真姫「穂乃果の食べかけのパンがある……」 (98)

―部室―


真姫「食べちゃおうかな、なんてね。いや何言ってるのかしら私ったら…………誰も見てないわよね? えいっ!」ハムッ

真姫「~~~~っっっ!! つ、ついにやってしまったわ……! これじゃ私のホノキチがバレちゃうじゃないのっ!」ジタバタ

真姫「とりあえず、証拠隠滅しなきゃ。ここにパンはもともとなかったし、私もいなかった。そうよ、いなかったんだから何もしようがないはずなのよね! 真姫ちゃん完璧かきくけこ――」

穂乃果「真姫ちゃん何やってるの……」

真姫「」


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真姫「ち、違くて……これはその、そう! 日差しでダメになる前にこの真姫ちゃんが食べちゃおうという、穂乃果を守るための、えっと……」

穂乃果「言い訳はいいから」

真姫「ひゃいっ! ごめんなさいっ!」ドゲザッ

穂乃果「いやー、前からいろいろおかしいと思ってたんだよ。部室に置いてたはずの食べかけのお菓子とかすぐになくなるし、体操服とか水着とかもなぜか使った日に持って帰ろうとしたらなくなってるし、挙句次の日にきれいに洗濯された状態で見つかるし」

穂乃果「絶対ストーカーがいると思ってたんだよね! まさか真姫ちゃんだとは思わなかったけどさ」プンプン

真姫「待って、私は体操服盗んだりなんてしてないわよ! っていうか、今回やったことは認めるけど、今までこんなことしたことないし、犯人は別にいるの! 信じて穂乃果っ!」

穂乃果「今さっきまでおいしそうに穂乃果のパンを頬張ってた人のこと、信じられると思う?」ニコッ

真姫「うぅ……」

穂乃果「じゃ、やっぱり真姫ちゃんが犯人で間違いないよね? あーぁ、真姫ちゃんがそんな人だなんて思わなかったなぁ。もっとまともで常識ある人だと思ってたのになぁ。ガッカリだよ」

真姫「ちが、ホントに私じゃ――」

穂乃果「証拠は? ないでしょ?」

真姫「あるわ、きっと……だって私、やってないんだもん!」

穂乃果「そんなのいまどき小学生だって信じないよ! ブッショウを出してよ、ブッショウ!」

真姫「……わかった、必ず物証を持ってくるから、完全下校時刻までのあと二時間、待ってて。お願い」

穂乃果「穂乃果、そんなに長く待てないよ。一時間後なら考えてあげなくもないかなぁ」

真姫「……ええ。必ず私、冤罪だって証明できる物を持ってくるから、お願いします!」

穂乃果「冤罪ではないんじゃないかな……まあいいけど。穂乃果、絶対に一時間以上待たないからね? それ以上時間がかかるようなら、どんなに確かな証拠でも真姫ちゃんがやったことにしちゃうから」

真姫「ええ、必ずあなたを納得させるもの、一時間以内に提出するから、見てなさい……!」ガララッ

穂乃果「ふーん、自信満々だね。ま、せいぜい頑張って」

―廊下―



真姫「意地張って飛び出してきちゃったけど、実際何の手がかりもないのよね……聞き込みして情報を集めないと」

真姫「あっ、あれは……海未?」

真姫(いきなりホノキチっぽい人に遭遇したわね……っていうかあの子が犯人なんじゃない? いちばんありそう)

海未「おや? 真姫じゃないですか。どうしたんですか? 部室の前でしゃがみ込んだりして。もしかして具合でも悪いんですか? でしたら、今日は無理せずに練習を休んで帰ったほうが」

真姫「あ、いや別に……具合が悪いとかじゃないの。えっと、考え事してて」

海未「考え事、ですか? 真姫は頭がいいから、私たちでは想像もできない難しいことを考えていそうですね。どんなことを考えていたんですか?」

真姫「んー、そうねぇ。海未のことかしら」

海未「へ? わ、私のこと、ですか? なんだかその、照れくさいですね……///」

真姫「べ、別に変な意味じゃないから! その、海未は私のことどう思ってるのかなって……うわ、何言ってるのかしら私! い、今の忘れてっ!!」

海未「――好き、ですよ。真姫のことは。……面と向かって言うのは恥ずかしいですけど、穂乃果やことりと同じくらい大事に思っています。真姫がいなければ、今の私たちはありませんでしたし、最初のライブだってあなたが曲を作ってくれていなかったらできていなかったかもしれないでしょう?」

海未「だから、私は好きですよ。真姫のこと」

真姫「――っ!!///」カァァ

真姫「あのね、海未。一つ謝らなくっちゃならないことができたわ」

真姫「私、あなたのこと疑っちゃってた。ごめんなさい! あなたが、穂乃果の体操服を盗んだ犯人だ、なんて勘違いしちゃって――そんなわけないわよね! 海未みたいな常識のある、優しい、愛に溢れる人がそんなことするわけないもん。ごめんなさい、疑ったりして!」






海未「あ、それ私です」






真姫「私の気持ち返して」

海未「すみませんでした」シュン

真姫「ショック受けなくていいわよ、自業自得って知ってる?」

海未「はい……」

続きはまた後程

―二年一組教室―



海未「で、私が真犯人だということで片が付いたのかと思いきや、私の犯行はごく一部だったと、真姫はそう言うのですね?」

真姫「そうよ。だってあなた、体操服しか盗ってないんでしょう? だったらまだ、水着とかお菓子とかに手を出した犯人は別にいるとしか考えられない」

真姫「一体食べかけのお菓子に何の価値があるのかしらね?」

海未「……それはあなたに言えたことじゃあないでしょう、真姫。あなたも穂乃果の食べかけのパンを齧ったならば、わかるんじゃないですか?」

真姫「いや、あれはその……。いやでもほら、パンは間接キスに近いけど、お菓子は個包装やスナック菓子みたいなものだと思うのよ。だったら、どうやってそこに穂乃果を感じるのかなぁ、と思って」

海未「真姫って案外むっつり助平ですよね」ニヤニヤ

真姫「うるさいオープン変態」

海未「うっ……そ、それはさておき、食べかけのお菓子に手を付けてしまう心理ですが――」

真姫「話を逸らしたわね」

海未「ゴホン――好きな相手の好きなものを一緒に食べたい、そういう類の妄念ですね。えぇ。結果的にその好きな相手を不快にさせたり、迷惑をかけたりするのが分からないのでしょうか……」

真姫「……それこそ海未に言えたことじゃないでしょうが。体操服なんて、なかったら困るものじゃない。洗濯して返してるからまだいいものの」

真姫「っていうか、海未。さっきから自分が追い込まれるようなことしか言ってないけど……大丈夫?」

海未「わ、私はちゃんと洗って返しているのですから、なくなるわけじゃないですし? 迷惑っていうよりむしろこう、穂乃果のお母様的には洗濯物が減って助かってるんじゃないかなぁ、なんて思ったりしてみないこともないといいますか……」

真姫「いや、絶対気味悪いと思われてるでしょ」ドンビキ

海未「……ですよねー……」

真姫「今度、一緒に謝りに行きましょ。穂乃果と穂乃果のマ――お母様に」

真姫「ってそうよ、残りの犯人を捜さなきゃ! もうタイムリミットまであと四十五分しかないじゃない!」

海未「下校時間の一時間前が刻限でしたね。では、迷惑をかけてしまったお詫びに、私も手伝いましょう」

真姫「当たり前でしょっ! さっさと行くわよ、海未!」

海未「ええ、必ずや穂乃果にちょっかいをかける不届き物を見つけて見せます!」

真姫「いやだから私たちに言えたことじゃあないんだってば……」






???「――ふふっ」

―中庭―



真姫「――じゃあ、部室から走り去っていく凛を見たのはいつ頃の話?」

生徒A「そうだなぁ、確か三日くらい前の、ほら、確か星空さんが授業中に居眠りして怒られてた日だよ。西木野さん」

真姫「それなら三日前で間違いないわね。海未?」

海未「ええ、確かにその日は水泳の授業がありました。帰り際に穂乃果がプールバックを持っていなかったから不思議に思っていたんですが……まさか凛が?」

真姫「まだそうと決まったわけじゃないわ。でも、状況だけ見ると一番怪しいのは凛でしょうね。まったく、まさか凛までホノキチだったなんてね……驚いたわ」

海未「まあ、穂乃果が相手じゃあ、仕方ありませんね。好きになるなというほうが無理でしょう」フフン

真姫「……なんであなたが得意そうなのよ。ま、いいわ。星空被告を捜しに――」

???「その必要はないよ、真姫ちゃん、海未ちゃん」

海未「――花陽? と、凛!」

花陽「えへへ、怪しい動きをしてたから、前もって凛ちゃんを捕まえておいたよ!」

凛「ん~~~~ッ!! んん~~~~ッッ!!!」

真姫「何も猿ぐつわまでしなくってもいいのに……」

花陽「あ、これはたまたま持ってたから使っただけだよ。気にしないで、真姫ちゃん!」テレテレ

真姫「あ、ありがと、花陽……」

真姫(たまたま猿ぐつわ持ってる状況ってどんなのよ! そっちが気になって仕方ないじゃない!)

真姫「……で? 星空被告。何か言いたいことは? 言い訳は聞かないけど」

凛「……!」ジタバタ

花陽「あ、猿ぐつわ外さなきゃ喋れないよね。ごめんね凛ちゃん!」

凛「~~~~ぷはっ! 何てことするんだにゃかよちん! 学校でこんなことしちゃダメって言ったじゃん!」

真姫「学校じゃなかったらいいの!? もしかしてそうなの凛!」

凛「あ……/// そ、そうじゃなくて! なんで凛を捕まえたりするの!?」

花陽「それは……凛ちゃんが花陽以外の女の子の水着なんか盗ったりするからだよ!」

三人「「「えっ……」」」

花陽「花陽は凛ちゃんのなのに……花陽の水着じゃ不満だったの?」

凛「な、なんでそうなるの! 凛はただ、かよちんに迷惑かけたくなくって……! 穂乃果ちゃんの水着は、そんな凛の前に現れて、優しく語りかけたの」

凛「『だったら、私を連れ去ってみてよ』って。そんなのずるいじゃん! 我慢できるわけ、ないでしょ……?」

真姫「いや、穂乃果に迷惑かけてんでしょうが。それに水着はしゃべらないし――」

凛「真姫ちゃんにはわかんないよっ!」

海未「いや、誰も理解できないと思いますが……」

真姫「だからあなたが言えたことじゃ」

花陽「そうだったんだね、凛ちゃん! ごめんね、わかってあげられなくって……。花陽、凛ちゃんのこと、誤解してた。ちゃんと、花陽のこと見てくれてたんだね。花陽のこと、好きでいてくれたんだね!」

凛「当たり前だよっ! 凛は、凛は……っ! かよちんを愛してるんだにゃ! それだけなんだよ!」

花陽「凛ちゃん/// こ、今度から花陽には遠慮せずに、使った後の水着、持って帰っていいからね? その代わり……」

凛「もちろん、凛のも持って帰ってクンクンしてほしいな……?」

花陽「りんちゃ……!///」

真姫「あのー、盛り上がってるとこ悪いんだけど……穂乃果の水着の件は」

凛「あとできちんと謝りに行くにゃ~。ね、かよちんっ!」

花陽「うんっ!」

海未「なんというか、その。一件落着……?」

真姫「いや違うから」

海未「……ですよねー……」

続きはまた後程

―屋上―



真姫「残るは食べかけのお菓子……なんだけど、これほどに証拠が隠滅しやすいものもないわよね、ラインナップ的に」

海未「まあ、他と違って食べてしまえば残りませんし、包装なんかもゴミとして出してしまわれたんじゃあ、もうどうにも手掛かりがないですよ」

海未・真姫「「――でも、犯人は分かった」」

海未「やはり、真姫も思い至ったようですね。人の食べさしに手を付ける、悪逆非道のアイドルに」

真姫「……ええ、不本意ながらよく話す仲だし。寧ろ最初からお菓子だけはまずあの人だって思い浮かんだわ」

海未「流石、伊達に見てる見てない合戦をしているだけありますね。相手のことがよく分かっています」

真姫「べ、別に今見てる見てないの話はいいでしょ!? 私だってやりたくてあんな低レベルな争いをやってるんじゃないんだからぁ!」

海未「ふふっ……もう、真姫ったら。別にそこまで必死で否定しなくてもわかっていますよ。それとも、『そうである』と勘違いしてほしいんですか? 真姫の好きな人は矢澤――」

真姫「うー、みー、ちゃーん? その可愛いお口をちょーっとだけ、閉じましょう?」ニコッ

海未「なっ、ただの冗談ですよ……怖いから離れて、真姫」ガタガタ

???「あなたたち、こんなところでべったり引っ付いて何やってるの? 部室には? 行かないの?」

真姫「あ、絵里……。ちょっと事情があって、ね」パッ

海未「平たく言うと穂乃果の私物がメンバーに持ち出されて、その罪を着せられた真姫が真犯人探しをしている、という感じです」ソソクサ

絵里「――なるほど、ねぇ。 で、何が持ち出されたの?」

真姫「穂乃果の着用後の体操服、水着、それから食べかけのお菓子よ。体操服と水着については解決したの。でも、お菓子はまだ疑惑の段階ね。と言っても、にこちゃん以外にそんなことする人はいないと思うけど」

海未「でも真姫だって穂乃果の食べかけのパンを――」

真姫「海未?」

海未「いえっなんでもっ」

絵里「ふぅん。ま、とにかく。お菓子の件はにこが犯人だと、そう思うわけね。あの子ちょっと手癖悪いから、疑うのもまあわかるけど」

海未「……なんだか、含みのある言い方ですね。絵里、何か知ってるんですか?」

絵里「言っておくけど、残念ながらにこは犯人じゃないわ。彼女には完璧なアリバイがある。この私、絢瀬絵里が証人よ」

真姫「どういう、こと?」

絵里「知っての通り、にこの成績はあまり芳しくないわ。だから、その日は勉強会をしていたの」

海未「ほう……。勉強嫌いなにこがよくそのような会を承諾しましたね」

絵里「ええ。放課後に三年生だけで過ごしたいって言ったら、案外あっさりとね。勉強会はあくまで名目上のもので、私たちは一緒にいたかっただけなのよ」

海未「なるほど。絵里たちは勉強会を通して思い出作りをしていた、というわけですか。三年生だけで、ということは希もその会に?」

絵里「ええ。希もものすごく成績がいいってわけではないから、一応ね。それに、私だってこう見えてだらしないところがあるから、一人で家にいると勉強なんてしないもの。だから、勉強会は私にとってもメリットが大きいわ」

海未「わかります。私も、穂乃果とことりと三人でした方が勉強が捗るように思います。だから勉強会というのは非常に理に適っている――ですが毎回穂乃果が途中で飽きて漫画を読みだしてしまって。結局途中で小一時間くらい話し込んでしまうんですよね」

絵里「そうなのよねぇ。後半はほとんど三人でおしゃべりしていたし、やっぱり私たちは受験生である前に華の女子高生なのよね」

海未「なんですか、華の女子高生って。それって結局、大学生になったらなったで華の女子大生とか言っちゃうんでしょう?」クスクス

絵里「まあそうでしょうね」クスクス

真姫「……」

海未「しかし勉強会ですか……。であれば、にこはもちろん、最初から疑ってはいませんが、絵里も希も容疑者からは外れるわけですか」

真姫(絵里も希もその日は勉強会で、三人がそれぞれのアリバイを証明できる。……まああくまでエリーの証言だから、彼女がウソの証言をしている場合も考えられなくはない)

真姫(でも、ウソをつくメリットって何? にこちゃんの無罪を証明することによって絵里が得をすることなんてあるのかしら? そうなると、絵里がウソをついているとは考えにくいわね)

真姫(いよいよわからなくなってきたわね……もう犯人候補なんてことりしか残っていないじゃないの。あのおとなしい子が犯人だなんてちょっと信じられないけど、ホノキチっぽい感じはするのよね)

真姫(あのホームズ先生だっておっしゃっていたじゃない。『ほかのあらゆる可能性がダメだとなったら、どんなに起こりそうもないことでも残ったものが真実だ』。絵里の話が事実なら、もう犯人はことりだとしか考えられない。諦めて彼女が犯人であることを認めるのよ、真姫!)

海未「――真姫? どうかしましたか、考え込んで」

絵里「ずいぶん難しい顔してたわよ? っていうか、時間大丈夫? もうすぐ穂乃果との約束の時間じゃなかったかしら」

真姫「大丈夫よ、海未、絵里。何とか犯人の目星はついたから……って言っても、確証はないどころか、接触すらしていないんだけど」

海未「まさか真姫、ことりを? ――いえ、ですが確かに他の可能性は消えてしまいましたね……」

???「ひどいなぁ、真姫ちゃん、海未ちゃん。可能性ならまだたぁくさんあるんじゃないかなぁ?」

海未・真姫「「ことり……!」」

続きはまた後程

―回想始め―




???「――ふふっ」

ことり「『必ずや穂乃果にちょっかいをかける不届き者を見つけてみせます』、かぁ。あ、今のちょっと似てたかも」クスッ

ことり「でも、海未ちゃんにそんなことはできないよ。『不届き者』は決して捕まらない」

ことり「ね、そうでしょ? 穂乃果ちゃんっ♪」ニコッ




―回想終わり―

―屋上―



海未「ことり、どういう意味ですか? 可能性ならほかにもあるって……。だって、だってあなた以外はみんな!」

ことり「――本当に、そう思う?」

真姫「海未、ことりの言う通りよ。冷静に考えると確かに可能性ならまだあるわ。ちょっと焦って短絡的になっていたけれど、まだ容疑者から外せない人物はいる」

真姫「全員を調べた気でいたけれど、生徒ならμ'sの他にも沢山いるわ。何もメンバーだけに犯行が可能なわけじゃない」

海未「しかしこの事件をミステリの定石に照らし合わせて考えるならば、犯行は仲間内のものとみて間違いないのでは?」

真姫「……この世界はフィクションなんかじゃあないのよ、海未。だから推理モノの定石は捨て置いて考えなさい」

海未「そうですね、これは現実に起こった事件ですし、そう都合よくできているわけではない、か」

真姫「でも、私も他の生徒の犯行とは考えていないわ。犯行があった時刻は穂乃果が張り込みをしていた時間帯から考えるに、おそらくホームルームが終わってから十分ほど後。一連の事件を穂乃果は同一犯によるものだと考えていたみたいだし、間違いはないと思う」

真姫「その時間にこの特別棟にいるのは、私たちアイドル研究部以外だと放送部、それに美術部くらいのものでしょう? 確か放送部も美術部も毎日出欠をとるそうだし、彼女たちの犯行でないと証明するのは簡単なことよ」

海未「犯行に及ぶために他の生徒がやってきた場合だって考えられるでしょう。それについてはどうなんですか?」

真姫「それはないわ。ほら、特別棟って入るのに職員室で名前を書かなきゃならないでしょ? もし普段から入る用事のない生徒が入ろうとすれば、先生が覚えてるわよ。これも聞きに行けば他の生徒の無実は証明されたようなものね」

海未「なるほど、確かにそうですね。あそこには危険な薬品や高価な実験器具がたくさんありますからね。なぜ高校にそんなものがあるのかはわかりませんけど。とにかく、一般生徒の犯行説はこれで否定されたわけですか」

ことり「うんうん♪ ことりも、大体同じ考えかなぁ。いつも犯人さんに先を越されちゃってたから、時間についてもそのくらいだと思うし」

海未「やっぱり盗る気だったんじゃないですか、ことりも」

ことり「盗ろうとしたけど既になかったんだから、ことりは犯人じゃありませーん♡ うふふー」

真姫「まあそれは置いておいて。とにかく、これで犯人は私たちだけに絞られたわね。今まで自然と仲間内の犯行に絞っていたけれど、これで明確にその路線で推理できるわ」

真姫「それからことり、あなたは犯人じゃないわ。あなたいつもホームルームが終わってすぐに保健室に行って、保健委員として仕事をしているそうじゃない。穂乃果に聞いたわよ」

ことり「そうなんだよねぇ。だから先を越されちゃうんだよ……くやしいなぁ、なんてね♪」

絵里「……ねえ、真姫。悠長に推理している時間はないわ。とりあえず今までに分かった事実をもって穂乃果のところに行った方が……」

真姫「そうね、犯人っていう動かぬ証拠を突き出してくるわ。行ってくるわね。……と、言いたいところなんだけれど」





真姫「あなたの犯行を証明してからよ、絢瀬被告」

続きはまた後程

絵里「…………へぇ。私、疑われてるんだ。でも大丈夫なの? 約束の時間まであと十分しかないわよ? それまでに私のアリバイを打ち崩せるのかしら」

真姫「五分。いえ、三分かしらね。あなたの甘い考えを打ち砕くまでにかかる時間よ。次にあなたは、『私がやりました』と言うわ」

海未「で、でも真姫、絵里たち三年生はその日勉強会をしていたんじゃ」

真姫「ねえ、海未。その日って、何月何日?」

海未「それはもちろん……あれ? そういえばいつだか聞いていませんでしたね」

真姫「にも拘わらず、絵里は何の迷いもなく言い切ったわ。『その日は勉強会をしていたの』ってね」

海未「……確かに、少し妙ですね。私としたことが、何の疑いもなく聞き流してしまっていました。あ、でもたまたま漏れ聞いていたかもしれないじゃないですか。穂乃果が絵里に事件のことを話していたかもしれないし」

真姫「穂乃果は『絶対ストーカーがいると思ってた』と言っていたわ。それが誰だかわからない状況だし、そう簡単に周りの人に相談できる状態じゃあなかったんじゃないかしら? 相談した相手がまさにストーカーかもしれないんだし」

海未「――なるほど。穂乃果が他の人に話していないとすると、確かに漏れ聞くこともあり得ませんね。では、犯人であった以外に犯行のあった日を知り得る手段はないわけですか」

真姫「他にも疑わしい点はある。――そうね、例えば……希とにこちゃん、今頃どこにいるんでしょうね?」

海未「まさか、アリバイをすぐに崩されないために、どこかに監禁をしてるんじゃ……! だとしたら生徒会室ですか! 答えなさい絵里!」バンッ

真姫「海未、興奮しすぎ。生徒会室にいるのは、まあ正解だとは思うけれど。今頃部屋に鍵をかけてよろしくやってるわよ。って、海未にはまだ早い話だったわ、忘れなさい」

海未「? わかりました」

真姫「それで、希たちだけれど、絵里が手引きして私たちと遭遇しないように部屋に閉じこもっているのよ。ほら、あの二人結構口が滑っちゃうところあるし」

ことり「口が滑る? 真姫ちゃん、それってもしかして……」

真姫「そう、正解よことり。絵里たち三年生三人は、今回の事件について共犯関係にあったのよ」

海未「ええっ!? あ、でもそれなら三人でいたというアリバイは崩れたも同然ですね。それににこが勉強会に参加するという不自然な点も、それ自体がフェイクなら納得です」

真姫「いいえ、勉強会をしていたというのは本当だと思うわ」

海未「……そ、そうですか」シュン

真姫「私、ずっと疑問だったのよ。食べかけのお菓子に手を付けても、穂乃果分は補給できない。ならどうして犯行に及んでしまったのか、ってね」

ことり「確かに、相当ハイレベルな変態さんじゃないと、食べかけのお菓子で興奮できるはずがないよ!  相当ハイレベルな変態さんじゃないとね!」チラッ

海未「……なんでこっち見るんですかことり! 私は変態ではありませんよ、ことり!」

真姫「海がド変態なのは置いといて、お菓子に手を付ける理由だけど。お菓子って、勉強の合間の息抜きでつい食べたくなっちゃうこと、ない?」

海未「! まさか!」

真姫「そうよ、勉強会の後半、ほとんどはおしゃべりしていたのよ、絵里たちは。友達同士で他愛のない話をしながらお菓子をつまむこと、あるでしょ?」

海未「つまり犯行は穂乃果の食べかけのお菓子だから起こったのではなく……!」

真姫「そこにお菓子があったから、食べちゃっただけなのよ。絵里たちは」

真姫「それから今日、私が穂乃果の食べかけのパンを食べていたのが穂乃果に見つかったとき、絵里はちょうど部室の前でその騒動を漏れ聞いてしまった」

ことり「漏れ聞いたのはそっちだったんだね!」

真姫「そうね、ことり。それで、穂乃果と私の約束の時間も知っていたし、その時間を過ぎてしまえば問答無用で私がすべての罪をかぶることも知っていた。だから、隠そうとした」

真姫「ねぇ、絵里。素直に話せば、穂乃果は許してくれるんじゃないかしら。あなたたちにだって悪気はないんだし、部室に食べかけのお菓子なんて置いて帰る穂乃果も少しは悪いんだから。だから、私たちと一緒に謝りましょう? それから、罪を償いましょうよ」ニコッ

絵里「……真姫、ごめんなさい。私が、私がやりました……! 罪をなすり付けるようなマネをして、本当にごめんなさい……!」グスッ

真姫「わかればいいのよ。きっと大丈夫。さ、部室に行って穂乃果に謝りましょう?」

絵里「……ええ! にこと希も呼んで、素直に謝るわ。真姫への埋め合わせは今度何かさせてもらうわ。だから、こんな私たちだけどこれからも仲良くしてくれる……?」

真姫「もちろんよ、絵里っ!」

ことり(ほらね、海未ちゃん。『不届き者』なんていなかったでしょう? 真剣な思いは届いたんだから。ねっ♪)クスッ

―部室―




穂乃果「待ちくたびれたよ、真姫ちゃん。もう来ないかと思ってた。ブッショウは見つかったの?」

真姫「ええ。ここにいるみんなが、それぞれ物証よ。物的証拠というより、人的証拠になってしまったけれど」

真姫「さあ、みんな。それぞれ証言して頂戴」

凛「まずは凛から……穂乃果ちゃんに謝りたいことがあるの。あのね、穂乃果ちゃんの水着、盗っちゃってごめんなさい! ホントは、そんなつもりなくって、でも、かよちんの水着を盗っちゃったら二人の関係が変わっちゃうかなって思って、そしたら自然に穂乃果ちゃんの水着に手が伸びちゃって……。とにかく、ごめんなさいっ!」

穂乃果「……ふぅん。真姫ちゃん、ブッショウというより犯人捜ししてたんだね。穂乃果としても、犯人が直接わかる方がありがたいけど。――で、凛ちゃん。穂乃果の水着、どうだった?」

凛「――え? えっと、その、とってもいい匂い、でした……うぅ、はずかしいよーっ!」

穂乃果「……そっか。うん、いいよ。凛ちゃん。穂乃果は凛ちゃんを許すよ! いい匂いってことは、穂乃果の魅力が伝わったってことだしね」

凛「ほ、ホント? よかったぁ」パァア

花陽「よかったね。凛ちゃんっ!」

穂乃果「花陽ちゃんは、これから凛ちゃんのそういうところ、しっかりカバーしていってね。穂乃果以外の子だったら許してくれないよ?」

花陽「はいっ! もちろん、凛ちゃんの花陽がしっかりとサポートしていきますっ!」キラキラ

絵里「次は私たちね。穂乃果――ごめんなさい。私たち三年生はあの日、あなたの食べかけのお菓子を食べながらおしゃべりしてしまったの。部費で買ったものだと勘違いしてしまって……本当にごめん。今度、新しいお菓子をみんなで買ってあげるから、不問にしてくれないかしら……?」

希「ウチらもな、悪気はなかったん。ただそこにおいしそうなお菓子があってそれも開封済みってなるともう――ちょっとぐらい食べてもバレんと思って、つい魔がさしてしまったんよ。結局、歯止めが利かずに全部食べちゃったんだけど。ごめんな?」

にこ「……悪かったわよ、穂乃果。私も、慣れない勉強なんかしたもんだから、脳が糖分を欲していた、っていうか。穂乃果なら私の気持ち、わかるでしょ? 同じ追試組のよしみで、許してくれない……? お願いっ!」

穂乃果「絵里ちゃん、希ちゃん、それににこちゃん。そんなの、最初からそう言ってくれれば、お菓子なんていくらでも食べていいんだよ! お菓子がみんなのお勉強に役立ったんなら、穂乃果が食べるよりよっぽどいいことなんだからさ。だから絶対……受験頑張ってね! 穂乃果と同じ学年の絵里ちゃんたちなんてなんて、見たくないんだからっ!」

絵里・希・にこ「「「……うんっ!」」」グスッ

海未「さて、最後は私です。穂乃果、この度はこのようなことをしてしまって本当になんと謝ったらいいか……体操服を盗むなんて、完全に変態の所業でした。この園田海未、深く反省しております。ですから穂乃果、私の頬を全力ではってください! 前に一度、私は穂乃果のことをぶってしまいましたし、そのお返しの意味も込めて全力でぶってもかまいませんから、お願いします……許してください……」

ことり「ことりも、本当に盗ったりはしなかったけど、海未ちゃんと同じことしようとしてた。だから、ぶつなら海未ちゃんだけじゃだめだよ。ことりも、ここでぶたれなきゃダメなの。ね、穂乃果ちゃん、お願い!」

海未「ことり……あなたって人は……」グスン

穂乃果「……顔を上げてよ、二人とも。それじゃほっぺたをビンタなんてできないでしょ?」

海未・ことり「「穂乃果(ちゃん)……!」」

穂乃果「それから、目、閉じてた方がいいよ。手加減しないから。あれ、本当に痛かったんだよ、海未ちゃん」

海未「……覚悟はできています。いつでも来てください」ギュッ

ことり「……いつでも、いいよ……!」ギュッ

穂乃果「じゃ、遠慮なくいくね。海未ちゃん、ことりちゃん……!」



穂乃果「覚悟ぉっ!」チュッ

八人『……! ……? ……!?///』

海未「なッ、ほ、穂乃果! 今何を」

穂乃果「ん~、可愛い幼馴染のほっぺにチュウしただけだよ! 恥ずかしかった? 穂乃果も、洗濯された体操服があるのを見て、とっても恥ずかしい思いをしたんだもん! これでおあいこ、だよ!」ニコッ

ことり「ほ、穂乃果ちゃんの唇が、ことりのほっぺたに触れて、柔らかかっ――」クラッ

真姫「こ、ことりっ! ……駄目だわ、これは重症ね。保健室に連れて行かなきゃ」

穂乃果「――ねえ真姫ちゃん。ごめんなさい、ストーカーだって疑ったりして。真姫ちゃんもきっと、とってもお腹がすいていたとか、それなりの理由があったんだよね? それなのに、こうして全部全部疑って、真姫ちゃんに無茶言ったりして、本当にごめん。こんな穂乃果のこと、許してくれる?」

真姫「……何よ、そんなの当り前じゃない。この真姫ちゃんの心は、地球よりも広いんだから!」フフン

真姫(穂乃果の食べかけのパンだから思わず食べちゃった、なんて言ったら許してもらえるかわからないもの。この感情と一緒に、今は言わないで隠しておきましょう)クスッ

―保健室―



真姫「それにしても大変な一日だったわ……」

海未「お疲れ様です、真姫」

真姫「元はと言えばあなたたちが穂乃果の私物を盗ったりするから、こんなことになったんでしょう?」

海未「だからそれは真姫に言えたことではないと何度も……。――ふふっ」

真姫「な、なんで笑うのよ! 私はねぇ! やってもいない沢山の罪をなすり付けられて、しかもやってないことを証明するためにあちこちで犯人探しをして、大変な思いをしたんだから!」

海未「でも、結構楽しかったでしょう? 私は楽しかったですよ、真姫と探偵みたいなことをするのは」

真姫「そりゃ、楽しくなかったといえばウソになるけど……。で、でも、大変だったのよ! 本当に! あ―もう二度とこんなのごめんだわ……」

海未「しかし見事な推理でしたね。真姫は、推理小説など嗜むのですか?」

真姫「まーたそうやって話を逸らす。……まぁ、読まなくはないわね。メジャーどころだとコナン・ドイルとか、あとアガサ・クリスティとか」

海未「なるほど、ホームズやポワロですね。探偵が様になっていたのはそのせいですか……」

真姫「海未も探偵モノや推理モノを読んだりするの?」

海未「ええ、多少は。江戸川乱歩や赤川次郎なんかが好きで、幼少よりずっと読んでいます。特に気に入っているのは三姉妹探偵団のシリーズですかね」

真姫「三姉妹探偵団、面白いわよね。っていうか、あの三姉妹、あなたたち三人にちょっと似てるかも」クスクス

海未「……ああ、なんとなくわからなくはないですね。……と、三姉妹の長女が目を覚ましましたよ。早く行ってあげなくては」

真姫「……そうね、三姉妹探偵の次女さん♪ ――ところで、海未はいつから絵里が怪しいと思っていたの? ことりが犯人かもしれないって私が思ったとき、あなたは絵里の様子ばかり観察してたけど。もうあのときには犯人が絵里たちだって確信してたの?」

海未「最初に絵里と接触したときです。あのときはまだ共犯だとは思っていませんでしたが」

真姫「そ、そんなに早い段階で!? え、根拠は?」

海未「……部室での犯行なんでしょう? だったら、他の生徒や、保健委員のことりに犯行が不可能なのはわかりきってましたから。特にことりは、部室に来たときにはだいたいメンバーの半分くらいが集まってしまっていて、より犯行は難しいでしょう。よって犯行は、同じ特別棟に活動場所がある部活動に所属する生徒、もしくは――生徒会の人間に絞られます」

海未「と言っても、生徒会室で仕事をしている生徒は、定例会以外の日には絵里と希だけですから、あまり考慮する必要はありませんけどね。それから、絵里のあの発言ですよ。『その日』とはいつなのか。私はその時点で犯行が行われた日を知りませんでしたが、勉強会をしていたというからには練習に出ずに勉強会を行えるまっとうな理由があると考えたんです。それが、練習がなかった今週の火曜日でした」

海未「その日は、穂乃果はもちろん、μ'sのメンバーは誰も部室に行っていないはずなんですよ。にこが部室の鍵を持っているから、まず部室に入れないですもんね。――そう、各部屋のスペアキーを持っている教員と生徒会の人間を除いて」

海未「結果、にこも共犯だったわけですから、スペアキーを使ったという推理は外れているかもしれないですけれどね」アハハ

真姫「……なるほど、今後の推理の参考にするわ」

真姫(つまり、私に犯人が絵里だってことに気付かせるために、海未はわざとあんな風にふるまっていたわけね。海未ちゃんどれだけ頭が回るのよ……これは敵に回したくはないわね)

海未「しかしことりにはかわいそうなことをしてしまいました。フリとはいえ疑うような態度をとってしまいましたし。ことりは、私が本当は疑っていないということに気付いていたみたいですけどね。……まあ、保健委員のこと、私が知らないわけがありませんからね。例えば逆の立場ならば、私も先に弓道部の方に顔を出しますし、部室では他のメンバーに見られてしまうから、ことりも私のことを疑ってはいなかったでしょうね。だから同じようにしたと思います。それでおあいこ、にしてもらいましょうかね……私たち三人はじゃんけんの三すくみのようで、おあいこの関係がよく似合うと思いませんか?」

真姫「そうね。本当に――待って海未、あなた、先に弓道部に顔を出すなら犯行は不可能なんじゃないかしら?」






海未「ええ、ですから私は、教室でことに及びました。穂乃果がお花を摘みに行っている間に」

真姫「……海未、残念なお知らせがあるわ。体操服はね、部室で無くなったのよ!」

海未「……そんな!」




花陽「――ふふっ」


おわり

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