やよい「幸せを運ぶ壺…?」 (1000)

やよい「えーと…じゃあこれを買うと幸せになれるってことですか?」

女性信徒「その通りです。この壺はアフリカの一部でしか取れない粘土を、ヒマラヤの神聖な雪解け水で捏ねて作られた特別なもので…」

女性信徒「『ラダーク』のパワーが『ゲネゲの邪気』を閉じこめて、正常な気脈、つまりはプラスの『エイスナー』に戻し『ハピネスセンス』を云々…」

やよい「う~…何だか難しいお話ですけど…幸せを運んできてくれるなら、きっととっても良い壺なんですね!」

女性信徒「あなたはこの壺の価値をとてもよく理解していらっしゃる…やはり私の目に狂いはありませんでした!」

女性信徒「…失礼ですが…あなたのご家庭は…その…経済的な問題を抱えていらっしゃいますね…?

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やよい「ええっ!?ど、どうして分かるんですか!」

女性信徒(30円と15円のもやしを手にとってどちらにしようか30分も悩んでたら、そら分かるわよ…)

女性信徒「私は特別なイニシエーションを受けていますから、『ゲネゲの邪気』を感じ取ることができるのです」

やよい「いにしえーしょん…ってよくわからないけど、とにかくすごいですー!」

女性信徒「ちなみに私は『グランドハピネス』の証しを持っていますが、私達の団体ではもっと上位の証しを持つ人々もいます」

女性信徒「こちらのパンフレットを読んで頂ければ、私達の活動が如何に素晴らしいものかが詳しく…」どっさり

やよい「あう…でも私、その壺を買うようなお金はないかなーって…」

女性信徒「御安心ください。この壺は本来50万円ほどするのですが、もしあなたが私達の活動に加わるなら、無料で差し上げますよ」

やよい「え゛っ!?ご、50万円もするんですかー!?そんなのもらえません-!」

女性信徒「いえいえ大丈夫です、月一回程度の定期的な活動に参加するだけで構いませんから」

やよい「で…でも…」

女性信徒「私達と一緒に、幸せになりましょう!ささ、ここに名前と住所と電話番号を…はい、このペンを使ってください」

やよい「あ、はい…」

女性信徒(本当は貧乏人は相手にしないんだけど…”アイドル”なら事務所から色々引き出せるかも知れないでしょ…ね、『高槻やよい』さん)ククク…

やよい「う~…結局押しに負けてもらってきちゃった…」

やよい「『じゃき』っていうのがついてるから貧乏だったのかぁ…じゃきってなんだろ…?」

やよい「でも、貧乏でも十分幸せだから、この壺は私にはもったいないかなーって…」

やよい「…あ、そうだ!」

小鳥「…壺?」

やよい「はい!ご迷惑じゃなければ、受け取ってください!」

やよい(この前『幸せってどこに生えてんのかしら…畑?』って疲れた顔でつぶやいてたのは…)

やよい(きっと小鳥さんに『じゃき』がついてるせいだよね!)

小鳥「へー、なんだか変わった形の壺ねぇ…」

やよい「はい!実はその壺はしあわ…むぐっ…!」

小鳥「や、やよいちゃん!?どうしたの急に口を押さえたりして…」

やよい(幸せを運ぶ壺だからあげます!なんて言ったら、まるで小鳥さんが不幸だって言ってるみたいになっちゃう…)

やよい「と、とにかく貰ってください!じゃあ、私は夕飯の支度があるのでっ!」ダッ

小鳥「あっ、ちょっとやよいちゃ…って行っちゃった…」

小鳥「まぁいいか、貴音ちゃんのラーメン探訪100回記念にもらったお花、これに入れておこうっと」

翌朝

やよい「おはようございまーす!……あっ、壺にお花が!」

小鳥「あ、やよいちゃんおはよう。それ綺麗でしょ?早速使わせてもらったわ」

やよい「うっうー!とーってもきれいですー!」

貴音「おや、それは一昨日頂いた杜若(かきつばた)ですね」

小鳥「水に生けておくにしても、プラのバケツじゃ風情がなかったでしょ?やよいちゃんが壺を持ってきてくれてちょうど良かったわ」

やよい「貴音さん、このお花知ってるんですか?」

貴音「ええ、古い和歌にも詠われていますよ…この様に…」サラサラ

から衣

きつつなれにし

つましあれば

はるばる来ぬる

たびをしぞ思ふ

やよい「???」

貴音「ふふふ…それぞれの句の頭文字を読んでみてください」

やよい「えーと…か…き…つ…は……あっ!」

貴音「旅先で見た杜若の花の名にちなみ、その名の五文字を入れるよう求められた在原業平(ありわらのなりひら)が、妻への想いと旅愁を詠んだ歌だそうです」

やよい「りょ、りょしゅー…」

貴音「初夏の水辺での凛とした咲き姿と、この歌の美しさもあって、わたくしの好きな花の一つなのです」

貴音「花言葉は確か…『幸せが必ずくる』…だったかと」

やよい「!!」

貴音「…?どうしたのですかやよい?その様に目を丸くして」

やよい「貴音さんは…その…今、幸せですか?」

貴音「そうですね…とても善き仲間達に囲まれ、自らを表現できる機会を得られたことは、この上ない喜びであり、日々幸せを感じていますよ」

やよい「じゃあ、小鳥さん!小鳥さんはどうですか?幸せですか?」

小鳥「え?そ、そうね…強いて言えば(ずっと探してた同人サークルの初版本を入手して)今幸せかもね」

やよい(…すごい!本当に幸せを運ぶ壺だったんだ…!)

たるき亭前

女性信徒「えーと…このビルの…あ、あそこね765プロダクションは」

女性信徒「ヒヒ…今日は下見だけど、やよいを使っていずれ吹っかけてがっぽり稼いでやるわよぉ…せいぜい覚悟して…」

やよい「あ!昨日のお姉さん!!」

女性信徒「ふブッ!?や、やよい!………ちゃん…?」

やよい「ど、どうしてここが分かったんですかー!?私、アイドルだってことは言ってないのに…」

女性信徒「いやその…えっと……ら、ラダーク!これもラダークのお力なのですよ!」

やよい「…!!」

女性信徒「私くらいのグランドハピネスともなれば、探し人がどこにいるかくらい、偉大なラダークの目を通してすぐに分かるんですよ!」

やよい「す…すごいですー!超能力でえふびーあいに協力したりするあれですね!この前テレビで見ました!」

女性信徒「そ…そうね、そんなこともたまにあったりなかったりしたようなしないような…」

女性信徒(…この子は疑うということを知らないのかしら…)

やよい「私、お姉さんにお礼を言いたくて電話しようと思って…」

やよい「そうしたら事務所のビルの前にお姉さんが立っててビックリしちゃいました!」

女性信徒「お、お礼…?」

やよい「はい!お姉さんに貰ったあの壺、本当に幸せを運んできてくれたんです!ありがとうございます!」

女性信徒(あんなのただの中国製の土産物なのに…何があったのか知らないけれど、これは好都合だわ…)ククク…

やよい「…どうかしたんですか?」

女性信徒「べ…別に?…よ、良かったですねー。これもラダークのパワーのおかげですよ」

やよい「はい!ラダークさんにも感謝してます!」

女性信徒「そう…じゃあラダークの奇跡に報いるためにも、イニシエーションを受けに行きましょう」

やよい「え…?今からですか…?」

女性信徒「時間が取れなければまた後日伺いますけど、今日行けばとても特別なイニシエーションが受けられるんですよ」

やよい「でも…今日は午後からボイスレッスンがあって…その前に事務所のお掃除を…」

女性信徒「大丈夫ですよ!会場はすぐ近くだし、ほんの30分程度で済みますから!お掃除はまた今度にすれば!」

やよい「あぅ…じゃあ、ちょっとだけ…」

女性信徒「フフフ…じゃあ行きましょうか…」

とりあえずここまでで。

イニシエーション会場

女性信徒「さ、着きましたよ」

やよい「わぁ…人がいっぱいでライブ会場みたいです!」

女性信徒(あながち間違いじゃないわね…偶像(アイドル)を取り囲む信者という意味ではね…)

女性信徒「やよいちゃん、ほら壇上のところ、見えますか?」

やよい「えと…木で出来た…小さなお人形みたいなのが見えます」

女性信徒「そう、あれがラダークです」

やよい「ラダークさんて、お人形さんだったんですかぁ?」

女性信徒「正確には『依り代』です。万人救済のために、ラダークはあの人形に寄り憑いて顕現なされたのです」

やよい「よりしろ…ばんにんきゅーさい…けんげん…あぅぅ…」

女性信徒「そして、その事実を世に広めようと団体を立ち上げたのが、隣にいらっしゃる『代口様』です」

やよい「だいこーさま?あのラダークさんの隣に立ってるおじさんですかー?」

女性信徒「おじっ……そ、そうです。ラダークのお告げは代口様の口を通じてのみ語られます」

女性信徒「代口様のお言葉は即ち、ラダークのお言葉に他なりません」

女性信徒「さ、やよいちゃんもあそこに上がりましょう」

やよい「えぇっ!?わ、私ですかぁ!?あのでもぉ…私ここに来たばかりだし…」

女性信徒「だからこそ上がるのです。言ったでしょう、特別なイニシエーションが受けられるって…」

やよい「あ!これがい『にしえーしょん』なんですね!わかりましたぁー!」

女性信徒(す、素直だなぁ…)

×い『にしえーしょん』
○『いにしえーしょん』

やよい「うぅ…間違えちゃいました…」

代口「おや、そちらの娘さんは…?」

女性信徒「代口様、この子が昨日お話していた…」

代口「ああ、君が高槻やよい君か!よろしくね!」

やよい「は、はい!よろしくお願いしまぁす!」

やよい(遠くから見てたからだと思ってたけど、この人も社長みたいに黒い人だ!)

信者A「ねぇ…いま代口様のところに行ったのって…高槻やよいじゃない?」

信者B「わわ…本当だ…やよいちゃんもイニシエーションを受けるのか…?」

信者達「ざわ…ざわ…」アイドル?アイドル?

女性信徒「代口様、良い反応ですね…」ヒソヒソ

代口「フフ…君の狙い通りだな…」ヒソヒソ

女性信徒「コホン…では代口様、彼女にイニシエーションを…」

代口「うむ。ではやよい君、ラダーク像を頭に乗せるからじっとしていなさい」

〈ポン〉

やよい(うぅ…たくさんのお客さんには慣れてるけど…いつもと感じがちがって緊張しちゃうかも…)

代口「体の力を抜いてごらん…リラックスするんだ…リラックス…そうら…見えてきた…」

やよい「……あ!これ知ってます!」

やよい「『ぐりふぃんどぉぉぉぉるぅぅ!!』ってやつですね!!」

一同「!?」

女性信徒「ブフォッwww(あ、鼻水出た…!)」

信者達「ざわ…ざわ…」ハリポタ?ハリポタ?

代口「や、やよい君?残念ながらここはホグ●ーツではないんだよ…。神聖なる魂救済の場なんだ…」

代口「だから、少し静かにしていようね…?頼むよ本当…」

やよい「あぅぅ…ごめんなさい~…」

代口「(気を取り直して)さぁ~見えてきたよ見えてきたよ……」

代口「ハッピネス!」

信者達「ハッピネス!!ハッピネス!!ハッピネス!!」

代口「…聞きなさい迷い人達よ!ラダークは告げている!『この娘にシュープリーム・ハピネス位の証しを与えよ』と…」

信者C「しゅ…シュープリームだって!?…さ、最高位ハピネスじゃないか…」

信者D「十二幹部以外からは初めて、しかも無階位の者がいきなりシュープリームとは…」

信者達「ざわ…ざわ…」スゴクネ?スゴクネ?

やよい「わぁ!『シュークリームハピネス』って、なんだか甘くて美味しそうですねっ!」

女性信徒「や、やよいちゃん…シュークリームじゃなくて『シュープリーム』ですよ。私以上の最高の位の事です」

女性信徒「今後は『やよい様』と呼ばせて頂きます。私のことはカルプレッタ(修行名)とお呼びください」

やよい「えぇ!?様だなんて困りますぅー!普通に呼んでくださいっ!か…かぅ・・かぷ…かぷるれっ…たぅさん…!」

代口「やよい君、気にすることはないさ。それが我らLHS(ラダーク・ハピネス・ソサエティ)の掟なのだから」

信者達「ヤヨイサマ…ヤヨイサマ…」アリガタヤアリガタヤ

やよい「…みなさん私の足下の箱に封筒を入れてますけど、これなんですかぁ?」

カルプレッタ「信徒の者達の寄進です」

やよい「きしん…?」

カルプレッタ「やよい様はお気になさらずに…そこにお立ちになっているだけでよいのです…」

カルプレッタ(ヒヒ…これだけでも結構な儲けだわ…この子は本当に使い出があるわね…)

代口「さ、寄進が終わった者は第二講堂に移動しなさい。ラダークから信徒達へのお告げを聞かせよう…」

信者達「ざわ…ざわ…」ダイコウサマダイコウサマ

やよい「あのぅ…かぅぷ…れぅ…ったさん、そのぅ…私そろそろ事務所に戻らないと…」

カルプレッタ「そうでしたね。では私がお送り致しましょう」

やよい「だ、大丈夫です!一人で帰れますから!今日はありがとうございました!」

カルプレッタ「そうですか…?それではお気を付けて…また後日ご連絡いたします」

カルプレッタ(まぁ本当は送る気なんかさらっさら無いんだけどにぇーwゲラゲラポゥ)」

やよい「えーと出口は……あれ?あのおじいさんどうしたんだろう…」

古老「ふぅ…久々だと堪えるのぉ…」

やよい「あのぉ…おじいさんはみんなと一緒には行かないんですか?」

古老「うん?…お嬢ちゃんは確か…やよい様…じゃったかの?」

やよい「あぅ…さ、様は付けなくても大丈夫ですよ!やよいでいいです!」

古老「ふむ…なら『やよいちゃん』と呼ばせてもらおうかのぉ」ニコリ

やよい「ありがとうございますー!」

古老「で、やよいちゃんはどうしてこんな年寄りが気になったんかの?」

やよい「その…おじいさんだけひとりで椅子に座ったままだったから…もしかして具合が悪いのかなーって」

古老「なるほどなるほど…こんな可愛らしいお嬢ちゃんに心配してもらえるなんて、ありがたいことじゃて…」

古老「実はの…お恥ずかしい話、年も考えずに遠出してきたからか、腹が減っていまいち体に力が入らんでのぉ」

古老「それにな、頭に滋養が回っとらんせいか、自分の家がどこにあったのか、どうにも思い出せんのじゃよ…」

やよい「お家がわからなくなっちゃったんですか…!?どうしよう…」

古老「ほれ、ここまで出かかっとるんじゃがなぁ…」

古老「皮肉なもんで、若い時分の思い出の方が、ずぅっとはっきりしとるわい」カッカッカ

やよい「うぅ…私にできることがあればいいんですけど…おじいさんの家の場所はわからないし…」

やよい「…そうだ!お腹が空いてるんですよね!じゃあ、私と一緒にこの近くのビルまで行きましょう!」

古老「やよいちゃんと一緒に…?」

やよい「はい!そこに、朝一特売のスーパーで買った材料があるので、それでご飯を作っちゃいます!」

やよい「いっぱい食べて元気になれば、お家のことも思い出せるかなーって!」

古老「なんとまぁ…本当に優しい子じゃのぉ…」

古老「『捨てる神あれば拾う神あり』とは、いやいや、よう言うたもんじゃ…」

やよい「わ、私、神様なんかじゃないですよぉ…!」

古老「カッカッカ…ものの例えじゃて」


古老「…もっとも"捨てられた神"と言うた方がいいかも知れんがの…」

やよい「……?」

古老「なぁに、ただの年寄りの戯言じゃよ。さらりと聞き流すのが人生の知恵じゃて」

古老「やよいちゃんの手作りご飯を食べられると思うたら、こんな年寄りにも多少の元気が出てきたわい」

古老「迷惑じゃなければ、お言葉に甘えようかのぉ…」

やよい「はい!大したものはないですけど、いっしょうけんめい作っちゃいます!」

古老「そりゃあ楽しみじゃわい」カッカッカ

やよい「うっうー!それじゃあ、行きましょー!」

今日はここまで。

765プロ事務所

やよい「おじいさん、着きましたよ!もうちょっとですぅ…」

古老「ぜぇ…ぜぇ…この年でこういう階段はキツいのぉ…」

やよい「ごめんなさい、ここのエレベーターいっつも壊れてて…」

古老「カッカッカ…何のこれしき…!足腰を動かしてこそ、ご飯が美味しいというもんじゃ…」

やよい「ただいま戻りました-!」

亜美「あ!?やよいっち!」

真美「兄ちゃーん!やよいっち帰ってきたYO!」

P「本当か!?…やよい!一体今までどこに行ってたんだ!」

やよい「はわっ!?す、すみませんプロデューサー…!」

小鳥「良かったぁ…何も言わずに急にいなくなったから、みんな心配してたのよ」

やよい「あぅぅ…ごめんなさい~…」

P「まぁその話しは追々するとして…それよりもボイスレッスンの…」

やよい「あっ!そうでしたぁ!す、すぐに準備しますぅ!」

P「…先生が倒れられたので、今日のレッスンは中止になった」

やよい「ふえぇえっ!?」

やよい「だ、大丈夫なんですかー!?びょ…病気とかですか…?」

P「いや、それがだな…」

真美「兄ちゃん待って!真美が言うー!実はだねぇーやよいくぅん…」

亜美「あ!真美ばっかずっこいYO!亜美も!亜美も!」

美希「先生ね、宝くじが当たったんだってぇ~…あふぅ」

亜美&真美「ミキミキひどすぎっしょ!!」

やよい「宝くじ…ですか?」

P「何等が当たったのか知らんが、当選番号を見てその場で卒倒したらしい」

小鳥「意識は戻ったみたいなんだけど…とてもレッスンできる状態じゃないってさっき連絡が…」

P「…と、言うわけだ。集まってもらってなんだが、今日のレッスンはお休みな」

やよい「あれ…?たしか今日はボイスレッスンの後に新しいダンスの予備練習があるって…」

P「あー…実はそれもな…」

亜美「あいや待たれい兄ちゃん!今度こそ亜美が言うかんね!聞いて驚けやよいっち…」

真美「なー!?さっきは真美も言ってないじゃーん!ぬけがけは卑怯なりぃー!」

春香「ダンスのコーチ、ずっと付き合ってた人にプロポーズされたんだって!///」キャッキャッ

亜美&真美「そりゃないっしょはるるーん…」ガックシ

やよい「ぷ…プロポーズですかー!?うっうー!『オメデタ』ですね!」

春香「えっ!?ちょ、ちょっとやよいっ…!///」アセアセ

やよい「あれ?私なにか間違っちゃいましたかぁ…?」

P「んー、ちょーっと段階を飛ばしちゃったかなー…。いやまぁ、めでたいことに変わりはないが…」

小鳥「そのまま勢いで御両親に会いに行くとかで…危うく電話でのろけ話を聞かされるところでしたよ…」ハァ…

真美「おんや~?はるるん顔が真っ赤ですぞ~?」ニヤニヤ

亜美「なにやらイケない想像ですかな~?」ニヤニヤ

春香「もう!亜美!真美!///」プンプン

亜美「へっへーん!さっきのお返しだもんねー!」

真美「フトーなゲンロンダンアツには屈しないのだー!」

P「今日は妙なことが続くなぁ…」

P「妙なことと言えば…やよい、そちらのご老人は…?」

やよい「あ!そうでした!…ごめんなさいおじいさん!そっちのソファーに座ってください!」

古老「カッカッカ…そんなに気にせんでも、息を整えるのにちょうど良い合間じゃったわい」

古老「それにしても、随分賑やかなところじゃのぉ」

真美「…!?亜美亜美ぃ!このじーちゃん、白ヒゲがめっちゃ長いYO!」

亜美「…このただ者でないオーラ!さてはじーちゃんの正体は仙人様だなー!」

P「こ、コラッ!お前ら失礼だろいきなり…」

古老「カッカッカ!面白い嬢ちゃん達じゃ!」

古老「期待にそえんですまんがの、わしゃ霧や霞よりも、やよいちゃんの手料理が食べたい、ただの白髭じじいじゃよ」

P「やよいの手料理を…ですか?」

やよい「あ、あの!私から説明しますー!実はこれこれしかじか…」

…5分後…

P「…つまり、かくかくうまうま、と言うことか」

やよい「はい!そうなんです!」

P「それにしてもやよい…その団体とやら、怪しすぎるぞ…」

やよい「え?そんなことないですよー?みんないい人達ですよー?」

小鳥「う~ん…あの壺の出所がそんなところだったなんて…もっとちゃんと聞いておくべきでした…」

P「霊感商法ってやつかな…それにしちゃ壺をタダでくれるなんて、何か企んでるいるのか…」

P「…失礼ですがおじいさん、あなたもその団体に所属している方ですか?」

古老「安心なされお若いの。わしゃあの連中とはなーんも関係ありゃせんわい」

P「ならどうしてその会場に…」

古老「なぁに、あの辺はな、昔はほとんど畑ばっかりだったんじゃが、ちょうどあの建物のある場所に、わしの住んどった家があったんじゃよ」

古老「幼い時分、近くの村の子供らと一緒に縁側で真桑瓜を囓っとったのを、昨日のようによぉーく覚えとるわい…」

古老「どうにも懐かしくなって久しぶりに遠出してみたんじゃが、家のあったところにけったいな建物が建っとって…」

古老「様子見がてら中に入って眺めとったら、何やら諸行無常を感じての…」シンミリ

古老「疲れて座っておったら、こんな老いぼれを心配して、やよいちゃんが声をかけてくれたと、まぁこういう次第じゃ」

P(ふぅむ…信じていいんだろうか…もしその団体の仲間だとしたら…)

やよい「…あのぅ…お話中にすみません。私、おじいさんにご飯を作ってあげたいんですけど…」

P「んん…?しかしなぁやよい…」

貴音「…あなた様、良いではないですか。空腹の者に食事を振る舞うことは、何よりも尊い行いですよ…」ジュルリ

P「うーん…良いことを言っているように思うんだが、なーんで貴音が箸と器を持っているのかなー?」

古老「カッカッカ!話の分かる別嬪さんじゃのぉ!美味い飯と別嬪さんは大好きじゃ」

やよい「うっうー!貴音さんの言うとおりですー!お腹ぺこぺこの人には、おいしいご飯が一番です!」

P「ああもうわかったわかった!…話しの続きは取りあえず飯の後にしましょう…えーと…」

P「…そう言えばまだお名前を伺っていませんでした…私は765プロダクションのプロデューサーを務めています『P』と申します。それであなたは…」

古老「わしか…?わしの名は…そうさなぁ…」チラリ

古老「…杜若…六十郎。もっとも、七十もとっくに越えてるがのぉ!」カッカッカ

やよい「おじいさん、『かきつばた』さんだったんですかー!?うっうー!すっごい偶然ですぅー!」

P(このじじい…!壺に入ってる花見て今考えたろそれ…!つーかまんま『椿三十郎』じゃねぇか!)イラッ

小鳥「プロデューサーさん…!ここは抑えて…」ヒソヒソ

六十郎「カッカッカ…楽しみじゃのぉ、やよいちゃんの手料理」

やよい「待っててください!すぐに作っちゃいますぅ!」

貴音「嗚呼…わたくしも楽しみです…!」ジュルジュル

短いけど今日はここまで。

遅くなりましたが再開します。
ちなみに白髭の古老・杜若六十郎は、俳優の東野 英治郎氏のイメージで書いています。

LHS本部 代口瞑想室

カルプレッタ「…こちらが本日の寄進の総額です」

代口「いち…じゅう…ひゃく…せん…まん……」

代口「…ほぉ!いつもより桁一つ分多いな!」

カルプレッタ「はい、多めとは思いましたがまさかこれほどまでとは…」

代口「…それで、今日のイニシエーションについてだが、幹部連中は何か言っていたか?」

カルプレッタ「異例のことなので驚いてはいましたが…皆一様に『代口様のご判断に全てを委ねる』と…」

代口「ふん…つまらん自尊心から人の上に立ちたがるくせに、いざとなったらおんぶにだっこか…」

代口「相変わらず下らん連中だ。持っているのは金ばかり…か」

カルプレッタ「しかし、その彼らの金は、教団にとって必要不可欠なものですから…」

代口「勿論、分かっているとも。組織運営の辛いところだ」

代口「そうだな…『諸君等の献身的働きと教団への忠心に、偉大なるラダークもお喜びだ』とかなんとか、伝えておけばいいだろう」

代口「ああそれと、ラダークからの賜り物だと言って、いつも通りそれっぽいモノを適当に見繕ってくれ」

カルプレッタ「承知しました」

カルプレッタ「…ところで代口様、例の計画なのですが少し変更してはいかがかと…」

代口「うん?…どういうことかね?」

カルプレッタ「はい…元々は高槻やよいを教団に引き入れ、頃合いを見て『マスコミに暴露する』と765プロを脅し…」

カルプレッタ「暴露を取りやめる代償として、まとまった金額を出させるという企てでしたが…」

代口「ハッハッハ…君ぃ、脅すとは人聞きが悪いじゃないか。我々はただ『警告』して、見返りに『礼金』を貰うだけだよ」

カルプレッタ「ヒヒ…そうでしたね…」

カルプレッタ「しかしですね代口様。今日のこの寄進の額を見て計画を再考してみたのです」

カルプレッタ「765プロはあの規模の事務所としては珍しいくらい人気アイドルを擁していますが、所詮は零細…資金も潤沢とまでは…」

カルプレッタ「勿論ある程度の収穫は見込めますが…それよりもむしろ、高槻やよいを利用し続けた方が、より大きな実りを得られるのではないかと…」

代口「ふむ…しかし765プロには水瀬財閥の令嬢がいて、高槻やよいとは親しい間柄とか…。君はそこも計算に入れていたのではなかったかね?」

カルプレッタ「はい、水瀬伊織がその気になれば、多少無茶な金銭的要求にも応えられるだろうと踏んだのは確かです」

カルプレッタ「しかし、これはリスクを伴う博打でもあります」

カルプレッタ「…代口様、米国進出への足掛かりにするために、政財界の名門家子息らを取り込もうとした時のこと、憶えていらっしゃいますか…?」

代口「ああ…あの時は流石に肝を冷やしたよ。まさか民間軍事会社を雇って奪還しに来るとは思わんからな…!」

カルプレッタ「目立たぬようにと、コロラド砂漠に施設を造ったのが裏目に出ました…」

カルプレッタ「実は、水瀬財閥に関しても同様の懸念があります」

カルプレッタ「不確定な情報ではありますが、中南米諸国や南アフリカ等に、系列企業の警備会社という体裁で、私兵集団を擁しているとか…」

代口「物騒な話だな…しかしそれならどちらにしろ、高槻やよいを取り込むのは危険なのではないかね?」

カルプレッタ「水瀬に金を出させれば連中が動く可能性は高まりますが、高槻やよい本人を利用する分には、そういったリスクも最小限に抑えられます」

カルプレッタ「当初の計画とは逆に、彼女が教団に所属しているという事実を早々に公にしてしまえば、水瀬と言えども容易には手出しは出来ません」

代口「まぁ少なくとも、軍隊を送り込むなんて事にはならんだろうな」

代口「…よし、いいだろう!その案でいってくれ」

代口「マスコミへのたれ込みはどうするかね?幹部連中には大手媒体に顔が利くのが何人かいるが…」

カルプレッタ「マスコミへのリークよりも良い手があります。若い信徒達を使ってですね…」

765プロ事務所

六十郎「ふぅ…もう腹一杯じゃ。無駄に長生きをしてきたが、もやしがこんなに美味いものとは知らんかったわい」

貴音「流石はやよいですね。わたくしは味見程度でしたが、大変美味でした」

P「…明らかに貴音の食った量の方が多いけどな」

やよい「うっうー!2人ともありがとうございますー!」

六十郎「礼を言うのはこっちの方じゃて。ありがとうやよいちゃん。こんな美味い料理なら、毎日食べたいくらいじゃよ」

六十郎「む…!早速効果が現れたようじゃ!家の場所を思い出したぞ!」

やよい「ほ、本当ですかー!?」

六十郎「…それがのぅ、実はここから電車でほんの二駅先のところなんじゃよ」

P「なっ…!?」

六十郎「よー思い出してみるとな、遠出してきたと思うたのは、家から直接歩いてきたからじゃったわ…カッカッカ!」

P(このっ…やよいがせっかくここまでしたっていうのに…いくら爺さんでもここはビシッと…)

P「あのなぁ…ちょっとあんたっ…」

やよい「すぐ近くにお家があったんですね!思い出せて良かったですー!!」

P「…がったどこさ♪肥っ後さ♪肥っ後どっこさ…」

小鳥「ぷ…プロデューサーさん?どうしたんですか突然歌い出したりなんかして…」

P「いや、急に歌いたくなりまして…」

P「よ…良かったなーやよい!いやー、ホント良かった良かった…」

六十郎「すまんかったのぅやよいちゃん…物忘れ爺は始末が悪くていかん」

やよい「そんなことないですよー?私の作ったもやし炒め、美味しい美味しいって食べてくれたじゃないですか!」

やよい「私もとってもうれしかったから…えーと…こういうのを『うぃんうぃんの関係』って言うんですよ!」

真美「あ、亜美隊員!やよいっちがムズかしい言葉を使ってます!」

亜美「むむむ…真美隊員!この貴重なシーンをすぐファイルに記録したまえ!」

やよい「もー!亜美と真美はそうやってすぐ私のことからかってー!」プンスカ=3

六十郎「初めて聞いたのぅ…どういう意味なんじゃ?その…うぃんうぃんっちゅうのは?」

やよい「え?あぅ…その…あ、あれです!どっちもうれしい気持ちになったら、それがうぃんうぃんなんです!」

P(おおざっぱだが、あながち間違いでもないな…)

六十郎「ほぉ…じゃあ、わしとやよいちゃんはうぃんうぃんの仲じゃな!良い言葉じゃのぉ、うぃんうぃん」

やよい「はい!うぃんうぃんの仲です!」

亜美「真美ぃー、亜美達もうぃんうぃんの仲だよね?」

真美「ト→ゼンっしょ!」

たるき亭前

P「もう外も暗くなりましたし、よろしければ駅までお送りしますが…」

六十郎「いやいや、おいしいご飯を馳走になった上に、『ぷろでーさー』なんて立派な肩書きのある方にそんなことさせたら、罰が当たるでの…」

六十郎「やよいちゃん、それに皆さん方、今日は本当にどうもありがとう」ペコリ

六十郎「運良く生きとったら、今度はお礼に寄らせてもらうからのぉ」カッカッカ

やよい「うっうー!またいつでも来てくださぁい!」

P(いつでもは困るんだが…ま、やよいが嬉しそうだからいいか…)

P「行ったな…足取りも矍鑠たるもんだし、大丈夫だろう」

P「ふぅ…本当に今日は妙な一日だったよ…さ、みんなも事務所に戻って帰り支度するぞ」

美希「変なおじいちゃんだったの!」

春香「確かに変わってるけど…悪い人じゃなさそうだったね」

小鳥(ウフフ…私のことを見るなり『可愛いお嬢さん』だなんて…絶対善い人ね!)

亜美「亜美はやっぱり、あのじーちゃんは仙人様だと思うな!あの白ヒゲが動かぬ証拠だYO!」

真美「雲に乗ったり、目からビームとか出すのかな!?食らえ!仙人フラーッシュ!!」シュバッ

亜美「なんの!仙人バリアー!!」バシィッ

春香「二人の中の仙人って一体…」

P「おいおい、危ないから階段ではしゃぐなよ…って、あれ?貴音は…?」

貴音「……」

P「どうした貴音?上がらないのか?」

貴音「あなた様……いえ…その…今宵の月を眺めながら、少しばかり夜風に当たってこようかと…」

P「…?まぁ、貴音がそうしたいならいいけど…あんまり遅くなるなよ」

貴音「はい、すぐに片を付けて戻って参ります…では…」スッ…

P「片を…?お、おい貴音それはどういう…」

P「ありゃ?もういない…それに曇ってて月なんか見えないじゃないか…なんなんだ一体…」

近所の公園

六十郎「…い~のちぃ~みぃじぃ~かぁしぃ~…こぉいせよ~お~と~めぇ~…」キィコ…キィコ…

六十郎「……そんなところに隠れとらんで、出てきたらどうかの?」

貴音「…やはり気づかれてしまいましたか…」スッ…

六十郎「あの食べっぷりが小気味よかった別嬪さん…確か…貴音さんじゃったかの?」

貴音「六十郎殿、何故に駅の方向とは真逆の公園におられるのですか?」

六十郎「そりゃあ、お前さんを待っとったからじゃよ…」

貴音「…一体…何者…!」

六十郎「こりゃこりゃ…眉間にしわなんぞ寄せたら、せっかくの綺麗な顔が勿体なかろうが…」

六十郎「そんなに用心せんでも、取って食いはせんわい」カッカッカ

貴音「何故やよいに近づいたのですか?答え如何によっては…」

六十郎「お前さんは何か思い違いをしているようじゃが、わしはやよいちゃんをどうにかしようとは思うとらんぞ」

貴音「危害は加えずとも…意図して近づき、やよいを籠絡したことは認めるのですね?」

六十郎「身も蓋もない言い方じゃのぉ…わしゃ初めにちょいとばかし、やよいちゃんの注意を引くよう振る舞っただけじゃ」

六十郎「その後の事はみぃんな、あの子自身が選んだ結果じゃよ」

貴音「その言葉に、嘘偽りはないのですね?」

六十郎「神仏に誓って、嘘は言っておらん」

貴音「……」

六十郎「…お前さん、目に戸惑いの色が出とるな…」

貴音「……」

六十郎「食事の時、わしよりバクバク食べておったが、其の実、わしの心底をはかろうと必死じゃったのぉ…」

六十郎「お前さんは鋭い観察眼を持っておる。鋭いが故に、何も見せようとしなかったわしを不審に思ったんじゃろ?」

六十郎「そんなわしを連れてきたやよいちゃんを心配するじゃろうと思うてな、お前さんとだけは差しで話をしようと待っていたんじゃ」

貴音「わたくしが追ってきたのも、六十郎殿がそうさせたからなのですか?」

六十郎「追ってくるであろうことを予見して待っとったに過ぎん。追ってきたのは間違いなく、お前さん自身の選択じゃて」

六十郎「正直、来てくれて安心したわい…!」

六十郎「お前さんのような仲間がいるなら、やよいちゃんは大丈夫じゃろう、とな…」

貴音「やよいの身に、何か起こるのですね…」

六十郎「もう起きている、と言うてもいいじゃろう。わしもお前さんと同じで、やよいちゃんを守りたいんじゃよ」

六十郎「色々と困難もあろうが、皆と一緒にあの子を守ってやって欲しいんじゃ…」

六十郎「その間にな、わしがなんとかするでの…」

貴音「…わかりました。やよいを守りたいというその言葉、信じましょう」

貴音「…結局、あなたが何者なのかは教えて頂けないのでしょうね…」

六十郎「カッカッカ!なぁに、ただの旅の隠居じゃよ…」

貴音「ふふふ…意地の悪い黄門様ですね…」

六十郎「そうさの…一つだけ、黄門様の知恵を授けておこうかの」

六十郎「あの壺に入った杜若じゃが、水を絶やして枯らさぬよう、よくよく労ってやるんじゃぞ」

貴音「杜若の花を…?」

六十郎「そうじゃ、お前さんが好きなあの花をな…」

貴音「どうしてそれを…」
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「お姫ちん!!」

貴音「!?」

「お姫ちん気がついた!?どうしたのこんなところにボーッと突っ立って…」

「兄ちゃんとはるるん、お姫ちんが戻ってこないから心配して探しに行っちゃったんだよ?」

貴音「ここは…わたくしは一体…」

「だ、大丈夫!?お姫ちん!?」

「これはまさか…!キオクソーシツ!?私達のこと忘れてないよね!?自分が誰だか分かる?」

貴音「…双海亜美に…双海真美…わたくしは、四条貴音…」

亜美「うわーん!良かったお姫ちん!さっきまで亜美達完全スルーされてて、ちょ→焦ったんだからっ!!」グスッ

真美「お姫ちんに忘れられたら、真美達おやつものどに通らなくなっちゃうYO!!」ウルッ

貴音「ふふ…それは、真恐ろしいですね…」

亜美「でしょでしょ?絶対忘れちゃヤダかんね!」ギュッ

真美「あ、真美もギュッてする!」ギュッ

貴音「本当に…心配をかけて申し訳ありません…」ギュ…

春香「貴音さん!良かった何事もなくて…」

貴音「春香…心配をかけてしまい、申し訳ありませんでした…」

小鳥「…はい、貴音ちゃん事務所に戻ってきました…はい…大丈夫みたいです…春香ちゃんも今戻ってきたみたいで…」

真美「はるるん!はるるんもギュッてして!」

亜美「お姫ちんのココ!空いてますYO!」トントン

春香「え?あ、えと…こ、こうでいいのかな?」ギュ

亜美「どうですかな、真美鑑定士?」

真美「まだまだ足りませんな…もっとこうギュッと!」

春香「え?え?じゃあこの位…」ギュッ

亜美「真美鑑定士?」

真美「…ナイスギュッ!」

亜美「頂きましたっ!」

貴音「ふふふ…まるで押しくらまんじゅうのようですね…」

春香(うわぁ…貴音さんの髪柔らかいなぁ…!)

美希「あー!ミキを仲間はずれにしちゃやー!なの!」ムギュッ

亜美「真美鑑定士?」

真美「ナイスボリューム!ナイスムギュッ!」

亜美「これは鑑定額も期待できそうです!」

小鳥「なんだか楽しそうね…私も…えい!」ギュッ

美希「小鳥、ナイスギュッ!なのー!」

亜美「真美鑑定士?」

真美「イイ仕事してますねぇ~!」

亜美「果たして、鑑定やいかに…!!」

P「貴音!一体どこまで散歩に出て…」ガチャ

P「……え?何これは…」

P「…よーし、よくわからんが俺も…」

小鳥「プロデューサーさん、セクハラですよ」
亜美「真美ぃー、ここで兄ちゃんがギュッは確実にセクハラだよネー?」
真美「うんうん!セクハラセクハラー。鑑定額もマイナスだYO!」
美希「ハニーならギュッてしてもいいけど、ミキもセクハラはどーかと思うな」
春香「ぷ…プロデューサーさんがどうしてもって言うなら…あ!でもセクハラはやっぱり駄目ですよ!」
貴音「ふふふ…せくしゃるはらすめんと、ですね」

P「今日は本当に妙な一日だわ…ハハ…」シュン…

高槻家 玄関前

やよい「遅くなるからって先に帰されちゃったけど…貴音さん大丈夫かなぁ…」

やよい「ただいまー!遅くなってごめんね!」ガラガラ

浩太郎「あ!やよい姉ちゃん帰ってきた!お帰りー!」

浩司「おかえりー!」

やよい「ただいまー!」

長介「お帰り、やよい姉ちゃん」

長介「さっき姉ちゃんに電話あったよ。えーと…『貴音さんは無事見つかりました』だってさ」

やよい「ほんとー!?良かったー…」

やよい(…おじいさんも、きっとお家まで帰れたよね)

かすみ「……」ジッ…

やよい「…?かすみ、どうかしたの?」

かすみ「お姉ちゃん、なんだか嬉しそう…」

やよい「え?か、顔に出てたかなぁ…///」

やよい「…うん、でもそうなの!今日はとっても良いことがあってね…」

今日はここまで。
ペースが維持できないかも知れないけど、どうか気長に待ってやってください。

再開します。あんまり進みませんがご容赦ください。

翌早朝 765プロ事務所 社長室

貴音「…その後意識が遠のき、気がついた時には事務所のどあの前に佇んでいました…」

P「……」

P「…それで全部か?」

貴音「その後、あなた様のせくしゃるはらすめんとの件が…」

P「あ、そこはいいです…」

貴音「…では、これで全てです」

P「…貴音の話が本当なら、あの爺さんは何と言うか…その…」

P「超能力者とか、あるいは人間じゃない何か超常的な存在って事か…?」

貴音「さぁ…わたくしにもその正体までは…」

貴音「しかし、仮に妖異の類いだとしても、邪悪なものではないと思います…」

P(にわかには信じがたい話だが…貴音がこんな意味の無い嘘をつくとも思えないしな…)

P「それで…貴音はなんでその話を俺に?」

貴音「六十郎殿は、『皆と一緒に』やよいを守るようにと、そう言われました」

貴音「また、この話を口外してはならぬとは言っていませんでした」

P「それなら、みんなにもこの話を聞かせれば…」

貴音「あなた様…この話を聞いてどう思われたか、正直に仰ってください…」

P「うーん…現実離れした展開でなんとも…」

P「貴音の事は信用しているが、正直半信半疑だ。スマン…」

貴音「いえ…然もありなん、と言うべきでしょう…」

貴音「仮にこの話を聞かせたとしても、大半の者はあなた様と同様の感想を抱くと思われます…」

P「亜美や真美は信じるんじゃないか?爺さんのこと仙人様だとか言ってたし…」

貴音「信じてはくれるでしょうが…それはあくまで好奇心の発露によるもの…」

貴音「事態をどこまで深刻に捉えられるのかまでは…」

貴音「それに…六十郎殿のことは、やよいには知られたくないのです」

貴音「初めだけとは言え、善意からの行いが作り事だったとは…」

貴音「…彼女は困っていた御老人を手助けした。ただそれだけでいいのです」

P「…言わんとするところはわかった。だがそれでも、俺にだけ話す理由が分からないんだが…」

貴音「あなた様は、皆を繋ぎ止めることができる、最後の切り札だからです」

P「お、俺が切り札…?」

貴音「先程お話しした通り、六十郎殿は終始その心底を隠しておりました…」

貴音「ただ…『なんとかする』と仰ったその時だけ、一抹の不安のようなものを垣間見せたのです」

貴音「恐らく…六十郎殿の力を持ってしても、やよいに降りかかる困難を防ぎきれない可能性があるのでしょう…」

貴音「わたくしに話した真意も、そこにあるのではと…」

P「お、俺には貴音みたいな鋭い勘も、まして爺さんみたいな妙な力も無いぞ…」

貴音「あなた様は、わたくし達の目指す道、夢、苦難、葛藤…その全てに繋がる、唯一のお方です…」

P「いや…俺はただのプロデューサーで…」

貴音「そこです。わたくし達は『ぷろでゅーさー』に関わるという共通点を持つ仲間です」

貴音「皆で結束して立ち向かうべき時が近づいているのなら…」

貴音「その帰趨を握るのは、あなた様をおいて他にはいません…!」

P「でもほら、竜宮小町は律子がプロデューサーだし…」

貴音「竜宮小町や律子嬢もまた、あなた様の影響なくしては成立しません…」

貴音「高木殿や小鳥嬢も同じです。どのような形であれ、皆あなた様を常に意識して、共に歩みを進めている…」

貴音「ここは、そういう場所なのですよ」

P「な、なんかもの凄いプレッシャーなんだが…」

貴音「765ぷろのぷろでゅーさーを務め、あいどる全てと深く関わり続けられること自体が、類い希なる力を持っている何よりの証左です」

貴音「これ程の数の個性溢れるあいどる達が相手とあっては、並の者では三日ともたないでしょう…」

P「いくら何でも買いかぶりすぎじゃないか…?むしろお前達に助けられてばかりだぞ…」

貴音(ふふふ…御自分のこととなると疎いのも、あなた様の魅力ですよ…)

P「…よしわかった!俺も男…いや、漢だ!」

P「そこまで言われたら覚悟を決めて切り札に…765プロのリーサルウェポンなってやろうじゃないか!」

P「…で、具体的に俺は何をすればいいんだ?」

貴音「何も」

P「…へ?」

貴音「何か特別なことをする必要はありません」

貴音「事が起きたら、あなた様はいつも通り、御自分の判断で動いてください」

P「???…じゃあ結局、聞いても聞かなくても同じだったんじゃ…」

貴音「事前の心構えがあるか否かで、結果は大きく異なるものです…」

貴音「それに…わたくしにとっては…あなた様だけが…」カタカタ…

P「貴音…?その手…もしかして震えてるのか…?き、気分が悪いとか…」

貴音「…心配には及びません…いずれ治まります…」

貴音「…幼い頃より、時偶ですが、不可思議なものを見聞きすることがあります…」

貴音「わたくしがお化けや妖怪といったものが苦手なのはご存知かと思いますが…」

貴音「それは偏に、そのような怪異の気配を常々感じてきたからに他なりません…」

貴音「…しかし…昨夜ほど具体的に…それもわたくし以外の者にも見える形で現れたことは初めてで…」

貴音「その力に気圧されたとでも言いましょうか…あなた様の仰ったぷれっしゃーを、わたくしも感じているのです…」

P「貴音…」

貴音「その六十郎殿ですら止められない事態が…あるいは『存在』がいるのだとすれば…!」

貴音「ですからもし…わたくしがやよいを守り切れなかった時は…その時には…」

P「…任せろ貴音!」ギュッ

貴音「あ、あなた様…!?」

P「…やよいだけじゃない、貴音も他のみんなも、まとめて俺が守ってやる!」

P「爺さん以上の化け物が出てこようが、俺はお前達を絶対に見捨てたりなんかしない」

P「俺に特別な力があるなんて思えないが…その代わりできることなら何だってやるぞ!」

P「手が震えるなら、こうして俺が握ってやる。倒れそうになったら、その時は俺が支えてやる」

P「何て言ったって俺は、プロデューサーで、切り札だからな…!」

貴音「あなた様……!」

P(…ひぃー…わ、我ながら勢いでなんちゅうクサい台詞を…///)

小鳥「ぷ、プロデューサーさん!!たた、大変ですよー!ちょっとこれ見てくだ…」ガチャッ

小鳥「…あ…///」ピヨ…

P「…ん?音無さんどうしたんで…」

P(…っ!?しまったー!貴音の手を握りっぱなしで…よく見りゃ距離も近いぃ…!!)バッ

小鳥「ご…ごめんなさいその…急にドアを開けたりして…!///」ピヨォ…

P「いやいやいやいや、音無さん違うんですこれは…!確かに誤解を招きかねませんが…」

P「別に何か怪しい事をしていたわけではなくてですね…な!そうだよな貴音?」

小鳥「そ…そうなの貴音ちゃん?」

貴音「はい。ただ、他人には言えぬ事(相談)ですが…」

小鳥「ひ…他人には言えぬ事(×××)を…!?///」ピヨピヨピヨ!

P「うおぉぉいッ!?変なところを端折るなッ!!」

小鳥「…所属アイドルに手を出すなんて…でも貴音ちゃんも一人の女性として選択の自由が…」ブツブツ

P「貴音、この人の勘違いをそのままにすると後々面倒なことになりそうだから、全部話してやってくれ…」

貴音「小鳥嬢、実は是々然々…」

…10分後…

小鳥「…つまり、斯々馬々、ってこと…?」

P「信じがたいかも知れませんが、昨夜の貴音の失踪や急な帰還の事を考えると…」

小鳥「…さっきのことを誤魔化そうと、嘘ついてるわけではないですよね?」ジロリ

P「それだったらもうちょっとマシな嘘をつきますよ…」

小鳥「…いえ、でも信じます。だって、お爺さんの言っていたこと、現実に起きているんですから…!」

P「え?それはどういう…」

小鳥「プロデューサーさん!貴音ちゃん!これを見てください…!」

P「これって…?…なっ!?なんだこれ…!!」

今日はここまで。

再開します。

小鳥「出社前に友達から電話が来たんです。『アンタのとこのアイドルがネットで大炎上してる』って…」

小鳥「それでネットを見てみたら…」

P「これは…やよいが言ってた『イニシエーション』の動画か…」

小鳥「動画のURLがあちこちに貼られていて、その宗教団体の詳細と一緒に拡散されているんです…」

小鳥「某掲示板は言うまでもなく、Twitter、Facebook、それに詳しくは分かりませんけどLINE上でも広まってるらしくて…」

小鳥「動画もYoutubeだけじゃなく、ニコニコ動画とかVineにまで…」

小鳥「この分だと、大手まとめサイトからJ-C●ST経由で、Yahooニュースのトップを飾るのも時間の問題じゃないかと…」

P「LHS…ラダークハピネスソサエティ…こいつらが…」

貴音「あなた様…一体何が起きているのですか…?わたくしには皆目見当が付きません…」

P「…貴音…俺も上手くは説明できないが…こいつは想像以上に厄介なことになりそうだ…」


ネェネェ ミタ? アノ ドウガ?

ミタミタ! タカツキ ヤヨイ デショ?

メッチャ リツイート サレテタネ

ラインデモ マワッテ キタヨ

ザワ…ザワ…


オレ ヤヨイチャンノ ファンダッタノニ

ヤヨイチャン カワイイケド サスガニ チョット

ゼッタイ コノオッサント デキテルナ

リカチャンカ ミリアチャンニ クラガエ スルカ

ザワ…ザワ…

【炎上】人気アイドル神頼み?"新興宗教儀式動画"流出問題 所属事務所が釈明コメント

アイドルの高槻やよい(765プロ)と言えば、動物映画として近年稀にみる興収を記録した
「カルガモ親子大行進!」での好演が記憶に新しいが、そんな彼女の活躍に水をさしかね
ない、思わぬ騒動が持ち上がっている。

■"火点"は動画流出
きっかけは、とある新興宗教団体施設を撮影したとされる、2分程度の短い動画だ。
教祖の男性に「入信儀式」を施される信者の中に、高槻と見られる少女が映っていたため、
動画がYoutubeにアップされた今月8日夜ごろから、Twitterを中心にその真偽について様々
な意見が飛び交った。
翌日未明、教団のオフィシャルブログに動画の人物が高槻やよい本人であることを仄めかす
記事が掲載されると、各SNSはこの問題に関するコメントで溢れかえった。

■教団に関する黒い噂
ネット上では、この教団の米国支部関係者が禁止銃火器類の不法所持でATF(アルコール・タ
バコ・火器及び爆発物取締局)に摘発され、国内においても警視庁公安部の厳重監視対象に
なっているとの噂が流れたため、"現役アイドルが武装カルト教団に入信した"との見方が強
まり、これまでの健全なイメージとのギャップから批判の声が上がる一方、騒動が拡散して
からは擁護の声も高まっている。

動画のコメント欄には「日本では信教の自由が認められている」といった真面目な擁護から
「元々天使なのだから崇拝は当然」「僕も入信しちゃいそうです!」といった、ファンによ
るものと見られる軽いノリの書き込みまでさまざま。
批判の内容も多種多様で「好きだったのにガッカリ…」「やよいちゃんのファン止めます」
という失望の声、「やよいちゃんの番組が好きな三歳の娘が心配」と子供への悪影響を危惧
する声の他、「□□も△△教の熱心な信者。芸能界にはそんなの大勢いるでしょ」「ドルオ
タ自体宗教信者みたいなもんやし」「武装カルトアイドル路線とは斬新ですね」など、今さ
らといった声や皮肉めいたコメントも数多く見受けられる。

■所属事務所は関係を否定も、残る疑問
この騒動を受け、765プロダクションは公式サイトのトップにファン向けの短いメッセージと
共に、高槻の教団入信を否定する内容のニュースリリースを掲載。
マスコミ各社にも同内容のFAXを送るなど、対応に追われている。
記者も電話取材を試みたが「担当者が不在」として断られた。
同社のニュースリリースも動画の人物が高槻本人であることを否定してはおらず、なぜ彼女が
そのような場所に居たのかなど、事実関係は依然として不明のままだ。

ネット上では、765プロダクションが入居するビルと教団本部の位置が近いことなどから、同社
自体がこの教団と深い関係にあるのではないかとの憶測が広まっている。
もう一方の当事者である教団側にもメールで取材を申し込んだが、「お伝えすべき事がある場合
はこちらから発表します」と、素っ気ない返事が返ってきた。

年々競争が激しさを増し、昨今ますます過激化の一途を辿るアイドル業界だが、その中にあって、
765プロ所属のアイドル達はファン以外の視聴層にも「お茶の間で安心して観ていられる」との
好評価を得ていただけに、今回の炎上騒動は彼女達の芸能活動にも大きく影響しそうだ。

炎上騒動発生から4日後 765プロ事務所

P「はい…そうですか…いえ、なにぶん状況が状況ですので…」

P「とんでもございません…こちらこそご迷惑をおかけして申し訳ありません…」

P「はい…ではまたの機会に…よろしくお願いします…はい…では失礼いたします…」ガチャ

P「…これで…連絡すべきところには全てした…な…」

律子「やっぱり…駄目でしたか…」

P「ああ…制作の方は、現場スタッフさん達が粘ってくれたそうなんだが…」

P「どうも放送局のお偉いさんからストップが掛かったらしくてな…」

P「上は局側と揉めたくないから、掛け合ってもくれないそうだ…」

P「先方のチーフDが「俺達はやよいちゃんを信じているよ」って言ってくれるだけ、他のとこより救いがある

けどな…」フラッ…

小鳥「あ、危ないですよプロデューサーさん…!」ガシッ

P「す、すいません音無さん…ついボーッとして…」

小鳥「この4日間、ほとんど寝ないで対応してたら無理もありませんよ…」

P「そう言う音無さんも、昨日出勤してから一睡もしてないじゃないですか…」

小鳥「ご心配なく、私は一昨日は家に帰りましたから…!」

律子「…小鳥さん、それかなりブラック事務所的発言ですよ…」

P「ブラックと言えば…律子、その後社長から連絡は?」

律子「ええ…1時間ほど前に一度だけ。ただ状況は相変わらずみたいで…」

律子「全便欠航で再開の見通しも立たず、ヒースロー空港に足止めされたままだそうです」

小鳥「火山噴火の影響で空路閉鎖…何年か前にも同じようなことありましたよね…」

律子「今ならフランスまで行けばなんとかなるそうなんですが…鉄道や海路にも人が殺到していてとても辿り着けそうにないと…」

律子「そのフランスも、日本時間の今日の午後には空路が閉鎖されるらしいです」

P「…これで社長の帰還は絶望的だな…」

P「まったくなんちゅうタイミングで英国旅行に…」

律子「BBCのドキュメンタリー取材も兼ねて、半年前から決まっていたスケジュールですから、しょうがないですよ…」

P「だが…偶然にしちゃいくら何でも悪い状況が重なり過ぎていないか…?」

律子「……またあの話ですか?」

P「…なんだ律子、お前まだ信じてないのか?」

律子「ハァー……いいですか?貴音が不思議な事に巻き込まれたって話は信じますよ?」

律子「でも、どこの誰だか分からない怪しげな老人が話したことまでは…」

律子「大体、私は会ってもいないんですから、その『仙人様』とやらには…」

P「ああ…あの日は竜宮小町の札幌ライブ会場予定地の下見でいなかったんだっけな…」

律子「そのライブも、どうなるか怪しいんですけどね…」ハァ…

P「…どこもかしこも、うちに所属しているアイドルってだけで仕事はキャンセルだもんな…」

小鳥「芸能人のネット炎上なんて日常茶飯事だと思ってたんですが、今回に限ってなんでここまで過剰反応に…」

P「やっぱり貴音が言っていたように、妖異の存在が…」

律子「ハイハイ、バカなこと言ってないで、プロデューサーは一回しっかり寝てください!」

P「ぐぬぬ…だが確かにもう限界かも…」

律子「外は報道陣が待ち構えているので、ソファーで寝てもらうしかありませんが…」

P「連中もよくまぁ粘るなぁ…あんなところで待機されてたら、たるき亭もえらい迷惑だろうに…」

小鳥「それが…今朝お弁当届けてもらった時に小川さんに聞いたんですけどね…」

小鳥「一般のお客さんが店に入れないのを逆手に取って、マスコミ関係者向けにお弁当作ったら大好評だそうで、いつもの三倍の売り上げだとか…」

小鳥「敵に塩を送るようなまねをして申し訳ないからって、店長さんの計らいで私達の朝昼晩のお弁当代はタダにしてくれました…」

P「…あの店長、商魂たくましいなぁ…」

P「…じゃあ律子、俺は一旦寝るけど、何かあったらすぐ起こしてくれ…」

P「取引先からの電話があった場合は特にな…」

律子「わかりました。小鳥さんにも一度仮眠を取ってもらうようにします」

P「ああ…そうしてくれ…まだまだ先は長そうだから…な…」ボフッ

P「グゥ…」
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「火事だーっ!!」

P「へっ!へぁッ!?」ガバッ

P「かっ火事!?ひゃ…110番!いや118番!!」アタフタ

律子「…海上保安庁に電話してどうするんですか…」

P「り…律子!か…火事は…!?消火器!いや待て、それより早く避難しなきゃ…」アタフタ

律子「…嘘です」

P「うっ…嘘ぉ…?」

律子「呼びかけても揺すってもピクリとも起きないので、非常手段を使いました」

P「…あ、あのなぁ…!メチャクチャ焦ったじゃないか…!」

律子「目が覚めたようで何よりです。それよりも…プロデューサーにお客様が…」

P「まったく最悪の目覚ましで…え?客…?」

男「…気持ちよくお休みのところすいませんねぇ…」ヌゥッ

男「あなたがここの責任者の方で…?」バリトン

P(…デカっ…!?声低っ!!)

P「は、はぁ…現状ではそういうことになりますが…」

P「あのー…一体どちらの…」

男「…これは失礼、あなたには自己紹介がまだでしたな」スッ…

男「警視庁公安部の権藤と言う者です」

P「…こ、公安部…?警察の方ですか…?」

権藤「ええ、ですがご安心を」

権藤「Pさんを始め、皆さん方の身の潔白はこちらで確認済みですので…」

P「な、なんで俺の名前を…」

権藤「言った通りです。『確認済み』なんですよ…全部ね…」ニヤリ

P(あわわ…)

権藤「…ハハハ、そんなに警戒しないでください」

権藤「名前を調べることくらい、今や中学生でも簡単にできますよ」

P「は、はぁ…」

権藤「商売柄、公安部員というのはあまり一般の方とお話しする機会がないもんなんですがね…」

権藤「私の場合、この図体と声でしょう?とにかくどこに行っても目立ってしまうんですよこれが…」

権藤「当然、機密を旨とする公安の捜査には加われない…」

権藤「なもんで、こうして一般の方との連絡が必要になった際の、言わば『渉外担当』みたいなことをしています」

権藤「同期の中では落ちこぼれ、公安部の窓際族ですよ。ハハハ…」

P「そ、そうですか…それであの…ご用件は…」

権藤「もうおわかりかと思いますが、例の教団の件です」

P「や、やっぱりそうですよね…」

P「じゃあ、あのネット上の噂も…」

権藤「あれですか…まぁ当たらずと雖も遠からず、といったところですかな…」

権藤「確かに、LHSは我々警視庁公安部の監視対象組織です」

権藤「…ですが、米国の件は現地信者の一人が違法改造を施したライフル二丁を所持していたという程度のものです」

権藤「これだけでは、教団の計画的犯行とは呼べません…」

権藤「それに、やよいさんやこの事務所が、教団と深いつながりを持っているなどというのも単なるデマだ」

権藤「それはあなた方自身、ご存知のはずです」

P「し、信じて頂けるんですか…!?」

権藤「勿論。我々には確証がある」

律子「じゃあ、やよいや私達の身の潔白も…」

権藤「公安部として責任を持って、世間に公表する用意があります」

P「ほ、本当ですか!よ…良かった…!」

権藤「…ただし、こちらの要望にお応え頂けた場合、という条件付きですがね…」

P「要望…ですか?」

権藤「回りくどいのは苦手なので単刀直入に…やよいさんを教団内部に引き入れてください」

P「なっ…!?それってつまり…」

律子「やよいを囮に使う…って事ですよね…!」キッ

権藤「そう解釈して頂いても構いませんよ」

P「ではお断りします…!やよいをこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいきません!」

権藤「危険な目にですか…今はまだ可愛いもんです」

権藤「このまま事態が進行すれば、この事務所自体消えてなくなりますよ」

律子「そんな…!」

P「…そんなデタラメには…!」

権藤「デタラメなもんですか。現にこの件は通常の『ネット炎上』の域を超えている」

権藤「Pさん…おかしいと思いませんか…?アイドル1人の新興宗教入信疑惑で事務所ごと干されるなんて普通じゃあない」

P「何であんた…そ、そんなことまで…」

権藤「そういう情報はすぐ耳に入るんですよ…商売柄ね…」

権藤「で、話の続きですが…新興宗教団体やその信者と関わりのある芸能事務所なんてもんは、大手も含めて腐るほどありますよ」

権藤「あなたも業界の人間だ。そういう話は一度や二度ならず聞いたことがあるでしょう」

P「それはまぁ…そうですが…」

権藤「こちらの調べでは、情報の拡散は若い教団信者達の仕業と判明していますが…」

権藤「さらにこれを理由に『方向付け』をしている連中が、メディアの上層部にいるんですよ…」

P「…!?じゃあ仕事の相次ぐキャンセルは…」

権藤「その連中の意向ですよ。いくら宗教絡みの炎上騒ぎでも、他のアイドルの出演番組まで軒並み放送中止になるなんてあり得ませんよ…」

律子「プロデューサー…お昼の電話のあれも…」

P「『放送局のお偉いさんからストップが掛かった』…!つまりそういう…」

権藤「…分かって頂けましたかね?事態はあなた方が考えているよりも、ずっと深刻だということが…」

P「…何故なんでしょうか…」

権藤「うん?」

P「なんでやよいがここまで狙われるんですか…彼女が一体何を…」

権藤「……」

権藤「…初めはね、連中もここまでするつもりはなかったんですよ…恐らくね…」

P「…?」

権藤「教団内で『カルプレッタ』と呼ばれている女がいるんですが…」

権藤「こいつが教団代表の側近で、運用資金全体の管理を任されているんですよ」

権藤「自身も霊感商法を使った詐欺を働いて集金しているようなケチな女でしてね…」

権藤「他の幹部と異なり外に出歩く機会が多いもんですから、尻尾を出さないかとうちの人間がずっとマークしていたんですよ…」

権藤「…で、そこに現れたのがやよいさんだったんです」

P「!?」

権藤「最初はね、やり口からしていつものケチな詐欺の延長かとも思ったんです…」

権藤「教団内の最高位を与えるというのは新しかったが…それ以外はカルプレッタのいつものやり方の枠内だった」

権藤「…それがどうも最初の『儀式』の後に方針を大きく変えたようで、今や教団を総動員してやよいさんを手に入れようとしている…」

権藤「これまで慎重に事を運んでいたあの女が、やっと見せた『尻尾』というわけです」

権藤「公安部としては、これをなんとか教団の実態解明にまで繋げたい…。そのためにはやよいさんの協力が不可欠なんです」

P「それじゃああんたら…やよいが連れて行かれるのをわざと見過ごして…!」

律子「ひ、ひどい…」

権藤「視察対象の目の前に堂々と出て行くわけにもいかんでしょう。当然、やよいさんの安全確保には最大限努めたつもりです」

権藤「それに、我々が見ていたからこそ、やよいさんの身の潔白を証明できるんですよ…」

P「その条件がやよいを囮にしろだなんて…あんたら最初からやよいを利用しているじゃないか…!公平な条件と言えるのか…!?」

権藤「……」

権藤「なるほど…もっともな話に聞こえる…」

権藤「えーと…そちらのお嬢さん…律子さん、でしたね?」

律子「はい…そうですけど…」

権藤「Pさんと2人でお話しすることがあるので、少しの間だけ席を外してもらえますか…?」

律子「…!ぷ…プロデューサー…」

P「大丈夫だ、律子はここにいてくれ…」

律子「わ、わかりました…」

P「…権藤さん、今は社長室が空いています。そこで話しましょう…」

権藤「…いいでしょう」

---ガチャリ---

権藤「…さてPさん。『公平な条件』なのかと…そう仰いましたね…」

P「ああ…」

権藤「では一つ、良いことを教えてあげましょう…」

権藤「先程、私は同期の中では落ちこぼれだと言いましたが…」

権藤「そんな私にも気の良い連中でしてね、出世を鼻にかけもせず、今でもよく連絡をくれるんですよ…」

P「一体何の話を…」

権藤「まぁお聞きなさい。…それでですね、その中の1人が警視庁組織犯罪対策部でそれなりのポストに就いてまして…」

権藤「この部門の暴力団関係…まぁ平たく言えばヤクザですが…その辺の情報も耳に入ってくるんですよ」

権藤「例えば、ここ最近の萩原組の動きとか…」

P「!?」

権藤「…随分とLHSの情報収集に熱心なようで…」

権藤「だけど『枝』の連中まで動員したのはいけません。簡単にうちの網にも引っかかりましたよ」

権藤「これがまた血の気の多い連中でしてね…直接信者に手を出しかねませんよ…」

P「手を出すって…なんでそんなことに…!」

権藤「さぁ…内部の細々とした指示までは知る由もありません…」

権藤「暴対法の改正以来、警察はこういう手合いには厳しく対処してましてね…」

権藤「このままいけば、萩原組にも何らかの対応をせざるを得んでしょうな…」

権藤「あそこはこの時世には珍しく昔気質な組で、組長さんも道理を弁えた、人間のできた方だ…」

権藤「そのおかげでこれまで目立つこともなかったが、一旦警察の手入れがあれば、色々嗅ぎ回る連中の良い餌食だ…」

権藤「そうなれば、雪歩さんの素性も…」

P「仮に…俺自身が組に乗り込んで説得したとしても…まだ他にも隠し球があるんだろ…?」

権藤「…これ以上はあなたも聞かん方がいいでしょうな。世の中知らない方が良いことってのは、実に多いもんだ…」

権藤「特に水瀬グループに関してはね…そういうネタには事欠かない…」

P「…あんたの要求を呑めば、そういう事柄を全部処理できると…確約できるのか…?」

権藤「水面下で、物音一つなく、跡形も残さずにね…」

>>182は間違い。次から仕切り直し。

>>181の続き↓

P「なんでそんな話を…」

権藤「あなたが言ったんですよ、『公平な条件か』とね…」

権藤「あなた方が協力してくれれば、組対が動く前にこちらで丸く収めてみせますよ」

権藤「なぁに、今じゃ公安部の窓際族ですが、この図体のおかげで昔はマル暴にいたこともありましてね…」

権藤「萩原組の組長さんとも知らない仲じゃあないんですよ…」

P「仮に…俺自身が組に乗り込んで説得したとしても…まだ他にも何か隠し球があるんだろ…?」

権藤「…これ以上はあなたも聞かん方がいいでしょうな。世の中知らない方が良いことってのは、実に多いもんだ…」

権藤「特に水瀬グループに関してはね…そういうネタには事欠かない…」

P「…あんたの要求を呑めば、そういう事柄を全部処理できると…確約できるのか…?」

権藤「水面下で、物音一つなく、跡形も残さずにね…」

P「だが…やよいの居場所を今すぐ教えるわけには…相談して結論を出してからじゃないと…」

権藤「そんな余裕があったら直接出向きはしませんよ。あなたが、今この場で決めてください」

権藤「それに、やよいさんがご家族と一緒に水瀬家の屋敷に匿われているのは把握していますよ…」

P「…あんた何でも知ってんのかよ…!」

権藤「人の耳目があるところなら、大抵はね…」

P「………わかった、協力するよ…」

P「但し…!やよいの身が危険だと判断した時は、途中でも何でも、俺自身体を張って止めるからな…!!」

権藤「はぁ…どうぞお好きなように…邪魔だと感じれば我々も全力で止めにいきますのでおあいこです」

権藤「しばらくは皆さんの安全確保のために公安部員の監視も強化されますが、お気になさらずに」

P「監視か……なぁあんた、あの爺さんもあんたらの仲間なんだろ?」

権藤「…?爺さん?」

P「とぼけるなよ。やよいが教団本部からここに連れてきた爺さんだよ」

P「随分と訳知りだったのは、警察の情報網があったからなんだな…」

権藤「何のことやら…あの日会場からこのビルに戻ったのは、やよいさん1人だけでしたよ」

P「!?そ、そんなわけないだろ…!?」

権藤「…詳しく聞きたいですな。何者ですか、その老人とやらは…」ズィッ

P「ち…近ッ…!?」

権藤「私はね、自分が把握していない事があると、どうも気になりましてね…」ズズイッ

P(このおっさん本当に知らないのか…!?じゃあ…あの爺さん結局何者なんだ…!)

権藤「で、どんな人物ですかその老人は…容姿は?年齢はいくつくらいで…」

♪セカイジューエーガオニシィーヨオー♪ワッハッハッハ!♪

権藤「おっと失礼…」ピッ

P(え?今の曲って…)

権藤「私だ…うむ…うむ…やはり連中も掴んでいたか…」

権藤「こちらは"GOサイン"が出た。予定通り動くよう、全員に伝えろ」ピッ

P「なぁ…あんたさっきの着信音…それってやよいの…」

権藤「Pさん…私はね、実際の捜査に参加できない分、監視対象をより深く知る必要があるんです…」

権藤「その作業中にこれを聞いてね…悪くない歌声と歌詞だと思ったんですよ、素直にね」

権藤「柄にもないことを言うようだが、私も『やよいちゃん』の身の安全を第一に考えている…そこは誤解しないで欲しい」

P「権藤…さん…」

権藤「…それはそうと、LHSの連中はやよいさんが水瀬家にいることに気づいたようです…」

P「え!?さっきの電話はそういう…」

権藤「連中が行動を起こす前に、やよいさん本人を教団本部に連れて行く他ないが…あくまで自然な形でそれを行いたい」

権藤「そこで、あなたに協力してもらいたいことが…」

P「お、俺に…?」

ほぼアイドル不在で申し訳ないが、今日はここまで。

再開。

数時間前 LHS本部 代口瞑想室

代口「…………」

ビーッ

代口「……瞑想中は呼び出さないようにと言ってあるだろう…」

カルプレッタ『申し訳ありません代口様。高槻やよいの居場所を突き止めましたのでご報告に…』

代口「ああ、なんだ君か…構わんから入りたまえ…」

カルプレッタ『では…』

ガチャ…ガチャン…プシュー…

カルプレッタ「失礼いたします…」

代口「…君にしては随分と時間が掛かったな…で、どこにいたのかね?」

カルプレッタ「水瀬の屋敷内に潜伏しておりました…」

代口「…水瀬の?あそこにはうちの若いのを使用人や庭師として忍び込ませていただろう…」

代口「今まで何の情報も掴めていなかったのかね?」

カルプレッタ「それが…水瀬家の執事が信用できる古株ばかりを集め、離れに密かに匿っていたようです…」

代口「執事…君の報告にあった新堂とかいう男か…」

カルプレッタ「はい…長年水瀬家に仕えているだけあって、抜け目のない人物でして…」

カルプレッタ「表面上は各使用人といつも通り接しながら、入って日が浅い者は重要事から巧妙に外されていました…」

カルプレッタ「我々の間諜も、妙な動きがあるとは薄々感じつつも、確信に至るほどの情報を掴めず…」

代口「それが今になって分かったのはどういうことかね?」

カルプレッタ「今夕、サウジアラビア政府関係者を招いたレセプションパーティーが水瀬家で開かれることになっています」

カルプレッタ「王族を招いての重要な催しのため、新堂を始め、古株の使用人達も離れにまで手が回らなくなったのです」

カルプレッタ「そして恐らく、水瀬伊織もパーティーに出るため、高槻やよいの側にいられないのでしょう」

カルプレッタ「彼女なりに気を回したようで…今朝方、765プロ所属のアイドル全員が水瀬の屋敷に…」

代口「ふむ…高槻やよいの『お守り役』…というわけか」

代口「だが、彼女達もパーティーに招かれたに過ぎない…そうとも考えられるんじゃないのかね?」

カルプレッタ「アイドル達が集まってきたというだけであれば、私も同様の可能性を考えます。しかし…」

カルプレッタ「我々の息のかかった使用人の一人が、彼女らを離れへ案内する途上で…」

真美「やよいっち、喜んでくれるかなーコレ?」

響「真美、何持ってきたんだ?この袋か?」ガサガサ

真美「あ!ひびきん!まだ開けちゃダメだかんね!」

亜美「そうそう、後でやよいっちに開けてもらうんだから!」

貴音「響、これはやよいへの"さぷらいずぷれぜんと"だそうです。ここは辛抱いたしましょう…」

響「うがぁー!…そんな風に言われたら余計に気になるぞ…!早くやよいのとこにいちゅんてー(行くよー)!」

カルプレッタ「…そう、確かに聞いたそうです…」

カルプレッタ「結局、内部の様子を確認するまでには至りませんでしたが…」

代口「…なるほど…その発言から推察すれば、その離れに高槻やよいがいる可能性は高いな…」

カルプレッタ「ほぼ確実かと思われます」

代口「しかし君、困ったねぇ…まさか水瀬の屋敷に兵隊を送り込むわけにもいかんだろうし…」

カルプレッタ「今は水瀬セキュリティの精鋭に加え、SANG(サウジアラビア国家警備隊)の人間も配置された厳戒態勢で、要塞と化しています」

カルプレッタ「平時であれば、外部から適当な騒ぎを起こし、混乱に乗じて間諜に攫ってこさせることもできたのですが…」

代口「下手に動かして潜り込ませた者達の身元が割れては元も子もない。その上、サウード家まで敵に回すなんてことになったら目も当てられん」

代口「どれ…こうなれば私が出向く他あるまい…」

カルプレッタ「代口様御自ら…!?」

代口「いい加減、瞑想にも飽き飽きしていた頃だ…」

カルプレッタ「い…いけません…!不用意に力を使ってしまわれるのは…!」

代口「なぁに…心配には及ばん。これさえあればいつでも水脈の霊力を…」ガチャ

代口「……ん?」

代口「な…無い…!?無いぞっ!?」

カルプレッタ「ど、どうなされたのですか?」

代口「お、おい君!ここにあった壺はどうした…!確かに、ここに置いてあったはずだ!」

カルプレッタ「つ、壺ですか…?一体どのような…」

代口「ぐぬ…説明が難しいが…とにかく珍しい形をした…そう、土器の壺だ…!」

代口「それが、この棚の中にしまってあったはずだ!」

カルプレッタ「珍しい形の…土器…珍しい…壺…」

カルプレッタ「……ヒッ!?」

代口「な、何だ?何だね今の『ヒッ』は!?さては知っているな…!」

カルプレッタ「い…以前大量に購入した中国土産の壺の一つだと思い…」

カルプレッタ「その…いつもの『布教活動』に使いまして…」

代口「な…なんて馬鹿なことをッ…!!」

代口「一体どこの誰にあの壺を渡したんだ!早く回収してきたまえ!!」

カルプレッタ「いえ…それが…あの…」

代口「なんだ?まだ何かあるのか?いいからさっさと行ってきなさい!」

カルプレッタ「つ…壺は…高槻やよいが…持っています…」

代口「………」

カルプレッタ「…代口様…?」

代口「あ…あばばのば……」ドタッ

カルプレッタ「ヒェッ!?だっ!代口様!?」

代口「カルプレッタよ…と……とんでもないことを…しでかしてくれたな…!」

カルプレッタ「ももも申し訳ございません!!そんなに重要なお品とは知りませんで…!!」

代口「何を言うか…ちゃあんとこの棚にしまってあったろうが…それをわざわざ持ち出しおって…」

カルプレッタ「い、いえ!瞑想室に勝手に入るようなことはいたしません!」

カルプレッタ「あの壺を見つけたのは、中庭のベンチのところで…」

代口「中庭だと…?」

代口「……あっ!」

カルプレッタ「だ…代口様…?」

代口「…な、何でもない!…私は代替案を考える。その間、いつでも出られるよう若い連中に準備をさせておけ!」

カルプレッタ「はっ!わ、わかりました!では失礼いたしますッ!」

シュー…ガチャンガチャッ

代口「…中庭か…!」

代口「…この前天日干ししたまますっかり忘れていた…私としたことが何たる不覚…!」

代口「こうなれば何が何でも、壺と共に高槻やよいを連れ出さなければ…」

代口「時機をうかがうか…しかしその間に別の場所に移動されては厄介だし…」

代口「…そうだ!765の他のアイドル達が集まっているなら…」

代口「…うん、これはいけるかも知れん…!」

代口「しかし…壺無しでどこまでやれるか…」

代口「…ええい…!迷っていても始まらん!とにかく、誰にするか選ばんとな…」カチ

代口「カルプレッタ君、先程の指示は後回しだ。『No.765』の資料を持ってきてくれ、大至急な…!」

今日はここまで。
次回からはアイドル達メインのやり取りに戻ります。

遅くなりました。再開。

ほぼ同時刻 水瀬家敷地内 駐車場

伊織「全員揃ったみたいね…」

伊織「新堂、ここに来たことは誰にもバレてないでしょうね?」

新堂「…皆様をお迎えに参りました際に、マスコミと思しき何台かの車両に後をつけられてしまい…」

新堂「やむを得ず乱暴な運転にはなってしまいましたが、それらの追跡を振り切りまして…」

新堂「後は手はず通り、お屋敷にはサウジ政府関係者の車列に紛れ込む形で入りましたので、ご心配には及びません」

新堂「尾行をしていた者達は、用意した囮の車を追っている頃かと…」

伊織「…ほんっとうにろくでもない連中ね…!構わないから、うんと遠くまで連れ回してやりなさい!」

新堂「かしこまりました、運転手にはそのように申し伝えておきます」

新堂「しかし…伊織お嬢様も相変わらず手厳しゅうございますな…」ハハハ

伊織「フン、大ごとにするわけにはいかないから、これでも十分寛大な方よ…」

春香「尾行をまくなんて時点で、かなり大ごとになってたような…」

響「うぅ…ひっくり返るかと思ったさー…ハマーリムジンでいきなりドリフトなんてどうかしてるぞ…」

真「ゆ、雪歩、大丈夫…?歩ける…?」

雪歩「ご、ごめんね真ちゃん…まだ足が震えちゃって…」

春香「あずささん、大丈夫ですか…?」

あずさ「ええ、何とか…すっごく怖かったわぁ…」

あずさ「それでも…私達は前の方に座ってたからまだマシだったみたいね…」

あずさ「一番後ろにいた亜美ちゃんと真美ちゃん、大丈夫かしら~…」

春香「…あの様子じゃ、大丈夫じゃなかったみたいですね…」

亜美「う゛え゛ぇぅぅ…じ…死ぬがど…思っだぁ…」グスッ

真美「…い゛ぎ…生ぎでで良がっだね゙~亜み゙ぃ~」ヒグッ

貴音「二人とも、その様に目を腫らして…しぃとべるとを締めないからですよ…」

貴音「洟が出ていますね…さ、このちり紙に…」

亜美「ズビィーッ!…真美、宙に浮いてたネ…」

真美「ブビィーッ!…亜美も浮いてたYO…」

亜美「…お姫ちん、あーいうの平気なの…?」

貴音「そうですね…以前乗ったじぇっとこぉすたぁよりは、多少迫力がありましたが…」

真美「ジェットコースターだとかスプラッシュマウンテンだとか…そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ…」

亜美「もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜぃ…」

貴音「…?」

千早「………」

春香「ち!千早ちゃん大丈夫!?顔真っ青だよ!」

千早「…私…ブレーキをかけた時の音が…本当にダメで…」フラッ…

春香「わわっ!危ないよ千早ちゃん!いいから座ってて…!」

新堂「む!これはいけません…!すぐに侍医をお呼びいたしましょう…」

千早「だ…大丈夫です…!そこまでして頂かなくても…」

新堂「しかし、無理をなさっては…」

千早「座っていれば…少しはマシになりますから…」

伊織「…みんなこんな状態だって言うのに、よく寝ていられるわねぇ…」

伊織「ほら美希!起きなさい!」ペシペシ

美希「ううんハニィ……痛いのはやー、なの…」

伊織「寝ぼけてんじゃないわよ」ペシッ

美希「ふゃ…ん…?デコちゃん…?」

伊織「やっと起きたわね…ってその呼び方、いい加減どうにかなんないの…?」

美希「だって、デコちゃんはデコちゃんでしょー?あふ……」

美希「……ぅ……」

伊織「…美希?」

美希「あ゚ぷぅ…」ングッ…

伊織「…えッ!?アンタまさかっ…!?ばっ…ちょっ…ダメよここじゃ…!!」

美希(何かを訴える目)

伊織「…!?し、新堂!!新堂ーッ!!」

新堂「星井様!こちらに…!」バケツ

オボロロロ…ピーーーーーーーーーーーー

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

おそれいりますが、しばらくそのままで
お待ちください

再開まで、美しく雄大なフィヨルドをゆく
クルージング映像をお楽しみください

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

三三\     /三
三三三\   /三三
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 Nice boat.  ~~~
        ~~~~
   _ィ†N==ュ_  ~~~
  /互巫乢/"/L ~~
  Lェェェェェイ"/L|彡~
  「ロロロロロロロイL/|彡
 ∥ ̄ ̄ ̄7/ /彡
 ∥===/ /彡
`ミ\j_/ /彡
 ミヽ__/彡
  ミ 彡

美希「ハァ~…スッキリなの!」

伊織「スッキリなの!……じゃないわよッ!!」

伊織「人ん家に来て早々いきなりゲ○吐くアイドルなんて聞いたことないわ!!」

新堂「伊織お嬢様…!その様なお言葉ははしたのうございます…」

伊織「しょうがないじゃない!ゲ○は○ロなんだから!」

美希「うーん…ミキもアイドルがゲ○連呼はナイかなって思うな」

新堂「星井様の仰る通りでございます。せめて『嘔吐』と…」

春香「いや、あの…別に言い直してまで引っ張らなくても…」

雪歩「うぅ…なんだか私も気持ち悪くなってきちゃった…」

真「だ、大丈夫雪歩!?と、とにかく深呼吸を…」

千早「スゥー……フゥー……」

響「ち、千早も深呼吸し始めたぞ…二人とも大丈夫なのか…?」

亜美「…真美ぃ…ゆきぴょんと千早お姉ちゃん、なんかヤバそうだよ…!?」

真美「…このままだといおりん家の駐車場がゲロゲロキッチンならぬ"ゲロゲロパーキング"に…!?」

伊織「くだらないこと言ってないで、とっととやよいのところに行くわよ!二人もそっちで存分に休むといいわ」

貴音「そうですね…遠回りした分、やよいもきっと心配していることでしょう…」

千早「ええ、早く高槻さんのところへ行きましょうか…」スッ

雪歩「四条さんがそう言うなら…」スッ

響「…二人とも持ち直したぞ…!」

真「分かりやすいなぁ…」

伊織「新堂はもう戻っていいわ。パーティーの準備もあるし。私も少ししたら行くから」

新堂「承知いたしました。では皆様、失礼いたします…」スタスタ…

貴音「…新堂殿は、物腰の柔らかい善き御仁ですね、伊織」

伊織「私が生まれる前から仕えてるからね…新堂に任せておけばまず間違いないわ」

伊織「さ、行きましょ…」

春香「…あれ?伊織、なんかメイドさんが慌ててこっちに走って来るけど…」

伊織「メイドが…?」

メイド「はぁはぁ…あっあの!お、遅れて申し訳ございません伊織お嬢様…!」

メイド「皆様を離れへご案内するよう、仰せつかって参りました…」ハァハァ

伊織「案内を?…新堂かしら…?」

伊織「急いで来てもらったところ悪いんだけど、私が一緒に行くから下がって構わないわよ」

メイド「…さ、左様でございますか…し、しかし…」

伊織「心配いらないわ、どうせすぐそこだし。こんなところで迷いようがないで…」キョロキョロ…

伊織「……あずさはどこ…!?」

あずさ「伊織ちゃんのお家って、駐車場もお庭も広いのねぇ~…」

あずさ「これだけ広いと、道に迷っちゃったりして…」

あずさ「なーんてね…うふふ…♪」

あずさ「…って、あら~?みんなは…?」

伊織「ちょっとあずさ!何勝手に行ってんのよ!離れはあっちよ!あっち!」

あずさ「あ、あらあら~…」

伊織「…あずさが勝手にどこかに行かないよう、よぉーく見張っていなさい…!」

メイド「は、ハイッ!かしこまりました…!」

メイド(…何とか離れまでの同行には成功したわね…)

メイド(有用な情報を聞き出さなければ…またカルプレッタ様に怒られちゃう…!)

メイド(…って!?あの人また違う方向へ…!!)

メイド「み、三浦様!そちらはオランジェリーへの小道です!離れはあちらに…!」

あずさ「あらー?ごめんなさい…」

あずさ「とても可愛らしいお花が咲いていたから、つい夢中になっちゃって…」

メイド(絵本に出てくるお姫様かっ!…くっ…油断ならないわこの人…!)

真美「うーむ…」ガサガサ

真美「やよいっち、喜んでくれるかなーコレ?」

メイド「…!!」

メイド(『やよいっち』って、やよい様のことよね…?どうやら、当たりを引いたみたい…!)

響「真美、何持ってきたんだ?この袋か?」ガサガサ

真美「あ!ひびきん!まだ開けちゃダメだかんね!」

亜美「そうそう、後でやよいっちに開けてもらうんだから!」

貴音「響、これはやよいへの"さぷらいずぷれぜんと"だそうです。ここは辛抱いたしましょう…」

響「うがぁー!…そんな風に言われたら余計に気になるぞ…!早くやよいのとこにいちゅんてー!」

メイド(これはほぼ確定ね…後はやよい様の御姿を確認次第、カルプレッタ様に御報告を…)

メイド(…ッ!?)ブルッ

メイド(な、何…?何か刺さるような視線が…)

貴音「…もし、めいど殿……」

メイド「ひぇっ!は、はい!なんでございましょう?」

メイド(四条貴音…この人の視線だったのか…!まさかバレた…!?)

貴音「…あずさが向こうへ行ってしまいましたが…?」

メイド「…え?あ…あぁーッ!?三浦様!そちらにはプールしかございません!お戻りくださーい!」バタバタ

貴音(…あの者の面妖な素振り…何かを探っていた様な…)

貴音(わたくしの思い過ごしであれば良いのですが…)

メイド「…ぜぇ…ぜぇ…」グッタリ

あずさ「ごめんなさい…私ったらつい…も、もう寄り道しませんから…」

伊織「何やってんのよもう…!遅いじゃない!」

メイド「も…申し訳ございません…!」

伊織「ご苦労様、もういいわよ。今夜のパーティーの事もあるから、早く持ち場に戻りなさい」

メイド「え?あ…あの…お部屋までご案内を…」

伊織「部屋までは私が案内するから、その必要はないわ」

メイド「…承知いたしました。では、失礼いたします…」

メイド(くっ…結局御姿は見られず終い…でも、ここにやよい様がいる可能性は極めて高い…)

メイド(急ぎカルプレッタ様に御報告しなければ…)モゾモゾ…

メイド(…あれ?携帯電話がない!?ここに入ってたのに…)

メイド(まさか…!さっき三浦あずさを全力ダッシュで追った時に…!)

メイド(ど、どうしよ~…!)

庭師「……で、パーティーの準備で大忙しだってのに屋敷を抜け出して、電話を探したと…」

メイド「お屋敷の電話は録音されてるからね…」

メイド「公衆電話をすぐに見つけて連絡はできたけど…出るのはともかく屋敷に入るのは容易じゃなくて…」

庭師「…俺がその尻拭いとはねぇ…」

メイド「…やよい様の所在を確かめる絶好の機会だったのよ…仕方がないじゃない…!」

庭師「侵入を手助けした上に、何時間も勝手に留守にしたお前をフォローしたこっちの身にもなってくれよ…」

庭師「俺まで新堂さんに叱られたじゃないか…」

メイド「カルプレッタ様のお叱りはあんなもんじゃ済まないでしょ…成果を出さなければ意味がないのよ」

庭師「まぁな…ここに居たのを突き止めたのは大手柄だ、そこは認めるよ…」

メイド「ふふん、あなたとは出来が違うのよ。これで私もグランド・ハピネス位昇格に一歩前進ね…」

庭師「へーへー、どうせ俺はラダークへの信心が足りませんよ…」

メイド「…ってこんな話してる場合じゃないわ!仕事に戻らなくちゃ…」

メイド「あなたの携帯電話は借りていくわね。新たな指示が出たら教えるから…」

庭師「へーへー、りょーかいりょーかい…」

メイド「…まったく、本当に不真面目なんだから…じゃあ後で…!」タッタッタ…

庭師「…俺は至って真面目なんだがねぇ…」

庭師「さてと…」ピッピッピッ…

ピッ

『私だ』

庭師「あ、主任ですか?メイドとして潜入してた例の女ですが…」

『うむ…』

庭師『離れに高槻やよいがいることを突き止めたようです…』

『うむ…やはり連中も掴んでいたか…』

庭師「うちの班はいつでも行動を起こせますが…765プロの方はどうなりましたか?」

『こちらは"GOサイン"が出た。予定通り動くよう、全員に伝えろ』ピッ

庭師「了解しました。それでですね、教団支給の連絡用端末は女に取られまして…」

庭師「…って、切れてやがる…相変わらずだなぁあの人は…」

庭師「まぁいいや。こっちも『パーティー』の準備といきますか…」

庭師「ハハ…これじゃあ、また新堂さんに怒られちゃうな…」

今回はここまで。

再開

水瀬家敷地内 離れ 765プロ一行到着直後

伊織「うんしょっと…このドアノッカー…ちょっと重いのよね…」

ガチャン…ゴォンゴォン!

〈ハァーイ、イマアケマース…〉

…タッタッタッタッタッタッタッタッ

ガチャ

伊織「みんなを連れてきたわよ、やよい」

やよい「伊織ちゃん!それに皆さんも、おはようございまー…!」

やよい「わわっ!?…ち!千早さんどうしたんですかぁ!?お顔の色がまっさおですよ!?」

千早「…心配しないで高槻さん…少し気分が優れないだけだから…うっ…」

やよい「大丈夫ですか!?気持ち悪いんですか…?」サスサス…

千早「…たった今大丈夫になったわ…!」シャキ!

真「やよいが背中をさすっただけで、見る見るうちに血色が戻っていく…」

響「…やよヒーリングは効果絶大だぞ…」

やよい「はー…よかったですー…」

やよい「…伊織ちゃんに聞いてた時間を過ぎても来ないから、なにかあったのかなーって…」

春香「まぁ、何かあったといえばあったんだけどね…」

真美「はるるん、みなまで言うなぃ…!」

亜美「聞くもナミダ語るもナミダ…」

伊織「あんた達が泣いてただけでしょうが…」

やよい「…?」

伊織「さ、とにかくみんな中に入りましょ…」

春香「お邪魔しまー…すっ!?」

真「…うひゃあー…離れっていうから小さな別荘みたいなのかと思ったら…!」

雪歩「外側が木で覆われてわからなかったけど…わ、私の家よりも大きいですぅ…」

伊織「二人とも大げさね」

春香「いやいや…芸能人のお宅訪問とかに出てきたら、間違いなく大豪邸扱いだよコレ…」

伊織「私もよくは知らないんだけど、なんとかっていう旧伯爵家の邸宅を移築したものらしいわ」

伊織「でも、建物も古いし外壁も地味だし、今じゃ草木に覆われてるしで、あんまり使ってないのよね…」

伊織「ま、元の主が伯爵だけあって内装とか家具の趣味は悪くないんだけど…やよいも色々不便なんじゃない…?」

やよい「え?…ううん!ぜんぜんそんなことないよっ!」

やよい「お掃除がちょっと大変だけど、ご飯もおいしいし、お風呂も銭湯みたいだし、どのお部屋も広いし…」

やよい「…たまに一人になると…広すぎてちょっと寂しくなっちゃうけど…」

やよい「…あ!で、でもね、他にも色々便利だよ!…えーと、うーんとね…」

伊織「む、無理に理由を挙げなくてもいいから…!…やよいが不便でなければそれでいいのよ…」

やよい「う…うん!私、ここが気に入っちゃったかも!」

貴音「……」

響「ん?どうしたんだ貴音ー?なんか難しい顔して…」

貴音「…いえ、少々考え事を…」

響「ふーん…?」

伊織「やよいの部屋は2階の奥よ…」

真美「…ねぇねぇ亜美、この階段の手すり、シャーってな感じで滑れんじゃない…?」

亜美「むむ…これは後でテストしてみねば…」

伊織「ちょっとあんた達、物とか壊さないでよ…!?」

あずさ「…そう言えばやよいちゃん、ご家族も一緒って聞いていたんだけど…」

やよい「えーと、お父さんは仕事に行ってて、お母さんも用事があって今は外に出てます」

やよい「長介たちは…テレビ局の人とかが学校に集まってしまうので行けなくなって…」

やよい「でも、伊織ちゃんが家庭教師とかベビーシッターの人を呼んでくれたので、3階の広間で面倒を見てもらってるんです!」

あずさ「そうだったの…ご家族も大変なのね~…」

やよい「……私のせい…ですよね……」

あずさ「…あっ、ち、違うのよやよいちゃん…!私、そんなつもりじゃ…」

やよい「わ、わかってます!」

やよい「あずささんは私たちのことを心配してくれただけだって…わかってるんです…」

あずさ「やよいちゃん…」

やよい「…でもやっぱり…私がもっとしっかりしてればって思っちゃって…」

やよい「そうすれば、長介達が学校に行けなくなることもなかったし…」

やよい「それに、私のせいで事務所のお仕事までなくなっちゃって…」シュン…

伊織「…もう!またその話なの!?」

やよい「伊織ちゃん…」

伊織「言ったでしょ、悪いのはラダークなんちゃらとかいうエセ宗教団体の連中で、やよいにはなんの非もないって!」

貴音「その通りです…責めを受けるのはあの面妖な教団と、それに繋がり、わたくし達の道を妨げようとする者達…」

貴音「どうしてやよいを責めることなどできましょう…」

やよい「貴音さん…」

貴音「…伊織やわたくしだけではありません…この場にいる者でやよいを責める者など、一人もおりはしません…」

真「そうだよやよい!大体、やよいを番組から降ろすって話聞いた時、ボク頭きちゃってさ…!」

真「そんなところ、こっちから願い下げだよ!」

雪歩「わ、私も!真ちゃんと一緒にその話を聞いた時すごいショックで…」

雪歩「もし私達だけ呼ばれても…笑顔でお仕事なんてできないよぉ…!」

やよい「真さん…雪歩さん…」ウル…

千早「初めの頃は、仕事がないなんていつものことだったじゃない…」

千早「高槻さんに濡れ衣を着せて、その上事務所まであらぬ疑いをかけようとする人達に…見せてやりましょう…」

千早「仕事欲しさに仲間を見捨てるほど、私達は落ちぶれてはいないってことをね…!」

響「千早!!でーじいいこと言ったさー!!」

響「やよい!自分もそう思うぞ!やよいを見捨てたりするもんか!」

響「いぬ美達も『やよいちゃんは全然悪くないのにおかしい!』って、すっごい怒ってたぞ!ね?ハム蔵!」

ハム蔵「ジュ!」コクコク

やよい「千早さん…響さん…ハム蔵…」ウルウル…

美希「んー、ミキはねー…お仕事できるならその方がいいけどー…」

やよい「あぅ…」

真「えぇ!?ちょ、ちょっと美希…!」

美希「…でもね、やよいの悲しそうな顔見てたら…なんかミキも元気出なくなっちゃって…」

美希「そしたらね、ミキ、お仕事でもキラキラできないなって思うの…」

美希「だから、やよいが一緒にお仕事できるようになるまで、ミキ、ストライキするって決めたの!」

美希「でね、それが終わったら、笑顔のやよいが作った美味しいおにぎりを、お腹いーっぱい食べるの!」

美希「そしたらミキ、きっとまたキラキラできるって思うな♪」

やよい「うぅ…美希さぁん…」グスッ…

亜美「あ!それそれ!亜美もミキミキと"ストライク"する!」

亜美「やよいっちにアダなす者打つべし!!イヤーッ!グワーッ!みたいな感じっしょ?」

真美「亜美ぃ、ストライクじゃなくてストライキだYO!みんなで仕事休んでコウギすんやつ」

亜美「えっ!?お仕事休むだけでいいの?あれ…?じゃあもしかして…その間、遊び放題じゃんッ!?」

真美「遊びながらやよいっちのためにコウギもできる…んっふっふ~まさに一石二鳥ですなぁ…!」

伊織「あ、あんた達ねぇ…」

やよい「亜美ぃ…真美ぃ…」グスッ…グスッ…

あずさ「あらあら…じゃあ私もストライキに参加させてもらおうかしら~♪」

あずさ「…やよいちゃん、さっきは余計な心配をさせちゃったみたいで、本当にごめんなさい…」スッ…

やよい「あっ…」

やよい(あずささんの手…ほっぺたがぽかぽかですぅ…)

あずさ「…私達はいつも、やよいちゃんに元気をもらって助けられて来たわ…」

あずさ「今度は、私達がやよいちゃんを助ける番…」

あずさ「うふふ…だからこれでおあいこ…ね?」

やよい「あ゛…あずささぁん…」ポロ…

春香「…やよい…!」ポン

やよい「は、春香さぁん…!」ポロポロ…

春香「…ここにはいないけど、律子さんや小鳥さんや社長…」

春香「それに…プロデューサーさんも…」

春香「どこに居たって、765プロのみんなの心は…一つなんだよ…!」

やよい「あぅ…う゛ぅ…春香ざぁん…」ボロボロ…

春香「だって…」

 
 
 
春香「だって私達みんな…仲間だもんげ!」

 
 
 

春香「……」

やよい「………もんげ?」ヒック…

春香「……のヮの;」

春香「…ちょ、ちょいタンマ…今のナシで…」

真美「あちゃー…はるるんやっちまったネ…」

亜美「もんげもんげ→」

真「今すごいきれいにまとめに入ったと思ったら…」

雪歩「春香ちゃん、も、もんげって…?」

あずさ「あらあら…」

美希「春香、ある意味おいしいの!」

響「春香、じょーとー…」

千早「『もんげ』ってどういう意味の言葉なのかしら…?春香、できればもっと詳しく教えて欲しいのだけれど…」

貴音「わたくしも存じません…。何やら面妖な響き…『もんげ』とは、一体どのような…」

春香「ああ…穴があったら入りたい…///」

雪歩「え?じゃ、じゃあ少し待ってて、私掘っちゃうから…」ザクザク

春香「ちょっ…言葉のあやだよ!掘らないで!本当に入りたいわけじゃないから!」

やよい「……ふ…」

やよい「……ふっ…くふっ…」

春香「…やよい?」

やよい「ぷぁっ…あっはははははっ!!」

一同「!?」

春香「や!やよいっ!?」ビクゥ!

やよい「あはっ…はぁ…はぁー…ふぅ……」ゴシゴシ…

やよい「春香さんっ!」

春香「は、はいっ!」

やよい「ありがとうございますー!」ガルーン

春香「えぇ!?な、何が…?」

やよい「春香さん、私のことを元気づけようとして、わざと間違えたんですよね!」

春香「…え?えっ!?」

やよい「あそこで春香さんが面白いことを言ってくれなかったら…きっと私…みんなの前でわんわん泣いちゃったと思います…」

やよい「…でも!春香さんのおかげで、にこにこ笑顔でみんなにお礼が言えます!」

やよい「皆さん、ありがとうございますー!!」ガルーン

やよい「ふふっ…私、あんな風に大笑いしたの久しぶりで…だって『もんげ』ってすごく面白かっ…」

春香「や゙よ゙い゙ぃ…!」ブワッ

やよい「ゔえ゙ぇ!?ど、どうして春香さんが泣いてるんですかぁ!?」

春香「…らんでもらいの…やよいう゛ぁほんろうに…良い子らなぁっで…思っで…」ダー

やよい「あうぅ…春香さん泣かないでください…」ナデナデ

真美「やよいっち完☆全ふっか→つ!…って感じだね!」

亜美「うんうん!やよいっちはこうでなくちゃね!!」

真「へへ…やっぱり、やよいにはかなわないや…」

雪歩「春香ちゃん大丈夫かなぁ…やっぱり穴掘った方が…」

あずさ「うふふ♪やよいちゃん、まるでお母さんみたいね…」

美希「やよいママに…はるかちゃん(9)って感じなの!」

響「うぅ…やよいは本当に良い子だなぁハム蔵…」エグエグ

ハム蔵「ジュー…!」エグエグ

伊織(…良かった…みんなを連れてきて正解だったわね…)

千早「『もんげ』ね…春香、憶えておくわ…(そして私も高槻さんにナデナデしてもらって…!)」

貴音「…結局『もんげ』の正体はわからず終いなのですね…」

貴音「…ふふ…まるで六十郎殿の様な…」

やよい「う?この前のおじいさんがどうかしたんですか…?」

貴音「おや…聞こえてしまいましたか…」

やよい「ご、ごめんなさい…私、あのおじいさんのことがずっと気になってて…」

貴音「…そうですね…やよいに全てを話すべきか迷っていましたが…」

貴音「今のやよいなら、きっと受け入れてくれると信じています…」

やよい「どういうことですか…?」

伊織「さ、着いたわ。この部屋よ」

雪歩「はぁ…結構歩いたね…」

真「庭でランニングどころか、陸上競技大会が開けそうだよ…」

千早「…窓から眺めても、とても個人宅の敷地とは思えない広さね…」

真「へー、どれどれ…って、窓でかっ!」

真「うわっ…この部屋もめちゃくちゃ広いじゃないかっ…!」

響「わっ!立ったまま入れるくらいでっかい暖炉…!沖縄にはこんなのないぞ…!」

春香「いやいや響ちゃん…地域の問題じゃなくて、普通の家にはこんなのないよ…」

真美「…というお話だったのサ…= 完 =」キィキィ…

亜美「あー!亜美もその揺れる椅子座りたい!」

あずさ「ふぅ…確かに広いけど、落ち着いた装飾のお部屋ねぇ~」

あずさ「この天蓋付きのベッドなんかも…って、あら…?」

美希「フカフカなの…zzz…」

伊織「まったくもう…何しに来たんだか…」

いい話なのだが仙人様に言われたように花を枯らさずにいなきゃいけないのを忘れてないよな?

やよい「あの…貴音さん、さっきのお話って…」

貴音「…やよい、この話は皆にも聞いてもらわねばなりません…まず一所に集めてください…」

やよい「は、はい!わかりました!」

やよい「みなさーん!ちょっとあつまってくださーい!貴音さんからお話がありまーす!」

ナンダナンダ?
ザワザワ…

今日はここまで。

>>292
貴音「万事抜かりありません…」

再開

貴音「集まりましたね…少々込み入った話になりますが…」

伊織「あんまり長いのは勘弁してよ?」

貴音「心配には及びません。要点を掻い摘まんでお話しいたします」

貴音「…この中で、数日前にやよいが事務所へ連れてきた御老人について、知らない者はおりますか…?」

真「…たぶんその場にいなかった人も、ボク含めてみんな知ってるんじゃないかなぁ…?」

雪歩「その話なら私も聞きました。亜美ちゃんと真美ちゃんから…」

響「自分も二人から聞いたぞ!」

あずさ「あぁ、例の『仙人様』のお話ね~?」

伊織「私はやよいから聞いてるわ」

貴音「それは重畳。では、手短にお話しいたしましょう…」

貴音「六十郎殿を見送ったあの夜、わたくしは散歩を口実にその後をつけました……」

LHS本部 代口瞑想室

代口「ぬぅぅ………!」

代口「…っはぁ!…駄目だっ!」

代口「…壺無しだとこうも手こずるのか…!」

代口「だが水瀬家の離れまでは何とか辿り着いたな…」

代口「765プロのアイドル達も確認できた…もっと集中して…通力を高めさえすれば…」

代口「……ぐぐっ………どいつもこいつも手強いな…!」

代口「……ムッ…?この子は妙にフィーリングが良いぞ…いけそうか…?」

代口「どれ…」

水瀬家敷地内 離れ

貴音「…そこでわたくしは意識を失い、気がつけば事務所に戻っておりました」

貴音「六十郎殿の忠告通り、いんたぁねっとでの誹謗中傷が始まったのはその翌日のこと…」

貴音「プロデューサーにも申しましたが、六十郎殿は何らかの不可思議な力を持っております…」

貴音「わたくしが思うに、その六十郎殿が『なんとかする』と仰るのであれば…」

貴音「一見絶望的なこの状況も、わたくし達が団結して耐え抜けば、収束する可能性もあるのではないかと…」

春香「そんなことがあったなんて…確かに唐突に事務所に戻ってきたのは変だと思ってたけど…」

千早「他で聞いたならちょっと信じがたい話だけど…でも四条さんが言うのなら…」

あずさ「私も信じます。だって、やよいちゃんを守ろうとしているのなら、そのおじいさん、悪い人じゃないと思いますし…」

あずさ「…あら?『人』って言い方で合ってるのかしら…?」

亜美「ホラホラ~、だから亜美が言ったっしょ?あのじいちゃんは仙人様だって!」

真美「亜美!次会ったらサインしてもらおうよ!」

真「仙人…っていうのとはちょっと違うような気もするけど…」

亜美「じゃあ、まこちんはじいちゃんの正体は何だと思う?」

真「え?いやぁ…そりゃわからないけどさ…」

真「昔一度だけ、父さんに太極拳について教わったことがあるんだけど…」

真「その時、一番最初に始めた人が道教を究めた仙人だって聞いたから、たぶん仙人に対するイメージが二人とは違うんだよ」

真美「ドーキョー?」

真「"道(タオ)"の"教"えで道教。よく知らないけど、中国の三大宗教の一つらしいよ」

真美「中国だって亜美!じゃあやっぱり…!」

亜美「ビームくらい余裕で出せるNE!」

真「二人とも真・三國無双シリーズのやり過ぎだよ…!」

雪歩「そのぅ、四条さん…おじいさんがなんとかしてくれるって話ですけど、いつになったらなんとかなるんでしょうか…?」

貴音「それは…わたくしにもわかりません…」

伊織「…フン、亜美真美の冗談としてならともかく、本物の仙人だなんてバカバカしいわ!」

春香「い、伊織…!別に貴音さんが仙人だって言ってるわけじゃ…」

伊織「わかってるわよそんなこと!」

伊織「私が気に入らないのはね、ただ待っていればいいって言う、そのじいさんの話よ!」

貴音「伊織…」

伊織「…本当のところどうなのよ、貴音?」

伊織「このまま何もしないで待てばいいって、本気で思ってるわけ?」

貴音「それは……」

伊織「大体、どんな理由があろうと、やよいに嘘をついて近づいたことが許せないし、信用できないわ…!」

伊織「団結する必要があるって理屈は分かるわよ?でも団結してただひたすら待って、それでどうなるって言うのよ…!」

真「確かに…もうどうにかなるレベルじゃないくらい、バッシングがひどいらしいしね…」

美希「でも真くん、こーいうのはジタバタしてもどうにもならないの…」

真「わ、分かってるけどさぁ…なんかこう…ムズムズするというか、歯痒いというか…あーもーっ!」

真「何ならいっそのこと、教団本部に直接乗り込んで、敵の首魁に一発こう…バシッ!っと…」シュバッ!

真「そしたら世間の誤解も晴れてめでたしめでたし…」

雪歩「出入り…じゃ、じゃなくて!…暴力は駄目だよぅ…」

美希「世間の誤解は晴れてもブタ箱行き…全然めでたくないの…」

雪歩「真ちゃん…短期でもおつとめは辛いんだよ…?」

真「じょ、冗談だよ!冗談だから!」

伊織「真の話もあながち間違いじゃないわ…私達があのインチキ教団と関係があると思われてるなら、私達自身で潰せばいいのよ!」

千早「それは…いくらなんでも無茶じゃないかしら…」

春香「そ、そうだよ!私達アイドルってことを除けば、普通の女の子と変わらな…」

春香「…あー…まぁその…伊織は例外だし…それに…」チラ…

雪歩「…は、春香ちゃん、なんでこっちを見るのぉ…!?」

伊織「何も私達が直接出向くわけじゃないわ。それぞれの伝手を使えば、戦力としては申し分ないでしょ?」

春香「それぞれって言っても、約二名の、だけど…」

雪歩「その…一応、お父さんのお弟子さん達が教団本部のことを調べてくれてますけど…」

雪歩「誰でも入れるのは入り口からすぐの『第一講堂』っていう建物までで、他は警備が厳しいらしいです…」

伊織「一筋縄ではいかなそうね…」

春香「うーん…どうやってその警備の網をかいくぐるか…」

春香「……って違う違う!出来たとしても駄目だよ乗り込むなんて!!」

あずさ「そうねぇ…もうちょっと穏便に済ませる方法はないのかしら…?」

伊織「私は本気よ。このままじゃ埒があかないもの…!」

真「ええと…なんかボクの発言のせいで大ごとになりそうな予感が…」

美希「もー…めんどくさいの…zzz…」

貴音(…このままでは…団結どころか皆の心が散り散りになるばかり…)

貴音(そして…わたくしの心に一抹の不安があるのもまた事実…伊織はそれを見抜いたのでしょう…)

貴音(あなた様…やはり、皆に話すべきではなかったのでしょうか…わたくしはどうすれば…)




やよい「伊織ちゃん!!!」




一同「!?」

貴音(やよい…!)

伊織「い、いきなり大声出したらびっくりするじゃない…!」

伊織「で…何なの…?」

やよい「伊織ちゃん…私達みんなが目指してるもの…忘れてないよね…!」

伊織「当たり前でしょ?私達はトップアイドルに…」

やよい「……トップアイドルって、伊織ちゃんが言ってるようなことするものなの…?」

伊織「や、やよい…!?」

千早(あんな表情の高槻さん…初めて見た…!)

春香(やよい…もしかして怒ってる…?)

真美(うわぁ…いおりんメッチャ動揺してるよ…)

亜美(なんだか亜美まで胃がキュウキュウしてきた…)

やよい「伊織ちゃんが…なんとかしようって思ってくれてるのは、すごくよく分かるよ…」

やよい「…家族みんなを助けてもらってるのに、こんなこと言うのは私のわがままかも知れないけど…でも…」

やよい「私は伊織ちゃんに、ちゃんとトップアイドルになって欲しいかなって…」

伊織「やよい…」

やよい「上手く言えないけど…ここでたくさんの人を巻き込んで大きな力を使っちゃったら…」

やよい「伊織ちゃんが…もうアイドルでいられないような気がして…」

やよい「誤解が解けて…またお仕事できるようになっても…」

やよい「そこに伊織ちゃんがいないなんて…そんなの…そんなのダメだよっ…!!」

伊織「……」

やよい「…お願い伊織ちゃん…おじいさんの言葉を信じてあげて…」

やよい「貴音さんが言うように、おじいさんが困ってたのがウソだったとしても…」

やよい「ご飯を食べてた時や、みんなとおしゃべりしてた時のおじいさんの笑顔は…ウソじゃないと思うんだ…」

やよい「…だまされて壺を貰っちゃった私が言っても、説得力ないかも知れないけど…」

伊織「…そんなことないわ…!」

伊織「やよいは他人のために…どうしたらその人の助けになるかって…そう考えて行動しただけだもの…!」

伊織「それに比べて私なんて…全然やよいの助けになってあげられなくて…」

やよい「そんな…!私だけじゃなくて家族全員、伊織ちゃんに助けられっぱなしなのに…!」

伊織「それは私じゃなくて水瀬の…お父様の力だもの…」

伊織「やよいのために何かしなきゃって思って…でも、みんなを呼ぶことが私の精一杯で…」

伊織「それなのに…バカね私ったら…また水瀬の家の力に頼ろうとして…」

やよい「伊織ちゃん…」

伊織「…貴音、さっきはごめんなさい…」

伊織「その…『仙人様』とやら…ちょっとだけなら信じてみてもいいわ…あくまでちょっとだけね!」

やよい「私も…おじいさんのこと信じてます!」

やよい「貴音さん!大事なお話をしてくれて本当にありがとうございます!」

貴音「…伊織…やよい…わたくしは…」

貴音「わたくしはっ…!!」ガバッ

やよい「はわっ!?」

伊織「ちょっと…!?」

貴音「わたくしは…貴女達のような仲間と共に歩めることを…心の底から誇りに思います…!」ホロリ…

伊織「や、やぁねぇもう…大袈裟なんだから…///」

やよい「ふふ…伊織ちゃん、耳まで真っ赤だよ?」

亜美「いおり~ん、どうよお姫ちんのギュッ!は?」

真美「癒やされるっしょ~?もっと甘えてもイイんだぜぃ…?」

伊織「あーもー!うるさーい!!…調子狂うわね…!///」

伊織「た、貴音ももういいでしょ…」バッ

貴音「はっ…申し訳ありません…わたくしとしたことがつい感極まって…」

やよい「貴音さんの髪の毛、ふわふわで良い香りですぅ!」

春香「ふぅ…これにて一件落着…かな?」

千早「…春香、何か忘れているような気がしない…?」

春香「…え?うーん…言われてみれば確かにそんな気も…」

真「…なんだろう、何か足りないよね…?」

雪歩「ひぃ…ふぅ…みぃ………あれ?何かというか…誰かが足りないんじゃ…?」

美希「うぅん…終わったー?あふぅ…」ムクリ…

雪歩「あ、美希ちゃんはベッドに潜り込んでたんだね…!」

雪歩「あれ…?でもやっぱり一人足りないよぅ…」

あずさ「…あの~、もしかして響ちゃんがいないんじゃないかしら~…?」

貴音「…わたくしが話をする前に一言発したきり、響の声を聞いた憶えがありません…」

雪歩「…いつも元気で明るい響ちゃんが…誰にも気づかれずに忽然といなくなっちゃうなんて…」

真「やめてよ雪歩…!そんな神隠しに遭ったみたいな言い方したら、なんだか気味が悪いじゃないか…」

雪歩「ご、ごめんね真ちゃん…そうだね…私の考えすぎ…だよね…」

真「そ、そうだよ…きっとお手洗いにでも行って…」

…カリカリカリカリ…

やよい「…う?何か音がしませんか…?」

千早「……本当ね、カリカリと何かをひっかくような音が…」

雪歩「あ、あっちのドアの方から聞こえますぅ…!」

真「心なしか、段々音が大きくなっているような…!」

伊織(…ひっかくような音…なるほどね…)

伊織「あ、思い出したわ…!」

伊織「この屋敷の持ち主だった伯爵が亡くなった時、その襲爵権を巡って親族同士でいざこざが起こったって話があって…」

伊織「本当なら伯爵が妾に生ませた幼い息子が継ぐはずだったんだけど…その子、何故か行方不明になっちゃったのよ…」

真「ちょ…ちょっと伊織…!やめようよこんな時にそんな話…!」

雪歩「ひぃぃ…!!い、伊織ちゃんやめてぇ…!」

伊織「ほんの数分の間、乳母が目を離した隙にその子は忽然と姿を消した…」

伊織「でもおかしいの…行方不明になった時は誰も外に出た形跡はないし…逆に入った形跡もない…」

伊織「そもそもその子はやっとハイハイができるようになったばかりの赤ん坊…そんな遠くに行けるはずもない…」

伊織「警察が屋敷や庭を捜索したけど、手がかり一つ出てこなかったわ…」

伊織「…結局はその子の叔父に当たる人が爵位を継ぐことになった…当然財産もね…」

真「だめだ…完全に怖い話モードに入っちゃったよ…!」

雪歩「ど、どうしよぅ…真ちゃん…!」

真「た、貴音は…?」

貴音「わたくしは何も聞こえません…わたくしは何も聞こえません…」ブツブツ…

伊織「でね、実はこの叔父から使用人達に箝口令が敷かれてて、警察も知らなかった事実が一つだけあるの…」

伊織「この西洋式の邸宅を建てる時、元々そこには武家屋敷があって、それを取り壊したらしいんだけど…」

伊織「やたら頑丈な古井戸が残ってね…それだけは取り壊さずに床を張って隠しちゃったのよ…」

伊織「設計上はそこに切石をみっちり積んでいることになっていたから、警察は調べもしなかったってわけ…」

春香「…そ…それってまさか…」

千早「あまり想像したくはないけれど…」

やよい「貴音さん、赤ちゃんはどこに行っちゃったんでしょうね…?」

貴音「何も聞こえません…何も聞こえません…」ブツブツ…

真美「亜美ぃ…いおりんの話、メッチャ怖そうだよ…」

亜美「うぅ…亜美おトイレ行きたいのにぃ…」

伊織「…結局、それから何年か後に、その床下は古井戸ごとコンクリートで埋められちゃうんだけど…」

伊織「しばらくして、使用人達は妙な『音』がすることに気づいたの…ほんの微かにだけど…少しずつ何かを削り取るような音が…」

伊織「主人の命令で原因を調べた始めたけど、建物の問題でもないし、害虫でもネズミでもなかった…」

伊織「そうしている間にも、音は近づいてくるように日に日に大きくなっていって…」

伊織「そしてある日、パッタリと止んだ…」

雪歩「はー…よかったぁ…」

真「いや、よくないよ…!絶対このあと怖いオチがくるんだよ…!」

伊織「…音が止んだちょうどその日、最後まで手をつけていなかった、あの古井戸がある部屋の床を剥がしていたんだけど…」

伊織「床板を剥がした使用人達は我が目を疑ったわ…」

伊織「だって…床下を全てコンクリートで埋めたはずなのに、あの古井戸の場所だけ、ぽっかりと口を開けていたんだから…」ユラリ…

伊織「あまりの光景に呆然と立ち尽くしていると… 突 然 ッ !!」

一同〈ビクッ!!〉

伊織「耳を劈くような悲鳴が…屋敷中に響き渡った…!」

伊織「その悲鳴が誰のものかは明白だったわ…使用人達は急いで主人の部屋へと向かったのだけれど…」

伊織「主人は首から血を流して、惨たらしく死んでいた…その顔は恐怖と激痛とに苦しみ歪んでいたらしいわ…」

やよい「し、死んじゃったんですか…?うぅ…怖いですぅ…」

春香「やよい、たぶん怖がるところがちょっと違うよ…」

やよい「え?でも死んじゃったんですよ?春香さん、死んじゃうの怖くないんですか…?」

春香「え?そりゃ…うん…怖いけど…うん…」

伊織「…でもね…使用人達が戦慄したのは、主人の苦悶の表情なんかじゃなかった…」

伊織「鮮血が滴る床に転々とする『紅葉』のような模様が、そのまま主人のいる場所に向かって這うようにべったりと付いていてね…」

伊織「血に塗れた主人の首には…まるで小さな手で掻き毟ったような、無数の引っ掻き傷がビッシリと…!」

貴音「」

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伊織「そして…止んだと思っていた音がまた聞こえ始めたの…カリカリ…カリカリ…ってね…そう、ちょうど…」


伊織「主 人 が 死 ん だ こ の 部 屋 の 、 あ の ド ア の と こ ろ か ら ね…!」

カリカリカリカリ…

雪&真「いやぁあぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」

亜美&真美「ギャアアアアアアアア!!!!!」

雪歩「…キュー…」バタリ

真「あぁっ!雪歩!ズルいよ!!ボクも気絶したいくらいなのにぃ…!!」

亜美「……あ」ジワ…

真美「あ!亜美ぃ…!」

伊織「にひひっ♪ちょっとやり過ぎたかしら♪」

真「ひ…ひどすぎるよ…!今日はみんなでお泊まりする予定なのに…こんな怪奇現象が起こる部屋で眠れるわけないよ…!!」

亜美「うぅ…ちょっとだけど出ちゃった…亜美もう中学生なのに…」グスッ…

伊織「はぁ…あんた達まだ気づいてないわけ…?」スタスタ…

真「ああっ!伊織何を…まさかドアを開けるつもりじゃ…!!!」

真美「うわぁ!!いおりんダメだよ!!殺人赤ちゃんが入ってきちゃうじゃん!!」

伊織「開けるわよ。いつまでもカリカリと音がしてたらうるさいでしょ?」

ガチャ

真美&真「うわぁぁぁぁあああっ!!!」

ハム蔵「ヂュッ!!」シュタタタタタタ…

真「……え……?」

真美「……ハム蔵…?」

春香「音の正体は…ハム蔵だったの…!?」

真「ど、どういうこと…だってあの話では…」

伊織「あんなの、即興の作り話に決まってるじゃない?」

真「え?……えぇーっ!?」

伊織「ここに来た時に言ったはずよ、『私もよくは知らないんだけど』って…」

伊織「名前も知らない伯爵家のお家騒動なんて余計知るはずないじゃない…そもそもこの屋敷は移築したって言ったでしょ?」

伊織「さっきの話みたいないわく付きの屋敷をわざわざ移築するなんて、それどんな物好きよ…」

真「り…リアリティありすぎだよ…」ヘタリ…

真美「うぐぅ…ある意味いおりんが一番怖いYO…」

やよい「ハム蔵がドアの向こうにいたってことは…響さんもやっぱり部屋の外に…」

春香「何も言わずにいなくなるなんて…本当におトイレでも探しに行っちゃったのかな…」

あずさ「あの~…もう怖いお話は終わったかしら~?」モゾモゾ…

千早「あずささん…!?そんなところに…!」

あずさ「私幽霊とか苦手だから…ついベッドの中に隠れちゃった…♪」

美希「ちょうどいい抱き枕だったの♪」

貴音「」

やよい「あぅぅ…貴音さん、しっかりしてください~…」

雪歩「」

真「起きてよ雪歩ぉ…」

真美「亜美…大丈夫…?」

亜美「うぅ…亜美、中学生でお漏らしなんて…もうお嫁に行けないかも…」グスグス

春香「へ、平気だよこれくらい!意外とチョロッといくことはあるから…ね!千早ちゃん?」

千早「…え?そ、そうね…(普通はチョロッといくものなのかしら…?)」

春香「で、でしょー?(あれ?千早ちゃんリアクション薄いな…もしかしてチョロッといくのって普通じゃなかった…?)」

伊織「…ほ、ホントにちょっとやり過ぎたわね…」

同時刻 離れの別の場所

響「……」

響「…上手くいったか…?」

響「おお、大丈夫そうだな…!」

響「…さて、問題は壺がどこにあるかだが…」

響「憑依に時間がかかったせいで、どうやらこの娘、朦朧状態で彷徨ったらしいな…」

響「千里眼を使って見ていた部屋の様子とはだいぶ違うようだ…」

響「憑依状態では千里眼は使えないし、とにかく探してみるか…適当に部屋を覗いていけばその内見つかるだろう…」ガチャ…

響「…な…なんだこの長い廊下と部屋の数は……!?」

水瀬家敷地内 離れ やよいの部屋(借)

ハム蔵「ヂュッ!ジュジュー!ジュッジュ!ヂュジュジュッヂュジュー…」

ハム蔵「ジュジュジュッジュヂュー!ジュッヂュジューヂュジュッジュー…!」

ハム蔵「ヂュヂュ?ジュジュー?ジュジュー!…ジュジュヂュ…ヂュッヂュ!」

春香「ふんふん…なるへそなるへそ…!」

千早「春香…さっきからハム蔵と会話しているように見えるけど…何か分かったのかしら…?」

亜美「…いつの間にハム蔵との会話スキルを…!」

真美「ひびきんレベルの個性をゲットするなんて…はるるんはやれば出来る子だって、真美はずっと思ってたYO…!」ウンウン

やよい「うっうー!春香さんすごいですー!」

春香「…みんな聞いて、大体分かったわ…」

春香「何一つ分からない…ということがね…!」Σdのヮの

美希「その答えも大体分かってたの…」

あずさ「やっぱり、響ちゃんがいないと難しいわよねぇ…」

貴音「……はっ…わたくしは一体…」

やよい「あ、貴音さん気がついたんですね!良かったですぅ…」

貴音「やよい…あのような惨劇がこの屋敷で起きたとは…嗚呼…なんと恐ろしい…!」

やよい「あ、あれは伊織ちゃんの作り話ですから大丈夫です!赤ちゃんは無事ですから!」

伊織「だから、そんな赤ん坊最初からいないんだってば…!」

真「…雪歩はまだ気絶したままだし…みんなで手分けして響を探しに行ければよかったんだけど…」

伊織「…仕方ないわね…大体の間取りくらいは分かるから、私が探しに行くわ…」

伊織「…春香と千早も手伝ってちょうだい」

春香「え?私達?」

千早「別に構わないけれど…」

真美「水瀬いおりん探検隊というわけですな、亜美隊員…!」

亜美「我々はついに!人類未踏の奥地に足を踏み入れるのだよ真美隊員…!」」

真美「大富豪の古びた洋館に、幻の獣人ヒビゴンは実在した!!」

あずさ「うふふ♪面白そうだから私も…」

伊織「却下!却下よ!わざわざ行方不明者増やしてどうすんのよ!」

伊織「私達3人で探しに行くから、残りはここで待ってなさい」

伊織「特に!あずさ、亜美、真美はフラフラ出歩かないこと!わかったわね?」

伊織「…さ、春香、千早、行きましょ」

ガチャ…バタン…

真美「あーあー…真美も探検したかったのにぃ…」

亜美「亜美達そんなに信用ないのかなぁ?」

あずさ「そうよねぇ、ちょっと響ちゃんを探すくらい…」

亜美&真美「いやいや、あずさお姉ちゃんはダメっしょ…」

あずさ「ふ、二人ともひどいわぁ~…」

今回はここまで。

伊織の怪談話のくだりで文字化けした>>339にビビって思わず部屋見渡した…

再開。

ガチャ…

響「ここは……違うか…」バタン

響「一旦この体から離れて部屋に戻るのを待つか…」

響「いや、そもそもこの子も元の部屋の位置を分かっていなさそうだな…」

響「…ん?…誰か来る…!」

春香「はぇ~…本当に広いよね…このお屋敷…」

伊織「昔は今より使用人が多くて、この離れの半分も使用人達の住む場所として使われていたらしいわ」

伊織「確か…部屋数だけなら本邸以上だって、新堂がそんなこと言ってたわ」

伊織「ま、結局そのせいで小さな部屋ばっかりやたら多くて、何かと使いづらいんだけどね…」

春香(私の部屋よりもはるかに広いことは、心の中に留めておこう…)

春香「…それにしても、響ちゃんどこまで行っちゃったんだろ…」

千早「もしかして別の階に行ったのかしら…」

伊織「はぁ…じゃあ一階から順に探してみる?」

響「あれは確か…天海春香に如月千早…そして水瀬家の令嬢、水瀬伊織…」

響「なるほど…我那覇響を探しに来たのか…」

響「…ん?待てよ…今の私はその『我那覇響』本人なのだから、何もコソコソ隠れる必要などないじゃないか…!」

響「フフフ…むしろ渡りに船とはこのことだ。連中について行けば、壺の在処もわかるだろう」

響「…壺を奪い返し、高槻やよいも我が手中に…!」

響「よし…ファイルに書いてあった通りにやれば怪しまれることはないだろう…」

響「どれ、昔取った杵柄だ…」

響「あー、あー、うぉっほん!」バッ

響「はいさーい、自分、我那覇響だぞー!」

千早「あ、我那覇さん…!」

伊織「ったくもう!どこ行ってたのよ!」

響「すまな…ご、ごめん、トイレ探してたら迷っちゃって…」

春香「あ、やっぱりそうだったんだ!…よかったぁ…何事もなくて」

伊織「無事見つかったことだし、さっさと戻りましょ」

春香「そうだね!ハム蔵も心配してるだろうし…」

響「…はむぞー?そんな名前のアイドルいたかな…?」

春香「へ…?」

千早「…我那覇さん…?今なんて…」

伊織「何寝ぼけたこと言ってんのよ?自分が飼ってるペットの名前も忘れたの?」

響「!?……あ、ああ!はむぞーかー!そ、そんなのいたなー!たった今思い出したぞ!あ、あはは…は…」

響(しまった…!ペットを大量に飼っているとは書いてあったが…まさか連れてきているとは…!)

響(はむぞー…ハム…ブタか何かか…?)

春香「…ねぇ、千早ちゃん、伊織、ちょっと…ちょっとだけこっちに…」グイッ

伊織「ちょ、何なのよ…」

千早「春香…?」

春香「あ、響ちゃんはちょっと待っててね…」

響(マズいな…今ので完全に怪しまれてしまった…!)

春香「…ねぇ…響ちゃんがハム蔵の名前を忘れるなんて、あり得ると思う…?」

伊織「あり得るも何も、さっき完全に忘れてたじゃない…」

春香「たとえば、冗談で言ってみたとか…」

千早「…冗談でとぼけてみたって感じには見えなかったけど…」

春香「じゃあやっぱり…」

千早「春香、何か思い当たることでもあるの…?」

春香「ハム蔵の話を聞いてた時に思ったんだ…なんだか普段と様子が違うっていうか…」

千早「普段通り、身振り手振りでヂューヂュー言ってたようにしか見えなかったけど…」

春香「それはそうなんだけど…なんか必死というか焦っている感じで…」

春香「それとさっきの響ちゃんの発言を併せて考えると…」

千&伊「考えると?」

春香「響ちゃん、きっとハム蔵とケンカしたんだよ…!」

伊織「あのふたり、ケンカなんてしょっちゅうしてない?」

春香「それは、ケンカって言っても軽いノリのやつでしょ…」

春香「ハム蔵を『そんなのいたなー』なんて言う響ちゃん、絶対普通じゃないよ!」

千早「だとしたら、相当深刻なケンカなのかも知れないわね…」

春香「今あの状態で部屋に戻ったら、ハム蔵と険悪なムードになっちゃうかも…」

伊織「やよいを元気付けようとしてみんなを呼んだのに、そんなことになったら台無しじゃない…!」

春香「でしょ?だからさ…」ゴニョゴニョ

伊織「…それ、ちょっとストレートすぎない?」

春香「でも、響ちゃんに回りくどい言い方はかえってややこしくなりそうで…」

千早「…そうね、我那覇さんにはそれくらい直接的に聞いた方が、後腐れがなくて良いんじゃないかしら」

響(…ん?こっちに戻ってくるな…一体何を話していたんだ…)

春香「…あのね、響ちゃん…」

千早「今、少し話し合ったんだけれど…」

伊織「…響、私達に何か隠し事してるんじゃない…?」

響「ドキッ…!」

春香「もしそうなら、正直に話して欲しいな…なんて…(今ドキッて口で言った…)」

響「そうか…いつ気づいたんだ…?」

春香「えーとその…響ちゃんとはぐれたハム蔵の様子がおかしかったから…もしかしてと思って…」

響「…それだけか?」

春香「響ちゃんのハム蔵に対する態度も…その…いつもと違うみたいだったから…」

響「なるほど…これはトンだ誤算だったな…ブタだけに…」ボソッ

春香「え?」

伊織「?」

千早「…ブタ…?」

響「ふ…今さらとぼける必要もあるまい…」

響「私も焼きが回ったものだ…まさか、こんな小娘共に早々に正体がバレるとはな…!」

春香「ひ、響ちゃん、急にどうしたの…!?」

響「白々しい真似はよせ天海春香よ…我が正体を見破ったからには、多少は貴様にも通力の心得が…」

シュタッ!

ハム蔵「ヂュッ!!」ボフッ

響「はむぅう゛ぁっ!?前が見えな…!」

春香「うわっ!?…ってあれ?」

伊織「ハム蔵!?」

千早「ハム蔵がどうしてここに…?」

亜美「真美ぃー!こっちにいたYO!」

真美「よくやったハム蔵隊員!」

伊織「亜美!真美!部屋で待ってろって言ったのに…!」

真美「いやー、違うんだよいおりーん…真美がね、ちょぉーっと部屋の外を見ようと思ってドア開けたらさ…」

亜美「ハム蔵が外に飛び出しちゃったから、そのまま追いかけてきたっちゅーわけだよ、うん」

響「……ぷあっ!はぁはぁ…」

ハム蔵「ヂュイ!」ブラリン

響(…な!?これがはむぞー…?ブタじゃなくて、ハムスターだったのか…!)

ハム蔵「ヂュヂュイ!!」

響(…ん?このハムスター、我那覇響の様子がおかしいのを心配しているのか…)

亜美「ぜんぜん迷わずにひびきんのとこまでハムまっしぐらだったYO!」

真美「LOVEぅ…いわゆる愛の力ってやつですなぁ…」

春香「なんだ…私てっきり響ちゃんがハム蔵とケンカしたのかと…」

響(何…!?じゃあ正体が見破られたと思ったのは早合点だったのか…!)

伊織「ちょっと響、さっき急にわけわからないこと言い出したけど、なんなのあれ?」

千早「確か…ブタがどうとか、正体を見破った…とかなんとか…」

春香「そうそう!突然でびっくりしちゃったよ…」

響「あ~…あれはだな…(何か適当にでっち上げねば…)」

響「と…トイレを探しに来て迷ったって言ったけど…本当は演技の練習がしたくて外に出たんだ!」

千早「我那覇さんが演技の練習を…?」

響「そうだぞ!さっきのも、ドラマのオーディション用台本にあった台詞なんだ!」

響「人前でもぶっつけでやってみたくて…驚かせてごめんね!」

伊織「なんだそうだったの…通りで珍妙な言い回しだと思ったわ…」ハァ…

響(珍妙だと…ぐぬぬ…!いやいやまてまて…こ、ここは堪えねば…!)

春香「もー、本当に驚いたよー!まるで何かに取り憑かれたみたいで…」

響「は、ははは…」ビクビク…

真美「んっふっふ~♪では無事発見ということで…」ジリ…

響「…え?」

亜美「ヒビゴン捕獲作戦発動!!」ブワッ!

響「うわっ!前が見えな…!!」

真美「亜美ソッチ持って!グルグル巻きにすんよ!」ダッ!

亜美「ガッテン承知の助ー!!」

亜美&真美「うりゃぁぁぁあああああ!!」ダダダダダ!

響「うぎゃああああ!?やっ…やめろぉぉぉおお!!」ジタバタ

ビターン!

真美「…現在時刻ヒトマルマルマル!ヒビゴン捕獲確認!!」

亜美「やったね真美隊員!またしても人類の勝利だYO!」

春香「わ、わざわざシーツまで持ち出して…」

伊織「…で…こんなもん用意してるってことは…」ピクピク…

伊織「あんた達ぃ!!やっぱりわざとハム蔵を逃がしたわねぇっ!?」クワッ!

亜美「うわぁっ!いおりん怒んないで!」

真美「亜美隊員!対いおりんフォーメーションで緊急離脱だ!」ダッ!

亜美「…ラジャー!!」ダッ!

伊織「な!二手に分かれるなんて反則よ!ちょ…待ちなさいッ!!」タッタッタ…

春香「伊織まで走って行っちゃった…ちゃんと部屋まで戻れるかなぁ…」

千早「春香…我那覇さん、大丈夫かしら…?」

春香「うわぁ…エジプトのミイラみたいになっちゃってるよ…」

響「…もふ…はえひはい…(もう…帰りたい…)」

もうちっとだけ続くんじゃ(亀)

やよいの部屋(借)

やよい「貴音さん…伊織ちゃんたち、なかなか戻ってきませんね…」

貴音「そうですね…何事もなければよいのですが…」

貴音「…ところでやよい、今何時(なんどき)か分かりますか?」

やよい「えと…この部屋の大っきな時計の針は、10時くらいをさしてます」

貴音「では、もうそろそろ頃合いですね…」

貴音「やよい、後ろに置いてある紫の風呂敷包みを取っていただけますか?」

やよい「紫の……これですか?」

貴音「そうです。中の荷が崩れないよう、静かに解いてください…」

貴音「とても…とても大事なものですから…」

やよい「うぅ…そう言われると緊張しちゃいますー…」

シュル…シュルル…

やよい「…あっ…」

今日はここまで
シルバーウィークの間にもうちょっと進めたいな…

再開

やよい「あのかきつばたの花…それに…」

貴音「そう…あの日、やよいが持ってきた壺です…」

やよい「……」

貴音「ところで、どこか水を汲めるところはありますか?」

やよい「…え?あっ…えと…新堂さんが置いてくれたウォーターサーバーが…」

やよい「あ、貴音さんの後ろにあるそれです!」

貴音「これですか…?わたくし、てっきり水槽か何かだと…」

やよい「えーと…ここのレバーを押すとお水が出てきます。こっちの赤い方はお湯で…」

貴音「なんと、お湯も出るのですか…!これはかっぷらぁめんを食べる時に便利ですね…」マジマジ

シャァァァ…

やよい「…あの…貴音さん…」

貴音「なんでしょう?」

やよい「お花はきれいですけど…なんで…どうしてその壺まで持ってきたんですか…」

貴音「…全ては壺から始まったこと故、やよいが快く思わないのは是非も無いことですが…」

貴音「目を背けたままでもいいので、少しばかり、わたくしの話を聞いていただけますか…?」

やよい「……はい」

貴音「先程皆の前で話した終わりの部分、わたくしが気を失う直前のくだりを憶えていますか?」

やよい「ええと…たしか、かきつばたのお花を枯らさないようにっておじいさんが…」

貴音「その通りです」

やよい「でも、それなら…」

貴音「花だけ別の器に移せば済むこと…何故に壺まで一緒なのかと…そう言いたいのですね」

やよい「はい…」

貴音「六十郎殿は“壺に入った杜若を、水を絶やして枯らさぬよう”にと、そう仰いました」

貴音「この花は、わたくしのらぁめん探訪百回記念のお祝いとして、番組制作陣のご厚意から贈られたものです」

貴音「生花店等で市販されていたものでしょうから、この花自体が特別な力を持っているとは思えません」

貴音「壺の入手経緯の真偽は不明ですが、わたくし達の助けになる可能性があるとすれば…恐らく…」

やよい「で、でも…私が『幸せを呼ぶ壺』だなんて言われて持ってきちゃったせいで…」

やよい「みんなにも…家族にも…迷惑かけちゃって…プロデューサーや律子さん、小鳥さんも大変な思いをしていて…」

やよい「全然幸せなんかじゃないです…こんなの不幸の壺です…」

貴音「…この壺が幸せや不幸を呼び込むものか否か…それはわたくしにも分かりません…しかし…」

貴音「単に『杜若の花』と言わず、『壺に入った杜若』と六十郎殿が言い及んだ事には、重要な意味が隠されているのではないかと…」

貴音「…それが、ここ数日間に思案した末の、わたくしの出した答えなのです」

やよい「重要な意味…ですか…?」

貴音「確実なものではありませんが…あの夜の体験以降抱いた疑問に対する、わたくしなりの推論です」

貴音「そもそも、今の事態を六十郎殿が予見できていたのだとすれば、教団と接触する前にやよいを止めることも出来たはずです…」

やよい「でもそれは…」

貴音「勿論、その時点では後に起こる事態をまだ知らなかったとも考えられます…」

貴音「ですが…もし仮に、知りながらもそれが『出来なかった』のだとすれば…」

貴音「あの時点での六十郎殿は、その行動に何らかの制約を受けていたことになります」

貴音「しかし、そこからやよいの前に姿を現すまでの間に、その制約から解放された…」

貴音「その『間』に起こった、六十郎殿の助言と関わる出来事はただ一つ…」

やよい「その間に起こったこと…」

やよい「…私が壺を貰って…それを小鳥さんに渡して…」

貴音「受け取った小鳥嬢は、その壺に杜若の花を生けた…」

貴音「わたくし達に降りかかった災難も、六十郎殿という希望も、”全ては壺から始まった”のです…」

貴音「六十郎殿は自らの行動に再び制約がかかることを防ぐために、あのような助言をわたくしに残したのでしょう…」

貴音「……そして……」スッ…

やよい「……貴音さん?」

貴音「どうやら…わたくしの推論は当たっていたようですね…」スタスタ…

やよい「あ!貴音さん!ま、待ってくださいー…!」アタフタ

真「…あ、貴音!雪歩ならたった今気がついたところで…」

雪歩「し、四条さん、心配かけてごめんなさい…!私本当にダメダメで…」

貴音「雪歩、気に病むことはありません。あのような恐ろしい話をまともに聞いたのですから、無理もありません…」

貴音「それはそれとして…そんなところに隠れていないで、出てきては如何ですか?」

雪歩「…え?え?四条さん…?」

真「隠れてって…一体何を…」

モゾモゾ…

雪歩「ひっ…!」

真「うわっ!?ベッドの中に何かいる!?」

「…今度はわしの方が見つかってしまったようじゃの…カッカッカ…」モゾモゾ

雪歩「ひぃっ!?毛布からおじいさんがーっ!!!わ、私…男の人と一緒にベッドに…」

雪歩「…キュゥ…」パタリ

真「ゆ、雪歩っ!!へ、変質者!?雪歩に手を出す気なら、お年寄りだって手加減はしないよ…!!」グッ

やよい「あっ!おじいさんっ!?」

六十郎「おお、やよいちゃんしばらくじゃのぅ…と言うても一週間も経っとらんか?」

真「お、おじいさんって…それじゃあこの人が例の仙人…?」

六十郎「仙人?ははぁ…さてはあの双子の嬢ちゃん達じゃな?よほどわしを仙人っちゅうことにしたいようじゃの」カッカッカ

貴音「今か今かと、首を長くしてお待ちしておりましたよ、六十郎殿…」

六十郎「貴音さんのような別嬪さんを待たせるとは、わしもつくづく罪な男よのぅ…」

六十郎「…なんてな。よっこらせっと…」

六十郎「それにしても、お前さんは本当に鋭いのぉ…この前会うた時より数段、研ぎ澄まされておる」

貴音「ふふ…六十郎殿のおかげです。あのような感覚は久しぶりでしたから、きっと良い刺激になったのでしょう…」

六十郎「今のお前さんなら、もう一つの方も気づいておるんじゃろ?」

貴音「ええ…先程まで六十郎殿の気配と混ざっていましたが…今ははっきりと…」

六十郎「ま、そっちは勝手にここまで来るじゃろうて…それよりも…」

六十郎「やよいちゃん、わしゃお前さんに謝らなければならん…」

六十郎「守りたい一心でやったこととはいえ、やよいちゃんに嘘をついてしまったのじゃからな…ほんに申し訳ないことをしたのぅ…」

やよい「あの…おじいさん…一つだけ聞いてもいいですか…?」

六十郎「…なんじゃ?」

やよい「…私の作ったご飯をおいしいって食べてくれたこと…あれは…」

六十郎「あれは間違いなく、わしが今まで食べた中でも3本の指に入ろうかっちゅう、心も腹も満たされる美味しいご飯じゃったよ!」

やよい「…!」

六十郎「事食べ物に関して、わしは自分にも人にも嘘は言わん。握り飯一つとて疎かにはせんよ」

美希「あふぅ…握り飯…おにぎり…どこなの…?」

あずさ「あら?美希ちゃん、お昼寝はもういいの?」

美希「…お昼寝の前にお昼ご飯なの。腹がへっては昼寝も出来ないって…」

美希「…あれ?あそこにいるの、この前のおじいちゃんなの…!」

あずさ「そうらしいわねぇ…なんだか、急に現れたみたいだけど…」

やよい「うっうー!それなら何も問題ないです!!だから、おじいさんももう気にしないでください!」

六十郎「そうかそうか…こちらこそありがとう、やよいちゃん」

真「あの…失礼ですけど、一体いつの間にベッドに潜り込んで…」

六十郎「ま、お嬢さんや、そういう些細なことはあまり気にしなさるな」

真「…え?お嬢さんって…ボクが女の子だって知ってたの?」

六十郎「お前さんに会うたのも見たのも今日が初めてじゃが、一目見れば女の子とわかるわい」

六十郎「凜々しい中にも愛らしさを備えた、実に良い顔立ちをしておる」

真「ほ、本当ですか…?ボク、初対面の人にそんな風に言われたの初めてだなぁ…えっへへ…♪」

美希「おじいちゃん!ミキの真くんを誘惑しちゃダメー!」ムギュッ

真「うわっ!美希!?」

六十郎「おお、眠り姫のお嬢ちゃんか。誘惑とは心外じゃのぉ…わしゃこちらの真さんを『可愛らしいお嬢さんじゃなぁ』と、思うたことを述べたまでじゃ」

真「ま、参ったなぁ…可愛らしいだなんて…えへへ…♪///」テレテレ

美希「もー!真くんチョロすぎなの!!」

あずさ「初めまして~…三浦あずさと申します。お噂はかねがね…」

六十郎「ほぉ…あんたがあずささんか…!」

六十郎「やよいちゃんに聞いた通り、これまたえらい別嬪さんじゃのぉ…」

あずさ「まぁ…うふふ…ありがとうございます♪」

六十郎「お前さんは『運命の人』を探しとるそうじゃが…本当かの?」

あずさ「はい…お恥ずかしい話ですが…」

六十郎「何を言いなさる、とても大切なことじゃよ…どうじゃ、わしが『運命の人』なんてことは…?」

あずさ「そうですねぇ…できれば、もう少し早くお会いしたかったかしら~♪」

六十郎「カッカッカ!こりゃ一本取られたわい。若い時にお前さんに逢うていればのぉ…」

貴音「六十郎殿…かなり近づいてきたようですが…」

六十郎「ふむ…もう間もなく此処へ着くようじゃな…ま、そう焦らんでも心構えさえあれば心配はいらん」

真「貴音…『もう一つの方』とか近づいてきたとか、さっきから一体何のこと…?」

貴音「今、わたくし達のいるこの部屋に面妖な気配が近づいているのです…」

六十郎「それもな、わしの見立てでは、どうもお前さん達の仲間の誰かに取り憑いておるようなんじゃよ

真「取り憑いてるって…それってその…お、怨霊とか妖怪みたいな…?」

貴音「…!ど、どうなのでしょう六十郎殿…?」

六十郎「いやいや、お前さん達が想像しているほど恐ろしげなものではないから安心せい」

六十郎「じゃが…少なくとも結界を張る位の心得はあるようじゃ…奴(やっこ)さんもわしがいることに気がつきおったわ」

貴音「確かに…気配を感じとれなくなりました…」

六十郎「貴音さんや…わしの代わりに戻ってきたお仲間に、こう伝えて欲しいんじゃ…」

六十郎「ここ数日の間、お前さん達は各々、苦しく辛い思いをしてきたじゃろうが、それでもまだ人の世の出来事に過ぎん…」

六十郎「ここからはな、『この世の理』っちゅうやつが、少しの間通用せんことになるかも知れん…」

六十郎「何が起きても取り乱さぬ様、心構えが肝心じゃ…とな…」

貴音「また、どこかへ行かれるのですか…?」

六十郎「あの教団の輩に妙な動きがあっての…なぁに、ほんの『挨拶』程度じゃ、心配はいらん」

六十郎「それと…やよいちゃんや」

やよい「う?なんですか?」

六十郎「あの若いの…『プロデーサー』じゃったかの…?」

やよい「プロデューサーがどうかしたんですか…?」

六十郎「もしかするとな、やよいちゃんに突拍子もないことを言ってくるかも知れんが…」

六十郎「その時はな、プロデーサーを信じてついていくと吉じゃ」

やよい「吉…?なんだか、おみくじみたいですね?」

六十郎「御神籤か…カッカッカ…如何にも如何にも…」

六十郎「どれ…そろそろ行くとするかの…」

やよい「あの…また会えますよね…?」

六十郎「勿論じゃとも」ニコリ

バァン!!

一同「!?」

亜美「とうちゃ→く!!」

真美「作成大成功!いおりんを振り切ったぜぃ!!」

やよい「亜美!真美!」

真「妙に大人しいなと思ったら…部屋の外に出てたのか…!」

伊織「はぁはぁ…アンタ達卑怯よ…こっちはヒール履いてんだからね…」グッタリ

貴音「春香や千早、それに響はどうしたのですか?」

伊織「…へ?どうしたってちゃんと響を見つけて……」

伊織「…しまった!三人とも置いてきちゃったわ!」

亜美「いおりんはオッチョコチョイだねぃ~」

伊織「誰のせいだと思ってんのよ!」

あずさ「春香ちゃん達、大丈夫かしら~?」

真美(たぶん、あずさお姉ちゃんよりは大丈夫だと思うよ…)

真「…ん?廊下の奥の方にいるの、ほらあれ、春香達じゃないかな…?」

美希「ドコドコー?…あ、本当だ!」

真美「はるるーん!こっちこっち!」

春香「あ、真美が手振ってる!良かったー…なんとか辿り着けたよ…」

千早「ハム蔵が教えてくれた道順、合っていたみたいね」

ハム蔵「ヂュ!」ドヤァ

響「……」

響(何だったんださっきの気配は…あれは人のものではなかったが…まさか…)

春香「…?響ちゃんどうかしたの?深刻な顔して…」

春香「あ、もしかしてさっきの亜美真美のイタズラの事、まだ怒ってたり…」

響「え?…ああ!ぜ、全然気にしてないぞ!それより早く行こうよ!」ダッ

春香「え!?ちょっと待って響ちゃん!」ダッ

千早「…何も春香まで走らなくても…」

貴音「…三人しか居ないはずなのにぼんやりとした人影が六つも…面妖な…!」

真美「お姫ちーん、たぶんソレ、近づいてきた時には三人になってると思うYO」

やよい「おじいさん、千早さんと響さんには初めて会いますよね?」クルッ

やよい「…あれ?おじいさん…?」キョロキョロ

LHS本部地下 教団秘密青年隊「サンズ・オブ・L」修練所

隊長「…というわけで、今朝、ラダークの助力を得た代口様御自らが、やよい様の居所を突き止めてくださった」

隊長「水瀬財閥はゲネゲに惑わされて、我が教団とやよい様を貶めた上、あろう事かやよい様を監禁するに至った」

隊長「我が教団は、大宇宙と地上の偉大なる創造者にして、理性と愛の守護者たるラダークの加護の下にある」

隊長「中でも諸君らは、ゲネゲの眷属を武を持って打ち倒すという、重大かつ神聖な使命を与えられている」

隊長「…この任に就くため、諸君らが教団に属しているという一切の書類は無く、位階も与えられていない」

隊長「だがしかし…いや、だからこそ!自らを贄とする諸君らには”ラダークの息子達”という栄誉の名が冠されたのだ!」

隊長「間違いなく諸君らこそ、人々が幸せを享受する世を築くために、ラダークによって生を受けた破邪顕正の尖兵である!」

隊長「ハッピネス!!ラダークに栄光あれ!」

隊員達「ハッピネス!ハッピネス!ハッピネス!」

隊長「…今後別命が下されない限り、きっかり正午に「やよい様救出作戦」を決行する…!」

隊長「最後に、敵に拘束されそうになった場合は、聖なる教えに基づいて『自力解決』するように」

隊長「決して教団との繋がりを漏らさぬ様、各人に厳命する…!」

隊長「ブリーフィングは以上だが…作戦内容について不明点がある者はいるか?」

「隊長さんや、一つ聞いてもいいかの?」

隊長「…ん?誰だそんな口の利き方をする奴は…!」

「わしじゃ、ホレ、ここにおるじゃろ?ここじゃって!」

「まったく、お主ら揃いも揃って体がでか過ぎじゃわい…」

隊員A「うわっ!?なんだこのじいさん!」

隊員B「い、いつの間に隊列の中に…!」

隊長「…!?部外者が何故ここに…!一体何者だ!」

六十郎「わしか?わしはな、越後のちりめん問屋の隠居で、光右衛門と申す…なんてな!」カッカッカ

六十郎「ところで、お主ら何人くらいいるんかの?わしゃ背が低くてここからではよう分からんので教えて欲しいんじゃが…」

隊長「…っ!!ふざけやがって…おい!その爺を拘束しろ!!」

隊員C「ハッ!おい爺!大人しくしろ…って…あら…?」

隊員D「きっ…消えたッ…!?」

隊員A「どこに行った…って!?…た、隊長殿…!後ろ後ろ!」

隊長「何?後ろがどうした…」

六十郎「別に消えとりゃせんわい」ヌッ

隊長「なっ…!どうして…!!…っとっとっ…のわっ!」ドタン!

隊員A「隊長殿!大丈夫でありますか!?」

六十郎「おお、スマンのぅ…この壇上から見た方が、お主らの数がわかるかと思うてな…」

六十郎「ひぃふぅみぃ……はぁ…三十人か…こりゃ思ったより多いのぅ…」

隊長「くそっ…この爺妙なトリックを使うぞ…構わん!撃ち殺せ!!」

ジャカッ!

六十郎「初対面の老人を撃ち殺せとは、まったく物騒な連中じゃわい…」

ダダダダダダダダダダダッ!!!!

チリンチリンチリンチリンチリンッ!!!!

チリーン…カラカラ…カラン……

六十郎「……なんじゃ?もう終わりかの?こんなもんじゃ肩のこりすらとれんぞ」

隊員B「ぜ、全然効いてない…!?」

隊員E「傷一つ無い…ば…化物…!!」

隊長「…トリックだ!トリックに決まっている!もっとぶち込むんだ!!頭を狙え頭を!」

六十郎「こんな美男子の顔を傷つけようとするとは、血も涙も無い連中じゃのぉ…」

六十郎「それにな、わしゃ昔から火薬クサいのが大の苦手でな、スマンが封じさせてもらうぞ」

隊員F「!?…た、隊長!勝手にセーフティーロックが…!」

隊員G「こ、こっちも撃てません!」

隊長「何だと…!?き…貴様!!何をしたッ!?」

六十郎「やれやれ…これだけの人数相手では、流石に全員眠らせておくのは無理じゃのぉ…」

六十郎「…どうじゃ隊長さん、今ので分かったじゃろうが、わしを倒すことは出来んぞ」

六十郎「武器を捨てて、ここで大人しくしていると約束すれば、なんもせんわい」

隊長「誰が貴様などに従うものか…我らは偉大なるラダークの息子…!敵の手に落ちるくらいなら自ら死を選ぶぞ!」

六十郎「うーむ…それは困ったのぉ…人死にが出ては、やよいちゃんが悲しんでしまうわい」

六十郎「仕方がないのぉ…ちぃとばかし『痛い方法』を使うが、我慢するんじゃぞ」

六十郎「ま、お主ら多少は鍛えておるようだし、死にはせんから安心せい」

隊長「…ちょ、ちょっと待て…何をする気だ…おいちょっと…」

六十郎「じゃ、始めるかの」ニッコリ

今日はここまで。

再開

再びやよいの部屋(借)

春香「さっきまであのおじいさんが…?」

やよい「はい、この部屋にいたんですけど…」

千早「…突然部屋の中に現れて、誰にも気づかれずに去るなんて、そんなことどうやったらできるのかしら…」

伊織「そんなの不可能よ…!一人でうちのセキュリティを突破して侵入するなんて…」

真「最早そんな次元じゃなくて…何も無いところからポッと現れてポッと消えたって感じで…」

雪歩「そうだよ…!ほんのちょっと前まで何でもなかったベッドの中から、急に出てきたり…」

美希「すっごく変なおじいちゃんなの…!」

あずさ「でも、見た目は人の善さそうな、普通のお爺さんだったけれど…」

貴音「表面的な容姿はあくまでも仮初めの姿、ということなのでしょう…」

貴音「響はどう思いますか…?」チラリ…

響「…!!あ、ああ!貴音の言う通り…そ…そういうこともある…かもね…」

響(…この小娘…気付いているな…)

亜美「とりあえずさー…仙人様かどうかは分かんないけど…」

真美「あのじいちゃんが人間じゃないのは、ほぼ確定だよね?お姫ちん?」

貴音「…少なくとも、常人でないことはこれではっきりしました…」

貴音「そして…わたくしの推測した通り、六十郎殿はこの壺と強い繋がりを持っているようです…」

真「貴音…六十郎さん言ってたよね、この中の誰かが取り憑かれているって…」

真「それってやっぱり、相手も人間じゃない…ってこと…?」

貴音「その可能性も…或いは人の身でありながら、そのような術を使える者がいるやも知れません…」

伊織「ハァ…まったく、常識外れすぎてついていけなくなりそうだわ…」

春香「漫画とか小説の世界だよね…」

真美「ゲームとかアニメの世界でもあるよね!」

亜美「うんうん!」

雪歩「…私達の中の誰かが取り憑かれてるとして…それってどうやって見分ければいいんだろう…?」

貴音「まず、この部屋に残っていた者は候補から外れます」

貴音「わたくしと六十郎殿が察した気配は、外からこの部屋に向かってきていました」

貴音「つまり…今も取り憑かれている可能性があるとすれば…」

貴音「部屋の外に出ていた響、それを探しに行った伊織、春香、千早…」

貴音「そしてその後を追った亜美と真美の内の誰か、ということに…」

春香「えぇっ!?わ、私達!?」

千早「その中の誰かまではわからないのね…」

貴音「途中で結界を張られてしまい、六十郎殿でも特定は出来なかったようです」

貴音「しかし…全く手がかりが無いわけでもありません…」チラ…

響「う……」

貴音「響、先程から落ち着かない様子ですが…何か心配事でも…?」

響「べ、別に何でもないぞ…」

春香「…そう言えば…私達が見つけた時、なんか響ちゃん様子がおかしくて…」

千早「そうね…あらためて考えると、演技の練習って言い訳も苦しいように思えるし…」

伊織「そうよ…!あれだって、急に変なこと言い出したのを誤魔化しただけなんじゃ…」

響「ちょ…ちょっと待ってよ!?確かにいきなりあんな風にしたら変に思われても仕方がないけど…」

響「だからって取り憑かれてるってことにはならないぞ!」

響「第一、証拠が何もないんじゃ、単なる言いがかりだぞ!」

伊織「うっ…それは…」

響「むしろ、自分に罪を被せて言い逃れしようとしているそっちの方こそ、取り憑かれてるんじゃないのか!?」

伊織「な!なんでいきなりそんな話になるわけ!?」

響「ふふーん…?ムキになるところを見ると、伊織の方がずっと怪しいんじゃないか?」

伊織「なな…!なんですってぇ!!」ガタッ

やよい「わっ!い、伊織ちゃん落ち着いて…!」

貴音「なるほど、響の言い分は分かりました…」

貴音「怪しいというだけで証拠も無しでは単なる言いがかり…尤も至極」

貴音「…では、質問を変えましょう…」

貴音「時に真美、やよいへ渡す予定の例のものは、この袋で間違いありませんね?」

真美「ほえ?…うん、その紙袋がそうだけど…?」

貴音「では、今から響に質問をしますが、他の者は一切の助言、口出しは無用でお願いします…」

響(な、なんだ…?何を聞いてくるつもりだ…)

貴音「響、やよいへ渡すこの袋の中身、何が入っているか答えてください」

亜美「え?だってお姫ちん、ひびきんは…むぐぅ…!?」

真美「シィーッ…!」

真美「…真美、なんとなくわかっちった…ここはお姫ちんに任せよう、亜美…!」

亜美「???…ら、ラジャー…!」

響(袋の中身だと…!?知るかそんなこと…)

響(いや待てよ…そうか!我那覇響は袋の中身を知っているのだな…答えられなければ即ち偽者、というわけか…)

響(フン…如何にも小娘が浅知恵で考えそうなことよ…!)

響(憑依中に遠方は見通せなくとも、目の前にある袋の中身くらい造作もないこと…どれどれ…)

貴音「どうしたのです響、答えられないのですか?」

響「…あははっ!貴音ぇ~、自分のことからかってるのか~?そんなの簡単さー!」

響「答えは、『大豆もやしの栽培セット』と、『公式大会用のオフィシャルオセロ盤』だぞ!」

ガサガサ…

貴音「…御名答、その通りのようですね…」

響「ね!わかったでしょ貴音!これで…」

貴音「ええ…これではっきりとわかりました…」

貴音「取り憑かれているのは響、貴方だということが…!」キッ

響「!?」

響「な、なんでだ!?だって、ちゃんと袋の中身を答えたぞ…!?」

貴音「『袋の中身を言い当てれば疑いが晴れる』…わたくしは、その様なことを言った憶えはありませんが…?」

響「うぐっ…!そ、それにしたって…なんで中身を当てただけで取り憑かれているだなんて…」

貴音「…真美、響は袋の中身を知っていましたか…?」

響(な…何…!?)

真美「んーん、ひびきん中身は知らないはずだよー?」

亜美「そうそう!ここに来る途中で覗こうとしたから、開けちゃダメって、亜美も注意したもん!」

貴音「では、ここに着いてから響が袋に触れたことは?」

真美「ナイナイ!だってお姫ちんの話聞くために集まる前は、ひびきんははるるんとか真美達と一緒に暖炉近くんのとこに居たし」

亜美「紙袋はそっから離れた部屋のこっち側に、荷物と一緒に置いてたもんね」

×:暖炉近くんのとこ
○:暖炉の近くんとこ

貴音「わたくしが皆に話している途中、響は姿を消しました…」

貴音「そして、部屋に戻ってからも袋の置いてあった場所には近づいていません…」

貴音「その響がどうして、まるでこの袋の中身を覗いたかのように、明確に言い当てることができたのですか?」

響「そ…それは…その…あの…」

亜美「よっ!名探偵お姫ちん!」

ハム蔵「ヂュ…!ヂュ!」シュタッ!

響「…あっ!おい!」

真美「ハム蔵こっちおいでー!…んっふっふー…ついにハム蔵にも見離されたねぇ、偽ひびきん♪」

貴音「人に憑依するほどの者ですから…初めて見た袋の中身を言い当てるなど造作も無いことだったでしょう…」

貴音「しかしその力を過信した故に、自らを追い込む結果となったのです」

貴音「本来は亜美と真美がやよいへ贈るために用意した品でしたが…どうやら…貴方にとっての"さぷらいずぷれぜんと"になってしまったようですね」

響(サプライズ…そうか!カルプレッタの報告にあったあの会話の…!)

響(私としたことが…なんと迂闊な…!!)

貴音「さぁ、観念して響の体から出ていくのです…!」

響(目の前に壺があるというのに…あと一歩のところで…!)

響(無理矢理奪うにしても、こう不慣れな体では…)

響(危険だが…少しの間我那覇響と合一する他あるまい…)

響「スゥー………」

貴音(…!?この禍々しい気は…!)

響「…そ…を……たせ…」

貴音「面妖な…この期に及んで一体何をしようと…」

響「…その壺を…渡せッ!!」ダッ!!

貴音「くっ…!?」ガシッ!!

やよい「貴音さん!!」

貴音「やよい!来てはなりません!!」

響「お嬢さん、誰が力を過信したって…?小娘風情がこの私に向かって偉そうに…!」グイッ…

貴音「…あぐっ…!」

響「友人に首を絞められるのは心身共にさぞ辛かろう…その壺を渡せば、お前も我那覇響も解放してやる…」

貴音「…どう言われようとも…この壺は…絶対に渡すわけにはいきません…!」

響「それは元々渡しの持ち物だ…壺から手を離さないなら、この細首へし折って力尽くで…」ギリ…

バッ!!

響「!?」

×:渡し
○:私

バシィ!!

響「ギ…!?」ギリギリ…

雪歩「ま、真ちゃんっ!?」

真「…姿だけじゃなくて…響の知ってる体術も…使えるみたいだね…!」ギチギチ…

亜美&真美「ま…まこちんチョッパヤー!」

真「…響と一度手合わせしてみたかったんだよね…琉球空手にも興味あったし…!」ググッ…

響「ぐが…ほざけ小娘…!今の我那覇響は我が通力にて強靱なものとなり…」

真「むしろそれくらいの方が…ちょうど良いよッ!!」シュバ!!

響「うがぅッ!?」ヴン!!

美希「真くんカッコイイのー!」

響(なな…なんて蹴りだ!躱すのが精一杯だと!?)

真「貴音、大丈夫?」

貴音「ええ…けほっ…ありがとうございます…」

春香「ひゃ~流石は真…!」

千早「速すぎて全然見えなかった…」

伊織「真ッ!構わないからギッタギタにやっちゃいなさい!!」

あずさ「い、伊織ちゃん…?一応響ちゃんの体だから、ギッタギタはちょっと…」

響(これが菊池真か…通力も持たぬ常人の…それも女の身でこれ程の身のこなしとは…!)

響(…四条貴音のあの慧眼といい…こいつらがアイドルとはとても信じられん…!)

響(…他の連中もどんな隠し球を持っているか分かったものではない…斯くなる上は…)チラ…

響「調子に乗るなよ貴様ら!!我那覇響の肉体は我が掌中にあるのだぞ…!」カチャ…

菊池じゃなくて菊地だよ…間違いが多くてすまない…

響「つまり…この果物ナイフで顔をズタズタにすることも、心臓に突き刺すことも出来るというわけだ!」

真「なっ…!?」

雪歩「ひぃっ…!!」

貴音「!?…なんという卑劣な…!!」

やよい「や、止めてください!」

響「くく…私の恐ろしさがやっと理解できただろう…わかったら大人しく壺を…」

フラッ…

響「……ぐっ…なっ…!?」フラフラ…

響(しまった…!合一が進み過ぎたか…!?)

伊織「…ふらついてるわ真!チャンスよ!」

真「ちょ、ちょっと待ってよ伊織…なんだか様子がおかしいよ…」

響「あがっ……!!が…が…」

やよい「響さん…なんだか苦しそうです…!」

響「が………ん?あれ?」キョトン

響「…ど、どうしたんだ真、そんな怖い顔して…?それにみんなも…」

真「あ、あれ…?」

貴音「響…?」

やよい「貴音さん…もしかして、元の響さんに戻ったんじゃないですか!?」

響「わ!な、なんでナイフなんか持ってるんだ!?」カチャン!!

響「それに…なんだか頭がクラクラするぞ…」フラッ…

やよい「わっ!響さん危ないですぅ!」ガシッ

貴音「やよい!?…気をつけるのです!罠かも知れません…!」

響「やよい…?貴音の声も…どこだ…?」

響「なんか…別の音も聞こえるぞ…」

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響「……あれ?もうクラクラしないぞ…?」

響「…何だったんだろ今の目眩…?」

響「にしても助かったさーやよい!もう少し遅かったらバッタリ倒れて…」

響「って……あれ?やよい?やよいー?どこだー?」キョロキョロ

響「貴音に…それに他のみんなも…どこに行ったんだ…?」

響「…!?…ていうかここどこだーっ!?屋敷までどっか行っちゃったぞ!?」

スン…スン…

響「ん?この音はさっき聞こえた…あっちの方か…?」スタスタ…

響「…それにしても何にもないなぁ…地面のずっと向こうまで真っ白だぞ…」

響「でも空も見えないし…外じゃないのかな…?」

響「おーい!おーい!………オーイッ!!……」

響「……声が跳ね返っても来ない…気味が悪いぞ…」

スン…スン…

響「またあの音だ…あっちから聞こえるぞ…」

<うぅ…ひっく…>スン…スン…

響(あれは…あの子が泣いてる声か…)

響「…ねぇ君…なんで泣いてるんだ?」

<あ!誰…!?>ビクッ!

響「あ!怖がらないで!だ、大丈夫だぞ!」

響「えっと…自分、ただの通りすがりのアイドルで…だから全然怪しくないぞ!」

<…あいどる…?>

響「そうだぞ!自分、我那覇響!君の名前は?」

<…五郎…五郎右衛門…>

響「ご、ゴローエモン?…なんか時代劇みたいな…シブい名前だな…!」

響「で?どうして泣いてるんだ?」

<うぅ…オイラ…おっとうが死んじまって…それで悲しくて泣いてんだ…>

響「え…?」

<おっとうが死んでから…オイラ、ここでおっかぁのことずっと待ってんだけど…おっかぁも帰ってこねぇ…>

<悲しくて…寂しくて…我慢しても涙が止まんねんだ…>ポロポロ…

響「そ、そうだったのか…ごめんな…」

<…別にいいよ…ねぇちゃんが悪いわけじゃねぇ…>

<なぁ…ねえちゃんには家族いんのか…?>

響「母さんとにぃ…えと…兄貴が沖縄にいるぞ!」

響「でも…君と同じで父さんはいないんだ…」

<え?ねえちゃんも…?>

響「うん…でも、自分が小さい頃に亡くなったから、覚えてないけどね」

<…ねぇちゃんはおっとういなくて寂しくねぇのか…?>

響「え?うーん…そうだなぁ…」

響「顔も覚えてないからあんまりピンとこないけど…」

響「小学生の時、運動会で家族参加の二人三脚競争があって…」

響「友達がみんな父親と一緒に出てるのを見た時は、ちょっと寂しかったかな…ほんのちょっとだけ…」

響「あ!でも競争自体は自分とにぃにが一位だったけどな!自分、カンペキだからなー!」

<ふぅん…今は、おっかぁやあんちゃとも離れてんだろ?寂しくねぇのか?>

響「沖縄はたまに恋しくなるけど…ハム蔵やいぬ美達、765プロの仲間にファンのみんなもいるし…」

響「…そりゃまぁ、ちょっと大変な時もあるけど…」

響「でも、プロデューサーやみんなと一緒なら、全然平気なんだ!だから寂しくなんかないぞ!」

<ぷろでゅーさー…?なんかよくわかんねぇけど…ねぇちゃんは友達がたっくさんいんだなぁ…>

<オイラずっと独りぼっちだから、羨ましいなぁ…>

響「…それなら!自分がゴローエモンの友達になるぞ!」

<え…?ねぇちゃんが…?>

響「うん!きっとこんな寂しい場所にいるから、気持ちも寂しくなるんだぞ!」

響「なんなら、自分の家に来ればいいさー!」

響「ハム蔵やいぬ美達に紹介するぞ!それから、765プロのみんなにも…」

<嬉しいなぁ…オイラに友達なんて…考えたこともなかったなぁ…>

<……でもやっぱダメだぁ…オイラこっから離れらんねぇんだ…>

響「え?なんでだ?」

<だって…『おんつぁん』に見張られてっから…>

響「オンツァン?…あれ?さっき独りぼっちだって…」

ガシッ!

響「!?」

≪…なんてことだ…こんなところまで…!!≫

響「うぎゃあぁー!!だ!誰!?」

<ねぇちゃん、それがおんつぁんだ…>

響(社長…!?…じゃない…でも黒い人だ…!)

≪合一しただけでこんなところまで…とても信じられん…!≫

≪ケモノ言葉を操り…こんな深く潜ってくるとは…やはり貴様も普通ではないのか…!≫

響「な、何のこと!?自分、気付いたらここにいただけで…」

≪765のアイドル…お前達は一体…≫

スゥ…

響「え!?消えちゃった…!?」

<ねぇちゃん、大丈夫か?>

響「あ!ゴローエモン!この場所なんか変だぞ…!段々暗くなってきたし…」

響「…どっちに行けばいいかわかんないけど…と、とにかく一緒に逃げるぞ…!」

響「ホラ!自分が抱っこしてやるから…!」ギュ…

<ダメだぁ…オイラおんつぁんのとこに戻んなきゃなんねぇみてぇだ…>

<友達になるって言ってくれたの…嬉しかったぁ…>ス…

響「え!?ゴローエモンまで…!?き、消えちゃダメだぞ!!」

スカッ…

響「あ…!」

<じゃあね…ねぇちゃん…>

スゥ…

響「うあぁ!!ゴローエモン!!」ガバッ!

ゴチンッ!!

響「☆!?」

亜美「☆!!??」

響&亜美「っ~~~!!!」ジタバタ

やよい「あ!響さん気がつきました!!」

春香「い、今すんごい音したけど、二人とも大丈夫…!?」

亜美「お~イチチ…亜美のアツいチッスで目覚めさせる作戦が…!」

真美「ひびきんフライングだYO!」

響「うが…みんな…?」

響「も、戻ってきたのか…?」

響「…そうだ、ゴローエモン…!ドコだーっ!?ゴローエモーン!!」

亜美&真美「ゴローエモン?」

響「小さな子供だぞ!さっきまで近くにいたんだ…!亜美と真美も探してよ!」

伊織「…ちょっと貴音…!本当に大丈夫なんでしょうね?起きてすぐあんな様子じゃ…」

貴音「少なくとも、今の響からは気を失う直前の禍々しい気配は感じられません…」

貴音「…とは言え、また気配を潜めて響を演じている可能性も否めません」

貴音「伊織達の話が確かならば、憑依によって肉体を支配できても、記憶の共有まではできない…ですから…」

伊織「私達も知らない響のプライベートを知るハム蔵に確かめさせる…そんなんで上手くいくかしら…?」

ハム蔵「ヂュ!」シュタタタタ…

シュタッ!

ハム蔵「ヂュヂュ!ジュ!」

響「んあ?なんだハム蔵?悪いけど今それどころじゃ…」

ハム蔵「ジュジュヂュッヂュ!ヂュッヂュ!…ヂュ!!」

響「な、なんだ!?またこの前の話を蒸し返すのか!?」

響「だーかーらっ!『極旨国産ひまわりの種』を食べちゃった事は散々謝ったじゃないか-!!」

ハム蔵「ヂュ~?ジュジュジュ~♪」

響「うわぁ!?その話は秘密にしてって…!!誰かに聞こえたらどうするのさー!!」

ハム蔵「ジュジュジュ!ヂュッヂュヂュ~!」

響「うぅ…なんで大声でそんなこと言うのさ…自分、恥ずかしくて顔から火が出そうだぞ…!///」

あずさ「あらあら…響ちゃん、あんなに顔を真っ赤にして…よっぽど秘密にしたいことなのね~」

美希「ミキにも聞こえてるけど、響以外には意味分かんないからつまんないの…」

貴音「如何ですか?」

ハム蔵「ヂュ!」Σd

貴音「…どうやら、取り憑いていた者はいなくなったようですね…」

やよい「うっうー!響さん!無事で良かったですー!!」ガバッ

響「うぇっ?や、やよい…?な、なんだか状況がいまいち飲み込めないぞ…」

真「良かったけど…そうだなぁ、ボクとしてはもうちょっと楽しみたかった気も…」

ヴィィィィ…ヴィィィィ…

真「いっ!?」ビクッ

雪歩「ま、また変な音が…!」

千早「…ねぇ春香、これって…」

春香「あ!私のケータイだ!確かバッグの内ポケットに…」ゴソゴソ

春香「…!プロデューサーさんからだ!」ピッ!

春香「もしもし?」

P『おお!やっと出たか!さっきから誰にかけても出ないから心配したぞ…!』

春香「それどころじゃなかったんですよプロデューサーさん!実はこっちで大変なことが…」

P『な、なんだ!?何があった!?』

春香「え?いやー…何がと言われると…こうなんて言うか話せば長いことに…」

P『…?』

春香「と、とりあえず全員無事です!はい!」

P『それならまぁいい…俺はなんとか事務所から脱出して、今そっちに向かっているから、着き次第詳しい話を聞かせてくれ』

P『それと…やよいはいるか?』

春香「え?やよいならここにいますけど…はい、じゃあ代わりますね!」

春香「やよい、プロデューサーさんが代わってくれって」

やよい「私にですか?……もしもし?」

P『やよい、何かあったらしいが大丈夫か?』

やよい「はい!ちょっと大変なことがあったんですけど、おじいさんや貴音さん、それに真さんのおかげで…」

P『…ん?ちょ、ちょっと待てやよい!おじいさんて…あの爺さんがまた現れたのか?』

『例の老人ですか?ちょっと詳しい話を…』

P『ちょ、近い!顔が近い!!後にしてください!ていうか前見て運転してくださいよ!』

やよい「う?今なんだかすごく低い声が…誰かいるんですか?」

P『な、何でもない!気にするな!』

P『それよりも…実は今俺がそっちに向かっているのは、ある目的があるからで…それはやよいに関係あることなんだ』

やよい「私に…?」

P『ここ数日、伊織の家にやよいとご家族を匿ってもらって、教団やマスコミから遠ざけるのにみんなで協力してきた…』

P『にも関わらず、こんな突拍子もないことを言うのはおかしいと思われても仕方が無いが…』

やよい「…!」

P『…やよい、俺と一緒に…教団本部へ乗り込んで欲しい…!』

やよい「…はい!まかせてくださいプロデューサー!」

P『…本当にすまない…やよいが傷つくとわかっていながらこんなこと頼む俺はどうかして…』

P『…んんっ!?や、やよいさん?今なんて…』

やよい「あれ?教団本部に乗り込むんですよね?私、プロデューサーのこと信じてますから!」

伊織「ハァッ!?やよいちょっとかして…!アンタ、それ一体どういう事なの!?」

P『うおっ!?…その声は伊織か?』

伊織「教団本部に乗り込むなんて、正気じゃないわ!何バカなこと言ってんの!?」

亜美「…あれれ~?真美ぃ、いおりんも同じこと言ってなかったっけ…?」

真美「デジャブーってやつですな~」

伊織「な…!わ、私は自分で乗り込むなんて言ってないわよ!それを言ったのは真よ!」

真「だ、だからあれは冗談だって言ってるじゃないか~!」

P『いやいや…これには深いわけがあってだな…伊織にも関わることで…』

『Pさん、その話はちょっと…』

P『あ、つい…』

伊織「え?私にも関わるって何?って言うか今の低い声は誰なの?」

P『と、とにかく着いてから細かい事情は説明するから…』

伊織「やよいが教団本部にいかなくちゃいけないなんてどんな事情よ!?今すぐ説明してちょうだい!」

P『あー、トンネルに入って電波が悪くなったみたいだー(棒)』

P『取りあえず切るぞー』ピッ

伊織「あ!ちょ!…もうっあのバカプロデューサー!!」

P「…ふぃー…すいませんつい口が滑って…」

権藤「なぁに、それについては何とでもごまかせますので問題ありません」

権藤「しかし意外でしたなぁ…やよいさんがこうもあっさりと承諾するとは…」

P「やよいは相当ショックを受けるだろうとばかり…正直俺も訳が分かりません…」

権藤「私は事がスムーズに運ぶのなら、こういう意外性は大歓迎ですよ」

権藤「…ま、それはそれとして…水瀬家にも現れたという例の老人のことですが…」

P「またですか?もう勘弁してくださいよ…」

権藤「後にしてくださいと言ったのはPさんですよ?どうせこの渋滞です。暇つぶしだと思って…」

P「…だから、一通りは話したでしょ、俺達にもよく分からないんですよ…」

権藤「部下に記録の再チェックをさせてみたんですが、やはり我々の撮影した写真や映像にその様な人物はいませんでした…」

権藤「ただ、その老人の話を踏まえると、やよいさんが教団本部に出向いたあの日の事で、気になる点が…」

P「気になる点…?」

権藤「当日は午後からボイスレッスンで、夕方から新ダンスの予備練習が予定されていた…間違いありませんね?」

P「はぁ、確かにそうですけど…って、どうやってそんなことまで…!」

権藤「なぁに、ちょっとおたくの会社の通話記録を調べただけですよ」

権藤「…で、そこから可能性のありそうな連絡先を洗ってみたわけです」

権藤「特にあの日の動きは興味深い…ボイスレッスンは中止になったそうですね?」

P「はぁ…それが実は…」

権藤「報告にはこうあります…『ボイトレ講師が購入した宝くじが大当たり。驚きのあまりその場に卒倒』…」

P「それも知ってるんですか…!」

権藤「その後のこともね。『ダンスコーチが恋人に結婚を申し込まれ、二人で即日コーチの実家へ』」

権藤「…こんな三文小説のような理由で、あなた方の午後のスケジュールにはポッカリと穴が空いた…」

権藤「しかしそのおかげで、やよいさんが連れてきたという『謎の老人X』への応対が可能になったわけです」

権藤「Pさん…この話、些か出来過ぎだとは思いませんか…?」

P「…つまりその、嘘じゃないかと疑っているんですか…?」

権藤「今の話は我々が調べたものですから、嘘でないことは分かっていますよ。つまり私が言いたいのは…」

権藤「この二つの出来事が、まるで老人Xの訪問をお膳立てしているかのように見える、ということです」

P「それじゃあ…まさかその二つもあの爺さんが…?」

権藤「さぁ…私はあくまで周辺の不自然な出来事に、老人Xという仮定を加え入れて考えたに過ぎません…」

権藤「いずれにしろ、『写真や映像に残らない謎の老人』なんてものを捜査対象にするわけにはいきませんからなぁ…」

権藤「これはあくまで、私人としての興味の範疇と思ってください」

P「はぁ…でも私人が部下の公務員に色々調べさせるのはどうなんですかね…?」

権藤「ハッハッハ…いやはや…これは痛いところを突かれましたな」

P「ところで権藤さん…やよいを首尾良く教団本部に連れて行けたとして、その後はどうするんですか…?」

権藤「…本来なら、捜査情報を喋るわけにはいかないんですが…今回はあなたの協力が不可欠ですので特別にお教えしましょう」

権藤「LHSは寄進額や教団諸活動への貢献度に応じて、『位階』と呼ばれる称号を信徒に与えているんですが…」

権藤「この『位階』は、信徒のランクであると同時に、教団本部施設のセキュリティレベルの区分でもあることが分かっています」

権藤「一般信徒は精々第二講堂までしか入れませんが、幹部クラスともなれば比較的自由に施設内を移動できるそうです…」

権藤「何人か公安部員を信徒として潜入させていますが…どうも幹部ですら入れない『聖域』が存在しているようで…」

権藤「そこで、やよいさんの出番というわけです」

P「聖域?それとやよいに何の関係が…」

権藤「動画をご覧になったでしょう?やよいさんは、教団の最高位『シュープリーム・ハピネス』の称号を与えられていた…」

権藤「その影響で、すでに教団内では『やよい様信仰』が定着しつつあるんですよ。わずか数日の間にね…」

権藤「実際、動画流出騒動の後、インターネット上の誹謗中傷にも関わらず、LHSの新規入信者数は劇的に増加しているんです」

P「なんでそんなことに…!?」

権藤「本来のアイドルとしての魅力が、皮肉にも宗教的カリスマとして発揮され、人々を惹きつけているからでしょう」

権藤「カルプレッタが方針を変えたのも、その辺りが理由だと私は見ています。金の匂いはすぐに嗅ぎつける女ですから…」

権藤「やよいさんの称号が単なるお飾りでないのなら、施設の奥深くまで入り込める…」

権藤「そこであるものを見つけられれば、教団本部に踏み込む理由として使えると…まぁこういうわけです」

P「あるもの…ですか?」

権藤「…実は、信者の違法銃器所持の他にも、LHSは米国でもう一つ問題を起こしていましてね…」

権藤「彼らは米国支部を立ち上げるにあたり、コロラドの荒れ地にあった廃ミサイルサイロを購入しまして…」

権藤「何を考えたのか、そこへ大量の資材や武器弾薬を集め始め…」

権藤「事もあろうに、輸送記録を改ざんして米軍の兵器までそこに運び込んでいたんですよ…」

P「米軍の…!?そんな無茶苦茶な…!!」

権藤「当時はイラクやアフガン情勢も絡んで、米国内外をひっきりなしに兵器や弾薬が移動していたことに加えて…」

権藤「連中はTRANSCOM(アメリカ輸送軍)の上層部の一部を取り込み、巧妙に輸送記録を改竄していたそうです」

権藤「その上、上下院議員や銀行家、軍の高官、複合企業経営一族等の子息まで取り込もうとしました」

権藤「ある機関が記録の改竄に気付き、息子を誘拐された名門一族が雇った民間軍事会社…」

権藤「…という体裁で特殊部隊を派遣し、事を起こす前に施設を制圧したまではよかったのですが…」

権藤「サイロにあったのは、推定量の1/10にも満たない小火器類ばかりで、残りの消息は今もって不明のままなのです」

P「まさか、その消息不明の残りが…あの教団本部に運び込まれていると…?」

権藤「どの国の情報機関もこの話を耳にしているとは思いますが、日本にあると思っているのは私くらいなものでしょうね」

権藤「私が引っかかっているのは、当時確実にサイロに居たはずの二人の人間が姿を消したことです」

権藤「教団創設者の『代口』と、その腰巾着のカルプレッタ…地上の出入り口が一つしか無いサイロから忽然と居なくなった」

P「実は最初から居なかったとか…」

権藤「あり得ませんな。何故なら私自身、彼らがサイロに入るところを見ましたから…」

P「なんで権藤さんがそんなところに…!?」

権藤「当時は別件で動いていまして…LHSの違法重火器売買の情報を得て監視していたんです」

権藤「それが偶然、突入作戦の当日で…遠目に見ていただけですが、米国の力を思い知らされましたよ」

権藤「…にも関わらず、二人は三日後に都内で確認されました。出入国記録に不備はなく、私の報告は一笑に付された…」

権藤「それから色々ありまして、現在の部署で他の案件をこなしつつも、連中をずっと追っていたんですよ」

P「…サイロにあったはずの大量の兵器が教団本部に隠されていると分かれば、警察が踏み込めるって事ですか…?」

権藤「…そう言いたいところですが、米国での前例がありますから、通常の手続きを経ている余裕はありません」

権藤「本件は関係機関との連携について既に事前の取り決めが出来ていまして、超法規的な措置が取られることになっています」

権藤「その絶対条件が兵器隠蔽の証拠を押さえることで、やよいさんはそのトリガーというわけです」

P「…そんな裏の事情まで俺に喋っちゃってよかったんですか…?」

権藤「Pさん、これは私にとって一世一代の大博打でもあるんですよ…」

権藤「ここ十数年はこのための準備に費やしてきたと言ってもいい…」

権藤「そしてやよいさんが待望の機会を与えてくれた…そのプロデューサーであり、捜査協力者であるあなたには全てをお話しておきたかった…」

権藤「まぁ…誰かにこの大仕事を知って欲しかっただけかも知れませんがね…」

P「…どれだけ重大なことなのかは分かりました…そしてその分危険が伴うことも…」

P「捜査協力者である以前に、俺はやよいのプロデューサーです。最初に言った通り、俺はやよいの身の安全を第一に行動します」

権藤「それで構いません…先程は『邪魔だと感じれば我々も全力で止めにいく』と言いましたが、どうもその必要もなさそうだ…」

P「え?それはどういう…」

権藤「ここだけの話ですがね、Pさん…あなたが会ったという老人が、長年の疑問を解決する糸口になるような気がするんです」

権藤「…サイロから姿を消したことに限らずとも、あの二人の行動には腑に落ちない点が余りに多すぎる…」

権藤「それこそ、魔法でも使ってるんじゃないかと疑いたくなるようなことが山ほどあるんですよ…」

P「権藤さん…それって…」

権藤「おっと、勘違いしないでください…公務においてはあくまで現実的な問題のみを扱うということです」

権藤「…存在すら定かでは無い老人の助言を得て、あなたがどう行動しようと私には無関係ですからね…」ニヤリ

今回はここまで

再開

LHS本部 代口瞑想室前

カルプレッタ「ああどうしよう…!なんて説明すれば…!」

カルプレッタ「どちらにしろ急いで報告しないと…!」

カルプレッタ「ああ…だけど代口様が通力を使われている時に集中を乱しては…」

カルプレッタ「…落ち着け…落ち着くのよカルプレッタ…!」

ビーッ

代口『…カルプレッタ君…そこにいるか…?』

カルプレッタ「代口様!!戻られたのですね!実は急ぎ御報告すべきことが…」

代口『君以外の者はそこにはいないだろうね…』

カルプレッタ「え?は、はぁ…」

代口『…では瞑想室に入ってきたまえ…報告とやらは中で聞く…』

カルプレッタ「はい、失礼いたします!」

ガチャ…ガチャン…プシュー…

カルプレッタ「…!?代口様…!そのお姿は…!!」

代口「…早く閉めたまえ…ここには他の信徒の者も来るのだぞ…」

カルプレッタ「は!はいッ!!」

バシュー…

カルプレッタ「代口様…一体何が…!?」

代口「…もうこの姿に戻ることはないと思ったが…小娘如きと舐めてかかった結果がこの有様だ…」

代口「あの連中…通力こそ使えぬが、宿した霊力は常人のそれとは比べものにならん…アイドルという存在を侮っていたようだ…」

代口「ハイリスクだが…SoLを水瀬の屋敷に差し向ける他あるまい…」

代口「仮に高槻やよいの奪取が無理でも…せめて壺だけでも回収せねば…」

カルプレッタ「あの…実は…御報告したいのもSoLの事についてなのです…」

代口「全滅しただと…!?」

カルプレッタ「はい…ブリーフィング中に何者かが侵入しまして…」

カルプレッタ「全員命に別状はありませんが、とても作戦を遂行できる状態では…」

代口「その侵入者とやらは何者だ…!?ここの地下に侵入できる者などいるはずが…」

カルプレッタ「隊長に事情説明を求めましたが、ひどく混乱している様子で…」

カルプレッタ「隊員達の断片的な証言をまとめますと、7、80代くらいの老人に襲撃を受けたと…」

代口「老人…?た、たった一人の老いぼれに…30人からなる生え抜きの部隊がやられたというのか!?」

カルプレッタ「そのぅ…原因は不明なのですが、医療班の話では全員が断続的に『こむら返り』を起こしているそうです」

代口「こ…こむら返りぃ…?ふくらはぎが攣る…アレか…?」

カルプレッタ「はい、アレです」

代口「なるほどな…屋敷で感じたあの気配…やはりそうだったか…!」

代口「老人の姿というのがどうにも解せんが…そんなふざけたマネをするのは奴しかおらん…」

カルプレッタ「…奴と言いますと…心当たりが…?」

代口「まだ分からんのか?…戻ってきたのだ、水脈の本来の『主』が…」

カルプレッタ「…!?そんなまさか…!奴めはかつて代口様が水脈から断ち切ったはずでは…!?」

代口「無論だ。…だが、私が水脈から完全な霊力を得るためには、奴と水脈をつなぐ媒介であったあの壺が、どうしても必要だったのだ…」

代口「奴が水を通じて再び水脈と繋がる事が無いよう、使用の度に日光で乾燥させ、棚に保管していたのだが…」

代口「私が中庭に置き忘れたばかりに…君が持ち出して高槻やよいの手に渡ってしまった…」

代口「水瀬の屋敷で見た壺に花が挿さっていたところを見ると、水を得てわずかながら通力を取り戻したのだろう…それなら老人の姿なのも合点がいく…」

代口「私の前に直接現れずコソコソ邪魔して回っているくらいだ…その程度の力しか戻っていないと見て間違いなかろう…」

カルプレッタ「長くお仕えしてきましたが、そのような壺があるとは知りませんでした…何故私に教えてくださらなかったのですか…!それほどに重要なお品だと知っていたら…!」

代口「…カルプレッタ君…君は有能ではあるが手癖が悪い…私に拾われた時のこと、よもや忘れてはいないだろうな…?」

カルプレッタ「…えーと…代口様の隠し財宝を盗もうとした…あの時のことですか…?…あ、あれは300年も前の話ではないですか…!」

代口「フン…まだ270年しか経っていないぞ…価値あるものの前では見境が無くなっていかんから伏せていたのだ…」

代口「しかし…こんなことになるくらいなら、壺のことを話しておくべきだったな…」

代口「ま、最早過ぎたことだ…それより、水瀬の屋敷に潜伏させている者達からその後何か連絡はあったか…?」

カルプレッタ「定期連絡にて、サウジの経済企画大臣と通商代表団が昼食懇談会のため到着したとの報告が…」

代口「ならば、警備も相当厳しくなっているだろう…・」

カルプレッタ「代表団の中には王位継承順位の高い皇太子も複数含まれていますので…」

代口「八方塞がりか…こうなったらジタバタしても始まらん…機を待つほかあるまい」

代口「潜入班には引き続き情報収集を徹底させ、些細なことでもすぐに報告するよう伝えろ」

カルプレッタ「分かりました…それと、第一講堂に入信希望者やマスコミが殺到しているのですが、そちらはどのように致しましょう…」

代口「ああ…あの連中か…『やよい様』人気の凄まじいことよ…」

代口「…そうだ丁度良い…回復のための"気吸い"に使わせてもらおう…!」

代口「第二講堂も開放して、出来るだけ大勢を招き入れろ」

カルプレッタ「なるほど…ヒヒ…では、その様に…」

水瀬家敷地内 離れ やよいの部屋(借)

伊織「もうっ!信じられないわあのバカ!」

春香「…本当にプロデューサーさんがそんなことを…?」

千早「一体何を考えているのかしら…」

あずさ「うーん…でもほら、プロデューサーさんのことだから、きっと何か名案が浮かんだんじゃないかしら~?」

伊織「わざわざあいつらの本拠地にやよいを連れて行くことのどこが名案なのよ!」

やよい「でも伊織ちゃん、おじいさんもプロデューサーの言うことを信じるのが吉って言ってたし…」

伊織「ああもうっ!やよいまで!…今ここにそのじいさんが居たら小一時間問い詰めてやるんだから…!!」

美希「あーむ…むぉぅ…でほはん、ほんなひおふぉふほおふぁだひよふはいほ(でこちゃん、そんなに怒るとお肌によくないの)」

伊織「いいからあんたはそれさっさと食べちゃいなさいよ…!」

響「うぅ…体を乗っ取られてたなんて…」ガクブル

亜美「ひびきんめっちゃ悪役っぽかったYO!」

真美「お姫ちんの首をこうやってギリリ…!ってな感じで…」

響「えぇっ!?自分そんなコトしたのか!?本当にごめんな貴音ぇ~!!」エグエグ

貴音「わたくしは大丈夫です。それよりも、響が無事で何よりです」

雪歩「…え?もう調べられないって……うん…うん…」

雪歩「…わかった…うん…お父さんも気をつけてね…」ピッ

真「電話、お父さんから?」

雪歩「うん…もう教団の事を調べて回ることは出来そうにないって…」

雪歩「詳しくは分からないんだけど…『信頼できる筋から、明確な忠告があった』って…」

真「えぇ…なんだかますます危ない感じになってきたなぁ…」

水瀬家敷地外 南側道路

P「あの…権藤さん?伊織の家に着きましたけど…」

権藤「分かっていますよ。もうちょっと待っててください…」

P「やよいを連れて行くんですよね?俺が行けば普通に通してもらえますけど…」

権藤「Pさん、確かに私は『あくまで自然な形で』と言いましたが…」

権藤「我々は色々と面倒な状況の中にありまして…」

♪セカイジューエーガオニシィーヨオー♪ワッハッハッハ!♪

ピッ

権藤「私だ」

庭師『主任、やはり例の情報は間違いないようです』

権藤「確かなのか?」

庭師『俺もそんな馬鹿なと思って三度別ルートで確認しましたが、LHSの実動部隊が行動不能になったのはどうも本当のようです』

権藤「ふむ…部隊内部に反乱でも起きたのか…?」

庭師『医療班の人間から得た情報では、出動直前に襲撃を受けたと…ただその後の話が眉唾でして…』

権藤「いいから言ってみろ」

庭師『はぁ…なんでもその…正体不明の爺さん一人に全員がやられたとかなんとか…何かの暗喩かも知れませんが…』

権藤「……なるほど…ハッハッハッ…」

庭師『ほらぁ…だから言ったじゃないですか眉唾だって…』

権藤「いや篠原、今のは非常に有益な情報だ。今後は連中が出てこないことを前提に行動する」

篠原『…へ?まぁ…主任がそれでいいならいいんですけどね…』

権藤「で、例の女スパイはどうした?」

篠原『取りあえずふん縛ってます…鎮静剤でも持ってくりゃもうちょっとすんなりいけたんですが…』

権藤「その様子じゃ手こずったみたいだな」

篠原『ドジッ娘のくせに近接格闘術はピカイチですからねコイツ。危うく右目潰されるところでしたよ』

篠原『…これで定期連絡は途絶えますから、早いとこやよいちゃんを連れ出さないと…』

篠原『でも…LHSが部隊を動かせないと分かった以上『パーティー』は中止ですよね?』

篠原『どうやってサウジの連中の注意を引いておきましょうか…?』

権藤「その点は問題ない。元々LHSが部隊を動かす上でやむを得ず立案した計画だ」

権藤「その心配さえ無ければこちらには765のプロデューサーという頼もしい味方がいる」バシン!

P「…痛っ!?背中痛っ!」

篠原『正面玄関から堂々とですか…でも気をつけてくださいよ、LHSの人間が見張っているはずですから』

権藤「なんとかなるだろう。ついでに拾ってやるから、20分後に屋敷の南側にあるバンまで来い。その女も連れてな」ピッ

篠原「あ!主任!?ちょっ…!ったく相変わらず一方的に…!」

篠原「…マジかよ…こいつも連れて…?」チラ

メイド「ムグーッ!ムー!ムーッ!!」ジタバタジタバタ

篠原「ハァ…LHSの狂信者共とドンパチする方がいくらかマシだよ…」

権藤「…というわけですPさん、早速ですがあなたの力をお借りしたい」

P「ふ、普通に迎えに行けばいいんですよね…?」

権藤「まぁそういう事です」

P「ちなみに、さっき言ってた計画って…?」

権藤「大したことじゃありません。LHSが武装した私設部隊を使ってやよいさんを奪取しようとしているとの情報が入ったので…」

P「!?」

権藤「屋敷内で予め騒ぎを起こし、サウジの警備兵とその部隊とを鉢合わせさせ、その混乱に乗じてやよいさんを救出しようと…」

P「!?!?大したことですよ!大事じゃないですか!!」

権藤「確実に銃撃戦になりますから、私も気乗りしない作戦だったので助かりましたよ」

権藤「…どうも、LHSの部隊を潰してくれたのが例の老人のようでして…」

P「…まさか!?160センチあるかどうかって感じの小柄な爺さんですよ?いくらなんでも武装した連中相手に…」

権藤「我々の尺度では計りきれない、異質な強さを持っているんでしょうな…実に興味深い」

P「…権藤さん、もしかして楽しんでません…?」

権藤「ハハハまさか…もっとも、痛快だとは思いますがね」

権藤「…さ、そんなことより急いでください。屋敷に潜伏していたLHSの連絡役を拘束してしまったので、発覚する前にやよいさんを連れ出す必要があります」

P「わ、わかりました…!じゃあ行ってきます!」

ここまで
また時間に余裕が出来たので細かく更新していきたいです

再開

水瀬家 南門前

P「…と言ったはいいけど…数日前に来た時と比べるとなんだか物々しい雰囲気に…」

P「新堂さんに事前に連絡入れたから大丈夫だとは思うけど…」

P(……門のところにたむろしてる顔の濃い男達は何者だ…?)ジー…

サウジ警備兵A《…オイ、貴様何を見ている!?》

サウジ警備兵B《チョットお前こっちに来い!》グイッ

P「えっ?なっ…何語?ちょっちょまっ…」

守衛「ウェイトウェイト!He is a guest!」

サウジ警備兵A《…チッ…紛らわしい奴だ…》パッ

守衛「大丈夫ですか…?」

P「び…ビックリしたぁ…ありがとうございます…!」

P「あの…新堂さんに連絡した765プロダクションの者なんですが…」

守衛「はい、聞いております…ただその…しばらくお待ちいただくことになるかと…」

P「そこそこ急ぎの用事なんですが…どれ位かかりますか?」

守衛「それが私にもなんとも…と言いますのも、どれくらい待つかは『彼ら』次第なので…」チラ…

P「…え?それはどういう…」

水瀬家本邸

伊織「それ、どういうことなの!?」バン!

新堂「申し訳ございません伊織お嬢様…」

伊織「いいから、どういうことなのかちゃんと説明してちょうだい!」

新堂「実は先程、サウジ政府代表団に対し、在日本米国大使館を通じてテロ警戒情報が伝えられまして…」

新堂「敷地内、及び周辺に危険が無いと確認できるまで、我々も行動を制限するようにとの要請が日米両政府から…」

伊織「何よそれ…!ここは私の家よ!どうしようと私の勝手でしょ!?」

新堂「…事は国家の安全保障、外交問題に関わります故、当家の一存ではとても…」

新堂「この度の昼食会やパーティーも旦那様の呼びかけで実現したこととは言え、内閣府や外務省との連携の内にある催し…ここはどうか堪えていただきませんと…」

伊織「…カルト教団の次はテロリスト…この国はいつからこんな物騒になったのよ…ったく…!」

伊織「…まぁいいわ…で、プロデューサーは門のところまでは来てるんでしょ?」

新堂「はい、今は守衛室で待機していただいております」

伊織「…ねぇ新堂、どうにかしてアイツをここまで連れて来られない…?」

新堂「…どうにかして、でございますか?あれだけの見張りがいては、そう易々とは…」

伊織「だ・か・ら、新堂に頼んでるんじゃない♪」

新堂「…ふむ…そうでございますなぁ…」

水瀬家 南門

ワンッワンッワン!

サウジ警備兵A《ん?なんだ?犬…?》

新堂「コラコラ…ジャンバルジャン、こっちに来てはいけないと言っているだろう…」

サウジ警備兵B《ミナセの使用人か…オイ!こっちには来るなと聞いていないのか!?》

新堂《申し訳ございません、病気の犬が犬舎から逃げ出してしまいまして…》

サウジ警備兵A《なんだ、我々の言葉が分かるのか…で、その犬が病気だって?》

サウジ警備兵B《それにしちゃ歯も剥き出しで、ずいぶん威勢がよさそうだが?》

新堂《…実を申しますと、この犬は狂犬病に罹っておりまして…》

サウジ警備兵A&B《…!!》

新堂《保健所に引き渡すまで小屋に入れておいたのですが、金網を食い破ってこんなところにまで…》

新堂《しかしこれはまだ軽度な方で…もっと凶暴化したチベタン・マスティフ4頭も逃げ出したので、鋭意探している最中なのでございます…》

サウジ警備兵A《チベタン・マスティフ…!?あ、あんなデカいのが4頭も…!?》

ジャンバルジャン「グルルルルル…ワウッ!」バッ!

サウジ警備兵B《うわっ!?》ドタッ

新堂《あ、私としたことがつい手が緩んで…》

サウジ警備兵A《お、おい!あっちの建物に入っていったぞ!》

新堂《…これはいけません…!守衛室には人が…》タッタッタッタ…

サウジ警備兵A《…おい、大丈夫か?》

サウジ警備兵B《す、すまない…あの爺さんとんでもないもん連れてきやがって…》

「ぎゃぁぁぁああああっ!!」

サウジ警備兵A&B《!?》

新堂「ああ!なんと惨たらしい…!」

サウジ警備兵A《お、おい!なんだ今の悲鳴は!?》

新堂《お客様が股間を噛まれてしまいました…!》

サウジ警備兵B《ヒェッ…》タマヒュン

P「あば…あばばば…」ガクガク…

サウジ警備兵B《うわ…こりゃひどい…》

新堂《早くワクチンを打ちませんと、手遅れになってしまいます…》

新堂《幸い、当家には医療設備がございます。そちらに搬送したいのですがよろしいでしょうか…?》

サウジ警備兵A《う、うーん…だが誰も通すなとの指示が…》


P「ま゚か゚びけけぶぅ…」ブクブク…

サウジ警備兵A《…!?わ、わかった…だがこの事は一切他言無用で…》

新堂《もちろんでございます。当家といたしましても、狂犬病の犬が野放しになっていると知られては沽券に関わりますので…》

新堂「さ、P様参りましょう…」

P「あば…あば…」フラフラ…

サウジ警備兵B《…お、おい…よかったのかよ行かせて…》

サウジ警備兵A《だってよぉ…しょうがないだろあれじゃあ…》

サウジ警備兵B《…そういや、まだ4頭狂犬病のチベタン・マスティフがどっかにいるんだよなぁ…》キョロキョロ

サウジ警備兵A《日本は平和な国だって聞いていたのに…とんでもないところに来ちまったぜ…》

水瀬家本邸

P「あばあばあば…」フラフラ…

新堂「…P様、ここまでくればもう大丈夫でございますよ」

P「…ふぃー…いやぁ、いきなりだったんで驚きましたよ…」

新堂「とても即興とは思えない、迫真の演技でございました」ニコリ

ジャンバルジャン「ワン!」

P「ハハハ…ジャンバルジャンの狂犬病の演技の方が鬼気迫ってましたよ…」ゴクリ…

P「今日はパーティーがあるから厳重警備と聞いてはいましたが…」

新堂「…これには少々事情がございまして…実は…」

P「テロ警戒情報…?」

新堂「はい。そのため、やむを得ずこのような形でP様を邸内へお連れしたのでございます…」

伊織「そういうこと。よくやったわ新堂、上出来よ♪」

P「おお、伊織!他のみんなは?」

伊織「全員本邸に移ってきてるわ、こっちよ」

新堂「…伊織お嬢様、サウジ側の警備兵がいつ巡回に来るやも知れません…重々お気を付けください」

伊織「分かってるわよ。新堂もちゃんと『準備』しておいてね」

新堂「承知いたしました…」

P(準備…?)

ガチャ

貴音「あなた様…!」

やよい「あ、プロデューサー!みんな心配してたんですよー!」

P「…おお、貴音、やよい…!それにみんなも…無事だったか…!」

伊織「ハイハイ、感動の再会は後にして、電話の話の続き、しっかり説明してもらうわよ…!」

P「ちょ…ちょっと待てって…そう睨むなよ…」

P「俺の話の前にだな、あのじいさんが現れて…ここで起きたことについて聞かせてくれないか?」

真美「あ!じゃあ真美が説明すんね!まずねー、幻の獣人ヒビゴンが…」

P「ヒビゴン?」

響「ヒビゴン…そ、それってひょっとして自分のことか!?自分、幻の獣人なんかじゃないぞ!」

亜美「そうそう、亜美達が捕獲したかんね!もうただの獣人だYO!」

響「うがぁー!獣人って言うなぁー!」

やよい「響さん、じゅーじんってなんですか?」

あずさ「まず、私達がリムジンに乗ったところから~…」

春香「あずささん…それは戻りすぎじゃないかと…」

千早「みんなで四条さんの話を聞いた直後から始めたらどうかしら…?」

雪歩「つまり…い、伊織ちゃんが怖い話を始めた頃…」ガクブル

真「そ、その辺は端折っちゃっていいんじゃないかな…!ね、美希?」

美希「zzz…」

P「ダメだ、いきなりワケが分からん…!」

P「…貴音、悪いけど説明を頼む…」

貴音「はい、あなた様…」

貴音「ではまず、六十郎殿が現れた時の事を語る前に、この壺についてお話しせねばなりません…」

ここまで

再開

やよい「…」

真「何だか浮かない顔だね、やよい」

やよい「え?あっ…真さん…」

真「こんなに次々と状況が変化するから無理もないけど…あ、もしかして弟や妹達の心配とか…?」

やよい「あぅ…ち、違うんです…長介たちは伊織ちゃんのお家の人が面倒見てくれてますし…」

やよい「それに、プロデューサーも来てくれたから、もう不安な気持ちはないんです…」

真「…?じゃあどうして…?」

やよい「その…おじいさんのことで…ちょっと気になることが…」

真「六十郎さんのことで?」

やよい「はい…」

やよい「私、『また会えますか?』っておじいさんに聞いたんです」

やよい「おじいさんは『もちろん』ってニコニコ笑って言ってくれたんですけど…その時の笑顔がなんだかその…寂しそうに見えて…」

真「寂しそう…?」

やよい「や、やっぱり変ですよね!きっと私の勘違いです!心配してくれてありがとうございます!」

真「あ…うん、大丈夫ならいいんだけどね…」

貴音「…以上が、あなた様が電話をしてくる前に起こった出来事です。そこから現在までのことはあなた様も御承知の通りです」

P「じいさんは神出鬼没…敵は憑依と能力強化…とんだ人外魔境だな…」

P「すまなかったな貴音、守ってやると言ったのに、肝心な時にお前達の側に居てやれなくて…」

P「…もっとも、話を聞く限り俺が居たところで役に立ちそうにも無かったけどな…」

貴音「そんなことはありません…あなた様の言葉があったからこそ、わたくしも強き心を保てたのです」

貴音「わたくし達はたとえ離れていようとも、互いに信頼の絆で結ばれた心強い仲間…そう易々と妖異の力に挫けるものではありません」

P「貴音…」

貴音「あなた様…」

春香「あー、ンンッ!エッヘン!オッホン!!」ズイズイ

P「うおっ…春香、なんだよ急に…!」

春香「えーと…プロデューサーさんは、なんでやよいを教団本部に連れて行くなんて事になったのかなと…」

伊織「そうよ!いい加減そこんとこ白状してもらうわよ!」

P「白状て…あーなんだその…話せば長いことに…」

『あまり悠長に構えていられては困りますな』

P「ん?え?」キョロキョロ

伊織「ちょっと…何よ今の声…?」

『Pさん、左の内ポケットです。そこに小型の連絡装置が入っています』

P「その声…も、もしかして権藤さん?盗聴してたんですか…!?」

権藤『黙っていて申し訳ありません』

権藤『あくまで状況の把握のためです。こればかりは私の性分でして…』

権藤『こちらに全く伝わっていなかったテロ警戒情報とやらが妙なので照会してみました』

権藤『どうも、かつてコロラドの教団施設を襲撃した機関が噛んでいるようです。あくまで間接的に、ですが…』

P「その連中がテロを起こす気なんですか!?」

権藤『そうではありません。テロ予告はブラフ、つまり偽情報を流したんです。やよいさんをここに足止めするためにね』

P「そんな…!だってその機関って教団を潰そうとしたんですよね?敵の敵は味方のはずじゃ…」

権藤『そう単純にいけば楽なんですが…彼らは消えたブツについて説明を付けられず、虚偽の報告を行ったようでして…』

権藤『その詳細までは流石に私も知りません。…ですが、ブツが今さら日本で発見されては困るような内容だったんでしょうな』

権藤『テロを未然に防ぐという目的のため、莫大な予算を食いつぶし、連邦法違反を見逃されているような連中ですので…」

権藤『虚偽の報告だったと露見すれば、組織の見直しを迫られかねない…実際のところは分かりませんが、少なくとも彼らはそれを恐れているようです』

伊織「ちょっと!誰なのさっきからコソコソと…!」

P「ぐおっ…!?ちょ…伊織そんな引っ張るなって…!」

権藤『水瀬家のご令嬢、伊織さんですね?警視庁公安部の権藤と申します』

伊織「警視庁…?あんたまさか…ついに警察のお世話に…!」

P「なんでそうなる!?ついにって何だついにって!」

権藤『Pさんにはこの度の教団の一件について、警察にご協力いただいているんですよ』

権藤『やよいさんを教団本部へお連れするというのも、あくまで我々が安全対策を取った上で行っていただきますので、ご心配には及びません』

権藤『捜査への協力が済み次第、765プロと教団が無関係であることなど、やよいさんをはじめ皆さんの身の潔白を証明することになっています』

P「そそ、そゆことそゆこと…」

伊織「なんだそうだったの…それならそうと早く言いなさいよね!」

P(え?何この信用度の差は…)

P「…しかし困りましたね…教団相手でも手一杯だってのに今度はアメリカまで…どうすりゃいいんですか?」

権藤『情報攪乱を仕掛けてきたということは、逆に言えばそれくらいしか手が打てないのですよ』

権藤『彼らは本来、入念な情報精査と前準備を旨とする情報機関。根回しもろくにしないやり方の荒さから見ても、相当焦っている』

権藤『とにかく、Pさんはやよいさんを連れ出して来てください。彼らへの対応は私の部下が行いますので…』

権藤『こちらからの音声は一旦切りますが、引き続きそちらの音声は聞こえている状態ですので、何かあれば呼びかけてください』プッ

P「…と言っても、入るのもやっとだったのにやよいを連れて出るなんて…」

伊織「大丈夫よ、ちゃーんと手は打ってあるんだから♪」

P「なんだ?急に乗り気だな…」

伊織「理由が分からないまま連れ出すのに納得がいかなかっただけよ。警察に協力して、私たちの汚名を雪ぐのなら話は別だもの」

伊織「…それで新堂、準備は出来てる?」

新堂「はい、手筈は整えてございます」

P「どうするつもりなんですか…?」

新堂「本邸の物置に、オランジェリーの果実を収穫するための電動運搬車がございます」

新堂「それにお乗り頂きまして、現在は使われていない古い裏門までご案内いたします」

新堂「裏門の先は暗渠に繋がっておりまして、そのまま中を進めば当家とゆかりのある神社の境内裏手に出られるはずでございます」

P「電動運搬車ですか…余計に目立ちませんかね…?」

新堂「『警備上不安があるため、外部からの青果搬入を避け、オランジェリーのものを使用したい』と…サウジの警備隊にはその様にお伝えしてございます」

新堂「空の木箱の中に隠れて頂き、オランジェリーに入りましたら、左手奥の戸から裏門までは約30メートル…」

新堂「無事を見届けましたら、私めは木箱に果実を詰め、何食わぬ顔で本邸へ戻ればよいのです」

P「なるほど…」

新堂「それから…あまりにも大きな木箱ですと怪しまれてしまいますので…お乗り頂けるのは3名が限界かと…」

P「まぁ、俺とやよいさえ出られればそれで…」

亜美「エーッ!?兄ちゃんとやよいっちだけなんてずっこいYO!」

真美「真美達も連れてけー!!」

P「無茶を言うな無茶を!」

亜美「だってだって!やよいっちが敵のアジトに行くっていうのに、兄ちゃんだけじゃチョ→心配じゃん!」

真美「それにぃ…せまい箱の中でやよいっちと兄ちゃんが二人っきりぃ…やよいっちが余計に危険だYO!」

やよい「…?」

P「お前らなぁ…いい加減に…!」

真「…でも、亜美と真美の言うことも一理あるんじゃないかな?」

P「ま、真まで…」

真「だってプロデューサー、敵は人に憑依して操れるような連中ですよ?その本部に乗り込むんですから、どんな危険が待っているか…」

真「そう…たとえばッ!」シュバッ!!

P「!?」

ピタ…

P「まま…真さん…?一体何を…」

真「…もしボクが拳を振り抜いていたら、確実にプロデューサーの顔面を抉ってましたよ」

P「つ…つまりなんだ…俺じゃ頼りないってことか…?」

真「そうじゃなくて…もしも、プロデューサーが憑依されたとしたら、その時やよいは今のプロデューサーの立場に置かれるってことです」

P「ハッ…そ、そうか…確かに…!」

真「それに、敵が響に憑依していた時、ナイフで響の体を傷つけようともしました…」

真「だから、プロデューサーが止めることが出来て、尚且つプロデューサーを止めることも出来る、そんな人選が必要じゃないかな、と…」

真「まぁ、そういう意味で言うと、ボクは真っ先に外れるんでしょうけど…」ポリポリ…

雪歩「私も無理ですぅ…」

千早「と言うか、腕力ではほぼみんなプロデューサーには太刀打ちできないのでは…?」

響「自分はプロデューサーに負けない自信あるぞ!…だけど、取り憑かれやすいみたいだから遠慮するさー…」

美希「ミキもそういうのめんどくさそうだし…ハニーに殴られるのも殴るのもヤ、なの」

春香「うーん…律子さんがいたら適任な感じなんだけど…」

P「確かに止めてもらえそうだけど、俺ははたして律子を止められるのか…?」

伊織「仕方がないわね…それじゃあ私が…」

新堂「発覚を遅らせるためにも、お嬢様には予定通りレセプションパーティーにご出席頂く必要がございます」

伊織「うぐっ…わ、分かってるわよ!ちょっと言ってみただけよ…」

真美「むむー、いおりん気は強いけど、別に腕っぷしが強いわけじゃないしねー…」

亜美「そこはきっと金持ちぱぅわーでカバーすんだよ!例えばそう…ショットガンとか!」

P「俺死んじゃうだろそれ…」

スッ…

貴音「あなた様…わたくしが…お供致します…」

P「貴音…!」

貴音「…此度のこと、やよいのみならず、六十郎殿とのやり取りを通してわたくしも深く関わってまいりました」

貴音「斯様な大事になるとは思いもよりませんでしたが…やよいを守ろうと誓ったわたくしの決意は、いささかも揺らいではおりません」

貴音「お役に立てるか分かりませんが…どうか…わたくしの同行をお許しください…」

P「許すも何も、相手が相手だし、俺としては貴音が一緒なら心強いよ!やよいもそう思うよな?」

やよい「はい!もちろんですー!」

伊織「ま、納得の人選ね。貴音ならそもそも憑依されなさそうだし…」

亜美「お姫ちんなら逆に憑依できちゃったりして…」

貴音「ふふ…試してみますか、亜美?」

亜美「うぇ…じょ、ジョークだよぉ…」

P「新堂さん、俺とやよいと貴音の3人で行きます。案内をお願いします」

新堂「かしこまりました。どうぞこちらへ…」

春香「あのっ…プロデューサーさん…!」

P「ん?」

春香「私達は待ってることしかできませんけど…二人をよろしくお願いします…!」

春香「プロデューサーさんも必ず…ぜ、絶対無事に戻ってきてくださいね…!」

P「…心配するな春香、またいつもの通りの765プロに戻して見せるさ…!」

P「敵がまたこっちに戻ってくるかも知れないからな、お前達も十分気を付けるんだぞ」

春香「…はい!」

真美「あーあ、行っちったね…」

真「もどかしいけど、ここで待ってるほかないよ」

亜美「じゃあじゃあ、待ってる間持ってきたお菓子みんなで食べようYO!」

雪歩「じゃあ私お茶煎れるね。この前すごく良いお茶っぱが手に入って…」

雪歩「…あれ?…ひぃふぅみぃ…」

真「どうしたの雪歩?」

雪歩「真ちゃん…あずささんは…?」

真「へ?」

あずさ「…みんなどこに行ったのかしら~…」キョロキョロ

あずさ「途中まで一緒に歩いてたはずなのに、おかしいわねぇ…」

サウジ警備兵C《…ん?オイそこのお前、ここで何をしている?》

あずさ「え?えーと…もしかして私に言ってるのかしら…?」

サウジ警備兵D《日本側のゲストか?今出歩かれては困るんだ、今すぐ部屋に戻れ》

あずさ「困ったわぁ~…なんて言ってるのかしら…」

サウジ警備兵C《おいどうする?全然通じてないみたいだが…》

サウジ警備兵D《とりあえず連れて行くしかあるまい》グイッ

あずさ「え!?あ…困ります…私、みんなのところに戻らないと…」

サウジ警備兵D《いいから来い、一時的に保護するだけだから心配はない》

あずさ「あのぉ~…どなたか日本語の分かる方はいらっしゃらないんでしょうか…?私本当に戻らないと…」

サウジ警備兵D《たくっ…あまり手間取らせないでくれ!こっちも暇じゃないんだ!》

サウジ警備兵C《お…おい…殿下がいらっしゃったぞ…!》

サウジ政府高官《一体どうしたんだ騒々しい…》

サウジ警備兵D《も…申し訳ありません!ゲストの女性が指示に従わず抵抗したもので…》

サウジ政府高官《ふぅむ…なぁキミ、悪いが通訳を頼めるか?》

?《構いませんよ。むしろこちらからお願いしようと思っていたところです》

?「お久しぶりデース…怖がらせてしまい申し訳ありまセン。今彼らは少々気が立っていまして…」

あずさ「日本語…!よかったわぁ~やっと言葉が通じる人が…」

あずさ「あら?でも『お久しぶり』って…?」

?「ああ、ゴトラを被っていたら分かりにくいデスネ…」スルッ

あずさ「あ…あなたは…!」

水瀬家本邸 物置

新堂「…如何でしょう?狭くはございませんか?」

やよい「うっうー!プロデューサーに抱っこしてもらってるので平気ですぅー!」

貴音「申し訳ありませんあなた様…どうしても胸が当たってしまう様です…苦しくはありませんか?」

P「ここが…ここが極楽浄土か…」フラッ…

やよい「だ、大丈夫ですか!?プロデューサー!?」

貴音「あなた様…!?お気を確かに!」

P「あ、すまん…大丈夫だから気にせずに…」

新堂「では出発いたしますが、くれぐれも大声や物音などを出さぬようお気をつけください…」

P「わかりました。よろしくお願いします」

ウィイイイイイン…

P(結構デカイ音で動くもんなんだな…これならバレずにたどり着けそうだ)

ガタンッ

やよい「…あれ?止まっちゃいました…」

貴音「もう着いたのでしょうか?」

P「いや、1分も経ってないぞ。いくらなんでも…」

新堂「…皆様、警備兵が近づいております。絶対に物音を立てませんように…!」

P(なッ…!?)

サウジ警備兵A《…おやおや、さっきの使用人じゃないか。そんなでかい箱をどこに運ぶつもりだ…?》

サウジ警備兵B《大方、『犬』でも入ってるんじゃないか~?》ニヤニヤ

サウジ警備兵A《…この屋敷ではチベタン・マスティフなんざ飼っていないそうじゃないか?まったく人騒がせな…》

新堂《…デザートにお出しする果実を収穫するため、オランジェリーに行く途中でございますので…失礼いたします…》

サウジ警備兵A《フーン…なぁオイ、そんな話聞いてるか?》

サウジ警備兵B《さぁ?何の連絡もなかったぜ…たとえ聞いていたとしても、こんなデカい箱じゃ検分せんわけにもいかんだろ》ガシッ

新堂《!?何をなさるのですか…!》

P(な、なんだなんだ!?)

サウジ警備兵B《検分を妨害すれば、ミナセの使用人と言えど容赦はしないぞ!》

サウジ警備兵A《それとも、この箱の中に見られちゃ困るものでも入ってるのか?え!?》ガンッ!ガンッ!

やよい「あたっ!」

P(うぉおおおい…!?)

サウジ警備兵A《ん?こいつぁどうも…当たりを引いたみたいだな…」

サウジ警備兵B《オトナシクデテキテクダサーイ♪》コンコン

やよい「……っ!」ムググ

P(クソッ…これまでか…!)

?《君たち、何をしているんだい?》

サウジ警備兵B《何をって怪しい箱の検分を……あっ…!?》

サウジ警備兵A《どうして貴方がここに…!危険ですので邸内にお戻りください…!》

?《殿下が水瀬家自慢の果実をご所望でね。取りに行くよう命じたのにまだ戻ってこないのかと、大変ご立腹だ》

?《しかしまさかなぁ…配下の者が妨害していたと知ったら、殿下はなんと仰られるか…》

サウジ警備兵A《ぼぼぼぼぼ…妨害だなんて滅相もございません!!》

サウジ警備兵B《た、たった今も安全を確保するためにちょっとしたアドバイスをしていただけでして…その…!》

サウジ警備兵A&B《しっ…失礼します…!!》ビュゥン‼

?《…やれやれ、殿下の名を出しただけであの恐れ様とはな…》

?「大丈夫デスカ…?あの者達の行いをどうかお許しクダサイ」

新堂「いえ…元はと言えば私にも責任がございますので…それよりも貴方様は…」

石油王「申し遅れました…『石油王』デース」

新堂「…貴方様があの…!」

石油王「Pサン、箱の中にいることは知っていますので安心してクダサーイ」

ガパ…

P「お、お久しぶりです…!サウジアラビアの方だったんですか…?」
※アニメ版(赤羽根P)とは別人ですが、ほぼ同様の成り行きで石油王と会ったことがあるパラレルな世界とお考え下さい。

石油王「いえ、私の友人でビジネスパートナーでもあるサウジアラビア政府の高官に誘われまして、日本語通訳も兼ねてオブザーバーとして参加していマス」

石油王「事情はあずささんから伺いマシタ…無事に脱出できたか様子を見に来マシタガ、見に来て正解だった様デスネ」

石油王「殿下には内々に許可を頂きマシタ。ここから先は警備の者に止められることはアリマセン」

P「本当に助かりました…!恩に着ます!!」

やよい「せきゅーおうさん!ありがとうございますー!」ガルーン

貴音「わたくしからもお礼申し上げます…」

石油王「トンデモアリマセン…もっとお手伝いできればいいのデスガ…」

石油王「そうだ…!代わりと言っては何デスガ、これをお貸ししマス…」

P「…なんですかコレ?短剣…?」

石油王「交易商人だった高祖父の、そのまた高祖父の代からの御守りデース」

石油王「なんでも、先祖が魔術師に呪いをかけられた時に、さる高名な賢者がその短剣を用いて呪いを破ったそうで、以来、わが一族の家宝なのデス」

P「そ、そんな大事な物をお借りするわけには…!」

石油王「いえ、是非受け取ってクダサイ。父も祖父も曾祖父も、友人が困っている時にはこの短剣を御守りとして預けたそうデス」

石油王「そして返ってきた時には、短剣は次の代に受け継がれマス」

貴音「次の代…ということは…」

石油王「…ハイ、もうすぐ私と妻の子供が…」

やよい「赤ちゃんが生まれるんですかー!?うっうー!おめでとうございます!」

石油王「アリガトウ…!…幼い頃から祖父や父に『来るべき時に短剣を渡す相手が必ず現れる』と繰り返し聞かされていましたが、正直半信半疑デシタ…」

石油王「でも、私と妻の恩人であるあずささんに再会し、皆さんの事情を聞いて、今がその時なのだと確信シマシタ」

石油王「あずささんもとても心配してマス…この短剣と共に、無事に帰ってきてクダサイ」

P「…わかりました…必ず戻ってきてお返しします…!」

石油王「さ、行ってクダサイ。皆さんの幸運を祈っていマス…」

やよい「良かったですねプロデューサー!せきゅーおうさんのおかげで上手くいきそうで!」

P「もうダメかと思った時にまさかの石油王さんだからなぁ…御守りまで預かっちゃったし…いやぁ、偶然ってあるんだな…」

貴音「ふふ…あなた様…これはただの偶然などではありません…」

P「え?」

貴音「…国を異にする男女があずさの導きで夫婦(めおと)となり、稚児(ややこ)を授かり、その恩義からわたくし達を助けて下さったわけですが…」

貴音「あなた様が765プロにやって来なければ、そもそもあずさと石油王殿との縁も生まれず、日本人の奥方との婚姻も成らなかったでしょう…」

貴音「わたくし達が短剣を返すべき新たな命は、言うなればあなた様の紡いだ人の縁そのもの…だから守るのは運命だと…そう言っております」

P「言ってって…誰が?」

貴音「…この短剣が、わたくしにそう教えてくれたのです」

P「こ…この短剣が…?(貴音は最近人間離れが著しいな…)」

やよい「貴音さんすごいです…!!他には何か言ってませんかー?」

貴音「…柄の装飾が外れそうなので、腕の立つ彫金職人に直させろと…あと鞘の先のあたりが痒いから掻いてくれと言ってますね」

P「えぇぇ…」

貴音「…手に持っていないでべるとにしっかりと挿すように…あと早く鞘の先を掻け、痒くてたまらん…と、そう言っております」

P(なんかめんどくさいのが増えちゃったなぁ…)

水瀬家敷地外 水瀬神社前

篠原「…中々来ませんねぇ…このままだと定期連絡が入らないことに奴さん達気づいちゃいますよ…!」

権藤「そう焦るな篠原。ここから教団本部まではまだ十分間に合う距離だ」

篠原「しかしですねぇ…高槻やよいを連れ出せたとしても、我々が絡んでいる事を知られたらまたブツを隠されるかも…」

権藤「この時を10年以上待ったんだ…30分や1時間程度ならいくらでも待ってやるさ」

メイド「…う…ん…?」

篠原「あーあ…起きちゃったよ…」

メイド「…何ここ?…車の中?」

権藤「どうも初めまして、女スパイさん」

メイド「…!そうだ!あんたっ…この裏切者ッ!!」ガタガタ

篠原「はぁ…裏切るも何も、俺は最初から教団側の人間じゃないんだよ…」

メイド「通りでおかしいと思ったわよ…!あんたみたいな不信心者がなんで潜入班に選ばれたのかって…!!」

篠原「あのねぇ、この潜入に信仰心は関係ないの。半年以上、場所によっては数年の潜入だぜ?とても信仰心だけじゃ務まらない」

篠原「教団は純粋にスパイとしてのスキルを求めていた。俺は破壊工作と潜入のプロ、お前は近接格闘術が使える多言語話者…」

篠原「水瀬家に訪れる海外の政府高官や企業経営者の会話を聞き、情報を教団に提供できるスキルの持ち主…選ばれた理由はそれだけさ」

メイド「…そうよ…だけどカルプレッタ様は、私に信仰の尊さを教えてくれたわ…!今の私にはラダークの尊い使命がある!!」

篠原「だからそれは…」

権藤「…それは、心身ともにボロボロだったあなたを、彼らが再教育した結果ですよ」

メイド「黙れッ…!!これ以上の侮辱は許さないわ!!」

篠原「…だから言ったじゃないですか主任…連れてこない方がよかったって…」

権藤「女スパイ…いや、ルクサーナさん…」

ルクサーナ「…ッ!?…なんでその名前を…!?」

権藤「私は知らないことがあると落ち着かない性格でして…あなたの経歴も興味深く読ませていただきましたよ」

権藤「出身はアフガニスタン北部、バルフ州の州都マザーリシャリーフ…そこの郊外に家が"あった"そうですね」

ルクサーナ「…内戦でメチャクチャになったって聞いたわ…子供の頃のことはよく憶えてない…」

篠原「この女がアフガン人…?ちょっと濃い目の日本人だと思ってましたよ…」

権藤「モンゴロイド系統の入ったハザーラ人なんだよ、彼女は」

権藤「で…97年にご両親は欧州の民間団体にあなたを預けた後、翌年に起きた虐殺に巻き込まれ死亡。その後行く先を転々として9.11直前に米国へ…皮肉なもんですな」

権藤「ここで一度あなたの足跡が途絶え、次に現れるのが2010年のイラク。『新しい夜明け作戦』の開始後に、『現地通訳』の肩書で米国の特殊部隊に随行していますね」

ルクサーナ「…あんたが何者か知らないし、何を聞き出そうとしているのかも分からないけど無駄よ。話すことなんて何もないもの…」

権藤「…私にはあるんですよ。イラクであなたが随行した部隊は、かつて米国にあった教団施設を襲撃したのと同じ部隊ですからね…」

権藤「あなたはある機関のエージェントだったはずだ。近接格闘術も、多言語話者としての能力も、そこで教わったものでしょう?」

ルクサーナ「……」

篠原「…でもマジでドジッ娘ですよコイツ?ガチのスパイなんて無理ですよ」

ルクサーナ「…あのねぇ…アンタの…そういうとこがムカつくのよッ!今そういう空気じゃないでしょ!?」

権藤「まぁまぁ…ご存じでしょうが、こういう奴でして…」

ルクサーナ「ああもう!…とにかく、私はラダークの教義に殉じる覚悟なの!煮るなり焼くなり好きにすれば!?

権藤「…実に勿体ない…」

ルクサーナ「勿体ない…?」

権藤「私はね、ルクサーナさん。あなたの能力を高く買っているんですよ」

権藤「あなたは20か国以上の言語といくつかの少数民族の言語をネイティブスピーカー並みの発音で話せるとか…そんな人材はそうはいませんからね」

権藤「どうです?私の下で働いてみる気はありませんか?給料は奮発しますよ?」

篠原「あちゃー…まーた始まったよ…連れて来いって言われた時からそんな予感はしてたけど…」

ルクサーナ「…はぁ?気は確かなの…?」

権藤「大まじめですよ。あなたを連れてこさせたのは勧誘のためと、もう一つ、あなたの信仰するLHSの実態をその目で見てもらうためでもあるんです」

ルクサーナ「…何を言い出すのかと思えば…ねぇ、アンタの上司ちょっと頭おかしいんじゃないの??」

篠原「ん…まー変わった人ではあるな…」

権藤「ちなみに、この篠原も昔私が勧誘したんですよ。こんな軽い奴ですが、中南米最大の反政府武装組織にいまして…」

ルクサーナ「…コロンビア革命軍…!?」

篠原「ちょ…やめてくださいよぉ…俺的にあれは黒歴史なんですから…」

権藤「…まぁそういうわけで、今日は終日我々に同行してもらいますのでそのつもりで」

篠原「…主任、来ましたよ…!」

ガチャ!ガーッ!

P「すいません!遅くなりました!!」

権藤「お待ちしてましたよ。さ、早く乗ってください」

やよい「よっ…よいしょっと…」

ルクサーナ「や…やよい様ッ!?」

やよい「はわっ!?…び、びっくりしたぁ…」

貴音「あなたは…今朝のめいど殿…?」

P「な、なんでこの人縛られてるんですか…?」

権藤「彼女も教団の人間です。やよいさんの居所を突き止めたのも彼女なんですよ」

P「それじゃあ…もう権藤さん達のこともバレちゃったんですか…?」

権藤「そうなる前に、そこの篠原が身柄を確保しました。事務所にいた時私に電話をしてきたのも彼です」

P「そうでしたか…!」

ガーッ!バタン!

権藤「さてと…これで役者は揃ったわけですな…例の老人を除いて…」

やよい「おじいさんのことも知ってるんですか?えーと…」

権藤「権藤です。やよいちゃんの方がよく知っているようだから、おじさんに後で話を聞かせてくれないかい?」

やよい「はい!わかりました!とっても優しいおじいさんなんですよ!」

権藤「それと、四条貴音さん…ですね?あなたの経歴の謎の多さには参りましたよ…」

貴音「警察の方と言えども…人の過去を無暗に詮索するのは、あまり関心致しませんね…」

権藤「こういう仕事でしてね、申し訳ない。もっとも、あなたについては何もわからないも同然でしたがね…」

権藤「…ところでPさん、ベルトに挿したそれ、先程石油王氏から預かったという短剣ですよね?少し調べさせてもらっても…」

篠原「主任、悪い癖が出てますよ…それより今は…」

権藤「…分かってるよ…でもお前だって気になるだろ篠原?」

篠原「とりあえず出発してくださいよ…時間ないんスから…」

権藤「…では皆さん、今から教団本部に向かいます。少し飛ばしますからしっかり掴まっていてください」

P(ここまで来てしまったが…やよいや貴音は権藤さんの目的を知らないまま…本当にこれでいいんだろうか…?)

貴音(…大きな気の乱れが…事務所の方角から徐々に広がっている…これは一体…?)

やよい(…おじいさん…もし家族や765プロのみんなが危ない目にあったら、その時はどうか助けてあげてください…)

ルクサーナ(偉大なるラダーク…ゲネゲの邪を討ち払い、やよい様をお救いするため、どうか力をお貸しください…!)

篠原(…あー…腹減ったなぁ…カツ丼食いてぇ…マジで…)

ブロォオオオオオン……

ここまで。

次回、最終局面へ向かって

イケタライイナ…

再開

LHS本部 第二講堂

ザワザワ… ザワザワ…

マスコミA「ったく…重要な発表とやらは一体何時になったら始まるんだよ…」

マスコミB「まぁまぁ、空調がきいてる分、765プロの前で詰めているよりはマシじゃないか」

マスコミA「でもなぁ…この連中と一緒じゃあ…」チラ…

入信希望者A「ヤヨイサマ…ヤヨイサマ…」

入信希望者B「ああ…早く私にも救いを…」

マスコミA「ずっとこの調子じゃ気が滅入るよ…」

マスコミC「でも意外ッスね!新興宗教団体ってもっとヤバそうなのの集まりかと思ったら、結構カワイイ娘とかいるんスもん…!」

マスコミA「…お前、仕事は半端なくせにそーゆーとこはしっかり見てんのな…」ハァ…

マスコミB「ああいう可愛い系の娘が勧誘とかするんだけどな。お前も気をつけないと変な壺とか売りつけられるぞ」

マスコミC「ちょ、勘弁してくださいよ~w」

マスコミA「…なんでもいいから俺は早く帰りたいよ…」

第二講堂 二階 調整室

カルプレッタ「どうでしょう代口様…?上手くいきそうですか…?」

代口「ああ…悪くない感じだ…下の様子はどうだ…?」

カルプレッタ「…まだ特に変化は見られませんが…」

代口「ならばもう少しペースを上げてみるか…」

マスコミA「ハァ…なんかドッと疲れが来たなぁ…眩暈がしてきた…」

マスコミB「ここんところ上からケツ叩かれっぱなしだからな…ってアレ?なんか俺も…」

マスコミC「……グゥ…」

マスコミA「…は?お前何寝てやが…ウッ…!」フラ…

マスコミB「体に力が入らない…周りの様子もおかしい…ぞ…」ガクッ…

入信希望者A「ハァハァ…ヤヨ…ヤヨイ…サマ…」ドタッ…

入信希望者B「意識が…これが救いの奇跡…!」バタッ…

カルプレッタ「…気吸いが上手くいっているようです…次々と気を失って倒れていきます…」

代口「なんということだ…!!」

カルプレッタ「……代口様?如何なされたのですか?」

代口「これだけ大勢の気を吸ったというのに一向に止まる気配すらない…気が絶え間なく流れ込んでくるぞ…!」

カルプレッタ「この第二講堂だけでも400人近い人間がいるはずですが…!」

代口「…それだけではない、外にいる人間の気まで吸い上げているようだ…!」

カルプレッタ「まさかそんな…!?」

代口「そのまさかだ」ヒタッ

カルプレッタ「…あの…なぜ私のおでこに手を…?」

代口「千里眼で見た外の様子を見せてやる。目を瞑るがいい…」


『なんだ…?力が抜けていく…』

『誰か…誰か救急車を呼んで…』

『動けない…助けて…』

『ママ!起きてよママ…マ…マ…』

カルプレッタ「ま、街中の人間から気を吸い上げているのですか…!?」

代口「…よもやここまで霊力の器が大きくなっていたとは…私自身気が付かなかったがな…」

代口「おそらく長い間水脈の霊力を取り込んだ影響だろう…それが古い気を出し尽くして覚醒したのだ…喜ばしい誤算だ」

カルプレッタ「しかし代口様、これ以上外部に影響が及んでは徒に騒ぎが大きくなるだけかと…ここは一旦…」

代口「フフフ…カルプレッタ君…いや、カルプレッタ、今更何を怖気づいている」

代口「壺なしでこれだけの範囲を影響下に置けるのだ…壺が戻りさえすれば完全な結界を張ることも容易いだろう」

カルプレッタ「では…あの計画を実行するおつもりですか…!?」

代口「そうだ…予定よりだいぶ早いがこの機を逃す手はない」

代口「だが…結界を張る前に壺と高槻やよいをこちら側に入れなければ…」

カルプレッタ「壺さえあれば高槻やよいはもうよいのでは…?計画が実現すれば、金などそれこそ沸いて出る様に…」ヒヒヒ…

代口「金の問題ではない。この計画には高槻やよいのようなシンボルが必要なのだ…世の注目を浴びているこのタイミングも申し分ない…」

代口「それにだ、水脈の主が戻ったのだとすれば、何を仕掛けてくるかわかったものではない…」

代口「奴が高槻やよいに肩入れしているなら、こちらもそれを利用するまでよ…」

代口(さて…壺と高槻やよいは今どこに…)

代口(む…水瀬の屋敷から外に出たな…)

代口(この速度は…車か…どこへ向かっている…)

代口(さぁ、その心中を私に見せてみよ…!)

キンッ!

やよい「ッ!?」ゾクッ

貴音「面妖なッ…!!」

P「ふ、2人ともどうした急に…?」

やよい「ぷ、プロデューサー…今誰かに…」

貴音「見られた気配がありました…!」

P「見られた…?」

権藤「もしや、例の老人ですか?」

やよい「違うと思います…もっと怖そうで…ぎゅーって締めつける感じで…」

貴音「憑依された響がわたくしに襲いかかった時に似ていました…あれよりも数段強く、より禍々しいものですが…」

P「じゃあ教団の…!もしかして警察に協力していることも気づかれたか…!?」

貴音「いえ、その心配はありません…それが早速役に立ったようです…」

P「え…?」

代口「ぬ…ぐぬぅッ…!!」ガクッ

カルプレッタ「だ、代口様…!?」

代口「何かに…高槻やよいの傍にある『何か』に弾かれた…!何かは分からぬが…」

カルプレッタ「では憑依なさってみては…」

代口「同じことだ…!奴め、765プロの連中に神器の類を渡したに違いない…!」

代口「…だがこちらの方角に向かって来てはいるようだ…事務所に行くつもりかも知れん…」

代口「微かにだが、四条貴音が壺を持っている姿も見えた…上手くすればどちらも我が手に…」

カルプレッタ「しかし、先程憑依はできないと…」

代口「その通り…だから直接出向いて奪うのだ、お前がな」ガシッ

カルプレッタ「ぅぶっ…!!な゛…何を゛ッ…!?」

代口「私は結界を張る準備で忙しい。その間に、お前が高槻やよいと壺を奪ってくるのだ」コォォォォォォ…

カルプレッタ「がッ…アグッ…だいこ…さま…!!」ゴキ…ゴキ…グキ…

代口「案ずるなカルプレッタ…有り余った私の通力を分けてやるだけだ…少し苦しかろうが我慢しろ」

代口「お前から通力を奪って270余年…どうだ?久々の感覚であろう?」

代口「お前が戻り次第、結界を完全に閉じる。それで我らの念願成就というわけだ…!」

権藤「弱りましたな…」

P「全然進まないんですか?」

権藤「事故か規制か…いずれにしても微動だにしないのでは、ただの渋滞というわけではなさそうだ」

P「俺はなんだか嫌な予感がしてきましたよ…」

権藤「ただ待っていても埒が明かない。幸いにして765プロ事務所まで数百メートルの距離です。必要な機材を運び込んで拠点を構築させてください」

P「構いませんが、事務所前にはマスコミが…」

権藤「それはここにいる篠原が何とかします」

篠原「聞いてないんスけど…」

権藤「あの手合いはひと騒ぎすれば頼みもしないのにカメラを向けてくる…とにかく連中の興味を引いてこい」

篠原「相変わらず指示がむちゃくちゃなんだよなぁ…」

権藤「終わったら一杯おごってやる」

篠原「俺が酒弱いの知ってるでしょうが…まぁ何とかしてきます」バタム!

P「律子や音無さんには、教団の連中が化け物じみている事はあらためて説明しないとな…信じてくれるかな?」

貴音「律子嬢や小鳥嬢には、わたくしからも説明を…」

やよい「…あれ?プロデューサー、篠原さんもう戻って来ましたよ?」

P「仕事早いな~…」

権藤「いや、どうも様子がおかしいですな…」

ガーッ!バタン!

篠原「主任!化学兵器が使用された可能性があります!」

権藤「……車内浄化装置を作動させた。測定器をすぐに調べろ」

P「化学兵器…!?」

権藤「篠原、何を見た?」

篠原「…車外に出てちょっと行った先で何人も歩道に倒れていて…俺も強烈な倦怠感に襲われて何とかここまで戻ってきたんです…!」

篠原「戻る時に渋滞の列を見ましたが、車内の人達も軒並み意識を失っているようで…」

篠原「…測定器では特に何も検出されませんが…細菌かウイルスって線も…」

権藤「篠原、その強烈な倦怠感とやらはまだ続いているか?」

篠原「え?いや…そういえばすっかり元の感じに…」

権藤「車内にいる人間も意識を失っていたらしいが、このバンに影響が及んでいないのはなぜだ?浄化装置はさっき作動したばかりだ」

篠原「そういや…そうスね…」

貴音「権藤殿、よろしいでしょうか…?」

権藤「私の方から聞こうと思っていたところです。あなたならその短剣にこの状況について聞けるでしょうしね」

貴音「はい…わたくしにも詳しくは分かりませんが、短剣…いえ、短剣殿が言うには、人々は何かに精気を吸い取られていると…」

貴音「ここに向かっている間、事務所の方角で大きな気の乱れを感じましたが…恐らくはこれが原因かと…」

権藤「人の精気を吸い取るときたか…しかもここ一帯全ての人間となると相当な規模だ」

篠原「このバンの中は短剣に守られていたから平気で、俺はバンから離れた途端に気を吸われたってことか…」

やよい「じゃあ、私達ここから出られないってことですか…?」

貴音「いえ、短剣殿から離れなければ心配ありません」

P「つまり、常に全員一団となって移動すればいいわけか…」

篠原「…だそうだ。逃げんなよ」

ルクサーナ「逃げないわよ…!今の話が本当なら、逃げたところでどうせ気絶するんでしょ?」

ルクサーナ(フンッ…何が精気を吸い取るよ…教団が…ラダークがそんなことするはずないじゃない…)

たるき亭前

ルクサーナ「何よこれ…どうなってるの一体…!?」

篠原「見ての通りだよ」

P「昼夜通して張り込んでいたマスコミ連中もみんな気を失っているとは……って…これ、本当に気絶してるだけですよね?」

権藤「……かなり呼吸は浅いですが、死んではいませんね」

権藤「しかし…これだけ大規模となると、効果範囲の中に病院や高齢者介護施設も含まれるでしょうから、この状況が長引けば死者が出る可能性も…」

ルクサーナ「…!!」

やよい「そんな…誰か死んじゃうかもしれないんですか…?」

権藤「この力がどういうものかはっきりしないので、あくまで可能性の話ですが…とにかく急ぐに越したことはない」

やよい「わ、わかりました!プロデューサー!ほら、急ぎましょう!!」

P「ちょ…待ってやよい…この荷物60キロくらいあるから急ぐのはムリ…」

765プロ事務所

P「ゼェ…ゼェ…エレベーターが…壊れているのを…これほど憎らしく…思ったことはない…」ハァハァ

やよい「あ!律子さん!小鳥さん!」ダッ

律子(zzz…)

小鳥「グゥ…」

貴音「大丈夫ですやよい。二人とも仮眠の最中に事が起きたようです」

P「吸い取るような精気なんかほとんど残ってなかったろうに…!」

やよい「でもよかったですぅ…二人が死んじゃってたらって…私…」グス…

ルクサーナ(………)

権藤「このテレビをモニターとして使うか。篠原、ここにセッティングしてくれ」

篠原「了解」

権藤「それと…やよいちゃん、これをつけてもらえるかな?」

やよい「う…?…わぁ!イルカのペンダント!」

権藤「これには小型カメラと位置情報の発信機能がついているんだ。やよいちゃん、これから私が説明することをよく覚えてほしい」

権藤「君は教団の最高位を与えられている…教団本部には君や代口しか入れない『聖域』とされている場所がある」

権藤「…実際のところ、代口がその権限を本当に与えているかどうか疑わしくもある…」

権藤「だが少なくとも、代口に近づける可能性が最も高いのはやよいちゃん、君だ。そこで…」

権藤「もしやよいちゃん自身が聖域に入れない場合は、代口の衣服や持ち物にこのペンダントを忍ばせて欲しいんだ」

権藤「上手いことやよいちゃんが入ることができた場合は、その場にこのペンダントを置いてくるだけでいい」

やよい「あぅぅ…ちょ、ちょっとむずかしいかも…」

権藤「出発する時にシールタイプの超小型トランシーバーを渡すから心配はいらないよ」

やよい「分かりました!えと…あっちでちょっと復習してきますね!」タタタ…

篠原「…話には聞いてましたけど、ほんと絵に描いたような良い子ですね、彼女」

権藤「情けない話だよ…各組織が策謀めぐらしたこの十余年の決着を、あんな十代の少女に負わせようというんだからな…」

P「…あれ?権藤さん、もしかしてやよいに説明したんですか?」

権藤「何を探しているかについては伏せてますがね」

P「何をって…「大量の兵器」ってだけで俺も具体的には聞いてませんでしたね…」

権藤「そうですね…教団が形振り構わぬ攻勢に出ている今、我々が懸念している事態についてあなたにもお話して…」

ガッシャァァァアアン!!!

やよい「きゃああッ!!は…放してっ…!!」

P「やよいッ!?」

権藤「しまった…!!」

?「ヒヒッ…わざわざそっちから出向いてくれて感謝するよ…!」

篠原「なんだありゃあ…!?」ジャカッ

?「おっと!物騒なモノはしまいな!この子に当たるよ!」グイッ

やよい「あうっ…」

篠原「チッ…!」チャキ…

貴音「何奴ッ!?」

?「名乗る必要があるのかい?あんたみたいな小娘ごときに…」ヒヒヒ…

ルクサーナ「…まさかそんな…その声…カルプレッタ様…?」

カルプレッタ「ん…?もしかしてルクサーナかい?連絡がないと思ったら捕まっていたとは情けないね…」

権藤「カルプレッタ…?この狐の化物があの女だというのか?」

カルプレッタ「どこの馬の骨か知らないが礼儀というものがなっていないね…これがアタシの本来の姿さ」

P(狐…なのか?こいつ立ち上がったら3メートルくらいはあるんじゃ…!)

貴音「やよいを解放なさいっ!」キッ

カルプレッタ「おお怖や怖や…!余りの気迫に足が竦んで動かぬわ…おまけに手も震えて、うっかり力が入り過ぎてしまう…」ギリ…

やよい「あぅっ!いっ…!」ギチギチ…

P「や、止めろ!要求は何だ!?」

カルプレッタ「要求?立場が分かっていないようだねぇ…お前達はアタシの命令に従うしか道はないんだよ。そうでなければまとめて八つ裂きさ」キヒヒ…

貴音「痴れ者がっ…!」

P「よせ貴音…!下手に刺激するな…」

ルクサーナ「か、カルプレッタ様!なぜやよい様を傷つけるのですか!やよい様はラダークの…」

カルプレッタ「あぁ…信心深い哀れで孤独なルクサーナよ、よぉくお聞き…ラダークはね…」

ルクサーナ「は、はい…」

カルプレッタ「…ぜぇーんぶ作り話!嘘!デタラメ!はい、残 念 で し た ー!」ヒャヒャヒャ…

ルクサーナ「……え?」

カルプレッタ「聞こえなかったかい?ラダークなんてこの世には存在しないんだよ。もちろんあの世にだっていやしないだろうさ」

ルクサーナ「だ…だって…重度のPTSDで廃人同然だった私を…ラダークの奇跡で治してくださったではないですか…!」

カルプレッタ「あぁ~…あれはね、代口様が通力でお前の記憶を弄ってやったのさ」

カルプレッタ「原因は幼少期の体験だって医者の話を元にね…その証拠に、子供の頃の事はほとんど思い出せないだろう?」

ルクサーナ「……!!そんな……!」

カルプレッタ「記録まで改竄するのは大変だったよ…お前は本当は虐殺の場にいて見ていたのさ。両親や兄弟が殺されるのをその目でね…」

ルクサーナ「…やめてッ!」

カルプレッタ「そうだ、アタシの通力で記憶を戻してやろう。ラダークがいない悲しみなど、廃人になれば気にもならないだろうしね」ヒヒヒ…

ルクサーナ「…お願い…もう…」

やよい「やめてください!!」

ルクサーナ「…やよい様!」

カルプレッタ「あん?」ギロリ

やよい「ルクサーナさん、嫌がってるじゃないですか!やめてあげてください!」

カルプレッタ「おやおやおや…やよい様の御高説、お耳が痛いですわ。思わず手にも力が入るほどに…!」ギリギリ…

やよい「ぐっ…あぅっ…わ…たし…こんなの…へいちゃらです…!!」メキ…

P「よすんだやよい!!殺されちまう!!」

カルプレッタ「全く往生際の悪い連中だね!…まぁいい、壺の場所を言えば命を取るのだけは勘弁しておいてやろう」

権藤(…篠原、まだ動くな…奴の目的は壺だ…機会を待て)

篠原(アイサー…)

貴音「壺はここにあります…!」ドン!

篠原(…ってオイ…!)

カルプレッタ「ヒヒッ…そうそう…従順なのが一番さ…」

カルプレッタ「さ、こっちに持ってきな小娘!妙な真似をすればアタシの爪がこの子の柔肌にザックリいくよ」スリ…

やよい「う…」ビクッ

P「やよい…!」

貴音(あなた様…短剣をいつでも抜けるように準備を…)ヒソ…

P(え…?こんなリーチが短い武器で戦うのは無謀だろ…!)ヒソヒソ…

貴音(いいからその時に備えてくださいませ。すぐにわかります…)ヒソ…

カルプレッタ「何をコソコソ喋っている!さっさと壺をよこしなッ!!」

貴音「そう焦らずとも…すぐに参ります…」スッ…

P(…ん?貴音のスカート妙に膨らんでないか…?)

貴音「さぁ、ご所望の壺です。やよいを解放なさい…!」

カルプレッタ「ああ、いいともさ…」ガシ…

カルプレッタ「…キヒッ…なぁんて言うと思ったかい?やよいも壺も全部アタシのものだよ!お前らは用済みさ!!」クワッ!

貴音「…『そう』言うと思っておりました。今です!六十郎殿!!」

ブワッ

六十郎「ほいきた」

カルプレッタ「!?」

P「…爺さん!?」

権藤「あれが…!」

カルプレッタ「ギィィッ!!」シュバッ

六十郎「ふむ…図体の割に中々素早いのぉ」フワッ…

カルプレッタ「…やはりキミツミノヌシか!邪魔立てすれば今度こそ完全に滅ぼしてくれるぞ!!」

六十郎「ほ、面白い。やってみたらどうじゃ?もっとも、お主らが欲しがっとる壺の力も失われるがの」カッカッカ

カルプレッタ「ぐぅっ…!キィィ…!!」ザッ!

ドガァッ!!

貴音「くっ…!」

P「うおっ!?壁が…!」

篠原「クソッ…!」ガシャ

権藤「まだだ篠原!」

カルプレッタ「…ハハッ!口ほどにもない!あの時のアタシとはわけが違うのさ!!」

六十郎「…わしに埃をつける程度には上達したようじゃな…」パッパッ…

カルプレッタ「!?……ぬぐぐ…!!」

六十郎「さて…お主の攻撃なんぞ屁でもないが、困ったことにわしにもこれといった攻め手がなくての…」

六十郎「そこで、プロデーサーさんの出番ちうわけじゃ」チラ…

貴音「さ、今ですあなた様!」

P「えっ!?このタイミングで!?隙を突くとかでなくて!?」

カルプレッタ「…はっ!何を言い出すかと思えば…この青びょうたんに何ができるってんだい?」ヒャヒャヒャ…

P「青びょうたんて…ああもう!こうなりゃヤケだ!やってやる!」スラッ

チャキ…

P(…短ッ!?想像以上に短ぇッ…!?)

カルプレッタ「プフーッ…!そんな短い刀でこのアタシに挑もうってのかい?…こりゃ傑作だ!キッヒッヒ…!」

六十郎「…コサテクイ…キミツミノヌシ…ヒムノコノテ…」ブツブツ…

P「…あのちょっと…こっからどうすりゃいいn」ビュン!!

ズバーッ!!

カルプレッタ「ヒッヒッ…ヒ……?」ズルリ…

やよい「あわっ…!」グラ…

ルクサーナ「危ない!やよい様っ!」ガシッ!

ドサドサッ!

カルプレッタ「ひ…ぎ…」ガクガク…

カルプレッタ「ひぎゃぁぁぁぁああああああ!!!!ア、アタシの腕ぇぇぇぇぇええええ!!!!」

貴音「…るくさーな殿、ありがとうございます。やよい、もう大丈夫ですよ」

六十郎「悪いがのぉ化け狐、壺も返してもらうぞい」ヒョイ

P「はわ…はわわわわ…」カチャカチャ…

カルプレッタ「が…が……おのれぇ…青びょうたん…!!噛み殺してくれる!!」グガァ!

篠原「主任!」

権藤「ぶち込んでやれ」

篠原「遠慮なく!」ガチャン!

ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンッ!

カルプレッタ「ひっ!ぎっ!ひぎっ!?ぎぁっ!?ギャッ!」ブシュッ!ブシュッ!ブシュッ!ブシュッ!ブシュッ!

篠原「ダメ押しだ!」ガシャン!

ドバンッ!ガシャ!ドバンッ!ガシャ!ドバンッ!

カルプレッタ「ギャッ…!ぐがッ…!アガッ…!ギギャアアアア!!!」

ガッシャァァァアアン!!!

篠原「あっ待て…チッ…仕留めそこなったか…!」ガシャ!

六十郎「こりゃ頼もしいお仲間じゃの。あの女狐もこれで懲りたじゃろうて…」

権藤「やっとお会いできましたね。警視庁公安部の権藤と言います。こちらは篠原です」

P「あ、あの…お話し中悪いんですけど…どなたかこの『長剣』を外してくれませんか…?手が強張っちゃって…」

六十郎「おお、すまんすまん、術を解くのを忘れておったわい」パンパン

シュシュシュ…

P「た…短剣に戻った…」ハァ…

ルクサーナ「ごめんなさい…あなた達が正しかった…」

篠原「洗脳どころか人様の頭ん中直接弄るなんて、あいつらひでぇことしやがる…!」

ルクサーナ「皮肉なことだけど、代口…あの男がそうやって記憶を消してくれたおかげで、悲しまずに済んでるのも事実よ…」

ルクサーナ「たとえ記憶が戻ったとしても悲しんでいる暇なんかないわ…私はやよい様を御守りすると決めたのだもの…」

篠原「…次の教祖を見つけたわけか?」

ルクサーナ「嫌味な言い方するのね…そんなんじゃないわよ」

権藤「六十郎さん、是非あなたのお力をお借りしたいのです。カルプレッタは手負いながらもこの事を代口に報告するでしょう」

権藤「そうなると我々が探しているものを隠される可能性が…いや、最悪使用される恐れすらあります」

六十郎「お前さん方の探し物じゃが、十中八九わしが行こうとしとる場所に隠されておるじゃろうて」

権藤「それはどこですか…!」

六十郎「それはじゃな…」

シュルシュルシュル…グイッ!

やよい「え…?」ズルッ!

六十郎「なんじゃと…!?」

P&貴「やよい!」

カルプレッタ「…ガフッ…!やったぞ…!迂闊だったなキミツミノヌシ!」ギヒヒ…

やよい「あ…あうぅ…」ギリギリ…

篠原「し…尻尾で…!?」

権藤「壁に開いた穴から忍ばせていたのか…なんてしぶとさだ…!」

カルプレッタ「グフッ…これ以上お前らの相手などしていられん…!この子の命が惜しくば教団本部へ壺を持ってこい!」

カルプレッタ「30分以内に持ってこなければ、高槻やよいは死ぬ!腕と足を引きちぎって…八つ裂きにして殺す!」

P「…っ!!」

カルプレッタ「30分以内だ!!忘れるなぁっ!!」

ザザザザッ…!

P「…くそっ!!」

貴音「六十郎殿…このままではやよいは…!」

六十郎「わしとしたことが…些か無用心じゃったわ…」

六十郎「…じゃが、行く先は変わっとらん。やよいちゃんを隠すじゃろう場所も決まっておるわい…」

権藤「先程言っていた場所ですね?どこなんです?」

六十郎「古い祠があるはずなんじゃ…教団本部の地下にな…」

P「地下にあるはずって…ハッキリとしたルートは分からないんですか?」

六十郎「特別な場所でな…わし一人ではそこに近づくことすらできんのじゃ…建物の他の場所はくまなく探ったでの、もうそこしか残っとらん」

篠原「いくらなんでも漠然とし過ぎて…」

権藤「…篠原、テレビをつけろ」

篠原「え?こんな時にテレビなんか見てる場合じゃ…あ!そうか!」ダダダ…ピッ

権藤「ブロックノイズがひどいな…調整できるか?」

篠原「何とか…これで…………どうです?」


『は…放してください!』

『いい加減黙りな!黙らないならその喉笛噛み千切ってやるよ!!』

『私、笛なんか持ってません!』

『…ぎぃぃぃ!!こんなアホのせいで腕を失ったかと思うと、自分が情けなくなるよ…!』

P「これは…!」

権藤「先程やよいさんに渡したペンダント型カメラからの受信映像です。あと2時間は映像と現在地の信号を送り続けてくれます」

『……』チラ

貴音「…やよいも、こちらが見ていることに気がついているようですね」

権藤「こんなことなら先にトランシーバーも渡しておくべきでしたが…とにかくこれでやよいさんの足取りを追うことはできます」

権藤「六十郎氏が言うように…やよいさんが地下の祠とやらに連れていかれるのなら…我々の探し物もあるいはそこに…」

P「六十郎さん…!もう出たり消えたりしないであんたの力を直接貸してくれ!頼む!」

六十郎「さっきも言うたが、わしは祠に近づけないんじゃ…やよいちゃん探しではかえって足手まといじゃよ」

P「そんなこと言ったって…さっきみたいな術なしに、あんな化物共と戦えるわけないでしょうが…!」

六十郎「まぁまぁ落ち着きなされ。何も全く打つ手がないと言うてるのではないわい」

六十郎「わしが直接出向くことができん代わりに、お前さんがわしの力をその身に宿せばいいんじゃ」

P「あんたの力を…?」

ここまで。つづく。

再開

水瀬家本邸

亜美「ズズズ…ぷはぁ~…やはり茶の湯はたまりませんなぁ、真美殿」

真美「まさにわびさびですなぁ…」ズズー

伊織「エインズレイのティーカップのどのへんにわびさびがあんのよ…」

真「むむむ…」カタカタカタ…

真美「…まこちん殿、貧乏ゆすりはお行儀が悪いですぞ」

亜美「ですぞー」

真「ふ、二人ともなんでそんなに落ち着いていられるのさ!」

真美「…真美達は今茶道ごっこでちょ→リラックスしてるかんね。ささ、まこちんも一杯…」

亜美「えらい人は言いました『茶の道はヘビー』だと…」

真「ソレを言うなら蛇の道は蛇…ってお茶と全然関係ないじゃないか…」ハァ…

伊織「同調するわけじゃないけど、ここでジタバタしたってしょうがないじゃない?」

真「そりゃまぁ…もうボクらに出来ることはないけどさ…分かってても落ち着かないよ…!」

美希「カンタンだよ真君…こうやって一口啜って…フゥ…これだけなの」

真「それにしたってみんな落ち着き過ぎじゃない…?ゆ、雪歩…このお茶なんか入ってるの…?」

雪歩「え?確かにリラックス効果はあるけど…あ、怪しい葉っぱなんか入ってないよぉ…ホントだよ…!」

真「いや、怪しい葉っぱとは言ってないけど…」

亜美「でも真美ぃ、茶の湯もちょっと飽きてきたYO…」

真美「よっしゃ!じゃあはるるんのケータイでワンセグ観よーじぇー!」バタバタ

亜美「はるるーん!スマホ貸してスマホー!」

春香「え?亜美と真美も持ってるでしょ?」

真美「だってぇ、真美達のはワンセグついてないんだもーん!」

亜美「お願ぁいはるる~ん☆」

春香「もぉ…しょうがないなぁ…はい、余計なとこさわっちゃ駄目だからね?」

真美「ダイジョブダイジョブ!はるるんの秘密の日記アプリは『もう』開かないから!」

春香「ちょっ!?」

亜美「はるるん、今時パスワードに誕生日はないっしょ」

春香「あ、あはは…ナンノコトヤラ…(変えとかなきゃ…)」

真美「さてさてー、なんか面白い番組はっと………んん?」

亜美「どったの真美?」

真美「んー…なんかどこのチャンネルもおんなじニュースばっかやってるっぽい」

亜美「えー!?そんなのつまんないよー!テレ東は?最後の良心テレ東なら…」

『見てください!この大きな蟹!』

亜美&真美「通販番組かぁ…」ビミョー

千早「…待って真美、そのニュース…ちょっと見せてもらえる?」

真美「うん、いーよー」

『…繰り返しお伝えします。現在警察や消防により懸命な救助活動が…』

真「救助活動?何か大きな事故でも起きたのかな?」

『しかし、規制線の内側で意識を失う警察官や消防隊員が続出しており、救助は難航しているとのことです』

『この現象の原因は未だ不明とされていますが、複数の外国メディアがテロ攻撃の可能性について伝えています』

『内閣府は主要閣僚を招集し対応を協議中で、政府関係者の話では自衛隊の防衛出動も視野に…』

『……え?あ…これ?はい…はい…映像出る?出ない?このまま?』

響「ん…?どうしたんだ?」

春香「きっとなんか急なニュースが入ったんだよ。ほら、原稿渡してる」

『…今入ったニュースです。○○東京都知事は先程、□□防衛大臣に対して自衛隊の『国民保護等派遣』を要請し、承認されました』

『えー…この『国民保護等派遣』は我が国に対する武力攻撃事態、もしくはそれが切迫している場合に都道府県知事などの要請に基づき発令されるもので、この制

度が出来て以降、初めての発令となります』

『これに関連して、防衛省は在日米軍と自衛隊が共同で規制線の封鎖を開始したとの異例の発表を行いました。米軍との連携は大規模テロの可能性を考慮に入れた

措置と思われ…』

響「…な、なんか…凄いことになってるぞ…」

千早「これってプロデューサーの言っていた事とは…関係ないわよね…?」

『映像は今現在の規制線付近の様子です。自衛隊車両の他に、米軍のものと思われる装甲車が何台も…』

真「だと思うけど…まるで戦争でも始まりそうな雰囲気だよこれ…」

あずさ「…あら?これ、地図のここだけ赤いのは何かしら?」

雪歩「えと…たぶんこれが立ち入り禁止の範囲を示してるんじゃないでしょうか……あれ?ここってもしかして…」

響「こ、これ、765プロのビルも赤い範囲に入ってるぞ!」

伊織「…あのインチキ教団の建物もね…じゃあこの騒ぎも…!」

美希「ハニー達大丈夫かなぁ…」

真美「ねーねー!真美にももっかい見せてYO!」

亜美「亜美も!亜美も!」

ヴィィィィ!ヴィィィィ!

春香「ま、待って二人とも、プロデューサーさんから電話が…!」 

ピッ

春香「もしもs…」

P『春香!いきなりで済まないが時間がない!響はそこにいるか!?』

春香「は、はい!響ちゃんならいますけど…」

響「え?自分に用か?」

P『他のみんなもいるな!?』

春香「ええ、みんなもここに…」

P『よし!…いいか、今から俺が言うことをよく聞いてくれ…!』

―数十分前―

P「あんたの力を…?」

六十郎「然様。使えるのはごく短い間に限られるがの…」

P「教団が使ったっていう"憑依"みたいなもんですか?」

六十郎「あんな無粋なもんと一緒にしてもらっては困るのう。あくまで力を宿すだけじゃ。どう使うかはお前さん次第じゃよ」

P「俺にそんな力を使いこなせるかどうか…」

六十郎「心配は御無用、この中ではお前さんが一番向いておるわい」

P「…も、もしかしてあれですか?俺には秘められた素質があるとか…!!」

六十郎「逆じゃよ。お前さんに通力の才はこれっぽっちもないわい」キッパリ

P「……」ショボン

六十郎「ま、そう落ち込みなさるな」

六十郎「『わしら』のような者はの、万物に宿る陰と陽の気を練ったものを『通力』と呼んでいるんじゃが…」

六十郎「この陰気と陽気は相反しながらも、それでいて双方なくてはならん…これを『陰陽互根』と言う」

六十郎「当然お前さんも陰と陽の気で出来とるよ。ただ、これを練って高めるまでに至っていないちうだけの話じゃ。ほとんどの生き物はそれが普通だからの」

P「それなら、貴音の方が適任かも知れませんよ…実際不思議な力を使えていますし」

六十郎「確かに力の使い方は貴音さんの方が向いとるじゃろう…だが一つ問題があっての…」

六十郎「通力を扱える者に別の通力を流し込むと気の流れが乱れてな、修練を積んだ者でなければ心身の釣合いが取れんようになってしまう」

六十郎「お前さん達もあの化け狐を見たじゃろう?昔は人を化かして銭をスリ取る程度だったんじゃが…」

権藤「あの女をご存じなので?すると代口の事も…」

六十郎「もう随分と昔の話じゃがの…あの女狐、代口とか名乗っているあの男に、余程強い通力を流し込まれたとみえる」

六十郎「…ともかくアレと違ってな、お前さんの気は澄みと濁りがきれいに別れとる状態じゃ…わしの力を流し込むにはそちらの方が都合がいいんじゃよ」

貴音「…もうあまり時間がありません…あなた様…!」

P「…腹括るしかないか…!六十郎さん、やよいのためだ!やってください!」

六十郎「承知した。多少気分が悪くなるやもしれんが、我慢するんじゃぞ…」パァァァ…

P「おふっ…!なんか体の中身がぐるぐる混ぜられてるような…!」

六十郎「お前さんが通力を使える時間は、そうさのぉ…向こうに着いてから精々十五分がいいとこじゃろう」

篠原「主任、カルプレッタが建物内に入りました」

P「ふぐっ…ま、まだその場所は…分からないんですか…?」

権藤「別々に行動できれば私が残ってトランシーバーでお伝えできるんですが…今はその腰に差さっている短剣が頼りですので…」

六十郎「要は、お前さんだけこの場に留まれればいいんじゃな?」

権藤「何か方法が…?」

六十郎「そうじゃな…んー…これでいいじゃろ。ほれPさんや、早速力試しじゃ」ポン

P「…?このクマのぬいぐるみがどうかしましたか…?」

六十郎「このぬいぐるみにな、短剣と同じ力を与えてやるんじゃよ」

P「えぇっ!?そんなこと言われても…」

六十郎「心の乱れを静めて通力に素直に従ってみることじゃ。方法は通力そのものが知っておる」

P(どうすりゃいいんだ…と、とにかく落ち着いてみるか…うぷっ…)

P(……)

P(…あれ?俺できるなコレ…)

P「…アシノメノ…キミツミノヌシ…ハシノコロモ…」ブツブツ…

P「…権藤さん、たぶんこれで大丈夫なはずです…」

権藤「…これが短剣の代わりに?」

篠原(本当かよ…)

P「自分でも不思議ですけど…妙な確信があります」

P「六十郎さん…突然色々なことが分かってきたんですけど…これも通力の影響ですか?」

六十郎「そういうことじゃ。お前さん自身に才がない分、通力を素直に受け入れたようじゃの」

P「じゃあ、やっぱりこの短剣は…」

六十郎「如何にも、その昔わしが拵えたもんじゃ」

篠原「は!?」

権藤「…確か石油王氏が高祖父の更に高祖父の代からの家宝だと…」

六十郎「その話は後回しじゃ。ほれ、さっきのトランなんちゃらを…」

権藤「篠原、Pさんと貴音さんにもこれを。現場での援護は任せたぞ」

貴音「これがいやふぉんで…こちらの薄い膜状の物は…?」

篠原「それがマイクです。顎の下の…そう、喉のその辺に貼ってください」

ルクサーナ「私も行くわ…!建物内は入り組んでるし、案内はいた方がいいでしょ?」

篠原「…主任?こう言ってますけど…」

権藤「彼女は必ず役に立つ。連れて行ってやれ」

篠原「はぁ…」

権藤「その代わり、無事戻れたら雇用の件、答えを聞かせてもらいますよ」

ルクサーナ「…前向きに検討しておくわ、ちょうど無職になったところだし…」

六十郎「…祠の周りには必ず結界が張られておるはずじゃ。破るにはその短剣で直に断ち切る他はないが…」

六十郎「くれぐれも、あの男と正面切って対決しようなどとは思わんことじゃ…」

六十郎「結界がなくなりさえすればそれでよい。後はわしがケリをつけてやるわい…」

P「…分かりました…!」

篠原「さ、急いで…!」

ガチャ…バタン…

P「教団本部が近いとは聞いているけど…具体的にここからどれくらいの距離なんです?」

篠原「走っていけば7、8分ってところで…」

ルクサーナ「もっといい道を知ってる…3分とかからないわよ」

篠原「ウソだろ!?いくらなんでもそんなに早く…」

教団本部 第二講堂裏口

篠原「本当に3分で着いちゃったよ…」

ルクサーナ「正面ゲートに回り込もうとすると遠いけど、公園を突っ切ってこの裏口に至るルートが最短なの」

権藤『篠原、早速役立っているようじゃないか、彼女』

篠原「ハイハイ認めますよ…」

権藤『カルプレッタは正面ゲートから第一講堂を抜けた…本部棟には入らず、そのまま中庭へ向かっているようだ』

篠原「中庭?代口の瞑想室じゃなくてですか?」

権藤『…どうやら我々は、施設内部に気を取られて見当違いなところばかり探していたようだな…』

ルクサーナ「中庭か…かえって遠回りになっちゃったわね…こっちから行った方が近いわ」

P「ハァハァ…寝不足で走るのは辛い…」ゼェゼェ

P「…そういえば、さっきのゴタゴタで聞きそびれちゃいましたけど、教団が隠している兵器と、権藤さんが懸念している事態って…」

権藤『…我々が懸念しているのは、教団が秘匿している兵器の存在を公表して使用を仄めかす、あるいは実際に使用する可能性についてです』

権藤『これまで、秘匿が事実としても実際に使用する可能性は低いものと仮定していました…しかしこの現状です、最早何が起きてもおかしくはない』

P「そんなに凄い兵器なんですか?いざとなれば自衛隊に…それに米軍だっているじゃないですか…まぁそんなドンパチやられたら困りますけど」

権藤『厄介なのはそこです。米軍の存在はかえって事を荒立てる可能性すらあります』

権藤『先程部下から連絡が入りました。正式な閣議決定はまだですが、この街を自衛隊と米軍が包囲する動きに出ているそうです。恐らく例の機関も噛んでいます』

P「そこまで必死になるなんて…一体教団はどんな代物を隠しているんです?昔もありましたけど、またサリンとか毒ガス系ですか?」

権藤「教団が隠しているのは熱核兵器…つまり水爆です」

P「……………へ?」

短いけどここまで。
4月中には必ず完結させるんで許してください!

すいません、もうすぐ最後まで書き終わりそうなので、取りあえず再開します
量が量なので、4月中には投稿し終わらないでしょうけど…

ルクサーナ「ちょっと待って…水爆ってどういうこと!?」

貴音「すいばく…?」

P「き…聞き間違いかな…?まさかいくらなんでも水素爆弾なんて…」

権藤『水素爆弾で間違いありません。正確には、ICBMに搭載するための熱核弾頭ですが…とにかく、今は立ち止まらずに耳だけ傾けてください』

P「わ、分かりました…!」

権藤『…ルクサーナさん…『W53』という名前に聞き覚えは?』

篠原「主任、彼女は教団の機密事項は知らないはずで…」

ルクサーナ「いいえ…知っているわ…」

権藤『篠原、これは彼女が教団に関わる前の話なんだ…』

権藤『…例の機関のエージェントとしてあなたがイラクに赴いた目的は、イラク戦争時に発見されなかった大量破壊兵器の捜索と、それを秘密裏に無力化することだった…』

ルクサーナ「…確かにその通りよ…予備知識としてあらゆる核兵器の構造や運用についても学んだわ…それはもうウンザリするほどにね…」

権藤『しかし、作戦行動中に市街地で自爆攻撃に巻き込まれたあなたは、極度のPTSDを発症して廃人同様となり、いつしか機関からも見捨てられてしまった…』

ルクサーナ「…その後の事は、あの女が話した通り…」

権藤『機関が擁する部隊派遣の名目は、開戦根拠の一つともなった大量破壊兵器の捜索でしたが…実際に探していたのは教団が盗んだ熱核弾頭だったんですよ』

権藤『当然ながら、彼の地にはありませんでした…』

P「なんでまたその…機関…は、イラクにあると思ったんです?」

権藤『彼らは教団をブラックマーケットにおける兵器ディーラーと位置付けていました。宗教団体というのは隠れ蓑で、アルカイダ系テロリストとの繋がりを疑っていたわけです』

権藤『…彼らの教団に対する監視は常にその方向で進められていた…しかし、実際は教団自らが秘匿していた…』

権藤『ごく最近になって、コロラドの一件に関する当時の私の報告や現在の捜査動向を、彼らが調べたと思われる痕跡が見つかりました』

権藤『ルクサーナさんが教団の信徒になったことも同時期に知ったようです。恐らくそこで初めて、自分達の長年の過ちに気づいたのでしょう』

P「過ち…ですか?」

権藤『ここからは想像の域を出ませんが…代口がルクサーナさんを取り込んだ最大の理由は、W53に関する知識と技術の確保にあったと考えられます』

権藤『911以降、核関連技術者…とりわけ核兵器の専門家や運用する軍人に対する国家の監視は厳重なものとなっていました。たとえ接触できたとしても、いずれは網に引っかかることになる…』

権藤『教団としては弾頭の秘匿を察知されるわけにはいかなかった…そこで、教団は探したのです。十分な知識と技術を有していながら、監視対象となっていない人物をね…』

ルクサーナ『それが…私だと…?』

権藤『私はそう考えています。機関は敵に知識と技術を丸々渡した様なものだ…あなたを始末するでも無くただ見捨てたのは、彼らにとって大失敗だったわけです…』

ルクサーナ『あの女が言ったように頭の中を弄れるなら、知識だけを抜き出すことも出来たんじゃないの…?』

権藤『記憶を弄った際にあなたの能力を利用できると考えたか…あるいは実際にあなたにW53の運用もさせるつもりだったか…そこはなんとも言えません』

P「で…そのW53?ってのは…弾頭だけでは使えないんじゃないですか?…門外漢なんで詳しいことは分かりませんけど…」

権藤『そうとも言い切れません。攻撃目標に対する運搬手段、即ちミサイルや航空機などを教団が持っていないとは断言できませんからね…』

権藤『あるいは、過去のカルトに見られるような集団自殺に用いるつもりならば、ただ地上で起爆すればいいわけです。それこそ跡形もなく消滅できるでしょう』

権藤『…もっとも、あのような超常の力を実際に持っている連中が集団自殺を、それもわざわざ核兵器を用いて行う理由はどこにも見当たりませんがね…』

P「どっちにしても…奴らがその気になればこの辺一帯は火の海になるわけですか…!」

権藤『そんな生易しいものではありません。仮に、爆発効果が最大限発揮される高度へ弾頭を運搬する手段を、教団が持っていたとしましょう…』

権藤『東京23区の中心で爆発すれば、半径2キロは高熱の火球に呑み込まれ、23区はほぼ全域が強烈な爆風に曝され壊滅します』

権藤『熱放射に至っては千葉市、さいたま市、横浜市などの隣県都市部にまで及び…』

権藤『死者は500万人以上、負傷者は1000万人を超えると予想されます』

P「ごっ…500万!?そんな威力がっ!?」

貴音「すいばくとは…それほどまでに恐ろしいものなのですか…!」

権藤『この試算はあくまで予測に過ぎませんが、純粋な爆発の威力だけで見ても、W53の核出力は9メガトンです。これは広島型原爆の約600倍にも上ります』

貴音「広島…原爆…それならわたくしも知っています…一瞬にして大勢の人々が亡くなったとじいやに聞きました…」

貴音「その様な惨たらしいものが使われようとしているのなら、断じて止めねばなりません…!」

権藤『我々も思いは同じです。その為に、この十数年を費やしてきました』

P「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか…!」

権藤『「宗教団体が隠し持っている水爆を発見したいので、おとり捜査に協力してくれ」…どうです、協力する気になりますか?』

P「…な…なるほど…」

権藤『それに、本来W53はずっと以前に全量処分されたことになっていたはずの代物です…』

権藤『それがこの様な形で表沙汰になれば、日米の安全保障問題のみならず、核の削減や不拡散を旨とする核保有大国の建前が崩れることになる…その影響は計り知れません』

権藤『我々としては、発見の糸口が掴めさえすれば後は引き継ぐつもりでした…しかし、この様な状況は私の想定にもありませんでしたよ…』

ルクサーナ「…止まって…中庭に着いたわ…」

P「気配を悟られない様、通力を使っています…そのはずです…たぶん…」

篠原「頼りになるんだかならないんだか…」

権藤『…代口の銅像が映っている…どうも台座に何らかの仕掛けがあるようだ…』

カルプレッタ「…さ、この台座の隅に一つだけ色の違うタイルがあるだろ?そこを押しな…!こっちはお前を尾で掴むので『手一杯』なんだ」

やよい「……あ、あの…その前に私お手洗いに…」

カルプレッタ「ハッ!馬鹿も休み休み言いな!!時間稼ぎのつもりか知らないけど、無駄なことさ。奴らが追いついてきたところで結果は変わりゃしないよ」

カルプレッタ「…それとも何かい?目の前であの青びょうたんが噛み殺されるのがそんなに見たいのかい?」キヒヒ…

やよい「…!ちっ…違います!!プロデューサーはそんなに弱っちくありません!あ、あんたなんか…こ…こてんぱんにたおしちゃうんだから!!」

カルプレッタ「ハンッ…あんな若造ごとき、キミツミさえ出てこなけりゃ、真っ先に頭を噛み砕いてやったものを…!」

やよい「キミツミ…?」

カルプレッタ「お前達が六十郎とか呼んでるあの老いぼれのことさ。昔はそりゃ滅法強かったよ…それもああなっちゃねぇ…代口様には敵いっこないさ」

やよい(なんだろう…どこかで聞いたことあるような…)

カルプレッタ「…って、そんな無駄話はしてられないんだよ…早くタイルを押しな!」

やよい「い…嫌です!ぜったい押しません!!」

カルプレッタ「たくっ…何から何まで手の焼ける小娘だ…!」キィン!

やよい「あうっ…!」ガクッ

P(や、やよい…!)

カルプレッタ「…ッハァ…ハァ…通力を出し惜しみせずに…初めからこうしておけばよかったよ…」シュルシュル…

カチリ…ゴゴゴゴゴゴ…

権藤『やはりそこが入り口のようだ……ん?ええ、どうぞ構いません。ここに話しかけてください』

六十郎『…これで聞こえてるかの?さっきも言うたが、絶対にあの男と直に対決してはいかんぞ…』

P「忠告には出来る限り従いますけど…やよいの身が危なければどうなるかは保証できません…!」

貴音「わたくしも同様です」

六十郎『やれやれ…とにかく真っ先に結界を探すんじゃ…』

六十郎『最早千里眼でお前さん達の姿を見ることすらできん…これ程強力な結界ともなれば、目立つ作りのはずじゃ』

権藤『たった今、ペンダントからの映像や音声も入らなくなりました。あの下は電波を遮断する構造になっている…十中八九、あそこが連中の心臓部でしょう』

権藤『幸いにして、連中が信徒らの精気まで吸い取ったお陰で妨害もなく来られましたが…その穴から先は特に気をつけてください。篠原、先導しろ』

篠原「了解。行きます…!」

貴音「篠原殿、暫しお待ちください」

篠原「とっとと…な、なんスか?」

貴音「あなた様…お気づきになりましたか…?」

P「ああ…いつの間にか大勢の気配が…わざと手薄に見せかけて誘い込んだのか…!」

貴音「…後方と前方に数十人…いえ、壁の向こうにも…数百人はいるでしょうか…皆操られています」

篠原「…帰り道を塞がれて唯一の行き先が敵の罠とは…国軍に包囲された時の方がいくらかマシだぞこりゃ…!」

ルクサーナ「どっちにしても退くって選択肢はないでしょ?愚痴ってないで行くわよ!」ダッ!

LHS中庭地下

代口「…どうだカルプレッタ、新しい腕の調子は?」

カルプレッタ「ありがとうございます…!それはもう前よりも数段は素晴らしい出来で…」

カルプレッタ「それはそうと…彼奴等の処置は如何が致しましょうか?もしお許し頂けるのならば私めが八つ裂きに…!」

代口「まぁ待て…丁度よいではないか、彼らを『見物客』として歓迎してやろう」

代口「彼らに関わったからこそ計画が実現するんだ。新世界の幕開けをその目で見てもらおう…」

代口「…その後はまぁ…適切に処理すればいいだろう」

カルプレッタ「あの青びょうたん…765のプロデューサーの処理は是非とも私めに…!」

代口「それはお前の好きにすればいい…それよりも早速のお出ましだ…お前は『アレ』を準備しておけ」

篠原「…暗くて下の様子が分かりにくいな…階段どころか梯子すらないときたか…」

ルクサーナ「ロープを調達している時間はないわよ…!」

篠原「待て待て、この石で大体の深さをだな……」ポイッ

ヒューーーーーーーーーー---……………‥‥

篠原「……」

篠原「いや~…ムリだわこれ…」

P「えっと…ちょっと待ってください…」ブツブツ…

篠原「?」

P「…今、全員を見えない鎧で包みました。そのまま飛び降りても大丈夫なはずです!」

篠原「いやいや…音もはね返ってこないほど深いんスよ?確実に死ぬでしょ…」

P「やよいの身が危ないんだ!とにかく今は信じてください!」

P「俺が先に行きますから、後に続いてきてください!」バッ

篠原「え?ちょっとマジで…」

貴音「さ、急ぎましょう」バッ

篠原「ちょっ!?」

ルクサーナ「あの子達に置いて行かれるわよ」バッ

篠原「あっ……南無三!」バッ

篠原(くそっ…今度という今度は死んだな…)

ドサッ!

篠原「へぶっ!?」

貴音「篠原殿、お怪我はありませんか?」

篠原「あたた…大丈夫だけど…こんなすぐ底に着くわけが…」

貴音「どうやら、ここは外からひどく歪んだ場所に在る様です…実際にはそれほど深くはありません」

篠原「薄暗いけど…地下にしては明るいな…照明があるわけでもないのに…」

ルクサーナ「…これ見て、すごい大木…何本も生えてるわ。下草は全部枯れてるみたいだけど、この木はまだ生きてる…こんな地下にどうして地上の植物が…?」

P「つい最近まで…たぶん何年か前までは地上にあった場所なのでは…」

パチパチパチ…

一同「!」

「…御名答!君が言った通り、元々この場所は地上にあったのだよ…」

P「お前が代口か…姿を見せろ!」

スゥ…

代口「…信徒達はそう呼んでいる…私にとっては、思い入れのない名だがね…」

P(…社長並に黒いとは聞いていたが…薄暗くて姿がよく分からないな…)

ルクサーナ「…よくも長い間、散々騙してくれたわね…!」

代口「こんな形で袂を分かつのは実に残念だよ…君にはもう少し役立って欲しかったんだが…カルプレッタは少しおしゃべりが過ぎたようだ」

代口「それに…君の相方の人選もカルプレッタのミスだったな。まんまと鼠の侵入を許すとは…」

篠原「この女の相方?冗談言うなよ。俺はこいつと違って信仰心ってやつが希薄でね、あんたをボコれるこの日を待ちわびてたよ」

代口「フン…口だけは達者だな…」

貴音「壺は持って参りました…やよいには危害を加えない約束のはずです…」

代口「無論だ。そもそも私は最初から彼女に危害を加える気はない…カルプレッタは腕を失い冷静さを欠いていたのだ。あれの発言は忘れてくれ」

P「なら話は早い…さっさとやよいを返してくれ!」

代口「…悪いがそうもいかないのだ。彼女には今後も重要な働きをしてもらわなきゃならんのでね」

代口「君らにも是非とも見てもらいたい…この先、如何にして世界が変わるのかを…」

篠原「宗教パンフのキャッチコピーはそこまでだ…」ジャカッ

篠原「あの化け狐には銃が効いた。いくら化物じみていても生物に変わりはないってことだ。それはお前だって同じはずだろ」

代口「正直に言えば、私も鉛弾は御免被りたい…だが、別の理由で銃はおすすめ出来ないな…」

代口「君は通力の鎧で守られているから気づいていないようだが、ここは一面に可燃性の液体が撒かれている…」

篠原「…なんだと?」

代口「揮発性も頗る高い…そんな場所で発砲して火の粉が散ってみろ…どうなるかは説明するまでもなかろう…」

代口「君らは助かるかもな。だが高槻やよいはどうなる?仮に火の手から逃れられても、酸欠で命を落とすことになるぞ…」

篠原「…Pさん、可燃性の液体ってのは本当ですか…?」

P「…どうも嘘で脅しているわけではないみたいです…」

篠原「…残念、コレの出番はなしか…」チャキ…

代口「…それで?君らは我々の何を、どこまで知っているのかね?」

P「えらい物騒な核弾頭を隠していることについては知ってるよ。お前らが何者かなんてことは、俺にとっちゃどうでもいいけどな…」

代口「ほぉ…これは驚いたな!弾頭のことを知っているとは…とすれば米国の手先か…?」

篠原「残念ながらハズレだ。あいつらきっと今頃てんてこ舞いだろうぜ」

代口「ハッハッハ…それは何ともいい気味だな。しかし、他にも我々の核心に迫っていた組織があったとは…それもキミツミノヌシまで味方に付けて…」

貴音「キミツミノヌシとは…六十郎殿のことですね…」

代口「そうだ四条貴音…君ら765のアイドルには驚かされてばかりだったが…キミツミが手助けしたとなれば全て納得がいく」

代口「特に我那覇響には一番驚かされたよ…彼女のせいで、こんな姿を晒す羽目になったのだからな…」

ドスンッ!

P「…いっ!?」

ルクサーナ「…っ!?」

篠原「…勘弁してくれよ…!」

貴音「それが…あなたの偽りなき姿ですか…!」

代口「そうとも…数多の妖を配下に従え、かつては武蔵国一円にその名を知られた、五郎右衛門狸とは私のことだ…!」

代口「尤も…人界に身を置かねば生きていけぬ世となってからは、その名を知る者もだいぶ減ったがな…」

篠原「化け狐の親玉は化け狸かよ…次はなんだ?金○袋で空でも飛ぶのか…?」

代口「…残念ながらそういう芸は持ち合わせていないな…君の股間にぶら下がっているその小汚い袋を引き千切ることなら出来るがね…」

篠原「…遠慮しておく……」

P(対決するなってのはこういうことか…!通力のプレッシャーが桁違いだ…とても敵いそうにない…!)

代口「こちらも出来る限り礼節を持って迎えている。君らにもそれ相応の態度を示して欲しいものだ…」

貴音「では…五郎右衛門殿。先程やよいに重要な働きをしてもらうと言っていましたね…一体彼女に何をさせようというのですか?」

代口「実に良い質問だ。それを今から君らに見せようとしていたところだ…おいカルプレッタ!準備はまだか?」

カルプレッタ「た、ただ今!…くっ…重っ…!」ガラ…ガラガラ…

代口「軽く2tはあるんだ。もっと気張って運ばんか」

やよい「……」

P&貴音「やよい…!」

ルクサーナ「やよい様…それにあれは…!」

篠原「…本当に在ったんだな…!」

カルプレッタ「ハァハァ…これ…この通り…お前達の探し物が…ハァ…ちゃあんと『二つ』揃っているよ…」ゼェゼェ…

代口「どうかね?冷戦が産み落とした愚かしい人間の遺物と、輝かしい未来の象徴の組み合わせは?」

代口「ただ縛り付けているだけじゃないぞ…彼女の精神は今、この核弾頭に繋がっている…正真正銘の運命共同体というわけだ」

P「ふざけるなっ…!!やよいを今すぐそこから下ろせ!!」

代口「そう熱り立つこともあるまい…彼女は君らが思う以上に安全な場所に居るんだ…」

篠原「核弾頭に縛り付けて安全とは、聞いて呆れるぜ…」

代口「すぐには理解できんだろうが…なぁに安心したまえ、君らにも分かりやすく説明してやろう」パチンッ

サァァー…

一同「!?」

ルクサーナ「な、何?急に空が…!?」

貴音「突然地上に出たようですね…しかしこの荒涼とした様は一体…」

P「ま、まさかもう核攻撃を…!?」

篠原「だったら俺らも平気じゃないはずですし…この焼け落ちた建物、爆風に曝された感じじゃないッスよ…それにこの臭いは…」

ルクサーナ「腐臭と肉の焦げた臭い…理由は分からないけど、何処かの戦場みたいね…でなけりゃ災害地か…」

P「…よく見たら和風の木造建築ばかりだ…じゃあ少なくとも東京の都市部じゃないわけか…」

代口《かつての京…御所の近くだ…》

篠原「代口か?てかなんだこの響くような声…」

P「これが京都…?いくら何でも古風過ぎるだろ…もしかして過去の姿なのか?」

貴音「京の都がこれ程荒廃しているとは…一体何時頃なのです?」

代口《細かい年数など忘れてしまったが…応仁の乱の頃だ》

代口《この頃、私と家族はある寺に住み着いていたが、都がこの通り戦場となり焼け出された。その際に父は死に、母や兄姉ともはぐれてしまった…》

代口《見ろ、そこの水溜まりで血や泥に汚れ、ボロ雑巾のようになっているのが、幼い頃の私だ…》

篠原「じゃあ…これはお前の記憶なのか?」

代口《そうとも言えるが…正確には水の記憶だ。だからこそ第三者の視点で像を結んでいる》

ルクサーナ「待って、向こうから人が…」

代口《人ではない、人の形をしているだけだ…》

貴音「あれはもしや…!」

青年「其処な子狸よ、如何いたした?」

子狸「!?……フーッ!!」ブルブル…

青年「これこれ、我は人に非ず…」

代口《もう少しわかりやすくしてやろう…》パチンッ!

青年「…私は人ではない。この戦とも無関係だ。御主と言葉を交わせるのが何よりの証拠であろう」

青年「御主の様子はただ事ではないぞ…まずは火傷の手当てをせねばなるまい…」ポゥ…

子狸「…!もう痛くねぇ…!」

青年「腹も減っていようが、生憎食べ物は持ち合わせておらんのだ…そちらは暫し我慢してくれ」

子狸「なんでオイラにかまうんだ…?あんた誰なんだ…?」

青年「我が名はキミツミ…西で大きな合戦があると聞き及んで一応来てみたのだが…なんともまぁ惨いものだ…」

子狸「人じゃねぇってことは…神さんか…?父ちゃんが言ってたぞ…神さんっていう偉い方々がいるって…」

キミツミ「まぁそんなところだ…私自身、気づいた時にはそう呼ばれていただけで、実を言えばよく分からんのだがな…」ポリポリ…

キミツミ「見聞を広めればいずれ分かるのではないかと旅して回っておるが…このところは目に見えて戦が増えた…」

貴音「あなた様…あの若者、六十郎殿なのでは…」

P「あれが!?見た目すごい若いぞ…20歳くらいか?」

篠原「…応仁の乱の頃から生きてるのかよあの爺さん…!」

代口《この出会いが縁で、私は奴に師事することになった…これがもう少し後の様子だ》

サァァー…

キミツミ「ほぉ…明智めやりおったわ…派手に燃えておる…」

五郎右衛門「キミツミ様…この戦、一体いつになったら終わるのでしょう…」

キミツミ「そうさなぁ…織田が頭領を失った今、天下はまた割れることになるだろう…当分は戦続きだ」

五郎右衛門「このままでは民は苦しむばかりです…いっそ…我らが通力をもってして、戦狂いの武者共に目にもの見せて…!」

キミツミ「言ったはずだ五郎右衛門、それは罷り成らんとな…」

五郎右衛門「何故なのですか!?我らが力を合わせれば恐れるものなど…」

キミツミ「通力は戦の道具ではない。たとえ一人二人を相手にできても、大勢の兵の前には無力に等しい」

五郎右衛門「憑依の術があるではありませんか!あれで兵を操り、手勢を増やせば…」

キミツミ「それと人界の戦の何が違う?田畑は荒らされ、村々は焼かれ、女子供が殺されることに変わりはないぞ…」

五郎右衛門「…!しっ…しかし…しかしっ…!!」

キミツミ「戦は悲惨だし私も好きではない…だがな、民を統べる者が出てこなければ止まらぬものだ。今は見守る他はないのだ五郎右衛門…」

五郎右衛門「ぐっ…」

代口《私は奴の言い分に納得がいかなかった…言いつけに背いてでも戦を引っかき回してやろうと通力を使ったが、これが大失敗だった…》

サァァー…

兵「いいぞ!そっちに追い込め!」

兵2「物ノ怪め!まんまと引っかかりおったわ!!」

五郎右衛門「はぁ…はぁ…」ガサガサ…

使番「お伝え申す!大狸めは矢で手傷を負い、こちらに向かっております!鉄砲で仕留めよと、本陣より御下命が…」

鉄砲大将「相分かった!必ずや仕留めて御館様に献上いたすと、左様にお伝え願いたい!」

使番「はっ!」

五郎右衛門「はぁ…はぁ…」ガサガサ…

鉄砲大将「…あそこか…鉄砲衆!火蓋切れ!おう、待て待て焦るでない…!もちっと引きつけるのじゃ!」

鉄砲大将「今じゃ…!…放てぃっ!!」

カチカチ…カチン…カチン…

鉄砲大将「…どうした!何故撃たぬ!?」

鉄砲足軽「そ、それが…急に火薬が湿って…」

鉄砲足軽2「こ、こっちもだ…こりゃきっと物ノ怪の祟りだぁ…!」

鉄砲大将「ええい!何をしておる!…化物めが逃げてしまうではないか!!」

五郎右衛門「…ゲホッ…何故助けたのです…あなたの言いつけを破ったのに…」

キミツミ「…見殺しにする理由にもなるまい…それにな、私は種子島の火薬の臭いが苦手なのだ…」

五郎右衛門「キミツミ様の仰った通りでした…十人ばかり殺めたところで、次から次へと兵が湧いて出て、為す術もありませんでした…」

キミツミ「その殺めた者達にも親がいて、子もあろう…その親や子は御主を恨み、討とうとするかも知れん…それの繰り返しが戦というものだ…」

五郎右衛門「私は愚かでした…これでは戦を止めるどころか、種をまいたようなものですね…」

キミツミ「…どんな芽が出るかは私にも分からんがな…。ほれ、しっかりせんか…もう少しで御堂に着くぞ…」

サァァー…

代口《それからは大人しく奴に従っていた…やがて世は天下太平の時を迎え、その頃になると私も奴の考えが正しいと信じるようになっていた…》

代口《江戸開府の少し前、私達は上方を離れ、奴の故郷だというこの地に来て、住むようになった…》

代口《奴は私に通力の扱い方を教えつつ、童子の姿に変化しては村の子供と遊び、のんびりと過ごしていた…》

キミツミ「…ん?五郎右衛門、どうしたその女狐は?」

五郎右衛門「此奴、私が山賊共から奪った銭を盗もうとした不届き者で…!仕置きとして通力を奪ってやりました」

女狐「ひぃ!どうか…どうかお命ばかりは…!」

代口《あれがカルプレッタだ》

カルプレッタ《だ、代口様…!ここは飛ばせませんかねぇ…?》

篠原「プークスクス…」

カルプレッタ《ぐぬぬ…》

キミツミ「ふむ…命は取らぬから安心いたせ…それよりも通力の使い方をどこで習った?」

女狐「…郷里では皆この力を使っていました…アタシは唐人船に忍び込み、海を越えてここに辿り着いたんです…」

キミツミ「ほぉ…興味深いのぉ…その話、もう少し詳しく聞かせてくれぬか?」

五郎右衛門「この女は抜け目がありません。偽りを述べて逃げる機会を窺っているだけです!」

キミツミ「そんなに心配なら、御主が目付役になれば良かろう。…うむ、そうしよう!」

五郎右衛門「全く…あなたは何もかも甘すぎる…」ハァ…

サァァー…

代口《吉宗の治世の折、洋書輸入の禁制が一部解かれ、奴は蘭学者達と親しくするようになった…》

代口《やがてこの国の外に自らのルーツを見つけ出そうと、諸外国を見て回る計画を立てた》

五郎右衛門「…どうしても行かれるというのですか?」

キミツミ「日の本は散々見て回った…私と同じような力を持つ者は幾らかおったが、私が生まれるはるか以前のことを知る者は遂におらんかった…」

キミツミ「戦国の頃も南蛮人達が世界図を持ってきおったが、この前オランダ通詞から貰ったこの地図は、もっと子細に描かれておる」

キミツミ「ほれ、エウロッパやアフリカを見てみろ五郎右衛門…その間にあるこの地中海という海の周りには、古き国が多いと聞く…もしかすると…」

五郎右衛門「…残される民はどうするのです。皆あなたを敬い慕っております」

キミツミ「なぁに、私がいなくともここは水脈に守られておる。都にいた頃とそうは変わらんよ…」

五郎右衛門「都に行くのとオランダ船に乗り込むのとではまるで話が違います!何より、水脈の霊力はそこまで届きはしないはずです!あなたはどうなるのですか!」

キミツミ「その為にこの壺を拵えたのだ。これがある限り繋がりは保たれる。それにな五郎右衛門、私は御主がいれば何も心配はないと思うておる…」

五郎右衛門「…?」

キミツミ「御主はもう十分に私から学んだ。土地の神として、ここを守るだけの力を持っておる」

五郎右衛門「わ…私が…!?そんなご冗談を…」

キミツミ「冗談などではない。私が留守の間、この土地の神は御主が務めるのだ、五郎右衛門…」

サァァー…

代口《この旅が間違いの元だった…なんとしてでも止めるべきだったのだ…》

P「話が見えてこないな…この過去の話がどう今と繋がるって言うんだ…!」

代口《奴は…キミツミはかつて私に言った忠告を自ら破ったのだ…この国を出るやいなや、人界の営みに介入し始めたのだ…!》

ルクサーナ「何でそんなことが分かるのよ…!」

代口《通力が使われた事は水脈の変化を見れば一目瞭然だ…!奴はこの国にいた時より、遥かに大きな力を使っていた…!》

代口《…その頃からだ…目に見えて人間は工業力を高めていった…》

代口《兵器はより強力に、軍隊はより大規模に、戦争は凄惨さの限りを尽くした…!》

代口《私は奴が何をしていたのかまでは知らない…全てが奴のせいとも言わない…だが確実に無関係ではないのだ…!》

代口《やがてこの国も否応なく大きな戦争に足を踏み入れていった…その時になっても私はまだ師の行動に意味があるものと信じ、沈黙を守っていた…》

サァァー…プツン…

代口「だがそれも長くは続かなかった…大きな街が悉く焼かれ、二つの原爆が落とされたすぐ後、私は奴との決別を決めた…!》

代口「…かつての師を捨て、より正しく師の『教え』を守ろうと誓ったのだ」

代口「数では人間に劣る…通力は戦の道具ではない…統べる者が出てこなければ戦は止まらぬ…」

P「…その答えが核武装だって言うのか…!?」

代口「そうだとも…人間達は結局核の報復合戦を恐れて使いこなせなかった…だが私には通力がある…」

代口「通力は戦の道具ではない…だが、水脈の膨大な霊力を使って大結界を張れば、物理的な攻撃の一切を防ぐことが出来る」

代口「これは人間には逆立ちしても出来ぬ所業だ…つまり大結界の内側は、報復を恐れることなく核兵器を使用できる、世界唯一の『聖域』となる…」

代口「核の均衡などではない絶対的な核の支配によって、戦争は遂に過去のものとなる…!」

代口「君らには感謝しているよ…私自身、この計画の実現にはあと半世紀はかかると見込んでいた…」

代口「すでに核も壺も水脈もあったが…大結界を張るための、私自身の通力の器が全く足りなかったのだ…」

代口「だが偶然君らの手に壺が渡ったお陰で、私自身の力が大きく飛躍することになったのは、まさに不幸中の幸いと言うべきだろう」

篠原「…自説を披瀝しているところ悪いんだが、たった一発の核で世界を制しようなんざ誇大妄想もいいとこだ…テロリストすらもう少し現実的だぜ」

代口「誰がいつ、一発だけだと言ったのかね…?」ニヤリ…

篠原「他にもあるってか?はったりもいい加減に…」

代口「はったりかどうか、その目で確かめてみると良い」

サァァー……

ズォォォォォ…

篠原「…ちょっと待て…!これが全部ミサイルだっていうのか…!?」

ルクサーナ「これは…たしか旧ソ連の…30基以上はあるわ…!」

P「…!!」

代口《これらの購入には大変苦労したよ…LHSも資金調達の為に立ち上げた団体だ》

代口《ま、ソヴィエト崩壊後だったから物は格安ではあったがね…運び込むのに倍以上の金がかかったよ…》

篠原「一体どうやってこんなもの持ち込みやがった…!これは何処の映像なんだ!」

代口《君らの足下だ。この真下に発射設備がある》

篠原「なっ…!」

代口《これらが実質的な戦力だ。W53はあくまで絶対的な破壊力の象徴に過ぎない。さしずめ、雷霆を振り上げたゼウス像といったところか…》

代口《だが神としては無機質かつ無骨に過ぎる…。現代の人々に畏怖の念を抱かせるためには、その性質と相反する姿こそが相応しい…》

サァァー……プツン…

代口「高槻やよいは、人々の恐怖を呼び覚ます偶像(アイドル)となるのだ…」

貴音「…皆が笑顔になることを誰よりも強く望んでいるやよいを…そのような下劣極まる目的に利用しようなどと…!」キッ!

貴音「やよいだけではありません…我々アイドルに対する、許し難い冒涜です!!」

代口「…だったらどうする?四条貴音…通力の才があるとは言え、気配を捉える程度の力では私とは戦えないぞ」

代口「大人しく引き下がれ…命が惜しくばな…」キンッ!

ドクンッ!

貴音「かはっ…!?」フラッ…

貴音「こ…!この胸の痛みは…!?」

P「な、なんだ…!?貴音に何をしたっ!?」

代口「大結界は未だ不完全だが、君らは既にその中枢にいる…それが何を意味するか、理解してもらおうと思ってね…」

代口「言うなれば、君らは私の掌中で這い回る蟻のようなものだ。手指を動かすだけでどうとでも出来る…」

代口「なに、今のはちょっと心臓の管をひねってやっただけだ…この程度で死ぬことはないから安心しろ」

貴音「…はぁ…はぁ…くっ…やよい…」チラ…

やよい「……」

貴音(やよい…貴女を守るとの誓い…果たせそうにありません…でもプロデューサーが必ず…)

貴音「あなた様…せめてこの壺だけでもッ…!」

代口「全く…往生際の悪い…」ググ…

貴音「…ふっ…くっ…!!」ブンッ!

…ガクリ

P「貴音っ!!…とっとっと…」ガシッ…

代口「やれやれ…諦めの悪さだけは流石と言うべきか…」

ルクサーナ(…ねぇ、やるんでしょ…?)

篠原(ああ…こうなりゃ引火を心配してる場合じゃない…一か八か…ありったけぶち込んでやる…!)ジャカッ

代口「おっと、そうはいかんぞ」キンッ

ビシッ

篠原「ぐっ…!くそっ…体が…!?」

ルクサーナ「そんなっ…手も足も…出ないなんて…!」

代口「心配するな…裏切り者は別メニューでじっくり料理してやる…」

P(ダメだ…やっぱり強すぎる…!)

P(…そうだ結界だ…!祠の結界を破れば六十郎さんが…!)

P(…ってどこにあるんだそんなもん!目立つどころかそれらしいものなんて何一つ…何も…)

P(……)

P(もしかして…あれがそうなのか…?)

P(可能性はあるが…確かめなきゃ…)

代口「…余興はこれでお開きだ…大人しく壺を渡してもらおう…今日の内に、日本政府に自分達が置かれている状況を理解させねばならんのでな…」

代口「これから世界中の人間が高槻やよいの姿を見ることになる…水爆と一体の死の天使…その記念すべき晴れ舞台をな…」

P「やよいの命は助けてくれるんだよな?お前のことは信用できないが…誓ってくれるなら…」

篠原「…!ダメだ!あんただけでも壺を持って逃げむぐッ!?ムー!!」

代口「黙っていろ小僧…」キィィン…

P「…誓ってくれるなら…この壺を渡す…それともう一つ…教えて欲しいことがある…」

代口「…高槻やよいの命は保証しよう。私にとっても必要だからな…で、何を教えて欲しいんだ?言ってみたまえ」

P「六十郎さん…キミツミノヌシに初めて会った時、あの人がこう言ってたんだ…」

P「この教団の建物がある場所には『わしの住んどった家があった』ってな…それは本当なのか?」

代口「何が知りたいのかと思えば、そんなことか…」

代口「…以前この辺りはほとんどが畑だった。他にあるものと言えば古い井戸と、その隣に小さな祠が一つだけ…」

代口「その祠に祀られていたのが、井戸の水脈を守る神『吉水津海主神(きみつみのぬし)』というわけだ…」

代口「本部を建てる前に祠は埋めてしまったよ。しかし『家』とはな…キミツミめ、余程未練があるらしい…いい気味だ…」

P「ありがとうよ…これ以上ないってくらい参考になったよ…」スラッ…

代口「…ふん…やはり退くつもりはないか…」

P「おあいこだろ?そっちだって約束を破ったんだからな…!」

シャキンッ!

代口「それが自在に伸び縮みする剣か…面白いが、はたして刃がここまで届くかな…?」キンッ!

P「…ぐっ…!!」ガクッ…

代口「心臓を握りつぶしてやってもいいが…彼女が君に大層お熱でね…カルプレッタ、後は好きにしていいぞ」

カルプレッタ「キヒヒ…では遠慮なくっ…!!」!

P「…ッ!」ダッ!

カルプレッタ「げっ!?」

ズバッ!!

カルプレッタ「ぎ…!!!」

カルプレッタ「ぎぃぃやぁぁぁあああああッ!!!目がぁっ!目がぁぁぁッ!!!」ジタバタ

代口「なっ…!?」

カルプレッタ「ひぎぃ…代口様ッ!何故奴を抑えてくださらなかったのですかぁッ!?あぁぁ…目がぁぁ…」

代口「そんな馬鹿な…!?…まさか貴様!キミツミの通力を…!?」

P「そういうことだ。だがそれでもお前には到底刃が立ちそうにない…だから別のものを斬ることにした」スッ…

カルプレッタ「ひぃっ!ひぃぃっ…!!」

代口「なっ…!止せっ!止めろぉっ!!!」ガァッ!

P「後は頼んだぜ!六十郎さん!!」

ザンッ!!

代口「ガァッ!!」ズサァッー!

代口「はぁッ…はぁッ…大丈夫かカルプレッタ!?」

カルプレッタ「だ、代口様…アタシの目が…!」

代口「治してやるが暫くものは見えんぞ…足手まといだ、お前は下がって…………!」

カルプレッタ「……代口様?なんです?どうしたのですか…!?ねぇ…」

代口「………そうか………狙いはそっちか…」

P「ああ…だけど意外だったよ。仲間が斬り殺されると勘違いして庇うくらいの情は持ってるんだな…」

代口「…この女は私の理想のため、長い年月よく尽くしてくれている…金には意地汚いが、私にとっては唯一の同志だ」

代口「だが…それによって判断を誤った非は、認めざるを得んな…」ギリ…!


ズズ…

メキメキメキ…バキバキバキ…

ドズゥン…!

ルクサーナ「…さっきの大木…あれが結界だったの…!?」

篠原「…道理で木だけ枯れてなかったわけだ…!…お!喋れる!」

P「…祠の結界は破られた。じきに六十郎さんがここに来る…!」

代口「…それがどうした!水脈の力を失った老いぼれが、今さらのこのこ現れて、それが何だと言うのだ!」

ルクサーナ「…祠に結界まで張ってたのはあんたの方じゃない!本当は恐れていたくせに!!」

篠原「そーだそーだ!」

代口「…黙れぃッ!!奴が来る前に大結界を張れば済む事だ!」バリバリッ!

篠原「うぉぉ…!?すげー爪…」

代口「この爪で八つ裂きにするのはお前達か…それとも…」ドシドシ…

代口「…高槻やよいの方かな…?」ミチリ…

やよい「…う……」

P「なっ!?止せ!」

代口「ならばさっさと壺を…」

やよい「…追い詰められるとやることなすこと矛盾だらけ…御主は昔からそうじゃったのぉ…」

代口「!?」バッ!

P「や、やよい…!?」

代口「おのれ…幻か…!」ゴシゴシ…

シュゥゥゥ…

六十郎「そういうことじゃ…御主が取り乱していなければ、簡単に気がついたはずじゃ…」

P「六十郎さん!やよいは…」

六十郎「向こうの木の陰じゃよ。まだ弾頭とはくっついたままじゃがな…五郎右衛門の方は暫くは動けまい…」

P「良かった……そうだ…貴音…!」ダッ!

P「大丈夫か貴音…!」

六十郎「…怖い思いをしたじゃろう…貴音さんや…」

貴音「あなた様…六十郎殿もここに居るということは…結界を解いたのですね…」

P「ああ…!なんとか切り札の役目を果たせたよ」

貴音「ふふふ…やはりあなた様は…わたくしの…」クタリ…

P「貴音…?貴音っ!?」

六十郎「安心せい、眠っただけじゃよ。無理もないわい、気の張りすぎじゃ…」スッ…

六十郎「プロデーサーさんや…この壺、今少し預かっておいてくれるかの?」

P「はっ、はい、分かりました…」

六十郎「……久しいのう五郎右衛門…祠を封じられた時以来…十年ぶりじゃな…」

代口「くっ…私の邪魔をするのか…自分の犯した罪を認めようともせず…!」

六十郎「さてそこよ、わしがわからんのは…一体どんな罪を犯したと言うんじゃ?」

代口「まだ言うか…!」

カルプレッタ「あ、あんたは代口様への言いつけを、自分で破ったじゃぁないか!」


六十郎「…はて、何の話かの?」

代口「しらばっくれるか…!人界への深入りを禁じたはずのお前が…この国を出て以降、通力を用いて一体何をしたのか!!」

代口「水脈を見ていたぞ…お前が大きな通力を使い続けたことは明白だ!それ以降の人間社会の変わり様はどうだ!申し開き出来ぬだろう!」

代口「自分達で制御できぬほどの大きな戦で、一体何千万の命が奪われた!?お前がこの国を出て行きさえしなければ、こんなことには…!」

六十郎「…なるほどのぅ…つまり、わしが通力を使って人の世を操っておると…そう思うたのじゃな?」

代口「図星であろうが!!」

六十郎「やっと得心がいったわい…十年前に言うてくれれば、ここまで大事にせずに済んだものを…」

六十郎「五郎右衛門よ…わしが諸国を回っておる時に通力を使った相手はな…人ではないんじゃよ…」

代口「…人じゃないだと…!?」

P(どういうことだ…?)

六十郎「御主は…ここ数百年ばかりの進歩は、人ならざる者の介入によって為されたと…そう思うておるようじゃが…」

六十郎「人間はな…通力を使える者こそごく限られておるが…通力でも敵わん大きな『うねり』となって、自分達以外の全てを呑み込まんとする力を持っておる…」

六十郎「人以外のもの…草木や土、川や海、鳥や獣、虫や魚…もっと小さな生き物に至るまで…森羅万象がその対象となってきた…」

六十郎「それはな、かつての神々やその眷属も、例外ではなかったんじゃよ…」

六十郎「…わしは世界のあちこちで、同じような力を持つ者達に出会ってきたが…その多くが力のほとんどを失っておった。実際に目の前で消えてしまう者すらおったわい…」

六十郎「人の寿命はわしらよりもずっと短い…太古には聖域とされていた土地や建物も、時が経てば忘れられ…人の手が容赦なくそれらを消し去った…」

六十郎「太古の神々は人以上の力を持っていたかも知れん。だがそれでも『うねり』は止められなかったんじゃ…五郎右衛門…」

代口「…だっ…黙れ!人の力が通力のそれに勝るのだとすれば、何故に人界に深入りするななどと…!!」

六十郎「人界に過度に関わってはならぬとの教えはな…通力が人の世を変えてしまうためではない…わしらが人の力に呑み込まれぬ様、自分達を守るためだったんじゃ…」

六十郎「わし自身、この国を発って初めて気がついた事じゃがな…」

六十郎「わしは出来る限り、弱った神々に力を分けて回ったんじゃ…大きな力を使ったのは、それだけ『器』が大きいからじゃよ」

六十郎「じゃが、人の営みは留まるところを知らん。今日森や川を守ってみたところで、いずれは消えるか変わるかの定めにある…ほとんどは徒労に終わったわい…」

代口「み…認めんぞ…まやかしだッ…!!人間自ら、たった数百年で機械文明をここまで発展させ、自分達を滅ぼし得るまでになったと抜かすか!」

六十郎「その通りじゃ。むしろ神々がほとんど滅んだことで、人の歯止めが利かなくなったせいだとわしは見ておる」

六十郎「共通の宗教が世界中に拡大したことも大いに関係しておるじゃろう…造物主なる者がいるかどうかはわしも知らんが、『宗教』はみな人が作った仕組みに過ぎんからの」

六十郎「…御主も真似たからよく分かるじゃろう?祠を埋めて、古き神の力は封じられた…人間は多くの場所で、同様のことを続けてきたんじゃよ…」

代口「…仮にだ…お前の言い分が正しいのなら…今後ますます人間は増長し、多くの犠牲を生み出すことになる…!ならば、今こそ私の力が必要ではないか…!」

六十郎「わしに言わせれば、御主は既に人のうねりの中で藻掻いておる子狸に過ぎんわい…」

代口「…何だとッ!?」

六十郎「預言者を騙った宗教で銭を集め、人の手で作られた兵器を買ってきて、やろうとしとるのは数え切れん程の独裁者が挫折した世界征服…」

六十郎「どれもこれも人間の真似事じゃろ?たとえ御主の計画が実現しても、いずれ人間は御主を憎み、遂には滅ぼすじゃろう…」

代口「何故お前が私の計画を知っているのだ…!」

六十郎「壺を介して、プロデーサーさんに宿しておった通力をわしに戻したんじゃよ。その間の記憶と共にな…」

P「そうか…だから持ってろって…」

六十郎「…プロデーサーさんや、その壺はもう捨ててしもうても構わん…」

代口「!?」

P「え!?だってこれは…」

六十郎「元々わしが遠地に赴くために拵えた道具じゃが…このままでは悪用されてしまうでな、祠の結界がなくなった今、水脈の繋がりを"元に"戻した…」

代口「くそっ…!!この老いぼれがぁッ!!!」グワッ!

パァァァァァァ…

P「うおっまぶしっ」

代口「ぬぅっ!?」

六十郎「…誰が老いぼれだって?五郎右衛門よ…」

ルクサーナ「…あれは、さっきの映像で見た…!」

篠原「若返りやがった…!」

カルプレッタ「あぁぁ…これまでか…」

六十郎「…御主に最早勝ち目はないぞ…よく分かっておろう」

代口「ああ…その為に祠を封じたんだからな…それがこんな幕切れとは…!」

六十郎「随分と遠回りをしてしもうたが、まだ遅くはない…権藤さんというお人がな、この先の身の振り方を…」

代口「七十年以上、この日のために費やしたのだ…!ここまで来て、おいそれと引き下がれるかぁッ!!」グワッ!

カルプレッタ「代口様!」

P「六十郎さん!!」

ブワァアアアッ!!

篠原「あっちち…!なんだこの炎の渦…!って、引火するんじゃないかオイ!?」

カルプレッタ「これは通力の炎だよ…燃料は燃えやしないさ…」

ルクサーナ「あれ?あんた人間の姿に戻ってるじゃない…!」

P「何が起こってるんだ!?」

カルプレッタ「通力を直にぶつけ合ってるのさ…私に分けてくださった通力も戻してね…それでも、水脈から霊力を汲み上げるキミツミが勝つだろうね…」

ゴォォォォオオオ!!

代口「……グブッ…!」ガクッ…

六十郎「五郎右衛門…御主は誰よりも民のことを思うておった…家族を失う悲しみを知っていたからこそ、戦を憎んでおる…」

六十郎「じゃが、真っ直ぐに走りすぎじゃ。休んだり、曲がってみたり、御主は昔からそういう事が苦手じゃったのぉ…」

代口「そんなことは…私自身が…誰よりも知っている!それでも私は…やらねばならぬ…!」

六十郎「その使命感こそまやかしじゃよ。わしらはただ静かに見守り、童子と遊んでやる…それくらいで十分なんじゃ…人の世は勝手に回るわい」

代口「私が兵共に追われたあの日のように…またお前が正しかったというのか…!ならば私は…私がやったことは…!」

代口「いや…違うな…どちらが正しいかなどもうどうでもいい…この犠牲がせめて人間への警鐘となれば…それで十分だ…」

六十郎「何をブツブツ言っておるんじゃ…?」

代口「お前が私を追い詰めたのだ…もうお前でも止めることは出来ない…精々後悔するんだな…!」…ドサァッ!

六十郎「…!?」

シュゥゥゥゥゥ…

ルクサーナ「炎が消えていく…」

カルプレッタ「代口様!!嗚呼…お労しや…」ガバッ…

篠原「これで一件落着だな…下のミサイルの後処理を考えると頭が痛いけど…」

P「…どうしたんですか?勝てたのに浮かない顔して…」

六十郎「…どうも妙じゃ…五郎右衛門は自分から通力を止めおった…」

P「きっと諦めたんでしょう。それより、核弾頭からやよいを外すの手伝ってくださいよ」

六十郎「…やよいちゃん……それじゃっ!」ヴンッ!

P「消えたっ!?六十郎さんっ!?」

六十郎「一足遅かったか…!!」

P「ど、どうしたんですかそんなに慌てて…」タッタッタ…

六十郎「五郎右衛門め…最後の足掻きに、やよいちゃんと合一しおったわ…!」

P「合一…?」

六十郎「憑依術の一種じゃ…合一は互いの精神のより根深いところまで浸透して行うものでな…術者が己を失うこともある、大変危険な術じゃ…」

P「や、やよいは大丈夫なんですか!?」

六十郎「術者の側は危険じゃが…やよいちゃんは大丈夫じゃろう。問題は、危険を冒してまで五郎右衛門が何をしようとしているかじゃよ…」

ルクサーナ「二人ともどうしたのよ急に…貴音さんも起き抜けに妙なことを言うし…」

P「あれ?篠原さんは?」

ルクサーナ「アイツはカルプレッタと代口を見張ってるわ…あの様子だともう戦意喪失しているようだけど…」

貴音「六十郎殿…一体何なのでしょう…この禍々しい気配は…」

P(若返ってることには突っ込まないのか…)

六十郎「お前さんの感じとる気配は、恐らくこいつじゃろう…」コンコン…

P「この核弾頭ですか?気配なんてないでしょう、生き物でもないのに…」

六十郎「付喪神と言うてな…物とて年月を経れば、それに見合った精霊が宿るもんじゃ…ほれ、丁度今お前さんが腰に着けておるその短剣のように…」

P「あ、そう言えばそうか…」

六十郎「この核弾頭も作られてからそこそこ経っておるからな、その『芽』のようなものはすでに出来ておる…」

六十郎「そして…どうやったのかわしにも原理は分からんが…やよいちゃんの精神がその芽を補って、一つの精霊のように振る舞っておる…それが禍々しい気の正体じゃ」

やよい「……あれ…プロデューサー…貴音さん…」

P「…やよい!気がついたか!」

貴音「よく無事で…」ホロリ…

やよい「…えーと…あなたは…」

六十郎「この美男子の顔を忘れるとはのぉ…ほれ、六十郎じゃよ」イケボ

やよい「…あぁ…おじいさんだったんですね…そっかぁ…」

やよい「……ふえ゙え゙ぇっ!?お、おじいさん、すごーく若くなってます!!若いです!!」ガチャガチャ…

やよい「あ…あれ?なんで私縛られてるんですか?」ガチャ…

六十郎「詳しいことは後回しじゃ。やよいちゃんや…寝ている間に何か、夢を見はしなかったかの…?」

やよい「夢…はい、見ました…!と~っても変な夢!」

やよい「…なんだかよく分からない夢なんですけど、私『早く爆発したいなー』って思ってて…」

やよい「でも、そんなことしたらみんなも巻き込まれちゃうからダメだよ!って…おかしいですよね、自分で自分を叱ってる夢なんて…」

やよい「そしたら…あの"だいこー"の人が来て…うぅ~…その後は思い出せないです…」

六十郎「…五郎右衛門め…苦し紛れになんちゅう事を…」

P「何なんですか一体?」

六十郎「…やよいちゃんが、この核弾頭の起爆装置そのものじゃ」

P&貴「!?」

ルクサーナ「…どういう事?この縛られている鎖に何か仕掛けでも…?」

六十郎「そうではない。文字通り、やよいちゃんそのもの…やよいちゃんの心がこの弾頭を制御しておる」

ルクサーナ「そんな話聞いたことないわ…!60年代に…いえ、現代でもそんな技術は…」

六十郎「もちろんありゃせんだろう…通力を併用して初めて成せる技じゃ。五郎右衛門は絡繰りの類には詳しかったからの…」

P「何とかなりませんかルクサーナさん…!無力化について教わったんでしょう?」

ルクサーナ「それが…私が知っている物とは随分違うの…色々と改造の痕跡があるし…ほら見てよ、ここなんかロシア語が書いてある…それに工具もないんじゃ…」

六十郎「工具があったところで無駄じゃよ。そいつは意識を持っておる。無理に止めようとすれば爆発するじゃろう…」

六十郎「…いや、どちらにしても五郎右衛門は爆発させるつもりじゃ。やよいちゃんと合一したということは、核弾頭とも合一したということに他ならん…」

P「それじゃ、爆発するのをただ待ってろって言うんですかっ!?」

貴音「六十郎殿の通力を使えば、憑依して止められるのではないですか?」

六十郎「出来るとしても表面的な憑依までじゃ…合一は通力をも混ぜ合わせてしまうでな、今のまま行えば、やよいちゃんの心は壊れてしまうじゃろう…」

六十郎「夢の話から察するに、やよいちゃんは核弾頭を止める役を担っておる…その枷が外れれば、五郎右衛門が手を下さずとも爆発は免れまい…」

P「そんな…!」

篠原「おい!どこに行く気だっ!?」

カルプレッタ「はっ…離せっ!!キミツミ"様"の助けが要るんだ…!!」

六十郎「…なんじゃ、まだ懲りておらんのか?」

カルプレッタ「滅相も!!この通り猛省しております!!」ドゲザー

P(変わり身早いなぁ…)

カルプレッタ「キミツミ様の仰った事が真実ならば…罪を犯したのは私達の方で御座います…」

六十郎「見上げた心がけ…と、言いたいところじゃが…御主がそうやってわしに謝るのは何度目だったかのぅ…」

カルプレッタ「私めは如何様な処罰も受けましょう…ですからどうか代口様…いえ、五郎右衛門様をお救いください…!」

カルプレッタ「…五郎右衛門様は御自分の精神を核弾頭に移してしまいました…このままでは肉体を逃がしても、精神は爆発と共に消滅してしまいます…」

貴音「…何と身勝手な…!やよいやわたくし達…いえ、もっと大勢の人々を苦しめてきた貴女が、この期に及んで慈悲を請うのですか…!」

カルプレッタ「御免なさい…本当に御免なさい…!」

六十郎「済まぬがな、こうなった以上やよいちゃん優先じゃ。何とかやよいちゃんを切り離した後、圧縮した大結界で爆弾を包む他あるまい」

六十郎「爆発が大結界の外に漏れることはない…五郎右衛門は残念じゃが…」

カルプレッタ「そんな…!五郎右衛門様が死んでしまったら、アタシはどうすれば…!!」

やよい「……」

やよい「…か…カルプレッタさん。五郎右衛門さんは…大事な人なんですか?」

カルプレッタ「それはもう…!郷里を追われ…悪事に手を染めていたアタシを拾って下さった大恩人ですとも…!!」

篠原「それでまた悪事に手を染めてどうすんだよ…人間を憎んで核兵器まで集めて…」

カルプレッタ「うっ…た、確かに権力者や金持ち、宗教にハマる人間はお嫌いでしたけど…本当はあの方は…!」

やよい「…おじいさん…何とかなりませんか?」

P「やよい…!」

貴音「あなたを利用した張本人達を、許すというのですか…?」

やよい「私だって…怒ってますよ…事務所のみんなや家族まで巻き込んで…いっぱいいっぱい…すっごく!怒ってますっ!たぶん貴音さんより、もーっと!ずーっと!怒ってますっ!!」ガチャガチャ!

カルプレッタ「ひぃっ!」

貴音「…あ…申し訳ありません…その…わたくしはただ…」アセアセ

六十郎「…やよいちゃんは…大切な人を失う者が出るのが嫌なんじゃろう?…それが誰であれな…」

やよい「……」コクリ…

カルプレッタ「な、何と慈悲深い…!それなのにアタシは…あんな酷い仕打ちを…!」

貴音「やよい…」

六十郎「わしには血肉を分けた家族というものはおらんが…家族や友を失い悲しむ者達の姿は、誰よりも多く見てきたと思うておる…」

六十郎「悪人が裁きを受ける姿もな…その死を悲しむ者がいる場合…それがやむを得ん事だったとしても、決して気持ちのいいもんではなかったわい…」

六十郎「しかしな…全てを丸く収めるのは容易くはないぞ…わしが力を貸してプロデーサーさんが合一するという手も無くはないが…」

六十郎「わしらのような者から人と合一するのと違ってな、人からの働きかけで合一しようとしても、深く繋がれるかどうか…心の造りが違う故、難しいじゃろう…」

六十郎「あるいは…五郎右衛門自ら諦めれば肉体に戻ることも出来よう…じゃがこの様子では望み薄じゃ…」

カルプレッタ「そんな!?そこをなんとか…!お願いします!」

篠原「あの爺さんが手詰まりじゃ、俺達が考えてももう無理ッスよ…やよいちゃんには悪いけどやっぱり…」

貴音「…五郎右衛門…ごろーえもん…もしや…!」

貴音「六十郎殿、もしかすると合一とやら、出来るかも知れません…!」

六十郎「ん?それはどういうことかの?」

貴音「実は、伊織の屋敷にて…」

P「…響が?」

貴音「はい、響は憑依が解けてから"ごろーえもん"という名を口にしました…夢の中でごろーえもんという幼い子供に出会ったと…」

六十郎「どういう場所だったかは言っておったか?」

貴音「はい、どこまでも真っ白で…とにかく寂しいところだったと…」

六十郎「…こいつは驚きじゃわい…!響ちゃんは、恐らく尸童(よりまし)の血筋じゃ」

P「ヨリマシ…?」

六十郎「神下ろしをする巫(かんなぎ)の事じゃよ…壺を持たぬ五郎右衛門があれ程離れた場所から憑依できたのも、響ちゃんが尸童の血を持っていたからじゃろう」

六十郎「とすればじゃ…手が無いこともないのぅ…」

カルプレッタ「ほ、本当で御座いますか!!」

六十郎「うむ…ルクサーナさんや、弾頭の注意を引く様、解体しようとする"フリ"をしてもらえるかの?貴音さんは疲れておるところ申し訳ないが、もう少しわしを手伝ってくれんか…」

ルクサーナ「そんなことでよければ…」

貴音「わたくしなら大丈夫です。出来る限りお手伝いいたします」

六十郎「やよいちゃん、もう少しの辛抱じゃ…もしまた『爆発したい』と思うたら、それはダメだと叱りつけるんじゃ…後は皆を守りたいと強く念じれば、それで良い」

やよい「はい!わかりました!」

篠原「あのー…俺は…」

六十郎「お前さんはそのまま、五郎右衛門の体を見張っていればよい。戻った後に逃げられでもしたら元も子もないからの」

六十郎「…さて、プロデーサーさんには『切り札』として、もう一働きしてもらいたんじゃが…」

P「任せてください!…で、一体何を…?」

―現在―


P『…というわけだ!響の精神をここまで飛ばすには、出来るだけ大勢の力が要る!』

春香「で…でも私達超能力があるわけでもないし…一体どうすれば…!」

六十郎『わしは一緒に行くことは出来ん。その代わり、通力を持たないお前さん達が踏ん張れるようにな、手助けはしてやれるわい』

P『だからとにかく強く念じるんだ!響の背中に手を置いて、魂をこっちまでぶっ飛ばすつもりでとにかく念じればいい!』

響「そ、それって自分は大丈夫なのか!?そのままあの世に行ったりなんかしたら、プロデューサーの枕元に化けて出るからね!」

亜美「やるしかないっしょーひびきん!」

真美「ひびきん隊員、地球のピンチをお助け隊の出撃だYO!」

響「隊員自分だけなのか!?」

美希「ミキ達はぁ、後方支援なの!」

真「任せてよ響、ボク達の拳でひとっ飛びさ!」ブンッ!

雪歩「あの…真ちゃん…説明ちゃんと聞いてた…?」

伊織「いいから、そこ座りなさいよ!」ムンズ

響「うわぁっ!」ボスン!

千早「あのプロデューサー…その核爆弾ってどの位の威力なんでしょうか?」

P『東京都市圏は壊滅だそうだ。そこも間違いなく吹き飛ぶ…!』

春香「じゃあ、私の実家も…!?」

P『春香の実家辺りはどの程度の被害になるかは分からん…だが少なくともただじゃ済まないだろうな…』

ポン…

響「…ん?あずささん…!」

あずさ「…これから生まれてくる石油王さんのお子さんが、お父さんに会えないなんてことになったら悲し過ぎるでしょ…?」

あずさ「今この街にいる人のほとんどは、私達にとっては顔も知らない他人だけれど…それぞれの人に家族や友達…それに恋人が居て…死んでしまったら悲しむ人がいるわ…」

あずさ「もちろん私達にもそういう大切な人達がいる…その爆弾を止めることが出来るなら…私、何だってやるわ…!」

ポン…

春香「…あずささんの言う通りだよね…私達が止めなきゃ…!」

ポンポンポン…ポンポン…

千早「当然ね…」

美希「早く終わらせておにぎり食べるの!」

真「ボクが響の代わりに乗り込みたいくらいだよ…!」

雪歩「手を置くのってここでいいのかな…それとももうちょっと下の方がいいのかな…?」

伊織「どこだっていいわよそんなの…背中は背中よ!もうちゃっちゃとやっちゃいましょ?」

チョン…

ハム蔵「ヂュ!」

響「おおっ!ハム蔵もやる気満々だぞーっ!」

春香「みんな!強く念じて!プロデューサーさんの所まで、響ちゃんを送れるように…!」

一同「ムムム………」

ハム蔵「ヂュヂュ…」

響(ドキドキ…)

響(ドキドキ…)

響(……何にも起きないなぁ…本当に精神を飛ばすなんて出来るのか?みんなの手の暖かさしか伝わってこないぞ…)

響(あれ…?そう言えばなんか忘れてるような…)

ダダダダダッ…バッ!!

亜美「ひびきん号発進!!」グオォォォ!

真美「承☆認!!」ブワァァァ!

バッチィィィィンンン!!!

響「…っ!?!?」

響「アガァァァァァァアアアッ!!!!」

響「…うがぁ!!いっ…痛いじゃないかぁっ!何すんだ二人とも!!手は置くだけって…」

響「…あれ?みんなは…って、いつの間にか宙に浮いてるぞっ!?」ジタバタ

六十郎「響ちゃんじゃな?」ヌッ

響「うわぁ!お兄さん誰だ!?」

六十郎「ちぃと若返ったが、わしが六十郎じゃ」

響「え!?じゃあ自分…もう体から抜け出してるのか!?」

六十郎「そういうことじゃ。ここから目的の場所までたどり着けるかどうかは、あの娘達にかかっておる…では行くとしよう」スィー…

響「わっ!ま、待ってよー!」フヨフヨ…

六十郎「上達が早いのぅ…これならなんとか行けそうじゃわい…」

響「うわぁ…鳥みたいに空を飛んでみたいって願いが叶ったさー!」スィー…

ガクン…

響「え?あ、あれ…?」

六十郎「いかん…!」

P「…え?今なんて…」

六十郎「……お前さん達の事務所の辺りで止まってしもうた…」

P「そんな…!俺達の分の気も使ってるんですよね?」

六十郎「勿論じゃ…その為に貴音さんが頑張っておる…」

貴音「はぁ…はぁ…もうあまり長くは持ちそうにありません…」

六十郎「じゃが…あと何人かおらん事には、とてもここまでは運べんわい…」

P「そんな無い物ねだりしたって…!」

『その役目、我々が引き受けましょう』

P「え!?その声もしかして…!権藤さん!!」

権藤『申し訳ない…受信は再開していたんですが…こちらからの発信の回復に手間取りましてね…』

権藤『律子さんや小鳥さんも協力してくれるそうです』

律子『その代わり、事の顛末を後できっちり説明して貰いますからね、プロデューサー!』

小鳥『私、こういうサイキックバトル物に憧れてたんですよねぇ♪』

権藤『…六十郎さん、ここにあるクマのぬいぐるみ…これを媒介にそちらに念を送ることが出来るんじゃありませんか?』

六十郎「なるほど、御主冴えとるのぅ…!やれるかも知れん…!」

響「ぬぅー!!うがぁ!全然前に進めないぞ!」

六十郎「…響ちゃんや、次の一押しが来るでな、そうしたら一気にやよいちゃんと合一して、そのまま五郎右衛門のところまで行けるじゃろう」

響「本当か!?ゴローエモン…あの子供のゴローエモンもそこに居るのか?」

六十郎「恐らくは居るじゃろう…なんとか大人の方の五郎右衛門を宥めて、元の体に引き戻すんじゃ…やよいちゃんと二人だけでな…」

響「わ…分かったぞ…!」

六十郎「そりゃ…来たぞい…!」

ブワッ!

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響「……」

やよい「……」

響「…なぁ、やよい」

やよい「…なんですか、響さん?」

響「やっぱり怖いよね…失敗したらみんな死んじゃうし…」

やよい「はい…響さんも怖いんですよね…分かります…」

響「……」

やよい「……」

響「…確かに二人いるのに、心は混ざり合ってて…何だか不思議な感じだぞ…」

やよい「本当ですね…響さんの気持ちなのか、自分の気持ちなのか、もうよく分かりません…」

スン…スン…

やよい「これ、ゴローエモンさんの泣き声ですよね?」

響「うん、あっちにいるみたいだ。行ってみよう」タッタッタ…

<おんつぁん…止めなよぅ…なんでこんなことしなきゃなんねんだ…!>グスッ…

≪ええい!離せ!何時までも私の心に居座り追って…!ウジウジと泣いて縋り付くだけの意気地無しめが!≫ゲシ!

<あっ!>ドタッ

≪お前がいなければ…!私はもっと非情になれたのだ…事がここまで拗れたのも、半分はお前のせいだぞ!≫

やよい「もう止めてください…五郎右衛門さん…!」

≪高槻やよい!?ばっ…馬鹿な!どうやってここに…!?≫

響「みんなの助けを借りて、自分が連れてきたんだぞ!」

<あっ!ねぇちゃん…!>

≪我那覇響…!そうか…そうだったな…!≫

≪だがもう遅いぞ…!弾頭の意思は爆発することに決した!私は負けたが、お前達も負けるのだ!≫

やよい「…弾頭さん、本当ですか?」

スゥゥゥ…

(ごめんなさい、やよいちゃん…だって私は…届く限りの全てを壊すために作られたから…)

やよい「でも、爆発するのは良くないですよ…」

(…爆発しちゃいけないなら、私は一体、何のために生まれたんですか…?)

やよい「…それは…私にもわからないです…本当に…大人の人達は、どうしてあなたをそんな風に作っちゃったんでしょうね…」

やよい「でも…あなたが爆発したら、たくさんの人や生き物が死んじゃって、もっとたくさんの人達が悲しむんです…」

(それは…私も嫌な気持ちになります…でも、この爆発したいって気持ちはどうしたらいいんですか?私は核弾頭です。やよいちゃんみたいにはなれません…)

≪そうだ…こいつは破壊のために生み出された!その本懐を遂げさせてやることの何が悪い!≫

響「ちょっと黙ってて!!」ズイッ!

≪…この小娘がぁっ!私が黙って見ているとでも思ったかっ!!≫グイッ!

ドカッ!

響「えっ!?」

≪ぐっ…!お前っ…!?≫

<はぁ…はぁ…ねぇちゃんに…手出しはさせねぇ!…おんつぁん…オイラ…オイラ本気だからなッ!>グズッ

やよい「あの…弾頭さん…もし良かったら…私と一緒に来ませんか?」

(…え!?やよいちゃんと…?)

≪なぁっ!?おぉ…お前は何を言っているんだっ!?気でも狂ったかっ!高槻やよいっ!!≫

やよい「私の心とあなたの心を、それを一つにするんです…私の心を元にしてるなら、たぶん出来ると思うから…」

(でも…私は核弾頭…もうずーっと前から核弾頭です…今さらここから出ていくなんて…そんなこと…)

やよい「…私にもどうなるかは分かりません。でも、それもこれから一緒に考えていけばいいんじゃないかなーって…」

やよい「弾頭さんは、本当は良い人のはずです…誰かを悲しませたくないって気持ちがあるから…」

(私が…やよいちゃんと…一つに…!)

≪しょ…正気とは思えん…!か…核兵器の心が人と共に歩むなど…そんなっ…そんな馬鹿げたこと出来るはずが無い!騙されるな!≫

やよい「私と一緒にトップアイドルを目指すのも、爆発するのと同じくらい、きっと楽しいですよ?」

(アイドル…やよいちゃんと一緒に…私も…アイドルになれるの…?他のアイドルのみんなや…長介達にも会えるの…?)

(それから…プロデューサーにも…!)

やよい「はい、もちろんですっ!」ニコッ

やよい「…だから…一緒に行きましょ?ね?」スッ…

(うん…私も…みんなと一緒に…アイドルになりたい…!)スッ…

≪よ…よせっ!!やめろぉぉぉぉおおおおっ!!!≫


「せー…」

(のー…)

「(ハイ、ターッチ!)」パチン!


…ゴゴゴゴゴゴゴ…

≪……あ…あり得ん…こんな事…こんなはずは…私は認めん!認めんぞぉ!!!うぁぁぁあああ!!≫シュゥゥゥゥゥ…

ガラガラガラガラ…

響「わわっ…!白い壁が崩れてく…!」

<おんつぁんが諦めたんだ…あんなこと言ってたけど、もう無理だっておんつぁんが一番分かってんだ…>

<…ねぇちゃんありがとう…オイラ、何時までもメソメソすんのやめるよ…ねぇちゃんみたいに、たくさん友達作りてぇから…>

響「偉いぞゴローエモン!…もう会えないかも知れないけど…自分…自分がっ!友達第一号だからなっ!絶対忘れちゃダメだぞっ!」グスッ…ニカ!

<ヘヘヘ…うん…ねぇちゃんも達者でな…>

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-----半年後-----



やよい「お疲れ様でしたー!!」

チーフD「お疲れちゃ~ん!やよいちゃん、すごく良かったよ~!!やっぱやよいちゃんサイコー!」

やよい「うっうー!ありがとうございますー!!」ガルーン

P「やよい、先に楽屋に戻って帰り支度しておいてくれ。俺はちょっと監督さんと話があるから…」

やよい「分かりましたー!」タッタッタ…

P「…この度は本当に有り難うございます…!復帰のために上に直談判までして頂いたそうで…解雇寸前までいったとか…」

チーフD「あはは…Pちゃんその話しちゃう?参ったなぁ…」ポリポリ…

チーフD「あの騒動の最中は確かにそんな感じだったヨ…俺も頭キタから役員会議に乗り込んじゃってね…そしたら自宅謹慎だって言うから、その場で辞表叩きつけてやったよ!」

P「本当にすいませんでした…!!」

チーフD「良いんだよ良いんだよ、俺がそうしたかっただけだもん…いやぁ、スーッとしたねアレは!良い体験だった…」

チーフD「でもね…これには続きがあって…あの『警察発表』の後が最高に笑えてね…!」ククク…

チーフD「幹部連中が血相変えてさ、やよいちゃんの復帰番組作りを担当してくれって、俺の自宅玄関前で土下座だよ土下座?初めて見たよ本物の土下座!」

P「ど、土下座ですか…」

チーフD「俺も色々知ってるよん…俺を復帰させなけりゃ二度と○○テレビの番組ではやよいちゃんを出演させないって…局のお偉いさんの目の前で啖呵切ったらしいじゃないの…?」

P「いやぁ…監督さんが解雇されたって話聞いたら、つい頭に血が上って…」

チーフD「あの局に務めている友達が言ってたよ。その時の凄み様は半端じゃなくて、向こうの偉いさん、顔面蒼白だったとか…!ホント!765プロはこれだから好きなんだよ!」

P「重ねて有り難うございます!どうか今後とも末永くお付き合いを…」

チーフD「モチのロンダヨ!Pちゃん相変わらず硬いねぇ!そこがまた良いんだけどね!」

チーフD「…そうそう、良いと言えばやよいちゃん!以前にも増してパワフルというかこう…なんて言うの?『爆発的魅力』があるね!あーいうやよいちゃんも新鮮ですごく良いヨ!!」

P「あ、あはは…やよいが聞いたらきっと喜びますよ…」

やよい「…あ、プロデューサー!お話終わったんですか?」

P「ああ。じゃあ事務所戻ろうか」

やよい「はい!あ、帰りにみんなにお土産買って帰りましょー!」

P「お、倹約家のやよいが珍しいなぁ…よし、俺のおごりだ!なんか美味しいお菓子でも買って帰るか!」

やよい「うっうー!プロデューサーふとっぱらですー!」



…人知れず俺達の戦いが終わった後、間髪入れずに自衛隊と在日米軍の共同部隊が警告領域一帯に展開し、『避難民』を領域外へと誘導した。
警察は主に領域周辺の警備任務につき、消防のレスキュー隊は領域内から領域外の病院へ、患者を移送する任に当たった。
政府の主導によって、近隣の公共施設、公営住宅、宿泊施設などを中心にいくつもの避難所が設営され、着の身着のままの避難民を次々と収容していった。
『警察発表』が行われたのは、各地の避難所の運営も軌道に乗り始めた、ちょうど一週間後の事である。

それは、宗教法人「ラダーク・ハピネス・ソサエティ」が、化学兵器と音波兵器によるテロを計画し、都内において実行したというものだった。
しかし、彼らの製造した化学兵器は不完全な物で、目眩や気絶を起こす程度の効果しか得られなかった。
対NBC装備で臨んだ自衛隊や在日米軍すら近づけなかったのは、主に音波兵器の効果によるものだったが、発振装置の不具合によりこれも長くは続かなかった。
地下鉄サリン事件以来のカルト教団による大規模テロは勿論注目に値したが、何より世間の人々を驚かせたのは、動画流出騒動でLHS信者だと見られていた
765プロのアイドル・高槻やよいが、実は警察の協力者だったという衝撃の事実であった。

もちろん、これは所属事務所である765プロも了承済みであり、捜査に係る秘密保持の必要性から、協力者である旨は硬く口止めされていたのだ。
これを察知した教団は前倒しでテロを実行に移したものの、準備不足と些細なミスによって、全てが中途半端に終わったと見られている。
警察はテロを未然に防ぐことは出来なかったが、結果的に最悪の事態は免れた形だ。
記者会見では、死者を出さずに早期解決出来たのはやよいの尽力があってこそだと再三に渡って強調され、流出騒動後も警察のために弁解する事ができ
なかった765プロ関係者及びやよい本人とそのご家族に陳謝したいとして、警察庁長官を始めとした、警察幹部のそうそうたる顔ぶれが深く頭を垂れる映像は、
連日テレビニュースやワイドショーで繰り返し放送された。
メディアはやよいに対する自分達の過去の報道などすっかり忘れたかの様に、危険を顧みないやよいの行為を賞賛し英雄と称える一方、LHS元信者の内情
告白を元にした過剰演出気味な再現ドラマコーナーに時間を割き、辛口コメンテーターは警察の捜査態勢を悪し様に批判した。

一方、流出騒動後最も批判的な意見が渦巻いていたインターネット上はと言うと、大方の予想通り掌返しのオンパレード。正真正銘のお祭り騒ぎであった。
警察やメディアは徹底的に叩かれたが、弁解もせず口を閉ざしていたやよいと765プロに対しては、一部の批判がかすむほどの圧倒的同情意見が大勢を占めた。
余談だが、この月にYoutubeとニコニコ