一方通行「絶対能力進化実験……最高だったぜ」 (65)

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ミサカ20000号「」ブシャア

一方通行「…………」

一方通行「………………」

一方通行「……終わった」

一方通行「遂に終わったンだァ……」

一方通行「長かった。マジで長かった……ッ」

一方通行「二万体だぜ? 信じられねェ。ありえねェよ。いくらなんでも多すぎるだろォが……」

一方通行「思い出すぜ……研究者に、無慈悲に実験内容を告げられたあの日を……最初はその数に絶望したっけなァ」

一方通行「素で『はァ?』って聞き返しちまったら、研究者も申し訳なさそうなツラしてやがったぜ」

一方通行「しかしまァ、あいつらが悪いわけじゃねェ。樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》の計算結果がそうなっちまったんだから、反論の仕様がねェ」

一方通行「レベル6を諦めるって手もあったが……いや、実際何度考えたかわからねェ。だが、諦めたところで俺には何も残らねェからな」

一方通行「結局、俺はやるしかなかったンだ」

一方通行「とりあえず先のことは考えず、ひたすら殺してたっけか。残りを考えたらやる気も失せるからなァ」

一方通行「ただ殺すだけならまだしも、いちいち殺し方を変えなきゃならねェってのが面倒だった。最初は苦労したもンだ」

一方通行「だが、人間ってなァ慣れる生き物だ。いつの間にか、実験を行う日々が当たり前になっていた」

一方通行「まァ、面倒臭ェことに変わりはなかったがなァ」

一方通行「一万人目を殺したところで、ようやく数を意識したもンだ。記念になかなか派手な殺し方をしてやったぜェ」

一方通行「折り返しだということに希望を見出だしつつも、今までやったことをもう一度繰り返すってことに、更なる絶望もあったなァ……」

一方通行「ただ、そこから屋外での実験になったことは救いだったぜェ……もう室内での殺し方を思いつくのは限界だったからなァ」

一方通行「今思えば、それ以上に精神的にも助かってたのかもなァ。どうせチマチマ似たような作業をするなら、開放感のある外の方がいいに決まってる」

一方通行「あの頃は、それすらわからなくなるくらいにはノイローゼ気味だったからなァ……」

一方通行「そォいや、外での実験が始まってからしばらくして、一度トラブルがあったっけか。予定外のことが起こったのは、あれが最初で最後だったなァ」

一方通行「妙な男が実験に乱入してきやがったんだよなァ。なんだったンだあいつは」

一方通行「たまたま紛れ込んだわけでもなく、自ら実験に介入してきやがった。ったく、機密事項の管理はしっかり行わなきゃダメだろォが」

一方通行「全く迷惑なもんだぜ。こっちは真面目に実験を行っていた最中だったってのによォ」

一方通行「まァあいつも、多少は俺の実験の糧にはなったのかもなァ。奴も本望だろ」

一方通行「俺としても、いい気分転換になったのかもなァ。あの頃は実験で忙しくて、クローン以外の奴を殺すことはほとんどなかったからなァ」

一方通行「同じ顔の奴を何度も殺し続けてたら、そりゃァ疲れて当然だもんなァ。そう考えると、あの男はこの実験の影の立役者とも言えるかもしれねェなァ……」

一方通行「……それからは、また同じことの繰り返しだ。数を考えちゃいけねェ。心が折れる。ここまできてやめるわけにもいかなかったからなァ」

一方通行「残り千体となったとき、ようやくその数に希望が持てた。だが、千体だ。元々の数が多すぎただけで、まだまだ先は長い」

一方通行「だが、まァ……ひとつの区切りではあった。正直それまでは、いつか実験が終わるということ自体が信じられなかったからなァ」

一方通行「終わりが近づいているという感覚は、妙なもンだったぜ」

一方通行「……残り百体を切ったところで、現実的に終わりが見えてきた」

一方通行「それからは毎日が一変した。楽しかったぜェ。もはや惰性的な習慣と化していた実験が、あれほど俺に活力を与えてくれるとは……」

一方通行「不思議なもンだ。憂鬱の原因だったはずの実験が、もはや、生き甲斐とすら呼べるものになっていたンだなァ……」

一方通行「カレンダーに印をつけて、残りの数が減っていくのを見るだけで、ニヤニヤが止まらなかったぜェ」

一方通行「だが、残り十体を切ったとき……」

一方通行「何だったンだろォな、あの感情は。もう終わりが近いと認識した途端……」

一方通行「寂しさ……いや、もの悲しさっつーのか? 妙に落ち着かなくってなァ」

一方通行「へっ、俺らしくもねェ……」

一方通行「それからは、今までの俺からすれば考えられねェくらい、丁寧な殺し方をした……」

一方通行「なんでだろォな……いや、今の俺ならわからなくもねェ」

一方通行「あれは……なんていうか、そう……」

一方通行「感謝……かもしれねェな」

一方通行「この実験のために、どれだけの人間が動いているか……それを考えたら、手を抜いて殺すことなンざできるはずがねェ」

一方通行「真剣に実験に取り組むのは、もはや俺の義務だったンだ」

一方通行「そこからは俺の集大成だ。それまでの実験の経験はもちろン、実験以外での経験も駆使して、俺は俺の全てを出し切った」

一方通行「少しでも悔いが残るような形で、この実験を終わらせたくなかったンだ」

一方通行「だが、そう考えるようになると、毎日が苦悩の連続だった。もっとやれたンじゃないか、もっといいやり方があったンじゃないか……ってなァ」

一方通行「そんな俺の苦悩をよそに、時間はあっという間に過ぎていった」

一方通行「……そして今日、遂に実験最終日が訪れたンだ」

一方通行「今朝は早起きしちまった。妙に目が冴えちまってなァ」

一方通行「実験は夜だから、それまでは寝ててもよかったンだがな。暇だったから、実験場所の下見でもしようかなンて考えちまってよォ」

一方通行「そンなこと、今まで一度たりともしたことなかったのになァ」

一方通行「下見に来て、別に何かがあったわけじゃねェ。そもそも、初めて来た場所でもなかったしなァ」

一方通行「せいぜい、一万通りほどシミュレーションをしただけだ」

一方通行「もちろん、今までの実験とは全て異なる殺し方だ。そうじゃねェと意味がねェからな」

一方通行「だが、結局そのほとんどは無駄になる。わかってはいたさ。だが、改めてふとそう思ったとき……」

一方通行「……俺は、自分の本心を知った」

一方通行「俺は、今日という日を待ち望ンでいた……それは間違いねェ」

一方通行「だが、同時に俺は……」

一方通行「……この実験が終わってほしくないと、思ってもいたンだ」

一方通行「あァ、わかってる。実験関係者には、口が裂けても言えねェよ……」

一方通行「だが、自分に嘘は吐けねェ。仕方ねェよなァ。そう思っちまったンだからよォ」

一方通行「……俺は、これまでの全ての実験を思い返した」

一方通行「初めの頃は俺もまだ未熟で、目も当てられねェよォなザマだった。恥ずかしくて、もう一度やり直してェくれェだ」

一方通行「そんな俺も、少しずつ成長してきて、それなりに自分で納得できるくれェには、実験をこなせるようになっていったンだ……」

一方通行「この実験がなかったら、今の俺はなかった。そう思うと……」

一方通行「あァ……やっぱ、感謝だよなァ」

一方通行「研究者たちはもちろンだが、それ以外にも……」

一方通行「……クローンの管理を行う人間、実験場所の確保を行う人間、実験の事後処理を行う人間、肉体的、精神的な面で俺をサポートしてくれた人間、DNAマップを提供してくれた御坂美琴、そして、妙な闖入者……」

一方通行「実験に関わった全ての人間に、感謝しかねェよなァ」

一方通行「あンな土壇場でようやく気づくなンざ、俺って奴は、本当に救いようがねェ……」

一方通行「そして、俺は決意したンだ」

一方通行「最後の実験は、これまでの全ての実験を超えるものにしてみせると。絶対に、悔いの残らねェよォに全身全霊を以て成し遂げてみせるってなァ」

一方通行「そして……その時はきた」

一方通行「時間通りに、二万体目のクローンは現れた。ありがてェことだ」

一方通行「特に言葉を交わすつもりはなかった。意味もねェしな」

一方通行「だが、そいつの顔を見たとき……」

一方通行「俺は、鏡でも覗き込んでる気分になった」

一方通行「考えてみれば、当然だ。そいつには、それまでの実験の全ての知識と経験が詰まっている」

一方通行「正真正銘、最後に残ったたったひとりのクローンだ。それはもはや、ミサカネットワークそのものとも言えた」

一方通行「まさに、それまでの実験の全てがそこにはあったンだ」

一方通行「……俺は忘れていたンだ。そォだ、こいつらがいたから実験は成り立っていたんだと」

一方通行「あァ……まさに、この実験における、パートナーとも呼べるほどの存在だったンだとなァ……」

一方通行「……それに気づいたとき、俺は思わず呟いていた」

一方通行「『ありがとォよ』……ってなァ」

一方通行「そいつは何も言わなかった。だが、俺にはわかった」

一方通行「俺たちはあのとき、確かに通じ合っていたンだ」

一方通行「そのとき俺は確信した。最後の実験は、かつてなかったほどに、素晴らしいものになるってなァ」

一方通行「そして遂に、最後の実験が始まった」

一方通行「そいつは、俺の期待に十二分に応えてくれた」

一方通行「それまでの、一万九千九百九十九回のどの殺し方を用いても、そいつを殺すことはできなかっただろォな」

一方通行「そォだ、それでこそ意味があった」

一方通行「それこそが、この実験の本質だった。俺はここにきて、ようやく気づいたンだ」

一方通行「これまでの全ての戦闘は、この一戦のためだけにあったンだとなァ……」

一方通行「……そして、その時は訪れた」

一方通行「傍から見れば、一瞬のことだったのかもしれねェ」

一方通行「だが、そこには確かに、無限の駆け引きが存在したンだ」

一方通行「その上で俺は、奴を……いや、これまでの全ての実験を、完全に超越した」

一方通行「俺は紛れもなく、過去の自分を超えたンだ。この実験を終えたこと自体が、その証明だった」

一方通行「……決着が、ついた」

一方通行「……」

一方通行「……」

一方通行「……終わっちまったンだなァ」

一方通行「そォだ……終わったンだ。俺は、絶対能力進化実験を、遂にやり遂げたンだ……ッ」

一方通行「あァ……これが、感慨深いという感情なんだなァ」

一方通行「……?」

一方通行「……カカッ、何の冗談だァ? これは……俺としたことが……」

一方通行「……涙が……流れてるじゃねェか……」

一方通行「……」

……

……

一方通行「……よォ」

研究者「終わったか……長い間、お疲れ様」

一方通行「あァ、そっちこそ、お疲れさン」

研究者「……一方通行」

一方通行「あン?」

研究者「こんなにも長い間、実験に付き合ってくれて、本当にありがとう。このような手段しか用意できなくて、済まなかったな」

一方通行「ったく、何言ってンだ今さら」

一方通行「……こっちこそありがとォよ。実験をやり遂げられたのは、お前らのおかげだよ」

研究者「そう言ってもらえると、助かるよ」

一方通行「にしても、こんなに長い付き合いになるとはなァ」

研究者「……そうだな。本当に、長かった」

一方通行「あァ……長かった」

一方通行「……」

研究者「さて、早速測定を行おう。絶対能力の、レベル6の測定だ!」

一方通行「……明日でもいいんじゃねェのか?」

研究者「何を言うんだ! レベル6が測定されて初めて、絶対能力進化実験は終わるんじゃないか! 疲れてるかもしれないが、頼むよ」

一方通行「……」

研究者「どうした、不安なのか? 大丈夫だ。樹形図の設計者の計算に狂いはない。必ず、期待通りの測定結果が出るはずだ」

一方通行「……わかったよ。さっさと終わらせてくれ」

研究者「あぁ、結果を楽しみにしておいてくれ」

一方通行「……」

……

……

研究者「……待たせたな、一方通行。測定の結果が出た」

一方通行「別に、そんなに待ってねェよ」

研究者「……一方通行」

一方通行「……」

ガバッ

研究者「済まない! 本当に済まない! 君は、レベル6には、なっていなかった……ッ!」

一方通行「……そォか」

研究者「なぜ、こんなことに……ッ! 樹形図の設計者の計算が、間違っていたとでもいうのか……!?」

研究者「済まなかった、一方通行! 無駄な実験を、繰り返させてしまった……!」

一方通行「……」

研究者「ぐっ……ううっ……!」

研究者「一方通行……私を……」

研究者「……私を……殺してくれ……」

一方通行「……何バカなこと言ってやがンだ」

研究者「あれだけの時間とコストを費やして……いや、それよりも、君にあれだけの負担を強いて、何の成果も出せなかったとは……私にはもう、生きている資格がない……ッ!」

一方通行「……チッ」

研究者「……」

一方通行「わかっちゃいたけどよォ……相変わらずてめェらは無能だよなァ」

研究者「……返す言葉もない」

一方通行「何勘違いしてやがンだ?」


一方通行「俺はなったぜ……レベル6によォ」

研究者「………………」

研究者「……は? い、いや、しかしっ!」

一方通行「レベル6ともなると、凡人には測定すらできねェってところか? 笑えるぜ」

研究者「ふ、ふざけるな一方通行! そんな理屈で……」

一方通行「ふざけてんのはどっちだよ? 実験が無駄だっただと? そんなはずねェだろ」

研究者「しかし、現に……」

一方通行「……俺はあの実験を通して、大切なことを知った。それは、測定してわかるようなもンじゃねェ。もっと大事なもンが、あそこにはあったンだ」

研究者「……」

一方通行「あの実験が無駄だったなンて、誰にも言わせねェよ」

研究者「一方通行……」

一方通行「……チッ」

一方通行「じゃァな、俺はもう帰るぜ。また実験をするときは呼んでくれ」

研究者「一方通行……ッ!」

研究者「ありがとう……! 待っていてくれ、次は必ず、君をレベル6にしてみせる……ッ!」

一方通行「だァから、もうなってンだって」

研究者「フフ、そうだったな……では次は、レベル7になれる計画でも立てるかな……」

一方通行「いいねェ、調子出てきたじゃねェか。まァ精々頑張るんだなァ」

研究者「……一方通行」

一方通行「なンだよ?」

研究者「今までありがとう。君と実験を行うことができて、私は幸せ者だ」

一方通行「ばァか、こっちの台詞だっての」



一方通行「絶対能力進化実験……最高だったぜ」



終わり

終わりです
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