側近「魔王様、人間界の“勇者”ですが」魔王「おお、ついに来られるか」 (147)

側近「魔王様、人間界の“勇者”ですが」

魔王「興味ないな」

側近「ちょっと!人間の国王がまた“勇者”なる刺客を画策しているようです」

魔王「ほーん。で、その刺客の出自は?」

側近「まだそこまでの情報は把握していませんが…」

魔王「どうせまた漁村だか農村出の少年少女だろ?」

側近「今までのパターンならそうですけどね」

魔王「我とは釣り合わないから側近が対応しといてよ」

側近「私には魔王城の管理や魔界の内政があるじゃないですか 」

側近「そもそも“勇者”は魔王様を倒しに来るんですよ?」

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魔王「我を倒そうというなら国王自ら来いよ!」

側近「そうは言っても“勇者”が来ちゃうんですから」

魔王「おかしいではないか。人間は礼儀を知らんのか?」

側近「知らないというより、礼を尽くす必要がないと考えているのでは?」

魔王「蛮族め、いきなり我のところに来ても何も解決しないぞ」

魔王「交渉というのはしかるべきランクの事務官で問題点を整理した上で、トップ同士が会談を行うものだ」

側近「そもそも奴らは交渉しようとしていませんよ」

魔王「そうそう、それもムカつくんだよ」

側近「何がですか?」

魔王「こっちが“勇者”側に提案をして交渉を持ち掛けているのに、奴らはいつも問答無用で斬りかかってくるのだ」

側近「ですから奴らは交渉など…」

魔王「問題はここからだ」

側近「へ?」

魔王「交渉を持ち掛けたこちらが悪で、問答無用で斬りかかる奴らが善という風潮はどう考えても納得がいかん!」

側近「それは魔王様が『世界の半分をお前にやろう』とか、罠感100%な提案をするからでしょう!」

魔王「とにかく“勇者”など話にならん。そこらへんのスライムでも連れてまいれ」

側近「スライムを連れてきてどうするんですか?」

魔王「魔界勇者伯に叙し、人間の勇者対応を一任する」

側近「『ピキーピキー』言うだけの奴に爵位与えても人間の“勇者”に気づかれませんよ!」

魔王「適当に冠とか被らせればいいだろ」

側近「キングスライムとして一刀両断にされて終わりだと思いますよ」

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側近「魔王様、間もなく“勇者”が国王に招集されるようです」

魔王「まずい、まだ何の準備もできていないぞ」

側近「心の準備だけしとけばいいんじゃないですか?」

魔王「奴らの要望の吸い上げとこちら側で用意できる回答のすり合わせが全く…」

側近「奴らは問答無用で魔王様を倒しに来るんですよ!」

魔王「奴らを倒すだけなら簡単だ」

側近「何ですかいきなり大口叩いて」

魔王「いちいち奴らの前に魔族を差し向けるから奴らはレベルアップするのだ」

側近「魔族を差し向けないと魔王城に来ちゃうでしょう!」

魔王「そう、すぐ来ちゃえばいいのだ。レベル1くらいで」

側近「…!魔王様の脳神経もたまには繋がるんですね。その作戦で行きましょう!」

魔王「政治も経済も判らぬ少年少女を倒して何が変わる?」

魔王「第二第三の“勇者”が矢継ぎ早に現れるだけだ。我は何のために人間の少年少女を殺め続けねばならぬのだ?」

側近「…いや…しかしですね…」

魔王「とにかく“勇者”の出立を食い止めるのだ」

側近「では、こちらも人間の国王に刺客を送り込みますか?」

魔王「普通に戦争になるぞ」

側近「むしろ戦争になれば講和もしやすくなるかと」

魔王「講和するために戦争を起こす馬鹿がいるか」

側近「では、魔界定番のあの作戦で時間を稼ぎますか?」

魔王「…そうだな。サキュバスを呼べ」

側近「はい」

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サキュバス「魔王様久しぶり~」ガチャ

魔王「おお、そうだな100年ぶりくらいか」

サキュバス「もう、全然呼んでくれないんだから~」

魔王「呼ばなくても勝手に人間界で遊んでるだろお前は」

サキュバス「たまには魔王様のもほしいな♪」

魔王「ちょうどいい、王を存分に弄んでくれ」

サキュバス「え、ほんとに!?」キラキラ

魔王「ああ、ただし我ではなく人間の王だけどな」

サキュバス「はぁ!?チビデブハゲじゃんあいつ」

魔王「知っているのか?ちょうどいい、適任ではないか」

サキュバス「ちょうどよくないよ!」

魔王「とにかくだ、人間の王を正気を失わない程度に虜にして、“勇者”の出立を取りやめにしてほしいのだ。できるか?」

サキュバス「…私の数千年の人生経験をなめないでね。そんなの3日もあれば十分よ」

魔王「いや、今回は『正気を失わないように』が重要なのだ。対象を夢の世界の住人にしてしまっては交渉ができないからな」

サキュバス「は~、わっかりました~」

魔王「では、すまんが、ぜひ貴殿にお願いしたい」

サキュバス「はいはい、魔王様が頭とか下げないでよ。いってきまーす」バタン

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側近「魔王様、人間の国王が“勇者計画”を取り下げたようです」

魔王「ほう、さすがサキュバス4千年の歴史、素晴らしい」

側近「褒めてるんだか貶してるんだか判りませんが」

魔王「これで改めて人間界と交渉ができるな。親書をしたためるとするか」

側近「そのことですが魔王様、人間の国王はもはや夢の世界でしか生きられない様子だとか…」

魔王「あのババア!あれほどやりすぎるなと言ったのに!おかげで交渉の機会が先延ばしになるではないか!」

側近「まあ、サキュバスは全力で事に当たったわけですし、褒美を…」

魔王「褒美を与えたら我も夢の世界から帰ってこなくなっちゃうけどいいの?」

~~~~~魔王城~~~~~

側近「魔王様」

魔王「ん~、何だ側近」ボォォ

側近「人間界に気になる動きがございます」

魔王「“勇者”の件はとりあえず解決したではないか」キーンザシュザシュ

側近「その“勇者計画”が取りやめになったことで…って何をしているんですか!」

魔王「ん~、コーヒーを淹れてる」

側近「火炎魔法で豆を焙煎するのはわかるとして、何のために氷の刃を飛ばしてるんですか」

魔王「氷結温度で豆を挽くと雑味が消えるのだ」ゴォォ

側近「窓ガラスが全部割れたじゃないですか!それからなんですかそのつむじ風は!」

魔王「暴風の圧力で一気に抽出するとコクが増すのだ」

側近「魔王様がコーヒー一杯飲むと、城が終戦直後みたいになるじゃないですか!」

魔王「あ~はいはい。で、気になる動きとは?」

側近「返事は一回!」

側近「“勇者計画”取りやめに不満を抱く教会が“十字軍”を結成して魔界に乗りこもうとしているようです」

魔王「教会ねぇ…宗教勢力とは交渉しようがないな」

側近「先方も適当な理由をつけて魔界の領土を奪いたいだけですから」

魔王「じゃ、戦争だな。陸海空軍の長を作戦司令室に招集せよ!」

側近「なんですかその世界観を無視した軍制は」

魔王「我も色々考えたのだ。我が魔族が個々の能力で人間より優位に立ちながらなぜ人間に敗れがちなのかを」

側近「はあ」

魔王「魔族は少人数の部族単位でしか行動しないから、大規模な軍事作戦をとれないという欠点がある」

側近「逆に小回りが効くという利点がありますが」

魔王「小回りだけで何千何万という人間の軍勢には勝てぬわ」

魔王「そこで、陸・海・空ごとに各部族を束ねるセクションを作り、そこで作戦の立案と指揮を担わせたらどうかと思うのだ」

側近「構想段階かよ!」

側近「だいたいその作戦の立案と指揮とやらは誰がするんですか?」

魔王「四天王を充てる。まずは土の四天王だ」

側近「あれは実力も低いうえにほとんどしゃべれませんが…」

魔王「奴には陸軍を統括してもらいたい」

側近「陸上部隊というより陸そのものと同化してますがあれは」

魔王「海軍には水の四天王」

側近「なるほど」

魔王「空軍には風の四天王」

側近「ほうほう、で、火の四天王は?」

魔王「…余った」

側近「はい!?」

魔王「しかし奴は四天王の中でも最強…」

側近「じゃあ最弱の土の四天王と入れ替えろよ!」

側近「ていうか土の四天王なんて捨てて御三家にしちゃえよ!」

側近「今から軍制の構想を練っても間に合いませんよ」

魔王「うむ、その“十字軍”とやらの部隊構成はどうなっているのだ?」

側近「まず先頭に騎士団が立つようです」

魔王「邪教が誇る精鋭部隊だな…」

側近「その後ろに民衆による義勇軍が続き、しんがりを教会の上層部が務めるようです」

魔王「なるほど、つまり騎士団さえ片づければあとは雲散霧消するパターンか」

側近「幸い、騎士団は数千騎程度のようです」

魔王「それなら我一人で十分だ。結界の人間界側で待ち受けて一網打尽にしてくれるわ」

側近「…私は構いませんが、人間界で人間を撃破すると我々が侵略者になりますよ?」

魔王「それでは講和の際にややこしくなるな」

側近「結界の魔界側で待ち受けたらいかがですか?」

魔王「何を馬鹿なことを!通路が狭くなる場所で待ち受けるから一網打尽にできるのだ。魔界側で待ち受けたら我一人では確実に取りこぼすわ」

側近「そういうときのための魔王軍でしょう?」

魔王「だから編成が未着手なんだってば!」

側近「あ、そういえば魔王様は結界を操る能力がありませんでしたか?」

魔王「…そっか、その手を使うか」

側近「ところで、人間どもがどこから来るかご存知ですか?」

魔王「大人数の進軍となれば、北の地下回廊しかないだろう」

側近「確かに。そのようです」

魔王「では、結界の細工には時間がかかるので、我は早速行ってくるぞ」

側近「お気をつけて」

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魔王「~~~ん」

側近「あ、お目覚めですか」

魔王「あ…ああ、そうか、無事だったんだな」

側近「えっ?1週間前に無事戻ってこられたではないですか」

魔王「無事…か…」

側近「魔王様、もしかして記憶がないのですか?」

魔王「いや、そういうことではい。ただ、騎士団をはねのける際に魔力を消耗しきってな」

側近「騎士団とガチバトルになったのですか?」

魔王「いやいや、当初の予定通り結界を操ったぞ。ただ、奴らの進軍が予想以上に早くてな」

側近「…結界の操作が間に合ったのなら何よりですが」

魔王「間に合わなかったから疲れたのだ」フッ

側近「???」

魔王「そうか、側近は魔界と人間界の間にある結界がどういうものかよく知らないのか」

側近「私も様々な結界を貼ることはできますよ」

側近「ただ、魔界と人間界の間の結界についてはあまり詳しくありません」

魔王「ん~、側近の操る結界にはどのようなものがある?」

側近「そうですね、生物を一切寄せ付けない結界ですとか、魔力を一切無効化する結界ですとか、そんなところですね」

魔王「実は、北の地下回廊は『生物を一切寄せ付けない結界』のメチャメチャ弱いものが貼ってあるだけだ」

側近「それじゃ素通りできるのでは?」

魔王「だから我も側近もサキュバスも素通りして人間界に行けるのだ。人間だって特殊な魔法を使わずこちらに来れるしな」

側近「それでは結界の意味がないのでは…???」

魔王「あれは互いの世界の違いも解らぬ下等生物が行き来するのを防ぐためのものだ」

魔王「魔界と人間界の違いを理解できるようなものを対象にはしておらん」

側近「そこまで弱い結界だと、簡単に破って世界を混乱に陥れる不届き者が現れそうですが」

魔王「北の地下回廊は歩けば1時間ほどかかるが、その道中にひたすら同じ結界を貼りまくっているから、普通の奴は結界を解除し終わる前に魔力が尽きる」

魔王「しかもあの結界は自己修復機能を持つ優れものだ」

側近「なるほど…。そういえば、よく行方不明者が出るため使用禁止になっている東の沼地の方の人間界との通路はどうなっているのですか」

魔王「あそこは沼地全体に特定の種族、特定の装備にだけ反応する結界を無数に貼ってある。」

側近「そんな条件設定ができるのですか」

魔王「これは魔力の消費が多い秘伝の技だからな」エッヘン

側近「それで複数名のパーティで移動しても人間界に行けるものと行けないものが発生するんですね。しかし、なぜ行方不明者が出るのでしょう」

魔王「結界の中に、並行世界に飛ばしてしまうトラップを織り交ぜているからな」

側近「なんと…」

魔王「しかも、あの沼地一帯はいつも霧がかかっているから結界とトラップを見分けることができない」

側近「実に鬼畜なトラップですね。ただ、タネは単純というか…」

魔王「タネが単純じゃないとメンテナンスが大変だからな」

側近「…ところで、今回の騎士団との戦いは何が大変だったのでしょう」

魔王「当初は、回廊を通行止めにしたうえで、結界を強力なものに貼り直して人間の侵入を防げばよいと考えていたのだ。これなら我の魔力なら造作もないことだからな」

側近「しかし、騎士団の行軍が予想以上に早かったと…?」

魔王「その通りだ。我が回廊に着いた頃には、騎士団が回廊の反対側に入り始めていた」

側近「魔界側の結界だけ強力にするわけにはいかないのですか?」

魔王「通行止めにしていない以上、行軍に関係のない魔族や人間がいるというのに強力な結界を貼ってしまったらどうなる?」

側近「単に弾き返されるだけでは?」

魔王「複数貼るのだぞ?結界と結界の狭間で行くことも退くこともできずに死ぬだろうな」

側近「それはまずいですね…」

魔王「そこで、仕方なく並行世界に飛ばすトラップを貼ることにした」

魔王「しかし行軍に関係のない魔族や人間まで飛ばされるとまずいので、『鎧と刀を装備している者のみ有効』という条件設定をしてな」

側近「条件設定は魔力消費が多いのでは?」

魔王「だから大変だったのだ!しかも5000騎も通過するからトラップを補強しながらだ!正直死んだと思ったわ」

側近「…それは本当にお疲れ様でした。」

側近「しかしこれで人間界に奇妙な噂が広まった理由がわかりました」

魔王「奇妙な噂?」

側近「『騎士団が神隠しにあった』と人間界では大騒ぎです」

魔王「結果的には神隠しにあった方が人間界へのインパクトは強かっただろうな」

側近「恐怖におののいた義勇軍が人間界の各地で暴徒化したようですよ」

魔王「…人間界の蒔いた種だ。我の感知するところではないわ」

~~~~~魔王城~~~~~

側近「ま、魔王様!」

魔王「都合によりしばらくの間お休みさせていただきます」

側近「老夫婦のやってる喫茶店じゃないんですよ!」

魔王「だって側近の表情を見ると嫌な予感しかしないんだもん」

側近「いい話なら魔王様に報告する必要ないじゃないですか!」

魔王「いい話だけ聞きたい!」

側近「暴君かよ!」

関知じゃね?

>>25
すいません、確かに感知→関知です
ご指摘ありがとうございます

魔王「はいはい今日から暴君はじめました!おまえ切腹ね!」

側近「だから真面目にやれよハゲ!」

魔王「ハゲてねーよこの地平線!」

側近「はぁぁぁぁぁ!?こーんなに起伏の激しい地平線がどこにあるんですか!!」

魔王「……すまん、つい本当のこと言って本当にすまん」

側近「ちょっと!何でそこで謝るんですか?まるで地平線が事実みたいじゃないですか!」

魔王(『まるで』『みたい』は余計だとか言ったら殺されるんだろうな)

魔王「…で、話とはなんだ?」

側近「……」

魔王「おい、何か報告事項があるのだろう?」

側近「……ちゃんと謝るまで言いません!」

魔王「謝ったではないか!」

側近「人の心をえぐるような謝り方がありますか!」

魔王「はいはいナイスバディナイスバディ」

側近「………!」ゴォォ

火の四天王「魔王様!人間界への対応を速やかに…って側近殿!?」

魔王「火の四天王、ちょうどよいところに来た。側近が氷結魔法を放とうとしているからお前の火力で相殺してくれ」

側近「どくのだ火の四天王。そなたに罪はない」

火の四天王「何をしておられるのですかお二人とも!!この緊急事態に魔界内部で争っているようでは先が思いやられますぞ!!」

この登場人物で側近が男だと
話の着地点が全く見通せなくなりそうなので…

とりあえず投下再開します

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魔王「…で、話を聞かせてくれるかな、側近ちゃん?」オソルオソル

側近「……人間界で、“勇者”“十字軍”と失敗続きの魔界遠征にしびれを切らした者たちがいます」ハァ

魔王「今度は何者だ?」

側近「“魔王討伐諸侯連合”だそうです。要は国を構成する貴族・諸侯たちの有志ですね」

魔王「確か国王軍より地方諸侯のほうが軍備の面では上だと聞いている」

側近「我々も有力な魔族を招集しましょう。もちろん私も戦いに参ります」

魔王「…いや、これはいい交渉のチャンスかもしれんな」

側近「魔王討伐隊と交渉が成立するはずがありませんよ」

魔王「国王が使い物にならぬ今、人間の国の政治を取り仕切っているのは貴族や諸侯たちのはずだ」

魔王「貴族や諸侯が我と向き合おうというのなら、交渉相手に不足はない」

側近「魔王討伐隊は間もなく出立しようという段階ですよ」

魔王「だから我も急いで書状をしたためるのだ。しばらく待っておれ」バタン

側近「うまくいきませんて絶対。ちょっと、別室に行かないでください魔王様!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

          魔王歴5905963年8月9日
魔王討伐諸侯連合
連 合 隊 長 様
                 魔 王

   両界合同協議会の設置について

拝 啓
 時下ますますご清祥の段、お慶び申し上げます。
 さて、かねてより貴界と当界の間で、習俗や生活様式等の違いに端を発する領地や交易を巡る争いが絶えません。
 つきましては、双方の課題を整理し、領土の確定や交易基準の制定を進めるべく、下記の通り協議の場を設けたいと考えております。
 ご多忙のところ恐縮ですが、ご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
                 敬 具
      (以下略)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

魔王「書状ができたぞ。これを魔王討伐隊の隊長とやらに届けてきてほしい」

側近「私がですか!? いや、討伐隊に書状なんて相手にされないと思いますよ…」

魔王「ダメならダメでその時考えよう。」

側近「…わかりました。そこまでおっしゃるのなら、私が届けてまいりましょう」

魔王「危険な役かもしれぬが、よろしく頼む」

側近「…返事を持って戻ってまいります」

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側近「魔王様、返事の書状を持ってまいりました」

魔王「よく戻った側近。無事で何よりだ」

魔王「時間がかかったようだがよい返事はもらえたか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オレ ツヨイ  マヲウ タオス
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

魔王「えーっと…電報?」

側近「魔王討伐隊の隊長は脳筋のようでして…」

魔王「これは脳筋とかそういうレベルの問題じゃないだろ」

魔王「まるで………」

側近「そんなことより魔王様、魔王討伐隊はこちらの意向など無視して、返事の通り行軍を始めてしまいました」

側近「魔王様も速やかに軍の編成をお願いします!」

魔王「仕方ない。四天王とその種族を北の地下回廊入口に集結させよう」

側近「では私も」

魔王「いや、我が行こう。側近は魔王城を頼む」

側近「命を狙われている方が前線に出るなど敵の思う壺ですよ」

魔王「攻撃を受けた場合は早いうちに潰すに限るのだ」

側近「しかし…」

魔王「四天王もいるんだ、大丈夫だ」

側近「…かしこましました」

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風の四天王「俺はこういう狭苦しいところは性に合わねーな」

水の四天王「私はそもそも水のないところが性に合わないわよ」

土の四天王「ミズ…スイソウ…ジャマwww」

水の四天王「しょうがないでしょ、池も川も海もないところなんだから!」

風の四天王「じゃあ来る意味ないんじゃねーか?」

水の四天王「招集がかかったから来たんでしょうが!」

土の四天王「ミズwww」

火の四天王「貴殿たち少しは静かにせぬか。魔王討伐隊を待ち受けておるのだぞ」

風の四天王「だから待ち受けてるじゃねーか」

水の四天王「ずーーーーーっと、ね」

風の四天王「魔王様も来ると聞いていたけど、全然来ねーしな」

火の四天王「魔王様は側近殿と戦の進め方を協議しておられる」

水の四天王「進め方も何も、人間が来たら戦うだけでしょ?」

火の四天王「戦というのは戦えばいいというものではない。戦いの後の処し方を見据えた戦い方が重要なのだ」

風の四天王「…わかんねーな」

水の四天王「解らないといえば、側近殿の態度も解らないわ。魔王様を小馬鹿にするような態度ばかりとって」

火の四天王「あのお二人は今でこそ魔王と側近だが、幼き頃から知友の間柄ゆえ、決してお互いを小馬鹿にはしていない」

風の四天王「側近殿は上司と部下ってのを解ってないんじゃねーのか?」

火の四天王「お二人同士の時は仕事のことを忘れているのだろう。目くじらを立てることでもあるまい」

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魔王「お前たち待たせたな。状況はどうだ?」

火の四天王「魔王様、早ければ昨日あたりには魔王討伐隊がこの地下回廊に来ると聞いておりましたが、いまだに何の音沙汰もありません」

魔王「人間界側の様子はどうだ?」

風の四天王「使いの者を偵察に行かせましたが、特に軍が集結している様子はねえようですぜ」

土の四天王「ダイチ…ヘイワ…」

魔王「そうか、風の四天王、すまないが空からの偵察の範囲を広げてくれないか?」

風の四天王「そう来ると思って、飛竜を増員して人間界に送り込んでいますが…」

土の四天王「ダイチ…ヘイワ…」

水の四天王「いやっ…」ゾク

魔王「どうした水の四天王?」

水の四天王「寒気がして…何かしら」

魔王「……」

火の四天王「水槽の水が古くなったのかもしれぬ。交換するとしよう」

土の四天王「ヨースイ…クサルwww」

水の四天王「殺す!こいつ絶対殺す!」バシャバシャ

風の四天王「俺の風の力で水槽に水流を起こし、水の四天王を洗濯してやるよ!」ザパァ

水の四天王「汚れてるのは水でしょ!私じゃないわよ!」バシャバシャ

火の四天王「何をしておるのだ貴殿たち!!この緊急事態にじゃれ合っているようでは先が思いやられるぞ!!」

今日はここまで
近いうちに続きを書き込みます…

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にじくじゃく「ギャースギャース」

魔王「おい風の四天王、こんな目立つ鳥獣まで偵察にやったのか?」

水の四天王「にじくじゃくが飛ぶところなんて初めて見たわ…」

風の四天王「俺じゃありませんよこれは。にじくじゃくを使うのは側近殿じゃねえですか?」

火の四天王「この鳥は文を持っていますよ。ちょっと取ってみましょう。」ガサガサ

火の四天王「…魔王様、側近殿から『至急魔王城にお戻りください』とのことです!」

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魔王「側近、どうしたというのだ!」

側近「ま、魔王様!魔王討伐隊が魔界に侵入しました!」

魔王「何を言っているのだ。北の地下回廊で待ち受けていたがネズミ一匹通らなかったぞ」

側近「それが東の沼地から来たのです!」

魔王「東の沼地だと?いや…しかし…まさか…?」

側近「沼地に棲息する水棲の魔物が応戦していますが、被害が出ているもようです」

魔王「我の子たちが…今すぐ東の沼地に向かう!」

側近「お待ちください魔王様」

魔王「待っている暇などないわ!」

側近「いえ、ここは私にお任せください!魔王様はいざというときのために地下の第二司令室で待機をお願いします!」

魔王「何を言っているのだ!」

側近「敵は魔王様を狙っているのですよ!劣勢状態の戦地に赴くのは危険すぎます!」

魔王「劣勢だから赴くのではないか!」

側近「私にお任せください!お願いです!それとも私は任せるに値しないのですか?」

魔王「側近の実力は知っているが、危険な場所に向かわせるわけには…」

側近「危険だから私が行くんですよ。大丈夫です。奴らの狙いは私ではないのですから」

魔王「必ず…必ず戻ってくるのだぞ」

側近「もちろんです。ですから魔王様、安全な地下の第二司令室に行きましょう」

魔王「…解った。指令室から作戦指示を出すからな」

側近「ええ、お願いします。さ、魔王様、こちらが第二司令室です」

魔王「何も付き添ってくれなくても場所くらい知っているわ」

側近「では、私は行ってきます。魔王様はここで待機願います」

魔王「おや、何か雰囲気が…」

側近「万一の時の備え、外から見つかりにくいようカムフラージュしましたから。扉を閉めますね」バタン

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本日の投下終了であります

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~~~~~人間界 王宮~~~~~

大臣「これはこれは側近殿、よういらっしゃった」

側近「兵士の歓迎を受けながら人間界の王宮に登城する日が来るとは思いませんでした」

大臣「和平の力は偉大ですな」

側近「…ようやく諍いが終わったのですね」

大臣「思えば長いゴタゴタでしたな」

側近「双方に被害が出てしまいましたが…」

大臣「お互いの尽力で最低限に食い止められたのだから、良しとしましょう」

側近「和平とは成立してしまえばあっけないものなのですね」

大臣「それが和平の力というものなのでしょうな」

側近「この平和の下で交易を増やして発展していきたいものです」

大臣「交易はうまく行えば莫大な富を得ることができますからな」

側近「不毛な大地を攻略したり、運営できない街を略取したりする歴史にとりあえず終止符を打ててほっとしています」

大臣「我が国も度重なる派兵で、教会の援助がないと運営できない有様でしての」

側近「その点では、教会側の騎士団を行方不明にしてしまい、申し訳なく…」

大臣「いやいや、教会側に大きな顔をされるのも困るので、むしろ有り難い話でしたよ」ホッホッホッ

大臣「しかし、和平を目指すものが私たち以外にもいると聞いたときはびっくりしましたの」

側近「私もびっくりしましたよ」

大臣「折角貴女と秘密裏に進めていた密貿易の交渉がパーになってしまいますからの」

側近「魔王様の目指す平和はルールや基準が先行して抜け道がないのです」

大臣「実務を知らないお坊ちゃまは困りますの」

側近「魔王城とて財政が豊かなわけではないですから、一定の財源は確保しておきたいところです」

大臣「すべてが公平や平等では国家も運営できませんな」

側近「協議会を設置とか言い出した時はどうしようかと思いましたよ」フフッ

大臣「我々の密貿易での利権がパーになるだけでなく、不正行為がバレる恐れがありますからの」ハハハ

大臣「私どもの国王が刺客を差し向けると言った時も困りましたが…」

側近「平和というのは、互いの体制が揺らいでいては成立しないですからね」

大臣「しかし、国王を殺さずに使い物にならなくするとは、うまくやってくれましたの」

側近「あれはサキュバスが頑張りすぎてしまったようで…。本当はこの国の内情に干渉しすぎるつもりはなかったのですが…」

大臣「いや、王政という形を残して我々が好き勝手やるには最高の落としどころですよ」

大臣「ところで魔王はどうしてますかの」

側近「魔王城の地下に幽閉しております」

大臣「よくそんなことができましたな」

側近「一切の魔力を封じた部屋を『作戦司令室』と称したら大人しく入っちゃいましたよ。魔王様はあの部屋では赤子同然の力しか発揮できません」

大臣「恐ろしい人だ。互いの体制を維持しつつ邪魔を排除するとは」

側近「わ、私はそんなことは考えておりません!」

大臣「おやおや、“魔王討伐諸侯連合”なるものをでっちあげた貴女のセリフとは思えませんなぁ」

側近「あ、あれは魔王様を幽閉する口実が必要だったからで…」

大臣「その口実のために西の沼地を行軍させられるとは思いませんでしたな」

側近「奇襲攻撃を受けたと思わせる必要があったのです」

側近「それに、事前に霧は晴らしましたし神隠しトラップもすべて解除しましたよ」

大臣「確かに、おかげで私の精鋭部隊は被害も最小限で済みましたな」

側近「私たちの水棲魔族の被害は大きかったのですが…」

大臣「貴女が『嘘の行軍は絶対にバレる』とおっしゃるからアリバイ的に戦ったまでですよ」

側近「……」

東だろ、沼地

大臣「ところで、魔王はどうするおつもりですかの?」

側近「私も魔王様も目指すところは貴界との平和です」

側近「密貿易の利権さえ確保できれば、すぐにでも魔王様を解放して、和平が成立したことをご報告します」

大臣「随分魔王にこだわりますな」

側近「魔王様はなくてはならない存在です。魔族にとっても、私にとっても」

大臣「ほう…」

側近「では、そろそろ密貿易の品目とお互いのマージンを決めませんか?」

大臣「お互い?」

側近「マージンをお互いに懐に入れるという約束ではないですか」

大臣「お互いにマージンを取ったら物価が無駄に上がってしまいますよ」

側近「おっしゃっている意味が解りかねますが?」

大臣「王政、魔王政という体制が確立した中で、平和的に交易を行うのであれば、それをコントロールするのは私一人で充分ということですよ」

側近「それでは今までの交渉は…」

大臣「せっかく互いの首長という邪魔者を排除したのだ。魔王を解放するなどというリスクを冒す者とは仕事できませんの」ホホホ

側近「平和あっての交易ですよ」

側近「魔王様を欠いた魔族に、国王様を欠いた人間に、どうして平和を維持することができるのでしょう」

大臣「平和など富むための手段にすぎませんよ。ある程度富めば戦の神すら私に味方するでしょうな」

大臣「国内が混乱するならすればいい。その時こそ私の富が輝くでしょうからの」

側近「国を預かる者の発言とは思えませんね!魔王様に顛末を報告しますので、そのおつもりで!」

大臣「密貿易を主導しようとした貴女にそんなことができますかな?」

側近「くっ…!」

大臣「そもそも魔王の元に戻れると思うのが間違いですよ」

側近「何を言っているのだ?」

大臣「貴女にはこの王宮の客人として蟄居していただきましょうかな」ニヤリ

側近「な、なんと…人間とは強欲で悪質で…」

側近「…愚かなものだな!」

大臣「おやおや、詠唱などはじめて何をなさるおつもりですかな?」

側近「ふっ、“魔王様の側近”を名乗る意味を知るがいい。人間の一人くらい跡形もなく消し去ってみせよう」

大臣「どこでですかな?」

側近「今ここでに決まっていよう!」

大臣「この部屋は以前貴女が魔法を無力化したのではないですかな?」

大臣「『万一魔王様が来襲した時に備えて、安全な部屋を作っておきましょう』とか言っての」

側近「……!」

大臣「愚かなのは一体どちらですかな」ニヤリ

大臣「さぁて、魔力も剣も使えない側近風情に何ができるのですかな」チャキ

側近「剣とは卑怯な…!」

大臣「丸腰で来る貴女がどうかしているんですよ」

大臣「私も地方貴族の子として、人並み以上に剣術は嗜んでおりますからの」

側近「くっ…」

大臣「衛兵!この客人を魔力を封じた地下牢に閉じ込めておけ!」

衛兵ABC「「「ハッ」」」ツカツカツカ

側近の自業自得展開中ですが今日はこれまでです

>>62
魔界から見て東なので人間界から見たら西だろうな…
と思って書いたけど
それでは北の地下回廊の説明がつかなくなることに今気づいた
地図でいうと北東方向に人間界、南西方向に魔界があると思ってください

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~~~人間界 王宮 地下牢~~~

看守「朝食だ!」

側近「いらぬ!悪党の施しなど受けるわけにはいかぬ!」

看守「そうはいっても3週間も飲まず食わずじゃないか」

側近「私は1日3食必要な人間とは違う!」

看守「そうはいってもあんたは一応客人なんだ。もてなしはさせてもらう」

側近「人間はもてなす時に牢を使うのか!」

看守「気の毒だとは思うが、命令だしな…」

看守「とにかく、食事は出したからな」スタスタ

側近(あれから3週間、魔王様が統率できない魔界はどうなっていることやら…)

側近(何としても魔王様をお救いしなければ!…しかしこの部屋は魔法を使えぬ!)

側近「魔王様…申し訳ありません…」

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竜人「側近殿、側近殿」コンコン

側近「…竜人ではないか!こんな所で何をしている!」

竜人「シッ!静かに!看守たちは気絶しているだけですから大声出さないでください」

側近「看守が気絶?よせ、そなたたち少数部族が相手にできる国ではないぞ!」

竜人「この期に及んで情勢分析ですか?とにかく今鍵を開けますから、一緒に逃げましょう」ゴォッ

側近「火炎で鍵を溶かすことを『開ける』とは言わないぞ…」

竜人「さっ、今ここから1階に上がると危険ですから、地下倉庫を迂回しましょう」

側近「待て、一体何が起きているのだ」

竜人「何って、そりゃもちろん…」

ゴゴォォォォォォ…ン


衛兵A「な、何事だ!」

衛兵B「大変だ!大量の竜が城の上を旋回している!」

衛兵C「今の衝撃は竜の攻撃か?」

衛兵D「お、恐らくは」

衛兵A「大変だ!隊長殿に報告だ!」ダダッ

衛兵B「待て!隊長殿は別件で張り込み中だぞ!」

衛兵A「そ、そうだった…仕方ない、大臣に報告してくる!」

衛兵A「大臣閣下、失礼します!」ガチャ

大臣「衛兵A、今の衝撃は何ですかの?」

衛兵A「はっ、この城が飛竜による攻撃を受けています!」

大臣「飛竜の数はいかほどかの?」

衛兵「はっ、およそ30頭と思われます」

大臣「飛竜以外の魔族はおるかの?」

衛兵「飛竜以外は確認されておりません!」

大臣「うむ、ご苦労!王宮警護隊長を呼んできてくれるかの」

衛兵「はっ!」バタン

大臣(魔族め、指揮官2人を欠いていながら動きが早いではないか)

大臣(だが、そろそろ側近をダシにして奴らをおびき出すつもりだったのだ。手間が省けたのう」

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王宮警護隊長「大臣閣下!お呼びでしょうか」ガチャ

大臣「隊長か、遅かったの」

王宮警護隊長「申し訳ございません!反王宮的な地下組織の対応に追われていたもので…」

大臣「言い訳はよい」

大臣「魔族が早速この城に攻撃を仕掛けてきておるようでの」

王宮警護隊長「衛兵たちに確認してまいりました!」

王宮警護隊長「敵の数はおよそ30、すべて飛竜」

大臣「そんな情報は既に把握済みよ」

大臣「奴らは誰の指示で、何をしにこの城に来たのかの?」

王宮警護隊長「い、いえ…まだ彼らを捕まえて訊問しておりませんので…」

大臣「飛来する前にこれくらいの情報を仕入れておくのが貴様らの仕事だろう!」

大臣「まあよい。奴らに人間の戦いというものを教えてやろうかの」

王宮警護隊長「人間の戦い…ですか?」

大臣「そうよ。その30頭の動きを子細に教えてくれないか」

王宮警護隊長「はっ!王城の敷地内を攻撃しているのは主に5頭、このうち2頭が本丸を攻撃しております。」

大臣「残りの3頭はどこを攻撃しておるのかの」

王宮警護隊長「特に法則はないようですが、庭園や物見櫓などを攻撃しております」

大臣「攻撃していない飛竜の動きは?」

王宮警護隊長「今のところ旋回しているだけです」

大臣「ふむ…、では、大砲を庭園上空に向け、飛竜が庭園に攻撃を加えたときのみ、一斉に砲撃せい」

王宮警護隊長「本丸ではなく庭園ですか!?」

大臣「それが人間の戦いよ」

大臣「奴らは攻撃の際は高い能力に物を言わせて好き放題攻めるが、攻撃を受けるとそこに固まって集まる習性があるでのう」

王宮警護隊長「つ、つまり…?」

大臣「我々にとって一番ダメージの少ない庭園上空に奴らを留めろと言っておるのよ!」

大臣「ふん、魔族との戦いなど子供のサッカーに海外組の代表選手が相手するようなものよ」

王宮警護隊長「喩えの意味が解りかねますが…」

大臣「意味の解らぬものに有効な策だからの。はよ部下に伝えよ!」

王宮警護隊長「はっ、では早速大砲隊に伝えます!その他の部隊には他の竜や他の種族からの攻撃に備えるよう伝えます!」

ゴウッ…ドーン…

大砲隊A「飛竜が庭園の池に火を吐いたぞ!」

大砲隊B「よし、飛竜にその飛竜に一斉砲撃だ!」

大砲隊C「ラジャー!」

大砲隊D「射ー!」ドウドウドウドウドウドウドウドウッ

王宮警護隊長「よし!飛竜の動きは!」

ゴウッ

大砲隊E「庭園上空には集まって来ませんね…」

ゴウッゴウッゴウッ

大砲隊A「それどころか皆持ち場で火を噴きはじめましたよ!」

王宮警護隊長「落ち着け!お前たちの標的はあくまで庭園上空だ!」

大砲隊B「しかし、城門の方が盛大に攻撃を受けていますよ!」

王宮警護隊長「弓隊が応戦している!お前たちが心配することではない!」

大砲隊C「恐れながら、弓では飛竜に届きません!」

大砲隊D「我らの詰所を狙うあの竜だけは我らが討ちますよ…込めー!」

王宮警護隊長「やめろ!被弾したらわが軍も無事では済まないぞ!」

大砲隊D「だからと言って見殺しにはできません!射ー!」

ドーン…ガラガラガラ…

王宮警護隊長「馬鹿者!砲弾が兵士詰所と城壁を直撃したではないか…!」

衛兵B「大変です隊長!城の玄関ホール付近にどこからともなくゾンビや精霊などの魔物が…」

王宮警護隊長「この忙しいときに!剣士たちを城の入り口付近に集結させよ!」

衛兵B「はっ!」ダダッ

衛兵C「大変です隊長!」

王宮警護隊長「もう今度は何だよ!」

衛兵C「大砲隊が破壊した兵士詰所および城壁の外に大量の獣人が集結しています!」

王宮警護隊長「そこには弓隊がいるだろう!」

衛兵C「弓隊は飛竜の攻撃に忙しく…」

王宮警護隊長「いつまで届かぬ相手に弓を放っておるのだ馬鹿者!」

王宮警護隊長「私は大臣閣下と作戦の練り直しをしてくる!それまで持ちこたえるのだぞ!」

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側近「戦!?」

竜人「ええ」

側近「そなたたち少数部族にかなう相手ではないと言ったでしょう!」

竜人「これは部族単位での戦ではありませんよ」

側近「では、四天王の差し金か?」

竜人「確かに私達は火の四天王殿の指示で動いていますが…」

側近「確かに魔王様が指揮をとれない今、指揮をとれるのは彼ぐらいか」

竜人「いえ、これは魔王様が指揮するこの国の大臣に対する作戦です」

側近「しかし、魔王様は幽へ…っと」

竜人「魔王様がどうしたのかは知りませんが、今回は前線に出ず作戦指揮に徹しているようです」

側近「ということは無事なのか?」

竜人「よくわかりませんね。元々ずっとご健勝ではなかったのですか?」

側近「いや…それは…」

竜人「とにかく、私は『側近殿を救出し魔王様の元までお連れしろ』と火の四天王殿に命じられたのです」

側近「……ぬ」

竜人「何でしょうか?」

側近「私は魔王様の元へは戻れぬ」

竜人「そう言われましても…」

側近「私は魔王様を騙し、魔王様を幽閉したのだ。魔王城に戻る資格も、魔王様に顔を合わせる資格もないっ!」

竜人「…何があったのか知りませんが、魔王様は気にしていないんじゃないですか?」

竜人「全ての魔族を自分の子のようにお思いのお方ですからね」

側近「だから…だからこそ、戻るわけには…!」

竜人「側近殿、しっかりしてください!」

竜人「この戦…いや、作戦は、魔王様が側近殿を救出するために計画したのですよ!」

側近「ああ…魔王…さま…」

竜人「シッ!静かに!」

側近「どうしたのだ?」

竜人「この角を曲がった先に衛兵がいます。戻って別の通路を進みましょう」

側近「城内なのだから衛兵の集団がいてもおかしくないが…」

竜人「いえ、この作戦行動では全ての部隊が側近殿の逃走の邪魔をしないよう動いています」

竜人「ですから角の先にいる衛兵は警備隊とは無関係な非番の衛兵でしょう」

側近「なぜ、そのようなことが解るのだ?」

竜人「今回の作戦では全ての部隊は各四天王殿の指示に基づいて行動しています」

竜人「各四天王殿は配下の部隊と敵の配置を常に把握し、必要な情報を瞬時に必要な部隊に魔法伝達しています」

側近「何と…」

側近「では、魔王様は何をされているのだ?」

竜人「各四天王への作戦指示と情報伝達と聞いています」

側近「あの方はとんでもない戦を…」

竜人「魔王様様曰く“戦”ではなく“作戦”だそうです」

側近「さっき『火の四天王殿の指示で』と言っていたな。そなたたちは陸上部隊なのか?」

竜人「陸上の全ての動きを把握できるのは土の四天王殿だけですよ」

竜人「私は火の四天王殿が率いる、いわば特殊部隊ですね。現在、この城内には特殊部隊しか潜入していませんよ」

今宵の投下はこれにて失礼

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大臣「何?魔族がこちらの陽動作戦に乗らないとな?」

王宮警護隊長「はっ、それどころかこちらの守りが手薄な所にばかり部隊を送り込んでいるフシがありまして…」アセアセ

大臣「陽動作戦に乗らないのはまだわかるが、指揮官なき今、部隊を器用に操るような知恵や統率力は奴らになかろう」

王宮警護隊長「しかし、現状がですね…」

大臣「緒戦だから大量の部隊を無計画に送り込んできているのかの。しかし所詮は烏合の衆よ」

大臣「とにかくこちらが奴らの気を四方八方に引き、動きを翻弄し続けるのだ。よいな!」

王宮警護隊長「はぁ」

衛兵D「失礼します!」ガチャ

大臣「何事かの?」

衛兵D「これは大臣閣下、軍議中に申し訳ありません!」

大臣「構わぬ。要件を」

衛兵D「はっ、隊長殿、王城5階のバルコニーが飛竜の襲撃を受けています!」

王宮警護隊長「何!玄関ホールで交戦中の者以外で城内に残る衛兵は全て5階に…」

大臣「待て」

王宮警護隊長「はっ?」

大臣「こちらが奴らの動きに反応してどうする!こちらが奴らを翻弄するのよ」

大臣「よいか衛兵D、城内に残る衛兵は全て城壁外の獣人に向かわせるのだ」

王宮警護隊長「王城5階の敵襲は…」

大臣「そんな上階には誰もおらぬ。放っておくのだ」

大臣「今はバケモノどもを城壁外に集結させた方が得策というものよ」

衛兵D「はっ、確かに!」バタン

王宮警護隊長(大臣閣下の理論は間違っていないが…)

王宮警護隊長(魔族の動きがどうも気になる。思い過ごしなら良いのだが)

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竜人「よし、城内の逃走経路から衛兵が消えました。行きましょう!」

側近「待って!」

竜人「この期に及んでまだ躊躇うのですか!?」

側近「そうではない」

側近「この城内に、私はいくつも負の遺産を残してしまった。それだけは消し去っておきたい」

竜人「…わかりました。急いでください」

側近「すなない…感謝する!」

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大臣「戦況はどうなっておるかの?」

王宮警護隊長「現在のところ上空・城外・城内とも膠着状態です」

大臣「こちら側の人的被害や兵員不足などは?」

王宮警護隊長「現在のところありません」

大臣「ふむ…しかし、こちらの陽動作戦に乗らないとはどういうことかの」

王宮警護隊長「奴らは何らかの意図をもって膠着しているのでは…」

大臣「膠着している理由が…ところで魔族の“客人”は無事であろうな?」

王宮警護隊長「地下牢に通じる経路は全く襲撃を受けていませんし、そもそも地下牢は耐魔法仕様ですよ」

大臣「しかし、この膠着状態は気になる。一度確認せえ」

王宮警護隊長「はっ」

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竜人「側近殿、こちらです」

側近「裏口か、かつては常用した入口だ」

側近(後ろ暗い私にぴったりだな)フッ

竜人「城の表側に衛兵が集結しているので、こちら側は完全に空白地帯になっています」

竜人「しかし、この扉の外は完全に白日の下です。念のため私は擬態しますが、側近殿も私の手を離さず裏の城門まで走ってください」

側近「なあ竜人」

竜人「躊躇っている場合ではありませんよ」

側近「違うのだ。私は自分の愚かさからこの国の大臣と手を組み、大切な魔王様を窮地に陥れてしまった」

側近「だから、この城を去る前に、せめて私の手で大臣の息の根を…!」

竜人「…お気持ちは、解りますよ」

竜人「しかしこれは作戦行動です。私情に流されては魔王様の作戦計画に悪影響を与えるかもしれません」

側近「そうか………解った」

竜人「裏の城門の外には飛竜が待機しています。我々はそれに乗って一気に魔王城に向かいましょう」

側近「ええ…では、行きましょう!」ギィッ

オウキュウヲメザセー ワーワー

側近「こちらに向かってくるあの群衆は何だ?」

竜人「反王宮的な人間の団体があると聞いたことがありますが、それですかね?」

側近「なるほど…では、このトラップも解除しておくか」

竜人「負の遺産は消し去ったのではないですか?」

側近「人間と魔族の裏のつながりは昔からあったようでな」フッ

側近「この裏口にも、私が施したのではない魔族流のトラップがいくつかある」

竜人「それは側近殿の責任ではないでしょう」

側近「確かに私の責任ではない」

側近「だが、明日を信じる人間の希望を潰す権利は、我々魔族にはない」

竜人「……群衆も近づいてきてますが、まだですか?」

側近「もう終わる。なに、トラップを解除するだけでは面白くないからな」フフッ

竜人「作戦行動に面白さとか…」

側近「終わったぞ…竜人、行きましょう!」

----------

衛兵E「隊長!地下牢の看守たちは全員気絶しており、地下牢ももぬけの殻です!」

王宮警護隊長「何と!」

大臣「まだ城内にいるのではいか?ロビーのアンデッドなど無視して城内を捜索せえ!」

衛兵E「はっ!」バタン

衛兵F「大変です隊長!」ガチャ

王宮警護隊長「今度はどうした!」

衛兵F「城壁外の獣人が一斉に攻撃を強めました!」

王宮警護隊長「今こそ敵を陽動するのだ!」

衛兵G「失礼しやす」ガチャ

王宮警護隊長「何事だ!」

衛兵G「隊長!飛竜どもが城の上層階を破壊しつつありますぜ!」

王宮警護隊長「今は兵員が足りん!放っ…」

大臣「いや、ここまで攻撃を畳みかけるということは、もう『客人』は城を去ったのであろう」

大臣「客人捜索隊は城の防衛に当たれ」

衛兵FG「「はっ!」」バタン

大臣(くそっ、このバケモノどもの動きは何だ!)

衛兵?「大変です隊長!」ガチャ

王宮警護隊長「大変なのはもうわかってる!用件だけ申せ!」

衛兵?「はっ、魔王が会議室に侵入しました!」

大臣「何の冗談かの?会議室とはこの部屋ではないか」

衛兵?「ええ、ですから………我が参上したと言っておるのだ!」

王宮警護隊長「ひいっ!ま、まおう…」

大臣「ほう、真打登場ですかな」

魔王「何を落ち着き払っておるのだ?」

大臣「ここがどういう部屋かご存知かの?」

魔王「総指令官を侮るものではない。魔法を封じられていた部屋であろう」

大臣「それをご存じでノコノコと…なに、過去形?」

魔王「……」

ヒュゴォォ…バリバリバリ

王宮警護隊長「ひいっ、邪悪な暴風が室内に…」

>王宮警護隊長「ひいっ、邪悪な暴風が室内に…」
説明どうも

大臣「こ…これは一体どういう…」

魔王「我が魔族は貴様らのように腐った者どもとは思考回路が違う」

大臣「????」

魔王「貴様らは一生解らぬのだろう。自ら結界を解除した側近の気持ちなどな」

大臣「あ、あのバケモノ女め…二重スパイのような真似を」

シュッ

大臣「つっ!かまいたちで肩を切り裂きおって…!」

魔王「次は側近の悪口を二度と言えないようになるぞ」

魔王「さて、城内も上空も城外も魔族に包囲されているわけだが…」

大臣「わ、私は元々貴界との戦を望んでおらんでの。これを機にぜひ貴界と平和条y…」

シュッ

大臣「はわ!はわわわ!」

>大臣「つっ!かまいたちで肩を切り裂きおって…!」
説明(ry

隊長はまだまだ説明役に徹するようです

王宮警護隊長「大臣様、口が裂けております!」

魔王「その薄汚い口で二度と平和を語るな」

魔王「さて、本来ならここで貴様らを惨殺するところだが」

魔王「我は人間界が蒔いた種は人間界に刈り取らせる主義でな」

王宮警護隊長「蒔いた…種…?」

魔王「“勇者”を知っているな?」

王宮警護隊長「あの反王宮的な地下組織のボスか!」

魔王「魔王討伐を取りやめて以降、お前たちは勇者を辺境に飛ばしたり様々な弾圧を加えたようだな」

王宮警護隊長「魔王を討たない漁村出身の少女など利用価値がないわ!」

王宮警護隊長「しかも“勇者”という称号だけが独り歩きするから性質が悪いのだ」

魔王「そういう態度が地下組織やカリスマ的なリーダーを育てたのだろう」

魔王「今や地下組織には多くの民衆が参加していると聞く。まさに貴様らの蒔いた種だ」

王宮警護隊長「あんなガキに何ができる!」

魔王「我を討てるのだろう?」ニヤリ

魔王「貴様らを討てても全然おかしくないだろうな」フハハ

王宮警護隊長「くっ!」

魔王「無血開城状態の裏口から間もなく“勇者”率いる民衆軍が押し寄せて来るようだ」

王宮警護隊長「貴様、地下組織と通じていたのか!」

魔王「“勇者”など興味ないわ」

王宮警護隊長「ではなぜタイミングよく地下組織が王宮に来るのだ!」

魔王「魔王軍が攻めてくるという噂話なら特殊部隊にリークさせたがな」

王宮警護隊長「…確かにこの王宮は大きな被害を蒙るかもしれない」

王宮警護隊長「だが、果たして地下組織の面々はここまで来れるかな?」

王宮警護対象「この城には貴様を裏切った数々の魔族が作ったトラップが多数残っているからな!」

大臣「ふぁふぁふぁ!」

魔王「トラップ?…ああ、側近がことごとく『歓迎 勇者御一行様』のギミックに変えてたやつのことだな」

王宮警護隊長「ちょっ…!」

魔王「さて、我々は即時全軍撤退するとしよう」

王宮警護隊長「待ってくれ!消えないでくれ!」

大臣「はわ!はわわわ!」ガクブル

コクオウハドコダー ダイジンヲサガセー ガシャーン ワーワーワー

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~~~~~魔王城~~~~~

側近「魔王様、人間界の“勇者”ですが」

魔王「おお、ついに来られるか」

側近「ええ、来月、平和条約締結の回答を持っていらっしゃるとのことです」

魔王「そうか、勇者殿の歓迎式典の準備を頼むぞ」

側近「魔王様は“勇者”など興味がなかったのではないですか?」

魔王「だって今や勇者殿は人間国の首相ではないか。しかも、平和条約締結の回答を持ってこられるのだぞ」

側近「若くてかわいいですしね」

魔王「年齢とか容姿の話はしていないだろう」

側近「数百年生きた私より胸の成長が早いですしね!」

魔王「どんだけ昔の話を掘り返してるんだ!?」

115レス目にしてようやくタイトルコールとなったところで
本日打ち止めです
あと少し続く予定です…

乙乙

側近「…あの、魔王様」

魔王「ん~?」

側近「私、勇者殿の歓迎式典を最後にこの職を退かせて頂きたく…」

魔王「だめ」

側近「しかし、私は魔王様を裏切った立場です!魔王様に合わせる顔がありません!」

魔王「毎日顔を合わせてるじゃん」

側近「毎日恥ずかしくて仕方ありません!」

魔王「気にすることではない。少々欲を出しただけだろう」

側近「少々ではありません!」

魔王「わかったわかった」

側近「わかっていただけますか!」

魔王「うん、禁錮3日の刑に処す」

側近「私は国王の城から戻ってきた時に3日ほど東の塔に幽閉されていたじゃないですか!」

魔王「お勤めご苦労!二度と戻ってくるんじゃないぞ!」

側近「はいっ」フカブカ

側近「…って、そうじゃないでしょう!」

側近「あの、恥を忍んでお伺いしますが、魔王様はどうやって第二指令室から出られたのですか」

魔王「……」ガサガサ

側近「あの魔王様、なぜここで探し物を始めるのですか?」

魔王「我を心底馬鹿にしたタメ口はどこに行ったのかと思ってな」

側近「馬鹿になんてしてません!その…それより質問の答えを!」

魔王「水晶玉がない部屋では戦況把握も作戦指揮もできないから出た」

側近「ですからどうやって?」

魔王「転移魔法」

側近「あの部屋は私が魔法を封じたはずですが…」

魔王「あああれね、事前に解除しといた」

側近「えっ、ではいつあの封印を見破られたのですか?」

魔王「……我も謝らなければいけないかな」

側近「へっ?」

魔王「実は、側近が“魔王討伐諸侯連合”からの返事を持ち帰ってきた時から、側近に違和感を抱いていたのだ」

側近「あの返事が何か?」

魔王「あれ側近の創作でしょ?」

側近「な、なぜそれを?」

魔王「文体が土の四天王そっくりじゃないか。あんなの土の四天王を知ってる奴にしか書けないって」

側近「た、たしかに…」

魔王「その後の東の沼地からの侵入もそうだ」

側近「あれは奇襲という設定で…」

魔王「いくら奇襲するとしても、何の知識もない大人数の人間が危険な東の沼地を通ろうとするわけがない」

魔王「しかし、現に水の四天王は沼地への人間の侵入を不完全ながら察知した」

魔王「奴らが東の沼地経由でこちら側に来るには、東の沼地のトラップを知っていて、なおかつそのトラップを解除できる者の手助けが必要だ」

側近「それができたのは私だけ…ということですか」

魔王「ああ」

側近「そころでこの前の戦争ですが…」

魔王「あの作戦がどうした?」

側近「王宮に侵入して大臣を抹消することなど、魔王様お一人でできたはずです」

側近「なぜ、あれほど多くの魔族を動員したのですか?」

魔王「四天王も同じことを訊いたわ」フッ

先日は続きを書いている最中に寝落ちしました。
今日は書き溜めてみたので一気に投下します。

‥‥‥‥‥
‥‥‥


~~~開戦前日 魔王城~~~

土の四天王「????」

風の四天王「おい、意思が伝わらねーんだからお前から会話を開始するなよ」

水の四天王「魔王様、目的に対して作戦計画の規模が大きすぎでは?」

魔王「何か不満か?今回、水の部隊は作戦に加わらないが」

水の四天王「別に不満というわけではありませんが…」

火の四天王「いや魔王様、水の四天王の言うことはもっともですぞ」

火の四天王「側近殿の救出と大臣の抹消であれば、魔王様と我々四天王のうち数名で隠密裏に実行できましょう」

土の四天王「…」コクコク

魔王「もちろんそうだろう。我はお前たちの実力を過小評価していないつもりだ」

風の四天王「なら任せてくれたっていいじゃねえですか」

魔王「確かに、この作戦の主目的は火の四天王の言う二点だ」

魔王「だが、同時に実現しておきたいことが二つある」

魔王「一つは個人攻撃の連鎖を断ち切ることだ。我や四天王だけが人間に恐怖を与えていては、人間は必ず『魔王や四天王を討てば問題が解決する』と安易に考える」

魔王「そういう安易な考えが対話を遠ざけ、諍いの絶えない世界を招いてしまう」

魔王「しかし、魔族が組織的に人間と相対すれば、人間は魔族全体をどう扱うべきか考えるだろう。そのため、今回我らは指揮に徹し、前面に出ない方がよいのだ」

魔王「そしてもう一つは人間界の今後だ」

魔王「我らも人間のことを言えたものではない。『大臣を討てばいい』などと安易に考えるのだからな」

土の四天王「!!!!」

魔王「大臣がいなくなった後、人間界が混乱して誰が得をするというのか」

魔王「万一難民が結界を越えて魔界になだれ込んできたりしたら、魔王城の貧弱な行政能力では到底対処しきれないだろう」

魔王「『戦いの後の処し方を見据えた戦い方が重要』なのだ」

火の四天王「…!」

魔王「人間界の王宮にまともな人材がいないのなら、それに代わる人材を用意しなければ無用な混乱を増幅させるだけだ」

魔王「そこで回は、我々が王宮を攻撃することを、人間界にある反王宮的な地下組織へ事前に流しておきたいのだ」

火の四天王「危険ですぞ魔王様。反王宮的な地下組織に王宮のスパイがいるかもしれません。王宮にいる大臣に側近の救出計画を察知される恐れがあります」

魔王「確かに側近救出と情報流出は確実に矛盾する行動だ」

魔王「だからこそタイミングが重要だ。側近の救出行動と我々の攻撃計画のリークはほぼ同じタイミングで進めなければならないし、リーク対象者は厳選しなければならない」

魔王「この難しい作戦行動は、ぜひ火の四天王に統括してもらいたい。できるか?」

火の四天王「…いいでしょう。戦に生きる男とは、筋肉よりも頭を使うのが得意だということをお示ししましょうぞ」

魔王「王宮の攻撃は風の四天王と土の四天王に頼みたい。側近の救出計画を側面支援しつつ、最小限の被害で、人間どもに最大限の衝撃を与えるパフォーマンスが問われるぞ」

風の四天王「戦いって感じじゃねーけど、おもしろそうじゃねーか」

土の四天王「www」コクコク

魔王「我も作戦の終盤では一時的にこの魔王城を離れて人間界の王宮に行くことになろう。その時は魔王城の全てを水の四天王に託したい」

水の四天王「大船に乗った気持で行ってきてくださいな」

魔王「ではお前たち、今日の日の入りを作戦開始とする。作戦の性格上、犠牲者は魔界側ゼロ、人間側は大臣及びその周囲数名のみを目標とする。みんなでよき明日を迎えようではないか。以上!」

四天王「「「「はっ」」」」

‥‥‥‥‥
‥‥‥

側近「魔王様の長年の夢を実現させる計画だったのですね…」

側近「私はすっかり泳がされてしまいました…」

魔王「泳がせるつもりはなかった。そもそも疑うだけの確証もなかったからな」

側近「すいません、それなのに私は裏切り続けて…」

魔王「いや、裏切り続けてはいないよね?」

側近「あ、あの魔王様、もしかして水晶玉で一部始終をご覧になっていたんですか?」

魔王「『大切な魔王様』とか連呼してるから期待したんだけどな」ハァ

側近「ちょっ…ストーカーキモいんですけど…///」カアッ

魔王「あれは作戦指揮をする関係上やむなくだな…」

魔王「まあ、側近が我の顔も見たくないというなら職を辞しても」「やめません!」

側近「そういう意地悪なことを言う魔王様は私が一生監視しないと!」

側近「その…そう!“勇者”とかにも意地悪すると国際問題になるから!」

魔王「大丈夫、勇者たんはかわいいから我は意地悪しないよ」

側近「はぁぁぁぁぁ!?」

側近「しかも勇者“たん”だと?この淫乱ケダモノ!」

魔王「百歩譲ってバケモノだとしても、勇者たんに紳士的に接する我は断じてケダモノではない」

側近「何だ、何が不満だ?胸か?そうかこの胸か!こんなもの幻影魔法でいかようにも…!」

魔王「じゃあ、もう二度と『この職を退く』とか言わないでね?」

側近「もちろんです!」

魔王「で、その…」

魔王「ずっと一緒にいようね///」

側近「う…うん///」

側近「でも、いいの?あの勇者かわいいよ?」

魔王「そうだね、側近の次にかわいいね」

側近「もうっ///」

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魔王「側近、人間界の“勇者”だけど」

側近「興味ない」

魔王「おい、来月の首脳会談の話だぞ」

側近「この前の首脳会談随分盛り上がってたよね!?」

魔王「平和な両国関係を維持するためだろう」

側近「『このあと二人だけで二次会行こう』って言ってたよね!」

魔王「いや、規定の時間で会談が終わらなかったから延長しようとしただけでしょ」

側近「ふーん」

魔王「二人だけというのも、機密情報が漏れるのを防ぐためだし」

側近「ふーん」

魔王「おい…」

側近「……」ゴォォォ

魔王娘「パパとママけんかー?」トトト

魔王「おう娘よ、ちょうどよいところに来た。ママが無実の人を疑って攻撃魔法を唱えるんだ。どう思う?」

魔王娘「んーとね。よくわかんない」

側近「娘よ下がっていなさい。そなたに罪はない」

火の四天王「魔王様、北の大回廊付近で…」ガチャ

火の四天王「何をしておられるのですかお二人とも!!小さな子を夫婦喧嘩に巻き込むようでは先が思いやられますぞ!!」

=完=

おわりであります

乙!

>>140
大丈夫! この後貧乳側近の魔法で魔王様は大爆発するから!!
……あれ? なんか、強大な魔翌力がこっちに……。

>>142-143
多分こうなる
魔王娘「きちゃない花火だじぇー」
側近「そんなはしたない言葉止めなさい」
魔王&>>142「」プスプス

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