奈緒「志保、風邪ひいてもうた」 (32)

 ミリマスの奈緒と志保のSSです。
 はじめて投下するので至らない点あるかもですが、よろしくです。

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 小鳥さんが私の脇から体温計を抜き取り、何度か振った。
 その先端をみてたら、何だかあたまがぐわんぐわんしてくる。
 おまけに寒気が、どかんとやって来たわ。
 ……あかん。駄目かも。やっぱ無理して来んで、家で寝とればよかったわ。
「……うーん、八度七分……かなり高いわね。奈緒ちゃん、気分はどう?」
「……阪神が八連敗くらいした時の気分ですわ」
「それはかなりまずい……のよね? とりあえず、氷枕持ってくるわね」
 バタバタと小鳥さんが慌ただしい。
 私はソファに寝転びながらそれを眺めてるけど、何だか分身しとるようにみえてきた。
 音無って名字、なんか忍者の末裔っぽいもんなぁ。
 ……なにをいうてるんや私は。風邪や。すべて風邪が悪いんや。
 いや悪いのは腹出して寝てた私か。
 あかん。何もわからんくなってきた。


「はい、氷枕、頭の後ろにね。少し楽になると思うわ。あと薬もあるんだけど、これは何か食べてからの方がいいのよね……」

 小鳥さんは辺りをきょろきょろと見回しとる。
 その時、事務所の扉が開いて、ひょこりと影が。あ、志保や。

「どうしたんですか? 下に車、出てますけど」
「あ、志保ちゃん! ちょうどよかった。奈緒ちゃんの看病、頼めないかしら?」
「え? 別に、いいですけど……」
「私、ひなたちゃんたちの送迎をしなきゃだったのよ。すぐ戻ってくるから! そしたら奈緒ちゃん、家に送ってあげるからね!」

 小鳥さんはそう告げて、ばたばたと外へ出ていく。
 時間をずっと気にしていたし、私えらい迷惑かけてしまったな……。
 普段、体調悪くなるとかないから、本当あかんわ。


「……しぃーほぉー?」

 おらへん。さっきまでおったのに。
 アホなのに風邪をひいとる私を見限って、帰ってしまったんやろか。
 うぅ……なんか心細くなってきた……。

「私は志保をそんな子に育てた覚え、あらへんでぇ……」
「そもそも育てられた覚えがないんですけど」

 おるやん。給湯室から何かを抱えて持ってくる。
 ばさっと身体にかけられた。
 ……タオルケットか。


「暑いですか? それとも、寒いです?」
「めちゃ寒い」
「温度は二十八度なんですけどね。毛布の方がいいかな……」

 再び志保がいなくなる。寒さよりも人恋しさのほうがつらいわ。
 もう一回、志保の名前を呼んだら、呆れた様子で戻ってきた。
 今度もばさりと身体に毛布がかけられる。

「いなくなりませんから」
「ほんまに?」
「……奈緒さん、もしかして風邪とか引いたことないです?」
「記憶にあらへん。体調ってこんなに悪くなるもんなんやな……」
「どうせお腹でも出して寝てたんでしょう」
「しかもクーラーがんがんに効かせてな。温度上げる前に寝落ちしてもうたわ……」
「そりゃ風邪も引きます」

 ぺしんと額を叩かれた。いたい。


「汗かいてますね。もうちょっと経ったら、身体拭きましょう。食欲はありますか?」
「全くあらへん。粉モノみたくないとかありえへん心境なんやけど」
「何がありえないのかいまいちよく分からないですが。……これ食後か。お粥はどうです?」
「むり。あついものは、むり……」

 あかん、つらくなってきた。目を閉じる。
 かといって眠れる気配は全然ないのがつらい。
 額にひんやりと冷たい感触。
 うっすら目を開けると、志保が額に手をあててくれとった。


「志保の手、ちべたいなぁ……」
「奈緒さんの額が熱すぎるんです。……いいですか、いなくなりませんから、ちょっとここで待っててください。準備、まとめて終わらせるんで」

 そう言って、志保は立ち上がって視界から消えた。
 それを追う気力もあらへん。
 私は目を瞑り、暑くなってきたから毛布を蹴飛ばした。
 そしたら寒気が増して、再び毛布を頭から被る。
 あかん、死ぬんやないかこれ。


 そんなんを何度か繰り返していると、志保が戻ってきた。
 色々なもんを抱えとる。
 まず、洗い桶に張られてた水でタオルを絞ってくれた。

「……それ、雑巾ちゃうよな」
「冗談を言える元気はあるんですね」
「……空元気ってやつや」

 額にタオルを置いてくれる。
 あんま冷たくないなぁって思ってたけど、その上に更に氷が詰まったビニル袋を載せてくれた。
 おぉ、ちべたい……。


「あとこれ。舐めてください」

 志保が氷をつまんで、私の口元へ持ってくる。

「え、指を? それはちょっと、えろいんやないかな……」
「違いますよ、氷です……指じゃないって言ってるでしょう!」
「そんな細かいこと出来るわけあらへんやろ……」

 口の中でころころと氷を舐める。正常やったら志保の指の味とかもしたんやろか。
 こんなこと考えとる時点で正常やないけども。あー、ちべたい。

「もっと氷食べられそうだったら、いってくださいね」
「……ほな、もう一個、あーん」

 今度は舐める前に指が即座に消えていった。なんや、つまらんな。

 しばらく、氷を舐めては入れられてを繰り返していると、ふと、思う事があった。

「なんや、ひな鳥みたいやな」
「みたいじゃなくてまさにそれですから。……本当は、一緒にダンスレッスンだったはずなんですからね。反省してください」
「……なんや、志保だけいけばいいやん」
「もう事情を説明して休みにしてもらいました」
「さよか。……ごめんな。なんか埋め合わせ、するからな」
「別にいいですよ。大体、迷惑をかけられてるのはいつもですし」

 そんな事ないやろ……いや、あるかもなぁ。


「……ちょっと、黙らないでくださいよ。冗談ですよ、冗談」

 慌てた様子で取り繕っとる。
 別にそういう反応をさせたかったわけじゃないから、逆にへこむわ。
 ……あかんな、体調悪いとやっぱ調子でーへん。なんとかせな!

「志保の冗談はつまらんからなぁ。もうちょっと勉強せーへんと、バラエティ出られへんで」
「……別に、いいですよ。奈緒さんが一緒に出てください。助け合いの精神です」
「さよか。ほな、私がドラマにでも出たら脇役で引き立ててくれや」
「引き立つほどの魅力があればですけどね」

 志保がイタズラっぽく笑う。
 このー、人が気を使ってやったらこの仕打ちや。むかつく!
 ……決めた。こうなったら風邪を逆手に困らせまくったる。


「……なー、志保、なんか手が熱いわ」
「そうですか。氷袋、もう一つ作ってきますね」

 立ち上がろうとした志保の手を取る。

「これでええわ」

 ぽつりと呟いた。
 志保の掌は割と冷たい。私のが熱いのかもしれへんけど。

「……まぁ、奈緒さんがいいなら、いいですけど」

 すとんと志保がソファに腰を下ろす。見上げた頬がちょっと赤くなっとる。

「なに照れとんねん」
「照れてませんから!」

 お腹の方にばしんと衝撃。やめてや、吐いてまうよ。


「なんやこれ……あぁ、桃缶かぁ……」
「えぇ、シンクの所にあって。これなら食べられるんじゃないです?」
「そうかもなぁ……」

 正直、あんまり食欲はわかんけど。
 まぁ、お好み焼きとかよりはマシっぽいかな。

「じゃあ、開けますから、ちょっと待っててくださいね。……手は離してください」
「えぇー、ややー」
「片手じゃ出来ないんですよ! ……まったく、わがままばっかり……」

 ぱかりと缶が鳴り、中身が手際良く皿に移しかえられていく。

「……なんや、猫になった気分や」
「元から似たようなものでしょう」

 いや、それはきみには言われとうないわ。


「はい、食べられますか」
「無理そうやから、さっきみたいに、あーん」
「……食べられますよね?」

 私はひかへんで。ほんまに無理やし。私は今ひな鳥やし。
 餌を求めてぱくぱく口を動かしていたら、志保が大きくため息をついた。
 諦めた様子で、桃をフォークで四等分にしている。
 その内の一つを上手いことすくい、口へ持ってきてくれた。
 もぐもぐ。

「うまいな」
「そうですか。ならよかったです」
「いや、手際が。慣れとる」
「……まぁ、弟がいますから。子どもって体調、すぐ崩れちゃいますからね」

 看病くらいは出来ます、と志保が呟く。


「なんや、私は弟くんと同レベルかい」
「以下ですよ。こんなに大きいのに手が掛かりすぎです」

 とんでもない言いがかりや、と呟いた後に再び口をぱくぱくさせる。
 もう突っ込む気力もありません、と志保は観念して桃を次々と私の口の中へ運んでくれた。
 食えへんと思ってたけどぺろりと一缶食べられて、
 食後ににがぁい粉の薬を飲み下し、
 たっぷりかいた汗を拭いて着替えも手伝ってもらったら、
 段々うつらうつらとしてきよった。


「……しほぉ。なんか眠くなってきたわ」
「本当、子どもみたいですね。……いいですよ、寝ちゃってください」
「さよか? ほな、一緒におってな……」
「はいはい、わかりましたから」
「手も握っててくれな?」
「こうですね」


「……志保、ずっと一緒におってな」
「小鳥さんが来るまではいますよ」
「ずっと」
「……治るまでいますよ」
「ずぅっとや」

 意識が落ちていく。掌はいつの間にか冷たくなくて、温かい。
 薄れゆく意識のなか、志保の困ったような笑顔がみえる。

「えぇ、ずっと一緒です」

 偶には風邪ひくのもええかもしれんな。
 眠りの間際、そんな事を思うのやった。


     ☆

 さて、それから2日が経ったんやけど。
 嵐のあとの快晴みたいに、けろっと体調がよくなってしまった私は、
 たっぷり膨らんだビニル袋を抱えてとある場所を目指す。
 プロデューサーさんに教えてもらった住所のメモと、
 あんまりうるさくするなよ、という金言を胸に私がやってきた場所は――。


 ぴんぽんぴんぽーんとリズミカルにドアチャイムを押す。

「あ~! はよしてや荷物重いんやって!」

 がちゃり、とドアが開く。

「志保、看病しにきたったで! ひとりで寂しかったやろ!」
「帰ってください」

 ノータイムで無情にもしめられるドア。なんでや!

「お母さんおらんって聞いとるんや! うるさくせぇへんから看病させて!」
「もう既にうるさいんですよ……!」
「いれてくれへんとこれ以上うるさくするで! ライアルージュ5回くらい熱唱するからな!」


 渋々といった様子で再び開いたドアから、ひょこりと顔を出してくる志保。

 額に冷えピタはって、頬も真っ赤。
 うわー、めっちゃ体調悪そう。

「とんでもない顔しとるな」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「私のせいやからきとるんやろ」

 それくらいわかっとるわ、もう。

「ほら、今日はもう笑いとかなしで看病したるから。
 ささっ、中入って。なんでもしたるからな!」

 言い争うのもしんどいのか、あるいは私を受け入れてくれたのか。
 志保はため息のような笑いを吐き出して、首を少し傾ける。

「……それじゃあ、今日はずっと一緒にいてください」
「ええよ。いたるわ。ずぅっとな」

 ……やっぱり、偶には風邪もええもんやな。
 こんな素直な志保、普段はみれへんもん。

 ほな、看病がんばりますか!


 ~おわり~

以上です。
読んでいただきありがとうございました!

乙でした

>>2
横山奈緒(17) Da
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>>2
音無小鳥(2X) Ex
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>>3
北沢志保(14) Vi
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奈緒と志保といえば水泳大会で騎馬くんでたっけ、普段も仲いいといいなぁ
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