モバP「ファザコンな子とパパに会えない子」 (36)

梨沙「おはようございまーす」

仁奈「梨沙おねーさん、おはようごぜーます」

梨沙「あれ、仁奈だけ? プロデューサーは?」

仁奈「ちょっと買い物に行くって出ていきやがりました」

梨沙「そっか。まあいいや、レッスンまでゆっくりしてよっと」


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梨沙「………」

梨沙「……ふふっ」

仁奈「なに見てるですか?」

梨沙「うん? ああ、これよこれ」ジャーン

仁奈「これは……」

梨沙「パパとのツーショット。携帯の待ち受けにしたの♪」

仁奈「おおー! 梨沙おねーさんのパパ、かっこいいですっ」

梨沙「でしょでしょ? 仁奈は話がわかるいい子ねー」

仁奈「はい!」

仁奈「いいなぁ……仁奈もパパといっしょに写真とりたいです」

梨沙「あっ……」

梨沙「………」

パタン

仁奈「? もう携帯見ないですか?」

梨沙「う、うん。晴から借りた漫画でも読もうかと思って」

梨沙「アンタも一緒に読む?」

仁奈「読むですよ!」

梨沙「………」

梨沙「ねえ、仁奈」

仁奈「?」

梨沙「ちょっと聞きたいんだけど……あの、仁奈のパパはほとんど帰ってこないのよね」

仁奈「はい……帰ってきやがらないのでごぜーます」

梨沙「で、でもママとは一緒に暮らしてるのよね」

仁奈「ママは帰ってくるのがいつもおせーです」

梨沙「え……じゃあ晩御飯は」

仁奈「ふだんはおにぎりばっかですよ」

梨沙「………」

仁奈「梨沙おねーさん?」

梨沙「決めた」グッ

梨沙「今日、アンタの家に遊びに行く」

梨沙「ご飯も作ってあげるわ」

仁奈「ほ、本当ですか!」

梨沙「もちろん」

仁奈「やったー! 今日はお仕事終わってもひとりじゃねーです!」

梨沙「なに食べたい?」

仁奈「ハンバーグ!」

梨沙「うっ……(微妙に難しいチョイスね)」

仁奈「あっ……ダメでごぜーますか」

梨沙「え? そ、そんなことないわよ! このアタシにかかればハンバーグなんてちょちょいのちょいよ」

仁奈「わあ……」キラキラ

梨沙「(し、しまった。つい意地を張って)」

梨沙「(ま、まあ家庭科で一回だけグループで作ったことあるし……玉ねぎ切っただけだけど)」

その日の夕方 スーパー


梨沙「まずは材料を買わないとね」

仁奈「おおー!」

梨沙「えーっと、まずはお肉、お肉……」

仁奈「あっ! 梨沙おねーさん、あれを見やがってください!」

梨沙「ん?」


店員「これよりお肉のタイムセールを行いまーす!」

店員「ひき肉もありまーす! ぜひぜひどうぞー!」

ドドドドドッ

ワーワー!


梨沙「い、一瞬にしてお肉コーナーが戦場に……」

仁奈「すげーです! 楽しそうです!」

仁奈「仁奈も参加したいでごぜーます!」

梨沙「いやいや、あの中に飛びこむのは無理よ。怪我しかねないわ」

梨沙「アイドルの肌に傷でもついたら大変よ」



客A「ぬわぁ!?」

客B「あれは、タイムセールの戦乙女(ヴァルキリー)こと朱我亜覇亞斗!?」

心「ほら、どいたどいた♪ていうかどけ☆」

仁美「くっ、まさかこの丹羽仁美が合戦で後れをとるとは……! うなぎのセールであればこんな失態はっ」



梨沙「………」

仁奈「あれってしゅ」

梨沙「さーて、ハンバーグの材料はお肉だけじゃないわよ! パン粉とか買わないと!」

仁奈「あ、待ってくだせー!」

仁奈ハウス


梨沙「よーし。材料もそろったことだし早速始めるわよ!」

仁奈「仁奈も手伝うですよー♪」

梨沙「そう? それじゃあ」

梨沙「………」

梨沙「やっぱり仁奈は向こうでゆっくりしてていいわよ」

仁奈「そーですか?」

梨沙「うん。今日はアタシに全部任せなさい」

仁奈「りょーかいですよ!」

梨沙「(全部の手順を自分でやらないと余計にわけわかんなくなりそうだし……)」

梨沙「ふーっ」

梨沙「落ち着け落ち着けできるできる」

梨沙「この前のパパの誕生日の時、パンケーキは作れたし」

梨沙「粉を焼くってところは同じでしょ」

1時間後


梨沙「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した」

仁奈「黒こげでごぜーます……」

梨沙「ちょっと目を離しているすきにこんなことに……それ以外も失敗だらけだし、中身もなんかびちゃびちゃだし」

梨沙「ごめんね仁奈。ちゃんとしたもの作ってあげられなくて……」

仁奈「………」

仁奈「一口味見するですよ」ヒョイパク

梨沙「あ、ちょっとダメよ!」

仁奈「もぐもぐ」

仁奈「うめぇですよ」

梨沙「え?」

仁奈「梨沙おねーさんががんばって作ってくれたから、ちょっと失敗しててもうめぇです」

梨沙「仁奈、アンタ……」

梨沙「ありがとう」ホロリ

梨沙「でも一口だけね。お腹壊しちゃ大変だし」

梨沙「代わりのご飯は……そうだ」

P「で、俺に電話してファミレスに連れて来させたと」

仁奈「ハンバーグうめぇです」

梨沙「好きなだけ食べていいのよ? プロデューサーのおごりだし」

P「タクシー兼サイフにされている」

梨沙「夜に小学生だけでファミレスっていうのもアレだし、しょうがないじゃない」

P「それはそうだな」

仁奈「うまうま」モグモグ

P「でも梨沙、仁奈のためにハンバーグ作ってあげようとしたんだって? 偉いじゃないか」

梨沙「失敗したら意味ないわ」

P「そんなことはない。梨沙のその気持ちだけでも大きいもんだ」

仁奈「ごちそうさまでした!」

P「よし、そろそろ出るか」

梨沙「そうね。えっと、伝票はっと」

P「あれ、俺のおごりにするんじゃなかったのか」

梨沙「いきなり電話して連れてきてもらったのに、さすがにお金まで出してもらえないわよ」

P「ほー、なかなか真面目な心がけだ」

P「でも、そういうことを気にするのはもっと大人になってからでいい」ヒョイ

梨沙「あっ、伝票……」

P「俺が払うよ。子どもは大人に甘えればいいんだ」

P「そもそも小学生に代金払わせるとか、大人としての矜持が泣く」

梨沙「……ありがと」

P「どういたしまして」

仁奈「ゴチになるですよ」

梨沙「ゴチって……」

翌日


梨沙「♪」

P「うれしそうだな。なにかあったのか?」

梨沙「聞きたい? 実は昨日パパがね――」

仁奈「こんにちはー!」

P「こんにちは、仁奈」

梨沙「あ……」

P「それで、パパがどうしたんだ」

梨沙「や、やっぱりなんでもない」

P「?」

さらに翌日


梨沙「暇だなあ」

梨沙「そうだ、パパにメールでも」

仁奈「なにしてるですか?」

梨沙「っ、な、なんでもないわ」

梨沙「ちょっとネットしてただけ」

仁奈「そうですか」

梨沙「………」

3日後


P「梨沙、ちょっといいか」

梨沙「なに?」

P「最近様子が変だけど、なにかあった?」

梨沙「べ、べつに変じゃないし」

P「そうか?」

P「仁奈の前だと露骨に父親の話題を避けるじゃないか」

梨沙「な、なんで知ってるのよ」

梨沙「まさかアタシのことずっと観察してたの!? このヘンタイっ」

P「ずっと見てなくてもなんとなくわかるって。これでもそれなりに梨沙とは付き合い長いんだから」

P「何か考えてることがあるのなら、相談に乗るよ」

梨沙「………」

P「なるほど」

P「仁奈の家庭事情を再認識して、自分の父親の話をすることに気が引けるようになったと」

梨沙「うん……なんだか、たちの悪い自慢みたいな気がして」

P「うーん。まあ、梨沙の気持ちもよくわかる」

P「他人の気持ちを考えて、気遣うことができるのはいいことだ。偉い偉い」

P「けど、あんまり考えすぎるのもよくないぞ」

梨沙「考えすぎなの? アタシ」

P「あくまで俺の主観だし、こういう問題にはっきりした答えは多分ないんだけど」

P「梨沙は、自分のパパのことが大好きだよな」

梨沙「うん」

P「それは幸せなことなんだよな」

梨沙「うん」

P「けど、その幸せを他人に当てはめるかどうかは別の話だ」

P「たとえば晴や光にも家族がいる」

P「でも、父親は梨沙の大好きなパパとは違う人だ」

P「梨沙はそのことで、2人をかわいそうだと思うか? パパが私のパパじゃなくて残念ねって」

梨沙「……思わない」

P「うん、そうだろうな」

P「きっと、仁奈に関しても根っこは同じだ」

P「人には違いがある。それは自分自身のことだったり、自分の置かれている環境のことだったり。本当にいろいろある」

P「それを気にしすぎるのはよくない」

P「もちろん、優しくしてあげることは全然かまわない。けど、自分を抑えすぎても仕方がない」

P「仁奈だって、梨沙が微妙な表情してるのはうれしくないだろう」

梨沙「……アンタの言うこと、難しい」

P「すまん」

梨沙「でも……アタシが独りで考えすぎてたってのは、なんとなくわかったかも」

P「それだけわかってくれれば十分だ。梨沙は賢いな」

梨沙「とーぜんよ。もっと褒めていいのよ?」

P「おーおー、いつもの調子が戻ってきた」

P「偉そうなお嬢様の復活だ」

梨沙「なんですってー!?」

P「冗談冗談」

梨沙「まったく……ふふっ」

一週間後


梨沙「仁奈、今日うちでご飯食べていかない?」

仁奈「え? いいんですか?」

梨沙「ママとパパにはOKもらってるから。ね?」

梨沙「ママの料理はおいしいのよ」

仁奈「おいしいですか」

梨沙「おいしいわ」

仁奈「じゃあお邪魔しやがります!」

梨沙「決まりね♪」

P「(あれから梨沙は、仁奈と積極的にからむようになった)」

P「(お互いの家で遊んだりと、いろいろ楽しんでいるようだ)」

P「(そこに必要以上の遠慮は見えない)」

P「こうやって少しずつ、子どもは大人へ成長していくんだろうな」

P「その瞬間を目の当たりにしている気がする」


心「なんの話してるの?」

P「なんでもないです」

P「それよりふたりとも。その手の傷は」

仁美「名誉の負傷であるぞ」

心「今週のうなぎのタイムセールは強敵だったぞ☆」

P「はあ……ま、たいした傷じゃないみたいだからいいですけど」

P「アイドルなんですし、ちょっとは気をつけてくださいよ」

P「仁美は来年には高校卒業するんだし」

P「心さんはお察しだし」

仁美「うなぎが私を求めるから……」

心「お察しってなんだコラ☆」

P「………」


P「このふたりにも大人な部分はちゃんとあるからな」

梨沙「今度はちゃんとしたハンバーグ作るから。リベンジよ」

仁奈「仁奈もお手伝いしやがります!」

梨沙「うん、お願い」


P「(……まあなんにせよ、しっかり見守っていこうと思う)」


おしまい

なんとなく思いついた組み合わせのふたりでした
お付き合いいただきありがとうございます

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年01月07日 (木) 05:32:28   ID: or4w-9er

こうして人は成長するんだな・・・

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