ルカリオ『シャ……サメハダーネード?』(12)


 サザナミタウン
 沿岸の小さなレストラン


テレビ『季節外れのハリケーンが発生しています。イッシュ地方への影響ですが――』


爺「通りで波が高いと。ハリケーンがくるみたいだの」

女「こっちに上陸するまでに勢力を弱めてくれてるといいんだけど」

女「――はい、これ。注文のお茶」

爺「わしは酒を頼んだんじゃが」

女「昼から飲んだくれてると体壊すわよ」

爺「体を壊したら女ちゃんが看病」
女「しないわ。お茶代ももちろん貰うから」

爺「今日も女ちゃんはツンじゃあ、そろそろデレがほしいのう……なぁ、ピカチュウ」

ピカチュウ「ぴかぴーか」
ピカチュウ『ジジイになってもそれだ、そろそろ若い娘をからかうのはやめるんじゃの』

女「ピカチュウちゃん、呆れてるみたいだけど」

爺「長い付き合いだというのに、酷いぞピカチュウ」


ピカチュウ『ふふっ、長い付き合いだから言うんじゃろう』


テレビ『なお、ハリケーンの進路にはサメハダーの群が確認されており』


女「――――!」

爺「……女ちゃんはサメハダーが嫌いかの?」

女「嫌いよ。ハリケーンに巻き込まれてみんな死ねばいいんだわ」

爺「……わしも好きではないのう、野生は人やポケモンを襲う。特にゲンシカイキしたのは危ない」

爺「サメハダーとして種が固定する前、鮫……シャークとしての本能が先行するようじゃから」

ピカチュウ『若い頃の妾達を襲ったサメハダーも、それだったな……まぁ、この年で海に入ろうとは思わないが』

爺「しかしまぁ、あの波……警報まではいかんでも波浪注意報はとうに出る代物かと思うが」

女「どこにでも高波を楽しむバカはいるのよ」

爺「……耳が痛いの」

ピカチュウ『……そうだな』

女「一応、うちのオーナーが話しに言ったわ。事故が起きる前に遊泳禁止を考えるべきだって」

爺「相変わらず男君は真面目じゃー」


 サザナミタウン
 砂浜


男「高波でサーフィンをやりたいのはわかるが、やはり危険だ」

友「でもなぁ、警報も何も出てない状況じゃ、いきなり遊泳禁止なんて言えないだろ」

友「なんせここはセレブ御用達の観光地だ。海でもじゃんじゃん金を落としてくれる。そう簡単に禁止には出来ないって」

男「わかっている。……わかっているんだが、波はどんどん高くなっている。風も強まってきた。……何事もなければいいが」

友「ライフセーバーの人数をけちってるわけじゃないんだ。これは本職に任せようぜ」

男「……わかった」


フシギバナ『相変わらず、男ちゃんは真面目だねぇ』

ルカリオ『……そうだな』

フシギバナ『ほんと、ルカリオちゃんそっくり』

ルカリオ『…………』


友「で、お前は店に戻るのか?」

男「ああ」


友「んじゃ、俺らはもう少し遊んでくるわ。ついでに水着美女ひっかけてくる」

男「……またナンパ失敗記録を更新するつもりか」

ルカリオ『今日はすでに三回失敗しているはずだが』

友「あーあー!聞こえねー!!よーし、フシギバナ!波打ち際で年甲斐もなく遊ぶおっさんになるから付き合え!」

フシギバナ『いいよー、足元だけじゃぶじゃぶするのは僕も好きだし』

友「さっそく好みの褐色美女を発見」

フシギバナ『あー、ほんとだ。あっちの子友ちゃん好みー、って……』

友「おい、アレ……見間違いか?」

フシギバナ『違うよ、あのヒレ!!』

男「サメハダーか!」

支援


 砂浜を走る。
 波打ち際の人間、ポケモン達は気付いていない。
 それは海に入った者も同じ。
 海面から出た背ビレは、海水浴を楽しむ人々に確かに近付いている。


男「野生でないと思いたいが!!」

ルカリオ『サメハダーは海水浴場への入場が禁止されている!悪戯にしては質が悪い!』


 目的は近くの岩場に停めた水上バイクだ。
 水ポケモンならまだしも、泳ぎだけでサメハダーのいる海に入るわけにはいかない。


監視員『――サメハダーがいます!!海から上がって下さい!』


 スピーカーによって拡張された監視員の声が海水浴場に広がる。


男(友が知らせてくれたか……!)


 楽しげな喧騒は一転、各地で悲鳴があがり始めた。
 水上バイクに飛び乗る、後ろにはルカリオ。


男「いざとなったら攻撃頼むぞ!」


ルカリオ『任せろ!』


 アクセルは全開に。
 浅瀬に近い者は大丈夫だろう、問題は沖にいる者だ。
 この高波はサーフィン客を多く呼んだ。
 一番サメハダーに近い女性客は、サメハダーの背ビレを確認したのだろう。岸を目指して必死に進んでいた。


男「野生がこんな浅瀬に来ること自体珍しいのに」

男(――サメハダーの遊泳スピードはそれほど早くない。この距離なら間に合)


女性客「きゃあ ああっ っ!!あ"っ……!」


 絶叫と共に女性が海に沈んだ。一瞬にして赤黒く濁る、淀みの中から、


女性客「  」


 助けを求め伸ばされた手ごと、大顎が喰らった。


ルカリオ『男!!』

男「!!一匹じゃ、ないのか…!!」


ルカリオ『一匹なんてもんじゃない!沖の方からも!岸の近くにも!!』


 沖には特徴的な背ビレがいくつもあった。沢山の黒のそれが、波を縫って真っ直ぐこちらに向かう。
 周囲の悲鳴も、絶叫が多く混じっていた。
 気付けたのは一匹だけだった。サメハダーはすでにこの海域に侵入していたのだ。



男性客「逃げろジュゴン!!っがあ あ !!!」

ジュゴン『ご主人!!』


 足を喰い付かれた男性客が引きずり込まれる。
 海中へ追いかけるジュゴンは、水の波動を発生させた。
 先行させた衝撃に次いで、ジュゴン自身もサメハダーに突進する。


ジュゴン『うああああ!!』

サメハダー「!」


 まともにくらったらしい、目を回したサメハダーの顎が緩む。
 ジュゴンに支えられ男性客は海面に出るが、
 

男性客(やばい、他のサメハダーが来る、さっきのもすぐ……)


 迫る二つの背ビレ。海中のサメハダーも死んだわけではない。


ジュゴン『岸に、早くご主人をつれていかなきゃ、手当てしなきゃ!』

男性客(ジュゴンの体にも傷が……くそっ、直接攻撃、鮫肌が原因か……!)

男性客(どうする、どうする、俺はまともに泳げない、俺を連れてちゃジュゴンも巻き込まれる)

ジュゴン『早く!早く!ご主人が!』


 そして、背後で激しい水飛沫があがる。何か巨大なものが海面から飛び出した、そんな、


男性客(うそだろ、)


 真っ赤な口内、凶悪な鋭い歯が迫る。


男性客(せめて、ジュゴンだけでも――)


男「うおおおおお!!!」


 今まさに食らい付かんとしたサメハダーの横っ腹に、水上バイクが突撃した。


 弾き飛ばされたサメハダーが、削られた肉片を散らし海へと落ちる。


男性客「な……!!」
ジュゴン『!!』


 派手に着水した水上バイクは、男性客の元へ戻った。


男「こっちへ!」

ルカリオ『泳げるか!?』

ジュゴン『泳げます!ご主人をお願い!!』


 男性客を水上バイクへと引きずりあげる。
 男とルカリオの間に乗せ、


男「捕まってろ!飛ばすぞ!」

男性客「……また来るぞ、サメハダーだ!」


 重くなった分スピードは落ちる。岸まで追い付かれずにいるのは難しい。


ジュゴン『人はいない……時間稼ぎになるなら――凍れ!!』


 潜ったジュゴン、冷凍ビームのその範囲が凍りついた。すぐに流されるだろう氷の壁も、サメハダー進行の邪魔にはなるだろう。

 確かに、海中のサメハダーは氷の壁を避けるように迂回する。
 しかし、先程のように跳ぶ個体は存在する。
 案の定、海中の氷の壁を飛び越え、水上バイクに迫るサメハダーがいた。


ルカリオ『いいだろう、体に風穴を開けてやる』


 ルカリオの手には螺旋が渦巻いていた。
 螺旋は、大きく開いた口内へ吸い込まれるように飛び。


 破裂音と共に、サメハダー一個体分の肉片が飛び散った。


 ぼちゃぼちゃと肉片が落ちる音を背に、ルカリオは次の波動弾を充填し終えた。


ルカリオ『風穴だけでは済まなかったようだな』



 その日、海は赤黒く染まった。

B級鮫映画シャー○ネードパロ。
本家同様適当な設定でサメハダー降らすわ。

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