兄 「記憶を失くしてから数日」 天使 「大変ですね」(259)

天使 (世の中の物事のほとんどは、2つに区別することができます)

天使 (優と劣)

天使 (善と悪)

天使 (好きと嫌い)

天使 (そして、本物と偽物)

天使 (世の中のほとんどは偽物で出来ていて)

天使 (手に入るのは、どれも偽物ばかり)

天使 (だから人間達は夢見、祈るのです)

天使 (私達を、夢の世界に連れていってくださいと)

病室

兄 「……」ボー

天使 「どうしたのですかまた呆けて」

兄 「……」ボー

天使 「あにー?」

兄 「……」ボー

天使 「起きろっ!!」

兄 「うひゃぁ」

兄 「びっくりしたぁ」

天使 「私の話聞いてました?」

兄 「あぁ今日はスーパーの特売日って……」

天使 「言ってません」

兄 「あれ?」

天使 「明日退院ですからね、と言ったのです」

兄 「あーそっちか」

天使 「この話しかしていません」

天使 (結果的には自分が損をしただけなので彼が何をしようと構わなかったのですが)

天使 (どうにも記憶を失った男はキャラが違うといいますか、天然といいますか……)

兄 「リンゴおいしー」シャクシャク

天使 (なんかこう、ふわふわしているのです)

兄 「天使も食べる?」

天使 「いただきます」シャクシャク

天使 (そしてまぁ、何もかも忘れてしまっているわけで)

天使 (委員長さんや女さんのことも覚えていないのです)

天使 「難儀な方ですよねぇまったく」

兄 「はい?」

天使 「なんでもありません」

天使 (委員長さんはショックを受けていたようでした)

天使 (彼が記憶を失くした以上、彼女と付き合っていたことも覚えていなくて)

天使 (それは彼女には辛すぎたようで)

天使 (委員長さんには、私が彼女だったことは言わないでと言われました)

天使 「このばか……」

兄 「……?」

医者 「久しぶりの出番だよ」

兄 「?」

医者 「あぁ、気にしないでね」

医者 「それにしてもまた記憶喪失か…」

兄 「また?」

医者 「あぁ、君が記憶喪失になるのはこれで二回目」

医者 「もしかして趣味?」

兄 「はぁ、そうだったんでしょうか……」

医者 「冗談のつもりだったんだけど」

医者 「性格が著しく変わってるんだよね」

兄 「どんなだったんです?」

医者 「飄々としているというかおちゃらけてるというか……」

医者 「頭の良いアホみたいな」

兄 「酷い言われようですね」

医者 「もちろん褒めてるんだよ」

兄 (問診の結果は変わらず)

兄 (記憶喪失、身体に影響無し)

兄 (性格が変わった変わったと言われても今の僕にはそれが分からない)

兄 (これは案外気持ちが悪いもので、前の自分が分からない僕がもどかしかったり煩わしかったり)

兄 (しかし悩んだからと言って記憶が戻るわけもなく)

兄 (無事に退院の日を迎えることになった)

翌日

妹 「さー我が家に帰ろー!」

天使 「かえろー」

兄 「おー」

妹 「お兄ちゃんが呆れるなりなんなりしてくれないとなんか締まらない」

天使 「全くです」

兄 「そんなこと言われても」

兄 「なんかごめん」

自宅

妹 「今日はすきやきだよー」

天使 「愛してます妹ちゃん」ダキッ

妹 「えへへー」

兄 「一応怪我人なんだけど……」

天使 「おぉ今のは兄っぽいです」

兄 「そう?」

天使 「口調は違いますけど」

兄 「さいですか」

妹 「おー今のはすごいそれっぽい!」

兄 「まじか」

自室

tv 「オルフェウス!!」カッ!

兄 (前の兄君を知る為にゲームからやってみることにしてみました)ピコピコ

tv 「テッテレー!」

兄 (オサレな雰囲気醸し出しておきながら中々難しいです)ピコピコ

兄 (医者さんは階段から転げ落ちて頭を打ったと言っていたけど)ピコピコ

兄 (僕は一体何をやっていたのだろうか)

天使 「お答えしましょぉう!!」バァン

兄 「」

天使 「迷える子羊のもとに颯爽登場天使ちゃん!」ババーン

兄 「」

天使 「気になるのでしょう貴方が何をしていたのか?」

兄 「えっと、まぁ」

天使 「お答えしましょぉう!!」バァン

兄 「」

天使 「迷える子羊のもとに颯爽登場天使ちゃん!」ババーン

兄 「」

天使 「気になるのでしょう貴方が何をしていたのか?」

兄 「えっと、まぁ」

二連続なってすまん


天使 「そうでしょうそうでしょう」

兄 「そうですそうです」

天使 「ならば教えます」

天使 「貴方は悪魔と戦っていたのですよー!」ズバーン

兄 「」

天使 「え?」

兄 「え?」

天使 「なにか言ってくださいよ」

兄 「えっと……馬鹿なの?」

天使 「怒っていいです?」

兄 「ごめん……」

天使 「謝られると調子が狂うのですが」

兄 「そう言われても……」

天使 「第一その口調ですよ!」

兄 「くちょお……」

天使 「貴方はそんな丁寧な言葉使いじゃないのですよ」

天使 「人格はともかくまずは口調からです、りぴーとあふたみー」

兄 「いぇー」

天使 「俺、参上」

兄 「俺、参上」

天使 「あのなお前ら……」

兄 「あのなお前ら……」

天使 「あいよ」

兄 「あいよ」

天使 「天使ちゃんきゃわわ」

兄 「天使ちゃんきゃわわ」

兄 「これ最後はなんかちがくない?」

天使 「そんなことありません」

天使 「いいですか、一人称は俺」

天使 「会話はクール3割おちゃらけ7割突っ込み挙げ足取り多めです」

兄 「はぁ……」

天使 「って趣旨が違うのですよ!」

兄 「おぅ」

天使 「あ、今のそれっぽい」

天使 「いいですか、今から話すことは全部真実ですからね、真剣に聞いてくださいね」

兄 「おぅ」

天使 「私の真の姿は大天使、メタトロンです」

兄 「めたとろん……?」

兄 「あぁ、あの神の代理人ってやつね」

天使 「何で知って……」

天使 (あぁ、失くしたのは思い出だけでしたね)

天使 「はい、そうです」

天使 「それでですね、あなた一回死んでいるのです」

兄 「おぅ」

天使 「……」

兄 「……え?」

天使 「死んでいるのです」

兄 「冗談キツいっす天使ちゃん」

天使 「私は嘘を吐かないことに定評のある天使です」

兄 「へ、天使って嘘吐くの?」

天使 「そりゃあたまには」

兄 「へー」

天使 「また論点がズレてます!」

兄 「おぉぅ?」

天使 (なんかやりづらいのですよね……)

天使 「ですから貴方は一度死んでいるのです」

兄 「あ、はい」

天使 「なんですかその目は」

兄 「このネタいつまで続くの?」

天使 「ネタじゃなぁい!」

兄 「いや、一回死んだとかいくらなんでも頭がアレ過ぎるって」

兄 「第一天使がなんのでお前を生き返らせてやるとかでも十分痛すぎるのに……」

天使 (……ん?)

天使 「私死んだとは言いましたけど生き返らせたとまでは言ってませんよ」

兄 「……あれ?」

天使 「一度死んだと聞いてじゃあ生き返ったんだなと考えることも出来なくはありませんが」

天使 「オカルトなんてありえないという先入観がある貴方が真っ先にそれを考えるなんておかしくありませんか?」

兄 「いや、あれ?」

天使 「どうしたのですか?」

兄 「今なんか、見えたような気がしたんだけど……」

天使 (やはり不完全な書き換えのせいか男は完全には消えていないようですね)

天使 「なにか思い出せないのですか?」

兄 「うーん、なんか、こう……」

兄 「あー、うー、おー……」

天使 「頑張って!」

兄 「ふ、ふぁ……」

天使 「ふぁ……?」

兄 「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー」

天使 「」

兄 「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー」

天使 「い、一体何が……」

兄 「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー」

天使 (まさか何か作為的な力が男の存在をかき消そうと……?)

兄 「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー」

天使 「ちょっぷ」

兄 「モルスァ」

兄 「はっ、俺は一体何を……?」

天使 (戻った……あれ?)

天使 「俺って……」

兄 「いや、俺って俺だろ」

天使 (まさか今ので記憶が?)

兄 「あれ? 俺?」

兄 「それとも僕?」

天使 (違った)

天使 「とりあえず俺と言っておいてください」

兄 「おぅ、そうするよ」

天使 (しかし今の自然な俺、という一人称)

天使 (何か記憶を取り戻すことに関係が……)

兄 「♪」

天使 (こんどまたチョップしてみましょう)

兄 「?」

寝ます

翌日

兄 (あのあとなんだかんだで話を脱線させつつも天使からのお話を聞き終えた)

兄 (何故か途中の記憶が無いような気もするが気のせいだろう)

天使 「……モルスァ」ボソッ

兄 「?」

天使 「なんでもありません」

兄 (要約すると、彼女は天使でぼ……俺は男で偽神様らしい)

兄 (ちょっと何言ってるかわかんない)

兄 (俺は一度死んでいて、それで本当は男なんだけど兄になって兄になった時に偽神様になって……)

兄 (はぁ、まぁ天使の戯れ言だろう)

妹 「お兄ちゃんあそぼうぜー」

兄 「いーぜー」

妹 「チャロンしようよチャロン」

兄 「俺マイザー使うね」

妹 「私はテムジンー」

天使 (知識があるのに思い出がないというのは不思議な感じですね)

妹 「天使ちゃんやるー?」

天使 「あ、ライデン使いますね」

翌日

兄 (ぼ…俺の一日は平和なもので)

兄 (休日ともなると本当にゲームくらいしかやることが無い)

tv 「イケルゼコノシンソウビ!!」

兄 「ケルディムつえーなー」

妹 「おにいちゃーん」

兄 「んー」

妹 「あ、ガンダム」

兄 「ん」

妹 「ケルディムでそんなに前に出ちゃダメだって」

兄 「ピストルさえあればどうにかなる!」

妹 「ほんとに全部格闘さばいてるし」

妹 「じゃなくてお客さんだよ」

兄 「客?」

お嬢様 「どうも」

兄 「おぅ」

お嬢様 「入院中は私用でお見舞いに参れませんでしたので」

兄 「そうけ」

兄 (確か彼女はお嬢様)

兄 (俺が所属するオカルト研究部の部長で有名企業のご令嬢)

兄 (残念ながらそれ以上はよく知らない)

お嬢様 「重傷で運ばれたというだけで驚きでしたのに」

お嬢様 「記憶を失くした上に数日で退院だなんてもう開いた口が塞がりませんね」

兄 「ぼ…俺ってすげー不死身だったみたいな?」

お嬢様 「ふふ、無理に口調を変えなくてもいいですよ?」

兄 「……やっぱり変?」

お嬢様 「別に変ではないですけど……」

お嬢様 「昔の自分のように取り繕う必要は無いと思いますよ」

兄 「そうかな?」

お嬢様 「少なくとも私の前では」

お嬢様 「記憶は大事ですか?」

兄 「まぁ、大事なんじゃないかな」

お嬢様 「何故?」

兄 「そりゃ、自分がどんな人間なのかとかもわからないし……」

お嬢様 「えぇ、そうですね」

兄 「……?」

お嬢様 「でもあなたはそれで心底困っていますか?」

兄 「んと……」

お嬢様 「どうです?」

兄 「……困ってはいない、かな?」

兄 「みんな親切にしてくれてるし、記憶が無くても生活には困ってないし」

お嬢様 「そうでしょうね 」

お嬢様 「これはわたくしの考えなのですけどね」

兄 「うん」

お嬢様 「記憶とは、ただの記号なのだと思うんです」

兄 「記号……?」

お嬢様 「それがあることに意味があるのでは無く、それがあるからこそ意味がある」

お嬢様 「記憶そのものに意味があるのでは無く、記憶が記憶だからこそ意味がある」

兄 「……?」オロオロ

お嬢様 「難しかったですかね」

お嬢様 「記憶というものがそういう名称の記号であるからこそ意味がある」

お嬢様 「記号である記憶が消えてしまったからといって何かがマイナスになるわけでは無く、単にそこがまっさらな更地となるだけ……」

兄 「ようはあんまり深刻に考えるなってことだね!」

お嬢様 「いえそういう意味では……」

お嬢様 「あ、やっぱりそれでいいのかも」

お嬢様 「あなたを形作っていた記号が無くなったということ」

お嬢様 「それはとても重要なことのように思えます」

お嬢様 「ですが、今のあなたはかつてのあなたとは違う」

お嬢様 「ならば今のあなたが何をやりたいのか」

お嬢様 「それがもっとも重要なことなのでしょうね」

兄 「何をやりたいのか、か……」

お嬢様 「ゼロに戻った対人関係を自分がどう構築していくのか」

お嬢様 「ゼロに戻った記憶をどう作っていくのか」

お嬢様 「全てはあなたがやりたいよう、心行くまでやればいいんですよ」

兄 「哲学だねぇ」

お嬢様 「そうですねぇ」

兄 「そうだなぁ、やりたいことか……」ウーン

お嬢様 「何かあります?」

兄 「んー、お」

お嬢様 「お?」

兄 「オカ研に行ってみたい」

お嬢様 「あ、はい」

お嬢様 「最初にそんなのでいいんですか?」

兄 「なんだかその響きが凄いいいところな感じを醸し出している気がする」

お嬢様 (覚えているの?)

お嬢様 「まぁ、放課後は基本いつでもいますから、お暇な時にどうぞ」

兄 「じゃ明日早速」

お嬢様 「えぇ、どうぞ」

兄 「御菓子もってくね」ニコ

お嬢様 「はぅ」クラァ

兄 「?」

お嬢様 (今の笑顔は反則でしょう……)

お嬢様 「ではお待ちしていますね」

お嬢様 (全力で掃除しよう)

兄 (…どこだろう、ここ)

兄 (上下左右が分からないような、上下左右が逆転したかのような)

兄 (物と空気との境界が曖昧な世界……)

ひょっとこ 「よっ」

兄 「……?」

ひょっとこ 「もう少しリアクションが欲しいんだかよ……」

兄 「ここは?」

ひょっとこ 「世界の終わりと始まり」

ひょっとこ 「全ての夢の最果て」

兄 「はぁ……」

ひょっとこ 「まぁ言葉を尽くせば理解できるような単純なもんじゃねーのさ」

兄 「そうですか……」

ひょっとこ 「そうなんです」

兄 「なんでひょっとこのお面を?」

ひょっとこ 「趣味」

兄 「……そうですか」ニコ

ひょっとこ 「なんだその生ぬるい笑顔は」

ひょっとこ 「お前今ちょっと馬鹿にしただろ」

兄 「いや、ちょっと残念な人なんだなぁって」

ひょっとこ 「おい」

ひょっとこ 「俺は全然残念な人じゃ無いからな!」

兄 「分かりましたって」

ひょっとこ 「ったく……」

兄 「それで結局あなたは誰ですか?」

ひょっとこ 「あー、そこ訊く?」

兄 「訊きます」

ひょっとこ 「そうかい……」

ひょっとこ 「ある時、私は蝶になった夢を見た……」

兄 「はぁ……」

ひょっとこ 「私は蝶になりきっていたらしく、それが自分の夢だと自覚できなかったが、ふと目が覚めてみれば、まぎれもなく私は私であって蝶ではない」

ひょっとこ「蝶になった夢を私が見ているのか」

ひょっとこ 「私になった夢を蝶が見ているのか……」

ひょっとこ 「きっと私と蝶の間には区別があっても、絶対的な違いと呼べるものはなく、そこには因果の関係は成立しないのだろう」

兄 「はぁ……」

兄 「えっと……」

ひょっとこ 「私は蝶」

ひょっとこ 「蝶は私」

ひょっとこ 「私は俺」

ひょっとこ 「俺は世界」

ひょっとこ 「世界は夢」

兄 (どうしたんだろうこの人……)

ひょっとこ 「そして俺は……」スッ

兄 「お前だ」

兄 「!!」ガバッ

兄 「夢……?」

兄 (なんだよ今の……)ハァハァ

兄 「っ!?」ズキィ

兄 (あたまいて……)

天使 「どうかしましたかぁ……?」

兄 「あ、いや、なんでも……」

天使 「そですか、おやすみなさい……」

兄 「あぁ、おやす……おい」

兄 「なんでお前が俺の横で寝てるんだよ」

天使 「あんなことをしておいて白々しい……//」

兄 「黙れ」

天使 「兄が寝ていてつまらなかったので私も寝てたのです」

兄 「床で寝てろ」

天使 「天使ちゃんに酷い言い様ですね」

天使 「そう言えばその喋り、随分と自然になりましたね」

兄 「ん、そういやそうだね……」

天使 「戻った」

兄 「おぅ?」

天使 「またそれっぽくなった」

兄 「不思議だ……」

天使 「ですね」

兄 「ったく、大体今なんz」

時計 「2:00」

兄 「……」ハァ

天使 「ちゃんと私は8時くらいに来たのですよ? でも兄が寝てたから……」アタフタ

兄 「一緒に寝てたと」

天使 「てへ」

兄 (どっと疲れる……)

兄 「あー、目が冴えちゃったよ」

天使 「私もです」

兄 「ゲームでもすっか」

天使 「ブレイブルーしましょう」

兄 「君苦手なのになんでやるかな……」

天使 「好きと上手は比例しないのです!」

tv 「キモチーダロー?」ズバズバ

天使 「負けた」ガックシ

兄 「ノエル使うならもっとコンボ覚えなよ」

天使 「だってハザマさんとか強すぎでしょう!」

兄 「いや、ハザマは決して強キャラじゃない」

天使 「貴方が使うとエグいのです」

兄 「そうかい……」

天使 「次はメルティです!」

兄 「おぅ」

兄 (こいつ随分と世俗に馴染んできたなぁ……)

兄 (いや、世俗もなにももとから一般人だろ)

兄 「俺アルク使うからな」

天使 「じゃあ私は七夜志貴です」

天使 「」orz

兄 「格ゲー苦手ならしなきゃいいのに」

天使 「だって兄に勝てないとか悔しいじゃないですか」グス

兄 「泣くなよ……」

兄 (手を抜けば怒るし本気でボコれば泣くし……)

兄 「難儀な奴だなぁ」ナデナデ

天使 「次こそはまけません!」

兄 「流石に眠たくなったから寝てくれ」

天使 「じゃあ寝ます」

兄 「それで何故俺のベッドに向かう」

天使 「寝ろと言ったじゃないですか」

兄 「家に帰って寝ろ」

天使 「か弱い天使ちゃんに暗い夜道を1人で歩かせる上無人の家で寝てろと」

天使 「兄さんマジキチ」

兄 「なにがか弱い天使ちゃんだ、てんば……」

天使 「!?」

兄 「あれ……?」

天使 「い、今何と言おうとしたのですか!?」

兄 「いや、何か言いたかったんだけど……あれぇ?」

天使 「そうですか……」

天使 (記憶が戻りかけている?)

天使 「きっと疲れているのですよ、ゆっくり眠ってください」

兄 「あぁ、そうするよ」

天使 「では、おやすみなさい」

兄 「おい」

天使 「」スピー

兄 「はっや……」

翌日

兄 (結局、2人同じベッドで眠ったのだが)

兄 (特に間違いが起こるわけでもなく、ドキドキで眠れなくなるわけでもなく)

兄 (翌日の朝までぐっすり)

兄 (俺も天使も随分太い神経をしているようだ)

天使 「」スピー

兄 (こいつに至ってはまだ寝ている)

兄 「おーい、起きろー」

天使 「んぅ、あとにじゅういちまんろくせんびょぉ……」

兄 「一時間も寝るつもりかあほんだら」

天使 「もぉ朝ですかー?」

兄 「おうともよ」

天使 「……」ショボショボ

兄 「眠そうだな」

天使 「とても」

兄 「朝方までゲームするからだよ」

天使 「ですね……」

天使 (ドキドキして眠れなかったのがまさか私だけとは……)

学校

女 「はよー」

兄 「うーっす」

天使 「おはようございます」

女 「なんか口調戻ってるけど、記憶戻ったの?」

委員長 「」ガタッ

兄 「いや全く」

天使 「なんだか不安定になってきているのですよ」

女 「ほぇー」

兄 「自分自身がよくわかんね」

女 「哲学と思わせたただのアホなわけね」

兄 「酷い言い様だね」

天使 「ね?」

女 「ほんとだ」

兄 「あっれー?」

天使 「もう気持ち悪いのでどちらかに統一してくださいよ」

兄 「んなこと言われてもなー」

放課後 部室

お嬢様 「い、いらっしゃいませ」

兄 「おぉ……」

部室 「」キラキラ

兄 「おぉぉぉ!!」

お嬢様 「どうですか、我等が部室は?」

兄 「ふつくしい……」

お嬢様 「そうですか」ニコ

お嬢様 (徹底的に掃除した甲斐がありました)

兄 「俺はこんなに素晴らしい部の部員だったのか……」

お嬢様 「えぇ」

兄 「で、何やってたの?」

お嬢様 「……」

兄 「オカ研というからにはベリベリミステーリアスなことをきっと……」

お嬢様 「えっと、兄さんと駄弁ったりexvsしたりソニックしたり……」

兄 「……マジで?」

お嬢様 「まじです」

兄 (一体何をしていたんだ俺は!!)orz

お嬢様 「あ、兄さん!?」

兄 「活動しよう!」ギュッ

お嬢様 「は、はいっ!?」

お嬢様 (なんで手を握るんですか!?)//

兄 「オカ研に所属しているのにオカルトな活動をしていなかったなんて自分が情けない!」

お嬢様 「そ、そうですか……」

お嬢様 (キャラが安定してませんねー)

お嬢様 「でも、具体的には何をなさるんです?」

兄 「……」

お嬢様 「兄さん?」

兄 「ふ、不思議探索とか……」

お嬢様 「どこのsos団ですか」

兄 「ですよねー」

兄 「いや、でもオカ研って何してるの?」

お嬢様 「オカルトなことを研究してます」

兄 「ニューネッシーとか?」

お嬢様 「まぁ大体そんなところです」

お嬢様 「というかよく知ってますね」

兄 「俺は知識人だったそうな」

お嬢様 「まぁ、そうでしょうね」

お嬢様 (そもそもオカルトとか好きそうでしたし)

お嬢様 「では、今回はニューネッシーを議題にディベートをしてみましょうか」

兄 「凄いオカ研っぽい」

お嬢様 「そうでしょう?」

お嬢様 「ではまず問題提起から」

兄 「ばっちこい」

お嬢様 「兄さんはニューネッシーの正体、何だと思います?」

兄 「あれって確かウバザメの腐敗死体だとか……」

お嬢様 「いえいえそういうロジカルなことではなくて」

お嬢様 「もっとこう、主観的に答えて下さい」

兄 「そうだなぁ……」

兄 「でもやっぱり、首長竜とは思えないかな」

お嬢様 「理由はありますか?」

兄 「んー、首長竜がどんな体の作りしてるかとかはよく知らないけどさ」

兄 「深海に棲息するようなやつじゃないじゃん」

兄 「ならいくら数が極端に減ってたとしても一体も生きてるのが見つからないってのは無理があると思うんだよね」

お嬢様 「なるほど」

お嬢様 「わたくしもあれは首長竜ではないと思います」

兄 「あれ、両方否定派だったらディベートになんなくない?」

お嬢様 「そんなことはありません」

お嬢様 「ディベートとは互いが言葉を重ねることで物事の真理を求めていくもの」

お嬢様 「同じ否定意見でも、十人が集まればそれぞれ違った観点から物事を切り開いていくことができる」

お嬢様 「真理を探求する場において、同意と否定の間に必ずしも因果が成立わけではないのですよ」

兄 「ほぇー」

兄 「難しいね」

お嬢様 「ですね」

兄 「それでどうして君は否定するの?」

お嬢様 「曖昧だからですよ、証拠が」

お嬢様 「世の中には0と100しか存在し得ない」

お嬢様 「全ての証拠を揃え、100に達した時にのみ物事は世界に存在することを許される」

お嬢様 「100に辿り着けないものは全てが0、偽物なのです」

お嬢様 「臭いから捨てた」

お嬢様 「明らかに腐った魚ならともかく」

お嬢様 「いくら臭いからと言えどもあんな怪物チックなゲテモノの死骸を捨てるなんてことは普通ならしませんよね」

お嬢様 「船に積みきらなかったから」

お嬢様 「ニュージーランドにまで行くような船なら数ヵ月分の蓄えはあるはず」

お嬢様 「私なら大きな船を呼びますね。世紀の大発見となるやもしれないのですから」

お嬢様 「軽く見ただけの筈なのに正確に書かれ過ぎているスケッチも」

お嬢様 「捨てたくなる程に臭かったのにどうして骨などまで詳しく描けたのでしょうか?」

兄 「確かにな……」

お嬢様 「わたくしの意見も言ってしまえば屁理屈です」

お嬢様 「しかし、このような屁理屈を垂れる人は他にも沢山いらっしゃいます」

お嬢様 「何かを証明したいのならば、誰も反論できない、完璧な100の答えが必用なんです」

兄 「100の答えか……」

兄 「もしかしてお嬢様ってオカルトを否定したいから研究会やってるみたいな?」

お嬢様 「いいえ、わたくしはオカルトを否定する気はありませんよ」

お嬢様 「確かに今騒がれているような話のほとんどはすぐに論破されてしまうようなものばかりです」

お嬢様 「でもきっと、確かなものがその中にあるはず」

お嬢様 「わたくしはごった返す0の中に埋もれている100を探し出したいんです」ニコ

兄 「そっか……」

tv 「オボエテイーマスーカー」

兄 「ヤックデカルチャー……」

兄 (この映画、なぜこんなにもヌルヌルと……)

兄 (これが何年も前のアニメーションだというのか?)

兄 (日本ってすげー)

妹 「俺の歌を聴けぇ!!」

兄 「!?」

妹 「休日だからってゴロゴロしてねぇで、俺の歌を聴けぇ!」

妹 「たったーいーいっきょくーの」

兄 「落ち着きなさい」

妹 「ごめん」

兄 「どうしたそんなハイテンションで」

妹 「お兄ちゃんに構って欲しくて」

兄 「さいですか……」

兄 「なに、じゃあどっか出かけるか?」

妹 「いーの!?」

兄 「まぁ、暇だからマクロス見てた訳だし」

妹 「ヒャッハー! 5分で支度するからケツの穴引き締めて待ってな!!」

兄 「おぅ」

兄 (一体何キャラだよ)

ヅャスコ

兄 「またヅャスコかよ」

妹 「なんたって安さが売りだからね」

兄 「そうかい」

妹 「というわけで荷物持ちは任せたよ」

兄 「任されたよ」

妹 「これなんてどうかなー?」

兄 「似合ってるよー」

妹 「こっちは?」

兄 「似合ってる似合ってる、妹ちゃん凄くいいよ~」

妹 「ちゃんと見てよぉ」プクー

兄 「ごめんって」

兄 「実際どれも似合ってるんだからいいだろ」

妹 「どう似合ってるの?」

兄 「……」

妹 「ねーねーどー似合ってるのー?」

兄 「妹ちゃんきゃわわ」

妹 「逃げんな」

フードコート

妹 「じゃあご飯買ってくるから、荷物みててね」

兄 「あいよー」

兄 「ふぅ……」

兄 (記憶を失てからも何度か訪れた場所)

兄 (どこか懐かしいような気がする……)

ガキ1 「あーやられたー!」

ガキ2 「ヘタクソ」

ガキ1 「またセーブポイントからやり直しじゃーん」

兄 (セーブ、か……)

妹 「おまたせー。どしたん?」

兄 「なんでもないよ。いただきます」

妹 「そう? 私のおごりなんだから感謝してよね」

兄 「うまうま」

妹 「おい」

部室

兄 「人の記憶がセーブとかロードとかできればいいのになぁ」

お嬢様 「いきなりぶっ飛んだお話ですね」

お嬢様 「シミュレーテッドリアリティですか?」

兄 「現実性をシミュレートできるってやつだっけ?」

お嬢様 「相変わらず物知りですね」

お嬢様 「一般にはコンピュータを使ったシミュレーションによって真の現実と区別がつかないレベルでシミュレートすることを指すのですが」

お嬢様 「その考えの度が過ぎるとわたくし達が存在している現実さえもシミュレーションだと主張するような場合もあります」

兄 「俺の中2染みた発言はそれだと……まぁそうだわな」

お嬢様 「もちろん本気でないことは分かっていますけどね」

お嬢様 「それでどうしてそのようなことを?」

兄 「例えばメモリーカードに記憶を保存しておいてさ」

兄 「自由にファイル分けとか媒体を変えれたりとかしたら便利だろ?」

お嬢様 「兄さんとの思い出のファイル、数学の公式のファイル、そんな風に?」

兄 「あぁ、それで必要な時に開いたりしてさ」

お嬢様 「確かに便利ですね」

お嬢様 「sf等では使い古された話題ではありますが、記憶のデータ化というのは実現すればとても便利でしょうね」

兄 「だよなぁ」

お嬢様 「それは記憶が失くなったからこそ実感できることですか?」

兄 「あぁ、記憶が破損してもパソコンに入れておけばいつでも戻せるだろ?」

お嬢様 「必要な時に必要データを取り出すこともできますね」

お嬢様 「それに……」

お嬢様 (忘れたいことをいつでも忘れられる……)

兄 「それに?」

お嬢様 「試験前なんかに助かりますよね」

兄 「そうそう、解き方とかバーッとさ」

兄 (またここか……)

ひょっとこ 「よぉ、また来たな」

兄 「お前は……俺か?」

ひょっとこ 「そうそう」スッ

兄? 「もうお面も要らないな」

兄 「お前は一体何だ?」

兄? 「何て言って欲しい?」

兄? 「もう1つの人格?」

兄? 「ペルソナはたまた名も無きファラオ?」

兄? 「もしくはお前のドッペルゲンガー?」

兄 「その中に答えがあるのか?」

兄? 「どうだろうな」

兄 「ちゃんと答えろよ」

兄? 「静けき夜巷は眠る」

兄? 「この家に我が恋人はかつて住み居たり」

兄? 「かの人は この街すでに去りませど」

兄? 「そが家は いまもここに残りたり」

兄? 「一人の男そこに立ち 高きを見やり」

兄? 「手は大いなる苦悩と闘うと見ゆ」

兄? 「その姿を見て我が心おののきたり」

兄? 「月影照らすは我が己の姿」

兄? 「汝我が分身よ青ざめし男よ」

兄? 「などて汝の去りし日の幾夜をここに悩み過ごせし」

兄? 「わが悩みまねびかえすや」

兄 「またわけの分からないことを……」

兄? 「ハッ、散々ヒントはくれてやってんだ」

兄? 「なのにまだそこで止まっているってことはお前がまだ偽物にもなれてねぇってことさ」

兄 「なんだと……?」

兄? 「常に頭を回せ。思考を停止させるな」

兄? 「思考を停止させたところでそいつの進歩は終わっている」

兄 「進歩ってなんだよ」

兄? 「自分で考えな、偽物の劣化品」

兄 「」チュンチュン

兄 (これがいわゆる朝チュンとやらか)

兄 (全然嬉しくねぇ……)

天使 「おはようさん」

兄 「今日はちゃんとベッドの外にいるのね」

天使 「もしかして期待していたのですか?」

兄 「冗談は顔だけにしt」

天使 「ちぇすと」

兄 「おうふ」

天使 「うなされて……というより随分難しい顔をされていましたけど」

兄 「あー、おぅ……」

天使 「迷える子羊よ、この天使ちゃんが貴方の悩みを聞いてさしあげましょう」

兄 「夢って自分の潜在的な欲求が表れるんだっけ?」

天使 「まぁ一般的には」

兄 「じゃあ自分を卑下するような夢を見てる時ってどうなるのかな?」

天使 「専門的なことは医者に訊けよって話になるのですが……」

天使 「その理屈で言うならば今の自分に不満があったり自分を壊してしまいたかったりだと」

兄 「そっかぁ……」

天使 「そのような夢を?」

兄 「まぁ」

天使 「内容を訊いても?」

兄 「構わない」

兄 「ひょっとこが出てくるんだ」

天使 「は?」

兄 「ひょっとこ」

天使 「やすぅ~きぃ~の?」

兄 「よく知らないがよ……」

兄 「そのひょっとこがさ、なんか意味深な言葉と意味深な詩を残してくって夢」

天使 「どぜうもんはポエマーだったのですね」

兄 「違うって」

天使 「どんな詩を?」

兄 「静けき夜巷は眠る、だったっけ?」

天使 「なるほど……」

兄 「知ってるのか?」

天使 「ちょっとググってみます」

兄 「あはい」

天使 「先生が言うにはドッペルゲンガー、という詩のようです」

兄 「ドッペルゲンガー……」

天使 「ペルソナというゲームにも使われているようですよ」

兄 「あー、なんか聞いたことあると思ったら……」

天使 「どぜうもんはどうしてこの詩を残したのでしょうね」

兄 「もう突っ込まないぞ」

兄 「悪いな、変な話聞かせて」

天使 「いえ、慣れてますから」

天使 「それに天使ちゃんは迷える子羊を導かなければいけませんので」

兄 「そのネタいつまで続けんの?」

天使 「世界が終わるまでは~」

兄 「スラムダンクかよ」

放課後

女 「おっつー」

天使 「さようなら」

兄 「ばいびー」

兄 「委員長さんもさよならー」

委員長 「さようなら」ガラピシャ

兄 「……俺なんかしたかなぁ」ガクッ

天使 (貴方という人格が既に……)

天使 「気を落とさないでください」

天使 「かわいいかわいい天使ちゃんが慰めてあげましょうか?」

兄 「冗談じゃない」

天使 「そんなもん呼んだ覚えは無い」

兄 「かまーわず消えてくーれってわかりづらいんだよ」

天使 「で、今日も元気に部活ですか?」

兄 「まぁ、部員だし」

天使 「以前の貴方からは考えられない発言です」

天使 「明日は槍でも降りますかね」

兄 「死傷者続出だな」

部室

兄 「はぁ……」

お嬢様 「元気が無いですね」

兄 「今日も特定の女子からごみを見るような目で見られた」

お嬢様 「おそらく被害妄想なので安心してください」

兄 「いくらなんでもあんな顔しなくてもいいと思う」

お嬢様 「そんなにですか……」

兄 「助けてよドラえもん!」

お嬢様 「仕方ないなぁ……」ゴソゴソ

お嬢様 「ネークーローノーミーコーンー!」テレテテッテテー

兄 「」

お嬢様 「」

お嬢様 「間違えました」ゴソゴソ

兄 「ちょっ、何今の怪しげな本!?」

お嬢様 「やだなぁわたくしほんなんてだしていませんよ」

兄 「間違えたって言ってた!」

お嬢様 「こちらですよこちら」

お嬢様 「よくわかるおまじないの本です」

兄 「あぁなんだっけ、もえたんだったっけそれ?」

お嬢様 「はい、わたくしオススメの逸品です」

お嬢様 「少し難しいまじないも可愛いキャラクターと一緒に分かりやすくお勉強できるんです」

兄 「ほぇー」パラパラ

兄 「この魔女見習いのクロちゃんと一緒に解説を見るみたいな感じなんだな……」

兄 「なになに、好きな相手と両想いになれるおまじない」

クロ 『これがあれば……かっ、勘違いしないでよね!』

クロ 『あんたに使うのはあくまで実験の為なんだから!』

兄 「はは、ベタなツンデレだなぁ」ペラ

クロ 『えーっと、材料はカラスの心臓とウシガエルの血液と……』

兄 「おぉ、材料もお手頃だな!」

兄 「ってこれ黒魔術じゃねーか!!」

お嬢様 「そうですけど?」

兄 「どこの世に黒魔術の萌え教本を出す奴がいるんだよ!」

兄 「第一おまじないじゃねーし!」

お嬢様 「何を言ってるんですか兄さん」

お嬢様 「呪いとかいてまじないとも読むんですよ?」ニコ

兄 (笑顔がこえぇぇぇぇ!!)

兄 「いやほらもっとこう、消ゴムに好きな人の名前書いて使いきったら~みたいなアナログな奴でいいからさ」

お嬢様 「そんなのでいいんですか?」

兄 「はいもうそんなのがいいです」

お嬢様 「じゃあこれなんてどうでしょうか」

兄 「叶いそうで叶わないちょっと叶うおまじない……」

兄 「すっげー既視感」

お嬢様 「よく叶うんですよねこのおまじない」

兄 「じゃあよく当たるおまじないでよかったんじゃね?」

お嬢様 「この『気になる相手と図書室で二人きりになれるおまじない』なんてどうでしょうか?」

兄 「既視感再び」

兄 「というかえらくピンポイントなおまじないだな……」

お嬢様 「早速やってみましょうよ」

お嬢様 「まず床に体育座りします」

兄 「あい」

お嬢様 「そこから後転倒立」

兄 「いきなり難易度高過ぎだろ」

お嬢様 「大丈夫大丈夫できるできるできる!!」

兄 「修造かよ……」

兄 「よっ、と。できたぞー」

お嬢様 「両足を広げてー」

兄 「こうか?」

お嬢様 「できるできるできる! オカムラさんまだできる!」

兄 「ぐぎぎぎ……」

お嬢様 「そこですかさずこの呪文を三回、『ボクハシガナイヘンタイデス』。はい!」

兄 「ボクハシガナイヘンタイデスボクハシガナイヘンタイデスボクハシガナイヘンタイデス!!」

お嬢様 「よくできましたー!」パチパチ

兄 「」ゼェゼェ

兄 「なんか、キャラ、かわってね……?」

お嬢様 「兄さんの為です」

兄 「で、おまじないは完了したわけだが」

お嬢様 「図書室に行ってみたらどうです?」

兄 「嫌な予感しかしねー」

図書室

兄 「やって来たわけだが……」

シーン

兄 「閑散とし過ぎだろ」

兄 (なんで司書までいないんだよ)

兄 「おまじないの効果はなかったな」

兄 「はぁ、ちょっと時間潰して部室に帰るか……」テクテク

兄 「ブラックジャックでも読むかな~」

委員長 「」スー

兄 「」

兄 (おいおいマジかよ)

兄 (誰もいないと思ってたら委員長が寝てたぜ)

兄 (勉強でもしてたのか……?)

兄 (いやそれよりもマズイぞ)

兄 (さっさと起こしてから出ないと学校で一夜を明かすなんてベタな展開に……!)

委員長 「」スー

兄 「無理だわ」

兄 (こんなに心地良さそうに眠る人を起こす勇気は無い……)

兄 (いやしかしここは心を鬼に……)

委員長 「っくちゅん」

兄 「…………」

兄 「風邪引いちゃいけないしブレザーを……」ファサァ

委員長 「んー……」スー

兄 (俺だけでも帰るか?)

兄 (いやでま委員長を置いていくのも……)

兄 (かといって起こすわけにも……)

兄 (う、うぅぅぅぅぅ!)

カチャン

兄 「かちゃん……?」

兄 「ねぇ今かちゃんって南京錠が締まるような音がした気がそこはかとなくするんだけど」

兄 「違うよね! まだ外も明るいこんな時間に――!」

窓 「真っ暗」

時計 「七時回ってるぜ」

兄 「」

兄 「終わった……」

兄 「何もかも終わった……」

兄 「いや、俺にはまだ文明の利器携帯が――!」

携帯 「充電しろよ」

兄 「ガッデェェェェェム!!」ナゲツケ

携帯 「ぐあぁぁぁぁぁ!!」

委員長 「んぅ……なぁにぃ……?」

兄 「」

委員長 「……なんでこんなところにいるの?」

兄 (俺が訊きてぇ)

委員長 「はぁ、寝ちゃってたみたいね」

委員長 「今は……七時?」

委員長 「急いで帰らないと……!」

兄 「……無理だよ」

委員長 「へ?」

委員長 「一体どういう意味よ」ガバッ

兄 (あぁ、ぼくちんのブレザーが……)

兄 「そのまんまの意味だよ、帰れない」

兄 「確かめてみればいいだろ」

委員長 「確かめるわよ」

委員長 「あ、あれ……?」グイグイ

委員長 「開かない……」

兄 「閉じ込められたんだよ」

委員長 「私たちが残ってるのに?」

兄 「うん」

委員長 「図書委員か司書さんが確認にこなかったの?」

兄 「サボったんじゃね?」

委員長 「そう……」

兄 「携帯とかあると非常に助かるんだが……」

委員長 「家に忘れた」

兄 「はぁ……」

委員長 「仕方無いわね、警備員さんね見回りか朝が来るのを待ちましょう」

兄 「案外抵抗ないのな」

委員長 「騒いだって仕方がないじゃない」

兄 「ですよねー」

委員長 (なにこれマジですかこのベタな少女漫画みたいな状況)

委員長 (記憶喪失の彼氏と密室で二人きりとか完全に携帯小説()じゃない)

委員長 (もうなんだか色々と気になり過ぎて頭が回らないんだけど)

委員長 (あ、これ……)スッ

委員長 (男のブレザーだ)

兄 「おー、寒そうだったからかけてやってたんだ」

委員長 「そうなの、ありがとう」

委員長 (なぜその時起きなかった私)

>>138
兄のブレザーでしたスマソ

兄 「にしても困ったなぁ……」

兄 (図書室は三階、まぁパイプ伝って降りれないことも無いけど)

兄 (通報→逮捕のオチが見えてるし)

委員長 「ねぇ」

兄 「おぅ?」

委員長 「ほんとに記憶無いのよね?」

兄 「まぁな」

委員長 (はぁ、面と向かって言われるとやっぱり……)

兄 「なぁ、一ついいか?」

委員長 「なに」

兄 「委員長は俺のこと嫌いなのか?」

委員長 「どうして?」

兄 「なんか俺にだけツンケンしてるから」

委員長 「してないわよ」

兄 「してるって」

委員長 「してない」

兄 「…………」グスン

委員長 「あーもう泣かないでよもう」

兄 「なぁ、お前は俺の何だったんだ?」

兄 「友達か? 知り合いか? 仇敵か?」

委員長 「……友達よ、普通の友達」

兄 「その割りには嫌われす」

委員長 「嫌ってない」

兄 「はい……」

委員長 「…………」ホオヅエ

兄 (きまづい……非常にきまづいよお嬢様……)

兄 (ん……お嬢様?)

お嬢様 『本格的にヤバいと思ったらおまじないを解く方法があるのでそれをどうぞ』

兄 (解き方メモがあったじゃねぇか!)ピラ

兄 「」

兄 (マジかよ……)

兄 「いいか委員長!」

委員長 「なっ、なに?」ビクッ

兄 「俺が今からやることに絶対に突っ込むな!」

委員長 「は?」

兄 「突っ込むな!!」

委員長 「は、はひっ!」

兄 (やるっきゃない、ハートを磨くっきゃない、まじないを解くっきゃない……!)

兄 (まずは倒立前転……!!)スッ

委員長 (な、なにやってるの?)

兄 (そしてそこからロンダート、バク宙……!!)ダンダン

委員長 (おぉ!?)

兄 (〆にy字バランス……)ピタッ

委員長 (ふつくしい……)

兄 (そ、そして止めのぉ……!!)

兄 「テクマクマヤコンテクマクマヤコン 神話になれ~~~!!」

委員長 「」

用務員 「なーにやっとるかね?」ガララ

委員長 「あ、あに…?」

兄 「皆まで言うなっ!!」

委員長 「でも……」

兄 「言わないでくれ……!」ゴウキュウ

用務員 「閉じ込められとったんかね?」

兄 (その後この学校の怪談として、図書室で体操をしながら神話になるアッコちゃんが生まれたのは別の話である)

自室

tv 「キョーオモーマタダレーカー オトメノピーンチー」

兄 「ははは、やっぱりアリスsosは面白いなぁ」

兄 「ははは……」ウツロ

天使 「彼はどうしたのですか?」

妹 「こないだ遅くに帰った時からあんな感じなんだけど……」

天使 「土曜の朝っぱらから不健康極まりないですね」

妹 「何か思うところがあるんだよきっと」

兄 「あー、おわっちゃった……」

兄 「ウェブダイバー見よ……」ガチャガチャ

天使 「アリスsosを見終えてからウェブダイバーを見始める男に何か考えでも?」

妹 「ないかなぁやっぱり……」

tv 「ジダイニトビコームユウキノダイバー」

兄 「やっぱ普通絵のが3dcgよりカッコいいよなぁ」

tv 「ヒーカッテールユーメーヲオイカケールキミトナラバー」

天使 「いい加減にしてください」プチッ

兄 「あぁ! コゲンタが!!」

天使 「なんでさっきから懐かしアニメばっかり流してるのですか」

兄 「いいじゃない、逃避くらいさせてよ」

天使 「逃避し過ぎです」

兄 「そのくらいヘヴィでハードな現実にぶち当たったのよ」

天使 「シャキッとしろ! せめて起き上がれ!」グググ

兄 「ひっぱるなー……!」グググ

天使 「もう少し学生らしく外で走り回るなりなんなりしたらどうなのですか……!」グググ

兄 「それは消防の仕事だ……!」グググ

ピンポーン

天使 「ほら、お客さんが来たじゃないですか……」グググ

兄 「なら離せよー……」グググ

女 「呼ばれて飛び出て女ちゃーん!」

兄 「」

天使 「」

女 「いやいやここ最近空気だったからねぇたまの出番くらいテンション高めにいかないとね!」

兄 「帰れ」

天使 「お久しぶりですね……女さん」

女 「おいなんだ今の間は絶対忘れかけてたろ」

女 「つかかえんねーし」

兄 「第一なんなんだよお前マジで帰れよぶっ殺すぞ」

女 「なんでお前は喧嘩腰なんだよ」

兄 「機嫌がチョベリバ」

女 「いつの時代の人間だ」

天使 「私妹ちゃんと遊んできますね」

兄 (逃げおったわ)

女 「おいおいせっかく女ちゃんが来てやったんだから水の一杯やには……」

兄 「ほれ」ドン

女 「……はい?」

兄 「水」

女 「いやこれ『生きた化石エビ伝説』のやつじゃん。てか懐かしいなオイ」

兄 「飲むよな、水」ニコ

女 「いやでも……」

兄 「欲しいんだろ、水」ニコ

女 「ごめんなさい」

兄 「それで何の用だ一体」

女 「いや、委員長が昨日からなんか妙にやつれてるっていうか燃え尽きてるっていうか」

兄 「…………」

女 「それであんたなんか知ってるかなって……おーい兄ー?」

兄 (死にてぇ)

兄 「なんでもない、なにもなかったんだ……」

女 「いや、どう考えてもなんかあったでs」

兄 「黙れぇい!!」クワッ

女 「」ビクッ

兄 「なにもなかった、いいな?」

女 「は、はひ……」

お嬢様 「失礼しまーす……」

兄 「…………」ウチフルエ

女 「…………」オロオロ

お嬢様 (どういった状況でしょうか……)

お嬢様 「あのー……」

兄 「やぁお嬢様、お茶でも飲むかい?」ニコヤカ

お嬢様 「あ、はい」

兄 「かくかくしかじか」

お嬢様 「ほうほう」

女 「ほほうほう」

お嬢様 「そんなことになっていたのですね……」

女 「なにやってんのよあんたは……」

兄 「やりたくてやるかバカ」

お嬢様 「それで、兄さんはどうしたいんですか?」

兄 「どうしたいっていうと……」

女 「私は変態ではありませんって言うことでしょ」

兄 「まぁそれもあるがよ……」

兄 「なんで避けられてるか知りたいっていうか」

女 (あー……)

お嬢様 (そろそろ潮時ですかね)

お嬢様 「わたくしから委員長さんに話は通しておきますから、彼女とお話する機会をつくって差し上げます」

兄 「ありがたやありがたや……」

お嬢様 「後日また連絡しますから」

女 「頑張れよ」

兄 「頑張るよ」

お嬢様 (お互い)

女 (損な役割よねぇ……)

図書室

兄 『テクマクマヤコンテクマクマヤコン』

委員長 (一刻も早く医者になって記憶療法を……!)カリカリ

委員長 「ん?」

委員長 「兄の携帯だ……」

委員長 (忘れていったのかな……)

兄 (またまたここかよ……)

兄? 「ちゃお~」

兄 「またまたお前か」

兄? 「ま、そういう世界だからな」

兄 「いい加減お前は何なんだよ」

兄? 「何者でもない、ただの偽者だ」

兄 「偽者?」

兄? 「俺は兄の偽者で」

兄? 「お前はその偽者。偽者の偽者さ」

兄 「何が言いたいんだよ……」

兄? 「長くて幸せな夢はもう終わりだ」

兄? 「お前が選ぶしかないのさ。夢の続きか、夢の終わりかを」

兄 「頼むからわかるように説明してくれよ!」

兄? 「答えなんて無い。お前が進む通りに道が決まるだけ」

兄? 「幸せに近づく最適解はあっても、完全な正解なんてありはしない」

兄? 「いい加減に気づけよ」

兄? 「ヒントは散々貰って来ただろう?」

兄? 「だったら自分でやりたいようにやれよ、俺が言えるのは今はここまでだ」

兄? 「あばよ、また会えたら会おうぜ」

兄 「待てって! 何が最適解だよ!!」

兄 「分かるように説明―――」ガシッ

天使 「…………//」

兄 「しやがれ……って……」モミモミ

天使 「……何か言うことは?」

兄 「貧乳も悪くないな」

天使 「てんばつ―――」

兄 「あ、あのー、天使さん?」

天使 「てきめーーーんっ!!!」

兄 「あばばばばばばばば!?」ビリビリ

妹 「どうしたの今の悲鳴!?」

兄 「」ブスブス

妹 (おにいちゃーん!!)

天使 「ふーっ、ふーっ!!///」

妹 「どっ、どうしたの天使ちゃん! 興奮したメスゴリラみたいだよ!!」

天使 「あぁん!?」

妹 「ひっ!」ビクッ

天使 「だってそこの変態がぁ!//」ジタバタ

妹 「だから何があったらあんなになるわけ?」

兄 「」プシュー

天使 「かくかくしかじか」

妹 「うまうま」

妹 「つまり乳を鷲掴みにされた上に貧乳最高と」

天使 「はい……//」

天使 「段階とか順序とかあるじゃないですか!」

妹 (もうお前ら結婚しちまえよめんどくせぇ)

妹 「まぁお兄ちゃんも悪気は無いだろうし許してあげてよ」

天使 「プリン三個で考慮します」

妹 「買ってくるからさ……」

兄? 「ついてないなーお前」

兄 「また来ちまったよ……」

兄? 「ラッキースケベめ、爆発しろ」

兄? 「んなことよりこんなに早く再会できたんだ」

兄? 「この俺ちゃんさんからか出血大サービスの特大ヒントをくれてやる」

兄 「貰ってやるよ、筋道のたった日本語で教えやがれ」

兄? 「お前はうるとらきゃわわな天使ちゃんから何を告げられた」

兄? 「お前はとっても優しいお嬢様とどんな話をした」

兄? 「お前はツンケンした委員長の態度に何を感じた」

兄 「…………」

兄? 「最後の選択だ」

兄? 「本物か、偽物か」

兄? 「現実を見るか、夢に魅せられるか」

兄 「僕は……」

兄 「私は……」

兄 「俺は……」

「現実を見る」
「夢に魅せられる」

>>175

夢をかき分けて現実

よし任せろ

? 「……きて…」

? (んだよったく……)

幼馴染 「ほら、起きて男」

男 「なんだよー、寝させろよー……」

幼馴染 「もう朝よ、月曜なんだからシャキッとしなさい!」

男 「かーちゃんかよお前は……」

男 「……」シャカシャカ

幼馴染 「歯磨きが長い!」

男 (いつものように幼馴染に起こされて、幼馴染に急かされて)

男 (いつも通りの朝が始まった)

幼馴染 「なんで目覚ましかけないかなーもう!」

男 「目覚ましに頼るのは甘え」

幼馴染 「社会の荒波に揉まれるんだから目覚ましくらいには甘えていいの!」

学校

幼馴染 「まったく、男があと10分早く起きてくれれば余裕を持って登校できるのに」

男 「じゃあ俺を置いてきゃいーじゃん」

幼馴染 「そしたらサボるでしょ」

男 「ちゃんと来るって、俺マジメだから」

幼馴染 「どうせ重役出勤でしょうが」

委員長 「あ、幼馴染先輩おはようございまーす」

幼馴染 「おはよう、委員長さん」

委員長 「相変わらず仲睦まじいですねー」

幼馴染 「なっ//」

幼馴染 「なんで私がコイツなんかと!」

委員長 「でもいっつも一緒じゃないですか」

幼馴染 「それは全然関係ないでしょ! ね、男!!」

男 「…………」ボー

委員長 「私の顔に何かついてますか?」

男 「あ、いやなんでも……」

委員長 「そうですか」

男 「それより君、どっかで会ったことあるっけ……って会うだけならいくらでもあったか……」ブツブツ

委員長 「? 体調でも悪いんですか?」

男 「いや、なんでもない、なんでも……」

兄 「おーい、授業遅れるぞー」

委員長 「ごめーん」

委員長 「それじゃ私はこれで」

男 「おぅ」

幼馴染 「違うからね!」

兄 「…………」

男 「ん?」

兄 「…………」ペコリ

男 「おぅ……?」ペコ

幼馴染 「はい、音楽室に急ぐ!」

男 「なーんか妙に張り切ってないかお前?」

昼休み

男 (どうしてか落ち着かない……)

男 (なんだ、この浮わついた、ざらついた感覚)

男 (自分だけが世界に溶け込めていないような……)

幼馴染 「じゃあ私は生徒会に顔出してくるから」

男 「ごくろうさーん」

男 「ぶらぶらしてみるか……」

男 (廊下を走る生徒)

男 (グラウンドから届く歓声)

男 (なにもかも、いつもどおり……)

男 (いつもどおりだが、何かが違う)

男 「ん……?」

男 (ここは確か……)ギィ

男…と兄?

何が起こった(;゚д゚)?

男 「おぅ……?」

男 (校長室、というか来客とか通す部屋っぽいか?)

男 (いやでもそんなとこに普通テレビやらゲーム機やら置いてあるかよ?)

男 (それになんか見たことあるような……)

お嬢様 「あの……」

男 「はぃぃぃ!?」

お嬢様 「あ、驚かせてすいません。何かご用でしたか?」

男 「えと……」

お嬢様 「はい?」

男 「ここって、何の部屋?」

お嬢様 「オカルト研究会の部室として使わせて貰ってますけど……」

男 「あぁ、オカ研か……」

男 (なんで俺は納得してるんだ?)

お嬢様 「わたくしお嬢様と申します、あなたは?」

男 「男だ」

お嬢様 「男さんですか、せっかくですからお茶でも飲んでいってください」

男 「お、おぅ」

男 「うまい……」

お嬢様 「お口に合って何よりです。スコーンもどうぞ」

男 「んじゃお言葉に甘えて」モグモグ

お嬢様 「どうしてこんなところに?」

男 「どうしてって……」

お嬢様 「一般生徒がこの扉を開けることは無いと思っていたのですが……」

男 「なんでか、ここを知ってるような気がしてさ……」

お嬢様 「へぇ……」

男 「そういうのが多いんだ、顔見知り程度の後輩の事をやけに知っているような気がしたり、この部屋も知っているような気がしたり……」

お嬢様 「既視感だとかですか?」

男 「どうなんだろ、なんかそんな気がするってだけでさ……」

男 「わけわかんないよな、こんな話されても」

お嬢様 「いえ、実に興味深いお話です」

お嬢様 「そして、わたくしに心当たりがあります」

男 「マジで?」

お嬢様 「まじです」

お嬢様 「一つ質問しましょう」

お嬢様 「あなたは誰ですか?」

男 「男だが……」

お嬢様 「本当に? 自信を持って? 絶対に?」

男 「あ、あぁ……」

お嬢様 「では次、あなたが感じた違和感はなんですか?」

男 「既視感と……ざらつき?」

お嬢様 「ざらつきとは?」

男 「妙に現実味が無いというか、俺だけが周りから浮いてるというか……」

お嬢様 「……ふむ」

男 「それで、どうなんだ?」

お嬢様 「一つ、予想が立ちました」

男 「おぉ」

お嬢様 「これを確信に変えたいと思います」

お嬢様 「あなたはこの部屋を知っていますね?」

男 「いや、ような気が……」

お嬢様 「よく思い出してください」

男 「おぅ……」

男 (ソファがあってテレビがあってパソコンがあってゲームがあって……)

男 (ゲーム……?)

男 「知ってる……」

男 「ゲームをしたんだ、君と……」

お嬢様 「……なるほど」

男 「そう、ディベートもした。君の答えに対する考えだって聞いた」

お嬢様 「しかしわたくしはあなたとは初対面です」

男 「あぁ、俺も君とは初めて会ったはずだ」

男 「だけど知ってる、俺はオカ研の部員だったんだよ確かに」

男 「おまじないだってやった……」

男 「委員長と仲良くなりたくて……」

男 「……そう、俺は委員長と付き合ってたんだ」

男 「妹と遊んで女と馬鹿やって……」

お嬢様 「思い出して来たようですね」

男 「俺は……誰だ?」

お嬢様 「こことは違うどこかから来た人、と言うと語弊がありますね」

お嬢様 「ここは、誰かが造り出した世界なのかも知れません」

男 「なんだよそのファンタジー……」

お嬢様 「心当たり、ありませんか?」

男 「……俺か」

お嬢様 「話して貰えますか?」

男 「俺、確か一回死んだんだ」

男 「それで生き返ってなんやかんやあって……」

男 「紛い物の神様の力を手に入れて……」

男 「神様……?」

お嬢様 「ここはその、神様の力で造り出された夢の世界」

お嬢様 「誰も死ななかったら、の世界なのかも知れませんね」

男 「そうだよ、いちゃいけない奴がいて、いないといけない奴がいない……!!」

お嬢様 「どうなさるんですか?」

男 「決まってる! 世話になった!!」ダッ

お嬢様 「…………」

お嬢様 「損な役回りですよねーわたくしって」

男 (どこだどこだどこだ……!)

男 (いちゃいけない奴はどこだよ!!)

男 (教室探し回っていないんなら……)

男 (図書室!!)ガララ

男 「はー、はー、はー、見つけたぞ……」

ひょっとこ 「よっす」

男 「てめー、夢を魅せやがって……」

ひょっとこ 「お前がそう望んだんだろ」スッ

兄 「何も無かった世界になれって」

男 「俺は望んでねー」

男 「パーになった俺がやらかしたんだ」

兄 「ま、確かに」

兄 「で、どうする?」

兄 「いなくなったと言ってもあいつはこっちに降りてきてないだけ、上で元気にやってるさ」

兄 「俺もお前も元気に生きれる世界に残るのか?」

男 「やだね」

兄 「どうして?」

男 「ただでさえ世の理ぶち壊して生き返った上に偽神様になってんだ」

男 「これ以上自分達の為だけにそんな大それた力使えるかよ」

兄 「……本当にそれでいいのか?」

男 「おぅ」

兄 「夢を望んだお前もお前だぞ」

男 「くどい」

男 「俺はお前として生きてくって覚悟決めたんだよ」

男 「今さらそんなご都合主義許せるか」

兄 「……だな」ニコ

兄 「屋上に行くといい」

男 「あぁ、ありがとう」

兄 「気にすんな」

兄 「絶対的な因果の関係なんかなくとも」

兄 「俺はお前でお前は俺なんだから」

男 「あぁ」ニコ

兄 「妹を頼んだぜ」

男 「嫁には死んでも出させねーよ」

兄 「いや、そこはあいつの自由にさせてやってくれ」

男 「ありゃ」

屋上

男 「よ」

天使 「あ……」

男 「待ったか?」

天使 「遅すぎです」ギュウ

天使 「もう来ないのかと思いました」

男 「信用ねーなー俺」

天使 「寝起きを襲うような男ですからね」

男 「悪かったよ……」

男 「それで、どうすりゃ元の世界に帰れるんだ?」

天使 「…………」

男 「何故に押し黙る」

天使 「学校の屋上ってどうして施錠されてるか分かります?」

男 「…………」

天使 「…………」

男 「…………」

天使 「……ゴー」

男 「無理無理無理無理無理!!」

天使 「大丈夫です、段々気持ちよくなってきますから」

男 「それ力尽きていってるだけじゃね!?」

天使 「男は度胸だ、やってみろ」ドゲシッ

男 「え……天使ちゃん……?」

天使 「バイバーイ」

男 「アッーーーーー……!!」

男 (その日から俺は、高所恐怖症を患うことになった)

疲れた…
寝ます

お休み( ^ω^)っ④"

兄 「あ」パチリ

妹 「あ、起きた」

天使 「おそようございます」

兄 「天使てめー、覚えてろよ」

天使 「許してにゃん☆」テヘ

兄 「やかましい!」バシッ

天使 「あいた!?」

兄 (落ちるという感覚は中々に恐ろしいもので)

兄 (いくら着地点がベッドの上だったとはいえ、しばらくは絶叫系のアトラクションには近づきたくなくなってしまった)

天使 「悪かったとは思ってるんですよ、えぇ」

天使 「でもだって仕方なかったじゃない」

天使 「だって、天使だもの」

兄 「言い訳になってねぇよ」

天使 「でもでもけとばさなかったらあのままじり貧だったのですよ!」

兄 「馬鹿野郎、俺はやる時はやる兄だぞ」

兄 「屋上ダイブくらいいくらでもやってやる」

兄 「……ちょっとばかし覚悟を決める時間がいるけど」ボソッ

天使 「へたれ」

兄 「身投げなんて簡単にできるか!」

天使 「私はあのあとちゃんとやりましたけどね」ドヤァ

兄 「天使ちゃんパネェ」

天使 「まぁぶっちゃけ羽出してゆっくり降りてっただけですけど」

兄 「なにそれずるい」

天使 「いや飛び降りとかマジ無理」

天使 「第一私高所恐怖症ですし」

兄 「雲の上にいる時は大変だっただろうな」

天使 「常に上を向いて歩こうでした」

天使 「それにしても無事に現実に戻ってこれて良かったですね」

兄 「あぁ、これで取り合えずはひと安心だな」

天使 「それも全部私のお陰ですね。もっと感謝してくれていいのですよ」

兄 「あぁ、癪だが世話になったな」

天使 「ふぇっ?//」

兄 「なんだそのベタな反応」

天使 「いえ、あなたがそんな素直に返してくるとは思わなかったのですよ//」

兄 「まぁ、お前が待ってくれて無かったら帰ってこれなかっただろうし」

兄 「第一屋上ダイブなんてエキセントリックな発想には至れねーよ」

兄 「それに、偽神様の件で世話になってたのは事実だしな」

天使 「……やはりあなたはずるいです//」

兄 「なんでだよ」

部室

兄 「世話になったな、お嬢様」

お嬢様 「わたくしなにかしましたでしょうか?」

兄 「いや、まぁ色々助けられたよ」

お嬢様 「ふふ、知っていますよ」

兄 「なーんだ知ってんのかー……」

兄 (……ん?)

お嬢様 「初めてお会いした時から違和感は感じてはいましたが……」

お嬢様 「やはりただの人間ではありませんでしたか」

兄 「待て待て待て待て待て!」

兄 「え? なにそれなに?」

兄 「知ってるってなに?」

お嬢様 「あなたが兄さんではないこととか」

お嬢様 「神様の偽物であることとか」

兄 (全部じゃないっすかー!)

兄 「あれはなんだ、夢の国とかじゃ無かったのか!?」

お嬢様 「えぇ、そうですよ?」

兄 「じゃあなんでこっちのお前が知ってるんだよ?」

お嬢様 「企業秘密です♪」

兄 「スパイラルかよ……」

兄 「え、いやちょっとマジで待って。色々と訊きたいことが山積みなんだが」

お嬢様 「なんです?」

兄 (え、どゆこと?)

兄 (あれが仮に全く別の世界だったとする)

兄 (ならばあそこにいたみんなは『平行世界の同一人物』になるはずだ)

兄 (その場合双方に因果が生まれることはない……)

兄 「あー頭がこんがらがってきた……」

お嬢様 「簡単な話です」

お嬢様 「道から外れた存在が自分だけと思わないことですよ」

兄 「……まさか」

お嬢様 「あ、わたくし生き返ったりはしてませんよ?」

兄 「違うのかよ」

お嬢様 「いくら神による書き換えと言えど、その力は偽物ですから」

お嬢様 「その中の穴をすり抜けることぐらいは容易いことです」

お嬢様 「天使さんや『兄』さんもやってたでしょう?」

兄 「そういう理屈かよ……」

兄 「あのお嬢様はお前本人だったわけだな」

お嬢様 「まぁ大体そのような感じですね」

兄 「あー、やられたわ……」

お嬢様 「安心してください、言いふらしたりはしませんから」

兄 「頼むよ」

兄 「で、お前はどう道を踏み外したんだ?」

お嬢様 「とても些細なことです」

お嬢様 「今にして思えば、どうしてあんなことしたんだろうと思えるほどに」

お嬢様 「小さい子供の悪戯となんら変わりはありません」

お嬢様 「ほんの少しの悪戯心と好奇心が、猫を殺してしまっただけです」

兄 「ぶっちゃけると?」

お嬢様 「あまり話したくはありません」

兄 「さいですか」

お嬢様 「まぁ、生き返ったり神になったり記憶を失ったりする程壮大なファンタジーな話でないことは確かです」

兄 「やっぱ俺て異質なのか……」

お嬢様 「あなたが異質の中心になっているきらいがありますからね」

お嬢様 「異質を通り越して異常、特異なのかもしれません」

兄 「どうもありがとう」

お嬢様 「貶してはいませんが、褒めてもいません」

お嬢様 「まぁ、似た者同士仲良くしましょう」

兄 「あぁ、そうだな」

お嬢様 「あぁ、そう言えば委員長さんの件ですが」

兄 「どうだ?」

お嬢様 「ネークーローノじゃなかった」

お嬢様 「おーまーじーなーいー!」

兄 「結局それかよ」

兄 「とゆわけで」

兄 (無事にまた図書室にぶちこまれました)

委員長 「…………」スー

兄 (風邪ひくぞー)ファサッ

委員長 「んー……」ニヘラ

兄 「……アトムでも読むか」

兄 「そっらっをこーえてー……」ペラ


数時間後


兄 「かそくそーち……」ペラ

委員長 「んぅ……?」

兄 「やっとお目覚めか」パタン

委員長 「……また?」

兄 「また」

委員長 「」

委員長 「え、なんで? なんでまた?」

兄 (呪いの秘法とかのせいじゃね?)

兄 「まぁなったもんは仕方無いさ。おにぎり食う?」

委員長 「館内飲食禁止よ」

兄 「せっかく買ってきたのに、堅いこと言うなよ」モグモグ

兄 「試験前でもないのによくやるよなー」

委員長 「……やるべきことがあるから」

兄 (やるべきこと、か……)

委員長 「あ、ブレザーありがと」

委員長 (兄のブレザーキテター!!)

兄 「冷えるだろ、着てていいぞ」

委員長 「ん、そう」

委員長 (ヒャッハー!)

委員長 「…………」カリカリ

兄 「ぼー」ペラ

委員長 「…………」カリカリ

兄 「なーなー」ペラ

委員長 「なに?」カリカリ

兄 「お前、俺の彼女だったんだってな」

委員長 「!?」ガタッ

兄 「そりゃあ、冷たくもなるわな」

兄 「彼氏から完璧に忘れられるなんて普通耐えられないよ」

委員長 「嫌味?」

兄 「どうだろうな」

兄 「ま、そんなことは割りとどうでもいいんだけどさ」

兄 「なんでそこまで突き放してんだ?」

兄 「普通に話す分には問題無いだろ」

委員長 「……記憶をフォルダ分けして自由に操作できたら便利だって、思ったことある?」

兄 「…………」

委員長 「必要な記憶を自由に取りだし、自由に消す」

委員長 「素敵な思いでを残して、嫌な記憶は消す」

兄 「無きにしもあらずだな」

委員長 「でしょ?」

委員長 「似たようなことがね、できたの」

兄 「…………」

委員長 「あなたの記憶が無くなって、あなたの中で過去は全て無かったことになった」

委員長 「体育祭で頑張ったことも、一緒に遊んだことも、私と付き合っていたことも」

委員長 「でも、あなたが忘れても私は覚えてる」

委員長 「辛いのよ」

委員長 「今まで向けられていた笑顔が」

委員長 「突き刺さるみたいに痛いの」

委員長 「今のあなたが向ける笑顔に込められているのは愛しさではなく、優しさ」

委員長 「分かっていても勘違いしてしまうのよ、その優しさを」

委員長 「分かっているから、辛いの」

委員長 「受験に合格したと思ったら手違いで本当は不合格だった」

委員長 「それと同じような感じよ」

委員長 「一瞬でも喜んでしまうことが、この上無く辛いの」

兄 「だから他人の振りをした?」

委員長 「そう」

委員長 「嫌なの、忘れてるけど昔そうだったからなんて」

委員長 「そんな関係をいつまでも引きずっていたくないの」

委員長 「だってそうでしょ?」

委員長 「あなただってこの短い間でも忘れたいことがあったでしょ?」

委員長 「それを忘れることができるの、無かったことにできるの」

委員長 「嫌なことから逃げたいのよ……」

委員長 「そう、でもしなきゃ……やって、られないのよ……」グスッ

兄 「委員長……」

委員長 「最低ね、本当に最低」

委員長 「記憶を無くした恋人に献身的に寄り添う」

委員長 「そんな辛い美談にも耐えられないような最低な彼女だったのよ……」

委員長 「…………」ウツムキ

兄 「なぁ、委員長」

委員長 「なに……?」

兄 「ていっ」デコピン

委員長 「あたっ!?」

委員長 「なっ、なにすんのっ」

ギュッ

委員長 「よ」

兄 「ごめんな」

委員長 「同情?」

委員長 「それならやめてよ、余計死にたくなる」

兄 「まぁまぁ、落ち着けって」

委員長 「……なによ」

兄 「最初にまともに喋ったのは体育祭の時だったか」

委員長 「!?」

兄 (記憶、ありがとな、『兄』)

兄 「俺とお前が先生から当てられてさ、無理矢理実行委員をやらされたんだよな」

委員長 「あ、に……?」ウルウル

兄 「俺が気を落としてたらお前が放課後に席まで来てさ」

委員長 『一緒に頑張りましょう』ニコ

兄 「今思えばあのとき確実に落ちてたね」

委員長 「兄っ……!」ギュウウ

兄 「ごめん『忘れてて』」

委員長 「ううん、いいの。いいの……」ポロポロ

兄 「委員長……」ギュッ

委員長 「う、うぅぅ……」ポロポロ



兄 『待ってくれ』

男 『おぅ?』

兄 『まだ一つやることが残ってた』

トンッ

男 『顔がちけえ』

兄 『我慢しろ、記憶を渡してる』

男 『渡す?』

兄 『完全な俺になってもらう為さ』

兄 『今までの記憶と、どんな感情を抱いたか』

兄 『後はお前でどうにかしてくれ』

兄 『俺にできるのはここまでだ』

兄 『すまない、面倒ばかり押し付けて』

男 『十分だよ』

男 『それに、俺はお前だろ?』

兄 『……あぁ、ありがとう』

男 『じゃ、今度こそ』

兄 『あぁ、さようなら』

『じゃあな、俺』

『さようなら、俺』

兄 「なんだ、その。遅くなった」

委員長 「散々待たせて……でもいい」

兄 「あぁ、ありがとう」

委員長 「うん……//」

兄 「なぁ」

委員長 「なに?」

チュッ

委員長 「……不意打ちはずるいわよ//」

兄 「はは……」ギュウウ

兄 「なんか、ずっとこうしたかった気がするんだ……」

委員長 「私も……」

女 「wawawa忘れ物~♪」ガララ

兄 「お、開いたな」ギュッ

委員長 「そうね」ギュー

女 「」

兄 「なんだ、お前か」

女 「どうぞごゆっくりぃ~!」ダダダ

委員長 「…………」

兄 「一体なんだったんだ……」

数日後

兄 (こうして一連の騒動は幕を閉じた)

兄 (色々と大変だったわけだが、無事にいつもの日常に戻ってくることができた)

兄 (こうして思うと、日常とはなんとも素晴らしいものである)

天使 「あっ、このっ!!」

妹 「甘い甘いっ」

tv 「マイリマシター!!」

天使 「まさか妹ちゃんに負けるなんて……」

妹 「このゲームよくやってたからね」

兄 「さ、そろそろ行くか」

天使 「天使ちゃん今日は自主研究にしときます」

兄 「さいですか」

妹 「いってらっしゃーい」

兄 「おうよ」

兄 (なんだかんだで部活にもちゃんと参加することにした)

兄 (もしかすると真面目ちゃんの兄と偽俺に自我が影響されているのかも知れない)

委員長 「あ、向かえにいくつもりだったのに」

兄 「もう少し早くに来るべきだったな」

委員長 「そうね」

兄 (タイを少し緩め、yシャツの襟を崩す)

兄 (少しせっかちなセミの声が耳に心地よくもやかましい)

委員長 「暑くなってきたわねー」

兄 「だなー」

兄 (夢の世界には結局残ることはできなかった)

兄 (でももしかすると、あの夢の国の方が偽物に満ち溢れた世界だったのかもしれない)

委員長 「ふんふ~ん♪」

兄 (それに……)

委員長 「どうかした?」

兄 「なんでもないよ」

兄 (偽物だらけの現実にも、確かな100の答えはあったのだから)



おしまい

え、続きいる?

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