裁判官「被告人を転生刑に処す。」 (12)


がしゃん、

冷たい鉄格子の音だけが響く。
俺が乾いた両目をゆっくりと
音のした方へ向けると、
官帽で表情の隠れた看守達が
檻の外に立っていた。

看守「時間だ。行くぞ。」

コツ、コツ、コツ、

手枷をつけられ、看守達に囲まれて歩く。
鉛のローブでも着たように
身体が重たく感じる。
足先の感覚がない。
喉が乾ききって痛い。
自分の生死などとっくに諦観したはずなのに。

しばらく歩くと、看守達が
厳重そうな黒金の扉の前で足を止めた。
扉の左右には巨漢が2人いて、
片方は俺の囚人服に刻まれた
囚人番号を睨みつけ、
丁重にクリップボードに何かを記した。
もう片方は鍵束を取って手慣れた手つきで
扉を解錠し、振り向きざまに
看守達に顎を突き出した。

その途端、俺は強く取り押さえられ、
床に頭を押さえつけられた。
蜘蛛の餌のように身動きが出来ない。
巨漢達が二人して鼻息を荒げて扉を押す。
重々しく開かれた扉の音と共に、不思議な匂いが
扉の奥から吹き出した。


看守「中だ。早く入れ。」

手錠を外されないまま、扉の奥へ蹴り飛ばされる。
頭を床に打ちつけ、痛みを感じながらも
ふらふらと立ち上がる。

煉瓦造りの広い密室の角に
巨大な蟷螂の卵のような何かが
貼りついて、心臓の鼓動のリズムを
刻みながら蠢いていた。


俺「うわっ!?」

非現実的なそれは
俺の全身に悪寒を走らせ、
腰を抜かさせるには充分だった。

俺「・・・生きてるのか?」

唇を震わせながら、やっと掠れた声が出る。
これからどんな恐ろしいことが起こるのかと
ただ戦慄しながらそれを凝視する。
かつてないほどに俺は恐怖していた。

どのくらい時間が経ったのかはわからない。
しばらくしてそれに異変が起きた。

---- ぷっ ぷじゅるぶ ----

それの表面が盛り上がり、
泡が大量に湧き出した。
ショッキングピンクの、カクテルの
ピンクレディーに似た液体がそれの表面を
滴り落ちて広がる。

俺「ああっ あああああ!!!!」

恐ろしさのあまり、
急いで部屋の隅へ避難した。
何も来るな・・・来ないでくれ・・・!!
必死に俺は祈る。全身からは汗が噴き出している。

いよいよそれの形が崩れ、何かが飛び出してきた。

それは繭に包まれていて、人間の形をしていた。

がんばれ!

キモオタ「コレが・・・俺っ・・・?!」

俺「うわっ!?」

非現実的なそれは
俺の全身に悪寒を走らせ、
腰を抜かさせるには充分だった。

俺「・・・生きてるのか?」

唇を震わせながら、やっと掠れた声が出る。
これからどんな恐ろしいことが起こるのかと
ただ戦慄しながらそれを凝視する。
かつてないほどに俺は恐怖していた。

どのくらい時間が経ったのかはわからない。
しばらくしてそれに異変が起きた。

---- ぷっ ぷじゅるぶ ----

それの表面が盛り上がり、
泡が大量に湧き出した。
ショッキングピンクの、カクテルの
ピンクレディーに似た液体がそれの表面を
滴り落ちて広がる。

俺「ああっ あああああ!!!!」

恐ろしさのあまり、
急いで部屋の隅へ避難した。
何も来るな・・・来ないでくれ・・・!!
必死に俺は祈る。全身からは汗が噴き出している。

いよいよそれの形が崩れ、何かが飛び出してきた。

それは薄い膜に包まれていて、人間の形をしていた。


俺「にん、げん・・・?」

薄い膜に包まれた者が
のたうち回るように暴れ始めたので、
俺は恐ろしくなって目を瞑った。
大量の生卵を素手で叩き潰したような音、
肉が床や壁にぶつかる音、
液体が俺の身体に飛び散る感触、
そして手で口を塞がれたような苦しげな女の声。

???「 んううっ!! 」

俺「・・・!!」

俺がその声にハッとして思わず目を開くと
膜に包まれた彼女の手が
自分の頭部を包む膜を引き剥がそうとしていた。

ぬちゃ、ぬちゃと
糸を引きながら膜が剥がれていく。

???「 ぷはぁああっ!! 」

息が辛くなって水面に顔を出したかのように、
彼女は強く息を吸った。
今にも俺を殺しそうなほど妖艶で端正な顔立ちだった。
髪は肩にかかる程度の長さで、どろどろに濡れていた。
目のふちは赤らんでいたが、それも妖艶さを含んでいた。

俺「・・・あ」

女「・・・ふふ、」

俺は我に帰ると、彼女に吸い込まれるように
胸元に顔を寄せ、腰に手を絡めていた。
俺は疲れているのか。夢でも見ているのか。
ゆっくりと彼女の顔を見上げると、
その瞳には憔悴しきった俺が映っていて、
彼女は優しげに微笑んでいた。


俺「ここは・・・?」

女「俺くん、おはよう」

俺「おはようって・・・」

俺「俺、確か囚人だよな。
  今日刑を受けるはずの・・・。」

いつか見た懐かしい学校の教室に俺はいた。
窓の外から見える校庭、
生徒達の喋り声、黒板、机。
その中で彼女だけが違和感を放っていた。

女「囚人?夢の話?」

続き気になる………

はよ

それから俺は向かい合って彼女と話していた。
彼女は相槌をうちながら、面白半分で
聞くような笑みを浮かべていた。

俺「看守達は囚人の一人が何か
  大きな病気に感染したって
  それで皆、衛星マスクをしててさ
  でも俺達にはそんなものくれやしないんだ」

女「だって、ねぇ?囚人だもん」

俺「それもそうだ」

女「それより、私は俺くんがなんで
  刑務所に入ったのか聞きたいな」

俺「ああ、そうだよな
  ・・・なんでだっけ?」

女「ほらぁ、 だから夢なんだって」

心のどこかで、これは刑の真っ最中である事を
疑わずにはいられなかった。
記憶が消え始めている?いや、そんなはずは。
現に学校の名前だって構造だって覚えてるんだ。
ただ、どうして俺は此処にいる?
考えれば考えるほど浮かんでくる疑問は
彼女と話していると、どこか些細な不安にしか
感じなかった。
今。此処にいられるなら関係ない。
身体は羽根のように軽く、陽気が心地良い。


----がらがら、

教師がやってくると
教室の空気が一変し、
皆、のそのそと自分の席へ
戻り始めた。
彼女も前を向き直して、一瞬だけ
俺のほうを振り向くとにこり、と笑った。
俺も恥ずかしげに笑みを浮かべると
教卓へ目線を移す。

先生「よし、始めるぞ 号令!」

生徒「起立、気をつけ・・・礼!」

先生「・・・よし、全員いるな 着席!」

なんだかこうしていると刑務所も学校も
号令なんかはそんな変わらないな。
そんな風に思いながら席に着いた。
この授業は、ああ、歴史か。


先生「紀元前14世紀頃、私たちの国々では
   妖精信仰が広く行われていた。妖精信仰のために
   生贄やそれを巡っての紛争があり・・・」

----かさっ

ん?
机に女が丁寧に折りたたんだ紙を置いてきた。
そっと開いて中身を読む。

(ねえ、妖精の話知ってる?
 資料館にいろいろ展示されてるんだって。
  後で一緒に見に行かない?)

資料館か。学校の最寄駅から3つほど
離れた場所に資料館があったな。
彼女の知的好奇心の旺盛さは
俺の彼女への好感度をより高めた。

俺は もちろん、と二つ返事で
彼女の文の下に書き記すと
前の席へ紙を戻した。

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