響子「こーいーしちゃったんだーたぶんー♪」 (85)


・五十嵐響子ちゃんのSSです


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1439132532


響子「お疲れ様ですっ」

モバP(※以下表記P)「お疲れ。やっぱり料理番組の五十嵐はキラキラ輝いてるな」

響子「えへへ、ついはりきっちゃいました♪」

P「手際もいいし、ニコニコしながらやるもんだから、見てるこっちも楽しくなるよ」

響子「そ、そんな風に言われるとなんだか照れちゃいますね」


P「それで掃除洗濯も完璧なんだから、五十嵐と結婚する人はさぞ幸せなんだろうなぁ」

響子「けっ、結婚……///」

P「おっと、アイドルに結婚っていう単語はよろしくないな。セクハラだって怖い事務員さんに怒られてしまう。それに15だし、まだまだ遠い話か」

響子「……」

P「……五十嵐? どうした?」

響子「はっ……! な、なんでもないですよ、大丈夫ですっ。あはは……」

P「そ、そうか? ならいいけど。じゃあ着替えて、そのまま寮に送って行くから」

響子「はいっ」





地元の鳥取を離れて、私は今、東京でアイドルをしています。
トップアイドルにはまだまだ程遠いけど、お仕事も順調にこなせています。

アイドルになりたいっ、という一心だけでオーディションを受けたけど、まさか本当に実現するなんて。
合格通知が届いたときは夢のようでした。

女子寮での生活なので別段さみしい、と感じることはないです。
みなさんいい人たちばかりで、毎日飽きません。
でもやっぱり家族と会えないとなると、ほんの少しだけ地元が恋しくなっちゃいますね。

アイドルのお仕事はやっぱり楽しいです!
プロデューサーが私に合ったものばかりを選んでくれているからなのかもしれませんけど。


あ、せっかくなので私のプロデューサーを紹介しますね。
えーっと、年齢は30歳で、好きな食べ物はオムライス……
いつもちょっと疲れた顔をしているんですが、それを毎回指摘するたびに「これは生まれつき」って誤魔化されるんです。

プロデューサー業ってすごく大変だっていうのは子供の私でもよくわかります。
ちゃんと寝てないことや、ひどい食生活をしているのだって。

だからお昼くらいはきちんと食べてもらおうと思って、お弁当を作って渡しました。
最初は大丈夫だと言って受け取ってくれませんでしたけど、私、我慢比べには自信があるんですよ。
へこたれずに食事の大切さと、不養生な生活が物語っているプロデューサーの現状を、何度も何度も伝えました。

しばらくするとプロデューサーから折れて、お弁当を渡すことができました!
あとで聞いた話ですが、出先ではカロリーメイトなど簡単に取れるもの。事務所にいるときはカップ麺で済ませているとのことでした。


私には「体調管理もアイドルの仕事」なんて言ったのに、自分ができてなくちゃまったく説得力がないです!
机の上も書類から資料、空き容器までそのままの状態で、本当にひどかったんですよ。
私が片付ける前にそこでちゃんと仕事ができていたということが驚きです。

実際、私なんかにつくにはもったいない実績がある人らしいですけど……
今まで大丈夫だったのは単に運がよかっただけかもしれないので、これを気にプロデューサーの体調管理もしっかりして欲しいです。
生意気、ですかね?

プロデューサーが倒れたりでもしたら……私は本当になにもできないですから。





~ある日、事務所

響子「……」ペラッ

響子「……!」

響子「はぁー……」

瑞樹「大きなため息をついて、どうしたの?」

響子「あ、川島さん。お疲れ様です」

瑞樹「なになに、ブライダル特集……目眩がする単語ね」

響子「ご、ごめんなさい! 私、そこまで気が回らなくて……」

瑞樹「大丈夫、大丈夫。逆にそこまで気を使われると余計つらいから」

響子「気をつけます……」


瑞樹「だから大丈夫だって……それにしても響子ちゃん、なかなか様になっているわねぇ。こないだのショーの、だっけ?」

響子「ありがとうございますっ! ウエディングドレスって憧れだったので、まさかアイドルになって着られるなんて思ってもいませんでした」

瑞樹「言うなれば、幸せのため息ってわけね」

響子「はいっ。新郎役の方が急遽来れなくなって、その代役にプロデューサーが……あ、これプロデューサーですね。私より緊張してたんですよ? 私には肩の力抜いてリラックスとか言ってたのに」

瑞樹「へぇ……ふふっ、確かに響子ちゃんと比べるとちょっと表情が固いわね。彼の方がリードしなくちゃいけない立場なのにね」

響子「プロデューサーっていう仕事を始めて、こんなことをしたのは初めてだって言ってました。すごい似合ってますよって伝えたら顔真っ赤にしちゃって、普段では見れないプロデューサーの一面がわかったりして楽しかったなぁ」


瑞樹「振り返って楽しいと感じた仕事ほど、これからの活動で大きな糧になる」

響子「それ、プロデューサーがよく言ってることです」

瑞樹「写真でしか見れていないけど、どれも本当にいい表情をしているし、その話題を口にする響子ちゃんもすごく生き生きしてるもの。楽しいって気持ちはシンプルなものだけど、とても大切なものよ?」

響子「えへへ……川島さんにそう言われるとなんだか自信が湧いてきちゃいました」

瑞樹「ライバルだけど、同じ事務所の仲間でもあるからね。みんなで切磋琢磨してトップアイドルへの階段をのぼっていくのよ!」

響子「はいっ」


瑞樹「それにしても……結婚……結婚かー」

響子「あ、あの、聞いていいのかわからないんですけど……やっぱり川島さんも結婚に憧れがあるんですか?」

瑞樹「んー……そりゃあ、ね。アイドルミズキであって、川島瑞樹っていうひとりの女だから。アイドル活動もみんなと飲みに行くのも楽しいけど、やっぱり誰もいない家に帰宅したときがねー」

響子「川島さん、寮じゃなくてひとり暮らしですもんね……」

瑞樹「地元も大阪だしね。ペットでも飼おうかしらって思うんだけど、やっぱり仕事柄、世話もキチンとできるかというと難しいし」

響子「地方ロケで泊まりってことも多々ありますから」

瑞樹「あと親がねー……送ってくるのよ。お見合い写真を」

響子「あー……」

瑞樹「アイドルになった以上、それなりの覚悟を持ってやってきたつもりよ? ファンを裏切ることはできないから。でも写真なんか手元に届いた日には……」

響子「つらいですね……」

瑞樹「現実を見ろって後頭部を殴られたような感覚よ」


響子「お見合い、やっぱり受けるんですか?」

瑞樹「まさか! 全部断ってるわ」

響子「よかったぁー……」

瑞樹「アイドルだからっていうのもあるけど、やっぱり自分の相手は自分で探したいもの」

響子「ですよねっ。わかります」

瑞樹「私はまだいいけれど、響子ちゃんなんかまだ学生でしょ? 恋愛禁止とは言われてないけど、アイドルである以上そういうことはできないわけじゃない。もったいないなーって思っちゃうわ」


響子「今はお仕事が楽しいので、あんまり考えてはないです。でも本当のことを言うと……やっぱり憧れはありますね。それでも川島さんの言ったように、せっかく応援してくださるファンの皆さんを裏切るってことはしたくないので……」

瑞樹「付き合ったりとかはともかく、誰か好きな人とかいないの?」

響子「えっと……どうなんだろう。好きかどうかはわからないんですけど、この人放っておけないなぁって人はいるかも、です」

瑞樹「へぇー? だれだれ? クラスの男の子?」

響子「そ、それは秘密ですっ」

瑞樹「えー、せっかくだしガールズトークしましょうよー」

響子「わ、私はアイドルですからっ」

瑞樹「ぶーぶー! ミズキつまんなーい」





~別の日、事務所

響子「おはようございまーす!」

P「おはよう、五十嵐。一番乗りだな。今日も朝から元気いっぱいでよろしい」

響子「えへへ、ありがとうございます。そういうプロデューサーは相変わらずお疲れオーラが漂っていますね」

P「あー……まぁ忙しいからね。でもちゃんと寝てるし、ご飯も食べてるから心配は」

響子「何時間寝たんですか?」

P「えー……気づいたら寝てたからなー……」

響子「 何 時 間 寝 た ん で す か ? 」ズイッ


P「……1時間半くらいかな」

響子「それって仮眠と変わりませんよね?」

P「いや、でも睡眠は取れてるから徹夜より」

ぐぅぅぅぅ~

P「……」

響子「……もしかして、ご飯も食べてないとか?」

P「……気づいたら外が白み始めていました」

響子「帰ってませんね?」

P「……はい」


響子「体調管理も立派な仕事のひとつ。無理だけはするんじゃないぞ」

響子「プロデューサーが担当になったとき、私へかけてくれた最初の言葉ですね」

P「あぁ……言ったな」

響子「アイドルもプロデューサーもお仕事ですよね?」

P「はい……」

響子「私も無理しちゃいますよ?」

P「それは駄目だ」

響子「私が倒れても、プロデューサーが倒れてもダメなんですから」

P「ごもっともです」


響子「じゃあきちんと食事をとって、ちゃんと家に帰って寝るようにしますね?」

P「……善処します」

響子「……」ジトー

P「はい、します」

響子「まったく、プロデューサーは誰か言ってくれる人がいないとダメですね。これお昼用ですけど、何も食べてないなら今召し上がってください。ちょっと多めに作ってきたので足りると思うんですけど」

P「ありがとう……申し訳ない。情けない話だけど、これじゃどっちが年長者かわからないな。ははは」

響子「ちゃんと約束、守ってくださいね? はい」

P「……この年齢で指切りはちょっと恥ずかしいな」

響子「あ……ご、ごめんなさい。弟と約束するときいつもしてたので、つい……」

P「……まぁ、せっかくだし」ギュッ

響子「……!」

P「どうした?」

響子「な、なんでもないですっ。えへへ……ゆーびきりげーんまん……」





久美子「……それって恋じゃないの?」

響子「え、えぇっ!?」

久美子「驚きたいのはこっちだって」

響子「わ、私はプロデューサーのことが……好き?」

久美子「違うの?」

響子「わからないです……」

久美子「ふーん」


久美子「じゃあ私がプロデューサー取っちゃおうかなー」

響子「だ、ダメっ! それだけはダメですっ!」ガタッ

久美子「ほら、やっぱり好きなんだって」

響子「うぅ~……久美子さんがいじめる……」

久美子「いじめてないって。ちょっとカマかけただけだよ」

美優「どうしたの?」

響子「美優さん……久美子さんがいじめてきます~」ダキッ

久美子「だからいじめてないってば」

美優「え、えぇっと……」


久美子「こんなこと言うのもなんだけど、プロデューサーのどこがいいの?」

響子「どこが……と言われても」

久美子「見た目は悪くないと思うけど……なんかいつも疲れてるし、たまにシャツがスーツから出ちゃってるし、給湯室でヒゲ剃ってるのも見た」

美優「ちゃんと家に帰ってるのかなって思うよね……」

久美子「職が職だから一定の身だしなみはキープしてるけど、実生活はすごいだらしなかったりしてね」

美優「確かに机の上もよく散らかってる……」


久美子「響子ちゃんが片付けてくれてなかったらとんでもないことになってたかも」

美優「夜もカップ麺とかコンビニ弁当を食べているのを見かけるなぁ……」

久美子「お昼は随分かわいらしい包みのお弁当食べてるけど、あれ響子ちゃんが渡してるんでしょ?」

響子「せめてお昼くらいはちゃんとしたものをって」

美優「いわゆる、愛妻弁当?」

響子「愛妻って、そんな……///」

久美子「やっぱり好きだよね?」

響子「わ、わからないですよ。そんなこと……」


久美子「なかなか強情ね……」

響子「確かにいろんなところがズボラでお世話焼いちゃいますけど、なんて言えばいいのかな……放っておけないというか、私がやらなきゃってなるというか……」

美優「……奥さん?」

久美子「それだ」

響子「お、おおお奥さんですか!?」

久美子「世話焼きの新妻」

美優「にしか思えないよね……」

響子「美優さんまでぇ……」


P「盛り上がってるな」

久美子「噂をすれば。お疲れ、プロデューサー」

美優「お疲れ様です」

響子「お疲れ様です……プロデューサー、助けてください……」

P「うん? どうしたんだ?」

久美子「プロデューサーと響子ちゃんの話をね」


P「俺と五十嵐?」

久美子「プロデューサーは響子ちゃんがいないと大変なことになってただろうねって」

P「あー、デスクの上とか」

美優「自覚はあるんですね……」

P「忙しいとつい」

久美子「部屋とか大変なんじゃない?」

P「……まぁ、独身男性の部屋なんてそんなもんだよ」

久美子「デスクの上みたいに響子ちゃんに片付けてもらったら?」

P「そんな理由でおっさんの家に上がらせるわけにはなぁ……」

響子「そんなに酷いんですか?」


P「自分では片付けてるつもりなんだけどな。なんか溜まっちゃうんだよ」

久美子「まさかゴミ捨ても満足にできてないとか言わないよね?」

P「あー……それは、な?」

美優「さすがにそれは不衛生じゃ……」

久美子「な? じゃないと思うんだけど」

響子「……」


P「あとアレだ。俺んち一軒家だから、時間がないと掃除が大変でさ」

久美子「その年齢で持ち家があるってスゴくない? プロデューサーってもしかしてお金持ち?」

P「知り合いのツテで安くな。小金持ちすらいかないけど、皆さんのがんばりのおかげで、まぁ稼がせてもらってますよ」

久美子「ならそれを私たちに還元するべきでしょ?」

P「メシぐらいならおごるぞ?」

久美子「うっわ、大人のヨユーってやつ、それ?」

響子「……むぅ」


P「あーもう、俺のことはいいから準備準備。五十嵐は撮影だろ? えー、2人はレッスン。はい、動く動く」パンパン

久美子「はーい。またね、響子ちゃん」

美優「響子ちゃん、撮影がんばってね」

響子「はいっ。おふたりともレッスンがんばってくださいね」

P「俺たちも行くか。余裕を持って行動は社会人の基本だからな。まぁ、五十嵐は心配ないか……」

響子「プロデューサーに口酸っぱく言われてますからね」

P「五十嵐は俺がいなくても大丈夫そうなアイドルだよ。手間がかからないから安心」


響子「プロデューサー、お願いがあるんですけど……聞いてくれますか?」

P「仕事行きたくないとかじゃない限り大抵のことは聞くぞ」

響子「あの……苗字じゃなくて、できれば名前で呼んで欲しいかなって……」

P「……そんなこと?」

響子「は、はい。その方がやっぱり距離感が縮まるかなって……私、プロデューサーに名前で呼ばれるの、全然大丈夫ですからっ!」

P「俺もその方がラクだし、じゃあ遠慮なく呼ばせてもらうよ。行こうか、響子」

響子「はいっ♪」





~スタジオ、撮影中

ガヤガヤ

パシャッパシャッ

P(カメラ向けられても表情に硬さがない)

P(響子も仕事に随分慣れてきたかな)

P(グラビア、バラエティときて、そろそろ次のステップか……)

瑞樹「P君」

P「ん……みず……川島か」

瑞樹「別に名前で呼んでもいいのに」

P「いや、そういうわけには」

瑞樹「相変わらずそういうところは堅いのね」

P「……周りの目もあるし」

瑞樹「今はみんな響子ちゃんに夢中よ」


P「なにしに来たんだよ」

瑞樹「仕事に決まってるじゃない。私だってアイドルなのよ?」

P「そういうことじゃ……まぁいいよ。そっちのPは? 俺と話してると勘違いされるぞ」

瑞樹「電話中。あなたの名前出したら逆に紹介してくださいって言われちゃった。男の子にもモテるのね」

P「からかうなよ」

瑞樹「本意よ」

P「……で、何の用?」


瑞樹「別段用があるってわけじゃないんだけど」

P「ならむこうにいってなさい」シッシッ

瑞樹「昔のオンナとは世間話もできないって?」

P「おまっ……そういうことをここで……!」

瑞樹「ようやくこっち向いてくれた」

P「……誰が聞いてるのかわからないんだから。こんなことで週刊誌デビューは嫌だからな」ヒソヒソ

瑞樹「アイドルになる前の話なんだから」

P「それでも、だ」ヒソヒソ

瑞樹「まぁ、いいけど」


瑞樹「それにしても、響子ちゃんかわいいわね」

P「あぁ。書類審査の段階で一目惚れだよ。部長に直談判して、俺が担当になるようにしてもらった」

瑞樹「無茶苦茶ね。まぁその価値はあるってことかしら?」

P「今はまだ小さな花だけど、これからとんでもない大輪になるぞ」

瑞樹「ベタ惚れじゃない。ちょっと妬けちゃうかも」

P「からかいにきたんだろ?」

瑞樹「だから世間話じゃない」


瑞樹「ブライダルショーの写真見たわ」

P「見たのか、アレ……」

瑞樹「なかなか似合ってたわよ、タキシード姿」

P「代役とか参ったよ。というか、俺のことより彼女をだな……」

瑞樹「もちろん、響子ちゃんのドレス姿ありきでの感想よ? お似合いねって言ってるの」

P「お似合いって……響子と俺でどれだけ歳が離れてると思ってるんだよ」

瑞樹「ちゃんとしたらまだ見れる容姿ってことよ。あなたたち、15歳差でしょ? 15歳差って……そこは流石に、ねぇ?」

P「そこらへんはちゃんとしてるから、心配されなくても大丈夫です」

瑞樹「P君がそうでも、彼女はどうかしら?」

P「自分で言っただろ。年の差考えろよ」

瑞樹「……相変わらず、そういうことのは鈍いのね」ボソッ


P「なにか言った?」

瑞樹「もし……もしよ。響子ちゃんがあなたに好意を向けていたら?」

P「ないって」

瑞樹「家族を除いた中で、一番近い場所にいる異性がプロデューサーであるあなたなのよ? 親元を離れて頼れる人間も少ない中、保護者代わりだけど他人であるあなたに好意を寄せてしまうのはおかしくないじゃない?」

P「……はしかみたいなもんだよ」

瑞樹「だから怖いの。年頃の女の子ってね、男が考えている以上に夢見がちで直情的なのよ」


P「……好かれて嫌な感情は持たない、嬉しいよ。でも俺がプロデューサーで、彼女がアイドルである以上、そこからなにかがあるってわけじゃない。その一線はしっかりと引いてる」

瑞樹「そうね。当人には残酷だけど、憧れと恋は似て非なるものだもの」

P「いい娘だよ。俺がもっと若くて、出会う場所が違ったらとは思うけど、そんなことは絶対ありえないわけだし」

瑞樹「私なら?」

P「……笑えなかったら冗談にならないぞ」

瑞樹「担当じゃないし、年も近いのに?」

P「やめろよ。俺らはもう終わってんの」


瑞樹「……結婚とか、そういうのは考えてないの?」

P「今は仕事が楽しいよ」

瑞樹「その言いぶりじゃ、春はまだまだ遠いわけね。変わってないなぁ、P君は」

P「人間、早々変わらんよ」


オツカレサマデシター!!

響子「プロデューサー! どうでした?」

P「よかったよ。もうすっかり撮り慣れたな」

響子「川島さんもお疲れ様ですっ」

瑞樹「お疲れ様。素敵だったわよ」

響子「ありがとうございますっ! まだまだですけど……いつか私も川島さんみたいにかっこいい女性になれたらなって!」

瑞樹「あら、嬉しい。でも響子ちゃんならかわいい女性、じゃないかしら? 私も負けないわよぉ!」

P「……今日はこれで終わりだな。着替えておいで。むこうで待ってるから」

響子「はいっ」

瑞樹「じゃあ響子ちゃん、行きましょう」


~控え室

響子「あの、川島さん」

瑞樹「ん、どうしたの?」

響子「プロデューサーとお知り合いだったんですか?」

瑞樹「どうして?」

響子「えぇっと……なんだか仲良く話している風に見えたので」

瑞樹「そうかしら?」

響子「ごめんなさい。視線に入って気になっちゃって……」

瑞樹「……アイドルやる前にちょっとねー」

響子「やる前?」


瑞樹「まぁいろいろ、ね? ちょっと昔話や響子ちゃんのことで盛り上がってたのよ」

響子「わっ、私のこと、ですか?」

瑞樹「響子はトップアイドルになる逸材だ、ってね。もう響子ちゃんにメロメロみたいよ?」

響子「えへ、えへへ♪ そうなんだ……嬉しいなぁ」


瑞樹「……響子ちゃんは、プロデューサーのことどう思ってる?」

響子「どう、思ってる……ですか?」

瑞樹「そう。考えてるままに言ってみて? 私、口は堅いから♪」

響子「……」

響子「えっと……私は……」



『それは本当に恋なのかしら?』






響子「お待たせしました……」

P「おう。じゃあ寮まで送るよ」

バタン

P「……どうした?」

響子「……」

P「響子?」

響子「……は、はいっ、なんですか、プロデューサー?」

P「体調悪いか? 顔色がよくないけど」

響子「た、多分疲れちゃったんですよっ。緊張もしてましたし、あはは……」

P「そうか。なら早く帰らないとな」

響子「です、ね……」

P「もし途中で気分悪くなったら言ってくれよ?」

響子「はい……」


響子「あの、プロデューサー」

P「ん? やっぱり体調悪いか?」

響子「プロデューサーって、私のこと……どう思ってます?」

P「藪から棒な質問だな」

響子「ご、ごめんなさい……」

P「んー、難しいな」

響子「困りますよね、いきなりこんなこと聞かれて……うん、なんでもないです。さっきの質問は忘れてください。あはは……」

P「いやいや、別にいいよ。そうだなー……」



「年の離れた妹、みたいなものかな」





~女子寮

響子「……」

パチパチパチ

響子「……」

美優「……響子ちゃん?」

響子「はぁ……」

美優「響子ちゃん! 焦げてる、焦げてるよ!」

響子「美優さん? あ、わわわっ」


美優「どうしたの? ぼんやりして料理なんて響子ちゃんらしくない……」

響子「ごめんなさい……ちょっと考えごとしていまして……」

美優「私でよかったらだけど、話聞くよ?」

響子「はい……ありがとう、ございます……」

美優「お仕事のこと?」

響子「いえ、あの……」


響子「美優さんって、恋ってしたことありますよね?」

美優「え、えぇ!?」

響子「恋って……なんなんでしょう」

美優「えぇっと……ちょっといきなりすぎて思考が追いついてこないんだけど……」

響子「私、わからないんです……この気持ちが、このドキドキがなんなのか……」

美優「聞いていいのかな……恋っていうくらいだから、それは誰かを考えて、だよね?」

響子「……プロデューサー、です」

美優「あぁ……」


美優「それはいつから?」

響子「わからないです……プロデューサーにお弁当を作ったり、デスクのお掃除とかしたりしてる内に、いつの間にかドキドキするようになってて」

美優「うん……」

響子「最初は、プロデューサーってだらしないから私がやらなきゃって気持ちでしていました。でも、何度も繰り返していくうちに、プロデューサーのためにってなってきて……ありがとうって笑ってくれるのが、すごい嬉しくなってて」

響子「響子はいいお嫁さんになるな。結婚できる人は幸せだな。そう言われて、ひとりで盛り上がって」

響子「勇気を出して、聞いてみたんです。私のことをどう思っているかって」

響子「年の離れた妹みたいだって、言わ、れて」

響子「わたしっ、どうすればいいのか、わからなくて」


美優「……」

ぎゅうっ

響子「あ……」

美優「……我慢しなくても大丈夫」

響子「でも、服が汚れちゃいます」

美優「服は洗えばいいだけだもの。だから、ね?」

響子「うぅ……ぐすっ、ありがとう、ございます」





美優「落ち着いたかな」

響子「はい……少しだけ、すっきりしました。でも美優さんの服が……」

美優「大丈夫。洗濯機に入れればいいだけだから」

響子「あの、ちゃんと私が洗いますから」

美優「気にしなくていいの……響子ちゃんはプロデューサーさんのこと、好きなんだよ。きっと」

響子「……はい」

美優「その好きっていうのは、もっと一緒にいたいとか、触れたいとか……そういう、好き」

響子「……」


美優「私もプロデューサーさんのことが好きって言ったら?」

響子「……ダメです」

美優「ふふ、冗談よ。私の好きは響子ちゃんみたいに特別な意味を持っていないから」

響子「憧れ、とか……?」


美優「それはちょっと違うかな。なんて言えばいいんだろう……私の好きっていうのは、言葉は悪いんだけど、嫌いじゃないっていうのか……」

美優「響子ちゃんの好きは、プロデューサーさんのことを考えるとどうにもおかしくなっちゃう。ドキドキして、体の奥がぼうっと温かくなって、どうしようもなくなっちゃう」

美優「私の好きはもうちょっと軽いもので、この本好きだな、とか、友達のこと好きだなっていうものって言えばわかるかな」

響子「同じ好きでも違う……」


美優「まだ自分の想いを伝えてないなら、言葉にしなくちゃ。恋して、勝手に失恋したんじゃ、もったいないよ」

美優「見ているだけで満足なの? お世話焼いて、欲求を満たして……それでいいの?」

美優「確かに一回り以上離れてるけど、本当に好きなら、愛しているなら……その感情の前ではなんの障害にもならないと思うの……これは一般論じゃなくて持論だけどね」

美優「もちろんそれは相手あってのことだから、こっちがそう考えているだけじゃ意味はないけど、行動できなくなる理由にはならないよ」

美優「響子ちゃんのプロデューサーさんへの気持ちは、そうやって諦めていれば消えちゃうものなの?」





~夜、事務所

P「……」カタカタカタ

P「……ふぅー」ギィッ

P「もうこんな時間か……」

P「もうちょっと……いや、なんか食うか……」

ガチャッ

P「ん……?」

響子「プロデューサー……まだお仕事してるんですか?」

P「どうしたんだこんな時間に。忘れ物か?」

響子「いえ、ちょっと、プロデューサーどうしてるかなって……」

P「もうじきに門限だろ。ほら、送るから今日は帰りなさい」


響子「い、やです」

P「……どうしたんだ。なにかあったのか?」

響子「なにもないですけど……とにかく帰りたくないんです」

P「理由があるんだろ? それをちゃんと言ってみなさい」

響子「……」

P「エスパーじゃないから黙ってちゃわからない。喋らないなら無理にでも帰らせるぞ」

響子「……帰りたく、ないんです」

P「困らせないでくれよ……」


P「……門限の件は俺が話してなんとかするから、とにかくわけを話してくれ。コーヒーでも淹れようか?」

響子「あ、私が……」

P「これくらいはやらせてくれ。インスタントだけど作るのに自信あるんだよ」

響子「わかりました、お願いします……」

P「砂糖とミルクは?」

響子「両方ありで……できたら甘めに」

P「おう。了解。座って待ってて」


響子「……」トスン

響子(空いたドリンクが街路樹みたいに置かれてる……ご飯、まだ食べてないんだろうな……)

響子(どうしよう……いざ来てみたら頭の中真っ白だよ……)

P「ほら、熱いから気をつけてな」

響子「ありがとうございます」

P「それで……どうしたんだ。誰かと喧嘩でもした?」

響子「いえ……そういうわけじゃ……」


響子(苦い……)

響子(ブラックコーヒー飲んでるみたい)

P「苦かったか? もうちょっと砂糖入れようか」

響子「だ、大丈夫です。多分、これ以上入れてもよくわからないと思うので……」

P「そうか? ならいいけど」ズズッ

響子「……ご飯」

P「ん?」

響子「ご飯、まだ食べてないですよね? 簡単ですけど作ってきたんです。これ、どうぞ」

P「……わざわざこのために?」

響子「はい……ダメ、ですよね……ごめんなさい」

P「はぁ……」


ナデナデ

響子「あ……」

P「ありがとう。嬉しいよ」

響子「えへへ……」

P「だけど、こんな時間に外を歩くのは褒められたものじゃないけどな」

響子「それは、ごめんなさい……でも、こんな時間までご飯も食べずに働いてるプロデューサーも、同じです」

P「それもそうだ」

響子「まだあたたかいはずなので、召し上がってください」

P「おう。せっかくだし一緒に食べるか?」

響子「はいっ」





P「ごちそうさま。腹ふくれたよ」

響子「お粗末さまでした。ほとんどPさんが食べてくれましたね」

P「ちょうど食いに出ようかって考えてたときなのと、響子が作ってくれるものって味付けがバッチリ合うんだよな。毎日食べたいくらいだよ」

響子「毎日、ですか……」

P「あぁ、もちろん言葉のあやだから。実際そこまで甘えられないから、本気にするなよ」

響子「別に……私はやってもいいですよ……?」

P「え?」

響子「作ってきます。毎日。プロデューサーのために」


P「いや、それはさすがにだな」

響子「プロデューサーのお家だって掃除します。お洗濯だってします。だから……」

P「ちょっと待て、響子。1回落ち着こう」

響子「私は落ち着いてますよ?」

P「自分の言ったことをもう一度反復して、考えてみなさい」

響子「プロデューサーのお世話をさせてください」

P「……まとめたな」


P「……俺はプロデューサー。そして響子は担当アイドルだ。仲がいいことに越したことはないけど、そこまでするのは度が過ぎる。下手しなくてもスキャンダルだ。わかるな?」

響子「……そんなこと知りません。私は……」

P「知らない知ってるじゃない。アイドルっていうのは楽しくたって仕事なんだ。それもファンありきの人気商売。そして響子はこれからのアイドルなんだから、こんなことで……」

響子「私にとって、こんなことって一言じゃ済ませられないものなんです!」

P「……」


響子「プロデューサーから見たら私は子供で……かわいいとかキレイだって言ってくれるのも、全部お仕事ありきの言葉だというのはわかっています」

響子「それでも、その一言一言に一喜一憂して、明日もその次も頑張ろうってなって」

響子「単純……ですよね。自分でもそう思います」

響子「そして気付いたんです。机の片付けも、お昼のお弁当も、プロデューサーの気を引くためにやっていたことだったんだって」

響子「お世話したいからじゃなくて、ありがとうって言ってもらいたくて……これじゃわがままな子ですよね」

響子「でも、わがままでありたいんです。アイドルじゃなくて、ひとりの女性として見てもらいたいんです」

響子「この気持ちに嘘をつけるほど、私は大人じゃないんです」


響子「好きです。プロデューサー」

響子「大好きです。愛してます」


P「……」

P「ありがとう。嬉しいよ」

P「俺も好きだ。好きだけど……それは響子と同じ感情からくるものじゃない」

P「だから……その気持ちには答えられない」


響子「それは立場があるからですか?」

P「それに、響子の気持ちを受け取るには年をとりすぎているから、だな」

響子「……年の差なんて些細な問題です」

P「一回り以上はその一言じゃ片付けられない。好きという感情だけじゃ、そのハードルは越えられないよ」

響子「……なら」


しゅる

ぱさっ

響子「既成事実を作れば……問題ないですね?」

P「お、おいっ!」

響子「恥ずかしいですけど、私だって……」

P「服を着なさい!」

響子「嫌なら突き飛ばしてもいいんですよ……?」

P「そんなことできるかって……!」

響子「私、知っています。プロデューサーは優しいから、強く拒絶できないって」

P「くっ……」

響子「スカート、脱いじゃいましたよ……?」

P「……見ないから。見ないから服を着て、一旦離れて」


響子「……」ギュッ

P「!?」

響子「プロデューサー、あったかい……」

P「……俺の意識がしっかりしてるうちに離れてくれ……頼むよ」

響子「言ったじゃないですか。私ってわがままな子なんですよ?」

P「……」

響子「離れたくない、です」ギュッ


P「……」

P「……?」

P「響子」

響子「……なんですか? 覚悟、決めてくれたんですか?」

P「震えてる」

響子「……」


P「……目を開けるぞ」

響子「はい……」

P「……今にも泣きそうじゃないか」

響子「……」

P「……ごめんな」

響子「いいんです……私が勝手に盛り上がって、勝手にやっただけですから……」

P「……」ギュッ

響子「あ……」


P「そうだよな。相当な覚悟がないとできないよな」

P「こんなことさせて、ごめん」

響子「プロデューサー……」

P「でもやっぱり、こういうのは早いよ」

響子「……私に魅力がないから?」

P「そんなことあるか。一目見たときから響子をプロデュースしたいって思ったんだから」

響子「でもそれはプロデューサーとしての立場から見て……」

P「立場もなにも、俺の好みの娘に合格通知を送っただけだよ」


響子「えっ、それって……」

P「……大人も大概わがままだよな。それに平気な顔して嘘をつく」

響子「プロデューサー……!」

ちゅっ

響子「あっ……おでこ……」

P「……今はこれで我慢してくれ」

響子「今はってことは……」

P「まだ15歳だし、ゆっくり考えればいい。時間が経ってもその気持ちが消えないなら、そのときは……な」

響子「16になれば結婚も……」

P「いや、それはさすがに早すぎる」


響子「えへへ……嬉しいです。両想いだったなんて」

P「幸せを堪能してるとこ悪いけど、できたら離れてほしいかなー……」

響子「イヤですっ」

ぎゅうう

P「うぐ……さすがに下着姿で抱きつかれるのはいろいろと……」

響子「我慢できなかったら……押し倒してくれてもいいんですよ?」

P「だ、ダメだ、ダメダメ! そういうのはまだ早すぎるって言ったろ」

響子「私はいつでもプロデューサーを受け入れる準備ができてますから」

P「ぐぐぐ……」


ガチャッ

早苗「WAWAWA忘れ物~♪ っと」

響子「え?」

P「あ?」

早苗「ん?」


P「……」

早苗「……」

響子「あ、あはは……」

早苗「……Pくぅん」

P「これには東京湾より深い理由があってですね」

早苗「シメる♪」





美優「おはようございます」

ちひろ「美優さん、おはようございます」

P「おはよう」

響子「おはようございますっ」

ちひろ「今日はイベントなのにお天気が怪しいですね」

P「予報見る限りでは五分五分ってとこですかね」

美優「ところでプロデューサーさん、その包帯は一体……」

P「……三十路にはいろいろあるんだよ」

響子「か、階段から落ちちゃったんですよね。ちゃんと寝ないとダメですよ、プロデューサー」

P「本当にな。響子が事情を話してくれなければどうなってたことか……」

美優「事情……?」


響子「お医者さんへの説明ですよ! ちょうど私もそこのいたので」

P「……ということなので、俺のことは気にしないで。というかそっとしといてくれたらありがたい」

響子「あはは……」

ちひろ「プロデューサーさん、聞いてもずっとあの調子なんですよ。労災だった場合、申請しないとって言ったんですが」ヒソヒソ

美優「はぁ……」

ちひろ「さっきみたいにすぐ響子ちゃんがフォローするんですけど、なにかあったんですかねぇ?」ヒソヒソ

美優「んー……真相は本人たちじゃないとわかりませんし、あの様子じゃ聞いても教えてくれそうにありませんね。プロデューサーさんの言うようにそっとしておいた方が」ヒソヒソ

ちひろ「なんだかいつもより距離が近い気がしますけど……年齢差がありますしね。親子供とか兄妹みたいな感覚なんでしょうから、心配はしていないんですけど」ヒソヒソ

美優「……」

美優(ふふ……よかったね。響子ちゃん)


P「いたた……利き手をやるんだもんなー……容赦ないよ」

響子「ごめんなさい。私のせいで……」

P「いいよ。こうやって手伝ってもらえるんだから怪我の功名ってことで」

響子「そう、ですか? えへへ……私がプロデューサーの右手になってあげますね」

P「……その表現はちょっとエロいな」

響子「?」キョトン

P「……なんでもないです」


おわり



五十嵐響子ちゃん誕生日おめでとう!

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