からくりサーカスss しろがねルシールの遺書 (41)

からくりサーカスのssです
このssは大体原作21巻を舞台にしたものになります

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遺書を遺そうと思う。

今、私が立っているこの場所はサハラ砂漠。

ここに私が長年追いかけていた宿敵がいる。

これを読んでいる者は…いないと思うがそれでも敢えて名乗っておくよ。

この遺書に記されているのは私の懺悔の告白だ。

私の名はルシール・ベルヌイユ。

いや、私の名前に意味なんかない。

面倒臭ければ『しろがね』と呼んでくれても構わない。


『しろがね』


それは『柔らかい石』から生み出された『生命の水』(アクア・ウイタエ)を飲み、

不死の身体を手に入れた復讐者たちの事さ。



全ての始まりは…いや…違う。

恐らく全ての始まりはもっと別の何かだったはずだ。

それなのでここでは私にとっての始まりを記しておこう。

今から200年以上前になる。

私はフランスのクローグ村に生まれた。

そこで夫と結ばれて二人の子供にも恵まれた。

平凡な農夫の妻だった。

けどそんなある日、悲劇が起きた…



『キャァァァァッ!?』


今でもあの光景が悪夢として蘇る。

怒りは風化して忘れ去られるというが、決して忘れるものか。

祭りの日、私の息子が殺された。

殺したのは4体の人形たちと…あの男…

そう…忌まわしきあの黒衣の男だ。

私も最近になって知った事だが黒衣の男の素性は白金という中国人の老人だった。

普段から村外れの寂れた洋館に一人で暮らしている不気味な錬金術師…

何故あんな事をしたのか…理由はわからない。

いや、理由なんてどうだっていい。

この怒りはあの日以来、一度も忘れた事がない。



私の愛しい坊やを殺した憎いあの人形ども…

ヤツらは自動人形(オートマーター)

後に最古の四人(レ・キャトル・ピオネール)と呼ばれる4体の人形たちが村人たちを襲った。

黒衣の男は私の坊やを殺しただけでは飽き足らず村人を次々と惨殺した。

そして黒衣の男はその無残な光景を美しい一体の自動人形に見せつけていた。

ヤツの名はフランシーヌ人形。

惨殺されていく光景を見せて笑わせようとしたらしいが…

フランシーヌ人形は最後まで笑わずに無表情でいたのを覚えている。



そしてヤツらは生き残った村人たちに呪いをばら撒いた。

奇妙な銀の煙を吹かしてそれを村人たちに吸わせた。

その銀の煙の正体は『ゾナハ病』

ゾナハ病を発症した者は人を笑わせないと激しい呼吸困難を伴った苦痛を味わう。

私たち、生き残ったグローグ村の住人は一人残らずゾナハ病に掛かってしまった。

だがこの病気の恐ろしいのは苦しい事だけではない。

死ねない事にある。

医学的にこの病気が進行すると体温が低音で一定化して全身が硬直する。

そうなればどうなるのか?

半永久的にあの苦痛を味わいながら生き地獄を味あわなければいけないのさ…



それから幾歳月の時が流れた。

私と娘は長い間、ゾナハ病に苦しんでいた。

そんな時、旅の錬金術師だという男が現れた。

その錬金術師さまは私にある秘薬を与えてあの地獄の苦痛から解放させてくれた。

事情を知った彼は黒衣の男を止めるため、私にある選択を突きつけた。




『死ぬ』 『闘う』



私はあの忌まわしき自動人形どもに愛しい坊やを奪われた。

母親としてあの子の敵を取らなくてはならない。

壊す…この世からヤツらを全て破壊してやる。

その時、私は復讐を誓った。

私の選択を聞き入れた錬金術師さまは古井戸にある物を投げた。

それこそ自動人形を生み出した物と同じ柔らかい石だった。

去り際、私は彼の名を尋ねると彼はこう名乗った。

『しろがね』

この名前を私は生涯忘れる事はないだろう。



翌日、私は彼の指示通りに古井戸でアクア・ウイタエを飲んだ。

すると脳にしろがねがこれまでに蓄えた知識、技術が流れてきた。

瞳と髪は銀色となり身体能力は以前よりもはるかに向上した。

私はしろがねから戦う術を与えられた。

不死者となった私は、

同様に生き延びた村人たちへ選択肢を突きつけてアクア・ウイタエを飲ませた。

この時、私たちは個を捨てた。

全員が『しろがね』と名乗り自動人形どもに復讐を誓ったからさ。



そしてヤツらとの戦いが始まった。

あいつらは仲間を増やして真夜中のサーカスとして徒党を組み、

私たちの村を襲った後も各地にゾナハ病をばら撒いていた。

その理由はなんとフランシーヌ人形を笑わせるためだとさ。

まったく笑わせてくれるよ。人形が笑ったりするものか…

ヤツらとの戦いは正直苦戦を強いられた。

自動人形を倒すために私たちしろがねは懸糸傀儡(マリオネット)を用いて戦った。

懸糸傀儡はあの方が私たちのために遺した武器だ。

目には目を、歯には歯を、人形には人形で私たちしろがねは対抗した。

目的はフランシーヌ人形の破壊と真夜中のサーカスの壊滅。

これこそが私たちしろがねの悲願となった。



私たちしろがねは仲間を増やして戦力を拡大させていった。

けどある日、小さな異変に気づいた。

それは私のもう一人の最愛の子、アンジェリーナにあった。


『なぁ…アンジェリーナの顔…もしかして…』


『でも何でフランシーヌ人形と彼女が…?』


少女であったアンジェリーナが美しく成長していった。

私も最初は単なる他人の空似かと思っていたがそうではなかった。

成長したアンジェリーナは、

あの忌まわしき自動人形どもの主であるフランシーヌ人形に瓜二つの顔をしていた。



ある日、こんな噂話を耳にした。

それは私と同郷のクローグ村のしろがねたちによる噂だ。

私の家系には元々フランシーヌ人形のモデルとなった人間がいたらしい。

その人間は非業の死を遂げた。

だからあの黒衣の男は私たちへの復讐を行ったとかそんな話だ。

ここまでなら単なる噂話、私も聞き流していただろう。

だが、彼らは私にとって恐ろしい話を始めた。



『アンジェリーナがフランシーヌ人形のモデルになった人間と血縁関係にある!』


『これを利用する手があるはずだ!』


『上手くいけばフランシーヌ人形諸共自動人形は全滅するぞ!!』


あぁ…なんと…恐ろしい話だ。

私はあの子の体内に柔らかい石を封じてしまった。

それ以来アンジェリーナは自動人形たちの標的だ。

恐らくその計画はうまくいくかもしれない。

けれど私の娘であるアンジェリーナは間違いなく命を落とす。

神さまは私から息子だけでなく娘まで奪おうとしているのか。

だが今の私は既にしろがねだ。

個人として…いや…母として生きる事など許されない。

それは娘のアンジェリーナとて例外ではないはず…

その時の私は本気でそう信じていた。



その夜、ある夢を見た。

夢の中には自動人形に殺された私の愛しい坊やが出てきた。

久しぶりの再会に心躍ったがあの子は私にこう告げた。


『ママ、お姉ちゃんの事をお願い…』


あの優しい坊やが私に語りかけてくれた。

あぁ…アンジェリーナ…私の愛しい娘よ…

どうやらこんな私にもまだ母親としての血が流れていたようだ。

そして私は急いで行動を起こした。



『アンジェリーナ、ここから出てお行き。』


『そんな…お母さま!?』


そう、私は密かにアンジェリーナを逃がした。

自分の身を守れるように、

オリジナルの懸糸傀儡であるあるるかんとそれに一滴のアクア・ウイタエを持たせた。

もしも私たちしろがねが闘い以外の道で生きていけるのなら…

それは自動人形への復讐など忘れて、

愛する人と共に生きていける素晴らしいものであってほしい。

母親として切にそう思った。



それから暫くして、東洋の島国である日本という地にアンジェリーナはたどり着いた。

そこで出会った才賀正二という男と結婚したそうだ。

驚いた事にこの男はかつて私たちを助けてくれたしろがねさまの弟子だという。

おまけにあるるかんの製造にも関わっていたとか…

才賀正二は懸糸傀儡の製造を得意としていた。

彼はしろがねの後方支援として懸糸傀儡の製造を任せて欲しいという。

さて、困ったものだねぇ。

私はあの子にこんな闘いから抜け出して欲しかったのに…



日本にいる娘たちと仲介を取るしろがねを派遣しなければならない。

誰が適任かと悩んだ時、ある男が名乗りを上げた。

ディーン・メーストルというアンジェリーナと一番仲が良かったしろがねだ。

しろがねたち全員からの信頼の厚い男だ。恐らく適任なんだろうが…

けど私は何故かこの男を信用できない。

どうしてかはわからないが彼から時々感じてしまうからだ。

私たちのクローグ村を滅ぼしたあの黒衣の男と同じドス黒い匂いを…

話を続けよう、結局ディーンは日本へ向かい才賀正二との仲介役となった。

それから何年か後の事だった。

アンジェリーナが才賀正二との子供を身篭った知らせが届いた。

母親として私は内心喜んだよ。

けれど…



アンジェリーナが死んだ。

それが日本へ派遣されたギイ・クリストフ・レッシュからの報告だった。

何故当時しろがねとしては新米のギイが日本へ渡ったのか?

私はこの事をクローグ村以来の仲間たちを問いただした。

どうやら彼らはアンジェリーナの体内にある柔らかい石を回収しようとしたらしい。

愚かな…

結局、私の行為は無駄に終わってしまったようだ。

こんな事になるのなら行かせるべきではなかった。



だが悲しんでばかりはいられない。

問題はアンジェリーナの体内にあった柔らかい石だ。

ギイの報告によれば柔らかい石はアンジェリーナが死ぬ前に誰かに託したそうだ。

『柔らかい石はいい笑顔の者に』

それがアンジェリーナの遺した最後の言葉だという。

一体誰に託したのだろうか…?



それからまた長い年月が過ぎた。

しろがねと自動人形たちの闘いは悪化の一途を辿るばかりだ。

古井戸のアクア・ウイタエは枯渇して新たなしろがねを生み出すのはもう無理だろう。

ギイが回収したが既にスプーン一杯分しかない。

そんなある日、私の下に一人の少女が送られてきた。

その少女の名はエレオノール、彼女はギイによって連れてこられた最年少のしろがねだ。



一目見て確信した。

この子はアンジェリーナの娘だと…

何度かギイに問いただそうかと思った。

だがしなかった。何故かだって…?

アンジェリーナが死んだ日、何かがあったに違いない。

恐らくそれは私の家族にとって重大な事件、それは隠さなければならないものだ。

わからない。何が起きているの…?



エレオノールが私の下へ来てある日の夜の事だった。

彼女は泣いていた。

どうやら親しいギイと離れて一人で寝る夜が恐いのだという。

その光景を見た私はかつての自分の子供たちの事を思い出した。

そして戯れにある子守唄をしてあげた。

その唄は昔から私の家で語り継がれている優しい子守唄だ。



『かわいいぼうや』


『愛するぼうや』


『風に葉っぱが舞うように』


『天にまします神さまよ』


『この子にひとつ みんなにひとつ』


『いつかは恵みをくださいますよう』


その唄を聴き終えるとエレオノールはとても満足したようにすやすやと眠った。

あぁ…愛しい孫よ…

アンジェリーナはお前という大切な存在を遺して逝ってしまったんだね。

今、私は確信した。

あの時、戦いから身を引かせたのは間違いではなかった。

アンジェリーナはこんなにも素晴らしい子供を遺していったのだから…

ならば私のすべき事はひとつだ。



『エレオノール!しっかりおし!』


『は…はい!先生!』


それから私は心を鬼にして、

エレオノールを他のしろがねたちと特別扱いせずに一人のしろがねとして厳しく育てた。

本当なら戦う術など教えたくはない。

だが私の考えが間違いなければこの子の体内には柔らかい石があるはずだ。

柔らかい石の在り処をあの忌まわしい自動人形どもが知ったら誰がこの子を守る?

それに仲間のしろがねたちも、

柔らかい石を求めてかつてのアンジェリーナのようにこの子を狙うはずだ。

そして恐らくだがこの件には何かとてつもない陰謀が隠されている。

そんな気がしてならない。

だからなんとしてもエレオノールに生きる術を身につけさせなければ…



今から私が立つ場所は戦場ではない、舞台だ。

だから私は演じよう。

私の役は大切な孫娘を守る祖母ではない。

愛する我が子を失った醜い復讐鬼、それが私の役だ。

舞台を観ている観客よ。恐らくお前が本当の黒幕だね。

私から愛する坊やを…それに愛娘であるアンジェリーナを奪った張本人。

そして次に狙うのはエレオノールか。これ以上私の大事な家族を傷つけさせはしない。

なんとしてもお前からエレオノールを守ってやる。



サハラ砂漠、ここに真夜中のサーカスがある。

私たちしろがねは総力を持って、今夜このサーカスを潰す。

今夜、しろがねと自動人形たち…

ここにいる者たちの殆どが死に絶えるだろう。

だがこれで闘いは終わりじゃない…

恐らく闘いはまだ続く。

でも私にとっての舞台はこれで閉幕なのさ。

ここにあいつがいる。

かつて私の愛する坊やを殺した憎むべき最古の四人(レ・キャトル・ピオネール)

あのドットーレが…



私の愛する坊やの首をジャグリングの玉のように扱った最も憎むべき自動人形。

ヤツだけはなんとしてもこの手で倒さなければならない。

いや、倒すだけではダメだ。

地獄の苦しみを与えなければ、そうでなければ私がこれまで闘ってきた意味がない…



ゴメンよエレオノール。

私はアンジェリーナのようにお前の事を守ってやれそうにない。

どうやら私はここで舞台を降りなきゃならないらしい。

だからお前の事を他の者に託そうと思う。

この遺書を読む者よ、恐らくお前はこのサハラの闘いを生き延びる事ができるだろう。

こんな身勝手な願いを押し付けてすまない。

けど、どうか最後にこの願いを聞いておくれ。

私の孫娘であるエレオノールを守ってほしい。

それが私の切なる願いだ…



―――グローグ村―――


「よし、これでいいな。」


「OK!ミンハイ!」


「ようやく建てる事が出来ましたね。」


ここはグローグ村跡地、かつてはしろがねたちの拠点でもあった場所。

だがしろがねたちの殆どがサハラ砂漠での戦いで死亡。

この跡地も既に無人の廃墟と化している。

そこへ三人の男女が墓を建てていた。

加藤鳴海、梁明霞、それにエレオノールの三人だ。



「ルシール、遅くなってゴメンな。けどようやくアンタの墓を建てられたよ。」


「まさか彼女が私のおばあさまだったなんて…」


「あぁ、この遺書にはそう書いてあるようだね。」


ルシールの前で先ほどの遺書を読むミンシア。

サハラ砂漠での戦い、ルシールは恐らくミンシアが生き残ると予見していた。

そこでミンシアの衣服へ密かに遺書を隠しておいたらしい。



「まったく…ルシールったら抜け目がないんだから。」


「だが本当に抜け目がないんだな。
ルシールはサハラ砂漠の時点でフェイスレス…
いや、ディーン・メーストルの正体に薄々ながら気づいていたってわけか。」


「それに私を厳しく指導していたのもフェイスレスから私を守るために…」


「ルシール…アンタは見事に役を演じ切ったんだね。」


サハラ砂漠での激戦後、ディーン…いや…フェイスレスはその正体を明かした。

彼の正体は白金、かつてクローグ村にゾナハ病をばら撒いた張本人であった。

だが彼は既にこの世にいない。

それに自動人形と呼ばれる悪しき人形たちもこの世から消え去った。

世界はようやく平和を取り戻した。



「ルシール、全ては終わった。だからもう安らかに眠ってくれ。」


「そうだよ、天国に居る家族のみんなと元気でね。」


「先生…いえ…お婆さま…出来ればあなたともう一度お話がしたかったです…」


ルシールへの恩を感じる三人の男女たち。

その時、ふとどこからかこんな声が聞こえてきた。



『みんな、幸せにおなり…』


「今…何か聞こえなかったか…?」


「そういえば…ですが…誰が言ったのでしょうか…?」


「あの声、ひょっとして…!」


どこからか聞こえてきた女性の声。

それはこの場にいる三人の若者へ送られた言葉。

かつて自分が得られなかった幸せを彼らへ伝えたルシールの声。

廃墟となったクローグ村にようやく穏やかで平穏な日々が取り戻された。


~終わり~

おしまいです
うしおととらのアニメを見た影響で久しぶりにからくりサーカスの原作を読んだので書いてみました
サハラの激戦中に遺書なんか残している暇ねえだろとか思われるかもしれませんがssなので勘弁してください

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