短い午後のetc(22)

◇1 

男「ねぇねぇ聞いてよ」 妹「ん」


男「またふられた」

妹「お兄ちゃんコレで何回目よ」

男「今年になって3回目」

妹「3回って…、まだ3月だよ。月一ペースで失恋してるじゃん」

男「今度こそ、最高の人だと思ったのに…」

妹「どうせまた片思いで、相手に彼氏がいたんでしょ」

男「うっ」

妹「それはふられたとは言わないから」

男「いいんだ…彼女には幸せになって欲しい…」

妹「自分で幸せにしてあげようと思わないところが駄目だと思うよ」


男「なぁー慰めてくれよ」

妹「うざい。抱きつくな」

男「なぁーなぁーなぁー」

妹「あーもう…わかったから黙って抱きつけ」

男「……」

妹(…あったかい)

男「なぁ」

妹「なに」

男「キスしたかった」

妹「残念だったね」

男「キスってどんな感じなんだろうな」

妹「ん、別に。普通だよ」

男「そっかー…普通かー…」

妹「うん」


男「…はぁ!?!?!?」

妹「うわっ、急になによ」

男「お前、何時キスしたの」

妹「何時って…この間」

男「誰よ」

妹「はぁ?」

男「誰とキスしたのかって聞いているんです」

妹「いいじゃん。誰とキスしたって」

男「良くない!良くない!誰と何時何処でどうやって!!」

妹「うるさいなー」

男「おおおお…ついに妹に先を越された…」

妹「……」

男「なんたることだ…あの可愛かった妹が、もう既に大人の階段を上り始めているとは…」


妹「今もかわいいっつーの」

男「……」

妹「…さらに、落ち込んでるし」

男「……ぐすっ」

妹「泣いてんの?」

男「泣いてないもん」

妹「…そ」

男「……」

妹「ん」チュッ

男「……!?」

妹「キス、こんな感じ。普通でしょ」

男「お、おう」

妹「てか、強く抱きすぎ。もっとやさしくして」

男「お、おう…」


妹「ん、丁度いい」

男「……」

妹「……」

男「あ、そういえば、プリンあるけど、食べますか」

妹「食べる」

男「わかりました。持ってきます」

妹「ん」




そんな兄弟の午後。

◇2

男「暑いな」 女「うん、暑い」


男「何回暑いっていったかな」

女「たぶん百回くらい」

男「残念。24回」

女「数えてたんだ、変なの」

男「暑い時ってさ、暑い以外の感想が無いよね」

女「そんなことないってば」

男「例えば?」

女「…涼しくなりたいなーとか」

男「後は?」

女「海いきたいなーとか?」

男「何で疑問系なんだよ」

女「いや、良く考えてみたら別に海いきたくなかった」

男「海って、思っているよりいいもんじゃないよな」

女「たしかに。砂浜暑いし、日陰ないし、人もいっぱいだし」


男「じゃあ、何処いきたい?」

女「…映画館」

男「映画館?」

女「うん。映画館。私好きなんだよね映画館」

男「しばらく、行ってないな」

女「暑くてウンザリしながら映画館はいるとさ、寒いくらいのクーラーがかかってて」

男「うん」

女「ほんのり甘いにおいがするの。ポップコーンの匂い」

女「なんだか、一瞬で違う世界に来た感じがするんだよね。みんなワクワクしているし、逆にがっかりしてる人もいて」

男「ガッカリ?」

女「クソみたいな映画見せられてさ」

男「あぁ、なるほど」


女「いいでしょ、映画館」

男「うん」

女「…夏だね」

男「うん、夏だね」

女「どっか行きたいね」

男「うん、何処にでも行きたい」

女「誘ってよ、楽しませてあげるよ」

男「うん」

女「ねぇ」

男「ん?」

女「好きだよ」

男「知ってる」

女「そっか」


そんな恋人たちの午後。

◇3

男「なにしてるの」 死神「ひなたぼっこ。ここ丁度いいのよ」


男「あの…」

死神「なによ、なんか文句ある?」

男「いや、服着ないの?」

死神「着てもいいんだけどね、ほらコレ邪魔じゃない」

男「……羽?」

死神「飛べないけどね。ほら、私、高所恐怖症だから」

男「…なるほど」


男「それ、僕のタバコ」

死神「綺麗な箱に入っていたから、つい貰っちゃった。でもこれおいしくないわね」

男「タバコは火をつけなきゃ」

死神「火をつけたら燃えちゃうじゃない」

男「こんな感じ」シュボッ

死神「し、知ってたからね?」

男「吸う?」

死神「…いらない」

男「そっか」


男「……」

死神「……」

男「それでさ、君、誰なの?」

死神「死神」

男「は?」

死神「だから、死神」

男「…そっか」

死神「そっかって」

男「いや、まぁ。そうなんだろうね」

死神「なんなのその反応は」

男「僕、死に損なっちゃった?」

死神「まぁ、そういうことみたい」


恐る恐る振り返ってみると、部屋中が血だらけになっていた。

男「あちゃー…」

死神「なかなか落ちないわよー。アレは」

男「どうしよっか」

死神「どうするって、私に聞かれても」

男「こういう場合ってさ、もう一回死んだほうがいいの?死神的には」

死神「どっちでもいいけど。あんたがしたいようにすれば?」

男「それ、僕が選んじゃっていいの?」


死神「ま、冥土からの土産ってことで」

男「……」

死神「あ、みかんだ。食べていーい?」

男「どうぞ」

死神「ありがとー」

男「……」

死神「…甘いー」

男「……」


死神「この、白いのを取るのか取らないのかでいつも迷うのよね」

男「…なんか、疲れちゃったな」

死神「なにが?」

男「死ぬことも、生きることも。面倒くさくなっちゃった」

死神「ださい言い方」

男「他にどんな言い方があるのさ」

死神「私の中から価値が消えていきましたー…とか?」

男「抜け殻ってこと?」

死神「ずいぶん血もなくなったみたいだし」

男「確かにね」

死神「ミイラ男って感じ」

男「そのあだ名は嫌だな」


死神「じゃあなんて呼べばいいの」

男「何が?」

死神「からっぽのあんたのこと」

男「そうだな…」

男「男、ただの男でいいよ」

死神「変なの。それじゃ私は女?」

男「君は死神でしょ」

死神「なんかそれじゃダサい」

男「君が言い出したのに」

死神「だってそれは私の役割だもん。学校の先生だって、先生って言うのが名前じゃないでしょ」


男「じゃあなんて呼べばいのさ」

死神「なんかあだ名つけてよ」

男「僕、センスないよ?」

死神「知ってる」

男「そうだなぁ…あだ名ねぇ…」

死神「可愛いやつね!」

男「ワガママだなぁ」

死神「口答えしないのっ」


男「んじゃ、マール・ボロで」

死神「なにそれ」

男「僕の好きな言葉」

死神「どういう意味?」

男「人は本当の愛を見つけるために恋をする」

死神「あら素敵」

男「僕が言ったわけじゃないけれどね」

死神「それじゃ、私は今日からマールってことで」

男「よろしくね、マルちゃん」

死神「急にセンスがなくなったけど!?」


そんな異世界交流の午後。

訂正 兄弟→兄妹

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