ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」後編 (342)

ハルヒ「IBN5100を探しに行くわよ!」
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の続き 幼女編

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2010.08.18 (Wed) 08:26
文芸部室


古泉「これは一体……」

ハルヒ「んむぅ……みくるちゃぁん……ムニャムニャ」ダキッ

みくる「すずみや、さぁん……」ダキッ

森「すぅ……すぅ……」zzz

鈴羽「どうやってこの小さな部屋にダブルベッドなんか運び込んだんだろう?」

古泉(確かに、世界が改変されるので何をやってもいいとは通達しましたが、これは森さんちょっとやり過ぎでは……)

長門「起きて」


・・・

古泉「涼宮さんたちが朝の支度をされている間に、森さんには文芸部室を元通りに戻していただきました」

森「だって乙女が3人も居るんですよ! 経費で落としたっていいじゃないですか!」

古泉「それで、涼宮さん。今日はどうされますか」

ハルヒ「……過去に行く決心は着いた。そのための勇気をみくるちゃんからいっぱいもらったから」

みくる「えへへ……うれしいです、涼宮さん」

ハルヒ「どうしてかはわからないけど……やっぱり、あたしがやらないといけない気がするの。ううん、あたしにしかできないってことじゃなくて、そうしないと大切なものを失ってしまう気がする」

古泉(これが彼の幻影の影響でしょうか。あるいは潜在的リーディングシュタイナーか。確かにこの部室であればトリガーはたくさんあったはず)

ハルヒ「でもそれは今すぐじゃない。万全の対策をして、確実に成功させたいの」

古泉(実に涼宮さんらしい発想ですね。綿密な作戦会議は、彼は知らないでしょうが涼宮さんの十八番なのです)

ハルヒ「あたしは、一応精神的には落ち着いた。またダメになってもきっとみくるちゃんが、みんなが支えてくれる」

みくる「も、もちろんです!」

ハルヒ「だから、考えましょう。どうやったらキョンを助けられるか。どうやったら世界を変えられるのか」

古泉「まず、具体的な行動を考案する前に、世界改変の可能性そのものについて議論しなければなりません」

鈴羽「世界線の収束、アトラクタフィールド、簡単に説明するとね……」

・・・

ハルヒ「……よくわかったわ。コペンハーゲンとかエヴェレットの辺は、たぶんあたしが家庭教師やってる子でも知ってる」

鈴羽「それから、2004年は世界線大分岐の年じゃない」

鈴羽「2009年や2010年なら事象の変更による世界線の改変がある程度自由度を持って可能だったけど、2004年においては世界線が分岐するような事象の変更は非常に困難だと考えていい」

古泉「つまり、世界線を改変することで収束を回避するのではなく、収束それ自体と対峙する必要がある、ということですね」

鈴羽「そういうこと」

ハルヒ「そんなメタフィジカルな存在相手にどうしろっていうのよ」

鈴羽「ううん、ちゃんと未来では物理学の範疇だよ。計算式も算出される。どこかにあるはずなんだよ、数式的な意味での特異点が」

古泉「それでは“彼が亡くなる”というβ世界線の収束について考えてみましょう」

みくる「えっと、β´世界線の収束じゃないんですか?」

古泉「β´の一つを変えることでβすべてを変更するのですから、収束条件そのものはβのほうにあるのですよ」

みくる「うぅん……?」

古泉「β世界線の収束事項はおそらく、“彼が欄干から転落する”、でしょう。ここを変えることはできない。腕ずくで臨めば何らかの邪魔が入る」

古泉(それはまるで、α世界線の岡部さんが椎名さんをどんな手を尽くしても救えなかったように)

古泉「実際涼宮さんは第一回目の救出において、欄干から彼を降ろすための注意喚起をしようとしたところ、不自然なまでにトラックが割り込んだ」

ハルヒ「……そういえば、妹さんの話の中にそのトラックは出てこなかったわね」

古泉「普通なら、彼がまさに転落した時に背後を横切ったトラック、などというのは覚えているはずの事柄でしょう。つまり、涼宮さんがタイムトラベル以前に居た世界線においてはトラックは存在しなかった」

古泉「ところが、現在世界線で彼の自宅を訪れた時、妹さんは両方を覚えていました。女の子の大きな声と、小型トラックの通過とを」

古泉「つまり、これが収束なのです。欄干に登る彼を止めることはできない」

ハルヒ「……ってことは、アイツがまさに落っこちてる時が勝負、ってわけね」

古泉「そういうことです。涼宮さんなら、このβ世界線の収束を真正面から破壊できるはず」

鈴羽「理論上はそうなる。それは未来でも検討され尽したからね、あたしが太鼓判を押すよ」

ハルヒ「それじゃ、次は実際何をやればいいのかって話ね」

鈴羽「それについては、2025年の団長から直接メールで指示がくると思う」

ハルヒ「そ、そうなの? 未来のあたしからメール、ねえ……」

古泉「ですが、どういうわけかまだ来ないみたいですからね。可能な限り考えてみましょう」

みくる「例えば、橋の下に行って、上から落ちてくるキョンくんをキャッチする、とか」

古泉「普通ドブ川の下に人が居たらまず何をやっているのか尋ねるでしょう。不審者でないことを確認した彼ならば、そのまま涼宮さんに妹さんの靴を探させるかもしれない」

古泉「つまり欄干に登る因果が発生しないということは、それは収束に反する行為となります。ゆえに涼宮さんはなにがあっても橋の下へ行けない」

みくる「えぇぇ……」

ハルヒ「ラーメン屋の厨房の油汚れみたいに頑固なやつね、世界線ってのは」

古泉「そうですね」ンフ

長門「小学生の涼宮ハルヒは何故彼に向かって大声を発した」

ハルヒ「……えっとね、ホントにくだらない話なんだけど」

ハルヒ「あの頃のあたしって、自分でおまじないを作るのにハマってたのよ。今の今まで忘れてたけど……」

ハルヒ「それで、実際に効果があるのか確かめるためのサンプルが欲しかったから色んな人にお手製おまじないを教えて実験してたの」

古泉「その被験者の一人に彼が選ばれていたと」

ハルヒ「そう。そうだったんだけど、名前も住所も聞けなくて、一週間くらい街中うろうろしてアイツを探してたのよ」

みくる(逃げ回ったんだろうなぁ、キョンくん……)

ハルヒ「それで、あの時ようやく見つけたわけ。だけど、そう。声をかけた時には姿が見えなくて……。当時のあたしは、身代わりの術を使ったか、テレポートしたか、透明人間になったか、って本気で思ったわ……」

ハルヒ「あの時救急車を呼んだり、川底に降りて心肺蘇生法でもやってれば……」グスッ

ハルヒ「ごめんね……あたしの頭の中がこんなにくだらなくて、不謹慎で……」ウルッ

みくる「涼宮さんのせいじゃないです。責めないであげて」ダキッ

ハルヒ「うぅぅ……」

古泉「そのおまじないというのは、何かをつかみ取るように虚空に手を突き出して、心の中で『答えはいつも私の胸に』と唱える、というものですか?」

ハルヒ「え……。あたしでさえ忘れてたのに、どうして古泉くんがそれを?」

古泉「前世の記憶、というやつですよ」ンフ

鈴羽「改変前世界線からのリーディングシュタイナー、って言ってほしいんだけど」

古泉「もしかしたらそのおまじないがキーなのかも知れませんね。僕の記憶では、生存状態のβ世界線における彼はドブに落ちて3針縫う程度で助かっています。同時に彼はそのおまじないを落下中に実行した」

古泉「そして彼はこうも言っていました。異世界の誰かに助けてもらった気がする、と」

古泉(それは彼の勘違いなわけですが……)

古泉「おそらく、その異世界の誰かというのは、涼宮さん。あなたを除いて他にいないでしょう」

ハルヒ「それをはやく言いなさいよ!!!」バンッ!!

古泉「うわっと」

ハルヒ「そうよ、古泉くんたちにはキョンが生きてる時の記憶があるんだから、どうやって生き延びたのか聞けばよかっただけじゃないの!」

鈴羽「いや、団長。ちょっと勘違いしてるみたいだからもう一度言うよ」

鈴羽「君がやるべきなのは、“全β世界線収束の破壊”、なんだ。同時に彼の命も救われる、というだけであって、彼の命が救われれば全β世界線の収束が破壊されるわけじゃない。それじゃ干渉項は消せず、とある一つの死亡状態の世界線を生存状態に改変しただけに過ぎないんだ」

古泉「それに僕たちが聞いた話ではやはり、誰の手も借りず運良く生存した、ということになっているようですので、結局涼宮さんが彼をどうやって助ければいいのか、というのはわかりませんよ」

ハルヒ「うぐっ、そうなの。それじゃ、振り出しに戻る、ね」

古泉「やはりDメールを待つしか……おや?」

??『涼宮さーん! 古泉さーん! 長門さーん! 朝比奈さーん! こちらのほうまで来ていただけませんかー!』

ハルヒ「この声は、吉村さん」

みくる「どうしたんでしょうか」

ハルヒ「とにかく行ってみましょう。妹ちゃんに何かあったのかも」

長門「……世界線の収束について、もう少し情報が欲しい」

鈴羽「あたしはユキねえさんとここに残るよ。現地人との接触はなるべく避けたほうがいいからね」

古泉「森さんはここに人が近づかないよう、お願いします」

森「了解です、古泉」

2010.08.18 (Wed) 10:03
北高 中庭


ミヨキチ「すいません、わざわざここまで出て来てもらって」

キョン妹「…………」

ハルヒ「ううん、この学校がバリアフリーに対応してないのが悪いのよ! 来年までに生徒会長を恫喝して経営陣の弱みを握ってPTAやらNPOやらWHOやらに訴えて北高の完全バリアフリー化を宣言させるわ! せっかくだからパーキングパーミットもユニバーサルデザインもピクトグラムも導入しましょう!」

ミヨキチ「い、いえ、なにもそこまで……」

古泉「冗談ですよ」

ミヨキチ「あ、冗談でしたか。すいません」

ハルヒ「冗談じゃないわよ! それで、一体どうしたの?」

ミヨキチ「えっと、それがですね、わたしのケータイに不思議なメールが届きまして……」

ハルヒ「不思議なメール?」

ミヨキチ「このメールなんですけど……」

ハルヒ「どれどれ」


 [Date]8/18 09:31 [From] (sg-epk@itk93.x29.jp)
 [Sub]  [Temp]
 [Main]ミヨキチ、あたしを連れて北高まで行って。ハサミを忘れないでね。それから、非通知で電話がかかってきたらあたしにお話させて。


古泉「この“ミヨキチ”というのは、吉村さんのあだ名でしたね」

ミヨキチ「え、ええ……。でも、世界中でわたしのことをミヨキチって呼んでくれたのは、過去にこの子だけなんですけど……」

キョン妹「…………」チョキチョキ

みくる「それでハサミ持ってるんですかぁ。えらいですねぇ」ウフ

キョン妹「…………」コクッ

ハルヒ「なら、妹ちゃんがメールを送ったんじゃないの?」

古泉「この子にケータイを持たせる意味があるとは思えません」

キョン妹「…………」

ハルヒ「そ、それもそうね……ごめん」

古泉(となるとこれが例の未来からのDメールでしょうか。全角18文字以上ですが、技術的に改良されている……。そう言えば、あの文字化けメールも相当に長かったですね)

古泉(それに2010年には存在しない属性型JPドメイン……、sg-epkの意味するところ……)

ミヨキチ「なにかお心当たりはありませんか?」

古泉「いえ、申し訳ないですがわかりかねます。ご足労頂いてすいませんが今日のところはお引き取りください」

古泉(しかしながら、これが織姫の願いだとは到底思えない。敵の罠の可能性が高いか、あるいは……)

ミヨキチ「そ、そうですか……。わかりました、お邪魔して申し訳ありませんでした」

ハルヒ「待ちなさいよ古泉くん! 関係あるに決まってるじゃない! これは不思議メールよ!」

みくる「そうですよぉ、かわいそうですぅ」

古泉「涼宮さんは今彼を救うことだけを考えるべきだ、あ、いや、考えたほうがいいと思いますよ」ニコ

ハルヒ「あっ……う、うん、ごめん、古泉くん。ゴメンネ、アタシナンテウマレテコナケレバ……」イジイジ

みくる「そんなに謝らないでください、涼宮さん! もっと胸を張ってぇ!」ピィィ




プルルルル プルルルル


ミヨキチ「!!」


ごめん言い訳させて
キョン妹が嫌いなわけじゃない 
だけど想定科学シリーズでぅゎょぅι゛ょっょぃはやりたい
ハルヒで幼女はキョン妹しかいない
許せ



プルルルル プルルルル


ミヨキチ「ホ、ホントに非通知で電話が……。えっと、出たほうがいいですよね?」

古泉(sg-epk……シュタインズゲート、エルプサイコングルゥ、ですか。だとするとこれはタイムリープ……)


プルルルル プルルルル


ハルヒ「急がないと切れちゃうかもしれないわ! ミヨキチ、貸して! ほら、妹ちゃん、電話よ!」グリグリ

キョン妹「…………」グリグリ

みくる「妹さんのお耳痛くしちゃいますよぉ」

古泉(ですが、なぜ未来では未来ガジェット研究所と彼の妹が繋がることに? その関係は……、!!)


プルルルル プルルルル


古泉「ダメです涼宮さんッ、その電話に出てはいけないッ!!!」



ハルヒ「えっ」ピッ



キョン妹「……う……ぐ……う、うわぁぁぁぁぁぁあああああああッ!!!!!」


ミヨキチ「!!??」

ハルヒ「!?」

みくる「ひぇっ!?」

古泉「くっ!」


古泉(考えれば簡単なこと。彼の幻影はこの世界線でも生きている)


キョン妹「……グ……グァ……」


古泉(なら、一番影響が出るのは誰か。当然、本来彼と一緒に過ごす時間が最も長い人物であり、トリガーが最も多い場所で生活してる人物……)


キョン妹「ギュ……ビィヤァ……バギュ……ビ……」


古泉(死んだはずの兄に対して、毎日のように愛情が更新され詰み上がっていく地獄……!!)


キョン妹「……ギャギィギャギャギャギャギャァァァァッ!!!!!」タッ


古泉「危ないッ、涼宮さんッ!!!」ガバッ


   グサッ


古泉「ぐっ……」バタン

キョン妹「アハ……」

ハルヒ「……えっ」

みくる「こ、古泉くんッ!!!」

キョン妹「ア、アハ、アハハハハハハァッ!!! ついに、ついにやっだ!!! ついにあだしは、帰っでぎだァァァァァァッ!!!!」

ハルヒ「古泉くんッ!? そんな……、だ、大丈夫ッ!?」

古泉「ぼ、僕のことは構わず、早く、タイムマシンに……グフッ……」

キョン妹「あいつらを騙しでぇッ!! ハイパーダイムリープマシンを使っでぇッ!! あだしは2034年から帰っでぎだぁッ!!!」

みくる「ひぃっ……!!!」

ミヨキチ「嘘……やめて、やめてよ……」

キョン妹「ヒヒッ、ミヨギヂは殺さないがら安心しで♪」

キョン妹「古泉ィッ!! 残念だっだなぁ、涼宮が用意しだ“織姫の願い”はあだしが2025年に寄って削除しだよぉッ!! アハハハッ、いいザマだぁッ!!」

古泉「す、涼宮さん……早く……」

キョン妹「ごの時代の涼宮は収束のせいで殺せないげどねぇ、ダイムマシンに乗らせないようにするごどぐらいはでぎるんだよぉッ!!!」タッ

ハルヒ「ひぃッ!!」

みくる「だ、だめですッ!!!」ガバッ

  グサッ

みくる「かはっ……」

キョン妹「アハ、アハハハハハッ!!! バカバッカ!! バカバッカ!!」

ハルヒ「そんな……」ガクガク

鈴羽「何やってる!! 早く屋上へ!!」

鈴羽(ハイパータイムリープマシンってなんだよ!? この世界線の未来ではそんなものを作るのか、父さん……!)

ハルヒ「ダ、ダメ……脚が……」ブルブル

森「涼宮さんはわたしが運びます! さあ、乗って!」

キョン妹「ギャギャギャギャギャギャギャァァァァッ!!!!」タッタッタッ

鈴羽「記憶転送時にβエンドルフィン大量放出で肉体強化されるように仕込んだのか……!!」パァン!!パァン!!

キョン妹「無駄だよぉ、あたしは最低でも2034年まで殺せないからねぇッ!!! アハハッ!!!」

長門「パーソナルネーム―――XXXX―――を敵性と判定。当該対象の有機情報を空間凍結する」スッ

キョン妹「ユキリン、どうしたのー? いっしょにあそぼー♪」エヘッ

長門「!?」ビクッ

キョン妹「じゃあ死んで」グサッ

長門「かっ……」

キョン妹「アハハ!!! 喉笛切っちゃえば詠唱できないよねぇッ!!! ついでに頸椎もボロボロにしであげるよぉ!!! ごれでしばらぐ動げないよねぇッ!!!」グサッ グサッ

鈴羽(しまった、涼宮ハルヒのリーディングシュタイナーを強制誘発させる計画が破たんした!)

2010.08.18 (Wed) 10:24
北高 階段


キョン妹「アハハハッ!!!」タッタッタッ

鈴羽「くそッ!!」パァン!!パァン!!

森「向こうのほうがスピードが速い……。鈴羽さん、涼宮さんをお願いします」

鈴羽「……、わかった」

キョン妹「涼宮ァァァアアアアアッ!!!!」

ハルヒ「ひぃッ!!」ビクッ

キョン妹「あんたが殺したんだ、あんたがキョンくんを殺したんだ!!! キョンくんの人生と、あたしの人生を奪った罪……許さない、絶対許さないからぁッ!!」

鈴羽(この24年の間に潜在的リーディングシュタイナーを発動させ記憶を受信していたか……)

ハルヒ「あ、あたしは、殺してない……」ガクガク

キョン妹「今でも覚えてるよぉ、ガキのあんたの声をッ!! それだけじゃない、さっきあんたが過去に行った時、キョンくんを見捨てたこともねぇッ!!」

ハルヒ「あれは……違う、違うのよ妹ちゃん!! あたしだって助けようとしたッ!! でもできなかった!!」

キョン妹「どうせあんたは何度過去に行ってもキョンくんは救えないッ!! そういう収束なんだよぉッ!!! あんたは、あたしが2034年まで監禁してぇ、ゆっくりゆっくりなぶり殺しにしてあげるよぉッ!! アハハハッ!!!」

森「ここはわたしが抑えます! 早く行って!」

鈴羽「頼みます。いくよ団長」グイッ

ハルヒ「違うの……違うのよ……」ブツブツ

2010.08.18 (Wed) 10:29
北高 屋上


鈴羽「……なんとか撒けたね。ケータイ捨てて。ハッチ閉めるよ」プシュー

ハルヒ「うん……」ポイッ

鈴羽「この作戦が成功すれば世界線、というかアトラクタフィールドは改変される。古泉一樹も、朝比奈みくるも、長門有希も、みんな何事もなかったかのように暮らしてる」ピッ ピッ

鈴羽「時間が無いから前回の設定のまま飛ぶよ」ウィィィン

ハルヒ「お願い……」

ハルヒ(あたしが、あたしが成功させれば……でもどうやって……)


ガンッ!! ガンッ!!


鈴羽「なんだ!?」

キョン妹『出でごいぃぃッ!!! 出でごいよぉぉッ!!! 涼宮ハルヒぃぃッ!!!』ガンッ!! ガンッ!!

ハルヒ「嘘……森さんは……」

鈴羽「……行くよ。フライト開始」



――――――――
――――
――

D 1.128739 492062656C6965766520796F75%
2004.02.13 (Fri) 15:32
北高 屋上


生徒『なんの音だ!? おい、屋上への扉、鍵かかってるぞ! 誰か職員室行って取ってこい!』

鈴羽「さあ、泣いても笑ってもこれが最後だ。健闘を祈るよ」

ハルヒ「あたしじゃなくて、神様に祈っておいてよ……」

鈴羽「世界の創造主のこと? 君はこれから神を冒涜しにいくのに?」

ハルヒ「……そうだったわね」

ハルヒ(結局未来からのメールは受信できなかったから、これからあたしが何をすべきなのかは全くわからない)

ハルヒ(神様が作ったこの世界の仕組みを破壊するには……どうしたらいいの……)

2004.02.13 (Fri) 15:40
通学路


ハルヒ(阿万音さんは『β´世界線はあたしが作った』って言ってた。比ゆなのかも知れないけど、それならあたしには神に匹敵する特別な力があるのかもしれない、なんてね)

ハルヒ(そもそもどうしてあたしはβ´世界線なんて作ったの。キョンを救うため? なんで?)

ハルヒ(だいだい、キョンは何があって猫状態になっちゃったのよ。生きてるか死んでるか半々だなんていう不思議属性を持っちゃって)

ハルヒ(キョンが死に際におまじないを使ったからこんなことになった? でもあんなテキトーなおまじないに何の不思議パワーも無いはず)


  『答えはいつも私の胸に』


ハルヒ(なんでだろ……。キョンを選んだのは、あたしのほう?)

ハルヒ(ここまで来たから……もう、止まらない。それは、運命様から決められたけど……)

ハルヒ(なら……。感じるまま、感じることだけをするしかない)


  『答えはいつも私の胸に』


ハルヒ(……胸に何があるってのよ。あたしの心に、何があるの……!?)

ハルヒ(い、痛い……あ、頭が、割れ――――――――――――――――

ちょっと中途半端だけど今日はココマデ

―――――――――――――――――――――――――



  ねえ、あんた。宇宙人、いると思う?

  いるんじゃねーの

  じゃあ、未来人は?

  まあ、いてもおかしくはないな

  超能力者なら?

  配り歩くほどいるだろうよ

  異世界人は?

  それはまだ知り合ってないな




  ジョン・スミス。匿名希望ってことにしといてくれ




  世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく!





  曜日で髪型変えるのは宇宙人対策か?


  結局のところ、人間はそこにあるもので満足しなければならないのさ


  あのさ、涼宮。お前『しあわせの青い鳥』って話知ってるか?


  いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則なまでに似合ってたぞ


  実は宇宙人も未来人も超能力者も、思いも寄らぬ身近にいるんだよ


  俺の課題はまだ終わってねえ!


  ちっとも面白くない。つまらん。朝比奈さんはお前のオモチャじゃねえぞ


  それは彦星と織姫宛のメッセージだ。内容はたぶん“わたしはここにいる“


  心配かけたようだな。すまなかった


  『ハルヒ、ここで寝ていいか。一人だと不安で眠れなくてな。お前のそばなら安心だ。いいだろう、な?』


  ただただ、ありがたい。本気でそう思うんだ。


  進級だけは無事にしたいもんだ


  101匹ハムスター早つかみ大会とかじゃないだろうな


  この1年、団長ご苦労様。これからもご贔屓に頼むぜ




  そうかい



  やれやれ



  おいバカハルヒ




  ――――新生SOS団の旗揚げを、高らかに宣言しようじゃないか



―――――――――――……」

ハルヒ(……どうしてこんなにも大切な記憶を忘れていたんだろう)ポロポロ

ハルヒ(あたしの人生に必要不可欠な、かけがえのない記憶)グスッ

ハルヒ(とっても大切な人の記憶)グシグシ

ハルヒ(ふふっ、柄でもないけど愛してたのかもね。あたし)

ハルヒ(人間が神の領域に近づくためのネオプラトニズムの正体。それは)

ハルヒ(……もう、振り向かない)タッ!



キョン「それで、どの辺で失くしたんだ?」

キョン妹「グスッ……グスン……うぇぇぇぇん……」

キョン「しょうがないな、ほら。お兄ちゃんが見つけてやるから」

キョン妹「ヒグッ……うん……」

ハルヒ(なんだ、簡単なことじゃない。キョンの命を救うには)タッタッ

ハルヒ(あいつにちゃんと伝えないとね。こんなあたしと一緒に居てくれて、ありがとうって)タッタッ

ハルヒ(楽しかったよって。大好きだよって)タッタッ

ハルヒ(あたしは、あんたがしてくれたことをそのままお返しすればいいだけだったんだ)タッタッ

ハルヒ(今年の4月、あたしが部室の外から地面に落ちていく夢……これは一体誰の記憶なんだろう)タッタッ


ハルヒ(小)「待ちなさい!!!!!!」

キョン「!?」クルッ

キョン「あっ」ズルッ


ハルヒ(あたしは知っている。こいつが空へと手を伸ばすことを)ダッ!!

ハルヒ(だったら……、その手をつかんであげればいい!)

ハルヒ「キョン!!」


ガシッ!!


キョン「えっ」


ヒュー


ハルヒ(あとはあたしが下敷きになって、こいつの小さい体を衝撃から守ってあげるだけ)

ハルヒ(神の力は全部収束の破壊に回すわ。あたしは、あたしの力だけでこいつを助ける)

ハルヒ(もちろん青白い光なんて無い。だってあたしは意識的にソレを操れない)

ハルヒ(あなたの命を救うには、あたしの命を差し出せばいい)

ハルヒ(じゃぁね、キョン。今までありがとう)ニコ

ハルヒ(……また会えるよね)



……ドンッ



―――――――――
――――
――

D 1.129848%
2004.02.13 (Fri) 15:30
ドブ


キョン(……痛え。死ぬほど痛え。ああ、俺生きてるのか。正直死んだかと思った)

キョン(よく助かったな。あれか、おまじないのおかげか。ハハ、まさかこの俺が神秘体験を経験するとは。このタイミングでちょっと余所行きの服を着た40代くらいのオバちゃんから『あなたは神を信じますか』なんて言われた日にはやたらと小奇麗な会館にホイホイついて行っちまうかもしれない)

キョン妹「お兄ちゃん!? おにいちゃぁぁぁぁ……うえぇぇぇぇぇぇぇ……」グスッ

キョン「俺は大丈夫だー! だが脚をやられたみたいで動けないー! 近くに大人が居たら呼んできてくれー!」

キョン妹「う、うん!! だれか、たすけてー!! だれかー!!」

キョン(脚がパックリイッちまってるが命に別状は無さそうだ。入院ってことになれば明日はクラスの女子どもから大量の義理チョコをもらえるかもしれないという俗物超特急なことを考えるくらいには余裕があるからな)

キョン(しかし、これは一体誰の仕業だろうね。あの妙に頭に残る声の主か? あるいは、ホントに異世界から救いの手が伸びたのかもしれない。否定はできないぜ? あるってことを証明できないんだからな。未知論証、悪魔の証明ってやつさ)

キョン(もしそんな不思議なやつが居るんだったらいつかそのツラを拝んでみたいもんだ。場合によっちゃ雪の降る日に笠を被せる程度には信心深くなってやらんこともない)

キョン(ともかく助かった。色々問題は起こるだろうが、あとは成り行きに任せよう。なに、未来のことは思い悩んでも仕方ない。命がある限りはな)




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◇Chapter.14 涼宮ハルヒのプラトニック◇
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D 1.129848%
2010.08.18 (Wed) 10:34
湯島某所


キョン「ここは……β世界線か。いてて、ちょっと頭が痛い」

キョン「そっか、今回は強烈なリーディングシュタイナーが発動することはないってわけだ、世界外記憶領域から直接移動してきたからな」

古泉「えっと、突然なんの話でしょうか」

キョン「まあ聞け。実は俺はダークサイドに落ちたハルヒが創り出したブラックホールに飲み込まれてしまってな、そこで永遠に近い時間を過ごしてきたんだが、持ち前の機転を活かして命からがら脱出できたってわけだ」

古泉「スターウォーズですか? それともスターウォーズに対抗して作られたウォルト・ディズニーのSF映画『ブラックホール』ですか?」

キョン「ちゃんぽんってところかな」

古泉「たしかブラックホールの先は地獄に通じている、という子供向け設定だったと思いますが、実際はどうだったんですか?」

キョン「ビューティフルなドリームの世界だったぜ。その正体はハルヒの楽しかった青春時代だ」

古泉「現在進行形で謳歌されていると思いますが。まぁ、あなたの話が真実だったとして、それはブラックホールの形式を取った舞台装置だったのでしょう。他者と夢を共有する……、DCミニみたいですね」

キョン「あのハルヒが未来のことで歩みを止めてしまうとはね。それがあいつなりの優しさでもあったんだろうけどさ」

古泉「仮にそれがジョン・ホイーラーの命名したホンモノのブラックホールだとしたら、事象の地平線<イベントホライゾン>を超えて中へ落ちていき、情報の脱出は不可能。もしかしたら、時間を空間的に移動できるような五次元空間へ飛ばされるかも知れません」

キョン「帰ってきたら村が消滅していた、なんていうウラシマ効果が発生しなくて良かったぜ。特殊相対性理論さんは俺の味方だったみたいだ。戸籍上の年齢が150歳にでもなってたら年金詐欺になっちまう」

古泉「しかし、よく脱出できましたね。舞台装置とは言え、ブラックホールからは抜け出せない、という常識感覚があればそれは抜け出せなくなるもの。情報爆発でも起こしたのですが?」

キョン「ブラックホール爆弾みたいに言うな。ハルヒが宇宙戦艦を作って宇宙怪獣退治に付き合わされることになるかもしれん」

古泉「時間と言うのは日々刻々と過ぎるからこそ、人生に対して愛着を持てるというものです。夢のまにまに一生分の時間が過ぎるのであれば、それは邯鄲の夢と区別がつかない」

古泉「人間が一生のうちに見る夢の時間は総計すると6年間になるという研究結果もあるそうです。あなたが夢の中に居た時間は長くてもそのくらいだったのでは?」

キョン「100万年が過ぎてたと言われても違和感はないけどな。そう言えば今は10時半過ぎか……。ってことは岡部さんの改変実行からほとんどノータイムでこっちに飛んできたのか。まるで夢なんて無かったみたいだ」

古泉「日付は確認されましたか? 今日は18日ですが」

キョン「……ハハ、24時間は過ぎてたか。まぁ、このくらいなら誤差の範疇だろ。元々4日分アディショナルタイムがあったからな」

キョン「よし、それじゃお前の頭に前世の記憶をぶち込んでやろう。長門さーん、いるかー?」

長門「なに」トテトテ

キョン「ちょっと耳を貸してくれ……ゴニョゴニョ」

長門「わかった」スッ

古泉「ほう、一体これからどんなマジックショーが―――――――――――――

―――――――――カハッ!! ゴフッ、ゴホッ……ハァ、ハァ。肺に穴が開いた状態から突然健常に戻ると咳き込むという現象が確認されましたね。これは医学的に新発見なのでは?」

キョン「そんな特殊ケースはお前以外にお断りだ。《神人》との闘いでそんなにダメージを負ったのか?」

古泉「いえ、実は《神人》ではないのですが……。長門さん、彼と僕の記憶をのぞき見ますか?」

長門「」コクッ


・・・

長門「……無事でよかった」

キョン「ああ、不慮の事故はあったが、概ね長門の作戦通り行ったんじゃないか」

長門「黒いほうの涼宮ハルヒの自我に情報を上書きされたのは失態。心からお詫びする」

キョン「いいって。何事も無かったんだしな」

古泉「いえ、それがあったのですよ。全世界線を震撼させる規模の、驚天動地の出来事が」

キョン「……何があった」

古泉「どうしてあなたは世界改変時点から24時間ほどズレてβ世界線に移動したのでしょう」

キョン「それは、ブラックホール時間のせいじゃないのか?」

長門「あの擬似ブラックホールの消滅とほぼ同時に世界外記憶領域の情報制御空間は強制的に解除され、すべての記憶は世界線に再構成されることとなった」

キョン「そういやあの黒ハルヒが長門の空間を支配したって言ってたな。だから俺が本物のハルヒを説得することでアイツを消したからそんなことになったのか」

キョン「ってことはなんだ? 俺は24時間この世界から消滅していたとでも言うのか」

古泉「あなたに隠す意味もありませんので、包み隠さずお教えしたいと思います。涼宮さんの大冒険の顛末を」

キョン「あぁ、そうしてくれ。俺はどうやら知的探求心旺盛なローブラウらしいからな」


・・・

キョン「……マジか」

古泉「えらくマジです」

キョン「ハルヒは?」

長門「まだ部屋で寝ている」

キョン「古泉の推測の通り、自分の命と引き換えに俺の命を救った、であってるのか?」

長門「涼宮ハルヒが自ら飛び込む他に方法は無かった」

古泉「涼宮さんのリーディングシュタイナーは覚醒しかかっていましたからね。土壇場になってスーパーパワーが覚醒するというのは少年漫画の定石かと」

キョン「だが、そこでハルヒが死んじまったらおかしくないか? 2034年までは収束があったんだろ?」

古泉「なるほど、そちらの切り口から来ましたか」

キョン「……ってことは、ハルヒはその時生きてたんだな。記憶も意識も断絶しなかったと」

古泉「小学4年生がバランスを崩して転落した場合、打ちどころが悪ければ死亡する可能性があったわけですが、あの運動神経抜群の高校2年生の涼宮さんが即死するとは思えません」

古泉「もちろん、肉体的にはそれなりのダメージを負ったはずですが、記憶も意識も存在していた。そして涼宮さんの持ち前の能力によってアトラクタフィールドβ´を脱出と同時に全β世界線が改変されました」

古泉「それによってあなたは、“生存状態が決定している”、という風に改変されたβ世界線の8月18日の、涼宮さんが過去へ飛んだ時刻においてリーディングシュタイナーを発動させたのです」

キョン「なんで8月18日の過去へ飛んだ時刻なんだ? 改変した時点は2004年の2月だろ?」

古泉「まず、あなたのリーディングシュタイナーが発動するのはどうあがいてもαからβへの改変時である2010年8月17日以降です」

古泉「そしてβ世界線への改変から24時間存在した世界では、あなたが存在しなかった。当然リーディングシュタイナーは発動しない」

古泉「その世界は2010年8月18日に涼宮さんが過去へ飛んだ時点で2004年2月に改変されていたことが決定されるので、あなたのリーディングシュタイナーが発動するのはやはり2010年8月18日なのです」

古泉「あなたが2004年の2月に死亡した本当の理由は不意に転落したから、あるいは頭の打ちどころが悪かったから、等ではありません。本来ならたとえ小学4年生のあなたでも3針縫う程度で助かるのです」

古泉「ではなぜそんな大事になったのかと言えば、涼宮さんの記憶の中のあなたと、あなたが転落時に死を認識したという記憶が合体したため、記憶のほうが世界の再構成に影響を与えた」

キョン「お、おいおい。世界が改変されて記憶が再構成されるのはわかるが、記憶が改変されて世界が再構成されるなんてことはあるのか」

古泉「記憶というより、記憶を司る自我の存在自体が曖昧になってしまったのですよ。涼宮さんが知覚できないあなたは存在していないのと同義ですからね。ゆえに自我が自らの存在を否定することによって死亡世界線ができあがった」

古泉「と言ってもβ世界線の全てが死亡世界線にはならなかった。何故なら、あなたが2010年7月28日まで生きているβ世界線が無ければ死亡世界線成立の因果が消滅してしまうからです。ゆえにあなたという実体は量子系となってシュレーディンガーの猫のような存在になった」

キョン「俺は棺桶に片足突っ込んだ少年になっちまったってわけだ」

古泉「星半分になった少年、のほうが詩的かと」

キョン「なんだそりゃ、堺正章さんにゾウ料理でも食わせたのか」

古泉「ともかく、猫状態が干渉したために死亡世界線でもあなたに関わる事象の因果は残った。2009年4月以降の涼宮さんの記憶にはあなたが居ますから、辻褄合わせの再構成が起こったわけです。そのため死亡世界線ではあなたは幻影という形で存在した」

古泉「この幻影が今回の一件の解決の糸口となり、また僕らが凶刃に倒れた原因ともなったわけです」

キョン「……オカルトが過ぎると胃もたれを起こすんだな。勉強になったぜ」

キョン「……もしもし、あー、なんだ。元気か?」

キョン妹『あーっ、キョンくんだー! あたしをハルにゃんたちと一緒に東京に連れて行ってくれなかったキョンくんだー。ブーブー』

キョン「お前には賄賂としてケーキをおごってやっただろうが。今日はどこか出掛けるのか?」

キョン妹『あのねー、ミヨキチと映画見に行くの!』

キョン(あの子も相当映画フリークだよな)

キョン「そうか、楽しんでこいよ。お前の元気な声が聞けてよかった。それじゃ、来週頭くらいには帰るから」

キョン妹『お土産よろしくねー! バイバーイ』ピッ

キョン「……ふぅ」

古泉「可愛らしい妹さんですね」ンフ

キョン「お前のその精神力には感服したよ……」


バタン!! ドタドタドタ……

キョン(2階から円谷プロダクション級の足音が聞こえてきた。眠れるハルヒが目覚めたか……、300万光年先からの必殺光線が飛んでこないことを祈る)

ハルヒ「……キョン!! 愛してるッ!! どこにも行かないでッ!!」ダキッ!!

古泉「!?」ガタッ

長門「!?」ガタッ

キョン「……」

キョン(えっと、そんな名前のウルトラ怪獣が居たよな。アイシ・テールとかいう。シャチホコみたいなエビだっけか)

ハルヒ「……」ギュゥ

キョン(……ハッ!? 何が起きた!? ここはまだ夢の中なのか!? 緊急脱出ボタンはどこだ! 誰かー! 俺をこの無限の監獄から出してくれー! あ、今のは無限と夢幻を掛けた高等な)

ハルヒ「……怖い夢を見たの。猿夢や枕返しや臨月天光なんかよりもっともっと怖い夢」グスッ

キョン「……どんな夢を見たんだ」

ハルヒ「えっとね……。宇宙霊魂<アニマ・ムンディ>の中に居たと思ったら自己像幻視<オートスコピー>を患って、中型ブラックホールに吸い込まれたと思ったらうる星やつらの世界に飛んで、その後は、あんたが、あんたが死んじゃって……」

キョン(なんだそのビュッフェスタイルのSFアクション超駄作は。そんな映画を作った監督が居たとしたらセカイ系こじらせた00年代ジュブナイルとして盛大に後ろ指をさされたあげくデンデやベジータのように爆死するだろう。あれ、ベジータは爆発してないな、なんでだ?)

キョン「要はお前は、ねおびれて泣きじゃくってるわけか」

ハルヒ「……それだけ怖かったの。お願いだから側に居て」クンクン

キョン(どさくさに紛れてにおいを嗅ぐな! こそばゆい!)

ハルヒ「今日はどこにも行かない。キョンの側を離れたくない」ギュゥ

キョン「あーっと……。ハルヒさん? 俺がお前の側に居るのはいいが、古泉たちの前で抱き合ってるのはちょっと問題があると思うのですが」

古泉「あ、いえ、どうそ。お構いなく」

長門「お構いなく」

キョン(構って!)

みくる「涼宮さぁん、急にどうしたんです……か……はうっ!? ///」

ハルヒ「……」ダキッ

キョン(アイヤー……)

みくる「み、み、み、見てませぇん! どうぞごゆっくりぃっ!」タッタッ

キョン「おい、ハルヒ! 少しで良いから離れてくれ! あれだ、ションベン!」

ハルヒ「…………」スッ

ハルヒ「古泉くん! キョンが居なくならないように監視しといて!」

古泉「お任せあれ」

キョン(そのニヤケ面をやめろ気色悪いんだよ腹立たしい!)

古泉「あなたと連れションをするのは、もしかしたら初めてかもしれませんね」ンフ

キョン(コイツ……殴りてぇ……)

男子トイレ


キョン(この家の男子便所はどういうわけか小便器が二つ設置されている。まあ元々旅館だと言うならそんなものか)

キョン「しかし、どうして急にハルヒのやつはあんなになっちまったんだ? キャラじゃないにも程がある」

古泉「おそらく涼宮さんはほぼ一瞬のうちにあなたとの大切な思い出のすべて、総量にして約1年半分のソレを受信したのでしょう。忘れていた自責の念と相まって、あなたのことを急激に愛おしく感じてもおかしくはない」

キョン「いやいや、それは前の世界線の話だろ? 感情だけコッチに飛ばされたってことか?」

古泉「そういうデジャヴもあると聞きますよ。よく言う、一目見た時から運命を感じた、などです。自律進化した涼宮さんのリーディングシュタイナーでは何が起こっても不思議ではない」

古泉「ですが、本人も夢だと認識していたようですからね。そのうち落ち着くと思いますよ。今頃恥ずかしさのあまり混乱されているかも知れません」

キョン(どうやらここが現実で間違いないようだが、ハルヒも俺と同じく夢と現実の区別がつかない状態だったんだろう。きっと今頃は、顔面火災大旋風だな。談話室に戻る時はバックドラフトに気を付けよう)

今日はここまで
用事のため3日くらい休みます 感想等あれば前スレの埋め用にレスしてもらえると嬉しいです

ごめん、急激に体調が悪くなって検査で時間が取れない  書き直し中、正直いつになるかわからない
過去作置いておきますのでもしよければ

 岡部「潰瘍性大腸炎だと……!」
 ルカ子「毎日毎日、チクニーが止まらないんです……」

発明家に腹部を刺されて入院してるので更新遅くなります(大嘘)
ご心配おかけしてすいませんでした
生存報告のためにちょっとだけ更新

談話室


キョン「……何やってるんだ、ハルヒ」

キョン(長門の形をした実験用ダミー人形を万力の如くこれでもかと締め上げるハルヒがそこに居た)

長門「苦しい」ギュゥ

ハルヒ「はいっ!! 次はみくるちゃんねっ!!」ギュッ!!

みくる「ふぇぇ!?///」

キョン「やめんか。何をしてる」

ハルヒ「あたしはね!! 突発性抱きつき症候群に罹ったの!! アメリカではポピュラーな病気なのよ、知らないの!?」

キョン(まだストックホルム症候群のほうがマシな言い訳になっただろうに、新種のシンドロームをホイホイ開発されてはたまったもんじゃねえ)

ハルヒ「だからキョン!! あたしがさっきあんたに、だ、抱きついたのは全部病気のせいなの!! 一種の精神病の類よ!! 別にあんただけが特別じゃないのよ!! 勘違いしないでよね!!」

キョン(その時のハルヒは漫画的な表現で言えば、目を渦巻き状に回しながら耳から湯気を出し、両手を屠畜寸前のブロイラーの如くばたつかせ、セリフのフキダシに添付された音喩<オノマトペ>には『アワアワ』あたりがカタカナで書かれていた)

ハルヒ「次は古泉くんね!!」

古泉「大変魅力的な提案ではありますが、僕は棄権させていただきます。各方面からの制裁措置が抑止力として働いているものですから」ンフ

キョン(今のハルヒの状態を的確に表す二字熟語があるので教えてしんぜよう。自らを棄てると書いて自棄<ヤケ>である)

古泉「そう言えば岡部さんからメールが入っていたのでした。例のお話についてだと思われますが、事件が無事解決されたことを伝えに行かなければなりませんね」

キョン「そういやそうだな。今頃余計な心配をさせているかも知れない。ハルヒ、ちょっと俺たちラボに行って……ハ、ハルヒさん……?」

ハルヒ「…………」

キョン(無言で俺のTシャツの裾を握らないでほしいのだが……)

古泉「……ここは僕と長門さんで行って来ましょう。涼宮さんは、彼が何らかの事件に巻き込まれないよう監視していただけると良いかと」ンフ

長門「何かあったら呼んで」

ハルヒ「べ、別に心配してるとかそういうのじゃないから!! さっきも言ったでしょ、今日は一日外出禁止なの!! あんた、自分の発言にしっかり責任持ちなさい!!」

キョン(確かに側に居るのは構わんとは言ったが……)

古泉「気が済むまで安心させてあげればいいと思いますよ」ヒソヒソ

キョン「う、うむ……」

みくる「お茶入れてきますね」ウフ

キョン(さて、本来ならここで描写が古泉と岡部さんの対話に移るべきところだろうが、どうにもこの奇妙な現状について説明させていただきたい)

ハルヒ「…………」

みくる「えっと……」

キョン(4人掛けの横長ソファーに、俺、朝比奈さん、ハルヒの順に並んでいるのだが、ハルヒは朝比奈さんの手を握って動こうとしない。それどころか口を開こうともしない)

みくる「あはは……」

キョン(かと言ってハルヒの居る手前、会話の主導権を朝比奈さんが握るというわけにも行かず、無味乾燥な愛想笑いが空中にフワリと浮かぶ様子をただぼんやりと賞翫することしかできない)

ハルヒ「…………」

キョン「…………」

みくる「あ、あのー……。しりとりでも、します?」

ハルヒ「……倫理」

キョン「……リハビリ」

みくる「あっ……え、えっと、料理?」

ハルヒ「……リヒテンシュタイン料理」

キョン「おまっ」

2010.08.18 (Wed) 11:49
未来ガジェット研究所


古泉「ご心配おかけしました。お陰様で彼の生存は確保できましたよ」

岡部「そうか……。やはり先ほど感じた目眩はリーディングシュタイナーの発動、すなわち世界線改変だったのだな」

古泉「そう言えば橋田さんと椎名さんは?」

岡部「ダルは今頃戦利品のアンパックに忙しいのだろう。まゆりも似たような理由で今日はここには来ない」

岡部「しかし、話によると先の世界線では鈴羽がこの時代に来ていたとのことだが……、俺はこの世界線でもタイムマシンを作ることになるのだろうか。紅莉栖の居ないこのラボで……」

古泉「……牧瀬さんが居ない、というだけで寂しいものですね」

岡部「俺たちが今いる世界線でも鈴羽は飛んでくると思うか?」

古泉「そうなれば牧瀬さん救出の目途が立ちそうですね」

岡部「……いや、紅莉栖のことは今はいいんだ。それがあいつの決意だったのだから」

岡部「今はまゆりの生死だ。俺は未だにここがβ世界線であるという確証が持てない」

岡部「確かにジョン・タイターは米掲示板に2000年11月2日に現れていたし、ドクター中鉢によるタイムマシン発明成功記念会見も開かれていたようだが、24時間原理に関して、今日の20時にまゆりの生存を確認しなければ……、いや、最低でも3日はまゆりの生存を確認したい」

古泉「その後、その電話レンジを破棄するのですね?」

岡部「あぁ、そこのIBN5100も一緒にな。やはり、タイムマシンなどあってはならないものだ。俺は、タイムマシンを作るべきではない……。鈴羽のことは、あるいは、俺の死後にダルあたりがマシンを開発してしまうような収束でもあるのかもしれない」

古泉「そう言えば、この世界線でもIBN5100はこのラボにあるのですね」

岡部「どうもこの世界線の俺は8月1日にこれをここに持ち込んだらしい。ダルからの伝聞だから詳しいことはわからん。一応フェイリスに確認したら、自分が8歳の時に執事と一緒に柳林神社に奉納したと言っていたが……」

古泉(やはりβでも阿万音さんが関係している……?)

古泉「あるいはこういうことでしょうか。α世界線におけるDメールはクラッキングによって削除されたわけですが、この世界線でも削除されている必要があるはずで、そのためにIBN5100がここにある」

岡部「いや、Dメールは基本的に改変後の世界線にのみ受信歴が残るはずだ。送信側の世界線であるβ世界線にはDメールがエシュロンに捕えられるという事態は発生しないはず」

古泉「いいえ、そうではありません。確かに最初のβからαの移動の際はそのような状況になったのでしょう。ですが、今回のαからβへの移動は一応Dメールが関係していますが、いわゆるDメールによる過去改変とは全く別種のものです」

岡部「……そうか、Dメール送信は人間の行動を間接的に変えることで過去を改変するものだった。今回はDメールかどうかはともかく、未来にとって重要な事実を消し去ったことによって発生した未来改変だったわけだ」

岡部「今回のβからαへの改変のキッカケとなる行動に当たるものは“現在世界線における囚われDメールの削除”なのか」

古泉「今までの世界線漂流時のDメール打消しの時、復元世界線におけるDメールの受信歴は2通のDメールを受信したことになっていました」

古泉「すなわち、過去改変を間接的に誘発するDメールの受信歴は改変後の世界線にも残る」

古泉「それはDメールを受信してから実際に人間が行動するまでの間にラグがあるので、その間に世界線が分岐したためと考えられます。しかし、Dメールの捕縛それ自体が改変のキッカケだったとしたらラグは存在せず、まさにα世界線とβ世界線の結点となっていたのではないでしょうか」

岡部「αにおいてもβにおいても共通している事項と化していた、と言いたいのか?」

長門「ややこしい」

岡部「なら、それこそα世界線上で削除してしまったのだから、β世界線上にも残っていないはずだ」

古泉「あくまで仮説ですが」

古泉「7月28日のβからαの移動は、それが5日前へ送ったDメールだったためにあなたはリーディングシュタイナーを発生させた。そしてこのDメールはおそらく7月23日に受信された瞬間に世界線を分岐させたのでしょう」

古泉「その後、8月17日のαからβへの移動では囚われDメールの物理的削除、という現在改変によって未来を変えたわけのですから、それは8月17日に新しく分岐したというよりも、元々7月23日に分岐によって発生してしまったαという世界線が自己矛盾を起こし、元の世界線に収まったと言える」

古泉「これには阿万音さんというタイムトラベラーの存在が深く関係しています。8月17日にあのメールを削除したことで阿万音さんがタイムトラベルをする因果が消滅してしまった」

古泉「α世界線を成立させていた、1975年からのあれこれや、逆に2000年にジョン・タイターとして掲示板に書き込みをしないなどの行為がごっそり消え、かつ未来でSERNがディストピアを形成しないことによって元のβ世界線と似たような形で世界は再構成された」

古泉「それはあくまで因果を調整したために発生した似たような世界でしかない」

岡部「そうか、α世界線上の囚われDメールはダルの手によって削除され、もしかしたら元いたβ世界線上の囚われDメールも同時に削除されたかもしれない」

岡部「だが、俺が今存在しているこの世界線上の囚われDメールは削除されていない。この世界線の7月28日でも俺はあのDメールを送るはずなんだ」

古泉「Dメール自体は世界線を移動できませんから、そうなるかと」

岡部「なるほど、この世界線でもエシュロンにあのDメールは捕えられていた、それを削除するために俺はIBN5100を入手し、実際ダルの手によって削除していた、と……」

岡部「だが、ますます動機がわからん。この世界線でも俺たちはSERNをハッキングするだろうというのはなんとなく想像がつくが、しかし誰かに示唆されなければIBN5100の入手という因果も、データベースに隠されたDメールの削除実行という因果も発生しないだろう」

岡部「この世界線の2010年7月31日にもジョン・タイターは俺とメールのやり取りをしていたとでも言うのか?」

古泉「それこそ2000年に現れたジョン・タイターの言を信じて実行したのでは?」

岡部「あー、そうか。なるほど……」

古泉「もしくは、IBN5100の入手及びクラッキングによる囚われDメールの削除はβ世界線の収束である。収束だからといって無意味に危険アイテムが存在するのも変な話ですが、この場合は色々と悩む必要は無くなります」

岡部「それが収束だからこそまゆりの死の収束を上回る収束となっているのだと信じたいところだな」

古泉「まあ、橋田さんにクラッキングしたかどうかを聞けば済む話ですが」

岡部「……それを聞いてしまうとまゆりの生死が確定してしまうような気がしてな。俺にはできない」

古泉(なるほど、猫の観測問題ですね。実際α世界線のIBN5100も確率の雲の上に存在していたこともありますし、あながち岡部さんの判断は間違いとは言えない……)

長門「またケータイを見せてほしい」

岡部「あ、あぁ。そう言えばあの文字化けメールの残留思念とやらはなんだったのだ?」

長門「あの文字化けメールは2025年の岡部倫太郎が送ったDメール。そこには椎名まゆりを助けたいと強く願う思いが込められていた」

岡部「……ふっ、銀座のママの占いのような胡散臭い話だが、今なら信じてしまえる自分がいる」

古泉「事実、そうだったのだと思いますよ。あのメールを確認したからこそ、あなたは椎名さんを救うことができた」

岡部「眉唾もいいところだが……、いいだろう。今だけは運命を信じてやらんでもない。となると、βの時に受信した、このノイズムービーメールも2025年の俺が送ったものか?」

長門「そう」

岡部「αよりβのほうが技術的にレベルがあがるのか……、いやいや、しかしそれはありえん。この世界線の俺が2025年になっても電話レンジの力に縋っていようなどとは……」

古泉「未来は何があるかわからないからこそ未来なのですよ」

岡部「……例えば、俺が紅莉栖を救うためにまたタイムトラベル研究に手を出すとして、それでまゆりが死んでしまう可能性はゼロではない。むしろ大いにあり得る」

古泉「まだ諦めるには早い、とだけ意見を述べさせていただきます。あまり不確定なことを言葉にするのも良くないと思いますのでね」

2010.08.18 (Wed) 12:41
湯島某所


キョン「おう、遅かったな」

古泉「おや、あなただけですか」

キョン「二人は午睡を貪ってるよ。今日一日よく寝るな」


ハルヒ「……グゥ、グゥ」

みくる「スゥ……スゥ……」


古泉「それだけ精神的にきつい体験だった、ということでしょう」

キョン「……なぁ、ハルヒのリーディングシュタイナーは消したほうがいいんじゃないか?」

長門「必要が無ければ放っておいても退化する」

古泉「仮に世界線が変わったとしても涼宮さんに記憶の齟齬を与えなければいいだけの話ですよ。逆に涼宮さんのリーディングシュタイナーが必要な事態に陥った時に発動しないほうが恐怖です」

キョン「そんな事態がありえるのか……?」

古泉「僕の推測ではこれから鈴羽さんが登場します。そして僕たちはシュタインズゲートへ向かうために数度世界改変を経験するはずです」

キョン「第三次世界大戦を回避するために、か。なんだか実感がわかないが……」

古泉「前の世界線では涼宮さんは率先して敵兵を殺戮していたようですからね。そのような未来はできるだけ避けたいものです」

キョン「核の炎に包まれて五十数億人が死んじまう世界ってのはまっぴら御免だが、ハルヒが平気で人を殺す世界なんてのはもっと御免だ」

キョン「それで、ラボに行って何かわかったことはあるか?」

長門「岡部倫太郎は7月28日12時26分、ノイズまみれのムービーDメールを受信していた」

キョン「またそれか。……そう言えば、α世界線で2025年にDメールを送った岡部さんはリーディングシュタイナーを発動した、いや、するのか?」

古泉「しませんよ。言ってしまえば2025年からのDメールは既定事項であり、過去改変ではないのです」

キョン「過去改変したじゃないか。α世界線からβ世界線へと」

古泉「それはあの最後の世界線において実行したクラッキングによって発生した事象です。一方、あの文字化けメールそのものはすべてのα世界線へ送られていたようです。もし2025年Dメールの送信によって世界線が変動するならば、すべてのα世界線において世界線がβへと変動しなければおかしい」

古泉「いわば2025年Dメールは世界線を変動させない類のDメールなのです」

キョン「ということは今回も同じか」

古泉「おそらく。β世界線からシュタインズゲート世界線へと移動する事象は、牧瀬さん救出が鍵となっている以上、阿万音さんのタイムマシンによって実行されるものなのでしょう」

古泉「物理的タイムトラベルによって世界線が移動する場合、Dメールの送信世界線も受信世界線も色々ずれることになりますから、2025年Dメールはやはり過去改変Dメールとは成り得ないかと」

キョン「まあ、そのことには2025年の岡部さんも気づいてるんだろう。それで、今度は牧瀬さんを救うための無意識野への刻印があるってわけか」

長門「今回そのようなものは添付されていなかった」

キョン「なに? ハルヒの願望実現能力はどうした?」

古泉「どうもこの世界線において織姫の願いは完璧な形で発現されていないようです。α世界線においても実効力を持ったのはα→βへのあらゆる条件が揃った状況下でしたからね、この世界線においてはまだ条件が足りないのかと」

キョン「条件?」

古泉「それについて詳しく考えるために……、まずはこちらを見てください」スッ

キョン「これは、7月28日の夕刊、か。『若き天才科学者牧瀬紅莉栖刺殺さる』ねぇ……」

古泉「現在も調査は継続中です。犯行現場が従業員通路だったことから関係者の犯行として調査が進んでいるようですが」

キョン「……そうだ、そうだよ。そもそもどうして牧瀬さんは殺されたんだ? 誰が、どうやって、一体なんのために」

古泉「それでは久しぶりに僕の推理ショーをはじめさせていただきましょう」ンフ

今日はここまで 次回は不明

古泉「こちらに警察から合法的に仕入れた捜査資料があります」

キョン(コイツももしかしたら長門やハルヒに匹敵するトンデモ能力を持ってるんじゃないか)

古泉「事件直前、ラジ館8階では中鉢博士こと牧瀬章一氏による記者会見が行われていました。時間は丁度12時開始。タイムマシンの開発に成功した、という内容です」

キョン「……そうか! 牧瀬さんは親父の会見に顔を出しに行ってたってわけだ。元々交換留学か何かでこっちの高校に居て、そのまま大ビルでのタイムトラベル講演に出る予定だったんだから、余裕はあったはずだ」

キョン「ってことは、この世界線では牧瀬さん、いや、娘さんの紅莉栖さんは父親に協力的だった、ということか……?」

古泉「タイムマシンに関する変数は、2000年にタイターが登場しているか否か、が大きいのでしょう。実際、タイターが書き込んだタイムトラベルのシステムは、重大な情報工作があるにせよ、わりとそのまま鈴羽さんのマシンのシステムでしたから、それなりに現実味を帯びたのかもしれない」

古泉「ところで、その会見の参加者の一人から面白い証言が得られています。白衣を着た男が『タイターのパクリではないか!』と叫び会場は一時騒然となった、と」

キョン「……岡部さんか。やれやれ」

古泉「その後、岡部さんは同年代と思われる女性に連れられて会場を後にしたそうです」

キョン「女性? マユシィか?」

古泉「証言者の記憶から推定するに、おそらく紅莉栖さんです」

キョン「父親の会見の邪魔をされたんだ、そりゃ止めに入りたくもなろうよ」

古泉「会見終了は12時26分頃、そして牧瀬紅莉栖さんの死亡推定時刻は12時40分頃です」

キョン「どうしてそんなに細かく時間がわかるんだ」

古泉「多くの会見参加者が男の叫び声を聞いたようです。その時刻を覚えてらっしゃる方がいたのですよ」

古泉「おそらくその叫び声は牧瀬さんを刺殺した時のものでしょう。叫び声を聞いた数名が直後に現場へ急行し、彼女の横たわる姿を確認しています」

古泉「死因は刃渡り10センチに及ぶナイフによる腹部損傷、いわゆる出血性ショック死でした。病院に運ばれた後、死亡が確認されています」

古泉「ダイイングメッセージ等が無いことからガイシャは刺された衝撃によって意識喪失、数十分のうちに死亡したものと思われます」

キョン「物取りの犯行か?」

古泉「財布等の貴重品は盗難されていませんでした。というより彼女は荷物らしいものを何一つ持っていなかったのです」

キョン「……ホテルに預けて、会見だけ聞きに来た、ってところか」

古泉「ところが証言者の記憶によると、会見自体には顔を出していなかったようですね」

キョン「なら、親父に話があったんだろう。あれだけタイムマシンでこじれてたんだ、祝いの言葉の一つでも……」

キョン「おい……、まさか……。そんな、嘘だろ……」

古泉「……現在、牧瀬章一氏はその消息を絶っています。逃亡生活中かと」

キョン「……実の娘を殺す親がこの世のどこにいるってんだよ、クソッ!!!」

古泉「ここまで警察資料から推測できるにもかかわらず、章一氏の捜索に警視庁は本腰を入れていません。何らかの陰謀が働いているか、あるいはそれが世界線の収束なのか」

キョン「だが、だが動機が今一つわからん。たとえ自分のタイムマシン理論を否定した娘だとしても、7年越しに刺殺する理由があるか?」

古泉「激情殺人だと仮定すると、おそらくガイシャがホシの逆鱗に触れる行動を取った」

キョン「……タイターのパクリだと指摘したのか?」

古泉「あの牧瀬さんが同じ轍を踏む、すなわち父親のタイムマシン論文を否定するとは思えません。あなたが確認した牧瀬さんのタイムリープの記憶の中にそのヒントがあるのでは?」

キョン「つまり、親父との人間関係を修復するために取った牧瀬さんの行動……。そうだ、タイムマシン理論を完成させて、親父に見せたんだ」

古泉「なるほど……。それはつまり、直前の会見を全否定するもの、すなわち章一氏の一生を賭けた理論を根底から否定するものであった、と」

キョン「あの人は基本的に天才だったんだ、言動はちと問題があるが」

キョン「だから、たとえパクリ論文と言ってもそれなりに完成度は高かったはずだ。仮に理論的な部分で問題があったとして、それを否定された程度で殺意衝動にまで発展するだろうか……」

古泉「それはα世界線での話です。橋田教授の協力が無いと仮定されるこの世界線においては、そこまでの水準に達していなかったのでは?」

キョン「なるほど、そういうことか……。この世界において、牧瀬章一の才能は阿万音さんによって伸ばされることはなかった、それで阿万音さんが2000年に書いただろう理論を自分のものとして発表してしまった、ということか」

古泉「自分こそがマシン開発のエポックメーカーとなるのだ、と長年息巻いて来た彼にとって、天才と称される弱冠18歳の畑違いの脳科学者が自分を上回る理論物理学の成果をいとも簡単に出したとしたら。それは怒りを通り越して恐怖となるでしょうね」

キョン「一方で紅莉栖さんにとっては自分の父親との仲を取り戻したい一心だった。そこに科学者云々は無く、世界でたった一人の生みの親からの愛情を手にしたかっただけだった」

古泉「この歪みが悲劇を生んでしまった……。紅莉栖さんの動機が親の愛情を求めるものであるほど、すなわち研究者としての矜持や利権などと関係ないものであればあるほど、その才能の輝きは眩しさを増し、彼にとって直視できるものではなくなった」

キョン「そりゃ、そうだ。天才は1%のひらめきと99%の努力と言うなら、その努力に意味はあるんだろうが、1%のひらめきがなければ99%の努力は無駄だってんなら、凡夫の人生は無意味になっちまう」

古泉「そもそも自分の娘が会見に来ることを許可したのは自分の研究成果を見せびらかしたかったからでしょう。そしてもう一つ、彼が世間に対して自分の本名を公表したがらなかった理由……」

キョン「天才牧瀬紅莉栖と、父親である自分を比べられるのを避けたかったから、か」

古泉「娘と接しないこと、娘との関係を公にしないこと。それが彼なりの愛情だったのかも知れませんね」

キョン「なんつー大馬鹿親子だ……」

キョン「だが、ともかくこれで目途はついた。あとは岡部さんが長門印のリープマシンか、阿万音さんのタイムマシンで7月28日に飛べば牧瀬さんを救えるってわけだ」

古泉「いえ、絶対に救えませんよ」

キョン「……は?」

古泉「β世界線すべてにおいて岡部さんは過去へ行くなんらかの方策を持っています。しかしながら、僕たちが所属している現在世界線において牧瀬さんは救出されていない」

キョン「それは、まだ岡部さんが過去へ飛んでないからだろ?」

古泉「この世界線上の7月28日に登場するはずの未来からきた岡部さんは、僕が先ほどラボでお会いしてきた岡部さんとは別人です。長門さん風に言えば異世界同位体、と言ったところでしょうか」

古泉「先ほどの推理が正しかったとすれば、α世界線からβ世界線へとやってきた岡部さんは必ず7月28日へとタイムトラベルをするでしょう。しかしながら現在世界線において牧瀬さんは死亡している……」

古泉「つまり、岡部さんは牧瀬さんを救うことに失敗する。彼女を救うことはできなかった、という結果が既に観測されているのです」

キョン「そ、そんなバカな!? それじゃ、時間軸も因果律もあったもんじゃ……そ、そうか。タイムマシンってのは、こういう結果をもたらすんだったな……」

古泉「会見参加者の証言に、11時50分頃にラジ館全体を襲う地震にも似た震動を感じた、そして白衣の男が屋上に上がるのをきっかけに数名が屋上へ行くと、ミリタリールックの案内係と思われる女性が会見場へ戻るよう誘導した、というものがありました」

キョン「……阿万音さんのタイムマシンが到着してたんだな」

古泉「それからもう一つ。覚えていませんか? この世界がβ世界線からα世界線へと移動することとなってしまったそもそもの原因であるDメールの内容を」

キョン「たしか、『牧瀬紅莉栖が何者かに刺されたみたいだ』……。そうか、牧瀬さんが何者かに刺されなければ例のDメールを送る因果が消滅して、俺たちが今ここにいる因果が消えることになる」

古泉「そうなると巨大なパラドックスが発生することになるでしょう。むしろ牧瀬さんの救出に失敗することが既定事項化している、と言い換えてもいい」

古泉「既定事項というのは、ある意味で過去改変の対極にある存在ですね。未来から過去に対してなんらかのアクションを起こすという意味では共通していますが、前者は世界線の因果を補てんする線路の継ぎ足し作業、後者は世界線の因果を別方向へと導く線路の切り替え作業のようなもの」

古泉「あなたが意識レベルで消滅した特殊な世界線においてさえ、あなたが存在していた因果は幻影という形で存在した。それほどまでに収束というものは堅固なものだと言えます」

キョン「……まるでカフカエスクじゃねーか。この不条理の中、どうやって牧瀬さんを救って、第三次世界大戦を回避すりゃいいってんだよ」

古泉「先ほども言いましたが、おそらく阿万音さんが間もなくやってきます。シュタインズゲートへの鍵は彼女が握っているかと」

古泉「ここで一つ世界線移動を図に表わしてみましょうか。tは時間、Dはダイバージェンス、すなわち世界線変動率です」

キョン「お前がよくわからん図形を書き始めるといよいよ物語が終盤って感じがするな」

古泉「便宜上簡略化した図となりますが、気を付けてほしいのはこの平行線が永遠に平行線ではないということです。それでは多世界解釈になってしまいますからね」

古泉「この世界は収束と拡散を繰り返すのですから、この平行線は巨視的にはどこかで繋がっているはずです。それを前提として考えてください」

古泉「まず僕らはα世界線にいました。8月17日の午前中に岡部さんによるクラッキングによって世界線はβへと移動した」

キョン「だがそれは同時にβ´世界線でもあった」

古泉「そうです。この世界改変を矢印で示しましょう。同時にここでリーディングシュタイナー保持者は頭痛を感じるわけです」

古泉「実際のβ´世界線において、阿万音さんが物理的タイムトラベルを行うたびに世界線が変動したはずですが、そこは省略して、まとめてβ´とします」

古泉「そして僕らは8月18日をもってβ´を消滅させる条件を達成し、現在世界線に到達しています。便宜上、この現在世界線をβ1世界線としましょうか」

キョン(そうか、俺がこの世界線に移動してきた時にほとんど頭痛がなかったのは、このβ1世界線上の“俺”は8月17日に記憶をαからβへとリーディングシュタイナってる存在だったからか。なるほど、記憶≠意識ってのがよくわかったぜ)

キョン(だがそうなると8月17日から俺が飛ばされてくるまでの24時間の“俺”の行動が若干不可解だな。古泉に強制リーディングシュタイナーを発動させなかったり、世界外記憶領域の話をしなかったり……)

キョン「なぁ長門。この世界線の俺は8月17日から丸1日何をしてたんだ?」

長門「朝比奈みくるの快気祝いにスタベで甘味を奢らされた後、椎名まゆり、漆原るか、秋葉留未穂らと遭遇。どうしてもコミマに行きたくなった涼宮ハルヒは古泉一樹と朝比奈みくるを宿に残し、わたしとあなたの三人で夜遅くまで遊ぶこととなった」

キョン(それであいつ寝不足なのか……)

古泉「リーディングシュタイナー保持者の主観にとっては、世界はアミダクジの進行の如く移動してきたように感じられるはずです。黄色の水性ペンでなぞっておきましょう」

キョン「助かるよ、迷子にならなくて済む」


http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira086484.jpg

ハルヒ「んぅ……。あれ、またあたし寝てたの?」

キョン「寝覚めは良さそうだな」

ハルヒ「そうしょっちゅう悪夢にうなされてたら生きてる心地がしないわ……。おかえり、古泉くん、有希。なにかおもしろい収穫はあった?」

古泉「ええ。どうやらまもなく未来人が登場するようです」

ハルヒ「へえ、未来人……」

キョン「……お、おい」

みくる「あたしのことですかぁ……ぐぅ……」zzz

古泉「いえ、朝比奈さんではなく、もう一人の未来人」

ハルヒ「……もしかして、これって正夢?」

古泉「まだ夢の中なのかも知れませんよ」


プルルルル プルルルル


古泉「さて、このタイミングを指定したのは誰なのでしょうね」ンフ

キョン(さっきからにやにやしやがって……。どうも未来は古泉の手の中にあるようだ)

鈴羽『SOS団、君たちはβ´世界線から抜け出したようだね。今すぐラジ館屋上に来てほしい』ピッ

キョン「ホントに阿万音さんだ……」

ハルヒ「嘘でしょ……まさか、またなの……」

古泉「いえ、涼宮さんとは直接の関係はありません。あれは夢です。彼女はおそらく、次の世界線へ移動するためのヒントをもらいに来たか、渡しに来たか」

ハルヒ「……どういうわけだか古泉くんの言葉の意味がわかる。平和な未来のために動いてるのよね、彼女。夢のお告げってやつ?」

キョン(今更だが、α世界線の阿万音さんの思いは結局β世界線では達成されなかったんだよな。2036年に再構成された自分は平和に暮らしているはずだ、というやつだ)

キョン「……行こう。それがシュタインズゲートに到達するために必要なことだと言うなら、俺たちが手を貸さない手はない」

古泉「以前のあなたからは想像できないセリフですね。ですが、それが僕たちSOS団の未来のためならば惜しみなくこの身を捧げましょう」

ハルヒ「ちょ、ちょっと! 平団員風情が勝手に話を進めてるんじゃないわよ! 団長はあたしよ、あたし!」

キョン「そうだったな、悪い悪い」ヤレヤレ

ハルヒ「……後で罰金だから。それじゃ、改めて」


ハルヒ「SOS団の総力を結集して、ここに第三次世界大戦の全面的回避作戦発動を宣言するわ!!」


みくる「お、おー……ムニャムニャ」

今日はここまで

るみぽ

2010.08.18 (Wed) 13:58
ラジ館屋上


キョン(どういうわけか誰に咎められることもなく屋上まで来ることができた。田丸兄弟あたりが汗水流したのだろうか)

古泉「いえ、実は秋葉留未穂さんに許可をもらったのです。現在このラジ館屋上は秋葉さんが貸し切っている状況でしたので」

キョン「なんと、そうだったのか。よくOKしてくれたな」

古泉「なんでも『フェイリスはSOS団の味方だニャー!』だとか」

キョン(古泉のクソ気持ち悪い声真似を無視すると、眼前には俺の記憶にあるソレよりも整備が行き届いている樽型の物体Xが鎮座していた)

ハルヒ「これが……、タイムマシン」

みくる「え、えぇぇぇっ!?!? たたたっ、たいむましんなんですかぁ!?!?」

キョン(朝比奈さんはその長い睫毛をパタつかせながら腰を抜かしておられる。ハルヒのほうが落ち着いていて朝比奈さんのほうが慌ててるってのもなんだか不思議な絵づらだな)

鈴羽「……SOS団。また会うことになるとはね」

ハルヒ「阿万音さん……。ホントに、阿万音さんなのね……」

キョン(確かにそこには阿万音鈴羽さんが居た。しかし、まとう雰囲気は全くの別人である)

キョン(古泉から説明されていた通り、βの阿万音さんはちゃんとした軍隊に所属していた軍人だということだからさもありなんと言ったところか。そうは言っても不思議なもんは不思議なもんだ)

ハルヒ「えっと、また未来のあたしたちに頼まれて飛んできたの? あなたはあたしの部下なの?」

鈴羽「…………」

鈴羽「相変わらず君はあたしをイライラさせる天才だね、涼宮ハルヒ。あんたはあたしの上司なんかじゃない。仮にそうだったら、死んだほうがマシだ」

キョン(敵愾心剥き出しの眼光が面食らうハルヒの水晶体を射抜いた)

ハルヒ「……あ?」イラッ

キョン(お前もお前で仮にも恩人に向かってメンチを切るんじゃない! いや、その記憶は俺にもお前にも無いはずなんだけどさ)

鈴羽「この時代のあんたは特に物わかりが悪そうだからハッキリ言っておくよ。あたしはあんたが大嫌いだ」

キョン(さっきからなんなんだこの人……。秋葉原ワンマンアーミーVS宇宙大戦争でもおっぱじめるつもりなのか?)

ハルヒ「……本人を目の前にして言うところは褒めてあげるわ」

鈴羽「涼宮ハルヒ……。あんたは、陰から人を操って、多くの人間の命をもてあそんで、あまつさえ金ですべてを解決して……」

鈴羽「それでいて自分は決して手を汚さない。安心安全な場所から高飛車な命令を出すだけ。それが徳の高い行いであるとでも言いたいかのように」

鈴羽「助かってたよ! あぁ、あんたたち秘密結社SOS団のおかげでワルキューレは存続できた。あたしは守られた。これは間違いない」

鈴羽「実際、効率的、合理的、かつ効果的な作戦立案と、結果を出してた。だけど、あたしにとってはSOS団よりも、武器を手に取って戦ってくれた秋葉原TMマフィアのほうが信頼できたよ。澤田敏行は資金提供だけの関係だったから、特に何とも思わないけど……」

鈴羽「あたしはこの手で何人もの人間を殺してるんだ。生き残るために、そして自分の使命のために。あるいは、世界の収束のせいで」

鈴羽「なのにあんたはその手を血で染めたことはない。生殺与奪の権は握っておいて、自分は人を殺さないなんて、現場の人間に言わせりゃ反吐が出るってもんだ。お前は何様なんだって話だよ!」

鈴羽「あたしだって人殺しなんかしたくないんだ! でも誰かがやらなきゃいけない……。あたしは、父さんの娘だから、やらなきゃいけないんだ……」グッ

古泉「……そんな話をするために僕らを呼び出したのですか」

ハルヒ「未来のことなんか、知ったこっちゃないわ」

鈴羽「……そうだね。あんたはそういう人間だ。それでこそあたしがこの世で一番嫌いな人間、涼宮ハルヒだ」フッ

キョン(この阿万音さんはシニカル属性を身につけているらしいが……、どうしてこうなった)

古泉「それで、あなたが今ここにいる理由、そして目的を教えていただきたいのですが」

鈴羽「……今あたしは結構ピンチなんだ。悔しいけど、できればSOS団に助けてほしい」

ハルヒ「ハッ、それが人に助けを請う態度なの!?」

鈴羽「馬鹿みたいにデカい声を出すんじゃないよ。頭に響く」

キョン「やめろハルヒ。それで、阿万音さん。あなたの話を聞かせてください」


キョン(ようやく本題に入ったわけだが、中々に込み入っていて複雑だったので箇条書きにして説明させていただきたいと思う)



<阿万音さんがここに至る経緯>

1. 2036年8月13日からまず1975年へ行き、IBN5100を取得。

2. 1998年へ行き第三次世界大戦の火種となった2000年問題を解決するためにIBN5100を使うも、マシンの重力場漏れに耐えられずIBN5100は故障。

3. IBN5100はエネルギーの関係で一旦後回しにし、2010年8月19日にタイムトラベル。

4. 2日間の整備を経て岡部さんを呼び出し、8月21日の夕方、2人で2010年7月28日へ行き牧瀬さんの救出に失敗。

5. その後2010年8月21日に帰還するも、岡部さんは2度目の救出へと出発することはなかった。

6. 2011年7月7日という燃料限界まで岡部さんを信じて待ったが結論は変わらず、阿万音さんは1人で牧瀬さん救出に向かう。

7. 2度目の2010年7月28日、単独での牧瀬さん救出に失敗。タイムマシンをフェイリスさんの力を借りて今日までラジ館屋上に隠してきた。



キョン「なんと、このタイムマシンは未来方向にもタイムトラベルできるのか」

鈴羽「……? そうじゃなかったらタイムマシンと呼べないと思うけど」

古泉「β´世界線でもそうでしたよ。やはり、戦争というモノのは人類の技術レベルを底上げするものらしいですね」

キョン「タイムマシンが軍事兵器となってしまうとはね……」

鈴羽「ともかく、このままだと別世界線からやってくるあたしに明日の17時にバッティングすることになる。もしかしたら深刻なパラドックスが発生するかもしれない。今のあたしに残された猶予はあと27時間なんだ」

キョン(深刻なパラドックス……オフセット衝突でも起こるのだろうか)

ハルヒ「なんだ、あんた。要は時空の迷子なのね」

鈴羽「……簡単に言うね。君みたいな平和ボケしたガキに何がわかるって言うんだ」

ハルヒ「あんまり強い言葉を使うもんじゃないわ。傷つくのはあなたよ」

鈴羽「…………」フンッ

古泉「ふむ。実にややこしいですね。ちょっと図にしてみましょう」

古泉「阿万音さん、あなたが2度目の2010年7月28日に行った時、岡部さんと1回目のあなたは居ましたか?」

鈴羽「居ないよ。そこがβ世界線の分岐点だからね。何度言ってもかぶることはない。なぜならその度に新しい世界線が生み出されるから」

鈴羽「あたしが牧瀬親子の喧嘩の仲裁に入ったんだけど、結局牧瀬紅莉栖は父親の凶刃に倒れることとなってしまった。何かが変わると思ったんだけどな……」

鈴羽「その後はマシンの燃料が切れて、どこへも行けずにただ時間だけを過ごしてた。悔しいけど、8月18日に世界線移動してくる君たちに望みをかけた、ってわけさ」

ハルヒ「心の底から感謝するといいわ」

鈴羽「…………」チッ

古泉「なるほど。となると、図にするとこんな感じでしょうか」

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira086856.jpg

キョン「……それはちょっとよくわからん理屈だな」

古泉「2010年7月28日11時50分にタイムトラベラーが現れたとして、そのタイミングで世界線が新しく分岐しているのです」

古泉「ゆえに、何度7月28日11時50分にタイムトラベルしたとしても自分以外のタイムトラベラー、いわゆる異世界同位体と鉢合わせることはできない」

キョン「まだ多世界解釈のほうがわかりがいいんだが……」

鈴羽「そんなこと言われてもな……」

キョン「だが、そうなると阿万音さんが1998年において2000年問題を解決しようとしても意味が無いじゃないか。失敗することが収束として決まってるんじゃないのか?」

キョン(まあ、2000年問題なんかが第三次世界大戦の火種となったってのも鵜呑みにできる話ではないが、ここは未来人を信じよう)

鈴羽「ううん、100%そうとは限らない。未来の岡部倫太郎が2回目の救出に旅立って牧瀬紅莉栖救出を成功させる世界線なら、収束を騙すことに成功するはずなんだ」

鈴羽「牧瀬紅莉栖を救出できれば未来が変わる。それによって2010年7月28日以前の収束を無視する過去が発生する」

キョン(タイムマシンのなせる業、なのか……?)

鈴羽「言い換えれば、過去へと続く世界線が収束から解き放たれて、新たに過去が生まれる可能性があるんだ。そこなら2000年問題は解決できる」

鈴羽「西暦2000年ってのは特殊な年なんだ。全ての世界線が一旦ひとつに収束する。だから、ここを解決してしまえばシュタインズゲートを含む全世界線で2000年問題を解決することができる」

古泉(まるで涼宮さんの作ったβ´世界線のような場所があるわけですね)

古泉「図に書き足すとすればこんな感じでしょうか」

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira086857.jpg

古泉「未来が分岐進行なのはわかりますが、過去が分岐進行、この場合物理的退行かもしれませんが、そういうことになるのは不思議ですね」

古泉「確かにα世界線において1975年~2010年の過去は1本の収束線ではありませんでした」

古泉「いくつか大幅な差を見せる世界が存在した。それは阿万音さんが記憶喪失になる世界であったり、そうでない世界であったり」

キョン「秋葉幸高氏の生存を確保したりな」

古泉「そして8月17日の改変により因果のみが過去に残った……。というより、初期β世界線の7月28日午前中の段階でここまでの因果が確定していたとすれば、元々β世界線にα世界線の因果が残っていたことになりますが」

キョン「α過去の因果がβ過去に存在したとしても、具体的に何がどうなってそうなるのか皆目見当がつかん。このβ世界線の阿万音さんも1975年から暮らすのか?」

古泉「可能性としては、α世界線においても7月23日のαとβの大分岐以前、初期β世界線の収束にからめとられるα出身のタイムトラベラー阿万音さんが居たのかもしれませんね」

古泉「そうであればラボが大檜山ビルにあったり、天王寺さんが綴さんと結婚し子を設け御徒町に住んでいる等の因果にも納得がいきます」

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira086859.jpg

キョン「そんなの、お前のお得意の情報収集力で調べればいいだけじゃないか。“橋田鈴”という物理学者が存在したかどうかを」

古泉「いえ、既に死亡している場合、観測ができないのです。書類上同姓同名、顔も瓜二つの別人と言われてしまえばそれまで」

鈴羽「あたしは興味ないよ」

古泉「この波動関数の収縮、波束の収束システム、というかコペンハーゲン解釈は、もしかしたらアインシュタインの言う通り、波動関数に記述されていない未知の変数が隠されているのかも知れない」

キョン「そんなもんアインシュタインを超える天才じゃなきゃ発見できないぜ」

古泉「未知なりに仮説を立てていきましょう。7月28日以降、牧瀬さんを救出できる世界線へと移動するまでの間は多世界解釈モデルで近似しても問題ないように思われます」

古泉「と言っても2011年以降に、それまで分岐していた世界線の収束が発生していると思いますが、仮にしないと仮定した上で議論してみましょう」

キョン(未来の収束といったら、2025年のDメールと岡部さんの死亡、2036年の阿万音さんのフライト、などだろう。事象レベルではなく世界線レベルの収束がどういう仕組みになってるのかはよくわからんが……)

古泉「多世界解釈において、現在世界線、β1世界線上には少なくとも7人の阿万音さんの異世界同位体が存在することになります」

キョン「そ、そんなにか!?」

古泉「ですが、1975年と1998年に登場する阿万音さんと、それからまだお話に出ていない2000年にタイターとして米掲示板に書き込みをする阿万音さんは図からは省略させていただきますね。本当は初期世界線上の人物ですから」

古泉「残りの4名について、阿万音さんの主観的な順番から、すなわち世界線の移動の順番から、鈴羽A(赤)、鈴羽B(青)、鈴羽C(緑)、鈴羽D(橙)と名前を付けさせていただきます」

古泉「あなたは比較的初期の阿万音さん、鈴羽A(赤)ということになります。あなたの主観による世界線移動は、1975、1998、そして1回目牧瀬さん救出という既定事項を省略して書くとこのようになるかと」

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira086861.jpg

鈴羽「……多分、そうだね」

ハルヒ「D軸に沿ってD→C→B→Aと移動してきた、ってことね」

キョン「ん、この2017年9月27日ってのは阿万音さんの誕生日か。いつの間に誕生日を聞いていたんだ?」

古泉「あなたが朝比奈さんとサイクリングデートに興じていた時ですよ」ンフ

ハルヒ「」ピクッ

みくる「なな、なんのことですかぁ!?」

古泉「β世界線でも同一だと踏んだのですが、合っていますか?」

鈴羽「……合ってるよ。それがあたしの誕生年月日だ」

古泉「おそらくですが、この鈴羽Cさんが次の世界線へ飛び立つ前に一度世界線を変動させないと、この図は幾何学模様のように反復されてしまうことになるでしょう」

古泉「すなわち、いつまで経ってもシュタインズゲート世界線へは到達しない」

鈴羽「そ、それは困る!」

古泉「あなたが今ここにいることには何らかの意味があるはず」

古泉「アドバンテージは、あなたには未来の知識があるということ。それに従って現在時間平面の事象を変更することで未来を変えることができるはずです」

キョン(未来からの過去改変、つまり現在改変ってことか)

鈴羽「えっと……、つまり、今この時代で変えられる事象で、未来にとって決定的に有利になる事象を言え、ってことだね」

古泉「そうです。なにかありませんか?」

鈴羽「まず絶対に必要なのが2回目の牧瀬紅莉栖救出なんだ。あの時、オカリンおじさんが立ち上がる必要があった」

キョン(オカリンおじさん……、そう呼ぶってことは、2017年以降、岡部さんと知り合ってるのか)

古泉「どうして岡部さんは2度目へと飛べなかったのでしょう」

鈴羽「『収束だから仕方がない』って諦めちゃったんだ。あたしがそんなおじさんをビンタしようとしたんだけど、まゆねえさんに止められちゃって……」

キョン(まゆねえさん、ってのは、マユシィのことか)

鈴羽「……ううん、正直に言う。1回目の救出において牧瀬紅莉栖を刺殺したのはオカリンおじさんなんだ。牧瀬章一の手から牧瀬紅莉栖を守ろうとした際に起こった、事故だったんだけど」

キョン「なっ……」

ハルヒ「事故……」

みくる「ひぇっ……」

古泉「……なるほど、タイムマシンを使った完全犯罪ですか。アリバイが作り放題ですね。日本警察が手をこまねいている理由がよくわかりました」

鈴羽「自戒とも自嘲ともつかない状態のおじさんを無理にでも引っ張っていけば良かった……、でもあたしにはできなかった」

キョン「ちょ、ちょっと待て! この世界線では章一氏が娘を刺したんじゃないのか!?」

鈴羽「この世界線ではそう。仮に牧瀬章一を無理やりラジ館から連れ出したとしても、牧瀬紅莉栖は何者かに刺殺される。あるいは、自分で自分を刺して死ぬかもしれない」

長門「世界外領域において、アトラクタフィールドβ全体にそのような結果を誘因するプログラムが施されている……」

キョン「だったら岡部さんが2回目に挑戦しても同じじゃないか!!」

古泉「……いいえ、2回目に挑戦する岡部さんなら“抜け穴”に気づくことでしょう。おそらく2回目へと挑むその世界線では条件が達成され、織姫の願いが発動する」

古泉「長門さんがα世界線とβ世界線の間隙に用意した仕掛けが発動するはずです」

キョン「……無意識野への刻印が施されたムービーDメールか」

鈴羽「本当の収束事項が一体なんなのか、それを見極められれば世界を騙すことが可能になるはずなんだ」

古泉「つまり、牧瀬さんの死の観測は絶対的な収束ではない、という前提があると。そうか、それは既に証明されている……!」

キョン「……どういうことだ、古泉」

古泉「簡単な話です。岡部さんが初期世界線からα世界線へ移動した時、世界中の誰もが牧瀬さんの死を観測していない」

古泉「牧瀬さんが死ぬことは、我々が現在世界線に存在しているという因果に組み込まれていないのですよ」

キョン「いやいやしてただろ!? だからこそあんなDメールを送った……」

ハルヒ「あんた、古泉くんの話聞いてなかったの!?」

ハルヒ「さっきここに来るまでに聞いたけど、牧瀬さんの死因は失血性ショック死。刺された瞬間死んだわけじゃない。つまり倫太郎は彼女が死ぬ前にDメールを送ってα世界線へと移動してる」

古泉「仮にDメールを送る前に死亡していたとしても誰もそれを観測していないのです」

古泉「病院へ搬送されて初めて死亡が確認されていますし、なにより牧瀬さん自身は死を観測できない。死んでしまっては自分が死ぬことを観測できないのは当然です」

古泉「観測が発生しなければ、その事象は因果レベルでは存在しないも同然」

キョン「……トンデモのベクトルがアフィン空間へと融けてしまった気分だよ」

古泉「しかし、あなたが話した事象は既定事項か、8月19日以降に原因が発生するものです。今僕たちがどうこうしたところで効果は薄いでしょう」

鈴羽「うぅ……」

古泉「他にありませんか? 例えば、現在既にこの世に生を受けている人物で、第三次世界大戦の引き金となった事件に深く関わっている人物など」

キョン「そもそもどうして世界大戦なんかに発展しちまったんだ?」

鈴羽「……原因は中鉢論文だったんだ」

キョン(そこで俺はピンときた。この“中鉢論文”と呼ばれているものの正体、それは牧瀬さんが7月28日に見せたであろう自分の論文だったわけだ。なるほど、牧瀬さんの救出が世界大戦の回避につながるってのはこういうわけか)

鈴羽「中鉢博士は2010年8月21日に論文を携えてロシアへ亡命する。その論文の重要性に気づいたロシアは、中鉢博士を適当にあしらって独自にタイムマシン開発を開始する。世間に公表する論文の内容はもちろん嘘まみれで、本物はロシア対外情報庁(SVR)がトップシークレットで保護してた」

キョン「だがそれだったらα世界線同様ディストピアになるんじゃないのか? 未来ガジェット研究所の電話レンジは破棄される予定だし、そもそもタイムマシンの母である牧瀬さんが死亡している」

鈴羽「論文はどうやって書かれたと思う?」

キョン「どうやってって……、そりゃ、手で書いたんだろ」

鈴羽「おしいね。質問の意図は汲み取れてるみたいだけど」

古泉「なるほど、ハードディスクに残された論文データですね」

鈴羽「そう。アメリカの自宅にあった牧瀬紅莉栖のノートパソコンを巡ってちょっとした衝突が起きるんだ」

古泉「ロシアが奪取したのでは?」

鈴羽「ううん、その危険性にいち早く気づいて行動した人物が居たんだよ」

古泉「その名前は」

鈴羽「比屋定真帆。ストラトフォーの幹部さ」

キョン(またとんでもない名前が出てきやがったな……ストラトフォーだと? ストラテジック・フォーカス社。この俺でも知ってるぜ。影のCIA、民間情報機関という名の、いわゆる諜報機関だ)

みくる「ひ、ひや、じょーま、ほ?」

キョン「その比屋定ってのは沖縄人か」

古泉「おや、あなたからその博識を披露するとは珍しいですね」

キョン「いや、高校野球を毎年見てるせいだ。今年はあんまり見れてないが」

鈴羽「日系3世だったかな。ともかく、その女のせいで論文データがストラトフォーに渡ることになった」

鈴羽「ストラトフォーは世界中の大国にマシンの情報を売った。世界大戦の構図の完成さ」

鈴羽「それだけじゃない。ストラトフォーは各種研究機関と連携してリーディングシュタイナーの仕組みを解明することにある程度成功し、人工リーディングシュタイナーを発明した」

鈴羽「これによって世界線を思うがままに変更することが可能になったのさ」

鈴羽「比屋定真帆は、あたしの知ってる未来では危険度極高の人物だった」

鈴羽「ワルキューレの仲間の多くが洗脳されて、スパイ化した挙句に廃人にされてしまった。“教授”と呼ばれる老博士の指示を的確に実行する洗脳組織の女幹部だった」

キョン(どこのヒーローモノのドラマだそりゃ)

鈴羽「これを食い止めれば少なくとも世界大戦の被害はかなり抑えられる、と思う」

古泉「なるほど……、その比屋定さんについては調べを入れておきましょう」

古泉「仮に現段階でどこの組織にも属していない状態であれば、こちら側へ引き入れることができる。そうすれば世界線を変更させるキーマンとなる可能性があります」

ハルヒ「それで、あんたはこれからどうするの?」

鈴羽「……正直もう自殺してもいいかなって思ってるんだけど」

ハルヒ「は、はぁ!?」

古泉「相変わらず責任感があるんだか無いんだかわからない人ですね。ダメですよ、勝手にこの世界から退場することは。おそらく、収束がそれを許さない」

鈴羽「ハハ、またそれか。あたしってホント、なんのために生きてるんだろうね。収束のため?」

長門「それは時間が過去から未来へと一方向にのみ進むから。時間の逆進は人間の記憶が徐々に喪失することを意味するので世界の観測が不可能になる。ゆえに人間は時間的一方向性の宇宙にしか生存できない。その性質のためにあなたは生命活動をしている」

キョン(ホーキング博士の人間原理か。長門の禅問答じみた返答も、ある意味空気を読んだ回答なのだろう。ここで真面目に説教をしても埒が明かないからな)

鈴羽「わかってる。あたしはもう一度1975年に行ってIBN5100を入手してみるよ」

キョン「ラボにあるIBN5100を持っていくのはダメか?」

古泉「ラボにあるIBN5100は何に必要か未だ判然としてませんから、それが懸命かと」

鈴羽「そしてもう一度、1998年で2000年問題の解決を試みる。それが終わったらそのIBN5100はルミねえさんのお父さんに、柳林神社に奉納するように伝える」

キョン「そうか、それでラボにIBN5100がある因果を作るってわけだ」

古泉「それが既定事項だといいんですけどね」

鈴羽「それから多分、2000年11月2日から2001年3月にかけて掲示板に色々書き込まないといけない。そうしないと牧瀬章一がパクリ論文を書いてくれないし、αやβのオカリンおじさんにとっても必要な情報だからね」

鈴羽「だけど、もう燃料はほとんど残ってない。起動したら最後、どこへ着くかは運否天賦」

キョン「例えば、何らかの手段でこのマシンを隠して、8月19日以降に鈴羽Cさんのマシンから燃料を分けてもらう、というのは」

鈴羽「その鈴羽Cの未来が狂うことになっちゃうなら、あたしは手を出せない。そもそも8月19日の17時以降にあたしが存在することは、たぶん許されない」

古泉「現代に存在する代替燃料を用意する、というのは」

鈴羽「……あたし、物理学はできるほうだけど、化学は皆式わからないんだ。だから1日で準備できるとは思えない」

キョン(かいしき……カイシキ……皆式、か)

長門「…………」

鈴羽「燃料が無くても起動はできるからさ。とは言っても、仮に1975年に到着したとしてお金が無い……」

鈴羽「まあ、マシンを解体した資金でIBN5100を買えってことだよね。それでそのまま年老いていけと……」

古泉「1975年ならベトナム戦争終結直後、カンボジアやレバノンでは内戦が続いている時代ですから、マシンに使用されている貴金属の類は相当に値段が高騰しているでしょう」

鈴羽「なんだか夢も希望も無いな……」

キョン(やけに自嘲的だな、この阿万音さんは。自分の無力感にうちひしがれているのか……)

キョン「そういや、阿万音さんの言うルミねえさんってのは、秋葉留未穂、フェイリス・ニャンニャンのことか? 父親の秋葉幸高氏は生きているのか?」

鈴羽「……一応あたしの居た世界線では2000年に亡くなってる。飛行機事故の唯一の死亡者だったらしい」

キョン(そこはこの世界線でも変わってないだろうな……。やっぱりタイムリープによる事象改変は限界があるか)

鈴羽「西暦2000年の出来事だから、それが収束なら変更は難しいけど、もし変更できたらシュタインズゲート世界線でも生存が確保できる。でもそれはルミねえさんから絶対にやめてほしいって言われた」

キョン「……なに? また、どうして」

鈴羽「自分の父親の死を受け入れることで今の自分が居る。父を失って過ごしたこの36年間の思いを、自分の人生を、無意味なものにしないでほしいって言われたんだ」

ハルヒ「そっか……。フェイリスも強い娘ね」

キョン(フェイリスさんの43歳の姿か……、露聊かも想像できないな)

ハルヒ「ねえ……、阿万音さん。あなたのお父さんとお母さんには会えた?」

キョン(またコイツは断片的に記憶を恢復しているらしい)

鈴羽「……ああ、この時代の、ってことか。父さんには会いたくないよ。ミッションに失敗したなんて、どんな顔をして言えばいいのかわからないし、フライト直前までセクハラしてきたし」

キョン(セクハラかー、あの人的には親子のスキンシップなんだろうが。というかこの世界線では父親とは死別してないんだな)

ハルヒ「じゃあ、お母さんは……」

鈴羽「母さんは、無人機の機銃掃射で死んだ。あたしの目の前で、あたしにその血を浴びせて死んだ。そもそもこの時代の母さんに、あなたの娘ですって名乗ったところで信じてもらえるわけがないよ」

みくる「うぅっ……グスッ……」

ハルヒ「そんなの、やってみなくちゃわからないわ!」

鈴羽「……はあ?」

ハルヒ「もしかしたらお母さん、そういうのを信じるロマンチストかも知れないじゃない。自分の娘がこんなになって頑張ってるって知ったら、きっと励ましてくれるわ!」

みくる「きっとそうです! 絶対そうです! そうに違いないですぅ!」

キョン(朝比奈さんは諸手を挙げて大賛成のようだ)

鈴羽「い、いいよ。っていうか余計なことを勝手にするのはやめてほしい」

古泉「涼宮さんがそう言い始めたら、完遂すると思いますよ」

鈴羽「ホントにやめてよね! 母さんにだって会ったって話すことなんて無いし、それに」

ハルヒ「くだらない御託並べてんじゃないわよ! それじゃ、みんな? 阿万音さんのお母さんを探しに行きましょうッ!!」

みくる「おーっ!」

鈴羽「や、やめてくれーっ!!」

2010.08.18 (Wed) 15:43
秋葉原駅 電気街口


キョン「一旦やることを整理しよう」

古泉「まず比屋定真帆についての人物調査。こちらは僕にお任せ下さい。ある程度情報が揃ってから、具体的に彼女に対するアプローチについて考案しましょう」

ハルヒ「それもバイトのつてってやつ? 頼りにしてるわ!」

キョン「そいで、次は阿万音さんのお母さん捜しか。阿万音さんに聞いても名前を教えてくれなかったから自力で捜すしかない」

ハルヒ「絶対見つけ出すわよ! 未来人の母親捜しなんて、ふふっ、おもしろそうじゃない」ニヤニヤ

キョン(こいつはあの阿万音さんの鼻を明かしてやりたいとでも考えているんだろう。母親と会ってテンパる阿万音さんの姿を写真にでもおさめて弱みを握ろうとでもしているのか)

古泉「実はその目星はついていますよ。そしてそちらのアプローチには涼宮さん、あなたの力が必要です」

ハルヒ「へ?」

古泉「こちらの写真をご覧ください。彼女の名前は“阿万音由季”、現在とある女子大の4年生です」スッ

みくる「うわあ、綺麗な人ですねぇ」

ハルヒ「……へえ、髪型は違うけど、たしかに阿万音さんのDNAと共通してるものがある顔立ちね」

古泉「石川県出身、22歳。誕生日は1988年5月31日。身長162cm、体重51kg、血液型はO型。現在は埼玉県志木市在住とのことです」

キョン「おい古泉。どこからこの情報を仕入れたんだ?」ヒソヒソ

古泉「以前阿万音さんの戸籍を洗った、と言いましたよね。当然重点的に調べたのは“阿万音”の姓を持った人物についてです」ヒソヒソ

古泉「ちなみにβ´世界線では、未来人の阿万音さんは長門さんに対して非常に親しげに接し、同時に敬意を表していました。『ユキねえさん』と呼称して」ヒソヒソ

キョン(……まあ、あの無口で無表情なアンドロイド少女に親しみを持つと言うのは中々に特殊なのかもしれない。いかさまもっともな話だ)

古泉「思い当たる節があったのでもう一度調べ直したところ、ビンゴだったわけです」

キョン「だが、顔が似ていて同姓だというだけで断定していいのか?」

古泉「彼女は現在とあるサークルに所属しています。その後輩には2年生の来嶋かえでさんという方がいるそうです」

キョン「どこかで聞いたような……ああ! あの、マユシィとフブキさんのコスプレ仲間の!」

古泉「そして由季さんもコスプレイヤー、“あまゆき”です。これで橋田至さんとの接点も見えてきましたね。状況証拠しかありませんが、ここまで来たらほぼ確定とみなして構わないでしょう」

ハルヒ「それであたしがまゆり経由でカエデさんと接触できれば、その阿万音由季さんに届くってわけね!」

古泉「そういうことになります」

古泉「ですが、椎名さんは今日は1日戦利品の整理などで忙しくされているとのことでしたから、接触するのは明日のほうがいいかも知れませんね」

キョン(なにより今日の20時にマユシィが生存することを確認しないことにはすべてがパーになっちまうからな)

ハルヒ「うーん、仕方ないわね。なら、阿万音由希さんをどうやってラジ館屋上まで強制連行するか、これから作戦会議をしましょう!」

みくる「強制連行ですかぁ……」

キョン「平和主義外交で頼む」

2010.08.18 (Wed) 22:43
湯島某所


キョン(それからハルヒはあーでもないこーでもないと策を弄した結果、長門による占い大作戦が決行されることとなった)

キョン(なぜそうなったかは聞くな、俺にだって止められない流れというものがあるんだ。ハルヒが“御旗、盾無し御照覧あれ”と言ってしまえば反論は許されなくなり、同時に必勝が確定する)

キョン(オペレーションの概要はこうだ。オカルト研究会SOS団が夏休みの実験として新作占いのテストをしているので協力して欲しいと頼み込む。カエデさんやマユシィの知り合いだと言えば拒否はしないだろう)

キョン(自然に自分の将来の相手についての話題へと持っていき、長門が、あなたの娘はタイムトラベラーになると言う。当然信じられない話だが、ラジ館屋上に行けば会えると説得する)

ハルヒ『ここまで言われてラジ館に行かない女の子はいないわ! 気になって夜も眠れないはずよ!』

キョン(世界中の女の子の脳内がハルヒ的サーキットであることを祈るというのは無駄骨もいいところだが、ともかくそうやって阿万音さんとお母さんを鉢合わせさせようという作戦だ)

キョン(ちなみに阿万音さんはタイムマシン内で寝泊まりしているらしい。一応宿に来ないかと誘ってはみたが断固拒否の姿勢であった)

キョン(それから岡部さんからメールが入った。マユシィの生存を確認した、という内容だった。一応24時間原理は突破できたわけだが、岡部さんにとってまだ不安は拭えないだろう)

キョン「それで、比屋定さんのほうはどうなった?」

古泉「だいぶ情報が集まってきました。今回は緊急でしたので鶴屋家にも手伝っていただきましたよ」

キョン(いつの間に業務提携してたんだか)

古泉「比屋定真帆、21歳女性、独身。現在ヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所所属です」スッ

キョン「なに!? ってことは、牧瀬さんの先輩じゃないか!! なんだって悪の手先なんかになっちまったんだ……」

古泉「いえ、現在はまだ一介の研究員に過ぎないと思いますよ。年齢詐称の可能性を除いては、経歴に不審な点がありませんでしたから」

キョン「確かに顔写真はどうみても中学生だが、あれだろ、飛び級するために年齢を改ざんしたとかだろ」

キョン「それで、どうやってこっち側、というか岡部さんサイドへと引き入れるってんだ?」

古泉「今年の11月に開催されるATF、アキハバラ・テクノ・フォーラムに、ヴィクコンの脳科学研究所によるセミナーが開かれる予定になっています。どうやら比屋定さんは講義出演兼通訳として出席されるようです」

キョン(おそらくこれはβ世界線特有の現象だろう。仮に牧瀬さんが生きていれば、そりゃサイエンシー誌に載った彼女の顔を立てるからな)

古泉「そしてこのATFは東京電機大学などをはじめとする各種研究機関が連携しています。関連ゼミの学生はセミナーに参加し、指導教員にレポートを提出することが半ば義務付けられている」

キョン「なるほど……、ってことは岡部さんがATFに参加するゼミに入ればいいってことだな? そしたらおそらくあの岡部さんのことだ、ヴィクコン脳科学研究所の若い研究員が居れば牧瀬さんの話をしてしまうかもしれない」

古泉「しかも出展予定の内容は例のAmadeusに関するものらしいです。たしか、今年の3月に牧瀬さんの脳内データを走査したという」

キョン「倫理的に考えて牧瀬さんのデータを使うとは思わないが、Amadeusなら一般人であっても興味を引く話題だ。それにAmadeusは牧瀬さんが7月に発表した論文の内容の応用だったからな、もしかしたら故人追悼なんかもやるかもしれん」

古泉「比屋定さんも自分の後輩の不審死について興味が尽きないでしょうからね。リーディングシュタイナー保持者である岡部さんが牧瀬さんについて情報をもらせば、嫌でもラボに接近することでしょう」

キョン「そんなに上手く行くか、と普通なら思うべきところだが、世界線だの収束だのと話をしてきたもんだから俺もニワカ運命論者になってきたみたいだ」

古泉「ヴィクコンと最も繋がりのある電機大の教員に、井崎准教授という方がいます。何度かヴィクコンと共同研究をしているようですね」

キョン「つまり、岡部さんとその井崎准教授に繋がりを作ればいいってわけだ。なるほど、これなら不可能ではなさそうだな」

古泉「井崎准教授はテニサーの顧問もされているようですので、機関が総力を挙げて岡部さんをテニサーに勧誘しましょう。生徒会長を当選させた時のノウハウがありますからね、任せてください」ンフ

キョン(あ、ダメだ。そりゃ、いくらなんでも無理だろ。岡部さんには失礼だが、あの人はリア充の対極に居る存在だからな……)

古泉「明日あたりに機関のほうで作戦が固まると思います。今後世界線が変動するとすれば、それはこの未来改変に成功した、ということになりますね」



コンコン


キョン「ん、ハルヒか?」

古泉「僕のことはお構いなく。出てきてあげてはどうですか?」

キョン「……もう元のペースに戻ったと思っていたが、甘かったか」

古泉「もし避けられなければ、リーディングシュタイナーのことや僕らのこと、すなわち未来人、宇宙人、超能力者に関わることについて、暴露してしまっても構わないと思いますよ。いずれ世界は改変されるのですから」

キョン「そうならないよう頑張るよ。ちょっと待て、今出る」ガチャ

ハルヒ「……えっと、その、あんたにちょっと聞きたいことがあるんだけど」

キョン「まぁ、そんなこったろうと思った。スッキリしないままじゃ眠れんだろうからな、色々話してやろう」

ハルヒ「うん」

談話室


ハルヒ「前にあんた、世界が変わっても記憶を引き継げる能力を持ってるって言ってたわよね」

キョン「それは俺が言ったわけじゃなく牧瀬さんがそう言っただけだけどな……。しかし、ハルヒにその記憶があるってことは」

ハルヒ「そう。牧瀬さんが生きてた時の記憶が、なんとなくだけどあるのよ。だから牧瀬さんを救い出そうとしてるってのも分かる」

ハルヒ「だって……、あの人はあたしにおもしろい話をしてくれた。あたしの、初めてのタイプの友達だった気がするから」

キョン(自分の一つ年上でありながら、院生、しかも研究所の研究員という、ハルヒの直近の未来を歩んでいるような、そういう人と知り合いになれたことはハルヒにとって大きかったのかもしれない。あるいは天才的パルスが同調したのかもな)

キョン「よかったじゃないか、不思議能力がお前に宿って」

ハルヒ「なんも良くないわよ、あんたと同じ能力だなんて。それに、あんまり気分のいいものじゃないわ、これ……」

キョン(まぁ、そうなんだよな。普通、他所の世界線の記憶なんてのは全くもって余計なものだ。不要どころか気狂いじみた存在でしかない)

ハルヒ「この力って、その、シュタインズゲート世界とかいうところに到着できれば消えるのかしら」

キョン「さぁ、どうなんだろうな。お前が不要だと感じたらそれは消えるんじゃないか」

ハルヒ「用不用説、ラマルキズムね。否定された荒唐無稽な説だって言うネオダーウィニズム信者が多いけど、進化論なんてそもそも不明な点だらけなんだから否定はできないわね」

ハルヒ「……あたしたちが世界大戦を未然に防ごうとするなるなんて思っても無かった」

キョン「まぁでも創作物だとよくある設定の一つじゃないのか。第三次世界大戦だとか、核戦争だってのは」

ハルヒ「それは創作物だからこそハラハラドキドキのスリリングアクションになるのよ。こうやって現実に起きたら……、それはなんだか、嫌だわ……」ギュッ

キョン(ここでハルヒは俺のシャツの裾を握ってきた。そう何度も握られると伸びちまうんだけどな)

キョン「……大丈夫だ、俺は死にはしねえよ。団長様が祈っていてくれる限りは絶対安心だ」

ハルヒ「うん……」

キョン「俺だけじゃない、古泉も、長門も、朝比奈さんも絶対大丈夫だ。お前さえしっかりしてれば、SOS団は永久に不滅なんだ、そうだろ?」

ハルヒ「わかってるけど……、でも、あたしの記憶には、ぼんやりとだけど、あんたを失った記憶があるのよ? どれだけ不安かわかる?」ギュゥ

キョン(ついに腕にまとわりついてきた。こういうのはなんて言うんだっけ、あれだ、吊り橋効果、ゲレンデマジックだ)

キョン(どうでもいいが感情の誤帰属ってのは正常な脳においては基本的に起きない。疑似科学なんだ。たとえ美人な女性と二人で吊り橋を渡ったところで、恋愛感情に発展するのは“※ただしイケメンに限る”という限定条件がつくのである)

キョン(……自分で言っておいてなんだが、それってつまり。そういうことでいいのか……?)

ハルヒ「……スゥ……スゥ」ギュゥ

キョン(人間は何かをつかんだり、抱きついたりすると精神的安心感を得られるのだそうだ)

古泉「おやおや、寝てしまいましたか。一応タオルケットをお持ちしましたので、どうぞ」

キョン(俺は開いた口がふさがらなかった。こいつ、今の今まで全部聞いてたのか)

古泉「あなたも先の見えない未来に対して不安に思うようなことがあれば、すぐに言ってください。たとえ解決はできなくとも、ともに悩み、ともに歩むことはできますから」

キョン「そうか。なら今すぐここから消え失せろ」

古泉「んっふ。それでは、よい夢を」



朝方、俺は目が覚める直前になって噴飯物の夢を見た。死にたい。氏にたいじゃなくて死にたい。



――――――――


キョン『世界線の収束ってのは死神みたいなもんだな……』

ハルヒ『あんたと同じ能力なんて、なんだか嫌だわ……』

岡部『フゥーハハハ! 死神など取るに足らぬわ! この鳳凰院凶真の下僕にしてくれる!』

死神(黒)『ギャハハ!』

ハルヒ『かっこいい! 愛してるわ! どこにも行かないで!』ダキッ

紅莉栖『何がなんだかわからない……』

岡部『まとわりつくな、ジャリ餓鬼が! ん? しかしお前、よく見ると色々成長しているな……』

ハルヒ『ねえねえ! あたしもあなたと同じ死神を操れる能力持ってるのよ! 収束なんてぶっ壊してあげるわ!』

死神(白)『この娘、恋をしているのか』

岡部『フゥーハハハ! ならば2人で新世界の神になろうではないか!』

ハルヒ『愛してるわ! どこにも行かないで!』

紅莉栖『駄目だこいつ……早くなんとかしないと……』

死神(黒)『人間っておもしろ』


―――――――


今日はここまで

2010.08.19 (Thu) 08:24
湯島某所


キョン「……くそ、汗びっしょりだ」ダラダラ

キョン(朝、目が覚めると隣にハルヒは居なかった。しっかしなぁ、夢は記憶の整理とは言うが、なんでもごっちゃにすればいいというものではないぞ)

キョン(とは言ってもあのハルヒが俺の腕の中で寝たのは事実だ。部屋でシャツを着替えた俺は先方からなんらかの弁明があるかと思って普段通り過ごしていたが、ハルヒ容疑者は依然黙秘を続けており、要は“なかったこと”にしたいらしい)

キョン(まぁ、共犯である俺と目撃者である古泉が真実を言わなければ完全犯罪の完成だからな。俺としてもそれは望むところである)

ハルヒ「まゆりに連絡して、またフブキの家で集合することになったわ! おうちの都合でお昼過ぎになっちゃうって言うけど。カエデさんも阿万音さん、というか由季さんも時間ができ次第集まってくれるっていうから、盛大にコスプレ談義と行きましょう!」

キョン(今名前の挙がった者全員が、我らSOS団を含めコスプレ関係者だと思うといよいよ日本社会はおかしな方向に進み始めたのだと実感するが、それはともかく、こんなにも早く阿万音さんのお母さんと繋がれるのは今までの経験からするとかなり順調だ)

ハルヒ「みくるちゃん、今日も1日猫耳メイドよ! はい」スッ

みくる「は、はぁい」ピョコピョコ

2010.08.19 (Thu) 13:12
中瀬家


ハルヒ「やっほー! フブキ、また遊びに来たわよー!」

フブキ「おうおういらっしゃい! また来てくれて嬉しいぜハルにゃん……! あたしのことを踏んでくれーっ!」

キョン(観察眼だけは鋭いんだよな、この人)

フブキ「おっと、キョン君も来てくれたか。マユシィのこと、諦めてくれたかな?」

キョン「良い趣味をお持ちのようだな、怒るぞ」

まゆり「そ、そうだよフブキちゃん! そんなんじゃないってばー」

古泉「つまらないものですがお土産です。どうぞお納めください」

フブキ「お、おぉー!? なんだか古泉さんって紳士ですよね、正しい意味で」

古泉「お褒めに預かり光栄です」ンフ

まゆり「あー! ミクルン、うちのメイド喫茶の猫耳つけてくれてるニャー♪ フェリスちゃんが喜ぶよー、アイテテイチーだからね」

みくる「あたしも気に入ってるんですよー、かわいいですよね、これ」ピョコピョコ

キョン(……アイデンティティーのことか?)

??「フブキ、お客さんか?」

キョン(突然2階から声がかかった。そこには頬のこけた色白の男が顔を覗かせていた)

フブキ「ちょ、お兄ちゃんは出てこないでよ!」

まゆり「あーっ、シンイチさん。お邪魔してまーす」

シンイチ「あ、あぁ、椎名か。今年のコミマもありがとう、椎名のコスの評判良くて、サークルの仲間が喜んでたよ」

まゆり「えっへへー。喜んでもらえて、まゆしぃはとっても嬉しいのです」

フブキ「これから秘密の集会やるんだから、お兄ちゃんはとっとと質屋にでも行きなよ!」

キョン(質屋?)

シンイチ「う、うるさいなぁ。今から行くところだよ。それじゃ、皆さん。どうぞごゆっくり」

キョン「あ、あぁ」

キョン(というか、実妹なのにコスプレネームで呼ぶのか……。ということは、この『シンイチ』という名前も本名ではないのかもな)

2010.08.19 (Thu) 15:03
中瀬家


キョン(さて、そろそろ時間がヤバイが、肝心の由季さんのほうの阿万音さんは現れてくれるだろうか……と思ったところに来客があった)

カエデ「遅れてすみませーん」

由季「初めまして、阿万音由季です。招待してくれてありがとう」ニコ

キョン(初めて顔を見た時、俺は息を飲んだ。確かに似ている。タイムトラベラーが親の若い頃に遭遇するってのはもうBTTFでやりまくった鉄板ネタなわけだが、しかし現実にこうしてそれを体験すると鳥肌が立つレベルでSF的興奮を覚えた)

ハルヒ「待ってたわ! あたしはSOS団団長、涼宮ハルヒ! よろしくね!」

まゆり「トゥットゥルー♪ はじめましてー♪」

フブキ「マイナー嗜好レイヤー、“あまゆき”さんッ!! 噂はかねがね、というかブログ更新してくださいよー! いつも楽しみに読んでます!」

由季「フブキちゃんもまゆりちゃんも、カエデからいつも話に聞いてるよ。ふふ、なんだかみんな若くて恥ずかしいな」

キョン(実際高校生ばかりだからな。長門に至っては実年齢4歳である)

由季「あなたが有希ちゃんね。同じ名前だね♪」

長門「……漢字が違う。有機物の有に希望の希」

キョン(しかし、この阿万音さんとやらは決してその歳を感じさせることはなく、美人なのだがハルヒ的傲岸不遜タイプというより、モンブランのようなふんわりと優しい雰囲気に包まれている感じの人だった)

ハルヒ「由季さんも揃ったことだし、我がSOS団が研究に研究を重ねて開発した、取って置きの占いを披露するわ!」

フブキ「いよっ、待ってました!」

キョン(占いにも研究する要素は当然あるのだろうが、ハルヒが言うとなんだか怪しい薬剤の調合に成功したようなマッド成分が添加される)

カエデ「うわー、占いとか懐かしいなぁー。もう中学以来やってなかったかも」

フブキ「はいはい! それじゃまずあたしから!」

長門「…………」

キョン(一体何をどうやって揃えたのか、いつぞやの文化祭時の占い師モードにセットされていた。水晶玉、もといでっかいガラス玉まである)

長門「……あなたは最近良くない夢を見ている」

フブキ「えッ!? ど、どうしてわかったのさ……」

ハルヒ「ふふん、占いの基本はまず相手をこちら側に引き込むこと。その方法の一つとして悩みを言い当てる、ってのがあるわけよ」

キョン「おい長門、どんな手品を使ったんだ?」ヒソヒソ

長門「中瀬克美はリーディングシュタイナーが通常のソレに比べて発達している。最近の世界線漂流で発生した事象、および彼女の周りに最も存在しているトリガーを考えた場合、椎名まゆりの死亡に関する出来事を受信している可能性が高かった」ヒソヒソ

キョン「なるほど……、あんまりご機嫌な話ではないな」

長門「夢の内容も言い当てていい?」

フブキ「えっと……」

まゆり「…………」

ハルヒ「有希、夢はプライバシーなものよ。映画のパプリカの理事長も言ってたでしょ。それを暴くのは感心しないわ」

長門「わかった」

フブキ「そ、それじゃ、あたしの未来を占ってよ」

長門「……あなたは脳に疾患があるとして入院する」

フブキ「うぅ……ひどいよぉ、ユキリン……。確かにあたしはオタク脳だけどここに病院を建てるほど重症じゃないやい……」

キョン(えっと、これは未来人阿万音さんが言ってたストラトフォーとやらの仕業だったか)

まゆり「それじゃー、まゆしぃの未来はどう、かな?」

長門「……あなたは一度、あなたの彦星を守ろうとする。でもそれが端緒となり、彦星は曇天の彼方へと隠れてしまう」

カエデ「……なにかの暗号?」

ハルヒ「占いってのはね、得てして意味深なことを言っておくものなのよ」

長門「明くる年の七夕に時を超える牛車が彦星を迎えに行く。それにあなたが乗るかどうかは、あなた次第」

キョン(……阿万音さんがそんな話をしてたな。長門の文学性も理解できる程度になってきたらしい)

まゆり「はふぅ、まゆしぃには難しくてわからないのです……」

カエデ「それじゃ、私は?」

長門「あなたは恋のキューピッドになる」

カエデ「それってもしかして、由季さんの?」

長門「そう」

由季「えっ!?」

由季「実は私、ちょっと恥ずかしいんだけど、男性とお付き合いした経験が無くて……」

カエデ「だからこその占いじゃないですか! ユキリンちゃん、ユキさんの運命の人について占って!」

由季「ちょ、ちょっとカエデー!」

キョン(実に女子っぽいやり取りであると感心していたところ、団長様からギロリと睨まれてしまったので俺は何となく背筋を正した)

長門「橋田至、19歳男性。新小岩在住。誕生日5月19日、血液型はB型。身長164cm、体重98kg、東京電機大学1年生」

由季「……え」

フブキ「は?」

カエデ「ん?」

長門「趣味はエロゲCGコンプ、メイド喫茶通い、@ちゃんねる。セクハラ発言が多い」

由季「…………」

フブキ「それって、もしかしなくても、ダルさんのこと?」

キョン(……これが仮にも“占い”であるとするなら、その道の方々は舌を巻きすぎて舌痛症を患ってしまうことだろう)

長門「しかし、その反面仲間思い。過去に特技のハッキングで親友の大切な人の命を救ったことがある。また将来的にもその技術力で親友の大切な人の命を救うことになる」

まゆり「……ダルくん、が、ユキさん、の、運命の、人?」

由季「あの、これって占いですよね?」

キョン(俺に聞かれても困る)

長門「2016年12月、橋田至は阿万音由季とセックスする」

由季「!?」

フブキ「ブフォ!!」

カエデ「ハァッ!?」

ハルヒ「ちょ!?」

みくる「ひぇっ」

まゆり「……えっちなのはよくないと思います」

キョン(……いやまあ、阿万音さんの誕生日を知ってる俺たちからすれば誰でもできる占いではあるが、俺がかつて草野球大会のマウンドに立った時のようなアホ軌道魔球が飛んできたもんだからこの場にいる誰もが面食らった。空気が凍らなかったことが奇跡である)

長門「その結果、2017年9月27日に女児を出産。元気に育つ」

フブキ「お、おう。ってか、そっちの情報だけでよかったんじゃないかな……」

由季「……それって、できちゃった結婚ってこと?」

キョン(どういうわけか由季さんが食いついて来た。そりゃまあ、自分の外聞を左右するトンデモ予言が降ってきたわけだから気にもなるわな)

長門「それはわからない。しかし、彼の人間性を考えると可能性は低いと思われる。彼は女性関係に関しては一般的以上に誠実」

キョン「へえ、あの変態を絵を描いたような人が」

キョン(ここまで長門に言われたら、あの人なら『長門は俺の嫁。長門は俺の嫁。大事なことなので2回言いました』、とか言い出しそうだな。“ユキは俺の嫁”ってんなら大正解だが)

古泉「だからこそ、と言ったところではないでしょうか。おそらく、今まで女性と親密な関係になった経験もなく、また自分には縁遠いものと思い込んでいるのでしょうから、仮に彼を愛する女性と巡り合えたとして、彼は一生を賭けてその女性を大切にするのだと思いますよ」

カエデ「へー、ダルさん、ちょっと意外かも」

フブキ「見直しちゃったぜ、さすがHENTAI紳士!」

由季「ふーん……。一度その人に会ってみたいなぁ」

キョン(一応好感度は上がったのか……?)

長門「阿万音由季と橋田至はコミマで出会うことになる」

カエデ「私が2人をめぐり合わせればいい、ってわけですね!」

由季「それはいつのコミマ?」

長門「わからない」

カエデ「ユキさん! 私が卒業するまでは社会人レイヤーとして頑張りましょうね!」

ちなダルの@ちゃんでのコテハン『DaSH◇nw0659Z8o』のトリップ文字列は「長門は俺の嫁」

長門「ここからは阿万音由季にしか話せない話」

由季「まだなにかあるの?」

フブキ「秘密かー。気になるけど、正直ダルさんの話でお腹一杯です」


長門「……あなたの娘はタイムトラベラーとなって2036年から2010年へタイムトラベルをする」ヒソヒソ

由季「……さすがに冗談だよね?」

長門「嘘ではない。現在彼女はラジ館屋上であなたが現れるのを待っている。会いに行ってあげてほしい」ヒソヒソ

由季「……私の占いが詳しかったのは、その、私の娘っていう人に聞いたの?」

長門「そう」

由季「……そこに行けば、この歳で自分の娘に会える、ってことかな。おもしろそう、もし会えたら私の旦那さんについて色々聞きたいな」

長門「あなたと彼女は未来で死別している。生きていた頃の母に会って話がしたいと思っている」ヒソヒソ

由季「そ、そんな……」

長門「今日17時までに行かなければ現在時空から離脱してしまう」ヒソヒソ

由季「それって、今から1時間後! 急がないと!」

2010.08.19 (Thu) 16:32
ラジ館


キョン(俺の心配はどこ吹くハリケーンであり、ハルヒの作戦は見事大成功をおさめた。あの流れならば確認しに行かない手はなくなるわけだ、と言ってもなんだか出来過ぎている気がする)

キョン(マユシィたちとはフブキの家で別れた。未来人の存在認知は最小限度に留めるべきだからな)

古泉「ここの管理者に許可はもらってあります。さあ、こちらへどうぞ」

由季「は、はい」

キョン(古泉に急かされるまま由季さんが屋上への扉を開けた、が―――)

ハルヒ「あ、あれ!? 居ないッ!?」

キョン(逃げられたか……。そんなに恥ずかしかったのか? 自分の母親と会うのが)

古泉「……どうやら既に現在時空から離脱し、1975年へとフライトしてしまったようですね」

キョン「燃料も無しにか……」

長門「一応、燃料として使用可能と思われる現代に存在している物質を充填しておいた。しかし、どこまで通用するかは実用しないと不明」

キョン「……ありがとな、長門」

由季「えっと……、私、もしかして……」

キョン(……普通なら、はめられたと思うよな。あるいは馬鹿にされたと思うか)

みくる「ち、違うんです! 本当に鈴羽さんは居たんです! でも、あなたとようやくお話できるってなったら、たぶん恥ずかしくなっちゃったと思うんです……」

由季「う、うん。わかってるよ、あなたたちが嘘を吐いてるわけじゃないってことは。うふふ、ありがとうね、ちょっと不思議な体験をさせてくれて」

キョン(心の豊かな人でよかったよ、やれやれ)

キョン「だが、あと30分もすればもう一人の阿万音さん、あ、いや、鈴羽さんが現れるんじゃないか? 確か、鈴羽C、だったか」

由季「も、もう一人の?」

古泉「そのはずですね。由季さん、もうしばらくこちらで待っていただけますか? 17時ちょうどに人工衛星型タイムマシンがここに現れ、中から阿万音鈴羽さんがやってくるはずです」

由季「何が何だか……」

キョン(時間的連続体における点描的日常の中に未来の娘が数十分置きに登場するという1ページが挿入されれば誰でも惑乱するというものだ)

ハルヒ「大丈夫! その目で確認すれば疑問は解決されるわ!」

由季「あ、じゃあ私、待ってる間に、その鈴羽ちゃんに差し入れ買ってきますね! 長旅で疲れてるだろうから……」

キョン(この人もわかってるんだかわかってないんだか不思議な人だな)

2010.08.19 (Thu) 16:59
ラジ館屋上


古泉「……残り10秒です。8、7、6、5、4、3、2、1」


ドォォォォォン!!


キョン「くっ!」

ハルヒ「来たわね……!!」

由季「嘘……、ホントに……!?」


キョン(ラジ館全体を揺るがす震動と虹色の閃光が治まると、周囲にオゾンのつんとくる臭いが広がった。同時に白煙の中からその樽型マシンが姿を現し、ハッチが開き搭乗者が現れた)


鈴羽「……まさかSOS団が出迎えてくれるとはね。あたしの知ってる過去には無かった事象なんだけど」

古泉「お久しぶりです、阿万音さん。いえ、この場に“阿万音”の姓を持つ人間が複数いますから、鈴羽さんとお呼びしたほうがいいでしょうね」

鈴羽「? 何を言って……」

鈴羽「……!?!?」

キョン(その軍人特有のミッションモードはたちまち解除され、元々猛禽類のようであった目を月ほど丸く見開いて驚いてらっしゃる)

由季「えっと、鈴羽、ちゃん……?」

鈴羽「かあ……さん……、そ、そんなバカな!? な、なな、なんであたしを待ち構えてるんだよ、この時代の、母さんが!!」

ハルヒ「ちょっとした仕返しよ、鈴羽。ママのおっぱいでも飲んでなさい!」

キョン(ハルヒ的には多分、ツンデレなんだと思う。そして自然と下の名前で呼ぶようになったようだ)

由季「ほ、ホントに私の娘、なんですよね?」グイッ

鈴羽「う、うん……一応……」

キョン(突然由季さんが狼狽する鈴羽さんの元ににじり寄った)

由季「……ホント、顔立ちが私そっくり」

鈴羽「や、やめてよ母さん……、長いことお風呂に入ってないんだ……」

みくる「感動の再会ですねぇ……グスッ……ヒグッ……」

キョン(どうしてあなたが泣いてるんですか、などと野暮なことは言わない。この人も似たような境遇なんだよな……)

由季「えっと、その、鈴羽ちゃん?」

鈴羽「……鈴羽でいいよ」

由季「う、うん。鈴羽、あのね、ケーキ買って来たんだけど、よかったら色々お話を聞かせてほしいな?」

鈴羽「……ッ!!!」

鈴羽「母さん……」

鈴羽「母さん……ッ!! う、うわぁぁぁぁぁん……」ダキッ


キョン(何かをきっかけにしてその鉄仮面は完膚なきまでに剥がれ落ちてしまったらしい)


由季「あらあら、私の娘は泣き虫さんなんですね」ウフフ

鈴羽「あたし……ッ! 母さんに言えなかったことが、いっぱいあるんだ……!」

鈴羽「あたしを、産んでくれてありがとう……、あたしを育ててくれて、ありがとう……ッ!!」


キョン「……俺たちはもう退散してもいいんじゃないか」

ハルヒ「そうね、作戦は遂行されたし、あとは親子水入らずってのが粋ってもんよね」

古泉「超時空規模の奇跡の邂逅は達成されたようですし、僕らは帰りましょうか」

鈴羽「ま、待って! あの、このタイムマシンを隠すためにルミねえさんに連絡しなきゃいけないんだけど……」

古泉「そのことについては前任者が既に実行していますのでご安心を」

鈴羽「前任者?」

長門「不可視遮音フィールドを展開させる」スッ

由季「わ、タイムマシンが消えた……」

鈴羽「そうか、そう言えばそんな能力があったっけ……。あ、ありがとう。なんて言ったらいいか……」

ハルヒ「いいのよ、お礼なんて。あたしは満足したし」

キョン(心温まる不思議体験だったからな、文句は無いだろう。このハルヒのドヤ顔にマヌーバー的サムシングが隠されていないといいんだがな)

古泉「親子の絆を主題にしたタイムトラベル作品と言えば『オーロラの彼方へ』を思い出しますね、特にラストシーンはSF的感動と父子愛に胸を打たれます」

由季「あの、今私、一人暮らししてるんだけど、部屋が狭くて、もしよかったら古泉くんのご親戚のおうちのお部屋を貸してあげられないかな」

古泉「もちろんいいですよ。もし良ければ由季さんも今日一泊だけでもされてはいかがですか?」

由季「いいの? それじゃ、お言葉に甘えちゃおうかな」

鈴羽「……もしかして、あたしの話?」

由季「だって鈴羽、根なし草なんでしょ?」

鈴羽「い、いや、あたしはマシンの中で寝泊まりするからいいよ……」

由季「だめです! いい歳した女の子なんだから、ちゃんとしないと」

鈴羽「か、母さん……」

キョン(ホント不思議な光景だな。まだ出産どころか男性経験も無い女性が全く母親になってしまった)

2010.08.19 (Thu) 19:57
湯島某所


キョン(そんなわけで時空を超えた出会いを果たした阿万音母子は機関の宿に泊まる運びとなった)

キョン(そいでもって、夕飯と称して阿万音母子チームとハルヒwith朝比奈さんによるタイムトラベラーお料理対決が開催された。審査員役は役得ってやつさ……嘘嘘、男どもは雑用係だ)

キョン(軍人鈴羽さん謹製の御味噌汁は、今まで食べたことが無い風味だったが、ダシの加減が絶妙でdelicacyだった)

キョン(由季さんのカレーは、んー、まあ、味噌汁とカレーの食べ合わせは108歩譲っても、可もなく不可もなくと言ったところか。決して不味くはないんだが……)

キョン(ちなみに勝敗は全会一致でハルヒサイドの勝利となった。胃袋は嘘をつけない)

キョン(時空を超えたガストロノミー的産物に舌鼓を打った俺たちは順々に命の洗濯をすることになったが、ハルヒから鈴羽さんと由季さんと一緒に風呂に入る提案がなされた。今更だが、この宿には大浴場とは別に家庭用のシャワールームもあるので色々安心してほしい)

キョン(この提案に対し鈴羽さんは拒否の姿勢を頑として譲らなかった。これは俺の妄想だが、親からもらったその肉体には生傷がたくさんあるはずで、実の母には見せられなかったんだろう)

ハルヒ「そう言えば、鈴羽のお父さんは呼ばなくていいの?」

鈴羽「だ、ダメだよ!! ただでさえあたしがこの時代の母さんと接触してるってだけでパラドックスレベルの大問題なのに、父さんまで来たら……」

鈴羽「それに母さんと父さんは2012年のコミマで出会うはずなんだから、それまでは何があっても接触しちゃだめだよ?」

由季「気になるなー、その橋田さんって人」

ハルヒ「大丈夫よ、あたしが居る限り、世界線のやつには良い様にさせないわ!」

キョン(頼もしい声明だこった。事実、ハルヒは既に世界の枠から飛び出し、収束を操作する能力を持ってしまっているのだ。まあ無意識レベルでしか操作できないのが難点だが)

鈴羽「それに、たぶんこの時代の父さんをここに呼んだら母さんにセクハラしまくってあたしの存在が消えちゃうかも」

由季「うふふ、占いによれば橋田さんがそういうことをする人だとは思えないけど、結婚したらそうなのかな」

鈴羽「そ、そうだよ! 父さんったらいつもあたしにべたべたしてきて、お前も母さんに似てきたなって口癖のように言って……」

古泉「微笑ましいですね」

みくる「ですねぇ」ウフフ

由季「そうだ、ケーキがあるんだけど、鈴羽はどれが好き? いちごショートが3つと、レアチーズと、モンブランと……」

古泉「僕たちの分まで買ってくださっていたんですね。お気遣いありがとうございます」

由季「だって、こんなに素敵な奇跡を起こしてもらったんだから。感謝してもしきれないよ」

ハルヒ「あたしはいちごショート!」

キョン「少しは遠慮するそぶりでも見せたらどうだ」

みくる「うわあ、どれもおいしそうですぅ」

鈴羽「えっと、あたしは、いいよ。ケーキは、そんなに、好きじゃないし……」

長門「……阿万音鈴羽が嘘を吐いているかどうか、わたしには判別できない」ヒソヒソ

キョン(なんと、そんなことがあるのか。どうやら軍人ってのは心を読ませない訓練を受けているらしい)

ハルヒ「あたしの見立てだとあんたもショートケーキ好きと見たわ。“スズ”の名前を持つ人はみんなショートケーキ好きなのよ♪」

鈴羽「は、はぁッ!?」

キョン(ハルヒの鈴を転がしたような声が場を和ませた。こいつもこんな声を出せるんだな……甘味効果か)

キョン(しかし、またトンデモ理論が飛び出したな。こいつはあと何回ノーベルハルヒ賞級の新発見をするんだろうか)

鈴羽「ホ、ホントに要らないんだ! だって、食べちゃったら重力制御装置の計算をやり直さなくちゃいけないし……」モジモジ

キョン(どうやら鈴羽さんは母親の居る手前ハルヒに悪態をつけなくなっているようだ。ハルヒとしては、してやったり、というところだろう)

由季「もーっ、意地はらないの。私もケーキ好きだからわかるよ。お母さんには嘘吐けないんだよ?」

鈴羽「うっ……。い、いただきます……」ジュルリ

キョン(諦めたのか、途端に唾液がノンストップ状態へと化していた)

由季「そう言えば、どうして鈴羽はタイムトラベルすることになったの?」

鈴羽「……母さんにはあまり話したくなかったけど、いいよ。教えてあげる」

キョン(内容が内容だけに、話し相手が話し相手だけに、やはり話しづらいのだろう。鈴羽さんは訥々と語り始めた)


・・・


由季「第三次世界大戦……」

鈴羽「だからあたしはこれからオカリンおじさんを2010年7月28日に連れて行かないといけない。最低でも2回」

キョン(自分の娘の過酷な運命を知らされる気分はどんなものなんだろうな。と言ってもまだ本当の意味で母親にはなってないわけだが)

由季「……ねえ、鈴羽。明日はこの時代で一緒に遊ばない? 今までずっと大変な思いをしてきたんだから、少しくらい楽しんでも神様は許してくれると思うな」

鈴羽「で、でもマシンの整備をしないと……」

由季「じゃあ午前中だけでもいい。ね、お母さんの言うこと聞いてくれるよね?」

鈴羽「……君はまだ結婚もしてないだろう。あたしの母親ぶらないでくれるかな」

由季「じゃあ橋田さんとは結婚しないよ? 2012年は1年間引きこもってようかな」

鈴羽「そ、それは困る!!」

キョン(あの鈴羽さんを一方的に手玉に取るとは、この由季さんとやらはこう見えてかなりのやり手だ。未来の橋田さんは尻に敷かれっぱなしと見た。なんとなくあの人が将来的に痩せる理由がわかった気がする)

古泉「以前お話したことが実証されましたね。未来人は常に現代人にとって有利な立場にあるわけではない……。僕らには未来を変える、という力があるのですから、それを盾にすれば意の侭に未来を操作できるというものです」

キョン「ちょっと違う気がするが、まあ、そういう関係があってもいいんじゃないかとは思えるね」

2010.08.19 (Thu) 22:46
湯島某所 男子部屋


キョン(阿万音母子は余っていた一部屋で寝ることとなった。鈴羽さんのきまりが悪そうな顔が容易に目に浮かぶ)

古泉「何はともあれ、涼宮さんの作戦は功を奏したようです。よかったですね」

キョン「ハルヒという王将がやると決めたことのうち、歩兵の俺が反対しなかったことってのは、だいたい正着手なのさ」

古泉「ごもっとも」

キョン「これって世界線移動的にも意味があったりするのか?」

古泉「鈴羽Aさんの失敗は、そのメンタルの弱さにありました。無理にでも岡部さんを2度目の過去へ連れていくことができなかった……。母親に励まされた今なら、あるいは」

キョン「……もしくは、人を頼るってことを学んでほしいと思うね。鈴羽Aさんみたいにヤマアラシ状態じゃ誰かの手を取ることもできない。女子風に言えば心のデトックスってやつが必要なんだろうよ」

2010.08.20 (Fri) 13:46
ラジ館屋上


キョン(翌日。本当に阿万音母子は東京観光をすることとなった。父と母が出会った東京ビッグサイト訪問や、コスプレ体験、アニメイトやゲーマーズやメイド喫茶巡回……時空、運命、そして生死を超えた感動の再会がなんとなく台無しな気がする)

古泉「愛の形は人それぞれだということですよ」

キョン(そんなわけで、現在は鈴羽さんのマシンメンテナンスを長門が手伝い、ラジ館への侵入者を機関が防いでいる。ハルヒは総指揮であり、俺は雑用、そして朝比奈さんはマスコットだ)

ハルヒ「はいっ! それリンクカード!」パシッ

みくる「ふぇぇ」

キョン(若干遠足気分の方たちがいらっしゃいるようだ。シュタインズゲートへの添乗員さんは職務放棄しているらしい)

由季「なにか私にできることがあったら言ってね」オロオロ

キョン(その母性を覚醒した由季さんはやはり娘の元を離れたくないらしく、マシンの周りでおろおろしておられる)

鈴羽「大丈夫だよ、母さん。母さんはおとなしくしてて。ユキねえさん、今度はそっちお願い」

長門「わかった」

キョン(窘められるユキと頼られるユキ。母としては歯がゆすぎて歯槽膿漏になってしまいそうな気分だろう)

鈴羽「明日は母さん、ここに来ないでよ? 父さんもオカリンおじさんと一緒に来るようにあたしが電話するから、鉢合わせるとマズイ」

由季「う、うん……。鈴羽、明日は頑張ってね!」

キョン(だが、こちらの由季さんにしかできないことがある。それは娘を励ますことである)

キョン「そういや長門。このタイムマシンを複製、というか、改良した長門印のタイムマシンって作れないのか?」

長門「可能。だが推奨しない」

古泉「それはそうです。世界線系物理的タイムトラベルは世界線を変動させる代物ですから、不用意に過去へは飛べません」

古泉「また、同時に2台のタイムマシンが時代を行き来した場合、世界線がどのように変化するか見当がつきません」

キョン「だが、万が一なにか不測の事態が発生した場合の切り札として用意していてもいいんじゃないか」

長門「わかった。そのように準備しておく」

古泉「しかし、世界線改変というのは全てが不測の事態であり、また全てが決定された事象であります。どこでカードを切るかという判断は非常に難しい」

キョン「備えあればなんとやらだ。と言うか、タイムトラベルに否定的な古泉は珍しいな」

古泉「世界線系タイムトラベルの恐ろしさを嫌と言うほど味わいましたからね。主にあなたの妹さんから」

キョン「うっ」

古泉「当分はタイムトラベルは遠慮させていただきたいところです」ンフ

2010.08.20 (Fri) 15:02
ラジ館屋上


フェイリス「ニャニャーン♪ スズニャンとSOS団のみんニャ、頑張ってるかニャ?」

ハルヒ「あらフェイリス。どったの?」

由季「あ、雷ネットABチャンピオンの、フェイリス・ニャンニャンさん! こんなところでお会いできるなんて……もしよかったらサインもらえませんか!」

フェイリス「今日はオフだからごめんニャさいニャーン♪……って!!」

フェイリス「ニャニャ!? スズニャンが2人……、これは一体、どういうことニャ!? まさか異次元への扉が開いて鏡面世界からもう一人の自分が……」

古泉「この人は阿万音由季さん、鈴羽さんのお姉さんですよ」

フェイリス「……ニャーンだ。そうだったのニャ。それで、“体感ゲーム”制作のほうは順調かニャー?」

キョン(なるほど、そういう言い訳をラジ館のオーナーにしていたのか)

鈴羽「あ、ルミねえさん。来てくれたんだ、ありがとう。えっと、一応今のところ順調かな……」

フェイリス「だーかーらー、その名前で呼ばニャいでって言ってるニャ! フェイリスはフェイリスニャ♪」

由季「もう、鈴羽ったら休みなく作業しちゃって。そろそろおやつの時間にしましょ」

みくる「お茶の用意もありますよぉ」

フェイリス「そうだと思ってケーキ、持ってきたニャン♪」

鈴羽「ま、またケーキ……積載荷重計算が……」ガクッ

フェイリス「ところでぇ、古泉ニャン? 本当に由季さんはスズニャンのお姉さんなのかニャ?」ジッ

古泉(一応僕は機関で心を読ませない訓練を受けていますが……、ここで意地を張る必要もありませんね)

古泉「おっと、どうやらあなたに嘘は通じないみたいですね。仕方有りません、この手を使うのは最後にしたかったのですが……」

キョン(なにやら古泉のやつが芝居がかった挙動を始めた)

古泉「……“鶴屋家次期当主”、ご存知ですよね?」ニヤ

フェイリス「……ニャッ!!!??? ニャぜその名を……」

古泉「絶対に口外しないと誓いますか?」

フェイリス「……眉間に銃口を突き付けられている気分だニャ。わかったニャ、この命に替えても秘密を守るニャ」

キョン(この人には鶴屋刑務官によるパノプティコン効果でも発動しているのか?)

ハルヒ「…………」ニヤニヤ

キョン(なぜお前がにやついているのだとツッコミたい衝動を明後日の方向に蹴り飛ばし、俺は鶴屋さんとこの秋葉家当主との関係性について考えを巡らせた)

古泉「実は……」ゴニョゴニョ

フェイリス「ニャるほど……」

みくる「ケーキおいしいですねぇ」

鈴羽「……そうだね」モグモグ

フェイリス「そっか……。スズニャン、お母さんに会えてホントに良かったニャ。……ちょっとスズニャンが羨ましいニャ」

鈴羽「……うん。確かにこの世界線は最低最悪の世界線だけど、でもこうやってこの時代で母さんに会えたことは嬉しかったよ。母さんが死んでから、二度と会話できないと思ってたからね」

由季「鈴羽……」

ハルヒ「」スッ

キョン(どこから取り出したのかICレコーダーをこっそり手に取るハルヒ。また余計なことを……)

ハルヒ「」カチッ


鈴羽『あたし……ッ! 母さんに言えなかったことが、いっぱいあるんだ……! あたしを、産んでくれてありがとう……、あたしを育ててくれて、ありがとう……ッ!!』


鈴羽「なああッ!?!?!?///」

由季「あらあら」

みくる「うふふ」

フェイリス「ニャフフ」

ハルヒ「仕返し完了ね。悪いのは前任者のあんただからね」ニヤリ

鈴羽「消せェッ!! 今すぐそのデータを消すんだ、涼宮ハルヒ!! さもなくば撃つよ!! 本気だよ!! あたしは軍人だよ!!!!///」

由季「ハルヒちゃん、そのデータほしいんだけど」

ハルヒ「あとでUSBに入れて渡すわ」

キョン(四面楚歌である)

由季「……鈴羽。あなたは私に似て、一人で頑張りすぎるタイプだと思う」

鈴羽「う、うん……」

キョン(突如として阿万音母子による固有結界が構築された)

由季「だけどね、きっと鈴羽には頼れる仲間が居る。どの時代でも、どの世界でも」

古泉「事実、あなたには多く仲間が居ました。昭和の時代であっても、平成の時代であっても」

キョン「それはβ世界線でも変わらないんだろうよ」

由季「だから、仲間を頼っていいの。私でもいいから、誰かを頼りなさい。みんなあなたの力になってくれる」

フェイリス「フェイリスも、ラボメンのみんなも、みーんなスズニャンの味方ニャ!」

ハルヒ「SOS団だって同じよ。あたしたちの目的には未来人、異世界人と遊ぶことも含まれてるからね!」

鈴羽「遊びじゃないんだけどな……」

由季「ううん、遊びも必要だよ。だから、自分を潰さないで。可能性を信じてみて」

キョン(そのセリフは、なんとなく自分自身に言い聞かせるようなものだと感じた。由季さん自身の後悔の道を娘に歩んでほしくないという願いは伝えられたようだ)

鈴羽「……わかったよ、母さん。みんな。信じてみる」

由季「ほら、鈴羽。こっちおいで」

鈴羽「う、うん……///」

キョン(ハルヒによる辱め爆弾のせいでハードルは下がってしまったらしい)

由季「鈴羽の身体、固いね」ギュッ

鈴羽「母さんを守るためだよ……」ギュッ

由季「……頑張ってね、鈴羽」

鈴羽「うん……」


みくる「よかったですねぇ……」

フェイリス「親子って、いいなぁ……」

長門「…………」

キョン(不思議と目がしらに熱いものがこみ上げてくる。俺の人生経験もそれなりに豊かに――――――――――――――


ハルヒ「え、なに、頭が、痛、痛いッ!! ヒィッ!!! ぐあ、いや、ぁぁぁぁぁぁああああああああああああ――――――――――――――――――――

今日はここまで

以下演出の都合上、シュタインズゲートドラマCDβ、無限遠点のアークライト、閉時曲線のエピグラフ、永劫回帰のパンドラ、無限遠点のアルタイル の台詞を長々と引用します。未聴・未読の方、注意。

レスありがとう。励みになります。




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◇Chapter.15 涼宮ハルヒのフラッシュバック◇
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D 1.129848%



ダル「うぉ! もう帰ってきたお。まだ一分も経ってないお」

まゆり「オカリン……オカリン!!」

ダル「ちょ、オカリン血まみれじゃん! どしたん!?」


・・・


鈴羽「―――牧瀬紅莉栖をさ……、刺し殺しちゃったんだ……」

岡部「……ほっといてくれ。何度やったって結果は同じだ……」

鈴羽「何言ってんの……、諦めるつもり!? オカリンおじさんの肩にはさ、何10億人っていう人の命がかかってるんだよ!?」

鈴羽「たった1回の失敗が何だっていうんだ!!」

岡部「紅莉栖はどうやったって助けられない!! 世界線の収束には逆らえない……」

鈴羽「……こうなったらビンタしてでも気合い入れ直してッ!!」ブンッ

まゆり「ダ、ダメだよッ!!」ガバッ

岡部「…………」

鈴羽「ッ……」

まゆり「……だめ、だめだよ……。無理強いするのはよくないよ……」

まゆり「こんな……、ボロボロになってるオカリン、見てられないもんっ……」

まゆり「オカリンが……望んだわけじゃないのに……」グッ

鈴羽「ッ……。気持ちはわかるよ。でもさ、あたしも未来をかけてここまで来てるんだよね」

鈴羽「……あたしはたとえ一人でも跳ぶよ」

まゆり「まゆしぃはそばにいるからね……オカリン」

岡部「…………」

まゆり「ねぇねぇるかくんは短冊に願い事書いた~?」

るか「あ、今日って七夕だもんね。でも今日のこの天気だと……」

まゆり「織姫さまはね、ベガっていう星のことなんだけど、白くて明るくてとってもキレイなの。海外だと“空のアークライト”って呼ばれてるんだ~」

るか「短冊にはどんな願い事を?」

まゆり「……子どもの頃からね、ずっと同じ願い事書いてるんだ。きっと……叶うことのない願い事……」

まゆり「織姫さまになれますように……って」

るか「――――――……」

まゆり「……えっへへ~、まゆしぃはロマンティストの厨二病なのです♪」

るか「きっとなれるよ。岡部さんの、織姫さまに。まゆりちゃんなら絶対に、織姫さまになれるよ」

まゆり「違うよ」

まゆり「オカリンの心の中にいるのはまゆしぃじゃないの。オカリンにとっての織姫さまは……もう二度と輝くことはないんだ―――……」

まゆり「ねぇ、オカリン……」

岡部「どうした。急に立ち止まって……」

まゆり「ラボのこと、忘れようとしてるの……?」

岡部「…………」

まゆり「なかったことに……しようとしてるの……?」

岡部「……遊びは終わったんだよ」

岡部「お前だって無理しなくていいんだぞ」

まゆり「……あのラボには、もっとたくさんの仲間がいたような……気がするの」

岡部「…………」グッ

まゆり「“牧瀬さん”のことと、なにか、関係あるの、かな?」

岡部「……ないよ。あるわけないだろ」

まゆり「だったら、どうしてそんな苦しそうな顔してるの……? オカリ―――」

岡部「ないって言ってるだろ!」

まゆり「……オカリンは、ウソをつくのが、ヘタだね……」

まゆり「ねぇスズさん。ちょっとお話させてほしいんだ。2036年のまゆしぃとオカリンのこと」

鈴羽「……あたしの知ってるまゆねえさんはいつもぼんやりと空を眺めてた。濁った空を見上げてる笑顔は―――……いつも寂しそうだったよ」

鈴羽「おじさんは、まゆねえさんをかばって強盗に撃たれたんだって」

鈴羽「まゆねえさんはそのことに責任を感じてるみたいだった。見てて痛々しいくらいに」

鈴羽「それとさ、まゆねえさんはよくこんなことを呟いてたよ。“あの日、私の彦星さまが復活していたらすべては変わっていたかもしれない”」


・・・


鈴羽「時間だ。もう行かなきゃ」

まゆり「本当に行っちゃうの? タイムマシンはもう往復できないんでしょ?」

鈴羽「まぁね。去年の7月28日にギリギリ辿り着けるかどうかってとこ」

まゆり「待って! 行っちゃダメだよっ……、ダルくん、止めてっ……! ダルくんっ!」

ダル「……鈴羽。……頑張ってな」ニコ

鈴羽「……オーキードーキー。ケーキ、ごちそうさま」


・・・


まゆり「……ねぇ、ダルくん。まゆしぃはね、まゆしぃは……」

まゆり「鳳凰院凶真に会いたいよぅ……」ウルッ

まゆり「たとえまゆしぃは織姫さまになれないってわかってても……それでもっ……」

まゆり「まゆしぃにとっての彦星さまは、これまでも、これからも」

まゆり「岡部倫太郎以外には、いないもんっ……!」

まゆり「ダルくん、スズさんを追いかけよう。まゆしぃは、今日だけ“人質”をやめようと思います」キッ

まゆり「スズさん、連れて行って。あの日……去年の8月21日へ」

ダル「鈴羽。僕からも頼むわ。連れてってやって」

まゆり「オカリンがタイムトラベルして、世界から“消失”していたあの1分間に行きたいの」

まゆり「あの一瞬じゃなきゃね、意味がないんだ」

鈴羽「まゆねえさん、それは確信があって言ってる?」

まゆり「うん。私の彦星さまをなかったことにしたくないから」

まゆり「26年間の後悔をなかったことにしたくないから」

岡部「まゆり……まっ……待てっ、待ってくれっ……くそっ!」

岡部「なんでだよ! なあ鈴羽! 俺は……この結末を……受け入れようとしてたのにっ……」

岡部「なんで中途半端に希望を与えたんだよッ!」

岡部「そのうえ今度はまゆりまで連れて行くのかっ……」

岡部「まゆり、お前は何かしたらダメなんだよ……。でないとみんなの『想い』を犠牲にしたことが無駄になる……」

岡部「紅莉栖の死が……無駄になってしまう……ッ」

まゆり「……だからってね、なかったことにしたらダメだよ」

まゆり「雨が降っても星は世界から消えちゃうわけじゃ……ないもん」

まゆり「雲の向こうで変わらずに輝き続けてるんだもん」

岡部「なに……を……?」

まゆり「……ねぇオカリン。今日はね、年に一度だけ彦星さまと織姫さまが会える日なんだよ」

まゆり「と、いうわけで」

まゆり「私がオカリンの空を覆っている雨雲を取り払ってくる」

まゆり「だからちょっとだけ待っててね」

まゆり「はぁはぁ……すみません、先生。子供たちをお昼寝させていたら、遅くなってしまって」

老博士「ああ、構いませんよ。今日は397番……あ、いや、かがりちゃんしか予定がないですからね」

まゆり「あ、はい。司法局がようやく許可を―――」

かがり「すごいんだよ、先生! ママがね、かがりの本当のママになるんだ。うらやましいでしょ、えへへ!」


・・・


まゆり「ダルくん、スズちゃん! こっちこっち!」

鈴羽「まゆねえさんっ!? よく無事で……」

まゆり「うんっ。万世橋の近くで軍隊に囲まれそうになったんだけどね、かがりちゃんがすごかったんだよ」


・・・


ダル「まゆ氏! かがりちゃんを! このマシンには、もうひとり乗れる!」

まゆり「スズちゃんっ! かがりをお願い!」

鈴羽「わ、分かった!」


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D 1.130205%
2010.08.20 (Fri) 15:56
ラジ館屋上


キョン(な、なんだ今の目眩は? 世界線が変動したのか……? でも特に世界は変わっていない……?)キョロキョロ

キョン(あれ、フェイリスさんはどこに行ったんだ……?)


  ドサッ


由季「ど、どうしたの、ハルヒちゃん!!」

鈴羽「……ッ!? 緊急事態だッ!!」

みくる「涼宮さぁぁぁん!!! 血が、血がッ!!」

長門「……ただちに生命に危険が及ぶ可能性は低い」

古泉「救急車を呼びました、とにかく僕らは1階まで搬送しましょう。さぁ、涼宮さんの身体を持ってください!」

キョン「は……? い、一体なにが……」

古泉「僕がルートを確保します! 早く!」

キョン「お、おう! ハルヒ、何寝てるんだ、変な冗談はやめろっ!!」

ハルヒ「…………」

キョン(あまりに唐突に虚をつかれたもんだから瞬時に理解できなかった……。俺は意識の無いハルヒを無我夢中で抱き上げた)

キョン(この時の俺の驚きレベルは、ハルヒの代わりに朝倉が登校してきた時か、みちるさんが誘拐された時、あるいは黒十字に磔にされたハルヒが自由落下し始めた時と同程度かそれ以上のものだった)

2010.08.20 (Fri) 16:32
六井記念病院


ハルヒ「ごめんね、大事にしちゃって……」

キョン「謝るな。これで貸し借りゼロだ」

ハルヒ「フッ……。三日三晩寝袋で寝てから言いなさいよね」

キョン(弱弱しいハルヒを見るのはこれで最後にして欲しいな。俺は随分ハレーションを起こしそうに明るい笑顔を眺めていない気がする)

キョン(こいつの笑顔の為にもシュタインズゲートとやらにたどり着かねばな)

古泉「点滴を打ってだいぶ気分がよくなられたようですね」

みくる「よかったですぅ……ふぇぇ……」

ハルヒ「有希は?」

古泉「長門さんはあなたの無事を確認してすぐ、タイムマシン整備に戻りましたよ。あれが飛ばなければ元も子もありませんからね」

キョン「医者は、脳震盪のような症状、一過性の意識喪失だと言っていたが……」

みくる「あと、鼻血が……」

キョン「……ハルヒ、お前は、“何を見た”?」

ハルヒ「……たぶん、さっきの世界線における―――」

ハルヒ「―――“未来”」

キョン(やはりか……。ハルヒの胎内で孵化したばかりのリーディングシュタイナーは、グレーゴル・ザムザ的メタモルフォーゼを完了させてしまったらしい。不条理極まりない超進化だ)

古泉「未来視、ですか。予知や予言と言った類のものではなく、“実際に起こった未来”を見た。そしてそれは既に可能性世界線として観測不可能になっている」

キョン「日本語が不思議なことになってるが、そういうことなんだろうな。それで、ハルヒ。もしよかったら聞かせてくれ」

キョン「“あったはずの未来”とやらを」

ハルヒ「点滴が垂れるのをじっと見つめているよりははるかに有意義ね。いいわ。あたしが見た“かつての未来”、教えてあげる」



・・・


古泉「……なるほど。阿万音母子が抱き合った瞬間世界線変動が発生し、元居た世界線の未来の記憶が涼宮さんの中に流れ込んだ」

古泉「おそらくそれは選択的なものだったのでしょう。涼宮さんが無意識的に知る必要がある、と感じた事象を映画のように体験した」

ハルヒ「まるでラプラスの悪魔ね……、不確定性原理はどこ行ったのよって話よ」

キョン「だが、なんで世界線が変動したんだ? それに、フェイリスさんが家に帰っていたくらいで、ほとんど世界はなにも変わっていないぞ」

古泉「……いえ、おそらく大幅に変わったのでしょう。過去でも、現在でもなく、未来が」

みくる「トリガーは阿万音さんたちの抱擁……?」

キョン「そうか、阿万音さんのメンタル、行動指針が変化したから、未来が変わった……? あるいは比屋定さんと岡部さんが年内に繋がる因果が俺たちの知らないところで完成した?」

古泉「とは言いましたが、過去もかなり変わっているはずです。椎名まゆりさんの養女、椎名かがりさんという新しいタイムトラベラーが誕生したことによって」

古泉「おそらく僕や朝比奈さんが現在所有している記憶と、あなたや涼宮さんが持っている記憶の間になんらかの齟齬があるはずです」

キョン「うーん……、今考えてもわからんな。おいおい、見つかり次第議論しよう」

古泉「ちなみに世界線が変動したということは、変動前に由季さんに抱き着いていた鈴羽さんと、変動後に由季さんに抱き着いていた鈴羽さんは別人、別世界の出身ということになります」

キョン「うぉぉぉ……現実を理論が否定していく、なんてややこしいんだ!」

ハルヒ「自分で視ておいてなんだけど、一番わからないことがあるの。2011年の七夕の日、まゆりは鈴羽と一緒に過去へ飛んだ」

古泉「あるいは、別世界線へ移動した、とも言えますね」

ハルヒ「なのに、2030年代に入るとまゆりが居たのよ。これって、どういうこと……?」

古泉「十中八九別世界線から椎名さんがやってきた、ということでしょうが、それについて納得できそうな仮説を考えてみましょう」

キョン「飛んだ先の世界線からそのまま戻ってきたんじゃないのか?」

古泉「いえ、それはあのタイムマシンの性質上有り得ません。また、“鈴羽Aさんが2011年に存在した世界線”、から飛んできた、という仮説もおそらく成り立たない。余分なマシンが今のところ見当たりませんからね」

キョン「なら、どんな話をでっちあげるというんだ」

古泉「2011年7月7日以降、牧瀬さんも椎名さんも、そしてタイムマシンも鈴羽さんも失った岡部さんは、その喪失感から来る第二者版キューブラー=ロスモデル的プロセスを経たのち、一種のモーニングワークとして2025年までにタイムマシンのプロトタイプを完成させる」

キョン「お前の推理の開陳にはいつも度肝を抜かれるぜ」

古泉「そして彼は帰らぬ旅路へと飛び立ったまゆりさんを追いかけてバンジージャンプ的タイムトラベルをする。トレーサー的ななにかを開発して」

キョン「そんなことが可能なのか?」

みくる「一応、あたしの未来では【禁則事項】ですけど……、あ、これ禁則事項でした……すいません……」

古泉「執念に囚われた岡部さんならあるいは、タイムリープを100年単位で繰り返すことによって技術レベルを1世紀進めることができるのかもしれない」

キョン「……そりゃ、可能かもしれんが、普通なら精神がもたんぞ」

古泉「そしてどこかの世界線のどこかの時代に不時着していた椎名さんと鈴羽さんの元に岡部さんがタイムマシンで参上する」

古泉「プロトタイプタイムマシンに鈴羽さんと椎名さんを乗せて未来へ送ろうと試みる岡部さんですが、おそらく鈴羽さんの手によって岡部さんと椎名さんがマシンに搭乗させられた」

キョン「それは、なんとなくわかるな。3人の性格と体力を考えれば、そういうことになりうる」

古泉「2025年、岡部さんと椎名さんはバンジージャンプの紐に引っ張られるようにして元の世界線、β1世界線に戻ってくる。この時椎名さんは17歳です。その後岡部さんは強盗から椎名さんをかばって死亡する」

古泉「涼宮さんの未来視の中の2036年の椎名さんは、とても40代とは思えないほど若々しい容姿だったそうですが、実際に2036年では28歳だったのではないでしょうか。2011年から2025年までの14年を経験していないわけですから」

キョン「それが真実だったらそれこそ荒唐無稽だ」

古泉「あくまで可能性の一つですよ。2011年に消えた椎名さんが2030年代初頭には戻ってきていた理由についての一つの仮説です。可能性世界線の出来事ですから、結局、真実は永遠に闇の中ですけどね」

2010.08.20 (Fri) 21:52
湯島某所 女子部屋


キョン(宿に帰った俺たちは医者から言われた通りハルヒを安静にさせたが、しかし当のハルヒはやはりこの世界線移動について気になって仕方がないようで、俺と古泉も女子部屋へ入れてもらい改めて議論を交わしていた)

キョン(長門と朝比奈さんは俺たちの横で早々に寝息を立てている。長門は今日一日汲々として働いたからな。朝比奈さんのほうは心労が祟ったんだろう)

キョン(ちなみに阿万音母子は俺たちを気遣ってホテルに泊まっているらしい)

古泉「今一度、図を書いてみましょうか。現在世界線が変動したわけですからね」

ハルヒ「えっと、前の世界線で古泉くんが描いた図はこんな感じだったわ」

古泉「なるほど……。これに加える形で書き込んでいきましょう」

古泉「我々が今存在している世界線をβ2世界線、そして実際に世界が歩んだ道のりを黄色の水性ペンででなぞってみます。この黄色太線以外の、観測不可能な部分は可能性世界線となり、実際にはなかったことになっている」

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira087048.jpg

キョン「ん? この鈴羽Bさんが、β2世界線の8月21日の、1回目出発と到着の間の1分間に出現するんじゃないのか? ハルヒが視た世界によると、そうなるはずだと思うんだが」

古泉「そうなるのですが、ちょっとここは入り組んでいます。今書き足しますので少々お時間をください」

キョン「……待てよ。どうして鈴羽Cさんが2011年まで残留することになってるんだ?」

古泉「鈴羽Bさんができるのはおそらく間接的アプローチだけでしょう。実際に行動するのはβ2世界線の住人でなければならない。要はDメールと同じ状態になっているはずです」

古泉「ゆえに、もう一度世界線変動が引き起こされることになり、その世界線はβ3世界線、ということになります」

古泉「逆に言えば、このβ2世界線の可能性未来では2回目の救出には向かわないことになる」

キョン「それだと鈴羽Bさんは報われなくないか? 結局鈴羽Bさんがβ2に存在したところで鈴羽Cさんは2回目の救出に向かえないモデルになってるじゃないか」

ハルヒ「古泉くん、曲学阿世の徒になる必要はないわよ。あなたが考える真実を捻じ曲げずに言って」

古泉「いえ、報われている、というか、鈴羽Bさんの力も、鈴羽Cさんの力も両方必要なはずなのですよ」

古泉「岡部さんによる牧瀬さん救出、という物理的タイムトラベルは既定事項ですから、マシン出発時点では世界線は変動しません。7月28日の分岐点においてわずかに世界線は変動しますが、通常であればそれを我々が体感できるのはマシンが帰ってくる時点、出発の1分後ということになります」

古泉「その間、β1の椎名さんと鈴羽さんによって、β2の世界が改変される。間接的という意味では、時限爆弾を仕込ませることになるのでしょう」

キョン「時限爆弾ならわかりやすい時間移動だ。なにせ通常の時間進行と並行しているからな」

ハルヒ「例えば、言葉の力でβ2のまゆりの心を動かすことによって、そのまゆりが帰ってきた倫太郎に檄を飛ばす、とか?」

古泉「そうかも知れませんね。そのようにして、世界線をβ3世界線へと変動させる実際のβ2出身の人物による行為は、β1の椎名さんと鈴羽さんによる改変によって達成されているのです。岡部さんがβ3へと帰ってくるのはそのおかげと言える」

キョン「……ってことは、例の1分間の間のどこかの時点で世界線が変動するってことか。ハルヒの言う通り、説得による行動指針改変による未来改変だとしたら、間違いなく1分間のどこかで改変される」

古泉「そして変動後の世界では岡部さんの物理的タイムトラベル帰還は既定事項。ゆえに帰還のタイミングでの世界線変動は発生しない」

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira087049.jpg

キョン「なるほど、このモデルなら、青い線も緑の線も、オレンジにパスするために必要不可欠になる」

ミスった訂正

× 古泉「そうかも知れませんね。そのようにして、世界線をβ3世界線へと変動させる実際のβ2出身の人物による行為は、β1の椎名さんと鈴羽さんによる改変によって達成されているのです。岡部さんがβ3へと帰ってくるのはそのおかげと言える」

○ 古泉「そうかも知れませんね。そのようにして、世界線をβ3世界線へと変動させる、“β2出身の人物への時限爆弾埋め込み”という行為は、β1の椎名さんと鈴羽さんによる改変によって達成されるのです。岡部さんがβ3へと帰ってくるのはそのおかげと言える」

キョン「だが、どうしてこの世界線でも比屋定さんと岡部さんに繋がりを作ったり、阿万音由季さんを鈴羽さんに合わせようとしたんだ? それには鈴羽Aさんの存在が必要なはずだが」

古泉「おっと、さっそく間違い探しの答えを見つけましたね。そう、このβ2世界線において鈴羽Aさんは7月28日から8月18日、19日にかけて存在していない」

古泉「しかし、あなたの携帯に受信されているメールを見てください。8月18日です」

キョン「俺のケータイ?……あ、これDメールか」

古泉「この世界線において、岡部さんをテニサーに入れるよう指示したのも、由季さんと鈴羽さんを巡り合わせようとするのも、未来のあなたなのですよ」

キョン「そりゃたしかに未来の俺なら前の世界線の記憶があるから可能だろうが、ヤバイぞさっぱりついていけない」

古泉「既定事項というのは、因果を、過去と未来おいて、同時に事象を発生させることによって完成するのですね」

ハルヒ「ふふっ、おもしろいわね。時間があっちに行ったりこっちに行ったりして。ゲーデルの閉時曲線になってるわけね」

キョン「ゲーデルっつったらゲーデル文とか、不完全性定理だったっけ。決定不能命題の存在するのかしないのかっていう」

古泉「かいつまんで説明すると、『数学理論は無矛盾であり、全問題の真偽判定は可能である』ことを証明するための“ヒルベルトプログラム”において、若きゲーデルが『数学理論は不完全である』ことを数学的に証明してしまった、という話ですね」

古泉「ある理論体系に矛盾が無いとしても、その理論体系は自分自身に矛盾が無いことをその理論体系の中で証明できない……」

古泉「仮にアトラクタフィールド理論や世界線理論が無矛盾の完全理論だとしても、それを否定する、神が隠し持った理論が存在することが可能だ、ということにもなります」

古泉「ゲーデルは1949年、宇宙がゆっくり回転している場合、時間の流れがループ状に繰り返されることをアインシュタイン方程式から一つの解として発見しました。ただし、我々の宇宙が回転している証拠はまだ見つかっていません」

古泉「ホーキング博士は因果関係に基づく時間順序保護仮説を唱え、重力場の量子効果の影響で閉時曲線時空は構成されない、と懐疑的ですけどね」

ハルヒ「『未来人が過去にどこにも現れていないんだからタイムマシンなんて未来永劫作れるわけない』って話ね。そんなの、未来人が過去人に正体をバラさないようにして潜んでるに決まってるじゃない!」

古泉「氏は同時に、『この宇宙に高度な生命体が存在するならばとっくに地球を訪れているはず』とも言及しています」ンフ

ハルヒ「敵ね! SOS団のイミガタキだわ! 今からオックスフォードに乗り込んでジョン・タイターの正体を突き付けてやりましょう!!」

キョン「病人はおとなしくしてろ」

ハルヒ「むーっ!」

古泉「オックスフォードで思い出しましたが……。本来なら2人の阿万音由季さんのどちらが本物かを調べ上げた上で行動したかったのですが、いかんせん時間がありませんでしたので。まだどちらが本物かは判明していませんよ」

キョン「……ん?」

ハルヒ「えっと、どういうことかしら、古泉くん。まるで、由季さんが2人居たみたいな口ぶりだけど。それは鈴羽さんじゃなくて?」

古泉「なるほど、間違い探しの答えその2ですね。この世界線では地球上に阿万音由季なる人物が2人存在しているのです。同姓同名、年齢も顔立ちも全く一緒、いわゆるドッペルゲンガーです」

キョン「はぁ!?……なんだってそんなわけのわからん世界になっちまったんだ」

ハルヒ「クローンってこと? それともゴースト障害?」

キョン「そりゃテレビの話だろうが」

古泉「いえ、おそらくどちらかが偽者です。情報プロテクトがそれなりに厳しいので、判明するにはもう数日かかるかと」

キョン「……ってことは、また陰謀の魔の手か」

ハルヒ「えっと、さっきの由季さんは?」

古泉「あの阿万音由季さんは2008年からヨーロッパで留学していて、夏季休暇で日本へ帰って来ていたほうの由季さんになります」

キョン「たしか今大学4回生だと言っていたから、2回生の時から留学しているのか。一応2012年に橋田さんと出会うことも可能か」

古泉「それが、橋田さんにお話を伺ったところ、橋田さんはもう一方の由季さんとは既に出会われているようでした」

キョン「おいおいボロボロ出てきやがるな、日焼け肌の皮むけかってんだ」

古泉「この世界線では留学をしていないほうの由季さんは8月15日にコミマで橋田さんと出会っています。椎名さん、中瀬さん、来嶋さん、橋田さんらとカラオケゴハンに行ったそうですよ」

キョン(橋田さん、何歌ったんだろうな。倒錯的フェティシズム全開で歌どころでは無かったかもな)

ハルヒ「ってことはあの占い大作戦もかなりセリフが改ざんされてそうね」

古泉「占い大作戦、とは?」

キョン「ちょ、ちょっと待て。ってことは、カエデさんを通して由季さんを呼んだわけじゃないのか?」

古泉「それはあなたが、『そんなに簡単に未来人の母が見つかるわけがない。きっとホンモノは留学しているほうだ』とおっしゃったので、僕のバイトのつてが全力を挙げて、そして涼宮さんの交渉によってラジ館屋上まで連れてきたのです」

ハルヒ「占い大作戦はなかったことになっちゃったのね……」

キョン「……仮に実物の橋田さんを知っているほうの由季さんにあの占いをしていたとしたら、嫌悪感マシマシになって熨斗つけて斡旋されることになってもむべなるかな、と言ったところだったな。危ない危ない」

古泉「概ね橋田さんの情報に対して、接触したほうの由季さんは好意的でしたよ。実物を見ていないせいか、あるいはそういう趣味なのか」

キョン「そういやお前にリーディングシュタイナーは発動させなくていいのか?」

古泉「必要に応じてお願いします。こうして間違い探しをするには発動させてはいけないみたいですから」

キョン「結構責任重大だ。お前の記憶が引き継げなかったら怖いからな、明日の夕方までには長門に頼んでおくよ」

古泉「さて、間違い探しはこの辺で終了ですかね。それよりも僕たちは明日の岡部さんの様子を追跡しなければなりません」

古泉「ラジ館屋上には一分の隙もないほどに隠しカメラやマイクを仕込ませてもらいました。隣接するビルからは機関の者の目を光らせておきます」

キョン「古泉よ、準備が良すぎると無礼なことも世の中にはあるんだぞ。通夜とかさ」

ハルヒ「そういう次元の話じゃないでしょ」

2010.08.21 (Sat) 09:44
湯島某所 


キョン(ついにやってきた運命の日。ちなみに、SOS団の有って無いような東京遠征計画の帰宅予定日の前日となる。本日の作戦成功を見届けて、ようやく安心して俺たちの街へと帰ることができるってわけだ)

キョン(鈴羽さんから聞いた作戦はこうだ。まず父親である橋田さんに電話をかけて岡部さんとマユシィをラジ館屋上に呼び出す)

キョン(そして鈴羽さん自ら、ここがβ世界線であり、そしてこの先の未来では第三次世界大戦が起こることを伝える)

キョン(それだけでは絶対あの岡部さんは取り乱すわけだが、そのために牧瀬さんの救出が不可欠であることを告げる)

キョン(まぁ、ここは結局既定事項だから、作戦を立案せずとも運命の女神様がそうやって導いてくれるんだけどな)

ハルヒ「運命なんてクソ食らえだけどね」

キョン(一晩ゆっくり寝たハルヒはすっかりその調子を取り戻していた。コイツが寝るまで古泉とやくたいもない話を繰り広げていたのが子守唄代わりになったのか、スヤスヤとお行儀よく寝ちまってた。あるいは、あの鈴羽さんをやり込めたことで溜飲を下げたおかげかもな)

長門「ちょっと屋上の様子を見てくる」

キョン(……まあ、収束のない死亡フラグなんてものはタイムリープマシンがあればどうとでもなるが、後で長門には日本語が持つ言霊の大切さを教え込んでおこう)

ハルヒ「でも、自分の手で牧瀬さんを殺さなきゃいけないなんて……。しかもナイフで、一撃でしょ?……あたしだったら、ううん、でもきっとみくるちゃんが、みんなが支えてくれるよね」

みくる「もちろんですよ、涼宮さん。涼宮さんが悲しい時は、あたしも悲しいです」

キョン(実際、この世界線に至るまで岡部さんは全ての世界線で2回目に挑戦できなかったのだ。相当な精神的ダメージを負うことになるのは間違いない)

古泉「そこで鈴羽Bさんの出番、というわけです。ここがβ2世界線において大きな変数ですからね。β1の椎名さんがきっと、世界を動かしてくれるでしょう」

キョン「ああ。なんたってマユシィは織姫になるんだから。それは間違いない気がするな」

ハルヒ「そうね。七夕の願いってのは、宇宙空間を超越して叶うものなのよ」

キョン(そうか、各世界線で織姫の願いが叶うってんなら、β1世界線での織姫の願いはまさにコレなのか。ハルヒGJと言わざるを得ない)

古泉「ですが、問題は正直言ってその先にあります。2回目の救出に仮に成功するとして、牧瀬さんは確かに7月28日の昼の時点で生存を獲得することになるのでしょう」

キョン「それがどうした?」

キョン(ちなみにこいつには既にリーディングシュタイナってもらった。忘れないうちにやっとかないとな、記憶操作だけに)

古泉「同時に中鉢論文を消去することに成功すれば問題ないでしょうが、どうもそう簡単な話には思えません。鈴羽Aさんは言っていました、本日8月21日午後、中鉢博士は論文を携えてロシアへ亡命する、と」

古泉「この事象は第三次世界大戦にとって必要不可欠な事象の一つです。ゆえに、β世界線にとって、中鉢博士が論文を携えてロシアへ亡命することは収束である可能性が高く、7月28日の段階で論文を消滅させることは不可能なのかも知れません」

キョン「そ、それじゃ、一体どうするってんだ?」

古泉「可能性としては……、収束の特異点となる事象に関連する時限爆弾を仕込む、とか」

キョン「また時限爆弾か。まあ、時間を操るシンプルかつ確実な方法ではある」

古泉「ミステリーの基礎的なトリックの一つですからね」ンフ

ハルヒ「だけど、それだと牧瀬さんの生存状態はシュレーディンガーの猫状態になっちゃうんじゃない?」

キョン「そうか?」

古泉「ええ、その通りです。時限爆弾が爆発するタイミング、おそらく8月21日午後の時点まで、牧瀬さんは仮に命を救われたとしてもその生存は観測するまで不明、と言う状況に陥ります」

キョン「ちょっと待て。古典系を量子系にすり替えないでくれ、混乱する」

古泉「具体的に言えば、α世界線の椎名さんのような状況になってるかもしれない、ということですよ。世界線を移動したところで24時間その死期がずれるに過ぎない」

古泉「もしかしたら牧瀬さんは7月29日の昼頃、なんら関係ない交通事故などで死亡してしまうかもしれない。それを観測してしまったらアウトです。永遠にシュタインズゲート世界線へは到達できない」

キョン「なるほど……。ってことは、2回目の救出と時限爆弾のセットに成功したとしても、岡部さんが到着する世界線で牧瀬さんが生きてる確率は50%、ってことか」

古泉「現在判断できる材料から導き出される答えとしては、そのようになるかと」

キョン「赤か黒か選べっていうルーレットだったら普通は初心者向けの賭けだが、人の命がかかってるんじゃ途端にロシアンになっちまうじゃねぇか……」

古泉「まさに、ロシアの手に渡る前が鍵を開けるタイミングなのです」

キョン「そういや、この世界線に鈴羽Aさんが居なかったってことは、ラジ館屋上はフェイリスさんに貸し切ってもらってないってことか?」

古泉「そう言えばそうでした。現状は長門さんの不可視遮音フィールドと機関による人払いで凌いでいますが、今後2011年7月7日まであそこにタイムマシンを置いておくことを考えると今から頼みに行ったほうがいいでしょう。鈴羽さんも呼んで」

キョン「……ん? どうしてこの世界線でも2011年7月7日までタイムマシンを確保する必要があるんだ?」

古泉「もう一度先ほどの図を見てください。鈴羽Cさんがこの世界線に飛んでくるからですよ。と言っても、先の世界線で僕たちと同じ時間を過ごした鈴羽Cさんと完全に同一人物とは限りませんが」

キョン「β3へと世界線が改変されれば、その先のβ2の未来はなかったことになるんじゃないのか?」

古泉「β3を成立させる因果として鈴羽Eさんの誕生がありますから、最低でも2036年までは可能性世界として存在しているのですよ、このβ2世界線は」

キョン「有るのか無いのか判別つかんのは女性の胸くらいで十分なんだが」

ハルヒ「死ねッ!!!」ブンッ!!

キョン「いでえェッ! い、いやハルヒの胸が平均以上にふくよかだってのは重々承知しているんだ!!」

ハルヒ「うあらッ!!!」ブンッ!!

キョン「ひでぶッ!!!」ゴチン

古泉「馬鹿ですねぇ」ンフ

みくる「キョンくん……」

今日はここまで

相変わらず面白いなー、乙です。

で、ちょっと読み進めていて疑問に思ったんだけど…2025年の執念オカリンが送ったDメールが世界線を変動させないって部分がちょい引っかかってる。

古泉はこれについて

『一方、あの文字化けメールそのものはすべてのα世界線へ送られていたようです。もし2025年Dメールの送信によって世界線が変動するならば、すべてのα世界線において世界線がβへと変動しなければおかしい』

と言ってるが、そもそもDメールの過去改変は、未来からの情報を過去の受信者が受け取り、Dメールを送った未来までの規定事項とは違う行動なり規定事項を満たす事で行われるはず(だよね?多分)。

でも、執念オカリンが送ったあのDメールは全ての世界線において“文字化けしていて”過去改変する情報を受け取れない状態になっている……唯一、あらゆるフラグを重ねて二回目の紅莉栖を救う為の物理的タイムトラベルを決意しシュタインズゲートに到達する為の“あの瞬間”以外では。

つまり執念オカリンからすれば過去オカリンが到達する“あの瞬間”以外では2025年Dメールによる世界線変動は起きないように出来ているはず、何故なら2025年Dメールが文字化けせず、過去改変する役割を果たすのは、あらゆる世界線で“あの瞬間”以外には存在しないのだから。

故に“あの瞬間”までのフラグが立ちDメールの“情報を受信”した事が確定したのなら、Dメール送信後死亡が確定されてるオカリンと違い、ハルヒの能力で世界大戦が起きるβ世界線で2036年までのSOS団生存が確定されてる以上、リーディングシュタイナーを持つキョンやハルヒは2025年Dメールが“あの瞬間”に過去改変する情報を開示するのが確定された2025年Dメール送信時点で、世界大戦を経験した2025年ハルヒやキョンに、シュタインズゲート世界線2025年ハルヒやキョンから変わるんじゃないかな?

……長門のウルトラCとかなんか見落としてる可能性はあるけど、ちょっとこれは気になったから質問してみる。

続き期待してますんで、古泉解説が厳しかったらスルーして本編どんどん進めてくれると嬉しいです。

日本語がわかりにくく申し訳なかった反省している
内容が小難しいのに、単語とか表現まで変に凝る必要は無かった
SFは趣味だ 許せ

>>199 ありがとうちょっと嬉しい
ちなみにハルヒ原作でも「規定事項」って書いてる巻があるけどこれは誤字 正しくは「既定事項」
本文に書いてもわかりにくさを助長させそうなので、今
キャラにしゃべらせるのもキモイけど実際書きやすい こんな感じでどうだろう



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古泉「第一に、シュタインズゲート世界線(以下SG)の2025年において、岡部さんや彼や涼宮さんにリーディングシュタイナー(以下RS)が発動しない理由について」

古泉「そして第二に、例のムービーDメールがβ世界線からSGへの世界線変動を発生させない理由について、お話したいと思います」

古泉「第一の理由について、その理由に疑問を持ってしまうのはおそらく、あなたに“神の視点”が存在しているからです。少し長くなりますが、掘り下げてみましょう」

古泉「世界線がSGに改変された時点で、僕たちの存在する唯一絶対の世界は、β世界線の因果にも、α世界線の因果にも縛られない世界線へと変更される。β世界線は可能性世界として“なかったことになる”。そもそもSGの定義がソレでしたからね」

古泉「つまり、世界線がSGとなる2010年8月21日の時点で、そこへ僕らが至ったβやαの因果は、過去改変による影響を除いた全てが消滅するのです」

古泉「たとえ2025年の未来の岡部さんが作った因果が、現在である2010年8月21日の岡部さんに影響を与えたとしても、2025年は確定している世界ではない」

古泉「“過去”と“未来”というものは、似ているようで全く違う存在です。同一世界線上において、過去は観測可能ですが、未来は観測不可能。タイムリープで未来に飛べない理由の一つですね」

古泉「一応言っておきますが、ここでいう“観測”とは、一般的な意味での観測というよりも、因果の成立を世界に落とし込む、と言ったような意味合いになります。タイムトラベルが存在しなければ、未来の因果は決して過去に影響することはない……そうですね?」

古泉「現在からの過去改変と、未来からの現在改変というのは、観測者を“世界の外”に設置した場合全く同一の現象ですが、観測者は当然世界の内側に居ます。“神の視点”を持つことは不可能であり、それは世界外記憶領域においても同様です」

古泉「結論です。意識が現在にあると認識している人間が全て観測者であることは、その記憶の積み重ね状況から明らか。であれば、結局2025年が確定世界となる前にSGへと変更されるので、2025年の未来人たちは“なかったことになる”」

古泉「当然、β世界線上の2010年から2025年までの15年分の記憶は世界外記憶領域に蓄積されることはなく、SG上の2025年の彼も岡部さんも涼宮さんもRSを発動させることはない。RSは確定世界が切り替わることによってでしか発生しえない事象ですからね」

古泉「第二の理由について説明するにあたり、視点をβ世界線上の未来に変えてみましょう。一つ注意しておきたい点は以下の一点です」

古泉「あのノイズムービーDメールがノイズを除去された意味あるメッセージとなったとしても、2025年発のムービーDメールによって世界線がβからSGへと変動することは無い」

古泉「あのムービーDメールは過去改変を達成出来なかった類のDメールなのです」

古泉「確かにムービーDメール受信によって岡部さんの行動は、その世界線でかつては起こらなかった“2回目の牧瀬さん救出へ向かう”という決定的な事象が発生します。しかしそれは世界線変動を意味していません」

古泉「椎名まゆりさんのビンタなどの“未来改変”の収束条件とは異なり、牧瀬さんを救出する、および中鉢論文を消滅させるという“過去改変”はβ世界線の収束を超越する行為ですから、仮に岡部さんが2回目の救出を決意したところで、それだけでは世界線は変動しないのです」

古泉「実際に行動を起こさなければ変動は発生しない……。そしてそれにはC204型による物理的タイムトラベルが必須でした」

古泉「物理的タイムトラベルによって2回目救出へ向かう岡部さんは2010年7月28日11時50分に到着するわけですが、到着時点で世界線がわずかに変動します」

古泉「この時点で例のムービーDメールによるβからSGへの世界線変動は発生しえないことが確定しますね」

古泉「物理的タイムトラベルによって世界線が変動したことで、ムービーDメールを送信する未来はなかったことになってしまいました。世界線変動自体は、物理的タイムトラベルによって発生するのです」

古泉「結局、β世界線にとってはムービーDメールは既定事項に過ぎない、ということになります。勿論、岡部さん個人にとってそれは運命を変える奇跡のムービーメールなわけですが」

古泉「だからこそ世界を騙すことが可能だった……。それには、ムービーDメールを2010年8月21日に送るのではなく、2010年7月28日12時26分に送る必要がありました」

古泉「ちなみに、『このムービーDメールをエシュロンは傍受しないのか』という点については、『無限遠点のアルタイル』に思わせぶりな描写があります。比屋定真帆さんと橋田さんが頑張ったみたいですよ」

古泉「2010年7月28日へ送信するなら、ムービーDメールを2010年8月21日の確定世界線上の岡部さんにしっかり見せた上で、世界線を変動させずにタイムマシンに搭乗させることができます」

古泉「仮に2010年8月21日にDメールを送っていた場合、2025年の岡部さんはどうなってしまうか」

古泉「もしかしたら、2010年8月21日以降に発生していない事象を引き起こしたことによってわずかに世界線が変動し、とあるβ世界線からとあるβ世界線へとRSを発動しながら世界線移動をするかもしれない」

古泉「この時改変される世界線の分岐点は2010年8月21日以降なので、牧瀬さんの死亡は確定している。ゆえに到着先の世界線は必ずβ世界線となります。2010年8月21日に岡部さんが2回目の救出に向かい、救出に成功していようといなかろうと、救出自体は別世界線の話ですから関係ありません」

古泉「当然RSでの移動先には2025年のβ世界線の自分が存在するわけですから、裏を返せば2010年の自分はSGに到達できなかったことを意味する。つまり、2010年8月21日にDメールを送信した場合、SGへ到達することは因果の上で不可能となってしまう危険性がある」

古泉「ところで、2025年8月21日の岡部さんが7月28日12時26分にムービーDメールを送る最大の理由。勿論、それがβ世界線の収束だから、という理由もあるでしょうが、このDメールは世界線を変動させない類のDメール……ということは」

古泉「そうです。その世界線上の岡部さんであれば常に視聴可能なムービーDメールは受信履歴に入っているのです」

古泉「当然2024年頃の岡部さんも、自分が2025年に送った、いえ、いずれ送ることとなるムービーDメールを自分のケータイで再生することができた。受信日時も確認できるわけで、その日時へ送らなければならない既定事項が確認できるわけです」

古泉「橋田さんがフェイリスさんに雷ネットABで勝つためのDメールを送っても勝てなかった時などと同じように、世界線を変動させず受信履歴だけが残っている状態になっていたわけです」

古泉「そういう状態が発生するためには、未来の岡部さんはどこかで世界線を移動していることになるわけですが……、それについては後述します」

古泉「時間線が複数あるのでどうしても長話になってしまいますね。長文失礼いたしました」

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今日は疲れたのでまた明日

2010.08.21 (Sat) 12:17
秋葉原タイムスタワー 秋葉家


みくる「ひぇぇ……高いですぅ……」

ハルヒ「これがフェイリスの家なの。鶴屋邸とは別方向にとんでもない住宅ね……!」

キョン(フェイリス家にお邪魔していいか尋ねたところ最初は渋られたが、古泉の交渉術によってあっけなく許可が下りたらしい)

フェイリス「自分の家だと思ってくれて構わないニャン! でも、フェイリス家の聖域だけは覗いちゃダメニャ! もし闖入しようとすれば犬耳が生えてしまう恐ろしい呪いに侵されてしまうのニャ……」ニャフフ

みくる「ふぇぇ!? 犬耳、こわいですぅ」ピョコピョコ

キョン(幸高氏のコレクションルームのことか。そこに一時は預けられていたんだよな、IBN5100)

古泉「秋葉原タイムスタワー。秋葉原いちの高さを誇る40階建て分譲マンションですね。コンシェルジュも常駐しており、最上階フロアの分譲価格は、2億円は下らない」

キョン「に、におくっ……!?

キョン(俺は一度牧瀬さんの記憶の中のココに来たことがあるが、改めて考えるとご令嬢的社長である秋葉留未穂氏がフェイリス・ニャンニャンという源氏名でオタ共相手にニャンニャンしているわけで、サブカルチャーのバズワード的定義が秋葉原の頂点から書き換えられている現場に遭遇していることになる)

長門「マシンの整備はほとんど終わった」

キョン(長門には鈴羽さんと2人でここまで来てもらった)

鈴羽「色々ありがとう。……あたしは涼宮ハルヒに対する見方を改めないといけないらしい」

ハルヒ「恩返しはシュタインズゲート世界線に到着してからでいいわ。忘れちゃだめよ?」

鈴羽「はは、そうだね。任せてよ」

フェイリス「あなたがスズニャンニャ? 未来人と会えるなんて、サイッコーだニャ! 今日は来てくれて本当にありがとうニャ♪」ダキッ

鈴羽「う、うん……」

フェイリス「それで、体感ゲームの実験をしてるから入っちゃダメ! ってオーナーのおじさんに握らせておけばいいニャ?」

キョン(何を握らせるんだ何を!)

古泉「何卒よろしくお願いします」

フェイリス「気にしないで欲しいニャ。この世界の四精霊<エレメンタル>をバイアクヘーたちの魔の手から救うためなら、フェイリスはいつでも協力するニャン♪」

フェイリス母「留未穂。それじゃ、お母さん行くわね……。あら、留未穂のお友達?」

ハルヒ「初めましてお母様。留未穂さんの友達、涼宮ハルヒと言います。騒がしくしてすいません」

キョン(あれはたしか、秋葉ちかねさん、という名前だったな。牧瀬さんの記憶の中で幸高氏がそう呼んでた、と思う)

キョン(セレブ、というわけでも、主婦、というわけでもない。なんというか、外交官的雰囲気をまとう美人だ)

ちかね「いいのよ、留未穂と仲良くしてくれて嬉しいわ。あまりお構いもできずにごめんなさいね。黒木さん、よろしくお願いします」

黒木「かしこまりました。これからお客様のご昼食を用意致します」

キョン(ちかねさんはあっさり出て行ってしまった)

みくる「あのー、フェイリスさん、挨拶しなくてよかったんですかぁ。なんだか遠出する服装でしたけど……」

フェイリス「う、うん。ママはこれから半年海外でお仕事なんだ」

ハルヒ「半年!? 海外!?」

フェイリス「で、でもいいの! これが秋葉家の日常なの。別に仲が悪いわけじゃないんだけど……」

キョン(……予期せず母子家庭となったことで親との接し方がわからなくなった、というところだろうか)

鈴羽「ルミねえさん……」

フェイリス「えっと、ここから見えるアレがタイムマシンなのかニャ……?」

キョン(そういや、ここタイムスタワーの最上階からならラジ館屋上が見下ろせる)

鈴羽「そう。あれが父さんの最高傑作、C204型」

キョン(204……? 鈴羽AさんもBさんもCさんもC203型だったと長門やハルヒから聞き及んでいるが、Dさんからは一つ数字が繰り上がるのか。しかし、何故?)

古泉「……ここは岡部さんたちの行動を観察するのに最高の立地ですね。電源も、幸高氏の趣味のせいでしょうか、十分に確保できる環境にある」

キョン「……おい古泉。まさかとは思うが、お前、フェイリスさんの自宅を情報集積センターへと魔改造するつもりじゃないだろうな」

古泉「フェイリスさん?」

フェイリス「全然オッケーニャー!」

古泉「黒木さん?」

黒木「ただちに準備に取り掛かりましょう」

キョン(どうやらサイドブレーキもブレーキシューもバニシングしてしまい、アクセルペダルしか存在しねえらしい!)

みくる「お茶の用意をさせてください。フェイリスさん、キッチンお借りしてもいいですか?」

フェイリス「ニャニャ!? 執事の居るメイドの自宅で、メイド力を発揮するニャんて……!! ミラクル・ニャンニャンはメイドとして覚醒しつつある……!?」

みくる「ふぇっ!? え、えっと……」

フェイリス「普通のアッサムティーもあるけど、そっちの戸棚にカンヤム・カンニャムが入ってるニャ」

みくる「ええっ!? ネパールティーですよね!? 日本では殆ど手に入らないのに、どうして……」

フェイリス「ニャフフ」

黒木「僭越ながら、少々特殊なお茶ですゆえ、私めが淹れ方をアドバイスさせていただきたく思うのですが」

みくる「わぁ、ありがとうございますぅ。うれしいですぅ」ピョコピョコ

ハルヒ「GJよ、フェイリス、黒木さん!」

フェイリス「猫耳を付けてるなら、しっかりメイドとしてレベルアップしてもらうニャン♪」

古泉「森さん、ケーブルはあちらに……。裕さん、モニターはこちらに……」

キョン(着々と機関の魔の手が岡部さんに忍び寄っているようだ。ちかねさんが出て行ってからというもの、ここは機関の人間の出入りで忙しくなっている。中には俺の知らない機関のメンバーも数人居た)

ハルヒ「古泉くんって、一体どんなバイトしてるのかしら……」

ハルヒ「そう言えば、フェイリスってなんか仕事でもしてるの?」

フェイリス「ニャ!? ニャんでそう思うニャ?」

ハルヒ「お母さん、半年に一回しか帰ってこないんでしょ? それなのにこの応接間の物の配置……」

フェイリス「ハルニャンの勘は鋭いニャー。でも、内緒だニャン♪」

鈴羽「ルミねえさんはこの辺一帯大地主なんだよ」

フェイリス「ニ゛ャー!!! ス、スズニャン!! それはトップシークレットだニャ!!」

鈴羽「たしかこの時代のルミねえさんは喫茶店の店長とか、幅広く経営してるんだっけ」

鈴羽「ルミねえさんはね、この時代の事業経営とは別に、高校卒業と同時にベンチャー企業を立ち上げて、時代の波に乗って新インフラを開拓していく。ルミねえさんはあたしたちワルキューレの出資者の一人でもあったから、戦時も生き抜く大企業になってたはず」

フェイリス「ニャニャーッ!!……って、スズニャン、それって、ホントかニャ?」

鈴羽「あたしの居た世界線では、ね。この世界線ではどうなるかわからないけど」

ハルヒ「フェイリス、大学には行かないの?」

フェイリス「フェイリスには夢があるんだニャ! 小さいオフィスから世界を我が手に掴むのニャ♪」

ハルヒ「ふーん……鶏口牛後ってわけ。それもおもしろそうね……」

キョン(ハルヒがおもしろいと思うことに文句は無いが、こいつが本気でビジネス分野にその強靭な脚を突っ込んだら世界経済は資本主義に代わる新しい経済体制、ハルヒ主義<Haruhiism>へと全力ダッシュしていくことになりかねん)

フェイリス「えっと、ハルニャン? できればこれからも普通のお友達のままでいてほしいのだけど……」

ハルヒ「……? 大丈夫よ、あたしたちの知り合いにも地元の名士って感じの人が居るし。そもそも、社会的地位で友達への態度を変えるような下衆じゃないわ!」

フェイリス「ハルニャン……!! 私たちは友達だねっ!!」ダキッ

キョン(……今更ではあるが、この人は友達と呼べる人が少ないのだろう。しかし、この境遇が数十年後の彼女を造るのに必要なのだ、と思う)

2010.08.21 (Sat) 17:46
秋葉原タイムスタワー 秋葉家


キョン(結局場が量子化してしまった俺たちは得体の知れない演算子に恐怖しながら運命の時刻を迎えた。頼んだぜ、鈴羽さん……!)

フェイリス「スズニャン、大丈夫かニャァ……」

古泉「既定事項に飛び立つ岡部さんを観察しても得られるものは少ないでしょう。勝負は例の1分間、鈴羽Bさんがどのように動くか、です」

キョン「たしか鈴羽Bさんのマシンにも燃料が入ってないんだよな?」

古泉「涼宮さんの未来視によると、そうみたいですね」

キョン「なぁ、長門。お前の記憶には無いと思うが、次に言うことは既にお前が実行したことなんだ」

長門「言って」

キョン「現代にある物質で、あのマシンの代替燃料となり得そうなものを、β1のマシン、ハルヒの話だとC203型のタンクに、転送してもらえないだろうか」

長門「了解した」

古泉「これで鈴羽Bさんと同乗者である椎名さんがどこかの時代へ不時着できる可能性が上がりましたね」

キョン「ああ。たぶん、そうなってもらわないと世界にとって困るんだろうよ」

ハルヒ「来たわ! 倫太郎と、橋田さんと、まゆりよ! 鈴羽となにか話してる!」

古泉「経過は順調ですね……。案の定、岡部さんは興奮されているようですが」

フェイリス「これからいよいよ時空を超えた旅、ノスタルジアドライブが始まるのニャ!!」

キョン「いざ世界改変ってか。リーディングシュタイナー勢は準備万端だ」

みくる「栄養剤、冷えピタ、タオル、AED……い、一応揃ってます」

古泉「新川のタクシーも停めてあります。病院の受け入れ態勢も用意させましたよ」

ハルヒ「……キョン、手」スッ

キョン(こいつにとっては意識的状態下での世界改変は初の出来事なんだよな……)

キョン「まったく、仕方ねえな。さあ、一緒に世界線を跨ごうじゃねえか」ガシッ

岡部『シュタインズゲート?』

鈴羽『この計画を立てたのは未来のおじさんと、父さん』

ダル『と、とうさん?』キョロキョロ

鈴羽『すべては推測でしかない』

鈴羽『もしかしたら、2人の理論は間違っていて、シュタインズゲートなんていう世界線は存在しないのかもしれない』

鈴羽『でも、それでもあたしは行く。素晴らしい未来が待っているという未知の可能性に賭ける』

鈴羽『もしおじさんがあたしと一緒に行ってくれるなら、この手を握って』


キョン「……シュタインズゲート世界線ってのはどんな世界なんだろうな」

古泉「たとえ未知の世界線でも過去改変の影響は改変後の世界線に残るはずですから、シュタイズゲートにおいても牧瀬さんは8月21日まで生存しており、中鉢論文は世界から消滅している。ここは確定していると言えます」

古泉「そしてこの過去改変によって未来が改変されている」

キョン「第三次世界大戦の回避、だな」

古泉「従って、仮に2034年まで世界線系タイムマシンが開発されない可能性がある。その場合、確定事象なるものが一切存在しない、純粋な未知が広がっている世界、なのかも知れません」

古泉「シュタインズゲートはα世界線でもβ世界線でもない、狭間の世界線。言ってしまえば別のアトラクタフィールドへと移動するわけですから、α世界線で発生した因果、あるいはβ世界線で発生した因果のすべてが、2回目の牧瀬さん救出から帰還した瞬間消滅するかもしれない」

キョン「……つまり、タイムマシンが消える、ってことか。あれはシュタインズゲート世界線にとっては存在しえない質量であり、因果だったな」

古泉「ゆえに搭乗者の岡部さんは物理的に継続し、鈴羽さんは2036年に再構成されることになると思いますよ。また世界線が変動したら図に書いて説明します」

キョン「ついに岡部さんがタイムマシンに乗り込んだ……!」

古泉「経過は順調ですね」


まゆり『ねぇダルくん……。オカリンがタイムトラベルしちゃったらさ、まゆしぃから見たオカリンはどうなっちゃうのかなぁ……』

ダル『どうって……?』

まゆり『今この世界から電気のスイッチを切るみたいにブツンッっていなくなっちゃうんだよね? ……なんだかそれってね、すごく、怖いな……』


キョン「古泉先生の解答は?」

古泉「β3世界線に再構成される、が正解かと。別人ですが、ほとんど近似される人物の肉体へと意識も記憶も移動する」


まゆり『まゆしぃはその間オカリンのことをちゃんと覚えていられるかな……』


古泉「記憶の齟齬はほとんど無いはずですが、残念ながら、覚えている、に当てはまる現象はほとんど発生しないでしょうね」

フェイリス「マシンが光り出したニャ!!」

ハルヒ「な、なにあれ……、マシンが!!」


ダル『2台に増えてるお!!』

長門「燃料物質の転送を開始する。=?ISO-2022-JP?B?GyRCJDMkbCRDJEZDLyQrMnJGSSRHJC0kRiQ/JGokNyReJDkhKRsoQg==?=」ブツブツ

古泉「ッ! 椎名さんが持ってる岡部さんの携帯電話に着信が……。新川さん、傍受できますか?」

新川『ビー……やってみましょう……ザーザー』


みくる「あっ!! 岡部さんたちのほうのタイムマシンが消えました!!」

キョン「ついに飛び立ったか……!!」


まゆり『……もしもし? あなたは……、誰ですか?』

??『……どうかお願い。落ち着いて私の話を聞いて』


ハルヒ「この声は、まゆり! β1のまゆりが倫太郎のケータイに電話をかけたってことね……。なんか一人称が変わってるけど」


β1まゆり『……ねぇ、あなたは……、鳳凰院凶真のこと、好き?』

まゆり『えっ……///』


みくる「ふぇっ!?」

フェイリス「ニャニャ!?」

β1まゆり『これから1分後にオカリンは戻ってくるけど牧瀬さんの救出にはね、失敗しちゃうんだ』

まゆり『……ウソ……』

β1まゆり『そのときにね……。お願いがあるの。どんなことをしてでも……』

β1まゆり『あなたにとっての“彦星さま”を呼び覚まして欲しいんだ』

まゆり『彦星さまって……』

β1まゆり&まゆり『『鳳凰院凶真』』

β1まゆり『オカリンの折れた心を蹴っ飛ばしてでも立ち直らせて』

β1まゆり『ただ名前を呼ぶだけじゃ届かない。鳳凰院凶真が生み出された瞬間のこと、思い出して』

??『あと30秒! そろそろ退散しないとっ……』


キョン「今のはβ1鈴羽さんの声か! くそっ、世界線移動はまだなのか……!!」


β1まゆり『26年と、1年分の思い。あなたに託したからね』

まゆり『ね、ねえ! ひとつだけ聞かせて!』

まゆり『“シュタインズゲート”はっ……あるよね? あるんだよね!?』

β1鈴羽『跳ぶよ! 掴まって!』

β1まゆり『……うん。きっとある』

β1まゆり『私は信じてる。あなたも信じて。オカリンと仲間と……そして』

β1まゆり『自分自身のことを信じて』

β1まゆり『あとはよろしくね。トゥットゥルー』


キョン「き、きたぜ……!! 世界線変動が―――――――――――――

ハルヒ「う、うわぁぁぁぁああああああああ―――――――――――――


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D 1.130205%



るか「そういえば岡部さん? ボク、時々ラボに顔を出すんですけど、最近、あんまり来ていませんよね?」

岡部「ああ、大学のゼミが忙しいんだ。ATFの、コンベンションの準備もあってな。あと、サークル活動もしてるしな」

フェイリス「なんのサークルかニャ? やっぱりUFOとかUMAとか?」

岡部「テニスサークルだ」

るか&フェイリス「「ええーーっ?」」

岡部「なんと俺にはテニスの才能があるらしくてな。初心者にもかかわらず、会員相手に連戦連勝だったんだ。どうだ、たいしたもんだろう?」

るか「なるほど、それで練習が忙しいんですね?」

岡部「ん? あ、いや……練習はあまりしてない、かな」

フェイリス「じゃあ、いったいなにしてるニャン?」

岡部「合コン、とか」

るか&フェイリス「「えええええーーーーー!?」」

日本人女性「あら? 牧瀬さん、もう帰ってきたのかしら?……まさか、泥棒?」

パパパッ

日本人女性「と、突然火の手が!? 大変っ! 火事よ、火事っ!」

日本人女性「……って、日本語で言ってどうするのよ! "Fire! Fire!"」

白人部隊「"вывод!"」

日本人女性(た、ただの強盗じゃない……)


・・・


真帆「そして現在、私たちのチームは、その理論を元に人間の記憶をデジタルデータとして取得するシステムを開発しています。それはすなわち―――人間の記憶をコンピュータに保存し、それを活用しようというシステムということになります。……」

質問者「……そもそも、これは医学的に無謀でしょう。デジタルデータを脳に書き戻すなんて、絶対に不可能だ。正気の沙汰ではない」

岡部「―――異議あり!!」

真帆「ふえっ?」

岡部「やってみもしないで、なにが分かるっていうんだ? 最初は無理だと思われていた技術なんて、この世にいくらでもあるいじゃないか。でも、それを克服した研究者がいたからこそ、今があるんだろう? ただ批判するだけじゃなにも生まれない」

レスキネン「"Awesome! He's really something!"」

岡部「―――なぁダル? お前も一緒に行かないか?……大学を出たら、海外へ留学しないかってことだ」

ダル「はぁー!?」

まゆり「え~? オカリン、外国行っちゃうの~?」

ダル「つーか、ヴィクトル・コンドリア大学なんて、どんだけ難関だと思ってんだお? オカリンの成績じゃ無理っしょ」

岡部「ぐぐっ? そ、それはこれから頑張るんだ」

まゆり「お願いだよ~、海外なんてやめてよ~」

ダル「大丈夫。いくらオカリンが希望しても、あっちから『だが断る』って言われるのだぜ」

岡部「……なにかおかしいこと言ったか、俺?」

真帆「そうじゃなくて。私の後輩がね、全く同じ理論を提唱していたことがあるのよ。結局、実証試験に進む前に彼女はいなくなっちゃったんだけど―――どうしてあなたが?」

岡部「いや、実はこの理論……紅莉栖からレクチャーされたんだ」

真帆「え……? いつ? どうして?」

岡部「彼女がこっちに留学してた時だ。友達になってね、こういう話をよくした」

真帆「……そうだったの。あの紅莉栖が……ありがとう。感謝するわ」

岡部「なにが?」

真帆「彼女と友達になってくれて、よ。日本に来て、たったひとりで―――」

―――たったひとりで死ぬのは、きっと怖かったと思うから。

真帆「……なにかもっと別の理由で紅莉栖は―――殺されて、それが闇に葬られてしまったんじゃないかと、そう考えているのよ、私は」

岡部「真実を……知りたいって……?」

真帆「ね、岡部倫太郎さん。あなた、もしかして―――なにか知っているの?」

ダル「オカリンってさ、まゆ氏の幼なじみだろ? 子供の頃から今までに、『かがり』とかそんな感じの名前の子が、まゆ氏のそばにいたりしなかった?」

岡部「いや、俺の知ってる限りは……。というか、誰なんだ『かがり』って?」

ダル「まゆ氏の“娘”だってさ」

岡部「ああ。……まゆりのむす――――!?」

ダル「しーっ、声がでかいっつーの」

岡部「ほ、本当なのか、それ?」

ダル「うん、ただ、実の子供じゃないらしい。戦災孤児だったのを養子にしたとかなんとか」

岡部「でも……変じゃないか。なんでこの時代に、まゆりの娘が」

ダル「鈴羽と一緒に、2036年から脱出してきたみたいなんだよ。ところがさ、ミッションのために1998年へ立ち寄って―――このアキバではぐれちゃったらしいんだ。鈴羽は必死になって探したんだけど、とうとう見つからなくてね……それからの鈴羽は、数か月単位の小さな移動を繰り返しては、かがりを探しながら2000年まで来たのだが、燃料がギリギリになるまでついに彼女を発見することはできなかったってわけ」


・・・


ダル『オカリンって、牧瀬紅莉栖氏と親しかったんだよね? 牧瀬氏についてアドバイスが欲しいんだ』

岡部「それはどういうことなんだ?」

ダル『今、僕が担当してる仕事で行き詰っててさ。つい最近、バイト先にノートPCとポータブルハードディスクが持ち込まれたんだ。両方とも強固なフルディスク暗号化が施されてて、鍵になってるパスワードがないと起動できない状態になってる』

岡部『けど、それと紅莉栖になんの関係が?』

ダル『ノートPCとハードディスクの所有者が、牧瀬紅莉栖氏』

岡部「な、に?」

岡部「ぬるぽ……」

真帆「何その、ぬる……っていうのは?」

岡部「それより、あのぬいぐるみ、欲しいのか?」

真帆「実はね―――あのぬいぐるみ、アメリカの自宅で紅莉栖がベッドルームに置いていたのよ」


・・・


真帆「これ……!」

岡部「うまく取れたんだ。君にやるよ」

真帆「……紅莉栖が、その……死んだあとね、お母さんから形見を色々ともらったわ。ノートPCとか。けど、これはとても可愛がっていたからって、お母さん、自分のベッドルームに飾っていたのよ。だけど、紅莉栖の実家がね、ああいうことになって。……このぬいぐるみも燃えてしまったと思うの、たぶん。だから、アメリカのお母さんにプレゼントしてもいい?」

岡部「もちろん。喜んでもらえるなら、それが一番いい」

真帆「……和光のオフィスと、あとホテルの部屋。教授と私の。荒らされた、って」

ダル「あの男たちが探し回ってるのは、やっぱり―――?」

岡部「間違いない。紅莉栖のPCとハードディスクだ」

萌郁「……大声を出さないで、言うことを聞いて。さもないと……命はない」

岡部「やめろっ……欲しいものなら渡してやる……だからやめろ……っ」

萌郁「……橋田至。貴方はスペシャリストだと聞いている……こっちへ」

岡部「待て! だったら俺が行く。それでいいだろう?」

萌郁「……誰か、殺してみせれば……いい?」

真帆「やめてーっ!」

萌郁「……ッ!?」

ロシア兵「"стрелять!"」ダッダッダッ

パパパッ

鈴羽「……実は、もうあんまり時間はないんだ」

ダル「なんでなん? ロシアが実験を開始したから?」

鈴羽「実はね、タイムマシンを制御してるコンピューター―――この時代だとまだ実用化されてない量子コンピューターなんだけど―――内臓電池が、もうあんまり残ってない。マシンそのものの燃料より、そっちのほうが深刻なんだ。マシンを正確に制御してジャンプさせる事が難しくなる」

ダル「バッテリーだったら、交換とか充電とかすればいいんじゃね」

鈴羽「ルミねえさんね、ものすごく無理をしてくれて。最新の燃料電池まで手に入れてくれたんだよ。結局、歯が立たなかった」

ダル「未来の技術ってスゲーのな。SF映画みたく、生ゴミを電気に変えられたらなー」

鈴羽「残ったバッテリーで正確なジャンプをするには、あと半年が限界ってこと。牧瀬紅莉栖を救いに行けるタイミングも、そこまでなんだよ……」

鈴羽「バッテリーが切れて、マシンのコントロールを失ったら……どうなるんだろう? カー・ブラックホールの制御も効かなくなるし……“事象の地平面<イベントホライズン>”の向こうから永遠に戻ってこられないとか?」

ダル「縁起でもない事、言ったらだめだお」

鈴羽「『あの日、私の彦星さまが復活していたら、全てが変わっていたのかな?』……って。毎年7月7日になると、空を見上げて……必ずそう言ってた」

まゆり「どういう事なの、かなぁ……?」

鈴羽「でも、今なら、分かる気がするんだよ。今のあたしなら……オカリンおじさんの、絶望とか悲しみとか怒りとか……全部感じることができるよ」

鈴羽「あたし、やってみるね? 失敗したら全てがダメになるけど……それでも、未来のまゆねえさんの言葉にかけてみようと思う。“牧瀬紅莉栖が殺された日”じゃなくて……まゆねえさんの言う“あの日”へ跳んで……ねえさんの“望み”をなんとか叶えてくる」

鈴羽「それがシュタインズゲートへ向かう本当の鍵だって……信じてみる」

まゆり「ね、ねぇ……スズさん? そのおぺれーしょん、ね……」

まゆり「…………まゆしぃに、やらせて」

まゆり「スズさん……私……もう一度、会いたい……あの偉そうな高笑いを、また聞きたいよ。たとえ、まゆしぃが“織姫さま”になれないって分かってても……それでも、私にとっての“彦星さま”は……これまでも、これからも、ずっとずっと彼以外にはいないんだもん……だから、鳳凰院凶真に会いたいよぅっ……」


ピピピピピピピピピ……


鈴羽「……え!? あ、あたしのケータイにムービーメール……発信者名は“バレル・タイター”、件名は――――」

鈴羽「―――“オペレーション・アークライト”!?」

レスキネン「リンタロウ? 君は”STRATEGIC・FOCUS”社という、アメリカの民間情報機関を知っているかな?」

岡部「そんな……これまでさんざん俺たちをだまして、裏切って、襲撃までして……いったいどこの国に売るつもりです!? アメリカですか、中国ですか!? それとも、中東やアフリカの紛争地域から、すでに注文でも入ってるんですか!?」

レスキネン「…………。その全てだよ。核兵器と同じさ。抑止力として、あらゆる国に必要だと思っている」

岡部「そ、そんな……タイムマシンは、核兵器なんかとは違います! “それ”が使用されたかどうかすら気づかないうちに、世界は改変されてしまうんです!」

レスキネン「そうだよ。だからこそ、君たちの能力―――君は“リーディングシュタイナー”と名付けたそうだね―――が必要となる」

岡部「え? あ……っ!」

レスキネン「君はどうしてもっと早く、私にその能力の事を話してくれなかったんだい? そうすれば、君の友人―――ナカセさん、だったかな? 彼女の脳も、あそこまで色々といじくらなくいで済んだのに」

レスキネン「リーディングシュタイナー保有者の脳を使えば、もっと色々な発見があるだろう。それをタイムマシンとセットで売れば、世界の軍事バランスは完全に保たれる」

岡部「あ、あんた……あんたは、狂ってる!!」

かがり「はぁっ、はぁっ……お、岡部さん……最後にひとつ、だけ……“本物”は、何も知らないです。教授が裏で手を回した事も知らずに……3年前からヨーロッパに留学中……私を秋葉原へ送り込むために……」

かがり「大丈夫……きっと“本物”も、橋田さんの事、好きになります……私と同じように。……えへ、言っちゃった……誰にも内緒です……よ?」

レスキネン「別に、この私が何かしたわけじゃない。なんでも、頭の中の神様が、全て教えてくれるんだそうだ……」

レスキネン「その神様というのは、なんと未来の―――2036年の私だったんだよ」


・・・


レポーター『ま、まるで戦争ですっ! 秋葉原駅前や中央通りはすでに閉鎖されて、米軍と自衛隊のヘリや装甲車が―――ああっ! 今、またものすごい発砲音が聞こえてきましたっ!』

警察『どいてください!』

自衛隊員『ここは立ち入り禁止です!』

レポーター『こ、ここは本当に日本なのでしょうかっ!? まるで内戦中の国の取材をしているようですっ! 政府の発表ではテロということですが、こんな―――うわっ、また爆発です!』

自衛隊員『死にたいのかっ! もう戦争なんだ! おまえら逃げないとほんとに死ぬぞ!』

レポーター『こ、こちらに向かって何かが飛んできま――――――――』ドォォン

アナウンサー『…………』

岡部「……ありがとうな、まゆり。そして……すまない」

まゆり「え?」

岡部「俺は、俺ひとりで何もかも背負っていると勘違いしてた。本当にバカだった。お前も含めて、まわりにはたくさんのラボメンたちがいるのにな」

岡部「あの時だって……それに頼ればよかったのにな……」

岡部「だから……今からでも頼らせてもらう。“ラボメンナンバー002”としての任務……お前に……まかせた」

鈴羽「オカリンおじさん。かがりの事―――頼んでいい?」

岡部「ああ。俺たちのラボには、新しいメンバーが加わる―――というか、たとえいやがっても絶対に加える予定だ。彼女は脳科学が専門だからな、きっと、この人も治せるだろう」

鈴羽「あっと、いけない! 忘れるところだった! オカリンおじさん! ハードディスク!」

岡部「でもパスワードがわからないんだ!」

鈴羽「あー、そんな暗号化ソフトね。2036年の量子コンピューターの前にはザルだったよ」

鈴羽「じゃあ、行くよ、まゆねえさん!」

まゆり「オカリン! あのね! まゆしぃは、その……オカリンの事が……大好きです!」

岡部「…………フ……。フフ……フフフ……フゥーハハハ! いいか、椎名まゆり! 貴様は永遠に俺の人質なのだ! この程度の事で逃げられると思うなよ! 時空の果てであろうとどこまでも追いかけてやるから、そのつもりでいるがいい! フゥーハハハハハ!」

まゆり「うん! 待ってるからね! 絶対に迎えに来てね!! 絶対だよ!」

フェイリス「はい、これでバッチリだニャ」

岡部「よし。後は、Dメールと一緒に過去へ送信。ルカ子、送り先とタイミングを間違えるなよ?」

るか「は、はい! 今のは凶真さんの携帯へ。橋田さんのムービーメールは鈴羽さんへ、ですね」

岡部「これでシュタインズゲートへの道筋はついた。“今の俺”にできるのはここまでだ。あとは2010年の俺次第といったところかな」

岡部「俺は、今年で死ぬものだとずっと思い込んで来た。けどな―――それは、必ずしも死の必然とは限らないんじゃないか? つまり、2025年に俺が『この世を去る』というのは、別に死ぬわけじゃなくて……記念すべきタイムマシン初号機に乗り、無事に別の時空間へ旅立つことなんじゃないか、ってことさ」

クリス「……も、ものすごいポジティブシンキングだわ……」

岡部「おい、ダル? 例の装置はうまく作動しそうか?」

ダル「カー・ブラックホールのトレーサー? うん、いけると思う」

岡部「この装置であれば、カー・ブラックホールが作り出した時空の歪みの“連続”を、最大7000万年前の過去から未来にいたるまでトレース出来る!! いわば“タイムマシンの軌跡を追跡するレーダー”なのだ!」

岡部「俺は、約束したからな。逃げた人質を必ず捕まえに行くって。シュタインズゲートを目指すのが“2010年の俺”の仕事なら……旅に出たきり戻らない不届きな人質と不良娘を送り返すのが、“この俺”の仕事だからな」

岡部「よし! 全員下がれ! オペレーションを開始する。計画名は―――“彦星作戦<オペレーション・アルタイル>”!」



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D 1.130210%
2010.08.21 (Sat) 17:56
秋葉原タイムスタワー 秋葉家


――――――くっ、俺は軽いめまいで済んだが、ハルヒ!!!」

――――――ハァ……ハァ……ぐッ!!!」

みくる「涼宮さぁぁん!!! 鼻血がっ!!!」

古泉「意識はあるようですね……、ご気分はいかがですか?」

ハルヒ「ハァ……最悪よ、ブラウンシュガー使ってダウナーになってる気分……」

キョン(未来視は一種の幻覚だからな……)

ハルヒ「それに、未来で“なかったこと”になったはずの記憶まで飛び込んで来たわ……どうなってるのこれ……」

キョン(まだ進化していくのかよ……! いい加減にしろ……、これ以上ハルヒを苦しめないでくれ……!)

フェイリス「お布団敷いてあるから、ここで横になってニャ!」

長門「脳内の化学物質バランスを正常に近づける」スッ

みくる「お、お水です! 飲んでください!」

ハルヒ「……みんな、ありがと。2回目とは言え、慣れるもんじゃないわね……」


ダル『もう帰ってきたお! まだ1分も経ってないのに……』


キョン「くそっ、時間は待ってはくれないか! 長門、古泉にリーディングシュタイナーを!」

長門「既に」

キョン(そうか、この世界線の俺たちの記憶は改変前とほとんど差が無いのか)

古泉「涼宮さん、あなたが見た記憶を忘れないよう強く心の中で願ってください。同時に、次に世界線変動が起こった場合、二度と未来視をしないよう願ってください」

ハルヒ「で、でも……」

古泉「これ以上の未来視は危険です。ここまで来たからにはおそらくシュタインズゲートへは一本道。それよりもあなたの生命を優先すべきだ」

ハルヒ「う、うん……わかった……」


岡部『オレガクリスヲコロシタ……オレガクリスヲコロシタ……』

鈴羽『おじさん、つらいだろうけど、まだ諦めちゃだめ。もう一度過去に戻るだけの燃料は残って……』

岡部『うるさいッ!!!!』

岡部『どうせまた行っても同じだ!! アトラクタフィールドの収束によって紅莉栖は死んでしまうんだ……』


ハルヒ「倫太郎……、がんばんなさいよ……。あんたは、色んな世界の、色んな人に支えられてるんだから……」

2010.08.21 (Sat) 18:12


ブー ブー ブー


キョン(一瞬静まり返ったその時、ケータイのバイブ音が関係者全員の耳朶を打った)


まゆり『あ、オカリンのケータイだ』

ダル『メール?』

鈴羽『開けて。いいから』

まゆり『……テレビを見ろ?』

ダル『テレビ……?』


古泉「黒木さん、テレビをつけてください」

黒木「了解です」ピッ


キャスター『……中鉢博士を乗せた飛行機は、貨物室に火災を起こしながらも、かろうじて亡命先のロシアに着陸した模様です』

章一『それにしても助かったよ。これが金属探知機にかかったおかげで論文が焼けずに済んだのだ』


キョン「あ、あれは……!!」

ハルヒ「う~ぱ!!」

みくる「あ、あそこ!! 『まゆしぃの』って平仮名で書いてあります!!」

古泉「“テレビを見ろ”というDメール、そして椎名さんのメタルう~ぱが金属探知機に引っかかったという情報……。なるほど、時限爆弾はプラスチック製のう~ぱガチャでしたか」

キョン「……お前の洞察力は日進月歩しているらしいな」

古泉「具体的な収束事項がわからないのでなんとも言えませんが、間違いなくプラスチック製のう~ぱをあの論文の入った封筒に忍ばせることが、最終的にシュタインズゲートへと到達するための決定的な鍵となるはずです」

キョン「それがあの世界外記憶領域で牧瀬さんが見つけたはずの、鍵……!!」

古泉「それだけではありません。確かに牧瀬さんが見つけたのはう~ぱだったと思いますが、それにまつわる具体的な収束と非収束事項の関係。いわゆる、“抜け穴”をも見つけているはず」

キョン「そしてそれは無意識野に刻印される……!!」


岡部『……無理だよ。まゆりの時と同じなんだ。紅莉栖は死ぬんだ』

鈴羽『どうして!? たった1回の失敗で!!』

岡部『1回ッ!?……馬鹿言うな。ッ俺が何回!? 何十回失敗したと思ってる!?』


ハルヒ「……ッ!!」


――――――――


真帆『何回も、何十回も、何百回も失敗した? はっ、なにかしらそれ? そんなの科学の世界では当たり前の事よ。それで失敗したのなら、何千回も、何万回も、何億回も挑戦すればいい。そうすれば、必ずそこに解法は見つかる』

真帆『“挑戦するのを諦めたら終わり。そうしたら永遠に勝つ事は出来ない”ってね』

真帆『……最後には絶対に負けないわ。自分の足で必ず立ち上がる』

真帆『―――そうでしょう? 岡部倫太郎さん?』


――――――――

キョン「だ、大丈夫かハルヒ!?」

ハルヒ「ハ、ハァ……一応、大じょ、じょぶ、あれ、ろれちゅが、あれぇ……」

みくる「す、涼宮さぁん!!」

フェイリス「ハルヒッ!!」

キョン(ダメだ、これ以上は限界だ!! どう見ても脳機能に異常をきたしている!!)

キョン「長門!! ハルヒの未来視を消してくれ!! 古泉、いいな!?」

古泉「了解です!」

長門「対象の世界外機能情報連結機能を限定する」スッ


岡部『わかっていた……わかっていたんだ、こうなるって……』

岡部『もう疲れた……もう、いいよ……』


まゆり『……オカリンッ!!!』


  パァァァァン!!


長門「7MU2Et9HuKfPz4ifIT3CBSkeqxLsE――――――――――

キョン「マユシィのビンタがさく裂し――――――――――――

ハルヒ「くっ―――――――――――

D 1.130212%
2010.08.21 (Sat) 18:14
秋葉原タイムスタワー 秋葉家


――――――――!? また世界線が変動した!? しまった、長門の詠唱が中途半端に!!」

――――――ッ!? あ、あれ、頭が、あんまり痛くない……」

みくる「涼宮さぁん!! ウグッ……ヒグッ……」

フェイリス「ハルニャン、大丈夫そうかニャ?」

ハルヒ「え、ええ。平気みたい」

古泉「よしッ!」グッ

ハルヒ「こ、古泉くんがガッツポーズを……」

古泉「……おっと、失礼しました。興奮のあまり、つい」ニコ

キョン「お前、既に記憶を?」

古泉「いえ、ほとんど記憶の齟齬が無いようです。僕よりも今は岡部さんたちを」


まゆり『……オカリンは途中で諦める人じゃないよ。オカリンは絶対諦める人じゃない』

まゆり『まゆしぃがお婆ちゃんとさよならできずにいた時も、諦めないで毎日お墓に来てくれた……』

まゆり『だから、諦めちゃだめだよ……』


古泉「これで2回目救出のフラグが立ったはずです。100%とは言い切れませんが、いえ、ここは100%と言い切らせていただきましょう!」

キョン「落ち着け、クールになれ」

古泉「涼宮さん、体調が良さそうで何よりです。未来視が消えたようですね」

ハルヒ「あ、ホントだ。でも記憶はちゃんと残ってるわ」

キョン(長門、助かったぜ……。あるいはハルヒ自身の能力で、自分の能力を打ち消したのかもな。本物のスーパーウーマンに進化する日も近そうだ)

古泉「では、涼宮さんは前の前の世界線、β2世界線での未来を教えてください。長門さんは僕に一応リーディングシュタイナーを発動させてください。同時に僕は例の図を書き足していきます。ふふふ、いよいよゴールが見えてきましたね」

ハルヒ「わかったわ。えっとね……」

長門「わかった」


プルルルル プルルルル

キョン「ん、俺に電話だ。……国木田から?」ピッ

鶴屋『もっしー、キョンくん、っかな? 今秋葉原駅に着いたんだけどっ、この後はどうすればいいんだいっ?』

キョン「は……? え、えっと、鶴屋さん、今秋葉原に居るんですか?」

鶴屋『国木田くんのケータイにそういうメールを送ったのは君っさ! 少年、自分の発言には責任を持つにょろよ!』

キョン(受話器の遠くから国木田の声がかすかに聞こえる……。そう言えば俺は鶴屋さんのケータイの番号やアドレスを知らないんだった)

キョン「い、今すぐ行きますので、電気街口改札で待っててください」ピッ

キョン「すまん、みんな。俺ちょっと鶴屋さんと国木田を迎えに行ってくる」

ハルヒ「なんでその2人が?」ポカン

古泉「こちらはこちらでお任せ下さい」

鈴羽『7月28日に、ムービーメールが来ていたはず。今なら見れるはず、牧瀬紅莉栖の救出に一度失敗した今なら』


ハルヒ「そっか、この鈴羽さんがβ2出身の鈴羽Eさんだとしたら、自分が7歳の時に実際に岡部さんがこのムービーDメールを録画、送信するところをその目で見てたってことになるわね」

古泉「すいません、まだ図が描き終わらず……。完成次第、また確認をお願いします」


岡部『……どういうことだ』

鈴羽『騙してごめん。一度救出に失敗するのは計画のうちだったんだ。おじさんがソレを見るための』


古泉「新川さん、映像をこちらに送れますか?」

新川『やれるだけやってみましょう……ザーザー』

古泉「みなさん、こちらのモニターをご覧ください」

フェイリス「……ニャニャ!? これは、未来の凶真!?」

みくる「そんな、未来の自分と対峙するなんて……」


執念オカリン『初めましてだな、15年前の俺』

執念オカリン『このメールを開いているということは紅莉栖を救うことに失敗したといういことだな』

執念オカリン『さぞつらかっただろう』


古泉「このメールが見れるということは、いよいよここがシュタインズゲート前の世界線。そして、織姫の願いが叶う世界線だということです……!」


 だが、そのつらさが俺に執念を与えた。

 だから、無かったことにするわけにはいかなかった。

 いわば、下拵えのようなものだな。

 これでやっと計画の本題に入ることができる。

 牧瀬紅莉栖を救い、シュタインズゲートに入る計画だ。

 条件は2つ。

 中鉢博士がロシアに持ち込んだタイムマシンに関する論文をこの世から葬り去ること。

 もう1つは、牧瀬紅莉栖を救うことだ。

 だが、牧瀬紅莉栖の死を回避し過去を改変するのは、アトラクタフィールドの収束により不可能。そうだな?

 はっきり言おう。紅莉栖を救うことは可能だ。方法が間違っているだけなのだ。

 いいか、よく聞け。確定した過去を変えてはいけない。

 最初のお前自身が見たことをなかったことにしてはならない。

 なかったことにすれば、過去改変が起こり、全てが失われる。


 お前がα世界線で経験したことを思い出せ。

 わずか3週間だったが、お前には、牧瀬紅莉栖と過ごした記憶があるはず。

 紅莉栖と共に、まゆりを救うため、多くの思いを犠牲にし、もがき続けた経験が存在しているはずだ。

 お前の、3週間の世界線漂流を無駄にしてはならない。

 なかったことにしてはいけない。

 いくつもの世界線を旅してきたからこそ、紅莉栖を助けたいと思うお前がそこにいる。

 タイムマシン開発にすべてを捧げた俺がいる。

 お前が立っているその場所は、俺たちが、紅莉栖を助けたいと願ったからこそ、到達できた場所なんだ。

 だから、騙せ。お前自身を。

 紅莉栖が死んだという過去を変えずに彼女を救え。

 生きている紅莉栖を過去の自分に死んだと観測させろ。

 そうすれば、過去改変は起きない。


ハルヒ「ま、待って。このムービーメールは、あたしの未来視で見たものそのものだわ」

ハルヒ「どういうこと? 確定世界の世界線、黄色の水性ペンは移動したんじゃないの?」

古泉「あるいは、β2世界線で発生した未来の事象が現在世界線も含めた2025年までの収束となった、ということでしょうか」

古泉「元々2025年にDメールを岡部さんが送信すること自体はβ世界線およびα世界線の大収束でした。しかし、β2世界線での改変によって、それがノイズまみれムービーではなく、確認可能な動画データとして受信されることが収束となった」

ハルヒ「改変の影響は改変後の世界に引き継がれる。それは因果という形になっても、だったっけ」

ハルヒ「でもね、β2世界線は、2010年の年末年始と、2011年7月7日に世界線が変動していたから、2025年にはβ2世界線からズレてるはず」

古泉「なるほど……その数度の世界改変によって現在世界線の未来と連結してしまった、のかもしれません」

ハルヒ「未来の可能性世界線の岡部倫太郎が世界線移動したってことね。……ってことは、あたしが視た2025年の未来視は、この世界線の未来と同一ってこと?」

古泉「その場合、完全な意味での“未来視”を達成されていることになりますね」ンフ

ハルヒ「……確かにすごい能力だけど、頭がおかしくなるなら要らないわ」

古泉「あのムービーDメールは現在世界線の7月28日12時26分に受信されていたはずです。ですが、受信時の岡部さん、すなわちα世界線へと飛び立つ前の最初の岡部さんにとってそれは理解不能なものだった、あるいはそもそもムービーを見なかった」

古泉「可能性世界線としての現在世界線上の岡部さん、すなわち7月28日にリーディングシュタイナーを発動しなかったと仮定される存在の岡部さんも同様にメールを理解しなかった。まあ、この岡部さんはDメールと縁もゆかりもない岡部さんですからね」

古泉「現在世界線上の8月17日にα世界線から飛んできた岡部さんも同様であり、鈴羽Fさんと共に1回目の牧瀬さん救出にあたってはムービーDメールが活用されることはなかった。もちろんこの岡部さんも我々からしたら可能性世界の住人ですから、あまり議論する意味はありませんが」

ハルヒ「都合のいい話だけど、それが因果を作るってことなのよね」

まゆり『どういうこと?』

ダル『オカリンわかるん?』

執念オカリン『お前ならわかるはずだ。ちなみにタイムマシンの形式は、C204型。頭文字が何を意味するか、言うまでもないな』

岡部『……クリスティーナ』

執念オカリン『そして目的の世界線を、“シュタインズゲート”と名付けたのも俺だ。何故その名なのかも、お前ならわかるはずだ』

岡部&執念オカリン『『特に、意味はない』』

岡部『……!!』



執念オカリン『これより最終ミッション、未来を司る女神作戦<オペレーション・スクルド>の概要を説明する』




 確定した過去を変えずに、結果を変えろ。


 血まみれで倒れている牧瀬紅莉栖と、それを見た岡部倫太郎。


 その確定した過去を変えずに結果を変えるのだ。




 最初のお前を騙せ。   世界を騙せ。




 それが……、シュタインズ・ゲートに到達するための条件だ。




 健闘を祈る。   エル・プサイ・コングルゥ。

フェイリス「……2025年になっても、凶真は凶真だったニャ。これって、喜んだほうがいいニャ?」

古泉「いくつになっても童心を失うことがないのは、天才的研究者に共通している事項かも知れませんね」

ハルヒ「子供は神の子である、ってやつかしら」

古泉「全知全能にして無謬の名をほしいままにする神が世界を創造したとするなら、それを凌駕するものは理屈の通じない無邪気なのかもしれません」

ハルヒ「―――ッ!」


――――――――


岡部「その摂理は“神”が作ったものなんだよ。それに人間が挑むなんて無謀だったんだ。なのに、俺はそれに何回も、何十回も、何百回も挑んで……全てが失敗に終わった。無駄だったんだ。“神”は決してそれを許さない」

真帆「……そうね。私も、科学に身を捧げる者ではあるけれど、決して“神”を侮ったりはしない」

真帆「けどね、あんたがさかんに口にする“神”は―――それとは全く違う」

真帆「“世界の摂理”ですって? ふんっ。そんなものは、ただこの世界を構築している“数式”に過ぎないわ。“神”なんて立派なものは介在していないし、私たちに解が導けない道理はないのよ」

真帆「今のあなた、心の奥の奥では、まだリベンジする気でいるんだわ。自分をこんな惨めな男へと貶めたシュタインズゲートに」

岡部「ち、違う!」

真帆「あなたってね、ほんと、私にそっくり。強情で、一度言い出したら聞かなくて、自分が間違ったと分かっても、それを絶対に認めたくなくて子どもみたいに拗ねて、誰かに心配や迷惑ばかりかける」

真帆「……だから、必ず見つけてやるわ。“神”なんて介在しないただの数式を解く鍵を。そうして、まゆりさんが死なない……紅莉栖も生きている“狭間の世界線”に続く道へとたどり着いてやる」


――――――――


みくる「涼宮さん、タオルを当ててください」

ハルヒ「ありがと……。今はこの痛みが気持ちいいくらいよ……!」

古泉(進化したリーディングシュタイナー……、完全に消滅したわけではなさそうですね)

岡部『……ハハハハ、フフフフ……』

岡部『33にもなって何をやっているんだ俺は!! まるで厨二病全開じゃないか!!』

岡部『……やってやる。それが運命石の扉<シュタインズゲート>の選択というならばな』

岡部『俺は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真ッ!! 世界を騙すなど、造作もないッ!! フゥーハハハ!!』

ダル『おぉ、いつものオカリンに戻った』

まゆり『……でもねぇ、まゆしぃは“こっちの”オカリンのほうが好きなのです!』

岡部『敢えてもう一度言おう!! この俺は、狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真ッ!!』

岡部『世界は、この俺の手の中にあるッ!!!』


古泉「……どうやらラボへと向かったようですね」

フェイリス「ニャニャーッ!! フェイリスも凶真のこと応援しに行くニャー!!」

長門「わたしもマシンの整備に向かう」

みくる「あ、あたしは、涼宮さんが心配で……」

ハルヒ「みくるちゃんにはあたし専属ナースを任命するわ!」

みくる「は、はいぃっ!」


・・・

ハルヒ「……今話したのが、β2の未来の全てよ。今回は2025年までしか見れなかった」

ハルヒ「それで、β3の1分間に存在した鈴羽Cさんは……」

古泉「バッテリーの換装は対応できなかったでしょうから、2025年時点での岡部さんによる消えたマシンの救出、オペレーション・アルタイルが成功することを祈るしかできません。β2世界線の2030年代にも、きっとまゆりさんの姿はありますよ」

ハルヒ「うん……」

みくる「あまり思いつめないでください……」

古泉「……涼宮さん。僕らが現在世界線にいる時点で彼女は再構成されている、と考えることもできます。現在世界線上に鈴羽Cさんは存在しませんからね」

ハルヒ「……それは詭弁よ。でも、ありがとう」

古泉「……β2世界線の未来での世界線変動を省略すると、図はこういう風になっていくと思われます」

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira087222.jpg

ハルヒ「もしかしたらβ2の2011年以降で、β3やβ4と同一、あるいは合体してるかもって言ってたわよね」

古泉「分岐の反対、収束が発生している可能性もあります。ただ、それは因果が収束しただけで、世界の中身はそれぞれ別物かも知れません」

古泉「β1の未来とβ2の未来との違いは例のハードディスクの入手が大きかったのでしょう。それによってラボの研究が有利に進んだ」

古泉「ちなみに鈴羽Cさんの話では比屋定さんは鈴羽Cさんの出身世界線で既にラボの仲間だったようですね。2010年に岡部さんたちと出会うかどうかはわかりませんが……」

古泉「機関によるテニサー勧誘工作もそれなりに意味はあったと思いますが、β1からβ2へと世界線が変動した最大の要因は、鈴羽さんが由季さんと出会い、抱き合い、そして仲間を信じる心を手に入れたこと……だったのでしょう」

ハルヒ「それから母を思う子の心……。かがりちゃんの、卑劣な洗脳に負けなかった本当の気持ちが、世界を変えたんだと思うわ」

ハルヒ「オーケー。そうなると、β2の未来の岡部さんたちの努力の結果には、計り知れないものがあるわね……」

古泉「全世界線の記憶を解剖すれば、そこには人類の想像を絶する“想い”の結晶が隠されているのかもしれませんね」

ハルヒ「……それで、この紫の、鈴羽Eさんが今ラジ館屋上に居る鈴羽ね。ということは、このβ5世界線っていうのが、シュタインズゲート……?」

古泉「いえ、β5はあくまでβ世界線。2回目救出によって7月28日の昼頃において牧瀬さんが刺殺されない世界線です」

古泉「論文焼失との間には時間にして24日分のズレがありますからね、まずこの世界線が成立しないとおかしい」

古泉「ですが、牧瀬さんの命が助かったこの世界線もβ世界線ですから、第三次世界大戦は起こる上、牧瀬さんの死も収束している世界線だと思われます。……涼宮さん、体調は」

ハルヒ「……続けて」

古泉「ありがとうございます。つまり、岡部さんはβ5という世界線を経験せずに世界線を変動させることでシュタインズゲートへと到着する。しなければならない」

ハルヒ「……時限爆弾」

古泉「そうです。β5世界線に時限爆弾を仕掛ければいいのです」

古泉「航空機火災は先ほど僕らが確認したように既に起きた事象。そして岡部さんはまだ2回目救出に出発していない」

古泉「岡部さんが2回目救出に成功した後、戻ってくるのは、おそらく出発の1分後。そうでなかったとしても、飛行機で実際に火災が発生した後の時刻のはずです」

古泉「そもそもどうして鈴羽さんは、ひいては未来の岡部さんと橋田さんは、タイムマシンによる第1回救出への出発地点を8月21日に設定したのか」

古泉「これはやはり、1回目の帰還が中鉢博士の亡命ニュースが流れるタイミングであり、かつ論文の焼失後に2回目に飛び立つ必要があったから、なのでしょう」

古泉「そして、涼宮さんもご存じの通り、より長い日数のタイムトラベルをすればするほどマシン内での経過時間は長くなる。すなわち、マシンの移動距離と実時間経過は比例関係にある。ここから導き出される結論は……」

ハルヒ「……論文の消失、つまり世界線変動は、倫太郎がタイムマシンに乗っている時に発生するってことね!」

古泉「そうです。これによって牧瀬さんの猫状態はシュタインズゲートへと世界が改変されるその時点まで維持される。β5の世界線を観測しないことによって」

古泉「ですから、シュタインズゲート―――ここではSGと表記します―――へはこのように移動するかと」

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira087223.jpg

古泉「僕らがシュタインズゲートへと再構成されるタイミングは、β5世界線において論文が焼失するタイミングとなります」

古泉「図では岡部さんが飛び立った後に世界線がSGへと改変されているように描いてしまっていますが、実際には岡部さんが飛び立った瞬間、リーディングシュタイナー保有者は世界線が改変されるように感じるはずです」

ハルヒ「β´での過去改変の時と同じ状況ね」

古泉「ただ、この方法で本当に牧瀬さんが猫状態から生存状態へと確定変化するのかは些か疑問が残りますが……」

ハルヒ「ちょっと待って。SGの過去方向に居る、鈴羽Gさんと鈴羽Hさんの鈴羽たちはどこへ行っちゃうの?」

古泉「そこは可能性世界線なので推測でしかありませんが、そのまま向こう側のβ世界線へと行くのかも知れませんね」

ハルヒ「そんな……」

古泉「SG出身の岡部さんは鈴羽Hさんに連れられて、β5出身の岡部さんはSGを通過するので、鈴羽Fさんと共にSGに到着する岡部さんはSG出身の岡部さんと鉢合わせることがない」

古泉「何度も言いますが、可能性世界線の話ですから、そのような因果だけが残っていて、実際に発生している現象は全く別のものかもしれません」

ハルヒ「でも、最終的にシュタインズゲートに存在できる鈴羽は、シュタインズゲート出身の鈴羽だけ……」

古泉「便宜上アルファベットを振り分けていますが、僕たちがシュタインズゲートに到着した瞬間、αおよびβの因果が消滅するのであれば、鈴羽Fさん同様、鈴羽Gさんと鈴羽Hさんは“なかったことになる”。シュタインズゲートへと再構成されるはずです」

ハルヒ「そ、そっか。なら、うん。わかった……」

ハルヒ「それから、このβ5の2000年問題を解決するのは誰なの?」

古泉「鈴羽Hさんかと。鈴羽Hさんの1998年到着等によってこのオレンジ色の過去世界線はβ5からわずかにずれた世界線となるかもしれませんが、2000年が全収束の年だと言うならβ5、およびシュタインズゲートにおける2000年問題を解決することは可能なはずです」

ハルヒ「もう一つおかしい点があるわ。β3にいる鈴羽Dさんが、β4へと現れる。これは古泉くんの推測ね?」

古泉「さすが涼宮さん。これは僕の完全な妄想です。実はβ3上のオレンジ色鈴羽Dさんは2010年8月21日に戻ってくる必要は無い」

ハルヒ「やっぱり。そうじゃないとβ5やSGにおいても、例の1分間にタイムマシンが現れないとおかしい」

古泉「そうです。β4以降は、椎名さんが岡部さんにビンタをする、という事象が確定しますからね」

ハルヒ「因果としてそうなるのはわかるけど、具体的にどうしたらそうなるのかがちょっとわからないわ」

古泉「簡単ですよ。β4以降のリーディングシュタイナー保有者のだれか、具体的に言えば彼か涼宮さんか岡部さんはビンタの事実を知っている。これを未来の椎名さんに教えてあげてもあげなくても、とにかく過去の椎名さんにビンタするようDメールを送ればいい」

ハルヒ「あ、そっか……」

古泉「SGではもっと違う形になっているでしょうが、2回目救出へ向かう因果は残っているはずですから、鈴羽Gさんも2回目救出フライトへと飛び立ちます。と言っても、僕らがシュタインズゲートを観測した時点でそれもなかったことになり、再構成されるわけですが」

ハルヒ「この辺はキョンに話しても通じ無さそうね」

古泉「今頃彼は鶴屋さんたちと合流しているのでしょうか。しかし、一体なぜ鶴屋さんが……」

2010.08.21 (Sat) 18:55
秋葉原駅 電気街口


鶴屋「おっ、いたいた~っ!! こんなところで会うなんて、めがっさ奇遇っだねっ!」

キョン(そこにはもやは有難味を感じてしまうほどの天衣無縫なご令嬢が居た)

国木田「やぁキョン。どうやらSOS団の夏休みはかなり充実していたようだね、ちょっと会ってなかっただけで随分見違えたよ」

キョン(かつて国木田は爆弾発言を俺に投下したのだった。『僕は鶴屋さんが好きだったから北高に入学したのだ』、と。多少記憶が改ざんされているとしたらそれは洗脳マシンによる陰謀だろう)

キョン(新幹線で来たのか、あるいは鶴屋家の黒塗りカーで来たのか。どっちにしても国木田的にはウハウハな展開だったわけだ)

キョン「それで、2人はどうしてここに?」

鶴屋「どうしてもこうしてもないっさっ! キョンくんがこの国木田少年に頼んだろっ?」

国木田「なんだか様子がおかしいね。このメールに見覚えない?」

キョン「メール……?」


 [Date]8/21 09:31 [From] (sg-epk@itk93.x29.jp)
 [Sub]        [Temp]
 [Main]俺だ。国木田、悪いが鶴屋さんに次の事を伝えて欲しい。以前鶴屋山で発見したオーパーツを秋葉原に持って来て欲しい、と。詳しくは秋葉原で話す。



キョン(……これを本当に未来の俺が送ったのか? だが、オーパーツのことを知っているのは、俺と鶴屋さんぐらいのもんだからな……)

キョン「ということは、例のブツを?」

国木田「これだよ」スッ

キョン(国木田のショルダーバッグの中から、コレクターズケースに入ったソレが出てきた)

キョン(久しぶりに見るなこれ……。チタニウムとセシウムの合金。10cmほどの金属棒、表面に基盤のような線が蜘蛛の巣のように描かれている)

キョン「ふむ……。これが今ここにあるということは、そういうことだよな……」

※以下濃厚な国木田スレ(希望)
1時間ほど離席します

キョン「国木田。実はお前は、女の子だったんだよ!!!」

国木田「……ひどいよ、キョン」

キョン「待て、聞いてくれ!! 確かにお前はβ世界線においては男だ。それはかつて俺が体育の時間に確認したから間違いない」

キョン「だが、α世界線では女の子だった可能性がゼロではないんだ。なぜなら、俺がそれを観測していないからな」

国木田「それで、僕をどうするつもり?」

キョン「この金属棒をお前のケツの穴に突き刺す必要がある」

国木田「えっ」

キョン「この棒はきっとお前を女の子に戻してくれる! 世界の存続がかかってるんだ! 急いでくれ!」

国木田「わ、わかったよ。今パンツを脱ぐね」

鶴屋「おおーっ」

キョン「よし、そのままケツをこっちに突き出せ」

国木田「う、うん……」

ブスリッ

国木田「こ、これは……!?」

>>253 から再開します

2010.08.21 (Sat) 19:05
ラジ館屋上


国木田「ちょっと、勝手に屋上に入って大丈夫なの?」

キョン(そうか、未来の俺がこの2人を呼んだ理由がわかったぞ。国木田は以前俺にこんなことを言ったんだ)


国木田『SOS団でまた僕の活動が必要なときはいつでも声をかけて欲しいね。できれば鶴屋さんと一緒がいいな』


キョン(つまり俺はこの純真無垢な少年のしたたかな下心を満足させてやったということだ。あるいは、これが未来にとって必要な因果なのかも知れん)

鶴屋「ふっふー、実はあたしの知り合いちゃんが屋上を借り切ってっから問題ないっのさっ」

キョン(ちょっと聞いてみたくはあるが、藪蛇一直線なのでこの件は次の世界線にお預けしておこう)

キョン「居た居た。鈴羽さん、ちょっと見てもらいたいものが」

鈴羽「あぁ、君か……。そちらは、SOS団?」

国木田「補欠、ってところです。正規メンバーではないですね」

鶴屋「あたしはれっきとした名誉顧問だよっ!」

鈴羽「……まぁいいけど。それで、どうしたの? おじさんたちならスタンガン買いに行ったけど」

キョン「実は、ちょっと見てほしいものが……」スッ

鈴羽「ん……? これは……、なんだろう?」

長門「それは人工ギガロマニアックス。思考盗撮、洗脳、誘導マシン。通称、ノア。ヴィクトル・コンドリア大学精神生理学研究所が開発したVR技術を応用し、大量の人間に同時的に幻覚を見せ、意思をコントロールする研究の産物」

キョン「な、なんだそりゃ……。てか、ここでもヴィクコンなのか……」

国木田「なんだがアニメの“哀ソード”みたいな話だね」

鶴屋「VR技術ってーと、たしか1997年にアメリカの大統領が行政命令とか保護法案強化とかしたやつだったかなっ?」

キョン(長門は相変わらずマシンの整備をステルスモードで手伝っていたらしい。隠れる必要もないと思うが、まあ色々説明が面倒だからな)

鶴屋「って、ゆきんこ! なんだかちょっと大人になったっぽいねっ」

長門「それほどでも」

鈴羽「ノア……聞いたことがある。たしか2009年に起きた渋谷崩壊、ニュージェネ事件の真犯人だって父さんが言ってた。研究に関しては、たしかダヴィストック研究所のプロジェクト・ノアがどうとか言ってた気がする」

鶴屋「希テクノロジーのアレだねっ。あんまり大きな声じゃ言えないけどっさっ」

キョン「そんなもんをどうして300年前、鶴屋房右衛門さんが持ってたんだ」

長門「これは超小型端末。この世界線上のはるか未来で作られたもの」

キョン(ってことは、朝比奈さん系の時間平面理論による物理的タイムトラベルで飛ばされてきたのか……?)

キョン「それで、これは何のためにここにある」

長門「岡部倫太郎の妄想力によってリアルブートするためと思われる」

キョン「リアルブートってなんだ?」

長門「ノア使用者が考えている妄想を周囲の人間に認識できる形に変換する能力。岡部倫太郎の妄想力ならば、存在しないはずの物を現実化させるだけでなく、形而上のモノを創り出すことができるレベル」

鶴屋「それって、運命とか概念とか魂とかに干渉できるってことかい?」

長門「そう」

キョン「収束に干渉できる、ってことか……?」

鈴羽「……そうか! そういうことか……、わかったよッ!!」

鈴羽「これから行く牧瀬紅莉栖の救出に成功したとして、牧瀬紅莉栖の生存は8月21日までシュレーディンガーの猫状態になってる。だからこれはちょっとしたギャンブルだったんだ」

キョン(そうだった、そう言えば古泉もここに問題があるのだと言っていた。そうか、これを解決するためのアイテムとして使えってことか)

鈴羽「だけど、おじさんの妄想力ならッ! 自分は世界を救う救世主なんだという強烈な自己暗示があればッ! 孤独の観測者というダークヒーローだと盲信しているならッ!」

鈴羽「そして、自分は牧瀬紅莉栖を救ったんだという確かな認識が生まれれば……ッ! 牧瀬紅莉栖の生存を世界線変動時点まで確定できる!」

鈴羽「神の創り出した理論に、干渉できるッ!!」

キョン(β´世界線の時はそもそもハルヒがβ´とかいうイミフなものを作ってそれを利用した上に願望実現能力で収束を真正面からぶん殴ったんだった。それと似たようなことをやってやろうってわけだな)

鈴羽「このサイズだったら、さっきオカリンおじさんが持ってきたサイリウムセイバーの柄のところに忍ばせれば問題なさそうだね……!」

国木田「たぶん、自己暗示が重要になるならこの仕掛けは正体をバラさないほうがいいだろうね。そのほうが強く自己暗示できるはずだ」

鶴屋「プラセボ効果、ってやつだねっ! 小麦粉だよって言って風邪を治す人はいないっさ」

キョン(というかこの能天気2人組はこの状況下でどうしてここまですんなり話題に入って来れてるんだか)

鈴羽「こんなものがどうしてここに……。ううん、きっとそういう風になるように動いたんだね」

キョン(世界が、時間が、因果が。あるいは、俺たちの未来が)

鈴羽「ありがとう、SOS団。遠慮なく使わせてもらうよ」

鶴屋「どうぞどうぞっ。使い道が見つかって、房右衛門爺さんも喜んでるはずっさっ!」

鈴羽「そうだ、お礼ってわけじゃないんだけど……、君にIBN5100を渡すように未来の涼宮ハルヒから言われてたんだ。さっきユキねえさんに直してもらうように頼んだんだけど」

長門「もう直っている」

キョン「ここにきてIBN5100……?」

国木田「幻のレトロPCか。たしか、ジョン・タイターが未来に重要なアイテムだって言ってたね」

鶴屋「そう言えばハルにゃんが今回の東京大遠征の目的がソレだって言ってたっけっ」

鈴羽「「ちょっと重いけど、持てる?」ウンショ

長門「わたしが後で配送しておく」

キョン「あぁ。頼むぜ、長門」

国木田「それで、僕たちの役目は達成されたのかな?」

キョン「そういうことだろうな。まあ、せっかく東京くんだりまで来たんだ。取りあえずハルヒ団長に挨拶ぐらいしていけよ」

鶴屋「もうこんな時間だからねっ。古泉くんには宿、貸してもらうようにさっき伝えといたよっ」

国木田「なんだか悪いね。それで、涼宮さんはいまどこに?」

キョン「あのタワーマンションの最上階で文字通り高みの見物をされてらっしゃる。さ、岡部さんたちが来る前にずらかろうぜ」

2010.08.21 (Sat) 19:42
秋葉原タイムスタワー 秋葉家


古泉「日もとっぷり暮れましたね。いよいよラストミッションです」

キョン「しかしまあすごい家だ。SOS団の5人、家主のフェイリスさんと執事の黒木さん、それに珍客の2人を加えても全然狭苦しさを感じさせない」

フェイリス「凶真たちを応援して帰ってきたら家に鶴ちゃんが居た……。ニャにを言ってるかわからニャーと思うが、以下略」

鶴屋「るみにゃんっ! ひっさしぶりだねっ!」

フェイリス「そ、その名前で呼ぶのはやめるニャ! フェイリスは、フェイリスニャ!」

鶴屋「それでるみにゃん。今度の出資の件はどうすればいいっかなっ?」

フェイリス「し、仕事の話は今はやめるニャ!!」

鶴屋「そういやっ、地球から57万光年離れてるっていうチンチラ星出身のお兄さんは見つかったのっかなっ?」ニヤニヤ

フェイリス「ニャニャニャァ~~!!」

鶴屋「あははっ!! やっぱし、るみにゃんはいじってなんぼっさね!」バンバン!! ヒーッ!ヒーッ!

キョン(一体なにが愉快だったのか、腹をゆすって哄笑してらっしゃる。だが彼女の行動は決して軽佻浮薄なものではなく、計算づくのような気がしてならない)

フェイリス「わ、わらうニャ~!!!」

キョン(あのフェイリスさんをオモチャにできるのは宇宙広しと言えども鶴屋さんぐらいのもんだろう。その天真爛漫な振る舞いは一回りして恐怖を覚えるレベルのものだった)

古泉「…………」

キョン(古泉の人工笑顔もどことなくぎこちなくなってやがる。何やら込み入った人間関係がそこにはあるらしい)

古泉「しかしギガロマニアックスなるものが現実に存在しているとは。おかげでSG世界線へと確実に渡航できるわけですが」

キョン「それで、ハルヒは?」

古泉「今は寝室で寝ておられます。相当体力を使ったのでしょう」

古泉「なにせ総年数にして41年分の情報を脳に叩きこんだのですからね。夢を見ることで、渾然一体となった記憶の整理をする必要があるのかと」

キョン「起きる頃には目的地に到着しているだろう。それで、これがお前が描いた新しい図か……まるで電車のダイヤグラムだな」

国木田「まさか本格的なタイムトラベルに巻き込まれていたとはね」

キョン「安心しろ国木田。シュタインズゲート世界線とやらにたどり着いたらお前の記憶も再構成される」

国木田「この世界線における終末論かな。最後くらい善行を積みたいね」

キョン(ハルヒならハルマゲドンを666回起こすくらいは訳ないんだよな。核兵器よりもタイムマシンよりも危険な女だ。ハルヒマゲドンと命名しておこう)

古泉「こうしてIBN5100も我々SOS団の手に入りましたしね。ミッションオールコンプリートです」

長門「……任務完了」

キョン「っつっても世界改変が発生すれば、このクソ重たいポータブルコンピュータも消えちまうんだけどな」

キョン(だが、全ての元凶であったコレが遂にハルヒの手に渡ったということは、いよいよもって俺たちの冒険が終盤を迎えたことを意味してるんだろうな)

キョン「……なぁ、古泉。SG世界線に改変されたとして、岡部さんは牧瀬さんと再会するのか?」

古泉「もちろん岡部さんが本気を出せば再会すること自体は可能でしょうが、その場合、最悪のケースとしてSG世界線から世界線が分岐、あるいは変動する可能性がある」

キョン「そうか、収束事項が未知の状況下で、タイムトラベル関連の新たな収束を作ることになれば、それは世界線が移動することを意味する……」

古泉「2人はそれぞれ時間と世界線に干渉する能力を互いに持っていますから、その可能性は非常に高いかと」

キョン「……だが、岡部さんがどんなに避けようと、牧瀬さんが岡部さんを探し当てようとしたら?」

古泉「動機は、通りすがりに自分の命を助けてくれた人にお礼をしたい、などでしょうか。もしかしたら、2人の再会はシュタインズゲートの選択……。なんて、ロマンティックなことが起こればいいのですが」

キョン「ま、仮に世界線がまた改変されちまったってんなら、もう一度世界線を改変すればいい。2人が出会う因果を残した、真のシュタインズゲートへとな」

古泉「ディラック定数、いわゆるプランク定数がこの先に存在し、未来が古典力学ではなく、そして量子論的存在でもなく、量子カオス系において、バタフライエフェクトの世界において、プランク定数以下のミクロ構造が現れることを祈りましょう」

キョン「時をまやかす陰謀どもの先に、春に煌めく陽だまりがあるってんなら―――。それは俺たちが生きた、証だ」

古泉「僕が描いたフェノグラムが正しければ……、あとは座して待つのみです。さぁ、すべてを忘れて、新しい世界で生まれ変わりましょう」

まゆり『きっと帰って来てね、紅莉栖さんを連れて』

岡部『当たり前だ!』

ダル『あのぉ、阿万音氏。僕の娘ってのがホントだとすると、僕の嫁は……』

鈴羽『……フフッ。それは秘密にしておく』

岡部『またか』フッ

ダル『えぇ……』

岡部『行くぞッ!!』

まゆり『……いってらっしゃい、オカリン』


――――――――――――――――――――――――――――


――――――――――――――

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―――

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本来、俺たちの物語はいつでもどこでも涼宮ハルヒを中心に回っていた。

だが、この夏はどうだ? 物語の中心に居た人物は、他でもない、岡部倫太郎その人だった。

信じられないことにハルヒは基本的に傍観者であり、時に都合よく助言を与えるだけのお助けキャラと化していたのだ。

しかし、その元凶をよくよく考えればこの物語の著者は涼宮ハルヒ大先生ということになる。全ての始まりは世界システム改変に起因するものだったからな。

ということは――――。

ハルヒは自分で書いたその物語の中に、“涼宮ハルヒ”というキャラクターを登場させたに過ぎないのだ。

画家自身の自画像を作品に組み込むというのはバロック絵画以前の時代からよくある手法だ。カラヴァッジオのバッカスやゴリアテなどが槍玉に挙げられる。

最近の漫画家なんかは自分のキャラクターで漫画を描いたりしてるな。空知○秋先生とか荒○弘先生とか平野耕○先生とか。どうでもいいが平野先生が仮にハルヒに近づこうものなら俺は死力を尽くしてでも掣肘を加える。

ともかく、ハルヒ的には新しい試みに挑戦しただけなのだ。

俺からしてみれば今回の物語は、最初のうちはいつもの俺たちの話だと思ってたが、進行に合わせて次第にソレに気づくこととなった。

つまり、こういうことだ。

この話は俺たちの物語とラボという物語のクロスオーバー作品だったわけだ。

それを3次元、いや、時間も入れれば4次元、あるいはダイバージェンスも含めて5次元で干渉させるとは、まったく器用なやつだな、ハルヒよ。

それだけじゃない―――。

あの岡部さんは、いや、鳳凰院凶真は、俺がかつて夢想したダークヒーローに似ているような気がした。

正義のためでなく独善なのだと錦の御旗を掲げ、しかしその実は仲間のため……。なんてな。

シュタインズゲートを迎えた俺たちの物語はついに最終章、エピローグの段階へと突入した。

あとは取りこぼした伏線を回収し、次回作への布石を散りばめ、うまいこと美辞麗句を連ねてソフトランディングすれば。

それはひと夏の思い出という作品になって、記憶の世界のどこかにある、書棚の叢書の1冊となるわけだ。




最終章
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◇Chapter.16 涼宮ハルヒのシュタインズゲート◇
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D 1.048596% シュタインズゲート
2010.08.22 (Sun) 9:47
湯島某所 男子部屋


キョン(シュタインズゲートに到着した俺とハルヒは宿で一晩意識を喪失していたらしく、朝比奈さんはまんじりともせず必死の看病を施してくださったらしい。やはり朝比奈さんは俺の、いや俺たちの白衣の天使だ)

キョン(例の論文焼失による、俺たち目線からしたら過去改変にあたる事象は、一気に2つの世界線を飛び越え、しかもβのアトラクタフィールドを脱出するほどのものだったのだから相当に脳に負荷がかかってしまったんだと思う)

キョン(だが、そんな俺たちよりも重傷を負った方が約1名居た)

キョン「岡部さんが入院!?」

古泉「腹部損傷、出血多量です。なんとか一命を取り留めたそうですが、心配ですね」

キョン「……いや、古泉。あの人は大丈夫だ。あの人は、2025年までたぶん死なない」

古泉「おや、どこからその自信が沸いて来るのか不思議ですが、あなたがそう言うならそうなのでしょう」

古泉「これからSOS団でお見舞いに行くところだったのですが……、あなたは昨晩のうちに記憶喪失になってしまわれたのでしょうか。心配です」

キョン「……なあ、古泉。前に雪山の洋館に閉じ込められたときに話したよな。俺にはパラレルワールドの記憶がある、と」

古泉「“俺たちが何か他の時空に放り込まれたような記憶が、なんとなく俺にはある。そこは非常に非現実的なところ”、というセリフですか?」

キョン「記憶喪失癖のある俺と違ってお前は記憶力が凄まじいな」

古泉「それはあなたの前世の記憶では、と僕が訝しんだのでしたね。あなたは口々に、王様、海賊、宇宙船、銃撃戦などとつぶやいた」

キョン「それがな、どうやら俺には前世の記憶を既視感として受信する能力があるらしいんだ」

古泉「そんなはずはありません。あなたはどこまで行っても一般人なはずです。それは演繹的にも帰納的にも明らか」

キョン「その若さで耄碌したか、古泉よ」

古泉「……マジなのですか?」

キョン「えらくマジだ。おーい長門」

――――――――――ッ!!!……なんだかこうして見ると感慨深いですね。このリーディングシュタイナー発動が最後であることを祈ります」

長門「ウェルカム、トゥ、シュタインズゲート」

キョン「名残惜しさは特に無いけどな。それで、俺たちはこれから岡部さんの見舞いに行くんだそうだ」

古泉「……なるほど。ラジ館8階で何者かが刺される、という事象が収束だった。ゆえに2025年まで死ぬことのない岡部さんが牧瀬章一氏の一撃を食らうことが、世界を騙す唯一絶対の特異点だった、と」

キョン「俺は一瞬、怪我をした岡部さんがシュタインズゲートに再構成されるなら傷も全快するものだと思った。D世界線から帰ってきた俺の生傷が消えていたようにな」

キョン「だがお前が最後に描いた図を思い出して理解したよ。シュタインズゲートへと物理的タイムトラベルをしたほうの岡部さんも同様に章一氏から一発お見舞いされてたんだな。たしか鈴羽Fさんのマシンだっけか」

古泉「リーディングシュタイナーを発動して移動した先の個体の肉体もナイフで刺されていた、というわけです」

古泉「そう言えば涼宮さんのリーディングシュタイナーはどうなりましたか?」

キョン「1階に降りればわかるさ」


ハルヒ「キョン! 古泉くん! 遅いわよ!! 早く病院に向かいましょう!」

みくる「涼宮さぁん、安静にしててくださぁい」

古泉「なるほど……。わかりました、今すぐ出発しましょう」

キョン「そういうこった……。今行くよ。長門も準備できたか?」

長門「ばっちり」

2010.08.22 (Sun) 10:12
六井記念病院


まゆり「トゥットゥルー♪ オカリーン、おしめ交換タイムなのです☆」

岡部「はぁっ!? や、やめろまゆり!! なにもお前がすることはないだろ!! 看護師さんにやってもらうのもそれなりに恥ずかしいがどうしてお前がッ、い、いてててて……」

まゆり「ほら、大声出したらお腹に響くよ? ここはまゆしぃの言うことに従うべきなのです☆」

岡部「その語尾の☆はなんだ!? テンションが上がっているのか!? やめろ、クランケ服を脱がすな!! だ、だめだその先は、パンツを下げるなッ、イテテテテテ!!」

まゆり「ほーらー。暴れると痛い思いをするのはオカリンなんだよ? おとなしくお縄につくのです☆」

岡部「い、意味がわからんぞまゆり!! だーっはッ!! 俺のグレイプニールに拘束されたフェンリルが、いやあぁぁぁぁぁ……」

ハルヒ「……何やってるのよあんたたち」

まゆり「あーっ! ハルにゃんだ、トゥットゥルー♪」

岡部のオカリン「」ボロン

みくる「とぅっとぅ……ひえっ!?!? あ、あたし何も見てませぇん!!! 失礼しますっ!!」ピューッ!!

キョン(また一つ大人になってしまわれたか……)


・・・

まゆり「待ってもらってごめんねー、SOS団のみんなー」

古泉「いえ、タイミングが悪かったのはこちらにも非があります。岡部さん、大変失礼しました」

岡部「もう、疲れた……ずっと休んでないんだ……だから、もういいよ……」

まゆり「あれー、どうしてかなー。まゆしぃ、オカリンをビンタしたくなっちゃったのです☆」

岡部「や、やめろォ!!」

キョン(医療用ベッドの上に打ち上げられたマグロのようになっている岡部さんは見事にミイラ男だった)

ハルヒ「なんだ、十二分、いえ、百十八分に元気じゃない。心配して損した」

岡部「フンッ。この鳳凰院凶真は絶対に死なないからな。なぜなら、俺は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だからだ!! フゥーハ、アイテテテテテ……」

古泉「つまり、論理学的意味でのトートロジーであり、必然的に真として成立する関数関係である、ということですね」

岡部「……? あ、あぁ。そういうことだ! エスパー少年よ!」

まゆり「そんな意味があったんだー! やっぱり鳳凰院凶真は鳳凰院凶真だね♪」

キョン「……岡部さん、その、牧瀬さんのことは」ヒソヒソ

岡部「……まぁ、もうアメリカに帰っているだろう」

古泉「……今年の11月に一度ATFのセミナーに来る可能性が高いのですが」

岡部「……それでも、やはり世界大戦の危険性を考えるならば。……ッ」

キョン「岡部さん……」

古泉「……もし、牧瀬さんをラボに参加させたい、ということであれば全力で機関が協力致します」

岡部「そうか、キョン少年から聞いていたか。あるいは、もしかしたら―――」

岡部「―――俺たちは、再会する運命なのかも知れない」

キョン(……俺はこの時、なにかを愛おしむような表情をしていたんだと思う。古泉のほうを見たら、肩をすくめる仕草と同時に爽やかビームを飛ばしてきたからな)

ハルヒ「ほら、景気付けにドクペ、持って来たわよ。元気な倫太郎が見れて良かったわ。あたしたちは今日で向こうに帰るから、またどこかで会ったらよろしく」

岡部「ああ。叔父さんによろしく伝えといてくれ」

まゆり「ハルにゃん、ミクルン、ユキリン、いっちゃん、キョンくん、バイバイだね……。まゆしぃ、少し寂しいな……」

みくる「まゆりちゃん、大丈夫だよ。またいつか会えます」

キョン(ハルヒのことだ、会いに行くと約束したならば、ヘリウムガスのように軽々と時空やら世界やらを飛び越えてでも会いに行くに違いない)

まゆり「う、うん! そうだよね!」

ハルヒ「そうよ、まゆり! ほら、約束の握手をしましょう?」スッ

まゆり「うんっ♪」ギュッ

キョン「……岡部さん、本当に色々お世話になりました。このご恩は、いつか」

岡部「なんだ、水臭いぞ少年。年長者として当然のこと……。また、遊びに来いよ」

古泉「ええ、いつか必ず」

2010.08.22 (Sun) 14:11
秋葉原駅 ロータリー側


まゆり「じゃあねー! また会おうねー!」

フェイリス「元気でニャー! いつでもお店に遊びに来てニャン♪」

るか「ま、また、秋葉原に遊びに来てくださいねっ!」

ハルヒ「みんな、ありがとう! みんながこっちに来ることがあれば大阪でも神戸でも案内してあげるわ!」

キョン(またハルヒに友達がたくさんできたな。それも同年代の、色んな考え方を持った人たちだ。間違いなくそれは心強く、そして未来を大いに盛り上げてくれる存在となることだろう)

まゆり「ねえねえ、最後にみんなで一緒にやろう?」

キョン「ん? なにをだ?」

るか「あ、あれだね、まゆりちゃん」

古泉「ええ、いいですよ」

フェイリス「ラジャーニャー!」

みくる「はぁい」ウフ

長門「……」コクッ

ハルヒ「それじゃ、せーのっ!!」


「「「「「トゥットゥルー!!」」」」」


キョン(……To Trueね。この世界線じゃ、もう必要のないキーワードだな)

2010.08.22 (Sun) 18:26
東海道新幹線車内


キョン(ハルヒたち女性陣とはどういうわけか別車両になってしまった。まあ、時期が時期だから席が取りにくいことは昭々たるにして疑うべきにあらずだが、あのハルヒが? とも思った)

キョン(もしかしたら、もうその能力は無意識レベルで発動しないモノになってしまったのかもしれないと思うと、俺は一抹の寂しさを覚えた)

キョン(俺と古泉は3人掛けシートにOL風の女性が1人座っている列をようやく発見し、奥に詰めてもらって席を確保することに成功した)

キョン「予定通り帰れてよかったよ。延長戦に突入でもしようものなら、お袋に怒られる上に妹にどやされるからな」

古泉「どうして僕たちは予定通り帰って来れたのでしょうね」ンフ

キョン「そう言えば鶴屋さんと国木田はアキバから消滅していたんだよな……。なんとなく7人で帰路についている気分になっちまう」

古泉「過去も未来も、その全てが改変されましたからね。この世界線において僕たちは小規模な電話レンジ(仮)実験を見せてもらっただけで、過去改変やタイムリープ、そしてタイムトラベルなどのSF体験をすることはなかったことになっています」

古泉「昨日ラジ館屋上にタイムマシンが一瞬でも存在したことは、まぎれもない事実ですけどね」ンフ

キョン「完全に未知の世界線、か。久しぶりに通常の時間間隔を思い出した気がする。これからどうなることやら、だ」

古泉「完全に未知とは言え、僕らであればその時がきたらすべきことなどすぐに理解できるでしょう。またはそうせざるを得ない状況になっているかもしれない」

古泉「例えば、ストラトフォーの首魁であったアレクシス・レスキネン博士はこの世界線において今日も元気に陰謀活動中、略してインカツ中です。第三次世界大戦に発展しなくとも、洗脳組織を結成してしまうおそれがある」

キョン(古泉はクソつまらないジョークを織り交ぜつつ世界の警鐘を鳴らしたが、しかしハルヒの宇宙規模の変態パワーと比べれば陰謀の1つや2つなど取るに足らないものに思うね)

古泉「あなたは自分の意志に従って実行すればいいんです。考える必要などないのかもしれません」

古泉「人間、決断力さえ衰えていなければ、とっさに最適な行動をとるものです。あなたの行動は今までずっと正しかった」

古泉「次もそうなるであろうと、僕は確信半ば、期待半ばでいるのですがね」

キョン「……それ、4月にも言わなかったか」

古泉「それだけ信頼している、ということですよ」ンフ

キョン「そういや、いくつか曖昧模糊としていることがあるんだが、聞いてもいいか」

古泉「もちろんです。それが僕のこの舞台上における役ですからね」

キョン「シュタインズゲート世界線ではハルヒの織姫と彦星の願いはどういう形になってるんだろうな」

古泉「さあ、全くの未知です。推測も計算も許されない、完全なる不思議領域、とでも言いましょうか」

キョン「開始数秒で職務放棄しやがって」

古泉「ですが、そのほうが未来の楽しみが増えるというものです」ンフ

キョン「……世界の仕組みが、楽しい時間を連続させていればおのずと未来も楽しいものになる、というハルヒ並の直情径行な性格だといいんだけどな」

古泉「ツィオルコフスキーという人物をご存じですか?」

キョン「さあ、知らんな。SF作家か?」

古泉「SF作家でもありますが、立派な帝政ロシアの科学者ですよ。ライト兄弟が空を飛ぶ以前に人類最初のロケット理論を完成させた人物です」

キョン「まるで1世紀先を生きてた人間だな」

古泉「その方の有名な一節をご紹介します。『" Impossible today becomes possible tomorrow”』、日本語にすると、『今日の不可能は、明日可能になる』」

古泉「なんだか希望が持てませんか?」ンフ

キョン(実際俺たちはタイムマシンの開発という世紀の大発明的現場に立ち会ったわけだから、その言葉は重みをもって受け入れられるべきものだろう)

キョン「そうだな。きっと未来の俺たちに不可能はないんだろうよ」

キョン「未来と言えば、朝比奈さん組織の未来人たちにとって、俺、というかSOS団が、βからα、α´、αを経由してβ´、β、そしてSGに辿り着くというのは既定事項だったのか?」

古泉「SG世界線の彼らからしてみれば、ある意味そうなのでしょうね。基本的に自分たちの未来を保護しながらもD世界線からαへの復帰、そしてαからβ´を経由してβへの世界線移動、この2つに関しては未来人も積極的でしたから」

古泉「あるいは、超未来へ繋がる意志の連続のおかげ、とも言えます。つまり現代の僕たちが、こんな世界線は嫌だと強く願った気持ちが未来へと引き継がれ、未来からの過去改変、すなわち現在改変に繋がった、というわけです」

キョン「そうなるとβ世界線の未来人組織も、消極的ながら改変を望んでいた、ということじゃないか」

古泉「閉塞的な状況に対して改革を求める急進派でも居たのでしょうかね」ンフ

キョン「その単語はやめろ。背筋が凍る」

古泉「どっちにしろ、となりの世界線をのぞき込むような行為は2034年以降ほぼ不可能となっているわけですから、仮にβ世界線の未来人組織が僕たちを第三次世界大戦に巻き込みたくないと思っていたとしても、β5世界線に到達するまでその方法は発見されることはないはずです」

キョン「未来ってのも万能じゃないんだな」

古泉「ちょうどいいパワーバランスだと思いますけどね」

キョン(出し抜けに別の記憶が蘇った。去年の文化祭の数日前、映画のクライマックスに四苦八苦していた俺に、長門が言ったセリフだ。あれ、これってなんかデジャブじゃないか?)


長門『未来の固定のためには正しい数値を入力する必要がある。朝比奈みくるの役割はその数値の調整』


キョン(逆に言えば、未来を固定させたくないと望む人間からすれば、朝比奈さんに数値をハチャメチャにいじってもらうことが願望となるってことだ。さて、涼宮裁判長の量刑はどうなることやら)

※以下、映画バタフライエフェクトのネタバレあり 注意

キョン「それから、もう一つ。今、牧瀬さんはどうしてる?」

古泉「いえ、さすがに調べていません。それは、それだけは僕たちの領分ではない、と思いましたのでね」

キョン「ようやくプライバシーという語の定義を理解したか」

古泉「とは言っても7月28日の夕刊だけは確認させていただきました。当然ですが、そこに殺人事件の記事は無かった」

古泉「それから、長門さんに確認しましたが、8月7日以降、牧瀬さんとSOS団が出会うことはなかったそうです」

キョン「……今頃、アメリカの大学で徹夜で論文でも書いてるのかね」

古泉「アメリカの大学と言えば。映画『バタフライエフェクト』について、おそらくご存じないかと思いますので簡単に紹介させていただきます」

キョン「古泉の映画評論は何作品目になるんだっけ」

古泉「大学生の主人公は過去を改変する能力を持っていました。そして過去を改変するたびに、改変された歴史の記憶が脳に挿入され、そして現在の現実が変わっていく」

古泉「それは、ヒロインと愛し合う世界だったり、ヒロインが死亡していたり、売春婦になっていたり、あるいは主人公が刑務所に入れられたり、車いす生活者になっていたり」

キョン「……つまり、自分の都合のいいように過去を改変しようとして、ことごとく不幸になっていく、という話か」

古泉「そしてラストで主人公は自分がヒロインとそもそも出会わない世界へと改変します。これによってすべての不幸は取り消され、主人公は最大的幸福を達成する」

キョン「なんだか報われないな……」

古泉「そして数年が経ち、主人公とヒロインは偶然にも都会の雑踏の中ですれ違うのです」

キョン「……2人は再会するのか?」

古泉「いえ、この世界において主人公はヒロインと深く知り合っていないわけですから、見ず知らずの他人同然なのです」

キョン「ということは……」

古泉「映画のラストシーンは、2人がすれ違うだけのもの、でした。確かにいわゆるハッピーエンドではありませんが、しかし世界の理屈を考えるならば、そうなって然るべきかと」

キョン「ふむ……。いや、そうは言っても大衆映画なんだ。そんなラストでホントにオーケーが出たのか?」

古泉「ええ、鋭いですね。実はこの映画には隠されたラストシーンが用意されていました。ぜひDVDを借りて確認してみてください」

キョン「そこでは、2人は、再会するんだな」

古泉「幼児期に一度挨拶しただけの、社会人へと成長していた主人公に対して、ヒロインは何故か惹かれてしまった。あるいは、それこそ今まで改変され続けた世界の記憶の残滓が降ってかかったのでしょうか」

古泉「そして2人は、愛を取り戻す……のかも知れません」

キョン「……牧瀬さんはトリガーさえあればリーディングシュタイナーが通常の範囲内で発動する。そして、あの人は根っからの研究者で、疑問や不思議に対して解を導き出さないと気が済まない人だ」

古泉「まさしく、それが運命石の扉<シュタインズゲート>の選択、なのでしょうね」ンフ

OL風の女性「あの……なんだか……おもしろそうな……話。……よかったら……聞かせて……ほしい……」

キョン(しまった、ちと声がデカかったか)

古泉「興味を持っていただけて光栄です。僕たちは映画研究会で、今度SF作品を作ろうと思ってまして、プロットを議論していたのですよ」

OL風の女性「私は……元編プロで……都市伝説とかを追ってた……。先月……クビになっちゃったけど……」

キョン(そんな重い話を一介の高校生にされてもな)

OL風の女性「だから……オカルトとか、扱ってた……から、興味が……ある……」

古泉「ちなみに今はお仕事は?」

OL風の女性「秋葉原の……ブラウン管工房っていう……ところで、廃品回収……とか。これが……今の……名刺……」スッ

キョン(なんと!)

古泉「まさしく、正しい意味で、“袖触れ合うも多生の縁”、ですね」ンフ

キョン(名刺をもらうなんざ初めての体験だが、名前は……『桐生萌郁』。なんて読むんだ、キリュウモエイク? って……き、桐生萌郁!?)

古泉「安心してください。こちらが刺激しなければ何も問題ありませんよ」ヒソヒソ

キョン(そうか、古泉のやつはこの桐生さんの顔を知ってるはずだったな。最初に座った時からラウンダーと同席してることを把握してたのか、この野郎)

キョン「しかし古泉よ、この一般ラウンダー女性の方にべらべらとしゃべってしまってもいいものだろうか」ヒソヒソ

古泉「固有名詞と世界の陰謀について隠した上でなら雑談しても構わないと思いますよ。正直言うと、この世界線におけるラウンダーの状況を少しでも把握できれば、などと考えていたりします」ヒソヒソ

萌郁「私は、名古屋で……降りる……から、それまでに……」

古泉「ええ、僕らも時間を持て余していましたから構いませんよ」

古泉「物語は基本的にはタイムトラベルものですが、そこにアインシュタインの世界線理論、いわゆる量子力学的世界解釈を取り入れようと思っています」

萌郁「アイン……シュタイン……」

キョン「それとアカシックレコードだな。時間線っていうのは人間の記憶の積み重なりだから、時間を移動するとなると、この記憶の辻褄を合わせなければならん」

古泉「あなたもだいぶ理解してきましたね」

キョン「人間、痛みを伴って経験したことってのは、嫌でも忘れないもんなんだよ。忌々しいことにな」

萌郁「痛みを……伴うの……?」

古泉「ええ、記憶というのは脳内における電気信号の伝わりですからね。それが瞬時に変化する場合、頭痛を起こしてしまいます」

萌郁「タイムトラベル……世界線……記憶……脳……」

古泉「まさしくそれらがキーワードですね。ですから物語の登場人物として、タイムトラベラー、タイムマシン開発者、記憶を操る超能力者、そして脳科学者が必要、ということになります」

萌郁「あと……ヒロインも……」

古泉「あなたとはおいしいお酒が飲めそうですね。そうです、飛び切り愛らしいヒロインが必要です」

キョン(まだお前は未成年だろうが。……未成年だよな、古泉?)

古泉「さあ、役者は揃いました。これからお話するのは世にも奇妙なSFストーリー―――」

古泉「―――その名も、“Steins;Gate”。それは、あったかもしれない、物語……」

2010.09.23 (Thu) 16:06
北高


早いもので、あの夏から1か月が経った。

東京へと出発する時にはその命を高らかに揚言するかのように咲き誇っていた中庭のヒマワリたちも、暦の上で秋に入ると全体的に細くしわしわになり、茶色味がかりながらも種子を結実させ、今やハムスター101匹分のおやつ備蓄基地と化していた。

一方、ハルヒの場合は違った。稔るほど、こうべを掲げる、ハルヒかな。

さて、不思議なことが起きた。猫耳カチューシャが新しく我らSOS団のコスプレグッズの仲間入りを果たしたこともあるが、もう一つの新アイテムがそこにあった。

SOS団が随分と長い間ねぐらにしてきた文芸部室の一角、掃除用具入れ脇の部屋の隅にはダンボール箱が置かれており、その中にはIBN5100が完品の状態で入っている。だが、どうしてそれがここにある?

ここはシュタインズゲートだ。ジョン・タイターは存在せず、あの未来人は時空間を南船北馬する必要はなく、つまりはIBN5100はあるはずがないのだ。

長門は言っていた。IBN5100の存在は不安定になっていた、と。このシュタインズゲートという名の狭間の世界線、アトラクタフィールドの谷のような場所に転げ落ちてきたのかも知れない。それもこの文芸部室という、ありとあらゆる力場がせめぎ合う場所で安定してしまったのかもわからん。

SOS団の記憶も不安定になっているようで、このIBN5100は秋葉原において、謎の初老女性から譲り受けたことになっていた。そんな記憶は俺にはサッパリないが、ハルヒが虹色だと言うならそれは黒でも白でも分光スペクトルになるのである。

このシュタインズゲートでも橋田鈴さんは1975年から2010年にかけて35年間を暮していたのだろうか。いや、シュタインズゲートは過去改変の結果以外を残して、βおよびαの因果を再構成する世界なのだから、その因果は消滅しているはずだ。

だが、仮にシュタインズゲートへと到達するための条件の中に実はソレが含まれていたとしたら……? 別世界線から漂流してきた阿万音鈴羽さんが1975年から生活していたとしてもなんら不思議ではないのかも知れない。

何よりハルヒは異世界人と遊びたかったのだ。だったら……、きっと幸せな人生を送るんだろう。俺たちと一緒でさ。

確認しようと思えばできるんだろうが、古泉の言う通りそれをする意味はたぶん無い。東京に行くだけの金も時間ももう残ってないしな。

そう、実は俺たちの時間もそれなりに差し迫っていた。

俺たちのクラスは現在岡部による個別進路相談期間の真っ最中であり、今日は谷口、国木田、ハルヒ、そして俺が先公相手に将来を語らねばならん。まあ、この点に関しては岡部は面倒見が良く、いわゆる“良い先生”なので俺は素朴に尊敬している。

アホの谷口の面接が長引き、国木田はそれに付き合っているようで、今はクラスに俺とハルヒの2人だけが取り残されていた。教室の片隅、振り向くとそこにはハルヒの楚々とした横顔があった。

その姿に見惚れた俺は、少しクラッと来た。これが目眩がするほど美しい、ってやつなのかね。

ハルヒ「なによ」

キョン「なあ、ハルヒ。胡蝶の夢って知ってるか」

ハルヒ「荘子の斉物論でしょ。えっと、


昔者荘周夢為胡蝶。栩栩然胡蝶也。

自喩適志与。不知周也。俄然覚、則蘧蘧然周也。

不知、周之夢為胡蝶与、胡蝶之夢為周与。

周与胡蝶、則必有分矣。此之謂物化。


だっけ?」

キョン「誰が原文を中国語で発音しろと言ったよ」

ハルヒ「現代中国語だから発音は本物とは違うと思うけどね」

キョン(ハルヒだったら春秋戦国時代に送り込まれたとしても戦国七雄を押しのけて中国史上初の統一王朝を建国するやもしれん)

ハルヒ「荘子はね、人間の知恵には本質は無くて、その本質は常に己であるってことを言いたかったわけ」

キョン「蝶になってしまった夢を見たけど、今の自分は実は蝶が見ている夢なのかもしれない、というアイロニカルなヘンテコ話ではないのか?」

ハルヒ「内容はそうだけど、寓意は道教に繋がる無為自然よ。たとえ世界が変わっても己が己であることには変わらない」

ハルヒ「万物斉同の世界で遊びましょ、って荘子は訴えてるわけ」

キョン(なるほど、己が蝶になっている世界線もあれば人間になっている世界線もあって、お互いにそれはリーディングシュタイナーを通じて夢と認識することしかできないが、己という意識は世界線を共通して存在している、ということか)

ハルヒ「あんたがこのタイミングでその話をしてきたってことは、つまり将来の夢はどうするのか、ってことかしら」

キョン「さすが団長殿。俺の発言に対して一聞いたら十を理解しているようだ」

ハルヒ「まあね。でも、実はまだちょっと悩んでるのよね……」

キョン(こいつのリーディングシュタイナーは人並みに戻ってしまったようなので、例のビューティフルドリームにおける俺の説教は記憶に毛ほども残っていないらしい)

キョン「とは言っても、十一まではわかってもらえなかったようだな」

ハルヒ「んー?」

キョン「どうして胡蝶の夢なんていう昔話が生まれたか、わかるか?」

ハルヒ「えっと、それは中国の思想史的な話? それとも脳科学的な話かしら」

キョン「どちらかと言うと後者なんだろうが、まあ聞いてくれ」

キョン「夢が夢である理由はな、夢を見ることができるのは1人でだけだ、という制約があるからだ」

キョン「もし同時に複数人で同じ夢を見ることができるならば、それはそいつらにとっては夢じゃなくなる。少なくともそいつらにとっては、間違いなく現実なんだ」

ハルヒ「そうね……。世界は人間の認識に支配されてる、ってやつね」

ハルヒ「そう言えば、もしかしたらあたし、去年の5月頃の話なんだけど……」

キョン「ハルヒ。お前が俺と同じ夢を共有したことは過去に無い。断じて無い」

ハルヒ「むぅ……」

キョン「だが、お前さえ良ければだが、これから先――――」



――――お前と同じ夢を見させてはくれないだろうか。


ハルヒ「…………」ポカン

キョン「……恥ずかしいから何か言ってほしいんだが」

ハルヒ「それってつまり、あんたの面倒をあたしが見ろ、ってこと?」

キョン「俺のテストの点数を引き上げたのはお前じゃないか。最後まで責任を取っていただきたい」

ハルヒ「ぷっ。そのセリフをあんたが言うと滑稽ね」

キョン(滑稽結構コケコッコーだよ、この野郎)

ハルヒ「……まあ、いいわ。あたし1人で未来に行ってもつまんないしね。連れてってあげてもいいわよ」

ハルヒ「ただし、あたしのスパルタ教育に絶対ついてくること。いいわね?」

キョン「……望むところだ」ゴクリ

ハルヒ「言ったわね。その言葉、忘れるんじゃないわよ」

キョン「ああ、記憶力に自信はないが、記憶の保管と想起には自信があるからな」

キョン(今の俺の脳内には、かつて長門が描いた“宇宙語のような絵”の記憶がバッチリ残っているから長門印のタイムリープマシンは作り放題だ。ということは、俺にとって試験勉強時間は無限大にあることになる)

ハルヒ「はあ? どっちも同じじゃない」

キョン「気にするな。まあ、そんなわけだから、これからもよろしく頼むぜ。ハルヒ」スッ

ハルヒ「握手、ね。いいわ。約束、守ってよね」スッ


  ガシッ!!

谷口「おーう。終わったぜー」ガララッ

国木田「次は涼宮さんの番だよ」

ハルヒ「ふんぬっ!!!」スバコーン!!

キョン「いっでぇぇぇッ!!!!」バターンッ!!

谷口「……なにやってんだ、お前ら」

ハルヒ「はいあたしの勝ちー!! まったく、キョンのくせにあたしに腕相撲を挑もうなんて137.98±0.37億光年早いのよ!!」

国木田「光年は時間じゃなくて距離だと思うけど、ハッブルの法則を考えたら光年も時間として考えてもいいかもね」

キョン「バカハルヒ! ちったぁ加減しろ! 俺の右手が使い物にならなくなったらどうする!」ジンジン

ハルヒ「うっさいわね! じゃ、岡部のところ行ってくるから大人しくしてなさい! どこにも行くんじゃないわよ!」ガララッ ピシャッ!!

谷口「……相変わらずあいつは暴力女だな。中学ん時から何一つ変わってねえ」

キョン(まあ、変わってないっちゃ変わってないんだけどな。それは表面的な現象にしか過ぎないんだぜ、谷口)

キョン(短兵急に、俺は佐々木の言葉を思い出した。あれは佐々木が、俺の妹は成長している、と言及した時のものだ)


佐々木『君は妹ちゃんの日々の成長をリアルタイムで見ているせいで、その結果をアナログ的にしか判断できないんだろう。一方、僕はデジタル的に観察する他ないので、逆に成長著しく思えるというわけだ』


キョン(この2か月の間にハルヒはまた一つ成長した。それは確信を持って言えるね。何故ならあいつは今……)

キョン(北高SOS団が消滅する未来に対して、正面から向き合って考えているからだ)

SOS団の未来と言えば一つ、アンビリーバボーな事態が発生していた。何を隠そう朝比奈さんの進路についてだ。

朝比奈さんは未来からの指令に逆らったらしい。

つまり、自らの意志で、ビザが切れたこの時間軸上に不法滞在することを決意したのだ。ハルヒが難民認定してくれるから生活上の問題は無いし、外交上の問題に発展したとしてもハルヒは専守防衛の名のもとに敵対組織を根絶やしにするだろう。

ついに未来からの不当な扱いに対して業を煮やした朝比奈さんが反抗期を迎えたわけだ。俺には一つ合点の行くことがあった。

あの温厚従順を通り越して天下泰平の朝比奈さんがこのタイミングでブチ切れたのは他でもない、未来組織が今まであまりにも朝比奈さんの個を無視してぞんざいに扱ってきたからだ。

だが、もしそれが、朝比奈さんが未来に対して逆心を抱くようにするための巧妙な工作だとしたら?

一つ、実はそれ自体が既定事項で、結局自分の道を自らつかみ取ったと思い込んでいる朝比奈さんは相変わらず道化であり、未来の掌の上で弄ばれている。

一つ、未来は既定事項ではない現象、いわゆる過去改変を引き起こすことによって、より良い世界を築くという夢を朝比奈さんに託していた。宇宙人的に言えば時間軸の自律進化だ。これによって閉鎖的状況に陥った未来を打開するという賭けに出たんじゃなかろうか。

後者であることを願いたいが、どっちにしろハルヒが居る時点で未来は安泰なのである。


――――――――・・・




広い芝生の一角に“俺”は座り込んでいた。

周囲には学生にしか見えない私服の男女があちこちにいる。

あるグループは連れ立って歩いているようであり、あるカップルは緑々とした芝生上で寄り添っていたりする。

芝生の向こうに時計台のような建物が見える。北高とは比較するのもアホらしくなる現代風の校舎もだ。

そして歩いている学生風の集団は、高校生以上にあか抜けてもいた。

ここは俺たちの大学だ。風が暖かい。春だ。


ハルヒ「どうしたの? キョン」


へたり込んだままの“俺”は顔を上げた。

ハルヒがそこにいた。

高校の時より髪がやや伸びていて、身につけている物は春物っぽく、やわらかな色合いの服装だ。

肩にひっかけているカーディガンがとてもマッチしている。


ハルヒ「何やってんのよ。ねえ……」


ハルヒは冗談につき合うような微笑みを見せていることだろう。


ハルヒ「そんな昔の制服なんて着ちゃって、いったいどういうつもり? キョン……。あれ、あんた、何かちょっと若」

キョン「おい、ハルヒ」

ハルヒ「……えっ? なんで? あんたがそこにも……」

ハルヒは驚いた仕草で俺に応対をし、また“俺”を振り返り、


ハルヒ「えっ?」


驚きの表情であったと思う。


キョン「驚かせてすまないな。既定事項、ってやつさ」

ハルヒ「あぁ……そういう」


俺の言葉を飲み込むようにして納得したハルヒは、春の暖かさと見まごうような微笑をたたえ、


ハルヒ「――キョン。またね」


“俺”に、そう言った。



2013.11.14 (Thu) 13:32
ヴィクトル・コンドリア大学


突然未来のことを記述するとその連続性が途絶えるもんだから、そんなバカなという展開にしかならないわけだが、日めくりカレンダーを1枚1枚律儀にめくることによって俺たちはどうにかこうにか今の地平に辿り着いた。嘘じゃないぞ。

かつて鶴屋さんの別荘で俺が夢想したことが実現してしまったんだなあとしみじみ思う。SOS団海外支部ってやつさ。

あの時は俺の語学力が拒否反応を示したが、現実というのは不思議なもので、中学レベルの英語しかまともに扱えないと自負している俺でもその生活はなんとかなっていた。

信じられないことに、俺たち新生SOS団は社会的にも、そして秘密結社的にもうまく回っていたのだ。

以下に簡単なルーティンを示そう。

まず、ハルヒがとんでもないことを何の前触れも無く言い出す。それを俺がたしなめる。

折衷案が出たところで古泉がセッティングをし、朝比奈さんが被験者、あるいは実験台となる。

なにか超常的問題が生じた場合には長門が裏でまるく治め、俺が被害担当者になる。

最終的に満足したハルヒは一連の冒険について脚色たっぷりに日記を書く。それを古泉が科学的に校正する。

出来上がったソレを朝比奈さんがオッサン連中のところへ持っていく。

そうすると不思議なことに、学会でそれなりに評価される学術論文が出来上がってしまうのだ。

これがオカルトだ疑似科学だと叩かれることがないのは、もしかしたら宇宙的未来的超能力的、あるいは変態的パワーによるものなのかもしれない。本末転倒だ。

まさか、と思うなよ? 大学生となった俺たちはこの新大陸で日夜不思議と格闘しているのである。

真帆「あーっ、もう! うるさいったらありゃしないわね! どうしていちいち脳科学研究所を占拠しにくるわけ!? 自分たちのクラブハウスに戻りなさいよこのテロリストども!! あんたたちのせいでコーヒーの減りが早くて仕方ないんだけど!?」

ハルヒ「いいじゃん真帆にゃーん。同じ日本人のよしみじゃない、堅いこと言わないの」

真帆「開頭!! ロボトミー!! ロボトミー!!」キシャー!!

キョン(脳科学研究所はいつの間にか日本人サロンと化していた)

レスキネン「真帆。君も彼らと一緒に遊んで来たらどうだい、世の中の不思議たちとね」

キョン(この白い巨塔は同時翻訳アプリなるものを使って英語でしゃべりながらも日本語を発している。俺にとっては実にありがたい)

キョン(そして古泉率いる機関が目下火花を散らしているのが彼らであり、またVR技術の軍事転用を企むCIAやペンタゴンの人間たちである。世界の平和は古泉によって支えられていると言っても過言ではない)

真帆「紅莉栖、早く帰って来て……」

レイエス「それじゃ、また用があったらよろしくね、紅莉栖。それとアレクシスを借りて行くわね」

紅莉栖「はい、レイエス教授。あら、またあなたたち来てたの」

ハルヒ「やっほー、紅莉栖! 元気そうでなによりだわ!」

紅莉栖「それで、またなにか悪巧みでもしてるの?」

ハルヒ「失敬ね! たまには紅莉栖も外に出たほうがいいわよ?」

紅莉栖「うーん、脳のためにもそうするべきとは思ってるんだけど、基本私ってインドア研究だから、フィールド研究はあなたたちに任せるわ」

ハルヒ「そう? ま、気が向いたらいつでも言ってよね! SOS団臨時メンバーとして迎え入れてあげるわ!」

紅莉栖「謎の団体に所属するのは未来ガジェット研究所ぐらいで結構……ハァ」

ハルヒ「みくるちゃん! ベビーシッターのバイトはひと段落したのよね?」

みくる「は、はいっ。しばらく時間は取れそうですぅ」

キョン「それで、今度はどこへ何しに行くんだ? もうバミューダ海域ダイビングは懲り懲りなんだが」

古泉「エリア51への不法侵入も、2度は挑戦できないでしょうね。ロズウェル事件の調査の続きならまだ余地があります」

真帆「なにやってるのよあんたたち。いつか射殺されるわよ」

キョン「あれもひどかったな、エルヴィスプレスリー捜し。ソックリさんがあんなに居るとは思わなかった」

長門「カナダに朝倉涼子を探しに行った時は大変だった。ビッグフットとは言語を介した意思疎通ができない」

キョン「ああ、それと自我を持ったクソ黄緑の巨大バルーンとは二度と闘いたくねえ。あれならまだゾンビと闘うためにモールに籠ったときのほうがよかったな、物資はたくさんあったし」

古泉「部長氏の実家がチュパカブラに襲われたり、フライングヒューマノイド化した部長氏を通常人類に戻したり、彼も巻き込まれ体質なのでしょうね」ンフ

みくる「で、でも、アーカンソーのコーン畑にミステリーサークルを描きに行った時は楽しかったですねぇ。キャトルミューティレーションが無いなら、またやりたいです、お弁当作りますよ」

キョン(この人の場合、キャトルじゃなくてsheep、ひつじミューティレーションのほうがしっくりくるな)

真帆「畑荒らしのために遠足に行かないで欲しいのだけど」

紅莉栖「ホント、聞いてるだけで頭が痛くなってくるわね……。それで、ハルヒ。今度はどんなトンデモに挑戦するつもりなのよ」

ハルヒ「ふっふっふ……。不思議は寝て待て、って言うでしょ? 待ってれば向こうからやってくるものよ!」

キョン「……改造されたシボルエとかがな」


  ……バーン!!!


ハルヒ「ほら来た!!」


鈴羽「た、大変なんだ!! SOS団はここに居るかな!?」

真帆「大学構内を88マイル毎時で走るなって何度言ったらわかるのかしら!」

鈴羽「えっ、初耳だけど。あ、紅莉栖おばさん! ちーっす」

紅莉栖「『私は同年代の女の子におばさん扱いされた』、な、何を言ってるかわからねーと思うが……」

ハルヒ「それで、鈴羽。今度はどうしたの? キョンの親父さんが生涯独身になっちゃう事件は解決したと思ったけど」

キョン「未来人組織にカチコミに行った件が尾を引いたんじゃないか」

ハルヒ「あれだけ徹底的に服従させたのに?」

鈴羽「違う違う! 君たちの子どもが逮捕されて家庭崩壊、ひいては地球、宇宙、そして世界システムが滅茶苦茶になっちゃうんだ!」

真帆「どうして家庭問題が宇宙問題に発展するのよ! 意味がわからないわ!」

キョン「お、俺たちの……」

ハルヒ「子ども……」

鈴羽「さ、早く行くよ!」


  ……バーン!!!


真帆「ま、またなの……」

鈴羽その2「待った! 先にこっちを解決してくれ! 朝比奈みくるが江戸時代に飛ばされて、今は鶴屋房右衛門の屋敷で保護されてるんだけど」

みくる「ひぇっ!? そ、それは大事件ですぅ!! 早く助けに行きましょう!!」

紅莉栖「待て待て待て」


 バーン!!!


鈴羽その3「いやいや、こっちが緊急だよ! 長門有希が情報統合思念体と宇宙戦争をおっぱじめて」


 バーン!!!


鈴羽その4「機関が内部抗争を起こして世界中の陰謀が」


 バーン!!!


鈴羽その5「ポンペイ島のナン・マドールの呪いによってキョンの妹が王様になって」


 バーン!!


鈴羽その6「団長!! 命令通りJ・D・カーを現代に連れてきたよ!!」

カー「どうも」

キョン「おいおい……鈴羽さんが、6人!?」

古泉「これはまた……壮観ですね」ンフ

キョン「んな悠長なことを言っとる場合か」

ハルヒ「まあ落ち着きなさい。順番に一つ一つ解決してあげるわ」

キョン「これを全部引き受けるのか……やれやれ」

ハルヒ「心配することはないわ。この涼宮ハルヒとSOS団にかかれば、すべてがうまく行くんだから!」





ハルヒ「さあ! 世界中の不思議たち! あたしにかかってきなさい!!」






END





―――これは、救えなかった「未来」の物語。

 シュタインズ・ゲートの
  正統続編。11月19日発売。



           Steins;Gate 0 シュタインズ・ゲート・ゼロ

            公式サイト http://steinsgate0.jp/



                        そう、そこに『彼女』は今もいる―――

 救えなかった紅莉栖。
 後悔と失意の中に沈む岡部。

 紅莉栖を知る新たな人物との出会い。

 紅莉栖の「記憶」との邂逅。


2015年11月19日発売
PS3,PS4 7,800円(税抜)/PS Vita 6,800円(税抜)





長い間お付き合いくださりありがとうございました。適当にHTML化依頼出しておきます。じゃあの。

ハニーの人か
おつ

最後の展開は「[たぬき]だらけ」を思い出しました

感想たくさんありがとう嬉しい
>>317ヒンヒン!
>>318それもあるけど、ラストはバックトゥーザフューチャーのPCゲーム版のラストのパロディのつもりだった

更新の楽しみがなくなって残念だが完結乙
これ構想期間はどんくらいなんだろうか

>>327
7月の頭から構想しながら書き始めて9月に入って終わった
ハルヒたちがシュタゲのストーリーなぞったら、で書いたから話の流れは決まってたし、
オリジナル部分も映画のパロばっかりだから時間はそんなにかからなかった

パロ元、というかオススメ映画一覧

・記憶を忘却しないで大量受信すると脳出血⇒バタフライ・エフェクト
・鈴羽ABSDEFGH的多世界解釈⇒デジャブ、プライマー、仁-JIN-、ザ・ワン、他
・記憶の世界から別の記憶の世界へ飛ぶ⇒インセプション
・夢を共有する&記憶を司るモルフォ蝶⇒パプリカ
・文化祭前日を延々と繰り返す⇒うる星やつら2 ビューティフルドリーマー
・キョンの消失⇒負荷領域のデジャブ
・ブラックホール内の、時間を空間的に移動できるような五次元空間⇒インターステラ
・ファックスの話⇒タイムライン
・未来視⇒例えばマイノリティ・リポートとか空の境界とかフラッシュフォワード(小説)とか
・古泉がタイムマシン登場を予見するところ⇒ルーパー

あとはBTTFとかターミネーターとか未来的青[たぬき]とか


映画以外

・紅莉栖の記憶を見る時の回廊⇒FFⅦのライフストリーム内クラウド
・世界外記憶領域の描写&Dメール上の無意識野への刻印⇒外伝小説 Steins;Gate3 境界面上のシュタインズ・ゲートRebirth
・ハイパータイムリープマシン⇒外伝小説 Steins;Gate 円環連鎖のウロボロス(2)
・世界外記憶領域⇒色々あるけど、例えば「空の境界」とか「シャーマンキング」とか
・ブラックホール爆弾⇒トップをねらえ
・森さんvs鈴羽⇒外伝コミック「Steins;Gate 亡環のリベリオン」の伽夜乃vs鈴羽
・キョン妹狂暴化⇒外伝小説 Steins;Gate 比翼連理のアンダーリン


声優ネタ

・4℃さんのWAWAWA⇒白石稔
・心霊探偵⇒心霊探偵八雲
・DEATH NOTE⇒ミサとライト


その他

・キョンが幼少期にドブに落ちて三針縫う、は原作の設定(涼宮ハルヒの憂鬱第一巻)
 『そんなわけがないだろ。俺は三年前より以前の記憶だってちゃんとあるし、親だって健在だ。ガキの頃にドブに落ちて三針縫った傷跡だってちゃんと残ってる。日本史で必死こいて覚えている歴史はどうなるんだよ』
・まゆりの星屑との握手<スターダストシェイクハンド>の原作設定は以下
 『幼いころはよくおばあちゃんにおんぶされていっしょに夜空を見ていた。その影響から、ふと空を見上げて手を伸ばす癖があり』(ファミ通2009.9)
・世界外記憶領域でブラックホールを通してキョンとハルヒの記憶をうーぱクッションとして送ったのは誰?
 ⇒世界外記憶領域内のオカリンおじさん。キョンとハルヒが救出されなかった世界線の記憶を持っているため、予防策が打てた

鈴羽C(アルタイル鈴羽)のタイムマシンをC203型って書いたけどミスった。小説によるとホントはC204型。

元ネタ解説は有り難いなぁ。ちなみにこの世界観で時系列はズレるけどカオヘやカオチャ、ロボノに関わっていく予定はあるのかな?多分、それぞれ選択肢的な意味で世界線大移動の年だけど

>>335
タクがラノベ「涼宮ハルヒの憂鬱」を読んでSOS団をリアルブートしちゃうとか、SOS団がROBO-ONEに出場してプレアデスと戦うところまで妄想して諦めた
むしろ書いてくださいおながいします

もしかしてこれ? ⇒ キョン「ギガロマニアックス?」
後で読んでみよっと

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