ひなた「ぐへへへへ」 (21)

ひなた「美奈子さん、また実家からお野菜がたくさん届いたんだぁ」

美奈子「お、ということは私の出番かな? 張り切ってお料理しちゃいますよー!」

ひなた「トマトにお茄子、かぼちゃ、あとあと」

美奈子「トマたま炒めに麻婆茄子、かぼちゃの餡掛け……わっほーい! また色んな料理を作れそう!」

ひなた「それじゃ美奈子さん、これあげるねぇ」

美奈子「ありがとー!」

ひなた「はい、上ーげた」

美奈子「!?」

ひなた「ぐへへへへ」

美奈子「……」







美奈子「!?」


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ひなた「お邪魔しまーす」

このみ「上がって上がって、自分の家と思ってくつろいでね。今お茶淹れるから」

ひなた「お裾分けに来ただけなんだけども……それじゃあ一杯だけ」

このみ「遠慮なんていいのよ? で、今日は何を……ま、シシトウの天ぷら? 気が利いてるわねえ!」

ひなた「つい揚げすぎちゃったから、もらってくれると嬉しいべさ」

このみ「それじゃ早速、はむ……辛っ! あ、あはは、いきなり当たり引いちゃったわね」

ひなた「ごめんねぇ、」

このみ「それじゃお口直しにこっちの、はむ、辛っ! また当たり、はむ、ひゃん!? こ、こっちも!? まさか、辛っ! これも、これもこれも辛いのばっかり!?」

ひなた「ぐへへへへ」

このみ「!?」





このみ「でもまあこれはこれで、グビッ……ぷはあ」

ひなた「!?」

ひなた「雪歩さん動かないで!」

雪歩「ひぃん!? な、なにかなひなたちゃん」

ひなた「まだ動いちゃダメだよぉ、逃げられちゃうべさ」

雪歩「逃げ!? 何、私の背中、何が……?」

ひなた「虫が」

雪歩「きゃああ! 取ってください~!」

ひなた「まだ動かないでねぇ、せーの……はい、取れたよぉ」

雪歩「み、見せないで! ……って」

ひなた「うん、ただのチョウチョだべさ」

雪歩「ただの、チョウチョ……」

ひなた「ぐへへへへ」

雪歩「私チョウチョはダメなんです~! あっちやってください~!」

ひなた「……」





ひなた「!?」

ひなた「千鶴お嬢さん、お茶淹れたよぉ」

千鶴「ありがとうひなたって熱いですわ! この暑いのにボコボコに湧いたお茶ですわ!」

ひなた「扇風機点けるねぇ」

千鶴「ありがとうひなたって向きが! 向きが固定でこっち向いてないですわ! しかも微風!」

ひなた「クーラーも点けるねぇ」

千鶴「ありがとうひなたって暖房! 蒸し暑い風がわたくしの体を包みますわ!」

ひなた「チョコモナカジャンボもあるよぉ」

千鶴「ありがとうひなたってこれただのモナカですわ! 口の中パッサパサですわ!」

ひなた「そんな時はお茶だべさ」

千鶴「ありがとうひなたってだから熱いですわ! 全然冷めてないですわ!」

ひなた「あたし、気が利かなくてごめんね千早お嬢さん」

千鶴「まあ、なんでも、いいですけどってわたくし千鶴ですわ! 字面は似てるけど他は全く似てませんわ!」

ひなた「ぐへへへへ」

千鶴「!?」

まつり「ほ? これは?」

ひなた「まつり姫さんがマシュマロ好きだって聞いたから作ってきたんだぁ」

まつり「……今はお腹いっぱいなのです」

ひなた「さっきお腹空いたって言ってたべさ」

まつり「マシュマロはおやつ、おやつは食事の後に」

ひなた「今日はお弁当作りすぎたからあたしの分けてあげるねぇ」

まつり「お茶もないと姫の喉を通らないのです」

ひなた「お湯湧いてるからすぐ淹れられるよぉ」

まつり「ほ」

ひなた「まつり姫さん、どうしたんだべ?」

まつり「……に、逃げ道がないのです」

ひなた「ぐへへへへ」







まつり「ほう、いい度胸ね? 」

ひなた「!?」

まつり「なるほど。大体分かったのです、亜美ちゃんと真美ちゃんには姫がお仕置きしておきます」

ひなた「ひぇえ……」

まつり「ひなたちゃんは何も心配しなくていいのです、ね?」

ひなた「目が笑ってないべさ」

まつり「ほ? 噂をすれば亜美ちゃんと真美ちゃん。たいほー!」

亜美「うあうあ~!? 離せー! 離せばわかるー!」

真美「真美は無実だよー! 亜美が全部計画したんだい!」

亜美「真美の裏尻腿ー! 生まれた日は違えど死ぬ日は一緒って約束したのにー!」

まつり「まだ何も言ってないのです」

亜美「あり? 警察ごっこじゃないの?」

真美「真美もてっきり西部ごっこかと」

まつり「ひなたちゃんのイタズラについて心当たりがあるはずなのです。正直に吐けばマシュマロをくれてやるのです」

亜美「ひなぴー? えーっと、真美?」

真美「んーん、真美も分かんない。ひなぴーがどったの?」

まつり「……ほ?」

ひなた「ぐへへへへ」

まつり「亜美ちゃんと真美ちゃんに唆されただけじゃ……あなた、本当にひなたちゃんなのです?」

ひなた「ぐへへへへ」

P「くそ、遅かったか!」

亜美「あ、にーちゃん」

真美「おっす、にーちゃん」

P「今ここに悪いひなたが来なかったか! ばっかもーんそいつが悪いひなただ!」

まつり「一人芝居なのです」

P「実はここ何日かひなたが悪行を働いているとシアター内で噂になっててな、どうやらこの状況を見ると本当らしいな……!」

亜美「諦めたまへひなぴー! 君は完全に包囲されているー!」

真美「実家のおばあちゃんが泣いてるぞー! 卑劣なひなぴー略して卑なぴー!」

まつり「ひなたちゃん、どうしてひなたちゃんみたいな良い子がこんなことを?」

ひなた「……ぐへへ、あたしは良い子なんかじゃないべさー」

春香「おっはよーですにゃん♪ みんな集まって何のお話してるの? あ、ひなたちゃん! この前のアレ、大丈夫だった?」

P「この前のアレ?」

春香「私この間クッキー焼いてきたんです、缶に入れてみんなに配ろうとしてたんですけどその時転んじゃって缶がひなたちゃんの頭に」

亜美「あ! よく見ると卑なぴーの頭にでっかいたんこぶが!」

真美「でっかいバンソーコーもだ! なんで見逃してたんだ!」

まつり「ほ、頭を打った衝撃で性格が変わるなんてまるでマンガなのです」

ひなた「ぐへへへへ、あたしはちっちゃな頃から悪ガキで、15で不良と呼ばれてたんだぁ」

P「まだ14才なのに15才の話をしてやがる!やっぱりひなたは混乱しているんだ!」

まつり「この症状、治し方の定番はやっぱり」

春香「あ、そういえば今日もクッキー焼いてきたんだよ。みんなで食べ、きゃ、あわわわわ!?」

ひなた「へぷっ!?」

春香「いててて……ひ、ひなたちゃんごめん! 私またやっちゃった!?」

ひなた「きゅう……」

P「気を失ってるだけか、よかった」

まつり「……これに限るのです」

ひなた「ん……あれ、あたし」

P「気が付いたか、ひなた! どこか痛むところはないか?」

ひなた「ううん、どこも痛くはないけども……」

P「何があったか覚えてるか?」

ひなた「……ごめんねぇ、何かあったんかい?」

P「いや、大丈夫だ。ひなたが気にするようなことじゃない。ああ、まだ起きちゃダメだぞ、俺が良いと言うまでしっかり休め」

ひなた「? うん、プロデューサーがそう言うんなら」

P「じゃあ俺はこれで、また後で来るからちゃんと横になってるんだぞ。お、まつりか。ちょうどいい、ひなたが起き上がらないか見張っててくれ」

まつり「姫にお任せなのです。さて、ひなたちゃん?」

ひなた「何だべ、まつり姫さん?」

まつり「本当は全部覚えているのです……ね?」

ひなた「……うん」

まつり「どうして、なのです?」

ひなた「それは……ホントに分かんないんだぁ。でも、春香さんの缶で頭打って、それであたしの体が、あたしの体じゃないみたいに動いて」

まつり「何も出来ないまま、内側から見ていた?」

ひなた「だべさ。ねぇまつり姫さん、あたしおかしくなっちゃったのかな。みんなになまら迷惑かけて、もうあたし、あたしここに居られ」

まつり「ひなたちゃん」

ひなた「……」

まつり「ひなたちゃんは頭を打ってまだ物を考えられない状態なのです。今はゆっくり休むべきなのです」

ひなた「でもあたし」

まつり「姫は知っているのです、ひなたちゃんは本当は悪い子。姫には何でもお見通しなのです」

ひなた「まつり姫、さん」

まつり「ね?」

ひなた「……うん。あたし、悪い子だねぇ」

まつり「でも良いのです。ひなたちゃんが良い子でなくなっても、悪い子でも、姫は寛大な心で許すのです」

ひなた「や、やだっ」

まつり「ふふっ。いいえ、許すと言ったら許すのです。まつり姫の名の下に、木下ひなたの悪行の全ては許されたのです」

ひなた「あたっ、あたし、はっ」

まつり「許されたくない、叱られたい、もっと自分を見てほしい……ひなたちゃんはワガママでズルくて悪い子なのです」

ひなた「……っ」

まつり「だから姫は許すのです。今のひなたちゃんに一番効く罰は、何をしても許すことなのです。ね?」

ひなた「見放されたん、かな」

まつり「見守ってるだけなのです。良い子や悪い子になりながら、大人になるのを見守ってるだけ」

ひなた「まつり姫さん、あたしどうしたらいいんだろ? なんで、あんなことしちゃったんだろ?」

まつり「本当は分かってるのに知らんぷりなんて。ひなたちゃんはやっぱりとっても悪い子、なのです」

ひなた「……こっちは、なんだか窮屈だねぇ。空も、土地も、みんな」

まつり「嫌いなのです?」

ひなた「ううん、好きだよぉ。好きになってきた。空の星は見えないけど、街の明かりがキラキラしてて」

まつり「寂しかったらお家に帰ってもいいのです。おばあちゃんのいるお家でも、姫たちのいるこのシアターでも」

ひなた「まつり姫さん?」

まつり「姫たちはアイドルだから、みんなの前では笑っていないとダメなのです」

ひなた「……うん」

まつり「でも家族の前では泣いたり怒ったりして良いのです、かっこ悪い所を見せたり、ムシャクシャしたら暴れたって良いのです」

ひなた「うん」

まつり「妹の可愛いイタズラぐらい、お姉ちゃんは許してあげるのが当たり前なのです。ね?」

ひなた「っ、うん!!」

まつり「いつものひなたちゃんの、ぱわほー! なお返事なのです。おかえりなさい、ひなた」

ひなた「……ただいまだべ!」

ひなた「ふんふふんふーん、ふーふふふふふーんふーふふふんふふふふーん♪」

奈緒「ん? ひなたー何その植木鉢ープチトマト育ててるん? 夏休みの宿題?」

ひなた「ううん、これはあたしが勝手にやってるガーデニングだよぉ」

奈緒「へー、美味しそうな実ぃ付けてるなー。育て方が上手いんやろなあ、これなんかもう真っ赤やん」

ひなた「奈緒さん、良かったら一つ食べるかい?」

奈緒「ええんか? ほな遠慮なく、よいしょ、いっただっきまーす♪ ……!?」

ひなた「ただ、食べる用に味の調整してないから美味しくないかも知れないよぉ?」

奈緒「酸っぱー!! 食、食べる前に言わんかいぃ……!」

ひなた「ぐへへへへ」

奈緒「この、ひなたー! お前なんかこないしてこないして、こうやー!」

ひなた「あは! あっはははは! わ、脇は反則だべー!」

奈緒「まだまだー!」



まつり「ひなたちゃんが大人になるのは、まだ当分先みたいなのです……ね?」

おわり

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