李衣菜「偶像を侵すチグリジア・シンドローム」 (100)

モバマスSSです

※長いです
※架空の病気が出てきます。
※キャラ崩壊等あります注意してください
※台本形式ですが、急に一人称になったりします。ご了承ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370310414

PaP「夏樹!李衣菜!今日の生放送、頑張れよ!」

夏樹「アタシ達がまさか『第一回・No.1ペアアイドル決定戦』に呼ばれるとはな…」

李衣菜「知名度も上がってきましたし、優勝狙いますよ!」

CoP「まあ、他の事務所からもかなり強敵がいるからな。油断するなよ。」

PaP「『出演者・諸星きらり&双葉杏、大槻唯&相川千夏、松永涼&白坂小梅、上田鈴帆&難波笑美…』以下省略!…すごい人数だな。」

CoP「二人は大槻唯&相川千夏ペアと同じ楽屋だな。くれぐれも失礼の無いように。」

李衣菜「はーい!」

夏樹「…そういえば、なんでか知らないけどまだどんな番組か教えてくれてないよな?動きやすい服でやるってことはライブではないと思うけど。」

PaP「えっ」

CoP「えっ」

だりなつ「「…えっ?」」

PaP「スマン、言い忘れてた。」

CoP「バカ!なんでそんなアホすぎるミスしてんだ!」バシッ

PaP「ごめんね!」

李衣菜「ってそれ不味くないですか!?」

夏樹「特に練習とかもしてないし…どうすんだ?」

CoP「ああ、特に練習とか入らないと思うぞ。実践勝負だ。」

李衣菜「…どういうことですか?」

CoP「この番組、アイドル版『東○フレ○ドパー○』だから。」

だりなつ「」

PaP「あ、上田&難波ペア、挑戦者じゃなくてホ○ジャ○カ枠な。」

李衣菜「あーなんかわかるなー」

夏樹「着ぐるみ&芸人繋がりかよ…」

CoP(復活速いな…)

—『チーズの種類4種類!答えていただきましょう!さぁ走って!』
—「えっと、ごるごんぞーら、もっつぁれら、…あと…?」
—「GA・N・BA・RE☆そらちゃーん!」ダダダダ


—「ネズミたたき?めんどいからやりたくない。」
—「きらりが二人分やるから大丈夫☆ネズミさんポカポカするよー☆」バシバシバシ ベキッ
—『あっー!ネズミが取れてしまった—!』


—「1,2!1,2!ほら、漕いでください!前に勧めません!疲れてるのはボクもなんですよ!」
—「フヒ…キノコ、キノコが見える…!」
—「…幻覚見えてるじゃないですか!しっかりしてください!」


—『あーっと激突!そばが落ちてしまったー!』
—「ああ!今の衝撃で眼鏡が!比奈ちゃん!そばより眼鏡拾って!」メガネドコー!
—「えええ!?」

—「!こ、この曲は…!」
—「おう!あの時貸したCDだ!」
—「う、うん!わかる、わかるわ…。うん。」
—「…」

番組は特に問題もなく終了した。
ちなみに優勝はきらり&杏ペアだった。
…杏というハンデを抱えて優勝したきらりは『パッションモンスター』呼ばわりされるのだが…
あまり関係ない話だろう。

〜楽屋〜

唯「ちなったん!おつかれちゃーん!」

千夏「お疲れ様。結構疲れたわね…。」

唯「あ、キャンディあるよ。舐める?」

千夏「…あまり甘くないのあるかしら?」

唯「いまあたしが食べたのがオレンジで…残ってるのは…コーラ味、ソーダ味、メロンソーダ、ミルク、イチゴ…これしかないなー。ごめんねちなったん…。」シュン…

千夏「いいのよ…そうね、あの二人に欲しい味あげてきたら?」

唯「…!うんそうだねー!あげてくる!」パァッ

唯「ねぇ、キャンディいる?袋から一個取っていいよ〜。」

夏樹「お、サンキュー。コーラ味ある?」

唯「あるある!はいこれ。」

李衣菜「あ、オレンジないんだ…。」

唯「…オレンジ欲しかったの?」

李衣菜「え?まぁ、そうだけど…別のでm…!?」ズボッ

千夏「!」ガタッ タッタッタ

唯「オレンジ、口の中にあったからあげる!じゃね!」

李衣菜「…!?  !?  ?!」

夏樹「落ち着け!パニックになるな!」

タッタッタ バン!
千夏「プロデューサー!また唯ちゃんが奇行に…!」

桜P「唯!他の事務所との問題はマズイ!謝ってこい!」

唯「…なんで?ちなったんの言う通りに『欲しい味あげてきた』だけだよ…?悪いことしてないよ…?なんd」モゴ

千夏「ごめんなさい唯ちゃん、少し黙ってて欲しいの。」

唯「…モゴ!」ニコニコ

千夏「…」

桜P「申し訳ない!最近の唯、少し奇行が多くて…!本当に申し訳ない!」

桜P「この仕事が終わったらしばらく休養する予定だったんだが…最後の最後に君たちに迷惑をかけてしまった!」

李衣菜「そんな、そこまで謝られても、逆に困ります!」

夏樹「本人がこう言ってるんだし、頭あげなよ。」

桜P「…申し訳ない…今回の事は黙っててほしい。奇行は病気みたいなもので…しばらく休養すれば治るみたいなんだ。だから大事には…。」

李衣菜「大丈夫ですよ!言いふらしたりしませんから!顔を上げてください!」

桜P「本当に申し訳ない!」

千夏「唯ちゃん、謝りましょう。」

唯「…ごめんなさい。」

李衣菜「あ、はい…。」

〜多田家・李衣菜自室〜

李衣菜「なんか、すっきりしなかったな…」

李衣菜「ってあれ間接キス…!?いやいや、女同士はノーカン!ノーカン!」

李衣菜「そうだ、落ち着けアタシ!パソコンでロックでも調べて出てきたページで落ち着こう!今後の参考のために!ロックに!」

李衣菜「…社会に、秩序に、ルールに反抗するのがロック!…意外と難しいなぁ…。」

李衣菜「犯罪なんてできないし…じゃあ何が社会に反抗することなんだろう…?」

李衣菜「はぁ、悩んでも仕方ないかぁ。ちょっと誰かのつぶやきとかニュースでも見ようかな…。」

李衣菜「…社会に、秩序に、ルールに反抗するのがロック!…意外と難しいなぁ…。」

李衣菜「犯罪なんてできないし…じゃあ何が社会に反抗することなんだろう…?」

李衣菜「はぁ、悩んでも仕方ないかぁ。ちょっと誰かのつぶやきとかニュースでも見ようかな…。」

李衣菜「…あまり面白いのないなぁ…『芸能人専用病院完成したんだがお前らどう思う?』ぐらい?実際にはしないと思うけどすごいなぁ…。」

李衣菜「…ん、『ネズミーシーで二人ともウェディングドレスの結婚式』?なにこれ?」

李衣菜「へぇ、同性愛なのかぁ…すごいなぁ法律で認められてないのに…ハッ!これ、も、もしかして、すっごくロックな事なんじゃ…!」

李衣菜「別に犯罪でもないけど、社会に反抗してる…!同性愛ってすごいロック!」

李衣菜「…って何言ってるんだろう、自分はそんな感情ないって…ないよね…?」

李衣菜「…でもなつきちの事、すっごくセクシーに思ったこと何回もあるし…」

あれ?
—————やったね、なつきち!
—————なつきち、髪下ろした方が可愛いのに。
—————あれ、なつきちどこー?
もしかして?
—————なつきちは頼りになるなぁ…
—————なつきちにも負けないぞー!
—————なつきちと一緒にセッションかぁ…へへっ
私はなつきちが好きなんじゃ?

———『だりー!』
おかしいな、普通に名前を呼ばれるのを思い出すだけで、顔が熱くなる。
火の鳥のように燃えていた彼女は。
とっても綺麗だった。

李衣菜「…って!ないない!私となつきちなんて!ないって!」

李衣菜「ないってば…う〜…。」

〜事務所〜
CuP「あれ、李衣菜ちゃん。どうしたんだい?そんなに疲れた顔して…。」

李衣菜「あ〜昨日、なかなか寝れなくて…。今日がレッスンだけでよかったですよ。…何回か怒られちゃいましたけど。」

CuP「君もアイドルなんだから、しっかり体調管理しないと。…悩みでもあるのかい?」

李衣菜「相談は自分のプロデューサーにしようと思ってたんですけど…いないんですか?」

CuP「アイツは急遽大阪・京都でのロケについていったな。明日には帰ってくるよ。…俺でもいいなら相談に乗るよ?時間に余裕あるし。」

李衣菜「…!本当ですか!?」

CuP「うん。あ、お茶飲むかい?口付けてないよ。」

李衣菜「ありがとうございます!いただきます!」

CuP「それで、相談ってなんだい?」

李衣菜「えっと…キュートのプロデューサって…ホモなんですよね!」

CuP「ファッ!?」

李衣菜「ホモだって大西さんが!」

CuP「なんてこった。俺は可愛い子が立派になるのを見届けたくてこの職に就いたのに…。」

李衣菜「そ、そうなんだ…ホモじゃなかったんだ…」ショボン

李衣菜「…相談、やめておきます…。」

CuP「…えっ、ホモにしかできない相談なの!?親戚の子がホモだったとか!?」

CuP「…行ってしまった。」

まゆ「…プロデューサーさぁん?お茶入れなおしましたぁ。」ニコニコ

CuP「お、ありがとうなまゆ!すっごく気が効く子だなぁ!さすが俺の最高のアイドル…!」

まゆ「…他の人の担当の多田さんと、何を話していたんですかぁ?」ニコォ…

CuP「ん?…ああ、ちょっと悩みを聞こうとしただけさ。」

まゆ「優しいですねぇ…でも他の子と喋ってるのを見ると…まゆ、さびしいなぁ…」

CuP「わかってるさ、まゆが一番かわいいよ…。世界で、宇宙で、一番かわいい!」

まゆ「うふ、うふふ…」

〜玄関〜
李衣菜「なつきち〜!」

夏樹「あれ、だりー、どうした?プロデューサーに相談があるんじゃなかったのか?」

李衣菜「それが、ロケに行っちゃったみたいで、明日まで帰ってこないんだって…。」

夏樹「忙しい職業だしな…。キュートのプロデューサーも、昨日まで宮城ロケだったそうだし。…無茶はするなよ?レッスンの時もおかしかったし。」

李衣菜「大丈夫大丈夫…って雨、降ってきた?」

夏樹「ゲェ、急に降ってきやがった。」

李衣菜「天気予報は晴れだったと思うんだけどなぁ…。」

夏樹「まぁ、すぐ止むだろ。出た後に降られるよりマシだし…。止むまで待つか?」

李衣菜「待つよ…傘持ってきてないし、勢いも強いし。なつきちは?」

夏樹「あたしも急ぐ用事もないし…。待っておこうかな。雨の中無理に走る必要もないし。」

李衣菜「じゃあ、ちょっと話してよっか。」

夏樹「ん、そうだな。まあそのつもりだったけど。」

李衣菜「明日、一緒に家出ギター練習だし!ロックになってきてる!」

夏樹「アタシが教えるだけだけどなー。」

李衣菜「酷い…!」

夏樹「買ってからまったく練習してないんだろー?」

李衣菜「…事実だけどさぁ…。」

李衣菜「…」

李衣菜(どうしよう…レッスンの時からなつきちを真っ直ぐ見ていられない…。やっぱり私ってレズ?いやいや、あり得ないし!)

夏樹「…だりー?顔真っ赤だぞ?ボーっとしてるし…風邪でも引いたか?」

李衣菜「え、あ、大丈夫!何を話そうか考えてただけ!」

夏樹「ああ、そういえば…朝のニュースでネズミーシーで結婚式やったって言ってたな。」

李衣菜「!!」

夏樹「女同士での結婚式…だってな。だりーも見たか?」

李衣菜「み、見た見た!…ああいうの、なつきちはどう思う?」

夏樹「同性愛か?…うーん、本人同士が幸せならいいんじゃないか?」

李衣菜「…そうだよね、本人同士の問題だよね。」

夏樹「うちの事務所も人数多いし…一人、それか二人ぐらい、そんな奴もいるのかもな。」ハハハ

李衣菜「えっ、えっえええええー!」

夏樹「そ、そんな大声出すなよ。冗談だって冗談。それに、いてもだりーには関係ないと思うけどな。」

李衣菜「あ、ひどーい!あたしに魅力がないってこと!?」

夏樹「そんなわけないだろ、お前にもファンがいるじゃないか。魅力はちゃんとあるって。」

李衣菜「そう言って貰えると嬉しいけど…。ねぇ、なつきち。」

夏樹「なんだよ、急に改まって?」

李衣菜「…もし、もしもだよ。なつきちの知り合いとかファンとか…と、友達が、直接・・・お、女同士なのに…『好きです!付き合ってください!』って言ったら…どうするの?」

夏樹「!?」

李衣菜「いや、本当にもしもの話!」

夏樹「難しい事聞くなぁ…女同士だろ?『友情じゃダメなのか?』とは聞きたくなるかもな。」

李衣菜「…」

夏樹「それに…アタシじゃそいつの気持ちに答えてやれないと思う。断るよ。」

李衣菜「…そっか。やっぱり難しいね。」

夏樹「まぁ今のところ、男でも断ると思うけどね。」

李衣菜「…」

夏樹「…」

二人して時が止まったように無言になる。
急に会話が切れたような心地よくない無言の空間。
外で響く雨の音が少しづつ勢いを失ってゆく。
なつきちはただ外を見つめていて、私は彼女の横顔を横目で見つめていた。

雨が止んで、別の道で帰る。
彼女はマンションで一人暮らし。私は家族と一緒の家。
彼女はバイクで帰る。私は電車に乗って帰る。
途中の駅で止まっている時に、窓の外には彼女のマンションが見える。
駅から少し距離はあるけれど、ちょっと大きめのマンション。彼女の部屋は4○○号室。
時間的に中に彼女はいない。まだバイクに乗っているだろう。
けれど私は景色が動くまでそこを見つめていた。

帰ってきて、ただいまを言って、バッグを置いて靴下を脱いでベッドに飛び込む。
毛布に顔を突っ込んで、私は自分の匂いと闇に包まれた。

なつきちの答えにはきっと私も当てはまる。
ああ、なぜあんな風に言ってしまったんだろう。
まるで告白だ。まるで自己紹介だ。
忘れよう、忘れよう。
こんなは感情消さないと。

彼女との関係にこれ以上を望んではいけない。
もう十分だ。親友なんだから。
これ以上を望めば離れてしまうんだから。

お母さんの呼び声で、毛布から顔を離す。
くらくらする頭と思考を落ち着かせる。

大丈夫。思い出さなければいいのだから。
明日から普通の私に戻ればいいのだから。
あんなことなんてなかったんだ。

あんな感情を抱いたのは、私じゃない。
昨日の私は、私なんかじゃない。

〜翌日・駅付近〜
ちひろ「…」

夏樹「あ、ちひろさん?」

ちひろ「えっ!ああ、夏樹ちゃん。今日は休みなのにずいぶん早いのね?」

夏樹「ああ、だりーの家でギター教えるんだ。で、ちょっと買い物してから行こうと思ってさ。そっちは今日も仕事だったような…?」

ちひろ「まだ、出社時間には早いのよ。」

夏樹「じゃあ、その花束は?仕事関係?」

ちひろ「えっ…えっと、その…」

ちひろ「…夏樹ちゃんならいいか。…長いし、あまり楽しい話じゃないけど…いい?」

夏樹「…いいけど。」

ちひろ「…死んだ知り合いが死んで今日でちょうど一周忌なのよ。お墓の場所も知らないから…せめてと思って。」

ちひろ「…その子もアイドルだったんだけど…ブレイクする寸前に病気で精神的に病んでしまって、自殺したの。」

夏樹「…アイドルが…自殺?」

ちひろ「あそこのビルの6階にあった事務所から飛び降りちゃったのよ。…それからその子のプロデューサーも行方不明。」

ちひろ「…その後もいろいろあって、そのプロダクションは潰れちゃって…それから私は今のプロダクションにいるの。」

ちひろ「…その子のせいじゃないのよ。その子は特に大きなニュースにもならなかった。ランクも低かったし…ちょうど大きな事件と重なっていたしね。」

ちひろ「花が好きな子で…病気になる前はすごく明るくて笑顔が誰よりも可愛い子だったのに…」

ちひろ「…あ!ごめんね!勝手に一人で喋っちゃって。」

夏樹「…良いよ別に。思ったより、ちひろさんもいい人だったし。」

ちひろ「ふふっ、酷い事いうわね。」

夏樹「で、このビルなのか。…あ、あそこに花束が。」

ちひろ「…ファンだった人かしら。…良い人ね。」

夏樹「…アタシ、もう行くけど…。うん、いい笑顔じゃん。」

ちひろ「あ…私…。」

夏樹「黙りすぎてストレス溜まってたんじゃないか?…ため込まない方がいいと思うよ。」

ちひろ「…できる限り、そうして見ようかな。…夏樹ちゃんも、病気には気を付けてね。行ってらっしゃい。李衣菜ちゃんと仲良くね。」

夏樹「わかってるって!じゃあ!」

〜数日後・事務所〜
PaP「おお、夏樹。夜遅くまでお疲れ。レッスンは順調か?」

夏樹「おう!次のライブに備えて、もっと技を磨かないとな!なんなら、誰かのライブに乱入してもいいんだぜ!」

PaP「HAHAHA、勘弁してくれよ〜まぁ、フェス、ライブツアー、サバイバル…いっぱい活躍してもらおうかな。」

夏樹「おう!今までよりも活躍してやるさ!」

PaP「って、李衣菜に、CoPじゃないか。何話してるんだ?」

李衣菜「あ、なつきち〜!ちょっと見てよこれ!」

CoP「二人とも、ちょうどいいところに。このプリント、今作ったんだが…見てくれるか?」

夏樹「なんなんだ…?えっと『女子寮での怪しい男の目撃情報・号外』…?…毎月こんなの出てたのかよ…。」

PaP「…って、今ここにいる二人は女子寮住まいじゃないぞ?」

CoP「記事を最後まで見てくれ。」

夏樹「あ、これか。『最近女子寮の周辺をうろつく男の目撃情報は無くなりましたが、その男に酷似した男が、渋谷凛・諸星きらり等の自宅付近で目撃されています。東京に住んでいるアイドルの皆さんは注意して行動してください』か。」

CoP「一度目撃されるともうその家には近寄らないらしい。だけど場所が特定されるってことは皆等しく危険だ。悪目立ちする子もいるし。」

PaP「実家が花屋の凛はさすがに自宅特定しやすいのか…でもきらりは?」

CoP「ストーキングしていたとかじゃないか?でかいし。小物いっぱいでにょわにょわで目立つ格好だし。」

PaP「変装とかしても無意味か…きらりだもんなぁ…。」

李衣菜「私…大丈夫ですかね!?」

夏樹「だりー、今度から親に送迎してもらえないのか?」

李衣菜「…お母さん免許持っていないし、お父さんは仕事遅いし…。」

CoP「護身用に小型スタンガン持たせる話もあるんだが…なんせ人数が人数だからな…まだ用意できてないんだ…。」

PaP「こういう時、人数がネックになるな…。数人分もないのか?」

CoP「前にキュートの晶葉ちゃんが作ったのが倉庫にあったんだが…3つしかなかった。」

李衣菜「3つはあるんですか?」

CoP「使用用・予備用・保存用って張り紙が張ってあったがな。」

PaP「じゃあ、今から帰る二人に使用用と予備用持たせていいか?」

CoP「問題ないと思うぞ。ちゃんと電流流れるみたいだし。」

夏樹「いいのか?もらっておくけど…ちゃんとした店の商品が来たら、返しておくからな。」

李衣菜「まぁ、使わないのが一番だよね。」

PaP「まあな。俺も使わないことを願うよ。」

李衣菜「なつきち、一人暮らしなんだから、気を付けてね!」

夏樹「お前に心配されるほどじゃないって。大丈夫大丈夫。」

李衣菜「…ホントに?なつちき結構細いんだもん、心配だよ…。」

夏樹「まずは自分の心配をしろって。」

李衣菜「でも…」

CoP「取りあえず、今日はもう帰った方がいいな。明日、他のアイドルにも連絡しないと…。」

夏樹「あ、確かに結構遅くなってたな…ほら、帰るぞだりー!」

李衣菜「うん!」

PaP「行ったか。あ…プリント、掲示板に張るか?印刷か?」

CoP「印刷しといてくれ。子供たちの保護者にも警戒してもらわないといかんだろうし。」

PaP「了解。CuPには連絡したか?」

CoP「明日戻ってくるから、その時に言うさ。…はぁ。」

ちひろ「プロデューサーさん!お疲れですか?」

PaP「どこから湧いてきたんですか…」

CoP「ドリンクは買いませんからね。」

ちひろ「うう、酷い…。出てきただけなのに…。」

〜マンション・4○○号室前〜
女「あ、夏樹ちゃん!…ちょっと今時間ある?」

夏樹「隣の部屋の奥さん?何かあったのか?」

女「それが…最近うちの子が旦那が帰ってくる少し前の時間から、窓の外を見るようになっていたのよ。『パパ帰って来たよ!』って言うようになって。」

夏樹「…それで?」

女「それで、夏樹ちゃん、大体うちの旦那が帰ってくるちょっと前に帰ってくるから、『夏樹ちゃん帰って来たよ!』って、貴方の事も見てたみたいなんだけど…。」

夏樹「?」

女「…最近、変な人がいるって言うのよ…、ずっと同じところに立っていて、夏樹ちゃんが帰ってくるといなくなるって…。気になって一緒に見ていたら、私も見ちゃって…。」

夏樹「見たって、そいつを?」

女「ええ。駐車場の反対側の電話ボックスの影でずっと立ってたのに、夏樹ちゃんが帰ってきたら後を追う様にマンションに近づいてきて、すぐに帰って行ったの。」

女「それなりに大きな荷物持ってる人で…顔は見えなかったけど、なんていうかすごく不気味な人だったわ。」

女「夏樹ちゃん一人暮らしで…アイドルだもの、気を付けてね。危ないストーカーかもしれないから…。」

夏樹「…ありがとう。」

女「あ!ご、ごめんなさい!不安にさせちゃったかしら!?」

夏樹「いや、教えてくれてありがとう。気を付けるよ。事務所にも伝えておく。」

女「…本当に気を付けてね。私も、貴方のファンなんだから。」

〜翌日〜
夏樹「〜ってことを聞いたんだけど…。やっぱり例の男かな?」

PaP「十中八九そうだろうな。スタンガン、ちゃんと持ってろよ?取り出しやすいとこに入れておくのを忘れるなよ?」

夏樹「わかってるよ、ちゃんと手前に入れてる。」

PaP「お前がバイクで来なければ、車で送迎するんだが…。」

夏樹「警戒はしてるよ。その人から大体どの位置にいたかは聞いたし。そのあたりを避けて帰るから。そんなに心配するなって。」

PaP「おう…ゴメンな。十分な事できなくて。」

夏樹「スタンガンくれてるだけでも十分やってると思うけどな。」

PaP「…そのスタンガンはあくまで逃げるためのものだからな?軽く動けなくなる程度で、気を失ったりはしないだろうから。…って李衣菜。遅かったな。」

李衣菜「ふぁあ…なつきち、おはよう…」

夏樹「ん、おはよ。…だりー、昨日はちゃんと寝たのか?」

李衣菜「結構早めに寝たはずなんだけど…なんか…ねみゅい…。」

PaP「おいおい、そんな調子で大丈夫か?」

李衣菜「…ちょっと眠気覚ましにコーヒー買ってきます…。」

PaP「あ、まだ口付けてない缶コーヒーあるから、それ飲めよ。」

李衣菜「じゃあそれいただきます…。」ゴクゴク

夏樹「本当に大丈夫か?」

李衣菜「…うん、だいぶ目が覚めたと思う。」

PaP「早いな…」

李衣菜「あ、そういえば!最近、部屋にロックバンドのポスター貼ったんです!」

PaP「おお、いいな俺そういうの憧れてたんだよな。壁に好きなもののポスターって!」

李衣菜「家に帰ったらいつの間にか貼ってあったんです!お母さんも気が利くと思いません?」

夏樹「ってお前がやったんじゃないのかよ!」

PaP「笑美が満たら褒めそうなキレのツッコミだな!ってそろそろ営業行くから、着替えておけよ〜。俺は準備しておくから。」

夏樹「あ、もうそんな時間か。だりー、更衣室行くぞ。目は覚めてるな?」

李衣菜「もう大丈夫だって!」

〜夜〜
バイクから降りて、いつもと逆方向を回って玄関へ向かう。
仕事の疲れはあるものの、気を抜かずに歩く。
情報が正しいのなら、ストーカー野郎は向こう側で待っているそうだ。
その位置からアタシが帰ってきたというのは、バイクから降りたアタシが玄関に徒歩で向かうのを目撃するしか方法はない。
マヌケにずっと待っていることだろう。
明日からはプロデューサーが送迎する。なんだか恥ずかしいが、ストーカーが諦めるまでそうするしかない。今のところ被害もないから訴えることもできないのだから。

時間も遅いし、もともと人が住んでいる建物はこの辺りはこのマンションぐらいしかない。
人の気配の無い道を、歩いていた。
玄関まではあと少し。その事実にアタシはすこし油断していたのかもしれない。

?「ねぇ君?」

夏樹(ああ、コイツか。)

声は後ろからアタシを呼んでいた。
知らない男の声。
でもアタシは無意識に振り返っていた。
もちろんバッグの中のスタンガンに手を伸ばしながら。

振り返れば、全身黒い服装の男。
男はだんだん近づいてくる。
逃げようか?いや、やめておこう。
スタンガンのスイッチに指をかける。
相手の足が速くないという根拠はない。
逃げて背中を向けたところに追いつかれるのが最も恐ろしい。
なら、スタンガンで動けなくしてから逃げた方がいい。
そう考えてスタンガンを後ろ手に隠しながら玄関へ向かって少しづつ後ずさりをした。

男「逃げなくてもいいじゃないか…!俺は、俺は!」

暗くて見えないけれど、発言も行動も不快な男だ。
そして男はこちらへ突進してきた。
想像していた速さよりもずっと速く、男は走ってくる。
押し倒してくるのか?殴ってくるのか?
スタンガンのスイッチを入れて、男に向けようとして、
それよりも早く、男が持っていたスタンガンがあたり、痛みが襲ってきた。

マズイと思ったときにはもう遅くて
あまりの痛みに思わず崩れ落ちる。
男は倒れたアタシの顔を持ち上げると、カバンから取り出したスプレーを吹きかけた。

夏樹「ッ!…ゴホッ、ゴハッいっ、ゴホッ」

目を開けていられない。咳も止まらず、呼吸が難しい。
完全に視界を失って、男がカバンをさぐる音だけが聞こえる。
何をされる?これからどうなる?
恐怖に押し潰されそうだ。

そこに、誰かが走ってくる音が響いた。
誰でもいいから。誰か、誰か。助けて。
アタシはただその足音が男の仲間じゃないことを祈った。

男「なんだおm、グァ!」

見えない中、男の悲鳴が聞こえた。どうやら仲間じゃないようだ。
咳も痛みも止まらないのに、アタシは少し安心していた。
けれど。

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

男「いてぇ…!やめて、グハ、くれ…!やめてくれ!」

男を何か大きなもので叩く音。何度も何度も執拗に。何も言わずに。
何が起きている?別の恐怖が襲ってきた。

?「…」ボソボソ

男「いや、ちが、俺は!誰でもよかったんだ!」

遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる。
そして男が地面に崩れ落ちる音と、もう一人が走り去る音を聞いて、アタシの意識は落ちた。

〜病院〜
PaP「夏樹!すまなかった!俺が不甲斐無いせいで!」

夏樹「プロデューサーは悪くないって。油断してたんだよ…アタシは。」

PaP「…それで、顔とか大丈夫か?」

夏樹「まぁだいぶ治って来たよ。明日には復帰できる。」

PaP「そうか、よかった…。アイツ、だいぶ悪質な奴だったみたいだな…。催涙スプレーまで準備するとは…。」

夏樹「…プロデューサー。アイツ、捕まるのか?」

PaP「ああ、持ち物から、強k、じゃなくって、えっと…誘拐未遂って断定されたみたいだしな…。逮捕は確実だ。…それともう一つ。」

夏樹「…もう一人か。」

PaP「ああ、あの男以外にもう一人、ストーカーがいるということだ。警察も警戒してくれるそうだが…」

夏樹「…昨日言った、ずっと同じところに立っていたのが、もう一人だと思うんだよ。」

PaP「ああ、夏樹を守ろうとしたんだとは思うが…やりすぎだ。やはり危険な奴なんだろうな。…今日退院だろ?家まで送っていくからな。」

夏樹「わかった。そうだ、今日の仕事…雑誌の取材、どうなった?」

PaP「後日、また来てくれるそうだ。李衣菜も今日は一人で練習だ。」

夏樹「…。」

PaP「気にする事ないって。ちょっとした休養とでも思っておけ。な?全体的に俺らの責任なんだから。」

夏樹「…わかってるとは思うけど明日には復帰するからな?」

PaP「ああ。…今日は悩んでもいいが、明日には吹っ切れていろよ?」

夏樹「ははっ、無茶いうなぁ…」

〜事務所〜
李衣菜「…許せない…!」

CoP「李衣菜、大丈夫か…?イライラしてるな。」

李衣菜「…プロデューサー。いたんですか。」

CoP「レッスンの時も心ここにあらずだったそうじゃないか。…夏樹がいなくて不安なのかもしれないが…ソロで活動することの方が多いんだ。アイツは無事なんだから集中してやってくれ。」

李衣菜「プロデューサーは!何とも思わないんですか!なつきちが酷い目に合ったんですよ!」

CoP「落ち着けって!いいか、俺も許せないのは同じだ!」

李衣菜「…じゃあなんで。」

CoP「だが、今この事件は表沙汰にできない。お前の様子が明らかにおかしくて、アイツが休養していたら何か感づかれてもおかしくない。…お前たちはアイドルなんだ…そういうのはよくない。」

李衣菜「でも…!」

CoP「…明日には退院なんだ。もう気にするな。…今日のお前少しおかしいぞ?頭を冷やした方がいい。もうレッスンも終わったんだし…」

李衣菜「っ!もういいです!」ダッ

CoP「おい!?李衣菜!」

ちひろ「…騒がしいですね。喧嘩ですか?」

CoP「…ちひろさん。いや、李衣菜の様子がおかしいんですよ。」

ちひろ「おかしい?」

CoP「夏樹がいないことがそんなに嫌なんでしょうかね?…なんていうか情緒不安定というか…。」

ちひろ「…体調不良はありましたか?」

CoP「え?さぁ、そこまでは…元気そうに見えましたけど。」

ちひろ「そうですか…。なら多分、いいですけど。」

CuP「おいっす、お二人とも休憩?」

ちひろ「そんなつもりはないんですけど…まあ、喉乾きましたし…コーヒー入れます?」

CoP「じゃあお願いします。」

CuP「俺も〜。」

ちひろ「はいはい。ちょっと待っててくださいね。」

CuP「そういえば、最近の李衣菜ちゃん可愛いよね…。キュートに移籍する気ないかな?」

CoP「本人がクール希望なんだから無理だね。…最近の李衣菜は一応ロック路線だし。」

CuP「うむむ、彼女最近、眼差しとかまゆみたいで可愛いんだがなぁ…もちろんまゆが一番だけど。」

CoP「おいそれどういう…」

ちひろ「ミルクとシロップ何個いりましたっけー?」

CuP「あ!俺どっちも入れてください!シロップは二個で!」

CoP「…俺はブラックで。」

ちひろ「はーい。」

CoP(…まゆみたい…?あの『佐久間まゆ』みたいだと…?そんな馬鹿な…)

李衣菜(許せない…あいつ、なつきちを怖い目に合わせた挙句、「だれでもよかった」なんて…!)

李衣菜(プロデューサーも、なつきちよりも世間体が大事なんだ…!)

李衣菜(私にはもう、なつきちしか…)

李衣菜「なつきち…なつきち…」ボソボソ

薫「」ガクガクブルブル
仁奈「」ガクブルガクブル
幸子(なんか怖いですよ…!)ブルブル
蘭子「反骨心を学びし魂の波長に乱れが…(今日の李衣菜さんおかしいです…!)」ガクブル

幸子「…という感じで、今日の李衣菜さんはおかしかったですね!」

蘭子「子羊は魂の囁きにただ恐怖を感じるのみ…。(薫ちゃん達も、怖がっちゃって…。)」

ちひろ「…夏樹ちゃんの事を繰り替えしボソボソ…?」

幸子「正直不快でしたね!このストレスで僕の魅力が半減したら世界遺産に落書きするレベルの悪行ですね!それでも僕はカワイイですが!」ドヤァ

ちひろ(…まさか…ね。)

プルルルルルルプルルル、ガチャ

ちひろ「はい、こちら…え?…!?」

ちひろ「あ、なんでもないわ…落ち着いて、大丈夫よ。そう、大丈夫。心配しないで。報告しておくから。」

ちひろ「…心配ないから、ゆっくり休んで。」ガチャ ツーツー

ちひろ「嘘…嘘…!」ピポパピピポパパピポ

ちひろ「…もしもし、私です、ちひろです。今お時間ありますか?」

ちひろ「資料の請求をしたいんです。ええ、感染者リストを。」

ちひろ「一刻を争う事態かもしれなくて…明後日の早朝にFAXですね。分かりました。ありがとうございます。」

ちひろ(…急がないと)

〜翌日〜
李衣菜「なつきちーっ!」ガバッ

夏樹「うおお!?いきなりびっくりさせるなって!」

李衣菜「だってだって!心配だったんだもん!メールも返信こないし!」ギュゥゥゥ

夏樹「ケータイ、事務所に置きっぱなしだったみたいでさ…ってキツイキツイ!」

李衣菜「もう!無事でよかったよぉ!」

PaP「まぁ、ストーカーについては、俺が送迎するからたぶん大丈夫だろう。警察もしっかり見回り強化するみたいだし。」

李衣菜「…へぇ…なつきち、送迎なんだぁ…二人っきりで…ふぅん…羨ましいですねぇ…。」

夏樹「そんなに気分いいものじゃねーよ。やっぱりバイクがいいよ。」

PaP「あんな目にあってよく言えるな…。」

夏樹「そういえば今日の予定は通常の合同レッスンだけで帰りは早いし、明日は休み…ところで、休みの日の外出とか、どうすんだ?さすがに無理だと思うんだけど…。」

PaP「ああ!そこまで考えてなかった!」

夏樹「…やっぱりな。外出禁止か?明日はだりーとまたギターの練習する予定だったんだ。…無理か?」

李衣菜「…明日、お父さんもお母さんも出かけてて、二人きりになれる最高のチャンスなんですよ!…だめ、ですか?」

PaP「どうしよう…明日俺は休みじゃないしなぁ…。」

李衣菜「日の出てるうちに帰るとか!私がなつきちの家に行くとか!いっそ、なつきちがお泊りするとか!」

PaP(…真っ直ぐな眼差しで俺をみるなぁぁぁぁ!)

PaP「…うう…じゃあ、日が出てるうちに…帰れば…いい、かな?」

李衣菜「やったぁ!」

夏樹「…なんか無理やり言質とったみたいで悪いなぁ…。…小学生みたいな約束だし…。」

PaP「まぁ、警察も見張ってくれるみたいだし…うん、多分…おう。」

夏樹「…言ったことに自分でグチグチ言ってるとハゲになるぞ?」

PaP「」

〜翌日〜
PaP「あ〜夏樹大丈夫かな…やっぱり許可するんじゃ…うああああああ」

CoP「おいおい、悩むなら外でやってくれ。」

ちひろ「大丈夫ですか!?そ、それより聞きたいことがあって!」

PaP「なんですか?ドリンクはいりませんよ?」

ちひろ「良いから見てください!」

PaP「…このリストは?」

CoP「他の事務所のアイドルや芸能人ばかりじゃないか。」

ちひろ「答えてください!この中に李衣菜ちゃんとかなりの時間接触した人物はいますか!?」

CoP「…ちょっと待ってくださいね…あ、この中なら大槻唯ちゃんですかね?楽屋が一緒でした。飴を貰ったそうですよ?」

ちひろ「!」

ちひろ「きょ、今日の李衣菜ちゃんの予定は!?オフですよね!?」

PaP「あ、夏樹を家に呼んでギターの練習だって…。」

ちひろ「あ…あああ…!」

CoP「ちひろさん!落ち着いてください!」

早苗「ちょっと午前中に用事もないから事務所に来てみれば…なにこれ。」

早苗「ちょっといいかなー?聞きたいことがあるんだけど…お取込み中だった?」

PaP「いや、ちょっと話すぐらいなら…」

早苗「オッケー。ちょっとこっち来て。」

早苗「で、なにあれ。」

PaP「かくかくしかじかで…で聞きたいことって?」

早苗「そうそう、あたしの最初の衣装、手錠ついてたじゃない?」

PaP「ああ、あの婦警風の。はい、ついてましたね。」

早苗「今日暇だから手入れしてあるか見てたんだけど…それって衣装用の小物入れに入ってたわよね?」

PaP「はい、入ってる筈です。」

早苗「無くなってたわよ…?一応本当に使える奴なんだからちゃんと管理しておかないと。」

PaP「え!?分かりました。見つからなかったら発注しますので。」

早苗「了解。レイナちゃんあたりの悪戯かしら?」

PaP「あーでも拘束とかそういうのレイナはやらないと思いますよ?」

早苗「じゃあ尚更謎ね…まあしばらくはあの衣装での仕事もないみたいだからいいけどね。」

PaP「こっちでも探しておきますよ。取りあえず戻ってちひろさんの様子を確認しましょうか。」

CoP「…落ち着きましたか?」

PaP「だいぶ落ち着いたようには見えるけど…」

早苗「本当に大丈夫?」

ちひろ「…夏樹ちゃんが危ない…」

CoP「は?」

ちひろ「夏樹ちゃんと今の李衣菜ちゃんを合わせちゃ駄目です!」

PaP「ど、どういう意味ですか?」

ちひろ「詳しいことは後で話します!車、出して!早く!」

CoP「でも仕事が…」

ちひろ「残業なら私がします!あとでなんでも奢ります!だから早く!」

PaP「ちひろさんがそこまで言うなんて…!?」

CoP「…わかりました。車出しましょう。」

早苗「え、なに?緊急事態?」

ちひろ「お暇なら早苗さんもぜひ!」

CoP「後は頼んだぞー!」

CuP「1人とか、むーりぃー…。」

まゆ「お手伝いしますよぉ?」ニョキ

CuP「助かる!」

〜李衣菜宅〜
李衣菜「なつきちおはよう!」ニコニコ

夏樹「おう、おはよう。やる気十分みたいだな!」

李衣菜「…あたりまえじゃん!早く上がって上がって!」ニコニコ

夏樹「急かすなって!今日もお前の部屋でやるのか?」

李衣菜「うん!ちゃんと準備もしたし、早く来てよ!」ニコニコ

夏樹「ふーん、前より片付いてるし、ポスターも増えたんだな…」

李衣菜「うん!貼るの結構大変だったんだよ!」ニコニコ

夏樹「何でも貼れば良いってもんじゃないからな?というかお母さんが貼ったって前に言ってたような…?」

李衣菜「そんな事、どうでもいいでしょ?ねぇ、ちょっと手を後ろで組んで、こっちに背中向けて目をつぶってて?」ニコニコ

夏樹「いきなりなんだよ…まあいいけど…こうか?」

李衣菜「そうそう!そのまま…そのまま…」ニコニコ

・・・カシャン

夏樹「…え?」

李衣菜「あは…捕まえたぁ」ニタァ

PaP「虎百合症候群!?」

ちひろ「芸能界の人間しか感染した例がない病気です。感染したら精神的に病んでしまう病気で…。」

ちひろ「初期の感染者に大手プロダクションのアイドルがいて、犯罪行為をする直前まで悪化したことから、それを隠蔽するために、病気ごと隠蔽されてしまったんです。」

早苗「何とも嘘っぽい…」

ちひろ「そう思うのも無理はないと思いますが…私は知り合いがその病になりましたから。一応専門家と連絡は取れるんです。」

ちひろ「データによると、病んでいる時のことを覚えている人と覚えていない人が居るんです。」

ちひろ「そして、一昨日、李衣菜ちゃんから仕事が終わった後、電話が来ました。」

『ちひろさん!私すっごい寝坊しちゃったみたいで…!』
『どうしよう!もういろいろ終わってますよね!?』

ちひろ「…覚えてないんです。レッスンに来たことを。そして様子がおかしいと幸子ちゃん達から聞きました…。」

ちひろ「そして、この病気のもっとも恐ろしいところは、『精神的に追い詰められる』ところです。」

ちひろ「物でも、人でも、食べ物でも。何かに激しく依存し、今まで以上にそれが魅力的に思えるようになり…」

ちひろ「そして少しづつ、独占欲が大きくなって…犯罪の一歩手前まで追い詰められた子もいました。」

PaP「その相手が…夏樹だと。」

ちひろ「…はい。どう思っても症例と酷似していて…。」

CoP「…そろそろ着くぞ。…ん?一部屋だけ、カーテンが閉まってるな…。」

夏樹「…なぁだりー。」

李衣菜「なぁに?」

夏樹「…ふざけてるのか?早く外してくれ。」

李衣菜「…」ドンッ

夏樹「!」ドサッ

李衣菜「…ふざけてないよ。」ギュウ…

夏樹「…え?」

李衣菜「なつきちの事、大好きだもん。」

李衣菜「証明だってできるよ?ちょっと見てて。」ペリペリ

夏樹「…なんで、ポスター?…!?」ゾワァ

李衣菜「誰よりも、誰よりも。愛してるって…わかる?」ペリペリ

夏樹「な…なん、で」

李衣菜「頭の先からつま先はもちろん、心臓も、血管も、骨まで…」ペリペリ

夏樹「あ、アタシの写真が…」

李衣菜「なつきち…」ニタァ

夏樹「部屋中に張ってあんだよ…!?」

李衣菜「なつきちの全部を…私にちょーだい?」

ピンポーン

李衣菜「…」

ピンポーン

夏樹「…」

ピンピンポーンピンピンポーン
ピンピンピンピンピンピンポーン

李衣菜「…うるさいなぁ。良いところなのに…。」

ピンポーンピンポーン

夏樹「な、なぁだりー!ちょっと一回出て来いって!」

ピピンピンピピンピンポーン

李衣菜「嫌だよ。そのうち帰ってくれるよ。」

夏樹「こんなにしつこいんだぞ!?帰らないって!」

ピピピン!ピピピン!ピーンポン!

夏樹「…うるさいのは嫌だし、な?な?」

李衣菜「…わかった。すぐ戻ってくるから。」ガチャ バタン

CoP「李衣菜!いるんだろう李衣菜!」ピンポーン

ガチャ

李衣菜「えっ…プロデューサー?…なんでここに?」

CoP「いや、ちょっとな。…そういえば今日は夏樹とギターの練習だっけ…邪魔したか?」

李衣菜「いや、大丈夫です、まだ来てないし…。本当に何の用ですか?」

CoP「…あそこにあるバイクは夏樹のじゃないのか?」

李衣菜「っ!」

バンッ!バンッ!

李衣菜「!?な、なん、え?」

CoP「何の音だ?ドアを叩く音が聞こえるが…?」トントン

PaP(来た!合図だ!)

李衣菜「何でもないです!なんでもn「おぅら!」きゃあ!」

PaP「すまん!ちょっと大人しくしててくれ!中を見てくる!」

早苗「李衣菜ちゃんでも、うるさくするとシメるわよ…?ってこの子すごい熱!体温何度よ!?」

李衣菜「やだ!なに!はなしてぇ!やだやだ!」

ちひろ「…はい、感染者です。うちの事務所の多田李衣菜です。はい!…今すぐ来てください高熱だそうです!」

バンバンッ!

PaP「扉が蹴られているのはこの部屋か!」ガチャ

PaP「う、うぉぉぉぉぉ!?なんじゃこりゃぁ!」

夏樹「プロデューサー!?仕事はどうしたんだよ!」

PaP「無事か!?ヤられてないか!?処女か!?」

夏樹「手錠付けられて押し倒されただけだから!デリカシーないな!というか仕事じゃなかったのか?」

PaP「いや、李衣菜が精神系感染病ってやつにかかったらしくて、危ないって聞いて…。」

夏樹「精神病…?『この部屋』もこの手錠もそのせいなのか…?」

PaP「そうらしい…うわぁ、この写真…。」

PaP「おっと、夏樹が見つかりましたー!見た限りでは無事です!」

早苗「了解!」

李衣菜「…あぅ…なつきち…。」

李衣菜「…zzz」

早苗「まさか泣きつかれて寝るとはね…。お気に入りのお人形取られた子供みたい。」

CoP「遠からず当たってるのが何とも…。」

ちひろ「では、お願いしますね。」

隊員「安心してください、まだ熱があるなら後遺症もなく治療できるでしょうから。」

PaP「芸能人専用病院の真の目的がコレの治療とは…。」

CoP「付き添いは俺だけしか無理なんですか?」

隊員「はい、付き添いの方以外は…どうか内密に。発言したら芸能界の危機です。」

早苗「あーあ、隠蔽の現場なんて見たくなかったわ。」

PaP「芋蔓式に感染者と犯罪が見つかったら確かに危機ですから、早苗さんそんなこと言わずに…」

早苗「…まぁ、今職無くしたら確かにヤバイのよね…いろいろと。」

隊員「ご理解感謝いたします。では。」ブロロロロ

〜翌日・事務所〜
PaP「…夏樹、今日は大丈夫か?」

夏樹「…」

PaP「…」

夏樹「…なんか、混乱してる。」

PaP「やっぱりか。…無理もない。」

夏樹「アイツの事が、すごく怖いんだ。理由もわかってるのに…病気のせいだって。」

夏樹「わかんないんだ、どこまでがだりーで、どこまでがヘンなだりーだったのか。」

夏樹「アイツのこと、病気が治った後も怖いって思ったら…それは酷い事なんじゃないかって。」

PaP「夏樹…」

夏樹「だりーと顔を合わせられないかもしれない!怖かったんだ!」

夏樹「手錠をかけられて、押し倒されて!でも、だりーはアレを覚えてない…。」

夏樹「だりーが怖いんだ。でも、アイツともう会えなくていいってわけじゃないんだ…。」

PaP「…会うか、会わないか、それはお前が決める事だ。」

PaP「…会いたくないなら移籍することもできる。でも、決められないんだな?」

夏樹「…なぁ、プロデューサー。」

PaP「…?」

夏樹「一度、会って話すこと…できないかな?」

〜病室〜
李衣菜「…プロデューサー。教えてくれないんですか?」

李衣菜「私はもう、おかしな子になっちゃったんでしょう!?」

李衣菜「数日間の出来事が、ほとんど記憶にないんですよ!」

CoP「違う、違うんだ…。」

李衣菜「病気なんですよね?私は普通の李衣菜ですよね!」

CoP「…当たり前だろう?」

李衣菜「私は!なつきちに酷い事をしたことしか覚えてないんです!」

CoP「!?」

李衣菜「夢だったらよかった!でも、でも!あれは違う!」

CoP「な、なんで覚えて…」

李衣菜「もう、わけわかんない…。こんなにおかしいんだ、私。」

CoP「李衣菜、考えすぎだ!落ち着いてくれ!」

李衣菜「…自分でやった事をまともに覚えてない私は…なんて言って謝ればいいんでしょうかね?許されるわけもないですよね?」

李衣菜「…ロック・ザ・ビート。解散かな。犯罪者だもん、私。なつきちも顔すら合わせたくないと思う。」

李衣菜「やっと、ロックなアイドルとして、本格的に輝けてきたかなって思ったのに…。」

CoP「…解散、したいのか?」

李衣菜「…そんな訳、ないじゃないですか!私の、私の、ロックはあそこにあったんです!」

CoP「なら、夏樹と仲直りしないと。不仲なメンバーでチームは無理だ。」

CoP「…どちらかが移籍する手もある。この病院の患者にもそういう事をもうやった子はいるみたいだしな。」

李衣菜「…どっちにしたって…なつきちに、謝らなくちゃ…。」

CoP「明日には退院だし、俺達が影で見守ってるから。何も心配せず謝ってくればいい。それから考えよう。な?」

李衣菜「…」コクリ

〜翌日 夕方・事務所〜
李衣菜(…)

CoP「…そろそろ、夏樹が来るから。」

李衣菜「…はい。」

CoP「心配するなって、もう病気は治ってるんだ。…ちゃんとお前は李衣菜だ。心から感情を吐き出すんだ。そうすれば伝わる。」

李衣菜「…はい。」

CoP「影から見守ってるよ。じゃあな。」ガチャ

李衣菜「…」

ガチャ

夏樹「…よう。…体の調子はどうだ?」

李衣菜「…うん、もう後は処方箋だけでいいって。」

夏樹「そっか、よかった。」

李衣菜「…なつきち。」

夏樹「…」

李衣菜「ごめんね。私、酷い事した。何回謝っても許されるなんて思っていないけど…本当にごめん。」

夏樹「だりー…。」

李衣菜「他の事はほとんど覚えてない。けどあの部屋で、した事だけはすごくハッキリ覚えてる。」

夏樹「えっ…覚えて…!?」

李衣菜「もう、なつきちの傍には来ないようにするから。怖かったよね。ごめんね。」

夏樹「そんなこと言うなよ!二人でトップになるんじゃ!」

李衣菜「…手、震えてる。…私の事、怖いよね。ごめんね。」

夏樹「…!」

李衣菜「私が悪いから。全部私が悪いから。ごめん。移籍しても…ロック路線はやめるよ。会いたくないでしょ?」

夏樹「…何言ってんだよ…!」

李衣菜「決めたんだよ!考えて、考えて!でもアイドルはやめたくなくて!」

李衣菜「私なんかより!なつきちがロックなアイドルとして上手くやれる!それを私が邪魔することになるのが一番嫌だ!」

CoP「李衣菜…」

PaP「夏樹、震えるほどのトラウマなのに…」

夏樹「邪魔…?なんでそう考えるんだよ!二人のユニットでアタシ達は今までやってきて、知名度だって上がってきて…!」

李衣菜「…無理に引き止めなくていいんだよ。震えるほど私の事怖いんでしょ?」

夏樹「震えてない、怖くない!」

李衣菜「いいんだよ。なつきちは何も悪くない。」

夏樹「…いい加減にしろよ!」ガシッ

李衣菜「えっ…」

夏樹「親友なんだぞ!謝ってくれればそれだけでいいんだよ!ロックを辞める必要なんてない!移籍しなくてもいい!」

李衣菜(…あ、震えがなくなった…なんで?)

李衣菜(手、あったかい…。いつものなつきちの手だ。)

李衣菜(…)

李衣菜「…なつ、きちぃ…」グスッ

夏樹「泣くなよ…。バカ。嫌ならそんな事いうなっての。」

李衣菜「だって、絶対に嫌われたって思ったら、怖くなって…!」

夏樹「…アタシも、怖かったよ。でもな、親友だろ?…嫌いになって、すぐに別れるような関係じゃないだろ…?」

夏樹「大丈夫だ。だりーはちゃんといつものだりーだって分かったから。」

李衣菜「…うん。…本当にごめんね。」

夏樹「もう、謝るなって。気持ちは十分伝わったよ。」

李衣菜「うん…!」ポロポロ

夏樹「あぁ、もう泣くなって。」

PaP「…一件落着。もう大丈夫そうだな。」

CoP「…よかった…。」

PaP「さて、仕事にもどるか。」

CoP「今まで休んでた分、ロックザビートの出演依頼は大体受けるってことでいいかな?」

PaP「ああ、遅れを取った分、じゃんじゃか仕事入れるぞー!」

真っ暗な会場。観客はサイリウムを持ってその時を今か今かと待っている。

ステージの袖では二人のアイドルとそのプロデューサーがその時を待っている。

「…あぁ…やっぱり緊張してきたぁ…」
「大丈夫だって、いつも通り、いつも通り。」
「…うん。」
「準備はいいか?そろそろ開演だ。」
「スタミナもエナジーも全部吐き出してこい!」
「はい!」「おう!」

ステージが眩い輝きを放って、会場は歓声に包まれた。

ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!

「おまたせぇー!」
「今日のライブ、来てくれてありがとなぁー!」
ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!

「今日も、ロックに行くぜー!!」
イクゼェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!

少女の笑顔と共に発せられた言葉で、彼女たちのステージは始まった。
彼女たちのシンデレラストーリーは始まったばかり。
それこそ、全世界を魅了するまで終わらない。
輝きに曇りが生まれても、きっとまた輝けるようになる。
仲間が、友達が、親友が、また輝きをくれるから。
灰を被った少女でも、ガラスの靴を履けるのだから。

おまけ・病名の理由
※憂鬱展開注意

あるところに相葉夕美というアイドルの女の子がいました。
花が好きなその子は、花言葉に詳しく、服をデザインすることも得意。
あと少しでマイナーアイドルを卒業できるランクにいました。

夕美ちゃんは好きな人が居ました。彼女のプロデューサーです。
けれど、夕美ちゃんはその愛を直接伝えようとはしませんでした。

そんな時、表沙汰にはならなかった、ある事件が起こりました。
同じ事務所のドーナツ好きな女の子が、おかしくなりました。
いつもは皆にもドーナツをくれるのに、独り占めするようになったのです。
たしかにドーナツがとっても大好きでしたが、独り占めするような子ではないのに。

世界中のドーナツを、自分の物にしたいと言いました。
自分以外の人がドーナツを食べていると考えるとおかしくなりそうと言いました。
…その子はついにドーナツ屋さんを壊そうとして、その子のプロデューサーに止められました。…酷い熱が出ていました。

似たような事件を別の事務所の眼鏡好きな女の子が起こし…その子のプロダクションは大きいところでした。
そこの社長はその名前に傷がつくことを恐れて前のドーナツ好きな子の事件と一緒に隠蔽しました。

…そのころから、その奇病は名もない病として研究され始めていました。

夕美ちゃんは、ある日突然、プロデューサーを一人占めしたくなりました。
その病気の事を知らない夕美ちゃんは、自分に言い聞かせました。
『自分はアイドルなんだから恋愛なんてしてはいけない』と。
誇張され、歪んだ恋心を無理やり抑えました。

…けれど、抑えきれなくて、夕美ちゃんは二人になりました。

おかしな夕美ちゃんは、それから毎日毎日愛しのプロデューサーに花を送り続けました。
赤いバラ、赤いアネモネ、向日葵、マーガレット、アイビーゼラニウム、ピンクのカーネーション、ケイトウ、スプレーマム、胡蝶蘭、赤いチューリップ、パンジー、ホトトギス。
いっぱい、いっぱい、いっぱい…正体も告げずにただひたすら愛を送りました。

夕美ちゃんは、少しづつ、自分の周りでおかしなことが起きていることに気付きました。
ふとした瞬間意識がなくなり、いつの間にか時間が過ぎているのです。財布の中身も減っているし、何もかもやり終えた後なのです。
眠りについて翌日の夜に目覚め、慌てて事務所に連絡して、全ての用事を済ませていたと聞いたとき、夕美ちゃんは怖くなりました。
自分の中にもう一人自分がいて、自分の体を使っていることに気付いてしまったのです。

おかしな夕美ちゃんはまだ花を送り続けます。
トラユリ、トラユリ、トラユリ、トラユリ…
毎日トラユリを送りました。

そして、高熱で倒れた翌々日、やっとおかしな夕美ちゃんはいなくなりました。
夕美ちゃんは安心し、普通の生活に戻っていきました。

一か月後…自分の体の違和感に気付くまでは。
月経が来なくなりました。…夕美ちゃんのお腹には、命が宿っていました。

絶望しました。夕美ちゃんの体はいつの間にか汚れていたのです。
誰との間にできた子なのか、分かりませんでした。
夕美ちゃんは、体調を崩し、長期の休暇を取りました。
学校も休むことにしました。…誰にも言えませんでした。

夕美ちゃんは、自分が汚れていることに絶望し、自分の体を傷つけるようになりました。
お腹の子が育つことを恐れ、無理に食べ物を吐いても吐き気が襲い、やつれていきました。

だって自分はアイドル失格なのです。
自分が覚えていないなんて、誰も信じないでしょう。
ファンを、仲間を、プロデューサーを裏切ることになるでしょう。
夕美ちゃんは泣きながら、けれど死ぬ勇気もおろす勇気も出なくて、自分の体をでたらめに傷つける事しか出来ませんでした。

ある日、事務員さんから電話が来ました。
何か悩みがあるなら言ってほしいと。アイドルを辞めたいのかと。
もう何もかもどうでもよくなっていた夕美ちゃんは、プロデューサーがいない時間を聞いて、長袖の服を着て出かけました。
まだお腹は隠せる程度の大きさでしたから。

久々に来た事務所。
平日だったのもあって、事務員さんと二人きりでした。
夕美ちゃんがアイドルを辞めると言おうとしたその時、忘れ物を取りにプロデューサーが入ってきました。

夕美ちゃんはパニックになりました。
見られたくない姿を一番見られたくない人に見られましたから。
夕美ちゃんは壊れたように悲鳴をあげながら、プロデューサーから逃げるように走って。

窓を開けて、一瞬だけ振り返って、泣きながら、落ちました。
こんな姿を見られたくなかった。消えてしまいたかった。もう心は壊れているのだから。

…お腹に宿った命が愛しのプロデューサーとの間にできたものと知らずに。
熱が出たその日に、おかしな夕美ちゃんが彼を犯して手に入れた命と知らずに。

この事件をきっかけに、この病気が恐ろしい病だと分かり、研究費用が大量に投下され、薬や対処法が生まれました。
病名はプロデューサーに大量に送られた花の名前からつきました。
虎百合症候群…チグリジア・シンドローム。

逃げた夕美ちゃんの愛しの人は夢を見ました。
二人の夕美ちゃんが一輪の花が咲いた一つの植木鉢を持っています。
一人は笑いながら、一人は泣きながら話しかけます。
「ねぇ、プロデューサー♪」「あのね、プロデューサー…。」
「トラユリの花言葉はね…」「チグリジアの花言葉はね…」

…とある事務所
小梅「りょ、涼さん…花が咲いたよ…!」

涼「お、本当だ。窓際に置いてあったサボテンに花が咲いてる。…サボテンの花って咲かせるの難しいんだろ?すごいな小梅。」

小梅「私じゃない…あ、あの子がやり方、教えてくれた…。」

涼「…そ、そうか。植物好きなんだな、その子。」

タッタッタッ

小梅「あ…」

P「おはよう!」

小梅「落ちて行っちゃった…」

P「…毎回思うが、なんで俺が来ると落ちるの…?いや見えてないからまだいいけど…。」

小梅「…あ、あの子はよく分からないって…そういう事なら、知らない方が…し、幸せ…?」

小梅「思い出したくない事、ゆ、幽霊にも…ううん、幽霊だからこそ、ある…。」

P「…そうか。」

小梅「あの子…迷惑…?」

P「いや、強いて言うならここより下の階にちょっとオカルト話ができてる位だから。特にこちらは迷惑して無いぞ。」

涼(それ結構まずいんじゃ…?)

P「あの子が何か悪い事をしてるわけじゃないだろう?それに呪われてもないだろうな。ここのアイドルたちは皆売れっ子だ。」

P「まぁ、そういうことだ。事務所を移すにしても場所がないしな。ここが一番格安だし。」

涼(曰くつきじゃないかな…確実に。)

P「って!時間だ!小梅はレッスンの準備!涼は撮影あるから早く車に乗れ!いってきます!」

涼「うぉぉ!マジだ!いってきます!」

小梅「いってらっしゃい…。」

小梅「…おかえりなさい。登ってくるの…やっぱり大変?」

小梅「…私、アイドル…頑張る。だから…見守ってくれると嬉しい…。あ、レッッスン、行って来る…。」

??「…」カタン

小梅「うん…!いってきます。」

終わりです。
人によっては不快な内容だったと思いますが、ご覧いただきありがとうございました。

html化依頼出しとけよ

虎百合は「私を愛して」
チグリジアは「私を助けて」

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