれて、それでわたしは助かったんです!」
マミ「……」
藍花「マミさんだって……魔法少女になっていなければ、死んでいたんですよね?」
マミ「………」
藍花「大丈夫です。いざと言う時は……わたしや杏子ちゃん、ほむらちゃんが……マミさんのソウルジェムを、壊しますから。魔女になんて、なりたいはずないですもんね」

強がりを言って、無理に笑顔を作る。

マミ「…………」
藍花「だから……魔法少女でいられる間は、頑張って生きましょうよ」
マミ「……そう……ね。ごめんなさい……わたし、弱いわね……」
杏子「そうだな、マミは弱い。だからこそ、こうした仲間が必要だ」
マミ「っ……もう、佐倉さんは優しくないわね……」
杏子「いつものマミに戻ったか?」
マミ「ええ……そうよ、わたし、魔法少女ですもの。例え魔女になる存在だったとしても……限界が来るまでは、希望を振りまくわ」

マミさんは涙を拭い、そしてわたしたちの顔を眺めた。

マミ「ありがとう……わたしはもう、ひとりぼっちじゃないわね」
藍花「もちろんですよ!わたしたちみんな、仲間です!」
杏子「世話の焼ける奴だな、ホントに……」


ほむら「…………よかった」

そこで、今まで口を噤んでいたほむらちゃんが口を開いた。

マミ「気を遣ってくれてありがとう、暁美さん。もう大丈夫よ、わたしは」
ほむら「……頼りにさせてもらうわ……マミ先輩」
マミ「くすぐったいわ、いつも通り呼び捨てで呼んでよ、暁美さん」
ほむら「ふふ、でも先輩であることに変わりはないでしょう?」
藍花「そうですね。マミ先輩!」
マミ「もう、夏見さんまで……」

さっきまでの暗い雰囲気が嘘であるかのように。
わたしたち四人は、穏やかに笑いあっていた。

日が、落ちた。
外は、スーパーセルの兆候が見え始めていた。

マミ「それじゃ、わたしは帰るわ。明日、見滝原大橋で会いましょう?」
杏子「あたしたちも帰るか、藍花」
藍花「……ごめん、杏子ちゃん。先に、帰っててもらえる?」
杏子「? なんかあんのか?」
藍花「ちょっと……ほむらちゃんと二人で、話がしたくって」
ほむら「……?」
杏子「まぁ、わかったけど……んじゃ、先に帰ってるぜ」
藍花「うん、ゴメンね杏子ちゃん」

杏子ちゃんとマミさんは、ほむらちゃんの家を後にする。
この場に残されたのは、わたしとほむらちゃんの二人。

ほむら「………それで、話って?」
藍花「うん。……キュゥべえ、いるんなら出てきて」
ほむら「っ!?」





qb「なんだい、藍花?」

物陰から、キュゥべえが姿を現した。
わたしとほむらちゃん……そしてキュゥべえ。
これで、わたしの思っていた舞台は整った。

藍花「ほむらちゃん。もう、ほむらちゃんの目的、隠す必要はないよね?」
ほむら「………」
藍花「わたしね、どうしても気になってたことがあるの」
ほむら「……何かしら?」
藍花「わたしは、ほむらちゃんからしてみたらイレギュラーなんだよね?」
ほむら「……ええ」
藍花「キュゥべえ。魔法少女って、その人の素質によってある程度の強さが決まるんだよね?」
qb「うん、そうだね。藍花もそれなりの素質を備えていた。まぁ、それなりとは言っても、普通の少女が持ちうる素質を逸脱はしていないけれど」
藍花「多分、だけど……わたしが素質を持つのに至った経緯って、ワルプルギスの夜が招いた災厄を生き抜いたから、なんじゃないかな、って思うの」
ほむら「………どういう、こと?」

わたしの立てた仮説。
あの時、あの場所から救出されたのは、わたしだけだったとキュゥべえは言っていた。

藍花「わたしがあの時助かったその時に、きっとわたしは素質を持つに至ったんじゃないのかな?」
ほむら「…………」

藍花「どう、キュゥべえ?」
qb「確かに、あの時急にキミに素質が備わったような感じはあったね」
藍花「わたしが助かったのは、正に奇跡と呼んでいいものだった。まぁそれでも、こうして契約していなかったらそのまま死んでたんだろうけれど」
ほむら「あなたが何を言いたいのか……わたしには、わからない」
藍花「自分でこういうことを言うのはすっごく恥ずかしいし、自惚れだってわかってるつもりだけど……言わせてもらう」





藍花「わたしはきっと、ほむらちゃん達から見たら『希望』なんだよ」
ほむら「っ!?」
qb「……なかなか言うじゃないか、藍花。キミ自身が『希望』だって?」
藍花「うん。今までわたしがほむらちゃん達と会わなかったのは、あの時の災厄でわたしも死ぬ運命のハズだったから。
    でも今回、何故かわたしはあの時の災厄で死ななかった」
ほむら「あなたは……わたしたちの、希望……なの……?」
藍花「……なんか、そう言われると照れるな。それに、わたしがいるからってワルプルギスの夜に勝てるとも限らないし。あ、もちろん、負けるだなんて思ってないよ?」


qb「……………今回に限っては、キミと契約したのは失敗だったかもしれないね」

キュゥべえが、そんなことを言う。

藍花「どうして?」
qb「希望、と言ったね。キミ達人類は、希望と言って連想するのは光だ。そして藍花、キミの魔法少女としての能力は、光を操る魔法」
ほむら「希望の光……」
qb「まぁ、この時間軸で生きている僕が知ることは無理だっただろうし、そんなことを言ってもどうにもならないね。せいぜい頑張ることだよ、藍花」

キュゥべえはそれだけ言い残すと、姿を消す。

藍花「……ねぇ、ほむらちゃん。今までほむらちゃんが繰り返してきた世界の話……聞かせてくれないかな?」
ほむら「いいわ。あなたになら……全てを話してもいいような気がする」

ほむらちゃんはゆっくりと、話をしてくれた。
話の端々に、まどかさんの名前が出て来る。
……やっぱり、ほむらちゃんと約束した少女は、まどかさんだったんだ。

ほむら「……まどかは、ひとりぼっちだったわたしに手を差し伸べて、友達になってくれた。それだけじゃない。わたしを、守ってくれた……。
     だから、今度はわたしの番。わたしが、まどかを守ってみせる……!」
藍花「………」
ほむら「そう決めて、わたしはこの一ヶ月をずっと繰り返している。でも、未だに救うことが出来ない……」

ほむらちゃんが、震えている。
………怖いんだ、やっぱり。


藍花「大丈夫、ほむらちゃん。わたしも、ほむらちゃんの力になる。だからほむらちゃんも。わたしの力になって?」
ほむら「藍花……」
藍花「ね?」
ほむら「………いずれにしても、もうわたしは時間遡行の魔法を使うつもりはない。わたしが繰り返せば、それだけまどかの因果が……」
藍花「……うん。大丈夫。わたしが……ほむらちゃん達の、希望になる」
ほむら「ありがとう……藍花。頼りにさせてもらうわ……」
藍花「もう……どうして、強がるのかなぁ、ほむらちゃんは」
ほむら「え……?」
藍花「体……震えてるよ?」
ほむら「っ……」

まぁ、無理もないんだろうけど。ほむらちゃんは何回も、ワルプルギスの夜に立ち向かっているんだから。
そして……その度に、見たくない光景を見せつけられて。
怖くないわけは、ないよね。

藍花「今は、わたししかここにいないから。少しくらい、弱音を吐いてくれてもいいよ?」
ほむら「藍花っ……!」

弱々しく震えているほむらちゃんを、優しく抱きしめる。

藍花「ほら、こうしたら顔も見えないから。ね?」
ほむら「………っ……ヒック……」
藍花「頑張ろうね、明日……」

ほむらちゃんの背中を撫でながら。
明日の戦いに、希望を見出す為に。
頑張ろう、ほむらちゃん。

~~~

翌日、時刻は昼間。
わたしたち四人は、見滝原大橋の中心に陣取っていた。
見滝原の住人には避難勧告が出されていた。
ほむらちゃんの目的であるまどかさんも、そしてさやかさんも……避難しているはず。
今、見滝原にはわたしたちしかいない。
これなら、誰かに目撃される心配をする必要はなかった。

ほむら「………いい、みんな?後戻りは出来ない……絶対に、四人揃って、ワルプルギスの夜を乗り越えましょう」
杏子「はん、言われるまでもねぇ。ハナからそのつもりだよ」
マミ「見滝原は、わたしが守るべき街。魔女に壊させるわけにはいかない……」
藍花「ワルプルギスの夜を倒したら、みんなでお祝いしよう?まどかさんやさやかさんも誘って、大きなケーキを用意して」
杏子「おっ、いいなそれ!」
マミ「それならわたしは、おいしい紅茶を用意させてもらうわ」

ワルプルギスの夜が姿を現すまでの短い間。
わたしたちは、そんな話をして緊張を解す。

藍花「今わたしの手元にあるグリーフシード……全部で四つ。みんな、ひとつずつ持って行って」
杏子「ありがたく受け取らせてもらうよ」
マミ「これは、借りておくわ。いつか、必ず返させてね?」
ほむら「わたしも……借りさせてもらう」
杏子「ちゃんと藍花の分もあるんだな?」
藍花「もちろんだよ、杏子ちゃん」

………嘘、だった。連日の深夜の魔法の修練で、わたしが思っていた以上にグリーフシードを消耗してしまっていた。
でも、大丈夫だ。わたしの魔法は燃費がいい。
ソウルジェムも、ほとんど穢れを溜めこんではいない。

―――ハハハ……アハハハハ……―――

遠くの空から、笑い声が響いて来る。
聞き覚えがある。あの時、救助隊に運ばれている時に聞いた、忌々しい笑い声。

藍花「………借りを、返しに来たよ」

厚い雲の隙間から、ワルプルギスの夜がその姿を見せた。
辺りにはワルプルギスの手下だろうか、紫色の使い魔がパレードを開いているかのように踊っている。

ほむら「今度こそ、終わりにしてみせる……!」

いつの間にか、ほむらちゃんの周りには多数のロケットランチャーが置かれていた。

マミ「さあ、始めましょうかワルプルギスの夜。わたしたち魔法少女とあなたの、決戦の舞台を……」

マミさんは、複数のマスケット銃を召喚していた。

杏子「行くぞ、藍花!」

杏子ちゃんはそう言って、槍を片手にワルプルギスの夜めがけて跳躍する。

藍花「うんっ!!」

わたしも、その後に続く。手には、おなじみの懐中電灯を携えて。

ほむら「はっ!!」
マミ「食らいなさい!!」

ほむらちゃんとマミさんが放ったロケットランチャーとマスケット銃の魔弾は、ワルプルギスの夜とその使い魔を一度に襲っていた。
ワルプルギスの夜の姿が、爆煙によって見えなくなる。
だが、耳障りな笑い声は相変わらず響き続けていた。

ワルプルギスの夜「キャハハハハハハハ!!アハハハハハハハハ!!」

爆煙が晴れて行く。そこには、ほぼ無傷で宙を漂うワルプルギスの夜。

杏子「食らえぇぇぇ!!」

杏子ちゃんは槍を巨大化させ、それをワルプルギスの夜へ向けて放り投げる。

藍花「ライトフォルムチェンジ……スピア!!」

わたしは光の剣を槍の形状に変化させ、それを伸ばして行く。
そして、ワルプルギスの夜の体を横一線に薙ごうとする。

ワルプルギスの夜「キャハハハハハ!!!!」

そんなわたしたちの攻撃を、ワルプルギスの夜は事も無げにいなす。
杏子ちゃんの放り投げた槍は、弾き飛ばした。
わたしの光の槍は、その腕で受け流していた。

ほむら「まだ終わりじゃない……!!」

わたしたちの攻撃に対応していた為か。
ほむらちゃんの接近を、ワルプルギスの夜は許していた。

ほむら「ありったけの手榴弾をお見舞いしてあげる……!!」

瞬きをした次の瞬間には、ワルプルギスの夜の周りに無数の手榴弾が現れていた。
無数の爆発音と共に、手榴弾が炸裂する。

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

爆煙でワルプルギスの夜の姿が見えないはずなのに、マミさんは攻撃を繰り出していた。
巨大な着弾音が、周囲に響く。

杏子「爆煙でどこから攻撃が来るかわかんねぇだろ!もう一度お見舞いしてやる!!」

杏子ちゃんは再度槍をその手に出現させ、それを巨大化させる。
その槍を、ワルプルギスの夜がいるであろう場所目掛け、投擲する。
次に響くのは、衝突音。杏子ちゃんの放り投げた槍が、ワルプルギスの夜に命中したことを意味していた。

藍花「やっぱりすごい……!」

わたしは攻撃することを少しの間忘れ、三人の攻撃に見とれていた。
これが……ベテラン魔法少女の本当の力、なんだ。

~~~

~鹿目まどか~

ほむらちゃんの言っていた通り、今日。見滝原に避難勧告が出されていた。
わたしたち一般人は、それによって隣町の風見野まで避難していた。
避難所の窓から、見滝原の方角を見守る。

さやか「まどか……?」
まどか「………ほむらちゃん達、大丈夫かな……?」

見滝原で戦っているはずのほむらちゃん達の事が心配だった。

さやか「……やっぱり契約しておけばよかった、って思ってる?」
まどか「………」
さやか「……あたしもさ、一時、本当に契約しようって思ったんだよ、まどか」
まどか「うん……知ってる。上条くんの腕を、治す為に……だよね?」
さやか「………。恭介は、夏見さんとマミさんに救われた。ホント、感謝してもし足りないって程だよ」

あの後、わたしとさやかちゃんはほむらちゃんから魔法少女の真実を聞いた。
魔法少女の魂がソウルジェムだってことも。
魔法少女が絶望したら、魔女になってしまうことも。

さやか「……ホントなら、あたしも契約して一緒に戦いたいって気持ちはあるんだけど……。
     でも、その恩人に、頼まれちゃって。契約は、しないでくれ……って……」
まどか「さやかちゃん……」
qb「魔法少女の契約は、他人に強制されるものではないよ、まどか、さやか」
まどか・さやか「!」

いつの間にか。キュゥべえが、わたしたちの前に姿を現していた。

まどか「キュゥべえ……」
qb「ほむら達は、やはり苦戦しているようだね」
さやか「っ……」
qb「今からでも間に合うよ、まどか、さやか。僕と契約してくれれば……彼女達を助けることだって出来る」
まどか「わたしは……」

助けたい。ほむらちゃん達を。
でも、それはきっと、ほむらちゃん達は望んでない。

さやか「悪いけど、キュゥべえ。あたしたちは、もう契約するつもりはない」
まどか「………」
さやか「ね、まどか?」
まどか「……うん、そう、だね」


qb「やれやれ、暁美ほむらに先手を打たれるとはね。この分じゃ、諦めるしかないのかな」
まどか「でも、お願いがあるの、キュゥべえ」
qb「なんだい?」
まどか「ほむらちゃん達の戦いが終わったら……わたしたちに、教えて欲しいの」
さやか「まどか……?」

肩を並べて戦うのが望まれていないのなら。
せめて、戦いが終わった後はすぐにでも駆けつけたい。

qb「……それがキミの望みかい?」
さやか「ちょっと、そんな願いで契約なんて出来ないでしょ!?」
まどか「契約をするつもりはない。これは、キュゥべえにお願いしたいことなの。お願い……出来ないかな?」
qb「それは、僕にとって何かメリットのあることなのかな?」
まどか「………」

これは、ちょっと、卑怯だけど。
いいよね、別に?

まどか「教えてくれたら……契約を、前向きに考えてもいい」
さやか「まどか、ちょっとっ!?」
qb「ふむ、ならいいよ。教えてあげよう」
まどか「ありがとう、キュゥべえ」
qb「構わないよ。それじゃ、僕も彼女達の戦いを見守るとしようかな」

キュゥべえはわたしとの話が終わると、すぐに避難所を出て行った。

さやか「まどか、本気なの!?契約を前向きに考えるってっ……!」
まどか「嘘だよ、さやかちゃん」
さやか「へっ?」
まどか「ほむらちゃん達を騙したキュゥべえに、ちょっとした仕返し」
さやか「っ……はぁ、真面目に心配して損したじゃん」
まどか「ごめんね、さやかちゃん。大丈夫、わたしももう契約する気はないから」

尚も窓越しに見滝原の方角を見守りながら。
わたしとさやかちゃんは少しでも心を落ち着ける為に、会話を途切れさせないようにしていた。

~~~

~夏見藍花~

ワルプルギスの夜との激しい戦いが続いていた。
相手の体にも傷は増えてきていたが、わたしたちの疲弊はそれ以上だった。
戦いが始まる前に渡したグリーフシードも……もう、使い切ってしまっていた。

ワルプルギスの夜「アハハハハ……キャハハハ……」

マミ「流石……歴史に名を残す魔女は伊達じゃないわね……」
杏子「おい藍花!お前、ソウルジェムは大丈夫なのか!?さっきから一回も浄化してねぇじゃねぇか!」

杏子ちゃんがわたしの心配をしてくれる。

藍花「大丈夫……わたしの魔法は、魔力消費が少ないから……!」
ほむら「みんな、ちょっと集まって!」
杏子「あぁっ?」
ほむら「作戦会議をしたいの!早くわたしのところへ!」

言われるまま、わたしと杏子ちゃんとマミさんはほむらちゃんの元へ歩み寄る。

ほむら「全員で手を繋いで!時を止めるわ!」
マミ「え、時を?」
ほむら「説明は後!ワルプルギスの夜が攻撃をしてくる前に、早く……!」

ほむらちゃんは杏子ちゃんの右手を、わたしは杏子ちゃんの左手を、マミさんはわたしの左手をそれぞれ握る。
すると、周囲の光景がまるで時が止まったかのように静止した。
……いや、文字通り『時が止まっている』のだろう。

杏子「……これが、ほむらの魔法少女としての能力、か」
ほむら「ええ。まどかを守る為に手に入れた、時間停止の魔法」
マミ「すごい……強力な魔法じゃない」
ほむら「ごめんなさい、余計な話をしている暇はないの。聞いて」

ほむらちゃんは、作戦を提案する。

ほむら「わたしと杏子で、ワルプルギスの夜に牽制攻撃を仕掛ける……その隙に、マミは高威力魔法をあいつにお見舞いして欲しいの」
マミ「それは構わないけれど……」
杏子「んで?」
ほむら「そして、マミの高威力魔法で態勢を崩している隙に、藍花がワルプルギスの夜の懐に潜り込む……そして、渾身の攻撃魔法をお見舞いして欲しい」
藍花「わたし……が……?」
ほむら「魔女相手への物理攻撃や魔力の伴わない攻撃は、威力が半減する。わたしたちの中で純粋な魔力のみの攻撃方法を持っているのは、藍花とマミだけ。
     藍花は光の魔法。マミの召喚する銃は魔力を凝縮した魔弾。……これがうまく行けば、きっとあいつだって無事では済まない」

責任重大、だった。
わたしに、そんな大役が……こなせるのかな。


杏子「おい藍花?」
藍花「っ……」
ほむら「……ダメ、かしら?」
藍花「ううん……やらせて」

昨日、ほむらちゃんに大見得を切ったんだ。
わたしは、ほむらちゃん達の希望になる。
なら。こんなことで臆病風に吹かれちゃダメだ。

ほむら「決まり、ね。それじゃ、時を動かすわ。それと同時に、散開してちょうだい。攻撃が飛んでくるかもしれないから」
マミ「ええ、了解よ」
ほむら「杏子。あなたのこと、信頼しているからね」
杏子「ああ、任せとけ。牽制と言わず、あたしだって奴に傷を負わせてやるさ」

杏子ちゃんのそのひと言を最後に、わたしたちは散開する。

ほむら「行くわよ、杏子!」
杏子「おうよ!」

ほむらちゃんと杏子ちゃんは、ワルプルギスの夜目掛けて飛んでいく。
わたしとマミさんは、チャンスを窺う。

ほむら「食らいなさい、ワルプルギス!!」
杏子「行くぜぇぇ!!」

ほむらちゃんはロケットランチャーを撃ち放ち、杏子ちゃんは巨大化させた槍を振り回して、ワルプルギスの夜を牽制する。

ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハハ!!キャハハハハハハハハハハハハ!!」
ほむら「っ……!!」

ワルプルギスの夜は、その口から炎を吐いていた。
ほむらちゃんはそれを、腕を払うことで軽減する。

杏子「隙アリっ!!」

ほむらちゃんに攻撃の手が向いている間に。
杏子ちゃんの持っていた巨大な槍はワルプルギスの夜の左肩を射抜いていた。

ワルプルギスの夜「キャハハ……!?」

その攻撃を受けたワルプルギスの夜の姿勢が、少し崩れる。

マミさんはそのチャンスを見逃さなかった。

マミ「さっきよりも高火力よ!!ボンバルダメント!!!」

先程の大砲よりも更に巨大な銃を召喚し、それを撃ち放つ。
一層強い爆発音が辺りに轟き、地響きまで起こる。

藍花「っ……!」

それを確認したわたしは跳躍し、爆煙の中に飛びこむ。

藍花「ライトフォルムチェンジ……ナイフ……!」

右手には、光の剣。刀身を短くし、ナイフ程の長さにする。
その刀身に、じっくりと自身の魔力と光を集める。

ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハ!!」

わたしのすぐ近くで、ワルプルギスの夜の笑い声が響く。
手を伸ばせば、届く程の位置まで接近することが出来ていた。

藍花「これでっ……!」

左手をこれでもかと言うくらいまで伸ばす。
手に持った光のナイフに、何かが当たる感触がする。

藍花(当たったっ……ワルプルギスの夜に!)

そう確信したわたしは。
溜めに溜めた魔力と光を、解放する。

藍花「破滅の光……ルインライト!!!」

ワルプルギスの夜に深く刺し込んだ光のナイフから、魔力の奔流が巻き起こる。
その光は、正に破滅を呼ぶ光。わたしのありったけの魔力を込めた、最高の一撃だ。

ワルプルギスの夜「キャハ………ハハハハハ………」

懐中電灯が、爆ぜた。今まで、よく保ってくれたものだ。

藍花(ありがとう……ごめんね、壊しちゃって……)

ワルプルギスの夜の体と共に、わたしが今まで愛用していた懐中電灯が壊れた。

空高く飛んでいたわたしは、重力に逆らえず地に落下する。

藍花「っくはぁ……っ!!」

地面に叩きつけられたところで、意識が遠のいて行く。
意識が途絶える最後の瞬間。空に、光が差しているのが、確認出来た。

藍花「……ぅ……」

意識が、戻った。

杏子「藍花っ!!大丈夫か!?」
マミ「夏見さん……!よかった……」
ほむら「藍花……」
藍花「杏子ちゃん……マミさん……ほむらちゃん……?ワルプルギスの夜、は……?」
ほむら「倒したわ……藍花の攻撃で……」
藍花「……そう……なんだ……」

よかった。あれは夢じゃなかったんだ。
仰向けに倒れていたわたしは、空を見上げる。
綺麗な青空が、広がっていた。

ほむら「希望はこの世界にあった…」

ほむらちゃんは青空を見上げながら涙を流していた。
杏子ちゃんとマミさんも、泣きながら笑っている。
本当によかった。

まどか「みんなーっ!」
さやか「大丈夫ーっ!?」

遠くから、まどかさんとさやかさんが駆けてきていた。

ほむら「まどか……っ」
まどか「ほ、ほむらちゃんっ!?」
ほむら「終わったよ、何もかも……」

仰向けに寝そべったまま、顔を横に向ける。ほむらちゃんは、涙を流しながらまどかさんを抱きしめているようだった。

さやか「よかった……みんな無事で」









藍花「……………ううん。無事じゃ、ないよ」
杏子「……え?」

変身を解き、ソウルジェムを空に掲げる。
わたしのソウルジェムは……どす黒くなっていた。

マミ「夏見、さん……?」
藍花「あはは……わたし、もう、限界かも……」
ほむら「………で、でも、藍花……あなた、まだ自分のグリーフシードは持っているはずじゃ……」
藍花「ゴメンね。嘘、ついちゃった」

わたしが持っていたグリーフシードは、みんなに渡した三つで全部だ。

杏子「おい、藍花……嘘だろ……お前、戦いが始まる前に言ってたじゃねぇか……ちゃんと、自分の分のグリーフシードもあるって……」
藍花「………」

ソウルジェムに、わずかに亀裂が入る。

藍花「ねぇ、ほむらちゃん……わたしのお願い、聞いてくれないかな……」
ほむら「……嫌、聞きたくない……」
藍花「わたしのソウルジェム……」
ほむら「嫌、嫌っ……聞きたくないっ……!!」

~暁美ほむら~

嘘だ。こんなのは嘘だ。
まどかの契約は阻止出来て。
誰ひとり欠けることもなく、ワルプルギスの夜を倒すことが出来たと言うのに……藍花が、もう限界だなんて。

藍花「お願い、ほむらちゃん、聞いて」
ほむら「嘘よ、こんな……」
藍花「わたし……魔女にはなりたくない」

いつかの世界で、そんなセリフを聞いた。
あれは……そう、まどかが言ったセリフだった。

藍花「お願い。ほむらちゃん……わたしのソウルジェムを、壊して……?」
ほむら「藍花ぁっ……!」

壊すしか、ないのか。
盾の中から拳銃を取り出し、藍花が掲げるソウルジェムに銃口を向ける。

ほむら「っ……」

カタカタと震えているのが、自分でもよくわかる。

藍花「ありがとう、ほむらちゃん……。わたしの事は、気にしないで。ほむらちゃんの望んだ世界は……ここにあるんだから」
ほむら「……でもっ……藍花がいないじゃないっ!!」
藍花「わたしは、元々ここにはいない存在のはずだよ。わたしの運命は……瓦礫に生き埋めになってた時に、終わってた。
    ……そのはずだったんだよ。それから今日まで生きられただけで……わたしは幸せだった」
ほむら「っ……」

手が震えが止まらない。この光景は、あの時と同じだ。
魔女になりかけていたまどかのソウルジェムを撃ち抜いた、あの時と。

杏子「…………………貸せ、ほむら」

わたしの手の中から、杏子が拳銃を奪い取る。

ほむら「杏子……っ?」
杏子「こういう汚れ役は……あたしの役目だ」


~夏見藍花~

杏子「こういう汚れ役は……あたしの役目だ」

ほむらちゃんの手から、杏子ちゃんは拳銃を取りあげた。
そして、わたしが掲げているソウルジェムにその銃口を向ける。

藍花「杏子ちゃん……ごめんね、杏子ちゃんにはホントに迷惑かけてばっかりだったね」
杏子「っ……」

ありがとう、杏子ちゃん。

藍花「マミさん……わたしは、先に逝きますけど……マミさんは、これからも希望を振りまく正義の魔法少女でいてくださいね」
マミ「夏見さんっ……!」

ありがとう、マミさん。

藍花「さやかさん……彼と、仲良くね。わたし、彼の事もさやかさんの事も救えたかな……?」
さやか「夏見……さん……」

救えてたなら、いいな。

藍花「ほむらちゃん……わたし、ほむらちゃんの……ううん、みんなの希望に、なれたかな……?」
ほむら「藍花ぁっ……!」

ほむらちゃん、ありがとう。

藍花「まどかさん……ほむらちゃんの事、よろしくね……」
まどか「藍花ちゃん……」

まどかさんと話す機会はとうとう最期までなかったけど。
ほむらちゃんが守ると決めた子なんだもん、きっととってもいい子だよね。

杏子「……もう、いいか?」
藍花「……やっちゃって、杏子ちゃん」

うん。覚悟は決まった。
お父さん、お母さん。ちょっと遅くなったけど、わたしも今そっちに行くね……。

杏子「藍花……」
藍花「…………………行ってきます、杏子ちゃん」
杏子「………ああ、行ってらっしゃい、藍花」

乾いた破裂音が、周囲に響く。
それが、わたしが最期に聞いた音だった。



終わり

やっと終わった
これで心おきなく自分のssに着手する事が出来る

ss部分の総レス数141とかどうなってんだ
原典の五割増しじゃねぇか

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